‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

視神経炎の病型と臨床像の検討

2017年3月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科34(3):450.454,2017c視神経炎の病型と臨床像の検討白濱新多朗*1蕪城俊克*2澤村裕正*2山上明子*3清澤源弘*4*1JR東京総合病院眼科*2東京大学眼科*3井上眼科病院*4清澤眼科医院ComparisonofClinicalFeaturesamongClinicalEntitiesofOpticNeuritisShintaroShirahama1),ToshikatsuKaburaki2),HiromasaSawamura2),AkikoYamagami3)andMotohiroKiyosawa4)1)DepartmentofOphthalmology,JRTokyoGeneralHospital,,2)DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyo,3)InoueEyeHospital,4)KiyosawaEyeClinic目的:3施設における病型別の視神経炎の臨床像の違いについて検討する.対象および方法:視神経炎と診断された57例84眼を対象として,脳脊髄病変の有無および血液検査の結果から,特発性群,自己抗体陽性群,抗Aquapo-rin-4抗体陽性群(抗AQP4群),多発性硬化症群(multiplesclerosis:MS群)の4群に病型分類した.病型ごとに性別,発症時年齢,罹患眼(両眼・片眼),眼痛の有無,初診時のステロイド治療の有無,自己抗体の陽性率,再発率,再発頻度,経過中最低矯正視力,最終矯正視力を比較した.結果:MS群と抗AQP4群は女性が多かった.特発性群と自己免疫性群は眼痛が多く,抗AQP4群,MS群は眼痛が少なかった.抗AQP4群は他群に比べ経過中最低矯正視力,最終矯正視力ともに低かった.抗AQP4群は脳脊髄病変の有無によらず経過中最低矯正視力,最終矯正視力に差は認めなかった.結論:抗AQP4抗体陽性の場合,脳脊髄病変の有無にかかわらず,経過中最低矯正視力,最終矯正視力ともに,他の視神経炎に比べ不良であると考えられた.Purpose:Toinvestigatedi.erencesinclinicalfeaturesamongclinicalentitiesofopticneuritis.Patientsandmethods:Thisstudyinvolved84eyesof57patientswithopticneuritis,classi.edintofoursubtypes(idiopathic,autoimmunity,aquaporin4antibody,multiplesclerosis)basedonthepresenceorabsenceofcerebrospinaldiseaseandautoantibodiesincludinganti-aquaporin-4antibody(anti-AQP4).Sex,ageofonset,a.ectedeyes,eyepain,autoantibodydetectionrate,presenceofsteroidtherapy,recurrencerate,recurrencefrequency,minimumbest-cor-rected-visualacuity(MVA)and.nalbest-correctedvisualacuity(FVA)wereexamined.Results:Femalescom-prisedthemajorityintheanti-AQP4-positiveandmultiplesclerosisgroups.Eyepainwasfrequentintheidio-pathicandautoimmunitygroups.Eyesintheanti-AQP4-positivegrouphadthepoorestMVAandFVAamongthefourgroups,withnosigni.cantdi.erencesinMVAandFVAregardlessofcerebrospinaldisease.Conclusion:Eyesintheanti-AQP4-positivegrouphadthepoorestMVAandFVAamongthefoursubtypesofopticneuritis〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(3):450.454,2017〕Keywords:視神経炎,抗アクアポリン4抗体,脳脊髄病変,経過中最低矯正視力,最終矯正視力.opticneuritis,aquaporin-4antibody,cerebrospinaldisease,minimumbestcorrected-visualacuity,.nalbestcorrected-visualacu-ity.はじめに視神経炎は視神経に炎症を起こす疾患で,日本人の成人人口10万人に対して年1.6人の割合で発症する疾患である1).原因としては特発性,自己免疫性,抗Aquaporin-4(抗AQP4)抗体陽性視神経炎(視神経脊髄炎を含む),多発性硬化症(multiplesclerosis:MS)などに分類される.過去の視神経炎の視力予後の研究では,1990年代に大規模な前向き研究OpticNeuritisTreatmentTrial(ONTT)が行われ,ステロイドパルス療法は視神経炎の視力の回復を早めるが,最終視力には差がないと報告された2).わが国でも日本神経眼科学会による視神経炎の前向き研究が行われ,同様の結果が報告されている3).しかし,その後,視神経炎の診断の細〔別刷請求先〕白濱新多朗:〒151-8528東京都渋谷区代々木2-1-3JR東京総合病院眼科Reprintrequests:ShintaroShirahama,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JRTokyoGeneralHospital,2-1-3Yoyogi,Shibuya-ku,Tokyo151-8528,JAPAN450(144)分化が進んだ.1982年のDuttonらによる抗核抗体高値の視神経炎の報告4)以降,各種の自己抗体陽性の視神経症が報告されてきた5,6).臨床的には特発性視神経炎と酷似しているが,発症機序や副腎皮質ステロイド薬に対する反応性,予後の違いから,自己免疫性視神経症として独立した疾患と考えられている7).さらに2005年にはLennonらにより視神経脊髄炎の原因抗体として抗AQP4抗体が同定され8,9),抗AQP4抗体陽性例の多くは非常に難治性で再発が多く視機能予後は不良とされている10).これまでの報告では自己免疫性視神経症と抗AQP4抗体陽性視神経症11)の臨床像の比較はみられる.しかし多群間での比較の報告は少ないのが現状である.そこで今回,筆者らは視神経炎の病型を特発性群,自己抗体陽性群,抗AQP4抗体陽性群,MS群に分類し,臨床像の違いを検討したので報告する.I対象および方法対象は2002.2013年に東京大学医学部附属病院,井上眼科病院,清澤眼科医院で視神経炎と診断された57例84眼(男性13例21眼,女性44例63眼,平均年齢42.1±16.6歳)である.視神経炎患者は,視神経炎の診断のために対光反射,視力検査,視野検査,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査のほか,全例で頭部MRI検査を施行した.頭蓋内病変や神経症状がみられる症例では神経内科を受診し,多発性硬化症や視神経脊髄炎の有無を確認した.また視神経炎の病型診断のための血液検査として抗AQP4抗体,自己免疫検査(抗核抗体,抗サイログロブリン抗体,抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体,抗SS-A抗体,抗SS-B抗体)を施行した.抗AQP4抗体測定はCell-basedassay(CBA)法,またはEnzyme-linkedimmunosorbentassay(ELISA)法のいずれかを用いた.なお,抗AQP4抗体が測定できなかった症例は本検討からは除外した.視神経炎の病型分類は4群に分類した.抗AQP4抗体が陽性のものを抗AQP4群,MRIで脳脊髄病変を認め,神経内科で多発性硬化症と診断されたものをMS群,抗AQP4眼として検討した.II結果症例の割合は,特発性群は17例20眼(30%),自己抗体陽性群は12例17眼(21%),抗AQP4群は23例39眼(40%),MS群は5例8眼(9%)であった.発症時年齢を図1に示す.発作時年齢は初回発作時の年齢とした.MS群で平均31歳と若年,抗AQP4群で平均50歳と高齢であったが,4群間で有意差は認めなかった(Gen-eralizedestimatingequation,p>0.05).男女比,罹患眼,眼痛の有無,発症後経過観察期間を表1に示す.男女比は,特発性群では性差は少なかったが,自己抗体陽性群,抗AQP4群は女性が多く,MS群は全例が女性であった(chi-squaretest,p>0.05).罹患眼(両眼性とは同時発症例だけでなく,経過観察中に他眼に発症した場合も含む)は,特発性群は片眼性(82%)が多く,抗AQP4群(61%),MS群(60%)は両眼性が多い結果であった(chi-squaretest,p<0.05).眼痛の有無は,特発性群(71%),自己抗体陽性群(58%)に眼痛を多く認めたが,抗AQP4群(39%),MS群(20%)は少ない結果であった(chi-squaretest,p<0.05).発症後経過観察期間は特発性群3.4±4.2年,自己抗体陽性群2.5±3.0年,抗AQP4群6.1±5.6年,MS群6.5±8.0年で4群間に有意差を認めなかった(One-factorANOVA,p>0.05).初診時のステロイド治療の有無を表2に示す.特発性群17例中3例(18%),自己抗体陽性群12例中4例(33%)抗AQP4群23例中5例(22%),MS群5例中1例(20%),であった.初診時のステロイド治療の有無は4群間で有意差を認めなかった(chi-square,p>0.05).各種自己抗体の陽性率を表3に示す.自己抗体陽性群は抗807060発症時年齢抗体以外の自己抗体のいずれかが陽性であったものを自己抗体陽性群(自己抗体は抗核抗体,抗サイログロブリン抗体,4030抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体,抗SS-A抗体,抗SS-B抗20体と定義した),上記3群のいずれにも該当しないものを特発性群として,この4群について後ろ向きに検討した.病型ごとに発症時年齢,性別,罹患眼(両眼・片眼),眼痛の有無,発症後経過観察期間,初診時のステロイド治療の有無,自己抗体の陽性率,再発率,再発頻度,経過中最低矯正視力,最終矯正視力を比較した.本検討で視神経炎の再発は対光反射,視力検査,視野検査,眼底検査,頭部MRI検査の結果を基に総合的に判定した.また,両眼性の場合は1例250100特発性群自己抗体陽性群抗AQP4群MS群表1性別,罹患眼(片眼性,両眼性),眼痛の有無,発症後経過観察期間特発性群自己抗体陽性群抗AQP4群MS群性別(M/F)7/104/82/210/5片眼性/両眼性14/37/57/162/3眼痛あり/なし12/57/59/141/4発症後経過観察期間(年)3.4±4.22.5±3.06.1±5.66.5±8.0特発性群,自己抗体陽性群,抗Aquaporin-4群(抗AQP4群),multiplesclerosis群(MS群)の性別,罹患眼(片眼性,両眼性),眼痛の有無,発症後経過観察期間を表す.いずれも4群間で有意差を認めなかった.表2初診時のステロイド治療の有無特発性群自己抗体陽性群抗AQP4群MS群初診時のステロイド治療の有無3/17(18%)4/12(33%)5/23(22%)1/5(20%)特発性群,自己抗体陽性群,抗Aquaporin-4群(抗AQP4群),multiplesclerosis群(MS群)の初診時のステロイド治療の有無を表す.4群間で有意差を認めなかった(chi-square,p<0.05).表3各種自己抗体陽性率自己抗体陽性群抗AQP4群MS群抗核抗体8/12(67%)8/23(35%)1/5(20%)甲状腺抗体8/12(67%)4/23(17%)1/5(20%)SS抗体1/12(8%)8/23(35%)0/5(0%)自己抗体陽性群,抗Aquaporin-4群(抗AQP4群),multiplesclerosis群(MS群)の抗核抗体,甲状腺抗体,SS抗体の陽性率を表す.甲状腺抗体は抗サイログロブリン抗体または抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体が陽性であった症例,SS抗体は抗SS-A抗体または抗SS-B抗体が陽性であった症例の割合を表す.核抗体,甲状腺抗体が67%と多く,SS抗体が8%で陽性であった.それに対し,抗AQP4群は,抗核抗体,SS抗体がともに35%で陽性で比較的多く,甲状腺抗体は17%で陽性であった.MS群は,自己抗体陽性例は少ない結果であった.再発率,再発頻度を表4に示す.再発率は特発性群17例中6例(35%),自己抗体陽性群12例中3例(25%),抗AQP4群23例中14例(61%),MS群5例中2例(40%)であった.再発率は4群間で有意差を認めた(chi-square,p<0.05).また抗AQP4群は自己抗体陽性群と比較して再発率が有意に高かった(chi-square,p<0.05).再発頻度は1年以上経過観察できた症例を対象に検討を行った.特発性群0.42±0.37(回/年),自己抗体陽性群0.56±0.44(回/年)抗AQP4群0.44±0.22(回/年),MS群0.66±0.50(回/年),であった.再発頻度は4群間で有意差を認めなかった(One-factorANOVA,p>0.05).経過中最低矯正視力,最終矯正視力は0.01未満,0.01以上0.1以下,0.15以上0.6以下,0.7以上に分類し検討した.経過中最低矯正視力は複数回発作を起こしている場合はすべての発作のなかでもっとも低い視力を最低矯正視力と定義した.経過中最低矯正視力を図2に示す.経過中最低矯正視力が0.1以下の割合は,特発性群,自己抗体陽性群は50%,抗AQP4群で78%,MS群で28%と各病型の間で有意差を認めなかった(Generalizedestimatingequation,p>0.05).抗AQP4群は他の3群と比較して経過中最低矯正視力が不良であった(Generalizedestimatingequation,p<0.05).最終矯正視力を図3に示す.最終矯正視力は0.1以下の割合は特発性群で27%,自己抗体陽性群で12%,抗AQP4群で53%,MS群で12%と各病型の間で有意差を認めた(Gen-eralizedestimatingequation,p<0.05).抗AQP4群は他の3群と比較して最終矯正視力が不良であった(Generalizedestimatingequation,p<0.05).抗AQP4群における脳脊髄病変の有無と視力予後を図4,5に示す.経過中最低矯正視力,最終矯正視力について脳脊髄病変あり群となし群に分けて視力を比較したが,どちらも有意差を認めなかった(Generalizedestimatingequation,p>0.05).III考按本検討での各病型の症例の割合は,抗AQP4群が全体の40%と多かったが,本検討に参加したいずれの施設も視神経炎が重症化してから紹介される症例が多いため,抗AQP4群の割合が相対的に多くなったと考えられる.発症時年齢(図3)は4群間で有意差を認めなかったが,特発性群39.0歳,自己抗体陽性群43.8歳,抗AQP4群50.1歳,MS群31.4歳であり,既報と同様の結果となった11.14).男女比(表1)は4群間で有意差を認めなかったが,自己抗表4再発率,再発頻度***特発性群自己抗体陽性群抗AQP4群MS群再発率(%)6/17(35%)3/12(25%)14/23(61%)2/5(40%)再発頻度(回/年)0.42±0.370.56±0.440.44±0.220.66±0.50特発性群,自己抗体陽性群,抗Aquaporin-4群(抗AQP4群),multiplesclerosis群(MS群)の再発率,再発頻度を表す.再発率は4群間で有意差を認めた(*chi-square,p<0.05).抗AQP4群は自己抗体陽性群と比較して有意に再発率が高かった(**chi-square,p<0.05).再発頻度は4群間で有意差を認めなかった(One-factorANOVA,p>0.05).■0.7以上■0.15~0.6■0.01~0.1■0.01未満***100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%特発性群自己抗体陽性性群抗AQP4群MS群(17例20眼)(12例17眼)(23例39眼)(5例8眼)図2経過中最低矯正視力特発性群,自己抗体陽性群,抗Aquaporin-4群(抗AQP4群),multiplesclerosis群(MS群)の経過中最低矯正視力を表す.視力を0.01未満,0.01以上0.1以下,0.15以上0.6以下,0.7以上に分類し検討した.抗AQP4群は他の3群と比較して有意に視力不良であった(Generalizedestimatingequation,p<0.05).100%90%80%70%■0.7以上60%■0.15~0.650%■0.01~0.140%■0.01未満30%20%10%0%脳脊髄病変なし脳脊髄病変あり(9例16眼)(14例23眼)図4経過中最低矯正視力抗Aquaporin-4群(抗AQP4群)を脳脊髄病変なし,脳脊髄病変ありの各群に分けて,各群の経過中最低矯正視力を表す.視力を0.01未満,0.01以上0.1以下,0.15以上0.6以下,0.7以上に分類し検討した.2群間で有意差を認めなかった(General-izedestimatingequation,p>0.05).■0.7以上■0.15~0.6■0.01~0.1■0.01未満***100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%特発性群自己抗体陽性性群抗AQP4群MS群(17例20眼)(12例17眼)(23例39眼)(5例8眼)図3最終矯正視力特発性群,自己抗体陽性群,抗Aquaporin-4群(抗AQP4群),multiplesclerosis群(MS群)の最終矯正視力を表す.視力を0.01未満,0.01以上0.1以下,0.15以上0.6以下,0.7以上に分類し検討した.抗AQP4群は他の3群と比較して有意に視力不良であった(Generalizedestimatingequation,p<0.05).100%90%80%70%■0.7以上60%■0.15~0.650%■0.01~0.140%■0.01未満30%20%10%0%脳脊髄病変なし脳脊髄病変あり(9例16眼)(14例23眼)図5最終矯正視力抗Aquaporin-4群(抗AQP4群)を脳脊髄病変なし,脳脊髄病変ありの各群に分けて,各群の経過中最低矯正視力を表す.視力を0.01未満,0.01以上0.1以下,0.15以上0.6以下,0.7以上に分類し検討した.2群間で有意差を認めなかった(General-izedestimatingequation,p>0.05).体陽性群,抗AQP4群,MS群では女性が多く,既報と同様の結果となった11.14).罹患眼(表1)は4群間で有意差を認め,特発性群,自己抗体陽性群は片眼性,抗AQP4群,MS群は両眼性が多い結果で既報と同様の結果となった11.14).眼痛の有無(表1)は4群間で有意差を認め,特発性群,自己抗体陽性群で眼痛が多く,抗AQP4群,MS群で眼痛が少ない結果であった.特発性群,自己抗体陽性群,MS群は既報と同様の結果であった11.13).抗AQP群は眼痛が少ない結果で既報と異なっていたが10,14),本検討では受診時にすでに治療が始められていた症例を含んでいたためと考えられる.再発率(表4)は4群間で有意差を認め,抗AQP4群の再発率が61%と高かった.とくに抗AQP4群は自己抗体陽性群と比較して再発率が有意に高く,既報と同様の結果となった11).経過中最低矯正視力(図2),最終矯正視力(図3)では抗AQP4群は他の3群と比較して有意に視力不良であった.この結果は,抗AQP4群が4病型のなかでもっとも視力予後が不良な病型であることを示している.つまり,抗AQP4群は視力予後が不良であることに加え,両眼性で再発率が高いことを考慮すると,著しく視機能を障害する疾患であるといえる.さらに本検討では,抗AQP4群の経過中最低矯正視力,最終矯正視力について,脳脊髄病変あり群となし群に分けて視力を比較した(図4,5)が,どちらも有意差を認めなかった.この結果は,抗AQP4群では脳脊髄病変の有無は経過中最低矯正視力,最終矯正視力ともに影響を及ぼさないということを示している.つまり,抗AQP4抗体陽性であれば,脳脊髄病変の有無にかかわらず視機能障害が重篤であることを意味する.この結果については症例数が少なかったことも考えられるので,今後さらに症例数を増やして検討する必要があると考える.IV結語視神経炎57例84眼を特発性群,自己抗体陽性群,抗AQP4群,MS群の4病型に分け,臨床像と視力予後を検討した.今検討でも抗AQP4抗体陽性視神経炎は視力予後の悪い病型であった.抗AQP4群のなかで脳脊髄病変の有無は経過中最低矯正視力,最終矯正視力ともに影響を及ぼさないという結果が得られた.この結果は抗AQP4抗体陽性であれば,脳脊髄病変の有無にかかわらず視機能障害が重篤であることを意味しており,視力予後を規定する因子として抗AQP4抗体の存在が非常に重要であることが再確認された.文献1)石川均:日本における特発性視神経炎トライアルの結果について.神経眼科24:12-17,20072)BeckRW,ClearyPA,AndersonMMJretal:Aradom-ized,contorolledtrialofcorticosteroidsinthetreatmentofacuteopticneuritis.NEnglJMed326:581-588,19923)WakakuraM,MashimoK,OonoSetal:Multicenterclini-caltrialforevaluatingmethylprednisolonepulsetreat-mentofidiopathicopticneuritisinJapan.OpticNeuritisTreatmentTrialMulticenterCooperativeResearchGroup(ONMRG).JpnJOpthalmol43:133-138,1994)DuttonJJ,BurdeRM,KlingeleTG:Autoimmuneretoro-bulbaropticneuritis.AmJOphthalmol94:11-17,19825)ToyamaS,WakakuraM,ChuenkongkaewW:Opticneu-ropathyassociatedwiththyroid-relatedauto-antibodies.NeuroOphthalmology25:127-134,20016)HaradaT,OhashiT,MiyagishiRetal:OpticneuropathyandacutetansversemyelopathyinprimarySjogren’ssyndrome.JpnJOphthalmol39:162-165,19957)久保玲子,若倉雅登:自己免疫性視神経症.あたらしい眼科26:1343-1349,20098)LennonVA,WingerchukDM,KryzerTJetal:Aserumautoantibodymarkerofneuomyelitisoptica:distinctionfrommultiplesclerosis.Lancet364:2106-2112,20049)LennonVA,KryzerTJ,PittokSJetal:IgGmarkerofopticspinalmultiplesclerosisbindstotheaquaporin-4waterchannel.JExpMed202:473-477,200510)中尾雄三:視神経炎アップデート“抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎”.あたらしい眼科26:1329-1335,200911)山上明子,若倉雅登:自己免疫性視神経炎における抗アクアポリン4抗体陰性例と陽性例の臨床像の比較検討.神経眼科30:184-191,201312)若倉雅登:視神経炎治療多施設トライアル研究の概要.神経眼科15:10-14,199813)OsoegawaM,KiraJ,FukazawaTetal:Temporalchang-esandgeographicaldi.erencesinmultiplesclerosisphe-notypesinJapanesenationwidesurveyresultsover30years.MultScler15:159-173,200914)抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎診療ガイドライン.日眼会誌118:446-460,2014***

ミケラン®(カルテオロール塩酸塩)点眼液使用患者の既往と喘息関連事象の発生に関する検討

2017年3月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科34(3):445.449,2017cミケランR(カルテオロール塩酸塩)点眼液使用患者の既往と喘息関連事象の発生に関する検討山野千春小林秀之古田英司榎本貢大塚製薬株式会社医薬品事業部ファーマコヴィジランス部RelationshipbetweenMedicalHistoryofPatientsAdministeredMikelanR(CarteololHydrochloride)OphthalmicSolutionandOccurrenceofAsthma-relatedAdverseEventsChiharuYamano,HideyukiKobayashi,EijiFurutaandMitsuguEnomotoPharmacovigilanceDepartment,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.目的:b遮断薬含有点眼液を使用する際には,喘息や呼吸器疾患などの増悪に注意する必要がある.本稿では,b遮断薬含有点眼液であるミケラン点眼液の安全性と使用実態について報告する.方法:大塚製薬安全性データベースと日本医療データセンターのレセプトデータベースを用い,ミケラン点眼液使用患者における喘息の既往有無別の喘息関連事象の発生頻度,重篤性ならびに転帰について検討した.結果:国内および外国からの報告症例割合・分布,喘息既往患者の割合はおおむね同等であった.ミケラン点眼液の使用実態,ミケラン点眼液使用後の喘息関連事象の報告症例割合は,喘息既往患者群のほうが高く,両データベースともに同様の傾向を示した.外国症例においては,喘息既往患者群に転帰:死亡が高い割合で認められた.結論:喘息既往患者へのミケラン点眼液の使用は,致死的な転帰をたどる場合があるため,患者の既往歴について十分に注意を払い,禁忌であることからも使用を避けなければならない.Purpose:Whenadministeringabeta-blockerophthalmicsolution,itisnecessarytopayattentiontocontrain-dications,particularlytotheriskofaggravatingasthmainpatientswithpre-existingrespiratorydiseases.Thisarticledescribesthesafetyandactualuseofacarteololhydrochlorideophthalmicsolutionknownasabeta-block-er.Methods:WeretrospectivelyanalyzedaJapanesehealth-insuranceclaimsdatabasetoinvestigatethefrequen-cyofoccurrence,seriousnessandoutcomeofasthma-relatedadverseeventsdevelopedbypatientswhoreceivedacarteololhydrochlorideophthalmicsolution.Forthisanalysis,weclassi.edthepatientsintotwogroups,dependingonthepresenceorabsenceofasthmaintheirmedicalhistory.Results:Nocleardi.erencewasseeninpercentageofdomesticandforeigncases,eitherintotalnumber,numberbycountryornumberofpatientswhohadasthma-relatedeventsintheirmedicalhistory.Patientswhohadasthma-relatedeventsintheirmedicalhistorydevelopedasthma-relatedeventsatahigherrateafteradministrationofcarteololhydrochlorideophthalmicsolution.Asimi-lartendencywasobservedinresultsderivedfromourdomesticdatabaseandthosefromthehealth-insuranceclaimsdatabase.Inforeign(non-Japanese)cases,fourpatientshadexperiencedasthma-relatedeventsresultinginafataloutcome.Conclusions:Physiciansprescribingcarteololhydrochlorideophthalmicsolutionshouldpaygreatattentiontoasthma-relatedadverseeventsintheirpatient’smedicalhistory,becauseofthepotentialforfatalorlife-threateningevents.Asthmaislistedasacontraindicationonthepackageinsert,andadministrationofthedrugtopatientswithamedicalhistoryofasthma-relatedeventsshouldbeavoided.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(3):445.449,2017〕Keywords:b遮断薬,ミケラン点眼液,禁忌,喘息,既往歴.beta-blocker,carteololhydrochloride,contraindi-cation,asthma,patienthistory.〔別刷請求先〕山野千春:〒540-0021大阪市中央区大手通3-2-27大塚製薬株式会社医薬品事業部ファーマコヴィジランス部Reprintrequests:ChiharuYamano,Ph.D.,PharmacovigilanceDepartment,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,3-2-27Ote-dori,Chuo-ku,Osaka540-0021,JAPANはじめに1978年のチモロールマレイン酸塩の登場以来,b遮断薬は緑内障治療薬として長く使用されてきた.1990年代以降は,b遮断薬より眼圧下降作用に優れた代謝型プロスタグランジン(PG)製剤が登場し,b遮断薬に代わって緑内障の第一選択薬となったが,b遮断薬は緑内障病型によらず効果を発揮すること,またPG製剤についで良好な眼圧下降を示すため,PG製剤につぐ重要な緑内障治療薬として使用されている1).b遮断薬はb受容体抑制作用により眼圧を下降させるが,b1受容体遮断作用による心血管系,およびb2受容体遮断作用による呼吸器系の疾患増悪の危険性について,十分注意することが先行研究2)や診療ガイドライン3)に記載されている.そのため,緑内障治療薬としてb遮断薬点眼液を使用する際には,眼圧などのベースラインデータを十分に把握するとともに,喘息や慢性閉塞性肺疾患などの呼吸器系疾患,不整脈,徐脈といった循環器疾患の既往の有無について十分に把握しておくことが望ましいと考えられている.b遮断薬含有点眼液であるミケランR(カルテオロール塩酸塩)点眼液の添付文書4,5)においても禁忌の項が設けられており,コントロール不十分な心不全,洞性徐脈,房室ブロック(II・III度),心原性ショックのある患者および気管支喘息,気管支痙攣またはそれらの既往歴のある患者,重篤な慢性閉塞性肺疾患のある患者に対して使用を避けるよう注意喚起がなされている.これまでにもb遮断薬による心血管系や呼吸器系への影響など,安全性についての検討6)は行われているが,実臨床下における患者の背景を考慮した実態に関する研究は十分になされていない.そこで本稿では,ミケラン点眼液の使用実態を示すデータベースを用い,とくに禁忌とされている疾患のうち,喘息関連事象を背景にもつ患者に対する使用実態を明らかにし,今後の適正使用に向けた検討を行ったので報告する.I対象および方法1.自社安全性データベースを用いたカルテオロール塩酸塩点眼液使用実態大塚製薬(株)が日本のみならず,日本以外の国からも収集し安全性情報が集約されたデータベース(以下,自社安全性データベース)を用い,ミケラン点眼液の安全性情報の分析を行った.分析対象期間は,1985年1月.2016年7月31日に収集された情報とした.ミケラン点眼液にかかわる有害事象について,報告された国別の内訳および症例の性別・年齢階層別割合を図1に示した.また,患者の原疾患/合併症/既往歴(表1),さらに国内症例について,喘息の既往あり・なしに分け,両群における喘息関連事象(喘息および喘息発作重積)発現頻度を分析した(表2).2.レセプトデータベースを用いたカルテオロール塩酸塩点眼液処方実態カルテオロール塩酸塩の処方実態を把握するため,日本医療データベース(JMDC)のレセプトデータベースである,JMDCClaimsDatabase(以下,レセプトデータベース)7)と同社が提供しているWebツール(JMDCPharmacovigi-lance)を用いてデータの抽出を行った.分析対象データの範囲は,患者の組み入れ期間を2014年3月.2015年2月とし,組み入れ月から12カ月間のデータを対象とした.また,カルテオロール塩酸塩処方患者における,ICD10小分類[J45],[J46]に属する喘息関連疾患のうち,いずれかの傷病記録をもつ患者を喘息の既往歴がある患者と定義した.また,カルテオロール塩酸塩処方月直前の12カ月間にab国内症例(n=1,247)外国症例(n=1,022)ドイツ男性女性性別不明男性女性性別不明中国2%0.10歳3320.10歳1505%11.20歳53111.20歳12021.30歳139021.30歳47031.40歳1325031.40歳1414141.50歳2933341.50歳2741051.60歳5169251.60歳5993161.70歳82145361.70歳90109071.80歳99116871.80歳72104081.90歳2253081.90歳3244091歳以上12091歳以上180年齢不明67132253年齢不明4671175合計385590272合計347498177図1ミケラン点眼液使用症例の発生国と患者内訳a:ミケラン点眼液使用患者の症例情報発生国の割合を示した.b:収集された症例情報を,国内症例と外国症例に分け,性別と年齢階層別の分布を示した.(出力データベース:大塚製薬安全性データベース)表1患者背景国内症例(n=1,247)外国症例(n=1,022)原疾患/合併症/既往歴件数(%)原疾患/合併症/既往歴件数(%)緑内障514(26.09)緑内障324(25.41)白内障139(7.06)高血圧69(5.41)高血圧115(5.84)高眼圧症64(5.02)開放隅角緑内障93(4.72)眼圧上昇56(4.39)正常眼圧緑内障86(4.37)開放隅角緑内障41(3.22)高眼圧症72(3.65)白内障25(1.96)糖尿病56(2.84)糖尿病22(1.73)眼乾燥52(2.64)喘息20(1.57)アレルギー性結膜炎48(2.44)白内障手術19(1.49)高脂血症31(1.57)高コレステロール血症15(1.18)白内障手術22(1.12)閉塞隅角緑内障13(1.02)喘息22(1.12)過敏症12(0.94)結膜炎20(1.02)関節炎11(0.86)閉塞隅角緑内障20(1.02)心障害10(0.78)季節性アレルギー17(0.86)1型糖尿病9(0.71)脳梗塞17(0.86)タバコ使用者9(0.71)眼内レンズ挿入16(0.81)眼乾燥9(0.71)眼瞼炎12(0.61)季節性アレルギー9(0.71)緑内障手術12(0.61)乾癬8(0.63)不整脈11(0.56)変形性関節症7(0.55)その他595(30.20)その他523(41.02)合計1,970(100)合計1,275(100)(出力データベース:大塚製薬安全性データベース)同喘息関連疾患の記録がない患者を既往歴なしの患者と定義した.両患者群において,カルテオロール塩酸塩処方後(処方月を含む)に認められた傷病名を新規事象とし,それぞれ抽出を行った.抽出した新規事象のうち,ICD10小分類[J45],[J46]に属する事象を表3に示した.II結果すべての安全性情報が集約されている自社安全性データベースにおけるミケラン点眼液,国内症例55%,外国症例45%であった(図1a).外国症例はフランスとアメリカがそれぞれ19%,11%と多く,ついで中国5%,ドイツ2%,その他8%の順であった.国内症例と外国症例における性別と年齢階層別の症例数を図1bに示した.また,同様の症例における既往歴(原疾患,合併症を含む)について表1に示した.国内症例と外国症例のいずれにおいてもミケラン点眼液の適応症である緑内障と高眼圧が多く認められた.一方,禁忌に該当する事象としては,ともに喘息がもっとも多く認められた(国内症例22件1.12%,外国症例20件1.57%).さらに,国内症例において,喘息既往の有無ごとにミケラン点眼後に喘息事象が発生した頻度(表2)を比較したところ,喘息の既往がある症例(21例)のうち,13例(61.90%)表2喘息事象発生割合既往発生事象発生症例数(%)あり(n=21)喘息13(61.90)なし(n=1226)喘息15(1.22)発生事象である「喘息」は,喘息ならびに喘息発作重積を含む.(出力データベース:大塚製薬安全性データベース)に喘息が発生したのに対し,喘息の既往がない症例(1226例)では,15例(1.22%)に喘息の発生が認められた.同様に,臨床現場における喘息の発生状況についてレセプトデータベースを用いて検討を行った.喘息の既往がある患者(15例)において,気管支喘息(14件)がもっとも多く認められており,喘息の既往がない患者(3,174例)においても気管支喘息(41件)がもっとも多く認められていた.喘息の既往がある患者における気管支喘息の発生頻度は93.33%と非常に高い割合を示した(表3).そこで,報告された喘息事象の転帰について自社安全性データベースで確認した(表4).喘息事象の転帰のうち,転帰:死亡の事象は国内症例では認められなかったが,外国症例において5例認められた.そのうち喘息の既往ありの患者が4例,既往なしの患者が1例であった.表3レセプトデータベースにおける喘息関連事象の発生割合喘息の既往標準病名[ICD10]発生人数(%)あり(n=15)アレルギー性気管支炎感染型気管支喘息咳喘息喘息性気管支炎気管支喘息気管支喘息発作[J450][J451][J459][J459][J459][J46-]0(0.00)0(0.00)0(0.00)1(6.67)14(93.33)1(6.67)なし(n=3,174)アレルギー性気管支炎感染型気管支喘息咳喘息喘息性気管支炎気管支喘息気管支喘息発作[J450][J451][J459][J459][J459][J46-]1(0.03)1(0.03)1(0.03)14(0.44)41(1.29)0(0.00)表4喘息事象の転帰国内症例数喘息既往ありなし回復108未回復02死亡00不明46喘息既往回復外国症例数未回復死亡不明あり3040なし3014(出力データベース:大塚製薬安全性データベース)III考按b遮断薬は,b受容体に作用することにより眼内で房水産生を低下させ,眼圧下降効果を得られることが知られている1).しかしながら,b遮断薬は交感神経を介した心筋などへの働きを抑制するため,心血管系・呼吸器系の全身的副作用が認められることがある.そのため,b遮断薬の一つであるミケラン点眼液の添付文書には禁忌の項が設けられており,コントロール不十分な心不全,洞性徐脈,房室ブロック(II・III度),心原性ショックのある患者および気管支喘息,気管支痙攣またはそれらの既往歴のある患者,重篤な慢性閉塞性肺疾患のある患者には使用を避けるよう注意喚起がなされている.そこで実際にどのようなミケラン点眼液の安全性情報が自社安全性データベースに収集されているかについて検討を行ったところ,約半数は外国からの報告症例であった.ミケラン点眼液が国内だけではなく海外でも幅広く使用されているが,報告症例の患者年齢層ならびに性別については,国内外においてとくに大きな差異は認められなかった.448あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017(出典:株式会社日本医療データセンター)さらに,先にも述べたようにミケラン点眼液は気管支喘息などの既往歴のある患者に対し使用を避けるよう注意喚起がなされているが,自社安全性データベースには原疾患,合併症もしくは既往歴として喘息を有する患者が含まれている.これは,添付文書で使用を避けるよう注意喚起がなされているにもかかわらず,実臨床下においてはミケラン点眼液が禁忌患者に使用されている実態の存在を示していることになる.また,表2で示したように,喘息の既往を有する患者において,ミケラン点眼液使用後に喘息事象の悪化が疑われる症例が,喘息の既往のない患者と比較して高い割合で報告されている.このことからもb遮断薬であるミケラン点眼液はその作用機序から,喘息などの呼吸器疾患を増悪させる可能性を有することが明らかである.さらに,報告されている喘息事象の半数以上は重篤(64.3%)であった.解析に用いている自社安全性データベースは,自発報告や文献などの情報であり,報告・収集されている情報に制限があると考えられたため,一般性を有すると考えられるレセプトデータベースを用い,喘息の既往のある患者の喘息関連事象に注目した検討を行った(表3).ミケラン点眼液処方後の気管支喘息の発生については,喘息の既往のある患者の90%以上に認められていることがわかった.レセプトデータでは,事象と処方された薬剤の因果関係などは明確でないことや,処方された薬剤が実際に使用されているか定かではないといった限界は存在するが,性質の異なるデータベース間において同様の傾向が認められることから,喘息既往のある患者においては,ミケラン点眼液を使用した際に喘息などの呼吸器疾患の増悪のリスクの増加が認められるとともに,十分に留意する必要があることが明確となった.さらに,表4で示しているとおり,ミケラン点眼液の使用により再発したと考えられる喘息事象中には,致命的な転帰を辿るケースも外国症例で報告されている.国内においては(142)致命的な転帰を辿った症例は現在のところ報告されていないが,死亡のおそれに至った症例が1例報告されていることからも,やはり全身的副作用の危険性を十分に考慮し,禁忌の患者に使用することは避けなければならないと考えられた.以上より,禁忌に記載されている呼吸器系疾患の既往をもつ患者に対しては,ミケラン点眼液を使用することにより病態が急変する可能性があるため,使用を避けるようこれまで以上に徹底した注意喚起を行っていく必要性がある.文献1)望月英毅,木内良明:b遮断薬,あたらしい眼科29:451-455,20122)vanderValkR,WebersCAB,ShoutenJSetal:Intraocu-larpressure-loweringe.ectsofallcommonlyusedglauco-madrugs.Ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,20053)阿部春樹,相原一,桑山泰明ほか:日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会,緑内障診療ガイドライン(第3版),日眼会誌116:3-46,20124)大塚製薬株式会社:ミケランR点眼液1%ミケランR点眼液2%製品添付文書(2013年6月改訂,第14版)5)大塚製薬株式会社:ミケランRLA点眼液1%ミケランRLA点眼液2%製品添付文書(2015年8月改訂,第9版)6)SorensenSJ,AbelSR:Comparisonoftheocularbeta-blockers.AnnPharmacother30:43-54,19967)株式会社日本医療データセンター(JMDC)***

正常眼に対するトーリック眼内レンズ選択における角膜前後面屈折力測定の有用性

2017年3月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科34(3):438.444,2017c正常眼に対するトーリック眼内レンズ選択における角膜前後面屈折力測定の有用性島袋幹子*1小林礼子*1横山洵子*2辻川元一*3前田直之*3西田幸二*3*1関西メディカル病院眼科*2国立病院機構大阪医療センター眼科*3大阪大学大学院医学系研究科眼科学MeasurementofAnteriorandPosteriorCornealAstigmatisminToricIntraocularLensCalculationMikikoShimabukuro1),ReikoKobayashi1),JunkoYokoyama2),MotokazuTsujikawa3),NaoyukiMaeda3)KojiNishida3)and1)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalHospital,2)DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationOsakaNationalHospital,3)DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityKeratometricindexによる角膜前面屈折力に基づきトーリック眼内レンズを選択したA群15眼と,角膜前後面屈折力から算出された角膜屈折力に基づき選択したB群20眼における眼内レンズ選択時の角膜前後面屈折力測定の有用性をretrospectiveに検討した.その結果,矯正視力のlogMAR値に関しては,両群ともに術後に有意な改善を認めたが,裸眼視力のlogMAR値に関しては,A群は術前0.67±0.3,術後0.35±0.27で有意に改善したが(p=0.003),B群では術前0.50±0.38,術後0.43±0.28であり,術前後に有意差は認められなかった(p=0.43).ベクトル解析によるA群における術後自覚乱視度数は.0.42±0.35D,乱視軸は55.0±49.27°,B群では.0.41±0.27D(p=0.28),65.17±57.89°(p=0.94)であり,両群間に有意差は認められなかった.角膜前後面屈折力を用いることでより的確な眼内レンズ選択が期待されるが,そのためには,眼内レンズ度数計算式やA定数,およびトーリック眼内レンズカリキュレーターを,最適化させる必要がある.Purpose:Toevaluatetheusefulnessofposteriorcornealcurvaturemeasurementintoricintraocularlenscal-culation.MaterialandMethods:Thirty.veeyesthathadreceivedcataractsurgerywithtoricintraocularlens(TIOL)implantationwereanalyzedwithOPD(Nidek,Japan)orCASIA(Tomey,Japan).Todeterminetherecom-mendedTIOL,15eyeswereanalyzedwithOPD(Agroup),20eyeswithCASIA(Bgroup).Results:Thepostop-erativebest-correctedvisualacuity(BCVA)wassigni.cantlyimprovedinbothgroups.Postoperativeuncorrectedvisualacuity(UCVA)wassigni.cantlyimprovedinAgroup,butnotinBgroup.Summary:Althoughposteriorcornealcurvaturemeasurementisexpectedtoimprovepostoperativevisualacuity,correctedIOLpowercalcula-tionformulaandtheA-constant,aswellasaTIOLcalculatordesignedforanteriorandposteriorcornealcurva-turemeasurement,mightberequired.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(3):438.444,2017〕Keywords:トーリック眼内レンズ,角膜前面曲率,角膜後面曲率.toricintraocularlens,anteriorcornealcurva-ture,posteriorcornealcurvature.はじめににより,白内障手術と同時に正乱視も矯正することが可能と白内障手術において,従来の眼内レンズでは球面の屈折異なった.常の矯正を行うのみで正乱視を矯正することはできなかった角膜屈折力を測定するために,従来より利用されてきたオが,2008年にわが国でも承認されたトーリック眼内レンズートケラトメーターやプラチド角膜形状解析装置では,角膜〔別刷請求先〕島袋幹子:〒560-0083大阪府豊中市新千里西町1丁目1番7-2号関西メディカル病院眼科Reprintrequests:MikikoShimabukuro,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalHospital,1-1-7-2,Shinsenrinishimachi,Toyonakacity,Osaka560-0083,JAPAN438(132)前面の曲率半径から角膜屈折力を換算するためのkerato-metricindexとよばれる屈折率(1.3375)を用いて角膜全体の屈折力(K値)を推定している.眼内レンズにより正常眼の近視・遠視の矯正を行うだけであれば,この角膜屈折力(K値)を用いて大きな問題はないと考えられていた.ところが屈折矯正手術後の症例では,角膜前面のみ形状が扁平化し,後面形状はほとんど変化がないため,keratomet-ricindexを用いると角膜屈折力が過大に評価され,術後の屈折予測値にズレが出る問題が判明した.同様に,トーリック眼内レンズにより角膜乱視の矯正も行う場合には,角膜前面の形状解析に基づく角膜乱視と角膜後面の形状解析に基づく角膜前後面乱視が必ずしも同様の傾向を示すとは限らないため,角膜前面のみならず後面の解析の必要性が報告されている1).2004年のScheimp.ug式前眼部解析装置Pentacam(Oculus),2008年の前眼部三次元光干渉断層計CASIA(TOMEY,以下,CASIA)の登場により,わが国の一般診療においても角膜前面のみならず角膜後面屈折力の測定が可能となり,利用が広がってきている.今回,白内障と屈折異常以外に異常がない正常眼に対するトーリック眼内レンズの選択において,角膜前面の形状解析のみで決定した場合と,角膜後面の形状解析を含めて決定した場合の有用性,問題点に関してretrospectiveに比較検討を行ったので報告する.I対象および方法対象は,2013年9月.2014年8月に日生病院眼科において,トーリック眼内レンズを挿入した屈折異常以外に眼疾患のない白内障手術症例25例35眼である.角膜形状・屈折力解析装置OPD-Scan(ニデック,以下,OPD)を用いて角膜形状解析を行い,keratometricindexを用いて計算した角膜屈折力(SimK)に基いてレンズ選択した12例15眼をA群,CASIAを用いて角膜形状解析を行い,角膜前後面屈折力(realpower)に基いてレンズ選択した13例20眼をB群とした.手術はA群,B群ともに12時の位置からの2.4mmの強角膜切開を行い,AcrySofIQToricIOLを挿入した.眼内レンズの選択には,狙い度数は球面.0.5Dで,眼内レンズ度数計算式は超音波画像診断装置UD-6000(Tomey)を用い,K値の入力にA群はOPDのSimKを,B群はCASIAのrealpowerを入力し,第三世代の理論式SRK/T式で行い,アルコンIQトーリックカリキュレーター(アルコン)を用いて乱視度数と軸を決定した.手術室では座位にてトーリックマーカーを用いて0°と180°と270°に軸をマーキングし,術中にディグリーマーカーを用い目標軸に眼内レンズの軸を合わせた.臨床評価として,各群における術前角膜前面乱視,術前角膜前後面乱視,術前後の矯正視力,術前後の裸眼視力,術後屈折誤差に関して検討を行った.術後屈折誤差については目標屈折.0.5Dとの差とした.また,OPDとCASIAの機器による測定値を比較する目的で,角膜前面の形状解析によるkeratomeiricindexを用いた角膜屈折力を両方の機器で測定し比較を行い,統計解析は,同一群内の比較は対応のあるt検定を,群間の比較は対応のないt検定を用いてp<0.05をもって統計学的に有意とした.II結果各群の平均年齢は,A群が74.67±7.24歳,B群が74.90±8.32歳(p=0.9314),術前自覚球面度数はA群が1.05±1.79D,B群が0.03±2.34D(p=0.9314),術前自覚円柱度数はA群が.1.45±0.8D,B群が.1.41±1.15D(p=0.9314),眼軸長は,A群が23.45±0.86mm,B群が23.08±0.96mm(p=0.3158)であり,いずれにおいても有意差は認められなかった.また直乱視を60°.120°,倒乱視を150°.180°,斜乱視を30°.60°,120°.150°と定義し,角膜前面乱視において,倒乱視症例,斜乱視症例,直乱視症例の内訳は,A群が13:2:0(眼),B群が13:7:0(眼)であった.各群における両機器によるkeratometricindexを用いた術前角膜前面屈折力については,A群でOPDを用いて計測した場合には44.95±1.48D,CASIAを用いて計測した場合には45.04±1.45D(p=0.1745),B群で,OPDでは44.32±0.91D,CASIAでは44.44±0.87D(p=0.1499)であり,各群の角膜前面屈折力において,測定機器による有意差は認められなかった(図1).つぎに,各群のOPDにてkeratometricindexを用いて測定した術前角膜屈折力(SimK値)とCASIAを用いて角膜前後面の屈折力を用いた術前角膜屈折力であるrealpowerの比較を行った.A群ではSimKは44.87±1.42D,realpowerは44.10±1.57D,またB群におけるSimKは44.43±0.86D,realpowerは43.50±0.86Dであり,いずれの群においてもSimKよりrealpowerが有意に小さい結果であった(p<0.01).なお,SimK,realpowerのいずれにおいても,両群の間に有意差を認めなかった(図2).また,CASIAを用いて各群のrealpowerを用いた術前角膜後面屈折力についても比較を行った.A群の角膜屈折力は.6.40±0.20D,B群.6.32±0.22Dであり,A群とB群の間に有意差は認められず(p=0.7776),術前の角膜後面屈折力においても両群間に明らかな差異は認められなかった.挿入されたAcrySofIQToricIOLの内訳は,A群においてはSN6AT3を挿入したのが7眼,SN6AT4が5眼,SN6AT5が8眼であった.B群においてはSN6AT3を挿入したのが5眼,SN6AT4が3眼,SN6AT5が5眼,SN6AT6が1眼,SN6AT7が1眼であった(図3).【A群】【B群】p=0.1499(pairedt-test)48Dp=0.1745(pairedt-test)48D474746464545444443434242測定機器:OPD測定機器:CASIA測定機器:OPD測定機器:CASIA44.95±1.48D45.04±1.45D44.32±0.91D44.44±0.87D(unpairedt-test)図1Keratometricindexを用いた術前の角膜屈折力の測定機器による比較各群において測定機器による有意差は認められなかった.なお,いずれの機器で測定した場合も,A群とB群の間に有意差は認められておらず,両群の術前の角膜屈折力に明らかな差異は認められなかった.【A群】【B群】p<0.01(paired-ttest)48Dp<0.01(paired-ttest)48D4646444442424040OPDCASIAOPDCASIA(Simk)(RealPower)(Simk)(RealPower)44.87±1.42D44.10±1.57D44.43±0.86D43.50±0.86D(unpairedt-test)図2Keratometricindexを用いた術前角膜屈折力(OPD)とRealPowerを用いた術前角膜屈折力(CASIA)の比較いずれの群においても,SimKよりrealpowerが有意に小さかった(p<0.01).さらに,術後A群におけるOPDによるSimKは45.16±realpower(p=0.0843)は,ともに両群間に差は認められ1.47D,CASIAによるrealpowerは44.21±1.48D,またBず,SimKよりrealpowerが小さかった.群におけるSimKは44.47±0.86D,realpowerは43.50±矯正視力のlogMAR値に関しては,A群では術前0.24±0.84Dであった.両群の術後SimK(p=0.0902)と,術後0.28,術後.0.07±0.07であり,B群では術前0.19±0.31,眼9■A群■B群876543210SN6AT3SN6AT4SN6AT5SN6AT6SN6AT7図3挿入された眼内レンズ内訳挿入されたAcrySofIQToricIOLの内訳は,A群(白)においてはSN6AT3を挿入したのが7眼,SN6AT4が5眼,SN6AT5が8眼であった.B群(黒)においてはSN6AT3を挿入したのが5眼,SN6AT4が3眼,SN6AT5が5眼,SN6AT6が1眼,SN6AT7が1眼であった.【A群】【B群】p=0.001(pairedt-test)p=0.00005(pairedt-test)1.41.21.0.80.60.40.20-0.2術前術後-0.4術前術後0.24±0.28-0.07±0.070.19±0.31-0.09±0.091.41.21.0.80.60.40.20-0.2-0.4(unpairedt-test)図4術前後の矯正視力logMAR値矯正視力のlogMAR値に関しては,両群において術前に比べ術後が有意に改善していた(p<0.05).なお,術前,術後矯正視力logMAR値のいずれにおいても,A群とB群の間に有意差は認められなかった.術後.0.09±0.09であり,両群において術前に比べ術後矯正なかった(p=0.43).ただし,術前裸眼視力,術後裸眼視力視力logMAR値は有意に改善していた(p<0.05).なお,術のいずれにおいても,A群とB群の間に有意差は認められ前,術後のいずれにおいても,A群とB群の間に有意差はなかった(図5).認められなかった(図4).術後等価球面値については,平均値がA群.0.958±0.52裸眼視力のlogMAR値に関しては,A群では術前0.67±D,B群.1.55±0.53D(p=0.0024)であり,有意にB群が0.30,術後0.29±0.29であり,術後は術前に比べ有意に改近視寄りであった(図6).善していた(p=0.00001).これに対しB群では術前0.50±術後屈折誤差については,平均値がA群.0.46±0.52D,0.38,術後0.43±0.28であり,術前後に有意差は認められB群.1.05±0.53D(p=0.0024)であり,B群が有意に近視【A群】【B群】1.81.81.61.61.4p=0.00001(pairedt-test)1.41.21.2110.80.80.60.60.40.40.20.200-0.2-0.2術前術後術前術後0.67±0.300.29±0.290.50±0.380.43±0.28p=0.43(pairedt-test)(unpairedt-test)図5術前後の裸眼視力logMAR値裸眼視力のlogMAR値に関しては,A群では術後は術前に比べ有意に良好であった(p=0.003).これに対しB群では術前後に有意差は認められなかった(p=0.43).ただし,術前,術後裸眼視力logMAR値のいずれにおいても,OPD群とCASIA群の間に有意差は認められなかった.3D3D22術後等価球面値(D)術後屈折誤差(D)1100-1-1-2-2-3-3【A群】【B群】【A群】【B群】図6術後の等価球面値と屈折誤差術後屈折誤差については,平均値がA群.0.458±0.52D,B群.1.05±0.532D(p=0.0024)であり,B群が有意に近視化していた.また屈折誤差範囲が±0.5D以内であった割合はA群が60%,B群が25%,±1.0D以内であった割合はA群が87%,B群が60%であった.寄りであった.また屈折誤差範囲が±0.5D以内であった割合はA群が60%,B群が25%で,±1.0D以内であった割合はA群が87%,B群が60%であった(図6).術後屈折誤差の絶対値については,平均値がA群0.56±0.40D,B群1.05±0.53D(p=0.0024)であり,A群に比較するとB群が有意に高かった(図7).術前後の自覚乱視度数と乱視軸の変化をベクトル解析を行ったところ,A群における術後自覚乱視度数は.0.41±0.37D,乱視軸は55.0±49.27°で,B群では.0.42±0.40D(p=0.28),65.17±57.89°(p=0.94)であり,両群間に有意差は認められなかった(図8).また術後自覚乱視が直乱視の症例は,A群が15眼中6眼(40%),B群が20眼中8眼(40%)であり,術後倒乱視の症例は,A群が15眼中8眼(53%),B群が20眼中10眼(50%)であった.III考按白内障手術後のqualityofvision(QOV)の向上のため挿入する眼内レンズ度数の選択はきわめて重要であり,正確な角膜屈折力,眼軸長の測定が求められる.角膜屈折力を測定するために用いられる装置には,角膜の傍中心のみを評価するオートケラトメーター,角膜周辺まで広く評価するプラチド角膜形状解析装置があり,これらの装置はいずれも角膜前面曲率半径を測定したうえで,角膜前後面の曲率半径比が同一であると仮定して,keratometricindex(n=1.3375)を用いて角膜屈折力(K値)として表示している.一方,レーザー角膜屈折矯正手術(LASIK),治療的表層角膜切除術(phototherapeutickeratectomy:PTK)の術後など角膜形状異常眼では,角膜前面と後面屈折力の比率が異なっているため,従来の角膜前面を用いた角膜屈折力のみの測定では屈折誤差を生じることが報告されている2).またトーリック眼内レンズを使用する白内障手術においても,角膜後面乱視も考慮することにより,さらに精度の高い視力矯正算式やA定数がK値に最適化されているため,realpowerを用いる場合は補正が必要であると考えられる.Abula.aら4)はトーリック眼内レンズの選択は角膜後面形状を考慮したBarretttoricIOLカリキュレーターを用いてモデルを決定したほうが良好な視力を得られたと報告しており,Preussnerら5)は,平均的な角膜後面乱視はわずかな程度であるが,考慮して眼内レンズ選択をすると結果が非常によいと報告している.一方で,術前の乱視軸の影響については,Kochらによるトーリック眼内レンズ使用時の角膜後面乱視の影響を検討した報告がある6).アルコン社のカリキュレーターを用いて,3D2が可能になることが期待されている3).今回の検討では,術前の角膜屈折力の測定においてOPDによるSimKより,CASIAで得られたrealpowerが有意に小さかった(図2),矯正視力に関してはSimKに基づいてレンズを選択した場合とrealpowerに基づいてレンズを選択した場合のいずれも術後に有意な改善を認めた(図4).しかしながら,裸眼視力に関してはSimKに基づいてレンズを選択した場合には術後に有意に改善を認めるものの,realpowerでレンズを選択した場合には,術後に有意な改善は認められなかった(図5).そしてrealpowerを用いることにより,術後の等価球面度値が,SimKよりも若干近視化した(図6).その理由として,本来であれば前後面のデータを用いた角膜屈折力が正しいはずであるが,眼内レンズ度数計【A群】45°術後屈折誤差絶対値(D)-3図7術後等価球面値における屈折誤差絶対値術後屈折誤差絶対値については,平均値がA群0.56±0.40D,B群1.05±0.532D(p=0.0024)であり,A群に比較するとB群が有意にばらつきが大きかった.【B群】45°【A群】【B群】10-1-290°0°90°0°135°135°図8術前後自覚乱視の倍角法極座標表示各症例の術前自覚乱視の倍角法極座標表示を白丸,術後を黒丸で示した.A群における術後自覚乱視度数は.0.41±0.37D,ベクトル解析による乱視軸は55.0±49.27°,B群では.0.42±0.40D(p=0.28),65.17±57.89°(p=0.94)であり,両群間に有意差は認められなかった.また術後直乱視の症例は,A群が15眼中6眼(40%),B群が20眼中8眼(40%)であり,術後倒乱視の症例は,A群が15眼中8眼(53%),B群が20眼中10眼(50%)であった.トーリック眼内レンズを挿入した白内障手術前後に5機種の角膜形状解析装置を用いて角膜屈折力を測定した結果,直乱視に関してはすべての機種で術前に過大評価され,倒乱視に関しては角膜後面屈折力を測定できる装置では適正に評価されていたが,それ以外の装置では術前に過小評価されており,新しいノモグラムが必要であると提唱している6).二宮らはトーリック眼内レンズで乱視が矯正され,術後の裸眼視力が向上したが倒乱視が残存する傾向があり,適応の決定と眼内レンズのスタイル選択のために新たなノモグラムの開発が必要であると報告している7).筆者らの検討では,対象に術前の自覚直乱視症例はなかったため,倒乱視症例だけでの結果であるが,術後自覚直乱視化の症例は,A群が15眼中6眼(40%),B群が20眼中8眼(40%)であり,術後自覚倒乱視の症例は,A群が15眼中8眼(53%),B群が20眼中10眼(50%)であり,術前と術後の自覚乱視軸の関係について,両群間に差が認められなかった(図8).ベクトル解析によるA群における術後自覚乱視度数は.0.42±0.35D,乱視軸は55.0±49.27°,B群では.0.41±0.27D(p=0.28),65.17±57.89°(p=0.94)であり,両群間に有意差は認められなかった.この結果から,今回の方法では,角膜前面屈折力によるトーリック眼内レンズ選択と,角膜前後面屈折力による選択方法では,術後自覚乱視度数,乱視軸への乱視矯正効果においては,有意差は認められなかった.その原因として,乱視軸のマーキング,手術による惹起乱視,術後の眼内レンズの回転など多くの要因が影響している可能性があり,乱視矯正においても理論的には角膜前後面の乱視を実測したほうが有利と考えられるが,その優位性を示すことはできなかった.今後症例を増やし,さらに乱視軸のマーキングや手術による惹起乱視術後の眼内レンズ回転も考慮に入れて解析を行いたい.今回の検討から,トーリック眼内レンズ選択において,realpowerの測定値を用いることは必ずしも最適のレンズ選択につながらない可能性もあるため,角膜後面屈折力の測定を活用するためには,眼内レンズ度数計算式やA定数,およびトーリック眼内レンズカリキュレーターを最適化することなど,多くの要因を改良していくことが重要と思われる.文献1)馬込和功,副島由美,山田敏夫ほか:角膜形状解析装置による角膜前面乱視,後面乱視の検討.日本視能訓練士協会誌43:233-239,20142)山村陽:特殊角膜における眼内レンズ度数決定2.PTK術後,RK術後.あたらしい眼科30:600-606,20133)KochDD,AliSF,WeikertMPetal:Contributionofpos-teriorcornealastigmatismtototalcornealastigmatism.JCataractRefractSurg38:2080-2087,20124)Abula.aA,HillW,FranchiaAetal:Comparisonofmethodstopredictresidualastigmatismafterintraocularlensimplantation.JRefractSurg31:699-706,20155)PreussnerPR,Ho.mannP,WahlJ:Impactofposteriorcornealsurfaceontoricintraocularlens(IOL)calculation.CurrEyeRes40:809-14,20156)KochDD,Jenkins,RB,WeikertMPetal:Correctingastigmatismwithtoricintraocularlenses:E.ectofposte-riorcornealastigmatism.JCataractRefractSurg39:1803-1809,20137)二宮欣彦,小島啓尚,前田直之:トーリック眼内レンズによる乱視矯正効果のベクトル解析.臨眼66:1147-1152,2012***

360° Suture Trabeculotomy施行後にサイトメガロウイルス角膜内皮炎と診断した2例

2017年3月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科34(3):433.437,2017c360°SutureTrabeculotomy施行後にサイトメガロウイルス角膜内皮炎と診断した2例森川幹郎*1細田進悟*2里見真衣子*3八木橋めぐみ*3窪野裕久*3渡辺一弘*3鈴木浩太郎*3川村真理*3*1東京都済生会中央病院眼科*2独立行政法人国立病院機構埼玉病院眼科*3財団法人神奈川県警友会けいゆう病院眼科TwoCasesofCytomegalovirusCornealEndotheliitisDiagnosedafter360-degreeSutureTrabeculotomyMikioMorikawa1),ShingoHosoda2),MaikoSatomi3),MegumiYagihashi3),HirohisaKubono3),KazuhiroWatanabe3),KotaroSuzuki3)andMariKawamura3)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoSaiseikaiCentralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationSaitamaNationalHospital,3)DepartmentofOphthalmology,KeiyuHospital360°スーチャートラベクロトミー(360°suture-trabeculotomy:S-LOT)施行後にサイトメガロウイルス(CMV)角膜内皮炎と診断した2例を報告する.2例とも虹彩炎・続発緑内障として治療され,角膜浮腫を伴う虹彩炎,角膜後面沈着物,角膜内皮細胞密度減少を認めていた.眼圧コントロール不良のため,S-LOTを施行した.術後眼圧は良好だったが,症例1は術後6カ月で炎症再燃,眼圧上昇し,トラベクレクトミー(trabeculectomy:LEC)施行に至った.同時に前房水PCR(polymerasechainreaction)検査を施行した.症例2は軽度炎症再燃に伴いPCR検査を行い,CMV角膜内皮炎と診断した.抗CMV治療導入後は所見の改善を認め,良好な眼圧経過と視野の維持を得ている.CMV角膜内皮炎に伴う続発緑内障に対しS-LOTは有効であったが,良好な眼圧コントロールを維持するには抗CMV治療を早期に始める必要があることが示唆された.Wereport2casesofcytomegalovirus(CMV)cornealendotheliitisdiagnosedafter360-degreesuturetrabecu-lotomy(S-LOT).Bothpatientsweretreatedassecondaryglaucomaassociatedwithiritis.Iritiswithcornealede-ma,keraticprecipitatesanddecreasedcornealendothelialcelldensitywereobserved.Intraocularpressure(IOP)wasuncontrollable;S-LOTwasthereforeperformedinbothcases.Inonecase,in.ammationrecurredwithIOPelevation6monthsafterS-LOT,sotrabeculectomywasperformed;wesimultaneouslyobtainedtheaqueoushumorsampleforpolymerasechainreaction(PCR).Intheothercase,wetookthesamplebeforeIOPelevation.CMVDNAwasrevealedbyPCR;in.ammationandIOPhavebeencontrolledundergancicloviradministration,withoutprogressionofvisual.elddefect.ThesecasesindicatethatS-LOTise.ectiveforsecondaryglaucomaassociatedwithCMVcornealendotheliitis;inextendingIOPcontrol,thesooneranti-CMVtherapyisinitiated,thebettertheresult.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(3):433.437,2017〕Keywords:サイトメガロウイルス,角膜内皮炎,360°スーチャートラベクロトミー.cytomegalovirus,cornealendotheliitis,360-degreesuturetrabeculotomy.はじめに近年,免疫不全ではない症例での角膜内皮炎にサイトメガロウイルス(cytomegarovirus:CMV)が関与している症例が複数報告されるようになった.CMV角膜内皮炎に伴う眼圧上昇により,続発緑内障に発展する症例も少なくない1).続発緑内障に対しては,360°スーチャートラベクロトミー(360°suturetrabeculotomy:S-LOT)が有効であることがすでに報告されているが2),CMV角膜内皮炎による続発緑内障に対しての成績を検討した報告はない.今回,S-LOT施行後にCMV角膜内皮炎と診断した2例を経験したので報〔別刷請求先〕森川幹郎:〒108-0073東京都港区三田1-4-17東京都済生会中央病院眼科Reprintrequests:MikioMorikawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoSaiseikaiCentralHospital,1-4-17Mita,Minato-ku,Tokyo108-0073,JAPAN告する.I症例[症例1]74歳,男性.主訴:左眼視力低下.現病歴:平成26年1月より左眼の虹彩炎および続発緑内障に対し近医で点眼治療を行うも眼圧は20mmHg台後半であった.平成26年2月に左眼SLT(selectivelasertrabecu-loplasty)を施行されたが,眼圧下降が得られず,視野も進行傾向のため,平成26年6月当院紹介受診となった.既往歴:不整脈に対し心臓ペースメーカー挿入術後.家族歴:特記すべきことなし.当院初診時所見:VD=0.5(1.5×sph.1.25D:cyl.0.50DAx100°).VS=0.1(0.3×sph.2.50D:cyl.0.75DAx100°).眼圧:右眼14mmHg,左眼34mmHg.前眼部:角膜浮腫は認めず.左眼はcell,少数の角膜後面沈着物を認めた.中間透光体:左眼にNS2度の核硬化および後.下白内障を認めた.眼底:左眼耳上側,耳下側の網膜神経線維層欠損を認めた.隅角:Sha.er4度,左眼は色素沈着が非常に強く,周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)は認めなか図1症例1の左眼細隙灯顕微鏡検査図2症例1の初診時左眼Goldmann視野検査小円形に配列する白色の角膜後面沈着物様病変(coinshaped湖崎分類IIIaの視野障害を認めた.lesion)がびまん性に出現した.H26.7.1.H26.12.4.H27.2.17.40302010前房水PCR0H27.2.17.H27.4.15.H27.7.23.LEC30前房水PCR2520レーザー切糸151050図3症例1の眼圧経過S-LOT術後5カ月で炎症再燃,スパイク状眼圧上昇を認め,LEC施行に至った.LECと同時に前房水PCRを施行し,抗CMV治療を導入した.LEC術後・抗CMV治療導入後6カ月間の平均眼圧は8.0mmHgであった.眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)った.視野:Goldmann視野検査にて左眼に湖崎分類IIIaの視野障害を認めた(図2).経過:ステロイドレスポンダーの鑑別のため,ステロイド点眼を中止したところ炎症は増悪し,小円形に配列する白色の角膜後面沈着物様病変(coinshapedlesion)がびまん性に出現した(図1).角膜浮腫も出現し,角膜内皮炎が主体の前部ぶどう膜炎と考えられた.角膜内皮細胞密度は右眼2,725/mm2,左眼は角膜浮腫のため測定不可であった.単純または帯状ヘルペス角膜内皮炎の可能性を考慮し,バラシクロビル(バルトレックスR)内服を行ったが効果はなく,眼圧は20.30mmHgが持続した.ステロイド点眼,眼圧下降点眼による治療を行うも,眼圧下降が得られないため,平成26年7月にS-LOT,白内障同時手術を施行した.長期にわたる角膜内皮炎のため,tra-beculectomy(LEC)では術後の浅前房などで角膜内皮障害が起こる可能性も考慮し,初回手術としてS-LOTを選択した.白内障が主因と思われる視力低下も認めており,同時に白内障手術も施行した.術後の眼圧経過を図3に示す.術後一過性眼圧上昇により眼圧は20mmHg台前半となり0.005%ラタノプロスト(キサラタンR)点眼,0.1%ブリモニジン酒石酸塩(アイファガンR)点眼を術後3日より再開,その後眼圧は安定し,術後5カ月までの平均眼圧は15.6mmHgであった.術後5カ月で虹彩炎が再燃,眼圧は40mmHg台までスパイク状の上昇を認めた.そのため,平成27年2月にLECを施行した.同時に前房水PCR(polymerasechainreaction)検査を行ったところ,CMV-DNA陽性,単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)陰性であり,CMV角膜内皮炎と診断した.自家調整した0.5%ガンシクロビル(デノシンR)点眼および0.1%ベタメタゾン(リンデロンR)点眼を1日8回で開始し,バルガンシクロビル(バリキサR)450mg2錠2回/日を2週間内服した.その後,角膜は透明化し,角膜後面沈着物は減少,前房内炎症は改善した.角膜内皮細胞密度も1,400.1,700/mm2台で維持されていた.LEC術後6カ月間の平均眼圧は8.0mmHgであり,良好な眼圧経過と視野の維持を得ている.[症例2]58歳,男性.主訴:右眼視力低下.現病歴:平成15年より右眼の虹彩炎および続発緑内障に対し近医で点眼治療を行っていたが,右眼眼圧は20mmHg台が持続し,炎症出現時には30mmHg台まで上昇を認めていた.平成26年3月頃より眼圧上昇傾向となり,角膜浮腫も認めていた.眼圧下降が得られず,平成26年7月当院紹介受診となった.既往歴:特記すべきことなし.家族歴:特記すべきことなし.当院初診時所見:VD=0.03(0.04×sph.4.00D).VS=0.1p(1.2×sph.4.75D).眼圧:右眼33mmHg,左眼11mmHg.前眼部:右眼は広範囲に角膜上皮および実質浮腫を認めた.明らかなcellを認めず,複数の円形の角膜後面沈着物を認めた(図4).中間透光体:右眼NS1度の核硬化を認めた.眼底:右眼耳上側,耳下側の網膜神経線維層欠損を認めた.隅角:Sha.er4度,右眼は角膜浮腫が強いため詳細な観察は困難であったが,色素沈着が強く,下方にPASを認めていた.角膜内皮細胞密度:右眼1,988/mm2,左眼3,049/mm2.視野:Goldmann視野検査にて明らかな緑内障性変化は認めなかった(図5).経過:上記所見より角膜内皮炎が主体の前部ぶどう膜炎と考えられた.症例1と同様にヘルペス角膜内皮炎を考え,バラシクロビル(バルトレックスR)内服を行ったが,変化はなかった.ステロイド点眼,眼圧下降点眼による治療に抵抗し,眼圧は20mmHg台後半.30mmHg台と下降しなかったため,平成26年8月に右眼のS-LOTを施行した.術後の眼圧経過を図6に示す.術後2カ月で眼圧25mmHgと上昇傾向を認め,ドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩(コソプトR)点眼,0.1%ブリモニジン酒石酸塩(アイファガンR)点眼を再開し,術後6カ月間の平均眼圧は13.5mmHgであった.軽度の虹彩炎の再燃に伴い,20mmHg程度の眼圧上昇と角膜内皮細胞密度の減少(742/mm2)を認めたため,術後6カ月に外来で前房水採取を行った.マルチプレックスPCRにてCMV-DNAのみ陽性であり,CMV角膜内皮炎と診断した.自家調整した0.5%ガンシクロビル(デノシンR)点眼および0.1%ベタメタゾン(リンデロンR)点眼を1日8回で開始した.ガンシクロビル点眼を開始後,角膜浮腫は改善した.角膜後面沈着物は減少し,前房内炎症は改善した.角膜内皮細胞密度は維持されていた.ガンシクロビル点眼開始後6カ月間の平均眼圧は14.0mmHgであった.抗ウイルス治療導入後は良好な眼圧経過と視野の維持を得ている.II考按角膜内皮炎は角膜内皮細胞に特異的な炎症を生じ,角膜浮図4症例2の初診時の右眼細隙灯顕微鏡検査右眼は広範囲に角膜上皮および実質浮腫を認めた,明らかなcellを認めず,円形の角膜後面沈着物をびまん性に認めた(矢印).H26.8.12.H26.10.9.40H27.1.8.図5症例2の初診時の左眼Goldmann視野検査明らかな緑内障性変化は認めなかった.H27.4.2.H27.8.20.眼圧(mmHg)35302520151050図6症例2の眼圧経過S-LOT術後軽度の炎症再燃は認めるものの,眼圧は維持できていた.その間に前房水PCRを施行し,抗CMV治療を導入した.抗CMV治療導入後6カ月間の平均眼圧は14.0mmHgであった.腫と浮腫領域に一致した角膜後面沈着物を特徴とする比較的新しい疾患概念である.眼圧上昇を繰り返しながら慢性の経過をたどり,続発緑内障や併発白内障,角膜内皮細胞密度減少を引き起こす難治性の疾患である.2006年にKoizumiらは免疫不全ではない症例での角膜内皮炎にCMVが関与している症例を報告し3),以後同様の報告が相次いでいる.CMV角膜内皮炎は,多くは片眼性で,小円形に配列する白色の角膜後面沈着物様病変および角膜後面沈着物を伴う角膜浮腫を特徴とするとされている.Cheeらは眼圧上昇を伴う前部ぶどう膜炎105例の前房水PCR検査を施行したところ,24眼(22.8%)でサイトメガロウイルスDNAが陽性となったと報告している1).なかでも18眼(75%)はPosner-Schlossman症候群と診断されていた.したがって,Posner-Schlossman症候群などの診断を受けた前部ぶどう膜炎の中にCMV角膜内皮炎が多数潜在している可能性が考えられる.また,Takaseらは単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV),水痘・帯状疱疹ウイルス(vallicera-zostervirus:VZV),CMVによる前部ぶどう膜炎の臨床像を比較し,CMVによる群では前房内炎症は比較的軽度で角膜内皮細胞密度がより高度に減少,眼圧上昇も大きかったと報告している4).以上より,角膜後面沈着物や角膜内皮細胞密度の減少を伴う前部ぶどう膜炎では,CMV角膜内皮炎を鑑別するため,積極的に前房水PCRを施行するべきと考えられた.2012年に特発性角膜内皮炎研究班によりサイトメガロウイルス角膜内皮炎診断基準が作製された.CMV角膜内皮炎の診断には,前房水中の原因ウイルスDNAの同定が必要であり,特徴的な臨床所見と合わせて診断される.今回の2症例ではともに,角膜後面沈着物を伴う角膜浮腫があり,角膜内皮細胞密度の減少,再発性・慢性虹彩毛様体炎,眼圧上昇も認めていたが,前房水PCRを施行したことで,診断を確定できた.CMV角膜内皮炎の標準治療はいまだ十分に確立してはいない.しかしながら現在,点眼,内服,点滴,硝子体注射などのさまざまなガンシクロビル治療が試みられ,一定の有効性が報告されている1,4.11).ガンシクロビルはCMVに対する抗ウイルス薬であり,ウイルスDNAポリメラーゼを阻害してウイルスの複製を阻害する.また,Koizumiらは0.5%ガンシクロビル点眼の有効性を報告しており3),筆者らもその報告に準じて,0.5%ガンシクロビル点眼を自家調整し使用した.抗ウイルス治療により有意に眼圧・炎症コントロールを達成できると考えられるものの,中止・減量すると再発する例も多い.また,抗ウイルス治療を行っても,最終的に手術治療が必要となった症例の報告も複数ある.Suらは2%ガンシクロビル点眼で治療した68眼のうち,25眼(37%)で眼圧上昇の再燃を認め,8眼はLECに至ったと報告している9).八幡らはぶどう膜炎に伴う続発緑内障に対し,S-LOTを施行した15例18眼を検討し,術後成績は比較的良好であり,初回手術として有用であると報告している12).CMV角膜内皮炎による続発緑内障のみのS-LOTの成績について検討した報告はないが,初回手術の良い適応となる可能性がある.今回,症例1ではS-LOT施行後に炎症再燃に伴うスパイク状の眼圧上昇を認め,LECを施行するに至った.一方,症例2でも軽度の炎症が再燃したが,前房水PCRにより確定診断を得て,早期に抗ウイルス治療を開始したため,良好な眼圧コントロールを維持していると考えられる.CMV角膜内皮炎による続発緑内障に対し,S-LOTは一定の有効性を示したが,所見からCMV角膜内皮炎を疑った場合はできるだけ早期に前房水PCRを行い,抗ウイルス治療を開始することが望ましいと考えられる.文献1)CheeSP,JapA:Cytomegalovirusanterioruveitis:out-comeoftreatment.BrJOphthalmol94:1648-1652,20102)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodi.ed360-degreesuturetrabeculoto-mytechniqueinprimaryandsecondaryopen-angleglau-coma:apilotstudy.JGlaucoma21:401-407,20123)KoizumiN,YamasakiK,KawasakiSetal:Cytomegalovi-rusinaqueoushumorfromaneyewithcornealendotheli-itis.AmJOphthalmol141:564-565,20064)TakaseH,KubonoR,TeradaYetal:Comparisonoftheocularcharacteristicsofanterioruveitiscausedbyherpessimplexvirus,varicella-zostervirus,andcytomegalovirus.JpnJOphthalmol58:473-482,20145)vanBoxtelLA,vanderLelijA,vanderMeerJetal:Cytomegalovirusasacauseofanterioruveitisinimmuno-competentpatients.Ophthalmology114:1358-1362,20076)唐下千寿,矢倉慶子,郭懽慧ほか:バルガンシクロビル内服が奏効した再発性サイトメガロウイルス角膜内皮炎の1例.あたらしい眼科27:367-370,20107)WongVW,ChanCK,LeungDYetal:Long-termresultsoforalvalganciclovirfortreatmentofanteriorsegmentin.ammationsecondarytocytomegalovirusinfection.ClinOphthalmol6:595-600,20128)山下和哉,松本幸裕,市橋慶之ほか:虹彩炎に伴う続発緑内障として加療されていたサイトメガロウイルス角膜内皮炎の2症例.あたらしい眼科29:1153-1158,20129)SuCC,HuFR,WangTHetal:Clinicaloutcomesincyto-megalovirus-positivePosner-Schlossmansyndromepatientstreatedwithtopicalganciclovirtherapy.AmJOphthalmol158:1024-1031,201410)SobolewskaB,DeuterC,DoychevaDetal:Long-termoraltherapywithvalganciclovirinpatientswithPosner-Schlossmansyndrome.GraefesArchClinExpOphthalmol252:1817-1824,201411)KoizumiN,InatomiT,SuzukiTetal:Clinicalfeaturesandmanagementofcytomegaloviruscornealendotheli-itis:analysisof106casesfromtheJapancornealendo-theliitisstudy.BrJOphthalmol99:54-58,201512)八幡健児,大黒伸行,奥野賢亮ほか:ぶどう膜炎続発緑内障に対する360°suturetrabeculotomyの術後成績.第25回日本緑内障学会抄録集,p112,2014***

Double-glide Techniqueを用いたDescemet’s Stripping Automated Endothelial Keratoplastyの術後成績の検討

2017年3月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科34(3):429.432,2017cDouble-glideTechniqueを用いたDescemet’sStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastyの術後成績の検討浅岡丈治*1出田隆一*1天野史郎*2*1出田眼科病院*2井上眼科病院SurgicalOutcomeofDescemet’sStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastybyDouble-glideTechniqueUsingBusinGlideTakeharuAsaoka1),RyuichiIdeta1)andShiroAmano2)1)IdetaEyeHospital,2)InoueEyeHospital目的:Double-glidetechniqueを用いたDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)の術後成績を検討した.対象および方法:対象は水疱性角膜症に対してdouble-glidetechniqueを用いてDSAEKを行った33例35眼.原疾患,視力,角膜内皮細胞密度,術後合併症について検討した.結果:平均患者年齢75±9歳.観察期間は2.0±0.8年(6カ月.3年).術前の平均小数視力は0.095で,術後3年の平均少数視力は0.85であった.術前のドナー角膜内皮細胞密度は2,800±257cells/mm2.術後3年では1,266±548cells/mm2であり,内皮細胞減少率は55%であった.術後合併症は眼圧上昇が2眼(5%),.胞様黄斑浮腫が4眼(10%)であった.結論:Double-glidetechniqueを用いたDSAEKは合併症も少なく良好な術後成績であった.Purpose:ToinvestigatesurgicaloutcomesofDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)bydouble-glidetechniqueusingBusinglide.Methods:Weretrospectivelyanalyzed35eyesof33patientswithbullouskeratopathy(BK)whohadundergoneDSAEKbydouble-glidetechnique.Primarydisease,visualacuity,endothelialcelldensity(ECD)andpostoperativecomplicationswereinvestigated.Results:Meanageofpatientswas75±9years.Weanalyzedfor2.0±0.8years.At3yearsaftersurgery,meanvisualacuitywas0.85,ECDwas1,266±548cells/mm2andECDlosswas55%.Complicationswereelevatedintraocularpressure(5%)andcystoidmacularedema(10%).Conclusions:DSAEKbydouble-glidetechniquewase.ectiveforBKandcausedfewercomplications.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(3):429.432,2017〕Keywords:角膜内皮移植術,水疱性角膜症,角膜内皮細胞密度,ブジングライド.Descemet’sstrippingautomat-edendothelialkeratoplasty,bullouskeratopathy,endothelialcelldensity,Businglide.はじめに水疱性角膜症に対する外科治療として角膜内皮移植術(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplas-ty:DSAEK)が,これまで主流であった全層角膜移植術(penetratingkeratoplasty:PKP)にとって変わりつつある.PKPに比較してDSAEKは,術中にオープンスカイにならないため駆逐性出血のリスクが低い,術後の正乱視・不正乱視が少ない,視力改善が早い,眼球強度が保たれ外傷に強い,拒絶反応が少ない,縫合糸関連の感染などの合併症が少ない,などのさまざまなメリットがある1,2).DSAEKは角膜内皮を移植することを目的とした手術であるため,術中に移植片の角膜内皮保護を行うことが重要である.DSAEK術中に移植片角膜内皮にもっとも傷害を与える可能性の高いステップが,移植片の前房への挿入操作である.そのため,移植片の前房内挿入にかかわる検討が多くされており,たとえば,切開創が3mmよりは5mmであるほうが,Taco-folding,Businglide,糸引き込み法のいずれでも移植片の挫滅が少なく,内皮傷害も少なくなることが報告〔別刷請求先〕浅岡丈治:〒860-0027熊本市中央区西唐人町39出田眼科病院Reprintrequests:TakeharuAsaoka,M.D.,IdetaEyeHospital,39Tojin-machi,Chuo-ku,Kumamoto860-0027,JAPAN0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(123)429されている3).また,移植片挿入時に角膜内皮保護を図るために使用する器具として,Businglide4),NeusidlCornealInserter5),EndoGlide6)など,多くのものが報告されている.Double-glidetechniqueは,DSAEK移植片挿入時にBusinglideとIOLglideを用いる方法で,小林らが初めて報告した7).Double-glidetechniqueは,前房が浅く移植片挿入時に虹彩脱出を起こしやすいアジア人の眼にDSAEKを行う際,虹彩脱出を抑えつつ角膜内皮保護が行える優れた術式と考えられる.今回,筆者らは,double-glidetechniqueを用いてDSAEKを行い,6カ月以上経過観察可能であった症例の術後3年までの成績について検討したので報告する.I対象および方法対象は2008年9月.2014年12月に当院で海外ドナーを用いてDSAEKを行った33例35眼(男性12例12眼,女性21例23眼).経過観察期間が半年未満の症例は除外した.観察期間6カ月3眼,1年9眼,2年9眼,3年14眼,平均±標準偏差は2.0±0.8年(範囲:6カ月.3年)であった.手術方法は,耳側角膜に5mmの角膜創を作製し,インフュージョンカニューラ(モリア・ジャパン)を置き,空気瞳孔ブロック予防目的に下方に25G硝子体カッターで虹彩切除行った.移植片はバロン氏真空ドナーパンチ(Katena社)で作製した後,IOLglide(Alcon社IOLglideまたははんだやPTFEチップ)を前房内に挿入したのち,Businglideと引き込み鑷子を用いるdouble-glidetechniqueで前房内に挿入した.移植片の位置を調整したうえで前房内に空気を注入し移植片の接着を確認して終了した.移植片の直径は7.0.8.5mmであった.術式の内訳は,DSAEK5例5眼,Descemet膜を.離しないnDSAEK(non-Descemet’sstrippingautomatedendo-thelialkeratoplasty)28例30眼,nDSAEKと白内障同時手術が1例1眼,nDSAEKと翼状片同時手術が1例1眼であった.術後はメチルプレドニゾロン125mgを1回点滴し,プレドニゾロンを30mg4日間,20mg4日間,10mg7日間,5mg7日間と漸減しながら投与した.術後点眼は単独手術のDSAEKとnDSAEKではレボフロキサシンとベタメタゾンリン酸エステルナトリウムを1日5回,エリスロマイシン軟膏1回,白内障同時手術の場合は,これにジクロフェナクを1日4回投与した.原疾患,角膜透明治癒率(%),術後3年までの矯正logMAR視力(logarithmicminimumangleofresolution),等価球面度数数,乱視度数数,角膜内皮細胞密度(endotheli-alcelldensity:ECD),術後合併症について,診療録をもとにレトロスペクティブに検討した.合併症の黄斑浮腫の診断は,光干渉断層計(OCT)を用い,術後視力の改善が不良な症例に対して行った.数値は平均値±標準偏差で記載した.統計学的解析は,術前値と術後の各時点での値との比較にMann-Whitney’sU-testを用いた.術前と術後四つの時点での比較であったので,p<0.0125を統計学的に有意とした.II結果1.患.者.背.景患者の手術時平均年齢は75±9歳(範囲:54.90歳)であった.原疾患は,レーザー虹彩切開術後が12例12眼(34%),Fuchs角膜内皮ジストロフィが4例6眼(17%),線維柱帯切除後が6例6眼(17%),白内障術後が6例6眼(17%),落屑症候群が4例4眼(11%),緑内障発作後が1例1眼(2.9%)であった.またPKP後の角膜内皮不全に対してDSAEKを行った1例で,術後2週間目に移植片と患者角膜の間にカンジダ感染を生じてグラフト抜去を行った.透析中の易感染症例であった.今回この眼の術後データのうち合併症については検討対象としたが,視機能や内皮細胞密度については対象から除外した.2.海外ドナーグラフトデータ移植グラフトは米国アイバンク(SightLife,Seattle,WA,USA)からのプレカットドナー角膜を用いた.プレカット後のECD2,800±258cells/mm2,ドナー平均年齢は61±8歳,ドナー死亡から強角膜片作製時間9.5±6時間,ドナー死亡から手術日数6.2±0.9日であった.3.角膜透明治癒率術後,移植片を抜去した1眼を除いたすべての症例で透明治癒が得られた.移植後3年を過ぎて1例が内皮機能不全となったが,高齢のため再移植は行わず経過観察となっている.4.視力術前の平均logMAR視力は1.02±0.5(平均小数視力:0.095)であった.術後6カ月の平均logMAR値は0.16±0.16(平均小数視力:0.69),術後12カ月は0.16±0.28(平均小数視力:0.69),術後24カ月は0.14±032(平均小数視力:0.72),術後36カ月は0.07±0.14(平均小数視力:0.85)であった(図1).術前と比較し,術後6カ月以降,有意な改善を認めた(p<0.0125).術後36カ月において,矯正視力0.5以上を占める割合は83%,同様に0.8以上は67%,1.0以上は42%であった.5.角膜内皮細胞密度術前のドナー角膜内皮細胞密度は2,800±257cells/mm2であった.術後6,12,24,36カ月での平均内皮細胞密度はそれぞれ,1,632±681cells/mm2,1,661±682cells/mm2,1,304±739cells/mm2,1,266±548cells/mm2であった(図2).内皮細胞減少率は,6,12,24,36カ月でそれぞれ,42430あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017(124)-0.501224363,5003,0000内皮密度0.5角膜内皮密度乱視度数logMAR1logMAR1,5001,0001.55002術後(月)00122436図1矯正視力の変化術後(月)術後6カ月で有意な改善を認めている.図2角膜内皮細胞密度の変化術後6,12,24,36カ月での内皮細胞減少率は,26,12,24,36カ月でそれぞれ,42%,41%,53%,55%であった.101224360-11.501224361-2-3-4乱視度数-5術後(月)図3術前後の乱視度数の変化術前後で有意差はなかった.%,41%,53%,55%であった.6.自覚的乱視度数自覚的乱視度数は,術前で1.25±2.8diopters(D),術後6カ月で2.1±1.33D,術後12カ月で1.99±1.3D,術後24カ月で1.74±0.78D,術後36カ月で1.6±0.55Dであった(図3).術前と比較して,術後に有意差はなかった.7.等価球面度数等価球面度数は,術前で.0.40±1.30D,術後6カ月で.0.75±1.53D,術後12カ月で.0.82±1.37D,術後24カ月で.0.68±1.51D,術後36カ月で.0.63±1.28Dであった(図4).術前後で,有意差なく遠視化も認めなかった.8.術後合併症21mmHg以上の眼圧上昇を2眼(5%)で認めた.発生時期は,術後3.12カ月であった.術後12カ月で眼圧上昇を認めた症例は,落屑緑内障の合併例のため,現疾患による眼圧上昇の可能性も考えられた.いずれも緑内障点眼を追加することで眼圧コントロールが得られ,緑内障手術に至った症例はなかった..胞様黄斑浮腫を4眼(10%)で認めた.発生時期は術後3.12カ月であった..胞様黄斑浮腫は,全例非ステロイド性抗炎症薬点眼もしくは,トリアムシノロンアセトニドTenon.下注射にて2カ月以内に消失した.また前述のようにカンジダ感染が1例あった.移植片からの持ち込みの可能性も否定できないが,移植片の残りの培養を行っていないため詳細は不明である.駆逐性出血,眼内炎,拒絶反応は認めなかった.等価球面度数0.50-0.5-1-1.5-2-2.5図4等価球面度数の変化術前後で有意差はなく遠視化も認めなかった.III考按今回すべての症例で矯正視力の改善を認めた.今回,術後12カ月目の平均logMAR矯正視力は0.16±0.28(平均小数視力0.69)であった.これまでの報告では平均logMAR矯正視力は0.34.0.17(小数視力0.46.0.68)であり8.12),今回の結果は既報とほぼ同等の結果であった.DSAEK術後は時間がたつほど視力の向上がみられることが近年報告されており10),今回も術後経過とともに平均視力の改善がみられた.今後さらに長期視力の成績も注目する必要がある.既報では,12カ月での報告が多く,36カ月の経過観察は有益な情報であると考えられる.DSAEK術後の内皮減少率については,挿入法によりさまざまな報告がある.Double-glide法では,アルゴンレーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症へのDSAEKでdouble-glide法を用いた場合に,術後3カ月で37.9%の内皮減少率が報告されている7).今回の術後1年での内皮減少率41%はこの報告とほぼ同等の結果であったと考えられる.また他の挿入法では,術後1年での減少率として,Tacofolding法で27.52%9,11,13,14),EndoGlide法で16.32%6,15),Businglide法で24.39%4,12,16)と報告されている.今回の結果がこれらの報告と比較して高めの内皮減少率となった原因としては,前術後(月)(125)あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017431房が浅く硝子体圧が高いためにDSAEKの施行がむずかしいアジア人の眼が対象であったことと,原因疾患として,DSAEK施行のむずかしいレーザー虹彩切開術後,線維柱帯切除後,緑内障発作後のものが全体の半数以上を占めており,また比較的DSAEKの行いやすい白内障術後やFuchs角膜内皮ジストロフィの割合が少なかったことが考えられる.既報10)ではDSAEKの術前術後の自覚的乱視の変化については有意差がないと報告されているが,今回も同様に有意差を認めなかった.また既報では術後軽度遠視化する報告があるが,今回はみられなかった.合併症としては,既報では眼圧上昇は5.8.16%とあるが17,18),今回5%と同等であった.また,.胞様黄斑浮腫は10%に認め,0.97%とする既報17)と比較して多かった.原因の一つとして,緑内障術後や発作後の眼の割合が高く,術後炎症が強めであったことが考えられる.また,以前はOCTの普及率が低かった可能性や,そもそも以前の文献ではOCTを行っていない可能性も考えられる.実際既報では.胞様黄斑浮腫に対して検討されていないものがほとんどであった.当院では,角膜上皮への悪影響を考え,DSAEK術後に非ステロイド性抗炎症薬の点眼はしてこなかったが,今後,黄斑浮腫発症予防のために,DSAEK単独手術症例でも投与すべきと考えている.今回,double-glidetechniqueを用いたDSAEKの術後3年成績を報告した.術後早期より視力の向上が得られること,術後乱視が軽度であること,合併症が少ないことからも有用な手術方法と考えられた.黄斑浮腫は既報では低く見積もられている可能性があるため,DSAEK術後の視力不良例では.胞様黄斑浮腫に注意し,OCTなどを用い積極的に精査する必要があると考えられた.文献1)LeeWB,JacobsDS,MuschDCetal:Descemet’sstrip-pingendothelialkeratoplasty:safetyandoutcomes:areportbytheAmericanAcademyofOphthalmology.Oph-thalmology116:1818-1830,20092)AnshuA,PriceMO,TanDTetal:Endothelialkerato-plasty:arevolutioninevolution.SurvOphthalmol57:236-252,20123)TerryMA,SaadHA,ShamieNetal:Endothelialkerato-plasty:thein.uenceofinsertiontechniquesandincisionsizeondonorendothelialsurvival.Cornea28:24-31,20094)BusinM,BhattPR,ScorciaV.Amodi.edtechniquefordescemetmembranestrippingautomatedendothelialker-atoplastytominimizeendothelialcellloss.ArchOphthal-mol126:1133-1137,2008432あたらしい眼科Vol.34,No.3,20175)TerryMA,StraikoMD,GosheJMetal:Endothelialkera-toplasty:prospective,randomized,maskedclinicaltrialcomparinganinjectorwithforcepsfortissueinsertion.AmJOphthalmol156:61-68,20136)KhorWB,MehtaJS,TanDT:Descemetstrippingauto-matedendothelialkeratoplastywithagraftinsertiondevice:surgicaltechniqueandearlyclinicalresults.AmJOphthalmol151:223-232,20117)KobayashiA,YokogawaH,SugiyamaK:Descemetstrip-pingwithautomatedendothelialkeratoplastyforbullouskeratopathiessecondarytoargonlaseriridotomy─pre-liminaryresultsandusefulnessofdouble-glidedonorinsertiontechnique.Cornea27(Suppl1):S62-69,20088)WendelLJ,GoinsKM,SutphinJEetal:Comparisonofbifoldforcepsandcartridgeinjectorsuturepull-throughinsertiontechniquesforDescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty.Cornea30:273-276,20119)TerryMA,ShamieN,ChenESetal:PrecuttissueforDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:vision,astigmatism,andendothelialsurvival.Ophthalmolo-gy116:248-256,200910)LiJY,TerryMA,GosheJetal:Three-yearvisualacuityoutcomesafterDescemet’sstrippingautomatedendotheli-alkeratoplasty.Ophthalmology119:1126-1129,201211)HsuHY,EdelsteinSL:Two-yearoutcomesofaninitialseriesofDSAEKcasesinnormalandabnormaleyesataninner-cityuniversitypractice.Cornea32:1069-1074,201312)NakagawaH,InatomiT,HiedaO,etal:Clinicaloutcomesindescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplastywithinternationallyshippedprecutdonorcorneas.AmJOphthalmol157:50-55,201413)ChenES,PhillipsPM,TerryMAetal:Endothelialcelldamageindescemetstrippingautomatedendothelialkera-toplastywiththeunderfoldtechnique:6-and12-monthresults.Cornea29:1022-1024,201014)PriceMO,GorovoyM,PriceFWJretal:Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:three-yeargraftandendothelialcellsurvivalcomparedwithpene-tratingkeratoplasty.Ophthalmology120:246-251,201315)ElbazU,YeungSN,LichtingerAetal:EndoGlideversusEndoSerterfortheinsertionofdonorgraftindescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty.AmJOph-thalmol158:257-262,201416)HongY,PengRM,WangMetal:Suturepull-throughinsertiontechniquesforDescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplastyinChinesephakiceyes:out-comesandcomplications.PLoSOne8:e61929,201317)HirayamaM,YamaguchiT,SatakeYetal:Surgicalout-comeofDescemet’sstrippingautomatedendothelialkera-toplastyforbullouskeratopathysecondarytoargonlaseriridotomy.GraefesArchClinExpOphthalmol250:1043-1050,201218)PriceMO,GorovoyM,BenetzBAetal:Descemet’sstrip-pingautomatedendothelialkeratoplastyoutcomescom-paredwithpenetratingkeratoplastyfromtheCorneaDonorStudy.Ophthalmology117:438-444,2010(126)

富山県における糖尿病診療情報提供書の現況 ―富山県眼科医会の全アンケート調査結果から―

2017年3月31日 金曜日

《第21回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科34(3):425.428,2017c富山県における糖尿病診療情報提供書の現況―富山県眼科医会の全アンケート調査結果から―山田成明*1狩野俊哉*2片山寿夫*3*1富山県立中央病院眼科*2狩野眼科医院*3片山眼科医院CurrentStateofDiabetesClinicalInformationProvidedinToyamaPrefecture─FromToyamaPrefectureOphthalmologistAssociation─NariakiYamada1),ToshiyaKarino2)andToshioKatayama3)1)DepartmentofOphthalmology,ToyamaPrefecturalCentralHospital,2)3)KatayamaOphthalmologyClinicKarinoOphthalmologyClinic,富山県眼科医会では,糖尿病による失明を防ごうという目的で糖尿病網膜症委員会を設けて,活動を行った.糖尿病診療情報提供書は,その活動のなかで作成され,平成9年から使用を開始した.眼科と内科の連携を密にし,糖尿病網膜症の早期発見,早期治療をめざしたものであった.今回,診療情報提供書の内容の改訂が行われたことにより,改めて富山県眼科医会の会員にアンケート調査を行い,平成27年4月から3カ月間の糖尿病診療情報提供書と糖尿病眼手帳などの利用について,また,これらと連携に関する意見を聞いた.36名からの回答によれば,30名83%が糖尿病診療報提供書を使用し,31名86%が糖尿病眼手帳を使用していた.どちらかを主に使用している,両者を併用している,使い分けているなどの意見があった.糖尿病網膜症に関する眼科と内科との連携は,眼手帳や診療情報提供書などを使用することにより,さらに意思疎通を得る必要があると思われた.TheToyamaPrefectureOphthalmologistAssociation’sDiabeticRetinopathyCommitteewasestablishedwiththeaimofhelpingtopreventblindnesscausedbydiabetes.Closecooperationbetweenophthalmologyandinternalmedicinefurtheredtheearlydetectionofdiabeticretinopathywiththeaimofrealizingearlytreatment.FollowingrecentrevisioninToyamaPrefectureofthediabetesclinicalinformationdocument,aquestionnairesurveywassubmittedtothemembersoftheOphthalmologistAssociationregardinguseofthedocumentandthediabetesnotebookfor3monthsfromApril2015.Opinionswerealsoheardregardingthesemattersandtheextentofcol-laboration.Accordingtoresponsesfrom36persons,30(83%)usedthediabetesclinicalinformationdocumentand31(86%)usedthediabeteseyenotebook.Allusedatleastone,someusedboth,andothersusedoneortheotherselectively.Cooperationbetweenophthalmologyandinternalmedicineregardingdiabeticretinopathybyusing,forexample,thenotebookandclinicalinformationdocument,isthoughtnecessarytogreatercommunication.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(3):425.428,2017〕Keywords:糖尿病診療情報提供書,糖尿病網膜症,内科眼科連携,糖尿病眼手帳.diabetesclinicalinformationprovides,diabeticretinopathy,cooperationbetweenphysicianandophthalmologist,diabeticeyenotebook.はじめに近年,糖尿病網膜症は成人の失明原因の第2位となっているが,まだ成人の失明原因の主因になっている1).また,日本の糖尿病人口は950万人と推定され2),まだ膨大な潜在患者が埋もれているものと思われる.増殖糖尿病網膜症に硝子体手術が導入され,増殖膜を.離し,術後に良好な視力を得ることも可能となったが,日常生活に十分な機能を残せない場合もいまだ多く存在する.富山県眼科医会では,糖尿病網膜症による失明をなくそう,重症な糖尿病網膜症を減らそうという熱意から有志が集まり,糖尿病網膜症委員会を作り,平成8年9月から活動を始めた.平成9年には糖尿病診療情報提供書を作成し,使用〔別刷請求先〕山田成明:〒930-8550富山県富山市西長江2-2-78富山県立中央病院眼科Reprintrequests:NariakiYamada,DepartmentofOphthalmology,ToyamaPrefecturalCentralHospital,2-2-78Nishinagae,Toyama-shi,Toyama930-8550,JAPANを開始した.糖尿病網膜症に関するポスターや患者啓発用のパンフレットの作成,医師会の会報への投稿など種々の活動を行った.糖尿病診療情報提供書は文字通り,糖尿病を診療している内科と連携を密にすることを目的としたものであり,富山県内で使用は拡大した.糖尿病眼学会でも発表し,その後多くの地域や施設で使用の動きがあり3),独自の様式も種々散見されるようになった.I方法1.糖尿病診療情報提供書重症の糖尿病網膜症患者をできるだけ減らすには,内科と眼科の連携をより密接にし,定期的,計画的な眼底検査を行うこと,および患者への啓発が重要と考え,まず内科と眼科の連携システムを作るために,糖尿病患者専用の紹介状(富山県糖尿病診療情報提供書)を作成した.内科医と十分に協議して意思の共有を図った.糖尿病診療情報提供書の最上段は共通部分で,診療情報提供書と書いてあり,その下に紹介先,患者氏名,性別,生年月日,年齢を書く部分がある.上半分が内科,下半分を眼科側の記載部分とし,できるだけ多くの内科医,眼科医に利用してもらえるよう記載項目はなるべく削ぎ落とし,選択肢を多くして簡単に記載できるようにした(図1).表紙に記載方法,Davis分類について説明したものを印刷した(図2).返事が返ってくるまでの内科眼科双方の控え,また万が一返事が来なかった場合のために3枚複写とした.統計処理のカウントをしやすくする意味もあった.今回,診療情報提供書の要件を満たすため,改定を行った(図3).2.アンケート調査今回,糖尿病診療情報提供書と糖尿病眼手帳の利用に関して,平成27年4月.6月までの3カ月間の使用数(紹介と返信いずれでも)をアンケートで調査した.アンケートは富山県内の眼科医にメールおよびファックスで依頼した.あわせて,糖尿病診療情報提供書,眼手帳,糖尿病の連携についての意見も調査した.II結果36名から回答を得られた.3カ月間の診療情報提供書の使用数1.5通18名,6.10通7名,11通以上5名,0通6名,眼手帳は1.5冊14名,6.10冊9名,11冊以上7名,0冊5名であった.30名83%が糖尿病診療報提供書を使用し,31名86%が糖尿病眼手帳を使用していた.若干糖尿病眼手帳は医師に偏りはあるものの使用されていた.糖尿病診療情報提供書を使用する医師は,糖尿病眼手帳も使用する傾図1糖尿病診療情報提供書図2糖尿病診療情報提供書表紙図3改訂した糖尿病診療情報提供書表1糖尿病診療情報提供書と糖尿病眼手帳の使用について糖尿病診療情報提供書(通)糖尿病眼手帳(冊)なし1.56.1011.小計なし220151.521020146.102241911.04037不明11小計6187536向があった(表1).一方,糖尿病診療情報提供書も長年にわたり使用されており,使い分けを行っている医療機関もあった.初めて患者を紹介するときや変化があったときなどは糖尿病診療情報提供書,通常使用するときは糖尿病眼手帳を使用するというものなど,多様な意見があった(表2).III考按従来から,糖尿病網膜症の進行を予防するには,糖尿病の早期発見,初期からの厳重なコントロール,さらには糖尿病表2会員からの意見・手帳は,わざわざ内科に問い合わせなくても現状が把握できるので便利だ.・糖尿病教室や糖尿病連携手帳を渡すときに内科で一緒に糖尿病眼手帳も渡してもらうのがよいと思います.・糖尿病眼手帳,点数なしだとなんかやる気出ません.・糖尿病手帳のほうは明らかに眼科のスペースが狭く問題.提供書は今までは内科から依頼があれば書くようにしています.・糖尿病眼手帳と糖尿病手帳の2通りあり,内科から糖尿病手帳を持参されることが多いです.眼の所見だけでなく,血糖の経過と眼の所見がかいてあるほうが持ちやすいようです.・手帳を持っていただき,内科所見と眼科所見をかいてもらうことが効果的・私は糖尿病の他科との連携はとても大事だと思い,連携手帳は患者さんに渡して内科で記載してもらうようにしています.診療も必ず内科の検査データ,薬手帳,糖尿病手帳を提出してもらっています.眼科側は結構がんばっているのに内科医との温度差を感じます.糖尿病と診断後一度も眼底検査を受けさせていなかったり,連携手帳に記載しなかったりです.眼科側は粘り強く継続していくことが大切です.・眼科の手帳は今まで利用した方にまだ使っていますが内科の手帳に眼科所見記入欄ができたのでそちらの方に記入することが増えてきました.もちろん眼科の手帳も使ってます.・手帳については,「おくすり手帳」「糖尿病手帳」など複数の手帳を提示されます.中には4通も受付に出される方もおられます.・内科医からの紹介依頼はパソコンで印字した紹介状で依頼される.・情報提供書を記載しても,当院への返事は約2割程度・持たせた患者さんから(Drから)クレーム「提供書は,お金を払わされているだけ・・」が多い.・手帳に眼底写真などをすべての人に貼っているが,内科医から返事はほとんどない.・糖尿病手帳だと携帯していない方もおられますし,初診の方や急激に変化した方は情報提供書をお渡しした方がきちんと受診されるような気がします.・当院には糖尿病センターがあるので糖尿病患者さまが多いですが,眼科につきましては院内の併科よりも,開業医の眼科の先生と連携されて,院内紹介の負担が少なくなるようにご配慮してもらっている.・糖尿病診療情報提供書は,広く活用していただきたいと思います.しかしながら開業医内科よりの紹介が少なく,活用はわずかとなっています.・開業医眼科に初診で来院する糖尿病患者は少ないです.・糖尿病専門医からは,月20件ほどコンスタントに紹介があります.最近では,各医院の電カルの書式での紹介が多いような印象です.・糖尿病診療情報提供書については有意義なことと,大いに評価します.・マイナンバー制度が安全によい意味で活用されるとよいのではないか.・電子カルテの普及によって,複写用紙への手書きというのが,時代に(?)あわなくなっているように思います.網膜症の早期発見,早期からの管理が必要とされてきた.これは個々の患者に対することだけではなく,マクロ的にも同様なことがいえると思われる.ただし,マクロでは,どういう手段が有効であるかが重要であり,その一つが糖尿病眼手帳を用いた連携強化であり,今一つは糖尿病診療情報提供書を用いた内科と眼科の連携強化である.いずれの方法も活用されれば,早期発見,適切な管理,適切な経過観察に有効である.しかしながら,医療機関を受診していない患者の早期発見には別の手段を講じる必要がある.糖尿病眼手帳の有効性はいうに及ばないぐらいであるが4.7),改めて検討すれば,項目があらかじめ決められていることで記載が簡便であり,患者側にはコストがかからない点,また患者自身がそれを見て情報を得ることで自身の病気を理解し,治療のモチベーションを上げる効果が期待できる.糖尿病網膜症のどの段階に自分がいるのかを知っていることも重要である.内科と眼科の両方に提示し,かつ患者自身が医療情報を携帯していることに意義があるように思われる.糖尿病連携手帳と一本化することでますます有効になると思われるところである.一方,糖尿病診療情報提供書は,内科と眼科を往復する紹介状で,保険請求上の診療情報提供書であり,診療報酬点数が設定されている.情報は有料であるという概念からすれば妥当なことであるが,患者側には負担がかかる.眼手帳が無料であることとは対照的である.種々の医療機関に多種多様の考えがあると思われるが,医療情報を有償で提供する意義は十分あると思われる.診療情報提供書は眼科と内科の連携を目的に利用されることが多かったが,最近ではその用途も多様になっており,歯科と内科の連携,かかりつけ医と糖尿病専門医のいる病院との連携にも使用されてもいる.また,地域連携パスの情報手段としても使用されている.今後,情報の電子化が図られていくものと思われ,網膜症分類などの情報を統一化しておく必要があると思われる.糖尿病は,一科のみでは診療できない代表的な疾患である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)厚生労働省:厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究」.平成24年度統括・分担研究報告書2)厚生労働省:2012年国民栄養・栄養調査結果3)大野敦:糖尿病網膜症の医療連携放置中断をなくすために.糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,20024)糖尿病眼手帳作成小委員会:糖尿病眼手帳─眼手帳作成の背景,経緯,内容,使用法について─.日本の眼科74:345-348,20035)船津英陽,堀貞夫:糖尿病眼手帳(日本糖尿病眼学会).DiabetesJournal31:60-63,20036)船津英陽,福田敏昌,宮川高一ほか;糖尿病眼手帳作成小委員会:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,20057)船津英陽,堀貞夫,福田敏昌ほか:糖尿病眼手帳の5年間推移.日眼会誌114:96-104,2010***

糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体内注射後,腎症が悪化した1例

2017年3月31日 金曜日

《第21回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科34(3):419.424,2017c糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体内注射後,腎症が悪化した1例善本三和子*1高野秀樹*2東原崇明*2松元俊*1*1東京逓信病院眼科*2東京逓信病院腎臓内科ACaseofDiabeticMacularEdemawithProgressiveRenalDysfunctionafterIntravitrealInjectionofRanibizumabMiwakoYoshimoto1),HidekiTakano2),TakaakiHigashihara2)andShunMatsumoto1)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoTeishinHospital,2)DepartmentofNephrology,TokyoTeishinHospital糖尿病性腎症(以下,腎症)を合併した糖尿病黄斑浮腫(以下,DME)患者に対するラニビズマブ硝子体内注射(以下,IVR)治療経過中,腎機能障害が急速に進行した症例を経験したので報告する.症例は56歳,男性.下腿蜂窩織炎にて当院初診時,糖尿病が発見された(HbA1C12.2%,腎症+).眼科初診時,両眼視力(1.2),増殖前網膜症を認め,内科治療開始後より右眼DMEが発症,悪化し,右眼IVRを連続3回施行したが,反応不良であった.IVR前とIVR3回後で,血清クレアチニン値2.04→3.39mg/dl,尿中TP/CRE8.14→10.92g/gCr,尿糖(.)→(+2)と3カ月間の腎機能障害の進行は急速かつ顕著であり,その後の積極的な内科治療にも抵抗して腎症はさらに悪化し続け,IVR開始11カ月後,透析導入となった.DMEに対する抗VEGF療法では,全身因子としての腎機能の変化に注意し,盲目的な連続投与は避ける必要がある.Acaseofdiabeticmacularedema(DME)withprogressiverenaldysfunctionafterrepeatedintravitrealinjec-tionofranibizumabisreported.A56-y.o.malewasadmittedtoourhospitalwithacutecellulitisofthelowerextremitiesanddiagnosedwithdiabetesmellitus(HbA1C12.2%,diabeticnephropathy+).Atinitialophthalmicexamination,correctedvisualacuityofbotheyeswas1.2,anddiabeticretinopathywaspreproliferativestage.Afterdiabetesmedicationwasinitiated,DMEofrighteyeoccurredandprogressed,andintravitrealinjectionofranibizumab(IVR)wasrepeatedthreetimes,butresponseforIVRwaspoor.Dataforserumandurineanalysis(pre-→post-IVR),serumcreatinine(2.04→3.39mg/dl),urineTP/CRE(8.14→10.92g/gCr)andurinesugar(.→+2)showedrapidrenaldysfunctionafterrepeatedIVR.Elevenmonthsafterthe.rstIVR,despiteintensivemedicaltreatmentagainstprogressiverenaldysfunction,dialysiswasinitiated.Itisnecessarytogivecareandattentiontorenalfunctioninanti-VEGFtherapyforDME,andtoavoidrepeatinginjectionsroutinely.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(3):419.424,2017〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,ラニビズマブ硝子体内注射,抗VEGF抗体,糖尿病性腎症,腎生検.diabeticmacu-laredema,intravitrealranibizumabinjection,anti-VEGFantibody,diabeticnephropathy,renalbiopsy.はじめに抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor:血管内皮増殖因子)抗体硝子体内注射は,現在,糖尿病黄斑浮腫(dia-beticmacularedema:DME)治療の主流になりつつある.しかし,同効薬である抗癌剤ベバシズマブの全身的副作用には高血圧や蛋白尿などが多く報告1)されており,全身合併症を有する頻度の高い糖尿病患者では,他の疾患に比べてその全身的影響が懸念されている.今回,筆者らは,初診時より腎症を有するDME患者に対し,抗VEGF抗体であるラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealinjectionofranibizum-ab:IVR)を連続3回施行したところ,反応は不良で,かつ3回連続投与後に,急速な腎機能障害の悪化・進行が判明し〔別刷請求先〕善本三和子:〒102-8798東京都千代田区富士見2-14-23東京逓信病院眼科Reprintrequests:MiwakoYoshimoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoTeishinHospital,2-14-23,Fujimi,Chiyoda-ku,Tokyo102-8798,JAPANた症例を経験したので報告する.I症例患者:56歳男性.主訴:下腿浮腫,発赤.現病歴:2014年3月中旬,左足関節部の傷と下腿の発赤腫脹を自覚し,同年3月18日当院皮膚科を受診.下腿蜂窩織炎を認め,全身検査の結果,HbA1C12.2%,尿糖4+,尿蛋白3+であり,糖尿病と診断(表1)され,抗菌薬全身投与とともに,強化インスリン療法,降圧薬の投与を開始,その後,3月24日糖尿病網膜症精査目的にて当科初診.既往歴:1998年頃,肥満(体重113kg,BMI34.11kg/m2),尿糖指摘.その後自己流の運動療法で体重が20kg減少し,放置.家族歴:糖尿病:弟,高血圧:母.初診時眼科所見:視力は,RV=0.15(1.2×sph.2.25D(cyl.0.5DAx90°),LV=0.1(1.2×sph.2.25D(cyl.0.5DAx90°),眼圧:両眼18mmHg,前眼部所見:角膜・前房異常なし.軽度の白内障あり.虹彩・隅角異常なし.眼底所見:両眼ともに多数の網膜出血と軟性白斑が散在し,初診時黄斑部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)所見では,右眼黄斑浮腫なし,左眼にはわずかな漿液性網膜.離(serousretinaldetachment:SRD)と中心窩上方に軽度の網膜膨化を認めた(図1).経過:3月25日,フルオレセイン蛍光眼底造影(.uoresceinangiography:FA)では,両眼の中間周辺部網膜に無灌流域(nonperfusionarea:NPA)を認め,とくに右眼の鼻側網膜で広く,また右眼黄斑部には造影後期に毛細血管瘤からの蛍光漏出および貯留を認めた.3月31日,右眼の視力低下(矯正0.8)を訴え,OCTでは.胞様黄斑浮腫と網膜の膨化所見を認めたため,トリアムシノロンTenon.下注射(sub-Tenon’striamcinoloneacetonideinjection:STTA)を施行し,その後,右眼黄斑局所凝固およびNPAに対する病巣凝固を開始し,4月30日には右眼DMEは消失した.初診から3カ月後には,HbA1Cは6.7%に低下し,それ以後は,テネリグリプチン(選択的DPP-4阻害薬:テネリアR20mg1錠/日)内服治療の下,HbA1Cは5.7.6.2%と良好なコントロール状態が続いた.初診から3カ月後のFAの結果,左眼のNPAに対する病巣凝固を施行し(両眼ともにDMEの再燃なし),初診から9カ月後(2014年12月)のFAでは,右眼でさらにNPAが拡大し,左眼では網膜新生血管を認め,OCTでは右眼にわずかなSRDと網膜膨化が再燃していたため,先に右眼STTAを施行後,DMEが軽減したため,網膜光凝固を追加,さらに左眼にも網膜光凝固を追加した.2015年1月7日受診時,右眼のDMEの網膜膨化所見が悪化(図2a)していたため,同年2月6日より右眼IVRを開始したところ,反応不良であったため,その後3月13日,4月24日と連続3回IVRを施行した.しかし,中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)は改善せず(図2b.d),同時期に腎機能障害の急速な進行が発覚したた表1初診時全身検査結果血液検査所見WBC(×103μl)15.6×103RBC(×106μl)4.39×106Hb(g/dl)13.5Ht(%)38.4Plt(×103μl)283×103CRP(mg/dl)19.11Na/K/Cl(mEq/l)136.7/5.0/99.3GOT/GPT(IU/l)26/18TP/Alb(g/dl)5.9/2.1BUN/CRE(mg/dl)26.6/1.79BS(mg/dl)朝食後5h504HbA1C(%)12.2eGFR32.3(ml/分/1.73m2)尿所見尿糖/尿蛋白4+/3+尿ケトン体─蛋白質定量(mg/dl)569TP/CRE(g/gCr)6.13NAG(U/l)34.3b2ミクログロブリン(ng/ml)52370身体所見身長182cmBMI26.4体重91.35kg血圧180/95異常値を○○(斜体と下線)で示す.eGFRは推算糸球体濾過量(基準値:90以上),TP/CREは1日尿蛋白量(正常:0.15未満),NAG(N-アセチル-b-D-グルコサミダーゼ正常:7以下),b2ミクログロブリン(正常:230以下)はともに尿細管障害の指標.本症例はeGFRおよび尿TP/CREより,糖尿病腎症3期(顕性腎症期)と診断された.図1初診時眼底写真とOCT2014年3月24日眼科初診時の眼底写真(右眼:a,左眼:d),および黄斑部水平断(右眼:b,左眼:e)および垂直断(右眼:c,左眼:f)OCT撮影画像を示す.眼底検査では両眼ともに多数の網膜出血と軟性白斑を認めた.OCTでは,右眼には明らかな黄斑浮腫はなく,左眼にわずかな漿液性網膜.離と中心窩上方の軽度の網膜膨化所見を認めた.め,本症例の黄斑浮腫には全身性因子の関与が強い可能性も考えられたため,その後のIVRを中止し経過観察とした.腎機能データは,当院初診時より顕性腎症期(糖尿病腎症)であったが,内科治療開始後約9カ月間は,血1表期)(3清クレアチニン値が1.3.1.7mg/dlを維持したまま経過していた.しかし,右眼DMEが再燃したため,IVRを開始し(同時期の血清クレアチニン値2.04mg/dl),連続3回施行したところ,3回目のIVRの1週間後の4月30日腎臓内科受診時,血清クレアチニン値が3.23mg/dlと急激に上昇していたため,当院腎臓内科に即日入院となった.IVR前後の右眼CRTの変化と腎機能データの推移を図3に示す.IVR後の腎臓内科入院約1カ月間,安静と飲水励行および減塩食による食事療法,降圧薬や脂質異常症治療薬の内服にて全身浮腫は改善しいったん退院したが,退院後早期に全身性浮腫が再度悪化し,7月21日腎臓内科に再入院となり,急激な腎機能障害の進行の精査目的に8月3日腎生検を施行した.病理組織学的検査(図4)では,糸球体には,慢性経過の糖尿病性腎症の病理所見で,糖尿病性結節性硬化の初期病変と考えられる細胞浸潤を伴った活動性の高いメサンギウム融解像を認めたことや,比較的新しい内皮障害が示唆される細動脈硝子化や尿細管の滲出病変が散見されたことなどから,最近になって比較的急速に進展した糖尿病性腎症の所見2)と考えられ,臨床経過を考慮すると,IVRの全身的影響の一部である可能性も考えられた.その後は,複数回の入院治療を含む積極的な内科治療にも抵抗して腎機能障害は進行し,2015年10月シャント造設,2016年1月透析導入となった.IVR後の右眼DMEは,腎臓内科入院後徐々にCRTが減少し,入院後3カ月でほぼ浮腫は消失し,その後は全身浮腫が悪化してもCRTは約250μm程度のまま,浮腫は再燃せずに経過した.なお,左眼のDMEは上記経過中出現していない.II考察DMEは,眼局所因子と全身因子が複雑にかかわり合って発症3)し,また患者個々に病態が異なることから,その治療法は大変複雑である.また,そのためかDMEに対する抗VEGF抗体単回投与の反応は,他の加齢黄斑変性や網膜静脈閉塞症に比して緩やかであり,繰り返し使用を余儀なくされることも多く4),さらに治療法の選択を困難にしていると*:CRT図2IVR前後の右眼黄斑部OCT所見(上段:水平断下段:垂直断)2015年1月7日(a),DMEが再発していたため,2月6日(b)に初回IVR,3月13日(c)に第2回IVR,4月24日(d)に第3回のIVRを施行したが,CRTは増加した.思われる.抗VEGF抗体硝子体内注射の全身的副作用としては,DME患者では狭心症・心筋梗塞,高血圧症などが少数例報告されてはいる5)ものの,大規模スタディでは,対象群と抗VEGF抗体治療群を比較しても全身的副作用の発現に有意差はない6)とされている.しかし,これらの大規模スタディの対象患者の患者背景は,比較的全身状態の良好な患者に限定されていることに注意する必要がある.抗VEGF抗体硝子体内注射後の血中VEGF濃度の推移をみた報告7)では,硝子体内注射後,血中VEGF濃度が上昇し,かつ腎障害のある患者では,そのクリアランスが低下していることや,抗VEGF抗体硝子体内注射後の腎臓組織には抗VEGF抗体が存在し,さらにVEGF活性が低下していることが報告8)されており,抗VEGF抗体硝子体内注射が腎組織に対して影響を与える可能性も考えられる.また,過去には,抗VEGF抗体の硝子体内注射後に,腎機能障害が進行した症例が報告9,10)がされており,とくに糖尿病性腎症があるDME患者において抗VEGF抗体硝子体内注射を繰り返し施行する際には,腎機能の推移に注意する必要があると考える.さらに,腎機能に対する注意は,副作用という観点だけではなく,腎機能障害が進行しつつある症例では,全身因子としてのDME悪化要因が加わることで,抗VEGF抗体注射に対する反応も不良となるため,その誤った評価により,不必要な注射を繰り返すことを避けるためにも重要であると考えられる.抗VEGF抗体である,ベバシズマブは,以前より大腸癌などの抗癌剤として全身投与が行われている薬剤であり,その全身投与時の副作用として高血圧や蛋白尿が高率に報告されており1),症例の腎生検の組織学的検討を行った報告11.16)がなされている.それらによると,腎臓組織におけるVEGFの役割は,いまだ不明な点も多いが,VEGFはおもにpodo-cyteや尿細管上皮から産生され14),糸球体毛細血管の内皮700中心窩600網膜厚500CRT400(μm)3002003.525尿NAG(Ul)尿TP/CRE(g/gCr)3201400012000血清Cr(mg/dl)尿b2MG(ng/dl)2.51510000280001060001.54000200005100.52014/10/92014/11/92014/12/92015/1/92015/2/92015/3/92015/4/92015/5/9図3IVR前後の中心窩網膜厚(CRT)と腎機能データの変化上段には中心窩網膜厚(CRT)の変化とIVR施行日を示す.下段グラフは左軸に血清クレアチニン値(実線・,□の中に実測値),尿NAG(細点線・▲),尿TP/CRE(長点線・●),右軸にb2ミクログロブリン(実線・■)を示した.グラフ右下の棒グラフは尿糖を示し,IVR開始後出現し増加した.図4腎生検(病理所見)a:糸球体.糖尿病性腎症に矛盾しない結節性病変を多数認める.b:aの拡大写真.細胞浸潤を伴うメサンギウム細胞誘融解(.)を認め,結節性病変形成の初期病変と考えられた.c:尿細管の滲出病変,尿細管間質萎縮と線維化.d:血管の光顕像(PAM染色).内皮障害を示唆する細小動脈の硝子化.細胞のfenestration形成にかかわることにより,糸球体の構造や機能を維持する役割11)や,毛細血管障害が生じた場合の修復の役割も担うこと16)が報告されている.したがって,VEGFを阻害することにより,腎臓の毛細血管の成長が阻害されることにより毛細血管障害が起こり,さらにその修復過程も阻害されることにより,腎臓組織内の毛細血管障害やthromboticmicroangiopathy(TMA)などが引き起こされることが推測されている.本症例の腎機能障害の進行経過は,通常の糖尿病腎症を否定するものではないが,IVR開始後の進行速度が,非常に急速でかつ内科的治療に抵抗性であったこと,またHbA1C5.6%と血糖コントロール良好であるにもかかわらず,IVR開始後に尿糖が陽性になり,その後増加していったことは,通常の糖尿病腎症の進行経過中にはみられない点として着目した.通常の糖尿病性腎症の進行速度は,さまざまな要因によって修飾されるため,一定速度であるとは限らないが,過去の報告17)によると,血清クレアチニン値2.0mg/dlから透析導入に至るまでの期間は糖尿病腎不全症例36例の検討では平均2年4カ月と報告されており,本症例では経過は,約1年であり,比較的早い経過で腎不全に進行した症例と考えられた.さらに腎生検では糖尿病腎症に矛盾しない所見に加えて,この病期の糖尿病腎症患者ではみることが少ない,初期病変が散見されたことは,それまで存在していた糖尿病性腎症がIVRによりさらに後押しされたように進行した可能性も考えられたが,因果関係は不明である.DMEに対する抗VEGF抗体硝子体内注射は大変有用な治療法である.しかし,DME患者では糖尿病腎症を合併していることが多く,繰り返し治療を行う場合には進行性の腎機能障害があるかどうか,治療開始後,腎機能データに著しい変動はないか,という点に注意する必要があると思われた.とくに腎症を有し,DME治療開始時期に血清クレアチニン値が上昇傾向にある患者では,腎臓内科主治医と連絡をとりあいながら治療法を決定することが望ましいと考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ZhuX,WuS,DahutWLetal:Risksofproteinuriaandhypertensionwithbevacizumab,anantibodyagainstvas-cularendothelialgrowthfactor:systemicreviewandmeta-analysis.AmJKidneyDis49:186-193,20072)齋藤弥章,木田寛,吉村光弘ほか:糖尿病性腎症におけるMesangiolysisについて.日腎誌26:367-375,19843)BresnickGH:Diabeticmaculopathy.Acriticalreviewhighlightingdi.usemacularedema.Ophthalmology90:1301-1317,19834)BrownDM,NguyenQD,MarcusDMetal:Long-termoutcomesofranibizumabondiabeticmacularedema:the36-monthresultsfromtwophaseIIItrials:RISEandRIDE.Ophthalmology120:2013-2022,20135)医薬品インタビューホーム:眼科用VEGF阻害剤(ヒト化VEGFモノクローナル抗体Fab断片)ルセンティス硝子体内注射10mg/mlVIII安全性(使用上の注意等)に関する項目.VIII-8副作用.p56-58,2015年3月改訂(改訂第11版)6)LangGE,BertaA,EldemBMetal:Two-yearsafetyande.cacyofranibizumab0.5mgindiabeticmacularedema:interimanalysisoftheRESTOREeztensionstudy:Oph-thalmology120:2004-2012,20137)医薬品インタビューホーム:眼科用VEGF阻害剤(ヒト化VEGFモノクローナル抗体Fab断片)ルセンティス硝子体内注射10mg/ml.VII.薬物動態に関する項目.p47-51,2015年3月改訂(改訂第11版)8)TschlakowA,ChristnerS,JulienSetal:E.ectsofasin-gleintravitrealinjectionofa.iberceptandranibizumabonglomeruliofmonkeys.PLoSOne21:e113701,20149)PelleG,ShwekeN,DuongVanHuyenJPetal:Systemicandkidneytoxicityofintraocularadministrationofvascu-larendothelialgrowthfactorinhibitors.AmJKidneyDis57:756-759,201110)GeorgalasI,PapaconstantinouD,PapadopoulosKetal:Renalinjuryfollowingintravitrealanti-VEGFadministra-tionindiabeticpatientswithproliferativediabeticretinop-athyandchronickidneydisease-Apossiblesidee.ect?CurrentDrugSafety9:156-158,201411)EreminaV,Je.ersonJA,KowalewskaJetal:VEGFInhi-bitionandRenalThromboticMicroangiopathy.NEnglJMed358:112-1136,200812)SugimotoH,HamanoY,CharytanDetal:Neutralizationofcirculatingvascularendothelialgrowthfactor(VEGF)byanti-VEGFantibodiesandsolubleVEGFreceptor1(sFlt-1)inducesproteinuria.JBiolChem278:12605-12608,200313)GeorgeBA,ZhouXJ,TotoR:Nephroticsyndromeafterbevacizumab:casereportandliteraturereview.AmJKidneyDis49:E23-E29,200714)FrangieC,LefaucheurC,MedioniJetal:Renalthrom-boticmicroangiopathycausedbyanti-VEGF-antibodytreatmentformetastaticrenal-cellcarcinoma.LancetOncol8:177-178,200715)RonconeD,SatoskarA,NadasdyTetal:Proteinuriainapatientreceivinganti-VEGFtherapyformetastaticrenalcellcarcinoma.NatClinPractNephrol3:287-293,200716)SugaS,KimYG,JolyAetal:Vascularendothelialgrowthfactor(VEGF121)protectsratsfromrenalinfarctioninthromboticmicroangiopathy.KidnyeInt60:1297-1308,200117)大井一輝,水野美淳:糖尿病性腎症の血液透析に至るまでの経過および透析導入時期について.糖尿病25:1181-1189,1982***

My boom 62.

2017年3月31日 金曜日

自己紹介吉田希望(よしだ・きぼう)よしだ眼科クリニック私は昭和62年に東京慈恵会医科大学に入局し,小児眼科を専門にやってきました.埼玉県立小児医療センターに平成4年1月から平成8年6月まで勤務.その後,小児の他覚評価ができないかとfMRIの研究で2年間フランスへ.帰国後大学を離れ,秋田県大館市に開業して18年になります.仕事のMyboom:子どもの眼科診療小児眼科が専門ですが,開業後数年してから専門外来を立ち上げることができました.土曜日に予約診療で小児眼科領域と大人の斜視などを中心に,ORTさんと一緒に診療しています.ORTさんは常勤2人と非常勤1人,それに慈恵医大から1人来てもらい,難症例にも対処できるようにと考えています.患者さんは秋田県を中心に,青森県の盲学校に通う児童(未熟児など)の診療をしています.秋田県立医療療育センターからはMR(mentalretardation)の強い患児の視機能評価の依頼も受けています.埼玉時代の外来は斜視と弱視,まれに先天白内障,緑内障,10年に1例網膜芽細胞腫.入院は斜視手術症例を年間150例程度,新生児科では未熟児網膜症の急性期しかみていませんでしたが,今では治療後が多く,全盲のケースやほぼ全盲で聴覚に頼っているケースなど,カリフォルニア工科大学の下條信輔先生の感覚代行VOICEの話などロービジョンの領域の知識も必要になってきています.小児の眼科管理は屈折検査と眼位検査に尽きるといえます.抑制の定量評価方法に手作りのNDフィルター入り板付きレンズを作製してもらい,(95)0910-1810/17/\100/頁/JCOPYBagolini線条グラス検査のデータを集めています.開業すると学校健診も仕事の一つになり,波面センサーを導入してみました.オルソケラトロジー施行眼の収差が桁違いであること,TMFに縦と横の差があることなど,視力検査の方法にも影響しそうなデータが得られています.検影法を数値化してくれるのが波面センサーだと感じています.波面ネタをもう一つ.小学校3年生のPFV(第一次硝子体過形成遺残)で,波面からは手術がよさそうだけれど,弱視治療(Occlupad)で1.0まで改善した例がありました.弱視治療も奥が深い.私生活のMyboom1スポーツ観戦.好きなんです.野球:父親が明治大学バレーボール部の監督(名前だけ)だった時期に,招待券で東京六大学野球の観戦に友人と神宮球場へ.昭和50年前後でしょうか,まだ外野が芝生席で寝転んで観ていたことを思い出します.父親の留学中のLAでのDodgers戦観戦も忘れられません.小学生の地域リーグで仲間に恵まれ,たまたま優勝し,チームごと招待されました.7回表終了時に場内アナウンスで紹介され,コーチに観客からの拍手に立って答えなさいって促され,誇らしい気持ちと恥ずかしい気持ちが入りまじりました.サッカー:埼玉勤務のころには浦和レッズの年間シートを持っていたほどで,試合を観に行くと負けることが多く,これからは自称隠れレッズファンになります.その当時に大宮サッカー場で観たレッズ対バスコダガマ戦のロマーリオ(ブラジル代表)はすごかったです.今年のチャンピオンシップ第2戦も観に行きましたが残念な結果になりました.ラグビー:父のゼミの先輩学生に誘われて,初ラグビー観戦は高校生の時の早明戦です.一時離れていましたが,最近再び夢中になっています.秋田八橋球場ではノーザンブレッツ対三菱重工相模原戦のハーフタイムに,観客席に遠征に帯同しているあたらしい眼科Vol.34,No.3,2017401写真1東芝スタッフ?画面左が私です.左隣は2013年南アフリカ最優秀コーチのストーンハウスさん.シェーン・ウイリアムスを発見.身長が170cmで,2008年IRBのMVP(サッカー界のバロンドール)選手なんです.握手して写真を撮らせてもらいました.2014年の日本選手権の2回戦,神戸製鋼対ヤマハ戦では,試合の1週間前にラグビー協会から電話があり,たまたま取れていたスカイラウンジシートを変わってほしいと.本当は嫌ですって言いたかったけれど,天皇皇后両陛下が来てラグビー界では初めての天覧試合になると聞き,喜んで譲りました.しばらく自己紹介の際に「天皇陛下に席を譲った男です」ってネタにできました.帰りの国道246が交通規制のため車が1台も走っていないのが不思議な光景でした.今年の東芝対クボタ戦では,たまたま座席が東芝の関係者席の隣で,テレビにがっちり映っていて,まるでチームドクターのようだと言われて少し嬉しかったです(写真1).昨年から日本も参加しているスーパーラグビーでは,生でワラビーズのメンバーを見られました.2019年の日本でのRWC(RugbyWorldCup)が楽しみです.私生活のMyboom2スポーツ.身体を動かすのも好きです.バスケットボール:学生時代から現在まで,途中中断期間はありましたが,楽しんでいます.撮影してもらった動画を見ると気持ちと身体がまったく別物ですが,引退まであと少しかなと思いつつ,週1回のチーム練習をまだ続けています(やらされています?).野球:地元の早起き野球チームに参加して6年になりました.周囲は高校野球で鳴らした選手達で,初心者の自分は初年度5打席5三振から始まり,ようやく今シーズン18打席3安打を打てるようになりました.毎年5402あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017写真2第31回田沢湖マラソン後半キツイところで,無理して笑って走っています.月に行われる東京都眼科医会の大学対抗野球大会にも参加するのが楽しみです.ランニング:一昨年まではレースは年1回,地元秋田県大館市の山田記念ロードレースに参加していましたが,昨年から他のレースにも積極的に参加しています.7月の八竜町のメロンマラソン10km,9月は田沢湖マラソン20km(写真2)と秋田縦走50km,10月にきみまち10km,11月に岩手県宮古サーモンマラソン10km,12月には調布市制マラソン10km.今年は距離を長く,ハーフマラソンを中心に仙台ハーフ,さくらんぼなど企画中です.東京マラソンは倍率が高く抽選で外れました.いつの日か走られたらと考えています.トレーニング:3年前から始めました.週2回で月曜日は体幹トレーニングを40分程度,水曜日はフルメニュー(上半身,下半身,体幹)で75分程度.以前から腰痛と肩こりに悩まされていましたが,最近は症状がなくなりました.大きいけがをしなくなったのはトレーニング効果と思っています.おわりに診療について地域に育てていただいたこと,また専門外来を立ち上げるにあたり慈恵医大の柏田視能訓練士はじめ関係の皆様の協力を得られたことに,深く感謝しております.次のバトンですが,いつも難症例を快く受け入れていただいている弘前大学の鈴幸彦木先生にお渡しします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.(96)

二次元から三次元を作り出す脳と眼 10.視覚情報処理の2つの経路

2017年3月31日 金曜日

雲井弥生連載⑩二次元から三次元を作り出す脳と眼淀川キリスト教病院眼科はじめに外側膝状体はヒトやサルでは6層構造をとっている.内側2層の神経細胞は大型,外側4層の神経細胞は小型である.これが何を意味するかは長らく謎であった.1970年代に入り,神経節細胞が電気生理学的あるいは形態学的特徴でいくつかに分類できることがわかり,それが解明への突破口となる1).視覚伝導路と外側膝状体視覚の流れについて考える.図1では前方の十字の中心○を両眼で固視する人の頭を上から見ている.○は両眼中心窩に映る(Fr・Fl).固視点の左の点●は中心窩の右側に映る(R・L).視覚情報は下記のように進む.・右眼中心窩耳側の●情報→視交叉を同側に進む→右外側膝状体2,3,5層→右後頭葉第一次視覚野(以下,V1)へ・左眼中心窩鼻側の●情報→視交叉を反対側に進む→右外側膝状体1,4,5層→右V1へV1の後極には,右眼中心窩の情報○と左眼中心窩の情報○が隣り合うように到達する.右眼の情報●と左眼の情報●は網膜での位置関係を保つようにその前方に到達する.図1右は外側膝状体の拡大図である.9章で網膜神経節細胞が3種類に分類できること,なかでも2種類は対称的な特徴をもつことを述べた.細胞体や受容野が大きく情報伝達の速いPa細胞,細胞体も受容野も小さく情報伝達の遅いPb細胞である.大型のPaは外側膝状体後頭葉第一次視覚野(V1)図1外側膝状体と情報の分離外側膝状体では,右眼・左眼からの情報,神経節細胞のPaとPbから抽出した情報が,それぞれ異なる層に伝達され,分離される.大型のPaは動きの情報を大細胞層1,2層に,小型のPbは形の情報を小細胞層3~6層に伝える.前者をmagnocellular系(M系)とよび,後者をparvocellular系(P系)とよぶ.6層構造は,種類の異なる情報を正しい相手に伝えられるよう機能している.(93)あたらしい眼科Vol.34,No.3,20173990910-1810/17/\100/頁/JCOPY図2背側経路と腹側経路背側経路を→で示す.物体の動きや方向,光のちらつきなどの情報はPa,V1-3,V5/MTを経て後頭頂葉へと向かう.三次元での位置や動きの把握に必要であり,Whereの経路ともよばれる.腹側経路を.で示す.物の形や輪郭・色の情報はPb,V1,V2,V4を経て下側頭葉へ向かう.何が見えるかをとらえWhatの経路ともよばれる.の大細胞層である1,2層に,小型のPbは小細胞層である3~6層に,網膜から運んできた種類の異なる情報を伝える.すなわちPaは物の動きや光のちらつきの情報を大細胞層へ,Pbは物の形や輪郭の情報を小細胞層へ伝達する.これにより,右眼と左眼,PaとPbの情報が外側膝状体の異なる層へと分離される.6層構造は,陸上のリレー競技のコース分けのように,種類の異なる情報のバトンを正しい相手に渡せるように機能している.前者を大型細胞を介して伝えられる経路としてmagnocellular系(M系),後者を小型細胞の経路としてparvocellular系(P系)とよぶ.ここからV1に進む際には,さらに異なる層へ進む.1~6層の層間に微小細胞層(K層:koniocellular層)があり,網膜K細胞から情報を受ける.一部の細胞は青色情報に関与するとされる.またM系に関与するものもある.まだ解明されていないことが多く,研究の進展が期待される2).背側経路と腹側経路視覚に関係する脳の部位は30以上とされる.なかでも重要な役割を担うV1~5についておおよその位置を図2に示す.脳を左側から見ている.Vはvisualarea表1視覚情報処理の2つの経路の頭文字である.V1は後頭葉第一次視覚野,V2はV1の周辺に位置する.V3,V4は機能によって細区分されるが,実験方法や種によって差があり,議論が分かれるため詳細には触れない.V5はMT(middletemporalarea)ともよばれる.最初にこの部位について報告した研究者の用語MTがよく使われる.①背側経路(dorsalstream):Paから始まる情報の流れを→で示す.・Pa→外側膝状体の1,2層→V1→V2→V3→V5/MT→後頭頂葉(PPcortex:postparietalcortex)三次元空間での位置や動きをとらえるのに必要な経路である.ほぼM系の情報を伝える.②腹側経路(ventralstream):Pb細胞からの情報の流れを.で示す.・Pb.外側膝状体の3~6層.V1.V2.V4.下側頭葉(ITcortex:inferotemporalcortex)物の形や輪郭,色をとらえるのに必要な経路である.V1でK系情報が合流し,P系に一部M・K系情報を合せもつ.表1に背側経路と腹側経路の特徴を対比させる.脳のある部位では網膜からの情報は並列処理され,別の部位では2つが合流して情報統合や相互補完がなされ,効率良く処理される形になっている.これらの発見は視覚情報処理のやり方を明らかにしただけでなく,脳の研究全体に大きな示唆を与えた.文献1)福田淳・佐藤宏道:外側膝状体における情報処理.脳と視覚─何をどう見るか.p114-134,共立出版,20022)CasagrandeV,IchidaJ:ProcessingintheLateralGenicu-lateNucleus(LGN).Adler’sPhysiologyoftheEye11thed(editedbyKaufmanPL,AlmA),p574-585,Elsevier,2011400あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017(94)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 166.強膜バックリング手術習得のコツ(その1)双眼倒像鏡による眼底検査(初級編)

2017年3月31日 金曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載166166強膜バックリング手術習得のコツ(その1)双眼倒像鏡による眼底検査(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに近年,裂孔原性網膜.離(rhegmatogenousretinaldetachment:RRD)に対する硝子体手術(parsplanavitrectomy:PPV)の適応が拡大されたため,強膜バックリング手術(scleralbucklingprocedure:SBP)に熟達していない術者が増加している.RRDの手術成績を向上させるためには,SBPとPPVの両者において確実な技量を有していることが必須である.今回から5回連続でSBPを習得するコツを述べる.●双眼倒像鏡による眼底検査の重要性SBPの習得には双眼倒像鏡による眼底検査が必須である.双眼倒像鏡の利点としては,立体視ができる,片手があいているので強膜圧迫による眼底最周辺部の観察が可能である,経強膜冷凍凝固が術者のコントロール下に施行できる,などがあげられる.とくに鋸状縁断裂,毛様体扁平部裂孔,毛様体皺襞部裂孔などは,双眼倒像鏡でないと観察できない.RRDとは関係はないが,未熟児網膜症の診察や,頭部の固定が困難な幼児の眼底検査の際にも双眼倒像鏡は威力を発揮する.●仰臥位での双眼倒像鏡による眼底検査に慣れる筆者が若い先生にSBPの指導をしているときにいつも感じることだが,普段立位ばかりで眼底検査をしていると,仰臥位での眼底検査を円滑に行えないことが多い.そのため,経強膜冷凍凝固時に強膜を過度に圧迫したり,プローブの腹で強膜を圧迫し,目的としない部位に冷凍凝固斑を出してしまうことがある(図1a,b).また,これが円滑にできないと,裂孔の位置決めも不確実となり,結局はバックルの置き直しなどで手術時間が長くなる.●豚眼を使用した双眼倒像鏡による眼底検査の練習強膜圧迫による眼底検査に習熟していない先生には,豚眼を利用した双眼倒像鏡による眼底検査を一度経験さa図1異所性冷凍凝固仰臥位の双眼倒像鏡に慣れていないため,冷凍凝固のプローブの腹で強膜を圧迫し(a)(文献1より引用),裂孔より後極に冷凍凝固斑を生じている(b).図2豚眼を使用した双眼倒像鏡による強膜圧迫鋸状縁から毛様体が観察できる.(文献1より引用)図3豚眼を使用した経強膜冷凍凝固冷凍凝固のコツをつかむのに有用である.(文献1より引用)れることをお薦めする.このシミュレーションにより,鋸状縁から毛様体の観察(図2)のコツをつかむことができる1).また,経強膜冷凍凝固の練習も可能である(図3).文献1)池田恒彦:強膜バックリング手術のウェットラボ.日本の眼科86:160-164,2015(91)あたらしい眼科Vol.34,No.3,20173970910-1810/17/\100/頁/JCOPY