眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人38.マイボーム腺機能不全とドライアイ大矢史香大阪労災病院高静花大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室マイボーム腺機能不全(MGD)では,涙液油層の菲薄化により涙液安定性の低下を生じ,蒸発亢進型ドライアイを併発する.MGDに併発するドライアイに対してはドライアイ治療を主体に行う.●はじめにマイボーム腺は瞼板内にあり,上下の眼瞼縁に開口部をもつ脂腺である.マイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD)はなんらかの原因でマイボーム腺機能に異常をきたした状態であり,さまざまな眼不快感を引き起こす.また,マイボーム腺から分泌される脂質(meibum)は涙液の最表層である油層を形成するため,マイボーム腺機能の低下は涙液安定性の低下,すなわちドライアイと密接に関連している.本稿ではMGDの定義,臨床的特徴,MGDとドライアイの関連について概説する.C●MGDの定義MGDは「さまざまな原因によってマイボーム腺の機能が瀰漫性に異常をきたした状態であり,慢性の眼不快感を伴う」と定義されている1).MGDは分泌減少型と分泌増加型に分類され,それぞれ原発性のものと続発性のものに分けられる.臨床的には分泌減少型CMGDが分泌増加型CMGDに比べて圧倒的に多い.分泌増加型MGDの病態についてはいまだ不明な点も多く,一般的表1分泌減少型マイボーム腺機能不全(MGD)の診断基準にCMGDというと分泌減少型CMGDをさすため,本稿でも分泌減少型CMGDを中心に述べる.分泌減少型CMGDのうち原発性・閉塞性のものがもっとも頻度が高く,これは過剰角化物によりマイボーム腺導管が閉塞することでCmeibumのうっ滞を引き起こし,最終的にはマイボーム腺の腺房の廃用性萎縮とマイボーム腺の脱落が生じる病態である.これとは異なり,原発性・萎縮性の分泌減少型CMGDは,マイボーム腺の腺房の萎縮が原発性に生じることでCmeibumの分泌が減少する.続発性分泌減少型CMGDはアトピー,Stevens-Johnson症候群,移植片対宿主病,トラコーマなどに続発して,マイボーム腺開口部の閉塞が生じた状態である.C●MGDの臨床的特徴分泌減少型CMGDの診断基準を表1に,症例写真を図1,2に示す.MGDでは自覚症状と所見に乖離がみられることがある.理学所見が重症なのにもかかわらず,自覚症状が軽度であったり,その逆もありえる.また,MGDの自覚症状としてあげられる症状はドライアイや図1分泌減少型マイボーム腺機能不全の1例マイボーム腺開口部周囲に血管拡張と閉塞所見(plugging)を認める.(91)あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018C6550910-1810/18/\100/頁/JCOPY図2マイボーム腺開口部周囲異常所見(眼瞼縁不整)長期にわたるCMGDにより腺構造が線維化した結果,開口部付近にくぼみを生じている.その他の眼表面疾患とも共通するものが多い.MGDに特異的な症状は特定されておらず,また,前述のようにMGDとドライアイは互いに関連し,併発していることもあるため,それぞれの症状を切り離して考えることは困難である.MGDのリスクファクターとしては,加齢,乾燥,性ホルモンの変化,コンタクトレンズの使用,緑内障点眼薬の使用などが知られている.こうしたリスクファクターはCmeibumの性質や分泌量を変化させたり,マイボーム腺の形態異常を引き起こすことでマイボーム腺の腺房の萎縮を生じさせると考えられている.C●MGDとドライアイ近年,ドライアイのコア・メカニズムとして「涙液層の安定性の低下」と「瞬目時の摩擦亢進」が注目されているが,MGDに併発するドライアイにもこのコア・メカニズムが密接にかかわっている.分泌減少型CMGDでは,涙液油層の減少により涙液蒸発が亢進し,涙液安定性が低下すると同時に,潤滑油の減少のため眼瞼摩擦も増大している.MGDでは蒸発亢進型ドライアイを生じることが多い.MGDとドライアイの発現率は報告によってさまざまである.最近の報告では,Kawashimaらが,日本のドライアイ診断基準を満たした患者のうちC42.3%にマイボーム腺開口部周囲閉塞所見を,37.0%にCmeibumの圧出低下を認めた,と報告している2).C●MGDとドライアイの治療MGDに併発する蒸発亢進型ドライアイの治療には涙液油層を補充し,涙液の蒸発を抑制する必要があるが,直接油層を補充する薬剤は現在のところ存在しない.そのため,meibumの分泌をうながすための眼瞼温罨法や眼瞼清拭など,従来のCMGDに対するセルフケアに加え,ドライアイ点眼薬や涙点プラグを用い,症状を改善させることを目標に治療を行う.ジクアホソルが作用するP2Y2受容体はマイボーム腺上皮にも存在している3)ため,ドライアイだけでなくCMGDに対する効果も期待されている4).3カ月間のジクアホソルの使用で,ドライアイとCMGDの症状,マイボーム腺開口部閉塞所見が改善し,油層の厚みも増したという報告がある5).C●おわりに本稿では,MGDの病態とドライアイとの関連について概説した.MGDはそれ単体でも不快な症状を引き起こすが,ドライアイを併発してより複雑な病態を呈し,治療に難渋することもしばしば経験する.現在,MGDに対する特効薬はないが,常に病態を適切に把握し治療を検討するよう努める必要がある.文献1)天野史郎:マイボーム腺機能不全の定義と診断基準.あたらしい眼科27:627-631,C20102)KawashimaCM,CYamadaCM,CSuwakiCKCetCal:ACclinic-basedCsurveyCofCclinicalCcharacteristicsCandCpracticeCpat-ternofdryeyeinJapan.AdvTherC34:732-743,C20173)CowlenCMS,CZhangCVZ,CWarnockCLCetCal:LocalizationCofCocularCP2Y2CreceptorCgeneCexpressionCbyCinCsituChybrid-ization.ExpEyeResC77:77-84,C20034)AritaCR,CSuehiroCJ,CHaraguchiCTCetCal:TopicalCdiquafosolCforCpatientsCwithCobstructiveCmeibomianCglandCdysfunc-tion.BrJOphthalmol97:725-729,C20135)AmanoS,InoueK:E.ectoftopical3%diquafosolsodiumonCeyesCwithCdryCeyeCdiseaseCandCMeibomianCglandCdys-function.CClinOphthalmolC11:1677-1682,C2017656あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018(92)