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1.5%レボフロキサシン点眼薬が奏効したキノロン耐性Corynebacterium角膜炎

2014年11月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科31(11):1683.1686,2014c1.5%レボフロキサシン点眼薬が奏効したキノロン耐性Corynebacterium角膜炎佐埜弘樹江口洋宮本龍郎堀田芙美香三田村さやか三田村佳典徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部眼科学分野Quinolone-resistantCorynebacteriumKeratitisSuccessfullyTreatedwith1.5%LevofloxacinOphthalmicSolutionHirokiSano,HiroshiEguchi,TatsuroMiyamoto,FumikaHotta,SayakaMitamuraandYoshinoriMitamuraDepartmentofOphthalmology,InstituteofHealthBiosciences,TheUniversityofTokushimaGraduateSchool十数年来の角膜ヘルペスの既往がある77歳の男性が,感染性角膜炎をきたして再来した.左眼の傍中心部角膜に角膜膿瘍があり,前房蓄膿を伴い,視力は指数弁であった.角膜炎は,再発性角膜ヘルペスのため菲薄化していた部位を中心に発症していた.角膜擦過物の塗抹検鏡でグラム陽性桿菌が検出された.患者の都合から,複数種類の抗菌点眼薬の頻回点眼や抗菌薬の全身投与は実施せず,1.5%レボフロキサシン点眼薬の1日3ないし4回点眼で初期治療を開始した.角膜擦過物の培養で,レボフロキサシン高度耐性Corynebacteriumが分離された.治療開始から2週間後には角膜炎は消退しており,追加投薬を必要としなかった.1.5%レボフロキサシン点眼薬は,頻回点眼しなくともキノロン耐性Corynebacteriumによる角膜炎を消炎できる可能性がある.A77-year-oldmale,withanover10-yearhistoryofconstantlyrecurringherpetickeratitis,consultedTokushimaUniversityHospitalirregularly.Inhislefteye,cornealabscesswithhypopyonwasmarked.Inthepericentralcornea,whichwasthinbecauseoftherecurrentherpetickeratitis,whiteabscesswasobserved.Microscopicexaminationofcornealscrapingrevealedgram-positiverods.Weprescribed1.5%levofloxacinophthalmicsolution4timesdailyaccordingtothepatient’sconvenience.Thecornealisolatewasidentifiedashigh-levelquinoloneresistantCorynebacteriumspp.Only2weeksaftertheinitialvisit,however,clinicalfindingsimproveddramatically;thekeratitisdisappearedrapidly,withoutadditionaltherapy.High-concentrationquinoloneeyedropsof1.5%levofloxacinophthalmicsolutionmaybeeffectivewithoutfrequentadministrationininfectiouskeratitiscausedbyquinolone-resistantCorynebacterium.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(11):1683.1686,2014〕Keywords:キノロン耐性Corynebacterium,角膜炎,1.5%レボフロキサシン点眼薬.quinolone-resistantCorynebacterium,keratitis,1.5%levofloxacinophthalmicsolution.はじめにCorynebacteriumは眼表面に常在する弱毒菌だが,近年は眼表面での日和見感染症の起炎菌として報告されるようになっている1.3).眼科臨床分離株の過半数はキノロン耐性である4)ため,Corynebacterium角膜炎に対してキノロン点眼薬を使用するのは,原則として推奨されない.しかし,キノロン系抗菌点眼薬はスペクトルが広く,組織透過性も良好ゆえに,感染性角膜炎に対する第一選択の薬剤として多く使用されている.同様の理由で,内眼手術の周術期にも頻用されており,眼表面でのキノロン耐性菌分離頻度増加の一因となっている4,5).近年,抗菌薬を投与する際には,薬物動態(pharmacokinetics)/薬力学(pharmacodynamics)(PK/PD)理論をもとにした効率的な薬物療法を実践し,抗菌薬投与による耐性菌の出現・選択の阻止をめざすことが推奨されている6).キノロン系抗菌薬は濃度依存的に抗菌作用を発揮する7)ため,最高薬物濃度(concentrationmax:Cmax)と最小発育阻止濃度(minimuminhibitoryconcentration:MIC)の比(Cmax/〔別刷請求先〕佐埜弘樹:〒770-8503徳島市蔵本町3-18-15徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部眼科学分野Reprintrequests:HirokiSano,M.D.,DepartmentofOphthalmology,InstituteofHealthBiosciences,TheUniversityofTokushimaGraduateSchool,3-18-15Kuramoto-cho,Tokushima-shi770-8503,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(117)1683 MIC)に抗菌効果が相関する.よって,高濃度製剤のレボフロキサシン(LVFX)点眼薬を利用することは,眼表面におけるCmax/MICを高めるため,1.5%LVFX点眼薬は,MICから判定された耐性菌をも殺菌することができると推察され,内眼手術前の減菌法や起炎菌が同定できていない感染性角結膜炎での経験的判断に基づいた治療(empiricaltherapy:エンピリック治療)に有用と考えられる.しかし,実際にMICでキノロン耐性と判定された細菌による感染性角膜炎が,エンピリック治療としての1.5%LVFX点眼薬だけで治癒したとの報告は,知りうる限りない.そこで本論文では,患者の都合で1.5%LVFX点眼薬を1日3ないし4回点眼するエンピリック治療で,キノロン耐性Corynebacterium角膜炎の治療を実施し,良好な経過をたどった1例について報告する.I症例患者:77歳,男性.既往歴:十数年来の再発性角膜ヘルペスで,左眼角膜の一部は白濁・菲薄化していた(図1)が,過去2年間は再発していなかった.患者は角膜ヘルペス再発の前兆として,左眼にわずかな違和感を自覚することを経験的に認識しており,そのような場合は,不定期に早期再来をするか,患者の自己判断でアシクロビル眼軟膏を日に数回,1週間前後点入して対処していた.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:2カ月前の定期再来時,角膜所見に大きな変化がないことを確認されていたが,明らかに角膜ヘルペス再発の前兆ではない眼表面の違和感が出現し,結膜充血や眼脂が増強し視力も低下し始めたとのことで,2012年12月27日,自身の判断で不定期に徳島大学病院眼科を再受診した.検査所見:左眼は,視力は30cm指数弁(矯正不能),眼圧は24mmHg,角膜実質浮腫と角膜膿瘍,および前房蓄膿があり,中間透光体から眼底の詳細は観察できなかった(図2).右眼には特記すべき所見はなかった.II経過および結果12月27日再来時の所見から細菌性角膜炎を疑い,角膜擦過物の塗抹検鏡と分離培養を実施し,入院のもと抗菌点眼薬の頻回点眼,抗菌薬の全身投与を中心とした厳重な治療を勧めた.しかし,患者とその家族の都合で,翌日再来は可能だがそれ以降の外来定期通院や入院治療は不可能であること,および抗菌点眼薬は1種類を1日3ないし4回程度なら実施できるが,頻回点眼は不可能であるとの申告があった.そこで,1.5%LVFX点眼薬を1日3回は確実に点眼すること,および本来ならば頻回に点眼しなければならないこと,角膜炎が悪化する可能性もあることを説明し,同意のもと前記のエンピリック治療を開始した.同時に,長年の通医院歴を考慮し念のためクロラムフェニコール点眼薬も処方をし,可能であれば追加点眼をすることと翌日の再来を指示し,それ以降は都合がつき次第再来をする約束をした.同日,角膜擦過物のグラム染色と普通寒天培地,羊血液寒天培地,MacConkey培地,およびNAC培地での好気・5%炭酸ガス培養を開始した.角膜擦過物のグラム染色では,グラム陽性桿菌が多数検出された.角膜擦過物の培養では,48時間後に羊血液寒天培地の37℃好気培養と5%炭酸ガス培養の双方でコロニー形成を確認し,双方ともCorynebacterium属と同定された(BBLCRYSTAL,日本BD,東京).Etestストリップ(シスメックス・ビオメリュー株式会社,東京)でのLVFXのMICは,双方の株とも>32μg/mlと高度耐性を示した.12月28日の再来時,角膜炎はまだ沈静化していなものの,結膜充血は軽減していた(図3).1月10日には角膜炎は消図1再来前の前眼部写真内下方の角膜(矢印)は白濁・菲薄化していた.図2再来時の前眼部写真前房蓄膿を伴う角膜膿瘍がある.1684あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(118) 図3治療開始翌日の前眼部写真わずか1日の治療で結膜充血が軽減している.炎され,角膜膿瘍はほぼ消失していた(図4).その後,追加治療をせずとも角膜炎は急速に消退した.III考按Corynebacteriumは眼表面の常在菌叢をなすグラム陽性桿菌だが,わが国では細菌性角結膜炎の起炎菌になりうる8)と認識されている.そのような状況で,キノロン耐性Corynebacteriumが起炎菌である報告1,3)がある.Corynebacteriumのキノロン耐性獲得機序は,細菌が増殖する際に働く酵素であるDNAジャイレースのキノロン耐性決定領域でのアミノ酸配列で,83位セリンと87位アスパラギン酸が二重変異をきたしていること4)である.多くの細菌は,増殖時に作用する酵素にトポイソメレースIVとDNAジャイレースの2つのがあり,キノロン薬は,それら2つの酵素に作用することで殺菌する.キノロン耐性化には,双方の酵素でのアミノ酸変異が関係しているが,CorynebacteriumにはトポイソメレースIVが存在しない9)ため,DNAジャイレースの変異のみで容易にキノロンに高度耐性を示すと考えられる.細胞の生存に必須の蛋白質をコードし,時間経過においてのみ影響を受けるとされるハウスキーピング遺伝子を用いたmulti-locussequencingtyping解析の結果では,眼表面のCorynebacteriumの中に,臨床導入が古いノルフロキサシンにだけ耐性を獲得し,後に臨床導入された3世代キノロンに感受性を示す株が存在し,3世代キノロンにも高度耐性を獲得している株よりも早く出現していること,前者の株はキノロン耐性決定領域での単一変異のみであるのが,後者の株は二重変異をきたしていることがわかっている4).すなわち,眼表面のキノロン高度耐性Corynebacteriumの出現は,臨床現場での抗菌薬の使用状況によって誘発されていることが分子生物学的に証明されている.わが国において,さらなるキノロン耐性Corynebacteriumの出現をいかに阻止するかは,眼(119)図4治療2週間後の前眼部写真角膜炎は消炎している.科臨床上,きわめて重要な問題であると思われる.わが国においては,2011年に1.5%LVFX点眼薬が臨床導入されたが,従来から市販されていた0.5%LVFX点眼薬との使い分けに関して,明確な根拠のもとになされてはいない例が多いように見受ける.仮に,抗菌点眼薬投与後の眼表面でもPK/PD理論があてはまるのであれば,0.5%LVFX点眼薬でも,耐性と判定される多くの菌のMICよりも高濃度のLVFXを眼表面に供給していることになる.したがって理論的には,眼表面でのキノロン耐性菌の発現・選択はほとんどないはずである.しかし,実際にはキノロン耐性菌が眼表面から分離される頻度は年々高くなっており10),その原因としてキノロン点眼薬使用と,患者の入院歴を指摘する報告がある5).筆者らはPK/PD理論に照らし合わせ,抗菌点眼薬の涙液との混和,および瞬目による眼表面からの排出で,点眼直後から眼表面の抗菌薬濃度が低下し,涙液中の抗菌薬濃度の推移において,耐性菌選択領域となっている時間が長いことも原因の一つではないかと推察している.したがって,より高濃度の点眼薬を使用することで,涙液や瞬目による濃度低下があっても,眼表面の抗菌薬濃度が少しでも高濃度になるようにして,点眼した抗菌薬の濃度が耐性菌殺菌濃度にまで到達するように工夫することは,耐性菌発現・選択防止の観点から,理にかなっているものと思われる.すなわち,抗菌薬使用が原因となってCorynebacterium臨床分離株の過半数がキノロン耐性をきたす状況となっている現在4),積極的に1.5%LVFX点眼薬を使用することで,耐性菌発現・選択の増加傾向が緩和されると期待できる.本症例では長年の定期通院を通して,医師・患者間の信頼関係が築かれていたと考えていること,患者の眼科用製剤へのアドヒアランスの良さを確認していたこと,およびその患者が家族の不測の事態ゆえに1日に1種類の点眼薬を3ないし4回しか点眼できないとの申告があったことから,通常はあたらしい眼科Vol.31,No.11,20141685 抗菌点眼薬を頻回点眼すべき細菌性角膜炎に対して,通常よりはるかに少ない点眼回数で治癒をめざす事態となった.外来での経過観察も,本来であればもっと緻密に実施すべきであるが,患者の事情で,年末年始の約2週間空けることとなった.そのため,濃度依存的に抗菌効果が期待できるキノロンのLVFX点眼薬のなかでも,1.5%製剤をエンピリック治療の第一選択として使用した.点眼するかどうかを患者に委任しつつ同時に処方したクロラムフェニコールは,結果的には点眼していなかったとの申告であった.そのようなエンピリック治療で角膜炎は消炎されたが,1.5%LVFX点眼薬での細菌性角膜炎に対するエンピリック治療時に頻回点眼の必要がない,というわけではない.副作用の出現に注意が必要だが,細菌性角膜炎に対する抗菌点眼薬の投与回数は,原則として1ないし2時間ごとの頻回点眼が望ましいと考えている.あくまでも,頻回点眼が実施できないなんらかの理由が患者側にあるときに限って,1.5%LVFX点眼薬であれば,3ないし4回程度でも消炎できる可能性がある,と判断するのが望ましい.Miyamotoら11)は,LVFX高度耐性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusaureus:MRSA)角膜炎に1.5%LVFX点眼薬が有効であった可能性を指摘している.今回の症例もLVFXのMICが>32μg/mlと,高度耐性のCorynebacteriumが起炎菌であった.MICから判断する薬剤感受性試験の結果が,点眼薬での治療効果をそのまま表しているわけではないことは周知の事実である.実際に,キノロン耐性と判定された株の角結膜炎で,従来のキノロン点眼薬投与後に臨床所見が改善することを経験するが,起炎菌の薬剤感受性試験結果が判明している場合は,原則としてその結果をもとに抗菌点眼薬を選択すべきである.しかし,通常は臨床検体を採取してから薬剤感受性試験の結果が判明するまでに数日かかるため,結果的に治療開始から数日後にキノロン耐性菌が起炎菌として分離されることがある.キノロン耐性菌による感染症にも効果が期待できるのであれば,そのようなエンピリック治療時には1.5%LVFX点眼薬が有用であり,本症例は,そのことを証明した1例となった.細菌性角膜炎では,患者の疫学情報,臨床所見,および角膜擦過物の塗抹像から起炎菌を絞り込んだうえで抗菌点眼薬の選択をすべきではある.しかし,本症例の経過からいえる結論は,1.5%LVFX点眼薬は,1日3ないし4回の点眼でキノロン耐性Corynebacterium角膜炎を消炎させ得る可能性があり,塗抹像が得られない感染性角膜炎のエンピリック治療に有用である.文献1)SuzukiT,IiharaH,UnoTetal:Suture-relatedkeratitiscausedbyCorynebacteriummacginleyi.JClinMicrobiol45:3833-3836,20072)稲田耕大,前田郁世,池田欣史ほか:コリネバクテリウムが起炎菌と考えられた感染性角膜炎の1例.あたらしい眼科26:1105-1107,20093)FukumotoA,SotozonoC,HiedaOetal:Infectiouskeratitiscausedbyfluoroquinolone-resistantCorynebacterium.JpnJOphthalmol55:579-580,20114)EguchiH,KuwaharaT,MiyamotoTetal:High-levelquinoloneresistanceinophthalmicclinicalisolatesbelongingtothespeciesCorynebacteriummacginleyi.JClinMicrobiol46:527-532,20085)fintelmannRE,HoskinsEN,LietmanTMetal:Topicalfluoroquinoloneuseasariskfactorforinvitrofluoroquinoloneresistanceinocularcultures.ArchOphthalmol129:399-402,20116)MeibohmB,DerendorfH:Basicconceptofpharmacokinetics/pharmacodynamics(PK/PD)modeling.IntJCinPharmacolTher35:401-413,19977)AndersonVR,PerryCM:Levofloxacin:areviewofitsuseasahigh-dose,short-coursetreatmentforbacterialinfection.Drugs68:535-565,20088)日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン第2版作成委員会:感染性角膜炎診療ガイドライン第2章,感染性角膜炎の病態・病型.日眼会誌117:484-490,20139)SchmutzE,HennigS,LiSMetal:IdentificationofatopoisomeraseIVinactinobacteria:purificationandcharacterizationofParYRandGyrBRfromthecoumermycinA1producerStreptomycesrishiriensisDSM40489.Microbiology150:641-647,200410)MarangonFB,MillerD,MuallemMSetal:Ciprofloxacinandlevofloxacinresistanceamongmethicillin-sensitiveStaphylococcusaureusisolatesfromkeratitisandconjunctivitis.AmJophthalmol137:453-458,200411)MiyamotoT,EguchiH,TserennadmidEetal:Methicillin-resistantStaphylococcusaureuskeratitisafterDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty.CaseRepOphthalmol4:269-273,2013***1686あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(120)

ガチフロ®点眼液0.3%の細菌学的効果に関する特定使用成績調査

2014年11月30日 日曜日

1674あたらしい眼科Vol.4101,211,No.3(00)1674(108)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(11):1674.1682,2014cはじめに細菌性外眼部感染症の治療にあたっては,起炎菌に対して感受性を示す抗菌薬を選択することが望まれる.しかしながら,実際には初診時に起炎菌を同定できないために,広域スペクトラムを有する薬剤が優先して処方されやすいという現状がある.フルオロキノロン系抗菌点眼薬は広域スペクトラムを有し,化学的にも安定した薬剤であるため,点眼液に適していることから外眼部感染症の初期治療薬として広く用いられている.近年ではgatifloxacin(GFLX),moxifloxacin,tosufloxacinが点眼薬として開発され,その選択肢は増している.GFLXの構造上の特徴であるキノロン環8位のメトキシ基の存在は,標的酵素の一つであるDNAgyrase阻害活性の向上に寄与している1).加えて,同じく標的酵素の一つであるtopoisomeraseIVに対する阻害活性がDNAgyrase阻害活性と近似し,両酵素を強力に阻害する2)ことにより,耐性菌が生じにくいことが示唆されている3).GFLXは,2004年に「ガチフロR点眼液0.3%」(以下,本剤)として上市され,眼科診療に用いられている.今回筆者らは,細菌性外眼部感染症からの初診時検出菌動向の検討も視野に入れ,計2回の特定使用成績調査(以下,本調査)を実施した.実施にあたってはGPSP省令(「医薬品の製造販売後の調査および試験の実施の基準に関する省令」平成16年12月20日付厚生労働省令第171号)に従い,2005年12月から2007年10月に第1回調査,2008年3月から2010年1月に第2回調査を実施した.〔別刷請求先〕末信敏秀:〒541-0046大阪市中央区平野町2-5-8千寿製薬株式会社研究開発本部育薬企画部Reprintrequests:ToshihideSuenobu,Post-MarketingSurveillanceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,2-5-8Hiranomachi,Chuo-ku,Osaka541-0046,JAPANガチフロR点眼液0.3%の細菌学的効果に関する特定使用成績調査末信敏秀*1川口えり子*1星最智*2*1千寿製薬株式会社研究開発本部育薬企画部*2国立長寿医療研究センター眼科Post-marketingUse-resultSurveillanceofGatifloxacinOphthalmicSolutionToshihideSuenobu1),ErikoKawaguchi1)andSaichiHoshi2)1)Post-MarketingSurveillanceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)DepartmentofOphthalmology,NationalCenterforGeriatricsandGerontology細菌性外眼部感染症に対するガチフロR点眼液0.3%の安全性,有効性および初診時検出菌に対する細菌学的効果を検討することを目的として,計2回の特定使用成績調査を行った.その結果,安全性評価対象962例に7例の副作用を認めた(発現率0.73%)が,いずれも投与部位における事象であった.また,初診時に適応菌種が分離された912例における有効率は97%,消失率は89%であった.以上の結果,本剤は細菌性外眼部感染症に対して有用な点眼薬であることが示唆された.Toevaluatethesafety,efficacyandbacteriologicaleffectofgatifloxacinophthalmicsolution(GATIFLORoph-thalmicsolution0.3%),use-resultsurveillancewasconductedtwiceinthepost-marketingperiod.Ofatotalof962patients,adversedrugreactionswereobservedin7patients(incidencerate:0.73%).Allincidentswerelimitedtothesiteofdrugapplication.Theratesofefficacyandbacteriologicaleffectin912patientswere97%and89%,respectively.TheseresultssuggestthatGATIFLORophthalmicsolution0.3%contributestothetreatmentofthepatientswithbacterialocularinfection.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(11):1674.1682,2014〕Keywords:ガチフロキサシン,ガチフロR点眼液0.3%,使用成績調査,安全性,有効性,細菌学的効果.gatifloxacin,GATIFLORophthalmicsolution0.3%,use-resultsurveillance,safety,efficacy,bacteriologicaleffect.(00)1674(108)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(11):1674.1682,2014cはじめに細菌性外眼部感染症の治療にあたっては,起炎菌に対して感受性を示す抗菌薬を選択することが望まれる.しかしながら,実際には初診時に起炎菌を同定できないために,広域スペクトラムを有する薬剤が優先して処方されやすいという現状がある.フルオロキノロン系抗菌点眼薬は広域スペクトラムを有し,化学的にも安定した薬剤であるため,点眼液に適していることから外眼部感染症の初期治療薬として広く用いられている.近年ではgatifloxacin(GFLX),moxifloxacin,tosufloxacinが点眼薬として開発され,その選択肢は増している.GFLXの構造上の特徴であるキノロン環8位のメトキシ基の存在は,標的酵素の一つであるDNAgyrase阻害活性の向上に寄与している1).加えて,同じく標的酵素の一つであるtopoisomeraseIVに対する阻害活性がDNAgyrase阻害活性と近似し,両酵素を強力に阻害する2)ことにより,耐性菌が生じにくいことが示唆されている3).GFLXは,2004年に「ガチフロR点眼液0.3%」(以下,本剤)として上市され,眼科診療に用いられている.今回筆者らは,細菌性外眼部感染症からの初診時検出菌動向の検討も視野に入れ,計2回の特定使用成績調査(以下,本調査)を実施した.実施にあたってはGPSP省令(「医薬品の製造販売後の調査および試験の実施の基準に関する省令」平成16年12月20日付厚生労働省令第171号)に従い,2005年12月から2007年10月に第1回調査,2008年3月から2010年1月に第2回調査を実施した.〔別刷請求先〕末信敏秀:〒541-0046大阪市中央区平野町2-5-8千寿製薬株式会社研究開発本部育薬企画部Reprintrequests:ToshihideSuenobu,Post-MarketingSurveillanceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,2-5-8Hiranomachi,Chuo-ku,Osaka541-0046,JAPANガチフロR点眼液0.3%の細菌学的効果に関する特定使用成績調査末信敏秀*1川口えり子*1星最智*2*1千寿製薬株式会社研究開発本部育薬企画部*2国立長寿医療研究センター眼科Post-marketingUse-resultSurveillanceofGatifloxacinOphthalmicSolutionToshihideSuenobu1),ErikoKawaguchi1)andSaichiHoshi2)1)Post-MarketingSurveillanceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)DepartmentofOphthalmology,NationalCenterforGeriatricsandGerontology細菌性外眼部感染症に対するガチフロR点眼液0.3%の安全性,有効性および初診時検出菌に対する細菌学的効果を検討することを目的として,計2回の特定使用成績調査を行った.その結果,安全性評価対象962例に7例の副作用を認めた(発現率0.73%)が,いずれも投与部位における事象であった.また,初診時に適応菌種が分離された912例における有効率は97%,消失率は89%であった.以上の結果,本剤は細菌性外眼部感染症に対して有用な点眼薬であることが示唆された.Toevaluatethesafety,efficacyandbacteriologicaleffectofgatifloxacinophthalmicsolution(GATIFLORoph-thalmicsolution0.3%),use-resultsurveillancewasconductedtwiceinthepost-marketingperiod.Ofatotalof962patients,adversedrugreactionswereobservedin7patients(incidencerate:0.73%).Allincidentswerelimitedtothesiteofdrugapplication.Theratesofefficacyandbacteriologicaleffectin912patientswere97%and89%,respectively.TheseresultssuggestthatGATIFLORophthalmicsolution0.3%contributestothetreatmentofthepatientswithbacterialocularinfection.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(11):1674.1682,2014〕Keywords:ガチフロキサシン,ガチフロR点眼液0.3%,使用成績調査,安全性,有効性,細菌学的効果.gatifloxacin,GATIFLORophthalmicsolution0.3%,use-resultsurveillance,safety,efficacy,bacteriologicaleffect. あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141675(109)I対象および方法本調査に参加した医療施設において,新たに本剤が投与された患者を対象として前向き調査を実施した.調査項目は患者背景である性別,年齢,疾患名,初診時主症状および本剤の使用状況,併用薬剤の有無,臨床経過,有害事象,有効性評価,細菌学的効果とした.観察期間は3日.14日とした.安全性は,副作用の発現率および内容を評価した.有効性は本剤投与開始後の臨床経過より担当医師が総合的に判断し,改善,不変および悪化の3段階で評価した.このうち改善症例を有効例,不変および悪化症例を無効例とした.さらに,有効性を評価した症例のうち細菌学的効果が判定できた症例は,計2回の調査における適応菌種別での有効率ならびに消失率をFisher直接確率検定にて評価した.有意水準は5%とした.医療施設にて採取された検体は,輸送用培地(カルチャースワブTM)を用いて検査施設である三菱化学メディエンス株式会社に輸送した.検査施設では検体からの細菌分離と同定,さらに分離菌に対するGFLXの最小発育阻止濃度(mini-muminhibitoryconcentration:MIC)をClinicalandLabo-ratoryStandardsInstituteに準じた微量液体希釈法にて測定した.好気性菌は35℃にて20.22時間の好気培養,嫌気性菌は35℃にて46.48時間の嫌気培養を行った.ブドウ球菌属はoxacillin感受性にて細分類した.すなわちStaphylo-coccusaureusについてはoxacillinのMIC値が2μg/mL以下のものをmethicillin-susceptibleS.aureus(MSSA),4μg/mL以上のものをmethicillin-resistantS.aureus(MRSA)とした.Coagulase-negativestaphylococci(CNS)はoxacillinのMIC値が0.25μg/mL以下のものをmethicil-lin-susceptibleCNS(MSCNS),0.5μg/mL以上のものをmethicillin-resistantCNS(MRCNS)とした.初診時検出菌については投与開始以降の細菌検査結果が陰性となった時点で消失と判定した.II結果1.症例構成図1に示した106施設から987例(第1回475例,第2回512例)の調査票を収集し,本剤の投与歴がある症例などの25例を除いた962例を安全性評価対象,さらに安全性評価対象のうち有効性判定不能症例などの17例を除いた945例を有効性評価対象とした.初診時に菌が検出され,投与後14±4日までに2回目の検体が採取された912例を細菌学的効果評価対象とした.初診時検出菌は本剤の適応菌種で分類し,複数菌種が検出された場合は検出菌ごとに1症例として計数した.2.安全性a.安全性評価対象症例の患者背景患者背景を表1に示した.年齢分布は65歳以上の高齢者が51%を占めた.疾患は結膜炎が最も多く全体の66%を占め,ついで麦粒腫が13%であった.初診時主症状は疾患を反映し,眼脂および充血が68%に認められた.平均投与期間は第1回が16.3±14.6日,第2回が11.2±7.9日であり,疾患別では涙.炎,角膜潰瘍,眼瞼炎の平均投与期間が2週間以上と長かった.b.副作用発現率表2に示したとおり,7例7件の副作用を認めたことから,副作用発現率は0.73%であった.副作用の内訳は眼刺激および眼そう痒症が各2例,結膜充血,点状角膜炎および適用部位熱感が各1例であり,全身性の副作用は認めなかった.3.有効性表3に示したとおり,眼瞼炎,麦粒腫,結膜炎,瞼板腺炎,角膜炎および角膜潰瘍の有効率はいずれも95%以上であった.一方,涙.炎の有効率は75%であり疾患別では最も低かった.疾患ごとに2回の調査間で有効率を比較したところ,有意な低下を認めなかった.初診時に検出された適応菌種別では,第1回調査のレンサ球菌属,モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリスおよびアクネ菌で90%未満であったが,有意な有効率の低下を示す適応菌種は認めなかった(表4).4.初診時検出菌の分布と消失率a.年代別および疾患別の初診時検出菌図2に示したとおり,すべての年代でグラム陽性菌(図中の紫系色)が57.87%と主を占めた.グラム陰性菌(図中の赤系色)の割合は15歳未満で37.42%と最も高かった.15歳未満ではインフルエンザ菌が28.29%と最も多く,つい図1症例構成安全性評価対象症例:962例(第1回:466例,第2回:496例)調査票完成症例:987例(第1回:475例,第2回:512例)有効性評価対象症例:945例(第1回:456例,第2回:489例)初診時検出菌別での有効性評価および細菌学的効果評価対象症例:912例(第1回:383例,第2回:529例)あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141675(109)I対象および方法本調査に参加した医療施設において,新たに本剤が投与された患者を対象として前向き調査を実施した.調査項目は患者背景である性別,年齢,疾患名,初診時主症状および本剤の使用状況,併用薬剤の有無,臨床経過,有害事象,有効性評価,細菌学的効果とした.観察期間は3日.14日とした.安全性は,副作用の発現率および内容を評価した.有効性は本剤投与開始後の臨床経過より担当医師が総合的に判断し,改善,不変および悪化の3段階で評価した.このうち改善症例を有効例,不変および悪化症例を無効例とした.さらに,有効性を評価した症例のうち細菌学的効果が判定できた症例は,計2回の調査における適応菌種別での有効率ならびに消失率をFisher直接確率検定にて評価した.有意水準は5%とした.医療施設にて採取された検体は,輸送用培地(カルチャースワブTM)を用いて検査施設である三菱化学メディエンス株式会社に輸送した.検査施設では検体からの細菌分離と同定,さらに分離菌に対するGFLXの最小発育阻止濃度(mini-muminhibitoryconcentration:MIC)をClinicalandLabo-ratoryStandardsInstituteに準じた微量液体希釈法にて測定した.好気性菌は35℃にて20.22時間の好気培養,嫌気性菌は35℃にて46.48時間の嫌気培養を行った.ブドウ球菌属はoxacillin感受性にて細分類した.すなわちStaphylo-coccusaureusについてはoxacillinのMIC値が2μg/mL以下のものをmethicillin-susceptibleS.aureus(MSSA),4μg/mL以上のものをmethicillin-resistantS.aureus(MRSA)とした.Coagulase-negativestaphylococci(CNS)はoxacillinのMIC値が0.25μg/mL以下のものをmethicil-lin-susceptibleCNS(MSCNS),0.5μg/mL以上のものをmethicillin-resistantCNS(MRCNS)とした.初診時検出菌については投与開始以降の細菌検査結果が陰性となった時点で消失と判定した.II結果1.症例構成図1に示した106施設から987例(第1回475例,第2回512例)の調査票を収集し,本剤の投与歴がある症例などの25例を除いた962例を安全性評価対象,さらに安全性評価対象のうち有効性判定不能症例などの17例を除いた945例を有効性評価対象とした.初診時に菌が検出され,投与後14±4日までに2回目の検体が採取された912例を細菌学的効果評価対象とした.初診時検出菌は本剤の適応菌種で分類し,複数菌種が検出された場合は検出菌ごとに1症例として計数した.2.安全性a.安全性評価対象症例の患者背景患者背景を表1に示した.年齢分布は65歳以上の高齢者が51%を占めた.疾患は結膜炎が最も多く全体の66%を占め,ついで麦粒腫が13%であった.初診時主症状は疾患を反映し,眼脂および充血が68%に認められた.平均投与期間は第1回が16.3±14.6日,第2回が11.2±7.9日であり,疾患別では涙.炎,角膜潰瘍,眼瞼炎の平均投与期間が2週間以上と長かった.b.副作用発現率表2に示したとおり,7例7件の副作用を認めたことから,副作用発現率は0.73%であった.副作用の内訳は眼刺激および眼そう痒症が各2例,結膜充血,点状角膜炎および適用部位熱感が各1例であり,全身性の副作用は認めなかった.3.有効性表3に示したとおり,眼瞼炎,麦粒腫,結膜炎,瞼板腺炎,角膜炎および角膜潰瘍の有効率はいずれも95%以上であった.一方,涙.炎の有効率は75%であり疾患別では最も低かった.疾患ごとに2回の調査間で有効率を比較したところ,有意な低下を認めなかった.初診時に検出された適応菌種別では,第1回調査のレンサ球菌属,モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリスおよびアクネ菌で90%未満であったが,有意な有効率の低下を示す適応菌種は認めなかった(表4).4.初診時検出菌の分布と消失率a.年代別および疾患別の初診時検出菌図2に示したとおり,すべての年代でグラム陽性菌(図中の紫系色)が57.87%と主を占めた.グラム陰性菌(図中の赤系色)の割合は15歳未満で37.42%と最も高かった.15歳未満ではインフルエンザ菌が28.29%と最も多く,つい図1症例構成安全性評価対象症例:962例(第1回:466例,第2回:496例)調査票完成症例:987例(第1回:475例,第2回:512例)有効性評価対象症例:945例(第1回:456例,第2回:489例)初診時検出菌別での有効性評価および細菌学的効果評価対象症例:912例(第1回:383例,第2回:529例) 表1安全性評価対象症例の患者背景要因第1回第2回全体性別男200206406女266290556年齢(歳)平均値±SD56.3±26.060.0±25.956.1±25.9(最小値.最大値)(22日齢.96歳)(11日齢.99歳)(11日齢.99歳)(分布)27日以下2351歳未満1110211歳以上15歳未満36387415歳以上65歳未満17919737665歳以上75歳未満1019920075歳以上80歳未満627513780歳以上7574149疾患名眼瞼炎181937涙.炎292554麦粒腫5566121結膜炎307331638瞼板腺炎111526角膜炎281644角膜潰瘍142135その他437初診時主症状眼瞼,瞼板の発赤6287149眼瞼,瞼板の腫脹7676152逆流分泌物272249涙.部の発赤,腫脹9817眼脂267289556充血231219450角膜混濁21930角膜上皮欠損353469投与期間(日)平均値±SD16.3±14.611.2±7.913.6±11.9(最小値.最大値)(2.134)(2.65)(2.134)(分布)1日4644969602日以上5日未満4644969605日以上10日未満44846991710日以上19日未満29816746519日以上28日未満1105316328日以上592382投与期間不明202疾患別(平均値±SD)眼瞼炎涙.炎26.6±24.927.6±27.411.9±13.115.6±14.219.1±20.822.1±22.9麦粒腫17.4±15.19.2±4.312.9±11.4結膜炎14.2±9.910.9±7.112.5±8.7瞼板腺炎14.3±6.99.5±9.411.5±8.6角膜炎14.0±8.112.7±8.713.5±8.2角膜潰瘍26.7±30.714.8±8.519.5±20.9併用薬剤の有無あり219266485なし247230477でコリネバクテリウム属が16.23%,15歳以上65歳未満%検出された.コリネバクテリウム属はすべての年代で検出ではブドウ球菌属が39.43%と最も多く,ついでコリネバされたが,65歳以上で特にその割合が高かった.全検出菌クテリウム属が20.29%,65歳以上ではコリネバクテリウに占めるMRSAの割合は65歳以上で4.6%,15歳以上65ム属が37.42%と最も多く,ついでブドウ球菌属が29.35歳未満で1.2%,15歳未満で2.3%であった.(110) 表2副作用発現状況安全性評価対象例数962副作用発現例数(%)7(0.73)副作用発現件数7副作用の種類種類別発現例数(率)眼障害6(0.62)眼刺激2(0.21)眼そう痒症2(0.21)結膜充血1(0.10)点状角膜炎1(0.10)全身障害および投与局所様態1(0.10)適用部位熱感1(0.10)表3疾患別の有効率有効率fisher疾患名第1回第2回全体第1回vs第2回眼瞼炎89%(16/18)100%(19/19)95%(35/37)p=0.230NS涙.炎68%(19/28)84%(21/25)75%(40/53)p=0.213NS麦粒腫96%(53/55)94%(62/66)95%(115/121)p=0.688NS結膜炎96%(292/303)97%(316/327)97%(608/630)p=1.000NS瞼板腺炎100%(11/11)100%(15/15)100%(26/26)─角膜炎100%(26/26)88%(14/16)95%(40/42)p=0.139NS角膜潰瘍93%(13/14)100%(21/21)97%(34/35)p=0.400NS眼瞼炎+結膜炎0%(0/1)─0%(0/1)─図3に示したとおり,疾患別分布は角膜潰瘍を除いてはグラム陽性菌が74.100%と主であった.角膜潰瘍ではセラチア属および緑膿菌の検出頻度がそれぞれ13.33%および11.38%と高かった.一方,MRSAは眼瞼炎で0.4%,涙.炎で6.9%,麦粒腫で3.5%,結膜炎で3.4%検出され,涙.炎で最も検出頻度が高かった.涙.炎では緑膿菌が3.4%の頻度で検出された.b.初診時に検出された適応菌種の消失率適応菌種合計の消失率は,いずれの調査においても89%であり低下を認めなかった(表5).10株以上検出された菌種別でみても消失率の低下を認めなかったが,MRSAの消失率は第1回および第2回調査ともに最も低く,それぞれ63%および75%であった.5.初診時に検出された適応菌種に対するGFLXのMIC初診時に検出された適応菌種に対するGFLXのMICを表6に示した.10株以上検出された菌種についてはMIC50およびMIC90を算出した.計2回の調査のMIC値を比較したところ,レンサ球菌属のMIC90は第1回で4.0μg/mL,第2回で0.25μg/mLであったが,第1回調査で分離されたレンサ球菌属にはMICが16μg/mLと比較的高値を示すa-Streptococciが1株存在していたことが要因と考えられた.一方,他の適応菌種に対するMIC50およびMIC90については2管以上のMIC値の変化は認めなかった.III考按フルオロキノロン系抗菌薬であるofloxacin点眼薬が1987年に上市されてから四半世紀が経過した.現在までに数多くのフルオロキノロン系抗菌点眼薬が開発され,GFLX点眼薬は2004年に上市された.フルオロキノロン系抗菌点眼薬は,広域抗菌スペクトラムを有することから,外眼部感染症に対する初期治療に汎用されてきた.一方でフルオロキノロン耐性菌の報告4.6)が増加していることも事実である.(111)あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141677 表4初診時検出菌別の有効率有効率fisher検出菌第1回第2回全体第1回vs第2回ブドウ球菌属96%(137/142)98%(170/174)97%(307/316)p=0.736NSMSSA95%(42/44)100%(62/62)98%(104/106)p=0.170NSMRSA100%(16/16)94%(15/16)97%(31/32)p=1.000NSMSCNS95%(40/42)95%(54/57)95%(94/99)p=1.000NSMRCNS98%(39/40)100%(38/38)99%(77/78)p=1.000NSレンサ球菌属83%(15/18)96%(26/27)91%(41/45)p=0.286NS肺炎球菌92%(11/12)100%(23/23)97%(34/35)p=0.343NS腸球菌属100%(8/8)100%(4/4)100%(12/12)─モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス86%(6/7)100%(3/3)90%(9/10)─コリネバクテリウム属98%(116/118)96%(194/203)97%(310/321)p=0.340NSシトロバクター属未検出100%(4/4)100%(4/4)─クレブシエラ属100%(3/3)100%(2/2)100%(5/5)─セラチア属100%(1/1)100%(7/7)100%(8/8)─モルガネラ・モルガニー100%(2/2)100%(2/2)100%(4/4)─インフルエンザ菌97%(30/31)100%(29/29)98%(59/60)p=1.000NSシュードモナス属100%(2/2)100%(1/1)100%(3/3)─緑膿菌100%(6/6)100%(5/5)100%(11/11)─スフィンゴモナス・パウチモビリス100%(1/1)100%(4/4)100%(5/5)─ステノトロホモナス(ザントモナス)・マルトフィリア100%(4/4)100%(2/2)100%(6/6)─アシネトバクター属100%(3/3)100%(11/11)100%(14/14)─アクネ菌88%(22/25)96%(27/28)92%(49/53)p=0.333NS適応菌種合計96%(367/383)97%(514/529)97%(881/912)p=0.274NS・ブドウ球菌属(第2回)1株がoxacillinに対するMIC測定不能であった.15歳未満(n=39)(n=51)15歳以上65歳未満(n=128)(n=160)65歳以上(n=232)(n=350)第1回第2回第1回第2回第1回第2回0%25%50%75%100%ブドウ球菌属*(MSSA:,MRSA:,MSCNS:,MRCNS:),レンサ球菌属:,肺炎球菌:,腸球菌属:,コリネバクテリウム属:,アクネ菌:,モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス:,シトロバクター属:,クレブシエラ属:,セラチア属:,モルガネラ・モルガニー:,インフルエンザ菌:,シュードモナス属:,緑膿菌:,スフィンゴモナス・パウチモビリス:,ステノトロホモナス(ザントモナス)・マルトフィリア:,アシネトバクター属:,適応外菌種:.*MSSA:methicillin-susceptibleStaphylococcusaureus,MRSA:methicillin-resistantStaphylococcusaureus,MSCNS:methicillin-susceptiblecoagulase-negativestaphylococci,MRCNS:methicillin-resistantcoagulase-negativestaphylococci.図2年代別の初診時検出菌(112) 眼瞼炎涙.炎麦粒腫結膜炎瞼板腺炎角膜炎角膜潰瘍ブドウ球菌属(MSSA:,MRSA:,MSCNS:,MRCNS:),レンサ球菌属:,肺炎球菌:,腸球菌属:,コリネバクテリウム属:,アクネ菌:,モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス:,シトロバクター属:,クレブシエラ属:,セラチア属:,モルガネラ・モルガニー:,インフルエンザ菌:,シュードモナス属:,緑膿菌:,スフィンゴモナス・パウチモビリス:,ステノトロホモナス(ザントモナス)・マルトフィリア:,アシネトバクター属:,適応外菌種:.**MSSA:methicillin-susceptibleStaphylococcusaureus,MRSA:methicillin-resistantStaphylococcusaureus,MSCNS:methicillin-susceptiblecoagulase-negativestaphylococci,MRCNS:methicillin-resistantcoagulase-negativestaphylococci.図3疾患別の初診時検出菌表5初診時検出菌別の消失率第1回第2回第1回第2回第1回第2回第1回第2回第1回第2回第1回第2回第1回第2回(n=23)(n=26)(n=23)(n=34)(n=44)(n=58)(n=279)(n=410)(n=6)(n=16)(n=16)(n=7)(n=8)(n=9)0%25%50%75%100%消失率fisher検出菌第1回第2回全体第1回vs第2回ブドウ球菌属91%(129/142)94%(163/174)92%(292/316)p=0.396NSMSSA91%(40/44)92%(57/62)92%(97/106)p=1.000NSMRSA63%(10/16)75%(12/16)69%(22/32)p=0.704NSMSCNS95%(40/42)96%(55/57)96%(95/99)p=1.000NSMRCNS98%(39/40)100%(38/38)99%(77/78)p=1.000NSレンサ球菌属89%(16/18)89%(24/27)89%(40/45)p=1.000NS肺炎球菌83%(10/12)100%(23/23)94%(33/35)p=0.111NS腸球菌属100%(8/8)100%(4/4)100%(12/12)─モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス100%(7/7)100%(3/3)100%(10/10)─コリネバクテリウム属89%(105/118)82%(166/203)84%(271/321)p=0.110NSシトロバクター属未検出100%(4/4)100%(4/4)─クレブシエラ属100%(3/3)100%(2/2)100%(5/5)─セラチア属100%(1/1)100%(7/7)100%(8/8)─モルガネラ・モルガニー100%(2/2)100%(2/2)100%(4/4)─インフルエンザ菌81%(25/31)97%(28/29)88%(53/60)p=0.104NSシュードモナス属100%(2/2)100%(1/1)100%(3/3)─緑膿菌83%(5/6)80%(4/5)82%(9/11)─スフィンゴモナス・パウチモビリス100%(1/1)75%(3/4)80%(4/5)─ステノトロホモナス(ザントモナス)・マルトフィリア100%(4/4)100%(2/2)100%(6/6)─アシネトバクター属100%(3/3)100%(11/11)100%(14/14)─アクネ菌84%(21/25)86%(24/28)85%(45/53)p=1.000NS適応菌種合計89%(342/383)89%(471/529)89%(813/912)p=0.915NS・ブドウ球菌属(第2回)1株がoxacillinに対するMIC測定不能であった.(113)あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141679 表6初診時検出菌に対するGFLXの抗菌活性(MIC:μg.mL)第1回第2回菌種名MICrangeMIC50MIC90株数MICrangeMIC50MIC90株数ブドウ球菌属≦0.06.>1280.122.0142≦0.06.>1280.124.0173MSSA≦0.06.2.00.120.2544≦0.06.4.00.120.2562MRSA0.12.>1284.0128160.12.>1288.0>12816MSCNS≦0.06.4.00.121.042≦0.06.640.121.057MRCNS≦0.06.321.02.040≦0.06.321.02.038レンサ球菌属≦0.06.160.254.018≦0.06.4.00.250.527肺炎球菌0.12.0.50.250.25120.12.0.50.250.2523腸球菌属0.5.16──80.5──4モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス≦0.06──7≦0.06──3コリネバクテリウム属≦0.06.1284.016114≦0.06.1282.016203シトロバクター属───0≦0.06.0.5──4クレブシエラ属≦0.06──3≦0.06.0.12──2セラチア属0.25──1≦0.06.0.25──7モルガネラ・モルガニー≦0.06──2≦0.06──2インフルエンザ菌≦0.06≦0.06≦0.0631≦0.06≦0.06≦0.0629シュードモナス属0.25.0.5──21──1緑膿菌0.5──60.25.0.5──5スフィンゴモナス・パウチモビリス≦0.06──10.25.2──4ステノトロホモナス(ザントモナス)・マルトフィリア1.16──4≦0.06──2アシネトバクター属≦0.06──3≦0.06.0.25≦0.060.2511アクネ菌0.12.0.50.250.25250.25.8.00.250.527・株数が10株未満についてはMIC90を算出していない.・ClinicalandLaboratoryStandardsInstituteに準拠.・ブドウ球菌属(第2回)1株,コリネバクテリウム属(第1回)4株およびアクネ菌(第2回)1株がMIC測定不能であった.本調査の疾患別での初診時検出菌は,ブドウ球菌属およびコリネバクテリウム属をはじめとするグラム陽性菌の検出率が74.100%と高かった.一方,角膜潰瘍では緑膿菌およびセラチア属をはじめとするグラム陰性菌の検出率が55.77%と高かった.年代別での初診時検出菌分布は,小児ではレンサ球菌属およびインフルエンザ菌の割合が28.29%と高く,成人ではブドウ球菌属およびアクネ菌の割合が,それぞれ39.43%および9.13%と高く,さらに高齢者ではコリネバクテリウム属の割合が37.43%と最も高かった.これは,小児での検出菌はインフルエンザ菌が30%で最も多く,成人ではブドウ球菌属が48%で最も多く,高齢者ではコリネバクテリウム属が31%で最も多かったとする加茂らの報告7)と同様の傾向であった.外眼部感染症の重要な起炎菌であるMRSAの検出率は,高齢者で最も高く4.6%であったが,全検出菌に占めるMRSA分離頻度は3%であり,小早川ら8)が報告した2%と同程度であった.本調査のMRSA検出症例におけるGFLXの有効率は97%であり,他菌種に劣る結果ではなかったが,菌の消失率は69%であり他菌種に比して低かった.フルオロキノロンに対するMRSAの感受性低下は,すでに広く問題視されている9,10).本調査で分離されたMRSA32株に対するGFLXのMIC50およびMIC90は,細菌学的効果が不変の10株では32μg/mLおよび>128μg/mL,消失の22株では4μg/mLおよび64μg/mLであった.すなわち,MIC値が細菌学的効果に反映されていることが示唆され,MRSAが検出された際はクロラムフェニコールなどの感受性を示す抗菌点眼薬への変更も考慮すべきである.また,本調査では15歳未満の小児においても2.3%の頻度でMRSAが検出された.加茂ら7)も小児からのMRSA検出率が1%であったと報告しており,小児においても高頻度ではないがMRSAを起因とする場合があるため注意が必要である.コリネバクテリウム属は一般的に常在菌として位置付けられており,過去の報告ではコリネバクテリウム属の健常結膜.保菌率は36.44%と報告されている11.13).したがって,本調査の検出菌が,どの程度起炎菌として関与しているかは評価がむずかしいところである.一方,近年においては,その起炎性に関する報告14)が散見されていることから,本調査においてはコリネバクテリウム属も評価対象として取り扱った.コリネバクテリウム属の結膜.内保菌率増加の一因としては加齢が挙げられる11).本調査においても,15歳未満では16.23%であるのに対し,65歳以上では37.42%と高齢者においてコリネバクテリウム属の検出率が高かった.コ(114) リネバクテリウム属が検出された321症例の有効率は97%であり臨床効果に関する問題は認めなかったが,GFLXのMIC90は16μg/mLでありMRSAのMICのつぎに高く,コリネバクテリウム属に対するフルオロキノロン系抗菌薬の抗菌活性は優秀であるとは言い難い11,15).したがって,高齢者の外眼部感染症では特にコリネバクテリウム属の関与も意識し,セフェム系抗菌点眼薬などの感受性の良好な抗菌点眼薬の使用を考慮してよいと考える4).緑膿菌の検出頻度は結膜炎で1%,涙.炎で3.4%,角膜潰瘍で11.38%であり,角膜潰瘍での検出率が特に高かった.Lichtingerらは,2000.2010年に角膜炎が疑われる患者1,413例より採取した角膜擦過物からの緑膿菌検出頻度が7.13%であり,経時的な検出頻度が増加していることを示唆している16).本調査で検出された緑膿菌角膜炎(角膜潰瘍)由来4株のGFLXに対するMICは0.5μg/mL以下と感受性は良好であり,有効率も100%であった.しかしながら,重症の緑膿菌角膜炎が想定される場合には,感染性角膜炎診療ガイドラインにも記されているように,より確実な効果を期待してフルオロキノロンとアミノグリコシド系抗菌点眼薬の併用を考慮して良いと考える17).このほか既述の菌種を含め,2回の調査の間で本剤の適応菌種別の消失率ならびに有効率に低下を認めなかった.抗菌力については,MRSAに対するMIC50(4.0→8.0μg/mL)アクネ菌に対するMIC90(0.25→0.5μg/mL)に検査誤差範(,)囲とも考えられる上昇を認めた以外に明らかな変化を認めなかった.したがって,MRSAやコリネバクテリウム属については注意する必要があるが,本剤は外眼部感染症の初期治療薬の一つとして有用な薬剤と考えられた.しかしながら,フルオロキノロン系薬剤への偏った使用は耐性菌の蔓延を加速させる可能性があるため,患者背景や臨床所見から起炎菌を想定したうえで適切な初期治療薬を選択するべきである.副作用に関しては7例認め,副作用発現率は0.73%であった.同じフルオロキノロン系抗菌薬であるクラビットR点眼液0.5%の副作用発現率は0.63%18)と報告されおり,本剤の副作用発現率は同等であった.本調査では全身性あるいは重篤な副作用を認めず,安全性に関する特筆すべき問題は認めなかった.加えて,本剤は小児集団に対する安全性についても検討されており,生後27日以下の新生児68例および生後1年未満の乳児110例において副作用を認めていない19,20).今後も外眼部感染症由来の検出菌の動向に注意していく必要があるが,ガチフロR点眼液0.3%は外眼部感染症の治療に有用な薬剤であると考えられた.文献1)TakeiM,FukudaH,KishiiRetal:ContributionoftheC-8-MethoxygroupofgatifloxacintoinhibitionoftypeIItopoisomerasesofStaphylococcusaureus.AntimicrobAgentsChemother46:3337-3338,20022)TakeiM,FukudaH,KishiiRetal:Targetpreferenceof15quinolonesagainstStaphylococcusaureus,basedonantibacterialactivitiesandtargetinhibition.AntimicrobAgentsChemother45:3544-3547,20013)FukudaH,KishiiR,TakeiMetal:Contributionofthe8-methoxygroupofgatifloxacintoresistanceselectivity,targetpreference,andantibacterialactivityagainstStreptococcuspneumoniae.AntimicrobAgentsChemother45:1649-1653,20014)FukumotoA,SotozonoC,HiedaOetal:Infectiouskeratitiscausedbyfluoroquinolone-resistantCorynebacterium.JpnJOphthalmol55:579-580,20115)McDonaldM,BlondeauJM:Emergingantibioticresistanceinocularinfectionsandtheroleoffluoroquinolones.JCataractRefractSurg36:1588-1598,20106)HooperDC:Mechanismsoffluoroquinoloneresistance.DrugResistUpdat2:38-55,19997)加茂純子,村松志保,赤澤博美ほか:感受性からみた年代別の眼科領域抗菌薬選択2008.臨眼63:1635-1640,20098)小早川信一郎,井上幸次,大橋裕一ほか:細菌性結膜炎における検出菌・薬剤感受性に関する5年間の動向調査(多施設共同研究).あたらしい眼科28:679-687,20119)HaasW,PillarCM,TorresMetal:Monitoringantibioticresistanceinocularmicroorganisms:resultsfromtheantibioticresistancemonitoringinocularmicroorganism(ARMOR)2009surveillancestudy.AmJOphthalmol152:567-574,201110)BlancoAR,SudanoRA,SpotoCGetal:Susceptibilityofmethicillin-resistantStaphylococciclinicalisolatestonetilmicinandotherantibioticscommonlyusedinophthalmictherapy.CurrEyeRes38:811-816,201311)星最智,卜部公章:白内障術全患者における結膜.常在細菌の保菌リスク.あたらしい眼科28:1313-1319,201112)星最智,大塚斎史,山本恭三ほか:結膜.と鼻前庭の常在菌の比較.あたらしい眼科28:1613-1617,201113)矢口智恵美,佐々木香る,子島良平ほか:ガチフロキサシンおよびレボフロキサシンの点眼による白内障周術期の減菌効果.あたらしい眼科23:499-503,200614)井上幸次,大橋裕一,秦野寛ほか:前眼部・外眼部感染症における起炎菌判定日本眼感染症学会による眼感染症起炎菌・薬剤感受性多施設調査(第一報).日眼会誌115:801-813,201115)末信敏秀,石黒美香,松崎薫ほか:細菌性外眼部感染症分離菌株のGatifloxacinに対する感受性調査.あたらしい眼科28:1321-1329,201116)LichtingerA,YeungSN,KimPetal:ShiftingtrendsinbacterialkeratitisinToronto.Ophthalmology119:17851790,201217)井上幸次,大橋裕一,浅利誠志ほか:感染性角膜炎診療ガイドライン第2版作成委員会:感染性角膜炎診療ガイドライン第2版.日眼会誌117:467-509,2013(115)あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141681 18)神田佳子,加山智子,岡本紳二ほか:各種外眼部感染症に24:975-980,2007対する抗菌点眼剤レボフロキサシン点眼液(クラビットR点20)丸田真一,末信敏秀,羅錦營:ガチフロキサシン点眼液眼液0.5%)の使用成績調査.臨眼62:2007-2017,2008(ガチフロR点眼液0.3%)の製造販売後調査─特定使用成績19)丸田真一,末信敏秀,羅錦營:ガチフロキサシン点眼液調査(新生児に対する調査)─.あたらしい眼科26:1429(ガチフロR0.3%点眼液)の製造販売後調査─特定使用成績1434,2009調査(新生児および乳児に対する調査)─.あたらしい眼科***(116)

カードラン点眼で誘導されるマウス結膜の病態生理学的変化の検討

2014年11月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科31(11):1667.1673,2014cカードラン点眼で誘導されるマウス結膜の病態生理学的変化の検討吉田圭稲田紀子石森秋子庄司純日本大学医学部視覚科学系眼科学分野InvestigationofCurdlanInstillation-inducedPathophysiologicalAlterationofBalb/cMouseConjunctivalTissuesKeiYoshida,NorikoInada,AkikoIshimoriandJunShojiDivisionofOphthalmologyDepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine目的:カードランの点眼投与による結膜組織の病態生理学的変化の検討.対象および方法:Balb/cマウスを,PBSを点眼したP群,低濃度カードランを点眼したCL群,高濃度カードランを点眼したCH群に分けた.各群において,免疫組織化学による結膜下組織中GR-1およびCD68陽性細胞密度の検討,およびreal-timepolymerasechainreaction(real-timePCR)法による結膜組織中のtumornecrosisfactor-alpha(TNF-a),interieukin-1beta(IL-1b),interieukin-18(IL-18)mRNA発現の検討を行った.結果:GR-1陽性細胞密度はCH群(p<0.01)で,CD68陽性細胞密度はCL群とCH群(CL群:p<0.01,CH群:p<0.01)で有意に高値を示した.各群の結膜組織中サイトカインmRNAはCL群でTNF-amRNA(p<0.05)が高値,CH群でIL-1bmRNA(p<0.01)が高値を示した.結論:カードラン点眼投与は,点眼濃度の相違により結膜に惹起される炎症反応の病態が異なると考えられた.Purpose:Toinvestigatecurdlansolutioninstillation-inducedpathophysiologicalalterationofBalb/cmouseconjunctivaltissue.Subjectsandmethods:Balb/cmiceweredividedinto3groups,accordingtoinstillation:PBSinstillation(Pgroup),low-concentrationcurdlansolutioninstillation(CLgroup)andhigh-concentrationcurdlansolutioninstillation(CHgroup).Ineachgroup,GR-1-andCD68-positivecelldensityinsubconjunctivaltissueswasassessedbyimmunohistochemistry;tumornecrosisfactor-alpha(TNF-a),interleukin-1beta(IL-1b),andinterleukin-18(IL-18)mRNAexpressionwereinvestigatedbyreal-timepolymerasechainreaction(real-timePCR).Results:ThedensityofGR-1-positivecellsinCHgroupandofCD68-positivecellsinCLandCHgroupsshowedsignificantlyhigherlevelsincomparisonwiththeothergroups.RegardingcytokinemRNAexpressioninconjunctivaltissues,TNF-ainCLgroupandIL-1binCHgroupshowedsignificantlyhigherlevelsincomparisonwiththeothergroups.Conclusions:Thepathophysiologyofconjunctivalinflammationduetocurdlaninstillationappearstovarydependingontheconcentration.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(11):1667.1673,2014〕Keywords:カードラン,結膜組織,免疫組織化学,real-timePCR.curdlan,conjunctivatissue,immunohistochemistry,real-timePCR.はじめにカードラン(curdlan)は,食品添加物や整髪料の材料など日常生活でも広く利用されている土壌細菌由来のb-D-グルカン(BDG)であり,食品添加物として使用される際には,麺類などでは全原材料の約0.8%程度から,ゼリーや成型食品など粘性の高いものでは全原材料の約10%程度の質量を占めているとされている1).BDGは,1,3または1,6糖鎖を有する多糖体で,糖鎖の種類により,人体に対する生理学的活性が異なるとされている.BDGはおもに真菌,および一部の細菌の細胞壁構成成分として知られており,代表的なBDGには,酵母由来のザイモサン2),今回使用した細菌由来のカードラン3),シイタケ由来のレンチナン4)などがある.〔別刷請求先〕吉田圭:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野Reprintrequests:KeiYoshida,DivisionofOphthalmologyDepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,30-1Oyaguchi-kamicho,Itabashi-ku,Tokyo173-8610,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(101)1667 これらのBDGは,免疫賦活作用および制癌作用についての臨床応用が進んでいる5).BDGのレセプターは,マクロファージ,樹状細胞,好中球などの細胞膜上に発現するC型レクチン受容体の一つであるdectin-16)であるとさている.Dectin-1は細胞質内ドメインにITAM(immunoreceptortyrosine-basedactivatingmotif)構造を有しており,受容体刺激により細胞のtumornecrosisfactor-alpha(TNF-a)やinterleukin-1beta(IL-1b)7,8)の産生を誘導すると考えられている.また,BDGにはdectin-1を介した作用として,マウスにBDGを投与することで自己免疫性関節炎が発症することからアジュバント効果があるとする報告9)や免疫賦活作用についての検討10)も行われている.眼表面は,常に外界と接している組織であり,環境因子として存在するBDGに接し,角結膜組織に免疫学的な修飾が加えられている可能性がある.しかし,眼表面の免疫系に対するBDGの作用については不明な点が多く残されている.今回筆者らは,細菌由来のBDGであるカードランをマウスに点眼投与し誘導されるマウス結膜組織の免疫学的,組織学的変化を検討した.I対象および方法本研究は,日本大学医学部動物実験委員会の承認を得て行った.実験動物の取り扱いはAssociationforResearchinVisionandOphthalmology(ARVO)の取り扱い規約に準じた.1.対象マウス対象は,8週齢のメスのBalb/cマウス(オリエンタル酵母工業,東京)を用いた.飼育環境はspecificpathogenfree(SPF)環境下で食餌と水は自由に摂取させた.2.点眼処置および組織採取a.点眼処置Balb/cマウスは,点眼処置の内容により3群に分類した.点眼投与するカードランの濃度別変化を観察するために,phosphatebufferedsaline(PBS)を点眼したP群(15匹),低濃度カードランを点眼したCL群(15匹)および高濃度カードランを点眼したCH群(12匹)に分類した.カードラン(CurdlanfromAlcaligenesfaecalis,Sigma-Aldrich,StLouis,MO,USA)を,100μg/mlの低濃度カードラン点眼用水溶液と10,000μg/mlの高濃度カードラン点眼用水溶液を作製した.点眼処置は,P群,CL群およびCH群に対して,おのおのに対応する点眼用薬液を1眼に1回10μl点眼とし,両眼に点眼処置を行った.点眼処置は,12時間ごとに計3回行った.b.組織採取最終点眼から4時間後にマウスにペントバルビタール(ソムノペンチルR,共立製薬,東京)を腹腔内に過量投与して1668あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014安楽死させた後,眼球と眼瞼とを一塊として摘出した.摘出した眼球・眼瞼は,1)組織学的検討のための2%periodatelysin-paraformaldehyde(PLP)固定組織と2)レーザーマイクロダイセクション法に用いるための未固定組織とに分け,OCTcompound(TissueTecO.C.Tcompaund,サクラファインテックジャパン,東京)に包埋して.80℃で凍結保存した.3.組織学的検討組織用切片は,2%PLP固定後にOCTcompaund包埋したブロックから,約70μmの薄切切片を作製した.a.酵素抗体法好中球の観察は抗GR-1抗体を用いた酵素抗体法で行った.酵素抗体法は,まず内因性ペルオキシダーゼ阻止として0.3%過酸化水素加メタノールに30分間浸漬した後,5%ヤギ血清でブロッキングを行った.つぎに,1次抗体と室温で60分間反応させた.今回使用した1次抗体は,GR-1に対する染色には抗マウスGR-1ラットモノクローナル抗体(Ly6GandLy-6C,BDPharmingenTM,California,USA),CD68に対する染色には抗マウスCD68ラットモノクローナル抗体(Bio-RadAbDSerotecLimited,Oxfordshire,UK)を使用した.酵素抗体法の2次抗体以降の反応には酵素抗体法染色キットstreptavidin-biotin(SAB)法〔ヒストファインシンプルステインマウスMAX-PO(Rat),ニチレイバイオサイエンス,東京〕を使用し,添付の使用方法に従ってビオチン標識2次抗体およびペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジンを反応させ,3,3’-diaminobenzidine(DAB)・4HClで発色させた,核染色にはメチルグリーンを用いた.b.組織観察,細胞数カウント染色後の組織切片は,光学顕微鏡(BH2,オリンパス,東京)を用いて観察,写真撮影を行った.撮影したデジタル写真からパーソナルコンピュータの画像処理ソフトPhotoshopElements9(AdobeSystems,SanJose,CA,USA)を用いて結膜組織の総面積をピクセル数から換算した.つぎに,結膜組織中のGR-1陽性細胞数および結膜組織中のCD68陽性細胞数を測定し,GR-1陽性細胞密度(個/mm2)とCD68陽性細胞密度(個/mm2)を計算した.4.Real.timePCR法a.レーザーマイクロダイセクション法採取試料を未固定でOCTcompaundに包埋して急速凍結したブロックを用いて,約7μmの凍結切片を作製した.組織切片は,ただちに4℃に冷却した100%メタノールで3分間固定し,蒸留水で洗浄後,0.05%トルイジンブルー染色液に15秒間浸漬して,トルイジンブルー染色を行った.その後,LaserMicrodissection装置(Leicamicrosystems,LMD7000,Wetzlar,Germany)を用いて結膜上皮および上皮下から粘膜筋板までの結膜下組織を合わせて切り抜き,real(102) timepolymerasechainreaction(real-timePCR)用の試料とした(図1).b.Real.timePCR法レーザーマイクロダイセクション法で採取した結膜組織から,mRNA抽出キット(RNeasyRMiniKit,QIAGEN,Hilden,Germany)を用い,キットのマニュアルに従ってmRNAを抽出した.その後,HighTranscriptionKit(LifetechnologiesJapan,東京)を用いてcDNAに変換した.その後real-timePCR法による結膜組織におけるサイトカインmRNA発現の検討として,TNF-a,IL-1bおよびIL-18のmRNA発現量を測定した.real-timePCR法は,ABIPRISM7000(LifetechnologiesJapan)を使用したTaqMan法で行った.TaqManプローブおよびプライマーは,TaqManRGeneExpressionAssay(AppliedBiosystems,東京)のTNF-a:図1レーザーマイクロダイセクション法による組織切り出し範囲結膜上皮から粘膜筋板直上までの結膜組織(赤点線枠)をレーザーマイクロダイセクション法で切り出した.Bar=100μm.Mm00443258_ml,IL-1b:Mm01336189_ml,IL-18:Mm00434225_mlを使用し,内在性コントロールにはActb:Mm00607939_s1を使用した.Real-timePCR法の結果はΔΔCt法で定量的解析を行った.5.統計学的検討各検討項目は,ノンパラメトリックの多重比較法であるSteel-Dwass法を用いて統計学的に検討し,危険率5%未満を有意差ありとした.II結果1.結膜下組織中浸潤細胞の免疫組織化学的検討a.GR.1陽性細胞の検討光学顕微鏡による観察では,すべての群でGR-1陽性細胞が結膜下組織中にみられた.各群のGR-1陽性細胞密度は,*GR-1陽性細胞(個/mm2)NSNS300250200150100500P群CL群CH群図2GR.1陽性細胞密度GR-1陽性細胞密度はP群に対してCH群で有意に高値であった(Steel-Dwass法,p<0.01).*:p<0.01.NS:nosignificance.abc図3結膜下組織中CD68陽性細胞(酵素抗体法)a:P群,b:CL群,c:CH群.Bar=100μm.矢印:CD68陽性細胞.(103)あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141669 P群76.8(43.7.114.5)個/mm2[中央値(レンジ)],CL群103.3(46.1.255.2)個/mm2,CH群197.8(148.0.226.1)個/mm2であった.GR-1陽性細胞密度はP群と比較してCH群で有意に高値であった(Steel-Dwass法,p<0.01)(図2).b.CD68陽性細胞の検討光学顕微鏡による観察では,すべての群で茶褐色に染色されたCD68陽性細胞が結膜組織中にみられた.CD68陽性細胞は,P群では結膜下組織中に散見される程度であったが,カードランを点眼処置した群では,CL群,CH群の両群と***NS7060もに結膜下組織中および粘膜筋板下にも多数みられた(図3).各群のCD68陽性細胞密度は,P群6.3(4.8.8.1)個/mm2[中央値(レンジ)],CL群37.2(16.9.46.5)個/mm2,CH群41.4(22.4.64.5)個/mm2であった.CD68陽性細胞密度はP群と比較してCL群およびCH群で有意に高かった(Steel-Dwass法,CL群:p<0.01,CH群:p<0.01)(図4).2.結膜組織中サイトカインmRNA発現の検討a.結膜組織中TNF.amRNA発現量の検討各群の結膜中TNF-amRNA発現量は,P群0.82(0.41.NS3**ΔΔΔCt)2.55022CD68陽性細胞(個/mm)40TNF-amRNA(1.5301200.5100P群CL群CH群0P群CL群CH群図4CD68陽性細胞密度図5結膜組織中TNF.amRNA発現量CD68陽性細胞密度はP群に対してCL群,CH群で有意に高TNF-amRNA発現量はP群,CH群に対してCL群で有意に値を示した(Steel-Dwass法,p<0.01).*:p<0.01.**:p高値を示した(Steel-Dwass法,p<0.05).*:p<0.05.NS:<0.05.NS:nosignificance.nosignificance,TNF-a:Tumornecrosisfactor-alpha.*NS*10NS0123456ΔΔIL-18mRNA(Ct)NSNSΔΔΔCt)IL-1mRNA(b9876543210P群CL群CH群P群CL群CH群図6結膜中IL.1bmRNA発現量図7結膜組織中IL.18mRNA発現量IL-1bmRNA発現量はP群,CL群に対してCH群で有意にIL-18mRNA発現量は3群間で有意な差はなかった.NS:no高値を示した(Steel-Dwass法,p<0.01).*:p<0.01.NS:significance,IL-18:interleukin-18.nosignificance,IL-1b:interleukin-1beta.1670あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(104) 1.61)[中央値(レンジ)]に対して,CH群0.76(0.27.1.67),CL群1.45(0.52.2.55)であった.TNF-amRNA発現量はP群と比較してCL群で有意に高値を示し(Steel-Dwass法,p<0.05),CH群と比較してもCL群で有意に高値であった(Steel-Dwass法,p<0.05)(図5).b.結膜組織中IL.1bmRNA発現量の検討各群の結膜中IL-1bmRNA発現量は,P群1.45(0.70.3.57)[中央値(レンジ)]に対して,CL群1.12(0.43.3.32),CH群3.19(1.26.9.16)であった.IL-1bmRNA発現量はP群,CL群と比較してCH群で有意に高値を示した(SteelDwass法,p<0.01)(図6).c.結膜組織中IL.18mRNA発現量の検討各群の結膜中IL-18mRNA発現量を検討した結果,P群1.01(0.51.3.21)[中央値(レンジ)]に対して,CL群0.90(0.54.2.28),CH群1.13(0.46.4.92)であった.IL-18mRNA発現量はP群,CL群,CH群で差はなかった(図7).III考按今回の研究では,マウス結膜に細菌性由来のカードランを投与し,結膜組織での病態生理学的変化の検討を行った.今回の免疫組織化学検討では,好中球の指標としてGR-1を,マクロファージの指標としてCD68を用いた.今回用いた抗GR-1抗体は,Ly-6G/6Cに対する抗体である.Ly6G/6Cは骨髄細胞分化抗原GR-1のコンポーネントであり,おもに末梢好中球に発現していることから末梢好中球のマーカー蛋白質と考えられているため,本実験では好中球のマーカーとして使用した.また,CD68は,単球,マクロファージに発現するLAMP(lysosomal-associatedmembraneprotein)ファミリーの糖蛋白質であり,今回の検討ではマクロファージの動向を観察する目的で使用した.また,realtimePCR法を用いたサイトカインmRNA発現の検討ではレーザーマイクロダイセクション法で検体を採取することによって,結膜上皮から粘膜筋板直上までの結膜組織でのカードラン点眼投与による変化を局所的に評価することができたものと考えられた.一方で,採取した結膜組織から得られる検体量にばらつきが生じる可能性があるので,real-timePCR法による発現量の検討にはΔΔCt法を用いた.ΔΔCt法は,基準となる内在性コントロールと比較して相対的定量を行う方法であることから,検体の採取量に左右されずに評価が可能であったと考えられた.カードランを投与した群でproinflammatorycytokineであるTNF-a,IL-1bのmRNA発現増加がみられたことは,カードランがマウス結膜組織において炎症反応の惹起に関与している可能性が考えられた.しかし,結膜組織中TNF-amRNA発現量の検討においてP群,CH群と比較してCL群で有意に増加したこと,および結膜組織中IL-1bmRNA発(105)現量の検討においてP群,CL群と比較してCH群で有意に増加したことは,カードランの濃度により結膜に生じる炎症または免疫学的反応が異なることを示していると考えられた.BDGの受容体の特異的受容体としては,dectin-1が知られている.眼表面(ocularsurface)におけるdectin-1発現や分布に関しては,不明な点が多い.糸状真菌による真菌性角膜炎の角膜病巣部から得られた検体を定量PCR法で検討した結果,dectin-1,toll-likereceptor(TLR)2,TLR4,TLR9およびNOD-likereceptorprotein3が検出されたと報告されている11).また,筆者らは,健常成人の結膜上皮をimpressioncytology法で採取し,蛍光抗体法およびreal-timePCR法によりdectin-1発現を検討したところ,結膜上皮にdectin-1発現が認められたことを報告している12).したがって,角結膜組織にBDGの受容体であるdectin-1発現がみられる可能性が考えられ,点眼投与したカードランは角結膜局所に発現したdectin-1を介して作用した可能性が考えられた.しかし,今回の実験では点眼投与したカードランの詳細な作用機序に関しては解明されておらず,さらに詳細な実験を加える必要があると考えられた.今回のTNF-amRNA発現の測定結果から,カードランが他のproinflammatorycytokine産生に影響を与えず,TNF-amRNA発現に関与するためには指摘濃度が存在する可能性が推察された.TNF-aは,炎症反応または免疫応答においては,おもにマクロファージ,単球などにより産生され,アポトーシスの誘導,IL-1,IL-6といった炎症性メディエータ産生促進,血管内皮細胞活性化といった作用が報告されている13,14).また,カードラン溶液で血液を刺激し,wholebloodassayで解析した実験では,今回使用したカードラン濃度より低濃度である2.5μg/mlと低濃度であるが,カードランのproinflammatorycytokine産生に対する作用としては至適濃度の存在が報告されている15).したがって,今回低濃度群(CL群)に投与したカードランの投与量は,TNF-amRNAを増加させる至適濃度と一致していた可能性が示唆された.また,今回の免疫組織化学的検討の特徴としては,CH群で好中球数が増加し,CL群およびCH群でCD68陽性細胞数が有意に増加していたことである.CD68陽性細胞はおもに単球やマクロファージといった抗原提示,自然免疫に関与する細胞で,自然免疫は,粘膜組織におけるアジュバント効果に関与している16)とされている.これはアジュバント物質が局所にある種の炎症反応を惹起し,マクロファージなどの抗原提示細胞を遊走することで,抗原の貪食・抗原提示を起こりやすくするためとされている.したがって,カードランの投与によりCL群において結膜組織中に好中球が増加せず,CD68陽性細胞が増加したこと,およびTNF-amRNAが増加したことは,カードランの点眼によるアジュバント効果を検討するうえで興味深い所見であるとあたらしい眼科Vol.31,No.11,20141671 考えられた.一方,結膜組織中IL-1bmRNA発現量の検討において,P群,CL群に対してCH群でIL-1bmRNA量が有意に増加したことは,カードランの結膜投与によるIL-1bmRNA発現は濃度依存的に発現が増加する可能性が考えられた.結膜組織や他の粘膜組織においてIL-1bは,マクロファージから産生され,生体内の炎症に関与するとされている17).特に,疾患とのかかわりあいでは,敗血症患者の血清中,関節リウマチ患者の滑膜中でIL-1bの増加がみられると報告されている18,19).また,免疫組織化学的検討において,IL-1bの増加がみられるCH群において,好中球およびCD68陽性細胞の浸潤も増加していた.これらの結果は,今回みられたIL-1bmRNAの増加は,カードランによる炎症惹起作用による変化と考えられた.同様の現象は,マウス樹状細胞におけるザイモザン,カードラン刺激においても報告されており20,21),高濃度カードランは,結膜に対して起炎物質となる可能性が考えられ,真菌感染症の病態を検討するうえで注目すべき反応であると考えられた.すなわち,これらの結果でみられるカードランの濃度により発現が増加するサイトカインが異なることや浸潤する炎症細胞の程度が異なることは,b-D-glucanが真菌関連眼疾患において起炎物質として作用することや,アジュバント物質として作用する可能性を示唆するものであり,今後カードランの粘膜アジュバントとしての作用についても検討する必要があると考えられた.しかし,今回使用したカードラン濃度は,低濃度CL群で100μg/ml,高濃度CH群で10,000μg/mlである.今回使用した点眼薬濃度は,点眼で投与可能な点眼量を10μlとして,投与全量が低濃度CL群で1μg,高濃度CH群で100μgとなるように計画した点眼処置法である.既報では,カードランを経気道投与したマウスでのinvivo実験系では,カードランが4μg.4ngcurdlan/kglungwt.で投与されている22).また,invitroでは血液をカードラン溶液で刺激しwholebloodassayで解析した際に2.5μg/mlの濃度が使用されている15).既報と今回の点眼濃度を単純に比較することは困難であるが,単純計算では培養で使用されたカードラン濃度の40倍が点眼に使用されたことになるため,眼局所に対しては比較的高濃度を作用させた実験系になっており,高濃度カードランの濃度依存反応を検討する実験系であったと考えられた.また,ヒトマクロファージをカードランで刺激することで,dectin-1を介してIL-18産生が増加すると報告されている23).しかし,今回の実験では結膜組織中IL-18mRNA発現量はP群,CL群,CH群の3群間に差がみられなかったことから,結膜組織におけるIL-18産生については,dectin-1発現細胞の存在などを含めて,さらに検討する必要があると考えられた.また,カードラン投与によるアジュバン1672あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014ト効果はdectin-1を介し,NLRP3インフラマゾームが活性化され,IL-1bの産生を誘導する経路がアジュバント効果に重要であるとの報告がある20).今回の検討では,結膜にカードランを投与することで濃度依存的にIL-1bが産生されることが証明されたが,結膜における粘膜アジュバントとしての作用にIL-1bがどのように関与するか,実際にBDGの特異的受容体であるdectin-1を介した経路がアジュバント作用に関係しているのかについてはさらなる検討が必要である.文献1)中尾行宏,戸田準,寺崎衛:カードランの性質と食品への利用.調理科学22:164-172,19892)OlynychTJ,JakemanDL,MarshallJS:Fungalzymosaninducesleukotrieneproductionbyhumanmastcellsthroughadectin-1-dependentmechanism.JAllergyClinImmunol118:837-843,20063)KawashimaS,HiroseK,IwataAetal:b-glucancurdlaninducesIL-10-producingCD4+Tcellsandinhibitsairwayinflammation.JImmunol189:5713-5721,20124)XuX,YasudaM,Nakamura-TsurutaSetal:b-GlucanfromLentinusedodesinhibitsnitricoxideandtumornecrosisfactor-aproductionandphosphorylationofmitogen-activatedproteinkinasesinlipopolysaccharide-stimulatedmurineRAW264.7macrophages.JBiolChem287:871-878,20125)林良輔,落合武徳,渡辺一男ほか:レンチナン持続動注療法における胆癌患者の免疫学的検討.日消外会誌14:1192-1196,19816)BrownGD,GordonS:Immunerecognition.Anewreceptorforb-glucans.Nature413:36-37,20017)西城忍,岩倉洋一郎:生体防御機構におけるDectin-1の役割.臨床免疫・アレルギー科49:101-108,20088)SteeleC,RapakaRR,MetzAetal:Thebeta-gulucanreceptordectin-1recognizesspecificmorphologiesofAspergillusfumigatus.PLoSPathog1:323-334,20059)HidaS,MiuraNN,AdachiWetal:Cellwallb-glucanderivedfromcandidaalbicansactsasatriggerforautoimmunearthritisinSKGmice.BiolPharmBull30:1589-1592,200710)足立禎之,大野尚仁:真菌多糖の免疫系による認識とその活性化作用.日本医真菌学会雑誌47:185-194,200611)KarthikeyanRS,LealSMJr,OrajnaNVetal:ExpressionofinnateandadaptiveimmunemediatorsinhumancornealtissueinfectedwithAspergillusorfusarium.JInfectDis204:942-950,201112)吉田圭,庄司純,石森秋子ほか:結膜上皮細胞におけるdectin-1およびBAff発現の検討.日眼会誌,118:368377,201413)Kyan-AungU,HaskardDO,PostonRNetal:Endothelialleukocyteadhesionmolecule-1andintercellularadhesionmolecule-1mediatetheadhesionofeosinophilstoendothelialcellsinvitroareexpressedbyendotheliuminallergiccutaneousinflammationinvivo.JImmunol146:521(106) 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My boom 34.

2014年11月30日 日曜日

監修=大橋裕一連載.MyboomMyboom第34回「林孝彦」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載.MyboomMyboom第34回「林孝彦」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介林孝彦(はやし・たかひこ)横浜南共済病院眼科私は平成15年に岡山大学を卒業し,平成16年に横浜市立大学眼科学教室に入局させていただきました.その後大学院に入学し,角膜移植の拒絶反応や角膜内皮細胞移植の研究に従事したのち,臨床に復帰しました.横須賀共済病院で白内障手術や硝子体手術の勉強をした後,平成23年より,東京歯科大市川病院に国内留学し,島﨑潤教授のもと,最先端の角膜移植について研鑽を積ませていただきました.現在は,医局の関連病院である横浜市南部の横浜南共済病院で,白内障手術,角膜移植手術を中心に活動中です.今回は琉球大学眼科の親川格先生からのご紹介で記事を書かせていただくことになりました.親川先生は東京歯科大学市川病院で角膜の勉強を一緒にした元同僚です.もともと無趣味な私ですが,私なりのMyboomについて,近況を交えながら書かせていただきたいと思います.仕事のMyboom①:動画編集で自分をふりかえる私が日頃の臨床において日課としていることは,手術は毎日復習するということです.そのために,まず,その日に行った手術をすぐさま動画編集ソフトで編集します.この作業により,手術をパーツごとに分解する癖が身につきます.難しい手術も細かいパーツに分解することで,基本作業の積み重ねであると認識することができ(89)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYます.また,編集動画を友人限定でシェアすることで,賢明な友人から貴重なアドバイスをいただくことができます.また,編集した動画をipodなどに保存しておけば,通勤中などに復習することができます.こういった作業をとおして自分の癖や特徴をつかむことができ,大変有用と考えています.仕事のMyboom②:手術中の音楽鑑賞現在の病院は,術者1人縦1列で手術を行う必要があり,毎日白内障手術12件と角膜移植1件程度を同僚と分担して行っています.単調で飽きないように手術中に聞く音楽を選ぶのが楽しい毎日です.最近のMyboomはJUJUのアルバム(最近はDOOR)で,1日4回転すると,看護師さんに飽きられて,患者入れ替えの際にさりげなく替えられてしまいます.まあ,術者目線で音楽を選んでよいのかという問題はありますが…….仕事のMyboom③:自分に合った道具を開発する前述のように,日頃の復習により自分の特徴がつかめてきます.すると,自分に足りないものが見えてきます.器用な先生なら,今ある道具で対処するのでしょうが,僕は「手術は安全確実が一番」と考えているので,「便利な道具でもっと簡単にできないだろうか?」と考えます.こうして最初にできたのが,角膜内皮移植術(DSAEKやDMEK)の際に用いるHayashi式デスメピーリング鑷子(Asico)です(写真1).これはつまみの部分が角膜側を.いているため,角膜の視認性が悪い症例においてデスメ膜をつまみとるのに有用です.あるいは,Hayashi式デスメピーリングフック(Asico)も大変おススメです.最近,私もDMEKを始めたため,こうしたあたらしい眼科Vol.31,No.11,20141655 写真1林式DSAEK専用デスメピーリング鑷子デバイスは大変有用です.その他,深層層状角膜移植(DALK)の際に用いるHayashi式DALKhooker(Asico)という実質線維を裂くフックなども開発しました.最近は色々と道具を考えるのが楽しくなってきました.まったく売れませんけどね…….仕事のMyboom④:臨床研究以前は,マウスを使った基礎研究をしていましたが,最近は時間がないことを言い訳に基礎研究はさっぱりです.そういうわけで,自分は大好きな角膜で臨床をさせていただいています.最近は自分自身の手術データをふりかえって角膜移植術の臨床研究を主に行っています.とくに,前眼部OCT,CASIAは大変素晴らしく,自分の手術をデータに変換してくれる優秀な器械です.見たくないものまで見えてしまうのですけどね…….基礎研究は現在ほとんどできていませんが,研究で培った人脈で,仕事の幅が広がったのに間違いはありません.でも,たまにマウスの実験もしたくなります…….PrivateのMyboomプライベートは無趣味に近いのですが,実は学生時代ラグビーをしていた私は,筋力トレーニングを20年間継続してきております.筋力トレーニングは無酸素運動に分類されますが,東京歯科大市川病院に勤務したことがきっかけで,ジョギングなどの有酸素運動も再開しました.週1でジム通いをして,週1で走り,たまに草ラグビーをする.業務に支障の出ない程度に運動ができていると思います.では,まず,筋力トレーニングについて.最近分かったことですが,体を苛め抜くようなきついトレーニングは,筋力の維持にはあまり関係がないとわかりました.ほどほどの負荷で,筋線維と神経を刺激すれば,あとは成長するということです.学生時代は筋トレ部屋に籠っ1656あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014写真2タッチラグビーの仲間と集合写真て歩けなくなるような激しいトレーニングをしていましたが,生活がトレーニング中心となっていました.しかし,週1回のジム通いならば,仕事をもつ社会人でも十分に可能だろうと思われます.スポーツはひとりで淡々とやるのもいいですが,たまに仲間と集まってやるのも楽しいものです.本気でラグビーをすると,脳震盪や骨折はしょっちゅうなので,手術ができなくなってしまいます.というわけで,もう本気でラグビーはできません.今もガチでラグビーしている眼科の先生もいらっしゃるかもしれませんが…….自分はタッチラグビーという衝突の少ない球技をたまにやっています.大人の部活です(写真2).スポーツ後,お酒を飲むのが最高です.以上,最近の私の日常について書かせていただきましたが,まだ30代なのでどんどん新しいことにもチャレンジしていきたいと思っています.次のプレゼンターは山之手眼科(愛知)の松田淳平先生です.松田先生は,大学の先輩で,学生時代からクラブ(?)活動などで,大変お世話になっていた,遊びも仕事も一生懸命な先生です.期待しています.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.(90)

現場発,病院と患者のためのシステム 34.組織の強みを知り,情報システムを整備することで勝利する

2014年11月30日 日曜日

連載現場発,病院と患者のためのシステム連載現場発,病院と患者のためのシステム組織の強みを知り,情報システムを整備することで勝利する杉浦和史*.内容1.SWOT的分析戦略を作るフレームワークにSWOT(スオット)分析(表1)と呼ばれるものがあります.ポピュラーでわかりやすいので広く使われています.SWOT分析とはいわないまでも,同じような方法で,自院の強み弱みを把握し,経営に活かしている経営者層は意外に多くいると思われます.表1SWOTの分類#分類当該組織にとっての意味1Strength(強み)強み2Weakness(弱み)弱み3Opportunity(機会)チャンス(好機)4Threat(脅威)都合の悪いこと,ピンチ筆者がある大学で自治体管理職を教えているとき,他の先生が自治体の組織そのもののSWOT分析を行わせ,発表させているところを見かけたことがあります.基本的に競合がない自治体(行政)にこの手法が合うのかどうかわかりませんが,無理矢理分類させているような感じだったことを覚えています.過疎地域にある自治体の場合には,活性化のための施策を検討する際の整理整頓には使えるかも知れませんが,医療機関の場合はどうでしょう?首都圏にある医療機関は患者数が多い反面,競合も多く,強みでもあり弱みにもなります.地方にある医療機関はその反対です.地方の場合,スタッフの確保が難しい反面,転職機会が少ないため働き続けてくれることで,技術の継承,蓄積が可能という面は見逃せません.患者数は少ないものの,選択の余地が少ない分,あちこち変わることなく通い続けてくれこと,およびそれにより経過観察のデータを得やすいという面は大きなメ思いつきやヒラメキの施策ではどうにもなりませんが,何が自院の強みなのかを把握したうえでの経営戦略をITで支援するのが情報システムの役割です.このような位置づけにあるシステムを戦略情報システムと呼んでいます.このシステム,部門システムの寄せ集めでは実現できません.筋の通ったコンセプトと,硬直化した指揮命令系統の改革など,システム以前の環境整備が必要です.リットといえ,弱点ではなくむしろ強みになっています.一概に強み弱みとならないところに注意が必要です.次に,機会と脅威です.例えば,医療費改定,包括診療制などがそれに該当しますが,これには地域的な差はなく,全国一律です.包括診療に危機感を抱く医療機関もありますが,医療の質をあげて効率よく治療をすればでき高払い方式よりも収益を高めることができ,チャンスと捉えることができます.実績を踏まえた定量的な評価をしなければならない場合もあります.今春の改訂で白内障手術を1回の入院で両眼手術する場合の点数が引き下げられましたが,これが脅威となる医療機関と,それほど響かないところがあります.白内障手術件数の多少だけではなく,1回の入院で両眼の手術が多いか少ないかの割合によります.つまり,同じ外的要因でも影響の度合いが違います.ここのところを冷静に判断せず,悲観的になったり,楽観的になったりしてはいけません.あくまでも定量的に判断すべきです.危機感をあおるためにオーバにいう場合もありますが,あくまでも事実を捉えたうえでのことです.定量判断のための情報を提供するのは,戦略情報システムであることはいうまでもありません.以上述べてきましたが,画一的な評価をせず,良い意味でのケースバイケースで判断しなければならないことが多々あるので注意が必要です.*KazushiSugiura:杉浦技術士事務所(情報工学部門)http://sugi-tec.tokyo/(87)あたらしい眼科Vol.31,No.11,201416530910-1810/14/\100/頁/JCOPY 1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月図1来院数減少の中で増えている事例万人2001,810,990人/日年250日稼働として約8250万人減1501,481,332人厚労省19年医療施設(動態)調査・病院報告の概況)抜粋002002’072.環境の整備製造業では5S(ごエス)といわれる基本があり,①整理,②整頓,③清掃,④清潔,⑤躾が必須となっています.これがなくして,業務改革,改善,情報システム整備は進められないというものです.医療機関にはこのようなものはありませんが,来院された患者さんが気持ちよくいられ,スタッフがきびきび働き,明るい雰囲気のある環境を整備することは,SWOTでいう強みになるといえるでしょう.予算があれば設備面の充実は図れますが,お金で買える有形なものではなく,意識の持ち方,努力次第で実現可能な無形なものが強みになるようにしたいものです.3.BPR(業務改革,改善)の実施業務を構成する作業,手順をプロセスと呼びますが,このプロセスを0ベースで見直すことがBPRです.BPRを実施する際の基本的なチェック項目は以下のとおりです.①何をするプロセスか,②絶対必要か,③なければ,何が(誰が)どう困るのか,④困る頻度は,⑤前後のプロセスで重複している機能はないか,⑥それは前後の,あるいは他のプロセスを見直すことで吸収できないか?です.難しいことではありません.このBPRをコンサルティングファームに頼んだり,ベンダ(システム開発会社)に頼んだりするのが一般的ですが,現場スタッフを教育すれば,OJT(onthejobtrainning)でできるようになります.是非チャレンジしてください.院内に人材が育ち,雰囲気も高まり,一石二鳥です.4.情報システムの整備SWOT的アプローチで自身を良く知り,次にBPR(業1654あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(人)8,0007,5007,0002004年6,5002003年6,0002002年受診抑制策で外来患者数が減っている5,5002001年なかで前年を上回る来院数を示す..務改革,改善)を行って問題点を整理し,意味なく昔から引継がれている仕事のやり方をなくしたり,変えたりして,滞りなく作業が流れるようになれば,ようやく情報システムの出番です.図1左側は,受診抑制策で外来患者数が激減してきていることを示す厚生労働省のデータです.2000年に全国で1日181万人の来院者があったものが,2007年には148万に激減しています.年間の稼働日数を250日とすると約8,250万人も患者が減ったことになり,医療機関にとっては厳しい状況であることがわかります.しかし,図1右側に示すように,全国の推移とは逆に,来院数が増えている医療機関もあります.この差はどこから来ているのでしょう.サービス業でもある医療機関は,患者さんに来てもらわないと商売になりません.そのためには,予約を確実に取ることがポイントです.患者さんにとっては,計画的な診察を受けることでQOVひいてはQOLを維持することができます.図1右側の医療機関では,受付,検査,診察,入院(ベッド確保),手術,次回予約など,予約に関係するすべての情報を,相互に連携して総合的に処理するシステムを整備しました.このシステムにより,確実で迅速な予約処理が行え,人が動かず情報が動くことによる所要時間の削減が奏効したのではないかと考えています.もちろん,関連業務のBPRをしてから仕様を作ったのはいうまでもありません.なお,このシステムは日経コンピュータから情報システム大賞編集部特別賞を受賞しています.(88)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 138.液体パーフルオロカーボンによる網膜下増殖組織の牽引評価(上級編)

2014年11月30日 日曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載138138液体パーフルオロカーボンによる網膜下増殖組織の牽引評価(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに増殖性硝子体網膜症(proliferativevitreoretinopathy:PVR)では,しばしば網膜下増殖組織が網膜復位の妨げとなる.網膜下増殖組織による牽引が軽度であれば,硝子体ゲルおよび網膜前の増殖組織の除去のみで網膜の伸展が得られることもあるが,著明な網膜下増殖組織が存在する症例では意図的裂孔を介してこれを除去する必要がある.また,網膜下増殖組織が広範囲に存在する症例では,どの程度除去したら網膜の伸展性が得られるかが問題となる.その判断には液体パーフルオロカーボン(perfluorocarbonliquid:PFCL)がきわめて有用である.●網膜下増殖組織の牽引評価網膜下増殖組織が残存した状態で,気圧伸展網膜復位術で網膜を伸展すると,意図的裂孔が拡大し網膜下に空気が迷入することがある.症例によってはこの際に網膜が大きく裂けてしまい,その後の処置に苦慮する.このような場合には,まずPFCLで網膜の伸展性を確認するほうがよい.写真はPVRの1例であるが,まず硝子体ゲルおよび網膜前の増殖膜を.離除去(図1)した後,PFCLを一塊となるように後極部からゆっくりと注入する.この症例では血管アーケード上方に網膜下索状物による牽引が残存し,網膜の伸展が得られないことが判明する(図2).この時点でさらにPFCLを多量に注入すると裂孔を介して網膜下にPFCLが迷入するので,適度な量にとどめる.その後,PFCLをいったん吸引除去し,意図的裂孔から網膜下索状物を抜去し(図3),再度PFCLを注入して網膜の伸展性を確認する(図4).十分に伸展が得られれば,眼内光凝固を施行し,PFCLと空気あるいはシリコーンオイルを置換する.図1術中所見(1)増殖性硝子体網膜症例.まず硝子体ゲルおよび網膜前の増殖膜処理を行う.図2術中所見(2)PFCLを注入し網膜を伸展させるが,上方に網膜下索状物による牽引が残存していることが判明する.図3術中所見(3)意図的裂孔から網膜下索状物を抜去する.図4術中所見(4)再度,PFCLを注入し,網膜の伸展性を確認する.●この手術の注意点術中に大きな医原性裂孔を形成するとPFCLが網膜下に迷入しやすくなるので,医原性裂孔の形成には注意する.また,周辺部の残存硝子体牽引が強いと,周辺部に網膜が吊り上げられたような状態になり,PFCLが網膜下に迷入しやすくなるだけでなく,網膜下増殖組織の牽引評価が難しくなる.可能な範囲で周辺部の硝子体を処理したうえでPFCLを使用すべきである.(85)あたらしい眼科Vol.31,No.11,201416510910-1810/14/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 167.光暴露による色素上皮細胞のサイトカイン誘導と加齢黄斑変性

2014年11月30日 日曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第167回◆眼科医のための先端医療山下英俊光曝露による色素上皮細胞のサイトカイン誘導と加齢黄斑変性成松俊雄小沢洋子(慶應義塾大学医学部眼科学教室)光とその受容光は視覚に必須の刺激ですが,一方で過剰な光刺激により視機能障害が進行することも古くから知られていました.1966年にはNoellらによって,ラットを室内光に曝露することで網膜視細胞が徐々に消失し,視機能が低下することが初めて報告されました1).その報告の中で,紫外線や青色光といった短波長光が網膜への障害を生じやすいことがすでに指摘されており,後に可視光の中では短波長である青色光が最も視細胞および網膜色素上皮細胞(retinalpigmentepithelium:RPE)に対する影響が大きいことがHamらによって示されました2).これには光のエネルギーが関係するということがいわれています3,4).また眼における光受容は,網膜視細胞だけでなくメラノプシンを発現する網膜神経節細胞が関与することがわかっています.後者はphotosensitiveganglioncellともいわれ,概日リズムに関与することが報告されています.この細胞は青色光を感受することも解明され5),昨今は青色光と概日リズムとの関連の研究も盛んになっています.光と加齢黄斑変性,酸化ストレス欧米での失明原因の1位,わが国でも4位の加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)において,光曝露との関係は以前からよく議論されてきました6).AMDの危険因子としても取りあげられています7).ただし,現在欧米でいくつかの大規模な疫学研究が進んでいますが,光曝露とAMDのはっきりとした因果関係は見出せていない状況です8~10).光曝露の程度を測定する方法が確立されていないことが,その一因と考えられます.しかし基礎研究のレベルでは,網膜あるいはRPEへの光曝露は酸化ストレスを発生させることが解明されており11,12),また酸化ストレス自身はAMDを惹起する因子の1つと考えられていました13).このことから,やはり光曝露はAMDと何らかの因果関係があるのではないかと目されてきました.RPEにおける光曝露でのサイトカイン誘導AMDには大きく2つのタイプがあります.萎縮型(drytype)ではRPEの萎縮がみられ,滲出型(wettype)では脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)が形成され,RPEを突破し網膜下腔へ侵入することがあります.このようにAMDの病態にはRPEの関与が大きいと考えられます.実際に,基礎研究レベルでは,光曝露によるRPEの変化については以前からinvitroで報告があります14).また光曝露のみならず酸化ストレスとしての活性酸素種(reactiveoxygenspecies:ROS)や腫瘍壊死因子a(tumornecrosisfactora:TNFa)による刺激といった各種ストレスがRPEを障害する,あるいは上皮間葉移行へ導くことも報告されていました15,16).また光曝露された網膜で,マクロファージを誘導する単球走化性タンパク質-1(monocytechemoattractantprotein-1:MCP-1)やマクロファージそのものがRPEにおけるCNV形成に関与していることが示されました17,18).さらにレーザー誘導CNVモデルによるAMDマウスモデルにおいては,CCL11がMCP-1同様アク光曝露抗酸化剤NAC酸化ストレスROCK阻害剤AlternativepathwaysRho-ROCKシグナルRPEにおける病的サイトカインの誘導AMD関連病態の形成・RPE細胞間接着破綻・マクロファージの網膜下腔への浸潤NAC:N-acetyl-L-cysteineROCK:Rho-associatedcoiled-coilkinaseRPE:retinalpigmentepitheliumAMD:age-relatedmaculardegeneration図1網膜色素上皮への光曝露による急性障害に伴うAMD関連病態形成の仮説(81)あたらしい眼科Vol.31,No.11,201416470910-1810/14/\100/頁/JCOPY チンの再形成を伴う血管内皮細胞の動員と増殖をうながすことがいわれています19).そこで実際に動物における光曝露のRPEへの影響を確認すべく,白色のBalb/cマウスに暗順応後白色蛍光灯を光曝露させ,その際のRPEでの変化を解析したところ,以下のようなことが明らかになりました20,21).1)光曝露によってROSが発生し,密着結合,接着結合においてRPE間の接着が破綻しました.両者の裏打ちタンパク質であるアクチンの配置も異常をきたしました.光障害により生じたROSに伴い,RPE-choroid複合体においては,上述のようにAMDの病態ではその存在が増加するといわれているMCP-1ならびにCCL11が,遺伝子レベルでもタンパク質のレベルでも増加していました.前者はRho-associatedcoiled-coilkinase(Rho-ROCK)シグナルをも経由しました.さらに最終的には上述のようにCNV形成に関与するマクロファージが網膜下腔に誘導されました.2)光障害による1)にみられる各変化は,抗酸化剤N-acetyl-L-cysteine(NAC)投与によって予防的に抑制されました.またNACでROSを抑制するとROCKの活動性は抑制されました.以上より,まだ動物実験レベルではありますが,AMDの病態形成の一部に光曝露が関与する可能性と,そのメカニズムとしてROSやRho-ROCKシグナルが関与し得ることが示されたものと考えます.新たな治療の可能性以上より,光曝露によりRPEにおいてAMD様病態に向かう各種変化が生じる可能性があることが明らかになりました.光曝露による病態の一部には酸化ストレスもあり,また酸化ストレスを予防的に除去することでRPEの形態学的な変化を抑制しえたことから,上述のNACのような抗酸化剤は新たな治療あるいは予防に資する可能性があると目されます.また上述のようにROCK阻害剤がこの病態形成の一部を抑制していることから,今後,病態のさらなる解明が進むことでRho-ROCKシグナルの関与機序がより明確になれば,ROCK阻害剤もまた新たな治療薬として開発が期待されます.文献1)NoellWK,WalkerVS,KangBSetal:Retinaldamagebylightinrats.InvestOphthalmol5:450-473,19661648あたらしい眼科Vol.31,No.11,20142)HamWTJr,MuellerHA,SlineyDH:Retinalsensitivitytodamagefromshortwavelengthlight.Nature260:153155,19763)TanitoM,KaidzuS,AndersonRE:Protectiveeffectsofsoftacrylicyellowfilteragainstbluelight-inducedretinaldamageinrats.ExpEyeRes83:1493-1504,20064)NarimatsuT,OzawaY,MyakeSetal:Biologicaleffectsofblockingblueandothervisiblelightonthemouseretina.ClinExpOphthalmol42:555-563,20145)MiyamotoY,SancarA:VitaminB2-basedblue-lightphotoreceptorsintheretinohypothalamictractasthephotoactivepigmentsforsettingthecircadianclockinmammals.ProcNatlAcadSciUSA95:6097-6102,19986)AmbatiJ,AmbatiBK,YooSHetal:Age-RelatedMacularDegeneration:Etiology,Pathogenesis,andTherapeuticStrategies.SurvOphthalmol48:257-293,20037)石田晋:加齢黄斑変性の予防医学.特集2目と耳の老化と老年病.学術の動向17:80-85,20128)KleinR,MyersCE,CruickshanksKJetal:Markersofinflammation,oxidativestress,andendothelialdysfunctionandthe20-yearcumulativeincidenceofearlyage-relatedmaculardegeneration:theBeaverDamEyeStudy.JAMAOphthalmol132:446-455,20149)DelcourtC,CarriereI,Ponton-SanchezAetal:Lightexposureandtheriskofage-relatedmaculardegeneration:thePathologiesOculairesLieesal’Age(POLA)study.ArchOphthalmol119:1463-1468,200110)DarzinsP,MitchellP,HellerRF:Sunexposureandage-relatedmaculardegeneration.AnAustraliancase-controlstudy.Ophthalmology104:770-776,199711)NarimatsuT,OzawaY,MiyakeSetal:AngiotensinIItype1receptorblockadesuppresseslight-inducedneuraldamageinthemouseretina.FreeRadicBiolMed22:176-185,201412)BeattyS,KohH,PhilM:Theroleofoxidativestressinthepathogenesisofage-relatedmaculardegeneration.SurvOphthalmol45:115-134,200013)MettuPS,WielgusAR,OngSSetal:Retinalpigmentepitheliumresponsetooxidantinjuryinthepathogenesisofearlyage-relatedmaculardegeneration.MolAspectsMed33:376-339,201214)IriyamaA,IriyamaT,TamakiYetal:Effectsofwhitelightonb-cateninsignalingpathwayinretinalpigmentepithelium.BiochemBiophysResCommun375:173-177,200815)InumaruJ,NaganoO,TakahashiEetal:Molecularmechanismsregulatingdissociationofcell-celljunctionofepithelialcellsbyoxidativestress.GenesCells14:703716,200916)TakahashiE,NaganoO,IshimotoTetal:Tumornecrosisfactor-alpharegulatestransforminggrowthfactor-beta-dependentepithelial-mesenchymaltransitionbypromotinghyaluronan-CD44-moesininteraction.JBiolChem285:4060-4073,201017)SuzukiM,TsujikawaM,ItabeHetal:Chronicphoto-oxidativestressandsubsequentMCP-1activationascausativefactorsforage-relatedmaculardegeneration.JCell(82) Sci125:2407-2415,201218)SakuraiE,AnandA,AmbatiBKetal:Macrophagedepletioninhibitsexperimentalchoroidalneovascularization.InvestOphthalmolVisSci44:3578-3585,200319)TakedaA,BaffiJZ,KleinmanMEetal:CCR3isatargetforagerelatedmaculardegenerationdiagnosisandtherapy.Nature460:225-230,200920)NarimatsuT,OzawaY,MiyakeSetal:Disruptionofcell-celljunctionsandinductionofpathologicalcytokinesintheretinalpigmentepitheliumoflight-exposedmice.InvestOphthalmolVisSci54:4555-4562,201321)OzawaY:Chapter17:OxidativestressintheRPEanditscontributiontoAMDpathogenesis;implicationoflightexposure.In:NakazawaT,KitaokaY,HaradaT(eds):NeuroprotectionandNeuroregenerationforRetinalDiseases.Heiderberg,SpringerScience+BusinessMedia,2014,inpress■「光曝露による色素上皮細胞のサイトカイン誘導と加齢黄斑変性」を読んで■光曝露が加齢黄斑変性を引き起こすことは当然のよ色素上皮の破綻など加齢黄斑変性に特有な現象を引きうに考えられがちですが,疫学研究でははっきりとし起こすというまったく新しい考え方を提唱されました因果関係を示すものは少なく,どちらかといえば否た.さらに素晴らしいのは,その経路をブロックする定的です.これは光曝露が黄斑変性に関係ないのでは薬剤まで提示されたことです.最近の加齢黄斑変性研なく,日常生活における光曝露総量を定量化する方法究は,抗VEGF薬を中心とした薬剤研究など,きわがないため,うまく評価できないというのが真実だとめて臨床的な内容が主流です.しかし,抗VEGF薬思います.いずれ定量化法は開発されると思いますが世に出るためには,動物実験などの膨大な基礎研究が,細胞生物学の分野では光曝露と加齢黄斑変性発症が必要であり,それが花開いた結果が現在の抗の因果関係を示唆する発見が次々になされています.VEGF薬の隆盛に繋がっているのです.いずれ,加そのひとつが今回の成松先生たちのものです.これま齢黄斑変性治療にも抗VEGF薬に代わるものが必要でも,光曝露により網膜に酸化ストレスを発生させるとされるでしょう.その日に備えて,小沢先生の研究ことは知られていましたが,そのメカニズムは過剰なグループは地道な基礎研究を続けておられますが,そ視サイクルによる細胞死であると考えられ,光曝露はれが直実に実を結びつつあることを感じることができ間接的関与であろうと考えられていました.ところました.が,成松先生たちは,光曝露自体がROSを誘導し,鹿児島大学医学部眼科坂本泰二それがマクロファージ浸潤,サイトカイン誘導,網膜☆☆☆(83)あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141649

新しい治療と検査シリーズ 222.前眼部OCT点眼負荷涙液クリアランス試験

2014年11月30日 日曜日

あたらしい眼科Vol.31,No.11,201416450910-1810/14/\100/頁/JCOPYことである.この涙液減少の急速相(earlyphaseもしくはinitialtearturnover)を利用して,TMHおよびTMAの減少率を求め,涙液クリアランス率を算出する(図3)4).新しい治療と検査シリーズ(79).バックグラウンド涙液クリアランスは涙液の動態を反映する重要なパラメータである.器質性または導涙機能障害による流涙症ではクリアランスが低下する.涙液クリアランス低下はドライアイの発症に関与することも知られている.涙液クリアランスの代表的な評価法を表1に示す.これまで多くの評価法が考案されてきたが,生理的に自然な状態での涙液クリアランス評価法はまだ実現していない.短時間で実施でき,かつ高精度で定量的で完全に非侵襲的な涙液クリアランス評価方法の開発が求められている..新しい検査法筆者は,前眼部光干渉断層計(anteriorsegmentopti-calcoherencetomography:AS-OCT)を用いた「前眼部OCT点眼負荷涙液クリアランス試験」を考案したので紹介する.この検査法では,前眼部OCTで涙液メニスカス(tearmeniscus:TM)の断層像を撮影し,メニスカス高(tearmeniscusheight:TMH)と面積(tearmeniscusarea:TMA)をパラメータとして使う(図1).被検者は自然瞬目状態にて,5μl生理食塩水(30℃)を点眼涙液負荷し,点眼直後と一定時間後のTMをOCTで撮影する.点眼後TMの動態変化を図2に示す.TMは大体2分後にベースラインまで戻る.とくに重要なのは,TMが点眼直後から30秒の間に急速に下がる222.前眼部OCT点眼負荷涙液クリアランス試験表1涙液クリアランスの代表的な評価法名称内容メリット問題点文献Jones法フルオレセンを点眼後,鼻から色素の有無を調べる簡便偽陽性率が高い1Fluophotometry法特殊な機械にて涙液内蛍光の減弱度を調べる高精度時間がかかる2フルオレセンクリアランス試験フルオレセンを点眼後,シルマー紙にて涙液の色を調べる簡便半定量非侵襲的ではない3図1前眼部OCTによる涙液メニスカス画像TMHTMA図25μl生食点眼後の下眼瞼中央TMHの経時変化00.050.10.150.20.250.30.350.40.450.5BL0s30s1min2min3min4min5minTMH(TearMeniscusHeight)Time点眼後30秒間:EarlyPhaseTearClearance(OCT涙液クリアランス試験)プレゼンテーション:鄭暁東愛媛大学大学院視機能外科学分野コメント:小野眞史日本医科大学眼科あたらしい眼科Vol.31,No.11,201416450910-1810/14/\100/頁/JCOPYことである.この涙液減少の急速相(earlyphaseもしくはinitialtearturnover)を利用して,TMHおよびTMAの減少率を求め,涙液クリアランス率を算出する(図3)4).新しい治療と検査シリーズ(79).バックグラウンド涙液クリアランスは涙液の動態を反映する重要なパラメータである.器質性または導涙機能障害による流涙症ではクリアランスが低下する.涙液クリアランス低下はドライアイの発症に関与することも知られている.涙液クリアランスの代表的な評価法を表1に示す.これまで多くの評価法が考案されてきたが,生理的に自然な状態での涙液クリアランス評価法はまだ実現していない.短時間で実施でき,かつ高精度で定量的で完全に非侵襲的な涙液クリアランス評価方法の開発が求められている..新しい検査法筆者は,前眼部光干渉断層計(anteriorsegmentopti-calcoherencetomography:AS-OCT)を用いた「前眼部OCT点眼負荷涙液クリアランス試験」を考案したので紹介する.この検査法では,前眼部OCTで涙液メニスカス(tearmeniscus:TM)の断層像を撮影し,メニスカス高(tearmeniscusheight:TMH)と面積(tearmeniscusarea:TMA)をパラメータとして使う(図1).被検者は自然瞬目状態にて,5μl生理食塩水(30℃)を点眼涙液負荷し,点眼直後と一定時間後のTMをOCTで撮影する.点眼後TMの動態変化を図2に示す.TMは大体2分後にベースラインまで戻る.とくに重要なのは,TMが点眼直後から30秒の間に急速に下がる222.前眼部OCT点眼負荷涙液クリアランス試験表1涙液クリアランスの代表的な評価法名称内容メリット問題点文献Jones法フルオレセンを点眼後,鼻から色素の有無を調べる簡便偽陽性率が高い1Fluophotometry法特殊な機械にて涙液内蛍光の減弱度を調べる高精度時間がかかる2フルオレセンクリアランス試験フルオレセンを点眼後,シルマー紙にて涙液の色を調べる簡便半定量非侵襲的ではない3図1前眼部OCTによる涙液メニスカス画像TMHTMA図25μl生食点眼後の下眼瞼中央TMHの経時変化00.050.10.150.20.250.30.350.40.450.5BL0s30s1min2min3min4min5minTMH(TearMeniscusHeight)Time点眼後30秒間:EarlyPhaseTearClearance(OCT涙液クリアランス試験)プレゼンテーション:鄭暁東愛媛大学大学院視機能外科学分野コメント:小野眞史日本医科大学眼科 TMH0sec-TMH30secOCTtearclearancerate(TMH)=TMH0sec×100%例:TMH0sec=0.4mm;TMH30sec=0.1mmOCTtearclearancerate(TMH)=(0.4-0.1)/0.4×100%=75%TMAwasautomaticallycorrectedor級内相関係数検定(ICC)TMH:ICC=0.92-0.94;TMA:ICC=0.89-0.91manuallycorrectbyrefractiveindexof1.343ICC:intraclasscorrelationcoefficients図3OCT涙液クリアランス率の計算式.本法の利点性が考えられる.前眼部OCTは不可視検査光源を使用するため検査光文献のまぶしさはなく,自然状態の涙液を直接観察すること1)JonesLT:Thecureofepiphoraduetocanaliculardisorができ,非接触,非侵襲的な測定が可能である.本法はders,traumaandsurgicalfailuresonthelacrimalpassages.TransAmAcadOphthalmolOtolaryngol66:506-524,フルオレセンクリアランス試験と有意に相関し,涙液の1962turnoverも反映できる可能性が考えられる.筆者は,2)WebberWR,JonesDP,WrightP:Fluorophotometricmeasurementsoftearturnoverrateinnormalhealthy加齢による涙液クリアランスの低下,内転眼位では正面persons:evidenceforacircadianrhythm.Eye(Lond)1:視よりクリアランスが亢進すること,また結膜弛緩症お615-620,1987よび涙道閉塞症の手術後にOCTクリアランスが術前よ3)XuKP,TsubotaK:Correlationoftearclearancerateandfluorophotometricassessmentoftearturnover.BrJOphり有意に改善したことを確認した.thalmol79:1042-1045,1995涙液クリアランスを正確に把握することは眼表面涙液4)ZhengX,KamaoT,YamaguchiMetal:Newmethodforevaluationofearly-phasetearclearancebyanteriorsegの動態,導涙機能の評価に重要であり,ドライアイ,流mentopticalcoherencetomography.ActaOphthalmologica涙症の病態の理解,発症機序の解明,治療に役立つ可能92:105-111,2014.「前眼部OCT点眼負荷涙液クリアランス試験」へのコメント.すばらしい検査方法と思います.涙液クリアランス交換率計測のためには,極少量の涙液量変化量(1~は眼表面の極微量な涙液の動態を知るうえで必須の2μl/分)を高精度で計測できる方法が必要となりまファクターであり,重症ドライアイ,涙点閉鎖評価,す.今回の検査方法は,最初の点眼負荷は必須です防腐剤,他の治療薬の影響などを評価するうえでも重が,十分少量で刺激性もほとんどないよう配慮されて要と考えます.おり,メニスカスの計測を2回とも同一位置で,かつ涙液動態を知るには,「系の動態」の評価が必要と適当な時間間隔で計測できれば,他の色素を用いた検なり,計測学上一般に静的状態に何らかの負荷を与査法より精度,侵襲性という点で明らかな優位性があえ,その後その変化を計測する必要が生じるため,完り,前眼部OCT計測器の費用を別にすれば,涙液ク全な非侵襲検査はできません.また再現性のある涙液リアランス計測法として最良と考えます.1646あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(80)

私の緑内障薬チョイス 18.BAC濃度を最適化したプロスタグランジン関連点眼薬:タプロス®点眼液0.0015%

2014年11月30日 日曜日

連載⑱私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載⑱私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也18.BAC濃度を最適化したプロスタグランジン鈴木克佳関連点眼薬:タプロスR点眼液0.0015%山口大学大学院医学系研究科眼科学タプロスR点眼液0.0015%は,含有される防腐剤のベンザルコニウム塩化物をできるだけ低濃度に最適化している.緑内障点眼治療で頻度の多い副作用である眼表面障害の危険性が軽減されるため,すでに眼表面障害をきたしている患者やその発症の危険性が高いドライアイを有する患者での使用をお勧めする.緑内障患者における眼表面障害緑内障は慢性疾患で,眼圧下降治療を一生にわたって継続しなければならず,目標眼圧を達成するために,緑内障薬を1剤だけでなく複数使用している場合も多い.緑内障薬に限らず,点眼薬はその投与経路として必ず眼表面に浸透するが,とくに眼表面が点眼薬に長期間くり返し暴露される緑内障点眼治療下では,使用している点眼薬数が増えるほど,眼表面障害の発症頻度が増加し重症化すると報告されており,点状表層角膜炎に代表される眼表面障害は決してまれな副作用ではない1).また,加齢に伴い増加するドライアイが背景にある場合には,緑内障点眼治療が眼表面の状態をさらに悪い方向へ修飾し,眼表面障害を惹起しやすい.防腐剤の功罪緑内障点眼薬には主剤だけでなく,点眼薬を調整・成立させるために賦形剤が含まれる.防腐剤もそのひとつで,点眼容器内を細菌や真菌などの微生物汚染から清潔に保つために必須の成分であり,現時点ではベンザルコニウム塩化物(BAC)が防腐剤として最も用いられている.しかしながら,BACは細菌や真菌などへの殺菌作用を発揮する一方で,高濃度のBACは角膜や結膜の細胞にも細胞障害性を有する.また,BACは涙液の安定性や動態を低下させたり2),炎症細胞浸潤や角結膜細胞死や異常なターンオーバーをきたしたりすると報告されている.したがって,汚染予防作用と眼表面障害作用の絶妙なバランスをとるために,点眼薬に含まれるBAC濃度は十分に考慮されなければならない.このバランスへの配慮は,緑内障点眼薬だけに限ったことではなく,その他の種類の点眼薬にも当てはまる問題である.(77)AB図1A:タプロスR点眼液0.0015%.B:タプロスミニR点眼液0.0015%.防腐剤濃度を最適化したタプロスR点眼液0.0015%プロスタグランジン関連薬は,その強力で持続力がある眼圧下降効果を根拠に現在の緑内障点眼治療の第一選択薬であり,多剤併用療法における主軸をなしている.最も新しいプロスタグランジン関連薬であるタフルプロストを主成分としたタプロスR点眼液0.0015%は,日本で2008年に発売された(図1).防腐剤にはBACを用いているが,発売して約1年後にはBAC濃度を0.01%から0.001%へと1/10に減量し,現時点で点眼薬に含まれるBACとしては最低濃度である(表1).このBAC濃度では細胞障害性試験において防腐剤を含まな本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).あたらしい眼科Vol.31,No.11,201416430910-1810/14/\100/頁/JCOPY 表1プロスタグランジン関連点眼薬に含まれる防腐剤の比較製剤名キサラタンR点眼液0.005%トラバタンズR点眼液0.004%ルミガンR点眼液0.03%タプロスR点眼液0.0015%防腐剤ベンザルコニウム塩化物0.02%SofZiaRシステム(ホウ酸,ソルビトール,塩化亜鉛)ベンザルコニウム塩化物0.01%ベンザルコニウム塩化物0.001%ODOSABいタフルプロスト群と同等に細胞障害性が低いことがわかっている3).前述した通り,緑内障専門外来においてアプラネーション眼圧計を用いて眼圧測定するためにフルオレセイン染色を行った場合,軽症ではあるが点状表層角膜炎を認めることが意外と多い.これらの患者は自発的に眼症状を訴えることは少なく,非染色下では他覚的には認識しづらいが,軽症であっても将来にわたって長期的に緑内障点眼治療を行うことを考えると,できるだけ眼表面の状態をケアしておくことが望ましい.緑内障点眼薬の副作用による眼表面障害が重症であれば,その原因であODOS図2A:前プロスタグランジン関連点眼薬の使用下.B:タプロスR点眼液0.0015%への切り替え後.る点眼薬や治療自体の中止が速やかに必要だが,軽症の場合には,主作用としての眼圧下降効果を維持しながら眼表面の状態を改善するために,点眼薬の変更がリーズナブルだと思われる.この観点からBAC濃度を最適化したタプロスR点眼液0.0015%は,眼圧下降効果を維持しつつ,眼表面障害を低減することが期待できる(図2).なお,BACのアレルギーが懸念される場合は,防腐剤を含まない使い切りのタプロスミニR点眼液0.0015%も発売されている2)(図1).現在の緑内障薬物治療の第一選択薬で多剤併用療法の主軸であるプロスタグランジン関連薬のうち,このタプロスR点眼液0.0015%は,有用性と安全性のバランスが良く,眼表面障害をきたしている場合や,その発症の危険性が高いドライアイを有する患者での使用に適していると思われる.文献1)FechtnerRD,GodfreyDG,BudenzDetal:Prevalenceofocularsurfacecomplaintsinpatientswithglaucomausingtopicalintraocularpressure-loweringmedications.Cornea29:618-621,20102)UusitaloH,ChenE,PfeifferNetal:Switchingfromapreservedtoapreservative-freeprostaglandinpreparationintopicalglaucomamedication.ActaOphthalmol88:329-336,20103)浅田博之,七條(高岡)優子,中村雅胤ほか:0.0015%タフルプロスト点眼液のベンザルコニウム塩化物濃度の最適化検討─眼表面安全性と保存効力の視点から─.YakugakuZasshi130:867-871,20101644あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(78)

抗VEGF治療:脳梗塞既往のある加齢黄斑変性患者への治療方針

2014年11月30日 日曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二10.脳梗塞既往のある加齢黄斑変性井上麻衣子横浜市立大学大学院医学研究科視覚再生外科学患者への治療方針脳梗塞既往のある加齢黄斑変性(AMD)患者を治療する場合は脳梗塞のリスクと治療のベネフィットを考え,患者に十分説明したうえで治療を選択する.そのためには症例により治療のベネフィットがどの程度なのか予測できることが望ましい.また,患者背景や病変の特徴を捉え,抗VEGF薬の種類や投与法を選択するようにする.脳梗塞既往と抗VEGF薬加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対する抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬は,多くの症例で良好な視力改善・維持が得られるとして第一選択薬として確立してきた.しかし,副作用の懸念もあり,とくに全身性副作用として脳血管イベントの増加がいわれている.過去の大規模スタディーのプール分析では,脳血管イベントの既往のある患者に対するラニビズマブの血栓・塞栓イベントのリスクは不明確であるものの,慎重なモニタリングが必要であると結論づけている1).しかしながらAMD患者に対する抗VEGF薬は患者のQOLの改善に大きく寄与するため2),脳梗塞の既往がある場合でも治療が必要な事態にしばしば直面する.脳梗塞既往のある患者を治療する場合,脳梗塞のリスクと治療のベネフィットを考え,患者に十分説明したうえで治療を選択する.そのためには治療のベネフィットがどの程度なのか見きわめられるようになることが望ましい.たとえば,活動性の低いAMDや,発症してからの経過時間が長く治療効果が期待できない症例は,治療によるベネフィットは低いと考えられる.したがって,そのような症例の場合,脳梗塞既往がある場合はとくに血栓・塞栓のリスクを考えると抗VEGF薬治療は行わず,経過観察になる場合がしばしばみられる.また,脳梗塞のリスクに難色を示したり,脳梗塞発症後間もない場合(明確な基準はないが筆者は累積再発率が10%といわれる1年以内を目安にしている)3)でAMD治療が必要な場合は選択的VEGF阻害薬であるペガプタニブの使用や,光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)なども考慮して,非選択的抗VEGF薬の使用回数をできる限り少なくするように心がける.(75)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYアフリベルセプトとラニビズマブアフリベルセプトはVEGFファミリーと強い結合親和性を示し,強力な治療効果を示す一方で血栓・塞栓イベントリスクの危険性も懸念されている.しかし,現在のところ脳血管イベントとの関連性は不明であり,今後の報告が待たれるところである.脳梗塞既往のあるAMD患者にとってアフリベルセプトとラニビズマブ,どちらの薬剤を選択するのかは非常に難しい問題である.筆者は患者背景(年齢,僚眼の視力,通院が容易か否か,など)や病変の特徴〔病変タイプ・病型,網膜色治療前導入期治療後治療後1年図1超高齢者のアフリベルセプト治療前後アフリベルセプトの導入期治療後,計画的投与で維持していき,1年経過して視力(0.6)と維持できている.あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141641 治療前治療前治療後図2抗VEGF薬治療を拒否した視力良好PCVに対するPDT治療前後1回のPDTで網膜色素上皮.離はほぼ消退し,視力も(0.7)から(1.0)に改善した.素上皮.離(pigmentepithelialdetachment:PED)の大きさ・種類,など〕から総合的に抗VEGF薬の種類と投与方法を決定している.たとえば,高齢者であっても通院困難な場合は,治療効果を最大限にして通院回数を最低限にするため,脳梗塞の既往があってもVEGFに親和性の高いアフリベルセプトを勧める場合もある.正解はないのだが,患者にとっての一番のメリットは何なのかということを考えて治療にあたるようにしている.症例をつぎに示す.症例症例1:97歳,男性,ラクナ梗塞あり.車椅子使用.家族付き添いあり.僚眼はAMDのため低視力.左視力(0.3)に低下,PEDを伴いフィブリン・網膜下液が出現している(図1).症例2:66歳,男性.脳梗塞の既往はないものの血縁者に複数脳梗塞患者がいて,抗VEGF薬治療を断固として拒否している.右視力(0.7)(図2).筆者が行った治療症例1:僚眼が低視力であるため視力維持が必須だが,大きなPEDがあるため再発が多い可能性がある.また超高齢者であり,通院を最低限にする必要がある.脳梗塞のリスクや網膜色素上皮裂孔の可能性も話したうえで,アフリベルセプトの計画的投与とした.現在治療後1年が経過して,PEDは残存するものの視力(0.6)を維持できている.全身性副作用は現在のところみられない.症例2:病型はポリープ状脈絡膜血管症(polypoidal1642あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014choroidalvasculopathy:PCV)である.視力は(0.5)以上であったものの,本人の希望が強く,リスクも話したうえでPDTを施行した.1回の治療でPEDは改善し,視力も(1.0)に改善した.治療後6カ月では初診時に認められたポリープは消退しているものの,新たなポリープも生じており,今後追加治療する可能性もある.おわりに以上,脳梗塞既往患者に対する治療方針について述べた.脳梗塞既往患者に対する明確なAMD治療指針はないため,個々の医師の裁量に任されているのが現状である.今後はより症例を集め安全性について検討していく必要があると思われる.また,脳梗塞の再発リスクを恐れるあまりにAMD治療への対応が遅くなる事態はさけるべきである.そのような見きわめがむずしい場合は,早めに網膜専門医に送ることもときには必要であろう.文献1)BresslerNM,BoyerDS,WilliamsDFetal:Cerebrovascularaccidentsinpatientstreatedforchoroidalneovascularizationwithranibizumabinrandomizedcontrolledtrials.Retina32:1821-1828,20122)InoueM,ArakawaA,YamaneSetal:Intravitrealinjectionofranibizumabusingprorenataregimenforage-relatedmaculardegenerationandvision-relatedqualityoflife.ClinicalOphthalmology,inpress3)HataJ,TanizakiY,KiyoharaYetal:TenyearrecurrenceafterfirsteverstrokeinaJapanesecommunity:theHisayamastudy.JNeurolNeurosurgPsychiatry76:368-372,2005(76)