IL-33によって活性化される自然リンパ球ILC2からみたアレルギー性結膜炎TheRolesofIL-33andILC2(Type2InnateLymphoidCells)inAllergicConjunctivitis松田彰*浅田洋輔*はじめに科学の進歩によって,どのようにアレルギー性反応が引き起こされるのかというコンセプトが変わってきている.獲得免疫反応(特定の抗原に対する免疫学的な記憶をもとに,感作が成立している抗原に対してのみ選択的な炎症反応が生じる)を中心とする従前のコンセプトが間違っていたわけではなく,抗原非特異的な自然免疫反応の要素がアレルギー反応の理解に加わり,2型炎症反応というコンセプトが広く受け入れられつつある.III型炎症反応のコンセプト従来の獲得免疫反応を主体にしたアレルギー炎症のコンセプトは次のようなものである.生体がアレルゲンに暴露されることで,アレルゲンが抗原提示細胞に取り込まれ,リンパ節での抗原提示によってリンパ球を活性化して,Tリンパ球(Th2)およびIgE産生能を獲得したBリンパ球の働きで抗原特異的IgEが産生される.この抗原特異的IgEがマスト細胞の表面にあるIgE受容体に結合した状態でアレルゲンに再度暴露されると,マスト細胞表面のIgEにアレルゲンの抗原部位が結合する(複数のIgEに結合するのでIgEを架橋=クロスリンクする)ことでマスト細胞の脱顆粒を起点とする一連のアレルギー反応が生じる.この炎症反応の中心的な役割を果たすのがTh2型リンパ球であることからTh2型炎症反応とよばれてきた(図1).アレルギー反応のコンセプトの変化はいくつかの鍵となる発見からもたらされ,現在では獲得免疫を主体としたTh2型炎症反応という病態コンセプトに,自然免疫反応の要素を加味した2型炎症反応というコンセプト(図2)で考えられることが多い.この変化の鍵となった発見として以下の二つがあげられる.1.上皮由来2型炎症起始サイトカインの発見アレルゲンの暴露によって,生体バリアとして機能している上皮細胞からIL-33,IL-25およびTSLP(thy-micstromallymphopoietin)といったサイトカインが産生・放出され,自然免疫反応・獲得免疫反応の両者を活性化するトリガーサインとなることが報告されてきた.これら3種のサイトカインは上皮由来2型炎症起始サイトカインとして知られ,精力的な研究がなされている.なかでもIL-33分子はアレルゲンの暴露によって傷害された上皮細胞から放出され,周囲の組織へ危険を知らせるアラーミンとしての役割をもっていることが知られている.2.2型自然リンパ球の発見自然リンパ球(innatelymphoidcells:ILCs)はリンパ球と同様の形態学的な特徴をもつ細胞だが,リンパ球と異なりT細胞・B細胞受容体をもたず,抗原特異的な免疫応答をしない.ILCには三つのサブタイプ(ILC1,ILC2,ILC3)があるが,なかでも2型自然リンパ球ILC2は上述のIL-33およびIL-25によって活性化され*AkiraMatsuda&*YosukeAsada:順天堂大学大学院医学研究科眼アトピー研究室〔別刷請求先〕松田彰:〒113-8431東京都文京区本郷3-1-3順天堂大学大学院医学研究科眼アトピー研究室0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(51)427アレルゲン上皮細胞バリアを通過リンパ節で抗原提示分解されたアレルゲン抗原特異的Th2細胞Bリンパ球Th2活性化図1Th2型免疫反応(獲得免疫系の主体のアレルギー反応)アレルゲンが抗原提示細胞に取り込まれ,Th2細胞とB細胞を介して抗原特異的IgEが産生される.IgEはアレルゲンが再度体内に取り込まれると好塩基球やマスト細胞上に発現しているIgE受容体(FceRI)をクロスリンクし脱顆粒をを誘導する.アレルゲン・機械的刺激・寄生虫ー上皮細胞を傷害傷害された上皮細胞Th2細胞(獲得免疫の活性化)B細胞からのIgE産生IL-33によるILC2活性化図22型炎症反応の概念図上皮細胞が傷害されることで上皮細胞から産生・放出されるIL-33はマスト細胞,ILC2,Th2細胞を活性化する.Th2型のアレルギー反応に加えて自然免疫系の活性化による抗原非特異的なアレルギー炎症が病態を形成している.る自然リンパ球で,2型炎症反応の中核をなすCIL13と好酸球の活性化に重要なCIL-5を多量に産生することで,抗原非特異的にC2型免疫反応を引き起こすことが明らかになった.この発見によって,獲得免疫に依存しないアレルギー反応の存在がクローズアップされ,従来のTh2反応(獲得免疫)のコンセプトがC2型免疫反応(自然免疫+獲得免疫)へと進化することになるきっかけとなった.ILC2の概念の成立には日本の茂呂和世先生,小安重夫先生の研究グループが多大な貢献をされている.CII眼アレルギー疾患におけるIL-33の関与の発見筆者(松田)がなぜC2型炎症に興味をもち,眼表面におけるC2型炎症の研究に従事することになったのかを述べながら,アレルギー性結膜炎とC2型炎症との関係を説明してゆく.松田はアトピーの遺伝的背景を研究するためにC2000年に英国の研究所に留学した.留学中のテーマは当時はやっていた質量分析計を使ってのアトピー関連分子の機能解析という,今考えるとポスドクのテーマとしては無謀としかいいようのないものだった.2年間の留学後,横浜の理化学研究所で当時黎明期であった遺伝子多型とアトピー性疾患の相関を調べる研究に従事することになった.アトピー性皮膚炎の患者対照相関研究のプロジェクトを遂行していくなかで,筆者は候補遺伝子のリストにCST2(遺伝子名ではCIL1RL1)という遺伝子があることに注目した.この分子は自治医科大学生化学講座の富永眞一教授がクローニングし,Th2細胞に高発現することを同教室の柳沢健先生が見いだし,報告した.二人の先生との共同研究でアトピー性皮膚炎とST2の関連を論文としてC2005年に報告した1).その論文が公表されたC1カ月後に,当時リガンドが不明であったオーファン受容体であったCST2分子のリガンドとしてCIL-33がクローニングされたという論文が米国のDNAX研究所のグループから発表された2).2005年に筆者は京都府立医科大学眼科に移動し,IL-33と眼アレルギーの研究を始めた.当初CIL-33を研究する道具はまったくなく,唯一わかっていた遺伝子配列からリコンビナント蛋白を自作し,マウスの腹腔に注射したところ,著明な好酸球の浸潤を認め,IL-33がアレルギー反応に重要な分子であることを確信した.当時はまだタクロリムスの点眼が治験段階で,ステロイド点眼と抗アレルギー薬の点眼でコントロールできない眼瞼結膜の巨大乳頭を伴う春季カタル(vernalCkeratocon-junctivits:VKC)やアトピー性角結膜炎(atopicCkera-toconjunctivitis:AKC)の患者がおり,京都府立医科大学眼科の横井則彦先生の協力で治療目的に切除した巨大乳頭組織を収集し,IL-33がCVKCとCAKCの結膜組織において上皮細胞と血管内皮細胞に高発現していることを報告した3).CIIIマウスを使ったアレルギー性結膜炎研究1.IL-33欠損マウスの解析現在の免疫・アレルギー学の研究においては,特定分子の機能解析には遺伝子改変マウスを使用することが主流であり,IL-33のノックアウトマウスをなんとか作れないかと画策したが,CRISPR/Cas9システムを使える現在の状況とは異なり,一介の眼科医がノックアウトマウスを作るのはむずかしかった.2009年に筆者が順天堂大学眼科に移動した頃,東京大学医科学研究所の中江進先生が作製したCIL-33ノックアウトマウスの論文がCPNASに掲載された4).運よく中江先生は順天堂大学アトピー疾患研究センターの客員研究員も兼任されており,順天堂大学眼科の海老原伸行先生と免疫学の奥村康教授の紹介で中江先生とCIL-33ノックアウトマウスを使用した眼アレルギーの研究をスタートすることができた.アレルギー性結膜炎のマウスモデルとして普及しているブタクサ花粉誘発アレルギー性結膜炎モデルの導入には高知大学眼科の福島敦樹教授,福田憲先生に共同研究をお願いし,IL-33分子がマウスのアレルギー性結膜炎の発症に必須の分子であることを大学院生であった筆者(浅田)が報告した5).IL-33ノックアウトマウスを使った研究から判明したことは,IL-33分子を欠くとアレルギー性結膜炎の重症度が低下すること(図3),結膜組織におけるC2型炎症に関連するサイトカインCIL-4,CIL-13,IL-5の発現が有意に抑制されること,結膜組織における好酸球の浸潤数が減少すること,一方で血中の(53)あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020C429野生型マウスIL-33欠損マウス図3ブタクサ花粉誘発マウスアレルギー性結膜炎上段:ブタクサ花粉を点眼してアレルギー性結膜炎を誘発.IL-33欠損マウスでは野生型マウスと比較して,結膜の充血,眼瞼の腫脹が軽症化している.下段:赤色はCIL-33の発現を,緑色は好酸球の局在を示す.IL-33欠損マウスでは好酸球の結膜への浸潤数が減少している.(文献C5より改変引用)図4パパインコンタクトレンズ誘発角結膜炎モデルの作製方法パパイン溶液に浸漬したC2Cmm径のソフトコンタクトレンズをマウスに装着させ(Ca),眼瞼をC1糸縫合し(Cb),5日後にコンタクトレンズを摘出(Cc)する.このようにして角結膜組織への好酸球の浸潤を伴う自然免疫依存のアレルギー性結膜炎のモデルを作製した.(文献C7より引用)CLacrimalGlandConjunctivaCervicalLymphnode図5パパインコンタクトレンズ誘発角結膜炎の結膜組織中のILC2細胞の存在マウスの涙腺(左),結膜(中央),頸部リンパ節(右)を摘出し,フローサイトメーターで解析.上段:獲得免疫系の細胞マーカーのカクテル抗体に対する反応が陰性でかつCIL-33受容体(ST2)陽性の細胞群を抽出,中段:その中からさらにCCD127陽性かつCCD25陽性細胞群を抽出,下段:さらにCCD90.1陽性細胞群を抽出し,ILC2細胞を同定した.涙腺組織と結膜組織にCILC2細胞の存在を確認した(赤丸印の中).(文献C7より引用)といったC2型炎症性サイトカインの発現亢進がみられ,獲得免疫系の細胞を欠くCRag2欠損マウスでも同程度の型炎症がみられることから,自然免疫系のアレルギー性結膜炎モデルであること,2)パパイン角結膜炎モデルの結膜組織には獲得免疫系の炎症細胞マーカーをもたず(lineageCnegative),CD25陽性,ST2陽性,CD127陽性,CD90.1陽性のCILC2細胞が存在すること(図5),ILC2細胞を抗CCD25抗体の全身投与で除去すると結膜組織への好酸球浸潤が抑制されること,3)パパイン角結膜炎モデルにおける自然免疫系依存のC2型炎症反応がIL-33欠損マウスとCTSLP受容体欠損マウスでは著しく減弱することを発見・報告した7).これらの結果から,眼表面においても抗原非特異的な自然免疫応答によるC2型炎症(アレルギー反応)が存在すること,自然免疫依存性のパパイン角結膜炎の病態において,ILC2細胞と上皮由来C2型炎症起始サイトカインのCIL-33とCTSLPが重要である可能性ことが示唆された.また,ヒトVKC患者由来の結膜巨大乳頭組織にもCILC2が存在することをCFACSで確認(未発表データ)しており,VKCやCAKCの病態にも自然免疫系のC2型炎症反応が関連している可能性が考えられる.CIVIL-33トランスジェニックマウスはアトピー性角結膜炎の表現型上述のパパイン角結膜炎モデルとほぼ同時期に,兵庫医科大学皮膚科の今井康友先生,山西清文教授のグループから,IL-33トランスジェニックマウスがアトピー性角結膜炎様の表現形を呈するとの報告がなされた.このマウスはヒトケラチンC14(皮膚,角膜,結膜といった上皮細胞の基底細胞層に発現するケラチン)のプロモーターの下流にマウスのCIL-33遺伝子を組み込んで,過剰発現させると無処置のマウスの血中CIgE濃度が上昇し,アトピー性皮膚炎様の炎症を生じるという報告8)に使われたマウスで,皮膚炎の解析が終了し,今井先生が留学したあとも,そのまま飼育されていた.飼育を担当していた人が,生後C20週を過ぎた頃から眼球が白くなる現象を発見,眼の解析をするために今井先生は留学先から呼び戻された(今井先生の談).このマウスの角結膜には何も刺激をしなくても加齢とともに好酸球,マスト細胞,好塩基球の浸潤が認められ,角膜上皮の角化を伴う角結膜炎の発症を認めた.さらに,このマウスの眼表面にはCILC2細胞の浸潤も確認されている.すなわち,IL-33が眼表面で過剰に産生されると,アレルゲンの暴露に関係なく,アトピー性角結膜炎様の表現形をとること,そこにはCILC2細胞の関与が示唆されることが明らかになった9).この結果はアレルゲン刺激が抗原特異的なもの(獲得免疫依存性)であっても抗原非特異的なもの(自然免疫依存性)であっても上皮からのCIL-33放出を引き起こす刺激であればC2型炎症性反応を眼表面にもたらすことを示しており,筆者らの研究結果とも矛盾しない結果と考えられる.CVヒトの慢性重症アレルギー性角結膜炎の病態とILC2前項で自然免疫系の反応に依存するアレルギー性結膜炎を説明したが,実際のヒトの慢性重症アレルギー性角結膜炎では,ハウスダストをはじめとする多種のアレルゲンによる慢性の炎症反応が生じており,抗原特異的IgEを中心とした獲得免疫系の反応と,アレルゲンによって傷害された結膜上皮が放出するCIL-33/TSLPならびにCILC2を中心とした自然免疫系の反応が同時に進行していると考えられる.実際にヒト難治性CAKC患者由来の上眼瞼結膜乳頭組織を治療目的で採取したサンプルを用いて,次世代シークエンサーによるトランスクリプトーム解析(RNA-sequencing:RNA-seq)を施行したところ,2型炎症反応の中心となるCIL-4,IL-13といったCTh2サイトカインのほかにC2型炎症起始サイトカインであるCIL-33遺伝子の発現が亢進し,ILC2の活性化にかかわる遺伝子群の発現亢進が認められた10).すなわち,マウスの実験データから考えられたC2型炎症を中心とするアレルギー性角結膜炎の病態仮説が,実際のヒト慢性アレルギー性角結膜炎のトランスクリプトーム解析においても矛盾のないことが示された.CVI今後の研究と臨床応用の方向性現在,臨床上問題となっているタクロリムスに抵抗する難治性のCAKC,VKCに対する治療戦略として,今後,自然免疫依存の炎症コンポーネントに対する介入が考え432あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020(56)–