あたらしい眼科Vol.28,No.3,20113890910-1810/11/\100/頁/JCOPY世界を席巻するFacebookインターネットがもたらす情報革命のなかで,情報発信源が企業から個人に移行した大きなパラダイムシフトをWeb2.0と表現します.インターネットは繋ぐ達人です.地域を越えて,個人と個人を無限の組み合わせで双方向性に繋ぎます.パソコンや携帯端末からブログや動画,写真などをインターネット上で共有し,コミュニケーションすることが可能になりました.インターネット上で情報が共有され,経験が共有され,時間が共有されます.手術,セミナーなどの医療情報も動画として共有することが可能です.さまざまなネットツールが誕生するなか,近年,世界のコミュニケーションインフラとして確立したFacebook(フェイスブック)という交流サイトがあります.Facebookは,Facebook,Inc.の提供する,SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)です.ハーバード大学の学生だったマーク・ザッカーバーグが2004年にアメリカ合衆国の大学生向けにサービスを開始しました.公開後,急速にユーザー数を増やし,2010年にサイトのアクセス数がGoogleを抜いたとして話題になりました.2011年現在,世界中に6億人近いユーザーをもつ世界最大のSNSになりました.日本国内のユーザー数は2010年12月現在,約308万人.急速に利用者が増えているとはいえ,主要国のなかでは非常に低い普及率です.世界の人間の約10%が参加する情報の渦がFacebookにあります1).中東における民衆デモの拡大にも大きな役割を果たしました.新しい技術が普及する際の指標として用いられる,「キャズム理論」(GeoffreyMoore,1991)というものがあります.GeofferyMooreによると,ハイテク製品技術においては,新技術が市場に浸透する際には5パターンの採用タイプの間にクラック(断絶)があり,そのなかでも特にアーリーアダプターとアーリーマジョリティの間(16%のライン)には「深く大きな溝」があるとし,これをキャズム(Chasm)とよびます(図1).この理論によると,キャズムを超えアーリー・マジョリティに採用されることこそ,新技術が広く普及するためのキーであると説かれています.この理論は,新薬や,新しい医療機器の普及にも当てはまる考え方でしょう.Facebookは,すでに世界102カ国でキャズムを超えています.具体的にいうと,総人口に対する浸透率で16%を超えている国が102カ国あるということです.Facebookがここまで巨大になった理由は,いくつか紹介されていますが,根源的な要素は,「実名登録制」にあります.ネット先進国の米国においても,Facebookの登場以前は,ビジネス利用のLinkedInを除き,My-Spaceなどの匿名性の高いソーシャルネットワークが主流でした.国民性の違いはあるにせよ,実名制に対する(81)インターネットの眼科応用第26章6億人の交流サイト武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ図1キャズム理論①イノベーター(2.5%):技術に惚れて採用するハイテクオタク.②アーリー・アダプター(13.5%):技術ではなく実利面を評価して採用する人々.③アーリー・マジョリティ(34%):先行者の成功事例を確認してから採用する実務者.④レイト・マジョリティ(34%):みんなが使ってから使う慎重な人々.⑤ラガード(16%):ハイテク嫌い.イノベーターアーリーアダプターアーリーマジョリティレイトマジョリティラガード2.5%13.5%34%34%16%390あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011ハードルが高いのは,日本だけでなく多くの国々でも同様です.Facebookには,実名制を支えるさまざまな仕掛けがあります.実名制だからこそ旧知の友人などをすばやく探し出すことができます.つまり,名前で検索し,アイコンやプロフィールで人物特定ができます.これがメール離れを誘発し,Facebookがコミュニケーションインフラとしての地位を築きつつある要因でしょう.米国高校生の間では,2009年12月と2010年12月を比べると,Webメールの利用が59%減となっているのは象徴的な出来事です.実名制を背景に,Facebookは世界のソーシャルグラフ(人間関係図)とコミュニケーションを独占する,圧倒的な支配力をもつサイトとなるでしょう.絶好時のMicrosoftやGoogleに並ぶ,強大な影響力をもつ可能性があります.近々登場するであろうFacebookPhoneは,FacebookのIDが電話番号の代わりになり,Facebookの友人がそのまま電話帳になることが予想されています.つまり電話やメールなどの連絡手段から考えるのではなく,友人を先に選択し,その後に連絡ツールを直感的に選びます.その際,既存の電話番号や携帯アドレスはまったく必要のないものになります2,3).日本の特殊性インターネットとどのように付き合うか,それぞれの国によって国民性がありますが,日本の特殊性を二点あげます.一つは,実名制のSNS,Facebookの普及が進んでいない,という点.もう一つは,携帯電話の有料コンテンツというビジネスモデルが確立している点です.この二つを背景に,日本のインターネットは独自の方向に進化します.システム事業者の立場からすると,携帯電話上に,いかに多くの利用者が集まるヒットコンテンツを作るか,という点に開発資源を集中します.インターネットに関わる日本の頭脳が,携帯電話のコンテンツ作りに向けられています.そのコンテンツの多くは,ゲームに代表される娯楽コンテンツです.世界標準で考えると,娯楽は外貨をよび込むツールですが,日本ではネット産業を潤(82)すツールとなっています.ゲームを通じたコミュニケーションには実名制である必要性はまったくありません.日本独自のインターネットの進化は,ゲーム上でのコミュニケーションを創造しますが,リアルなコミュニケーションを補完し,新たな人的交流を促進する方向に向かいません.世界の潮流とかけ離れていくことを危惧します.規制の多い中国とは別の理由で,情報の鎖国となる可能性をもちます.今後,Facebookが日本で普及するのか,注目されます.そのなかで,私が有志と運営していますMVC-onlineはFacebookと同じく,実名での交流を基本にしている,日本では数少ない交流サイトです.また,会員を医師・歯科医師に限定しています.インターネット上の医療情報が,医師からの情報発信によって更新され続け,臨床現場に還元される世界を,「Medical2.0」と定義しました(第24,25章).MVC-onlineのような,実名で議論ができるインターネット空間を保つことが,医療界のコミュニケーションインフラを創造し,Medical2.0を具現化できる,と考えています.【追記】これからの医療者には,インターネットリテラシーが求められます.情報を検索するだけでなく,発信することが必要です.医療情報が蓄積され,更新されることにより,医療水準全体が向上します.私が有志と主宰します,NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動に興味をもっていただきましたら,k.musashi@mvc-japan.orgまでご連絡ください.MVConlineからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)http://ja.wikipedia.org/wiki/Facebook2)http://blogs.itmedia.co.jp/saito/2011/02/facebook-36b1.html3)http://blogs.itmedia.co.jp/saito/2011/01/facebookhtc-cde.html☆☆☆