《第4回日本視野学会シンポジウム》あたらしい眼科33(9):1333?1335,2016cシンポジウム1:視覚障害者認定基準における視野評価視覚障害認定基準とその運用における注意点清水朋美国立障害者リハビリテーションセンター病院第二診療部眼科ImportantPointstoOperatetheCriteriaforCertifiedVisualImpairmentTomomiShimizuDepartmentofMedicalTreatment(2),Ophthalmology,Hospital,NationalRehabilitationCenterforPersonswithDisabilitiesはじめに視覚障害は,視力と視野で障害認定されるが,とくに視野は等級基準に該当しているのかどうか判断に迷うことも少なくない.本稿では,基本事項を整理しながら,現行基準での視野障害認定における注意点について概説する.I視覚障害認定基準身体障害者福祉法に基づく視覚障害には,視力障害と視野障害がある.視力障害は1~6級,視野障害は2~5級と,障害程度によって等級が分かれ,それぞれ基準が設けられている.視力,視野ともに障害程度等級に該当する場合には,重複障害認定の原則に基づき,患者の障害等級を検討していく.II視野の基本視野とは,目を動かさずに見える範囲のことをいう.正常な片目の視野は,上方60°,下方75°,鼻側60°,耳側90°以上である.視野の範囲を測定するには,視野検査を行う.通常,眼科で行われている視野検査には,動的視野検査と静的視野検査があり,前者はGoldmann視野計,後者はHumphrey視野計,オクトパス視野計での測定が代表的である.身体障害者手帳(以下,手帳)の視野障害程度を評価する場合には,現状ではほとんどのケースでGoldmann視野計での測定結果が用いられている.動的視野検査は,検査を行う人の技量が問われたり,すべての眼科医療機関で設置されている機器ではないという問題点などもあげられているが,周辺部を含めた視野全体の状態を精密に評価することができるという最大の特徴があり,眼科での有用性は依然として高い.III視野障害の基本1.非求心性視野狭窄視野障害は2~5級まであるが,求心性視野狭窄か否かで大きく二分することができる.すなわち,求心性視野狭窄でない視野障害であれば,もっとも軽い視野障害5級となり,「両眼による視野の2分の1以上が欠けているもの」に該当する(図1).これは周辺視野I/4eの範囲で考えるが,交叉性半盲などでは基準に該当しないこともあるため,注意を要する(図2).2.求心性視野狭窄視野障害2~4級は,求心性視野狭窄でなおかつ周辺視野I/4eの範囲が両眼それぞれ10°以内であることが基本となり,その程度で等級が決まる.輪状暗点があるものについては,中心の残存視野(I/4e)がそれぞれ10°以内のものも同様に解釈できる.病状によってはI/4eもI/2eも測定不可の症例もあるが,その場合にはV/4eの残存視野の程度が参考にされる.求心性視野狭窄をきたす代表疾患例として網膜色素変性症,緑内障が,求心性視野狭窄をきたす疾患でない代表例として糖尿病網膜症,黄斑変性がそれぞれあげられている.求心性視野狭窄か否かについては,現状では主治医の判断に委ねられている.留意すべき点として,たとえば,視神経萎縮を求心性視野狭窄とみなす都道府県もあれば,みなさない都道府県もあるように,都道府県によって解釈の違いが多少みられる.解釈に迷う場合には,自己判断で診断書記入をする前に地元の更生相談所に確認したほうがよい.求心性視野狭窄の場合は,中心視野I/2eで両眼の視能率による損失率を算出する必要がある.各眼で8方向のI/2eでの視野角度を測定し,その合算した数値を560で割ることで各眼の損失率を求める.さらに(3×損失率の低いほうの眼の損失率+損失率の高いほうの眼の損失率)/4の式により,両眼の損失率を計算する.このように,求心性視野狭窄の場合は,原因疾患と周辺視野のI/4eが10°以内におさまっているか否かがキーポイントになる.また,中心視野I/2eの範囲によって2~4級の等級が決まる.視野障害の各等級は,患者の困り具合と必ずしも一致していない.ロービジョンケアに携わっていると,視野障害2級で読み書きはさほど困らないが移動で困るというケース,視野障害5級で読み書きと移動の双方で困るというケースをしばしば経験する(図3).障害程度が軽い患者のほうが重い患者より日常的に困っていることが多いという裏腹な状況が生じている.また,視野障害2~4級の基準幅は意外と狭く,すべて半径7°で視野障害2級,すべて半径3.5°で視野障害3級と,非常に微妙な違いであることがわかる(図4).IV視野障害判定のポイント視野障害の判定は,周辺視野I/4eと中心視野I/2e,そして求心性視野狭窄か否かがキーポイントになる.どの等級に該当しそうかは,フローチャートで考えると理解しやすい(図5).おわりに疾患のみに注目していると,患者が視野障害に該当していても気づかないことがある.視野障害認定基準も念頭に置きながら診療を行うと,意外と該当する患者がいることに気づく.そのような患者は日常的に見え方で困っているので,ロービジョンケアにつなげるきっかけにもなるであろう.文献1)新訂第三版身体障害者認定基準及び認定要領解釈と運用.p111-156,中央法規出版,20152)西田朋美:身体障害者手帳・障害年金の書類の書き方.これから始めるロービジョン外来ポイントアドバイス(佐渡一成,仲泊聡編),MonthlyBookOCULISTA15:45-55,20143)石井祐子:Ⅲ視野検査4.動的視野検査.理解を深めよう視野検査(監修松本長太),p23-30,金原出版,20094)若山暁美:視野検査UPDATE(松本長太編)動的視野検査.MonthlyBookOCULISTA11:19-23,2014〔別刷請求先〕清水朋美:〒359-8555埼玉県所沢市並木4-1国立障害者リハビリテーションセンター病院第二診療部眼科Reprintrequests:TomomiShimizu,M.D.,Ph.D.,DepartmentofMedicalTreatment(2),Ophthalmology,Hospital,NationalRehabilitationCenterforPersonswithDisabilities,4-1Namiki,Tokorozawa,Saitama359-8555,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY図1視野障害5級の例太線は周辺視野I/4eを示す.両眼による視野の2分の1以上欠損している.図2交叉性半盲太線は周辺視野I/4eを示す.両眼による視野の2分の1以上の欠損に満たない.1334あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(92)図3視野障害2級と5級太線は周辺視野I/4eを示す.LV=ロービジョン.a:周辺視野I/4eは10°以内におさまっており,求心性視野狭窄を呈す.LV的には読み書きはさほど困らないが,周辺が見えにくいため移動が困る.b:輪状暗点内の周辺視野I/4eは10°以内におさまっており,求心性視野狭窄を呈す.LV的には読み書きも移動もさほど困らない.c:周辺視野I/4eは10°以内におさまっておらず,求心性視野狭窄ではない.LV的には読み書きも移動も困ることが多い.d:周辺視野I/4eは10°以内におさまっておらず,周辺に残存するのみ.求心性視野狭窄をきたす疾患かそうでないかで等級が変わる可能性がある.LV的には読み書きも移動も困ることが多い.図4視野障害2~4級図5視野障害判定フローチャート(93)あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151335