特集●今,注目すべき眼感染症とその治療戦略あたらしい眼科33(11):1581?1585,2016サイトメガロウイルス角膜内皮炎の診断基準と治療指針DiagnosisandTreatmentofCytomegalovirusCornealEndotheliitis小泉範子*はじめに角膜内皮炎は角膜内皮細胞に特異的な炎症を生じる疾患であり,角膜内皮細胞が広範囲に障害されると水疱性角膜症となって重症の視力障害を生じる.単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)や水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zostervirus:VZV)がおもな原因とされてきたが,サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)による角膜内皮炎の存在が2006年に日本から初めて報告された1).抗ヘルペスウイルス薬が奏効しない難治な角膜内皮炎や,角膜移植を繰り返す原因不明の水疱性角膜症のなかに,少なからずCMV角膜内皮炎の症例が含まれることから,角膜浮腫・角膜内皮障害の鑑別疾患として念頭におくべき疾患である.本疾患は決して頻度の高い疾患ではないが,角膜専門医のみならず眼科臨床医であれば誰もが遭遇する可能性があり,まさに“今,注目すべき眼感染症”の一つである2~6).本稿では,CMV角膜内皮炎の臨床的特徴,診断基準と治療戦略について紹介する.I臨床的特徴角膜内皮炎では,限局性の角膜浮腫と角膜後面沈着物(keraticprecipitates:KPs)が認められるが,とくにCMV角膜内皮炎では円形に配列したKPsからなる衛星病巣(コインリージョン)や拒絶反応線に似た線状のKPsを伴うI型角膜内皮炎(大橋分類)7,8)を示すことが特徴である(図1).近年CMVは,眼圧上昇を伴う慢性・再発性の虹彩毛様体炎や,Posner-Schlossman症候群などの前眼部炎症性疾患の原因の一つとしても注目されている9).CMV角膜内皮炎においても虹彩毛様体炎や続発緑内障の合併率が高く,過去にPosner-Schlossman症候群と診断されていた症例も多く含まれることから,これらの疾患と角膜内皮炎の症例の一部は,CMVが関連した一連の病態の異なる病期をとらえている可能性がある8).II検査所見角膜内皮炎では病巣部からのウイルス分離は困難であり,前房水を用いたポリメラーゼ連鎖反応(polymerasechainreaction:PCR)によるウイルスDNA検査が行われる.ただし,PCRは感度が高く,病態とは無関係なウイルスが検出される場合もあるので,CMVが検出されただけでは原因ウイルスであるとは断定できない.ウイルスPCRの結果と臨床所見,抗ウイルス治療に対する反応などを総合的に判断してCMV角膜内皮炎と診断する.ヘルペス属ウイルスは成人の多くが既感染であるため,血清抗体価の上昇をもって原因ウイルスを特定することはできないが,抗体が陰性であれば原因ウイルスとして否定できるので診断の参考になる.近年,リアルタイムPCRによるウイルスDNAの定量も可能になっており,病態の解明や治療効果の判定に役立つと期待される10~12).CMV角膜内皮炎ではコンフォーカル顕微鏡によって角膜内皮細胞にCMV感染細胞で特徴的なOwl’seye(ふくろうの目)所見が認められることが報告されており,角膜内皮細胞へのCMVの直接感染を示唆する所見として注目されている13,14).IIICMV角膜内皮炎の診断基準2010~2012年度(平成22~24年度)の厚生労働省科学研究費の補助を受けて,特発性角膜内皮炎研究班によるCMV角膜内皮炎のレトロスペクティブスタディが行われ,診断基準が作成された6)(表1).CMV角膜内皮炎の診断は,前房水を用いたPCRによるウイルス検索と特徴的な臨床所見から行われる.本疾患に特徴的なコインリージョンや拒絶反応線様のKPsが認められ,かつ前房水を用いたPCRによってCMVDNAが陽性,HSVやVZVが陰性であった場合には,CMV角膜内皮炎の典型例と診断される.一方,遷延した症例やステロイド薬が投与されている症例では,コインリージョンなどの特徴的なKPsが認められないこともある.その場合には,CMV角膜内皮炎を強く疑わせる所見の組み合わせ,すなわち角膜内皮細胞密度の減少,再発性・慢性虹彩毛様体炎,眼圧上昇またはその既往のうちの2項目以上を満たした症例で,かつ前房水を用いたPCRでCMVが陽性,HSVやVZVが陰性を確認できれば,CMV角膜内皮の非典型例と診断される.IV角膜移植後の症例では拒絶反応との鑑別が必要CMV角膜内皮炎は角膜移植後眼にも発症し,移植片不全の原因となることが報告されている2,6).角膜移植後の症例においてKPsを伴う角膜浮腫を認めた場合には,内皮型拒絶反応との鑑別が必要となる.拒絶反応ではKPsが移植片内に限局するのに対して,角膜内皮炎では移植片のみならずホスト角膜側にも角膜浮腫やKPsが存在することが特徴であるが,周辺部に角膜混濁がある症例ではKPsの観察が困難な場合も多く,基本的に臨床所見のみでは鑑別は困難である.確定診断にはPCRによるウイルス検索が必要となるが,①ステロイド薬の強化や免疫抑制薬の投与など,拒絶反応に対する治療を1週間行っても改善が認められない,②角膜移植の原疾患が原因不明の水疱性角膜症である,③眼圧上昇を伴う,などに該当する症例ではCMV角膜内皮炎を積極的に疑って前房水採取を行うことが望ましい.VCMV角膜内皮炎の治療プロトコールCMV角膜内皮炎は,潜伏感染しているウイルスが角膜内皮や線維柱帯などの前眼部組織において再活性化することにより発症すると推測されている.進行すると不可逆性の角膜内皮機能不全となることから,抗ウイルス薬とステロイド薬による早期の治療開始が必要である.CMV角膜内皮炎にはガンシクロビルやバルガンシクロビルによる抗ウイルス治療が有用であることが報告されており,CMV網膜炎に準じた方法により抗サイトメガロウイルス薬の全身,および局所投与が行われる1~6).初期治療のプロトコールを表2に示す.抗CMV治療薬は保険適用外であるため,患者への十分なインフォームド・コンセントを行ったうえで倫理委員会の承認を得て行うことが必要である.ガンシクロビルやバルガンシクロビルの全身投与には骨髄抑制などの副作用があり長期の投与はできないため,初期治療における併用薬として,また維持療法としてガンシクロビルの点眼治療が行われる.ガンシクロビルの局所治療薬は市販されていないため,大学倫理委員会などの承認を得て自家調整した0.5%ガンシクロビル点眼液が使用されているのが現状である.VIガンシクロビル点眼はいつまで必要か?発症後早期に診断と治療が行われ,抗ウイルス治療に良好な反応を示す症例では,十分な角膜内皮細胞密度が維持され,良好な長期予後が得られることが多い.一方で,治療開始時にすでに角膜内皮障害が進行していた症例では,治療によって角膜浮腫が改善しても,長期的には水疱性角膜症となる場合がある.ガンシクロビル点眼をいつまで継続する必要があるかに関するエビデンスは確立されていないが,角膜内皮密度が1,000cells/mm2以下の症例や角膜移植後の症例では,CMV角膜内皮炎が再発すると水疱性角膜症や移植片不全となるリスクが高いため,ガンシクロビル点眼を1日2~4回で投与しながら経過観察を行うことが望ましい.自家調整薬の長期投与に関しては,薬剤の安定性や安全性が検証されていないことなどが懸念されており,一般的治療としての普及には至っていない.筆者らは自家調整薬に変わる治療法として,欧米で角膜ヘルペス治療薬として承認されている0.15%ガンシクロビルゲル製剤(VirganR)の有用性を報告しており15),将来的には日本でも認可されることが期待される.おわりに2006年の筆者らの報告以降,CMV角膜内皮炎という疾患が知られるようになり,これまで何度も角膜移植を繰り返されてきた原因不明の水疱性角膜症や,虹彩毛様体炎や続発緑内障を伴う謎の角膜浮腫の症例のなかに本疾患が少なからず存在することがわかってきた.本疾患に対する抗ウイルス薬治療の有用性に関するエビデンスは蓄積されつつあるものの,一般的治療法が確立されたとはいえない.一方で,病態や発症機序に関するウイルス学的な研究も進められており16,17),本疾患の病態が解明され,それに基づいた治療法が確立されることによって本疾患による角膜内皮障害を克服できる日が来ることが期待される.文献1)KoizumiN,YamasakiK,KawasakiSetal:Cytomegalovirusinaqueoushumorfromaneyewithcornealendotheliitis.AmJOphthalmol141:564-565,20062)SuzukiT,HaraY,UnoTetal:DNAofcytomegalovirusdetectedbyPCRinaqueousofpatientwithcornealendotheliitisfollowingpenetratingkeratoplasty.Cornea26:370-372,20073)YamauchiY,SuzukiJ,SakaiJetal:Acaseofhypertensivekeratouveitiswithendotheliitisassociatedwithcytomegalovirus.OculImmunolInflamm15:399-401,20074)CheeSP,BacsalK,JapAetal:Cornealendotheliitisassociatedwithevidenceofcytomegalovirusinfection.Ophthalmology114:798-803,20075)KoizumiN*,SuzukiT*,UnoTetal:Cytomegalovirusasanetiologicfactorincornealendotheliitis.Ophthalmology115:292-297,2008(co-firstauthors)6)KoizumiN,InatomiT,SuzukiTetal:Clinicalfeaturesandmanagementofcytomegaloviruscornealendotheliitis:analysisof106casesfromtheJapancornealendotheliitisstudy.BrJOphthalmol99:54-58,20157)大橋裕一,真野富也,本倉真代ほか:角膜内皮炎の臨床病型分類の試み.臨眼42:676-680,19888)SuzukiT,OhashiY:Cornealendotheliitis.SeminarsinOphthalmology23:235-240,20089)CheeSP,BacsalK,JapAetal:Clinicalfeaturesofcytomegalovirusanterioruveitisinimmunocompetentpatients.AmJOphthalmol145:834-840,200810)KandoriM,InoueT,TakamatsuFetal:Prevalenceandfeaturesofkeratitiswithquantitativepolymerasechainreactionpositiveforcytomegalovirus.Ophthalmology117:216-222,201011)MiyanagaM,SugitaS,ShimizuNetal:Asignificantassociationofviralloadswithcornealendothelialcelldamageincytomegalovirusanterioruveitis.BrJOphthalmol94:336-340,201012)KandoriM,MiyazakiD,YakuraKetal:Relationshipbetweenthenumberofcytomegalovirusinanteriorchamberandseverityofanteriorsegmentinflammation.JpnJOphthalmol57:497-502,201313)ShiraishiA,HaraY,TakahashiMetal:Demonstrationof“Owl’sEye”patternbyconfocalmicroscopyinpatientwithpresumedcytomegaloviruscornealendotheliitis.AmJOphthalmol114:715-717,200714)KobayashiA,YokogawaH,HigashideTetal:Clinicalsignificanceofowleyemorphologicfeaturesbyinvivolaserconfocalmicroscopyinpatientswithcytomegaloviruscornealendotheliitis.AmJOphthalmol153:445-453,201215)KoizumiN,MiyazakiD,InoueTetal:Theeffectoftopicalapplicationof0.15%ganciclovirgeloncytomegaloviruscornealendotheliitis.BrJOphthalmol2016May3.[Epubaheadofprint]16)HosogaiM,ShimaN,NakataniYetal:Analysisofhumancytomegalovirusreplicationinprimaryculturedhumancornealendothelialcells.BrJOphthalmol99:1583-1590,201517)OkaN,SuzukiT,InoueTetal:Polymorphismsincytomegalovirusgenotypeinimmunocompetentpatientswithcornealendotheliitisoriridocyclitis.JMedVirol87:1441-1445,2015図1典型的なI型角膜内皮炎の前眼部所見*NorikoKoizumi:同志社大学生命医科学部医工学科〔別刷請求先〕小泉範子:〒610-0321京田辺市多々羅都谷1-3同志社大学生命医科学部医工学科0910-1810/16/\100/頁/JCOPY表1サイトメガロウイルス角膜内皮炎診断基準(平成24年度特発性角膜内皮炎研究班)I.前房水PCR検査所見①cytomegalovirusDNAが陽性②herpessimplexvirusDNAおよびvaricella-zostervirusDNAが陰性II.臨床所見①小円形に配列する白色の角膜後面沈着物様病変(コインリージョン)あるいは拒絶反応線様の角膜後面沈着物を認めるもの②角膜後面沈着物を伴う角膜浮腫があり,かつ下記のうち2項目に該当するもの・角膜内皮細胞密度の減少・再発性・慢性虹彩毛様体炎・眼圧上昇もしくはその既往<診断基準>典型例Iおよび,II-①に該当するもの非典型例Iおよび,II-②に該当するもの<注釈>1.角膜移植術後の場合は拒絶反応との鑑別が必要であり,次のような症例ではサイトメガロウイルス角膜内皮炎が疑われる.①副腎皮質ステロイド薬あるいは免疫抑制薬による治療効果が乏しい.②host側にも角膜浮腫がある.2.治療に対する反応も参考所見となる.①ガンシクロビルあるいはバルガンシクロビルにより臨床所見の改善が認められる.②アシクロビル・バラシクロビルにより臨床所見の改善が認められない.1582あたらしい眼科Vol.33,No.11,2016(44)図2CMV角膜内皮炎a~d:コインリージョン(→)を伴うCMV角膜内皮炎の典型例.e~g:角膜移植後のCMV角膜内皮炎.ステロイド点眼を使用しているため角膜浮腫が目立たず,コインリージョン(→)のみを認める場合がある.h:CMV角膜内皮炎の非典型例.KPを伴う角膜浮腫,角膜内皮密度減少,続発緑内障を認め,前房水からCMVDNAが検出された.(文献6より許可を得て転載)(45)あたらしい眼科Vol.33,No.11,20161583表2CMV角膜内皮炎に対する初期治療の例(①~③を併用)①ガンシクロビル5mg/kgを1日2回点滴投与,2週間(保険適用外)あるいはバルガンシクロビル900mg,1日2回内服,4~12週間(保険適用外)②0.5%ガンシクロビル点眼液(自家調整)1日4~8回(保険適用外)③0.1%フルオロメトロン点眼1日4回図3CMV角膜内皮炎に対する0.15%ガンシクロビルゲル点眼治療a:コインリージョン(→)と角膜浮腫を伴うCMV角膜内皮炎に対して0.15%ガンシクロビルゲルによる局所治療を行った.b:4週間でコインリージョンと角膜浮腫が消失し,12週間の治療後に前房水中CMVの陰性化を確認した.(文献15より許可を得て転載)1584あたらしい眼科Vol.33,No.11,2016(46)(47)あたらしい眼科Vol.33,No.11,20161585