連載⑮二次元から三次元を作り出す脳と眼雲井弥生淀川キリスト教病院眼科はじめに両眼の対応点の情報は,後頭葉第一次視覚野(以下V1)で互いに隣り合う場所に到達して,右左それぞれの情報の優位な柱状構造(コラム)を作る.コラムは中心窩を基準とする網膜内の位置関係を保ちながら,右左右左…と交互に並ぶ.このような構造を眼優位コラム(oculardominancecolumn)とよぶ.コラムは生後,両眼から同等の視覚刺激を受けることにより形成され,発育期の弱視や弱視によって患眼のコラムの幅が狭くなるなどの変化をきたす.この発見は発育期の外的刺激の変化が脳の神経回路構築に影響を及ぼすことを示し,視覚情報処理の分野を超えて脳の可塑性について新たな視点をもたらした.眼優位コラム視覚の流れについて考える(図1).座標軸原点0を固視するとき,0は両眼中心窩に映る.原点0の左側の点1~5は中心窩より同じ方向(右側)に同じ距離ずれたaL点,網膜対応点に投影される.対応点同士の情報は視交叉より後ろで互いに併走し,外側膝状体を経てV1の隣り合う場所に到達して柱状構造(コラム)を作る.図1aでは中心窩を含む水平軸上の点0~5の一対のコラムのみを示すが,実際にはすべての軸方向に対してコラムが存在する.左右眼のコラムが互い違いに,なおかつ網膜内での位置関係を保って並ぶ.図1bではV1の1~6層を立体的に示す.左右眼の情報が外側膝状体を経て4層に達する(注:細かくはP系情報は4Cb層,M系情報は4Ca層と,達する亜層が異なるが,ここでは簡略化して4層とする).この細胞は単眼反応性であり,4層以外に情報を送る.そこで左右眼の情報が初めて合流する(図では2/3層).4層以外の細胞はほとんど両眼反応性である.両眼反応性細胞は4層の影響を受けるため左右眼の刺激に対する反応に差があり,黄色コラム内では右眼,青色コラム内では左眼の刺激に強く反応する.どちらかの眼の刺激や情報が優位に働く柱(コラム)が交互に並ぶ構造を眼優位コラムとよぶ.コラムの幅はヒ1層2/3層4層5層6層網膜神経節細胞第一次視覚野(V1)左眼コラム右眼コラムLRLRLRLR図1眼優位コラムa:両眼網膜対応点の情報はV1で隣り合う場所に到達し,右左眼それぞれの情報の優位なコラムを作る.b:左右眼の網膜神経節細胞からの情報は,外側膝状体を経てV1の4層に達する.これらの細胞は単眼反応性である.コラムの境界の細胞◎は両眼から同等に情報を受け取り,両眼視細胞(視差選択性細胞)として働く.(79)あたらしい眼科Vol.34,No.8,201711530910-1810/17/\100/頁/JCOPY図2HubelとWieselによるマカクサルの大脳皮質切片の暗視野オートラジオグラフ(1982年)a:VI垂直断面写真.右眼に注射したマーカー物質が外側膝状体を経てV1に到達したあとに,脳の断面をオートラジオグラフで撮影した.白い縞は右眼優位コラム(図1bの黄色の縞)を示す.その間の部分は左眼優位コラム(図1bの青い縞)を示す.b:V14層水平断面写真.(文献1より許可を得て改変転載)トではおよそ1mmである.コラム境界の細胞◎は両眼から同等に情報を受け,両眼視差に反応する視差選択性細胞であり,両眼視細胞ともよばれる(連載⑭参照).眼優位コラムは1963年にHubelとWieselによって初めて報告された1).図2は1982年に『別冊サイエンス』に掲載された二人による総説から引用した写真である.マカクサルの右眼に注射したマーカー物質が,外側膝状体を経てV1に到達したあとに,脳の断面を特殊な方法(オートラジオグラフ)で撮影している.白く光る縞状の部分がマーカーの到達した部分で,右眼優位コラムの4層を表す.間の暗く抜けた部分が左眼からの情報が届く左眼コラムである.白い縞は図1bの黄色の縞に,暗い部分は青い縞に相当する.眼優位コラムと弱視・斜視サルやネコで幼少期に片方の眼瞼を縫合して視覚入力を遮断すると,縫合眼に対応するコラムの幅が狭くなったり,眼筋を切断して斜視の状態で育てると,両眼視細胞が認められなくなったりすることも,二人の研究から明らかになった(図3).この発見は,発達期の外的刺激の変化が脳の神経回路構築に恒常的な変化を残すことを示し,視覚情報処理のみならず脳の可塑性について新た1154あたらしい眼科Vol.34,No.8,2017LRLRLRLR1層V22/3層4層5層6層LRLRLRLR図3右眼瞼縫合後のV1眼優位コラムの変化右眼瞼を縫合し,右眼の視覚入力が遮断された状態で成長したサルは,右眼に対応するコラムの幅が狭く,左眼のコラムは広くなる.コラム境界の細胞には左眼からの入力しか届かず,両眼視細胞として育たない.な視点をもたらした.一連の研究により,二人は1981年ノーベル医学生理学賞を受賞している.発達のある時期の外的刺激により恒常性の変化を残す期間を感受性期間あるいは臨界期とよぶ.ヒトでのコラムの証明は長らく困難であったが,特殊例やMRIの進歩で実証されていく2,3).生後4カ月に片眼角膜混濁,20年後に同眼の網膜.離を患った92歳の剖検例において,細胞代謝活性の指標となるチトクロム酸化酵素染色を行い,患眼のコラムの狭細化を認めたと報告された.生体においては高磁場MRIを用いてV1優位コラムの同定がある程度可能になった.機能的MRIを用いた研究により,片眼弱視患者のV1や高次視覚野において弱視眼刺激時の機能低下を認めたこと,斜視・不同視弱視患者においてコラム狭細化を認めたこと,ただしそれは早期発症例のみで,晩期発症例では認めなかったことが報告されている.基礎医学では臨界期を延長させたり,一度終了した臨界期を再開させたり等ができないか研究が行われている.文献1)ヒューベルDH,ウィーゼルTN:視覚の脳内機構.脳を探る(塚田裕三編),別冊サイエンス50,日経サイエンス,p82-97,19822)増田洋一郎:視覚心理と神経眼科ヒト第一次視覚野の可塑性と安定性.神経眼科26:371-381,20093)三木淳司,山下力:弱視の病因論について,これまでの変遷を含めて教えてください.弱視・斜視のスタンダード(不二門尚編),眼科診療クオリファイ22,p58-61,中山書店,2014(80)