眼科臨床へのAI導入の試みFirstArtificialIntelligenceApplicationforEyeCare田淵仁志*はじめに本稿では,編集方針にしたがって,筆者の考えを全面に押し出して論述した.分子生物学的手法とは異なり,人工知能(arti.cialintelligence:AI)技術は「誰でも」使える.誰にでも使えるようにGoogleなどがしてくれている.AIの背景,応用の方向性,筆者チームの取り組みを,独自過ぎる視点で解説した.筆者らの信念と論理性を感じていただき,読者の中から日本眼科のために働く新しいAIプレーヤーが登場されることを期待する.IGoogleAIとは深層学習(deeplearning)のことであり,deeplearningとは人間のやることを忠実に真似できるモノマネ芸人である.何時間でも電源が続く限り人間と同じレベルで作業を続けられる.バイアス(思い込み,誤解による認知ミス)と集中力低下こそが人間らしさの本質であるので,AIシステムが人間と同じレベルの能力をもつならば,その圧倒的な安定性と持続力,そして電気代以外に何もいらないという低コスト性により,AIが社会的に実装されていくことは確実である.そのうえ,どんなことにも使えるという汎用性からAIに携わる人たちの背景は多岐にわたる.数学者であったり,コンピューターサイエンティストとよばれる情報処理学の専門家であったり,認知学の専門家であったりする.生物系,工学系,社会学系,経営学系,そして最近ではわれわれのような医学系も盛んにこの領域に参加している.AI研究開発に誰でも参加できるようにしている「企業」がその広がりを可能にしている.その最たるものがGoogleである.畳み込みニューラルネットワークやバックプロパゲーションをおもな核とするdeeplearningを世に出したジェフリー・ヒントン,VGG16とよばれる費用対効果に抜群に優れる学習済AIモデル,ディープマインドを世に出したオックスフォード大学の研究者など,AI開発研究のキープレーヤーをGoogleは自分達のチームとして迎え入れ,まさに飲み込んでいる.血気盛んな若いAIエンジニアですらGoogleを畏敬し,対抗する気概はゼロのようにみえる.IIGoogleCollaboratorGoogleCollaboratorというインターネット・サービスをこの機会にぜひ紹介したい(図1).当然のように無料である.Googleのインターネットブラウザ,Chromeさえパソコンにインストールされていれば誰でもすぐに使える.筆者が自分の講演でAI用プログラミング言語のデファクトスタンダードであるPythonを紹介したのが2016年7月のことであるが,その当時は環境構築から何から全部自分でやらなければならず,「プログラミングなどに興味がある人はどうぞ」という感じであった.このGoogleCollaboratorは,「老若男女,皆さんどうぞ,どうぞ,どうそ!」である.ひょっとしたらこの文章はここまでで,誰かの人生に十分に役に立った可能性がある(人生が本当に変わった人は10年後ぐらいに*HitoshiTabuchi:ツカザキ病院眼科,広島大学医学部医療のためのテクノロジーとデザインシンキング寄付講座〔別刷請求先〕田淵仁志:〒671-1227兵庫県姫路市網干区和久68-1ツカザキ病院眼科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(55)477ないし,ネット会議を用いなければ活動の維持ができない.それらすべてを低価格で提供しているのがGoogleであり,逆にそのためのシステム構築にお金と時間と人材のリソースを割けるほど国民皆保険制度内で活動するわれわれは潤沢ではないのである.フリーウエア運動のおかげで研究活動ができている.何かしら成果が出たら,無料あるいは必要最低限の経費でコミュニティーに何かお返しするというのが,世界共通の大切な流儀である.IVデジタル・マーティングGoogleに加えてAmazon,Facebook,Apple(まとめてGAFA,ガーファとよばれている),つまりインターネットプラットフォーマーとよばれる現代のガリバー企業達が大挙してAI研究になだれこんでおり,その桁違いの研究開発費を前にして,日本AI研究の第一人者である松尾豊が「良い企業が良い研究をする」と嘆息している.GAFAはインターネットによるデータ収集とその統計分析を企業基盤としている点に共通点がある.Deeplearning登場の前からデジタル・マーケティングとよばれていた,計測パラメータ設定,データ収集,統計解析,フィードバックによる業務改善サイクルを高速で回転させることで他の企業との差を広げ続けてきたのである.デジタル・マーケティングの方向性はおもに二つある.一つが購買誘発であり,レコメンド機能としてよく知られている機能である.消費者が欲しいものを「予測」して「提案」するというこの機能は,まず何よりも消費者の購買行動データを大量に必要とする.Googleのアルゴリズム検索もこの範疇である.顧客が知りたいサイトは「これではないか」と大量の検索データからページ・ランキングし,その精度の高さで世の中を席巻したのである.そしてデジタル・マーケティングのもう一つの目的が業務効率化である.消費者が何を買うのか予測することで,商品在庫のムダが抑制され,物流にかかわる人員や設備投資の効率化が図られるし,最終的に余剰人員を減らすことにつながる.つまり,デジタル・マーケティングは購買誘発で売り上げを拡大し,効率化で利益を拡大するのである.これをやる企業とやらない企業との差がどれほど拡大していくか,想像にかたくない.VクラウドApple社が世界を席巻したのは,2001年10月23日に発売されたiPodであることを30代以上の読者の方々はよく記憶しておられると思う.当時筆者がもっとも衝撃を受けたのは,iPodをコントロールするソフトウエアであるiTuneであった.筆者が昔から所有していた古いCDの題名や歌詞が,サーバー上のAppleのデータベースからまさに天空を超えて(その当時クラウドなどという言葉はなかった)自動的に降りてきたのである.中学1年のときに,今ではNHKの大河ドラマとかの演出家になった幼馴みとレコードレンタル店に初めて入ったとき,手術室のポリクリ学生なみの挙動不審ぶりで店員に笑われたことをよく覚えているが,レンタルした音楽をカセットテープにダビング(死語!)して題名や曲名をキレイにレタリングして自分のカセットボックスに入れておくのが,当時の中学生の普通の課外活動だった.iPodの登場によってクラウド環境は約20年で確実に日常に浸透した.今や音楽はスマホで聴くものであり,題名や曲名をメモしたり手帳に残したり誰もしないのである.音楽視聴のために費やしていた膨大な青春の時間を思い出せば,現代の若者がずっとスマホをいじっていることは,なんというか至極当たり前である.VIネット医療は必ずやってくるApple社が音楽を売らなくなる.というIT業界の都市伝説がある.その根拠とされるのが,音楽は今ストリーミング再生で聴かれることがもっとも多いという統計である.データをダウンロードすらせずWiFi環境下のラジオ視聴のように楽しむスタイルが,iTuneで始まった音楽業界でのクラウドの今の姿である.利便性はコスト意識をも超えるのである.ミュージシャンが現在もっとも稼ぐ場がライブである.音楽「データ」はYoutubeで無料配信され広告収入でわずかに回収される.金銭に変えるための(マネタイズできる)付加価値部分は音楽の「非データ部分」す(57)あたらしい眼科Vol.36,No.4,2019479なわち,ライブ会場での生の臨場感,ファン同士の一体感であるとか,グッズ販売であるとか,ファッション性だとかに移動している.医療もデータ部分に関しては最終的にクラウド化する.ネット上でAIが判断しドローンが薬を配達する医療への危機感を筆者のチームと共有してほしい.日本が誇るSONYはコピーガードに奔走してアップルに敗北した.今から考えても,SONYが音楽のデジタルコピーを配布できないようにプロテクトしたことは権利保持行動として当然である.それにもかかわらず,最終的に決定権を握っていたのは顧客であり,オープンマインドであり,クラウド環境の利便性であったのである.良いとか悪いとかではない.大切なのは備えることである.AI研究に日本のプレーヤーは多ければ多いほどよいのである.あまりにも重大な未来が予見されている.筆者らは眼科領域のネット医療で用いられるアルゴリズムの世界シェア10%が日本発信であるべきだと考えている.合わせて「非データ部分の医療」への真摯な取り組みも大切であり,筆者らはAIとは別部門でキチンとカタチにしていく所存である.「病気を診て,ヒトを診ない」というスタイルはネットAI医療に淘汰される.さらにSONYの名誉のためにも付け加えると,たとえば今世界を席巻する電子マネーの基幹技術FeliCaはSONY製品である.時代を作り,変えるのは米国だけではない.そもそも日本は進取の気性で一流の端くれに今も踏み留まっている国であることを忘れてはいけない.VIIデジタル・マーケティングを眼科医療にあてはめて考えてみよう前述したとおり,デジタル・マーケティングの主たる目的は売り上げと利益の両面の拡大である.これはそっくりそのまま,大学病院であれ,一般病院であれ,開業医院であれ,すべての眼科医療のチームに必要なテーマである.顧客すなわち患者がいかにたくさん来てくれるかは,医療チーム運営の基本である.顧客からの信頼という意味で重要であるといえばもう少し意味が伝わるであろうか.たとえば網膜を専門としている施設に,小児斜視の患者が想定よりも多く来ているという正確な情報が入れば,その組織の運営方針は変化していくべきであろう.ツカザキ病院眼科では,加齢黄斑変性,近視眼底疾患,網膜血管閉塞疾患,糖尿病網膜症,小児斜視神経眼科疾患,涙道治療疾患,眼瞼疾患,多焦点眼内レンズ挿入患者,緑内障,角膜疾患,網膜遺伝および色覚疾患,アレルギーぶどう膜炎の計12の専門領域ごとの通院患者数をリアルタイムで把握している.どの領域でも,患者数が減ることは医学的にはあり得ない.専門疾患は治ることはないし,多焦点眼内レンズ挿入患者も長期観察の学術的価値が高いからである.それにもかかわらず患者数が伸びないとしたら,受け入れ側である医師やスタッフのキャパシティーの限界か,ドロップアウトが初診流入を上回っているからに他ならない.そこにいろいろの運営上の観点が生じるわけである.筆者らの基本もデジタル・マーケティングである.皆さんにもバイアスを排した数字による顧客視点ベースの運営をお勧めする.患者のニーズに基づいて専門的知識と技術を用意すべきであり,それは必ずさらなる患者増につながる.日本の眼科全体が顧客ベースになることで損をする人たちは絶対にいない.必要な医療が必要な人に効率的に行きわたり,結果として全体最適にも結びつく.人口減少が日本最大の問題であるが,逆に後進国では爆発的に人口は増加している.しかもスマホというクラウド環境は最貧国においても確実に浸透している.われわれ全員が何かを合言葉にするなら,「世界の患者を呼び込もう!」である.VIII集約化のためのデータベース筆者らはデータベース(図2)をそもそも15年前から自主構築してきた点で,日本の他の眼科医療チームの組織形態とは大きく異なる.デジタル・マーケティングという言葉は当時,医療界ではもちろんのこと,商業の世界でも存在しなかった.数値化してフィードバックをかけることをこれほどまでに筆者が追及してきたのは,ただただ医療の集約化にかける強い信念によるものである.集約化で最大の問題になるのが,エゴイスティックな医師のぶつかり合いである.その不毛さを避けるようにして眼科専門医の7割近くが開業形態という分散化を選択してきたのが,2000年の歴史を誇る日本の“大人の選択”であろう.ただ自殺者も出るような医師のワー480あたらしい眼科Vol.36,No.4,2019(58)図2ツカザキ病院眼科データベース・EyeCenterONEのデータウインドウa:専門外来別リアルタイム患者数.通院中,治癒リリース,ドロップアウトなどが表示される.b:チーム業務全体量および医師別業務量(診察人数+手術件数)がリアルタイム表示される.サイコロジカル・デンジャーサイコロジカル・セーフティーPsychologicalDangerPsychologicalSafety~悪い病院はミスが少ない(認めないから)~良い病院はミスが多い(認めるから)上司ミス発覚を恐れる堂々とミスを認める問題の先送り他人を責める意見を聞かない部下図3サイコロジカル・デンジャーとサイコロジカル・セーフティーサイコロジカル・セーフティー環境ではデータによる論理的ルールがあり,ミスから改善につながるサイクルで組織が成長し続ける.図4ツカザキ病院眼科手術運営ネットワークシステムa:リアルタイム手術状況パネル.現在進行中の手術は青いバックグラウンドで表示される.b:術野リアルタイムモニター.15ある外来診察室などの科内全域に常時強制配信される.c:タイムアウトモニター.手術情報,顔写真,AI手術キー画像を手術室内にモニター掲示される.図5ツカザキ病院眼科手術安全AIシステム(DeepSafetyR)a:入室時顔認証システム.b:眼内レンズチェッカー.c:顕微鏡下左右識別システム.d:手術キー画像抽出表示システム(a.d特許申請中)