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序説:眼瞼・結膜アレルギー

2016年3月31日 木曜日

●序説あたらしい眼科33(3):331.332,2016●序説あたらしい眼科33(3):331.332,2016眼瞼・結膜アレルギーAllergicBlepharitisandConjunctivitis森田栄伸*福島敦樹**皮膚科の視点から日常診療において,眼瞼や結膜の炎症を示す患者にしばしば遭遇する.しかし,この領域は眼組織と皮膚組織が接する特殊な構造を有するため,この領域の炎症は筆者にとって(多分,多くの皮膚科医や眼科医にとっても)苦手な分野である.ことに眼瞼に対するステロイド外用薬の使用については,いつも及び腰になり,十分な抗炎症効果を得られないこともしばしばである.このたび,高知大学医学部眼科学講座の福島敦樹先生から,眼科と皮膚科がタッグを組んで眼瞼・結膜アレルギーの特集をしようというお話をいただいた.この領域は眼科と皮膚科がかかわる領域であるため,眼科と皮膚科の双方からご執筆いただこうという企画である.皮膚科側の人選は筆者が担当し,これを機会に苦手な分野を克服すべく,この領域の疾患に造詣の深い先生方に解説をお願いした.まず皮膚のバリア機能を細胞構築の観点から精力的に研究を行っておられる慶応義塾大学の川崎洋先生・天谷雅行先生に「皮膚の構造と経皮感作」について解説していただいた.皮膚は生体が絶えず外界と接する所であり,きわめて巧妙な組織構築によりバリア機能を果たしていること,表皮のランゲルハンス細胞などが積極的な抗原取り込みを行っていることなどの最新の知見をまとめていただいた.次に「アトピー性皮膚炎にみられる眼瞼炎」の解説を埼玉医科大学の中村晃一郎先生にお願いした.その臨床像と注意すべき点をわかりやすくまとめていただいた.花粉症に伴って生じる「花粉眼瞼炎」については東京医科歯科大学の横関博雄先生に解説いただいた.横関先生は,杉花粉症に伴って眼瞼の炎症がみられることに早くから着目され,その機序や臨床像を研究されてきた.本稿では臨床的な観点からその概略をまとめていただいた.最後に感染症とアレルギーの鑑別について島根大学の千貫祐子先生と筆者が解説した.千貫先生には症例を豊富に提示していただき,診療上実用的な情報をまとめていただいた.本企画は,眼科と皮膚科医がそれぞれの立場から境界領域の問題に取り組んだ独創的なものになったと理解している.〔森田栄伸〕眼科の視点から本特集は眼瞼・結膜のアレルギーが関与する疾患に関して理解を深めることを目標に企画した.結膜炎は必然的に眼科医の守備範囲となるが,眼瞼炎は*EishinMorita:島根大学医学部皮膚科学講座**AtsukiFukushima:高知大学医学部眼科学講座0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(1)331 332あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(2)及び腰になり,皮膚科の先生方に診察をお願いすることがあるのではないかと思う.皮膚科の先生方は診察のルーチンとして組織切片を顕微鏡で観察し,病態を細胞生物学的な視点で考察される.実際,皮膚科の学会に参加させていただくと,話の展開が理路整然として科学的であり,眼科医は見習うべき点が多い.本特集は島根大学医学部皮膚科学講座の森田栄伸先生のご尽力により,日本皮膚科学会を代表する先生方に分担執筆していただくことができた.本特集を企画するに当たり,皮膚科医の視点と眼科医の視点を対比させることにより,それぞれの考え方を学ぶことができるように工夫した.皮膚科医の視点に関しては森田先生に概説していただいたので,筆者は眼科医の視点からの眼瞼・結膜アレルギーを概説する.まず,総論として「経結膜感作」について,日本大学の庄司純先生にご執筆いただいた.眼表面の免疫応答には,全身免疫系,粘膜免疫系,自然免疫系の3つの免疫系が働いており,これら3つの免疫系の相互作用により正の免疫応答と負の免疫応答が引き起こされ,疾患の発症と制御に関与することを強調されている.各論は,「アトピー眼瞼炎」について順天堂大学浦安病院の海老原伸行先生に,「花粉性結膜炎」について東京女子医科大学東医療センターの三村達哉先生に,そして「結膜炎における感染とアレルギーの見分け方」については高知大学の杉浦佳代先生・福田憲先生にまとめていただいた.成人型アトピー眼瞼炎は白内障・網膜.離患者を合併する重症型である.タクロリムスの局所製剤の登場により患者数が減少してきたこと,ステロイド緑内障を含むステロイドの副作用の発症率が低下する可能性を強調されている.ただし,眼科と皮膚科の境界領域疾患であり,両科が共同して治療にあたることが大切であると締めくくられている.花粉性結膜炎は対症療法がおもな治療であり,完治は難しい.今後の診療においては,舌下免疫療法などの根治療法や予防療法が魅力ある選択肢となりうることと,セルフケアの重要性を強調されている.アレルギー性結膜炎は頻度が高いが,同様に細菌性,ウイルス性,クラミジアなどの感染性結膜炎も少なくない.アレルギー性結膜炎と感染性結膜炎との鑑別のポイントを強調され,両者を合併する可能性にも注意を払うべきと述べられている.眼科医が執筆した項目ではこれまでの知識を整理し,今後の展望を理解していただければと思う.皮膚科医が執筆された項目を熟読していただくことにより,アレルギー眼瞼炎の診療に新たな視点で臨むことができるのではないかと思う.〔福島敦樹〕

手稲渓仁会病院における鈍的外傷による眼球破裂の治療成績

2016年2月29日 月曜日

《原著》あたらしい眼科33(2):313.318,2016c手稲渓仁会病院における鈍的外傷による眼球破裂の治療成績高橋光生*1勝田聡*1横井匡彦*2加瀬諭*3加瀬学*1*1手稲渓仁会病院眼科*2手稲よこい眼科*3北海道大学大学院医学研究科眼科学分野TherapeuticOutcomeofEyeglobeRupturebyBluntInjuryatTeineKeijinkaiHospitalMitsuoTakahashi1),SatoshiKatsuta1),MasahikoYokoi2),SatoruKase3)andManabuKase1)1)DepartmentofOphthalmology,TeineKeijinkaiHospital,2)TeineYokoiEyeClinic,3)DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:鈍的外傷による眼球破裂の臨床像,治療方法,視力予後の報告.対象および方法:手稲渓仁会病院眼科で加療した鈍的外傷による眼球破裂33例34眼について,患者背景,白内障手術既往との関連,治療方法と成績,予後不良例の特徴などにつき,診療録からretrospectiveに調査した.結果:原因は転倒がもっとも多く,女性では発症年齢が男性よりも高かった.白内障手術の既往を有した16眼(47%)のうち,14眼で破裂創が切開創に一致しており,網膜.離の合併は切開創が一致しない1眼のみで認めた.ほぼ半数の症例で初回の縫合術の際に硝子体手術を併用したが,二次的に硝子体手術を追加した症例と経過や予後に明らかな差異はなく,手術回数は少なかった.視力の平均logMAR値は初診時2.51から最終1.43に改善した.11眼(36%)に網膜.離を認め,最終的に4眼で復位を得られなかったが,これらはすべて白内障手術の既往がなく,初診時の視力が光覚なしであった.結論:眼球破裂においては,術前の視力や白内障手術既往の有無が治療方針や予後の参考となる.また,初回から硝子体手術を併用する有用性が示唆された.Weretrospectivelyinvestigatedpatients’backgrounds,includinghistoryofcataractsurgery,locationofruptureandvisionprognosis,fromthemedicalrecordsof34eyesof33patientswhohadsufferedeyegloberupturebybluntinjuryandwereimmediatelytreatedatTeineKeijinkaiHospital.Patientagewashigherinfemalesthaninmales.In14ofthe16eyeswithexperienceofcataractsurgery,therupturewoundswerelocatedclosetothepreviouslyincisedline;however,theyshowednoretinaldetachmentexceptinonecase.Inabout50%oftherupturepatients,vitrectomywasdoneinthefirstoperation,aswellassuturingofrupturedwounds.FinallogMARvisualacuityimprovedto1.43from2.51initially.Retinaldetachmentoccurredin11eyes(36%),4ofwhichshowednoresolutionofretinaldetachment,all4havingexperiencednocataractsurgeryandpreoperativelyexhibitingnolightperception.Thisstudysuggestedthatvitrectomyismoreusefulinthefirstoperation,inadditiontomanagementofrupturedwounds.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(2):313.318,2016〕Keywords:鈍的外傷,眼球破裂,網膜.離,白内障手術,硝子体手術.bluntinjury,eyegloberupture,retinaldetachment,cataractsurgery,vitreoussurgery.はじめに鈍的外傷による眼球破裂は患者背景や臨床像が非常に多彩であり,眼組織の脱出や網膜.離を複雑に伴う難治性疾患である.治療の進歩にもかかわらず視力予後はいまだに不良であり,高齢者に長期の入院生活や体位制限,複数回の手術を要したにもかかわらず,最終的に光覚を保存できないこともある.また,硝子体手術の時期に関しては,術者や施設により見解が異なる.すべての症例に良好な視機能を残すことは困難であるが,術前に得られた問診や診察所見から予後を推測することがで〔別刷請求先〕高橋光生:〒006-0811札幌市手稲区前田1条12丁目手稲渓仁会病院眼科Reprintrequests:MitsuoTakahashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TeineKeijinkaiHospital,Maeda1-12,Teine-ku,Sapporo-shi,Hokkaido006-0811,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(153)313 きれば,個々の症例に応じた治療計画を立て,患者の心身の負担を軽減させることが可能である.今回,一地方に位置する手稲渓仁会病院(以下,当院)において眼球破裂34眼の治療を経験した.今後の治療に役立てるため,患者背景や手術既往,術前の所見,治療方針が,視力予後とどのように関連したのかを調査したので報告する.I対象および方法2004年4月.2013年3月の10年間に,鈍的外傷による眼球破裂で当院を受診した連続症例33例34眼について,患者の性別や年齢,受傷原因,治療方法,最終視力,白内障手術既往の有無による臨床像や予後の相違,初回の術式による治療成績の相違,視力予後不良例の特徴について,診療録からretrospectiveに調査した.視力を統計学的に解析する目的で小数視力を対数変換したが,大半が指数弁以下であったため,Schulze-Bonselら1)の報告に基づき,光覚なしはlogMAR値2.9,光覚弁は同2.8,手動弁は同2.3,指数弁は同1.85として計算した.II結果全症例の概要を表1に示した.性別および年齢(図1)は,男性が15例15眼で24.87歳(平均59.1±17.7歳),女性が18例19眼で56.96歳(平均77.4±9.0歳),合計33例34眼で24.96歳(平均69.1±16.5歳)であった.受傷眼の左右の別は右眼が7眼,左眼が27眼.観察期間は14日.7.5年(平均24.7カ月)であった.受傷原因(図2)は転倒18眼,打撲14眼(庭仕事4眼,労働災害4眼,スポーツ2眼,表1全症例の概要年齢白内障手術の網膜.離症例性別(歳)左右受傷の原因既往他の既往脱出した組織・物質の有無初診時視力1女79左打撲(棒)+(ECCE)虹彩,眼内レンズ.手動弁2女74左転倒+(ECCE)虹彩,硝子体.光覚なし3男70左転倒+(ICCE)角膜混濁虹彩?手動弁4男51左打撲(石).硝子体+指数弁5男87左転倒+(PEA)虹彩,眼内レンズ.手動弁6男51右打撲(金具).虹彩,硝子体+光覚なし7女74左打撲(木).虹彩,水晶体,硝子体.光覚弁8男40左転倒.硝子体+光覚弁9女74左転倒+(PEA)虹彩.手動弁10女77左転倒+(ECCE?)虹彩,硝子体.指数弁11男57左打撲(金具).なし.0.0112男87左転倒.虹彩,水晶体,脈絡膜+光覚弁13女70左転倒+(ECCE)角膜混濁,緑内障虹彩,脈絡膜,眼内レンズ+0.01〃〃〃右転倒+(ECCE)角膜混濁,緑内障なし.光覚なし14男43左打撲(殴打).虹彩,硝子体+光覚弁15女69左転倒.角膜混濁,緑内障なし?光覚なし16女81左打撲(棒)+(ICCE)虹彩.光覚弁17女56左打撲(玩具).虹彩,水晶体,硝子体.光覚弁18女82左転倒+(術式不明)虹彩.光覚弁19男43右打撲(バール).虹彩,硝子体.手動弁20女86左転倒+(術式不明)虹彩.光覚弁21女89左転倒+(術式不明)虹彩.手動弁22女96左転倒+(術式不明)角膜混濁虹彩?測定不能23男63左打撲(ゴルフボール).脈絡膜+光覚なし24女69右打撲(木).虹彩.手動弁25男24左交通事故.なし+光覚弁26女69左転倒.虹彩,水晶体.手動弁27男69右打撲(ドア)+(PEA)虹彩.0.0728女84右転倒+(術式不明)虹彩.手動弁29女85左転倒.虹彩+手動弁30男60左打撲(ルアー).水晶体,硝子体+光覚なし31男85右打撲(落雪).硝子体,網脈絡膜+光覚なし32女80左交通事故.虹彩.光覚弁33男56左転倒+(術式不明)虹彩,眼内レンズ.光覚弁ECCE:白内障.外摘出術,ICCE:白内障.内摘出術,PEA:水晶体乳化吸引術,PVR:増殖硝子体網膜症.314あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(154) ドア,落雪,玩具,殴打が各1眼),交通事故2眼であった.当院受診から初回手術までの期間は,同日21眼,翌日6眼,2.5日後7眼であり,平均0.85日であった.当院受診から1日以内に約80%の症例で初回手術を施行できた.手術回数は1.6回であり,平均1.88回であった.初回手術において,破裂創の縫合に加えて硝子体手術を併用(以下,一期的手術)した18眼の平均手術回数は1.67回であった.初回手術は破裂創の縫合のみで二次的に硝子体手術を計画(以下,二期的手術)した症例が16眼あったが,年齢や既往疾患などを理由に追加手術を希望しなかったり,硝子体出血が吸収されて追加手術が不要となった症例が8眼あった.実際に二期的手術にて治療した8眼の平均手術回数は3.25回であった.硝子体手術においては,硝子体出血や網膜.離などの症状に応じて適宜必要な処置(ガスやシリコーンオイル注入など)を施した.初回手術の34眼の麻酔方法の内訳は,局所麻酔が23眼,全身麻酔が11眼であった.34眼中16眼に白内障手術の既往があり,そのうち14眼(88%)は白内障手術の切開創と受傷による破裂創が一致していた.角膜混濁により眼底検査が不能であった2眼を除き,検査が可能であった12眼では網膜.離は認めなかった.切開創と破裂創が一致しなかった2眼では1眼が網膜.離であった.白内障手術の既往がない18眼では,眼球の上方2象限に破裂創が集中しており,下方半周において破裂したのは2眼のみであった(図3).角膜混濁により眼底検査が不能であった1眼を除く17眼のうち,10眼(59%)に網膜.離を認めた.結局,眼底検査が可能であった31眼中11眼に網膜.離を認めた(36%)が,この11眼の内訳は白内障手術の既往初回術式手術回数観察期間(月)最終視力転帰縫合+硝子体手術10.70.3経過良好縫合+硝子体手術10.70.15経過良好縫合10.7光覚弁元々視力不良につき追加治療を希望せず縫合+硝子体手術2691.2網膜は復位.経過良好縫合+硝子体手術10.7手動弁認知症.希望で治療終了縫合+硝子体手術10.5光覚なし顔面骨折治療あり受傷12日後に受診.復位せず縫合3240.6経過良好縫合6900.2PVRとなりオイル注入.復位しオイル抜去.経過良好縫合+硝子体手術21.5手動弁角膜染血にて視力不良縫合120.07硝子体出血吸収され硝子体手術不要.経過良好縫合1901.2硝子体出血吸収され硝子体手術不要.経過良好縫合+硝子体手術3180.3網膜は復位.経過良好縫合2120.01経過良好.元々角膜混濁で視力不良縫合220.01経過良好.元々角膜混濁で視力不良縫合4340.1PVRとなりオイル注入.復位しオイル抜去.経過良好縫合10.5光覚なし元々視力不良につき追加治療を希望せず縫合460.04経過良好縫合390.6経過良好縫合278手動弁経過良好.視神経萎縮にて視力不良縫合1200.01経過良好.角膜障害で視力不良縫合1670.01水疱性角膜症にて視力不良縫合1150.06認知症につき追加治療を希望せず縫合111測定不能認知症,高齢,心疾患につき追加治療を希望せず縫合+硝子体手術258光覚なし受傷7日後に受診.復位せず眼球萎縮縫合+硝子体手術2601.0経過良好縫合+硝子体手術5330.15網膜は復位.経過良好縫合+硝子体手術144手動弁統合失調症.角膜混濁で視力不良縫合+硝子体手術1171.2経過良好縫合+硝子体手術130.7経過良好縫合+硝子体手術1240.06網膜は復位.経過良好縫合+硝子体手術143光覚弁復位せず.難治につき治療終了縫合+硝子体手術11.5光覚なし網膜が著明に脱出し復位せず.難治につき治療終了縫合+硝子体手術22光覚弁受傷20日後に受診.角膜混濁で視力不良.縫合+硝子体手術230.3経過良好(155)あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016315 年齢(歳20代30代40代50代60代70代80代90代■:男性:女性024681012症例数(例)図1年齢分布と性別上直筋外直筋内直筋下直筋図3破裂創の中心部の分布×印は破裂創の中心部を示す.のあった14眼中1眼(6.7%)と既往のなかった17眼中10眼(59%)であり,Fisherの正確確率検定にて有意差があった(表2,p=0.007).視力測定が可能であった33眼の平均logMAR値は初診時2.51から最終1.43に有意に改善していた(paired-t検定,p<0.001).白内障手術の既往の有無と,最終視力との関連について調べた.角膜混濁や緑内障の既往があり,元々視力が不良であると推測された4症例5眼(症例3,13,15,22)を除外した29眼を対象とした.白内障手術の既往がある群12眼の初診時の平均logMAR値は2.38であり,最終の平均logMAR値は1.21であった.既往がない群17眼の初診時の平均logMAR値は2.60であり,最終の平均logMAR値は1.35であった.初診時視力,最終視力,および視力改善(初診時と最終の差)の3項目のt-検定で2群間に有意差はなかった(表3,それぞれp=0.18,p=0.72,p=0.84).また,初回の術式と最終視力との関連について調べた.同様に眼科既往のない29眼において,一期的手術群18眼では初診時の平均logMAR値は2.49であり,最終の平均316あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016転倒53%打撲41%交通事故6%図2受傷原因の内訳表2白内障手術既往と網膜.離の関連白内障手術既往+.網膜.離+.110137白内障手術既往のある症例では網膜.離の併発が有意に少なかった.(p=0.007)表3白内障手術既往の有無と視力の関連白内障手術既往p値有無初診時視力2.38±0.482.60±0.340.18最終視力1.21±0.821.35±1.160.72視力改善1.18±0.771.25±1.050.84白内障手術の既往の有無による2群間で,初診時視力,最終視力,視力改善に有意差はなかった.logMAR値は1.41であった.二期的手術群11眼中,実際に硝子体手術を施行した6眼では初診時の平均logMAR値は2.8であり,最終の平均logMAR値は0.97であった.初診時視力,最終視力,および視力改善(初診時と最終の差)の3項目のt-検定で2群間に有意差はなかった(それぞれp=0.12,p=0.41,p=0.12).網膜.離を認めた11眼中,4眼で復位を得られなかった.いずれも初診時の視力が光覚なしで受傷原因は打撲(ルアー,ゴルフボール,落雪,金具)であり,白内障手術の既往がなく破裂創から網膜や脈絡膜が脱出していた.4眼中3眼は術中に視機能の保存は困難と判断されたため,手術は1回のみで治療を終了した.経過観察中,感染性眼内炎や交感性眼炎の発症は認めなかった.III考察鈍的外傷による眼球破裂は,平均発症年齢が50.60歳代(156) で男性に多く,転倒が主要な原因であるとする報告が多い2.4).また,一般的に男性の場合,若年者では肉体労働やスポーツ,暴力が原因となりやすいことが特徴であるといわれる.今回の結果は上述の報告と比較して,男性の発症平均年齢が女性よりも低く,転倒に多くみられたことは一致したが,性別で男性よりもやや女性に多く,全体の平均年齢もより高齢であった.その差異として当院の立地条件が関与したと思われる.僻地在住の高齢者や認知症患者が転倒により発症した例が多く,スポーツや暴力による発症者は2例と少数であった.右眼よりも左眼に多く発症していたが,眼球破裂に関する過去の報告で左右の発症比率にとくに言及しているものはなく,外傷性網膜.離5)やスポーツ眼外傷6)では右眼により多く発症している報告もあり,明らかな要因は不明であった.眼科手術の既往を有する眼球破裂症例では,破裂創が手術の切開創に一致しやすいことが報告されている7,8)が,今回の筆者らの検討結果も同様であった.受傷の瞬間には反射的な閉瞼によりベル現象で眼球が上転し,外力により眼球が前後方向に短縮すると同時に,これと直交する方向では眼球がもっとも伸展する.結果として,上方では角膜輪部から上直筋付着部の範囲が強く伸展するが,白内障手術の強角膜創はちょうどこの位置に作製されるため,離開しやすいと推測されている.下方では赤道部後方の強膜が伸展するが,上方の伸展部位に比べると強膜は厚いため,今回の結果でも下方に破裂創が形成される例が少なかったと考えられる.白内障の術創は,坂本ら9)は4年5カ月後,立脇ら3)は10年後でも離開したと報告しているが,当院の結果では最長21年後でも離開していた.Simonsenら10)は摘出眼球を用いた実験において,白内障手術の輪部付近における術創の抗張力は術後4年で最大となるが非手術眼の64%であったとしており,今回の結果はその報告を立証していた.眼球破裂はほとんどの症例で著明な結膜下出血を伴うため,術前には破裂創の有無や部位が不明であることが多いが,白内障手術の既往がある症例においては手術の切開創が破裂創となっていることを想定して手術を開始することができる.この場合,破裂創が眼球の後方深部に及ぶことはほとんどなく,夜間の緊急手術で助手を確保できない場合であっても,術者一人で執刀することが可能である.また,今回の検討では,白内障手術の既往がある症例では既往がない症例と比較して,網膜.離を併発する率が有意に低かった.白内障手術の術創は角膜輪部付近に輪部に平行に作製されるため,外力により術創が離開・拡大しても,網膜への直接的な影響は虹彩や眼内レンズに比べて解剖学的に小さい.白内障手術の既往がある場合は,より軽微な外力で術創が離開して眼球破裂に至っている可能性があるが,結果として圧の変動や眼球壁の変形が軽減されることで網膜.離の(157)発症が抑制されていると推測される.白内障手術の既往の有無と視力予後については意見が分かれており,坂東ら11)は線維柱帯切除術や全層角膜移植術も含めての検討であるが手術既往のない症例に比べて最終視力は有意に低いと報告し,立脇ら3)は逆に比較的良いと報告している.筆者らの検討結果では,手術既往の有無により網膜.離の併発率に有意差があるにもかかわらず最終視力には有意差がなく,一見矛盾する結果となった.これは早期に硝子体手術を施行することで黄斑部の復位を得ていた可能性のほかに,白内障手術の既往のない群に網膜.離を併発せず視力が著明に改善した症例が多く含まれていたことが影響したと考えられる.最終的に4眼で網膜の復位を得られなかった.いずれも白内障手術の既往がなく初診時の視力が光覚なしであり,破裂創は長大で輪部に垂直な例が多く,網膜や脈絡膜が脱出していた.4眼中2眼は受傷後1週間以上経過してから受診していた.これらは過去の報告2.4)で指摘された予後不良因子の多くと合致した.また,4眼ともに受傷原因は打撲であり,転倒では認めなかった.転倒の場合,眼球への外力はおもに患者の身長と体重に起因する位置エネルギーと歩行時では運動エネルギーの総和となり,これはおよそ一定と考えられるが,たとえばスポーツや落下物による打撲の場合では,より大きなエネルギーが眼球に加わる症例があるためと推測された.手術方法が一期的か二期的かについては明確な指針はなく,それぞれに長所があるが,以前と比べて一期的に手術を施行する報告が増えた印象がある9,12).一期的手術の長所としては,①網膜.離併発の際の早期復位,②眼内の増殖性変化の防止,③感染性眼内炎の防止があげられ,二期的手術の長所としては,①角膜の透明性回復による視認性の向上,②網脈絡膜血管の怒張の軽減,③出血の溶解,④後部硝子体.離の進行があげられるが,筆者は一期的手術がより有用と考える.二期的手術の群では,患者や家族が年齢などを理由に治療を途中で断念し,硝子体手術を施行できないまま退院となった症例(症例3,15,21,22)が多くみられた.手術回数の軽減や入院期間の短縮が期待できる一期的手術を施行していれば,途中で治療を終了させることなく,より良い視力を得られていた可能性があった.近年の硝子体手術が小切開で低侵襲に進歩したことを考えると,眼内の状態を早期に把握する診断学的な観点からも,初回の硝子体手術は高齢者においても有益な操作と思われる.さらに一期的手術の群で初回手術時に硝子体手術が技術的に不可能であった症例はなく,また結果的に予後を悪化させたと思われる症例もなかった.眼内照明機器の進歩により多少角膜の透明性が不良であっても硝子体手術が可能となったこと,高齢者では最初から後部硝子体.離が完成している例が多いこと,もっとも難治あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016317 性と思われる増殖硝子体網膜症や感染性眼内炎の発症を避ける意味などからも,とくに高齢者では積極的に一期的手術を選択する意義があると考えられた.なお,今回の調査において一期的手術と二期的手術の2群間で視力に有意差はなかったが,症例数が少なく観察期間が短い症例もあり,統計学的に結論を出すにはさらなる症例数の蓄積と検討が必要と考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)Schulze-BonselK,FeltgenN,BurauHetal:Visualacuities“handmotion”and“countingfingers”canbequantifiedwiththeFreiburgVisualAcuityTest.InvestOphthalmolVisSci47:1236-1240,20062)樋口暁子,喜多美穂里,有澤章子ほか:鈍的外傷による眼球破裂の検討.臨眼56:1121-1125,20023)立脇祐子,前野貴俊,南政宏ほか:眼球破裂症例の予後に関連する術前因子の検討.臨眼60:989-993,20064)尾崎弘明,ファン・ジェーン,梅田尚靖ほか:外傷性眼球破裂の治療成績.臨眼61:1045-1048,20075)中西秀雄,喜多美穂里,大津弥生ほか:外傷に伴う網膜.離の臨床像と手術成績の検討.臨眼60:959-965,20066)笠置裕子:最近4年間におけるスポーツ眼外傷の統計的観察.東女医大誌51:868-869,19817)高山玲子,中山登茂子,妹尾正ほか:眼科手術後の外傷による眼球破裂症例の検討.眼科手術11:283-286,19988)相馬利香,森田啓文,久保田敏昭ほか:高齢者における鈍的眼外傷の検討.臨眼63:93-97,20099)坂本英久,馬場恵子,小野英樹ほか:眼内レンズ挿入術後の眼球破裂に対し一期的に硝子体手術を行った2症例.臨眼57:49-54,200310)SimonsenAH,AndereassenTT,BendixK:Thehealingstrengthofcornealwoundsinthehumaneye.ExpEyeRes35:287-292,198211)坂東誠,後藤憲仁,青瀬雅資ほか:眼外傷症例の視力予後不良因子の検討.臨眼67:947-952,201312)西出忠之,早川夏貴,加藤徹朗ほか:眼球破裂眼の術後視力に対する術前因子の重回帰分析.臨眼65:1455-1458,2011***318あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(158)

後天性免疫不全症候群(AIDS)に合併した梅毒性ぶどう膜炎の1症例

2016年2月29日 月曜日

《原著》あたらしい眼科33(2):309.312,2016c後天性免疫不全症候群(AIDS)に合併した梅毒性ぶどう膜炎の1症例中西瑠美子石原麻美石戸みづほ木村育子迫野卓士山根敬浩中村聡水木信久横浜市立大学大学院医学研究科視覚器病態学講座ACaseofSyphiliticUveitiswithAcquiredImmunodeficiencySyndromeRumikoNakanishi,MamiIshihara,MizuhoIshido,IkukoKimura,TakutoSakono,TakahiroYamane,SatoshiNakamuraandNobuhisaMizukiDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversityGraduateSchoolofMedicine後天性免疫不全症候群(acquiredimmunodeficiencysyndrome:AIDS)に梅毒性ぶどう膜炎を合併した症例を経験した.症例は39歳の同性愛者男性で,左眼飛蚊症を主訴に受診した.左眼底に網膜血管炎,黄斑部近傍に黄白色滲出斑・出血がみられた.梅毒血清反応陽性,ヒト免疫不全ウイルス(humanimmunodeficiencyvirus:HIV)抗体陽性,カリニ肺炎・カポジ肉腫の合併により,AIDSに合併した梅毒性ぶどう膜炎と診断した.ペニシリンG大量点滴によりぶどう膜炎は改善した.高活性抗レトロウイルス療法(highlyactiveanti-retroviraltherapy:HAART)導入後,CD4数の回復とともに軽い硝子体炎が出現したが,ステロイド点眼にて改善した.梅毒性ぶどう膜炎の臨床像は多彩であるため,梅毒血清反応はルーチンに行うことが必須である.また,梅毒性ぶどう膜炎ではHIVなどの合併感染の可能性を念頭に置く必要があると考えられた.Wereportacaseofsyphiliticuveitiscomplicatedwithacquiredimmunodeficiencysyndrome(AIDS).Thepatient,a39-year-oldhomosexualmale,presentedocularfloatersinhislefteye.Theeyeshowedretinalvasculitis,yellowish-whiteexudatesandhemorrhagearoundthemacula.GivencomplicationsofPneumocystiscariniipneumoniaandKaposisarcoma,withpositiveresultsofserologictestingforsyphilisandhumanimmunodeficiencyvirusantibody,hewasdiagnosedwithsyphiliticuveitiscomplicatedbyAIDS.AlargevolumeofpenicillinGintravenousdripinducedimprovementintheuveitis.Afterhighlyactiveanti-retroviraltherapy(HAART)initiation,mildvitritisoccurredwithrecoveryofCD4number,butwasrelievedbyocularsteroidadministration.Becausetheclinicalimageofsyphiliticuveitisisvariegated,itisimportanttoroutinelyperformstandardserologictestingforsyphilisandtoconsiderthepossibilityofmergerinfection,suchaswithHIV,whendiagnosingsyphiliticuveitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(2):309.312,2016〕Keywords:後天性免疫不全症候群(AIDS),梅毒性ぶどう膜炎,梅毒血清反応,ヒト免疫不全ウイルス(HIV).acquiredimmunodeficiencysyndrome(AIDS),syphiliticuveitis,serologictestforsyphilis,humanimmunodeficiencyvirus(HIV).はじめに梅毒性ぶどう膜炎の頻度は低い1)が,梅毒は網脈絡膜炎,網膜血管炎,視神経乳頭炎,硝子体炎,虹彩毛様体炎など多彩な臨床所見を呈し,眼所見からでは診断はできない.以前はヒト免疫不全ウイルス(humanimmunodeficiencyvirus:HIV)感染患者における眼梅毒の発症率は0.6%程度と報告されていたが2),HIV感染症と梅毒の合併感染例が世界的に増加している3.5).今回,眼症状を契機に,梅毒とHIVの合併感染が判明し,後天性免疫不全症候群(acquiredimmunodeficiencysyndrome:AIDS)と梅毒性ぶどう膜炎の診断がついた症例を経験したので報告する.この報告に関しては対象者に十分な説明を行い,同意を得た.〔別刷請求先〕中西瑠美子:〒236-0064神奈川県横浜市金沢区福浦3-9横浜市立大学大学院医学研究科視覚器病態学講座Reprintrequests:RumikoNakanishi,YokohamaCityUniversityHospital,3-9Fukura,Kanazawa-ku,Yokohama,Kanagawa2360064,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(149)309 I症例患者:39歳,男性,同性愛者.主訴:左眼飛蚊症.既往歴:淋菌およびクラミジア感染症.現病歴:2014年3月,近医眼科で左眼部帯状疱疹にて加療後,同年7月,左眼飛蚊症を自覚した.近医にて左眼に網膜滲出斑および出血,網膜血管炎を認めたため,2014年7月上旬に横浜市立大学附属病院眼科を受診した.初診時眼所見:視力は右眼1.2(1.5×0.00D(cyl.0.50DAx90°),左眼0.6(0.7×.0.00D(cyl.0.50DAx80°).眼圧は右眼15mmHg,左眼11mmHg,左眼に前部硝子体細胞とびまん性硝子体混濁がみられた.左眼底には黄白色滲出斑と出血がおもに黄斑近傍に散在し,視神経乳頭の発赤がみられた(図1A).蛍光眼底造影検査(fluoresceinangiography:FA)では造影のごく初期から,左眼の視神経乳頭および網膜動脈からの旺盛な蛍光色素漏出がみられ,時間とともに増強した(図1B).光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では,左眼に網膜出血と黄斑浮腫による網膜厚の増加を認めた(図1C).Goldmann視野検査では,左眼に中心からMariotte盲点につづく暗点を認めた.右眼には異常を認めなかった.検査所見(表1):左眼部帯状疱疹の既往があり,眼底所見からサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)網膜炎も鑑別にあがったため,前房水PCRによる遺伝子および抗体検査を行った.単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV),水痘・帯状疱疹ウイルス(varicellazostervirus:VZV),CMVはすべて陰性であった.全身検査では梅毒抗体検査陽性,RPR定量128倍,TPHA定量81,920倍であり,梅毒と診断された.T-SPOTおよび抗トキソプラズマ抗体は陰性であった.また,末梢血リンパ球数は775/μl(基準値1,000.4,500/μl)と減少,CD4数は49.6/μlと著明な減少を認めたため,HIV感染を疑った.血清抗HIV抗体は陽性,HIV-RNA量は1.8×105と高値であり,HIV感染が判明した.初診から9日目に施行した髄液検査にて,トレポネーマ抗体吸収試験(FTA-ABS)陽性となり,神経梅毒と診断された.また,胸部CT画像で網状顆粒影がみられたため,気管支肺胞洗浄液(bronchoalveolarABC図1初診時(左眼)A:眼底所見.硝子体混濁,視神経乳頭発赤,黄斑近傍に散在する黄白色滲出斑および出血,網膜動脈炎がみられた.B:蛍光眼底造影所見.造影のごく初期から,視神経乳頭および網膜動脈から旺盛な蛍光色素漏出がみられた.C:OCT画像.網膜出血と黄斑浮腫による網膜厚の増加がみられた.表1初診時検査所見血液検査:リンパ球775/μl,CD449.6/μl血清抗HIV抗体陽性HIV-RNA量1.8×105/ml梅毒抗体検査STS法陽性,TPHA法陽性梅毒定量検査STS128倍,TPHA81,920倍結核検査陰性前房水検査:遺伝子PCR検査HSV1.0×1.02未満,VZV1.0×102未満,CMV1.0×102未満抗体価率(Q値)*HSV0.76,VZV0.70,CMV4.24髄液検査:トレポネーマ抗体吸収試験(FTA-ABS)陽性*抗体価率(Q値)=(眼内液ウイルス抗体価÷眼内炎中の総IgG濃度)÷(血清ウイルス抗体価÷血清中の総IgG濃度)310あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(150) ABC図2駆梅療法後(初診後40日)(左眼)A:眼底所見.視神経乳頭発赤は消失し,黄斑近傍の滲出斑と出血は吸収した.B:蛍光眼底造影.視神経乳頭の過蛍光,網膜動脈.細動脈からの蛍光色素漏出は残るものの,治療前に比べて改善がみられた.C:OCT画像.黄斑浮腫は消失したが,IS/OSラインを含むスリーラインは一部不明瞭.消失し,網膜の菲薄化がみられた.表2HAART導入前後のリンパ球数,CD4数,HIV.RNA量の変化初診時HAART開始48日目4カ月目8カ月目リンパ球数OD4数HIV-RNA量775/μl49.6/μl1.8×105/ml3,585/μl333.4/μl2.0×102/ml2,970/μl356.4/μl6.5×10/ml3,223/μl464.2/μl4.7×10/mllavagefluid:BALF)のPCRを施行したところ,ニューモシスチス陽性となり,ニューモシスチス肺炎と診断された.さらに,初診時よりみられた両下腿内側の皮疹を生検したところ,カポジ肉腫と診断された.以上,全身検査とFA所見から他のぶどう膜炎やHIV網膜炎は否定され,AIDSに合併した梅毒性ぶどう膜炎と診断された.治療経過:初診から7日目より,梅毒性ぶどう膜炎および神経梅毒に対し,ペニシリンG2,400万単位/日が14日間点滴投与された.左眼の硝子体混濁および視神経乳頭発赤は消失し,黄斑近傍の滲出斑と出血は消失した(図2A).FAでは視神経乳頭の過蛍光,網膜動脈.細動脈からの蛍光色素漏出は残るものの,駆梅療法前に比べ改善がみられた(図2B).OCTでは黄斑浮腫は消失したが,IS/OSラインを含むスリーラインは一部不明瞭.消失し,網膜の菲薄化がみられた(図2C).初診から32日目より,高活性抗レトロウイルス療法(highlyactiveantiretroviraltherapy:HAART)が開始され,8日目にはCD4数は333/μlに上昇し,HIV-RNA量は2.0×102/mlとなった(表2).HAART開始後14日目,軽度の前部硝子体細胞と硝子体混濁が出現したが,ステロイド点眼にて3カ月で消炎した.8カ月後,CD4数は464/μlとなり(表2),カポジ肉腫とニューモシスチス肺炎は軽快した.現在まで眼炎症の再燃はみられていないが,黄斑部は萎縮病巣となり,左眼最終矯正視力は0.5となった.(151)II考按最近,欧米では,MSM(menwhohavesexwithmen)の間で梅毒が増加していることが報告されている3).梅毒性ぶどう膜炎のケースシリーズでは,MSMかつHIV陽性例は,17/50例(34%)4)や13/13例(100%)5)であり,梅毒とHIVの合併感染例は非常に多い.両者は,同じ性感染症であるため,梅毒はHIVの感染効率を上げ,HIV感染における免疫不全状態が梅毒への感染性や再発性を高めるとされる.したがって,梅毒感染では血清HIV抗体を調べることは必須であると考えられる.一方,わが国では,梅毒性ぶどう膜炎は少なく,全ぶどう膜炎の原因疾患のなかでは0.4%に過ぎない1).しかし,多数例のHIV感染患者にみられる眼病変を調べた報告では,梅毒性ぶどう膜炎の占める割合は以前は0/31例(0%)6),0/51例(0%)7),と非常に低かったが,最近の報告では2/64例(3.1%)8)と増加している.実際,わが国でも梅毒性ぶどう膜炎とHIV感染の合併の報告が散見されている9.12).本症例では眼所見からCMV網膜炎,帯状疱疹の既往から急性網膜壊死などが鑑別にあがった.これらヘルペス属ウイルスは前房水PCR検査で否定され,梅毒血清反応高値,さらに髄液検査により神経梅毒が確認されたことより,梅毒性ぶどう膜炎と確定診断された.HIV感染症に合併した梅毒では,非合併感染例と比較して神経梅毒の頻度が高く,HIV感染非合併例では10%であるが,合併例では23.5%と報告されている13).とくにCD4あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016311 陽性リンパ球数が低く,梅毒血清反応定量値が高い場合は高リスクとされており,本症例は合致している.本症例は神経梅毒に準じたペニシリンG大量点滴療法で治療したが,米国疾病予防管理センター(CentersforDiseaseControlandPrevention:CDC)はすべての眼梅毒患者は神経梅毒に準じた治療をすること,髄液検査を受けることを推奨している14).HAARTの導入に伴い病勢のコントロールが可能になったが,CMV網膜炎の再燃や,免疫能が回復することで生じる免疫回復ぶどう膜炎(immunerecoveryuveitis:IRU)が問題となっている15).IRUの初期病変は虹彩炎や硝子体炎で始まるため,CMV,結核,梅毒などの感染症との鑑別が困難なこともある.IRUの機序として,HAARTによりウイルスに特異的なT細胞が増えると眼内に残存するウイルス抗原に対して炎症反応を生じ,炎症が出現することが考えられている16).筆者らの症例ではHAART導入後に軽度の硝子体炎がみられた.導入前に,前房水PCRにてCMV感染は否定されていたが,初診時にはすでに沈静化していたCMV網膜炎があった可能性もあり,これがIRUである可能性は否定できない.おわりに本症例は眼科受診を契機に,梅毒感染とHIV感染が明らかになった.梅毒性ぶどう膜炎の頻度は低いが1),特徴的な臨床所見は存在しないため,ぶどう膜炎患者におけるルーチン検査としての梅毒血清反応は必須である.また,梅毒感染者では,HIV合併感染の可能性を常に念頭に置き,血清HIV抗体検査をするべきであると考えられた.文献1)OhguroN,SonodaK,TakeuchiMetal:The2009prospectivemulti-centerepidemiologicsurveyofuveitisinJapan.JpnJOphthalmol56:432-435,20122)ShalabyIA,DunnJP,SembaRDetal:Syphiliticuveitisinhumanimmunodeficiencyvirus-infectedpatients.ArchOphthalmol115:469-473,19973)SavageEJ,MarshK,DuffellSetal:RapidincreaseingonorrheaandsyphilisdiagnosesinEnglandin2011.EuroSurveeill17:pii20224,20124)FonollosaA,Maetinez-IndartL,ArtarazJetal:Clinicalmanifestationsandoutcomesofsyphilis-associateduveitisinNorthernSpain.OculImmunolInflamm14:1-6,20145)LiSY,BirnbaumAD,TesslerHHetal:Posteriorsyphiliticuveitis:Clinicalcharacteistics,co-infectionwithHIV,responsetotreatment.JpnJOphthalmol55:486-494,20116)上村敦子,八代成子,武田憲夫ほか:ヒト免疫不全ウイルス感染者における眼病変.日眼会誌110:698-702,20067)宮本千絵,八代成子,永田洋一ほか:エイズ治療・研究開発センターを受診したヒト免疫不全ウイルス感染者の眼病変.日眼会誌105:483-487,20018)濱本亜裕美,建林美佐子,上平朝子ほか:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)患者のHAART導入前後の眼合併症.日眼会誌116:721-729,20129)山本香子,菊池雅史,川本未知ほか:梅毒性視神経炎と網脈絡膜炎を合併したHIV感染症患者の1例.あたらしい眼科21:1273-1276,200410)佐村雅義,中西徳昌,河田博ほか:HIV感染と合併した梅毒性ぶどう膜炎の2例.臨眼49:979-983,199511)池田宏一郎,渡瀬誠良,川村洋行ほか:Humanimmunodeficiencyvirus感染を合併した梅毒性ぶどう膜炎の1例.臨眼53:193-196,199912)菱矢直邦,中村ふくみ,山田豊ほか:HIV感染症に合併した梅毒性ぶどう膜炎の1例と神経梅毒の1例.感染症学雑誌87:276,201313)KinghornGR:Syphilis.In:InfectiousDiseases(CohenJ,PowderlyWG,eds),2nded,Mosby,p807-816,200414)DavisJL:Ocularsyphilis.CurrOpinOphthalmol25:513-518,201415)NguyenQD,KempenJH,BoltonSGetal:ImmunerecoveryuveitisinpatientswithAIDSandcytomegalovirusretinitisafterhighlyactiveantiretroviraltherapy.AmJOphthalmol129:634-639,200016)NussenblattRB,LaneHC:Humanimmunodeficiencyvirusdisease:changingpatternsofintraocularinflammation.AmJOphthalmol125:374-382,1998***312あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(152)

アレルギー性結膜炎における自覚症状評価を目的としたFacial Imaging Scale(FISA)の検討

2016年2月29日 月曜日

《原著》あたらしい眼科33(2):301.308,2016cアレルギー性結膜炎における自覚症状評価を目的としたFacialImagingScale(FISA)の検討稲田紀子*1髙橋恭平*2石田成弘*2朝生浩*1庄司純*1*1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野*2参天製薬株式会社研究開発本部育薬室DevelopmentofNovelFacialImagingScale(FISA)forAssessingSubjectiveSymptomsofPatientswithAllergicConjunctivitisNorikoInada1),KyoheiTakahashi2),NaruhiroIshida2),HiroshiAso1)andJunShoji1)1)DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,2)GlobalResearch&DevelopmentDivision,JapanMedicalAffairs,SantenPharmaceutical,Co.,Ltd.目的:アレルギー性結膜疾患患者の自覚症状を評価するために新たに開発したフェイススケール(FISA)の有用性の評価.対象および方法:対象はアレルギー性結膜炎患者17例.方法は,エピナスチン点眼薬0.05%を投与した群(エピナスチン群)とクロモグリク酸ナトリウム2%点眼薬を投与した群(SCG群)とに分類し,点眼前から点眼開始後7日間の自覚症状の程度と種類について,FISAとverbalratingscale(VRS)とにより検討した.結果:アレルギー性結膜炎全例においてFISAを用いて評価した自覚症状の程度は,VRSを用いて評価した痒みの程度と有意に相関した(r=0.57;p<0.0001).エピナスチン群では,FISAによって評価した自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)が,点眼開始後2日目より有意に低下した(p<0.05).結論:FISAは,アレルギー性結膜炎患者の自覚症状および治療効果判定に有用な検査法であると考えられた.Purpose:Toevaluatetheefficacyofanovelfacialimagingscale(FISA)forassessingsubjectivesymptomsofpatientswithallergicconjunctivaldiseases.Methods:17patientswithallergicconjunctivitis(AC)wererandomlydividedintotwogroups.Eachgroupreceivedeither0.05%epinastinehydrochloride(epinastinegroup)or2%sodiumcromoglicate(SCG)(SCGgroup).Theintensityandvarietyofsymptomswereevaluateddailyfrombaseline(beforetreatment)today7usingFISAandverbalratingscale(VRS).Results:TheintensityofsubjectivesymptomsobtainedusingFISAwassignificantlycorrelatedwithocularitchingscorescalculatedusingtheVRS(r=0.57;p<0.0001)inallACpatients.Intheepinastinegroup,theintensityofFISAsubjectiveACsymptomscoresdecreasedsignificantlyafterdaytwocomparedtobaseline(p<0.05).Conclusion:FISAisausefultoolforevaluatingsubjectivesymptomsandtherapeuticefficacyinACpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(2):301.308,2016〕Keywords:アレルギー性結膜炎,フェイススケール,ヒスタミンH1受容体拮抗薬,クオリティーオブライフ,自覚症状.allergicconjunctivitis,facialimagescale,histamineH1receptorantagonist,qualityoflife,subjectivesymptoms.はじめにアレルギー性結膜炎は,即時型アレルギー反応を基本病態とする結膜の炎症性疾患である1).アレルギー性結膜炎の自覚症状は,眼掻痒感,異物感,充血,眼脂および流涙が代表的なものとされており2,3),他覚所見としては,結膜充血や結膜浮腫に加え,上眼瞼結膜に乳頭形成がみられることが特徴とされる4).アレルギー性結膜炎患者では,自覚症状の重症化によりqualityoflife(QOL)が低下することが問題視されており,自覚症状の程度を正確に診断して治療に反映させることは,アレルギー性結膜炎の治療目標を設定するうえで重要であると考えられる5,6).さらに,日々の診療においては,簡易な方法により医師や医療スタッフと患者とが自覚症〔別刷請求先〕稲田紀子:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野Reprintrequests:NorikoInada,M.D.,DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,30-1Oyaguchi-Kamicho,Itabashi-ku,Tokyo173-8610,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(141)301 状の程度を共有することができれば,アレルギー性結膜炎治療の質は確実に向上すると考えられる.自覚症状の評価法はこれまでにさまざまな方法が報告されており,代表的な評価法としてはvisualanalogscale(VAS),numericalratingscale(NRS),verbalratingscale(VRS),フェイススケールなどが報告されている7.10).フェイススケールは,症状の程度を言葉で表現する代わりに人間の表情の図で評価する方法である.Backerら8)は,痛みに関する代表的facescaleとしてWong-BackerFACESpainratingscaleを発表している.この方法は笑顔から泣顔までの6段階の表情で痛みの程度を評価する方法で,言葉の意味や検査方法を十分に理解しなくとも簡単に検査できる利点があり,他の痛みの評価スケールともよく相関するとされている8,9,11.13).一方,眼掻痒感はアレルギー性結膜炎の自覚症状の程度を評価するための代表的症状とされ,痒みの程度はVASなどにより定量的評価が試みられている6,14).アレルギー性結膜炎患者の自覚症状をより正確に評価するためには,眼掻痒感,充血,眼脂などを含めた自覚症状の総合的評価が必要であると考えられる.しかし,これまでの自覚症状の評価法に関しては,単独の症状を評価する方法としては優れているものの,複数の症状を評価する場合には,繰り返し同様の検査を行わなくてはならないという欠点もある.今回筆者らは,アレルギー性結膜炎の自覚症状の総合評価を行うためのフェイススケールとしてFacialImageScaleforallergicconjunctivaldiseases(FISA)を開発し,その臨床的有用性について検討した.また,抗アレルギー点眼薬によりアレルギー性結膜炎治療を行う際に,その治療効果判定におけるFISA使用の有用性について検討する目的で,メディエーター遊離抑制点眼薬であるクロモグリク酸ナトリウム(SCG)点眼薬またはヒスタミンH1受容体拮抗点眼薬であるエピナスチン点眼薬で治療を行ったアレルギー性結膜炎患者の自覚症状についても検討した.I対象および方法本研究は,日本大学医学部附属板橋病院臨床研究審査会の承認を受けて実施した.1.対象対象は,2013年1月.2014年6月に日本大学医学部附属板橋病院眼科または庄司眼科医院を受診した患者で,①アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン1)の診断基準に従って準確定診断した症例,②治療開始時に点眼薬治療が行われていない症例の2項目の診断基準を満たし,研究参加への同意が得られた患者とした.また,アレルギー性結膜炎以外の眼疾患を有する症例および治療中にコンタクトレンズ装用を中止できない症例は本研究から除外した.302あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016対象症例は17例で,ランダム化割り付けによりSCG群7例[平均年齢:14.4±22.9(±標準偏差)歳,レンジ:7.30歳,性差1:6(男性:女性)]とエピナスチン群10例(32.1±22.9歳,レンジ:10.68歳,性差2:8)とに分類した.SCG群は,クロモグリク酸ナトリウム点眼薬(インタールR点眼液2%,サノフィ)1回1滴,1日4回点眼を7日間行い,エピナスチン群は,エピナスチン点眼薬(アレジオンR点眼液0.05%,参天製薬)1回1滴,1日4回点眼を7日間行った.2.FacialImageScaleforallergicconjunctivaldiseases(FISA)FISAは,日本大学医学部視覚科学系眼科学分野で開発したアレルギー性結膜疾患の自覚症状評価スケールである.FISAは症状の程度を総合評価するstep1と症状の種類を問うstep2との2段階で評価を行う方法である(図1).Step1は,自覚症状の総合評価を快適から不快までの5段階の表情で評価する方法で,結果は「自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)」として記録した.患者には,現在の自覚症状の程度に一致する表情を1つ選択させた.Step2は,快適または症状軽快(symptomA),眼掻痒感(symptomB),異物感(symptomC),充血(symptomD),流涙(symptomE),眼脂(symptomF)の6項目の自覚症状の有無を評価する方法である.患者には1日のなかで自覚した症状をすべてチェックさせ,複数回答は可とした.また,患者に対して各表情の説明は行わずに検査を施行した.3.Verbalratingscale(VRS)FISAを施行すると同時に,眼掻痒感をVRSで評価した.VRSは,「痒くない」(1点)「少し痒い」(2点),「痒い」(3点),「すごく痒い」(4点)とし(,)て評価し,「VRS眼掻痒感スコア」として記録した.4.他覚所見細隙灯顕微鏡による他覚所見は,5-5-5方式重症度観察スケールを用いて評価した15).5-5-5方式重症度観察スケールは,軽症所見(瞼結膜充血・球結膜充血・上眼瞼結膜乳頭増殖・下眼瞼結膜濾胞・涙液貯留)を各1点,中等症所見(眼瞼炎・ビロード状乳頭増殖・トランタス斑・球結膜浮腫・点状表層角膜炎)を各10点,重症所見(活動性巨大乳頭・輪部堤防状隆起・落屑状点状表層角膜炎・シールド潰瘍・下眼瞼乳頭増殖)を各100点で評価し,観察された他覚所見の合計点数を0.555点までの臨床スコアとして算出した.5-55方式重症度観察スケールの結果は,「他覚所見臨床スコア」として記録した.5.検討項目自覚症状は点眼開始日から点眼開始後7日目までの間,FISAおよびVRSを毎日記録して検討した.また,他覚所見は点眼開始日と点眼開始後7日目に5-5-5方式重症度観(142) Step1:総合評価12質問:今日の症状の程度を顔の表情で表すとどれですか.(1つ選択)345Step2:症状の種類質問:今日1日の間に自覚した症状を顔の表情で表すとどれですか.(複数選択可)ABCDEF図1FacialimagingScaleforallergicconjunctivaldiseases(FISA)FISAはアレルギー性結膜疾患患者が2種類の質問に対して,自身の現在の自覚症状に相当するフェイスを選択して回答する自覚症状検査である.FISAは,自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)とstep2:自覚症状の種類とに分かれており,2段階での評価を行う.察スケールを用いて検討した.2による個々の症状の出現頻度は,点眼開始日と点眼開始後検討項目は,①全回答におけるFISAstep2での「快適5日目をFisher直接確率により比較検討した.SCG群およな症状(symptomA)」の出現の有無で分類した2群間の自びエピナスチン群の他覚所見臨床スコアは,Wilcoxon’s覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)の比較,②全回答signedranktestで検討した.における自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)とFISAII結果step2の不快な症状(symptomB.symptomF)の合計数またはVRS眼掻痒感スコアとの関係,③SCG群とエピナスチ1.アレルギー性結膜炎におけるFISAによるン群における点眼開始日から点眼開始後7日目までの毎日の自覚症状総合スコアの評価VRS眼掻痒感スコアおよび自覚症状総合スコア(FISAstep対象症例17例におけるアレルギー性結膜炎の症状の程度1スコア)の検討,④SCG群およびエピナスチン群におけるを示す点眼前検査において,自覚症状総合スコア(FISA点眼開始日と点眼開始後7日目の他覚所見臨床スコアの比較step1スコア)は3.6±0.9点(平均±標準偏差)であった.である.また,FISAstep2での各症状の出現頻度は,SymptomA6.統計学的検討が4/17例(23.5%),SymptomBが6/17例(35.3%),快適な症状(symptomA)の有無で分類した自覚症状総合SymptomCが8/17例(47.1%),SymptomDが3/17例スコア(FISAstep1スコア)の比較は,Mann-Whitney(17.6%),SymptomEが3/17例(17.6%),SymptomFがU-testで検定した.また,自覚症状総合スコア(FISAstep2/17例(11.8%)であった.VRSスコアは,1.6±0.9点(平1スコア),VRS眼掻痒感スコアおよび他覚所見臨床スコア均±標準偏差)であった.との間の相関関係のスクリーニングとして,点眼前検査の検自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア),VRS眼掻痒査結果に対して偏相関検定を行った.さらに,すべての検査感スコアおよび他覚所見臨床スコアの間の相関関係のスクリ結果に対する自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)とーニングとして,点眼前検査の検査結果について偏相関検定FISAstep2の不快な症状の合計数との関係,および自覚症を施行した結果は,自覚症状総合スコア(FISAstep1スコ状総合スコア(FISAstep1スコア)とVRS眼掻痒感スコアア)とVRS眼掻痒感スコアとの間に有意な相関(p=0.026)との関係は,Spearmanrankcorrelationcoefficientで検討がみられたが,自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)した.SCG群とエピナスチン群における点眼開始日から点と他覚所見臨床スコアとの間(p=0.225)およびVRS眼掻痒眼開始後7日目までの毎日のVRS眼掻痒感スコアおよび自感スコアと他覚所見臨床スコアとの間(p=0.613)に有意な覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)は,Shirley-Wil相関はみられなかった.liamstestで検討した.エピナスチン群におけるFISAstep本研究では,期間中に17症例から116回(無回答3回)(143)あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016303 12345***CFP群自覚症状総合スコア[FISAstep1,(点)]a123450123b不快な症状の総数[FISAStep2(face)]自覚症状総合スコア[FISAstep1(点)]123451234眼掻痒感スコア[VRS(点)]c自覚症状総合スコア[FISAStep1(点)]CFN群図2自覚症状総合スコアと自覚症状の種類またはverbalratingscale(VRS)との関係a:FISAstep2での快適(SymptomA)を含む回答群(comfortablefacepositive:CFP群)(n=33)は,快適(SymptomA)を含まない回答群(comfortablefacenegative:CFN群)(n=83)と比較して,自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)が有意に低値であった.***p<0.0001,Mann-WhitneyU-test.b:自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)は,FISAstep2により陽性であった自覚症状の種類の合計数と有意に相関した(r=0.49,p<0.0001,Spearmanrankcorrelationcoefficient).c:自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)は,VRS眼掻痒感スコアと有意に相関した(rcoefficient).のFISAおよびVRSの回答を得た.116の回答は,快適(SymptomA)を含む回答群(comfortablefacepositive:CFP群)(n=33)と快適(SymptomA)を含まない回答群(comfortablefacenegative:CFN群)(n=83)とに分類し,各群のFISAstep1スコアを比較した.CFP群の自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)2.5±0.8点(平均±標準偏差)は,CFN群の自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)3.4±0.9点と比較して有意に低値を示した(p<0.0001,Mann-WhitneyU-test)(図2a).さらに,FISAstep2におけるSymptomBからSymptomFまでの不快な症状の合計数は,自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)と有意な相関を示した(r=0.49;p<0.0001,Spearmanrankcorrelationcoefficient)(図2b).自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)とVRS眼掻痒感スコアも有意な相関を示した(r=0.57;p<0.0001,Spearmanrankcorrelationcoefficient)(図2c).2.FISAおよびVRSによる抗アレルギー点眼薬のアレルギー性結膜炎に対する治療評価VRS眼掻痒感スコアにおいて,エピナスチン群は点眼前と比較して点眼開始後5日目以降で痒みスコアが有意に低下した(p<0.05,Shirley-Williamstest)(図3).しかし,SCG304あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016=0.57,p<0.0001,Spearmanrankcorrelation群では有意な痒みスコアの低下はみられなかった.自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)を用いた評価において,エピナスチン群は点眼前と比較して点眼開始後2日目以降でFISAstep1スコアが有意に低下した(p<0.05,Shirley-Williamstest)(図4).しかし,SCG群では有意な自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)の低下はみられなかった.7日間でみられたFISAstep2の症状出現パターンは,不快な症状を示すSymptomBからFだけのもの(図5,代表症例1)と不快な症状と快適な症状(SymptomA)とが混在するもの(図5,代表症例2)とに分かれた.そこで,VRS眼掻痒感スコアおよび自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)ともに有意に低下した点眼開始後5日目のエピナスチン群のFISAstep2の結果を,点眼前のFISAstep2の結果と比較検討したところ,快適な症状(SymptomA)の出現頻度は点眼前と比較して点眼開始後5日目で有意に上昇した(p<0.05,Fisher’sexacttest)(図6).5-5-5方式重症度観察スケールを用いた他覚所見臨床スコアにおいて,エピナスチン群では,点眼前と比較して点眼開始後7日目では臨床スコアが有意に低下した(p<0.05,Mann-WhitneyU-test)(図7a).また,SCG群での臨床スコアは,点眼前と比較して点眼開始後7日目では低下傾向を(144) 00.511.522.51日目(点眼前)2日目3日目4日目5日目6日目7日目:エピナスチン群:SCG群眼掻痒感スコアの比率***00.20.40.60.811.21.41.61.81日目(点眼前)2日目3日目4日目5日目6日目7日目******自覚症状総合スコアの比率:エピナスチン群:SCG群00.20.40.60.811.21.41.61.81日目(点眼前)2日目3日目4日目5日目6日目7日目******自覚症状総合スコアの比率:エピナスチン群:SCG群図3エピナスチン群およびSCG群におけるVRS眼掻痒感スコアの検討各観察日におけるVRS眼掻痒感スコアを,点眼前のVRS眼掻痒感スコアとの比で示した.エピナスチン群において,VRS眼掻痒感スコアは点眼開始後5日目以降で有意に低下した.*:p<0.05,Shirley-Williamstest.代表症例113歳・女子図4エピナスチン群およびSCG群における自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)の検討各観察日における自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)を,点眼前の自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)との比で示した.エピナスチン群において,自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)は点眼開始後2日目以降で有意に低下した.*:p<0.05,Shirley-Williamstest.代表症例228歳・女性図5FISAstep2の回答例代表症例1は13歳,女子.エピナスチン点眼治療後4日目のFISAstep2の回答を示した.代表症例2は28歳,女性.エピナスチン点眼治療後5日目のFISAstep2の回答を示した.回答は,快適(SymptomA)と不快な症状である眼掻痒感(SymptomB)と眼脂(SymptomF)がチェックされている.示したが,統計学的有意差はなかった(図7b).III考按今回筆者らは,アレルギー性結膜炎の自覚症状を数値化し半定量的に検討することを目的として,FISAを開発した.アレルギー性結膜炎患者では,眼掻痒感,異物感,充血,眼脂,流涙が代表的自覚症状であるとされているほか,眼乾燥感や眼疲労感の訴えもみられるとされ,これらの自覚症状によりQOLが低下すると考えられている2,3).したがって,アレルギー性結膜炎の自覚症状の変化を正確に診断し治療に反映させることは,アレルギー性結膜炎診療において重要なアプローチ方法であると考えられる.FISAを開発するにあたり,筆者らは以下の条件を満たす(145)臨床検査法であることを目標とした.目標とした条件は,①小児も含め,いずれの年代でも簡便に行える検査法であること,②自覚症状の総合評価が行えること,③出現している自覚症状の種類を把握できること,④アレルギー性結膜炎の自覚症状として比較的特異度の高い症状を検査することである.したがって,FISAは自覚症状の程度を評価するstep1と種類を評価するstep2とからなり,小児でも十分検査が可能になるように選択肢はすべてフェイススケールとした.今回検討した結果では,程度を評価する自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)はVRS眼掻痒感スコアとよく相関した.しかし,自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)はFISAstep2の自覚症状の種類の合計ともよく相関していることから,眼掻痒感は自覚症状の程度を評価することのあたらしい眼科Vol.33,No.2,2016305 *NDND*NDND(n=10)■:点眼前■:点眼開始後5日目7060出現率(%)50403020100SymptomASymptomBSymptomCSymptomDSymptomESymptomF図6FISAstep2における自覚症状の種類の出現頻度の変化エピナスチン群における自覚症状の種類の出現頻度を点眼前と点眼後5日目とで比較した.点眼開始後5日目では,快適(SymptomA)出現率が点眼前と比較して有意に上昇した.*:p<0.05,Fisher’sexacttest.,ND:notdetected.ab*NS301614他覚所見臨床スコア(点)他覚所見臨床スコア(点)2520151051210864200点眼前7日目点眼前7日目エピナスチン群SCG群図7他覚所見臨床スコアの検討5-5-5方式重症度観察スケールにより他覚所見を臨床スコア化した.エピナスチン群における他覚所見臨床スコアは,点眼開始前と比較して点眼開始後7日目で有意に低下した.*:p<0.05,NS:notsignificant,Wilcoxon’ssignedranktest.できる代表的な自覚症状ではあるものの,アレルギー性結膜炎の自覚症状は眼掻痒感以外の症状も加わった複合的な症状であると考えられた.また,アレルギー性結膜炎における自覚症状の総合的評価を行うための検査法として自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)は有用であると考えられた.日常診療における小児に対する自覚症状の評価として,「痒い」「痒くない」の2値変数が用いられることが多くみられる.しかしながら,2値変数での評価は必ずしも正確に自覚症状の程度を反映しているとはいえないと考えられる.本研究では対象者を成人に限定していないため,対象者のなかに多くの小児を含んでいるが,FISAの記録に関してはすべての症例で回答することができた.したがって,FISAは小児に対しても施行しやすい検査法であると同時に,自覚症状の程度がより詳細に検討できたと考えられた.306あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016さらに,筆者らはFISAによる自覚症状の検討を抗アレルギー点眼薬によるアレルギー性結膜炎の治療効果判定に用い,その有用性について検討した.FISAstep1による自覚症状の検討では,エピナスチン群で点眼後2日目より有意に自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)の低下がみられたが,SCG群では有意な変化はみられなかった.これらの結果は,ヒスタミンH1受容体拮抗薬であるエピナスチン点眼薬は,比較的速やかにアレルギー性結膜炎の総合的な自覚症状を改善させる可能性を示していると考えられた.一方,メディエーター遊離抑制薬であるSCG群で7日間以内に自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)の改善がみられなかったことは,メディエーター遊離抑制点眼薬は効果発現までに2週間程度を要するとされていることに関連している可能性が考えられた.また,5-5-5方式重症度観察スケールを(146) 用いて検討した他覚所見臨床スコアにおいても,エピナスチン群は点眼前と比較して,点眼後7日目で有意に他覚所見臨床スコアが低下していたのに対して,SCG群では低下傾向を示したが有意な低下ではなかった.これらの他覚所見から得られた結果とFISAによる自覚症状から得られた結果とが類似した結果であったことは,FISAがアレルギー性結膜炎に対する薬物療法の効果を正確に評価していることを示すものであり,メディエーター遊離抑制点眼薬とヒスタミンH1受容体拮抗点眼薬と効果発現の相違を示すものでもあると考えられた.さらに過去の臨床研究では,アレルギー性結膜炎に対する治療薬にはSCG点眼薬よりもヒスタミンH1受容体拮抗点眼薬を推奨する結果が報告されている16.18).今回の結果および既報から,アレルギー性結膜炎の点眼薬治療に即効性の治療効果を期待する場合は,ヒスタミンH1受容体拮抗点眼薬は有用であると考えられた.一方,VRSによる眼掻痒感の検討では,エピナスチン群は点眼5日目以降にVRS眼掻痒感スコアの有意な低下がみられた.点眼誘発試験を用いたアレルギー性結膜炎に対する点眼治療に関する臨床研究では,エピナスチン点眼薬はプラセボと比較して眼掻痒感,結膜浮腫,流涙,充血に対する有効性が確認されている19).したがって,筆者らの結果はエピナスチン点眼薬の眼掻痒感に対する有効性を,FISAとVRSとを用いることによって日常臨床でも確認できることを示すことができたと考えられた.しかし,エピナスチン群において,自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)の結果とVRS眼掻痒感スコアとの間には,効果発現までの期間に乖離があった.これは,アレルギー性結膜炎において不快と感じる症状が眼掻痒感だけでないことを示しており,眼掻痒感以外の自覚症状に対してもエピナスチン点眼薬が有効であったために自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)がVRS眼掻痒感スコアよりも早期に低値を示すようになったと考えられた.また,自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)が1段階変化するレベルとVRS眼掻痒感スコアが1段階変化するレベルに差があったため,スコアが変化する日数に差が生じた可能性も考えられた.すなわち,ヒスタミンH1受容体拮抗点眼薬は,自覚症状に対する効果が十分に確認できるまで継続投与することが望ましいと考えられたが,その効果発現に関してはFISAを用いることにより正確に経過観察が可能になるものと考えられた.FISAstep2では,点眼前に行った検査により眼掻痒感(SymptomB)と異物感(SymptomC)がアレルギー性結膜炎で出現する頻度の高い自覚症状であることが示された.また,エピナスチン群において,FISAstep2で得られた点眼開始後5日目の自覚症状出現頻度を点眼前と比較したところ,異物感(SymptomC)と流涙(SymptomE)が低下していたが有意差はなかったのに対し,快適(SymptomA)は有(147)意に増加していた.さらに,対象症例全体で検討した結果では,快適(SymptomA)を含む回答群では快適(SymptomA)を含まない回答群と比較して自覚症状総合スコア(FISAstep1スコア)が有意に低値であった.代表症例2からわかるように,治療中のアレルギー性結膜炎症例のFISAstep2では,快適を示すフェイスと不快を示すフェイスが回答のなかに混在する.これらの結果から,自覚症状の種類から重症度や治療効果を判定する方法として,不快な症状の数や種類により判定することができると考えられるが,明確な重症度分類の作成は困難である.一方,自覚症状のなかに快適(SymptomA)が選択される場合には,自覚症状が軽症化したことを示す徴候と考えることができる.したがって,快適(SymptomA)の有無に注目して経過観察する方法は,治療効果を観察する場合に有用であると考えられた.今回の検討では,症例数や評価した点眼薬の種類が非常に限られていたが,今後は対象となるアレルギー性結膜疾患の病型や症例数を増やし,点眼薬の種類に副腎皮質ステロイド点眼薬や免疫抑制薬を加えた大規模研究により,アレルギー性結膜疾患全般における評価を検討する必要があると考えられた.筆者らの開発したFISAは,アレルギー性結膜炎患者の自覚症状の程度および治療効果判定を行う臨床検査法として有用であると考えられた.本研究は,日本大学医学部視覚科学系眼科学分野と参天製薬株式会社との共同研究による.稿を終えるにあたり,ご高閲を賜りました日本大学医学部視覚科学系眼科学分野湯澤美都子主任教授に深謝いたします.文献1)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン作成委員会:特集:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第2版).日眼会誌114:829-870,20102)庄司純,内尾英一,海老原伸行ほか:アレルギー性結膜疾患診断における自覚症状,他覚所見および涙液総IgE検査キットの有用性の検討.日眼会誌116:485-493,20123)深川和己,藤島浩,福島敦樹ほか:アレルギー性結膜疾患特異的qualityoflife調査表の確立.日眼会誌116:494502,20124)LeonardiA:Allergyandallergicmediatorsintears.ExpEyeRes117:106-117,20135)VirchowJC,KayS,DemolyPetal:Impactofocularsymptomsonqualityoflife(QOL),workproductivityandresourceutilizationinallergicrhinitispatients―anobservational,crosssectionalstudyinfourcountriesinEurope.JMedEcon14:305-314,20116)BousquetPJ,DemolyP,DevillierPetal:Impactofallergicrhinitissymptomsonqualityoflifeinprimarycare.IntArchAllergyImmunol160:393-400,20137)ScottJ,HuskissonEC:Graphicrepresentationofpain.あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016307 Pain2:175-184,19768)WongDL,BakerCM:Paininchildren:comparisonofassessmentscale.PediatrNurs14:9-17,19889)LuffyR,GroveSK:Examiningthevalidity,reliability,andpreferenceofthreepediatricpainmeasurementtoolsinAfrican-Americanchildren.PediatrNurs29:54-59,200310)OhKJ,KimSH,LeeYHetal:Pain-relatedevokedpotentialinhealthyadults.AnnRehabilMed39:108115,201511)LorishCD,MaisiakR:Thefacescale:abrief,nonverbalmethodforassessingpatientmood.ArthritisRheum29:906-909,198612)KimEJ,BuschmannMT:ReliabilityandvalidityoftheFacePainScalewitholderadults.IntNursStud43:447456,200613)GarraG,SingerAJ,TairaBRetal:ValidationoftheWong-BackerFACESpainratingscaleinpediatricemergencydepartmentpatients.AcadEmergMed17:50-54,201014)CallebautI,SpielbergL,HoxVetal:Conjunctivaleffectsofaselectivenasalpollenprovocation.Allergy65:11731181,201015)ShojiJ,InadaN,SawaM:Evaluationofnovelscoringsystemusing5-5-5exacerbationgradingscaleforallergicconjunctivitisdisease.AllergolInt58:591-597,200916)JamesIG,CampbellLM,HarrisonJMetal:Comparisonoftheefficacyandtolerabilityoftopicallyadministeredazelastine,sodiumcromoglycateandplacebointhetreatmentofseasonalallergicconjunctivitisandrhino-conjunctivitis.CurrMedResOpin19:313-320,200317)GreinerJV,MichaelsonC,McWhirterCIetal:Singledoseofketotifenfumarate.025%vs2weeksofcromolynsodium4%forallergicconjunctivitis.AdvTher19:185193,200218)FigusM,FogagnoloP,LazzeriSetal:Treatmentofallergicconjunctivitis:resultsofa1-month,single-maskedrandomizedstudy.EurJOphthalmol20:811818,201019)AbelsonMB,GomesP,CramptonHJetal:Efficacyandtolerabilityofophthalmicepinastineassessedusingtheconjunctivalantigenchallengemodelinpatientswithahistoryofallergicconjunctivitis.ClinTher26:35-47,2004***308あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(148)

糖尿病黄斑浮腫におけるベバシズマブ反応不良例のラニビズマブへのスイッチ療法の検討

2016年2月29日 月曜日

《第20回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科33(2):295.299,2016c糖尿病黄斑浮腫におけるベバシズマブ反応不良例のラニビズマブへのスイッチ療法の検討平野隆雄鳥山佑一松田順繁時光元温京本敏行千葉大村田敏規信州大学医学部眼科学教室EvaluationofResponsetoTherapySwitchfromBevacizumabtoRanibizumabinDiabeticMacularEdemaTakaoHirano,YuichiToriyama,YorishigeMatsuda,MotoharuTokimitsu,ToshiyukiKyoumoto,DaiChibaandToshinoriMurataDepartmentofOphthalmology,ShinshuUniversitySchoolofMedicine目的:ベバシズマブ硝子体内投与(intravitrealbevacizumab:IVB)反応不良の糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)症例においてラニビズマブ硝子体内投与(intravitrealranibizumb:IVR)へのスイッチ療法の効果を検討する.対象および方法:対象はDMEに対しIVB施行されるも反応不良のためIVRへスイッチした7例7眼.最終IVBと初回IVRにおいて投与前と投与1カ月後の中心窩網膜厚,最高矯正視力(logMAR)について検討した.結果:最終IVBの中心窩網膜厚は投与前が476.1±119.2μm,投与1カ月後が484.0±99.7μmと有意差は認められなかった.初回IVRの中心窩網膜厚は投与前が520.1±82.1μm,投与1カ月後343.3±96.8μmと有意な改善を認めた(p=0.0156).最高矯正視力は最終IVB,初回IVRともに投与前,投与1カ月後で有意差は認められなかった.結論:IVB反応不良のDMEではIVRへのスイッチ療法が有効な症例があることが示唆された.Purpose:Toevaluatetheefficacyofswitchingtoranibizumabtherapyfollowingbevacizumabtreatmentfailureineyeswithdiabeticmaculaedema(DME).Methods:Weenrolled7eyesof7patientswithDMEwhoreceivedranibizumabinjectionsfollowingbevacizumabtreatmentfailure.Best-correctedvisualacuity(BCVA)andcentralretinalthickness(CRT)accordingtospectral-domainOCTwereevaluatedbeforeandat1monthafterthelastbevacizumabinjectionandthefirstranibizumabinjection,respectively.Results:MeanCRTshowednosignificantchangeat1monthafterthelastbevacizumabtreatment(before:476.1±119.2;after:484.0±99.7μm),buthaddecreasedsignificantly(p=0.0156)at1monthafterthefirstranibizumabtreatment(before:520.1±82.1μm;after:343.3±96.8μm).BCVAdidnotdiffersignificantlybetweenbeforeand1monthafterthelastbevacizumabandthefirstranibizumabtreatment.Conclusions:RanibizumabtherapywaseffectiveinreducingCRTineyesthathadfailedbevacizumabtherapy.Theresultssuggestthatswitchingbetweenanti-vascularendothelialgrowthfactordrugsmaybeusefulineyeswithDME.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(2):295.299,2016〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,抗VEGF薬,スイッチ療法,ベバシズマブ,ラニビズマブ.diabeticmacularedema,antiVEGFdrug,switchingtherapy,bevacizumab,ranibizumab.はじめに従来,糖尿病黄斑浮腫(diabeticmaculaedema:DME)はレーザー網膜光凝固,薬物療法,硝子体手術によって治療されてきたが,実臨床の場では治療困難な症例も散見された.そのような状況のなか,血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が糖尿病網膜症の硝子体内で濃度が上昇することが報告され,DMEの病因としても重要な役割を果たすことが明らかとなり1).その後,多くの大規模臨床研究において抗VEGF薬のDMEに対する良好な治療成績が報告されている2.4).わが国ではDME治療〔別刷請求先〕平野隆雄:〒390-8621長野県松本市旭3-1-1信州大学医学部眼科学教室Reprintrequests:TakaoHirano,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,ShinshuUniversitySchoolofMedicine,3-1-1Asahi,Matsumoto,Nagano390-8621,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(135)295 における抗VEGF薬としてベバシズマブ(アバスチンR)が適用外使用ながら用いられていたが,ラニビズマブ(ルセンティスR),アフリベルセプト(アイリーアR)がそれぞれ平成26年2月と11月にDMEまで適用拡大され,DME治療における抗VEGF薬の選択肢は広がりつつある.DMEに先駆けて抗VEGF薬が認可された加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)では,近年,抗VEGF薬に対する反応不良例として,投与開始時から薬剤に反応しないnon-responder(無反応)5),治療開始当初は良好な効果がみられるが投与を繰り返すうちに効果が減弱するtachyphylaxis・tolerence(耐性)6)が報告されている.このような抗VEGF薬反応不良のAMD症例に対しては,抗VEGF薬を他の種類に変更するスイッチ療法の良好な成績が報告されている7).今回,筆者らは,ベバシズマブ硝子体内投与(intravitrealbevacizumab:IVB)反応不良のDME症例においてラニビズマブ硝子体内投与(intravitrealranibizumb:IVR)へのスイッチ療法の効果を検討したので報告する.I対象および方法2013年6月.2014年8月に信州大学附属病院でDMEに対し3回以上IVB施行するも反応不良のため,抗VEGF薬をラニビズマブへスイッチした症例で既報に準じ8),下記の選択基準を満たし除外基準を含まない患者を対象とした.選択基準:①20歳以上の2型糖尿病患者,②スペクトラルドメイン光干渉断層計(spectraldomainopticalcoherencetomography:SD-OCT)による中心窩を中心とした直径1mmの網膜厚の平均である中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)が初回IVB治療前に350μm以上,③IVBを3回以上施行するも反応不良のためIVRへスイッチ.反応不良とはIVB後1カ月で.胞様黄斑浮腫や漿液性網膜.離を伴い,CRTがIVB初回治療前よりも20%以上の改善を認めない,もしくはCRTが350μm以上と定義した.除外基準:①本研究前の局所的もしくは全身的な抗VEGF療法の既往,②3カ月以内の何らかの網膜光凝固術・局所ステロイド治療の既往,③AMD・硝子体黄斑牽引・黄斑上膜・眼内炎症などDME以外に黄斑に影響を与える疾患の既往,④6カ月以内の白内障手術歴・時期を伴わない硝子体手術歴.⑤重症心疾患,脳血管障害,血液疾患,悪性腫瘍などの重篤疾患の既往.IVBはベバシズマブとして1回当たり1.25mgを0.05mlに調整し,4.6週ごとにCRTが350μm以上で投与するいわゆるPRN(ProReNata)投与で行った.最終IVBと初回IVRにおいて投与前と投与1カ月後のCRT,最高矯正視力(bestcorrectedvisualacuity:BCVA)について検討した.SD-OCTはCirrusHD-OCT(CarlZeissMeditec)を用い296あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016た.統計処理はGraphPadPrismRversion6(GraphPadSoftware)を用い,Wilcoxon符号順位和検定によるノンパラメトリック検定を行い危険率5%(p<0.05)をもって有意差ありとした.なお,本研究は信州大学附属病院倫理委員会の承認を得て行った(臨床研究No.2256)II結果症例内訳は男性4例4眼,女性3例3眼,年齢60±11(平均±標準偏差)歳であった.IVB前のDME治療歴は網膜局所光凝固術が3.3±1.4回,局所ステロイド治療が2.0±1.1回であった.初回IVB前のCRTは566.1±93.8μmで投与1カ月後464.0±56.5μmと有意な減少を認めた(p=0.0481)(図1a).IVBによる治療期間中,治療前と比較してCRTは最高で平均161.3±86.8(53-300)μmの減少を認め,全症例においてCRTの改善では一定の治療効果がみられた.その後,IVB反応不良のためIVRへスイッチする直前の最終IVBのCRTは投与前が476.1±119.2μm,投与1カ月後484.0±99.7μmで有意差は認められなかった(p=0.8125)(図1b).初回IVRのCRTは投与前が520.1±82.1μm,投与1カ月後343.3±96.8μmと有意な改善を認めた(p=0.0156)(図1c).BCVA(logMAR)は初回IVBで統計学的に有意差は認められなかったが,投与前0.40±0.20,投与1カ月後0.32±0.14と改善傾向を認めた(p=0.1875)(図2a).最終IVBのBCVAは投与前0.35±0.31,投与1カ月後0.38±0.29と改善傾向なくむしろ悪化傾向を認めた(p=0.5000)(図2b).初回IVRでは統計学的に有意差は認められなかったが,投与前0.37±0.24,投与1カ月後0.30±0.21と改善傾向を認めた(p=0.5625)(図2c).なお,IVRへスイッチする前のIVB回数は平均で7.4±2.3回であった.また,最終IVBから初回IVRまでの平均期間は1.50±0.65(1.2.5)カ月であった.代表症例の経過を図3に示す.71歳,男性.2002年に糖尿病を指摘されるも放置.2009年より内服にて糖尿病治療を開始.2010年に右眼)汎網膜光凝固施行.その後,右眼)DME認めたため2012年当科初診.網膜局所光凝固術を5回,局所ステロイド治療を3回施行も浮腫の軽減認めなかったため,患者の同意を得たうえで2013年,初回IVBを施行.初回IVB前はCRT629μm,BCVA(少数)0.3であったが,投与1カ月後にはCRTが507μmと減少を認め,BCVA(少数)0.5まで改善を認めた(図3a,b).その後,IVB6回行われるも徐々に治療効果が減弱し,最終IVB前はCRT637μm,BCVA(少数)0.4で,投与1カ月後にはCRT609μm,BCVA(少数)0.4と反応不良となった(図3c,d).患者希望もあり,いったんIVBを中止.最終IVBより3カ月後に初回IVR施行したところCRTは628μmから285μmと減少を認め,BCVA(少数)も0.2から0.5へ改善を認めた(136) a:初回IVBb:最終IVBc:初回IVR800800800中心窩網膜厚(μm)*2002002000投与前投与1カ月後0投与前投与1カ月後0*投与前投与1カ月後中心窩網膜厚μm)図1初回IVB,最終IVB,初回IVR投与前後の中心窩網膜厚の変化a:初回IVBのCRTは投与前が566.1±93.8μm,投与1カ月後464.0±56.5μmと有意な改善を認めた(p=0.0481).b:最終IVBのCRTは投与前が476.1±119.2μm,投与1カ月後484.0±99.7μmで有意差は認められなかった(p=0.8125).c:初回IVRのCRTは投与前が520.1±82.1μm,投与1カ月後343.3±96.8μmと有意な改善を認めた(p=0.0156).a:初回IVBb:最終IVBc:初回IVR中心窩網膜厚(μm)6006006004004004001.0最高矯正視力(logMAR)最高矯正視力(logMAR)0.00.20.40.80.61.0最高矯正視力(logMAR)1.00.80.60.40.20.00.80.60.40.20.0投与前投与1カ月後投与前投与1カ月後投与前投与1カ月後図2初回IVB,最終IVB,初回IVR投与前後の最高矯正視力(logMAR)の変化a:初回IVBのBCVA(logMAR)は統計学的に有意差は認められなかったが,投与前0.40±0.20,投与1カ月後0.32±0.14と改善傾向を認めた(p=0.1875).b:最終IVBのBCVA(logMAR)は投与前0.35±0.31,投与1カ月後0.38±0.29と改善傾向なく,むしろ悪化傾向を認めた(p=0.5000).c:初回IVRのBCVA(logMAR)は統計学的に有意差は認められなかったが,投与前0.37±0.24,投与1カ月後0.30±0.21と改善傾向を認めた(p=0.5625).(図3e,f).DMEの症状が安定したため,初回IVRから9対する良好な治療成績が報告されている2.4).わが国ではカ月後に白内障手術を施行.計6回IVR施行し,初回IVR2014年2月にラニビズマブ(ルセンティスR)がDMEまでから12カ月後の最終受診時にはCRT261μm,BCVA(少数)保険適用が拡大される以前は,DME治療で保険適用のある1.2と良好な治療効果が得られており,今後もDMEの悪化抗VEGF薬が存在しなかったため,各施設の倫理委員会のを認めるようならIVRを施行する予定である(図3g).承認を得たうえで,ベバシズマブ(アバスチンR)が適用外III考按使用ながら用いられていた.過去の大規模臨床研究の結果と同様に,実臨床の場でもDMEに対して良好な治療効果を示VEGFが眼内の血管新生や血管透過性亢進に深くかかわすことが多いIVBであったが,一方で治療抵抗性や治療効っていることが1994年に報告され1),その後登場した抗果の減弱といった問題も報告されるようになった9).本研究VEGF薬については多くの大規模臨床研究においてDMEにでも7眼すべてにおいて初回IVB後1カ月の平均CRTは有(137)あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016297 1.21a629cd637631e628b511537609520526507456424f337332285266246262240297g261CRT(μm)BCVA(少数)白内障手術0.80.60.40.20002M4M6M8M10M12M14M16M18M20M1M3M5M7M9M11M13M15M17M19Mabcdefg図3代表症例の経過グラフの左縦軸はCRT(μm),右縦軸はBCVA(少数),横軸は初回IVBからの経過日数(月)を表す..はIVBを△はIVRを表す.a:初回IVB投与前,CRT629μm,BCVA(少数)0.4.b:初回IVB投与後1カ月,CRT507μm,BCVA(少数)0.5.c:最終IVB投与前,CRT637μm,BCVA(少数).d:最終IVB投与後1カ月,CRT609μm,BCVA(少数)0.4.e:初回IVR投与前,CRT628μm,BCVA(少数)0.2.f:初回IVR投与後1カ月,CRT285μm,BCVA(少数)0.5.g:最終受診時,CRT261μm,BCVA(少数)1.2.298あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(138) 意に減少を認めたが,平均7.4回のIVB後,CRTは有意な減少を認めず反応不良となった.DMEに先駆けて抗VEGF薬が認可されたAMDでは,このような抗VEGF薬反応不良のAMD症例において,抗VEGF薬を他の種類に変更するスイッチ療法の良好な成績が報告されている7).本研究でもIVB反応不良のDME症例7眼すべてにおいて初回IVRへスイッチすることにより1カ月後にCRTの有意な減少を認めた.IVB反応不良のDME症例においてIVRへのスイッチ療法が有効であることの詳細なメカニズムについては明らかになっていない.AMDでは抗VEGF薬治療中に効果が減弱し反応不良となる理由として,抗VEGF薬に対する中和抗体の産生,標的組織での脱感受性,標的組織でのVEGF産生亢進などが考えられている10).同様の原因により本研究で対象としたDME症例においても,徐々にIVBに対して治療抵抗性となっていた可能性は高いと考えられる.また,KaiserらがIVB反応不良のAMD症例においてIVRへのスイッチ療法が有効な理由として,ラニビズマブがベバシズマブより分子量が小さく,VEGFへの親和性が高いためと考察しているように,Fc領域の有無といった両者の根本的な創薬デザインの相違も大きく影響していると考えられる11).本研究は症例数が7症例と少なく,観察期間も短いため,今後,より多くの症例と長期間の観察が必要と思われる.また,ラニビズマブ反応不良症例において,ベバシズマブやアフリベルセプトなど他の抗VEGF薬へのスイッチ療法の効果についても検討する必要があると思われる.本研究では,ベバシズマブ反応不良となったDME症例において,ラニビズマブへのスイッチ療法が有効な症例があることが示唆された.DMEに対する抗VEGF療法において,反応不良例では一つの抗VEGF薬にこだわらず,抗VEGF薬を変更するスイッチ療法を選択肢の一つとして検討することは重要と考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendothelialgrowthfactorinocularfluidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEnglJMed331:1480-1487,19942)MichaelidesM,KainesA,HamiltonRDetal:Aprospectiverandomizedtrialofintravitrealbevacizumaborlasertherapyinthemanagementofdiabeticmacularedema(BOLTstudy)12-monthdata:report2.Ophthalmology117:1078-1086e1072,20103)NguyenQD,ShahSM,KhwajaAAetal:Two-yearoutcomesoftheranibizumabforedemaofthemAculaindiabetes(READ-2)study.Ophthalmology117:21462151,20104)DoDV,Schmidt-ErfurthU,GonzalezVHetal:TheDAVINCIStudy:phase2primaryresultsofVEGFTrap-Eyeinpatientswithdiabeticmacularedema.Ophthalmology118:1819-1826,20115)OtsujiT,NagaiY,ShoKetal:Initialnon-responderstoranibizumabinthetreatmentofage-relatedmaculardegeneration(AMD).ClinOphthalmol7:1487-1490,20136)GasperiniJL,FawziAA,KhondkaryanAetal:Bevacizumabandranibizumabtachyphylaxisinthetreatmentofchoroidalneovascularisation.BrJOphthalmol96:14-20,20127)BakallB,FolkJC,BoldtHCetal:Aflibercepttherapyforexudativeage-relatedmaculardegenerationresistanttobevacizumabandranibizumab.AmJOphthalmol156:15-22e11,20138)HanhartJ,ChowersI:Evaluationoftheresponsetoranibizumabtherapyfollowingbevacizumabtreatmentfailureineyeswithdiabeticmacularedema.CaseRepOphthalmol6:44-50,20159)AielloLP,BeckRW,BresslerNMetal:Rationaleforthediabeticretinopathyclinicalresearchnetworktreatmentprotocolforcenter-involveddiabeticmacularedema.Ophthalmology118:e5-e14,201110)BinderS:Lossofreactivityinintravitrealanti-VEGFtherapy:tachyphylaxisortolerance?BrJOphthalmol96:1-2,201211)KaiserRS,GuptaOP,RegilloCDetal:Ranibizumabforeyespreviouslytreatedwithpegaptaniborbevacizumabwithoutclinicalresponse.OphthalmicSurgLasersImaging43:13-19,2012***(139)あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016299

増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対する毛様体扁平部バルベルト緑内障インプラントの初期成績

2016年2月29日 月曜日

《第20回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科33(2):291.294,2016c増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対する毛様体扁平部バルベルト緑内障インプラントの初期成績上原志保田中克明太田有夕美豊田文彦榛村真智子木下望高野博子梯彰弘自治医科大学附属さいたま医療センター眼科Short-TermClinicalOutcomesofBaerveldtGlaucomaImplantviaParsPlanaforNeovascularGlaucomainProliferativeDiabeticRetinopathyShihoUehara,YoshiakiTanaka,AyumiOta,FumihikoToyota,MachikoShimmura,NozomiKinoshita,HirokoTakanoandAkihiroKakehashiDepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,SaitamaMedicalCenter目的:増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対する毛様体扁平部バルベルト緑内障インプラント(ParsPlanaBGI)によるチューブシャント手術の初期の眼圧下降効果の検討.対象および方法:眼圧コントロール不良な増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対し2014年8月.2015年2月にParsPlanaBGIによるチューブシャント手術が行われた4例4眼.結果:術後観察期間は平均100日.全症例において緑内障点眼薬および炭酸脱水酵素阻害薬内服併用なく眼圧コントロール良好となった.1症例において入院中に脳梗塞が疑われ施行した頭部単純CT検査にて,ParsPlanaBGIが適切な位置に留置されているのが確認できた.結論:術後初期段階において良好な眼圧が得られており,増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対し本術式は有効であると考えられた.Purpose:Toevaluateshort-termfollow-upresultswiththeBaerveldtglaucomaimplant(BGI)withadrainagetubefromtheparsplanainpatientswithneovascularglaucomafromproliferativediabeticretinopathy.Meth-ods:Thestudyincluded4eyesof4patientswithneovascularglaucomafromproliferativediabeticretinopathy.AllunderwentBGIimplantationviatheparsplanabetweenAugust2014andFebruary2015.Results:Thepatientswerefollowedfor100days.Intraocularpressure(IOP)waswellcontrolledwithoutdrugsinallcases.Onepatientunderwentheadcomputedtomography(CT)becauseofsuspectedcerebrovasculardisease.TheCTscanshowedthattheBGIwaswellpositioned.Conclusions:BGIviatheparsplanaisausefulmethodofobtainingashort-termIOP-loweringeffectinpatientswithneovascularglaucomafromproliferativediabeticretinopathy.BGIpositioncanbecheckedeasilybyheadCT.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(2):291.294,2016〕Keywords:毛様体扁平部バルベルト緑内障インプラント,増殖糖尿病網膜症,血管新生緑内障,頭部単純CT検査.Baerveldtglaucomaimplantviatheparsplana,proliferativediabeticretinopathy,neovascularglaucoma,simplecomputedtomography.はじめに血管新生緑内障は眼圧コントロール不良で最終的にはトラベクレクトミーを施行することになるが,その手術成績は決して満足できるものではない.筆者らは以前に血管新生緑内障に対し水晶体前.温存経毛様体扁平部水晶体切除,毛様体扁平部までの徹底的な硝子体切除と眼内レーザー,シリコーンオイル充.の術式にて良好な眼圧下降が得られることを報告した1).しかしながらこの術式においても周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)が進行した症例では最終的にトラベクレクトミーを要する.バルベルト緑内障インプラント(Baerveldtglaucomaimplant:BGI)は房水もしくは硝子体液を眼球赤道付近の結膜下にシャントさせるデ〔別刷請求先〕上原志保:〒330-8503埼玉県さいたま市大宮区天沼町I-847自治医科大学附属さいたま医療センター眼科Reprintrequests:ShihoUehara,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,SaitamaMedicalCenter,1-847Amanumachou,Omiya-ku,Saitama-shi,Saitama330-8503,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(131)291 バイスで1990年から米国で用いられ,有効性と安全性が検証されてきた2).日本では,2012年から保険適用になり,当科は2014年から眼圧コントロール不良な難治症例を対象に施行している.BGIはシリコーン製のチューブとそれに接続するシリコーン製のプレートで構成されている.房水もしくは硝子体液をチューブに通してプレートに流出させ,プレート周囲に形成される結合織の被膜を通して周囲組織に房水を吸収させることで,眼圧を下げる仕組みである.また,バリウムが染み込ませてあるため,X線検査にて移植位置が確認できる3).今回筆者らは,この毛様体扁平部バルベルト緑内障インプラント(ParsPlanaBGI)を眼圧コントロール不良な増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対し使用し,良好な結果を得たので報告する.I症例1.手術方法今回のParsPlanaBGIの基本術式は,硝子体手術後に角膜輪部基底において6.5×6.5mmの強膜フラップを作製し,角膜輪部より3.5mmの毛様扁平部の位置からHoffmannelbowをつなげたチューブを硝子体腔内に挿入した.Hoffmannelbowは9/0ナイロンで強膜床に縫着しプレートの両翼を外直筋および上直筋下に位置させた後,強膜に5/0非吸収糸で縫着した.チューブは8/0吸収糸で結紮し,結紮部より輪部側のチューブへ8/0吸収糸の針でスリット状の穴開けをした(Sherwoodslit).強膜フラップは9/0ナイロンで閉鎖し,結膜縫合はリークのないように輪部に10/0ナイロンでブロッキングスーチャーを置いた.2.各症例の経過症例は,2014年8月.2015年2月に増殖糖尿病網膜症患者で血管新生緑内障と診断され,BGI手術を受けた4症例4眼である.平均年齢58歳,全症例男性,術前の平均眼圧は44.3mmHg,平均入院期間20日であった.症例1は,49歳,男性,術眼右眼,増殖糖尿病網膜症,血管新生緑内障があり,術前視力はVD=s.l.(+),VS=s.l.(.)(幼少時外傷眼),術前眼圧は56mmHg.既往は,汎網膜光凝固,硝子体切除術2回(毛様体光凝固1回),トラベクレクトミー2回を施行している.BGI術後のブレブ形成はなく,デバイスの露出も認められなかった.眼圧は術後133日で15mmHgと下降し,虹彩ルベオーシスも消退した.症例2は,69歳,男性,術眼左眼,増殖糖尿病網膜症,血管新生緑内障があり,術前視力はVD=0.2(n.c.),VS=0.01(0.05),術前眼圧は31mmHg.既往は,汎網膜光凝固,白内障手術,硝子体切除術(シリコーンオイル注入)を施行している.BGI術後のブレブ形成はなくデバイスの露出も認められなかった.眼圧は術後125日で12mmHgと下降し虹彩ルベオーシスも消退した.症例3は,69歳,男性,術眼左眼,増殖糖尿病網膜症,血管新生緑内障があり,周辺虹彩前癒着もすでに認められて0102030405060術前週間後2週間後1カ月後2カ月後3カ月後4カ月後:症例1:症例2:症例3:症例4眼圧(mmHg)図1症例3の頭部CT図24症例の眼圧経過表1術後経過症例観察期間(日数)転機術前視力術前眼圧最終視力最終眼圧点眼種類数ダイアモックス内服123413312511726良好良好良好良好s.l.0.05m.m.0.556314646m.m.0.080.040.615129120000なしなしなしなし292あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(132) いた.術前視力はVD=0.5(1.0),VS=m.m.,術前眼圧は46mmHg.既往は,白内障手術,網膜光凝固術,抗VEGF薬硝子体注射3回を施行している.この症例のみ硝子体切除術が施行されていなかったので,硝子体切除術とBGI手術の同時手術を施行した.術後のブレブ形成はなくデバイスの露出も認められなかった.眼圧は術後117日で9mmHgと下降し,前房出血,虹彩ルベオーシスも消退した.また,入院中に脳梗塞が疑われ施行した頭部CT検査にて,ParsPlanaBGIが適切な位置に留置されているのが確認できた(図1).症例4は,45歳,男性,術眼左眼,増殖糖尿病網膜症,血管新生緑内障があり,周辺虹彩前癒着もすでに認められていた.術前視力はVD=0.6(1.2),VS=0.2(0.5),術前眼圧は46mmHg.既往は,抗VEGF薬硝子体注射1回,硝子体切除術2回(シリコーンオイル注入・抜去)を施行している.BGI手術後も高眼圧が続き,Sherwoodslitが有効に機能していない可能性があったため,術後7日目にチューブ部分の結紮糸を切除した.その後の眼圧は術後26日で12mmHgと下降し虹彩ルベオーシスも消退した.今回のBGI手術症例において術後4カ月では,眼圧下降作用のある点眼および炭酸脱水酵素阻害薬内服の併用なく4症例すべて眼圧コントロール良好であり,虹彩新生血管も消退した(図2,表1).II考按今まで増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対するBGI手術の報告は少ない.Chalamらは毛様体光凝固術とBGI手術の手術成績について,毛様体光凝固術30症例とBGI手術18症例を比較し報告している4).この報告では,手術後6カ月間において6mmHg以上21mmHg以下の眼圧にコントロールされたのは,BGI手術18症例中17症例(94.4%)であった.これまで,白人を対象としたParsPlanaBGIの手術の成績では1年成功率が84.6%とされており2,5),それと比較し遜色のない初期成績であった.当科では,このParsPlanaBGIを採用する以前は糖尿病患者に続発する眼圧コントロール不良なPASを伴う血管新生緑内障に対してはmitomycinC併用線維柱帯切除術を標準術式としてきた.したがって今回のParsPlanaBGIを使用したシャント手術の効果を評価するため,2008年11月.2013年11月の過去5年間に,糖尿病患者でPASを伴う血管新生緑内障に対して施行したmitomycinC併用線維柱帯切除術の14症例(平均年齢59.3歳,男性10人,女性4人)を対照症例として比較した.14例のうち,観察期間は120日にて再手術なく経過したのは11症例であった(生存率78.5%).11症例すべてにてプロスタグランジン関連薬,交感神経b遮断薬,交感神経刺激薬,交感神経a1遮断薬,副(133)交感神経刺激薬,炭酸脱水酵素阻害薬などのなかから2.4種類を組み合わせて併用していた.再手術なく経過した11症例であってもすべて降圧薬使用され(100%),BGI手術症例の降圧薬使用率(0%)と比較すると統計学的な有意差(Fisherの直接確立計算法)(p<0.001)が認められた.また,BGI手術の合併症として以下のようなものが報告されている.チューブの術後閉塞,チューブ・プレートの露出,チューブの偏位・後退,房水漏出,術後感染,眼内炎,術後低眼圧,術後高眼圧,角膜障害,浅前房,悪性緑内障,前房出血,前房蓄膿,慢性虹彩炎,フィブリン反応,虹彩癒着・萎縮,瞳孔偏位,白内障,脈絡膜.離,減圧網膜症,.胞状黄斑浮腫,硝子体出血,低眼圧黄斑症,網膜.離,複視,斜視,眼球運動障害,眼瞼下垂,違和感,眼球癆などである6).GeddeらによってBGI手術とmitomycinC併用線維柱帯切除術の合併症発生率の比較が報告7)されている.これによると術中合併症の発生率に有意差はなかったが,術後1カ月以内の早期合併症ではBGI手術(21%)と比較しmitomycinC併用線維柱帯切除術(37%)が有意に高かった(p=0.012).しかしながら,術後1カ月目以降の合併症は,BGI手術(34%)とmitomycinC併用線維柱帯切除術(36%)で有意差を認めなかった.縫合部や濾過胞からの漏出,濾過胞に起因する違和感はmitomycinC併用線維柱帯切除術で多く,BGI手術では遷延性角膜浮腫や,チューブ特有の合併症(露出,閉塞)が認められた.視力低下や再手術を要する重篤な合併症の発生率は,BGI手術(19%)とmitomycinC併用線維柱帯切除術(14%)では同程度であった2,6).当科では,術後1カ月以内の早期合併症はBGI手術では脈絡膜.離,前房出血,硝子体出血,角膜障害が4症例中3症例(75%)で認められたが,すべて消退した.術後1カ月目以降の合併症は4症例中0症例(0%)であった.MitomycinC併用線維柱帯切除術では,早期合併症(フィブリン反応,術後高眼圧,前房出血,硝子体出血,脈絡膜.離)は14症例中13症例(92.8%),術後1カ月目以降の合併症(虹彩癒着,濾過胞縮小,角膜障害)は14症例中3症例(21.4%)であった.このことからも,現時点では従来のトラベクレクトミー手術での眼圧コントロール不良な症例に対しこれらのチューブシャント手術が勧められているが,増殖糖尿病網膜症に伴う血管新生緑内障に対しては合併症発生率の高いトラベクレクトミーより優先される術式となる可能性がある.今回筆者らは少数例での短期的な結果ではあるが,BGI手術の4症例すべてにおいて薬物治療の必要のないレベルまでの良好な眼圧コントロールを得ることができ,また合併症発生率も有意差を認めたので,BGIによるチューブシャント手術の優位性が期待されるが,今後の症例の蓄積が必要である.また,今回の症例で得られた教訓としてはSherwoodslitを作製しても術後のブレブ形成はない場合が多く,またあたらしい眼科Vol.33,No.2,2016293 Sherwoodslit自体が機能しなければ早期の眼圧下降効果も得られない症例があり,そのような症例に対してはチューブの結紮を解除することも手段として選択しなければいけないということである.個々の症例でSherwoodslitの作り方やチューブ結紮の加減を変えていくことが必要であるかもしれない.今回は角膜内皮に対するダメージを危惧して前房留置型のシャントチューブデバイスは使用しなかった.前房留置型のシャントチューブのデバイスでも角膜内皮へのダメージは少ないとの報告8)もあるが,増殖糖尿病網膜症の症例では手術する時点で角膜内皮細胞密度がすでに低下している症例が多くある.また,血管新生緑内障は網膜虚血が根本にあるため高眼圧でさらに虚血が進行し悪循環になっている.網膜虚血からくるVEGFの産生はある程度,汎網膜光凝固などの治療で抑えられるが,眼圧自体をコントロールできなければこの悪循環から逃れることはできない.このようなメカニズムおよび増殖糖尿病網膜症が硝子体手術の必要な網膜硝子体疾患であることから考えると,硝子体手術を行ったうえでのParsPlanaBGIによるチューブシャント手術は増殖糖尿病網膜症に伴う血管新生緑内障に対する治療としてはもっとも妥当な治療と考えられる.筆者らは,増殖糖尿病網膜症に続発する新生血管緑内障の症例では,硝子体留置型のデバイスを勧めたい.また,デバイスの位置確認にはCT検査が有用であることも確かめられた.III結論増殖糖尿病網膜症に伴う4症例の血管新生緑内障に対し硝子体手術後にParsPlanaBGIによるチューブシャント手術を施行した.すべての症例で薬物治療の必要がなく,良好な眼圧コントロールが得られた.今回のBGI手術は過去の当センターでのmitomycinC併用線維柱帯切除術よりも成績が良かった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)KinoshitaN,OtaA,ToyodaFetal:Surgicalresultsofparsplanavitrectomycombinedwithparsplanalensectomywithanteriorcapsulepreservation,endophotocoagulation,andsiliconoiltamponadeforneovascularglaucoma.ClinOphthalmol5:1777-1781,20112)植田俊彦,平松類,禅野誠ほか:経毛様体扁平部Baerveldt緑内障インプラントの長期成績.日眼会誌115:581588,20113)石田恭子:バルベルトR緑内障インプラント手術.あたらしい眼科30:355-356,20134)ChalamKV,GandhamS,GuptaSetal:ParsplanamodifiedBaerveldtimplanversusneodymium:YAGcyclophotocoagulationinthemanagementofneovascularglaucoma.OphthalmicSurgLasers33:383-393,20025)VarmaR,HeuerDK,LundyDCetal:ParsplanaBaerveldttubeinsertionwithvitrectomyinglaucomasassociatedwithpseudophakiaandaphakia.AmJOphthalmol119:401-407,19956)白土城照,鈴木康之,谷原秀信ほか:緑内障診療ガイドライン(第3版)補遺緑内障チューブシャント手術に関するガイドライン.日眼会誌116:388-393,20127)GeddeSJ,SchiffmanJC,FeuerWJetal:TreatmentoutcomesintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)Studyafterfiveyearsoffollow-up.AmJOphthalmol153:789803,20128)ChiharaE,UmemotoM,TanitoM:PreservationofcornealendotheliumafterparsplanatubeinsertionoftheAhmedglaucomavalve.JpnJOphthalmol56:119-127,2012***294あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(134)

My boom 49.

2016年2月29日 月曜日

監修=大橋裕一連載.MyboomMyboom第49回「岡田由香」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載.MyboomMyboom第49回「岡田由香」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介岡田由香(おかだ・ゆか)和歌山県立医科大学眼科私は,平成3年に和歌山県立医大を卒業後,すぐに眼科に入局しました.その頃はローテーションも義務化されていませんでしたので,関連病院に出向することもなく,現在までずっと同じ環境下で生活してきました.平成4年から,その頃はまだ大学院生だった現教授の雑賀司珠也先生のご指導のもと,角膜創傷治癒に関する研究を始め,現在も継続しています.臨床では,和歌山は田舎ですので,完全な専門化はなく,前眼部から網膜・硝子体まで手術にも携わらせていただいています.平成28年4月からインディアナ大学に留学させていただくことになり,学生時代から変化のない生活環境が変わることになり,期待と不安が入り乱れている今日この頃です.臨床のMyboom:「角膜外来」これまでは,研究分野とは異なり,特殊外来としては「NICUを含む未熟児外来」「斜視外来」を担当していましたが,平成27年4月から「角膜外来」が新設され,担当させていただくようになりました.おもに糖尿病を合併する白内障手術・硝子体手術前後の角膜障害の有無や,知覚低下の有無などを診察させていただいています.まだ始まったばかりですが,遷延性上皮障害などの治療に励みたいと考えています.(115)0910-1810/16/\100/頁/JCOPY研究のMyboom:「TRPチャネルと神経麻痺性角膜症」研修医の頃から一貫して,雑賀先生の指導のもと,角膜創傷治癒の研究を続けさせていただいています.最近数年はイオンチャネルであるtransientreceptorpotential(TRP)チャネルと角膜創傷治癒の関係を研究しています.TRPチャネルには,唐辛子の辛み成分であるカプサイシンや高温(43℃以上)などで活性化されるTRPV1,わさびや低温(17℃以下)などで活性化されるTRPA1,温かい温度(27~37℃)で活性化され,皮膚のバリア機能に影響するTRPV4などがあり,これらは痛み刺激でも活性化されることが知られています.これらは角膜の知覚を司る三叉神経節や角膜上皮にも分布しており,これらを制御することで,角膜上皮欠損治癒速度に影響を与えることや,難治性の角膜外傷であるアルカリ外傷の治療ターゲットになる可能性があることを見いだしてきました.私は辛い物が苦手なのですが,TRPV1が唐辛子と関係するということで,焼き肉店や中華料理店で唐辛子が出ると,皆から「お前の専門やから食べろ!」といわれてしまうのが,関西人としてはおいしい場面ですが,ちょっとつらいところです.痛み刺激と角膜創傷治癒の観点から,アルカリ外傷と同様に難治性でそのメカニズムや根治療法の確立していない神経麻痺性角膜症にも興味をもち,マウス神経麻痺性角膜症モデルの作製に成功し,TRPチャネルと神経麻痺性角膜症の研究にいそしんでいます.マウス神経麻痺性角膜症モデルは,定位脳手術の方法で三叉神経1枝に障害を与えるのですが,1日30匹以上のマウスの頭蓋骨を突いて処置をしていると,医局の先生方から気持ち悪そうな目で見られます.いつもマウあたらしい眼科Vol.33,No.2,2016275 写真1焼肉店で唐辛子かじってます!写真1焼肉店で唐辛子かじってます!スの右側の三叉神経に障害を与えているのですが,私の三叉神経痛が右側ばかりに起こるのはマウスの祟りかもと思えてきます…….早く論文という形で成仏してもらいたいと考えています.プライベートのMyboom:「ジャニーズおっかけ」高校生の頃から「少年隊のヒガシ」が好きで,学生の頃から関西で開催されるコンサートには必ず行っていました.ここ10年は年甲斐もなく「KAT-TUNの亀梨くん」にどっぷりはまってしまい,ちょっと小銭をもったことをいいことに,関西のみならず東京や福岡など全国のコンサートや舞台に行きまくっています.朝一番の飛行機や夜行バスで帰って手術室に直行したことも多々あります.そんな時はテンションが上がっているので,手術も苦にならずスイスイできます.雑賀教授には隠れてこっそり行きたいところですが,写真2マウスの三叉神経に障害を与えているところ悪いことはできないもので,なぜかコンサート直前に雑賀教授から携帯電話が鳴り,コンサートに行っていることがばれてしまうことが多いです.雑賀教授はKATTUNのコンサートスケジュールを知っているのかと疑いたくなります.しかし,これを禁止したらモチベーションが落ちると大目にみていただいているようで,雑賀教授には大変感謝しています.次のプレゼンターは兵庫医科大学の木村亜紀子先生です.斜視・弱視の分野でご活躍され,お嬢さん思いのいいママさんです.毎年,神経眼科セミナーの夜は木村先生の部屋でワインなどを持ち寄り,女子会が開催されています.見た目とは違い面白い関西のおばちゃんの面もあります.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.☆☆☆276あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(116)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 153.ぶどう膜欠損に伴う網膜剥離に対する硝子体手術(上級編)

2016年2月29日 月曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載153153ぶどう膜欠損に伴う網膜.離に対する硝子体手術(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめにぶどう膜欠損は眼杯裂閉鎖不全によって起こる眼先天異常であり,小眼球,小角膜,眼振,水晶体亜脱臼,白内障,緑内障,網膜.離などを合併する.筆者は過去にぶどう膜欠損眼に生じた裂孔原性網膜.離3眼に対して硝子体手術を施行した経験があるが,そのうち1眼を提示する.●症例提示47歳,女性.急激な左眼視力低下を自覚し当科受診.視力は右眼が0.04(0.06×sph.2.5D(cyl.0.75DAx160°),左眼が0.01(n.c).両眼に水平性の律動眼振を認めた.両眼とも小角膜,小眼球で,右眼は人工的偽水晶体眼,左眼は核白内障を認めた.左眼には下方脈絡膜欠損部位を含めて全象限の胞状網膜.離を認めた(図1).眼振が強いため,手術は全身麻酔下で行った.水晶体切除術後,硝子体切除を施行したが,健常網膜の後極は人工的硝子体.離作製が比較的容易であった.しかし,脈絡膜欠損部の網膜硝子体癒着は強固で,vitreousshavingに止めた.周辺は健常部も含めて網膜硝子体癒着が強固で,双手法で処理した.術中1時の赤道部に小さな弁状裂孔を確認した.また,下方の脈絡膜欠損部内の網膜にも約2乳頭大の円孔を認めた(図2).健常網膜と脈絡膜欠損部の境界部網膜に裂孔は認めなかった.健常網膜の耳上側中間周辺部に内部排液のための意図的裂孔を作製した後,気圧伸展網膜復位術にて網膜を伸展し,眼内光凝固および経強膜冷凍凝固を赤道部の網膜裂孔および脈絡膜欠損部との境界部位に施行し(図3),周辺部輪状締結術,ガスタンポナ.デを施行した.術後網膜は復位し,矯正視力は0.1に改善した(図4).●硝子体手術における注意点ぶどう膜欠損に合併する網膜.離は,脈絡膜欠損部内やその辺縁に沿った裂孔によって生ずるものと,脈絡膜欠損と無関係な裂孔で生ずるものとがある.脈絡膜欠損部内の裂孔の発生要因としては,網膜血管の乏血や強膜(113)0910-1810/16/\100/頁/JCOPY図1初診時左眼眼底写真下方脈絡膜欠損と胞状網膜全.離を認めた.図2術中所見(1)下方の脈絡膜欠損部内の網膜に約2乳頭大の円孔を認めた.図3術中所見(2)1時方向の赤道部裂孔に対して経強膜冷凍凝固を施行した.図4術後左眼眼底写真網膜は復位し,矯正視力は0.1に改善した.の伸展が関与している.脈絡膜欠損辺縁部は通常網膜硝子体癒着が強固で裂孔が生じやすい.本症例では脈絡膜欠損部内に円孔を認めたが,脈絡膜欠損部辺縁には裂孔を認めなかった.しかし,健常網膜の赤道部に裂孔を認め,今回の網膜.離はこれが原因裂孔と考えられる.脈絡膜欠損に伴う網膜.離では,脈絡膜欠損部の完全な硝子体切除は困難で,この部位はvitreousshavingに止めざるを得ない.気圧伸展網膜復位術後は,脈絡膜欠損部位の網膜.離が欠損部辺縁から健常網膜へ拡大しないように,辺縁部に眼内光凝固を施行しておく必要がある.文献1)家久来啓吾,佐藤孝樹,南政宏ほか:硝子体手術中に網膜下空気迷入をきたした網膜.離併発ぶどう膜欠損症の1例.臨眼61:1735-1738,2007あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016273

新しい治療と検査シリーズ 229.蛍光免疫クロマトグラフィ法によるアカントアメーバ角膜炎診断

2016年2月29日 月曜日

あたらしい眼科Vol.33,No.2,20162710910-1810/16/\100/頁/JCOPY速診断法として,蛍光免疫クロマトグラフィ法(fluorescentimmunochromatographicassay:FICGA)を用いたアカントアメーバ抗原検出キットを開発した1).免疫クロマトグラフィ法(immunochromatograph-icassay:ICGA)は,金コロイドやラテックス粒子で標識した特異抗体を用いて目的とする抗原を検出する検査法で,操作が簡便であり,判定にかかる時間も30分以内と,迅速診断が可能なことを特徴とし,眼科領域ではアデノウイルスやヘルペスウイルス感染症の迅速診断に用いられている.測定原理としては,検体中に抗原が存在すると標識抗体が結合し免疫複合体が形成される.メンブラン上のテストラインには抗原に対する特異抗体が固相されており,免疫複合体ごと抗原が捕捉され,標識抗体による発色が認められる.今回採用したFICGAで新しい治療と検査シリーズ(111).バックグラウンドアカントアメーバ角膜炎(Acamthamoebakeratitis:AK)は進行するときわめて難治な角膜感染症であり,高度の視力障害をきたす例も少なくないため,早期診断・治療が重要とされる.診断根拠となるアカントアメーバの検出には,角膜擦過物の直接検鏡,分離培養のほか,近年では共焦点顕微鏡を用いた生体観察やpoly-merasechainreaction(PCR)法によるDNA検出などが用いられているが,専門的な技術や特殊な機器を要するため,実施できる施設が限られているのが現状である..新しい検査法筆者らは一般病院や診療所でも実施可能なAKの迅229.蛍光免疫クロマトグラフィ法によるアカントアメーバ角膜炎診断検体(抗原)抽出液標識抗体検体+標識抗体抗体蛍光色素シリカ粒子抗原固相化抗体蛍光スコープで観察図1蛍光免疫クロマトグラフィ法検体を抽出液で処理後,凍結乾燥された標識抗体と混合し,プレートに滴下,判定は専用の蛍光スコープで行う.プレゼンテーション:鳥山浩二愛媛県立中央病院眼科コメント:井上幸次鳥取大学医学部視覚病態学あたらしい眼科Vol.33,No.2,20162710910-1810/16/\100/頁/JCOPY速診断法として,蛍光免疫クロマトグラフィ法(fluorescentimmunochromatographicassay:FICGA)を用いたアカントアメーバ抗原検出キットを開発した1).免疫クロマトグラフィ法(immunochromatograph-icassay:ICGA)は,金コロイドやラテックス粒子で標識した特異抗体を用いて目的とする抗原を検出する検査法で,操作が簡便であり,判定にかかる時間も30分以内と,迅速診断が可能なことを特徴とし,眼科領域ではアデノウイルスやヘルペスウイルス感染症の迅速診断に用いられている.測定原理としては,検体中に抗原が存在すると標識抗体が結合し免疫複合体が形成される.メンブラン上のテストラインには抗原に対する特異抗体が固相されており,免疫複合体ごと抗原が捕捉され,標識抗体による発色が認められる.今回採用したFICGAで新しい治療と検査シリーズ(111).バックグラウンドアカントアメーバ角膜炎(Acamthamoebakeratitis:AK)は進行するときわめて難治な角膜感染症であり,高度の視力障害をきたす例も少なくないため,早期診断・治療が重要とされる.診断根拠となるアカントアメーバの検出には,角膜擦過物の直接検鏡,分離培養のほか,近年では共焦点顕微鏡を用いた生体観察やpoly-merasechainreaction(PCR)法によるDNA検出などが用いられているが,専門的な技術や特殊な機器を要するため,実施できる施設が限られているのが現状である..新しい検査法筆者らは一般病院や診療所でも実施可能なAKの迅229.蛍光免疫クロマトグラフィ法によるアカントアメーバ角膜炎診断検体(抗原)抽出液標識抗体検体+標識抗体抗体蛍光色素シリカ粒子抗原固相化抗体蛍光スコープで観察図1蛍光免疫クロマトグラフィ法検体を抽出液で処理後,凍結乾燥された標識抗体と混合し,プレートに滴下,判定は専用の蛍光スコープで行う.プレゼンテーション:鳥山浩二愛媛県立中央病院眼科コメント:井上幸次鳥取大学医学部視覚病態学 は,標識粒子に通常の金コロイドやラテックス粒子ではなく,蛍光シリカナノ粒子(QuartzDotR;古河電工)を用いており,従来の方法と比べ感度が高いとされている.アカントアメーバに対するモノクローナル抗体としては,過去に樋渡らが,AKの原因株の大部分を占める形態学的分類GroupIIに属するアカントアメーバに対し特異的に反応するものを精製,報告しており2),これを譲渡していただいたものを用いた..検査方法本法では界面活性剤を含む抽出液によってサンプルを処理後,凍結乾燥した標識抗体と混合し,プレートに滴下,30分の反応後,専用の蛍光スコープで陽性ラインを確認することで抗原を検出する(図1).判定に蛍光スコープを用いるため,目視により判定する従来のICGAと比較し,より鋭敏な検出が可能である..本方法の良い点本キットをinvitroでアカントアメーバの栄養体およびシストの希釈液を用いて検出限界を検証したところ,栄養体は5個/sample,シストは40個/sampleまで検出可能であった.一方,同様の抗体を用いたラテックス粒子によるICGAキットでは,アカントアメーバ栄養体の検出限界は100個/sampleであり,FICGAの感度の高さが実証された.シストの検出感度が栄養体より低い理由については明確でないが,シストでは界面活性剤により菌体が十分溶解されず,抗原が標識抗体に認識されにくい可能性が原因のひとつとして考えられ,抽出方法の改善が今後の検討課題である.実際にAKが疑われた10症例の角膜擦過物を用いて,FICGA,real-timePCR,検鏡・培養によるアカントアメーバ同定を行った結果を表1に示す.全例でreal-timePCRによりアカントアメーバDNAが検出され,表1アカントアメーバ角膜炎症例における各種同定検査結果症例年齢性別検鏡培養Real-timePCR(DNAコピー数)FICGA119F.*.+(1.1×105)+218M.*++(6.8×10)+319FNTNT+(1.2×105)+457FNTNT+(<25)+532F.*.+(1.0×102)+650MNTNT+(4.0×105)+724F.*.+(<25)+829M+*++(2.5×104)+936M+*.+(2.3×103)+1030M+**++(3.2×104)+PCR:polymerasechainreaction,FICGA:fluorescentimmunochromatographicassay,NT:nottested,*グラム染色,**ファンギフローラY染色.AKと確定診断された.FICGAも全例で陽性であり,培養・検鏡陰性例やreal-timePCRで検出されたDNAcopy数が少ない症例でも検出が可能であったのは,invitroの試験で示された感度の高さを裏付けるものと考えられる.今後さらなる検討が必要であるが,本キットは簡便な操作で,迅速かつ高感度にアカントアメーバの検出が可能であり,実用化されればAK診断に大きく貢献することが期待される.文献1)ToriyamaK,SuzukiT,InoueTetal:DevelopmentofanimmunochromatographicassaykitusingfluorescentsilicananoparticlesforrapiddiagnosisofAcanthamoebakeratitis.JClinMicrobiol53:273-277,20152)HiwatashiE,TachibanaH,KanedaYetal:ProductionandcharacterizationofmonoclonalantibodiestoAcanthamoebacastellaniiandtheirapplicationfordetectionofpathogenicAcanthamoebaspp.ParasitolInt46:197-205,1997.「蛍光免疫クロマトグラフィ法によるアカントアメーバ角膜炎診断」へのコメント.アカントアメーバ角膜炎(Acamthamoebakerati-に普及することはむずかしいと思われる.ただ,今回tis:AK)の診断では,臨床所見に加えて病巣のアカ用いられた蛍光シリカナノ粒子の技術は,免疫クロマントアメーバの検出が重要だが,培養方法が特殊で,トグラフィ法の欠点である感度の低さを改善する可能通常の病院ではそのノウハウがなく,またPCRはご性がある.今後,これが発展して,一つのキットで複く一部の施設でしか施行できない.今回のアカントア数の眼感染症起炎微生物が検出される方向へ進めば,メーバの蛍光免疫クロマトグラフィ法には,蛍光ス一般眼科臨床医がその場で使用できる日が来るのではコープさえあればベッドサイドで診断できるという大ないか.このようなpoint-of-carediagnostics(POCD)きなメリットがある.残念ながら,AKはきわめて珍が発展していくうえで大変重要な報告として,多いにしいため,これがキット化されても,商品として一般注目される.272あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(112)

抗VEGF治療:糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF治療のポイント

2016年2月29日 月曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二25.糖尿病黄斑浮腫に対する高村佳弘福井大学医学部眼科学教室抗VEGF治療のポイント糖尿病黄斑浮腫に対する治療は,抗VEGF薬硝子体内注射が第一選択にあげられるが,治療後の浮腫の再発とそれに伴う頻回投与が臨床上の問題である.本稿では,その対策として虚血網膜への選択的光凝固について概説する.抗VEGF治療の功罪糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)の治療においては,ラニビズマブやアフリベルセプトといった抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬の硝子体内注射が中心となっているが,単回投与の効果の持続期間が短いことが難点である.これまでに行われてきた大規模な前向き調査は頻回投与が基本となっている.毎月投与すれば浮腫の改善は保たれ,視力も向上するが,高価な薬剤であり,患者への負担は大きく,実臨床においては頻回投与の実現はむずかしい.実際,医療費に占める割合も年々上がっており,医療経済的にも無視できない課題となっている.少ない投与回数であっても頻回投与と同様の効果を得ることができれば,それが理想的であると考えられる.抗VEGF薬の効果が限定的である理由として,薬理効果の経時的な減弱がまず考えられる.また,網膜の虚血領域からVEGFが供給されることを考えると,いったん抗VEGF薬によって眼内のVEGFを阻害して浮腫が退いたとしても,VEGFが持続的に分泌されているため,薬効が切れると浮腫の再発が起こる可能性があると思われる.実際,フルオレセイン蛍光眼底造影(fluoresceinangiography:FA)で検出される無灌流領域が広いとDMEが起こるリスクが高まることが報告され,周辺虚血がDMEの病態に関与していることが示唆されている1).抗VEGF薬と光凝固との併用療法筆者らは抗VEGF薬であるベバシズマブ単独投与群と周辺部の無灌流領域に選択的光凝固を併用した群との間で中心網膜厚を比較したところ,併用群において浮腫の再燃を抑制できたことを報告した2).単独投与群においては,無灌流領域が広いほど浮腫の再燃の程度が有意(109)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYに強くなる.これらの知見は網膜虚血が抗VEGF治療後の浮腫の再燃にも関与していることを示している.また,汎網膜光凝固(panretinalphotocoagulation:PRP)の既往があったとしても,無灌流領域が残存していると浮腫は再燃することも併せて見出した.よってPRPが施行されていたとしても,FAを行い,無灌流領域が残存していないか確認することが大事だと思われる.ただし,広範囲な無灌流領域に対して光凝固を行った場合,DMEがかえって悪化することもあり,注意が必要である.光凝固直後においてはVEGFや炎症系サイトカインの眼内レベルが一過性に上昇することが知られており,これが黄斑浮腫悪化のトリガーとなると考えられている.この光凝固後の浮腫の悪化を予防する薬物治図1蛍光眼底造影で描出される無灌流領域抗VEGF治療後,限局した無灌流領域(白点線)に対して選択的に光凝固を加えておくことが,浮腫の再燃を防ぐうえで重要である.あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016269 毛細血管瘤を伴う局所性DME直接光凝固硝子体手術硝子体膜の牽引血管造影による血管透過性の亢進と無灌流領域の同定虚血領域が広い場合は図2糖尿病黄斑浮腫に対する治療の抗VEGF薬硝子体内投与(初回)ステロイドTenon.下投与がよい流れ抗VEGF治療を行う際には,虚血の抗VEGF薬の初回投与なしで管理を念頭に置くことが必要である.周辺部虚血領域への選択的光凝固再発光凝固を行うと,かえって浮腫が悪化することがある抗VEGF薬硝子体内投与(再投与)ステロイド閾値下光凝固?療としては,トリアムシノロンによるステロイド治療の有効性を示した報告が多い3).海外では硝子体内投与が主流だが,日本からはTenon.下投与の有効性が報告されている4).Tenon.下投与のほうが効果は劣るものの,水晶体混濁や眼圧上昇,無菌性眼内炎の発症率が低いという点で優れている.筆者は,黄斑浮腫が強くて周辺部の無灌流領域が限局していれば抗VEGF薬を(図1),広範囲に虚血領域が広がっていればステロイド薬を光凝固に先行して投与しておくほうが良いと考えている.ステロイド,硝子体手術と抗VEGF治療現在,抗VEGF薬は第一選択とされることが多いが,網膜牽引のある症例では硝子体手術を,毛細血管瘤を伴う局所性浮腫に対しては直接光凝固を施行することを考慮すべきであろう.硝子体手術後では眼内薬物滞留期間のクリアランスが上がることで抗VEGF薬の効果が減弱するとの意見もあったが,近年では低下しないとする報告もある5,6).硝子体手術に関しては,その有効性がこれまでも議論されてきたが,網膜最周辺の虚血領域への十分な光凝固も可能であり,また極小切開硝子体手術システムの進化による低侵襲化も相まって,今後その価値が見直されるのではないかと思われる.周辺の虚血領域に十分に光凝固しても再発してくる場合は,抗VEGF治療を繰り返すか,ステロイド治療に切り替える.残存した毛細血管瘤に直接光凝固を行うことも重要だが,閾値下光凝固の有効性にも今後期待が寄270あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016せられる.筆者の考える治療方針を図2にまとめる.抗VEGF薬の毎月投与は日本の医療保険制度などの実情を考えると無理がある.症例ごとのDMEの病態を考慮し,ステロイド,硝子体手術,光凝固などの治療を併用することで抗VEGF治療の効果を高める併用療法が,今後ますます重要となってくると考えられる.文献1)WesselMM,NairN,AakerGDetal:Peripheralretinalischaemia,asevaluatedbyultra-widefieldfluoresceinangiography,isassociatedwithdiabeticmacularedema.BrJOphthalmol96:694-698,20122)TakamuraY,TomomatsuT,MatsumuraTetal:Theeffectofphotocoagulationinischemicareastopreventrecurrenceofdiabeticmacularedemaafterintravitrealbevacizumabinjection.InvestOphthalmolVisSci55:4741-4746,20143)ChoWB,MoonJW,KimHC:Intravitrealtriamcinoloneandbevacizumabasadjunctivetreatmentstopanretinalphotocoagulationindiabeticretinopathy.BrJOphthalmol94:858-863,20104)ShimuraM,YasudaK,ShionoT:Posteriorsub-Tenon’scapsuleinjectionoftriamcinoloneacetonidepreventspan-retinalphotocoagulation-inducedvisualdysfunctioninpatientswithseverediabeticretinopathyandgoodvision.Ophthalmology113:381-387,20065)NiwaY,KakinokiM,SawadaTetal:Ranibizumabandaflibercept:IntraocularpharmacokineticsandtheirefectsonAqueousVEGFlevelinvitrectomizedandnonvitrectomizedmacaqueeyes.InvestOphthalmolVisSci56:65016505,20156)AhnSJ,AhnJ,ParkSetal:Intraocularpharmacokineticsofranibizumabinvitrectomizedversusnonvitrectomizedeyes.InvestOphthalmolVisSci55:567-573,2014(110)