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生理食塩水点眼後の涙液メニスカス高計測による涙囊鼻腔吻合術鼻内法の客観的術後評価

2018年5月31日 木曜日

《第6回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科35(5):689.692,2018c生理食塩水点眼後の涙液メニスカス高計測による涙.鼻腔吻合術鼻内法の客観的術後評価谷吉オリエ鶴丸修士公立八女総合病院眼科CObjectiveEvaluationofSurgicalOutcomeofEndonasalDacryocystorhinostomyUsingTearMeniscusHeightMeasurementafterSalineInstillationOrieTaniyoshiandNaoshiTsurumaruCDepartmentofOphthalmology,YameGeneralHospital目的:生理食塩水点眼後の涙液メニスカス高計測により涙.鼻腔吻合術の治療効果を評価する.対象および方法:対象は涙.鼻腔吻合術鼻内法を施行した涙道閉塞C24例C24側(平均C71.8歳).術前,手術C1.2カ月後,3.5カ月後,6.11カ月後,12カ月以降に前眼部光干渉断層計を用いて,自然瞬目下で,生理食塩水点眼前と点眼後C20秒ごとC2分間の下眼瞼涙液メニスカス高を記録した.結果:術前の涙液メニスカス高(中央値)は,点眼試験前C471Cμm,点眼試験2分後761Cμmであった.術後C1.2カ月では点眼試験前C218Cμm,点眼試験C2分後C447Cμmで,点眼試験前も点眼試験後も有意に低下し,術後C3.5カ月,6.11カ月,12カ月以降に実施した点眼試験も同様に術前より低値を示した.結論:本法は侵襲が少なく,涙道治療効果の客観的評価法として有用と考えられた.Toevaluatethesurgicaloutcomeofendonasaldacryocystorhinostomy(En-DCR)bymeasuringthelowertearmeniscusheight(TMH)aftersalineinstillation.Thisstudyincluded24eyesof24patients(meanage,71.8years)CwithCnasolacrimalCductCobstructionCwhoCunderwentCEn-DCR.CTheClowerCTMHCwasCmeasuredCwithCanteriorCseg-mentCopticalCcoherenceCtomographyCbeforeCsurgeryCandCatC1CtoC2Cmonths,C3CtoC5Cmonths,C6CtoC11CmonthsCandC12Cmonthsorlateraftersurgery.Eachmeasurementwasperformedbeforesalineinstillationandevery20secondsfor2CminutesCafterCinstillationCinCnaturalCblinkingCconditions.CPreoperativeCTMHCwasC471CμmCbeforeCsalineCinstillationCand761Cμm2minutesafterinstillation.TMHduringpostoperative1to2monthswas218Cμmbeforesalineinstilla-tionand447Cμm2minutesafterinstillation,asigni.cantdecreasecomparedwithpreoperativeTMH.PostoperativeTMHsat3to5months,6to11monthsand12monthsorlateraftersurgerywerealsolowerthanpreoperativeTMH.TMHmeasurementwithsalineinstillationisminimallyinvasiveandusefulinobjectivelyevaluatingtheout-comeofEn-DCR.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(5):689.692,C2018〕Keywords:涙.鼻腔吻合術鼻内法,涙液メニスカス高,点眼試験,前眼部光干渉断層計.endonasalCdacryocysto-rhinostomy(En-DCR),tearmeniscusheight(TMH),instillationtest,anteriorsegmentopticalcoherencetomog-raphy.Cはじめに涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)は鼻涙管閉塞の手術治療として基本的な術式であり,涙.鼻腔吻合術鼻内法(endonasalCdacryocystorhinostomy:En-DCR)は涙.のCmarsupialization(涙.内腔を満開の花弁のように展開すること)の概念1)が広められ飛躍的に成功率が向上した2).その治療効果は,自覚症状や吻合孔形成状態,通水検査により判断されることが一般的だが,近年では光干渉断層計を用い低侵襲で涙液貯留量を評価する方法が報告されている3.6,9).今回,En-DCRの治療効果を客観的に評価することを目的として,生理食塩水を用いた点眼試験により涙液動態評価を試みたので報告する.〔別刷請求先〕谷吉オリエ:〒834-0034福岡県八女市高塚C540-2公立八女総合病院眼科Reprintrequests:OrieTaniyoshi,DepartmentofOphthalmology,YameGeneralHospital,540-2Takatsuka,Yame,Fukuoka834-0034,JAPAN0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(125)C689I対象および方法2014年C11月.2016年C2月までに当科でCEn-DCRを施行した24例24側(女性23側,男性1側),年齢は42.83歳(71.8C±8.7歳)を対象とした.涙道内視鏡所見による涙道の閉塞部位の内訳を図1に示す.En-DCRは全例全身麻酔下にて施行した.鼻粘膜を中鼻甲介起始部から弧状に切開したのち,鼻粘膜をC.ap状に形成し上顎骨を露出させた.上顎骨をケリソンパンチ(回転式および通常型),上方の厚い部分は骨ノミを用いて内総涙点の高さまで切除し,涙.を露出させ,眼科用クレセントナイフにて涙.を切開,できるだけ大きく展開した.涙.前弁は鼻粘膜と,涙.後弁は温存した鼻粘膜と並置し,血漿分画製剤(ボルヒールCR,べリプラストRP)を塗布して接着させた.涙管チューブ(LACRIFASTCR)を挿入し,タンポナーデとしてベスキチンガーゼを挿入し手術終了した.術後C1カ月は1.5%レボフロキサシンとC0.1%フルオロメトロン点眼,およびモメタゾンフランカルボン酸エステル水和物点鼻薬を継続した.涙液メニスカスの撮影は自然開瞼,自然瞬目を指示し,他の眼科学的検査に先がけて行った.前眼部COCT(NIDEK製光干渉断層計CRS-3000Advance)を用いて涙液メニスカス高(tearCmeniscusCheight:TMH)を計測した後,5Cmlの点眼ボトルで常温の生理食塩水をC1滴点眼し,20秒ごとC2分間を経時的に撮影した(以下,点眼試験とする).OCT測定プログラムは,スキャンポイント数C1,024,スキャン長4.0Cmmの隅角ラインで,下眼瞼の角膜中央を通る垂直ラインで撮影した.TMHはCOCTで撮影できたメニスカス断面の上下の頂点から引いた垂線の長さを測定した.一人の検者が撮影および解析を行い,アーチファクトなどによりCOCT像が解析不能であった場合は除外した.点眼試験は,術前(n=24),En-DCRC1.2カ月後(n=20),3.5カ月後(n=24),6.11カ月後(n=21),12カ月以降(n=12)に施行し,統計学的解析はCWilcoxonCt-testwithCBonferroniCcorrectionを用いてCTMHの術後変化を検討した.CII結果術後に,18側(75%)は流涙が自覚的に改善し,骨窓形成や通水が良好で解剖学的交通があった.自覚症状は残存するが解剖学的交通があるのがC4側(17%),涙小管の狭小化や骨窓の膜状再閉塞により追加涙道治療が必要だったのはC2側(8%)であった.En-DCR術前のCTMHは,点眼試験前C479C±235Cμm(中央値471μm),点眼試験2分後C808C±312Cμm(761Cμm)であった.術後C1.2カ月では点眼試験前C222C±107Cμm(218広範型鼻涙管閉塞広範型鼻涙管閉塞+眼瞼下垂広範型鼻涙管閉塞+涙小管閉塞広範型鼻涙管閉塞+総涙小管閉塞限局型鼻涙管閉塞総涙小管閉塞急性涙.炎副鼻腔炎術後10430246810(側)図1閉塞部位ごとの症例数(n=24)μm),点眼試験C2分後C501C±376Cμm(447Cμm)となり,点眼試験前も点眼試験後も有意に低下していた(p<0.01).術後3.5カ月,6.11カ月,12カ月以降に実施した点眼試験も術前より低値を示した(図2).図3に急性涙.炎で術後再閉塞した症例の点眼試験結果を示す.術前CTMHは約C800Cμmであったが,En-DCR1カ月後は点眼試験前後ともCTMHが低下した(図3a).2カ月後は点眼試験後にCTMH上昇傾向があったものの,自覚も通水検査も良好だった(図3b).6カ月後には,眼脂症状の訴えがあり,TMHは術前とほぼ同程度の高値を示し,吻合孔の膜状再閉塞および涙小管高度狭窄がみられた(図3c).そのため,En-DCR9カ月後に,涙管チューブ挿入術〔LacrifastEX(カネカ)外径C1.5mm,全長C105mm〕を施行した.チューブ留置C1.5カ月(En-DCR11カ月後)で再びCTMHが低下し(図3d),チューブ留置C4カ月(En-DCR14カ月後)では点眼試験後CTMHの上昇がみられた(図3e)が,チューブ抜去(En-DCR16カ月後)すると点眼試験後CTMHも低値を示した(図3f).CIII考按前眼部OCTは低侵襲で涙液メニスカスを観察できるため,刺激などで容易に量的変化が生じる涙液を評価するには大変有用なツールであるが3.5),DCR後のCTMHを経過観察した研究は少ない.DCR鼻外法例を対象にCTMHを検討した研究6)では,中央値が術前C707Cμm,術後C2週目C334Cμm,術後2カ月C278μm,術後C6カ月C277μmで術直後から有意にTMHが低下したと報告しているが,これまでCEn-DCRに関しては細隙灯顕微鏡によるCTMH測定7)の他にはない.今回の点眼試験前CTMH中央値は,術前C471Cμm,手術1.2カ月後C218μm,3.5カ月後C262μm,6.11カ月後C269μm,12カ月以降C275Cμmで,点眼試験後CTMHも術後の全時期で低下したことから,En-DCRにおいても術後の涙液貯留690あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018(126)C1,5001,0005000点眼試験前20.40.1’1’20.1’40.2’■術前■1~2M■3~5M■6~11M■12M~図2涙.鼻腔吻合術鼻内法(En.DCR)術前後の点眼試験結果術後C1.2カ月から点眼試験前と点眼試験後すべての涙液メニスカス高(TMH)が低下し,術後C12カ月経過しても効果は継続していた.En-DCR前1M(a)量低下を評価できた.2M(b)本法を涙管チューブ挿入術施行例で行うと,術前,涙管チューブ留置中,涙管チューブ抜去後の順でCTMHが低下す6M(c)チューブ留置1.5M(d)チューブ留置4M(e)る4)が,CEn-DCRは術後C1.C2カ月には涙管チューブ抜去後抜去1M(f)と同等の低下を示した(図4).CDCRは術後早期から自覚症1,000状や通水が改善し,涙管チューブ挿入術よりも確実な治癒が800TMH(μm)期待できる8)とされている.通水検査は解剖学的交通を確認するために有用な検査ではあるが,通常時の涙液動態と異なり涙点への涙洗針の挿入や水圧が加わるため,軽微な膜状閉塞などは検出できない可能性があるが,通水検査以外の客観的方法においてもCDCRの早期治癒効果が実証できたと考え6004002000ている.点眼試験は健常者でも年齢によって結果が異なり,点眼C2分後平均CTMHは,60歳未満C247.1Cμm,60歳以上C452.0Cμmで,高齢群は点眼試験後CTMHが有意に高値になる3).また,涙管チューブ挿入術成功例を対象にした場合,点眼C2分後平均TMHは458Cμmであった4).点眼試験に関するこれまでの研究をまとめると,En-DCR術後(対象平均C71.8歳)は健常者の高齢群,涙管チューブ挿入術成功例とほぼ同等であるが,健常者の若年群ほどは低下しないということがわかった(図5).FujimotoらはCEn-DCR術後C2カ月時点で涙液クリアランスを評価したところ,術後メニスカスは低下するが,若い正常者に比べると涙液排出機構は不完全と報告している9).今回対象の平均年齢はCEn-DCRも涙管チューブ挿入術もC70歳前後であり,涙道閉塞以外にも結膜弛緩や眼瞼下垂などの加齢に伴う機能的導涙障害が含まれていると想定されるが,いずれの涙道治療を選択しても年齢相応の涙液排出力が期待できることが示唆された.涙液に量的負荷をかけた場合,点眼後C2分間は反射分泌および量的負荷状態における急速相があり,その後基礎分泌下(127)図3涙.鼻腔吻合術鼻内法(En.DCR)後に再閉塞した症例(82歳,女性)の点眼試験経過の緩徐相が生じる3,10.12).点眼試験を用いた過去の研究で点眼C2分以降に有意なCTMH変化がなかったことから,今回は測定時間を点眼C2分間に設定した.そのため真の意味での涙あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018C6911,000NLDI前チューブ留置中En-DCR前1~2M3~6M1,500チューブ抜去後median1,5006~12M12M~median5001,00050000’.1’.240’.1’2’1.20’1.40’1.20’1NLDIEn-DCRTMH(μm)8006004002000図4涙管チューブ挿入術(NLDI)4)と涙.鼻腔吻合術鼻内法(En.DCR)の比較NLDIはチューブ抜去までの過程において涙液メニスカス高(TMH)が漸減するが,En-DCRは術後早期からCTMHの低下があり,効果も持続した.youngnormal3)oldnormal3)文献postNLDI4)En-DCR(post6~12M)1)CTsirbasCA,CWormaldCPJ:CMechanicalCendonasalCdacryo-cystorhinostomyCwithCmucosalC.aps.CBrCJCOphthalmolC87:C43-47,C20032)鈴木亨:目指せC!眼の形成外科エキスパート(第C30回)涙道編DCR鼻外法Cvs鼻内法.臨眼71:C226-230,C20173)谷吉オリエ,鶴丸修士:生理食塩水点眼による涙液メニスカス高の経時的測定.あたらしい眼科33:C1209-1212,C20164)谷吉オリエ,鶴丸修士:涙管チューブ挿入術後の点眼負荷による涙液メニスカス高の検討.あたらしい眼科C34:C1314-1317,C2017’.240’1.20’1’.15)鈴木亨:光干渉断層計(OCT)を用いた涙液メニスカス高(TMH)の評価.あたらしい眼科30:923-928,C20136)OhtomoCK,CUetaCT,CFukudaCRCetCal:TearCmeniscusCvol-umeCchangesCinCdacryocystorhinostomyCevaluatedCwithC図5点眼試験の対象別比較涙.鼻腔吻合術鼻内法(En-DCR)の点眼試験後涙液メニスカス高(TMH)は健常者の高齢群3),涙管チューブ挿入術(NLDI)成功例4)と同等であるが,健常者の若年群3)ほどは低下しない.液のターンオーバーは不明だが,TMHを指標とした残留涙液貯留量が評価できた.TMHは細隙灯顕微鏡で観察できるメニスカスの様子を直感的に表現でき,眼科スタッフによる検査が可能なため臨床上大きな利便性があるが,瞬目などによる測定誤差要因も多い5).本法は眼科で頻用される点眼ボトルを用いるため,負荷量の大半は結膜.から流出してしまい標準偏差が大きくなる.そのためCTMHの基準値を定めることはむずかしいが,固体内での治療評価や再閉塞などによる涙液動態の変化は検出できる可能性があり,涙道治療の客観的評価法として有用であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし692あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018quantitativeCmeasurementCusingCanteriorCsegmentCopticalCcoherenceCtomography.CInvestCOphthalmolCVisCSciC55:C2057-2061,C20147)RohCJH,CChiCMJ:E.cacyCofCdyeCdisappearanceCtestCandCtearCmeniscusCheightCinCdiagnosisCandCpostoperativeCassessmentCofCnasolacrimalCductCobstruction.CActaCOph-thalmolC88:e73-e77,C20108)中島未央,後藤聡,小原由実ほか:涙.鼻腔吻合術の適応と手術成績.眼臨紀4:650-652,C20119)FujimotoCM,COginoCK,CMiyazakiCCCetCal:EvaluationCofCdacryocystorhinostomyCusingCopticalCcoherenceCtomogra-phyandrebamipideophthalmicsuspension.ClinOphthal-molC8:1441-1445,C201410)ZhengX,KamaoT,YamaguchiMetal:NewmethodforevaluationCofCearlyCphaseCtearCclearanceCbyCanteriorCseg-mentCopticalCcoherenceCtomography.CActaCOphthalmolC92:105-111,C201411)井上康,越智進太郎,山口昌彦ほか:レバミピド懸濁点眼液をトレーサーとして用いた光干渉断層計涙液クリアランステスト.あたらしい眼科31:615-619,C201412)坂井譲,井上康,越智進太郎:前眼部光干渉断層計を用いたレバミピド懸濁粒子濃度測定.あたらしい眼科C31:C1867-1871,C2014(128)

緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液追加投与の眼圧下降効果と安全性の検討

2018年5月31日 木曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(5):684.688,2018c緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液追加投与の眼圧下降効果と安全性の検討柴田真帆豊川紀子黒田真一郎永田眼科CE.cacyandSafetyofRipasudilOphthalmicSolutionasAdjunctiveTherapyinGlaucomaPatientsMahoShibata,NorikoToyokawaandShinichiroKurodaCNagataEyeClinic目的:リパスジル点眼液追加投与の眼圧下降効果と安全性の検討.対象および方法:2016年C4.6月にリパスジル点眼液を追加投与した緑内障患者C55例C77眼を対象とした.診療録から後ろ向きに検討し,追加前眼圧と追加後C1,C3,6,9,12カ月の眼圧値,経過中の有害事象につき検討した.結果:12カ月以上点眼継続例はC39眼(51%)であり,眼圧はC18.0±5.4CmmHgからそれぞれC14.9±3.1,15.2±3.1,15.5±3.7,15.1±4.4,14.9±3.7CmmHgと有意に下降し(1,3カ月p<0.05,6,9,12カ月p<0.01,ANOVA),平均眼圧下降率はC13.6%であった.追加前眼圧と眼圧下降幅に有意な正の相関を認めた.途中中止例C28眼の原因は有害事象(眼瞼炎とアレルギー性結膜炎)がC12眼,手術施行がC10眼,効果不十分がC6眼であった.併用点眼変更例C4眼と内服追加例C6眼については継続例から除外した.結論:リパスジル点眼液追加投与により眼圧下降効果を認め継続点眼したものは全体のC51%であった.眼局所の有害事象による点眼中止をC16%に認めた.CPurpose:Toevaluatethee.cacyandsafetyofripasudilophthalmicsolutionasadjunctivetherapyinglauco-ma.SubjectsandMethods:Intraocularpressure(IOP)changeandadversee.ectafteradjunctiveuseofripasudilwereCretrospectivelyCstudiedCinC77CeyesCofC55CglaucomaCpatients.CResults:AnCaverageCofC2.8±0.7Canti-glaucomamedicationswereinuseatstartup;39eyesreceivedcontinuoustreatmentfor12months.IOPatbaselineandat1,3,6,9and12monthsafterripasudiladditionwas18.0±5.4,C14.9±3.1,C15.2±3.1,C15.5±3.7,C15.1±4.4CandC14.9±3.7CmmHg,respectively,withsigni.cantIOPreductionatalltimeperiods.Therewassigni.cantpositivecorrelationbetweenCIOPCchangeCandCbaseline.CRegimenCwasCdiscontinuedCinC28CeyesCbecauseCofCblepharitis(9Ceyes),Callergicconjunctivitis(3),CglaucomaCsurgery(10)andCnoCIOP-loweringCe.ect(6).CPatientsCwhoCreceivedCadditionalCoralmedications(6)orCchangedCtoCotherCglaucomaCeyedrops(4)wereCexcludedCfromCtheCcontinuousCtreatmentCgroup.CConclusion:In51%ofthetotal,instillationwascontinuedwithIOP-loweringe.ect.Adversee.ects(16%)wereblepharitisandallergicconjunctivitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(5):684.688,C2018〕Keywords:リパスジル点眼液,追加投与,眼圧,安全性.ripasudilophthalmicsolution,adjunctivetherapy,in-traocularpressure,safety.Cはじめにトリクスの産生抑制,傍CSchlemm管内皮細胞の透過性亢進リパスジル塩酸塩水和物点眼液(以下,リパスジル点眼液)により,主経路からの房水流出を促進して眼圧を下降させるは,Rhoキナーゼ(ROCK)阻害薬の緑内障点眼薬である.ものである1.3).緑内障治療において眼圧下降効果が唯一効その作用機序は,線維柱帯細胞の細胞骨格の変化や細胞外マ果の認められている緑内障進行阻止方法であることから,新〔別刷請求先〕柴田真帆:〒631-0844奈良市宝来町北山田C1147永田眼科Reprintrequests:MahoShibata,M.D.,Ph.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Horai,Nara-city,Nara631-0844,JAPAN684(120)たな眼圧下降機序による緑内障点眼は治療の選択肢を増やし,追加点眼として選択薬の一つとなりうる.しかし,これまでの報告は緑内障病型と対象患者を限ったものであり,実際の臨床に基づく眼圧下降効果と安全性についての報告は少ない.今回,緑内障病型を問わずリパスジル点眼液の追加処方症例における眼圧下降効果と有害事象発生率について検討した.CI対象および方法永田眼科に通院中の緑内障患者で,緑内障病型は問わず,2016年C4月C1日.6月C30日までにリパスジル点眼液を追加処方した全症例を診療録から後ろ向きに検討した.なお,本研究は永田眼科倫理委員会で承認された.リパスジル点眼液追加前の眼圧と,処方C1,3,6,9,12カ月後の眼圧と有害事象を調査し,点眼継続例と途中中止例に分類した.継続例については眼圧下降効果を検討し,中止例についてはその原因を検索した.眼圧はCGoldmann圧平眼圧計で診療時間内に測定した.配合剤はC2剤として計算した.解析方法として,unpairedCt-test,CpairedCt-test,CKruskal-WallisCtest,chi-squareCtest,PearsonC’sCcorrelationCcoe.cientCtest,one-wayCanalysisCofCvariance(ANOVA)を用い,ANOVAで有意差がみられた場合はCDunnettの多重比較を行った.有意水準はp<0.05とした.CII結果表1に全症例と継続例の患者背景を示した.全症例C61例86眼のうち,自己都合で点眼しなかったC2例C4眼と来院のなかったC4例C5眼を除き,55例C77眼を対象とした.内訳は男性C29例C41眼,女性C26例C36眼,平均年齢C68.7C±12.1歳,追加前平均眼圧C18.8C±4.9CmmHg,平均緑内障点眼数C2.8C±0.7剤(meanC±SD)であった.このうち,12カ月以上点眼継続可能例はC39/77眼(51%)であった.途中リパスジル点眼圧(mmHg)201918171615141312前1M3M6M9M12M投与期間(mean±SE)図1継続例の眼圧経過点眼追加前に比較して全観察期間で有意な眼圧下降を認めた.*:p<0.05,**:p<0.01,one-wayANOVA+Dunnett’stestC眼液を継続しながら併用点眼の変更があったC4眼と,内服薬の追加処方があったC6眼の計C10眼(13%)は継続例の検討から除いた.図1に継続例C39眼における眼圧経過を示した.リパスジル点眼追加前の眼圧はC18.0C±5.4CmmHgであり,追加後C1,3,6,C9,C12カ月の眼圧は,それぞれC14.9C±3.1CmmHg,15.2C±3.1CmmHg,15.5C±3.7CmmHg,15.1C±4.4CmmHg,14.9C±3.7mmHgとすべての観察期間で有意に低下していた(1,3カ月p<0.05,6,9,12カ月p<0.01,one-wayANOVA+Dun-nett’sCtest).期間中の平均眼圧下降幅はC2.8C±0.3CmmHg,平均眼圧下降率はC13.6C±1.0%であった.図2に継続例C39眼におけるC12カ月後の眼圧下降率の分布を示した.開放隅角緑内障(primaryCopenCangleCglauco-ma:POAG),正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG),落屑緑内障(exfoliationCglaucoma:EXG),続発緑内障(secondaryCglaucoma:SG),混合緑内障(combined)の病型別では,眼圧下降率がC30%以上であったのはC3眼(7%;POAG2眼,EXG1眼),20.30%未満C12眼(31%;表1患者背景全症例継続例症例数55例77眼28例39眼性別男性29例41眼11例15眼女性26例36眼17例24眼年齢C68.7±12.1歳C69.7±10.1歳追加前眼圧C18.8±4.9CmmHgC18.0±5.4CmmHg点眼剤数*C2.8±0.7(1.4剤)C2.8C±0.6(2.4剤)内眼手術既往なし35眼17眼あり**42眼22眼緑内障病期初期13眼7眼中期22眼10眼後期42眼22眼*配合剤はC2剤として計算.(mean±SD)**すべての症例で術後C3カ月以上が経過.図2継続例における12カ月後の眼圧下降率の分布12カ月後の眼圧下降率がC30%以上であったのは継続例39眼中3眼,20.30%未満12眼,10.20%未満12眼,10%未満C12眼であった.C6M12M-5051015-5051015眼圧下降幅(mmHg)眼圧下降幅(mmHg)図3継続例における点眼追加前眼圧と眼圧下降幅リパスジル点眼追加C6カ月後,12カ月後とも点眼追加前眼圧と眼圧下降幅に有意な正の相関を認めた.6カ月後p<0.001,r=0.735,12カ月後Cp<0.001,r=0.719,PearsonC’sCcorrelationcoe.cienttest.CPOAG8眼,NTG1眼,SG3眼),10.20%未満C12眼(31%;POAG7眼,NTG3眼,EXG1眼,SG1眼),10%未満C12眼(31%;POAG6眼,NTG4眼,EXGC1眼,com-binedC1眼)であった.眼圧下降率に病型別で有意差を認めなかった(p=0.67,chi-squaretest).図3にリパスジル点眼液追加前眼圧と眼圧下降幅の相関を示した.点眼前眼圧と眼圧下降幅に正の相関を認めた(6カ月p<0.001,r=0.735,12カ月Cp<0.001,r=0.719,PearsonC’scorrelationCcoe.cientCtest).さらに,年齢とC6カ月後の眼圧下降幅に正の相関を認めた(p<0.01,r=0.534,PearsonC’scorrelationcoe.cienttest).継続例を併用薬剤数別に分類すると,追加前平均眼圧はC2剤併用群C16.3C±4.1CmmHg,3剤C18.8C±5.1CmmHg,4剤C18.5C±10.3CmmHgと追加前眼圧に有意差なく(p=0.22,Krus-kal-WallisCtest),リパスジル点眼追加後の平均眼圧下降率はそれぞれC14.0C±3.8%,13.1C±3.4%,13.8C±4.1%であり,併用薬剤数別の眼圧下降率に有意差を認めなかった(p=0.87,Kruskal-Wallistest).途中点眼中止例はC28/77眼(36%)であった.有害事象による点眼中止はC12/77眼(16%)であり,内訳は眼瞼炎C9眼(追加1カ月後中止1眼,6カ月4眼,8カ月2眼,12カ月2眼),アレルギー性結膜炎C3眼(6カ月C3眼)であった.眼瞼炎とアレルギー性結膜炎に対する局所加療を継続しながらリパスジル点眼を継続したものはなかった.有害事象による中止例C12眼の平均緑内障点眼数はC2.4C±0.8剤であり,それ以外C55眼の平均緑内障点眼数C2.7C±0.6剤と有意差を認めなかった(p=0.24,unpairedt-test).手術施行による点眼中止がC10眼(POAG2眼,NTG1眼,EXGC5眼,SGC1眼,発達緑内障C1眼),無効と判断され点眼中止となったものがC6眼(POAGC3眼,NTGC1眼,EXG1眼,SGC1眼)であった.手術施行による点眼中止例C10眼の追加前眼圧はC21.1C±4.0mmHg,追加後C1,3,6,9カ月の眼圧はそれぞれC22.0C±7.6CmmHg(10眼),17.2C±2.3CmmHg(5眼),18.0C±3.4CmmHg(4眼),17.0C±5.7CmmHg(2眼)であり,有意な眼圧下降を認めなかった(それぞれCp=0.68,p=0.09,p=0.40,p=0.80,pairedCt-test).無効中止例C6眼の追加前眼圧はC17.3C±2.1CmmHg,追加後C1,3カ月の眼圧はそれぞれC16.2C±2.3CmmHg(6眼),17.5C±2.0CmmHg(4眼)であり,有意な眼圧下降を認めなかった(それぞれCp=0.21,p=0.72,pairedt-test).副作用として眼瞼炎とアレルギー性結膜炎以外の結膜充血がC7/77眼(9%),表層角膜炎については点眼追加前から認めるものがC22/77眼(29%),そのうち点眼追加による悪化がC5/77眼(6%)あったが,いずれも中止となる症例はなく,全身の副作用も認めなかった.CIII考按今回,緑内障点眼加療中の患者に対するリパスジル点眼液の追加投与により,有意な眼圧下降が得られることが示された.平均眼圧下降幅はC2.8CmmHg,平均眼圧下降率はC13.6%であった.これらの結果は,従来の報告4.8)と矛盾しないものであり,多剤併用におけるリパスジル点眼液追加加療の眼圧下降効果が確認できたと考える.眼圧下降率に病型別で有意差を認めなかったことは,今回の研究にあるような病型においては追加点眼でさらなる眼圧下降が得られる可能性があると考えられるが,今回の対象眼には手術既往眼を含むため,病型と眼圧下降効果の正確な評価には多数例での検討を要すると考える.今回の研究で,点眼追加前眼圧と眼圧下降幅に有意な正の相関を認め,追加前眼圧の高いほうがより大きな眼圧下降を得られることが示された.これは過去の報告5,6)と矛盾しないと考える.さらに,今回は年齢と眼圧下降幅に有意な正の相関がみられた.過去にも同様の報告9)がなされているが,これについてはCROCK阻害薬のターゲット細胞としての線維柱帯細胞が減少していない病期や罹患期間を考慮する必要があると考えられ,今後多数例での検討が必要であると考える.リパスジル点眼を追加薬として評価するために,併用薬剤数の影響を検討した.今回C2.4剤の併用薬剤があったが,併用薬剤数別の眼圧下降効果に有意差を認めなかった.リパスジルの点眼追加効果は過去の報告10)同様,併用薬剤数の影響を受けにくいと考えられる.これはリパスジル点眼の新しい眼圧下降機序によるものと考えられ,多剤併用下における追加点眼として選択薬の一つとなりうることを示すと考える.今回の研究で点眼継続が中止となった有害事象は眼瞼炎とアレルギー性結膜炎であり,すべてリパスジル点眼の中止と眼局所加療によって軽快が得られた.その発現率はC16%であり,過去の報告4)と同様であった.発現時期はC1.12カ月とばらつきがあったが,点眼追加後C1カ月で眼瞼炎が発症した症例以外はC6カ月後以降の発症であった.過去の報告において,点眼追加後C3カ月の経過観察では眼瞼炎やアレルギー性結膜炎の発症による中止例は少なく5.8),点眼追加後C8週以降での発症が多いとする報告4)があることから,今回の研究のようにアレルギー性結膜炎や眼瞼炎は追加C6カ月後以降も発症し,眼瞼炎においてはC12カ月後も発症する傾向にあり,長期使用において念頭に置くべき副作用であると考えられる.また,これら有害事象による点眼中止症例の緑内障点眼数がそれ以外の症例と有意差を認めなかったことは,併用点眼数の多さが眼瞼炎とアレルギー性結膜炎の発症に関連しない可能性を示唆すると考えられた.有害事象の発現は診療時間内の他覚所見で判断したため,もっとも多いと考えられる一過性結膜充血に関しては評価できなかった.今回の充血症例は持続充血であると考えられ,過去の報告4,6)より少なく正確に評価できていない可能性があるが,充血による継続中止例は認めなかった.角膜上皮障害については,すでに多剤併用療法による角膜炎がみられたものの悪化症例については過去の報告5)と同様であり,角膜炎悪化による点眼中止症例はなく,多剤併用症例にも追加可能であると考えられた.今回点眼継続例と途中中止例に分類して検討したため,12カ月以上点眼が継続できたのは全体のC51%と約半数であったが,これは併用薬剤数が多く手術加療を検討しているような症例にリパスジル点眼液が追加されたことが要因の一つであると考えられる.つまり経過中の手術施行による点眼中止と炭酸脱水酵素阻害薬の内服追加による継続例からの除外をC16眼(21%)に認めた.手術施行以外に効果不十分・無効として中止となったものはC6眼(8%)であったが,手術介入の時期を含めこれらは主治医の判断によるものであり,点眼効果不十分の判断,点眼継続と中止の基準において評価判定が統一されていなかったため,無効例の検討については今後多数例での検証が必要であると考えられる.本研究は後ろ向き研究であり,その性質上結果の解釈には注意を要する.継続例と中止例の判断,有害事象発現率については上記のように正確に評価されていない可能性があるが,今回の検討では新たな眼圧下降機序をもつリパスジル点眼液の追加投与によって,多剤併用においてもさらなる眼圧下降が得られる可能性があると考えられた.CIV結論リパスジル点眼液は多剤併用中でも追加投与によってさらなる眼圧下降を得る可能性のある薬剤であると考えられた.有害事象は眼局所であり重篤なものはなかったが,長期にわたりその発現に注意すべきと考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:E.ectofrho-asso-ciatedCproteinCkinaseCinhibitorCY-27632ConCintraocularCpressureCandCout.owCfacility.CInvestCOphthalomolCVisCSciC42:137-144,C20012)KogaCT,CKogaCT,CAwaiCMCetCal:Rho-associatedCproteinCkinaseCinhibitor,CY-27632,CinducesCalterationCinCadhesion,CcontractionCandCmobilityCinCculturedChumanCtrabecularCmeshworkcells.ExpEyeResC82:362-370,C20063)InoueT,TaniharaH:Rho-associatedkinaseinhibitors:anovelCglaucomaCtherapy.CProgCRetinCEyeCResC37:1-12,C20134)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:One-yearclini-calCevaluationCofC0.4%Cripasudil(K-115)inCpatientsCwithCopen-angleCglaucomaCandCocularChypertention.CActaCOph-thalmolC94:e26-e34,C20165)中谷雄介,杉山和久:プロスタグランジン薬,Cbブロッカー,炭酸脱水酵素阻害薬,ブリモニジンのC4剤併用でコントロール不十分な緑内障症例に対するリパスジル点眼液追加処方.あたらしい眼科33:1063-1065,C20166)吉谷栄人,坂田礼,沼賀二郎ほか:緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液の眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科33:1187-1190,C20167)杉山哲也,清水恵美子,中村元ほか:リパスジル点眼液の原発開放隅角緑内障に対する短期成績:眼圧・視神経乳頭血流に対する効果.あたらしい眼科33:1191-1195,C20168)InataniCH,CKobayashiCS,CAnzaiCYCetCal:E.cacyCofCaddi-pilotstudy.ClinDrugInvestigC37:535-539,CDOIC10.1007CtionalCuseCofCripasudil,CaCRho-kinaseCinhibitor,CinCpatientsC/s40261-017-0509-0,C2017withCglaucomaCinadequatelyCcontrolledCunderCmaximumC10)InoueCK,COkayamaCR,CShiokawaCMCetCal:E.cacyCandCmedicaltherapy.JGlaucomaC26:96-100,C2017safetyofaddingripasudiltoexistingtreatmentregiments9)MatsumuraCR,CInoueCT,CMatsumuraCACetCal:E.cacyCofCforCreducingCintraocularCpressure.CIntCOphthalmol:DOIripasudilasasecond-linemedicationinadditiontoapros-10.1007/s10792-016-0427-9,C2017taglandinCanalogCinCpatientsCwithCexfoliationCglaucoma:aC***

β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌による結膜下膿瘍の1例

2018年5月31日 木曜日

《第54回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科35(5):679.683,2018cb-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌による結膜下膿瘍の1例渡部美和子*1,2庄司純*1稲田紀子*1山上聡*1*1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野*2東京女子医科大学糖尿病センター眼科CAdultCaseofSubconjunctivalAbscessCausedbyb-lactamaseNon-producingAmpicillin-resistantHaemophilusin.uenzaeCMiwakoWatanabe1,2)C,JunShoji1),NorikoInada1)andSatoruYamagami1)1)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NihonUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofDiabeticOphthalmology,DiabetesCenter,TokyoWomen’sMedicalUniversity目的:b-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR)による結膜下膿瘍の成人例の症例報告.症例:症例はC41歳,男性で,右眼の異物感および眼脂を主訴に,遷延化した難治性結膜炎として当院紹介受診となった.初診時,右外眼角部に排膿を伴う肉芽腫様隆起性病変を認め,膿と眼脂の細菌分離培養結果からそれぞれBLNARが検出された.頭部CMRI検査では,外眼筋付着部付近に膿瘍を認めたため,BLNARによる結膜下膿瘍と診断した.薬剤感受性試験結果を基にセフメノキシムまたはモキシフロキサシン点眼,オフロキサシン眼軟膏,およびセフポドキシムプロキセチル内服により治療を行ったところ,6カ月後に排膿は消失し,膿瘍も縮小した.結論:耐性インフルエンザ菌が原因で成人に発症したまれな結膜下膿瘍を経験した.本症例の診断には画像検査が有用であり,治療には薬剤感受性試験結果に基づく治療薬選択が重要であった.CPurpose:Wereportanadultcaseofsubconjunctivalabscesscausedbyb-lactamasenon-producingampicil-lin-resistantCHaemophilusCin.uenzae(BLNAR)C.CCase:AC41-year-oldCmaleCpresentedCtoCourCuniversityCwithCpro-longedCrefractoryCconjunctivitisChavingCforeignCbodyCsensationCandCdischargeCinChisCrightCeye.CAtCtheC.rstCvisit,Ctherewasaprotrudinggranulomatouslesionwithdrainageinrighteye’soutercanthus,andBLNARwasdetectedbybacterialculturetestofdischargeanddrainage,respectively.Inheadmagneticresonanceimaging,anabscesswasCfoundCnearCtheCholdfastCofCtheCextraocularCmuscle,CsoCweCdiagnosedCsubconjunctivalCabscessCcausedCbyCBLNAR.BasedConCdrugCsusceptibilityCtestCresults,CweCtreatedCwithCcefmenoximeCorCmoxi.oxacinCeyedrops,Co.oxacinCeyeCointmentandcefpodoximeproxetiloraladministration,leadingtodisappearanceofpusandreductionofabscessesafterC6Cmonths.CConclusion:HaemophilusCin.uenzaeCcanCdevelopCsubconjunctivalCabscessCinCadults.CInCourCcase,CimagingCexaminationCandCtreatmentCselectionCbasedConCdrugCsusceptibilityCtestingCcontributedCtoCbetterCdiagnosisCandtreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(5):679.683,C2018〕Keywords:インフルエンザ菌,BLNAR(Cb-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌),結膜下膿瘍,難治性結膜炎,涙腺排出管.Haemophilusin.uenzae,BLNAR(Cb-lactamasenon-producingampicillin-resistant)C,subconjunctivalabscess,refractoryconjunctivitis,excretoryductsoflacrimalgland.Cはじめにzae:NTHi)とに分類される.莢膜型は髄膜炎や肺炎などのインフルエンザ菌(HaemophilusCin.uenzae)はグラム陰全身感染症を引き起こしやすく,なかでもインフルエンザ菌性短桿菌であり,菌表面に莢膜多糖を有する莢膜型(a.f型)b型(H.Cin.uenzaeCtypeb:Hib)は侵襲性が高いため,感と型別不能の無莢膜型(nontypeableHaemophilusCin.uen-染予防の観点からCHibワクチンが用いられている.〔別刷請求先〕渡部美和子:〒162-8666東京都新宿区河田町C8-1東京女子医科大学糖尿病センター眼科Reprintrequests:MiwakoWatanabe,DepartmentofDiabeticOphthalmology,DiabetesCenter,TokyoWomen’sMedicalUniversity,8-1Kawada-cho,Shinjuku-ku,Tokyo162-8666,JAPANC眼科領域におけるインフルエンザ菌感染症の代表的疾患は,小児の急性結膜炎や眼窩蜂巣炎であり,その原因菌の大半をCNTHiが占めるといわれている1,2).NTHi感染症に対してCHibワクチンは予防効果をもたず,近年はCb-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(Cb-lactamasenon-producingCampicillin-resistant:BLNAR)をはじめとする耐性菌も増加したことから,眼科領域では治療に難渋するインフルエンザ菌感染症例に遭遇することがある3).今回筆者らは,治癒までに長期間を有し,涙腺排出管膿瘍が疑われたCBLNARによる結膜下膿瘍の成人例を経験したので報告する.C図1初診時の前眼部写真右眼に結膜充血を認める.外眼角部に肉芽腫様隆起性病巣を認め,同部位からの排膿もみられる.図2初診後1カ月の頭部単純MRI画像(FLAIR画像)右眼の外眼筋付着部付近に膿瘍形成を認める(.).I症例患者:41歳,男性.主訴:右眼の充血および眼脂.現病歴:バイク走行中に右眼の異物感を自覚し,同日に右眼の充血・眼脂が出現した.約C6カ月間近医C4施設で抗菌薬点眼を中心とした治療を受けた.前医で施行された眼脂の細菌分離培養検査は,初回検査では菌陰性であったが,1カ月後に再度施行された検査ではインフルエンザ菌が検出された.抗菌薬を中心とした点眼薬治療では症状改善がみられず当院紹介となった.既往歴・家族歴:特記事項なし.初診時所見:右眼の球結膜充血がみられ,結膜.内に眼脂の貯留がみられた.外眼角部には肉芽腫様の隆起病変が存在し,同部位からの排膿がみられた(図1).同日に原因菌を特定するために結膜擦過物および排膿を伴う病変部の膿の細菌分離培養検査を実施し,後日結膜擦過物からCBLNAR少数,膿からCBLNAR少数,黄色ブドウ球菌極小を認めた.表1は初診時の薬剤感受性試験結果である.アンピシリン(ABPC),アンピシリン・スルバクタム(ABPC/SBT)などの第一セフェム系抗菌薬やセファクロム(CCL)などの第二世代セフェム系抗菌薬に対し耐性を示した.一方でセフォタキシム(CTX)などの第三世代セフェム系抗菌薬やレボフロキサシン(LVFX)に対し感受性を示した.経過:治療としては,これまでに使用歴がないゲンタマイシン硫酸塩点眼液C1日C4回,オフロキサシン眼軟膏C1日C1回を初診時に処方した.初診後C2週で症状に変化はなく,薬剤感受性試験結果を基に治療薬をセフメノキシム塩酸塩点眼液とセフポドキシムプロキセチル錠C1日C200Cmg内服へ変更した(内服薬はC5日間投与して中止した).1カ月後には,充血はほとんど変化がなかったが眼脂は減少し,再検した細菌分表1初診時薬剤感受性試験結果抗菌薬MIC(μg/ml)感受性判定CABPC4CRCABPC/SBTC4CRCCCL16CRCCTM32CRCCTXC0.5CSCCDTRPIC0.5CSCCTRXC≦0.25CSCLVFXC≦0.5CSR:耐性S:感受性ABPC:アンピシリン,ABPC/SBT:アンピシリン・スルバクタム,CCL:セファクロム,CTM:セフォチアム,CTX:セフォタキシム,CDTRPI:セフジトレンピボキシル,CTRX:セフトリアキソン,LVFX:レボフロキサシン.図3初診後6カ月の前眼部写真および頭部単純MRI画像(T1W画像)Ca:前眼部写真.外眼角部に肉芽腫様の変化が残存しているが,排膿はなく膿瘍は瘢痕治癒している.Cb:MRI画像では外眼筋付着部の膿瘍は消失している.C離培養検査ではCBLNARが陰性化していた.また,治療と同時進行で感染部位を特定するための画像診断が検討された.初診後C1カ月目に検診で撮影していた頭部単純CMRI画像(図2)を検討したところ,膿瘍は外眼筋付着部付近に限局し,眼窩内には所見を認めなかったため眼窩蜂巣炎や眼瞼膿瘍は否定的であった.初診後C3カ月目では,眼脂,結膜充血ともに軽快傾向であったが,病巣からの排膿は持続していた.膿の細菌分離培養検査ではCBLNARが検出された.また,鼻腔内の常在菌検索を目的とした鼻腔内の細菌分離培養検査を施行したが,BLNARは検出されず,鼻腔由来でないことが確認された.治療は,受診時に病巣マッサージによる排膿を繰り返すとともに,抗菌点眼薬および眼軟膏による治療を継続した.分離されたCBLNARの薬剤感受性試験結果はフルオロキノロン感受性株であったため,点眼薬をモキシフロキサシン塩酸塩点眼液C1日C4回に変更して薬物治療を継続した.眼軟膏は,初診時からのオフロキサシン眼軟膏C1日C1回(就寝前)を継続した.初診後C6カ月目で外眼角部に肉芽組織は残存したが,排膿は消失し,結膜充血は改善した(図3a).結膜.内細菌分離培養結果で菌は陰性化し,MRI画像では膿瘍が軽快していた(図3b)ため治療終了とした.CII考按今回,BLNARが原因菌と考えられる外眼角部の結膜下に膿瘍を形成した成人例を経験した.今回の細菌分離培養検査で,病巣部から排膿している膿および結膜擦過物の両者からBLNARが検出された点から,BLNARを原因菌とする結膜下膿瘍と診断した.BLNARは,Cb-ラクタマーゼを産生せず,ペニシリン結合蛋白(penicillinCbindingCprotein:PBP)そのものが遺伝子変異したインフルエンザ菌の耐性株である.臨床的には,ABPC,ABPC/SBTの他,第二世代セフェム系抗菌薬に耐性であり,CTXに代表される第三世代セフェム系抗菌薬が有効であるとされている.BLNARを原因菌とする外眼部感染症としては小児の急性結膜炎が代表であり,分離されたインフルエンザ菌のなかにCBLNARの占める割合が高いことが指摘されている4).今回のCBLNAR感染症症例は,健康な成人例であったこと,および結膜炎ではなく結膜下膿瘍を形成したことが既報との相違点であり,今回の感染症の特徴であったと考えられた.結膜下膿瘍に関しては,外傷または外眼部手術に続発して発症する例が報告されている5.7).今回の症例は外傷の既往が明確ではなく,手術歴も有しない健康成人であった.また,MRIによる画像診断により外眼筋付着部付近の結膜下に形成された膿瘍であることが明らかとなった.Brooksら8)は,外傷や手術歴のない成人女性に発症したインフルエンザ菌を原因菌とする結膜下膿瘍の症例を報告している.筆者らが経験した症例の臨床所見とCBrooksらの症例との類似点として,外眼角部の結膜下に病変が認められていること,画像診断により外眼筋付着部に膿瘍が形成されていることがあげられるが,両者ともに病変部の病理学的診断ができていないことから,感染部位を特定するには至っていない.また,眼窩隔膜前に膿瘍を形成する疾患としては涙腺膿瘍があり,本症例における鑑別診断として重要と考えられる.Ginatら9)表2本症例と既報との比較BrooksIII(Cornea,2010)Ginatら(JOII,20166:1)本症例症例診断所見画像所見原因菌治療内容経過27歳,女性結膜下膿瘍左)発赤,充血,白い分泌物,流涙左)外窩洞部に膿瘍インフルエンザ菌抗菌薬:点眼・内服(モキシフロキサシン)10日で症状改善60歳,女性涙腺膿瘍右)眼瞼腫脹,疼痛,排膿,上転・外転制限右)眼窩隔膜前蜂巣炎涙腺腫脹,液体貯留黄色ブドウ球菌外科的切開排膿抗菌薬:点眼・内服3週間で症状改善41歳,男性結膜下膿瘍(lacrimalductabscess)右)充血,眼脂,外眼角部肉芽腫様病巣から排膿右)外眼筋付着部レベルに膿瘍インフルエンザ菌本文参照6.7カ月で症状改善肉芽を残し,膿瘍消失は,ブドウ球菌が原因菌である涙腺膿瘍を報告している.本症例,Brooksらの症例およびCGinatらの症例の類似点と相違点を表2に示したが,涙腺膿瘍とするには膿瘍が形成された部位や上眼瞼の所見から否定的であった.一方,涙腺は上眼瞼挙筋の腱で隔てられ,眼窩部涙腺と眼瞼部涙腺とに分かれている.眼窩部涙腺からはC3.5本の排出管が出ており,上円蓋部外側に開口するとされている.また,眼瞼部涙腺の排出管は,上円蓋部から外眼角部にかけて,約C50個の開口部がみられるとされている10,11).本症例では,外眼部に形成された肉芽腫性病変の部位が涙腺排出管の開口部に相当していると考えられ,涙腺排出管の開口部から侵入したインフルエンザ菌により,眼瞼部涙腺の排出管に膿瘍が形成されて拡大することで結膜下膿瘍の所見を呈した可能性が考えられた.しかし,今回のCMRI画像からは,病巣部の明瞭な特定化は困難であり,また外科的処置も行わなかったため,病理学的な面からも病巣部を特定できなかったことから,本症例を結膜下膿瘍と診断した.結膜下または眼窩隔膜前に形成される膿瘍に対する抗菌薬投与は,点眼投与よりも全身投与が重要であると考えられる.既報では,結膜下膿瘍に対して全身投与をC10日間,涙腺膿瘍に対してはC3週間の投与が行われ,有効であったとされている.本症例ではセフポドキシムプロキセチル内服をC5日間投与後に培養結果で菌陰性化を示し,排膿も消失していたため抗菌薬の全身投与を短期間で終了している.しかし,後の細菌分離培養検査ではCBLNARが再検出されている.これらの経過から,セフポドキシムプロキセチル内服と抗菌薬点眼とにより結膜.内のCBLNARの菌量が一時的に減少したため培養陰性を示した可能性も考えられるが,抗菌薬内服を中止したことで残存したCBLNARが再び増加に転じたことを考えると,抗菌薬の全身投与期間が菌の完全消失するのには不十分であったことを示していると考えられた.また,自然排膿がみられていたこと,および経過期間中に結膜下膿瘍の拡大や充血,疼痛などの臨床症状の悪化は認めなかったため,抗菌薬の点滴や内服といったさらなる治療の追加を今回は行わなかった.さらに病変に対する外科的な膿瘍摘出についても当初から検討はしていたが,膿瘍部位が外眼筋付着部付近に位置していたため,医原性の外眼筋筋膜損傷を考慮し,まずは投薬による保存的治療を選択した.今回の症例では,治療にC6.7カ月の期間を要したが,膿瘍が遷延化した背景には,1)膿瘍形成部位,2)耐性菌および3)抗菌薬の種類と投与法の三つの要因があると考えられた.しかし,今回の症例の経過からは,どの要因が病状遷延化の原因であったかを特定することは困難であった.本症例のような結膜下に形成された膿瘍に対し,今回筆者らは眼窩蜂巣炎や眼瞼膿瘍との鑑別のために検討したCMRIなどの画像検査および薬剤感受性試験結果に基づく抗菌薬の局所および全身投与計画を施行した.遷延例に対しては,より病理学的な面からの感染病巣部位診断やドレナージ,膿瘍摘出などの外科的処置を積極的に考慮する必要があったのではないかと筆者らは考えている.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)砂川慶介,竹内百合子,岩田敏:無莢膜型インフルエンザ菌(NTHi)の疫学.感染症誌85:227-237,C20112)石和田稔彦:インフルエンザ菌感染症.小児内科C40(増刊号):1008-1012,C20083)矢野寿一:ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR).小児科臨床12:2467-2471,C20114)SugitaCG,CHotomiCM,CSugitaCRCetCal:GeneticCcharacteris-ticsofHaemophilusin.uenzaeandStreptococcuspneumi-niaeisolatedfromchildrenwithconjunctivitis-otitismediasyndrome.JInfectChemotherC20:497-497,C20145)RionoWP,HidayatAA,RaoNA:Scleritis:aclinicopath-ologicCstudyCofC55Ccases.COphthalmologyC106:1328-1333,C19996)HsiaoCCH,CChenCJJY,CHuangCSCMCetCal:IntrascleralCdis-seminationofinfectiousscleritisfollowingpterygiumexci-sion.BrJOphthalmolC82:29-34,C19987)KivlinCJD,CWilsonCEMCJr:PeriocularCinfectionCafterCstra-bismussurgery.PeriocularInfectionStudyGroup.JPedi-atrOphthalmolStrabismusC32:42-49,C19958)BrooksCCW,CDeMartelaereCSL,CJohnsonCAJ:SpontaneousCsubconjunctivalCabscessCbecauseCofCHaemophilusCinfluen-zae.CorneaC29:833-835,C20109)GinatCDT,CGlassCLR,CYanogaCFCetCal:LacrimalCglandCabscessCpresentingCwithCpreseptalCcellulitisCdepictedConCCT.JOphthalmicIn.ammInfectC6:1,C201610)RauberAA,KopschF,小川鼎三(訳):人体解剖学Raub-er-KopschCLehrbuchCundCAtlasCderCAnatomieCdesCMen-schen.第CII巻,VI-III:p630-658,医学書院,195811)BronAJ:Lacrimalstreams:thedemonstrationofhumanlacrimalC.uidCsecretionCandCtheClacrimalCductules.CBrJOphthalmolC70:241-245,C1986***

間接的感染が考えられた成人の睫毛ケジラミ症

2018年5月31日 木曜日

《第54回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科35(5):676.678,2018c間接的感染が考えられた成人の睫毛ケジラミ症高山真祐子戸所大輔廣江孝齋藤千真秋山英雄群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学CAdultCasesofPhthiriasisPalpebrarumCausedbyIndirectTransmissionMayukoTakayama,DaisukeTodokoro,TakashiHiroe,KazumaSaitoandHideoAkiyamaCDepartmentofOphthalmology,GunmaUniversityGraduateSchoolofMedicineケジラミはおもに陰毛に寄生し性感染症(STD)の一つにあげられているが,まれに睫毛に寄生し睫毛ケジラミ症を発症することがある.国内での睫毛ケジラミ症は小児例が報告されているが,成人例の報告は少ない.今回,明らかな性交渉歴やCSTDを認めず間接的感染と考えられた成人の睫毛ケジラミ症を経験した.症例C1はC38歳の女性.主訴は両眼の異物感.両眼上眼瞼睫毛根部にケジラミの虫体,卵を認めた.同日中に摘出し,その後再発なく経過した.症例C2はC69歳の女性.主訴は両眼の掻痒感.両眼上下眼瞼睫毛根部にケジラミの虫体,卵を多数認め,摘出を行った.同日に皮膚科へ紹介し,頭髪に多数の虫卵を指摘された.3日後,少数の虫体,卵の再発を認め,再度摘出を行った.その後症状は改善し,再発なく経過した.両症例とも近日中の性交渉歴やCSTDの既往はなかった.Phthiriasispubisisoneofthesexuallytransmitteddiseases(STD)causedbyinfestationofPhthiruspubis(alsocalledcrablouse).However,itrarelyinfestseyelashesandcausesphthiriasispalpebrarum.Phthiriasispalpebrarumismainlyseeninchildren;adultcasesarerare.Here,wedescribenon-STDadultcasesofphthiriasispalpebrarumcausedbyindirecttransmission.A38-year-oldfemale(Case1)complainedofforeignbodysensationinbotheyes.Afewliceandeggswereobservedonheruppereyelashes.Afterremoval,hercomplaintimproved.A69-year-oldfemale(Case2)su.ereditchinginbotheyes.AnumberofliceandeggswerepresentonheruppereyelashesandinCfrontalChair.CAfterCtheirCrepeatedCremoval,CherCcomplaintCimproved.CThereCwereCnoCsexualCepisodesCinCeitherCcase.CWhenCadultCcasesCofCphthiriasisCpalpebrarumCareCdiagnosed,CnotConlyCSTD,CbutCalsoCindirectCtransmissionCshouldbeconsidered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(5):676.678,C2018〕Keywords:睫毛ケジラミ症,ケジラミ,性感染症.phthiriasispalpebrarum,Phthiruspubis,STD.Cはじめにケジラミ症は,吸血性昆虫であるケジラミが寄生することにより発症し,おもに性行為によって感染するため,性行為感染症(sexuallytransmitteddiseases:STD)の一つにあげられている1).おもな寄生部位は陰毛だが,まれに睫毛への寄生も報告されている2).睫毛ケジラミ症の好発年齢は小児であり,多くが母子間の感染である.睫毛ケジラミ症の成人例は少なく,中高齢者にはあまり認めないとされている3).今回,明らかな性交渉歴がなく,間接的感染と考えられた成人の睫毛ケジラミ症をC2例経験した.CI症例〔症例1〕38歳,女性.初診:2015年C8月.主訴:両眼の異物感.家族歴,既往歴:特記すべきことなし.現病歴:両眼の異物感を自覚し,翌日に近医を受診した.左の睫毛に卵のようなものがあり,精査のため群馬大学病院(以下,当院)へ紹介となった.生活歴:近日中の性交渉なし.海外渡航歴なし.症状出現前にマッサージに行っており,店のタオルを目の上に乗せて施術を受けた.〔別刷請求先〕高山真祐子:〒371-8511群馬県前橋市昭和町C3-39-15群馬大学眼科学教室Reprintrequests:MayukoTakayama,DepartmentofOphthalmology,GunmaUniversityGraduateSchoolofMedicine,3-39-15Showa-machi,Maebashi,Gunma371-8511,JAPAN676(112)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(112)C6760910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1症例1の左上眼瞼睫毛根に虫卵と虫体が観察される.図3症例2の左上眼瞼多数の虫体と虫卵が皮膚に張り付くように存在している.初診時所見および経過:初診時,両上眼瞼の睫毛根部に点状の皮膚出血,虫体の血糞の付着,睫毛に強固に付着する半透明の虫卵,睫毛根部に虫体を確認した(図1).矯正視力は両眼ともC1.2,眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C14CmmHgだった.前眼部,中間透光体,眼底に異常はなかった.外来処置室で虫卵の付着した睫毛を切除後,数匹の虫体を摘出した(図2).受診からC7日後,違物感は改善しており,虫卵,虫体の再発はなかった.〔症例2〕69歳,女性.初診:2016年C10月.主訴:両眼の掻痒感.家族歴,既往歴:右眼は白内障手術後.他に特記すべきことなし.現病歴:2016年C10月上旬から両眼の掻痒感を自覚,改善しないためC2週間後に近医を受診した.両上眼瞼の睫毛に黄色い内容物を伴う虫卵および虫体を認め,精査のため当院へ図2症例1より摘出したケジラミの虫体大きさは約C1Cmmである.図4症例2より摘出したケジラミの虫体脚で睫毛にしがみついている場合は睫毛ごと切除する必要がある.紹介となった.生活歴:近日中の性交渉なし.海外渡航歴なし.症状出現前に一人暮らしの息子宅の掃除に行った.初診時所見および経過:両上下眼瞼に点状の皮膚出血,虫体の血糞の付着,上下睫毛根部に多数の半透明の虫卵の付着,睫毛根部に張りつく多数の虫体を確認した(図3).矯正視力は右眼C1.2,左眼C0.5,両眼とも前眼部に異常はなく,右眼は眼内レンズ挿入眼,左眼は後.下白内障を認めた.外来処置室で虫卵の付着した睫毛を切除後,縫合鑷子を用いて張りつく虫体を.ぐように摘出し,計C26匹の虫体を摘出した(図4).同日,皮膚科も受診し,前頭部を中心とする頭髪に多数の虫卵の付着を認めた.陰毛はほぼ欠落しておりケジラミの寄生は確認できず,頭部ケジラミ症の診断のもとスミスリンローションRを用いて治療を開始した.受診からC3日後,痒みの自覚症状は消失したものの,両上下睫毛に新たな皮膚出血,血糞の付着,虫卵および虫体の再発を認めた.外(113)あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018C677来処置室で再度摘出を行い,計C14匹摘出した.受診からC7日後とC10日後は虫卵,虫体の再発がなく経過した.CII考按人体に寄生するシラミ類は,ケジラミ,アタマジラミ,コロモジラミに分類される.ケジラミは約C1週間で孵化し,吸血を始める.雌はC1日C1.4個産卵し,一生の産卵総数はC30.40個,寿命は約C1カ月である.大きさはC1Cmm前後,幅が広く,蟹のような前脚と爪をもつためCcrabClouseとよばれている.寄生部位は陰毛,腋毛で,まれに脛毛,胸毛,頭髪(とくに小児),眉毛,睫毛につくことがある4,5).ケジラミが睫毛に寄生する理由としては,ケジラミは本来アポクリン腺の臭気を好み寄生するが,マイボーム腺がアポクリン腺と類似した構造をもつため眼瞼にも寄生するといわれている4).アタマジラミとコロモジラミは形態的に似ているため分類は不可能であり,髪の毛に寄生しているか,衣類に寄生しているかといった生態による区分が分類の限界とされている.色はやや褐色がかっており,大きさはC2.4Cmm前後,縦に細長い形をしている.アタマジラミはまれに眉毛に寄生するが,睫毛には寄生しない.コロモジラミは衣服や下着の縫い目に卵を産み,皮膚上を移動して吸血する6).したがって睫毛にシラミの寄生をみた場合は,ケジラミである可能性が高いと考えられる.シラミの治療については,陰毛や頭髪に寄生した場合は0.4%フェノトリン粉剤を隔日で塗布または洗髪することにより除虫する.しかし,フェニトリン粉剤は睫毛使用での安全性は確立されていない.添付文書には目に入らないよう注意との記載があり,薬剤の刺激が強く,角膜炎,眼瞼炎などを引き起こす可能性がある.よって,睫毛ケジラミ症の治療の基本は虫体・虫卵の摘出である.卵は粘着性の強い膠質で毛に付着しているため,睫毛から除去することは困難であり,睫毛ごと切除を行う.残存した虫卵が孵化し再発することがあるため,週C2回程度は再発が確認できなくなるまで繰り返し施行する必要がある.海外での報告では,1%水溶性マラチオンを塗布した症例も報告されている7).また,イベルメクチンの内服薬はダニやシラミに効果があることがわかってきており,海外では,睫毛ケジラミ症に対してイベルメクチン内服の治療効果が報告されている8).わが国において現在はイベルメクチンの保険適用は糞線虫症と疥癬症のみであるが,今後,局所療法での治療抵抗例などに対して適用拡大が期待される.国内での睫毛ケジラミ症の報告はC4歳以下の幼児に多い.理由としては,幼児は成人に比べ発汗,流涙によってある程度の睫毛部の湿度が保たれているため,ケジラミが寄生しやすい環境であることと,幼児は顔を枕やベッドに伏せて寝ていることが多く,その際に寝具に存在していたケジラミが睫毛に寄生する可能性があるからと考えられている9).接触の密な親子間,とくに母子間での感染も多いとの報告もある10).まれに成人の睫毛ケジラミ症を経験することがあり,その患者の多くがCSTDによる感染,または他のCSTDを合併している11).このことから,成人例を診た場合は,患者だけではなく配偶者やパートナー,生活背景についての問診を行うことが重要であり,これによりピンポン現象を防止するきっかけにもなると考えられる.しかし,今回のC2症例は,近日中の明らかな性交渉歴や他にCSTDは認めなかった.症例C1は発症時期からマッサージ店で使用したタオルが感染源として疑わしく,症例C2では発症前に行った掃除の際に寝具などから間接的にケジラミに感染した可能性が考えられる.ヒトから離れたケジラミはC9.44時間は生存可能であるため,生存期間内であれば間接的に感染することはありうる.成人の睫毛ケジラミ症に遭遇した場合,STDとしての感染経路(直接感染)以外ににも,タオルや寝具などを介した間接的感染経路の可能性もありうることが示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)清田浩,石地尚興,岸本寿男ほか:性感染症診断・治療ガイドラインC2016.日本性感染症学会誌27:4-170,C20162)雑賀可珠也,山中修,岡田由香ほか:眼瞼ケジラミ症の3例.臨眼55:1498-1499,C20013)中村聡,秦野寛:睫毛ケジラミ症.臨眼C46:913-914,C19924)小門正英:眼瞼ケジラミ症.眼科58:1077-1082,C20165)森下哲夫,加納六郎,田中寛:新寄生虫病学第C10版.p239-240,南山堂,19846)富田靖,橋本隆,岩月啓氏ほか:標準皮膚科学第C10版.p461-463,医学書院,20137)RundlePA,HughesDS:PhthiruspubisCinfestationoftheeyelids.BrJOphthalmolC77:815-816,C19938)BurkhartCCN,CBurkhartCCG:OralCivermectinCtherapyCforCphthiriasisCpalpebrum.CArchCOphthalmolC118:134-135,C20009)荻野哲男,竹田宗泰,今泉寛子ほか:幼児における睫毛ケジラミ摘出のC2例.眼科手術19:423-425,C200610)上敬宏,方倉聖基,向井聖ほか:睫毛切除が有効であった小児睫毛ケジラミ症のC4例.眼科48:1293-1296,C200611)井内足輔,白石久子,志和健吉:眼瞼毛じらみ症の青年例.眼臨紀1:752-754,C2008***(114)

眼症状を契機にヒト免疫不全ウイルス感染が判明したサイトメガロウイルス網膜炎の1例

2018年5月31日 木曜日

《第54回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科35(5):671.675,2018c眼症状を契機にヒト免疫不全ウイルス感染が判明したサイトメガロウイルス網膜炎の1例古川達也*1岩見久司*1細谷友雅*1夏秋優*2日笠聡*3五味文*1*1兵庫医科大学眼科学教室*2兵庫医科大学皮膚科学教室*3兵庫医科大学内科学講座血液内科CACaseofCytomegalovirusRetinitisCausedbyHumanImmunode.ciencyVirusInfection,withOcularSymptomsTatsuyaFurukawa1),HisashiIwami1),YukaHosotani1),MasaruNatsuaki2),SatoshiHigasa3)andFumiGomi1)1)DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,2)DepartmentofDermatology,HyogoCollegeofMedicine,3)DepartmentofHematologyandClinicalOncology,HyogoCollegeofMedicine緒言:原因不明のぶどう膜炎患者の経過観察中にCAIDSが判明したことで,サイトメガロウイルス(CMV)網膜炎と診断されたC1例を経験したので報告する.症例:67歳,男性.3週前からの右眼充血と眼痛で紹介受診.矯正視力右眼(0.7),左眼(1.0).右眼に角膜後面沈着物,前房内細胞を認めたが,眼底は軽度の滲出性変化のみであった.一般採血で異常なく,ツベルクリン反応陰性.前額部に皮疹があり,皮膚生検と胸部CX線検査を行ったが,サルコイドーシスは否定された.その後網膜炎が増悪し,トリアムシノロンCTenon.下注射を行ったが眼底所見はさらに増悪.皮膚科で口腔カンジダ症から免疫不全を疑い,HIV抗原抗体陽性,CD4陽性リンパ球減少を認めCAIDSと診断された.血中Cantigenemia法と前房水CPCRからCCMV網膜炎と確定診断した.結論:原因不明のぶどう膜炎は,潜在する免疫不全の可能性も念頭に置いて,HIV感染を含めた精査を進める必要がある.CA67-year-oldmalewasreferredtoourhospitalwithchiefcomplaintofhyperemiaandmildpaininhisrighteyelastingmorethan3weeks.Best-correctedvisualacuityoftheeyewas0.7;cellsintheanteriorchamberwithkeraticprecipitates(KPs)wereobserved.FluoresceinangiographyshowedmildvasculitisintheperipheralretinainCtheCrightCeye,CbutCthereCwereCnoCapparentCchangesCinCtheCleftCeye.CGeneralCbloodCcollectionCwasCwithinCnormalCrangeCandCtuberculinCskinCtestCwasCnegative.CSubtenon’sCtriamcinoloneCacetonidCinjectionCwasCperformedCdueCtoCincreasingCretinalCvasculitis,CbutCtheCconditionCworsened.CDermatologistsCsuspectedCimmunode.ciencyConCtheCbasisofCoralCcandidiasis;HIVCantigenCantibody-positiveCandCCD4-positiveClymphocyteCreductionCwasCrevealed.CAIDS-associatedCcytomegalovirus(CMV)infectionCwasCcon.rmedCfromCCMVCantigenemiaCandCPCRCexaminationCofCtheCanteriorCchamberC.uid.CToCavoidCseriousCprogression,CtheCpossibilityCofCimmunode.ciencyCbackgroundCshouldCbeCexcludedinthetreatmentofuveitisofuncertainorigin.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(5):671.675,C2018〕Keywords:サイトメガロウイルス網膜炎,AIDS,HIV,ぶどう膜炎,サルコイドーシス.cytomegalovirusreti-nitis,acquiredimmunode.ciencysyndrome(AIDS),humanimmunode.ciencyvirus(HIV)C,uveitis,sarcoidosis.Cはじめにわが国のヒト免疫不全ウイルス(humanCimmunodeficien-cyCvirus:HIV)感染者数および後天性免疫不全症候群(acquiredCimmunode.ciencyCsyndrome:AIDS)発症患者数は,2007年以降,合わせて年間C1,000件を超えている1).このうちCHIV感染に気づかずに,突然免疫不全症状を発症しCAIDSと診断される,いわゆる「いきなりCAIDS」患者の割合が高まっており,約C3割を占めている.他の先進国では新規CAIDS患者の割合は減少傾向にあるのに対し,わが国で増加している理由として,保健所や自治体,あるいは医療機関で自発的にCHIV検査を受ける割合が少ないことがあげられる.〔別刷請求先〕古川達也:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町C1-1兵庫医科大学眼科学教室Reprintrequests:TatsuyaFurukawa,DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,1-1Mukogawa-cho,Nishinomiya-shi,Hyogo663-8501,JAPAN図1初診時の前眼部細隙灯顕微鏡写真結膜毛様充血,少量のCsmallwhiteKPs,前房内細胞を認める.AIDSの診断基準を満たす指標疾患はC23疾患あるが,このうち日本国籍CAIDS患者にもっとも多くみられるのはニューモシスティス肺炎で,ついでカンジダ症,サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)感染症となっている1).なかでもCCMV網膜炎はCCMV感染症のなかでもっとも多くみられる代表的な疾患である.今回,原因不明のぶどう膜炎患者の経過観察中にCAIDSが判明したことで,CMV網膜炎と診断されたC1例を経験したので報告する.CI症例患者:67歳,男性.主訴:右眼の充血と眼痛.既往歴:梅毒.現病歴:3週前から右眼の充血と眼痛を自覚し,近医を受診.ぶどう膜炎を疑われ,ベタメタゾン点眼が処方されたが改善を認めず,兵庫医科大学病院眼科を紹介受診.初診時所見:視力は右眼(0.7C×sph.3.00D(cyl.1.25D図2右眼眼底写真および眼底造影写真a:初診時眼底写真.アーケード血管外の網膜血管周囲にわずかに滲出性変化がみられる(▽).Cb:初診時CFA写真.同部位の血管透過性亢進を認める(▽).Cc:7週後眼底写真.下方網膜血管炎の増悪を認める(▽).Cd:9週後インドシアニングリーン蛍光眼底造影写真.脈絡膜循環障害と思われる低蛍光を認める(▽).CAx100°),左眼(1.0C×sph.3.00D(cyl.2.00DAx90°),眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C17CmmHgであった.細隙灯顕微鏡検査では,右眼に結膜毛様充血,少量のCsmallCwhitekeraticCprecipitates(KPs),前房内細胞を認めた(図1).右眼眼底の視神経乳頭下方,アーケード血管外の網膜血管周囲にわずかに滲出性変化(図2a)がみられ,フルオレセイン蛍光眼底造影(.uoresceinCangiography:FA)では同部位の血管透過性亢進を認めた(図2b).左眼には異常を認めなかった.全身所見:前額部と四肢に紅斑を認めたが,全身症状はなかった.胸部CX線検査では特記すべき異常所見はなかった.血液検査結果は白血球数C4,400/μl,赤血球数C381C×104/μl,ヘモグロビンC11.4Cg/dl,ヘマトクリットC36.0%,血小板数C21.6×104/μl,CRPC0.27,総蛋白C8.3Cg/dl,アルブミンC3.6g/dl,総ビリルビンC0.4Cmg/dl,AST19CU/l,ALT13CU/l,LDHC256CU/l,アルカリホスファターゼC329CU/l,クレアチンキナーゼC54CU/l,尿素窒素C13Cmg/dl,クレアチニンC0.72mg/dl,ナトリウムC140Cmmol/l,カリウムC4.00Cmmol/l,赤沈(1Ch)102Cmm,梅毒トレポネーマ(TP)抗体陽性,梅毒脂質抗原(RPR)陰性,補体C60以上,抗核抗体C40倍,リウマチ因子陰性,IgGC2,264Cmg/dl,IgAC819Cmg/dl,IgM83mg/dl,アンギオテンシン変換酵素C6.7,HTLV-1抗原陰性,HBs抗原陰性,HBs抗体陰性,HCV陰性であり,血算,生a化学所見に有意な異常所見は認めなかった.ツベルクリン反応は陰性であった.経過:smallwhiteKPs,前房内炎症,眼底の網膜血管周囲の滲出斑などの眼科所見と,皮疹の存在,ツベルクリン反応陰転化からサルコイドーシスを疑った.皮膚科で皮疹の皮膚生検を施行したが,病理所見ではリンパ球浸潤のみであり特徴的な類上皮肉芽腫を認めず,紅斑は皮膚科で慢性湿疹ないしアレルギー性皮膚炎と診断され,この時点でサルコイドーシスは否定された.初診時からC7週後,ベタメタゾン点眼継続により前眼部炎症は改善傾向だったが,眼底下方の網膜滲出斑の拡大(図2c)と,右眼矯正視力(0.5)と低下を認めた.眼底所見からCMV網膜炎の可能性も考えられたが,全身状態良好であり基礎疾患もないことからこの時点では否定的と考え,原因不明のぶどう膜炎として,トリアムシノロンCTenon.下注射(40Cmg)を施行した.9週後(注射C2週後),右眼の視力低下はなかったが,網膜血管周囲の滲出性変化の拡大と網膜出血の出現を認めた.FAでは下方網膜を中心に網膜色素上皮および静脈からの色素漏出を認め,インドシアニングリーン蛍光眼底造影(indocyanineCgreenCangiography:IA)でもCFAでの漏出に一致し,脈絡膜循環障害と思われる低蛍光を認めた(図2d).眼底所見の悪化と同時期に口腔内白苔の出現を皮膚科で指b図3眼底写真および光干渉断層計像a:抗ウイルス治療開始C3週後.網膜動静脈血管炎は改善したが網膜.離を認める.Cb:硝子体手術C8週後.シリコーンオイル下に網膜は復位し,血管炎も改善しているが,中心窩には網膜下液が残存している.CCD4リンパ球数121620242832343640初診より経過時間CMV網脈絡膜炎再発図4抗HIV療法開始後のCD4リンパ球数の推移抗CHIV療法開始後CCD4リンパ球の増加を認めるが,網脈絡膜炎の再発時に明らかな急増は認めない.C摘され,同部位の培養からCCandidaCalbicansが検出された.免疫不全状態が疑われ,免疫電気泳動検査にてCgグロブリンの上昇,HIV抗原・抗体陽性,かつCCD4リンパ球がC18.82/μlと著明な減少を認めたことよりCAIDSと診断された.免疫低下を鑑みて,改めてCCMV網膜炎を疑い,前房水を採取してウイルスCDNAをCpolymeraseCchainCreaction(PCR)法で測定した結果,CMVCDNAが検出され,採血にて血中CMVantigenemiaが陽性でありCCMV網膜炎と確定診断した.また,今回のCCMV網膜炎はCIAで脈絡膜の循環障害を顕著に認めたことから,脈絡膜炎も伴う網脈絡膜炎と診断した.診断後速やかにバルガンシクロビルC900Cmg/日内服とガンシクロビル硝子体注射をC4日ごとに計C8回施行(1回C2Cmgを週C2回)施行した.抗ウイルス治療開始C1週(初診時よりC12週)では眼底所見にほとんど変化は認めなかったが,徐々に滲出性変化の改善があり,抗ウイルス治療開始C8週(初診時より約C20週)には網脈絡膜炎の鎮静化を認めた.しかしながら,脈絡膜炎を伴う網膜全層の炎症をきたしていたことから,下方の網膜に強い萎縮とその病変内に裂孔が生じ,網膜.離が発生したことから(図3a),硝子体手術(phacoemulsi.cationCandCaspiration+parsCplanaCvitrectomy+siliconeCoil充.)を施行した(図3b).硝子体手術後C8週(初診時より約C30週)ではシリコーンオイル充.下で再.離を認めず,病態が安定していたため,血中CCMVantigenemiaが陰性になった時点で血液内科から処方されていたバルガンシクロビルの内服が中止となった.しかしながら,術後C12週(初診時より約C34週)で右眼視神経乳頭鼻側とアーケード血管耳上側に網脈絡膜炎の再発を認めた.HIV感染症に対しては血液内科にて診断後より抗CHIV療法を開始し,血中CCD4リンパ球の回復を認めており,このときの血中CCMVantigenemiaは陰性を維持していたが,網脈絡膜炎再発時にはCCD4リンパ球の急激な上昇は認めなかったことから(図4),免疫回復ぶどう膜炎(immuneCrecoveryCuveitis:IRU)の発症ではなく,CMV網膜炎の再燃と考え,再度バルガンシクロビルC1,800Cmg/日の内服を行い,網脈絡膜炎は消退した.CII考按HIV感染患者およびCAIDS患者では死を迎えるまで約C30%の確率でCCMV網膜炎が生じるとされており2),UnitedCStatesCPublicCHealthCServiceCandCInfectiousCDiseasesCSoci-etyCofCAmerica(USPHS/IDSA)によるガイドラインでは,CMV網膜炎はCAIDS患者のCCMV臓器感染症のなかで腸炎や脳炎と同様に頻度の高い臨床病状といわれている.現在ではCHIV感染者に対する多剤併用療法(highlyCactiveCanti-retroviralCtherapy:HAART)が治療として行われるようになったことにより,AIDSの発生頻度はC1980年代と比べ1/4.1/5程度に減っている3).しかしながら,HIV感染を知らない「いきなりCAIDS」患者の増加に伴い,CMV網膜炎も眼科医が初診で出会う機会が多くなっている可能性がある.わが国では成人の約C80.90%は幼少期にCCMVの不顕性感染を起こしているといわれており4),AIDS患者以外でも白血病,自己免疫疾患,臓器移植後の免疫低下時,糖尿病を基礎疾患にもつ免疫正常者や高齢者,内眼手術やステロイド局所注射などでもCCMV網膜炎を発症すると報告されている5.7).しかし,CMV網膜炎は,眼科初診で免疫不全を指摘されていない患者では診断がむずかしく,治療が遅れることがある.CMV網膜炎は網膜全層の滲出と壊死を主体とし,前眼部や硝子体の炎症所見に乏しいといわれている.本症例では初診時には,片眼性の前眼部炎症所見が主体で網膜病変は軽微であり,一般的なCCMV網膜炎とは臨床像が異なっていた.吉永らは免疫正常者に発症するCCMV網膜炎は,免疫能が正常であるため,IRU様の反応が起こり,虹彩炎,硝子体混濁などの炎症所見が多く認められ,通常のCCMV網膜炎と臨床症状が異なると述べている8).本症例は免疫不全患者であったが,初診時の眼所見は免疫正常者のCCMV網膜炎所見に類似しており,免疫能がまだ比較的保たれていた可能性がある.眼底所見の進行により,一度はCCMV網膜炎を疑ったが,一般採血では免疫異常を看破できず,前眼部所見,ツベルクリン反応陰転化と前額部の皮疹所見からサルコイドーシスを疑った.そこでトリアムシノロンのCTenon.下注射を施行したことで局所免疫能を急激に低下させ,典型的なCMV網膜炎としての進行を促進させたと考えられる.皮膚生検でサルコイドーシスが否定された時点で,片眼性であることと特徴的な眼底所見から,改めてCCMV網膜炎の可能性を再検討すべきであったであろう.CMV網膜炎の診断には,前房水内ウイルスCDNAの検索や採血項目の追加による全身再評価が必要である.CMV網膜炎の治療はCHIV陽性,陰性にかかわらず抗ウイルス薬の全身投与が推奨される.これは全身状態の改善につながるうえに,患者のC3/4近くが治療後に視力回復を認めるといわれているからである9).本症例の経験により,わが国での「いきなりCAIDS」患者増加の実態が垣間みえた.AIDS治療薬開発などのニュースによりCHIV感染への危機感が以前より少なくなり,それがHIV検査受検率の低さ10)につながっている可能性も考えられる.原因不明のぶどう膜炎,とくに網膜炎をみた場合には,それがCCMV網膜炎である可能性も念頭に置いて,HIV感染を含めた潜在する免疫不全の有無の精査を進める必要があると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)厚生労働省エイズ動向委員会:平成C27年エイズ発生動向年報.(AvailableCat:http://api-net.jfap.or.jp/status/2015/15nenpo/15nenpo_menu.html)2)JabsCDA,CVanCNattaCML,CKempenCJHCetCal:Characteris-ticsofpatientswithcytomegalovirusretinitisintheeraofhighlyCactiveCantiretroviralCtherapy.CAmCJCOphthalmolC133:48-61,C20023)JabsCDA:AIDSCandCophthalmology.CArchCOphthalmolC126:1143-1146,C20084)八代成子:サイトメガロウイルス網膜炎.眼科C49:1189-1198,C20075)SaidelMA,BerreenJ,MargolisTP:Cytomegalovirusret-initisCafterCintravitreousCtriamcinoloneCinCanCimmunocom-petentpatient.AmJOphthalmolC140:1141-1143,C20156)KarkhanehCR,CLashayCA,CAhmadrajiCA:Cytomegalovirusretinitisinanimmunocompetentpatient:Acasereport.JCurrOphthalmolC28:93-95,C20167)DownesKM,TarasewiczD,WeisbergLJetal:Goodsyn-dromeCandCotherCcausesCofCcytomegalovirusCretinitisCinCHIV-negativeCpatients─caseCreportCandCcomprehensiveCreviewoftheliterature.JOphthalmicIn.ammInfectC6:3,doi:10.1186/s12348-016-0070-7.CEpubC20168)吉永和歌子,水島由香,棈松徳子ほか:免疫正常者に発症したサイトメガロウイルス網膜炎.日眼会誌C112:684-687,C20089)JabsCDA,CAhujaCA,CVanCNattaCMLCetCal:Long-termCout-comesCofCcytomegalovirusCretinitisCinCtheCeraCofCmodernantiretroviralCtherapy:ResultsCfromCaCUnitedCStatesCCohort.OphthalmologyC122:1452-1463,C201510)健山正男,比嘉太,藤田次郎:我が国におけるCAIDSの発症動向─「いきなりAIDS」の問題.日本医事新報C4676:C25-30,C2013***

基礎研究コラム 12.眼のメタボリックシンドローム-加齢黄斑変性

2018年5月31日 木曜日

眼のメタボリックシンドローム――加齢黄斑変性安川力網膜色素上皮の生理機能加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegeneration:AMD)の病態解明のためには,網膜色素上皮(retinalCpig-mentCepithelium:RPE)の生理機能を理解しておく必要があります(図1).①視細胞外節は光線暴露の宿命により酸化変性するため,お肌と一緒で常に再生され,古くなった先端(お肌でいうところの垢)をCRPEが貪食しています.貪食にRPEのCCD36,インテグリンCavb5,MerTK,Rac1などが関与しています.②ロドプシンの再生(レチノイドサイクル),③外節を処理してリポ蛋白精製1),④血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)放出により脈絡膜毛細血管保持,⑤CBruch膜リモデリングが行われているようです.外節貪食に関連したCRPEの体積調節機構にBest病の原因遺伝子(bestrophin-1)が関与しているようです.外節形成の必須蛋白であるCperipherin-2の異常においてもCBest病に似た病態を示しうることは興味深い状況証拠です.そのほか,AMDの類縁疾患の原因蛋白もこの一連の機能に関連しています.網膜色素上皮の加齢変化光線暴露の影響はお肌と一緒で,RPEにも加齢変化が生名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学じます(図1).①CRPE内へのリポフスチン蓄積に始まり,②C30歳ぐらいからCRPE直下に脂質沈着を認め,加齢とともに肥厚します2).③脂質は過酸化し酸化ストレスの根源となり,RPEの障害,接着障害,軟性ドルーゼンなどのCAMD前駆病変が出現し,脂質の沈着がCVEGF透過を妨げ3),おそらく代償性に発現亢進が起こってCAMD発症の準備が整ってきます.④CRPE萎縮の要素と脂質沈着によるCVEGFの発現亢進量のバランスで,中心性漿液性脈絡網膜症(centralserouschorioretinopathy:CSC),滲出型CAMDの各種病型,地図状萎縮(geographicatrophy:GA)といったさまざまな病態を引き起こすと考えられます.文献1)SatoCR,CYasukawaCT,CKaczaCJCetCal:Three-dimensionalCspheroidalCcultureCvisualizationCofCmembranogenesisCofCBruch’smembraneandbasolateralfunctionsoftheretinalpigmentepithelium.InvestOphthalmolVisSciC54:1740-1749,C20132)HuangJD,CurcioCA,JohnsonM:MorphometricanalysisofClipoprotein-likeCparticleCaccumulationCinCagingChumanCmacularCBruch’sCmembrane.CInvestCOphthalmolCVisCSciC49:2721-2727,C20083)MooreDJ,HussainAA,MarshallJ:Age-relatedvariationinthehydraulicconductivityofBruch’smembrane.InvestOphthalmolVisSciC36:1290-1297,C1995図1網膜色素上皮の生理機能と加齢変化(97)Cあたらしい眼科Vol.35,No.5,2018C6610910-1810/18/\100/頁/JCOPY

二次元から三次元を作り出す脳と眼 24.立体視と生活・職業

2018年5月31日 木曜日

連載.二次元から三次元を作り出す脳と眼雲井弥生淀川キリスト教病院眼科はじめに立体視が日常生活や職業とどうかかわるかを考える.眼科で行うTitmusStereoTest(TST)などの静的立体視検査では立体視不能であっても,大型画面の3D映像では立体視可能の例がある1).3D立体映像の視聴に関する実態調査2)では,呈示方法によって立体視の有無に差が出ること,恒常性斜視でも立体視可能な例のあることが報告された.特殊免許取得時の深視力判定に使われる三杆法,それを応用した顕微鏡下の三杆法について説明する.接近するボール接近するボールを見ているとき,両眼と後頭葉第一次視覚野(以下,V1)でどのような情報処理が行われているだろうか(図1).a.ボールの網膜像の拡大b.ボール像の耳側への移動:像は網膜上を常に耳側にずれ,それを中心窩でとらえようとして輻湊運動が続く.刻々と両眼視差が変化する.c.輻湊角(両眼とボールのなす角度)の増加a,b,cの要素は,単眼情報としてもボール接近の情報になるが,V1の両眼視細胞◎内で情報が合流して,像の動きの方向や速度の差などの両眼情報を生み出し,複合的に作用する.ボールの接近に伴い,三つの要素は加速度的に大きくなる.網膜神経節細胞Pa(Y)やV1とそれ以降に存在する方向選択性細胞(連載⑩⑪⑫参照)などM系細胞の活動により三次元情報として再構頭頂連合野で三次元情報接近するボールとして再構築図1接近するボールボールを見るとき,像の拡大(a),像の耳側への移動(b),輻湊角の増加(c)が起こる.M系経路がこれらの情報をV1以降の両眼視細胞に伝え,頭頂連合野で三次元情報として再構築される.(95)あたらしい眼科Vol.35,No.5,20186590910-1810/18/\100/頁/JCOPY図2三杆法中央の棒は前後に約100mmずつ動く.棒と同じ高さの窓からのぞき,3本が並んで見えるときに手元のボタンを押す.複数回の平均誤差が20mm以内を正常範囲とする.築され,接近するボールとして頭頂連合野(後頭頂葉)で認識される.このように動的立体視(あるいは奥行き運動知覚,連載⑤参照)には周辺視野や眼球運動も含み,さまざまな要素が関与する.3D映像幼少時発症の内斜視(乳児内斜視を含む)の術後でTSTでは.y(視差約1°)の立体視不能の患者の中に,3Dアトラクション(遊園地やアミューズメントパークの大画面の立体映像)で立体視できる例がある1).要因として大画面であること,立体刺激として周辺視野も含めた大きな範囲に大きな視差(3°程度)をもつ立体刺激であること,視差の大きさや範囲が変化する動的刺激であることが考えられる.弱視斜視患者,正常者の3D映像での立体視をアトラクション,映画,テレビ,ゲームで比較した多施設共同研究2)でも同様の結果が得られている.しかし,逆に.yで立体視可能だが,3D映画で立体視できない例があるとしている.映画では,眼精疲労を避けるために視差1°以内,交差性の飛び出し刺激より,同側性の引っ込み刺激が推奨されたことも一因とされる.多くの人が3D映像を楽しむためには,視差の呈示位置や方法により差があることに注意し,M系要素や運動視差など単眼の手がかりを含む3D視覚刺激の検討が必要である.三杆法特殊な車や航空機などの免許取得時の両眼視機能評価に,三杆法による深視力検査が使われている(図2).ちなみに普通車免許の規定は視力のみで,両眼矯正0.7以上,片眼矯正0.3以上,片眼矯正が0.3未満の場合は他眼に150°以上の視野が必要となる.旅客運送に必要な二種免許,トラック・バスなど中型以上の免許では深視力検査が課せられる.箱の中に設置された3本の棒を,2.5mの距離から側面の窓を通して見る.両端の2本は固定され,中央の棒のみ前後に約100mmずつ動く.3660あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018本が並んで見える際に手元のボタンを押す.複数回(車─3回,航空機─5回)行い,平均誤差が20mm以内を正常範囲とみなす.検査結果は,RandotStereotestを用いて3mで行った遠見立体視検査の結果と強い相関を,TSTやTNOtestなど近見立体視検査の結果とも相関を示したと報告されている3).旅客機の操縦士の規定はさらに厳しい.片眼矯正0.7以上,両眼矯正1.0以上の遠見視力(屈折度数±8Dを超えないレンズで矯正可能であること),業務に支障をきたす斜視や両眼視機能の異常がないこと,2D以上の不同視がないことなどが要求される.斜視のプリズム矯正下,不同視の屈折矯正下に三杆法含め上記の規定に適合できれば可としている(航空医療研究センター航空身体検査マニュアルより抜粋).顕微鏡下の立体視医師であれば眼科医になれるが,両眼視機能が安定しているほうが楽な場面が多い.診療に細隙灯あるいは手術顕微鏡など顕微鏡が不可欠であり,奥行きを測りながらの操作や手技を要求される.顕微鏡下の奥行き感覚を測定できる三杆法(M三杆法)の開発をもとに,従来の両眼視,立体視検査との比較研究が行われ,M三杆法で誤差が大きい例では,感覚性および運動性の融像域が狭いと報告された4).私事で恐縮だが,眼科に入局後,顕微鏡下での融像ができず,複視に苦しみながら手術助手として糸を切った半年間の経験がある.ある日突然二つの角膜像が融合して一つになり,像が平面から立体に切り替わった瞬間の感動は忘れられない.弱視・斜視治療で両眼視機能は同時視→融像→立体視へと段階的に改善することが多い.通院する子どもたちにも三次元の感動を体感してほしいと願っている.病気や発見の時期によっては精密立体視の獲得が困難なこともあるが,この連載で紹介した多くの細胞や脳の部位に正しい視覚刺激を届けて活性化させることが,三次元空間での行動の改善につながると考える.拙文が三次元の世界や弱視・斜視分野への興味の入り口になれば幸いである.文献1)遠藤高生,不二門尚,森本壮ほか:内斜視術後患者における3D映像の立体感.臨眼67:1489-1494,20132)仁科幸子,若山曉美,三木淳司ほか:臨床研究3D立体映像の視聴に関する実態調査:多施設共同研究.日眼117:971-982,20133)MatsuoT,NagayamaR,SakataHetal:Correlationbetweendepthperceptionbythree-rodstestandstereo-acuitybydistancerandomstereotest.Strabismus22:133-137,20144)平井教子,阿曽沼早苗,大澤結ほか:顕微鏡下における立体視機能の検討.眼臨紀2:149-152,2009(96)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 180.星状硝子体症を伴う裂孔原性網膜剥離(中級編)

2018年5月31日 木曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載180180星状硝子体症を伴う裂孔原性網膜.離(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに星状硝子体症(asteroidhyalosis:AH)は,リン脂質,ムコ多糖などの粒子状混濁(asteroidbody:AB)が硝子体腔内に散在し,眼底の視認性が低下する疾患である.AHを有する眼の特徴として,硝子体の液化が少なく後部硝子体.離(posteriorvitreousdetachment:PVD)が生じていない症例が多いことがあげられる.AHを有する眼に裂孔原性網膜.離(rhegmatogenousretinaldetachment:RRD)をきたすことはまれであるが,筆者らは過去にそのような2症例を経験し報告したことがある1).●症例162歳,男性.左眼はAHの混濁を通して,上耳側に網膜格子状変性巣の辺縁が裂けた約3乳頭径大の弁状裂孔を認め,上耳側から黄斑部にかけてRRDをきたしていた(図1a).硝子体手術時の所見として,ABはやや前方に濃縮された状態を呈しており,一見,PVDを生じているようにみえたが,トリアムシノロンアセトニド塗布後に,網膜全面にやや厚みのある硝子体皮質と一部ABが残存している所見が確認された(図1b).ダイアモンドイレイサーを用いて膜状の硝子体皮質を後極から周辺に向かって.離したが,黄斑部を含む網膜全面で癒着が強固で,双手法を必要とした.全周にわたって人工的PVD作成を行い,気圧伸展網膜復位術,眼内光凝固,ガスタンポナーデにて復位を得た.●症例270歳,男性.左眼はAHの混濁を通して上耳側に約3乳頭径大の弁状裂孔を認め,その周囲に赤道部を越えるRRDを認めた(図2a).硝子体手術所見としては,症例1と同様,網膜全面にやや厚みのある硝子体皮質と一部ABが残存している所見が確認された(図2b).人工的PVD作製時に網膜全面で硝子体の癒着がやや強固であったが,症例1のように双手法は必要としなかっ図1症例1の術前眼底写真(a)と術中所見(b)左眼の上耳側に網膜格子状変性巣の辺縁が裂けた約3乳頭径大の弁状裂孔を認め,上耳側から黄斑部にかけてRRDをきたしていた.硝子体手術所見として網膜全面にやや厚みのある硝子体皮質と一部ABが残存している所見が確認された.(文献1より引用)図2症例2の術前眼底写真(a)と術中所見(b)左眼の上耳側に約3乳頭径大の弁状裂孔を認め,その周囲に赤道部を越えるRRDを認めた.硝子体手術所見は症例1と同様であった.(文献1より引用)た.その後,同様の手技で網膜は復位した.●AHを有するRRDの特徴今回の2症例は一見PVDが生じているようにみえたが,比較的厚い膜様の硝子体皮質が網膜全面に付着しており,その癒着が強固であった.通常のRRD,とくに強度近視眼や若年のRRDでもこのような所見は認められるが,通常,赤道部までは比較的容易にPVDが作製できる.本症例はその癒着が後極部から強固で,症例1では双手法による人工的PVD作製を必要とした.また,本症例の硝子体膜は通常のRRDよりもやや厚いように思われ,網膜格子状変性巣の存在する象限以外の部位でも,中間周辺部から周辺側に強固な網膜硝子体癒着がみられた.AHを有するRRD例に対して硝子体手術を施行する場合には,このような解剖学的特徴を十分に理解しておく必要がある.文献1)OkudaY,KakuraiK,SatoTetal:Twocasesofrheg-matogenousretinaldetachmentassociatedwithasteroidhyalosis.CaseRepOphthalmol9:43-48,2018(93)あたらしい眼科Vol.35,No.5,20186570910-1810/18/\100/頁/JCOPY

眼瞼・結膜:マイボーム腺機能不全とドライアイ

2018年5月31日 木曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人38.マイボーム腺機能不全とドライアイ大矢史香大阪労災病院高静花大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室マイボーム腺機能不全(MGD)では,涙液油層の菲薄化により涙液安定性の低下を生じ,蒸発亢進型ドライアイを併発する.MGDに併発するドライアイに対してはドライアイ治療を主体に行う.●はじめにマイボーム腺は瞼板内にあり,上下の眼瞼縁に開口部をもつ脂腺である.マイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD)はなんらかの原因でマイボーム腺機能に異常をきたした状態であり,さまざまな眼不快感を引き起こす.また,マイボーム腺から分泌される脂質(meibum)は涙液の最表層である油層を形成するため,マイボーム腺機能の低下は涙液安定性の低下,すなわちドライアイと密接に関連している.本稿ではMGDの定義,臨床的特徴,MGDとドライアイの関連について概説する.C●MGDの定義MGDは「さまざまな原因によってマイボーム腺の機能が瀰漫性に異常をきたした状態であり,慢性の眼不快感を伴う」と定義されている1).MGDは分泌減少型と分泌増加型に分類され,それぞれ原発性のものと続発性のものに分けられる.臨床的には分泌減少型CMGDが分泌増加型CMGDに比べて圧倒的に多い.分泌増加型MGDの病態についてはいまだ不明な点も多く,一般的表1分泌減少型マイボーム腺機能不全(MGD)の診断基準にCMGDというと分泌減少型CMGDをさすため,本稿でも分泌減少型CMGDを中心に述べる.分泌減少型CMGDのうち原発性・閉塞性のものがもっとも頻度が高く,これは過剰角化物によりマイボーム腺導管が閉塞することでCmeibumのうっ滞を引き起こし,最終的にはマイボーム腺の腺房の廃用性萎縮とマイボーム腺の脱落が生じる病態である.これとは異なり,原発性・萎縮性の分泌減少型CMGDは,マイボーム腺の腺房の萎縮が原発性に生じることでCmeibumの分泌が減少する.続発性分泌減少型CMGDはアトピー,Stevens-Johnson症候群,移植片対宿主病,トラコーマなどに続発して,マイボーム腺開口部の閉塞が生じた状態である.C●MGDの臨床的特徴分泌減少型CMGDの診断基準を表1に,症例写真を図1,2に示す.MGDでは自覚症状と所見に乖離がみられることがある.理学所見が重症なのにもかかわらず,自覚症状が軽度であったり,その逆もありえる.また,MGDの自覚症状としてあげられる症状はドライアイや図1分泌減少型マイボーム腺機能不全の1例マイボーム腺開口部周囲に血管拡張と閉塞所見(plugging)を認める.(91)あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018C6550910-1810/18/\100/頁/JCOPY図2マイボーム腺開口部周囲異常所見(眼瞼縁不整)長期にわたるCMGDにより腺構造が線維化した結果,開口部付近にくぼみを生じている.その他の眼表面疾患とも共通するものが多い.MGDに特異的な症状は特定されておらず,また,前述のようにMGDとドライアイは互いに関連し,併発していることもあるため,それぞれの症状を切り離して考えることは困難である.MGDのリスクファクターとしては,加齢,乾燥,性ホルモンの変化,コンタクトレンズの使用,緑内障点眼薬の使用などが知られている.こうしたリスクファクターはCmeibumの性質や分泌量を変化させたり,マイボーム腺の形態異常を引き起こすことでマイボーム腺の腺房の萎縮を生じさせると考えられている.C●MGDとドライアイ近年,ドライアイのコア・メカニズムとして「涙液層の安定性の低下」と「瞬目時の摩擦亢進」が注目されているが,MGDに併発するドライアイにもこのコア・メカニズムが密接にかかわっている.分泌減少型CMGDでは,涙液油層の減少により涙液蒸発が亢進し,涙液安定性が低下すると同時に,潤滑油の減少のため眼瞼摩擦も増大している.MGDでは蒸発亢進型ドライアイを生じることが多い.MGDとドライアイの発現率は報告によってさまざまである.最近の報告では,Kawashimaらが,日本のドライアイ診断基準を満たした患者のうちC42.3%にマイボーム腺開口部周囲閉塞所見を,37.0%にCmeibumの圧出低下を認めた,と報告している2).C●MGDとドライアイの治療MGDに併発する蒸発亢進型ドライアイの治療には涙液油層を補充し,涙液の蒸発を抑制する必要があるが,直接油層を補充する薬剤は現在のところ存在しない.そのため,meibumの分泌をうながすための眼瞼温罨法や眼瞼清拭など,従来のCMGDに対するセルフケアに加え,ドライアイ点眼薬や涙点プラグを用い,症状を改善させることを目標に治療を行う.ジクアホソルが作用するP2Y2受容体はマイボーム腺上皮にも存在している3)ため,ドライアイだけでなくCMGDに対する効果も期待されている4).3カ月間のジクアホソルの使用で,ドライアイとCMGDの症状,マイボーム腺開口部閉塞所見が改善し,油層の厚みも増したという報告がある5).C●おわりに本稿では,MGDの病態とドライアイとの関連について概説した.MGDはそれ単体でも不快な症状を引き起こすが,ドライアイを併発してより複雑な病態を呈し,治療に難渋することもしばしば経験する.現在,MGDに対する特効薬はないが,常に病態を適切に把握し治療を検討するよう努める必要がある.文献1)天野史郎:マイボーム腺機能不全の定義と診断基準.あたらしい眼科27:627-631,C20102)KawashimaCM,CYamadaCM,CSuwakiCKCetCal:ACclinic-basedCsurveyCofCclinicalCcharacteristicsCandCpracticeCpat-ternofdryeyeinJapan.AdvTherC34:732-743,C20173)CowlenCMS,CZhangCVZ,CWarnockCLCetCal:LocalizationCofCocularCP2Y2CreceptorCgeneCexpressionCbyCinCsituChybrid-ization.ExpEyeResC77:77-84,C20034)AritaCR,CSuehiroCJ,CHaraguchiCTCetCal:TopicalCdiquafosolCforCpatientsCwithCobstructiveCmeibomianCglandCdysfunc-tion.BrJOphthalmol97:725-729,C20135)AmanoS,InoueK:E.ectoftopical3%diquafosolsodiumonCeyesCwithCdryCeyeCdiseaseCandCMeibomianCglandCdys-function.CClinOphthalmolC11:1677-1682,C2017656あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018(92)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性:長期予後を見すえた治療・私のこだわり

2018年5月31日 木曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二52.加齢黄斑変性:長期予後を見すえた川上摂子東京医科大学臨床医学系眼科学分野治療・私のこだわり加齢黄斑変性(AMD)は治療開始後数年たつと病状が多様化する.長期予後を見すえた治療には,EBMに基づく治療に加え,個々の症例から過不足なき治療について考えることが重要である.はじめにわが国で滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)に対し,最初の血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)阻害薬が認可されてからC9年が経過した.2012年に日眼会誌に掲載されたCAMDの治療指針1)では,typicalAMDはVEGF阻害療法,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalCvasculopathy:PCV)は光線力学的療法(pho-todynamicCtherapy:PDT)またはCVEGF阻害療法ないし併用,網膜血管腫状増殖(retinalCangiomatousCprolif-eration:RAP)はCPDTとCVEGF阻害療法の併用とされている.しかし,VEGF阻害療法とあるものの,薬剤選択や維持期の投与間隔などの治療方針に関しては明記されておらず,時を経るにつれ治療に対する考え方も変遷し,指針の内容は現在の治療方針と一部乖離している.Evidence-basedCmedicine(EBM)に基づくアルゴリズムの構築は必要だが,経過が長期化し再発形態が多様になると,一律の方法による治療継続に迷いを生じることも少なくない.そんなとき,どうするべきか.長期予後を見すえたリアルワールドのCAMD治療を筆者なりに考えてみたい.そのためには薬剤の種類やCPDTについても論じるべきだが,今回はおもに投与間隔について述べる.症例ごとに考える維持期の投与間隔維持期の追加投与は再発時投与(prorenata:PRN)が主流であったが,近年は計画的投与しながら滲出の有無で投与間隔を調節するCtreatandextend(TAE)が多くなっている.しかし,治療導入後滲出性変化が消退(ドライ化)した症例では,その後追加投与がなくても再発しない症例がC1年でC3割程度存在する2)ため,全症例にCTAEを導入するのは過剰投与であり,それに伴う(89)0910-1810/18/\100/頁/JCOPYRPE萎縮などの問題を回避するためにも,症例を選ぶ必要がある.最近,大中らによりCPRNとCTAEのハイブリッドともいえるCmodi.edTAEが提唱された3).必要かつ十分な投与に近づけるには非常にリーズナブルな方法である.その一方で,大きな漿液性(ときに出血を含む)網膜色素上皮.離(retinalCpigmentCepithelialCdetach-ment:PED)や線維血管性CPED,大型のポリープを伴うCPCVでは再発時網膜下出血をきたす場合があるため,最初からCproactiveを推したほうが安全なこともある.さらに患者背景も重要である.たとえば僚眼がすでに視力不良な症例では再発のリスクを極限まで下げる必要があるし,遠距離通院や認知症のある患者にとっては計画的投与のほうが好都合な場合もある.TAEでは調節間隔も議論となる.一般的なC2週間ずつでなくC4週間ずつ延長する方針のほうがドライ化の可否を速やかに判別できるが,易再発性を理由に症例を選んでCTAEにするならC2週の微調節で慎重に行うほうがよいのではないか.筆者はC1週間単位で調整することもある.また,短縮時もC2ないしC4週短縮するか,あるいはマンスリーに戻すか未だ方針は定まっていないが,これも病態に基づいて変えるべきである.上記のように網膜下出血を起こしやすい病態であればマンスリーに戻すべきであろう.症例提示投与間隔を考えるうえで印象に残った症例を紹介する.図1は導入期C3回アフリベルセプト硝子体内注射(intravitreousCinjectionCofCa.ibercept:IVA)を行い,その後C4週調節のCTAEを行ったCPCVの症例である.初診時にインドシアニングリーン蛍光造影(indocya-nineCgreenCangiography:IA)でポリープを認め,大型の漿液性CPEDを伴っていた.IVA開始後CPEDは減少あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018C653図14週間隔で調節するTAEの方針で治療開始したPCVの症例IVA開始後C16週目にCPEDは消失,21週目に再発.22週目から4~5週間ごとに追加したがCPEDは消失せず,6週では増加,再度4~5週に戻した.IAで当初ポリープが認められたがCPED再発時には検出されなかった.し,16週目にCPEDは消失.12週間隔に延長しC28週目に再投与を予定したが,21週目に視力低下を訴え受診した.PEDの再発を認め,光干渉断層計でCPED内部にhyperre.ectiveCmaterialが認められた.22週目にCIVAを施行し,その後C4~5週間ごとの投与としたが,PEDの丈は減るも消失しなかった.減少がプラトーになり39週目でC6週へ延長すると増加したため,再度C4~5週に戻して投与を続けている.Hyperre.ectiveCmaterialの構成成分の特定は困難だが,VEGF阻害薬投与後も残るものはCPED内部の線維化の可能性も考えられる.この症例ではいったんドライ化したかにみえたが,4週調節のCTAEでは潜伏した活動性病変に対し治療不足で,PEDの再発ないし内部の線維化が引き起こされ,治療抵抗症例へと移行したかと思われる.線維血管性CPEDは長期視力維持を妨げ4),ときに急激な黄斑下出血の併発も経験する.難治が予想される症例では,初期の治療不足によりさらなる難治化の危険因子が上積みされる事態を起こさないようにしたい.過剰治療を回避する.その一方で治療不足により病態をこじらせると長期視力の維持が不可能になるばかりか,さらに治療の負担が増えてしまうこともある.各種スタディから学ぶとともに個々の症例と向き合い,考えることで理屈と実臨床との乖離を埋めていきたい.これが長期予後を見すえる治療を行ううえでの筆者のこだわりである.文献1)高橋寛二,小椋祐一郎,石橋達郎ほか;厚生労働省網膜脈絡膜・視神経萎縮調査研究班加齢黄斑変性治療指針ワーキンググループ:加齢黄斑変性の治療方針.日眼会誌C116:C1150-1155,C20122)KurodaY,YamashiroK,MiyakeMetal:Factorsassoci-atedwithrecurrenceofage-relatedmaculardegenerationafteranti-vascularendothelialgrowthfactortreatment.Aretrospectivecohortstudy.AmJOphthalmolC122:2303-2310,C20153)OhnakaCM,CNagaiCY,CShoCKCetCal:ACmodi.edCtreat-andCextendregimenofa.iberceptfortreatment-naivepatientsCwithneovascularage-relatedmaculardegeneration.Grae-fesArchClinExpCOphthalmolC255:657-664,C20174)HoersterCR,CMuetherCPS,CSitnilskaCVCetCal:FibrovascularCpigmentCepithelialCdetachmentCisCaCriskCfactorCforClong-termCvisualCdecayCinCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.RetinaC34:1767-1773,C2014☆☆☆654あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018(90)