特集●正常眼圧緑内障の最新事情あたらしい眼科33(1):35~43,2016特集●正常眼圧緑内障の最新事情あたらしい眼科33(1):35~43,2016正常眼圧緑内障の点眼治療AnUpdateReviewofMedicalTreatmentinNormal-TensionGlaucoma鈴木克佳*はじめに正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG)は,世界の地域によって有病率に差があるが,日本人の緑内障のうち70%以上を占める病型で1),日常診療であたり前に遭遇する疾患である.その高い有病率の裏返しにNTGのバリエーションは大きく,診断および治療には多くのグレーゾーンが存在する.NTGは慢性の経過を辿ることが多く(図1),すぐそこに迫る視機能障害の危機はない.しかしながら,治療下でも徐々に確実に進行する症例も存在する(図2).現在,NTGは原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)のベースライン眼圧が低い病型という定義付けから,NTGの治療戦略はPOAGに準じる.緑内障治療の原則である眼圧下降においてさまざまな作用機序を有する緑内障点眼薬が使用できるようになり,手術治療に頼らずに点眼治療でコントロールできる範囲は以前より広くなった.本稿では,近年のNTGに対する薬物治療の研究結果に基づいてNTGの点眼治療のひとつの考え方を示し,将来のNTG治療法として期待される眼圧非依存性の治療候補薬について紹介する.INTGを対象としたRandomisedClinicalTrialNTGの治療や経過観察の参考となった2つの興味深い無作為化臨床試験(randomisedclinicaltrial:RCT)がある.CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy(CNTGS)は,NTGを対象に手術治療で眼圧下降率を30%以上にした治療群と無治療群を比較したRCTである.約3分の1の症例は3年以内に,約半数の症例が5~7年で視野障害の進行を認めたが,治療群では手術治療で生じた白内障の進行を除外すると,視野障害の進行が抑制されたという結果が得られ,ベースライン眼圧が低いNTGでも眼圧下降治療が有効であることが証明された2).もう一つのLow-pressureGlaucomaTreatmentStudy(LoGTS)は,ブリモニジン酒石酸塩0.2%(ブリモニジン)とチモロールマレイン酸塩0.5%(チモロール)の2つの治療群に分けて視野障害進行の抑制効果を比較したRCTである.ブリモニジン群とチモロール群の眼圧下降効果は同等であったにもかかわらず,ブリモニジン群では視野障害進行が有意に抑制されたことから,眼圧下降作用以外の作用機序で視神経を保護する可能性が示唆された3).これら2つのRCTの治療や経過の結果はお互いに共通したものではなく,NTGが眼圧に依存する病態と眼圧に依存しない病態の二面性,または多因子による発症・進行形式であることを浮き彫りにした.どちらのRCTも薬物を用いた眼圧下降治療による緑内障の視野障害進行抑制効果を直接証明しておらず,現時点でNTGを対象とした点眼治療で視野障害進行抑制を明らかにしたエビデンスレベルの高いRCTはない.近年発表されたUnitedKingdomGlaucomaTreatmentStudy(UKGTS)は,緑内障薬物治療の第一選択薬であるプロスタグランジン関連薬(prostaglan*KatsuyoshiSuzuki:鈴木眼科,山口大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕鈴木克佳:〒755-0155山口県宇部市今村北4丁目26-8鈴木眼科0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(35)35ベースライン視野ベースライン視野MDスロープ進行判定図1進行が遅いNTG症例のGPA(guidedprogressionanalysis)結果初診時40歳(ベースライン視野は43歳時)で10年間治療中.初診時眼圧16mmHgでプロスタグランジン関連薬の単独投与後にプロスタグランジン関連薬・交換神経b遮断薬の配合剤に変更して眼圧は11~13mmHg.MD(meandeviation)スロープが緩やかで進行が遅い.ベースライン視野ベースライン視野MDスロープ進行判定図2進行が速いNTG症例のGPA結果初診時67歳で10年間治療中.初診時眼圧16mmHgで炭酸脱水酵素阻害薬・交換神経b遮断薬の配合剤と交感神経a2作動薬の併用で眼圧は11~13mmHg.MDスロープが急峻で進行が比較的速い.経過途中で視神経乳頭出血を生じた.眼圧下降率約22%以上NTGの非進行率眼圧下降率約13%以下p=0.012(log-rank検定)0.00501001502001.00.80.60.40.2経過観察期間(月)図3点眼治療下でのNTGの生存曲線(非進行率)(文献5より改変転載)III眼圧変動と片眼トライアルベースライン眼圧が低いために,治療による眼圧下降幅や眼圧下降率がPOAGほど期待できないNTGでは,POAG以上にベースライン眼圧の把握が重要である.眼圧日内変動は眼圧が高いほど,その変動幅が大きいことが知られており7),ほとんどのNTG症例でも眼圧変動がみられる8).NTGの体位変換を考慮したHabitual24時間眼圧(用語解説参照)の変動幅は4.0~6.8mmHgと報告されており,測定時間や測定環境によって大きく変化することがわかる8,9).健常者と比較してNTGを含む緑内障では眼圧左右差が大きくなる傾向にあるが,約90%のNTGでは眼圧左右差が3mmHg以内で,日中眼圧はほぼ並行して変動するとされている10).したがって,NTGにおいて薬物による眼圧下降治療の効果を把握するためには薬物治療開始前にベースライン眼圧(平均眼圧)および眼圧変動(とくにピーク時眼圧)を把握し,まず片眼トライアル(用語解説参照)で治療を開始するほうが,治療効果をより正しく評価できる.IV単剤治療による眼圧下降効果現在の緑内障薬物治療の第一選択薬は,眼圧下降効果が強く維持されるPGである.主経路を介する房水流出動態における眼圧下降値は,上強膜静脈圧(8~10mmHg)に影響されるが,上脈絡膜腔の圧(約4mmHg)38あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016表1ベースライン眼圧からの眼圧下降効果(眼圧値と眼圧下降幅)ベースライン眼圧眼圧下降30%眼圧下降20%眼圧下降10%2114.7(6.3)16.8(4.2)18.9(2.1)2014.0(6.0)16.0(4.0)18.0(2.0)1913.3(5.7)15.2(3.8)17.1(1.9)1812.6(5.4)14.4(3.6)16.2(1.8)1711.9(5.4)13.6(3.4)15.3(1.7)1611.2(4.8)12.8(3.2)14.4(1.6)1510.5(4.5)12.0(3.0)13.5(1.5)149.8(4.2)11.2(2.8)12.6(1.4)139.1(3.9)10.4(2.6)11.7(1.3)128.4(3.6)9.6(2.4)10.8(1.2)117.7(3.3)8.8(2.2)9.9(1.1)*眼圧20mmHg以上は眼圧変動幅によってはPOAGと診断される場合も多い.にしか影響されない副経路からの流出を促進するPGはベースライン眼圧の低いNTGをさらに眼圧下降させることに適していると考えられる.これまでのNTGに対するPGの眼圧下降効果についての臨床研究結果によると,ラタノプロストの眼圧下降率は約13~24%,ビマトプロストは約16~28%,トラボプロストは約14~24%,タフルプロストは約14~23%と報告されている11~21).これらのPG単剤投与で30%以上の眼圧下降率を達成した症例は対象の5~20%である一方で,約10%の症例で眼圧下降率が10%未満のノンレスポンダーだったという報告もあり,眼圧下降効果が強いとされるPGでも投与前後の眼圧変化を正しく評価せず,漫然と使用することは慎まなければいけない.交感神経a2作動薬であるブリモニジンは,房水産生抑制と副経路からの房水流出を促進し,その眼圧下降率は約16%と報告されている3).房水産生を抑制する交感神経b遮断薬のうち,チモロールの眼圧下降率は13~21%,ニプラジロール0.25%の眼圧下降率は約6~19%,ベタキソロール塩酸塩0.5%(ベタキソロール)の眼圧下降率は約17%と報告されている22~24).同様に房水産生を抑制する炭酸脱水酵素阻害薬であるドルゾラミド塩酸塩(ドルゾラミド)の眼圧下降率は約17%と報告されている24).個々の報告ではなく,点眼治療に関する複数のRCTを対象とした眼圧下降率のピーク値とトラフ値(用語解説参照)のメタアナリシス(用語解説参照)によると,ブリモニ(38)プラセボベタキソロールチモロールドルゾラミドブリンゾラミドブリモニジンラタノプロストビマトプロスト眼圧下降率(%)図4点眼薬の眼圧下降率のピーク値のメタアナリシス(文献25より転載)ジンが24%と11%,ビマトプロストが21%と18%,ラタノプロストが20%と20%,チモロールが15%と18%,ドルゾラミドが14%と12%で,ブリンゾラミドとベタキソロールの眼圧下降率のピーク値はそれぞれ13%と12%である(図4,5)25).ブリモニジンの眼圧下降率はピーク値が大きくトラフ値が小さいため,眼圧変動の高眼圧相を狙って下降させることに適しており,PGは眼圧下降率のピーク値とトラフ値の差が小さいため,24時間にわたって一律に眼圧を下降させることに適している.大きな眼圧変動は,眼圧と視神経乳頭出血に次いで緑内障の発症・進行の危険因子として報告されていることが多く5),眼圧変動幅の抑制を意識して薬剤を選択することも重要である.V薬物併用療法による眼圧下降効果点眼薬の単剤投与で十分に眼圧下降が得られない場合や,眼圧下降率30%以上を達成していても視野障害の進行がみられる症例においては,さらなる眼圧下降を図るために2剤目の追加,または,2剤目の追加手段として配合剤への変更を検討すべきである.既報によると,ラタノプロストにブリンゾラミドを追加した場合の眼圧下降率は約11%,チモロールを追加した場合は約15%と報告されている26).ラタノプロスト単剤またはトラボプロスト単剤での治療群とそれぞれのチモロールを含む配合剤での治療群を比較すると,単剤治療群は治療後6カ月間の眼圧下降率は約18~19%で,配合剤治療群では約25~28%と報告されている27).PGを含まないドルゾラミドとチモロールの配合剤(39)-5051015202530プラセボチモロールドルゾラミドブリモニジンラタノプロストビマトプロスト眼圧下降率(%)図5点眼薬の眼圧下降率のトラフ値のメタアナリシス(文献25より転載)(DTFC)による眼圧下降率は約22%と報告され28),DTFCで治療し眼圧を15mmHg前後にコントロールしていたNTGをトラボプロストとチモロールの配合剤(TTFC)とラタノプロストとチモロールの配合剤(LTFC)の2群に無作為に振り分けて,クロスオーバーで比較した試験では,TTFCが約16%,LTFCが約7%の追加の眼圧下降率があり,PGを含む配合剤のほうがPGを含まない配合剤よりも眼圧下降効果が大きかった29).PG単剤治療で眼圧を16mmHg前後にコントロールしていたNTGにDTFCを追加した場合の追加の眼圧下降率は約12%で,60%以上の症例で10%以上の眼圧下降率があったと報告されている30).これらの結果から配合剤や併用療法は,単剤治療よりも10%前後の眼圧下降率を追加できるため,眼圧下降率20%以上を達成する可能性は高い.ただし,NTGを対象に点眼薬を追加・併用する際には,実際の眼圧下降幅が小さく正しい評価が困難な場合もあり,単純に眼圧下降効果だけでなく,点眼アドヒアランスの維持,眼圧日内変動の抑制,後述する眼血流や眼灌流圧などへの影響,潜在的な神経保護効果についても配慮すべきである.VI点眼治療の眼循環への影響NTGにおける緑内障性視神経症の特徴として視神経乳頭出血の頻度が多いことが昔から知られており,多変量解析結果から実際に眼圧以外でNTG発症・進行の重要な危険因子として視神経乳頭出血の頻度が証明されたことは,NTGの発症・進行の病態に血流障害機序を強く疑う根拠である.視神経乳頭部の毛細血管網や灌流する主要血管の血流測定結果でも,緑内障眼における血流あたらしい眼科Vol.33,No.1,201639-505101520253040あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016(40)害進行の抑制効果には結びついていない.VII神経保護治療緑内障性視神経症の分子生物学機序である網膜神経節細胞死を抑制し保護する治療は,緑内障の根本的な治療法となる可能性が高い.網膜神経節細胞死をきたす機序には,①神経の発達・分化・再生に必須な因子である神経栄養因子や,シナプスでそれらに結合する蛋白質の減少による逆行性軸索輸送(用語解説参照)の障害,②興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸によるN-meth-yl-D-aspartate(NMDA)受容体の過剰刺激を介した細胞内への高濃度カルシウムの流入と細胞内酵素の活性化による細胞障害,③外因性および内因性刺激によるアポトーシス(用語解説参照)のシグナル伝達経路の活性化,④活性酸素の産生と除去のアンバランスによる酸化ストレス障害,⑤過剰な一酸化窒素によるアポトーシスの促進,⑥中枢神経系においてマクロファージのように機能するグリア細胞であるミクログリア(用語解説参照)の過剰活性化による炎症性サイトカインや活性酸素などの毒性物質を介した障害などが考えられている(図7).これらの機序に対して,不足した神経栄養因子や神経栄養因子輸送に必要な結合蛋白質の投与や,アポトーシスのシグナル伝達経路の阻害薬を投与すること,神経保護に働く免疫応答を賦活化させることなどで,網膜神経節細胞死を抑制しようと試みられており,動物や細胞実験においてある一定の成果が得られている34).しかしながら,これらの候補薬の実験結果と臨床試験の結果には現時点では大きな乖離がある.NMDA受容体阻害薬でアルツハイマー病の治療薬としてすでに認可されているメマンチンを用いた2つのRCTでは,その有効性が証明されなかった.また,漢方薬として服用されるイチョウの葉エキスが酸化ストレスを抑制するという実験結果に基づいて行われたRCTでは,視野障害抑制の有効性は証明されなかった.カルシウムチャンネル阻害薬(カルシウム拮抗薬)であるニルバジピンの内服投与には,視野障害進行の抑制と視神経乳頭リム構造や血流の維持を示唆した報告があるが,単施設研究であるため,多施設によるRCTでの再検証が必要である35).細胞実験において網膜神経節細胞のアポトーシスを抑制する効果が障害が報告されている31,32).視神経乳頭部では眼灌流圧(用語解説参照)の変化に対して血流量を一定に維持しようとする自動調節機構が働くことが知られている.眼灌流圧は眼圧と血圧によって規定され,体勢や日内変動によって変化し(図6),この変動の大きさ,とくに夜間の眼灌流圧の低下はNTG進行の危険因子と報告されている31,33).夜間の血圧低下によって夜間の眼灌流圧が低下するため,全身の循環調節不全の影響が疑われているが,緑内障の発症・進行への関与については結論が出ていない.眼灌流圧の公式には眼圧が含まれていることから,眼灌流圧は点眼治療による眼圧下降によって介入できる因子である.PGは全身副作用がほとんどないため,血圧へは影響せずに眼圧を下降させることから理論上は眼灌流圧を増加させる.PGはその眼圧下降の持続効果によって眼灌流圧の変動を抑制できる可能性があり,視神経乳頭の血流調節という点においてもPGはNTGの治療薬として適していると考えられる11).交感神経b遮断薬や交感神経a作動薬は血圧低下などの全身循環器系への影響もあり,眼灌流圧は不変または低下させるが,交感神経b遮断薬は眼血流そのものを改善することも報告されている31~33).循環障害という病態とそれを改善する治療法の可能性は示唆されているものの,現時点では血流改善による緑内障性視神経症および視野障心臓からの高さ(cm)心臓からの高さ(cm)眼圧平均動脈圧眼圧平均動脈圧眼灌流圧:57mmHg眼灌流圧:69mmHg図6眼灌流圧の体勢による変化(文献33より改変転載)心臓からの高さ(cm)心臓からの高さ(cm)眼圧平均動脈圧眼圧平均動脈圧眼灌流圧:57mmHg眼灌流圧:69mmHg図6眼灌流圧の体勢による変化(文献33より改変転載)神経栄養因子・軸索輸送結合蛋白質の不足ミクログリアの過剰活性化,免疫応答の減弱視神経乳頭部NMDA受容体を介した興奮毒性細胞死受容体,酸化ストレス,一酸化窒素によるアポトーシスROSNOアポトーシスNMDA受容体阻害薬:メマンチン,MK801CCB:フルナリジン,ニルバジピン,ベタキソロール可溶性TNF受容体:エタネルセプトカルシニューリン阻害薬:FK506カスパーゼ阻害薬:BIRC4酸化ストレス抑制物質:ビタミンE,コエンザイムQ10,ALA,SOD,イチョウ葉・クコの木エキス一酸化窒素毒性阻害物質:アミノグアニジン,SC-51ミクログリア抑制物質:ミノサイクリン,トリプトライド,テトランドリン免疫賦活化物質:Cop-1神経栄養因子:BDNF,NGF,CNTF結合物質:TrkBモノクローナル抗体1D7①②⑥③④⑤神経栄養因子・軸索輸送結合蛋白質の不足ミクログリアの過剰活性化,免疫応答の減弱視神経乳頭部NMDA受容体を介した興奮毒性細胞死受容体,酸化ストレス,一酸化窒素によるアポトーシスROSNOアポトーシスNMDA受容体阻害薬:メマンチン,MK801CCB:フルナリジン,ニルバジピン,ベタキソロール可溶性TNF受容体:エタネルセプトカルシニューリン阻害薬:FK506カスパーゼ阻害薬:BIRC4酸化ストレス抑制物質:ビタミンE,コエンザイムQ10,ALA,SOD,イチョウ葉・クコの木エキス一酸化窒素毒性阻害物質:アミノグアニジン,SC-51ミクログリア抑制物質:ミノサイクリン,トリプトライド,テトランドリン免疫賦活化物質:Cop-1神経栄養因子:BDNF,NGF,CNTF結合物質:TrkBモノクローナル抗体1D7①②⑥③④⑤図7網膜神経節細胞障害機序と神経保護治療の候補薬(分子)NMDA:N-methyl-D-aspartate,CCB:calciumchannelblocker,BDNF:brain-derivedneurotrophicfactor,NGF:nerve-growthfactor,CNTF:ciliaryneurotrophicfactor,TrkB:tropomyosinreceptorkinaseB,TNF:tumornecrosisfactor,BIPC4:baculoviralIAPrepeat-containingprotein-4,ALA:alpha-lipoicacid,SOD:supressedsuperoxidedismutase,ROS:reactiveoxygenspecies,NO:nitricoxide.認められ,すでに眼圧下降点眼薬としても臨床で用いられているブリモニジンは,LoGTSにおいてその視野障害進行抑制効果が証明されたが,ブリモニジン治療群では試験過程で薬剤アレルギーに起因する脱落例が多く,この結果のみでブリモニジン自体の神経保護効果とは解釈できない.VIII今後の展望NTGの点眼治療において眼圧下降のための点眼薬の選択肢が増えたことは,近年,現実的に前進した領域である.眼圧下降治療を適切に実践することで,NTGの眼圧依存性と眼圧非依存性の二面性または多因子関連性の病態がさらに明らかとなり,問題解決に向けた病態解明とその治療候補薬の検索も着実に前進している.点眼治療ではないが,近年,網膜疾患に対する抗血管内皮増殖因子薬の硝子体注射治療が確立されて後眼部への局所(41)■用語解説■Preperimetricglaucoma:緑内障性視神経症の構造異常をきたしているが,緑内障性視野障害を認めない病期の緑内障.Habitual24時間眼圧:眼圧は体位変換での全身の循環動態の変化によって変化する.Habitual24時間眼圧は,日中は座位で眼圧を測定し,夜間は仰臥位で眼圧を測定した値である.片眼トライアル:緑内障点眼薬を片眼だけに点眼し,僚眼との左右差を比較することで,点眼薬の眼圧下降作用の有無や程度を把握する方法である.交感神経b遮断薬は,片眼点眼することで僚眼の眼圧下降を生じることから,片眼トライアルには不向きである.トラフ値:薬物を反復投与したときの定常状態における次の投与直前の値.薬物による効果がもっとも薄れている状態での値と考えられる.メタアナリシス:複数の研究結果を統合して分析する手法や統計解析のこと.眼灌流圧:眼灌流圧(ocularperfusionpressure:OPP)は,平均動脈圧(meanarterialpressure:MAP),収あたらしい眼科Vol.33,No.1,201641縮期血圧(systolicbloodpressure:SBP),拡張期血圧(diastolicbloodpressure:DBP)と,眼圧(intraocularpressure:IOP)から計算する.眼球における血圧は末梢血管で測定する血圧とは異なり,心臓からの高さに伴って変化するため,座位と仰臥位では計算法が違う.MAP=DBP+1/3(SBP+DBP),OPP座位=(95/140×MAP)-IOP,OPP仰臥位=(115/130×MAP)IOP(平均血圧-眼圧)逆行性軸索輸送:神経細胞の軸索中でさまざまなものを運ぶ働きを軸索輸送と呼び,細胞体から軸索への輸送を順行性軸索輸送,逆に軸索末端から細胞体へ輸送を逆行性軸索輸送と呼ぶ.アポトーシス:積極的に引き起こされ,プログラムされた細胞死で,カスパーゼという酵素を介する.ミクログリア:中枢神経系で貪食作用を示し,免疫機能だけでなく異常代謝物などの回収を担当する細胞.白血球同様造血幹細胞に由来し,マクロファージの特殊型と考えられている.ミクロスフィア:ガラス,セラミック,プラスチックなどの素材からなる非常に微細で中空の粒子.薬剤を内部に貯めて徐放させる.-あたらしい眼科Vol.33,No.1,201643(43)18)InoueK,TanakaA,TomitaG:Effectsoftafluprosttreat-mentfor3yearsinpatientswithnormal-tensionglauco-ma.ClinOphthalmol7:1411-1416,201319)InoueK,ShiokawaM,FujimotoTetal:Effectsoftreat-mentwithbimatoprost0.03%for3yearsinpatientswithnormal-tensionglaucoma.ClinOphthalmol8:1179-1183,201420)SeiboldLK,KahookMY:Thediurnalandnocturnaleffectsoftravoprostinnormal-tensionglaucoma.ClinOphthalmol8:2189-2193,201421)MizoueS,NakanoT,FuseNetal:Travoprostwithsof-ZiaRpreservativesystemloweredintraocularpressureofJapanesenormaltensionglaucomawithminimalsideeffects.ClinOphthalmol8:347-354,201422)AraieM,ShiratoS,YamazakiYetal:Clinicalefficacyoftopicalnipradilolandtimololonvisualfieldperformanceinnormal-tensionglaucoma:amulticenter,randomized,double-maskedcomparativestudy.JpnJOphthalmol52:255-264,200823)InoueK,NoguchiK,WakakuraMetal:Effectoffiveyearsoftreatmentwithnipradiloleyedropsinpatientswithnormaltensionglaucoma.ClinOphthalmol5:1211-1216,201124)HarrisA,ArendO,ChungHSetal:Acomparativestudyofbetaxololanddorzolamideeffectonocularcirculationinnormal-tensionglaucomapatients.Ophthalmology107:430-434,200025)ChengJW,CaiJP,WeiRL:Meta-analysisofmedicalinterventionfornormaltensionglaucoma.Ophthalmology116:1243-1249,200926)NakamotoK,YasudaN:Effectofconcomitantuseoflatanoprostandbrinzolamideon24-hourvariationofIOPinnormal-tensionglaucoma.JGlaucoma16:352-357,200727)IgarashiR,ToganoT,SakaueYetal:Effectonintraocu-larpressureofswitchingfromlatanoprostandtravoprostmonotherapytotimololfixedcombinationsinpatientswithnormal-tensionglaucoma.JOphthalmol23:329-332,201428)KimTW,KimM,LeeEJetal:Intraocularpressure-low-eringefficacyofdorzolamide/timololfixedcombinationinnormal-tensionglaucoma.JGlaucoma23:329-332,201429)ShojiT,SatoH,MizukawaAetal:Hypotensiveeffectoflatanoprost/timololversustravoprost/timololfixedcombi-nationsinNTGpatients:arandomized,multicenter,crossoverclinicaltrial.InvestOphthalmolVisSci54:6242-6247,201330)MizoguchiT,OzakiM,WakiyamaHetal:Additiveintra-ocularpressure-loweringeffectofdorzolamide1%/timo-lol0.5%fixedcombinationonprostaglandinmonotherapyinpatientswithnormaltensionglaucoma.ClinOphthal-mol5:1515-1520,201131)WerneA,HarrisA,MooreDetal:Thecircadianvaria-tionsinsystemicbloodpressure,ocularperfusionpres-sure,andocularbloodflow:riskfactorsforglaucoma?SurvOphthalmol53:559-567,200832)FanN,WangP,TangLetal:Ocularbloodflowandnor-maltensionglaucoma.BiomedResInt2015:308505,201533)QuarantaL,KatsanosA,RussoAetal:24-hourintraocu-larpressureandocularperfusionpressureinglaucoma.SurvOphthalmol58:26-41,201334)SongW,HuangP,ZhangC:Neuroprotectivetherapiesforglaucoma.DrugDesDevelTher9:1469-1479,201535)AraieM,MayamaC:Useofcalciumchannelblockersforglaucoma.ProgRetinEyeRes30:54-71,2011