●連載270監修=稗田牧神谷和孝270.老視矯正の多焦点有水晶体眼内レンズ北澤世志博サピアタワーアイクリニック東京後房型有水晶体眼内レンズの普及に伴い,老視矯正も可能なレンズが登場した.白内障手術において多焦点眼内レンズが普及したように,期待される多焦点有水晶体眼内レンズについての情報を提供する.●はじめに後房型有水晶体眼内レンズ(ICL)の適応は,日本眼科学会屈折矯正手術ガイドラインで老視年齢については要慎重となっている.また,近い将来の白内障や老視対策の必要性も考えC45歳くらいまでが適応といわれているが,ICLの普及に伴い,老視年齢の手術希望者も増加している.本稿ではCICLでの老視対策として注目されている多焦点有水晶体眼内レンズについて解説する.C●多焦点有水晶体眼内レンズ多焦点有水晶体眼内レンズは,2000年代初期にCAlioらが近方C1.75D加入のCPMMA素材のプロトタイプの結果を報告し1),Baiko.らは近方+2.50D加入のフォーダブルレンズの使用経験を報告した2)が,いずれも前房型で角膜内皮細胞減少の問題があり普及しなかった.しかし近年,後房型の多焦点有水晶体眼内レンズが登場し,初期臨床成績が報告されている3,4).ひとつはCSTAARSurgical社のCEVO+VisianCICLCwithCAsphericCOptic(以下,EVOViva)で,2020年にCCEマークの承認を受けた.もうひとつはCEyeOL社から販売されたCIPCLCV2.0Presbyopicで,2017年にCCEマークの承認を受けている.いずれのレンズもわが国では未承認である.CEVOViva(図1)の素材はCICLと同一のCcollamerで,多焦点の構造は焦点深度拡張(extendedCdepthCofCfocus:EDOF)型である.ICLと同じホールがあり,サイズもCICLと同じC12.1Cmm,12.6Cmm,13.2Cmm,13.7mmのC4種類で,レンズの度数規格は球面-0.50~-18.0Dでトーリックレンズはない.EVOVivaは世界各地のC10施設ほどで限定的に使用されている.PackerらはC40~60歳のC35例の両眼にCEVOVivaを挿入し,術後C6カ月の裸眼視力(logMAR)は遠方C0.07C±0.10,中間-0.02±0.08,近方-0.01±0.05と良好で,1例は結果に不満で抜去したが,34例中C31例(91.2%)は満足であったと報告している3).CIPCLCV2.0Presbyopic(図2)の素材は親水性アクリルで,多焦点の構造はCtrifocalCdi.ractiveapodizedで,エネルギー配分は遠方C50%,中間C20%,近方C30%である.レンズには中央のほか多数のホールがあり,サイズはC11.0~14.0CmmまでC0.25Cmm間隔でC13サイズある.レンズの度数規格は球面+6.0~-30.0D,円柱+1.0~+6.0D,近方加入度数は+1.0~+4.0の範囲でC0.50D間隔で選択でき,わが国でも個人輸入すれば使用が可能である.IPCLは当初はレンズ中心にホールがなかったが,ホールのあるCV2.0では術後眼圧上昇はなく,左右で近方加入度数の異なるレンズを挿入したところ,遠方から中間,近方まで良好な裸眼視力が得られ,角膜内皮細胞減少率も術後C12カ月でC1.43%であったという報告4)がある.図2IPCLV2.0Presbyopic(EyeOL社製)の写真上方を示すホール()のほか多数のホールがある.図1EVO+VisianICLwithAsphericOptic(STAARSurgical社製)の写真レンズ上方を示すホール()がある.(65)あたらしい眼科Vol.39,No.11,2022C15050910-1810/22/\100/頁/JCOPY図3EVOViva症例の術前後の視力とコントラスト感度図4IPCLV2.0Presbyopic症例の術前後の視力とコントラスト感度●症例提示筆者が院内倫理委員会の承認取得後,患者に十分なインフォームド・コンセントを取得して執刀した多焦点有水晶体眼内レンズの症例を提示する.症例C1はC48歳,女性,専業主婦である.遠近両用眼鏡で生活していたが煩わしく,手術を希望してC2021年10月C30日当院を受診した.初診時,両眼強度近視で両眼正視目標のCEVOVivaを挿入した.術後C6カ月検診では遠方裸眼視力は右眼C0.9,左眼C1.0,中間C50Ccm裸眼視力は右眼C1.0,左眼C0.9,近方C30Ccm裸眼視力は右眼C0.9,左眼C0.9で,コントラスト感度は正常範囲内であった(図3).手元はよく見えるが,欲をいえば遠方がもう少し見えたかったとのことであった.症例C2はC46歳,男性である.14年前にCLASIKを受けたが視力が低下し,2021年C8月C21日当院を受診しC1506あたらしい眼科Vol.39,No.11,2022た.両眼正視目標のCIPCLV2.0Presbyopic近方加入+2.50Dを挿入した.術後C3カ月検診では遠方裸眼視力は右眼C1.5,左眼C1.2,中間C50Ccm裸眼視力は右眼C0.7,左眼C0.7,近方C30Ccm裸眼視力は右眼C0.8,左眼C0.9で,コントラスト感度は正常範囲内であった(図4).近方は少し見にくいが遠方はよく見えているとのことであった.C●多焦点有水晶体眼内レンズの課題これまでの経験では,EVOVivaは目標視力を正視にしても近視が残る傾向があり,中間から近方はよく見えるが遠方視力がやや低く,矯正視力がC1段階低下するケースや,度数アップしたレンズへ入れ替えを要したケースもある.また,軽度近視の患者で近方が見えるようになるのに術後C3カ月以上要したケースもあり,Cneuroadaptationも考慮して適応の術前屈折度には注意が必要である.一方CIPCLV2.0Presbyopicは,遠方視力は良好でも中間や近方が見にくいケースがあった.目標視力の設定や近方加入度数をいくつにするかなど決まったノモグラムがなく,試行錯誤しながら挿入しているのが現状である.また,術後視力は遠方から近方まで良好であったが,waxyvisionの訴えが強く,レンズ抜去や,ICLへの交換を希望して施行したケースもある.どちらのレンズも多焦点構造は現在白内障手術で使用されている多焦点眼内レンズと同じなので,中間や近方で良好な裸眼視力が得られるか,waxyvisionやハロー・グレアが強くないかなどが危惧される.C●おわりに有水晶体眼内レンズの理想は屈折異常だけでなく老視矯正もできることであるが,白内障患者より若い患者に挿入するので,使用の可否は慎重に検討すべきである.文献1)AlioJL,MuletME:Presbyopiacorrectionwithananteri-orchamberphakicmultifocalintraocularlens.Ophthalmol-ogyC112:1368-1374,C20052)Baiko.G,MatachG,FontaineAetal:Correctionofpres-byopiawithrefractivemultifocalphakicintraocularlenses.JCataractRefractSurgC30:1454-1460,C20043)PackerCM,CAlfonsoCJF,CAramberriCJCetal:PerformanceCandCsafetyCofCtheCextendedCdepthCofCfocusCImplantableCCollamerRLens(EDOFICL)inphakicsubjectswithpres-byopia.ClinOphthalmolC14:2717-2730,C20204)BianchiGR:PresbyopiaCmanagementCwithCdi.ractiveCphakicCposteriorCchamberCIOL.CCeskCSlovCOftalmolC76:C211-219,C2020(66)