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緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液の眼圧下降効果と安全性の検討

2016年8月31日 水曜日

《第26回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科33(8):1187?1190,2016c緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液の眼圧下降効果と安全性の検討吉谷栄人*1坂田礼*1沼賀二郎*1本庄恵*1,2*1東京都健康長寿医療センター眼科*2東京大学医学部附属病院眼科EfficacyandSafetyofRipasudilOphthalmicSolutioninEyesofPatientswithGlaucomaMasatoYoshitani1),ReiSakata1),JiroNumaga1)andMegumiHonjo1,2)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanGeriatricHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoSchoolofMedicine目的:日本人緑内障患者におけるリパスジル点眼液(グラナテックR点眼液0.4%)の有効性と安全性を検討すること.対象および方法:緑内障点眼下でも目標眼圧に到達しない症例のなかで,リパスジル点眼液を追加した症例を後ろ向きに検討した.投与開始後1カ月目,2カ月目,3カ月目の眼圧値および安全性について検討した.結果:投与開始前の眼圧は18.6±4.2mmHgであり,追加投与後1カ月目14.6±2.5mmHg(p<0.005),2カ月目15.3±3.4mmHg(p<0.005),3カ月目14.8±2.3mmHg(p<0.05)であった.3カ月間を通しての副作用として,結膜充血4例4眼,掻痒感1例1眼,眼刺激感1例1眼を認めたが,いずれも中止には至らなかった.結論:目標眼圧に到達しない緑内障患者において,リパスジル点眼液は追加投与による副作用も少なく,さらなる眼圧下降を得ることが期待できる薬剤であると考えられた.Purpose:Toevaluatetheefficacyandsafetyofripasudilophthalmicsolutionintheeyesofpatientswithglaucoma.SubjectsandMethods:Subjectscomprised14eyesof14patientstreatedwiththemultiplecombinedtherapyforglaucoma.Weexaminedintraocularpressure(IOP)changeandadverseeffectsafteradjunctionofripasudilophthalmicsolution.Results:ThemeanbaselineIOPwas18.6±4.2mmHg.At1,2and3months,IOPwas14.6±2.5mmHg,15.3±3.4mmHgand14.8±2.3mmHgrespectively;significantIOPreductionwasobserved.TherewasnosignificantcorrelationbetweenIOPreductionrateandage.Adverseeffectswerehyperemia(4eyes),itching(1eye),andeyeirritation(1eye).Nopatientsdiscontinuedbecauseofadverseeffects.Conclusion:RipasudilophthalmicsolutionwaseffectiveinsafelyreducingIOPinpatientswithglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(8):1187?1190,2016〕Keywords:リパスジル点眼液,緑内障,ROCK阻害薬,安全性,眼圧.ripasudilophthalmicsolution,glaucoma,Rhokinaseinhibitor,safety,intraocularpressure.はじめに緑内障においては,眼圧下降治療が依然として唯一確実に効果が認められている治療法であるため1),新たな眼圧下降機序の薬物の開発は治療の選択肢を拡大するという点において非常に有意義であると考えられる.リパスジル塩酸塩水和物点眼液(グラナテック点眼液0.4%R,以下リパスジル点眼液)は,日本で研究,開発されたROCK(Rho-associatedcoiled-coilformingkinase)阻害薬の緑内障点眼液であり,その作用機序は,Rhoの標的蛋白質のセリン・スレオニンキナーゼであるROCKを阻害し,線維柱帯細胞の形態の変化,細胞外マトリクス産生抑制,傍Schlemm管内皮細胞の透過性亢進を通じて,主経路である経Schlemm管房水流出路での房水流出を促進することで眼圧下降をもたらすとされる2?4).これまでの報告によると,第I相臨床試験においては,健常男性において点眼投与2時間後,単剤で平均4.0mmHgの眼圧下降効果が認められた.第II相臨床試験では開放隅角緑内障患者または高眼圧症患者において単剤で平均3.5mmHgの眼圧下降効果が認められた.第III相臨床試験では0.5%チモロール点眼液に追加した群では平均2.4mmHgの相加的な眼圧下降効果,0.005%ラタノプロスト点眼液に追加した群では平均2.2mmHgの相加的な眼圧下降効果が認められた5?7).52週にわたる長期投与においても,単剤においては平均2.6mmHgの眼圧下降効果を認め,プロスタグランジン関連薬に追加した群では平均1.4mmHgの相加的な眼圧下降効果,b遮断薬に追加した群では平均2.4mmHgの相加的な眼圧下降効果,プロスタグランジン関連薬とb遮断薬の併用に追加した群では平均2.2mmHgの相加的な眼圧下降効果がそれぞれ認められている8).同時にその報告によると,副作用として結膜充血74.6%,眼瞼炎20.6%,アレルギー性結膜炎17.2%で,全症例352症例のうち51症例が眼瞼炎またはアレルギー性結膜炎のために中止となっている.ただし点眼中止後は,必要に応じた加療により症状は全例軽快したとされている8).一方で開放隅角緑内障患者または高眼圧症患者における点眼開始後の24時間眼圧においては,単剤のリパスジル点眼液投与後から1時間から7時間は有意な眼圧下降効果を認め,初回の点眼投与2時間後において平均6.4mmHgの眼圧下降効果を認めたと報告されている9).その他のROCK阻害薬に関する報告では,糖尿病網膜症におけるROCK阻害薬による血管障害の制御の可能性に関して報告があり,血管内皮細胞障害阻害作用や白血球接着阻害による糖尿病網膜症の微小血管障害の病態制御の可能性が期待されている10).また,ROCK阻害薬の一種であるY-27632による角膜内皮の創傷治癒促進が指摘され,Fuchs角膜内皮ジストロフィによる初期の水疱性角膜症における角膜内皮機能の回復と視力回復が得られた報告もある11).リパスジル点眼液は2014年12月に世界に先駆けて販売が開始されたが,実際の臨床に基づく有効性と安全性の報告は皆無である.今回,緑内障点眼下でも目標眼圧に到達しない症例のなかで,リパスジル点眼液を追加した症例を後ろ向きに検討した.I対象および方法東京都健康長寿医療センター眼科に通院中の日本人緑内障患者を検討対象とした.緑内障の病型は問わず,緑内障点眼下でも目標眼圧(ベースライン眼圧より20%下降)に到達しない症例のなかで,2015年1?8月に,リパスジル点眼液を追加した症例を後ろ向きに検討した.なお,本研究は東京都健康長寿医療センターの倫理委員会で承認された.対象症例を1例1眼としてランダムに選択したが,リパスジル点眼液が両眼に投与された症例では,眼圧下降率の少ない眼あるいは内眼手術の既往歴のない眼を対象とした.Goldmann圧平眼圧計(Haag-Streit社,スイス)による診療時間内の眼圧測定,リパスジル点眼液開始前のHumphrey自動視野計(Carl-Zeiss社,ドイツ)SITA-Fast30-2の信頼性のある視野検査結果(固視不良,偽陽性,偽陰性それぞれ20%以下)を採用した.安全性の評価は,患者の自覚症状や細隙灯顕微鏡検査による他覚的評価を参考とした.経過観察中,目標眼圧に到達せず追加の緑内障治療を必要とした症例,転医した症例,データが得られなかった症例はその都度除いた.1カ月ごとの眼圧下降効果の評価は,投与開始後の得られたデータ群とその各々に対応する投与前のデータ群との比較により評価し,データが得られなかった症例の投与前のデータは除外した.主要評価項目は点眼追加後の眼圧経過であり,1カ月ごとの眼圧下降効果に関してはpairedt-testを用いた.また,副次的に投与後の眼圧の下降量と年齢,投与前眼圧値との相関関係に関して検討を行い,それぞれ,Spearmans’scorrelationcoefficientbyranktest,Peason’scorrelationcoefficienttestを用いて検討を行った.統計解析ソフトはStatcelver3を使用し,有意水準はp<0.05とした.II結果対象患者を表1に示す.リパスジル点眼液追加投与前の眼圧は18.6±4.2mmHgであり,追加投与後の眼圧値は,1カ月目で14.6±2.5mmHg(p<0.005),2カ月目で15.3±3.4mmHg(p<0.005),3カ月目で14.8±2.3mmHg(p<0.05)であった(図1).それぞれの眼圧下降量は1カ月目で3.8±1.1mmHg,2カ月目で3.4±0.9mmHg,3カ月目で3.3±1.4mmHgであった.追加投与開始後の眼圧下降量と年齢の間には有意な相関関係を認めなかった(1カ月目:r=0.13,p=0.69,2カ月目:r=?0.20,p=0.53,3カ月目:r=0.29,p=0.45).一方,眼圧下降量と追加前眼圧との間には,有意な正の相関関係を認めた(1カ月目:r=0.80,p<0.01,2カ月目:r=0.65,p<0.05,3カ月目:r=0.84,p<0.01).安全性の評価では,結膜充血4眼(1カ月目3眼,3カ月目1眼),掻痒感1眼(3カ月目1眼),眼刺激感1眼(1カ月目1眼)を認めた(重複あり)が,いずれも中止となる症例はなく,全身の副作用も認めなかった.III考按今回,眼圧コントロールが不十分であった緑内障患者に対して,リパスジル点眼液の追加投与を行った症例を後ろ向きに検討した.点眼数は投与追加前の平均3.1剤から追加後の平均4.1剤に増えた(配合剤は2剤として計算した)ものの,点眼追加後1カ月目から3カ月目において,いずれも有意な眼圧下降効果が得られていた.また,臨床上中止に至るような眼局所の副作用もなく,安全性も担保されていると考えられた.また,年齢と眼圧下降量には相関関係を認めなかったが,一方で,追加前眼圧と眼圧下降量に関しては有意な正の相関関係を認め,追加前の眼圧が高いほうがより強い眼圧下降量を得られることが期待される.ただし,今回の検討では症例数が少ないため,今後さらなる多症例数での検討が必要である.これまでの緑内障治療薬は,プロスタグランジン関連薬を柱に,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬,a2刺激薬を組み合わせることで眼圧管理を行ってきたが,リパスジル点眼液はこれら既存の点眼薬と作用機序が異なることから,新たな治療薬の選択肢となりうる.全身的な副作用も皆無であり,今後併用療法の一つの柱になるのでないかと考えられた.リパスジル点眼液追加投与後も目標眼圧に到達しなかった症例は4例4眼であり,2眼は開放隅角緑内障(83歳,女性と54歳,女性)で併用点眼薬を変更,1眼は落屑緑内障の76歳,女性で線維柱帯切開術を施行,1眼は開放隅角緑内障の74歳,女性でチューブシャント手術をそれぞれ施行された.安全性の検討に関して,今回の14眼で使用中止となるような重篤な副作用は認められなかった.もっとも頻度が高いと考えられた結膜充血は,3カ月間で14眼中4眼(29%)に認められた.ただし,診療時間内における患者の自覚症状の聴取,もしくは細隙灯顕微鏡検査による他覚的評価を評価対象としたため,その評価判定基準は統一されておらず,今後の検討を要すると考えられた.緑内障点眼薬においては,結膜充血などの眼局所の副作用による点眼アドヒアランスの低下が懸念されるため,リパスジル点眼液で頻度の高い結膜充血の動態を把握しておくことはアドヒアランスを維持するうえで非常に重要と思われる.アレルギー性結膜炎や眼瞼炎など他の副作用も含め,母数を増やし,より長期的な経過観察が必要と考えられた.本研究は後ろ向き研究であり,その性質上,避けられないいくつかの問題点があげられる.まず症例数が少ない(n=14)ため,眼圧下降効果や相関の有意性を正確に評価することが困難であり,今後さらに母数を増やす必要がある.つぎに,今回の検討対象に含まれるのはあらゆる病型の緑内障であり,かつ手術既往眼も含めたため,病型別の眼圧下降効果を正確に評価することが困難であった.つぎに,診療録記載に基づく安全性評価であり,その評価基準は一定していないため,今後は決められた評価基準を作成し評価していく必要がある.そして最後に,今回は3カ月間という短期の報告であるため,今後はさらに長期にわたる点眼評価を行っていく必要がある.このように多くの問題点は含有するが,今回の検討からは,目標眼圧に到達しない日本人緑内障患者において,リパスジル点眼液は追加投与による副作用も少なく,さらなる眼圧下降効果を得ることができる薬剤であると考えられた.IV結論目標眼圧に到達しない緑内障患者において,リパスジル点眼液は追加投与による副作用も少なく,さらなる眼圧下降を得ることができる薬剤であると考えられた.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)中庄司幹子:新薬のプロフィルグラナテック点眼液0.4%.ファルマシア51:240,20153)本庄恵:Rho-associatedkinase(ROCK)阻害薬の緑内障治療薬としての可能性.日眼会誌113:1071-1081,20094)本庄恵:緑内障の新薬1:ROCK阻害薬.あたらしい眼科32:775-781,20155)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase1clinicaltrialsofaselectiveRhokinaseinhibitor,K-115.JAMAOphthalmol131:1288-1295,20136)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase2randomizedclinicalstudyofaRhokinaseinhibitor,K-115,inprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOphthalmol156:731-736,20137)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Additiveintraocularpressure-loweringeffectsoftheRhokinaseinhibitorripasudil(K-115)combinedwithtimololorlatanoprost:Areportof2randomizedclinicaltrials.JAMAOphthalmol133:755-761,20158)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:One-yearclinicalevaluationof0.4%ripasudil(K-115)inpatientswithopen-angleglaucomaandocularhypertension.ActaOphthalmol4:DOI:10.1111/aos.12829,20159)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Intra-ocularpressure-loweringeffectsofaRhokinaseinhibitor,ripasudil(K-115),over24hoursinprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension:arandomized,open-label,crossoverstudy.ActaOphthalmol93:e254-e260,201510)有田量一:糖尿病性網膜微小血管障害のメカニズムとROCK阻害薬による病態制御の可能性.日眼会誌115:985-997,201111)小泉範子:Rhoキナーゼ(ROCK)阻害薬を用いた新しい角膜内皮疾患治療の開発.日の眼科83:1324-1328,2012〔別刷請求先〕吉谷栄人:〒173-0015東京都板橋区栄町35-2東京都健康長寿医療センター眼科Reprintrequests:MasatoYoshitani,DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanGeriatricHospital,35-2Sakaetyou,Itabashiku,Tokyo173-0015,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(105)11871188あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(106)表1患者背景背景因子症例数14例14眼性別男性5例,女性9例年齢70.2±12.2歳(51?92)MD?12.46±10.10dB(?29.01??0.53)PSD9.91±4.75dB(1.67?15.13)眼圧18.6±4.2mmHg(12?25)点眼剤数※3.1±0.9剤(1?4)病型原発開放隅角緑内障7例7眼落屑緑内障3例3眼続発緑内障2例2眼原発閉塞隅角緑内障2例2眼手術既往歴白内障手術5例5眼線維柱帯切開術1例1眼線維柱帯切除術1例1眼隅角癒着解離術1例1眼MD:meandeviation.PSD:patternstandarddeviation.※配合剤は2剤として計算図1リパスジル点眼液投与開始後の眼圧経過リパスジル点眼追加後,有意な眼圧下降が維持された.(107)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611891190あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(108)

経毛様体扁平部挿入型バルベルト緑内障インプラントの手術成績と合併症

2016年8月31日 水曜日

《第26回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科33(8):1183?1186,2016c経毛様体扁平部挿入型バルベルト緑内障インプラントの手術成績と合併症宮城清弦藤川亜月茶北岡隆長崎大学大学院医歯薬学総合研究科眼科・視覚科学教室Short-TermClinicalOutcomesofBaerveldtGlaucomaImplantSurgeryviatheParsPlanaandPostoperativeComplicationsSugaoMiyagi,AzusaFujikawaandTakashiKitaokaDepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,NagasakiUniversity目的:経毛様体扁平部挿入型バルベルト緑内障インプラントの短期成績を報告する.対象および方法:対象は2012年8月?2015年4月に長崎大学附属病院眼科にて経毛様体扁平部挿入型バルベルト緑内障インプラント手術を施行した14例15眼で,眼圧・視力・点眼スコアの術後1,3,6,9,12,18,24カ月での値を後向きに調査した.また,術後合併症について調査した.手術の成功基準は,術後3カ月以上の経過で眼圧が5?21mmHg,術後視力が光覚弁以上,追加の緑内障手術のないこととした.結果:平均観察期間は16.6カ月(6?24カ月)だった.術後眼圧,点眼スコアは有意に低下した.視力は有意な変化は認めなかった.手術室での処置を必要とした合併症が3例にみられた.術後2年の成功率は93.3%だった.結論:経毛様体扁平部挿入型バルベルト緑内障インプラント手術は難治緑内障に対し有用と思われた.Purpose:Toreporttheshort-termfollow-upresultofBaerveldtGlaucomaImplant(BGI)surgeryviatheparsplanaforthetreatmentofglaucoma.PatientsandMethod:Thisstudyincluded15eyesof14patientswhounderwentBGIsurgeryviatheparsplanaatNagasakiUniversityHospital,Japan,betweenAugust2012andApril2015.Allpatientswereretrospectivelyinvestigatedastopreoperativeand1,3,6,9,12and24months’postoperativeintraocularpressure(IOP),visualacuity,numberofhypotensivemedicationsandpostoperativecomplications.Successfulcriteriawere:1)visionofmorethanlightperception,2)IOP≧5mmHgandIOP≦21,and3)noadditionalglaucomaoperations.Results:Meanfollow-upperiodwas16.6months(from6to24months).PostoperativeIOPandnumberofhypotensivemedicationsweresignificantlyreduced.Visualacuitywasnotchangedsignificantly.Threepatientsrequiredadditionalsurgerybecauseofcomplications.The2-yearsuccessratewas93.3%.Conclusion:BGIsurgeryviatheparsplanaisausefulmethodforrefractoryglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(8):1183?1186,2016〕Keywords:バルベルト緑内障インプラント,経毛様体扁平部,チューブシャント手術,難治緑内障.baerveldtglaucomaimplant,parsplana,tubeshuntsurgery,refractoryglaucoma.はじめに2012年にわが国でもバルベルト緑内障インプラント(Baerveldtglaucomaimplant:BGI)を用いたチューブシャント手術が認可され,国内での手術成績の報告例もみられるようになった.BGIは濾過胞感染などトラベクレクトミーにおける問題点のいくつかを解決してくれるものと期待されており,血管新生緑内障などの難治緑内障や結膜瘢痕の広範な手術既往眼,濾過胞管理の困難な小児例などでトラベクレクトミーに代わる術式として注目されている.一方で,統一された手術適応基準がいまだなく,また特有の術後管理の必要性や重篤な合併症の存在もあり,個々の施設で慎重に適応が検討されているのが現状である.今回,長崎大学病院眼科(以下,当科)における経毛様体扁平部挿入型BGI手術の手術成績と合併症を検討したので報告する.I対象および方法1.対象対象は2012年8月?2015年4月に当科にて経毛様体扁平部挿入型BGI手術を施行した14例15眼である.手術時年齢は44.3±21.0歳(平均±標準偏差),術前眼圧は32.5±8.2mmHg,術前logMAR視力は1.5±1.0,術前点眼スコアの中央値(四分位範囲)は5点(4?6)であった.病型の内訳は,血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)7例8眼(増殖糖尿病網膜症6眼,網膜中心静脈閉塞症2眼),その他の続発緑内障3例3眼(外傷2眼,ぶどう膜炎1眼),先天緑内障3例3眼,原発開放隅角緑内障1例1眼であった(表1).2.当科における基本術式Tenon?下麻酔を施行し上耳側で結膜を切開.6×8mmの自己強膜半層弁を作製.8-0バイクリル糸でチューブを結紮し閉塞を確認.20GのVランスで輪部から3.5mmの位置で強膜穿刺.Hoffmanelbowを挿入し9.0ナイロン糸で強膜弁下に固定.強膜弁を9.0ナイロン糸で縫合.プレート本体を5.0ダクロンで強膜固定し,チューブの部分を立ち上がらないように9.0ナイロン糸で固定.8-0バイクリル針でSherwoodslitを1カ所作製し,結膜を縫合して終了.全例において経毛様体扁平部挿入型BGI(102-350)を使用し,有硝子体眼の場合は硝子体手術を併用した.3.評価手術の成功基準は,術後3カ月以上の経過で眼圧が5?21mmHg,術後視力が光覚弁以上,追加の緑内障手術のないこととした.また眼圧・点眼スコアの術後1,3,6,9,12,18,24カ月での値を後向きに比較検討した.視力について,logMAR視力で0.3以上の変化を有意として,術前後で比較検討した.また,術後合併症について調査した.眼圧値はGoldmann圧平眼圧計で測定し,測定の困難な小児についてはアイケア手持眼圧計を用いた.点眼スコアは点眼を1点,配合剤および炭酸脱水酵素阻害薬内服を2点とした.統計学的検討にDunnett’stest,pairedt-test,Wilcoxonsignedranktest,Fisher’sexacttestを用いた.また手術成功率についてKaplan-Meier法を用いて生存曲線を作成し分析した.II結果平均観察期間は16.6カ月(範囲6?24カ月)であった.眼圧は術前32.5±8.2mmHg(平均±標準偏差)に対し術後1,3,6,9,12,18,24カ月の値がそれぞれ15.0±8.5,14.2±4.4,12.1±3.2,12.2±3.3,12.4±3.4,12.0±4.7,10.2±4.4mmHgで,いずれの時点でも術前に比べ有意に低下した(図1).また,最終受診時の点眼スコアも中央値(四分位範囲)が2点(0.5?3.5)と術前に比べ有意に低下した(Wilcoxonsigned-ranktest,p<0.01).平均logMAR視力は術前1.5±1.0に対し,最終受診時が1.4±1.0と,術前と比べ有意な変化はなかった(pairedt-test,p=0.41).またlogMAR視力で0.3以上の変化を有意とすると,最終受診時で視力改善みられた症例が7眼(47%),不変が3眼(20%),低下が5眼(33%)であった.術前の中間透光体混濁の有無と視力改善に有意な相関はみられなかった(Fisher’sexacttest,p=0.35).手術成功率はKaplan-Meierの生存曲線で術後2年において93.3%であった(図2).合併症について,手術室での処置を必要とした症例が3眼(20%)で,硝子体出血,持続する低眼圧・脈絡?離,低眼圧黄斑症,漿液性網膜?離がみられた.自然経過で改善した症例が4眼(27%)で,一過性の低眼圧・脈絡膜?離,術直後の前房出血・硝子体出血がみられた.術後12カ月で前房出血をきたした症例が1眼あったが,他はすべて術後1カ月以内に改善した.明らかな合併症を認めなかった症例は8眼(53%)であった.手術室での処置を必要とした症例において,術後12カ月で硝子体出血をきたし硝子体洗浄行ったものの徐々に眼球癆となった症例が1眼,術後低眼圧持続しチューブ再結紮を行った症例が1眼,著明な脈絡膜?離に対し強膜tapを施行した症例が1眼あった.プレート露出などの晩期合併症はみられなかった.III考按本報告では全例に経毛様体扁平部挿入型BGI(102-350)を使用した.国内では経毛様体扁平部型が多く用いられているが,海外の報告では前房挿入型が多く,TheTubeVersusTrabeculectomyStudy1)やAhmedBaerveldtComparisonStudy2)などの大規模スタディでも前房挿入型が用いられている.トラベクロトミーなど従来の緑内障手術と経毛様体扁平部挿入型BGIを直接比較したスタディはいまだないものの,前房挿入型と経毛様体扁平部の両者を比較した後向き研究がなされており,術後2年の成功率は同等で,合併症に関しては前房型に多いと報告されている3).欧米人と比較した日本人の前房深度などを考慮すると,合併症を避ける点で経毛様体扁平部挿入型は有用と思われる.当科の手術症例で2年成功率は93.3%であった.経毛様体扁平部型BGIを使用した過去の症例報告と比較しても同等の結果が得られている(表2).成功基準や観察期間が統一されておらず,対象症例もNVGの有無を含めさまざまであり直接の比較はできないものの,およそ術後1?3年で85%,術後5年以上で70%程度の成績が報告されている.また,Kolomeyerらの報告12)ではNVG症例では非NVG症例に比較し成功率が低下する結果となっているが,本報告ではNVG症例とそれ以外で成功率に差はみられず(Fisher’sexacttest,p=0.31),国内の2報告でも言及されていない.しかし,症例数が大きく異なりこともあり,今後の研究報告が待たれる.当科における経毛様体扁平部挿入型BGIの手術成績を検討報告した.良好な手術成功率が得られ,難治緑内障に対して有用な術式と思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GeddeSJ,HerndonLW,BrandtJDetal:PostoperativecomplicationsintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)studyduringfiveyearsoffollow-up.AmJOphthalmol153:804-814,20122)BudenzDL,BartonK,GeddeSJetal:Five-yeartreatmentoutcomesintheAhmedBaerveldtcomparisonstudy.Ophthalmology122:308-316,20153)RososinskiA,WechslerD,GriggJ:RetrospectivereviewofparsplanaversusanteriorchamberplacementofBaerveldtglaucomadrainagedevice.JGlaucoma24:95-99,20154)VarmaR,HeuerDK,LundyDCetal:ParsplanaBaerveldttubeinsertionwithvitrectomyinglaucomasassociatedwithpseudophakiaandaphakia.AmJOphthalmol119:401-407,19955)LuttrullJK,AveryRL,BaerveldtGetal:Initialexperiencewithpneumaticallystentedbaerveldtimplantmodifiedforparsplanainsertionforcomplicatedglaucoma.Ophthalmology107:143-149,20006)ChalamKV,GandhamS,GuptaSetal:ParsplanamodifiedBaerveldtimplantversusneodymium:YAGcyclophotocoagulationinthemanagementofneovascularglaucoma.OphthalmicSurgLasers33:383-393,20027)BanittMR,SidotiPA,GentileRCetal:ParsplanaBaerveldtimplantationforrefractorychildhoodglaucomas.JGlaucoma18:412-417,20098)TarantolaRM,AgarwalA,LuPetal:Long-termresultsofcombinedendoscope-assistedparsplanavitrectomyandglaucomatubeshuntsurgery.Retina31:275-283,20119)植田俊彦,平松類,禅野誠ほか:経毛様体扁平部Baerveldt緑内障インプラントの長期成績.日眼会誌115:581-588,201110)KolomeyerAM,KimHJ,KhouriASetal:ParsplanaBaerveldttubeinsertionwithparsplanavitrectomyforrefractoryglaucoma.OmanJOphthalmol5:19-27,201211)三木美智子,植木麻理,小嶌祥太ほか:バルベルト緑内障インプラントによる経毛様体扁平部挿入チューブシャント術の短期成績.眼科手術28:428-432,201512)KolomeyerAM,SeeryCW,Emami-NaeimiPetal:CombinedparsplanavitrectomyandparsplanaBaerveldttubeplacementineyeswithneovascularglaucoma.Retina35:17-28,2015〔別刷請求先〕宮城清弦:〒852-8501長崎市坂本1丁目7番1号長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻展開医療科学講座眼科・視覚科学教室Reprintrequests:SugaoMiyagi,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,NagasakiUniversity,1-7-2,Sakamoto,NagasakiCity,Nagasaki852-8501,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY表1患者背景症例性別年齢緑内障型術前mediaopacity手術歴硝子体手術併用白内障手術眼庄点眼スコア少数視力併用1男60SGL4610.01ありICCE,Vit,TLEなしなし2男70NVG2750.01なしなしありあり3男68NVG334光覚弁ありなしありあり4女45NVG36650cm/指数弁ありなしありあり5女45NVG30650cm/指数弁ありなしありあり6男30SGL2510.3なしiridencleisis,TLO,TLE(2)ありあり7男62NVG3630.4なしPEA+IOL,Vit(2)なしなし8男52NVG3040.2なしPEA+IOL,TLEありなし9男37POAG1860.3なしPEA+IOL,Vit,TLO,ExPRESS,TLEなしなし10男58SGL4840.02ありなしありあり11女10CGL336光覚弁ありlensectomy,Vit,TLO,TLE,Baetveldtなしなし12男42NVG3140.1なしTLO,TLE(2)ありあり13男64NVG2360.5なしPEA+IOL,Vitなしなし14女15SGL4261.2なしPEA+IOLありなし15女6CGL2960.01ありTLO(2),TLE(1)ありありPOAG:原発開放隅角緑内障,NVG:血管新生緑内障,SGL:続発緑内障,CGL:先天緑内障,PEA:水晶体超音波乳化吸引術,IOL:眼内レンズ,Vit:硝子体切除術,ICCE:水晶体?内摘出術,TLO:線維柱帯切開術,TLE:線維柱帯切除術,ExPRESS:ExPRESS挿入術,Baerveldt:Baerveldt緑内障インプラント挿入術,iriddenclesis:虹彩嵌頓術.(102)図1平均眼圧の推移平均眼圧は術前31.3±8.3mmHg(平均±標準偏差)が,術後1,3,6,12,18,24カ月でそれぞれ15.0±8.5,14.2±4.4,12.1±3.2,12.4±3.4,12.0±4.7,10.2±4.4と,いずれの時点でも術前に比べ有意に低下した.図2Kaplan?Meierの生存曲線成功基準を術後眼圧が5?21mmHg,視力が光覚弁以上とした際の生存曲線を示す.実線が生存率,破線が95%信頼区間を表す.術後2年での成功率は93.3%,標準誤差は10%であった.表2経扁平部挿入型BGIの報告例報告者発表年症例数観察期間(平均)成功率判定成功基準VarmaRetal4)199513例13眼18カ月85%最終受診時IOP≦15mmHgLuttrullJKetal5)200048例50眼18カ月80%18カ月Kaplan-MeierIOP≦21mmHg,光覚弁以上,追加手術なしChalamKVetal6)200218例18眼6カ月94%術後6カ月6mmHg<IOP≦21mmHg,光覚弁以上,追加手術なしBanittMRetal7)200930例30眼30カ月72%3年,Kaplan-Meier5mmHg<IOP≦21mmHg,光覚弁以上,追加手術なしTarantolaRMetal8)201118例19眼62カ月74%最終受診時IOP≦21mmHg,光党弁以上,追加手術なし植田ら9)201116例16眼83カ月73%10年,Kaplan-Meier,etal5mmHg≦IOP<22mmHg,光覚弁以上,追加手術なしKolomeyerAMetal10)201238例39眼34カ月82%最終受診時5mmHg<IOP<22mmHg,光覚弁以上,追加手術なし三木ら11)201517例17眼10カ月94%術後6カ月6mmHg≦IOP≦21mmHg,光覚弁以上KolomeyerAMetal12)201579例89眼20カ月67%最終受診時6mmHg≦IOP≦21mmHg,光覚弁以上,追加手術なし本報告201614例15眼17カ月93%2年,Kaplan-Meier5mmHg≦IOP<22mmHg,光覚弁以上,追加手術なし本報告でも,過去の報告と比較して同等の手術成績が得られた.原著図表から直接算出した値を一部含む.(103)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611851186あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(104)

My boom 55.

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連載Myboom監修=大橋裕一第55回「眞鍋洋一」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.自己紹介眞鍋洋一(まなべ・よういち)医療法人社団明圭会理事長私は昭和61年に埼玉医科大学を卒業し,そのまま大学院に進みました.そこで当時日本に初めて導入された工業用エキシマレーザーを用いて家兎角膜で基礎実験を行い,平成2年に大学院を修了,その後SAM(TRFのバックダンサー)の実家の丸山記念総合病院(埼玉県岩槻市),畠山眼科医院(長野県松本市),栗原眼科病院(埼玉県羽生市),聖路加国際病院(東京都)を経て平成8年に地元うどん県(香川県)にて開業しました.聖路加国際病院勤務時には,地下鉄サリン事件の患者さんを大変多く診察しました.開業後クリニックを2度移転し,現在は3件目の建物です.開業前のMyboom:病院見学丸山記念総合病院勤務後に大学を辞め,まったく縁もゆかりもない長野県松本市で働かせてもらうようになり,知り合いもいないところで毎日を過ごしていました.その当時はまだMRさんに食事に誘っていただけた時代で,色々と食事に行っていました.あるMRさんが「白内障手術ですばらしい先生がいますから見学に行きませんか?」と誘ってくださり,二つ返事で承諾して見学に行きました.新潟の明生堂アイクリニックの松田章男先生のところです.まだ若かったので,前日に飲みまくって二日酔いで見学させていただいたのを覚えています.にもかかわらず,優しく丁寧に手術見学をさせていただいたことで,それから病院見学にはまり,色々なところに行くようになりました.北は北海道,南は沖縄までほとんどの県に行っています.そのおかげで,各県に1人以上の眼科医の知り合いがいます.当院は入院施設をもたないで手術開業していますが,入院設備のある病院や手術をされてない眼科にも見学に行きます.もちろん大学病院へも行きました.なかには「見学なんかに来ても参考にならないよ」といわれる先生がいますが,そんなことはまったくありません.どの病院にも必ず良いところがあり,それを見つけて参考にさせていただいています.眼科以外でも産婦人科,美容皮膚科にも見学に行きました.美容外科はとくに見学を嫌がる先生も多いのですが,見学可能だったクリニックでは非常に落ち着いた雰囲気のところが多く,トイレに気を遣われていることに気づきました.女性を意識した考え方だとわかり,当院でもトイレを広く綺麗に作ることにしました.その甲斐もあり,現在のクリニックは色々なクリニックの良いところ取りをさせてもらい,満足のいく建物になりました.病院見学は開業した現在でも続けています.若い先生の新しいクリニックは魅力的なところが多く,とても勉強になります.また今では海外の学会出席時に,暇を見つけてクリニックも見学しています.開業後のMyboom1:MBA平成24年4月から香川大学大学院地域マネジメント科に通いました.MBA(経営学修士)を取得するためです.診療が終わって午後6時20分から9時30分まで,月曜から金曜までほぼ毎日通いました.土曜日は朝から講義があるのですが,学会で出席できないことが多いので1科目だけ選択しました.社会人大学院なので22~62歳と年齢層の広い同級生と一緒になります.医学部時代の講義と異なり?すべてが新鮮で,かつ元々経営などに興味がありましたから,なんとこの私が一睡もすることなくまじめに聴いていました.2年間で色々な異業種の方々(会社社長,国会議員,大使など)と知り合いになり,交流の幅がずいぶんと広がりました.これによって得することがあるわけでもないのですが,考え方の幅が広がりました.海外でのMBA取得は修了した大学院により就職が有利になったりしますが,日本ではあまり関係ないようで,自分自身のスキルアップという位置づけになると思います.また,日本のMBAは修士論文を書かなくてはいけないところがほとんどです.医学論文と異なり最低50ページも書かなければいけません.ちなみに私の修士論文は「クリニック向け代診ビジネスプラン」です.これはクリニックに1週間代診を送り,院長に休暇を取ってリフレッシュしてもらうプランです.プラン的には数年で黒字化できる事業となりましたが,まだ実現していません.これからの事業展開を色々考えていますので期待してください.開業後のMyboom2:オカリナ中学の頃ブラスバンド部でクラリネットを演奏していた関係で,音楽には昔から興味がありました.オカリナという楽器も以前から知っていたのですが,音域が1オクターブと少ししか出ないので,あまりたくさんの曲ができないと思っていたところ,たまたま入った楽器屋さんに2オクターブ3オクターブが出せるオカリナが置いてありました.その日には購入しませんでしたが,気になって気になって,ネットなど色々調べてとうとう購入してしまいました.それが大沢オカリナです(写真1).オカリナは1853年にイタリアのブドリオで生まれ,名前は「小さなガチョウ(oca=ガチョウ,rina=小さい)」に由来するものです.発明者は17歳の少年ジュゼッペ・ドナーティでした.イタリアや日本においては,涙滴状の形をしたものが多いのですが,実は他にも丸形や角形などの異なった形のオカリナもあります.また,驚いたことに指穴の数や配置も決まってません.演奏はリコーダーの形が変わった物と考えればむずかしくなく,誰でも音を出すことができます.ただ穴を押さえるのに少しコツがいるみたいで,音は出ますが,演奏できるようになるには時間がかかる人がいるみたいでした.最初は2オクターブのダブル管を購入しましたが,微妙に音がずれていると感じたため,大沢さんに直接お会いして楽器を見てもらいました(写真2).微調整していただき,吹き方も教えていただきました.その後3オクターブを出せるプロ使用のトリプル管を購入し,現在は地元のライブハウスなどで演奏活動をしています.また,日本医大のしわちゃんバンド(志和先生のウクレレバンド)にも参加させていただいています.音楽はこれからも長く続けていく予定です.どこかのライブ会場でお会いしましょう!次のプレゼンターは済生会新潟第二病院の安藤伸朗先生です.大先輩の先生ですが,facebook,メーリングリストなどITを使いこなしていらっしゃいます.どんなMyboomか,とても楽しみです.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.●は掲載済を示す(●は複数回)(89)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611710910-1810/16/\100/頁/JCOPY写真1色々なオカリナ大沢氏所有のオカリナです.写真2ツーショット写真安心してください,掲載許可を得ています.(90)

二次元から三次元を作り出す脳と眼 3.立体視・奥行き感覚とPanum融像感覚圏

2016年8月31日 水曜日

連載③二次元から三次元を作り出す脳と眼雲井弥生淀川キリスト教病院眼科3.立体視・奥行き感覚とPanum融像感覚圏はじめにホロプター上の物体の両眼視差は0である.その前方では交差性視差,後方では同側性視差を生じる.視差が小さくPanum融像感覚圏内であれば凸や凹など立体感や奥行き感覚(depthperception)を生み,視差が大きく圏外であれば複視を生む.交差性視差刺激により誘発される輻湊運動は,その開始時に立体感や奥行き感覚を伴わないことがわかっている.脳は私たちの意識下でホロプターと視差を敏感に検出して利用している.立体視(stereopsis)とPanum融像感覚圏前回は,①ホロプター上の点は両眼網膜の対応点に結像し単一視されること,②ホロプターから前後に大きくはずれた点は,両眼網膜の非対応点に結像するため,複視の感覚を生じることを述べた.ホロプターに近接する点は,たとえ両眼の非対応点に結像しても融像により凸や凹の立体視につながることを今回追加して述べる.*ホロプター前後に広がる両眼で単一視可能な領域のことをPanum融像感覚圏1)とよぶ.*融像とは,両眼網膜に映る同質の像を中枢で融合させて単一の像として認識することである.Panum融像感覚圏は固視点近くで狭く,周辺視野に行くほど広くなる.視覚情報は視細胞→双極細胞→神経節細胞→視神経→視交叉→外側膝状体→後頭葉第1次視覚野へと伝達される.融像感覚圏の広さが固視点と周辺視野で異なるのは,中心窩では1つの神経節細胞が1つの視細胞に対応するのに対して,周辺網膜では1つの神経節細胞が多数の視細胞に対応しているためである.立体視の機序Panum融像感覚圏について具体的に考える(図1,2)2).花の中心Fを固視する.花より手前にある葉の先端AがPanum融像感覚圏の前端に位置すると仮定する.これより前方では複視を生じる.点Aの結像点を右眼では点Ar,左眼では点Alとする.点Arと点Aを通る直線とホロプターとの交点を点A’とする.点A’の右眼での結像点A’rは点Arに一致し,左眼での結像点A’lはAlより鼻側にある.A’はホロプター上の点なのでA’rとA’lは対応点であり,Fr-A’r=Fl-A’lである.AlはA’lより耳側にずれているのでFr-Ar<Fl-Alとなり,交差性視差をもつ.ArとAlを融像させると凸の感覚となる(交差性視差→凸の感覚.6月号連載①参照).葉の先端Aは花中心Fより手前に突出しているように見える.*網膜像が耳側にずれる=交差性視差→凸の感覚図2では花よりも後方にある葉の先端BがPanum融像感覚圏の後端に位置すると仮定する.これより後方では複視を生ずる.点Bの網膜での結像点を右眼では点Br,左眼では点Blとする.点Brと点Bを通る直線とホロプターとの交点を点B’とする.点B’の右眼の結像点B’rはBrに一致し,左眼での結像点B’lはBlより耳側にある.B’はホロプター上の点なのでB’rとB’lは対応点であり,Fr-B’r=Fl-B’lである.BlはBl’より鼻側にずれているのでFr-Br>Fl-Blとなり,同側性視差をもつ.BrとBlを融像させると凹の感覚となる.葉の先端Bは花中心Fより後方に引っ込んで見える.*網膜像が鼻側にずれる=同側性視差→凹の感覚このように非対応点に結像しても,そのずれが小さくPanum融像感覚圏内であれば,融像により凸や凹の感覚となる.Panum融像感覚圏は立体視や奥行き感覚を生み出すのに重要な役目を果たしている.奥行き感覚を遠近感と言い換えることもできるが,英語のdepthperceptionに対応して前者を使っている.生物は視差を情報として使う図3にまとめる.ホロプター上の点は両眼網膜の対応点に結像し,視差をもたない.すなわち視差0であり単一視される.ホロプターより手前に存在する物は交差性視差を生じる.この場合に融像感覚圏内では融像により凸や前方の感覚を生み,圏外では融像困難となり交差性複視の感覚を生む.ホロプターより後ろに存在する物は同側性視差を生じる.融像感覚圏内では凹や後方の感覚を生み,圏外では同側性複視を生む.いずれ詳述するが,後頭葉第1次視覚野には,両眼視差が0のときに強く反応する細胞や逆に反応が抑制される細胞,交差性視差刺激に対して強く反応する細胞,同側性視差刺激に対して強く反応する細胞が存在するとネコやサルを使った実験で報告されている2).また,輻湊についての研究から,交差性視差刺激により誘発される輻湊運動は,その開始時に立体感や奥行き感覚を伴わないことがわかっている3).つまり私たちが視差を立体感や奥行き感覚としてとらえていない段階で,脳はそれを検出して利用しているのである.カエルやカマキリなどの下等な生物の眼には輻湊運動は認められないが,両眼視差自体を使って虫との距離を測り捕食することがわかっている4).「なにが見えるか」に注意を向ける私たちの意識下で,脳は確実にホロプターをとらえ視差を計算している.文献1)粟屋忍:両眼視の発達とその障害.視能矯正学改訂第2版(丸尾敏夫,粟屋忍編),p190-201,金原出版,19982)TychsenL:Normaladultpsychophysics.InAdler’sphysiologyoftheeye(edbyHartWM),p773-802,Mosby,StLouis,19923)高木峰夫,阿部春樹,板東武彦:近見反応.動物とヒトでの生理学的解析から.神眼21:265-279,20044)鈴木光太郎:奥行きをとらえる.動物は世界をどう見るか.p193-218,新曜社,1995図1Panum融像感覚圏と交差性視差葉の先端AはPanum融像感覚圏の前端に位置する.網膜上の点Arと点Alは交差性視差をもち,融像により凸の感覚となる.図2Panum融像感覚圏と同側性視差葉の先端BはPanum融像感覚圏の後端に位置する.網膜上の点Brと点Blは同側性視差をもち,融像により凹の感覚となる.図3ホロプターと立体視・複視の関係ホロプター上の点の視差は0である.前方の点は交差性視差を生じ,Panum融像感覚圏内では凸の感覚,圏外では交差性複視の感覚となる.後方の点は同側性視差を生じ,Panum感覚圏内では凹の感覚,圏外では同側性複視の感覚となる.(87)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611690910-1810/16/\100/頁/JCOPY(88)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 159.PDT後の網膜下増殖組織を有する加齢黄斑変性に対する硝子体手術(上級編)

2016年8月31日 水曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載159159PDT後の網膜下増殖組織を有する加齢黄斑変性に対する硝子体手術(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対する治療として抗VEGF療法が普及する前は,光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)が一般的に施行されていた.PDTの併発症の一つに脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)を中心とした瘢痕性の網膜下線維増殖組織形成がある.筆者らは以前にPDT施行後の巨大網膜下血腫と線維増殖組織を有するAMDに対し,意図的巨大裂孔作製による網膜下手術を施行し報告したことがある1).●症例提示68歳,男性.左眼は以前にAMDによる硝子体出血に対して硝子体手術が施行され,引き続きCNVに対しPDTを2回施行された(GLD5,100μm).その後,眼底の状態は落ち着いていたが,突然,多量の網膜下血腫と下方に胞状の出血性網膜?離をきたした.後極部にはPDT後の網膜下線維増殖組織を認めた(図1).左眼に対して硝子体切除術を施行した.手術は眼内レンズを抜去した後,周辺部の残存硝子体を切除し,眼内ジアテルミーで耳側~下耳側最周辺部に約160°の意図的巨大裂孔を作製した.裂孔縁より網膜を後極に向かって翻転し,裂孔を介して直視下で網膜下血腫除去を行った.多量の網膜下出血が排出されたが,黄斑部から耳側にかけては巨大な凝血塊が線維増殖組織と一体となっており,網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)と強固に癒着していた(図2).双手法で増殖組織をRPEから?離したが,その際に脈絡膜から出血が生じた.眼内ジアテルミーで止血した後,液体パーフルオロカーボンで網膜を伸展させ,意図的巨大裂孔辺縁に眼内光凝固を施行し,その後シリコーンオイルタンポナーデを行った.術後網膜は復位したが,広範囲にRPEの欠損を認め,左眼視力は矯正0.04(矯正不能)にとどまった(図3).●PDT後の網膜下増殖組織の特徴今回は網膜下増殖組織が巨大であったため,意図的巨大裂孔から増殖組織を抜去するという特殊な術式を行ったが,通常は後極の意図的裂孔から網膜下鑷子でCNVを抜去することが多い.この場合でも,過去にPDTが施行されていると,CNVとRPEの癒着が強固になっている可能性が高いので,CNV抜去時にRPEが広範に脱落してしまうことが多い.また,癒着がきわめて強固な症例では,脈絡膜血管を損傷し,多量の網膜下出血をきたすリスクもあることを念頭におく必要がある.文献1)錦織里子,佐藤孝樹,石崎英介ほか:光線力学療法施行後の網膜下線維性組織を伴う加齢黄斑変性に対し意図的巨大裂孔作製による網膜下手術を施行した1例.臨床眼科63:59-62,2009図1初診時左眼眼底写真多量の網膜下血腫と下方に胞状の出血性網膜?離を認める.図2硝子体手術の術中所見耳側に意図的巨大裂孔を作製し,網膜を翻転して双手法で網膜下線維増殖組織を除去した.図3術後の左眼眼底写真術後網膜は復位したが,広範囲に網膜色素上皮の欠損を認める.(85)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611670910-1810/16/\100/頁/JCOPY

眼瞼・結膜:Lid Wiper Epitheliopathyのエッセンス

2016年8月31日 水曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人17.LidWiperEpitheliopathyのエッセンス白石敦愛媛大学大学院医学系研究科器官・形態領域眼科学Lidwiperepitheliopathy(LWE)は,瞬目による眼瞼結膜と眼表面の間での摩擦によって引き起こされる眼瞼結膜縁の上皮障害であり,近年注目されつつある摩擦関連眼表面疾患の代表例である.●はじめに2002年にKorbらは,ドライアイ症状を高率に伴う上眼瞼結膜縁の上皮障害をlid-wiperepitheliopathy(LWE)とよぶことを提唱した1).彼らは,瞼板下溝から粘膜皮膚移行部にかけての領域に解剖学的な名称がなかったこと,この部が眼表面を掃く(wipe)ような動きをすることから,この部位をlid-wiperと命名した1).その後,下眼瞼結膜縁にも同様の上皮障害が認められることが報告され,現在では,LWEは上下の眼瞼結膜縁の上皮障害として認識されている2,3).●LWEの病態・特徴瞬目運動による眼瞼縁結膜と眼表面の間の摩擦の上昇がLWEの病因と考えられており,摩擦で眼瞼縁結膜表層の上皮の脱落と変性が起こると考えられている3)(図1).コンタクトレンズ(CL)装用者での発症率は高く,50%以上とする報告があり,CL装用により,眼表面の摩擦が強くなることが誘因として考えられている3,4).LWEは下眼瞼のほうが発症率は高く,高齢者より若年者に多く認められ,とくに若年者では無症状であることも多い2,3)(図2).●LWEの症状現在のところLWEに特徴的な症状はわかっていないが,ドライアイ症状を呈する患者にLWEが多く認められるとの報告が多い.しかしながら,LWEはドライアイによる所見の一つと思われがちであるが,涙液検査では異常所見は認められないことが多い(図3).したがって,ドライアイ症状があるにもかかわらず,涙液検査で異常を認めない症例では,眼瞼結膜を観察することがLWEを見逃さないポイントである.●LWEの観察通常の細隙灯顕微鏡検査では観察がむずかしいため,LWEを念頭において生体染色を行うことが重要である.通常のフルオレセイン染色やローズベンガル染色でも検出は可能であるが,図4に示すようにリサミングリーン染色とブルーフリーフィルターを用いたフルオレセイン染色がLWEの検出には有効である.●LWEの治療摩擦上昇の原因を探ったうえで,摩擦軽減の対策・治療方法を選択することが重要である.CL装用者:CLが摩擦増加の原因であるため,CL中止が原則である.人工涙液の点眼では,一時的に症状が軽快することもあるが,ほとんど無効である.近年登場したムチン産生を促進するドライアイ点眼薬は多少の効果がある可能性はあるが,大きな期待はできない.CL非装用者:ドライアイのない若年者に認められ,一般に治療抵抗性であることが多い.眼軟膏や近年発売されたムチン産生を促進するドライアイ点眼薬は,摩擦軽減効果が期待されるため,LWEに有効となることもある.高齢者:一般に,高齢者では眼瞼圧が低下し,摩擦も軽減しているはずである.高齢者にLWEを認めたときには,眼瞼形状・瞬目・ドライアイ・マイボーム腺機能不全など,さまざまな角度から摩擦上昇の原因を探索する必要がある.意外な原因として,洗眼行為がある.水道水による洗眼はムチンを含めた涙液を洗い流してしまうため,眼表面の摩擦上昇の原因となる.洗眼の中止のみで,症状もLWEも改善することがある.文献1)KorbDR,GreinerJV,HermanJPetal:Lid-wiperepitheliopathyanddry-eyesymptomsincontactlenswearers.ClaoJ28:211-216,20022)ShiraishiA,YamaguchiM,OhashiY:Prevalenceofupper-andlower-lid-wiperepitheliopathyincontactlenswearersandnon-wearers.EyeContactLens40:220-224,20143)白石敦,山西茂喜,山本康明ほか:ドライアイ症状患者におけるlid-wiperepitheliopathyの発現頻度.日眼会誌113:596-600,20094)KorbDR,HermanJP,GreinerJVetal:Lidwiperepitheliopathyanddryeyesymptoms.EyeContactLens31:2-8,2005図1インプレッションサイトロジーa:正常眼瞼結膜.多数のPAS陽性ゴブレット細胞が観察される.b:LWE.ゴブレット細胞は認められず,核・細胞質比が小さく,一部に扁平上皮化生した細胞(▲)が認められる.(83)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611650910-1810/16/\100/頁/JCOPY図2LWEの発現頻度図3LWEとドライアイ検査図4各生体染色によるLWEの観察(84)

抗VEGF治療:抗VEGF治療時代におけるPDT併用療法のメリット

2016年8月31日 水曜日

抗VEGF治療セミナー●連載監修=安川力髙橋寛二31.抗VEGF治療時代におけるPDT併用療法のメリット齋藤航回明堂眼科・歯科北海道大学大学院眼科学分野抗VEGF薬が全盛期の現在でも,滲出型加齢黄斑変性(AMD)に対する光線力学的療法(PDT)は,抗VEGF薬と併用すれば有効な治療法である.本稿では,滲出型AMDに対するPDT併用療法の適応と使用方法を概説する.PDT併用療法の意義と投与方法滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対する光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)の単独治療は,レーザー照射により脈絡膜毛細血管板が閉塞することで血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)を含めた炎症性サイトカインが産生されることなどに関連して,治療後視力が改善しないなどの問題点があった.この欠点を補うために,現在ではPDT時に抗VEGF薬を併用することがスタンダードとなっている.さらに筆者の病院では,抗VEGF薬に加えトリアムシノロンアセトニド後部Tenon?下注射(posteriorsub-Tenon’scapsuleinjectionsoftriamcinoloneacetonide:STTA)40mgも用いたPDTトリプル療法を行っている1).この治療法は,治療1年後で有意な視力の改善と少ない平均治療回数(1.1回/年)を達成し,長期的にも抗VEGF薬併用PDTと比べ,視力や治療回数の面で優れていた2).方法は,薬物投与当日または翌日にインドシアニングリーン蛍光眼底造影ガイド下でPDTを行う.PDT施行後再発時には,抗VEGF薬を単独で投与する.抗VEGF薬併用PDTの適応抗VEGF薬併用PDTは,日本眼科学会のAMD診療ガイドラインでは,視力が0.5以下のポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)と網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)に対して推奨されている.さらに,この治療法が有効である可能性がある病態を表1にあげる.いずれにしてもこの治療の利点は,抗VEGF薬単独より治療回数を減らすことができることである.PCVでは,ポリープ状病巣の退縮率が抗VEGF薬単独より高いことから有効であり,かつPDTを初回治療から行ったほうが,途中から行うよりも治療回数を減らすことができる3)(図1,2).上述したガイドラインで抗VEGF薬単独投与が推奨されている視力良好例でも,治療後頻回に再発する場合,筆者の病院ではPDT併用療法を行っている.文献1)YoshizawaC,SaitoW,HiroseSetal:Photodynamictherapycombinedwithintravitrealbevacizumabandsub-tenontriamcinoloneacetonideinjectionsforage-relatedmaculardegeneration.JpnJOphthalmol57:68-73,20132)SakaiT,OhkumaY,KohnoHetal:Three-yearvisualoutcomeofphotodynamictherapyplusintravitrealbevacizumabwithorwithoutsubtenontriamcinoloneacetonideinjectionsforpolypoidalchoroidalvasculopathy.BrJOphthalmol98:1642-1648,20143)GomiF,OshimaY,MoriRetal;FujisanStudyGroup:Initialversusdelayedphotodynamictherapyincombinationwithranibizumabfortreatmentofpolypoidalchoroidalvasculopathy:TheFujisanStudy.Retina35:1569-1576,2015表1抗VEGF薬併用PDTが有効または考慮すべき病態1.PCV2.RAP3.再発を繰り返す症例4.脳心血管イベントの既往をもつ症例5.(高齢,遠方,身体的要因などで)頻回に通院できない症例図1再発を繰り返したPCV症例症例は77歳,男性で,心筋梗塞と脳梗塞の既往がある.初診時の右矯正視力は0.4で,右黄斑部にフィブリンを伴った漿液性網膜?離があった(a).IAではポリープ状病巣とネットワーク血管が同定され(b),OCTではフィブリンを伴う漿液性網膜?離と網膜色素上皮?離があった(c).図2図1症例の治療後の経過PCVと診断してPDTトリプル療法を行ったところ,滲出性変化は消失し,視力は1.0まで上昇した.治療6カ月後に行ったIAでは,ポリープ状病巣の消失を確認した(a).同療法13カ月後からその後の14カ月間で4回滲出性変化が再発したので,そのたび抗VEGF薬療法を行った.その後の再発時にIAでポリープ病巣が再度出現していたので,初回治療31カ月後に2回目のPDTトリプル療法を行った.滲出性変化はすみやかに消失したが,その後2回再発したため抗VEGF薬を投与した.その後の再発時にIAでポリープ状病巣の再出現を確認したので,初回治療46カ月後に3回目のPDTトリプル療法を行った.その後2回再発したため,抗VEGF薬を追加した.初回治療60カ月後の現在,漿液性網膜?離はなく(b,c),矯正視力は1.0を保っている.初回治療後5年間でPDTトリプル療法3回(0.6回/年)と抗VEGF薬単独投与8回(1.6回/年)を要したが,血管イベントの既往をもつ頻回の再発症例に対しても,長期の経過で抗VEGF薬の投与回数を抑制でき,良好な視力を保つことができた.(81)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611630910-1810/16/\100/頁/JCOPY(82)1164あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016

緑内障:眼圧と脈絡膜

2016年8月31日 水曜日

●連載194緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也194.眼圧と脈絡膜臼井審一大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室脈絡膜は血管に富んだ組織で,黄斑部および外層網膜への血液供給,網膜の温度調節,視機能の調節といった働きがある1).網膜と異なり血液関門に乏しく,血流の影響を受けやすい2).正常でも厚みが変動し,日内変動の他3,4),調節によっても変化するが,濾過手術後のように大幅に眼圧が下降すると,著しく肥厚することが知られている.●脈絡膜の日内変動と眼圧,眼軸長との関係通常,夜間に眼圧が下降する際,眼軸長は短縮し5),脈絡膜は肥厚する4).脈絡膜厚は網膜に比べて個人差が大きく,近視眼では菲薄化する傾向がある.また,日内変動幅も個人差があり,OCTを用いた解析によると,わずか数μmしか変動しない眼もあれば60μm以上変動する眼もある.通常,日中の日内変動は少なく,夜間から早朝にかけて肥厚する傾向がある(図1).脈絡膜厚の変動は種によっても異なり,鳥類では調節の有無で数百μmも変化するが,ヒトを含むその他の種ではずっと小さい.調節による変化が強膜の伸展にも影響するものと考えられ,近視化との関連が示唆されている.●濾過手術と脈絡膜脈絡膜は外側の強膜と内側の網膜との間にあるメラニンに富んだ血管膜で,4層に分けることができ,外側から上脈絡膜(suprachoroid),血管層(vascularlayer),脈絡毛細血管板(choriocapillaris),Bruch膜(Bruch’smembrane)から構成され,血管層は大血管層(Harller’slayer)と中血管層(Sattler’slayer)の2層からなる.このうち脈絡毛細血管板は毛細血管からなる1枚の膜様構造で,Bruch膜側に窓構造(fenestration)をもつため血漿成分が自由に拡散しうる.これに対して血管層には窓構造がない.通常,脈絡毛細血管板と脈絡膜間質は平衡状態であるが,濾過手術のように急激に眼圧が下降すると脈絡毛細血管板内と血管外に圧勾配が生じ,血漿蛋白などの血液成分が血管外,すなわち脈絡膜間質へ拡散する.その結果,浸透圧によって間質に水が流出して脈絡膜に浮腫が起き,全体に著しく肥厚すると考えられる(表1)6).また,濾過手術後早期は眼軸長が短縮し,眼球全体としても縮小する6).濾過量が過剰となり低眼圧に陥ると,脈絡膜?離が発生する.脈絡膜と強膜の移行部である上脈絡膜には,膠原線維や弾性線維からなる比較的柔らかな層状構造があり,脈絡膜外隙(suprachoroidalspace)とよばれる間隙が存在する.低眼圧ではこの間隙に水が貯留し,脈絡膜?離が生じると考えられる.層板間の接着は後極部に比べて前方のほうが弱いため,脈絡膜外隙の拡大や脈絡膜?離は,通常,赤道部より周辺で発生する(図2).一方,脈絡膜?離をきたさない症例では,網膜と脈絡膜は波打ったように皺がより,網膜血管は拡張蛇行し,視神経乳頭は浮腫状を呈することがある.黄斑部に皺襞を生じて視力低下や歪視をきたした状態を低眼圧黄斑症とよび,通常は眼圧が5mmHg以下で起こることが多く,特徴的な眼底とOCT所見を呈する(図3).これは,眼圧が下降し眼球が縮小すると外眼筋が眼球を後方に牽引し,逆に視神経は前方へ圧迫するため後眼部に皺が起こりやすいためと考えられている.この低眼圧黄斑症は,眼球が変形しやすい若年近視眼に多い特徴がある.もともと後眼部は,前眼部に比べて膠原線維が疎であるため剛性が低く,眼球が変形しやすい構造をしているが,近視眼では眼球の伸長により強膜が薄く,さらに若年の強膜は弾性に富むため,後極部に皺が起こりやすいと考えられる.●閉塞隅角と脈絡膜濾過手術後の眼圧下降に伴う脈絡膜の肥厚とは別に,原発閉塞隅角の症例でも脈絡膜が肥厚していることが報告されている7).このような症例に飲水負荷試験を行うと,脈絡膜はさらに肥厚するといわれている8).すなわ(80)ち,このchoroidalexpansionという病態が,一部の急性閉塞隅角症の発症にかかわっていることを裏付けている.また,原田病のように脈絡膜のメラノサイトを標的とする自己免疫性疾患で炎症が脈絡膜全体に及ぶと,脈絡膜の血管透過性が亢進し,脈絡膜は著しく肥厚する.原田病でも,急性期に脈絡膜?離に伴って毛様体が前湾し,二次的な急性閉塞隅角症を発症することがあるので注意を要する.文献1)WallmanJ,WildsoetC,XuAetal:Movingtheretina:choroidalmodulationofrefractivestate.VisRes35:37-50,19952)DelaeyC,VanDeVoordeJ:Regulatorymechanismsintheretinalandchoroidalcirculation.OphthalmicRes32:249-256,20003)ChakrabortyR,ReadSA,CollinsMJ:Diurnalvariationsinaxiallength,choroidalthickness,intraocularpressureandocularbiometrics.InvestOphthalmolVisSci52:5121-5129,20114)UsuiS,IkunoY,AkibaMetal:Circadianchangesinsubfovealchoroidalthicknessandtherelationshipwithcirculatoryfactorsinhealthysubjects.InvestOphthalmolVisSci53:2300-2307,20125)WilsonLB,QuinnGE,YingGetal:Therelationofaxiallengthandintraocularpressurefluctuationinhumaneyes.InvestOphthalmolVisSci47:1778-1784,20066)UsuiS,IkunoY,UematsuSetal:Changesinaxiallengthandchoroidalthicknessafterintraocularpressurereductionandresultingfromtrabeculectomy.ClinOphthalmol7:1151-1161,20137)AroraKS,JefferysJL,MaulEAetal:TheChoroidisthickerinangleclosurethaninopenangleandcontroleyes.InvestOphthalmolVisSci53:7813-7818,20128)AroraKS,JefferysJL,MaulEAetal:Choroidalthicknesschangeafterwaterdrinkingisgreaterinangleclosurethaninopenangleeyes.InvestOphthalmolVisSci53:6393-6402,2012図1健常人の中心窩脈絡膜厚日内変動夜間から早朝にかけて厚くなり,夕方に向けて薄くなる傾向がある.(文献4を改変)表1濾過手術前後の眼圧,眼軸長,脈絡膜厚の変化線維柱帯切除術p値術前(平均±標準偏差)術後(平均±標準偏差)眼圧(mmHg)26.6±7.67.2±2.6<0.0001*眼軸長(mm)25.12±1.4224.86±1.430.001*中心窩脈絡膜厚(μm)206±64254±64<0.0001**p<0.05(Pairedt-test)(文献6を改変)(79)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611610910-1810/16/\100/頁/JCOPY図2濾過手術後の低眼圧に伴う脈絡膜?離低眼圧により,眼底周辺に著明な脈絡膜?離がみられる.図3低眼圧黄斑症のOCT画像低眼圧に伴って網脈絡膜襞壁がみられる.1162あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016

屈折矯正手術:PTK後の遠視化への対策

2016年8月31日 水曜日

●連載195屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂大橋裕一坪田一男195.PTK後の遠視化への対策天野史郎井上眼科病院PTKは表層性角膜混濁の除去に有用であるが,術後の遠視化が問題点のひとつである.PTK後の遠視化が問題となることが予想される症例では,PTK時に遠視矯正PRKを施行することで遠視化を防ぐことができる.角膜混濁と白内障がある症例では,まずPTKを行い,PTK後に遠視が問題となる場合には,SRK-TではなくHaigis-Lなどの計算式を用いてIOL度数計算を行って白内障手術を施行することが勧められる.●はじめにエキシマレーザー治療的角膜切除術(phototherapeutickeratectomy:PTK)は,顆粒状角膜変性症(granularcornealdystrophy:GCD)や帯状変性(band-shapedkeratopathy:BSK)などの表層性角膜混濁により視機能が低下した症例に対して有用な手術である1).2010年以降,国内では保険収載され,広く行われている.●PTKの実際PTKでは,瞳孔を中心とした直径約7mm程度の範囲内にエキシマレーザーを照射する.切除深度は上皮切除も含めて,GCDで100~150μm程度,BSKで80~120μm程度である.GCDでは角膜中層まで混濁があることも多いが,すべての混濁を切除する必要はなく,顆粒状混濁の間にある表層性のすりガラス状混濁が切除されればよい(図1).BSKでは術中にすべての混濁が切除された瞬間がよくわかるので,その時点でレーザー切除を終了する.PTKの術後,矯正視力の改善が約70%の症例でみられた1,2).●PTK後の遠視化への対策PTKの有用性は広く認識されているが,術後に遠視化することがその問題点として指摘されてきた.もともと正視や遠視である場合や,片眼のみの治療を行う場合に,術後の遠視化がとくに問題となる.PTK後に遠視化する原因としては,術後の上皮厚の不均一性などが考えられている.PTK後の遠視化対策としては,切除深度を減らす,transitionzoneを置く,ヒアルロン酸などのmaskingagentを術中使用する,などが提案されてきたが,有効性はあまり高くない3,4).筆者らはPTK後の遠視化対策として,症例の屈折状態に応じて,PTK施行時に同時に遠視矯正hyperopicphotorefractivekeratectomy(HPRK)を行ってきた2).PTKを施行した直後に,同じ術野でHPRK(opticalzone:6.5mm,transitionzone:9.0mmでのHPRKプラスsmoothingPTK3.6μm8.0mm)を追加した.遠視矯正度数は術前屈折度数,疾患から予測される切除深度などを考慮し,これまでの経験から決定した.GCDに対してPTKのみ施行した20眼と,PTKとHPRKを施行した15眼とで術後経過を比較したところ,視力の改善度や術後合併症で2群間に差はなく,術前からの屈折度数の変化は,PTK単独群では1.5D程度の遠視化がみられたのに対して,PTK+HPRK群ではほとんど術前から変化がなかった(図2).これらの結果から,PTK後の遠視化が問題となる症例では,PTK時にHPRKを同時に施行することが有用であることがわかった.●PTK後遠視矯正としての白内障手術PTK後のもうひとつの遠視化対策法として,PTK後に白内障手術を行うことがある.PTKを行う症例の多くが白内障年齢であり,白内障手術をその後に施行することを予定してPTKを施行する場合も多い.ただ,PTK後眼はLASIK後眼と同様に,角膜形状パターンが正常眼とは異なっており,通常のIOL度数計算を行うと,術後に遠視側に屈折がずれることが多い.筆者らはPTK後の21眼において,SRK-T,Haigis-L,Shammas,CASIA付属のOKULIXの4種の計算式で白内障術後屈折を予測し,白内障術後1カ月での実際の屈折値と予測値とのずれを計算した.屈折値のずれの平均は,SRK-Tで0.67±0.75D,Haigis-Lで?0.34±0.80D,Shammasで?0.85±1.07D,OKULIXで0.06±1.20Dであった(図3).屈折値のずれの絶対値の中央値および範囲はSRK-Tで0.7D(0~1.8D),Haigis-Lで0.7D(0~1.95D),Shammasで0.7D(0.05~3.05D),OKULIXで0.95D(0.02~2.4D)であった.この結果から,PTK後眼でのIOL度数計算では,通常広く使われているSRK-Tでは遠視側へのずれが大きいため,Haigis-Lなど他の方法を用いたほうがよいことが示唆された.●おわりにPTK後の遠視化対策として,HPRKの同時施行およびPTK後の白内障手術について述べた.お勧めの方針としては,PTKを行う前から白内障がある症例では,PTKを施行し,術後に遠視が問題となるなら,IOL度数計算式の選択に気をつけつつ白内障手術を行う.白内障がないか,あるいは白内障術後で,遠視化させたくない場合は,PTKと同時にHPRKを行う.なお,本稿で述べたPTKやHPRKの成績はEC-5000(Nidek社)によるものである.レーザー機種によりPTK後のセントラルアイランドが問題になるが,EC-5000ではエキシマレーザー照射パターンにslit-scanning方式を採用しているため,セントラルアイランドは問題とならない.本稿の内容は,使用するレーザー機種により多少違いがある可能性があることを最後に付記する.文献1)AmanoS,OshikaT,TazawaYetal:Long-termfollowupofexcimerphototherapeutickeratectomy.JpnJOphthalmol43:513-536,19992)AmanoS,KashiwabuchiK,SakisakaTetal:Efficacyofhyperopicphotorefractivekeratectomysimultaneouslyperformedwithphototherapeutickeratectomyfordecreasinghyperopicshift.Cornea2016May6.[Epubaheadofprint]3)DogruM,KatakamiC,YamanakaA:Refractivechangesafterexcimerlaserphototherapeutickeratectomy.JCataractRefractSurg27:686-692,20014)AmmM,DunckerGI:Refractivechangesafterphototherapeutickeratectomy.JCataractRefractSurg23:839-844,1997図1顆粒状角膜変性症へのPTKの術前(a),術後(b)顆粒間のすりガラス状混濁が除去できればよく,顆粒状混濁すべてを除去する必要はない.(77)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611590910-1810/16/\100/頁/JCOPY図2顆粒状角膜変性症へのPTK術後の屈折度数変化PTK単独群では1.5D程度の遠視化がみられたのに対して,PTK+HPRK群ではほとんど術前から変化がなかった.図3PTK後眼への白内障手術時のIOL計算度数ずれの比較SRK-Tでは遠視側へのずれが大きいため,Haigis-Lなど他の方法を用いたほうがよいことが示唆された.1160(78)

眼内レンズ:2.5mm創口からの簡便な眼内レンズ摘出方法

2016年8月31日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋357.2.5mm創口からの簡便な眼内レンズ摘出方法溝手秀秋みぞて眼科光学部径6.0mmのアクリル製フォーダブル眼内レンズ(以下IOL)を2.5mm強角膜切開創から簡便に摘出する方法について検討したので報告する.IOLを水晶体?内から前房に脱臼させ,永田氏剪刀でIOL支持部を切断し,眼外に摘出した.その後,IOL光学部を逆V字に切断し,切断した中央部を眼外に摘出後,残りの部分を回転させながら摘出した.創口の拡大を行わずIOLの摘出が可能であった.●はじめに白内障手術後に眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の偏位,混濁,屈折誤差,多焦点と単焦点レンズの交換などの理由で,IOLを摘出する場合がある.このためには,惹起乱視が少なく,かつ小さな創口から安全,簡便にIOLを摘出する方法が望まれる.これまでに,IOLの光学部を眼内で切断することで,小さい創口からIOLを摘出が可能であり,いくつかの方法が報告されている.今回,筆者は新たな方法を考案したので報告する.●症例:53歳,男性2015年8月5日,左眼水晶体超音波乳化吸引術(以下PEA)+多焦点IOL挿入術,2015年8月26日,右眼PEA+多焦点IOL挿入術を行った.IOLは光学部径6.0mmのアクリル製フォーダブルレンズを使用した.2015年9月8日,右眼視力1.0(1.5×+0.50D),左眼視力0.4(1.5×+0.75D).左眼が見えにくく,眼鏡をかけたくないとのことで,左眼多焦点IOL交換を予定した.(75)2015年9月16日,左眼多焦点IOL交換を行った.2.5mm強角膜切開後,ビスコディスクRを前房内に注入して,IOLを水晶体?内から前房に脱臼させ,永田氏剪刀でIOL支持部を切断し,眼外に摘出した.次に,IOL光学部を逆V字に切断し(図1,2),切断した中央部を眼外に摘出(図3)後,残りの部分を回転させながら摘出した(図4).IOL摘出時,2.5mm強角膜切開創両端の角膜に皺が寄ったが,創口の拡大は行わなかった.続いて新しいIOLを挿入した.2015年10月16日,右眼視力1.0(n.c.),左眼視力1.2(n.c.).●考察IOLの切断方法は,①光学部を半切する方法1),②光学部の1/4のみを切断する方法2),③IOLを回転させながら螺旋状に切断する方法3)などが報告されている.切断したIOLの摘出に必要な切開創は①,②が3.0mm以上で,③は強角膜切開創で2.4mm,角膜切開2.6mmと記載されている.図5のように直径6.0mmの青い円の中に直径0.5mmの白い円を描き,白い円を含んで,円を切断する切開線を引けば,切断された部位の最大幅は2.5mm以下になる.今回の方法でIOLを切断すれば,2.5mm強角膜切開創からIOLが摘出可能と考え,行った.実際には,IOLに厚みがあり,IOL摘出時2.5mm強角膜切開創両端の角膜に皺が寄ったが,創口の拡大は行わず摘出可能であった.IOLを半切する方法に近い手技で切断できるので,半切に慣れている術者には容易と思われる.文献1)YuAFK,NgASY:Complicationsandclinicaloutcomesofintraocularlensexchangeinpatientswithcalcifiedhydrogellenses.JCataractRefractSurg28:1217-1222,20022)江口秀一郎:眼内レンズ交換1.IOL&RS25:183-189,20113)郡司久人,新井香太,伊藤義徳ほか:小切開から摘出可能な新しい眼内レンズ切断法.眼科手術23:603-607,2010図1IOL光学部を逆V字に切断①図2IOL光学部を逆V字に切断②(75)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.8,20161157図3逆V字に切断した中央部を眼外に摘出図4残りの部分を回転させながら摘出図5IOL光学部の切断模式図図1IOL光学部を逆V字に切断①図2IOL光学部を逆V字に切断②(75)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611570910-1810/16/\100/頁/JCOPY図3逆V字に切断した中央部を眼外に摘出図4残りの部分を回転させながら摘出図5IOL光学部の切断模式図