OCTと光干渉断層血管撮影OCTandOCTangiography丸子一朗*飯田知弘*はじめに光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyangiography:OCTA)は眼底イメージング分野において近年その話題を独占しており,学会でも注目されている.この技術はその名の通り,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の技術,つまり,網膜に赤外光を当てて網膜内組織の反射の違いから網膜各層を描出する方法を用いて,網脈絡膜の血管をあたかも蛍光眼底造影を行ったかのように描出することを可能にした.もちろんOCTなので造影剤は必要なく,非侵襲的に検査を行うことができる.一方で,現行のOCTAにはさまざまな問題もある.本稿ではOCTを初期から使い続けている医師側の立場から,OCTAに至るまでの変遷と現状について解説する.IタイムドメインOCT(TD.OCT)後眼部用のOCTは1996年に商品化され,以降その有用性からさまざまな黄斑疾患の病態が明らかになった.1997年には日本にも導入されるようになり,日本からもたくさんの報告がなされた.初期のOCTは第一世代(図1)とよべるもので,単純にいえば,照射した光の最大反射強度を1本1本測定し,それを断層像として描出するのみ〔タイムドメイン(timedomain:TD)方式〕であり,1枚の断層像を作るためには光源(実際には参照ミラー)を移動させながら何本もの光照射を行うことから,約1秒のスキャンが必要であった.実際の画像も黄斑部陥凹や円孔の有無,網膜全層の形態や厚みを評価することは可能であったが,網膜の層別解析は困難であった.その後,2000年代に入り検出機器の性能向上により網膜の各層が評価可能となり,視機能に直結するとされる網膜外層における網膜視細胞内節外節境界(innerandoutersegment:IS/OS)と呼称された1本のラインの存在がクローズアップされることとなった(第二世代,図2).IIスペクトラルドメインOCT(SD.OCT)2006年にはそれまでのTD方式からスペクトラルドメイン(spectraldomain:SD)方式が採用された.照射光から発した光の対象物からの反射を分光器にかけ,波長変化を検出することで1本の照射から得られる情報が増し,より高速な網膜スキャンを可能にした.さらに同じ部位を複数回スキャンし,得られた複数枚の断層像を加算平均処理することでノイズを減少させ,さらなる高解像度な画像を取得できるようになった.つまり機器性能そのものの向上だけでなく,得られた画像データの解析法も改善されたことで,数十倍の高速化・高解像度化が進んだ(第三世代,図2).その結果,上述したIS/OSラインのさらに後方に,もう1本のラインの存在(3rdライン)が確認されることとなった.さらにスキャンそのもののスピードが高速化したことで,同じ場所だけでなく,ある一定の範囲を3D(volume)*IchiroMaruko&*TomohiroIida:東京女子医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕丸子一朗:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学眼科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(3)761図1第一世代光干渉断層計(OCT)a:正常眼.中心窩陥凹が観察できる.b:黄斑円孔.黄斑部網膜の裂隙と浮腫が確認できる.第二世代黄斑円孔a:第二世代,正常.Ellipsoidzone(IS/OS)がなんとか判別できる.網膜色素上皮が少し波打っているが,これは撮影時にわずかに動いたことによる.b:第三世代(SD-OCT),正常.aと同一症例.Ellipsoidzone(IS/OS)だけでなく,外境界膜も確認できる.網膜色素上皮に不整はない.c:第二世代,黄斑円孔.網膜内層外層の浮腫が確認できるが,硝子体ははっきりしない.d:第三世代(SD-OCT),黄斑円孔.cと同一症例.浮腫が鮮明に描出され,硝子体も確認できる.*どれも厚みと縮尺が同じになるようにサイズ調整済み.図3SD.OCTとSS.OCTの比較a:SD-OCT.ellipsoidzone,interdigitatioinzoneのいずれも鮮明に描出されている.b:EDIモードで撮影.脈絡膜強膜境界が通常の撮影より鮮明である.その分ellipsoidzone,interdigitatioinzoneがやや不鮮明になっている.c:SS-OCT.ellipsoidzone,interdigitatioinzone,脈絡膜のいずれもが鮮明に描出されている.ab図4EnfaceOCT(同一症例の右眼〔左列〕および左眼〔右列〕)a:水平断.左:黄斑円孔,右:正常.b:水平断の白点線におけるスライス,中心窩の描出はよいが,眼球の湾曲のため,その周囲ははっきりしない.c:網膜色素上皮(PRE)ラインで平坦化後の黄色点線におけるen-face画像.中心窩付近だけでなくその周囲も鮮明に描出される.右下では脈絡膜中大血管が描出されている.VIIOCTangiography(OCTA)これまでのOCTは網脈絡膜の形態を評価するものであって,血流のような動的な変化を観察するものではなく,この点においてフルオレセイン蛍光造影(.uore-sceinangiography:FA)やIAとはまったく別の検査であった.近年急速に普及してきているOCTAはOCTで血流という動的変化をとらえることができる検査である.簡単な原理として,OCTAは連続的に網脈絡膜のOCT撮影を繰り返すことで得られる複数枚の画像の間にある変化(位相変化または信号強度変化,もしくはその両者)を血流情報として抽出し,それ以外の変化のなかった部位の情報を削除することで,動的変化の部位として血管像を構築し,FAやIA画像のように表示することができる.さらに得られた画像を,先述のenface画像作成の技術を応用して,血流情報を三次元的に解析し,網膜から脈絡膜の血管を深さ別にenface画像として描出することで,これまでのFA・IAとは異なり層別解析が可能となっている.得られた画像はFA・IAとは異なるが,病変の検出は同等である一方,検査時間が短く副作用がない利点が報告されている10).また,現時点ではSD-OCTにangiography機能を付加した装置が主流だが,一部ではSS方式を採用しているものもある.OCTAにおけるSD-OCTとSS-OCTの違いについては今後の検討を待つ必要がある.VIIIOCTangiographyで見えるもの詳細については別項に譲るが,現時点でOCTAで有効性が期待できるものとして,次のようなものがある.1.無灌流領域(図5a)糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症などで生じる無灌流領域はFAよりも鮮明に描出される.ただし,現行機種では描出範囲が限定されており,眼底周辺部まで描出するのは困難である.また,OCTを応用したものであることから,OCTの光が届かない出血や浮腫,漿液性網膜.離より後方の変化は,真の画像ではない可能性があり,注意する必要がある.2.網膜新生血管(図5b)とくに糖尿病網膜症における視神経乳頭上の新生血管や無灌流領域の後極部側にみられる.無灌流領域と同様OCTAはまだ画角が狭いため,周辺部の新生血管は描出困難である.3.脈絡膜新生血管(図5c,d)滲出型加齢黄斑変性や近視性黄斑症などの新生血管描出がもっとも期待されている.ただし,網膜色素上皮上に新生血管のあるいわゆるtype2の描出は良好だが,網膜色素上皮下の病変の検出力はそれほど高くないとの報告もあり,注意が必要である.また,加齢黄斑変性症例は固視不良例が多く,鮮明な画像が得られないことが多い.4.中心窩無血管域(図5e,f)FAでは早期像でしか確認できない中心窩無血管域(fovealavascularzone:FAZ)が鮮明に描出できる.FAZの大きさによる病的な意義ははっきりしていないが,糖尿病症例では単純網膜症やそれ以前のまだ網膜症がない症例でもFAZが拡大しているとの報告もある11).IXOCTangiographyの限界基本原理上または技術上,OCTAには簡単には解決できない限界が存在する.上記ではFA・IAと同じまたはそれ以上の画像が得られると述べたが,実際には次のように検出できないものもある.1.画角が狭いFA・IAと比較して,現行のOCTAでは3mm×3mmや6mm×6mm程度と範囲が狭い.これはスキャンそのものやその後の解析スピードの問題で,今後解決されると思われる.2.蛍光漏出・蛍光貯留が検出できないOCTAでは基本的に赤血球の動きを検出しているため,血漿成分の動きは描出できない.蛍光漏出や蛍光貯留は病変の活動性を示す重要な所見であり,たとえば糖尿病網膜症の毛細血管瘤の漏出や,中心性漿液性脈絡網(7)あたらしい眼科Vol.34,No.6,2017765図5OCTangiographyで期待されている画像a:網膜静脈分枝閉塞症例の黄斑部パノラマ画像.b:増殖糖尿病網膜症における視神経乳頭上の網膜新生血管.c:脈絡膜新生血管.網膜外層および脈絡膜血管層に新生血管がみられる.d:中心窩無血管域.e:40歳代の正常眼,f:60歳代の糖尿病網膜症例.図6Motionartifacta:網膜血管のダブリング.撮影時のわずかな動きにより網膜血管が二重に映り込むこと.b:キルティング.水平および垂直スキャン位置合わせを行うことによって起こるアーチファクト.図7Blockinge.ect黄斑部耳側に低輝度所見がみられるが,網膜表層,網膜深層,網膜外層および脈絡膜血管層のすべてに写っていることからアーチファクトだとわかる.この症例では硝子体混濁が存在していた.ab図8Segmentationerrora:OCTangiography.耳側1/4が描出されていない.b:水平断.耳側が撮影範囲からズレておりsegmentationができていない.図9Projectionartifactドルーゼンが多発している症例で網膜外層および脈絡膜血管層に脈絡膜新生血管はみられないが,脈絡膜血管層に網膜血管が写り込んでいる.ここまで映り込むことは稀であるが,本症例では網膜色素上皮不整により,segmentationも困難なため生じたと考えられる.図10Transmissione.ect黄斑部に網膜色素上皮萎縮があり,OCTAでは萎縮部位でのみ脈絡膜血管が白色に描出されている.-