●連載207監修=岩田和雄山本哲也207.網膜神経節細胞保護と軸索再生野呂隆彦東京慈恵会医科大学眼科学教室東京都医学総合研究所視覚病態プロジェクトC緑内障治療においては,既存の眼圧下降療法に加えて,神経保護作用を有する治療法の確立が望まれている.Spermidineは強い抗酸化作用をもつポリアミンの一種で,内因性フリーラジカル・スカベンジャーとして作用する.そこで,視神経挫滅モデルマウスにおいてCspermidine投与の影響を調べたので紹介する.C●緑内障における神経保護治療緑内障や視神経変性においては,網膜神経節細胞(retinalCganglionCcell:RGC)の保護が重要なポイントである.とくに緑内障においては,眼圧降下が得られても病期が進行する症例が治療上の課題となっており,既存の眼圧下降治療に加えて,新たに神経保護治療の確立が期待されている.しかし,新薬の開発には莫大な資金や長い歳月が必要となることから,緑内障のような慢性疾患では日頃の食事によって進行予防ができれば理想的である.視神経挫滅(opticnerveinjury:ONI)モデルは眼圧が上昇せずにCRGC死を誘発することから,正常眼圧緑内障や外傷性視神経症のモデルとして活用されている.本モデルでは,緑内障の基本病態である視神経軸索の変性を挫滅で模倣し,軸索流のうっ滞を起こしてアポトーシス経路を起動させることにより,細胞死が誘導される0day14dayspermidinecontrolと考えられている.そこで筆者らは,ONIモデルマウスにCspermidineを飲み水に混ぜて毎日経口的に投与し,RGCの保護効果を調べる実験を行った1).C●Spermidineの網膜,視神経に対する作用Spermidineはポリアミンの一種で,通常はおもに脳や網膜内のグリア細胞に蓄積されている.内因性フリーラジカル・スカベンジャーとして作用し,強い抗酸化作用をもつが2),加齢とともに減少することが知られている.また,その抗酸化作用により酵母やハエ,ミミズなどの下等動物では寿命を延ばす効果が報告されており,近年では心血管系への保護効果で注目を集めている3).郭らは多発性硬化症モデルマウスにおいてCspermidineのCRGC保護効果を確認している4).筆者らの検討では,spermidine投与によりCONI後のCRGC死を抑制可能であることがわかった(図1).C●ASK1.p38pathwayと酸化ストレスヒトでは,房水中の酸化ストレスと緑内障との関連が示唆されている5).ASK1-p38Cpathwayは酸化ストレabONIONInormalcontrolspermidinenormalcontrolspermidinephospho-ASK1phospho-p38totalASK1totalp38phospho/total(fold)ASK1p388***6**420normalcontrolspermidinenormalcontrolspermidineONIONI図2SpermidineによるASK1.p38pathwayの活性化抑制効果a:視神経挫滅(ONI)後の網膜におけるCASK1-p38Cpathwayの活性に及ぼすCspermidineの効果.Cb:aにおけるCphospho-ASK1およびCphospho-p38発現量の定量的解析.*p<0.05,**p<0.01.(文献C1より改変)(71)あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017C12830910-1810/17/\100/頁/JCOPY図1Spermidineが視神経挫滅(ONI)後の網膜視神経節細胞(RGC)数と網膜内層厚に与える効果ONI後C14日における網膜切片のCHE染色.Spermidine投与群ではCRGC数と網膜内層厚の減少が有意に抑制された.GCL:ganglioncelllayer(神経節細胞層).(文献C1より改変)C図3網膜ミクログリアにおけるiNOSの発現iba1(緑)とCiNOS(赤)の二重染色像.二重染色された細胞()はCiNOSを産生する活性化ミクログリアを示す.ONI後には活性化ミクログリアが大きく増加したが(中段),spermidine投与群では細胞数が抑制されていた(下段).GCL:ganglioncellspermidinecontrol軸索再生layer(神経節細胞層),INL:innerCnuclearClayer(内顆粒層),ONL:outerCnuclearClayer(外顆粒層).スケールバーは100Cμmを示す.(文献C1より改変)スや小胞体ストレスのような種々のストレス応答として活性化され,Alzheimer病や多発性硬化症などのアポトーシスに関与している.Spermidineの投与は,ONIによるCASK1-p38Cpathwayの活性化を,おもにCRGCにおいて抑制することがわかった(図2).C●ミクログリアにおける効果ミクログリアは障害によって活性化し,神経細胞死を誘導するCTNF-a,反応性酸化種,酸化窒素,プロテアーゼなどの細胞毒性物質を産生する.これらのプロセスは緑内障やCAlzheimer病を含むさまざまな神経変性疾患に関与するとされている.ONI後にはCMCP-1やRANTESなどのミクログリアの遊走に必要なケモカインの産生が網膜で上昇するが,これらはCspermidine投与によって抑制された.また,ONI後に観察される誘発性CiNOSを発現するミクログリアの細胞数もCspermiC-dineによって大きく抑制されており,併せて神経保護効果につながったと考えられる(図3).C●食生活からのspermidine摂取と神経軸索再生Spermidine投与におけるCRGCの再生軸索数を,ONI後に眼球内に投与した色素であるCCTBの陽性線維数を指標として,ONI後C14日目にCinCvivoで検討した.その結果,再生軸索数は有意に増加したが,長さに関しての再生効果は限定的であった(図4).Spermidineは多くの食品に含まれる天然成分であり,大豆(とくに納豆),茶葉,マッシュルームなどに高レ1284あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017図4Spermidineによる視神経軸索再生効果の検討視神経挫滅(ONI)後C14日における視神経軸索の切片(長軸方向).Spermidine投与群では挫滅部位(*)から伸びたCCTB陽性の再生線維()が観察された.(文献C1より改変)Cベルで含まれることが知られている.よって,食品を意識的に選択することによってCspermidineの血中濃度を上げ,有益な効果を享受することができるかもしれない.しかし,高濃度のCspermidineは逆に神経障害的に働くとの報告もあることから,緑内障などの治療候補とする場合は,適切な血中濃度の検討など,投与量の評価が今後の課題である.ONIモデル研究により,spermidineはCRGC保護効果を発揮するだけでなく,軸索再生効果を有することがわかった.文献1)NoroCT,CNamekataCK,CKimuraCACetCal:SpermidineCpro-motesretinalganglioncellsurvivalandopticnerveregen-erationCinCadultCmiceCfollowingCopticCnerveCinjury.CCellCDeathandDiseaseC6:e1720,C20152)LaubeCG,CVehCRW:Astrocytes,CnotCneurons,CshowCmostCprominentstainingforspermidine/spermine-likeimmuno-reactivityinadultratbrain.GliaC19:171-179,C19973)EisenbergCT,CAbdellatifCM,CSchroederCSCetCal:Cardiopro-tectionCandClifespanCextensionCbyCtheCnaturalCpolyamineCspermidine.NatMedC22:1428-1438,C20164)GuoCX,CHaradaCC,CNamekataCKCetCal:SpermidineCallevi-atesseverityofmurineexperimentalautoimmuneenceph-alomyelitis.CInvestCOphthalmolCVisCSciC52:2696-2703,C20115)GoyalCA,CSrivastavaCA,CSihotaCRCetCal:EvaluationCofCoxi-dativestressmarkersinaqueoushumorofprimaryopenangleCglaucomaCandCprimaryCangleCclosureCglaucomaCpatients.CurrEyeRes39:823-829,C2014C(72)