眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋367.白内障手術中に生じたChoroidale.usion中茎敏明藤田眼科の対処法白内障手術中に脈絡膜滲出(choroidale.usion)が生じると後.が膨隆し,手術続行が困難となる.手術を無理に継続すると後.破損や脈絡膜出血などの危険性が高まるため,choroidale.usionの消失を待って手術を再開することが重要である.また,infusionmisdirectionsyndromeとの鑑別には,眼底検査を行う必要がある.●はじめに白内障手術中に発生する脈絡膜滲出(choroidale.usion)は脈絡膜出血および駆逐性出血の前段階と考えられているが,小切開手術が一般的となった近年,その発症をみることはまれである.今回,白内障手術中にchoroidale.usionによる後.の膨隆を認め,手術続行が困難となった症例を経験したので,その対処法について報告する.●症例患者は,82歳の女性で,現病歴として高血圧,高脂血症がある.術前視力は,右眼0.4p(0.4×+0.50Dcyl.0.75DAx80°),左眼0.1(0.6×+2.25Dcyl.1.25DAx120°),眼圧は右眼16mmHg,左眼17mmHg,眼軸長は右眼21.85mm,左眼21.72mmと短眼軸眼で,両眼に白内障(Emery-Little分類III)を認めるほかに,特記すべき異常所見はなかった.●術中所見左眼白内障手術は,術直前の血圧が163/85mmHgと高めであったが,とくに問題なく終了した.その1週間後,右眼白内障手術を施行した.術直前の血圧は右眼手術時と同様に162/77mmHgと高めであった.超音波乳化吸引術まではなんら異常を認めなかったが,超音波チップを前房から抜去し,ついで灌流吸引チップを前房に挿入した時点で後.が膨隆していたため(図1),皮質吸引が行えず手術を中断した.この時の眼圧は13mmHgであり,疼痛は認めなかった.術直後の前眼部写真(図2)で,後.は角膜裏面近くまで膨隆していた.眼底検査では,耳下側周辺部網膜にchoroidale.usionによる隆起を認めた(図3).約2時間中断後,後.の膨(73)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY図1灌流吸引チップ挿入時の術中写真後.は前房内に膨隆し,灌流吸引チップ,スリーブに接触していた.隆が改善したため皮質吸引を再開し,困難ながらも皮質をすべて吸引した.しかし,再び後.が膨隆し,前房内に粘弾性物質注入を試みるも,ほとんどが眼外へ圧出され,水晶体.の拡張は困難となり眼内レンズ挿入は中止した.眼底検査ではchoroidale.usionの増悪が確認された(図4).術直後の眼圧は25mmHgと上昇していたが,疼痛は認めなかった.●術後経過術翌日,眼圧は21mmHgと低下し,後.の膨隆は改善し,耳下側周辺部網膜にあったchoroidale.usionもかなり改善した.3日目には眼圧は17mmHgとさらに低下し,choroidale.usionは完全に消失した.1週間後に眼内レンズ挿入を行ったが,問題なく手術を遂行でき,視力1.2(矯正不能)と改善した.●Choroidale.usionとは脈絡膜血管透過性の異常亢進により血漿成分が急激にあたらしい眼科Vol.34,No.6,2017831図2超音波乳化吸引術直図3超音波乳化吸引術終了直後の眼底図4皮質吸引術終了直後の眼底後の前眼部写真耳下側周辺部網膜にchoroidale.usionによる隆耳下周辺部網膜にあったchoroidale.usionは後.は角膜裏面近くまで起を認めた.さらに悪化を認めた.前方に膨隆していた.表1Choroidale.usionの危険因子全身因子:高齢*・高血圧*・動脈硬化眼局所因子:緑内障・長眼軸長眼・短眼軸長眼*術中因子:高眼圧からの急激な眼圧下降*・咳嗽*本症例に関連する危険因子上脈絡膜腔に貯留する状態であり,脈絡膜出血および駆逐性出血の前段階とされる.脈絡膜血管が脆弱化している場合,血管(おもに短後毛様動脈)が破綻すると駆逐性出血となると考えられる.Choroidale.usionでは一般的に疼痛はなく,出血では疼痛を伴うことが多いとされる1).危険因子としては,表1に示す因子などが考えられている2,3).●白内障手術中の後.膨隆時の対処法4)1)手術を中断し眼底チェック・後.が膨隆した場合,infusionmisdirectionsyn-dromeあるいはchoroidale.usionが起こっていると考えられ,両者の鑑別のために眼底検査を行う.・後.が膨隆した状態で無理に手術続行すると,破.のリスクが高まる可能性がある.破.をきっかけに脈絡膜出血,さらには駆逐性出血に進行する危険度が高まるため,手術を中止する.2)手術再開のタイミング・Choroidale.usionでは,今回の症例のように数時間後の再開では再び手術続行困難となる可能性があるため,choroidale.usionの消失を待って手術を再開する.・Infusionmisdirectionsyndromeでは,数時間待って後.の膨隆が改善したら再開は可能である.3)Choroidale.usionの治療・Choroidale.usionは自然吸収されるので,強膜を切開し滲出液を排出する必要はない.文献1)増田寛次郎編:眼科学大系9,p265-266,中山書店,19932)MaumeneeAE,SchwartzMF:Acuteintraoperativecho-roidale.usion.AmJOphthalmol100:147-154,19853)RuizRS,SalmonsenPC:Expulsivechoroidale.usion.Acomplicationofintraocularsurgery.ArchOphthalmol94:69-70,19764)金川知子,藤田善史:超音波白内障手術中に発症し手術続行が困難であった上脈絡膜滲出液貯留の2例.臨眼62:1103-1106,2008