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二次元から三次元を作り出す脳と眼 11.後頭葉第一次視覚野の職人たち

2017年4月30日 日曜日

雲井弥生連載⑪二次元から三次元を作り出す脳と眼淀川キリスト教病院眼科はじめに後頭葉第一次視覚野(以下,V1)には,動き・傾き・色など特定の刺激に強い反応を示す方向選択性・方位選択性・色選択性細胞が存在する.網膜神経節細胞Paが抽出した動きの情報,Pbが抽出した形と色の情報はV1に運ばれ(連載⑨⑩参照),これらの細胞により加工されてV2へ送られる(図1).後頭葉第一次視覚野の職人たち1)複数のPaあるいはPbの情報がV1で一つの神経細胞に収束する.ちらつきや明暗などの単純な情報が,これらの細胞の職人技により,特定の線の動きや傾きの情報へと変換される.1.方向選択性(directionselectivity)をもつ細胞(図1,2)特定の方向に動く光に強く反応する.縦方向のスリット光を左に動かすと強く反応するが,右に動かしても反応しない細胞を示す.もっとも強い反応の得られる方向を最適方向とよぶ.眼前を右から左に飛んでいくボールがある.ボール像は網膜上では左から右に動く.大型の神経節細胞Paはボールの動きや方向の情報を抽出して,外側膝状体M層を介してV1に伝える.V1ではボールの動きに最適方向をもつ細胞が強く反応する.この細胞はV2・V5/MT(連載⑩参照)にも存在し,追視や輻湊・開散など眼球運動に関係する.2.方位選択性(orientationselectivity)をもつ細胞(図1,3)特定の傾きの線や縞模様に対して強く反応する.図3の細胞Aは縦方向のスリット光を横に動かすときにもっとも強く反応し,横方向のスリット光を縦に動かしても反応しない.12-6時の向きが最適方位である.境界や輪郭の検出に適する.網膜上のすべての点はV1に対応部位をもち,V1でも網膜内の相互の位置関係を保つ.中心窩はV1のもっとも後極に,網膜周辺部ほどV1前方の位置に対応する.V1拡大図V2拡大図動き・位置①空間視情報:Pa.M層.V14B層方向選択性細胞.V2広線条部.V5.後頭頂葉②形態視情報:Pb.P層.V12/3層方位選択性細胞.V2淡線条部.V4.下側頭葉③色情報:②の経路とV12/3層で分かれ,K層と合流.色選択性細胞.V2狭線条部.下側頭葉で合流(75)あたらしい眼科Vol.34,No.4,20175350910-1810/17/\100/頁/JCOPYスパイク数/秒縦(12-6時方向)のスリット光を右から左に動かすと強く反応する.左から右に動かしても反応しない.10075もっとも強い反応の得られる方向を最適方向とよぶ.V1,V2,V3,V5/MTに存在する.05秒図2方向選択性をもつ細胞細胞Aは12-6時方向のスリット光の横の動きに強く反応する.スリットを傾けるスパイク数/秒スパイク数/秒反応++++0光の横の動きには反応しない.25もっとも強い反応の得られるスリット光のある細胞は赤いスポット光照射に反応す細胞Bと反応は減弱し,3-9時のスリット光の縦の動きには反応しない.細胞Bは3-9時方向のスリット光の縦の動きに強く反応する.12-6時のスリット傾きを最適方位とよぶ.る(ON反応).緑や青のスポット光照射V1,V2,V4,下側頭葉に存在する.には反応せず,消灯時に反応する(OFF反応).V1,V2,V4,下側頭葉にも存反応0±+++図3方位選択性をもつ細胞これを「網膜部位再現性をもつ」と表す.紙上の真横に伸びる直線を見ている.小型のPbは直線の情報を外側膝状体P層を介してV1に伝える.V1では3-9時に最適方位をもつ細胞が反応する.多数の方位選択性細胞の反応は網膜の位置情報をもとに再構築される.この細胞はV2,V4,下側頭葉にも存在する.3.色選択性(colorselectivity)をもつ細胞(図1,4)ある細胞は赤いスポット光照射に反応する(ON反応)が,緑や青のスポット光照射には反応せず,消灯に反応する(OFF反応).神経節細胞にも色選択性を示すものがあるが,V1では複雑な反応を示すものが加わる.この細胞はV2,V4,下側頭葉にも存在する.4.両眼視差選択性を示す細胞立体視に非常に重要であり,いずれ詳述する.V1からV2へ(図1)2)V1には6層構造が認められる.4層はヒトではB,Ca,Cb層に分かれる.V2はシトクロム酸化酵素(ミトコンドリア電子伝達系酵素)染色の染まり方の違いで広線条部(thickstripe)・狭線条部(thindarkstripe)・淡線条部(thinpalestripe)の三つに分かれる.V1の職人たちにより加工された情報は,V2の三つの線条部でさらに手を加えられ,V4やV5へ送り出される.下記の①(図1.)が背側経路,②③(図1.)が腹側経路となる.536あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017在する.図4色選択性をもつ細胞①空間視情報:Pa.M層.V14B層方向選択性細胞.V2広線条部.V5.後頭頂葉②形態視情報:Pb.P層.V12/3層方位選択性細胞.V2淡線条部.V4.下側頭葉③色情報:Pb.P層.V12/3層色選択性細胞(K層の情報も合流).V2狭線条部.V4.下側頭葉V1で分かれた形と色の情報は下側頭葉で合流し形態視情報として統合される.それぞれのステージでの役割分担この仕組みは,たとえれば,ある人を観察するのにPa-M系のスタッフは,その人がどこにいて・どの方向に・どれほどの速さで移動しているか,Pb-P系のスタッフは,どんな背格好か・どんな色や種類の服を着ているかに着目して情報を集め,V1やV2の分析班に送る.ここでは情報の扱いに慣れた職人が使いやすいように加工してV4やV5/MTに送り,分析と情報統合を進めるような様子ではないかと考える.文献1)福田淳,佐藤宏道:一次視覚野特徴選択性.脳と視覚─何をどう見るか,p168-204,共立出版,20022)BoydJD,MatsubaraJA:Extrastiatevisualcortex.InAdler’sphysiologyoftheeye,11thed(editedbyKaufmanPL,AlmA),p599-612,Elsevier,2011(76)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 167.強膜バックリング手術習得のコツ(その2)術中の眼圧調整(初級編)

2017年4月30日 日曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載167167強膜バックリング手術習得のコツ(その2)術中の眼圧調整(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに強膜バックリング手術を円滑に遂行するためには,頻回の前房穿刺により術中の眼圧をやや低くしながら操作を行うことが重要である.これはあまり教科書的ではない内容と思われるが,筆者は非常に重要なポイントだと考えている.●局所麻酔を確実に行う筆者は基本的に強膜バックリング手術では球後麻酔を確実に効かせて,その後結膜下注射,Tenon.麻酔などを適宜併用しながら,可能な限り術中の疼痛緩和に努めている.麻酔を適量で確実に効かせることは,その後の手術操作を円滑に行ううえできわめて大切である.麻酔量が多いと眼球の回旋が不十分となり,強膜バックリング手術におけるすべての操作が施行しづらくなる.●経強膜冷凍凝固前には必ず前房穿刺を行う(図1)経強膜冷凍凝固は一時的に眼圧を上昇させる手術手技であり,やや低眼圧にしておくと強膜内陥が容易となり,裂孔への確実な凝固が可能となる.かなり胞状の網膜.離でも,眼圧を十分に低下させることで,裂孔周囲の凝固は多くの場合可能である.●マットレス縫合時にも前房穿刺を行うマットレス縫合を施行する際には,眼圧を十分に低下させたうえで,綿棒などで強膜を圧迫しながら,深部の通糸を行う(図2).またこの時,上下方向に鈎が挿入しやすい開瞼器(図3)を使用すると操作がしやすい.●バックル縫合後にも前房穿刺を行うバックル縫合後には眼圧が上昇するので,こまめに前房穿刺で眼圧を低下させる(図4).この手技は網膜下液排除時の網膜嵌頓などの合併症を回避するうえできわめて重要である.(73)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY図1前房穿刺術中に頻回の前房穿刺を施行することで,やや低眼圧のまま手術を続行する.図2マットレス縫合低眼圧にすると強膜圧迫により深部の通糸が容易となる.図3強膜バックリング手術に適した開瞼器上下方向に鈎をかけたときの術野が確保しやすい開瞼器を使用する.図4強膜バックル設置強膜バックル設置後もこまめに前房穿刺を行う.●適度な低眼圧保持は術中の疼痛緩和にも有効眼科手術に限らず,術中の疼痛緩和には圧のコントロールが重要とされている.高眼圧時には疼痛を訴えている症例でも,前房穿刺により適度に眼圧を低下させることで疼痛が軽減されることは,日常的にしばしば経験する.●頻回の前房穿刺を行うことの利点上記のように,前房穿刺で眼圧をやや低めに保持しながら強膜バックリング手術を施行することは,種々の利点がある.ただし極端な低眼圧は脈絡膜出血の誘因となるので,この点は注意を要する.また,前房穿刺時には,虹彩を刺激して縮瞳させないなどの配慮も必要である.あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017533

新しい治療と検査シリーズ 233.オクトパス600の有用性

2017年4月30日 日曜日

新しい治療と検査シリーズ233.オクトパス600の有用性プレゼンテーション:津崎さつき池田陽子御池眼科池田クリニックコメント:松本長太近畿大学医学部眼科学教室.バックグラウンド2014年に発売されたHaag-Streit社の自動視野計オクトパス600(図1a)にはさまざまな特徴がある.視標提示用にTFT(thin.lmtransistor)モニター,光源にはLED(lightemittingdiode)を使用し,明室でも検査可能である.また,比較的小さなスペースで機器が設置できることもよい点である.本体内部に+3.25Dの老眼矯正用のレンズを搭載していることにより,年齢による補正や近見矯正は不要である.視標には従来のW/W(white/white)のほかに,パルサーとよばれるまったく新しい視標が搭載されている.新しい器機のため,まだ他の機種の検査との比較がわずかしかなく1,2),ハンフリーフィールドアナライザー(HFA)30-2SITA-stan-dardとの比較報告はない.また,緑内障の視野検査では,視野欠損が高度であれば,軽度であるより検査時間が長くなる.検査時間が長aくなれば,被験者の集中力の低下,就眠誘発を起こし,ときに不正確な応答を行ってしまう可能性がある.患者のなかには視野検査自体に嫌悪感を抱き,検査を拒否してしまう場合もある.パルサー視標を用いた静的視野測定は,被験者の視野検査中の理解認識度を高めることで,その嫌悪感を少しでも緩和し,楽にストレスなく視野検査が行える可能性がある..新しい検査法の原理パルサー視野測定とは,10Hzで反相点滅するコントラストの調整されたリング視標を呈示することで,コントラスト感度とフリッカー感度の両方を組み合わせた早期緑内障の検出に適した方法である.提示される視標は特徴的で反転する輪状であり,水面に落ちた雨粒が広がるような視標(図1b)となっている.これは早期緑内障の検出を目的に開発されたものであり,通常の視野検査では検出できない機能異常を検出することを期待されてb図1オクトパス600と視標の写真a:オクトパス600はコンパクトで設置しやすく,ドームがないので,被験者に与える圧迫感が少ない.b:視標は白黒で,大小の雨粒が水面に広がるような波紋状の動きがあり,被験者に見やすい視標となっている.(69)あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017529オクトパス600パルサー視野HFA30-2SITA-standard視野図2オクトパス600とHFA30.2の視野検査の結果の比較(71歳,男性,落屑緑内障)HFA30-2のSITA-standard視野検査では暗点が多く,信頼性のある視野が測定できていないが,オクトパス600パルサー視野検査では信頼性が高く測定でき,実際の視野により近い視野が測定できていると考えられる.オクトパス600パルサー視野Humphrey視野に変換図3オクトパス600の視野をHumphrey視野に変換(46歳,女性,正常眼圧緑内障)この症例のオクトパス600パルサー視野をHumphrey視野に変換した.グレースケールもパターン偏差も,おおよそオクトパス600と同様の結果が得られている.いる.さらに,特徴のあるパルサー視標の提示は,被験者の視野検査中の理解度を高めると推測される..使用方法と症例提示オクトパス600はHFA30-2とは違って大きなドームがないため,圧迫感がない.標準装備として顎台が付いていない設計で,額をつけて中を望遠鏡のようにのぞいて検査を行う.図2はHFA30-2SITA-standardとオクトパス600パルサーの両方の視野を別日に行った結果であるが,HFA30-2ではうまく測定できず,オクトパス600ではうまく測定できている.また,オクトパス600は,HFAユーザーがオクトパス600の検査結果を理解しやすくするために,「HFAプリントアウト」といわれるHumphrey表示形式での印刷も可能となっている(図3).オクトパス600とハンフリーの機器の比較は表1に示した..本機器の良い点オクトパス600の良い点は,何よりもまず検査時間が短いことである.筆者らの施設で3カ月以内にHFA30-2とオクトパス600を使用した17例の結果では,平均の片眼の測定時間はHFA30-2SITA-standard視野がおよそ片眼8分に対し,オクトパス600パルサー視野は4分で,およそ半分の時間であった.HFAに慣530あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017(70)表1オクトパス600(パルサー)とHumphrey視野計の仕様の違いオクトパス600(パルサー)HFA(SITA-Standard)視標呈示【方式】TFT画面呈示【方式】投影式【時間】500ms(@10HzFlicker)【時間】200ms視標色白色白色視標サイズ50.43°(ゴールドマンIII)実際の視標実際の視標は白丸背景輝度32cd/m2(100Asb)10cd/m2(31,5Asb)固視監視CMOS赤外線カメラHeijl-Krakau法・アイモニター・ゲイズトラック測定範囲中心視野30°中心視野30°矯正レンズ付属レンズあり(-8.00~+4.00dpt)検眼レンズをはめるレンズホルダーのみ設置ダイナミックレンジ0~35src(周波数とコントラストの融合)0~40dB(光の明暗)プログラムG2p,32p30-2,10-2ストラテジーTOPSITA-standard測定点59点30-2=76点,24-2=54点,10-2=68点測定時間(当院調べ)4分8分れている患者には驚くべき短さで,患者は楽に検査できたとコメントされることが多い.検査時間が短いために集中力が続き,視標も大きいために間違わずに測定しやすいものと考えられる.また,視標が光ではなく波紋状,輪状の大きな視標でとても見やすいと感じる患者が多い.76.5%の患者がHFA30-2よりオクトパス600の視標が見やすかったとした.オクトパス600は固視不良時は測定しないために固視不良がないことに加え,偽陰性,偽陽性もHFA30-2で行った場合の半分以下であり,信頼性の高い結果を得られやすいと考えられた.60%の患者がオクトパス600をより好むとした.次回測定時はHFAではなくオクトパス600にしてほしいと強く希望を伝える患者も少なからず存在する.顎台がないことに関しては63.7%の患者がなくてもいいかどちらでもいいと答えたので,とくに検査に支障はないものと考える.高齢になるにつれ,静的視野検査がうまく測定できなくなる患者が増加し,信頼性の指標についても悪化することが多い.そのなかでオクトパス600パルサー視野は,患者にとっても眼科医にとっても役立つ良い視野測定機器となると考える.文献1)GobelK,ErbC:SensitivitatundSpezi.tatderFlimmer-perimetriemitdemPulsar.Ophthalmologe110:141-145,20132)高橋夏実,佐藤司,松村一弘ほか:OCTPUS600視野計10-2とHumphrey視野計10-2の比較.あたらしい眼科26:27-31,2016.本稿に対するコメント.オクトパス600は,オクトパスシリーズのもっと面を用いる大きなメリットは,さまざまなパターンのも新しい視野計であり,オクトパスとしては初めて液視覚刺激を自由に作ることができる点であり,オクト晶画面を用いた視標刺激方法を採用している.液晶画パス600では時間変調感度と空間コントラスト感度(71)あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017531.本稿に対するコメント.を組み合わせたパルサーとよばれる検査視標を採用している.Preperimetricglaucomaにおける異常検出感度は,従来の機能選択的視野検査に比べ決して高いわけではないが,検査視標の視認性がよく,練習効果の少ない安定した測定結果を得ることができる.検査時間は,各測定点に1回しか視標を提示しないten-dencyorientedperimetry(TOP)を採用しており,本論文でも示されるように非常に短くなっている.ただし,TOPはアルゴリズム上,局所の感度低下をとらえる際に暗点が浅く検出される傾向があるので,パルサーの結果を評価するうえでも理解しておく必要がある.液晶画面は従来の投影型視標に比べ高輝度を確保できないため,一般的な視野測定では,一部検査視標を大きくすることで代償している.また,液晶画面は機械的駆動部が存在しないため,従来機器に比べシンプルで耐久性の高い構造となっている.☆☆☆532あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017(72)

弱視と斜視のABC 8.外転神経麻痺

2017年4月30日 日曜日

斜視と弱視のABC監修/佐藤美保8.外転神経麻痺後関利明北里大学医学部眼科学教室外転神経麻痺の3大原因は虚血性,外傷性,腫瘍性である.小児の外転神経麻痺は脳幹グリオーマが原因のこともあり注意を要する.虚血性,外傷性は発症後3カ月で80%の症例は改善する.発症後3カ月以内はボツリヌス毒素療法を,3カ月以降は非観血的治療法を,6カ月以降は手術療法の施行を検討する.外転神経麻痺とは外転神経麻痺は,その名のとおり外転神経が麻痺することで発症する疾患であり,外転神経の経路でいずれの部分の障害でも発症する.外転神経は,橋背側部の第四脳室に近接する顔面神経丘に存在する外転神経核から始まる(図1).外転神経核の周囲は顔面神経運動線維にとり囲まれている.外転神経核から出た神経線維は橋を貫いて腹側に向かい,橋と延髄の境目から出る.その後,外転神経は海面静脈洞を通り上眼窩裂から眼窩に入り外直筋に命令を伝達する.外転神経核の周囲に病変があると,同側の顔面神経麻痺を併発する.海綿状脈洞や上眼窩裂に病変があると,複合神経麻痺となる.片眼性の外転神経の単独麻痺を発症すると,軽度だと正面眼位には影響を与えず,患側注視時の同側性複視を訴える.中等症だと,患側注視時の複視が強くなるため,患側に顔回しをする頭位を呈する.重症だと,正面眼位で内斜視を呈して正面で複視を自覚するため,片眼をつぶり単眼視をすることが多くなる.外転神経麻痺の原因原因としては,他の眼運動神経麻痺と同じく虚血性が多い.Rushらの報告1)では,虚血性,外傷性,腫瘍性が3大原因であった.わが国のAkagiらの報告2)によると,虚血性が一番多く,腫瘍性が次に続く.動脈瘤,頭部外傷,先天性も原因となる.注意する病態としては,頭蓋内圧亢進症により両眼性外転神経麻痺が発症することがある.うっ血乳頭がある際は,緊急で頭蓋内精査が必要である.うっ血乳頭がなくても頭蓋内病変の鑑別は必要である.とくに小児の外転神経麻痺の原因は,外傷性の次に脳腫瘍である頻度が高い.またその腫瘍の性状は,生命予後が悪い脳幹グリオーマであることが多い.Dotanら3)は,18歳以下の片眼性の外転神経麻痺で,さ(67)第四脳室外転神経核傍正中部橋網様体(PPRF)顔面神経核顔面神経内側毛帯錐体路外転神経図1外転神経核と外転神経の走行外転神経は,橋背側部の第四脳室に近接する顔面神経丘に存在する外転神経核から始まる.外転神経核から出た神経線維は橋を貫いて腹側に向かい,橋と延髄の境目から出る.らに視神経所見が正常な症例でも,31%で脳腫瘍が原因であったと報告している.小児の外転神経麻痺は片眼性であっても,頭蓋内病変には注意が必要である.治療虚血性や外傷性外転神経麻痺は,発症から3カ月以内に80%の症例が改善する.エビデンスはないが,筆者はこの間にビタミンB12製剤の内服と麻痺方向の注視訓練を行っている.発症後1カ月以上経過して改善しない症例は,ボツリヌス毒素療法の適応である.ボツリヌス毒素を患眼の内直筋に投与することで正面視の眼位を改善させ,複視を消失させることができる.ボツリヌス毒素療法の効果は3,4カ月で消失するが,外転神経麻痺後の患眼の内直筋拘縮を予防することができ,その間に外転神経麻痺も改善する可能性があるため有効である.発症後3カ月以内は,ボツリヌス毒素療法以外の積極的な治療はするべきではなく,治療を希望される患者には,数カ月後に作り替えになる可能性があることを理解してもらい,フレネル膜プリズムの処方に止めるようにあたらしい眼科Vol.34,No.4,20175270910-1810/17/\100/頁/JCOPY術前術後図2西田法手術前後の9方向眼位40歳代,男性.脳出血後の左眼外転神経麻痺.術前正面では45Δ内斜視を認めた.複視の自覚が強いため,眼鏡に遮蔽膜を貼って生活をしてきた.脳出血の1年後に治療方法の相談で当院を受診をした.脳外科医からは「命が助かっただけよかった,複視は片目をつぶって対応するように」と説明を受けていた.左眼に西田法(内直筋後転術併施)を施行した.正面で4Δ外斜位と正位を保ち,複視は消失した.左方視で複視は残存するものの,遮蔽膜なしで生活が送れるようになった.する.発症後3カ月で正面眼位が内斜視を呈する例や顔回し頭位をとる症例は,非観血的治療の対象となる.非観血的治療にはプリズム眼鏡や遮蔽レンズがある4).発症後6カ月で変動がない症例は,外眼筋手術の適応である.手術療法は麻痺の程度によって術式を選択するのが一般である.麻痺が軽度の症例は,外直筋の強化術(一般的には短縮前転術)が有効である.麻痺が中等症以上の症例はHummelsheim法,Jensen法などの筋移動術の適応となる.以前は筋移動術には筋の切筋や筋腹を割く手技が必須であったが,近年は西田らが報告5)した上下直筋外方移動術(西田法)が,以前の筋移動術と比較すると低侵襲で前眼部虚血を予防できる手術として普及している.また,外直筋強化術,筋移動術ともに,内直筋の拘縮がある症例には内直筋後転術の併施が必要である.西田法が有効だった代表的な結果を図2に示す.文献1)RushJA,YoungeBR:ParalysisofcranialnervesIII,IV,andVI.Causeandprognosisin1,000cases.ArchOphthal-mol99:76-79,19812)AkagiT,MiyamotoK,KashiiSetal:Causeandprogno-sisofneurologicallyisolatedthird,fourth,orsixthcranialnervedysfunctionincasesofoculomotorpalsy.JpnJOph-thalmol52:32-35,20083)DotanG,RosenfeldE,StolovitchCetal:Theroleofneu-roimagingintheevaluationprocessofchildrenwithiso-latedsixthnervepalsy.ChildsNervSyst29:89-92,20134)後関利明:特集【麻痺性斜視】麻痺性斜視の非観血的治療.神経眼科33:16-22,20165)NishidaY,HayashiO,OdaSetal:Asimplemuscletranspositionprocedureforabducenspalsywithouttenot-omyandsplittingmuscles.JpnJOphthalmol49:179-180,2005528あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017(68)

眼瞼・結膜:マイボーム腺炎角結膜上皮症とは?

2017年4月30日 日曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人鈴木智25.マイボーム腺炎角結膜上皮症とは?京都市立病院眼科細菌増殖によるマイボーム腺炎の重症度と眼表面炎症の重症度は相関しており,抗菌薬を用いてマイボーム腺炎を治療することが眼表面炎症の消退につながる.●はじめに(meibomitis-relatedkeratoconjunctivitis:MRKC)とマイボーム腺内の細菌増殖に伴う炎症(マイボーム腺呼称される1,2).その病型は,角膜上の結節性細胞浸潤炎)と関係して,角膜に点状表層角膜症(super.cialを特徴とする「フリクテン型」(図1)と,結節病変は認punctatekeratitis:SPK),結節性細胞浸潤,表層性血めずSPKが主体である「非フリクテン型」(図2)に大管侵入などを生じる病態はマイボーム腺炎角結膜上皮症別される1).いずれの病型も,マイボーム腺炎の重症度図1MRKC(フリクテン型)a:上眼瞼縁のマイボーム腺炎と,角膜下方を中心とした結節性細胞浸潤と表層性血管侵入が著明である.b:フルオレセイン染色では,結節性細胞浸潤の部分に染色が認められる.図2MRKC(非フリクテン型)a:上眼瞼縁のマイボーム腺炎が著明である.角膜に結節性細胞浸潤は認めない.b:フルオレセイン染色では,瞼裂部を中心としたSPKを認める.(65)あたらしい眼科Vol.34,No.4,20175250910-1810/17/\100/頁/JCOPY図3MRKCに対する抗菌薬内服治療後a(図1と同症例),b(図2と同症例)とも,マイボーム腺炎とともに眼表面炎症は消退している.と角結膜上皮障害の重症度は相関する.●MRKCの臨床像フリクテン型は若年女性に圧倒的に多くみられ,ほとんどの症例が両眼性である1~3).思春期に発症して再発を繰り返すことが多い.乳幼児に発症することもあるが,高齢者に認めることはまれである.過去には結核菌やブドウ球菌に対するアレルギーが病因と考えられてきたが,臨床現場で,実際に患者からこられの病原体を検出することはまれである.患者のマイボーム腺脂質(meibum)の培養の結果2)および動物モデルの実験4)から,フリクテン型の原因はP.acnesに対する遅延型アレルギー反応(delayed-typehypersensitivity:DTH)の可能性が高いと考えられている.フリクテン発症以前に,幼少時より霰粒腫の既往歴がある症例が多く,遺伝的素因の関与も推測される2,3).一方,非フリクテン型は,若年者に限らず高齢者にも認められる.若年者では女性の頻度が高いが1~3),高齢者では性差があるとは言いがたい.加齢に伴うマイボーム腺機能の低下や腺内の常在細菌叢の変化などから,非フリクテン型の起因菌は年齢によって変化している可能性が推測される.●MRKCの治療フリクテン型は,結節病変が細菌の菌体抗原に対するDTHの結果であると考えられ,ステロイド薬点眼を中心に用いられることが多い.しかし,角膜所見が軽快した時点で治療を終了すると,容易に再発・増悪を繰り返し,病態が複雑になり,結果として高度の視力低下をきたすことがある.これは,マイボーム腺炎に関連している細菌が十分に除菌されていないためと考えられる.非フリクテン型では,角膜のSPKが主体であり,結節性病変は認めない.マイボーム腺炎の起因菌が十分に除菌されていないためにSPKが遷延していると推測される.しかし,臨床現場ではドライアイによるSPKと誤診されることが多い.この場合,ドライアイに対する点眼薬が処方され,難治例には涙点プラグまで挿入されることもある.両病型とも,眼表面炎症の原因はマイボーム腺炎にあるので,適切な抗菌薬の内服と点眼薬でマイボーム腺炎を治療すれば,眼表面炎症を消退させることが可能である(図3)1~3).マイボーム腺炎の改善は,眼表面炎症の鎮静化より少し遅れることに注意しなければならない.重症例には,腺内の抗菌薬濃度を高める目的で,感受性のある抗菌薬の点滴も効果的である5).フリクテン型の重症例には,初期にステロイド薬の内服併用を,MRKCが軽快した後には,角膜混濁を軽減させるために低濃度ステロイド薬点眼を数カ月継続するのもよい方法である.文献1)鈴木智,横井則彦,佐野洋一郎ほか:マイボーム腺炎に関連した角膜上皮障害(マイボーム腺炎角膜上皮症)の検討.あたらしい眼科17:423-427,20002)SuzukiT,MitsuishiY,SanoYetal:Phlyctenularkerati-tisassociatedwithmeibomitisinyoungpatients.AmJOphthalmol140:77-82,20053)SuzukiT,TeramukaiS,KinoshitaS:Meibomianglandsandocularsurfacein.ammation.OculSurf13:133-149,20154)SuzukiT,SanoY,SasakiOetal:Ocularsurfacein.am-mationinducedbyPropionibacteriumacnes.Cornea21:812-817,20025)鈴木智,横井則彦,木下茂:角膜フリクテンに対する抗生物質点滴大量投与の試み.あたらしい眼科15:1143-1145,1998526あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017(66)

抗VEGF治療:治療を断念する症例

2017年4月30日 日曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二39.治療を断念する症例尾花明聖隷浜松病院眼科滲出型加齢黄斑変性の治療中断理由は,線維化,網膜萎縮,硝子体出血,効果減弱,網膜下液持続,患者の自己判断や社会的要因である.逆に,効果良好で治療を休止する場合もある.網膜静脈閉塞症では,患者の自己中断が比較的多い.虚血型網膜中心静脈閉塞症では,視力改善が得られずに治療をあきらめる場合もある.はじめに抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)療法が認可されて約8年が経過し,長期治療例の増加とともに治療断念例がみられる.治療結果が得られずに中止する場合と,逆に,経過良好で意図的に休止する場合や,患者の都合など,さまざまな理由がある.また,加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)と網膜静脈閉塞症とで中止理由が少し異なるように感じる.そこで,中止理由を当施設の経験例をもとに考えた.加齢黄斑変性当施設の第一選択は,アフリベルセプトを導入期連続3回毎月投与後に1カ月単位で治療間隔を延長し,維持期は最短2カ月,最長4カ月のtreatandextend法である.この方法では以下の中止理由がみられた.1.導入期連続3回治療を完了できなかった例①硝子体出血:治療前に新鮮な網膜下出血のある例で出血後は急激に線維化することが多い(図1).②網膜の菲薄化:治療前から中心窩網膜の薄い症例は,治療で網膜下液が消失すると菲薄化が顕著になる.ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)で多いように思われる.網膜萎縮は予後不良要因なので注意を要する.図1硝子体出血と生じた脈絡膜新生血管(CNV)症例フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)でminimallyclassicCNV,インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)でCNV(.印)がみられた例で,初回治療後に多量の網膜下および硝子体出血を発生した.すぐに硝子体手術を施行したが,すでに線維化が進行し,視力は低下した.③眼圧上昇:点眼薬で眼圧コントロールが得られれば継続している.2.導入期終了後,維持期治療に移行できなかった例①線維化の進行:典型AMDが多い.とくに,脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)が網膜色素上皮層を越える2型CNVに多い.線維化が中心窩に及ぶと視力が低下するので,患者への事前説明が必要である(図2).②患者が治療計画を順守しない場合:僚眼の視力が良好で患者が生活に支障を感じていない場合に多く,ある程度容認できる.問題は,病気自体の理解が乏しく再発の可能性を認識できていない場合で,いったん改善すると自己中断してしまう.再発するので経過観察を中断してはならないことをよく説明しておく.それ以外には,通院や治療費負担のために中断する場合もあるが,最終的には患者の考え方に従わざるをえない.3.維持期治療継続中に中断した例①萎縮の進行:網膜色素上皮や視細胞の萎縮は予後不良要因である.萎縮発生要因として,頻回投与,僚眼の地図状萎縮,網膜血管腫状増殖があげられている.②線維化の進行:早期の線維化は典型AMDに多いが,PCVでも長期経過で線維化を生じる場合があ(63)あたらしい眼科Vol.34,No.4,20175230910-1810/17/\100/頁/JCOPY図2線維化を生じたので治療を中止した脈絡膜新生血管(CNV)症例フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)でoccultCNV,インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)でCNV(.)がみられた例で,導入期3回治療で線維化したため治療を中止した.その後,網膜に.胞様浮腫はあるが,治療は中断したままである.図3長期経過中に網膜下液が持続するポリープ状脈絡膜血管症(PCV)症例FAでoccultCNV,IAでPCVがみられた例で,導入期治療で網膜下液は軽快した.その後,合計7回の治療中は良好に経過した.しかし,最終治療の3カ月後に下液が再発した.視力は低下していないので,治療を休止のまま経過観察中である.る.通常,網膜浮腫のない瘢痕組織は治療対象にはならない.ただし,瘢痕組織上の感覚網膜の.胞様浮腫が治療で軽快すると患者は改善を自覚するが短期で再発する.治療については僚眼の状態を踏まえて,患者と相談する.③効果不十分:長期経過に伴い,治療効果の減弱がみられる.薬剤の種類を変えるのもひとつである.効果減弱パターンとして,1型CNVの網膜下液と,色素上皮.離が多い.近年,網膜下液の存在は必ずしも予後不良要因にはならず,むしろ予後良好との報告がある.1型CNVで網膜下液持続例では,網膜下高輝度反射物のような予後不良因子がなければ,経過をみる場合もある(図3).ただし,視力が低下することもあり,光線力学的療法併用治療の是非が検討されている.④病巣の鎮静化:当科の経験では,治療間隔を4カ月に延長できた症例は,治療を休止しても再発をきたしにくい.したがって,意図的休止が可能かもしれないが,今後の検討を要する.ただし,いつかは再発するので経過観察を続ける.524あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017網膜静脈閉塞症1.網膜静脈分枝閉塞症ラニビズマブによる報告では,約半数は2年以内に浮腫が改善して治療が不要になるが,半数は1年に3回程度の治療を要する.継続必要例で自己中断となる割合がAMDより高く,以下の理由が考えられる.多くは片眼性で,視力低下が中等度,視野の半分が見えるため,患者自身の不自由さが比較的低いこと,AMDより若年齢が多く,医療費の自己負担割合が高いことなどである.2.網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO)ラニビズマブによる報告では,約4割は2年以内に浮腫が改善して治療が不要になり,それ以外は1年に6回程度の治療を要する.虹彩,隅角,網膜新生血管発生率は抗VEGF治療で低下しないので,従来通り注意する.高度の視力低下を伴う虚血型CRVOは,治療を繰り返しても浮腫軽減と視力改善が得られない場合が多い.脳梗塞などの合併症発生の危険もあり,治療中止となる場合が多い.(64)

緑内障:緑内障に下垂体腫瘍の合併にこんなにあるの?

2017年4月30日 日曜日

●連載202監修=岩田和雄山本哲也202.緑内障に下垂体腫瘍の合併って小林奈美江総合南東北病院眼科,南東北眼科クリニックこんなにあるの?池田秀敏総合南東北病院脳神経外科下垂体疾患研究所緑内障に他の眼内病変がある場合には,眼科医にとってその鑑別は困難ではないが,眼外病変の頭蓋内疾患,とくに多彩な視野異常を主訴とする下垂体腫瘍の場合は,他科との協力が必要である.●はじめに筆者らは,脳神経疾患研究所付属南東北眼科クリニック(以下,当科)で緑内障として加療している症例において,頭痛,めまいを伴っており,とくに左右差が強い視野異常で,他疾患を疑わせる症例について,頭蓋内の精査をした結果,下垂体腫瘍の合併を50例に認めた.●方法と結果2012年6月.2013年6月の当院の外来実患者総数は9,690人で,そのうち下垂体腫瘍が疑わしい症例106人(1.1%)に精査を施行した.その結果,緑内障加療中の50例に下垂体腫瘍が発見された.50例の内訳は,女性37例(74%),男性13例(26%)で,年齢は24.79歳(平均55.7歳),片眼性緑内障19例,両眼性31例であった.下垂体腫瘍は,Rathke.胞(Rathke’scleftcyst:RCC)38例(76%),RCC+Cush-ing病5例(10%),下垂体腺腫4例(8%),RCC+成長ホルモン産生腫瘍2例(4%),RCC+下垂体腺腫1例(2%)であった.治療は手術23例(46%),ホルモン補充療法2例(4%),治療拒否2例(4%),経過観察23例(46%)であった.視野が下垂体腫瘍病変部位と一致したのは26例(52%)で,うち片眼性緑内障は6例(23%),両眼性緑内障は20例(77%)であった.自覚症状は,頭痛24例(48%),頭痛+めまい10例(20%),めまい8例(16%),自覚症状なし8例(16%)であった1,2).●眼科医の立場から緑内障であることは確実であっても,それ以外の合併症の検索にあたっては,眼科以外の関連領域科の協力が必要になる.当院では眼科外領域の,とくに下垂体疾患の専門医が常在することから,積極的に協力体制を組むことができ,今回,過去1年間で下垂体腫瘍50例という多数の合併症を発見する機会を得,その臨床像をまとめることができた.その臨床像は,片眼またはおもに片眼に強い視野障害(61)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY図1下垂体CT像を認め,頭痛,めまいは84%に及ぶというものであった.この結果より,とくに片眼緑内障の際には,本合併症を想定におく必要があることが示唆された.さらに下垂体腫瘍手術例における視野改善は比較的良好との報告3.6)もあるが,本研究では有意な改善はみられなかった.今回の症例で手術後に視野改善が得られなかったものは,その発見までの期間が長く遅きに失したため,慢性障害で視野欠損が残存したか,もしくは,すべての症例で,画像上,視神経への圧迫所見が認められなかったことより,下垂体腫瘍は視野障害に関与していなかったものと考えられた.●下垂体専門医の立場から1)原因不明の視野障害,とくに片眼に強い視野障害を認める場合は,問診で周期的な頭痛,めまい,生理不あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017521.胞図23ステラFlairCubeMRI像RCCと視交差の間が約2mmなので,RCCの破裂により視神経の炎症も示唆される.順を確認し,thinsliceの下垂体CTを施行し,トルコ鞍底骨の菲薄化を確認する(図1).2)通常のCT,MRIでは,腫瘍がかなり大きくならないと発見されないことが多く,軽微なものは発見がむずかしく,読影がむずかしい.トルコ鞍の菲薄化を認めた場合は,まずは下垂体専門医に紹介する必要がある.しかし,若年者では骨の菲薄化は伴わないことがあり,発見が遅れることがあるため,注意を要する.その後,下垂体専門医でホルモン検査,3テスラFlareCubeMRIでの詳細な画像診断が必要である(図2).下垂体専門医でないと一般的にはホルモン検査をしないため,発見がむずかしい(婦人科からは高プロラクチン血症での紹介が多い).3)下垂体腫瘍はおもに両耳側半盲であるが,不定型な視野異常をきたすことがあり,緑内障などの視野異常を呈する疾患に合併した場合,視野が修飾されるため,注意を要する.4)RCC破裂に起因する頭痛は,手術治療にて94%の症例において頭痛のスコアが改善する.また手術により,.胞破裂に伴う正常下垂体組織の炎症惹起による下垂体機能の低下,ひいては荒廃に至る過程が阻止あるいは改善されうるものと考えられる(図3).RCCの手術適応は,画像本位ではなく,症状の程度,ホルモンの障害の進行の有無を重視し,下垂体に精通した術者が行うべきと考える7).●まとめ当科で発見された下垂体腫瘍はすべてRCCを合併しており,下垂体CTでトルコ鞍底骨の菲薄化を認め,下522あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017図3手術所見表面平滑で光沢のある.胞壁(.印).垂体専門医に紹介し,ホルモン検査で異常を認め,加療に至った症例である.また,当科では,RCC合併による視神経炎8),原因不明の漿液性網膜.離がRCCの手術9)により軽快した症例を経験した.RCCでは,周囲組織への炎症反応が強いとされ,視神経への炎症も示唆されることから,今後,さらに多くの症例の検討が必要と思われる.文献1)KobayashiN,KobayashiK,IkedaHetal:Retrospectiveanalysesofophthalmological.ndingsin106casesofsus-pectedpituitarytumors.Lessonslearntfrom2000casesofpituitarysurgery.LAMBERTAcademicPublishing,20152)小林奈美江,池田秀敏,小林健太郎ほか:緑内障加療中に発見された下垂体腫瘍50例の特徴.日眼会誌120:101-109,20163)FindlayG,McFadzeanRM,TeasdaleG:Recoveryofvisionfollowingtreatmentofpituitarytumors;applicationofanewsystemofassessmenttopatientstreatedbytranssphenoidaloperation.ActaNeurochir68:175-186,19834)PeterM,DeTriboletN:Visualoutcomeaftertranssphe-noidalsurgeryforpituitaryadenomas.BrJNeurosurg9:151-157,19955)PowellM:Recoveryofvisionfollowingtranssphenoidalsurgeryforpituitaryadenomas.BrJNeurosurg9:367-373,19956)GnanalinghamKK,BhattacharjeeS,PenningtonRetal:Thetimecourseofvisual.eldrecoveryfollowingtranss-phenidalsurgeryforpituitaryadenomas:predictivefac-torsforagoodoutcome.JNeurolNeurosurgPsychiatry76:415-419,20057)IkedaH,OhhashiG:DemonstrationofhighcoincidenceofpituitaryadenomainpatientswithrupturedRathke’scleftcyst:Resultsofaprospectivestudy.ClinNeurolandNeurosurg139:144-151,20158)小林奈美江,小林健太郎,小野田貴嗣ほか:Rathke.胞による小児視神経炎の1例.臨眼68:1189-1195,20149)小林奈美江,小林健太郎,小野田貴嗣ほか:Rathke.胞を合併した漿液性網膜.離の3例.臨眼70:1089-1095,2016(62)

屈折矯正手術:新しいICLの光学特性

2017年4月30日 日曜日

監修=木下茂●連載203大橋裕一坪田一男203.新しいICLの光学特性五十嵐章史山王病院アイセンター後房型有水晶体眼内レンズのICL(STAAR社)は,2016年9月に従来レンズよりひとまわり光学部径が大きいEVO+VisianICL(以下,EVO+)の販売を開始した.EVO+は光学部径拡大によって,夜間の瞳孔散大に伴うエッジグレアやハローなどの夜間視の改善が期待されている.球面度数(D)従来レンズ光学部径(mm)新モデルEVO+光学部径(mm)EVO+角膜面換算光学部径(mm).3.0~.9.05.86.17.6.9.5~.10.05.55.9~6.17.4~7.6.10.5~.12.55.35.3~5.86.6~7.3.13.0~.14.04.95.0~5.26.3~6.5<.14.04.9──●はじめに後房型有水晶体眼内レンズのICL(implantablecolla-merlens,STAAR社)は,長期的な安全性1)から2010年に国内で唯一承認された有水晶体眼内レンズである.2011年にはトーリックICLも承認され,乱視矯正も可能となり,その適応範囲は広がったが,毛様溝にレンズを固定するため自然な房水循環が妨げられ,同時に虹彩切除が必要なことと,術後数%の白内障のリスクがあるという欠点から,屈折矯正手術としてはレーシック不可能な症例に対する選択肢のひとつであった.その後,それらの欠点を補うべく,清水は2007年にレンズ光学部中央に0.36mmの貫通孔を有するICLKS-AquaPORT(KS-AP)を開発した2).このレンズの登場により,上記欠点は解消され,安全性は高まり2~4),世界70カ国以上で承認され,現在はレーシックに代わる次世代の屈折矯正手術として注目されている.今回新たに開発されたEVO+は,このKS-APの利点は引き継ぎ,光学部径をひとまわり大きくしたレンズ(図1)となり,従来と比べ夜間視の改善が期待されている.●従来レンズと新たなEVO+のスペック比較従来レンズとEVO+のスペック比較を表1に示す.現状では,国内で取り扱うEVO+は球面度数が.3.0D~.14.0D(円柱度数はその球面度数内で+1.0D~+4.5D)までとなり,.14.0Dを超える最強度近視に対するレンズは従来と同様の光学部径となる.各度数により拡大割合は若干異なるが,最大で約11%光学部が拡大している(図1).●瞳孔径と高次収差の関連性以前,筆者らは従来のICL挿入者19例38眼(男性6例,女性19例)を対象に,明所(500lx)・薄暮(50lx以下)での瞳孔径とその高次収差を検討した.対象の平均年齢,等価球面度数はそれぞれ30±6歳(23~40歳),.7.38±2.00D(.3.50~.11.75D)であり,高次収差の測定には自然瞳孔径下での測定が可能であるiTrace(TraceyTechnologies社)を用いた.その結果,本来ICLは度数に伴う高次収差の増加は認めないが,図2に示すようにある瞳孔径を超えると高次収差が著明に増加する症例が散見された.この検討では瞳孔径は明所では表1従来レンズとEVO+のスペック比較図1従来レンズと新たなEVO+レンズ左がEVO+,右が従来のICLKS-APである.肉眼的にも光学径が大きくなっているのがわかる.(59)あたらしい眼科Vol.34,No.4,20175190910-1810/17/\100/頁/JCOPY瞳孔径(mm)図2瞳孔径と高次収差瞳孔径6.0mm付近で極端に高次収差が大きい例が存在している.平均3.42±0.62mm,薄暮では5.89±0.62mmであり,薄暮における瞳孔径の拡大がレンズの光学部径を上回ったときにこのような著明な高次収差の増加を認めたのではないかと考えられた.実際に臨床で,夜間にグレア・ハロー症状を訴える典型的な症例を図3に示す.●EVO+の海外での報告Dominguezら5)は従来のKS-APと光学径が大きくなった新たなEVO+の2種類のレンズに対して,それぞれ異なる度数(.3.00D,.6.00D,.9.50D,.10.50D),異なる径(3.00mm,4.50mm,5.50mm,6.00mm)で高次収差,strehl比,PSFを比較した.その結果,いずれの度数,径においても新旧2種類のレンズの間に高次収差,strehl比,PSFの有意差はなかったとしている.しかし,この報告は実際の挿入眼に対しての結果ではなく,invitroにて光学シミュレーションを行った結果であり,もっとも差が出るであろう6.00mm径での比較ができていない(従来レンズは光学径が6.00mm未満であるため算出されていない).6.00mm径のEVO+のみの結果では,PSF,シミュレーション像はきれいに描出されていることから,EVO+の光学特性は良好であるように思えるが,今後,自覚症状を含めた臨床的な比較が必要であると考える.●おわりにICLはKS-APの登場により大きな欠点は改善され,安全性は格段に向上したが,トーリックレンズの回転,レンズサイズの決定方法,術後のグレア・ハローに関してはまだ改善の余地がある.今回のEVO+の登場により,これまで以上にグレア・ハロー含めた夜間視が良好520あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017明所瞳孔径3.1mm薄暮瞳孔径5.9mm図3夜間にグレア・ハローを有する一例夜間にグレア・ハロー症状を訴える例の明所と薄暮下の瞳孔径(左)と,高次収差から算出されるシミュレーション像(右)を示す.この例では薄暮下で瞳孔径が光学径を超える5.9mmとなり,高次収差がエラー様に増大しシミュレーション像が乱れている.になるのであれば,アスリートなどのより繊細な視機能を必要とする人,あるいはより優れた視機能を獲得したい職業の人に良い適応となるであろう.文献1)IgarashiA,ShimizuK,KamiyaK:Eight-yearfollow-upofposteriorchamberphakicintraocularlensimplantationformoderatetohighmyopia.AmJOphthalmol157:532-539,20142)ShimizuK,KamiyaK,IgarashiAetal:Earlyclinicalout-comesofimplantationofposteriorchamberphakicintra-ocularlenswithacentralhole(HoleICL)formoderatetohighmyopia.BrJOphthalmol96:409-412,20123)ShimizuK,KamiyaK,IgarashiAetal:Intraindividualcomparisonofvisualperformanceafterposteriorchamberphakicintraocularlenswithandwithoutacentralholeimplantationformoderatetohighmyopia.AmJOphthal-mol154:486-494,20124)ShimizuK,KamiyaK,IgarashiAetal:Long-termcom-parisonofposteriorchamberphakicintraocularlenswithandwithoutacentralhole(holeICLandconventionalICL)implantationformoderatetohighmyopiaandmyo-picastigmatism:Consort-CompliantArticle.Medicine(Baltimore)95:e3270,20165)Dominguez-VicentA,Ferrer-BlascoT,Perez-VivesCetal:Opticalqualitycomparisonbetween2collagencopoly-merposteriorchamberphakicintraocularlensdesigns.JCataractRefractSurg41:1268-1278,2015(60)

眼内レンズ:眼内レンズインジェクターを用いた前房内異物除去法

2017年4月30日 日曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋365.眼内レンズインジェクターを中西正典石井香利秋元正行大阪赤十字病院眼科用いた前房内異物除去法前房内飛入異物を除去するには鑷子での摘出が一般的であるが,ときに把持すら困難で,切開創を通過させるのに十分な大きさの切開創を作製する必要もある.筆者らは,眼内レンズインジェクターを創口から挿入して導線を確保することで,創口,角膜内皮,水晶体などを保護しつつ容易に異物を摘出することができた.●はじめに眼科手術は日進月歩で進歩し,低侵襲化,小切開化が進んでいる.しかし,外傷などの特殊症例に用いる器具は,鑷子やマグネットを使用するのが一般的であるが,近年の眼科手術に見合った器具や術式の進歩はあまりみられない.症例頻度が少ないため強力マグネットを常備していない施設も多く,鑷子では把持が困難であったり,異物の大きさに加えて鑷子の分も含めた大きな切開創での摘出が必要となる場合が多い.筆者らは,前房内飛入異物の摘出に際し,異物を筒状のもので包み込んでしまえば,他の組織への侵襲を最小限におさえながら摘出することが可能と考え,眼球にとっては異物である眼内レンズを眼内に挿入するための眼内レンズインジェクターを異物摘出の目的に使用できないか試みた1).●症例1:37歳,男性作業中,右眼に釘が飛入し当科受診.角膜から飛入した釘を前房内に認めた.角膜ポートから粘弾性物質を前房内に充..経結膜強角膜1面切開を3.0mmスリットナイフにて作成.眼内レンズインジェクターを前房内に挿入し,異物を包み込んだ(図1).隅角への陥頓をスパーテルで解除し,眼内レンズインジェクター内に入った異物をそのまま眼外へ摘出(図2).灌流吸引(irriga-tionandaspiration:IA)にて粘弾性物質を除去して無縫合にて手術を終了.術後は裸眼視力1.5を得た.●症例2:41歳,男性建設現場にて右眼に異物が飛入して当科受診.水晶体内異物を認めた.強角膜裂傷を縫合.強角膜1面切開を作製.鑷子にて異物摘出を試みるが,把持困難のために摘出不能.眼内レンズインジェクターを創口から差し込んだところ(図3),眼圧による水流に乗って,異物は眼内レンズインジェクター内へ移動(図4).そのまま異物は摘出できた.その後,眼内レンズを二次挿入して,矯正視力は1.0に回復した.図1症例1の術中写真1(1)眼内レンズインジェクターを前房内に挿入し,異物を包み込んだところ.図2症例1の術中写真2(2)眼内レンズインジェクター内に入った異物をそのまま眼外へ摘出した.(57)あたらしい眼科Vol.34,No.4,20175170910-1810/17/\100/頁/JCOPY図3症例2の術中写真1(1)鑷子にて把持困難のため,眼内レンズインジェクターを創口から差し込むところ.●おわりに近年,プリロードタイプ眼内レンズが主流となりつつあるが,未だ単体の眼内レンズインジェクターやカートリッジが必要な眼内レンズは広く使用されており,眼内レンズインジェクターやカートリッジは多くの施設で比較的容易に手に入る器具である.眼内レンズインジェクターを前房内に挿入することで,創口,角膜内皮,水晶体などを保護しつつ容易に異物を摘出することができ図4症例2の術中写真2(2)異物は眼内レンズインジェクター内へ移動しそのまま眼外へ.た.本法は非磁性異物にも使用可能と考えられ,異物摘出においては,創拡大を検討する前に一考する価値がある方法と考えられる.文献1)IshiK,NakanishiM,AkimotoM:Removalofintracamer-almetallicforeignbodybyencapsulationwithanintraocu-larlensinjector.JCataractRefractSurg41:2605-2608,2015

コンタクトレンズ:コンタクトレンズに付着するタンパク質

2017年4月30日 日曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方つぎの一歩~症例からみるCL処方~監修/下村嘉一30.コンタクトレンズに付着する丸山邦夫ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社ビジョンケアカンパニー学術部タンパク質●はじめに涙液層は,油層,液層の2層に分類され,とくに液層には多くのタンパク質が含まれている.そのタンパク質のなかでも,リゾチーム,リポカリン,ラクトフェリン,分泌型免疫グロブリンAの4つタンパク質が多く,これらは眼表面において感染防御の重要な役割を担っている.しかしながら,コンタクトレンズ(CL)は眼表面に装着されると,涙液中のタンパク質がレンズに付着し,それが眼表面に悪影響を及ぼすことがある.とくにソフトCL(SCL)は,極性をもち,含水していることから,タンパク質がSCL内部へ入り込んで付着し,熱などの外部環境により変性し,眼表面でアレルギー反応を引き起こすことが以前は問題となっていた.しかし,20年ほど前に使い捨てレンズが登場したことや,煮沸消毒が化学消毒に代わったことで,その問題は大きく改善された.眼表面へ悪影響を及ぼすと考えられてきたタンパク質について,最近のタンパク質の分析技術の進化により,新しい知見も得られてきた.●ソフトコンタクトレンズへのタンパク質の付着SCLへのタンパク質の付着は,レンズ素材に大きく依存している.とくにタンパク質の付着量は,SCLの含水量とイオン性に密接に関係している1~4).メタクリル酸を含有するイオン性レンズは,N-ビニルピロリドンを含有する非イオン性レンズなどの他の素材と比較して,はるかに多くのタンパク質を引き付け5),イオン性かつ高含水性のSCL(FDAグループIV)は,たった1分の装用で多くのタンパク質の付着が検出されることから,タンパク質の付着過程においては,レンズ装用直後に多くのタンパク質が付着すると考えられる6,7).とくに,リゾチームは分子量が比較的小さく,強い正の電荷を帯びていることから,負の電荷を有するSCLがそれらを強く引き付ける.付着したリゾチームは,温度変化,pH,表面の疎水化などの影響を受け,二次および三次構造が分裂されたり破壊されたりする(図1).このように,リゾチームが変性すると,殺菌作用の低下をもたらし8),変性したリゾチーム自体の存在が乳頭性結膜炎の発症の原因となることもある9).●リゾチームの変性SCLに付着するリゾチームは眼表面に悪影響を与えるように思われてきたが,最近,興味深い研究結果が報告されている.SCLに付着するリゾチームは,変性することで眼表面に悪影響を及ぼすのであって,本来の活性を保ったリゾチームであれば,むしろプラスの効果も期待できるのではないかとも考えはじめられている.イオン性で高含水のeta.lconAレンズは,リゾチームの付着量が非常に多い結果がこれまでにも報告されてきているが10,11),Suwalaら11)は,各種SCLのリゾチーム(ニワトリ卵白リゾチーム)の付着量と活性をinvitroで調べた結果,eta.lconAレンズは多くのリゾチーム付着量を示したが(図2),付着したリゾチームのほとんどは変性せずに活性を保っていた(図3)と報告している.活性リゾチーム変性リゾチーム変性すると構造が異なり,性質も変化する図1変性リゾチームのイメージ(55)あたらしい眼科Vol.34,No.4,20175150910-1810/17/\100/頁/JCOPY10,0001,0001009080総リゾチーム付着量(μg/lens)総リゾチームの活性度(%)706050403010010120EAOABAGALBSALA各種コンタクトレンズ各種コンタクトレンズEA:eta.lconA,OA:oma.lconA,BA:bala.lconA,GA:galy.lconA,EA:eta.lconA,OA:oma.lconA,BA:bala.lconA,GA:galy.lconA,LB:lotra.lconB,SA:seno.lconA,LA:lotra.lconALB:lotra.lconB,SA:seno.lconA,LA:lotra.lconA図2各種コンタクトレンズの総リゾチーム付着量図3各種コンタクトレンズに付着したリゾチームの活性度(文献11より改変引用)(文献11より改変引用)EAOABAGALBSALA●おわりにこれまでは,SCLへのタンパク質の付着に対して否定的な印象がもたれていたが,タンパク質の抗菌特性を考慮すると,活性を保った,つまり自然の状態のタンパク質がSCL素材に蓄積されていれば,抗菌効果に対して有効に働く可能性がある.Williamsら12)が,新品のSCLに比べて,装着したSCLのほうがグラム陰性菌の付着量が少ないことを報告しており,タンパク質が抗菌効果を保ったままSCLに付着する期待がもてる.SCLへ付着したタンパク質の挙動については,これからも多くの事実が明らかにされてくることと期待している.それにより,タンパク質とSCLの共存が実現できるようになり,より安全で快適なSCL装用も実現できると思われる.文献1)TigheBJ,JonesL,EvansKetal:Patient-dependentandmaterial-dependentfactorsincontactlensdepositionpro-cesses.AdvExpMedBiol438:745-751,19982)JonesL,MannA,EvansKetal:AninvivocomparisonofthekineticsofproteinandlipiddepositionongroupIIandgroupIVfrequent-replacementcontactlenses.OptomVisSci77:503-510,20003)GarrettQ,MilthorpeBK:Humanserumalbuminadsorp-tiononhydrogelcontactlensesinvitro.InvestOphthalmolVisSci37:2594-2602,19964)LeeJ,LiT,ParkK:Solvationinteractionsforproteinadsorptiontobiomaterialsurfaces.In:Waterinbiomateri-alssurfacescience(editedbyMorraM),p127-146,JWiley&Sons,Chichester,20015)GarrettQ,LaycockB,GarrettRW:Hydrogellensmono-merconstituentsmodulateproteinsorption.InvestOph-thalmolVisSci41:1687-1695,20006)KeithD,HongB,ChristensenM:Anovelprocedurefortheextractionofproteindepositsfromsofthydrophiliccontactlensesforanalysis.CurrEyeRes16:503-510,19977)RonenD,EylanE,RomanoAetal:Aspectrophotometricmethodforquantitativedeterminationoflysozymeinhumantears:descriptionandevaluationofthemethodandscreeningof60healthysubjects.InvestOphthalmol14:479-484,19758)MasschalckB,VanHoudtR,VanHaverEGetal:Inacti-vationofgram-negativebacteriabylysozyme,denaturedlysozyme,andlysozyme-derivedpeptidesunderhighhydrostaticpressure.ApplEnvironMicrobiol67:339-344,20019)SkotnitskyC,SankaridurgPR,SweeneyDFetal:Generalandlocalcontactlensinducedpapillaryconjunctivitis(CLPC).ClinExpOptom85:193-197,200210)SenchynaM,JonesL,LouieD,MayCetal:Quantitativeandconformationalcharacterizationoflysozymedepositedonbala.lconandeta.lconcontactlensmaterials.CurrEyeRes28:25-36,200411)SuwalaM,GlasierMA,SubbaramanLNetal:Quantityandconformationoflysozymedepositedonconventionalandsiliconehydrogelcontactlensmaterialsusinganinvitromodel.Eye&contactlens33:138-143,200712)WilliamsTJ,SchneiderRP,WillcoxMD:Thee.ectofprotein-coatedcontactlensesontheadhesionandviabilityofgramnegativebacteria.CurrEyeRes27:227-235,2003ZS980