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斜視と弱視のABC:弱視と間違いやすい眼疾患

2016年10月31日 月曜日

斜視と弱視のABC監修/佐藤美保2.弱視と間違いやすい眼疾患須藤希実子成田記念病院眼科弱視と診断されていた症例が,眼底検査やERG検査によって器質的疾患とわかることがあり,鑑別が重要である.たとえば,若年網膜分離症,先天停止性夜盲,錐体ジストロフィ,網膜色素変性症,黄斑低形成,視神経低形成,家族性滲出性硝子体網膜症があげられる.はじめに視力低下で受診した小児を弱視と診断する際に,眼底検査によって器質的疾患でないことを鑑別することは非常に重要である.本稿では弱視と間違いやすい眼疾患のなかで,とくに網膜疾患に焦点を絞って鑑別する.検査と診断問診では家族が気づいた小児の様子,出生時の状況,既往歴,家族歴を聴取する.両眼性か片眼性か,羞明や夜盲,眼振の有無をチェックし,屈折検査,視力検査,眼位検査を行う.その後,前眼部検査,眼底検査を行い,疑わしい器質的疾患によっては視野検査,色覚検査,調節麻痺薬点眼下での屈折検査,網膜電図(electroretinogram:ERG)検査,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT),蛍光眼底造影などの検査を進めていく.小児であるため,侵襲のある検査は全身麻酔下で行う必要がある.若年網膜分離症一般的に男子の両眼性にみられ,中等度の遠視のことが多く,斜視や眼振を合併することがある.視力は0.2~0.4程度である.眼底所見としては車軸状の中心窩分離(図1a)はほぼ必発であり,周辺の網膜分離は約半数にみられる.強い白色閃光刺激によるERGで陰性型を示す.OCTは比較的容易に行うことが可能で,中心窩の網膜分離が診断の決め手となる(図1b).進行は緩徐であるが,網膜?離や硝子体出血,緑内障を合併することがある1,2).先天停止性夜盲先天性,非進行性の網膜疾患で,特記する眼底異常がなく,しばしば斜視を合併するため診断がむずかしい2).三宅ら3)によってERGの波形から杆体機能が消失した完全型と,杆体機能が残存している不全型に分類された.両型ともに視力は0.1~0.5程度であり,完全型には強度から中等度の近視が多いのに対し,不全型には近視から遠視まで幅広く分布している.夜盲という診断にもかかわらず,完全型では約1/3の症例が夜盲を自覚するのみで,不全型では夜盲の自覚は少ない.錐体ジストロフィ錐体系の網膜機能が進行性に障害される先天性疾患である.視力低下,羞明,色覚異常,眼振などを主訴に受診することが多く,視力は徐々に低下し,最終的には0.1かそれ以下になる.視野は中心暗点などを示すが,周辺視野はほぼ正常である.眼底異常がないものもあるが,典型的には標的黄斑症を示し,蛍光眼底造影では輪状のwindowdefectによる過蛍光を認める.錐体系ERG(coneと30Hzflicker)で振幅が低下あるいは消失する2).網膜色素変性症10~20歳代で夜盲を発症し,30歳代から視野狭窄が進行し,50歳以降社会的な失明に至ることが多い.眼底は網膜血管,とくに動脈の狭細化,視神経乳頭のろう様萎縮がみられる.小児期には夜盲や特徴的な骨小体様色素集積がみられず,診断が困難である.ERGは消失型が多い.日本での遺伝形式は常染色体優性遺伝16.9%,常染色体劣性遺伝25.2%,X連鎖性遺伝1.6%,孤発例56.3%である4).黄斑低形成黄斑部と中心窩の形成が不全な先天異常である.通常は両眼性で眼振を伴う.低形成の程度によっては視力は比較的良好で,検眼鏡での診断が困難なことがある.本症単独の場合もあるが,白皮症や先天無虹彩に合併することもある.眼皮膚白皮症では,皮膚の色が正常なことがあるため,狭義の先天眼振との鑑別には黄斑低形成の有無が重要となる.OCTでの異常所見と視力に関係がみられる5).本症単独例では視力は0.1~0.3程度であるが,色覚は正常で周辺視野,ERGなどの視機能は比較的良好である.視神経低形成視神経乳頭が小さい先天異常で,乳頭黄斑部間距離/乳頭径比(disc-maculadistancetodiscdiameterratio:DM/DD)が3.2以上(正常2.1~3.2)であれば小さいと判断される.弱視,斜視,眼振で発見されることが多い.視力は正常なものから光覚弁までさまざまであり,両眼性,片眼性のどちらもある.ERGは正常,視覚誘発電位で異常をきたす.また,黄斑低形成,小角膜,先天無虹彩などの眼発生異常と合併する例がみられ,全身合併症としては透明中隔欠損を合併し,知的障害や内分泌障害となることがある(視神経中隔異形成)ので,頭部MRIを行う必要がある.家族性滲出性硝子体網膜症(familialexudativevitreoretinopathy:FEVR)網膜血管が未熟な状態で発育を停止したことにより,未熟児網膜症に類似した眼底所見を呈する.典型例は常染色体優性遺伝を示し,両眼性である.無症候性に徐々に進行し,眼底検査や裂孔原性網膜?離で発見されることが多く,視力障害の程度はさまざまである.乳幼児にみられる活動期FEVRは急速に進行し,牽引乳頭や鎌状網膜?離,硝子体出血を合併することが多い.瘢痕期FEVRは周辺部変性型,牽引乳頭型,鎌状?離型に分かれる.蛍光眼底造影で網膜血管異常を把握する.おわりに小児が視力低下で受診し屈折異常がある場合,弱視と診断する前に眼底検査で網膜疾患が見つかることは珍しくない.器質的疾患の可能性を念頭において眼底検査やERG検査,OCT検査などを行うことが重要である.一方,器質的疾患が見つかった場合でも,屈折異常によって視力発達が妨げられる可能性があるため,眼鏡による屈折矯正は重要である.文献1)堀田喜裕:弱視と間違いやすい眼疾患検査のコツa.分子遺伝学的検査.すぐに役立つ眼科診療の知識?両眼視(大月洋編),p70-73,金原出版,20072)近藤峰生:弱視と間違えやすい網膜疾患.眼科44:717-728,20023)三宅養三:新しい疾患概念の確立?先天停止性夜盲の完全型と不全型?.日眼会誌106:737-756,20024)HayakawaM,FujikiK,KanaiAetal:MulticentergeneticstudyofretinitispigmentosainJapan:II.Prevalenceofautosomalrecessiveretinitispigmentosa.JpnJOphthalmol41:7-11,19975)ThomasMG,KumarA,MohammadSetal:Structuralgradingoffovealhypoplasiausingspectral-domainopticalcoherencetomography:Apredictorofvisualacuity?Ophthalmology118:1653-1660,2011図1若年網膜分離症a:眼底写真.車軸状の中心窩分離を認める.b:OCT写真.神経線維層で感覚網膜が内層と外層に分離している.(77)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.10,20161463(78)

眼瞼・結膜:上輪部角結膜炎(SLK)

2016年10月31日 月曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人19.上輪部角結膜炎(SLK)山田昌和杏林大学医学部眼科学教室上輪部角結膜炎は,上方の結膜弛緩症である.弛緩した球結膜に瞬目時の機械的刺激が加わって上方球結膜の病変を生じる.保存的治療はドライアイ治療薬で涙液の潤滑油作用を増強し,ステロイド薬で消炎を図るのが基本であり,難治例では結膜手術が推奨される.●SLKとは上輪部角結膜炎(superiorlimbickeratoconjunctivitis:SLK)は,1963年Theodoreにより報告された疾患である1).中高年の女性に多く,片眼または両眼の異物感,灼熱感を主徴とする.細隙灯顕微鏡では一見すると角結膜に病変がないようにみえるが,下方視させて上方の球結膜をみると充血や肥厚が観察され,この部分はリサミングリーンやフルオレセインで染色される(図1).病因は長い間不明であり,ホルモン異常説,ビタミンA欠乏説,アレルギーや自己免疫説などさまざまな説が提唱され,さまざまな治療法が試みられてきた.そのなかで以前から有力視されていたのは,SLKは眼瞼結膜と球結膜との機械的摩擦で生じるとする説であり,10年ほど前にYokoiら2)とTsengら3)の2つのグループからSLKの病態には上方球結膜の弛緩,結膜と強膜の接着不良が関係していることが報告され,病態の理解が進んだ.SLKは,上方の弛緩した球結膜に瞬目時の機械的刺激が加わって生じる.球結膜と眼瞼結膜の摩擦による障害が球結膜側に表現されたものがSLKであり,眼瞼結膜側ではlidwiperepitheliopathy(LWE)となる.実際にSLKの症例ではLWEを合併することが少なくない.摩擦が亢進する原因として,球結膜弛緩以外に涙液量減少や涙液の質の異常,瞬目異常(眼瞼痙攣や瞬目過多など),眼瞼の形状・位置異常などさまざまな要素が重なり合って臨床的にSLKとして表れるようになる.SLKが甲状腺機能亢進症や眼瞼下垂術後に生じやすいのも眼瞼の形状・位置の問題と解釈すると理解しやすい.●SLKの保存的治療SLKの治療として人工涙液やヒアルロン酸,ステロイド薬,ビタミンA点眼液などさまざまな種類の点眼治療や涙点プラグ,治療用コンタクトレンズ,硝酸銀塗布などの処置が試みられてきた.これらの治療法はSLKの病態・概念からは,①潤滑油を加える治療,②摩擦によって生じる続発性炎症の抑制,③瞬目時の摩擦を軽減する処置,の3つに分けることができる.①潤滑油を加える治療としては,液層成分の補充として人工涙液,ヒアルロン酸の点眼があり,涙液量の増加としては涙点プラグがある.SLKでは上下涙点にプラグを挿入すると流涙をきたすことが多いので,まず上涙点だけにプラグ挿入を試すとよい.ジクアホソルやレバミピドといったドライアイ治療薬は涙液中の分泌型ムチン増加を通じて摩擦軽減効果が期待でき,SLKの治療に有効という報告がみられる.②摩擦によって生じる続発性炎症の抑制にはステロイド薬の点眼が相当し,レバミピドも抗炎症効果が期待できる.③瞬目時の摩擦を軽減する処置には治療用コンタクトレンズと硝酸銀塗布があげられる.硝酸銀塗布はわが国ではまず施行されないが,化学傷によって球結膜の短縮や癒着形成を促すものと推測される.●SLKの手術治療SLKは上方の結膜弛緩症という概念に基づいた手術的治療の有効性も報告されている.余剰の結膜を除去する目的で弓状の結膜切除術を行う術式や,結膜と強膜の接着を強化する目的で結膜切除と羊膜移植術を行う術式などが提唱されている2,3).筆者らは簡便で侵襲の少ない術式として,球結膜を伸展するために結膜強膜縫着を行う方法を行っている4).弛緩した上方球結膜をスパーテルで結膜円蓋部方向に圧排,伸展させた状態で,輪部から8~10mmの位置で10-0ナイロン糸を結膜から強膜に4~5針程度縫着する.充血や上皮障害のある部位にはまったく触らないが,術後には速やかな消炎と上皮障害の改善を得ることができる.SLKでは手術治療は第一選択ではないが,薬物治療,保存的治療に反応しない症例では積極的に試みてよいと考えている.文献1)TheodoreFH:Superiorlimbickeratoconjunctivitis.EyeEarNoseThroatMon42:25-28,19632)YokoiN,KomuroA,MaruyamaKetal:Newsurgicaltreatmentforsuperiorlimbickeratoconjunctivitisanditsassociationwithconjunctivochalasis.AmJOphthalmol135:303-308,20033)KheirkhahA,CasasV,EsquenaziSetal:Newsurgicalapproachforsuperiorconjunctivochalasis.Cornea26:685-691,20074)YamadaM,HatouS,MochizukiH:Conjunctivalfixationsuturesforrefractorysuperiorlimbickeratoconjunctivitis.BrJOphthalmol93:1570-1571,2009図1上輪部角結膜炎上方球結膜の充血と肥厚がみられ(a),同部位はフルオレセインで密に染色される(b).(75)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.10,20161461図2図1の症例の結膜強膜縫着術後上方球結膜の炎症所見は消失し(a),フルオレセイン染色も陰性となった(b).1462あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(76)

抗VEGF治療:網膜色素上皮裂孔(RPE tear)発生症例の転帰

2016年10月31日 月曜日

抗VEGF治療セミナー●連載監修=安川力髙橋寛二33.網膜色素上皮裂孔(RPEtear)発生症例の転帰松原央三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学網膜色素上皮裂孔(RPEtear)は,滲出型加齢黄斑変性の治療経過中に遭遇する合併症の一つである.網膜色素上皮?離を伴う滲出型加齢黄斑変性に発生し,RPEtearが中心窩を含むと視力低下を生じ予後が不良になる.本稿ではRPEtear発生症例の予後について解説する.網膜色素上皮裂孔(RPEtear)網膜色素上皮裂孔(retinalpigmentepitheliumtear:RPEtear)は,検眼鏡検査で境界明瞭な三日月状もしくは不整円形で,脈絡膜の透見性が増強した褐色の所見を示し,眼底自発蛍光(fundusautofluorescence:FAF)で明瞭な低蛍光を示す.典型的には脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)の対側の網膜色素上皮?離(pigmentepithelialdetachment:PED)断端からCNVに向かってRPE層が収縮し,塊状の隆起とRPE層が欠損した光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)像となる.漿液性網膜?離や網膜下出血を伴うことがあり,とくに網膜下出血が中心窩に及ぶと視力予後が不良となる.広範囲に網膜下出血が存在する症例ではRPE欠損部の特定ができない場合があるが,RPE欠損部や収縮したRPE塊が中心窩にかからない症例では視力予後は良好である(図1).一方,RPE欠損部に中心窩が含まれると視力予後は不良となる.発生直後に中心窩が含まれていなくとも,ゆっくりと拡大する場合や,他の部位からRPEtearが形成される場合があるため,中心窩とRPEtearの位置関係に注意をはらう必要がある.RPEtear発生後経過RPE欠損部は無色素性色素上皮細胞もしくはRPE細胞が増殖することで被覆され,RPE欠損部は経過とともに縮小する.検眼鏡的にやや混濁した白色を呈し,FAFの低蛍光部境界が不明瞭となり,フルオレセイン眼底造影検査での蛍光漏出は次第に減少する.RPE欠損部や収縮して一塊となったRPEが中心窩に及ぶかどうか,脈絡膜新生血管の活動を抑制できるかどうかが長期経過に影響を及ぼす.自然経過では,線維瘢痕形成とCNVからの滲出および中心窩が病変に含まれることにより,視力は次第に低下し不良となると報告されている1).また,RPEtear発生後のCNVの活動性が低い場合には,網膜下液(subretinalfluid:SRF)は早期に吸収され,Bruch膜と網膜が直接接着し視力は維持されるが,CNVの活動性が高くSRFの持続や再燃が起こった場合には,欠損部に厚い線維性瘢痕が形成され視力は低下する2).一方でRPEtear発生後にCNVからの滲出の持続や再燃に対して抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)薬治療を継続して行った12カ月経過では,50%の症例でRPEtearの面積は縮小もしくは不変であり,治療継続によりRPEtearは安定し視力は維持されたが,抗VEGF治療の反応不良例では視力は低下していた3).RPEtear発生後の抗VEGF治療継続の有効性RPEtear発生後3年以上の経過を後ろ向きに検討した報告では,視力維持改善群ではRPEtear発生後の抗VEGF薬の投与回数が多く(とくに1年目),抗VEGF治療を継続することで滲出性変化が抑制され網膜形態が維持されていた.また,RPEtearの拡大が促進されることはなくRPE欠損部は縮小していた.一方,視力悪化群では,CNVの活動があり,抗VEGF薬の投与が少なく,最終的に線維性瘢痕を形成していた4).また,3年後の視力と総注射回数ならびに注射頻度が相関しており,抗VEGF薬治療継続が視力の安定と網膜形態の改善ならびに線維瘢痕化の抑制に効果的であると報告されている5).経過良好症例(抗VEGF薬治療継続,図2)と経過不良症例(抗VEGF治療継続なし,図3)を示す.RPEtear発生後,OCTにより滲出性変化の有無を注意深く評価し,CNVによる滲出性変化に対して抗VEGF薬治療を積極的に継続することが,視力低下の抑制と網膜形態の維持に重要である.文献1)GutfleischM,HeimesB,SchumacherMetal:Long-termvisualoutcomeofpigmentepithelialtearsinassociationwithanti-VEGFtherapyofpigmentepithelialdetachmentinAMD.Eye(Lond)25:1181-1186,20112)MukaiR,SatoT,KishiS:Repairmechanismofretinalpigmentepithelialtearsinage-relatedmaculardegeneration.RETINA35:473-490,20153)AsaoK,GomiF,SawaMetal:Additionalanti-vascularendothelialgrowthfactortherapyforeyeswitharetinalpigmentepithelialtearaftertheinitialtherapy.RETINA34:512-518,20144)HeimesB,FareckiMLJr,BartelsSetal:Pigmentepithelialtearandanti-vascukarendothelialgrowthgfactortherapyinexudativeage-relatedmaculardegeneration:clinicalcourseandlong-termprognosis.RETINA36:868-874,20165)SarrafD,JosephA,RahimyEetal:Retinalpigmentepithelialtearsintheeraofintravitrealpharmacotherapy:riskfactors,pathogenesis,prognosisandtreatment(anAmericanOphthalmologicalSocietythesis).TransAmOphthalmicSoc112:142-159,20146)CocoRM,SanabriaMR,HernandezAGetal:Retinalpigmentepitheliumtearsinage-relatedmaculardegenerationtreatedwithantiangiogenicdrugs:acontrolledstudywithlongfollow-up.Ophthalmologica228:78-83,2012図1中心窩をはずれたRPEtear症例の眼底自発蛍光左眼中心窩のやや上方に低蛍光を認める.中心窩を含まない.(73)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.10,20161459図2経過良好症例の眼底自発蛍光とOCT2カ月ごとの抗VEGF治療継続により線維瘢痕化は軽度に抑制された.3年後のFAF低蛍光部境界は不明瞭になっている(▲).OCTで中心窩下方は網膜がBruch膜と直接接着している.図3経過不良症例の眼底自発蛍光とOCTRPEtear発生後,追加治療希望がなく,CNVからの滲出が長期間持続した.5年後のFAF低蛍光部位は拡大している(▲).OCTで中心窩下に線維性瘢痕と網膜浮腫が認められる.(74)1460あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016

緑内障:PAP(Prostaglandin Associated Periorbitopathy)について

2016年10月31日 月曜日

●連載196緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也196.PAP(ProstaglandinAssociatedPeriorbitopathy)について中倉俊祐三栄会ツカザキ病院眼科Peplinskiら1)が2004年に上眼瞼溝深化(DUES)を報告して以来,このプロスタグランジン系点眼薬特有の副作用名は日本で十分に認知されてきた.しかしながら当初より上眼瞼のみ生じるわけではなく2),眼周囲全体に及ぶことが報告されており3~5),その副作用の総称をprostaglandinassociatedperiorbitopathy(PAP)と呼ぶようになった.まだ日本ではなじみの薄いこのPAPについて紹介する.●PAPに含まれる副作用Prostaglandinassociatedperiorbitopathy(PAP)はプロスタグランジン(PG)系点眼薬による眼周囲副作用の総称である.まだ正確な定義はないが,現在,以下の8症状がPAPとされている.①eyeilidptosis(眼瞼下垂)②deepeningofuppereyelidsulcus(上眼瞼溝深化:DUES)③involutionofdermatochalasis(皮膚弛緩の巻きこみ)④orbitalfatatrophy(眼窩脂肪の萎縮)⑤mildenophthalmos(軽度の眼球陥凹)⑥flatteningoflowereyelidbags(下眼瞼の平坦化)⑦inferiorscleralshow(下方強膜の可視)⑧tightorbit(狭い眼窩)図1に代表症例を提示する.●PAPの分類PAPをその原因から分類してみた(図2)Tightorbit以外は,その原因を脂肪系(脂肪の萎縮)と筋肉系(筋肉の脆弱化)に分けることができ,tightorbit6)はその最終形と考えられるのではないか.PG薬は脂肪生成を抑制し7),DUESの眼瞼の脂肪は萎縮していることが判明している8).それは上眼瞼だけでなく下眼瞼や眼窩全体の脂肪も萎縮することを意味する.また,PG薬はもともと毛様体平滑筋のコラーゲンを分解し9),その結果ぶどう膜の流出量が増加することで眼圧を下げる機序をもつ.Muller筋も上眼瞼挙筋も同じ平滑筋であり,筋肉繊維の隙間をうめるコラーゲンが減少した場合,筋力は低下し眼瞼下垂になると推測される.下眼瞼牽引腱膜も下眼瞼の豊富な平滑筋に接続しており,その脆弱化は下眼瞼の下垂すなわちinferiorscleralshowになると推測する.逆にeyelidretraction(眼瞼後退)がみられる患者がいるが,原因は今のところ不明である.つい最近報告のあったaudibleblink(瞬目の可聴)10,11)は,副作用名というよりはPAPの状態を表すものと考えられる.●Tightorbitとは?TightorbitはLeeらが2010年に原因のわからない開放隅角緑内障として報告したのが最初である6).彼らの症例の特徴は,奥目でかつ狭瞼裂で,眼球に対して瞼が硬く押しており,眼圧が測定しにくい,外科手術に抵抗するというものであった.全症例がPG系点眼薬を使っていたにもかかわらず,筆者らも査読者もPG系点眼薬の副作用とはまったく思っていない点は興味深いことであるが,その特徴はすべてのPAPを表している.また,tightorbitの患者では眼圧計により値がばらつくことが報告されており,注意を要する12).図3に代表症例を提示する.●PAPに含まれる副作用Prostaglandinassociatedperiorbitopathy(PAP)はプロスタグランジン(PG)系点眼薬による眼周囲副作用の総称である.まだ正確な定義はないが,現在,以下の8症状がPAPとされている.①eyeilidptosis(眼瞼下垂)②deepeningofuppereyelidsulcus(上眼瞼溝深化:DUES)③involutionofdermatochalasis(皮膚弛緩の巻きこみ)④orbitalfatatrophy(眼窩脂肪の萎縮)⑤mildenophthalmos(軽度の眼球陥凹)⑥flatteningoflowereyelidbags(下眼瞼の平坦化)⑦inferiorscleralshow(下方強膜の可視)⑧tightorbit(狭い眼窩)図1に代表症例を提示する.●PAPへの対処これまでのDUESの報告と同様,PAPもやはりビマトプロストやトラボプロストで強く出現し,ラタノプロストでは比較的その程度は低いことが報告されている3,4).タフルプロストでは今のところ詳細な報告はないがラタノプロストと同等であると推測する.点眼を中止することでDUESなどの脂肪系の副作用に関しては改善を認めることを臨床的にも経験し論文報告もあるが,筋肉系の問題であるeyelidptosisやinferiorscleralshowが改善したという経験はない.今後も新たなPAPが報告される可能性があるが,やはり点眼のしすぎ,こぼしすぎを防ぎ,点眼後の洗顔や拭き取りを徹底することは重要であると考える.文献1)PeplinskiLS,AlbianiSmithK:Deepeningoflidsulcusfromtopicalbimatoprosttherapy.OptomVisSci81:574-577,20042)NakakuraS,TabuchiH,KiuchiY:Latanoprosttherapyaftersunkeneyescausedbytravoprostorbimatoprost.OptomVisSci88:1140-1144,20113)KucukevciliogluM,BayerA,UysalYetal:Prostaglandinassociatedperiorbitopathyinpatientsusingbimatoprost,latanoprostandtravoprost.ClinExperimentOphthalmol42:126-131,20144)ShahM,LeeG,LefebvreDRetal:Across-sectionalsurveyoftheassociationbetweenbilateraltopicalprostaglandinanalogueuseandocularadnexalfeatures.PLoSOne2013;8:e616385)TanJ,BerkeS:Latanoprost-inducedprostaglandin-associatedperiorbitopathy.OptomVisSci90:e245-247,20136)LeeGA,RitchR,LiangSYetal:Tightorbitsyndrome:apreviouslyunrecognizedcauseofopen-angleglaucoma.ActaOphthalmol88:120-124,20107)TaketaniY,YamagishiR,FujishiroTetal:ActivationoftheprostanoidFPreceptorinhibitsadipogenesisleadingtodeepeningoftheuppereyelidsulcusinprostaglandinassociatedperiorbitopathy.InvestOphthalmolVisSci55:1269-1276,20148)ParkJ,ChoHK,MoonJI:Changestouppereyelidorbitalfatfromuseoftopicalbimatoprost,travoprost,andlatanoprost.JpnJOphthalmol55:22-27,20119)LindseyJD,KashiwagiK,KashiwagiFetal:Prostaglandinsalterextracellularmatrixadjacenttohumanciliarymusclecellsinvitro.InvestOphthalmolVisSci38:2214-2223,199710)SkorinLJr,DaileyKH:Clickingeyelids:Anewfindingofprostaglandin-associatedperiorbitopathy.OptomVisSci2016Apr6.[Epubaheadofprint]11)FongCS,RajakSN,PirbaiAetal:Audibleblinkinprostaglandin-associatedperiorbitopathy.ClinExperimentOphthalmol2016Feb12.doi:10.1111/ceo.12725.[Epubaheadofprint]12)LeeYK,LeeJY,MoonJIetal:EffectivenessoftheICarereboundtonometerinpatientswithoverestimatedintraocularpressureduetotightorbitsyndrome.JpnJOphthalmol58:496-502,2014図1PAP代表例(患者の同意取得済み)80歳,女性.PG系点眼薬を右眼に約10年投与.左眼は正常眼.平面ではわかりにくいがmildenophthalmos(軽度の眼球陥凹)もみられ,すなわちorbitalfatatrophy(眼窩脂肪の萎縮)もあると思われる.Inferiorscleralshow(下方強膜の可視)はよほどの症例でないとみかけない.?上眼瞼下垂,?上眼瞼溝深化,?皮膚弛緩の巻きこみ,?下眼瞼の平坦化.(71)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.10,20161457図3Tightorbit症例(患者の同意取得済み)82歳,男性,原発開放隅角緑内障.10年以上のPG系点眼薬の使用歴あり.両眼の視野進行で紹介された.眼瞼は硬く,奥目で狭瞼裂,Goldmann平圧眼圧計(GAT)で測定しにくい.初診時眼圧(右眼/左眼)は10/14mmHg(非接触型眼圧計),18/28mmHg(GAT),10/16.3mmHg(IcarePro),19/24mmHg(TonopenAVIA)と各眼圧計で測定値がばらばらであった.中心角膜厚は右眼491μm,左眼486μmであった.Tightorbitと思われる.図2PAPの分類(72)

屈折矯正手術:角膜移植後の屈折矯正

2016年10月31日 月曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載197監修=木下茂大橋裕一坪田一男197.角膜移植後の屈折矯正田聖花東京歯科大学市川総合病院眼科角膜移植後の屈折異常は,患者の視機能やQOLを大きく障害する.とくに強い乱視や不同視の例では屈折矯正が重要である.縫合糸がある例では抜糸を行う.ハードコンタクトレンズ不耐症では,乱視矯正角膜切開やcompressionsutureを検討する.有水晶体眼では白内障手術によって改善でき,toricIOLによって乱視の軽減も可能になってきている.中等度までの近視であればLASIKも有用である.●はじめに角膜移植の成績は透明治癒で語られることが多いが,視機能も術後のQOLや満足度に大きく影響する.最近の角膜内皮移植の広がりからもわかるように,より良い術後視機能をめざした術式が選択されるようになってきており,情報伝達の発達により患者側の要求度も高くなっている.それでもなお,角膜移植後の屈折異常は避けられない合併症のひとつであり,さまざまな矯正方法が存在する.矯正目標が球面度数か円柱度数(乱視)か,あるいは両方か,僚眼とのバランスはどうかなどを考えて,矯正法を決定していく.●基本的な屈折矯正法縫合糸の抜糸は基本的な屈折矯正法である.端々縫合眼で局所的な強い乱視が生じている場合は,該当する縫合糸を除去する(選択抜糸).連続縫合では,術後早期に縫合糸をたぐって乱視を調整する1).遠視性乱視になっている場合は,全抜糸により移植片がややスティープになることで近視化が得られることがあるが,逆に乱視が強くなることもあるため,術前のトポグラフィーをよく検討することが重要である.ハードコンタクトレンズ(HCL)は古典的な矯正方法で,乱視矯正効果が強く,強度遠視以外は球面度数の矯正も行える.ただし,視力検査上は良好な視力が得られても,実際に処方に至る例は少ないように思う.コンタクトレンズが初めてという高齢者では,まず無理である.円錐角膜では,もともとHCL不耐症ということも多く,好まれないうえに,裸眼視力獲得への希望も強い.装用希望例で異物感による装用困難があれば,ソフトコンタクトレンズとのピギーバック法でうまくいくことがある.●乱視の矯正法強い乱視の場合は,乱視矯正角膜切開(astigmatickeratotomy:AK)やcompressionsutureが行われる.AKは比較的対称性の強い乱視に有効で,トポグラフィー上の強主径線方向に輪部と平行に角膜実質の減張切開を加えるものである.瞳孔領に近く,かつ切開深度が深いほど矯正効果は強いが,基本的にはマニュアル操作となるため,予測性には不確実性が残る.最近はフェムトセカンドレーザーを用いたAKが行われるようになっているが,切開方法にはまだ議論の余地があるようである2).Compressionsutureは逆に,弱主径線方向に端々縫合を行う方法である.AKもcompressionsutureも,予測した矯正効果を得るためには術中にマイヤー像を確認しながら行うことが必須である.ケラトリングRが一般的だが,筆者の施設では顕微鏡に着脱できるネビアスライトRを用いている(図1).LED赤色光によるマイヤー像を角膜上に投影しながら,手術を行うことができる.●角膜移植後の白内障手術乱視もさることながら,球面度数の異常値も術後の視機能を大きく障害する.角膜移植後の白内障手術は,球面度数を矯正する絶好の機会である.とくに強い遠視や近視のために不同視を生じている例では,適切な眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数を選択することで大きく矯正できる.移植眼ではしばしばK値が安定して測定できないことがあり,IOL度数決定計算式もさまざまなものが報告されている.オートレフケラトメータ以外に前眼部OCTから計測されるK値や,僚眼が健常眼であればそのK値などを参考に,複数の計測結果を用いて狙いから大きくはずれないような度数を選択する.近年,乱視が強い場合はtoricIOLが選択されるようになっている3).●近視と遠視の矯正法近視に対してはLASIKも有効である.乱視が比較的強い例にはwavefront-guidedLASIKやtopographyguidedLASIKの有用性が報告されている4).良好な矯正効果を得るには,他覚的レフラクトメータの値と最高眼鏡矯正視力が得られる屈折値が一致し,それらの円柱度数および強弱主径線がトポグラフィーと一致することが重要である.図2は円錐角膜に対して全層角膜移植を行った若年女性の移植後のトポグラフィーである.全抜糸後でも視力は(0.9×S?6.0D(C?2.00DAx150°)と近視性乱視を示した.裸眼視力改善を目的にtopography-guidedLASIKを行い,1.0(1.0×S+0.75D(C?1.50DAx145°)に改善した.手術後のトポグラフィーと前眼部写真を示す(図3,4).角膜移植後のLASIKでは,照射野は通常移植片サイズより大きいため,ホスト?レシピエント接合部は問題にならない.抜糸が終わっており,接合部に段差がなく,角膜厚と角膜内皮細胞密度が十分あることが条件である.遠視は,残念ながらいい矯正方法がない.移植の際に,適切なドナーサイズを選択する,縫合を強すぎないようにする,白内障同時手術例ではIOLの度数を遠視にならないように(迷ったら近視側へ)選択するなどの対応が重要である.文献1)ShimazakiJ,ShimmuraS,TsubotaK:Intraoperativeversuspostoperativesutureadjustmentafterpenetratingkeratoplasty.Cornea17:590-594,19982)StClairRM,SharmaA,HuangDetal:Developmentofanomogramforfemtosecondlaserastigmatickeratotomyforastigmatismafterkeratoplasty.JCataractRefractSurg42:556-562,20163)WadeM,SteinertRF,GargSetal:Resultsoftoricintraocularlensesforpost-penetratingkeratoplastyastigmatism.Ophthalmology121:771-777,20144)KuryanJ,ChannaP:Refractivesurgeryaftercornealtransplant.CurrOpinOphthalmol21:259-264,2010図1顕微鏡に装着したネビアスライト赤色LEDが角膜上に投影される.(69)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.10,20161455図2円錐角膜に対する全層角膜移植後のトポグラフィー強い乱視を認める.図3図2症例に対するLASIK後のトポグラフィー図4図2症例の前眼部矢印がLASIKのフラップマージンである.(70)

眼内レンズ:イメージガイドシステムによる白内障手術マネジメント

2016年10月31日 月曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋359.イメージガイドシステムによる白内障手術マネジメント留守良太医療法人涼悠会トメモリ眼科・形成外科VERIONイメージガイドシステムを白内障手術マネジメントに使用することで,マーキングを行わずにトーリック眼内レンズを正確に挿入できるだけではなく,煩雑な術後データの集計や解析を行わずにパーソナルA定数,術後惹起乱視を算出し眼内レンズ計算に反映することができる.症例を重ねるほどにアップグレードされ,手術精度の向上に貢献する.●構成VERIONイメージガイドシステム(ALCON)は,術前,術後に使用するリファレンスユニット(メジャメントモジュール,ビジョンプランナー)と術中に使用するデジタルマーカーによって構成され(図1),LAN環境やUSBメモリを使用し相互にデータを共有するので,白内障手術マネジメントにおけるアナログ操作をなくし,それに伴う患者選択やデータ入力のミスを防ぐことができる.●術前メジャメントモジュールにて,角膜曲率半径を測定し,約1,000箇所の測定点より角膜球面度数,円柱度数,乱視軸を求める.術中の眼球をVERIONが認識し,角膜径,瞳孔の情報や高解像度イメージ写真によって強膜,結膜血管,虹彩,輪部の特徴を記録する.これらの計測結果はビジョンプランナーへ移行され,5種類の計算式で眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数計算を行うことができ,オンライン上で使用していたトーリックカリキュレーターもオフラインで使用可能である.また,これらのIOL計算時には後述するパーソナルA定数,術後惹起乱視(surgicallyinducedastigmatism:SIA)も簡単に反映させることができ,計測,計算された患者データのすべてをLAN上のサーバーにて保管し管理する.当院では測定できなかった症例は167例334眼中2例4眼,約1%であった.2例とも極端に瞼裂が小さく球結膜が観察できない状態であった.●術中DMM(DigitalMarkerM)とMID(MicroscopeIntegratedDisplay)は,術前に測定した患者データを元に顕微鏡下の術眼を自動認識する.認識が不可能な症例は,モニターに術前写真と術中顕微鏡映像を横並びで表示し,手動操作で認識を行うsidebyside法(図2)を行うことで認識することが可能である.イメージガイドを使用しトーリックIOLを挿入するための角膜強主経線位置を術眼にオーバーレイできるので,術前,術中にピオクタニンなどで基準点,トーリック軸マーキング1,2)を行わずに正確なIOL挿入を行える3)(図3).ただし,イメージガイド下で乱視軸を合わせるには慣れが必要で,導入初期はイメージガイドで示された位置をピオクタニンでマーキングすると行いやすい.切開や連続円形切?(continuouscurvilinearcapsulorrhexis:CCC)の場面でも大きさ,位置を任意で設定できる.イメージガイドシステムを使用することで,眼球回旋や角膜径の影響を受けず正確な施術を行うことが可能である(図4,5).また,ビジョンプランナーで事前に手術予定表を作成しておけば,サーバーより患者データを一括取得でき,短時間で手術可能な状態となる.メジャメントモジュールで測定できた症例は,ほぼ全例でイメージガイドを使用できたが,開瞼器装着時に眼窩脂肪ヘルニアが大きく脱出した1症例でイメージガイドを行えなかった.●術後術後,再度リファレンスユニットを使用し,すでに登録されている患者を選択後,術前と同じ手順で計測を行うことで,術後データとして登録される.パーソナルA定数,SIAを最適化するには,画面より,サーバー内の蓄積されたデータをモニターの指示に従い抽出することで,煩雑になりがちなデータ集計や解析を行わずにワンクリックで行うことが可能で,その直後からIOL計算に反映された状態となる.上記の最適化も,イメージガイドシステムを使用することで切開位置,CCC,乱視軸などがバラツキの少ない正確な手技となるため,より精度の高いIOL計算が行われたことになる.VERIONイメージガイドシステムはフェムトセカンドレーザーを併用する前提につくられたシステムであるが,VERIONイメージガイドシステム単体の使用であっても白内障手術マネジメントには有用である.文献1)二宮欣彦:トーリック眼内レンズ.白内障(大鹿哲郎編),眼科手術学5,p296-303,文光堂,20122)PoppN,HimschallN,MaedelSetal:Evaluationof4cornealastigmaticmarkingmethods.JCataractRefractSug38:2094-2099,20123)VisserN,BerendschotTT,BauerNJetal:Accuracyoftoricintraocularlensimplantationincataractandrefractivesurgery.JCataractRefractSug37:1394-1402,2011図1VERIONイメージガイドシステム(67)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.10,20161453図2Sidebyside法図3オーバーレイトーリック軸表示術前の基準点マーキングや術中の乱視軸マーキングが必要ない.図4オーバーレイ切開図5オーバーレイCCC

コンタクトレンズ:コンタクトレンズにおける個別化医療

2016年10月31日 月曜日

コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方つぎの一歩~症例からみるCL処方~監修/下村嘉一24.コンタクトレンズにおける個別化医療高静花大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室●はじめにコンタクトレンズ(CL)はハードCLとソフトCL(SCL)の2種類に大別され,SCLひとつとっても,素材,デザイン(非球面,トーリック,多焦点,カラーなど)においてさまざまな選択肢がある.SCLは涙液の影響を受けやすく,SCL装用者の80%以上が乾燥感を訴えるとも報告されている1).事実,『IOVS特別増刊号』(2013年)では,contactlensdiscomfort(CLD)がまるごと1冊取り上げられている.それゆえ,SCL装用においては涙液,眼表面の状態の診断,管理が欠かせない.さて国際個別化医療学会は,「個別化医療(personalizedmedicine)」を以下のように定義している.「バイオテクノロジーに基づいた患者の個別診断と,治療に影響を及ぼす環境要因を考慮に入れたうえで,多くの医療資源の中から個々人に対応した治療法を抽出し提供すること」2).本稿においては,涙液から考えるSCL処方の観点から,CLにおける個別化医療について述べる.●個別化医療にコンタクトレンズをあてはめる上述した個別化医療の定義にSCLをあてはめると,「適切な診断基準,方法に基づいた個々の眼の涙液,眼(65)表面異常の診断と,ドライアイ,SCL装用に伴う不快感のリスクファクターの洗い出しを考慮に入れたうえで,多くの種類のレンズの中から個々の眼に対応したSCLを選択し処方すること」といえる.●涙液,眼表面異常の見きわめ涙液異常の診断には,涙液の層別治療(tearfilmorientedtreatment:TFOT)を行うための前ステップとなる涙液の層別診断(tearfilmorienteddiagnosis:TFOD)が有用である3).また,noninvasivetearfilmbreak-upを観察した研究において,裸眼時の涙液のdyingpatternはCL不耐を予想できるパラメータであり,CL不耐を訴える群ではstreakpattern,spotpatternが多いと報告されている4).これは,フルオレセイン染色を用いたtearfilmbreak-upパターン分類で,dimplebreak,spotbreakパターン3)に該当すると考えられる.どこの施設でも行うことのできるフルオレセイン染色をぜひ活用していただきたい.●ドライアイ,CLDのリスクファクターの洗い出しドライアイのリスクファクターとして,女性,アジア人,CL装用,長時間のVDT作業,低湿度環境が知られている.また,CLDを生じさせるものとして外部環境,眼表面環境におけるファクターのチェックが推奨されている.「冷暖房がよく効いた部屋でVDT作業に長時間たずさわる,CL装用した日本人女性」はリスクファクターをすべて背負っている状態といえよう.職業,ライフスタイルの聴取なども重要である.●個々の眼に対応したコンタクトレンズ処方CLDに対する治療オプションの主たるものとして,レンズ素材の変更,涙液補充があげられている.現在,保湿成分を添加したレンズやシリコーンハイドロゲルレンズなど水濡れ性を向上させたさまざまなレンズが登場しており,これらのレンズ装用時には従来型のハイドロゲルレンズ装用時に比べて視機能が改善することも報告されている5)(図1,2).高含水レンズ(保湿成分添加型ハイドロゲルレンズに多い)と低含水レンズ(シリコーンハイドロゲルレンズ)のどちらがいいのかということに関しては,レンズの含水量とドライアイ症状は「関係する」とも「関係しない」ともいわれており一定の見解はない.個人的には,ざっくりとした目安ではあるが,装用時の異物感が気になるのであれば保湿成分含有ハイドロゲルレンズ,装用時の乾燥感が気になるのであればシリコーンハイドロゲルレンズと考えている.しかし,なんといっても実際の装用感を確認するのが大事である.快適なCL装用のためのレンズ素材についてはさらなる改良の余地があると思われ,今後に期待したい.また,多焦点レンズ,カラーレンズの装用者増加に伴い,「水濡れ性の良い,多焦点のカラーレンズ」などといったレンズが登場する日も近いかもしれない.文献1)濱野孝,光永サチ子,小谷摂子ほか:コンタクトレンズ装用に起因する「乾燥感」とその症状の調査.眼科49:183-190,20072)国際個別化医療学会:http://www.is-pm.org/profile/personalized-medicine.html3)横井則彦:ドライアイの治療方針:TFOT.あたらしい眼科32:9-16,20154)GlassonMJ,StapletonF,KeayLetal:Differencesinclinicalparametersandtearfilmoftolerantandintolerantcontactlenswearers.InvestOphthalmolVisSci44:5116-5124,20035)KohS,HigashiuraR,MaedaN:Overviewofobjectivemethodsforassessingdynamicchangesinopticalquality.EyeContactLens42:333-338,2016図1従来型のハイドロゲルレンズ装用時と保湿成分添加型ハイドロゲルレンズ装用時の高次収差および網膜像の変化(文献5より引用)(65)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.10,20161451図2ハイドロゲルレンズ装用時とシリコーンハイドロゲルレンズ装用時の高次収差および網膜像の変化(文献5より引用)

写真:角膜上皮異形成

2016年10月31日 月曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦389.角膜上皮異形成加藤久美子三重大学大学院医学系研究科神経感覚医学講座眼科学図1片眼性角膜上皮異形成の症例(30代,男性)強膜散乱法で撮影した前眼部写真.角膜中央部から耳側にかけてfrostedと表現される霜がおりたような病変が認められる.病変の境界部分は細かい突起のようになっている.図2図1のシェーマ①角膜混濁図3図1のフルオレセイン染色像病変部に一致してSPKに似た色素むらが認められた.図4図1の前眼部OCT像水平方向で撮影.病変部位の角膜上皮は高反射を呈している(▲).(63)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.33,No.10,20161449角膜上皮異形成は角膜上皮内に限局した腫瘍性病変で,1942年にMcGanicが初めて報告した1).進行性に角膜上皮が白色または灰白色に混濁するという臨床的特徴があり,角膜上皮異形成の部位が視軸と重なると視力が低下する.原因は明らかではないが,紫外線,放射線,免疫不全,喫煙,外傷,ヒトパピローマウイルスの感染などが関係しているという報告がある2).細隙灯顕微鏡では,角膜上皮のレベルで血管侵入を伴わない,また“frosted”と表現される霜が降りたような病変が認められるのが特徴的である.混濁が軽度の場合,広汎照明法では観察が困難であるが,強膜散乱法を使用すると角膜上皮内の混濁を容易に観察することができる.フルオレセイン染色では,病変部表面の凹凸を反映して,細かい点状の変化が認められる3).上記のような細隙灯顕微鏡所見が認められた場合,外科的に採取された検体の病理検査によって診断される.角膜上皮異形成の構造異型や細胞異型は上皮内癌ほど強くはないが,徐々に異型度が進行し悪性腫瘍となることがあるため,経過観察が必要である.細胞の異型性が高度の場合は前癌病変とよばれる.角膜上皮異形成の治療は角膜上皮の外科的切除であるが,単純な切除のみでは再発することが少なくない.外科的切除に0.04%のマイトマイシンC(MMC)点眼を併用することによって再発が抑制されたという報告がある4).しかしながらMMC点眼には,角膜上皮障害や眼瞼炎,充血などの合併症の報告があるため5),使用する際には十分なインフォームド・コンセントが必要である.筆者は片眼性の角膜上皮異形成の症例を経験した(図1~4).患者は患眼の外傷の既往がない30代男性で,左眼の視力低下を主訴に当院を受診した.角膜上皮を掻爬し,視力は回復したが,経過観察中に通院が途絶えた.約1年ぶりに来院した際,角膜上皮レベルに図1のような角膜混濁が認められた.フルオレセイン染色では病変部に点状表層角膜炎(superficialpunctatekeratitis:SPK)に似た色素むらが認められた(図3).前眼部OCTでは角膜混濁部に一致した高反射を呈する病変が認められた(図4).再度掻爬する際,ミリポアフィルターを使用して混濁した部分の角膜上皮を採取し,PAS-ヘマトキシリン染色を行った.角膜上皮細胞は角化し,核が消失している細胞もあったが,明らかな腫瘍性変化は認められなかった.MMC点眼使用希望はなく,現在点眼薬なしで経過観察中であるが,角膜上皮掻爬から約1年が経過した現在,角膜の周辺部にわずかな再発を認めるのみで,良好な視力を保っている.文献1)McGanicJS:Intraepithelialepitheliomaofthecorneaandconjunctiva.AmJOphthalmol25:167-176,19422)LeeGA,WilliamsG,HirstLWetal:Riskfactorinthedevelopmentofocularsurfaceepithelialdysplasia.Ophthalmology101:360-364,19943)WarnerMA,MehtaMN,JakobiecFA:Cornealepithelialdysmaturationandepithelialdysplasia.InCornea(editedbyKrachmerJH,MannisMJ,HollandEJ),3rdedition,p469,Mosby,StLouis,20104)本橋良祐,森秀樹,永井毅ほか:特異な病理組織像を呈した角膜上皮異形成の1例.臨床眼科68:197-200,20145)BallalaiPL,ErwenneCM,MartinsMCetal:Long-termresultoftopicalmitomycinC0.02%forprimaryandrecurrentconjunctival-cornealintraepithelialneoplasia.OphthalPlastandReconstSurg25:296-299,2009

低濃度アトロピン点眼の可能性と問題点

2016年10月31日 月曜日

特集●学童の近視進行予防アップデートあたらしい眼科33(10):1443?1448,2016低濃度アトロピン点眼の可能性と問題点PotentialandProblemsofLow-ConcentrationAtropineEyedrops稗田牧*Iアトロピンは近視進行を止めるアトロピンによる近視進行抑制の試みは古くからあるが,シンガポールのAtropineforthetreatmentofchildhoodmyopia-1(ATOM-1:アトムワン)研究でその効果が確定した1).この試験では400人の6~12歳の片眼に1日1回1%アトロピンもしくは偽薬を2年間点眼して効果を比較した.屈折度?1D~?6Dまでの近視で,乱視や不同視が1.5Dまでの対象に対し,点眼がどちらになるか,両眼のどちらが治療されるかをランダムに割り付け,全員に調光レンズを処方した.1年経過時点では1%アトロピン点眼群の平均値は近視が軽くなるのみならず,眼軸長が短縮するという驚くべき結果となった.2年経過後でアトロピン点眼群は,平均で?0.28Dほど近視化したものの,眼軸長は開始時とほぼかわらず,1%アトロピンの点眼は近視の進行,眼軸延長をほぼ完全に止めるというエビデンスが示された(図1).IIアトロピンとは?神経伝達物質であるアセチルコリン(Acetylcholine:Ach)によって刺激される受容体はイオンチャンネル型のニコチン受容体と代謝調節型のムスカリン受容体に大別される.ムスカリン受容体は末梢では副交感神経の神経終末に存在して活動を制御する.ムスカリン受容体作動薬として眼科で使用される点眼としてはピロカルピンがある.アトロピンはこのムスカリン受容体を競合的に阻害することにより拮抗薬として働く.ムスカリン作用により瞳孔は縮瞳し,毛様体筋は収縮し,心臓には抑制的に働く.反対に,アトロピンにより散瞳,調節麻痺,心拍数の増大などが起こる.アトロピンは調節麻痺薬として使用される以外に,迷走神経反射による除脈を正常な状態に戻すことに使用されている.天然のムスカリン受容体拮抗薬であるアトロピンは,ベラドンナ植物のアルカロイドである.1831年にMeinによりアトロピンとして分離された.ベラドンナとはイタリア語で美しい女性を意味し,女性が瞳孔を拡張させるために使用したことからきている.眼に対する影響として,散瞳効果は30~40分で最大となり12日間程度継続する.調節麻痺効果は2~3時間で最大効果を示し2週間継続するとされている.虹彩色素が多い眼では効果の発現が遅く,効果がなくなるのにも時間がかかるとされている2).わが国では1%アトロピン点眼で調節麻痺を行う場合には1日2回で1週間使用することが多い3).III1%アトロピン点眼にはリバウンドがある近視進行をほぼ停止させる効果をみせた1%アトロピンは,調節麻痺薬として古くから眼科で使用されている.アトロピンによる調節麻痺後の検影法による他覚的屈折度数(もしくはそれから生理的トーヌスを引いた)による眼鏡処方は慣例的に完全矯正とよばれている.1%アトロピンを使用すると調節力がほぼ失われてしまうので,近用眼鏡が必要となる.さらに瞳孔が散大するので羞明も強い.両眼に1%アトロピンを点眼しつづけることは,日常生活に大変な困難を及ぼす.さらに,2年間1%アトロピン点眼した眼において,点眼を中止して1年間経過観察をしたところ,近視が急激に進行し,大幅に眼軸長が延長して,点眼中止後のリバウンド現象が観察された4).これは拮抗薬の長期投与によって受容体のアップレギュレーションが起こり,急に中止したことで逆に強い効果が出てしまったと考えられる.日常生活での困難やリバウンド効果により,よほど強度近視である場合を除いて1%アトロピンは近視進行予防には不向きな薬剤ということになった.ただし,1%アトロピンであっても点眼を休止後には調節力,瞳孔径はもとに戻り,網膜機能への影響も検出されなかった5).IV低濃度アトロピン点眼による治療アトロピンによる近視進行抑制効果を臨床応用するために,シンガポールのグループはアトロピンを0.5%,0.1%,0,01%に濃度を希釈して再度臨床研究(ATOM-2)を行った.今回は400人の6~12歳の両眼に1日1回2年間点眼して濃度ごとの近視進行を比較した.各濃度は2:2:1の割合でランダムに割り付けたため,0.01%で治療がなされたのは80人程度である.また,前向きに偽薬のコントロールが置かれたわけでもない.その結果,濃度依存性に近視進行が抑制される結果であったが,ATOM-1の偽薬群に比較すると,0.01%であっても近視進行は抑制されていた(図2)6).羞明やアレルギー性結膜炎などの副作用は0.01%がもっとも少なかった.東京医科歯科大学のグループは6~12歳に0.01%アトロピン点眼を両眼に1日1回2週間点眼したところ,明所で平均0.7mm瞳孔が散大し,調節力が平均2D低下したことを報告した.いずれも既報よりも少なく,日本人においてはアトロピン作用にわずかながら違いがある可能性を示している7)V0.01%アトロピンにはリバウンドがないATOM-2は介入,中断,再度介入の3つのフェーズで構成されている.第1フェーズでは上記のとおり2年間,異なる濃度での介入が行われた.第2フェーズではそれらの点眼を1年間中止して経過をみた.0.5%,0.1%の比較的濃い濃度では1%と同様のリバウンドが認められたが,0.01%では認められなかった8).したがって,0.01%は最初2年間の近視進行抑制効果は劣るものの,始めるにしても中止するにしても臨床的に使いやすい薬剤であることがわかった.また,網膜電図で網膜機能を評価したところ,点眼中,点眼中止中,いずれの時期,どの濃度でもアトロピンの影響は検出されなかった9).VI0.01%アトロピンは近視進行を50%抑制するATOM-2の第3フェーズでは,点眼中止後の1年間でどちらか1眼でも0.5D以上近視化していた場合には再度0.01%アトロピン点眼を行った.点眼を再開したのはフェーズ3の全症例345人のうち192人(56%)であった.再開した症例の傾向としては,年齢が若く,開始時の近視度数が低く,フェーズ1の2年間でより近視が進行していたという3点が認められた.点眼を再開した症例もしなかった症例も含めて,5年間の経過をみると,0.01%点眼で投薬を開始した群は,0.1%,0.5%で点眼を開始した症例よりも近視進行は有意に少なく,0.01%での近視進行はATOM-1の偽薬群の2.5年での近視進行度数1.4Dとほぼ同じであった10)(図3).5年間の進行が,無治療2.5年間の進行と同じということで,0.01%点眼で治療を開始することで近視進行を50%抑制したと解釈できる.VIIアトロピンの近視進行抑制機序の不思議アトロピンで近視進行が抑制される詳しいメカニズムは不明である.調節麻痺作用による過剰な調節の緩和,直接的な強膜の合成阻害,瞳孔散大で強膜のクロスリンキング加速,などが提唱されている.近視発生理論として,ボケ像が網膜から脈絡膜,強膜に影響を与えるという「視覚による眼軸制御」説が1970年代から広く提唱されている.動物実験では遠視性のボケ像が,脈絡膜の菲薄化,続いて眼軸の延長を起こすことが証明されている.近年の光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)による研究から,人の眼でも細胞の菲薄化に先立って,脈絡膜の菲薄化が起こることが解明されてきている11).調節麻痺を起こすと,正視もしくは完全矯正眼鏡装用下では遠視性ボケ像が増えて,眼軸延長刺激になることが予想される.ところが,アトロピンと同様な調節麻痺作用を有するムスカリン受容体拮抗薬ホマトロピンでは,脈絡膜肥厚作用と眼軸短縮作用がOCTで確認されている12).ATOM-1でみられたように,1%アトロピンの長期点眼は眼軸を短くする効果が存在するようである.遠視性ボケ像という一つの要素だけでは,近視進行,眼軸延長のメカニズムは十分に説明できない.このことがより精密な生体計測,より精密な眼光学測定により解明されることが期待される.VIIIATOM?J(Japan)近視進行を50%抑制し,安全性も高い0.01%アトロピン点眼を,近視頻度が高い日本でも臨床応用することは喫緊の課題である.ただし,0.01%アトロピンの効果はまだ1施設の80人程度で観察されたにすぎず,その研究にはコントロールがなかった.現在,日本において0.01%アトロピンを使った二重盲検試験(ATOM-J)が進行中である.これはシンガポールでも行われていない偽薬と0.01%アトロピン点眼のランダム化比較試験であり,約180人の6~12歳の両眼に1日1回2年間点眼し,近視進行程度を比較する(図4).ベースラインで1.0以上の眼鏡視力となる眼鏡を処方し,以下半年ごとに調節麻痺下屈折度数と眼軸長を測定して,眼鏡視力が1.0以上出ない場合には再度眼鏡を処方する.点眼中止後1カ月の時点にも最終測定を行う.ATOM-Jは日本全国に散在する7大学の多施設研究でもある(図5).この研究で効果が確認できれば0.01%アトロピンはわが国でも標準的な近視進行抑制点眼薬として認知される可能性がある.VIIIATOM?J(Japan)近視進行を50%抑制し,安全性も高い0.01%アトロピン点眼を,近視頻度が高い日本でも臨床応用することは喫緊の課題である.ただし,0.01%アトロピンの効果はまだ1施設の80人程度で観察されたにすぎず,その研究にはコントロールがなかった.現在,日本において0.01%アトロピンを使った二重盲検試験(ATOM-J)が進行中である.これはシンガポールでも行われていない偽薬と0.01%アトロピン点眼のランダム化比較試験であり,約180人の6~12歳の両眼に1日1回2年間点眼し,近視進行程度を比較する(図4).ベースラインで1.0以上の眼鏡視力となる眼鏡を処方し,以下半年ごとに調節麻痺下屈折度数と眼軸長を測定して,眼鏡視力が1.0以上出ない場合には再度眼鏡を処方する.点眼中止後1カ月の時点にも最終測定を行う.ATOM-Jは日本全国に散在する7大学の多施設研究でもある(図5).この研究で効果が確認できれば0.01%アトロピンはわが国でも標準的な近視進行抑制点眼薬として認知される可能性がある.療をすることで強度近視になることを回避できる眼があることは間違いない.したがって,エビデンスのある進行予防治療を早期に複数確立する必要がある.0.01%アトロピンはその有力な候補の一つであることは間違いない.文献1)ChuaWH,BalakrishnanV,ChanYHetal:Atropineforthetreatmentofchildhoodmyopia.Ophthalmology113:2285-2291,20062)HavenerWH:Havener’socularpharmacology.6thed,p140,Mosby,St.Louis,19943)浜村美恵子,野辺由美子,沢ふみ子ほか:小児に対するアトロピンの調節麻痺作用の検討:調節の準静的特性から(第2報).眼紀40:1546-1549,19894)TongL,HuangXL,KohALetal:Atropineforthetreatmentofchildhoodmyopia:effectonmyopiaprogressionaftercessationofatropine.Ophthalmology116:572-579,20095)LuuCD,LauAM,KohAHetal:Multifocalelectroretinograminchildrenonatropinetreatmentformyopia.BrJOphthalmol89:151-153,20056)ChiaA,ChuaWH,CheungYBetal:Atropineforthetreatmentofchildhoodmyopia:safetyandefficacyof0.5%,0.1%,and0.01%doses(AtropinefortheTreatmentofMyopia2).Ophthalmology119:347-354,20127)西山友貴,深町雅子,内田亜梨紗ほか:低濃度アトロピン点眼の副作用について.日眼会誌119:812-816,20158)ChiaA,ChuaWH,WenLetal:Atropineforthetreatmentofchildhoodmyopia:changesafterstoppingatropine0.01%,0.1%and0.5%.AmJOphthalmol157:451-457,20149)ChiaA,LiW,TanDetal:Full-fieldelectroretinogramfindingsinchildrenintheatropinetreatmentformyopia(ATOM2)study.DocOphthalmol126:177-186,201310)ChiaA,LuQS,TanD:Five-yearclinicaltrialonatropineforthetreatmentofmyopia2:Myopiacontrolwithatropine0.01%eyedrops.Ophthalmology123:391-399,201611)JinP,ZouH,ZhuJetal:Choroidalandretinalthicknessinchildrenwithdifferentrefractivestatusmeasuredbyswept-sourceopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol168:164-176,201612)SanderBP,CollinsMJ,ReadSA:Theeffectoftopicaladrenergicandanticholinergicagentsonthechoroidalthicknessofyounghealthyadults.ExpEyeRes128:181-189,2014*OsamuHieda:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕稗田牧:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/16/\100/頁/JCOPY図11%アトロピン点眼は近視進行を止めるAtropineforthetreatmentofchildhoodmyopia(ATOM)-1の結果(文献1より引用).1%アトロピン点眼は2年間で近視がわずかに進行し,眼軸はほぼかわらない.図20.01%アトロピンは偽薬よりも近視進行を抑制ATOM-2第1フェーズの結果(文献8より引用).濃度依存的に近視進行は抑制され,0.01%アトロピンでも偽薬より進行を抑制した.1444あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(58)図30.01%アトロピンで治療開始群は5年間で偽薬の半分の近視進行にとどまるATOM-2の第3フェーズの結果(文献10より引用).1年間の休薬後に近視が進行している症例には0.01%アトロピンを処方し,合計で5年間経過観察した.(59)あたらしい眼科Vol.33,No.10,20161445図4ATOM?Jの研究シンガポールでも行われていない,0.01%アトロピンと偽薬のランダム化比較試験.あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(60)図5ATOM?Jの行われている施設全国7施設において約1年間で150人以上の被験者がエントリーした.(61)あたらしい眼科Vol.33,No.10,201614471448あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(62)

コンタクトレンズによる近視進行予防

2016年10月31日 月曜日

特集●学童の近視進行予防アップデートあたらしい眼科33(10):1435?1441,2016コンタクトレンズによる近視進行予防PreventionofMyopiaProgressionbyContactLenses平岡孝浩*はじめに学童の近視進行予防のストラテジーは,遺伝的アプローチ,薬物的アプローチ,そして光学的アプローチに大別できる.光学的な手法のメリットとして,他の手法よりも安全性が高く(副作用が少なく)比較的容易に導入できることがあげられる.なかでももっとも簡便かつ低年齢から開始できるのは眼鏡装用であるが,これまでの研究結果によれば累進多焦点レンズ(progressiveadditionlens:PAL)など特殊デザインの眼鏡を用いても大きな近視抑制効果が得られていないが現状である.そこで注目されているのがコンタクトレンズ(contactlens:CL)による近視進行抑制である.近年の報告によればオルソケラトロジー(orthokeratology:ortho-k)と多焦点ソフトコンタクトレンズ(multifocalsoftcontactlens:multifocalSCL)の近視進行抑制効果は眼鏡よりも有望であり,大きな可能性を秘めているといっても過言ではない.本稿ではこの2つの手法を中心としてCLによる近視進行予防について概説する.Iコンタクトレンズによる近視進行抑制の試みこれまで半世紀以上にわたり多くの研究者がCLの近視進行抑制効果を検討してきた.さまざまなレンズ素材やデザインが試されているが,まずハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)関しては,近視進行抑制効果を肯定するものと否定するものが混在する.ここで注意すべきは,過去の多くの研究ではスタディデザインの問題が指摘されており,すなわち①適切な対照群が設定されていない,②眼軸長の測定が行われていない,③対象者の脱落率が高い,④16歳以上の症例がエントリーされている,⑤患者の割り付けがランダム化されていない,⑥調節麻痺下での屈折評価がなされていないなどの理由で,報告された結果をそのまま受け入れることがむずかしく,エビデンスレベルとしては低いといわざるを得なかった.SCLに関しては近視進行抑制効果を支持する研究報告はほとんどみられず,むしろ近視進行を促進するという報告もある.また,HCL同様,スタディデザインの問題が指摘されていた.そこでWallineらはSCL,HCLともに上記の問題点を解決すべく大規模なrandomizedclinicaltrial(RCT)を行った1,2).まずSCLに関しては,?1~?6Dの近視を有する8~11歳の学童をリクルートし,SCL群247例と対照眼鏡群237例に無作為に割り付け,3年間の前向き研究を行っている.その結果,SCL群と眼鏡群には有意な屈折変化の差はみられず,眼軸長や角膜曲率にも有意差がみられなかったと報告した1).一方,HCLに関しては,近視度数が?0.75~?4Dである8~11歳の学童をリクルートし,HCL群59例と対照群のSCL群57例に無作為に割り付けて3年間の前向き研究を行っている.その結果,HCL群の近視進行(?1.56±0.95D)はSCL群(?2.19±0.89D)よりも有意に小さかったが,眼軸長変化には両群の差が認められなかった.また,角膜曲率変化に有意差が認められたことから,HCLによる角膜フラット化の影響が最終的な近視進行の差に影響した可能性が高いことを示唆した.つまりHCLに真の近視進行抑制効果は存在せず,HCLを近視進行抑制のツールとして積極的に用いることに警鐘を鳴らした2).以上から,単焦点デザインのSCLやHCLを通常処方(パラレル処方)した場合は近視進行を抑制できない,もしくはきわめて小さい抑制効果しか期待できないという結論に至っている.IIオルソケラトロジーによる近視進行抑制HCLを角膜カーブよりもフラットに処方すると角膜形状変化がもたらされ,その結果として近視が軽減することは1960年代から確認されており,これを意図的に行う手法がortho-kとよばれるようになった(前述したHCLの既報の中には近視進行抑制効果が認められたものが存在するが,意図的・計画的ではなかったにしろortho-k効果により近視進行抑制効果が発現されたと推察される).しかし,当初の手法では単焦点レンズを単純にフラットに処方するだけであったため,達成される近視矯正効果は弱く予測性にも欠けていた.その後,より効果を高めるためのデザイン改良が進み,1980年代に入るとリバースジオメトリーデザインが考案され飛躍的に精度が向上した.さらに高酸素透過性のレンズ素材の開発や角膜トポグラフィーの登場とともにortho-kの手法も洗練され,1990年代後半にはortho-kが本格的に普及するようになった.そして未成年者や学童にも処方されるようになり,本治療を継続していると近視が進みにくくなることが広く経験されるようになった.そして,2004年に初めて学術報告がなされ,片眼のみortho-kを行っていた11歳男児の2年間の眼軸長伸長が僚眼の半分以下(治療眼0.13mmvs僚眼0.34mm)に抑えられていたことが紹介された3).ついで2年間のパイロットスタディが香港と米国で施行され,Choら4)の報告では眼鏡群と比較して46%の眼軸長伸長抑制が達成されており,またWallineら5)の研究ではSCL群と比較して56%も抑制されていることが判明した.しかし,これらのスタディは適切な対照群が設定されておらず,他の報告からの引用データ(historicaldata)を用いて比較しているため,エビデンスレベルは低いといわざるを得なかった.その後,日本やスペインで単焦点眼鏡装用を対照とした非ランダム化比較試験が施行され,Kakitaら6)の報告では日本人において2年間で36%,またSantodomingo-Rubido7)らの白人を対象とした研究では2年間で32%の有意な眼軸長伸長抑制効果が認められた.さらに香港ではChoら8)のグループによりROMIOスタディという初めてのRCTが行われ,ortho-k群は単焦点眼鏡群と比較して2年間で43%の眼軸長伸長抑制が達成されており,より若い年齢(7~8歳)で治療を開始したほうが抑制効果が強く得られることも示唆された.最近ではpartialreductionortho-kといって,強度近視眼に対してortho-kを用いて4Dだけ部分的に近視矯正を行い,残存した近視度数に対して眼鏡を装用させるという研究が行われ,きわめて強い眼軸長伸長抑制効果(63%)が確認されている9).また,TO-SEEstudyと命名された研究では,乱視を有する近視眼を対象としてトーリックortho-kレンズによる2年間の治療効果が検討され,やはり強い眼軸長伸長抑制効果(52%)が報告された10).このように近視進行抑制を目的としたortho-kの適応範囲が近年拡大していることも興味深い.もちろん成長期の眼軸長伸長を完全に抑制することはできないが,これらの既報に基づけば2年間で3~6割程度の抑制効果が期待できるといえる(図1).また,遺伝要因,環境要因が完全に一致している一卵性双生児を対象に行われたTwin研究において,orthokを行った双子Aでは眼鏡使用の双子Bに比べて6カ月後の眼軸長の伸長が大きく抑制され,2年後も維持されていたと報告されている11).さらに2015年には4本のメタ解析(meta-analysis)論文が報告され,いずれも眼軸長の伸長を有意に抑制し,重篤な合併症なく安全性を許容できると結論づけられており,ortho-kの近視進行抑制効果に関するエビデンスは最高レベルまで到達した12~15).これまでの臨床研究はいずれも2年間の報告であったが,5年間へと観察期間を延長した前向き研究も行われており,治療期間が長くなるにつれ抑制効果は減弱する傾向があるが,5年間の長期にわたっても約3割の眼軸長伸長抑制が達成されていることが示された16).III近視進行抑制メカニズム光学的な近視進行抑制メカニズムとして近年広く支持されているのは軸外収差理論である.この理論はSmithらの研究結果に基づいており17),軸外(off-axis)つまり周辺網膜における遠視性デフォーカス(網膜よりも後方で焦点を結ぶために生じる焦点ボケ)が眼軸長延長のトリガーとなる.通常,眼鏡やCLによる矯正では周辺部遠視性デフォーカスが生じるため近視の進行を抑制できない.しかし,ortho-kレンズ装用後は周辺部の角膜形状が急峻化するため,遠視性デフォーカスが改善され,近視の進行が抑制されると考えられている(図2).最近では,コマ収差を代表とする非対称な高次収差成分が眼軸長伸長と相関するとの報告がなされており18),高次収差と近視進行の関連が一つのトピックスとなっている.高次収差は偽調節量の増加や焦点深度の拡大に寄与し,結果として調節負荷を軽減するため眼軸長の伸長が抑制される可能性が示唆されている.近視進行抑制メカニズムの新しい仮説ではあるが,この証明にはさらなる検討が必要である.いずれにせよ,近視の発生や進行のメカニズムはきわめて複雑で単一のメカニズムでは説明できない可能性が高い.多要因が複雑に絡み合っているうえに個々の眼球においてもバリエーションが多いことが,その解明を困難にしていると考えられる.IV多焦点SCLによる近視進行抑制近年,さまざまなタイプの多焦点SCLにおいて近視進行抑制効果が確認されるようになってきた19~22).Sankaridurgら20)は,レンズ光学部の中心3mm領域が通常の遠方矯正度数で,周辺に行くにつれ徐々に加入度数が増し,最周辺部へ向かい+2.00Dまで加入されている多焦点SCLを使用して,中国において7~14歳の近視学童を対象とした12カ月のトライアルを行っている.つまり軸外収差理論に基づき,網膜周辺部における遠視性デフォーカスを改善することにより近視進行抑制を達成しようとする試みである.その結果,単焦点眼鏡の対照群よりも近視進行が34%抑制され,眼軸長伸長も33%抑制されたと報告した.光学的なデザインがまったく異なるSCLにおいても類似もしくはそれ以上の近視進行抑制効果が報告されている.AnsticeとPhillips21)は図3aに示すように中心から周辺に向かって,遠→近→遠→近→遠と交互に2つの度数が配置された2重焦点(bifocal)SCLを用いて,10カ月ごとのクロスオーバー試験を行っている.このレンズを装用すると結像面が網膜とその前方の2カ所に形成される.筆者らは図3bのように遠方視時だけでなく図3cのような近方視時にも網膜面より前方のフォーカスが常に形成されていることが重要であり,これが近視進行抑制の観点から有利であると説明している.この理論は広く受け入れられているとは言いがたいが,近方視時の調節反応を減少させたり,調節ラグによる網膜後方への焦点ボケを軽減する効果も期待できるため,PALで支持されてきた調節ラグ理論に類似していると考えられる.いずれにせよ,Ansticeらは周辺部網膜の関与は重要視しておらず,網膜中心部(on-axis)のフォーカスを網膜面とその前方に形成することで眼球の過伸展および軸性近視の進行を抑制しようとした.その結果,最初の10カ月において,2重焦点SCLを装用した群は,単焦点SCLを装用した対照群よりも近視進行が37%抑制され,眼軸長の伸びは49%も抑制されたことを報告した.本研究では対象者の年齢が11~14歳と比較的高いにもかかわらず,10カ月の短期間でortho-kに匹敵する強い効果が得られており,非常に興味深い.また,軸外収差理論に基づかないメカニズムにより近視進行抑制効果が発現されていることも注目に値する.また,Fujikadoら22)は,低加入度の多焦点SCLを用いて10~16歳の日本人学童34例において近視進行抑制効果を検討している.本研究で使用されたレンズデザインは図4に示すように中心3.25mm領域は遠方矯正度数であり,その周囲を取り囲むように同心円状に累進屈折域が配置され,光学部は全体で直径8mmとなる.しかし,最周辺部でも+0.50Dの加入に留まっており,前述のSCL(+2.00Dの加入)と比較するとかなり小さい加入度の設計となっている.さらに光学部の中心をレンズ中心から鼻側に0.5mmシフトしたデザインであり,瞳孔の鼻側偏位に対応している.そして単焦点SCLを対照とした12カ月のクロスオーバー試験において,低加入度多焦点SCL群では47%の眼軸長伸長抑制効果が認められた.このように明らかに小さい加入度でも同様の近視進行抑制効果が得られていることは大変興味深い.また,本レンズにおいては相対的周辺部屈折(中心と周辺の屈折差)が計測されており,その結果,裸眼状態または単焦点SCLと比較して周辺部の屈折に有意差はみられないとしていることから(図5),軸外収差理論によらない近視進行抑制効果が発現されたと考えられる.筆者らはその機序は不明としているが,低加入度のプラスレンズ効果による近方視時の調節軽減の関与も示唆している.上記に示した多焦点SCLに関する研究報告を解釈するうえで重要なポイントが一つあるが,それは治療継続期間や観察期間が短いことである.Ortho-kの研究では2年間の評価が標準であるのに対して,多焦点SCLの装用継続期間はほとんどが1年以下であることに注意したい.近視進行抑制法の効果は初年度がもっとも大きいことはよく知られており,1年目の結果だけをみると過大評価となってしまう可能性がある.今後,多焦点SCLの研究においては2年以上の装用継続を行ったうえで近視進行抑制効果が判断されるべきであり,そのうえで他の治療法との比較を行う必要がある.V利点と欠点多焦点SCLのメリットは角膜形状変化をもたらさないことと就寝時装用を要しないことがあげられ,通常のSCLとハンドリングやケア方法は変わらないため一般的に受け入れられやすい.しかし,デメリットして,小学生の低学年には処方がむずかしいことがあげられる.なぜなら終日装用のCLは自分で装脱着できる人に処方するのが原則であり,装用中にトラブルが生じても最低限の対処(脱着など)は患者自身に求められるからである.一方,ortho-kは日中装用しないので,装着も脱着も親が家庭で管理できることが強みで,比較的低年齢から開始できるという利点がある.小学校の低学年ではortho-kによる近視進行抑制を行い,高学年になったら多焦点SCLに変更するという使い方も1つのオプションとなるかもしれない.おわりに上述したようにortho-kも多焦点SCLも非常に有望な結果が報告されており,今後の研究の発展が期待される.しかし,それらの近視進行抑制メカニズムは依然として明らかにされておらず,急務の課題であるといえる.より効果的なデザインや手法の開発,そして光学的な近視進行抑制法がさらに普及するためにも真のメカニズムの解明が待たれる.また,最大限の効果を得るための治療開始年齢や継続期間が不明であり,中止後の近視進行抑制効果の戻り(リバウンド)に関してもほとんどわかっていない.さらに他の治療法へ切り替えた場合の効果維持やアトロピン点眼など薬物療法との併用効果も不明である.まだまだ課題は多いのは事実であるが,近い将来に学童近視の予防法が確立され,将来的な強度近視や病的近視が激減することを切に願っている.文献1)WallineJJ,JonesLA,SinnottLetal;ACHIEVEStudyGroup:Arandomizedtrialoftheeffectofsoftcontactlensesonmyopiaprogressioninchildren.InvestOphthalmolVisSci49:4702-4706,20082)WallineJJ,JonesLA,MuttiDOetal:Arandomizedtrialoftheeffectsofrigidcontactlensesonmyopiaprogression.ArchOphthalmol12:1760-1766,20043)CheungSW,ChoP,FanD:Asymmetricalincreaseinaxiallengthinthetwoeyesofamonocularorthokeratologypatient.OptomVisSci81:653-656,20044)ChoP,CheungSW,EdwardsM:Thelongitudinalorthokeratologyresearchinchildren(LORIC)inHongKong:apilotstudyonrefractivechangesandmyopiccontrol.CurrEyeRes30:71-80,20055)WallineJJ,JonesLA,SinnottLT:Cornealreshapingandmyopiaprogression.BrJOphthalmol93:1181-1185,20096)KakitaT,HiraokaT,OshikaT:Influenceofovernightorthokeratologyonaxiallengthelongationinchildhoodmyopia.InvestOphthalmolVisSci52:2170-2174,20117)Santodomingo-RubidoJ,Villa-CollarC,GilmartinBetal:MyopiacontrolwithorthokeratologycontactlensesinSpain:refractiveandbiometricchanges.InvestOphthalmolVisSci53:5060-5065,20128)ChoP,CheungSW:Retardationofmyopiainorthokeratology(ROMIO)study:a2-yearrandomizedclinicaltrial.InvestOphthalmolVisSci53:7077-7085,20129)CharmJ,ChoP:Highmyopia-partialreductionorthok:a2-yearrandomizedstudy.OptomVisSci90:530-539,201310)ChenC,CheungSW,ChoP:Myopiacontrolusingtoricorthokeratology(TO-SEEstudy).InvestOphthalmolVisSci54:6510-6517,201311)ChanKY,CheungSW,ChoP:Orthokeratologyforslowingmyopicprogressioninapairofidenticaltwins.ContLensAnteriorEye37:116-119,201412)LiSM,KangMT,WuSSetal:Efficacy,safetyandacceptabilityoforthokeratologyonslowingaxialelongationinmyopicchildrenbymeta-analysis.CurrEyeRes41:600-608,201613)SunY,XuF,ZhangTetal:Orthokeratologytocontrolmyopiaprogression:ameta-analysis.PLoSOne10:e0124535,201514)SiJK,TangK,BiHSetal:Orthokeratologyformyopiacontrol:ameta-analysis.OptomVisSci92:252-257,201515)WenD,HuangJ,ChenHetal:Efficacyandacceptabilityoforthokeratologyforslowingmyopicprogressioninchildren:ASystematicReviewandMeta-Analysis.JOphthalmol2015;2015:360806.Epub2015Jun1116)HiraokaT,KakitaT,OkamotoFetal:Long-termeffectofovernightorthokeratologyonaxiallengthelongationinchildhoodmyopia:a5-yearfollow-upstudy.InvestOphthalmolVisSci53:3913-3919,201217)SmithEL3rd,KeeCS,RamamirthamRetal:Peripheralvisioncaninfluenceeyegrowthandrefractivedevelopmentininfantmonkeys.InvestOphthalmolVisSci46:3965-3972,200518)HiraokaT,KakitaT,OkamotoFetal:Influenceofocularwavefrontaberrationsonaxiallengthelongationinmyopicchildrentreatedwithovernightorthokeratology.Ophthalmology122:93-100,201519)AllerTA,WildsoetC:Bifocalsoftcontactlensesasapossiblemyopiacontroltreatment:acasereportinvolvingidenticaltwins.ClinExpOptom91:394-399,200820)SankaridurgP,HoldenB,SmithE3rdetal:Decreaseinrateofmyopiaprogressionwithacontactlensdesignedtoreducerelativeperipheralhyperopia:one-yearresults.InvestOphthalmolVisSci52:9362-9367,201121)AnsticeNS,PhillipsJR:Effectofdual-focussoftcontactlenswearonaxialmyopiaprogressioninchildren.Ophthalmology118:1152-1161,201122)FujikadoT,NinomiyaS,KobayashiTetal:Effectoflowadditionsoftcontactlenseswithdecenteredopticaldesignonmyopiaprogressioninchildren:apilotstudy.ClinOphthalmol8:1947-1956,2014*TakahiroHiraoka:筑波大学医学医療系眼科〔別刷請求先〕平岡孝浩:〒305-8575茨城県つくば市天王台1-1-1筑波大学医学医療系眼科0910-1810/16/\100/頁/JCOPY1436あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(50)図1オルソケラトロジー近視進行抑制効果に関する既報の比較列挙したものはすべて2年間の臨床研究であり,対照群(単焦点眼鏡もしくはSCL)との眼軸長変化を比較しているが,いずれの研究においてもオルソケラトロジー群は対照群よりも有意に眼軸長伸長が抑制されており,その抑制効果は32~63%と報告されている.(51)あたらしい眼科Vol.33,No.10,20161437図2眼鏡とオルソケラトロジーの周辺部結像位置の違いa:眼鏡で近視矯正すると,周辺部に遠視性デフォーカス(焦点ぼけ)を生じ,これが眼軸を伸長(近視を進行)させるトリガーとなると考えられている.b:オルソケラトロジー後は角膜中央がフラット化し近視が軽減するが,周辺部角膜は肥厚,スティープ化するため周辺での屈折力が増し,その結果,周辺網膜像での遠視性デフォーカスが改善する.それゆえ眼軸長伸長が抑制され近視が進行しにくくなると考えられている.1438あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(52)図32重焦点SCLのデザインと焦点位置AnsticeとPhillipsは中心から周辺に向かって,遠→近→遠→近→遠と交互に2つの度数が配置された2重焦点(bifocal)SCLを用いて(a),10カ月ごとのクロスオーバー試験を行った.遠方視時(b)だけでなく,近方視時(c)にも網膜面より前方のフォーカスが常に形成されており,これが近視進行抑制の観点から有利であると説明している.(文献21より引用)図4低加入度多焦点SCLのデザインFujikadoらが用いた低加入度多焦点SCLのデザインを示す.中心3.25mm領域は遠方矯正度数で,その周囲を取り囲むように同心円状に累進屈折域が配置され,最周辺部でも+0.50Dの加入度数に留まっている.さらに光学部の中心をレンズ中心から鼻側に0.5mmシフトしたデザインであり,瞳孔の鼻側偏位に対応している.このように明らかに小さい加入度でも近視進行抑制効果が得られていることは大変興味深い.(文献22より引用)(53)あたらしい眼科Vol.33,No.10,20161439図5裸眼,単焦点SCLおよび低加入度多焦点SCL装用時の相対的周辺部屈折の比較縦軸は相対的周辺部屈折(中央と周辺部の屈折差)を示す.横軸は視軸からの角度を示し,中心(0°)から右に行くほど鼻側周辺部となり,左に行くほど耳側周辺部となる.(▲)は裸眼での屈折分布を示し,鼻側,耳側ともに周辺に行くほど相対的周辺部屈折が正方向(遠視方向)に大きくなっている.つまり周辺部は中央に比べて相対的に遠視状態となっていることがわかる.(■)は単焦点SCLを装用した状態である.また(◇)は低加入度多焦点SCLを装用した際の屈折分布である.いすれの装用下でも周辺部は遠視となっており,3群間に有意差はみられなかったと報告されている.(文献22より引用)1440あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(54)(55)あたらしい眼科Vol.33,No.10,20161441