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硝子体手術のワンポイントアドバイス 152.網膜硝子体手術中に生じる脈絡膜出血(中級編)

2016年1月31日 日曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載152152網膜硝子体手術中に生じる脈絡膜出血(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに内眼手術中に生じる脈絡膜出血(駆逐性出血)の原疾患としては白内障や緑内障の報告が多いが,硝子体手術中に脈絡膜出血が生じたとする例も少なからず報告されている.中でも強度近視眼に生じたとする報告が圧倒的に多く,その原因として脈絡膜血管の脆弱性が指摘されている.筆者は過去に3例,硝子体手術中の脈絡膜出血の経験があるが,いずれも強度近視眼であった.●脈絡膜出血の誘因脈絡膜出血の誘因として,強度近視に起因する脈絡膜血管の脆弱性に加えて,術中の眼圧変動や過度の強膜圧迫,強膜バックリング手術の併用などが指摘されている.以前の20ゲージ硝子体手術では,強膜創からの眼内液や空気の漏出が多いと術中の眼圧変動が大きくなっていたが,最近の小切開硝子体手術(micro-incisionvitreoussurgery:MIVS)では,挿入する器具のゲージが小さいことに加えて,トロカールを使用するので,眼圧変動は小さくなっているものと考えられる.ただ,トロカールは可能な限りclosurevalve付きのものを使用し,周囲部の硝子体を切除する際も,過度の強膜圧迫は避け,眼球の変形を必要最小限にすべきである.また,液体灌流下よりも空気灌流下のほうが圧に対する容積変動の許容性が大きくなるので,より脈絡膜出血が生じやすくなる.空気灌流下ではとくに眼球の変形に注意を要する.自験例のうち1例は,強度近視眼に対して初回手術でシリコーンオイルタンポナ.デを行い,シリコーンオイル抜去時に灌流液をオンにしない状態でシリコーンオイル抜去を施行したため,脈絡膜出血が生じた(図1).その他の2例は,いずれも気圧伸展網膜復位術後に経強膜冷凍凝固を裂孔周囲に施行した際に生じた.1例は過度に強膜を圧迫したため,もう1例は冷凍凝固の凝固部位が十分に解凍しないうちにプローブを抜去したため,眼球に過度のストレスがかかって出血が生じたものと考えられる.最近のMIVSにおける術中裂孔閉鎖は眼内光凝固が主体で,経強膜冷凍凝固を施行する機会は少ない(75)0910-1810/16/\100/頁/JCOPY図1シリコーンオイル抜去時に生じた脈絡膜出血例胞状の脈絡膜.離を認める.図2同症例の術後の超音波Bモード写真胞状の脈絡膜出血と扁平な網膜.離を認める.この症例では2週間後に再手術を行い,出血の排除と網膜復位術を施行した.と思われるが,注意を要する点である.●脈絡膜出血に対する治療法通常,脈絡膜出血は発症直後に凝血をきたすため,その場で強膜切開を施行しても出血を排出できないことが多い.いったん創を閉じ,溶血するのを待ったうえで再手術を施行する.経過中は超音波Bモード検査を適宜施行する(図2).溶血に要する期間は通常2週間とされているが,1週間で溶血している症例もある.裂孔原性網膜.離例では,この間に網膜.離が拡大して重症化することがあるが,再手術時に脈絡膜出血を十分に排出できないと確実な復位が得られないので,早すぎる再手術は避ける.あたらしい眼科Vol.33,No.1,201675

新しい治療と検査シリーズ 228.OCTアンジオフラフィー(緑内障)

2016年1月31日 日曜日

新しい治療と検査シリーズ228.OCTアンジオグラフィー(緑内障)プレゼンテーション:新田耕治福井県済生会病院杉山和久金沢大学コメント:千原悦夫千原眼科.バックグラウンド眼科領域における最近の光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の発展には目を見張るものがあるが,さらに進歩し,緑内障における構造的変化を解析する一環として,毛細血管を非侵襲的に観察できるOCTアンジオグラフィーが注目されている1~3)..新しい機器の原理と特徴現在,臨床応用されているOCTアンジオグラフィーは4種類あるが,ここでは,筆者が用いているOptovue社のRTVueRXRAvantiを使用したOCTアンジオグラフィーについて述べる.なお,本機器は2015年1月に発売された.眼底内の静止している部分(組織)と動きのある部分(血流)を判別するsplit-spectrumamplitude-decorrelationangiography(SSADA)原理を用いて,これまで観察できなかった網膜や篩状板内の毛細血管網をきれいに描出できるのが特徴である.また,デフォルトで,angioflowdiscとして次の4画面が同時に表示される.・Nervehead:撮影画面上端~内境界膜150μm下方・Vitreous:撮影画面上端~内境界膜50μm下方図1正常眼(2例)のOCTアンジオグラフィー乳頭眼底写真(左上下),放射状乳頭周囲毛細血管網(RPC)(中央上下),血管密度カラーマップ(右上下)を示す.正常眼では,乳頭に同心円状に毛細血管網が存在している.上段の症例のRPCの血管密度は64.09%,下段の症例は62.81%である(プレリリースされたb版を使用して測定.以下同様).(71)あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016710910-1810/16/\100/頁/JCOPY 2008/10/172009/12/252015/9/29図2乳頭出血を頻発した楔状網膜神経線維層欠損を有する緑内障眼のOCTアンジオグラフィー乳頭出血(15年の経過観察期間に上耳側11回,下耳側6回,一部を上段に表示)を頻発した楔状網膜神経線維層欠損を有する緑内障眼では,網膜神経線維層欠損部位(下段左)に一致して毛細血管網の密度低下を認める(下段中央および右).図3緑内障眼(3例)のOCTアンジオグラフィー左:初期(血管密度:54.71%,MD:.1.88dB).中央:中期(血管密度:48.61%,MD:.11.25dB).右:後期(血管密度:28.52%,MD:.21.28dB).緑内障の病期が進行するにつれて,RPCの血管密度が低下している.72あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016(72) ・放射状乳頭周囲毛細血管層:内境界膜~網膜神経線維層・Choroid/disc:網膜色素上皮より75μm下方~撮影画像下端本機器には,毛細血管の密度を定量的に分析するソフトも開発されており,まもなく正式にリリースされる予定である.このソフトを使用すれば,視神経乳頭周囲や乳頭内の毛細血管の密度をnasal,inferiornasal,inferiortempo,superiornasal,superiortempo,tempoなどのセクターに分けた解析も可能である..使用方法(検査法の実際)特定の深さまでに設定した毛細血管網を描出することができるが,とくに放射状乳頭周囲毛細血管層(radialperipapillarycapillary:RPC)は,内境界膜~網膜神経線維層までの毛細血管網を描出できる(図1).乳頭出血を頻発した楔状網膜神経線維層欠損を有する緑内障眼では,網膜神経線維層欠損部位に一致して毛細血管網の密度低下を認める(図2)..本方法の良い点さまざまな病期の緑内障眼のOCTアンジオグラフィーを撮影すると,病状の進行に伴って,RPCの血管密度が減少することがわかる(図3).緑内障,とくに正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)の病因としては,眼圧に依存した病態であるという従来からの考え方とは別に,眼圧に依存しない要素が関与していることが疑われているが,いまだにその正体は不明である.なんらかの影響で網膜神経線維が機械的に破綻する可能性や,視神経乳頭周囲や篩状板の微小循環が障害して発症あるいは進行する可能性もあり,OCTアンジオグラフィーにて視神経乳頭周囲や篩状板内の毛細血管網の状態を描出することでNTGの病態がより解明されることが期待される.文献1)JiaY,WeiE,WangXetal:Opticalcoherencetomographyangiographyofopticdiscperfusioninglaucoma.Ophthalmology121:1322-1332,20142)LiuL,JiaY,TakusagawaHLetal:Opticalcoherencetomographyangiographyoftheperipapillaryretinainglaucoma.JAMAOphthalmol133:1045-1052,20153)WangX,JiangC,KoTetal:Correlationbetweenopticdiscperfusionandglaucomatousseverityinpatientswithopen-angleglaucoma:anopticalcoherencetomographyangiographystudy.GraefesArchClinExpOphthalmol253:1557-1564,2015.「OCTアンジオグラフィー(緑内障)」へのコメント.OCTangiographyの画像を最初に見たときは衝撃ハードの改良と周辺ソフトの開発によって,さらに新を受けた.今までとまったく違う世界が広がっていたしい所見が得られるようになることが期待される.からである.本報の図1,2を見るとわかるように,ただ,新しい技術であるがゆえに,今後の課題も豊造影剤を使用していないにもかかわらず,毛細血管に富である.現時点ではまだ得られる画像の範囲が狭い至るまでの血管像がまるで鋳型標本のように鮮明に描うえ,画像取得時間が3秒以上と長いこと,測定部位出され,しかも,血管密度や血流の多い少ないというや閾値の設定にまだしっかりした基準がないので個人情報までもがカラーコードや数字で表示される.画像間でのデータ比較に注意が必要なことなど,改良点がは層別に表示できるので,たとえば前篩状板や乳頭周多い.しかしこれらの問題はいずれ解決されてゆくで囲脈絡膜萎縮の血管網を強調して取り出すという芸当あろう.OCTangiographyはさらなる発展が期待さもできる.2015年に入って,このOCTangiographyれる技術であり,これからも注視してゆきたい.を使った報告が続々となされるようになったが,今後☆☆☆(73)あたらしい眼科Vol.33,No.1,201673

眼瞼・結膜:麦粒腫の3つの病型

2016年1月31日 日曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人11.麦粒腫の3つの病型小幡博人自治医科大学眼科学講座麦粒腫は眼瞼に付属する腺組織の細菌感染症である.麦粒腫は一般的に内麦粒腫と外麦粒腫に大別される.内麦粒腫は,マイボーム腺に感染が生じた場合の病名であるが,瞼結膜に膿点が観察されるものと,マイボーム腺開口部に膿汁がみられるものがある.よって,麦粒腫には3つの病型があると提唱したい.●麦粒腫の3つの病型麦粒腫(hordeolum,sty)は眼瞼に付属する腺組織の細菌感染症である.外麦粒腫と内麦粒腫に大別され,睫毛に付属する皮脂腺(Zeis腺)や汗腺(Moll腺)に感染が生じた場合は外麦粒腫とよばれ,マイボーム腺に感染が生じた場合は内麦粒腫とよばれる.外麦粒腫は毛包炎(毛.炎)と考えることができる(図1a).内麦粒腫は,さらに瞼結膜に膿点が観察されるもの(瞼結膜型,図1b)と,マイボーム腺開口部に膿汁がみられるもの(マイボーム腺開口部型,図1c)がある.以上の臨床像から,麦粒腫を3つのタイプに分類した(図2).瞼結膜型とマイボーム腺開口部型の違いは,感染のフォーカスがマイボーム腺の開口部に近いか遠いかの違いである.マイボーム腺開口部型の内麦粒腫とあえて命名した理由は,マイボーム腺梗塞と類似した所見を呈し,鑑別を要するからである.また,マイボーム腺開口部型は,眼瞼を圧迫すると排膿し,治療の一助となることからも,分類する意義があると考える.●麦粒腫は病理学的には膿瘍麦粒腫は抗菌薬の投与で治癒するため,なかなか病理標本が存在しない.麦粒腫を切開し,排出された膿の病理標本を作製すると,好中球を主体として炎症細胞がみられ,麦粒腫の本態は膿瘍であることがわかる(図3a).膿瘍とは化膿性の炎症が組織のなかで限局した形をとったものをいう.同じ標本にグラム染色を行うと,グラム陽性球菌が観察される(図3b).培養検査では,黄色ブドウ球菌が検出されることが多い.●初期には膿点がない麦粒腫のおもな所見は,眼瞼の発赤や腫脹,疼痛,圧痛,瞼結膜の充血や膿点などであるが,病初期には膿点がみられないことが多い(図4).麦粒腫外麦粒腫内麦粒腫瞼結膜型マイボーム腺開口部型図2麦粒腫の3つの病型麦粒腫は外麦粒腫と内麦粒腫に大別される.内麦粒腫は膿点(膿汁)の位置で,瞼結膜型とマイボーム腺開口部型の2つに分類した.abc図1外麦粒腫と内麦粒腫a:外麦粒腫:睫毛の根部に膿汁がみられ,周囲に発赤・腫脹を伴う.培養検査では黄色ブドウ球菌が検出された.24歳,男性.b:内麦粒腫(瞼結膜型):瞼結膜に膿点と充血がみられる.31歳,女性.c:内麦粒腫(マイボーム腺開口部型):マイボーム腺開口部に膿汁がみられ,周囲に発赤・腫脹を伴う.18歳,男子.(69)あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016690910-1810/16/\100/頁/JCOPY aab図3麦粒腫の病理a:多数の好中球が観察される.麦粒腫の本態は膿瘍である.HE染色.b:青く染まるグラム陽性球菌が観察される.グラム染色.ab図4膿点のない麦粒腫眼瞼の発赤と腫脹(a),瞼結膜の充血(b)がみられるが,膿点がみられない麦粒腫.7歳,女児.●外麦粒腫か,内麦粒腫か3つの病型に分類したものの,実際の臨床ではどのタイプか迷うこともある.図5は,左上眼瞼内側の腫脹と発赤,疼痛,圧痛,瞼結膜の充血がみられる8歳の女児である.瞼結膜の充血は内麦粒腫を考えたくなるが,睫毛根部に白い膿点がある.眼瞼の内側で瞼板がない部分に生じた外麦粒腫のため,瞼結膜にも充血がみられるのであろうと推測する.このほかに,麦粒腫と霰粒腫の鑑別がむずかしいケースにもしばしば遭遇し,抗菌薬に反ab図5外麦粒腫か,内麦粒腫か左上眼瞼内側の発赤と腫脹(a),瞼結膜の充血(b)は内麦粒腫を考えたくなるが,睫毛根部に白い膿点があり,外麦粒腫と考えた例.8歳,女児.応するかどうかで治療的診断をすることがある.文献1)小幡博人:霰粒腫・麦粒腫.眼科診療クオリファイ10眼付属器疾患とその病理(野田実香:編),p46-51,中山書店,20122)小幡博人:麦粒腫・霰粒腫.眼科診療クオリファイ15メディカルオフサルモロジー(眼薬物療法)(村田敏規:編),p364-368,中山書店,201270あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016(70)

抗VEGF治療:抗VEGF治療後の網膜色素上皮裂孔

2016年1月31日 日曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二24.抗VEGF治療後の網膜色素上皮裂孔篠島亜里日本大学医学部視覚科学系眼科学分野滲出型加齢黄斑変性に対しては,近年,抗VEGF薬硝子体内注射が治療の主流となっているが,網膜色素上皮.離を伴う症例ではしばしば抗VEGF薬治療に抵抗する.さらには網膜色素上皮裂孔を併発することがあり,黄斑部を含むと視力低下の原因となり,有効な治療法がないため,治療前に患者に説明しておくべき注意すべき合併症である.抗VEGF療法の合併症滲出型加齢黄斑変性に対して,2008年以降にわが国でも抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)薬が登場し,光線力学的療法に代わって第一選択で使用されることが多くなった.現在,認可された抗VEGF薬としてペガプタニブ(マクジェンR),ラニビズマブ(ルセンティスR),アフリベルセプト(アイリーアR)がある.そのほかにも,適応外使用であるが,ベバシズマブ(アバスチンR)が現在臨床で使われている.抗VEGF療法により視力予後は大幅に改善したが,治療を実践していくにつれ,問題点も理解されてきた.脳梗塞再発の問題や眼内炎などの注射手技に関連した合併症に加え,図1症例1(77歳,女性)アフリベルセプト投与前(左)と2回硝子体内注射後2カ月(右)のFAF,OCTなどの画像である.アフリベルセプト投与後にRPEtear(*)を生じたが,黄斑部(矢頭)を含んでいないため,矯正視力は治療前0.4であったが,治療後0.6となった.PEDは平坦化したが残存しており,今後も治療の継続が必要である.インドシアニングリーン蛍光眼底造影(ICGA)ではPEDの部分が蛍光遮断で低蛍光となっている.RPEtearによるRPE欠損部位の同定にはFAFが有用である.近赤外光(IR)画像ではRPEtearとPEDの部分の区別がつきにくい.視力予後不良の因子として,中心窩下の線維性瘢痕の形成や,長期の抗VEGF療法を実施している症例における地図状萎縮の発生のほか,網膜色素上皮裂孔(retinalpigmentepithelialtear:RPEtear)は対処法がなく重大な合併症である.抗VEGF療法の難治例網膜色素上皮.離(pigmentepithelialdetachment:PED)を伴う症例は抗VEGF療法にしばしば抵抗する.ラニビズマブよりもアフリベルセプトのほうがPEDに有効である場合があるが,それでも無反応であったり,いったん平坦化しても治療を休止すると再発したり,逆に治療を継続していてもPEDが大きくなったりする症RPEtear**治療前治療後FAFFAFRPEtearICGAOCTOCTIR(67)あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016670910-1810/16/\100/頁/JCOPY 治療前治療後*FAFFAFRPE欠損に一致してFAFで低蛍光RPEtearIRIR図2症例2(77歳,男性)アフリベルセプト投与前(左)と投与後1カ月(右)の眼底所見.治療後にRPEtear(*)を生じたが,黄斑部(矢頭)は回避されていて,矯正視力は治療前後で0.8を維持していた.FAFでRPE欠損部位の確認が容易である.PEDと漿液性網膜.離が残存していて,今後も治療継続が必要である.例があるため,治療方針の決定がむずかしい場合が多い.PEDを伴う症例はポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)か1型脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)である場合が多い.PCVは光線力学的療法が奏効する場合があるが,1型CNVはいずれの治療にもしばしば抵抗し,さらに治療後にRPEtearが生じる場合がある(図1,2)1~6).網膜色素上皮裂孔RPEtearは,自然経過でも光線力学的療法後でも生じうるが,抗VEGF薬療法によるCNVの収縮がRPEtearを引き起こす可能性があり,CNVの対側のPEDの辺縁から生じる場合が多い.大きく緊満なPEDや線維血管性PEDを伴う症例はとくに注意を要する.RPEtear発生に先行してmicroripsを認める場合もある.RPEtearによるRPE欠損が中心窩を含むと,視力が低下する可能性があるため,治療前に患者に対して,治療の合併症として説明しておく必要がある.RPEtearの弁状部のRPEは収縮して直上の網膜感度が低下してしまう場合がある.RPEtearを生じたことをきっかけに滲出性変化が鎮静化に向う症例もあるが,長期に治療を継続する必要がある症例も多い.RPEtearが黄斑部に影響を及ぼしうるかが,視力予後に重要な影響を与える.RPEtearの診断には,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)や眼底自発蛍光(fundusauto-fluorescence:FAF)が有用である.文献1)SpandauUH,JonasJB:Retinalpigmentepitheliumtearafterintravitrealbevacizumabforexudativeage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol142:1068-1070,20062)DhallaMS,BlinderKJ,TewariAetal:Retinalpigmentepithelialtearfollowingintravitrealpegaptanibsodium.AmJOphthalmol141:752-754,20063)CarvounisPE,KopelAC,BenzMS:Retinalpigmentepitheliumtearsfollowingranibizumabforexudativeage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol143:504-505,20074)SatoT,OotoS,SuzukiMetal:Retinalpigmentepithelialtearafterintravitrealafliberceptforneovascularage-relatedmaculardegeneration.OphthalmicSurgLasersImagingRetina46:87-90,20155)SaitoM,KanoM,ItagakiKetal:Retinalpigmentepitheliumtearafterintravitrealafliberceptinjection.ClinOphthalmol7:1287-1289,20136)FujiiA,ImaiH,KanaiMetal:Effectofintravitrealafliberceptinjectionforage-relatedmaculardegenerationwitharetinalpigmentepithelialtearrefractorytointravitrealranibizumabinjection.ClinOphthalmol8:11991202,2014☆☆☆68あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016(68)

緑内障:眼圧の変動

2016年1月31日 日曜日

●連載187緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也187.眼圧の変動原岳原眼科病院日常眼圧の測定は1~3カ月に1度,1日1回の測定で評価されている.しかしながら眼圧は分単位,1日のうちでも変化し,同時刻でも姿勢の影響を受けて変動する.すべての眼圧を把握することは現状ではなかなかむずかしいが,眼圧がいかに変動するかについては知っておく必要がある.●眼圧変動の要素眼圧は「房水産生量」「流出抵抗」「上強膜静脈圧」の3要素の影響で増減することが知られている.房水産生量:房水の産生量が増加すれば眼圧も増加する.房水は毛様体で産生され,日中の産生量は約2.5~3.0μl/分であり,前房の容積が200~300μlとした場合,前房穿刺をして前房が消失したとして,計算上は約100分,2時間ほどで回復することになる.ところが夜間の房水産生量は1.6μl/分1)と半減することも知られている.このため,昼と夜で眼圧変動が生じる.流出抵抗:流出抵抗が増加すれば眼圧は増加する.隅角の広さ,線維柱帯の構造変化,経ぶどう膜流出路への流出割合の変化などが流出抵抗の要素である.隅角は,瞳孔の状態,体位,Zinn小帯脆弱,水晶体膨隆などの要素に影響を受け,閉塞することで流出抵抗が増加する.隅角が開放状態でも,線維柱帯の網目構造が変化すると流出抵抗が増加する.要因としてステロイド内服,細胞沈着,虹彩前癒着,血管新生などがあげられる.房水流出量の割合は線維柱帯経路に対して経ぶどう膜流出路は1/10程度と考えられている.経ぶどう膜流出路の割合が増加すると眼圧は下降する.上強膜静脈圧:線維柱帯を介して流出した房水はSchlemm管を経由して上強膜静脈へ流出する.上強膜静脈圧は8~10mmHgと考えられている,重力の関係で,心臓に対して眼の位置が低くなるほど上強膜静脈圧は上昇する.頸部の腫瘍など器質的な血管閉塞によっても上強膜静脈圧は増加することがある.●眼圧変動の実際眼圧は分単位,日単位,年単位で周期性の変動を示すことが知られている.その変動には次の3要素が関係していると考えられる.脈波:眼圧は1分間の間にも上がったり下がったり変化している(図1).眼圧を1分間連続して測定すると,眼圧は数秒間隔で周期性に上昇したり下降したり波打っているのがわかる.Goldmann圧平眼圧計で眼圧を測定するときにリングが拍動することを経験することがあるが,このとき,実際に眼圧が上昇したり減少したりしている波を観察していることになる.このとき,リングが離れたときと重なるときの中間点を測定値とすると,最高と最低の中間値,つまり平均値を眼圧としていることになる.一方で,非接触眼圧計は,1/100秒単位で瞬間に眼圧を測定するので正確に測定できても,眼圧の数値はある程度の幅のなかでバラつくこととなる.Goldmann圧平眼圧計と同様の値を得るためには,3~5回の測定値の平均をとると近似した値になり得る.日内変動:房水産生が昼に多く,夜に少なくなるため,眼圧は基本的には昼に高く夜に低くなる傾向がある.これには交感神経の刺激が関与していると考えられ35mmHg28mmHg33mmHg(35+28+33)/332(35+28)/2=31.51/100秒拍動がある時は中間値数秒1秒図1分単位での眼圧変動(65)あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016650910-1810/16/\100/頁/JCOPY 21.115.216.219.919.520.90510152025530180mmHgmin10+1*****:p<0.01姿勢変動と眼圧変化(N=50)21.115.216.219.919.520.90510152025530180mmHgmin10+1*****:p<0.01姿勢変動と眼圧変化(N=50)図2姿勢変動と眼圧変化(佐々木誠,原岳,橋本尚子ほか:3時間連続臥位における眼圧経過.あたらしい眼科23:625-626,2006より引用)ており,交感神経b遮断薬はこの刺激を遮断して房水産生を減少させて眼圧下降効果を発揮する.しかしながら,日内変動には他の要素も関連していると考えられ,実際に測定してみると,昼よりも夜間で眼圧が高い場合もある.姿勢変動:通常人の姿勢は座っているか(座位)立っているか(立位)が多いが,1日のうち1/3~1/4の時間,人は就寝し,横たわっている.立位,座位のとき,眼は心臓よりも高い位置にあり,横たわると目と心臓の高低差はほぼなくなる.すると,上強膜静脈圧が上昇し,眼圧は上昇する.座位に比較して仰臥位になると眼圧はほぼ倍になる,という報告2)もある.よって,姿勢変動を考慮すると,昼の時間帯に測定した眼圧よりも,夜間就寝時仰臥位になったときの眼圧が高くなる可能性がある.外来では眼圧が落ち着いているのに視野障害が進行する患者のなかでは,このような変化を考慮する必要がある.眼圧は座位から仰臥位になると1分後には上昇し,仰臥位から座位に起き上がったときも1分後には下降するので,仰臥位の眼圧は仰臥位で測定しないと評価できない(図2).日内変動はおもに毛様体における房水の産生の影響を受け,姿勢変動は上強膜静脈圧の影響を受ける.結果として昼に最高値を示すか夜間に最高値を示すかは,実際に測定してみないと分からないのが現状である.文献1)ReissGR,LeeDA,TopperJEetal:Aqueushumorfloeduringsleep.IOVS25:776-779,19842)FribergTR,SanbornG,WeinrebRN:Intraocularandepiscleralvenouspressureinvreaseduringinvertedposture.AJO103:523-526,1987☆☆☆66あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016(66)

屈折矯正手術:1stQ社製AddOn®IOL

2016年1月31日 日曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載188大橋裕一坪田一男188.1stQ社製AddOnRIOL坂谷慶子みなとみらいアイクリニック近年,白内障手術後の見え方に対する患者側のニーズが高まってきている.ピギーバック用眼内レンズとして開発された1stQ社製AddOnRIOLにより,白内障手術後の屈折誤差矯正がエキシマレーザーなどの特殊な設備がなくても可能である.また,すでに単焦点眼内レンズが挿入された眼の多焦点化も可能である.●はじめに白内障手術においても,良好な裸眼視力が求められるケースが増えてきている.使用される眼内レンズ(intraocularlens:IOL)のなかで,トーリックIOLや多焦点IOLなどの付加価値のついたレンズは,患者側の高まるニーズを反映したものであり,とくにそれらを使用した白内障手術においては,裸眼視力は術後満足度を大きく左右する要素の一つとなっている.近年,IOL度数計算の精度は,光学式生体測定装置などの発達により飛躍的に向上しているが,術後屈折誤差をゼロにすることは現実的には困難である.白内障術後屈折誤差対策の選択肢としては,①眼鏡,②コンタクトレンズ,③角膜屈折矯正手術,④ピギーバックIOL,⑤IOL交換があげられるが,今回は先に.内に挿入されたIOLの前にもう1枚IOLを重ねるピギーバックIOLとして開発された1stQ社製AddOnRIOL(以下,AddOn)について述べる.●AddOnの特徴AddOnの材質は親水性アクリルで,シングルピース構造である.支持部は4つの柔らかいリング形状となっており,sulcus-to-sulcusの大きさの違いに柔軟に対応が可能である(図1,2).固定後にはレンズの回転が起こりにくいため乱視矯正効果の減弱が少なく,また,縮瞳してもiriscaptureを起こす可能性が少ない(図3).AddOnには球面矯正用のAddOnrefractive,乱視矯正も可能なAddOntoric,多焦点のAddOnprogressive(球面矯正のみ)がラインナップされている.それぞれの製作範囲を表1に示す.AddOnprogressiveは,加入度数が+3.0Dであり,中心3mm径に回折構造を有するアポダイズレンズで,原理的にはAlcon社製ReSTORRと同様の効果が得られる設計である.最大の特徴は,アクリルレンズであるため前房内での動態が緩徐な点である.すでに.内にIOLが挿入された眼における前房内でのレンズの展開は,イメージよりも窮屈なものであり,レンズのコントロール性がきわめて重要なのである.切開創は約2.5mmであり,専用のカートリッジにて挿入する.慣れてくると先行する2つのループをレンズ挿入時に虹彩下に入れることも可能で,ストレスなく手術を行うことができる.●症例:65歳,女性1カ月前に他院にて両眼水晶体再建術を施行した.術前,使用するIOLに関して単焦点IOLと多焦点IOLそれぞれの説明がなされ,単焦点トーリックIOLに決定,老眼鏡の使用には理解があったとのことだが,術後に近見視力の不満を訴え,多焦点IOLへの入れ替えを希望され,当院紹介となった.当院初診時,遠見視力は右6mm13.5mm図1AddOnの形状とサイズ4つの独特のリング状の支持部をもつ.図は球面レンズである.図2AddOnの支持部の動き大きさの異なる円周においても,ループが変形することにより光学部の中心安定性を確保できるようになっている.0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(63)あたらしい眼科Vol.33,No.1,201663 abab図3散瞳時(a),縮瞳時(b)AddOnは,縮瞳時にiriscaptureを起こしにくい.表1AddOnの製作範囲AddOnfefractiveAddOntoricAddOnprogressiveモデル番号A4SW00A4TW0T4TW00A4FW0TA4FW00A4DW0MA4EW0MS.10.0~+10.0D0.25Dステップ0.0D.5.0~0.5D+0.5~+5.0D0.25DステップSE0.0D.10.0~+10.0D0.25Dステップ(0.0Dを除く)C1.50~4.50D0.75Dステップ5.25~8.25D0.75Dステップ9.00~11.00D1.00Dステップ1.50~4.50D0.75Dステップ5.25~8.25D0.75Dステップ9.00~11.00D1.00Dステップ加入度数+3.00D図4AddOnprogressive挿入翌日の前眼部写真1.5,左1.5.近見視力は右0.1,左0.2.1カ月間,老眼鏡使用にて経過観察したが,近見裸眼視力を改善したい希望は変わらず,水晶体再建術から3カ月後に,AddOnDiffractiveを左右眼に挿入した(図4).6カ月後の現在,遠見視力は右1.2,左1.2,近見視力は右0.9,左0.9となり,高い満足が得られている.●AddOnの利点軽度から中等度の屈折異常に対するLASIKの矯正精度は非常に高く,白内障手術後の屈折誤差に対する矯正手術としてLASIKによるタッチアップが一般的に行われており,単焦点IOLのみならず多焦点IOLにおいても有用である1~3).しかし,LASIKを行うためには高価64あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016で特殊な装置が必要であり,一般の施設では普及に限界がある.一方,AddOnは白内障手術を行っている設備であれば導入は容易である.比較的大きな屈折異常があるが,なんらかの理由でIOLの入れ替えがリスクを伴う場合には良い適応と考える.また,円錐角膜や強度の屈折異常,radialkeratotomy後,瞼裂狭小例など,LASIKによるタッチアップには適さない症例でもAddOnは適応となる場合がある.さらにAddOnでは多焦点レンズも開発されており,単焦点IOLが.内に挿入された白内障術後眼であっても多焦点化させることができる.AddOnは,日本では未承認で保険適用はないが,EUでは承認を受けており,患者側の高まるニーズに応えるための一つのツールとして,今後の普及が期待されるところである.文献1)Fernandez-BuenagaR,AlioJL,PerezArdoyALetal:Resolvingrefractiveerroraftercataractsurgery:IOLexchange,piggybacklens,orLASIK.JRefractSurg29:676-683,20132)KimP,BrigantiEM,SuttonGLetal:Laserinsitukeratomileusisforrefractiveerroraftercataractsurgery.JCataractRefractSurg31:979-986,20053)MuftuogluO,PrasherP,ChuCetal:Laserinsitukeratomileusisforresidualrefractiveerrorsafterapodizeddiffractivemultifocalintraocularlensimplantation.JCataractRefractSurg35:1063-1071,2009(64)

眼内レンズ:Sleevedハイドロダイセクション

2016年1月31日 日曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋350.Sleevedハイドロダイセクション禰津直久等々力眼科ハイドロダイセクション(hydrodissection)は白内障手術をより安全・容易にするために行われる.しかし,この手技は逆に虹彩脱出や異常な眼圧上昇をきたし,手術をむずかしくしてしまうことがある.これらの併発症をSleevedハイドロダイセクションで防ぐことができる.●従来のハイドロダイセクション従来のハイドロダイセクションでは,たまに虹彩脱出を起こすことがある.とくに浅前房症例や術中虹彩緊張低下症候群(intraoperativefloppyirissyndrome:IFIS)で起こしやすい.いったん虹彩脱出を起こすと,手術終了までの各手技を難しくし,手術時間も不要に長くしてしまう.前.切開時に虹彩脱出を起こすと,ハイドロダイセクション自体も虹彩が出やすくなり苦労することになる.従来のハイドロダイセクションを行っていると,前房が深くなり,散瞳したようにみえることがある.これは創口の自己閉鎖機序が働いて前房圧が上がり,逆瞳孔ブロックを起こしている状態と考えられ,痛みを訴える場合もある.逆瞳孔ブロックを起こさなくても,極端に眼圧が上がると,前部硝子体膜を破って硝子体ポケットを形成することが報告されている.術操作中に眼内に持ち込まれた細菌が硝子体ポケットに進入すると,術終了時の眼内洗浄では除去されず,眼内炎の原因になりえる1).眼内圧が上昇すると水晶体に対する外側からの圧も上昇し,ハイドロダイセクション自体もむずかしくしている可能性がある.●SleevedハイドロダイセクションSleevedハイドロダイセクションでは,I/AやUSで使用するシリコーンスリーブ(以下,スリーブ)を通常のハイドロ針に被せて施行する(図1).通常は針が短めのため,スリーブの底部を剪刀で適当な位置で切断し短くする.さらに,スリーブの底部がハイドロ針の基底部にはまり込んで流出を障害することがないように,楔状の切開を2カ所に入れている(図2).このスリーブをハイドロ針に被せて,通常どおり創口から挿入してハイドロダイセクションを行う.スリーブが挿入されていることで,I/A時やUS時と同様に虹彩が出ることはない.また,スリーブが創口にあることにより,自己閉鎖創の機序は働かなくなり,眼内のBSS-PLUSRや粘弾性物質はスリーブの内腔を逆流し,容易に排泄される.着色した高分子量型粘弾性物質を豚眼の前房に注入し,sleevedハイドロダイセクションを行うと,スリーブの内腔を通って粘弾性物質も容易に排泄されることを確認している(図3,4).スリーブはI/AやUSで使用するものを流用するが,図1手技スリーブを被せたハイドロ針で通常どおりに施行する.BSSPLUSRと粘弾性物質はスリーブ内を逆流して排出される.図2器具スリーブを適当な位置で切断し,楔状の切開で針の基底部で閉塞されないようにする.(61)あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016610910-1810/16/\100/頁/JCOPY 図3着色した高分子量型粘弾性物質を豚眼の前房に注入図4Sleevedハイドロダイセクションで粘弾性物質を吸引除去弾力があるもののほうが挿入しやすい.27Gの鈍針を含めほとんどのハイドロ針が使用可能であるが,最初は太めのハイドロ針のほうが挿入しやすいであろう.●手技Sleevedハイドロダイセクションでは,創口への挿入図5挿入手技左手でスリーブをコントロールして挿入する.時に左手でスリーブの位置を調節しながら挿入する(図5).スリーブからハイドロ針の先端が少し出るくらいにして,少し角度を付けて創口に挿入すると入れやすい.スリーブのサイドポートは水平方向にして挿入する.散瞳不良の場合は,スリーブのサイドポートを虹彩のない水晶体上にもってくる必要がある.虹彩上だとサイドポートから虹彩を吸引してしまうので注意が必要である.前房に空気が入ってしまった場合でも,スリーブのサイドポートから空気を容易に除去できる.●おわりにSleevedハイドロダイセクションは,特別な器具を必要とせず,熟練した手技も不要である.IFISや浅前房のような虹彩脱出を起こしやすい場合を含め,ハイドロダイセクション中の虹彩脱出を防止できる.スリーブにより創口の自己閉鎖メカニズムを無効にし,眼圧の過剰な上昇も防止できる.これによりハイドロダイセクションをむずかしくすることを防止し,眼内炎のような重篤な併発症も減らすことができる.そのためには全症例で本手法を行うことを推奨する.文献1)KawasakiS,TasakaY,SuzukiTetal:Influenceofelevatedintraocularpressureontheposteriorchamber.anteriorhyaloidmembranebarrierduringcataractoperations.ArchOphthalmol129:751-757,2011

写真:角膜鉄錆症

2016年1月31日 日曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦380.角膜鉄錆症加藤久美子三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学図2図1のシェーマ①角膜に刺入した鉄片と,②角膜内に同心円状に沈着した鉄錆.図1当科初診時の前眼部写真鉄片周囲の角膜に茶褐色の鉄錆が浸潤している.図3初診から3カ月の前眼部OCT角膜上皮,実質,Descemet膜に鉄錆の浸潤を示唆する高輝度を呈する病変が認められた.図4全層角膜移植時に切除した患者角膜の病理写真(Berlin.blue染色)角膜菲薄部では角膜上皮,実質,Descemet膜に至るまでPrussianblueにより染色されていた.(59)あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016590910-1810/16/\100/頁/JCOPY 角膜鉄錆症は,角膜に鉄錆,つまり水酸化鉄Fe(OH)が沈着することにより発症する.角膜に鉄が侵入すると,わずか24時間で角膜実質に鉄錆が沈着すると報告されている1).鉄イオンは細胞に対する毒(3)性が強く,角膜実質細胞を傷害し,コラーゲン組織に浸透して実質の融解を引き起こす.また,一般に眼内の鉄片異物は眼球全体に鉄錆を沈着させ,比較的短期間のうちに白内障や緑内障,網膜.離のような眼球鉄錆症を引き起こすといわれている2).角膜鉄錆症の原因となる角膜鉄片異物は,眼表面の異物の約半数を占めると報告されており,受傷直後は毛様充血,羞明,流涙,眼痛などの角膜刺激症状を呈する3).しかしながら,複数回の角膜鉄片異物の既往がある患者では自覚症状がないこともある3,4).なお,角膜刺激症状は受傷後3日ほど経過すると軽快するといわれている3).角膜鉄錆症の診断は,細隙灯顕微鏡で実質内の鉄錆を確認することにより行う.角膜上に鉄片異物がなくても,受傷から短い期間で来院することが多く,経過がはっきりしているため,診断は容易である.しかし,角膜の鉄片異物を除去しても眼内に鉄片が残存しているような症例があり,初診時に眼窩X線検査あるいはCT検査にて確認することが望ましい.角膜実質内に鉄錆が残存すると,実質組織を融解し,外傷などをきっかけとして角膜穿孔を引き起こすため4),鉄錆はハンドドリルなどを使用し可能なかぎり除去する.しかしながら,あまり深追いするとDescemet膜瘤や角膜穿孔を起こすことがあり,注意が必要である.筆者は鉄片異物が角膜内に約1カ月間とどまった症例を経験した(図1,2)4).鉄片除去後,複数回にわたって鉄錆の除去を行ったが,前眼部OCT上,鉄錆の浸潤は角膜全層にわたっており(図3),完全に除去することは不可能であった.最終的には軽度の外力により角膜が穿孔し,保存的治療が無効であったため全層角膜移植術を施行した.切除した角膜の病理学的所見では,穿孔部の角膜は菲薄化が著しく,Berlin-blue染色にて角膜上皮,実質,Descemet膜が染色され,鉄イオンの強い浸潤を示唆していた(図4).このような症例では,こまめに診察を行い,穿孔に至る前に予防的に角膜移植術などの治療を行う必要があると考えられる.文献1)松原稔,吉田宗儀,増子昇:角膜錆輪の組織学的研究.臨眼58:1957-1960,20042)Hope-RossM,MahonGJ,JohnstonPB:Ocularsiderosis.Eye7:419-425,19933)松原稔:角膜異物の統計的研究.眼臨医報96:103-108,20024)KatoK,HiranoK,TakashimaYetal:Histopathologicfindingsofperforatedcorneasduetoferricioninfiltration.CanJOphthalmol50:322-327,201560

正常眼圧緑内障の予後

2016年1月31日 日曜日

特集●正常眼圧緑内障の最新事情あたらしい眼科33(1):51.55,2016特集●正常眼圧緑内障の最新事情あたらしい眼科33(1):51.55,2016正常眼圧緑内障の予後PrognosisofEyeswithNormal-TensionGlaucoma澤田明*はじめに正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG)は,眼圧が正常レベルにあるにもかかわらず緑内障に特有な視神経乳頭陥凹とそれに対応する視野欠損が生じる進行性の疾患群である.近年,多治見スタディ1)や久米島スタディによりわが国における緑内障有病率が報告されたが,多治見スタディによると開放隅角緑内障患者の92.3%が正常眼圧レベルであったとされている.もちろんこれらの大規模研究では眼圧測定が断片的であるため,ひかえめに評価する必要はあるが,開放隅角緑内障においてNTGがかなりの高頻度を占めていることは間違いない.その一方で,多治見スタディでは約90%の緑内障症例が自覚症状に乏しかったことから,NTGの進行速度はきわめて緩徐であることが推察される.したがって,NTGの全体像を把握するためには,より長期にわたる経過観察研究が必要であると思われる.しかしながら,こうした背景にもかかわらず,NTGの進行や予後にかかわる長期的な報告は意外なことに少ない.本稿では,NTGでの長期予後にかかわる過去の報告をレビューする.INTGの進行速度NTGの視野進行速度については,数多くの報告はあるものの,経過観察期間や視野測定回数,観察開始時における視野重症度などが異なっており,一概に比較することはむずかしい.表1の論文では,Humphreyのmeandeviation(MD)により視野進行度を算出している.CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy(CNTGS)2)およびEarlyManifestGlaucomaTrial(EMGT)3)の多施設大規模研究においては,無治療のNTGの視野進行度をそれぞれ平均.0.41dB/年,.0.36dB/年と報告されている.また,CNTGSでは.2dB..0.2dB/年と,症例によりかなりバラツキが多かったことを指摘している.一方,薬物治療下のNTGにおいては,平均.0.38dB.0.02dB/年と報告している.しかしながら,これらの対象は,たとえばMD>.12dBの症例のみといったように,後期緑内障症例を省いた研究がほとんどである点が一つの欠点である.また,前向き研究では緑内障症例の全体像を表現してはいないという指摘もある.いずれにしても,NTG進行速度を総じて推測すると,.0.40..0.30dB/年というラインが妥当ではないかと思われる.初診時50歳,MD.12dBのNTG患者を想定し,視野進行速度を.0.33dB/年(3年で.1dB進行)と設定してみる.このNTG患者に,SSA(SocialSecurityAdministration)の推奨する.22dB以下の失明基準12)を適応すると,初診時より30年(年齢80歳,生存している可能性大)を要することとなる.また,初期視野重症度で進行速度が異なる可能性もあるが,観察開始時の視野重症度をある程度一定化した論文として,Jeongら11)の報告があり,初期にpreperimeticglaucoma(PPG)であったNTG症例について検討している.それによると,視野障害発現症例では*AkiraSawada:岐阜大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕澤田明:〒501-1194岐阜市柳戸1-1岐阜大学医学部眼科学教室0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(51)51 表1NTGの進行速度著者症例数視野評価初期眼圧(mmHg)初期MD(dB)視野進行速度(dB/year)():範囲治療経過観察期間CNTGSGroup2)160HFA30-216.1.5.9.0.41(.2.+0.2)無3.8年HeijlAetal3)57HFA30-217.7─.0.36(.4.87.+1.83)無6年以上TomitaGetal4)3131HFA30-215.015.9.6.0.5.9.0.34.0.10ラタノプロスト(0.5)チモロール3年AraieMetal5)7274HFA30-214.114.3.4.7.4.4.0.03.0.05ニプラジロール(0.5)チモロール3年AhrlichKGetal6)139HFA24-213.3(経過中平均).6.5.0.35薬物治療のみ(手術含?)5.2年DeMoraesCGetal7)5869HFA24-216.215.2─0.02.0.38(0.2)ブリモニジン(0.5)チモロール3.4年FukuchiTetal8)166HFA30-217.8(最高).7.59.0.35(.1.96.+0.35)薬物,濾過手術9.2年SakataR9)92HFA30-216.7.4.9.0.16(.1.09.+0.32)薬物のみ7.7年KomoriSetal10)78HFA30-215.1.5.44.0.30(.1.08.+0.18)薬物のみ18.3年JeongJHetal11)71HFA30-214.9.0.96+0.02薬物のみ6.8年MD=meandeviation,HFA=Humphrey,CNTGS=CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy.*IOp<24mmHgMD(hfa)経過中平均眼圧:14.9mmHg,眼圧下降率:13.0%図1初診時preperimetricglaucomaの進行例(初診時46歳,男性)平均.0.38dB/年,視野障害非発現例では平均+0.11dB/年であった.図1に当院通院中の,初診時にはPPGであったNTG症例を示す.経過観察20年以上の症例であるが,薬物加療にかかわらず.0.99dB/年とかなりの速度をもって進行している.最終的に,62歳前後(2015年)で両眼濾過手術を施行するに至った.こうした症例をみると,“あなたは初期ですから…”といった患者との会話がいかに無意味なものであるかを認識させられると同時に,過去の報告と相まって,1例1例でのNTGの視野進行速度を把握する臨床的重要性をわれわれに喚起するものとなっている.II緑内障における失明率緑内障はそもそも一生にかかわる疾患であり,最終的に患者が視力あるいは視野を保つことができたのかどうかを検討することも重要な命題である.現在までの緑内障失明率に関する文献を表2に示す.10年以上経過観52あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016(52) 表2緑内障失明率著者症例数病型失明の定義片眼失明*両眼失明*経過観察期間HattenhauerMGetal13)270POAG視力<0.1/VF20度以内26%(20年)*9%(20年)*15年KwonYHetal14)40POAG視力<0.1/VF20度以内19%(22年)*─14.6年OliverJEetal15)290OAG**視力<0.1/VF20度以内19.3%─18年以上ChenPP16)186OAG**視力<0.1/VF20度以内14.6%(15年)*6.4%(15年)*9年ChangLCetal17)172POAG+CACG視力<0.1/VF20度以内28.6%(16年)*─9.6年ForsmanEetal18)1066739OAG***+OHPOAG落屑緑内障視力<0.1/VF10度以内15%(15年)*21%(15年)*46%(15年)*─9.8年KoonerKSetal19)487POAG視力<0.1/VF20度以内42.1%24.6%5.5年PaulaJSetal20)53POAG視力<0.1/VF20度以内58.5%34%19.5年PetersDetal21)592OAG***視力<0.1/VF10度以内73.2%(20年)*42.7%(20年)*12年SaundersLJetal22)3359緑内障/緑内障疑い.22dB以下─5.2%7.1年POAG=(狭義)原発開放隅角緑内障,CACG=慢性閉塞隅角緑内障,OH=高眼圧症,VF=視野(中心視野).*:Kaplan-Meier生命表による分析,**:POAG,NTG,落屑緑内障,色素緑内障を含む,***:POAG,落屑緑内障を含む.察している論文が多いが,緑内障病型や失明の定義がさまざまである.たとえば,Petersら21)は開放隅角緑内障での生涯失明リスクについて検討し,20年で片眼失明は73.2%,両眼失明は42.7%であったと報告している.Saudersら22は35歳以上の緑内障あるいは緑内障疑い患者3,790例を調査し,両眼MD.22dB以下にまで悪化する症例は全体の5.2%に過ぎなかったとしている.また,Forsmanら18)は原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG,高眼圧症の症例も含む)と落屑緑内障の失明率を別々に提示しており,落屑緑内障での失明率は,POAG失明率の約2倍であったと報告している.片眼失明率に関しては14.6.73.2%とかなりばらついてはいるものの,両眼失明率は,片眼失明率よりかなり減少していることは共通しているようである.しかしながら,現在までNTGを含めた失明率の論文はあるが,NTG単独での調査は施行されていなかった.筆者ら23)は,岐阜大学附属病院眼科に5年以上通院中(平均経過観察期間13.3年)のNTG患者382症例を対象としてNTG失明率について検討した.経過観察中眼圧>21mmHgを一度でも記録した症例はすべて除外した.失明基準は,世界保健機関(WorldHealthOrganization:WHO)による基準を適応した.この基準はPetersら21),Forsmanら18)も適応している.図2に具体的に視野失明基準に合致する症例と逆に合致しない症(53)例を示すが,実際としてはかなり厳しい基準である.NTG382例中,18例(4.7%)は初診時にすでに少なくとも片眼は失明基準を満たしていたため,失明率検討には364症例のデータを使用している.Kaplan-Meier生命表を用いた失明率は,片眼失明は10年5.8±1.3%,20年9.9±1.9%と推定された(図3).一方,両眼失明は10年0.3±0.3%,20年1.4±0.8%と推定された(図4).片眼の失明率は20年の経過観察で約10人に1人の割合であり,個人的にはやや高率である印象をもったが,両眼失明は小さい比率に留まった.表2に示す報告と比較すると,NTG失明率はかなり低い結果となった.もちろんNTG以外の緑内障病型では初期眼圧は高いため,NTGでさえpressure-dependentの要素が濃厚に存在することを示唆する一つの証左であるのかもしれない.しかしながらその一方で,この結果はあくまで病院通院中のNTG患者を対象としているという欠点があり,NTGのピュアな全体像を示しているわけではなく,実際のNTG失明率はもっと低いものであろうと推定される.おわりに緑内障は長期にわたる経過を有する疾患の代表格であり,その長期予後を調査することはきわめて重要な意味をもつ.しかしながら,筆者らの研究のようなhospital-basedでは,NTGの全体像を把握することは不可能あたらしい眼科Vol.33,No.1,201653 abcdabcd図2世界保健機関(WorldHealthOrganization:WHO)の失明基準(視力<0.05あるいは中心視野10°以内の,視野失明基準を満たす症例と満たさない症例.a:中心視野0°,b:中心視野6°,c,d:中心視野12°したがって,中心視野10°以内を満たす症例はaとbとなる.11.8.800051015202530051015202530経過観察期間(年)経過観察期間(年)症例数:3643642461325660症例数:3643642461325660図3NTGにおける少なくとも片眼失明(Kaplan.Meier図4NTGにおける両眼失明(Kaplan.Meier生命表)生命表)(文献23より改変引用)(文献23より改変引用)-累積生存率累積生存率.65年生存率99.7%±0.3%(SE)5年生存率96.7±0.9%(SE).410年生存率99.7±0.3%10年生存率94.2±1.3%15年生存率98.6±0.8%15年生存率90.9±1.7%20年生存率98.6±0.8%20年生存率90.1±1.9%.225年生存率89.6±6.1%25年生存率68.3±11.3% —

正常眼圧緑内障に対する手術

2016年1月31日 日曜日

特集●正常眼圧緑内障の最新事情あたらしい眼科33(1):45~50,2016特集●正常眼圧緑内障の最新事情あたらしい眼科33(1):45~50,2016正常眼圧緑内障に対する手術SurgicalTreatmentsforNormal-TensionGlaucoma丸山勝彦*はじめに現在,レーザー治療を含めさまざまな外科的治療が正常眼圧緑内障に対して行われている(表1).それぞれ利点,欠点があるが,最大耐用量の薬物療法を行っても十分な眼圧下降が得られない症例に対しては,他の術式より期待できる眼圧値が低い代謝拮抗薬併用線維柱帯切除術が適応されることが多い.しかし,同術式は低い眼圧をめざすほど低眼圧に関連した合併症の頻度が増加し,失明に直結する合併症である濾過胞関連感染症の発生率が高く,施術が躊躇されることも珍しくはない.このような問題点に対して,最近,術式を工夫することによって非穿孔性濾過手術の眼圧下降効果を高める方法が模索されている.また,従来,狭義原発開放隅角緑内障や落屑緑内障などの高眼圧を呈する緑内障に対して,緑内障点眼薬本数を減少させる目的で,あるいは初回治療として行われてきたレーザー線維柱帯形成術を,同様の目的で正常眼圧緑内障に適応する試みもなされている.本項では,正常眼圧緑内障に対して手術療法を決定する際の注目点について述べ,レーザー治療を含めた各手術療法の成績を概説する.I手術療法を決定する際の注目点正常眼圧緑内障に対する手術療法の決定は,眼圧や視野進行をはじめ,種々の臨床因子を総合的に評価して判断される.1.眼圧正常眼圧緑内障に対する手術適応を眼圧の面から考えるとき,無治療時眼圧からの眼圧下降幅(眼圧下降率)が重要視されることが多い.これは,正常眼圧緑内障に対する眼圧下降治療の有用性を論じた大規模比較試験,CollaborativeNormalTensionGlaucomaStudy1,2)で用いられた眼圧下降の基準を実臨床に流用した考え方であり,無治療時から20%,あるいは30%の眼圧下降を目標に治療が行われる.そして,最大耐用量の薬物療法で目標眼圧が達成されず,さらに眼圧下降を図る必要があるなら,残された眼圧下降手段は手術療法のみとなる.その一方で,目標眼圧達成は治療のアウトカムである視野進行の抑制に直結するものではない.この理由は,その病態が眼圧よりも循環的,あるいは遺伝的要素の影響を受ける症例が存在するためと考えられており,CollaborativeNormalTensionGlaucomaStudyでも,試験開始後5年の時点で治療群の2割の症例は視野障害が進行し,反対に無治療群の4割は進行しなかったという結果が示されている1,2).したがって,正常眼圧緑内障に対して手術適応を考える際には,無治療時眼圧から20~30%の眼圧下降が得られているかは一つの目安にはなるが,眼圧以外の後述する因子にも着目して判断することになる.2.視野進行経過中に視野障害が進行する症例に対しては治療内容*KatsuhikoMaruyama:東京医科大学眼科学分野〔別刷請求先〕丸山勝彦:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学分野0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(45)45 表1正常眼圧緑内障に行われる主な手術術式と特徴術式利点欠点線維柱帯切除術・眼圧下降効果に優れる・低い眼圧をめざすと低眼圧関連の合併症が増加する.・視野進行抑制効果が証明されている.・濾過胞関連合併症の発生率が高い.アルコンRエクスプレスR緑内・眼圧下降効果は線維柱帯切除術と同等の可能・正常眼圧緑内障に対する報告なし.障フィルトレーションデバイス性がある.を用いた濾過手術非穿孔性濾過手術・濾過手術より低眼圧に関する合併症が少ない.・手技が煩雑.・術式の工夫でより大きな眼圧下降が得られる・特殊な器具が必要な場合がある.可能性がある.流出路再建術・安全性が高い.・線維柱帯切除術と比較し眼圧下降効果が劣る.・白内障との同時手術では眼圧下降が増強する.・正常眼圧緑内障に対する検討が不十分.白内障手術・安全性が高い.・眼圧下降効果が予想できない.・視機能の向上が得られる.・眼圧が上昇する場合がある.選択的レーザー線維柱帯形成術・低侵襲・眼圧下降効果が弱い.・内眼手術に伴うリスクがない.・眼圧が上昇する場合がある.表2正常眼圧緑内障に対する線維柱帯切除術の視野進行抑制効果報告者症例数(眼)MDスロープ(dB/年)術前術後Shigeeda3)23.1.05.0.44Daugeliene4)32.0.97.0.32Bhandari5)17.2.97+0.53Koseki6)21.1.48+0.13MD:meandeviationを強化する必要があり,すでに最大耐用量の薬剤による治療を行っている場合は手術療法を適応することになる.そのなかで,他の術式と比べ術後に期待できる眼圧値が低い線維柱帯切除術に関しては,正常眼圧緑内障に対する視野進行抑制効果を検討した研究がいくつか報告されている.報告によって若干の差があり,各報告のなかでも結果にばらつきはあるが,平均すると視野進行が速い症例ほど手術による進行抑制効果が高い傾向が示されている(表2).また,decisiontree法によるmeandeviation(MD)スロープ改善率に寄与する因子の検討では,もっとも寄与率の高い因子は術前のMDスロープであり,.0.8dB/年より進行が速い症例では術後のMDスロープが改善する可能性が高いとされている7).しかし,緑内障では眼底の異常が視野異常に先行して生じるとされ,視野が進行した症例を見返してみるとそ46あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016れ以前にすでに眼底所見が悪化していたというケースをよく経験する.MDスロープによる解析は数年の経過観察を要するため,とくにそれ以上進行すると著しく視機能が低下してしまうような症例に対しては型通りの視野進行による判定ではなく,画像解析装置で眼底の異常部位を把握し,将来の視野異常を予想して,そのときの眼圧や次に述べる臨床因子など横断的なデータで手術を決定する必要がある.3.その他の臨床因子視野障害が進行しやすいとされる臨床因子(表3)の有無も手術決定の一助になる.しかし,報告によって対象の背景や解析因子,視野進行の定義が異なるため,例えば年齢,乳頭出血,収縮期血圧,脈拍といった因子は,ある報告では進行に関与するとされている一方で,他の報告では有意な因子として同定されないなど,異なる結果も報告されている.以上のことから,表3にあげたような臨床因子を有する症例は,上述した20~30%眼圧下降を目安に薬物療法を行ってこまめに経過観察し,適宜薬剤を追加して,最大耐用量の薬物療法でも視野異常が進行する,あるいは進行が予想される症例に対しては,手術により大幅な眼圧下降を図るという方針になる.(46) 表3これまで報告されている正常眼圧緑内障の視野障害進行に関与する因子眼局所因子眼圧:経過中眼圧,経過中平均眼圧,日内変動平均値眼底:乳頭出血,C/D比,PPA面積,全体陥凹型乳頭,近視型乳頭視野:高度な視野障害,固視点近傍の視野障害血流:網膜中心動脈拡張末期最低血流速度全身因子年齢,女性,糖尿病,レイノー現象,片頭痛,収縮期血圧,脈拍,血液コレステロール値,カルシウムチャンネル拮抗薬非使用C/D比:陥凹乳頭径比PPA:乳頭周囲網脈絡膜萎縮 図1線維柱帯切除術強膜弁下に作製した瘻孔から房水を濾過させ眼圧下降を図る術式.結膜濾過胞を形成する.図3非穿孔性濾過手術前房に穿孔することなく線維柱帯から眼外に房水を濾過させ眼圧下降を図る術式.Viscocanalostomyやdeepsclerectomyが代表術式である.図2アルコンRエクスプレスR緑内障フィルトレーションデバイスを用いた濾過手術強膜弁下から前房内にアルコンRエクスプレスR緑内障フィルトレーションデバイスを挿入し,房水を濾過させ眼圧下降を図る術式.結膜濾過胞を形成するのは線維柱帯切除術と同様だが,周辺虹彩切除は行わない.図4流出路再建術(線維柱帯切除術,眼外法)房水流出抵抗の主座であるSchlemm管内壁や傍Schlemm管結合組織,線維柱帯を切開し,前房内からSchlemm管内へ房水を直接流出させることで眼圧下降を図る術式.従来から広く行われている金属プローブを用いた眼外法の他に,縫合糸やトラベクトームRを用いた眼内法がある. してもよい症例が存在すると考えられる.ただし,後期症例への適応は慎重に行うべきで,いずれの流出路再建術も一定の割合で術後一過性眼圧上昇をきたすことがあるため,術直後はこまめに眼圧をモニターする必要がある.5.白内障単独手術以前より白内障単独手術によって眼圧が数mmHg下降するとの報告が多数あり,薬物療法で眼圧が十分下降している早期症例で,手術適応のある水晶体混濁を有する症例に対しては白内障単独手術を行ってもよい.自験例では,白内障術後の眼圧値は術前と比較し変わりなかったものの,緑内障点眼薬本数は減少したという結果を得ている(表4).ただし,白内障手術により反対に眼圧上昇をきたすこともあるため,術前に緑内障手術追加の可能性について十分な説明を行い,結膜に極力瘢痕形成を残さないよう手術を行うなどの配慮が必要である.6.レーザー線維柱帯形成術レーザー線維柱帯形成術は線維柱帯にレーザーを照射し,線維柱帯経路からの房水流出を促進することによって眼圧下降を図る術式である.以前はargonlaserが用いられてきたが,現在は組織侵襲性の低いQ-switchedNd:YAGlaserを用い,線維柱帯細胞のうち色素顆粒をもつ細胞のみが選択的に障害され,健常な線維柱帯組織の熱変性やSchlemm管の障害は生じないとされる選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)が行われるのが一般的である.従来は落屑緑内障や狭義原発開放隅角緑内障など,高眼圧を呈する緑内障病型に対して多く行われてきたが,近年,正常眼圧緑内障に対するSLTの治療成績が報告されている(表5).Leeら9)は無治療時眼圧16.2mmHg,SLT前眼圧14.3mmHg(緑内障点眼薬本数1.5本)の正常眼圧緑内障41眼に対するSLT(全周照射,191.1発,1.0mJ)の成績をプロスぺクティブに検討している.その結果,術1週後を除き術後眼圧は有意に下降し,12カ月目で眼圧は12.2mmHg(緑内障点眼薬本数1.1本)となり,術前と比べ27%少ない投薬数で15%の眼圧下降が得られ(49)表4点眼薬でコントロールされている正常眼圧緑内障症例に対する白内障手術前後の眼圧と投薬数の推移(n=30)眼圧p*投薬数p*白内障術前無治療時15.3mmHg─点眼治療後12.9mmHg1.1本白内障手術後無治療時14.8mmHg0.50a─点眼治療後12.9mmHg0.09b0.7本<0.01b*:対応のあるt-検定a:白内障術前無治療時との比較b:白内障術前点眼治療後との比較たとしている.また,術前から20%の眼圧下降の達成率は,12カ月目で投薬なしでは22%,投薬ありでは73%となり,合併症は認めなかったとしている.さらに,新田ら10)の正常眼圧緑内障40眼に対する初回治療として行ったSLT(全周照射,ただし照射数やエネルギー量の記載なし)の前向き試験の結果では,術前15.8mmHgであった眼圧は術1年後13.2mmHg,2年後13.5mmHg,3年後13.5mmHgと有意に下降したとされている.同報告では,眼圧下降作用が減弱して点眼治療を開始した症例は25%,SLTの再照射を行った症例は15%であったが,重篤な合併症は認めなかったとされている.また,別の報告では,コンタクトレンズ型眼圧計を用いた眼圧変動の検討で,SLT前と比べSLT後は夜間眼圧変動が少なくなっていることが示されている11).このような肯定的な報告がある一方で,SLTの眼圧下降効果は術前眼圧が低いほど小さいことがわかっており,正常眼圧緑内障で期待できる眼圧下降は大きくはない.また,SLTは近年,より大きな眼圧下降を得る目的で,数発に1回は気泡が形成されるエネルギーでの照射を全周に行う傾向があるが,このことにより組織障害性が低いというSLTの特性が損なわれている可能性がある.さらに,SLTでも術後眼圧が上昇することもあり,眼圧下降の確実性,持続性も低い.以上のことを考慮すると,常に正常隅角へレーザー照射を行う得失を考え,慎重に適応することが望ましい.おわりに正常眼圧緑内障に対して手術療法を適応する際の注目あたらしい眼科Vol.33,No.1,201649 表5正常眼圧緑内障に対する選択的レーザー線維柱帯形成術の成績報告者症例数期間眼圧(緑内障点眼薬本数)無治療時術前術後Lee9)411年16.2mmHg14.3mmHg(1.5本)12.2mmHg(1.1本)新田10)401年─15.8mmHg(0本)13.2mmHg(不明)2年13.5mmHg(不明)3年13.5mmHg(不明)点と各手術療法の成績について述べた.現在の緑内障に対する手術療法は一部の術式を除くといずれも単なる眼圧下降の手段にすぎず,視野進行の抑制効果は未来にならないとわからない.また,手術療法は利益が得られなかったとき,あるいは不利益が生じたときの代償が大きい.しかし,緑内障に対する新規治療がすぐには実現せず,したとしても眼圧下降療法が不要とはならないであろう現実を考えたとき,各術式に精通して水準的な技量を身に付け,誤らずに適応することは,緑内障診療の核心として今後も変わることはないであろう.文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19982)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19983)ShigeedaT,TomidokoroA,AraieMetal:Long-termfollow-upofvisualfieldprogressionaftertrabeculectomyinprogressivenormal-tensionglaucoma.Ophthalmology109:766-770,20024)DaugelieneL,YamamotoT,KitazawaY:Effectoftrabeculectomyonvisualfieldinprogressivenormal-tensionglaucoma.JpnJOphthalmol42:286-292,19985)BhandariA,CrabbDP,PoinoosawmyDetal:Effectofsurgeryonvisualfieldprogressioninnormal-tensionglaucoma.Ophthalmology104:1131-1137,19976)KosekiN,AraieM,ShiratoSetal:Effectoftrabeculectomyonvisualfieldperformanceincentral30degreesfieldinprogressivenormal-tensionglaucoma.Ophthalmology■用語解説■Viscocanalostomy:非穿孔性濾過手術の一術式.Schlemm管外壁を開放した後,Schlemm管内に粘弾性物質を注入し,Schlemm管を拡張させることで眼圧下降を図る術式であるが,はっきりとした作用機序はわかっていない.深層強膜弁切除や傍Schlemm管結合組織,Schlemm管内壁の除去も併用されることがある.Deepsclerectomy:非穿孔性濾過手術の一術式.強膜弁の下に深層強膜弁を作製し,Descmet膜を残存させたまま角膜側まで切り上げ,深層強膜弁を切除してlakeを作製する.同時に傍Schlemm管結合組織やSchlemm管内壁も除去して房水流出抵抗を低下させ,前房内から房水をlake内に濾過させ,その後,濾過胞あるいは上強膜や脈絡膜腔へ房水を流出させて眼圧を下降させる.Lakeを維持させるためコラーゲンインプラントや代謝拮抗薬が使用され,術後眼圧が上昇した際にはgoniopunctureやニードリングが行われる.104:197-201,19977)白土城照:緑内障手術の過去,現在,そして….緑内障16:7-31,20068)SuominenS,HarjuM,KurvinenLetal:Deepsclerectomyinnormal-tensionglaucomawithandwithoutmitomycin-c.ActaOphthalmol92:701-706,20149)LeeJW,HoWL,ChanJCetal:Efficacyofselectivelasertrabeculoplastyfornormaltensionglaucoma:1yearresults.BMCOphthalmol15:1,201510)新田耕治,杉山和久,馬渡嘉郎ほか:正常眼圧緑内障に対する第一選択治療としての選択的レーザー線維柱帯形成術の有用性.日本眼科学会雑誌117:335-343,201311)TojoN1,OkaM,MiyakoshiAetal:Comparisonoffluctuationsofintraocularpressurebeforeandafterselectivelasertrabeculoplastyinnormal-tensionglaucomapatients.JGlaucoma23:e138-e143,201450あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016(50)