特集●OCTを使いこなす2016あたらしい眼科33(2):215.222,2016特集●OCTを使いこなす2016あたらしい眼科33(2):215.222,2016脈絡膜疾患─中心性漿液性脈絡網膜症,加齢黄斑変性,原田病─DisordersoftheChoroid─CentralSerousChorioretinopathy,Age-RelatedMacularDegeneration,Vogt-Koyanagi-HaradaDisease─石龍鉄樹*はじめに網膜は視覚に特化した神経組織であり,循環,代謝,免疫機能など多くの機能を脈絡膜に依存している.このほかに脈絡膜は,屈折,調節にもかかわっている.多彩な機能を有する脈絡膜の検査に,多くの形態,機能評価法が開発されてきた.フルオレセイン・インドシアニングリーン蛍光眼底造影,超音波検査,眼球脈波計などがある.しかし,これらの検査法には,侵襲性や精度など解決しなければならない問題点も残されていた.1990年代後半に登場した光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は,ミクロンオーダーで非侵襲的な網膜の形状解析を可能にした.さらに21世紀に入りspectraldomainOCT(SD-OCT)によるenhanceddepthimagingやswept-sourceによる高侵達OCTが登場し,脈絡膜形態を網膜と同程度の精度で観察することが可能になった.これらのOCTによる脈絡膜検査法の進歩により,これまで不明であった脈絡膜の生理,病態が明らかとなってきた.本項では,中心性漿液性脈絡網膜症(centralserouschorioretinopathy:CSC),加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD),原田病のOCT所見を,網膜所見と最近明らかになった脈絡膜所見とに分けて解説する.I中心性漿液性脈絡網膜症CSCは中高年の男性に好発し,黄斑部に漿液性網膜.離をきたす疾患である.漿液性網膜.離は網膜色素上皮障害による外血液網膜柵の破綻により生ずるが,その原因は脈絡膜の循環障害にあると考えられている.1.網膜所見OCTで漿液性網膜.離は,硝子体腔に向かって凸面をなす網膜.離として描出され,網膜下液の部分が均質な低信号となる(図1).蛍光漏出点付近では,限局性の小さな網膜色素上皮.離がみられることが多く,ときには網膜色素上皮が弁状に.離している所見がみられる.漏出点からフィブリン析出があると,網膜色素上皮から神経網膜にかけて高信号域がみられ,網膜外層が網膜色素上皮に向かい引き延ばされたような形態をとることがある.漿液性網膜.離期間が長くなると,網膜後面に視細胞外節の伸長がみられる(図2).視細胞からは日々新しい視細胞外節が作られており,網膜色素上皮に貪食されている.漿液性網膜.離により,視細胞外節の貪食が阻害されるため,視細胞外節が伸長し網膜後面から垂れ下がったような形態になると考えられている.この時期には,網膜内,網膜後面に点状沈着物(precipitates)を認めることがある1).この沈着物は,網膜色素上皮に貪食されなくなった視細胞外節を貪食するために遊走したマクロファージや網膜色素上皮細胞と考えられている.漿液性網膜.離が遷延すると視細胞障害が生じ,外顆粒層が菲薄化する.視細胞外節が産生されなくなり,やがて網膜下面の伸長した視細胞外節はみられなくなる.*TetsujuSekiryu:福島県立医科大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕石龍鉄樹:〒960-1295福島市光が丘1番地福島県立医科大学医学部眼科学講座0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(55)215216あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(56)過性亢進所見がみられることから,循環障害に伴う脈絡膜の瘢痕収縮ではないかと考えられている3).II加齢黄斑変性AMDは50歳以上の高齢者にみられる黄斑の変性疾患である.黄斑部の萎縮を示す萎縮型AMDと,脈絡膜新生血管を主病変とする滲出型AMDに分けられている.1.網膜所見早期AMDの臨床所見として,軟性ドルーゼンと網膜色素上皮異常がある.眼底所見では軟性ドルーゼンは63μm以上のドルーゼンと定義されている.OCTで軟性ドルーゼンは,網膜色素上皮とBruch膜の間にある2.脈絡膜所見CSCでは,インドシアニングリーン蛍光眼底造影後期に脈絡膜がびまん性に染色する異常組織染がみられることなどから,脈絡膜血管の過性亢進があると考えられている.OCTで脈絡膜を観察すると,ほとんどのCSCで,脈絡膜は正常眼に比べて肥厚している(図3).CSCに対し光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)を行うと,脈絡膜が菲薄化し漿液性網膜.離は消失することから(図4)2),CSCでの脈絡膜肥厚は,脈絡膜の滲出性変化に関連していることが示唆されている.慢性型CSCでは,ときに脈絡膜が強膜側に陥凹している所見がみられることがある(focalchoroidalexcavation).インドシアニングリーン蛍光眼底造影では,病巣周囲に透図2中心性漿液性脈絡網膜症のOCT所見網膜後面に伸長した視細胞外節がみられる(.).網膜内にはprecipitatesに一致すると思われる高信号の点状病巣がみられる.ab図1中心性漿液性脈絡網膜症のOCT所見a:カラー眼底写真.b:OCT所見.漿液性網膜.離と網膜色素上皮の不整がみられる.図2中心性漿液性脈絡網膜症のOCT所見網膜後面に伸長した視細胞外節がみられる(.).網膜内にはprecipitatesに一致すると思われる高信号の点状病巣がみられる.ab図1中心性漿液性脈絡網膜症のOCT所見a:カラー眼底写真.b:OCT所見.漿液性網膜.離と網膜色素上皮の不整がみられる.あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016217(57)が含まれている可能性がある.近年,reticularpseudo-drusenとAMD発症・進行との関連性が注目されている.Reticularpseudodrusenは,黄色の網目模様の中にみられるドルーゼン様の所見で,眼底上方に現れ,やがて黄斑部全体に広がる.レッドフリー写真,赤外光写真でよく観察される(図7).OCTでこの部分を観察すると,ドルーゼン様の所見のある部分では網膜色素上皮上に沈着物がみられ,網膜色素上皮下にみられる本来のドルーゼンとは異なることがわかる5).滲出型AMDは脈絡膜新生血管の形態から典型高反射としてみられる(図5).なかには融合し,扁平な網膜色素上皮.離となる症例もある.軟性ドルーゼンがいくつか融合し,丈の高い網膜色素上皮.離となったものをdrusenoidPED(pigmentepithelialdetachment)とよぶ.OCTではPEDは,内部が低輝度の網膜色素上皮の隆起として認められる.滲出型AMDに伴うPEDでは網膜色素上皮.離の一部にnotchがみられることが多い(topographicnotchsign,図6)4).また,.離した網膜色素上皮.離の後面に中等度反射を示す病変がみられることがあり,この組織には脈絡膜新生血管図5軟性ドルーゼンのOCT所見Bruch膜と網膜色素上皮の間の均質な信号領域としてみられる(.).図3中心性漿液性脈絡網膜症のOCT所見Enhanceddepthimaging画像.脈絡膜が著明に肥厚している(.).脈絡膜血管の管腔が拡大している.ab図4半量PDT前後の脈絡膜厚の変化Swept-sourceOCT画像.a:PDT前.b:PDT後.PDT後は脈絡膜厚が約半分になっている.図5軟性ドルーゼンのOCT所見Bruch膜と網膜色素上皮の間の均質な信号領域としてみられる(.).図3中心性漿液性脈絡網膜症のOCT所見Enhanceddepthimaging画像.脈絡膜が著明に肥厚している(.).脈絡膜血管の管腔が拡大している.ab図4半量PDT前後の脈絡膜厚の変化Swept-sourceOCT画像.a:PDT前.b:PDT後.PDT後は脈絡膜厚が約半分になっている.218あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(58)ン蛍光眼底造影では後期に蛍光漏出がみられ,おもに1型脈絡膜新生血管で構成されるoccult脈絡膜新生血管と,フルオレセイン蛍光眼底造影で早期から過蛍光を示し,おもに2型脈絡膜新生血管で構成されるclassic脈AMD,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV),網膜血管腫状増殖(retinalangi-omatousproliferation:RAP)の3つに大きく分けられている.典型AMDの脈絡膜新生血管は,フルオレセイabc図7Reticularpseudodrusena:カラー眼底写真.b:レッドフリー写真.c:OCT所見(垂直断).ab図6滲出型加齢黄斑変性のOCT所見a:フルオレセイン蛍光眼底造影写真.b:OCT所見.OCTでは網膜色素上皮にnotch(.)がみられる..離した網膜色素上皮の後面には中等度反射を示す組織がみられる(.).abc図7Reticularpseudodrusena:カラー眼底写真.b:レッドフリー写真.c:OCT所見(垂直断).ab図6滲出型加齢黄斑変性のOCT所見a:フルオレセイン蛍光眼底造影写真.b:OCT所見.OCTでは網膜色素上皮にnotch(.)がみられる..離した網膜色素上皮の後面には中等度反射を示す組織がみられる(.).ab図8ポリープ状脈絡膜血管症のOCT所見a:インドシアニングリーン蛍光眼底造影写真.b:OCT所見ポリープ状病巣では急峻に立ち上がった網膜色素上皮とその内部に中等度反射の組織がみられる(.).異常血管網に一致した不整な網膜色素上皮の隆起とその下に中等度反射の組織がみられる(.).220あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(60)るとする報告が多く,とくにPCVでは減少率が高い13).これらの治療に対する脈絡膜形態の変化からも,脈絡膜循環が滲出型AMD,とくにPCVの発症にかかわっていることが推察される.III原田病原田病は,メラノサイトに対する自己免疫疾患で,眼型AMDの経過観察は,おもにOCTを用いて行われるようになっている.OCTでPCVに対するPDT後の脈絡膜厚を観察すると,PDT実施直後に脈絡膜は肥厚し,その後菲薄化に転じる11,12).これは,PDT直後では炎症により脈絡膜が肥厚し,その後は脈絡膜血管容積の減少などにより菲薄化していくためであると考えられている.VEGF阻害薬による治療でも,脈絡膜は菲薄化すSD-OCTODOS図9原田病のOCT所見隔壁を伴った胞状網膜.離がみられる.網膜色素上皮上に膜様組織が残っている部分がみられる(.).ab図10原田病の治療前後の脈絡膜所見Swept-sourceOCT画像.a:投与前.肥厚した脈絡膜がみられる.b:ステロイド投与後1カ月.脈絡膜厚は減少し管腔構造が観察できる.SD-OCTODOS図9原田病のOCT所見隔壁を伴った胞状網膜.離がみられる.網膜色素上皮上に膜様組織が残っている部分がみられる(.).ab図10原田病の治療前後の脈絡膜所見Swept-sourceOCT画像.a:投与前.肥厚した脈絡膜がみられる.b:ステロイド投与後1カ月.脈絡膜厚は減少し管腔構造が観察できる.型AMDの経過観察は,おもにOCTを用いて行われるるとする報告が多く,とくにPCVでは減少率が高い13).ようになっている.OCTでPCVに対するPDT後の脈これらの治療に対する脈絡膜形態の変化からも,脈絡膜絡膜厚を観察すると,PDT実施直後に脈絡膜は肥厚し,循環が滲出型AMD,とくにPCVの発症にかかわってその後菲薄化に転じる11,12).これは,PDT直後では炎いることが推察される.症により脈絡膜が肥厚し,その後は脈絡膜血管容積の減少などにより菲薄化していくためであると考えられていIII原田病る.VEGF阻害薬による治療でも,脈絡膜は菲薄化す原田病は,メラノサイトに対する自己免疫疾患で,眼220あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(60)あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016221(61)科領域ではメラノサイトの豊富な虹彩,毛様体,脈絡膜にリンパ球浸潤を中心とした炎症をきたす.臨床的には,虹彩炎,浅前房,滲出性網膜.離,乳頭浮腫などを示す.1.網膜所見典型例では,後極に数カ所の漿液性網膜.離をきたす.フルオレセイン蛍光眼底造影では,漿液性網膜.離範囲内に蛍光漏出点を認める.インドシアニングリーン蛍光眼底造影では,早期には低蛍光斑が多発し,中期以降は脈絡膜中大血管が不明瞭となる.OCTで観察すると漿液性網膜.離は,多胞性でいくつかの隔壁をもっている(図9).漿液性網膜.離のほかに,網膜外層が網膜色素上皮に接着した大きな.胞様の所見を認めることもある..胞様所見や隔壁は炎症生産物による網膜と網膜色素上皮の癒着により生ずると考えられている14,15).2.脈絡膜所見脈絡膜は炎症性細胞の浸潤に伴い著明に肥厚し,脈絡膜血管の管腔は消失しすりガラス様となる.乳頭炎型の原田病では漿液性.離がなく,視神経乳頭炎との鑑別に苦慮することがあるが,OCTを撮影することで容易に鑑別することができ,有用である16).ステロイド療法を行う際にも,高容量のステロイドでは早期に脈絡膜厚が減少することが観察されることから17),原田病の治療評価にも有用であると思われる(図10).おわりにOCTによるCSC,AMD,原田病の網膜,脈絡膜所見について解説した.OCTで脈絡膜の観察が可能になり,脈絡膜を病態の中心とする疾患の病態解明が進歩し,診断,治療に応用されるようになった.最近はOCTangiographyによる血管形態の観察も可能になってきていることから,今後,脈絡膜疾患におけるOCTの応用範囲は,ますます拡大していくと考えられる.文献1)KonY,IidaT,MarukoIetal:Theopticalcoherencetomography-ophthalmoscopeforexaminationofcentralserouschorioretinopathywithprecipitates.Retina28:864-869,20082)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:One-yearchoroidalthicknessresultsafterphotodynamictherapyforcentralserouschorioretinopathy.Retina31:1921-1927,20113)ObataR,TakahashiH,UetaTetal:Tomographicandangiographiccharacteristicsofeyeswithmacularfocalchoroidalexcavation.Retina33:1201-1210,20134)SatoT,IidaT,HagimuraNetal:Correlationofopticalcoherencetomographywithangiographyinretinalpig-mentepithelialdetachmentassociatedwithage-relatedmaculardegeneration.Retina24:910-914,20045)ZweifelSA,ImamuraY,SpaideTCeta:Prevalenceandsignificanceofsubretinaldrusenoiddeposits(reticularpseudodrusen)inage-relatedmaculardegeneration.Oph-thalmology117:1775-1781,20106)LeeJY,LeeDH,LeeJYetal:Correlationbetweensubfo-vealchoroidalthicknessandtheseverityorprogressionofnonexudativeage-relatedmaculardegeneration.InvestOphthalmolVisSci54:7812-7818,20137)Ueda-ArakawaN,OotoS,EllabbanAAetal:Macularchoroidalthicknessandvolumeofeyeswithreticularpseudodrusenusingswept-sourceopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol157:994-1004,20148)MarukoI,IidaT,OyamadaHetal:Subfovealchoroidalthicknesschangesafterintravitrealranibizumabandpho-todynamictherapyforretinalangiomatousproliferation.Retina35:648-654,20159)KoizumiH,YamagishiT,YamazakiTetal:Subfovealchoroidalthicknessintypicalage-relatedmaculardegen-erationandpolypoidalchoroidalvasculopathy.GraefesArchClinExpOphthalmol249:1123-1128,201110)DansinganiKK,BalaratnasingamC,NaysanJetal:Enfaceimagingofpachychoroidspectrumdisorderswithswept-sourceopticalcoherencetomography.Retina,201511)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:Subfovealretinalandchoroidalthicknessafterverteporfinphotodynamicthera-pyforpolypoidalchoroidalvasculopathy.AmericanJour-nalofOphthalmology,201112)SuganoY,IidaT,MarukoIetal:Choroidalthicknessoutsidethelaserirradiationareaafterphotodynamicther-apyinpolypoidalchoroidalvasculopathy.JpnJOphthal-mol,201313)KoizumiH,KanoM,YamamotoAetal:Subfovealchoroi-dalthicknessduringaflibercepttherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration:twelve-monthresults.Ophthalmology[Epub]14)YamaguchiY,OtaniT,KishiS:TomographicfeaturesofserousretinaldetachmentwithmultilobulardyepoolinginacuteVogt-Koyanagi-Haradadisease.AmJOphthalmol144:260-265,200715)IshiharaK,HangaiM,KitaMetal:AcuteVogt-Koy-anagi-Haradadiseaseinenhancedspectral-domainoptical222あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(62)coherencetomography.Ophthalmology116:1799-1807,200916)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:Subfovealchoroidalthicknessinpapillitistypeofvogt-koyanagi-haradadis-easeandidiopathicopticneuritis.Retina,201517)NakayamaM,KeinoH,OkadaAetal:EnhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthechoroidinVogt-Koyanagi-Haradadisease.Retina3:2061-2069,2012