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学校健診の問題点

2016年10月31日 月曜日

特集●学童の近視進行予防アップデートあたらしい眼科33(10):1389?1396,2016学校健診の問題点ProblemswithVisionScreeningSysteminSchools不二門尚*柏井真理子**はじめにわが国における小児を対象とした視力の健診は,3歳児健診,幼稚園・保育園児に対する健診,就学時健診および学校での健診に大別される.年少児の健診は弱視の早期発見・早期治療を目的として行われており,必ずしも近視の早期発見をめざしたものではない.就学後の小学校,中学校,高等学校における健診は,学校生活をするうえで適正な屈折矯正が行われているかを知らせる目的で行われている.国際的には,近視の頻度が高いシンガポールにおいて,幼稚園児の近視も含めたスクリーニングが始まっている.本稿では,わが国における小児の眼科健診の現状・問題点を述べた後,近視進行予防に関して健診の意義,可能性について述べる.I各時期での視力検査や眼科健診の現状1.3歳児眼科健診平成3年に母子保健法による3歳児視聴覚健康診査(以下,3歳児眼科健診)事業が始まり,平成9年からは実施主体が都道府県から市町村へ移管された.日本眼科医会では平成10年からほぼ4年ごとに全国的なアンケート調査を実施し1),今回,平成24年度の結果(全国47都道府県から任意抽出された274市町村に対して実施.対象者480.262人)を含め現在の3歳児眼科健診の現状を述べる.3歳児眼科健康診査の現状は,ほとんどの場合あらかじめ市町村から保護者に「問診票」と「自宅で片眼ずつ0.5の視標を読ませる視力検査表」が配布され,自宅で視力検査を実施(1次健診)する方法が主である.3歳児眼科健診の実施率は,表1のように96.0%と高率であった.また,実施時期は表2のように3歳0カ月が20.3%,3歳6カ月が39.8%となっており,残りはおおむね3~4歳に実施されている.二次健診は表3のように市町村により差はあるものの,保健所などの会場で実施されている.二次健診に眼科医が出務する地域は少なく(表4),大多数の地域では眼科医以外の医師や保健師が視覚について問診票を確認し,自宅での視力検査が不十分だったものに対して会場で視力検査を実施するか,または再検査をせずに健診医の判断で眼科での精密検査(三次健診)受診が指示されることが多い.三次健診として眼科精密検査を指示された者のうち,精密検査を受診したことが把握できているのは62.1%となっている.精密検査が必要と指示されているにもかかわらず37.9%の者が精密検査を受けていないことは,残念なことである(表5).3歳児眼科健診の大きな目的は弱視・斜視の早期発見であるので,いかにこれらの精密検査未受診や漏れを減らすかが大切になってくる.最終的に眼科での精密検査で診断のついた者の内訳は表6であった.問題点として①一次健診は自宅で保護者に委ねられているため,適切に実施できているか,たとえばしっかりと片眼ずつ検査できていたか,保護者がおおまかに回答を記入していないかなどの問題点がある.②二次健診では眼科医の関与がほとんどできていないため,弱視・斜視などが疑われる者が漏れなく三次健診受診指示が出ていたかどうか,反対に過剰に三次健診に誘導されていないか,費用対効果なども今後視野に入れていかねばと思われる.③三次健診で眼科医療機関での精査を指示された者のうち,約4割の受診が把握できていないのが現状である(表5).保護者に視力の発達や弱視などをしっかり啓発する必要がある.2.幼稚園・保育園での視力検査・眼科健診学校保健安全法では学校においては毎学年定期に健診を行うことが定められており,学校保健安全法施行規則では,健診と就学時健診で「視力検査」と「眼の疾病及び異常の有無」が健診項目として規定されている.幼稚園も文部科学省管轄であるため学校保健安全法対象に含まれる.また,保育所は児童福祉法45条の規定に基づき定められた児童福祉施設基準の中で「学校保健安全法の規定に準じた健診を行うこと」を義務付けている.幼稚園と同じ世代の子供たちが過ごす保育所での積極的な視力検査実施が望まれる.公的な視力検査は,集団健診としては3歳児健診ののち就学時健診まで実施されていないことを考慮すると,3歳児健診未受診や3歳児健診で漏れた斜視・弱視などを発見するためには,幼稚園,保育所での視力検査が重要となる.日本眼科医会では平成20年に全国の幼稚園(全都道府県から任意抽出した409の幼稚園,幼稚園総数の3%)に対して,また平成24年には全国保育園(全都道府県から任意抽出した710の保育所,保育所総数の3%)に対して視力検査の実施状況などをアンケート調査した2,3).結果は以下のとおりである(図1~6).幼稚園での視力検査の実施状況では「実施している」は全体の48.3%(国公立70.6%,私立31.9%),「実施していない」は50.7%(国公立28.2%私立67.2%)であり,国公立に比較して私学での実施率は低かった(図1).視力検査実施率は,年少児は12.9%,年中児26.9%,年長児46.8%であり,年長になるほど高かった(図3).眼科園医がいる幼稚園は25.4%であった(図5).内科健診実施率は98.0%とほとんどの幼稚園で実施されているが,眼科健診は28.4%に留まっている.一方,保育所における視力検査の実施状況は,全体では34.7%(公立39.8%,私立31.6%)であった(図2).3歳児は12.6%,4歳児26.3%,5歳児30.3%であった(図3).また,すべての年齢で園児数の多い保育所での実施率が高かった.眼科園医がいる保育所は,全体の11.4%であった(図6).内科健診実施率99.0%に比較し眼科健診実施率は15.2%とかなり低かった.保育所に比べ幼稚園のほうが視力検査実施や眼科健診実施率は少々高いと認められるが,まだまだ不十分な状況であることは否めない.今後も園関係者に啓発の必要がある.3.就学時健診平成20年,上記の幼稚園へのアンケート調査とともに,日本眼科医会では全国の都道府県より任意抽出した231の市町村教育委員会に対して就学時健診の実施状況をアンケート調査した.なお就学時健診の実施機関は教育委員会である.就学時健診の視力検査は,学校保健安全法施行規則で実施することが明記されている.大きな目的は,入学後の学校生活において支障のない見え方をしているかどうかを調べる検査となっている.平成20年度のアンケートによれば,就学時健診の視力検査実施率は全体では90.5%であったが,複数の府県では,実施率20~75%と実施率がかなり低く,法が遵守されていないことが判明した.また,眼科医による眼科健診は46.8%であった.幼稚園および就学時健診での視力検査が法に沿って実施されていないことに対し,日本眼科医会は平成21年に文部科学省に対して「幼稚園や就学時健診で適切に健康診断等を実施していただくよう」との要望書を提出したところ,平成22年3月に文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課長から「児童生徒等の健康診断及び就学時の健康診断の実施について(通知)」(21ス学健第34号)が出された4).この通知は全国都道府県・指定都市教育委員会などに「……視力検査をはじめとする児童生徒等の健康診断及び就学時の健康診断について,学校保健安全法等に基づき,適正に実施されるようお願いします」と周知された.これを受け,就学時健診での視力検査実施率が低かった都道府県市町村でも積極的に視力検査が次々に開始され,実施率かなりの改善を認めた.たとえば視力検査実施率がもっとも低い20%であった地域も現在ほぼ100%近い実施となっているという報告があがっている.しかし就学時健診の現場では,内科医や小児科医には保護者に指導する機会はあるが,眼科医が直接保護者に視力などについて説明・指導する機会はきわめて少ない.また,視力検査の結果1.0未満の者に対して事後措置として眼科受診を勧めているが,受診結果報告などを還元する仕組みもなく,市町村などで精密検査結果の把握はできていないのが現状である.4.学校での視力検査・眼科健診現在,全国の小学校,中学校,高等学校,支援学校などでは,学校保健安全法施行規則に基づき,毎学年定期健診が実施され「視力検査」と「眼の疾病及び異常の有無」が検査されている.秋に再度,臨時の視力検査を実施する学校も少なくない.学校現場で活用される日本学校保健会「児童生徒等の健康診断マニュアル」の平成27年度改訂版作成の機会に,視力の項目について日本小児眼科学会,日本弱視・斜視学会の指導のもと,幼稚園児にも活用できることをはじめとして修正を加えることができた.以下に「児童生徒等の健康診断マニュアル」のおもな内容を記載した.現在,「児童生徒等の健康診断マニュアル」は私学を含む全国の小中高等学校に配付され活用されており,原則視力検査はマニュアルに沿って実施されている.a.学校における視力検査の実際①視力検査の方法と判定結果の解釈現在多くの学校で実施されている視力の測定方法は,視力「0.3」「0.7」「1.0」のLandolt環が表示されている3つの指標(通常5m用)を用い,検者と被検者が対面して行う370方式(さんななまるほうしき)とよばれている方法が一般的である.結果は「A」「B」「C」「D」の4段階で判定し,「A」以外は受診勧奨とする.ただし幼稚園の年少児および年中児においては「A」「B」以外を受診勧奨とする.この370方式によるA~Dの4段階の判定方法は,教室での見え方を基準にしたもので,教職員だけでなく保護者にとっても理解しやすいものとなっている(表7).また,幼児でも検査を理解しやすく,従来の0.1きざみの測定に比べて検査時間も短縮でき,安価で移動も容易といった利点があり,広く利用されるようになった.②受診報告書の回収と対応視力検査の結果,受診勧奨を行った児童生徒などについては,眼科受診の報告書を回収・整理し,回収率を確認しておくことは他の検査と同様である.また,せっかく眼科受診をしても医師の指示内容が順守されてないことがある.たとえば眼鏡を処方された者が,実際に眼鏡を作り,授業時にそれを装用しているかどうか,担任教諭を通じて確認しておく必要がある.b.視力検査の実際(「児童生徒等の健康診断マニュアル」より抜粋)4)準備視力表:国際標準に準拠したLandolt環を使用した視力表の0.3,0.7,1.0の視標を使用する.視力表(視標)は,原則5m用を使用すること(ただし十分な距離が取れない場合は3m用でも可).視力表から5m離れた床上に白色テープなどで印を付けておく.*幼児,小学校低学年の児童では並列(字づまり)視力表(図7a)では読みわけ困難のために視力が出にくいので,単独(字ひとつ)視力表(図7b)を使用する.*破損,変色,しわのある視標は使用しないこと.視標面の白地が汚れたり,変色したものは新しいものと交換する.照明:視標面の照度は500~1,000ルクスとする.*明るい室内で行い,視標の白い背地の部分の明るさは,まぶしすぎたり,あるいは暗すぎて見えにくくならないように配慮する.遮眼器:片眼ずつ検査するときに,遮眼子,検眼枠用の遮閉板,アイパッチなどで眼球を圧迫しないで確実に覆う.*遮閉用の器具は直接眼に触れることもあり,感染予防のため清潔に留意し,感染の恐れがある場合には適時アルコールなどで消毒する.指示棒:並列(字づまり)視力表の視標をさすための棒で,視力表に手指などが触れて汚れたり傷つけたりすることのないように使用する.検査場所:あまり狭くない部屋でカーテンを使用し,直射日光が入らないように注意する.*目移りするような掲示物は片付け,騒音や雑音の入らない落ち着いた環境で検査できるように努める.*視標の提示は背後の窓などで逆光にならないように配慮する.*視力検査は,大きい視標から測定することが原則ではあるが,現場の状況など考慮し視標を1.0→0.7→0.3の順に使用されることも差し支えない.適切な視力のスクリーニングを実施することが大切である.*小学校高学年の児童以上では,並列(字づまり)視力表を用いてもよく,Landolt環の切れ目が斜め方向の視標を加えるなどの配慮も望ましい.*単独(字ひとつ)視力表の視標の方向を変えるときは,裏返してくるりと回しながら変えていく.判定はLandolt環の切れ目が上下左右のみとする.*眼鏡・コンタクトレンズ使用者の視力検査は,まず眼鏡やコンタクトレンズでの視力を測定し,その後,裸眼視力を測定するのが望ましい.*眼鏡やコンタクトレンズを常用している者については,検査に問題のある者や本人が希望しない場合は,裸眼視力が省略できる.*コンタクトレンズ使用者の裸眼視力が必要な場合は,コンタクトレンズをはずした後のかすみ(スペクタクルブラーといい,回復までに30分前後のものから,長いものでは1~2日を要するものもある)が残るために,正確な視力検査が困難なこと,取りはずしによるコンタクトレンズの破損,汚染などの危険などが考えられるので,学校医の指導,指示に従って実施する.判定0.3の視標が4方向のうち正答が2方向以下の場合は「判別できない」とし「D」と判定する.4方向のうち3方向を正答できれば「正しい判別」と判定し,次に0.7の視標にうつる.0.7の視標で同じく「判別できない」なら「C」と判定,「正しい判別」と判定されれば,1.0の視標にうつる.1.0の視標で同じく「判別できない」なら「B」と判定,「正しく判別」できれば「A」と判定(表8,9参照)する.眼科への受診を勧める基準は以下のとおりとする.1.幼児は左右どちらか片方で年長児は1.0未満,年少・年中児は0.7未満であるものに受診を勧める.2.児童生徒は,左右どちらか片方でも1.0未満であるものに受診を勧める.事後措置1.視力A(1.0以上)の者については,措置の必要はない.しかし,視力A(1.0以上)の場合の眼はまったく異常がないかといえば,必ずしもそうではない.遠距離や近距離が見にくいとか,長時間見続けると眼が疲れる,頭が痛い,かすんで見えるなどの訴えがあれば,眼科受診を勧めるべきである.この際,保健調査や日常の学習態度を参考にする.2.視力B(0.9~0.7)の者は,再検査を行い,再度B以下であれば眼科を受診するように勧める(年少・年中児は除く).3.視力C(0.6~0.3)・D(0.3未満)の者は,すべて眼科の受診を勧め,その指示に従うよう指導する.眼鏡装用が不適であったり,眼鏡の矯正によってもなお視力が(A)に達しない者については,教室の座席を前にするなど配慮が必要である.c.眼科領域の健康診断眼科健診は,「眼の疾病および異常の有無」の検査することになっているが,眼科医が児童生徒などの眼の健康を維持するための健康教育を推進できるよい機会でもある.ただし,公立の学校における眼科学校医の設置率は,日本眼科医会が平成22年に行った全国調査5)では小学校が74.1%,中学校が73.0%,高校が68.9%であった.すなわち,全国で実施される公立学校の定期健康診断の約1/3は,内科・小児科の学校医が眼科領域にかかわる健康診断を担っていることになる.5.児童生徒などの裸眼視力1.0未満の割合について図8のように文部科学省統計によれば,統計が開始された昭和55年より現在までどの年代でも裸眼視力低下が認められている.近視化が示唆されている.6.近視の進行予防と健診日本人を含む東アジア人は近視の頻度が高く,早期に近視を発症する小児ほど強度の近視に進行することが知られている.近視進行予防の戦略として,近視進行の発症を遅らせる戦略と,進行の速度を遅くする戦略がある.累進多焦点眼鏡は有効性が報告されているが,臨床的に効果が不十分ということで,普及は限定的であった6).アトロピン点眼は,もっとも根拠のある近視進行防止法であるが6),散瞳作用など副作用もあり,広く普及するには至らなかった.最近,低濃度アトロピン点眼薬(0.01%)が近視進行予防に有効であるという報告がなされた(0.4D/Year)7).この濃度では,近見視力障害は生じず,点眼中止後のリバウンドも小さいため,今後多施設研究で有効性が確かめられれば,低濃度アトロピン点眼が近視進行防止に有効な治療法になる可能性がある.一方,屋外活動は近視進行の発症時期および進行を遅らせるという報告があり8),またオルソケラトロジーは年30%も眼軸の伸長を抑制するという報告がある9).また,累進多焦点コンタクトレンズが近視進行抑制に有効という報告もある10).このように,近年,近視進行予防法が確立しつつある.近視の進行は初期において速いので,介入は発症早期のほうが有効であると考えられる.そのためにも健診が重要になると考えられる.シンガポールでは,幼稚園児(1年児および2年児)と小学校1年児は視力検査で0.5以下の場合,屈折検査を受けるように指導されている.これらは早期発症の近視に対する介入には役に立つ可能性がある.日本でも幼稚園児に対する眼科健診は進んでおり,二次健診で調節麻痺点眼後の屈折検査が行われれば,早期の近視の発見・介入につながると思われる.まとめわが国における眼科領域の健診の現状および問題点に関して述べた.弱視の早期発見という観点からは,いかに健診の受診率を上げるか,二次健診を眼科医・視能訓練士の手で行う体制をつくるかが課題であり,近視予防という観点からは,早期介入の方法論も含めて,さらなる研究の発展が望まれる.文献1)日本眼科医会公衆衛生部:3歳児眼科健康診査調査報告(V)平成24年.日本の眼科85:296-300,20142)宇津見義一,宮浦徹,高野繁ほか:平成20年幼稚園ならびに就学時の健康診断の実態に関するアンケート調査.日本の眼科80:1193-1200,20093)柏井真理子,宇津見義一,宮浦徹ほか:平成24年度全国保育所における目の健康に関わるアンケート調査報告.日本の眼科84:1588-1594,20134)日本学校保健会児童生徒等の健康診断マニュアル平成27年度改訂.視力29-31:20155)宮浦徹,宇津見義一,高野繁ほか:眼科学校保健に関する全国調査の報告.日本の眼科82:648-660,20116)WallineJJ,LindsleyK,VedulaSSetal:Interventionstoslowprogressionofmyopiainchildren.CochraneDatabaseSystRev12:CD004916,20117)ChiaA,ChuaWH,CheungYBetal:Atropineforthetreatmentofchildhoodmyopia:safetyandefficacyof0.5%,0.1%,and0.01%doses(AtropinefortheTreatmentofMyopia2).Ophthalmology119:347-354,20128)JinJX,HuaWJ,JiangXetal:Effectofoutdooractivityonmyopiaonsetandprogressioninschool-agedchildreninnortheastChina:theSujiatunEyeCareStudy.BMCOphthalmol15:73,20159)HiraokaT,KakitaT,OkamotoFetal:Influenceofocularwavefrontaberrationsonaxiallengthelongationinmyopicchildrentreatedwithovernightorthokeratology.Ophthalmology122:93-100,201510)FujikadoT,NinomiyaS,KobayashiTetal:Effectoflowadditionsoftcontactlenseswithdecenteredopticaldesignonmyopiaprogressioninchildren:apilotstudy.ClinOphthalmol8:1947-1956,2014*TakashiFujikado:大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学**MarikoKashiwai:柏井眼科,公益法人日本眼科医会常任理事〔別刷請求先〕不二門尚:〒565-0871大阪府吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学0910-1810/16/\100/頁/JCOPY表13歳児眼科健診の実施区分実施率実施している96.0%実施していない3.2%その他(4歳児に実施など)0.8%(平成24年,日本眼科医会調べ)表33歳児眼科健診一次健診の実施場所区分実施率各家庭93.7%保健所・学校・公民館など2.9%実施していない0.8%その他2.5%*複数回答あり(平成24年,日本眼科医会調べ)表53歳児眼科健診三次健診(精密検査)の受診結果対象者数480,262人二次健診受診者数266,418人二次健診受診後,精密検査必要者数18,534人精密検査受診者数11,517人精密検査受診者把握率62.1%精密検査受診後,異常者発見数6,330人(平成24年,日本眼科医会調べ)表23歳児眼科健診の時期区分実施率3歳0カ月20.3%3歳6カ月39.8%その他39.8%(平成24年,日本眼科医会調べ)表43歳児眼科健診二次健診の実施方法区分実施率眼科医が実施4.8%眼科以外の医師が実施26.8%保健師・視能訓練士が実施36.4%行政と契約した医療機関が実施8.7%その他23.4%*複数回答あり(平成24年,日本眼科医会調べ)表63歳児眼科健診で診断のついたおもな疾患(対象480,262人中)区分人数屈折異常3,795人斜位および斜視963人屈折弱視(不同視弱視含)1,249人斜視弱視572人その他1,348人*複数回答あり,疑いも含む.*その他)眼球振盪症・眼瞼下垂・強膜疾患・水晶体疾患・眼底疾患など)(平成24年,日本眼科医会調べ)図1視力検査を実施している幼稚園の割合(平成20年,日本眼科会調べ)図2視力検査を実施している保育所の割合(平成24年,日本眼科医学調べ)図3幼稚園・保育所における視力検査の年齢別実施割合(日本眼科医会調べ.幼稚園H20年,保育所H24年実施)図4幼稚園・保育所における各科の健診実施割合(日本眼科医会調べ.幼稚園H20年,保育所H24年実施)図5幼稚園の眼科園医の有無(平成20年,日本眼科医会調べ)図6保育所の眼科園医の有無(平成24年,日本眼科医会調べ)表7370方式での視力判定判定視力解釈と指導A1.0以上視力は正常です.軽い遠視のこともあります.B0.7~0.9学校生活への影響はわずかです.近視の始まりのことが多く眼科受診を勧めます.C0.3~0.6教室後方の席からは黒板の文字が見えにくい状態です.近視などの屈折異常以外の疾病が原因のこともあり,眼科受診が必要です.D0.2以下教室の前列でも黒板の文字が見えにくい状態です.早急に眼科を受診してください.図7視力表表8視力測定の表示・区分視力測定の表示ABCD区分1.0以上0.9~0.70.6~0.30.3未満表9視力判定の手順視力の判定使用視標判定の可否判定結果次の手順備考(事後措置など)0.3判別できないD終了正しく判別─0.7で検査視力C,Dの場合は眼科医の受診を勧奨する0.7判別できないC終了正しく判別─1.0で検査視力Bの場合,幼稚園の年中,年少児を除く児童生徒などには受診を勧奨する.年中,年少児には受診の勧奨は不要1.0判別できないB終了正しく判別A終了受診の勧奨は不要*「正しく判別」とは,上下左右4方向のうち3方向以上を正答した場合をいう.*「判別できない」とは,上下左右4方向のうち2方向以下しか正答できない場合をいう.図8児童生徒などの裸眼視力1.0未満の割合(昭和55?平成26年度)(文部科学省統計資料)0910-1810/16/\100/頁/JCOPY1390あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(4)(5)あたらしい眼科Vol.33,No.10,201613911392あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(6)(7)あたらしい眼科Vol.33,No.10,201613931394あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(8)(9)あたらしい眼科Vol.33,No.10,201613951396あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(10)

序説:学童の近視進行予防アップデート

2016年10月31日 月曜日

●序説あたらしい眼科33(10):1387?1388,2016学童の近視進行予防アップデートUpdateofSchoolchildMyopiaControl稗田牧*木下茂**学童,とくに小学生の近視の増加が止まらない.昨年度の文部科学省の統計では,小学生における裸眼視力1.0未満の割合は過去最高の30.97%となった.これは,日常臨床で感じる近視の低年齢化に一致している.わが国は「成長社会」から「成熟社会」に変容したといわれている.この15年間における経済成長はほとんどなく,人口は右肩上がりではなく「右肩下がり」となっている.それに伴い,戦後伸び続けていた小学生の身長や体重の平均値は減少傾向に転じている.多くの領域が縮小減少傾向にある今の日本社会で,小学生の近視は未だに増え続けている.虫歯の頻度がこの40年間減り続けており,今では小学生の虫歯は親の責任という認識さえ広がっているのと比較すると誠に対照的である.近視進行予防に確実な方法が一つでもあれば,真面目な国民性からしても近視が劇的に減少する可能性はある.近視は義務教育制度とともに増加してきた.学校教育の開始とともに近視が増加し,テレビ放映の開始とともにさらに増加したといわれ,今はパソコンやスマートフォンが普及するとともにさらに近視が増えているようだ.実際,スマホの視距離は30cmより短いことが多い.2000年代になって,近視進行予防に光明が差してきた.1970年代後半から始められた実験近視の理論を応用して,網膜周辺部での遠視性ボケ像を減らす方法が試みられた.その成果として,近視進行予防眼鏡やオルソケラトロジーに近視進行抑制効果が認められている.多焦点コンタクトレンズや低濃度アトロピンも近視進行抑制に有望とされている.メカニズムは不明な部分が多いが,一つの要素として過剰な調節を緩和することも必要ということであろう.軸外屈折+調節緩和により,近視進行抑制が実際の臨床の現場で効果をあげられる日も遠くないかもしれない.近視をめぐる問題は古くて新しい問題でもある.視力回復センターは今でも存在しているし,近視予防を謳ったさまざまな商品もある.なかには眼科医が提携しているところもあるようだ.稲富昭太先生が1986年に書かれた総説の言葉を引用したい1).「……近視が正常とは考えにくいし,不便も少なくないので,何とか近視を予防し,また治療したいという願いは相変わらず強い.このことに付込むように,非医師による素人療法が盛んに行われる.これに対して取り組む研究者は多くなく,一般臨床医は屈折問題を眼鏡対策に終わらせてしまい,眼鏡処方が眼鏡士問題とそれて,いろいろ別の社会問題を起こしてきている.このような複雑な屈折の問題は,元来医師の取り組むべき課題であり,もっと問題意識をもつべきものであろう.……」30年前の文章がまったく古くなっていない.近視をめぐる問題はこれから解決されるべき問題で,これを解決できるのは眼科医師をおいてほかにない.今回とりあげたテーマの総説をご一読いただき,明日からの診療に役立て,近視の進行を少しでも食い止めるという意識をもっていただけたら幸いである.文献1)稲富昭太:小児と屈折異常屈折状態の成長による変化.眼科28:509-516,1986*OsamuHieda:京都府立医科大学大学院医学研究科機能再生外科学**ShigeruKinoshita:京都府立医科大学感覚未来医療学0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(2)

マイクロドットレンズの視力とコントラスト感度に対する影響

2016年9月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科33(9):1376?1380,2016cマイクロドットレンズの視力とコントラスト感度に対する影響井手武*1塩谷俊介*2久松良輔*1大林知央*1神田寛行*3伊東一良*4野村孝徳*5最田裕介*5戸田郁子*1坪田一男*6不二門尚*3*1南青山アイクリニック*2株式会社ジェイアイエヌ*3大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学*4大阪大学産学連携本部e-square(特任教授)*5和歌山大学システム工学部光メカトロニクス学科*6慶應義塾大学医学部眼科学教室EffectsofMicrodotLensonVisualAcuityandContrastSensitivityTakeshiIde1),ShunsukeShioya2),RyousukeHisamatsu1),TomooOobayashi1),HiroyukiKanda3),KazuyoshiItoh4),TakanoriNomura5),YusukeSaida5),IkukoToda1),KazuoTsubota6)andTakashiFujikado3)1)MinamiaoyamaEyeClinic,2)JIN.CO,LTD,3)DepartmentofAppliedVisualScienceOsakaUniversityMedicalSchool,4)ResearchProfessor,ScienceTechnologyEntrepreneurshipLaboratory(E-Square),OsakaUniversity,5)DepartmentofOpto-Mechatronics,FacultyofSystemsEngineering,WakayamaUniversity,6)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,KeioUniversity目的:マイクロドットレンズ装用による視力やコントラスト感度に対する影響の評価.方法:近視・近視性乱視35例を対象とした.通常の完全矯正状態(コントロール)に対して,2種類(位相差型,遮光型)の度数なしマイクロドットレンズのいずれかを装用のうえ,遠見視力,近見視力,コントラスト感度測定を行い,コントロールとの2群間データ比較を行った.結果:遠見視力,近見視力ともに45歳未満,45歳以上両群で有意に向上していた.コントラスト感度はコントロール群との比較で,グレアなしの条件ではすべての空間周波数領域で有意差はなかった.グレアありの条件では,一つの条件下(45歳未満の位相差レンズ装用群でグレア負荷下で高い空間周波数)を除き有意差はなかった.結論:マイクロドットレンズ装用により,コントラスト感度に影響をあたえることなく遠見・近見視力向上の効果を認めた.Purpose:Toinvestigatetheeffectsofmicrodotlensonvisualacuityandcontrastsensitivity.ObjectandMethod:Studysubjectswere35caseswithmyopiaormyopicastigmatism.Refractiveerrorswerecorrectedwithtrialframetoensurethebestdistancecorrection(controlcondition).Overthisframe,weaddedeitherofthemicrodotlenswithzeropower(shadingtypeorphasetype).Participantsweretestedforfarvision,nearvisionandcontrastsensitivitywearing3lenssets(control,shadingtypeandphasetype).Results:Distanceandnearvisionimprovedsignificantlyincomparisonwithcontrolgroup(<45yearsoldand≧45yearsold).Theyshowednosignificantlossofcontrastsensitivityexceptinonecondition(<45yearsold,glaretestwithphasetypelens).Conclusion:Bothtypesofmicrodotlenshadsignificantlypositiveeffectsonfarandnearvisionwithoutdecreasingcontrastsensitivity.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(9):1376?1380,2016〕Keywords:マイクロドットレンズ,遠見,近見,コントラスト,回折.microdotlens,farvision,nearvision,contrastsensitivity,diffraction.はじめに現代においては情報化社会の深化と拡大が進み,就業時のみならず若年者,高齢者においても日常的に印刷物や情報端末に触れる機会が増え,視覚負担の大きい社会環境になっている.とくに老視眼が近見作業を行う際には大きな負担がかかることになり,視覚への負担が少ないだけでなくライフスタイルや患者の希望に合った屈折矯正法が求められている.眼鏡での対策には二重焦点,累進焦点,モノビジョン,意図的な低矯正などが広く用いられているが,初期老視では残存調節力があり,努力すれば調節できるため仕事開始時には見えており,美容・手間などの観点から老視矯正を行わないことも多いと予想される.一方で,低矯正眼鏡では,遠見視力が犠牲になるという問題がある.このため,遠見をあまり犠牲にすることのない近見,もしくは調節負荷を軽減する眼鏡としてピンホール眼鏡,ハニカム眼鏡,マイクロドット眼鏡が開発されている.今回は2種類のマイクロドットレンズの視力やコントラスト感度に対する効果を調べたので報告する.I対象および方法1.マイクロドットレンズ今回使用したマイクロドットレンズは透過率の差で回折現象を起こす遮光型と,屈折率の差を利用して回折現象を起こす位相差型2種類である(表1,図1).レンズは検眼枠に挿入可能になるように加工した.2.対象屈折異常以外に眼疾患を有さない近視または近視性乱視35名を対象に本研究を行った.対象者年齢は46.7±8.2歳(35?60歳).屈折度は?2.96±2.29D(?11??0.25D).コントラスト感度は右目のみの検査であり,右眼の屈折度は?2.82±2.15D(?8??0.25D).本研究は南青山アイクリニックの倫理委員会の承認後,参加者にインフォームド・コンセントを行い,承諾書を書面にて得ている.3.方法通常の視力矯正と同様にまずは遠方完全矯正を行った(コントロール).完全矯正レンズの挿入された検眼枠の最前面に度数なしの遮光型または位相差型のマイクロドットレンズを追加して,それらの3つ条件下で両眼近見視力,両眼遠見視力,右眼コントラスト感度測定を行った.2種類のマイクロドットレンズ装用時のデータと,コントロールである完全矯正状態のみのデータとで2群比較を行った.測定順序やレンズの装用順の影響をなくすために,検査順序,レンズ種の装用順も患者によりランダムに変化させた.遠見視力は3m視力表(NIDEKSC-2000),近見視力は40cm視力表(日本点眼研究所)を使用し,コントラスト感度はCGT-1000(タカギセイコー社)にて測定した.統計解析の際は,小数視力をlogMAR視力に換算後計算を行った.統計計算はStat-cel3(OMSInc.)を用い,解析方法はWilcoxonsignedrankstestを用いてp<0.05を統計的有意差ありとした.II結果遠方視力については,コントロール(遠方完全矯正のみ)に比べて実験群(遠方矯正+マイクロドットレンズ)は45歳未満と45歳以上という群分けにおいて両年齢群で有意な視力改善効果がみられた.近方視力についても,コントロールに比べてマイクロドットレンズ装用にて両年齢群で有意に視力改善していた(図2).コントラスト感度は,遮光タイプでは45歳未満群,45歳以上群の両群で,グレア,ノングレアにかかわらず全空間周波数において有意差を認めなかった.一方,位相差型では45歳未満群グレア条件下にて高周波数条件(視角0.7)で有意な低下を認めた(図3).これらの結果をまとめると表2のようになった.III考按老視は医学的には調節幅が2.5D未満に減少すること,臨床的老視は患者が老視の自覚を有し日常使用している矯正法で近見視力が0.4未満になると定義されている1).医学的老視を根本的に改善できる方法は現時点で存在しないため,臨床的老視を改善する方法,つまり矯正法を工夫して近見視力を上げ視覚負担を減らすことが第一選択となる.眼鏡使用での対策には二重焦点,累進焦点,モノビジョン,意図的な低矯正などが知られているが,初期老眼では美容・煩わしさ・遠見視力の犠牲などのためあまり使用されていないのが現状である.遠見をあまり犠牲にすることなく近見・調節負荷を軽減する眼鏡としてはピンホール眼鏡,ハニカム眼鏡,マイクロドット眼鏡などが考えられる.ピンホール眼鏡は焦点深度を深くすることは知られているが,ハニカムレンズやマイクロドットレンズについては回折現象が一部関連することは予想されているが詳細は検討されていない.マルチピンホール眼鏡使用時の視機能について,國澤らの研究では近視群で裸眼にピンホール眼鏡を装用させた場合に遠・近見視力が向上していた.しかし,近視を矯正した状態でのピンホール眼鏡装用では遠・近見視力,コントラスト視力が低下したと報告している2).今回は2種類のマイクロドットレンズを使用する機会を得た.マイクロドットレンズはレンズ表面に金属(遮光タイプ)または金属酸化物(位相差型)がパターンコーティングされている眼鏡レンズであり(図1),その構造から眼の疲れを軽減するなどさまざまな効果が期待される.レンズにはコーティングされた部分とされていない部分に分けられ,レンズを通った光が回折の影響を受けながら網膜に到達するという設計になっている.しかし,現時点ではマイクロドットレンズが人間の視機能にどのように作用しているかは明らかになっておらず,さらに眼鏡の使用環境・使用者によって自覚的な効果が異なることが問題となっている.今回,筆者らは遠方完全矯正眼鏡検眼枠に,ゼロ度数のマイクロドットレンズを付加して遠方および近方視力とコントラス感度を測定した.遠方および近視力は有意に向上した.グレアなしの条件ではコントラスト感度の低下はなく,グレアありの条件でも最高の空間周波数を除いて,コントラスト感度は低下しなかった.マルチピンホール眼鏡は,焦点深度の増加により裸眼視力は改善するが,網膜照度の低下と回折現象によって矯正視力およびコントラスト感度が低下するため,正しく処方された眼鏡以上に有用であることはなく,場合によっては弊害のほうが大きいと國澤らは考察している2).しかし,今回使用した遮光型マイクロドットレンズでコントラスト感度の低下はみられなかったのは,マルチピンホールのように光量を大きく制限するものでなかったことによると考えられる.本研究では屈折異常の程度の異なる対象が研究に参加した.眼鏡矯正の場合,眼鏡拡大効果,必要とされる調節度数が屈折度数依存性であるため,コントロールとの対応あり統計解析を行っている.眼光学系の結像性能によっては,網膜像に球面,円柱度数,不正乱視,奥行き感などによりさまざまなぼけが発生する.大脳皮質の視覚系ではそうしたぼけを補償する働きが報告されている3?5).ぼけ順応は網膜の機能や第一次視覚野で生じている周波数選択的順応によるものと考えられてきたが6),ぼけ順応がコントラスト感度調節機構や空問周波数マスキングなどの古典的知見のみによっては説明できないことが明らかになってきた7,8).このレンズには回折効果が内包されているため,フォーカス時でも回折効果により像に多少の滲み(固定したボケに相当する)を生じており,インフォーカス状態からデフォーカスしたときのボケの幅が,この滲みの幅を超えるまでは,デフォーカスによるボケの変化を感じにくくさせる可能性があると考えられる.つまり,調節応答に繋がり,必要調節量が結果的に減少している可能性がある.一方,本実験では次のレンズにすぐに掛け替えを実施したため,上述のボケに慣れるための時間を十分に取ることができなかった.このため,慣れに対する個人差の要素も内包されている可能性もある.また,上記ぼけ順応以外の現象が働き効果を発現している可能性も考えられ,この点は今後の研究課題としたい.利益相反:株式会社ジェイアイエヌ文献1)井手武,不二門尚,前田直之ほか:老視の定義と診断基準2010.あたらしい眼科28:985-988,20112)國澤奈緒子,阿曽沼早苗,松田育子ほか:マルチプルピンホールの視力,コントラスト感度に及ぼす影響.日本視能訓練士協会誌28:117-121,20003)BattagliaPW,JacobsRA,AslinRN:Depth-dependentbluradaptation.VisionRes44:113-117,20044)観音隆幸,堺浩之,中内茂樹ほか:ぼけ順応が視覚の空間周波数伝達特性に与える影響.電子情報通信学会論文誌D,J90-D:1812-1819,20075)観音隆幸,今住優吾,中内茂樹ほか:図地分離がぼけ順応に与える影響.電子情報通信学会論文誌D,J91-D:497-503,20086)WangB,CiuffredaKJ,VasudevanB:Effectofbluradaptationonblursensitivityinmyopes.VisionRes46:3634-3641,20067)OhzawaI,SclarG,FreemanRD:Contrastgaincontrolinthecatvisualcortex.Nature298:266-268,19828)WattRJ,MorganMJ:Atheoryoftheprimitivespatialcodeinhumanvision.VisionRes25:61-74,1985〔別刷請求先〕井手武:〒107-0061東京都港区北青山3-3-11ルネ青山ビル4階南青山アイクリニックReprintrequests:TakeshiIde,M.D.,Ph.D.,MinamiaoyamaEyeClinic,RenaiAoyamaBuilding4F,3-3-11Kitaaoyama,Minatoku,Tokyo107-0061,JAPAN1376(134)表1使用したマイクロドットレンズ遮光型と位相差型がありドット部の材料,回折を起こすメカニズムがそれぞれ異なる.遮光型位相差型非ドット部の材料CrZrO2透過率75%─位相差─1/4p図1マイクロドットレンズA:上が遮光タイプ,下が位相差タイプ.遮光タイプは光透過率が下がるため若干着色しているように見える.B:レンズ構造のシェーマ.(135)あたらしい眼科Vol.33,No.9,20161377図2マイクロドット眼鏡装用による遠方視力,近方視力コントロールに比べて両年齢群,両レンズとも視力改善している.1378あたらしい眼科Vol.33,No.9,2016(136)図3マイクロドット眼鏡装用によるコントラスト感度45歳未満の位相差マイクロドットレンズ装用時のグレア下テスト以外では有意なコントラスト感度の低下を認めなかった.表2マイクロドット眼鏡装用による視力・コントラストへの影響のまとめ45歳未満45歳以上遠方視力有意に向上近方視力コントラスト感度グレア位相差で低下有意差なしコントラスト感度ノングレア有意差なし(137)あたらしい眼科Vol.33,No.9,201613791380あたらしい眼科Vol.33,No.9,2016(138)

カルテオロール塩酸塩2%/ラタノプロスト0.005%配合 点眼液(OPC-1085EL点眼液)の薬物動態と安全性

2016年9月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科33(9):1369?1375,2016cカルテオロール塩酸塩2%/ラタノプロスト0.005%配合点眼液(OPC-1085EL点眼液)の薬物動態と安全性山本哲也*1小山紀之*2佐藤明香*2二宮美千代*3石川裕二*3菊地覚*4*1岐阜大学大学院医学系研究科眼科学*2大塚製薬株式会社徳島研究所*3大塚製薬株式会社新薬開発本部*4大塚製薬株式会社メディカル・アフェアーズ部PharmacokineticsandSafetyofCarteololHydrochloride2%/Latanoprost0.005%CombinationOphthalmicSolution(OPC-1085ELOphthalmicSolution)TetsuyaYamamoto1),NoriyukiKoyama2),AsukaSato2),MichiyoNinomiya3),YujiIshikawa3)andSatoruKikuchi4)1)DepartmentofOphthalmology,GifuUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)TokushimaResearchInstitute,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,3)DepartmentofClinicalDevelopment,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,4)DepartmentofMedicalAffairs,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.カルテオロール塩酸塩2%とラタノプロスト0.005%を有効成分とするOPC-1085EL点眼液(OPC)の薬物動態および安全性を検討するため,健康成人を対象に,OPC,カルテオロール塩酸塩持続性点眼液2%,ラタノプロスト点眼液0.005%の1日1回,7日間反復点眼による薬物動態試験を実施した.また,有色ウサギを用い,OPC単回点眼後の眼内薬物動態を検討した.OPC点眼後の各有効成分(カルテオロールおよびラタノプロスト遊離酸)のヒト血漿中薬物動態は単剤投与時と明確な違いはなく,OPC点眼後の各有効成分のウサギ房水および虹彩・毛様体における曝露は単剤投与時を下回ることはなかった.ヒトにおけるOPCの副作用は結膜充血であり,血圧や脈拍への影響は認められなかった.OPCの各有効成分について,配合化による薬物動態への影響はなく,安全性プロファイルは忍容できるものであった.ToexaminethepharmacokineticsandsafetyofOPC-1085ELcombinationophthalmicsolution(OPC)containingcarteololhydrochloride2%andlatanoprost0.005%asactiveingredients,apharmacokineticstudywasconductedinhealthyadultsinwhomOPC,carteololhydrochloridelong-actingophthalmicsolution2%orlatanoprost0.005%eyedropswasinstilledoncedailyfor7days.Additionally,intraocularpharmacokineticswereinvestigatedinpigmentedrabbitsafterasingleinstillationofOPC.HumanplasmapharmacokineticsofactiveingredientsafterOPCinstillationshowednonoticeabledifferencefromeachofthesingle-agentpharmacokinetics.Theexposureofrabbitaqueoushumorandiris-ciliarybodytoactiveingredientsafterOPCinstillationwasnotlowerthaneachsingle-agentexposure.AdversereactionstoOPCinhumansconsistedonlyofconjunctivalhyperemia.Noeffectonbloodpressureorpulseratewasobserved.OPCformulationdidnotaffectthepharmacokineticsoftheindividualingredients;OPCmanifestedatolerablesafetyprofile.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(9):1369?1375,2016〕Keywords:OPC-1085EL,カルテオロール,ラタノプロスト,配合点眼液,薬物動態.OPC-1085EL,carteolol,latanoprost,combinationophthalmicsolution,pharmacokinetics.はじめに緑内障治療の目的は患者の視機能維持であり,適切な眼圧下降治療が必要である1).現状では第一選択薬として,ぶどう膜強膜流出路からの房水流出を促進するプロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬や房水産生を抑制するb遮断薬を用い,効果不十分の場合は両者の併用療法を行うことが多い.併用療法は,洗い流し効果を防ぐために十分な間隔をあけて各薬剤を点眼しなければならないなど利便性が悪く,アドヒアランス低下の問題が生じる.また,点眼回数の増加に伴い,点眼液に含有される保存剤への曝露も増加するため,角結膜上皮障害の発症も懸念される2).これらの問題を改善するために,有効成分を組み合わせた配合剤が開発されている.わが国で販売されている配合剤は,いずれも非選択性b遮断薬のチモロールを含有しているため,副作用などでチモロールを使用できない患者は,配合剤による利便性向上の恩恵を受けることはできない.一方,カルテオロールは内因性交感神経刺激様作用(intrinsicsympathomimeticactivity:ISA)を持つ非選択性b遮断薬3)で,チモロールに比べて循環器系や呼吸機能に及ぼす影響4,5),眼刺激性や血中脂質への影響6,7)が小さいことが報告されている.さらにカルテオロールでは,眼底血流増加作用も認められている8).カルテオロールを有効成分とするミケランRLA点眼液1%・2%(大塚製薬株式会社)は,アルギン酸を添加することでカルテオロールの眼圧下降作用を持続化した1日1回点眼製剤であり,単剤ならびに併用療法の使用実績が十分にある9,10).OPC-1085EL点眼液(以下,OPC)は,大塚製薬株式会社が開発したカルテオロール塩酸塩2%とラタノプロスト0.005%を有効成分とする1日1回点眼の配合剤である.カルテオロールの眼圧下降作用の持続化剤としてアルギン酸を含有し,保存剤としてベンザルコニウム塩化物(BAC)を含有しない配合剤である.配合剤の製剤化において,物性の異なる2つの有効成分を同時に溶解し,長期間安定な製剤にすることは容易でなく,添加剤やpHならびに保存剤を工夫する必要があるが,これらは有効成分の薬物動態に影響を及ぼすことが知られている11,12).このため,配合剤の有効性・安全性プロファイルは,併用療法と同等にならない可能性がある.今回,健康成人およびウサギを対象に,OPCの各有効成分について配合化による薬物動態への影響を検討し,有効性および安全性に及ぼす影響を考察した.I健康成人を対象とした臨床薬物動態試験本治験は,2014年4?5月に,医療法人平心会大阪治験病院にて同治験審査委員会の承認(StudyNo:910PC)を得たうえで,治験実施計画書,医薬品の臨床試験の実施の基準および関連法令を遵守し,三上洋治験責任医師のもとで実施した.眼科検査は,眼科医の治験分担医師が実施した.1.対象および方法a.対象治験参加の文書同意が得られ,20歳以上45歳以下で,bodymassindexが18.5以上25.0未満の健康成人男性30例を対象とした.おもな除外基準は,眼疾患の合併がある者,眼圧が22mmHg以上の者,または眼圧が10mmHg未満の者,矯正視力が1.0未満の者,収縮期血圧が140mmHg以上,拡張期血圧が90mmHg以上,または低血圧の臨床症状がみられる者,脈拍数が100回/分以上または40回/分以下の者,心疾患を合併している者または既往歴のある者,スクリーニング検査で標準12誘導心電図に異常がみられる者,過去に心電図異常を指摘されたことがある者,カルテオロール点眼液の禁忌または慎重投与に該当する者,ラタノプロスト点眼液の禁忌または慎重投与に該当する者とした.b.治験薬被験薬としてOPC,対照薬としてカルテオロール塩酸塩持続性点眼液2%(大塚製薬株式会社,以下MLA)およびラタノプロスト点眼液0.005%(ファイザー株式会社,以下LAT)を用いた.c.治験方法本治験は,単施設,実薬対照,無作為化試験として,入院下で実施した.1日目の点眼前に規定検査を実施し,適格性の確認された被験者30例を割付表に従ってOPC,MLA,LATのいずれかの群に1:1:1の割合で無作為に割り付けた.割付表は,治験依頼者である大塚製薬株式会社がSAS(SASInstituteInc.)を用いて作成した.治験薬は,両眼に1回1滴,1日1回朝に,1日目から7日間反復点眼した.薬物濃度測定のため,投与期間中にヘパリンナトリウム処理したシリンジで採血し,遠心分離して血漿を得た.8日目の検査終了後,被験者を退院させた.治験薬投与開始2週間前から8日目の検査終了時まで,治験薬以外の薬剤の使用は禁止した.眼科検査を実施する治験分担医師に対しては盲検とした.治験実施期間における安全性の評価項目は,有害事象,身体所見,眼科的自覚症状,体温,血圧,脈拍数,標準12誘導心電図,視力検査,眼瞼・細隙灯顕微鏡検査,眼底検査,臨床検査および眼圧測定とした.d.血漿中薬物濃度の測定血漿中カルテオロールおよびラタノプロストの活性本体であるラタノプロスト遊離酸の濃度測定は,株式会社住化分析センターにてバリデートされた高速液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析(LC-MS/MS)を用いた内部標準法により行った.カルテオロールおよび内標準物質(d5体)は,有機溶媒で血漿より液-液抽出し,10mmol/L酢酸アンモニウム溶液/0.2%ギ酸:メタノール/0.2%ギ酸(85:15,v/v)の移動相およびShim-packXR-ODSカラム(株式会社島津製作所)により分離させた後,MS/MSに導入し,エレクトロスプレーイオン化(ESI)法により生成したカルテオロールおよび内標準物質それぞれのフラグメントイオン(m/z293→m/z202およびm/z298→m/z207)をMRMポジティブイオンモードにて分析した.LC-MS/MS分析機器はAPI4000(ABSciexPte.Ltd.)を使用した.ラタノプロスト遊離酸および内標準物質(d4体)は,OasisMAX(WatersCorp.)で血漿より固相抽出し,0.1%ギ酸/水およびメタノールの2つの移動相によるステップワイズグラジエントおよびXSelectCSHFluoro-Phenyl(WatersCorp.)とShim-packXR-ODSII(株式会社島津製作所)との連結カラムを用い分離させた後,メタノール/40%メチルアミン溶液(100:0.1,v/v)と混合させMS/MSに導入し,ESI法により生成したラタノプロスト遊離酸および内標準物質それぞれのフラグメントイオン(m/z422.3→m/z337.3およびm/z426.4→m/z341.0)をMRMポジティブイオンモードにて分析した.LC-MS/MS分析機器はAPI5000(ABSciexPte.Ltd.)を使用した.カルテオロールおよびラタノプロスト遊離酸の定量下限は,それぞれ0.02ng/mlおよび10pg/mlであった.e.解析方法薬物動態解析対象は,血漿中薬物濃度が測定された被験者とした.カルテオロールおよびラタノプロスト遊離酸の血漿中濃度および薬物動態パラメータとしてCmax(最高血漿中濃度),AUC(血漿中濃度-時間曲線下面積),tmax(最高血漿中濃度到達時間),t1/2,z(最終相の血漿中消失半減期)の記述統計量を算出した.薬物動態パラメータは,薬物動態解析ソフトウェアPhoenixWinNonlinEnterprise6.3(PharsightCorp)を用いたノンコンパートメント解析により,被験者ごとに求めた.安全性解析対象は,治験薬の点眼を1回以上受けたすべての被験者とした.有害事象の発現例数,発現割合および発現件数を求めた.バイタルサインについては,各時点における記述統計量を求めた.その他の安全性評価項目については,治験期間を通しての数値の変動や異常の有無を検討した.安全性の解析には,解析ソフトSAS9.2(SASInstituteInc.)を用いた.2.結果a.被験者の内訳同意取得例54例のうち,30例が無作為割付された.治験薬投与開始後の中止例はなかった.被験者背景(年齢,身長,体重など)は各群同様であった.b.薬物動態7日目のOPC群およびMLA群の血漿中カルテオロール濃度は,点眼後15?30分にピークに達した後,減少した.OPC群の血漿中カルテオロール濃度の平均値は,MLA群に比べてやや低く推移し(図1a),カルテオロールのCmaxおよびAUC24hは,MLA群に比べてOPC群でやや低値を示した(表1a)が,明確な違いはみられなかった.血漿中ラタノプロスト遊離酸濃度は,OPC群,LAT群ともに,ほぼ同様の値で推移し,点眼後10分にピークに達した後,減少した(図1b).両群とも,ラタノプロスト遊離酸は,7日目の最終点眼後24時間時点では,血漿中に検出されなかった.薬物動態パラメータは両群で違いはなかった(表1b).なお,1日目および7日目のすべての採血時期を通じて,血漿中ラタノプロスト遊離酸濃度が定量下限未満の被験者が,両群で各1例認められた.c.安全性副作用の発現例数および件数は,OPC群で6例10件,MLA群で4例4件,LAT群で8例15件であった.3群とも結膜充血がもっとも多かった(発現例数はそれぞれ6例,3例および8例).LAT群では角膜障害が3例に認められた.いずれも軽度であり,無処置で回復した.脈拍数,収縮期血圧,拡張期血圧の推移は,3群とも試験期間を通じて大きな変動は認められず(図2),関連する有害事象の報告もなかった.臨床検査,心電図検査,視力検査および眼底検査に関して,臨床的に問題となる変化または異常所見はいずれの群でも認められなかった.II有色ウサギを用いた非臨床薬物動態試験本試験では,「大塚製薬株式会社動物実験に関する指針」を遵守した.1.材料および方法a.投与および検体の採取・調製・測定15?20週齢の雄性有色ウサギ(Kbl:Dutch,北山ラベス株式会社)を用い,両眼にOPC,MLAまたはLATを25μL/眼単回点眼した.ウサギ(各サンプリングポイントにつき2羽,6時間後のみ3羽)は,点眼0.5,1,2,4および6時間後に過麻酔により安楽死させ,両眼の房水,結膜,虹彩・毛様体および角膜を採取した.採取した房水はメタノール/生理食塩水/ギ酸混合液(50:50:1)で希釈した.結膜,虹彩・毛様体および角膜は,メタノール/生理食塩水/ギ酸混合液(50:50:1)を添加後,ホモジナイズした.各試料はアセトニトリルで除蛋白し,遠心上清をLC-MS/MS法で分析した(詳細はヒトの方法に準じた).カルテオロールの定量下限は,房水10ng/ml,その他の組織40ng/g,ラタノプロスト遊離酸の定量下限は,房水1ng/ml,その他の組織4ng/gであった.b.薬物動態解析薬物動態パラメータは,PhoenixWinNonlinver6.3(ノンコンパートメントモデル,PharsightCorp)を用いて算出した.2.結果OPC群の房水および虹彩・毛様体中のカルテオロール濃度は,点眼後1?2時間後にCmaxに達し,その後減少した(図3).カルテオロールのCmaxおよびAUCtは,MLA群と比較して約2倍高く(表2a),虹彩・毛様体ではtmaxがMLA群よりも早かった(図3).OPC群の房水および虹彩・毛様体中のラタノプロスト遊離酸濃度は,点眼後0.5?1時間後にCmaxに達し,その後減少した(図4).ラタノプロスト遊離酸のCmaxおよびAUCtは,OPC群とLAT群で明確な差は認められなかった(表2b).なお,角膜および結膜内のカルテオロールおよびラタノプロスト遊離酸は,OPC群と各単剤群で同様の濃度推移であった(表2a,b).III考按点眼液に含まれる有効成分の薬物動態は有効性と安全性に密接に関与するため,その評価は重要である.また,点眼液中には添加剤やpHなど,薬物動態に影響を与える因子が種々存在するため,製剤として総合的に薬物動態を評価することが有用である.本研究では健康成人を対象に,OPC点眼後のカルテオロールとラタノプロストの薬物動態を検討し,配合化の影響を考察した.OPC点眼後のカルテオロールとラタノプロスト遊離酸のヒト血漿中薬物動態は,MLAおよびLAT点眼時と比較して明確な差は認められなかった.カルテオロールはb遮断薬であるため,血漿中薬物動態は徐脈などの全身性の副作用の発現に影響を与える因子となりうるが,OPC点眼後のカルテオロールの血漿中濃度はMLA群を上回ることはなかった.実際,OPC点眼後の脈拍および血圧は,MLA群やLAT群と同様で変化はなく,配合化による全身性の安全性に及ぼす影響は少ないと考えられた.PG関連薬のラタノプロストは,結膜充血などの眼局所に特徴的な副作用をもつ.眼内のラタノプロストの薬物動態はOPCの眼局所の副作用プロファイルに影響するが,ウサギにおいてOPC点眼後のラタノプロスト遊離酸の眼内の薬物動態はLAT群と同様であった.OPCにはカルテオロールの眼圧下降作用の持続化剤としてアルギン酸が含まれており,そのおもな機序は負イオンであるアルギン酸と正イオンであるカルテオロールのイオン的相互作用である13).このため,ヒトにおいてもアルギン酸は(正イオンでない)ラタノプロストおよびその遊離酸の薬物動態に影響を与える可能性は低いと考えられる.実際,OPC群でも結膜充血は発現したが,その発現割合はLAT群に比べて増加することはなかった.これらをあわせて考えると,OPCの眼局所の副作用プロファイルはLATと同様であると推察された.一方,OPC点眼後のカルテオロールのウサギ眼内移行はMLA群と比べて高い傾向がみられた.この原因は未解明であるが,エチレンジアミン四酢酸(EDTA)がカルテオロールの角膜透過性を亢進させる報告14)があり,OPCの添加剤として含まれるEDTAナトリウムがカルテオロールの角膜透過性を高めた可能性も考えられる.しかし,カルテオロールは眼局所に特徴的な副作用はなく,ヒトにおいてOPC点眼後の副作用はMLA群に比べて増加しておらず,安全性への影響は小さいと推察された.有効成分の眼内移行は有効性に影響を与えるが,OPC点眼後,カルテオロールおよびラタノプロストとも,それぞれMLAおよびLAT点眼時と比較して曝露量を下回ることはなかったことから,両有効成分の眼圧下降作用が減弱することなく,OPCの有効性が発揮されると考察された.今回の対象は健康成人であるため,有効性の評価はできなかったが,原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたOPCの第III相試験(AmJOphthalmol掲載準備中)で,MLAとLATの併用療法と同程度の眼圧下降作用が確認されており(AmJOphthalmol掲載準備中),これを裏付ける結果と考えられた.また,両単剤に保存剤として含まれるBACは幅広い抗菌スペクトルを有し,強力な抗菌活性を示す一方で,細胞障害性を有する.OPCはBACを含まないことから,単剤あるいは併用療法に比べてさらなる角結膜上皮の安全性の向上が期待される.以上のように,OPCの各有効成分について配合化による薬物動態への影響はみられず,副作用は軽度の充血のみで,安全性は忍容できるものであった.OPCは多剤併用療法を必要とする患者の利便性やアドヒアランスの向上に貢献できる配合剤であり,チモロールを含有した配合剤のみが利用可能な現状を変え,配合剤治療の新たな有用な選択肢となることが期待される.利益相反:本臨床試験は大塚製薬株式会社の資金提供により実施された.非臨床試験は大塚製薬株式会社により実施された.筆者の小山紀之,佐藤明香,二宮美千代,石川裕二,菊地覚は大塚製薬株式会社の社員である.筆者の山本哲也は医学専門家である.謝辞:本稿の作成にあたり,学術的助言をいただいた大塚製薬株式会社メディカル・アフェアーズ部中島康治氏,大塚製薬株式会社新薬開発本部中道典宏氏,松木一浩氏,藤原智子氏に御礼申し上げます.文献1)緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)BaudouinC:Detrimentaleffectofpreservativesineyedrops:implicationsforthetreatmentofglaucoma.ActaOphthalmol86:716-726,20083)ZimmermanTJ:Topicalophthalmicbetablockers:acomparativereview.JOculPharmacol9:373-384,19934)KitazawaY:Multicenterdouble-blindcomparisonofcarteololandtimololinprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.AdvTher10:95-131,19935)佐野靖之,村上新也,工藤宏一郎ほか:気管支喘息患者に及ぼすb-遮断点眼薬の影響─CarteololとTimololとの比較─.現代医療16:1259-1263,19846)ScovilleB,MuellerB,WhiteBGetal:Adouble-maskedcomparisonofcarteololandtimololinocularhypertension.AmJOphthalmol105:150-154,19887)YamamotoT,KitazawaY,NomaAetal:Theeffectsoftheb-adrenergic-blockingagents,timololandcarteolol,onplasmalipidsandlipoproteinsinJapaneseglaucomapatients.JGlaucoma5:252-257,19968)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:Effectoftopicalbeta-blockersontissuebloodflowinthehumanopticnervehead.CurrEyeRes16:1102-1110,19979)井上賢治,塩川美菜子,若倉雅登ほか:持続型カルテオロール点眼薬のラタノプロスト点眼薬への追加効果.眼臨紀3:14-17,201010)内田英哉,鵜木一彦,山林茂樹ほか:カルテオロール塩酸塩持続性点眼液とラタノプロスト点眼液の併用療法とラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の眼圧下降効果および安全性の比較.あたらしい眼科32:425-428,201511)NakamuraT,YamadaM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ドライアイ症例に対する白内障周術期におけるムコスタ®点眼液UD2%の効果

2016年9月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科33(9):1363?1368,2016cドライアイ症例に対する白内障周術期におけるムコスタR点眼液UD2%の効果井上康*1越智進太郎*1高静花*2*1井上眼科*2大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室Effectsof2%RebamipideOphthalmicSuspensiononPerioperativePeriodofCataractSurgeryinDryEyePatientsYasushiInoue1),ShintaroOchi1)andShizukaKoh2)1)InoueEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:ドライアイ(DE)症例に対するレバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%:大塚製薬,以下レバミピド)の白内障周術期における投与の有効性を評価した.方法:2014年12月17日?2015年6月17日に両眼の白内障手術目的で井上眼科を受診した症例のうち,2006年DE診断基準においてDE確定およびDE疑いと診断され,術後8週まで経過観察できた男性4名8眼,女性26名52眼,計30名60眼(72.1±7.3歳)を対象とした.術前4週の時点で無作為に片眼にレバミピド(REBA群),他眼にソフトサンティア(AT群)を割り付け,1日4回の点眼を開始した.点眼は術後8週まで継続し,DE自覚症状評価,SchirmertestI法,BUT,角結膜フルオレセイン染色スコア,光干渉断層計によるTMH,角膜高次収差の連続測定の結果を比較した.結果:REBA群ではAT群に比べ,角結膜フルオレセイン染色スコアが術前2週および術後4?8週にかけて有意に減少し,BUTは術前2週以降延長していた.角膜高次収差の連続測定の結果から算出したFluctuationIndexおよびStabilityIndexはそれぞれ術前2週から術後6週まで,手術当日から術後6週までの間REBA群ではAT群に比べ有意に低下していた(p<0.05).結論:DE症例に対する白内障周術期におけるレバミピドの投与により早期の涙液層の安定化が得られた.Purpose:Toevaluatetheeffectsof2%Rebamipideophthalmicsuspension(rebamipide)ontheperioperativeperiodofcataractsurgeryindryeyepatients.Method:Enrolledwere60eyesof30dryeyepatientswhohadundergonecataractsurgeryinbotheyesbetweenDecember17,2014andJune17,2015andbeenfollowedupfor8weeks(8w)aftersurgery.Artificialtearswererandomlyappliedtooneeye(ATgroup)and2%rebamipideophthalmicsuspensiontothefelloweye(REBAgroup)at4weeksbeforecataractsurgery(?4W).Eachgroupwasinstructedtostarttheophthalmicsuspensions4timesadayfrom?4wto8w.Subjectivesymptomassessment,SchirmertestI,tearfilmbreakuptime(BUT),fluoresceinstainingscore,tearmeniscusheightobtainedbyopticalcoherencetomographyandserialcornealhigh-orderaberration(HOAs)wereexaminedat?4w,?2w,dayofsurgery(0w),2w,4w,6wand8w.Twoquantitativeindices,thefluctuationindex(FI)andthestabilityindex(SI)oftotalHOAs,wereusedtoindicatesequentialchangeinHOAsovertime.Result:BUTat?2w,0w,2w,4w,6wand8wwereextended,fluoresceinstainingscoreat?2w,4w,6wand8wweredecreased,FIat?2w,0w,2w,4wand6wweredecreasedandSIat0w,2w,4wand6wweredecreasedsignificantlyintheREBAgroup,comparedwiththeATgroup(p<0.05).Conclusion:Rebamipidewaseffectiveduringtheperioperativeperiodofcataractsurgeryindryeyepatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(9):1363?1368,2016〕Keywords:レバミピド懸濁点眼液,白内障手術,ドライアイ.rebamipideophthalmicsuspension,cataractsurgery,dryeye.〔別刷請求先〕井上康:〒706-0011岡山県玉野市宇野1-14-31井上眼科Reprintrequests:YasushiInoueM.D.,InoueEyeClinic,1-14-31Uno,TamanoCity,Okayama706-0011,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(121)1363はじめに近年,白内障手術は小切開化などさまざまな改良により術後早期から良好な視力が得られるようになるとともに,トーリック眼内レンズなどの導入により屈折矯正手術としての完成度も高まってきている.しかし,手術中の強制開瞼,眼内灌流液の滴下,顕微鏡光,局所麻酔および消毒液などによる角結膜,涙液層への障害は,角膜知覚低下,眼表面のムチン,ゴブレット細胞の減少を通して角結膜上皮障害,涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)の短縮を引き起こす術後ドライアイとして報告されている1?3).臨床現場において術後経過が良好であるにもかかわらず,異物感,乾燥感や霧視を訴える症例を経験することは少なくない.現在国内のドライアイ症例数は800?2,000万人と考えられており,白内障手術において良好な結果を得るためには術前にドライアイの診断を適確に行うこと,ドライアイと診断された場合には周術期のドライアイ治療を効率的に行うことが欠かせないと考えられる.ドライアイの治療薬であるレバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%:大塚製薬,以下レバミピド)は角結膜ムチン産生促進,角結膜上皮障害改善,ゴブレット細胞数増加作用などを有することが報告されており4?8),白内障周術期におけるドライアイ治療薬としても有効である可能性がある.今回,白内障周術期のドライアイ症例に対してレバミピドを使用し,人工涙液使用眼との比較からレバミピドの有効性について検討を行った.I対象および方法本研究は眼科康誠会倫理審査委員会にて前向き無作為化比較試験として承認を受け,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則および「臨床研究に関する倫理指針(平成20年7月改正,厚生労働省告示)」を遵守して実施された.対象は2014年12月17日?2015年6月17日まで間の井上眼科における両眼白内障手術予定症例の内,第1眼の手術より4週前(?4w)の時点で,2006年ドライアイ診断基準9)におけるドライアイ確定およびドライアイ疑いに該当し,文書による同意を得ることができた41名82眼(男性5名10眼,女性36名72眼,年齢72.5±8.1歳)である.除外基準はドライアイ,結膜弛緩症以外の前眼部疾患(眼瞼炎,兎眼,眼瞼痙攣および虹彩炎を含む),コンタクトレンズ装用,涙点プラグを挿入中もしくは本研究参加前3カ月以内の涙点プラグ装用,本研究開始前12カ月以内の眼科的手術歴とし,マーキングによる眼表面への影響を排除するためにトーリック眼内レンズ挿入予定眼も除外基準に含めた.対象症例には?4wの時点で無作為に割り付けられた片眼にレバミピドを(レバミピド群),他眼には人工涙液(ソフトサンティアR:参天製薬,AT群)を?4wから術後8週(8w)まで1回1滴,1日4回点眼した.臨床評価は?4w,?2w,手術当日の手術前(0週),術後2週(2w),術後4週(4w),術後6週(6w),術後8週(8w)に行った.評価項目はドライアイ自覚症状(異物感,眼痛,乾燥感,霧視,羞明,疲労,流涙)をVisualAnalogueScaleにて評価,BUT,角結膜フルオレセイン染色スコア(9点満点),SchirmertestI法,前眼部アダプタを装着した後眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography,RS-3000,NIDEK)による下方の涙液メニスカス高(tearmeniscusheight:TMH),波面センサー(Wave-FrontAnalyzer,KR-1W:TOPCON)による高次収差の10秒間連続撮影とした.波面センサーによる高次収差測定は白内障の影響を除外するため測定直径4mmの角膜高次収差を評価した.測定された10秒間の高次収差の変化からFluctuationIndex(FI),StabilityIndex(SI)を求めた10).今回の研究では,レバミピドは特徴的な白色懸濁性点眼液であるため二重盲検化は行えなかった.検者の主観を排除するためBUTの測定は左右の点眼薬を確認する前に行った.また,第三者機関による登録データの監査,モニタリングにより透明性を確保した.統計解析はJMPバージョン10.0.2(SASInstitute,Cary,NorthCarolina,USA)で行い,群間比較はpairedt-test,群内比較はKruskal-Wallis,多重比較はSteelを用い,有意水準p<0.05で検定した.白内障手術は全症例ともオキシブプロカイン塩酸塩(ベノキシールR点眼液0.4%:参天製薬,以下ベノキシール)とリドカイン塩酸塩(キシロカインR点眼液4%:アストラゼネカ)による点眼麻酔下で施行し,第1眼手術の2週間後に第2眼の手術を施行した.切開創は2.2mm耳側強角膜とし,前例とも無縫合で終了した.眼内レンズは1例2眼にSN60WF(ALCON),29例58眼にZCB00V(AMO)を使用した.全症例とも術前3日前より術当日までガチフロキサシン点眼液(ガチフロR点眼液0.3%:千寿製薬)を,術後はレボフロキサシン点眼液(クラビットR点眼液1.5%:参天製薬)を術後4週まで1回1滴,1日4回使用した.ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液(ブロナックR点眼液0.1%:千寿製薬)は術翌日より術後8週まで1回1滴,1日2回併用した.II結果対象症例のうち,本人の希望により8例,コンプライアンス不良により2例,点眼による苦味のために1例が中止・脱落となったため,30名60眼(男性4名8眼,女性26名52眼,年齢72.1±7.3歳)について解析を行った.本研究中に苦味以外の有害事象は認めなかった.?4wの時点でのBUT,角結膜フルオレセイン染色スコア,SchirmertestI法,TMH,高次収差変化のパターン,1364あたらしい眼科Vol.33,No.9,2016(122)FI,SI,ドライアイ自覚症状はレバミピド群とAT群の間に有意差を認めなかった(表1).BUTは全症例で5秒以下,SchirmertestI法は5mm以上が60眼中56眼,10mm以上が60眼中30眼であった.白内障手術における術中合併症はなく,眼内レンズは全症例で?内に固定され,手術時間,術後矯正視力には両群間の有意差を認めなかった.レバミピド群ではAT群に比べ,BUTが?2wから8wまで有意に延長し,角結膜フルオレセイン染色スコアが?2wおよび4wから8wまで有意に減少していた(p<0.05).群内比較ではAT群はBUT,角結膜フルオレセイン染色スコアともにすべての時点において有意差はなかったが,レバミピド群では?4wと比較して,BUTは手術当日から8wにおいて延長し,角結膜フルオレセイン染色スコアは0w,4w,8wで有意な減少を認めた(p<0.05,図1).SchirmertestI法とTMHは両群間に有意差はなく,群内比較でも両群ともにすべての時点で有意差を認めなかった(図2).波面センサーによる角膜全高次収差の10秒間連続測定の経時変化を図3に示す.AT群では全経過を通してBUT短縮型の特徴である開瞼後徐々に高次収差が増加する「のこぎり型」を示していたのに対し,レバミピド群では?4wでは「のこぎり型」を示していたが,それ以外では高次収差の変化が少ない「安定型」を示していた10).レバミピド群ではAT群に比べ,FIは?2w,0w,2wから6wまで,SIは0wから6wまで有意に低下していた(p<0.05).群内比較では,AT群ではFI,SIともにすべての時点において有意差はなかったが,レバミピド群では?4wに比べFIが?2wで,SIは?2wから8wまで有意に低下していた(p<0.05,図4).ドライアイの自覚症状評価は?4wと各測定点でのスコアの差から行った.すべての測定点において両群間に有意差を認めなかったが,眼痛や乾燥感の項目ではレバミピド群がAT群より改善している傾向が認められた.(図5)III考察LASIK(laser-assistedinsitukeratomileusis)では広範囲にわたり角膜知覚神経が切断されるために角膜知覚が低下し,涙液の反射分泌が減少することによりドライアイを発症することが広く知られている11).また,術中術後に使用する非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液の鎮痛作用も角膜知覚低下の原因となる可能性がある12).ただし,今回の結果ではAT群とレバミピド群ともに?4wから8wまでの間涙液の反射性分泌を反映するとされているSchirmertestI法,TMHには変化が認められず,涙液の反射分泌の減少を惹起するほどの角膜知覚の低下は生じていなかったと考えられる.NSAIDsなどに防腐剤として配合されているベンザルコニウム塩化物(benzalkoniumchloride)の細胞毒性による角結膜表面のmicrovilli(微絨毛,微ひだ)への障害はmicrovilli先端の膜結合型ムチンの減少につながる13).また,強制開瞼に伴う乾燥と頻回に行われる眼内灌流液の滴下によっても膜結合型ムチンおよび分泌型ムチンが減少すると考えられる14).レバミピドには前述のように角結膜ムチン産生促進,角結膜上皮障害改善,ゴブレット細胞数増加作用があり4?8),BUT延長および涙液層の安定による高次収差の改善が報告されている15).今回の検討においても,レバミピド群ではBUTの延長,角結膜フルオレセイン染色スコアの改善,高次収差変化パターンの「安定型」への移行,FIおよびSIの低下が?2wから認められ,白内障手術の施行前に涙液層の安定化が得られていたと考えられる.一方,AT群ではBUT,角結膜フルオレセイン染色スコア,高次収差変化のパターン,FI,SIには全経過を通じて有意な変化はなく,ドライアイの改善および増悪ともに認められなかった.今回対象となった症例の約半数はBUT短縮型ドライアイであり,涙液量が正常範囲に保たれていたこと,人工涙液や抗菌薬点眼による水分量の増加により増悪が生じなかったのではないかと考えられる.術後矯正視力については両群間に有意な差はなく,自覚症状評価においても同様に有意差は認められなかったが,レバミピドにより涙液層の安定化が得られることが確認できた.今後,実用視力16)などで時間軸を考慮した視力評価を行い,視機能に対する効果を検証する必要がある.本研究は大塚製薬株式会社から助成を受けて行われた.文献1)OhT,JungY,ChangDetal:Changesinthetearfilmandocularsurfaceaftercataractsurgery.JpnJOphthalmol56:113-118,20122)KasetsuwanN,SatitpitakulV,ChangulTetal:Incidenceandpatternofdryeyeaftercataractsurgery.PLoSOne8:e78657,20133)ChoYK,KimMS:Dryeyeaftercataractsurgeryandassociatedintraoperativeriskfactors.KoreanJOphthalmol23:65-73,20094)KinoshitaS,AwamuraS,OshidenKetal:Rebamipide(OPC-12759)inthetreatmentofdryeye:arandomized,double-masked,multicenter,placebo-controlledphaseIIstudy.Ophthalmology119:2471-2478,20125)UrashimaH,TakejiY,OkamotoTetal:Rebamipideincreasesmucin-likesubstancecontentsandperiodicacidSchiffreagent-positivecellsdensityinnormalrabbits.JOculPharmacolTher28:264-270,20126)RiosJD,ShatosM,UrashimaHetal:OPC-12759increasesproliferationofculturedratconjunctivalgobletcells.Cornea25:573-581,20067)RiosJD,ShatosMA,UrashimaHetal:EffectofOPC-12759onEGFreceptoractivation,p44/p42MAPKactivity,andsecretioninconjunctivalgobletcells.ExpEyeRes86:629-636,20088)OhguchiT,KojimaT,IbrahimOMetal:Theeffectsof2%rebamipideophthalmicsolutiononthetearfunctionsandocularsurfaceofthesuperoxidedismutase-1(sod1)knockoutmice.InvestOphthalmolVisSci54:7793-7802,20139)島﨑潤:2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,200710)KohS,MaedaN,HiroharaYetal:Serialmeasurementsofhigher-orderaberrationsafterblinkinginnormalsubjects.InvestOphthalmolVisSci47:3318-3324,200611)LiM,ZhaoJ,ShenYetal:ComparisonofdryeyeandcornealsensitivitybetweensmallincisionlenticuleextractionandfemtosecondLASIKformyopia.PLoSOne8:e77797,201312)DonnenfeldED,HollandEJ,StewartRHetal:Bromfenacophthalmicsolution0.09%(Xibrom)forpostoperativeocularpainandinflammation.Ophthalmology114:1653-1662,200713)高橋信夫:点眼剤用防腐剤塩化ベンザルコニウムの細胞毒性とその作用機序─細胞培養学的検討─.日本の眼科58:945-950,198714)中島英夫,浦島博樹,竹治康広ほか:ウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルにおける角結膜障害に対するレバミピド点眼液の効果.あたらしい眼科29:1147-1151,201215)KohS,InoueY,SugimotoTetal:Effectofrebamipideophthalmicsuspensiononopticalqualityintheshortbreak-uptimetypeofdryeye.Cornea32:1219-1223,201316)KaidoM,IshidaR,MuratDetal:Therelationoffunctionalvisualacuitymeasurementmethodologytotearfunctionsandocularsurfacestatus.JpnJOphthalmol55:451-459,20111364あたらしい眼科Vol.33,No.9,2016(122)表1術後8週まで経過観察できた症例の背景(123)あたらしい眼科Vol.33,No.9,20161365図1Tearfilmbreakuptime(BUT)と角結膜フルオレセイン染色スコアの経時変化グラフは平均値±標準偏差を示す.群間比較:対応のあるt検定(AT群vsREBA群)(**p<0.01,*p<0.05)群内比較:Kruskal-Wallis検定多重比較Steel(††p<0.01,†p<0.05)図2SchirmertestI法と下方涙液メニスカス高(TMH)の経時変化グラフは平均値±標準偏差を示す.群間比較:対応のあるt検定(AT群vsREBA群)(**p<0.01,*p<0.05)群内比較:Kruskal-Wallis検定多重比較Steel(††p<0.01,†p<0.05)図3角膜全高次収差の10秒間連続測定の経時変化平均値の変化を示す.1366あたらしい眼科Vol.33,No.9,2016(124)図4FluctuationIndexとStabilityIndexの経時変化グラフは平均値±標準偏差を示す.群間比較:対応のあるt検定(AT群vsREBA群)(**p<0.01,*p<0.05)群内比較:Kruskal-Wallis検定多重比較Steel(††p<0.01,†p<0.05)図5自覚症状の経時変化?4wと各測定点でのスコアの差を求め,+:改善,?:増悪とした.グラフは平均値±標準偏差を示す.群間比較:対応のあるt検定(AT群vsREBA群)(**p<0.01,*p<0.05)群内比較:Kruskal-Wallis検定多重比較Steel(††p<0.01,†p<0.05)(125)あたらしい眼科Vol.33,No.9,201613671368あたらしい眼科Vol.33,No.9,2016(126)

後部視路疾患の構造と機能

2016年9月30日 金曜日

《第4回日本視野学会シンポジウム》あたらしい眼科33(9):1356?1361,2016cシンポジウム3:機能と構造のブレークスルー後部視路疾患の構造と機能三木淳司後藤克聡川崎医科大学眼科学1UpdatesofStructureandFunctioninDiseasesofPosteriorVisualPathwayAtsushiMikiandKatsutoshiGotoDepartmentofOphthalmology1,KawasakiMedicalSchoolはじめに視交叉よりも後方の視路病変は,機能障害として対側の同名性視野障害を引き起こす.後部視路疾患とは,ここでは外側膝状体よりも後方の視路疾患,すなわち,外側膝状体・視放線・視覚野の障害をきたす疾患として考える.同名半盲のなかでもとくに後頭葉や視放線障害によるものの頻度が高いことが報告されており1),後部視路疾患による視野障害を臨床的に診る機会は多い.I視野検査CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)の脳画像診断は同名性視野欠損の責任部位の同定にはきわめて重要であるが,これらの検査でも異常が見出せないこともあるので2),視野検査は依然として脳疾患の患者の評価に有用である.完全同名半盲では,視野所見のみからでは病変局在についての情報は得られないが,実際に多い不完全同名半盲では,視野欠損の形状の特徴からある程度の病変局在についての情報が得られる.ただし,古くからいわれてきた黄斑回避や同名性暗点,区画状(分節状,楔状)同名半盲,左右眼の視野の一致性・不一致性(調和性)などの視野所見は必ずしも障害部位に特異的でないことも最近のデータで示されている1).たとえば,左右一致性の同名半盲は後頭葉病変の特徴とされてきたが,後頭葉以外の病変でも左右一致性の同名半盲はみられ,とくに脳血管障害に伴う場合が多い3).したがって,視野のみから脳障害部位を同定することは容易であるとはいえない.II外側膝状体を越える網膜神経節細胞の経シナプス逆行性変性サルの一次視覚野(後頭葉)を除去すると,外側膝状体の神経細胞が失われ,その後,網膜神経節細胞(retinalganglioncell:RGC)の変性が起こる4).このRGC変性はサルの種によっても異なり,一次視覚野の障害された年齢や生存期間,評価した網膜の部位(中心か周辺か)にも依存する5~7).サルの種差については,Macaquemonkey(霊長目オナガザル科マカク属)ではRGCの経シナプス逆行性変性が示されているのに対して4,6~8),大人のGalagosenegalensis(霊長目ガラゴ科)9)やNewWorldmonkey(広鼻下目)5)では一次視覚野の障害後に外側膝状体にもRGCにも異常を認めなかったという報告がある.幼少期のサルのRGCの経シナプス逆行性は大人のサルに比べて強く,進行速度も速い5).また,RGC変性は生存期間に依存し,次第に強くなり5,6),一次視覚野障害部位の大きさにも影響されるようである6).さらに,外側膝状体の小細胞層に投射する中心窩近傍のRGCに選択的な障害がみられる10~12).逆に,外側膝状体の大細胞層に投射するRGCは比較的保たれている10).ヒトにおいて,後頭葉や視放線障害の患者では同側の外側膝状体の活動は低下している13).これは外側膝状体の軸索障害後の逆行性変性で説明ができる.しかし,ヒトにおいて後頭葉障害後にRGC変性が起こるかどうかはよくわかっていなかった.後頭葉障害において,同名半盲に加えて検眼鏡的変化(視野欠損に対応する視神経乳頭蒼白と網膜神経線維層の消失)を認めた場合には先天性後頭葉障害と診断できるとされている14).脳室周囲白質軟化症などの脳白質病変の患児では,視神経乳頭陥凹拡大や網膜神経線維層の菲薄化がみられることが知られており,これは視放線障害後のRGCの経シナプス変性によるものではないかと考えられている15,16).後天性の後部視路障害では,長期間経過した同名半盲症例でも,神経眼科専門医による視神経乳頭と網膜神経線維層の検眼鏡による観察においても異常は検出されないことが報告されている17).一方,46歳のときに後頭葉・側頭葉・頭頂葉の切除を受けた患者において,両眼の視神経乳頭が蒼白で,剖検において同側の視索が細かったという18).外側膝状体よりも後方の脳動静脈奇形に伴う経シナプス変性と思われる視神経萎縮が,実は外側膝状体や後部視索の障害によるシナプスを越えない逆行性RGC変性が原因であったという症例報告もある19).計画的に限局性の脳障害を作製できる動物モデルと異なり,自然発生のヒトの病態解析では,前部視路の障害が混入する可能性を排除することが困難である(ただし,動物モデルでも直接のRGC障害をできるだけ避けることが考慮されている6,7)).IIIOCT(光干渉断層計)検査同名半盲患者の構造の変化としては,視神経萎縮をきたすものときたさないものがあるとされてきたが,近年のOCT検査の精度の向上により,後者と考えられる症例でもごく軽度の視神経萎縮をきたしていることが少なくないことがわかってきた.視索障害や外側膝状体障害では,左右眼に非対称な視神経萎縮をきたすことが知られている20).RGCからの神経線維は,外側膝状体において中継細胞とシナプスを形成するため,外側膝状体よりも視中枢側の視路障害では一般的には網膜には異常は見られないことが予想される.しかし,外側膝状体よりも後方の病変による同名半盲患者の網膜厚をOCTを用いて調べてみると,視野欠損に一致した菲薄化がみられることも稀ではない(図1)21~23).この菲薄化は部分的視神経萎縮といえるが,通常の眼底検査において視神経乳頭の退色や網膜神経線維層欠損として検出するのは困難な程度であり(図1),これまで見逃されてきた可能性が高い.事実,直接の逆行性RGC障害をきたすはずの視索障害でも,検眼鏡での異常所見は,注意深く眼底を観察しないと見落としてしまう程度であり,経シナプス変性での変化はさらに検出がむずかしいことが容易に考えられる.初期の同名半盲におけるOCT論文は,視神経乳頭周囲の網膜神経線維層厚を調べたものであったが24~26),その後,spectral-domainOCT(SD-OCT)および患者と正常データベースとの比較をするソフトウェアの出現により,視野欠損によく対応する黄斑部網膜内層の菲薄化がとらえられるようになった(図1)27,28).OCTで計測された網膜内層は視野欠損に対応する菲薄化を示すが,この菲薄化は横断的なデータから,サルの障害実験後の経過と同様に進行することが予測される25).また,報告は少ないが,縦断的に経過を追った報告においても,やはりこの菲薄化は進行するようである(図1,2)25,29).ただ,このOCTにおける菲薄化はまだ報告されてから日が浅く超長期の縦断的な経過観察は行われていないため,網膜内層の菲薄化がプラトー(plateau)に達する時期はまだ明らかでない.これまでの同名半盲のOCT論文には,評価の高い論文においてもいくつか重大な疑問点がある30).まず,本当に前部視路に障害があるかどうかはまったくといっていいほど,考慮されていない.すなわち,視索や外側膝状体に一次的な障害がないことを示さないとRGCの経シナプス変性とはいえないわけだが,その点について触れている論文はほとんどない.また,対象としている症例の選択自体にも重大な疑義がある.Jindahraらの論文26)は先天性の同名四半盲も含んでいるが,先天性同名半盲に眼底の変化が出ることはこれまでも知られているのに,先天性と後天性の同名半盲に関してdiscussionでは混乱して議論されている.また,Jindahraらの論文25)にはなぜか外側膝状体障害(しかもこの部に限局した)症例も少なくとも複数例含まれているのに論文のタイトルには「後頭葉障害」とあり,これらの症例も後頭葉障害の症例と一緒に解析されている.このように,一流とされる医学雑誌に受理された論文のなかにも誤りはあることには注意すべきである.IV瞳孔検査同名半盲症例において,視野欠損部の局所刺激に対して対光反射が減弱する現象を半盲性瞳孔強直(pupillaryhemiakinesia)とよび,視索病変で典型的にみられるとされている.外側膝状体よりも後方病変では,このような対光反射障害はきたさないはずであるが,実際には対光反射障害をきたす場合もあり,これは先天性同名半盲や中脳の障害の合併の際にみられることになっている31).対光反射求心路は,視索後部において中脳へ向かって外側膝状体鳥距路から離れるため,対光反射の異常の有無からも病変の局在についての情報が得られることになる.しかし,対光反射求心路を含まないはずの外側膝状体よりも後方の視路病変においても,局所刺激に対する対光反射を実験的に測定すると,視野所見と一致した対光反射低下を認めることがある32,33).この異常所見は発症後比較的早期に認められることもあり34),この機序はいまだに解明されていない.通常のswingingflashlighttestにおいても,外側膝状体よりも後方の病変において,小さな相対的瞳孔求心路障害(relativeafferentpupillarydefect:RAPD)(0.3~0.9logunit程度)を脳病変の対側に認められるとする報告もある35).さらに,MRI画像解析からは視放線起始部の側頭葉白質が病変に含まれているときに,このRAPDは出現しやすいとされている36).半盲性視神経萎縮症例においても半盲性瞳孔強直を認めない症例報告もある一方37),逆にOCTにおいても網膜内層の菲薄化がないのに半盲性瞳孔強直が認められることもある38).このように,外側膝状体よりも後方病変における対光反射障害は,経シナプス変性に伴う視神経萎縮のみにより説明がつく所見ではなく,対光反射経路の精密な同定が解明の鍵を握っているように思われる.おわりに後部視路疾患の病変部位同定は,通常の脳画像診断のみでは意外にむずかしく,網膜のOCT検査・瞳孔検査・視野検査といった構造と機能の検査を合わせて総合的に行うとより精度が高くなると考えられる.OCT検査の精度の向上に伴い,脳疾患による網膜厚の変化の知見は今後さらに集積されることが予想される.文献1)ZhangX,KedarS,LynnMJetal:Homonymoushemianopias:clinical-anatomiccorrelationsin904cases.Neurology66:906-910,20062)BrazisPW,LeeAG,Graff-RadfordNetal:Homonymousvisualfielddefectsinpatientswithoutcorrespondingstructurallesionsonneuroimaging.JNeuroophthalmol20:92-96,20003)KedarS,ZhangX,LynnMJetal:Congruencyinhomonymoushemianopia.AmJOphthalmol143:772-780,20074)VanBurenJM:Trans-synapticretrogradedegenerationinthevisualsystemofprimates.JNeurolNeurosurgPsychiatry26:402-409,19635)WellerRE,KaasJH:Parametersaffectingthelossofganglioncellsoftheretinafollowingablationsofstriatecortexinprimates.VisNeurosci3:327-349,19896)CoweyA,StoerigP,WilliamsC:Va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た高信号がみられた.脳梗塞発症後1カ月では,SD-OCTによる神経節細胞複合体(GCC)および視神経乳頭周囲網膜神経線維層(cpRNFL)解析で明らかな異常はなかった.しかし,発症後2年でのGCC解析では,右眼は鼻側領域,左眼は耳側領域で選択的な菲薄化がみられ,視野の半盲側に一致していた.眼底写真では明らかな半盲性視神経萎縮はみられない.GCC解析は,検眼鏡的観察ではとらえられない軽度の網膜神経節細胞萎縮の検出に有用である.図2症例:左後頭葉梗塞による右同名半盲を伴う39歳の女性Humphrey中心30-2視野検査では,上方視野障害が優位な不完全右同名半盲がみられた.MRIのFLAIR画像では,左後大脳動脈閉塞による左後頭葉領域の高信号がみられた.SD-OCTによるcpRNFL解析では,脳梗塞発症後3カ月の初診時には明らかな菲薄化はなかった.しかし,発症後24カ月では,両眼ともに耳下側で菲薄化領域が出現し,緩徐な進行性の変化を示した.また,左眼の菲薄化は視野障害と一致する部位でみられた.1358あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(116)(117)あたらしい眼科Vol.32,No.9,201513591360あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(118)(119)あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151361

前眼部視路疾患

2016年9月30日 金曜日

《第4回日本視野学会シンポジウム》あたらしい眼科33(9):1349?1355,2016cシンポジウム3:機能と構造のブレークスルー前眼部視路疾患金森章泰神戸大学大学院医学研究科臨床医学領域外科系講座眼科学分野UpdatesofStructureandFunctioninDiseasesofAnteriorVisualPathwayAkiyasuKanamoriDivisionofOphthalmology,DepartmentofSurgeryRelated,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicineはじめに網膜神経節細胞の神経線維は視神経を通り,視交叉,視索を経て,外側膝状体でシナプスを形成する.前部視路疾患は,網膜神経節細胞から視神経,外側膝状体に至る視路病変と総括できる.まさに障害される部位は緑内障と同様である.緑内障診療では光干渉断層計(OCT)がもはや不可欠なツールとなった感があり,緑内障においては,機能とOCTで測定した構造的評価に相関があることが多くの報告で証明されている.OCTによるパラメータとして,乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryretinalnervefiberlayer:cpRNFL)あるいは黄斑部解析による黄斑部網膜神経線維層(macularretinalnervefiberlayer:mRNFL)・網膜神経節細胞層+内網状層(ganglioncelllayer+innerplexiformlayer:GCL+IPL)・網膜神経節複合体(ganglioncellcomplex:GCC=mRNFL+GCL+IPL)などがある.前部視路疾患においても同様に,OCTによる構造的評価と機能に相関がみられることは容易に予想されるが,一方,その解離についてもいくつかの報告がなされている.本稿では前眼部視路疾患において構造と機能の相関ならびにその解離について実例を示しながら解説する.I視神経疾患における構造と機能急性の視神経障害ではどの時期から構造的障害がOCTで検出されるのだろうか?外傷性視神経症は物理的な急性の神経線維障害であり,実験動物モデルでは視神経挫滅モデルや視神経切断モデルに相応する.筆者らはスペクトラルドメインOCT(SD-OCT)を用いた研究において,cpRNFLとGCCの経時的変化は同程度の速度で進行することを報告した1).受傷後1カ月までは急速に変性が進行し,3カ月程度でプラトーに達していた(図1).このようにある一定の期間が過ぎれば,視神経疾患では必ず構造的障害がOCTで確認されると考えられる.逆に心因性視力障害でも構造的評価は参考となる.心因性視力障害は視機能の原因となりうる基質疾患がないため,時として視神経症との鑑別が必要とされる.片眼性の場合は相対的瞳孔求心路障害(relativeafferentpupillarydefect:RAPD)が一つの指標となるが,両眼性の場合はその診断が困難となることも多い.発症後1カ月以上も経過した後にOCTで異常がみられない場合は視神経症を否定してよいと考えられ,OCTは心因性視力障害の診断の一助となると考える.視神経炎後の構造的障害に関しても近年報告が増えてきた.多発性硬化症(multiplesclerosis:MS)や視神経脊髄炎(neuromyelitisoptica:NMO)などにおける視神経炎後では,cpRNFLや黄斑部構造が菲薄化するのは当然である.一般的にNMOではMSよりもcpFNFLや黄斑部障害が強いことが報告されているが2~6),NMOはMSより視機能障害が強い事実を反映していると思われ,OCT解析が視神経炎を発症した際の両者の鑑別に役立つとは考えにくい.視神経炎におけるOCT所見と機能の相関については,MonteiroらがMSとNMOにおける視神経炎患者を比べ,NMOのほうが相関が高いと述べている5).これも障害が強いほうが,相関係数は一般的に大きくなる統計上の現象ともとらえられる.また,視神経炎を発症していない(non-ON)MS患者での構造的評価にも興味深い点がある.神経炎の既往のない多発性硬化症の眼(MS-nonON)でもcpRNFLの菲薄化がみられ7~9),さらには再発をしなくても徐々にcpRNFL厚の減少が起こることが報告された10~12).黄斑部構造においても,cpRNFLと同様にMS-nonONでは菲薄化がみられる4?6,9,13?15).基本的にはこれらの眼の機能は正常であることが予想され,なぜ構造的異常のみが進行するのかは神経科学の分野ではトピックとなっている.一方,MS-nonONでみられたようなcpRNFLの菲薄化がNMO-nonONではみられなかったとしている3,14,16).しかし,黄斑部網膜内層に限ると,視神経脊髄炎スペクトラム疾患(neuromyelitisopticaspectrumdisorder:NMOSD)-nonONでは正常眼に比べ菲薄化していたという結果がある4,17).今後のOCTを用いた構造的障害の解析は,NMOSDにおいて,再発のない維持期に軸索変性が慢性的・潜在的に生じているかどうかに関して重要な傍証を与えると思われ,さらなる検討が必要であると考える.さらに近年報告された微小?胞様黄斑浮腫(microcysticmacularedema:MME)も機能と相関しうる構造的所見の一つである(図2).2012年にGelfandらはMS患者の視神経萎縮眼で内顆粒層にMMEがみられることを報告した18).MMEはMSの活動性と相関しており19),また,NMOがMSより多くの確率で観察されることが報告されている20,17).近年の内顆粒層と外網状層を分離して詳細に観察した報告では,やはりNMOで多くMMEがみられ,視機能程度と相関していること21),また180眼のMSとNMOに関係しない原因による視神経萎縮眼180眼のうち,16眼においてMMEを認めたとされる22).MMEの発生機序としてはいくつかの仮説がある.内顆粒層にはMuller細胞があり,アクアポリン4が局在することから,NMOでのMMEは抗アクアポリン4抗体による可能性が示唆されている.これが本当ならば,NMOにおいて血清中の抗アクアポリン4抗体が眼内まで到達し,障害をもたらしている可能性がある.血管からの漏出は否定されている23).また,NMOやMSに関係なく,Leber病などの遺伝性視神経症24)や虚血性視神経症・圧迫性視神経症でもみられた22)ことから,網膜内の炎症や脱髄が原因ではなく視神経神経変性による逆行性変性によってMuller細胞を含む内顆粒層が障害されMMEが生じると考えられる.II視交叉病変による構造と機能網膜神経節細胞の軸索は視交叉にて交叉するため,病変の部位により特徴的な視野欠損が生じる.視交叉正中から障害されやすい下垂体腺腫では,交叉性線維の障害のため耳側半盲を呈する.交叉性視神経線維は鼻側半網膜に分布する網膜神経節細胞からの神経線維であり,非交叉性視神経線維は耳側半網膜からの線維である.交叉性線維の障害により,視神経乳頭はbandatrophy(帯状萎縮)を呈するが,これは鼻側半網膜に分布する網膜神経節細胞の軸索の多くが視神経乳頭の水平部に入射しているからである.早期緑内障では,耳側半網膜からの神経線維が障害されやすいため,視神経乳頭では耳上側・耳下側の陥凹拡大がみられ,すなわち垂直性の障害を呈する.緑内障と視交叉部圧迫性視神経症は対称的な構造障害パターンを示す.cpRNFLの水平成分の障害が,視交叉部病変で高い病態識別能を示すことがタイムドメインOCT(TD-OCT)ですでに報告され25~27),SD-OCTのcpRNFL解析も同様であった(図3)27~29).さらに筆者らは解析をすすめ,鼻側半網膜からの神経線維がcpRNFLとしてどのように分布しているかを検討した.完全な耳側半盲を呈す眼において交叉性線維がすべて消失したと仮定すると,すべての神経線維に対する鼻側半網膜の神経線維の占める割合を算出することができる.結果,耳側cpRNFLと同様に鼻側にも2時と5時方向に厚みのピークが存在することが証明された(図4)30).一方,SD-OCTを用いた黄斑部解析では,内層網膜に限定した解析が可能となったため,耳側半網膜と鼻側半網膜の障害の違いがより明らかに確認できる31).筆者らは3DOCT-2000(Topcon)を用いて,黄斑部内層網膜解析の診断能につき鼻側半網膜と耳側半網膜に分けて検討した(図5).予想されたとおり,鼻側半網膜のmRNFL,GCL+IPL,GCCともに耳側半網膜よりも有意に高い検出力をもつことがわかった.中心窩を通る垂直経線で耳側・鼻側で明らかに障害部位が異なることがわかる32).この解析では鼻側視野は正常な患者,すなわち耳側半網膜からの神経線維は正常であろう患者のみを検討したにもかかわらず,耳側半網膜においても一定のパターンをもって障害がみられることもわかった.以前から提唱されている黄斑部付近での交叉性・非交叉性線維の混在33,34),“naso-temporaloverlap”現象なのかもしれない.あるいは構造と機能が解離しているサブクリニカルな構造的障害を検出しているものと考える.III視索障害による構造と機能視交叉部よりさらに後方にある視索障害では,左右で対象的な構造的変化が生じる.たとえば右側の視索障害は左同名半盲を呈するが,右眼に投影する非交叉性線維,すなわち耳側半網膜からの線維と,左眼に投影する交叉性線維,すなわち鼻側半網膜からの線維が障害されることになる.結果,右眼のcpRNFLは初期緑内障のような菲薄化(二峰性ピークがなくなる)とGCCは耳側半網膜での菲薄化があり,左眼のcpRNFLは水平性の菲薄化とGCCは鼻側半網膜の菲薄化となる(図6)35).このようにOCT解析結果と視野が一致する症例が散見される.IV前眼部視路疾患における構造と機能の解離数多くの視神経症のなかで,OCT解析による構造的障害の把握が病名診断までに役立てば便利である.しかし,多くの視神経萎縮眼では広範に構造的障害をきたすので,OCTによる視神経症の病名診断は不可能といわざるをえない.また,OCTで異常があっても,視機能が正常に回復した視神経症例も散見される.例えば,図7に示す外傷性視神経症の症例では,いったん中心視野が消失し視力が低下したのちに,視機能が正常化したにもかかわらず,OCTで明らかな構造的障害が存在する.軽度の特発性視神経炎でもよくみられる現象である.では,このような構造的障害は何を反映しているのだろうか?そもそも視機能が消失してもOCTで測定できるcpRNFLや黄斑部パラメータの厚みはゼロにはならない36,37).神経成分以外の組織が厚みの中には存在するからである.また,よく緑内障では網膜神経節細胞の30%が障害されても自動視野計では視野欠損は検出できないといわれる.そのような余剰能?があるために構造と機能が解離するのだろうか?いまだに解答できない疑問も数多く残っている.文献1)KanamoriA,NakamuraM,YamadaYetal:Longitudinalstudyofretinalnervefiberlayerthicknessandganglioncellcomplexintraumaticopticneuropathy.ArchOphthalmol130:1067-1069,20122)NaismithRT,TutlamNT,XuJetal:Opticalcoherencetomographydiffersinneuromyelitisopticacomparedwithmultiplesclerosis.Neurology72:1077-1082,20093)RatchfordJN,QuiggME,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centtracers.InvestOphthalmolVisSci23:796-798,198234)ChalupaLM,LiaB:Thenasotemporaldivisionofretinalganglioncellswithcrossedanduncrossedprojectionsinthefetalrhesusmonkey.JNeurosci11:191-202,199135)KanamoriA,NakamuraM,YamadaYetal:Spectraldomainopticalcoherencetomographydetectsopticatrophyduetooptictractsyndrome.GraefesArchClinExpOphthalmol251:591-595,201336)KanamoriA,NakamuraM,TomiokaMetal:Structurefunctionrelationshipamongthreetypesofspectraldomainopticalcoherenttomographyinstrumentsinmeasuringparapapillaryretinalnervefibrelayerthickness.ActaOphthalmol91:e196-202,201337)UedaK,KanamoriA,AkashiAetal:DifferenceincorrespondencebetweenvisualfielddefectandinnermacularlayerthicknessmeasuredusingthreetypesofspectraldomainOCTinstruments.JpnJOphthalmol59:55-64,2015図1外傷性視神経症患者4例のOCT測定値の変化縦軸は,受傷眼の測定値の健常な反対眼に対する眼の割合を示す.受傷後1カ月までは急速に菲薄化が進行し,3カ月程度でプラトーに達していた.〔別刷請求先〕金森章泰:〒650-6048神戸市中央区楠町7-5-2神戸大学大学院医学研究科臨床医学領域外科系講座眼科学分野Reprintrequests:AkiyasuKanamori,M.D.,Ph.D.,DivisionofOphthalmology,DepartmentofSurgeryRelated,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicine,7-5-2Kusunoki-cho,Chuo-ku,Kobe,Hyogo650-6048,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(107)1349図2OCTによる黄斑部断層像が示す微小?胞様黄斑浮腫(MME)視神経脊髄炎による視神経萎縮眼において内顆粒層にMMEを認める.BはAより3年後の像であり,MMEが若干増加している.1350あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(108)図3視神経乳頭帯状萎縮(右眼)におけるOCT所見視神経乳頭写真では耳側・鼻側に蒼白化がみられる.CirrusとRTVueのcpRNFLで,水平性のNFLの菲薄化がみられる.また,黄斑部解析では鼻側半網膜での網膜内層障害が著明である.視野は耳側半盲を呈している.図4鼻側半網膜へのcpRNFL分布解析(右眼)鼻側視野が正常かつ下垂体病変による耳側半盲眼で,視野感度とcpRNFLの12個の各セクターにおけるcpRNFLの直線回帰から,視野感度が0となる点のcpRNFL厚を算出し,正常眼平均値からの減少量を求めた.A:各セクターごとの減少量を示す.1時と5時に減少量のピークがあることがわかる.すなわちこれが,鼻側半網膜へ投影されるcpRNFL量と推測される.B:正常眼のcpRNFL厚のTSNITプロファイルを示す.耳側における二峰性パターンは有名であるが,鼻側においても二峰性パターンがあり,Aの結果と一致する.C:鼻側半網膜と耳側半網膜へのcpRNFLの分布のシェーマを示す.血管やグリア細胞などの神経線維以外の成分(baselevel)に加え,1時と5時にピークをもち全周に一定の厚みをもつ鼻側半網膜への神経線維成分,11時と7時にピークをもつ耳側半網膜への神経成分が加算されると考えられる.(109)あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151351図5視神経乳頭帯状萎縮(左眼)におけるOCT黄斑部解析3DOCT-2000での黄斑部解析はAのように10×10グリッドに分割される.正常眼の99%タイル以下の厚みである領域は赤色で示される.図4で示したように鼻側半網膜の大きな障害がmRNFLやGCL+(GCL+IPLと同義)で観察される.本症例では耳側半網膜にも障害がみられ,49眼の鼻側視野が正常な患者群で,耳側半網膜における各グリッドが赤色であった症例の割合(%)をB(mRNFL),C(GCL+)で示した.半数以上の症例で耳側半網膜でのmRNFLとGCL+の菲薄化がみられ,mRNFLでは中心窩を囲むように,また,GCL+では中心窩付近で菲薄化していることがわかる.1352あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(110)図6左視索症候群の一例右眼視神経乳頭はとくに耳側の蒼白化が著明で水平性の視神経萎縮(帯状萎縮)がみられる.左眼視神経乳頭は耳上側から耳下側にかけて蒼白化がみられる.MRI画像(T1強調ガドリニウム造影)では左視索を巻き込んだ脳腫瘍(神経膠腫)を認める.視野は完全な右同名半盲である.OCTの黄斑部解析では右眼では鼻側半網膜および左眼では耳側半網膜で各種層厚の菲薄化が著明である.図7外傷性視神経症(右眼)の一例自転車から転倒し,頭部を強打した.受傷直後の視力は0.7であった.cpRNFLおよびGCCは受傷3週後ではすでに大きく減少し,受傷5カ月後には約6割程度の厚みまで菲薄化した.しかし,自然に視機能は回復し,受傷1年後には視力が1.0まで改善した.(111)あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151353(112)(113)あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151355

網膜疾患の構造と機能

2016年9月30日 金曜日

《第4回日本視野学会シンポジウム》あたらしい眼科33(9):1344?1348,2016cシンポジウム3:機能と構造のブレークスルー網膜疾患の構造と機能國吉一樹近畿大学医学部眼科学教室VisualFunctionandMultimodalImaginginPatientswithAZOOR/AZOORComplexKazukiKuniyoshiDepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicineはじめに網膜疾患の多くは眼底所見に加えて網膜電図(electroretinogram:ERG)や視野検査で異常を示す.しかし,網膜疾患のなかで急性帯状潜在性網膜外層症(acutezonaloccultouterretinopathy:AZOOR)という疾患は,病初期には眼底が正常にもかかわらず視野検査やERG検査で異常を示す特異な疾患である1,2).その一方で,多発性消失性白点症候群(multipleevanescentwhitedotsyndrome:MEWDS),多巣性脈絡膜炎(multifocalchoroiditis:MFC),点状脈絡膜内層症(punctateinnerchoroidopathy:PIC)などの網脈絡膜疾患では,病初期には特徴的な眼底変化を示し,視野異常を含む網膜機能障害を示す.これらの網脈絡膜疾患の眼底異常は比較的速やかに正常化するが視野異常は残存することがあり,この時点ではAZOORとの鑑別はむずかしい.それゆえ,MEWDS,MFC,PICなどはAZOORcomplexと総称されている3).AZOOR/AZOORcomplexの病因や病態の詳細はまだ不明で,現在確立された治療法はない.本稿では,AZOOR/AZOORcomplexの網膜機能検査の所見と,最近著しい進歩を遂げている光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)検査の所見を比較検討した結果,興味ある知見を得たので報告する.IAZOORの臨床所見と代表症例(図1,2)AZOORは1993年にGassにより最初に報告された1).その臨床所見はそのGass論文の最初の6行に集約されている.つまり若い女性に好発する疾患で,片眼または両眼に急性に発症する視野の部分欠損を特徴とし,ERGに異常を示すが,眼底はほとんど正常である.その視野欠損は光視症を伴っていて難治性である.そして慢性期には網膜色素上皮の萎縮を示すというものである.Gassはその臨床検査所見から,AZOORは網膜外層つまり視細胞の疾患であると結論した.Gassはその後AZOORの長期経過を報告した2).それによるとAZOOR患者の76%は最終的に両眼性となり,48%で網膜変性を示し,18%は法的盲となった.AZOORのOCT所見については,LiとKishiがellipsoidzone(IS/OSライン,内節外節接合ライン)が消失することを発見し,AZOORの主たる病態は視細胞外節にあると結論した4).一方,Tsunodaらは,ellipsoidzoneは正常だがinterdigitationzone(COSTライン)のみに異常がみられるAZOORを報告した5).このようにAZOORの病態は次第に明らかになってきているが,その詳細な病因は現在も不明である.筆者は平成15年(2003年)に初めてAZOOR患者に遭遇した.患者は36歳の男性で,「7月○日から右視野の右半分がギラギラと光って見えない」という訴えであった.眼底は正常であったが視野検査ではMariotte盲点が拡大した形の暗点を認めた(図1,1?2段目).しかし,暗点は黄斑を回避していたため,右眼の矯正視力は(1.0)であった.頭部と視神経の核磁気共鳴画像(magneticresonanceimaging:MRI)を撮像したが異常は認めなかった.多局所ERGを記録したところ,視野の暗点に一致して反応の低下を認めたため,AZOORと診断した.投薬せずに経過をみたところ,発症3年後には視野の暗点は縮小した(図1,3段目).しかし患者に病状を尋ねると,明所では発症時と同じような視野欠損が右視野に残っているという.逆に暗所では「まるで病気が治ったかのように視野異常は感じない」と彼は述べた.そこで筆者は検査員に依頼して,Goldmann視野計の背景光の輝度を107apostilbまで上げて再び視野検査を行ったところ,患者の訴えどおりに大きな視野欠損を右眼に検出した(図1,下段).全視野ERGでは,杆体ERGの振幅には左右差がなかったが,錐体ERGとフリッカERGの振幅は患眼(右眼)で低下していた.発症9年後のOCT画像では暗点部のinterdigitationzoneが不明瞭で外顆粒層がやや菲薄化していたが,ellipsoidzoneは正常であった(図2,中段).これらの検査所見により,この患者の暗点部では錐体優位の機能障害が存在することが推察された.IIAZOORの明順応・暗順応視野とOCT,ERG所見その後12例のAZOOR患者で,通常の条件に加えて明順応,暗順応下の視野検査を行った.その結果,過半数の7例では暗順応下の視野は正常だが明順応下で顕著な視野異常を示し,3例では明順応下,暗順応下いずれも同様の視野異常を示し,残る2例は部位によりこれらが混在した形の視野異常を示した6).明順応下で顕著な視野異常を示すAZOOR患者のOCT画像は正常であることが多く,一部の症例で暗点部のinterdigitationzoneが不明瞭で,長期経過した1例では外顆粒層がやや菲薄化していた(図2,中段).全視野ERGでは患眼の錐体ERGが減弱しているか正常で,杆体ERGには左右差がなかった(表1).その一方で,明順応下でも暗順応化でも同じ視野異常を示すAZOOR患者は,OCT画像で暗点部の外顆粒層とellipsoidzoneが消失しており,錐体ERGと杆体ERGは同様に低下しているか,正常であった(図2,上段,3,表1).筆者らは前者を「TypeB(錐体障害型)」,後者を「TypeA(視細胞萎縮型)」とよぶことにした(表1)6).これら2種のAZOORの中間の性質を示した症例はなく,また経過中にTypeが移行した症例もなかった.複雑な視野異常を示した最後の2例では,網膜の部位によりTypeA,TypeBいずれかの性状を示した.IIIAZOORのtwo?colorperimetry筆者らはこれらAZOOR患者の視野異常のある部位で錐体と杆体の視感度を分けて測定するためにtwo-colorperimetryを行った.Two-colorperimetryは矢ヶ崎とJacobsonの方法7)にならって施行した.まずオクトパス900自動視野計を改造して既設の赤,青フィルターを交換し,ピーク波長650nmと500nmの赤視標,青視標を呈示できるようにした.そしてこれらを用いて明順応下と暗順応下で経線上のprofileperimetryを行った.その結果,TypeA(視細胞萎縮型)のAZOORではすべての条件で暗点を示し,TypeB(錐体障害型)のAZOORでは明順応下の赤視標では著しい感度低下を示したが,他の条件ではほぼ正常の結果が得られた(投稿中データ).これらの結果から,TypeAAZOORでは暗点部の杆体,錐体ともに強く障害されており,TypeBAZOORでは暗点部の錐体は強く障害されているが,杆体はほとんど障害されていないことが改めて示された.IVMEWDSの視野変化とOCT所見(図2,4)筆者はMEWDS患者1例において暗順応下と明順応下で視野検査を行った8).患者は25歳の女性で,病初期には左眼に典型的なMEWDSの所見を示した(図4,上段).彼女は明所で著しい視野障害を訴えたので暗順応下と明順応下で視野検査を行ったところ,明順応下で著しい視野障害を示した(図4)8).全視野ERGでは杆体反応よりも錐体反応が障害されていた.これらの所見は前述のTypeBAZOORと類似した所見であり,このMEWDS患者では錐体優位の網膜障害があると結論した.しかし,彼女のOCT画像は筆者らが過去に経験したAZOORとは異なり,ellipsoidzoneが部分的,多発性に断裂していた(図2,下段).この異常所見は眼底が正常化した9カ月後にも観察された.このOCT所見は過去のMEWDSのOCT所見9,10)に一致していたが,異常所見が遷延していることは過去の報告とは異なっていた.この症例では錐体機能障害が優位であったが,その一方で,暗所で視野障害を示して杆体ERGの低下が著しいMEWDSも経験している(未発表データ).今後は,MEWDSを含めた多くのAZOORcomplexの症例で錐体と杆体の機能を詳細に検討すると,興味深い知見が得られるであろう.VAZOORとAZOORcomplexの鑑別AZOORとAZOORcomplexは,まだその疾患概念にあいまいさが残る.そしてこの両者は眼底が正常な慢性期では鑑別がむずかしいことがある.しかし,OCT画像所見でそれらを鑑別できる可能性がある.たとえば今回報告したMEWDSの症例ではellipsoidzoneの部分的,多発性の断裂所見がみられたが,これは筆者が経験した他のAZOOR症例ではみられない所見である(図2).AZOORcomplexの多くは炎症が関与していると考えられている.炎症が関与するとOCTや視野を含む検査の結果が複雑になるのかもしれない.そして今後はAZOOR/AZOORcomplexに多角的な臨床検査を行うと病態解明が進み,その疾患概念や分類が再構築される可能性がある.おわりに現在の視野検査の測定条件は緑内障や視神経疾患には適切である.しかし,網膜には杆体と錐体(L/M/S錐体)という異なった4種類の視細胞が存在している.現在設定されている検査条件で視野検査を行っても,4種ある視細胞の一部の機能しか検査していない.今後は,各視細胞の機能を,眼底の部位別に短時間で把握できるような検査が開発されれば,次々と新しい知見が得られるに違いない.文献1)GassJDM:Acutezonaloccultouterretinopathy.DondersLecture:TheNetherlandsOphthalmologicalSociety,Maastricht,Holland,June19,1992.JClinNeuroophthalmol13:79-97,19932)GassJD,AgarwalA,ScottIU:Acutezonaloccultouterretinopathy:along-termfollow-upstudy.AmJOphthalmol134:329-339,20023)JampolLM,WireduA:MEWDS,MFC,PIC,AMN,AIBSE,andAZOOR:onediseaseormany?Retina15:373-378,19954)LiD,KishiS:Lossofphotoreceptoroutersegmentinacutezonaloccultouterretinopathy.ArchOphthalmol125:1194-1200,20075)TsunodaK,FujinamiK,MiyakeY:Selectiveabnormalityofconeoutersegmenttiplineinacutezonaloccultouterretinopathyasobservedbyspectral-domainopticalcoherencetomography.ArchOphthalmol129:1099-1101,20116)KuniyoshiK,SakuramotoH,NakaoYetal:Twotypesofacutezonaloccultouterretinopathydifferentiatedbydark-andlight-adaptedperimetry.JpnJOphthalmol58:177-187,20147)矢ヶ崎克哉,粟屋忍,JacobsonSG:暗順応・明順応視野測定の臨床応用.1)装置の試作.日眼会誌94:1162-1168,19908)KuniyoshiK,SakuramotoH,SugiokaKetal:Long-lasting,densescotomaunderlight-adaptedconditionsinpatientwithmultipleevanescentwhitedotsyndrome.IntOphthalmol36:601-605,20169)LiD,KishiS:Restoredphotoreceptoroutersegmentdamageinmultipleevanescentwhitedotsyndrome.Ophthalmology116:762-770,200910)AraiR,KimuraI,ImamuraYetal:Photoreceptorinnerandoutersegmentlayerthicknessinmultipleevanescentwhitedotsyndrome.GraefesArchClinExpOphthalmol252:1645-1651,2014〔別刷請求先〕國吉一樹:〒589-8511大阪狭山市大野東377-2近畿大学医学部眼科学教室Reprintrequests:KazukiKuniyoshi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicine,377-2Ohnohigashi,Osakasayama-shi589-8511,JAPAN1344(10あ2)たらしい眼科Vol.32,No.9,20150910-1810/16/\100/頁/JCOPY図1錐体障害型AZOOR(急性帯状潜在性網膜外層症)(TypeB)初診時36歳の男性で,左眼にAZOORを認めた.発症3年後には通常の条件で記録した視野検査の結果は改善していたが,明順応を行うと大きな暗点が右視野に検出された(右下).(文献6から許可を得て転載,改変)図2AZOORとMEWDS(多発性消失性白点症候群)のOCT検査所見白線は視野の暗点部を示す.上段:視細胞萎縮型AZOOR(TypeA)では暗点部の外顆粒層とellipsoidzone(IS/OSライン)が消失している.中段:錐体障害型AZOOR(TypeB)では暗点部のinterdigitationzone(COSTライン)が不明瞭で,外顆粒層がやや菲薄になっている.しかし,ellipsoidzoneは正常である.下段:MEWDSではellipsoidzoneの断裂が多発している.(文献6と8から許可を得て転載,改変)(103)あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151345表1AZOORのタイプと臨床所見タイプTypeA(視細胞萎縮型)TypeB(錐体障害型)眼底正常~変性正常(~変性?)視野暗順応下でも明順応下でも暗点検出(図3)明順応下で顕著な視野障害(図1)OCTEllipsoidzone(IS/OSライン)と外顆粒層の消失(図2)正常~interdigitationzone(COSTライン)の不明瞭化長期では外顆粒層の菲薄化(図2)ERG左右差がないか,杆体・錐体ERGともに減弱左右差がないか,錐体ERGが減弱予後改善なし不変~ゆっくり改善推定病態暗点部の視細胞萎縮暗点部の錐体障害OCT:光干渉断層計,ERG:網膜電図.(文献6から許可を得て転載,改変)1346あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(104)図3視細胞萎縮型AZOOR(TypeA)初診時42歳の女性で,左眼にAZOORを認めた.通常の条件に加えて暗順応下(背景光輝度0apostilb)と明順応下(背景光輝度107apostilb)でも視野検査を行ったが,暗点の大きさは変わらなかった.(文献6から許可を得て転載,改変)図4MEWDS初診時25歳の女性で,左眼底中間周辺部に多発する淡い白点を認めた.視野検査では明順応下(背景光輝度107apostilb)で顕著な暗点を示した.(文献8から許可を得て転載,改変)1348あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(106)

運転時の視覚的注意と有効視野

2016年9月30日 金曜日

《第4回日本視野学会シンポジウム》あたらしい眼科33(9):1339?1343,2016cシンポジウム2:ドライビングと視野のブレークスルー運転時の視覚的注意と有効視野篠原一光大阪大学大学院人間科学研究科応用認知心理学研究分野VisualAttentionandUsefulFieldofViewinDrivingKazumitsuShinoharaAppliedCognitivePsychologyLaboratory,GraduateSchoolofHumanSciences,OsakaUniversityI運転と視覚・注意自動車を運転するうえで,視覚で得られる情報はもっとも重要であり,「よく見る」ことは安全運転にとって不可欠のことである.ただし,「よく見る」とは単に目をどこかに向けるということではなく,目でとらえた視覚情報のなかから必要な情報を選び,知覚し,判断するということである.つまり,運転時に行われる「認知」「判断」「操作」の流れのなかに必要な情報を取り込むことができてはじめて「よく見る」ことができていることになる.情報の選択は人間の注意の重要な機能である.図1に示すように,われわれは周囲環境(外界)から,また自分がすでに持っている記憶(内面)から,必要な情報をワーキングメモリ内に取り込んで利用可能な状態にし,情報処理して行動している.この過程は意識的または無意識的に行われるが,情報処理の容量には上限があり,これを超えないために情報を選択して取り込む必要がある.この情報選択は,「何をどの程度見るか」という意図に基づいて行われる.また,目立つ対象に対しては半ば自動的に注意が向けられるという面もある.交通事故は,その多くが注意に関連して起こっている.平成26年の法令違反別交通事故件数1)(図2)を見ると,全事故の75.9%は安全運転義務違反によるものである.さらにその内訳をみると,安全不確認(30.6%),脇見運転(16.8%),動静不注視(11.4%)といった「見ること」に関連した事故が多いことがわかる.十分に見ていない,見ていても状況を正しく読み取っていないといった問題がこれらの法令違反の背後にある.「どこを見るか」「どのように見るか」「何を見るか」ということは,まさに視覚的注意の問題である.II有効視野視覚的な注意の働きについては,注視した箇所に対してどのような注意が向けられるかという内容的側面と,視野内のどのくらいの範囲から情報を獲得できるかという空間的な側面が評価される.本稿ではとくに後者について論じる.視覚的注意の空間的側面を考えるうえで重要な概念として,有効視野(UsefulFieldofView:UFOV)がある.有効視野は注視点の周辺で情報処理できる範囲を意味する.有効視野の範囲は4°~20°であるが,さまざまな条件によってその大きさは変動する2).有効視野の測定法では一般的に,注視点での視覚課題と,周辺視野での視覚課題を組み合わせる方法が用いられる.一例を図3に示す.観察者は頭の位置を固定した状態で注視点に提示される文字を見て,文字がアルファベットか,数字かを判別しボタン押しなどで反応する.一方,この注視点での文字提示と同時に,注視点の周辺に表示されている図形の一つの輝度が短時間変化する.観察者はどの図形の輝度が変化したかを発見するよう求められる.輝度変化に気づくことができれば,注視点とその周辺で同時に視覚情報処理ができたということであり,その図形は有効視野内にあったとされる.逆に気づくことができなかったならば有効視野から外れていたと判断される.III運転における有効視野自動車運転中の有効視野も測定可能であるが,実際の運転場面ではドライバーは頭部運動や眼球運動を行ってさまざまな箇所を注視していくため,実験的に注視位置を注視点に固定した状態で行う実験室内での測定に比べて困難度がより高い.三浦2,3)はドライバーにアイマークカメラを装着した状態での運転を求め,同時にフロントガラス上に複数設置した小電球(光点刺激)がランダムなタイミングで点灯するのを発見し声で反応することを求めた.光点刺激提示時のドライバーの注視点から光点刺激までの距離,および点灯発見の成否・反応の速さから運転中の有効視野サイズを評価した.図4に示した例では,注視点3を注視していたときに光点刺激が出現しているが,このとき光点刺激を発見できるならば,光点刺激の出現位置は有効視野の範囲内にあったと解釈される.この研究の結果,道路の混雑度が上昇するのに伴って有効視野が狭くなることが示された.この結果は,ドライバーは道路混雑時のように個々の注視箇所で多くの情報を得る必要がある場合には注視点付近に対してより多くの注意を向け,これに伴って有効視野が狭くなると解釈された.利用可能な注意量には限界があり,注視している場所に対して多くの注意を配分すると,周辺視野の広い範囲に対して注意を向けることはむずかしくなるということである.三浦2,3)は各注視点の周囲に広がる有効視野の広さと,各注視点での処理の深さの間にはトレードオフの関係があることを指摘している.また,有効視野が狭い場合と広い場合では注視移動の仕方が異なることを指摘しており,これを有効視野が狭くなることへの能動的な対処であると主張している.IV運転中のマルチタスキングによる不注意の評価ドライバーは運転しながら,運転に関係のないさまざまなことを行っている4).また,近年はカーナビなどもすでに広く用いられるようになり,さらにはスマートフォンなどの小型情報機器を車内に持ち込んで使うことも珍しくない.このような状況の変化のため,運転中のマルチタスキング(複数の課題を同時に行おうとすること)の問題がとくに注目されるようになってきた.運転中の情報機器使用が不注意を招き,事故につながるという危険はすでに社会的に認知された問題であり,実際,運転中の携帯電話使用が禁止されるなど社会的対応もすでに行われている.われわれが日常生活のなかで感じるように,またさまざまな注意の心理学的モデル5)が示すように,使用可能な注意の量には限界がある.われわれはその有限の注意をさまざまな課題に割り当てて,全体的に課題を遂行している.運転中のマルチタスキングが運転に向けられるべき注意を損なうのは明白である一方で,運転しながら情報を得ることで自動車の利便性や快適性が高まるという面もある.そこで,運転中の機器使用がどの程度不注意を招くのかを評価し,どの程度までマルチタスキングを許容するのか,また機器のデザインなどによりマルチタスキングによる不注意を解消できるか,という点を検討する必要が生じてきた.この評価方法の一つが刺激検出法である.自動車人間工学の領域でよく用いられているperipheraldetectiontask(PDT)6,7)では,ドライバーの周辺視野に入る場所にLEDを設置してランダムなタイミングで点灯させ,ドライバーは点灯に気づいたらボタンを押して反応することが求められる.先に述べた有効視野の概念に基づくと,中心視領域で行っている課題がむずかしくなり,多くの注意が中心視課題に向けられると光点に対する反応がしにくくなる.また,カーナビの操作など何らかの課題を行ったり,内容の複雑な会話を行ったりして注意を用いる場合でも同様である.このように反応が難しくなることは有効視野が狭くなったことを反映すると考えられる.また,最近は視覚刺激だけでなく,聴覚刺激や触覚刺激も検出対象刺激として用いることが提案されている8).注意による情報選択は視覚だけに限定されるのではなく,あらゆる感覚モダリティで生じることであり,この方法を使うことでより包括的に運転時の注意の働きを検討することができる.ドライビングシミュレータでの運転をしながら困難度の異なる数種類のカーナビ操作を求め,視覚,聴覚,触覚検出刺激を用いて精神的負担の評価を行った研究9)(図5)では,いずれのモダリティでも,課題がむずかしくなるほど刺激が見逃される可能性が高くなることが示されている(図6).何らかの車載機器を開発した場合,このような研究手法によって,運転しながらその機器を使用することが許容できるか否かを評価したり,あるいはインタフェースの改善が必要かを判断したりすることができる.Vドライバーの視覚的注意と事故視覚的注意の能力には個人差がある.とくに認知能力の加齢変化があることを踏まえ,高齢者の運転に必要な注意能力があるかを評価することは重要である.有効視野は高齢者の事故経験回数に密接に関係している.アメリカで実施されたBallらの研究10)では,約300名の研究参加者について中心視や周辺視の機能,目の健康状態,認知機能,有効視野の働きを測定し,それらと事故に遭遇する回数の間の関連性を構造方程式モデリングにより統計的に分析した.その結果,測定された変数のなかで有効視野がもっともよく事故頻度を説明し,有効視野の機能低下が大きいほど事故頻度が増大することが示されている(図7).この研究で有効視野の機能を評価する際に用いられているものがUFOVテスト11)である.UFOVテストは3つのテスト(図8)で構成されており,(1)中心視に提示される刺激(自動車またはトラックのアイコン)を見分ける,(2)中心視での刺激の識別と,周辺視野に提示される刺激(中心視に提示されるものと同様のアイコン)の位置の特定,(3)周辺視野に三角形の妨害刺激が提示されているなかでの,(2)と同様の中心視での刺激識別と周辺視での刺激位置特定がある.(1)は情報処理速度,(2)は分割的注意,(3)は選択的注意を評価するものとされる.このテストの成績は年齢に伴って低下することや,運転成績の低さと関連があることなど,多くの知見が得られている12).なお,有効視野と運転の関係については日本でも研究が行われている.Sakaiらの研究13)では,高齢者を対象として事故経験者と無事故者の有効視野を比較した結果,事故経験者のほうが,有意に有効視野が狭いという結果が得られている.おわりに視覚的な情報処理が可能な範囲である有効視野は運転に密接に関連する認知機能であり,さまざまな運転下で,あるいはさまざまな特性をもったドライバーについて,その働きを評価することは交通安全にとって有益である.しかし,現状では,有効視野は運転に関連して評価すべき重要な能力として明白に位置づけられていないようである.また,その測定方法もさまざまな方法が提案されているものの,標準化されたものはまだないという問題もある.有効視野測定を含め,運転に関連する視覚的注意機能の評価を活用することは今後の交通安全対策にとって必要な視点であると考える.文献1)警察庁交通局:平成26年中の交通事故の発生状況.20152)三浦利章:行動と視覚的注意.風間書房,19963)三浦利章:視覚的注意の心理学と交通安全.事故と安全の心理学─リスクとヒューマンエラー─(三浦利章,原田悦子編),p129-155,東京大学出版会,20074)StuttsJ,FeaganesJ,RodgmanEetal:Distractionsineverydaydriving.AAAFoundationforTrafficSafety,Washington,DC,20035)篠原一光:注意とヒューマンエラー─交通安全と注意問題を中心として─.現代の認知心理学5注意と安全(原田悦子,篠原一光編),p186-208,北大路書房,20116)HarmsL,PattenC:Peripheraldetectionasameasureofdriverdistraction.Astudyofmemory-basedversussystem-basednavigationinabuilt-uparea.TranspResPartFTrafficPsycholBehav6:23-36,20037)JahnG,OehmeA,KremsJFetal:Peripheraldetectionasaworkloadmeasureindriving:Effectsoftrafficcomplexityandrouteguidancesystemuseinadrivingstudy.TranspResPartFTrafficPsycholBehav8:255-275,20058)MeratN,JamsonA:Theeffectofstimulusmodalityonsignaldetection:implicationsforassessingthesafetyofin-vehicletechnology.HumFactors50:145-158,20089)藤井達史,内藤宏,篠原一光ほか:IVIS機器操作に伴うドライバの精神的負担評価のためのマルチモーダル刺激検出課題の実車実験における妥当性検討.自動車技術会論文集45:723-728,201410)BallK,OwsleyC,SloaneMEetal:Visualattentionproblemsasapredictorofvehiclecrashesinolderdrivers.InvestOphthalmolVisSci34:3110-3123,199311)BallK,OwsleyC:Theusefulfieldofviewtest:anewtechniqueforevaluatingage-relateddeclinesinvisualfunction.JAmOptomAssoc64:71-79,199312)ClayO,WadleyV,EdwardsJetal:Cumulativemetaanalysisoftherelationshipbetweenusefulfieldofviewanddrivingperformanceinolderadults:currentandfutureimplications.OptomVisSci82:724-731,200513)SakaiH,UchiyamaY,TakaharaMetal:Istheusefulfieldofviewagoodpredictorofat-faultcrashriskinelderlyJapanesedrivers?GeriatrGerontolInt15:659-665,2014図1人間の認知における注意のはたらき図2平成26年度法令違反別の交通事故の割合〔別刷請求先〕篠原一光:〒565-0871大阪府吹田市山田丘1-2大阪大学大学院人間科学研究科応用認知心理学研究分野Reprintrequests:KazumitsuShinohara,Ph.D.,AppliedCognitivePsychologyLaboratory,GraduateSchoolofHumanSciences,OsakaUniversity0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(97)1339図3有効視野の測定図4運転中の有効視野の測定あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(98)図5視覚,触覚,聴覚刺激を用いた運転者の精神的負担測定図6ナビゲーション操作を行った際の視覚・触覚・聴覚刺激の検出エラー図7構造方程式モデリングを用いた有効視野と事故経験の関連の分析図8UsefulFieldofViewテスト(UFOVテスト)(99)あたらしい眼科Vol.32,No.9,201513411342あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(100)(101)あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151343

視覚障害認定基準における諸問題(Goldmann視野計による判定を中心に)

2016年9月30日 金曜日

《第4回日本視野学会シンポジウム》あたらしい眼科33(9):1336?1338,2016cシンポジウム1:視覚障害者認定基準における視野評価視覚障害認定基準における諸問題(Goldmann視野計による判定を中心に)松本長太近畿大学医学部眼科学教室ProblemsofVisualFieldDisturbanceCriteriaintheActonWelfareofPhysicallyDisabledPersons(FocusingontheGoldmannPerimeterCriteria)ChotaMataumotoDepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicineはじめにわが国の視覚障害者認定における視野等級判定基準は,平成7年4月20日に身体障害者福祉法施行規則の一部が改定されて以来,現在まで20年間運用されている.前回の改定により5級(欠損が2分の1以上),4級(残存視野10°以内,損失率90%未満),3級(残存視野10°以内,損失率90%以上95%未満),2級(残存視野10°以内,損失率95%以上)と,10°以内の求心性視野狭窄を3段階に分類評価することで,視野障害単独で2級までの障害等級認定が可能となった1,2).しかし,実際の臨床現場では,判定基準の解釈の問題なども含め,その運用に関してはいくつかの混乱や問題点が指摘されているのも事実である3?5).ここでは,とくに現行のGoldmann視野計を用いた判定基準の問題点について整理してみたい.I求心性視野狭窄の偏心現行法では,I/4の視標で計測された視野が中心10°以内であった場合に,I/2の視標で視能率を算定し4級,3級,2級の判定を行う.しかし実際の症例では,I/4によるイソプタ面積は中心10°以内であるにもかかわらず,一部のイソプタが10°を超えているために5級判定になる症例が存在する(図1).このような症例は,実際にはI/4によるイソプタ面積そのものは中心10°内面積以内であり,障害の程度はほぼ同等と考えられる.これらの点を踏まえ,イソプタ面積が中心10°と同等あるいはそれ以下であれば,運用上15°までの偏心を認めている都道府県も存在する.II輪状暗点の定義現行法では,輪状暗点が存在する場合は,中心10°外にI/4イソプタが存在しても,輪状暗点の内側のI/4イソプタが10°以内であれば,中心10°内狭窄と考え視能率算定へ進むことが可能である(図2a).しかし,実際には輪状暗点に関してはその明確な定義が記載されていないため,判定者によって混乱が生じている.極端な場合では,輪状暗点が進行して周辺へ暗点が穿破した場合,単純に輪状暗点ではなくI/4の周辺の残余視野があるため5級判定としている場合もある(図2b).このような判定を行うと,従来2級であった症例が,病期の進行で輪状暗点が穿破した段階で5級へ等級が下がることになり非常に不合理な判定となる.少なくとも,中心のI/4イソプタが10°以内で周辺視野と連続性がない場合は,輪状暗点と同等の判定で評価を進めるのが妥当ではないかと考える(図2b,c).さらに,緑内障などでは中心部の残余視野が,周辺部にわずかにつながっている症例もしばしば認め,その判定に苦慮する場合が多い(図2d).これらの症例は,今後自動視野計による静的視野による判定基準を含めて,整合性を確保していく必要があると考える.III中心視野の消失(中心暗点)従来の評価基準では,基本的に中心暗点は視野障害からではなく,視力障害から等級判定を行っている.しかし,たとえば輪状暗点の症例などで,中心残存視野が非常に狭くなった場合,I/4で中心部のイソプタが測定できなくなり,10°を超える大きな中心暗点になる.ところがこの場合でも,わずかに残っている中心部残余視野で視力は保たれていることがある.このような症例の視野進行過程を連続的に見ていけば病期が進行していることは一目瞭然であるが,単に中心暗点ということで視力のみで視覚障害を評価すると,視野による障害が加算されず,逆に等級が低くなってしまうことになる(図3).中心暗点の場合,視力障害と視野障害の重複で等級が上がる症例も存在するが,やはりI/4の中心暗点が中心10°を超えている場合は,視野からも視能率判定を引き続き行うべきであると考える.一方,中心10°以内に存在する傍中心暗点に関しては,現行のGoldmann視野計による評価法ではとらえることができない.これに関しては今後自動視野計を用いた中心10°内の静的視野測定を導入する必要があると考える(図4).IV損失率算定で用いられる正常視野視覚障害者等級判定に用いられている正常視野は,視野の生理的限界を用いている.これは,Goldmann視野計の場合V/4に相当する(図5).しかし一方で,損失率を算定する際に用いている検査視標はI/2である.この損失率算定の際に1/2の結果をV/4視標の正常値で割ることの意味合いについては,損失率,視能率という用語も含め多くの議論がなされてきた.視野障害を2級,3級,4級に等級分類する場合,単純に視野角度の合計値を用いたほうが,内容は同等であるが,より明確ではないかとの意見もある.V5級判定で用いられる正常視野5級は,両眼による視野の2分の1以上が欠けているものとされている.この際の正常視野も損失率算定で用いたものと同じ生理的限界であるV/4視標による正常値が用いられている.一方,現行の運用では,周辺視野の測定にはI/4を用いることになっているため,高齢者になると正常であっても,I/4視標による両眼の視野の面積が生理的限界の50%以下になってしまうことがある.とくに70歳以上の健常者では面積を厳格に比較すると約60%が5級相当となることも指摘されている5).5級判定においては,I/4視標の結果のみならず,V/4なども含めた視野図を添付し,視野に明確な病的視野欠損が存在することを確認すべきであると考える.VI都道府県による異なる運用実態求心性視野狭窄の偏位,輪状暗点のところでも触れたが,現在の視覚障害認定は,都道府県レベルで判定され運用されるため,解釈の違いで同じ症例が違う等級に判定されてしまう場合が少なからず存在する.今後の判定基準の見直しにあたっては,誰が判定しても基本的に同じ等級になるように,できるだけ明確な判定基準,ならびにその具体的な運用マニュアルを整備する必要がある.さらに,現在一部の地域で行われている判定者に対する定期的な講習も有用であるあると考える.自動視野計による判定基準の導入も判定者による差をなくすために有用と考える.おわりに現在の身体障害者福祉法の視覚障害認定における諸問題についてGoldmann視野計を用いた判定方法の問題点を中心に述べてきた.今回は触れていないが,自動視野計による明確な判定基準の導入も今後の大きな課題となっている.今後は,これら現行法の運用で明らかになっている諸問題をより客観的に把握し,とくに同程度の障害を有するも現行法では認定基準の網目からこぼれ落ちている症例を確実に網羅し,さらに既存の認定者にも不利益のない,わが国の現状に即した改定案を,諸外国の動向も踏まえ,各分野の協力のもと整備していく必要があると考える.文献1)厚生省社会局厚生課編:身体障害者認定基準-解釈と運用改訂版,p32-76,中央法規出版,19902)身体障害者認定基準及び認定要領解釈と運用.新訂第二版,p105-150,中央法規出版,20103)日本学術会議臨床医学委員会:提言身体障害者との共生社会の構築を目指して:視覚・聴覚・運動器障害認定に関する諸問題.p10-12,20084)松本長太:身体障害認定基準における量的視野検査の基本的な考え方.日本の眼科84:1576-1582,20135)松本長太,萱澤朋泰,奥山幸子ほか:視覚障害者等級判定における視野障害による5級判定の問題点.日眼会誌118:958-962,2014図1求心性視野狭窄の偏心a:視能率算定へ進む症例.b:I/4のイソプタ面積は10°以内だが,一部わずかに偏位しているため5級にとどまる症例.〔別刷請求先〕松本長太:〒589-8511大阪狭山市大野東377-2近畿大学医学部眼科学教室Reprintrequests:ChotaMatsumoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicine,377-2Ohnohigashi,Osakasayama-shi859-8511,JAPAN1336(94あ)たらしい眼科Vol.32,No.9,20150910-1810/16/\100/頁/JCOPY図2輪状暗点の定義a:輪状暗点があると中心残余視野に対し視能率算定が行われる.b:輪状暗点が穿破した場合,I/4で周辺に残余視野があるため5級と判定されてしまう場合がある.c:完全な輪状暗点ではないが,I/4による中心10°内の視野が周辺視野と連続性がないため,輪状暗点と同等に考えて視能率算定が行われてもよい.d:中心視野と,周辺視野にわずかに連続性があるため5級にとどまる.図3中心暗点病期の進行により輪状暗点内側の残余視野(a)がさらに狭くなりI/4で測定できなくなった場合(b).しかし現行では,中心暗点を評価しないため,わずかに残った中心部の残余視野により視力低下が進まなかったので,結果として等級が下がることになった.図4傍中心暗点現行のGoldmann視野計による手法では,傍中心暗点は評価できずa,bとも同じ等級となる.(95)あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151337図5視覚障害認定で用いられる正常視野生理的限界を示し,Goldmann視野計ではV/4相当である.1338あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(96)