●連載188緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也188.緑内障遺伝子ハンティングの最前線池田陽子*1中野正和*2京都府立医科大学大学院医学研究科*1視覚機能再生外科学*2ゲノム医科学緑内障において“遺伝子ハンティング”という言葉がふさわしくなったのは落屑症候群に関連するLOXL11)の同定からであろう.当時のアレイではゲノム上の30万個のバリアントの解析が可能であったが,現在では430万個ものバリアントが解析でき,多検体化の波にも乗って新規関連遺伝子の同定が期待されている.●国際コンソーシアム化2009年に皮切りとなった広義原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)のゲノムワイド関連解析(genome-wideassociationstudy:GWAS)の結果,現在までに同定されているバリアントは,他の多因子疾患と同様に疾患に対する影響力が弱く(オッズ比2.0未満),広義POAGに関連するバリアントは依然として多数潜在することが示唆されている.広義POAGに関連する未同定のコモンバリアントだけでなく,アレル頻度の低いレアバリントを同定しつくすためには,より多くの検体を用いたGWASを実施する必要がある.そのため,世界規模で検体を収集しデータを取得するための国際コンソーシアム化が進み,InternationalGlaucomaGeneticsConsortium(IGGC)が発足した.IGGCの拠点はおもに3つで,米国のJaneyWiggsらが率いるNEIGHBOR(NEIGlaucomaHumangeneticscollaBORation)およびNEIGHBORHOOD(NEIGHBORHeritableOverallOperationalDatabase),シンガポール国立アイセンターのTinAungらのグループ,オーストラリアのJamieECraigらのグループから構成されている.これらの3つのコンソーシアムは競合しているものの,膨大な検体数を確保するために,ときに力を合わせて解析を進める柔軟性がある.2015年,NatureGenetics誌に掲載された2.5Mアレイ(250万バリアント)による落屑症候群のGWAS2)では,これらのコンソーシアムのメンバーが多数参画した.●アレイの進歩2005年の加齢黄斑変性で使用されたアレイに搭載されていたバリアントはわずか10万個(100Kアレイ)であったが,今や2.5Mアレイが主流であり,さらには430万個ものバリアントを解析できるアレイも登場している.取得できるデータ量の増加に伴い,解析サーバなどの整備にコストがかかるものの,1バリアントあたりのデータ取得費用は低価格化が進んでいる.また,遺伝子のエキソン上のバリアントに的を絞ったエキソームアレイの報告も多く認められるようになった.統計学的に疾患に関連するバリアントをエキソン上から同定できれば,遺伝子の機能解析に直ちに移行できる点でメリットが多い.一方,従来のアレイのほとんどは外国製で,白人のバリアントの検出に主眼が置かれていたため,日本人ではおよそ3割のデータを解析から除外しなければならなかった.最近,日本人固有のバリアントを搭載した「ジャポニカアレイ」が東北大学東北メディカル・メガバンク機構の元で開発されたことから,日本人独自の遺伝子ハンティングに活用されることが期待される(図1).図1遺伝子ハンティングを支えるアレイ(107)あたらしい眼科Vol.33,No.2,20162670910-1810/16/\100/頁/JCOPY表1全ゲノムおよびエキソームアレイを用いた最近の遺伝子ハンティングの成果病型遺伝子領域染色体位置バリアントID人種オッズ比アレイ文献原発開放隅角緑内障ABCA1PMM29q31.116p13.2rs2487032rs3785176アジア人0.731.30HumanOmniZhongHua-8Chenetal,2014*1原発開放隅角緑内障ABCA1AFAP1GMDS9q31.14p16.16p25.3rs2472493rs4619890rs11969985白人1.311.201.31HumanOmni1M-QuadHumanOmniExpress-24Gharahkhanietal,2014*2原発開放隅角緑内障CDKN2BAS-1CDC7-TGFBR39p21.31p22.1rs2157719rs1192415アジア人白人0.711.13HumanCoreExome+25,000EastAsiancodingvariantsZhengetal,2015*3原発開放隅角緑内障TXNRD2ATXN2FOXC122q11.2112q24.126p25.3rs35934224rs7137828rs2745572白人アジア人0.781.171.17Illumina660W_QuadAffymetrix500KHumanOmni1-QuadBaileyetal,2016*4落屑症候群/落屑緑内障LOXL1PMLTBC1D2115q24.115q24.115q24.1rs3825942rs3825941rs16958445日本人25.441.83.54Genome-WideHumanSNPArray6.0Nakanoetal,2015*5落屑症候群/落屑緑内障LOXL1CACNA1A15q24.119p13.2rs4886776rs4926244アジア人白人9.87(日本人)0.49(白人)HumanOmniExpress-241.16Aungetal,2015*6原発閉塞隅角緑内障ABCC511p15.1rs1401999アジア人1.13Human610-QuadNongpiuretal,2014*7原発閉塞隅角緑内障PLEKHA7COL11A1PCMTD1-ST1811p15.11p21.18q11.23rs11024102rs3753841rs1015213アジア人1.221.201.50Human610-QuadVithanaetal,2012*8*1:ChenY,LinY,VithanaENetal:CommonvariantsnearABCA1andinPMM2areassociatedwithprimaryopen-angleglaucoma.NatGenet46:1115-1119,2014*2:GharahkhaniP,BurdonKP,FogartyRetal:CommonvariantsnearABCA1,AFAP1andGMDSconferriskofprimaryopen-angleglaucoma.NatGenet46:1120-1125,2014*3:LiZ,AllinghamRR,NakanoMetal:AcommonvariantnearTGFBR3isassociatedwithprimaryopen-angleglaucoma.HumMolGenet24:3880-3892,2015*4:BaileyJN,LoomisSJ,KangJHetal:Genome-wideassociationanalysisidentifiesTXNRD2,ATXN2andFOXC1assusceptibilitylociforprimaryopen-angleglaucoma.NatGenet,Epubaheadofprint,2016*5:NakanoM,IkedaY,TokudaYetal:NovelcommonvariantsandsusceptiblehaplotypeforexfoliationglaucomaspecifictoAsianpopulation.SciRep14:5340,2014*6:AungT,OzakiM,MizoguchiTetal:AcommonvariantmappingtoCACNA1Aisassociatedwithsusceptibilitytoexfoliationsyndrome.NatGenet,47:387-392,2015*7:NongpiurME,KhorCC,JiaHetal:ABCC5,agenethatinfluencestheanteriorchamberdepth,isassociatedwithprimaryangleclosureglaucoma.PLoSGenet10:e1004089,2014*8:VithanaEN,KhorCC,QiaoCetal:Genome-wideassociationanalysesidentifythreenewsusceptibilitylociforprimaryangleclosureglaucoma.NatGenet44:1142-1146,2102●遺伝子ハンティングの成果(表1)2014年,約90万個のバリアントが搭載されているアレイを用いたGWASによって,広義POAGに関連するバリアント(オッズ比は1.2前後)が,9q31.1領域のABCA1近傍から同定された3,4).これらのバリアントは中国人と白人で検出され,人種を超えて再現された.ABCA1はコレステロールの輸送にかかわる蛋白質で,線維柱帯,網膜全層,視神経に発現しており,とくに網膜神経節細胞において強く発現していた.一方,ABCA1はCDKN2BAS-1とともに心疾患,糖尿病などの他の多因子疾患とも関連しており,緑内障の病態に直接関係しているのか,あるいは調節配列上のバリアントが本領域外の遠隔遺伝子の発現を調節しているのか,解明が待たれるところである.最近,約26万個のコモンバリアントと約24万個のエキソン上のバリアントが解析できる市販のアレイに,アジア人固有のエキソン上のバリアントを25,000個カスタマイズして搭載したエキソームアレイを用いた大規模GWASの結果が報告された5).本研究では,エキソン上のレアバリアントは新規に同定できなかったものの,既報のCDKN2B-AS1のコモンバリアントが再現268あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016されるとともに,TGFBR3近傍のコモンバリアントが同定された.このバリアントは,視神経乳頭面積や垂直陥凹比に関連することが報告されていたが,広義POAGの発症にも関連することが初めて判明した.広義POAGのような多因子疾患では,個々の影響力が弱いバリアントが数十から数百個存在することが示唆されていることから,今後もアレイを用いた大規模GWASによる遺伝子ハンティングが継続して実施されることが予想される.文献1)ThorleifssonG,MagnussonKP,SulemPetal:CommonsequencevariantsintheLOXL1geneconfersusceptibilitytoexfoliationglaucoma.Science317:1397-1400,20072)AungT,OzakiM,MizoguchiTetal:AcommonvariantmappingtoCACNA1Aisassociatedwithsusceptibilitytoexfoliationsyndrome.NatGenet47:387-392,20153)ChenY,LinY,VithanaENetal:CommonvariantsnearABCA1andinPMM2areassociatedwithprimaryopen-angleglaucoma.NatGenet46:1115-1119,20144)GharahkhaniP,BurdonKP,FogartyRetal:CommonvariantsnearABCA1,AFAP1andGMDSconferriskofprimaryopen-angleglaucoma.NatGenet46:1120-1125,20145)LiZ,AllinghamRR,NakanoMetal:AcommonvariantnearTGFBR3isassociatedwithprimaryopenangleglaucoma.HumMolGenet24:3880-3892,2015(108)