‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

現場発,病院と患者のためのシステム 35.医療データ(ビッグデータ)のマイニング

2014年12月31日 水曜日

連載現場発,病院と患者のためのシステム連載現場発,病院と患者のためのシステム医療データ(ビッグデータ)のマイニング杉浦和史*.データマイニング経験ある製品の需要の予測をしていたときに経験したことを紹介します.その製品は一定面積以上のビルの設備となるものでした.この製品の需要予測をして生産計画に反映することを目的に,通産省(当時)工業統計を元データ(鉱山)にして多変量解析手法を用いて分析しました.その結果,景気が良くなる前に製品が納入される規模のビル着工件数が増え,その前にビルを建てるために必要な資材の需要が高まることがわりました.相関が深いとして寄与率とともにピックアップされた資材は,コンクリート,棒鋼,サッシ,エレベータなどです.また,先行指標といわれる影響を及ぼすまでのリードタイムもわかってきました.これらの情報を生産計画に反映することで,できるだけ機会損失(売り損じ)がなく,そうかといって作り過ぎず(不良在庫要因)生産することができるようになりました.筆者は当該製品を作る立場でも売る立場でもなかったものの,人手では不可能な大量データ間の因果関係を当時の大型汎用コンピュータ身体情報n個の情報バイタル情報n×実施回数分の情報検査情報n×検査回数分の情報最近,ビッグデータという言葉が氾濫しています.10数年前はDWH(DataWareHouse/データの倉庫)といわれていたものです.その倉庫の中から価値ある情報を見つけることを鉱山から宝石を発掘(mining)することにたとえ,データマイニング(datamining)と呼んでいました.気にしていなかった相関が深い因果関係(宝石)をminingによって発見することがありますが,常識ができている当該業務の専門家が先入観から見落としている相関を,常識をもたない者が発見することが多々あります.を使って分析した結果,生産計画担当者が気がつかなかったことを発見し,かつ,“おぼろげに感じていた”ことを定量的に説明することができました.第一次石油ショックのときの話です..医療情報のマイニング医療分野においても図1に示すように大量の患者データから,思わぬ因果関係を発見する可能性があります.最近ではデータを画面から入力したり,検査機器から自動的に入力されることが多くなり,コンピュータを使って分析できる環境が整ってきました.どの情報とどの情報がどのような関係にあるか?相関の深さはどの程度か?何十万,何百万件という大量データを人手で処理するのは効率が悪い,あるいは不可能・多変量解析を使ったデータマイニング・ニューロ,ファジー応用のデータマイニング今まで気がつかなかった因果関係の発見図1医療データマイニングイメージ*KazushiSugiura:杉浦技術士事務所(情報工学部門)http://sugi-tec.tokyo/(105)あたらしい眼科Vol.31,No.12,201418430910-1810/14/\100/頁/JCOPY .マイニング事例事例1医療関係者の間では未熟児が死亡する原因の多くが感染症であることは知られていました.未熟児は,感染を起こしてから治療しても手遅れの場合が多く,また体力的に処置ができないケースも多く,家族が悲嘆にくれる事態に陥る状況を救えないでいました.これに対処すべく,感染症を発症しそうだという予知ができないかについて,研究が進められていましたが,有効な成果は出ていなかったようです.あるとき,証券会社で金融工学を駆使して株価の推移を分析していた専門家が大学に転じ,研究対象としてこの問題に取り組みました.未熟児で生まれ,感染症で死亡した事例の出産から発症に至るまでのデータの推移をみていて気がついたのは,以下の値の変化具合,周期,相互の関係のパターンです.①血中の酸素濃度②呼吸数③心拍数などこれらが,ある特定のパターンに当てはまると,やがて感染症を発症する傾向があるということです.この研究成果により,パターンに当てはまっていた未熟児を発症前に発見し,事なきを得るケースが増えた事例が報告されています.事例2ある大企業の健保組合の例です.未熟児を産む女性社員と正常な出産をする女性社員との違いが何に起因するかを健診データから発見しようと調査した結果,BMIで示す値と未熟児出産との間に,有為な相関があることを発見しました.医療の専門家ではないものの,データを眺めていて発見した事実に基づき,この健保組合では女性社員に説得力のある統計値(証拠)を見せ,過度な痩せすぎへの注意を喚起しました.その結果,この健保組合の女性社員が未熟児を出産する件数が激減し,負担が軽減されたこの組合は黒字に転換したそうです.これは,回りまわって医療費抑制にも通じることで,厚生労働省からも注目されています.以上,いずれも,医師ではない素人の成果です.どうしてそれができたのでしょう?数学的な処理能力ではなく,先入観にとらわれなかったことが最大のポイントだと思います.専門家は専門領域の視点でしかデータをみない傾向にありますが,それでは既知の延長線上でしか判断できず,関連性が未知のデータの間に有為な相関がある場合,これをみつけることができません.現在,幸いにも医療現場へのIT導入が進み,大量のデータを電子的に扱える環境になってきました.コンピュータの処理能力を利用して新たな視点での因果関係の発見,傾向分析ができる条件が整ってきたということです.医療ビッグデータをknowledge-discoveryindatabases視点でマイニングし,data→information→intelligenceとなるよう新たな視点でデータを見直し,大量データの鉱山からの宝石発見を期待したいところです..その他“風が吹けば桶屋が儲かる”という話があります.図2に示すように,いささかこじつけな遷移ではありますが,実際に起こったことを長期間観察すると思いもつかない因果関係があることを言い表したもので,ある意味でデータマイニングの過程に通じるものがあると思います.風が吹くホコリが舞う目にホコリが入る目の悪い人が増える目の不自由な人の代表的な職業である三味線引きが多くなる三味線のために猫の皮が必要になる猫が少なくなるネズミは食料難になる天敵が少ないのでネズミが増える仕方なく桶をかじる桶の修理や注文が増える桶屋が儲かる図2“風が吹けば桶屋が儲かる”の因果関係☆☆☆1844あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(106)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 139.Terson症候群の発症機序(研究編)

2014年12月31日 水曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載139139Terson症候群の発症機序(研究編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめにTerson症候群は,くも膜下出血に続発する硝子体出血である.本疾患の発症機序としては,くも膜下出血による急激な頭蓋内圧亢進により視神経内の網膜中心静脈を圧迫する説,視神経周囲のくも膜下腔に流入したくも膜下出血が眼内に直接流入する説がある.前者は眼底に網膜中心静脈閉塞症様の所見がみられないので否定的と考えられるが,後者では視神経周囲のくも膜下腔の出血がなぜ眼内に流入するのかが今まで不明であった.●Terson症候群の眼底所見とMRI所見くも膜下出血をきたした早期の症例の眼底検査を行うと,大半の例で視神経乳頭周囲に内境界膜下血腫をきたしている(図1).硝子体手術を施行した際にも,視神経乳頭周囲に内境界膜下血腫および内境界膜.離を多くの症例で認める.このことは,くも膜下出血発症初期には内境界膜下血腫が生じ,その後に内境界膜が破綻して硝子体出血に進展する可能性を強く示唆している.筆者らはTerson症候群の発症初期の網膜前出血をきたした症例のMRIを撮影し,興味深い所見を得た.MRIのT2強調画像では,視神経周囲くも膜下腔周囲に高輝度の陰影を認め,くも膜下腔が出血で拡大している所見が観察された.さらに3DMRangiographyでは,視神経の中心部位が篩状板からその後方の約10mmの範囲にわたって高輝度を呈していた(図2).この部位は網膜中心動静脈の走行と一致していた.●くも膜下腔とVirchow.Robinspace中枢神経系実質の血管周囲にはVirchow-Robin腔といわれる間隙があり,くも膜下腔に通じていることが報告されている.網膜も脳の一部と考えられるので,視神経内に進入してくる網膜中心動静脈周囲にも,くも膜下(103)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY図1Terson症候群発症早期の眼底写真大半の例で視神経乳頭周囲に内境界膜下血腫をきたしている.図23DMRangiography所見視神経乳頭の中心部が,篩状板からその後方の約10mmの範囲にわたって高輝度を呈している.これは網膜中心動静脈の走行に一致している.図3Terson症候群の発症機序くも膜下腔の出血が視神経周囲のくも膜下腔に流入し,さらに網膜中心動静脈周囲の空隙に流入して,視神経乳頭周囲の血管周囲腔を伝って内境界膜下出血をきたす.腔から連続するVirchow-Robinspace様の空隙が伸びている可能性が考えられる.そして,その空隙の先端が視神経乳頭周囲血管の周囲まで伸びているとすると,この経路を伝ってくも膜下腔の出血が内境界膜下に流れ込み,内境界膜下血腫を形成する可能性がある.●Terson症候群の発症機序に関する新しい説以上の結果から,筆者らはTerson症候群の発症機序を以下のように推察している.まず,くも膜下出血が視神経周囲のくも膜下腔に流入し,さらに網膜中心動静脈の血管周囲腔をつたって眼内に流入する.視神経乳頭周囲の血管に沿って存在する空隙に出血が流入し,内境界膜下血腫を形成し,その後内境界膜が破綻して硝子体出血に至る(図2).この説によって,過去に筆者らが観察しえた臨床所見のほぼすべてを説明することが可能であり,現時点ではもっとも可能性の高い発症機序ではないかと考えられる.文献1)SakamotoM,NakamuraK,ShibataM,IkedaT:MagneticresonanceimagingfindingsofTerson’ssyndromesuggestingapossiblevitreoushemorrhagemechanism.JpnJOphthalmol54:134-139,20102)池田恒彦,坂本理之,柴田真帆,中村公俊:テルソン症侯群の発症機序.眼科54:159-164,2012あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141841

眼科医のための先端医療 168.アンジオポエチン様因子2と角膜血管・リンパ管新生

2014年12月31日 水曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第168回◆眼科医のための先端医療山下英俊アンジオポエチン様因子2と角膜血管・リンパ管新生豊野哲也JohnsHopkinsUniversity,WilmerEyeInstitute東京大学眼科角膜の透明性と血管・リンパ管新生角膜の透明性には,「無血管組織であること」が大きく貢献していますが,さまざまな刺激や侵襲により角膜内へのマクロファージ浸潤や,炎症性サイトカインの発現上昇などが生じると,角膜実質内に血管新生が生じる場合があります.血管が侵入した角膜では,脂質やタンパクの漏出が起こり,混濁や瘢痕が生じて視機能が脅かされますが,一般臨床で用いられるような角膜内への血管新生を防ぐ治療法は存在せず,透明性が失われた後は角膜移植術に依存しているのが現状です.ところが,血管侵入を伴う混濁角膜に対する全層角膜移植では,術後の拒絶反応発症率が約2倍,移植片不全発症率が約1.3倍に上昇することが報告されております1).さらに,新生血管が生じている角膜には,同時にリンパ管の侵入もみられます.炎症に伴い角膜内に浸潤したマクロファージの一部(CD11b陽性)が,直接リンパ管内皮細胞に分化することが報告されております2).角膜へのリンパ管侵入は,炎症局所で抗原を認識した抗原提示細胞の所属リンパ節やリンパ組織への移動を容易にさせ,さらなる炎症反応を引き起こします.アンジオポエチン様因子とはアンジオポエチン様因子(angiopoietinlikeprotein:Angptl)は,血管新生因子のひとつで,angiopoietinの構造上の特徴であるcoiled-coildomain,fibrinogenlikedomainをもつものの,Tie1やTie2といったangiopoietin受容体には結合しない分子群の総称で,8種類同定されています.その中で,Angptl2は慢性炎症を基盤としたさまざまな疾患(関節リウマチ,皮膚筋炎,メタボリックシンドローム,癌,癌転移など)で強く発現し,病態に関与していることが示唆されています3).また,眼内の実験的急性炎症モデルにおいても病態に関1838あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014与していることが報告されています4).Angptl2と炎症性角膜血管・リンパ管新生筆者らは,炎症性血管・リンパ管新生角膜におけるAngptl2の影響についてマウスモデルを用いた検討を行いました5).角膜実質通糸によるマウス炎症性角膜血管・リンパ管新生モデルでは,Angptl2の発現が角膜上皮細胞,実質細胞,浸潤マクロファージおよび新生血管内皮細胞に上昇することが確認できました.そこで,Angptl2ノックアウトマウスおよびAngptl2過剰発現トランスジェニックマウス(角結膜の基底細胞に強制発現)を用いてAngptl2の発現の有無が角膜血管新生およびリンパ管新生に影響するかどうかを検討しました.野生型(WT)マウスと比較して,Angptl2ノックアウトマウスでは血管・リンパ管新生が抑制され,Angptl2過剰発現トランスジェニックマウス(K14-Angptl2)では血管・リンパ管新生の亢進がみられました(図1).また,Angptl2は角膜へのマクロファージ浸潤,炎症性サイトカインの発現を亢進させることが確認されました.これらの結果から,Angptl2は角膜血管新生,リンパ管新生の両方に促進的に働く因子であることがわかりました.Angptl2は血管内皮細胞,リンパ管内皮細胞,マクロファージのようにa5b1インテグリンが発現する細胞に作用することが報告されており6),角膜では上皮細胞,実質細胞(ケラトサイト)に発現しています.a5b1インテグリンの活性化は,Racを介したシグナル伝達による細胞運動性の向上,NF-kBシグナル経路の活性化に伴う炎症性サイトカインの発現上昇,p38MAPKの活性化を介したMMPの上昇などを引き起こし3),炎症角膜において血管およびリンパ管新生を促進させたと考えられます.新たな治療への可能性治療ターゲットとしてのAngptl2の可能性を検討するため,RNA干渉を用いて角膜のAngptl2遺伝子の発現を抑制し,炎症性角膜血管・リンパ管新生に影響するかどうかをマウスモデルで評価しました.その結果,炎症性角膜血管・リンパ管新生が共に抑制されることを確認しました.将来,核酸製剤などを用いて角膜血管・リンパ管新生の促進因子であるAngptl2の発現を抑制することができれば,臨床現場でしばしば遭遇するヘルペ(100)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY AK14Angptl2100μm野生型CD31LYVE-1BAreaofhemangiogenesis(%)C25*AreaofLymphangiogenesis(%)10987654321*201510500図1WTおよびK14.Angptl2における炎症性角膜血管・リンパ管新生A:角膜血管・リンパ管新生誘導後の角膜組織を摘出し,CD31(血管内皮マーカー)およびLYVE-1(リンパ管内皮マーカー)で免疫染色した.B,C:血管新生領域,リンパ管新生領域ともにK14-Angptl2群で有意に拡大した(*p<0.05,各n=6)ス実質炎後の角膜血管新生や全層移植後の拒絶反応予防2372,2005などへの新たな治療戦略に繋がる可能性を秘めていま3)KadomatsuT,EndoM,MiyataKetal:Diverserolesofす.今後さらなる研究が行われ検証されることが期待さANGPTL2inphysiologyandpathophysiology.TrendsinEndocrinology&Metabolism25:245-254,2014れます.4)KandaA,NodaK,OikeYetal:Angiopoietin-likeprotein2mediatesendotoxin-inducedacuteinflammationintheeye.LaboratoryInvestigation92:1553-1563,2012文献5)ToyonoT,UsuiT,YokooSetal:Angiopoietin-likepro-1)BachmannB,TaylorRS,CursiefenC:Cornealneovascu-tein2isapotenthemangiogenicandlymphangiogenicfactorincornealinflammation.InvestOphthalmolVisScilarizationasariskfactorforgraftfailureandrejectionafterkeratoplasty:anevidence-basedmeta-analysis.54:4278-4285,2013Ophthalmology117:1300-1305,20106)TabataM,KadomatsuT,FukuharaSetal:Angiopoietin2)MaruyamaK,IiM,CursiefenCetal:Inflammation-likeprotein2promoteschronicadiposetissueinflammationandObesity-RelatedSystemicInsulinResisinducedlymphangiogenesisinthecorneaarisesfromCD11b-positivemacrophages.JClinInvest115:2363-tance.CellMetabolism10:178-188,2009WTK14-Angptl2WTK14-Angptl2■「アンジオポエチン様因子2と角膜血管・リンパ管新生」を読んで■血管新生は多くの眼科疾患の増悪因子であり,以前尿病黄斑症の治療に大きな進歩をもたらしたのはご存から精力的に研究されてきましたが,その成果は抗血じのとおりです.管内皮増殖因子(VEGF)薬として結実しました.抗しかし,抗VEGF薬が多くの症例に使用された結VEGF薬が加齢黄斑変性治療に希望の灯を燈し,糖果,その問題点が明らかになってきました.VEGF(101)あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141839 は恒常性維持に必要であり,抗VEGF薬を長期間使新生誘導力もあまり強くないと予想されていました.用すると,血管関連の合併症が現れることがありまところが豊野先生たちの研究で,ANGPTL2の抑制す.また,血管新生の父といわれたFolkman博士がで十分な血管新生抑制効果があることが証明されまし予言した現象,単一薬物による治療は必ず薬剤耐性をた.つまり,抗ANGPTL2薬は,抗VEGF薬の代替生じるという問題も危惧されています.そのため,現薬あるいは併用薬として十分な効果が期待できる可能在でもVEGF以外の多くの血管新生因子について継性があるのです.続的に研究されています.その一つが,今回紹介されFolkman博士が,初めて血管新生因子について報たangiopoietinlikeprotein(ANGPTL)2です.告したのは,前眼部を用いた実験でしたが,その結果この分子がユニークな点は,glucose,lipid,エネが全身でも適用可能なことがわかり,血管新生は大きルギー代謝に関連し,肥満,糖尿病といったいわゆるな学問に発展しました.とくに角膜は介入と観察が容メタボ疾患における増悪因子であるということです.易であり,invitroでみられた現象がinvivoで再現また,分泌量に日内変動がある点はホルモンと似通っ可能であるかを調べることができる臓器です.今回のています.ANGPTL2は通常量では正常組織構造を角膜を用いた研究成果は,角膜治療に留まらず,後眼維持する方向に働きますが,ある量を超えると炎症,部あるいは全身的血管新生の抑制治療に発展して行く血管新生などの有害事象を誘導します.このような分ことが期待される重要なものであるといえます.子は,一般的には副次的働きをすることが多く,血管鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆1840あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(102)

新しい治療と検査シリーズ 223.光干渉断層計レバミピドクリアランス試験

2014年12月31日 水曜日

新しい治療と検査シリーズ223.光干渉断層計レバミピドクリアランス試験プレゼンテーション:井上康・越智進太郎眼科康誠会井上眼科コメント:藤本雅大京都大学医学部眼科学教室宮崎千歌兵庫県立塚口病院眼科.バックグラウンド涙液動態の解析を目的とした涙液クリアランス測定の歴史は古く,Maurice1)が開発したフルオロフォトメーターを用いて,Mishima2)らが1966年に最初の報告を行っている.その後,涙液のみならず房水などの動態解析に関しても多くの報告があるものの,現在国内ではフルオロフォトメーターが市販されていないこともあり,臨床応用には至っていない.近年,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の普及はめざましく,眼底や前眼部の解析には必須の検査法となりつつある.涙液の分野においてもOCTの光源が赤外光であるため被検者が眩しくなく,非侵襲下での測定が可能であることから,涙液メニスカスの測定などへの応用が始まっている..新しい検査法OCTにより懸濁性点眼液の粒子を撮影することが可能であり,懸濁粒子の平均反射輝度(meangrayvalue:MGV)から懸濁粒子濃度を算出し,濃度変化から懸濁粒子のクリアランス率を求めることができる.懸濁粒子の動態が涙液の動態と一致すれば,懸濁粒子クリアランスは涙液クリアランスと一致すると考えられる.レバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%,大塚製薬)は他の懸濁点眼液と比べて粒子径が2μmと最小で粘度も低く,その動態が涙液の動態と近いことが予測されること,懸濁粒子濃度がもっとも高く,長時間の測定が可能なことから,トレーサーとして用いた.RS-30002%1%0.5%0.125%0.0625%0.03125%0.015625%0.0078125%CASIAレバミピド濃度(mg/ml)10.10.010.0010.00010.00001RS-3000:y=0.0000552e0.0299xMGVR2=0.993CASIA:y=0.00000937e0.0286xMGVR2=0.967050100150200250MGVRS-3000CASIA図1上:模擬眼におけるレバミピド希釈液のOCT像.下:MGVとレバミピド濃度の相関(97)あたらしい眼科Vol.31,No.12,201418350910-1810/14/\100/頁/JCOPY 急速相--2-30.5-4-40.40.5-5TMH(mm)Ln(レバミピド濃度)-6-7緩徐相0.40.30.2Ln(レバミピド濃度)TMH(mm)-50.3-6-7-80.20.1-9-8BL0min1min2min3min4min点眼後の経過時間n=38レバミピド濃度TMH5min00.1図3点眼麻酔下でのレバミピド濃度とTMHの経時変化レバミピド濃度TMH0-9BL0min1min2min3min4min5min6min7min8min点眼後の経過時間n=16図2レバミピド濃度とTMHの経時変化TMHとレバミピド濃度の経時変化を示す.TMHは点模擬眼での測定において,後眼部OCT(RS-3000,ニデック)ではレバミピド濃度=0.0000552e0.0299×MGV…①(R2=0.993)3)前眼部OCT(SS-1000CASIA,トーメーコーポレーション)ではレバミピド濃度=0.00000937e0.0286×MGV(R2=0.967)の関係式が得られ,MGVとレバミピド濃度の間には強い相関が得られた(図1)..実際の検査法本稿では前眼部アダプターを装着したRS-3000を用いての測定方法について述べる.オートコントラストはオフにし,下方涙液メニスカスのみを高解像度で測定するため,垂直方向の測定幅を2mmに設定する.マイクロピペットを用いて10μlのレバミピドを点眼し,点眼前と点眼直後から1分間隔で点眼5分後まで撮影を行う.ImageJ1.48v(NIH)を用いて撮影した画像のMGV,涙液メニスカス高(tearmeniscusheight:TMH)を解析する.①式により涙液メニスカス内のMGVからレバミピド濃度を求め,涙液クリアランス率(%/min)=Ln(slope)×100から涙液クリアランス率を算出する..本法の良い点前眼部OCTのみならず前眼部アダプターを装着すれば,広く普及している後眼部OCTでも涙液クリアランスを測定することができる.図2に正常人38眼の1836あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014眼直後から点眼2分後まで増加を示し,点眼後3分後以降は点眼前の状態に戻っている.点眼直後から点眼2分後までは反射分泌による量的負荷状態の,点眼後2~5分後は量的負荷のなくなった状態での涙液クリアランスを示していると考えられる.点眼麻酔を用いない本法では,点眼後約5分でMGVが測定下限以下になるため,従来報告されている5分以降の基礎分泌下の涙液クリアランスを測定することができない.点眼麻酔の5分後に同量のレバミピドを点眼すれば,点眼刺激による涙液クリアランスの亢進を抑制し,急速相における濃度低下を抑えることにより長時間の測定が可能であり,基礎分泌下の涙液クリアランス率を測定することができる.図3に点眼麻酔下のレバミピド濃度の経時的変化を示す.点眼後5分以降は直線的に減少しており,涙液クリアランス率が一定の値に達した基礎分泌下の状態にあると考えられる.得られた基礎分泌下の涙液クリアランス率は21.4±13.8%/minであった.本法に改良を加えることでさらに精度を高めることが可能であり,今後,流涙症の診断および治療の評価に用いられることを期待している.文献1)MauriceDM:Anewobjectivefluorophotometer.ExpEyeRes2:33-38,19632)MishimaS,GassetA,KlyceSDetal:Determinationoftearvolumeandtearflow.InvestOphthalmol5:264-275,19663)井上康,越智進太郎,山口昌彦:レバミピド懸濁点眼液をトレーサーとした光干渉断層計涙液クリアランステスト.あたらしい眼科31:615-619,2014(98) あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141837(99)涙液クリアランス率算出へとつなげる点,スマートな検査法といえる.気になる点は,涙液クリアランス率のデータ結果にややばらつきがあり,正常値と異常値の境界の決定がむずかしいことである.涙道閉塞があったとしても,結膜からのレバミピドの吸収や,分泌される涙液による希釈などにより,レバミピドの濃度が低下することが予想され,またその濃度低下に個体差も生じると考えられる.さらに精度の高い涙液クリアランス測定の確立を期待する.涙道外来で一般的に行われている検査として,涙液メニスカス高(TMH)測定,蛍光色素残留試験,涙管通水検査などがあげられる.とくにTMH測定に関しては,今回の報告と同様,前眼部OCTを使用した測定の報告があり,より正確な量的データが得られることとなる.今回の検査法は涙液動態という側面から量的データを得ようとする試みである.トレーサーとして懸濁液であるレパミピドへの着目,OCT画像のImageJによる輝度解析で輝度とレバミピド濃度相関を計算し,.「光干渉断層計レバミピドクリアランス試験」へのコメント.☆☆☆あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141837(99)涙液クリアランス率算出へとつなげる点,スマートな検査法といえる.気になる点は,涙液クリアランス率のデータ結果にややばらつきがあり,正常値と異常値の境界の決定がむずかしいことである.涙道閉塞があったとしても,結膜からのレバミピドの吸収や,分泌される涙液による希釈などにより,レバミピドの濃度が低下することが予想され,またその濃度低下に個体差も生じると考えられる.さらに精度の高い涙液クリアランス測定の確立を期待する.涙道外来で一般的に行われている検査として,涙液メニスカス高(TMH)測定,蛍光色素残留試験,涙管通水検査などがあげられる.とくにTMH測定に関しては,今回の報告と同様,前眼部OCTを使用した測定の報告があり,より正確な量的データが得られることとなる.今回の検査法は涙液動態という側面から量的データを得ようとする試みである.トレーサーとして懸濁液であるレパミピドへの着目,OCT画像のImageJによる輝度解析で輝度とレバミピド濃度相関を計算し,.「光干渉断層計レバミピドクリアランス試験」へのコメント.☆☆☆

私の緑内障薬チョイス 19.サンピロ®

2014年12月31日 水曜日

連載⑲私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載⑲私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也19.サンピロR三嶋弘一東京逓信病院眼科サンピロRは副交感神経の刺激により瞳孔括約筋の収縮をうながし,縮瞳させる点眼薬である.サンピロRは長期に使用すると虹彩後癒着を起こすことがあるほか,毛様体筋への作用により最周辺部隅角狭小化効果もあるなど注意が必要であるが,本症例のような原発閉塞隅角緑内障(PACG)の眼圧上昇に対して,外科的治療までのつなぎとして有用であることもある.症例76歳,男性.現病歴:平成26年2月21日,他院より紹介状持参にて初診となる.以前は中国にて眼科通院していたが,平成24年より日本在住となり,前医初診となる.緑内障と診断され,トラボプロスト左眼1回点眼にて加療されていた.眼圧は両眼ともに10~15mmHgにて推移していたとのことである.転居に伴い,転院となった.現症:右眼眼圧14mmHg,左眼眼圧17mmHg.前房浅めにてvanHerick法にて右3度,左1度.隅角鏡検査ではShaffer分類にて両眼とも上下0度,耳側1度,鼻側スリット状.右眼は上方に小さな周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)が2つあり,左眼は上方象限の半分くらいPASのようであった.静的隅角鏡検査では,両眼とも第一眼位にて3象限にて線維柱帯下端までは見えず,occludableangleの状態と考えられた.眼底にて右視神経乳頭には緑内障性変化を認めなかったが,左眼は陥凹拡大を認め,上耳側に網膜神経線維層欠損(nervefiberlayerdefect:NFLD)を認めた.超音波生体顕微鏡検査(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)を施行したところ,暗所にて右3象限,左4象限にて隅角閉塞をきたしていた.以上より原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)と考えられた.経過UBMの画像(図1,2)からは虹彩の膨隆やや認めるが,プラトー虹彩のメカニズムもありそうで,レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)のみで十分な効果があるか不明である.白内障にて視力低下もきたしてお(93)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY図1左眼耳側隅角,暗所下でのUBM画像隅角閉塞が認められる.図2左眼耳側隅角,明所下でのUBM画像生理的縮瞳により隅角はスリット状に開いている.り,できれば最大の隅角開大効果が見込める白内障手術が望ましいと考えられた.しかし,家庭の事情や言葉の問題(日本語でのコミニュケーション不可)などからすぐの手術は不可能とのことで,ひとまずトラボプロスト点眼継続にて経過観察とした.5月23日再診時,右眼本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141831 眼圧17mmHg,左眼眼圧23mmHgと左眼の眼圧上昇を認めた.PACGの進行に伴う眼圧上昇と考えられたため,家族とも相談のうえ,白内障手術を検討していく方針となった.その間の隅角閉塞を抑えることを目的に,サンピロR2%左眼点眼4回を開始した.5月29日再診時,右眼眼圧15mmHg,左眼眼圧15mmHgと左眼眼圧が下降していたため,手術までサンピロR継続とした.6月17日左眼に超音波乳化吸引術(PEA)+眼内レンズ挿入術(IOL)を施行した.術後経過良好にて,緑内障点眼なしにて,左眼眼圧14mmHg前後にて経過している.まとめ本症例はPACGにて眼圧上昇してきたものであるが,治療の原則としては(機能的を含む)隅角閉塞により眼圧上昇をきたしていると考えられるので,隅角の開大が期待できる治療が望まれる.LI,あるいは白内障手術が適応となるが,白内障にて視力低下きたしていることもあり,白内障手術を選択した.待機中の高眼圧に対しLIを施行することは,後に白内障手術を施行することを考えると角膜内皮への負担が最大となると考えられ,避けたい.bブロッカーや炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)などの点眼薬はPGほどの降圧効果は見込めず,また隅角開大をめざす基本原則に反する.サンピロR点眼薬は縮瞳による隅角閉塞抑制効果が見込めることから,良い適応と考えられる.この場合,サンピロR使用も短期間であることから,虹彩後癒着を起こす心配もない.本症例のような原発閉塞隅角緑内障の眼圧上昇に対して,外科的治療までのつなぎとして有用であると思われる.●1832あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(94)

抗VEGF治療:標準治療と個別化医療

2014年12月31日 水曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二11.標準治療と個別化医療柳靖雄東京大学滲出型加齢黄斑変性(AMD)の抗VEGF療法における標準治療(ラニビズマブ0.5mgの場合には毎月投与,アフリベルセプト2.0mgの場合には8週ごとの投与)と個別化治療(必要時投与PRN[prorenata]およびT&E[treatandextend])にはメリットとデメリットがある.実臨床の現場では標準治療より個別化医療が選択されていることが多く,わが国ではPRNが,米国ではT&Eが選択されることが多いが,最適な個別化治療の方法はいまだ模索段階にある.はじめに滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)の治療の目標は,治療導入期で視機能を改善し,長期にわたり視機能を維持することである.大規模臨床試験の結果からは,ラニビズマブ(ルセンティスR)で良好な視力予後を得るためには,毎月画一的に投与することが望ましいことが示されている1~3).一方,アフリベルセプト(アイリーアR)では,導入期では3回の毎月投与を行い,その後2カ月に1度投与を行うことによって,多数の症例で良好な視力予後が得られることが示されている4).個別化医療は治療薬に対する反応性を個別に評価し,治療薬の投与方法を改変する投与方法である.AMDでは治療薬に対する反応がさまざまであり,まだ初診時の所見から適切な治療プロトコールを計画することは困難である.さらに,治療反応性を規定するような遺伝子の候補はいくつか報告されているものの,治療を行う際の一般的な検査と考えるには時期尚早である.このため,AMDの個別化治療においては初期治療(導入期の治療)が行われた後に経過観察により再発のタイミングを観察することで個々の症例に適切な投与を行うことが一般的である.方法はPRNとT&Eである(図1).PRNについてPRN〔prorenata(ラテン語:必要時投与の意味.頓用などの意味にも使われる)〕とは導入期で病態の安定(滲出性変化のコントロール,黄斑のドライ化)が得られた後に,毎月1度の経過観察に基づいて投与を決定する方法である(図2).PRNは厳密に行うことが肝要であり良好な視力を得るためには,SpectraldomainOCT(91)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYで定性的に滲出性変化を検討し,滲出性変化を認めた場合にはなるべく早めに追加投与を行うプロトコールがよいと認識されている3).患者ごとに個別の対応が可能であり,過剰な治療が避けられ,投与回数を少なくできる点がこの方法のメリットであると考えられる.しかしながら,滲出性変化が出現してから投与を行うため,事後対応的な要素(reactivecomponent)を含んだ治療と位置づけられる.短期間の滲出性変化であっても網膜への障害は避けられないため,毎月の投与と比較して視力予後は若干劣っている.さらに,実臨床における問題点は滲出性がみられた時点で投与を行えない場合があることや,滲出の残存,再発を認めても自覚症状,視力の悪化がなければ投与を躊躇する場合があることも問題点と考えられる.また,長期にわたって継続的に診療を行うことが必要であり,多くの患者を診療する施設では外来診療患者数が増え,適切な患者管理が行えなくなっていることも問題点である.このため過小投与になる傾向があり,長期の視力予後が悪くなる可能性に留意しなければならない.滲出性変化が見られれば,治療:事後対応的投与予防的投与黄斑のドライ化治療,診療間隔の延長滲出性変化の残存もしくは出現診療,治療期間の短縮(カ月)1023456789101112PRN(asneeded)Bi-monthly*TreatandExtend黄斑がドライ化:診療,注射間隔の延長*TreatandExtend滲出性の残存が見られた場合図1加齢黄斑変性の維持期の個別化治療あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141829 図2PRNの症例T&EについてT&Eは来院時には必ず抗VEGF薬の投与を行い,投与時の所見に基づいて次回の治療日を決定するプロセスを数回経て,最終的に患者ごとの適切な固定投与間隔を決定する方法である(図3).定まった方法が存在しないが,海外で行われている一般的な治療5)では,黄斑に滲出性変化が消失しドライ化が得られるまで毎月投与を継続し,滲出性変化が消失した後は,来院,投与間隔を2週間ずつ延長する.ただし,投与間隔を延長した後に滲出の再発が認められた場合には,来院,投与間隔を2週間ずつ短縮,つまり,黄斑のドライ化が得られていた間隔まで短縮する.何度か延長と短縮を行い,再発がみられない適切な投与間隔を決定し,滲出性変化をきたす前に抗VEGF薬を定期的に投与する.予防的治療(proactivetreatment)を行い,病態悪化を避けることを目標にしている.実際には適切な投与間隔を決定するまでに事後対応的な要素がまったく含まれないということではないが,再発がみられない適切な投与間隔をみつければ,期間を固定して予防的に投与することが可能であ1830あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014図3T&Eの症例る.投与間隔は,最小で4週間,最大で8~12週間とすることが多い.また,投与間隔の調整は投与時のOCT検査による滲出性変化以外に新規の出血も考慮して行う.PRNと比較しての最大のメリットは,病状の悪化する前に投与可能であることであり,このため,年間の投与回数は比較的多くなるが良好な視力を維持できる可能性がある.また,T&EではPRNと比較すると病状の悪化を告げられる患者の精神的負担が軽減される点,投与間隔の個別化や来院回数の減少が可能である点,投与日があらかじめ決定されているため患者,付添人のスケジュール調整や医療機関の来院,投与当日のスケジュール管理が比較的容易となる点もメリットである.さらに院内フローも視力,OCT検査を終えた後に,検査結果に基づいて次回の来院,注射日を決定した後に注射を行えるため,PRNと比較してシンプルである.文献1)BrownDM,KaiserPK,MichelsMetal:ANCHORStudyGroup:Ranibizumabversusverteporfinforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1432-1444,20062)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal;MARINAStudyGroup:Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1419-1431,20063)MartinDF,MaguireMG,YingGSetal:CATTResearchGroup:Ranibizumabandbevacizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed364:1897-1908,20114)Schmidt-ErfurthU,KaiserPK,KorobelnikJFetal:Intravitrealafliberceptinjectionforneovascularage-relatedmaculardegeneration:ninety-six-weekresultsoftheVIEWstudies.Ophthalmology121:193-201,20145)GuptaOP,ShienbaumG,PatelAHetal:Atreatandextendregimenusingranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegenerationclinicalandeconomicimpact.Ophthalmology117:2134-2140,2010(92)

緑内障:スウェプトソース前眼部OCTを用いた狭隅角眼における隅角閉塞の網羅的解析

2014年12月31日 水曜日

●連載174緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也174.スウェプトソース前眼部OCTを用いた三嶋弘一東京逓信病院眼科狭隅角眼における隅角閉塞の網羅的解析前眼部画像解析は狭隅角眼の隅角閉塞の検出に有用である.スウェプトソース前眼部OCTは,高速かつ高解像に画像取得可能であるため,隅角ほぼ全周における隅角閉塞領域の網羅的解析ができる可能性がある.●狭隅角眼における前眼部画像解析狭隅角眼における隅角の評価は,主に隅角鏡検査で行われてきた.近年,超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)や前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomograph:OCT)などの前眼部画像解析装置が開発され,隅角解析に応用されている.これらの前眼部画像解析では,隅角閉塞の起こりやすい暗所下での隅角の断層像が取得可能であり,機能的隅角閉塞をより高頻度に検出できる(図1).前眼部OCTはUBMと比較し,撮像範囲が広いため両端隅角を含む前眼部断層像が得られる.フーリエドメイン方式の一つであるスウェプトソース前眼部(anteriorsegmentswept-source:AS-SS-)OCTであるSS-1000CASIA(トーメーコーポレーション)では,より高速かつ高解像の測定が可能であり,約2秒にて128枚のBスキャン画像を軸回転方向に取得でき,これらの128枚の画像からほぼ全周に近い隅角画像を得ることができる.●AS.SS.OCTを用いた狭隅角眼における隅角閉塞の網羅的解析SS-1000CASIAに搭載されているITC(iridotrabecularcontact:虹彩線維柱帯接触)解析ツールを用いることで,ほぼ全周隅角における隅角閉塞の網羅的解析を行うことができる.ITCとは,前眼部画像解析による隅角画像上において隅角閉塞をきたしている状態と定義され,周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)と機能的隅角閉塞を含む概念である.隅角画像において,強膜岬(SS)と線維柱帯面と虹彩表面との接触端点(EP)を同定することで,ITCの範囲とその高さを定量的に解析することが可能となる(図2,3).図3は59歳,女性,耳側vanHerick1度の狭隅角症例の右眼暗所下でのITC解析結果である.隅角鏡検査ではPASはなく,Shaffer分類にて上方,耳側,下方が1度,鼻側が2度の状態であった.ITC解析からは,暗所下では上方と下方において散発的なITCが認められている.また,全周のうち,28%の領域で隅角閉塞をきたしていることがわかった.筆者らは,耳側vanHerick2度以下の狭隅角眼43例図1前眼部OCTでとらえられた機能的隅角閉塞明所下にて縮瞳状態(右)では隅角は開放しているのに対し,暗所下にて生理的散瞳状態(左)では隅角閉塞が認められる.(89)あたらしい眼科Vol.31,No.12,201418270910-1810/14/\100/頁/JCOPY 図2SS.1000CASIAでのITC解析強膜岬(SS:赤色×)および虹彩線維柱帯接触端点(EP:黄色十字)をプロットする.EPがSSを超えていなければITC(.)(右図),EPがSSを超えていればITC(+)となる(左図).(文献1より改変)図3SS.1000CASIAでのITC解析ITCの範囲,高さ,面積がチャート形式,グラフ,数値によって示される.EP(緑線)がSS(赤線)を超えた部分がITC(+)となる.表1狭隅角眼におけるITC範囲の比較PAS(.)眼(n=33)PAS(+)眼(n=10)p*合計p†明所21.9±20.9%46.9±24.5%0.00627.7±24.0%0.0001暗所44.4±24.0%61.6±26.4%0.0848.4±25.4%PAS:peripheralanteriorsynechia*MannWhitneytest,†Wilcoxonsignedranktest43眼において隅角鏡検査,UBMによる上方,耳側,下方,鼻側の4方向隅角画像解析,そしてAS-SS-OCTによるITC解析を行った.その結果,隅角鏡検査で認められたPASは,すべてAS-SS-OCTにおいてITCとして認められた.また,UBMにてITCが1カ所以上認められたものは43眼中,明所下,暗所下にてそれぞれ22眼(51.1%),36眼(83.7%)であったのに対し,AS-SS-OCTではそれぞれ40眼(93.0%),42眼(97.7%)であり,明所下ではAS-SS-OCTはUBMよりも有意に高頻度にITCを検出した(p=0.0001,signtest).ITC範囲を比較したところ,暗所下では明所下よりも有意に広いITC範囲が検出された(p=0.0001).また,明所下ではPAS(+)眼においてPAS(.)眼よりも有1828あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(文献1より改変)意に広いITC範囲が検出されたのに対し(p=0.006),暗所下では有意な差はなかった(p=0.08)(表1).このことから,明所下においても広い隅角閉塞領域が存在することがPASの形成につながる可能性が示唆された.AS-SS-OCTを用いた隅角の網羅的ITC解析ではITCの検出頻度が高く,またITC範囲というパラメータが狭隅角眼の隅角解析に有用である可能性が示唆された.文献1)MishimaK,TomidokoroA,SuramethakulPetal:Iridotrabecularcontactobservedusinganteriorsegmentthree-dimensionalOCTineyeswithashallowperipheralanteriorchamber.InvestOphthalmolVisSci54:46284635,2013(90)

屈折矯正手術:角膜クロスリンキング前後の屈折変化

2014年12月31日 水曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載175大橋裕一坪田一男175.角膜クロスリンキング前後の屈折変化加藤直子埼玉医科大学眼科角膜クロスリンキングは,円錐角膜の進行を停止させる手術である.個々の症例をみると,術後に角膜形状が若干平坦化し,乱視度数が軽減するものもあるが,その変化はわずかである.角膜クロスリンキング単独で視機能を改善させるほどの効果はなく,視機能の改善には他の屈折矯正法を組み合わせる必要がある.●はじめに角膜クロスリンキングは円錐角膜の進行を停止させる治療である1).その歴史はまだ10年あまりと短いが,世界各国で多くの円錐角膜症例に対して施行され,90%以上で円錐角膜の進行停止効果が確認されている.●原理リボフラビンに長波長紫外線を照射することで発生する一重項酸素の作用で,角膜実質のコラーゲン線維間の架橋結合を増加させる.架橋結合が増えたコラーゲン線維は直径がわずかに増加し,角膜全体の剛性が高まるこ3に示すのは,角膜クロスリンキングを行った26例29眼(男性16例,女性10例,22.2±6.2歳)の術前から術後にかけての強主経線上の角膜屈折力(図1),自覚等価球面値度数(図2),自覚円柱乱視度数(図3)である.いずれも術前値と比べて統計的に有意な変化はみられない.それを反映して,最終観察時の最高眼鏡矯正視力は70%以上の症例で不変である(図4).一方,角膜クロスリンキングにより角膜屈折力は若干平坦化するという報告がある3).実際に自験例でも個々0.00-2.00自覚等価球面度数(D)とで眼圧による角膜の前方突出が予防されると考えられている2).角膜の透明性は維持され,重篤な合併症はまれである.●治療効果-4.00-6.00-8.00-10.00-12.00角膜クロスリンキングは,円錐角膜の進行を停止させPre1W1M3M6M1Yる治療であり,屈折異常を矯正する効果はない.図1~図2角膜クロスリンキング後の自覚等価球面度数の変化角膜クロスリンキング後,自覚等価球面度数は術前値と比べて有意な変化はない.70強主経線上角膜屈折力(D)円柱乱視度数(D)0.0060-1.00-2.00-4.00-3.00-6.00-5.0050Pre1W1M3M6M1Y図1角膜クロスリンキング後の強主経線上角膜屈折力の変化角膜クロスリンキング後,強主経線上角膜屈折力は術前値と比べて有意な変化はない.(87)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY-7.00-8.00Pre1W1M3M6M1Y図3角膜クロスリンキング後の自覚円柱乱視度数の変化角膜クロスリンキング後,自覚円柱乱視度数は術前値と比べて有意な変化はない.あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141825 80%70%60%50%40%30%20%10%0%2段階低下不変2段階改善3段階以上改善図4角膜クロスリンキング後の最高眼鏡矯正視力の変化角膜クロスリンキングを受けた症例の77%で,最終観察時の最高眼鏡矯正視力は術前値と比べて不変である.の症例ごとにみると,平坦化していると思われる症例はある.図5に,29歳女性の円錐角膜症例での角膜クロスリンキング術前から術後1,3,6カ月までの角膜形状の変化を示す.この症例は1年前まで眼鏡矯正視力が良好であったにもかかわらず,半年余りの間に乱視が著しく進行し,矯正視力も0.8に低下し,角膜形状解析検査にて明らかな円錐角膜パターンが確認された.術前の強主経線上の角膜屈折力は50.1Dであったが,角膜クロスリンキング術後1カ月目には50.5Dと若干急峻化した.しかし,3カ月目には49.5Dと術前値よりわずかに減少し,術後6カ月目には48.1Dとさらに減少し,術前と比べて2.0Dの平坦化がみられた.この症例では,自覚屈折度数は等価球面で術前.6.13D,術後6カ月目で.6.25D,円柱乱視度数は術前.2.75D,術後6カ月目で.2.00Dで,術後に乱視度数にも減少がみられた.しかし,これらの変化はごくわずかであるため,患者が大きな改善を自覚するほどではなく,実際に最高眼鏡矯正視力は不変であった.●手術適応筆者の施設では,角膜クロスリンキングの手術適応を,直前の2年間以内に強主経線上の角膜屈折力,自覚等価球面度数,自覚円柱度数のいずれかが1.0D以上増加している症例と定めている.したがって,術後に角膜の急峻化が止まり,逆にわずかながらも角膜の平坦化やカカカ図5角膜クロスリンキング前後の角膜形状の変化角膜クロスリンキング後角膜形状には一見してわかる変化はみられない.乱視の減少がみられることから,これらの症例で角膜クロスリンキングにより円錐角膜の進行が停止していることはまず間違いないと考えられる.しかし,角膜クロスリンキングによる屈折変化はごくわずかであり,屈折矯正効果が期待できるものとはとてもいえない.視機能を改善させるためには,術後にコンタクトレンズの装用や他の屈折矯正手術の併用が必須であることを,術前からよく説明しておく必要がある.文献1)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Riboflavin/ultraviolet-ainducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkeratoconus.AmJOphthalmol135:620-627,20032)WollensakG,WilschM,SpoerlEetal:Collagenfiberdiameterintherabbitcorneaaftercollagencrosslinkingbyriboflavin/UVA.Cornea23:503-507,20043)KollerT,PajicB,VinciguerraPetal:Flatteningofthecorneaaftercollagencrosslinkingforkeratoconus.JCataractRefractSurg37:1488-1492,20111826あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(88)

眼内レンズ:多焦点トーリック眼内レンズ

2014年12月31日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋338.多焦点トーリック眼内レンズビッセン宮島弘子東京歯科大学水道橋病院多焦点にトーリック機能が加わった多焦点トーリック眼内レンズ(intraocularlens:IOL)が承認を受け,角膜乱視例への適応が広がった.手術方法は,IOLの乱視軸を角膜強主経線に合わせる操作が加わるのみのため,乱視矯正角膜切開術を施行していない術者でも導入が容易で,術後に良好な遠方および近方裸眼視力が得られている1,2).●IOLの特徴本セミナーで紹介するのは,厚生労働省の承認を得たアルコン社のAcrySofRIQReSTORRトーリックで,前面が近方加入+3.0Dの多焦点IOL(SN6AD1),後面がトーリックIOL(SN6AT)と同じデザインになっている(図1).したがって,最適近方視の距離が40cm,矯正可能な角膜乱視度数は表1のごとくである.●IOLモデル決定ウェブ上のトーリックカリキュレーターでAcrySofRIQReSTORRMultifocalToricIOLを選択し,角膜曲率3.0mm前面後面13.0mm図1AcrySofRIQReSTORRトーリック前面が近方加入+3.0Dの多焦点IOL(SN6AD1),後面がトーリックIOL(SN6AT)と同じデザインになっている.表1各モデルの円柱矯正度数IOLモデル円柱矯正度数(D)IOL面角膜面SND1T31.501.03SND1T42.251.55SND1T53.002.06SND1T63.752.57(85)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY半径,各施設の方法で計算されたIOL球面度数,切開位置,術後惹起乱視を入力する.近年,角膜後面乱視を考慮した角膜全乱視が注目されているが,多くの施設では角膜前面乱視のみの計測になるので,乱視軸によってカリキュレーターの推奨モデル,あるいは1モデル強め,あるいは弱めを選択する.●手術方法基本はトーリックIOLと同じである.仰伏位による眼回旋を考慮し,術前に座位にて基準点(水平あるいは垂直)をマークし,IOLの乱視軸を,基準点を参考に求められた強主経線位置に合わせる.近年,術前に撮影した画像の結膜血管を術中の手術顕微鏡下の結膜血管と照合させ,眼回旋を補正して正しい強主経線位置を提示する装置が開発され(図2),これによって,術前や術中のマーキングなしでトーリックIOLの位置を合わせるこ図2マーキングを用いない術中の乱視軸合わせ手術顕微鏡画面にオーバーレイされた角膜強主経線位置(黄色矢印)にIOLの乱視軸マークを合わせる.これにより,術前の基準点マーキングや術中の乱視軸マーキングが必要なくなる.あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141823 図3多焦点トーリックIOL挿入後の波面収差解析結果乱視マップにて,角膜収差と内部収差(主にIOL)が打ち消し合い,眼球収差が軽減しているのがわかる.とができるようになった.●術後成績わが国における臨床試験での成績が報告されている2).術前角膜乱視が1.0D以上の症例でも,術後に良好な裸眼視力が得られている.以前,同施設で行われた角膜乱視の少ない症例にトーリック機能をもたない多焦点IOLを挿入した臨床成績と比較しても3),同等あるいはそれ以上の結果であった(表2).また,IOL軸位置のずれは術後1年で5.7±4.4°で,多くのトーリックIOLの報告と変わりなかった.これらの結果から,今後,角膜乱視がある症例で多焦点IOLを希望する場合,多焦点トーリックIOLを用いることで,より良好な裸眼視力が得られることになる.最近経験した症例を紹介する.62歳,女性,術前視力が右0.09(0.8x.4.75Dcyl.2.00/30°)左0.06(1.0x.4.50Dcyl.3.25/160°),角膜乱視が右(,).2.20@8°,左.3.09@166°の白内障例に右眼SND1T5,左眼SND1T6を挿入し,術後両眼とも遠方裸眼視力1.5,近方視力1.0が得られている.波面収差解析にて,IOLで乱視成分が軽減されているのが確認できる(図3).直乱表2多焦点トーリックIOL挿入後の両眼裸眼視力多焦点トーリックIOL(SND1T3-6)2)乱視の少ない例への多焦点IOL(SN6AD1)3)症例数65例130眼64例128眼平均年齢66.4±9.9歳68.8±6.2歳遠方(5m)≧0.798.5%96.8%≧1.078.5%76.2%近方(40cm)≧0.4100%100%中間(100cm)≧0.778.5%73.0%視とはいえ,トーリック機能のない多焦点IOLでは得られない良好な術後成績と思われる.●おわりに多焦点トーリックIOLは,今までは海外で使われている多焦点トーリックIOLを輸入して,限られた施設のみで使用されてきたが,国内で臨床試験を行い,安全性と有効性が確認され,承認を得たIOLの使用が可能になった.今後,角膜乱視例で多焦点IOLを断念していた症例に適応が広がることが期待される.文献1)AlfonsoJF,KnorzMC,Fernandez-VegaLetal:Clinicaloutcomesafterbilateralimplantationofanapodized+3.0Dtoricdiffractivemultifocalintraocularlens.JCataractRefractSurg40:51-59,20142)中村邦彦,ビッセン宮島弘子,林研ほか:着色非球面多焦点乱視矯正眼内レンズ(SND1T3,SNDAT4,SND1T5,SND1T6)の白内障摘出眼を対象とした臨床試験成績.日眼会誌,印刷中3)ビッセン宮島弘子,林研,吉野真未ほか:近方加入+3.0D多焦点眼内レンズSN6AD1の白内障摘出眼を対象とした臨床試験成績.あたらしい眼科27:1737-1742,2010

コンタクトレンズ:屈折検査(2)自覚的屈折検査のコツ

2014年12月31日 水曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一7.屈折検査(2)自覚的屈折検査のコツ梶田雅義梶田眼科●はじめにオートレフラクトメータ(以下,オートレフ)が普及していない時代には,最小錯乱円矯正を求めた後に乱視を検出して,最良視力が得られる最弱屈折値を求めていた.オートレフの性能が向上した昨今では,乱視を先に矯正して自覚的屈折検査を行うほうが現実的である.●自覚的屈折検査の手順測定の初期値設定注意深く測定した1)オートレフのデータをもとに,円柱レンズ度数はオートレフの球面度数から0.75D減じた値の検眼レンズを,オートレフの円柱軸度に10°ステップで近似して検眼枠に装入する.球面度数はオートレフの測定値から.0.75Dを減じた検眼レンズを検眼枠に装入する.非測定眼の検眼枠には遮蔽板を装入する.●視力値の判定視力検査を行うときに,回答結果が正しかったか誤っていたかを被験者に知らせてはいけない.被験者が「わかりません」と回答したのを採用してはいけない.被験者には必ず回答をしてもらい,回答視標数に対する正答表1視力判定基準標準閾値準標準閾値1視標1正答2視標2正答3視標3正答4視標3正答5視標3正答5視標4正答6視標4正答7視標4正答8視標5正答9視標5正答10視標6正答文字視標を含む場合には準標準閾値を採用し,ランドルト環のみに視力表の場合には標準閾値を用いる.(83)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY数の割合で視力値を判定する(表1).回答するのに考え込んでしまうような状況を作らないように,一定のリズムで進めるのがよい.測定のフローチャート(図1)①初期設定の状態で視力表を読ませて,矯正視力値を判定する.この時点ですでに1.0以上の視力値が出ている場合には,球面度数をさらに.0.75D減じて,一度は1.0未満の矯正視力が得られる矯正度数を取得する.②.0.25Dずつ矯正度数を増して,1.0を超える最良視力が得られる最弱屈折値を求めれば測定は終了である.③1.0を超える矯正視力が得られる前に球面矯正度数がオートレフの球面度数を超える場合には,乱視矯正度数を0.25Dあるいは0.50D強めて,最初から測定をやり直す.④乱視矯正度数もオートレフの値を超える場合には,自覚的に乱視度数を求めて,検査をやり直す.●自覚的乱視の測定自覚的に乱視を求めるのは乱視表(図2)を用いるの図1自覚屈折検査のフローチャート一度は視力が1.0未満になる矯正度数を求めることで,近視の過矯正が防げる.最初に0.75Dの乱視を残して検査を行うことで,被験者の乱視に対する感受性をチェックすることができ,個人ごとに異なる快適な乱視矯正を提供できる.球面値がオートレフ未満で視力値1.0未満球面値がオートレフ値に達しても1.0未満の時オートレフの円柱値より大きいオートレフの円柱値より小さい視力値1.0以上1.0未満スタート球面度数に+0.75Dを加える球面度数に-0.25Dを加える視力値視力値1.0以上あるいは球面・円柱ともに完全矯正に達したとき円柱度数に-0.50Dor-0.25Dを加える終了円柱度数自覚的乱視検査あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141821 1822あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(00)が一般的であるが,スリット板を用いるほうが容易に測定できる.スリット板を用いる方法(図2)①最小錯乱円の矯正から.1.00Dを減じて,スリット板を検眼枠に加える.②スリット板を回転させて,視力表の全体の見え方を問う.視力表全体の見え方に変化があれば,正乱視が存在する.③スリット板を回転させて,視力表全体がもっとも鮮明に見えるところでスリット板を止める.このときのスリット方向がマイナス円柱レンズの軸度である.④この状態で,球面度数のみで最良視力値が得られる最弱屈折値を求める.この球面レンズ度数〔S1〕が,自覚的屈折値の球面度数である.⑤続いて,スリット板を90°回転させて,球面レンズを.0.25Dずつ追加を繰り返して,最良視力値が得られる最弱屈折値を求める.このときの球面度数〔S2〕と④で求めた〔S1〕の差〔S2-S1〕が,自覚的屈折値の円柱レンズ度数である.これらの方法で求めた自覚的屈折値は片眼で最良視力が得られる最弱屈折値を求めたものであり,快適な視力が得られる矯正度数ではない.矯正用具の処方にはこの後に,両眼同時雲霧法2)で適正な矯正度数を求める必要がある.●近方視力検査標準的な近方視力検査表は30cmで測定するものが多いが,遠近両用眼鏡や遠近両用コンタクトレンズを処方するときには40cmで測定する近方視力表を用いるほうが,処方成功率が高くなる.●赤緑試験(レッドグリーンテスト)矯正度数の適正を判定するために用いられている赤緑試験であるが,調節ができる眼ではまったく適切に判定されていない事実はあまり知られていない.赤緑試験の原理は光の波長が異なることで,凸レンズ(角膜と水晶体)を通った光は赤色のほうが緑色よりも後ろで収束し,白色光はその間に存在するため,赤色が明瞭に見えて,緑色が不明瞭であれば,白色光は網膜よりも前で収束しており,過矯正ではないと判定するものである.しかし,調節ができる眼では,赤色の焦点が網膜面後方にずれると,赤色が網膜面で正しく結像するように調節をしてしまうため,過矯正の判定には役に立たないのである.もちろん調節麻痺薬使用時や眼内レンズ挿入眼では有用である.文献1)梶田雅義:コンタクトレンズセミナー6.屈折検査(1).あたらしい眼科31:1633-1634,20142)梶田雅義,山田文子,伊藤説子ほか:両眼同時雲霧法の評価.視覚の科20:11-14,1999ZS937図2スリット板絆創膏でスリットを塞いで遮蔽板の代用にしている施設が多いが,スリット板として活用していただきたい.