●連載監修=安川力.橋寛二45.加齢黄斑変性に対する大中誠之関西医科大学眼科学教室抗VEGF療法の中止基準現在,滲出型加齢黄斑変性(AMD)に対する治療としておもに抗CVEGF療法が行われ,treatandextend法を用いることにより,長期にわたって良好な視力を維持することが可能になってきた.しかし,基本的には治療の継続が必要であり,治療の中止に踏み切るタイミングはむずかしい.本稿では,滲出型CAMDに対する抗VEGF療法の中止基準について考察する.はじめに現在,滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)に対する治療として,おもに血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfactor:VEGF)阻害薬の硝子体内注射(抗CVEGF療法)が用いられる.しかし,滲出型CAMDは慢性疾患と考えられており,どのCVEGF阻害薬を用いても完治は困難であり,多くの症例において抗CVEGF療法を継続して行う必要がある.一般的に抗CVEGF療法は,視力の改善を目的とした導入期と,改善した視力を維持するための維持期に分けて考えられるが,長期予後を考えた場合には,維持期の治療がより重要となってくる.これまでの報告をみてみると,維持期の治療としては,滲出性変化が生じてから治療を追加する必要時投与より,滲出性変化が生じる前に治療を行う計画的投与,とくにCtreatCandCextend法のほうが長期的には視力予後がよい傾向にあり,維持期にCtreatandextend法を用いる施設が増えている1,2).CTreatandExtend法の利点と問題点TreatCandCextend法の利点は,個々の病態に合わせて計画的に治療を行い,来院回数を減らしつつ,長期間にわたり良好な視力を維持できることにあり,現時点においては,この方法を用いて抗CVEGF療法を永続的に行うことは滲出型CAMDに対する理想的な治療かもしれない.しかし,抗CVEGF療法は,眼局所の合併症(眼内炎,白内障など)や全身の副作用(脳卒中や心筋梗塞など)の発生リスクを伴う治療であり,また,高額なCVEGF阻害薬は経済的負担も大きいことから,安易に抗VEGF療法をし続けることは避けるべきであり,個々の状態に合わせて,治療の続行・中止を決定する必要がある.(83)抗VEGF療法の中止基準抗CVEGF療法の中止基準として,Freundら3)は,treatandextend法のアルゴリズムのなかで,さらなる投与の必要がない,あるいはさらなる投与によって継続した恩恵を受けることができないと医師が判断した場合としており,また,McKibbinら4)は具体的に,treatandCextend法によりC1年間治療を行った後,3回連続で疾患活動性がなく,視力も安定していた場合と報告している.抗CVEGF療法の中止後の詳細な検討がないため,現時点ではどの基準が妥当かは不明であるが,抗CVEGF療法の中止を考慮するタイミングとしては,大きく分けて以下の三つが考えられる.すなわち,・抗CVEGF療法により改善した病状が安定しているとき,・抗VEGF療法の継続により視機能と病状の安定化が得られないとき,・患者の事情により治療の継続が困難となったときである.・抗CVEGF療法により改善した病状が安定しているときは,治療後,長期にわたり滲出性変化を認めない状態が続き,視力の悪化がみられない場合である.当院では,導入期治療後に経過観察期間を設け,滲出性所見の再燃後にCtreatCandCextend法を導入している5)が,16週間の間隔でC3回(1年間)連続して病状が安定していた場合を中止の基準としている.しかし,これまでに中止できた症例はわずかであり,残念ながら大多数の症例において治療を継続しているのが現状である.導入期治療の段階で病状の安定化を判断することはきわめて困難であるが,当院における検討では,導入期連続C3回以上の治療により病状の安定化が得られた症例のうち,病状の悪化を一度も認めずに追加治療を必要としなかった症例は,1年目はC3割,2年目でもC2割存在しており,treatandextend法を含む計画的投与を導入するときには,この点に関して留意すべきではないかと考える.あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017C14210910-1810/17/\100/頁/JCOPY典型AMD視力0.03治療後3カ月視力0.03治療後5カ月視力0.03図1典型加齢黄斑変性(AMD)の網膜色素上皮障害による.胞様黄斑浮腫(CME)広範囲に網膜色素上皮萎縮を認め,抗CVEGF療法によるCCMEの完全消失後も早期に再発し,視力の改善もみられない.・抗CVEGF療法の継続により視機能と病状の安定が得られないときは,治療後,.胞様黄斑浮腫(cystoidmacularedema:CME)が消失しない,あるいは消失しても早期に再発し,徐々に視力が低下する場合である.もちろん僚眼の状態によりこの基準は変わってくるが,筆者は,僚眼に異常なく,患眼の視力がC0.1以下,CMEが消失しても自覚症状の改善がまったくない場合には投薬中止を考慮すべきではないかと考える.このようなCCMEは網膜色素上皮の強い障害によるバリアおよびポンプ機能の代償不全から生じており,完全緩解は困難であることから,いたずらに治療を続けることは避けるべきである(図1).また,治療後に強い線維性瘢痕や網膜色素上皮萎縮が進行して視機能改善が望めない症例も,投与中止を考慮する必要がある.また,いずれの抗VEGF薬の添付文書にも,定期的に有効性を評価し,有効性が認められない場合には漫然と投与しないことと記載されていることも忘れてはならない.・患者の事情により治療の継続が困難となったときは,脳卒中や心筋梗塞が発症した場合や,全身状態の悪化や付き添いの関係で通院が困難となった場合,または金銭的な問題を含めて患者が治療の継続を希望しない場合などである.脳卒中や心筋梗塞を発症した場合には,当院では必要に応じてペガプタニブの単独投与,あるいは光線力学的療法(photodynamicCtherapy:PDT)との併用療法を行うようにしている.それ以外の場合には,治療の中止により視力が低下することが多いため,改めて治療の重要性を説明し,可能なかぎり治療の継続がで1422あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017きるように努めるべきであり,状況によってはCPDTを併用するなど注射回数をなるべく少なくする配慮も必要であろう.おわりに滲出型CAMDに対する抗CVEGF療法の中止基準について述べたが,抗CVEGF療法のみで長期にわたり良好な視力を維持するためには,基本的にはCVEGF阻害薬を永続的に投与する必要があり,今後の抗CVEGF療法以外の治療法の開発が期待される.文献1)RayessCN,CHoustonCSKCIII,CGuptaCOPCetCal:TreatmentCoutcomesCafterC3CyearsCinCneovascularCage-relatedCmacu.lardegenerationusingatreat-and-extendregimen.AmJOphthalmolC159:3-8,C20152)BarthelmesCD,CNguyenCV,CDaienCVCetCal:TwoCyearCout.comesCof“treatCandCextend”intravitrealCtherapyCusingCa.iberceptpreferentiallyforneovascularage-relatedmac-ulardegeneration.RetinaC2017[Epubaheadofprint]3)FreundCKB,CKorobelnikCJF,CDevenyiCRCetCal:Treat-and-extendregimenswithanti-VEGFagentsinretinaldiseas-es:ACliteratureCreviewCandCconsensusCrecommendations.CRetinaC35:1489-1506,C20154)McKibbinCM,CDevonportCH,CGaleCRCetCal:A.iberceptCinwetAMDbeyondthe.rstyearoftreatment:recommen.dationsCbyCanCexpertCroundtableCpanel.CEye(Lond)C29:CS1-S11,C20155)OhnakaCM,CNagaiCY,CShoCKCetCal:ACmodi.edCtreat-and-extendregimenofa.iberceptfortreatment-na.vepatientsCwithneovascularage-relatedmaculardegeneration.Grae.fesArchClinExpOphthalmolC255:657-664,C2017(84)