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写真:抗癌剤治療中にみられた角膜上皮障害

2017年4月30日 日曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦吉川大和395.抗癌剤治療中にみられた大阪医科大学眼科,京都府立医科大学眼科角膜上皮障害横井則彦京都府立医科大学眼科図2図1のシェーマ①角膜に侵入した異型上皮②点状表層角膜症図1ナブパクリタキセルとトラスツマブ併用療法中1年3カ月目角膜上方から異型上皮の侵入が認められる.図3ナブパクリタキセル中止後1年目角膜上方からの異型上皮の侵入は改善した.図4トラスツマブ・エムタンシン継続投与中1年2カ月目角膜上方から異型上皮の侵入が再び認められている.(53)あたらしい眼科Vol.34,No.4,20175130910-1810/17/\100/頁/JCOPY抗癌剤の投与中にみられる角膜上皮障害については報告が散見され,日常診療でも遭遇する可能性がある.TS-1による角膜上皮障害はよく知られている1)が,他に,上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬であるエルロチニブ(タルセバR)や,抗PD-1抗体であるニボルマブ(オブジーボR)の投与中に角膜上皮欠損を生じた報告がある2,3).今回経験した症例は47歳,女性で,乳癌に対してトラスツマブ(ハーセプチンR)に加えて各種の抗癌剤による化学療法が行われていた.2011年5月よりナブパクリタキセル(アブラキサンR)とトラスツマブの併用療法が開始され,約1カ月経過したところで両眼の乾燥感を自覚し,近医で治療されたが十分な効果が得られず,同年8月,京都府立医科大学附属病院を紹介受診した.受診時,角膜上方からの異型上皮の侵入を認め(図1),人工涙液の頻回点眼(6~10回/日)で治療したが十分な効果が得られず,2012年9月にナブパクリタキセルを中止してから徐々に改善しはじめ,2013年8月にトラスツマブも中止したところ,同年9月には角膜に侵入した異型上皮はわずかとなり(図2),自覚症状も改善した.その後,抗癌剤の変更が何度か行われ,トラスツマブも再開されたが,トラスツマブは,他の抗癌剤との併用で異型上皮の侵入を引き起こさなかった.2015年7月よりトラスツマブ・エムタンシン(カドサイラR)が開始されたが,その開始後4カ月で右眼に涙道閉塞が生じ,涙管チューブ挿入術が施行された.そして,その8カ月後,再び角膜上方からの異型上皮の侵入を認めた(図3).ナブパクリタキセルは微小管の蛋白重合を促進し脱重合を防ぐことで抗腫瘍効果を発揮するタキサン系薬剤であり,トラスツマブは癌遺伝子であるヒト上皮成長因子受容体2型(HER2)を標的とする分子標的薬である.また,トラスツマブ・エムタンシンはトラスツマブに抗癌剤を結合させた抗体薬物複合体として,2014年に上市された薬剤であり,腫瘍選択的に抗腫瘍効果を発揮するとされる.ナブパクリタキセルとトラスツマブの併用療法によって角膜に異型上皮の侵入が生じうることは,細谷ら4)によって,トラスツマブ・エムタンシンによる角膜上皮障害は,Tsudaら5)によって報告されている.HER2は乳癌細胞のみならず角膜上皮細胞にも発現しており,その構造は,角膜上皮の増殖,遊走,分化に重要な役割を担っている上皮成長因子(EGF)の受容体であるEGFRに類似している.また,上皮の創傷治癒に対するEGFの作用は,微小管およびマイクロフィラメントの重合に関係するとの報告がある6).本症例では,HER2分子標的治療薬であるトラスツマブと他の抗癌剤との併用では角膜上皮に異常を生じなかったが,トラツシマブとナブパクリタキセルとの併用治療時,あるいは,トラツシマブ・エムタンシンによる治療時には,既報のごとくに角膜上皮に異常を生じており,これらの薬剤が,EGFRを介して角膜上皮の維持機構に影響を与えた結果,異型上皮の侵入を引き起こしたのではないかと考えられる.本症例のように抗癌剤治療中に生じた角膜上皮の異常は,他の化学療法においてもみられる可能性がある.癌治療中であることは,患者自身からは言い出しにくい面もあり,難治性の角膜上皮障害をみたら,一度は抗癌剤治療の有無を尋ねてみる必要があると思われる.文献1)伊藤正,田中敦子:経口抗がん剤S-1による角膜障害の3例.日眼会誌110:919-923,20062)JohnsonKS,LevinF,ChuDS:Persistentcornealepitheli-aldefectassociatedwitherlotinibtreatment.Cornea28:706-707,20093)NguyenAT,EliaM,MaterinMAetal:Cyclosporinefordryeyeassociatedwithnivolumab:Acaseprogressingtocornealperforation.Cornea35:399-401,20164)細谷友雅,森松孝亘,田片将士ほか:乳癌に対するnab-paclitaxel投与が原因と考えられた角膜障害の1例.日眼会誌120:449-453,20165)TsudaM,TakanoY,ShigeyasuCetal:Abnormalcorneallesionsinducedbytrastuzumabemtansine:Anantibody-drugconjugateforbreastcancer.Cornea35:1378-1380,20166)NakamuraM,MishimaH,NishidaTetal:RequirementofmicrotubuleassemblyforinitiationofEGF-stimulatedcornealepithelialmigration.JpnJOphthalmol35:377-385,1991

これからの非感染性ぶどう膜炎の治療戦略

2017年4月30日 日曜日

これからの非感染性ぶどう膜炎の治療戦略TherapeuticStrategiesforNon-InfectiousUveitisintheFuture蕪城俊克*はじめに2016年9月にアダリムマブ(ヒュミラR)が非感染性Iぶどう膜炎の治療の原則の中間部,後部,または汎ぶどう膜炎に対して保険適用ぶどう膜炎の治療には,いくつかの原則があると考えとなった.これにより,2007年に難治性Behcet病ぶどる(表1).う膜炎に対して保険適用となっていたインフリキシマブ一つめは「ぶどう膜炎には,非感染性,感染性,仮面(レミケードR)と合わせて,ぶどう膜炎疾患に対する生症候群があり,これらを誤診しないように鑑別診断を可物学的製剤の保険適用が2剤となった.インフリキシマ能な限り行ってから本格的な治療を開始する」である.ブはBehcet病だけでの保険適用であったのに対し,アとくに感染性ぶどう膜炎を非感染性と誤ってステロイドダリムマブは非感染性の中間部,後部,または汎ぶどう薬のみで治療すると,病原体が死滅せず,眼内の炎症が膜炎が対象であることから,生物学的製剤の適用となり遷延することになりやすい.感染性ぶどう膜炎では消炎うる患者層は大きく広がったといえる.また,Behcet治療だけでなく,病原体に対する抗菌薬(抗ウイルス薬)病患者に対しては2剤の薬剤をどのように使い分けるべを併用するのが原則である.きかなど,新たな疑問点が生じてきている.本稿では,二つめは「可能な限り局所投与で」である.ステロイこれらの点を交えて,これからの非感染性ぶどう膜炎のド内服などの全身治療では全身へのさまざまな副作用が治療戦略について私見を述べる.問題となる.糖尿病や癌などの全身疾患を有する患者ではなおさらである(表2).ステロイド点眼や結膜下注表1ぶどう膜炎の治療の原則原則1ぶどう膜炎には,非感染性,感染性,仮面症候群があり,これらを誤診しないように鑑別診断を可能な限り行ってから本格的な治療を開始する.その理由感染性ぶどう膜炎を非感染性と誤ってステロイド薬のみで治療すると病原体が死滅せず,眼内の炎症が遷延することになりやすいから.原則2可能な限り局所投与で.その理由ステロイド内服などの全身治療では全身へのさまざまな副作用が問題となるから.原則3診断病名に合った治療を.その理由同じ非感染性ぶどう膜炎でも,Behcet病,サルコイドーシス,Vogt-小柳-原田病では推奨される治療は大きく異なるから.*ToshikatsuKaburaki:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学〔別刷請求先〕蕪城俊克:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(45)505表2全身投与で治療すべき症例,局所治療で治療すべき症例全身投与で治療すべき症例活動性の高い後眼部(網膜,視神経,硝子体混濁)炎症局所療法に抵抗性局所療法が使いにくい症例(感染性を否定できない,ステロイド・レスポンダーなど)可能な限り局所治療で治療すべき症例糖尿病消化性潰瘍のある症例全身的な感染症のある症例(真菌,結核など)担癌患者高齢者精神病(うつ病)心不全図1おもな非感染性ぶどう膜炎に推奨される治療同じ非感染性ぶどう膜炎でも,とくに全身投薬に関しては原因疾患によって推奨される薬剤が大きく異なる.まず局所治療(点眼,デキサメタゾン結膜下注射)で治療開始*血液検査,胸部X線撮影,ツベルクリン反応,前房水採取などで鑑別診断を行う非感染性ぶどう膜炎(感染性ではない)と判断後部または汎ぶどう膜炎である前部または中間部ぶどう膜炎である炎症が非常に強い炎症がさほどではないBehcetVogt-小柳-原田病サルコイドーシス,病と診断と診断その他,診断不能例図2非感染性ぶどう膜炎の初期治療のフローチャートまず局所治療から開始し,鑑別診断を進める.ぶどう膜炎が前部・中間部ぶどう膜炎か,後部・汎ぶどう膜炎かによって治療の考え方は異なってくる.後者では,網膜・視神経病変の活動性が高く視機能が脅かされる場合には,ステロイド内服などの全身治療が推奨される.また,原因疾患がBehcet病か,Vogt-小柳-原田病か,その他のぶどう膜炎であるかによっても,全身治療薬の選択が大きく異なってくる.ルメトロンR)などがあるが,フルオロメトロンは前房内に到達しないとされており,消炎効果は期待できない.ステロイド点眼でも2.3割の患者が眼圧上昇を起こす(ステロイド・レスポンダー)ため,点眼薬の濃度変更(0.01%)や薬剤変更(フルオロメトロン,非ステロイド系消炎薬点眼)を検討する.眼内の炎症所見がごく軽度で,患者の自覚が乏しければ,無治療で経過観察したほうがよいことも多い.治療によるメリットとデメリットを考えたうえで治療を行う必要がある.ステロイド薬の局所注射には,デキサメタゾン(デカドロンR),トリアムシノロン(ケナコルトR)がある.前者は有効期間が短い(1.2日程度)が,眼圧上昇は起こしにくい.一方,後者は1回の注射で約3カ月間有効であるが,眼圧上昇を起こしやすいので眼圧上昇歴のない患者を選んで行う.投与方法としては,結膜下注射と後部Tenon.下注射がある.黄斑浮腫など後極部網膜の炎症に対しては後者がよく用いられる.トリアムシノロンは懸濁製剤のため作用時間が長く便利である一方,感染性ぶどう膜炎に使用すると感染を増悪させる危険性がある.とくにトキソプラズマ網膜症と急性網膜壊死の可能性がある症例では,トリアムシノロンの眼球周囲注射は避けたほうがよい.数日.1週間経過をみれば,急性網膜壊死の場合は網膜滲出病巣が拡大することでその可能性が高いとわかかり,またトキソプラズマ網膜症の場合もトキソプラズマ抗体価検査の結果が返ってくる.したがって,これらの可能性が残る症例では,来院早期のトリアムシノロン眼球周囲注射は避け,消炎がどうしても必要な場合にはステロイド内服を選択したほうがよい.また,眼内悪性リンパ腫疑いの患者にステロイド局所注射や内服を行うと,細胞診でのリンパ腫の検出感度が下がると考えられている.可能な限り治療を行わずに硝子体生検を行うことが望ましい.2.全身治療ぶどう膜炎に対し全身治療を積極的に用いる理由としては,①点眼や局所投与では効果が不十分で,十分な薬物濃度を眼底に到達させたい場合,②拒絶反応や自己免疫疾患などの異常な免疫反応を抑えたい場合,③投与をいつでも中止できるから,の三つがあると考える.③は感染性ぶどう膜炎の可能性があるぶどう膜炎症例にステロイドを使用する場合が当てはまる.感染性ぶどう膜炎ではステロイド単独治療により病原体を増殖させて病状を悪化させるため,ステロイド薬の中止が必要となることが起こりうる.トリアムシノロン・Tenon.下注射ではステロイド薬が眼球後部に注入され取り出すことができなくなり長期間(約3カ月間)作用してしまうため,ステロイド内服を用いたほうが無難である.サルコイドーシスぶどう膜炎およびその他の非感染性ぶどう膜炎では,網膜・視神経病変の活動性が高く視機能が脅かされる場合には,ステロイド内服治療が推奨される2).ステロイド内服治療での投与量は,通常プレドニゾロン(プレドニンR)を基準に考え,患者の体重から初期投与量を決める.眼底への十分な消炎効果や異常な免疫反応の抑制を期待するならば,プレドニゾロン0.5mg/kg/日以上で開始する.プレドニゾロンで40.60mg/日を超えると胃腸障害の危険性が大きいため,60mg/日を超える場合は点滴投与とする.プレドニゾロン40mg/日以上の投与は高齢者では感染のリスクが高まるため入院投与が望ましい.Vogt-小柳-原田病や視神経炎,重篤な壊死性強膜炎などではステロイドパルス療法とステロイド大量漸減療法が行われる.ステロイドパルス療法は,メチルプレドニゾロン(ソルメドロールR)500mgまたは1,000mgという大量のステロイド薬を3日間連続で点滴投与することで,急速な消炎や異常な免疫反応の抑制を試みる治療法である.通常,ブドウ糖液250.500ml(生理食塩水でも可)に溶解して1.2時間かけて点滴で静注する.3日間の点滴終了後には引き続いてステロイド内服治療を継続することが多い4).一方,Behcet病では眼底型の眼発作を起こした場合,次の眼発作を抑制するための継続治療(眼発作抑制療法)を行ったほうがよく,通常コルヒチン内服(1mg/日,0.5mg錠を2錠,分2)で開始して,眼発作頻度が低下するかを観察する5).III全身治療でも再燃を繰り返す症例への対応全身治療を行うことで,ほとんどの症例では眼内炎症を鎮静化させることが可能である.しかし,ステロイド508あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017(48)表3ぶどう膜炎に用いられるステロイド薬以外の免疫抑制薬およびTNF阻害薬シクロスポリンネオーラルR内服3.5mg/kg/日Behcet病,非感染性Behcet病,難治性非感染ぶどう膜炎性ぶどう膜炎メトトレキサートメソトレキセートR内服(大人)6.16mg/週,(小児)小児のぶどう膜炎,関節リウマチ,若年性特4.10mg/m,2/週サルコイドーシス?発性関節炎ミコフェノール酸セルセプトR内服500.3,000mg/日難治性強膜炎腎・心・肝臓移植後モフェチルアザチオプリンイムランR内服50.100mg(1.2mg/kg)/日Behcet病?全身性血管炎,難治性リウマチ性疾患シクロフォスファエンドキサンR内服,点滴内服:50.1,00mg/日,パル壊死性強膜炎血管炎を伴う治療抵抗性ミドス療法:500.1,000mg/m2(Wegener肉芽腫など)難治性リウマチ性疾患(4週毎)タクロリムスプログラフR内服0.12.0.3mg/kg/日Behcet病,原田病?臓器移植後,骨髄移植後インフリキシマブレミケードR点滴5mg/kg/回,0週目,2週目,Behcet病難治性Behcet病網膜ぶ6週目,以降8週毎どう膜炎アダリムマブヒュミラR皮下注射初回80mg,2回目(1週間後)非感染性ぶどう膜炎非感染性の中間部,後部,40mg,以降2週毎に40mg汎ぶどう膜炎(難治例)全身治療(Behcet病ではコルヒチン(シクロスポリン),その他のぶどう膜炎ではステロイド内服)を行っても,中間部,後部,または汎ぶどう膜炎が再燃する.減量すると再燃を繰り返す感染性ぶどう膜炎の可能性を再検討し,非感染性ぶどう膜炎(感染性ではない)と判断後部または汎ぶどう膜炎である重症例・視力が脅か重症例・視力が脅かサルコイドーシス,されている症例されている症例BehcetVogt-小柳-原田病その他,診断不能例病と診断と診断効果不十分な場合効果不十分な場合図3全身治療でも再燃を繰り返す症例への対応のフローチャートまず感染性ぶどう膜炎の可能性がないか再検討を行う.そのうえでBehcet病症例では,コルヒチン内服が効果不十分な場合には,シクロスポリンまたはアザチオプリン,TNF阻害薬へとステップアップを行う.一方,Vogt-小柳-原田病,サルコイドーシスおよびその他の非感染性ぶどう膜炎では,まずステロイド内服を増量して眼内炎症の鎮静化を図り,その後に免疫抑制薬(シクロスポリンなど)あるいはアダリムマブを併用して,ステロイド薬の減量をめざす.

アダリムマブ(ヒュミラ®

2017年4月30日 日曜日

アダリムマブ(ヒュミラR)Adalimumab(HumiraR)鴨居功樹*高瀬博*はじめに非感染性ぶどう膜炎の治療は,従来ステロイド薬,免疫抑制薬が中心であったが,これらの治療に抵抗し視力予後が不良となる症例は数多く存在する.2007年1月,Behcet病による難治性網膜ぶどう膜炎を対象にTNF阻害薬:インフリキシマブ(レミケードR)が認可されたことで,眼科領域における生物学的製剤使用の幕が開いた.2016年9月,眼科領域における第二のTNF阻害薬:アダリムマブ(ヒュミラR)(図1)が非感染性の中間部,後部,または汎ぶどう膜炎の治療薬として適応が認められたことにより,TNF阻害薬の治療対象となる疾患の裾野が大きく広がった.これまでBehcet病に限定されていた生物学的製剤の使用が,アダリムマブの認可を契機に非感染性ぶどう膜炎にも可能となったことで,ぶどう膜炎における今後の治療戦略が大きく変わることが予想される.ITNF.aとは腫瘍壊死因子(tumornecrosisfactor:TNF)-aは,nuclearfactor(NF)-kBなどの転写因子を活性化し,Interleukin(IL)-1,IL-6,IL-8などのサイトカイン産生を誘導する.TNF-aはIL-1と多くの重複する炎症活性をもち,また相乗作用によって接着分子の発現,好中球の遊走と活性化,蛋白分解酵素の産生などを誘導する.図1アダリムマブの実物(ヒュミラシリンジ0.8ml)ぶどう膜炎の発症機序の一つとして,活性化したマクロファージやリンパ球がTNF-aをはじめとする炎症性サイトカインを産生し,その関与によって血液眼関門が障害されることで眼内に炎症が生じるメカニズムが考えられている1).炎症に関与するさまざまなサイトカインのなかで,一つのサイトカイン抑制のみでは炎症を十分抑えるのはむずかしいと想定されていたが,TNF-aを標的に阻害した場合,抗体依存性細胞障害(antibody-dependentcell-mediatedcytotoxicity:ADCC)などの効果もあって,大きな炎症抑制効果が得られることが明らかになってきた.IIアダリムマブとはアダリムマブは,遺伝子工学技術の進歩に伴い開発が可能となった生物学的製剤で,IgG1クラスに属する分子量148,000の完全ヒト型のTNF-aモノクロナール抗体である.ヒト遺伝子よりTNF-aに親和性の高い発現ベクターを人工的に作製し,これをチャイニーズハムス*KojuKamoi&*HiroshiTakase:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕鴨居功樹:〒113-8519東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(39)499IgG1FabIgG1FabIgG1FcIgG1Fcヒト型抗体キメラ型抗体アダリムマブインフリキシマブ図2アダリムマブとインフリキシマブの違いアダリムマブは完全ヒト型モノクローナル抗体.インフリキシマブは抗ヒトTNFリマウスモノクロナール抗体IgG1定常領域をヒトIgG1で置換したキメラ抗体.Fab領域でTNFを捕捉する.1週間2週間2週間2週間初回2回目3回目4回目医療機関で在宅自己注射図3ヒュミラR投与前後の流れ図4補助具(ヒュープラスN)を使用して自己注射している写真注射器が持ちやすく,安定して注射することができ,注射針が一定の深さに入るように設計されている.表1TNF阻害薬における投与禁忌と副作用が発現しやすい患者投与禁忌1.活動性結核を含む重篤な感染症を有する2.NYHA(NewYorkHeartAssociation)分類III度以上のうっ血性心不全3.悪性腫瘍を治療中の患者4.脱髄疾患(多発性硬化症など)およびその既往歴のある患者副作用が発現しやすい患者1.感染症の患者または感染症が疑われる患者2.結核の既感染者あるいは感染歴の疑いのある患者3.B型肝炎ウイルス感染者4.脱髄疾患が疑われる徴候を有する患者,およびその家族歴のある患者5.悪性腫瘍の既往歴あるいは治療歴を有する患者,および前癌病変を有する患者6.先天性あるいは後天性免疫不全症候群,または他の全身性免疫抑制薬治療によって免疫力の低下した患者7.高齢者8.小児9.妊婦,産婦,授乳婦など10.手術患者Visualacuity1OccurrenceofintestinalBehcet’sdisease0.10.012008200920102011201220132014yearTreatmentIn.iximabAdalimumabColchicineOcularattacksFrequencyof9.0times/year1.4times/year0times/yearattacks(6times/8months)*(7times/60months)*(0times/24months)*図5Behcet病患者で2種類のTNF.a阻害薬(インフリキシマブ,アダリムマブ)を使用した症例眼炎症発作回数はコルヒチン使用時に9.0回/年であったが,インフリキシマブに変更すると1.4回/年に減少した.腸管Behcetを発症したことを契機にアダリムマブに変更したところ,眼炎症発作回数は0回/年となった.(文献5より許可を得て転載)表2TNF阻害薬の治療開始前チェックリストインフォームドコンセント・問診□パンフレット説明・同意□腫瘍の既往□心不全の既往□感染症の既往□結核患者との接触歴□妊娠の有無・挙児希望の有無治療前スクリーニング検査血液・尿一般□WBC□リンパ球数□CRP□KL-6(MTX併用時に必須)□抗核抗体□尿一般感染症検査□HBs抗原□HBs抗体□HBc抗体□HCV抗体□HIV抗体□血中b-D-グルカン□梅毒(RPR,TPHA)結核検査□ツベルクリン反応□インターフェロン-g遊離試験(クオンティフェロンRTBゴールド,TスポットRTBなど)□胸部X線,胸部CT内科医との連携□投与開始前受診図6図5の症例の眼底写真とフルオレセイン蛍光造影a:コルヒチン使用時.b:インフリキシマブ投与時.c:アダリムマブ投与時.(文献5より許可を得て転載)患者について列記し(表1),また治療開始前チェックリスト(表2)も掲載されているので参照されたい.VIIアダリムマブの使用例ここで,アダリムマブによって眼炎症発作の抑制効果がみられ,安全性に問題がなかった自験例を提示する5).81歳,男性.Behcet患に長年罹患しており,左眼は眼炎症発作を繰り返し50代で失明.右眼はベタメタゾン点眼でコントロールできていたが,その後,右眼の強い炎症発作が頻回に生じるようになり当院受診.腎障害のため免疫抑制薬などが使用できず,コルヒチンで治療したが,9.0回/年の眼炎症発作が生じ,十分な炎症抑制ができなかった.そこで治療をインフリキシマブに変更すると,1.4回/年の炎症発作に落ち着き良好な視力が得られるようになった.しかし,インフリキシマブ投与開始から3年ほど経過すると徐々に眼発作の頻度が増加し,同時期に腸管Behcetが発症した.腸管Behcet治療のために内科でインフリキシマブからアダリムマブに変更すると,腸管Behcetの鎮静化がみられた.眼所見については,アダリムマブに変更したことによって眼炎症発作は抑制され,現在に至るまで約3年間1度も眼炎症発作は起きていない(0回/年).また,良好な視力を保ち有害事象も出現していない(図5,6).VIII現時点での問題点アダリムマブ認可の根拠となったVISUAL試験はグローバル試験として行われ,非感染性ぶどう膜炎というくくりで400例を超える患者がエントリーされた大規模なものであるが,サルコイドーシス,原田病,Behcet病などそれぞれの原疾患ごとの評価については十分な例数が得られていない.今後,実際の臨床の場においてそれぞれの疾患におけるエビデンスを蓄積し,それぞれのぶどう膜炎原因疾患におけるアダリムマブの効果,副作用について検討していく必要がある.VISUAL試験や既報5.7)を鑑みると,アダリムマブは眼炎症抑制に大きな期待がもてる.しかし,高価な薬剤であるため,Behcet病のように難病指定による公的補助が受けられない患者がアダリムマブを継続使用した際,患者のコスト負担は非常に大きい.今後,アダリム504あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017マブによってぶどう膜炎の鎮静化が得られた場合,その後にどのような症例で休薬や投与中止が可能かなどについて検討していく必要がある.今後の使用経験を通じてbio-holiday/bio-freeが可能とわかれば,患者にとっても福音となる.おわりにこれまでの非感染性ぶどう膜炎の治療は,ステロイド薬やシクロスポリンに頼るものであったが,アダリムマブの登場で新たな治療オプションが加わることとなった.これまでBehcet病患者に限定されたTNF阻害薬であったが,アダリムマブが非感染性ぶどう膜炎に適応になったことで,ぶどう膜炎の治療戦略は大きな転換点を迎えることとなる.われわれ眼科医は,適正な使用法を遵守し,使用によって得られた効果や副作用などのエビデンスを蓄積し,それを指針・マニュアルの改定に反映させることで,成熟した治療法として確立していくことが望まれる.文献1)MochizukiM,SugitaS,KamoiK:Immunologicalhomeo-stasisoftheeye.ProgRetinEyeRes33:10-27,20132)Ja.eGJ,DickAD,BrezinAPetal:Adalimumabinpatientswithactivenoninfectiousuveitis.NEnglJMed375:932-943,20163)NguyenQD,MerrillPT,Ja.eGJetal:Adalimumabforpreventionofuveitic.areinpatientswithinactivenon-infectiousuveitiscontrolledbycorticosteroids(VISUALII):amulticentre,double-masked,randomised,placebo-controlledphase3trial.Lancet388:1183-1192,20164)非感染性ぶどう膜炎に対するTNF阻害薬使用指針および安全対策マニュアル.第1.1版,20165)KarubeH,KamoiK,Ohno-MatsuiK:Anti-TNFtherapyinthemanagementofocularattacksinanelderlypatientwithlong-standingBehcet’sdisease.IntMedCaseRepJ9:301-304,20166)CoutoC,SchlaenA,FrickMetal:Adalimumabtreat-mentinpatientswithVogt-Koyanagi-Haradadisease.OculImmunolIn.amm1-5,20167)Santos-GomezM,Calvo-RioV,BlancoRetal:Thee.ectofbiologictherapydi.erentfromin.iximaboradalimum-abinpatientswithrefractoryuveitisduetoBehcet’sdis-ease:resultsofamulticentreopen-labelstudy.ClinExpRheumatol34(Suppl102):S34-S40,2016(44)

インフリキシマブ(レミケード®

2017年4月30日 日曜日

インフリキシマブ(レミケードR)In.iximab(RemicadeR)酒井勉*はじめに非感染性ぶどう膜炎では,眼底の炎症所見が強い場合や著しく視機能障害を伴う場合には,ステロイド薬や免疫抑制薬の全身治療が推奨される.しかし,これらの従来の薬剤を用いても,治療効果が不十分である症例や再発を繰り返す症例は少なからず存在する.また,たとえ短期で治療効果が得られても,副作用の問題から,長期の使用が困難な場合もある.このような難治性の非感染性ぶどう膜炎に対する新しい治療として期待され,颯爽と登場したのが生物学的製剤である.わが国では,難治性Behcet病網膜ぶどう膜炎に対してインフリキシマブが,世界に先駆けて2007年より保険適用になった.このインフリキシマブはキメラ型の抗ヒト腫瘍壊死因子(tumornecrosisfactor:TNF)抗体で,Behcet病の病態のなかで悪玉として働くTNFの作用を阻害する.Behcet病のほかにも関節リウマチや炎症性腸疾患,乾癬などに使われており,従来の薬剤では得られなかった高い治療効果を示している.I免疫と炎症に関係する生理活性物質TNF.a炎症にはさまざまな生体内物質が関係しているが,とくに重要な役割を果たしているのがTNF-aである.TNF-aは,それ自体が炎症を引き起こす直接的な炎症作用と,炎症を引き起こす別のサイトカインの産生を促すことにより炎症をさらに悪化させる間接的な炎症作用という作用があることから,“炎症の親玉”と考えられている.IIインフリキシマブの特徴・作用機序インフリキシマブはキメラ型モノクローナル抗体で,TNF-aと結合する部位のみがマウスの蛋白質からなり,その他はヒト由来の蛋白で,遺伝子工学によって2種の蛋白を合体したものである.全体の25%がマウス蛋白なので,ヒトにとっては本来の体にはない異物と認識されるために,アレルギー反応を起こすことがある.このため,アナフィラキシーも0.5%程度であるが起こりえる.また,連用しているとレミケードに対する抗体(抗キメラ抗体)ができて,効果が減弱することがある.インフリキシマブには以下の三つの作用がある.①血中のTNF-aに結合し,その機能を無効にする.②受容体からTNF-aを解離させる.③TNF-aを作り出す細胞を破壊する.これらの作用により強力な消炎効果が得られると考えられている.IIIインフリキシマブの投与対象・導入基準1.導入基準Behcet病眼病変に対する診療ガイドラインでは,通常,Behcet病ぶどう膜炎の発作抑制治療はコルヒチンから導入し,効果不十分な場合にインフリキシマブの導入を検討することとなっている.しかし,視機能障害が懸念される下記症例では,インフリキシマブの早期導入を検討するとされている1).*TsutomuSakai:東京慈恵会医科大学附属第三病院眼科〔別刷請求先〕酒井勉:〒201-8601東京都狛江市和泉本町4-11-1東京慈恵会医科大学附属第三病院眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(33)493①眼炎症発作を頻発する症例②後極部に眼炎症発作を生じる症例③視機能障害が著しく失明の危機にある症例また,竹内らは,視機能悪化のリスク因子として,3回以上/年の眼炎症発作の再発,強い硝子体混濁,網膜血管アーケード内の滲出斑をあげている2).すなわち,コルヒチンなどで治療してもなお,これらの症状を呈する患者においては,早期にインフリキシマブを導入することが望ましい.2.併用薬Behcet病による難治性網膜ぶどう膜炎に対するインフリキシマブ投与に際しては,併用薬に関する制限はない.後藤らはインフリキシマブの単独療法とシクロスポリンとの併用療法とを比較し,眼発作抑制効果や全般改善度に有意差がないことを報告している3).また,竹内らはインフリキシマブの単独療法とコルヒチンとの併用療法で,有効性が同等であったことを示している4).これらのことから,Behcet病の網膜ぶどう膜炎に対してインフリキシマブ単独療法でも十分奏効する可能性は高い.IVインフリキシマブの投与方法通常,インフリキシマブとして,体重1kgあたり5mgを1回の投与量とし点滴静注する.初回投与後,2週,6週に投与し,以後8週間の間隔で投与を行う.なお,6週の投与以後,効果不十分または効果が減弱した場合には,投与量の増量や投与間隔の短縮が可能である.これらの投与量の増量や投与間隔の短縮は段階的に行う.本剤は独立した点滴ラインにより,原則,2時間以上をかけて緩徐に点滴静注することとなっている.Behcet病の小児患者に対するインフリキシマブの有用性を報告した症例報告はいくつか存在するが5,6),少数例であり,有効性や安全性に関するエビデンスは十分とはいえない.高齢者では,一般に免疫機能などの生理機能が低下していることが多いため,インフリキシマブ使用による感染症などのリスクが高まる可能性がある.細菌性肺炎,ニューモシスティス肺炎および間質性肺炎,帯状疱疹を含めたウイルス感染症にも十分留意する必要がある.Vインフリキシマブの治療効果1.眼炎症発作抑制効果従来治療に効果不十分なBehcet病ぶどう膜炎症例を対象とした国内の開発臨床試験7)では,本剤投与前に比べ,投与後には有意な眼炎症発作抑制効果が認められている.また,岡田らの報告では1年間経過をみた48例のうち約60%で眼発作が消失し,約90%で発作頻度の減少効果が認められている8).また,竹内らは164例294眼を評価し,インフリキシマブ投与後に有意な眼発作抑制効果を報告している9).超広角眼底カメラや光干渉断層計などの最新の画像解析による評価においても,インフリキシマブの治療効果は明確に示される(図1,2).2.急性炎症抑制効果Markomichelakisらは,高用量メチルプレドニゾロン静注とトリアムシノロン硝子体内注射,インフリキシマブの単回投与の3群間で眼発作時の急性炎症に短期有効性と安全性を検討している10).この報告によると,インフリキシマブは高用量メチルプレドニゾロン静注やトリアムシノロン硝子体内注射に比べ,早期に消炎効果が得られている.さらに,黄斑浮腫の早期消退もみられている.3.視力回復インフリキシマブ投与により,視力の維持もしくは回復が得られた報告は多い7,11,12).インフリキシマブにより得られる抗炎症作用や眼炎症発作抑制作用が,視機能維持および回復に寄与していると考えられる.ただし,器質的組織障害をきたした症例においては視力の回復は期待できないと考えられるため,不可逆的な組織障害をきたす前の早期治療介入が重要である.4.眼外症状に対する効果インフリキシマブ投与により眼外症状(口腔内アフタ,外陰部潰瘍,皮膚症状,関節炎など)に対する有効性は複数報告されている13.16).また,インフリキシマ494あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017(34)図1超広角眼底カメラによる蛍光眼底造影(上:インフリキシマブ治療前,下:インフリキシマブ治療後)インフリキシマブ治療後,網膜血管炎が改善している.図2インフリキシマブ注射前後の光干渉断層計所見インフリキシマブ治療後,黄斑浮腫と漿液性網膜.離の消退がみられた.図3インフリキシマブ使用下,線維柱帯切除術後の前眼部所見眼感染症や眼炎症はみられない.濾過胞の状態も良好.’’-’-’’’’’’’-

シクロスポリン(ネオーラル®

2017年4月30日 日曜日

シクロスポリン(ネオーラルR)Cyclosporine(NeoralR)南場研一*Iはじめに―古くて新しい免疫抑制薬:シクロスポリンシクロスポリンは1980年代から臓器移植や自己免疫性疾患に使われ,眼科領域では1987年からBehcet病に使われてきた歴史ある薬剤である.一方,非感染性ぶどう膜炎に対しては2013年に保険適用となった新しい薬剤であるともいえる.ぶどう膜炎治療の選択肢が増えたわけであるが,保険適用になって4年が経過した現在,残念ながらその使用はあまり浸透していないようである.確かに,血中濃度のモニタリングが必要であったり,副作用の発現頻度が高い薬剤であったりと,ややハードルが高い薬剤であるが,うまく使えばそれなりに有用な薬剤である.IIT細胞選択的免疫抑制薬:シクロスポリンシクロスポリンはT細胞の活性化に重要な役割をもっている細胞内蛋白であるカルシニューリンを阻害する薬剤であり,T細胞選択的免疫抑制薬として知られている1).T細胞が抗原提示細胞から抗原提示を受けるとカルシニューリンが活性化し,IL-2の転写にかかわる転写因子NFAT(nuclearfactorofactivatedTcells)を脱リン酸化・核内移行させる.核内移行したNFATによりIL-2の転写,IL-2の合成が始まりT細胞は活性化する.シクロスポリンは細胞内(おもにT細胞)でシクロフィリンとよばれる細胞内結合蛋白と結合して複合体を形成し,この複合体がカルシニューリンを阻害する(図1).IIIシクロスポリンの歴史シクロスポリンは,1970年ノルウエー南部のハルダンゲル高原の土壌から発見された真菌の一種であるTolypocladiumin.atumGamsが産生する11アミノ酸からなる環状ポリペプチドである.サイクロスポリンAともよばれる.1976年T細胞を介する免疫反応を特異的に抑制することが報告され,1983年スイス,1984*KenichiNamba:北海道大学大学院医学研究院眼科学教室〔別刷請求先〕南場研一:〒060-8638札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究院眼科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(29)489表1シクロスポリンの適用疾患商品名適用疾患ネオーラルR(内用液,カプセル)サンディミュンR(カプセル,内用液,注射液)・臓器移植(腎,肝,心,肺,膵)における拒絶反応の抑制・骨髄移植における拒絶反応および移植片対宿主病の抑制・Behcet病(眼症状のある)・尋常性乾癬(難治性),膿疱性乾癬,乾癬性紅皮症,関節症性乾癬・再生不良性貧血(重症),赤芽球癆・ネフローゼ症候群(頻回再発型,ステロイドに抵抗性)・全身型重症筋無力症(胸腺摘出後において,ステロイド抵抗性)・アトピー性皮膚炎*(既存治療で効果不十分)パピロックRミニ点眼液・春季カタル*はネオーラルRのみ適用投与からの時間図2シクロスポリンは治療濃度域が狭い薬剤シクロスポリンは副作用発現が予想される血中濃度(A)が比較的低く,一方,有効性が担保される血中濃度(B)も比較的高い製剤であるため,治療濃度域が狭い製剤といえる.トラフAUC0-12AUC0-4トラフ図3治療薬物血中濃度のモニタリング(TDM)TDMの方法として,投与後12時間の血中濃度.時間曲線下面積(areaundertheconcentration-timecurve:AUC)AUC0-12または投与後4時間までのAUC0-4が免疫抑制効果や副作用の発現リスクの判断に有用である.日常診療においてはトラフ値(薬物を反復投与したときの定常状態における最低血中薬物濃度)を副作用発現リスクの判定に,内服2時間後の血中濃度(C2)を有効性の判定に用いる.表2シクロスポリンの投与法Behcet病に対するシクロスポリン投与・単独使用またはコルヒチンとの併用・5mg/kgから投与し増減Behcet病以外の非感染性ぶどう膜炎・プレドニゾロンと併用・ステップダウン治療3mg/kg/日,1日2回食後(または食前)トラフ値(目標100ng/ml)腎機能異常など副作用がみられれば減量・ステップアップ治療50.100mg/日から開始,1日1回食前副作用の有無をみながら徐々に増量表3シクロスポリンの適応と考えられる非感染性ぶどう膜炎(Behcet病以外)・フォークト-小柳-原田病・強膜ぶどう膜炎・サルコイドーシス表4プレドニゾロン内服に加えてシクロスポリンを併用する1例PSL30mg2週間PSL20mg2週間PSL15mg3週間2週目に再発PSL12.5mgPSL20mg+CYA3mg/kg2週間PSL15mg+CYA3mg/kg4週間PSL12.5mg+CYA3mg/kg4週間PSL:プレドニゾロン,CYA:シクロスポリン.

副腎皮質ステロイド薬の全身投与

2017年4月30日 日曜日

副腎皮質ステロイド薬の全身投与SystemicCorticosteroidTherapyforNon-InfectiousUveitis長谷川英一*園田康平*はじめにぶどう膜炎治療の最大の目標は眼内の炎症を抑制し,視機能を維持することである.近年,生物学的製剤が非感染性ぶどう膜炎治療にも適応となり,治療の選択肢が増えつつある.しかし,現時点では副腎皮質ステロイド薬による消炎が未だぶどう膜炎治療の中心である.ぶどう膜炎に対する副腎皮質ステロイド薬治療の基本は局所投与であるが,局所投与では炎症がコントロールできない症例やVogt-小柳-原田病などの発症初期に強力な炎症抑制が必要な疾患に対しては,副腎皮質ステロイド薬の全身投与が必要となる.本項では非感染性ぶどう膜炎に対する副腎皮質ステロイド薬の全身投与方法について整理してみる.I全身投与前に先に述べた通り,ぶどう膜炎に関しては治療の第一選択は副腎皮質ステロイド薬の局所投与である.しかし,点眼・結膜下注射・Tenon.下注射・硝子体内注射などの副腎皮質ステロイド薬局所投与に反応せず,強い硝子体混濁や広範囲にわたる網膜血管炎が存在する場合や,汎ぶどう膜炎に黄斑浮腫などが付随する場合には,副腎皮質ステロイド薬の全身投与が適応となる(表1).全身投与に際しては,今一度,病因が感染症などの外因性のものなのか自己免疫病などの内因性のものなのかを鑑別し,副腎皮質ステロイド薬の適応を正しく見きわめることが重要である.適正に使用されない場合,効果不表1副腎皮質ステロイド薬の全身投与の適応・局所治療に抵抗性を示すぶどう膜炎・肉芽腫病変や新生血管などを伴う重篤な前部ぶどう膜炎・強い硝子体混濁や広範囲にわたる網膜血管炎を伴う汎ぶどう膜炎・全身性疾患のぶどう膜炎表2全身投与前に検査すべき項目・採血(血算,生化学,肝腎機能,脂質,血沈,CRP,感染症),血糖値・血中コルチゾール(副腎機能)・血圧・胸部X線検査・心電図・骨密度検査十分になるばかりか病状を悪化させたり副作用の出現を誘発したりしかねない.また,投与前に全身検査を行い,血糖値,肝腎機能,脂質,血中コルチゾール,電解質,血圧,骨密度などの測定に加えて,後に述べる副腎皮質ステロイド薬投与の副作用として出現し得る症状が事前に存在していないか確認しておく(表2).もちろん投与中も適宜検査を行い,副作用の出現に十分留意する必要がある.II副腎皮質ステロイド薬の作用機序副腎皮質ステロイド薬は表3に示すようにさまざまな作用を有する.ぶどう膜炎疾患にはその抗炎症作用・免*EiichiHasegawa&*KoheiSonoda:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕長谷川英一:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(23)483表3副腎皮質ステロイドのおもな作用一覧糖代謝作用抗炎症作用免疫抑制作用脂質代謝作用蛋白異化作用電解質作用骨代謝作用表4おもな副腎皮質ステロイド薬の種類作用時間ステロイド薬一般名半減期(時間)対ヒドロコルチゾン力価等価投与量(mg)血中生物学的糖質作用鉱質作用短時間型ヒドロコルチゾンコルチゾン1.2.1.51.2.1.58.128.1210.810.82025中間型プレドニゾロンメチルプレドニゾロントリアムシノロン2.5.3.32.8.3.33.518.3618.3618.364550.800544長時間型ベタメタゾンデキサメタゾン3.3.5.03.5.5.036.7236.722525000.50.5表5副腎皮質ステロイド薬内服投与の例30.40mg/日(重症の場合は60mg/日)連日投与で2週間から1カ月20mg4週15mg4週10mg4.8週5mg4.8週(2.5mg4.8週)中止にするときは副腎機能のチェックを(血中コルチゾールの測定:10μg/dl以上)表6副腎皮質ステロイド薬点滴投与の例ステロイド大量療法ステロイドパルス療法ベタメタゾン(リンデロンR)点滴16mg/日2日間12mg/日2日間8mg/日2日間メチルプレドニゾロン(ソルメドロールR)点滴1,000mg/日3日間プレドニゾロン(プレドニンR)内服60mg/日7日間40mg/日14日間30mg/日21日間20mg/日28日間15mg/日35日間10mg/日56日間5mg/日56日間プレドニゾロン(プレドニンR)内服40mg/日14日間30mg/日21日間20mg/日28日間15mg/日35日間10mg/日56日間5mg/日56日間表7副腎皮質ステロイドのおもな副作用一覧投与後症状数時間.精神症状(抑うつ状態,精神高揚,多幸感など),食欲亢進,血糖上昇,血圧上昇数日後.不眠,電解質異常(高Na,低K),浮腫数週間後.消化管潰瘍,副腎抑制,脂質異常感染症,満月様顔貌,中心性肥満,皮膚症状(面皰,多毛など),月経不順数カ月後.骨粗鬆症,無菌性骨壊死,成長障害,筋力低下白内障,緑内障薬物療法経過観察第1選択薬:スコアを用いたアレンドロネート定期的なリセドロネート骨折リスクの評価代替え治療薬:遺伝子組換えテリパラチドイバンドロネートアルファカルシドールカルシトリオール危険因子スコア既存骨折なし0あり7年齢(歳)<50050.<652.654ステロイド投与量(PSL換算mg/日)<505.<7.51.7.54腰椎骨密度(%YAM).80070.<802<704図1ステロイド性骨粗鬆症の治療(ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン:2014改訂版より引用)2.1logcopies/ml2.1logcopies/ml(20IU/ml)以上(20IU/ml)未満2.1logcopies/ml2.1logcopies/ml(20IU/ml)以上(20IU/ml)未満HBc抗体(-)かつHBs抗体(-)

硝子体内注射(ベバシズマブ,メトトレキセート)

2017年4月30日 日曜日

硝子体内注射(ベバシズマブ,メトトレキセート)IntravitrealInjection(Bevacizumab,Methotrexate)慶野博*はじめに非感染性の汎ぶどう膜炎や後部ぶどう膜炎の症例では,炎症の遷延化に伴い黄斑浮腫や脈絡膜新生血管が発生し,視力低下の大きな要因となることがある.このような眼合併症に対しては,これまでは副腎皮質ステロイド薬(以下,ステロイド薬)を用いた局所・内服療法,免疫抑制薬による治療が主体であったが,最近では抗血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfac-tor:VEGF)阻害薬や免疫抑制薬による硝子体内注射の有用性も報告されている.本稿ではベバシズマブ,メトトレキセートの非感染性ぶどう膜炎に対する硝子体内注射療法の成績について,これまでの報告をレビューし,各薬剤の適用となる病態,有効性とその限界について考察したい.Iベバシズマブによる非感染性ぶどう膜炎の治療ベバシズマブはVEGFに対する遺伝子組換え型ヒト化モノクローナル抗体であり,眼科領域では適用外使用薬である.これまで加齢黄斑変性症に伴う脈絡膜新生血管,網膜新生血管,血管新生緑内障,黄斑浮腫に広く用いられ,その有効性が多数報告されている.ここでは非感染性ぶどう膜炎に合併した黄斑浮腫,脈絡膜新生血管に対するベバシズマブの臨床報告についてまとめる.1.黄斑浮腫ぶどう膜炎における黄斑浮腫の要因としては,網膜血管の慢性的な炎症による血液網膜関門の破綻,硝子体による黄斑部の牽引,高血圧や喫煙といった患者の全身状態や生活習慣などがあげられる1~3).これまで糖尿病黄斑症,黄斑浮腫を合併した網膜中心静脈閉塞症の硝子体液中においてVEGFが上昇していることが知られているが,ぶどう膜炎においても黄斑浮腫(+)群のほうが黄斑浮腫(.)群に比較して前房水中のVEGF濃度が有意に高いことが報告されている4).また,ぶどう膜炎の動物モデルとして知られる実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎の網膜においてVEGFが強発現していること,さらにinterleukin-1(IL-1)やtumornecrosisfactor-a(TNF-a)などの炎症性サイトカインもVEGFの産生を誘導することが知られており,ぶどう膜炎においてもVEGFが黄斑浮腫の病態形成に関与している可能性が示唆される5,6).眼炎症疾患に合併した黄斑浮腫に対するベバシズマブの6報告(すべて後ろ向き研究,症例報告は除外)の結果を表1に示す7~12).報告ごとに対象疾患が異なるものの,ベバシズマブ硝子体内注射前,または注射施行時にステロイド薬や免疫抑制薬の全身投与が施行されていた症例が33~100%,また4報において一部の症例に対して生物学的製剤が用いられていた7,8,10,12).視力の推移をみると,硝子体内注射後の観察期間が異なるものの,6報中5報において50%以上の症例で視力改善が得られ,*HiroshiKeino:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕慶野博:〒181-8611東京都三鷹市新川6-20-2杏林大学医学部眼科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(15)475表1眼炎症疾患に合併した黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体注射の報告硝子体注射前or注射時の全身治療硝子体注射注射後の視力の推移中心窩網膜厚報告者対象疾患眼数/症例数(CSand/orISAの回数観察期間(評価時期)(平均値)の推移and/orBiologics)治療前→治療後Ziemssenetal7)CS:100%,ISA:50%3眼/6眼で4眼/6眼で網膜厚減少IU:5例,PU:1例6眼/6例CSand/orISA:100%1回1カ月視力改善625→617(mm)retrospectivestudyBiologics:17%(ADA)(硝子体注射後1カ月)(硝子体注射後1カ月)IU:5例,CS:15%,ISA:54%6眼/13眼でComaetal8)Sarcoidosis:3例,CSand/orISA:54%91日4眼/13眼で網膜厚減少retrospectivestudyVKH:1例13眼/13例Biologics:15%1回(中間値)視力改善340→273(mm)SLE:1例,SO:1例,(DZB,IFX)(84~119日)(硝子体注射後6週)(硝子体注射後12週)BSC:1例,MS:1例IU:5例,2.3回(平均値)70日10眼/11眼でMackensenetal9)Anterioruveitis:2例CS:0%,ISA:40%(1~3回)(中間値)8眼/11眼で網膜厚減少retrospectivestudyPU:2例,11眼/10例CSand/orISA:40%うち2回以上が(14~208日)視力改善474→315(mm)Panuveitis:1例9眼/11眼(82%)4週間(硝子体注射後4週)(硝子体注射後4週)HLA-B27(+)AAU:5例,1.5回(平均値)Weissetal10)BSC:1例CS:0%,ISA:33%(1~2回)7眼/11眼で9眼/11眼で網膜厚減少retrospectivestudyRetinalvasculitis:1例,11眼/9例CSand/orISA:33%うち2回以上が視力改善587→494(mm)IU:1例Biologics:22%(IFX)(硝子体注射後4週)(硝子体注射後4週)Anterioruveitis:1例6眼/11眼(55%)1.8回(平均値)Mirshahietal11)CS:100%,ISA:92%(1~2回)7眼/12眼で7眼/12眼で網膜厚減少retrospectivestudyBehcet’sdisease:11例12眼/11例CSand/orISA:100%うち2回以上が記載なし視力改善246→258(mm)6眼/12眼(50%)(最終受診時)(最終受診時)Idiopathicuveitis:11例,Sarcoidosis:5例,CS:0%,ISA:63%1回:13眼Castanedaetal12)ARN:3例,CSand/orISA:63%2回:6眼19眼/29眼でretrospectivestudyRetinalvasculitis:2例,29眼/27例Biologics:22%TA硝子体注射1年視力改善記載なしJIA:2例(硝子体注射後1年)BSC:1例,MS:1例,(DZB,IFX,ADA)併用:10眼SLE:1例,Scleritis:1例AAU:acuteanterioruveitis,ARN:acuteretinalnecrosis,BSC:birdshotchorioretinopathy,IU:intermediateuveitis,JIA:juvenileidiopathicarthritis,MS:multiplesclerosis,PU:posterioruveitis,SLE:systemiclupuserythematosus,TB:tuberculosis,VKH:Vogt-Koyanagi-Harada,ADA:adalimumab,DZB:daclizumab,CS:corticoseroid,ISA:immunosuppressiveagents,IFX:in.iximab,TA:triamcinolone.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)を用いた中心窩網膜厚の解析では,結果の記載があった5報中4報で半数以上の症例で網膜厚の減少がみられた.ただしMackenson,Weiss,Mirshahiらの報告をみると,ベバシズマブの硝子体注射の平均施行回数は1.5~2.3回,またベバシズマブ硝子体内注射が2回以上施行された症例が50~82%,さらにCastanedaらの報告では全体の約3割でトリアムシノロン(triamcinoloneace-tonide:TA)の硝子体内注射が併用されていた9~12).上記の結果から,眼炎症疾患に合併した黄斑浮腫に対してベバシズマブ硝子体内注射は一定の効果はあるものの,その効果は一過性であること,またベバシズマブ硝子体内注射単独では効果不十分な症例が存在することが示唆される.実際にWeissらの9例の報告においても,黄斑浮腫に加えてフルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceinangiography:FA)で視神経乳頭や脈絡膜から著明な蛍光漏出がみられた3例(そのうち2例は免疫抑制薬とインフリキシマブの併用下)では,ベバシズマブ単独では無効であり,TAの硝子体内注射が有効であったとしている10).非感染性ぶどう膜炎における黄斑浮腫の要因として,VEGFに加えて,慢性的な炎症により眼内に貯留したIL-1やIL-6,TNF-a,interferon-g(IFN-g)などの炎症性サイトカインが血液網膜関門に作用することでバリア機能の障害が生じると考えられる2).Rothovaらは黄斑浮腫に対して,ステロイド薬の点眼・局所注射から開始し,反応が不十分な症例にはステロイド薬やシクロスポリンなどの免疫抑制薬の全身投与を行うことで,黄斑浮腫の原因となる眼内の炎症を十分にコントロールすることが重要であると述べている13).非感染性ぶどう膜炎の活動期に生じた黄斑浮腫に対する治療は,①ステロイド薬による局所・全身治療で十分な消炎を行う,②ステロイド薬の減量や中止により黄斑浮腫の再発・増悪をきたす場合は,免疫抑制薬の併用を考慮する.現状では抗VEGF硝子体内注射療法は,ステロイド薬による眼圧上昇や白内障進行によりステロイド局所治療が困難な場合,全身状態不良のためステロイド薬や免疫抑制薬の使用が困難な場合,ぶどう膜炎の非活動期に黄斑浮腫が持続する場合などに対する補助的な治療手段として考慮すべきである.2.脈絡膜新生血管脈絡膜新生血管はさまざまな眼炎症性疾患に合併するが,とくにmultifocalchoroiditisやpunctateinnercho-rioretinopathyなどいわゆるacutezonaloccultouterretinopathy(AZOOR)complexにおいて合併頻度が高いことが知られている15).また,地図状脈絡膜炎や原田病の遷延例においてもみられる15).眼炎症疾患に合併した脈絡膜新生血管に対するベバシズマブの6報告(1報が前向き,5報が後ろ向き研究,症例報告は除外)の結果を表2に示す16~21).報告ごとに対象疾患が異なるもののベバシズマブ硝子体内注射前,または注射施行時にステロイド薬や免疫抑制薬の全身投与が施行されていた報告が6報中4報,ステロイド薬は20~100%,免疫抑制薬が15~40%の症例に用いられていた.また,1報において20%の症例に対して生物学的製剤が用いられていた.視力の推移をみると,硝子体内注射後の観察期間が異なるものの,すべての報告で60%以上の改善が得られ,中心窩網膜厚の解析では,結果の記載があった6報中4報において70%以上の症例で網膜厚の減少がみられた.さらにChanらの前向き研究を除いた5報で,ベバシズマブの硝子体注射の施行回数をみると,平均1.3~2.7回,またベバシズマブ硝子体内注射が2回以上施行された症例が22~80%であった.上記の結果から,眼炎症疾患の脈絡膜新生血管に対するベバシズマブ硝子体内注射の効果は一過性ではあるものの,黄斑浮腫に比較して視力改善率が高い傾向がみられた.脈絡膜新生血管も,黄斑浮腫と同様にその発生機序として,眼内の慢性的な炎症,それによる網膜色素上皮細胞・Bruch膜の障害,脈絡膜循環障害からの虚血性変化によるVEGFの増加などが要因と考えられる22~24).そのため,炎症の活動性が高い時期に脈絡膜新生血管を生じた場合は,ステロイド薬や免疫抑制薬などを用いて眼炎症の寛解導入・維持を行いながら,抗VEGF硝子体内注射を検討する.眼炎症の活動性が低い症例では抗VEGF硝子体内注射単独でも有効である可能性がある.今後は多施設での前向き臨床試験などにより眼炎症疾患(17)あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017477表2眼炎症疾患に合併した脈絡膜新生血管に対するベバシズマブ硝子体注射の報告硝子体注射前or注射時の全身治療硝子体注射注射後の視力の推移中心窩網膜厚報告者対象疾患眼数/症例数(CSand/orIMTの回数観察期間(評価時期)(平均値)の推移and/orBiologics)治療前→治療後1.3回(平均値)Adanetal16)PIC:3例,MC:2例,(1~3回)7.1カ月8眼/9眼で視力改善9眼/9眼で網膜厚減少retrospectivestudySC:2例9眼/9例記載なしうち2回以上が(平均値)(最終受診時)360→220(mm)POHS:1例,BSC:1例2眼/9眼(22%)(6~10カ月)(最終受診時)15眼/15眼でChanetal17)idiopathic:9例,3回15眼/15眼で視力改善網膜厚減少prospectivestudyCSC:2例,15眼/15例記載なし(1回/月,6カ月(硝子体注射後6カ月)306→201(mm)PIC:4例3カ月連続)(硝子体注射後6カ月)MCwithpanuveitis:15眼,PIC:15眼Ocularhistoplasmosis:13Mansouretal18)眼,VKH:5眼CS:41%,ISA:15%58眼/74眼で視力改善351→253(mm)retrospectivestudySC/BSC:6眼,74眼CSand/orISA:47%1.6回(平均値)3カ月(硝子体注射後3カ月)(硝子体注射後3カ月)idiopathic:11眼Toxoplasmosis/TB/Sarcoidosis:8眼2.5回(平均値)7眼/10眼でTranetal19)MC:6例,SO:2例,CS:100%,ISA:40%(1~4回)7.5カ月7眼/10眼で視力改善網膜厚減少retrospectivestudyVKH:1例,SC:1例10眼/10例CSand/orISA:100%うち2回以上が(平均値)(最終受診時)326→260(mm)7眼/10眼(70%)(6~12カ月)(最終受診時)2.7回(平均値)Doctoretal20)idiopathic:1例,CS:40%,ISA:40%(1~5回)15.3カ月3眼/5眼で視力改善retrospectivestudyBSC:1例,MC:1例5眼/5例CSand/orISA:40%うち2回以上が(平均値)(最終受診時)記載なしSO:1例,VKH:1例Biologics:20%(DZB)4眼/5眼(80%)(6~12カ月)2.3回(平均値)Fineetal21)CS:20%,ISA:20%(1~6回)41.5週5眼/6眼で視力改善retrospectivestudyMC:5例6眼/5例CSand/orISA:40%うち2回以上が(平均値)(最終受診時)記載なし3眼/6眼(50%)(25~69週)BSC:birdshotchorioretinopathy,CSC:centralserouschorioretinopathy,MC:multifocalchoroiditis,PIC:punctateinnerchorioretinopathy,POHS:presumedocularhistoplasmosissyndrome,SC:serpiginouschoroiditis,SO:sympatheticophthalmia,TB:tuberculosis,VKH:Vogt-Koyanagi-Harada,ADA:adalimumab,DZB:daclizumab,CS:corticoseroid,ISA:immunosuppressiveagents,IFX:in.iximab.図1中枢性・眼内悪性リンパ腫(メトトレキセート硝子体内図2中枢性・眼内悪性リンパ腫(メトトレキセート硝子体内注射前)注射後)a:超広角眼底画像にて,左眼アーケード内耳側および鼻側上方a:注射前にみられた網膜の白色浸潤巣は軽快した.b:OCTから下方にかけて,白色の浸潤病巣がみられる(→).b:OCTにてellipsoidzoneの回復がみられる.矯正視力も左眼(0.8)にてellipsoidzoneの不明瞭化とRPEの肥厚が観察される.から(1.0)まで改善した.で9カ月間投与を継続し,有効性,安全性について評価した29).その結果,眼内リンパ腫の寛解導入までに平均6.4回(2~16回)のメトトレキセート硝子体注射を施行,経過観察中,全例で眼内リンパ腫の再発を認めなかった.また,全症例において治療開始後(多くは硝子体注射3回目以降)角膜上皮障害がみられたが,投与間隔を延長することで改善がみられた.Akiyamaらはメトトレキセート硝子体内注射のみで治療した原発性眼内リンパ腫8例中全例で,治療開始後眼内リンパ腫の寛解を得たものの,経過観察中に8例中2例で眼内リンパ腫の再発,8例中7例で中枢性悪性リンパ腫が発症した報告している30).さらに彼らはメトトレキセート硝子体内注射と大量メトトレキセート全身治療の併用治療のほうが,メトトレキセート硝子体内注射単独治療に比較して中枢性悪性リンパ腫発症の予防に効果的であると報告した.これらの報告から眼内リンパ腫に対するメトトレキセート硝子体内注射療法は高い寛解導入効果を有するものの,眼内リンパ腫の再発・中枢性悪性リンパ腫の発症を完全に抑制することは困難といえる.現時点ではメトトレキセート硝子体内注射療法は眼内リンパ腫による視機能障害を最小限にし,qualityofvision(QOV)を保持するための補助的な治療法と考える(図1,2)31,32).2.ぶどう膜炎に対するメトトレキセート硝子体内注射Taylorらは15例15眼の非感染性ぶどう膜炎患者に対してメトトレキセート(400μg)硝子体内注射を行ったところ,治療開始3カ月,および6カ月の時点で有意に視力が改善し,42%でステロイド薬投与量の減量効果が得られたが,治療開始4カ月の時点で33%の症例で再燃がみられたと報告している33).また,Baeらはステロイド薬や免疫抑制薬の全身投与に抵抗性を示すBehcetぶどう膜炎患者7例7眼に対してメトトレキセート(400μg)硝子体注射を行い,治療前後の視力,FA所見,ステロイド薬の減量効果を検討した.経過観察期間は平均25週間(18~40週),注射回数は平均4.3回(3~6回).治療開始後7眼中6眼で視力改善,FAにて4眼で漏出所見の軽快がみられた34).現状では非感染性ぶどう膜炎に対するメトトレキセート硝子体内注射に関する報告は少なく,どのような病態,疾患に有効なのか不明な点が多い.今後,前向き臨床試験などにより有効性や安全性についてさらなる検討が期待される.文献1)DickAD:Thetreatmentofchronicuveiticmacularoede-ma.BrJOphthalmol78:1-2,19942)RotsosTG,MoschosMM:Cystoidmacularedema.ClinOphthalmol2:919-930,20083)ThorneJE,DanielE,JabsDAetal:Smokingasariskfactorforcystoidmacularedemacomplicatingintermedi-ateuveitis.AmJOphthalmol145:841-846,20084)FineHF,Ba.J,ReedGFetal:Aqueoushumorandplasmavascularendothelialgrowthfactorinuveitis-asso-ciatedcystoidmacularedema.AmJOphthalmol132:794-796,20015)VinoresSA,ChanCC,VinoresMAetal:Increasedvas-cularendothelialgrowthfactor(VEGF)andtransforminggrowthfactorbeta(TGFbeta)inexperimentalautoim-muneuveoretinitis:upregulationofVEGFwithoutneo-vascularization.JNeuroimmunol89:43-50,19986)GulatiN,ForooghianF,LiebermanRetal:Vascularendothelialgrowthfactorinhibitioninuveitis:asystemat-icreview.BrJOphthalmol95:162-165,20117)ZiemssenF,DeuterCM,StuebigerNetal:Weaktran-sientresponseofchronicuveiticmacularedematointra-vitrealbevacizumab(Avastin).GraefesArchClinExpOphthalmol245:917-918,20078)CorderoComaM,SobrinL,OnalSetal:Intravitrealbev-acizumabfortreatmentofuveiticmacularedema.Oph-thalmology114:1574-1579,20079)MackensenF,HeinzC,BeckerMDetal:Intravitrealbevacizumab(avastin)asatreatmentforrefractorymac-ularedemainpatientswithuveitis:apilotstudy.Retina28:41-45,200810)WeissK,SteinbruggerI,WegerMetal:IntravitrealVEGFlevelsinuveitispatientsandtreatmentofuveiticmacularoedemawithintravitrealbevacizumab.Eye(Lond)23:1812-1818,200911)MirshahiA,NamavariA,DjalilianAetal:Intravitrealbevacizumab(Avastin)forthetreatmentofcystoidmacu-laredemainBehcetdisease.OculImmunolIn.amm17:59-64,200912)Cervantes-CastanedaRA,GiuliariGP,GallagherMJetal:Intravitrealbevacizumabinrefractoryuveiticmacularedema:one-yearfollow-up.EurJOphthalmol19:622-629,200913)RothovaA:Medicaltreatmentofcystoidmacularedema.480あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017(20)-’

ステロイドなどの局所投与(点眼と眼周囲注射)

2017年4月30日 日曜日

ステロイドなどの局所投与(点眼と眼周囲注射)TopicalSteroidTreatments(EyeDropsandPeriocularInjections)橋田徳康*はじめに非感染性ぶどう膜炎に対する治療の選択肢としてインフリキシマブ,アダリムマブなどの生物学的製剤が使用できるようになった現在でも,消炎に対する根幹治療として副腎皮質ステロイド薬(ステロイド薬)の地位はゆるぎない.投与方法には,全身投与・眼局所投与1)など,病態に応じて使い分けがなされているが,本稿ではそのなかでも局所投与に関して解説する.Iぶどう膜炎治療におけるステロイド療法ステロイドは,1950年にノーベル生理学・医学賞を受賞したEdwardCalvinKendall,PhilipShowalterHench,TadeusReichsteinの臨床応用から約70年の歴史があり,日常的に使用されている.もともと副腎皮質ステロイドは炎症の制御,炭水化物の代謝,蛋白質の異化,血液の電解質のレベル,免疫反応など広範囲の生理学系に深くかかわっており,ストレスや侵襲など外界からの影響により分泌される.副腎皮質ホルモンは糖質コルチコイドおよび鉱質コルチコイドに分かれ,糖質コルチコイドは,炭水化物,脂肪,および蛋白代謝を制御し,リン脂質の生成を防ぐことによって抗炎症薬としても働き,好酸球の活動を抑制するなどさまざまな作用をもつ.鉱質コルチコイドは,おもに腎臓でナトリウム貯留を促進させ,電解質と水分を制御する働きをもつ.筆者らは,この糖質コルチコイド作用を強化した合成ステロイドを日常臨床で使用している.ぶどう膜炎における炎症の病態形成には,インターロイキン・tumornecrosisfactorをはじめとした炎症性サイトカイン,ケモカインおよびそれらの受容体の発現変化,さらに好中球・T細胞・B細胞など炎症細胞の活性化がかかわっており,ステロイド薬は,これら炎症関連物質の産生を抑制し,炎症細胞活性を抑えることでその効果を発揮する2).ステロイド薬は開発の歴史が古く,消炎効果をもたらす有効な薬剤として広く使用されてきた.その後の免疫抑制薬の開発や,近年の生物学的製剤の開発とその使用の広がりはあるものの,現在でもぶどう膜炎治療の中心的な役割を果たしている2,3).IIステロイドなどの薬剤の眼局所療法ぶどう膜炎の治療はおもにステロイドを用い,ステロイドの投与には,全身投与・局所投与がある.それぞれの投与方法において利点・欠点が存在し,眼局所投与の方法として,点眼・結膜下注射1)・後部Tenon.下投与4,5)・硝子体投与6)などがある.硝子体注射に関しては,次項で扱うので,本稿では点眼・結膜下注射・後部Tenon.下投与について解説する.1.点眼治療炎症が前眼部にある場合は,まずステロイド点眼を用いる.0.1%ベサメタゾン(リンデロンR)点眼が汎用される.1日3~4回から,1時間ごとの頻回点眼まで炎症の程度に応じて点眼回数を決定する.汎ぶどう膜炎,中*NoriyasuHashida:大阪大学大学院医学系研究科眼科学・眼免疫再生医学〔別刷請求先〕橋田徳康:〒565-0871大阪府吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科眼科学・眼免疫再生医学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(9)469図2帯状角膜変性症の症例毛様充血はなくなり急性期の炎症はコントールされている図1急性前部ぶどう膜炎の症例が慢性的な炎症により帯状角膜変性がみられる.強い毛様充血と前房内にフィブリン析出が認められる.図3結膜下注射後の結膜下出血をきたした症例図1の症例にステロイド結膜下注射を施行した.毛様充血は軽快し炎症はコントロールされてきているが,虹彩後癒着はまだ残存している.図4強膜炎に対するケナコルト結膜下投与の症例a:結節性強膜炎を認め毛様充血が強い症例.b:ケナコルト結膜下注射後に消炎がコントロールされ,ケナコルト粒子が残存している.図5後部Tenon.下投与を行った症例a:サルコイドーシスに伴う黄斑浮腫の症例,後部Tenon.下投与前.b:ケナコルトTenon.下投与後,黄後部Tenon.下投与黄斑浮腫は軽快したが,黄斑上膜が残存している.図6後部Tenon.下注射の実際a:注射の際には,結膜を切開してしっかりTenon.と強膜を露出する.b:強膜の露出を確認後,強膜表面に添わせるように針先を進めていく.c:針先に抵抗がない箇所を探りながら,0.5ml程度を投与する.らのアプローチになる.そのためには,投与部位では上耳側か下耳側になる.上耳側からのアプローチは,眼瞼下垂を生じることがあるので,上耳側を嫌い下耳側から投与する術者も多い.ときに感染性強膜炎や眼窩内膿瘍の症例が報告されているので8),感染にも注意する必要がある.投与するステロイドに関しては,トリアムシノロンアセトニド(ケナコルト-AR)筋注用関節腔内容水懸注40mg/1ml(Bristol-Mayer社)がよく使われていると思うが,この薬剤はおもに整形外科領域で使用され,適用上の注意として眼科用に使用しないようにとくに注意文書として出されている.したがって,本剤を眼科で使用する場合には,患者の同意が必須であると同時に,施設の倫理委員会にかけておくほうが好ましく,施設によっては原液をそのまま使用する場合と,眼内灌流液などでベンジルアルコールなどの添加物を除去する目的で懸濁液を洗って使用する施設もある.このような弊害を避けるために,硝子体手術時の硝子体の可視化や黄斑浮腫の治療に用いられているマキュエイドR硝子体内注用40mg(わかもと製薬)が非感染性ぶどう膜炎に対して認可される予定で,近い将来,臨床の現場で使用できると思われる.IIIステロイド投与方法とその実際1.結膜下注射の投与手順①あらかじめ点眼麻酔(4%キシロカインR点眼)を効かせておく.②あらかじめツベルクリン用シリンジに薬液を充.しておく.26Gか27G針を付けておく.③患者を仰臥位にし,開瞼器をかける.④炎症の強いところ,散瞳薬と併用する場合には,虹彩後癒着の強い部分の周囲に集中的に0.5~1.0mlを結膜下に注入する.2.後部Tenon.下注射の投与手順①投与前に点眼麻酔(4%キシロカインR点眼)を効かせておく,同時にPAヨード点眼など抗菌対策も行う.②薬液を準備したのち,開瞼器を挿入し開瞼する.開瞼後は抗菌薬の点眼を行い,表面麻酔薬を追加する.③下耳側からのアプローチの場合,患者に上鼻側を注視させる.④投与後の結膜下出血を避けるために,なるべく大血管をさけスプリング剪刀で結膜,Tenon.を強膜が露出するまで切開する(図6a).⑤強膜の露出を確認後,強膜表面に添わせるように針先を進めていく(図6b).⑥針先に抵抗がない箇所を探りつつ,0.5ml程度を投与する(図6c).おわりにぶどう膜炎の治療の前に鑑別診断をしっかり行い,感染を否定したうえで適正な消炎治療を行っていくことが重要である.免疫抑制薬・生物学的製剤など治療の選択肢も広がってきたが,もっとも使用頻度が高く信頼できる薬物がステロイド薬であり,さまざまな投与形態に対応可能であるのがステロイド薬でもある.投与形態には全身投与・局所投与があるが,本稿では局所投与について概説した.眼球は閉鎖臓器であるために局所治療の絶好の対象であり,全身の副作用なく局所での有効濃度を高めた治療ができる点で有利である.治療法の特徴とその合併症を十分に習熟し効率のよい治療をしておくことが望まれる.文献1)RoufasA,JalaludinB,GaskinCetal:Subconjunctivaltri-amcinolonetreatmentfornon-necrotisinganteriorscleri-tis.BrJOphthalmol94:743-747,20102)FlomanN,ZorU:Mechanismofsteroidactioninocularin.ammation:Inhibitionofprostaglandinproduction.InvestOphthalmolVisSci16:69-73,19773)JabsDA,RosenbaumJT,FosterCSetal:Guidelinesfortheuseofimmunosuppressivedrugsinpatientswithocu-larin.ammatorydisorders:recommendationsofanexpertpanel.AmJOphthalmol130:492-513,20004)TannerV,KanskiJJ,FrithPA:Posteriorsub-tenon’stri-amcinoloneinjectioninthetreatmentofuveitis.Eye12:679-685,19985)OkadaAA,WakabayashiT,MorimuraYetal:Trans-tenon’sretrobulbartriamcinoloneinjectionforthetreat-mentofuveitis.BrJOphthalmol87:968-971,2003(13)あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017473

感染性ぶどう膜炎を否定するための努力:考え方と検査

2017年4月30日 日曜日

感染性ぶどう膜炎を否定するための努力:考え方と検査E.orttoRuleOutInfectiousUveitis:ConceptandExamination中尾久美子*I免疫抑制薬による治療開始前にぶどう膜炎の治療でステロイドをはじめとする免疫抑制薬を使用する前には,感染性ぶどう膜炎を否定することがとても重要である.ごく一部の感染性ぶどう膜炎(HTLV-1関連ぶどう膜炎など)を除き,感染性ぶどう膜炎を免疫抑制薬のみで治療をすると,炎症の増悪や病巣の拡大を招く危険性が高い.最近はステロイド治療としてトリアムシノロンを後部Tenon.下注射することが多くなったが,感染性ぶどう膜炎にこれを行うと,注射したトリアムシノロンを除去することができないので,取り返しのつかないことになりうる.感染性ぶどう膜炎と非感染性ぶどう膜炎を区別することはしばしば困難で判断に迷うことも多いが,免疫抑制薬を投与する前には感染を否定するための努力をしなくてはならない.II否定すべき感染性ぶどう膜炎2009~2010年に大学病院36施設で調査されたぶどう膜炎新患の疾患別頻度をみると(表1)1),診断を確定できたぶどう膜炎のうち,非感染性ぶどう膜炎が75.7%で,感染性ぶどう膜炎が24.3%である.表1で橙色でマーキングしたのが感染性ぶどう膜炎で,頻度の多い順にヘルペス性虹彩毛様体炎,細菌性眼内炎,眼結核,急性網膜壊死,眼トキソプラズマ症,真菌性眼内炎,サイトメガロウイルス網膜炎,HTLV-1関連ぶどう膜炎,梅毒性ぶどう膜炎,眼トキソカラ症があり,おもにこれらの疾患を否定しなくてはならない.III感染性ぶどう膜炎を否定するには感染性ぶどう膜炎を否定するということは,言い換えると,感染性ぶどう膜炎を確実に診断して除外するということである.ぶどう膜炎を診断するには,①問診(現病歴,眼科的および全身的な既往歴,家族歴,生活歴など)をし,②眼科的検査を行い,眼所見から考えられるぶどう膜炎に関連する問診を補足・追加し,③診断を補助するための適切な全身検査を行い,④必要に応じて眼内液の検査を追加する.そして①~④の結果を総合的に検討して診断する(図1).問診で得られた情報や眼所見から感染性ぶどう膜炎が疑われたら,それを診断するために必要な全身検査や眼内液検査を行って感染性ぶどう膜炎の診断を確定するが,臨床所見と血液や眼内液の検査結果が一致しないこともあるので,すべての結果を総合的に判断して診断することが大切である.1.問診から感染性ぶどう膜炎を疑う問診はぶどう膜炎の診療においてとても重要であり,感染性ぶどう膜炎を診断するためには詳細な問診が不可欠である.主訴とその経過,治療歴,全身症状,眼科的・全身的な既往歴,生活歴,家族歴などを聴取する.診断に役立つ情報を患者自ら話してくれることは少ないので,医師が適宜具体的に質問をして必要な情報を効率よく収集する.表2に示すような全身疾患や既往歴・生*KumikoNakao:鹿児島大学学術研究院医歯学域医学系〔別刷請求先〕中尾久美子:〒890-8544鹿児島市桜ヶ丘8-35-1鹿児島大学学術研究院医歯学域医学系0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(3)463表1日本におけるぶどう膜炎の疾患別頻度(2009年)1)疾患症例数(%)サルコイドーシス407(10.6)Vogt-小柳-原田病267(7.0)急性前部ぶどう膜炎250(6.5)強膜炎235(6.1)ヘルペス性虹彩毛様体炎159(4.2)Behcet病149(3.9)細菌性眼内炎95(2.5)仮面症候群95(2.5)Posner-Schlossman症候群69(1.8)網膜血管炎61(1.6)糖尿病虹彩炎54(1.4)眼結核54(1.4)急性網膜壊死53(1.4)眼トキソプラズマ症48(1.3)Multipleevanescentwhitedotsyndrome真菌性眼内炎40(1.0)39(1.0)サイトメガロウイルス網膜炎37(1.0)関節リウマチ関連ぶどう膜炎29(0.8)HTLV-1関連ぶどう膜炎29(0.8)炎症性腸疾患関連ぶどう膜炎28(0.7)Multifocalposteriorpigmentepitheliopathy他の全身疾患関連ぶどう膜炎28(0.7)27(0.7)周辺部ぶどう膜炎26(0.7)多巣性脈絡膜炎23(0.6)Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎21(0.5)Acuteposteriormultifocalplacoidpigmentepitheliopathy16(0.4)TINU症候群関連ぶどう膜炎15(0.4)梅毒関連ぶどう膜炎15(0.4)水晶体起因性ぶどう膜炎13(0.3)Punctateinnerchoroidopathy13(0.3)Juvenileidiopathicarthritis関連ぶどう膜炎11(0.3)地図状脈絡膜症11(0.3)交感性眼炎10(0.3)眼トキソカラ症9(0.2)その他112(2.9)同定不能1,282(33.5)HTLV-1:humanT-lymphotropicvirustype1,TINU:tubulointerstitialnephritisanduveitis.↓視力,眼圧,細隙灯顕微鏡,隅角,眼底,蛍光眼底造影↓↓スクリーニング検査+想定されるぶどう膜炎に必要な検査↓塗抹検鏡・培養同定,抗体率,PCR総合的に診断図1ぶどう膜炎診断の手順表2感染性ぶどう膜炎が疑われる全身疾患・生活歴全身疾患・生活歴感染性ぶどう膜炎内眼手術後細菌性眼内炎IVH,外科手術既往真菌性眼内炎糖尿病細菌性眼内炎,真菌性眼内炎生肉食歴眼トキソプラズマ症,眼トキソカラ症ペット飼育眼トキソプラズマ症,眼トキソカラ症,猫ひっかき病ダニ刺傷ライム病,ツツガムシ病免疫不全・免疫抑制薬投与CMV網膜炎,細菌性眼内炎,真菌性眼内炎血液悪性腫瘍CMV網膜炎,真菌性眼内炎結核感染結核性ぶどう膜炎HIV感染CMV網膜炎,梅毒性ぶどう膜炎,眼トキソプラズマ症海外渡航歴輸入感染症(デング熱,紅斑熱群リケッチア症,ウエストナイル熱など)に伴うぶどう膜炎IVH:中心静脈栄養,CMV:サイトメガロウイルス.非感染性ぶどう膜炎感染性ぶどう膜炎白内障術後早期の前眼部炎症Toxicanteriorsegmentsyndrome急性細菌性眼内炎白内障手術後1カ月以降の前眼部炎症水晶体起因性眼内炎非感染性ぶどう膜炎の再燃遅発性細菌性眼内炎硝子体注射後の前眼部炎症無菌性眼内炎細菌性眼内炎前房蓄膿を伴う片眼性前部ぶどう膜炎急性前部ぶどう膜炎糖尿病虹彩炎Behcet病内因性細菌性眼内炎眼圧上昇と伴う片眼性前眼部炎症Posner-Schlossman症候群Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎ヘルペス性虹彩毛様体炎網膜血管炎サルコイドーシスBehcet病結核性ぶどう膜炎HTLV-1関連ぶどう膜炎網膜病変(後極)Behcet病サルコイドーシス多巣性脈絡膜炎MPPEAPMPPEトキソプラズマ症真菌性眼内炎トキソカラ症サイトメガロウイルス網膜炎結核性ぶどう膜炎梅毒性ぶどう膜炎急性網膜壊死網膜病変(周辺)サルコイドーシスサイトメガロウイルス網膜炎結核性ぶどう膜炎トキソカラ症乳頭腫脹Vogt-小柳-原田病サルコイドーシス猫ひっかき病梅毒性ぶどう膜炎MPPE:multifocalposteriorpigmentepitheliopathy,APMPPE:acuteposteriormultifocalplacoidpigmentepitheliopathy,HTLV-1:humanT-lymphotropicvirustype1.末梢血一般検査赤血球数,白血球数,血小板数,白血球分画,ヘモグロビン量血液生化学検査CRP,血糖またはHbA1c血清検査アンギオテンシン変換酵素梅毒定性(STS法,TP抗原法)HTLV-1抗体(CLEIA法)*血糖・HbA1cは糖尿病の有無が不明な時に検査.表5感染性ぶどう膜炎が疑われる場合に追加する血液検査感染性ぶどう膜炎血液検査項目梅毒性ぶどう膜炎梅毒定量(STS法,TP抗原法)結核性ぶどう膜炎クオンティフェロンTbゴールド,T-SPOTHTLV-1関連ぶどう膜炎抗HTLV-1抗体(WB法による確認検査)眼トキソプラズマ症抗トキソプラズマIgM抗体・IgG抗体眼トキソカラ症イヌ回虫幼虫排泄分泌抗原に対する抗体検査遺伝子組換えイヌ回虫幼虫抗原によるイムノクロマト検査内因性真菌眼内炎血清b-D-グルカン血液培養およびIVH先端の培養サイトメガロウイルス網膜炎サイトメガロウイルス抗原血症CD4陽性リンパ球数やCD4/CD8比進行性網膜外層壊死CD4陽性リンパ球数やCD4/CD8比猫ひっかき病抗Bartonellahenselae抗体内因性細菌性眼内炎血液培養,プロカルシトニン表6感染性ぶどう膜炎の診断に有用な眼内液の検査眼内液検査感染性ぶどう膜炎塗抹検鏡・培養同定細菌性眼内炎,真菌性眼内炎抗原検査真菌性眼内炎抗体検査ヘルペス性虹彩毛様体炎,急性網膜壊死,眼トキソプラズマ症,眼トキソカラ症PCR検査ヘルペス性虹彩毛様体炎,急性網膜壊死,サイトメガロウイルス網膜炎,眼トキソプラズマ症,細菌性眼内炎,真菌性眼内炎などウイルスHSV1,HSV2,VZV,EBV,CMV,HHV6,HHV7,HHV8,HTLV-1,アデノウイルス真菌カンジダ(C.albicans,C.glabrata,C.krusei),アスペルギルス,フザリウム,真菌28SrRNA細菌P.acnes,結核,梅毒,クラミジア,細菌16SrRNAその他トキソカラ,トキソプラズマ,アカントアメーバHSV:herpessimplexvirus,VZV:varicellazostervirus,EBV:Epstein-Barrvirus,CMV:cytomegalovirus,HHV:humanherpesvirus,HTLV-1:humanT-lymphotropicvirustype1.

序説:生物学的製剤の時代における非感染性ぶどう膜炎の治療戦略

2017年4月30日 日曜日

生物学的製剤の時代における非感染性ぶどう膜炎の治療戦略TreatmentStrategiesforNon-InfectiousUveitisintheEraofBiologicAgents岡田アナベルあやめ*蕪城俊克**2016年9月,非感染性の中間部,後部および汎ぶどう膜炎の治療薬として抗腫瘍壊死因子(tumornecrosisfactor:TNF)-a薬であるアダリムマブ(ヒュミラR)が承認され,大きくぶどう膜炎の治療戦略が変わりました.今まではもう一つの抗TNF-a薬のインフリキシマブが承認されておりましたが,適応疾患はBehcet病の難治性ぶどう膜炎のみでした.一方,アダリムマブはBehcet病以外の非感染性ぶどう膜炎にも使用可能になり,医師と患者双方にとって今回の承認は大変望ましいことであると思われます.生物学的製剤の時代に入り,膠原病や癌領域ではターゲットに対してピンポイント的に作用するさまざまな生物学的製剤が次々と開発されてきました.生物学的製剤の使用は眼科領域ではまだ遅れていますが,今回の承認は生物学的製剤の知識をアップデートする良いタイミングだと考えます.本特集は非感染性ぶどう膜炎の治療を今後どのように進めていくべきかに焦点を絞りました.まず感染症を除外するための考え方と検査について復習していただきます.つぎに,これまで用いられてきた局所治療薬やステロイド内服,免疫抑制薬の使い方と注意点について確認していただきます.それからBehcet病に対するインフリキシマブ療法についてエビデンスを再確認するとともに,今回新たに承認されたアダリムマブについて勉強していただきます.最後に,非感染性ぶどう膜炎のこれからの治療戦略の考え方について提案したいと思います.現在,眼科領域で承認されている生物学的製剤はインフリキシマブとアダリムマブだけではありません.ご存じの通り,加齢黄斑変性や他の網膜疾患に血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrow-thfactor:VEGF)を阻害するラニビズマブやアフリベルセプトも保険適用となっています.これらの生物学的製剤の共通点は,①病態における重要な役割を果たすサイトカインを選択的に阻害すること,②蛋白質製剤であるため,内服投与は不可能であること,③抗薬剤抗体が生じて,効果減弱やアレルギー反応が起こりうること,④薬価が高額であることです.さらに,全身的な投与を必要とするインフリキシマブとアダリムマブの場合には,⑤副作用は他の免疫抑制薬と比べて少ないが,それでもなお重篤な感染症のリスクがあること,⑥自己免疫性疾患の発症や増悪の可能性があること,⑦悪性腫瘍のリスクも懸念されていること,という共通点があります.無論,これらの共通点,とくに副作用のリスクは,薬剤,原疾患,患者の年齢や健康状態により大きく異なってきます.したがって,患者一人ひとり*AnnabelleAyameOkada:杏林大学医学部眼科学教室**ToshikatsuKaburaki:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(1)461