MyDesignandTechnique消しゴムを利用した眼内レンズ強膜内固定術の要約市販の消しゴムを利用して,眼内レンズ(IOL)の強膜内固定術練習用模擬眼を試作し,練習を行った.作製したモデル眼の模擬強膜に27ゲージ針を刺入させて,IOLの支持部を注射針の内腔に挿入するなどの練習が可能であった.通常の手術では行わない,慣れていない操作を手軽に試すことができる.また,IOLの縫着術の練習も可能で,それぞれの手技の難易度もある程度実感できた.本模擬眼は入手が容易な材料で作製できるが,一部の操作の練習用に特化している.したがって,より実践的な練習は,豚眼などで行う必要がある.はじめに近年,新たな眼内レンズ(intraocularlens:IOL)二次挿入の方法として,強膜内固定術という術式が注目され,手術成績が報告されている1.4).その手術手技の一つに,27ゲージ(G)注射針を用いた方法がある3,4).注射針の内腔へIOLの支持部であるループの先端を挿入する繊細な操作が必要な術式である.一般的に,白内障関連の手術練習は,ウエットラボによる豚眼が利用されている5.7).しかし,豚眼での練習は,個人が手軽に準備して,頻繁に行うことはむずかしい.また,机太郎マルチラボ(IOL強膜内固定用バージョン)を用いて,「Y-.xationtechnique」の練習をした報告8)はあるが,27G注射針を用いた方法に対する練習用のモデル眼の報告はほとんどない.今回,消しゴムを用いて,IOL強膜内固定術用の模擬眼を作製し,27G注射針を使った練習をしたので解説する.また,作製したモデル眼で,IOL縫着の練習も可能か試したので報告する.練習用モデル眼の試作TrainingModelEyesUsingEraserforIntrascleralFixationTechniqueUsing27-gaugeNeedles上甲覚*模擬眼の作製方法と練習市販の消しゴム(縦25mm・横46mm・高さ14mm:uni三菱鉛筆株式会社)をカッターナイフで切り,厚さ約3mm,高さ約19mm,長さ約25mmの模擬強膜を作製した(図1a).消しゴムは,ある程度厚みがないと固定がむずかしく,また27G針を刺入したときに壊れやすくなる.したがって,人眼の強膜と同じ厚さ(約1mm)まで消しゴムを薄くしないほうがよい.この模擬強膜を2つ作製し,間を開けて固定することで,27G注射針の内腔にIOLのループを挿入する練習が可能であった(図1b).つぎに,同一製品の消しゴムを用いて,より固定の安定した円筒形の模擬強膜を作製した(図2a).円筒の内腔の幅は,意図的に調整可能である.今回は,内径を約12mmにした.このモデル眼でも,IOLのループを27G注射針の内腔に挿入する練習が可能であった(図2b).さらに,眼球の形に類似した模擬無水晶体眼を作製し,同じ練習をすることもできる(図3a~c).ただし,模擬強膜の厚さや,内腔の大きさを調整するのはむずかしく,作るには時間を要する.手軽に作製しにくいのは欠点である.IOLの全長は支持部も含めると約13mmである.強膜内固定術では,IOLの支持部に通常とは異なるテンションがかかる.27G針ごとループを模擬強膜外に抜き出し,再利用のためにIOLを取りはずす操作を繰り返すと,ループは変形する可能性が高くなる.取扱いには注意が必要である.強膜内トンネルへIOLのループを挿入する練習用に,図3のモデル眼を簡素化した模擬眼を作製した(図4a).消しゴムの中央部に,直径約8mm,深さ約2mmの円形の穴があり,囲んでいる壁の厚みは約2mmである.また,IOLのループが通る溝も作製した.この模擬強膜に25G針でトンネ*SatoruJoko:国立病院機構東京病院眼科〔別刷請求先〕上甲覚:〒204-8585東京都清瀬市竹丘3-1-1国立病院機構東京病院眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(129)589図1消しゴムの模擬眼での練習(その1)a:市販の消しゴムはカッターナイフで切り,図のような形の模擬強膜にした(本模型は,幅3mm・長さ25mm・高さ19mm).2つ作製した.b:固定した左右の模擬強膜に,27G注射針を刺入させた後,IOLの支持部である両ループを注射針の内腔に挿入した.図2消しゴムの模擬眼での練習(その2)a:カッターナイフと彫刻刀を使用して,消しゴムによる円筒形の模擬強膜を作製した.内径は約12mm,幅は2.3mm,高さは14mmである.b:図1と同様に,27G注射針を模擬強膜に刺入させた後,IOLの支持部を注射針の内腔に挿入する練習が可能である.図3消しゴムの模擬眼での練習(その3)a:彫刻刀を使い,消しゴムで図のような模擬無水晶体眼を作製することも可能である.ただし,このモデル眼の作製には30分以上の時間を要した.b:固定した本模擬眼に,27G注射針を刺入させて,IOLの支持部である前方ループを注射針に挿入させた.c:IOLの両ループを注射針に刺入させた後,注射針を眼外に抜き出すと,IOLのループも模擬眼の内から外に抜き出される.590あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017(130)図4消しゴムの模擬眼での練習(その4)a:強膜内トンネル挿入用の模擬眼を作製した.消しゴムの中央部に,直径約8mm,深さ約2mmの円形の穴を作製.穴を囲んでいる壁の厚みは約2mmである.IOLのループが通る溝も作製してあるので,ループにテンションをかけずにIOLを中央の穴に置くことができる.b,c:あらかじめ模擬強膜に25G針でトンネルを作製しておき,IOLのループを挿入した.なお,27G針で作製したトンネルでは,IOLのループの挿入は困難であった.図5模擬眼によるIOL縫着術の練習a,b:図2と同じ円筒形の模擬強膜を使用して,IOLの縫着術の練習を行った.専用の縫着針を使わず,釣り糸を27G針の内腔に入れた後,模擬強膜に通糸した.c:通糸した釣り糸を中央部で切断し,糸の端をIOLの両支持部のループに結んだ.d:釣り糸をゆっくり引いて,IOLを模擬強膜の内部に誘導した.e:模擬強膜の空洞中央部に,IOLを固定することができた.IOLに結んだ糸の端は,写真で見やすいように意図的に長めに残してある.(131)あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017591図6拡大鏡を使用した練習手術用顕微鏡を使わなくても,スタンド式のルーペ(拡大率約2倍)で,繊細な手術手技の練習は可能であった.ルを作製すれば,IOLのループを挿入する練習が可能であった(図4b,c).図2で作製した円筒型のモデル眼は,作製が容易で固定も安定している.このモデル眼で,IOL縫着の練習も行った(図5a~e).縫着用専用の縫合糸の代わりに,入手しやすく廉価なナイロン製の釣り糸を使用した.今回,用いた釣り糸の太さは,0.25号(直径約0.08mm)で,縫合糸6-0に相当する.今回は使用しなかったが,縫合糸7-0に相当する0.1号(直径約0.05mm)の釣り糸も市販されている.おわりにIOLのループ先端を27G針や強膜トンネルに挿入する操作,またIOLの縫着術は,通常の白内障手術では行わない手術手技である.今回報告した模擬眼は,入手が容易な材料で簡単に作製可能である.また,市販されている廉価な拡大鏡を使って,容易に手術手技を試すことができる(図6).したがって,手軽に手技の難易度もある程度実感できると考える.ただし,一図7豚眼でのIOL固定術の練習手術用顕微鏡下で,豚眼の角膜から前房内に刺入させた27G針に,IOLループを挿入.今回使用した豚眼の角膜径は約15mmであった.部の操作の訓練に特化したモデル眼なので,ウエットラボを利用したより実践的な練習も必要と考える(図7).文献1)GaborSG,PavlidisMM:Suturelessintrascleralposteriorchamberintraocularlens.xation.JCataractRefractSurg33:1851-1854,20072)OhtaT,ToshidaH,MurakamiA:Simpli.edandsafemethodofsuturelessintrascleralposteriorchamberintra-ocularlens.xation:Y-.xationtechnique.JCataractRefractSurg40:2-7,20143)YamaneS,InoueM,ArakawaAetal:Sutureless27-gaugeneedle-guidedintrascleralintraocularlensimplan-tationwithlamellarscleradissection.Ophthalmology121:61-66,20144)塙本宰,木原真一,大槻智宏ほか:硝子体鉗子を使わないダブルニードルを用いたIOL強膜内固定術.眼科手術27:増刊号,抄録集191,20145)黒坂大次郎,杉浦毅,植月康:豚眼を用いた白内障手術練習法の改良─硬い核を作る試み─.眼科40:109-114,19986)VanVreeswijkH,PameyerJH:Inducingcataractinpostmortempigeyesforcataractsurgerytrainingpur-poses.JCataractRefractSurg24:17-18,19987)上甲覚:豚眼による白内障モデルの試作と使用経験.あたらしい眼科28:1599-1601,20118)太田俊彦:眼内レンズ強膜内固定術─Y-.xationtechnique─.IOL&RS27:13-20,2013☆☆☆592あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017(132)