眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人鈴木崇52.リグニアス結膜炎東邦大学医療センター大森病院眼疾患先端治療学講座リグニアス結膜炎は,慢性,再発性の偽膜を特徴とする結膜炎で,眼部以外に鼻・子宮・歯肉など他の粘膜にも膜形成を認めることが多い.病態にはフィブリン溶解酵素プラスミンの前駆体であるプラスミノーゲンの量的,機能的低下が関与しているため,治療として,フィブリン産生抑制とプラスミノーゲンの補充が重要である.●はじめにリグニアス結膜炎は,慢性,再発性の偽膜性結膜炎を特徴とする非常にまれな結膜炎で,その偽膜が木のように厚く硬いことから「木質結膜炎=ligneousconjuncti-vitis(リグニアス結膜炎)」と名付けられた.リグニアス結膜炎は1847年に初めてフランスで報告されてから,世界各国で100例以上報告されており,わが国でも数例報告されている1,2).20世紀までは原因が明らかな偽膜を有する結膜炎を除外した原因不明の偽膜性結膜炎をリグニアス結膜炎と診断していたが,近年,リグニアス結膜炎の詳細な病態が明らかになり,診断も変化している.●リグニアス結膜炎の臨床像リグニアス結膜炎の症状としては,小児から高齢者まで幅広い年代に,粘性の眼脂,充血,異物感を生じる.臨床所見として眼瞼結膜上の硬くて比較的厚い偽膜を認める(図1).また,眼瞼の硬結も観察される.通常,偽膜を除去しても再発する.偽膜が長期に存在すると,角膜混濁や角膜潰瘍などを引き起こす場合もある.眼部以外の粘膜症状として,耳,鼻腔,上気道,子宮などの粘膜に膜形成を示し,また歯肉炎も引き起こす場合がある.そのことから,oculo-oro-genitalligneousdiseaseともよばれ,リグニアス結膜炎は全身性の粘膜疾患の一つの表現形とされる.しかしながら,脳梗塞や心筋梗塞といった血栓症の合併はまれである.●リグニアス結膜炎の病態生理1994年に先天性プラスミノーゲン欠損症の症例にリグニアス結膜炎が合併したことから,リグニアス結膜炎の病態にプラスミノーゲンが強く関与していること明ら(77)0910-1810/19/\100/頁/JCOPY図1リグニアス結膜炎の1例(70歳代,女性)上眼瞼結膜に厚い偽膜形成を認める.かになった1).プラスミノーゲンはフィブリン溶解酵素プラスミンの前駆体であり,プラスミノーゲンの量的,機能的低下があると,フィブリンを溶解する機能が低下する.リグニアス結膜炎に認めた偽膜の組織所見ではフィブリンの集積を認めるため,プラスミノーゲンの欠損によってフィブリンが溶解できずに偽膜として出現していると考えられる.そのため,リグニアス結膜炎は感染や手術や外傷を契機に出現する場合が多く,さらにプラスミンのフィブリン分解作用阻害をもつ止血薬(トラネキサム酸)の服用を契機に発現した報告もある1).先天性プラスミノーゲン欠損症のなかでも,遺伝子変異(ホモ接合性あるいは複合ヘテロ接合性)を有する場合にリグニアス結膜炎を発症する.リグニアス結膜炎の罹患率は,英国では100万人に1.6人とされている1).●リグニアス結膜炎の検査・診断臨床所見として慢性,再発性の偽膜性結膜炎を認めるあたらしい眼科Vol.36,No.7,2019915図2眼瞼より摘出した偽膜の病理組織像(HE染色)好酸性無構造な滲出物が主体.好中球,リンパ球浸潤も認める.以外に,組織検査や全身検査を行い診断していく必要がある.摘出した偽膜の組織所見では,炎症細胞を伴ったフィブリンの集積を認める(図2,3).また,全身検査では血液中のプラスミノーゲン量,活性値の低下を認め,他の粘膜疾患の有無を検索する必要がある.それらの検査を基に,1)偽膜性結膜炎,2)組織所見でフィブリンの集積,3)プラスミノーゲン量,活性値の低下,4)他の粘膜疾患が認められればリグニアス結膜炎と診断できる.また,遺伝的素因が関与していることが多いため,両親が血族結婚をしていないかなど,家族歴の問診も診断に重要になってくる.鑑別疾患としてウイルス性結膜炎,クラミジア結膜炎などを考慮する必要がある.●リグニアス結膜炎の治療前述のように,リグニアス結膜炎の病態としてプラスミノーゲンの質的,量的低下によるフィブリンの溶解機能の欠失が考えられるため,病態に沿った治療戦略を講じる必要がある.その治療戦略としては,フィブリン産生の抑制とフィブリン溶解の促進を考慮するべきである.フィブリン産生の抑制としては,フィブリン産生の契機となっている炎症を抑えるために,ステロイドやシ図3眼瞼より摘出した偽膜の病理組織像(フィブリンを染めるPTAH染色)青く染まるフィブリンの集積を認める.クロスポリンの局所投与を行い,またフィブリン産生を直接抑えるヘパリンやアルガトロバンの局所投与も有効である1,2).フィブリン溶解の促進においては,プラスミノーゲン製剤の補充が理想的であり,効果についても報告さているが,精製や入手が困難であることが多いため,プラスミノーゲンの量や活性値が正常な血漿(新鮮凍結血漿など)の局所投与も有効である1,2).これらの治療を偽膜摘出後に行うことで速やかな治療効果が得られると思われる.文献1)SchusterV,SeregardS:Ligneousconjunctivitis.SurvOphthalmol48:369-388,20032)SuzukiT,IkewakiJ,IwataHetal:The.rsttwoJapa-nesecasesofseveretypeIcongenitalplasminogende.ciencywithligneousconjunctivitis:successfultreat-mentwithdirectthrombininhibitorandfreshplasma.AmJHematol84:363-365,2009916あたらしい眼科Vol.36,No.7,2019(78)