成人の非炎症性涙道疾患涙点から鼻涙管までの狭窄や閉塞─鼻涙管チューブ留置に役立つ画像診断─Non-inflammatoryLacrimalDisordersinAdultsCTandCT-DacryocystographyforPatientSelectioninNasolacrimalDuctIntubation鈴木亨*はじめに非炎症性の涙道閉塞・狭窄の治療方針は,日本では涙洗が通るなら鼻涙管チューブ留置(nasolacrimalductintubation:NLDI)を施行し,涙洗が通らないならNLDIか涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)から選択するという考え方が一般的である.涙道内視鏡を使える状況であれば,涙道内視鏡検査1,2)を試み,その結果で術式選択することで問題ない.しかし,涙道内視鏡はすべての施設で使用できる状況にはない.正しい涙道治療の方向としては,画像検査も参考にしながら,内視鏡が使用できない状況や内視鏡の限界を補いながら進むことであろう.涙道手術の術式選択や術後評価において,画像診断の有用性はいうまでもない.通常では涙.造影X線撮影(dacryocystography:DCG),CT単純撮影,およびCT涙.造影撮影(CT-DCG)の3つが可能である.涙道腫瘍や涙.憩室炎の診断にはMRI撮影が必要で,機能性流涙症の診断には涙.シンチグラムが標準とされる3).また,涙小管や涙.の超音波生体計測や,OCTを利用した涙点と涙小管近位の計測など,さまざまな画像診断の試みもある.本稿では,DCGを中心とした通常の画像診断について解説する.I涙.造影DCGEwingが1909年に涙道の造影写真を撮影する方法を始めて報告4)して以来,DCGは造影剤や,カニューラを用いた造影剤注入方法の工夫5)と撮影方法の改良が加えられ,今でも生き残る検査法である.DCGは,正面と側面から撮影することで涙道全体像を見るのに有用である(図1).涙道閉塞においては閉塞レベル(局在)を決定したりするのに有用である.しかし,簡便なX線撮影では背景の骨組織が造影剤の陰影と重なるためノイズが多く,また設備の問題から,臨床ではスキップされることが多いのが国を問わず実情である.閉塞レベルの決定は,臨床的には涙洗と診断的プロービング,あるいは施設によっては涙道内視鏡検査などでおおむね可能である.ただし,涙道手術研究を続けるにあたっては,今でもDCGによる診断の考え方には学ぶべき大切な点がある.また,CTと組み合わせることで,今後もDCGは涙道手術の術前検査として有用であり続けることは間違いない.1.涙道通過障害診断の基本涙洗で完全閉塞と判断されても,造影剤が鼻腔へ到達している様子が撮影される症例は少なくない.これは狭窄と閉塞の診断が検査方法で異なることを示唆している.したがって,術前の造影検査をスキップして手術結果を示した論文と,造影検査で患者を選択して手術結果を示した論文では,研究対象が異なる可能性を理解する必要がある.造影検査をスキップした場合は,閉塞のみならず狭窄も含むより軽症例の患者集団についての研究と考えられる.このことは,研究間で手術結果を比較する場合には必ず考慮されなければならない.また,涙道閉塞のレベル診断が最近の論文でもpresaccalobstructionとpostsaccalobstructionという言葉が散見される.これらは造影剤が涙?まで入っているかどうかの区別であり,前者は涙小管閉塞,後者は鼻涙管閉塞と訳して差し支えない.つまり,涙道閉塞は最初に造影剤がせき止められる部位で診断を決めるのが基本という考え方であり,涙道内視鏡所見で診断する場合もこれを踏まえる必要がある.たとえば,涙小管閉塞を内視鏡で穿破し,それより遠位に鼻涙管閉塞所見が得られた場合,これは仮に造影検査をした場合の診断にならって涙小管閉塞症として分類する必要がある.これを鼻涙管閉塞症に涙小管病変が合併したものとする考え方は,涙道内視鏡を用いない国内外の大多数の研究との整合性に欠け,結果の比較を困難にする.2.撮影法の改良Gallowayは1984年に,涙道を満たす造影剤以外のノイズを画像処理でキャンセルしてクリアな涙道の姿を映し出す差分涙?造影撮影法(digitalsubtractiondacryocystography:DS-DCG)を初めて報告した6).涙小管にカニューラを挿入し,ここから造影剤を持続注入しながら1秒に1枚ずつX線写真を撮影して画像処理を行う.涙道の姿がよくわかる利点は大きいが,要点は単純撮影と違いはなく,むしろ特別な解析ソフトが必要になるので施行できる施設がさらに限られてくる点が問題ともいえる.3.最新の工夫Wongらは2014年に,鼻涙管の開口部から逆行性に造影剤を注入してCT撮影を行う逆行性涙?造影法(CTretrogradeintubationdacryocystography:CT-RIDC)を報告した7).涙小管の手術では,手術選択の際に涙?と鼻涙管の状態を考慮することがある8,9).しかし,涙小管が閉塞している場合は造影剤がそれより遠位に到達しないので,通常の方法では涙?と鼻涙管の情報は得られない.逆行性涙?造影は,これを解決するための方法で,今後,涙小管閉塞の術前検査として発展することが期待される.4.コーンビームCTの登場CTは骨組織の構造を見るのに大変に有用である.涙道は眼表面から涙?窩に沿って上顎骨を貫き,鼻腔に到達する.したがって,涙道は骨組織と密着した器官であり,CTは涙道術前検査として有用である.しかし,被曝や利便性の問題から眼科診療ではこれまで限定的な使用しかされておらず,十分に普及した検査とはいいがたい.ところが近年,コンピュータの高速化に伴ってCTの技術革新があり,従来と比較してはるかに低被曝,低価格,そして設置面積の狭い座位撮影のCT(conebeamCT:CBCT)が市販されるようになった(図2).Mozzoらが1998年に歯科領域でのCBCT使用について報告10)して以来,頭頸部領域で徐々に臨床応用されるようになっており,米国では歯科・口腔外科・耳鼻咽喉科科の診療所で普及が進んでいる11).日本でもインプラント手術を行う歯科診療所ではすでに普及し,鼓室形成を行う耳鼻科診療所でもCBCTを設置するところが現れるようになってきた.眼科でのCBCTの応用はまだ報告12,13)が少ないものの,その安全性と有用性のみならず,眼科外来でも簡単な工事で設置可能なほどコンパクトであり,上級機種CBCTでも最近の超音波白内障手術装置や超広角眼底撮影装置より低価格であるという利点から,今後は涙道手術を行う眼科診療所で術前ルーチン検査として発展する可能性が十分ある.5.最新の涙?造影と今後の展望Tschoppらは2014年に,CBCTを用いた涙?造影(CBCT-DCG)を行って10例の涙道閉塞患者の閉塞レベル診断を行って報告13)した.彼らは造影剤を患者に投与する方法として,カニューラで造影剤を涙道に注入する従来の方法と,造影剤を点眼するだけの方法の2種類を用いており,いずれもよく造影され閉塞診断が可能であったと述べている.また,被爆リスクに対しての配慮は述べながらも,いくつかの文献12,14,15)のレビューからCBCTで必要な放射線量が従来のマルチスライスCTと比較して十分に低い量と結論づけている.実際,撮影範囲の設定にもよるが,涙道の撮影であれば放射線照射はおおむね10分の1程度の量ですむ.さらに,CBCTの利点の一つに座位で撮影が行われる点をあげ,造影剤の点眼が涙道の造影に十分な効果があった点と合わせて,涙液排泄動態の異常をみる機能性流涙の診断においてCBCT-DCGが涙道シンチグラムの代わりになる検査としての可能性についても言及している.この点については,国内外で機能性流涙症の話題が涙道手術の関心の一つである昨今,とくに日本においては期待が大きい.Chanらは機能性流涙症について,涙?シンチグラムの結果でpresaccaldelay,postsaccaldelay,nodelayに分けて病態を考えることを提唱3),海外ではこれが認知され論議の前提となっている.これまで日本では涙道シンチグラムの実績がなかったが,今後は造影剤の点眼によるCBCT-DCGの結果でこれら病態の区別が可能となり,海外との整合性が取れた国内論議が可能になると考えられる.II鼻涙管チューブ留置を選択する際に注意すべきCT所見筆者の診療所(常勤医師1名,常勤スタッフ6名,そのほか非常勤)ではCBCT(3DAccuitomoF17,モリタ製作所)を設置しており,2015年6月から運用を始めた.5m視力検査を3m視力検査に変更して2m四方を稼ぎだし,CBCT検査室を作った.OCT(RTVue-100,Optview社)の設置に必要な面積より,少し広い程度と考えてよい.放射線技師は必要なく,操作が簡単なので当院の職員は誰でも患者の位置合わせができるようになっている.患者の位置が決まれば医師が17秒間の撮影を行う.三次元のCT値データは専用サーバーに取り込まれ,診察室,手術室,および医局に設置した専用ソフトでそれを再構築して見たい切片を自由に見ることができるシステムである.これによって,骨鼻涙管の屈曲や傾斜が直接見えるので,鼻涙管閉塞のNLDIで仮道留置を避けられるかどうかが予想できるようになった.また,CBCT-DCGの画像がDCRの術前と術中にどこでも利用できるようになった.すべての涙道術前患者にCT検査が必要なわけではないが,CTはわれわれに涙道手術の術式選択に大変に参考となる情報を与えてくれる.本稿後半では,NLDIを選択する場合に注意すべきCT所見について述べる.1.DCRかNLDIか冒頭で述べたように,非炎症性の涙道閉塞・狭窄の治療はDCRとNLDIから選択される.筆者は涙道内視鏡所見のほか,必要に応じてCTの結果も考慮しながら治療選択を行って治療成績向上を狙っている.筆者の基本姿勢は,簡単にすむNLDIを優先しながらも,リスクを抱える症例は積極的にDCR適応とし,NLDIの低侵襲性と有効性,安全性を損なわないことである.そのためには,安易にNLDIが低侵襲と思い込むのではなく,鼻涙管にモノを差し込む操作が涙道にとっては侵襲の高い手技となるような解剖学的リスク要因の存在を知っておく必要がある.以下,CTで診断できる4つのリスク要因について述べる.2.顔面の構造NLDIを施行する場合,顔面の骨構造が手術のしやすさに大きな影響をもつ.白人種では,前頭同が発達して眼窩上縁が“ひさし”のように突出している(図3a).この構造では,涙?まで差し込むプローブの角度と鼻涙管の傾斜角度が大きく違っており(anteriortype16)の極端な例),涙道内視鏡やチューブの誘導プローブが鼻涙管を進む際に涙道粘膜を傷害する.これは欧米で,鼻涙管に異常のない涙小管閉塞症においてさえも,鼻涙管内の手術操作を避けてDCRを優先する考え方の根拠と推察される.また,白人種でも,眼窩上縁が発達してくる前の小児期であれば,プローブ挿入角度と鼻涙管傾斜角度が近いため,プローブ挿入における鼻涙管粘膜障害のリスクは最小限と考えられる.そのため,白人種でも小児に対してはプロービングやNLDIの実績が多数あるのであろう.一方アジア人種は,成人でも眼窩上縁が発達していない(図3b).このため,白人種の幼児期と同様に涙点から鼻涙管へのアクセスが良好かつ安全であり,日本を含む東アジア諸国においてはNLDIの人気が高い.しかし,日本人でも,少数ではあるが白人型の顔面構造がみられることがある.筆者はその場合には,NLDIは避けてDCRを選択している.このほか,骨鼻涙管が途中でくの字型に後方屈曲する鼻涙管閉塞でも,NLDIでは仮道留置となる可能性が高いと判断してDCRを選択している.鼻涙管閉塞では,仮に涙道内視鏡を使用しても,いったんSEPやDEPで線維組織内に潜り込むとどの方向で仮道が避けられるのかは判断不可能である.内視鏡が組織内を進むうちに鼻涙管内に残存する開存部分に出合う場合は運が良い.しかし,しばしば仮道に潜り込んで広範型鼻涙管閉塞と誤診したり,骨鼻涙管の壁に行き当って「硬い閉塞」と感じたり,あるいは骨鼻涙管壁に沿って鼻腔に導かれたりする.線維組織内での内視鏡操作には限界があり,無理な治療で解剖学的リスクを負うとNLDIの低侵襲性と有効性を損なう.あらかじめ骨鼻涙管の走行を理解することで,そのリスクを避けることができる.涙小管閉塞では,涙?と鼻涙管にはまったく異常がないか限局性狭窄のみの症例(通常鼻涙管型涙小管閉塞)の方が多い.涙道内視鏡検査でそれが確認できれば,骨鼻涙管の傾斜や屈曲にかかわらず仮道留置を避けることは簡単であるので,CT所見に関係なくNLDIを第一選択に考える.3.骨鼻涙管の太さ解剖研究では,骨鼻涙管の内径は部位によって均一ではないが,眼窩における入口部でおおむね6mm程度とされる17).多数のCTをみた臨床的な経験からは,日本人流涙患者の場合はおおむね4~5mm程度の印象である.稀にほぼ全長にわたって内径の極端に小さい骨鼻涙管をもつ症例があり,この場合はNLDIの適応から除外したほうが無難と考えている.萩野らは2014年の日本涙道・涙液学会総会において,内径2mmにも満たない骨鼻涙管の鼻涙管閉塞症でNLDIを試みたところ,症状が改善せず後日DCRを施行したと報告した(フォーサム2014東京,プログラム・講演抄録集p139).鼻涙管拡張治療が不成功であった患者群の骨鼻涙管径は,成功例の患者群のそれより小さかったとの報告もある18).骨鼻涙管の内径はNLDIの有効性を担保するよい指標になる可能性があるので,今後CBCTを用いた鼻涙管径の研究が進むことを期待している.4.涙?結石涙?炎の場合は,鼻涙管の開存性にかかわらず正しい治療法はDCRである.DCRであれば,涙?結石の有無は問題ではない.しかし,実際の臨床では,DCR紹介病院がない地域や,患者側の事情でNLDIに頼らざるを得ない場合がある.このとき,少なくとも涙?結石や異物(涙点プラグ,停留チューブ)を伴う涙?炎はNLDIの禁忌であり,これを除外する必要がある.チューブ挿入の際に涙?結石などを仮道に押し込めば,海外の論文で散見されるような術後の急性炎症を生じる可能性があり,NLDIの安全性を損なう.涙?結石の診断には涙道内視鏡検査が最適であるが,涙道内視鏡がない場合,やむを得ず涙?炎にNLDIを検討する際には必ずCT-DCGを施行すべきである(図4,5).涙?炎のない症例でも涙?結石は存在する.図6に示したように,筆者の最近約1年の術前涙道内視鏡検査の結果では,連続227例中15例(7%)が涙小管炎以外の結石陥頓症例で,そのうち12例が涙?結石であった.筆者は涙?炎症例には術前涙道内視鏡検査を行わずにDCRを選択するので,この結果は涙?炎でない症例が対象と考えてよい.その涙?結石症例12例のうち5例では,涙洗逆流には分泌物がみられなかった.さらにその5例中3例は,逆流が微弱で機能性流涙を疑われて検査した症例であった.涙洗で涙?炎がないから,さらには逆流が微弱であるからという理由では涙?結石は否定できないことがわかった.NLDIの術前には,涙道内視鏡検査かCT-DCGでこれを除外診断すべきである.5.総涙小管偏位涙道内視鏡検査で総涙小管閉塞と診断する症例では,閉塞膜にディンプルかピンホールのみられる症例が多い.この場合は,これを目標にしてDEPあるいはSEPを施行すれば,高い確率で穿破に引き続いて涙?内腔粘膜が観察でき,その結果,仮道留置を避けてNLDIを終えることができる.しかし,ディンプルなどがみられない場合,しばしば閉塞は硬く,穿破に引き続いて涙?内腔粘膜が観察できない症例をときどき経験する.これは涙?内癒着の可能性も否定はできないが,むしろ涙道内視鏡が総涙小管壁そのものに突き当たっており,そのまま涙?外側壁の粘膜下繊維組織内に潜り込む仮道形成の所見として重要である.筆者は,涙?内腔が確認できない症例ではDCRか涙小管形成術を選択する.ディンプルなどがない場合は,内視鏡で閉塞膜のようにみえている行き止まりが図7に示したように前方に強く屈曲した総涙小管壁そのものであることがあり,これが仮道形成の原因のひとつとなる.総涙小管閉塞は本来,狭窄の目(ディンプルやピンホール)をもった柔らかい薄膜である.ディンプルのない症例や硬い症例ではCBCT-DCGで総涙小管の走行を評価することで仮道リスクを知ることが可能である.まとめDCGは,必ずしも施行しなければならない涙道検査ではない.しかし,造影剤がどこまで入るかという概念は涙道閉塞の診断の基礎であり,涙道内視鏡に頼った診療においてもこの概念は尊重されるべきである.CBCTは座位で行う簡便な検査で小規模眼科診療所においても十分に運用可能であり,今後の涙道診療においてはさまざまな有用性が期待できる.この10余年,日本の涙道手術研究は涙道内視鏡による診断と治療が主流であるかのようにもみえたが,本来は科を問わず,内視鏡検査と画像検査はお互いの弱点を補い合って患者に利益をもたらすものである.文献1)鈴木亨:涙道ファイバースコピーの実際.眼科45:2015-2023,20032)鈴木亨,白石敦,大橋裕一ほか:涙道内視鏡実践ガイド.あたらしい眼科32:1293-1296,20153)ChanW,MalhotraR,SelvaDetal:Perspective:Whatdoesthetermfunctionalepiphorameaninthetextofepiphora?.ClinExpOphthalol40:749-753,20124)EwingAE:Roentgenrayofthelacrimalabscesscavity.AmJOphthalmpl24:1,19095)LloydGAS,JonesBR,WelhamRAN:Intubationmacrodacryocystography.BrJOphthalmol56:600,19726)GallowayJE,KavieTA,RafloGT:Digitalsubtractionmacrodacryocystography:anewmethodoflacrimalsystemimaging.Ophtalmol91:956-962,19847)WangT,TooH,ZhangJetal:PrimarystudyonCTretrogradeintubationdacryocystography(CT-RIDC)anditsimpactfactors.ChinJOphthalmol50:766-771,20148)BusseH,Meyer-RuusenbergHW,KrollP:Canaliculodacryocyctotomy.Orbit4:69-72,19859)鈴木亨:涙小管閉塞症の顕微鏡下手術における術式選択.眼科手術24:231-236,201110)MozzoP,ProcacciC,TacconiAetal:AnewvolumetricCTmachinefordentalimagingbasedonthecone-beamtechnique:preliminaryresults.EurRadiol8:1558-1564,199811)小川洋:コーンビームCT活用法(耳鼻科領域での活用法).耳鼻咽喉科・頭頸部外科85:244-265,201312)WilhelmKE,RudorfH,GreschusSetal:Cone-beamcomputedtomography(CBCT)dacryocystographyforimagingofthenasolacrimalductsystem.KlinNeuroradial19:283-289,200913)TschoppM,BornsteinMM,SendiPetal:DacryocystographyusingconebeamCTinpatientswithlacrimaldrainagesystemobstruction.OphthalPlastReconstrSurg30:486-491,201414)LoubeleM,BogaertsR,VanDijckEetal:ComparisionbetweeneffectiveradiationdoseofCBCTandMSCTscannersfordentomaxillofacialapplication.EurJRadiol71:461-468,200915)PauwelsR,BeinsbergerJ,CollaretBetal:SEDENTEXCTprojectconsortium.effectivedoserangefordentalconebeamcomputedtomographyscanners.EurJRadiol81:267-271,201216)NariokaJ,MatsudaS,OhashiY:Inclinationofthesuperomedialorbitalriminrelationtothatofthenasolacrimaldrainagesystem.Ophthalsurg,laser&imaging39:167-170,200817)KakizakiH:AnatomyofthenasolacrimalDuct(NLD)andCanal.PrinciplesandPracticeofLacrimalSurgery(JavedAliMJ:ed).p23-26.Springer.NewDelhi,Heidelberg,NewYork,Dordrecht,London,201518)JanssenAG,MansourK,CastelijinsJAetal:Diameterofthebonylacrimalcanal:normalvaluesandvaluesrelatedtonasolacrimalductobstruction:assessmentwithCT.AmJNeuroradiol22:645-850,2001*ToruSuzuki:鈴木眼科クリニック〔別刷請求先〕鈴木亨:〒808-0102福岡県北九州市若松区東二島4丁目-7-1鈴木眼科クリニック0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(41)1673abab図1涙.造影右涙道の検査結果の1例で,異常はみられなかった.上涙点に造影剤注入のためのカテーテルを挿入し,造影剤を加圧注入しながら撮影した.この撮影方法はintubationdacryocystographyとよばれ,涙道の詳細構造を明らかにする方法として有用である.a:正面像で上下の涙小管が合流して涙.へ接合する様子が見える.涙.は細く見える.b:側面像では涙.が前後に幅広く写っており,涙道内視鏡検査におけるスリットサインと一致する.また,鼻涙管が後方へ傾斜している様子がわかる.(美濃市立美濃病院岩崎雄二先生のご厚意による)図2座位で撮影するコーンビームCT専用の椅子に患者を座らせ,椅子の位置を微調節することで狙った範囲を撮影する.椅子に座ることができない患者や,極端に身長の高い患者では撮影できないことがある.II鼻涙管チューブ留置を選択する際に注意すべきCT所見筆者の診療所(常勤医師1名,常勤スタッフ6名,そのほか非常勤)ではCBCT(3DAccuitomoF17,モリタ製作所)を設置しており,2015年6月から運用を始めた.5m視力検査を3m視力検査に変更して2m四方を稼ぎだし,CBCT検査室を作った.OCT(RTVue100,Optview社)の設置に必要な面積より,少し広い程度と考えてよい.放射線技師は必要なく,操作が簡単なので当院の職員は誰でも患者の位置合わせができるようになっている.患者の位置が決まれば医師が17秒間の撮影を行う.三次元のCT値データは専用サーバーに取り込まれ,診察室,手術室,および医局に設置した専用ソフトでそれを再構築して見たい切片を自由に見ることができるシステムである.これによって,骨鼻涙管の屈曲や傾斜が直接見えるので,鼻涙管閉塞のNLDIで仮道留置を避けられるかどうかが予想できるようになった.また,CBCT-DCGの画像がDCRの術前と術中にどこでも利用できるようになった.すべての涙道術前患者にCT検査が必要なわけではないが,CTはわれわれに涙道手術の術式選択に大変に参考となる情報を与えてくれる.本稿後半では,NLDIを選択する場合に注意すべきCT所見について述べる.1.DCRかNLDIか冒頭で述べたように,非炎症性の涙道閉塞・狭窄の治療はDCRとNLDIから選択される.筆者は涙道内視鏡所見のほか,必要に応じてCTの結果も考慮しながら治療選択を行って治療成績向上を狙っている.筆者の基本姿勢は,簡単にすむNLDIを優先しながらも,リスクを抱える症例は積極的にDCR適応とし,NLDIの低侵襲性と有効性,安全性を損なわないことである.そのためには,安易にNLDIが低侵襲と思い込むのではなく,鼻涙管にモノを差し込む操作が涙道にとっては侵襲の高い手技となるような解剖学的リスク要因の存在を知っておく必要がある.以下,CTで診断できる4つのリスク要因について述べる.鼻涙管鼻涙管ab図3白人種とアジア人種の顔面構造a:白人種(ドイツ系アメリカ人男性)の矢状断CBCT像.眼窩上縁が発達しているため,鼻涙管にはプローブを入れることが困難.したがってNLDIは侵襲が高いと考えられ,涙小管閉塞でも標準的にDCRが選択されることは合理的である.b:アジア人種(日本人女性)の矢状断CBCT像.顔が平面的なため,鼻涙管へプローブが無理なく挿入できる.低侵襲NLDIが可能であるので,鼻涙管閉塞でも涙.炎がなければNLDIが第一選択となり得る.1676あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(44)2.顔面の構造NLDIを施行する場合,顔面の骨構造が手術のしやすさに大きな影響をもつ.白人種では,前頭同が発達して眼窩上縁が“ひさし”のように突出している(図3a).この構造では,涙.まで差し込むプローブの角度と鼻涙管の傾斜角度が大きく違っており(anteriortype16)の極端な例),涙道内視鏡やチューブの誘導プローブが鼻涙管を進む際に涙道粘膜を傷害する.これは欧米で,鼻涙管に異常のない涙小管閉塞症においてさえも,鼻涙管内の手術操作を避けてDCRを優先する考え方の根拠と推察される.また,白人種でも,眼窩上縁が発達してくる前の小児期であれば,プローブ挿入角度と鼻涙管傾斜角度が近いため,プローブ挿入における鼻涙管粘膜障害のリスクは最小限と考えられる.そのため,白人種でも小児に対してはプロービングやNLDIの実績が多数あるのであろう.一方アジア人種は,成人でも眼窩上縁が発達していない(図3b).このため,白人種の幼児期と同様に涙点から鼻涙管へのアクセスが良好かつ安全であり,日本を含む東アジア諸国においてはNLDIの人気が高い.しかし,日本人でも,少数ではあるが白人型の顔面構造がみられることがある.筆者はその場合には,NLDIは避けてDCRを選択している.このほか,骨鼻涙管が途中でくの字型に後方屈曲する鼻涙管閉塞でも,NLDIでは仮道留置となる可能性が高いと判断してDCRを選択している.鼻涙管閉塞では,仮に涙道内視鏡を使用しても,いったんSEPやDEPで線維組織内に潜り込むとどの方向で仮道が避けられるのかは判断不可能である.内視鏡が組織内を進むうちに鼻涙管内に残存する開存部分に出合う場合は運が良い.しかし,しばしば仮道に潜り込んで広範型鼻涙管閉塞と誤診したり,骨鼻涙管の壁に行き当って「硬い閉塞」と感じたり,あるいは骨鼻涙管壁に沿って鼻腔に導かれたりする.線維組織内での内視鏡操作には限界があり,無理な治療で解剖学的リスクを負うとNLDIの低侵襲性と有効性を損なう.あらかじめ骨鼻涙管の走行を理解することで,そのリスクを避けることができる.涙小管閉塞では,涙.と鼻涙管にはまったく異常がないか限局性狭窄のみの症例(通常鼻涙管型涙小管(45)閉塞)の方が多い.涙道内視鏡検査でそれが確認できれば,骨鼻涙管の傾斜や屈曲にかかわらず仮道留置を避けることは簡単であるので,CT所見に関係なくNLDIを第一選択に考える.3.骨鼻涙管の太さ解剖研究では,骨鼻涙管の内径は部位によって均一ではないが,眼窩における入口部でおおむね6mm程度とされる17).多数のCTをみた臨床的な経験からは,日本人流涙患者の場合はおおむね4.5mm程度の印象である.稀にほぼ全長にわたって内径の極端に小さい骨鼻涙管をもつ症例があり,この場合はNLDIの適応から除外したほうが無難と考えている.萩野らは2014年の日本涙道・涙液学会総会において,内径2mmにも満たない骨鼻涙管の鼻涙管閉塞症でNLDIを試みたところ,症状が改善せず後日DCRを施行したと報告した(フォーサム2014東京,プログラム・講演抄録集p139).鼻涙管拡張治療が不成功であった患者群の骨鼻涙管径は,成功例の患者群のそれより小さかったとの報告もある18).骨鼻涙管の内径はNLDIの有効性を担保するよい指標になる可能性があるので,今後CBCTを用いた鼻涙管径の研究が進むことを期待している.4.涙.結石涙.炎の場合は,鼻涙管の開存性にかかわらず正しい治療法はDCRである.DCRであれば,涙.結石の有無は問題ではない.しかし,実際の臨床では,DCR紹介病院がない地域や,患者側の事情でNLDIに頼らざるを得ない場合がある.このとき,少なくとも涙.結石や異物(涙点プラグ,停留チューブ)を伴う涙.炎はNLDIの禁忌であり,これを除外する必要がある.チューブ挿入の際に涙.結石などを仮道に押し込めば,海外の論文で散見されるような術後の急性炎症を生じる可能性があり,NLDIの安全性を損なう.涙.結石の診断には涙道内視鏡検査が最適であるが,涙道内視鏡がない場合,やむを得ず涙.炎にNLDIを検討する際には必ずCT-DCGを施行すべきである(図4,5).涙.炎のない症例でも涙.結石は存在する.図6に示したように,筆者の最近約1年の術前涙道内視鏡検査のあたらしい眼科Vol.32,No.12,20151677abcabc図4右涙.結石症のCBCT.DCG矢状断(a),冠状断(b),エアーバブル(→),結石(→),水平断(c)のそれぞれで右涙.に結石による充盈欠損が見られる.造影剤はイオパミロン370の5倍希釈液を使用した.39%4%7%12%6%涙小管閉塞・狭窄涙小管炎涙道内の結石機能性流涙涙.腫瘍涙.不明その他鼻涙管の閉塞・狭窄1例のみN=227図6涙道内視鏡検査の結果対象から涙.炎症例は除外した.涙小管炎と合わせて,涙道内の結石を取り除く必要のある症例は11%存在した.涙.結石涙.壁26%6%図5涙.結石症の涙道内視鏡所見図4に示した症例の涙道内視鏡写真.内視鏡視野からはみ出す大きさの結石が見える.aab図7左総涙小管偏位のCBCT.DCG70歳,女性.3年前から左の流涙.涙洗では通水なく上下交通あり.膿の逆流なし.涙道内視鏡診断はディンプルのない総涙小管閉塞であったが,CBCT-DCGでは鼻涙管狭窄であった.a:前顎断.左の上下涙小管と涙.鼻涙管も造影されている.b:矢状断.涙.・鼻涙管は総涙小管よりも前方に造影されている.c:水平断の拡大.左の総涙小管が前方へ90°向きを変えて走行するのが見える.涙道内視鏡では正面しか見えないので,前方への屈曲はわからなかった.