あたらしい眼科35(6):775.783,2018c第28回日本緑内障学会須田記念講演緑内障の薬理学PharmacologyofGlaucoma吉冨健志*はじめに日常診療で緑内障患者への薬物治療を考えるときには,眼圧の経過や副作用の状況が臨床家にとっては重要である.そして多くの薬剤の中から患者に最適なものを選択し,病状とともに追加,変更してゆく流れになっている.このように臨床医としての立場からの考え方は,薬剤の作用を考えるときには,薬剤が緑内障の病態とそれに関係する眼の組織にどのように作用するかに集中している.一方で薬理学という学問は生体と薬物の相互作用を調べることが目的で,薬物が疾患にどのように作用するかについてではなく,生体のどの分子(受容体)に作用するかを調べる学問である.したがって,臨床系で考える薬物の作用と副作用という概念は,薬理学にはない.つまり,臨床学的に考えるCb遮断薬の眼圧下降という作用と,点眼によってまれに発症する喘息発作誘発という副作用は,薬理学的には毛様体と気管支平滑筋に存在する同じCb受容体に対する作用であり,基本的に区別はない.筆者は,九州大学院生のときに眼科学教室を離れ,薬理学教室でC3年間研究に没頭した経験がある.臨床では患者の治療に集中し,薬剤の作用も一人一人の患者の症状から考えてゆくが,基礎薬理学は,薬剤について患者ではなく,さまざまな分子,受容体に対する作用を調べてゆく学問である.そして,このような学問が新しい薬剤の開発につながってゆくのであるから,これもまた広い意味で患者の治療につながってゆく学問であるといえる.緑内障の治療薬は多数あり,その作用機序について眼科学の視点からは数多くの知見が得られている.今回は,普段あまり考えない薬理学の視点からみた緑内障治療薬について解説する.CI薬理学研究の原点,ミドリンPRの作用機序平滑筋薬理について世界的研究を行っていた薬理学教室で,筆者が最初に手がけた研究は瞳孔の平滑筋に関与するもので,これが筆者の研究としての原点となっている.眼科学と薬理学からみた薬剤の違いについて瞳孔にかかわるものについて提示する.ミドリンCPCRの作用機序については,散瞳を惹起する薬剤で,フェニレフリン単剤の点眼薬であるネオシネジンRや,トロピカミド単剤の点眼薬であるミドリンCMCRよりも大きな散瞳を惹起するものというのが,眼科学的な見地からの薬剤の理解であると考える.しかし,薬理学的にはトロピカミドは副交感神経遮断薬で,フェニレフリンはCa受容体作動薬である.薬剤の作用を薬理学的に理解するためには,副交感神経とCa受容体が散瞳にどのようにかかわっているかを解明することが重要で,たとえば副交感神経は瞳孔括約筋を収縮させる作用と同時に,筆者の研究で瞳孔散大筋を弛緩させる作用があることが明らかになっている1,2).したがって,副交感神経遮断は,瞳孔括約筋の収縮を抑制すると同時に瞳孔散大筋の弛緩も抑制する.一方で,Ca受容体刺激は瞳孔散大筋を収縮させると同時に瞳孔括約筋への収縮作用もわずかにあることも筆者は明らかにした1,3).したが*TakeshiYoshitomi:秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座〔別刷請求先〕吉冨健志:〒010-8543秋田市本道C1-1-1秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(67)C775図1瞳孔括約筋,瞳孔散大筋の神経支配とa,b受容体の作用ミドリンCPCRは,瞳孔括約筋に対して副交感神経による収縮の抑制とCa受容体刺激によるわずかな収縮,瞳孔散大筋に対しては副交感神経による弛緩の抑制とCa受容体刺激による強い収縮があり,これらの総合作用で散瞳を引き起こす.ってミドリンCPCRは,瞳孔括約筋に対しては副交感神経による収縮の抑制とCa受容体刺激によるわずかな収縮作用,瞳孔散大筋に対しては副交感神経による弛緩の抑制とCa受容体刺激による強い収縮作用があり,これらの総合作用で散瞳を引き起こすわけである(図1).CIIb遮断薬の薬理作用1.b遮断薬の眼圧に対する薬理作用a.眼圧日内変動瞳孔の研究を薬理学教室で行ったのち,筆者はCYale大学のCSears教授の下で眼圧の日内変動に関する研究を行った.眼圧の日内変動は臨床でも重要な要素であり,外来で眼圧測定している時間以外で高眼圧を示す患者の存在は,悩ましい問題である.眼圧に日内変動があることは,1904年にCMaslenikovらによって報告されており,1981年にCRowlandらは眼圧の日内変動に関する動物モデルを始めて報告した4).これはウサギをC12時間暗室,12時間明室というリズムで飼育すると,眼圧は明室で低く,暗室で高いという一定のリズムをもつようになるもので,このリズムは飼育室の明かりをC24時間消しても変化しないので,光に対する反応ではなく,体内時計によって制御されたものである.また,体内時計の中枢は視交叉上核にあるとされている.筆者らはこのモデルを用いて,房水産生の日内変動測定をCJones-Mauriceの方法5)に従ってフルオロフォトメトリーを用いて行った.この結果,房水産生にも眼圧とほぼ同様のリズムがあることが明らかとなった6,7).さらに日内変動と交感神経との関係を調べるために,眼圧や房水産生に対する上頚神経切除(CGX)の影響を検討した.その結果,CGXを行うと眼圧および房水産生の日内変動が著明に抑制された8,9).すなわち,ウサギの眼圧および房水産生の日内変動は,おもに交感神経を介して中枢から伝達されている情報で制御されていると考えられた(図2).Cb.交感神経とb受容体の作用b受容体はアドレナリンなどによって活性化すると,結合しているCG蛋白によって細胞膜にあるCadenylate300.60.4250.2020-0.2-0.415-0.60:006:0012:0018:000:006:0012:0018:00Control眼上頚神経節切除眼眼圧日内変動房水産生日内変動図2ウサギの眼圧と房水産生の日内変動正常眼と上頚神経節切除側眼の比較.(文献C9より引用)cyclaseを活性化させ,cAMPを合成させる(図3).日内変動における交感神経の働きからCb受容体およびadenylateCcyclase系に対する影響を詳しく調べる目的で,房水中のカテコラミンおよびCcAMPの濃度の日内変動を測定し,それに対するCCGX,あるいはチモロール点眼の影響も検討した7,8).房水中のノルアドレナリン(noradrenaline:NA)は日中に低く,夜間に高いが,CGXでどちらも消失したので,交感神経末端由来と考えられた9).房水中のCcAMPも日中に低く,夜間に高いが,CGXおよびチモロールで著明に抑制されたので,交感神経系とCb受容体を介したCadenylateCcyclase系への抑制効果が深く関与していると考えられた9)(表1).すなわち,房水産生についてはCadenylatecyclase抑制によって房水産生が抑制されると考えられた10.12).一方でCadenylatecyclase活性物質であるコレラ毒やForskolinが眼圧を下げるというデータも,同じCYale大学のグループから発表されている13,14).すなわち,ade-nylatecyclase抑制によって房水産生が抑制されるはずであるのに,adenylateCcyclase促進によって眼圧が下降するということで,これについては長年謎であった.Forskolinは緑内障治療薬として一時期臨床治験にまで進んだが,ウサギでは有効だったのに,ヒトではあまり効果がなかったともいわれている.しかし,近年CFor-skolinによる眼圧下降作用のメカニズムとして,線維柱交感神経帯の細胞に作用して眼圧を下げるとする報告が出ており15),再び臨床応用を検討する報告もある16).すなわち,adenylateCcyclase活性によって房水流出はおそらく促進されるが,一方で房水産生も促進するという,眼圧にとっては矛盾する作用をもっていると考えられる.したC表1前房中ノルアドレナリンとcAMP濃度の日内変動前房中CcAMP濃度(pmol/ml)の日内変動01:3C0(明)18:0C0(暗)CControlC12.2±2.014C28.7±2.0上頚神経切除(CGX)C19.6±0.7C16.9±0.4CTimololC17.3±1.8C15.4±2.3Cがって,Cb遮断薬の作用としては,毛様体上皮にあるCb受容体と,線維柱帯にあるCb受容体に対する効果を総合して考える必要がある.このように,Cb遮断薬の眼圧下降効果のメカニズムには,薬理学的にはまだよくわかっていないことが存在する.C2.b遮断薬の血流に対する薬理作用b受容体が毛様体と線維柱帯に存在して,さまざまな機能を有しているとすれば,眼内の他の部分にもCb受容体が存在する可能性がある.そのなかで筆者らは,血管平滑筋にもCb受容体が存在すると考え,既存のCb遮断薬の眼循環にかかわる効果を血管標本を用いた薬理学的実験で検討してきた.この研究は厳密には眼循環を測定するのではなく,血管平滑筋に対する薬剤の薬理作用を調べるものである.摘出血管を用いた研究は眼科以外の領域では広く行われており,たとえば冠動脈を摘出した標本を使って冠動脈スパスムの機序の研究,脳血管を用いた脳血管障害の機序の研究などが行われている17.19).しかし,血管平滑筋の性質には臓器特異性があり,他臓器の結果がそのまま眼の血管に当てはまるとは限らない.実験の具体的手法としては,ウサギの毛様動脈を長さC2Cmmにわたって摘出し,微小血管収縮記録装置(MyographCsystem,CJPCTrading,CDenmark)に設置した後,種々の薬剤,あるいは電気刺激による神経刺激に対する機械的反応を等尺性に測定した20,21)(図4).まず,摘出血管にCa作動薬であるフェニレフリンとCb作動薬であるイソプロテレノールを投与して血管の収縮弛緩を確かめたところ,毛様動脈はフェニレフリンで収縮反応を認めたが,イソプロテレノールでは効果がなかった22).すなわち,基本的にCb受容体は毛様動脈ではあまり機能していないと考えられた.しかし,それにもかかわらず現在までにさまざまなCb遮断薬で眼血流の増加作用が報告されている.レーザースペックルを用いた研究では,カルテオロール,ベタキソロール,ニプラジロール点眼で視神経近傍の眼血流が増加することが報告されている23,24).筆者らはウサギ摘出毛様動脈血管を高カリウム溶液で収縮させた状態でこれらの薬剤を投与した際に,どの程度の弛緩作用をもっているかを評価した(図5).まず,カルテオロールについて検討を行ったが,血管弛緩作用は見いだされなかった22).しかし,この薬剤はCinCvivoでは血流増加作用をもつという報告が多数存在する23.25).もしそれが正しいとすれば,この薬剤の血流に対する作用は血管平滑筋に対する作用ではなく,中枢などを介した間接的な作用と考えられる.ベタキソロールは,毛様動脈を濃度依存性に弛緩させたが,これはこの薬剤のもつCb受容体遮断作用ではなく,カルシウム拮抗薬様の作用のためと考えられた22).チモロールは毛様動脈に対してはベタキソロールと比較すると弱い弛緩作用しかもっていなかった22).ただ,この弛緩作用のメカニズムについては,やはりカルシウム拮抗薬様の作用のためと考えられた26).b遮断作用に関してはチモロールとベタキソロールに大きな差はないと考えられるので,この点からも血管弛緩作用とCb遮断作用が関係のないことが示唆される.ニプラジロールはベタキソロールよりもかなり強い弛緩反応を有しており,その作用機序もまったく異なっている.この薬剤はニトログリセリン様の作用を併せもっており,薬剤に含まれるニトロ基よりCNOを放出するCNO-Donorとして血管弛緩作用を有すると考えられる27).ニプラジロールの血管弛緩作用がL-NAMEでも内皮擦過除去でも抑制されないにもかかわらず,NO除去剤であるCcarboxy-PTIOで抑制されるところから明らかとなっている.さらにこの薬剤はCa受容体拮抗薬としての作用も知られており,これもアドレナリン投与で収縮作用を有するこの血管の性質から,血管弛緩作用に結びつく可能性が示唆される.さらにレボブノロールは,Cb遮断薬のなかでもっとも強力な弛緩反応を示している.この薬剤は,細胞内のCCaC2+濃度に影響を与えることなく,収縮を抑制する作用があるところから,血管平滑筋のCCa感受性を抑制することによる血管弛緩作用をもっていると考えられるが,詳細なメカニズムは不明である28).このように同じCb遮断薬であっても,血管に対する作用はまったく異なる薬理作用にウサギ毛様動脈Mechano-Transducer図4ウサギ毛様動脈を単離して,収縮,弛緩を測定する装置30μM100μM300μM1μM10μM30μMNipradilol100μMCarteolol1mM300μM1mM15min5mN5mN10min30μM100μM300μMBetaxolol1mMLevobunolol30μMHighK+Solution15min5mN1μM10μM100μM30μM100μM300μM300μM1mM5mN15minTimolol15min4mN図5毛様動脈血管平滑筋に対する各種b遮断薬の効果同程度の眼圧下降効果であることが知られているが,血管に対する作用は薬剤間で非常に異なる.よって生じていることが明らかになった.さらにレーザースペックルなどの機器を用いた眼循環に対する薬剤の効果をCinCvivoで検討した報告と,今回のCinCvitroの結果にはいくつか乖離があり,Cb遮断薬の眼循環に対する作用メカニズムも,薬理学的にはまだよくわかっていないことが存在する(表2).CIII毛様動脈血管平滑筋の神経支配ウサギの毛様動脈を電気刺激すると収縮反応が得られる.この収縮はCa1受容体拮抗薬であるブナゾシンの投与によって抑制された.すなわち,電気刺激によって起こるこの収縮は,アドレナリン作動性神経(交感神経)表2各種b遮断薬の血管平滑筋に対する作用機序わずかに収縮Cほとんど効果なしC電位依存性CCaC2+チャネル抑制による弛緩Cnipradilol分子の一部であるCNOによる弛緩とCa遮断作用CCa2+感受性抑制による弛緩Cによるものである.一方,ヒスタミンを投与してこの血管を収縮させた状態で電気刺激を行うと,血管弛緩反応が出現するが,この弛緩反応は血管内皮を除去した状態でもCL-NAME(一酸化窒素(NO)合成阻害薬)を投与することによって消失した.この結果はウサギの毛様動NONA血管平滑筋弛緩収縮aNO血管内皮副交感神経AChLatanoprostUnoprostoneTravoprost1μM3μM10μM1μM3μM1μM3μM10μM30μM10μM30μM30μM4mN10minHigh-KSolutionHigh-KSolutionHigh-KSolutionTa.uprost1μM3μM10μMBimatoprost1μM3μM10μM30μM100μM30μMHigh-KSolutionHigh-KSolution図7毛様動脈に対するPG関連薬の効果これも各薬剤で効果が異なっている.脈がC2種類の神経支配を受けていることを示している29).すなわち,収縮をコントロールする交感神経と,弛緩をコントロールする神経(この神経の起源は明らかではないが,NOを伝達物質とする神経)の二重支配である(図6).このような神経支配はサルの血管でも見いだされている30).このような神経に薬剤が影響して血管平滑筋に作用することもあり,緑内障治療薬の眼循環への作用機序を考えるときには,このようなことも考慮に入れる必要がある.交感神経でも副交感神経でもない神経交感神経図6毛様動脈血管平滑筋の神経支配血管平滑筋は交感神経と正常眼圧緑内障を化学伝達物質とする交感神経でも副交感神経でもない神経に支配されている.CIVプロスタグランジン関連薬の血流に対する薬理作用さまざまなCb遮断薬の血管平滑筋に対する薬理作用を検討してきたので,ウノプロストンを含めたプロスタグランジン関連薬についても検討してみた.血流増加作用については報告もあるが31),血管弛緩作用はやはり薬剤間で差があることがわかった32.35)(図7).興味深いことに,一部のプロスタグランジン関連薬でその代謝物を用いて実験を行ったところ,代謝物は血管弛緩作用をもたないことが明らかになった.角膜を通過するときに薬剤はほとんどすべてが代謝されて代謝物として前房内に存在する.したがって,点眼薬が血流を増加させるとすれば,それは眼球内に存在する代謝物としてではなく,眼球内に入らず結膜から眼球を迂回して非代謝物として後眼部に至るルートが想定される36).さらに,プロスタノイド(FP)受容体をノックアウトしたマウスではプロスタグランジン関連薬の眼圧下降効果はないにもかかわらず,血管に対する作用はあまり影響を受けないところから,これらの薬剤の血管に対する作用機序にCFP受容体が関与しておらず,眼圧下降作用とまったく異なる作用機序であることが明らかになった37).現在はこれらの薬剤の血管弛緩は容量性カルシウムチャネルを介した細胞外のCCa流入阻害によると考えている15).ManometerValve75mmHgBu.erColumn10mmHg35mmHg75mmHgHeightgas101.2cm35mmHgbubble10mmHggas47.2cmbubblegas13.5cmbubble103575mmHg30℃Waterbathラット眼杯標本図8exvivo眼杯標本に対する加圧の効果invivoとCinvitroの中間に位置するCexvivo眼杯標本を作製し,静水圧で加圧すると,10mmHg,35CmmHgで加圧しても変化はないが,75CmmHgで加圧すると,神経節細胞の軸索が腫脹する.(文献C40より引用)AlloP24(S)-HC75mmHg75mmHg75mmHg75mmHgAlloP1μM1μM24(S)-HC図9加圧による軸索腫脹に対するAlloP,24(S).HCの効果75CmmHgで神経節細胞の軸索の腫脹(矢頭)が認められるが,培養液中にCAlloPを添加したものでは,軸索の腫脹が抑制されている.同じようにC1μMのC24(S)-HCを培養液中に添加するとC75CmmHgでみられた軸索の腫脹が抑制されている.(文献C40より引用)CV神経ステロイドの神経保護作用き,加圧で神経節細胞の軸索が腫脹する(図8).神経ステロイド(neurosteroid:NS)は,1980年代に現在,本学の石川誠が中心となって,筆者らはラッE.Baulieuによって命名された,神経系においてコレスト分離眼杯標本を高圧下で培養する実験系(exCvivo加テロールから合成されるステロイド・ホルモンの総称で圧実験系)を独自に開発して,眼圧上昇時における神経ある.中枢神経系における神経伝達においては,興奮性ステロイドの神経保護効果を検討している.ExCvivo眼神経伝達物質であるグルタミン酸と興奮抑制性伝達物質杯標本は,網膜を構成する細胞間のネットワークを保持であるCg-アミノ酪酸(gamma-aminobutylicCacid:し,少なくともC24時間,生理活性を維持することがでCGABA)が主体であり,正常な神経細胞の機能維持のたCめには,グルタミン酸伝達系とCGABA伝達系のバランスが重要と考えられる.神経ステロイドは,これら二つの神経伝達系と密接なかかわりをもち,神経の興奮性を調節することが知られている.網膜においては,グルタミン酸は視覚情報主経路(視細胞-双極細胞-神経節細胞)における主要伝達物質であり,GABAは視覚情報主経路に対して,水平細胞・アマクリン細胞を介して興奮抑制性に作用する.グルタミン酸受容体に作用するCNSの代表がC24S-hydroxycholesterol(24SH)であり,GABA受容体に作用するCNSの代表がCAllopregnano-lone(AlloP)である.これまで緑内障とCNSに関して,24SHについてCFourgeuxらの報告があるのみで38),AlloPについては報告がなかった.加圧で神経節細胞の軸索の腫脹が発生するが,培養液中にC24SHとCAlloPを添加して,網膜神経節細胞に対する効果を検討した.その結果,加圧傷害時におけるC24SH39)とCAlloP40,41)の神経保護作用が明らかとなった.おわりに筆者の緑内障薬理学的研究について述べた.眼科学の発展には臨床的研究と基礎的研究の両輪が必要である.とくに薬理学的研究は,臨床研究で行われる薬剤に関する研究と区別できない点もあり,しかも利益相反にも関与してもっともやりにくい基礎研究分野である.さまざまな薬剤の薬理作用について,患者にどのような影響があり,治療に影響するかを調べるのが臨床的な考え方であるが,対象臓器に存在する受容体や化学物質に対する作用を調べる基礎的な考え方とはまったく異なっている.今回はさまざまな緑内障治療薬の毛様動脈血管平滑筋に対する作用をまとめてみた.それぞれの薬剤が,眼圧下降作用とは関連のない血管平滑筋細胞に存在する受容体やイオンチャネルにどのような作用を示すかを検討してきたが,これが実際の緑内障患者の視野進行や視機能維持にどのくらい役立つかはこれからの課題である.さまざまな緑内障治療薬が眼圧下降効果と異なる機序で視野維持効果を示している臨床研究は,最近注目されている.薬理学的基礎研究は,臨床では,まったく異なる薬剤と思われていたものが,想像できない疾患の治療薬剤として画期的な薬剤の開発につながることがある.筆者の研究ではできなかったが,将来若い先生方が緑内障患者に対する眼圧下降治療以外の治療の開発につながる研究を続けていただきたいと祈念して擱筆としたい.謝辞:薬理学の恩師,栗山熙先生,眼科学の恩師,猪俣孟先生に深謝申し上げるとともに,筆者が在籍してきた九州大学眼科,九州大学薬理,Yale大学眼科,北里大学眼科,和歌山県立医科大学眼科,秋田大学眼科の先輩,同僚,後輩の皆様に厚くお礼申し上げます.本総説は第C28回日本緑内障学会須田記念講演での講演内容に基づいて執筆した.文献1)YoshitomiT,CItoY:DoubleCreciprocalCinnervationsCinCtheCdogCirisCsphincterCandCdilatorCmuscles.CInvestCOphthalmolCVisSci27:83-91,C19862)YoshitomiCT,CItoCY,CInomataCH:AdrenergicCexcitatoryCandCcholinergicCinhibitoryCinnervationsCinCtheChumanCirisCdilator.ExpEyeResC40:453-459,C19853)YoshitomiCT,CItoCY,CInomataCH:FunctionalCinnervationCandCcontractilpropertiesCofCtheChumanCirisCsphincterCmus-cle.ExpEyeResC46:979-986,C19884)RowlandCJM,CPotterCDE,CRiterCRJ:CircadianCrhythmCinintraocularCpressure:ACrabbitCmodel.CCurrCEyeCResC1:C169-173,C19815)JohnsonCF,CMauriceCD:ACsimpleCmethodCofCmeasuringCaqueousChumorC.owCwithCintravitralC.uoresceinatedCdex-trans.ExpEyeResC39:791-805,C19846)SmithCSD,CGregoryCDS:ACcircadianCrhythmCofCaqueousC.owCunderliesCtheCcircadianCrhythmCofCIOPCinCNZWCrab-bits.InvestOphthalmolVisSciC30:775-778,C19897)GregoryDS:TimololreducesIOPinnormalNZWrabbitsduringthedarkonly.InvestOphthalmolVisSciC31:715-721,C19908)GregoryCDS,CAviadoCDG,CSearsCML:CervicalCganglionec-tomyCaltersCtheCcircadianCrhythmCofCintraocularCpressureCinCNewCZealandCwhiteCrabbits.CCurrCEyeCRessC4:1273-1279,C19859)YoshitomiT,GregoryDS:Ocularadrenergicnervescon-tributetocontrolofthecircadianrhythmofaqueous.owinrabbits.InvestOphthalmolVisSciC32:523-528,C199110)YoshitomiCT,CHorioCB,CGregoryCDS:ChangesCinCaqueousCnorepinephrineCandCcyclicCadenosineCmonophosphateCdur-ingCtheCcircadianCcycleCinCrabbits.CInvestCOphthalmolCVisCSciC32:1609-1613,C199111)NiiCH,CIkedaCH,COkadaCKCetCal:CircadianCchangeCofCade-nylateCcyclaseCactivityCinCrabbitCciliaryCprocesses.CCurrCEyeResC23:248-255,C200112)KiuchiCY,CGregoryCDS:RabbitsChaveCaCcircadianCrhythmCofCaqueousChumorCcyclicCAMP.CCurrCEyeCResC11:935-938,C199213)CaprioliJ,SearsM:Forskolinlowersintraocularpressureinrabbits,monkeys,andman.LancetC30:958-960,C198314)GregoryCD,CSearsCM,CBausherCLCetCal:IntraocularCpres-sureCandCaqueousC.owCareCdecreasedCbyCcholeraCtoxin.CInvestOphthalmolVisSciC20:371-381,C198115)WuCJ,CLiCG,CLunaCCCetCal:EndogenousCproductionCofextracellularCadenosineCbyCtrabecularCmeshworkCcells:Cpotentialroleinout.owregulation.InvestCOphthalmolVisSciC53:7142-7148,C201216)MajeedM,NagabhushanamK,NatarajanSetal:E.cacyandCsafetyCofC1%CforskolinCeyeCdropsCinCopenCangleCglau-coma-Anopenlabelstudy.SaudiJOphthalmolC29:197-200,C201517)GawAJ,BevanJA:Flow-inducedrelaxationoftherabbitmiddleCcerebralCarteryCisCcomposedCofCbothCendothelium-dependentand-independentcomponents.StrokeC24:105-110,C199318)SeebeckCJ,CLoweCM,CKruseCMLCetCal:TheCvasorelaxantCe.ectofpituitaryadenylatecyclaseactivatingpolypeptideandvasoactiveintestinalpolypeptideinisolatedratbasilararteriesCisCpartiallyCmediatedCbyCactivationCofCnitrergicCneurons.RegulPeptC107:115-123,C200219)LiCJS,CKnafoCL,CTurgeonCACetCal:E.ectCofCendothelinCantagonismConCbloodCpressureCandCvascularCstructureCinCrenovascularChypertensiveCrats.CAmCJCPhysiol271:H88-H93,C199620)MulvanyMJ,HalpernW:Mechanicalpropertiesofvascu-larCsmoothCmuscleCcellsCinCsitu.CNatureC260:617-619,C197621)MulvanyCMJ,CHalpernCW:ContractileCpropertiesCofCsmallCarterialCresistanceCvesselsCinCspontaneouslyChypertensiveCandnormotensiverats.CircResC41:19-26,C197722)Hayashi-MorimotoCR,CYoshitomiCT,CIshikawaCHCetCal:CE.ectsofbantagonistsonmechanicalpropertiesinrabbitciliaryCartery.CGraefe’sCArchCClinCExpCOphthalmolC237:C661-667,C199923)TamakiCY,CAraieCM,CTomitaCKCetCal:A.CE.ectCofCtopicalCbeta-blockersConCtissueCbloodC.owCinCtheChumanCopticCnervehead.CurrEyeResC16:1102-1110,C199724)KannoM,AraieM,TomitaKetal:E.ectsoftopicalnip-radilol,CaCbeta-blockingCagentCwithCalpha-blockingCandCnitroglycerin-likeCactivities,ConCaqueousChumorCdynamicsCandCfundusCcirculation.CInvestCOphthalmolCVisCSciC39:C736-743,C199825)SteigerwaltRD,LauroraG,BelcaroGVetal:OcularandretrobulbarCbloodC.owCinCocularChypertensivesCtreatedCwithCtopicalCtimolol,CbetaxololCandCcarteolol.CJOculCPhar-macolTherC17:537-544,C200126)DongCY,CIshikawaCH,CWuCYCetCal:E.ectCandCmechanismCofCbetaxololCandCtimololConCvascularCrelaxationCinCisolatedCrabbitciliaryartery.JpnJOphthalmolC50:504-508,C200627)YoshitomiCT,CYamajiCK,CIshikawaCHCetCal:VasodilatoryCe.ectsofnipradilol,ana-andsadrenergicblockerwithnitricCoxideCreleasingCaction,CinCrabbitCciliaryCartery.CExpCEyeResC75:669-676,C200228)DongCY,CIshikawaCH,CWuCYCetCal:VasodilatoryCmecha-nismCofClevobunololConCvascularCsmoothCmuscleCcells.CExpCEyeResC84:1039-1046,C200729)YoshitomiT,ItoY:Functionalinnervationofbovineoph-thalmicCartery.CGraefe’sCArchCClinCExpCOphthalmolC232:C122-126,C199430)TodaN,TodaM,AyajikiKetal:MonkeycentralretinalarteryCisCinnervatedCbyCnitroxidergicCvasodilatorCnerves.CInvestOphthalmolVisSciC37:2177-2184,C199631)TamakiCY,CAraieCM,CTomitaCKCetCal:E.ectCofCtopicalCunoprostoneoncirculationofhumanopticnerveheadandretina.JOculPharmacolTherC17:517-527,C200132)KurashimaCH,CWatabeCH,CSatoCNCetCal:E.ectsCofCprosta-glandinCF(2Ca)analoguesConCendothelin-1-inducedCimpair-mentCofCrabbitCocularCbloodC.ow:comparisonCamongCta.uprost,Ctravoprost,CandClatanoprost.CExpCEyeCResC91:C853-859,C201033)YoshitomiCT,CYamajiCK,CIshikawaCHCetCal:VasodilatoryCmechanismofunoprostoneisopropylonisolatedrabbitcili-aryartery.CurrEyeResC28:167-174,C200434)IshikawaH,YoshitomiT,MashimoKetal:Pharmacologi-calCe.ectsCofClatanoprost,CprostaglandinCE2,CandCF2aonisolatedrabbitciliaryartery.CGraefe’sArchClinCExpOph-thalmol240:120-125,C200235)DongY,WatabeH,SuGetal:Relaxinge.ectandmech-anismCofCta.uprostConCisolatedCrabbitCciliaryCarteries.CExpCEyeResC87:251-256,C200836)MizunoCK,CKoideCT,CSaitoCNCetCal:TopicalCnipradilol:Ce.ectsConCopticCnerveCheadCcirculationCinChumansCandCperioculardistributioninmonkeys.InvestOphthalmolVisSci43:3243-3250,C200237)AbeS,WatabeH,TakasekiSetal:Thee.ectsofprosta-glandinanaloguesonintracellularCa(2+)inciliaryarter-iesCofCwild-typeCandCprostanoidCreceptor-de.cientCmice.CJOculPharmacolTherC29:55-60,C201238)FourgeuxC,MartineL,BjorkhemIetal:Primaryopen-angleCglaucoma:associationCwithCcholesterolC24S-hydroxC-ylase(CYP46A1)geneCpolymorphismCandCplasmaC24-hydroxycholesterolClevels.CInvesCOpthalmolCVisCSciC50:C5712-5717,C200939)IshikawaCM,CYoshitomiCT,CZorumskiCCFCetCal:24(S)C-HydroxycholesterolCprotectsCtheCexCvivoCratCretinaCfromCinjuryCbyCelevatedChydrostaticCpressure.CSciCRepC6:C33886,C201640)IshikawaCM,CYoshitomiCT,CZorumskiCCFCetCal:NeurosC-teroidsCareCendogenousCneuroprotectantsCinCanCexCvivoCglaucomaCmodel.CInvestCOphthalmolCVisCSciC55:8531-8541,C201441)IshikawaCM,CYoshitomiCT,CCoveyCDFCetCal:TSPOCactiva-tionCmodulatesCtheCe.ectsCofChighCpressureCinCaCratCexCvivoCglaucomaCmodel.CNeuropharmacologyC111:142-159,C2016☆☆☆