●連載198緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也198.視神経の軸索輸送三宅誠司瀧原祐史福井大学医学部感覚運動医学講座眼科学軸索輸送は神経細胞の生存・維持に不可欠な機能である.現在,緑内障を含め,さまざまな神経変性疾患の原因の一つとして軸索輸送障害が注目されている.そこで本稿では,軸索輸送の分子基盤および緑内障と視神経の軸索輸送の関係について解説する.●はじめに緑内障における網膜神経節細胞の軸索障害および細胞体の消失の原因の一つとして,視神経乳頭および篩状板領域での軸索輸送障害が示唆されている.篩状板は「ふるい」のような構造をしており,網膜神経節細胞が網膜から外側膝状体に至る途中で篩状板孔を通過する.緑内障では篩状板の形態が乱れ,神経線維束が物理的なストレスを受けることで軸索輸送障害が起こり,視野障害が発生すると考えられている.●軸索の物質輸送の意義と輸送速度の分類神経細胞は軸索内や軸索末端においてタンパク質を合成できないことから,細胞体からそれらの領域へ物質を輸送しなければならない.また,末端で取り込んだ栄養因子や成長因子を細胞体に届ける必要もある.そこで,神経細胞はモータータンパク質と微小管を基盤とした軸索輸送機構を利用している(図1)1).順行性輸送には速い輸送と遅い輸送が存在し,速い輸送は~400mm/日または1μm/秒,遅い輸送は~8mm/日または~0.1μm/秒である.さらに,遅い輸送は輸送される物質の違いによって0.2~1mm/日のslowcomponenta(SCa)と1~10mm/日のslowcomponentb(SCb)の2つに分けられる1,2).速い輸送ではベジクル,オートファゴソーム,エンドソーム,ミトコンドリアなどの膜系細胞小器官が運ばれ,遅い輸送のSCaではチューブリンやニューロフィラメント,SCbではアクチンや可溶性タンパク質が運搬される(表1).順行性の速い軸索輸送はキネシンによって行われるが,遅い輸送の分子基盤については解明に至っていない.一方,ダイニンが担う逆行性輸送はおもにエンドソームやミトコンドリアなどの膜系細胞小器官や神経伝達物質を運んでおり,その速度は順行性の速い輸送よりも遅く~100~200mm/日とされる.●視神経の軸索輸送の静的な評価緑内障の病態に視神経の軸索輸送障害が関与していることが報告されたのは,サルの緑内障モデルを用いた実験からであった3,4).眼圧上昇によって,視神経乳頭領域や篩状板部位において,順行性の速い輸送と遅い輸送だけではなく,逆行性輸送も障害を受けていることが示された.さらに,篩状板領域の電子顕微鏡観察からも,眼圧上昇によって篩状板の前後にミトコンドリアなどの細胞小器官の停滞が確認されている.●視神経の軸索輸送のライブイメージングこれまでの軸索輸送は,おもに組織切片から得られた静的な結果から議論されていた.このような状況のなかで,筆者らのグループは,軸索輸送およびその障害の動的な検出を試みている.ラット網膜から単離した網膜神経節細胞に微小管重合阻害薬であるコルヒチンを処理すると,細胞死に至る過程で経時的に輸送障害が誘導されることや,軸索切断によって輸送機能が低下・停止し,その後,細胞死が起こることを明らかにした5,6).さらに,哺乳類中枢神経系では世界で初めて,生きた状態で軸索輸送を捉えることに成功した7).野生型と緑内障モデルでは輸送速度に変化はないが,順行性および逆行性に輸送されるミトコンドリアの数が減少することや,加齢によって軸索輸送距離が低下すること,さらに,高齢マウスの緑内障モデルでは輸送障害がより顕著になることを明らかにした.これらの結果は,加齢に伴う緑内障の発症率増加の原因に,ミトコンドリアのエネルギー供給能の低下も関係していることを示唆した(図2).●おわりに現在,緑内障の診断において,極早期の網膜神経節細(62)胞の障害の検出が急務とされている.ライブイメージングはまだ動物実験段階であるものの,可視化による軸索輸送機能の評価から緑内障発症の可能性を予測できれば,視野障害進行の前に治療の要否を判断できる個別医療につながると考えている(図3).文献1)MadayS,TwelvetreesAE,MoughamianAJetal:Axonaltransport:cargo-specificmechanismsofmotilityandregulation.Neuron84:292-309,20142)MorganJE:Circulationandaxonaltransportintheopticnerve.Eye(Lond)18:1089-1095,20043)SawaguchiS,AbeH,FukuchiTetal:Slowaxonaltransportinprimateexperimentalglaucoma.NipponGankaGakkaiZasshi100:132-138,19964)PeaseME,McKinnonSJ,QuigleyHAetal:ObstructedaxonaltransportofBDNFanditsreceptorTrkBinexperimentalglaucoma.InvestOphthalmolVisSci41:764-774,20005)TakiharaY,InataniM,HayashiHetal:Dynamicimagingofaxonaltransportinlivingretinalganglioncellsinvitro.InvestOphthalmolVisSci52:3039-3045,20116)YokotaS,TakiharaY,ArimuraSetal:Alteredtransportvelocityofaxonalmitochondriainretinalganglioncellsafterlaser-inducedaxonalinjuryinvitro.InvestOphthalmolVisSci56:8019-8025,20157)TakiharaY,InataniM,EtoKetal:InvivoimagingofaxonaltransportofmitochondriainthediseasedandagedmammalianCNS.ProcNatlAcadSciUSA112:10515-10520,2015図1神経細胞の軸索輸送機構モータータンパク質(キネシン,ダイニン)はATPaseとしての機能をもち,ミトコンドリアから供給されるATPを加水分解し,そのエネルギーを利用して微小管の上を移動する.順行性輸送を担うキネシンは微小管のプラス端,逆行性輸送を担うダイニンはマイナス端をめざす.表1軸索輸送と速度速い軸索輸送遅い軸索輸送順行性(キネシン)両方向(キネシンとダイニン)逆行性(ダイニン)ニューロフィラメント(SCa)チューブリン(SCa)シナプス小胞など可溶性タンパク質(SCb)ミトコンドリアエンドソームBDNF,mRNAなどオートファゴソーム神経伝達物質など速い軸索輸送の方向性はモータータンパク質によって決まる.遅い軸索輸送の分子基盤として,キネシンが速い輸送と遅い輸送の両方の役割を担うstopandgoモデルや,速い軸索輸送を一時的に利用して遅い輸送が行われるdynamicrecruitmentモデルが提唱されている1).(61)あたらしい眼科Vol.33,No.12,20161739910-1810/16/\100/頁/JCOPY図2網膜神経節細胞の細胞死と軸索輸送種々の障害によって細胞が死に至る過程で,軸索輸送機能の低下が起こる.図3視神経における軸索研究の流れ軸索輸送を指標として,正常な網膜神経節細胞と,障害されたり細胞死が生じるであろう網膜神経節細胞を区別することで,視野障害進行の前に状況に応じた治療が可能になる.1740あたらしい眼科Vol.33,No.12,2016(62)