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初診時眼底に異常を認めなかった網膜中心動脈閉塞症の1例

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 1(113) 15530910-1810/09/\100/頁/JCOPY あたらしい眼科 26(11):1553 1555,2009cはじめに網膜中心動脈閉塞症(central retinal artery occlusion:CRAO)は,網膜中心動脈が閉塞し,急激で重篤な視力障害をきたす疾患である.この疾患は,高齢者では動脈硬化,糖尿病が多くみられ,若年者では全身性の血管炎や血液疾患などの特殊な基礎疾患が存在する1).通常の CRAO であれば眼底所見として桜実紅斑という特徴的な所見を示すことにより診断は容易である.不完全なCRAO の場合でも,軽度の網膜混濁と散在する軟性白斑が認められるとされる2,3).しかし,桜実紅斑を呈していない場合は,診断は決して容易ではない.今回,筆者らは初診時眼底に桜実紅斑がみられず,CRAO の確定診断が遅れた症例を経験したので報告する.I症例患者:70 歳,男性.初診日:2005 年 10 月 20 日.主訴:急激な右眼視力低下.〔別刷請求先〕岡本紀夫:〒663-8501 西宮市武庫川町 1-1兵庫医科大学眼科学教室Reprint requests:Norio Okamoto, M.D., Department of Ophthalmology, Hyogo College of Medicine, 1-1 Mukogawa-cho, Nishinomiya-city, Hyogo 663-8501, JAPAN初診時眼底に異常を認めなかった網膜中心動脈閉塞症の 1 例岡本紀夫大野新一郎大出健太鈴木克彦三村治兵庫医科大学眼科学教室A Case of Central Retinal Artery Occlusion with Normal Fundus Appearance on First ExaminationNorio Okamoto, Shinichirou Oono, Kenta Oode, Katsuhiko Suzuki and Osamu MimuraDepartment of Ophthalmology, Hyogo College of Medicine背景:初診時に桜実紅斑を呈しなかった網膜中心動脈閉塞症を経験したので報告する.症例:70 歳,男性.主訴は右眼の視力低下.視力は初診時指数弁で,対光反応は消失していた.眼底検査では特に異常を認めなかった.夜間であり,全身合併症を複数有していたため,翌朝に内科医と相談のうえで精査,加療をすることになった.しかし,11時間後の翌朝に再診したときには明らかな桜実紅斑を呈する網膜中心動脈閉塞症であった.結論:明らかな桜実紅斑がある場合は診断が容易であるが,網膜中心動脈閉塞症の極早期にはこの所見を呈しない可能性がある.さらに,急激な視力低下をきたし,かつ,既往歴に動脈硬化や糖尿病,心疾患などを有する場合は,たとえ眼底検査で桜実紅斑がなくても網膜中心動脈閉塞症を疑うべきであることが示唆された.Background:We report a case of central retinal artery occlusion(CRAO)in which no cherry red spot was observed at initial examination. Case:The patient, a 70-year-old male, complained mainly of poor vision in his right eye. At the initial examination, on the basis of nger counting it was found that the eye had lost reaction to light. Fundus examination did not show any speci c abnormalities. Because it was night and the patient had multi-ple systemic complications, we decided to examine him closely and provide treatment on the following morning, after consulting with an internal medicine specialist. However, when we examined the patient again 11 hours after his initial visit, a clear cherry red spot was visible as part of CRAO. Conclusion:It is easy to diagnose CRAO when a clear cherry red spot is evident, but some cases may not present with this symptom at a very early stage of the condition. It is suggested that when sudden visual degradation occurs and multiple systemic complications are present in the medical history, CRAO should be suspected, even if no cherry red spot is evident during fundus examination.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(11):1553 1555, 2009〕Key words:網膜中心動脈閉塞症,極早期.central retinal artery occlusion, very early stage.———————————————————————- Page 21554あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(114)現病歴:2005 年 10 月 13 日頃より右眼の眼鏡が合わないことを自覚していたが,顎を上げることにより見えていたので放置していた.しかし,2005 年 10 月 20 日昼頃より顎を上げても右眼が見えにくくなり,20 時半頃入浴中にさらに急激かつ高度な右眼の視力低下を自覚したため,兵庫医科大学病院眼科を 21 時 50 分に受診した.既往歴:ぶどう膜炎(1998 年),高血圧症,完全房室ブロック,右頸動脈狭窄(73%),拡張型心筋症,ペースメーカー.家族歴:特記すべきことなし.初 診 時 所 見: 視 力 は 右 眼 指 数 弁, 左 眼 0.2(1.0×sph+2.00 D)で,右眼の直接対光反射は消失していた.眼圧は右眼16 mmHg,左眼 15 mmHg.限界フリッカ値は右眼測定不能,左眼 41 46 H zであった.細隙灯顕微鏡所見で両眼とも水晶体の軽度の混濁がみられた.眼底検査では網膜血管に異常を認めず,視神経乳頭の色調も正常であった(図 1).高齢であり後部虚血性視神経症の発症などを疑ったが,夜間であり重篤な全身疾患があるので CT(コンピュータ断層撮影),MRI(磁気共鳴画像)などの検査を行うにあたって内科医の許可が必要と考え,翌日に再診させ精査することになった.経過:翌日の 10 月 21 日午前 10 時の視力は右眼眼前手動弁,左眼(1.0×sph+2.00 D)であった.眼底検査で右眼は網膜静脈の蛇行・拡張を認め,桜実紅斑を呈していた(図2).左眼は軽度の網膜動脈硬化症を認めるのみであった.蛍光眼底検査で腕網膜循環時間は 40 秒と遅延していた(図 3).右眼の CRAO と診断し,ただちに入院のうえ,ウロキナーゼの点滴加療を行うため内科医に相談したところ右頸動脈狭窄,拡張型心筋症に対してパナルジンR 200 m g/日とドルナーR 60 μg/日内服中であると指摘されたので予定していた線溶療法を中止した.そこで眼球マッサージと星状神経節ブロックの治療を考え,ペインクリニック科に星状神経節ブロックを依頼したところ,パナルジンR, ドルナーRの内服があるので施行できないとのことであったので,最終的に眼球マッサージのみを実施した.10 月 28 日に脳外科で頸部を再度精査したところ内頸動脈狭窄率が 80%であったため頸部手術が必要であるとの連絡があった.10 月 31 日に退院となり,そのときの視力は眼前手動弁のままであった.11 月 4日の再診時の右眼視力は 0.01(矯正不能),12 月 1 日の再診時は 0.02(矯正不能),この翌日に内頸動脈狭窄に対してステント術が行われる予定であったが心疾患のため中止となった.2007 年 3 月 25 日再診時の右眼視力は 0.03(矯正不能)図 110月20日の右眼眼底写真桜実紅斑はみられない.網膜血管,視神経に異常を認めない.図 210月21日の右眼眼底写真網膜静脈の蛇行・拡張と桜実紅斑を認める.図 310月21日の右眼蛍光眼底写真40 秒以上経って造影が開始されている.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091555(115)であった.2009 年 2 月 23 日に心不全にて永眠された.II考按CRAO のは動脈硬化を基盤として発症する疾患である1).代表的な基礎疾患をあげると,高血圧,糖尿病,高脂血症,虚血性心疾患,脳血管障害などがある.本症例は高血圧症,完全房室ブロック,右頸動脈狭窄(73%),拡張型心筋症があり,CRAO のハイリスクの患者であった.眼底検査で桜実紅斑があれば診断は容易であるが,不完全型 CRAO ではまだらな網膜白濁を認める3).最近では高度近 視 眼 に CRAO を 発 症 し た 症例4)や,脈絡膜萎縮眼にCRAO を発症した症例では明らかな桜実紅斑を呈しないことが報告されている5).渡辺は CRAO の極早期には桜実紅斑を呈しないと報告している6).本症例は近視ではないことと,臨床経過から初診時の眼底所見で異常がないことから極早期の CRAO と診断した.また,後部虚血性視神経症が先行して発症し,その後 CRAO をきたした可能性は動脈系が異なることから可能性としてはきわめて低いと考えた.初診時の 10 月 20 日の時点で CRAO での確定診断を行うには蛍光眼底検査が有用であったと考えられるが,高度の全身合併症があり,受診が夜間であったため蛍光眼底検査を施行できなかった.眼底に変化がみられなくとも蛍光眼底検査を施行していれば腕網膜循環時間は遅延していた可能性がある.つぎに,なぜ初診時に桜実紅斑を呈しなかったか,その理由について検討する.Hayreh ら7)はサル 26 眼に対し網膜動脈の血流を 7 分から 113 分間遮断後の眼底所見について報告しており,70 分以上遮断したものではほとんどが重度の網膜白濁をきたしたとしている.しかし,本症例は発症から受診まで約 80 分であったにもかかわらず桜実紅斑を呈していなかった.これは Hayreh らの報告はあくまでも動物実験でありクランプによる完全な血流遮断であるのに対し,ヒトの通常の CRAO であればどこからか血栓,塞栓が飛来し不完全なかたちで網膜動脈を閉塞させている可能性がある.池田ら8)も CRAO では完全閉塞例が少ないことを示唆している.本症例の CRAO の発症原因としては心臓からの血栓の飛来か,頸動脈からの塞栓が考えられた.患者の心臓は拡張型心筋症のため血栓ができやすい環境であり,内頸動脈の狭窄も 80%と高度の狭窄が塞栓源となっている可能性がある.しかし,今回の症例ではどちらが原因であるとは断定できなかった.森本ら9)は,全身合併症の数と視力の改善度との間に相関があると報告している.彼らは 2 つ以上の全身合併症を有する症例は視力予後が不良であると述べている.実際,本症例では循環器系に複数の全身合併症が存在した.石田ら10)は,腕網膜循環時間の著明な延長が認められた症例は初診時視力が不良で,治療にも反応せず,視力予後も不良であったと記載している.本症例の腕網膜循環時間は 40 秒以上と遅延し,右眼視力は最終的に 0.03 に留まった.本症例では複数の全身合併症を有し,網膜の循環不全もあったため,きわめて予後不良であったといえる.本症例は発症して極早期に来院し,眼底は桜実紅斑の所見がみられなかったことから CRAO の確定診断が遅れ,さらに,全身合併症のため積極的な治療の介入ができなかった.今後,このようなハイリスクの症例に遭遇した場合の治療法の検討が必要である.文献 1) 張野正誉:網膜動脈閉塞症.眼科診療プラクティス 85,眼疾患診療ガイド,p38-41,文光堂, 2002 2) Matsuoka Y, Hayasaka S, Yamada K:Incomplete occlu-sion of central retinal artery in a girl with iron de ciency anemia. Ophthalmologica 210:358-360, 1996 3) 上田美子,木村徹,岡本紀夫ほか:視力良好な網膜中心動脈閉塞症の 1 例.眼科 51:443-446, 2009 4) 井上亮,生野恭司,沢美喜ほか:強度近視眼に発症した網膜中心動脈閉塞症の 1 例.眼紀 58:549-552, 2007 5) 松葉真二,岡本紀夫,三村治:桜実紅斑を呈しなかった網膜中心動脈閉塞症の 1 例.眼臨紀 2:140-142, 2009 6) 渡辺博:高齢者に多い眼疾患─診断と治療,予防─.7)-2 網膜動脈閉塞症.Geriat Med 44:1256-1257, 2006 7) Hayreh SS, Weingeist TA:Experimental occlusion of the central artery of the retina. I. Ophthalmoscopic and uo-rescein fundus angiographic studies. Br J Ophthalmol 64:896-912, 1980 8) 池田誠宏,佐藤圭子:新鮮な網膜動脈閉塞症に対する処置.臨眼 45:198-199, 1991 9) 森本健司,福本光樹,吉井大ほか:10 年間に経験した網膜動脈閉塞症の治療経過.眼科 38:825-830, 1996 10) 石田みさ子,沖坂重邦:網膜中心動脈閉塞症の視力予後.眼臨 80:495-498, 1986***

ルベオーシスを合併した内因性真菌性眼内炎に対し両眼の硝子体手術を施行した1症例

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 1(109) 15490910-1810/09/\100/頁/JCOPY あたらしい眼科 26(11):1549 1552,2009c〔別刷請求先〕 董震宇:〒060-8638 札幌市北区北 15 条西 7 丁目北海道大学大学院医学研究科病態制御学専攻感覚器病学講座 眼科学分野Reprint requests:Zhenyu Dong, M.D., Department of Ophthalmology, Hokkaido University Graduate School of Medicine, N-15, W-7, Kita-ku, Sapporo 060-8638, JAPANルベオーシスを合併した内因性真菌性眼内炎に対し両眼の硝子体手術を施行した 1 症例董震宇*1,3村松昌裕*1,3中村佳代子*1,3福原淳一*3横井匡彦*2田川義継*3*1 KKR札幌医療センター眼科*2 手稲渓仁会病院眼科 *3 北海道大学大学院医学研究科病態制御学専攻感覚器病学講座眼科学分野Diferent Vitrectomy Outcomes for Bilateral Rubeotic Endogenous Ophthalmitis in a Patient with Severe CandidemiaZhenyu Dong1,3), Masahiro Muramatsu1,3), Kayoko Nakamura1,3), Junichi Fukuhara3), Masahiko Yokoi2) and Yoshitsugu Tagawa3)1)Department of Ophthalmology, KKR Sapporo Medical Center, 2)Department of Ophthalmology, Teine Keijinkai Hospital, 3)Department of Ophthalmology, Hokkaido University Graduate School of Medicine緒言:S 状結腸切除後にルベオーシスを伴う両眼の真菌性眼内炎を発症し,菌血症改善の前後で硝子体手術を施行した 1 症例を経験したので報告する.症例:63 歳,男性.平成 19 年 7 月腸穿孔のため腸切除術を受けた.術後に腹腔膿瘍を生じ中心静脈留置カテーテルからカンジダが検出されたためフルコナゾール全身投与を開始,8 月上旬ミカファンギンナトリウムに変更されたがb-d-グルカン値は測定限界以上であった.8 月中旬に両眼の視力低下が出現し KKR札幌医療センター眼科初診.矯正視力右眼 0.1,左眼 0.06,線維素析出,虹彩後癒着を伴う前房炎症と隅角血管新生が両眼にみられた.両眼底に類円形白色滲出斑が散在したが硝子体混濁はなかった.初診 2 日後両眼硝子体混濁が出現し左眼は眼底透見困難となったため 6 日後に硝子体手術を行った.術直前に全身投与をボリコナゾールに変更したが術時b-d-グルカンは測定限界値以上のままであった.左眼は術後も消炎せず網膜 離に至ったが全身状態不良のため再手術は行えなかった.右眼はその 1 カ月後に全網膜 離を生じたが,b-d-グルカン値と全身状態が改善した状態で硝子体手術を行い,復位と消炎が得られ視力も改善した.考察:両眼の予後の違いから,真菌性眼内炎の手術適応の決定には従来の眼所見の分類に加え菌血症の状態を考慮する必要があると考えられた.ルベオーシスを伴う症例は進行が速く予後不良の可能性があり,手術時期について慎重な検討を要すると思われる.A 63-year-old male presented with blurred vision after S-colon resection. Subsequent ophthalmologic exami-nation revealed in ammation of anterior chamber with iris rubeosis at his rst visit and vitreous opacity in both eyes 2 days later. Despite severe candidemia, vitrectomy was performed on the left eye because of white retinal lesion and signi cant worsening of vitreous opacity. However, total retinal detachment ultimately occurred, due to strong postoperative in ammation. An additional operation was considered, but consent could not be obtained;sight was eventually lost in the left eye. However, vitrectomy was performed on the right eye after the ameliora-tion of candidemia, even though retinal detachment had been con rmed before the operation. The result was reti-nal restoration and postoperative best-corrected visual acuity of 0.52(converted to the logarithmic minimum angle of resolution). Endogenous fungal ophthalmitis with iris rubeosis can progress rapidly;not only the condition of the eye, but also the general condition, particularly that of candidemia, should be considered prior to vitrectomy.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(11):1549 1552, 2009〕Key words:ルベオーシス,カンジダ血症,内因性眼内炎,硝子体手術.rubeosis, endogenous ophthalmitis, candi-demia, vitrectomy.———————————————————————- Page 21550あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(110)はじめに内因性真菌性眼内炎は消化管術後や,経中心静脈栄養(IVH)の普及により近年増加している1).真菌性眼内炎は従来の病期分類により抗真菌薬の全身投与,眼局所投与がまず行われ,高度の硝子体混濁や網膜 離などをきたした場合にはさらに硝子体手術が行われている2 5).しかし手術の適応を決める際には眼局所の状態が重視され,全身状態,特に真菌感染症そのものの状態にはほとんど言及されていない.また,筆者らの知りうる限り,虹彩ルベオーシスを伴う真菌性眼内炎の報告はない.今回,S 状結腸切除後にルベオーシスを伴う両眼の真菌性眼内炎を発症し,菌血症改善の前に左眼,改善後に右眼の硝子体手術を施行したところ,左右で異なる結果となった 1 例を経験したので報告する.I症例患者:63 歳,男性.主訴:両眼のかすみ.現病歴:2007 年 7 月 4 日原因不明の S 状結腸穿孔に対し近医外科で腸切除と人工肛門増設術を受け,術創離開のため再手術も施行された.その後消化管出血を生じたが,保存的治療で経過した.しかしその後熱発し,7 月 23 日の血液培養から Candida albicans が検出され,抗菌薬(詳細不明)と抗真菌薬フルコナゾールが全身投与された.状態が改善しないため 8 月 9 日に KKR 札幌医療センター(以下,当院)外科 に 転 院 し た. 血 液 検 査 の 結 果 CRP(C 反 応 性 蛋 白)が17.44 m g/dl,b-d-グルカンが測定限界値(300 p g/ml)以上であった.抗真菌薬はフルコナゾールからミカファンギンナトリウムに変更され,当院外科での腹腔ドレナージなどの治療により全身状態は一時的に改善したが,前医の術後で 7 月中旬頃より出現した両眼のかすみが増悪したため,8 月 15日に当院眼科初診となった.既往歴:気管支喘息.プレドニゾロン5 m g/day を内服していたが,外科術後より中止.家族歴:特記事項はなし.初診時所見:視力は右眼 0.1,左眼 0.06(ともに矯正不能),眼圧は両眼とも 10 mmHg,前房内は両眼とも線維素析出,虹彩後癒着と隅角新生血管がみられた.両眼底は網膜に小類円形白色滲出斑が散在したが,網膜出血や硝子体混濁はなかった.経過:臨床経過および眼所見から内因性真菌性眼内炎が疑われ,さらに硝子体混濁が両眼に生じたため,抗真菌薬を眼内移行性がよいとされるボリコナゾールに変更した.しかしb-d-グルカンが依然測定限界値(300 p g/ml)以上であり,硝子体混濁もさらに増強し,8 月 20 日視力は右眼 0.06,左眼光覚弁(ともに矯正不能)に低下した.特に左眼は前房出血および眼底透見困難な硝子体混濁がみられたため,8 月21 日左眼水晶体摘出術(後 切除含む)と硝子体手術を行った.術中所見として,下方網膜に白色滲出斑が多数みられ,菌塊と考えられる小さなやや隆起性の病変が多数散在していた(図 1).後部硝子体 離(PVD)は完成しており,術中に医原性裂孔は生じなかった.しかし高熱など全身状態不良のため全身麻酔は不可とされ,局所麻酔で手術を行ったが,疼痛と安静困難に加えて前房出血,散瞳不良などの視認性不良のため,周辺部硝子体は可及的な切除にとどめた.手術中,抗真菌薬と抗菌薬を灌流液に添加し,手術終了時,両眼硝子体腔内および結膜下にバンコマイシン,セフタジジム,フルコナゾール,アムホテリシン B を注入した.術翌日は前房内線維素析出および前房出血がみられ,硝子体混濁のため眼底が透見不能であった.超音波検査で網膜 離はみられなかった.左眼硝子体サンプルおよび右眼前房水の培養の結果,真菌は陰性であった.その後 IVH 抜去と腹腔ドレナージにより一時全身状態が改善し,8 月 28 日b-d-グルカンが 237 p g/ml,CRP が 5.92 m g/dl と改善傾向がみられたが,視力は右眼 0.04,左眼手動弁(ともに矯正不能)となった.8 月 31 日より抗真菌薬はボリコナゾール内服に変更されたが,嘔吐などの副作用が強く,9 月 4 日より再び点滴に変更された.9 月 7 日視力は右眼 0.01,左眼は手動弁のまま(ともに矯正不能)であったが,超音波検査で左眼後極に限局性の網膜 離が確認され,前房蓄膿もみられた.左眼再手術も検討したが,依然として全身状態不良で全身麻酔が不可であり,再手術の同意も得られなかったため,硝子体腔内にバンコマイシン,セフタジジム,フルコナゾール,アムホテリシン B,ミコナゾールを注入した.同時に右眼にフ図 1術中所見下方網膜に白色滲出斑が多数みられ,また菌塊と考えられる小さな隆起性病変が多数散在していた.後部硝子体 離は完成しており,術中に医原性裂孔は生じなかった.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091551(111)ルコナゾール,ミコナゾールおよびアムホテリシン B を結膜下注射した.この結果,右眼は前房炎症と硝子体混濁および網膜上の白色滲出斑が徐々に軽減した.その後も全身状態不良が続き,9 月 19 日抗真菌薬が全身副作用が少ないとされるイトラコナゾールに変更され,再度IVH が挿入された.9 月 26 日b-d-グルカンは 97.6 p g/mlと下降したが,CRP は 12.44 m g/dl と逆に悪化し,血液培養よりメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が検出されたため,テイコプラニン点滴が併用された.右眼はイトラコナゾール点滴開始以降,視力が矯正 0.02 前後で推移しており,硝子体混濁がやや改善傾向にあったが,9 月 27 日視力が矯正 0.01 に低下し,鼻上側網膜に裂孔と網膜 離がみられた.全身状態が不良などの理由で手術は行わず,MRSAに対してタゾバクタムナトリウム・ピペラシリンナトリウムを追加,抗真菌薬はイトラコナゾール内服に変更されたが,右眼全網膜 離となり,視力がさらに手動弁に低下した.その後解熱や,嘔吐の軽減など,全身状態が改善し手術の同意が得られたため,10 月 5 日に全身麻酔で右眼水晶体摘出術と硝子体手術を行った.術中所見として PVD は耳側のみであり,線維増殖膜が鼻側および下方網膜に強固に癒着しており,内上方に原因裂孔がみられた.左眼と違い,菌塊と考えられる白色の隆起病変は周辺部網膜に数カ所のみであった.徹底した周辺部硝子体切除と増殖膜処理を行い,術中網膜復位が得られ,術後腹臥位が困難と予想されたためにシリコーンオイルを注入した.術後は外科治療の効果もあり,b-d-グルカンと CRP が漸減し,b-d-グルカンが 11 月 15 日に26.1 pg/ml,CRP が 11 月 7 日に 0.28 mg/dl にそれぞれ改善した.右眼術後は速やかな消炎が得られ,視力は 11 月 15日に右眼 0.04(0.3)まで上昇した.左眼は全網膜 離で視力が光覚弁のままであった.その後イトラコナゾール内服で経過 を み て い た が, 右 眼 真 菌 性 眼 内 炎 の 再 発 は な か っ た.2008 年に入り,右眼に黄斑浮腫を伴う黄斑前膜が出現し,視力が再び低下したため,5 月 9 日に硝子体手術および眼内レンズ挿入術を行い,シリコーンオイルと黄斑前膜を除去した.II考按今回の症例は前医で抗真菌薬の投与が開始されていたこともあり,硝子体や前房水からは菌が検出されず,カテーテル,ドレーンの先端や,腹水,腹腔膿瘍の培養からも真菌血症の原因菌を検出することができなかった.しかし,前医での血液培養より Candida albicans が検出されたこと,血液検査でb-d-グルカンが測定限界値以上の高値を示していたこと,臨床経過と典型的な眼所見などから,内因性真菌性眼内炎と診断した.真菌性眼内炎に対する病気分類はいくつか提案されており,一般的に眼底透見困難となるような高度の硝子体混濁を生じた場合は,抗真菌薬の全身投与に加え硝子体手術による治療が必要とされている2 5).硝子体手術により抗真菌薬の硝子体腔への移行が促進されるだけでなく,硝子体中や網膜上の菌塊を直接除去することにより,治療効果を高めることができる6,7).本症例も左眼は眼底透見不能な硝子体混濁がみられた時点で,右眼は全網膜 離が生じた後でそれぞれ硝子体手術を行ったが,術前の眼底の状態は左眼が右眼より良好であったにもかかわらず,術後成績は左眼のほうが不良であった.左眼の手術時はb-d-グルカンが測定限界値以上で,眼局所以外の感染巣がはっきりせず,抗真菌薬全身投与下でも菌血症自体が沈静化していなかった.また手術中は高熱,手術操作に伴う強い疼痛,視認性不良,さらに呼吸苦により,手術を短時間にとどめざるをえず,最周辺部までの徹底した硝子体の郭清ができなかった.その結果,手術侵襲による網膜血管透過性が亢進し,抗真菌薬の全身投与下でも液体に置き換わった硝子体腔へ,残存硝子体ゲルや網膜血液柵が破綻した血管から真菌の進入が容易になり,術中および術後の抗真菌薬の硝子体腔内への注入と全身投与にもかかわらず術後の強い炎症と全網膜 離につながったと考えられる.それに対して右眼は真菌血症に加え MRSA 菌血症がある状態で,かつ網膜 離発生後の手術ではあったが,手術時b-d-グルカンが 84.2 p g/ml と真菌血症の状態が左眼の手術時よりもかなり改善した状態であった.さらに,全身麻酔で手術を行ったため,徹底した硝子体および線維増殖膜の処理ができた.その結果,術前の状態が不良であったが,治療成績が良好であったと考えられた.両眼とも眼科初診時にすでに隅角新生血管がみられ,このときは硝子体混濁はなかったものの,すでに真菌の毛様体への浸潤による強い炎症の存在および速い進行を示唆していたと考えられる.しかし,本症例は全身状態および菌血症の状態がきわめて不良であったため,早期に硝子体手術を行っても結果は同様であったと推測される.今回の症例では,真菌性眼内炎が確認されるまではフルコナゾール,ついでミカファンギンナトリウムの全身投与が行われたが,眼局所以外に全身の明らかな深在性真菌感染巣は不明であったため,より強力かつ眼内移行性がよいとされるボリコナゾールに変更した.確かに IVH 抜去やドレーン抜去などの外科処置もあり,ボリコナゾール変更後はb-d-グルカン値が低下し,右眼硝子体混濁の軽減もみられた.しかし,ボリコナゾールは嘔吐などの強い消化管症状をひき起こし,全身状態が悪化したため長期投与を行えず,やむをえずイトラコナゾールに変更され,IVH も再挿入された.イトラコナゾール変更後も硝子体混濁が徐々に改善したが,網膜上の線維増殖膜形成と PVD が引き続き進行し右眼網膜 離を生じたと考えられた.本症例の経過から,ルベオーシスを伴う真菌性眼内炎は進———————————————————————- Page 41552あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(112)行が速く予後不良の可能性があり,より短い期間での慎重な経過観察が必要である.また,硝子体手術を検討する際は,眼局所の所見に加え,b-d-グルカン値,CRP 値など菌血症と全身の状態も十分に考慮すべきである.菌血症が改善していない状態で硝子体手術を行っても,本症例の左眼のように良好な結果が得られない可能性があり,逆に本症例の右眼のように眼局所の状態が悪化していても,ある程度菌血症などの全身状態が安定した状態で手術を行ったほうが良好な結果が得られる可能性がある.どの時期に手術をすべきかに関しては,さらに多数例を集めた報告が必要であり,全身状態に注意し患者への十分な説明のうえで,より慎重に検討すべきであると考えられた.文献 1) 石橋康久,本村幸子,渡辺亮子:本邦における内因性真菌性眼内炎─ 1986 年末までの報告例の集計.日眼会誌 92:952-958, 1988 2) 石橋康久:内因性真菌性眼内炎の病気分類の提案.臨眼 47:845-849, 1993 3) 宇山昌延:眼内炎(2)真菌性眼内炎.ぶどう膜炎,p198-202,医学書院, 1999 4) 草野良明,大越貴志子,佐久間敦之ほか:真菌性眼内炎の起因菌におけるフルコナゾール耐性の Candida 属の増加.臨眼 54:836-840, 2000 5) 大西克尚:真菌性眼内炎.眼科診療プラクティス 47,感染性ぶどう膜炎の病因診断と治療(臼井正彦編),p32-35,文光堂, 1999 6) Zhang YQ, Wang WJ:Treatment outcomes after pars plana vitrectomy for endogenous endophthalmitis. Retina 25:746-750, 2005 7) Chakrabarti A, Shivaprakash MR, Singh R et al:Fungal endophthalmitis:fourteen years’ experience from a cen-ter in India. Retina 28:1400-1407, 2008***

回折型多焦点眼内レンズ挿入後に網膜硝子体疾患治療を要した4例

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 1(103) 15430910-1810/09/\100/頁/JCOPY あたらしい眼科 26(11):1543 1547,2009cはじめに白内障手術は眼科手術のなかで最も件数が多く,近年,眼内レンズ(IOL)の光学系に非球面,着色,多焦点機能1)が加わったものが普及している.なかでも,遠方と近方の 2 カ所に焦点が合うようにデザインされた多焦点 IOL は 2008 年に先進医療として認められ2),いずれ保険適用となれば,症例数の増加が予想される.多焦点 IOL そのものが,網膜硝子体疾患の発症に関与することは考えにくいが,挿入例が増えれば,術後経過観察中に網膜硝子体疾患を発症する例が出てくることは避けられない.遠方と近方の 2 カ所に入射光を配分する回折型多焦点 IOL 挿入眼においては,単焦点 IOL と光学デザインが異なるため,詳細な眼科検査や治療への影響が危惧されている.筆者らは回折型多焦点 IOL 挿入眼に硝子体手術を行い,硝子体の可視化に用いたトリアムシノロン〔別刷請求先〕吉野真未:〒101-0061 東京都千代田区三崎町 2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科Reprint requests:Mami Yoshino, M.D., Department of Ophthalmology, Tokyo Dental College Suidobashi Hospital, 2-9-18 Misaki-cho, Chiyoda-ku, Tokyo 101-0061, JAPAN回折型多焦点眼内レンズ挿入後に網膜硝子体疾患 治療を要した 4 例吉野真未*1ビッセン宮島弘子*1鈴木高佳*1川村亮介*2井上真*1,3*1 東京歯科大学水道橋病院眼科*2 慶應義塾大学医学部眼科学教室*3 杏林大学アイセンターFour Cases Requiring Treatment for Vitreoretinal Disorders after Difractive Multifocal Intraocular Lens ImplantationMami Yoshino1), Hiroko Bissen-Miyajima1), Takayoshi Suzuki1), Ryosuke Kawamura2) and Makoto Inoue1,3)1)Department of Ophthalmology, Tokyo Dental College Suidobashi Hospital, 2)Department of Ophthalmology, Keio University School of Medicine, 3)Kyorin Eye Center, Kyorin University School of Medicine目的:回折型多焦点眼内レンズ(IOL)挿入後に網膜硝子体疾患を発症し,治療を要した症例を検討した.対象:回折型多焦点 IOL が挿入された 341 眼中,術後に良好な視力が得られたものの網膜硝子体疾患を発症した 4 眼(1.2%)で,裂孔原性網膜 離,黄斑前膜,網膜中心静脈閉塞症,網膜中心静脈分枝閉塞症が 1 眼ずつであった.治療前後の検査所見,術中所見,視力を検討した.結果:倒像鏡眼底検査は単焦点 IOL 挿入眼同様に問題なく,光干渉断層計のモニター画像で 3 眼中 3 眼に水平ノイズが観察された.硝子体手術を要した 2 眼にトリアムシノロン粒子のゴースト像が観察されたが,手術は問題なかった.トリアムシノロンの Tenon 下投与を 2 眼に,ベバシズマブ硝子体内投与を 1眼に行い,視力は改善した.結論:回折型多焦点 IOL 挿入後の網膜硝子体疾患は,一部の検査や術中所見で IOL の光学特性が出ることを理解していれば安全に治療が行えると思われた.We retrospectively evaluated cases that required treatment for vitreoretinal diseases following di ractive mul-tifocal intraocular lens(IOL)implantation. Of 341 consecutive eyes, 4 developed vitreoretinal diseases:one case each of retinal detachment, epiretinal membrane, central retinal vein occlusion and branch retinal vein occlusion. Vitrectomy was performed in 2 eyes and ghost images were observed in both those eyes. Spectral-domain optical coherence tomography was performed in 3 eyes and horizontal noise was observed in all 3 eyes. Subtenon injection of triamcinolone was performed in 2 eyes and intravitreal injection of bevacizumab in 1 eye. Visual acuity improved in all cases. When the eye develops vitreoretinal disease after di ractive multifocal IOL implantation, examination and treatment can be performed safely in consideration of the optical design, which may a ect visibili-ty to the examiner or evaluation by digital equipment.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(11):1543 1547, 2009〕Key words:回折型多焦点眼内レンズ,眼内レンズ,網膜硝子体疾患,硝子体手術.di ractive multifocal intraocu-lar lens, intraocular lens, vitreoretinal disease, vitrectomy.———————————————————————- Page 21544あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(104)粒子が硝子体内でゴースト像を呈すること3),回折型多焦点IOL 挿入眼では,Carl Zeiss Meditec 社製スペクトラルドメイン光干渉断層計(opitcal coherence tomography:OCT)に内蔵された眼底モニター画像である LSO(line scanning ophthalmoscope)画像で,波面状の水平ノイズが観察されることを報告した4).今回,回折型多焦点 IOL 挿入例で網膜硝子体疾患を発症し,治療を要した症例の網膜硝子体の検査や治療への影響を総合的に検討した.I対象および方法対象は,東京歯科大学水道橋病院において,2005 年 6 月から 2008 年 8 月までに白内障手術時に回折型多焦点 IOL が挿入された 341 眼である.挿入された回折型多焦点 IOL は,AMO 社製テクニスマルチフォーカル ZM900,アルコン社製 ReSTORR SA60D3 で,厚生労働省承認前の使用にあたっては,大学倫理委員会の承認を得て,多焦点 IOL を希望する患者に十分な説明の後,同意を得たうえで挿入を行った.また,適応については,術前に視力に影響する眼疾患を合併していない白内障例とした.341 眼について,IOL 挿入後に網膜硝子体疾患を発症した例を後ろ向き調査したところ,4 眼に発症し治療を要していた.これらの症例の眼底所見,蛍光眼底所見,OCT 所見(Carl Zeiss Meditec 社製 Spec-tral-domain OCT, Cirrus HD-OCT, OCT4000),および硝子体手術を要した例における術中所見,治療後の視力予後を検討した.II結果多焦点 IOL 挿入術後の網膜硝子体疾患の発症率は 1.2%(341 眼中 4 眼)で,いずれの症例も,術中合併症はなく,術後に良好な視力が得られた後に網膜硝子体疾患を発症した.4 例の疾患の内訳は,裂孔原性網膜 離,黄斑前膜,網膜中心静脈閉塞症,網膜中心静脈分枝閉塞症がそれぞれ 1 眼ずつで,各症例の年齢,性別,使用した多焦点 IOL,発症までの期間,経過観察期間を表 1 に示す.白内障術前,多焦点 IOL 挿入後,網膜硝子体疾患発症時,治療後の視力の変化を表 2 に示す.全例,多焦点 IOL 挿入後良好な視力が得られていたが,網膜硝子体疾患の発症とともに視力が著明に低下,治療後視力は改善し,自覚的な満足度が得られている.近方視力も同様に網膜硝子体疾患治療後,ほぼ多焦点 IOL 挿入後の視力まで回復している.つぎに,術前後の検査所見であるが,倒像鏡による眼底検査,OCT 画像,LSO 画像,蛍光眼底造影所見を表 3 にまと表 1各症例における網膜疾患症例1234年齢56 歳70 歳79 歳54 歳性別男性女性男性女性左右眼左左右左使用した多焦点 IOLZM900ZM900SA60D3SA60D3IOL 度数+15.0 D+21.0 D+20.5 D+17.5 D網膜硝子体疾患網膜 離黄斑前膜網膜中心静脈閉塞網膜中心静脈分枝閉塞発症までの期間1週24 カ月2 カ月6 カ月治療後観察期間26 カ月14 カ月12 カ月8 カ月表 2各症例における視力の変化症例1234遠方視力裸眼(矯正)術前0.04(0.5)0.6(0.6)0.5(0.7)0.3(04)IOL 挿入後最高0.5(1.0)0.8(1.0)1.2(1.2)1.2(1.5)網膜疾患発症時手動弁0.4(0.5)0.3(0.3)0.5(0.5)治療後1.0(1.2)0.8(0.8)0.8(0.8)1.2(1.5)近方視力裸眼(矯正)IOL 挿入後最高未施行0.5(0.7)0.7(1.0)0.9(1.0)治療後未施行0.4(0.7)0.7(0.7)0.7(0.8)表 3各症例における検査所見症例1234眼底検査問題なし問題なし問題なし問題なしOCT 画像未施行問題なし問題なし問題なしLSO 画像未施行水平ノイズ水平ノイズ水平ノイズ蛍光眼底造影未施行問題なし未施行未施行 OCT:optical coherence tomography,LSO:line scanning ophthalmoscope.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091545(105)める.疾患の種類により施行した検査内容が異なるが,眼底撮影画像は単焦点 IOL 挿入眼と差がなく,診断に影響を及ぼす問題はなかった(図 1, 2).ただし,LSO 画像においては,施行した 3 例全例に波面状の水平ノイズが認められた(図 1d,f).多焦点 IOL 挿入眼の硝子体手術への影響は,手術を要した症例 1,2 で,硝子体手術用コンタクトレンズを用いた手術顕微鏡下では,網膜血管,黄斑前膜のコントラストが単焦点 IOL 挿入眼に比べてやや低下して観察された(図 3a).硝子体を観察するためにトリアムシノロン粒子(ケナコルトR,ブリストルマイヤーズ,東京)を硝子体腔に注入したところ,硝子体腔内に浮遊するトリアムシノロン粒子は,消えたり現れたりして見え,粒子そのものがだぶった像として観察された(図 3b).同様に眼内器具も顕微鏡の焦点の合わせ具合にacdefb図 1症例3の眼底写真とOCT所見網膜中心静脈閉塞症発症時の眼底写真(a)と OCT 画像(c)では多発する網膜出血と著明な黄斑浮腫がみられる.治療 7 カ月後の眼底写真(b)と OCT 画像(e)では網膜出血も減少し黄斑浮腫も軽快した.OCT でのモニター画像(LSO)(d,f)では波状の水平ノイズ(矢印)が認められるが,OCT 画像では認められない.———————————————————————- Page 41546あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(106)より滲んで見えたが,手術操作は問題なく行えた.III考按回折型多焦点 IOL は,その利点を生かすために,網膜感度が良好で,中心窩機能が保たれていることが好ましいため,白内障手術前の検査で,視力に影響を及ぼす可能性がある眼底疾患が存在すれば適応としないのが一般的である.症例 1 は,術後早期に網膜 離を発症しているが,術前検査では眼底に異常所見は観察されなかったため多焦点 IOL の適応とし,術 1 週後に硝子体出血を伴う急激な視力低下をきたし,この時点で裂孔原性網膜 離を発症した可能性が高いと考えている.白内障手術の年齢層から,多焦点 IOL 挿入後に加齢性変化による網膜硝子体疾患を発症する可能性は十分考慮すべきである.その際問題になるのが,良好な裸眼視力を目的として挿入された症例における視力予後,光学デザインによる診断への影響,手術を要する例での手術の難易度で図 2症例4の眼底写真とOCT所見網膜中心静脈閉塞症増悪時の眼底写真(a)と OCT 画像(c)では多発する網膜出血と黄斑浮腫がみられる.治療 4 カ月後の眼底写真(b)と OCT 画像(d)では網膜出血も減少し黄斑浮腫も軽快した.acbd図 3症例1の術中写真網膜血管,黄斑前膜のコントラストがやや低下し(a),トリアムシノロン粒子はだぶった像(b)として観察されたが,手術は問題なく施行できた.ab———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091547(107)ある.まず,視力予後については,疾患や重篤度によって異なるが,今回の 4 症例では,多焦点 IOL 挿入後裸眼視力 0.5 以上,矯正視力 1.0 以上と良好であった.しかしながら,網膜硝子体疾患により視力は著明に低下し,治療を要した.4 例とも疾患が異なり治療法も異なるが,全例視力は改善した.多焦点 IOL は先進医療として認められ,術前後の検査は保険適用だが,手術費が自費のため,術後の見え方に対する患者の期待度は高い.網膜硝子体疾患を併発した場合,単焦点IOL 挿入後に比べ,治癒後に視力がある程度回復しても,高価な手術費を支払った結果として不満をいだく可能性があり,今後,症例数が増えるにつれ,十分な術前説明の必要性が認識されるべきである.つぎに,検査所見についてであるが,回折デザインによる影響が危惧されている.回折型多焦点 IOL 挿入眼の自覚的な見え方に不満をもつ例が検討されており5,6),代表的な見え方の表現に,回折リングが見える,waxy vision,ゴースト像がある.同様の問題が検査に出るかどうかであるが,倒像鏡による眼底検査,眼底写真,蛍光眼底造影といったある位置に焦点を合わせる条件では,単焦点 IOL 挿入例と差がなく施行でき,診断への影響はなかった.近年,網膜診断に用いる OCT 画像について,筆者らは,回折型多焦点 IOL 挿入後の網膜硝子体疾患のない例において,Cirrus HD-OCT の LSO 画像で水平ノイズがみられるが,OCT 画像そのものには水平ノイズに相当する像はみられず,また,SLO でも水平ノイズに相当する像がみられないことを報告した4).今回の回折型多焦点 IOL 挿入後の網膜硝子体疾患例でも,測定した全例に同様の水平ノイズがみられ,この機序としては,LSO が完全な共焦点方式ではなく,画像検出を短波長のスリット照明と横方向に移動するスリット状の検出装置(linear detector)で行うため,一方向のみの水平ノイズが検出され,一方,完全な共焦点方式であるSLO ではピンホール状の検出装置を用いているため,水平ノイズが除去されていたと推測している.今後,新しい診断装置が開発されると,回折型多焦点 IOL 挿入眼において単焦点 IOL 挿入眼でみられない微細な影響が出る可能性はあるが,診断を左右するような状況が出ることは考えにくい.硝子体手術中所見として,すでに症例 1 のケナコルト粒子のゴースト像を報告した3)が,症例 2 でも同様の所見が観察され,回折型多焦点 IOL 挿入眼における特徴的な見え方と考えられた.今後,網膜硝子体手術が必要な症例では,術者がこの現象を把握しておくことが必要と思われた.術者の自覚的判断になるが,多焦点 IOL を通しての網膜所見は,レンズ特有の収差のなかでの手術となり,単焦点 IOL を通してよりコントラストが弱く感じられる.収差については,IOL 以外に顕微鏡や硝子体手術用コンタクトレンズの影響もあり,さらに検討が必要だが,IOL 収差への対応策として,欧米で硝子体手術における使用率が高い広角観察システムは,多焦点 IOL の収差の影響を受けにくいため,今後,硝子体手術時の有用性について評価が望まれる.検査所見で,回折型多焦点 IOL 挿入後の自覚的な見え方で問題になる回折リング像や waxy vision の影響がなかったことを述べたが,硝子体手術中に焦点をずらすと,回折リングが視野に広がり,全体がゆらゆらした,英語の表現で waxy vision を想像させる映像が確認された.この現象は,焦点を合わせる場所によって変化し消えるので,手術操作に影響はないが,患者の見え方を理解するうえで興味深い所見である.以上,回折型多焦点 IOL 挿入後に網膜硝子体疾患の治療を要した 4 例で,検査および治療において IOL の光学デザインによる特徴的な所見が認められたが,治療は安全に行われ,良好な視力回復が得られた.今後,多焦点 IOL 挿入例数が増えるに伴い眼底疾患発症率が増えることが予想されるが,眼底検査や手術時に単焦点 IOL との違いを理解しておくことが必要と思われた.文献 1) ビッセン宮島弘子:視機能を考えた眼内レンズ選択法.IOL&RS 20:209-212, 2006 2) ビッセン宮島弘子:眼科と医療問題多焦点眼内レンズと評価療養.IOL&RS 22:384-385, 2008 3) Kawamura R, Inoue M, Shinoda K et al:Intraoperative ndings during vitreous surgery after implantation of di ractive multifocal intraocular lens. J Cataract Refract Surg 34:1048-1049, 2008 4) Inoue M, Bissen-Miyajima H, Yoshino M et al:Wavy horizontal artifacts on optical coherence tomography line-scanning images caused by di ractive multifocal intraocu-lar lenses. J Cataract Refract Surg 35:1239-1243, 2009 5) Woodward MA, Randleman JB, Stulting RD:Dissatisfac-tion after multifocal intraocular lens implantation. J Cata-ract Refract Surg 35:992-997, 2009 6) Castillo-Gomez A, Carmona-Gonzalez D, Martinez-de-la-Casa JM et al:Evaluation of image quality after implan-tation of 2 di ractive multifocal intraocular lens models. J Cataract Refract Surg 35:1244-1250, 2009***

Epipolis Laser In Situ Keratomileusis(Epi-LASIK)の臨床成績

2009年11月30日 月曜日

上眼瞼に発生したSteatocystoma Simplex の1例

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 1(91) 15310910-1810/09/\100/頁/JCOPY あたらしい眼科 26(11):1531 1534,2009cはじめにSteatocystoma は毛包脂腺系から発生する皮下腫瘍であり,steatocystoma multiplex と steatocystoma simplex の 2種類の形態がある1).Steatocystoma multiplex と steatocys-toma simplex は病理組織学的には同一であるが,常染色体優性遺伝形式をとり,腫瘍が多発する場合を steatocystoma multiplex,遺伝傾向がなく,腫瘍が単発である場合を ste-atocystoma simplex とそれぞれ呼称する1).Steatocystoma simplex は,steatocystoma multiplex の単発型として,Brownstein によって 1982 年に初めて報告された1).発生頻度,好発年齢や性差などは明らかではないが,Brownstein が 10 年間で合計 30 症例を経験していること1),また,現在まで悪性転化に関する症例報告はないため,まれな良性皮下腫瘍として扱われている2 5).臨床所見は,弾性硬の皮下腫瘍であり,油性ないしはクリーム状の内容物を有するため,臨床症状から epidermal cyst と診断されることが多い1 5).Steatocystoma simplex の好発部位は顔面であり1),特に前額部に多く認められる1,3,5).しかし,現在まで眼瞼に発生した steatocystoma simplex の報告は 2 例のみであり6,7),わ〔別刷請求先〕木下慎介:〒509-9293 岐阜県中津川市坂下 722-1国民健康保険 坂下病院眼科Reprint requests:Shinsuke Kinoshita, M.D., Department of Ophthalmology, Sakashita Hospital, 722-1 Sakashita, Nakatsugawa-shi, Gifu 509-9293, JAPAN上眼瞼に発生した Steatocystoma Simplex の 1 例木下慎介*1新里越史*1雑喉正泰*2岩城正佳*2*1 国民健康保険 坂下病院眼科*2 愛知医科大学眼科学講座A Case of Steatocystoma Simplex in the Upper EyelidShinsuke Kinoshita1), Etsushi Shinzato1), Masahiro Zako2) and Masayoshi Iwaki2)1)Department of Ophthalmology, Sakashita Hospital, 2)Department of Ophthalmology, Aichi Medical UniversitySteatocystoma simplex はまれな良性皮下腫瘍である.好発部位は顔面であるが,現在まで眼瞼に発生した報告は2 例のみである.今回,筆者らは眼瞼に発生した steatocystoma simplex の 1 例を経験した.症例は 55 歳,男性で,主訴は右上眼瞼に腫瘤を触知することであった.皮膚側からの視診では右上眼瞼に病変は認めず,触診で病変の触知が可能であった.上眼瞼を翻転すると眼瞼結膜側に境界明瞭な隆起性病変を認めた.霰粒腫を疑い摘出術を行ったが,術中に薄い被膜を認めたため,被膜を全摘出した.病理組織診断の結果は,steatocystoma であった.眼瞼に生じた ste-atocystoma simplex の臨床所見は,霰粒腫に類似していた.そのため,霰粒腫の治療を行う場合は,steatocystoma simplex の可能性も考慮する必要がある.Steatocystoma simplex, a rare subcutaneous benign tumor, commonly a ects the face, though 2 cases of its occurrence in the eyelid have been reported. We experienced a case of steatocystoma simplex in the upper eyelid. The patient, a 55-year-old male, complained of a palpable lump in his right upper eyelid, but the lump could not be detected on ocular inspection. When we everted the upper eyelid, however, we observed a well-demarcated tumor in the palpebral conjunctiva, which we diagnosed as a chalazion and surgically removed. During the opera-tion we discovered that the tumor was encapsulated, so complete decapsulation was performed. Histopathological evaluation of the tumor led to the diagnosis of a steatocystoma. Since the clinical characteristics of patients with steatocystoma simplex mimic those of patients with chalazion, in cases of suspected chalazion it is advisable to include steatocystoma simplex in the di erential diagnosis, so as ensure a correct diagnosis and, consequently, an appropriate treatment plan.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(11):1531 1534, 2009〕Key words:steatocystoma simplex, 眼 瞼, 眼 瞼 結 膜, 霰 粒 腫,steatocystoma.steatocystoma simplex, eyelid, palpebral conjunctiva, chalazion, steatocystoma.———————————————————————- Page 21532あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(92)が国における症例報告はない.そこで今回,筆者らは,眼瞼に発生した steatocystoma simplex の 1 例を経験したので報告する.I症例患者:55 歳,男性.主訴:右上眼瞼の違和感.既往歴:50 歳,高血圧症.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:平成 19 年 9 月頃より,右上眼瞼に違和感を自覚していた.同年 10 月頃に右上眼瞼に腫瘤を触知することを自覚したため愛知医科大学病院眼科を受診した.初 診 時 所 見: 視 力 は 右 眼 0.2(0.8×+1.5 D(cyl 0.75 D Ax0°),左眼 1.0(1.2×+1.25 D(cyl 0.25 D Ax55°)で,眼圧は右眼 11 mmHg,左眼 13 mmHgであった.両眼ともに前眼部,中間透光体,眼底に異常は認められなかった.眼瞼部所見:眼瞼皮膚側からの視診では,右上眼瞼に病変は認められなかったが,触診で眼瞼の中央付近に弾性硬の病変が確認できた.右上眼瞼を翻転すると眼瞼結膜側に境界明瞭な隆起性病変を認めた(図 1).臨床検査所見:血液検査で異常は認められなかった.治療経過:臨床経過,臨床所見より霰粒腫を疑い,局所麻酔下に経皮的摘出術を行った.腫瘍直上で皮膚切開を行い,眼輪筋を圧排し瞼板前面を露出したところ,病変と一致する部分に瞼板の隆起を認めた.瞼板隆起部の切開を行ったところ,黄色クリーム状の内容物が認められた.鋭匙で内容物の郭清後,同部分を観察すると虚脱した薄い被膜を認めた.そのため,霰粒腫ではなく何らかの貯留 腫であると判断し,被膜を周囲組織から丁寧に 離し全摘出した.眼瞼結膜側は,眼瞼結膜と被膜の 離は困難であったため,眼瞼結膜を含めて摘出した.病理組織診断:上皮で裏打ちされた 胞状構造とその周囲に脂腺が認められたため,steatocystoma と診断された(図2).術後経過:眼瞼以外に腫瘍を認めない単発型であり,家族歴もないことから,steatocystoma simplex と診断した.術後 30 日で再発はなく,被膜と一塊に切除した眼瞼結膜の瘢痕は軽微である(図 3).また,眼瞼結膜側の瘢痕による眼表面の違和感や角膜上皮障害は認めていない.II考察本症例における steatocystoma simplex の術中所見は,瞼板内に生じた被膜を有する腫瘍であり,腫瘍の内容物は黄色クリーム状であった.この被膜は steatocystoma simplex の 腫壁であるが,他の症例報告6,7)においても 腫壁は瞼板と強固に癒着しており,本症例の術中所見と同様の所見である(表 1).そのため,瞼板と強固に癒着している 腫壁が,図 1初診時所見右上眼瞼結膜に球状の隆起性病変を認める.図 2病理組織学所見ケラトヒアリン顆粒をもたない上皮成分の 腫壁(矢頭)と脂腺(矢印)を認める.bar=100 μm.図 3術後所見眼瞼結膜の瘢痕は軽微である.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091533(93)眼瞼に発生する steatocystoma simplex の特徴的な所見であると考えられる.その一方で,本症例では,視診と触診,術中所見を含め,霰粒腫と類似する所見が多く,術中に 腫壁を発見できなければ霰粒腫との鑑別は非常に困難であったと考えられる.また,他の症例報告おいても術前の臨床診断は霰粒腫であった6,7)ことを考慮すると,霰粒腫の臨床診断で手術を行う際は,術中に 腫壁の有無を注意深く観察することが重要であると考えられる.Steatocystoma simplex は貯留 腫であるため, 腫壁の全 摘 出 が 根 治 的 治 療 で ある1 5). こ れ は,steatocystoma simplex に限らず,貯留 腫は摘出の際に 腫壁を取り残すと,残存した 腫壁から貯留 腫が再発するためである8). 腫壁を残存させないためには, 腫壁を損傷することなく一塊に摘出することが望ましいが,本症例では瞼板前面の所見が霰粒腫と類似しており,霰粒腫の手術方法9)に準じて瞼板前面を切開したため,腫瘍を一塊として摘出することは不可能であった.しかし,貯留 腫の摘出術のなかには,あえて 腫壁の切除または切開を行い,内容物を脱出させた後に 腫壁を摘出する術式がある10).本症例では 腫壁を損傷したが,同様の術式を用いることで, 腫壁を全摘出することが可能であった.したがって,霰粒腫の臨床診断で手術を行い, 腫壁を損傷した場合であっても,術式を変更することで, 腫壁の全摘出は可能であると考えられる.Steatocystoma simplex と鑑別が必要になる疾患は,epi-dermal cyst と subcutaneous dermoid cyst である1 5).しかし,epidermal cyst と subcutaneous dermoid cyst はともに貯留 腫であるため,治療は 腫壁を含めた全摘出であ り8),steatocystoma simplex と臨床的に鑑別する意義は少ないと考えられる.また,subcutaneous dermoid cyst は生下時から存在することが多いため11),問診で鑑別することが可能であると考えられる.病理組織学的には,steatocysto-ma はケラトヒアリン顆粒をもたない上皮成分の 腫壁に脂腺を有する貯留 腫である1).そのため,同じ貯留 腫であってもケラトヒアリン顆粒を有し, 腫壁に脂腺をもたないepidermal cyst や脂腺以外の皮膚付属器をもつ subcutane-ous dermoid cyst との鑑別は容易である12).本症例における病理組織像は典型的な steatocystoma であり,epidermal cyst や subcutaneous dermoid cyst との鑑別は容易であり,また,上皮成分を含む 腫壁が確認できたため,脂肪肉芽腫である霰粒腫9)との鑑別も容易であった.Steatocystoma simplex は,毛包脂腺系の毛包脂腺導管開口部から毛隆起部までの部分である毛包峡部から発生するとされている13).しかし,瞼板内には睫毛根は存在せず14),また,瞼板内の脂腺であるマイボーム腺は,睫毛と連絡のない独立脂腺であるため15),瞼板内には毛包脂腺系は存在しない.そのため,本症例における steatocystoma simplex は,睫毛重生で生じるように16),マイボーム腺の形質変化によって,瞼板内に形成された毛包脂線系から発生したと考えられる.一方,本症例以外にも,マイボーム腺と同様の独立脂腺であり,毛包脂腺系が存在しない口腔内にも steatocystoma simplex が発生している17)ことを考慮すると,実際は steato-cystoma simplex の発生に毛包の関与はなく,脂腺のみが関与している可能性も否定できない.しかし,どちらの場合であっても steatocystoma simplex の発生には脂腺が強く関与していると考えられる.したがって,steatocystoma sim-plex の発生起源は毛包峡部のような部分ではなく,脂腺導管開口部など脂腺が存在する部位であると考えられる.眼瞼に生じた steatocystoma simplex の臨床所見は,霰粒腫に類似していた.そのため,霰粒腫の臨床診断で手術を行う場合は,steatocystoma simplex の可能性も念頭において,術中の注意深い観察が必要である.文献 1) Brownstein MH:Steatocystoma simplex. Arch Dermatol 118:409-411, 1982 2) Nakamura S, Nakayama K, Hoshi K et al:A case of Ste-atocystoma simplex on the head. J Dermatol 15:347-348, 1988表 1眼瞼に発生したsteatocystoma simplexの報告例報告者年齢(歳)性別部位臨床診断治療内容術中所見Tirakunwichcha et al6)47女性左上眼瞼霰粒腫脂腺系の腫瘍摘出術瞼板と挙筋腱膜に強固に癒着摘出後,瞼板にボタンホール形成あり黄色クリーム状の内容物Procianoy et al7)68女性右上眼瞼霰粒腫脂腺 腫切除生検瞼板に強固に癒着霰粒腫に類似術中に灰色の油性内容物の流出自験例55男性右上眼瞼霰粒腫摘出術瞼板に強固に癒着黄色クリーム状の内容物眼瞼結膜を含めて切除———————————————————————- Page 41534あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(94) 3) Saravanan K, Akthar S:Interesting Case:steatocystoma simplex of the forehead. Br J Oral Maxillofac Surg 45:196, 2007 4) 山本聡,相原道子,中嶋弘:Steatocystoma simplex の1 例.皮膚 38:434-436, 1996 5) 寺内雅美,中束和彦,中村潔:Steatocystoma simplex の2 症例.形成外科 47:529-532, 2004 6) Tirakunwichcha S, Vaivanijkul J:Steatocystoma simplex of the eyelid. Ophthal Plast Reconstr Surg 25:49-50, 2009 7) Procianoy F, Golbert MD, Duro KM et al:Steatocystoma simplex of the eyelid. Ophthal Plast Reconstr Surg 25:147-148, 2009 8) Zuber TJ:Minimal excision technique for epidermoid(sebaceous)cysts. Am Fam Physician 65:1409-1412, 2002 9) Shields JA, Shields CL:Chalazion. Atlas of Eyelid and Conjunctival Tumors 2nd ed. p208-211, Lippincott Wil-liams & Wilkins, Philadelphia, 2008 10) Kanekura T, Kawamura K, Nishi M et al:A case of ste-atocystoma multiplex with prominent cysts on the scalp treated successfully using a simple surgical technique. J Dermatol 22:438-440, 1995 11) Koreen IV, Kahana A, Gausas RE et al:Tarsal dermoid cyst:Clinical presentation and treatment. Ophthal Plast Reconstr Surg 25:146-147, 2009 12) Jenkins JK, Morgan MB:Dermal cysts a dermatopatho-logical perspective and histological reappraisal. J Cutan Pathol 34:815-829, 2007 13) 幸田弘: 腫について.皮膚臨床 31:115-129, 1989 14) 木下慎介,柿崎裕彦,雑喉正泰ほか:大部分の睫毛根は瞼板に付着しているため,睫毛乱生手術において瞼板前組織を完全切除すべきである.眼紀 57:10-13, 2006 15) Nelson BR, Hamlet KR, Gillard M et al:Sebaceous carci-noma. J Am Dermatol 33:1-15, 1995 16) Monshizadeh R, Cohen L, Golkar L et al:Perforating folli-cular hybrid cyst of the tarsus. J Am Acad Dermatol 48:33-34, 2003 17) Olsen DB, Mosto RS, Langrotteria LB:Steatocystoma simplex in the oral cavity;A previously undescribed con-dition. Oral Surg Oral MED Oral Pathol 66:605-607, 1988***

眼科医にすすめる100冊の本-11月の推薦図書-

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.11,200915230910-1810/09/\100/頁/JCOPY自分のバリューは“ごきげんに生きる”.だから“ごきげん”という現象にはとても興味がある.今はアンチエイジング医学をなんとかサイエンスにしたいと考え,眼科医療との関連を模索しているが,将来はごきげんと眼科をサイエンスとして結び付けられたらいいなあと思っている.ごきげんを科学的に研究している例は少ない.哲学や個人的な理論の本はあっても,サイエンスとしてごきげんや幸せを扱っているものはなかなか少ないのである.特に日本語の本は少ない.そこでどうしても英語の本になってしまって苦労する.今回読んだ『Authen-ticHappiness』は,ちょうど日本語訳が出たところなので(うーん,ちょっと待っていれば楽に日本語で読めたのに!)皆様にぜひ紹介したい.生物学的に考えたとき,今まで発達してきているものは生存に有利であったから残っているという大前提をとることができる.眼や手や足などは生存に有利であったからこそほとんどすべての動物で発達している.人間において頭脳もそのひとつ.論理的な解析,思考能力,記憶力が生存に貢献した.感情もそうだ.感情というものがあってはじめて人間は高度な協力関係を築けるようになってきたと言われる.今他の人がどのように思っているのか,と推測して行動を変化させていくことが大きく人類の可能性を開いたという理論である.では“ごきげん”“しあわせ”という感情も人類の生存に貢献したのだろうか?著者のマーティン・セリグマン先生は米国フィラデルフィアの精神科医.彼はまさに“プラスの感情”が大きく人類の生存に貢献しているという立場から研究を進めている.もともと精神科医は心の病気を対象に研究しているので,どちらかというとマイナスになっている状態,病的な状態を研究する.セリグマン先生のように正常なおかつ,ごきげんなんていう状態を研究している先生は少ない.これは眼科でも同じことだ.眼の病気の専門家,眼の病気を研究している研究者は多いが,眼が見えることがどんなに生存に貢献しているかをサイエンスとして研究しているリサーチャーは少ない.最近は日本眼科医会の三宅謙作先生が“日本における視覚障害の社会的コスト”(日本眼科医会研究班報告20062008:日本における視覚障害の社会的コスト.日本の眼科80(6):付録,2009)でまとめられたように,“目が見えないことがどんな社会的コストを作ってしまうのか”というバリューベースドメディシンの立場から研究も始まっていて嬉しい限りだが,まだまだ少ないのが現状だ.さらには見えることがどのくらいごきげん,すなわちプラスに働くかという研究は,これからの学問となると思っている.さて,では幸せはどのように生存にプラスに働くのか?ごきげんだと細かいことが気にならなくなるので,ちょっとリスクがあっても何か新しいことを始めることができる.気にやまないので精神疾患になる確率も低い.血圧や血糖値も良好である可能性が高い.本の中で紹介されている面白い研究を紹介しよう.尼僧さんが若いときに書いた日記が大量に見つかったところから研究が始まる.この日記に書かれているポジティブワード(楽しい,うれしい,感謝する,おいしい,体調がいい,きれいなどなど)とネガティブワード(悲しい,調子が悪い,まずい,体調が悪い,嫌いなどなど)を規定してその数をそれぞれの尼さんで計算する.プラスからマイナスを引いた分がその尼さんのごきげん度と規定するのだ.そしてその後70年経ったときの健康状態を見てみると,なんとごきげん度の高かった尼さんのほうが2.5倍も生存率が高かったのである.これはアンチエイジング医学の立場からも興味深い.ごきげんでいるほうが長(83)■11月の推薦図書■AuthenticHappinessMartinE.P.Seligman著邦題名:世界でひとつだけの幸せ―ポジティブ心理学が教えてくれる満ち足りた人/小林裕子訳(アスペクト)シリーズ─91◆坪田一男慶應義塾大学医学部眼科———————————————————————-Page21524あたらしい眼科Vol.26,No.11,2009生きできそうなのである.セリグマン先生は科学者だけあって,大変公平だ.もしごきげんが生存に役立つとしてその感情が残っているなら,“悲観的”であるという感情も人類の生存に貢献したのではないかと仮定している.悲観的であれば,細かいことに気をつける,大きな事故を起こさない,細菌感染になりにくい(手をよく洗うとか)などなど,確かにプラスも存在する.こう考えるとごきげんでいるだけじゃなくて,悲しいとか寂しいという感情もとっても大切なことがわかってくる.ごきげんはプラス,不きげんはマイナスという単純なストーリーではなさそうだ.また,最近の研究では,ごきげんから不きげんを引いた分(尼さん研究で使われたが)をその人のごきげん度とするのも単純すぎると言う.年をとってくると,不きげんも減る代わりにごきげんも減ってしまって,トータルの動きが減ってきてしまうことが考えられている(図1).この理論では,ごきげんと不きげんのゆらぎこそが人生だ!ということになる.まだまだこの“幸せの科学”(どこかで聞いたことがありそうな名前ですが)は始まったばかり.これから大きく発展する分野だと思うんだけど,イントロダクションとしては大変よくまとまっている本だった.まずは一読をお奨めしたい.(84)☆☆☆図1ごきげんと不きげんのゆらぎ年をとるとこの振幅が減ってくるので,単純にごきげんから不きげんを引き算した値だけで人生を評価することはできない.ゆらぎの振幅が大きいことも重要かもしれないのだ.

後期臨床研修医日記 11.大阪医科大学附属病院眼科

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.11,200915190910-1810/09/\100/頁/JCOPY火曜日今日は手術日です.当院では週2回,3列で終日手術をしています.慌しいなかでもいろいろな手術を見られるのはやはり楽しいです.集中力がつづかないことも多いのですが….先日は池田恒彦教授の,網膜に意図的巨大裂孔を作製して翻転させて大量の網膜下血腫を除去する手術を助手として見ることができ,そのダイナミックさに驚きました.私たちレジデントは入局後半年たつと外来をはじめますが,外来に白内障や外来手術適応の患者さんがいらっしゃると,指導医の先生にお願いしてついてもらい自分で執刀します.そんな手術のある日は朝からひたすらそわそわしています.初めは部分的に指導医と交代しながらの執刀ですが,最近は席を代わらずに手術を終えられることも多くなってきました.毎度肩に力が入っているようで,終わったあとはぐったり…どっしり構えて寛容に執刀を続けさせてくださる指導医の先生方の心中を思うと,頭が下がるばかりです.いつもありがとうございます!!(吉田朋代)(79)大阪医科大学附属病院では現在6人のレジデント(後期研修医)が働いています.今回はわたしたち2年目レジデント3人の普段の1週間をご紹介します.月曜日今日は外来の日.週の初日ですが,私にとっては一番忙しい日です.月曜日は来院患者さんの数が多く,外来開始時にはすでにかなりの数の方が待合室で待っておられます.その視線を感じつつ横を通り過ぎて,診察開始.白内障,結膜炎,糖尿病網膜症,複視などさまざまな患者さんがさまざまな主訴で来られます.網膜光凝固や通水などの処置がある日もあります.対応に困る症例の場合は,専門外来の先生方が17診で診察されているので,コンサルトできる環境にあり,どきどきしながらカルテを持っていくことも多くあります.その場でコンサルトできなくても,毎回カルテチェックを受けることになっており,外来終了後に担当の先生とその日のカルテをすべて見直して検討しています.後期研修の1年目の10月から始まった外来ももうすぐ1年,はじめは患者さんが入室されるだけで緊張していましたが,徐々に慣れ,1年間でちょっとは成長したかなあと感じています.なんとか外来を終え,少し休憩したら明日の手術を控えた新入院の患者さんの診察のため病棟へ上がります.診察を終えるころ,18時から病棟でFAカンファレンスが始まります.網膜専門の先生方とレジデントで今週入院予定のPDT(光線力学的療法)を行う患者さんの造影所見を一緒に読んでいきます.少人数で聞きやすい雰囲気のカンファレンスなので,受け持ちの患者さんで気になる症例があればこの機会に検討することもあります.(家氏哉子)後期臨床研修医日記●シリーズ⑪大阪医科大学附属病院眼科家氏哉子吉田朋代中矢絵里▲華の3人トリオ(左から吉田・中矢・家氏)信頼できる仲間がいて楽しいです.———————————————————————-Page21520あたらしい眼科Vol.26,No.11,2009(80)断層計),造影検査,IOL(眼内レンズ)検査などを行います.午後からは黄斑外来が行われているので,検査の数も増えてきますが,できるだけスムーズに検査が終われるようレジデントで協力して行っていきます.18時から月2回程度オープンカンファレンスが始まります.学外から講師の先生を招待しての特別講演や,学会や集談会の予演会が行われます.月曜日のFAカンファレンスと違い,講堂を借りて学内の医局員は全員参加します.前回の特別講演は前眼部再建についての講演でしたが,学外からの参加者やOBの先生方も多く参加され,エキシマレーザーなど当院ではあまり触れることのない治療法の話題もあり,質疑も盛り上がりました.(家氏哉子)金曜日金曜日は手術の日です.入院患者さんの診察をすませた後に8時には手術室へ向かいます.機械をセッティングし,それぞれの手術で必要な器具を出していきます.白内障手術はもちろんのこと,硝子体手術,緑内障手術,角膜移植などさまざまな手術が行われているため,それぞれに必要な器具を出していかなければいけません.おもに担当患者さんの手術に助手としてつきます.助手として,今日は結構スムーズに介助できたと感じるときもあれば,なかなかうまくいかず反省するときもあります.白内障手術などでは実際にやらせていただける場面もあるのですが,やはり豚眼で練習しているときとは違いドキドキします.手術の日は一日中手術室にこもりっぱなしですが,さまざまな手術を見ることができ,とても勉強になります.手術の終了時間が遅くなったときは,教授が医局に夜食を用意してくださっており,心もお腹も満たされます.こうして大忙しの手術日も終わります.(中矢絵里)水曜日今日は外勤の日です.朝7時頃にいったん大学へ行き,入院患者さんの診察をします.7時45分頃から朝食の時間となるため,部屋番号なども考慮しながら効率よく診察していかなければなりません.8時過ぎに大学を出て,外勤先へ向かいます.外勤先では自分しかいないという緊張感でやはりドキドキします.ずっと通院している人でも自分にとっては初めての患者さんだったりするので,分厚いカルテをめくって今までの経過を把握するのに一苦労です.何事もなく外来が終了するとホッと胸をなでおろしますが,あの診断は正しかったのだろうかと悶々としながら大学へ戻ることもしばしばです.大学へ戻ると外来の検査に入り,夕方からは新入院の患者さんの診察などをします.水曜日は週一度,新しい豚眼が研究室へ送られてくる日なので,各自時間ができたら豚眼を使って白内障手術の練習をします.教室では私たちレジデントの手術練習用に専用のウェットラボの実習室を常置していただいており,とても恵まれた環境だと思います.水曜日,大学に残っているレジデントは交代で外来のシュライバーにもつかせていただき,珍しい疾患に遭遇することもしばしばです.教授はメールでその日の疾患についての解説や参考文献を必ず送ってくださいます.メールは,忙しいレジデントが自分の好きな時間に勉強できるようにという教授のご配慮です.毎日たくさんのメールを送ってくださり,本当に勉強になります.(中矢絵里)木曜日今日は比較的ゆっくりできる日です.朝は外来でオーダーされる眼底写真やOCT(光干渉?プロフィール?家氏哉子(いえうじかなこ)神戸大学医学部卒業,県立尼崎病院にて初期研修,平成20年4月より大阪医大眼科レジデント.吉田朋代(よしだともよ)山口大学医学部卒業,姫路医療センターにて初期研修,平成20年4月より大阪医大眼科レジデント.中矢絵里(なかやえり)大阪医科大学卒業,本学にて初期研修,平成20年4月より大阪医大眼科レジデント.▲ウェットラボ専用スペース毎週練習できる常設の部屋があります.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.11,20091521(81)おわりに日々ささいなことでも落ち込み,励まし合い,笑ったり泣いたりと忙しい私たちですが,みんなで助け合いながらがんばっています.眼科医として初めての職場である当院での経験は,きっと後々大切な思い出になるのだろうと思います.指導医からのメッセージ最近のレジデントはとってもまじめで一生懸命で本当に感心します.仕事が遅くなって疲れたので帰ろうと思って研究室を出たら,特設ウェットラボ室の電気がついたままになっているのでそっと覗いてみると,豚眼で練習しているレジデントをみつけました.「努力は人を裏切らない」…その先生は私が付いた白内障手術で初めてのCCCを見事成功させました.たまたまではなく同期の先生もみんな最初から上手でびっくりです.池田恒彦教授のアイデアで無線を使った手術指導や自宅でも勉強できるようメールで配信するなど教育には相当に力を入れているつもりですが,それによく応えて頑張ってくれています.家族や家庭を大事にして健康であって初めてよい仕事ができますので焦らず,そして時期が熟せば大いに羽ばたいてほしいものです.眼球は小さいですが眼科学には未知の分野,治せない病気が山のようにあります.現在のやる気と才能で上級医師を追い越す勢いで自分の得意分野をきわめていってほしいと思います.大阪医科大学眼科・講師清水一弘☆☆☆お申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.メディカル葵出版年間予約購読ご案内あたらしい眼科Vol.27月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術Vol.23(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)(4冊)(送料弊社負担)日本眼科手術学会誌特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・眼感染アレルギーなど)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療他【その他】トピックス・ニュース他毎号の【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他株式会社〒1130033東京都文京区本郷2395片岡ビル5F振替00100569315電話(03)38110544http://www.medical-aoi.co.jp

私が思うこと 19.バランス

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.11,20091517私が思うことシリーズ⑲(77)眼科医になってから十数年経ちますが,振り返ってみると,入局3年目に大学院に入学し,海老原伸行先生(現順天堂大学眼科先任准教授)と中尾篤人先生(現山梨大学医学部免疫学教授)に指導を仰ぎ,臨床の視点から基礎医学を考えることを教わりました.それから私自身眼科を学ぶにおいて臨床医学と基礎医学の「バランス」を常に考えるようになりました.医学の進歩には基礎医学と臨床医学が相互に補完することが重要であるということに異論は少ないと思いますが,特にEBM(evidence-basedmedicine)に沿った治療が求められる今,そのEBMを理解するうえで,私は基礎医学も大事であると思っています.私はそれら2つをバランスよく学ぶ機会を与えてもらってきましたが,実際は診療から基礎,基礎から臨床という考えは,臨床中心になるとなかなかできなくなり,バランス性を失いかけていたのが実情でした.そんななかボシュロムの助成金をいただき2007年10月よりMassachusettsEarandEyeInrma-ry(MEEI)のDr.RezaDanaのラボに留学しています.ボストンといってもMLBのRedSoxしか知らず,期待より不安を感じながら異国の地に到着したことを覚えています.MEEIはハーバード大学医学部の附属機関でボストンの中心にあり,隣には同じく教育病院として有名なMassachusettsGeneralHospital(MGH)があります.このボストン一帯はハーバード大学以外に,マサチューセッツ工科大学,ボストン大学,タフツ大学などを有する学術都市でもあり,学者・研究者・学生などが世界各地から集まってきています.さて,眼科においても日本からこれまでも数多くの先生方が留学されており,各分野で専門的に基礎研究されている人もいれば,臨床研究されている人もいて,私もいろいろな先生方と知り合う機会がありました.ただ,先生方と仕事の話をしても漠然としか理解できないことが多く,仕事内容を発表できる場所を設けたらいいのではないかと思うようになりました.そこで,2008年12月に愛媛大学の鈴木崇先生と私とで,ボストン眼科勉強会を立ち上げました.現在行っている研究や日本で行っていた臨床など,テーマはフリーで,それぞれ担当の先生に発表していただいています.分野もそれぞれ異なっているため,議論によって,新しい知識や新鮮な意見に遭遇できることも期待して会を始めました.第1回は,私が「角膜移植と内皮細胞」のテーマで発表いたしました.そして2回目以降は,帰国前の先生方を中心に発表していただき,現在まで7回の勉強会を行うことができました.ボストンでは,数多くの学会が開かれており,第6回では,鈴木先生の計らいにより,山形大学医学部器官病態統御学講座,血液・循環分子病態学分野の一瀬白帯教授をお招きして講演していただきました.0910-1810/09/\100/頁/JCOPY舟木俊成(ToshinariFunaki)順天堂大学医学部眼科学教室1972年湘南生まれ.1998年順天堂大学医学部卒業後,同眼科学教室入局.2004年同大学大学院卒業後,順天堂大学伊豆長岡病院,本院を経て現在ハーバード大学眼科に留学中.専門は角膜内皮細胞で,分子生物学的アプローチを中心に研究しています.趣味はスポーツ観戦で,ボストンに来てからはMLB,NFL,NBA,NHLと趣味の範囲を広げています.1年を通してスポーツが見られ,充実した日々を送っています.バランス▲第1回ボストン眼科勉強会(筆者前列一番右端)———————————————————————-Page21518あたらしい眼科Vol.26,No.11,2009これまでの勉強会でのテーマは,第2回関山英一先生(京都府立医科大学)「Bruch膜の再建の可能性AMD新予防法の確立を目指して」第3回中井慶先生(大阪大学)「樹状細胞と血管新生の関与」第4回萩原章先生(千葉大学)「MEEIにおける小児網膜疾患の現状」第5回鈴木崇先生(愛媛大学)「Nomore眼内炎」第6回「特別講演」一瀬白帯教授(山形大学)第7回喜多岳志先生(九州大学)「増殖糖尿病網膜症における増殖膜収縮のメカニズムの解明および薬剤による制御の可能性」と,どの発表も目を見張る実験成果や,新開発の装置を利用した臨床研究であり,各先生方の研究への思い入れが非常に伝わる内容でした.このように毎月ないしは2カ月に1回,このような勉強会を開くことでさまざまな知識を得ること,違った視点で物事を考えることそして議論することで,先生方と非常に価値のある時間を共有できているのではないかと思っています.また,勉強会の後の飲み会での話しは日々の生活から共同研究まで多岐にわたり,親睦を深めるのに良い機会となっています.留学は研究中心の生活であり,臨床の視点が遠ざかる可能性があると思っていましたが,これまでの勉強会を通してさまざまな先生方と話すことによって,臨床医学の問題点や疑問点を明確に理解することができ,また,よりバランス性を確かにする時間にもなってくれたと思います.そしていかにその重要性を伝えるか,またそこから新しいアイデアが生まれることによって医学の発展に続くと感じています.本稿をお読みの先生方で,これからボストンに学会などでお立ち寄りの際には,ぜひ講演していただけると幸いです.私はもうすぐ帰国しますが,このように振り返ってみますと,留学という限られたなかで勉強会の開催を立ち上げることでさまざまな先生方と親しくできたことを本当に嬉しく思います.最後になりますが,今後もボストン眼科勉強会の益々の発展を祈っております.舟木俊成(ふなき・としなり)1998年順天堂大学医学部附属順天堂医院眼科臨床研修医1999年佐久市立国保浅間総合病院眼科2000年順天堂大学大学院医学研究科外科系眼科学専攻課程入学順天堂大学医学部眼科学講座勤務2004年順天堂大学大学院医学研究科外科系眼科学専攻課程卒業順天堂伊豆長岡病院眼科助手2005年順天堂大学医学部眼科学講座助手2006年順天堂大学医学部眼科学講座臨床講師2007年順天堂大学医学部眼科学講座准教授ハーバード大学眼科留学現在に至る(78)▲一瀬白帯教授を囲んでの親睦会☆☆☆

時の人 久保田 敏昭 先生

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091515(75)大分大学医学部の前身は,昭和 53 年に創立された大分医科大学で,眼科学教室は翌昭和 54 年に初代教授・山之内夘一先生により開講された.山之内教授は無からの出発でご苦労も多かったと推察されるが,そうした中で単眼倒像鏡アルゴンレーザー光凝固機を考案された.その後を受けて,平成 3 年に助教授から第 2 代の教授に昇任された中塚和夫先生は,網膜の電気生理学の領域で学会をリードしてこられ,その間,平成 15 年に国公立大学の統合・再編の施策により大分大学医学部眼科学教室と改称された.そして,本年 7 月に久保田敏昭先生が第 3 代の教授に就任された.教室の伝統として,網膜疾患の臨床と研究があげられるが,久保田先生自身も網膜硝子体疾患を専門の一つとされており,当然その伝統を引き継いでいかれることになる.尚,前教授の中塚先生が野球部の顧問であった関係からか,現教室員には野球部出身者が多く,毎年の医局対抗野球大会では優勝争いの常連とのことである.*久保田先生は昭和 57 年に九州大学を卒業.平成 2 年から 4 年までドイツのエルランゲン・ニュルンベルグ大学眼科学教室にフンボルト奨学研究生として留学,ナウマン教授に師事された.平成 4 年に九州大学に戻り,平成 11 年には長崎県大村市の長崎中央病院(現:国立病院機構長崎医療センター)の眼科医長として赴任.平成16 年の産業医科大学眼科助教授(現:准教授)への異動を経て,今回,大分大学眼科学教室教授に迎えられた.エルランゲン・ニュルンベルグ大学留学時代は緑内障の病理学研究で実績をあげられ,ナウマン教授の名著「Pathologie des Auges」の緑内障,視神経の項の翻訳も担当された.帰国後は緑内障と網膜硝子体疾患の診療,研究面で多くの実績をあげられ,さらに特筆すべき点として,乳頭周囲網脈絡膜萎縮,落屑緑内障,ステロイド緑内障,血管新生緑内障の病因に関する研究,および緑内障手術成績の報告,硝子体手術の新しい薬剤の応用に関する臨床研究があげられる.長崎医療センターは長崎県の県中央地区の基幹病院で,その地区の難疾患の多くを診療する関係上,幅広い臨床経験が必要とされることから,その修練の機会を得られたほか,NIC のベッド数が県下一で,未熟児網膜症の治療経験も培われた.この時期には又,緑内障手術,硝子体手術,バックル手術など多種類のクリニカルパスを眼科において早期に導入し,学会や論文にて報告された.今後も眼科臨床は幅広く行い,教室としてもそれぞれの専門医を育てて,大分県,および近隣の紹介を受けるすべての患者さんに対応できる眼科をつくること,さらに専門としている緑内障, 網膜硝子体疾患には特に力を注ぎ,新しい情報発信をしていくことを目指しておられる.*地方においてはオールマイティな臨床能力を求められる.そこで,先生はこれまでご自身が受けてこられた「臨床においては,基本的な疾患は診断,治療ができ,その上で専門を少なくとも一つは作る」という教育方針を継承し,そうした要請に対応できるようにすることを目標とされている.手術に関しては,先生ご自身,最近では緑内障手術,バックル手術,硝子体手術,白内障手術を中心に年間 500 例ほどの手術での執刀,助手に入っておられる.そして,「緑内障手術や硝子体手術ができる手術医をできるだけ多く育て,又,大分大学のスタッフおよび大学以外の基幹病院の医長クラスとなる医師をできるだけ多く育成していきたい」とおっしゃる.*先生は学生時代,卓球.テニス,スキーなどのスポーツに親しんでおられたが,今は,年に 1 回ご家族でスキーに行かれる程度とのこと.ここ数年は仕事が趣味のような生活ながら楽しんで仕事ができており,モットーは“楽しんで仕事をする”とのことである.0910-1810/09/\100/頁/JCOPY人の時大分大学医学部眼科学・教授久く保ぼ田た敏とし昭あき 先生

インターネットの眼科応用 10.インターネットがもたらす医師-患者関係

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,200915130910-1810/09/\100/頁/JCOPY医療界の情報革命インターネットがもたらした社会の変化を情報革命と表現します.この,情報革命を正しく理解しないと,インターネットを用いた遠隔医療は具現化しません.前号で,電話や書物などのメディアを使った遠隔医療に比べて,インターネットを用いた遠隔医療は事業として継続しにくい,と紹介しました.その要因は技術的な問題以外に,大きく分けて 3 つあります.1. アクセスの容易性基本的に日本の医療施設はフリーアクセスであるため,インターネットのフリーアクセスの優位性が相対的に低くなります.また,日本はアメリカほどの国土をもちませんので,医療受益者は,受診行動に移す前の施設検索にインターネットを利用しますが,実際の医療行為をネットで完結させようとは希望しません.2. 医療リテラシーの格差医療に関して,スキルを臨床現場で習得した専門家同士の会話はスムーズです.しかし,一般書やインターネットで医療知識を学習した程度の非専門家との間には,医療リテラシーに差が大きく,会って話す以上の情報をネットで伝えるのは困難です.微妙なニュアンスをインターネットでは伝えることができません.医療を体験としてでなく,情報として学んだ非専門家には「医療の不確実性」はなかなか理解できないのでしょう.3. 事業性保険制度は対面診療を基本にしていますので,対面しない健康指導は保険制度内では課金できません.インターネットによる医療・健康相談は,保険制度の対象外であり,一部の医師が患者サービスの一環として提供するケースが多いようです.インターネット上の医療情報サービスは,単独では課金しにくいのが現状です.例外は「家庭の医学」の携帯サイトです.健康情報を扱うメディアとしては異例の高収益をあげています.医療者と患者をインターネットで繋ぐ遠隔医療には,さまざまなハードルがあります.本稿では,医療情報がインターネット上に氾濫したことが,医師-患者関係にもたらした影響について,産業界全体の潮流からほぐしていきたいと思います.インターネットが登場し,特に Web2.0 とよばれる時代になり,顧客とサービス提供者の関係性が逆転した,と言われています.これを,農業革命,産業革命に続く,第三の革命として,「情報革命」と表現します1).インターネットが登場する前の時代を思い出してください.たとえば,本を購入したい人は本屋に行きます.商品は,本屋や問屋が供給しないと店頭に並びませんので,消費者は,生産者が提供するもののなかから選択するしかありません.ところが,今では,Amazon.comを利用すれば,どんな珍しい書物も探し出し購入することができます.インターネットは「繋ぐ」達人だからです.世界中のどんな点と点をも結ぶことができます.すると,サービスを提供する側が優位だった時代から,サービスを受ける側が優位な時代になりました.あらゆるモノがネットで購入できるようになりました.これは,どの業界においても共通した潮流です.つまり現代は,医療者がネットショッピングで医療機器を購入できる時代です.が,現実化していないのは,生産者(メーカー,卸業者)が消費者(医師・医療機関)よりも優位でいようという,強いアナログな意志があるからでしょう.一部の海外の眼内レンズはインターネット上で購入できます.いずれ,医療機器のネットショッピングが当たり前の時代になるでしょう.情報革命の潮流を臨床の現場に置き換えると,どうなるでしょう.医療を生産・提供する側(病院・医師)が優位だった時代から,医療を受ける側(患者)が優位な時代になります.まさに現代がその真っただ中です.臨床の現場でしばしば経験する状況を紹介します.われわ(73)インターネットの眼科応用第10章インターネットがもたらす医師-患者関係武蔵国弘(Kunihiro Musashi)むさしドリーム眼 科シリーズ⑩———————————————————————- Page 21514あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009れは,ステロイドの使用に非常にナーバスになる,患者もしくはその家族にしばしば遭遇します.おそらくはインターネットからの情報でしょう.インターネット上に医療情報が散乱し,整理されておらず,また格付けがされていないため,医療の現場において,治療に何が重要なのかが忘れられ,副作用と向き合うリスクが避けられるようになり,現場と無縁な世界に治療の意思決定が委ねられます.とはいえ,無秩序なインターネットの世界にも一つの方向性が示されました.Google の取り組みを一つ紹介します.Google health とよばれる,健康管理ツールです.健康意識の高い個人が,自らの健康情報を医療機関を通さずに管理できるようになりました2).このような健康情報の取扱い方法を,PHR(Personal Healthcare Record)といい,日本の経済産業省も事業化の支援をしています3).この羅針盤の先には,医療の主体が,医師から医療を受ける患者にシフトする世界があります.これは,ネットがもたらした大きな変化です.情報革命とよばれる,生産者と消費者との間の関係性の変化は,医療サービスに限らずどの分野でも起こっていますので,われわれ医療界も受け入れなければなりません.健康は患者自身で管理する時代になり,医師は患者の健康情報の管理を委託されている立場となり,患者が医師を選びます.われわれ医療者には,カルテは患者のモノ,という謙虚さが求められます.しかしながら,医療情報は医療者が上流となって発信すべきです.21 世紀の医療者は,学会の場で医療界に発信するだけでなく,インターネットを使って生活者に発信しないといけません.では,医療界が情報革命を許容し,この奔流に柔軟にかつ主体的に対応するには,具体的に何をすればよいか.私は二つの方法がある,と考えます.これらを事業として継続できれば,医療界は情報革命に大きな楔を打ち込めます.① 医療者が,インターネットに散乱する医療情報の格付けをします.② 医療プロフェッショナル向けの情報を,インターネット上の閉じた空間で共有し,医療者の医療知識の底上げを図ります.いくら情報革命とはいえ,プロとアマチュアの知識差がインターネットのみで埋まるはずがありません.医療行為はアナログですが,医療情報はデジタルです.医療行為だけではなく医療情報も,医療界が上流となって発信し,ときにはストックして共有し,質を保って世の中(74)に広げましょう.医療者からの情報発信メディペディア「Medipedia」(図1)は,世界最大のフリー百科事典 Wikipedia4)の思想から生まれた,医療者が共同執筆するウェブ医学事典です.Wikipedia と異なり,執筆者を医療者に限定していることが特徴です.NPO 法人 MVC メディカルベンチャー会議が管理・運営しています.医療者がインターネットを通じて発信する医療情報の集合体が,インターネット上に散乱する医療情報に,少しでも方向性を示せれば, と願っています.【追記】NPO 法人 MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為と眼科という職人的な業を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVC の活動に興味をもっていただきましたら,k.musashi@mvc-japan.org までご連絡ください.MVC-online からの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.ウェブ医学事典 Medipedia では,執筆者を募集しております.こちらも併せてご協力いただければ幸いです.文献 1) http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%83%85%E5%A0%B1%E9%9D%A9%E5%91%BD 2) http://www.computerworld.jp/topics/google/108389.html 3) http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/iryou/kaisai_h20/dai2/siryou4.pdf 4) http://ja.wikipedia.org/wiki/図 1Medipediaのトップページ