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脈絡膜疾患-中心性漿液性脈絡網膜症,加齢黄斑変性,原田病-

2016年2月29日 月曜日

特集●OCTを使いこなす2016あたらしい眼科33(2):215.222,2016特集●OCTを使いこなす2016あたらしい眼科33(2):215.222,2016脈絡膜疾患─中心性漿液性脈絡網膜症,加齢黄斑変性,原田病─DisordersoftheChoroid─CentralSerousChorioretinopathy,Age-RelatedMacularDegeneration,Vogt-Koyanagi-HaradaDisease─石龍鉄樹*はじめに網膜は視覚に特化した神経組織であり,循環,代謝,免疫機能など多くの機能を脈絡膜に依存している.このほかに脈絡膜は,屈折,調節にもかかわっている.多彩な機能を有する脈絡膜の検査に,多くの形態,機能評価法が開発されてきた.フルオレセイン・インドシアニングリーン蛍光眼底造影,超音波検査,眼球脈波計などがある.しかし,これらの検査法には,侵襲性や精度など解決しなければならない問題点も残されていた.1990年代後半に登場した光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は,ミクロンオーダーで非侵襲的な網膜の形状解析を可能にした.さらに21世紀に入りspectraldomainOCT(SD-OCT)によるenhanceddepthimagingやswept-sourceによる高侵達OCTが登場し,脈絡膜形態を網膜と同程度の精度で観察することが可能になった.これらのOCTによる脈絡膜検査法の進歩により,これまで不明であった脈絡膜の生理,病態が明らかとなってきた.本項では,中心性漿液性脈絡網膜症(centralserouschorioretinopathy:CSC),加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD),原田病のOCT所見を,網膜所見と最近明らかになった脈絡膜所見とに分けて解説する.I中心性漿液性脈絡網膜症CSCは中高年の男性に好発し,黄斑部に漿液性網膜.離をきたす疾患である.漿液性網膜.離は網膜色素上皮障害による外血液網膜柵の破綻により生ずるが,その原因は脈絡膜の循環障害にあると考えられている.1.網膜所見OCTで漿液性網膜.離は,硝子体腔に向かって凸面をなす網膜.離として描出され,網膜下液の部分が均質な低信号となる(図1).蛍光漏出点付近では,限局性の小さな網膜色素上皮.離がみられることが多く,ときには網膜色素上皮が弁状に.離している所見がみられる.漏出点からフィブリン析出があると,網膜色素上皮から神経網膜にかけて高信号域がみられ,網膜外層が網膜色素上皮に向かい引き延ばされたような形態をとることがある.漿液性網膜.離期間が長くなると,網膜後面に視細胞外節の伸長がみられる(図2).視細胞からは日々新しい視細胞外節が作られており,網膜色素上皮に貪食されている.漿液性網膜.離により,視細胞外節の貪食が阻害されるため,視細胞外節が伸長し網膜後面から垂れ下がったような形態になると考えられている.この時期には,網膜内,網膜後面に点状沈着物(precipitates)を認めることがある1).この沈着物は,網膜色素上皮に貪食されなくなった視細胞外節を貪食するために遊走したマクロファージや網膜色素上皮細胞と考えられている.漿液性網膜.離が遷延すると視細胞障害が生じ,外顆粒層が菲薄化する.視細胞外節が産生されなくなり,やがて網膜下面の伸長した視細胞外節はみられなくなる.*TetsujuSekiryu:福島県立医科大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕石龍鉄樹:〒960-1295福島市光が丘1番地福島県立医科大学医学部眼科学講座0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(55)215 216あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(56)過性亢進所見がみられることから,循環障害に伴う脈絡膜の瘢痕収縮ではないかと考えられている3).II加齢黄斑変性AMDは50歳以上の高齢者にみられる黄斑の変性疾患である.黄斑部の萎縮を示す萎縮型AMDと,脈絡膜新生血管を主病変とする滲出型AMDに分けられている.1.網膜所見早期AMDの臨床所見として,軟性ドルーゼンと網膜色素上皮異常がある.眼底所見では軟性ドルーゼンは63μm以上のドルーゼンと定義されている.OCTで軟性ドルーゼンは,網膜色素上皮とBruch膜の間にある2.脈絡膜所見CSCでは,インドシアニングリーン蛍光眼底造影後期に脈絡膜がびまん性に染色する異常組織染がみられることなどから,脈絡膜血管の過性亢進があると考えられている.OCTで脈絡膜を観察すると,ほとんどのCSCで,脈絡膜は正常眼に比べて肥厚している(図3).CSCに対し光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)を行うと,脈絡膜が菲薄化し漿液性網膜.離は消失することから(図4)2),CSCでの脈絡膜肥厚は,脈絡膜の滲出性変化に関連していることが示唆されている.慢性型CSCでは,ときに脈絡膜が強膜側に陥凹している所見がみられることがある(focalchoroidalexcavation).インドシアニングリーン蛍光眼底造影では,病巣周囲に透図2中心性漿液性脈絡網膜症のOCT所見網膜後面に伸長した視細胞外節がみられる(.).網膜内にはprecipitatesに一致すると思われる高信号の点状病巣がみられる.ab図1中心性漿液性脈絡網膜症のOCT所見a:カラー眼底写真.b:OCT所見.漿液性網膜.離と網膜色素上皮の不整がみられる.図2中心性漿液性脈絡網膜症のOCT所見網膜後面に伸長した視細胞外節がみられる(.).網膜内にはprecipitatesに一致すると思われる高信号の点状病巣がみられる.ab図1中心性漿液性脈絡網膜症のOCT所見a:カラー眼底写真.b:OCT所見.漿液性網膜.離と網膜色素上皮の不整がみられる. あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016217(57)が含まれている可能性がある.近年,reticularpseudo-drusenとAMD発症・進行との関連性が注目されている.Reticularpseudodrusenは,黄色の網目模様の中にみられるドルーゼン様の所見で,眼底上方に現れ,やがて黄斑部全体に広がる.レッドフリー写真,赤外光写真でよく観察される(図7).OCTでこの部分を観察すると,ドルーゼン様の所見のある部分では網膜色素上皮上に沈着物がみられ,網膜色素上皮下にみられる本来のドルーゼンとは異なることがわかる5).滲出型AMDは脈絡膜新生血管の形態から典型高反射としてみられる(図5).なかには融合し,扁平な網膜色素上皮.離となる症例もある.軟性ドルーゼンがいくつか融合し,丈の高い網膜色素上皮.離となったものをdrusenoidPED(pigmentepithelialdetachment)とよぶ.OCTではPEDは,内部が低輝度の網膜色素上皮の隆起として認められる.滲出型AMDに伴うPEDでは網膜色素上皮.離の一部にnotchがみられることが多い(topographicnotchsign,図6)4).また,.離した網膜色素上皮.離の後面に中等度反射を示す病変がみられることがあり,この組織には脈絡膜新生血管図5軟性ドルーゼンのOCT所見Bruch膜と網膜色素上皮の間の均質な信号領域としてみられる(.).図3中心性漿液性脈絡網膜症のOCT所見Enhanceddepthimaging画像.脈絡膜が著明に肥厚している(.).脈絡膜血管の管腔が拡大している.ab図4半量PDT前後の脈絡膜厚の変化Swept-sourceOCT画像.a:PDT前.b:PDT後.PDT後は脈絡膜厚が約半分になっている.図5軟性ドルーゼンのOCT所見Bruch膜と網膜色素上皮の間の均質な信号領域としてみられる(.).図3中心性漿液性脈絡網膜症のOCT所見Enhanceddepthimaging画像.脈絡膜が著明に肥厚している(.).脈絡膜血管の管腔が拡大している.ab図4半量PDT前後の脈絡膜厚の変化Swept-sourceOCT画像.a:PDT前.b:PDT後.PDT後は脈絡膜厚が約半分になっている. 218あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(58)ン蛍光眼底造影では後期に蛍光漏出がみられ,おもに1型脈絡膜新生血管で構成されるoccult脈絡膜新生血管と,フルオレセイン蛍光眼底造影で早期から過蛍光を示し,おもに2型脈絡膜新生血管で構成されるclassic脈AMD,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV),網膜血管腫状増殖(retinalangi-omatousproliferation:RAP)の3つに大きく分けられている.典型AMDの脈絡膜新生血管は,フルオレセイabc図7Reticularpseudodrusena:カラー眼底写真.b:レッドフリー写真.c:OCT所見(垂直断).ab図6滲出型加齢黄斑変性のOCT所見a:フルオレセイン蛍光眼底造影写真.b:OCT所見.OCTでは網膜色素上皮にnotch(.)がみられる..離した網膜色素上皮の後面には中等度反射を示す組織がみられる(.).abc図7Reticularpseudodrusena:カラー眼底写真.b:レッドフリー写真.c:OCT所見(垂直断).ab図6滲出型加齢黄斑変性のOCT所見a:フルオレセイン蛍光眼底造影写真.b:OCT所見.OCTでは網膜色素上皮にnotch(.)がみられる..離した網膜色素上皮の後面には中等度反射を示す組織がみられる(.). ab図8ポリープ状脈絡膜血管症のOCT所見a:インドシアニングリーン蛍光眼底造影写真.b:OCT所見ポリープ状病巣では急峻に立ち上がった網膜色素上皮とその内部に中等度反射の組織がみられる(.).異常血管網に一致した不整な網膜色素上皮の隆起とその下に中等度反射の組織がみられる(.). 220あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(60)るとする報告が多く,とくにPCVでは減少率が高い13).これらの治療に対する脈絡膜形態の変化からも,脈絡膜循環が滲出型AMD,とくにPCVの発症にかかわっていることが推察される.III原田病原田病は,メラノサイトに対する自己免疫疾患で,眼型AMDの経過観察は,おもにOCTを用いて行われるようになっている.OCTでPCVに対するPDT後の脈絡膜厚を観察すると,PDT実施直後に脈絡膜は肥厚し,その後菲薄化に転じる11,12).これは,PDT直後では炎症により脈絡膜が肥厚し,その後は脈絡膜血管容積の減少などにより菲薄化していくためであると考えられている.VEGF阻害薬による治療でも,脈絡膜は菲薄化すSD-OCTODOS図9原田病のOCT所見隔壁を伴った胞状網膜.離がみられる.網膜色素上皮上に膜様組織が残っている部分がみられる(.).ab図10原田病の治療前後の脈絡膜所見Swept-sourceOCT画像.a:投与前.肥厚した脈絡膜がみられる.b:ステロイド投与後1カ月.脈絡膜厚は減少し管腔構造が観察できる.SD-OCTODOS図9原田病のOCT所見隔壁を伴った胞状網膜.離がみられる.網膜色素上皮上に膜様組織が残っている部分がみられる(.).ab図10原田病の治療前後の脈絡膜所見Swept-sourceOCT画像.a:投与前.肥厚した脈絡膜がみられる.b:ステロイド投与後1カ月.脈絡膜厚は減少し管腔構造が観察できる.型AMDの経過観察は,おもにOCTを用いて行われるるとする報告が多く,とくにPCVでは減少率が高い13).ようになっている.OCTでPCVに対するPDT後の脈これらの治療に対する脈絡膜形態の変化からも,脈絡膜絡膜厚を観察すると,PDT実施直後に脈絡膜は肥厚し,循環が滲出型AMD,とくにPCVの発症にかかわってその後菲薄化に転じる11,12).これは,PDT直後では炎いることが推察される.症により脈絡膜が肥厚し,その後は脈絡膜血管容積の減少などにより菲薄化していくためであると考えられていIII原田病る.VEGF阻害薬による治療でも,脈絡膜は菲薄化す原田病は,メラノサイトに対する自己免疫疾患で,眼220あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(60) あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016221(61)科領域ではメラノサイトの豊富な虹彩,毛様体,脈絡膜にリンパ球浸潤を中心とした炎症をきたす.臨床的には,虹彩炎,浅前房,滲出性網膜.離,乳頭浮腫などを示す.1.網膜所見典型例では,後極に数カ所の漿液性網膜.離をきたす.フルオレセイン蛍光眼底造影では,漿液性網膜.離範囲内に蛍光漏出点を認める.インドシアニングリーン蛍光眼底造影では,早期には低蛍光斑が多発し,中期以降は脈絡膜中大血管が不明瞭となる.OCTで観察すると漿液性網膜.離は,多胞性でいくつかの隔壁をもっている(図9).漿液性網膜.離のほかに,網膜外層が網膜色素上皮に接着した大きな.胞様の所見を認めることもある..胞様所見や隔壁は炎症生産物による網膜と網膜色素上皮の癒着により生ずると考えられている14,15).2.脈絡膜所見脈絡膜は炎症性細胞の浸潤に伴い著明に肥厚し,脈絡膜血管の管腔は消失しすりガラス様となる.乳頭炎型の原田病では漿液性.離がなく,視神経乳頭炎との鑑別に苦慮することがあるが,OCTを撮影することで容易に鑑別することができ,有用である16).ステロイド療法を行う際にも,高容量のステロイドでは早期に脈絡膜厚が減少することが観察されることから17),原田病の治療評価にも有用であると思われる(図10).おわりにOCTによるCSC,AMD,原田病の網膜,脈絡膜所見について解説した.OCTで脈絡膜の観察が可能になり,脈絡膜を病態の中心とする疾患の病態解明が進歩し,診断,治療に応用されるようになった.最近はOCTangiographyによる血管形態の観察も可能になってきていることから,今後,脈絡膜疾患におけるOCTの応用範囲は,ますます拡大していくと考えられる.文献1)KonY,IidaT,MarukoIetal:Theopticalcoherencetomography-ophthalmoscopeforexaminationofcentralserouschorioretinopathywithprecipitates.Retina28:864-869,20082)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:One-yearchoroidalthicknessresultsafterphotodynamictherapyforcentralserouschorioretinopathy.Retina31:1921-1927,20113)ObataR,TakahashiH,UetaTetal:Tomographicandangiographiccharacteristicsofeyeswithmacularfocalchoroidalexcavation.Retina33:1201-1210,20134)SatoT,IidaT,HagimuraNetal:Correlationofopticalcoherencetomographywithangiographyinretinalpig-mentepithelialdetachmentassociatedwithage-relatedmaculardegeneration.Retina24:910-914,20045)ZweifelSA,ImamuraY,SpaideTCeta:Prevalenceandsignificanceofsubretinaldrusenoiddeposits(reticularpseudodrusen)inage-relatedmaculardegeneration.Oph-thalmology117:1775-1781,20106)LeeJY,LeeDH,LeeJYetal:Correlationbetweensubfo-vealchoroidalthicknessandtheseverityorprogressionofnonexudativeage-relatedmaculardegeneration.InvestOphthalmolVisSci54:7812-7818,20137)Ueda-ArakawaN,OotoS,EllabbanAAetal:Macularchoroidalthicknessandvolumeofeyeswithreticularpseudodrusenusingswept-sourceopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol157:994-1004,20148)MarukoI,IidaT,OyamadaHetal:Subfovealchoroidalthicknesschangesafterintravitrealranibizumabandpho-todynamictherapyforretinalangiomatousproliferation.Retina35:648-654,20159)KoizumiH,YamagishiT,YamazakiTetal:Subfovealchoroidalthicknessintypicalage-relatedmaculardegen-erationandpolypoidalchoroidalvasculopathy.GraefesArchClinExpOphthalmol249:1123-1128,201110)DansinganiKK,BalaratnasingamC,NaysanJetal:Enfaceimagingofpachychoroidspectrumdisorderswithswept-sourceopticalcoherencetomography.Retina,201511)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:Subfovealretinalandchoroidalthicknessafterverteporfinphotodynamicthera-pyforpolypoidalchoroidalvasculopathy.AmericanJour-nalofOphthalmology,201112)SuganoY,IidaT,MarukoIetal:Choroidalthicknessoutsidethelaserirradiationareaafterphotodynamicther-apyinpolypoidalchoroidalvasculopathy.JpnJOphthal-mol,201313)KoizumiH,KanoM,YamamotoAetal:Subfovealchoroi-dalthicknessduringaflibercepttherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration:twelve-monthresults.Ophthalmology[Epub]14)YamaguchiY,OtaniT,KishiS:TomographicfeaturesofserousretinaldetachmentwithmultilobulardyepoolinginacuteVogt-Koyanagi-Haradadisease.AmJOphthalmol144:260-265,200715)IshiharaK,HangaiM,KitaMetal:AcuteVogt-Koy-anagi-Haradadiseaseinenhancedspectral-domainoptical 222あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(62)coherencetomography.Ophthalmology116:1799-1807,200916)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:Subfovealchoroidalthicknessinpapillitistypeofvogt-koyanagi-haradadis-easeandidiopathicopticneuritis.Retina,201517)NakayamaM,KeinoH,OkadaAetal:EnhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthechoroidinVogt-Koyanagi-Haradadisease.Retina3:2061-2069,2012

網膜外層疾患-AZOOR, MEWDSを中心に-

2016年2月29日 月曜日

錐体錐体特集●OCTを使いこなす2016あたらしい眼科33(2):205.213,2016網膜外層疾患-AZOOR,MEWDSを中心にPhotoreceptorOuterSegmentDisease:AZOORandMEWDS松井良諭*近藤峰生**図1黄斑部視細胞の組織像(Hoganetal:HistoryoftheHumanEye.WBSaunders,p406,1971一部改変,岸章治:あたらしい眼科28:1223-1230,2011一部改変)はじめに網膜外層には視細胞があり,網膜のなかでもとくに視機能に重要な部位である.視細胞は内節と外節からなっており,その境界は絨毛により接合している.視細胞の内節は,近位側に粗面小胞体に富むmyoidと遠位側にミトコンドリアが垂直に並んで集積しているellipsoidからなっている.視細胞外節には細胞膜が櫛状に重層し,そこにロドプシンなどの視物質が存在する.光をこの外節の重層構造で効率よく捕捉すると立体構造が変化し,細胞膜の変化から脱分極が生じる.つまり,外節こそが光を電気信号に変換する部位であり,視力の根源といえる(図1).I正常の網膜外層のOCT像従来のSD-OCT(spectraldomainopticalcoherencetomography)を用いると,外節を含む網膜外層には高杆体核Muller細胞の一部外境界膜(ELM)視細胞内節(Myoid)視細胞内節(Ellipsoid)視細胞内節外節端視細胞外節錐体外節先端色素上皮Bruch膜*YoshitsuguMatsui:岡波総合病院眼科**MineoKondo:三重大学大学院医学系研究科神経感覚医学講座眼科学〔別刷請求先〕松井良諭:〒514-8507三重県津市江戸橋2丁目174三重大学大学院医学系研究科神経感覚医学講座眼科学0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(45)205 206あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(46)の炎症性破壊による疾患としてAZOORcomplex(用語解説参照)をあげる.このなかでも遭遇する可能性が高い急性帯状潜在性網膜外層症(acutezonalouterreti-nopathy:AZOOR)と多発消失性白点症候群(multipleevanescentwhitedotsyndrome:MEWDS)の2疾患に絞って述べる.1.AZOORAZOORは,1992年にGassが報告した疾患で,中等度近視の若年および中年の健康な女性の片眼あるいは両眼に好発し,しばしば「ちかちかする」という光視症を暗点内に生じることが多く,1カ所または数カ所に急激な視野欠損の主症状をきたす疾患である.原因不明の網膜外層障害を生じる疾患群である.前眼部には炎症所見は生じないが,前部硝子体腔に細胞が出現することがある.早期例では,多くの症例で検眼鏡的に眼底は正常にみえる.しかし,網膜血管の蛇行,白鞘化,網膜動脈の狭細化,点状の瘢痕病巣などの微細な異常を伴うこともある.輝度の4つの境界面が存在し,内側から外側の順に外境界膜(externallimitingmembrane:ELM),視細胞内部(ellipsoidzone:EZ),網膜色素上皮層(retinalpig-mentepithelium:RPE)/Bruch膜がある(図2a,b).ELMは視細胞とMuller細胞の接合部からの高反射帯であり,組織学的にも1つの帯として確認できる.EZとIZについては,反射帯の起源についてまだ不確定なところもあるが,EZは視細胞内節の遠位端のellipsoid,IZは視細胞外節端と色素上皮から伸長したcontactcyl-inderの接合部ではないかとされている.RPEとBruch膜は一体となり,1つの反射帯として表現されている.なお,超高解像度(ultra-highresolution:UHR)SD-OCTを用いるとELM,EZ,IZはそれぞれの厚みが従来のSD-OCTと比較してより薄く,また鮮明に描出される.また,RPEとBruch膜は独立した2つの反射帯としてみることができる(図2c,d).II視細胞外節の病気網膜外層が病気の主座と考えられる疾患として,外節1234512345a.SD-OCT(CentralFovea,cone)b.SD-OCT(Perifovea2mmtemporal,coneandrod)c.UHR-SD-OCT(CentralFovea,cone)d.UHR-SD-OCT(Perifovea2mmtemporal,coneandrod)図2中心窩と傍中心窩におけるOCTと組織像との位置合わせa:SD-OCTにおける中心窩.b:SD-OCTにおける傍中心窩.c:UHR-SD-OCTにおける中心窩.d:UHR-SD-OCTにおける傍中心窩.左がそれぞれの位置でのB-scan像,中央は各境界線の輝度値をLRPにて表現,右はSpaideらが過去の文献から作製した網膜外層の視細胞のスケールモデル.1234512345a.SD-OCT(CentralFovea,cone)b.SD-OCT(Perifovea2mmtemporal,coneandrod)c.UHR-SD-OCT(CentralFovea,cone)d.UHR-SD-OCT(Perifovea2mmtemporal,coneandrod)図2中心窩と傍中心窩におけるOCTと組織像との位置合わせa:SD-OCTにおける中心窩.b:SD-OCTにおける傍中心窩.c:UHR-SD-OCTにおける中心窩.d:UHR-SD-OCTにおける傍中心窩.左がそれぞれの位置でのB-scan像,中央は各境界線の輝度値をLRPにて表現,右はSpaideらが過去の文献から作製した網膜外層の視細胞のスケールモデル. あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016207(47)【症例1】19歳,女性.主訴:右眼の視力低下.眼病歴:1週間前から突然右眼の外側半分にフィルターがかかったように見えなくなり,当院を受診.合併症:なし.既往歴:なし.視力:右眼(1.0×s.3.0D)細隙灯所見:正常.眼底所見:明らかな異常なし(図3a).自発蛍光検査:近赤外光で乳頭黄斑間に境界線あり,乳頭側に低蛍光を認める.青色光で同部位にわずかな高輝度を認めた(図3b,c).Humphrey視野計:Mariotte盲点の拡大を認める(図3d).OCT:乳頭黄斑間にELMは連続,EZは不連続,IZの消失を認める(図3e).発症後6カ月視力:右眼(1.2×s.3.0D)眼底所見:明らかな異常なし.自発蛍光検査:近赤外光で乳頭黄斑間の境界線は不明瞭になり,青色光でも高輝度が消失した(図4a.c).Humphrey視野計:初診時より感度の改善を認めた(図4d).OCT:障害部位のELMは連続,EZは連続,IZは不連続と境界線の形態の改善を認めた(図4e).【症例2】35歳,女性.主訴:右眼の視力低下.眼病歴:3週間前から右眼の外側が見えにくくなり,その後全体に広がった.暗点内に時折ピカピカしているものが見えるとのことで当院を受診.合併症:なし.既往歴:なし.視力:右眼(0.5×s.10.0D)細隙灯所見:正常.眼底所見:近視性変化を認める(図5a).自発蛍光検査:近赤外光,青色光ともに乳頭周囲に高早期例の診断において以前は,静的量的視野検査や多局所網膜電図でのみ異常が発見されるものとされてきた.視野欠損はMariotte盲点の拡大による耳側暗点の形をとることが多い.中心暗点,輪状暗点,弓状暗点,孤立暗点,周辺部の視野狭窄などがみられ,実に多彩である.球後視神経炎と誤診されることもある.フルオレセイン蛍光眼底造影(fluoresceinangiography:FA)では,視野異常部位の網膜に異常がないことが多いが,後に萎縮病巣が生じればwindowdefectを示す.インドシアニングリーン蛍光眼底造影(indocyaninegreenangiography:IA)では,視野異常部位に低蛍光を示すことがある.多局所網膜電図(multifocalelectroretio-gram:mfERG)では応答密度の低下した領域は視野欠損ときれいに一致し,病変の局在を把握する助けとなる.現在はOCTのB-scan画像やEn-faceOCT,自発蛍光検査(fundusautofluorescence:FAF),さらに補償光学(adaptiveopticssystem:AO)にても網膜外層の局在や局所の異常を検出することが可能となり,診断に非常に有用な装置といえる.a.OCT所見AZOORの病因は不明であるが,視細胞外節の破壊が初発病巣であることがOCTにより判明している1,2).とくに,錐体外節の先端が障害されやすく,症例によってはIZの異常だけがEZ異常に先行する症例も報告されている.IZの辺りで障害が生じる病気であるためなのか,それとも構造上の脆弱性を反映しているのかは定かではない.多くの例ではIZだけではなく,EZが消失し,さらに進行例では視細胞層も菲薄化ないし欠損するし,RPEの不整化,さらには網膜全層の菲薄化がみられることもある.外顆粒層まで障害された部位においては回復が得られないが,ELMまでの障害であればある程度回復する3).ただし,MEWDSのように完全に改善することはなく,視力障害や視野障害が残存することが多い.日本人のAZOORは欧米で報告されている症例よりも回復するものや軽症のものが多い印象がある.長期に経過観察をすると初期の病変部位以外にも視野異常部位が出現し,それに一致して網膜色素変性症様の地図状の網膜色素上皮レベルの萎縮病巣が出現し,網膜外層のみならず網膜の中・内層にも障害が及んでいる. 208あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(48)abced図3症例1の初診時の所見(19歳,女性)a:眼底写真.b:自発蛍光検査,近赤外光.c:自発蛍光検査,青色光.d:Humphrey視野計.e:SD-OCT像.abcde図4症例1の6カ月時の所見(19歳,女性)a:自発蛍光検査,近赤外光.b:自発蛍光検査,青色光.c:自発蛍光検査,青色光.d:Humphrey視野計.e:SD-OCT像.abced図3症例1の初診時の所見(19歳,女性)a:眼底写真.b:自発蛍光検査,近赤外光.c:自発蛍光検査,青色光.d:Humphrey視野計.e:SD-OCT像.abcde図4症例1の6カ月時の所見(19歳,女性)a:自発蛍光検査,近赤外光.b:自発蛍光検査,青色光.c:自発蛍光検査,青色光.d:Humphrey視野計.e:SD-OCT像. あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016209(49)徐々に蛍光輝度が増強する.IAの後期では,白斑部は低蛍光斑になる.AZOORや脈絡膜炎(multifocalcho-roiditis)に併発する症例や再発する症例もある.a.OCT所見急性期にびまん性に視細胞外節が破壊され,この部位に一致してまずIZ,そしてEZが消失や不連続となる4,5).炎症が強い症例ではELMや外顆粒層にまで障害が及ぶこともある.患者の半数では,RPEから視細胞内節・外節破綻部位を経て外顆粒層にまで伸びる中等度反射斑が観察される.これは外節の崩壊産物の凝集と考えられる.やがて中等度反射斑は消失し,IZやEZは1カ月程度でほぼ修復されるが不整な部分が残存することもある.網膜内層の構造は正常に保たれる.【症例3】31歳,女性.主訴:左眼の視力低下.眼病歴:2日前から急激な霧視と視力低下が出現,前医で球後視神経炎の診断で当院へ.合併症:なし.既往歴:なし.視力:左眼(0.3×s.6.5D)細隙灯所見:正常.眼底所見:大小さまざまな黄白色斑が散在している(図8a).フリッカー検査:両眼ともに40.自発蛍光検査:青色光にて右眼は正常であるが,左眼は高輝度斑が散在していることが眼底写真より明瞭である(図8b,c).Humphrey視野計:びまん性の感度低下を認める(図8d).OCT:乳頭黄斑間にEZの不連続がある.EZの欠損部位にはRPEから視細胞外節に伸びる中等度反射斑がみられる.B-scan画像ではIZを認めない(図8e).発症後1カ月視力:右眼(1.2×s.6.5D)眼底所見:黄白色斑をわずかに認める(図9a).自発蛍光検査:近赤外光と青色光でびまん性の高輝度斑を認めるが初診時より減少している(図9b,c).輝度を認める(図5b,c).Humphrey視野計:Mariotte盲点の拡大とびまん性の感度低下を認める(図5d).OCT:乳頭黄斑間に外顆粒層と視細胞内節外節は消失し,RPEは正常である.中心窩ではEZは不連続でIZを認めない(図5e).発症後6カ月視力:右眼(1.2×s.10.0D)眼底所見:近視性変化を認めるが,初診時と変化なし(図6a).自発蛍光検査:近赤外光で黄斑部にびまん性の高輝度斑と乳頭周囲に高輝度を認める.青色光でも乳頭周りに近赤外光の高輝度に一致して高輝度を認める(図6b,c).Humphrey視野計:初診時にあるMariotte盲点の拡大は変化がないが,中心10°内の鼻側の視野に改善を認める(図6d).OCT:乳頭黄斑間の障害部位は変化がないが,中心窩.耳側に1mmのあたりではEZとIZは連続となり境界線の形態の改善を認めた(図6e).En-faceOCT:アーケード内の黄色四角内のRPEの上面から20μmの厚みで作製した画像.視細胞外節が正常に保たれている範囲は高輝度があるが,乳頭周りの視細胞外節の消失範囲は低輝度となっている.なお,血管周囲に低輝度斑がみられる(図7a,b).2.MEWDSMEWDSは1984年にJampolにより報告された20.40歳代の近視眼の若年女性に好発し,片眼の急激な視力低下,傍中心視野障害,光視症をきたす疾患である.病因は不明だが感冒様症状を伴うことがあり,ウイルス感染や自己免疫の関与が疑われている.網膜外層から網膜色素上皮レベルに多数の黄白色の白斑が出現し,硝子体中に炎症細胞がみられる.黄色斑は一過性であり1カ月程度でほぼ消失する.ときに視神経乳頭周囲の萎縮や,黄斑,中間周辺部に円形萎縮を残す.視野異常は自覚的には片眼性でも,視野検査では両眼性のことが多い.Mariotte盲点の拡大と虫食い状の暗点が特徴的である.FAでは造影の比較的早期から視神経乳頭の周囲から後極部,あるいは眼底全体に淡い過蛍光斑を認め, 210あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(50)abced図5症例2の初診時の所見(35歳,女性)a:眼底写真.b:自発蛍光検査,近赤外光.c:自発蛍光検査,青色光.d:Humphrey視野計.e:SD-OCT像.abced図6症例2の6カ月時の所見(35歳,女性)a:眼底写真.b:自発蛍光検査,近赤外光.c:自発蛍光検査,青色光.d:Humphrey視野計.e:SD-OCT像.abced図5症例2の初診時の所見(35歳,女性)a:眼底写真.b:自発蛍光検査,近赤外光.c:自発蛍光検査,青色光.d:Humphrey視野計.e:SD-OCT像.abced図6症例2の6カ月時の所見(35歳,女性)a:眼底写真.b:自発蛍光検査,近赤外光.c:自発蛍光検査,青色光.d:Humphrey視野計.e:SD-OCT像. あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016211(51)Humphrey視野計:初診時と比較して中心20°内の感度の改善を認める(図9d).OCT:乳頭黄斑間の障害部位のEZは連続となり,IZは黄斑耳側で連続となり,鼻側では不連続な境界線として確認できるまで改善を認めた(図9e).発症後6カ月視力:右眼(1.5×s.6.5D)眼底所見:黄白色斑は完全に消失,萎縮性変化は認めず(図10a).自発蛍光検査:青色光で高輝度斑は完全に消失し,正ab図7症例2の6カ月時の所見(35歳,女性)a:自発蛍光検査,近赤外光.b:UHR-SD-OCTを用いて作製したEn-faceOCT像.abced図8症例3の初診時の所見(31歳,女性)a:眼底写真.b:自発蛍光検査,健眼の青色光.c:自発蛍光検査,青色光.d:Humphrey視野計.e:SD-OCT像.ab図7症例2の6カ月時の所見(35歳,女性)a:自発蛍光検査,近赤外光.b:UHR-SD-OCTを用いて作製したEn-faceOCT像.abced図8症例3の初診時の所見(31歳,女性)a:眼底写真.b:自発蛍光検査,健眼の青色光.c:自発蛍光検査,青色光.d:Humphrey視野計.e:SD-OCT像. 212あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(52)abced図9症例3の1カ月時の所見(31歳,女性)a:眼底写真.b:自発蛍光検査,近赤外光.c:自発蛍光検査,青色光.d:Humphrey視野計.e:SD-OCT像.abced図10症例3の6カ月時の所見(31歳,女性)a:眼底写真.b:自発蛍光検査,青色光.c:Humphrey視野計.d:多局所網膜電図(mfERG).e:SD-OCT像.abced図9症例3の1カ月時の所見(31歳,女性)a:眼底写真.b:自発蛍光検査,近赤外光.c:自発蛍光検査,青色光.d:Humphrey視野計.e:SD-OCT像.abced図10症例3の6カ月時の所見(31歳,女性)a:眼底写真.b:自発蛍光検査,青色光.c:Humphrey視野計.d:多局所網膜電図(mfERG).e:SD-OCT像. あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016213(53)常に(図10b).Humphrey視野計:初診時と比較してMariotte盲点の拡大が改善(図10c).mfERG:局所的な感度低下を認めず(図10d).OCT:広い範囲でIZも連続となった(図10e).文献1)LiD,KishiS:Lossofphotoreceptoroutersegmentinacutezonaloccultouterretinopathy.ArchOphthalmol125:1194-1200,20072)SpaideRF,KoizumiH,FreundKBetal:Photoreceptoroutersegmentabnormalitiesasacauseofblindspotenlargementinacutezonaloccultouterretinopathy-com-plexdiseases.AmJOphthalmol146:111-120,20083)MatsuiY,MatsubaraH,UenoSetal:Changesinouterretinalmicrostructuresduringsixmonthperiodineyeswithacutezonaloccultouterretinopathy-complex.PLoSONEe110592,20144)LiD,KishiS:Restoredphotoreceptoroutersegmentdamageinmultipleevanescentwhitedotsyndrome.Oph-thalmology116:762-770,20095)NguyenMH,WitkinAJ,ReichelEetal:MicrostructureabnormalitiesinMEWDSdemonstratedbyultrahighreso-lutionopticalcoherencetomography.Retina27:414-418,2007■用語解説■AZOORcomplex:AZOOR(acutezonalouterreti-nopathy),MEWDS(multipleevanescentwhitedotsyndrome),AIBSE(acuteidiopathicblindspotenlargement),MFC(multifocalchroiditis),PIC(punctateinnerchoroidopathy),AMN(acutemacu-larneuroretinopathy)は症状がオーバーラップしており,疾患特有の視機能低下では説明できない,著明な視力低下や大きな視野異常が生じることがある.多局所網膜電図(mfERG)などで視野異常が網膜障害の結果であることが証明できれば,AZOORを合併すると診断できる.Gassはこれらの疾患は同一疾患のスペクトラム上にあると考えた.このためAZOORcomplexと総称される.■用語解説■AZOORcomplex:AZOOR(acutezonalouterreti-nopathy),MEWDS(multipleevanescentwhitedotsyndrome),AIBSE(acuteidiopathicblindspotenlargement),MFC(multifocalchroiditis),PIC(punctateinnerchoroidopathy),AMN(acutemacu-larneuroretinopathy)は症状がオーバーラップしており,疾患特有の視機能低下では説明できない,著明な視力低下や大きな視野異常が生じることがある.多局所網膜電図(mfERG)などで視野異常が網膜障害の結果であることが証明できれば,AZOORを合併すると診断できる.Gassはこれらの疾患は同一疾患のスペクトラム上にあると考えた.このためAZOORcomplexと総称される.

網膜血管疾患

2016年2月29日 月曜日

特集●OCTを使いこなす2016あたらしい眼科33(2):197.204,2016特集●OCTを使いこなす2016あたらしい眼科33(2):197.204,2016網膜血管疾患OCTFindingsinEyeswithRetinalVascularDisease長谷川泰司*はじめに網膜血管は網膜動脈・網膜毛細血管・網膜静脈で構成される.さまざまな網膜血管疾患に伴った出血,浮腫,網膜白濁などの形態学的変化を理解する際には,網膜のどの層に変化が生じているかを意識して診察をすると,その病態を理解しやすい.OCT所見を読影する際にも病変の深さを意識することで,OCT所見への理解が深まりやすくなる.本稿では疾患頻度の多い糖尿病網膜症・糖尿病黄斑浮腫,網膜静脈閉塞症,網膜動脈閉塞症,黄斑部毛細血管拡張症を取り上げ,OCT所見の特徴,また最新の知見について述べる.I糖尿病網膜症・糖尿病黄斑浮腫糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)は毛細血管などの微小血管障害が病態の主をなしている.そのおもな病態は,①網膜毛細血管の透過性亢進による網膜浮腫,②毛細血管瘤形成,③網膜毛細血管閉塞による無灌流領域の形成,④網膜虚血による血管新生である.血管透過性亢進による糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)はDRのどの病期にも合併し,視力低下の原因となる難治な病態である.また,無灌流領域が広範に及ぶと,網膜虚血によって発現される血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)濃度が上昇し,新生血管が発生する.その結果,視神経乳頭および網膜新生血管からの硝子体出血や牽引性網膜.離,血管新生緑内障を生じ,視機能を著しく低下させる.1.OCT所見の特徴a.糖尿病黄斑浮腫DMEのOCTでは黄斑浮腫による.胞様腔内や,毛細血管瘤周囲に多数の高反射点がみられ,Bolzらはこの高反射点をhyperreflectivefociと命名した1).これらは血管外に漏出したリポ蛋白で,硬性白斑の前駆状態と考えられている.OCTで外境界膜(externallimitingmembrane:ELM)が不整になっていると,このhyperreflectivefociが視細胞層に沈着しやすく,視力予後が不良になることが報告されている2)(図1).ELMは視細胞とMuller細胞間の接着帯によって構成されており,リポ蛋白などの高分子に対してバリアの役割を果たしているため,ELMが破綻するとhyperreflectivefociが視細胞層へ沈着しやすくなり,視細胞障害を生じると考えられている.視力予後を考えるうえで中心窩網膜厚,つまり黄斑浮腫の丈の高さよりもELMやellipsoidzoneなどの網膜外層構造がどれだけ保持されているかのほうが重要な所見であり,浮腫の増減のみに注目するのでなく,網膜外層構造を常にチェックする必要がある.抗VEGF療法,ステロイド局所治療などに抵抗性を示すDME症例では内境界膜.離併用硝子体手術が有効な治療法であるが,硝子体手術前にhyperreflectivefociがすでに網膜外層に沈着していれば視力予後は不良*TaijiHasegawa:東京女子医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕長谷川泰司:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学眼科学教室0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(37)197 ab図1糖尿病黄斑浮腫(DME)a:フルオレセイン蛍光眼底造影では黄斑全体からのびまん性の蛍光漏出がみられる.b:抗VEGF療法を繰り返すが,浮腫の消失はえられず,網膜下腔にhyperreflectivefoci(→)が多くみられる.c:硝子体手術後に黄斑浮腫は軽減したが,中心窩下にhyperreflectivefociが集積しており,中心窩のellipsoidzoneは消失している. あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016199(39)浮腫時の中心窩ELM不整所見との間には有意な関連があり,リポ蛋白などに対してバリアの役割を果たすELMが黄斑浮腫によって障害され,そのELM障害部位を通ってリポ蛋白を含んだ滲出液が視細胞層へ通過・沈着した所見が高反射ライン(trackline)として観察されると考えられている6)(図3).b.網膜虚血黄斑浮腫のOCTで外網状層上縁に沿って高反射ラインがみられる場合がある.Koら7)はこれを網膜虚血を示唆する所見であるとしてmiddlelimitingmembrane(MLM)と命名し,MLMがみられた症例では時間の経過とともに網膜内層萎縮を生じると報告している(図4).MLMは組織学上の構造物ではなく,外網状層が網膜動脈支配と脈絡膜血管支配の境界部にあたり,もっとも虚血の影響を受けやすいために,外網状層レベルで高反射ラインが出現すると考えられている.III網膜動脈閉塞症網膜動脈閉塞症(retinalarteryocclusion:RAO)はその閉塞部位によって,網膜中心動脈閉塞症(centralRAO:CRAO)と網膜動脈分枝閉塞症(branchRAO:BRAO)に分けられる.網膜血流支配は網膜血管系と脈絡膜血管系の2つからなり,網膜内層は網膜動脈に依存しており,網膜外層は脈絡膜血管に栄養されている.そのため,網膜動脈の閉塞によって,とくに網膜が厚い後極部では網膜内層が虚血により壊死を起こし,網膜白濁を生じる.中心窩は網膜外層のみから構成されているため,網膜動脈閉塞の影響を受けず正常の赤褐色調を保っており,CRAOの眼底では周囲の網膜白濁によって中心窩の赤褐色が際立ち,cherryredspotを呈する.CRAOは一般的に視力予後が不良であるが,BRAOでは閉塞部位に対応した暗点が残るが,視力予後は比較的良好である.1.OCT所見の特徴a.急性期虚血による網膜内層の壊死部位は,細胞内浮腫や細胞崩壊を生じるため,OCTで網膜内層の肥厚,高反射を呈する.一方,網膜外層の構造は保たれているが,内層II網膜静脈閉塞症網膜静脈閉塞症(retinalveinocclusion:RVO)は高血圧,動脈硬化などの生活習慣病患者に多くみられる疾患である.網膜静脈は網膜神経線維層を走行しており,神経線維層に沿った火炎状,刷毛状の網膜表層出血を呈することが特徴的である.黄斑浮腫を合併しやすく,静脈閉塞によって血管透過性亢進作用をもつVEGF濃度が上昇し,網膜毛細血管の内側血液網膜関門が破綻して黄斑浮腫を生じる.1.OCT所見の特徴a.黄斑浮腫内側血液網膜関門の破綻によって黄斑浮腫を生じるため,網膜内の浮腫が主であり,OCTでは外網状層,内顆粒層を中心とした.胞様腔が観察される.滲出液は網膜内を経て網膜下に移動すると考えられ,漿液性網膜.離が単独で存在することはなく,網膜膨化や.胞様変化を伴う.多くの症例で抗VEGF療法により速やかな浮腫の消失が得られるが,他の黄斑疾患と同様に,治療前・治療後ともに中心窩の網膜外層構造がどの程度保たれているかが,視力予後を占ううえで非常に重要である.OCTで正常眼のellipsoidzoneは中心窩で隆起する形状(fovealbulge)を呈している.黄斑浮腫があってもfovealbulgeが確認できる症例は視細胞層へのダメージは少ないと考えられ,その状態で浮腫が消失すれば浮腫消失後にもfovealbulgeがそのまま保たれている症例が多く,視力予後は非常に良好である4)(図2).中心窩ELMの健常性も視力予後と関連する重要な指標である.OCTで.胞様黄斑浮腫のある症例を観察すると,.胞様腔直下から網膜色素上皮に対して垂直な高反射ラインがみられる症例があり,これは.胞様腔内の滲出液が移動した所見であると報告されている5).黄斑浮腫消失後にも網膜色素上皮に対して垂直な高反射ラインがみられる症例があり,この高反射ラインにはhyperreflectivefociが含まれていることが多く,高反射ライン消失後にその部位のellipsoidzoneは限局性に欠損していることが多い6).黄斑浮腫消失後の高反射ラインの出現と黄斑網膜静脈閉塞症(retinalveinocclusion:RVO)は高血圧,動脈硬化などの生活習慣病患者に多くみられる疾患である.網膜静脈は網膜神経線維層を走行しており,神経線維層に沿った火炎状,刷毛状の網膜表層出血を呈することが特徴的である.黄斑浮腫を合併しやすく,静脈閉塞によって血管透過性亢進作用をもつVEGF濃度が上昇し,網膜毛細血管の内側血液網膜関門が破綻して黄斑浮腫を生じる.1.OCT所見の特徴a.黄斑浮腫内側血液網膜関門の破綻によって黄斑浮腫を生じるため,網膜内の浮腫が主であり,OCTでは外網状層,内顆粒層を中心とした.胞様腔が観察される.滲出液は網膜内を経て網膜下に移動すると考えられ,漿液性網膜.離が単独で存在することはなく,網膜膨化や.胞様変化を伴う.多くの症例で抗VEGF療法により速やかな浮腫の消失が得られるが,他の黄斑疾患と同様に,治療前・治療後ともに中心窩の網膜外層構造がどの程度保たれているかが,視力予後を占ううえで非常に重要である.OCTで正常眼のellipsoidzoneは中心窩で隆起する形状(fovealbulge)を呈している.黄斑浮腫があってもfovealbulgeが確認できる症例は視細胞層へのダメージは少ないと考えられ,その状態で浮腫が消失すれば浮腫消失後にもfovealbulgeがそのまま保たれている症例が多く,視力予後は非常に良好である4)(図2).中心窩ELMの健常性も視力予後と関連する重要な指標である.OCTで.胞様黄斑浮腫のある症例を観察すると,.胞様腔直下から網膜色素上皮に対して垂直な高反射ラインがみられる症例があり,これは.胞様腔内の滲出液が移動した所見であると報告されている5).黄斑浮腫消失後にも網膜色素上皮に対して垂直な高反射ラインがみられる症例があり,この高反射ラインにはhyperreflectivefociが含まれていることが多く,高反射ライン消失後にその部位のellipsoidzoneは限局性に欠損していることが多い6).黄斑浮腫消失後の高反射ラインの出現と黄斑(39)浮腫時の中心窩ELM不整所見との間には有意な関連があり,リポ蛋白などに対してバリアの役割を果たすELMが黄斑浮腫によって障害され,そのELM障害部位を通ってリポ蛋白を含んだ滲出液が視細胞層へ通過・沈着した所見が高反射ライン(trackline)として観察されると考えられている6)(図3).b.網膜虚血黄斑浮腫のOCTで外網状層上縁に沿って高反射ラインがみられる場合がある.Koら7)はこれを網膜虚血を示唆する所見であるとしてmiddlelimitingmembrane(MLM)と命名し,MLMがみられた症例では時間の経過とともに網膜内層萎縮を生じると報告している(図4).MLMは組織学上の構造物ではなく,外網状層が網膜動脈支配と脈絡膜血管支配の境界部にあたり,もっとも虚血の影響を受けやすいために,外網状層レベルで高反射ラインが出現すると考えられている.III網膜動脈閉塞症網膜動脈閉塞症(retinalarteryocclusion:RAO)はその閉塞部位によって,網膜中心動脈閉塞症(centralRAO:CRAO)と網膜動脈分枝閉塞症(branchRAO:BRAO)に分けられる.網膜血流支配は網膜血管系と脈絡膜血管系の2つからなり,網膜内層は網膜動脈に依存しており,網膜外層は脈絡膜血管に栄養されている.そのため,網膜動脈の閉塞によって,とくに網膜が厚い後極部では網膜内層が虚血により壊死を起こし,網膜白濁を生じる.中心窩は網膜外層のみから構成されているため,網膜動脈閉塞の影響を受けず正常の赤褐色調を保っており,CRAOの眼底では周囲の網膜白濁によって中心窩の赤褐色が際立ち,cherryredspotを呈する.CRAOは一般的に視力予後が不良であるが,BRAOでは閉塞部位に対応した暗点が残るが,視力予後は比較的良好である.1.OCT所見の特徴a.急性期虚血による網膜内層の壊死部位は,細胞内浮腫や細胞崩壊を生じるため,OCTで網膜内層の肥厚,高反射を呈する.一方,網膜外層の構造は保たれているが,内層あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016199 200あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(40)abcd図2網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)a:黄斑浮腫があってもfovealbulge(→)が確認できる.b:黄斑浮腫消失後もfovealbulge(→)は保たれており,視力も(1.2)と良好である.c:外境界膜に接した.胞様黄斑浮腫と漿液性網膜.離がみられる.d:視力は(0.8).黄斑浮腫消失後にellipsoidzoneは連続しているが平坦であり,fovealbulgeはみられない(→).abc図3網膜内の滲出液が通過した所見(trackline)a:.胞様腔直下から垂直な高反射ライン(→)がみられる.b:黄斑浮腫消失後も高反射ライン(→)が存在し,その中にhyperreflectivefociもみられる.c:高反射ラインがあった部位のellipsoidzoneは限局性に欠損している.abcd図2網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)a:黄斑浮腫があってもfovealbulge(→)が確認できる.b:黄斑浮腫消失後もfovealbulge(→)は保たれており,視力も(1.2)と良好である.c:外境界膜に接した.胞様黄斑浮腫と漿液性網膜.離がみられる.d:視力は(0.8).黄斑浮腫消失後にellipsoidzoneは連続しているが平坦であり,fovealbulgeはみられない(→).abc図3網膜内の滲出液が通過した所見(trackline)a:.胞様腔直下から垂直な高反射ライン(→)がみられる.b:黄斑浮腫消失後も高反射ライン(→)が存在し,その中にhyperreflectivefociもみられる.c:高反射ラインがあった部位のellipsoidzoneは限局性に欠損している. あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016201(41)図4網膜中心静脈閉塞症(CRVO)a:.胞様黄斑浮腫があり,外網状層上縁に沿った高反射ライン(middlelimitingmembrane:MLM,→)がみられる.b:半年後には網膜内層の著明な菲薄化がみられる.ababcd図5網膜動脈閉塞症(RAO)a:網膜中心動脈閉塞症のために後極部の網膜は白濁し,cherryredspotがみられる.b:急性虚血のために網膜内層の高反射がみられる.網膜外層構造は正常だが,内層の高反射によるシャドーの影響で低信号となる.c:網膜静脈分枝閉塞症で中心窩上方に網膜白濁がみられる.d:網膜白濁と正常網膜の境界部では内顆粒層に限局した高反射がみられる.図4網膜中心静脈閉塞症(CRVO)a:.胞様黄斑浮腫があり,外網状層上縁に沿った高反射ライン(middlelimitingmembrane:MLM,→)がみられる.b:半年後には網膜内層の著明な菲薄化がみられる.ababcd図5網膜動脈閉塞症(RAO)a:網膜中心動脈閉塞症のために後極部の網膜は白濁し,cherryredspotがみられる.b:急性虚血のために網膜内層の高反射がみられる.網膜外層構造は正常だが,内層の高反射によるシャドーの影響で低信号となる.c:網膜静脈分枝閉塞症で中心窩上方に網膜白濁がみられる.d:網膜白濁と正常網膜の境界部では内顆粒層に限局した高反射がみられる. 202あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(42)層毛細血管網に大別され,OCTで内顆粒層付近に限局した高反射像は深層毛細血管網の虚血を示す所見(図5)とされている.この内顆粒層付近に限局した虚血性変化は傍中心窩にみられることが多く,paracentralacutemiddlemaculopathy(PAMM)とよばれ,RAO以外にもRVO9)や鎌状赤血球網膜症10)などの循環障害でも生じることがあると報告されている.浅層毛細血管網のみの虚血がみられない原因として,浅層毛細血管網の灌流領域に比べて深層毛細血管網の灌流領域の組織内酸素分圧のほうが低く,深層毛細血管網のほうが虚血の影響をより早期から受けやすいためと考えられている11).の高反射によるシャドーの影響で低信号となる(図5).最近のYuら8)の報告では,RAO40眼における網膜白濁部位のOCT像を解析したところ,31眼(78%)では網膜内層全体が高反射を呈しており,9眼(22%)では内顆粒層付近のみに限局した高反射を呈していた.一方,網膜神経線維層・網膜神経節細胞層のみに限局した高反射を呈する症例はみられなかった.また,網膜内層全体が高反射であった31眼中7眼では,網膜白濁と正常網膜の境界部位のOCTで,内顆粒層付近のみに限局した高反射を呈していたと報告されている.網膜毛細血管網は網膜神経線維層・網膜神経細胞層に分布する浅層毛細血管網と内顆粒層の上下に分布する深ab図6黄斑部毛細血管拡張症Type1a:中心窩耳側に多数の毛細血管拡張と毛細血管瘤が存在し,旺盛な蛍光漏出がみられる.毛細血管拡張,毛細血管瘤が耳側縫線を超えて上下に存在することが特徴である.b:フルオレセイン蛍光眼底造影に対応した.胞様黄斑浮腫がみられる.ab図6黄斑部毛細血管拡張症Type1a:中心窩耳側に多数の毛細血管拡張と毛細血管瘤が存在し,旺盛な蛍光漏出がみられる.毛細血管拡張,毛細血管瘤が耳側縫線を超えて上下に存在することが特徴である.b:フルオレセイン蛍光眼底造影に対応した.胞様黄斑浮腫がみられる. あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016203(43)b.慢性期網膜動脈から血流を受ける網膜内層の萎縮,層構造の不明瞭化を生じる.IV黄斑部毛細血管拡張症黄斑部毛細血管拡張症(maculartelangiectagia:MacTel)は黄斑部毛細血管拡張とそれに伴う視機能低下を特徴とする疾患群の総称である12).MacTelType1は男性に多く,片眼性である.中心窩耳側の毛細血管拡張・毛細血管瘤とそこからの滲出性病変を特徴とする.MacTelType2では性差はなく,両眼性である.毛細血管瘤,.胞様黄斑浮腫,硬性白斑などの滲出性変化は伴わず,Muller細胞の変性萎縮が主病像であり,毛細血管拡張は二次的な変化であると考えられている.日本人ではType1が多く13),白人ではType2が多いと報告されている.Type1とType2は同じ黄斑部毛細血管拡張症というカテゴリーに一括されているが,これらは異なる病態を背景とした疾患であることを知っておくことは重要である.1.OCT所見の特徴a.MacTelType1OCTでは多発性の毛細血管瘤からの滲出を反映した.胞様黄斑浮腫を認める(図6).しかし,糖尿病黄斑浮腫や陳旧性BRVOに伴った黄斑浮腫のOCT像も同様の所見をとりうるため,OCT所見のみから鑑別をすることはできない.MacTelType1では,中心窩耳側の毛細血管瘤や毛細血管拡張などの血管変化が,耳側縫線を超えて上下に存在することが特徴的である.DMEは両眼性で,毛細血管瘤の分布が全体に散在性にみられる.糖尿病歴の聴取も鑑別において重要である.陳旧性BRVOでは動静脈交叉部位を起点とした閉塞静脈を確認できる,毛細血管瘤などの血管変化が動静脈交叉部位を頂点とした分布をとるなどの特徴がある.b.MacTelType2OCT所見の特徴として,①網膜厚の増加はみられず,むしろ減少することが多い,②中心窩ellipsoidzoneの消失,③フルオレセイン蛍光眼底造影(fluoresceinangiography:FA)での蛍光漏出や貯留と一致しない網膜の萎縮,.胞様変化などがあげられる14)(図7).ab図7黄斑部毛細血管拡張症Type2a:中心窩耳側に蛍光漏出がみられる.b:中心網膜厚は菲薄化し,innerlamellarcystとよばれる.胞様変性所見がみられる.また,左眼ではellipsoidzoneの欠損もみられる.蛍光漏出と.胞腔の部位は必ずしも一致しない.ab図7黄斑部毛細血管拡張症Type2a:中心窩耳側に蛍光漏出がみられる.b:中心網膜厚は菲薄化し,innerlamellarcystとよばれる.胞様変性所見がみられる.また,左眼ではellipsoidzoneの欠損もみられる.蛍光漏出と.胞腔の部位は必ずしも一致しない. 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網膜硝子体界面症候群

2016年2月29日 月曜日

特集●OCTを使いこなす2016あたらしい眼科33(2):189.195,2016特集●OCTを使いこなす2016あたらしい眼科33(2):189.195,2016網膜硝子体界面症候群ClinicalApplicationofOCTinManagementofVitreoretinalInterfaceSyndrome森實祐基*はじめに網膜硝子体界面症候群は,硝子体と網膜の境界面にみられる疾患の総称であり,具体的には硝子体黄斑癒着(vitreomacularadhesion:VMA),硝子体黄斑牽引(vitreomaculartraction:VMT),黄斑円孔(macularhole:MH),黄斑上膜(epiretinalmembrane:ERM),黄斑偽円孔(macularpseudohole:PH),分層黄斑円孔(lamellarmacularhole:LMH)をさす.経験を積んだ眼科医であれば光干渉断層計(ocularcoherencetomography:OCT)を使用しなくても,細隙灯顕微鏡検査を含む眼底検査で,これらの疾患の診断は可能である.しかし,そうでない眼科医にとっては,硝子体が透明であるため硝子体網膜界面の詳細な状況を把握することはむずかしく,診断,鑑別は困難であった.OCTの登場はこのような状況を一変させた.眼科医の経験に関係なく,容易に本症候群の診断を行えるようになり,治療の効果を客観的に評価することや,予後を予測することが可能になった.さらに,病態の理解が飛躍的に進み,病態に即した新たな治療法の開発が行われるようになった.現在では,網膜硝子体界面症候群に対して質の高い診療を行うためには,OCTは必要不可欠な検査であるといっても過言ではない.本稿では本症候群の診療におけるOCTの活用法について疾患別に解説する.I硝子体黄斑癒着(VMA),硝子体黄斑牽引(VMT)1.診断におけるOCTの活用これまで,VMAとVMTの定義は曖昧で,明確な診断基準は存在しなかった.過去の論文の中には両病名を混同して用いている論文も散見される.しかし,2013年にTheInternationalVitreomacularTractionStudy(IVTS)GroupによってOCT所見に基づいた両疾患の定義がまとめられた1).それによれば,VMAとVMTはともに,後部硝子体が網膜から不完全に.離し,黄斑と接着している状態(傍中心窩の後部硝子体.離,perifovealPVD)であり,この接着によって黄斑の構造に変化をきたしたものがVMT,きたしていないものがVMAと定義される(図1,表1).IVTSGroupの分類では,OCT上で確認できる硝子体と網膜の接着部の長さ(図1a)によって,1,500μm以下のものをFocal,1,500μmよりも長いものをBroadと区別する(表1).1,500μmを境界とした理由はあくまで経験的なもので,科学的な根拠はないようであるが,この分類によって,接着の程度を定量的に表現できるようになった.一般に,BroadのVMTでは硝子体の接着が強く,黄斑の肥厚,網膜分離,.胞様浮腫,網膜血管漏出が起こりやすく,視力低下,変視症,小視症をきたしやすい.*YukiMorizane:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科機能再生・再建科学専攻機能再生・再建学講座眼科学分野〔別刷請求先〕森實祐基:〒700-8558岡山市北区鹿田町2-5-1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科機能再生・再建科学専攻機能再生・再建学講座眼科学分野0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(29)189 190あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(30)量的にMHを評価することが可能になり,病態の理解や治療法の改善,開発が進んでいる.1.診断におけるOCTの活用MHの治療方針を決定するうえで病期を把握することは重要であり,Gassの分類が広く普及している5,6).しかし,Gassの分類はOCT所見に基づいた分類ではなく,定量性に欠ける.また,MH以外の網膜硝子体界面症候群との関連については考慮されていない.そこでIVTSGroupは,OCT所見に基づいた病期分類を新たに提唱した(表2,図2)1).新分類の特徴として,①円孔の最小直径によって分類している点,②MHにおける硝子体と網膜の関係をVMTの有無によって分類している点,があげられる.円孔の最小直径による分類については,最小直径が250μm以下の円孔がSmallMH,250.400μm以下の円孔がMediumMH,400μmよりも大きい円孔がLargeMHと定めている.MHにおけるVMTの有無はオクリプラスミンなどの薬剤による硝子体融解治療の適応を判断するうえで重要である.2.治療におけるOCTの活用現在のMHの標準術式は「硝子体切除+内境界膜.離+ガスタンポナーデ+術後伏臥位」である7).本術式に対しては,さまざまな改良や新しい試みが今日まで行われてきており,その多くはOCTから得られた知見に基づくものである.代表的なものを以下に記す.2.治療におけるOCTの活用OCTを用いたVMAとVMTの鑑別は,治療方針の決定に重要である.VMAは正常な加齢変化として起こる後部硝子体.離(posteriorvitreousdetachment:PVD)の一段階であるので,治療を必要としない.VMTやMHへの進行,黄斑上膜の形成がなければ経過観察となる.一方で,VMTに対しては,黄斑への牽引を解除することを目的として硝子体手術が行われる.しかし,硝子体手術の明確な適応基準はなく,VMTによる黄斑構造の変化をOCTで観察しつつ,視力や患者の自覚症状を考慮して手術の時期を決定することになる.VMTに対する硝子体手術の治療効果について,これまでの報告によれば,Snellen視力で2ライン以上(logMAR視力で約0.3以上)視力が改善した症例の割合は32.9%であった(n=217)2).視力改善の程度としてはそれほどよい結果とはいえないが,視力改善以外に,変視症や不等像視などの自覚症状の改善が期待できる.なお,術前後のOCT所見で,.胞様黄斑浮腫や線維化,慢性的な網膜.離,網膜分離がみられる症例では視力改善効果が制限される3,4).II黄斑円孔MHの診断は通常の眼底検査で可能であり,OCTは必ずしも必要ない.しかし,OCTを用いて詳細かつ定ab図1硝子体黄斑癒着(VMA)と硝子体黄斑牽引(VMT)a:硝子体黄斑癒着(VMA).両矢印は硝子体と網膜の接着部の長さを示す.b:硝子体黄斑牽引(VMT).表1硝子体黄斑癒着(VMA)と硝子体黄斑牽引(VMT)の定義共通の特徴1)傍中心窩に硝子体.離を認める2)中心窩から半径3mm以内に硝子体黄斑癒着を認める硝子体黄斑癒着(VMA)黄斑の構造に変化を認めない硝子体黄斑牽引(VMT)1)黄斑の構造に変化を認める2)網膜全層に及ぶ組織間隙を認めない硝子体と網膜の接着部の長さによる分類Focal:≦1,500μmBroad:>1,500μmab図1硝子体黄斑癒着(VMA)と硝子体黄斑牽引(VMT)a:硝子体黄斑癒着(VMA).両矢印は硝子体と網膜の接着部の長さを示す.b:硝子体黄斑牽引(VMT).表1硝子体黄斑癒着(VMA)と硝子体黄斑牽引(VMT)の定義共通の特徴1)傍中心窩に硝子体.離を認める2)中心窩から半径3mm以内に硝子体黄斑癒着を認める硝子体黄斑癒着(VMA)黄斑の構造に変化を認めない硝子体黄斑牽引(VMT)1)黄斑の構造に変化を認める2)網膜全層に及ぶ組織間隙を認めない硝子体と網膜の接着部の長さによる分類Focal:≦1,500μmBroad:>1,500μm a.ガス下で撮影したOCT画像の活用:術後の伏臥位期間の短縮MH術後に伏臥位を維持したほうが,維持しない場合よりも円孔の閉鎖率が向上することが,とくにLargeMH(直径が400μmよりも大きい円孔)で明らかにされている8).そのため現在では,MHの大きさにかかわらず術後に伏臥位を保つのが一般的であるが,伏臥位の維持期間については明らかな基準はない.2012年にswept-sourceOCTが登場し,眼内にガスが充満した状態でもMHを撮影することが可能になった.その結果,多くのMHは術後数日以内に閉鎖することがわかった.そこで,Yamashitaらは,術後にガス下でOCTを撮影し,MHが閉鎖していれば伏臥位を解除するプロトコールを提案した9,10).この報告によれば,円孔直径が300μm以下であれば早期に伏臥位を解除できる可能性が高い.患者の負担を減らす方法として有効であるといえる.b.難治性MHに対する新しい術式の開発1999年にImaiらは,OCTを用いてMHの術後形態を3つに分類した(図2e.g)11).そして,Wタイプの閉鎖形態を示す症例は視力予後が不良であることを見出した.その後,Wタイプの閉鎖に陥りやすいMHの特徴が明らかになり,一般に難治性MHとよばれるようになった(表3).しかし,近年まで難治性MHに対する有効な術式は存在しなかった.2010年にMichalewskaらによって内境界膜翻転法が考案された12).この術式では,内境界膜をMHの辺縁部で接着した状態で.表2黄斑円孔のStage分類の比較StageGass分類IVTSGroupによるOCT所見に基づいた分類0─硝子体黄斑癒着1切迫黄斑円孔硝子体黄斑牽引(VMT)2小さな黄斑円孔VMTを伴う小.中型の円孔3大きな円孔(円孔の拡大)VMTを伴う中.大型の円孔4後部硝子体.離を伴う黄斑円孔VMTを伴わない円孔(大きさを問わない)小型:直径≦250μm,中型:250<直径≦400μm,大型:直径>400μm.abcdefg図2黄斑円孔とその閉鎖形態a:硝子体黄斑牽引(VMT)を認める.b:VMTを伴う小型の黄斑円孔.c:完全PVDは起こっていないがVMTを伴わない中型の黄斑円孔.d:完全PVDが起こった中型の黄斑円孔.e:Uタイプの閉鎖,もっとも視力予後がよい閉鎖形態.f:Vタイプの閉鎖.g:Wタイプの閉鎖,網膜色素上皮が露出している.もっとも視力予後が悪い.(31)あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016191 192あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(32)が普及するためには術式の改良が必要である.内境界膜の遊離片がMH内に移植されたかどうかを術中に確認するには,OCT付き顕微鏡が有用である(図3).c.OCTによる術後のMHの観察標準術式,内境界膜翻転法,内境界膜自家移植のいずれにおいても,術後にOCTを用いてMHを観察し,円孔の閉鎖を確認する必要がある.筆者らは眼内のガスが半分以下となった時点(術後約1週間)で非閉鎖であれば再手術を行うようにしている.また,網膜外層構造,とくにellipsoidzone(EZ)の回復は術後視力の予測に有用である.術後の回復過程でEZの欠損や網膜に高輝度像がみられることは珍しくなく,標準術式や内境界膜翻転法では数カ月で正常な構造に回復することが多い15,16).内境界膜自家移植の術後については,20例を対象とした自験例の結果では,術後1年の時点でEZの連続性が保たれていた症例は26%に留まった.また,移植片に一致してみられた高輝度像は術後4カ月を経過しても残存する傾向にあった.III黄斑上膜(ERM),黄斑偽円孔(MPH),分層黄斑円孔(LMH)1.診断におけるOCTの活用ERMの診断は,OCTを用いなくても,細隙灯顕微鏡検査を含む眼底検査で可能である.しかし,MPHとLMHはともに,ERMやMHと似た形態を示すため鑑別は困難である.このような場合に,OCTを用いて網膜断層像を観察すれば,きわめて容易に鑑別することができる.離し,その後に内境界膜を翻転してMHを被覆する.その結果,Wタイプの閉鎖をきたす確率は標準術式の10分の1に低下した.現在ではさまざまな難治性MHに対して翻転法が施行されるようになっている15).初回手術でMHに対して標準術式を行い,内境界膜を.離除去すると,再手術が必要となったときに翻転法を行うことができない.そのため,初回手術時に翻転法の適応についてよく検討することが重要である.現在のところ明確な適応基準はないので,眼科既往歴,発症後の期間,強度近視の有無,OCT所見(円孔径,網脈絡膜変性の有無など)から総合的に判断する.翻転法の手技そのものは,内境界膜.離を行える術者にとってはむずかしくない.筆者らは内境界膜を翻転した状態を維持するために翻転した内境界膜の上に粘弾性物質を塗布してから液.空気置換を行っている13).初回手術で内境界膜を.離除去し,閉鎖が得られなかったMHに対しては,内境界膜自家移植が有効である14).この術式は,残存している内境界膜の一部を切り取り,遊離片としてMHに移植する方法である.内境界膜の遊離片の取り扱いは難易度が高く,今後この術式表3難治性黄斑円孔巨大黄斑円孔(円孔径>400μm)陳旧性黄斑円孔近視性黄斑円孔外傷性黄斑円孔増殖性網膜病変に合併ぶどう膜炎,網膜色素変性に合併黄斑分離症に対する硝子体術後ab図3自家内境界膜移植における移植片の観察a:OCT付き顕微鏡によって撮影された移植片(.).円孔内に移植片が位置しているのがわかる.b:顕微鏡に付属するモニター.スキャン位置と撮影画像が把握できる.表3難治性黄斑円孔巨大黄斑円孔(円孔径>400μm)陳旧性黄斑円孔近視性黄斑円孔外傷性黄斑円孔増殖性網膜病変に合併ぶどう膜炎,網膜色素変性に合併黄斑分離症に対する硝子体術後ab図3自家内境界膜移植における移植片の観察a:OCT付き顕微鏡によって撮影された移植片(.).円孔内に移植片が位置しているのがわかる.b:顕微鏡に付属するモニター.スキャン位置と撮影画像が把握できる. abde図4黄斑上膜(ERM),黄斑偽円孔(MPH),分層黄斑円孔(LMH)a:ERM(.).b,c:MPH.黄斑に円形の偽円孔を認める(.).d:網膜内層のLMH.膜状構造物(.)と網膜の内層と外層の間の解離(.)を認める.e:網膜外層のLMH. 194あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(34)に残す術式を考案した(図5)22).LMH22眼に本手術を施行した結果,82%の症例において,術後の黄斑形態がUタイプとなった.また,logMAR0.2よりも大きな視力改善が19眼,86%にみられた.おわりに以上,網膜硝子体界面症候群の診療におけるOCTの活用法について述べた.OCTは現在も日々進歩しており,網膜硝子体界面症候群の診療の質をさらに向上させる原動力としてますます重要な検査になると考えられる.文献1)DukerJS,KaiserPK,BinderSetal:TheInternationalVitreomacularTractionStudyGroupclassificationofvit-reomacularadhesion,traction,andmacularhole.Ophthal-2.治療におけるOCTの活用ERMとMPHに対しては,硝子体切除+ERM.離を行う.術後には,ERMの再発の有無やEZの連続性をOCTで観察することが重要である.Cobosらによれば,ERMの再発は術後約20%にみられる19).そこでERM再発の足場を完全に除去することを目的としてILM.離を併施することが一般的になってきている20).Sanda-liらは,ILM.離を行うとERMの再発率は5%に留まったと報告している21).先述のように,LMHの網膜表面には膜状構造物がみられることが多い.そこで,LMHに対して,ERMやMPHと同様に硝子体切除と膜状構造物の.離およびILMの.離が試みられてきたが,術後の黄斑形態が不整になる頻度が高く,視力予後が不良であった.筆者らは,先述の膜状構造物の特徴に鑑み,術後の黄斑形態や機能を改善することを目的として,膜状構造物を意図的abcdefghij図5分層黄斑円孔(LMH)の特徴と治療a:LMHでみられる膜状構造物.黄斑色素に富む.b:特発性黄斑上膜よりも伸展性に富む.c:LMHの円孔縁と一体化しており容易に.離除去することができない.d:膜状構造物を意図的に残存させ,その周囲の内境界膜(*)を.離除去する(.は.離範囲).e:LMHの模式図.黄色は膜状構造物,緑色は内境界膜を示す.f:膜状構造物を.離し意図的に黄斑上に残す.g:黄斑周囲の内境界膜を.離除去する(.).h:術前のOCT.i:術後7日目のOCTで,残存させた膜状構造物の隆起が確認できる(.).j:術後1カ月.膜状構造物は消失した.abcdefghij図5分層黄斑円孔(LMH)の特徴と治療a:LMHでみられる膜状構造物.黄斑色素に富む.b:特発性黄斑上膜よりも伸展性に富む.c:LMHの円孔縁と一体化しており容易に.離除去することができない.d:膜状構造物を意図的に残存させ,その周囲の内境界膜(*)を.離除去する(.は.離範囲).e:LMHの模式図.黄色は膜状構造物,緑色は内境界膜を示す.f:膜状構造物を.離し意図的に黄斑上に残す.g:黄斑周囲の内境界膜を.離除去する(.).h:術前のOCT.i:術後7日目のOCTで,残存させた膜状構造物の隆起が確認できる(.).j:術後1カ月.膜状構造物は消失した.2.治療におけるOCTの活用ERMとMPHに対しては,硝子体切除+ERM.離を行う.術後には,ERMの再発の有無やEZの連続性をOCTで観察することが重要である.Cobosらによれば,ERMの再発は術後約20%にみられる19).そこでERM再発の足場を完全に除去することを目的としてILM.離を併施することが一般的になってきている20).Sandaliらは,ILM.離を行うとERMの再発率は5%に留まったと報告している21).先述のように,LMHの網膜表面には膜状構造物がみられることが多い.そこで,LMHに対して,ERMやMPHと同様に硝子体切除と膜状構造物の.離およびILMの.離が試みられてきたが,術後の黄斑形態が不整になる頻度が高く,視力予後が不良であった.筆者らは,先述の膜状構造物の特徴に鑑み,術後の黄斑形態や機能を改善することを目的として,膜状構造物を意図的に残す術式を考案した(図5)22).LMH22眼に本手術を施行した結果,82%の症例において,術後の黄斑形態がUタイプとなった.また,logMAR0.2よりも大きな視力改善が19眼,86%にみられた.おわりに以上,網膜硝子体界面症候群の診療におけるOCTの活用法について述べた.OCTは現在も日々進歩しており,網膜硝子体界面症候群の診療の質をさらに向上させる原動力としてますます重要な検査になると考えられる.文献1)DukerJS,KaiserPK,BinderSetal:TheInternationalVitreomacularTractionStudyGroupclassificationofvitreomacularadhesion,traction,andmacularhole.Ophthal-194あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(34) 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OCTアンジオフラフィー

2016年2月29日 月曜日

特集●OCTを使いこなす2016あたらしい眼科33(2):175.187,2016特集●OCTを使いこなす2016あたらしい眼科33(2):175.187,2016OCTアンジオグラフィーOCTAngiography石羽澤明弘*はじめに日常眼科診療において,網膜や脈絡膜の血管病変の病状把握のために,フルオレセイン蛍光眼底造影検査(fluoresceinangiography:FA)やインドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(indocyaninegreenangiography:IA)は欠かすことのできない検査法である.無灌流領域や血管の透過性亢進などが明瞭に描出され,治療法の選択にかかわるきわめて有用な情報が得られる.しかし,FAやIAは毛細血管レベルの微細な構造変化を詳細に観察することは困難であり,とくに新生血管に至っては造影剤の漏出により,その形態を正確に描出することは不可能である.また,頻度はきわめて低いが,重篤なアレルギー反応のリスクや,静脈ルート確保など準備の煩雑さなどから,造影検査は必要最小限に施行するというのが実状である.一方で,OCT(opticalcoherencetomography)が現在眼科臨床に広く普及した背景には,その画像としての有用性のみならず,非侵襲的で簡便に受診ごとに撮影できるという大きなメリットの存在がある.OCTangiographyは,造影剤を用いず,OCTで非侵襲的に網脈絡膜の血流情報を抽出することで,血管構造の描出を可能とする新しい技術である.つまり,受診ごとに網脈絡膜血管病変の変化を,簡便に確認できるようになる可能性を秘めた技術なのである.また,OCT信号は三次元的に取得されており,再構成して層別の血管構造も解析できる.この特筆すべき長所により,OCTangiographyは近年急速に眼科臨床現場へ普及しつつある.本稿ではOCTangiographyの基本と臨床での活用方法について,わが国でいち早く承認されたRTVueRXRTMAvantiTMOCT(OptovueR社)を中心に解説する.IOCTangiographyの基本1.OCTangiographyの原理OCTangiographyを理解するうえで,重要な原理がおもに2つある.一つは“Motioncontrast”動きの差異の検出である.これは,眼底内の静止している部分(組織)から,動きのある部分(血流内の赤血球)のみを抽出して,画像を再構築することにより,赤血球の動きを描出することである.図1に示すように,蛇口から水を出しながら定点撮影し,背景の変化しない部分を引くと,流れている水のみの画像が得られる.OCTで同一部位を高速で複数枚撮影すると,OCT信号の位相変化(phasevariance)や強度変化(specklevariance)が起こっている部分があり,それが動きのある部分(血流)である.この位相変化や強度変化に基づき,血流を可視化するさまざまな方式のOCTangiography技術が開発されている1,2).現在,市販機として使用可能なRTVueXRAvantiでは,連続撮影したOCT画像からスペックル強度の変化する部分を抽出して再構築し,血管構造のみを描出している(図1).また,split-spectrumamplitudedecorrelationangiography(SSADA)というアルゴリズムを用いることで,ノイズの少ない血流像を得る*AkihiroIshibazawa:旭川医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕石羽澤明弘:〒078-8510旭川市緑が丘東2条1-1-1旭川医科大学眼科学講座0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(15)175 176あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(16)フトウェアでは表層毛細血管網(Superficial),深層毛細血管網(Deep),網膜外層(OuterRetina),脈絡膜層(ChoroidCapillary)の4層が自動的に表示される3).組織学的に,網膜表層毛細血管網は神経線維層から神経節細胞層に存在し,その深層には内顆粒層を挟むように存在する中層毛細血管網と外層毛細血管網の2層がある(図2)3.5).AngioVueTMではこの2層を合わせてDeepと表示している.網膜外層には血管組織がないため,nosignalで真っ暗となるのが正常である.脈絡膜層はBruch膜下をセグメンテーションしており,脈絡毛細血管板(choriocapillaris)の血流情報を示すモザイクパターンである.AngioVueTMでは内境界膜側から脈絡膜側まで,層間に切れ目のないセグメンテーションをすることで,網膜から脈絡膜表層の血流情報を取り逃しなく評価することができる.また,正常眼視神経乳頭周囲のOCTangiographyでは,視神経乳頭,硝子体,放射状乳頭周囲毛細血管(radialperipapillarycapillaris:ことが可能となっている.もう一つの重要な原理は“Enface”(アンファス:「面と向かって」という意味)技術である.近年のOCTの高解像度化に伴い,とくに網膜の各層を鮮明に区別することが可能になった.その各層を自動セグメンテーションすることにより,それぞれ分離して,正面から見たように(狭義のC-scan)で表示されたものがEnface画像である.OCTangiographyではこの原理を利用して,血管構造を,層別に表示することができる.つまり,従来の二次元のFAやIAでは重なってしまう血管網を,三次元的に分離して評価することができるのが大きな特徴である.2.正常眼のOCTangiographyこのような原理を元に,AvantiOCTのangiographyソフトウェアAngioVueTMで得られた正常眼の黄斑部OCTangiography(3mm×3mm)を表1に示す.本ソフレーム番号信号強度同一部位のOCTを複数枚撮影動いている部分のみ水道からの流水(Optovue社より提供)各画像間の差分(D1-D7)を算出し,信号強度が変わる部分(flow)と変わらない部分(static)を識別して,血流のある部分のみ抽出されたFlowimageが再構築される.蛇口から水を出しながら定点撮影し,変化のある部分のみ残すと,流水のみの画像が得られる.図1Motioncontrastの検出(Dr.DavidHuangのご厚意による)フレーム番号信号強度同一部位のOCTを複数枚撮影動いている部分のみ水道からの流水(Optovue社より提供)各画像間の差分(D1-D7)を算出し,信号強度が変わる部分(flow)と変わらない部分(static)を識別して,血流のある部分のみ抽出されたFlowimageが再構築される.蛇口から水を出しながら定点撮影し,変化のある部分のみ残すと,流水のみの画像が得られる.図1Motioncontrastの検出(Dr.DavidHuangのご厚意による) 表1黄斑部3mm×3mmのOCTangiography(AngioVueTM)デフォルト設定SuperficialDeepOuterRetinaChoroidCapillaryOCTAngiography(3mm×3mm)B-scan(水平断)でのセグメンテーションセグメンテーション上限ILM下3μmIPL下15μmIPL下70μmRPERef下30μmセグメンテーション下限IPL下15μmIPL下70μmRPERef下30μmRPERef下60μmEnfaceで表示される全厚症例により異なる55μm症例により異なる30μm描出される血管網表層毛細血管網中層毛細血管網外層毛細血管網正常では血管組織なし脈絡毛細血管板(choriocapillaris)ILM:内境界膜,IPL:内網状層,RPEref:色素上皮層下縁.(AngioVueTMソフトウェアバージョン2014.2.0.93における設定を表記)内境界膜神経線維層神経節細胞層内網状層内顆粒層外網状層外顆粒層外境界膜桿体錐体層網膜色素上皮網膜循環脈絡膜循環放射状乳頭周囲毛細血管(RPC)RPC表層毛細血管網深層毛細血管網表層毛細血管網中層毛細血管網外層毛細血管網図2網膜の毛細血管網(文献4より許可を得て改変・転載)RPC),脈絡膜(篩状板レベル)の4層で自動表示されるできると考えられているが,実際には他の血管と重な(図3).OCTangiographyで描出される血管網のうち,り,単独での評価は困難である.OCTangiographyにとくに注目すべきは,RPCとchoriocapillarisの描出でよりこれらの血管網の個別評価が可能となり,さまざまある.これらは従来のFAやIAで,動脈相早期に観察な病態への関与を検討する研究が始まっている.(17)あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016177 図3視神経乳頭部3mm×3mmのOCTangiography(AngioVueTM出力画面)上段は左から,視神経乳頭,硝子体,放射状乳頭周囲毛細血管,脈絡膜(篩状板レベル)の4層が自動表示される.下段左は,選択した層,下段右は水平断,垂直断のB-scanに,選択した層のセグメンテーションが表示される.2mm×2mm3mm×3mm6mm×6mm8mm×8mmSuperficialDeep図4AngioVueTMの画角(黄斑部)解像度は304×304pixelと固定のため,3mm×3mmより大きい画角では,比較的太い血管の描出には十分でも,毛細血管網の詳細な評価は困難である. あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016179(19)AngioVueTMの撮影画角については,黄斑部で2mm×2mm,3mm×3mm,6mm×6mm,8mm×8mm,乳頭部で3mm×3mmと4.5mm×4.5mmである.解像度は304×304pixelと固定であるため,とくに深層において十分な高精度の毛細血管画像を取得するには,3mm×3mm以下のスキャンを選択することが推奨される(図4).3.OCTangiography読影の注意点上記のように,網脈絡膜血管の新しい評価法として期待されるOCTangiographyであるが,新しい技術ゆえにその読影には,より一層注意を払わなくてはならない.OCTangiography画像には,さまざまなアーチファクトが出現する6).まず,OCTangiography撮影における大きな問題点は,そのスキャン時間の長さに伴うmotionartifactである.AngioVueTMでは1回のスキャンが約3秒で,水平方向,垂直方向の2回のスキャンを行い,平均化し固視微動などによる画像上のズレを補正して画質を向上させる(motioncorrectiontechnology:MCT,図5).しかし3秒とはいえ,とくに低視力眼や,高齢な被検者では固視の持続が困難なケースも多い.固視が悪いと画質が極端に悪くなる.また,MCTなしMCTあり図5MotionartifactAngioVueTMではMotionCorrectionTechnology(MCT)により,ある程度のズレ,ノイズは除去される.血管血管の影血管血管の影図6OCTに写る血管の影OCTでは血管によって撮影光が吸収・減衰し,それより深部にある高反射部位が暗く描出される特徴がある.血管部の明暗は時間によってランダムに変化し,それに連動して影に当たる部位にも明暗の変化が起きる.その結果として,OCTangiographyでは,血管組織のない部位であっても変化部分として抽出されてしまう.MCTなしMCTあり図5MotionartifactAngioVueTMではMotionCorrectionTechnology(MCT)により,ある程度のズレ,ノイズは除去される.血管血管の影血管血管の影図6OCTに写る血管の影OCTでは血管によって撮影光が吸収・減衰し,それより深部にある高反射部位が暗く描出される特徴がある.血管部の明暗は時間によってランダムに変化し,それに連動して影に当たる部位にも明暗の変化が起きる.その結果として,OCTangiographyでは,血管組織のない部位であっても変化部分として抽出されてしまう. 180あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(20)反射部位が暗く描出される特徴がある(図6).血管部の明暗は時間によってランダムに変化し,それに連動して影にあたる部にも明暗の変化が起きる.その結果として,OCTangiographyでは,血管組織のない部位であっても変化部分として抽出されることになる.このようにして,Superficialの血管がDeep,ChoroidCapillaryのOCTangiographyに映りこんでしまうことがある(図7,OuterRetinaはこのartifactを消すようにプログラムされているため,映り込まない).これは血管密度の定量や病変の解釈に大きく影響するため,各層を単体で見るのではなく,他の層も十分確認したうえで評価OCTangiographyはあくまでも「OCT」であるので,中間透光体の影響を強く受け,硝子体混濁による局所的欠損や,網膜出血などによるblockと無灌流の読み間違いに注意しなくてはならない.したがって当然ではあるが,OCTangiographyで得られた情報を眼底所見とよく照合して読影することが必至である.さらに,うまく撮影ができたとしても,Enface表示の最大の問題点といえるのが,projectionartifactである.前述の通り,OCTangiographyは連続した複数枚のOCTから変化部分を抽出している.OCTでは血管によって撮影光が吸収・減衰し,それより深部にある高SuperficialDeepOuterRetinaChoroidCapillaryOCTangiographyB-scan(中心窩を通る垂直断)でのセグメンテーション図7ProjectionartifactSuperficialの血管がDeep,ChoriodCapillaryの層に映りこんでしまっている.Deepの.の血管に注目し,B-scanのセグメンテーションをみても,この表層の血管は含まれていない(.).Outerretinaはこのartifactを消すようにプログラムされているため,映り込まない.SuperficialDeepOuterRetinaChoroidCapillarySuperficialの血管がDeep,ChoriodCapillaryの層に映りこんでしまっている.Deepの.の血管に注目し,B-scanのセグメンテーションをみても,この表層の血管は含まれていない(.).Outerretinaはこのartifactを消すようにプログラムされているため,映り込まない.図7ProjectionartifactOCTangiographyはあくまでも「OCT」であるので,中間透光体の影響を強く受け,硝子体混濁による局所的欠損や,網膜出血などによるblockと無灌流の読み間違いに注意しなくてはならない.したがって当然ではあるが,OCTangiographyで得られた情報を眼底所見とよく照合して読影することが必至である.さらに,うまく撮影ができたとしても,Enface表示の最大の問題点といえるのが,projectionartifactである.前述の通り,OCTangiographyは連続した複数枚のOCTから変化部分を抽出している.OCTでは血管によって撮影光が吸収・減衰し,それより深部にある高180あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016反射部位が暗く描出される特徴がある(図6).血管部の明暗は時間によってランダムに変化し,それに連動して影にあたる部にも明暗の変化が起きる.その結果として,OCTangiographyでは,血管組織のない部位であっても変化部分として抽出されることになる.このようにして,Superficialの血管がDeep,ChoroidCapillaryのOCTangiographyに映りこんでしまうことがある(図7,OuterRetinaはこのartifactを消すようにプログラムされているため,映り込まない).これは血管密度の定量や病変の解釈に大きく影響するため,各層を単体で見るのではなく,他の層も十分確認したうえで評価(20) あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016181(21)することが重要である.一方で,上記のartifactをクリアしても,とくに網膜浮腫や菲薄化を有する症例を撮影した場合,.胞形成などによりsegmentationerrorが発生する(図8).とくにDeepのデフォルト設定は,55μm幅のEnface画像であるので,浮腫部位では本来のDeepの毛細血管網の一部しか含まれていない.このため,深層の毛細血管が本当に閉塞しているのか,.胞により毛細血管が偏位しているだけなのか判断がつかず,毛細血管瘤の同定もむずかしい.治療により浮腫消失後,血管が描出されるようになり,それを「血流が改善した」などと議論することは,現時点では困難であるといわざるを得ない.IIOCTangiographyの臨床応用OCTangiographyを臨床で活用するうえで,蛍光眼底造影との決定的差異は,血管透過性の亢進を描出できない点である.しかし,OCTangiographyでは撮影部位すべてのB-scan画像も同時に得られているため,網膜内.胞の存在や漿液性網膜.離などの所見と組み合わせることで,血管透過性をある程度評価できる可能性がある.一方で,蛍光漏出の影響を受けないことは,新生血管の描出に威力を発揮し,撮影画角が狭くとも,とくに黄斑疾患における有用性が高い.さらに来院ごとの撮影が可能であるため,毛細血管床や新生血管の状態を受診のたびに把握できる.OCTangiographyの急速な普及とともに,その利点を生かした臨床研究が近年次々と多数報告されている.以下に代表疾患におけるOCTangiographyの知見を提示し,臨床活用法について考察する.1.網膜血管疾患のOCTangiography筆者らは,糖尿病網膜症をOCTangiography(AngioSuperficialDeep図8糖尿病黄斑浮腫眼でのOCTangiographySuperficialはほぼ問題ないが,Deepでは浮腫を起こした内層の一部しかとらえていない.このため,とくにDeepでの高輝度点(黄丸)を毛細血管瘤と断定することは,OCTangiography単独では困難である.SuperficialDeep図8糖尿病黄斑浮腫眼でのOCTangiographySuperficialはほぼ問題ないが,Deepでは浮腫を起こした内層の一部しかとらえていない.このため,とくにDeepでの高輝度点(黄丸)を毛細血管瘤と断定することは,OCTangiography単独では困難である. FA早期OCTangiography(Superficial)FA早期OCTangiography(Superficial)FA早期(拡大)OCTangiography(Deep)FA早期FA早期(拡大)NPAOCTangiography(視神経乳頭部)NPA図9糖尿病網膜症(毛細血管瘤)OCTangiographyでは毛細血管瘤(MA)は表層(.)または深層(.)に.状または紡錘状の毛細血管拡張として描出されるが,FAでMAと判断されてもOCTangiographyでは認めないもの(白丸),OCTangiographyでのみMAのようにみえるものもある(黄丸).図10糖尿病網膜症(無灌流領域)FAでの無灌流領域(NPA)は,OCTangiographyでは毛細血管網が疎な領域として描出され,網膜内微小血管異常も鮮明に観察される(.).(文献7より許可を得て改変,転載)182あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(22) FA早期(治療前)OCTangiography(視神経乳頭部)FA早期(治療前)OCTangiography(視神経乳頭部)1.41.210.80.60.40.20IVR前2週間後4週間後8週間後抗VEGF療法4週間後NVD血管面積(mm2)OCTangiography(視神経乳頭部)図11増殖糖尿病網膜症における新生血管の抗VEGF療法前後の変化FAでは蛍光漏出のため不鮮明な視神経乳頭部の新生血管(NVD)を,OCTangiographyで鮮明に描出できる(左図).NVDの同一部位における血管面積はラニビズマブ硝子体注(IVR)後減少したが,8週間後には再増加をきたした.(文献7より許可を得て改変,転載)VueTM)で観察し,FA所見と比較検討を行った7).FAで点状の漏出点として描出される毛細血管瘤(microaneurysm:MA)は,OCTangiographyでは毛細血管の.状または紡錘状の局所的拡張として,表層または深層毛細血管網に描出され,深層により多くのMAが認められた(図9).しかし,FAのみで描出されるMAや,OCTangiographyでMAのようにみえてもFAでは写らないものもあり,その描出率が問題となる.CouturierらはFAで描出されるMAのうち,62%しかOCTangiographyで描出されなかったと報告している8).この理由としては,MA内の血流がきわめて緩徐,乱流の存在,MA内に赤血球がなく血漿成分のみである可能性など,さまざまな要因があると考えられる.また,FAでの点状過蛍光のみでMAと定義することにも疑問があり,毛細血管壁からの局所漏出をみているだけの可能性もある.一方,OCTangiographyでのみMA様にみえる病変は,血管の蛇行,屈曲により瘤状に描出されただけのものや,閉塞血管の終端,表層.深層の垂直穿通枝なども混在している可能性があり,数的評価には注意が必要である.補償光学適用眼底走査型レーザー検眼鏡(adaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopy:AOSLO)でMAの形態を詳細に分類した報告もあり9),このような技術と共同してMAの評価を進めていく必要があると考えられる.無灌流領域や網膜内微小血管異常については,OCTangiographyは鮮明に病変を描出できる(図10)7,8).(23)あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016183 FA早期OCTangiography(Superficial)NPANPANPAOCTangiography(Deep)NPANPANPAFA早期(拡大)NPANPANPAFA早期OCTangiography(Superficial)NPANPANPAOCTangiography(Deep)NPANPANPAFA早期(拡大)NPANPANPA図12網膜静脈分枝閉塞症OCTangiographyでは閉塞部位における表層,深層毛細血管網の無灌流領域(NPA),三次元的に拡張・蛇行した毛細血管が鮮明に描出される(.).FAパノラマ(初診時)OCTangiography(Superficial:初診時)OCTangiography(Superficial:3カ月後)図13半側網膜中心静脈閉塞症(新生血管)初診時,広範な無灌流領域を認める(左図).3カ月後,無灌流領域境界部に新生血管の出現を認めた(右下図).初診時のOCTangiographyを確認すると(右上図),閉塞静脈近傍の表層毛細血管にvascularsproutがあったことに気づく(.).(文献14より許可を得て改変,転載)184あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(24) あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016185(25)Takaseらは,中心窩無血管帯(fovealavascularzone:FAZ)を定量し,検眼的に糖尿病網膜症を認めない糖尿病眼においても,表層,深層ともにFAZが拡大していることを報告した10).また,Agemyらは,skeletonizeしたOCTangiography画像から血管灌流密度マップを構築するシステムを報告し,糖尿病網膜症の病期の進行に伴い,黄斑部の毛細血管密度が減少することを定量的に示した11).ドップラOCTによるangiographyでは,Miuraらが増殖糖尿病網膜症の新生血管の硝子体腔へ進展する三次元的構築を画像化した12).筆者らも視神経乳頭上の新生血管が抗VEGF療法により退縮し,その効果減弱により再増殖することをAngioVueTMを用いて定量的に観察した(図11)7).Suzukiらは,網膜静脈分枝閉塞症において,OCTangiographyではFAよりも鮮明に無灌流領域を描出でき,また表層,深層毛細血管網の拡張蛇行,側副血行路の描出にも優れることを報告した(図12)13).また筆者らは,半側網膜中心静脈閉塞症の無灌流領域と毛細血管残存部位の境界を経時的に観察し,表層の残存毛細血管からの新生血管の萌芽をとらえた(図13)14).網膜血管疾患においては,周辺部の無灌流領域,新生血管など評価には不向きであるが,このように眼底後極の局所における詳細な観察は可能であり,黄斑浮腫の病態や,新生血管の活動性を推測しうる知見が得られる可能性を秘めている.図14近視性脈絡膜新生血管FAで明瞭な蛍光漏出,IAではdarkrimを伴う淡い過蛍光が認められる.OCTangiographyでは網膜外層に新生血管が描出され,TypeIICNVである.抗VEGF療法後,CNVの血管面積は0.091mm2から0.055mm2へ減少した.FA(1分20秒)2mm×2mmOCTangiography(OuterRetina)IA(1分20秒)抗VEGF療法前抗VEGF療法2週間後B-scan(水平断)でのセグメンテーション図14近視性脈絡膜新生血管FAで明瞭な蛍光漏出,IAではdarkrimを伴う淡い過蛍光が認められる.OCTangiographyでは網膜外層に新生血管が描出され,TypeIICNVである.抗VEGF療法後,CNVの血管面積は0.091mm2から0.055mm2へ減少した.FA(1分20秒)2mm×2mmOCTangiography(OuterRetina)IA(1分20秒)抗VEGF療法前抗VEGF療法2週間後B-scan(水平断)でのセグメンテーション OCTB-scanOCTangiographyDeep(水平断)(垂直断)SuperficialOuterRetinaOCTangiography(ChoriodCapillary)RPE.RefOffset(0-30μm)RPE.RefOffset(30-60μm)RPE.RefOffset(60-90μm)図15滲出型加齢黄斑変性(TypeI+IICNV)網膜外層のOCTangiographyに一部新生血管が描出されるが(TypeIICNV,.),主病変は網膜下のChoriodCapillary層に描出されるTypeICNVである(下段,.).CNVの描出には,セグメンテーションの深さをマニュアルで変更しなくてはならない場合がある.また,網膜血管のprojectionartifactにも注意が必要.2.脈絡膜血管疾患のOCTangiography前述の通り,現行のOCTangiographyは3mm×3mmの画角で黄斑部撮影というのがもっとも標準的な使用方法であり,この画角に入る中心窩近傍の脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)にはとくに有用性が高いため,加齢黄斑変性におけるCNVの形態評価が多数報告されている15.18).正常のOCTangiographyでは網膜外層には血管構造を認めないため真っ暗な画像である(表1).近視性CNVなどTypeIICNVは,この外層にRPEを穿破したCNVが鮮明に描出されるため,抗VEGF療法前後のCNVの血管面積の変化を定量的に経過観察できる(図14)15,16).一方で,TypeICNVやポリープ状脈絡血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)では,自動セグメンテーションに186あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016よるEnface表示では,網膜外層,脈絡毛細血管板層にCNVやポリープを十分に描出することは困難である.セグメンテーションラインをマニュアルで上下に動かし,病変の描出を確認する必要がある(図15)17,18).このとき前述のprojectionartifactの影響を十分考慮し,網膜血管の映り込みを誤読しないよう注意しなくてはならない.また,網膜下出血や色素上皮.離下の血管病変は,通常のOCTや造影検査と同様に,blockにより描出が困難である.このように脈絡膜血管疾患へは有用性が高いと考えられる一方で,加齢黄斑変性患者は,低視力,高齢者である.すなわち,固視の持続がむずかしいケースも少なくなく,高精細な画像を得られることができないことも多いのが現状である.アイトラッキング付きOCTangi(26)

OCT撮影のコツ

2016年2月29日 月曜日

特集●OCTを使いこなす2016あたらしい眼科33(2):163.173,2016特集●OCTを使いこなす2016あたらしい眼科33(2):163.173,2016OCT撮影のコツHowtoTakeGoodQualityOCTScans後藤禎久*はじめにOCT(opticalcoherencetomography)撮影の基本は,眼底病変を的確にとらえた鮮明な断層画像を得ることである.鮮明な断層画像を得るには,眼内にできるだけ多くの測定光を入れ,眼底から綺麗な反射を得ることを意識しながら撮影することが重要である.本稿では普及機種であるCirrousHD-OCT(CarlZeissMeditec)の実際の測定画面と結果を用いて,撮影の基本テクニックについて解説する.I撮影の基本1.撮影前の準備a.患者の準備未散瞳かつ数秒で撮影が終了するOCTであるが,患者の姿勢が悪いと顔が動き,断層画像が大きくずれることになる.そこで,やや前傾姿勢になってもらうと,額が前方に押し当てられるので,頭が後方に離れて断層画像がずれることがなくなる.また,説明不足は固視不良を招き,きれいな断層画像を撮影できない原因となるため,使用しているOCTの固視目標を把握して,撮影前,撮影中,撮影後はどのように見えているのか説明し,瞬きを促すタイミングなど決めておくことが重要である.b.検者の準備測定結果は正常眼データベースと比較するため,生年月日は正確に入力する必要がある.また,前回の撮影部位と異常所見を確認し,同一部位の撮影ができるようイメージすることも重要である.II撮影プログラムの選択1.基本的なライン撮影基本的なライン撮影は,1ライン,5ラインなどの選択が可能である.ラインの本数は機種により異なる.図1上段の横1ライン撮影は横5ライン撮影よりも多く加算平均処理(画像の重ね合わせ)を行うため,断層画像の画質が向上し各層が明瞭になる.しかし,横1ラインでは,病変を含む断層画像を得られているかが問題になる.そこで検査に慣れない間や病変が点在する場合には,やや画質は低下するが,図1中段の横5ラインを選択しライン間隔を調整すると,病変を含んだ断層画像を撮影することができる.2.5クロスライン撮影,ラジアルライン撮影,21ライン撮影図1下段の5クロスライン撮影,ラジアルライン撮影や,21ライン撮影では,一度に多くの断層撮影が可能でスクリーニングに適している.ただし,これらは断層画像の枚数が増えるため必要な断層画像の選択が必要である.3.EDI(enhanceddepthimaging)モード脈絡膜側が強調され強膜との境界面が明瞭になるため,加齢黄斑変性や,中心性漿液性脈絡網膜症や原田病*YoshihisaGoto:大塚眼科〔別刷請求先〕後藤禎久:〒870-0852大分県大分市大字奥田田中町8-2A大塚眼科0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(3)163 図1ライン撮影の選択断層画像が鮮明な1ライン撮影の断層画像だが,病変が含まれていなければ意味がない.慣れない間は5ライン・クロスライン・ラジアルライン撮影も使用しながら,病変を含む断層画像を撮影する. 図2黄斑マップ撮影.のILM-RPEMap(網膜厚マップ)は黄斑浮腫の経過観察に有用..のILMMapは硝子体と網膜の境界面疾患の確認に有用..のRPEMapは脈絡膜疾患の経過観察に有用.図3治療中のRPEMapの変化加齢黄斑変性における抗VEGF薬治療中のRPEMapの変化を並べると,脈絡膜新生血管の活動性と範囲の変化がわかる.このRPEMapの隆起を参考に,斜めライン撮影の角度を変更することで,診断に有用な断層画像を撮影することができる. 図4眼球回旋の影響中心窩を含む正常な横ライン撮影では,ラインが青点線で示した範囲内にある.しかし,眼球が回旋するとこの.のように範囲を超えてしまう,その原因として,頭の傾斜による眼球の回旋と上斜筋麻痺による外方回旋偏位がある. 図5トラッキング機能OCTAの撮影時にトラッキング機能をONにすることで,瞬目による.のようなグレーの抜けや,.のようなズレを改善した鮮明な画像を撮影できる..のようなグレーの抜けや,.のようなズレを改善した鮮明な画像を撮影できる.図6基本画像の操作瞳孔表示ウィンドウで虹彩のピント合わせ→瞳孔表示ウィンドウで測定光の入射位置の調整(.)→眼底表示ウィンドウで眼底のピント合わせ→断層画像ウィンドウで断層画像の高さ調整の順番で進める. 図7上眼瞼と睫毛の影響上眼瞼や睫毛が瞳孔にかかると,測定光が眼内に十分入らず,眼底からの反射が弱くなる.上眼瞼は眼底画像下方の影(.)として写り,.のように眼底下方の断層画像に影響する.図8測定光の入射位置と眼底の傾き測定光の瞳孔への入射位置は,瞳孔の中心が基本.右眼の場合,耳側から入射すると断層画像は右側へ傾斜し,鼻側から入射すると断層画像は左側へ傾斜する. 図9眼底の傾きに合わせ入射位置を調整強度近視眼底(右眼)の傾きを補正するように測定光を鼻側から入射して,断層画像ができるだけ水平にすると,各層がより鮮明になる. 図10眼底のピント合わせ.のように眼底のピントが合っていなければ,断層画像が不鮮明になり,.のように固視目標もボヤケる.眼底のピントを合わせると.のように固視目標も鮮明になるため,固視不良を防ぐことができる.図11断層画像の位置断層画像の高さを,.のように画面上方にすると断層画像が鮮明になり.のように画面下方にあると不鮮明になる. 図12横ライン・縦ライン撮影右眼の横ライン撮影では.のように,乳頭黄斑間(中心窩の鼻側)の網膜神経線維層の高反射層が写る.右眼の縦ライン撮影では,.のように中心窩の上下(対称性あり)に網膜神経線維層の高反射層が写る.ただし,緑内障における網膜神経線維層欠損(.)では,縦ライン撮影で中心窩を挟んだ網膜神経線維層の対称性がなくなる.図13斜めライン撮影斜めライン撮影の角度は,SLO眼底画像の色調の変化した部分を目標にすると病変の断層を撮影できる..の色調の変化した部分は,.のように網膜色素上皮.離であることがわかる.病変を含む斜めライン撮影は中心窩との関連を1枚で確認することができる. 図14糖尿病網膜症の撮影ポイント糖尿病網膜症の局所浮腫では,ILM-RPEMapの局所浮腫(.)と中心窩を結ぶ斜め1ライン撮影(.)を行うことで,横1ライン,縦1ラインではわからない局所浮腫と中心窩の関連を判断するための断層画像を撮影できる.図15加齢黄斑変性の撮影ポイント加齢黄斑変性では,RPEMapの隆起部分(.)と中心窩を結ぶ斜め1ライン撮影(.)を行うことで,診断に有用な網膜色素上皮.離,黄斑浮腫,漿液性網膜.離などの関した所見を1枚の断層画像に含めて撮影することができる. あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016173(13)中間の位置に調整する.そして必要に応じて上方へ調整して各層の鮮明な断層画像を追加する.図11赤矢印のように画面下方にすると断層画像が不鮮明になっていることがわかる.5.横ライン・縦ライン撮影中心窩を通る横1ラインを撮影すると,正常であれば図12赤矢印のように乳頭黄斑間だけにRNFLの高反射層が写り,この眼底は右眼であることもわかる.中心窩を通る縦1ラインを撮影すると,正常であれば図12緑矢印のように,中心窩の陥凹を中心に対称性のあるRNFLの高反射層が写る.しかし,緑内障によるRNFL欠損が起こると図12黄矢印のように,本来見えるはずの高反射層(RNFL)が欠損していることがわかる.このように縦ライン撮影をしたときには,中心窩を挟んだ対称性を確認することが大切である.6.斜めライン撮影横ライン・縦ライン撮影で,病巣と中心窩を結ぶ断層画像が得られない場合は,斜めのライン撮影が必要になる.斜めライン撮影の角度は,SLO眼底画像の色調の変化した部分を目標にすると病変の断層を撮影できる.図13赤矢印のようにSLO眼底画像の上耳側に色調の変化を認めた場合,その部分へ向かって斜め1ライン撮影を行うと,図13黄色矢印のPED(網膜色素上皮.離)を確認することができる.また,1枚の断層画像で中心窩との関係も同時に確認できることがわかる.図13下の横5ライン撮影や,縦1ライン撮影や,ラジアルライン撮影ではPEDに届いていないことがわかる,21ライン撮影ではPEDを横切っているが中心窩との関連は証明できていない.7.黄斑マップ撮影ライン撮影は1秒以下で固視不良の影響を受けにくいが,黄斑マップ撮影は数秒必要であるため固視不良患者では,トラッキング機能をONにして,負担の少ないスムーズな検査を行うことが重要である.黄斑マップ撮影後の結果は,斜めライン撮影の参考になる.図14は糖尿病網膜症の症例で,ILM-RPEMapで図14赤矢印の局所浮腫と中心窩を結ぶような,斜め1ライン撮影(図14黄矢印)を行うと,中心窩への浮腫の影響や,硬性白斑など,1つの画像に多くの所見を含んだ断層画像を撮影することができる.また,図14緑矢印のように位置をずらした1ラインを3枚撮影して,一般的な眼底画像合成ソフトで合成することで,さらに多くの所見を広範囲で確認できる.図15の加齢黄斑変性では,RPEMapを参考に斜めライン撮影を行うと診断に有用な断層画像を撮影することができる.RPEMapで図15緑矢印の隆起部分と中心窩を結ぶ斜めライン撮影(図15赤矢印)を行うと,PEDやME(黄斑浮腫)やSRD(漿液性網膜.離)などの関連した所見を1枚の断層画像に含めて撮影することができる.文献1)白神史雄,飯田知弘編:OCT読影トレーニング.p16-18,メジカルビュー社,20132)丸尾敏夫他編:眼科検査ガイド.光干渉断層計OCT.p576-582,文光堂,20043)髙橋寛二,小椋祐一郎編:特集光干渉断層計(OCT)はこう読む!あたらしい眼科26:1-51,20094)大谷倫裕:身につくOCTの撮り方と所見の読み方.金原出版,2013

序説:OCTを使いこなす 2016

2016年2月29日 月曜日

●序説あたらしい眼科33(2):161.162,2016●序説あたらしい眼科33(2):161.162,2016OCTを使いこなす2016ClinicalUseofOCT:TodayandBeyond飯田知弘*山下英俊**光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は,検眼鏡所見に対応した眼底断面を,組織切片をみるかのように観察することを可能にし,眼科診療に革命を起こした.OCTの登場により,客観的な三次元画像診断と記録がミクロン単位の解像度で,しかも非侵襲的に短時間の検査で可能となった.自然経過や治療後の経時的変化も一目瞭然で,眼底病変を四次元の視点から把握し理解することが容易である.このような有用性からOCTは瞬く間に普及して,多くの眼科医にとって不可欠な診療ツールとなっている.しかし,機器の進歩に加え,新しい所見と病態の解釈など,OCT診断は日々進歩が続いている.そこで本特集では,OCTを診療で活かすための基本事項から最新情報まで,エキスパートの先生方に解説をお願いし,読者の診療レベル向上をめざした.OCTを使いこなすためには,撮影装置の特徴をよく理解して正しい手順で画像を取得し,その所見をもとに読影して診断・治療に結びつける必要がある.OCT画像を得ても,それが病変を正確にとらえていなければ,むしろ誤った解釈に繋がりかねない.多くの施設で視能訓練士などメディカルスタッフが撮影を担っており,眼科医との連携,スタッフ教育が重要となる.視能訓練士の視点からOCT撮影のコツについて,経験豊富な後藤禎久先生(大塚眼科)に解説いただいた.読者の施設のスタッフ教育にもぜひ活用していただきたい.最近のOCTに関するトピックはOCTangiographyである.造影剤を用いずに,OCTで非侵襲的に網脈絡膜血管構造の描出を可能とした新しい技術で,急速に眼科臨床に普及しつつある.新しい技術であるからこそ,原理やアーチファクト,限界を理解したうえでの読影と解釈が必要であり,それがOCTangiographyの発展にもつながると考える.石羽澤明弘先生(旭川医科大学)にOCTangiographyの基本と臨床応用,そして読影する際の注意点を解説いただいた.OCTが後眼部疾患,とくに黄斑疾患の病態理解と,それを背景とした適切な治療選択に与えたインパクトは計り知れない.網膜硝子体界面症候群はOCT診断のもっとも得意とする領域であり,透明な硝子体が病変にどのようにかかわっているのかが手に取るように可視化できる.網膜硝子体界面症候群の病態理解と診断の進歩,病態に即した治療法の開発について森實祐基先生(岡山大学)に解説いただいた.網膜血管疾患,とくに糖尿病網膜症と網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対して抗VEGF療法などの新たな治療選択が加わり,その病状把握と予*TomohiroIida:東京女子医科大学眼科学講座**HidetoshiYamashita:山形大学医学部眼科学講座0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(1)161 162あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(2)後予測の重要性が高まっている.また,黄斑部毛細血管拡張症のようにOCTにより新たな病態解釈がもたらされた疾患もある.長谷川泰司先生(東京女子医科大学)には,網膜動脈閉塞症を加えたこれら頻度の高い疾患について最新の知見を解説いただいた.視機能に直結する視細胞の評価はOCTで飛躍的に進んだが,その所見の解釈も日々進歩している.網膜外層のOCT像と最近の知見,網膜外層が病気の主座と考えられるAZOORcomplexについて松井良諭・近藤峰生先生(三重大学)に解説いただいた.脈絡膜は主要な黄斑疾患の源になっているが,その評価法には限界があり,まさにブラックボックスであった.Enhanceddepthimaging(EDI)-OCTとswept-source(SS)-OCTの登場により,ついに脈絡膜がOCT診断の対象になった.石龍鉄樹先生(福島県立医科大学)には,OCT所見から得られた脈絡膜疾患の病態,診断,治療への応用を解説いただいた.また,厚さを指標としていた脈絡膜の評価は層別解析や血管腔・間質の定量解析へと進歩してきており,黒岩宣宏・園田祥三先生(鹿児島大学)に解説いただいた.さらに,一部の症例ではより深部の強膜をも明瞭に描出できるようになってきた.強膜が独特の形状を有する疾患のOCTを用いた解析により病態や新たな治療の可能性が注目されており,島田典明・大野京子先生(東京医科歯科大学)に解説いただいた.OCTの応用は緑内障や前眼部疾患へも広がり,著しい進歩をみせている.緑内障に関しては,OCTの優位性である定量化により,信頼性のある臨床データ解析を可能とし,一般診療では黄斑疾患以上に広く用いられている.形態計測の研究活用も含めて,その最新情報を福地健郎先生(新潟大学)に解説いただいた.前眼部OCTは,前眼部の断層像を非接触で簡便に描出でき,さらに定量的な前眼部構造評価を可能とした.最近は広範囲の測定が可能な機種も登場して,その応用範囲が広がっており,上野勇太先生(筑波大学)に解説いただいた.すべての項目で明快な解説と豊富なOCT画像を提供いただき,まさに「OCTを使いこなす」ための情報が満載である.日々進歩している分野で,知識を常にアップデートすることが必要であり,本特集が読者の先生方の診療レベル向上にお役に立てることを望む.

眼科受診を契機にTreatable Dementiaが判明した1例

2016年2月27日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(2):319.321,2016c眼科受診を契機にTreatableDementiaが判明した1例桐山明子*1加藤能利子*1高橋現一郎*1森田道明*2山寺亘*2常岡寛*3*1東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科*2東京慈恵会医科大学葛飾医療センター精神神経科*3東京慈恵会医科大学眼科ACaseofTreatableDementiaFoundintheWakeofOphthalmologyConsultationAkikoKiriyama1),NorikoKato1),GenichiroTakahashi1),MichiakiMorita2),WataruYamadera2)andHirosiTsuneoka3)1)DepartmentofOphthalmology,JikeiUniversitySchoolofMedicine,KatsushikaMedicalCenter,2)DepartmentofPsychiatry,JikeiUniversitySchoolofMedicine,KatsushikaMedicalCenter,3)DepartmentofOphthalmology,JikeiUniversitySchoolofMedicine眼科受診を契機にtreatabledementiaが判明した1例を経験した.症例は79歳,女性で,急性原発閉塞隅角緑内障のため手術が必要であった.しかし,認知症のため全身麻酔での手術が必要と判断された.周術期の認知症状の管理の目的で精神神経科へ依頼したところ,慢性硬膜下血腫によるtreatabledementiaと診断された.脳神経外科で緊急手術となり,術後は認知機能が改善し局所麻酔での手術が可能な状態となった.Wereportacaseoftreatabledementiafoundinthewakeofophthalmologyconsultation.Thepatient,a79-year-oldfemale,requiredsurgeryforacuteprimaryangle-closureglaucoma.However,duetoherdementia,shewasjudgedtorequirethesurgeryundergeneralanesthesia.Aswerequestedpsychiatricserviceforthepurposeofcontrollingdementiabeforeandafterthesurgery,shewasdiagnosedwithtreatabledementiacausedbychronicsubduralhematomaandunderwentanemergencyneurosurgicaloperation.Subsequently,hercognitivefunctionimprovedsufficientlytoenablesurgerywithlocalanesthesia.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(2):319.321,2016〕Keywords:認知症,眼科診察,慢性硬膜下出血,全身麻酔,treatabledementia.dementia,ophthalmologicalexamination,chronicsubduralhematoma,generalanesthesia,treatabledementia.はじめに高齢者の増加に伴い,認知症患者が受診する機会が増えていくものと思われる1).認知症の程度により,問診・眼科的検査・治療に苦労することもある.保存的治療が可能な症例では,家族や介護者などキーパーソンとの連携でアドヒアランスの向上を図ることは可能であると思われるが2),手術が必要な場合は,患者の協力が得られないと局所麻酔での手術はむずかしくなる3).したがって今後は眼科医も認知症に対してある程度の知識をもつ必要があると思われる.認知症の一部には,treatabledementia4)とよばれる原因の治療を行うと認知症の改善が期待できるものがある.今回,急性原発閉塞隅角緑内障の疑いで受診した症例が,認知症の精査で慢性硬膜下血腫が認められ,治療により局所麻酔下での手術が可能なまでに認知症が改善した.示唆に富む症例と思われるので,臨床経過を含めて報告する.I症例患者:79歳,女性.主訴:右球結膜充血.現病歴:2014年5月29日周囲の人に右眼の球結膜充血を指摘され近医を受診した.右眼圧47mmHg,浅前房であり急性原発閉塞隅角緑内障の疑いで点眼加療を開始した.右眼圧は下降せず,認知症状のため全身麻酔下での手術が必要と判断され,同年6月5日に当院に紹介となった.既往歴・家族歴:不詳.初診時眼所見:〔別刷請求先〕桐山明子:〒125-8506東京都葛飾区青戸6-41-2東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科Reprintrequests:AkikoKiriyama,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JikeiUniversitySchoolofMedicine,KatsushikaMedicalCenter,6-41-2Aoto,Katsushika-ku,Tokyo125-8506,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(159)319 図1初診時右眼前眼部OCT写真視力は右眼=0.1(0.4×.1.00D(cyl.1.00DAx180),左眼=0.2(0.8×+2.00D(cyl.1.75DAx140).眼圧は右眼27,左眼16mmHg.右眼は浅前房(VanHerick2程度)で瞳孔は中等度散大固定していた.角膜の混濁はなく,白内障が認められた.右眼の視神経乳頭陥凹を認めた.左眼も浅前房(VanHerick2程度)であったが,眼圧は正常範囲内で,視神経乳頭に緑内障性の変化を認めなかった.隅角鏡検査は,本人の協力を得られず行えなかったが,前眼部OCT(opticalcoherencetomography)(SS-1000CAIA,TOMEY,名古屋)での撮像は可能であった.右眼は,虹彩が前方に凸で隅角部はとくに鼻側で虹彩と角膜の接触がみられたが(図1),左眼では,前房は浅いものの虹彩と角膜の接触は確認されなかた.初診時の問診では,本人からの訴えはなく,診察や検査で介助が必要であった.家族の話では,2,3年前から認知機能が悪化し,受け答えがやや困難となっていたとのことである.ただし,専門医による認知症の精査は受けておらず,内科受診歴を確認できず,現在は施設に入所しており,全身状態が不明であった.家族も患者の既往歴など,詳細な全身状態を把握していなかった.眼圧上昇・浅前房を認めたため,点眼加療または手術を検討することになった.眼圧上昇は,水晶体の膨隆に伴う浅前房によるものと思われるため,手術は水晶体摘出術の適応であると考えた.今後の点眼加療の負担を理由に,家族は手術を強く希望された.認知機能障害の程度から,局所麻酔での手術は不可能と考えられたため,入院にて全身麻酔での白内障手術(水晶体摘出術および眼内レンズ挿入術)を予定した.認知症の精査と周術期の管理について,精神神経科に依頼した.認知症の精査目的で撮影した頭部CT検査で左側頭頂部に慢性硬膜下血腫,大脳鎌下ヘルニアを認めたため(図2),脳神経外科に紹介となった.脳神経外科にて,緊急手術で穿頭血腫洗浄術が施行されることとなったため,白内障手術は中止となった.脳神経外科の手術後は,病棟の看護師の管理のもと点眼治療を継続し,眼圧は改善傾向にある.術後の頭部所見の改善に伴い(図3),認知症状の改善を認め,局所麻酔での手術が320あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016図2術前頭部CT図3術後頭部CT可能となったが,リハビリテーションの目的で転院したため,眼科の手術は当面は見合わせることで,患者も家族も同意した.今後は,全身状態の回復を待って,患者や家族の希望があり,眼科的に必要であれば手術を行うこととした.II考按眼科診療において,認知症などを有する診察・検査・治療が困難な高齢者に対して,対応に苦慮することがある2,3).正確な診断ができないことは,治療方針の決定,とくに保存的治療と手術治療の選択に迷うことになり,病状の悪化に繋がりかねない.治療にあたっては,精神神経科や内科,麻酔科のみならず,家族や介護人などのキーパーソンや看護師な(160) どと協力・連携した体制を整えて診療にあたることが重要であると考える.患者の協力が得られない場合は,通常の眼科的検査を行えないこともあるが3),病状の把握のためには,簡略的に検査を行うことや代替えの検査を行うことも考えていくことが必要である.今回は,隅角鏡検査はできなかったが,代わりに前眼部OCT検査で,隅角部の状態を観察することができた.前眼部OCTは,短時間で非接触型の検査であり,認知症患者にも施行可能であると思われた.眼科では高齢の患者が多く,認知症患者と接する機会も多い1).そのため,認知症に対してもある程度の知識を有しておく必要があると考えられる.本症例は,認知症状を呈していたが,精神神経科での精査の結果,慢性硬膜下血腫によるtreatabledementiaと診断された.治療できる認知症の場合,適切な時期に治療を行う必要があり,原疾患を見逃して全身麻酔での眼科手術を行っていた場合には,生命に危険が及んでいた可能性もあったと思われた.認知症とは一度正常に達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続的に低下し,日常生活に支障をきたすようになった状態をいい,それが意識障害のないときにみられるとされている5).有病率は65歳以上の約15%である.原因はAlzheimer病と血管性認知症が約90%を占めている6).認知症の診断は発症時期,エピソード,記憶障害の内容,長谷川式簡易知能評価スケールによる問診を行う7).その後,器質性病変の否定を行うためCT,MRIなどの画像検査を行う7).認知症のなかで見逃してはいけないのが,原因に対する治療を行うことで改善が期待できるtreatabledementiaである.慢性硬膜下血腫,正常圧水頭症,脳腫瘍,代謝・内分泌疾患,炎症性疾患などがtreatabledementiaとしてあげられるが,とくに慢性硬膜下血腫と正常圧水頭症が多い4).本症例でも慢性硬膜下血腫手術後に認知機能が改善し,局所麻酔での手術も可能となった.以上のことから,認知症のため全身麻酔での手術を検討する前にはtreatabledementiaを鑑別する必要があると考えられる.Treatabledementiaは数日.数カ月と進行が早く,とくに慢性硬膜下血腫や正常圧水頭症では転倒・頭部打撲の既往,歩行障害,失禁,認知機能障害が症状としてあげられるため,これらのことを問診で確認することが重要と考えられる.ただし,患者本人は覚えていないことや,聴取できないこともあるため,家族や介護人などキーパーソンからの情報収集が重要となる.一方,家族や周囲の人が年齢から認知症と思い込んで,専門医の診断を受けていないことも多々見受けられる.また,認知症高齢者をもつ家族・介護者の負担も大きく,通院や治療が困難なこともある8).医療や地域などの連携による家族や介護者の負担を軽減する方法も整備されるべきであると思われた.文献1)宇治幸隆,森恵子,杉本昌彦ほか:認知症患者の眼科受診動機.日本の眼科86:469-472,20152)丸本達也,小野浩一:独居認知症患者に対する眼科医療の問題点ヘルペス性ぶどう膜炎の1例を経験して.臨眼68:559-562,20143)福岡秀記:【生活習慣病・老年疾患と認知症】視覚障害と認知症.GeriatricMedicine52:785-788,20144)杉山博通,数井裕光,武田雅俊:認知症診断・治療の実際Treatabledementia正常圧水頭症,慢性硬膜下血腫,薬剤性認知症の診断と治療.総合臨床60:1869-1874,20115)認知症疾患治療ガイドライン作成合同委員会:“認知症疾患治療ガイドライン2010”コンパクト版2012,2,医学書院,20126)SekitaA,NinomiyaT,TanizakiYetal:TrendsinprevalenceofAlzheimer’sdiseaseandvasculardementiainaJapanesecommunity:theHisayamaStudy.ActaPsychiatrScand122:319-325,20107)畑田祐,橋本衛,池田学:【認知症の原因・予防から診断・治療まで】認知症の診断診断の進め方.臨床と研究91:873-878,20148)中井康貴,中山慎吾,古瀬徹:在宅認知症高齢者の介護・医療サービス利用家族介護者が感じる困難・負担感.厚生の指標59:23-29,2012***(161)あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016321

網膜色素変性に対する網膜神経節細胞複合体厚測定の有用性の検討

2016年1月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科33(1):151.154,2016c網膜色素変性に対する網膜神経節細胞複合体厚測定の有用性の検討福岡秀記*1,2日野智之*1木下茂*3*1国立研究開発法人国立長寿医療研究センター眼科*2カリフォルニア大学サンディエゴ校*3京都府立医科大学感覚器未来医療学UtilityofEvaluatingGanglionCellComplexThicknessforRetinitisPigmentosaHidekiFukuoka1,2),TomoyukiHino1)andShigeruKinoshita3)1)DivisionofOphthalmology,DepartmentofAdvancedMedicine,NationalCenterforGeriatricsandGerontology,2)ShileyEyeInstitute,UniversityofCalifornia,SanDiego,USA,3)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:網膜色素変性は,さまざまな遺伝子変異により網膜の視細胞および色素上皮細胞が広範に変性する疾患である.網膜神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)厚が緑内障をはじめとするさまざまな眼疾患で有用と報告されている.対象および方法:網膜色素変性患者5例10眼(男性1例,女性4例,平均年齢67.4±15.5歳)の全網膜厚,GCC厚をOCT(RS-3000:NIDEK)を用いて測定し,その菲薄化状態とGoldmann視野との関係を比較検討した.結果:正常群の1%未満に含まれる程度の平均GCC厚の菲薄化は6/10眼(60%)でみられた.全症例において全網膜厚よりもGCC厚の病変と思われる部位の菲薄化が観察され,GCC厚の菲薄化と視野欠損は一致した(一致率91±16%).結論:GCC厚の菲薄化は,視野欠損に一致し網膜色素変性の病変を示している可能性がある.Purpose:Toassesstheusefulnessofganglioncellcomplex(GCC)thicknessinevaluatingretinitispigmentosa.Subjectsandmethods:Thisstudyinvolved5patients(1maleand4females,age67.4±15.5yrs)withretinitispigmentosa.Usingopticalcoherencetomography(RS-3000:NIDEK),wemeasuredtotalretinalthicknessandGCCthickness.WethenoverlaidGCCdeviationmapswiththevisualfieldresultsofeachpatient(Goldmannperimeter).Results:Ofthe10eyes,6(60%)hadGCCthicknesslessthan1%oftheaverageGCCthicknessinnormaleyes.Comparedtonormaleyestandards,lossofthicknesswasmuchmorepronouncedintheGCClayerthaninthetotalretinallayer,acrossalleyes.Inaddition,theobtainedcolormapofGCCthicknesscorrelatedwellwithvisualfield(Agreementrate:0.91±0.16).Conclusion:ThefindingsofthisstudyshowthatGCCthicknessdeviationmapsmaybeausefultoolinidentifyingwell-delineatedareasofaffectedretinainpatientswithretinitispigmentosa.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(1):151.154,2016〕Keywords:網膜色素変性,視野狭窄,神経節細胞複合体,光干渉断層計.retinitispigmentosa,visualfieldloss,ganglioncellcomplex,opticalcoherencetomography.はじめに光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は,正確性・再現性が向上し,網膜全体の形態異常だけでなく網膜神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)厚などの部分的な測定も可能になった.OCTは,形態的な異常を捉えることは可能だが,視力や視野などの視機能の異常までとらえることはできない.そのため,黄斑浮腫や黄斑前膜が存在するが視力良好な症例,preperimetricglaucomaなど網膜形態異常と視機能とが乖離する状態が生まれた.網膜色素変性は,さまざまな遺伝子変異が原因で網膜の視細胞(桿体,錐体)および色素上皮細胞が変性する疾患である.当疾患のOCTに関する報告には,網膜視神経細胞に対応すると考えられる網膜外層の菲薄化や視神経細胞内節外節接合部(エリプソイドライン)の異常1)があるが,GCC厚に〔別刷請求先〕福岡秀記:〒474-8511愛知県大府市森岡町7丁目430国立研究開発法人国立長寿医療研究センター先端診療部眼科Reprintrequests:HidekiFukuoka,M.D.,Ph.D.,DivisionofOphthalmology,DepartmentofAdvancedMedicine,NationalCenterforGeriatricsandGerontology,7-430,Morioka,Obu,Aich474-8511,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(151)151 ついてはほとんど報告がない.そこで筆者らは,網膜色素変性患者のGCC厚の状態と視野欠損の状態について検討した.I症例(方法)対象は2013年12月.2014年6月に,夜盲,羞明などの特徴的な自覚症状に加え,細動脈の狭細化や骨小体様色素沈着など特徴的な眼底所見,網膜電図検査(electroretinogram:ERG)の振幅低下や消失,Goldmann視野計にて視野異常を認め,網膜色素変性として当院通院中の患者5例10トメータ(TONOREFRII:NIDEK)にて屈折状態を測定後,光干渉断層計(RS-3000:NIDEK)を用いてGCC厚,全網膜厚を測定した.GChartによる黄斑を中心とした直径9mm円内平均GCC厚,全網膜厚の判定(表1)を集計し,網膜と対応させるため上下反転させたデビエーションマップとGoldmann視野計のI4eイソプターの結果とを比較した.一致率の測定はImageJを用いた面積計算を行いI4eイソプター範囲とGCCカラーマップの一致率=1.暖色系範囲で重なりの面積眼(男性1例,女性4例,67.4±15.5歳)である.レフケラOCTの測定面積表1OCTのGCC厚におけるAnalysisChartの説明AnalysisChartの結果で示される色正常者群の区間白95%以上緑5.95%未満黄1.5%赤1%未満として計算をした.各種数値計算や解析においては両眼の平均値を症例の代表値として用いた.また,この際GCC厚の正常な測定を阻む黄斑前膜や糖尿病網膜症などの網膜疾患は除外した.II結果等価球面値は,平均.0.1±1.4ジオプトリーと中等度近視より強い症例はなかった.平均矯正視力は,0.9±0.77(logMAR)であった.網膜厚GCC厚網膜厚GCC厚12345678910図1今回測定した全網膜厚およびGCC厚のデビエーションマップの比較すべての画像において全網膜厚よりもGCC厚のほうがより菲薄化領域が広く判定されていた.152あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016(152) 123456910図2今回測定されたGCC厚のデビエーションマップと視野とを対応させた図Goldmann視野I4eの広がり(赤色線)とGCC厚デビエーションマップを比較したところ多くの症例で対応していた.ただし中心窩直径約200μmにおけるGCCは測定・解析はできない(白丸)78直径9mm円内における平均GCC厚の平均値は,71.6±28.2μmであった.性・年齢を一致させた健常者の平均GCC厚108.3±2.3と比較すると有意に薄い結果となった(p=0.04,unpairedt-test).10眼中6眼(60%)で正常群1%未満に含まれる程度の菲薄化を認めた.これらの症例は6眼中5眼(83%)で矯正視力0.1未満の症例であったのに対し,矯正視力0.1以上である残りの5眼中4眼(80%)において全体的な菲薄化は認めず,視細胞の障害部位と思われる部分のみの菲薄化を認めた.網膜全層とGCC厚のデビエーションマップを比較すると全症例においてGCC厚のデビエーションマップのほうがより障害部位の菲薄化を認めた(より強い寒色系色)(図1).また,GCC厚菲薄化部位とGoldmann視野計I4eイソプターの部分を照らし合わせたところ,多くの症例で一致していた.一致率は,91±16%であった(図2).III考按網膜色素変性は,ロドプシン,ペリフェリンなど遺伝子変異が原因で網膜視細胞および網膜色素上皮細胞が広範囲に変性する疾患である.両眼性で進行は緩徐であるが,夜盲,視野狭窄,視力低下などの自覚症状がある.視野狭窄は求心性,輪状,地図状,傍中心性など病変に一致した狭窄を認める.有病率は欧米と同様で,人口4,000名当たり1名(0.025%)と推定されている.平成27年1月1日より指定難病となり医療費助成対象疾患となった2).OCTは1990年代より開発された技術である3)が,当時の機器と比較し,現在では測定時間の短縮,分解能や再現性の向上など機能が格段に向上している.最近のGCC厚に関す(153)る報告では,とくに緑内障領域においての有用性が報告されており,網膜最内層の3層・4層測定が乳頭周囲網膜神経線維層厚の診断に匹敵する4)こと,急性緑内障後眼にGCC厚の菲薄化がみられ僚眼との鑑別に有用5),preperimetricglaucomaのGCC厚菲薄化部位を考慮したMP-1が有用6)と報告されている.その他,糖尿病,網膜虚血性疾患7),Gaucher病などの網膜変性疾患8)や前部視路疾患7)においても有用であるとされている.GCC厚の解析時に注意すべき点は,黄斑前膜や網膜浮腫などGCC厚解析を阻害する疾患およびGCC厚が薄いとされる強度近視眼9,10)を除外することである.直径9mm円内における平均GCC厚は,矯正視力0.1未満の大部分の症例において全体的な菲薄化を認め,矯正視力0.1以上の症例においては部分的な菲薄化を認めた.その理由として,網膜色素変性の自然経過11)は,多くの症例で視野狭窄とともに視力低下を認めることから視力良好群には軽症例,視力不良群には進行例を多く含んだためと考えられた.網膜色素変性の眼底所見は,典型例では網膜血管狭細,網膜色素色調の変化を認めるが,非典型例では無色素性,白点状などがあり病変部位を把握するには熟練を要する.今回Goldmann視野計のV4e,I4eおよびI3eイソプターのなかでもっとも一致率が高かった(データ未掲載)I4eイソプターでの視野狭窄部位がGCC厚菲薄化部位と91%と高率に一致し,GCC厚菲薄化部位が病変を客観的に示している可能性が示唆された.現在,網膜全層およびGCC厚を正常群と比較する機能はあるが,網膜外層厚と正常群を比較する機能はない.このことはGCC厚菲薄化部位面積の経時的な変化あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016153 の観察をすることで進行の判断を可能にするかもしれない.今回の検討でGCC厚のデビエーションマップにおいて病変部位と推定される部位の菲薄化を認めた.網膜色素変性において今まで多くの報告のある網膜外層だけでなくGCC厚の菲薄化も認めたことは興味深い結果だと考えている.網膜色素変性においては網膜神経細胞と網膜色素変性の異常であり網膜神経節細胞は生存していると考えられている.これまでに網膜色素変性において網膜内層には変化がない12),一部の患者で肥厚している13),網膜色素変性の進行度や部位によって菲薄化がみられる14,15)など報告がなされている.筆者らの結果においては視細胞の障害部位と思われる部位のGCC厚の菲薄化を認めた.この理由として網膜神経節細胞の廃用性萎縮を含む飛び越え変性14,16)や網膜血管狭小化に伴う細胞死17)などが理由ではないかと考えられる.網膜色素変性患者の視野欠損部位とGCC厚菲薄化部位が一致していることがわかった.今後さらなる機器の進化,医療の発展が予想され,GCC厚が網膜色素変性においてなぜ菲薄化をきたしているのかを含めたさらなる研究の発展に期待したい.文献1)HoodDC,LazowMA,LockeKGetal:Thetransitionzonebetweenhealthyanddiseasedretinainpatientswithretinitispigmentosa.InvestOphthalmolVisSci52:101108,20112)厚生労働省(平成27年1月1日施行の指定難病;新規)http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000062437.html(最終検索日2015/06/01)3)丹野直弘:「光波反射像測定装置」日本特許第2010042号:19904)AggarwalD,TanO,HuangDetal:PatternsofganglioncellcomplexandnervefiberlayerlossinnonarteriticischemicopticneuropathybyFourier-domainopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci53:4539-4545,20125)福岡秀記,山中行人:急性原発閉塞隅角緑内障後眼の網膜神経節細胞複合体厚と僚眼との比較.眼科手術28:280284,20156)福岡秀記,日野智之,森和彦ほか:PreperimetricGlaucomaに対するマイクロペリメーターMP-1の有用性の検討.あたらしい眼科32:1179-1182,20157)AraszkiewiczA,Zozuli.ska-Zio.kiewiczD,MellerMetal:Neurodegenerationoftheretinaintype1diabeticpatients.PolArchMedWewn122:464-470,20128)McNeillA,RobertiG,LascaratosGetal:RetinalthinninginGaucherdiseasepatientsandcarriers:resultsofapilotstudy.MolGenetMetab109:221-223,20139)HirasawaK,ShojiN:Associationbetweenganglioncellcomplexandaxiallength.JpnJOphthalmol57:429-434,201310)LimMC,HohST,FosterPJetal:Useofopticalcoherencetomographytoassessvariationsinmacularretinalthicknessinmyopia.InvestOphthalmolVisSci46:974978,200511)CaiCX,LockeKG,RamachandranRetal:Acomparisonofprogressivelossoftheellipsoidzone(EZ)bandinautosomaldominantandx-linkedretinitispigmentosa.InvestOphthalmolVisSci55:7417-7422,201412)ShethSS,RushRB,NatarajanS.Innerandouterretinalvolumetricandmorphologicanalysisofthemaculawithspectraldomainopticalcoherencetomographyinretinitispigmentosa.MiddleEastAfrJOphthalmol19:227-230,201213)HoodDC,LinCE,LazowMAetal:Thicknessofreceptorandpost-receptorretinallayersinpatientswithretinitispigmentosameasuredwithfrequency-domainopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci50:2328-2336,200914)VamosR,TatraiE,NemethJetal:Thestructureandfunctionofthemaculainpatientswithadvancedretinitispigmentosa.InvestOphthalmolVisSci52:8425-8432,201115)StoneJL,BarlowWE,HumayunMSetal:Morphometricanalysisofmacularphotoreceptorsandganglioncellsinretinaswithretinitispigmentosa.ArchOphthalmol110:1634-1639,199216)NewmanNM,StevensRA,HeckenlivelyJR:Nervefibrelayerlossindiseasesoftheouterretinallayer.BrJOphthalmol71:21-26,198717)LiZY,PossinDE,MilamAH:Histopathologyofbonespiculepigmentationinretinitispigmentosa.Ophthalmology102:805-816,1995***154あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016(154)

糖尿病黄斑浮腫の硝子体手術成績に及ぼすカリジノゲナーゼの影響

2016年1月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科33(1):145.150,2016c糖尿病黄斑浮腫の硝子体手術成績に及ぼすカリジノゲナーゼの影響伊勢重之古田実石龍鉄樹福島県立医科大学医学部眼科学講座AdjuvantKallidinogenaseinPatientswithVitrectomyforDiabeticMacularEdemaShigeyukiIse,MinoruFurutaandTetsujuSekiryuDepartmentofOphthalmology,FukushimaMedicalUnivercitySchoolofMedicine目的:糖尿病黄斑浮腫(DME)に対する硝子体手術成績に及ぼすカリジノゲナーゼ内服の効果を評価する.方法:非盲検前向き単純無作為比較臨床研究.対象は治療歴のないびまん性DME25例25眼.術後にカリジノゲナーゼ(150単位/日)を投与した投与群12例12眼と,投与を行わなかったコントロール群13例13眼である.硝子体手術前,術後1カ月,術後3カ月,術後6カ月の視力と中心窩網膜厚(CFT)の変化を検討した.結果:投与群,コントロール群ともに術後6カ月の視力は有意に改善(p<0.01)したが,両群の視力変化量に差はなかった.術後6カ月の平均CFT変化量は,両群ともに有意に減少(p<0.01)し,CFT変化量に有意差はなかった.硝子体網膜境界面に異常がない16眼(投与群8眼,コントロール群8眼)で比較したところ,投与群のみ術後3カ月,6カ月でCFTが減少(p<0.01)していた.投与群は全例でCFTは減少し,コントロール群よりもCFTが安定している傾向にあった.結論:DMEの硝子体手術後にカリジノゲナーゼを内服することにより,CFTは安定的に改善し,その効果は硝子体牽引がない症例でも認められた.Purpose:Toevaluatetheeffectoforalkallidinogenaseonvisualacuityandcentralfovealthickness(CFT)aftervitrectomyfordiabeticmacularedema(DME).Methods:Thisstudy,designedasanopen-label,prospective,randomized,singleinstitutionalstudy,compared12eyesof12patientswhoreceivedoralkallidinogenasepostoperativelyfor6months(kallidinogenasegroup)with13eyesof13patientswhoreceivednokallidinogenase(controlgroup).MainoutcomemeasurementsincludedlogMARandCFTbeforesurgeryand1month,3months,6monthsaftervitrectomy.Results:LogMARimprovedsignificantlyat6monthsineachgroupascomparedwithbeforesurgery(p<0.01).Therewasnosignificantdifferenceinvisualimprovementbetweenthegroups.MeanCFTofbothgroupsgraduallydecreasedat6months(p<0.01).ThedecrementofCFTat6monthsinthekallidinogenasegroupwasgreaterthaninthecontrolgroup(n.s.).Sixteeneyeswithoutvitreomacularinterfaceabnormalityinopticalcoherencetomographywereanalyzed.ThemeanCFTinthe8eyestreatedwithkallidinogenasesignificantlydecreasedat3months(p<0.01),whereasthe8eyesinthecontrolgroupdidnotshowsignificantdecrementduringthefollow-upperiod.Conclusion:Asanadjunctivetherapy,oralkallidinogenasewaseffectiveinrestoringthemacularmorphologyaftervitrectomyforDME.Theeffectmaybeprominentineyeswithoutvitreomacularinterfaceabnormalities.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(1):145.150,2016〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,カリジノゲナーゼ,中心窩網膜厚,光干渉断層計(OCT),硝子体手術,VEGF.diabeticmacularedema,kallidinogenase,centralfovealthickness,opticalcoherencetomography,OCT,vitrectomy,vascularendothelialgrowthfactor.〔別刷請求先〕伊勢重之:〒960-1295福島市光が丘1番地福島県立医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:ShigeyukiIse,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FukushimaMedicalUnivercitySchoolofMedicine,1Hikarigaoka,Fusushimacity960-1295,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(145)145 はじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)は単純網膜症の時期から視力低下の原因となる.近年の疫学研究では,わが国におけるDMEは110万人に及び,増加傾向にあるといわれている1).Lewisらは,肥厚した後部硝子体膜を伴うDMEに対する硝子体手術の有効性を初めて報告した2).その後,硝子体黄斑境界面異常を有する症例では,硝子体手術が有効であることが多くの臨床症例で確認されている4.11).硝子体手術の奏効機序として,黄斑部の網膜硝子体境界面における機械的牽引の解除,硝子体腔内の血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)や炎症性サイトカインの除去,硝子体除去後の硝子体腔内酸素分圧の上昇などが考えられている3).黄斑牽引や硝子体網膜境界面の異常がない症例に対しても硝子体手術の有効性が報告されているが10.13),異論も多く検討の余地がある.安定しない硝子体手術成績の向上を図る目的で,トリアムシノロン(triamcinoloneacetonide:TA)のTenon.下注射14,15)や硝子体注射16,17)の併用も検討されており,短期的には手術成績が改善したとする報告もある.しかし,中長期的には黄斑浮腫の再燃やステロイドによる合併症などが指摘されており,術後成績は必ずしも安定しているとはいえず,長期的な効果を有する治療法の開発が期待されている.カリジノゲナーゼは1988年から網脈絡膜循環改善薬として国内で使用されており,その作用機序は一酸化窒素(NO)産生亢進による血管拡張作用であるとされている18).近年,カリジノゲナーゼは循環改善作用以外に抗VEGF作用をもつことが報告されており18,19),網膜浮腫改善効果も期待される.今回,DMEに対する硝子体手術後にカリジノゲナーゼを投与し,手術成績に与える影響を検討した.I対象および方法研究デザインは非盲検前向き単純無作為比較臨床研究である.本研究は,福島県立医科大学医学部倫理委員会の承認を得て施行した.2012年2月.2013年2月に,福島県立医科大学眼科にてDMEに対して硝子体手術を計画し,術前に同意を得られた30例30眼を対象とした.封筒法での単純無作為割り付けを行い,硝子体手術後にカリジノゲナーゼ150単位/日を6カ月間内服する群(投与群),内服しない群(コントロール群)の2群に分けた.以下のいずれかに当てはまる症例は除外した.除外対象は,血清クレアチニン値3mg/dl以上,HbA1C値10%以上,対象眼白内障がEmery-Little分類GradeIII以上,黄斑浮腫に対するステロイドおよび抗VEGF薬使用の既往,黄斑部光凝固の既往,白内障手術以外の内眼手術歴のある症例である.手術方法は25ゲージ(G)もしくは23Gシステムを用いた経毛様体扁平部硝子体手術で,有水晶体眼は白内障手術を併用した.全例で網膜内146あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016境界膜(internallimitingmembrane:ILM).離を併用した.術中に硝子体やILMの可視化のためにTAまたはインドシアニングリーンを使用した際には,手術終了時にこれらの薬剤を可及的に除去した.術後はステロイド点眼と非ステロイド系消炎薬点眼を3カ月間継続したのち,完全に中止した.ステロイド内服,眼局所注射,黄斑部光凝固,抗VEGF薬投与などの黄斑浮腫に対する追加治療は行わなかった.検討項目はlogMAR視力と光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT,HeidelbergEngineering社製SPECTRALISOCTRまたはZeiss社製CirrusOCTR)による中心窩網膜厚(centralfovealthickness:CFT)および血圧とHbA1C値である.それぞれ術前,術後1カ月,3カ月,6カ月に測定を行った.CFTは中心窩網膜の表層から網膜色素上皮までの距離とし,それぞれのOCTに付属しているソフトウェア上の計測機能を用いて中心窩を手動計測した.OCT所見の判定は既報20,21)に準じ,黄斑部網膜硝子体境界面上に肥厚した後部硝子体膜や黄斑上膜すなわち黄斑部網膜硝子体境界面異常(vitreomacularinterfaceabnormalities:VMIA)の有無を観察した.一般的には硝子体手術の効果が少ないとされるVMIAのない群についても,投与群とコントロール群それぞれのlogMAR視力とCFTの変化量を検討した.統計学的検討は,logMAR視力とCFT,血圧,HbA1C値について,各群内での測定値および変化量をDunnettの多重比較検定を用いて評価した.2群間の有意差検定には,分散分析および繰り返し測定型二元配置分散分析もしくはBonferroni型多重検定を用いて評価した.危険率5%未満を有意差ありとして採択した.II結果通院困難による脱落の5例5眼を除き,25例25眼を解析した.投与群は12例(男性8例,女性4例),年齢は64.3歳(±標準誤差,範囲45.78歳).コントロール群は13例(男性11例,女性2例),平均年齢68.1歳(±3.3,52.78歳)であった.術前の両群間の年齢,CFT,血清クレアチニン値,HbA1C値,平均血圧,脈圧に差はなかったが,視力は投与群が有意(p<0.05)に良好であった(表1).研究期間中はHbA1C値,平均血圧,脈圧に有意な変動はなく,カリジノゲナーゼ投与による重篤な副作用はみられなかった.1.視力変化投与群の平均logMAR視力は,術前0.48±0.06(平均±標準誤差),術後1カ月0.45±0.08(有意差なし,n.s.),術後3カ月0.34±0.04(n.s.),術後6カ月0.28±0.06(p<0.01)であり,持続した改善傾向を示した.コントロール群の平均logMAR視力は,術前0.73±0.08,術後1カ月0.60±0.07(p<0.05),術後3カ月0.50±0.06(p<0.001),術後6カ月(146) 0.52±0.05(p<0.001)と,術後1カ月から改善を示した.術後から投与群が有意に視力良好であり,全経過を通して投与群はコントロール群よりも視力が良好であった(p<0.05)(図1).術前からのlogMAR視力変化量は,コントロール群のほうが術後早期に視力が改善する傾向がみられたが,群間に有意差はなかった(図2).VMIAがない症例のlogMAR視力変化も同様の傾向を示し,コントロール群は術後3カ月.0.17±0.06μm,術後6カ月.0.20±0.08μmで有意に改善し,投与群は術後6カ月で.0.17±0.06μmに改善したが有意差はみられなかった.観察期間を通して群間に差はなかった.2.CFT変化投与群のCFTは,術前521±21μm(平均±標準誤差)で,術後は継続的に減少し,術後1カ月423±23μm(n.s.),術後3カ月378±60μm(p<0.01),術後6カ月286±86μm(p<0.001)となった.コントロール群のCFTは,術前471±71μmから術後1カ月で331±31μm(p<0.01)と有意に減少したが,それ以降は術後3カ月343.9±59.0μm(p<0.05),術後6カ月333.5±33.5μm(p<0.01)となり,有意差はあるもののCFTの変化はみられなかった.いずれの時点でも両群間に有意差はなかった(図3).術前からのCFT変化量は,投与群では継続的に減少したのに対し,コントロール群では術後1カ月で減少したが,それ以降の減少がみられず,むしろ減少幅がやや縮小する傾向がみられた.術後6カ月でのCFT減少量は,両群間に96.7μmの差が生じていたが有意差はなかった(図4).術前VMIAがない症例でCFT変化を検討した.VMIAがない症例は16例16眼で,投与群は8例8眼,コントロール群は8例8眼であった.投与群のCFTは術後6カ月まで減少する傾向を示し,CFT変化量は術後6カ月で.173±37μm(p<0.001)であった.一方,コントロール群のCFT変化量は術後6カ月で.92±84μmとなり術前より減少したが,すべての時点において群間に有意差はなかった(図5).有意差がない原因を探るため個々の症例のCFT変化を検討した(図6).投与群ではCFTが術前表1群別患者背景投与群コントロール群項目(平均±標準誤差)n=12(平均±標準誤差)n=13検定年齢(歳)64.3±2.268.1±3.3ns術前視力(logMAR)0.48±0.060.73±0.08p<0.05中心窩網膜厚(μm)521.1±47.3472±41.5ns血清クレアチニン(mg/dl)0.98±0.141.16±0.11nsHbA1CNGSP(%)6.82±0.186.82±0.25ns平均血圧(mmHg)102.8±2.493.1±4.5ns脈圧(mmHg)57.3±6.664±3.0ns0.90.1投与前1カ月後3カ月後6カ月後0.8投与群(n=12)コントロール群(n=13)##*********0.70.60.50.40.30.20.1-0.2-0.10***logMAR視力logMAR視力-0.3投与群(n=12)******0コントロール群(n=13)投与前1カ月後3カ月後6カ月後-0.4群内比較:Dunnett型多重比較***:p<0.001,**:p<0.01,*:p<0.05(vs投与前)群間比較:分散分析および繰り返し測定型二元配置分散分析#:p<0.05(vsコントロール群)図1群別logMAR視力の経過投与群の平均視力は持続した改善傾向を示した.コントロール群の平均視力は術後1カ月から改善を示した.全経過を通して投与群はコントロール群よりも視力が良好であった.(147)群内比較:Dunnett型多重比較***:p<0.001,**:p<0.01,*:p<0.05(vs投与前)群間比較:Bonferroni型多重検定ns(vsコントロール群)図2群別logMAR視力の変化量視力変化量は,コントロール群のほうが術後早期に視力が改善する傾向がみられたが,群間に有意差はなかった.あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016147 投与前1カ月後3カ月後6カ月後投与群(n=12)コントロール群(n=13)0100200300400500600投与前1カ月後3カ月後6カ月後**********中心窩網膜厚(μm)群内比較:Dunnett型多重比較***:p<0.001,**:p<0.01,*:p<0.05(vs投与前)群間比較:分散分析および繰り返し測定型二元配置分散分析ns(vsコントロール群)図3群別中心窩網膜厚(CFT)の経過投与群のCFTは術後から継続的な減少を示した.コントロール群のCFTは術後1カ月から有意な減少を示したが,それ以降は変化がみられなかった.術後6カ月では投与群がコントロール群を47.1μm下回っていたが,いずれの時点でも両群間に有意差はなかった.投与群(n=8)コントロール群(n=8)*****中心窩網膜厚の変化量(μm)-250-200-150-100-50050投与前1カ月後3カ月後6カ月後群内比較:Dunnett型多重比較***:p<0.001,**:p<0.01(vs投与前)群間比較:Bonferroni型多重検定ns(vsコントロール群)図5群別中心窩網膜厚(CFT)の変化量(黄斑牽引なし)黄斑牽引のない症例におけるCFT変化量は,投与群では術後6カ月まで一貫して減少し,術後3カ月以降は有意差を示した.コントロール群では術前より減少したものの,すべての時点において有意差はなかった.術後6カ月で両群間に81.1μmの差が生じたが,群間に有意差はなかった.よりも増加した症例はなく,ゆっくりと減少する傾向を示すのに対して,コントロール群ではCFT変動幅が大きく,術前よりもCFTが増加した症例が8例中2例にみられた.III考察DMEに対する硝子体手術成績は多数報告されており,148あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016投与群(n=12)コントロール群(n=13)-300-250-200-150-100-500**********中心窩網膜厚の変化量(μm)群内比較:Dunnett型多重比較***:p<0.001,**:p<0.01,*:p<0.05(vs投与前)群間比較:Bonferroni型多重検定ns(vsコントロール群)図4群別中心窩網膜厚(CFT)の変化量CFT変化量は投与群で継続的に減少したのに対し,コントロール群では術後1月以後の改善がみられなかった.術後6カ月では両群間に96.7μmの差が生じていたが,有意差はなかった.投与前1カ月後3カ月後6カ月後300200100投与群-1000(n=8)-200-300-400-500300200100コントロール群0(n=8)-100-200-300-400-500図6群別症例別中心窩網膜厚(CFT)の変化量(黄斑牽引なし)個々のCFT変化量は,投与群ではすべての症例で減少傾向を示し,術前より増加した症例はなかった.コントロール群ではCFT変動幅が大きく,術前よりも増加した症例が8例中2例にみられた.Christoforidisら22)は,硝子体手術は83%の例で黄斑浮腫軽減効果があり,56%の例で視力に何らかの改善があったと報告されている.近年では,一般的に硝子体手術の効果は限定的で,黄斑牽引がみられる症例や中心窩に漿液性網膜.離がある症例に対してのみ有効であるという認識が広まった21,23,24).一方で,黄斑牽引を含めたVMIAのない症例に対投与前1カ月後3カ月後6カ月後(148) しても硝子体手術は有用であるとする報告もあり25),少なくともわが国においては手術の有効性に対する一定の見解は得られていない.鈴木ら26)のDME28例33眼に対するカリジノゲナーゼ単独内服前向き試験で,カリジノゲナーゼ投与後3カ月で有意にCFTの減少を認めている.今回の検討では,硝子体手術後の網膜形態改善に対してもカリジノゲナーゼ投与が有用で,相乗効果が期待できることが示唆された.Sonodaら27)の報告では,DMEに対する硝子体手術成績には炎症性サイトカインであるIL-6が関与するとされている.また,Fukuharaら28)はマウスにおける脈絡膜新生血管モデルで,tissuekallikrein(カリジノゲナーゼ)がVEGF165のisoformであるVEGF164を断片化させる効果を報告している.本報告では,DMEに対する硝子体手術後にカリジノゲナーゼを投与し,非投与症例との差を検討した.両群ともに術後6カ月では視力およびCFTの改善がみられ硝子体手術の有効性が確認できた.両群間で視力およびCFTの改善に差がなかったが,投与群全体でのCFTは継続的に改善したのに対し,コントロール群は術後1カ月以後の継続的改善はみられなかった.コントロール群が早期から急速に視力とCFTが改善したことは,手術による直接的な牽引除去や一時的なVEGF濃度の低下が作用機序となっていたと考えられる.VMIAがない例のみを検討したところ,CFTはカリジノゲナーゼ投与により有意に改善した.それらの個々の症例のCFT変化をみると,コントロール群は術後に増加した例もみられたのに対して,カリジノゲナーゼ投与症例では全例でCFTは減少傾向にあり,CFTの変動が少なかった.このことは,硝子体手術により硝子体腔内のIL-6やVEGFが除去され,術後もカリジノゲナーゼによる抗VEGF効果により網膜の血管透過性減少が持続し,VMIAのない症例においても浮腫改善が促進された可能性が考えられた.カリジノゲナーゼは網膜循環の改善29)や電気生理学的な改善30)も期待できることが報告されている.今後,硝子体手術例に対するカリジノゲナーゼ効果に関しては,レーザースペックルフローグラフィーなどの非侵襲的な微小循環評価法と形態変化を合わせて検討することで,奏効機序をより明確にすることができると考えられる.今回の検討は症例数が少なく,単純無作為割り付けを行ったが,ベースライン視力に差があったため,視力成績の評価が困難であった.今後は層別化無作為化などを行い検討する必要がある.近年のDME発症機序に関する病態理解,OCTや電気生理学的検査の進歩,眼底微小循環の計測装置の開発など,過去には検出不可能であったカリジノゲナーゼの効果が臨床研究でも明らかになってきた.カリジノゲナーゼは内服による長期投与可能な薬剤であり,DMEのように慢性的な病変の治療には有用であると考えられる.今後,そ(149)の作用機序の解明,治療効果のさらなる検討が必要である.文献1)川崎良,山下英俊:疫学に基づいた糖尿病網膜症の管理.月刊糖尿病5:23-29,20132)LewisH,AbramsGW,BlumenkranzMSetal:Vitrectomyfordiabeticmaculartractionandedemaassociatedwithposteriorhyaloidtraction.Ophthalmology99:753759,19923)山本禎子:糖尿病黄斑症に対する硝子体手術─新しい展開を目指して─.あたらしい眼科20:903-907,20034)HarbourJW,SmiddyWE,FlynnHWetal:Vitrectomyfordiabeticmacularedemaassociatedwithathickenedandtautposteriorhyaloidmembrane.AmJOphthalmol121:405-413,19965)ScottDP:Vitrectomyfordiabeticmacularedemaassociatedwithatautpremacularposteriorhyaloid.CurrOpinOphthalmol9:71-75,19986)GandorferA,RohlenderM,GrosselfingerSetal:Epiretinalpathologyofdiffusediabeticmacularedemaassosiationwithvitreomaculartraction.AmJOphthalmol139:638-652,20057)菅原敦史,田下亜佐子,三田村佳典ほか:硝子体黄斑牽引を伴う糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術.あたらしい眼科23:113-116,20068)HallerJA,QinH,ApteRSetal,DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetworkWritingCommittee:Vitrectomyoutcomesineyeswithdiabeticmacularedemaandvitreomaculartraction.Ophthalmology117:1087-1093,20109)OphirA,MartinezMR:Epiretinalmembranesandincompleteposteriorvitreousdetachmentindiabeticmacularedema,detectedbyspectral-domainopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci52:64146420,201110)YamamotoT,AkabaneN,TakeuchiS:Vitrectomyfordiabeticmacularedema:theroleofposteriorvitreousdetachmentandepimacularmembrane.AmJOphthalmol132:369-377,200111)LaHeijEC,HendrikseF,KesselsAGetal:Vitrectomyresultsindiabeticmacularoedemawithoutevidentvitreomaculartraction.GraefesArchClinExpOphthalmol239:264-270,200112)RosenblattBJ,ShahGK,SharmaSetal:Parsplanavitrectomywithinternallimitingmembranectomyforrefractorydiabeticmacularedemawithoutatautposteriorhyaloid.GraefesArchClinExpOphthalmol243:20-25,200513)HoeraufH,BruggemannA,MueckeMetal:Parsplanavitrectomyfordiabeticmacularedema.Internallimitingmembranedelaminationvsposteriorhyaloidremoval.Aprospectiverandomizedtrial.GraefesArchClinExpOphthalmol249:997-1008,201114)木下太賀,前野貴俊,中井考史ほか:糖尿病黄斑浮腫のタイプ別にみた硝子体手術とトリアムシノロンの併用効果.臨眼58:913-917,200415)中村彰,島田佳明,堀尾直市ほか:糖尿病黄斑浮腫に対あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016149 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