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コンタクトレンズ:遠近両用コンタクトレンズの処方例

2016年8月31日 水曜日

コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方つぎの一歩~症例からみるCL処方~監修/下村嘉一22.遠近両用コンタクトレンズの処方例小玉裕司小玉眼科医院●はじめに遠近両用コンタクトレンズ(CL)にはハードCL(HCL)とソフトCL(SCL)があるが,今回は遠近両用SCLの処方例を紹介する.遠近両用SCLは老視への対策だけではなく,眼精疲労への対策,あるいは白内障術後の調節力欠如への対策としても使用できることを紹介する.●症例1:遠近両用SCLの老視への処方59歳,女性,主婦.主訴:遠近両用SCLを使用しているが,近くが見えにくくなった.完全屈折矯正値:RV=0.2(1.5×S?2.00D),LV=0.2(1.5×S?1.5D).優位眼:右眼.加入度数:新聞,雑誌を用いて計測し,両眼ともに+2.0D.現在使用中のSCL:ボシュロム社のメダリストRプレミアマルチフォーカル.右860/?2.25/14.0/HIGH,左860/?1.25/14.0/HIGH)にて両眼遠見視力1.2,両眼近見視力0.5.処方したSCL:両眼に加入度数のもっとも高いタイプを使用していることから,球面度数と加入度数によって光学径が171通りも用意されている新しいデザインのジョンソン・エンド・ジョンソン社のワンデーアキュビューRモイストRマルチフォーカルを試した(図1,2).同社推薦の処方手順にのっとり,優位眼が右眼で加入度数が+2.0Dであることから,右眼にMID,左眼にHIGHを選択した.右840/?2.0/14.3/MID,左840/?1.5/14.3/HIGHにて両眼遠見視力1.5p,両眼近見視力0.7を得ており,遠くも近くもよく見えるようになったということであった.このCLは,S面度数は完全屈折矯正値(頂点間補正をしたもの)を用い,加入度数と優位眼からLOWかMIDかHIGHを選択して処方するのが原則である.●症例2:遠近両用SCLの眼精疲労眼への処方24歳,女性,事務職.主訴:球面SCLを使用しているが,パソコンを長時間使用する仕事に変わってから眼精疲労,肩こり,頭痛がきつくなった.完全屈折矯正値:RV=0.1(1.2×S?3.75D),0.05(1.2×S?4.5D).優位眼:右眼.現在使用中のSCL:ジョンソン・エンド・ジョンソン社の2ウィークアキュビューR.右870/?3.25/14.0,左870/?4.0/14.0にて右眼遠見視力1.2,近見視力0.8,左眼遠見視力1.2,近見視力0.8.涙液層破綻時間,綿糸法でドライアイをチェックしたが正常範囲であった処方したSCL:パソコンを長時間使用することから,毛様体筋の酷使による眼精疲労と考え,+0.5D加入しているメニコン社の2WEEKメニコンデュオを試した.右860/?4.00/14.5,左860/?4.50/14.5にて両眼ともに遠見視力は1.2,近見視力は0.8で,従来のSCLと視力的には変化はなかったが,眼精疲労,肩こり,頭痛からは解放されたとのことで,現在もこのレンズを継続使用している.●症例3:遠近両用SCLの白内障術後眼への処方59歳,女性,医療事務職.主訴:遠くも近くも見たい.42歳のときに左眼,50歳のときに右眼の白内障手術を受け,術後に,それまで使用していた球面SCLから遠近両用SCLに変更していた.術前に使用していたレンズはジョンソン・エンド・ジョンソン社の2ウィークシュアビューR(現在は市販されていない).術後に使用したのは当時チバビジョン社(現在はアルコン社)から市販されていたフォーカスRプログレッシブ(現在市販されていない)であった.完全屈折矯正値:RV=(0.1×IOL)(1.2×IOL(S?4.0D),LV=(0.1×IOL)(1.2×IOL(S?5.0D).術後に使用していたSCL:フォーカスRプログレッシブ.右860/?3.25/14.0,左860/?4.25/14.0にて,右眼遠見視力は1.0,近見視力は0.7,左眼遠見視力は1.2p,近見視力0.5であった.新しく処方したレンズ:ボシュロム社からメダリストRマルチフォーカルが発売されたときにこのレンズに変更した.右900/?4.25/14.5/HIGH,左900/?4.75/14.5/HIGHにて両眼遠見視力1.5p,近見視力1.0を得ており,遠近ともにこのレンズが見やすいとのことで現在も使用中である.白内障術後眼には高加入度数の遠近両用SCLを処方するのがポイントである.●おわりに近年,各社から遠近両用SCLが市販されているが,その性能は明らかに進歩しつつある.老視に対する遠近両用SCLの処方も,コツさえつかめば手間も時間もそれほどかからないうえに,患者の満足度は高い.また,事務作業などで眼精疲労を訴える患者には+0.5D加入度数のレンズであれば,遠見視力も損なうことなく処方できるうえ,眼精疲労から解放されて喜んでいただける.白内障手術において,遠近両用IOLがない時代に手術を受けた患者があれば,一度試してみることをお薦めしたい.図1ワンデーアキュビューRモイストRマルチフォーカルの瞳孔径の違いによる光学部の位置と見え方の影響のイメージ上段:光学部が瞳孔径より小さい場合は,近くはある程度見えるが,遠くはぼやけて見える.中段:光学部が瞳孔径に一致したときに,初めて遠くも近くもよく見える.下段:光学部が瞳孔径より大きい場合は,遠くはある程度見えるが,近くはぼやけて見える.(73)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.8,20161155図2瞳孔径の違いによる光学部設計のイメージワンデーアキュビューRモイストRマルチフォーカルには,年齢による加入度数と屈折度を考慮して171種類の光学部径が用意されており,光学部と瞳孔径の一致をめざしている.

写真:CRAO with Cilioretinal Artery Sparing

2016年8月31日 水曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦387.CRAOwithCilioretinalArterySparing草田夏樹横井則彦外園千恵京都府立医科大学視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①蒼白化した網膜②毛様網膜動脈による灌流が残存している領域(黄斑部を含む)②①図1CRAOwithCilioretinalArterySparingの症例(49歳,男性)起床時に右眼視野の異常を自覚し,短時間に進行したため救急受診した.網膜全体が蒼白化していたが,黄斑部と視神経乳頭の間の領域には血流が残存することが検眼鏡的に確認された.図4図1の症例のOCT(水平方向)黄斑部より耳側の領域は,網膜内層腫脹および輝度上昇がみられる(??).図3図1の症例のフルオレセイン蛍光眼底造影毛様網膜動脈のみが造影された.(71)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611530910-1810/16/\100/頁/JCOPY網膜中心動脈閉塞症(centralretinalarteryobstruction:CRAO)は比較的まれな疾患であるが,発症後ただちに処置を行わなければ重篤な視力障害に至る.CRAOの病態について,そのほとんどがコレステロールなどの塞栓症とされるが,血栓症や血管攣縮に伴うもの,感染症に続発するもの,医原性の発症例も報告されている1).急激な視力低下のエピソード,対光反応減弱または消失,眼底所見などから診断は比較的容易である.CRAOは典型的には軟性白斑やcherry-redspotを呈するが,発症初期にはこれらの所見は明確でない点に注意が必要である.これらの典型的所見を呈するタイプ,すなわちclassicalCRAOは約67%と報告されている.また,一時的な血管閉塞や攣縮により発症と軽快を繰り返すtransientCRAO(いわゆる切迫型CRAO)が16%,本症例(図1,2)のように毛様網膜動脈による灌流が残存しているCRAOwithcilioretinalarterysparingは約10%程度とされている.また,巨細胞性動脈炎に伴うCRAOも数%存在するが2),わが国では巨細胞性動脈炎そのものが海外と比較し少ないため,頻度は低いと推測される.蛍光眼底造影検査により診断が確定されるが(図3),近年ではOCTにおける網膜内層の輝度上昇は,虚血に伴う浮腫を反映しており,診断に有用とされている(図4).CRAOでは,眼球マッサージ,高浸透圧利尿薬投与,前房穿刺,網膜循環改善薬投与などが行われる.これらの有効性については議論はあるが,眼圧下降による血管拡張や網膜循環改善の効果があると考えられている.もっとも重要であるのは全身的な原因検索であり,CRAO発症を機に不整脈や弁膜症などの心血管系疾患などが発見されることも少なくない.僚眼にも発症する可能性があることを患者に説明し,眼科的治療と同時に,全身の心血管系リスクの評価を内科専門医に依頼すべきである.まれであるが,眼虚血を基礎として,CRAO発症後に血管新生緑内障を併発することがある.視野が残存している症例では,定期的な眼圧検査や隅角鏡検査により,経過を観察することが重要である.また最近になり,網膜動脈閉塞症(retinalarteryocclusion:RAO)全体では,その後の脳梗塞の発症が有意に高いことが報告された3).文献1)ParkSW:Iatrogenicretinalarteryocclusioncausedbycosmeticfacialfillerinjections.AmJOphthalmol154:653-662,20122)HayrehSS:Acuteretinalarterialocclusivedisorders.ProgRetinEyeRes30:359-394,20113)RimTH:Retinalarteryocclusionandtheriskofstrokedevelopment:Twelve-yearnationwidecohortstudy.Stroke47:376-382,2016図5図1の症例のGoldmann動的視野検査灌流の残存している領域に一致して視野が残存する.

時の人 白石 敦 先生

2016年8月31日 水曜日

時の人愛媛大学医学部眼科学教授白しら石いし敦あつし先生本年3月,愛媛大学医学部眼科学教室の4代目教授に白石敦先生が就任した.同眼科学教室は,初代・坂上英教授が網膜疾患を,2代目・田村修教授が斜視弱視を,3代目・大橋裕一教授が角膜疾患・眼感染症をそれぞれ専門としていたことから,眼科の主要分野を幅広くカバーした全国レベルの診療・研究を行っている.白石先生の専門は角膜疾患,とくに眼表面疾患である.大橋先生以来の角膜疾患をメインに据えつつ,白石先生独自の取り組みが,これから形になってくると思われる.*白石先生は,昭和37(1962)年に瀬戸内海に浮かぶ伯方島で生まれた.名門,愛光学園高校を卒業後,地元・愛媛を離れて東京へ.日本医科大学に学び,昭和61(1986)年に同大第2外科に入局した.つまり,意外にも白石先生の医師としてのスタートは眼科ではなかったのである.その後6年間,外科医として研鑽をつみ,さらに同大大学院で病理学を研究する.そして平成7(1995)年に学位を取得したが,このときの博士論文のテーマはbEGFやVEGFの発現についてであった.ただし,まだ眼科領域の研究ではなく,大腸癌や大腸腺腫が対象であった.平成6(1994)年から平成10(1998)年まで,白石先生は米国シンシナティ大学に留学する.この留学が白石先生にとって大きな転機となった.シンシナティ大学眼科学教室で角膜の遺伝子の研究を行ったことで,「眼科に深く興味を抱くようになった」からである.そして帰国後,愛媛大学眼科学教室に入局.今日に続く眼科医としての活躍が始まる.*愛媛大学眼科入局後の研究テーマはズバリ「角膜の基礎・臨床研究」である.留学中,角膜に発現するケラチン12やルミカン遺伝子の解析,ノックアウトマウスの作製を行ってきたことを発展させ,帰国後は増殖因子であるEGFファミリーの角膜上皮,実質における分子メカニズムの解明に取り組んだ.その成果として,白石先生は創傷治癒や恒常性の維持にEGFファミリーの相互作用が重要な役割を果たしていることを明らかにした.角膜上皮細胞培養や角膜上皮再生医療への臨床応用につながる重要なメカニズムの解明である.ほかにも,角膜内皮細胞の細胞分裂制御機構に転写因子のPLZFとTGFbが連動していることをつきとめた.これらの基礎研究と並行して,白石先生は臨床研究にも力を注いできた.企業と共同開発した「眼表面専用サーモグラフィー」は,ドライアイの診断やアレルギー性結膜炎の治療効果判定などに活用されているし,圧センサーを応用した眼瞼圧測定器を独自に開発して,眼瞼圧と眼表面摩擦関連疾患の関連についてデータを示して報告した.あるいは,生体角膜共焦点顕微鏡を用いて,病理標本でしか証明されていなかったサイトメガロウイルス角膜内皮炎に特有な“Owl’seye”所見を,生体内で初めて観察したのも白石先生である.*研究のかたわら,愛媛大学病院眼科としての新しい取り組みも,白石先生が中心となって数年前から始まっている.その一つが「涙道疾患外来」である.涙道内視鏡手術を他大学に先駆けて導入したり,前眼部三次元画像解析装置を用いた涙液クリアランス解析法や,涙液のKlehbielflowを可視化して導涙機能を評価する検査法を開発し,診療に取り入れて成果をあげている.教室のモットーは自由闊達.坂上初代教授,大橋前教授と2人の愛媛大学長を輩出した伝統ある教室ではあるが,重々しい雰囲気とは無縁で,スタッフが自由に意見交換を行えるのが特色である.白石先生の趣味はマラソンとトライアスロン(!)だそうである.マラソンのベストタイムが3時間8分とのことだから,かなりの本格派である.最後に「駆け足」で紹介した.

ソフト系多焦点コンタクトレンズの応用(白内障術後)

2016年8月31日 水曜日

特集●完全攻略・多焦点コンタクトレンズあたらしい眼科33(8):1145?1149,2016ソフト系多焦点コンタクトレンズの応用(白内障術後)ApplicationofMultifocalSoftContactLenses(AfterCataractSurgery)塩谷浩*I白内障術後の屈折矯正方法白内障術後眼は理論的には調節力がほとんどないため,単焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入眼(以下IOL眼)において眼鏡の単焦点レンズあるいは単焦点コンタクトレンズ(contactlens:CL)で残存する屈折が完全矯正された場合には,日常生活に不便なく近方を見ることはむずかしくなる.そのため白内障術後の単焦点IOL眼における視力補正方法は,遠用眼鏡あるいは近用眼鏡の使用,遠近両用眼鏡の使用,CLと眼鏡の併用が一般的であり,いずれの方法においても眼鏡を使用することが必要とされる.最近,若年時からおもにソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)を使用する生活をしてきた中高年への白内障手術の施行が増加するに伴い,単焦点IOL眼になっても白内障術前のように眼鏡を使用しない生活スタイルを維持することを希望する患者が多く認められるようになってきている.しかし,既存のソフト系多焦点CL(以下多焦点SCL)の製品規格内の加入度数は,単焦点IOL眼の調節補助の実効加入度数からは不十分であるため,患者の満足を得るように近方を見やすくすることはできないと考えられている.したがって,患者が白内障術後に眼鏡を使用しない生活を希望している場合には,単焦点IOLによる計画的なモノビジョンを設定したり,多焦点IOLを挿入したりすることが考えられるが,健康保険適用なども含めどこの施設でも対応できる容易な方法とは言いがたい.そのため現状では,白内障術後もCLを継続して使用することで対応できるのであれば,それが患者の生活スタイルを変えないためには現実的には最良の方法であると考えられる.最近は各社から多焦点SCLの新製品が発売されており,そのなかで,近用眼鏡では高い加入度数を必要とする調節力が著しく低下した高齢者の老視眼に対しても,低い加入度数であるにもかかわらず対応が可能な製品の処方を筆者は経験している.そこで単焦点IOL眼においても多焦点SCLの処方を応用できる可能性があると考え,処方の経験を積み重ねてきた1,2).次項から実際の処方例を提示し,単焦点IOL眼に対する多焦点SCLの処方方法について解説する.II白内障術後のソフト系多焦点コンタクトレンズの処方例症例1症例:57歳,女性,主婦CL装用経験:SCLを37年CL装用歴:20歳からSCLの装用を開始し,54歳時の白内障術後からは1日交換単焦点SCLを装用しながら近方視時には近用眼鏡を使用していた.SCLと眼鏡を併用する3年間の生活に不満があったため,多焦点SCLの処方を目的に他眼科から当科へ紹介された.初診時検査所見:矯正視力および自覚的屈折は右眼(1.2×?2.75D),左眼(1.2×?4.00D),優位眼は左眼で,最良の近方視力が得られる最小の近方矯正加入度数は両眼とも+2.50Dであった.角膜乱視は右眼(7.49mm/7.42mmC?0.50DAx150),左眼(7.35mm/7.25mmC?0.50DAx20)であった.使用していたSCLは両眼とも1日交換単焦点SCLで,右眼は9.0/?2.50/14.2(ベースカーブmm/度数D/サイズmm),左眼は9.0/?3.25/14.2の規格であり,SCL装用時の近方視時には両眼+2.00Dの眼鏡を使用していた.両眼の眼内レンズは透明で,瞳孔は正円形で虹彩に運動制限はなく,眼内に炎症所見は認められなかった.角膜,結膜に異常が認められなかったため,多焦点SCLを処方することになった.IOL眼への多焦点SCLの処方:両眼にハイドロゲル素材の中心近用累進屈折力型頻回交換多焦点SCL(レンズA)(表1)を右眼(9.0/?2.00add+1.50/14.5)(ベースカーブmm/球面度数D加入度数D/サイズmm),左眼(9.0/?3.00add+1.50/14.5)の規格で装用させた.通常の有水晶体眼での処方方法3,4)と同様に,加入度数は低い加入度数の+1.50D(レンズAの加入度数は+1.50D,+2.50Dの2種類)を選択し,球面度数は両眼とも遠方完全屈折矯正度数(角膜頂点間距離補正後の度数)よりプラス側の度数に設定した.装用直後に近方が見づらいとの訴えが強かったためテスト装用させずに,両眼の加入度数を+2.50D,優位眼の左眼の球面度数を?3.50Dに変更し,右眼(9.0/?2.00add+2.50/14.5),左眼(9.0/?3.50add+2.50/14.5)の規格でテスト装用を開始させた.CL装用時の遠方視力は右眼(0.4×SCL)(1.2×SCL=?1.50D),左眼(0.6×SCL)(0.9×SCL=?0.75D),両眼(0.8×SCL),両眼での近方視力は(0.6×SCL)で,テスト装用1週間後,近方視に満足が得られたものの遠方視には不満の訴えがあった.そこで右眼の球面度数を?2.50Dに変更(9.0/?2.50add+2.50/14.5)して処方した.CL装用時の遠方視力は右眼(0.7×SCL)(1.2×SCL=?1.00D),左眼(0.6×SCL)(0.9×SCL=?0.75D),両眼(0.8×SCL),両眼での近方視力は(0.6×SCL)で,遠方視,近方視ともに患者の満足が得られ,処方時から3年経過後も処方レンズの規格を変更することなく近用眼鏡を併用せずに多焦点SCLの装用を継続している.症例2症例:54歳,女性,主婦CL装用経験:SCLを32年CL装用歴:22歳からSCLの装用を開始し,49歳時に他眼科にて1日交換多焦点SCLを処方され,52歳時に同じレンズ製品の処方を希望して当科を受診した.初診時検査所見:矯正視力および自覚的屈折は右眼(1.2×?5.75D),左眼(0.9×?5.75D(cyl?0.75DAx180°),優位眼は右眼で,最良の近方視力の得られる最小の近方矯正加入度数は両眼とも+2.75Dであった.両眼の水晶体には白内障による軽度の混濁が認められた.多焦点SCLの処方:使用中の1日交換多焦点SCLで遠近ともに見づらいとの訴えがあったため,レンズのタイプを両眼ともハイドロゲル素材の中心遠用累進屈折力型頻回交換多焦点SCLに変更し,右眼(8.7/?5.00add+1.50/14.4),左眼(8.7/?5.00add+1.50/14.4)の規格で処方した.SCL装用時の遠方視力は右眼(1.2×SCL)(1.5×SCL=?0.50D),左眼(0.8×SCL)(0.9×SCL=?0.50D),両眼(1.5×SCL),両眼での近方視力は(0.6×SCL)で,遠方視,近方視ともに患者の満足が得られ問題なく使用していた.初診時から2年後に白内障の進行により,両眼の矯正視力が低下し,自覚的な見え方が不良となったため,白内障の手術目的で他眼科に紹介した.白内障手術後検査所見:白内障手術4カ月後,矯正視力および自覚的屈折値は右眼(1.2×?3.25D(cyl?0.75Ax180°),左眼(1.2×?3.25D(cyl?0.75DAx180°),優位眼は右眼で,最良の近方視力が得られる最小の近方矯正加入度数は両眼とも+2.75Dであった.角膜乱視は右眼(7.84mm/7.65mmC?1.25DAx180),左眼(7.78mm/7.56mmC?1.00DAx180)であった.両眼の眼内レンズは透明で,瞳孔は正円形で虹彩に運動制限はなく,眼内に炎症所見は認められなかった.角膜,結膜に異常が認められなかったため,多焦点SCLを処方することになった.IOL眼への多焦点SCLの処方:両眼にシリコーンハイドロゲル素材の中心近用累進屈折力型頻回交換多焦点SCL(レンズB)(表1)を右眼(8.6/?3.25add+2.00/14.2),左眼(8.6/?2.75add+2.00/14.2)の規格で処方した.一般的な処方対象である有水晶体眼の老視に対してであれば,多焦点SCLの加入度数は処方しようとするレンズ製品のもっとも低い加入度数を選択し,必要に応じて高い加入度数に変更する方法3,4)で処方するが,本症例においては症例1への処方経験から,加入度数は最初から高い加入度数の+2.00D(レンズCの加入度数は+1.00D,+2.00D,+2.50Dの3種類)を選択し,球面度数は両眼とも遠方完全屈折矯正球面度数(角膜頂点間距離補正度数)よりプラス側の度数に設定し,非優位眼の左眼は右眼より0.50Dプラス側に設定した.CL装用時の遠方視力は右眼(0.8×SCL)(1.0×SC=?0.75D),左眼(0.7×SCL)(0.9×SCL=?0.50D),両眼(1.0×SCL),両眼での近方視力は(0.8×SCL)で,装用直後は遠近感が不良の訴えがあったが,装用1週間で慣れ,遠方視,近方視ともに患者の満足が得られ,処方時から3年経過後も処方レンズの規格を変更することなく,近用眼鏡を併用せずに多焦点SCLの装用を継続している.症例3症例:64歳,女性,主婦CL装用経験:SCLを48年CL装用歴:16歳からSCLの装用を開始し,48歳時に使い捨てSCLの処方を希望して受診した.初診時検査所見:48歳時の矯正視力および自覚的屈折は右眼(1.5×?6.00D),左眼(1.2×?6.00D),優位眼は左眼で,最良の近方視力が得られる最小の近方矯正加入度数は両眼とも+1.00Dであった.以後,当科にて定期検査を受けながら1週間交換SCLを使用し,51歳時からは近方視に不自由が出現したため両眼にハイドロゲル素材の中心遠用二重焦点型頻回交換多焦点SCLを右眼(8.5/?5.50add+2.00/14.2),左眼(8.5/?5.50add+2.00/14.2mm)の規格で使用していた.57歳時には使用中の多焦点SCLで近方視に不満の訴えがあったため,両眼にハイドロゲル素材の中心近用累進屈折力型頻回交換多焦点SCL(レンズA)(表1)を右眼(9.0/?5.00add+2.50/14.5),左眼(9.0/?5.25add+2.50/14.5)の規格で処方した.遠方視力は右眼(0.7×SCL)(1.2×SCL=?0.50D),左眼(0.8×SCL)(1.0×SCL=?0.50D),両眼での遠方視力は(0.8×SCL),両眼での近方視力は(0.5×SCL)であった.遠方視,近方視ともに患者の満足が得られ問題なく使用していた.63歳時に白内障の進行により,両眼の矯正視力が低下し,自覚的な見え方が不良となったため,白内障の手術目的で他眼科に紹介した.白内障手術後検査所見:白内障術後に当科を受診した64歳時の矯正視力および自覚的屈折値は右眼(1.2×?5.25D),左眼(1.0×?5.25D),優位眼は左眼で,最良の近方視力が得られる最小の近方矯正加入度数は両眼とも+2.75Dであった.角膜乱視は右眼(7.83mm/7.57mmC?1.50DAx180),左眼(7.74mm/7.51mmC?1.50DAx180)であった.両眼の眼内レンズは透明で,瞳孔は正円形で虹彩に運動制限はなく,眼内に炎症所見は認められず,角膜,結膜に異常が認められなかったため,多焦点SCLを処方することになった.IOL眼への多焦点SCLの処方:頻回交換多焦点SCLの装用経験者であったが,患者はSCLのケアを面倒と感じ,1日交換SCLでの処方の希望があったため,両眼にハイドロゲル素材の中心遠用二重焦点型1日交換多焦点SCL(レンズC)(表1)を右眼(8.8/?4.00add+1.50/14.2),左眼(8.8/?4.50add+1.50/14.2)の規格で処方した.本症例においても症例2と同様に,加入度数は両眼とも最初から高い加入度数の+1.50D(レンズDの加入度数は+0.75D,+1.50Dの2種類)を選択した.球面度数は両眼とも遠方完全屈折矯正球面度数(角膜頂点間距離補正度数)よりプラス側の度数に設定し,非優位眼の右眼はよりプラス側の度数に設定した.CL装用時の遠方視力は右眼(0.5×SCL)(1.2×SCL=?1.25D),左眼(0.6×SCL)(1.2×SCL=?1.00D),両眼(1.0×SCL),両眼での近方視力は(0.6×SCL)で,遠方視,近方視ともに患者の満足が得られ,処方時から3年経過後も処方レンズの規格を変更することなく,近用眼鏡を併用せずに多焦点SCLの装用を継続している.III白内障術後のソフト系多焦点コンタクトレンズの処方方法前項で示したように白内障術後の単焦点IOL眼であっても,多焦点SCLの処方により,遠方視,近方視ともに眼鏡を使用しない日常生活を送ることができるようになる患者がいるのは確かである.この代表的な症例を含む筆者の他の処方経験から,白内障術後の単焦点IOL眼へ多焦点SCLの処方を応用する場合の注意点を以下のようにまとめてみた.1.適応適応は有水晶体眼の老視に対してと同様に,眼鏡を使用しない生活を強く希望しているCLの装用経験者で,とくに単焦点SCLあるいは多焦点SCLの経験者である.角膜乱視の遠方視に影響すると考えられる許容範囲は,老視よりやや広く,乱視度数(角膜頂点間距離補正後の度数)1.25~1.50D以下が適応になり,多焦点SCLのセンタリングが良好であることが必要条件となる.2.加入度数有水晶体眼の老視においては,多焦点SCLは同時視型の光学的な特性から加入度数が高くなると遠方視の見え方の質が低下するため,多焦点SCL製品の加入度数の中からもっとも低い加入度数を選択し,患者の近方の見え方に応じて高い加入度数に変更していく処方方法が推奨される3,4).その処方経験から白内障術後の単焦点IOL眼においても同様の考え方で処方を試みて検討したところ,どの症例においても最終的に高い加入度数に変更する必要があった.白内障術前と比べると白内障術後の見え方は確実に改善しており,矯正方法が限られている状況では患者の見え方への妥協が得やすいことが,遠方の見え方の質が低下する高い加入度数で対応ができた理由であろうと思われる.そこで加入度数は最初から,それぞれの多焦点SCL製品の中の高い加入度数を選択することで問題は少ないと考えられる.3.球面度数有水晶体眼の老視においては,多焦点SCLの球面度数は遠方完全屈折矯正度数(角膜頂点間距離補正後の度数)より+0.50~+1.00D程度プラス側の度数に設定し,患者の遠方の見え方に応じてマイナス側の球面度数を追加矯正していく処方方法3,4)が推奨される.白内障術後の単焦点IOL眼においては,老視と比べると必要とする調節補助の程度が大きいため,遠方視に適正と考えられる球面度数を老視への処方よりも,さらにプラス側に設定する必要があると予想されたが,実際には老視への処方と同程度に球面度数を設定することで患者の不満がほとんどないことがわかった.そこで球面度数は遠方完全屈折矯正度数(角膜頂点間距離補正後の度数)より+0.50~+1.00D程度プラス側の度数に設定することで問題は少ないと考えられる.上記の加入度数,球面度数の設定で患者の見え方の満足が得られない場合には,モディファイド・モノビジョン法を応用することで患者の満足度を上げることが可能であった.すなわち近方の調整は,まず非優位眼の球面度数を最初の設定よりプラス側に変更し,それで対応できない場合には両眼の球面度数をプラス側に変更する.遠方の調整は,まず優位眼の球面度数をマイナス側に変更し,それで対応できない場合には両眼の球面度数をマイナス側に変更する.おわりに多焦点SCLの処方は,白内障術後の患者の生活の質を向上させる可能性のある,やり直しの効く安全な方法である1,2).残存する屈折がどういう状態であっても,調節力がほとんどないことにおいては共通である単焦点IOL眼では,多焦点SCLの処方を一般化しやすいと考えられ,本稿での処方方法は広く応用の効くものと思われる.以上から白内障術後に眼鏡の使用を望まない白内障術後の単焦点IOL眼に対して多焦点SCLは試みるべき有用な矯正方法の一つであると考えられる.文献1)塩谷浩,梶田雅義:眼内レンズ挿入眼への遠近両用ソフトコンタクトレンズの処方例.日コレ誌57:164-167,20152)塩谷浩:私の処方私の治療第21回眼内レンズ挿入眼への遠近両用ソフトコンタクトレンズの処方例.日コレ誌57:191-194,20153)塩谷浩:遠近両用コンタクトレンズの処方.日コレ誌52:47-51,20104)塩谷浩:遠近両用ソフトコンタクトレンズの処方テクニック.あたらしい眼科30:1363-1368,2013

ソフト系多焦点コンタクトレンズの応用(眼精疲労)

2016年8月31日 水曜日

特集●完全攻略・多焦点コンタクトレンズあたらしい眼科33(8):1139?1144,2016ソフト系多焦点コンタクトレンズの応用(眼精疲労)ApplicationofMultifocalSoftContactLenses(Asthenopia)梶田雅義*はじめに生体の組織のなかで疲れやすいのは筋肉である.眼にはピント合わせを司る毛様体筋と眼球運動を司る外眼筋がある.どちらの筋疲労も眼の疲れとして現れる.情報過密時代を迎えた現代では,至るところに情報源があり,小型精細化された携帯端末画面は毛様体筋に大きな負担をかけている.I調節機能正視眼は毛様体筋が弛緩した状態で無限遠にピントが合っている.そのままでは近くにピントは合わない.しかし実際には,近くを見ようとすれば,近くにもピントが合う.この現象を調節という.正視眼は若いときには調節力が豊富にあるので,遠方から近方まで自由に明視することができる.調節の機序は,毛様体筋が弛緩しているときには,毛様体筋の内側と水晶体の周囲に付着しているZinn小帯に張力が加わり,水晶体は円盤状に扁平化され,水晶体屈折力を減らしている.毛様体筋の緊張に応じて,Zinn小帯の張力が減少し,円盤状の水晶体はその厚みを増して,水晶体屈折力を強め,見たい距離にピントが合うように調整される.水晶体?は加齢に伴い,弾性が低下するため,年齢とともに近くにピントが合いにくくなり,水晶体の変形を維持するためには毛様体筋は若いときよりも持続して大きな力を発揮しなければならなくなる.近い距離を見れば見るほど,年齢が高くなれば高くなるほど,近くにピントを合わせるときにかかる毛様体筋への負担は大きくなり,疲れやすくなる.II毛様体筋の疲労近くを見続けると毛様体筋の緊張が持続し,毛様体筋に疲労が生じる1).1.近くを見続けることによる毛様体筋の疲労ハンディースクリーンゲームを30分間見続けたときの自覚症状と他覚的所見の調査を行ったことがある2).?0.75Dの近視過矯正の状態を検眼枠で準備して,22~28歳の健常成人16名にハンディースクリーンゲームを30分間行わせた.その前後に調節機能解析装置(NIDEK社製AA-1)を用いて,調節の状態を記録した.利き目の調節微動の高周波数成分(highfrequencycomponents:HFC値)を比較したところ,HFC値は3名で減少し,1名は不変,12名で増加していた(図1).同時にアンケート調査も行ったが,HFC値の増減は眼の疲れの自覚症状とよく相関していた.近方視作業を持続することによって,毛様体筋に負担がかかり,眼の疲労が生じたと考えられる.作業前後の他覚的屈折値の変化と調節反応量の変化には有意な差を認めなかった.2.累進屈折力レンズ眼鏡による眼精疲労の軽減3)眼の疲労を自覚しているVDT(visualdisplayterminals)作業者20名25~47歳(35.3±6.6歳)に,加入度数+1.00Dの累進屈折力レンズ眼鏡(ニコン・エシロール社製リラクシー)を常用してもらい,装用開始前と装用開始4週後にNIDEK社製AA-1を用いて調査を行った.他覚的屈折値と調節反応量には統計学的な有意差を認めなかったが,HFC値は減少しており,統計学的にも有意な差(p=0.01)を認めた(図2).アンケート調査でも眼の疲れが改善したという回答とHFC値の減少はよく相関していた.3.単焦点と累進屈折力ハードコンタクトレンズ(HCL)装用による眼精疲労の比較正常成人13名(26~38歳,平均31.8歳)に症例ごとに同じベースカーブで,単焦点HCLと基本度数が同一の累進屈折力HCL(HOYA社製マルチビューEXライト)をそれぞれ2週間装用した前後の調節機能を観察した.試験終了後に被験者に今後も継続して使用したいHCLを選択させたところ,13名中4名が累進屈折力HCLを選択した.単焦点HCLを選択したグループと累進屈折力HCLを選択したグループのHFC値を比較すると,単焦点レンズを選択したグループでは試験前と単焦点HCLおよび累進屈折力HCL装用後のHFC値にほとんど変化を認めなかったのに対して,累進屈折力HCLを選択したグループでは試験前のHFC値が高く,単焦点HCLでやや減少し,累進屈折力HCL装用後にはさらに減少していた(図3).HFC値の減少はアンケートによる自覚症状ともよく一致していた.累進屈折力HCLが毛様体筋疲労を軽減することが明らかになった.試験前,筆者は全例が単焦点HCLのほうを選択するだろうと予測していたが,およそ30%もの対象が累進屈折力HCLを選択したのは驚きだった.毛様体筋に負担をかけない矯正が快適な視力を提供することを改めて認識させられた試験であった.4.単焦点と多焦点ソフトコンタクトレンズ(SCL)装用による眼精疲労の比較長時間の近見作業で眼に疲れを自覚しているSCL装用者19名(平均36±4歳)に同じ素材で作製された単焦点SCLと基本度数が同一で加入度数が+0.50Dの多焦点SCL(メニコン社製デュオ)を,それぞれ2週間クロスオーバーで装用した前後の調節機能を観察した.クロスオーバー時には1週間のウォッシュアウト期間を設けた.アンケート結果では近業時の疲労に統計学的に有意な改善が得られた(表1)が,症例を一括処理したときの他覚所見には有意な差は認められなかった(表2).しかし,検査が夕刻の時間帯に行われていた対象だけに限定して集計したところ,HFC値に有意な差が認められ(表3),多焦点SCLが夕刻に生じる毛様体筋疲労を軽減していることが示唆された.近方視が多い現代社会において,眼精疲労の原因になる毛様体筋の疲労を軽減するために,累進屈折力レンズ眼鏡や遠近両用CLの処方は有効な手段である.III眼精疲労を軽減するCLの処方テクニック1.対象の選び方①近方視作業が多い35歳以上で,肩こりや頭痛などを伴う眼精疲労を自覚しているCL装用者②眼に疲れを訴える25歳以上,中等度未満の近視で,近業時は裸眼で過ごしているCL処方希望者③眼精疲労を訴える25歳以上で近視過矯正のCLを使用しており,適性度数では遠方の見え方に不満を訴える例など,基本的に眼の疲れや眼精疲労を自覚しているCLユーザーが対象になる.2.遠近両用CLの選び方現在利用できる遠近CLのタイプは図4に示す4種類と考えるとよい.しかし,このタイプ分類は筆者が臨床上の印象から分類しているもので,他から提供されているものではない.a.二重焦点タイプ単焦点の遠用度数と単焦点の近用度数がしっかり提供されている.遠方と近方は比較的鮮明に見えるが,調節力がほとんどない眼では,中間距離が不鮮明になる.b.二重焦点移行部累進タイプ単焦点の遠用度数と単焦点の近用度数の間に累進的に変化する度数が存在する.二重焦点タイプよりも遠方と近方の鮮明さは劣るが,中間距離は二重焦点タイプに勝る.c.累進屈折力タイプ度数が累進的に変化している.距離によって鮮明さに変化が少ないので,遠方の鮮明さは単焦点CLにわずかに劣るものの,近方視は単焦点CLに勝る.加入度数が大きくないもので少し進行した老視に対応するためには変則モノビジョンも有効である.d.累進複合タイプ遠用累進部と近方累進部があり,その間を累進的に繋いでいる移行部がある.遠方も近方も中間距離もそれなりに鮮明に見える.中間距離の見え方がもっとも安定して見えるタイプである.遠用部と近用部の配分によって,矯正度数の効き方が異なる印象がある.IV症例呈示症例149歳,女性.職業:事務職.主訴:眼の疲れ,肩こり.使用中のSCL度数は右S?5.00D,左S?5.50Dであった.眼鏡による適正矯正度数を求めると,両眼視力1.2×[右S?5.00D,左S?5.25D]であった.若干過矯正であったことから,遠方が見やすい累進屈折力タイプを選択し,適正矯正度数を頂間距離補正した右S?4.75D,左S?5.00Dを試し装用した.両眼遠方視力=1.2,両眼近方視力=1.0(40cm視力表).これまでより遠くの見え方は少し劣るが不満はなく,手元は見やすくなった.以前から続いていた肩こりがなくなった.解説:CLによる矯正は眼鏡による矯正よりも周辺視野の歪みが少ない.過矯正にされても見え方に対する違和感が少ないため,過矯正になりやすい.近視過矯正の症例には適正矯正を提供するだけでも,疲労が改善することも少なくないが,過矯正に慣れた眼は,適正矯正では遠方視に不満を訴えることが多い.このような場合,遠方矯正には完全矯正からやや過矯正を提供し,遠近両用CLを処方することで,遠方視に対する不満を最小限に抑えて,毛様体筋にかかる負担を抑えることができるため,眼精疲労の改善に役立つ.症例243歳,男性.職業:システムエンジニア.主訴:眼の疲労感頭痛,肩こり.使用中のSCL度数は右S?7.00D,左S?8.50Dであった.眼鏡による適正矯正度数を求めると両眼視力1.2×[右S?8.25D,左S?10.25D]であった.この度数をCL度数に換算(頂間距離補正)すると,右?7.50D,左?9.00Dである.低矯正にして疲れの対策を行っていたとのことである.PC作業が多いため,中間距離が見やすい累進複合タイプを試した.両眼遠方視力=1.2,両眼近方視力=1.2(40cm視力表).遠くもすっきり見え,眼の疲れも肩こりもなくなった.解説:初期老視を迎えた事務作業者の中には,遠方視力が良好な度数のCLで疲れを自覚しているため,度数を弱くして,初期老視による疲れ対策を行っていることも少なくない.しかし,度数を弱くしたCLでは,近方作業では毛様体筋にかかる負担が弱くなり,疲労は少なくなる.しかし,遠くをよく見ようとしてもよく見えないので,ピントを合わせようと毛様体筋に緊張が強まり,かえって疲れやすくなることも少なくない.遠近両用CLを用いると遠方視力をそれほど低下させずに,近方視時にかかる毛様体筋の負担を減じることができるので,眼精疲労の発症を予防できる.症例352歳,女性.主婦.主訴:遠近両用SCLを試したい,肩こり.常用眼鏡は使用したことがなく,近方視のために両S+1.50Dの老眼鏡を使用していた.眼鏡による適正矯正度数を求めると両眼視力1.2×[右S+0.50D,左S+0.75D]であった.SCLの経験はないが,遠視眼は適正矯正度数では満足しない近視の過矯正例と同等に扱うことができるので,累進複合タイプで試した.遠方視力を壊さないように,遠近SCLの度数は右±0.00D,左+0.25Dを採用し,加入度数はMid(+1.75D)を装用した.両眼遠方視力=1.2,両眼近方視力=1.0(40cm視力表).遠くは裸眼に少し劣るが,眼の周囲の違和感がなくなり,肩も軽くなった.解説:遠視眼は一般に眼がよいと思っている例が多いので,矯正を勧めるのがむずかしい.とくにプラス度数の眼鏡レンズは拡大して見えることに加えて,周辺視野の歪みも強い.老眼鏡では近くはよく見えるが,疲れ対策にはならない.遠視眼の眼精疲労の治療は遠視を確実に矯正することが必要である.裸眼視力が良好な遠視では完全矯正の度数では遠方の見え方に不満が出ることも多いので,わずかに低矯正にして,遠近両用CLを処方するのが望ましい.遠視眼ではCLの装用を拒絶されることもあるが,ひとたび装用してしまうと,その快適さに感動して,継続装用に至ることも少なくない.なお,遠方視力がすでに低下している遠視眼では,遠視の低矯正では近方視が足りず,加入度数を強くすれば視力の質が低下するので,処方に失敗することがある.遠方視力が低下している遠視では遠方視力が裸眼よりもわずかに良好な程度まで遠用遠視度数を強めて,加入度数の低い遠近両用SCLを勧めるのが,処方成功のコツである.症例432歳,女性.職業:事務職.主訴:CLを使用したい,眼の奥の痛み.日常は裸眼で過ごしており,眼鏡は遠くを見るときのみに使用している.視力は右0.3(1.2×?1.75D),左0.2(1.2×?2.00D),所持眼鏡度数は右?2.50D,左?2.75Dであった.眼鏡を常用できないのは,近視過矯正の眼鏡のためと考えられた.単焦点SCL,右?1.75D,左?2.00Dを装用したが,よく見えないとのことであった.度数を右?2.00D,左?2.25Dにすると遠くは見えるが,手元を見るのが辛い.累進屈折力タイプで,右?2.00Dadd+1.50D,左?2.25Dadd+1.50Dを装用したところ,遠くも近くにも満足が得られた.1週間後の受診時には,以前から続いていた眼の奥の痛みは消退していた.解説:25歳を過ぎた年齢で,1日の多くを裸眼で過ごしている軽度~中等度の近視は,単焦点CLで処方すると疲労がさらにひどくなることが多い.この疲労は使用開始直後に現れることは少なく,装用開始直後にはすごく快適に感じるようであるが,3~6カ月経過した頃から以前よりもひどい疲労が再発してくることが多いので注意が必要である.裸眼で過ごしているときには,遠くがよく見えないので,作業中よりも作業をしていないときの眼の疲れを訴えていることが多い.このような場合,若くても遠近両用CLを処方することで遠くがよく見えるようになり,これまであった眼の疲れは改善し,近くを見るときには毛様体筋にかかる負担が少なくてすむので,眼精疲労の発症を予防することができる.おわりに中高齢者の眼精疲労の原因は初期老視の放置あるいは不適切な対応にある.初期老視の対応は近方視力だけでなく,日常視でもっとも頻繁に注視する1m前後の距離で毛様体筋に負担をかけない矯正が眼精疲労を予防する.また,比較的若い世代の眼精疲労の多くは遠視の未矯正と近視の過矯正例であり,適正矯正度数では遠方視力に不満が生じ,満足が得られる矯正度数を提供すれば,遠視は低矯正,近視は過矯正になり毛様体筋の疲労は必発である.ピント合わせのためにかかる毛様体筋の緊張を軽減するために遠近両用CLが有用である.文献1)梶田雅義:屈折矯正における調節機能の役割─臨床から学んだ眼精疲労の正体─.視覚の科学33:138-146,20122)梶田雅義:IT機器使用による調節機能変化の検討.日本眼科医会IT眼症と環境因子研究班業績集100-103,2002-20043)梶田雅義:VDT作業者の近々累進屈折力レンズ常用の臨床評価.日本眼科医会IT眼症と環境因子研究班業績集104-108,2002-2004*MasayoshiKajita:梶田眼科〔別刷請求先〕梶田雅義:〒108-0023東京都港区芝浦3-6-3協栄ビル4F梶田眼科0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(57)1139図1ハンディースクリーンゲーム操作前後のHFC値の変化近視過矯正の眼鏡を装用して30分間ハンディースクリーンゲームを操作した後には,HFC値が3名では減少,1名は不変,12名では増加していた.近方視を持続することによってHFC値が増加することが示唆された.図2VDT作業者の累進屈折力レンズ眼鏡使用によるHFC値の変化眼精疲労を自覚しているVDT作業者に累進屈折力レンズ眼鏡を4週間常用してもらったところ,4週後にはHFC値の有意な低下を認めた.毛様体筋の疲労を軽減できることが示唆された.1140あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(58)図3累進屈折力HCLによるHFC値の変化単焦点ハードレンズの装用継続を希望した被験者のFk-mapを平均(上段)すると,これまで装用していたレンズ,単焦点レンズおよび累進屈折力レンズで大きな変化は認めなかったが,累進屈折力ハードレンズの装用継続を希望した被患者のFk-mapの平均(下段)では,これまで装用していたレンズ,単焦点レンズ,累進屈折力レンズの順に,HFC値が減少していた.表1多焦点SCLと単焦点SCLの疲れに対するアンケート結果(n=19)表2全対象を一括処理したときのHFC値(n=19)(59)あたらしい眼科Vol.33,No.8,20161141表3夕刻に測定した対象のみのHFC値(n=7)図4遠近両用SCLのタイプ別イメージ1142あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(60)(61)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611431144あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(62)

ソフト系多焦点コンタクトレンズの処方法(症例呈示)

2016年8月31日 水曜日

特集●完全攻略・多焦点コンタクトレンズあたらしい眼科33(8):1131?1138,2016ソフト系多焦点コンタクトレンズの処方法(症例呈示)PrescriptiononMaltifocalSoftContactLenses─CasePresentations─植田喜一*はじめにわが国の構造的な問題として少子高齢化があるが,コンタクトレンズ(contactlens:CL)装用者においても高齢化が進んでいる.仕事やプライベートでパソコン,スマートフォンなどのデジタル機器を使用することが多くなり,遠方だけでなく,中間距離,近方の見え方が大切になってきた.老視の進行によりCLの装用をやめる者がいるが,適切な遠近両用CLを選択し,うまく合わせれば,快適な見え方を提供できることがある.本稿では2週間頻回交換タイプの多焦点ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)の処方法について概説する.I適応医学的な適応は通常の単焦点SCLと同様であるが,調節機能の補正を目的とした多焦点レンズの特徴を理解したうえで,処方しやすい症例とむずかしい症例を知っておくとよい.単焦点SCLの装用者が近見障害を訴えた場合に,多焦点SCLの処方を考える.これまでCLを使用したことのない人でも,乱視のためSCLでは十分な矯正視力が得られない場合を除けば,一度は多焦点SCLを試してみるとよい.しかし,多焦点SCLは眼鏡や多焦点ハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)に比べると明らかに見え方が劣るため,見え方に対する要求度の高い人や,長時間の近業をする人は多焦点SCLに満足しないことがある.単焦点SCLではそれぞれ遠方,近方に合わせれば,遠方,近方ともに眼鏡と同等の見え方が得られるが,多焦点SCLでは収差が増大するため見え方の質が低下する.とくに暗所の見え方が悪くなるので,夜間の車の運転に支障をきたすことがある.裸眼で遠方がよく見えている弱度遠視眼や正視眼,裸眼で近方がよく見えている軽度近視眼,使用している単焦点CLあるいは眼鏡が過矯正の近視眼などでは見え方に満足しないことがある.こうした場合には単焦点SCLの上から必要に応じて近方または遠方の眼鏡をかける,多焦点HCLに変更する,CLの装用をあきらめて遠近両用眼鏡を処方するといった他の矯正手段を選ばざるを得ないことがある.一方,遠方の見え方に不自由をきたした遠視眼はもっともよい適応で,多焦点SCLを処方すると近方だけでなく遠方の見え方にも満足することが多い.II種類1.素材ヒドロキシエチルメタクリレート(hydroxyethlmethacrylate:HEMA)を主体としたハイドロゲルレンズとシリコーンハイドロゲルレンズがある.2.光学部多焦点CLは光学部の焦点あるいは屈折力から,二重焦点と累進屈折力に分けられる.二重焦点レンズは1枚のレンズに2つの異なる屈折力(度数)をもたせて,遠方と近方に焦点を合わせる.累進屈折力レンズは1枚のレンズに中心から周辺に向けて連続して累進的に度数をもたせているので遠方から近方までの境目のない見え方が得られやすい1~3).以前は累進多焦点レンズといわれていたが,焦点がたくさん存在するのではなく,加入度数が徐々に変化していることから累進屈折力レンズと表現するようになった.多焦点HCLは中心部が遠用光学部で周辺部が近用光学部であるが,多焦点SCLは中心部が遠用光学部で周辺部が近用光学部のタイプと,逆に中心部が近用光学部で周辺部が遠用光学部のタイプがある1~3).III製品の選択高い酸素透過性,乾燥しにくいなどの利点からシリコーンハイドロゲル素材の製品を選択することが多い.調節力の低下が進んだ患者では,二重焦点レンズを選択すると中間距離が見えにくいと訴えることがあるので,累進屈折力レンズを第一選択とすることが多い.しかしながら,調節力の低下が著しくない軽度の老視眼に二重焦点レンズをうまくフィットさせると見え方の満足度は高い.中心遠用・周辺近用は遠方重視,中心近用・周辺遠用は近方重視と考えるが,実際には必ずしもそのようにはならない.二重焦点レンズ,累進屈折力レンズについては製品によって,その光学部の配置,屈折力分布が異なり,そのレンズデザインが見え方に影響を及ぼすので,実際に装着してみないとわからない.各製品の屈折力分布を知っておくと,患者の要求に沿った製品を選択するのに役立つ1~3)(図1).なお,製品によって提供される球面度数,加入度数の範囲が異なるので,これらを把握しておく必要がある.各製品の主な特徴を表1に示す.IVトライアルレンズの選択1.遠用度数遠用度数は自覚的屈折値の角膜頂点間距離補正をして得られた球面度数のプラス側の度数(少なくとも+1.00D強い度数)を選択する.これは雲霧状態にして近視の過矯正,遠視の低矯正を防ぐための方法である.2.近用加入度数近用加入度数が高いと収差が増大するため,見え方の鮮明度は低下する.したがって,最初のトライアルレンズは近用加入度数が低いものが無難である.Vトライアルレンズのフィッティング多焦点SCLの光学部は同心円であるが,通常の瞳孔反応で遠用光学部と近用光学部の両方が瞳孔領を覆うようにデザインされているため,瞳孔の中心とレンズの中心が一致しないと十分な矯正効果が得られない.したがって,レンズのフィッティングが良好で動きが過度にならないようにフィットさせなければならないが,タイトフィットになると角結膜障害を生じるので注意をはらう.良好なフィッティングを得るためには,適正なレンズのサイズ,ベースカーブを選択しなければならないが,2週間頻回交換タイプの多焦点SCLでは変更することができない製品がほとんどなので,うまくフィットしなければ他製品を試してみる.なお,瞳孔の位置や大きさ,照度や近見に伴う瞳孔径の変化には個人差があることも考慮して,各症例にもっとも適するレンズデザインを有する製品を選択する.VIトライアルレンズの追加矯正(遠用度数と近用加入度数の決定)まず患者の作業距離での近方の見え方を確認した後に,遠方の見え方をチェックする.この逆(遠方の見え方を確認した後に近方の見え方をチェックする)をするとうまくいかない.近方の見え方は30cm視力表を用いるのではなく,日頃,使用している新聞紙,スマートフォンなどを,遠方の見え方は5m視力表よりも壁の時計,カレンダー,ポスター,窓の外の風景などを見せるとよい.近方の見え方が不十分であれば,さらに強いプラスの遠用度数のトライアルレンズを選択して,しばらく雲霧状態にしておく.その後,近方の見え方に満足するかを確認する.遠方の見え方が悪ければ遠用度数をマイナスのものに変更するが,その際もまず近方の見え方を確認した後に遠方の見え方をチェックする.単焦点SCLの遠用度数を決定する場合,自覚的屈折値を角膜頂点間補正してプラス度数を加えたトライアルレンズに検眼レンズ(マイナスレンズ)で追加矯正をする(プラスレンズを使用しない).追加矯正の際にプラスの検眼レンズを追加しなければならなかったということは,トライアルレンズが近視過矯正,遠視低矯正であったことを意味するので,強いプラス度数のトライアルレンズに変えて雲霧状態にする必要がある.しばらく経過した後にあらためて検眼レンズ(マイナスレンズ)で追加矯正する.同様に多焦点SCLの遠用度数の決定においても検眼レンズによる追加矯正の際,マイナス度数を加えることがあっても,プラス度数を加えることは不適当である.各メーカーの処方マニュアルには近方が見づらかった場合にプラスの検眼レンズで追加矯正をして調整するという手順が述べられていることがあるが,不適正だと考える.重ねて述べるが,追加矯正にはプラスの検眼レンズは使用しないほうがよい.これらの追加矯正で近方,遠方ともに満足のいく見え方が得られないようであれば,近用加入度数を強くして,同様の追加矯正を行う.VIIモノビジョン遠用度数と近用加入度数を変えても,近方,遠方の見え方に満足しない場合にはモノビジョンを検討する4~6).1.遠用度数によるモノビジョン一般に利き目は遠方重視,非利き目は近方重視にする.2.近用加入度数によるモノビジョン遠用度数によるモノビジョンでうまくいかない場合には近用加入度数によるモノビジョンを行う.一般に利き目には低い近用加入度数,非利き目には強い近用加入度数のものを選択する.3.異なるレンズデザインによるモノビジョン一般に利き目には遠用重視タイプ,非利き目には近用重視タイプのレンズデザインを選択する.上述したように光学部の配置や屈折力分布で見え方が異なるので,実際に種々の製品を装着してトライアンドエラーを繰り返す必要がある.上記の具体的な症例については,『あたらしい眼科』(Vol.31,No.52016)の特集「屈折と調節アップデート」の中の「コンタクトレンズによる調節機能の再建」に解説しているので参考にしていただきたい.VIII症例呈示現在,市販されている5製品のシリコーンハイドロゲル素材の多焦点SCLのうち,4製品を使用した症例を以下に記す.1.エアオプティクスRアクア遠近両用症例:53歳,女性2週間頻回交換タイプの単焦点SCLを使用していたが,近くが見えにくくなったので,このレンズに変更した.近くは見えやすくなった.当初は遠くは少しだぶって見えたが,徐々に慣れてとくに不自由なく過ごしている.遠方視力右眼(1.0×多焦点SCL)遠用度数:?4.00D左眼(1.0×多焦点SCL)遠用度数:?4.00D両眼(1.0×多焦点SCL)近方視力右眼(0.7×多焦点SCL)近用加入度数:LowAdd左眼(0.7×多焦点SCL)近用加入度数:LowAdd両眼(0.8×多焦点SCL)レンズ中心が近用,レンズ周辺が遠用の多焦点SCLである(図2).中間ゾーンの度数移行部の収差を有効活用し,調節力の不足を補っている.近用加入度数は3種類(LO/MED/HI)あるため,幅広い老視患者に対応できる.多焦点SCLの製品のなかでも酸素透過率は高く,独自のレンズ表面処理によって,親水性,対汚染性を高めている.2.メダリストRフレッシュフィットRコンフォートモイストR遠近両用症例:64歳,女性49歳の頃から1日使い捨てタイプの多焦点SCLを使用していたが,近くが見づらくなったので,加入度数の強いこのレンズに変更した.近方の見え方は良くなった.遠方視力右眼(1.0×多焦点SCL)遠用度数:+3.50D左眼(1.0×多焦点SCL)遠用度数:+2.75D両眼(1.0×多焦点SCL)近方視力右眼(0.6×多焦点SCL)近用加入度数:HighAdd左眼(0.6×多焦点SCL)近用加入度数:HighAdd両眼(0.7×多焦点SCL)中心近用累進型の多焦点SCLである.累進設計ではあるが,光学部は近用,中間距離用,遠用の3つの領域に分かれ,中間距離に対する部分が比較的広い(図3).光学部は波面解析技術を応用して設計されている.屋内で中間距離のものを見る機会が多い患者には,遠方や近方だけでなく中間距離の見え方に対する評価が高い.本製品は同社の従来品より薄型化されたため装用感が改善されている.3.バイオフィニティRマルチフォーカル症例:55歳,女性2週間頻回交換タイプの多焦点SCLを使用していたが,装用感が少し悪かったので,このレンズを試したところ,装用感が改善したので変更した.遠方の見え方は良いが,近方の見え方が少し悪い.しかしながら,日常生活にはそれほど不自由していない.遠方視力右眼(1.0×多焦点SCL)遠用度数:?4.00D左眼(1.0×多焦点SCL)遠用度数:?4.00D両眼(1.5×多焦点SCL)近方視力右眼(0.7×多焦点SCL)近用加入度数:+1.00D左眼(0.7×多焦点SCL)近用加入度数:+1.00D両眼(0.7×多焦点SCL)レンズ中心遠用(球面設計)とレンズ周辺近用(球面設計)に非球面設計の中間移行部を組み合わせた多焦点SCLである(図4).遠用・近用光学部がそれぞれ球面設計なので,遠方・近方ともに見え方はよい.非球面設計の中間移行部が中間距離を見やすくしている.この製品に使用される長いシリコーンモノマーは効率的に酸素を透過するので,少ないシリコーン成分でも十分に角膜に酸素を供給できる.一方,シリコーン成分が少ないということは含水率を高くすることができるので,柔らかく装用感が良好である.素材そのものを親水化しているので,表面処理や内部湿潤剤を用いるなどの工夫をしていない.4.2WEEKメニコン遠近両用症例:56歳,女性2週間頻回交換タイプの従来素材の多焦点SCLを使用していたが,遠方,近方の見え方は満足しているものの目が乾くので,シリコーン素材のこのレンズに変更した.乾燥感はあまり気にならなくなり,見え方も良くなった.遠方視力右眼(1.0×多焦点SCL)遠用度数:?6.50D左眼(1.0×多焦点SCL)遠用度数:?6.50D両眼(1.2×多焦点SCL)近方視力右眼(0.9×多焦点SCL)近用加入度数:+2.00D(HIデザイン)左眼(0.9×多焦点SCL)近用加入度数:+2.00D(LOWデザイン)両眼(1.0×多焦点SCL)低加入度のLOWデザインには累進屈折力型の光学部同心円(コンセントリック)デザインを,高加入度のHIデザインには二重焦点型の光学部偏心(ディセンター)デザインを採用している(図5).初期老視から比較的軽度な老視の患者には低加入度のLOWデザインの累進屈折力型を,中等度以上の老視の患者には高加入度のHIデザインの二重焦点型を処方する.LOWデザイン,HIデザインともに,レンズ光学部中心に近用度数,周辺に遠用度数を配しているが,輻輳による縮瞳を考慮して,近方視の際によりレンズ中心部の度数が有効に働くように設計されている(図6).現在市販されている遠近両用SCLのなかでもっとも高い酸素透過率を示している.さらにプラズマ表面処理により,脂質,蛋白質,化粧品の汚れがつきにくい.遠用度数は+5.00Dから?13.00Dまでと広い範囲で提供されている.おわりに目の安全性,快適性,利便性を考えると,1日使い捨てタイプを選択したいが,シリコーンハイドロゲル素材のものは製品化されていない.したがって,シリコーンハイドロゲル素材を選択するとなると2週間頻回交換タイプとなる.現在,シリコーンハイドロゲル素材の多焦点SCLは5つの製品があるが,それぞれの特徴を知っておくとよい.一方,2週間頻回交換タイプにはハイドロゲル素材の製品が多種あるので,これらもいろいろと試して患者の要望にかなう製品を選択し,眼表面にうまくフィットするように処方することが大切である.2週間頻回交換タイプはケアを必要とするが,ケアが不適正だと眼障害が生じる.ブリスターケースを開封してレンズ使用を始めたら,必ず2週間までに使用を終えることと,洗浄・消毒効果の高いケア製品を用いて,レンズを使用後と使用前の2度こすり洗いをすることに加えて,レンズケースを衛生的に管理することなどを詳しく説明する必要がある.文献1)植田喜一:コンタクトレンズにおける屈折矯正の基本.あたらしい眼科27:723-735,20102)植田喜一:コンタクトレンズによる老視治療.あたらしい眼科28:623-631,20113)植田喜一:遠近両用ソフトコンタクトレンズの特性.あたらしい眼科18:435-446,20014)植田喜一:コンタクトレンズにおけるMonovision.日本眼内レンズ屈折手術学会誌18:110-117,20045)植田喜一:コンタクトレンズとモノビジョン.日本眼内レンズ屈折手術学会誌21:27-66,20076)植田喜一:コンタクトレンズによる調節機能の再建.あたらしい眼科31:667-674,2014*KiichiUeda:ウエダ眼科〔別刷請求先〕植田喜一:〒751-0872山口県下関市秋根南町1-1-15ウエダ眼科0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(49)1131図1多焦点SCLの屈折力分布のイメージ図(ロート製薬提供)1132あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(50)表1おもな2週間頻回交換タイプの多焦点SCLメーカーレンズ名二重焦点or累進屈折力光学部加入度数装用スケジュール素材クーパービジョンジャパンバイオフィニティマルチフォーカル累進屈折力中心遠用周辺近用+1.00D+1.50D2週間頻回交換シリコーンハイドロゲル日本アルコンエアオプティクスアクア遠近両用累進屈折力中心近用周辺遠用+1.00D+2.00D+2.50D2週間頻回交換シリコーンハイドロゲルボシュロムメダリストフレッシュフィットコンフォートモイスト遠近両用累進屈折力中心近用周辺遠用+1.50D+2.50D2週間頻回交換シリコーンハイドロゲルボシュロムボシュロムメダリストプレミアマルチフォーカル累進屈折力中心近用周辺遠用+1.50D+2.50D2週間頻回交換シリコーンハイドロゲルメニコン2WEEKプレミオ遠近両用Lowデザイン累進屈折力中心近用周辺遠用+1.00D2週間頻回交換シリコーンHighデザインハイドロゲル二重焦点中心近用周辺遠用+2.00Dシードシード2weekpureマルチステージ二重焦点中心遠用周辺近用+0.75D+1.50D2週間頻回交換ハイドロゲルメニコン2WEEKメニコンデュオ二重焦点中心遠用周辺近用+0.50D2週間頻回交換ハイドロゲルメニコン2WEEKメニコン遠近両用二重焦点中心近用周辺遠用+2.50D2週間頻回交換ハイドロゲルボシュロムボシュロムメダリストマルチフォーカル累進屈折力中心近用周辺遠用+1.50D+2.50D2週間頻回交換ハイドロゲル図1多焦点SCLの屈折力分布のイメージ図(ロート製薬提供)1132あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(50)(51)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611331134あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(52)図2エアオプティクスRアクア遠近両用のデザイン(日本アルコン提供)図3メダリストRフレッシュフィットRコンフォートモイストR遠近両用のデザイン(ボシュロム・ジャパン提供)(53)あたらしい眼科Vol.33,No.8,20161135図4バイオフィニティRマルチフォーカルのデザイン(クーパービジョン・ジャパン提供)1136あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(54)図52WEEKメニコン遠近両用のデザイン(メニコン提供)図62WEEKメニコン遠近両用のディセンターデザイン(メニコン提供)(55)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611371138あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(56)

1日使い捨て型多焦点コンタクトレンズの処方法(症例呈示)

2016年8月31日 水曜日

特集●完全攻略・多焦点コンタクトレンズあたらしい眼科33(8):1121?1129,20161日使い捨て型多焦点コンタクトレンズの処方法(症例呈示)DailyDisposableMultifocalLens─CasePresentations─岩崎直樹*はじめに多焦点コンタクトレンズは長い間定期交換型のみであったが,ようやく各社から1日使い捨て型が発売され,その特徴が理解されつつある.今回,最近の当院での1日使い捨て型多焦点コンタクトレンズ(ワンデーマルチタイプと略)の実際の症例を呈示し,現在当院で処方しているフィッターの意見も聞き,各レンズの特色について考えてみる.最初に市場に出たのは,チバビジョン社(現アルコン)のフォーカスプログレッシブであった.しかしあまりに遠見に傾いた仕様で近見が見えず,当院では導入しなかった.その後ワンデーピュアマルチステージ(シード)が発売され,ようやく実用的な遠見・近見バランスの1日使い捨てが出たと喜んだものである.そのあとに出たプロクリアワンデーマルチフォーカル(クーパービジョン)は,より高次で遠見・近見のバランスが得られ,現在の当院でのファーストチョイスになっている.昨年発表されたワンデーアキュビューモイストマルチフォーカル(ジュンソン・エンド・ジョンソン)は,後でも述べるが当院での完全矯正値から?0.50~?0.75D追加矯正しないと遠見・近見のバランスが取れにくいので,少し使いにくい印象をもっている.以下に,症例を呈示して,よい適応の症例,むずかしい症例,他のタイプからの変更などについて解説する.症例1CLを中止していたが,ワンデーマルチタイプを初めてしてみたい46歳,男性.H28.1.19初診主訴:CLの再使用をしたいずっと使い捨てSCLをしてきたが,乾燥感と近見視力不良がいやで1年半前に中止してしまった.今回多焦点CLを試してみたい.もしうまくできればCLをメインに使いたいとの希望であった.現症:遠見RV=1.2×S?4.75DRT=15mmHgLV=1.2×S?4.00DLT=18mmHg近見NRV=1.2×S?3.25DNLV=1.2×S?2.50Dケラト値R8.24mm/143°8.13mm/53°L8.26mm/170°8.15mm/80°当院で現在標準のプロクリアワンデーマルチフォーカルでまずトライしてみた.遠用度数は完全矯正から一段落としてトライした.加入は近見視力をしっかり見せることを考え,mediumadditionである+1.50Dを選んだ.1回目処方プロクリアワンデーマルチフォーカルR870/?4.50/+1.50addRV=1.0L870/?3.75/+1.50addLV=1.0近見両眼視NBV=0.8近見視力は両眼でしか測定しない.モノビジョンを取り入れることも多く,片眼ずつは見ないようにしてもらうためである.本人にも「片眼ずつで比べないでください」と指示しておく.これでまず1カ月トライすることを勧めた.装用テストだけではわからず,実用してもらって2~4週間やってもらわないとわからないことが多いからである.1カ月後(H28.2.25)再診近くがもう少し見えたほうが良いとのこと.RV=1.2p×jSCL(本人SCL),LV=1.2×jSCL,NBV=0.3×jSCL初診時より遠見がきくようになっているが,近見が弱い.RV=1.0×jSCL×S+0.50DLV=1.0×jSCL×S+0.75Dこの状態(右0.50D,左0.75Dパワーダウン)で近見両眼視力0.6.これで行けそうだとのことであった.2回目処方プロクリアワンデーマルチフォーカルR870/?4.00/+1.50addL870/?3.00/+1.50add2カ月後(H28.4.7)再診この度数で快調に使えるとのこと.RV=1.0LV=1.0BV=1.2pNBV=0.8p再処方時より近見が上がっている.これで3カ月分購入することにした.症例1まとめ初回に大丈夫だと思っていても,見え方に慣れてくると遠見もしくは近見に不自由を感じることはよく経験する.また,2回目受診と3回目受診のように,慣れてくると近くが見やすくなることも経験する.処方は一発では決まらず,最低1回は処方変更がいるものだと思って取り組むべきだと思う.症例2遠視眼に老視が出て,メガネにも慣れず,つらい52歳,女性.H26.7.17初診主訴:遠視のCL希望若いときはよく見えていたが,40歳代から遠視で老眼が早く出てつらい.そのうえに最近遠くも見えない.5年前に当院を受診したとき遠視のコンタクトレンズで幸せになるかもといわれたので,一度試してみたい.カラコンの経験はありとのことであった.現症:遠見RV=0.4(1.2×S+3.75D=C?0.50DAx120°)RT=15mmHgLV=0.3(1.0p×S+3.50D)LT=14mmHg近見NRV=0.4(1.0×S+5.25D=C?0.50DAx120°)NLV=0.4(1.0×S+5.00D)ケラト値R7.42mm/169°7.36mm/79°L7.50mm/22°87.23mm/112°遠視の人は,遠視部分だけをしっかり単焦点レンズで矯正するだけでも,遠近とも見やすくなりかなり幸せになれる可能性が高い.しかし,近見がつらいためCL装脱がむずかしく,装脱練習がしっかりできるかがキーポイントとなる.まず近用眼鏡をかけた状態でCLを指に乗せ,その状態で眼鏡を外し,片眼に装用してもらう.片眼が入ればその目で近見できるため,もう一つのCLを入れるのはむずかしくないはずである.時間をかけて「ここさえ乗り切ったら,すごく便利な世界が待っていますよ」と励まして,装用できるように努力してもらう.これも当院標準のプロクリアワンデーマルチフォーカルを使用し,遠視なので完全矯正値でパワーを入れ,加入は近見視力をしっかり見せることを考え,mediumadditionである+1.50Dを選ぶ.1回目処方プロクリアワンデーマルチフォーカルR870/+3.75/+1.50addRV=1.2R<=GL870/+3.75/+1.50addLV=1.0pR<=GBV=1.2近見両眼視力NBV=0.9近見視力は両眼でしか測定しないのは症例1と同じである.少しグリーン気味で遠視低矯正だが,ファーストトライはこの程度にしておくほうが成功しやすい.6カ月後(H27.2.24)再診少し近くが見にくいが,遠くはよく見えるとのこと.今はこれくらいでよい.12カ月後(H27.9.8)再診近くが少し見にくいとのことであった.このような時はまずしっかり遠見,近見とも再矯正して,元の屈折状態を確認してから度数を変更してゆくことを考える.基礎の度数がしっかり確定していなければ,その上からいくら追加しても訳がわかからなくなりやすい.遠見再矯正するとRV=0.1(1.0×S+4.50D=C?0.75DAx100°)LV=0.2(0.8×S+4.25D)近見再矯正ではNRV=0.2(1.0×S+7.00D)NLV=0.2(1.0×S+7.00D)12カ月で遠視が+0.75D上がっており,加入度数も上がっていたが,まず全体に遠視をアップさせてみる.元の+3.75Dに+0.75D追加した+4.50Dでトライ.2回目処方プロクリアワンデーマルチフォーカルR870/+4.50/+1.50addRV=1.0L870/+4.50/+1.50addLV=0.8近見両眼視力NBV=0.6これで遠見/近見とも改善した.18カ月後の平成28.4.18にも再診したが,この度数で満足しているとのことだった.症例2まとめ遠視の人に使い捨てレンズを勧めて喜ばれることはよく経験する.今まで眼鏡なしで見えていた人が,遠見も近見も眼鏡がいるので非常に不自由だと言われる.この症例のように乱視がなく,かつ遠視が強ければ,より成功率が高いと考えられる.症例3ワンデーマルチレンズ,各種の見え方の差53歳,女性.H26.6.10初診主訴:もう少し遠くが見えるワンデーマルチ希望今までデイリーズプログレッシブを使用していたが,もう少し遠くが見えるワンデーマルチがあれば変更したい.事務職でVDTが多く,今までのCLは手元重視で合わせていた.しかし,車の運転もあるので,もう少し遠くが見たいとのことであった.現症:遠見RV=1.2×S?5.50DRT=15mmHgLV=1.2×S?7.75DLT=16mmHg近見NRV=1.0×S?4.00DNLV=1.0×S?5.00D現用CL:フォーカスプログレッシブR?4.25Dadd+3.00DRV=0.7L?5.75Dadd+3.00DLV=0.8p多焦点CLは,CLの規格にある近視度数や加入度数はあくまで参考程度であり,CLの種類が変わると同じ近視度数でも遠近のバランスが変わると考えておいたほうがよい.当然眼鏡矯正とは頂間補正をせねばならないが,実際の見え方はトライアルを入れてみないとわからない.ちなみにここからの症例ではケラト値は入っていない.これはワンデーマルチが各社ともワンカーブで選択の余地がないこと,フィッティングが悪いことをまず経験しないからである.まずプロクリアマルチフォーカルをテストしてみる.加入度数はまず+1.50Dで固定し,遠近のバランスのよい度数を探すとR870/?4.25/+1.50addでRV=0.8L870/?6.50/+1.50addでLV=0.7NBV=0.8となった.つぎにワンデーピュアマルチステージをテスト.同様に加入を+1.50Dで固定し,遠近バランスを見るとR880/?4.75/+1.50addでRV=0.8pL880/?6.50/+1.50addでLV=0.8pNBV=0.6となった.しかし,本人からは「ワンデーピュアマルチステージの方が遠見,近見ともぶれて見える」とのことだった.1回目処方プロクリアマルチフォーカルR870/?4.25/+1.50addL870/?6.50/+1.50add1カ月購入して使用してもらうことにした.1カ月後(H26.7.9)再診左眼がより遠くが見える.右がくもる感じがするが,夕方になると取れる.近くはよく見えている.右が優位眼である.上記処方レンズでRV=1.0pLV=1.2pNBV=0.81カ月で見え方に慣れて,遠見,近見とも見えてきている.優位眼の右の遠見が見えにくいのが問題かと思われたが,RV=1.2×jSCL×S?0.25DLV=1.2pNBV=0.8pと右一段アップすると近くが見づらいため,このままの度数を使用することにした.症例3まとめ各社のワンデーマルチは遠近のバランスが各々異なり,また規格通りの度数ではないことも多く,実際に装用させてみないとわからない.その後この症例は,1年後により遠見を重視して右だけパワーアップしたCLに変更している.症例2でも同様だが,1~2年で度数を変更しないといけないことも多いので,こまめなチェックが必要である.症例4ワンデーアキュビューモイストマルチフォーカルを使用した症例53歳,女性.H27.12.11初診主訴:花粉症の時期にワンデーマルチを使いたい今まで単焦点ハードコンタクトレンズを使用していたが,毎年花粉症が出るので,その時期にワンデータイプを使いたい.できればこの機会に遠近両用もトライしてみたいとのことであった.現症:遠見RV=1.2×S?8.50DRT=14mmHgLV=1.2×S?9.50D=C?1.00DAx100°LT=15mmHg近見NRV=1.0×S?4.00DNLV=1.0×S?5.00D現用CL:シードスーパーHiO2R770/?7.50/9.0RV=1.2L770/?8.75/9.0LV=1.0NRV=0.5×HCL(1.0×HCL×S+2.00D)NLV=0.4×HCL(1.0×HCL×S+2.00D)一度ワンデーマルチを使いたいとのことで,新しく出たワンデーアキュビューモイストマルチフォーカルを試していただくことにした.院内で処方トライアルを行ってみると,当院では?0.25??0.50D強くパワーを入れないと遠見・近見ともに見えにくいことが明らかになったため,S面の度数を強くしてトライアルを行った.R840/?8.00D+1.75D(medium)add(S面?0.50Dup)にてRV=1.0L840/?9.00D+1.75D(medium)add(S面?0.25Dup)にてLV=0.9上記レンズにてBV=1.2p,NBV=0.81回目処方ワンデーアキュビューモイストマルチフォーカルR:840/?8.00D+1.75DaddL:840/?9.00D+1.75DaddHCLばかりだったので,SCLの装脱練習も行った.1カ月後(H28.1.25)再診遠近の見え方は大丈夫だが,装脱がまだむずかしい.HCLが主だが,週2日くらいワンデーマルチを使っている.4カ月後(H28.4.25)再診ワンデーマルチは遠くが見えにくい.でも快適なのはワンデーマルチ>ハードレンズのため,だんだんSCLが多くなってきた.症例4まとめ新製品,ワンデーアキュビューモイストマルチフォーカルを使用してみた症例である.当院での完全矯正からすると,最初に現用のレンズより?0.25Dから?0.50D,場合によっては?0.75D強めに処方するとよいようである.これは各クリニックにより異なるようで,他の医療機関ではこのような補正をしなくても良かったという所もあったと聞いている.症例5少しの混合性乱視で多焦点SCLがうまく適合した症例.最近ワンデーアキュビューモイストマルチフォーカルに転換49歳,女性.H22.7.15初診主訴:遠くも近くも見にくい.CLで何とかできないか今までは近用眼鏡だけで遠くは見えていた.しかし,遠くが見にくくなり,近くもつらいい.コンタクトレンズで何とかできないかみてほしいとのことであった.現症:遠見RV=0.4(1.5×S+0.50D=C?1.25DAx100°)RT=16mmHgLV=0.5(1.2×S+0.50D=C?1.00DAx90°)LT=17mmHg近見NRV=0.2(1.0×S+2.00D=C?1.25DAx100°)NLV=0.2(1.0×S+2.00D=C?1.00DAx90°)乱視のため遠近とも見にくくなっており,普通なら乱視矯正+上から近用眼鏡,もしくはモノビジョンでと考えるところだが,CLだけで何とかしてほしいとのことなので,球面のみのマルチフォーカルCLでトライしてみる.乱視による最小錯乱円により偽調節ができることがあり,それでトライしてみた.右が効き目で,パートに行ったときのレジ打ちができてかつ遠くが見えたいとのことだった.エアオプティクスアクアマルチフォーカル(2週間交換型)R860/+0.25D+2.00D(medium)addL860/+0.25D+2.00D(medium)addこれでRV=1.0LV=1.0BV=1.2NBV=0.8pを得たため,まず処方してみることになった.1回目処方エアオプティクスアクアマルチフォーカルR870/+0.25/+2.00addL870/+0.25/+2.00addその後,このCLで遠近の見え方には満足して購入し続けていたが,異物感とかゆみが出てきたためH24.9.24にワンデーマルチへの変更を希望して再診した.RV=0.8(1.5×S+0.50D=C?1.00DAx100°)LV=0.7(1.2×S+0.75D=C?1.25DAx90°)ほとんど等価球面は0Dになっていたため,ワンデーピュアマルチステージでB880/0D+1.50DaddRV=1.0LV=1.0NBV=0.8となり満足が得られた.2回目処方ワンデーピュアマルチステージB880/0D+1.50Dadd2年後再診H27.5.14ワンデーピュアマスチステージでは少し遠方のぼけが気になるようになった,他のメーカーではどうか試したいとのことであった.RV=0.9(1.5×S+0.50D=C?1.00DAx100°)LV=0.8(1.2×S+0.50D=C?1.00DAx80°)NRV=0.2(1.0×S+2.50D=C?0.75DAx100°)NLV=0.1(1.0×S+2.50D=C?0.75DAx90°)最初の処方から5年たっており,加入が+1.50Dから+2.00Dにアップしている.調べてみると優位眼は左になっていた.プロクリアマルチフォーカルでトライしてみる.R860/+0.50D+1.50DaddL860/+0.50D+1.50DaddRV=1.0LV=1.0NBV=0.71カ月後H27.6.9まだ近くが見づらいとのこと.優位眼の左を+0.5Dアップして,より近見に合わせてみる.L860/+1.00Dadd+1.50これでRV=1.0LV=0.6まで左の遠見は落ちるが,NBV=0.9pまで上がってこれならOKとのことだった.3回目処方プロクリアワンデーマルチフォーカルR860/+0.50Dadd+1.50L860/+1.00Dadd+1.50H27.12.17再診仕事上もう少し近くが見えたい.屈折状態はH27.5とほとんど変わらない.他メーカーに変わってもOKとのことで,新レンズ,ワンデーアキュビューモイストマルチフォーカルをトライ.だいたい?0.5D前後マイナスに出やすく,highaddがけっこう遠近とも見えるのでそれでトライしてみた.R840/0D+2.50D(Highadd)RV=0.9pL840/0D+2.50D(Highadd)LV=0.9pBV=0.9NBV=0.9これで近見もみやすい.遠くは少し見にくいが,仕事上近見重視なので大丈夫だとのこと.4回目処方ワンデーアキュビューモイストマルチフォーカルR840/0D+2.50D(Highadd)L840/0D+2.50D(Highadd)症例5まとめ1D程度の混合性乱視で,ほとんど0Dのワンデーマルチにて遠近とも満足が得られた.5年たち,全体に遠視方向にずらしたり,加入度数を上げることで何とか使用しつづけられている.細かいフォローアップが必要で,手間がかかるのだが,一度多焦点レンズを導入した患者は,そのクリニックを離れないといわれており,手間をかけてあげる価値はあると思われる.症例6多焦点HCLから,眼瞼下垂にてワンデーマルチに転換した症例52歳,女性.H28.1.14再診主訴:現用のHCLで近くが見にくくなってきた今まで右単焦点,左遠近両用HCLで過ごしてきたが,近くが見にくくなってきたとのことであった.現症:遠見RV=(1.2×S?4.25D=C?1.00DAx55°)LV=(1.2×S?3.25D=C?0.75DAx115°)現用HCLRシードs?HiO2810/?4.25/8.8RV=0.7(H22.11作製)L東レプレリーナII815/?3.25/9.3LV=1.0(H23.10作製)NBV=0.6本人はあまり気づいていないが,HCLによる眼瞼下垂が発生してきており,SCL化がベターと医師が判断し勧めた.HCLの装用にて角膜形状が変わっていて,SCLにすると乱視が強くなる可能性や度数が変わる可能性は,納得してもらったうえで処方を開始した.当院標準のプロクリアワンデーマルチフォーカルにてトライアル.S面のパワーは等価球面を基本に遠近のバランスを見ながら調整してみたところ,R870/?4.50+1.50addRV=1.0L870/?3.00+1.50addLV=1.0BV=1.2NBV=0.8p装脱練習が可能であることを確認して,1週間後再診を勧めた.上記のようにHCLではSCLに転換したときに乱視変動の可能性があるからである.1週間後再診H28.1.21もう少し近くが見えるほうがよいとのこと.Rは上から+0.50D負荷しても遠方視力はBV=1.0で近見が0.9まで上がったため,それで処方とする1回目処方プロクリアワンデーマルチフォーカルR870/?4.00+1.50addL870/?3.00+1.50add2カ月後再診H28.3.28眼鏡も遠用,近用別々に作ってみたが,実際にはSCL:遠用眼鏡:近用眼鏡=7:2:1くらいの割合で使用している.HCLのときと比べても,ワンデーマルチのほうが快適で楽に使えるとのことであった.症例6まとめそれまで片眼だけ遠近両用HCL,もう片眼は単焦点で遠見用のHCLを使用していた患者に,ワンデーマルチを使用してもらうことで,装用感,遠近バランスとも改善した症例である.それまでHCLだった患者でも,ワンデーマルチにしてあげることで,「こんなに今のソフトレンズって楽なんですね.知らなかった」と感謝されることを経験する.症例7近見障害に対しさまざまなアプローチを行い,ワンデーマルチに落ち着いた症例53歳,女性.H25.2.5再診主訴:HCLから1日使い捨てタイプに変えたい平成14年以前からずっとHCLを装用してきた.ドライアイ+通年性アレルギー性結膜炎もあり,点眼治療も行ってきた.巨大乳頭性結膜炎はない.今回HCLを紛失したので,以前,一度処方してもらったワンデーアキュビューモイストを入れてみると,快調で見やすかったため,そちらに変えてみたいとのことであった.現症:遠見RV=(1.2×S?1.50D)LV=(1.2×S?1.25D)ワンデーアキュビューモイストR850/?1.50/14.2RV=1.2pL850/?1.00/14.2LV=1.2pNBV=0.8pベースに通年性アレルギーがあり,悪化時に処方した1日使い捨てタイプが快調とのことで,そちらの処方を希望した.1回目処方ワンデーアキュビューモイストR850/?1.50/14.2L850/?1.00/14.215カ月後再診H26.5.16ずっと上記レンズで乾燥感などはあるものの使用できていた.しかし,最近VDTが1日中になり,眼の疲れと眼窩痛が強くなってきた.RV=1.2P×上記SCLLV=1.2p×上記SCLNBV=0.7まず上から近用眼鏡を使用することを勧めるが,耳や鼻の高さの違いにより,眼鏡をかけるのは困難だとのことであった.優位眼は左とのことだったので,右眼のSCLを外してそちらを近用とするモノビジョンができないか,もしくは右眼にも左眼と同じ-1.00Dを入れて近くが楽にならないか,試用してもらうことにした.それから4カ月後再診H26.9.3左右同じ?1.00Dにすると人の顔が見えない.近見もあまりよくならない.左眼だけに入れるモノビジョンも気持ち悪くなりできない.近用眼鏡もかけると当たって耳が痛くなる.他の方法はないとのことであった.多焦点SCLしかないので,ワンデーピュアマルチステージにてトライ.モノビジョンなどでもむずかしかったとのことで,加入は低めからトライしてみた.R880/?1.25D+0.75D(low)addRV=0.9L880/?1.00D+0.75D(Low)addLV=0.9BV=1.0NBV=0.9p両眼?0.25Dづつ上げるとBV=1.2pNBV=0.8pのため,上記でトライした.2回目処方ワンデーピュアマルチステージR880/?1.25D+0.75D(low)addL880/?1.00D+0.75D(Low)addその後は右が遠方が見えにくいという不満が時々あり,そのたびに右を?0.25Dから?0.75D上げたレンズをトライアルでお渡ししていたが,結局近くの見え方が落ちてしまうためこのままの度数で使用していた.1年後(H27.8.31)には,加入度数を上げたR880/?1.50D+1.50DaddRV=0.6L880/?1.00D/+1.50DaddLV=0.7NBV=0.7のトライアルをお渡しした.ワンデーマルチ開始後15カ月H27.11.24やはり右張り付き感などあり調子が悪い.上記の加入度数を上げたものトライしたが,遠くが見にくいのが嫌だとのことだった.本人から「右だけ?0.25D上げたものが一番よかったかも」との申し出があり,それで処方となった.3回目処方ワンデーピュアマルチステージR880/?1.50D+0.75D(low)addL880/?1.00D+0.75D(Low)addこれで,RV=0.7LV=0.7NBV=0.8程度であるが,平成28.5.23の再診時も含めてこの処方で使用している.症例7まとめワンデーマルチへの導入は53歳,その後の微調整は53~56歳であり,通常ならmediumaddが普通の年代である.しかし加入度数を上げると遠近とも見にくくなり,また左右差を気にするうえにモノビジョンが使えないので非常に困難な症例である.最初にモノビジョンをトライしたために,逆に左右差を気にするようになってしまい,より処方を困難にしてしまった.ワンデーマルチを使用するときは,このように0.25Dの差でも満足/不満足が変わることがあるので,実に細かくみて行く必要がある.この患者は網膜格子状変性があり,6カ月に一度定期散瞳をしていたため,逆に細かくフォローできた症例である.このように症例をみてみると,実に多彩かつ多岐にわたりいろいろなトライアルがなされているのに改めて驚かされる.当院のフィッター諸君には感謝してもしすぎることはないであろう.この場を借りて感謝の意を表したい.これらの症例から得られることをまとめてみると,1)近見視力はかならず両眼解放で測定し,患者本人には「左右の見え方を比べないでください」といっておく.左右に差をつけて,モノビジョンを取り入れるときに妨げになるからである.2)トライアルは数枚ではなく,1カ月購入してもらうつもりで行う.遠近バランスを変えたときに,それに慣れるのに2?4週間かかるからである.数枚渡すだけでは症例7のように受診する度にコロコロ意見が変わってしまう.3)1~2年で加入度数が上がり,処方も変わっていく可能性が高い.4)0.25Dの差の大切さを知る.それにより遠見/近見のバランスは大きく変わることがある.5)遠視の人が初めてワンデーマルチを装用するには,装用練習が大変であるが,それを乗り越えても得るものは大きいので,励ましつつ使用を勧める.6)当院では,現在プロクリアワンデーマルチフォーカルのmediumadd(+1.50D)がファーストチョイスになっている.ワンデーピュアマルチステージは,lowaddやhighaddを使う場合には有効だが,一般的なmediumaddはプロクリアワンデーマルチフォーカルに分がある.新登場のワンデーアキュビューモイストマルチフォーカルは,球面度数が?0.25D~?0.75D強くなることが多いため,使いにくい印象である.7)少し(1D程度)の乱視だと,それがうまく偽調節につながり,球面のみのワンデーマルチでも成功することがある.8)ハードレンズの単焦点/多焦点レンズでも,ワンデーマルチに変更したほうが異物感や乾燥感が軽減し,快調に使える場合がある.ただし,これは症例6,7ではSCLのほうが快調だったが,逆にHCLのほうが視力の質がよいためそのままHCLになる場合もあるため,症例により異なると考えている.症例により,実に細かくフォローしながら処方を変更していっていることわかっていただけたと思う.はっきりいって「面倒くさいなあ」と思われるかも知れないが,うまく行ったときの患者,そして処方医師の満足度は大きい.最後にもう一度強調しておくが,一度多焦点レンズを導入した患者は,そのクリニックを離れないといわれており,手間をかけてあげる価値はあると思われる.これら症例を皆様の処方に役立てていただければ幸いである.*NaokiIwasaki:イワサキ眼科医院〔別刷請求先〕岩崎直樹:〒542-0085大阪市中央区心斉橋筋1-4-27イワサキ眼科医院0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(39)11211122あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(40)(41)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611231124あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(42)(43)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611251126あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(44)(45)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611271128あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(46)(47)あたらしい眼科Vol.33,No.8,20161129

多焦点ハードコンタクトレンズの処方法(症例呈示)

2016年8月31日 水曜日

特集●完全攻略・多焦点コンタクトレンズあたらしい眼科33(8):1113?1120,2016多焦点ハードコンタクトレンズの処方法(症例呈示)PrescriptionofMultifocalHardContactLenses─CasePresentations─樋口裕彦*I老視に対するコンタクトレンズ処方すでにコンタクトレンズ(contactlens:CL)を装用している,またはこれからCLの装用を希望している患者が,加齢に伴う近見障害を訴えた場合には,遠方に対する屈折矯正に加えて,老視への対策を考える必要がある.CLによる老視対策にはいくつかの方法がある(表1).それぞれ一長一短があり,たとえば眼鏡を装用したくない患者に眼鏡の併用は勧めがたいし,車の運転を行うなど遠見視力が重要な患者に,低矯正のCLを処方することはむずかしい.モノビジョンは,両眼視機能を極端に低下させると,眼精疲労や不快感の原因となるため,両眼での明視域を一定以上確保する必要があり,老視が進行した患者には限界がある.どの方法で,老視対策を行うかはそれぞれの矯正法の利点・欠点を説明したうえで決定する.II多焦点ハードコンタクトレンズの適応多焦点CLの適応と決まったら,つぎにハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)を選択するか,ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)を選択するかを決定する.原則的には,それまでHCLを装用してきた患者には多焦点HCLを選択し,SCLを装用してきた患者には多焦点SCLを選択する.CL初装用の患者には,通常多焦点SCLを選択するが,乱視が強い例や多焦点SCLで見え方に満足できないケースでは,多焦点HCLも考慮する.III多焦点ハードコンタクトレンズの種類と特徴多焦点HCLの種類と特徴について,簡単に触れておく.現在日本で処方可能な多焦点HCLは,同心円型のみである.最近まで,セグメント型のレンズも発売されていたが,2013年7月に販売終了となっている.同心円型は,屈折力(焦点)の面から二重焦点型と累進屈折力型に分類され,光学的機能の面からは交代視型と同時視型に分類される(表2).二重焦点型は中心部に遠用光学部,その周辺に同心円状に近用光学部が配置されており,正面視では瞳孔領を覆っているレンズ中心の遠用光学部で遠方視を可能とし,視線を下方に移動して,下眼瞼縁でレンズを押し上げ,周辺部の近用光学部が瞳孔領を覆うことにより近方視を可能とする.この型のレンズは,遠用光学部と近用光学部の間に移行部がないため,遠見も近見も累進屈折力型に比べて比較的クリアな像を得やすい.一方で,遠用光学部と近用光学部の境界で像のジャンプが生じることや,近方を見るときには視線の移動を必要とするなど,装用には慣れが必要であるうえ,中間距離の作業には不向きである.累進屈折力型は,レンズの前面または後面を非球面デザインとすることにより,レンズの中心部の遠用光学部から周辺部の近用光学部の間にかけて近用度数が累進的に加入される移行部(中間距離用光学部)をもつ.この型のレンズの多くはデザイン的には同時視型と考えられるが,二重焦点型と同様に下方視をしたときにはレンズが下眼瞼縁によって押し上げられ,移行部~近用光学部が瞳孔領を覆うことになるので,同時視型と交代視型の複合型と考えたほうが理解しやすい.累進屈折力型は,遠用光学部と近用光学部の境界で像のジャンプが生じないうえ,遠方から中間距離,近方に至るまで連続的に見ることが可能である反面,交代視型に比べてゴースト像を自覚しやすいなど,像の鮮明度が劣るほか,瞳孔の大きさが見え方に影響しやすい欠点がある.IV多焦点ハードコンタクトレンズの処方の実際1.処方を開始する前に患者は,過度の期待をしていることも少なくないため,あらかじめ多焦点HCLの特徴(利点や欠点)をよく説明しておく.とくにそれまで単焦点CLを過矯正で装用してきたような症例では,見え方の要求度が高く,処方に苦労することが少なくない.ひとつのCLのみで,遠方と近方が見える大きな利点がある一方,単焦点HCLと比べれば,遠見・近見それぞれの見え方は低下すること,明るい所と暗い所では見え方が異なること,交代視型のレンズに関しては,遠近両用眼鏡と同様に視線の移動が必要なこと,強い老視の場合は満足が得られない場合もあることなどを,事前にお話ししておく.2.トライアルレンズの選択前述したように,現在処方可能な多焦点HCLは同心円型のみである.二重焦点型,累進屈折力型いずれのレンズを処方する場合においても,処方の成否を決定するもっとも重要なポイントは,レンズの光学的な特性上,最終的にレンズの動きが適正で大きすぎず,またセンタリングが良好なフィッティングが得られるかどうかである.そのためには,デザインの異なった複数のブランドのトライアルレンズを用意しておくことが必要である.筆者の場合,トライアルレンズは,まず累進屈折力型を選択する.累進屈折力型は,前述したように像のジャンプが生じないうえ,遠方から中間距離,近方に至るまで連続的に見ることが可能であり,また同時視型であれば視線の移動をしなくてもある程度近方の視力も得られるなど,見え方が比較的自然である反面,二重焦点型に比べて像の鮮明度が劣る弱点がある.累進屈折力型の像の鮮明度に満足できない場合は,二重焦点型のレンズを選択する.ただし二重焦点型は,近方を見るときには視線の移動を必要とするほか,中間距離の作業を希望する患者からは,満足が得られない場合も少なくない.もし,どうしても良好なセンタリングが得にくい場合には,二重焦点型よりはセンタリングが多少不良でも見え方に影響が出にくい累進屈折力型を選択するほうが,まだ患者の満足を得られる可能性が高い.Basecurve(BC)の選択にあたっては,単焦点HCLと同様にフィッティングマニュアルを参考にファーストトライアルを行い,フルオレセインパターンとレンズの動きを見てトライアルアンドエラーを繰り返しながら決定していく.後面非球面設計のレンズも多いが,このような場合にはそれまで装用していた単焦点球面HCLのBCはあまり参考にならないことが多いので,処方するレンズのデザインの特徴をあらかじめよく把握しておくことが必要である.また,レンズのセンタリングを重視するあまり,かなりスティープに処方されている症例をときどき見かけるが,原則的には単焦点HCL処方を行うときと同様,十分な涙液交換が可能なパラレルフィッティングを得られるBCの選択をめざす.装用したトライアルレンズがパラレルフィッティングであるにもかかわらず良好なセンタリングが得られなかったり,瞬目に伴う動きが大きすぎるなどの問題があり,レンズサイズを変更しても満足する結果が得られない場合は,レンズのブランドを変更して再度トライアルを行う.レンズの静止位置が上方や下方に偏位する場合には,加工が可能なメーカーのレンズであれば,ベベル(ベベル幅やエッジリフト)の修正やMZ加工(レンズのフロント周辺部に溝をつける方法)1),フロントカット(レンズのフロント周辺部を削って厚みを薄くする方法)2)などを用いて,センタリングを改善することも可能である.また,多焦点HCLは,遠用部と近用部の領域を広くするためと,レンズのセンタリングを良好にするために,単焦点HCLに比べて標準サイズのレンズ径が9.0~9.8mmと大きいものがほとんどである.径の大きなレンズを処方すると,加齢などとともに涙液分泌の低下が目立つ症例では,視力的には満足が得られても後から乾燥感や充血の訴えが出る可能性が高くなるので,注意を要する.加入度数に関しては,多焦点HCLの場合,高加入度数になると近用光学部のみならず遠用光学部のデザインも変わるため,遠方視力が変化してしまうことが多い.二重焦点型(交代視型)では像のジャンプが起こりやすくなり,累進屈折力型(交代視型,同時視型)ではゴースト像を自覚しやすくなるなど,見え方の質が不良となりやすい.したがって,できるだけ+1.00D~+1.50Dなどの低加入度数から試して行くのが処方成功への近道である.実際球面度数が適切であれば,低加入度数でも,かなりの年齢までカバーできることが多い.3.遠用度数と加入度数の決定,視力検査時における注意点球面度数と加入度数の決定に際して重要なことが二つある.一つは,患者には最終的には両眼での見え方で判断してもらうようにあらかじめ説明をしておくことと,もう一つは,球面度数を決して過矯正にしないことである.多焦点HCLの処方に際しては,患者の片眼視ではなく両眼視で,遠方視・中間視・近方視ともに患者の満足が得られる度数を探すことが重要なのである.さらにいえば,患者にとって重要なのは,5mや30cmの近見視力表での数字化された視力ではなく,実生活上で見たいものが見えるかどうかである.球面度数の決定は,単焦点HCLの場合と大きな差はなく,トライアルレンズ上から追加矯正を行い,角膜頂点間距離補正を行ったうえで決定する.ここで念頭に置いておかなければならないことは,多焦点HCLの場合は,遠方視力を測定しているときにも,その見え方は近用光学部の影響を受けるため,単焦点HCLに比べて見え方の質はどうしても劣ってしまう.そのため,漫然と追加矯正を行っていると,患者がクリアな見え方を追い求めていくうちに過矯正(近視眼の場合)になってしまう場合が少なくない.球面度数を過矯正にしてしまうと,今度は近方が見づらくなるため,加入度数を増やさざるを得なくなり,結果として前述したごとくゴースト像を自覚するなど見え方の質が低下し,遠方視についても近方視についても患者の満足が得られないという最悪の事態に陥ってしまう.したがって,球面度数を決定するときに過矯正は禁物である.追加矯正を行うときには,近視眼の場合は低矯正,遠視眼の場合は過矯正から追加矯正を行い,矯正視力で良好な視力(1.0~1.2)が得られた時点で,一回患者に両眼での見え方を体感してもらうようにするとよい.遠用度数と加入度数が仮決定したら,両眼で近方の見え方を確認する.両眼視力を含めて視力の測定も行うが,実際に患者が実生活上で見たいと考えているもの(新聞,文庫本,スマホなどの現物)で見え方を確認してもらうとよい.レンズのフィッティングが良好であり,遠用度数が過矯正になっていないにもかかわらず,両眼での近方の見え方に不満が出るようであれば,次項に示す手順で加入度数を強めることも考慮する.近方の見え方に満足が得られたら,今度は両眼で再度遠方の見え方を確認する.遠方の両眼視力を測定するとともに,近方同様患者に院内で実際に時計や掲示板の文字や窓からの景色などで,中間距離を含めて遠方の見え方を確認する.遠近とも見え方に満足が得られれば,その度数を処方度数と決定する.4.度数調整ここで,遠方の見え方に満足が得られない場合には,原則的にまず優位眼の球面度数を0.25Dマイナス側に追加補正を行う.両眼視での遠方視に満足が得られ,近方視にも問題がなければ,その度数を処方度数と決定し,遠方の見え方に満足が得られなければ,つぎに両眼の球面度数を0.25Dマイナス側に追加補正を行い,両眼視での遠方視と近方視の満足度を確認する.両眼に0.25D球面度数の追加矯正を行っても遠方の見え方に満足が得られなければ,同様の順番で追加補正を行うが,球面度数を過矯正にしてしまえば,前述したように,遠方視,近方視共に患者の満足が得られないという事態に陥りかねないので,追加矯正は慎重に行う.遠方視には満足が得られたにもかかわらず,近方視に満足が得られない場合には,遠方視のときとは逆に,非優位眼,両眼の順番でまず球面度数をプラス側に補正する.それでも満足が得られない場合,もしくは近方視に満足が得られても今度は遠方視に不満が出た場合には,球面度数は元に戻したうえで,非優位眼,両眼の順番で加入度数を強め,必要に応じて球面度数の調整を行う.これらの方法を行っても遠見もしくは近見またはその両方の見え方に満足が得られなければ,異なったブランドのトライアルを行う.近方の見え方には満足が得られるが,遠方の見え方にどうしても満足が得られないような場合には,優位眼に単焦点HCLを遠見重視に合わせ,非優位眼に多焦点HCLを合わせるモディファイド・モノビジョン法を考えるか,他の老視対策法などを再度検討する.V症例呈示症例152歳,女性.事務職.自動車の運転(?).それまでも多焦点HCLを使用していたが,調子が悪いとのことで当院を受診.使用レンズの持参なし.遠方視力:Vd=0.09(1.2×?4.00D)Vs=0.1(1.2×?4.50D)近方視力:NVd=(1.0×?2.50D)NVs=(1.0×?3.00D)ケラト値:R)7.61mm/7.41mm(7.51mm)L)7.68mm/7.49mm(7.58mm)綿糸法:R)10mmL)12mm処方データ:サンコンタクトレンズ社サンコンマイルドII(バイフォーカルタイプ)R)7.60/?3.25add+1.50/8.8Vd=1.2×HCL,NVd=1.0×HCLL)7.70/?3.50add+1.50/8.8Vs=1.2×HCL,NVs=1.0×HCLBV=1.2×HCL,NBV=1.0×HCL処方したサンコンマイルドII(バイフォーカルタイプ)のレンズデータを表3に示す.レンズの動きは良好で,静止位置は,右眼はやや鼻側,左眼はわずかに耳側だが,おおむねセンタリングも良好(図1),フルオレセインパターンはパラレルフィッティング(図2)である.患者は6年半経過した現在も遠見,近見とも良好な視力を保っており,非常に満足されている.サンコンタクトレンズ社のレンズは,ベベル修正やMZ加工,フロントカットなどレンズ加工の注文に応じてもらえるため,トライアルレンズでセンタリングが不良であっても,処方レンズでは加工を加えることによって改善させることも可能である.症例255歳,女性.医師.自動車の運転(+).それまで当院で処方した単焦点HCLを使用していたが,近方が見えにくいとのことで多焦点HCLの処方を希望された.使用コンタクトレンズでの視力:Vd=(1.2×735/?4.25/8.8)NVd=0.3p×HCLVs=(1.2×735/?4.75/8.8)NVs=0.3p×HCL遠方視力:Vd=0.08(1.2×?5.00D)Vs=0.08(1.2×?6.00D)近方視力:NVd=(1.0×?3.00D)NVs=(1.0×?4.00D)ケラト値:R)7.38mm/7.04mm(7.21mm)L)7.36mm/7.14mm(7.25mm)綿糸法:R)16mmL)16mm処方データ:サンコンタクトレンズ社サンコンマイルドII(バイフォーカルタイプ)R)7.30/?3.50add+1.50/8.8Vd=1.2×HCL,NVd=0.9×HCLL)7.35/?4.50add+1.50/8.8Vs=1.0×HCL,NVs=0.9×HCLBV=1.2×HCL,NBV=1.0p×HCLレンズの動きは良好で,センタリングは非常に良好(図3),フルオレセインパターンはパラレルフィッティング(図4)である.患者は1年半経過した現在も遠見,近見とも良好な視力を保っており,非常に満足されている.症例348歳,男性.システムエンジニア.自動車の運転(+).それまでも他院で処方されていた多焦点HCLを使用していたが,破損してしまったとのことで,当院での多焦点HCLの処方を希望された.初診時は眼鏡での受診であった.遠方視力:Vd=0.07(1.2×?2.50D(cyl?1.50DAx120°)Vs=0.08(1.2p×?2.25D(cyl?1.00DAx40°)近方視力:NVd=(0.9×?1.00D(cyl?1.50DAx120°)NVs=(1.0×?0.50D(cyl?1.00DAx40°)ケラト値:R)7.79mm/7.40mm(7.60mm)L)7.83mm/7.43mm(7.63mm)綿糸法:R)15mmL)10mm処方データ:メニコン社メニフォーカルZR)7.70/?3.25add+1.00/9.8Vd=1.2×HCL,NVd=1.0×HCLL)7.80/?2.25add+1.00/9.8Vs=1.2×HCL,NVs=0.9p×HCLBV=1.2×HCL,NBV=1.0×HCL処方したメニフォーカルZのレンズデータを表4に示す.6年経過した現在,会員制システムによる定期交換や破損,紛失による再処方など7回の処方を経て,現在は,R)7.80/?2.50add+1.50/9.8Vd=1.2×HCL,NVd=1.0×HCLL)7.90/?1.50add+1.50/9.8Vs=1.2×HCL,NVs=1.0×HCLBV=1.2×HCL,NBV=1.0×HCLを装用中であるが,センタリングは非常に良好(図5),フルオレセインパターンはパラレルフィッティング(図6)である.患者は遠見,近見とも良好な視力を保っており,非常に満足されている.おわりに多焦点HCLの処方は,ハードルが高いと考えている先生方がおられるかもしれない.しかし,HCLの処方が普通にできる先生にとっては,センタリングの重要性,球面度数を過矯正にしない,できるだけ低加入度数から試す,追加矯正の順番など基本的なポイントが身に付いていれば,決して処方はむずかしくない.処方が成功したときの患者の喜びも大きいので,積極的に試みていただきたい.文献1)小玉裕司:角膜形状とハードコンタクトレンズフィッティング.日コレ誌53:74-81,20112)小玉裕司:22ハードコンタクトレンズの修正とは?コンタクトレンズフィッティングテクニック.p65-67,メディカル葵出版,東京,2005表1コンタクトレンズによる老視対策①単焦点CLと眼鏡の併用1)単焦点CLを遠見重視に処方し,近見時にCL上用の近用眼鏡を併用2)単焦点CLを近見重視に処方し,遠見時にCL上用の遠用眼鏡を併用②単焦点CLで遠見をやや低矯正に処方し,近見視力を向上させる③単焦点CLによるモノビジョン(片眼=通常優位眼を遠見に,もう片眼を近見に合わせて処方する)④遠用度数,近用度数のCLの状況による使い分け⑤多焦点CLの処方*HirohikoHiguchi:ひぐち眼科〔別刷請求先〕樋口裕彦:〒180-0004東京都武蔵野市吉祥寺本町1-8-3ダイヤガイビル4Fひぐち眼科0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(31)1113表2多焦点ハードコンタクトレンズの分類形状,デザイン屈折力(焦点)光学的機能セグメント型二重焦点型交代視型同心円型二重焦点型交代視型累進屈折力型同時視型(交代視型)現在セグメント型のレンズは販売されていない.1114あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(32)(33)あたらしい眼科Vol.33,No.8,20161115表3サンコンマイルドII(バイフォーカルタイプ)のレンズデータデザイン製法材質Dk値中心厚(mm)BC(mm)遠用度数(D)加入度数(D)レンズ径(mm)同心円型(累進屈折力型)レースカットデキストランエステル,メチルメタクルレート,メタクリル酸,ジメタクリル酸エステル12.10.157.00?8.50(0.05間隔)+5.00??20.00(0.25間隔)+1.50,+2.508.81116あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(34)図1症例1のレンズ静止位置右眼はやや鼻側,左眼はわずかに耳側だが,おおむねセンタリングは良好である.図2症例1のフルオレセインパターンパラレルフィッティングを示す.図3症例2のレンズ静止位置左眼はやや耳側だが,おおむねセンタリングは良好である.図4症例2のフルオレセインパターンパラレルフィッティングを示す.表4メニフォーカルZのレンズデータデザイン製法材質Dk値中心厚(mm)BC(mm)遠用度数(D)加入度数(D)レンズ径(mm)同心円型(累進屈折力型)レースカットケイ素含有スチレン系化合物,フッ素含有メタクリレート系化合物1630.137.10?8.50(0.10間隔)+5.00??13.00(0.25間隔)+1.00?+2.50(0.50間隔)9.4?9.8mm(0.2間隔)図5症例3のレンズ静止位置センタリングは非常に良好である.図6症例3のフルオレセインパターンパラレルフィッティングを示す.(37)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611191120あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(38)

多焦点コンタクトレンズの選択(ハード系かソフト系か)

2016年8月31日 水曜日

特集●完全攻略・多焦点コンタクトレンズあたらしい眼科33(8):1107?1111,2016多焦点コンタクトレンズの選択(ハード系かソフト系か)SelectionofMultifocalContactLenses─HardorSoftType?─糸井素純*はじめに最初の多焦点コンタクトレンズ(contactlens:CL)として,1938年,ニューヨークのW.Feinbloomがセグメント型の二焦点CLと三焦点CLの特許を発表した.1957年にはロンドンのJ.DeCarleが中心遠用,周辺近用の円環型同時視機能の二焦点CLを考案した1).その後,非球面累進多焦点型2)やdiffraction型3)などが出現し,材質もソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)のものが登場した.当初の多焦点コンタクトレンズは,見え方において,遠方視も近方視も,単焦点レンズよりも劣る部分があり,広くは普及しなかった.その後さまざまな改良がなされ,単焦点CLに近い見え方が得られるようになり,徐々にではあるが普及してきた.日本の多焦点CLの処方割合も,InternationalContactLensPrescribing(日本の調査は筆者が担当)の2003年~2015年の統計が示すように確実に増えている4~16)(図1).その一方で,多焦点CLの処方を受けたにもかかわらず,見え方に満足していない症例や,眼精疲労を訴える症例が多い.これらの患者は,多焦点CLの見え方に対して,過度の期待を抱いたり,遠近両用眼鏡(累進多焦点)と同等の見え方が得られるものと勘違いしていることも少なくない.遠近両用眼鏡は正面視,下方視と視線の違いを利用したもので,多焦点CLでいえば交代視型に相当する.適確な視線の移動を必要とするが,遠方視も近方視も,見え方においては,像のブレなど生じることは少なく,使用者の満足を得られることできる.多焦点ハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)には同時視型と交代視型が存在するが,現在主流になりつつあるSCLの多焦点CLはすべて同時視型である.同時視型は遠見と近見が同一視線上で行われるため,視線の移動を必要としないが,単焦点CLや交代視型多焦点CLに比べて,遠見,近見ともに像の鮮明度が劣り,像のブレを自覚することがある.また,同時視型の多焦点CLは,実質的な近見加入度数が表示よりも弱いため,自覚的屈折検査の近見の追加加入度数をそのまま当てはめることはできない.多焦点CLを処方する際は,多焦点CLの見え方に過度の期待を抱かせないように,あらかじめ眼鏡や単焦点CLとの見え方の違いを説明する必要がある.Iコンタクトレンズ装用者の老視への対応CL装用者の老視は,多焦点CLで対応するものと考えて,当院を多焦点CL処方目的に訪れる患者も少なくない.しかし,中等度以上の円錐角膜など多焦点CLでは対応できないケースもある.当院では多焦点CLの処方を考える前に,まず現在の老視に対する矯正方法が適切であるかを評価するようにしている.そのうえで,どの矯正方法が老視への対応として適切であるかを症例ごとに検討している.多焦点CLの登場以前から,CL装用者の老視に対してはさまざまな方法で対応がされてきた.そのような対応方法でCL装用者全員が満足していたとはいえないように,多焦点CLも長所と短所をもっており,多焦点CLのみですべてのCL装用者の老視を解決することはできない.単焦点CLのほうが多焦点CLよりも光学的に優れている部分もある.CL装用者の老視に対しては,多焦点CLだけではなく,表1の①~⑥の対応から,個々のニーズに合わせてもっとも適切な方法を選択するのがよいと考えている.そのうえで,多焦点CLの適応であれば,その時点でハード系あるいはソフト系,どちらの多焦点CLを選択したほうがよいか検討し,症例ごとにもっとも適切な多焦点CLを選択するようにする.IIコンタクトレンズ処方前検査の重要性老視に対してCLを処方するうえで大切なことは,目の屈折状態を把握することのみならず,これまでのCLの使用状況を正確に把握することである.単に過矯正のCLを装用しているために近見障害を訴えることも少なくない.老視にCLを処方する際の,問診,および処方前検査のポイントについて述べる.1.問診年齢,仕事の内容,CLの使用目的,車の運転,スマートホンやタブレットの使用時間などを詳細に聞く.長時間,VDT(visualdisplayterminals)作業に従事している人や,細かな近見作業に従事している人,スマートホンやタブレットを長時間使用する人は,近見にあわせた単焦点CLのほうが疲れにくい.近年,スマートホン使用者の調節けいれん(スマホ老眼)が増えており,遠見の視力低下を訴えることが多いが,安易にレンズ度数を(近視度数)上げると,逆に症状の悪化を招く.また,これまでの矯正が過矯正気味で,1.2以上の矯正視力を要求する人では,同時視型の遠近両用CLでは満足が得られることは少ない.車の運転をするからといって視力1.2以上を希望する人が多いが,VDT作業に従事しながら,車の運転が週に1回程度であれば,車の運転のときだけ強い度数のCLや,CLの上から遠用眼鏡を装用するとよい.45歳未満であれば,単焦点CLで適正な度数のものを選択するだけで遠近ともに満足する視力が得られることも少なくない.来,オートレフラクトメータの測定値を参考にして正確な自覚的屈折検査を行い,その結果を,処方する眼鏡,CLの処方データに利用しなければならない.過矯正が疑われる場合,CLを装用したうえで,検影法で屈折状態を確認するとよい.検影法による確認が困難な場合は,調節麻痺薬を使用して正確な他覚的屈折検査を実施してからCL処方を行う.4.優位眼CLを処方する際は,優位眼を必ず確認する.原則として優位眼の遠見視力が,非優位眼よりも劣ることがないようにする.上述したモノビジョンは優位眼を遠見に,非優位眼を近見に合わせる.ただし状況によっては逆のこともある.筆者は円錐角膜では重症度が軽度のほうの眼を近方に合わせて処方している.また,モディファイド・モノビジョンといって単焦点CL,多焦点CLを組み合わせて処方するテクニックもある.5.処方前CLの規格,フィッティングこれまで装用していたCLを正確に把握することも重要である.度数のみならず,レンズ径,ベースカーブ,レンズデザイン,実際にどのようなフィッティングで装用していたかを確認する.とくにHCL装用者では,レンズフィッティングの微妙な変化が,装用感に影響することも少なくない.IIICL処方前の説明の重要性老視に対してCLを処方するうえで,処方前の説明は重要である.数多くの多焦点CLが発売され,中高年層の期待も大きい.しかし,多焦点CLには長所も短所もある.それを十分に説明したうえで処方しないと,後で苦情となる.老視に対して,多焦点CL以外のCLは無効と考えているCL装用者も少なくなく,前述したモノビジョン,異なる度数のCLの使い分け,単焦点CLの低矯正処方などの選択手段があることを説明する必要がある.さまざまなデザインの多焦点CLが販売されており,多焦点CLの種類ごとに見え方が異なることもあらかじめ伝えておく必要がある.最初に処方された多焦点CLの満足度が低いと,その時点であきらめてしまう人もいる.IV多焦点コンタクトレンズの選択:ハード系かソフト系か多焦点CLにはHCLとSCLがある.多焦点HCLには同時視型,交代視型,同時視+交代視型,多焦点SCLは同時視型のみとなる.言い替えるとハード系では交代視型の処方が可能であるが,ソフト系はできない.それぞれの詳細な特徴や製品紹介は他の執筆者の先生方に譲る.多焦点CLを処方する際に,まず考えなくてはならないのが,今回のテーマでもあるハード系にするか,ソフト系にするかである.通常の単焦点CLと同様,それぞれ適応があり,それを間違うとドロップアウトの原因となる.臨床の場を想定し,それぞれのケースでのレンズの選択と注意点について解説する.1.コンタクトレンズ常用者:老視以外のトラブルを生じていない症例原則として,これまで使用していたレンズと同じタイプのCLを選択する.HCL装用者であれば,多焦点HCL,SCL装用者であれば多焦点SCLを選択する.ただし,日本では乱視用の多焦点CLはまだ販売されていないので,乱視用SCL装用眼は,現時点では多焦点SCLの適応にならない.乱視用SCL装用眼で,過去に一定期間,HCL装用の経験があれば,多焦点HCLを選択してもよい.多焦点HCL処方の際に悩むのがレンズ径である.単焦点HCLの標準的なレンズ径は8.8~9.0mmであるが,多焦点HCLの多くは標準サイズが9.3~9.5mm前後と大きい.レンズ径の違いはフィッティングに影響し,装用感の違いを生む.筆者は常用していたHCLが標準よりも小さい場合(例:8.5mm)は,レンズ径8.6~9.0mmの多焦点HCLを第一選択としている.2.コンタクトレンズ未経験者CL未経験者に多焦点CLを処方する場合は,原則として多焦点SCLを選択する.老視年齢までCLの経験がない人にとって,装用初期のHCL特有の違和感を克服することは非常にむずかしい.また,裸眼で近見視力が低下している症例は,CLの着脱が困難なことが多い.そのような症例に多焦点SCLを処方する際は,それぞれの多焦点SCLの特徴を把握し,形状保持性がよく,装着しやすく,かつ,はずしやすいレンズを選択するようにしている.3.ハードコンタクトレンズ常用者:眼瞼下垂あるいは翼状片を伴う症例,ソフトコンタクトレンズに変更を希望する症例HCL装用は眼瞼下垂(図2)や翼状片(図3)の悪化因子となっていることがあり,そのような所見を伴う症例は,SCLに変更すると,病気の進行が軽減する.また,HCL装用者で充血,固着などの問題で,SCLへの変更を希望するケースもある.これらのケースで老視症状を伴う場合,多焦点SCLもよい選択肢となる.ただし,HCL装用は大なり小なり角膜変形を生じ,屈折状態を変える(図4,5).HCL装脱直後にSCLを処方すると,徐々にCL矯正視力が低下して行くことが多い.HCL装用者に常用を前提とするSCLを処方する場合は,1週間程度,HCLをはずしてから,眼鏡,あるいは,裸眼で来院していただき,その時点で屈折状態を評価し,SCLを処方するようにしている.また,屈折状態はさらに変化する可能性があり,まずは最小の処方単位である1カ月分の1日使い捨てSCLを処方し,1カ月後に,屈折状態を再評価して,処方変更の必要性を検討するようにしている.おわりに多焦点CLは,次々と新しいものが登場し,以前よりも満足度が高い処方ができるようになった.筆者が多焦点CLを処方するときは,原則として,HCL装用者には多焦点HCLを,CL未経験者とSCL装用者には,1日使い捨てタイプ,あるいは,頻回交換タイプの多焦点SCLを選択している.最近登場した1日使い捨てタイプ,あるいは頻回交換タイプの多焦点SCLは,素材だけではなく,光学的にも優れたものが多く,以前とは違い,従来型の低含水HEMA素材の多焦点SCLを選択することはほとんどなくなった.その一方で,患者の期待度が高い症例では,多焦点CLを装用しても,眼鏡や単焦点CLほど像の鮮明さが得られないために,患者の満足が得られないこともある.筆者は,多焦点CLの登場は,老視に対して選択肢が一つ増えたものと考えている.老視のCL希望者すべてに多焦点CLを処方する必要はなく,症例に応じて,眼鏡,単焦点CL,多焦点CLの中から,最適なものを選択することも,眼科医の重要な役割であると考えている.文献1)DeCarleJ:BifocalandmultifocalCLInContactLens.3rded(edbyStoneJ,AnthonyPJ),p595-624,Butterworths,London,19892)SteinHA:ThemanagementofpresbyopiawithCL.CLAOJ16:33-39,19903)FreemanM,StoneJ:AnewdiffractivebifocalCL.TransactionsBCLAConference,p15-22,19874)MorganPB,EfronN,WoodsCAetal:Internationalcontactlensprescribingin2003.ContactLensSpectrum18:34-37,20045)MorganPB,EfronN,WoodsCAetal:Internationalcontactlensprescribingin2004.ContactLensSpectrum19:34-37,20056)MorganPB,EfronN,WoodsCAetal:Internationalcontactlensprescribingin2005.ContactLensSpectrum20:35-39,20067)MorganPB,WoodsCA,JonesDetal:Internationalcontactlensprescribingin2006.ContactLensSpectrum21:34-38,20078)MorganPB,WoodsCA,KnajianRetal:Internationalcontactlensprescribingin2007.ContactLensSpectrum22:36-41,20089)MorganPB,WoodsCA,TranoudisIGetal:Internationalcontactlensprescribingin2008.ContactLensSpectrum23:28-32,200910)MorganPB,WoodsCA,TranoudisIGetal:Internationalcontactlensprescribingin2009.ContactLensSpectrum24:30-36,201011)MorganPB,WoodsCA,TranoudisIGetal:Internationalcontactlensprescribingin2010.ContactLensSpectrum25:30-36,201112)MorganPB,WoodsCA,TranoudisIGetal:Internationalcontactlensprescribingin2011.ContactLensSpectrum26:26-31,201213)MorganPB,WoodsCA,TranoudisIGetal:Internationalcontactlensprescribingin2012.ContactLensSpectrum27:31-44,201314)MorganPB,WoodsCA,TranoudisIGetal:Internationalcontactlensprescribingin2013.ContactLensSpectrum28:30-35,201415)MorganPB,WoodsCA,TranoudisIGetal:Internationalcontactlensprescribingin2014.ContactLensSpectrum29:28-33,201516)MorganPB,WoodsCA,TranoudisIGetal:Internationalcontactlensprescribingin2015.ContactLensSpectrum30:28-33,2016図1日本の多焦点コンタクトレンズの処方割合の変遷*MotozumiItoi:道玄坂糸井眼科医院〔別刷請求先〕糸井素純:〒150-0043東京都渋谷区道玄坂1-10-19糸井ビル1F道玄坂糸井眼科医院0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(25)1107表1コンタクトレンズ装用者の老視対策①低矯正の単焦点(コンタクトレンズ度数を中間距離に設定)コンタクトレンズ②遠見にあわせた単焦点コンタクトレンズと老眼鏡の併用③近見にあわせた単焦点コンタクトレンズと遠用眼鏡(あるいは遠近両用眼鏡)の併用④多焦点コンタクトレンズ⑤モノビジョン(コンタクトレンズ度数の片眼を遠用,他眼を近用に設定)(モディファイド・モノビジョン:単焦点コンタクトレンズ,多焦点コンタクトレンズの併用も可)⑥度数の異なるコンタクトレンズの使い分け(多焦点コンタクトレンズの使い分けも可)1108あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(26)(27)あたらしい眼科Vol.33,No.8,20161109図2長期のハードコンタクトレンズ装用者にみられた眼瞼下垂図3ハードコンタクトレンズ装用者にみられた翼状片1110あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(28)図4ハードコンタクトレンズ装用による角膜変形レンズの下方固着が原因.プラチドリング式角膜形状解析装置(KeratronScout)のinstantaneousradius表示(trueradius表示).図5ハードコンタクトレンズ装用による角膜変形ハードコンタクトレンズ装用開始前(a)に比べて,装脱後(b)は角膜中央のフラット化を認める.プラチドリング式角膜形状解析装置(KeratronScout)のinstantaneousradius表示(trueradius表示).(29)あたらしい眼科Vol.33,No.8,20161111

ソフト系多焦点コンタクトレンズの種類とデザイン(頻回交換タイプ)

2016年8月31日 水曜日

特集●完全攻略・多焦点コンタクトレンズあたらしい眼科33(8):1101?1106,2016ソフト系多焦点コンタクトレンズの種類とデザイン(頻回交換タイプ)KindsandDesignsofFrequentReplacementMultifocalSoftContactLenses東原尚代*はじめに1日使い捨てソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)や頻回交換SCLが普及し,わが国のSCL装用人口は1,800万人と推定されている.日本は諸外国に比較して多焦点SCL処方の割合がまだ低いものの,少しずつ処方は増加しており,高齢化社会に伴って今後さらに多焦点SCLの需要が高まると考えられる.近年,各種メーカーからさまざまな素材やデザインの多焦点SCLが発売され,処方の選択肢が増えた.多焦点SCL処方の成功の鍵は,上手く適応を見きわめながらレンズの種類や特性をよく理解して処方すること,眼科医が処方経験を積み患者が不具合を訴えたときに上手く対処する術を習得することといえる.本稿では,頻回交換タイプの多焦点SCLの種類とデザインについて解説する.I多焦点SCLの種類多焦点SCLの種類は素材から,従来の含水性レンズ(ハイドロゲルレンズ)と,ハイドロゲル素材にシリコーンを共重合させ高い酸素透過性を有するシリコーンハイドロゲルレンズの2種類に分けられる.この数年,相次いで発売された頻回交換タイプの多焦点SCLはすべてシリコーンハイドロゲルレンズであり,涙液の量と質が変化する老視世代には,ドライアイ症状によるドロップアウトを減らすためにSCL素材にも注意したい.遠近両用SCLの光学的機能はすべて同時視型で,レンズの光学部デザインから二重焦点と累進屈折力に分類される.一般に,二重焦点レンズは遠用光学部と近用光学部の境界で屈折が変化するので,視線が境界部にかかるとプリズム作用で像のジャンプが生じやすく1),とくにセンタリング不良の場合には適応になりにくい2).二重焦点SCLの代表であった2ウィークアキュビューRバイフォーカルは2015年6月に販売終了となり,現在わが国で処方できる頻回交換タイプの多焦点SCLはすべて累進屈折力となった.累進屈折力SCLは中心が遠用で周辺が近用タイプと,中心が近用で周辺が遠用タイプのに大別され,中心から周辺にかけて度数が連続的に変化するため,遠方から中間,近方まで境目のない自然な見え方が得られやすい.メーカーやレンズの種類によって光学デザインや加入度数の違いがあるが,遠方と近方の像が網膜に同時に結像する同時視型ゆえに,単焦点SCLと比較してコントラスト感度は低下し,少し像全体が暗く見えるとされる3).また,近用光学部の加入度数が高くなるほど遠方の見え方の質は落ちやすい.しかし,片眼ではそのような傾向があっても両眼視であれば単焦点SCLに比較しても遠方,近方ともに視力は良好で満足度も高いとされ,年齢を問わず低い加入度数からトライアルレンズを選択することが推奨されている4).トライアルレンズの度数選択,遠方あるいは近方が見えにくかった場合の度数調整など処方手順はメーカーによって多少異なり,具体的な対処法は症例提示の項を参照されたい.II各種メーカー別の多焦点SCL1.種類現在,日本で処方できる頻回交換タイプの多焦点SCLを表1にまとめた.素材,光学特性によって色々な区分ができるが,やはりメーカーごとに製品の特徴やこだわりがある.ここではメーカー別に多焦点SCLの特徴を解説する.2.株式会社メニコンの多焦点SCL通常のSCLは角膜上ではやや耳下側に安定する傾向があるうえ,生理的に瞳孔がわずかに鼻側へ編位しているため,光学部に複数の度数を配列する遠近両用レンズでは視機能に影響しうる(図1).メニコンでは,光学中心と固視点と瞳孔中心を結ぶ線(照準線)5)を一致させた照準線共軸型の多焦点SCL(メニフォーカルソフトSR)の流れをくみ,現在はこの光学デザインで頻回交換タイプが発売されている.ハイドロゲル素材の「2WEEKメニコン遠近両用」,「2WEEKメニコンDUO」と,シリコーンハイドロゲル素材の「2WEEKメニコンプレミオ」である.加入度数は2WEEKメニコン遠近両用で+2.5D,2WEEKメニコンプレミオはLOWデザイン(ADD+1.0D)とHIデザイン(ADD+2.0D)が揃う.2WEEKメニコンDUOは,パソコンやスマートフォンなど長時間手元を見続ける現代人の目の疲労を軽減するというコンセプトで開発された低加入度数(+0.5D)のSCLで,比較的若く近業に従事する患者が適応となる.また,若いうちからこういったレンズを装用することで,老視年齢に達したときに多焦点SCLへの移行がスムーズになりやすい.照準線共軸型はセンタリングが重要で,回転を防止しながら安定した視界を得るため,2WEEKメニコン遠近両用とプレミオのHIデザインはダブルスラブオフ形状となっている(図2).メニコンプレミオのDk/Lは161で裸眼と変わらないくらいの酸素透過率を誇る.3.ボシュロム・ジャパン株式会社の多焦点SCLボシュロムの多焦点SCLは,すべて中心が近用光学部,周辺が遠用光学部の累進屈折力レンズである.「ボシュロムメダリストマルチフォーカル」はハイドロゲル素材の低含水・非イオン性のグループIに属するレンズで,加入度数が+1.50D(LowADD)と+2.50D(HighADD)がある.両者ともレンズ周辺から中心に向かってプラス度数が徐々に増加するが,HighADDのほうが中心部のプラス度数が高いために移行部が狭くなっている(図3).中心厚は?3.0Dで0.10mmとやや厚く,レンズ径は14.5mm,ベースカーブは8.7mmと9.0mmの2種類がある.レンズ前面は非球面設計でレンズ後面は球面設計となっている.単焦点SCLによるモノビジョン法とボシュロムメダリストマルチフォーカルによる老視矯正を比較した臨床試験において,ボシュロムメダリストマルチフォーカルはローコントラスト視力で単焦点SCLモノビジョン法より低下したものの,アンケート調査では76%の被験者が単焦点モノビジョン法よりもよい老視矯正法だと評価し6),多焦点SCLのなかで今も人気がある.その後にシリコーンハイドロゲル素材の「ボシュロムメダリストプレミアマルチフォーカル」が登場した.メダリストマルチフォーカルの光学デザインと類似した設計で,中心厚は0.09mm,balafilconAの素材からなる.従来素材のSCLに比較して少し硬さがあるが,臨床試験では硬い素材であってもSEALsの発生はわずかで,遠近ともに見え方は良好で満足度も高い評価が報告されている7).また,同じシリコーンハイドロゲル素材で低含水イオン性(グループIII)の「メダリストフレッシュフィットコンフォートモイスト」は,それまでのボシュロム製品に比べて遠方の見え方を改善する目的で近用中心ゾーンを縮小し,中間ゾーンをより幅広く設計することで,クリアな視界と実用的な見え方が得られるようになった(図4).筆者が処方した印象では,手元が見やすいのはもちろんのこと,遠方の見え方も悪くなく,とくに中間距離の安定した見え方が期待できパソコンなどに従事する比較的若い層からも評判がよい.4.日本アルコン株式会社の多焦点SCLシリコーンハイドロゲルレンズである「エアオプティクスアクア遠近両用」がある.「プラズマサーフェステクノロジー」とよばれる表面処理でレンズ表面に架橋結合した親水性被膜を形成し,濡れ性を維持しながら脂質や蛋白質汚れの付着や沈着を防ぐのが特徴である.Dk/Lは138,含水率が33%,中心厚も0.08mmと比較的薄く,長時間装用しても乾燥しにくい.ベースカーブは8.6mmの1種類で,レンズ径は14.2mm,プレシジョン・プロファイル・デザインといわれる累進構造で,レンズ中心部から近用,中間部,遠用の光学配列で手元から遠方まで瞬時にかつスムーズに焦点が合うように設計されている(図5).ほかの多焦点SCLとの違いは,遠視,近視度数は?0.25Dステップの製作範囲で,きめ細かな度数調整が可能な点だ.加入度数はLO(+1.00D),MED(+2.00D),HI(+2.50D)がある.保存液中には浸水成分が配合され,良好な初期装用感が期待できる.5.クーパービジョン・ジャパン株式会社の多焦点SCL「バイオフィニティーマルチフォーカル」は中心遠用(球面設計),周辺近用(球面設計)で中間移行部が非球面設計になったシリコーンハイドロゲル素材の累進屈折力レンズである(図6).クーパービジョンの1日使い捨て遠近両用SCLである「プロクリアーワンデーマルチフォーカル」とは光学特性が逆であるが,臨床試験では両者はともに遠方から中間の見え方は同等に優れていることが示された(第68回日本臨床眼科学会モーニングセミナー).ベースカーブは8.6mmの1種類で,レンズ径は14.0mmである.当初,度数は+5.0D~?6.0Dの製作範囲は0.25Dステップ,?6.5D~?8.0Dまでは0.50Dステップであったが,2015年から遠視が+8.50Dから,近視は?10.0Dまでに拡張された.中心厚は0.10mmとやや厚いが,球結膜への摩擦を軽減し,レンズ表裏面へ涙液の分布を容易にする丸く滑らかなレンズエッジデザインが特徴である.加入度数は+1.0Dと+1.5Dの2種類があり,臨床試験ではほとんどは低加入度数で良好な視力が得られていた.6.株式会社シードの多焦点SCL「シード2weekPureマルチステージ」はハイドロゲル素材のイオン性高含水レンズ(グループIV)である.生体適合性の高い両イオン素材で,高含水レンズでありながら薬剤の影響を受けにくく汚れの付着も少ないのが特徴である.また,白内障や日焼けの予防効果が期待できる紫外線カット機能をもつ.光学特性は中心遠用,中間部,周辺近用の累進構造である(図7).ベースカーブは8.6mm,レンズ径は14.2mm,+5.0D~+0.5Dは0.25Dステップ,?0.50D~?6.00Dも0.25Dステップと細かな度数設定,?6.5Dからは0.50Dステップになるが,?10.0Dまでと最強度近視まで対応が可能である.加入度数は+0.75Dと+1.5Dと低加入度数が2種類あり,比較的若い年代からも使用できる.SCLには2カ所に大きくレンズマークが記され表裏の確認がしやすいだけでなく,ブリスターパックの文字も大きく印字されて老視世代に優しい配慮がなされている(図8).おわりに頻回交換タイプの多焦点SCLについて解説した.近年の多焦点SCLは性能が向上し,中間から遠方の見え方も改善している.また,処方手順も簡便になり,初心者でも処方しやすくなった.患者にとってベストな多焦点SCLを選択できるよう,各種メーカーの光学デザインや特性をふまえることが大切である.文献1)曲谷久雄:老視用コンタクトレンズの再検討.あたらしい眼科9:1829-1836,19922)塩谷浩:頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズの選択法.あたらしい眼科24:711-716,20073)植田喜一,佐藤里沙,柳井亮二ほか:デザインの異なる遠近両用ソフトコンタクトレンズのコントラスト視力.日コレ誌44:211-215,20024)塩谷浩:遠近両用ソフトコンタクトレンズの処方テクニック.あたらしい眼科30:1363-1368,20135)櫻井寿也,原嘉明,魚里博ほか:照準線共軸型バイフォーカルコンタクトレンズによる視力.日コレ誌38:19-22,19966)RichdaleK,MitchellGL,ZadnikK:Comparisonofmultifocalandmonovisionsoftcontactlenscorrectionsinpatientswithlow-astigmaticpresbyopia.OptomVisSci83:266-273,20067)植田喜一,稲葉昌丸,梶田雅義ほか:2週間頻回交換遠近両用シリコーンハイドロゲルレンズの臨床試験.あたらしい眼科28:1619-1627,2011*HisayoHigashihara:ひがしはら内科眼科クリニック,京都府立医科大学眼科〔別刷請求先〕東原尚代:〒621-0861京都府亀岡市北町57-13ひがしはら内科眼科クリニック図1照準線共軸型レンズの装用時のイメージ図(右眼の場合)(2WEEKメニコン遠近両用医家向け資料より転載)メ図ージ2図2WEEKメニコンプレミオ(上:LOWデザイン,下:HIデザイン)の光学デザインHIデザインはダブルスラブオフ形状でレンズマーク(▲)を鼻側に合わせて装用する.(2WEEKメニコンプレミオ医家向け資料より転載)表1日本で処方できる頻回交換タイプの多焦点SCLメーカー株式会社メニコンボシュロム・ジャパン株式会社日本アルコン株式会社クーパービジョン・ジャパン株式会社株式会社シード製品名2WEEKメニコン遠近両用2WEEKメニコンプレミオ遠近両用2WEEKメニコンDUOメダリストマルチフォーカルメダリストプレミアマルチフォーカルメダリストフレッシュフィットコンフォートモイストエアオプティクスアクア遠近両用バイオフィニティマルチフォーカル2weekPureマルチステージパッケージ外観構造中心から近・移行・遠用部光学中心偏心型(ディセンター)【Low】(基本)中心部に加入+1.50からゆるやかな累進移行部により遠用度数へ移行【High】中心部に加入+2.50のゾーンを広めにもち,累進移行部を経て遠用度数へ移行【Low】(基本)中心部に加入+1.50からゆるやかな累進移行部により遠用度数へ移行【High】中心部に加入+2.50のゾーンを広めにもち,累進移行部を経て遠用度数へ移行【Low】従来品より近用中心ゾーンを縮小し中間ゾーンをより幅広く設計【High】中心部に加入+2.50のゾーンを広めにもち,累進移行部を経て遠用度数へ移行プレシジョン・プロファイルデザイン中心近用→中間部→遠用の累進構造Low(基本)/Mid(近用より重視)の2種中心遠用→中間部→周辺近用の累進構造中心遠用→中間部→周辺近用の累進構造材質DMAA+NVPDMAA+ケイ素含有メタクリレート系化合物,ピロリドン系化合物DMAA+NVPPoly-HEMAbalafilconAbalafilconAlotrafilconBcomfilconAHEMA含水率72%40%72%39%36%36%33%48%58%BC(mm)8.68.68.68.7/9.08.68.68.68.68.6DIA(mm)14.514.214.514.514.014.014.214.014.2球面度数(D)?0.25~?10.005.00?6.00(0.25D間隔)?6.50D~?13.0D(0.50D間隔)?0.25~?10.00+5.00~?10.00+5.00~?10.00+5.00~?10.00+5.00~?10.00+5.00~?6.00D(0.25step)?6.50~?8.00D(0.50step)+5.00~?6.00(0.25step)?6.50~?10.00(0.50Step)加入度数+2.50+1.00,+2.50+0.5【Low】~+1.50D【High】~+2.50D【Low】~+1.50D【High】~+2.50D【Low】~+1.50D【High】~+2.50D【Low】+1.00D【Med】+2.00D+1.00,+1.50+0.75,+1.50中心厚(mm)(S?3.00)0.110.080.110.100.090.090.080.100.09Dk値34129349919111012830Dk/L値(S?3.00)31161319.510110113812833.3FDAグループグループIIグループIグループIIグループIグループIIIグループIIIグループIグループIグループIVUVカット*なしなしなしなしなしなしなしなしなしDk:×10?9(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)Dk/L:×10?11(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)*Johnson&JohnsonVISIONCARE,INC.データより.図3メダリストマルチフォーカルの光学部デザイン(屈折力分布)左:加入度数+1.50D,右:加入度数;+2.50D.(ボシュロム・ジャパン株式会社より提供)図4ボシュロムメダリストフレッシュフィットコンフォートモイストの光学部デザインLowADDの屈折力分布と正面図(イメージ図).(ボシュロム・ジャパン株式会社より提供)図5エアオプティクスアクア遠近両用の光学部イメージ(医家向け文書からの転載)図6バイオフィニティーマルチフォーカルの光学特性バランスドプドグレッシブテクノロジーデザインとよばれる累進屈折力SCL.(クーパービジョン・ジャパン株式会社より提供)図7シード2weekPureマルチステージの光学デザイン図8シード2weekPureマルチステージのSCLとブリスターパックの外観(シードHPより転載)0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(19)11011102あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(20)(21)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611031104あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(22)図5エアオプティクスアクア遠近両用の光学部イメージ(医家向け文書からの転載)図6バイオフィニティーマルチフォーカルの光学特性バランスドプドグレッシブテクノロジーデザインとよばれる累進屈折力SCL.(クーパービジョン・ジャパン株式会社より提供)図7シード2weekPureマルチステージの光学デザイン図8シード2weekPureマルチステージのSCLとブリスターパックの外観(シードHPより転載)*HisayoHigashihara:ひがしはら内科眼科クリニック,京都府立医科大学眼科〔別刷請求先〕東原尚代:〒621-0861京都府亀岡市北町57-13ひがしはら内科眼科クリニック0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(19)11011102あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(20)(21)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611031104あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(22)(23)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611051106あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(24)