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成人の炎症性涙道疾患 慢性涙囊炎-涙嚢鼻腔吻合術 鼻外法

2015年12月31日 木曜日

成人の炎症性涙道疾患慢性涙.炎─涙.鼻腔吻合術鼻外法InflammatoryLacrimalDisordersinAdultsChronicDacryocystitis─ExternalDacryocystorhinostomy嘉鳥信忠*,**はじめに涙道の外科治療のもっとも基本ともいえる手技が,鼻外法である.その歴史も古く,1904年にTotiにより報告されて以来,100年以上経過しても未だ現役の手術法である.I手術適応鼻外法は,涙小管から涙.までの導涙機能が正常であれば,症例を問わず適応することができる.鼻内法ではややむずかしい,鼻中隔弯曲症を伴うような狭鼻腔などにも対応可能である.しかし,後述のように,篩骨蜂巣が涙.窩の鼻側に及んでいる場合は,鼻腔と蜂巣を誤認しやすく,手術プランニングの際には注意が必要である.II手術プランニング1.涙道内視鏡涙道閉塞している部位や状況を確認するために,涙道内視鏡検査は今や必須であろう.その結果,チューブ留置しても改善は見込まれないと判断される場合,もしくは留置したが後日再閉塞となってしまったなどの場合は手術適応となるわけだが,その閉塞部が出口付近(膜性鼻涙管部)のみである場合は,鼻内法が好適応となる場合もあるため,どの部分が原因となっているかを見きわめることが重要である.また,まれに腫瘍や涙石による閉塞,涙道そのものは問題なくても副鼻腔由来の腫瘍や.胞〈図1〉による外的圧排による閉塞症例も散見されるため,涙道内視鏡検査所見はきわめて重要である.2.画像検査CTやMRIによる画像検査は,可能であれば全例行うほうがよい.涙石,腫瘍や副鼻腔病変の病態鑑別診断に有用であることはいうまでもないが,篩骨蜂巣の張り出しが強い際には,涙.と鼻腔側に介在する篩骨蜂巣の処理(蜂巣を削除するのか,避けて骨窓を作製するのか)などを,あらかじめ検討しておくことができる(図1~4).ときに先天的疾患(顔面裂や口唇口蓋裂)などに合併して,鼻涙管の欠損や骨性閉塞を認める場合もあり,骨窓作製にかなり難渋する場合がある.3.麻酔選択全身麻酔・局所麻酔のいずれの方法でも可能であるが,はじめは全身麻酔で解剖や術式に慣れてから,局所麻酔を行うほうがスマートであろう.III手術1.鼻内処置はじめに鼻内に5,000倍エピネフリンガーゼ,もしくは同液に4%キシロカイン混合したガーゼ(コメガーゼ)を鼻内に充.する.これは止血や麻酔目的であるが,もNobutadaKatori:*聖隷浜松病院眼形成眼窩外科**大浜第一病院形成眼窩外科〔別刷請求先〕嘉鳥信忠:〒430-8558浜松市中区住吉2-12-12聖隷浜松病院眼形成眼窩外科0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(15)1647図1篩骨洞粘液.胞mucoceleによる涙道閉塞左:CT,右MRI.図2一般的なCT冠状断像図3鼻中隔肥厚・弯曲・狭鼻腔右鼻腔が狭く,鼻内法ではやや困難な症例.図4高位篩骨蜂巣高位まで篩骨蜂巣があり,粘膜弁作製困難が予測される.4.皮膚切開メスを持つ手の反対側の母指や示指,中指で切開線の両サイドに緊張をもたせるようにしながら,No15メスで真皮までの切開を終えると,皮膚の緊張感がなくなり眼輪筋があらわになる.このとき,止血操作を終えるまでは圧迫している指をそのままにしておくとよい.出血源の血管をバイポーラによって丁寧に凝固止血しておくと,以後の作業が楽になる.5.眼輪筋処理取りかかりは内眥靭帯の上から始めるとわかりやすい.先端が鈍となっているメイヨー剪刃を用いて,眼輪筋を線維に沿って開くようにすると,簡単に内眥靭帯まで達することができる.その層を延長するように下方に向かって眼輪筋を分ければ,難なく骨膜は露出する.眼輪筋の付着部などはずれにくい部分は,バイポーラを用いて焼灼すると,簡単に切離できる.この際,内眼角静脈に遭遇した場合は,鼻側に避けるようにすればよいが,損傷した場合は,バイポーラで確実に止血する.6.創展開中村氏式釣り針フック4.6本を用いて,眼輪筋を左右に展開すると,手を放しても内眥靭帯から鼻涙管直上骨膜まで展開できる.7.骨膜切開内眥靭帯下縁と鼻涙管直上まで,骨膜を前涙.稜に沿うように5mm離れた部位をNo15メスでおおよそ20mmI型切開する(図6).8.骨膜.離先端が鋭になっている骨膜.離子を用いて,できるだけ骨膜を損傷することなく.離し,涙.窩まで到達する.すると涙.窩から涙.に直接流入する小さな血管があるので,これも丁寧に凝固止血ののち切離しておく.涙.窩の底部を涙.全長にわたって前涙.稜まで展開しておくことがポイントである.なぜなら,大きく展開することによって,骨窓作製時にワーキングスペースを広げることになるからである(図7).(17)また,鼻側の骨膜も2.3mm.離展開しておくことも忘れてはいけない.この際,ちょうど骨膜切開線直下に骨溝を形成しながら存在する無名動脈に注目したい.後述の骨窓作製時には,この血管溝まで骨削するので,メルクマールとなるからである.9.骨窓の作製準備筆者は好んで超音波骨削器SONOPETRを用いているが,これを使用する場合,吸引嘴管と接触すると金属屑が出るため,吸引嘴管に合うサイズのネラトンチューブを適当な長さに切って装用し,これを防ぐようにする(図8).もちろん,本機がなくともドリルや,ノミやスタンチェ,ケリソンパンチなどでも十分可能である.ドリルは回転するため,周囲の組織やガーゼの巻き込みに注意し,ノミは一度に深く打ち込み過ぎると頭蓋底などに思わぬ副損傷をきたす可能性があるので留意する.10.骨窓の作製サイズは,上方は内眥靭帯下縁から,鼻側への奥行きは前涙.稜に沿って約5mm(前述の無名動脈まで),下方は鼻涙管入口部と同じ高さまでの約10mmが骨窓の全長となる.深さは涙.窩と同じ高さとなるが,涙.窩底部の骨も削ってしまっても問題ない.SONOPETRを使用する場合は,粘膜にほとんど影響しないため,できるだけ粘膜の表面についている薄く残った骨もきれいに除去できるが,ドリルなどその他の器具を用いる場合は,ある程度のところで鋭匙やスタンチェを用いて丁寧に骨をはずさないと,粘膜がボロボロになってしまうので注意を要する.11.粘膜弁の作製鼻外法の場合,粘膜弁を作製するか否かに関しては諸説ある.作製しても,しなくても結果に変わりはないいう報告1)や前弁だけでよいという報告2)がある一方で,最近,鼻内法において粘膜弁を作製する意義についても見直されている3).筆者は可能な限り粘膜弁を作製し吻合している.なお,縫合糸は,エチコン(ジョンソンアンドジョンソン社)のプロノバ7-0(非吸収糸)を用いている.使用理由は非吸収糸のモノフィラメントであることと,適度な強度をもった小ぶりな針であるため,狭い術野でも取り回しがよいためである.12.2弁法の作製(鼻腔側)まず,鼻腔粘膜側から切開を行う.No.11メスもしくは眼内手術用メスを用いて,涙?窩底部に沿って上方から下方へできるだけ長く大きくかつ一気に切開を行う(図9).鼻腔粘膜は3mmほどの厚みがあり(図10),あまりに薄い場合は篩骨洞粘膜かもしれないので注意する.次に切開した粘膜の上方および下方端を皮膚側に向かって垂直に切り上げる.できるだけ鼻骨の裏側までしっかり切開することで,弁の伸展性が増す.この操作によって,鼻骨側(皮膚側)に茎をもつ矩形の粘膜弁ができる.粘膜弁の先端を,愛護的に把持し挙上すると,はじめに充?したガーゼが確認できるので,この時点で鼻腔内からガーゼを抜去する.13.2弁法の作製(涙?側)次に涙?側の弁作製を行う.はじめに上涙小管よりブジーなどを挿入し,涙?壁をtentingしておくと切開しやすい(図11).涙?側の粘膜弁はその作製位置の自由度が高いので,鼻腔側の弁との距離を感じながら,相応の高さを設定したのち,No.11メスで小切開する.涙?壁が全層で切開されていることを確認したら,残りはスプリング剪刃で涙?を縦切していく.できるだけ大きく切開したほうが望ましい.次に上方と下方端をそれぞれ涙?窩底部に向かって垂直に切り下ろす.この操作によって,涙?後面に茎をもつ粘膜弁が完成する.14.後弁の縫合作製された涙?側粘膜弁(後弁)を鼻腔側粘膜切開部に縫合する.通常7-0ナイロン糸を用いているが,狭い術野のため,針ができるだけ小さいものが使いやすい.涙?粘膜,鼻腔粘膜の順で通糸し,針は一度鼻腔内に落とし込むくらい確実に貫通させてから,針を拾い上げると粘膜断裂を防ぐことができる.通常,上下端の2針程度縫合する(図12).15.チューブ留置涙小管や総涙小管にも閉塞があった場合など,同時にチューブ留置する際には,この時点で挿入留置する.直接目視できるので,留置は容易である.16.シリコーンスポンジ挿入固定吻合部のスペーサーとして,筆者は網膜?離修復術に用いられる505シリコーンスポンジを使用している(図13).この適応に関しても諸説あるが,前弁と後弁部分には粘膜は存在するが,上方と下方には骨が露出した状態になるため,筆者は肉芽や創傷治癒過程に生じる瘢痕収縮などによる吻合部狭窄を少しでも防ぐ目的で使用している(図14).挿入方法は吻合部から鼻内に向けて入れても,鼻腔から吻合部に引き出しても,どちらでもよい.挿入後,シリコーンスポンジの先端部と内眥靭帯下端を,7-0ナイロン糸を用いて脱落防止目的で固定しておく.わずかに掛ける程度でよく,術後1カ月に,鼻内から抜去する際に簡単に切れる程度の固定でよい.また,あまりにきつく固定すると,内総涙点にスポンジの先端部が当たり肉芽を形成する場合があるため,あくまでも吻合部の開存目的であることを忘れないでほしい.17.鼻軟膏ガーゼの充?前弁を縫合する前に鼻軟膏ガーゼを詰める.軟膏ガーゼは耳鼻科手術でよく用いられるもので,20mm×300mm程度のコメガーゼにゲンタシンR軟膏を塗布し,それを折りたたんだものを使用している.キチンを含んだベスキチンFRなどを用いてもよい.術後出血を最小限にするためには重要な工程であるので,鼻内および術野からよく観察して必要かつ十分な充?を行う.この際,前述のシリコーンスポンジやチューブの位置がずれていないかどうかをチェックする.この操作でもっとも大切なことは,詰めたガーゼの枚数を必ず記録することである.3日後にガーゼ抜去する際に枚数確認することはもちろん,不意に脱落した場合も枚数の確認は必ず行うようにする.18.前弁の縫合挙上した鼻腔粘膜弁と涙?切開部を縫合するのは,術野の深い後弁に比べれば容易である.通常7?0ナイロン糸で2?3針縫合する(図15).19.骨膜の縫合最後に,切開?離していた骨膜を,6?0ナイロン糸で3?5針縫合する.以上で,吻合部は完成する(図16).20.皮膚の縫合眼輪筋はそのまま寄せるだけで十分である.皮膚縫合は若年者や皮膚緊張の強いケースには真皮縫合をするが,元来しわの多い高齢者などのケースでは,そのまま縫合してもよい(図17).術後血腫および出血予防目的で圧迫ガーゼを貼付し,終了する.抜糸は1週間後に行う.IV術後処置術後3日目……鼻腔ガーゼ抜去術後1週間……皮膚縫合部抜糸術後1カ月……鼻内よりスポンジガーゼ抜去.このときより涙管通水検査などを行う.術後2カ月……チューブ抜去おわりに鼻外法は涙道手術の基本かつ第一選択にも最終選択にもなり得る手術である.鼻内法だけではわかりにくい解剖学的構造を理解できるのみならず,鼻内法の適応困難症例などにも対応できるため,とくに初心者はまず鼻外法をマスターするところからはじめるのがよい.文献1)TakahashiY:Externaldacryocystorhinostomywithorwithoutdoublemucosalflapanastomoses:comparisonofsurgicaloutcomes.JCraniofacSurg26:1290-1293,20152)DirimB:Comparisonofmodificationsinflapanastomosespatternsandskinincisiontypesforexternaldacryocystorhinostomy:Anterior-onlyflapanastomoseswithWskinincisionversusanteriorandposteriorflapanastomoseswithlinearskinincision.ScientificWorldJournal,20153)KansuL:Comparisonofsurgicaloutcomesofendonasaldacryocystorhinostomywithorwithoutmucosalflaps.AurisNasusLarynx36:555-559,2009参考文献1)佐々木次壽:涙?鼻腔吻合術鼻外法.眼科47:425-430,20052)鈴木亨:後天性涙道閉塞の診断と治療.あたらしい眼科24:579-585,2007図5鼻外法皮膚切開デザイン図6骨膜切開約20mmの弧状線.2本線は内眥靭帯の位置を示す.前涙.稜に沿って約20mmのI字切開.図7骨膜.離図8超音波骨削器SONOPETRで骨窓作製骨膜.離して涙.窩全体を露出する.金属屑飛散予防として吸引嘴管にネラトンチューブを装着している.図9鼻腔粘膜側の切開(骨窓のサイズは長さ10~15mm)図10挙上された鼻腔粘膜弁できるだけ骨窓いっぱいのサイズで,粘膜弁を作製する.約3mmほどの厚みを有する.図11涙.側粘膜の切開図12後弁(涙.側粘膜弁)を鼻腔粘膜側切開断端に縫合ブジー(⇔)を用いて涙.を内腔からtentingし,メスで切開.ナイロン糸が見える.図13シリコーンスポンジの挿入固定スペーサーとしてのシリコーンスポンジを内眥靭帯に軽く固定する.スポンジの上に鼻腔粘膜弁(前弁)が被っている.図15骨膜縫合の準備前弁(鼻腔粘膜弁)と涙.側切開断端を縫合後,前弁縫合したナイロン糸が見える.図142弁法術後1年(鼻内より),中央は内総涙点点線部分はそれぞれ前弁と後弁を示す.⇔は弁のない部分が拘縮していることを示す.粘膜弁の存在が再閉塞や狭窄予防になる.図16骨膜縫合下方の白い部分は内眥靭帯.図17術終了時

成人の炎症性涙道疾患 涙小管炎の診療

2015年12月31日 木曜日

成人の炎症性涙道疾患涙小管炎の診療InflammatoryLacrimalDisordersinAdultsLacrimalCanaliculits植田芳樹*佐々木次壽**はじめに涙道で生じるおもな感染には,涙.炎と涙小管炎がある.涙小管炎の診療でもっとも重要なことは,「疑うこと」である.診断がつけば治療により症状は劇的に改善する.I涙小管炎とは涙小管炎は比較的稀な涙道疾患である.起炎菌は放線菌Actinomycesなどの嫌気性菌であることが多いが,真菌や他の菌も原因となる1).また,涙点プラグ迷入による涙小管炎も報告されている2).通常は片眼性で,中年以降の女性に多く,左右,上下涙小管の差はないとされる.放線菌はグラム陽性の嫌気性菌であり,通常は口腔内常在菌として存在する.涙小管炎は,口腔内の放線菌が鼻腔経由で逆行性に,または唾液などから結膜経由で涙小管内に移行し生じると考えられている3,4).涙小管炎は菌石(菌塊,結石などの言い方もあるが,本稿では菌石で統一する)が存在する症例がほとんどである(図1).菌石は放線菌が構成成分の主体であり,周囲の共生細菌を取り込んで塊となる.そこにカルシウムが沈着し固くなったものもある4).菌石の量はさまざまであるが,想像以上に多くの菌石が拡張した涙小管内に存在することがある.また,多くの場合,涙小管内には肉芽を認め,憩室が存在する(図2).肉芽は慢性炎症によるもの,憩室は菌石が大きくな図1菌石色は淡緑色や淡黄色など症例により異なる.菌石肉芽図2涙小管のシェーマ涙小管内径が5mm程度まで拡張し,さらに憩室内に菌石がはまり込むように存在することがある.り涙小管内壁に潰瘍が生じたものと考えられている4,5).*YoshikiUeta:真生会富山病院アイセンター**TsugihisaSasaki:佐々木眼科〔別刷請求先〕植田芳樹:〒939-0243富山県射水市下若89-10真生会富山病院アイセンター0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(11)1643 II診断涙小管炎の患者は多くの場合,片眼性の流涙,眼脂および充血を主訴に受診する.そのため,初診時に結膜炎と診断され,抗菌薬の点眼で治療されることが多い.点眼で症状は軽度に改善するが治癒しないので,慢性結膜炎として何年も加療されている例もある.抗菌薬の点眼で治らない結膜炎では,涙小管炎を疑うことが重要である.涙点プラグ挿入の既往も問診しておく.診察のポイントは,マクロと細隙灯顕微鏡による結膜・涙点の観察および涙管通水検査(以下通水検査)である.その所見は,瞼結膜の全体的な発赤,充血,小型の乳頭増殖および膿性の眼脂であり(図3),涙点は充図3右上下涙小管炎噴火口様の涙点,膿性眼脂,結膜全体の発赤腫脹を認める.図5涙点よりの肉芽血,拡大,隆起(噴火口様と表現される)し(図4),涙点から肉芽が出ていることもある(図5).涙小管部を圧迫すると,小さい菌石が出てくることもある.霰粒腫の涙小管穿破も同部の眼瞼腫脹を示すが,通水検査と結膜所見で鑑別可能である.上記所見があれば通水検査を施行する.通水検査では多くの例で疎通性と膿や小菌石の逆流を示す.涙小管が拡張しているので,涙管洗浄針を入れると手応えのなさや菌石に針の先端が当たるざらざらした感触を得ることがある.菌石が逆流物として排出される場合があり,涙小管炎と診断できる.疎通性がなく膿性逆流を伴う場合は,むしろ慢性涙.炎を疑う.また,涙小管内の肉芽は易出血性であり,通水検査中の出血も涙小管炎を疑わせる.正常症例で通水検査中に出血を生じることはない.点眼麻酔下の通水検査は上手に行えばほぼ無痛であるが,涙小管炎患者は痛みを訴えることが多い.ab図4右下涙小管炎(a),左上涙小管炎(b)軽症例では涙点近傍だけの発赤,腫脹と涙小管部圧迫での膿逆流を認める.1644あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(12) 図6涙小管鼻側切開図7菌石の圧出涙点拡張針か太いブジーをまな板代わりにして涙小管を切ソープ氏鑷子や綿棒などで涙小管をやさしく絞るように菌開する.石を圧出させる.図8涙小管内腔の確認図9菌石のグラム染色MQARを涙小管内に入れ,血液を吸引しながら菌石を探す.グラム+の糸状の菌体をもつ.Bar:20μm. と挟むようにして涙.側から涙点へと圧出する(図7).鋭匙で掻爬する場合は,涙点に近いほうから菌石を取り出し,菌石を奥に押し入れないようにする.涙小管炎では内腔が拡張しており,菌石の量は予想以上に多いことがあり,大きさもさまざまである.菌石は涙小管垂直部から7mm以内の涙小管水平部に存在しうるので,手の向きで取り残しがないよう注意する.掻爬をやめる目安は,菌石が出なくなり掻爬時のごりごりした手応えがなくなること,涙管洗浄により菌石の逆流を認めなくなることである.涙小管内腔には肉芽組織があり,鋭匙による過剰な掻爬は癒着を生じさせる場合がある.また,肉芽は掻爬により容易に出血するため,強く擦りすぎないよう注意する.涙点から脱出した肉芽は根本で切除するが,涙小管内の肉芽組織は無理に除去する必要はなく,炎症が治まればやがて消退する.最後に菌石の取り残しがないかを確認する.涙小管切開をしている場合は,顕微鏡で涙小管垂直部から水平部までの内腔を観察する(図8).水平部を可及的に観察するには患者の顔を健側に傾け,顕微鏡を反対側に傾け耳側より観察すれば涙点より約7mmまで観察できる.切開した涙小管を鑷子やMQARなどで展開するとよい.小切開で行う場合は,涙道内視鏡で確認するが,憩室内の確認は困難なことおよび涙道内視鏡でも観察の限界がある.菌石が視認される場合や通水検査で菌石の逆流が少しでもあれば,掻爬を追加する.涙点に異常がみられなくても菌石が存在する場合があるので,涙道内視鏡を用いる場合は,対側(上涙小管炎なら下涙小管)涙小管も観察しておくのが望ましい.切開した涙小管の縫合は不要である.止血を確認して終了する.チューブ留置は意見が分かれるが,通常は必要ない.総涙小管閉塞などの涙道閉塞合併例や上下の涙小管炎の場合にはチューブ留置を行い,1.2カ月後に抜去する.必須ではないが,起炎菌の同定のためには菌石の培養と病理検査を行う.放線菌は嫌気性菌であり,菌石を採取後速やかに嫌気ポーターに入れ嫌気培養を約1カ月行うが,検出率は必ずしも高くない.菌体の検出率がもっ1646あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015とも高いのは菌石のグラム染色と病理検査であり,必ずしも診断に培養を要しないとされる6,7).菌石をスライドガラス上でつぶしてグラム染色を行い,グラム陽性の糸状の菌体(図9)が観察されれば放線菌によるものと診断してよいと考えられる7).ただし同じ嫌気性菌であるPropionibacteriumpropionicusやPropionibacteriumacnesも同様のグラム陽性桿菌の形態を示す.注意深く行っても歯石が残存することはありえるため,残存・再手術の可能性は術前に説明をしておく.IV術後管理術翌日には,眼脂の症状はほぼ消失する.術後点眼は抗菌薬と0.1%フルオロメトロンの点眼を1週間行う.抗菌薬の内服は行わない.点眼中止1週間後に眼脂や涙小管部の圧迫で膿逆流がある場合には,菌石の残存を考える.菌石を取り残した場合でも,症状は劇的に改善し,患者の信頼を損ねることはないため再手術にも応じてもらいやすい.おわりに涙小管炎は診断がつけば治療はむずかしくない.片眼性の眼脂,充血をみたら涙小管炎を鑑別にあげ涙点を観察すること,菌石を完全に除去することが重要である.文献1)久保勝文:涙小管炎病因精査での涙小管結石の病理検査の有用性.眼科手術21:399-402,20082)RumeltS:Siliconepunctalplugmigrationresultingindacryocystitisandcanaliculitis,Cornea16:377-379,19973)PineL:Mycoticfloraofthelacrimalduct,AmJOphthalmol52:619-625,19614)水戸毅:憩室を形成した涙小管放線菌症の1例.眼紀56:349-354,20055)岩崎雄二:涙道内視鏡所見による涙小管炎の結石形成と治療の考察.眼科手術24:367-371,20116)亀山和子:放線菌による涙小管炎の20例.臨眼78:826831,19847)VeirsEA:Thelacrimalsystem.Canaliculus.In:WilsonLA(ed):ExternalDiseaseoftheEye.134-138,Harper&Row,Hagerstown.1979(14)

小児涙道疾患の外科的治療

2015年12月31日 木曜日

小児涙道疾患の外科的治療SurgicalTreatmentforPediatricLacrimalDuctDisorders松村望*はじめに小児涙道疾患でもっとも多い疾患は先天鼻涙管閉塞(図1)である.先天鼻涙管閉塞は自然治癒率が高く,治療の時期と方法に関しては議論がある.また,小児涙道疾患には,先天鼻涙管閉塞以外の疾患や複数の病態の合併も少なくない.おもな小児の涙道疾患とその治療について,新しい知見を交えて述べる.I小児涙道疾患の診断小児涙道疾患の診断にはまず問診と視診が最重要で,続いて色素残留試験(蛍光色素消失試験)(用語解説参照,図2)と細隙灯顕微鏡検査を行う.問診は発症時期,流行性角結膜炎の既往歴,家族歴などが重要である.視診は眼脂やメニスカスの高さ,涙.皮膚瘻,眼瞼炎などの局所所見に加え,発育,顔面奇形や遺伝性疾患の有無,眼位や眼球の大きさ,屈折異常などに注意する.涙管通水検査(後述)は涙道閉塞の診断に有用であるが,侵襲的な検査であり,プロービングを行わない場合は必ずしも行う必要はない.II小児涙道疾患の治療1.先天鼻涙管閉塞a.自然治癒と治療の時期先天鼻涙管閉塞は,鼻涙管開口部が先天的に下鼻道に開放していないものである(図1).生後まもなくから流涙と眼脂がみられ,抗生物質の点眼を使用すると眼脂は鼻涙管下涙小管上涙小管総涙小管内総涙点涙.図1先天鼻涙管閉塞閉塞部位(.)は鼻涙管下端の開口部である.図2先天鼻涙管閉塞(右)の色素残留試験フローレス色素を両眼に点眼して15分後.右眼のみフローレス色素が眼表面に残留している.*NozomiMatsumura:神奈川県立こども医療センター眼科〔別刷請求先〕松村望:〒232-8555横浜市南区六ッ川2-138-4神奈川県立こども医療センター眼科0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(3)1635 図3プロービングa:代表的な器具.左から涙管洗浄1段針(曲),2段針(曲),バンガーター針,涙点拡張針,ボーマン氏ブジー,三宅式ブジー,涙道内視鏡(先端径0.9mm,1万画素,プローブサンプル),涙道内視鏡(先端径0.7mm,3,000画素)b:ブジーによるプロービング(催眠鎮静下).看護師2名が覚醒時に備えて頭部を抑えている.体幹部はバスタオルで巻き,抑制帯で固定している.減るがやめると増える,などの症状を繰り返す.Youngらの大規模前向き研究では,新生児の6.20%にみられ,96%が1歳までに自然治癒したと報告されている1).この研究結果が国内外で1歳まで治療を待つ方針の根拠のひとつとなっているが,一部の重症例(新生児急性涙.炎や高度な眼瞼炎の合併など)はこの研究から除外されている.つまり,すべての症例で1歳まで待つことが推奨されているわけではなく,症例ごとに重症度を見きわめて治療時期を検討することが大切である.また,PediatricEyeDiseaseInvestigatorGroupは,先天鼻涙管閉塞に対する局所麻酔下での早期プロービング(生後6.9カ月)と半年待機してからの全身麻酔下での晩期プロービングをランダム化比較試験により比較し,治療成績に有意差がないことを示した2).このことから,1歳まで待っても治療成績は低下しないと考えてよい.ただし1歳以降は全身麻酔が必要になる.局所麻酔下での治療は,体動制御のむずかしさや精神発達に与える影響(虐待とみなされる可能性)を考慮すると,原則として1歳未満に限られるべきであろう.治療の時期は麻酔方法もあわせて考慮する必要があり,そのほか,保護者の希望も踏まえて個別に選択すべきである.a筆者の施設では,局所麻酔下での治療や早期(1歳未満)プロービングを希望する場合は,生後6.12カ月頃に催眠鎮静下でブジーを行っている.待機的な治療を希望する場合は,2歳頃に全身麻酔下で涙道内視鏡を用いて治療を行っている.また,経過観察を行うにあたっては,自然治癒しなかった場合の治療方針を麻酔方法も含めてあらかじめ保護者に説明しておくべきである.b.涙管洗浄とブジー初回の外科的治療は,プロービング(閉塞部位の穿破)が標準治療である3).使用される器具には種類があるが(図3a),ここではブジーによるプロービングのポイントを述べる.①術前の準備合併症として,稀ではあるが敗血症などの術後感染症が報告されている4).直前に予防接種をしない,当日に体温測定を行う,心疾患の既往を確認するなど体調を管理し,感染症の予防に努める.手術の際は顔面と体両方の制御が重要であるが,頭部は強く抑えすぎないよう注意する(図3).下顎をしっかりと抑えることがコツである.b1636あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(4) 図4プロービング不成功の例①内総涙点の隆起を損傷.②内総涙点のやや固い隆起を対側涙.壁と誤認し,涙.に入る前にブジーを立ててしまう.③対側の涙.壁から粘膜下に誤挿入.④涙.から鼻涙管の屈曲部で耳側,鼻側,腹側,背側などに誤挿入.⑤鼻涙管下端で穿破の方向性の誤り. ab図5先天鼻涙管閉塞の涙道造影a:側面像(写真左が腹側)①涙.の走行.②鼻涙管の走行.①に対して②は,腹側に傾いている(写真の角度は16°).この角度は背側に大きく傾いている症例もあり,個体差が大きい.①の角度のまま直針プローブを進めると鼻涙管背側壁に突き当たり(),②の赤のラインに方向を変える必要がある.②のラインを頭側に延長すると涙.からはずれ,前額部に当たり(破線),この角度では挿入できないことがわかる.涙.から鼻涙管下端を1本の直線に収めることはできず,直針プローブではプロービング困難な症例.b:正面像(右)①涙.の走行.②鼻涙管の走行.①に対して②は鼻側に傾いている(写真の角度は27°). abcd1d2e1e2f図6涙道内視鏡a:涙道内視鏡プローブの例(ベントタイプ).b:小児の涙道内視鏡手術(全身麻酔).c~f:涙道内視鏡画像.c:小児の正常なスリット状の鼻涙管開口部.d:先天鼻涙管閉塞の閉塞部位.d.1:穿破前.涙道粘膜が涙道内腔から連続して膜状に鼻涙管開口部を覆っている.閉塞部はやや暗く見える.d.2:穿破後.d.1の膜状閉鎖を丁寧に切り開くように処理すると,本来のスリット状の開口部があらわれる.e:先天鼻涙管閉塞の閉塞部位.e.1:穿破前.鼻涙管開口部はスリット状に形成されているが,開口不全の状態で白色の薄い線維性の膜状物によって覆われている.e.2:穿破中.閉塞部を押すと,はがれるように開口部が開く.f:先天鼻涙管閉塞の小児(2歳)の鼻涙管内にみられた淡黄色の涙石.表1神奈川県立こども医療センター眼科における涙道内視鏡手術の治療成績疾患群症例数/眼数平均月齢治療成績(%)※チューブ使用(%)治癒軽快不変先天涙道閉塞25例29側26.7±10.129(100)0(0)0(0)26(90)後天涙道閉塞7例7側72.0±31.27(100)0(0)0(0)7(100)先天奇形症候群,顔面異常14例23側106.1±71.510(44)8(35)5(22)19(83)合計46例59側57.8±55.046(78)8(14)5(9)52(88)※治癒:症状なし,軽快:症状軽度あり(涙.炎なし),不変:症状あり.表2涙道内視鏡による小児涙道疾患の閉塞部位疾患群症例数/眼数部分的な閉塞(眼数)(重複あり)広範な閉塞涙点・涙小管内総涙点涙.鼻涙管移行部鼻涙管下端先天涙道閉塞25例29側400270後天涙道閉塞(流行性角結膜炎後)5例5側02300後天涙道閉塞(その他,原因不明)2例2側00020先天奇形症候群・顔面異常14例23側158034(7)あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151639 abdc1c2abdc1c2図7涙管チューブa:涙管チューブの例(LacrifastRショートタイプ,カネカ).盲目的に挿入する場合は付属ブジーを曲げて使用する(写真上,青ハンドル).涙道内視鏡とシースを用いてSGI,G-SGIなどの手技で挿入する場合は,曲げずにそのまま使用する(写真下,白ハンドル).b:涙管チューブ(.)が挿入されている状態.c:涙道内視鏡による鼻涙管内の涙管チューブ確認.c.1:正しく挿入されている涙管チューブ(t).*は涙道粘膜.c.2:涙管チューブによって形成された粘膜ブリッジ().チューブ(t)が涙道粘膜をひっかけており,チューブ内に出血がみられる.d:涙管チューブの抜去.鑷子などで容易に抜去できる.道の閉塞部位を表2に示す.涙道内視鏡を用いることで,閉塞部位を可視下に診断し,正確に治療することが可能となった.涙管チューブ(図7)を挿入する場合は,涙道内視鏡を使用すると正確に挿入できる.盲目的操作での挿入も可能であるが,粘膜ブリッジなどの涙道粘膜の損傷(図7c.2)や,粘膜外への誤挿入をしばしば起こす.小児は内総涙点や鼻涙管開口部が狭い症例が多く,盲目的操作で全例に正しく挿入することは困難であり,SGI,G-SGIなどのシースを使用した挿入方法が必要になる.小児は外来で涙道内視鏡による涙管チューブの確認や修正を行うことがむずかしいため,可能であれば術中にチューブが正しく挿入されているか確認することが望ましい(図7c).チューブは数週間.数カ月(筆者の施設では約1カ月)後に抜去する.抜去は,小児の場合はチューブを涙点側から鑷子で把持して引き抜くと容易に抜去できる(図7d).涙管チューブの必要性や挿入期間については今後の検討が必要である.涙道内視鏡を使用した先天鼻涙管閉塞開放術と涙管チューブ挿入術は大変有用な治療法であるが,手技に習熟する必要があり,初心者が小児に対して安易に行うべきではない.d.涙.鼻腔吻合術(DCR)涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)は鼻涙管閉塞の基本手術である.プロービングや涙管チューブ挿入で治療困難な症例,鼻涙管の骨性閉塞などが適応となる.骨切除を行い,涙道と鼻腔との間にバイパスを作る.皮膚切開を行うDCR鼻外法と行わないDCR鼻内法がある.DCR鼻内法は,骨切除量が少なく皮膚1640あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(8)ab図8先天涙.ヘルニアa:内眼角内下方に暗青色の隆起がみられる(.).b:先天涙.ヘルニアのMRI冠状断(T2強調画像).鼻涙管尾側端は鼻腔内に大きく拡張して膜状に閉鎖している(.).■用語解説■色素残留試験(蛍光色素消失試験):生理食塩水で濡らしたフルオレセイン試験紙を結膜.に接触後,こすらないように指示して5.15分程度放置し,眼表面の残留状態を診る方法(図2).簡便で,非侵襲的で,感度が90%以上と高く,導涙性流涙のスクリーニングに適している.

序説:涙道疾患の外科的治療 2015

2015年12月31日 木曜日

涙道疾患の外科的治療2015ReconstructiveSurgeriesforLacrimalPassageDisordersin2015鈴木亨*荒木美治**大橋裕一***涙道再建外科の治療目的には涙小管炎と涙.炎の治療に加え,流涙症状の改善がある,2つの問題は切り離すことはできないが,おおむね炎症性(感染性)疾患治療と非炎症性疾患治療に分けることができる.治療においてはそれぞれにふさわしい考え方がある.また,小児では再燃治癒も考慮して治療方針を決める必要がある.その点を明確にして最近の手術のアップデートを図りたい.感染の治療では減菌が目標となる.涙小管炎を外科的(涙小管内の菌石掻破)に治すことは広く受け入れられており,問題点は診断をいかに行うかである.とくに涙.炎治療目的で紹介されてくる患者のなかには一定割合の涙小管炎が含まれており,涙道内視鏡による鑑別診断は重要であろう.基本的な治療について植田芳樹先生,佐々木次壽先生に解説していただいた.涙.炎については,正しい治療法は涙.鼻腔吻合術(DCR)である.DCRでは,涙.炎における眼表面の減菌化のエビデンスが確立されている1).これに対して鼻涙管チューブ留置治療では滅菌のエビデンスが未確立であるので,涙.炎に鼻涙管チューブ留置治療を適用することはエビデンスのない実験をするに等しい.まずはDCRの基本手技である鼻外からのアプローチ(鼻外法)について学ぶことが涙.炎治療の第一歩である.解剖の理解という面からも,これがすべての涙道手術の基礎となる.ここは嘉鳥信忠先生に解説していただいた.若い術者は,まず迷うことなくこれらの2つの論文を何回も読んで,涙道再建外科の基本を頭に刷り込んで欲しい.また,世界のDCRの流れでは,2000年を過ぎてからは鼻内からアプローチするDCR(鼻内法)への関心が集中しており,今回ここでも取り上げた.日本でも最近になってかなり上手い術者が出てきたが,日本の眼科ではmarsupializationの勉強が海外に比して約10年遅れており,鼻内法は現在は国内トップの術者たちが汗をかいている宿題分野といえる.この手術は技術のみならず理屈もむずかしく,まずは鼻外法での解剖の理解がなければ立ち入ることはできない.実際にマンツーマン指導のもとに習得しなければならないような,道具に応じた内視鏡の使い方もある.紙面で具体的な手技解説を行うのはナンセンスである.したがって,今回は症例選択や手術の考え方に焦点を置いて,鶴丸修士先生と筆者(鈴木亨)が解説した.世界のDCRにはもう一つの流れがある.1990年代に始まった,経涙小管的にレーザープローブを涙.に誘導して行うレーザーDCRがそれである.*ToruSuzuki:鈴木眼科クリニック**BijiAraki:愛生会山科病院眼科***YuichiOhashi:愛媛大学大学院感覚機能医学講座視覚機能外科学分野(眼科学)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(1)1633 1634あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(2)これは,涙.と鼻腔を吻合するという点で,2005年に佐々木次壽先生が独自に発表したレーザー手術inferiormeataldacryorhinotomy(スペルがDCRと異なるのは脱字ではない,日本では下鼻道法とよばれている)とは異なる.日本でも,最近になってレーザーDCRの勉強が始まり,その成果を示す術者が現れ始めたので,今回,佐々木次壽先生の手術と同時に紹介した.宮久保純子先生に解説いただいた.これでようやく,日本のDCRは世界の同僚たちと同じ土俵に立つことができたといえる.感染のない非炎症性涙道閉塞の治療では,流涙症状の改善が目標となる.本来,涙洗で排膿がない涙道閉塞であれば,眼表面の衛生状態は生理的なものと変わらない2).また,涙液で眼球の健康が害されることもない.この点で炎症性涙道疾患と決定的に異なっており,治療は患者の希望次第でよい.ただし,いったん涙道治療を行うと判断すれば,治療の選択は考えねばならない.低侵襲優先でまずチューブを入れてみることが一般的であるが,その治療においてリスクを抱える患者は,あらかじめ検査で除外しておくことが大切である.涙道内視鏡検査がもっとも適当ではあるが,すべての施設でこれを使用できるとは限らず,その場合には画像検査が有用である.これについて筆者(鈴木亨)が解説した.チューブ治療そのものについては三村真士先生に解説をお願いした.三村先生の論文はチューブ治療の限界を明らかにしてくれており,これまで涙道内視鏡を信じすぎて殻に閉じこもってしまった日本の涙道手術の新たな出発点となりそうである.日本製涙道内視鏡が本当に優れる点は,診断面である.治療面では日本製チューブを正しく入れられるという以上には利点がないので,涙道内視鏡手術の開祖KHEmmerichの後塵を拝する.診断面の強さは,どの症例でもとりあえず鼻涙管の入口までは必ず見せてくれるという性能で保障されており,Emmerichに負けない.この性能は機能性流涙症や小児涙道疾患において力を発揮する.それぞれ藤本雅大先生,松村望先生に解説していただいた.日本では,1993年のヌンチャクチューブ発表と2002年の涙道内視鏡認可の後,10年以上もチューブを正しく鼻涙管に入れる技術の発展に力を尽くしてきた.しかし,いくら正しく入れてもその治療効果の限界は当然みえてきているし,またその間に他国ではDCRの洗練や日本とは別の涙道内視鏡手術の発展があり,ある意味で,日本はこのままガラパゴス化するかどうか瀬戸際である.この特集が,これを打開する方向で若い術者たちを印象付け,そしてひとりでも多くの涙道閉塞患者が治るようになることを願っている.文献1)OwjiN,KhaliliMR:NormalizationofconjunctivalFloraafterdacryocystorhinostomy.OphthalPlastReconstrSurg25:136-138,20092)HartikainenJ,LethonenOP,SaariKM:Bacteriologyoflacrimaductobstructioninadults.BrJOphthalmol81:37-40,1997

手持式フリッカー網膜電位計レチバル(RETevalTM)の 使用経験

2015年11月30日 月曜日

き,測定が5分以内と短時間でできるため,暗室や閉所で長時間安静にすることが困難な場合や,移乗不可能な症例にも検査可能である.レチバルは患者のみならず,測定者の負担も少なく,臨床において有用である.わが国では,本機を用いて得られた測定結果や評価データは多くない2).また,測定条件や測定の留意点,臨床で多く使用される角膜電極ERGと同等の評価ができるかなど,まだ不明な点がある.そこで,筆者らはさまざまな網膜疾患に対してのレチバルの使用経験を報告する.I対象および方法対象は,2014年1月.3月に産業医科大学病院眼科を受診した11例22眼(6.81歳)で,網膜静脈閉塞症2例,家族性滲出性硝子体網膜症(familialexudativevitreoretinopa-thy:FEVR)2例,糖尿病網膜症2例,真菌性眼内炎,網膜前膜,網膜色素変性症,錐体ジストロフィ,朝顔症候群,網膜分離症,屈折異常弱視が各1例であった(表1).今回は,実用性を評価するために,7例は無散瞳下で4例は散瞳後に測定した.レチバル(ver1.1.10)を使用し,プラス,マイナス,グランドが一体の単回使用の皮膚電極を両下眼瞼に貼り付け,本体と接続し刺激光を患者に固視させて行った.今回は,無散瞳で記録するモード,つまり瞳孔面積を測定しながら一定の刺激を眼内に照射し記録するモードで測定した.刺激光は8Td・sの光強度で,刺激周波数約28.3Hzのフリッカー刺激で測定した.測定は,通常の明るさの視力検査室にて,全例座位で行った.日本人の正常値はまだ確立されていないが,LKC社提供データでは,アメリカ人の正常者の正常範囲は潜時29.9.36.5msec,振幅6.2.21.8μVで,平均値は潜時33.18msec,振幅13.6μVであった.そこで,今回は潜時を37msec以上の延長を異常値とし(福尾ほか,第20回日本糖尿病眼科学会総会,2015),振幅は4μV以下を異常値とした.また,典型的で,錐体異常を示すと思われる症例で,成人と若年者を1例ずつ選び,レチバルの測定値とLE-1000,LE-3000(TOMEY,愛知)の測定値を比較した.2症例ともトロピカミド・フェニレフリン(ミドリンPR)で散瞳し,仰臥位にて,明順応を10分行った後に測定した.刺激強度10cd・s/m2,背景光輝度25cd/m2,刺激頻度30Hz,加算回数30回で測定した.測定はシールドルームにて行った.II代.表.症.例両眼若年性網膜分離症,9歳,男児(症例8).2007年5月,外斜視精査目的で近医受診.両網膜に皺襞を認め,同年8月に全身麻酔下で眼底検査施行.両眼に黄斑部を含んだ網膜皺襞,下方に白線化血管,硝子体変性,網膜表1各症例の疾患名と矯正視力とレチバルの潜時・振幅症例年齢(歳)性別疾患矯正視力レチバル潜時msレチバル振幅μV散瞳右左右左右左160男性右眼)網膜中心静脈閉塞症0.61.535.5341.55.7有281女性両眼)糖尿病網膜症右眼)網膜静脈分枝閉塞症左眼)網膜中心静脈閉塞症0.5p0.8p37.9計不1.40.22有354男性両眼)真菌性眼内炎右眼)網膜前膜0.71.53833.31.16.3有472男性両眼)網膜色素変性症0.90.8p計不計不0.070.2有56女性両眼)屈折異常弱視0.5p0.630.931.17.38.4無623男性両眼)朝顔症候群左眼)網膜.離1.20.0432計不4.10.14無771男性両眼)糖尿病網膜症0.30.437.937.64.62.8無89男性両眼)網膜分離症0.150.242.5391.92.6無920男性両眼)錐体ジストロフィ1.51.532.533.40.443.9無1033女性右眼)家族性滲出性硝子体網膜症1.21.538.135.98.113.5無1120女性両眼)家族性滲出性硝子体網膜症0.90.1540.640.42.52.7無平均33.2625.883.04.2計不:著しく振幅が減弱しており数値化できず,フラットの状態.計測不能と機械に表記された.下線:異常値(111)あたらしい眼科Vol.32,No.11,201516233振幅(μV)210振幅(μV)210-1-2-3-4020406080100120020406080100120時間(ms)時間(ms)波形基本周波数波形基本周波数右眼:潜時42.5msec,振幅1.9μV左眼:潜時39.0msec,振幅2.6μV図1症例8のLE.1000で記録したフリッカーERG(上)とレチバルで記録したフリッカーERG(下)LE-1000では両眼の潜時が延長,振幅の減弱がみられた.レチバルでも両眼の潜時の延長,振幅の減弱がみられた.測定に際しては,眼振があったが問題なく測定できた.※レチバルver1.1.10は,左右眼の数値の結果で,縦軸スケールが変動する.分離症を認めた.2009年5月,ボールが左眼に当たり硝子体出血,網膜.離の疑いとのことで同院再診し,精査加療目的にて当院を紹介された.2010年9月に左眼硝子体手術を行い経過観察中であった.視力は,右眼(0.15×sph+6.0D(cyl.1.5DAx160°),左眼(0.2×sph+6.0D(cyl.3.5DAx180°),眼底は両眼とも黄斑部を含んだ網膜皺襞を認め,光干渉断層計(OCT)検査では典型的な網膜分離の所見を認めた.また,第一眼位で水平眼振があり,左方視にて眼振増強を認めた.レチバルでは,両眼の潜時の延長(右眼:42.5msec,左眼:39.0msec)と,振幅の減弱(右眼:1.9μV,左眼:2.6μV)がみられた(図1下).LE-1000でも,両眼の潜時の延長(右眼:41.5msec,左眼:40.0msec)と,振幅の減弱(右眼:40.75μV,左眼:35.0μV)がみられた(図1上).本症例は両眼の網膜分離症があり,レチバル,LE-1000でも両眼の潜時の延長と,振幅の減弱を示した.III結果表1に各症例の結果のまとめを示す.症例1.4は,散瞳後でも問題なく測定可能であった.レチバルは,無散瞳下での使用を推奨されているが,瞳孔散大時でも,測定時間は両眼で3分程度と,無散瞳下での測定時間と大差はなかった.症例1,右眼網膜中心静脈閉塞症は,潜時の延長はみられなかったが,右眼の振幅が減弱した.症例2は糖尿病網膜症であり,右眼は黄斑浮腫と網膜静脈分枝閉塞症を発症していた.左眼は網膜中心静脈閉塞症があり,振幅は著しく減弱し,潜時が数値化できず計測不能となった.両眼ともに潜時・振幅で異常値を示した.症例3は両眼の真菌性眼内炎と右眼網膜前膜があり,右眼のみ潜時・振幅の異常値を示した.症例4,網膜色素変性症は,レチバルで振幅が減弱し,潜時は計測不能であった.症例5,屈折異常弱視による視力不良例は,潜時・振幅ともに正常値であった.症例6は左眼網膜.離のため振幅が減弱し,潜時は計測不能となった.症例7は両眼ともに潜時・振幅が異常値であったが,左眼の振幅が著しく減弱し,異常値を示した.左眼は蛍光眼底所見で無灌流領域が広範囲にみられ,毛細血管瘤が多発し,眼底所見に左右差がみられた.症例9,10,11は,視力良好であったが,潜時・振幅いずれかで,異常値を示す症例があった.症例9の錐体ジストロフィでは,レチバルで,潜時(右:32.5msec,左:33.4msec),振幅(右:0.44μV,左:3.9μV)と,潜時は両眼ともに延長を認めなかったが,右眼の顕著な振幅の減弱を認めた(図2下).LE-3000では,潜時(右:44.75msec,左:(112)1振幅(μV)0.5-0.5振幅(μV)6420-20-1-4右眼:潜時32.5ms,振幅0.44μV左眼:潜時33.4ms,振幅3.9μV図2症例9のLE.3000で記録したフリッカーERG(上)とレチバルで記録したフリッカーERG(下)フリッカーERG,レチバルともに右眼振幅が著明に減弱した.※レチバルver1.1.10は,左右眼の数値の結果で,縦軸スケールが変動する.020406080100120時間(ms)波形基本周波数020406080100120時間(ms)波形基本周波数37.75msec),振幅(右:11.5μV,左:33.5μV)で,潜時は右眼が左眼より7.2msec延長した.振幅は右眼が左眼より21.5μV減弱を認めた(図2上).症例10は右眼FEVRで,視力(1.2)と良好にもかかわらず,潜時の延長を認め,錐体機能の異常を示した.症例11は両眼FEVRで,右眼(0.9),左眼(0.15)と右眼視力は比較的良好であったが,レチバルでは潜時・振幅ともに左右同様の異常値を示した.IV考按レチバルの無散瞳モードは無散瞳下で使用するモードであるが,今回は散瞳後でも問題なく測定可能であった.しかし,9mm大に極大散瞳した場合は,瞳孔を認識せず測定不能となる場合がある.今回,散瞳後に測定した患者の瞳孔径は9mm以下であり,測定可能であったと考えられる.振幅は全例測定可能であったが,潜時の計測不能例が3例4眼あった.使用したバージョン(ver1.1.10)はノイズが大きい場合と振幅が著しく減弱している場合に計測不能と表示される.今回,計測不能となった症例は,固視良好でありノイズの影響は考えにくい.また,振幅が著しく減弱した場合に,潜時が測定されても,その測定値は正確に測定できていない可能性があり,逆に,潜時が計測不能の症例は,振幅の測定値の信頼性は低いと考えられる.今回,糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症(症例1,2,7)などの循環障害でみられるフリッカー応答の潜時の延長,振幅の減弱をレチバルで測定可能であった3,4).レチバルは,コンタクトレンズ型電極の装用が困難な小児の症例(症例5)や,眼振のある症例(症例8)においても簡便に検査可能であった.LE-1000,LE-3000のフリッカー刺激は眩しいため閉瞼しようとして,Bell反射により眼球が上転して,コンタクト電極が角膜頂点からはずれ振幅が減弱することがある5).また,コンタクト型電極を装用した状態での固視確認は困難である.それに対し,レチバルは,瞳孔追尾機能と,測定者がモニターで固視確認ができるため,固視に依存しない測定が可能である.レチバルは小児の症例において,LE-1000,LE-3000よりも信頼できる場合があると考えられる.角膜電極ERGとレチバルの結果を比較した症例が2例あった.症例8は,LE-1000とレチバルともに潜時・振幅が測定できた.両者で潜時は延長し,振幅は減弱を示し,錐体異常を検出したことから,同等の結果が得られたと考えられる.症例9ではLE-3000とレチバルともに,潜時・振幅の測定はできたが,両者で右眼の潜時の測定結果が一致しなかった.レチバルの潜時は短縮を示し,一見正常だが,振幅が1.0μV以下と著しく減弱していることから,計測不能の場合と同様に,潜時の値は信頼性が低いと考えた.LE-3000でも振幅は11.5μVと顕著に減弱しており,正確に潜時を測(113)あたらしい眼科Vol.32,No.11,20151625定できていない可能性も考えられ,両者の結果の比較はできないと考えた.角膜電極ERGとレチバルで結果を比較する際は,まず振幅がある程度測定できており,信頼性のある結果かを判断すべきである.今回は,2例と検討数が少なく,1例は同等の評価ができたが,もう1例は振幅値が著しく減弱しており,評価が困難であった.また,錐体細胞の応答を記録するためには,杆体細胞が飽和状態となり反応できないとされる30Hz付近の光刺激で測定を行う.レチバルでは28.3Hzで測定を行うが,皮膚電極と角膜電極の違いや,瞳孔面積を使用した光強度の違い(Td・sとcd・s/m2)により直接比較はできない.また,レチバルは,視力良好の症例においても,網錐体機能の異常を鋭敏に検出することが可能であった(症例9,10,11).LE-1000,LE-3000は,左右同じスケールで波形が表示される.これに対し,今回測定に使用したバージョン(ver1.1.10)でのレチバルの結果は,振幅数値により,縦軸の振幅スケールが自動で変動する.そのため,波形のみでの評価は困難であり,振幅の数値を確認する必要がある.ただし,新しいバージョン(ver.2.3.1)では振幅の最小スケールが固定されている.レチバルで,フリッカーERGを測定するためには,センサーストリップ電極の貼り付けが確実にできていなければならない.実際に検査をしてみて感じた注意すべき点をあげる.固視を良好にするためには,非測定眼の遮閉が有用であった.今回,患者の手で遮閉したが,手が使えない場合は,アイパッチを使用するとよい.また,機器が測定眼から離れた状態で測ると,周辺の明るさや背景が視野に入り固視がむずかしくなり,刺激光が網膜全体に行き渡らない恐れがあるため,測定眼を完全に覆うように機器を当てて測定するとよい.センサーストリップの接着部は3カ所あり,これが皮膚からはずれてしまうと測定できない.年齢,性別によって骨格が違うため,確実に装着できているか確認する必要がある.自験例では女性の場合で,化粧によりセンサーストリップ接着部が貼り付かないことがあった.貼り付け前に,ウエットティッシュまたはアルコール綿で化粧をふき取ることが望ましい.レチバルは多くの利点を有し,臨床において患者,検者とも負担が少なく,簡便に錐体機能を評価できる機器である.レチバルは2013年日本に導入された機器であり,臨床報告が少ない.現在,日本人の潜時と振幅の正常値が確立していないことから,レチバル単独での評価はむずかしいと考えられる.今後は健常人の測定数を増やし,日本人の正常値を検討していく必要がある.今回の検討で,レチバルで網膜錐体機能低下の有無を評価することができ,診断に有用であった.文献1)KatoK,KondoM,SugimotoMetal:E.ectofpupilsizeon.ickerERGsrecordedwithRETevalsystem:Newmydriasis-freefull-.eldERGsystem.InvestOphthalmolVisSci56:3684-3690,20152)YasudaS,KachiS,UenoSetal:Flickerelectroretino-gramsbeforeandafterintravitrealranibizumabinjectionineyeswithcentralretinalveinocclusion.ActaOphthal-mol93:1-4,20153)安田俊介:後天性疾患.どうとる?どう読む?ERG(山本修一編),p138-140,メジカルビュー社,20154)永井紀博:後天性疾患.どうとる?どう読む?ERG(山本修一編),p142,メジカルビュー社,20155)新井三樹:基本のERG.どうとる?どう読む?ERG(山本修一編),p36-57,メジカルビュー社,2015***(114)

妊娠初期のVogt-小柳-原田病にステロイドパルス療法を施行した1例

2015年11月30日 月曜日

1.28001.060矯正視力40200b図3初診から11カ月後の眼底写真a:右眼,b:左眼.両眼とも滲出性網膜.離は軽快した.病内科を受診し,インスリン治療を並行して行うこととなった.経過良好のため12月上旬に退院した後,外来通院にて眼科の定期検査を行った.経過中,原田病の再燃はなく,また胎児の発育に問題はなく,インスリン治療も続けたが,HbA1Cは5%前後で推移していた.ステロイドの内服は翌年5月上旬まで続いた.平成26年5月中旬,妊娠38週において2,850gの女児を無事に出産した.その後も原田病の再燃はなく(図3),同年12月現在,矯正視力は両眼とも(1.2)となっている(図4).II考按妊娠中に原田病に罹患した症例の過去の報告によれば,妊娠前期においてはステロイド点眼や結膜下注射,また後部Tenon.下注射などの局所療法を行い,炎症が鎮静化したという報告が多い3).しかし,妊娠中期や後期になると,局所療法の場合もあるが,プレドニゾロン200mg程度からの大量漸減療法を行うことが多く4,5),出産後にパルス療法を行った,という症例も報告されている6).また,無事に出産11月12月1月2月3月4月中旬中旬中旬中旬中旬中旬5月中旬出産図4治療経過したという報告がほとんどであるが,子宮内胎児発育不良の報告や7),胎児が死亡した報告も存在する8).前者については原田病そのものが胎盤の発育不全に関与していた可能性がある,と述べられており,後者についても原田病そのものが妊娠に影響を及ぼす可能性も否定できず,胎児死亡とステロイドとの関連については判断できない,と述べられている.一方,妊婦とステロイド投与についてみると,プレドニゾロンは,胎盤に存在する11bhydroxysteroiddehydroge-naseにより不活性型に変化されやすく,デキサメタゾン,ベタメタゾンなどの胎盤移行性が高いステロイドに比べると胎児に対する影響が少ないとされている10).また,プレドニゾロンは,妊娠と医薬品の安全性に関する米国のFDA分類ではカテゴリーC,同様のオーストラリア基準ではカテゴリーAに分類され,比較的安全と考えられているが,ステロイドを大量投与した場合に胎児に口蓋裂のリスクが増える可能性が示唆されていたり,下垂体.副腎系の機能が抑制される可能性が指摘されているものの,胎盤透過性の観点からはプレドニゾロンが比較的安全であり,プレドニゾロンで20mg/日の投与であれば,ほぼ安全であろうというのが一般的見解である,と述べられている9,11).本症例について考えてみると,原田病に罹患したのが妊娠初期であったが,視力低下に対する不安や,頭痛の訴えが非常に強かったため,局所療法では治療が困難と考え,ステロイドの全身投与を選択した.ところが,妊娠中に罹患した原田病に対して全身投与を行う場合,大量漸減療法を行うべきであるのか,パルス療法を行うべきであるのかについての明確な指針は存在せず,過去の報告では大量漸減療法を行っている場合が多いため,当科でステロイドの投与方法について議論を行った.そのなかで,通常の原田病の場合は,パルス療法と大量漸減療法を比較すると,北明らのようにパルス療法のほうが夕焼け状眼底になる頻度は少ないものの,再発率や遷延率には差がなかったという報告もある一方で,パルス療法のほうが夕焼け状眼底になる割合や複数回の再発,再燃を生じる割合が少ないという報告や13),パルス療法では再発1620あたらしい眼科Vol.32,No.11,2015(108)率や夕焼け状眼底になる割合が少なく,視力予後が良好であるとする報告があること14),また,夕焼け状眼底となった群では,ならなかった群と比較して有意に髄液中の細胞数が多いとの報告や15),本症例とほぼ同じ妊娠時期に原田病を発症し,パルス療法を行った結果,無事に出産した症例が最近報告されていること2),などを参考に,患者本人と家族,産婦人科の医師と相談した結果,今回はパルス療法を選択することになった.さらに,本症例では既往歴に妊娠高血圧症候群があったが,妊娠高血圧症候群に漿液性網膜.離を合併した報告も散見されることから16),より診断を確実なものにするために患者の同意の下に髄液検査を施行し,髄液中のリンパ球優位の細胞増多を確認したうえで原田病と最終的に診断し,治療を開始した.ステロイドの投与期間については,パルス療法後は,前述のように安全域とされているプレドニゾロン20mg/日以内に比較的早期に減量するように配慮した.しかし,10.15mg/日以下に減量する頃に再燃することが多いことから1),20mg/日以下の期間を十分に取るように考慮し,また,投薬期間が6カ月未満でも炎症の再発率が高いことから17),全体で6カ月程度になるように投薬期間を計画し,治療を行った.最後に,妊娠中に罹患した原田病に対してパルス療法を行った報告はいまだにわずかしかなく,今回の治療が妥当なものであったかどうかについては,議論の余地がある.今後は,同様の報告が増加し,結果が蓄積されてくるものと予想されるので,パルス療法の安全性や有効性について,さらなる検討が必要であると思われる.また,今回幸いにも経過中に原田病の再燃はなかったが,ステロイドの漸減途中に炎症が再燃した場合にステロイドの投与量を再度増加するべきなのかどうか,トリアムシノロンの後部Tenon.下注射を併用するべきかどうか,などについての報告や検討は,筆者らが調べた限りではなく,今後の課題であると考える.本論文の要旨については,第48回日本眼炎症学会にて発表した.文献1)奥貫陽子,後藤浩:Vogt-小柳-原田病.眼科54:1345-1352,20122)富永明子,越智亮介,張野正誉ほか:妊娠14週でステロイドパルス療法を施行した原田病の1例.臨眼66:1229-1234,20123)松本美保,中西秀雄,喜多美穂里:トリアムシノロンアセトニドのテノン.下注射で治癒した妊婦の原田病の1例.眼紀57:614-617,20064)山上聡,望月学,安藤一彦:妊娠中に発症したVogt-小柳-原田病─ステロイド投与法を中心として─.眼臨医85:52-55,19915)MiyataN,SugitaM,NakamuraSetal:TeratmentofVogt-Koyanagi-Harada’sdiseaseduringpregnancy.JpnJOphthalmol45:177-180,20016)大河原百合子,牧野伸二:妊娠37週に発症し,分娩遂行後にステロイド全身投与を行ったVogt-小柳-原田病の1例.眼臨紀2:616-619,20097)河野照子,深田幸仁,伊東敬之ほか:妊娠11週に原田病を発症し子宮内胎児発育遅延を伴った一症例.日産婦関東連会報42:421-425,20058)太田浩一,後藤謙元,米澤博文ほか:Vogt-小柳-原田病を発症した妊婦に対する副腎皮質ステロイド薬治療中の胎児死亡例.日眼会誌111:959-964,20079)宇佐俊郎,江口勝美:妊婦に対するステロイド使用の注意点.ModernPhysician29:664-666,200910)福嶋恒太郎,加藤聖子:妊娠・授乳婦におけるステロイド療法.臨牀と研究91:531-534,201411)濱田洋実:医薬品添付文書とFDA分類,オーストラリア分類との比較.産科と婦人科74:293-300,200712)北明大洲,寺山亜希子,南場研一ほか:Vogt-小柳-原田病新鮮例に対するステロイド大量療法とパルス療法の比較.臨眼58:369-372,200413)井上留美子,田口千香子,河原澄枝ほか:15年間のVogt-小柳-原田病の検討.臨眼65:1431-1434,201114)MiyanagaM,KawaguchiT,ShimizuKetal:In.uenceofearlycerebrospinal.uid-guideddiagnosisandearlyhigh-dosecorticosteroidtherapyonocularoutcomesofVogt-Koyanagi-Haradadisease.IntOphthalmol27:183-188,200715)KeinoH,GotoH,MoriHetal:Associationbetweenseverityofin.ammationinCNSanddevelopmentofsun-setglowfundusinVogt-Koyanagi-Haradadisease.AmJOphthalmol141:1140-1142,200616)中山靖夫,高見雅司,深井博ほか:妊娠高血圧症候群に合併した漿液性網膜.離の1例.産科と婦人科75:1825-1829,200817)LaiTY,ChanRP,ChanCKetal:E.ectsofthedurationofinitialoralcorticosteroidtreatmentontherecurrenceofin.ammationinVogt-Koyanagi-Haradadisease.Eye(Lond)23:543-548,2009***(109)あたらしい眼科Vol.32,No.11,20151621

眼内レンズ縫着術後に再縫着を要した症例の検討

2015年11月30日 月曜日

した.I対象および方法対象は京都市立病院において2004年4月.2014年12月に白内障手術後のIOL脱臼に対して,IOL縫着術を行った46例52眼とした.そのうち,IOL縫着術後にIOL位置不良とならずに単回の縫着術のみで経過している45眼(単回縫着眼)と,IOL縫着術後にIOL位置不良となり,再度IOL縫着術が施行された7眼(再縫着眼)の2郡に分けて検討を行った.IOL縫着術は初回縫着,再縫着ともすべて同一術者によって,同一術式で施行されており,各症例で術式の差異による影響はないものとして検討した.縫着糸はすべて10-0ポリプロピレン糸を使用し,10-0ポリプロピレンのloop糸,直針を用いて,対面通糸(abexterno法)を行った.眼内レンズとの結紮は,IOLのハプティクスを角膜切開創から眼外に出してcowhitch縫合で行った.強膜通糸位置は2-8時または4-10時で輪部から2mmとし,縫着糸の強膜結紮固定は,強膜半層縦切開をし,そこからクレッセントナイフで水平に強膜ポケットを作製して埋没させた(図1).IOLは基本的には7mmのfoldable1ピースレンズ[VA-70ADR(HOYA,東京)]を使用し,もともと径7mmのfoldable1ピースレンズが使用されていた場合はそのまま入れ替えをせずに縫着し,それ以外のIOLの場合は切断して取り出して入れ替えを行った.これら単回縫着45眼と再縫着7眼について,①性別,②術眼,③白内障手術時年齢,④縫着術時年齢,⑤白内障手術から縫着術までの期間,⑥眼軸長,⑦患者因子として基礎疾患と眼手術既往などについて比較検討した.また,⑧白内障術後のIOL脱臼の状態について調べ,⑨再縫着眼について,白内障手術から初回縫着術までの期間と初回縫着術から再縫着術までの期間を比較検討した.II結果①性別は単回縫着眼が男性41人に対し,女性は4人であり,再縫着眼では男性6人に対し,女性は1人であった.②術眼は単回縫着眼では右眼が22眼,左眼が23眼で,再縫着眼では右眼が2眼,左眼が5眼であった.③白内障手術時年齢は単回縫着眼では49.7±15.9歳(平均値±標準偏差),再縫着眼では44.4±10.5歳(平均値±標準偏差)となり有意差は認めなかった.ただ,当院で2007年10月.12月の3カ月間に白内障手術を施行した228眼の平均年齢は73.6±9.9歳(平均値±標準偏差)であり,これと比較すると単回縫着眼と再縫着眼のどちらも白内障手術を受ける年齢としては有意に若年であった(p<0.01).④縫着時の平均年齢は単回縫着眼では58.0±14.7歳(平均cb値±標準偏差),再縫着眼では初回縫着時の年齢として55.4±12.3歳(平均値±標準偏差)となり有意差は認めなかった.⑤白内障手術から縫着術までの期間は単回縫着眼では8.4±5.2年(平均値±標準偏差),再縫着眼では白内障手術から初回縫着時までの期間として11.0±5.1年(平均値±標準偏差)で有意差は認めなかった.⑥眼軸長は単回縫着眼では24.8±1.8mm(平均値±標準偏差)で再縫着眼では26.4±3.4mm(平均値±標準偏差)であり,有意差は認めなかった(表1).⑦患者因子については,単回縫着眼ではアトピー性皮膚炎のみが5眼(11.1%),アトピー性皮膚炎と網膜.離で硝子体手術の既往が5眼(11.1%),網膜.離で硝子体手術の既往のみが4眼(8.8%),PE症候群のみが3眼(6.7%),PE症候群と網膜.離で硝子体手術の既往が2眼(4.4%),外傷の既往のみが2眼(4.4%),網膜.離以外での硝子体手術の既往と外傷の既往が2眼(4.4%),網膜.離で硝子体手術以外の治療を受けた既往のみが2眼(4.4%),眼軸長27mm以上が1眼(2.2%),外傷の既往と眼軸長27mm以上が1眼(2.2%),網膜.離で硝子体手術の既往と眼軸長27mm以上が1眼(2.2%),アトピー性皮膚炎と網膜.離で硝子体手術の既往と外傷の既往が1眼,今回調査した因子をもたない明らかな因子なしの眼は16眼(35.6%)であった.再縫着眼では,アトピー性皮膚炎のみが3眼(42.9%),網膜.離で硝子体手術の既往のみが2眼(28.6%),眼軸長27mm以上のみが1眼,今回調査した因子をもたない明らかな因子なしは1眼(14.3%)であった(表2).⑧白内障術後のIOL脱臼の状態は,単回縫着眼と再縫着眼を合わせた52眼のうち,水晶体.は固定されたままIOLが.外に脱臼したものが1眼で,その他の51眼はすべて水晶体.ごとの脱臼であった.⑨再縫着眼における白内障手術から初回縫着術までの期間は11.0±5.1年(平均値±標準偏差)に対して,初回縫着術から再縫着術までの期間は1.7±1.3年(平均値±標準偏差)と有意に短くなっていた(p<0.01).(103)あたらしい眼科Vol.32,No.11,20151615表1単回縫着眼と再縫着眼の患者背景の比較単回縫着眼再縫着眼p値眼球数457─性別(男性/女性)41/46/1─右/左22/232/5─白内障手術時平均年齢(歳)49.7±15.944.4±10.50.40§初回縫着平均年齢(歳)58.0±14.755.4±12.30.66§白内障手術から初回縫着までの期間(年)8.4±5.211.0±5.10.23§眼軸長(mm)24.8±1.826.4±3.40.29§§統計的に有意差なし(t-検定)III考按わが国ではIOL縫着術の手術手技や使用器具は施設,あるいは術者によって異なるが,過去の報告によると,使用する糸は10-0ポリプロピレン糸がもっとも多く,通糸方法はabexterno法がもっとも多く,眼内レンズとの結紮はcowhitch法がもっとも多く,強膜ポケット作製は三角フラップ作製についで2番目に多い4)とのことであり,当施設でのIOL縫着術はわが国で多く行われている術式から大きく逸脱するものではないと考えられる.本調査結果での白内障手術後のIOL脱臼の状態としては,.外へのIOL脱臼眼よりも水晶体.ごとのIOL脱臼眼のほうが多かった.過去の報告でも近年は.外への脱臼の症例数が減ってきているとの報告があり2,5),.外への脱臼の場合,そのリスクとしては破.などの術中合併症や,成熟白内障であることが報告されている2).実際,当院での.外へのIOL脱臼眼も,成熟白内障で超音波乳化吸引術予定であったが.外摘出術へ変更された症例であった.本調査を行った動機の一つとして,京都市立病院での白内障手術後のIOL脱臼による縫着術症例は,高齢者よりも比較的若年者が多い印象があり,そしてPE症候群についてはそれほど多い印象はなかったことがある.PE症候群については他の患者因子との重複も含めると単回縫着眼では5眼で11.1%(5/45眼),再縫着眼では0眼であった.本調査対象はPE症候群の既往のない単回縫着眼1眼を除いて,すべて水晶体.ごとのIOL脱臼眼であり,水晶体.ごとの脱臼眼に限ったとしてもPE症候群は単回縫着眼で11.3%(5/44眼)となり,過去の,水晶体.ごとのIOL脱臼で約40%がPE症候群との報告2)と比べると,やはり少なかった.また,単回縫着眼と再縫着眼とでは,両者とも京都市立病院でのある一定期間に白内障手術を施行した患者全体の平均年齢よりも有意に若かった.このことは,再縫着眼については,アトピー性皮膚炎の既往が3眼(3/7,42.9%)ともっとも多い患者因子であることが一因と思われた.アトピー性皮膚炎は,慢性のあるいは慢性的に増悪を繰り返す掻痒感を伴った皮膚表2単回縫着眼と再縫着眼の患者因子(既往歴)の比較単回縫着眼再縫着眼患者因子(既往歴)(n=45)(n=7)AD5(11.1%)3(42.9%)AD,RD,PPV5(11.1%)0RD,PPV4(8.8%)2(28.6%)PE3(6.7%)0PE,RD,PPV2(4.4%)0trauma2(4.4%)0PPV,trauma2(4.4%)0RD2(4.4%)0myopia1(2.2%)1(14.3%)trauma,myopia1(2.2%)0RD,PPV,myopia1(2.2%)0AD,RD,PPV,trauma1(2.2%)0明らかな因子なし16(35.6%)1(14.3%)AD:アトピー性皮膚炎,RD:網膜.離の既往,PPV:硝子体手術既往,PE:偽落屑症候群,trauma:外傷の既往,myo-pia:眼軸長≧27mm炎であり,近年その有病率は上昇傾向で,治療による掻痒感のコントロールが十分でないと顔面や眼周囲の掻痒感で,繰り返し眼周囲を掻いたり,叩いたりすることにより,アトピー性白内障や網膜.離につながると考えられている6).アトピー性皮膚炎で顔面に湿疹があること,眼周囲をこすることが白内障の進行を早める7)との報告もある.アトピー性皮膚炎の有病率は小児期に高く,年齢が高くなると少なくなってくる6).単回縫着眼と再縫着眼では白内障手術後からIOL脱臼までの期間には有意差はなかった.しかし,再縫着眼における初回縫着術後から再縫着術までの期間は白内障手術後から初回縫着術までの期間より有意に短かった.再縫着眼の縫合糸の断裂の原因として外力によるものと,そして経年劣化も考慮される.過去の報告では10-0ポリプロピレン糸の劣化によるIOL脱臼は縫着術後4,5年で起こってくる8)とのことだが,今回の検討結果からは初回縫着術から再縫着術までは1.7±1.3年(平均値±標準偏差)という短期間であり,経年劣化の影響はそれほど大きくないように思われる.再縫着眼は女性よりも男性のほうが多く,また再縫着眼では単回縫着眼よりもアトピー性皮膚炎が多かったことは,アトピー性皮膚炎による掻痒感で眼窩部を叩くなどの行為が,縫合糸の断裂の原因として大きい可能性も考えられる.再縫着眼ではPE症候群や外傷の既往をもつ眼はなかった.これは当然ではあるがZinn小帯の脆弱性は初回縫着後にはもはや影響がなくなるため,再縫着のリスク因子とはならないからだと考えられる.つまりこれまで報告されてきた白内障術後にIOL脱臼に至るリスク因子と,縫着術後に縫着糸が断裂するリスク因子とは異なるといえる.(104)以上より今回の結果からは,IOL縫着術後にIOL位置不良となり再縫着を要するリスク因子としては,これまで白内障術後にIOL脱臼を起こしやすいといわれていたリスク因子とは異なり,アトピー性皮膚炎の既往をもち,若年で白内障手術を施行され,その後IOL脱臼に至りIOL縫着術を施行された男性患者であることと考えられた.そして,そのような症例に対してIOL縫着術を施行する際は10-0ポリプロピレン糸では強度不足である可能性が高い.強度の点においては縫着糸として10-0糸よりも9-0糸,8-0糸が優れている9)との報告があり,実際に10-0以上の太さのポリプロピレン糸を使用したIOL縫着術は施行されている.ただし,糸が太くなると,より縫合部分が大きくなり強結膜を突き破らないようにするための工夫がそれだけ必要になる8).強膜ポケットをより強膜深層に作製するなどの工夫を行う必要があると思われる.また,最近ではIOL強膜内固定術も施行され始めている.IOL強膜内固定術の一番の利点としてIOL支持部が強膜内に固定されるために,IOLの眼内での固定はより強固であるとともに,IOLの偏心や傾斜をほとんど認めないことがあげられる.もう一つの大きな利点として,術後に打撲などによりIOL偏位を認めても,容易に整復可能なことがあげられる10).眼内レンズ強膜内固定術は2007年に初めて報告され10),長期予後はまだ明らかでない部分もあるが,とくに上記の特徴をもつ患者については現段階で有効な手術法の一つであると考えられる.白内障手術は各種手術機器が進歩し,術中合併症の可能性も少なくなっているため,若年であっても施行されることも多いが,上記の特徴をもつ患者についてはIOL脱臼のリスクについて考慮し,またそのリスクについて術前の十分な説明が重要と考えられる.文献1)PueringerSL,HodgeDO,ErieJC:Riskoflateintraocularlensdislocationaftercataractsurgery,1980-2009:Apopulation-basedstudy.AmJOphthalmol152:618-623,20112)HayashiK,HirataA,HayashiH:Possiblepredisposingfactorsforin-the-bagandout-of-the-bagintraocularlensdislocationandoutcomesofintraocularlensexchangesur-gery.Ophthalmology114:969-975,20073)Fernandes-BuenagaR,AlioJL,Perez-ArdoyALetal:Latein-the-bagintraocularlensdislocationrequiringexplantation:riskfactorsandoutcomes.Eye27:795-802,20134)一色佳彦,森哲,大久保朋美ほか:北九州市における眼内レンズ縫着術の実態調査.あたらしい眼科29:391-394,20125)田中最高,吉永和歌子,喜井裕哉ほか:眼内レンズ脱臼の原因と臨床所見.あたらしい眼科27:391-394,20106)FukueM,ChibaT,TakeuchiS:CurrentstatusofatopicdermatitisinJapan.AsiaPacAllergy1:64-72,20117)NagakiY,HayasakaS,KadoiC:Cataractprogressioninpatientswithatopicdermatitis.JCataractRefractSurg25:96-99,19998)BuckleyEG:Long-terme.cacyandsafetyoftranss-cleralsuturedintraocularlensesinchildren.TransAmOphthalmolSoc105:294-311,20079)秋山奈津子,西村栄一,薄井隆宏ほか:縫着糸の強膜床結紮部の強度測定.IOL&RS25:217-222,201110)太田俊彦:眼内レンズ強膜内固定術.日本の眼科6:783-784,2014***(105)あたらしい眼科Vol.32,No.11,20151617

原発開放隅角緑内障の全身的危険因子の検討

2015年11月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科32(11):1609.1613,2015c原発開放隅角緑内障の全身的危険因子の検討三戸千賀子*1池田陽子*2,3森和彦3山田裕美*3津崎さつき*2長谷川志乃*2上野盛夫*3中野正和*4吉井健悟*5木下茂*3*1三戸眼科*2御池眼科池田クリニック*3京都府立医科大学眼科学*4京都府立医科大学ゲノム医科学*5京都府立医科大学基礎統計学AnalysisoftheSystemicRiskFactorsofPrimaryOpen-angleGlaucomaandNormal-tensionGlaucomaChikakoSannohe1),YokoIkeda2,3),KazuhikoMori3),HiromiYamada3),SatsukiTsuzaki2),ShinoHasegawa2),MorioUeno3),MasakazuNakano4),KengoYoshii5)andShigeruKinoshita3)1)SannoheEyeClinic,2)Oike-IkedaEyeClinic,3)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,4)DepartmentofGenomicMedicalSciences,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,5)DepartmentofMedicalStatistics,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine広義原発開放隅角緑内障(POAG)の患者においてbodymassindex(BMI)を含む全身的なリスク因子(RF)を検討した.対象は2010年6月.2013年11月に三戸眼科と御池眼科池田クリニックに通院中の患者;原発開放隅角緑内障(以下,狭義POAG)119例,正常眼圧緑内障(NTG)378例,および2005年3月.2013年11月に京都府立医科大学にて緑内障正常外来を受診して正常と判定された正常対照644例である.これらの3群でBMI,糖尿病,心疾患,高血圧,高脂血症,年齢,性別,緑内障家族歴の有無を調査し,強制投入法による多重ロジスティック回帰分析を行った.その結果,BMIが高いことは狭義POAGに対してオッズ比0.75で保護因子となり,逆にBMIが低いことがRFとなった.高血圧はNTGに対してRF(オッズ比1.67)となった.また,緑内障家族歴(オッズ比2.61)と糖尿病(オッズ比3.40)は狭義POAGとNTGの両者に対してRFとなった.Thisstudyinvolved1141subjects:119POAGpatients,378NTGpatientsand644age-matchednormalcon-trolsubjects.GlaucomapatientswereenrolledatSannoheEyeClinicandOike-IkedaEyeClinic.Thenormalcon-trolsubjectswereenrolledatKyotoPrefecturalUniversityofMedicine,andwerediagnosedbyglaucomaspecial-istsasnormalafterseveralophthalmicexaminations,includingopticdiscimagingandvisual.eldtesting.BMI,presenceofsystemicdiseases(diabetesmellitus,heartdisease,hypertensionandhyperlipidemia),genderandfamilialhistoryofglaucomawereevaluatedinrelationtoglaucomatype(POAGorNTG),usingstepwiselogisticregressionanalysis.Thesystemicriskfactors(RF)betweenNTGandPOAGweredi.erentfromourdataset;HT(oddsratio:1.67)wasRFforNTG;highBMI(oddsratio:0.749)wasprotectiveforPOAG.Familialhistoryofglaucoma(oddsratio:2.610)andDM(oddsratio:3.400)werealsosigni.cantRFforbothPOAGandNTG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(11):1609.1613,2015〕Keywords:BMI,原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,多重ロジスティック解析,リスク因子.bodymassin-dex,primaryopenangleglaucoma,normaltensionglaucoma,logisticregressionanalysis,riskfactor.はじめにこれまでに原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)発症の危険因子として多くの因子が報告されている1.6).これらのなかには家族歴4,7),遺伝子8)などの遺伝要因のみならず,近視3,9)や糖尿病1,5,10,11),肥満1),高血圧1,10,12,13),高脂血症14),加齢3,4),眼圧3,4,15),酸化ストレス16)などの環境要因があり,これらの因子は緑内障の病態に複雑に関連しているものと考えられる.しかしながら報告によっては結果が異なる因子も存在している.糖尿病,肥満や高脂血症,血圧などメタボリックシンドロームにおいて〔別刷請求先〕森和彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:KazuhikoMori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Hirokoji-agaru,Kawaramachi-dori,Kamigyo-ku,Kyoto602-0841,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(97)1609は,POAGに対して危険因子と保護因子5,17.22)の両者が報告されているし,関係なし3,19,23,24)とする報告もある.たとえばNewman-Caseyら1)は白人女性において肥満はPOAGの大きな危険因子になると報告しているが,多治見スタディ3)ではbodymassindex(BMI)とPOAGの間に関連はなかったと報告している.また,Asraniら18)は低いBMIが正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)の危険因子になると報告しており,バルバドススタディ19)でもアフリカ人種において低いBMIがNTGの危険因子になると報告されている.Pasqualeら5)とRamdasら17)は女性においてBMIが高値であれば緑内障になりにくいと報告している.一方,高脂血症はOhら14)が眼圧を上昇させる可能性があると報告しており,Leungら21)は高脂血症の治療が緑内障の危険性を減弱させると報告している.Newman-Caseyら1)は糖尿病のみであれば35%,高血圧のみであれば17%,糖尿病と高血圧の両者を有する場合は48%も緑内障発症の危険が高くなるが,高脂血症のみでは5%危険性を減らし,かつ高脂血症と糖尿病,高血圧が合併した場合もその危険性を減らすと報告している.また,POAGのリスクバリアントとして報告されているCDKN2B-AS18)は染色体9番21領域に存在しており,この領域は糖尿病25),心臓病26),など全身疾患のリスクバリアントとしても共通しており,遺伝的にもかかわりがある可能性がある.このようにPOAG発症や病態にはさまざまな因子が関与しているが,これまでの報告では生活習慣病とPOAGとの関連について十分にコンセンサスが得られる結果が出ているとは言いがたい.そこで今回,筆者らはPOAGのBMIを含んだ全身的な危険因子について,狭義POAG群,NTG群,正常対照(normaltension:NC)群において比較検討を行った.I対象および方法対象は総計1,141例で,その内訳は狭義POAG119例(男女比66:53,平均年齢65.8±10.7歳),NTG378例(男女比227:151,平均年齢64.3±12.2歳)およびNC644例(男女比190:454,平均年齢63.8±8.1歳)である(表1).狭義POAG群とNTG群は2010年6月.2013年11月に青森県青森市の三戸眼科と京都府京都市の御池眼科池田クリニックおよび京都府立医大附属病院眼科に通院していた患者である.緑内障の診断は日本緑内障学会ガイドラインに基づいて行った,NC群は2005年3月.2013年11月に京都府立医科大学にて緑内障正常外来を受診したボランティアである.この外来にはこれまでに緑内障といわれたことがないという条件で参加が可能である.受診者には視神経乳頭,視野検査を含む眼科学的な諸検査〔眼底写真,レフ,ケラト,FDT/Humphrey30-2SITAStandard,GDx,HRT,オプトビュー/ニデックOCT,ビサンテまたはカシア,IOLマスター,スペキュラ,ペンタカム,スリット(前眼部,後眼部),ノンコンタクト眼圧/アプラネーション眼圧,隅角鏡,〕を実施し,緑内障専門医が診察を行い,最終的に複数の緑内障専門医により正常と判定された症例である(表1).これらの3群でBMI,糖尿病,心疾患,高血圧,高脂血症,性別,緑内障家族歴の有無を問診にて聴取し,その結果を強制投入法による多重ロジスティック回帰分析で解析を行った.統計解析にはTheRsoftware(version3.0.2)を用い,有意水準は5%未満とした.II結果広義POAGとNC群を比較した結果,緑内障家族歴(オッズ比:2.46,p<0.001),糖尿病(オッズ比:3.30,p<0.001),高血圧(オッズ比:1.72,p=0.006)は広義POAGの危険因子(RF)となった(表2).狭義POAG群とNC群を比較すると,BMI(オッズ比:0.75,p=0.018)は,狭義POAGに対して保護的に作用し,糖尿病(オッズ比:6.11,p=0.025)と緑内障家族歴(オッズ比:5.32,p=0.011)はRFとなった(表3).一方,NTGとNC群の比較では,糖尿病(オッズ比:3.12,p<0.001),緑内障家族歴(オッズ:2.31,p<0.001),高血圧(オッズ比:1.67,p=0.010)がRFであった(表4).各病型で男女比が異なるため,BMIと性別の相互作用の検討を行った.各病型にBMIと性別との関係を示す相互作用項を加えて多重ロジスティクス回帰分析を行った.広義POGAとNC群,狭義POGA群とNC群,NTG群とNC群表1対象の内訳表2正常対照群VS広義POAG群の多重ロジスティクス回帰分析の結果対象n(男性/女性)年齢(歳)BMI(kg/m2)緑内障家族歴(%)糖尿病(%)高血圧(%)高脂血症(%)POAG群NTG群NC群119(66/53)378(227/151)644(190/454)65.8±10.764.3±12.263.8±8.122.5±3.222.8±3.222.2±2.937.722.59.647.116.24.566.040.920.526.714.211.21610あたらしい眼科Vol.32,No.11,2015(98)偏回帰係数標準誤差p値オッズ比95%信頼区間定数.0.590.89───性(男性).0.290.180.1020.750.53.1.06年齢.0.020.010.0340.980.96.1.00BMI0.030.030.3681.030.97.1.08緑内障家族歴0.900.22<0.0012.461.59.3.82糖尿病1.190.29<0.0013.301.87.5.84高脂血症.0.460.300.1240.630.35.1.13高血圧0.540.200.0061.721.17.2.52心疾患0.240.320.4461.280.68.2.40表3正常対照群VS狭義POAG群の多重ロジスティクス回帰分析の結果偏回帰係数標準誤差p値オッズ比95%信頼区間定数4.553.38───性(男性).1.510.640.0190.220.06.0.78年齢.0.030.030.3420.970.91.1.03BMI.0.290.120.0180.750.59.0.95緑内障家族歴1.670.660.0115.321.46.19.5糖尿病1.810.810.0256.111.26.29.7高脂血症.0.481.100.6630.620.07.5.38高血圧0.880.670.1912.410.65.8.96心疾患0.001.150.9981.000.11.9.48表4正常対照群VSNTG群の多重ロジスティクス回帰分析の結果偏回帰係数標準誤差p値オッズ比95%信頼区間定数.1.040.91───性(男性).0.210.180.2550.810.57.1.16年齢.0.020.010.0400.980.96.1.00BMI0.040.030.1561.040.98.1.10緑内障家族歴0.840.23<0.0012.311.47.3.62糖尿病1.140.30<0.0013.121.74.5.60高脂血症.0.440.300.1470.640.36.1.17高血圧0.510.200.0101.671.13.2.47心疾患0.260.330.4211.300.69.2.47のモデルにおいて交互作用項の有意差は認められなかった.よってBMIと性別の説明変数間の相互作用はみられなかった.III考按全身疾患と緑内障の関係を見た過去の大規模な報告の一覧1.5)と今回の結果を表5に示した.結果は報告によりさまざまであり,検査の方法や対象選択も一定ではないため単純に比較することはむずかしい.今回,緑内障家族歴が両病型で有意にRFとなったが,これは以前からの報告と矛盾しない.また今回はPOAGのRFとして低BMIが有意となった.BMIに関しては関係なしとする報告3,23),高いことがRFになるという報告1),逆に低いことがRFになるという報告2,5,17.21)があり,一定のコンセンサスは得られていない.Berdablら2)は,低脳脊髄圧はOAGのRFと報告しており,脳脊髄圧とBMIが正比例するので,結果としてBMIが低いと脳脊髄圧も低くなり,OAGの発症リスクを高めている可能性があると報告している.また,Asraniら18)は低BMIの人では高BMIの人よりも血管調整不良(vasculardysregu-lation)を起こしやすいとし,これらの要因がRFとして働いている可能性があると報告している.また,今回の結果では高血圧がNTGのRFとなった.高血圧に関しても,関係なしとの報告3,23,24),高いとRFになるという報告1,10,20,21),逆に低いとRFになるとの報告4,20)があり,これも一定のコンセンサスが得られていない.高血圧が眼圧を上げるという報告3,23)は多くみられるが,緑内障の(99)あたらしい眼科Vol.32,No.11,20151611表5全身的要因と緑内障の関連性の報告一覧報告者症例数(case/control)緑内障病型と症例数危険因子BMIHTDMHLHDFHNewman-CaseyPAら1)55,090/2,127,225OAG55,090+++++(low)BerdahlJPら2)4,235/0POAG4235+(low)SuzukiYら3)119/2,556NTG119―――+LeskeMCら4)125/3,077OAG125+(low)―+PasqualeLPRら5)980/1,689,374POAG657―――NTG323+(low)三戸ら497/644POAG119+(low)―+――+NTG378―+HT:高血圧,DM:糖尿病,HL:高脂血症,HD:心疾患,FH:緑内障家族歴.BMI:bodymassindex.RFになるという報告10,12,13)は多くない.血圧が高いことが緑内障のRFになると考えられる3つの説がある.1番目に毛細動脈の灌流圧上昇により毛様動脈圧が上昇し,前房水の産生が増えることによる眼圧上昇が関与する可能性である12).2番目に視神経に栄養を送る終末小血管の動脈硬化性のダメージと硬化があり,それにより緑内障性の神経障害を起こす可能性である13).3番目が降圧薬内服により,血圧が下降し,眼灌流圧が下がり視神経線維にダメージを与える可能性である1).今回の結果はNTGではPOAGよりも血管や血流の要因が強く働いている可能性が示唆された.糖尿病は狭義POAGとNTGの両者のRFという結果となった.糖尿病もまた関係なしとする報告3,6,19,23,24)とRFとなる1,10,11)という両方の結果が報告されている.Sza.ikら11)は糖尿病は全身疾患であり,広範囲の血管内皮機能不全が起こり,視神経に栄養を送る小血管の機能障害が視神経障害を引き起こす可能性があると報告している.またDM患者は概してBMIが高いため,高血糖や肥満が眼圧上昇にかかわっている可能性もある.また広義POAGやNTGにかかわるCDKN2BAS-1と同じ9p21領域に2型糖尿病もかかわると報告がある25).これらの要因が両病型にかかわることでRFとなった可能性が示唆される.ただし多治見スタディ3,23)では糖尿病はPOAGとは関連がないと報告されており,同じ日本人との報告としては結果が異なったものとなった.今回の対象症例が診療所を主体としたものであり,診療所では内科からの紹介で糖尿病の眼底検査を依頼されることも多いので,選択バイアスがかかった可能性も否定できない.IVまとめ今回の筆者らの結果では,低いBMIが狭義POAG,高血圧がNTGのRFとなり,緑内障家族歴と糖尿病はPOAGとNTGの両者(広義POAG)のRFとなった.生活習慣病と緑内障の関係を検討する報告は海外には多いが,日本では少ない.日本人は欧米人に比べるとBMIの正常者の割合が有意に高いが,インスリン分泌能が低いために糖尿病になりやすいという体質を持っていると報告されている27).また日本人では眼圧の低い緑内障が非常に多いという特性がある28).今後,さらに症例を増やし,各々の項目を単独あるいは組み合わせて検討することにより,食生活の欧米化が進む今後の日本の緑内障患者の予防に役立つのではないかと期待している.これらの要旨は,第25回日本緑内障学会で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)Newman-CaseyPA,TalwerN,NanBetal:Therelation-shipbetweencomponentofmetabolicsyndromeandopen-angleglaucoma.Ophthalmology118:1318-1326,20112)BerdablJP,FleischmanD,ZaydlarovaJetal:Bodymassindexhasalinearrelationshipwithcerebrospinal.uidpressure.InvestOphthalmolVisSci53:1422-1427,20123)SuzukiY,IwaseA,AraieMetal:Riskfactorforopen-1612あたらしい眼科Vol.32,No.11,2015(100)angleglaucomainaJapanesepopulation:theTajimiStudy.Ophthalmology113:1613-1617,20064)LeskeMC,WuSY,HennisAetal:Riskfactorforinci-dentopen-angleglaucoma.TheBarbadosEyeStudy.Ophthalmology115:85-93,20085)PasqualeLPR,WilletWC,RosnerBAetal:Anthropo-metricmeasuresandtheirrelationtoincidentprimaryopen-angleglaucoma.Ophthalmology117:1521-1529,20106)TanGS,WongTY,FongCWetal:Diabetesmetabolicabnormalitiesandglaucoma:theSingaporeMarayEyeStudy.ArchOphthalmol127:1354-1361,20097)TielschJM,KatzJ,SommerAetal:Familyhistoryandriskofprimaryopen-angleglaucoma:TheBaltimoreEyeSurvey.ArchOphthalmol112:69-73,19948)NakanoM,IkedaY,TokudaYetal:CommonvariantsinCDKN2B-AS1associatedwithoptic-nervevulnerabilityofglaucomaidenti.edbygenome-wideassociationstudiesinJapanese.PLoSOne7:e33389,20129)MitchellP,HourihanF,SandbachJetal:Therelation-shipbetweenglaucomaandmyopia:theBlueMountainsEyeStudy.Ophthalmology106:2010-2015,199910)ChopraV,VarmaR,FrancisBAetal:LosAngelesLati-noEyeStudyGroup.Type2diabetesmellitusandtheriskofopen-angleglaucoma:theLosAngelesLatinoEyeStudy.Ophthalmology115:227-232,200811)Sza.ikJP,RusinP,Zaleska-ZmijewskaAetal:ReactiveoxygenspeciespromotelocalizedDNAdamageinglauco-ma-iristissuesofelderlypatientsvulnerabletodiabeticinjury.MutatRes697:19-23,201012)ShioseY,KawaseY:Anewapproachtostrati.ednor-malintraocularpressureinageneralpopulation.AmJOphthalmol101:714-721,198613)WolfS,ArendO,SponselWEetal:Retinalhemodynam-icsusingscanninglaserophthalmoscopyandhemorheolo-gyinchronicopen-angleglaucoma.Ophthalmology100:1561-1566,199314)OhSW,LeeS,ParkCetal:Elevatedintraocularpres-sureisassociatedwithinsulinresistanceandmetabolicsyndrome.DiabetesMetabResRev21:434-440,200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Intrastromal Corneal Ring Segments(ICRS)術後合併症の2例

2015年11月30日 月曜日

図2症例2A:症例2の初診時スリット写真.細隙灯顕微鏡所見では,11時方向のICRSの断端の破損をみとめた.B:症例2のスリット写真.1時から2時のsegment部に上皮の欠損を認めた.周囲に軽度のin.ltrationを認める.C:症例2のスリット写真.フルオレセイン染色でsegment部に上皮の欠損を認める.表1ICRS術後の角膜感染症症例年術前病名眼数発症期間臨床所見原因菌Shanzlinetal10)1997近視15日(.)St.epidRuckhoferetal11)2001近視121日(.)(.)Bourcieretal12)2003近視13カ月(.)ClosetridiumSt.epidKwitkoetal13)2004円錐角膜1?Segment脱出ClosetridiumSt.epidHo.ing-Limaetal14)2004円錐角膜7(.)St.aureus他6種近視114日.22カ月(.)St.aureusShehadeh-Masha’ouretal15)2004LASIK後keratectasia13日(.)St.epidGalvisetal16)2007円錐角膜14カ月(.)St.aureusHashemietal17)2008円錐角膜140日Segmentの断端露出,潰瘍St.aureusIbanez-Alperteetal18)2010円錐角膜140日Segmentの脱出,潰瘍(.)Ferreretal19)2010?4???Coskunsevenetal20)2011円錐角膜1???本症例症例12014円錐角膜117カ月Segmentの断端露出,角膜炎(.)月9日再診時,上皮欠損は治癒しその後再発を認めていない.II考按ICRSは1988年1月に米国FDA(食品医薬品局)より許可され,現在Intacs(Additiontechnology,INC),Ferrara(FerraraOphthalmics,Ltd),Keraring(Mediphacos)が商品化されており,最近ではKCへの応用の報告が多い.ICRSの合併症として術中は1)前房への穿孔,2)上皮側への穿孔,などがあり,術後では1)segment周囲の混濁,2)感染症,3)角膜の菲薄化,4)segmentの脱出,5)乱視の発生,6)夜間の視力低下,7)複視,8)グレア,9)ヘイズ,などが報告されている19,21)が,これらの合併症のなかでも一番重篤なものは角膜感染症である.今回の症例1では外傷の既往はなく,受診の約2カ月前より異物感と疼痛を自覚していたことより,segmentの断端が徐々に脱出し,その部位に浮腫を生じその後,感染が発症したものと考えられた.原因菌は検出されなかったが,抗菌薬の治療により急速に治癒したことにより,細菌感染による角膜炎であったと思われた.術後感染症の既報告を表1にまとめた8,10.20).術後感染を起こした16例で手術から発症までの期間をみてみると,術後3日.22カ月とかなり長期間にわたり発症している.今回の症例1では術後17カ月と遅発性に発症した.術後2週以内に発症した症例は7例認められるが,これは(94)術中に感染した可能性が高いと考えられる.術後1カ月以上経過した遅発性の症例は13例と多く認められたが,その原因としては,1)角膜上皮内偽.胞(pseudocyst)の存在,2)角膜の創傷治癒の遅延,3)角膜厚の薄さ,4)segmentを挿入する部位の縫合,などが考えられている16).1)と2)の角膜上皮内偽.胞(pseudocyst)と創傷治癒の遅さであるが,radialkeratectomyを施行後15年経過した症例で創傷部に感染を起こした症例が報告されており22),切開部の創傷治癒の遅延23)に伴うepithelialpseudocystが原因24)と考えられている.Radialkeratotomy後のepithelialpseudocystは大きなcystでは細隙灯顕微鏡でも観察することはできるが,小さなものでは観察することがむずかしく,組織学的な観察で明確になる所見である.また,常に同じ場所で観察されるとは限らず,経過とともに他の部位に出現することもある.Koenigら25),Yamaguchiら26)は含水率74%のソフトコンタクトレンズ(Polymethylmethaerylate+HydrophyleicPoly-N-2-Vinylpyrolidone)をサルの角膜実質の層間に挿入し9カ月後に組織学的に観察しているが,挿入したソフトコンタクトレンズより前方の実質のkeratocyteの数は減少し,また上皮層は上皮細胞の丈が低く,また上皮層の厚みが薄くなっていることから,その部位への前房水からの栄養物質の到達が低下している可能性を報告している.ICRSのsegmentはメチルメタクリレートであり,seg-mentの上皮側はソフトコンタクトレンズよりもさらに栄養物質の供給が乏しいと考えられる.感染の既報告例の全16例中,上皮の欠損やsegmentの露出または脱出は5例に認められている.以上のことより長期的な栄養障害による上皮欠損やハードコンタクトレンズに装用に伴う摩擦による外的な障害,そのほか,pseudocystをきっかけに感染を生じたり,また実質層からsegmentが移動しgapeを生じ,萎縮した実質をsegmentが突き破ったりし,このようなさまざまなことをきっかけに感染症が発症したものと思われる.症例2では乱視矯正のためにハードコンタクトレンズを2年5カ月間装用していたが,定期的な経過観察中に上皮層の欠損を観察したのは初めてであった.角膜上皮欠損を起こす直前に角膜を観察していないためepithelialpseudocystが存在していたかは不明であるが,ハードコンタクトレンズによる上皮層の外的障害,segmentの前方の上皮層の菲薄化,また上皮内のpseudocystの関与が考えられた.3)の角膜の厚さが薄いことであるが,報告された16症例12例がKCである.薄くなった角膜にトンネルを作製するわけであり,segmentの上皮側は近視の症例より薄いことは明らかである.そのために,segmentの脱出の可能性は近視の症例よりもKCで高いものと考えられる.4)のsegment挿入部の縫合の存在であるが,segmentの断端がsegmentの挿入部の切開線に近いこと,また角膜のトンネル内をsegmentが容易に移動することが可能であり,外傷や眼をこすったりする外的な衝撃により,segmentが縫合部から脱出し,その部位から感染症を発症する可能性も考えられる.感染の原因菌であるが,今回の症例では原因菌を検出できなかったが,9報告中3報告で菌は検出されていない.菌の検出ができた報告例ではStaphylococcusaureusが早期から晩期までもっとも多く認められている.その他Staphylococ-cusepidermidisは術後早期の症例に検出されている.検出された菌では結膜.の常在菌が多いことより,これらの結果は治療の際の抗菌薬の選択に有益な情報と思われる.ICRSはわが国ではまだ一般的な術式ではないが,femto-secondlaser9)の開発に伴い,KCを中心に今後手術件数が増加すると思われる.本報告の2症例の結果より,術前に患者に角膜上皮欠損が生じることや,segmentの脱出や感染などが起こる可能性などの合併症を説明することは大切なことである.またICRSを受けた患者を診る際,術後長期にわたり合併症を起こすことを念頭に,定期的に慎重な観察が必要であると考える.III結論他院で,KCにICRS挿入術を受けた患者で,術後1年5カ月後にsegmentの脱出と感染性角膜炎を発症した症例と,近視矯正のためにICRSを受け,術後6年1カ月後にseg-ment直上の上皮に欠損を生じた2症例を経験した.術後に起こりうる合併症とそれに伴う自覚症状を患者に術前に教育することは大切なことであると考える.また,術後長期にわたり合併症が起こりうることより,定期的に慎重な観察が必要であると思われる.文献1)FlemingJF,ReynoldsAE,KilmerLetal:Theintrastro-malcornealring─twocasesinrabbits.JRefractSurg3:227-232,19872)NoseW,NevesRA,SchanzlinDJetal:Intrastromalcor-nealring─one-yearresultsof.rstimplantsinhumans:apreliminarynonfunctionaleyestudy.RefractCornealSurg9:452-458,19933)山口達夫:眼科診療Q&A第33号屈折矯正手術-ケラトリング.眼科33:1207ノ8-1207ノ9,20044)DurrieDS,VandeGardeTL:Intacsafterlaserinsitukeratomileusis.JRefractSurg2:236-238,20005)ColinJ,CochenerB,SavaryG:Correctingkeratoconuswithintracornealrings.JCataractRefractSurg26:1117-1122,20006)SiganosCS,KymionisGD,AstyrakakisNetal:Manage-mentofcornealectasiaafterlaserinsitukeratomileusis(95)あたらしい眼科Vol.32,No.11,20151607withINTACS.JRefractSurg18:43-46,20027)RuckhoferJ,StoiberJ,TwaMDetal:Correctionofastigmatismwithshortarc-lengthintrastromalcornealringsegments:preliminaryresults.Ophthalmology110:516-524,20038)SchanzlinDJ,AbbottRL,AsbellPAetal:Two-yearout-comesofintrastromalcornealringsegmentsforthecor-rectionofmyopia.Ophthalmology108:1688-1694,20019)CoskunsevenE,KymionisGD,TsiklisNSetal:One-yearresultsofintrastromalcornealringsegmentimplantation(KeraRing)usingfemtosecondlaserinpatientswithkera-toconus.AmJOphthalmol145:775-779,200810)SchanzlinDJ,AsbellPA,BurrisTEetal:Theintrastro-malcornealringsegments.PhaseIIresultsforthecorrec-tionofmyopia.Ophthalmology104:1067-1078,199711)RuckhoferJ,StoiberJ,AlznerEetal:OneyearresultsofEuropeanMulticenterStudyofintrastromalcornealringsegments.Part1:refractiveoutcomes.JCataractRefractSurg27:277-286,200112)BourcierT,BorderieV,LarocheL:Latebacterialkerati-tisafterimplantationofintrastromalcornealringseg-ments.JCataractRefractSurg29:407-409,200313)KwitkoS,SeveroNS:Ferraraintracornealringsegmentsforkeratoconus.JCataractRefractSurg30:812-820,200414)Ho.ing-LimaAL,BrancoBC,RomanoACetal:Cornealinfectionsafterimplantationofintracornealringsegments.Cornea23:547-549,200415)Shehadeh-Masha’ourR,ModiN,BarbaraAetal:Kerati-tisafterimplantationofintrastromalcornealringseg-ments.JCataractRefractSurg30:1802-1804,200416)GalvisV,TelloA,DelgadoJetal:Latebacterialkeratitisafterintracornealringsegments(Ferrararing)insertionforkeratoconus.Cornea26:1282-1284,200717)HashemiH,Gha.ariR,MohammadiMetal:MicrobialkeratitisafterINTACSimplantationwithloosesuture.JRefractSurg24:551-552,200818)Ibanez-AlperteJ,Perez-GarciaD,CristobalJAetal:Keratitisafterimplantationofintrastromalcornealringswithspontaneousextrusionofthesegment.CaseRepOphthalmol13:42-46,201019)FerrerC,AlioJL,MontanesAUetal:Causesofintra-stromalcornealringsegmentexplantation:clinicopatho-logiccorrelationanalysis.JCataractRefractSurg36:970-977,201020)CoskunsevenE,KymionisGD,TsiklisNSetal:Complica-tionsofintrastromalcornealringsegmentimplantationusingafemtosecondlaserforchannelcreation:asurveyof850eyeswithkeratoconus.ActaOphthalmol89:54-57,201121)Al-AmryM,AlkatanHM:Histopathologic.ndingsintwocaseswithhistoryofintrastromalcornealringseg-mentsinsertion.MiddleEastAfrJOphthalmol18:317-319,201122)HeidemannDG,DunnSP,ChowCY:Early-versuslate-onsetinfectiouskeratitisafterradialandastigmatickera-totomy:clinicalspectruminareferralpractice.JCataractRefractSurg25:1615-1619,199923)JesterJV,VillasenorRA,SchanzlinDJetal:Variationsincornealwoundhealingafterradialkeratotomy:possi-bleinsightsintomechanismsofclinicalcomplicationsandrefractivee.ects.Cornea11:191-199,199224)JesterJV,VillasenorRA,MiyashiroJ:Epithelialinclusioncystsfollowingradialkeratotomy.ArchOphthalmol101:611-615,198325)KoenigSB,HamanoT,YamaguchiTetal:Refractivekeratoplastywithhydrogelimplantsinprimates.Ophthal-micSurg15:225-229,198426)YamaguchiT,KoenigSB,HamanoTetal:Electronmicroscopicstudyofintrastromalhydrogelimplantsinprimates.Ophthalmology91:1170-1175,1984***(96)

炎症性結膜疾患における涙液中Sialyl-Lewis X値の検討

2015年11月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科32(11):1599.1603,2015c炎症性結膜疾患における涙液中Sialyl-LewisX値の検討白木夕起子庄司純石森秋子稲田紀子日本大学医学部視覚科学系眼科学分野EvaluationofSialyl-LewisXLevelsinTearsofPatientswithIn.ammatoryConjunctivalDiseasesYukikoShiraki,JunSyoji,AkikoIshimoriandNorikoInadaDivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine目的:非感染性炎症性結膜疾患における涙液中Sialyl-LewisX値の検討.対象および方法:対象は春季カタル(VKC群)12例,Sjogren症候群(SS群)9例および健常対照(コントロール群)10例である.涙液はSchirmer試験第Ⅰ法に準じた濾紙法で採取し,緩衝液中で溶出して40倍希釈涙液検体とした.涙液検体はenzyme-linkedimmuno-sorbentassay(ELISA)法を用いて,涙液中のSialyl-LewisX値を測定した.結果:涙液中Sialyl-LewisX値は,VKC群:4.0(1.7.10.9)[中央値(レンジ)]kU/ml,SS群:8.8(0.5.32.8),コントロール群:10.4(2.9.28.8)であった.VKC群の涙液中Sialyl-LewisX値は,コントロール群と比較して有意に低値を示した(p<0.05,Steel-Dwasstest).コントロール群とSS群との涙液中Sialyl-LewisX値に差はなかった.結論:春季カタルでみられる結膜のアレルギー炎症は,涙液中Sialyl-LewisX値の変動に影響する可能性が考えられた.Purpose:ToevaluateSialyl-LewisXlevelsintearsofpatientswithnon-infectiousin.ammatoryconjunctivaldiseases.SubjectsandMethods:Subjectswerepatientswithvernalkeratoconjunctivitis(VKCgroup)(n=12)orSjogren’ssyndrome(SSgroup)(n=9);healthyvolunteersservedascontrol(controlgroup)(n=10).Tearsam-pleswereobtainedusinga.lterpapermethodbasedontheSchirmerItest,diluted40timeswithbu.eredsolu-tion.Sialyl-LewisXlevelsweredeterminedbyenzyme-linkedimmunosorbentassay.Results:Sialyl-LewisXlev-elsintearswere4.0(1.7-10.9)[median(range)][kU/ml],8.8(0.5-32.8)and10.4(2.9-28.8)inVKC,Sjogrenandcontrolgroups,respectively.Sialyl-LewisXlevelsintheVKCgroupshowedasigni.cantlylowlevelascomparedtothoseinthecontrolgroup(p<0.05,Steel-Dwasstest).Therewasnodi.erenceinSialyl-LewisXlevelsbetweencontrolandSSgroups.Conclusion:Allergyin.ammation,whichispresentinconjunctivaofpatientswithVKC,maya.ectchangesinSialyl-LewisXtearlevelsinpatientswithVKC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(11):1599.1603,2015〕Keywords:シアリルルイスX,春季カタル,シェーグレン症候群,涙液検査.Sialyl-LewisX,vernalkeratocon-junctivitis,Sjogren’ssyndrome,teartest.はじめに結膜の炎症性疾患は,感染性結膜炎と非感染性結膜炎とに大別される.非感染性結膜炎には,I型アレルギー反応を主要病態とするアレルギー性結膜疾患,自己免疫疾患であるSjogren症候群および瘢痕性結膜疾患であるStevens-John-son症候群や眼類天疱瘡などが含まれる.春季カタル(vernalkeratoconjunctivitis:VKC)は,瞼結膜の石垣状乳頭増殖や輪部堤防状隆起などの結膜増殖性変化がみられるアレルギー性結膜疾患である.VKCの患者背景としては,アトピー性皮膚炎や気管支喘息などのアトピー素因を有し,種々の環境因子により増悪と寛解とを繰り返す症例がみられる.また,VKCの病態や重症度を把握するための眼アレルギー検査は現在のところ存在せず,涙液検査を中心に検討が進められている.これまでに,涙液検査項目として有望視されている涙液中バイオマーカーは,eosinophilcationicprotein(ECP)1.3),IL-4などの2型ヘルパーT細〔別刷請求先〕白木夕起子:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野Reprintrequests:YukikoShiraki,M.D.,DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,30-1OyaguchiKamicho,Itabashi-ku,Tokyo173-8610,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(87)1599胞(Th2)関連サイトカイン4,5),eotaxinやthymusandacti-vationregulatedchemokine(TARC)などのTh2ケモカイン6.8)があげられる.Sjogren症候群は,ドライアイ,ドライマウスおよび関節炎がみられる自己免疫疾患である.涙液中のバイオマーカーに関する既報では,カテプシンSやケモカインであるCXCL9/MIG,CXCL10/IP-10,CXCL11/I-TACが涙液中に増加しているとされている9,10).一方,Sialyl-LewisXは,シアリルルイスグループに属する糖鎖抗原であり,癌関連糖鎖抗原(腫瘍マーカー)11),分泌型ムチン(MUC5AC)のO型糖鎖12),血管内皮に発現されるE-,P-セレクチンと結合する白血球の糖鎖リガンド13)などとして知られている.今回,炎症性結膜疾患であるVKCおよびSjogren症候群を対象として,涙液検査におけるSialyl-LewisXのバイオマーカーとしての有用性について検討した.I対象および方法本研究は,日本大学医学部附属板橋病院臨床研究審査委員会の承認を得た.1.対象対象は,2005年5月.2012年1月に日本大学医学部附属板橋病院眼科を受診したVKC12例12眼(VKC群),Sjogren症候群9例9眼(SS群),対照10例10眼(コントロール群)である.各群の詳細を表1に示す.対照は,屈折異常以外の眼疾患および全身疾患の既往のない健常成人とした.対象眼については,SS群および,コントロール群では左眼を選択した.VKC群では,症状に左右差のある症例については重症眼を,左右差のない症例については左眼を選択した.また,VKC群で,経時的に測定を行った症例については,増悪期がある場合はそのときの値を,ない場合は初診時の測定値を選択した.2.方法a.臨床所見・臨床スコア臨床所見は,細隙灯顕微鏡を用いて,巨大乳頭,輪部堤防状隆起および落屑状点状表層角膜炎(super.cialpunctatekeratitis:SPK,落屑状SPK)の発現の有無について検討した.また,臨床スコアは,5-5-5方式重症度観察スケール14)表1対象VKCSSControl症例数(例)12910年齢(平均±標準偏差)(歳)24.0±9.669.8±8.971.4±11.6性差(男性:女性)10:20:91:9VKC:vernalkeratoconjunctivitis,SS:Sjogren’ssyndrome.を用いて,5-5-5方式重症度観察スケールで提示されている他覚所見15項目により臨床スコアを算出した.b.涙液採取法涙液検体の採取方法は,既報に従って行った5).まず,Schirmer試験第I法に準じて,Schirmer試験紙(SchirmerTearProductionMeasuringStripsR,昭和薬品化工)を使用した濾紙法により涙液を採取した.涙液を採取した濾紙は,0.5MNaCl,0.5%Tween20添加0.01Mリン酸緩衝液中で室温,overnightして涙液を溶出し,40倍希釈涙液検体を作製した.涙液採取はSS群とコントロール群の場合には任意の時期に1回,VKC群の場合には初診時を必須とし,経時的な検討を行った症例では,経過中に複数回の涙液採取を行った.c.Enzymeimmunoassay(EIA)法涙液中Sialyl-LewisX値をenzyme-linkedimmunosor-bentassay(ELISA)法で測定した.今回のELISA法は,N-テストEIAプレートCSLEX-Hニットーボー(ニットーボーメディカル,東京)を用いて,キットの使用方法に従って施行した.また,涙液eosinophilcationicprotein(ECP)値は,化学発光酵素免疫測定法を用いた自動化測定装置であるイムライズ(三菱化学メディエンス,東京)で測定した.d.統計学的解析涙液中Sialyl-LewisX値の群間比較は,Steel-Dwasstestを用いて行った.また,VKC群における涙液中Sialyl-Lew-isX値と臨床所見との関係は,2項ロジスティック回帰により行った.危険率5%未満を有意差ありとした.II結果1.涙液中Sialyl-LewisX値涙液中Sialyl-LewisX値は,コントロール群10.4(2.9.28.8)kU/ml[中央値(レンジ)],SS群8.8(0.5.32.8)kU/ml,VKC群4.0(1.7.10.9)kU/mlであった.VKC群の涙液中Sialyl-LewisX値は,コントロール群と比較して有意に低値を示した(p<0.05,Steel-Dwasstest)(図1).SS群では涙液中Sialyl-LewisX値が低値の症例と高値の症例が混在し,全体ではコントロール群と差はなかった.2.VKC群における涙液中Sialyl-LewisX値と臨床所見コントロール群の測定値を用いて,涙液中Sialyl-LewisX値の健常域を算出した.コントロール群における涙液中Sialyl-LewisX値の5パーセンタイル値は2.95kU/ml,95パーセンタイル値は26.46kU/mLであったため,3.0.26.5kU/mlを健常域に定めた(図2).VKC群のなかで,涙液中Sialyl-LewisX値が3.0kU/ml未満の症例を低値群,3.0kU/ml以上の症例を非低値群とした.VKC群12眼中,低値群は5眼,非低値群は7眼であった.VKCの巨大乳頭および1600あたらしい眼科Vol.32,No.11,2015(88)*35NS303526.46(95パーセンタイル値)涙液中sialyl-LewisX値(kU/ml)302520151050Sialyl-LewisX値(kU/ml)15健常域2520105ControlSSVKC図1Control群,SS群,VKC群の涙液中Sialyl-LewisX値VKC群はコントロール群と比較して有意に低値を示した(*:p<0.05,Steel-Dwasstest).SS群では低値の症例と高値の症例が混在し,全体ではコントロール群と差がない(NS:notsigni.cant).落屑状SPKと涙液中Sialyl-LewisX値との関係は,表2に示した.巨大乳頭および落屑状SPKの有無を,「所見あり」と「所見なし」との2値変数に変換し2項ロジスティック回帰により検討した.結果は落屑状SPKでオッズ比24.0だったが,統計学的有意差はなかった.3.症例涙液中Sialyl-LewisX値が低値であり,落屑状SPKが存在したVKC群の代表症例を以下に示す.〔症例〕9歳,女児.現病歴:3年前からVKCのため,前医に通院していた.落屑状SPKを伴う角膜上皮障害による視力低下のため,当院へ紹介受診した.既往歴:アトピー性皮膚炎,気管支喘息.初診時所見:視力はVD=0.15(0.15×+2.00D),VS=0.4(矯正不能),眼圧はTd=16mmHg,Ts=8mmHgであった.初診時の前眼部所見は,両眼眼瞼結膜に粘稠性眼脂を伴う巨大乳頭がみられ,両眼角膜全面に落屑状SPKおよび角膜上方に血管侵入がみられた.右眼角膜にはSchield潰瘍がみられた(図3-a-1,3-a-2).経過:初診時から副腎皮質ステロイド(ステロイド)結膜下注射(ケナコルト-AR筋注用関節腔内用水懸注),ステロイド点眼薬(眼・耳鼻科用リンデロンR液0.1%),シクロスポリン点眼薬(パピロックミニR点眼液0.1%),抗アレルギー点眼薬(インタールRUD点眼液2%)による治療を開始した.治療開始後1週間で粘稠性眼脂と両眼角膜の落屑状SPK,右眼のSchield潰瘍は軽快したが,両眼角膜下方のSPKは残存した.治療開始後2週間目からは,自覚症状および他覚所見が軽快したため,シクロスポリン点眼薬と抗アレルギー点眼薬と(89)2.95(5パーセンタイル値)0図2コントロール群の涙液中Sialyl-LewisX値涙液中Sialyl-LewisX濃度の健常域は,コントロール群の5パーセンタイル値と95パーセンタイル値により算出した.表2VKC群における臨床所見と涙液中Sialyl-LewisX濃度Sialyl-LewisX(kU/ml)年齢(歳)性別落屑状SPK巨大乳頭低値群1.71.71.91.92.72414998MMFMF●●●●●●●●非低値群3.74.25.25.45.610.610.93013169273312MMMMMMM●●●●●●●SPK:super.cialpunctatekeratitis.●:所見あり,M:男性,F:女性.の2者併用療法により治療を継続した.8週後には巨大乳頭は扁平化し,角膜上皮障害は軽症化していた.(図3-b-1,3-b-2).2カ月半後,右眼に再燃がみられた,右眼の再燃時所見は,角膜に落屑状SPKがみられ,扁平化していた巨大乳頭は隆起した活動性巨大乳頭に変化していた.右眼にステロイド点眼薬とステロイド眼軟膏(サンテゾーンR眼軟膏0.05%)の追加投与を開始したが,ステロイド薬の追加投与後3週経過しても他覚所見はあまり改善しなかった.経過中に測定した涙液ECP値および涙液中Sialyl-LewisX値の測定結果を図4に示す.VKCの治療が開始されると徐々に涙液ECP値が減少しており,再燃時に再上昇していあたらしい眼科Vol.32,No.11,20151601右眼左眼a1a2100,00010,00010,0001,000涙液ECP値(ng/ml),sialyl-LewisX値(kU/ml)涙液ECP値(ng/ml),sialyl-LewisX値(kU/ml)1,00010010010b1b210110.10.1図3春季カタル代表症例の前眼部写真a-1・a-2:治療開始前の前眼部写真.活動性の巨大乳頭と落屑状SPKとがみられる.b-1・b-2:治療開始後8週間目の前眼部写真.巨大乳頭は扁平化し,角膜上皮障害は軽症化している.た.涙液中Sialyl-LewisX値の変化は,涙液ECP値に類似した動向を示した.III考按今回,非感染性炎症性結膜疾患において涙液中Sialyl-LewisX値を測定した.涙液中Sialyl-LewisX値は健常対照と比較して,Sjogren症候群は低値を示したが有意差はなく,VKCでは有意に低値を示した.すなわち,涙液Sialyl-LewisX値は,炎症性結膜疾患のなかでもアレルギー炎症により変化する因子であると考えられたため,VKC症例での検討を進めた.まず,VKC群12例をSialyl-LewisX低値群と非低値群で分け,5-5-5方式重症度観察スケールの他覚所見15項目の有無により,背景因子の検討を行った.低値群は,健常対照の測定値の5.95パーセンタイル値を健常域と設定し,健常域下限値未満の症例を低値群とした.低値群と非低値群との両群間で差がみられた他覚所見は落屑状SPKであった(有意差なし).落屑状SPKは低値群で多くみられ,非低値群では1例のみ陽性であった.落屑状SPKは,角膜所見によるVKCの重症例判定において中等症と判定される所見である.したがって,涙液Sialyl-LewisX値は,重症度が中等症以上のVKC症例で低値を示すと考えることができるが,落屑状SPKは急性増悪時にみられる臨床所見でもあることから,炎症の急性増悪期に涙液中Sialyl-LewisX値が低下する可能性も考えられた.VKCの治療に関して,軽症例では抗アレルギー点眼薬を使用し,重症例では副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制点眼薬を追加する必要があるとされ,重症度に応じて治療が異なる.したがって,涙液Sialyl-LewisX値がVKCの重症化判定因子として臨床応用図4春季カタル代表症例の涙液ECP値および涙液中Sialyl-LewisX値の経時的測定結果涙液ECP値は,治療により徐々に減少し,再燃時に再上昇した.涙液中Sialyl-LewisX値は経過を通して低値を示したが,涙液ECP値に類似した若干の変動を示した.■:涙液ECP値,□:涙液中Sialyl-LewisX値.できれば,薬剤の適正使用に関連する重要な検査項目になる可能性があると考えられた.ただし,今回の結果はオッズ比24.0であったが症例数が少ないため,統計学的有意差は得られておらず,今後症例数を増やしてさらなる検討が必要であると考えられた.炎症性疾患とSialyl-LewisXとの関係を検討した既報では,血管内皮細胞に発現されたP-セレクチンおよびE-セレクチンに対する好中球やリンパ球に発現しているリガンドとして作用するとされている13).また,アレルギー性疾患においては,好酸球の関与するアレルギー炎症との関連が検討されている.Sagaraらは,気管支喘息モルモットモデルを用いて,Sialyl-LewisXanalogを投与することにより好酸球浸潤と遅発相が抑制されたとし,Sialyl-LewisXがアレルギー炎症における好酸球浸潤に関与することを報告している15).これらの報告では,Sialyl-LewisXを炎症細胞浸潤に関与する接着分子のリガンドとして注目しているが,粘膜組織で分泌されるムチンの糖鎖として生体防禦や炎症に関与することも検討されている.石橋らは,Sialyl-LewisXが分泌型ムチンであるMUC5ACの糖鎖として存在し,炎症性気道疾患では糖鎖の変化が細菌やウイルスに対する生体防禦反応に影響するとしている12).また,Colombらは,気道上皮細胞ではtumornecrosisfactor(TNF)がST3GAL4(ST3b-galactosidea.2,3-sialyltransferase4)を介してSialyl-LewisXの増加に関与すると報告している16).今回の涙液Sialyl-LewisX値はムチン型糖鎖を反映している可能性があると考えられるが,詳細についてはさらなる検討が必要である.涙液中Sialyl-LewisX値が低値であり,落屑状SPKが存1602あたらしい眼科Vol.32,No.11,2015(90)在したVKC群1症例による経過観察では,免疫抑制薬点眼治療により,症状が沈静化した8週後に涙液ECP値は低下し,症状が再燃した2カ月半後には再度上昇した.ECPは好酸球内特異顆粒中に含有される特異顆粒蛋白の一つである.好酸球が活性化すると脱顆粒により特異顆粒蛋白を放出し,アレルギー炎症による組織障害に関与するとされている.涙液ECP値はアレルギー性結膜疾患症例に対する抗原点眼誘発試験により,誘発後6時間以降,すなわち遅発相で有意に増加することが報告されている17).また,VKCに対する免疫抑制点眼薬による治療での治療効果判定として,シクロスポリン点眼薬治療例18)での涙液ECP値の検査結果が示され,重症度判定・薬剤の適正使用が可能となると考えられている.本症例では,アレルギー炎症の指標として用いた涙液ECP値と涙液Sialyl-LewisX値との関係を経時的に示した.涙液中Sialyl-LewisX値は経過を通して低値を示したが,涙液ECP値に類似した若干の変動を示した.重症VKCでは,経過中にMUC5ACの減少によるドライアイを合併する可能性が示されているため19),涙液Sialyl-LewisX値はムチン分泌の変化とともに再検討する必要があると考えられた.今回の検討ではSialyl-LewisXが涙液中に存在し,高度のアレルギー炎症により涙液中の含有量が変化すると考えられた.涙液Sialyl-LewisX値は,アレルギー炎症を評価するバイオマーカーのひとつとして有望であると考えられた.文献1)ShojiJ,KitazawaM,InadaNetal:E.cacyofteareosin-ophilcationicproteinlevelmeasurementusing.lterpaperfordiagnosingallergicconjunctivaldisorders.JpnJOph-thalmol47:64-68,20032)LonardiA,BorghesanF,FaggianDetal:Tearandserumsolubleleukocyteactivationmarkersinconjuncti-valallergicdiseases.AmJOphthalmol129:151-158,20003)MontanPG,vanHage-HamstenM:Eosinophilcationicproteinintearsinallergicconjunctivitis.BrJOphthalmol80:556-560,19964)FujishimaH,TakeuchiT,ShinozakiNetal:Measure-mentofIL-4intearsofpatientswithseasonalallergicconjunctivitisandvernalkeratoconjunctivitis.ClinExpImmunol102:395-399,19955)UchioE,OnoSY,IkezawaZetal:Tearlevelsofinterfer-on-g,interleukin(IL)-2,IL-4andIL-5inpatientswithvernalkeratoconjunctivitisandallergicconjunctivitis.ClinExpAllergy30:103-109,20006)FukagawaK,NakajimaT,TsubotaKetal:Presenceofeotaxinintearso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