———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPY第一に,緑内障の定義の明確化であり,緑内障を緑内障性視神経症として定義したことがあげられる.これは,現在国際的に緑内障が視神経症の存在で定義されていることに対応したものである.緑内障性視神経症は,形態的変化(網膜神経節細胞ほかの組織の消失に対応する視神経乳頭ならびに網膜神経線維層の変化)と機能的変化(代表は視野変化)をともに有するものと理解されている.新しい定義による従来との大きな違いは,原発閉塞隅角緑内障,特に急性原発閉塞隅角緑内障に現れている.緑内障発作を呈するものをすべて緑内障とよぶのではなく,視神経症を呈する症例のみが急性原発閉塞隅角緑内障とされることになった.第二には,primaryangle-closure(PAC)の概念を取り入れ,「原発閉塞隅角症」の訳語を当てたことである.原発閉塞隅角症とは相対的瞳孔ブロックによる隅角の変化を有するものの原発閉塞隅角緑内障の診断要件である視神経症を有しない時期をさす.ガイドラインの該当部分には,「狭隅角眼で,他の要因なく,隅角閉塞をきたしながら,緑内障を生じていない症例を原発閉塞隅角症(primaryangle-closure)と定義する.隅角に周辺虹彩前癒着があり隅角閉塞機序が示唆されるが眼圧上昇や緑内障性視神経症のない症例,隅角閉塞機序により眼圧は高値であるがまだ緑内障性視神経症をきたしていない症例などがこれにあたる.原発閉塞隅角症は原発閉塞隅角緑内障の前段階であり,無治療では原発閉塞隅角緑内障に進展する.」と記載されている.したがって,後眼部はじめに多くの緑内障は慢性に経過するため,個々の症例ごとに適切な治療方針を決めそれに沿った管理を進めることがよいとされる.近年,各国あるいは地域単位の緑内障関連学会によって,本症に関する診療ガイドラインが発行され,基本的な管理指針が示されていることは緑内障の性格にあったものであり,望ましい方向に向かっているといえる.諸外国のガイドラインとして,アメリカ眼科学会による原発緑内障用ガイドライン(2005年,改訂版),ヨーロッパ緑内障学会ガイドライン(2008年,第3版),アジア太平洋地区緑内障ガイドライン(2008年,第2版)などがあげられる.緑内障はポピュラーな疾患ではあるものの,病型,眼圧などに人種的特徴があり,また,各国の医療保険制度や使用可能な薬物,手術関連器具などにも相違がある.このため,日本においては日本緑内障学会により作成された緑内障診療ガイドライン(2003年初版1),2006年第2版2))に準拠した診療が勧められる.本稿では,2006年改訂の緑内障診療ガイドラインに関して解説を加える.なお,筆者は当ガイドラインの作成委員を務めたが,拙文の内容はガイドライン作成委員会の公式見解とは必ずしも一致しないことを申し添える.I緑内障診療ガイドライン第2版の特徴最初に,2003年発行の初版1)と2006年の第2版2)のおもな相違点について触れる.(29)895T学学学学本0111911学学学学特集●眼科のガイドライン早わかりあたらしい眼科26(7):895898,2009日本緑内障学会による「緑内障診療ガイドライン(第2版)」の要点KeyPointsof“GuidelinesforGlaucomaManagement”SecondEdition,PublishedbytheJapanGlaucomaSociety山本哲也*———————————————————————-Page2896あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(30)念頭に置くこと(図1),C/D(cup/disc)比やR/D(rim/disc)比(図2)を考慮することが判定に重要である.緑内障性視神経症の機能異常判定には静的視野検査がおもに用いられる.動的視野検査はそれを補完するものである.ごく初期例では,BlueonYellow視野計,FDT視野計,Flicker視野計なども有用である.視野異常と視神経所見の一致性の確認はきわめて重要である.視野と視神経所見が一致しない場合には,頭蓋(乳頭,網膜神経線維層)の変化が証明されて初めて,原発閉塞隅角緑内障の診断となる.これに対応して,緑内障発作を起こしながら視神経症を有していない症例は急性原発閉塞隅角症と呼称される.第三に,視神経乳頭ならびに網膜神経線維層所見から緑内障と判定する基準(表1)を示したことである.この基準はFosterら3)による疫学調査における緑内障診断基準を元としているため,臨床との乖離を指摘する意見もあるが,国内における緑内障診断の標準化に寄与することは間違いないであろう.実際の運用にあたっては,ガイドラインにあるように,最終的な診断は質的,量的所見の組み合わせにより行われるべきであることは述べるまでもない.加えて,隅角分類,視野分類,治療薬一覧,などに関する補足資料を巻末に一覧としてあげたことも読者の便という点で改良点である.II緑内障診療ガイドラインが勧める緑内障の診断筆者の判断を交えて,緑内障診療ガイドラインが勧める緑内障診断に関して記す.1.緑内障の有無の診断・病期診断緑内障の診断は緑内障性視神経症の存在を確認することでなされる.緑内障性視神経症の形態異常の判定は視神経乳頭と網膜神経線維層の所見によりなされる.その診断のための基準はガイドラインの補足資料2として添えられている(一部前述).視神経乳頭の大きさを常にDM図1DM/DD比乳頭の大きさをDM/DD比により考えることが大切.通常DM/DD比は,2.43.0の間であるとされる.DM:disc-maculardistance,DD:discdiameter.乳頭中心乳頭径リム幅図2R/D比の算出リムの幅とそこに対応して乳頭中心を通る乳頭径との比をR/D比と定義する.表1視神経乳頭の量的判定による緑内障診断基準A.信頼性のある視野結果が視神経変化に対応するとき1.垂直C/D比≧0.72.リム幅≦0.1(111時,あるいは57時)3.両眼の垂直C/D比の差≧0.24.NFLD(神経線維層欠損)の存在B.視神経変化だけで緑内障と診断してよい場合(信頼性のある視野検査で正常範囲内の視野である,もしくは明確な緑内障性視野障害が否定されればこの限りではない)1.垂直C/D比≧0.92.リム幅≦0.05(111時,あるいは57時)3.両眼の垂直C/D比の差≧0.3———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009897(31)“目標眼圧”以下に保つことで視神経症の進行を防止することである.目標眼圧は緑内障を発症進行させないために必要な眼圧と捉えられるが,現実には,治療開始時に個々の症例で決定することはできない.このため,目標眼圧は,経験則により,種々の要因(無治療眼圧値,緑内障病期,年齢,他の危険因子,など)を考慮にいれて設定する.視神経症が重症なほど,無治療時眼圧の低い症例ほど,目標眼圧は低く設定されるべきである.ガイドラインは目標眼圧の具体的な設定について明言を避けており,例として,緑内障病期に応じて,初期例19mmHg以下,中期例16mmHg以下,後期例14mmHg以下4)というように設定する,無治療眼圧より30%の眼圧下降59)を目標として設定するなどがあげられているにすぎない.しかしながら,個々の症例による差が大きいために一般化しづらく,そのために明言を避けたことは明らかであり,日常診療においては,ここにあげられた数値を初期の目標眼圧(目標眼圧下降率)として採用することはきわめて合理的である.長期管理においては,設定された目標眼圧の妥当性を視野検査などにより内疾患なども疑うべきである.緑内障の病期の診断には緑内障性視神経症をなす形態異常と機能異常がともに用いられる.視野所見による病期分類に関しては補足資料1にあげられている.2.病型診断緑内障の病型診断には,眼圧検査,隅角検査などが重要である.続発緑内障などの鑑別には問診や細隙灯顕微鏡検査所見なども重要となる.原発開放隅角緑内障は,高眼圧,正常隅角,緑内障性視神経症の存在を特徴とし,正常眼圧緑内障は,眼圧が常に正常範囲内にあるという点で異なるものの,他には原発開放隅角緑内障と同様の所見を呈する.この2病型をまとめた疾患概念として,ガイドラインは原発開放隅角緑内障(広義)の術語を提唱している.原発閉塞隅角緑内障は,前述のとおり,原発閉塞隅角症とは別の捉え方がされている.以前には先天緑内障とよばれた病型は早発型発達緑内障と名称が変更されている.続発緑内障については,議論が残るものの,以前の考え方,すなわち,視神経症の有無ではなく続発性の眼圧上昇をもって診断してよいとされている.これは,たとえば,ぶどう膜炎,糖尿病網膜症などを有する症例で初期の緑内障性視神経症の判断がきわめて困難であるなどの理由によるが,将来再検討が必要となる可能性がある.眼圧には種々の生理的な変動(日内変動,日々変動など)があるため,眼圧異常の判断は複数回の眼圧測定(できれば別の時刻)によりなされることが勧められる.隅角検査は狭隅角,周辺虹彩前癒着,隅角外傷,隅角結節,隅角先天異常,などの眼圧上昇の原因となりうる異常所見を見出すために実施されるが,これもぶどう膜炎などでは短期間に変化することを忘れてはならない.III緑内障診療ガイドラインが勧める緑内障の管理同様に,筆者の判断を加えて,緑内障診療ガイドラインが勧める緑内障管理について述べる.1.管理の原則緑内障管理の原則は,眼圧下降治療により,眼圧を図3目標眼圧を設定した緑内障治療個々の患者の緑内障の状態を勘案して目標眼圧を設定し,その目標眼圧達成を目指して治療を始める.目標眼圧が達成できないときには治療内容の変更を考える.目標眼圧達成の後に視神経症の進行を認めた場合,最初に設定した目標眼圧の妥当性を再度検討する.(日本緑内障学会の許可を得て,文献2から転載,改変)目標眼圧設定治療選択目標眼圧達成治療変更治療続目標眼圧変更視神経所見・視野所見の化()()()()———————————————————————-Page4898あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(32)に対する手術がメインである.瞳孔ブロックに起因する緑内障(原発閉塞隅角緑内障,原発閉塞隅角症,続発緑内障の一部)に対しては瞳孔ブロック解消のための手術が適応とされる.早発型発達緑内障では隅角切開術やトラベクロトミーなどの隅角に対する手術が適応とされる.おわりに日本緑内障学会により作成された緑内障診療ガイドライン第2版について,解説を加えた.本ガイドラインは緑内障診療の指針を示すものであり,基本的にはそれに沿った診療が望まれる.原発閉塞隅角症などの新しい術語の登場,神経所見による緑内障の診断基準,目標眼圧を考慮した治療指針作成の重視,などが特筆される.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン.日眼会誌107:125-157,20032)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第2版.日眼会誌110:777-814,20063)FosterPJ,BuhrmannR,QuigleyHAetal:Thedenitionandclassicationofglaucomainprevalencesurveys.BrJOphthalmol86:238-242,20024)岩田和雄:低眼圧緑内障および原発開放隅角緑内障の病態と視神経障害機構.日眼会誌96:1501-1531,19925)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpres-sures.AmJOphthalmol126:487-497,19986)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19987)TheAGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInter-ventionStudy7.Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualelddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20008)KassMA,HeuerDK,HigginbothamEJetal:TheOcularHypertensionTreatmentStudy:arandomizedtrialdeter-minesthattopicalocularhypotensivemedicationdelaysorpreventstheonsetofprimaryopen-angleglaucoma.ArchOphthalmol120:701-713,20029)HeijlA,LeskeMC,BengtssonBetal:Reductionofintraocularpressureandglaucomaprogression:resultsfromtheEarlyManifestGlaucomaTrial.ArchOphthalmol120:1268-1279,2002定期的に検証していく必要があり,目標眼圧達成にもかかわらず進行阻止のできない症例では,目標眼圧の設定自体に誤りがある可能性を考える必要がある(図3).管理は病型および重症度により異なるし,仮に臨床所見がまったく同一としても,たとえば,年齢,介護者の有無,患者の職業・生活環境,本症に対する理解度,などの社会的な要因によっても患者により少しずつ変更する必要がある.これが,治療の個別化といわれるもので,緑内障治療の根幹をなす概念である.2.治療内容の選択現在多数の眼圧下降薬物が使用可能である.そのなかから,最初は単剤投与を行う.薬物の選択には,眼圧下降効果,副作用,薬物コンプライアンス,禁忌をおもに考える.眼圧下降の不十分な場合に,複数の薬物の併用療法を行う.一般的には,眼圧下降効果に優れ,また,点眼回数の少ないプロスタグランジン関連薬あるいはb遮断薬が第一選択とされる.レーザートラベクロプラスティは薬物治療を補完する目的で行ってよい.最大耐用可能な薬物療法が不十分の場合,手術療法と薬物療法の得失を考慮のうえ,手術適応が決められる.手術療法として,トラベクレクトミーを代表とする濾過手術やトラベクロトミーを代表とする生理的房水流出路語解説緑内障性視神経症:緑内障を視神経疾患として捉えるのが現在の趨勢であり,視神経疾患としての緑内障が緑内障性視神経症(glaucomatousopticneuropathy:GON)とよばれる.形態異常(乳頭辺縁部の変化や神経線維層欠損など)と対応する機能異常(視野異常など)を併せもつと診断が確定する.原発閉塞隅角症:従来原発閉塞隅角緑内障として統一されていた症例のうち,緑内障を生じていない症例をさす.FDT視野計:Frequencydoublingillusionとよばれる錯視現象を利用し,外側膝状体のMy細胞に対応する網膜神経節細胞の機能異常を検出することで緑内障の早期診断を目指す視野計.