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ドライアイサプリメント

2018年6月30日 土曜日

ドライアイサプリメントSupplementationforTreatmentofDryEyeDisease井上佐智子*,**川島素子*はじめに近年,日本におけるサプリメント市場は1兆円を優に超え続けており,日本人の健康に対する意識の強さが推察される.サプリメント摂取の目的はさまざまであるが,診療におけるドライアイに対するサプリメントの認識に関しては,これまで比較的低い印象があった.ドライアイの治療が,点眼などを中心とした局所治療が主流であるためと考えられる.ドライアイの治療は眼表面の層別治療(tear.lmorientedtherapy:TFOT)の概念に則った点眼治療を中心に,マイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD)に対するマイボケア,涙点プラグなどの外科的治療が主であるが,近年,これらに加えて環境因子の改善やライフスタイルへの介入が重要視されている(図1).また,ドライアイの発症には加齢だけでなく,喫煙やVDT(videodisplayterminal)負荷,環境因子などさまざまな要因が関係しており,そのいずれの背景にも酸化ストレスが大きく関与していることが解明されている1).サプリメントには,この酸化ストレスに介入することで,ドライアイの悪循環を断ち切る役割,予防的な役割が期待されている.膨張する医療費の問題や超高齢社会を迎えるにあたり,これからの社会は疾患治療だけでなく予防医学に対しても真剣に取り組む時期を迎えており,サプリメントの意義は高まってくるものと思われる.今回,ドライアイにおけるサプリメントの現状を,臨床研究結果など交えて述べる.I医療側におけるサプリメントへの意識現在,ドライアイサプリメントのエビデンスは多くなく,今後の研究や調査の動向が気になるところである.最近,ドライアイ研究会が同研究会会員の医師を対象に行ったアンケート調査では,約68%の医師が診療においてサプリメントを患者に推奨していることがわかった.そのなかでもサプリメント摂取を推奨する疾患は,エビデンスのある黄斑変性症に対するものが約98%ともっとも多く,次いでドライアイがあげられていたが,割合は約46%であった(図2).約半数の人が推奨しておらず,その理由として,エビデンスの欠如がもっとも多く,続けてどの成分を使用するべきかの情報が不足している,高価である,などの項目があげられた2)(図3).本調査はドライアイ研究会の会員医師を対象としているため,日本の医師全体を対象にした場合は,さらに推奨率が低くなるものと予想される.II日本におけるドライアイサプリメントドライアイサプリメントは「バイオティアーズR」をはじめとして海外のものが以前より知られていたが,国内のものでは,わかもと製薬の「オプティエイドDER」が2016年より販売され,現在まで安全に使用され,販売数を伸ばしている.内容成分は,いままでドライアイに有効性と安全性が報告されているラクトフェリン,エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoicacid:EPA)・*,**SachikoInoue:慶應義塾大学医学部眼科学教室,羽根木の森アイクリニック*MotokoKawashima:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕井上佐智子:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(45)753.眼科疾患の診療において,先生はサプリメントの使用を推奨していらっしゃいますか?無回答1.0%「はい」の方:推奨する疾患は?(複数回答可)いいえ31.1%はい67.9%図2サプリメント推奨状況加齢黄斑変性129(人)97.0(%)ドライアイ6145.9眼精疲労4231.6老眼1410.5先生がドライアイの診療の際にサプリメントを推奨していない理由についてお答えください(いくつでも).(n=135)無回答10その他10メーカーが信用できない1摂取量が多い2収益が少ない3成分の摂取過多が気になる11医薬品ではない15説明が面倒16他のサプリメントや薬剤との相加相乗作用が不明23患者が購入しない27患者が購入しない32価格が高い(患者負担が増える)48情報が少ない.何を勧めてよいかわからない52エビデンスが少ない図3サプリメント非推奨理由ラクトフェリンC135CDHAC54CEPAC81ルテインC3.00乳酸菌(WBC2000)C10.0ビタミンCCC40.0ビタミンCEC8.04亜鉛C7.04CGABAC0.50図4ドライアイサプリメント「オプティエイドDER」の内容成分DHA:docosahexaenoicacid,EPA:eicosapentaenoicacid,GABA:Cg(gamma)-aminobutyricacid.活性酸素カタラーゼ*涙液分泌量2502001501005000123DCF.uorescenceintensity(%ofNT)RatiotoNT(/actin)図5オプティエイドDER摂取による酸化ストレスマーカーの減少(文献C3より転載)(mm/15sec)4C拘束送風投与3.5C正常マウス3C乳酸菌無投与2.5CE.faecium(WB2000)C2CE.faecium(JCM5804):標準株1.5CL.salivarius(WB21)B.longum(WB1001)1CL.acidophilus(WB2001)0.5CL.pentosus(TJ515)0InitialC2C4CDayCMean±S.E.,n=3,Dunnetttest*p<0.05C図6動物実験:WB2000株摂取後の涙液維持作用日本抗加齢医学会総会(福岡)平成C27年C5月C30日泉田ら(慶應大).サプリメント(WB2000なし)40日目サプリメント(WB2000あり)40日目Tearsecretion(mm/15sec)3.532.521.510.50図7動物実験:複合サプリメント摂取後の涙液分泌への影響日本抗加齢医学会総会(福岡)平成C27年C5月C30日泉田ら(慶應大).–

AREDSサプリメント

2018年6月30日 土曜日

AREDSサプリメントAREDSSupplement沢美喜*はじめに滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegenera-tion:AMD)の患者数は日本社会の高齢化に伴って増加傾向にあり,失明原因疾患の第4位を維持している.AMDは一度発症してしまうと,完治することはきわめて困難である.失われた視機能を回復させることはできないものの,血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)を阻害する抗VEGF治療が進歩し,著明な視力低下を生じてしまう患者数は減少している.ただし,継続的な治療を要する長期経過例においては不可逆的な視細胞・網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)細胞障害を避けることはできない.また,視力を維持するための抗VEGF治療継続に伴う医療費高騰の問題も生じている.より良い視機能確保,そして「見える」楽しい生活を送るためにも,発症・進行予防がきわめて重要である.AMDの発症予防を考えていくうえで,AMDは多因子疾患であることに気づかされる.とくに,AMD関連遺伝子,酸化ストレス,喫煙,食生活(高脂肪食)など多様な因子が発症に関連していると考えられ,いわば生活習慣病の側面をもっている.なかでも,さまざまな疫学調査で共通している因子は,「加齢」と「喫煙」である1).最近では超高齢社会に伴い,親子でAMD治療を受けているケースもある.家族歴が濃厚であれば,禁煙を含めたAMD発症予防を早い段階で推奨していきたい.他の予防の手立てとして,加齢黄斑変性の診療ガイドラインで示されているように,サプリメント摂取が推奨されている.AMD患者の診療においてその知識を深めておくことは重要である.IAREDSサプリメントの成分の紹介光刺激に暴露され続ける網膜には酸素と光が同時に存在し,活性酸素が産生されている.すなわち,網膜が活性酸素による障害を受けやすい環境にあることが,抗酸化サプリメントにAMD発症抑制を期待する背景であるといえる.具体的には,視細胞外節に存在する視物質ロドプシンの分解・再生の過程,いわゆるvisualcycleで生じる残渣がリポフスチンとしてRPE細胞内に蓄積する.リポフスチンの主成分であるA2E(N-retinalylidene-N-reti-nylethanolamine)は光刺激依存性に酸化され,多量の活性酸素を発生させる.さらに,視細胞は高い代謝活性状態であること,脈絡膜毛細血管板の酸素分圧が高いために近接したRPEやBruch膜は高濃度の酸素下状態にあることも,活性酸素を作りやすい要因であると考えられる.活性酸素によって視細胞の不飽和脂肪酸は酸化され,その酸化物質が蓄積していくことでRPEそのものが障害されてしまう.このように光刺激による視細胞・RPE障害の積み重ねがAMD発症の始まりと考えることで,これを抑制することがAMD予防につながると考えられる.すなわち,活性酸素から黄斑をどのように守*MikiSawa:堺市立総合医療センターアイセンター〔別刷請求先〕沢美喜:〒593-8304堺市西区家原寺町1-1-1堺市立総合医療センターアイセンター0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(39)747るのかが予防の始点となり,抗酸化作用をもつサプリメントに期待が寄せられる.黄斑には黄斑色素が存在し,その構成成分はカロテノイドの一種であるルテイン,メゾゼアキサンチン,ゼアキサンチンである.黄斑色素には,エネルギーが大きく毒性の高い青色光を吸収するフィルター効果,光によって生じる一重項酸素(活性酸素の一つ)を消去する抗酸化作用がある.黄斑色素は黄斑の外網状層であるCHenle線維層にもっとも多くみられるが,内網状層や杆体外節にも存在する.残念ながら黄斑色素は体内で合成されないため,食事で摂取しなければならない.ホウレンソウ,ブロッコリー,ケールにはルテインが多く含まれ,トウモロコシや卵黄,パプリカにはゼアキサンチンが多く含まれている.黄斑を守るには黄斑色素が多いほど効果があるのだろうと推定され,黄斑色素を増加させるのが予防のターゲットの一つと考えられる.ただし,前述したような食事からの摂取には限界があると考えられる.さらに,抗酸化ビタミンであるビタミンCCとCE,抗酸化ミネラルである亜鉛が,AMDのサプリメント成分として期待される背景もあって,大規模臨床研究へとつながっていった.CII臨床研究の紹介―AREDSサプリメントのエビデンスとしてもっとも有名な臨床研究は,AREDS(Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudy,エイレッズ)である.AREDSは,米国国立眼研究所(NationalCEyeCInsti-tute:NEI)が主導してC1992年からC1998年に行った,11の施設,3,640人(55.80歳,平均C69歳)を対象とした大規模な調査(多施設無作為化二重盲検比較試験)である2).平均観察期間はC6.3年で,AMD進行予防における第一級のエビデンスとして確立している.AREDSではドルーゼンの大きさ・数,RPEの色素異常,片眼性・両眼性に着目して,眼底所見(図1)から表1のように四つのカテゴリーに分類した.5年間のAMD発症率はカテゴリー1:0.4%,2:1.3%,3:18.0%,4:43.0%であった.そして,カテゴリーに分類された被験者に無作為に下記のC4種類のサプリメントが割り振られた.1.抗酸化ビタミン(ビタミンCCC500Cmg,ビタミンCE400IC,CbカロテンC15mg)2.微量ミネラル(亜鉛C80mg,銅C2mg)3.抗酸化ビタミン+微量ミネラル4.プラセボ経過観察中に滲出型CAMDに進行したのはC592人であり,なかでも検査眼に中型(63.125Cμm),または大型(125Cμm)のドルーゼンが存在する,あるいは片眼にAMDが存在する被験者(カテゴリーC3とC4)において,対象眼の滲出型CAMDへの進行率が抗酸化ビタミン+ミネラル群において,プラセボ群と比べて滲出型CAMDへの進行の危険性がC25%減少したという結果が得られた(図2).AREDSサプリメントは病期を遅延させるのに有効であるというエビデンスを得ることができた結果,多数のサプリメントやマルチビタミンの投与がCAMD患者に推奨される弾みとなった.AREDSでは,滲出型CAMD発症率という点で抗酸化物質+亜鉛群で有意な抑制効果を示すことができたものの,萎縮型CAMD発症率については,発症例数が少なかったため,抑制効果傾向はみられたものの,有意差を示すことはできなかった.一方でCAREDSの研究を通して,いくつかの注意点がでてきた.亜鉛のとりすぎによる男性の泌尿器科異常,貧血,Cbカロテン内服群では黄色皮膚の合併症(おそらく柑皮症),喫煙者が摂取することで肺癌のリスク上昇などが問題となった.また,黄斑色素のカロテノイド成分はルテイン・ゼアキサンチンであるが,Cbカロテンを内服することによって,かえってルテイン・ゼアキサンチンの血中濃度低下傾向が示された.その理由として,小腸での脂溶性カロテノイド吸収において,Cbカロテンとルテインが競合する結果,Cbカロテンがルテインの取り込みを阻害している可能性が考えられ,Cbカロテンの必要性についての疑問が生じることとなった.そのころ,Cw3多価不飽和脂肪酸(polyunsaturatedfattyCacid:PUFA),ドコサヘキサエン酸(docosaC-hexaenoicacid:DHA)・エイコサペンタエン酸(eicosa-pentaenoicCacid:EPA)を多く摂取していると,AMDのリスクが低下するという報告3)がCAREDSグループか748あたらしい眼科Vol.35,No.6,2018(40)カテゴリー2カテゴリー3カテゴリー4図1AREDSカテゴリーの眼底所見参考例カテゴリーC2.4までの具体例を示す.表1AREDSカテゴリー分類%401小型ドルーゼン(直径C63Cμm未満)がC5個未満程度C2小型ドルーゼンがC5個以上,中型(直径C63Cμm以上C125Cμm未満)がC1個以上,または色素上皮異常(色素沈着または脱色素)を認めるC3a中型ドルーゼンC20個以上,または大型ドルーゼン(直径125Cμm以上)C1個以上,または中心窩を含まない地図状萎縮を認めるC3b対象眼はC3aの所見.かつ僚眼がCAMD以外の理由で視力0.6以下C4a対象眼はカテゴリーC1.C3aの所見.かつ僚眼が晩期CAMD(中心窩を含む地図状萎縮か脈絡膜新生血管)C4b対象眼はカテゴリーC1.C3aの所見.かつ僚眼がCAMDに関連し,視力がC0.6以下C28%302020%1001234567(年)プラセボ抗酸化物質+亜鉛図2進行期AMDの発症率AREDSReportNo.8(2001)より改変した.主試験(新規成分)n=4,203(カテゴリー3と4)プラセボ(コントロール)ω-3不飽和脂肪酸ルテイン・ゼアキサンチンω-3不飽和脂肪酸(10mg・2mg)(DHA350mg・EPA650mg)ルテイン・ゼアキサンチンn=1,012n=1,044n=1,068n=1,079除外副試験(AREDSベース)n=3,036n=659n=863n=689n=825図3AREDS2試験設計35内服30プラセボルテイン+ゼアキサンチン25DHA+EPAルテイン+ゼアキサンチン20とDHA+EPA15105Log-rankP=.400012345(年)進行期AMD発症眼数プラセボ1,6911,6471,5091,3771,243900ルテイン+ゼアキサンチン1,7091,6731,5351,4051,284938DHA+EPA1,7491,7021,5491,4201,260897ルテイン+ゼアキサンチンとDHA+EPA1,7421,6831,5421,4151,281923図4AREDS2における5年間のサプリメント別の進行期AMDの発症率の推移==表2市販されているAREDS処方を改変したサプリメント一覧オキュバイトプリザービジョンC2サンテルタックスC20+ビタミン&ミネラルメーカーカロテノイドビタミンCCCビタミンCEC亜鉛DHA販売価格(定価)ボシュロムルテインC10CmgゼアキサンチンC2Cmg408CmgC242CmgC亜鉛酵母C300Cmg(亜鉛C30Cmg相当)銅酵母C30Cmg(銅C1.5Cmg相当)Cなし4,900円(1カ月分)参天製薬ルテインC20CmgゼアキサンチンC3Cmg300Cmg150Cmg15CmgCなし4,600円(1カ月分)Cab図5市販されているAREDS2処方に準じたサプリメントa:左はボシュロム社のオキュバイトプリザービジョンC2.Cb:参天製薬のサンテルタックスC20+ビタミン&ミネラル.

アスタキサンチン

2018年6月30日 土曜日

アスタキサンチンAstaxanthin北市伸義*はじめに「一般社団法人おにぎり協会」は,毎年全国大手コンビニエンスストアの人気おにぎりランキングを発表している.2017年は1位ツナマヨネーズ,2位ベニザケ,3位明太子となっており,いつも1位と2位は接戦である.ベニザケハラミ,北海道産イクラ,生ホタテ・イクラなども上位なので,これらを合わせるとサケ・イクラは圧倒的な人気である.なぜこれほど日本人に人気なのか.それには古来日本人の伝統と知恵があり,最近の医学的研究で明らかになってきた事実がある.サケは外洋から生まれた川へ産卵のために帰ってくるが,川では塩分濃度が大きく変化し,しかもエサを取らずに急流をさかのぼるという大きなストレスに対応する.サケは遡上前に体が橙色(オレンジ色)に変わり,この時期の体色は「婚姻色」ともいわれる.このサケやイクラの橙色色素こそアスタキサンチンであり,カロテノイドの1種である.アスタキサンチンは1日6~9mgが摂取の目安で,ベニザケの刺身であれば2~3人前(200~300g)に相当する(表1).筆者らの行った安全性試験では5倍量を4週間摂取しても全身にとくに影響はなく,安全性が高いと考えられる.本稿ではキング・オブ・カロテノイドともいわれるアスタキサンチン研究の成果と臨床応用への取り組みを解説する.表1おもな食品中のアスタキサンチン含有量Iカロテノイド1.カロテノイドは光合成され,植物を守る地球上では光合成により毎年1億トンほどのカロテノイドが生産されると推測されている.水圏では珪藻や褐藻はフコキサンチン,クロレラはルテイン,ヘマトコッカスはアスタキサンチンを産生する.陸上の植物では葉緑体がbカロテン,ルテイン,ゼアキサンチンなどを産生する.その役割は光エネルギーを吸収してクロロフィルに渡す光合成過程とともに,過剰な光エネルギーを熱エネルギーに変換して細胞を光酸化から保護することであり,果実,果皮,種子などの表面にさまざまなカロテノイドが存在する(表2).ミカンはbクリプトキサンチン,唐辛子やパプリカはカプサイシン,トマトはリコペンによって色づく.農家は収穫前に水を減らしてあえてストレスを与え,カロテノイドを増やして熟させる.*NobuyoshiKitaichi:北海道医療大学予防医療科学センター眼科学系〔別刷請求先〕北市伸義:〒002-8072札幌市北区あいの里2条5丁目北海道医療大学予防医療科学センター眼科学系0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(33)741表2生物のもつおもな抗酸化物質カロテノイドCC40H56を基本構造とするものポリフェノールフェノール(石炭酸)を多数もつものカロテンキサントフィルフラボノイドその他のポリフェノールCbカロテン(果物,野菜,卵黄など多数)リコペン(トマト)アスタキサンチン(サケ・イクラ)ルテイン(ほうれん草などの野菜,卵黄)ゼアキサンチン(トウモロコシ)フコキサンチン(海藻類)Cbクリプトキサンチン(ミカン)カテキン(茶)タンニン(茶,柿)アントシアニン(ブドウ,ブルーベリーなどベリー類)ルチン(ソバ)イソフラボン(大豆)プロシアニジン(リンゴ)レスベラトロール(ブドウ)クロロゲン酸(コーヒー)エラグ酸(イチゴ)セサミン(ゴマ)クルクミン(ウコン)クマリン(柑橘類)オレオカンタール(オリーブ油)細胞数(×105個)50403020100陽性対照110100プレドニゾロンAST(mg/kg)(10mg/kg)図1EIU惹起ラット前房水中の炎症細胞数前房水中の炎症細胞数はアスタキサンチン(AST)の投与量依存的に減少し,ASTC100Cmg/kg投与群はプレドニゾロンC10mg/kg投与群とほぼ同程度であった.Ca87***IndexofCNVvolume(×10-13m3)6543210Vehicle110100AST(mg/kgBW)bAST(mg/kgBW)Vehicle110100図2脈絡膜新生血管に対するアスタキサンチンの効果加齢黄斑変性の動物モデルである脈絡膜新生血管(CNV)モデルでは,アスタキサンチン(AST)の摂取により用量依存的にCCNVが縮小した(緑色).a:CNVの大きさを計算により比較したもの.Cb:網膜フラットマウントによる実際のCCNV像.DAPIDHEMerge図3アスタキサンチン点眼による活性酸素の抑制マウス紫外線角膜障害モデルで,点眼により角膜の活性酸素種(赤色)が抑制された.青色は核染色.Ca:紫外線照射のみ,b:紫外線照射+アスタキサンチン点眼,c:正常対照.Phospho-IκBαCOX-2UVBcontrolNano-ASTASToilLuteinBillberryNaive図4ナノ化アスタキサンチン摂取による炎症シグナルの抑制ナノ化アスタキサンチン摂取群(Nano-AST)ではCCOX-2(上段)やリン酸化CICkBa(下段)は抑制された(いずれも緑色).青色は核染色.C250準他覚的調節力(%)200150100500摂取日数図5健常成人におけるアスタキサンチン摂取後の調節力変化14日目以降,アスタキサンチン(AST)摂取群では有意に調節力が向上した(**p<0.01).a.AXTab125*120115110105100950図7医療機関向けアスタキサンチンサプリメントの1例a:アスタリールCACT2,Cb:アスタケア.Cb.Placebo125120115110105100950pre2weeks4weeks図6アスタキサンチン摂取による健常者の眼底血流速度の変化ヒトの眼底血流速度(SBR)は,アスタキサンチン摂取群(Ca)でC4週間後に有意に増加した(*p<0.05).一方,プラセボ群(b)では有意な変化はなかった.ChangingratesofSBRagainstpretreatmentlevel(%)pre2weeks4weeks

アントシアニン

2018年6月30日 土曜日

5アントシアニンAnthocyanin小沢洋子*Iアントシアニンとはアントシアニンは植物界において広く存在する色素であり,われわれは食物から摂取する.アントシアニンを含む食材は赤~紫色をしていて,ブルーベリーなどのベリー系の果物,赤いリンゴ,ブドウ,ワインなどに含まれる1).元来,このような色素は植物にとっては外敵から身を守るためのものであり,草食動物に対して色素により視覚的威嚇を与える,または強い光・風や感染などに対し抵抗性を発揮するなどの役割をもつとされる2).アントシアニンはアントシアンすなわち植物に含まれる赤・青・紫などの色素物質群のうち,アントシアニジンに糖や糖鎖が結びついた配糖体成分のことで,フラボノイドの一種である(図1)2).R1,R2の残基により物質名が決まり,色調が異なる(表1).植物には通常,いくつかの種類のアントシアニンが混在している.アントシアニンはプラスにチャージした酸素分子をもつ.水溶性でありCpHが低いと安定である.しかし,アスコルビン酸とともにあると安定性が低下することも知られる2).フラボノイドとはクマル酸CCoAとマロニルCCoAが重合してできる天然に存在する有機化合物群であり,ポリフェノールの一種である.つまり,ポリフェノールの一つにフラボノイドがあり,その一つにアントシアニンがあることになる.ポリフェノールはその名の通りフェノールの構造を複数もつ物質の総称で,そのなかにはフラボノイドとは別に,ワインに含まれて健康長寿に図1アントシアニジンの構造式表1図1のR1,R2の違いによるアントシアニジンの種類および色調CyanidinCOHCH橙赤色CDelphinidinCOHCOH青っぽい赤CPetunidinCOCH3COH青っぽい赤CPeonidinCOCH3CH橙赤色CPelargonidinCHCH橙色CMalvidinCOCH3COCH3青っぽい赤C関連し得ることが知られるレスベラトロールも含まれる.CIIアントシアニンと酸化ストレスアントシアニンは,通常の身体機能維持には必須ではないが健康によい影響を与えるかもしれない植物由来の化合物,すなわちフィトケミカルの一種であり,さまざまな生物活性が報告されている.その一つに抗酸化作用がある.細胞が生理的活動をするにはミトコンドリアなC*YokoOzawa:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕小沢洋子:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(27)C735プラセボ8週間ビルベリー抽出物のカプセル連日摂取のカプセル図2VDT作業者の眼精疲労に対するビルベリー抽出物の効果の研究8週間のビルベリー抽出物継続摂取後では1.VDT作業によるCCFF低下が,摂取前と比べ少ない.2.CVDT作業によるドライアイの自覚症状,二重に見えること,不快感のスコアの悪化が,摂取前と比べ少ない.3.VDT作業後の眼の疲労感,眼痛,眼が重い感じ,不快感,異物感スコアの悪化が,プラセボ群と比べ少ない.図3エンドトキシン誘導網膜ぶどう膜炎モデルにおけるビルベリー抽出物の効果ビルベリー抽出物は炎症と酸化ストレスの正のフィードバック機構(悪性サイクル)を抑制した.光暴露なし光暴露ありコントロール溶媒投与コントロール溶媒投与ビルベリー抽出物投与視細胞図4網膜光暴露モデルにおけるビルベリー抽出物の効果ビルベリー抽出物は光暴露による網膜視細胞の減少(死)を抑制した.(文献C3より引用)

EPA/DHA

2018年6月30日 土曜日

EPA/DHAEicosapentaenoicAcidandDocosahexaenoicAcid柳井亮二*はじめにエイコサペンタエン酸(eicosapentaenoicacid:EPA)およびドコサヘキサエン酸(docosahexaenoicacid:DHA)はオメガ3脂肪酸とよばれる脂肪酸(不飽和脂肪酸)の一つで,一般にもよく知られている.図1に示すように不飽和脂肪酸はその構造に特徴があり,炭素=炭素の二重結合(不飽和結合,polyunsaturatedfattyacid:PUFA)を炭素鎖のメチル末端(オメガ末端)から3番目の炭素に二重結合をもっている.オメガ3脂肪酸は魚油やナッツ類に多く含まれ,抗炎症作用,抗動脈硬化作用などがある.EPAおよびDHAを含んだサプリメントはドラッグストアにも置かれており,簡単に購入することができるが,近年,眼科用サプリメントとして,眼疾患の予防に焦点を当てた製品が導入されている.本稿では眼科で取扱いのあるEPA,DHAのサプリメントを中心にその作用メカニズム,使用上の注意点について概説する.I成分紹介EPAやDHAなど多価不飽和脂肪酸は,分子中に二重結合を含むため(図1),酵素的な酸化反応によって生理活性を獲得し,脂質メディエーターとして機能している.前述のようにEPAやDHAはオメガ3脂肪酸とよばれており,メチル末端(オメガ末端)から3番目の炭素に二重結合をもっている.一方,オメガ6脂肪酸として知られているアラキドン酸はメチル末端(オメガ末COOH②③①CH3エイコサペンタエン酸(EPA)COOH③①CH3ドコサヘキサエン酸(DHA)COOHCH3アラキドン酸(ALA)図1不飽和脂肪酸の構造式不飽和多価脂肪酸はメチル基からの二重結合の位置でオメガ3脂肪酸(EPA,DHA)とオメガ6脂肪酸(アラキドン酸)に分類される.端)から6番目の炭素に二重結合があり(図1),オメガ3脂肪酸と同じ酵素反応を行うため,体内で拮抗している(図2).DHAは生体内で網膜外層にもっとも多く存在しており,DHAの減少は加齢黄斑変性の発症にも密接に関連している1).オメガ3脂肪酸もオメガ6脂肪酸も生体内では合成で*RyojiYanai:山口大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕柳井亮二:〒755-8505山口県宇部市小串1-1-1山口大学大学院医学系研究科眼科学0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(19)727細胞質リン脂質プロスタグランジンロイコトリエンエポキシテイコサトリエン酸プロスタサイクリンリポキサントロンボキサン図2EPA,DHAの作用メカニズムオメガ3脂肪酸はオメガ6脂肪酸の酵素代謝を拮抗することで抗血管新生,抗炎症作用を発揮する.VEGF(pg/mgtotalprotein)1007550250図4マウスAMDモデルマウスの脈絡膜血管新生のマクロファージ侵入およびVEGF発現a:蛍光発色ノックインマウスを用いて脈絡膜血管新生のマクロファージ侵入数を測定すると,オメガC6摂食(ALA)群に比べ,オメガC3摂食(EPA+DHA)群で有意に減少していた.Cb:脈絡膜血管新生のCVEGF蛋白質の発現量はオメガC6摂食(ALA)群に比べ,オメガC3摂食(EPA+DHA)群で有意に減少していた.(文献C2より許可を得て掲載)臨床スコア5****43210図5眼内炎症に対する効果実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎(experimentalautoimmuneuveoretinitis:EAU)モデルマウスの臨床スコアは,オメガC6摂食(ALA)群に比べ,オメガC3摂食(EPA+DHA)群で有意に減少していた.(文献C3より許可を得て掲載)健常対照オメガ6オメガ3実験的ぶどう膜炎誘導g/人日120肉類1008060魚介類40200図6魚介類と肉類の摂取量の推移2006年に魚介類よりも肉類の摂取が上回り,魚介類摂取量は減少している.厚生労働省「国民栄養調査」「国民健康・栄養調査報告」表2EPA,DHA含有製品一覧表2011C2012C20102015(2015)C栄養機能食品C─機能性表示食品栄養機能食品60粒60粒31粒60粒3,500円4,600円1,848円3,000円2粒2粒1粒2粒5mgC20mgC10mgC3mg1mgC3mgC2mgC─150CmgC─(非表示)C40Cmg20mgC─C─C9.8mg9CmgC─(非表示)C7CmgC160mgC─C─C81mgC90CmgC200Cmg(非表示)C54Cmg─C─C─C135mg図7眼科取扱いのEPA,DHAサプリメント

ルテイン

2018年6月30日 土曜日

ルテインLutein尾花明*はじめにルテインに関しては,本誌2010年1月号特集「眼に良い食べ物」1)および2012年8月号特集「臨床において必要なサプリメントの知識」2)で詳述した.2013年のAge-RelatedEyeDiseaseStudy2ResearchGroup(AREDS2)の報告3)以降,ルテイン・ゼアキサンチン含有サプリメントが眼科臨床の場で広く使用されるようになり,ルテインに関する知識は広まっていると思う.そこで,本稿では冒頭に再確認の意味で基本事項を記載し,続いて各項目に沿って歴史的経緯から最新情報を含む詳しい内容を記載した.基本事項1.ルテインは緑色葉物野菜に多く含まれるカロテノイドである.2.ルテインは体内で合成されず,経口摂取により蓄積する.3.黄斑色素の成分はルテイン,ゼアキサンチン,メソゼアキサンチンである.4.黄斑色素はHenle線維層に多く存在する.5.黄斑色素はブルーライトハザードから網膜を保護する.6.黄斑色素はコントラスト感度の向上,グレア障害の低減など視機能に有用である.7.ルテイン含有サプリメントが加齢黄斑変性の予防に有効である.8.ルテイン含有サプリメントの効果には個人差がある.9.ルテイン含有サプリメントは製品による違いがある.I詳しい解説1.ルテインは緑色葉物野菜に多く含まれるカロテノイドであるルテイン(lutein)はラテン語の黄色“luteus”から派生した言葉で,濃緑食野菜に豊富に存在する.自然界のカロテノイドは約750種類で,食品中には約650種類,ヒトの体内には約30種類がある.カロテノイドはC40H56を基本構造とする長鎖ポリイソプレノイド分子である.炭素と水素のみのものがカロテンで,両端のシクロヘキセン環に水酸基をもつルテインはキサントフィルに属する.ゼアキサンチンはルテインの異性体で,シクロヘキセン環の二重結合の位置が異なり,共役二重結合数はルテインが10個,ゼアキサンチンは11個である(図1).ゼアキサンチンには三つの立体異性体があるが,そのうちの二つ(3R,3’R)ゼアキサンチンと(3R,3’S)ゼアキサンチン(メソゼアキサンチン)が眼に存在する.ルテインはマリーゴールドなどの花やホウレンソウなどの緑色野菜に豊富に含まれるが,花や実では脂肪酸と結合したエステル体,野菜ではフリー体の形で存在する.*AkiraObana:聖隷浜松病院眼科〔別刷請求先〕尾花明:〒430-0906静岡県浜松市中区住吉2-12-12聖隷浜松病院眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(11)719図1眼に存在するカロテノイドルテイン,(3R,3’R)ゼアキサンチン,(3R,3’S)ゼアキサンチン(メソゼアキサンチン)の3種類が網膜に存在し,黄斑色素の成分となる.内網状層Tublin特異的結合蛋白外網状層(Henle線維層)視細胞のレチノイド錐体外節受容体:IRBP網膜色素上皮RPEのHDL受容体:SR-BI脈絡膜毛細血管図2ルテインの網膜内取り込み経路脈絡膜毛細血管のルテインはCscavengerreceptorclassBtype1(SR-B1)を介して網膜色素上皮細胞に取り込まれた後,レチノイド受容体を介して視細胞外節から視細胞内に入り,ルテインおよびゼアキサンチンのそれぞれの特異的結合蛋白と結合し,軸索突起に集積する.(組織図は文献C5より引用)ab図3黄斑色素の存在部位a:サル眼の組織切片で黄色色素が黄斑色素である.b:サル眼のトルイジンブルー染色網膜切片標本で,中心窩では視細胞層の内側には神経突起はなく,グリア細胞(赤線で示されたC3角形の部位)がみられる.aと見比べるとこの部位に黄色色素が多いことがわかる.Cc:ヒト眼の錐体・杆体分布図である.種が異なり直接比較はできないが,bの赤四角の範囲がおよそCcの点線の範囲に相当し,ほぼ錐体細胞の存在部位に一致する.すなわち,中心窩の錐体細胞の存在部位に一致して,Mullercellconeがあり,そこに黄斑色素が多く存在する.また,bの黄色点線はCHenle線維層を示すが,aと見比べるとCHenle線維層に色素が多いことがわかる.C(aは文献5,b,cは文献C12より引用)光障害=酸化ストレス図4黄斑色素のフィルター効果黄斑色素は青色可視光を一部吸収することで光障害から錐体を守る.いわば網膜内のサングラスといえる.(組織図は文献C5より引用)内のリポフスチンは青色光励起で一重項酸素を発生し,それにより視細胞の高級不飽和脂肪酸〔ドコサヘキサエン酸(docosahexaenoicacid:DHA),エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoicacid:EPA)〕が酸化されるが(この青色光による障害をブルーライトハザードという),視細胞外節の細胞膜内ルテインが,この一重項酸素を消去すると考えられる.C6.黄斑色素はコントラスト感度の向上,グレア障害の低減など視機能に有用である網膜内での青色光の散乱はコントラストの低減とグレアの原因になるが,青色光が吸収されることでコントラストの向上(とくに青の背景で黄色から赤のものを見るときなど)とグレアの低減につながる.Hammondらの研究16)では,ルテイン・ゼアキサンチン血清濃度が高い個体で黄斑色素密度が高く,色コントラスト向上,グレア障害軽減,光刺激回復時間短縮が認められている.C7.ルテイン含有サプリメントが加齢黄斑変性の予防に有効であるa.ルテインと加齢黄斑変性の関係1994年,Seddonらは,食事によるルテイン・ゼアキサンチン高摂取が加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)発症リスク低下につながることを初めて報告し17),その後も類似の報告が相次いだ.このころ,米国国立眼研究所が抗酸化ビタミンとミネラルによるCAMDと白内障の発症予防に関する研究を開始し,その結果はC2001年に報告された(本号特集AREDSサプリメント参照)18).この試験開始時点ではルテインサプリメントの市販品がなかったためルテインは含まれなかったが,登録時の食事アンケートをもとに,ルテイン・ゼアキサンチン摂取量をC4群に分けると,最低摂取群(摂取量中央値C0.7mg/日)に対して最大摂取群(3.5mg/日)の滲出型CAMDオッズ比はC0.65,萎縮型C0.45であったことから19),ルテインの重要性が認識されCAREDS2試験が計画された.ルテインサプリメントを用いた最初の介入試験結果はC2004年にCRitch-erらにより報告された20).AREDSのCstage2,3,4に相当するCAMD前駆病変をもつ患者C90人にルテインC10mg/日を投与したところ,黄斑色素密度の増加とコントラスト感度,グレア障害の改善を認めた.2013年にAREDS2の結果3)が報告され,ルテインC10mg・ゼアキサンチンC2mg投与の有効性が示された(本号特集AREDSサプリメント参照).加齢黄斑変性を対照としたルテイン・ゼアキサンチンの効果に関する研究は,欧州その他の国々から多数の報告がある.Cb.ルテインと白内障ルテインは水晶体にも存在し,抗酸化作用により白内障進行抑制効果をもつ.ルテイン・ゼアキサンチン血清濃度と核白内障の危険率は逆相関することが,疫学データのメタ解析で示された21).C8.ルテイン含有サプリメントの効果には個人差があるルテイン・ゼアキサンチンは小腸で吸収されて網膜に蓄積するまでに,種々の結合蛋白とレセプターを介するが,それらの働きによって吸収,蓄積のされ方が異なる.小腸や網膜でのコレステロール輸送蛋白,血中HDL量,カロテノイド分子の解離,オメガC3脂肪酸代謝,遺伝性黄斑症などに関連する遺伝子において,血清ルテイン濃度と黄斑色素密度に関与する一塩基多型が報告されている22).一般的には,ルテインサプリメント摂取を開始すると,2,3カ月間は黄斑色素密度が直線的に上昇し,その後定常状態になる.しかし,上昇の仕方には個人差がある.サプリメントを摂取しても血清濃度も黄斑色素密度も上昇しない例や,血清濃度は上昇するが黄斑色素密度は増加しない例もある23).これには,上記の遺伝的要因と投与開始前の状態が関係すると思われる.投与前からすでに血清濃度,黄斑色素密度が十分に高い例は,サプリメントを投与してももはや増加はしない.このことは過去のCAREDS2やその他の介入試験でも示されており,食事での摂取量の少ない例,血清濃度の低い例,黄斑色素密度の低い例に,サプリメントはとくに有用であることを意味する.C9.ルテイン含有サプリメントは製品による違いがあるルテインはブルーベリーなどのアントシアニンとともに,眼関連サプリメントとして非常に販売量が多く,国(15)あたらしい眼科Vol.35,No.6,2018C723ルテイン・ゼアキサンチンのみAREDS処方に類似(医家向け限定販売)(一般販売)アントシアニンと組み合わせ図5市販されているルテインサプリメント含有成分で分類すると,おもにルテイン・ゼアキサンチン含有のもの,AREDS2に類似しビタミン・ミネラルも含有するもの,アントシアニンと組み合わせたものに分けられる.その他,ドコサヘキサエン酸(DHA)や他の成分と組み合わせたものなど,この図以外に多数の商品が販売されている.摂取量はC0.5.4.0mg/日と報告されているが,日本人未婚者ではC0.35mg/日に過ぎないとの報告24)もある.ルテイン・ゼアキサンチンはCAMD,白内障の予防以外にも,乳幼児の網膜の発達や脳機能の発達に関係するとされ,さらに最近では高齢者の認知機能の維持にも有用であるとの報告がある.したがって,食事から十分な摂取のできていない人は,健常人であってもルテイン・ゼアキサンチンサプリメントを上手に生活に取り入れるのがよいと考える.文献1)尾花明:ホウレンソウ,ケール(ルテイン,ゼアキサンチン).あたらしい眼科C27:9-15,2010C2)尾花明:医科向けのサプリメント:ルテイン.あたらしい眼科C29:1057-1062,2012C3)Age-RelatedEyeDiseaseStudy2ResearchGroup:CLutein+zeaxanthinandomega-3fattyacidsforage-relat-edmaculardegeneration:theAge-RelatedEyeDiseaseStudy2(AREDS2)randomizedclinicaltrial.JAMAC309:C2005-2015,2013C4)BernsteinPS,KhachikF,CarvalhoLSetal:Identi.cationCandquanti.cationofcarotenoidsandtheirmetabolitesinCthetissuesofthehumaneye.ExpCEyeCRes72:215-223,C2001C5)SnodderlyDM,BrownPK,DeloriFCetal:ThemacularCpigment.IAbsorbancespectra,localization,anddiscrimi-nationfromotheryellowpigmentsinprimateretinas.CInvestOphthalmolVisSci25:660-673,1984C6)BernsteinPS,LiB,VachaliPPetal:Lutein,zeaxanthin,andmeso-zeaxanthin:ThebasicandclinicalscienceCunderlyingcarotenoid-basednutritionalinterventionsCagainstoculardisease.ProRetEyeRes50:34-66,2016C7)BoneRA,LandrumJT,TarsisSL:PreliminaryCidenti.cationofthehumanmacularpigment.VisionCResC25:1531-1535,1985C8)ObanaA,HiramitsuT,GohtoYetal:MacularcarotenoidClevelsofnormalsubjectsandage-relatedmaculopathyCpatientsinaJapanesepopulation.Ophthalmology115:C147-157,2008C9)BernsteinPS,SchrifzadehM,LiuAetal:Blue-lightCre.ectanceimagingofmacularpigmentininfantsandCchildren.InvestOphthalmolVisSci54:4034-4040,2013C10)SasanoH,ObanaA,SharifzadehMetal:Opticaldetec-tionofmacularpigmentformationinprematureinfants.TVST2018(印刷中)C11)SherryCL,OliverJS,RenziLMetal:Luteinsupplemen-tationincreasesbreastmilkandplasmaluteinconcentra-tionsinlactatingwomenandinfantplasmaconcentrationsCbutdoesnota.ectothercarotenoids.JCNutri144:1256-(17)1263,2014C12)BernsteinPS:Maculargeology.Age-relatedMacularDegeneration(BergerJW,FineSL,MaguireMG)C,p1-16,CMosby,StLouis,1999C13)GassJDM:Mullercellcone,anoverlookedpartoftheCanatomyofthefoveacentralis.ArchCOphthalmol117:C821-823,1999C14)ObanaA,SasanoH,OkazakiSetal:Evidenceofcarot-enoidinsurgicallyremovedlamellarhole-associatedCepiretinalproliferation.InvestCOphthalmolCVisCSci58:C5157-5163,2017C15)ReichenbachA,BringmannA:NewfunctionsofMullerCcells.Glia61:651-678,2013C16)HammondBR,FletcherLM,ElliottJG:Glaredisability,photostressrecovery,andchromaticcontrast:relationtoCmacularpigmentandserumluteinandzeaxanthin.InvestOphthalmolVisSci54:476-481,2013C17)SeddonJM,AjaniUA,SperdutoRDetal:DietarycarotC-enoids,vitaminsA,C,andE,andadvancedage-relatedCmaculardegeneration.JAMA272:1413-1420,1994C18)Age-relatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:Aran-domized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesup-plementationwithvitaminsCandE,betacarotene,andCZinkforage-relatedmaculardegenerationandvisionloss.CAREDSReportNo.8.ArchCOphthalmol119:1417-1436,C2001C19)Age-relatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:TheCrelationshipofdietarycarotenoidandvitaminA,E,andCCintakewithage-relatedmaculardegenerationinacase-controlstudy.AREDSReport22.ArchOphthalmol125:C1225-1232,2007C20)RitcherS,StilesW,StatkuteLetal:Double-masked,plaC-cebo-controlled,randomizedtrialofluteinandantioxidantCsupplementationintheinterventionofatrophicage-relat-edmaculardegeneration:theVeteransLASTstudy(LuteinAntioxidantSupplementationTrial)C.OptometryC75:216-230,2004C21)LiuXH,YuRB,HaoZXetal:Associationbetweenluteinandzeaxanthinstatusandtheriskofcataract:ameta-analysis.Nutirients22:452-465,2014C22)MeyersKJ,MaresJA,IgoRPJretal:GeneticevidenceCforroleofcarotenoidsinage-relatedmaculardegenera-tionintheCarotenoidsinAge-RelatedEyeDiseaseStudy(CAREDS).InvestCOphthalmolVisSci55:587-599,2014C23)ObanaA,TanitoM,GohtoYetal:ChangesinmacularCpigmentopticaldensityandserumluteinconcentrationinCJapanesesubjectstakingtwodi.erentluteinsupplements.CPLosCOne10:e013927,2015C24)HosotaniK,KitagawaM:MeasurementofindividualCdi.erencesinintakeofgreenandyellowvegetablesandCcarotenoidsinyoungunmarriedsubjects.JNutrSciVita-minol53:207-212,2007あたらしい眼科Vol.35,No.6,2018C725

眼科におけるサプリメント(総説)

2018年6月30日 土曜日

眼科におけるサプリメント(総説)DietarySupplementsinJapan─aNarrativeReview─川崎良*Iサプリメントとは?サプリメントという言葉は広く用いられているが,その明確な定義はない.米国におけるdietarysupple-mentおよび欧州連合におけるfoodsupplement,あるいはオーストラリア,ニュージーランドにおけるnutri-tionalsupplementの共通部分を集約すると「サプリメントは通常の食事からは期待しえない,機能性を有する成分の摂取によって人体の健康な機能を維持,増進,改善することを目的としており,一つ以上の栄養成分を含み,錠剤,カプセル状など一定少量ごとに摂取可能であって,飲食などの通常の食品の形態をとらないもの」と集約される1).一般的にはより広い概念として健康食品があり,「健康の保持増進に資する食品全般」と考えられるが,そのなかでも「特定成分が濃縮された錠剤やカプセル形態の製品」がそれに該当すると考えられている2).IIわが国におけるサプリメントの利用状況国立健康・栄養研究所の調査では約3割の人が健康食品やサプリメントを毎日利用し,利用経験者は約8割にも上っていたという.小児においても健康食品やサプリメントの利用は拡大している.日本通信販売協会の報告3)によれば,すでに2013年の段階で健康食品・サプリメントの市場の規模は約1兆5,000億円で,5,000万人以上の利用者人口であると推計されている.とくに,男性より女性で利用者が多く,女性では60歳代,男性では40歳代の利用人数が多いと報告された.健康食品・サプリメントの利用で期待するヘルスベネフィット別では「健康維持・増進」「美肌・肌ケア」の市場規模が大きく,次いで「関節の健康」「疲労回復」「栄養バランス」,さらに「目の健康(ドライアイ対策を除く)」となっており,眼の健康に対する一定の期待があり,実際にサプリメントが利用されている実態がある.III食品の機能を表示できる「保健機能食品制度」サプリメントは健康食品としては自由に流通しているが,健康に関連してその機能を表示するうえでは食品表示法に従う必要がある.また,健康増進法に定める特定保健用食品として扱われるためにはより明確にその効果を評価し,認定のための基準を満たす必要がある.わが国において特定の保健の目的が期待できる(健康の維持および増進に役立つ)食品について,機能を表示することができる制度として保健機能食品制度があり,現在大きく「特定保健用食品」「栄養機能食品」「機能性表示食品」の3種類が定められ消費者庁が管轄している(図1,表1).1.特定保健用食品特定保健用食品(いわゆる“トクホ”)は,健康増進法において特別の用途に適する食品としての表示が定めら*RyoKawasaki:大阪大学大学院医学系研究科・視覚情報制御学(トプコン)寄附講座教授〔別刷請求先〕川崎良:〒565-0871大阪府吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科・視覚情報制御学(トプコン)寄附講座教授0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(3)711健康食品医薬品「保健機能食品」特定の保健の目的が期待できる(健康の維持および増進に役立つ)食品の場合にはその機能について,また国の定めた栄養成分については,一定の基準を満たす場合にその栄養成分の機能を表示することができる制度図1保健機能食品制度の概要表1現在,わが国で定められている3種類の保健機能食品機能性表示食品届出制事業者の責任において,科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品.販売前に安全性および機能性の根拠に関する情報などを消費者庁長官へ届出.特定保健用食品とは異なり,消費者庁長官の個別の許可を受けたものではない.栄養機能食品自己認証制1日に必要な栄養成分が不足しがちな場合,その補給・補完のために利用できる食品.すでに科学的根拠が確認された栄養成分を一定の基準量含む食品であれば,とくに届出などをしなくても,国が定めた表現によって機能性を表示することができる.特定保健用食品(トクホ)個別許可制健康の維持増進に役立つことが科学的根拠に基づいて認められ,「コレステロールの吸収を抑える」などの表示が許可されている食品.表示されている効果や安全性については国が審査を行い,食品ごとに消費者庁長官が許可.出の必要のない自己認証制となっている.機能表示ができる栄養分はミネラルとしてカルシウム,亜鉛,銅,マグネシウム,鉄,カリウム,ビタミンとしてナイアシン,パントテン酸,ビオチン,ビタミンCA,ビタミンB1,ビタミンCB2,ビタミンCB6,ビタミンCB12,ビタミンCC,ビタミンCD,ビタミンCE,ビタミンCK,葉酸,そして脂質としてCn-3系脂肪酸があげられている.このなかで眼科領域での栄養機能表示が定められているのはビタミンCAである.栄養機能食品としてのビタミンCAについてはC1日当たりの摂取目安量に含まれる栄養成分量の下限値がC231Cμg,上限値がC600Cμgと定められている.表示できる栄養機能は「ビタミンCAは,夜間の視力の維持を助ける栄養素です.ビタミンCAは,皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素です」と定められている.ビタミンCAの欠乏は夜盲症,眼球乾燥症のほか,乳幼児期には感染症のリスクを高め死亡率を上昇させることが知られ,さらにはビタミンCAの補充により死亡率を低くすることも報告されている5).また,ビタミンCC,ビタミンCEは加齢黄斑変性の前駆病変からの進行の抑制を示したCAge-relatedCEyeCDiseaseCStudy(AREDS)およびCAREDS26)で用いられたサプリメントの組成に含まれていたことから,国内ではビタミンCCとビタミンCEに加えてルテインやCn-3系脂肪酸を配合しCAREDS/AREDS2組成に近づけたサプリメントが「ビタミンCCとビタミンCEについての栄養機能食品」として販売されている例もある.栄養機能食品における栄養素とその機能の基礎資料となっているのは「日本人の食事摂取基準」である.かつては栄養所要量とよばれていた厚生労働省から出される食事や栄養に関する包括的なガイドラインで,5年にC1回改訂され,最新版はC2015年版である7).表2に基準が示されている栄養素の抜粋を掲載した.栄養素の基準となる指標は,推定平均必要量(estimatedCaveragerequirement:EAR),推奨量(recommendedCdietaryallowance:RDA),目安量(adequateCintake:AI),耐容上限量(tolerableCupperCintakeClevel:UL),目標量(tentativedietarygoalforpreventinglife-stylerelateddiseases:DG)(単位:%エネルギー)で,それぞれ年齢,性別毎に示されている(図2,表3).サプリメントによる補充を考える際に耐容上限量はじめこれらの指標を目安にすることは,過剰摂取による健康被害を予防するうえで重要な指標であると考える.C3.機能性表示食品これまで上記C2種類の食品の枠に当てはまらない健康食品についてはさまざまな名称が用いられてきたが,平成C27年に事業者の責任において一定の科学的根拠があると判断される機能性を表示できる食品として機能性表示食品が定められた.これは,事業者が販売前に安全性および機能性の根拠に関する情報を基に消費者庁長官へ届け出る制度で,具体的には臨床試験またはシステマティックレビューの知見により一定の効果が期待できると判断されるものを申請する制度である.この際に,最終的な製品ではなく機能性をもつと考えられる関与成分に関する研究やシステマティックレビューであっても評価が認められる.特定保健用食品とは異なり,消費者庁長官の個別の許可を受けたものではない.制度が始まって以降,これまで健康食品として分類されていた食品などが多く届け出られており,そのなかには眼科領域に関連するものも多い.機能性表示食品の届け出情報検索サイトでは,一般向けの製品概要に加えて,事業者が申請に用いた科学的根拠についての資料も閲覧することができる8).最近では海外のサプリメントも販売されたり個人輸入して利用されたりしている.海外のサプリメントについては,第三者機関としてサプリメントを調査している機関のウェブサイトなど9.13)が参考になる.CIVエビデンスに基づいたサプリメント利用に向けて医療においてはエビデンスに基づいた予防,診断,治療の選択が浸透しているが,サプリメントについてもエビデンスに基づいて安全で有効な利用が望ましい.とくに機能性表示食品制度はこれまでのサプリメントを集約し,ある一定のエビデンスに基づく食品として位置づけるものとなっている.消費者庁は現在の機能性表示食品制度を始めるに先立って,その制度の基礎となる機能性の学術的評価の試みとして「食品の機能性評価モデル事業」を行い,その結果が報告されている14).そのなかで(5)あたらしい眼科Vol.35,No.6,2018C713表2基準を策定した栄養素と設定した指標栄養素推定平均必要量(EAR)推奨量(RDA)目安量(AI)耐容上限量(UL)目標量(DG)(%エネルギー)たんぱく質50/40(g/日)60/50(g/日)13.C20(C16.5)脂質脂質20.C30(25)飽和脂肪酸7以下n-6系脂肪酸8.1C1/7.8(g/日)n-3系脂肪酸2.0.C2.4/1.6.C2.0(g/日)炭水化物炭水化物50.C65(C57.5)食物繊維19.2C0以上C/17.1C8以上(g/日)ビタミン脂溶性ビタミンCA550.C650/450.C500(CμgRAE/日)800.C900/650.C700(CμgRAE/日)2,700/2,700(CμgRAE/日)ビタミンCD5.5(Cμg/日)100(Cμg/日)ビタミンCE6.5/6(mg/日)750.C900/650.C700(mg/日)ビタミンCK150(Cμg/日)水溶性ビタミンCB11.0.C1.2/0.8.C0.9(mg/日)1.2.C1.4/0.9.C1.1(mg/日)ビタミンCB21.1.C1.3/0.9.C1.0(mg/日)1.3.C1.6/1.1.C1.2(mg/日)ナイアシン11.C13/8.C10(mgNE/日)13.C15/10.C12(mgNE/日)300.C350(C75.C85)C/250(60.65)(ニコチンアミドmg量(ニコチン酸mg量))ビタミンCB61.2/1.0(Cmg/日)1.4/1.2(Cmg/日)50.6C0/40.4C5(mg/日)ビタミンCB122(Cμg/日)2.4(Cμg/日)葉酸200(Cμg/日)240(Cμg/日)C3900.C1,000(Cμg/日)パントテン酸5/4.5(mg/日)ビオチン50(Cμg/日)ビタミンCC85(mg/日)100(mg/日)ミネラル多量ナトリウム600(mg/日)(食塩相当量C1.5g/日)C8.0/7.0(食塩相当量g/日)カリウムC2,500/2,000(mg/日)3,000以上C/2,600以上(mg/日)カルシウム550.C650/500.C550(mg/日)650.C800/650(mg/日)2,500(mg/日)マグネシウム270.C310/220.C270(mg/日)320.C370/270.C310(mg/日)C3350(mg/日)(通常の食事以外からの摂取量)リン1,000/800(Cmg/日)3,000(mg/日)微量鉄6.0.C6.5/5.0.C5.5(月経あり)8.5.C9.0(月経なし)(mg/日)7.0.C7.5/10.5(月経あり)6.0.C6.5(月経なし)(mg/日)50.5C5/40(mg/日)亜鉛8/6(mg/日)9.1C0/7.8(mg/日)40.4C5/35(mg/日)銅0.7/0.6(Cmg/日)0.9.C1.0/0.7.C0.8(mg/日)10(mg/日)マンガン4.0/3.5(Cmg/日)11(mg/日)ヨウ素95(Cμg/日)130(Cμg/日)3,000(Cμg/日)セレン25/20(Cμg/日)30/25(Cμg/日)400.C460/330.C350(Cμg/日)クロム10(Cμg/日)モリブデン20.C25/20(Cμg/日)25.C30/20.C25(Cμg/日)550/450(Cμg/日)18歳.70歳以上の範囲を示す.性別によって異なる場合は男性/女性と示した.レチノール活性当量(μgRAE)=レチノール(μg)+b.カロテン(μg)C×1/12+a.カロテン(μg)C×1/24+b.クリプトキサンチン(μg)C×1/24+その他のプロビタミンCAカロテノイド(μg)C×1/24;NE=ナイアシン当量=ナイアシン+1/60トリプトファン(文献C7より抜粋)不足の健康障害リスク1.00.50.0250不確実性因子(UF)報告に基づく場合:NOAEL/UF(1-5)ヒトを対象として通常の食品を摂取したヒトを対象としてサプリメントを摂取した報告に基づく場合,または,動物実験やinvitroの実験に基づく場合:LOAEL/UF(10)健康障害非発現量最低健康障害発現量(NOAEL)(LOAEL)図2栄養素の基準となる指標(文献C7より改変引用)C過剰摂取の健康障害リスク表3栄養素の基準となる指標の定義基準となる指標定義推定平均必要量(estimatedaveragerequirement:EAR)ある対象集団において測定された必要量の分布に基づき,母集団における必要量の平均値の推定値を示す.当該集団に属するC50%の人が必要量を満たす(同時に,50%の人が必要量を満たさない)と推定される摂取量.推奨量(recommendeddietaryallowance:RDA)ある対象集団において測定された必要量の分布に基づき,母集団に属するほとんどの人(C97.C98%)が充足している量.推奨量は,推定平均必要量が与えられる栄養素に対して設定され,推定平均必要量を用いて算出される.推奨量は,実験等において観察された必要量の個人間変動の標準偏差を,母集団における必要量の個人間変動の標準偏差の推定値として用いることにより,理論的には,(推定必要量の平均値+2×推定必要量の標準偏差)として算出される.しかし,実際には推定必要量の標準偏差が実験から正確に与えられることはまれである.そのため,多くの場合,推定値を用いざるを得ない.したがって,推奨量=推定平均必要量C×(C1+2C×変動係数)=推定平均必要量×推奨量算定係数として求めた.目安量(adequateintake:AI)特定の集団における,ある一定の栄養状態を維持するのに十分な量.十分な科学的根拠が得られず「推定平均必要量」が算定できない場合に算定するものとする.実際には,特定の集団において不足状態を示す人がほとんど観察されない量として与えられる.基本的には,健康な多数の人を対象として,栄養素摂取量を観察した疫学的研究によって得られる.目安量は,次の三つの概念のいずれかに基づく値である.どの概念に基づくものであるかは,栄養素や性・年齢階級によって異なる.①特定の集団において,生体指標等を用いた健康状態の確認と当該栄養素摂取量の調査を同時に行い,その結果から不足状態を示す人がほとんど存在しない摂取量を推測し,その値を用いる場合:対象集団で不足状態を示す人がほとんど存在しない場合には栄養素摂取量の中央値を用いる.②生体指標などを用いた健康状態の確認ができないが,健康な日本人を中心として構成されている集団の代表的な栄養素摂取量の分布が得られる場合:栄養素摂取量の中央値を用いる.③母乳で保育されている健康な乳児の摂取量に基づく場合:母乳中の栄養素濃度と哺乳量との積を用いる.耐容上限量(tolerableupperintakelevel:UL)健康障害をもたらすリスクがないとみなされる習慣的な摂取量の上限を与える量.これを超えて摂取すると,過剰摂取によって生じる潜在的な健康障害のリスクが高まると考える.理論的には,「耐容上限量」は,「健康障害が発現しないことが知られている習慣的な摂取量」の最大値(健康障害非発現量,Cnoobservedadversee.ectlevel:NOAEL)と「健康障害が発現したことが知られている習慣的な摂取量」の最小値(最低健康障害発現量,lCowestobservedadversee.ectlevel:LCOAEL)との間に存在する.しかし,これらの報告は少なく,特殊な集団を対象としたものに限られること,さらには,動物実験やinCvitroなど人工的に構成された条件下で行われた実験で得られた結果に基づかねばならない場合もあることから,得られた数値の不確実性と安全の確保に配慮して,CNOAEL又はCLOAELを「不確実性因子」(uncertainfactor:UF)で除した値を耐容上限量とした.具体的には,基本的に次のようにして耐容上限量を算定.・ヒトを対象として通常の食品を摂取した報告に基づく場合:UCL=NOAEL÷UF(UCFにはC1からC5の範囲で適当な値を用いた)・ヒトを対象としてサプリメントを摂取した報告に基づく場合,または,動物実験やCinCvitroの実験に基づく場合:UL=LOAEL÷UF(UFにはC10を用いた)(文献C7より抜粋,一部改変)表4研究を読み解くキーワードとサプリメントに関する研究を吟味するポイントの例研究を読み解くキーワードサプリメントに関する研究吟味のポイント例P:Patients誰を対象とするのか・サンプリングに偏りはないか?・研究対象は想定されるサプリメントユーザーを代表しているか?E:Exposureどんな要因を取り上げるのかもしくはもしくはI:Interventionどんな介入を取り上げるのか・成分量はサプリメントとして摂取できる投与量,投与方法に近いか?・介入は無作為化割り付けされているか?介入が盲検化されているか?・観察期間は十分か?・不自然な脱落や中断の有無がないか?C:Comparison何と比較するのか・無投与に対する比較か?・プラセボに対する比較か?・低用量や投与法の比較か?O:Outcomes何をアウトカムとするのか・客観的な指標を用いているか?・再現性の高い指標を用いているか?・臨床的に意義のあるアウトカムか?表5健康食品と医薬品のおもな違い医薬品健康食品製品の品質同じ品質のものが製造・流通品質の異なるものが存在科学的根拠の質と量病者を対象とした安全性・有効性試験が実施試験管内実験や動物実験が主体病者を対象とした試験はほとんど実施されておらず,安全性試験があったとしても対象は健常者利用環境医師,薬剤師により,安全な利用環境が整備あくまで食品の一つ製品の選択・利用は消費者の判断であり自己責任(文献C2より抜粋)の食事由来摂取量が少ない群で,とくにルテイン摂取の加齢黄斑変性進行抑制が大きいことなどが報告されている6).このような点を食事調査や該当成分の血中濃度測定などで医療に取り込んでいくことができれば,個別化医療のシナリオの一つとなる可能性もあり興味深い.わが国では医療費抑制効果を期待してセルフメディケーションが推進されている.これはスイッチCOCT医薬品(要指導医薬品および一般用医薬品のうち,医療用から転用された医薬品)の自主服薬を推進するもので,今年度からはセルフメディケーション税制の導入などが創設された.対象となるスイッチCOCT医薬品にはビタミンCB12(メコバラミン)やCn-3系脂肪酸(イコサペント酸エチル)などサプリメントとの重複領域にあるものも含まれ,さらに利用される機会は増える可能性がある.その一方で,サプリメント利用の“inversecarelaw”の危惧もあると考えている.“InverseCcareClaw”とは1971年,英国の医師CJulianCTudorCHartが『Lancet』誌で提唱したもので,本来もっとも健康を損なうリスクの高い集団がいざ医療を受ける段になるともっとも医療を受けにくい状況を風刺的に表した言葉である19).実際に医療だけでなく,健康診査や人間ドックなど予防医学の分野ではこの“inversecarelaw”に類した現象がしばしば認められる.サプリメント利用においても同様の状況にある可能性はないだろうか.すなわち,本来食事などで栄養素が不足しサプリメントの利用による健康増進がもっとも期待されるはずの集団はサプリメントを利用せず,その一方ですでに十分な栄養素を摂取し本来サプリメントが必要ではない集団がサプリメントを積極的に利用しているという印象がある.サプリメント利用が真に健康の増進につながることを切に望む.文献1)大濱宏文:欧米におけるサプリメントに対する取り組み.薬学雑誌128:839-850,C20082)厚生労働省・日本医師会・国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所:「健康食品による健康被害の未然防止と拡大防止に向けて」(www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/dl/pamph_healthfood.pdf2018年C2月C22日最終アクセス)3)公益社団法人日本通信販売協会サプリメント部会:サプリメント登録制調査資料(www.jadma.org/pdf/2013/supple-718あたらしい眼科Vol.35,No.6,2018ment_chousa_shiryou_201303.pdfC2018年C2月C22日最終アクセス)4)消費者庁:特定保健用食品許可(承認)品目一覧.(www.Ccaa.go.jp/policies/policy/food_labeling/health_promotion/pdf/health_promotion_180216_0001.xlsC2018年C2月C22日最終アクセス)5)SommerA,TarwotjoI,DjunaediEetal:Impactofvita-minAsupplementationonchildhoodmortality.Arandom-izedCcontrolledCcommunityCtrial.CLancetC1:1169-1173,C19866)Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudyC2CResearchCGroup:CLutein+zeaxanthinandomega-3fattyacidsforage-relat-edCmacularCdegeneration:theCAge-RelatedCEyeCDiseaseStudyC2(AREDS2)randomizedCclinicalCtrial.CJAMAC309:C2005-2015,C20137)厚生労働省:「日本人の食事摂取基準(2015年版)」策定検討会報告書.(http://www.mhlw.go.jp/.le/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000114399.pdfC2018年C2月C22日最終アクセス)8)消費者庁:機能性表示食品の届け出情報検索.(一般向けwww..d.caa.go.jp/caaks/cssc01;届出資料など詳細情報www.caa.go.jp/foods/todoke_1-25.htmlC2018年C2月C22日最終アクセス)9)UL社(ja.ul.com/consumer-retail-services/en/industries/dietary-supplements2018年C2月C22日最終アクセス)10)NSFCInternational社(www.nsf.org/services/by-industry/dietary-supplements2018年C2月C22日最終アクセス)11)ConsumerCLab社(www.consumerlab.comC2018年C2月C22日最終アクセス)12)NaturalCMedicinesCComprehensiveCDatabase.(naturaldataC-base.therapeuticresearch.comC2018年C2月C22日最終アクセス)13)NationalCInstitutesCofCHealthCDietaryCSupplementCLabelDatabase.(www.dsld.nlm.nih.gov/dsldC2018年C2月C22日最終アクセス)14)消費者庁:「食品の機能性評価モデル事業」の結果報告.(www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin915.pdf2018年C2月C22日最終アクセス)15)高地圭子,八十島邦昭,新居隆ほか:妊娠中にCStevens-Johnson症候群を発症したC1早産例.臨床婦人科産科C64:C104-107,C201016)久保田由美子:サプリメントが原因と考えられたCStevens-Johnson症候群のC1例.アレルギーの臨床C29:902-905,C200917)KarliCSZ,CLiaoCSD,CCareyCARCetCal:OpticCneuropathyCassociatedCwithCtheCuseCofCover-the-counterCsexualCenhancementCsupplements.CClinCOphthalmolC8:2171-2175,C201418)日本医師会:健康食品による被害が発生した場合の連絡・連絡先(www.med.or.jp/doctor/report/003854.htmlC2018年C2月C22日最終アクセス)19)HartJT:Theinversecarelaw.LancetC1:405-412,C1971(10)

序説:眼科に役立つサプリメント

2018年6月30日 土曜日

眼科に役立つサプリメントSupplementsforOphthalmology坪田一男*石田晋**日本の医療において,従来の健康保険がカバーする疾病医学に加え,予防医学が大きくクローズアップされてきている.超高齢社会を迎えた今日,医療コストは伸び続けており,このままでは保険のシステムも財政も破綻してしまう.病気になってから治療するだけでなく,病気になる前のアプローチで疾患の発症リスクを下げることが,国民全体の課題といえるだろう.すでに厚生労働省ではメタボリックシンドローム撲滅や,糖尿病,癌,心筋梗塞などの発症予防のため真剣に取り組みを始めている.予防医学の中心,柱といえるのが,食である.「医食同源」といわれるように,食が健康の要であることは間違いない.しかしながら,特定の有効成分の必要量を食事のみから摂取することは簡単ではない.この意味で,サプリメントという「有効な(と思われる)食品成分を詰め込んだ剤型」の重要性がある.眼のサプリメントに関して言えば,従来から眼によいと思われてきた食品の成分が次々とサプリメント化され,販売されている.なかでも加齢黄斑変性のサプリメントは,発症予防に関する臨床試験の結果が公表されたことから,実際に医師の指導のもとで疾患予備軍への積極的な摂取が推奨されている.すなわち,サプリメントの診療現場への導入という点では,われわれ眼科領域は医学界のトップランナーとも言える.しかしながら,世に出回っているサプリメントはこのようにサイエンスのバックグランドのある正当なものだけではなく,言い伝え的なものや,健康食品会社が宣伝しているものなど,その情報はいまだ玉石混淆の感を否めない.とはいえ,まだまだエビデンスの弱い部分はあるものの,少しずつ基礎研究や臨床データが出始めて,「眼科に役立つサプリメント」を目標にさまざまな食品成分の研究がサイエンスとして盛んになってきた.そこで今回の特集テーマとして「眼科に役立つサプリメント」を組んでみた.患者さんから「どんなサプリメントが眼にいいのですか?」と質問を受けることはしばしばあるため,日常診療に生かすべく外来でよく聞かれる質問に的確に答えられるように工夫して項目を設定した.サプリメントに関する総論的な知識に関しては,川崎良先生と川崎佳巳先生にご執筆いただいた.また,健康に関心が高い人々によく知られている食品成分としてルテイン,オメガ3脂肪酸(EPA/DHA),アントシアニン,アスタキサンチンなどがあるが,それらと眼の関係については,それぞれ尾花明先生,柳井亮二先生,小沢洋子先生,北市伸義先生にお願いした.さらに,疾患別に加齢黄斑変性,緑内障,ドライアイのサプリメント(の可能性)については,それぞれ*KazuoTsubota:慶應義塾大学医学部眼科学教室**SusumuIshida:北海道大学大学院医学研究院眼科学教室0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(1)709

Vogt-小柳-原田病の再発と治療内容に関する検討

2018年5月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科35(5):698.702,2018cVogt-小柳-原田病の再発と治療内容に関する検討白鳥宙国重智之由井智子堀純子日本医科大学眼科学教室CClinicalRecurrenceandTreatmentsinPatientswithVogt-Koyanagi-HaradaDiseaseNakaShiratori,TomoyukiKunishige,SatokoYuiandJunkoHoriCDepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolVogt-小柳-原田病(VKH)の再発率,再発部位,再発時の治療内容について観察した.2008年C1月.2016年C8月に日本医科大学付属病院眼科を受診したCVKH患者(n=33)を対象に,診療録より後ろ向きに検討した.初診時の状態は,初発例がC24例,再発例がC1例,遷延例がC4例,他院で加療後の経過観察がC4例であった.治療経過中の再発は初発例のC24例中C6例(25.0%),再発・遷延例のC5例中C4例(80%)に認め,再発・遷延例では再発を繰り返す症例が高頻度であった.再発部位は前眼部型C6例,後眼部型C4例であった.前眼部型に対してはC2例を除いてステロイドの眼局所療法が有効であった.後眼部型に対してはステロイドとシクロシポリンの併用や,アダリムマブが有効であった.CThisretrospectivestudyinvolved33patientswithVogt-Koyanagi-HaradadiseasewhovisitedNipponMedicalSchoolHospitalfromJanuary2008toAugust2016.Subjectsincluded24freshcases,1recurrentcase,4prolongedcasesCandC4Cfollow-upCcasesCafterCtreatmentCatCotherChospitalsCatCtheCtimeCofCinitialCvisit.COfCtheC24CfreshCcases,C6experiencedrecurrentocularin.ammationduringfollow-up;theirrecurrenceratewas25.0%.Ofthe5recurrentorCprolongedCcases,C4CrecurredCagain;theirCrecurrenceCrateCwasC80%.CTheCsiteCofCrecurrenceCwasCclassi.edCintotwogroups:anteriorchambertype(6cases)andfundustype(4cases).Mostoftheanteriorchambertyperecur-rences,excepting2cases,werecuredbytopicalocularcorticosteroidtherapy;thefundustyperecurrenceswerecuredbyacombinationofsystemiccorticosteroidandcyclosporinetherapyoradalimumabtherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(5):698.702,C2018〕Keywords:Vogt-小柳-原田病,再発率,治療,シクロスポリン,アダリムマブ.Vogt-Koyanagi-Haradadisease,recurrencerate,treatments,cyclosporine,adalimumab.CはじめにVogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-HaradaCdisease:VKH)は,メラノサイトを標的とした自己免疫疾患と考えられており1),従来より,初期段階にステロイドパルス療法あるいはステロイド大量漸減療法による治療が行われている.VKHは,前駆期を経て眼病期(急性期)となり,治療を開始すると回復基調となることが一般的である1).しかしながら,治療に抵抗して再発を繰り返し,遷延型に移行するような難治症例では,網脈絡膜変性や続発緑内障などを合併し,視力予後は悪くなると報告されている2).そのため,再発率,遷延率,晩期続発症の合併頻度などを知っておくことが,臨床において患者の視力予後を予測するうえで有用である.今回筆者らは,日本医科大学付属病院眼科(以下,当施設)におけるCVKH患者の治療後の再発率,ならびに遷延率,再発部位,再発前後の治療方法,晩期続発症の発生率に関して検討を行ったので報告する.CI方法1.対象2008年C1月.2016年C8月までに当施設の眼炎症外来を受診し,6カ月以上の経過観察ができたCVKH患者C33例を対象とした.VKHの診断は,2001年の改定国際診断基準1)に準じて,完全型もしくは不完全型を満たすものとした.性別は,男性C16例,女性C17例であった.初診時平均年齢は,〔別刷請求先〕白鳥宙:〒113-8603東京都文京区千駄木C1-1-5日本医科大学眼科学教室Reprintrequests:NakaShiratori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,1-1-5Sendagi,Bunkyo-ku,Tokyo113-8603,JAPAN698(134)男性C46.9C±18.1歳,女性C47.1C±13.4歳(平均値C±標準偏差)であった.平均観察期間は,44.0C±28.8カ月で,最短C6カ月,最長C109カ月であった.対象は,初診時の状態により,初発例C24例,初診時再発例C1例,初診時遷延例C4例,経過観察例C4例を含んだ.初診時再発例とは,他施設で加療後炎症が再燃したため,当施設初診となった症例とした.初診時遷延例とは,他院でC6カ月以上炎症が持続し,当施設初診となった症例とした.経過観察例とは,他施設で加療後炎症の再燃がなく,当施設初診となった症例とした.本研究は,ヘルシンキ宣言に準じており,日本医科大学付属病院倫理委員会の承認を得た.C2.検.討.事.項再発・遷延例の頻度,再発部位,再発時の治療内容,再発後の治療方法,晩期続発症の種類と頻度についてレトロスペクティブに診療録の解析を行った.なお,再発例とは経過中に一度消炎が得られたにもかかわらず,再度炎症が出現した症例とし,遷延例とはステロイド投与後もC6カ月を超えて内眼炎症が持続した症例とした.寛解とは,検眼鏡的に前房内細胞,硝子体内細胞,漿液性網膜.離が消失した時点とした.再発部位については,前房内細胞などの前眼部炎症のみのものを前眼部型とし,漿液性網膜.離を伴うものを眼底型表1初診時初発例(24例)における治療後の再発・遷延率症例数(%)再発あり遷延なし2例(8C.3%)再発かつ遷延4例(1C6.7%)再発なし18例(C75.0%)とした.続発緑内障については,経過中に複数回にわたり眼圧がC21CmmHgを超えたものと定義した.CII結果初発例については,全例にステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロンC1CgをC3日間連続投与)を施行したのち,翌日よりプレドニゾロンC1Cmg/kg/日程度から内服し,炎症の程度を見きわめながらC2.4週ごとにC5.10Cmg/日を減量する漸減療法が施行されていた.初発例(全C24例)のうち,治療後の再発例はC6例(25.0%)で,再発した結果C6カ月以上消炎できなかった再発かつ遷延例がC4例(16.7%)であった.非再発・非遷延例はC18例(75.0%)であった(表1).一方で,初診時再発・遷延例における再発は,全C5例中C4例(80%)で,初発例と比べて,その後も再発を繰り返す確率が高かった(表2).全再発症例の再発時について,ステロイドパルス療法後の経過週数,ステロイド投与量(体重換算),再発部位,当施設初診時の状態を表3に示した.再発時期は,プレドニゾロン内服漸減中の再発がC7例で,プレドニゾロン内服終了後の再発がC3例であった.再発時のステロイドパルス療法後の経過週数はC3.128週まで幅広かった.再発時のプレドニゾロ表2初診時の状態による再発率再発率初診時初発例25.0%(C6/24例)初診時再発・遷延例80.0%(C4/5例)初発例と比べて,再発・遷延例ではその後も再発を繰り返す確率が高かった.表3全対象33例中の再発症例のまとめ症例CNo.初診時再発部位再発時のパルス後週数(週)再発時のPSL内服量(mg/日)再発時のPSL内服量体重換算(mg/kg/日)C1初発例眼底型C3C40C0.59C2初発例前眼部型C8C25C0.45C3初発例眼底型C13C10C0.13C4初発例眼底型C17C5C0.082C5初発例眼底型C17PSL終了後C1週C6初発例前眼部型C36C5C0.065C7遷延例前眼部型C50C8C0.059C8再発例前眼部型C128PSL終了後C96週C9遷延例前眼部型不詳PSL終了後C10遷延例前眼部型パルスなしC5C0.086PSL:prednisolone(プレドニゾロン).表4前眼部型の再発時の治療症例CNo.(表C3と対応)初診時再発時のPSL投与量(mg/日)再発後の治療効果C2初発例C25+BSP点眼寛解C6初発例C5+DEX結膜下注射+PSL10mg/日へ増量寛解C7遷延例C8+BSP点眼寛解C8再発例PSL終了後+BSP点眼寛解C9遷延例C5+BSP点眼寛解C10遷延例PSL終了後PSL30mg/日+CyA150mg/日寛解PSL:prednisolone(プレドニゾロン),BSP:betamethasoneCphosphate(リン酸ベタメタゾン),DEX:dexamethasone(デキサメタゾン),CyA:cyclosporine(シクロスポリン).表5眼底型の再発時の治療症例CNo.(表C3と対応)初診時再発時のPSL投与量(mg/日)再発後の治療効果C1初発例C40ステロイドハーフパルス療法+後療法CPSL40Cmg(CyA100mg/日併用)寛解C3初発例C10PSL20mg/日+CyA150mg/日C↓CyA25mg/日+ADA40mg/週再発寛解C4初発例C5ステロイドパルス療法+後療法CPSL40Cmg(CyA100mg/日併用)寛解C5初発例PSL終了後PSL30mg/日再開+CyA100mg/日寛解PSL:prednisolone(プレドニゾロン),CyA:cyclosporine(シクロスポリン),ADA:adalimumab(アダリムマブ).ン投与量の平均は,14.0mg/日(0.21mg/kg/日)であったが,その内服量は5.40mg/日と症例によりばらつきがあった.再発例における再発部位は,前眼部型がC6例で,眼底型が4例であった.眼底型の再発は,ステロイドパルス療法後の経過週数が比較的短い時点での再発症例に多く,前眼部型の再発はステロイドパルス療法後の経過週数が比較的長い時点での再発症例に多かった.前眼部型の再発をした症例での再発後の治療を表4に示した.前眼部型の再発に対する治療は,デキサメタゾン結膜下注射やベタメタゾン点眼の追加などの眼局所療法が中心であった.眼局所療法の追加がされたC5例のうち,1例では消炎せずプレドニゾロン内服の増量を必要としたが,その他のC4例では眼局所療法の追加のみで炎症は寛解していた.また,プレドニゾロン全身投与とシクロスポリン全身投与の併用療法がされたC1例では,治療が有効であった.眼底型の再発をした症例について再発後の治療を表5に示した.眼底型の再発に対する治療は,ステロイド全身投与に加えて,シクロスポリン全身投与の併用を行い,全例で炎症は寛解していた.シクロスポリン開始時の投与量はC100.150Cmg/日(約C2Cmg/kg/日)で,血中シクロスポリン濃度(トラフ値:最低血中薬物濃度)がC50.100Cng/mlとなるように維持されていた.一方で,眼底型の再発に対してシクロスポリンを導入した症例のうち,1例でシクロスポリンの副作用と考えられる肝機能障害を認めた.このC1例では,シクロスポリン投与量を6カ月かけてC2Cmg/kg/日からC1Cmg/kg/日に漸減したところで再度の眼底型の再燃があった.この再燃に対しては,生物学的製剤であるアダリムマブの投与を行い,炎症は寛解し,シクロスポリンはC0.5Cmg/kg/日まで減量することができていた(表5,症例CNo.3).晩期続発症についての検討では,夕焼け状眼底がC15例(45.5%)に,網脈絡膜萎縮病巣がC6例(18.2%)に,続発緑内障がC6例(18.2%)に,脈絡膜新生血管がC2例(6.1%)にみられた.このうち,11カ月で夕焼け状眼底を呈した症例表6晩期続発症の発生率夕焼け状眼底網脈絡膜萎縮病巣続発緑内障脈絡膜新生血管最終視力低下(1C.0未満)全症例15例6例6例2例4例(3C3例)(4C5.5%)(1C8.2%)(1C8.2%)(6C.1%)(1C2.1%)再発・遷延例9例4例4例1例2例(1C0例)(9C0.0%)(4C0.0%)(4C0.0%)(1C0.0%)(2C0.0%)再発なし症例6例2例2例1例2例(2C3例)(2C6.1%)(8C.7%)(8C.7%)(4C.3%)(8C.7%)がC1例あったが,他の晩期続発症はC1年以上の経過症例にみられた.視力C1.0未満への最終視力低下がC4例(12.1%)にみられ,視力低下の原因は,2例が脈絡膜新生血管,2例が白内障の進行であった.再発・遷延例では,夕焼け状眼底,続発緑内障,脈絡膜新生血管などの晩期続発症が多い傾向があり,視力低下をきたす症例も多かった(表6).CIII考按VKHの再発率に関する過去の報告には,島ら3)のステロイドパルス療法後の再発率(遷延率)がC23.8%(19.0%)であったとの報告や,井上ら4)のステロイドパルス療法またはステロイド大量漸減療法後の再発率(遷延率)がC28.2%(18.8%)であったなどの報告がある.筆者らの研究では,初発例に対してはステロイドパルス療法にて初期治療を行い,再発率(遷延率)がC25.0%(16.7%)であり,既報とほぼ同様であった.漿液性網膜.離がメインのタイプより視神経乳頭腫脹型のほうが遷延型に移行しやすいという報告5)があるが,本研究の対象C33例では,視神経乳頭腫脹型はC1例のみで,そのC1例は再発も遷延もなかった.晩期続発症についての過去報告には,島ら3)の夕焼け状眼底がC42.9%,続発緑内障がC20.7%,脈絡膜新生血管がC0%との報告や,海外ではCAbuCEl-Asrarら6)の夕焼け状眼底が48.3%,続発緑内障がC20.5%,脈絡膜新生血管がC6.9%との報告や,Readら2)の続発緑内障がC27%,脈絡膜新生血管が11%などの報告がある.本研究では,夕焼け状眼底がC45.5%,続発緑内障がC18.2%に,脈絡膜新生血管がC6.1%にみられ,既報とほぼ同様であった.VKHは,メラノサイトを標的とした自己免疫疾患であり,細胞障害性CT細胞が病態の中心に関与している7)と考えられている.シクロスポリンはCTリンパ球の活動性を抑制する薬剤であり,2013年より非感染性の難治性ぶどう膜炎に対して保険適用となったこともあり,VKH治療に対する有効性が期待されている.実際にステロイド治療にて再発性・遷延性のCVKHに対して,シクロスポリンが有効であった報告が過去になされている8,9).ぶどう膜炎に対するシクロスポリンの投与量については,初期投与量C3Cmg/kg/日が適切とされており(ノバルティスファーマ:非感染性ぶどう膜炎におけるネオーラルRの安全使用マニュアル,2013年度版),福富ら8)は,眼底型の再発を繰り返すCVKHのC2症例で,初期投与量C3Cmg/kg/日でのシクロスポリン投与が有効であったと報告している.本研究でのシクロスポリン導入は,ステロイド内服と併用投与であり,全例でC2Cmg/kg/日で開始してトラフ値C50.100Cng/mlとなるように維持していたが,眼底型の再発症例における炎症の寛解に有用であった.本研究と同様に,遷延性CVKHに対して低用量シクロスポリン(100Cmg・1日C1回)投与を行った春田らの報告9)では,前眼部型・眼底型炎症ともに効果を認めるものの,眼底型炎症のほうがやや効果が弱い印象であったと報告しているが,筆者らの研究ではシクロスポリン導入時に再度のステロイドパルス療法または全身性ステロイド投与量の増量を併用していたことで有効性が増した可能性が考えられた.このように,難治性のCVKHの治療において,シクロスポリン併用療法は治療の有効な選択肢となるが,シクロスポリン導入時の適切な投与量については,今後さらなる検討が必要と考える.また,それ以外にも,シクロスポリン治療の導入時期,ステロイド併用時の投与量,シクロスポリン導入後の減量方法など,多くの面でいまだ一定のプロトコールがなく,今後多くの症例を積み重ねていくことで,シクロスポリン投与法が確立されることが期待される.アダリムマブは,2016年C10月に難治性ぶどう膜炎に対して保険適用となった生物学的製剤で,TNF-a阻害作用により抗炎症に働く.VKHに対するアダリムマブ使用の報告は少ないが,Coutoら10)はアダリムマブの導入により他の免疫抑制薬を減量できたと報告している.本研究でも,肝機能障害のためにシクロスポリンを減量せざるをえず,その結果,再度の眼底型の再燃をしてしまったC1例において,アダリムマブの投与が,炎症の寛解とシクロスポリンの減量に有効であった.VKHに対するアダリムマブの有効性や副作用についてはさらなる検討が必要であるが,有効な治療の選択肢の一つであると考えられた.文献1)ReadCRW,CHollandCGN,CRaoCNACetCal:RevisedCdiagnosticcriteriaCforCVogt-Koyanagi-HaradaCdisease:reportCofCanCinternationalCcommitteeConCnomenclature.CAmCJCOphthal-molC131:647-652,C20012)ReadCRW,CRechodouniCA,CButaniCNCetCal:ComplicationsCandCprognosticCfactorsCinCVogt-Koyanagi-HaradaCdisease.CAmJOphthalmolC131:599-606,C20013)島千春,春田亘史,西信良嗣ほか:ステロイドパルス療法を行った原田病患者の治療成績の検討.あたらしい眼科C25:851-854,C20084)井上留美子,田口千香子,河原澄枝ほか:15年間のCVogt-小柳-原田病の検討.臨眼65:1431-1434,C20115)OkunukiCY,CTsubotaCK,CKezukaCTCetCal:Di.erencesCinCtheclinicalfeaturesoftwotypesofVogt-Koyanagi-Hara-daCdisease:serousCretinalCdetachmentCandCopticCdiscCswelling.JpnJOphthalmolC59:103-108,C20156)AbuEl-AsrarAM,TamimiMA,HemachandranSetal:CPrognosticCfactorsCforCclinicalCoutcomeCinCpatientsCwithCVogt-Koyanagi-HaradaCdiseaseCtreatedCwithChigh-doseCcorticosteroids.ActaOphthalmolC91:e486-e493,C20137)SugitaCS,CTakaseCH,CTaguchiCCCetCal:OcularCin.ltratingCCD4+CTCcellsCfromCpatientsCwithCVogt-Koyanagi-HaradaCdiseaserecognizehumanmelanocyteantigens.InvestOph-thalmolVisSciC47:2547-2554,C20068)福富啓,眞下永,吉岡茉衣子ほか:シクロスポリン併用が有効であった副腎皮質ステロイド抵抗性のCVogt-小柳-原田病のC2症例.日眼会誌121:480-486,C20179)春田真実,吉岡茉衣子,福富啓ほか:遷延性CVogt-小柳-原田病に対する低用量シクロスポリン(100Cmg・1日C1回)投与の効果.日眼会誌121:474-479,C201710)CoutoCCA,CFrickCM,CJallazaCECetCal:AdalimumabCtreat-mentCinCpatientsCwithCVogt-Koyanagi-HaradaCSyndrome.CInvestOphthalmolVisSciC55:5798,C2014***

慢性移植片対宿主病モデルマウスの結膜囊におけるドナー由来線維芽細胞の集積

2018年5月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科35(5):693.697,2018c慢性移植片対宿主病モデルマウスの結膜.におけるドナー由来線維芽細胞の集積五十嵐秀人小川葉子山根みお清水映輔福井正樹榛村重人坪田一男慶應義塾大学医学部眼科学教室CAccumulationofDonor-derivedFibroblastsinChronicGVHDConjunctivalFornixinaMouseModelHidetoIkarashi,YokoOgawa,MioYamane,EisukeShimizu,MasakiFukui,ShigetoShimmuraandKazuoTsubotaCDepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine慢性移植片対宿主病(cGVHD)によるドライアイは移植後の主要な合併症であり,眼表面に難治性線維化をきたす.筆者らは,cGVHDモデルマウスを用いて,結膜.に集積するドナー由来線維芽細胞の集積を検出したので報告する.ドナーにC8週齢雄CB10.D2マウス,レシピエントに週齢をあわせた雌CBALB/cマウスを用いて,線維化を高度にきたすCcGVHDモデルマウスを作製した.BALB/cマウスによる同種同系移植を対照とした.移植後C3週時のレシピエント結膜の解析では,線維芽細胞のマーカーCHSP47陽性の小型線維芽細胞の集積部位を認めた.同一切片によるCY染色体CFISHを施行し,同一部位の細胞群に多数のCY染色体陽性像を見いだした.結膜.と涙腺排出導管付近に多数のドナー由来線維芽細胞が集積していた.ドナー由来線維芽細胞は結膜.の線維化の細胞源として排出導管を閉塞し,難治性線維化による重症ドライアイに関与することが示唆された.ChronicCgraft-versus-hostCdisease(cGVHD)isCaCmajorCcomplicationCafterCallogeneicChematopoieticCstemCcelltransplantation(HSCT)C,CwhichCcanCleadCtoCsevereC.brosisCofCtheCocularCsurface.CHere,CweCreportCaccumulationCofCdonor-derived.broblastsaroundthefornixoftheconjunctivainananimalmodelofcGVHD.Eight-week-oldmaleB10.D2mouseandage-matchedfemaleBALB/cmicewereusedasdonorsandrecipients,respectively,tocreatesclerodermatouscGVHD.BALB/cintoBALB/ctransplantrecipientswereusedascontrols.Usingconjunctivaltis-suesectionsat3weeksafterHSCT,wefoundaccumulationofsmall.broblasts,markedbytheirmarkerHSP47,withintheconjunctivalfornixandsurroundingtheori.ce’soflacrimalglandmainducts.AfterHSP47staining,weperformedCY-chromosomeC.uoresceinCin-situChybridization(Y-FISH)onCaCsingleCsection.CWeCfoundCHSP47+CY-FISH+C.broblastsConCtheCidenticalCsectionCofCtheCsameCarea.CTheseCresultsCsuggestedCthatCactivatedCdonor-derivedC.broblastsCsurroundingCconjunctivalCfornixCandClacrimalCglandCexocrineCmainCductsCareCrelatedCtoCrapidlyCprogressivedryeyerelatedtocGVHD.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(5):693.697,C2018〕Keywords:慢性移植片対宿主病,モデルマウス,線維化,ドナー由来線維芽細胞,Y-染色体CFISH,結膜.chron-icgraft-versus-hostdisease,mousemodel,.brosis,donor-derived.broblast,Y-chromosomeFISH,conjunctiva.Cはじめに造血幹細胞移植は年々増加傾向にあり,眼科領域の合併症対策も重要性が増している1).造血幹細胞移植の晩期合併症の一つである慢性移植片対宿主病(chronicCgraft-versus-hostdisease:cGVHD)によるドライアイは,移植後眼科領域の合併症のなかでもっとも多く,移植例の約C50.60%に生じるとされている2).cGVHDによるドライアイは難治例に進行する場合も多く,治療に苦慮するのが現状であり,病態の発症と進展に至る進行過程の解明と,よりよい治療法の確立が課題である3).筆者らはこれまでにCcGVHDにより障害を受けた症例の涙腺に過剰な細胞外器質の蓄積による病的線維化と活性化ドナ〔別刷請求先〕小川葉子:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YokoOgawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANー由来線維芽細胞の集積を認め,これらが涙腺の機能不全の原因となり,cGVHDによるドライアイの病態形成にかかわることを報告した4).さらにモデルマウスを用いた病態の検討で,涙腺,皮膚,消化管にドナー由来間葉系幹細胞が生着し集積していることを報告した5).臨床ではCcGVHDによる結膜病変の特徴として瞼球癒着,結膜.短縮,眼瞼線維性血管膜形成などとともに,ドライアイの発症後急速に眼表面の線維化が進行する6,7).今回筆者らは,確立されたモデルマウスを用いて,cGVHDモデルマウスの結膜.に集積するドナー由来線維芽細胞を見いだしたので報告する.CI方法8週齢のCB10.D2雄(H-2d)マウスの骨髄細胞(1C×106)と脾臓細胞(2C×106)を,放射線照射後(7.0Cgray)の週齢が一致した雌CBALB/c(H-2d)レシピエントマウスに移植し,cGVHDモデルマウスを作製した8).cGVHDが発症することが確認されている骨髄移植後C3週時に,レシピエントの標的組織である結膜粘膜の組織所見を解析した.病理切片にて結膜.の線維芽細胞の局在を確かめるために,ホルマリン固定パラフィン切片を用いて,線維芽細胞のマーカーとしてコラーゲン特異的分子シャペロンでありコラーゲン産生細胞の指標であるCheatCshockCproteinC47(HSP47)(CatalogCnum-ber;ADI-SPA-470-F,CClone名;M16.10A1,アイソタイプCIgG2b,ENZO,NewYork,USA)の発現を検討した.パラフィン切片を用いオートクレーブを用いた抗原賦活化法によりCHSP47の発現が良好に認められることを確認した.本抗体はマウスに交叉性がありマウス切片で紡錘形線維芽細胞を検出できることを確認した.Y染色体の検出にはCstarCFISHCkit(1200-YMCY3-02,Cambio,CCambridge,CU.K.)を用いてこれまでに報告されている方法に従って行った9).活性化線維芽細胞がドナー由来かを検討するために,雄ドナーマウスから雌レシピエントマウスに移植したマウス結膜切片で蛍光免疫染色によりHSP47の発現の検討し,HSP47陽性線維芽細胞像を蛍光画像を共焦点顕微鏡(ZEN900LSMconfocalmicroscope,Zeiss,Germany)で取得したのち,カバーグラスをはずして同一切片で雌レシピエント切片でのCY-染色体の検出を試みた.HSP47蛍光染色を施行した組織切片と同一切片でCY-染色体.uoresceinCin-situChybridization(Y-FISH)施行後,共焦点顕微鏡下でCHSP47を発現する細胞と同一部位を探しCY-染色体陽性シグナルを探し検討した.HSP47蛍光染色とCY-FISH方法を以下にまとめて記載する.ホルマリン固定パラフィン切片を用いてキシレンにて脱パラフィン後,エタノール系列C95%,80%,60%,30%の順に各C5分間ずつ浸漬し親水化を行った.抗原賦活化液に切片を浸漬し,オートクレーブを用いてC120℃C20分の抗原賦活化を行ったのち,正常ヤギ血清をC30分反応,抗ヒトHSP47抗体(マウスに交叉性有り)をオーバーナイトC4℃で反応後,リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄,AlexaC488標識ヤギ抗マウス二次抗体を核染色物質CTO-PRO-3(T3605;サーモフィッシャー)と混合してC45分反応させた.PBSで洗浄後,退色防止剤入りマウント剤で封入した.共焦点顕微鏡で画像を取得後,カバーグラスをはずし,Y-FISHの行程に移行した.Y-FISHはC0.2N塩酸でC20分間反応させ,次にC80℃に予備加熱したチオシアン酸ナトリウム溶液(32002-32,ナカライテスク)にC10分間浸漬し,PBS洗浄を行った.37℃に予備加熱したペプシン溶液に切片をC10分間浸漬した後,グリシン溶液(161-18713,和光)にC1分間位浸漬した.PBSで洗浄後,4%パラホルムアルデヒドリン酸緩衝液を添加,2分間で組織を固定した.PBSで洗浄後,エタノール系列(30%,60%,80%,95%,100%)の順に各C1分間浸漬し脱水を行い風乾したのち,組織上にCY-染色体CFISHプローブ溶液を添加した.カバーガラスを用いて空気が入らないように被覆し,四隅をシールで封入した.75℃C10分間ディネイチャー後,プローブを載せた組織片スライドガラスを湿潤箱に入れアルミ遮光し,37℃でオーバーナイトでハイブリダイゼーションを行った.16時間後,カバーガラスのシールを取り除きC37℃に予備加熱した脱イオン化溶液で洗浄後,2C×塩化ナトリウム,クエン酸ナトリウム溶液(standardCsalineCcitrate:SSC)溶液で洗浄,37℃に予備加温したC10%CTween20+4×SSC溶液でC10分間洗浄,PBS洗浄,TOPRO-3を用いて核染色を行った.洗浄後,同様に退色防止剤入り蛍光用マウント剤で封入しコンフォーカル共焦点顕微鏡で再度同一部位を探し撮影した.CII結果雄マウスパラフィン切片を用いた陽性コントロール切片ではCY染色体CFISHのみの検討では,結膜(図1a),網膜(図1b),脾臓細胞(図1c)ともにC95%以上の細胞にCY染色体の陽性像が観察され,Y-FISH単独での手技でCY-染色体を検出できることを確認した(図1).同種同系骨髄移植後のコントロールマウス結膜.においては結膜上皮,間質ともに炎症および線維化所見に乏しく正常結膜に類似していた(図2a).次に,同種異系骨髄移植後のCcGVHDモデルマウス結膜.を観察すると,コントロールに比して結膜上皮,間質に炎症細胞浸潤と(図2b)と線維化(図2c)を認めた.次に雄の野生型CBALB/cマウス涙腺のフォルマリン固定パラフィン組織切片を用いて,同一切片上でCHSP47の発現(図2d,上)とCY染色体CFISH(図2d,下)を検討し,蛍光結膜Y-FISH陽性コントロール網膜Y-FISH陽性コントロール脾臓細胞Y-FISH陽性コントロールabc図1雄BALB/cマウス結膜,網膜,脾臓細胞における陽性コントロールとしてのY.FISHシグナル像a:組織切片結膜.b:組織切片網膜.c:サイトスピンによる脾臓細胞.スケールバーa,c=25μm,b=50Cμm.染色とCY-FISHを同一切片で行う陽性コントロールとした.その結果,Y-FISHシグナルの検出率は単独でCY-FISHを行う場合より低下したが,約C80%以上の細胞にCY-FISHシグナルを検出した(図2d,下).野生型マウス陽性コントロール切片においては正常組織であるため,HSP47陽性細胞はわずかであった.次に雌野生型マウス陰性コントロール組織切片を検討すると,野生型の正常組織であるためCHSP47陽性細胞はわずかで,活性化に乏しかった(図2e,上).同一切片の陰性コントロール組織切片では,雌マウス由来の組織のため偽陽性と思われるC1個のシグナルを除いて,Y-FISHシグナルは認められなかった(図2e,下).これらの結果より,同一切片上での免疫染色との複合方法によるCY-FISHを行ってもY-FISHシグナルは検出できることを確認した(図2d,下).次にCcGVHDモデルマウス結膜.の同一切片では,HSP47染色所見では(図2f,上)結膜.周囲に集積する多数の小型のCHSP7陽性活性化線維芽細胞を認めた.同一切片上のCY染色体CFISHシグナルを線維芽細胞とほぼ同一部位に認め,多数のCHSP47+線維芽細胞が集積する部位に一致して,Y-FISH+細胞を検出した(図2f,下).これらの結果はCcGVHDモデルマウスにおいて結膜線維化が高度で,結膜.および涙腺排出導管付近に多数のドナー由来の活性化線維芽細胞が集積していることを示唆していた.CIII考按慢性移植片対宿主病によるドライアイは瞼球癒着,結膜.短縮などの結膜線維化により重症化する例が多く認められる.骨髄移植では,移植前に大量化学療法,放射線療法などで炎症の前段階が生じている.骨髄移植後早期に生じる急性GVHDや感染などにより骨髄移植の標的臓器には骨髄細胞を動員するホーミングシグナルが存在すると考えられる10).これまでの筆者らの研究で,ヒト涙腺に集積するドナー由来線維芽細胞の存在を見いだし報告した4).病変部に集積する線維芽細胞の約半数がドナー由来であり,その割合はCcGVHDモデルマウスにおいても一致していた5).今回の検討では,cGVHDモデルマウスを用いて,マウス結膜.の線維化部位に多数の小型のドナー由来線維芽細胞を見いだした.これらの活性化線維芽細胞の集積は結膜.の瞼球癒着や,結膜.短縮が生じる過程の主要な役割を果たすと考えられた.実験過程の改善点としては,活性化線維芽細胞のマーカーとして使用しているCHSP47の発現をパラフィン切片上で調べるために,抗原賦活化としてオートクレーブを用いてC120℃20Cminという強い熱処理が必要である.HSP47の蛍光染色の過程と同一切片でCYFISHを行う過程で,カバーグラスをはずすときに組織が若干移動する可能性があり,完全に一致した部位での細胞の検出がむずかしかった.その他,実験過程での温度の設定の変化,組織切片ではCY染色体の検出部位が組織の薄切により短縮されている染色体もある可能性があるため,検出率がC100%に至らない原因の一つと考えられた.免疫染色とCFISHの複合手技はC3.4日を要し,熱処理などの工夫に苦慮するためドナーにCGFPマウスを使用してホルマリンで短時間弱く固定後の凍結切片を用いてドナー細胞を検出するアプローチが現実的である.しかし,免疫染色でパラフィン切片にのみ染色される分子と複合法で検出する必要がある場合は本方法によるアプローチが必要である.GFPマウスを入手できない場合などにおいては,ドナーが雄,レシピエントが雌の切片を用いてCY-FISH法によるドナー細胞の多角的なアプローチによる検出方法も有用であると考えられた.臨床的に,結膜.には多数の涙腺の排出導管が開口する部位であり,この部位の過剰な線維化は排出導管の閉塞の原因の一つとなりうる.そのため,結膜.への活性化線維芽細胞の集積は,造血幹細胞移植後のドライアイの発症や進展過程に関与する可能性があると考えられた.また,これらのドナControlcGVHDcGVHD陽性control陰性controlcGVHDY.FISH/TOPRO.3HSP47/TOPRO.3図2cGVHDモデルマウス結膜.におけるドナー由来線維芽細胞の検出a:同種同系骨髄移植後のコントロールマウス結膜..ヘマトキシリン・エオジン染色.結膜上皮,間質ともに炎症および線維化所見は乏しい.結膜.(*).b,c:同種異系骨髄移植後のCcGVHDモデルマウス結膜..b:ヘマトキシリン・エオジン染色.c:マロリー染色.コントロールCaに比して結膜上皮,間質に炎症細胞と線維化を認める.結膜.(*).スケールバーCa,Cb,Cc=50Cμm.Cd:雌マウス涙腺同一切片のCHSP47(緑)の発現(d,上)とCY染色体FISH(赤)(d,下)陰性コントロール.核(青).e:雄マウス涙腺同一切片のCHSP47(緑)の発現(e,上)とCY染色体CFISH(赤)(e,下)陽性コントロール.核(青).f:cGVHDモデルマウス結膜.の同一切片のCHSP47(緑)の発現(f,上)とCY染色体CFISH(赤)(f,下).核(青).結膜.周囲に集積する多数の小型のCHSP7陽性活性化線維芽細胞とY-染色体陽性シグナル.結膜.(*).スケールバーCd,e,f=50Cμm.Cー由来線維芽細胞を制御することにより,難治性の眼表面線文献維化を抑制することが可能になるのではないかと考えられ1)JagasiaCMH,CGreinixCHT,CAroraCMCetCal;NationalCInsti-た.今後,ドナー由来線維芽細胞がCcGVHDによる難治性眼tutesCofCHealthCConsensusCDevelopmentCProjectConCCrite-表面線維化の発症と進展の過程に時間的,空間的にどのようriaCforCClinicalCTrialsCinCChronicCGraft-versus-HostCDis-ease:I.CTheC2014CDiagnosisCandCStagingCWorkingCGroupCに関与するか,さらに多様な薬剤投与によりその動態がどのreport.BiolBloodMarrowTransplantC21:389-401Ce381,Cように変化するかを詳細に調べることが必要と考えられた.20152)ShikariCH,CAntinCJH,CDanaCR:OcularCgraft-versus-hostdisease:areview.SurvOphthalmolC58:233-251,C2013利益相反:利益相反公表基準に該当なし3)TungCI:Currentapproachestotreatmentofoculargraft-versus-hostdisease.IntOphthalmolClinC57:65-88,C20174)OgawaCY,CKodamaCH,CKameyamaCKCetCal:DonorC.bro-blastchimerisminthepathogenic.broticlesionofhumanchronicCgraft-versus-hostCdisease.CInvestCOphthalmolCVisCSciC46:4519-4527,C20055)OgawaCY,CMorikawaCS,COkanoCHCetCal:MHC-compatibleCboneCmarrowCstromal/stemCcellsCtriggerC.brosisCbyCacti-vatingChostCTCcellsCinCaCsclerodermaCmouseCmodel.CElifeC5:e09394,C20166)RobinsonMR,LeeSS,RubinBIetal:Topicalcorticoste-roidCtherapyCforCcicatricialCconjunctivitisCassociatedCwithCchronicCgraft-versus-hostCdisease.CBoneCMarrowCTrans-plantC33:1031-1035,C20047)JabsCDA,CWingardCJ,CGreenCWRCetCal:TheCeyeCinCboneCmarrowCtransplantation.CIII.CConjunctivalCgraft-vs-hostCdisease.ArchOphthalmolC107:1343-1348,C19898)ZhangCY,CMcCormickCLL,CDesaiCSRCetCal:MurineCsclero-dermatousCgraft-versus-hostCdisease,CaCmodelCforChumanscleroderma:cutaneousCcytokines,Cchemokines,CandCimmunecellactivation.JImmunolC168:3088-3098,C20029)SugimotoCH,CMundelCTM,CSundCMCetCal:Bone-marrow-derivedCstemCcellsCrepairCbasementCmembraneCcollagenCdefectsCandCreverseCgeneticCkidneyCdisease.CProcCNatlCAcadSciUSAC103:7321-7326,C200610)SharmaCM,CAfrinCF,CSatijaCNCetCal:Stromal-derivedCfac-tor-1/CXCR4signaling:indispensableroleinhomingandengraftmentCofChematopoieticCstemCcellsCinCboneCmarrow.CStemCellsDevC20:933-946,C2011***