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屈折矯正手術:Laser in situ keratomileusis(LASIK)とTrans-epithelial PRK(tPRK)術後の長期経過

2015年12月31日 木曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載187大橋裕一坪田一男187.Laserinsitukeratomileusis(LASIK)とTrans.epithelialPRK(tPRK)術後の長期経過中村葉京都府立医科大学視覚機能再生外科学LASIKとsurfaceablationは角膜厚や角膜形状によって適応が違い,surfaceablationのみの適応となる場合がある.Surfaceablationの初期術式であるtrans-epithelialPRK(tPRK)はLASIKと比較して角膜の戻りが起こりやすい傾向にあるが,長期予後は両術式とも良好と考えられる.●はじめに現在一般的に行われている屈折矯正手術の術式はlaserinsitukeratomileusis(LASIK)であるが,フラップを作製しないsurfaceablationという手技がある.本稿ではsurfaceablationのなかでも初期の手技である上皮.離をエキシマレーザーで行うtransepithelialphotorefractivekeratectomy(tPRK)とLASIKの適応の違い,長期予後について解説する.●LASIKとsurfaceablationの適応LASIKは現在おもに行われている屈折矯正手術術式であり,マイクロケラトームやフェムトセカンドレーザーによって90~160μm程度の一部実質を含むフラップを作製し,その後エキシマレーザーを照射する方法である.術翌日から視力がほぼ安定し,ほとんど疼痛がなく,受け入れ安い術式である.欠点としては,角膜の厚みが薄いと適応にならないこと,フラップエッジに外力が加わるとフラップがずれる可能性のあること,再手術時などに上皮迷入が起こりやすいことなどがある.一方,角膜の厚みが足りない場合や格闘技をする場合には,フラップを作製せず,上皮.離ののち実質照射を行うsurfaceablationのほうが適している.Surfaceablationは,上皮.離をどのように行うかでいくつかの種類があり,エキシマレーザーで行うtPRK,エピケラトームという器械を使用するepi-LASIK,マニュアルやブラシを用いるPRK,アルコールを用いるLASEKなどがある.角膜の厚みを多く残せるという利点をもつ一方,欠点としては術後2,3日疼痛のあること,上皮再生および均一化までの1カ月程度視力が安定しないこと,上皮再生中は上皮バリアのないことによる感染の危険性があり,患者にとっては受け入れがたい術式である.現在可能であればLASIKを施行するのが一般的ではあるが,角膜の厚みや形状,生活スタイルによってはsurfaceablationの適応となる場合がある1).●LASIKとtPRKの術後経過バプテスト眼科クリニック(以下,当院)で手術を受1.2け,再手術を受けずに術後5年経過観察可能であった症1.175Y時0.3未満0.4≦<0.70.7≦<1.01.0≦1.130.051.061.090.04LASIK0%4%26%70%11.231.171.12LASIK裸眼視力経過-2-4LASIK-8-12術前6M1Y3Y5Y(n=23)図1裸眼視力の経過*p<0.05長期にわたり良好な平均裸眼視力を得ている.5年経過時経過観察期間に0.7未満の裸眼視力となっていたのは,LASIK症例で図2平均等価球面度数の経過は術直後から低矯正になっていた1例,tPRK症例では老術後6カ月~1年にかけてtPRKの遠視化が明らかである.視年齢に達しているが遠視が残っていた2例であった.5年経過時には両術式間に差は認められなかった.***0.18-7.2-0.3-0.32-0.33-0.36-6.85-0.070.07-0.24tPRK0平均等価球面度数(D)0.1tPRK-65Y時±0.5D以内±1.0D以内LASIK61%78%PRK52%87%PRK0%14%14%72%0.01術前6M1Y3Y5Y(n=23)-10経過観察期間(79)あたらしい眼科Vol.32,No.12,201517110910-1810/15/\100/頁/JCOPY 5年経過時1年経過時5年経過時と1年経過時の差5年経過時と1年経過時の差5年経過時と1年経過時の差5年経過時1年経過時図3tPRK代表症例のTMSによる角膜前面形状の変化37歳,女性.術前等価球面度数.10.75Dに対してtPRKを施行し,1年時の等価球面度数0.00D,5年時.0.50Dであり経過良好であった.TMSによる角膜前面形状の4年間の変化量は1.14Dのsteep化となっている.例(LASIK23例,tPRK23例)をみると,5年経過時には両術式間で視力や精度に差は認められなかった(図1,2).術後5年時,±0.5D以内の精度を保つことができていた症例はLASIKで61%,tPRKで52%であり,両術式とも約70%の症例で裸眼視力1.0を維持できていた.しかし,6カ月~5年の変化量をみると,LASIKにおいて等価球面度数の変化量が平均0.09D近視化したのに対して,tPRKは平均0.27Dの近視化を示しており,tPRKにおいて経過期間中に有意な近視化を認めた.これはtPRKでは上皮.離をレーザーで行うために周辺上皮が残ったままになっており,術後遠視化をきたし,その後も長期にわたり徐々に変化していることを示していると考えられる.角膜前面の形状解析装置を用いた検討でも,LASIKよりもtPRKで形状のsteep化がより多く生じていた(図3,4).tPRKの術後の不安定性が問題となり,現在surfaceablationの上皮.離の方法はブラシを用いる方法やepi-LASIKに代わってきている.ブラシやエピケラトームを用いる方法はtPRKよりも術後の遠視化が少ないため,安定した方法として現在行われている.当院の症例ではtPRKはLASIKと比較してregressionしやすい傾向にあると考えられるが,長期予後としては両術式とも経過良好である.●LASIKとsurfaceablationの長期予後これまでtPRKを含めたsurfaceablationを一つの術式としてまとめた報告などもあるため,tPRKを含めたsurfaceablation全体とLASIKとの比較について述べる.過去の報告をまとめると両術式とも長期にわたり安定していることがわかってきているが,LASIKのほう1712あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015図4LASIK代表症例のTMSによる角膜前面形状の変化43歳,男性.術前等価球面度数.5.50Dに対してLASIKを施行し,1年時の等価球面度数0.00D,5年時.0.25Dであり経過良好であった.TMSによる角膜前面形状の4年間の変化量は0.33Dのsteep化となっている.が安定しているという報告のほうが多く出ている2,3).逆に4年の経過でtPRKの安定性が高いという報告4)や7年の経過でアルコールを用いるLASEKのほうが安定していたとの報告5)もある.Surfaceablationのなかでも,tPRKよりはその後に出てきたブラシやepi-LASIKのほうがより遠視化が少ないため,安定性が高く,予後良好であると考えてよいであろう.近年ブラシやアルコールを用いたsurfaceablationのほうがLASIKより安定していたとの報告をしばしばみるが,現時点ではいずれの術式が長期に安定しているかについて結論は出ていないと考えられる.両術式とも若干のregressionは認めるが,適応を誤らなければ安全で安定した手術であると考えてよいであろう.文献1)中村葉,稗田牧:エキシマレーザー手術,surfaceablation.眼科臨床エキスパート─知っておきたい屈折矯正手術(前田直之,天野史郎編),p61-72,医学書院,20142)NaKS,ChungSH,KimJKetal:ComparisonofLASIKandsurfaceablationbyusingpropensityscoreanalysis:amulticenterstudyinKorea.InvestOphthalmolVisSci53:7116-7121,20123)AlioJL,OrtizD,MuftuogluOetal:Tenyearsafterphotorefractivekeratectomy(PRK)andlaserinsitukeratomileusis(LASIK)formoderatetohighmyopia(controlmatchedstudy).BrJOphthalmol93:1313-1318,20094)MiyaiT,MiyataK,NejimaRetal:Comparisonoflaserinsitukeratomileusisandphotorefractivekeratectomyresults:long-termfollow-up.JCataractRefractSurg34:1527-1531,20085)IvarsenA,HjortdalJ:Seven-yearchangesincornealpowerandaberrationsafterPRKorLASIK.InvestOphthalmolVisSci53:6011-6016,2012(80)

眼内レンズ:眼瞼のついた豚眼を用いたウェットラボ

2015年12月31日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋349.眼瞼のついた豚眼を用いたウェットラボ中静裕之日本大学視覚科学系眼科学分野通常のウェットラボに使用する眼瞼のない豚眼では,眼瞼や開瞼器による術野の制限がないため,手の動きや術野の状態は実際の手術とは大きく異なる.眼瞼のついた豚眼をウェットラボに使用することで各種眼科手術の術野を再現でき,効果的な実習が可能となるできた.開瞼器装着下における豚眼での瞼裂横幅は●方法27.5±3.1mm,瞼裂縦幅16.9±1.3mmであり,手術患生後6カ月の食用豚から,眼瞼縁から約3cm離して者の術野(横幅28.6±5.1mm,縦幅16.1±1.5mm)と眼瞼および眼窩周囲組織含んだ眼球を摘出する.頭部模同等であった.術野は実際の白内障手術(図2),硝子体型の眼部に摘出した豚眼を眼瞼部で固定する.ドレーピ手術(図3),バックリング手術(図4)と同様に,眼瞼ングを行い,ドレッシングテープを貼り,開瞼器を装着や開瞼器で制限された.眼瞼下垂手術も可能であったし(図1),眼球回旋・回転,瞼裂幅,トレーニングに有(図5).用な手術法を検討した.●おわりに●結果効率的な実習を行い,ラーニングカーブを短縮するこ眼球は90°以上の回旋および眼瞼に角膜が隠れる程度とは患者のためにも重要である.眼瞼のついた豚眼を用の回転が可能であり,実際の手術時の眼球の動きを再現いたウェットラボを使用することで臨場感のある実習がabc図1眼瞼つき豚眼のセッティングa:頭部模型の眼部に眼瞼つき豚眼を乗せる.内眼角をピンで1カ所止めるのみで固定は十分である(黄色丸印).b:受水袋付きドレープでドレーピングを行う.ドレープを使用することで衛生的にも利点がある.c:ドレッシングテープを貼り,開瞼器を装着する.(77)あたらしい眼科Vol.32,No.12,201517090910-1810/15/\100/頁/JCOPY 図2眼瞼つき豚眼による白内障手術ウェットラボ前.鑷子を使用し,前.切開を行っている.前.鑷子が開瞼器および眼瞼と接触し,動きが制限されている.眼球の回旋,回転が保たれるため,強膜フラップに力が加われば容易に眼球は下転し,手術操作が困難となる.術野に灌流液が溜まると,実際と同様に術野の視認性は低下する.図4眼瞼つき豚眼によるバックリングウェットラボ眼球を回転させながらのバックル後方強膜への通糸を行っている.実際の手術と同様の術野が再現でき,狭い術野での通糸,縫合の練習にも適している.可能であり,研修医の緊張感も出てくる.白内障から硝子体手術1),眼瞼手術など幅広い実習に有用である.図3眼瞼つき豚眼による硝子体手術ウェットラボ円蓋部が保たれるため,トレーニングのむずかしい強膜圧迫による周辺部硝子体切除も実際と同様に施行することが可能である.トロカール挿入時の眼球の回転・回旋も再現できる.図5眼瞼つき豚眼による眼瞼挙筋短縮術ウェットラボ眼瞼挙筋を同定し,眼瞼挙筋の表面を.離している.眼瞼の解剖も人眼と同様であり,今まで練習の不可能であった眼瞼挙筋短縮術も可能であった.文献1)中静裕之,島田宏之,服部隆幸ほか:豚眼を用いた25ゲージ硝子体手術ウェットラボ.眼科49:1243-1249,2007

コンタクトレンズ:CL処方におけるコミュニケーション

2015年12月31日 木曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一19.CL処方におけるコミュニケーション岩崎直樹イワサキ眼科医院●はじめに患者とスタッフ,そして医師の間のコミュニケーションが大切であるのは論を待たない(図1).医師やスタッフとのコミュニケーションがうまくいくかは,患者満足度を左右する大きな要因であり,またコストをかけず改善できる事柄である.クリニック運営には,医師だけではなくスタッフの方々も参画してほしいところであるが,そのためには,いつでも問題意識をもって考え,何でもいえる組織であることが大切である.●医師とスタッフのコミュニケーション医師とスタッフのコミュニケーションは,まずどれだけカルテで情報を共有するかが基本である.症例を追ってみてみよう.[症例]57歳,女性2週間前からの充血,異物感にて近医受診し投薬されたが,軽快しないので平成23年3月19日に当院初診.長い間のハードコンタクトレンズ(HCL)ユーザーで,スギ花粉症と判断し,HCLを中止してもらい,1日使い捨てソフトコンタクトレンズ(DSCL)に一時的に変更して,ステロイドと抗ヒスタミン薬の点眼を指示した.初診時の矯正視力はRV=0.1(1.2×sph.5.25D(cyl.1.25DAx90°)LV=0.1(1.2×sph.6.00D)であった.調子がよいため3カ月後までDSCLを使用続行となった.3カ月後再診(平成23年6月8日).患者が,DSCLが快調なので,HCLをやめてDSCLにしたいと検査員に希望された.しかし,夜の運転中は少し見づらいことを検査員が患者から聞き出していた.両眼とも遠見1.0p程度であったので,検査員が再矯正まで行っている.すると,RV=(1.2×sph.5.00D(cyl.2.00DAx90°)LV=(1.2×sph.6.50D(cyl.0.50DAx90°)と,右は乱視がより顕在化し,左はS面が増加していた.これはHCLのオルソケラトロジー効果の減少による変化と考えられた.医師から,DSCL再処方の指示をした.(75)3者のコミュニケーションスタッフ患者医師図13者のコミュニケーションR870/sph.5.00D(cyl.1.25DAx90DSCL乱視用L860/.6.00D/14.2DSCLこれによりFRV=1.2p,FLV=1.2p,NBV=0.8となり,近見も遠見も満足を得られた.ここで実際のカルテの記載を見てみると,検査員は過去のカルテをずっと参照して,HCLからDSCLに変更になったことをまず把握している.患者によっては,過去にコンタクトレンズ(CL)の種類やブランドの転換に失敗していることもあるので,それも把握するとベターである.医師はまず追加矯正を見て,指示を出している.指示のあと,検査員は追加矯正だけでは軸や度数などを間違えやすいので,もう一度ちゃんと完全矯正をしている.その後,医師がフィッティングを確認している.このように,医師とスタッフ(この場合は検査員であるが,看護師や受付スタッフの場合もある)との間では,なるべくカルテに記載してコミュニケーションをしていくことが必要である.あとで見直してもわかりやすいうえ,何かトラブルが起こったときにも証拠となるからである.CLを処方するうえで,スタッフと医師の連絡必要事項がある.検査員の側からの情報は,矯正視力,SCLの汚れの所見,3大合併症(アレルギー,ドライアイ,酸素不足)と急性眼障害をあぶり出すために聞いておいてほしい6つの症状(表1)である.医師が記載するべき情報は,スリットランプなどの眼所見,合併症の有無,問題があれば原因特定と解決方法あたらしい眼科Vol.32,No.12,201517070910-1810/15/\100/頁/JCOPY 表1患者から聞き出しておきたい6症状症状考えられる原因かゆみアレルギー異物感点状表層角膜症など(ドライアイ,急性障害)乾きドライアイ充血炎症眼脂炎症くもり視力低下の指示である.●患者とスタッフのコミュニケーション外来診察のなかでのスタッフの役割は,まず信頼関係の構築である.そのためには,コミュニケーションの基本が大切で,それは「笑顔とアイコンタクト」なのである.最初の5秒で印象が決まるので,笑顔!そしてかならず患者の目を見て,「どうぞこちらへ」と椅子を勧める.これは医師.患者の間でも同じである.次に大切なのは,患者の要望との擦り合わせである.最大限要望は尊重するのだが,アレルギー性結膜炎なのに従来型SCLをしたいなど,医学的条件から要望通りに行かないこともありえる.そのためには目の状態を理解してもらうことが必要になる.そのためには,所見をビジュアルで見せて説明するのが一番よいと考えている.定期検査のたびに診察室で画像を見せると,乳頭増殖などは改善悪化がよくわかるため,見せてフィードバックすると,「一緒にやって行こう」という気持ちにつながり,信頼感も増すのである.●医師と患者のコミュニケーションまず,患者を招き入れるときは,患者の緊張を解き,安心感を与えるために,笑顔と動作を交えてお迎えする.笑顔,頻繁なアイコンタクト,豊かな表情やしぐさ,説明(画像の提示),画像をわかりやすくさし示すこと,身振り手振りの多用などで説得力が増すと思われる.また,平易な言葉使いでやさしく説明すること,患者の話をさえぎらずに傾聴することで満足感が増す.説明・指導の場合も,肯定的で前向きな態度で,患者のコンプライアンスが向上することをめざす.退室時も,「おだいじに」よりは,「よろしくお願いします」で結び,患者さんの気持ちに寄り添う姿勢を示すのが良い.ドアノブクエスチョンも注意が必要である.診察の最後に「何かわからないことがありますか?」などと聞くと,意外な質問が出てくる.ただし,診察が長くなりやすいので注意する必要がある.患者とのコミュニケーションのコツをまとめると,以下のようになる.1.信頼関係の構築2.笑顔とアイコンタクト3.肯定的に前向きに4.患者さんに自分の目の状態を理解してもらう5.ビジュアルに訴えるこれらは医師だけでなく,スタッフも使える事項である.●おわりに最後にもう一つ.繰り返しが大切であることを認識していただきたい.重要な点は何度も繰り返し説明しないと,患者には残らない.たとえばレンズケアで重要な「こすり洗い」と「CLケース洗浄」であるが,まず医師が説明し,看護師が医師の説明を補足する.当院では診察後洗眼を行うことがあり(とくに染色後)そのときに補足説明をしている.患者さんは,わからないことは医師より看護師のほうが聞きやすい.次回来院時も検査員から「こすり洗いとCLケース洗浄はしていますか?」と念を押せば完璧である.明日からの診療にぜひ生かしていただければ幸いである.1708◎コンタクトレンズは高度管理医療機器です。眼科医による検査・処方をお願いします。特に異常を感じなくても定期検査は必ず受けるようにご指導ください。◎患者さんがコンタクトレンズを使用する前に、必ず添付文書をよく読み、取扱い方法を守り、正しく使用するようにご指導ください。ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社ビジョンケアカンパニー〒101-0065東京都千代田区西神田3丁目5番2号販売名:ワンデーアキュビューモイスト/ワンデーアキュビューディファインモイスト承認番号:21600BZY00408000/22300BZX00126000[効能・効果:視力補正、虹彩又は瞳孔の外観(色、模様、形)を変えること]R登録商標cJ&JKK2015*:装用感には個人差があります。シリーズ1日中続く快適な装用感*をめざして。今年、ワンデーアキュビューRモイストRは発売10周年を迎えました。〈遠近両用〉〈近視・遠視用〉〈サークルレンズ〉〈乱視用〉ZS949

写真:抗VEGF薬硝子体内注射後に発症した網膜色素上皮裂孔

2015年12月31日 木曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦379.抗VEGF薬硝子体内注射後に山岸哲哉京都府立医科大学視覚機能再生外科学発症した網膜色素上皮裂孔①②③図2図1のシェーマ①網膜色素上皮裂孔(網膜色素上皮欠損部位)②網膜下液③rollupした網膜色素上皮図1抗VEGF薬硝子体注射後に発症した網膜色素上皮裂孔の症例(76歳,男性)中心窩下方に半月形に網膜色素上皮が欠損している部位があり,網膜色素上皮裂孔と診断される.その上方には裂孔形成の過程でrollupし重層化した網膜色素上皮が認められる.図3図1の眼底自発蛍光像眼底自発蛍光では,網膜色素上皮欠損部は境界明瞭な自発低蛍光を呈する.重層化した網膜色素上皮は過蛍光を呈する.図4網膜色素上皮裂孔形成前の眼底所見,インドシアニングリーン蛍光眼底造影(ICGA)中心窩より下方に網膜色素上皮.離(PED),ICGAでPEDの辺縁のポリープ状病巣とネットワーク血管を認め,ポリープ状脈絡膜血管症と診断される.(73)あたらしい眼科Vol.32,No.12,201517050910-1810/15/\100/頁/JCOPY 1706発症前発症後図5網膜色素上皮裂孔形成前後の光干渉断層計(OCT)所見(垂直断)発症前にはドーム状に隆起した網膜色素上皮.離とその近傍の網膜下液を認める.発症後,網膜色素上皮の断裂(→)と欠損(*)を認める.網膜色素上皮裂孔(retinalpigmentepithelialtear:RPEtear)は滲出型加齢黄斑変性に伴う合併症の一つである1).自然経過もしくは治療介入2,3)により,網膜色素上皮.離(retinalpigmentepithelialdetachment:PED)内部の脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)を含む血管線維組織が収縮し,網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)が断裂を起こし,RPEtear形成に至る.RPEtear発症は仔細な眼底検査および眼底自発蛍光により観察可能である.検眼鏡的には,脈絡膜血管とともにメラニン色素を有する脈絡膜間質が透見される.RPEtearの辺縁では,断裂したPED部のRPEがrollupした隆起性変化を伴うことがある(図1,2).RPE細胞内のリポフスチンを反映する眼底自発蛍光では,発症後早期のRPEtearは境界明瞭な自発低蛍光領域として観察される.前述のrollupしたRPEは自発過蛍光を呈することがある(図3).サイズの大きいPEDをもつ滲出型加齢黄斑変性の病状把握には,眼底自発蛍光がきわめて有用であると考える.発症前の眼底所見では,中心窩より下方の3乳頭径大の漿液性PEDと,その上方のポリープ状病巣・ネットワーク血管から,元疾患は加齢黄斑変性(ポリープ状脈絡膜血管症)と診断される.本症例では抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬硝子体内注射施行後にRPEtearが発症した.RPEtear領域は自覚的には視野欠損(暗点)として認識される.本症例では幸いRPEtear領域に中心窩が含まれなかったため視力低下は認められなかったが,中心窩領域を含んだ場合には不可逆的に著明な視力低下をきたすため,臨床上看過することのできない合併症である.現時点ではRPEtear自体に対する積極的な治療法は存在しないが,今後再生医療などによる治療法開発が期待される.文献1)ChangLK,SarrafD:Tearsoftheretinalpigmentepithelium:anoldprobleminanewera.Retina27:523-534,20072)GeliskenF,InhoffenW,PartschMetal:Retinalpigmentepithelialtearafterphotodynamictherapyforchoroidalneovascularization.AmJOphthalmol131:518-520,20013)BakriSJ,KitzmannAS:Retinalpigmentepithelialtearafterintravitrealranibizumab.AmJOphthalmol143:505-507,2007

眼科の先達に学ぶ 1.永田 誠 先生

2015年12月31日 木曜日

眼科の先達に学ぶ─はじめに─木下茂(京都府立医科大学)眼科の先達に学ぶ(第1回)永田誠先生日本の眼科は素晴らしい先達を生み出してきた.先達たちはオリジナルな基礎的理論とデータを,優れた診断法と治療法を,そして医学倫理を発信してきた.このコーナーは,そのような先達を一人ずつとりあげ,論文や著作,対談などから,先達の眼科医療へのアプローチを紹介し,次世代の眼科医に道標を示そうとするものである.監修:木下茂眼科の先達に学ぶ─はじめに─木下茂(京都府立医科大学)眼科の先達に学ぶ(第1回)永田誠先生日本の眼科は素晴らしい先達を生み出してきた.先達たちはオリジナルな基礎的理論とデータを,優れた診断法と治療法を,そして医学倫理を発信してきた.このコーナーは,そのような先達を一人ずつとりあげ,論文や著作,対談などから,先達の眼科医療へのアプローチを紹介し,次世代の眼科医に道標を示そうとするものである.監修:木下茂ヘロドトスは『歴史』の冒頭で以下のように述べている.「人間界の出来事が時の移ろうとともに忘れ去られ,ギリシア人や異邦人の果たした偉大な感嘆すべき事跡の数々を…(中略)…やがて世の人に知られなくなるのを恐れて,自ら研究調査したところを書き述べたものである」『歴史上』(松平千秋訳,岩波文庫).このコーナーは,われわれが歴史を学ぶことの意義に類似したところを目指している.本コーナーの第1回目として永田誠先生に登場していただいた.永田先生は,未熟児網膜症への光凝固療法を開発し,緑内障手術としてトラベクロトミーを確立し,顕微鏡手術の会(現在の日本眼科手術学会)を推進し,そして何よりも手術倫理のあり方を次世代に伝えてこられた先達である.先生は2015年11月6日に逝去されたが,今回の企画は先生を追悼するためのものではなく,先生が示されてきた道標を,現代の,そして次世代の眼科医に知っていただくことを目的としている.多くの若手眼科医が啓発されることを望む次第である.永田誠先生の思い出山本哲也(岐阜大学)永田誠先生のお名前は私が東大の研修医であった頃からよく聞いていた.それほど昔から偉大な先生であり,私が月旦を述べるなど僭越もはなはだしいことである.(61)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY【Profile】1948年京都大学医学部医学科卒業1949年京都大学医学部眼科学教室志願医員助手1950年公立小浜病院眼科医長1953年京都大学医学部眼科学教室助手1954年京都大学医学部眼科学教室講師1963年文部省在外研究員(NewYorkEyeandEarInfirmary,Cornell大学)1964年京都大学医学部眼科学教室講師1966年財団法人天理よろづ相談所病院眼科部長1970年第1回日本眼科顕微鏡手術の会主催,1987年まで世話人代表,以降1989年まで日本眼科手術学会世話人代表1978年財団法人天理よろづ相談所病院副院長兼眼科部長1989年財団法人天理よろづ相談所病院辞職1990年医療法人社団誠明会永田眼科理事長兼院長2015年11月6日逝去【文献】1)永田誠:脳下垂体ホルモン及びビタミンB1の網膜働作電流(E.R.G.)に及ぼす影響についての実験的研究.1..日眼会誌59:809-836,19552)永田誠:網膜局所ERGの研究.6.中心性網脈絡膜炎のERG(第74回日本眼科学会総会一般口演.1.).日眼会誌74:957-964,19703)永田誠ほか:未熟児網膜症に関する諸問題─未熟児網膜症光凝固治療の適応と限界(宿題報告3).日眼会誌80:1453-1475,1976あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151693永田先生は緑内障手術や小児緑内障がお好きな先生でいらっしゃった.先生は緑内障手術としてトラベクロトミーを前面に打ち出していたので,私の恩師の北澤克明先生(トラベクレクトミー派)とは相容れないとお考えの先生方がいらっしゃったようだが,お二人とも患者のための緑内障手術を真剣に考えてきた方として私は尊敬している.10年ほど前,永田先生に緑内障手術をメインとして,学生時代の思い出も含めて私が聞き手となって語っていただいたことがある.その折の先生の優しさに満ち,かつ真剣な眼差しは今でも鮮明に覚えている.そのインタビューの際,永田先生のような眼科学に一生をかけて悔いのない人生,それを私も歩みたいものだと強く思ったことが懐かしい.育った教室は違っても尊敬のできる数少ない先生として,これからも記憶していきたい.永田誠先生のご冥福をお祈りいたします.偉大なる恩師永田誠先生谷原秀信(熊本大学)私が眼科医になった時点で,永田先生は,すでに日本を代表する眼科医であっただけではなく,優れた眼科サージャンを育成できる教育者として尊敬されていました.入局した京都大学眼科では,本田孔士教授(当時)のみならず,永田先生と共に仕事をした経験のある教室スタッフの誰しも,永田先生とその主宰する天理よろづ相談所病院眼科について,とても誇らしく,楽しそうに語るので,私は直接お会いする以前から,先生に強い憧れを抱いておりました.本田教授から赴任先の希望を聞かれたときに,迷わず永田先生の下で臨床を勉強したいと希望を述べて,それが叶って赴任したときの高揚感は,今となっては,只々,懐かしく思い出されます.教育者としての永田先生は,いつも穏やかで,楽しそうに眼科手術・診療のことを話してくださいました.着任当初の若手医師は,外来で陪席をし,病院食堂で昼食を共にする際に,永田先生から最新の眼科情報や手術や症例についてのご意見を拝聴しながら,眼科臨床医としての心構えと基礎知識を学んでいたように思います.永田先生の診療と手術は,豊富な臨床経験と知識を踏まえて精緻に思考し構築した合理的な理論に基づいていましたので,弟子の誰にとっても納得のいくものでした.永田先生の下で研修した時は,どんな教科書を読むよりも勉強になり,楽しく,素敵な時間でした.弟子に対して,決して横柄な言動や威圧的な言葉を発することはなく,常に臨床医の先達として真摯に穏やかに接してくださいました.また,天理よろづ相談所病院の臨床データを調べて解析しては,永田先生に指導していただいて論文執筆する作業がとても楽しく,また尊敬する恩師が楽しそうに議論の相手をしてくださるのがとても嬉しくて,寝る間も惜しんだほどに毎日が充実した,私にとって一生でもっとも幸福な時であったように思います.掲載されている対談記事でも紹介されているように,永田先生は,日本における電気生理学研究のオピニオンリーダーであり,世界で初めて未熟児網膜症の光凝固を施行した先駆者であり,日本における眼科顕微鏡手術のパイオニアでした.そのような素晴らしい業績以上に,永田誠先生は,その高潔な人格と真摯な診療を通じて,眼科医の理想像を提示しつつ,その理想像に自ら殉じた毅然とした生涯を全うすることで,多大な影響を膨大な数の後進に及ぼしています.偉大な恩師に対して,心よりの尊敬と感謝を捧げ,謹んでご冥福をお祈り申し上げます.1694あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(62)臨床医としての宿命を背負って緑内障手術に一生を捧げる眼科医「OpthalmicsMagazineNo.12005」(ファイザー株式会社のご厚意により転載)わが国の眼科手術の草分けとして,顕微鏡開発から緑内障手術への挑戦など,眼科学に一生を捧げ続けている永田誠氏は,今年80歳を迎える現役眼科医である.本誌創刊にあたり,巻頭インタビューとして眼科学に対する情熱の根源をうかがった.聞き手は本誌編集委員の岐阜大学大学院医学系研究科眼科学教授山本哲也氏.あわや笛師の人間国宝になりかけた眼科学の名医山本まずは,学生時代のお話からお聞きしたいと思います.先生はどのような学生生活を送っていらしたのでしょうか.永田私は,三高で陸上部のキャプテンをしていました.当時は一高三高戦がありましたがそれも2年生までで,3年生のときには戦争がひどくなっていましたので,その後は陸上部の活動がほとんどできなくなりました.山本そうした状況の中においても,先生は邦楽にかなり興味を持たれていたとお聞きしていますが.永田そんな時代ですから何も楽しみがないわけで,能ばかり観ていました.はじめは鑑賞するのが目的でしたが,鑑賞するには謡のことも知っていなければいけませんので謡を習い始めました.観世流の八世片山九郎右衛門先生に弟子入りして謡を習い,その合間をぬって能も観に行くようになって,すっかり能楽の世界にのめり込みました.山本先生は何でものめり込むタイプですね.永田途中で囃子(笛,太鼓,小鼓,大鼓)にも興味を持ちまして,笛をやろうと人間国宝の森田流杉市太郎先生に入門しました.大学時代からインターンが終わる頃まで三高陸上部の選手監督をしていましたので,昼間はスポーツをやって,それが終わると謡や笛を習うという生活をして,ちっとも勉強しませんでした.そうしましたら,笛の師匠がとてもかわいがってくださったのですが,もう少しで玄人の笛師にされかけたんです.山本それは非常にお上手だったからそういうことになったのですね.永田最初から玄人の笛を教えてくれましたので,本当に面白くてのめり込んでいって,日曜日のたびに能楽堂で先生のお手伝いをしていました.ある日,金剛流家元の奥様が「どうぞ,お役料を」と言ってお金をくださったんです.びっくりして「私は素人ですので,このようなものはいただけません」と,お断りしましたよ.そうしたら「でも,杉さんがお饅頭を配られましたよ」と,言うんです.お饅頭を配るということは,玄人の披露をみんなにしたということです.私は何にも聞いていませんでしたので怒りまして「とんでもない.私は眼科医をやるつもりでおりますので,笛師になる気持ちは毛頭ありません」と言ってやめてしまいました.それ以来,笛はまったくやっていません.山本もしかしたら今頃は人間国宝になられていたかもしれないのですね.では,いよいよ眼科医の道に進まれた経緯をお聞かせいただけますか.永田私は旧姓梅田と申しまして,梅田家は姫路にある酒井雅楽頭の家臣で御典医でしたから,祖父は姫路藩から東京大学の前身の東京医学校に進んで修業して外科医になり,熊本医学校の校長を務めた後に姫路へ戻って医院をやっていました.また,父は京都大学を出て内科でしたので,私も父のあとを継ごうと入ったのです.あの当時は高校から大学への試験はありませんから,東京大(63)あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151695学にも行けたのです.しかし,もしも私が東京大学に行っていたら,1945年の空襲に遭って死んでいたかもしれません.人間の運命とはそういうものですね.当時は,父の後ろについて病棟の回診をしたり,免許もないのに往診に行かされるという,のんびりした時代でした.という経緯で,絶対私も内科で家業を継いでいたはずなのですが,1945年6月3日の空襲に遭ってわが家が丸焼けになってしまったんです.そしたら,父がもう何をやってもいいと解放してくれました.山本そこで,またもや運命が変わったのですね.永田思い起こすと,眼科医への憧れはすでに幼少時からありました.近視の眼鏡を作りに行った病院で京都大学の先輩,尾上圭二先生が最新器械を駆使して診察されているのを見て,幼心に内科のわが家とは違って格好よくてはるかにスマートだと思ったのです.もともと器械が好きなこともあったと思いますが….さらに,学生時代に助教授の百々次夫先生の眼科学講義が非常に面白かったことや,ちょうど井街謙先生が教授としておいでになったりしたのが重なって,ふらふらっと眼科学へ進んだのです(笑).手術がしたい.しかし,手術をさせてもらえなかった京都大学時代山本眼科学に進まれた先生が,特に顕微鏡手術,緑内障手術に関心を持たれたのはやはり器械好きからでしょうか.永田私は手術が好きで非常に興味を持っていたのですが,当時の大学では手術をやらせてもらえませんでした.しかし,1955年頃の非常に忙しい時期に先輩講師2名が留学することもあって,岸本正雄助教授が三等講師である私にも手術を任せてくださったんです.山本その頃,講師クラスでも手術がなかなかできなかったとは,隔世の感がありますね.永田東京大学などはどうか分かりませんが,昭和40年代のmicrosurgeryが始まるまでは,手術は主に教授,助教授が行うもので,講師ではなかなか手術をやらせてもらえない時代でした.しかし,各大学によって専門分野がありまして,京都大学の網膜.離手術は欧米とほぼ並ぶレベルでやっていましたので,かなり難しい網膜.離症例の再手術はずいぶんとやらされました.ですから白内障や緑内障などの他の手術は,1966年に天理よろ1696あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015づ相談所病院へ赴任するまでに3カ月に1例ぐらいしかさせてもらえませんでした.山本昭和20年代の緑内障手術はどのようなものでしたか.永田古典的なfilteringであるtrephination(管錐術)の時代ですから,緑内障を治せるような手術ではまだまだなかったわけです.山本顕微鏡を用いない手術だとすれば,どこをどういじっているのかが分からずに,やむを得ずやっているということでしょうね.もちろん,現代のように術後眼圧を調整しようというような発想はないわけですね.永田そうです.戦前の手術をやっていたということです.山本当時は開放隅角や閉塞隅角の概念はありましたか.永田それは当然ありました.山本それならば,術式の選択はできたわけですね.永田はい.しかし振り返ってみますと,現在のように原発緑内障の病態を十分に理解して隅角検査を行っているのではなくて,ただ診ていただけでした.そこがいちばん大きな間違いだったと思います.ですから,当時の閉塞隅角緑内障はイコール急性緑内障,つまり急性うっ血性緑内障という概念でした.日本眼科手術学会の前身を設立し,顕微鏡開発にも邁進した40代山本1979年発行の『眼科顕微鏡手術』(医学書院)を拝見しますと,永田先生が中心になられて「日本眼科顕微鏡手術の会」を設立されたとありますが,これはどのようなきっかけで立ち上がったのですか.永田microsurgeryをやるようになったのは,ちょうど天理へ行く前年にHarmsの本を読んで「これからはこういう手術でないと駄目だ」と,本当にショックを受けたのがきっかけです.そのときに,私がmicrosurgeryをやると言ったら天理よろづ相談所病院の外科の先生に鼻で笑われて「眼科手術に顕微鏡は要りません」と,一言のもとに予算を削られました.しかし,私はカールツァイス社の臥床患者用のスリットランプ(本体は手術要顕微鏡OPMIⅠ型と同じもの)を買って,すぐに手術用顕微鏡として使い始めました.そして,1969年の臨床眼科学会の白内障グループディスカッションでは「顕微鏡下の白内障手術」という,今(64)にしたらばかみたいな演題を掲げて講演しました.しかし,当時としては結構ユニークだったです.山本手術は.内ですか.永田.外もありましたが,.内です.そのグループディスカッションにいらしていた東京医科大学の小暮文雄先生と名古屋の杉田愼一郎先生からすぐに反応があって「これからは顕微鏡下手術をやらないといけない」とおおいに盛りあがり,その会場で「日本眼科顕微鏡手術の会」を設立しようということになったのです.早速,私の家内が事務局をやりまして,ガリ版で案内状などを刷って,1970年に第1回目の勉強会を天理で開催しました.山本ガリ版刷というのも懐かしいですね.永田そういう時代でしたからね.その当時はmicrosurgeryにぼちぼち関心が出始めていた頃ですから,手術に熱心な先生方が約50人集まりました.山本それが今日の「日本眼科手術学会」へと発展していくわけですから,すばらしいですね.永田その会は実に迫力がありました.翌年には東京大学の三島濟一教授や大阪の湖崎弘先生などにも加わっていただき,盛り立てていただきました.そして,年に2回の会を重ねて,それが日本眼科手術学会になっていったのです.山本その当時から現在に至るまで,永田先生は日本の眼科手術の第一人者でいらっしゃることも尊敬に値するすばらしいことです.永田そんなことはないです.私は本当に手術が好きだっただけで,名人はたくさんおられます.むしろ,私は“ぶきっちょ”なんですよ.それまでは名人でないと手術ができなかった時代でしたし,昔はやはり職人気質というか,なかなか意地悪で手術を教えてくれないんです(笑).名人の手術をじっと見て,そのまねをするわけです.私はその考えには反対でしたし,自分が上手くないほうでしたので「手術は誰でもできるようにしないといけない」と,思っていました.山本そうでしたか.現在は,誰でもできる手術だけが残っている感がありますね.永田それがいちばん大切なことだと思います.山本さらに先生は,顕微鏡の開発にも精力的な活動をされたとお聞きしていますが.永田1970年から1975年ぐらいまでは,ほとんどの国産顕微鏡の開発をいくつかのグループごとに手がけました.当初のものは,各社とも戦艦のように大きくて不格好で重たく,三島濟一先生が格闘しておられました.日本人は機能的デザインが下手で,美しさがないんですね.しかし,カールツァイス社製顕微鏡は実に美しくて,日本の技術はそこに到達することができなかった.当時の限界だったと思います.また,日本のメーカーは分解能さえよかったらいい,という間違った考え方を持っていました.山本それは,組織標本を見るための顕微鏡をつくる発想ですね.永田フィロソフィーがやはり間違っていたんですね.顕微鏡を介して見ても,ちゃんと自分で手術が自由にできる性能があることは,カールツァイス社製顕微鏡を見さえすれば一目瞭然なので,光学設計のフィロソフィーを研究しなさいと何べん言ったかしれません.それを矯正するのに大変苦労しましたが,その後だんだん良くなりました.しかし今でも,カールツァイス社製光学機器系にはやっぱり負けていると思います.山本私もそれには同感です.ドイツに乗り込み,trabeculotomy技術を習得山本手術用顕微鏡ができてくると,いよいよtrabeculotomy(線維柱帯切開術)を行う素地ができてきたわけですので,緑内障手術の話に移らせていただきます.先生がtrabeculotomyに関心を持たれて,発展途上にあった手術用顕微鏡でおやりになった想い出をお話しいただけますか.永田日本で最初にtrabeculotomyを行われたのは,岐阜大学名誉教授の北澤克明先生です.われわれも同様に関心を持っていましたので,文献を読んで行ってみたのですが,とても自分でやっているだけでは駄目だと思いました.Schlemm管を見つけるのが難しいんです.そこで,実際の手術を見ないと駄目だと決意して,1971年にイギリスで開催されたERG学会への出席にあわせて休暇をいただきまして,ドイツに行きました.ハンブルグのNaumann氏を皮切りに,チュービンゲンのHarms氏,フライブルクのMackensen氏にtrabeculotomyの実際を見せていただき,Naumann氏には手術につかせていただけました.やっぱり全然違うんですね.そこで技術的な基礎をしっかりと教えてもらって,帰国しました.(65)あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151697山本その当時のtrabeculotomeは柄付きですか.永田ドイツは,Mackensen氏がつくった柄付きでした.Harms氏はU字型のループでした.帰国後,実際にやってみますと,難しいけれどもSchlemm管を見つけるのはすぐにできるようになりました.また一方では,trabeculotomy実施前に行っていたfilteringsurgeryにおいて,定期的に悪性緑内障を年に2,3例経験し,本当に痛い目に遭っていましたので,これを何とかするためにも緑内障をもっと勉強しなければいけないと思い直して,隅角検査をしっかりやり始めました.これが,私の緑内障診療の転機だったと思います.山本私も教育者として,最近,隅角検査が軽視されていて,日本において全般的にレベルが劣っていると感じているところです.永田閉塞隅角が分からないのは,隅角検査を行わない,行う習慣がないからです.私は見学に来られた先生に,隅角検査の習慣をつけるように宣伝してくださいと常に言っています.それが習慣づけられると,必ず隅角を診て,それも本当に診ることができるようになれば,見方が変わります.そうすると閉塞隅角も分かります.今の日本の緑内障診療でいちばん矯正しなければいけないところは,ここではないでしょうか.山本隅角検査は手間もかかりますし,検査時間もかかるからでしょうか.永田開放隅角でも何にでも,必ず隅角検査を習慣づければ簡単にできますよ.学び続ける80歳の現役眼科医山本ここで,現在の緑内障治療に関する先生のお考えをお話しいただければと思います.永田現状は決してやみくもに手術を行っているわけではないと思いますが,本当に必要な手術に踏み切る時期が遅すぎることを非常に強く感じます.例えば,緑内障で失明する場合は本人も悪いのですが,診断が遅れて,視野がどんどん悪くなってからやっと手術というケースがあるわけです.もちろん薬物治療は非常に大事ですので,50年ぐらいしたら「手術なんてやっていたんだ」と言われる時代が来る,と私は確信しています.特に遺伝学的研究をもっと進めていただいて,根本的なところは薬物的なtrabeculotomyのようなアプローチができるようになればすばらしいと思います.1698あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015山本一方,薬に引っ張られてしまうケースもありますね.基本的に緑内障の進行はごくごくゆっくりなものが多く,今の薬物治療では眼圧を15mmHg以下で維持することができますから,どうしても手術に踏み込む時期を躊躇されてしまう症例が多々でてきます.永田年齢との関係がありますからね.ですから,決して手術に頼りすぎるというわけではありませんが,本当に手術の適用があるならば,もう少し早く踏み切っていただきたい.それにはtrabeculectomyは問題が多すぎると思いますので,trabeculotomy系統しかないんです.目標は,QOLを害さないで,その人の社会的活動が行えるようにしてあげることです.われわれの手術適用はそれがいちばん中心になると思います.そして,中心視力は大事ですね.年をとって中心視野がなくなりかけてすがりつくようにして来られる方を見ますと,やはり中心視野のなくなる前に何とかしてあげないといけないと思います.それが悩みの種で,そんな方に対してtrabeculectomyはもちろん必要になってくるわけですが,そういう症例をもっと少なくしたいんですよ.山本そのお考えは,私と完全に一致する部分です.要するに,一生を通じて視機能をある程度保たせてあげるためにはどの程度の眼圧にすべきか.そのときに薬を使ったほうがいいか,あるいは無害な手術を行うかの発想ですね.私はtrabeculectomyをほとんど毛様体手術に近い最後の手段と認識しているわけで,そういうものをしなくてすむ緑内障治療は非常に大事だと思います.そういう意味で永田先生のお話をうかがえて非常にありがたく,私は今日は本当に幸せな気分です.最後に,先生が現在お考えになっていることなどをお話しください.永田強く感ずるのは,学問の進歩が非常に速く,しかも情報量が多すぎることです.私自身の目も弱ってきていますので,雑誌のサマリーを見るだけでも大変で,目がもたないのがいちばん苦痛です.われわれが今まで習ってきたことではもう間に合わなくなっていますので,それをどういう方法でこれからの先生方は勉強をしていかれるのかを知りたいと思っています.そういう点では,学会は非常によいですね.例えば,ランチョンセミナーなどは新しい情報をうまくまとめてありますから,われわれにとってはありがたいことです.山本永田先生は学会といえば皆出席で,しかも前のほ(66)うで勉強されていますから,京都大学系の先生方は永田先生がまたいらっしゃっていて話しにくいと言っています(笑).永田それを聞いていないと,正直なところとてもついていけません.それがちょっと悩みの種ですね.やはり80歳になっても勉強しないといけない….私はいつも言うんです.その病気を診たことがないとか,その病気について何も知らない患者さんが来たときには医者もばかと一緒なので,それを少しでも少なくするように努力しないといけないと.臨床医というのはそういう宿命にあるのです.山本まったく頭の下がる思いです.臨床医は一生勉強ですね.一生勉強すると永田先生のように偉くなれるということがよく分かりました.永田私の父は内科は診療範囲が広すぎると言いましたが,眼科も広すぎるんですよ.山本本日は,一人の医学生がどのように育ったら,このような立派な先生になるのかということが本当によく分かりました.そして,人間は勉強,向学心,探求心を忘れてはいけないということを痛感し,私もこれからはそのように努力してみようという気にさせられました.本当に貴重なお話をたくさんうかがうことができ,本当にありがとうございました.今後ともご活躍ください.☆☆☆(67)あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151699恩師を訪ねて「眼科医マルチファインダー」第22号(2012年6月号)参天製薬株式会社発行(エルゼビア・ジャパン株式会社のご厚意により転載)今回は対談シリーズの第1回目として,熊本大学教授の谷原秀信先生が恩師である永田眼科名誉院長の永田誠先生を訪ねました.永田先生のご功績や谷原先生との思い出,そして教育のあり方や若手眼科医の先生方へ向けてのメッセージを語り合っていただきました.色々な器械で眼底を見るのが面白くて眼科へ谷原:本日は,永田先生が取り組んでこられたご功績について,また,私が先生の下に就いて学んだ天理よろづ相談所病院(以降「天理病院」)時代の思い出話にも触れながら,若手眼科医の先生方へ向けてのメッセージをいただきたいと思います.それでは,まず永田先生はなぜ眼科医になられたかをお聞かせください.永田:私の父は京都府立医科大学で内科教授を務めた後,実家のある姫路へ帰り病院を開業していました.ですから,私も内科医になって病院を継ぐはずだったのですが,戦災で病院が焼けてしまい,父は私に自分の好きな科を選んでよいと言ってくれました.その後,京都大学(以降「京大」)の研修生として全ての科を回った時,眼科が一番面白いと感じました.谷原:眼科のどういったところが面白かったのですか.永田:私はメカニックなものが好きで,色々な器械を使って眼底を見ることに興味があり,講義も非常に面白かったので眼科を選びました.教室では,スリットランプ1つにしても非常にプリミティブで,ドイツ製やスイス製の真似事をしていた頃から,日本製のものができるまでの革命的な変化の時代を過ごしました.ゴールドマン視野計が入ってきた時は,教室の誰も詳しく知らず,持ってきた器械メーカーも説明せずに帰ってしまったため,私が箱を開け,マニュアルを読んで器械を組み立てて作りました.大学時代にそういう経験ができたことは幸運だったと思います.谷原:永田先生は学生時代に陸上や趣味で能もやっておられましたね.陸上ではハイジャンプの記録を持っておられ,また能の笛はプロ級の腕前だったとお聞きしています.永田:そうです.当時は陸上や能もやっていて忙しく,勉強する暇がない程でした.陸上は出身高校で選手監督をしていましたし,能は人間国宝で笛名人の杉市太郎先生に学び,本当に玄人になりかけていました.ある時,師匠は私が自分の跡継ぎになると勘違いして周囲に紹介したようで,私は驚いて医者ですからとお断りして,その時点で能をすっかり辞めました.世界中で誰も見たことのない波形に興奮谷原:それでは,永田先生の眼科医としてのご功績についてお伺いします.先生は日本で最も初期に網膜電図(electroretinogram:ERG)を使われたパイオニアですが,当時の思い出をお聞かせください.永田:ERGはそもそも大学で教授から与えられて始めた研究でした.テーマは「ビタミンB1と脳下垂体ホルモンの網膜電図に与える影響」で,当時はERGの器械がまだ日本になくて,教授は学生の練習用の心電図器械を借りてきて,それを使うようにとおっしゃいました.それは無茶なことだと思いましたので,こっそり自分で網膜電図用の器械を一から組み立てるところから始めてみると,次第に面白くなってきました.そのうちに1700あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(68)ERGの宿題報告があたり,その仕事をやっている最中に,新しい現象が見つかり実質的には後半の1年で一気に論文も書き上げました.その頃は基礎研究に進路を変更しようかと思うほどエキサイティングで面白い毎日でした.谷原:何が先生を一番興奮させたのですか.永田:PhotopicERGといって,今まで撮れなかった小さなERGを大きく拡大して撮ったのですが,こちらの与えた刺激で全く新しい網膜の波形がどんどん出てきました.世界中でまだ誰も見たことのない波形を目の当たりにすることが,とてもエキサイティングで夢中になり研究の面白さを知りました.そしてその結果を,オランダで行われたERGの初期の国際学会に英語の論文で投稿し,講演しました.その時,ニューヨークのコーネル大学の先生が聞いていて,私の発表をとてもユニークで面白いと評価してくださったようで,帰りにニューヨークに招かれ,行ってみると共同研究に参加するようにと誘われて,それから1年間向こうで彼と一緒に仕事をしました.そして日本に帰って間もなく,天理病院が創立され,先進的な研究室があってERGの研究も続けられるということで,そちらに赴任することになりました.丁度その頃から学園紛争が起こり,京大では研究ができなくなり,多くの先生が天理病院の研究室を借りて辛うじて研究をするような時代があったわけです.未熟児網膜症に対する光凝固治療の第一人者谷原:永田先生は未熟児網膜症に対する光凝固治療の有効性を世界で初めて提唱されましたね.その頃のお話もお聞かせください.永田:当時,未熟児室のある病院が少なかったのですが,天理病院には未熟児室が小児科に最初からあったわけです.そこで数は多くなかったのですが眼科も診ていて,偶然,未熟児網膜症の重症例と遭遇しました.私は他の疾患で網膜の新生血管増殖抑制に光凝固が効くことを経験していましたので,その結果から類推し,治療を試みたところ,本当に驚くほどの効果がありました.そして何年かかけて同様の症例を数例集め,学会で紹介しました.ある時,ある眼科の先生が自分は経験がないからと,症例を送ってこられました.ところがそのタイミングが少し遅くて,光凝固治療が奏効しませんでした.(69)これは滅多に起こらない病気ですから,医師の判断や治療が遅れるのは当然で,本当にやむを得ずそういうことになったのです.しかしながら,この症例は訴訟問題を引き起し,患者側につくマスコミと,反対につく医療側との板ばさみとなって,コントロールスタディの不可能なわが国では,光凝固治療の効果そのものが問題視されるようになりました.私はその間,裁判の証人に引っ張り出されて苦労しました.谷原:確かに,当時は未熟児網膜症に対する光凝固治療の有効性について,日米間でも見解の相違があり,実際に日本に比べ欧米では導入がずいぶん遅れていましたね.永田:未熟児網膜症に対する治療はそもそもアメリカで始まりました.しかし始めは酸素が多すぎて発症が減らず,酸素40%未満の環境で行ったところ発症は減ったけれども重症例が残りました.彼らの治療法では光凝固を行う際のタイミングが間違っていたのですが,結局治らないという論文が出て,アメリカの眼科学会は私の見解とは反対側に回ってしまいました.それでも私は正しいタイミングで治療を行えば,有効であるという確信を持っていました.日本の先生方も私と同じ意見の人が多く日本の眼科医だけは正しい治療を続けていました.そのうちにカナダやイスラエルなど色々な国々でも光凝固治療の有効性が認められてきて,アメリカの眼科学会も放っておけなくなり,厳密なコントロールスタディを行うことになりました.その結果,1988年に治療の有効性が確認されました.私は天理病院へ行ってからずっとこの治療を行っていましたから,日米では導入にかなりの時差がありました.谷原:先生が未熟児網膜症で光凝固をされた第1例目は1967年ですから,約20年経ってやっと認められたということですね.世界で初めて自分がその治療をして有効性を実感しながら,なかなか世界に認めてもらえないという状況が長かったと思います.その時はどういうお気持ちでいらっしゃいましたか.永田:日本の眼科の先生方は私の研究を支持して治療を続けてくださいました.ただし,日本ではコントロールスタディができない風土ですから,それがこちらの弱みですね.アメリカは何でもコントロールスタディで証明されないと認められませんので,それを待つしかなかったのです.そしてアメリカで有効性が認められた後,状況は一気に好転しました.しかしながら,天理病院に在あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151701籍した全時代をそういうプレッシャーがかかった状況で過ごしましたので,それは長くて大変なことでした.ようやく私の研究が認められアメリカで表彰された時,これで研究者として自分のやるべきことに区切りがついたと感じ,天理病院を辞めて開業しました.多くの優秀な臨床医を輩出した天理病院時代谷原:それでは,私も大変お世話になりました天理病院時代の思い出話に移りたいと思います.永田先生は天理病院で「日本眼科手術学会」の前身である「眼科顕微鏡手術の会」を立ち上げ,日本の眼科にマイクロサージェリーが普及していく中で,数々の偉業を成し遂げられました.そして緑内障,網膜硝子体,白内障領域を含めた,その時代の最新の手術を勉強できるということで,全国から眼科医が永田先生の下へ常勤なり見学なりで来られました.門下生からは全国で活躍する教授,優れた臨床医,研究者,サージャンとして地域のオピニオンリーダーとなる人達を輩出し,先生はまさに名伯楽とも言えます.永田:私は当時天理病院へ来ていた先生方を仲間として考えていたつもりです.よく弟子と言われますけれども,弟子という感覚は全くありませんでした.いつでも皆が自分の知識を全部知っているべきだという方針で,新しいニュースが入ればすぐに伝えました.例えば,朝読んだ文献を昼ご飯のときには皆に伝えましたので,私が知っていたことは皆も知っていたはずです.彼らが私に相談してくるときも仲間感覚で討論し,皆で勉強しました.そういう気持ちが伝わったのか,いつもとても良いチームワークで仕事ができました.もともと優秀な人が集まっていましたから,多くの教授を輩出できたというのも,そういう勉強の仕方や教え方に共鳴してくれたからではないでしょうか.谷原:実際に天理病院に赴任した若い先生は,最初に永田先生の診療についてカルテの記載や検査のオーダーを出しながら,お昼も食堂で一緒に先生を囲んでいろいろ教えていただきながら食べるのが日課でしたね.あれは本当にすごく勉強になりました.世界的に有名な先生と議論しあう充実した日々永田:常に何か新しいことはないのかと求める雰囲気で1702あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015したね.初めて診るような症例があれば,図書室へ行けばどこかに載っているはずだと皆に調べさせたりもしました.そこから立派な論文を書く人がいたりなど,皆で勉強する環境でしたね.それから硝子体手術の後などは,自分たちで手入れしないといけない時代でしたから,全員で器械を掃除していました.手術場の雰囲気もとても良かったと思います.谷原:確かに当時の天理病院はすごく良い雰囲気でしたね.私が京大の眼科に入局した年に本田孔士先生が教授になられて,病棟医長が荻野誠周先生,副病棟医長が松村美代先生,山川良治先生で永田門下生の先生方に囲まれていました.赴任の話が出た時も,私がどこの病院がよいか相談すると,全員が声を揃えて天理病院がよいとおっしゃり,永田先生の下で2,3年勉強すればサージャンとしてのベースを作ってもらえるからと言われました.実際に永田先生にお会いすると,温厚で,怒っても声を荒らげたりすることはなく,いつも楽しそうに最新の論文の話をしたり,私達が手術などのデータを持って行くと,すごく嬉しそうに議論してくださいました.大学時代から永田先生は雲の上の人で,世界的に有名という話を聞いていたので,そういう偉い先生が自分のまとめたデータですごく楽しそうに議論してくださったのが嬉しかったです.また,学会で発表した後には,今日は受け答えが良かったとか,早口すぎて聞きとれなかったとか,いろいろ褒めたり指導してくださり,そういうやり取りがすごく楽しくて仕事が面白かったです.患者さんに役立つと思える情報を,論文で他の先生にも知ってもらうことが誇らしく,自分のやりたいことと仕事がマッチした一番幸せな時期でした.永田:当時は時代が本当に良かったと思います.進歩しつつ学ぶことができる時代でしたからね.私が眼科医になって仕事を始めた頃は,まだやっとDNAが見つかった時代で,抗生物質もまだ入ってきていない,サイエンス全体が何もない時代でした.それが現役で働いている間に急カーブで近代化していったのです.京大で基礎的なことをしっかりと学んだ上で天理病院へ行ったので,臨床もスムーズに始められました.また,天理病院は全国から患者さんが集まるので色々な症例を診ることができ,臨床医としては一番充実していた時代だったと思います.今は情報量が多すぎて,せっかく優秀な人でも,とて(70)もあの膨大な量をマスターできないのではないかと思うくらいです.谷原:今は色々な情報があって,覚えなければいけないことがたくさんありますよね.自分が大学で学生に教えるようになって思うのは,人によって感性が違うので,教育の仕方も大きく分けて2通りあるように感じています.1つは型にはめて,間違ったことをしないようにきちんとベースを作るやり方,もう1つはそれぞれの感性や個性を大事にしながら,本当にその人の優れたところを伸ばしていくやり方,そして多分その両方を上手く組み合わせるのが良い教育かと思います.天理病院の永田門下生の特徴の1つは,1人ひとり個性が全く違って,あまり型にはめられないで,その人の個性によって研究で伸びた人もいるし,手術ですごく有名になった人もいるし,教育や人格的な面で次世代の人を育てている人もいて,そういう個性を大切にした独特な育て方であった気がします.そういった指導法に関して,特に気をつけておられたことなどはありますか.永田:いいえ,それはあまり意識していなかったです.当時は時代が良かったとしか言いようがないです.サイエンスそのものがものすごい勢いで進んでいた,その時代をフルに生きられたということが自分達は本当に幸せだったと思います.強いて言えば,教育に関しては,その人の能力はしばらく見ていたらだいたいわかりますから,個々の性格に合わせてやり方も変えないといけないのではないかと思います.谷原先生を育てる時と,そうでない人を育てる時では,自然とやり方が違いますからね.ちなみに谷原先生の当時の印象は,色々なことに興味を持っていて,その意見は非常に鋭くて核心をついていました.大変賢くて自分は何でもできてしまうので,他人に教える時は,自分と同じようにできるとは思わずに接した方が,教えられる側にとってはいいのではないかと思いますよ.基礎研究をしっかり学んで臨床に応用する谷原:それでは今後,眼科の未来がどういう方向に向かってほしいという期待や希望はございますか.永田:眼科がどのような方向へ行くかというのは,私の時代からは学問があまりにも進歩していますから,谷原先生のような現役の先生方が考えることだと思います.すべての分野でとても進歩していて,今年できないことが,次の年にはもうできているという時代ですからね.それはやはり基礎研究が進んだからでしょう.ですから基礎研究をしっかりと教わって,臨床に応用していくということが一番大事なことではないでしょうか.基礎研究が進んだ分野というのは,今までと違って急速に伸びますからね.谷原:大学教育のあり方もだいぶ変わってきましたね.永田:日本では,大学の教授の数をもっと増やすべきだと思います.欧米では眼科に教授が複数いるのが常識です.最近は日本でもだいぶ増えてきましたけれども,せいぜい3人くらいで,例えば,京大程の規模ならば眼科の教授が5人くらいいてもいいと思います.それくらい学問の幅が広がっていますし,教授間でお互いに知識の交換もできますしね.昔の話ですけれども,ニューヨークのコーネル大学で勉強していた時,数人の教授で回診し自分の専門でない患者の前に来たら,専門の先生が前に出て,他の先生はスッと引くのです.それで次の患者の前ではまた違う先生が一歩前へ出てというように診察していました.特に最近は複数の先生で担当しないと,とても1人で処理できる情報量ではないと思います.いつの時代も医師は患者さんを一生懸命診ることが大事谷原:今の若い眼科の先生方に対して伝えたいメッセージはありますか.永田:今は本当に情報過多の時代です.それでもやはり医者は患者さんを診ることが本業ですから,いつの時代も患者さんを一生懸命診ないといけないと思います.一生懸命に診て,それで最善の道を,自分の可能な範囲内で教えてあげるのです.私は患者さんにはできるだけ詳しく説明するようにしておりましたが,それが一番大事なことだと思います.谷原:最近の若い人たちはどちらかというと保守的で,先生のように積極的に留学をしたり,基礎研究に必死に取り組んだりという人が減っているように感じますが,どう思われますか.永田:留学をしないとか,研究に真剣に取り組まないというのは,面白くないと思いますよ.もっとアメリカなど外国へ行って研究をして欲しいですね.留学して絶対に損はないと思います.(71)あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151703谷原:私の知っている優れた臨床医は,やはり研究者としてもかなり活躍された方が多いように思います.若い頃の3,4年間に研究をしないで手術の件数を重ねたからといって,大成するかと言えばそうではなくて,基礎研究などにしっかりと取り組んでいる人の方が後に活躍しておられるように思います.永田:基礎研究は新しい発見があると本当にエキサイティングで面白いと思います.あまりに熱中し過ぎて,そちらにのめり込んでしまう恐れもあるくらいです.谷原:そんなにのめり込むほど研究に熱中してもらえれば嬉しいですね.興奮しすぎて夜も眠れなくなったとか,こんなに面白い話を自分しか知らないでドキドキするとか,そういった興奮を語ってくれる人はずいぶん減ってしまったような気がします.永田:そうですね.興奮や熱中などのエネルギーは成長する時の力になりますから,これからそういう人がいるかいないかが,眼科だけでなく国の未来をも決めますよね.谷原:そういう意味では,若い人を興奮させられるような研究なり臨床なりができるリーダーも必要なのでしょうね.永田先生の時代は,ERGも未熟児網膜症もマイクロサージェリーも,やることなすこと先生の後に道ができていくような時代でしたが,今はあまりにも情報や選択肢が多すぎて混乱する部分もあります.どうやって自分が切り開いて行く道を見つけるかというのはなかなか難しいものがあると思います.若い先生方には,そこを見つけられる感性や,見つけてそれに興奮できる感性を持って色々な仕事に取り組んでいって欲しいと思います.☆☆☆1704あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(72)

成人の非炎症性涙道疾患 機能性流涙症

2015年12月31日 木曜日

成人の非炎症性涙道疾患機能性流涙症Non-inflammatoryLacrimalDisordersinAdultsFunctionalEpiphora藤本雅大*はじめに機能性流涙症は日常診療においてありふれた疾患であるが,診療手順,治療方法はともに確立していない.流涙を誘発する疾患がないこと,導涙を妨げる器質的な疾患がないことを前眼部検査,涙管通水検査で確認して診断する.一般的には表1にあげるような疾患を系統的に診察して除外し,機能性流涙症の診断に至ることとなる.しかし,除外基準自体は文献によっても異なり,診断自体曖昧なものといえる.涙道のどの部分で導涙機能が低下しているかを直接証明でき,かつ一般診療に容易に応用可能な検査があれば,除外基準に頼った曖昧な定義にならないのであるが,現時点ではグレーゾーンを多く含む疾患といえる.I組織と機能涙道の組織と機能について簡潔に述べる.涙小管の上皮は重層扁平上皮であり,機械的な刺激に強い上皮となっている.その周りを弾性線維,さらにHorner筋が包み込んでいる.涙小管壁に含まれる弾性線維は非常に豊富である.その弾性とHorner筋の作用によって,瞬目ごとに涙小管は拡張・収縮し径を変え,管内の圧変化が生じる.涙小管は眼表面から涙液を吸い上げ,涙.へと涙液を運搬する導管であり,この涙液運搬機能には毛細管現象と管内の圧変化がかかわっている.弾性線維の線維化・肥厚による涙小管壁の柔軟性の低下や,Horner筋がゆるむことによって管内の圧変化を生じさせるポン表1除外疾患・眼瞼疾患(眼瞼内反・外反,眼瞼下垂,眼瞼炎など)・涙点外反・角膜疾患(角膜上皮障害,角膜炎など)・結膜疾患(結膜弛緩,結膜炎など)・ドライアイ・涙腺疾患(炎症,腫瘍,薬物性)・涙道疾患(涙小管炎,涙道狭窄)・顔面神経麻痺プ機能が低下し,導涙機能低下が生じうると考えられる.涙.,鼻涙管の上皮は多列円柱上皮で,ゴブレット細胞を多く含み,上皮表面は粘液で覆われている.また,上皮表面に線毛が認められる.周囲は血管を多く含む線維組織,いわゆる海綿状組織からなっている.涙.・鼻涙管は涙小管から届けられた涙液を涙道外へと排出していく.涙.・鼻涙管の周囲にある海綿状組織へと涙液を吸収し,残った涙液に関しては涙.のポンプ作用や線毛,鼻涙管周囲の膠原線維の働きによって鼻涙管下部開口部から涙液を排出していく.涙.ポンプにかかわるHorner筋の機能低下や,海面状組織の線維化・肥厚により,導涙,再吸収に障害をきたすことが考えられる.II海外での機能性流涙症の検査法海外での機能性流涙の検査法としては,涙道造影検査,シンチグラフィをあげることができる.もちろん海*MasahiroFujimoto:京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学〔別刷請求先〕藤本雅大:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(55)1687右側左側1minute3minutes5minutes10minutes30minutes図1涙道造影検査図2シンチグラフィ(模式図)右側は涙.までトレーサーが達しておらず,presacdelayに分類される.左側は鼻涙管近位部付近でトレーサーが滞留しており,postsacdelayに分類される.断しうる.前眼部検査,涙管通水検査,涙道造影検査を行い,さらにシンチグラフィを機能性流涙症に対して行うのは,得ることのできる情報量と比較すると過剰な検査といえるかもしれない.もう一つは施設間で正常値にばらつきがあり,また正常値の幅が広い点である.無症状でかつ涙管通水検査で通水良好であった健側においても,シンチグラフィでは約40%で涙道内に排出遅延を認めうるとも報告されており,精度の高い検査とはいいがたい.海外における機能性流涙症の検査法をあげたが,一般診療に応用できる簡便な検査ではなく,精度も低い.今後の展望としてダイナミック造影(magneticresonanceimaging:MRI)など,より精度の高い検査法か,もしくは外来で容易に施行可能な検査の登場が望まれる.III涙道内視鏡検査涙管通水検査を施行し逆流がないとしても,それはある水圧下での涙道の疎通性をみているのであり,涙道内に狭窄などの病変がないことを必ずしも示してはいない.よって症例に応じて涙道内病変の有無を精査する必要がある.実際に機能性流涙症疑いの症例に涙道内視鏡検査を行ってみると,涙小管,総涙小管や鼻涙管の狭窄,涙.内に分泌物や涙石の貯留を認めることがある.涙道内視鏡検査は内視鏡にシースを装着しない状態で行う.シースを装着しない状態であれば,比較的容易に通水検査と大差のない侵襲で検査を行うことができる.ただし外径0.7mmの涙道内視鏡を使用したとしても,涙点拡張針で軽度涙点拡張を必要とすることが多い.涙道内視鏡検査は以下の要領で進める(表2).点眼麻酔後に適宜涙点を拡張し,上涙点から涙道内視鏡を挿入して,涙小管内を観察する.涙小管内に分泌物の貯留や涙石がないか,また狭窄がないかを観察する.次に総涙小管の狭窄の有無,涙.壁での血管拡張の有無,涙.内の分泌物や涙石の貯留の有無,そして鼻涙管移行部がスリット状(図3)であって狭窄などないか(ballooningsign,図3)を確認する.鼻涙管移行部で狭窄がなくても,鼻涙管下部で狭窄があることもあるが,点眼麻酔のみで痛みなく鼻涙管下部まで観察するのはむずかしい.涙道内視鏡検査での器質的疾患の除外は涙道内視鏡が(57)表2涙道内視鏡検査検査のポイント・涙小管:狭窄,分泌物,涙石の有無・総涙小管:狭窄の有無・涙.:分泌物の有無,涙.壁の所見・鼻涙管:slitorballooningsign・スリット状・ballooningsign図3鼻涙管移行部所見海外で普及していないため,定義に含まれないが,治療方針を決定するうえで重要な意味をもちうる検査と考える.IV実際の診療機能性流涙症の実際の診療における検査手順,治療の考え方(図4)について述べる.まず前眼部検査により,眼瞼疾患や,ドライアイ,結膜弛緩などの反射性流涙の要因となる疾患がないかをみる.それらが認められた場合,その治療が優先される.次に涙液メニスカス高(tearmeniscusheight:TMH)の検査を行う.前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)検査が可能であれば,客観性・定量性の面よりOCTによる測定が望ましい.TMHの正常値の幅は広く,100.400μm程度(図5)である.また,流涙の程度と涙液メニスカス高の関連性は必ずしも高くはなく,TMHのみによって治療適応を決めるわけではない.治療適応を考慮する際,Munk’sscale(表3)も参考にする.Munk’sscaleは風などの環境刺激がない状況において,1日に涙をハンカチなどで拭く回数によってグレード化したものである.次に涙管通水検査を行う.涙管通水検査により,涙道内の疎通性を阻害する狭窄,閉塞の有無を予測する.逆あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151689治療前評価治療前評価・点眼薬,罹病期間,Munk’sscaleの確認・TMH測定・前眼部検査・涙管通水検査保存的治療涙道内視鏡検査・ステロイド点眼薬涙管チューブ挿入術・抗アレルギー点眼薬図4機能性流涙症の診療方針表3Munk'sscale流涙(回数)Grade00回Grade11回Grade22.4回Grade35.9回Grade410回以上・風などの環境刺激がない状況での流涙.・ハンカチなどで1日に涙を拭く回数を数える.流がない場合,いわゆる機能性流涙症との診断となる.ここで,TMHとMunk’sscaleを考慮し,涙道内視鏡検査もしくは治療となる.保存的治療でなく,涙管チューブ挿入術を考慮する場合,涙道内視鏡検査を行うことにより,涙管チューブ挿入術を行うかを決定する材料となるため,この1ステップを踏むことが望ましいと考える.V治療機能性流涙症に対する治療の選択肢として,一般的には保存的治療,涙管チューブ挿入術がある.海外では選択肢としてさらにDCR,Jonestubeを用いたCDCRが加わる.DCRが有用であると推定される根拠についてであるが,涙道全体では導涙に対する抵抗が正常で平均約50mmHgであり,全体の抵抗の半分が涙小管,残りの半分がそれ以降とされている.DCRにより涙.以降の抵抗を除くことになるため,ポンプ機能が低下する導1690あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(μm)600500***400300279.8261.242001000*:KimSE.AmJOpthalmol.2010.**:QiuX.Cornea.2011.図5TMHの正常値涙機能不全に対しても,導涙の機能改善に対し,一定の効果が期待されると推測されている.しかし,DCRによる治癒率は50.90%と報告されており4.6),ばらつきが多く,侵襲とのバランスを考慮し,日本で機能性流涙に対してDCRが行われることは少ない.保存的治療としては,ステロイド点眼,抗アレルギー点眼が試みられることがある.眼表面への慢性的な刺激を軽減することを目的としている.効果は症例によりばらつきがある.効果が低い場合に,漫然と使用するのはすすめられない.保存的治療で軽快しない場合や,涙道内視鏡検査で涙道内に何らかの病変を認める場合,TMHとMunk’sscaleの値を参考にし,涙管チューブ挿入術が試みられることがある.術後半年後の治癒率は70%程度との報告がある7).涙管チューブを挿入することにより,涙小管内の断面積が増え,毛細管現象がより強く働き,眼表面の涙液を涙道内へと導涙しうるため,継続的なチューブ留置を希望される症例もある.その場合,適宜入れ替えをしてフォローすることとなる機能性流涙症のなかにはどのようなアプローチをしても症状が改善しない症例が存在する.そのことを念頭に置きつつ,診療を進める必要がある.一方で,機能性流涙症疑いでも涙道内に涙石を認める症例や,一部に明らかに有意な狭窄を認める症例が混在することもあり,そ(58)-

成人の非炎症性涙道疾患 涙点から鼻涙管までの狭窄や閉塞-涙管チューブ挿入術

2015年12月31日 木曜日

成人の非炎症性涙道疾患涙点から鼻涙管までの狭窄や閉塞─涙管チューブ挿入術─Non-inflammatoryLacrimalDisordersinAdultsEvaluationofLacrimalStentIntubationforCompleteorPartialLacrimalDrainageObstruction三村真士*はじめに涙管チューブ挿入術の歴史は古く,涙.鼻腔吻合術が行われ始めた1900年前後から約半世紀経った1960年代に欧米で登場した.その後,さらに約半世紀が経過した現在,日本において涙管チューブ挿入術は低侵襲な涙道狭窄および閉塞の治療法として幅広く行われている.一方で,日本国外,とくに米国においては,現在では涙管チューブ挿入術はきわめて限局的に適応される術式で,涙道閉塞症の治療には専ら涙.鼻腔吻合術が第一選択となっている.このような違いは,日本においてはNunchaku型涙管チューブと臨床応用型涙道内視鏡が開発され,独自に発展してきたことが一因と考えられる.本稿では,このように独自に発展した日本における成人の涙道閉塞症に対する涙管チューブ挿入術について,欧米のそれと比較しながら,基本的事項から臨床上のポイントまでを解説した.I日本における涙道治療の特徴日本でも1970年代より流涙症治療の文献が発表されているが1),1993年にヌンチャク型シリコンチューブ(Nunchaku-stylesiliconetube)が開発され2),日本の涙管チューブ挿入術は世界と一線を画して独自の発展を始める.1960年代より世界中で使用されているCrawford型涙管チューブは,チューブ本体(従来型では外径0.76mm)と,その先端に接続された細い金属製のブジーで構成されていて,その挿入方法はやや煩雑である.ブジーを盲目的に涙点から鼻内まで挿入し,鼻孔から引き抜く.その後ブジーとチューブの接続をはずしてブジーを取り除き,チューブの両端を鼻内で括って脱落の防止とする.場合によってはチューブを鼻内の粘膜に縫合して固定する3).このような操作をするにあたって,涙道周囲と鼻内の局所麻酔に加え,プロポフォールの静脈注射が必要な場合もある.以上のような理由から,Crawford型涙管チューブの弱点は,盲目的操作による誤挿入の可能性が高いこと,鼻内の処置による合併症発生の可能性,チューブが細いために管腔の拡張能力が低いことが考えられる.そのため,米国では完全閉塞例では治療成績が悪いため基本的に狭窄例もしくは機能的流涙症にしか適応がないとされている.一方のNunchaku型涙管チューブは,外筒のチューブと内筒のブジーで構成されているため,先端が非金属性となり,障害部を解放するときにチューブの誤挿入を予防しやすい.また,構造上チューブの脱落防止処置をする必要がないため,短時間で処置が可能である.さらに直径が最大1.0mmあり,Crawford型より太いため,管腔拡張能力が高い.このことから,Nunchaku型涙管チューブはCrawford型に比べて低侵襲に効果の高い治療が可能である.現在では,Lacrifast(カネカ社),PFカテーテル(東レ社),NST(Zeiss社)がこのNunchaku*MasashiMimura:大阪医科大学眼科学教室,ShileyEyeInstitute,UCSanDiego,DepartmentofOphthalmology〔別刷請求先〕三村真士:〒569-8686大阪府高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(49)1681表1Crawford型涙管チューブとNunchaku型涙管チューブの比較Crawford型涙管チューブ(EAGLE社,LacrimalIntubationSets)Nunchaku型涙管チューブ(カネカメディックス社,LACRIFASTR)素材シリコーンポリウレタン先端金属非金属直径0.6cm1.0cm全長30.5cm10.5cm脱落防止処置鼻内で縫合不要推奨留置期間記載なし3.4週間適応狭窄狭窄,閉塞ab図2涙道内視鏡システムモニター,CCDカメラ,光源,涙道ファイバーにより構成される(a).ファイバーには通水チャンネルが内蔵されており,蒸留水をチャンネルに通水しながら観察する(b).型涙管チューブを日本で発売している(表1,図1).さらに日本においては,1990年代末期より涙道内視鏡の試作が試みられ,2000年代初頭に臨床応用型涙道内視鏡が市販された(図2).これにより涙道内が可視化できるようになり,これまで盲目的に挿入されてきた涙管チューブの様子や,涙道粘膜の性状が評価できるようになった.涙道内視鏡自体は1970年代にCohenらが発表し,それ以降おもにドイツ,フィリピン,日本においてそれぞれ発展したが,とくに日本では優れた臨床応用型涙道内視鏡が市販されたため,多くの日本の術者がその恩恵を受けることとなった.さらに,2007年に“シース”とよばれる涙道内視鏡用のガイドが発表され,より多くの術者が涙管チューブ挿入術をより安全に挿入できるようになった(図3).1682あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015ab図1Crawford型涙管チューブ(a)とNunchaku型涙管チューブ(b)図3涙道内視鏡にシースを装着した状態SEPを行う場合には,シースを涙道内視鏡を数mmずらす(.).IINunchaku型涙管チューブ挿入の手技1.麻酔局所麻酔下(4%キシロカイン点眼麻酔,4%キシロカイン通水による涙道内浸潤麻酔,および必要に応じて2%キシロカインで滑車下神経ブロック)で行う.鼻内の処置が必要な場合は,4%キシロカインと外用ボスミン液を1:1の割合で混合した液をしみこませたガーゼで浸潤麻酔を行う.小児においては全身麻酔が必要となる.(50)図4涙管チューブ先端の可動性を上げた状態図52段階に曲げた涙管チューブ内筒を約1cm外筒から“遊ばせ”ることで,外筒である挿入時に前頭洞や下鼻道との干渉を避けやすい.チューブ先端がフレキシブルになり(→),正確な方向へガイドすると同時に粘膜損傷を最小限に減らすことができる.**図6SEP時の涙道内視鏡画像内視鏡先端より伸びたシースの先(→)で閉塞部(*)を穿破する.がシースの強度を超えて硬い場合は開放できない.d.sheathguidedintubation(SGI)涙道内視鏡下で挿入したシースをガイドとして涙管チューブを挿入する方法である.シースを装着した涙道内視鏡を挿入し,鼻腔まで挿入できたら内視鏡のみを抜去してシースをいったん留置する.その後,そのシース内にチューブを挿入し,シースのみを抜去することで涙道内視鏡が通った道に確実にチューブを挿入できる.ガイドとして挿入したシースを鼻内視鏡下で鼻内から抜去する原法と,シースにあらかじめスリットを入れておいて涙点から抜去する変法(G-SGI)がある.4.チューブ挿入の確認鼻内視鏡により鼻涙管開口部および下鼻道を観察する.とくに下鼻道の狭い例では下鼻甲介の内壁にチューブが突き刺さっている場合があるため注意する.また,涙道内視鏡はチューブが挿入された後でも涙道内に挿入できるため,誤挿入が疑われる場合は涙道内視鏡で確認することが勧められる.5.チューブ挿入後の管理施設によって管理方法などは異なるため,本稿では筆者の施設での管理方法について記載する.チューブ挿入1684あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015後は2週間ごとに涙道洗浄し,8週間後にチューブを抜去する.術後点眼は抗菌点眼とステロイド点眼を約3カ月行う.とくに挿入後早期は閉塞部が十分拡張していないことが多いため,眼脂などが溜まり術後炎症を遷延しやすく,涙道粘膜の再生を促すためにも涙道洗浄は重要と考える.また,チューブの長期留置については賛否両論あるが,基本的にはチューブは異物であり,涙.鼻涙管粘膜にはmucosaassociatedlymphoidtissue(MALT)があるため異物反応を起こしやすい.したがって,無用の長期留置は涙道の再閉塞や粘膜の扁平上皮化生を引き起こす可能性が考えられる.III涙管チューブ挿入術の適応と手術成績涙管チューブ挿入術の適応を考える場合には,すでに優れた治療方法として確立されている涙.鼻腔吻合術との比較が重要なポイントとなる.つまりは,Nunchaku型涙管チューブ挿入術が涙.鼻腔吻合術より低侵襲であることは自明であるが,涙.鼻腔吻合術より手術成績が劣ってしまうと,Crawford型涙管チューブのように限定的な治療方法となってしまう.そこで,原発性涙道閉塞症に対して行ったNunchaku型涙管チューブ挿入術(以下涙管チューブ挿入術)および涙.鼻腔吻合術治療成績のcohortstudyを紹介する5).このstudyではバイアスをできるだけ取り除くために,両術式ともに涙管チューブの種類および術後管理方法を統一し,術後12カ月までフォローできた156例について多変量解析で治療成績を考察している.解析の説明変数には,年齢,性別,左右,涙道内視鏡の使用,涙.炎の有無,術式を採用し,目的変数はanatomicpatency(粘液の逆流がなく通水可能)とした.結果,涙管チューブ挿入術による治療群112例において,全体の成功率は83.0%であった.閉塞部位別の成績をみると,涙点および涙小管閉塞群においては94.6%の成功率を収めるが,涙.および鼻涙管閉塞群では成功率が71.4%まで低下した.そこで涙.および鼻涙管閉塞群において,涙.炎の有無で解析を行うと,涙.炎を合併しない群においては82.9%の成功率で涙.鼻腔吻合術の成功率(95.5%)と統計学的有意差がなかったのに比較して,涙.炎を合併する群においては52.4%にまで低下し,有意に涙.鼻腔吻合(52)術の成績より劣っていた(図7).つまり,涙.炎を合併するような炎症性涙道閉塞症の治療は涙.鼻腔吻合術に分があるが,非炎症性涙道閉塞症においては涙管チューブ挿入術が第一選択の治療法として十分機能しうることがわかった.しかし,このstudyとほぼ同様の条件下で3,000日の長期間にわたって涙管チューブ挿入術後の経過観察を行った杉本と井上の報告によると,とくに鼻涙管閉塞症の場合,術後1年では80%台の開存率であったものが,術後約8年では63%まで低下すると報告している6).また,鈴木と野田の報告によると,流涙症の罹患期間が3年を超える場合は涙管チューブ挿入術後の再発リスクが高くなるとしている7).さらには,近年問題になっている抗癌剤などの薬剤の副作用による涙道障害,重症アレルギー,重症感染症,陳旧性外傷などによる続発性涙道障害の場合は,重度の粘膜障害をきたしている可能性が高いため,涙管チューブ挿入術を行う価値があるものの難易度が高く,その成功率は原発性のものよりかなり低くなる.これらのことから,涙管チューブ挿入術は低侵襲に涙.鼻腔吻合術に相当する治療効果を発揮できる場合が多いが,涙道粘膜障害の程度によってはその治療に限界があると考えられる.そしてその限界を超えた場合は,新涙道を作製できる涙.鼻腔吻合術などを適応することが望まれる.したがって,涙管チューブ挿入術を行うにあたって,通水や涙道内視鏡などによる涙道の術前評価に加えて年齢,性別,病因,涙.炎など再閉塞に至るリスクを十分考慮して手術を選択することが肝要である.また一方で,筆者はこの限界を引き下げるために,術後炎症抑制や粘膜再建促進作用をもつレバミピド点眼を涙管チューブ挿入術後に使用し,良好な成績を得たことを報告した8).最近レバミピドによる涙道閉塞の可能性が取り上げられているが,本研究ではむしろ良好な効果を得る結果となった.このように,今後さまざまな方法でこの限界を引き下げ,涙管チューブ挿入術による低侵襲で効果的な涙道治療の適応を拡大させることが望まれる.一方,涙管チューブ挿入術の手術成績を涙道内視鏡の使用の有無で比較した場合,本studyでは手術成功率に有意差を認めなかった.これは,決してDSIが過去(53)N.S.§†*94.671.482.952.4NSTI,upperNSTI,lowerNSTI,lowerwithoutNSTI,lowerwithENDCR,lowerwithdacryocystitisdacryocystitisdacryocystitis図7原発性涙道閉塞症156例に対する手術成績(術後12カ月)NSTI:涙管チューブ挿入術.EN-DCR:涙.鼻腔吻合術,Upper:涙点および涙小管閉塞,Lower:涙.および鼻涙管閉塞.*p<0.05.†p<0.01.§<0.001.N.S.有意差なし.の手技ではないことを示している.しかし,DSIではチューブを挿入できない場合,誤挿入時の粘膜損傷の確認,異物や腫瘍といった場合は涙道内視鏡が必須である.さらには,複雑な涙道の構造を理解するために涙道解剖を経験することが涙道手術を習得するにあたって重要であったが,現在はこの涙道内視鏡により涙道の構造を比較的容易に理解することができる.したがって,涙管チューブ挿入術において涙道内視鏡は,手術手技の習得と涙道粘膜の精査,涙道手術の補助として重要な役割を担うと考えられる.IV合併症への対応1.誤挿入涙管チューブ挿入時に出血を認めた場合や,患者が過度の疼痛を訴えた場合は誤挿入が疑われる.その場合はDSIorSEP+SGIを行い,正しい涙道に挿入し直す(図8).2.挿入時の内筒突き抜け強固に線維化した閉塞部に涙管チューブを挿入する場合や,誤挿入してしまった場合に起こる.涙道内視鏡によるDEPにより予防できる.3.涙点の裂傷(cheesewiring)涙管チューブ留置中に涙点が裂ける現象.とくに涙管チューブの誤挿入や長期間留置により生じる.涙道内視鏡で精査し,誤挿入がある場合は必要に応じてDSIorあたらしい眼科Vol.32,No.12,20151685図9涙道内肉芽組織形成左上涙点から肉芽組織の突出(→)を認める.図8チューブ誤挿入時の涙道内視鏡画像片端は正確に挿入されているが,もう一方(→)は粘膜下に挿入され出血を認める.

成人の非炎症性涙道疾患 涙点から鼻涙管までの狭窄や閉塞-鼻涙管チューブ留置に役立つ画像診断

2015年12月31日 木曜日

成人の非炎症性涙道疾患涙点から鼻涙管までの狭窄や閉塞─鼻涙管チューブ留置に役立つ画像診断─Non-inflammatoryLacrimalDisordersinAdultsCTandCT-DacryocystographyforPatientSelectioninNasolacrimalDuctIntubation鈴木亨*はじめに非炎症性の涙道閉塞・狭窄の治療方針は,日本では涙洗が通るなら鼻涙管チューブ留置(nasolacrimalductintubation:NLDI)を施行し,涙洗が通らないならNLDIか涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)から選択するという考え方が一般的である.涙道内視鏡を使える状況であれば,涙道内視鏡検査1,2)を試み,その結果で術式選択することで問題ない.しかし,涙道内視鏡はすべての施設で使用できる状況にはない.正しい涙道治療の方向としては,画像検査も参考にしながら,内視鏡が使用できない状況や内視鏡の限界を補いながら進むことであろう.涙道手術の術式選択や術後評価において,画像診断の有用性はいうまでもない.通常では涙.造影X線撮影(dacryocystography:DCG),CT単純撮影,およびCT涙.造影撮影(CT-DCG)の3つが可能である.涙道腫瘍や涙.憩室炎の診断にはMRI撮影が必要で,機能性流涙症の診断には涙.シンチグラムが標準とされる3).また,涙小管や涙.の超音波生体計測や,OCTを利用した涙点と涙小管近位の計測など,さまざまな画像診断の試みもある.本稿では,DCGを中心とした通常の画像診断について解説する.I涙.造影DCGEwingが1909年に涙道の造影写真を撮影する方法を始めて報告4)して以来,DCGは造影剤や,カニューラを用いた造影剤注入方法の工夫5)と撮影方法の改良が加えられ,今でも生き残る検査法である.DCGは,正面と側面から撮影することで涙道全体像を見るのに有用である(図1).涙道閉塞においては閉塞レベル(局在)を決定したりするのに有用である.しかし,簡便なX線撮影では背景の骨組織が造影剤の陰影と重なるためノイズが多く,また設備の問題から,臨床ではスキップされることが多いのが国を問わず実情である.閉塞レベルの決定は,臨床的には涙洗と診断的プロービング,あるいは施設によっては涙道内視鏡検査などでおおむね可能である.ただし,涙道手術研究を続けるにあたっては,今でもDCGによる診断の考え方には学ぶべき大切な点がある.また,CTと組み合わせることで,今後もDCGは涙道手術の術前検査として有用であり続けることは間違いない.1.涙道通過障害診断の基本涙洗で完全閉塞と判断されても,造影剤が鼻腔へ到達している様子が撮影される症例は少なくない.これは狭窄と閉塞の診断が検査方法で異なることを示唆している.したがって,術前の造影検査をスキップして手術結果を示した論文と,造影検査で患者を選択して手術結果を示した論文では,研究対象が異なる可能性を理解する必要がある.造影検査をスキップした場合は,閉塞のみならず狭窄も含むより軽症例の患者集団についての研究と考えられる.このことは,研究間で手術結果を比較する場合には必ず考慮されなければならない.また,涙道閉塞のレベル診断が最近の論文でもpresaccalobstructionとpostsaccalobstructionという言葉が散見される.これらは造影剤が涙?まで入っているかどうかの区別であり,前者は涙小管閉塞,後者は鼻涙管閉塞と訳して差し支えない.つまり,涙道閉塞は最初に造影剤がせき止められる部位で診断を決めるのが基本という考え方であり,涙道内視鏡所見で診断する場合もこれを踏まえる必要がある.たとえば,涙小管閉塞を内視鏡で穿破し,それより遠位に鼻涙管閉塞所見が得られた場合,これは仮に造影検査をした場合の診断にならって涙小管閉塞症として分類する必要がある.これを鼻涙管閉塞症に涙小管病変が合併したものとする考え方は,涙道内視鏡を用いない国内外の大多数の研究との整合性に欠け,結果の比較を困難にする.2.撮影法の改良Gallowayは1984年に,涙道を満たす造影剤以外のノイズを画像処理でキャンセルしてクリアな涙道の姿を映し出す差分涙?造影撮影法(digitalsubtractiondacryocystography:DS-DCG)を初めて報告した6).涙小管にカニューラを挿入し,ここから造影剤を持続注入しながら1秒に1枚ずつX線写真を撮影して画像処理を行う.涙道の姿がよくわかる利点は大きいが,要点は単純撮影と違いはなく,むしろ特別な解析ソフトが必要になるので施行できる施設がさらに限られてくる点が問題ともいえる.3.最新の工夫Wongらは2014年に,鼻涙管の開口部から逆行性に造影剤を注入してCT撮影を行う逆行性涙?造影法(CTretrogradeintubationdacryocystography:CT-RIDC)を報告した7).涙小管の手術では,手術選択の際に涙?と鼻涙管の状態を考慮することがある8,9).しかし,涙小管が閉塞している場合は造影剤がそれより遠位に到達しないので,通常の方法では涙?と鼻涙管の情報は得られない.逆行性涙?造影は,これを解決するための方法で,今後,涙小管閉塞の術前検査として発展することが期待される.4.コーンビームCTの登場CTは骨組織の構造を見るのに大変に有用である.涙道は眼表面から涙?窩に沿って上顎骨を貫き,鼻腔に到達する.したがって,涙道は骨組織と密着した器官であり,CTは涙道術前検査として有用である.しかし,被曝や利便性の問題から眼科診療ではこれまで限定的な使用しかされておらず,十分に普及した検査とはいいがたい.ところが近年,コンピュータの高速化に伴ってCTの技術革新があり,従来と比較してはるかに低被曝,低価格,そして設置面積の狭い座位撮影のCT(conebeamCT:CBCT)が市販されるようになった(図2).Mozzoらが1998年に歯科領域でのCBCT使用について報告10)して以来,頭頸部領域で徐々に臨床応用されるようになっており,米国では歯科・口腔外科・耳鼻咽喉科科の診療所で普及が進んでいる11).日本でもインプラント手術を行う歯科診療所ではすでに普及し,鼓室形成を行う耳鼻科診療所でもCBCTを設置するところが現れるようになってきた.眼科でのCBCTの応用はまだ報告12,13)が少ないものの,その安全性と有用性のみならず,眼科外来でも簡単な工事で設置可能なほどコンパクトであり,上級機種CBCTでも最近の超音波白内障手術装置や超広角眼底撮影装置より低価格であるという利点から,今後は涙道手術を行う眼科診療所で術前ルーチン検査として発展する可能性が十分ある.5.最新の涙?造影と今後の展望Tschoppらは2014年に,CBCTを用いた涙?造影(CBCT-DCG)を行って10例の涙道閉塞患者の閉塞レベル診断を行って報告13)した.彼らは造影剤を患者に投与する方法として,カニューラで造影剤を涙道に注入する従来の方法と,造影剤を点眼するだけの方法の2種類を用いており,いずれもよく造影され閉塞診断が可能であったと述べている.また,被爆リスクに対しての配慮は述べながらも,いくつかの文献12,14,15)のレビューからCBCTで必要な放射線量が従来のマルチスライスCTと比較して十分に低い量と結論づけている.実際,撮影範囲の設定にもよるが,涙道の撮影であれば放射線照射はおおむね10分の1程度の量ですむ.さらに,CBCTの利点の一つに座位で撮影が行われる点をあげ,造影剤の点眼が涙道の造影に十分な効果があった点と合わせて,涙液排泄動態の異常をみる機能性流涙の診断においてCBCT-DCGが涙道シンチグラムの代わりになる検査としての可能性についても言及している.この点については,国内外で機能性流涙症の話題が涙道手術の関心の一つである昨今,とくに日本においては期待が大きい.Chanらは機能性流涙症について,涙?シンチグラムの結果でpresaccaldelay,postsaccaldelay,nodelayに分けて病態を考えることを提唱3),海外ではこれが認知され論議の前提となっている.これまで日本では涙道シンチグラムの実績がなかったが,今後は造影剤の点眼によるCBCT-DCGの結果でこれら病態の区別が可能となり,海外との整合性が取れた国内論議が可能になると考えられる.II鼻涙管チューブ留置を選択する際に注意すべきCT所見筆者の診療所(常勤医師1名,常勤スタッフ6名,そのほか非常勤)ではCBCT(3DAccuitomoF17,モリタ製作所)を設置しており,2015年6月から運用を始めた.5m視力検査を3m視力検査に変更して2m四方を稼ぎだし,CBCT検査室を作った.OCT(RTVue-100,Optview社)の設置に必要な面積より,少し広い程度と考えてよい.放射線技師は必要なく,操作が簡単なので当院の職員は誰でも患者の位置合わせができるようになっている.患者の位置が決まれば医師が17秒間の撮影を行う.三次元のCT値データは専用サーバーに取り込まれ,診察室,手術室,および医局に設置した専用ソフトでそれを再構築して見たい切片を自由に見ることができるシステムである.これによって,骨鼻涙管の屈曲や傾斜が直接見えるので,鼻涙管閉塞のNLDIで仮道留置を避けられるかどうかが予想できるようになった.また,CBCT-DCGの画像がDCRの術前と術中にどこでも利用できるようになった.すべての涙道術前患者にCT検査が必要なわけではないが,CTはわれわれに涙道手術の術式選択に大変に参考となる情報を与えてくれる.本稿後半では,NLDIを選択する場合に注意すべきCT所見について述べる.1.DCRかNLDIか冒頭で述べたように,非炎症性の涙道閉塞・狭窄の治療はDCRとNLDIから選択される.筆者は涙道内視鏡所見のほか,必要に応じてCTの結果も考慮しながら治療選択を行って治療成績向上を狙っている.筆者の基本姿勢は,簡単にすむNLDIを優先しながらも,リスクを抱える症例は積極的にDCR適応とし,NLDIの低侵襲性と有効性,安全性を損なわないことである.そのためには,安易にNLDIが低侵襲と思い込むのではなく,鼻涙管にモノを差し込む操作が涙道にとっては侵襲の高い手技となるような解剖学的リスク要因の存在を知っておく必要がある.以下,CTで診断できる4つのリスク要因について述べる.2.顔面の構造NLDIを施行する場合,顔面の骨構造が手術のしやすさに大きな影響をもつ.白人種では,前頭同が発達して眼窩上縁が“ひさし”のように突出している(図3a).この構造では,涙?まで差し込むプローブの角度と鼻涙管の傾斜角度が大きく違っており(anteriortype16)の極端な例),涙道内視鏡やチューブの誘導プローブが鼻涙管を進む際に涙道粘膜を傷害する.これは欧米で,鼻涙管に異常のない涙小管閉塞症においてさえも,鼻涙管内の手術操作を避けてDCRを優先する考え方の根拠と推察される.また,白人種でも,眼窩上縁が発達してくる前の小児期であれば,プローブ挿入角度と鼻涙管傾斜角度が近いため,プローブ挿入における鼻涙管粘膜障害のリスクは最小限と考えられる.そのため,白人種でも小児に対してはプロービングやNLDIの実績が多数あるのであろう.一方アジア人種は,成人でも眼窩上縁が発達していない(図3b).このため,白人種の幼児期と同様に涙点から鼻涙管へのアクセスが良好かつ安全であり,日本を含む東アジア諸国においてはNLDIの人気が高い.しかし,日本人でも,少数ではあるが白人型の顔面構造がみられることがある.筆者はその場合には,NLDIは避けてDCRを選択している.このほか,骨鼻涙管が途中でくの字型に後方屈曲する鼻涙管閉塞でも,NLDIでは仮道留置となる可能性が高いと判断してDCRを選択している.鼻涙管閉塞では,仮に涙道内視鏡を使用しても,いったんSEPやDEPで線維組織内に潜り込むとどの方向で仮道が避けられるのかは判断不可能である.内視鏡が組織内を進むうちに鼻涙管内に残存する開存部分に出合う場合は運が良い.しかし,しばしば仮道に潜り込んで広範型鼻涙管閉塞と誤診したり,骨鼻涙管の壁に行き当って「硬い閉塞」と感じたり,あるいは骨鼻涙管壁に沿って鼻腔に導かれたりする.線維組織内での内視鏡操作には限界があり,無理な治療で解剖学的リスクを負うとNLDIの低侵襲性と有効性を損なう.あらかじめ骨鼻涙管の走行を理解することで,そのリスクを避けることができる.涙小管閉塞では,涙?と鼻涙管にはまったく異常がないか限局性狭窄のみの症例(通常鼻涙管型涙小管閉塞)の方が多い.涙道内視鏡検査でそれが確認できれば,骨鼻涙管の傾斜や屈曲にかかわらず仮道留置を避けることは簡単であるので,CT所見に関係なくNLDIを第一選択に考える.3.骨鼻涙管の太さ解剖研究では,骨鼻涙管の内径は部位によって均一ではないが,眼窩における入口部でおおむね6mm程度とされる17).多数のCTをみた臨床的な経験からは,日本人流涙患者の場合はおおむね4~5mm程度の印象である.稀にほぼ全長にわたって内径の極端に小さい骨鼻涙管をもつ症例があり,この場合はNLDIの適応から除外したほうが無難と考えている.萩野らは2014年の日本涙道・涙液学会総会において,内径2mmにも満たない骨鼻涙管の鼻涙管閉塞症でNLDIを試みたところ,症状が改善せず後日DCRを施行したと報告した(フォーサム2014東京,プログラム・講演抄録集p139).鼻涙管拡張治療が不成功であった患者群の骨鼻涙管径は,成功例の患者群のそれより小さかったとの報告もある18).骨鼻涙管の内径はNLDIの有効性を担保するよい指標になる可能性があるので,今後CBCTを用いた鼻涙管径の研究が進むことを期待している.4.涙?結石涙?炎の場合は,鼻涙管の開存性にかかわらず正しい治療法はDCRである.DCRであれば,涙?結石の有無は問題ではない.しかし,実際の臨床では,DCR紹介病院がない地域や,患者側の事情でNLDIに頼らざるを得ない場合がある.このとき,少なくとも涙?結石や異物(涙点プラグ,停留チューブ)を伴う涙?炎はNLDIの禁忌であり,これを除外する必要がある.チューブ挿入の際に涙?結石などを仮道に押し込めば,海外の論文で散見されるような術後の急性炎症を生じる可能性があり,NLDIの安全性を損なう.涙?結石の診断には涙道内視鏡検査が最適であるが,涙道内視鏡がない場合,やむを得ず涙?炎にNLDIを検討する際には必ずCT-DCGを施行すべきである(図4,5).涙?炎のない症例でも涙?結石は存在する.図6に示したように,筆者の最近約1年の術前涙道内視鏡検査の結果では,連続227例中15例(7%)が涙小管炎以外の結石陥頓症例で,そのうち12例が涙?結石であった.筆者は涙?炎症例には術前涙道内視鏡検査を行わずにDCRを選択するので,この結果は涙?炎でない症例が対象と考えてよい.その涙?結石症例12例のうち5例では,涙洗逆流には分泌物がみられなかった.さらにその5例中3例は,逆流が微弱で機能性流涙を疑われて検査した症例であった.涙洗で涙?炎がないから,さらには逆流が微弱であるからという理由では涙?結石は否定できないことがわかった.NLDIの術前には,涙道内視鏡検査かCT-DCGでこれを除外診断すべきである.5.総涙小管偏位涙道内視鏡検査で総涙小管閉塞と診断する症例では,閉塞膜にディンプルかピンホールのみられる症例が多い.この場合は,これを目標にしてDEPあるいはSEPを施行すれば,高い確率で穿破に引き続いて涙?内腔粘膜が観察でき,その結果,仮道留置を避けてNLDIを終えることができる.しかし,ディンプルなどがみられない場合,しばしば閉塞は硬く,穿破に引き続いて涙?内腔粘膜が観察できない症例をときどき経験する.これは涙?内癒着の可能性も否定はできないが,むしろ涙道内視鏡が総涙小管壁そのものに突き当たっており,そのまま涙?外側壁の粘膜下繊維組織内に潜り込む仮道形成の所見として重要である.筆者は,涙?内腔が確認できない症例ではDCRか涙小管形成術を選択する.ディンプルなどがない場合は,内視鏡で閉塞膜のようにみえている行き止まりが図7に示したように前方に強く屈曲した総涙小管壁そのものであることがあり,これが仮道形成の原因のひとつとなる.総涙小管閉塞は本来,狭窄の目(ディンプルやピンホール)をもった柔らかい薄膜である.ディンプルのない症例や硬い症例ではCBCT-DCGで総涙小管の走行を評価することで仮道リスクを知ることが可能である.まとめDCGは,必ずしも施行しなければならない涙道検査ではない.しかし,造影剤がどこまで入るかという概念は涙道閉塞の診断の基礎であり,涙道内視鏡に頼った診療においてもこの概念は尊重されるべきである.CBCTは座位で行う簡便な検査で小規模眼科診療所においても十分に運用可能であり,今後の涙道診療においてはさまざまな有用性が期待できる.この10余年,日本の涙道手術研究は涙道内視鏡による診断と治療が主流であるかのようにもみえたが,本来は科を問わず,内視鏡検査と画像検査はお互いの弱点を補い合って患者に利益をもたらすものである.文献1)鈴木亨:涙道ファイバースコピーの実際.眼科45:2015-2023,20032)鈴木亨,白石敦,大橋裕一ほか:涙道内視鏡実践ガイド.あたらしい眼科32:1293-1296,20153)ChanW,MalhotraR,SelvaDetal:Perspective:Whatdoesthetermfunctionalepiphorameaninthetextofepiphora?.ClinExpOphthalol40:749-753,20124)EwingAE:Roentgenrayofthelacrimalabscesscavity.AmJOphthalmpl24:1,19095)LloydGAS,JonesBR,WelhamRAN:Intubationmacrodacryocystography.BrJOphthalmol56:600,19726)GallowayJE,KavieTA,RafloGT:Digitalsubtractionmacrodacryocystography:anewmethodoflacrimalsystemimaging.Ophtalmol91:956-962,19847)WangT,TooH,ZhangJetal:PrimarystudyonCTretrogradeintubationdacryocystography(CT-RIDC)anditsimpactfactors.ChinJOphthalmol50:766-771,20148)BusseH,Meyer-RuusenbergHW,KrollP:Canaliculodacryocyctotomy.Orbit4:69-72,19859)鈴木亨:涙小管閉塞症の顕微鏡下手術における術式選択.眼科手術24:231-236,201110)MozzoP,ProcacciC,TacconiAetal:AnewvolumetricCTmachinefordentalimagingbasedonthecone-beamtechnique:preliminaryresults.EurRadiol8:1558-1564,199811)小川洋:コーンビームCT活用法(耳鼻科領域での活用法).耳鼻咽喉科・頭頸部外科85:244-265,201312)WilhelmKE,RudorfH,GreschusSetal:Cone-beamcomputedtomography(CBCT)dacryocystographyforimagingofthenasolacrimalductsystem.KlinNeuroradial19:283-289,200913)TschoppM,BornsteinMM,SendiPetal:DacryocystographyusingconebeamCTinpatientswithlacrimaldrainagesystemobstruction.OphthalPlastReconstrSurg30:486-491,201414)LoubeleM,BogaertsR,VanDijckEetal:ComparisionbetweeneffectiveradiationdoseofCBCTandMSCTscannersfordentomaxillofacialapplication.EurJRadiol71:461-468,200915)PauwelsR,BeinsbergerJ,CollaretBetal:SEDENTEXCTprojectconsortium.effectivedoserangefordentalconebeamcomputedtomographyscanners.EurJRadiol81:267-271,201216)NariokaJ,MatsudaS,OhashiY:Inclinationofthesuperomedialorbitalriminrelationtothatofthenasolacrimaldrainagesystem.Ophthalsurg,laser&imaging39:167-170,200817)KakizakiH:AnatomyofthenasolacrimalDuct(NLD)andCanal.PrinciplesandPracticeofLacrimalSurgery(JavedAliMJ:ed).p23-26.Springer.NewDelhi,Heidelberg,NewYork,Dordrecht,London,201518)JanssenAG,MansourK,CastelijinsJAetal:Diameterofthebonylacrimalcanal:normalvaluesandvaluesrelatedtonasolacrimalductobstruction:assessmentwithCT.AmJNeuroradiol22:645-850,2001*ToruSuzuki:鈴木眼科クリニック〔別刷請求先〕鈴木亨:〒808-0102福岡県北九州市若松区東二島4丁目-7-1鈴木眼科クリニック0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(41)1673abab図1涙.造影右涙道の検査結果の1例で,異常はみられなかった.上涙点に造影剤注入のためのカテーテルを挿入し,造影剤を加圧注入しながら撮影した.この撮影方法はintubationdacryocystographyとよばれ,涙道の詳細構造を明らかにする方法として有用である.a:正面像で上下の涙小管が合流して涙.へ接合する様子が見える.涙.は細く見える.b:側面像では涙.が前後に幅広く写っており,涙道内視鏡検査におけるスリットサインと一致する.また,鼻涙管が後方へ傾斜している様子がわかる.(美濃市立美濃病院岩崎雄二先生のご厚意による)図2座位で撮影するコーンビームCT専用の椅子に患者を座らせ,椅子の位置を微調節することで狙った範囲を撮影する.椅子に座ることができない患者や,極端に身長の高い患者では撮影できないことがある.II鼻涙管チューブ留置を選択する際に注意すべきCT所見筆者の診療所(常勤医師1名,常勤スタッフ6名,そのほか非常勤)ではCBCT(3DAccuitomoF17,モリタ製作所)を設置しており,2015年6月から運用を始めた.5m視力検査を3m視力検査に変更して2m四方を稼ぎだし,CBCT検査室を作った.OCT(RTVue100,Optview社)の設置に必要な面積より,少し広い程度と考えてよい.放射線技師は必要なく,操作が簡単なので当院の職員は誰でも患者の位置合わせができるようになっている.患者の位置が決まれば医師が17秒間の撮影を行う.三次元のCT値データは専用サーバーに取り込まれ,診察室,手術室,および医局に設置した専用ソフトでそれを再構築して見たい切片を自由に見ることができるシステムである.これによって,骨鼻涙管の屈曲や傾斜が直接見えるので,鼻涙管閉塞のNLDIで仮道留置を避けられるかどうかが予想できるようになった.また,CBCT-DCGの画像がDCRの術前と術中にどこでも利用できるようになった.すべての涙道術前患者にCT検査が必要なわけではないが,CTはわれわれに涙道手術の術式選択に大変に参考となる情報を与えてくれる.本稿後半では,NLDIを選択する場合に注意すべきCT所見について述べる.1.DCRかNLDIか冒頭で述べたように,非炎症性の涙道閉塞・狭窄の治療はDCRとNLDIから選択される.筆者は涙道内視鏡所見のほか,必要に応じてCTの結果も考慮しながら治療選択を行って治療成績向上を狙っている.筆者の基本姿勢は,簡単にすむNLDIを優先しながらも,リスクを抱える症例は積極的にDCR適応とし,NLDIの低侵襲性と有効性,安全性を損なわないことである.そのためには,安易にNLDIが低侵襲と思い込むのではなく,鼻涙管にモノを差し込む操作が涙道にとっては侵襲の高い手技となるような解剖学的リスク要因の存在を知っておく必要がある.以下,CTで診断できる4つのリスク要因について述べる.鼻涙管鼻涙管ab図3白人種とアジア人種の顔面構造a:白人種(ドイツ系アメリカ人男性)の矢状断CBCT像.眼窩上縁が発達しているため,鼻涙管にはプローブを入れることが困難.したがってNLDIは侵襲が高いと考えられ,涙小管閉塞でも標準的にDCRが選択されることは合理的である.b:アジア人種(日本人女性)の矢状断CBCT像.顔が平面的なため,鼻涙管へプローブが無理なく挿入できる.低侵襲NLDIが可能であるので,鼻涙管閉塞でも涙.炎がなければNLDIが第一選択となり得る.1676あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(44)2.顔面の構造NLDIを施行する場合,顔面の骨構造が手術のしやすさに大きな影響をもつ.白人種では,前頭同が発達して眼窩上縁が“ひさし”のように突出している(図3a).この構造では,涙.まで差し込むプローブの角度と鼻涙管の傾斜角度が大きく違っており(anteriortype16)の極端な例),涙道内視鏡やチューブの誘導プローブが鼻涙管を進む際に涙道粘膜を傷害する.これは欧米で,鼻涙管に異常のない涙小管閉塞症においてさえも,鼻涙管内の手術操作を避けてDCRを優先する考え方の根拠と推察される.また,白人種でも,眼窩上縁が発達してくる前の小児期であれば,プローブ挿入角度と鼻涙管傾斜角度が近いため,プローブ挿入における鼻涙管粘膜障害のリスクは最小限と考えられる.そのため,白人種でも小児に対してはプロービングやNLDIの実績が多数あるのであろう.一方アジア人種は,成人でも眼窩上縁が発達していない(図3b).このため,白人種の幼児期と同様に涙点から鼻涙管へのアクセスが良好かつ安全であり,日本を含む東アジア諸国においてはNLDIの人気が高い.しかし,日本人でも,少数ではあるが白人型の顔面構造がみられることがある.筆者はその場合には,NLDIは避けてDCRを選択している.このほか,骨鼻涙管が途中でくの字型に後方屈曲する鼻涙管閉塞でも,NLDIでは仮道留置となる可能性が高いと判断してDCRを選択している.鼻涙管閉塞では,仮に涙道内視鏡を使用しても,いったんSEPやDEPで線維組織内に潜り込むとどの方向で仮道が避けられるのかは判断不可能である.内視鏡が組織内を進むうちに鼻涙管内に残存する開存部分に出合う場合は運が良い.しかし,しばしば仮道に潜り込んで広範型鼻涙管閉塞と誤診したり,骨鼻涙管の壁に行き当って「硬い閉塞」と感じたり,あるいは骨鼻涙管壁に沿って鼻腔に導かれたりする.線維組織内での内視鏡操作には限界があり,無理な治療で解剖学的リスクを負うとNLDIの低侵襲性と有効性を損なう.あらかじめ骨鼻涙管の走行を理解することで,そのリスクを避けることができる.涙小管閉塞では,涙.と鼻涙管にはまったく異常がないか限局性狭窄のみの症例(通常鼻涙管型涙小管(45)閉塞)の方が多い.涙道内視鏡検査でそれが確認できれば,骨鼻涙管の傾斜や屈曲にかかわらず仮道留置を避けることは簡単であるので,CT所見に関係なくNLDIを第一選択に考える.3.骨鼻涙管の太さ解剖研究では,骨鼻涙管の内径は部位によって均一ではないが,眼窩における入口部でおおむね6mm程度とされる17).多数のCTをみた臨床的な経験からは,日本人流涙患者の場合はおおむね4.5mm程度の印象である.稀にほぼ全長にわたって内径の極端に小さい骨鼻涙管をもつ症例があり,この場合はNLDIの適応から除外したほうが無難と考えている.萩野らは2014年の日本涙道・涙液学会総会において,内径2mmにも満たない骨鼻涙管の鼻涙管閉塞症でNLDIを試みたところ,症状が改善せず後日DCRを施行したと報告した(フォーサム2014東京,プログラム・講演抄録集p139).鼻涙管拡張治療が不成功であった患者群の骨鼻涙管径は,成功例の患者群のそれより小さかったとの報告もある18).骨鼻涙管の内径はNLDIの有効性を担保するよい指標になる可能性があるので,今後CBCTを用いた鼻涙管径の研究が進むことを期待している.4.涙.結石涙.炎の場合は,鼻涙管の開存性にかかわらず正しい治療法はDCRである.DCRであれば,涙.結石の有無は問題ではない.しかし,実際の臨床では,DCR紹介病院がない地域や,患者側の事情でNLDIに頼らざるを得ない場合がある.このとき,少なくとも涙.結石や異物(涙点プラグ,停留チューブ)を伴う涙.炎はNLDIの禁忌であり,これを除外する必要がある.チューブ挿入の際に涙.結石などを仮道に押し込めば,海外の論文で散見されるような術後の急性炎症を生じる可能性があり,NLDIの安全性を損なう.涙.結石の診断には涙道内視鏡検査が最適であるが,涙道内視鏡がない場合,やむを得ず涙.炎にNLDIを検討する際には必ずCT-DCGを施行すべきである(図4,5).涙.炎のない症例でも涙.結石は存在する.図6に示したように,筆者の最近約1年の術前涙道内視鏡検査のあたらしい眼科Vol.32,No.12,20151677abcabc図4右涙.結石症のCBCT.DCG矢状断(a),冠状断(b),エアーバブル(→),結石(→),水平断(c)のそれぞれで右涙.に結石による充盈欠損が見られる.造影剤はイオパミロン370の5倍希釈液を使用した.39%4%7%12%6%涙小管閉塞・狭窄涙小管炎涙道内の結石機能性流涙涙.腫瘍涙.不明その他鼻涙管の閉塞・狭窄1例のみN=227図6涙道内視鏡検査の結果対象から涙.炎症例は除外した.涙小管炎と合わせて,涙道内の結石を取り除く必要のある症例は11%存在した.涙.結石涙.壁26%6%図5涙.結石症の涙道内視鏡所見図4に示した症例の涙道内視鏡写真.内視鏡視野からはみ出す大きさの結石が見える.aab図7左総涙小管偏位のCBCT.DCG70歳,女性.3年前から左の流涙.涙洗では通水なく上下交通あり.膿の逆流なし.涙道内視鏡診断はディンプルのない総涙小管閉塞であったが,CBCT-DCGでは鼻涙管狭窄であった.a:前顎断.左の上下涙小管と涙.鼻涙管も造影されている.b:矢状断.涙.・鼻涙管は総涙小管よりも前方に造影されている.c:水平断の拡大.左の総涙小管が前方へ90°向きを変えて走行するのが見える.涙道内視鏡では正面しか見えないので,前方への屈曲はわからなかった.

成人の炎症性涙道疾患 慢性涙囊炎-レーザー涙嚢鼻腔吻合術

2015年12月31日 木曜日

成人の炎症性涙道疾患慢性涙.炎─レーザー涙.鼻腔吻合術InflammatoryLacrimalDisordersinAdultsChronicDacryocystitis─TranscanalicularLaser-assistedDacryocystorhinostomy宮久保純子*Iレーザー涙.鼻腔吻合術わが国で行われているレーザー涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)には,経涙小管レーザーDCRとDCR下鼻道法がある.II経涙小管レーザー涙.鼻腔吻合術特発性鼻涙管閉塞あるいは慢性涙.炎の根治手術として,涙.と鼻腔に吻合孔を作製する涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)が行われている.その吻合孔の作製を,涙小管から挿入したレーザーを涙.から鼻腔に向けて照射することで行う術式を,経涙小管レーザー涙.鼻腔吻合術(transcanalicularlaser-assisteddacryocystorhinostomy:TCL-DCR)(図1)とよぶ.皮膚を切開して行うDCR鼻外法や,鼻腔から吻合孔を作製するDCR鼻内法は,涙.や鼻粘膜からの多量の出血や骨窓作製時のドリルやノミの振動など侵襲が大きい.TCL-DCRは,低侵襲手術であり,出血も少ない.従来のDCRと比較して長期手術成績が悪かったが,近年,半導体レーザーやMMCR(MitomycinC:MMC)の使用などにより,徐々に手術成績は改善してきている.わが国のTCL-DCRの報告は少なく1,2),臨床報告は宮久保らの報告3)のみである.1.半導体レーザーわが国で使用可能な半導体レーザーは波長810nmの黄色は半導体レーザー黄色は半導体レーザーや高周波メス青は涙道内視鏡やブジー図1経涙小管レーザーDCR(左)とDCR下鼻道法(左)2機種と,波長980nmの1機種がある(図2).波長810nmのものは,最大出力5Wの「オサダライトサージスクエア5R」と最大出力30Wの「ユニサージ30R」(ともにオサダメディカル)の半導体レーザーである.810nm波長は水への吸収はやや悪いが,メラニンへの吸収は良好で,軟組織の切開にすぐれている.耳鼻咽喉科領域や産婦人科領域の生体軟組織の切開,止血,凝固および蒸散などで医療機器としての承諾を得ているレーザーである.眼科用に,小さく扱いやすい専用*SumikoMiyakubo:宮久保眼科〔別刷請求先〕宮久保純子:〒371-0044前橋市荒牧町2-3-15宮久保眼科0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(33)1665オサダライトサージスクエア5R本体(オサダメディカル)波長810nm,出力5Wで使用図2半導体レーザーEVOLVER本体(biolotec社製)波長980nm,出力8Wで使用abc図3半導体レーザーのファイバーa:オサダライトサージスクエア5Rのホルダb:EVOLVERの金属カニューラとプローブc:レーザーファイバーがホルダや金属カニューラの先端から5mm出ていることが重要である(→).ファイバーの先端が折れたり,固定が緩んでファイバーがホルダや金属カニューラの中に入ると,照射中金属が高温になり,涙小管を障害する.のホルダーがついている.「ライトサージスクエア5R」のほうは比較的安価であるが,出力が5Wと弱く,骨に当たったときにファイバーの先端が専用のホルダーの出口で折れることがあるので注意が必要である.後者は発売されたばかりで筆者は使用経験がないが,出力が大きく期待できる.波長980nmのものは,「EVOLVER」(biolitec社)である.980nm波長の特性から水と酸化ヘモグロビンへの吸収がバランスよく,粘膜を炭化させずに凝固,止血が可能で,最大出力15W(DCRは8Wで使用)と高出力のため骨の蒸散も容易で,先端が折れることもない.ただし高価で,手に入りにくい欠点がある.「オサダライトサージスクエア5R」はレーザーファイバーを専用の金属製のホルダーに通し使用する(図3).「EVOLVER」はレーザーファイバーを専用のプローブと金属カニューラに通して使用する.いずれも,ファイバーの先端をホルダーあるいはカューラから5mmほど出して固定する(それぞれ,ファイバーの先端が動かないように固定できる)(図3).術中にレーザーファイバーの先端が折れたり,固定が緩むなどして,ファイバーの先端が金属製のホルダーや金属カニューラの中に入った状態で照射すると,金属が高温になり周囲組織を損傷する.常にファイバー先端に留意することが重要である.2.適応涙小管閉塞がない鼻涙管閉塞例と慢性涙.炎症例に対し,涙道内視鏡を閉塞部まで挿入して観察した涙道内視鏡と鼻内視鏡所見を基に適応を決める.また,鼻腔にレーザーや鼻内視鏡を挿入するスペースがある症例がよい.1666あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(34)abcabc図4TCL.DCRの手術適応a:涙.と鼻腔の間の骨が厚い場合は,TCL-DCRの適応ではない.b:涙.下部.鼻涙管上部と鼻腔の間の骨が薄い症例は,好適応である.c:前篩骨洞が前方に張り出し,涙.下部.鼻涙管上部と鼻腔の間にある症例は骨が薄く,好適応である.図5TCL.DCRの手術適応右の鼻内視鏡写真:涙小管閉塞がなく,涙.内に挿入した涙道内視鏡の光源が中鼻甲介の下方,Maxillaryline(点線)の後方にピンポイントに見え,鼻腔の広い鼻涙管閉塞,とくに慢性涙.炎症例が最適応である.右上の映像は涙道内視鏡の閉塞部の映像.abab図6TCL.DCRの手術適応左の鼻内視鏡写真.a:DCR鼻外法後閉鎖した吻合孔(.).b:TCL-DCRにより広げた吻合孔.吻合孔周囲に骨がないため,レーザーで容易に広げることができる.血管収縮薬をしみこませたガーゼを中鼻道に挿入して鼻粘膜麻酔を行った後,鼻粘膜に麻酔を注射する.半導体レーザーの先端を正しく鼻涙管閉塞部の直上に入れる.そのために,18ゲージ(G)のエラスター針外筒(長さ約3cm)をシースとして使用し,シースを装着した涙道内視鏡を涙道の閉塞部まで正しく挿入する.その後,シースを残したまま涙道内視鏡を抜き,レーザーファイバーをシースの中へ挿入するとよい.レーザー照射で吻合孔を作製するが,レーザーの光が鼻腔側からピンポイントに見える位置で照射して,まずレーザーの先端を鼻腔内に出す(図7a).その後,レーザーの先端を涙.の中まで戻さずに,先に周囲鼻粘膜を取り除き(図7b),できるだけ視野を確保してから骨を照射し(図7c),最後に涙道を照射する(図7d).レーザーの先端が見えない状態で盲目的に照射すると,涙道耳側壁も照射し涙道全体や眼窩内を損傷したり,熱がこもり周囲組織を損傷する可能性がある.鼻粘膜を蒸散するとき,鼻粘膜はほとんど出血なく溶けるように蒸散する(図7b).薄い骨を照射するときは,骨が強く光り,灰色の色調になるのを観察しながら,また骨を押す硬い感触を確認しながら骨窓を広げる(図7c).ときに,鼻粘膜を除去した後,前篩骨洞が出ることがある(図4c,8).前篩骨洞の粘膜は薄く,前篩骨洞と涙道の間に薄い骨があるのみで,骨窓は容易に広げられる.涙.あるいは鼻涙管の外壁が現れたら,レーザーファイバーを少し引き抜き,方向を変えて涙..鼻涙管に入れなおして(図7d),涙道を縦に焼き広げる.常に,涙道の耳側壁に熱が伝わらないように,レーザーの方向を鼻側に向ける.また,レーザーを照射中に引き抜きすぎると,総涙小管を焼いてしまうので十分に気を付ける.吻合孔が開いた後,綿球にしみこませたMMCRを吻合孔周囲に塗布し,3.5分前後して生理食塩水で洗う.生理食塩水は吸引管で吸引する.涙管チューブを2本留置し,デカドロン0.3mlを吻合孔周囲に注射し,手術を終了する.終了時,ほぼ止血しているので鼻ガーゼ留置は不要である.4.術後処置涙管チューブは約6カ月で抜去する.その間,1週間.1カ月ごとに涙管洗浄と鼻内視鏡による吻合孔の観察を行う.とくに,手術直後は分泌物が多く,涙管チューブに多量の分泌物が付着するので,定期的に鼻内視鏡検査を行い,汚れを取り除く.術後の生活は,手術翌日から洗顔,洗髪が可能で,ほぼ普通の生活ができる.手術直後は,マスク着用を勧めている.1668あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(36)abcdabcd図7TCL.DCRの手術方法①右の鼻内視鏡写真.a:鼻涙管閉塞部直上まで正しく挿入した半導体レーザーを照射し,ファイバー先端を鼻腔内に出す.*は中鼻甲介.光はレーザーの先端.b:鼻粘膜にレーザーを照射して,吻合孔に相当する鼻粘膜を十分に焼き広げる.鼻粘膜は出血することなく,溶けるように蒸散する(.).白矢印は中鼻甲介を圧排している吸引管.c:鼻涙管の鼻側壁の紙状の薄い骨を蒸散.骨は硬い感触で,照射すると灰白色となる(.).d:骨を除去し骨窓(点線)を作製後,レーザーファイバーを少し引き,鼻涙管の中に入れなおす..の光は鼻涙管内のレーザーの光源.鼻涙管の中からレーザーを外に向かって照射して切り開く.ファイバー先端を鼻腔に出し,鼻粘膜を焼き広げてから骨を照射する順に骨窓を作製することで,盲目的操作による周囲組織の損傷を防ぐ.総涙小管の損傷は重大な合併症である.図8TCL.DCRの手術方法②左の鼻内視鏡写真:鼻粘膜(.)を焼き広げた後,広い前篩骨洞が出た症例.光沢のある前篩骨洞の耳側壁粘膜が見える(*).骨が薄く,好適応である.*5.まとめTCL-DCRは,侵襲の少ない術式で,術中の出血が少なく,抗凝固薬使用例でも手術可能で,術後涙管チューブ挿入術とほぼ同じ経過で社会復帰ができる利点がある.一方,手術適応が狭く吻合孔が安定するのに時間がかかり,使用可能な半導体レーザーが限られているという欠点がある.安易に行うと,涙小管閉塞という重篤な合併症を生じる危険性がある.骨が厚いときは,周囲組織の損傷を起す可能性があるので,無理せず他のDCRを行う.今後,手術方法を改良することで,手術適応を広げ,手術成績を上げられるか検討の余地があり,わが国でも低侵襲の有用なDCRの一方法となることが期待できる.IIIDCR下鼻道法DCR下鼻道法(inferiormeataldacryorhinotomy)は,鼻涙管開口部附近の鼻涙管閉塞症例で,鼻内視鏡で観察しながら,下鼻道外側壁にある鼻涙管下鼻道部の粘膜と鼻粘膜を切って,閉塞を除去する方法である(図1).鼻涙管下方の骨性鼻涙管を出て下鼻道外側壁を前方に向かっている部位を鼻涙管下鼻道部とよび,多くはスリット状の形態の下部開口となる(図9).鼻涙管下鼻道部から下部開口附近のみ閉塞している鼻涙管閉塞では,涙.から鼻涙管上部にかけ吻合孔を作製する従来のDCRでは,吻合孔の下方に鼻涙管が盲管として残り,膿が溜まる「ため池症候群」を生じることがある.このことから,下部開口周囲の鼻涙管下鼻道部閉塞症例ではDCR下鼻道法が適応となる.DCR下鼻道法手術時,下鼻道に鼻内視鏡と吸引管,半導体レーザーや高周波メスを挿入する必要があり,下鼻道がある程度広いことが必要である.使用器具としては,半導体レーザー(ライトサージ3000V,オサダメディカル)や高周波メス(R-7L,エルマン)4)などを使用する.1.手術方法術前に,滑車下神経ブロック,涙道内麻酔,麻酔薬と血管収縮薬をしみこませたガーゼを下鼻道あるいは下鼻甲介付け根あたりに挿入して鼻粘膜麻酔を行う.さらに1670あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015麻酔薬と血管収縮薬をしみこませた細い綿棒を1.2本下鼻道に挿入した後,下鼻道外側壁の鼻粘膜に麻酔の注射を行う.シースを使用するなどして,涙道内視鏡を正しく鼻涙管下鼻道部の閉塞部まで挿入する.半導体レーザーを使用する場合,涙道内視鏡の先端で鼻粘膜をテント状に張り,開口部周囲の鼻粘膜に半導体レーザーを照射して閉塞した鼻涙管を開放する.半導体レーザーでは鼻涙管を線状に切ることがむずかしく,下部開口から鼻涙管下部周囲を照射して粘膜を除去するように行う.このとき,涙道内視鏡の先端を損傷しないように注意する.そのために,涙道内視鏡を閉塞部より進めて下鼻道に突き抜けさせ,レーザーを涙道内視鏡の先端に当てないよう照射する(図10).または,麻酔後,シースを残して涙道内視鏡を抜き,代わりに07のブジー(先端を涙道内視鏡と同様に曲げた)をシース内に挿入して,粘膜を焼灼する.高周波メスを使用する場合は,閉塞部の直下の粘膜を線状に約2.4mm切開する4).涙管チューブを1ないし2本挿入して,手術を終了する.鼻ガーゼ留置は不要である.2.術後処置術後は3.4週間ごとに涙管洗浄を行い,1.2カ月後にチューブを抜去する.半導体レーザーを使用した場合,照射部に壊死した粘膜や分泌物がつくことがあり,鼻内視鏡で観察しながら除去する.3.まとめDCR下鼻道法は,DCR鼻外法や鼻内法のような骨を削る操作がなく,出血が少ない低侵襲な手術で,手術翌日から涙管チューブ挿入術と同等の社会生活ができる利点がある.一方,狭い下鼻道での操作はやりにくく,出血すると吸引しても視認性が悪く,広く開放できないと再閉塞するなどの欠点がある.しかし,利点と手術目的の合理性を考慮すると,鼻涙管下鼻道部から下部開口のみの鼻涙管閉塞症例の第一選択の治療はDCR下鼻道法といえる.(38)**図9鼻涙管下鼻道部左の鼻内視鏡写真:鼻涙管下鼻道部は下鼻道外側壁を前方に走り(.),下鼻道に開口する..は下鼻道,*は下鼻甲介.**ab図10DCR下鼻道法手術右下鼻道の鼻内視鏡写真.a:半導体レーザーを照射する際,涙道内視鏡の先端を傷つけないように注意する.涙道内視鏡(.)を下鼻道まで突き抜けさせて,先端にレーザー(*)を当てないようにしながら照射して鼻涙管を開放する.b:下部開口が開放され,中の膿が流れ出た.出血は少ない.文献30:207-209,20133)宮久保純子,岩崎明美,森寺威之:経涙小管レーザー涙.1)栗橋克昭:DCR涙小管法(中鼻道法).涙.鼻腔吻合術と眼鼻腔吻合術.あたらしい眼科30:1289-1293,2013瞼下垂手術.I涙.鼻腔吻合術,p50-53,メデイカル葵出4)佐々木次壽:Q7涙.鼻腔吻合術下鼻道法について教えてく版,2008ださい.あたらしい眼科30:203-206,20132)岩崎明美,森寺威之,宮久保純子:Q8レーザーを用いた涙.鼻腔吻合術について教えてください.あたらしい眼科(39)あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151671

成人の炎症性涙道疾患 慢性涙囊炎-涙囊鼻腔吻合術 鼻内法

2015年12月31日 木曜日

成人の炎症性涙道疾患慢性涙.炎─涙.鼻腔吻合術鼻内法InflammatoryLacrimalDisordersinAdultsChronicDacryocystitis─EndoscopicEndonasalDacryocystorhinostomy鶴丸修士*鈴木亨**I鼻内法総論はじめに涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)とその応用術式(conjunctivodacryocystorhinostomy:CDCR)は,涙道閉塞のみならず鼻涙管狭窄や機能性流涙などを含む幅広い涙道疾患に適応があり,涙道治療のための標準術式である.バルーンによる鼻涙管拡張や鼻涙管チューブ留置などのDCR代替治療法でも短期経過がよい症例は多いが,それらの治療法では長期での治療効果の漸減が宿命である.これに対し,DCRの治療効果には漸減がない.また,涙.に化膿性分泌物貯留のみられる病型の涙道閉塞(涙.炎)に対して著効を示すという点で他の代替治療法とは一線を画する.このDCRには顔面皮膚からアプローチする鼻外法と,鼻内視鏡を用いて鼻内からアプローチする鼻内法がある.解剖の理解のしやすさや術中止血作業の容易さから鼻外法が基本であるが,現在国内外で話題の多いのは鼻内法である.1.電動ドリルDCRとマニュアルDCR鼻内法は1980年代後半に鼻内視鏡が導入されて以来,本格的な発展が始まった.当初は術後成績にばらつきが多く,1990年代までは習得のむずかしい手術とされていた.しかし,2000年代に入り,解剖知識の深まりと手術デバイスの革命が鼻内法を変えた.WormaldとTsirbasは電動ドリルを用いて中鼻甲介の付け根部分よりさらに上方に削り上がり,涙.の上の方(fundus)まで探り出した.そして涙.全体を切開すると涙.粘膜がまるで花弁のように展開し,内腔が完全に露出することを示した(marsupialization)1).これによって鼻内法の成績は著しく向上し安定した.2000年以前は,涙.はlacrimalridgeの裏にあると考えられており,実際はそれより上にさらに涙.の続きがあるという認識がないまま手術を終わらせていたのであろう.つまり,解剖学的理解が十分でなかったため開かれない涙.内腔が残り,結果として成績が安定しなかったと考えられる.しかし,この電動ドリルDCRは煩雑な手術準備と高額なディスポーザル部品によるランニングコストで術者を悩ませる.これに対し,コストをかけず簡素な道具で,しかし同様の手術効果を実現した鼻内法もある.Codereらは電動ドリルを用いず,利き手の握力で操るケリソンロンジャーだけで上方へ削り上がってmarsupializationを完成させ,電動ドリルDCRと同様の成績を示した2).彼の功績によって,手術成績に貢献する要因はデバイスではなく,涙.がどこにあるのか,どこまで続いているのかという解剖理解であったことが明らかになった.このマニュアルDCR(電動ドリルに頼らない手動のDCR)は医療コストに制限のある国でも応用可能であるため,電動ドリルDCRよりも普遍性がある.この点でマニュアルDCRはアメリカ眼科学会でも評価され,毎年のスキルトランスファーにはアジア・欧米各国から候補者が集まる.*NaoshiTsurumaru:公立八女総合病院眼科**ToruSuzuki:鈴木眼科クリニック〔別刷請求先〕鶴丸修士:〒834-0034福岡県八女市高塚540-2公立八女総合病院眼科0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(23)1655白人1日本人症例2日本人症例1日本人症例3図1涙.窩における上顎骨の厚み白人と日本人の頭部CT水平断の比較.左上は白人種の例(造影剤なし),右上と下段は日本人の例.いずれも涙.窩における中鼻甲介起始部レベルでの切片を示す.日本人では上顎骨が厚い.日本人症例3が最大であり,厚さ7mmと計測された.2.アジアにおける鼻内法われわれアジアの医師は,マニュアルDCRには落とし穴があることを知らなければならない.Codereはカナダを拠点としておもに白人種の患者にこの手術を行って業績を上げた.アジアでは少し工夫が必要になる.Wooらは,CTを用いたDCR患者の上顎骨の研究で,アジア人種ではその厚みが大きいことを示した3).実際,われわれの臨床でもとくに中鼻甲介の付け根付近では上顎骨が厚い(図1).そのため白人種の手術のようにケリソンロンジャーだけで涙.fundusが見えるまで削り上がることには限界がある.適宜,ノミを利用しながら削り上がることが必要になるし,たとえノミを使用したとしても十分な開窓はできない場合もある.また,厚い部分を削って広く露出した上顎骨には肉芽も生じる.したがって,これを抑制する工夫も必要になる.II鼻内法各論1.適応と禁忌もっともよい適応は,よく拡張した涙.をもつ慢性涙1656あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015.炎である.急性涙.炎の場合,筆者らはまず抗菌薬点滴治療で消炎を図ったうえで手術を行っている.大きな涙.結石があれば,術後はすべての症例でリノストミーが巨大に仕上がるので,初心者には絶好の機会となる.涙.が小さい場合や涙小管閉塞では難易度が高い.再建が不可能な重症涙小管閉塞ではJonestubeの使用が必須となる(CDCR).禁忌としては,肺線維症患者,脳梗塞や心筋梗塞など重症循環器疾患の回復直後の患者,INRが2.5以上のワーファリン使用患者などであるが,いずれも鼻内法特有というものではない.小児のDCRでは,3.4歳以上で鼻内法の報告が多数ある.2.鼻内法の利点と欠点利点は,術者の疲労が少なく,手術時間が短く,出血量が少ない(通常10ml以下)ことである.皮膚に瘢痕を残さない点を利点にあげる場合もあるが,鼻外法でも瘢痕が問題になることは稀である.欠点は,患者側の疼痛や恐怖感は強いので全身麻酔が必要な点である.3.術前検査a.涙.炎診断のための簡単な検査視診と触診で涙.部がelastichardに膨隆し,内側眼瞼腱(medialcanthustendon:MCT)が上方へ押し上げられていれば涙.炎と診断できるので,DCRの適応である(図2).この場合,涙小管閉塞を合併しているが,膨隆が始まって後数カ月程度であれば涙小管はまだ器質閉塞には至っておらず,簡単なブジー操作で術中に,あるいは何もしなくても術後に閉塞は解除される.しかし,1年を超える症例ではすでに硬い器質的閉塞となっていることが多く,涙小管閉塞に対する専門的手技が必要になる.したがって,涙.の膨隆所見があれば早く手術したほうがよい.通常,涙.炎患者は涙.を押すと粘液が逆流することを知っており,いつから逆流しなくなったか問診することで涙小管の状態を予想することができる.ただし,涙.炎と鑑別すべき眼瞼腫脹もあるので注意が必要である.腫れている部位が内眼角から眼瞼全体に及ぶ場合(図3)や下眼瞼に限局する場合(図4)は,他疾患である.涙.炎のようなMCTの偏位がないことが,(24)他疾患を示唆する所見である.また,膨隆部位がstonelikehardであったりMCTより上方であったりする場合は,重篤な副鼻腔疾患のことがあり,必ず耳鼻咽喉科に相談する.視診で膨隆がない場合,繰り返す結膜炎や慢性の流涙症状があれば涙.の圧迫試験を行う(図5).圧迫で涙.内に貯留した粘液の逆流をはっきりと認めれば涙.炎で,DCRの適応である.また,圧迫試験が陰性でも涙洗では膿の逆流を認める場合があり,これもDCR適応である.このような症例の中には造影や涙洗で鼻涙管の開存を証明する場合もあるが,DCR適応として問題ない.これらの簡単な検査で,DCRの適応判断が可能である.しかし,DCRをもし鼻内法で行った場合にその利点を生かせるかどうか考えるには,さらに専門的な検査が必要になる.上下段とも右の慢性涙.炎症例で圧迫しても逆流なし.触診では,上段はelastichard,下段はelastic.ともに骨のようなゴツゴツ感(stonelikehard)はない.図2涙.の膨隆所見LacrimalsacCyst図3副鼻腔炎の症例流涙症で眼瞼が腫れてきたので涙.炎を疑われ,紹介された.左眼瞼において,涙.部に限局しない眼瞼全体の腫脹があり,MCT偏位はみられない.涙洗では涙小管閉塞Grade1と診断したが,CTで前篩骨洞の粘膜肥厚所見が認めた.抗菌薬内服で腫脹は消失し,涙道も自然に再開通した.(25)図4涙.憩室炎の症例慢性涙.炎に対して鼻涙管チューブ留置治療を行ったが再発し紹介された.左眼瞼において下眼瞼を中心に腫脹がありMCT偏位はみられない.涙道内視鏡検査では異常がみられず,MRI(九州大学高木健一先生のご厚意による)で涙.に接する.胞がみられた..胞を涙.ごと摘出し治癒した.涙道は涙小管と鼻粘膜を吻合して一期的に再建した.あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151657図5涙.の圧迫試験慢性涙.炎において涙小管に異常がない場合,涙.部を検者の指で圧迫すると粘液逆流がみられる.これを細隙灯で確かめるのがmicro-refluxtest(MRT).ただし,下部鼻涙管閉塞症においてはこの試験で逆流がみられない場合がある.また,総涙小管閉塞でマイエル洞が拡張している場合,総涙小管内に粘液が貯留することがあるので,わずかな逆流では涙.炎とは確定診断できない.涙小管炎でも少量の混濁の強い膿性逆流を認める.(あたらしい眼科32:1294,2015,図1より引用転載)図7中鼻甲介の大きい症例右の中鼻道内視鏡写真中鼻甲介は大きなaircellを含んでおり,中鼻道一杯に広がっている.DCRのためには,すべて切除する必要はない.縦に鼻粘膜切開を入れて外側半分のaircellを除去すれば,術野を確保できる.図6さまざまな鼻腔の広さすべて右の中鼻道内視鏡写真.鼻腔の広い順番は,左上,右上,左下,右下.上段は鼻内法適応.下段は鼻外法適応.鼻中隔形成術を併用すれば下段でも鼻内法が可能である.海外ではDCRは一般眼科の仕事ではなく,眼球疾患を取り扱わない眼形成手術専門領域の仕事であり,鼻中隔形成併用DCRは珍しくない.図8中鼻甲介の高さいずれも右の中鼻道内視鏡写真.左:中鼻甲介の付け根が天蓋に近い.内総涙点から涙.に水平に差し込んだ涙道内視鏡の照明光が中鼻甲介より低い位置に透けてみえる.この涙.と中鼻甲介の位置関係はlowsacpositionともよばれる.初心者には鼻内法の絶好の機会となる.右:中鼻甲介の付け根が天蓋から遠い(低い).Highsacpossessionともよばれる.Maxillarylineを開窓しても鼻涙管しかない.涙.は中鼻甲介より上方にある.涙道内視鏡がなくても,鼻内視鏡のみで判断可能.図9CT.涙.造影左:左涙.の大きい症例.右:右涙.の小さい症例.いずれもイオパミロン370を生食で5倍希釈して造影.左の症例はEDCRを選択した.右の症例は涙.が拡張していないのでmarsupializationがむずかしく,しかも患者が高齢で全身疾患もあるため,まずは鼻涙管チューブ留置治療で様子をみることにした.図10ケリソンロンジャーとノミの使い方左:ケリソンロンジャーの使い方.内視鏡は上,道具が下.これが鼻内視鏡下手術の基本である.こうすると内視鏡先端レンズ面の血液汚れが少なくなるので,出し入れの必要が減って手術が早くなる.ロンジャーは利き手で操作するので,左手効きの術者は患者の左側に立つ.右:ノミの使い方.ノミを助手が叩くので,変則的に内視鏡が下でノミが上.内視鏡の血液汚れはやむを得ない.図11上顎骨露出面の肉芽形成左上:上顎骨の露出面が残ったまま手術を終了.右上:術後2週間.右下:術後1カ月でまだ鼻粘膜が生えていない.左下:術後2カ月で同部位に肉芽形成がみられた.トリアムシノロン注射やマイトマイシンC塗布などで治療すれば成績には影響しないが,通院の手間がかかって鼻内法の利点が損なわれる.図12長いチューブの使い方上段:涙小管からのチューブを鼻孔の外へ引き出すことで涙.前弁が前方にたくし上げられている.下段:そのままガーゼパッキングを行うことで,ガーゼによる術者の意図しない前弁押し込みが防止できる.余ったチューブは適宜はさみで切断する(左下).図13Marsupializationを確実にする粘膜弁縫合上段:7-0青ナイロン糸(7mm,3/8circle,松田医科器械)を用いて鼻粘膜と涙.前弁を縫合する.後弁同士は,並べて置くだけで自己血液中のフィブリンで互いに張りつく.下段:術後1カ月.骨露出部分がなく,リノストミーが完成した.このようにできあがると涙.炎が完治し,狭窄も生じないので術後治療を終了できる.あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151663(31)位を術者自ら直接圧迫する.この圧迫法で数分から十数分で止血する.b.術後鼻出血鼻内外法にかかわらず,術後10日目前後に突然に鼻出血を生じる場合がある.筆者らの経験では1,000例中3.4例の頻度である.その場合には夜中でもすぐに医療機関に連絡するよう退院時に指導しておく.患者の連絡があれば,軽いうつ向きの姿勢をとって鼻翼を圧迫させ,口に溜まる血液は吐き出させる.また,同時に血管収縮目的で,創部付近を冷却させる.これで15分様子をみて止血しなければ,救急受診させてガーゼパッキングを行う.手術椅子に患者を座らせ,頭がヘッドレストで抑えられた状態でガーゼを押し込むのがコツである.遠方の患者で夜間連絡の場合は,15分の様子見の間にインターネットで地域の夜間診療機関を探し,術者自ら電話で対応をお願いする.アプローチ方法の違いにかかわらず,DCRを施行する場合は,常に緊急連絡を受けることができるよう体制を整えておく必要がある.おわりにDCRは,鼻内法に限らずいかに涙.を展開しきるか(marsupialization)が勝負である.「バイパスを作る」という概念のうちは,結局は鳥の巣箱のようなリノストミーに終わり,DCR代替治療法と似た治療効果減弱に悩むことになる.その先は,DCRの本領を知らないまま,これなら鼻涙管チューブ留置治療でもケッコウイケテルのではないかという逃げの方向に流れ始める(筆者の自己経験).バイパスからmarsupializationへの発想の転換こそ,筆者をDCRに引き戻してくれたアイデアである.また,これこそが世界標準の涙道閉塞治療法を習得する第一歩である.文献1)TsirbasA,WormaldPJ:Endonasaldacryocystorhinosto-mywithmucosalflaps.BrJOphthalmol87:43-47,20032)CodereF,DentonP,CoronaJ:Endonasaldacryocystorhi-nostomy:Amodifiedtechniquewithpreservationofthenasalandlacrimalmucosa.OphthalPlastReconstrSurg26:161-164,20103)WooKI,MeangHS,KimYD:characteristicsofintranasalstructuresforendonasaldacryocystorhinostomyinasians.AJO152:491-498,20114)鈴木亨:涙.鼻腔吻合術鼻内法における最近の術式とラーニングカーブ.眼科手術24:167-175,20115)松山浩子,宮崎知佳:涙.鼻腔吻合術鼻内法の主述成績.眼科手術24:495-498,2011