雲井弥生連載⑧二次元から三次元を作り出す脳と眼淀川キリスト教病院眼科はじめに両眼立体視の機序を視覚伝導路に沿って考える.今回は網膜である.網膜のON型細胞とOFF型細胞のしくみにより,像のコントラストを強調して脳に送り出すことができる.ON型双極細胞との関連でMARについてふれる.ON型細胞とOFF型細胞1,2)網膜の神経節細胞では,興奮によりスパイク発火頻度が増加し,抑制により発火頻度が減少をする(図1a).ある神経節細胞に微小電極を刺しこんだまま,細胞体を含むように小さな円形のスポット光を照射するとスパイク発火頻度は増加し(a),消灯すると減少する(b).スポット光を大きくしていくと,ある大きさで細胞の反応が最大になり(a),それ以上大きくすると反応は逆に弱くなる(c).最大反応の得られるスポットの大きさを中心野とよぶ.次に中心野には光を当てず,周辺にドーナツ型の光を照射すると細胞の発火頻度は減少する(d).ドーナツ型の光を消すと発火頻度が増加する(e).つまり細胞の中心野と周辺部分(周辺野とよぶ)で光に対する反応が逆になっている.中心野と周辺野を合わせて受容野,上記のような反応を示す細胞をON型とよぶ.反対に中心野照射で減少(f),周辺野照射で増加する(g)細胞もあり,OFF型とよぶ.照射・消灯時いずれにも反応する細胞をON-OFF型とよぶ.光を受ける範囲に比例して反応が強まるのではなく,中心野と周辺野の明暗の差や照射・消灯の時間的な変化に対して強く反応する形になっている.網膜に映る像のコントラストを強調し,物の輪郭や明暗をつかみやすくして脳に送り出している.網膜内のしくみ(図1b)2)光情報は視細胞(錐体・杆体)→双極細胞→神経節細胞へと進む.錐体・杆体とも光により過分極する.双極(93)細胞の段階で同心円型の受容野をもつON型,OFF型の2種類に分かれる.ON型双極細胞→ON型神経節細胞へ(ア),OFF型双極細胞→OFF型神経節細胞へ(イ),ONとOFFの二つの情報が並列して進むしくみになっている.情報の受け渡しもON型は内網状層内層,OFF型は外層でと,異なる深さで行われる.中心野の大きさは細胞の樹状突起の広がりを表す.周辺野の形成には水平細胞(H)やアマクリン細胞(A)がかかわっている.杆体→杆体双極細胞へ情報が進むが,こちらはON型のみである(ウ).やや細かくなるが,杆体双極細胞は神経節細胞とは直接つながらず,アマクリン細胞を介してON型・OFF型神経節細胞とつながる.明所では錐体,暗所では杆体が優位に働くが,薄暗いところでは両方が働く.それに対応するための構造かと推測するが,詳細は不明である.メラノーマ関連網膜症(MAR)ON型双極細胞との関連でメラノーマ関連網膜症(melanomaassociatedretinopathy:MAR)について述べる.癌関連網膜症(cancerassociatedretinopathy:CAR)は癌患者において網膜に存在する蛋白が癌組織に異所性に発現し,それに対する自己抗体が出現することで網膜の機能障害を生じるものである.夜盲,視野狭窄,光視症など網膜色素変性症と似た症状を呈するが,進行が早い.初期には眼底に異常を認めないが,視細胞障害を反映してOCTで網膜外層の菲薄化,ERGでa波・b波の振幅の著しい減弱を認める.特殊なものにMARがある.悪性黒色腫患者においてON型双極細胞に対する自己抗体が出現し機能障害を生じるものである.原因抗原の一つにTRPM1(transientreceptorpotentialcationchannelsubfamilyMmember1)という陽イオンチャネルがある.TRPM1は当初メラノサイトに発現する蛋白として報告されたが,後にON型双極細胞の陽イオンチャネルそのものであることが判明した3).症状はやはあたらしい眼科Vol.34,No.1,2017930910-1810/17/\100/頁/JCOPYa受容野刺激ON型細胞OFF型細胞中心野照射abfg全体照射c周辺野照射deba:神経節細胞の電気生理学的特徴.ON型は中心野照射により興奮し,周辺野照射により抑制される.OFF型は反対の反応を示す.b:網膜内のしくみ.(ア)錐体(cone)→ON型双極細胞(ONbipolarcell)→ON型神経節細胞(ONganglioncell).(イ)錐体(cone)→OFF型双極細胞(OFFbipolarcell)→OFF型神経節細胞(OFFganglioncell).(ウ)杆体(rod)→杆体双極細胞(rodbipolarcell)→アマクリン細胞(amacrinecell)→ON型・OFF型神経節細胞へ(青矢印で示す).H:水平細胞A:アマクリン細胞.り夜盲,光視症だが,視力は正常であることが多い.障ON型双極細胞のみのため,夜盲を呈する.害部位がON型双極細胞と局所的であるため,OCTでは異常を認めず,ERGが診断に必要である.所見はa文献波正常,b波減弱による陰性型,暗順応下での杆体反応1)Ku.erS:Dischargepatternsandfunctionalorganizationofmammalianretina.JNeurophysiol16:37-68,1953消失などである.2)福田淳・佐藤宏道:網膜内神経回路における情報処理.先天性疾患である完全型停在性夜盲も,ON型双極細脳と視覚─何をどう見るか,p48-68,共立出版,2002胞の機能不全により起こる.TRPM1遺伝子の変異が病3)KoikeC,ObaraT:TRPM1isacomponentoftheretinalONbipolarcelltransductionchannelinthemGluR6cas-因と報告された.いずれの疾患も杆体につながるのがcade.ProNatlAcadSciUSA107:332-337,201094あたらしい眼科Vol.34,No.1,2017(94)