酸化ストレスと防御酸化ストレスとは酸素は生体内において,外部からのさまざまな刺激に反応して活性酸素に変化します.活性酸素は反応性が高く,細胞間のシグナル伝達・細胞の分化・アポトーシスなどの生理活性物質やマクロファージによって産生され,免疫反応や感染防御として働きます.しかしながら,過剰に産生されると細胞を傷害してさまざまな疾患をもたらす要因となります.生体内には活性酸素に対抗する抗酸化防御機構がありますが,「活性酸素の産生が抗酸化防御機構を超えたため,均衡が崩れて生体に障害を与えている状態」となり,これが酸化ストレスとして定義されます.活性酸素は体内に必須な要因であり,活性酸素をすべて消去すればいいということではありません.酸化ストレスを引き起こす外的因子としては,紫外線・放射線・大気汚染・喫煙・薬剤ならびに酸化された物質の摂取などがあり,内的因子として過度な運動・運動不足・心理的および肉体的ストレスがあります.抗酸化因子としては,superoxidedismutase,catalase,glutathioneperoxidaseなどの内因性の抗酸化酵素や,酸化ストレスに応答して核内に移行して防御遺伝子の発現を誘導するCKeap1-Nrf2経路に加え,ビタミンCC,ビタミンCE,カロテノイド類,カテキン類など外因性の抗酸化物質があります.眼科領域においては酸化ストレスは老化現象を引き起こし,全身性疾患として腫瘍・心疾患・生活習慣病に関与します.眼科領域においては,糖尿病網膜症・高血圧性網膜症などの生活習慣病に伴う網膜疾患や,角膜疾患・白内障・ぶどう膜炎・加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)・緑内障との関連が報告されています1).とくに,眼組織は角膜・水晶体・図1網膜内の酸化ストレス蓄積とその機序ヒトCAMD眼では網膜/脈絡膜に酸化ストレスの代謝産物であるマロンジアルデヒドが蓄積(青染色部分)する(Ca,b:正常眼,Cc,d:wetAMD眼,Ce,f:dryAMD眼).マロンジアルデヒドは分子式CCH(CHO)で示される反応性の高い化合2物で,体2内で多価不飽和脂肪酸が活性酸素により酸化されて生成され(Cg),酸化ストレスの指標としても用いられる.(文献C3より改変引用)髙山圭防衛医科大学校眼科学講座硝子体と透明な組織であり,短波長・高エネルギーで細胞障害性が強い紫外線や青色光が網膜まで直接照射して酸化ストレスが発生します(図1)2,3).今後の展望活性酸素をすべて消去することは生存するうえでは不可能ですので,生活習慣や外的環境を改善して活性酸素を減らすことも当然ですが,いかに抗酸化防御機構を強化するかが課題となります.AMDや緑内障へのサプリメントは抗酸化物質を含有して活性酸素を減少させますが,最近,多発性硬化症に対する薬剤としてCNrf2activatorが認可されました.CNrf2activatorは抗酸化作用のみならず炎症性サイトカインの上昇を抑制する効果を示し,眼科疾患の新しい治療法となる可能性があります.一方,ある種の悪性腫瘍ではCKeap1変異体によってCNrf2が常時活性化されることで腫瘍細胞が免疫反応や抗癌剤に「強くなる」可能性があり,Nrf2inhib-itorが抗癌剤として研究されています.今後,これら薬剤による新しい眼科領域での副作用が起きる可能性もあり,注目する必要があります.文献1)KrukCJ,CKubasik-KladnaCK,CAboul-EneinHY:TheCroleCoxidativestressinthepathogenesisofeyediseases:Cur-rentCstatusCandCaCdualCroleCofCphysicalCactivity.CMiniCRevCMedChemC16:241-257,C20152)TakayamaK,CKanekoCH,CKataokaKCetal:NuclearCfactor(erythroid-derived)C-relatedCfactorC2-associatedCretinalCpig-mentCepithelialCcellCprotectionCunderCblueClight-inducedCoxi-dativeCstress.COxidMedCellLongevC2016:8694641,C20163)YeCF,CKanekoCH,CHayashiCYCetal:MalondialdehydeCinducesautophagydysfunctionandVEGFsecretionintheCretinalCpigmentCepitheliumCinCage-relatedCmacularCdegen-eration.FreeRadicCBiolMedC94:121-134,C2016Cg酸化ストレスO2+O2CystelineGlycineSODGlutamateGCSGSHsynthaseNADP+GSHH2O2G6PDCAT6PGDGRGPxNADPHGSSGH2O+O2OH-マロンジアルデヒド(89)あたらしい眼科Vol.37,No.9,2020C11290910-1810/20/\100/頁/JCOPY