———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPY維)で調べることができる.ヒトにおいては,光,音,電気などの刺激を与えてそれに対する反応を自覚的な応答で検出する方法がとられることが多い.すなわち,心理物理学的検査法である.心理物理学とは,視力,視野,色覚など心理的な感覚を数値で記載し,数式化する学問をいう.心理物理学では,感覚を数値化する必要がある.たとえば 100 asb の輝度の面,波長 500 n mの光,視角 10分の円形の視標などの刺激に対して,どのような感覚が起こったかを定量的に答えてもらうことは非常にむずかしい.これに対し,100 asb の面に投影された円が識別できる最小の輝度差,500 n mの色と識別できる最も近い波長というようにして,閾値を測ることは比較的容易である.閾値測定においては,被験者は,見えるか否はじめに眼科臨床において心理物理学的検査が多く行われる.しかし,最も代表的な眼科検査である視力測定は必ずしも心理物理学的方法によって行われてはいない.研究的な意味での視力測定の方法,さらに臨床応用について考えてみたい.I心理物理学的方法一般の神経細胞は細胞内が約 70 mV に保たれており,電気刺激すると,ある電流以下では興奮が起こらないが,ある値を超えると細胞膜全体に興奮が起こる.この興奮はパルス状で,その高さや持続時間は一定である.興奮の程度はパルスの頻度で決められる.一方,網膜内の神経細胞の興奮は,神経節細胞を除き,緩徐で興奮の程度により膜電位が異なるアナログである.図 1 は錐体に光を当てたときの光の強度(横軸)と錐体の膜電位(縦軸)の関係を表したグラフである.光の強度は対数,膜電位は最大を 1 とした値である.膜電位は波線の曲線を中心とした範囲に存在している.この曲線の中間部は直線状で,光のごく弱いところおよび強いところでは,水平に近づいた形の曲線になっている.感覚は刺激の対数に比例するといわれるが,これはこの中間部のことであり,刺激全域あるいは知覚全域について当てはまるのではない1).動物実験においては,神経に微小電極を挿入して電位を測る方法で,刺激に対する反応を単一の神経細胞(線(37) 1477 a taka ani 学 658 16 3 4 5特集●視力検査のすべて あたらしい眼科 26(11):1477 1482,2009心理物理学的研究における視力検査Visual Acuity Measurement in Psychophysiology可児一孝* -6.0-4.8-3.6入射光の強さ(対数;log I)-2.4-1.20膜電位(Vi/Vmax)図 1錐体の膜電位横軸は入射光の強さ(対数),縦軸は膜電位で,最大値を 1 とした相対値である(Baylor & Fuortes, 1970).———————————————————————- Page 21478あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(38)前述したように,実験や検査で知覚の強さを定量することはむずかしいので,参照刺激と比較するなどして識別できる閾値を測定するというような方法がとられる.すなわち,図 2 の a に対する刺激連続体の分布(a¢)または b に対する知覚連続体の分布(b¢)を求めるのである.III閾値測定1. 恒常法による閾値測定図 3 に視力測定結果の一例を示した.横軸はラ環の切れ目の視角,縦軸は正答率である.ここでは,0.12 から 0.64 までの 8 種類のラ環をランダムに各 150 回呈示して,正答した割合をプロットした.S 字形の曲線は知覚確率曲線とよばれる.これは図 2 の刺激連続体と知覚連続体のグラフの曲線のばらつき(b¢)を見たものである.直線部はない.一般にこのばらつきは正規分布するので,知覚確率曲線は累積正規分布関数(ogive)となる.S 字曲線の確率 50%の値が閾値とされる.このように,あらかじめ刺激の強度(ここでは視角)と呈示回数を定めておき,ランダムに呈示して正答率をか,ランドルト(Landolt)環(以下,ラ環)の切れ目はどの方向か,合致しているか否か,というような単純な応答を要求される.ラ環では方向が 4 つあるが,データとしては正答か誤答かの 2 つである.応答が単純であるほうが信頼度が高い.心理物理学的測定の基本は閾値測定である.感覚は受容器に与えられる個々の刺激の感受の過程で,知覚はそれを認知することであるとして厳密に区別することもあるが,ここでは知覚と感覚を厳密に区別せずに使用する.II刺激連続体と知覚連続体心理物理学的測定では,多くの神経機構を経由して反応が生ずるので,刺激と感覚との関係は,光の強さと錐体の膜電位の関係(図 1)のように単純ではないが,同様の関係があり,一般に図 2 のように表される.横軸は刺激の強さで刺激連続体といい,縦軸は知覚の強さで知覚連続体という.いずれも対数である.左下の水平線部分が感覚を生じない閾下刺激,右上は感覚が飽和した部分である.この中間部は直線に近い2).ある一定の刺激に対して常に一定の感覚が生ずるわけではなく,ばらつきがある.ばらつきは正規分布になるといわれている.また,一定の感覚を生じさせる刺激も同様に正規分布する.刺激の強さ(対数)(刺激連続体)感覚(対数)(知覚連続体)aa bb 一定の強さの刺激で生じる感覚は一定ではなく,ある分布を示す一定の感覚を起こす刺激は,ある分布を示す図 2刺激と感覚の関係横軸は刺激の強さ,縦軸は感覚の大きさで,ともに対数である.ある刺激強度(c)より弱い刺激ではほとんど感覚が起こらないが,これを超えるとほぼ直線の関係になる.刺激と感覚は点対点の関係ではなく,ある感覚(a)を起こすための刺激はある範囲(a¢)に分布している.また,ある刺激(b)によって起こる感覚もある範囲(b¢)に分布した形をとる.0.10.20.30.40.60.81.0+1.0+0.8+0.6+0.4+0.2010050正答率(%)視標図 3恒常法で求めた知覚確率曲線横軸はラ環の切れ目の視角で,視角の逆数の小数値(小数視力に対応)と視角の対数値(logMAR に対応),縦軸は正答率である.実線は各視標での正答率,波線はその微分値で感覚の分布状態を示す.強制選択法で測定し,まぐれ当たりを補正してある.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091479(39)2. 調整法(method of adjustment)被験者が自分で刺激を変化させて行う方法である.刺激光の輝度をつまみで変えられるようにしておき,被験者につまみを自由に回させて刺激光がやっと見えるレベルに合わせさせる.刺激光が明るければ暗くなる方向に,暗ければ明るくなる方向に操作し,これを何回かくり返して,最後にこれと思われるところに決定する.つまみの操作は個人差が大きく,信頼度は低い.短時間で行えるので,予備実験で大まかな閾値を知るためには便利な方法である.3. 極限法(method of limits)刺激の強度を増大する方向(上昇系列)あるいは減少する方向(下降系列)のどちらかに,刺激を一定のステップで変化させ,反応の変化が現れた(見えないのが見えるようになった,など)ところで系列を打ち切る.変化の前と後ろの中間を閾値とする.上昇系列と下降系列を何回か行って平均を取り閾値とする.刺激の変化のステップ幅,系列の数などはあらかじめ決めておき,それに従って験者が操作する.被験者は,明るい・暗い・同じというような決まった答をするだけであるから,調整法と比べて信頼性が高い.4. 上下法(up-and-down method)はじめ明らかに見える刺激強度からスタート(下降系列),あるいは見えない強度からスタート(上昇系列)し,被験者の応答が変化する(「見える」から「見えない」,誤答から正答など)と系列を切り替える.そして,応答が変化した前後の刺激の値の間に閾値があると考えて中間値を取る.応答の変化の回数をあらかじめ定めておき,その回数になったら試行を止める.中間値を平均して閾値とする(図 5).恒常法では,すべての刺激強度で同じ回数の試行が行われるのに対し,この方法では,閾値の前後を多く測定するのが特徴である.しかし,知覚確率曲線の端のほうはほとんど測らないので,分布を求めるには難がある.あらかじめ試行回数を決めておく方法もある.また,すべての測定の刺激強度を平均する方法もある.求める方法を恒常法(constant method)という.プロットされた点から閾値を求める方法がいくつかある3).a. 直線補間法50%の上下の点を直線で結び 50%との交点を求める.簡便であるが,2 つの刺激のみのデータが用いられ,他のデータが無視されるのは大きな欠点である.b. 正規グラフ法縦軸を累積正規分布に取ったグラフ用紙で正規確率紙といわれるものがある.正規確率紙に図 3 をプロットすると図 4 のようになる.プロットされた点が直線に乗っておれば正規分布であると判断できる.直線と縦軸 50%との交点の刺激強度を閾値とする.15.9%と 84.1%が標準偏差となる.直線は「めのこ」で引く方法と最小二乗法で計算する方法がある.0%に近い領域と 100%に近いところは大きく離れるので,「めのこ」の場合は無視し,計算の場合は 50%に近いところを重視する方法(Mueller-Urban 法)などがある3 6).0.199.99503010510.10.017090999599.90.20.30.40.60.81.0+1.0+0.8+0.6+0.4+0.20+0.55+0.140.28(0.20~0.39)視標正答率(%)図 4正規確率紙にプロットした正答率図3の知覚確率曲線を正規確率紙にプロットした.直線は最小二乗法で引いたものである.プロットが直線にほぼ乗っているので,感覚のばらつきは正規分布であると推定できる.直線と50%の横線との交点が閾値,矢印のある横線との交点が標準偏差である.この例では,logMAR で+0.55±0.14 の視力である.小数視力では中心が 0.28 で標準偏差は 0.20 0.39 となる.———————————————————————- Page 41480あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(40)国際眼科学会(1909 年)で,minimum angle of reso-lution(MAR)の逆数で表すことが決められた.小数表示である.小数値は直感的でわかりやすいこともあり,わが国では広く使用されてきた.感覚は刺激の対数に比例するので,統計処理などの際は,視力値を対数に直して処理する必要がある.また,視力表の段階が対数系列であると,何段階の増減といった表現を用いることができる.1994 年の ISO(国際標準化機構)や 2002 年の JIS(日本工業規格)では,小数表現であるが,対数が等間隔になるような系列にするように決められたが,臨床では使われていない.ETDRS(Early Treatment Diabetic Retinopathy Study)chartではじめて対数視力が実用化された.欧米では小数視力より前から Snellen 視力表の分数表示が用いられ現在に至っている.分子はその視標を標準視力の人がやっと識別できる距離ということで,米国では 20(20 feet),欧州では 6(6 m)が用いられることが多い.分母は被験者がやっと識別できた距離という意味であるが,実際は視標の大きさである.文字視標であるから,MAR ではなく,MAR が 1.0 と等価の視標を 20/ 20 としている.Snellen 視力表は対数等間隔の系列に近いので 1 段階の改善とか 3 段階の悪化のような表現には使えるが,計算には使えない.分数の計算はむずかしいので計算しようとしないのが分数視力の特徴であるとさえいわれる.各種視力表系列を図 6 に示す.視力の対数値が等間隔になるように並べてある.視標の大きさの誤差は標準検査装置では±5%,準標準検査装置では±10%とされている.誤差を入れて考えると,小数視力では,1.0 から 0.6 の間が対数の 0.5 段階になっていること,0.3 と0.2 の間および 0.15 と 0.2 の間が 2 段階であることを除けば,ほぼ等間隔である.このように考えると,現在使用している小数視力表を対数系列のものに取り替える必要はない.Snellen 視力表には 0.9 と 0.7 がない.これが良いというのではなく,小数視力表には正常と異常の境目の0.9 と 0.7 が加えられていると考えるのが適当であろう.欧文の文献では 20/20 までしか測定していないことが多く,40/20 などは滅多に見られない.彼らは視力測定5. Bracketing法臨床の静的視野測定に用いられる方法で,刺激強度の変化をはじめは粗く,応答が変化するごとに細かくして閾値に挟み込んでいく方法である.視標が見えた場合,4 dB 暗くし,これが見えればさらに 4 dB 暗くする,見えなければ 2 dB 明るくする.見えればその視標強度の1 dB 弱い値を閾値とし,見えなければ 1 dB 明るい値を閾値とする.最低 3 回の試行で閾値を決定するので,臨床に有用である.一方,応答が一つ間違うとデータが大きく誤る.また,視標のステップより細かい視力値は得られない.臨床における静的視野測定のように多数のデータをできるだけ少ない試行回数で得る必要がある場合には用いられるが,心理物理学的実験には不適当である.IV視力測定における諸問題1. 視力値の系列視力の表し方に,小数視力,分数視力,対数視力,logMAR などが用いられている.1.02.03.00.50.10.35101520対数:(log 1.28+log 1.53)/2=0.146小数:1.40小数:2.21対数:(log 2.55+log 1.91)/2=0.344視標試行回数閾値=(0.146+0.146+0.344+0.146+0.146+0.072+0.072+0.072+0.344+0.344)/10=0.183図 5上下法0.91 の視標から下降系列で始めた.0.91, 1.09, 1.28 は正答したが,1.53 は誤答であった.1.28 と 1.53 の中間値,対数で0.146,小数で 1.40 をここでの閾値とする.応答が正から誤に変わったので,上昇系列に切り替え 1.28 を呈示すると正答であったので,ここの閾値は対数で 0.146,小数で 1.40 となる.上昇,下降をくり返し,変化点が 10 回になるところで試行を打ち切る.閾値とした値を対数で平均すると,閾値は対数で0.183,小数で 1.524 となる.———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091481(41)たときとを誤答とすることが多い.心理物理学的実験では,わからないという選択肢を許さず,何かを答えさせる強制選択法が用いられる.わからないという選択肢は他の選択肢と同じ重みではなく,結果の計算に支障をきたすためである.上下左右のラ環で測定する場合,でたらめに答えても25%はまぐれ当たりする.そのため,知覚確率曲線の下は 25%に近づく.この場合,25%と 100%の中間で62.5%を閾値とする.正規確率紙にプロットする場合は,25%のバイアスがあると計算式が異なるので,次式により 0 100%に補正する必要がある6).EN=R N×pN( 1 p)図 7 の上の実線は 4 肢強制選択法で測定した知覚確率曲線で,下の実線は補正したものである.N は呈示回数でこの例では 100 回である.R は正答数で,このなかにはまぐれ当たりが含まれている.p はまぐれ当たりの確率で,視標の種類が上下左右の 4 であるから確率は1/4 である.N×p は呈示回数にまぐれ当たりの確率 pをかけたもので,まぐれ当たりの数である.これを全正答数から引くと,まぐれ当たりを除いた正答数になる.N×(1 p)はまぐれ当たりを除いた呈示数である.したの厳密さをあまり重要視していないのではないかと思われる.われわれは,臨床で,1.0 の視力は少し低いと感じる.正常は 1.2 1.5 であろう.1.0 は許容できる値として考えている.0.9 は異常であろう.ここに 0.9 の存在価値がある.心理物理学では MAR や logMAR がよく用いられてきた.ETDRS が logMAR を用いたのは,欧米の一般的な視力表示が分数で,紛らわしくないためであろうと邪推している.筆者らのように小数視力を使っている者にとっては小数視力か logMAR 表示かをいちいち断らなければならず,非常に煩雑になる.dB 表示を採用すればわかりやすかったのにと悔やまれる.1.0 を 0 dB として,0.9 を 0.5 dB,0.8 を 1.0 dB,0.1 を 1 0 d B の ように表すとわかりやすい.2. 強制選択法視力を測定する場合,臨床では「わからない」という選択肢を許し,誤った答えとわからないという答えをしLogMAR分数小数対数-1.0-0.9-0.8-0.7-0.6-0.5-0.4-0.3-0.2-0.10.0+0.1+0.2+0.3+1.0+0.9+0.8+0.7+0.6+0.5+0.4+0.3+0.2+0.10.0-0.1-0.2-0.30.11.00.80.640.50.40.320.240.20.160.1251.251.62.020/20020/10020/7020/5020/4020/3020/2520/2020/1520/1320/100.90.72.01.00.80.50.40.30.20.10.61.21.50.15dB3.02.01.00.0-1.0-2.0-3.0-4.0-5.0-6.0-7.0-8.0-9.0-10.01/MAR-1.5-0.5図 6分数視力,小数視力,logMARの関係視角の対数が等間隔になるように配置した.小数視力とlogMAR との差は,1.5 と 0.15 で 5.7%,0.3,1.2,0.6,0.3 で約 5%であるが,その他は 1%以内である.0.125 と 0.24 を加えると対数系列として十分使用できるものである.しかも,0.6 と 1.0 の間は 1/2 段階と細かく測定できる利点もある.正答率(%)025507510062.5%1.01.52.03.0-0.1-0.2-0.3-0.402.5-0.550%視標図 7強制選択法と「わからない」を許した測定上下左右のラ環を用い,7 視標,各視標 100 回試行の恒常法で測定した.上の実線は強制選択法で,下の実線はまぐれ当たりを補正したものである.点線は「わからない」を許して同様に測定したものである.———————————————————————- Page 61482あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(42)近似させる方法を考案している.臨床に使用する段階には至っていないが,実用化が期待される.5. 測定時間心理物理学的測定は時間がかかるといわれる.正常例での測定では,通常の方法では 48.7±5.9 秒,上下法(系列の切り替わり数 10 回)では 1¢01 ±4.2 ,恒常法では 2¢09 ±0.4 であった.恒常法で両端の 0%,100%に近い視標の呈示回数を少なくするなど最適な方法をとることによって改善することが可能であろう.おわりに眼科臨床においても実験的研究においても,視力は最も基本的な視覚の値として測定されてきた.しかし,100 年以上もの間大きな改良はなされていない.最近のコンピュータやディスプレイの進歩は大きく,これを使った視力測定装置も作られている.心理物理学的測定法に則った strategy をプログラミングすることはむずかしくないが,現在市販されている安価な液晶ディスプレイはドットピッチが 0.25 0.3 m mで 2.0 の視標の切れ目が 0.7 m mであることを考えると十分な解像力ではない.容易に心理物理学的な視力測定が行える装置の開発が望まれる.文献 1) 金子章道:眼球.生理学 1(入来正躬,外山敬介編),p187-212,文光堂, 1986 2) 山下由己男:視覚情報処理ハンドブック.朝倉書店,2000 3) 池田光男:視覚の心理物理学.p19-24,森北出版, 1975 4) 福田秀子,可児一孝:閾値とその測定法.神経眼科 7:291-298, 1990 5) 可児一孝,西田保裕:視力の生理学 1視覚生理学的側面.神経眼科 18:246-251, 2001 6) 可児一孝:視力について.理解を深めよう視力検査屈折検査(松本富美子,大牟禮和代,仲村永江編),p1-14,金原出版, 2008 7) 三田哲大,原平八郎,可児一孝ほか:統計解析を用いた視力測定.第 45 回日本眼光学学会総会,2009がって,右辺は,まぐれ当たりを除いて真の正答数を真の呈示数で割ったもので,これが真の正答確率になる.図 7 の波線は「わからない」を許す方法で測ったものである.強制選択法の結果とほとんど差は出ていなかった.「わからない」を許す方法は,理論的には強制選択法より劣るが,試行回数が少なくてすむ利点がある.切れ目が縦横の 4 方向の強制選択法で,被験者がそれを知っている場合は,まぐれ当たりの確率は 25%であるが,斜めを加えた 8 方向の場合は,12.5%である.ETDRS chart では 10 文字が用いられているので被験者が用いられている文字を知っていれば 10%であるが,アルファベットすべての文字があると思っていると約 4%になる.強制選択法の場合は,被験者への説明が大切である.3. 刺激の値についてここで示した測定において,刺激(視標)の強さは対数で等間隔にはなっていない.これは,視標に液晶ディスプレイを用いたことで,対数で線形の視標を作ることができなかったためである.心理物理学的実験では,刺激ができるだけ対数で線形になるように作るが,出来上がった視標を実測して横軸にプロットするのが一般的である.刺激のステップが必ずしも等間隔になっている必要はない.4. 視力における統計的手法視力を測るためにはかなり多数の視標を呈示している.静的視野の 1 点の閾値決定のための試行回数とは比較にならない.しかし,データとしては,0.9 とか 1.2とかという単一の数値しか現れない.心理物理学的にいえば+0.55±0.14(logMAR)というように平均±標準偏差という表し方であるべきである.このような表示をすれば,視力変化の有意差検定も可能になり,治療の効果判定などに有益であると思われる.視力をこのような値としてとらえる考え方は今までなかった.三田ら7)は,恒常法で視力を測定しながら試行ごとに累積正規分布に