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コンタクトレンズ:老眼

2015年10月31日 土曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一17.老視●はじめに加齢により調節力が低下したコンタクトレンズ(CL)装用者に対してCLを処方する場合,老視の自覚症状が出現している患者には,近方の見え方を補助するための対応が必要になる.また,老視年齢になって初めてCLを使用することを希望している患者には,最初から老視を考慮に入れた対応が必要になる.いずれの場合にもCLでの老視への対応の方法を知らなければ,遠方視と近方視の両立を考えるとCLの使用を止めさせ,遠近両用眼鏡などで対応する方法を取らざるを得なくなる.しかし本来,日常生活で眼鏡を使用しない生活を希望している患者へは,生活の質を変化させないために,可能な限りCLで対応する方法を選択すべきである.CLでの老視への対応法は,CLと眼鏡を併用する方法,CLの球面度数を中間距離に設定する方法,CLによるモノビジョン法,遠近両用CLを使用する方法の4つが考えられる(表1).本稿ではソフトコンタクトレンズ(SCL)を処方する場合を想定して,この4つの方法によるCL既装用者とCL未経験者に対するSCLでの老視への対応について概説する.●SCLと眼鏡の併用SCLと眼鏡を併用する方法には,遠方視用に球面度数を適正に設定したSCL装用上に近方視用に近用眼鏡を処方する方法と,近方視に不自由がないように球面度数を遠方適正度数よりもプラス側に設定したSCL装用上に遠方視用に遠用眼鏡を処方する方法の2つがある.患者の生活状況に応じて利便性が高いと思われる方法を選択する.どちらの方法も,遠近両用SCLの規格にある球面度数内で屈折を矯正しきれない強度屈折異常や中等度以上表1コンタクトレンズでの老視への対応法1.コンタクトレンズと眼鏡(近用または遠用)の併用2.コンタクトレンズの球面度数を中間距離に設定3.コンタクトレンズによるモノビジョン法(優位眼を遠用,非優位眼を近用に設定)4.遠近両用コンタクトレンズの使用塩谷浩しおや眼科の乱視眼では,見え方の質を維持できるため有用である.しかし,一般的な球面SCLで対応できる患者にとっては,眼鏡の併用は面倒で煩わしく不便であり,とくにSCL既装用者にとっては受け入れたくない方法だと思われる.●SCLの球面度数を中間距離に設定SCLの球面度数を中間距離に設定する方法は,調節力の不足分を補うために球面度数を遠方適正度数よりもプラス側に設定することで,近視では低矯正となり,遠視では過矯正となり,遠方の見え方がやや不良となることと引き換えに,日常生活にあまり不便のない近方の見え方が得られるようにする方法である.鮮明な遠方視や近方視を必要としない生活状況にある場合や,CL装用経験の長い高齢者がCL装用を継続している場合には,慣れに期間を要さず有用な方法である.しかし,遠方,近方とも見え方は不十分であり,初期老視での満足度は低い方法である.●SCLによるモノビジョン法SCLによるモノビジョン法には,モノビジョン法,モディファイド・モノビジョン法,モディファイド・モディファイド・モノビジョン法の3つの方法がある(表2).基本となるモノビジョン法は,両眼に単焦点SCLを使用し,通常は遠方視での優位眼(図1)の球面度数を遠方視用に適正に設定し,非優位眼の球面度数を近方表2モノビジョン法の種類種類優位眼非優位眼モノビジョン法単焦点CL(遠方適正矯正度数)単焦点CL(遠方適正度数+プラス球面度数)モディファイド・モノビジョン法単焦点CL(遠方適正矯正度数)遠近両用CL(遠方適正矯正度数)モディファイド・モディファイド・モノビジョン法遠近両用CL(遠方適正矯正度数)遠近両用CL(遠方適正度数+プラス球面度数)(55)あたらしい眼科Vol.32,No.10,201514270910-1810/15/\100/頁/JCOPY 1428あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(00)視に不自由がないように遠方適正度数よりもプラス側に設定して処方する方法である.モディファイド・モノビジョン法は単焦点SCLと遠近両用SCLを使用し,通常は優位眼に使用する単焦点SCL(トーリックSCLも含む)の球面度数を遠方視用に適正に設定し,非優位眼に遠近両用SCLを適正度数で処方する方法である.モディファイド・モディファイド・モノビジョン法は両眼に遠近両用SCLを使用し,通常は優位眼の球面度数を適正に設定し,非優位眼の球面度数は加入度数不足を補うために,より近方視に適するようにプラス側に設定して処方する方法である.これらのモノビジョン法では両眼視機能の保持のために,非優位眼の球面度数のプラス側への設定を+1.50D以内に抑える必要がある.順応できたCL装用者にとっては有用な方法である.しかし,適応の判断がむずかしく,適応となったとしても両眼視機能のある程度の低下には妥協が必要となる.●遠近両用SCLの使用遠近両用SCLの使用は,調節力の不足分を補うために近方視用に加入度数が設定された遠近両用SCLを両眼に処方する方法である.遠近両用SCLには1日交換SCL,頻回交換SCL,定期交換SCL,従来型SCLがある.現在入手可能な製品は,焦点の構造から二重焦点型と累進屈折力型,光学部のデザインから同心円型と非球面型,中心光学部から中心遠用型と中心近用型に分けられている(表3).遠近両用SCLは製品によって見え方に特徴があるため,適応となった患者の遠方と近方の見え方の重視度に応じて適当と考えられる製品を選択する必要がある.遠近両用SCLだけで対応がむずかしい場合には前述したモノビジョン法を応用する.処方が成功した患者では非常に有用な方法である.しかし,遠近両用SCLの光学的な特性から高加入度数では遠方視が不良になるため,残存する調節力に応じた適正な加入度数と球面度数の設定がむずかしく,処方成功率を上げるには習熟を要する.文献1)塩谷浩:各種バイフォーカルコンタクトレンズの選択.あたらしい眼科18:463-468,2001表3遠近両用コンタクトレンズの分類機能焦点光学部形状中心光学部種類交代視型二重焦点セグメント型※遠用HCL同心円型同時視型二重焦点同心円型遠用SCL近用回折型※近用累進屈折力非球面型遠用HCLSCL近用SCLHCL:ハードコンタクトレンズ,SCL:ソフトコンタクトレンズ.※現在は製品として入手できない.図1遠方視での優位眼の確認法(Hole.in.cardtest:のぞき穴法)a:両手で作った穴(またはカードに開けた穴)から両眼で目標を注視させる.b:遮蔽によって目標が見えなくなった側を優位眼と判定する.ab◎コンタクトレンズは高度管理医療機器です。眼科医による検査・処方をお願いします。特に異常を感じなくても定期検査は必ず受けるようにご指導ください。◎患者さんがコンタクトレンズを使用する前に、必ず添付文書をよく読み、取扱い方法を守り、正しく使用するようにご指導ください。ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社ビジョンケアカンパニー〒101-0065東京都千代田区西神田3丁目5番2号販売名:ワンデーアキュビューモイスト/ワンデーアキュビューディファインモイスト承認番号:21600BZY00408000/22300BZX00126000[効能・効果:視力補正、虹彩又は瞳孔の外観(色、模様、形)を変えること]R登録商標cJ&JKK2015*:装用感には個人差があります。シリーズ1日中続く快適な装用感*をめざして。今年、ワンデーアキュビューRモイストRは発売10周年を迎えました。〈遠近両用〉〈近視・遠視用〉〈サークルレンズ〉〈乱視用〉ZS947ab表3遠近両用コンタクトレンズの分類機能焦点光学部形状中心光学部種類交代視型二重焦点セグメント型※遠用HCL同心円型二重焦点同心円型遠用近用SCL同時視型回折型※近用累進屈折力非球面型遠用近用HCLSCLSCL図1遠方視での優位眼の確認法(Hole.in.cardtest:のぞき穴法)a:両手で作った穴(またはカードに開けた穴)から両眼で目標を注視させる.b:遮蔽によって目標が見えなくなった側を優位眼と判定する.視に不自由がないように遠方適正度数よりもプラス側に設定して処方する方法である.モディファイド・モノビジョン法は単焦点SCLと遠近両用SCLを使用し,通常は優位眼に使用する単焦点SCL(トーリックSCLも含む)の球面度数を遠方視用に適正に設定し,非優位眼に遠近両用SCLを適正度数で処方する方法である.モディファイド・モディファイド・モノビジョン法は両眼に遠近両用SCLを使用し,通常は優位眼の球面度数を適正に設定し,非優位眼の球面度数は加入度数不足を補うために,より近方視に適するようにプラス側に設定して処方する方法である.これらのモノビジョン法では両眼視機能の保持のために,非優位眼の球面度数のプラス側への設定を+1.50D以内に抑える必要がある.順応できたCL装用者にとっては有用な方法である.しかし,適応の判断がむずかしく,適応となったとしても両眼視機能のある程度の低下には妥協が必要となる.●遠近両用SCLの使用遠近両用SCLの使用は,調節力の不足分を補うためHCL:ハードコンタクトレンズ,SCL:ソフトコンタクトレンズ.※現在は製品として入手できない.に近方視用に加入度数が設定された遠近両用SCLを両眼に処方する方法である.遠近両用SCLには1日交換SCL,頻回交換SCL,定期交換SCL,従来型SCLがある.現在入手可能な製品は,焦点の構造から二重焦点型と累進屈折力型,光学部のデザインから同心円型と非球面型,中心光学部から中心遠用型と中心近用型に分けられている(表3).遠近両用SCLは製品によって見え方に特徴があるため,適応となった患者の遠方と近方の見え方の重視度に応じて適当と考えられる製品を選択する必要がある.遠近両用SCLだけで対応がむずかしい場合には前述したモノビジョン法を応用する.処方が成功した患者では非常に有用な方法である.しかし,遠近両用SCLの光学的な特性から高加入度数では遠方視が不良になるため,残存する調節力に応じた適正な加入度数と球面度数の設定がむずかしく,処方成功率を上げるには習熟を要する.文献1)塩谷浩:各種バイフォーカルコンタクトレンズの選択.あたらしい眼科18:463-468,20011428◎コンタクトレンズは高度管理医療機器です。眼科医による検査・処方をお願いします。特に異常を感じなくても定期検査は必ず受けるようにご指導ください。◎患者さんがコンタクトレンズを使用する前に、必ず添付文書をよく読み、取扱い方法を守り、正しく使用するようにご指導ください。ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社ビジョンケアカンパニー〒101-0065東京都千代田区西神田3丁目5番2号販売名:ワンデーアキュビューモイスト/ワンデーアキュビューディファインモイスト承認番号:21600BZY00408000/22300BZX00126000[効能・効果:視力補正、虹彩又は瞳孔の外観(色、模様、形)を変えること]R登録商標cJ&JKK2015*:装用感には個人差があります。シリーズ1日中続く快適な装用感*をめざして。今年、ワンデーアキュビューRモイストRは発売10周年を迎えました。〈遠近両用〉〈近視・遠視用〉〈サークルレンズ〉〈乱視用〉ZS947

写真:レーシック術後に角膜混濁の憎悪を認めた顆粒状角膜ジストロフィ

2015年10月31日 土曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦377.レーシック術後に角膜混濁の増悪を北澤耕司京都府立医科大学視覚機能再生外科学認めた顆粒状角膜ジストロフィバプテスト眼科山崎クリニック図2図1のシェーマ①顆粒状角膜混濁②レーシックフラップ下の微細な混濁図1レーシック術後に顆粒状角膜ジストロフィの増悪を認めた症例(38歳,女性)レーシックフラップの範囲に一致した顆粒状の混濁を認める.右眼.図3図1のスリット写真混濁はフラップ直下に存在する.図4図1の症例の左眼右眼と同様に,フラップ下にびまん性の層間混濁を認める.(53)あたらしい眼科Vol.32,No.10,201514250910-1810/15/\100/頁/JCOPY 症例は38歳,女性.10歳代の頃から軽度の角膜混濁を指摘されており,祖母も同様の混濁を指摘されていた.2010年(33歳時)に近医眼科で両眼のレーシックを施行され経過良好であったが,術後2年ほどから両眼の霧視を自覚し,2014年12月に筆者の勤務するバプテスト眼科山崎クリニックを受診.初診時視力は右眼0.8(1.0×+1.25D:.1.0DAx180°),左眼0.8(1.2×+1.0D:.0.5DAx170°)であり,両眼のレーシックフラップ下に層間混濁を認めた(図1~4).顆粒状角膜ジストロフィII型(アベリノ角膜ジストロフィ)はTGFBI(transforminggrowthfactorbeta-inducedgene)遺伝子の124番塩基の置換(R124H)が原因とされている角膜ジストロフィである1).常染色体優性遺伝の形式をもち,わが国では顆粒状の角膜混濁の多くが本疾患である.角膜上皮下から実質へのヒアリン沈着によって混濁が生じ,それが角膜中央部に及ぶと視力低下を引き起こす.エキシマレーザー治療的角膜切除(phototherapeutickeratectomy:PTK)による混濁除去が視力改善に有効である.その一方で,レーシックを施行すると混濁の著明な悪化を認めることが報告されており,レーシック手術は不適応と考えられている2~4).今回の症例も同様で,顆粒状の角膜混濁をもつ患者にレーシックを行い,術後に角膜混濁の増悪を認めた.混濁はおもにフラップの層間に認めるため,フラップを再度liftupして,フラップ直下と角膜実質ベッドに治療的レーザー角膜切除を行い,混濁を除去する.この時にマイトマイシンCを塗布して混濁の再発を予防することが重要である.しかし,混濁が除去できても,角膜切除によるフラット化のため術後は遠視化する.そのため,本症例では,霧視の自覚症状が強いが,裸眼視力がそれなりに保たれているため,混濁除去は行わずに,現在経過観察中である.顆粒状角膜ジストロフィにレーシックを行うと,フラップ作製による創傷治癒反応によってTGFbの発現が亢進し,数年かけて異常TGFBI蛋白が集積する3,4).また,PTKと異なり,分泌型TGFbがフラップの層間にパックされることによるTGFbの局所濃縮がレーシック術後の増悪に関与しているのかもしれない.再発防止には,レーシック手術前にわずかな角膜混濁も見逃さないようにすること,また混濁を認めた場合は家族歴の問診が重要であると考える.文献1)MunierFL,KorvatskaE,DjemaiAetal:Kerato-epithelinmutationsinfour5q31-linkedcornealdystrophies.NatGenet15:247-251,19972)JunRM,TchahH,KimTIetal:AvellinocornealdystrophyafterLASIK.Ophthalmology111:463-468,20043)AwwadST,DiPascualeMA,HoganRNetal:Avellinocornealdystrophyworseningafterlaserinsitukeratomileusis:furtherclinicopathologicobservationsandproposedpathogenesis.AmJOphthalmol145:656-661,20084)AldaveAJ,SonmezB,ForstotSLetal:AclinicalandhistopathologicexaminationofacceleratedTGFBIpdepositionafterLASIKincombinedgranular-latticecornealdystrophy.AmJOphthalmol143:416-419,20071426

病的近視に起因する斜視の診断と治療

2015年10月31日 土曜日

特集●病的近視あたらしい眼科32(10):1419.1424,2015特集●病的近視あたらしい眼科32(10):1419.1424,2015病的近視に起因する斜視の診断と治療DiagnosisandTreatmentofStrabismusCausedbyPathologicMyopia横山連*はじめに固定内斜視(convergentstrabismusfixus)は,病的近視(pathologicmyopia)が原因で生じる特殊な斜視である.成人で発症し,圧倒的に女性に多い(90%).一般に眼軸長は最短で27mm,最長では35mmを超える.ただし,眼軸長と眼球運動制限の程度に相関はなく,眼軸が27mm程度でも固定内斜視になることがある.眼球が内下転位に固定され,自発的にせよ受動的にせよ,他のいずれの方向へも動かすことができない状態を固定内斜視とよぶが,これは病的近視に起因する斜視のもっとも進行した形態であり,そこに至るまでには程度の異なる種々の中間段階が存在することを忘れてはならない.中等度の症例では眼球はかろうじて正中まで外転可能であるが,上転と外転方向に明らかな機械的運動制限を示す.もっとも軽症のものは,軽度の機械的外転制限と内斜視を有するだけで,正中を超えて外転可能である.機械的外転制限のない場合は,一見すると共同性内斜視と区別のつきにくいことがある.さらにまた本症は外転障害と内斜視だけではなく,ほとんどの場合,上転障害と下斜視をも合併する.したがって筆者は,病的近視に起因する斜視全般をさす用語として,近視性斜視〔(highly)myopicstrabismus〕という名称を提案している.I発症機序の発見病的近視性斜視については,多くの研究者がその発症機序について推測してきたが,CTやMRIなどの画像診断技術がある程度進歩するまでは,意味のある結論を得ることは困難だった.筆者が文献上とくに重要と考えるのは,外直筋の下方偏位に着目した次の3つの研究である.太田ら1)は,水平断CT像を用いて,外直筋が内直筋より下方の平面に存在することを証明した.HerzauとIoannakis2)は,術中所見から外直筋の走行が斜め下方に向かっていることを発見した.Krzizokら3)は,冠状断MRIによって外直筋の下方偏位を証明した.これらの研究を踏まえて冠状断MRI画像を解析した結果,近視性斜視においては,外直筋が単独で下方偏位しているのではなく,眼球が上直筋と外直筋の間を抜けて筋円錐外に脱臼していることがわかった4).病的近視によって眼軸長が延長すると,筋円錐内に収まりきらない程眼球が大きくなる.眼球の下側には下斜筋があり,鼻上側には上斜筋があるため,眼球はこれらの方向には偏位しにくい.これに対して眼球の耳上側(上直筋と外直筋の間の部分)には外眼筋がなく,眼球が筋間膜に覆われているだけなので,ここから眼球の後半部が筋円錐外に脱臼する.この脱臼の結果,眼球後極が耳上側を向くため,眼球は内下転位をとる.脱臼した眼球は上直筋と外直筋に挟まれ,外直筋は下から,上直筋は鼻側から眼球を支えている.眼球が外転しようとすると上直筋に阻まれ,上転しようとすると外直筋が邪魔になる.これが近視性斜視の発症機序である.*TsuranuYokoyama:大阪市立総合医療センター小児医療センター小児眼科〔別刷請求先〕横山連:〒534-0021大阪府大阪市都島区本通2-13-22大阪市立総合医療センター小児医療センター小児眼科0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(47)1419 1420あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(48)ではプーリーが破壊されているため,大きな偏位が生じ得る.軽度の近視性斜視症例では興味深いことに固定内斜視とは違って,眼球脱臼の程度が眼位によって動的に変化することがある.図4はその1例で,眼位を変えて撮像した冠状断MRIである.上から順に右下向き,正面視,左下向きでの画像である.正面視(図4b)では,外直筋が眼球の中心よりやや下方に偏位しているだけだが,右下向き(図4a)では,左眼が上外直筋の間を抜けて耳上側に筋円錐外に脱臼し,左下向き(図4c)では右眼が同様の状態になっている.したがって斜視角が40Δ以下で眼球運動障害が軽い症例では,少なくともこのMRIで示したように,正面視・右下向き・左下向きの3方向で撮像しないと診断がつきにくく,共同性内斜視と見誤る可能性がある.眼球の筋円錐外への脱臼の程度を定量化するには,何らかの指標が必要である.図5は,上直筋・眼球・外直筋の断面の中心3点を結んだ直線が,耳側眼窩壁に対してなす角(脱臼角,dislocationangle)を測定する方法を示したものである.この角度は,眼球が筋円錐外に脱臼II画像診断の実際筋円錐外への眼球の脱臼をもっとも明確に検出できるのは,冠状断MRIである.ただし水平断MRIも眼球の形状を把握し,眼軸長を大まかに知るのに役立つ.図1は両眼近視性斜視症例の眼位写真である.右眼は典型的な固定内斜視で,内斜視と下斜視が併存しているが,左眼はわずかな外転制限を有する軽度ないし中等度の近視性斜視である.図2は同症例の水平断MRIで,両眼とも眼軸が長く,外直筋筋腹が下方に偏位しているため,内直筋と外直筋が同一スライス内に存在しない.筋腹のもっとも太い部分で比較すると,外直筋は内直筋より2スライス分(約6mm)下方に偏位している.図3は同じ症例の冠状断MRIで,上直筋と外直筋の間から眼球が耳上側に脱臼・偏位していることが明らかである.外直筋と下直筋は脱臼した眼球に押しのけられ,外直筋は下方に,上直筋は鼻側に偏位する.眼球脱臼の程度が強いときは,外直筋が眼球のほぼ真下にまで来ることもある.直筋はプーリーによって眼窩壁に固定されているため,通常は横方向には滑らないが,進行した固定内斜視abc図1両眼近視性斜視症例の眼位写真(症例1)32歳,女性.a:右向き,b:正面視,c:左向き.右眼は固定内斜視で,眼球は内下転位に固定されてほとんど動かない.左眼はわずかに外転制限があるが,正中を超えて外転可能である.ab図2水平断MRI(症例1)a:眼球の断面が最大になるスライスで,内直筋がはっきり描出されている.b:上より2スライス分(6mm)下方のスライスで,外直筋が描出されている.これらの2枚の画像から,この症例では内直筋と外直筋が同一平面になく,外直筋が内直筋より下方に偏位していることがわかる.abc図1両眼近視性斜視症例の眼位写真(症例1)32歳,女性.a:右向き,b:正面視,c:左向き.右眼は固定内斜視で,眼球は内下転位に固定されてほとんど動かない.左眼はわずかに外転制限があるが,正中を超えて外転可能である.ab図2水平断MRI(症例1)a:眼球の断面が最大になるスライスで,内直筋がはっきり描出されている.b:上より2スライス分(6mm)下方のスライスで,外直筋が描出されている.これらの2枚の画像から,この症例では内直筋と外直筋が同一平面になく,外直筋が内直筋より下方に偏位していることがわかる. あたらしい眼科Vol.32,No.10,20151421(49)abc図4眼位を変えて記録した冠状断MRI(症例2)a:右下向き,b:正面視,c:左下向き.正面視では外直筋が眼球の中心より少し下方に偏位しているだけだが,眼球を内下転させると,眼球は上外直筋の間から筋円錐外に脱臼して耳上側に偏位している.正面視の画像だけを見たのでは,眼球脱臼がはっきりせず,診断を誤る可能性がある.図3冠状断MRI(症例1)眼球と筋円錐の位置関係を示すために,連続した3枚のスライスを並べる.スライス厚は3mmである.上直筋と外直筋の間から眼球の後半部が筋円錐外に脱臼しており,とくに右眼では内下転位に固定された眼球が両直筋の間に挟まれている.図5脱臼角の測定方法SR:上直筋,LR:外直筋,Globe:眼球.上直筋(S),眼球(G),外直筋(L)のそれぞれの面重心を求め,∠SGLが耳上側の眼窩壁に対してなす角度を脱臼角とする.この角度が大きいほど眼球の筋円錐外への脱臼は大きい.脱臼角が180°を超えるとき,眼球断面の半分以上が筋円錐外に出ていることになる.abc図4眼位を変えて記録した冠状断MRI(症例2)a:右下向き,b:正面視,c:左下向き.正面視では外直筋が眼球の中心より少し下方に偏位しているだけだが,眼球を内下転させると,眼球は上外直筋の間から筋円錐外に脱臼して耳上側に偏位している.正面視の画像だけを見たのでは,眼球脱臼がはっきりせず,診断を誤る可能性がある.図3冠状断MRI(症例1)眼球と筋円錐の位置関係を示すために,連続した3枚のスライスを並べる.スライス厚は3mmである.上直筋と外直筋の間から眼球の後半部が筋円錐外に脱臼しており,とくに右眼では内下転位に固定された眼球が両直筋の間に挟まれている.図5脱臼角の測定方法SR:上直筋,LR:外直筋,Globe:眼球.上直筋(S),眼球(G),外直筋(L)のそれぞれの面重心を求め,∠SGLが耳上側の眼窩壁に対してなす角度を脱臼角とする.この角度が大きいほど眼球の筋円錐外への脱臼は大きい.脱臼角が180°を超えるとき,眼球断面の半分以上が筋円錐外に出ていることになる. 1422あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(50)せて,筋円錐外に脱臼した眼球を整復することにある.図7aに示すように,まず上直筋と外直筋のそれぞれの付着部から15mm後方の筋腹に,通常の前後転と同様,筋縁から異なる距離で1本の糸を2回ずつ通糸する.このとき糸を結紮してはならない.結紮すると,筋腹の結合ができなくなるためである.各直筋に通糸する際,筋幅の少なくとも半分は糸をかけずに残す.糸の結紮による筋の虚血やうっ血を避けるためである.しかし,本手術でもっとも重要なポイントは,通糸を行う前に,各直筋を十分に周囲組織から分離することである.分離が不十分だと,糸を結紮したときに筋に無理な力がかかるため,直筋が縦に裂けたり,筋と腱の移行部で断裂したりすることがある.筋と周囲組織との分離が適切に行われていれば,2つの直筋を結合するのに強い力は必要ない.図7bは,糸の結紮が終了した状態を示す.糸を結紮する際には両直筋が完全に接触していることを確認しなければならない.もし直筋間に隙間があって,間に縫合糸が露出していると,長期的には糸が食い込んで強膜を損傷する可能性があるからである.図8は,以上の操作を写真で示している.手術前,眼球は内下転位をとっている(図8a).上直筋(図8b)と外直筋(図8c)をそれぞれ2本の斜視鉤で引き,筋腹に通糸してから糸を結紮すると(図8d)眼球が上外直筋の結合部に押されて,筋円錐内に整復される.糸を締めて行くと眼球は徐々に正面を向き始め,最後に斜視が消失する(図8e).図9は,上外直筋縫着前後のMRI冠状する程度をよく表しているので,疾患の重症度を示す指標として利用することができる.脱臼角は,最大外転角および最大上転角と負の相関があり,外転障害と上転障害が強いほど脱臼角が大きい.図6は,斜視のない病的近視眼と重症度の異なる近視性斜視眼の脱臼角を,MRI上で測定した結果である.対照群(斜視のない病的近視眼)と近視性斜視群の脱臼角を比較すると,対照群の脱臼角は105.2±8.4°なのに対し,斜視群では179.9±30.8°と大きく,両者の平均値の間には有意差がある.また,対照群と斜視群の眼軸長に有意差はない4).III手術治療の基本近視性斜視の治療には,上外直筋縫着術が第一適応となる.本手術の目的は,上直筋と外直筋の筋腹を接着さabc図6脱臼角の比較a:病的近視だが斜視のない正常対照,b:中等度の症例,c:固定斜視.脱臼角は,正常対照眼で115°,中等度の症例で180°,固定斜視眼で247°である.図7上外直筋縫着の模式図LR:外直筋,SR:上直筋,IO:下斜筋付着部.a:上直筋と外直筋の各付着部から15mm後方の筋腹に通糸したところ.b:通糸した糸を結紮したところ.LRSRIOababc図6脱臼角の比較a:病的近視だが斜視のない正常対照,b:中等度の症例,c:固定斜視.脱臼角は,正常対照眼で115°,中等度の症例で180°,固定斜視眼で247°である.図7上外直筋縫着の模式図LR:外直筋,SR:上直筋,IO:下斜筋付着部.a:上直筋と外直筋の各付着部から15mm後方の筋腹に通糸したところ.b:通糸した糸を結紮したところ.LRSRIOab あたらしい眼科Vol.32,No.10,20151423(51)IV両眼症例の手術両眼性の近視性斜視に対して片眼だけの上外直筋縫着を行っても,斜視は完全には治癒しない.図1の症例は,両眼の上外直筋縫着を1回の手術で同時に行っているので,手術後数週間で図10のように眼位が改善した.しかし,両眼を別々に手術する場合は注意が必要である.両眼の近視性斜視に対して左右眼を別々に手術すると,内斜視の矯正が不十分なだけではなく,片眼手術後に術前にはなかった上下斜視が出現する.これは非手術眼の上転障害が残るためである.両眼手術が完了してはじめて上下斜視が消失し,水平眼位も矯正される.手術を2回に分けて行う場合,事前の説明で,2回目の手術が終了するまでは斜視は完治しないことを患者によく理解しておいてもらう必要がある.とくに片眼手術後に上下斜視による新たな複視が生じる可能性が大きいので,この点を強調する必要がある.V軽症例の手術近視性斜視には,斜視角が40Δ以下で機械的運動制限がほとんどない症例も存在する.軽症例だからといって通常の前後転あるいは内直筋後転を行っても斜視はほ断像である.術後は眼球の脱臼がなくなり,眼球が筋円錐内に戻っていることがわかる.最後の注意点として,上外直筋縫着には,通常の手術では起こらない局所解剖上の問題がある.眼球が内下転して,その後半部が耳上側に偏位しているため,通常は直筋に隠れて見えないはずの下斜筋と上斜筋の付着部と腱が露出している.直筋を周囲組織から分離するときに,誤ってこれらの腱を切除したり,直筋と一緒に斜筋に通糸したりすることがないよう注意が必要である.abcde図8上外直筋縫着の術中写真a:術前眼位,b:上直筋への通糸,c:外直筋への通糸,d:結紮,e:術後眼位.ab図9上外直筋縫着手術前後の冠状断MRIa:術前,b:術後.眼球の脱臼角は,この症例では術前206°が術後109°に改善し,眼球は筋円錐内に整復されている.abcde図8上外直筋縫着の術中写真a:術前眼位,b:上直筋への通糸,c:外直筋への通糸,d:結紮,e:術後眼位.ab図9上外直筋縫着手術前後の冠状断MRIa:術前,b:術後.眼球の脱臼角は,この症例では術前206°が術後109°に改善し,眼球は筋円錐内に整復されている. 1424あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(52)VI内直筋後転のタイミング筆者は上外直筋縫着と同時に内直筋後転を行うことはほとんどない.なぜなら術後に予期しない過矯正を生じて,始末に困る外斜視の進行に悩まされることになりかねないからである.ましてや上外直筋縫着前に7mmを超える大量内直筋後転を行うべきではない.上外直筋縫着直後にひっぱり試験が陽性であっても,術後数週間で眼位と眼球運動は改善されることが多いので,内直筋後転を行うのは少なくとも数カ月待つべきである.また,内直筋後転は,術後の引っ張り試験やMRI所見から,内直筋の拘縮が明らかな症例にのみ行うことが望ましい.万一術後のMRIで眼球脱臼が残存していたら,上外直筋縫着自体の再手術を検討するほうがよい.文献1)太田道孝,岩重博康,林孝雄ほか:固定内斜視の画像学的研究.日眼会誌99:980-985,19952)HerzauV,IoannakisK:ZurPathogenesederEso-undHypotropiebeihoherMyopie.KlinMonatsblAugenheilkd208:33-36,19963)KrzizokTH,KaufmannH,TraupeH:Elucidationofrestrictivemotilityinhighmyopiabymagneticresonanceimaging.ArchOphthalmol115:1019-1027,19974)YamaguchiM,YokoyamaT,ShirakiK:Surgicalproce-dureforcorrectingglobedislocationinhighlymyopicstrabismus.AmJOphthalmol149:341-346,2010とんど改善しない.例えいったん斜視角が減少したとしても,長期的にみると斜視角が再び増大する.したがって例え小斜視角であっても,眼球脱臼があれば上外直筋縫着を施行すべきであり,両眼性症例にはもちろん両眼同時手術を行う.術後に多少外斜視となっても,ほとんどの症例では斜位を保ち,網膜循環障害が軽度で視力がある程度良好に保たれていれば,立体視を獲得する例もある.abc図10術後眼位写真(症例1)a:右向き,b:正面視,c:左向き.図1で示した症例に,両眼上外直筋縫着を行った後の眼位写真である.内直筋後転は行っていない.正面視では数Δの右内斜視が残存しているが,右眼の眼球運動は大きく改善した.左眼の外転障害は,術前と比べてほとんど減少していないが,斜視の矯正には両眼手術が不可欠であったと考えるべきであろう.ab図10術後眼位写真(症例1)a:右向き,b:正面視,c:左向き.図1で示した症例に,両眼上外直筋縫着を行った後の眼位写真である.内直筋後転は行っていない.正面視では数Δの右内斜視が残存しているが,右眼の眼球運動は大きく改善した.左眼の外転障害は,術前と比べてほとんど減少していないが,斜視の矯正には両眼手術が不可欠であったと考えるべきであろう.とんど改善しない.例えいったん斜視角が減少したとしても,長期的にみると斜視角が再び増大する.したがって例え小斜視角であっても,眼球脱臼があれば上外直筋縫着を施行すべきであり,両眼性症例にはもちろん両眼同時手術を行う.術後に多少外斜視となっても,ほとんどの症例では斜位を保ち,網膜循環障害が軽度で視力がある程度良好に保たれていれば,立体視を獲得する例もある.VI内直筋後転のタイミング筆者は上外直筋縫着と同時に内直筋後転を行うことはほとんどない.なぜなら術後に予期しない過矯正を生じて,始末に困る外斜視の進行に悩まされることになりかねないからである.ましてや上外直筋縫着前に7mmを超える大量内直筋後転を行うべきではない.上外直筋縫着直後にひっぱり試験が陽性であっても,術後数週間で眼位と眼球運動は改善されることが多いので,内直筋後転を行うのは少なくとも数カ月待つべきである.また,内直筋後転は,術後の引っ張り試験やMRI所見から,内直筋の拘縮が明らかな症例にのみ行うことが望ましい.万一術後のMRIで眼球脱臼が残存していたら,上外直筋縫着自体の再手術を検討するほうがよい.文献1)太田道孝,岩重博康,林孝雄ほか:固定内斜視の画像学的研究.日眼会誌99:980-985,19952)HerzauV,IoannakisK:ZurPathogenesederEso-undHypotropiebeihoherMyopie.KlinMonatsblAugenheilkd208:33-36,19963)KrzizokTH,KaufmannH,TraupeH:Elucidationofrestrictivemotilityinhighmyopiabymagneticresonanceimaging.ArchOphthalmol115:1019-1027,19974)YamaguchiM,YokoyamaT,ShirakiK:Surgicalprocedureforcorrectingglobedislocationinhighlymyopicstrabismus.AmJOphthalmol149:341-346,20101424あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(52)

病的近視の緑内障

2015年10月31日 土曜日

特集●病的近視あたらしい眼科32(10):1409~1418,2015特集●病的近視あたらしい眼科32(10):1409~1418,2015病的近視の緑内障TheClinicalFeatureofOpen-AngleGlaucomawithPathologicMyopia新田耕治*I近視性視神経症でも視野障害出現の可能性あり近視眼では,若年期の眼軸長の延長に伴い視神経の乳頭の傾斜が生じ,さらに40歳ごろには後部ぶどう腫とよばれる眼球後部の一部分のみ拡張する変化が出現する.Curtinは後部ぶどう腫を10タイプに分類し,基本型であるI~Vと混合型のVI~Xがある1)(「後部ぶどう腫と網膜脈絡膜萎縮」の項,p.1391,図4参照).Hsiangらは,日本人では後極部を中心に後部ぶどう腫が出現するが,乳頭より鼻側には後部ぶどう腫が出現しないタイプIIがもっとも多く,さらに,50歳以降の症例ではtypeIXの後部ぶどう腫のタイプがもっとも多いことを報告した2).さらに,Ohno-Matsuiは,3DMRIで撮影した眼球の外観と眼底所見と組み合わせて,Curtin分類のtypeIをwide,macularstaphyloma,typeIIをnarrow,macularstaphyloma,typeIIIをperipapillarystaphyloma,typeIVをnasalstaphyloma,typeVをinferiorstaphylomaと後部ぶどう腫の形態を新たに分類した(図1).最近では,病的近視眼では黄斑部のみ前方へ突出したdome-shapedmaculaといわれる特殊な眼球後部形状や,intrachoroidalcavitation(ICC)という脈絡膜内のcavityが乳頭下方や黄斑部にみられることが報告されるようになり,強膜内のコラーゲン線維や弾性線維の変化によってさまざまな後部ぶどう腫の形態が存在する可能性があることがわかってきたので,この新分類ではCurtin分類のtypeVI~XはすべてtypeIに含めている.その結果,病的近視眼の50.5%で後部ぶどう腫が存在し,その74%がwide,macularstaphylomaで,14%がnarrow,macularstaphylomaであった3).眼球形態が変化することにより,さまざまな黄斑疾患や周辺部網膜病変が生じる.このような病態を病的近視とよび,病的近視の眼底所見には,後部ぶどう腫以外にBruch膜lacquercrack(ひび割れ),黄斑部出血,近視性牽引黄斑症,近視性網脈絡膜萎縮(chorioretinalatrophy:CRA),近視性コーヌス,格子状変性などがある.それぞれの特徴は成書にゆずるが,近視眼では,篩状板支持組織の脆弱化や視神経周囲の構造的変化による力学的不均衡が生じ,視神経乳頭の形態にも重大な影響を与えると考えられている.この形態変化によって,上述の病的近視眼の眼底所見を生じていなくても視野障害を生じることがある4).正常眼を対象にした筆者らの解析において,Humphrey視野の測定部位別に網膜感度と眼軸長の相関を調べると,全52部位のうち眼軸長が延長するにつれて網膜感度が有意に低下する部位をshortwave-lengthautomaticperimetryで25部位,standardautomaticperimetryで13部位に認めた5).非緑内障病的近視眼を10年以上観察すると,13.2%で視野異常が出現し,6割以上で視野障害が進行し,視野障害の進行に有意に関与する因子は唯一視神経乳頭耳側に出現したscleralcurvatureであったとの報告があ*KojiNitta:福井県済生会病院眼科〔別刷請求先〕新田耕治:〒918-8235福井県福井市和田中町舟橋7-1福井県済生会病院眼科0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(37)1409 TypeIwide,macularstaphylomaTypeIInarrow,macularstaphylomaTypeIIIperipapillarystaphylomaTypeIVnasalstaphylomaTypeVinferiorstaphyloma図13DMRIにより撮影された眼球外観と眼底所見を組み合わせた後部ぶどう腫の新分類TypeIはwide,macularタイプの後部ぶどう腫でもっとも高頻度.TypeIIはnarrow,macularタイプ,TypeIIIはperipapillaryタイプ,TypeIVはnasalタイプ,TypeVはinferiorタイプの後部ぶどう腫.(文献3から引用) 長眼軸長正常眼データーベース図2眼底に病的近視所見を合併している病的近視眼緑内障視神経乳頭はやや蒼白でHumphrey視野にて上方弓状感度低下および下方のMariotte盲点拡大,さらに下方の耳側固視点近傍を回避した視野障害を認めた. 正常眼データーベース長眼軸長正常眼データーベース図3非緑内障病的近視症例屈折は等価球面度数で右眼軸長は26.88mm.正常眼データベースで解析した黄斑部網膜内層解析では,黄斑上方に弓状に神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)の菲薄化領域を認め,緑内障性変化と紛らわしいが,長眼軸長正常眼データベースを活用して再解析すると,GCCの菲薄化領域を認めなかった. あたらしい眼科Vol.32,No.10,20151413(41)障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)眼における近視による影響を明確に解析するために,近視群を等価球面度数≦.6Dあるいは眼軸長≧26.0mmとし,非近視群を等価球面度数≧.1Dとし,この2群について検討した.対象として選択されたのは近視群が107例107眼,非近視群が120例120眼であった.初診時年齢は近視群が52.2±9.5歳で非近視群(62.4±10.2歳)視力が0.3以下に低下する症例は近視型乳頭で有意に高率とされている9).これは,長期的に近視を伴う緑内障症例を経過観察していくと,比較的早期から中心視野が障害される場合があることと関連している可能性がある.通常の緑内障の自然経過は,ブエルム領域や鼻側階段から視野障害が出現し,それらが拡大融合し,徐々に中心部にまで視野障害が及んでいくことが多い.そのような障害パターンでは中心視野にまで視野異常が及ぶには発症からかなりの時間が経過してからのことが多い.一方,強度近視眼緑内障は,Bruch膜lacquercracks(ひび割れ)・黄斑部出血・近視性牽引黄斑症・CRAなどの後極部病的近視病変を合併していない場合でも,その40%以上に初期から乳頭黄斑線維束欠損を認め,非近視眼緑内障と比較して有意に高率であるとの報告がある10).また,強度近視眼緑内障では篩状板部分欠損を高率に認め,篩状板部分欠損は,楕円率,傾斜率などの乳頭の形態を示すパラメータと関連し,その形成には,篩状板における眼軸の伸長に伴う視神経乳頭の水平方向へのストレスが関与しているとの報告や,篩状板部分欠損を認める症例に乳頭黄斑神経線維束欠損を呈する症例が多いとの報告がある11,12).これらのことが強度近視眼緑内障で早期から固視点近傍の中心視野障害に陥りやすい理由の一つであると考えられる.とくに強度近視眼緑内障は中心5°以内の下耳側に視野障害が多いと報告されており,強度近視眼緑内障の特徴の一つであると考えられる13).OCTなどで確認される構造的変化は,視野検査で判明する機能的変化に先がけて観察されることが多いので,乳頭黄斑線維束欠損を認める近視眼緑内障では,固視点近傍の視野が障害されやすいと考えて,機能的障害(視力障害や視野障害)が出現する前に管理を強化すべきである.また,中心視野障害の進行はqualityofvisionの低下に直結するので,初期から固視点近傍に暗点が出現する症例では,Humphrey視野で中心30-2でのみ経過観察するのではなく,中心10-2と30-2を交互に測定するようにすべきである.そうすれば中心視野障害の進行に迅速に対処できると思われる.V近視眼緑内障の長期臨床像筆者らは正常眼圧緑内障を含む広義原発開放隅角緑内豹紋状眼底にてNFLDの有無が不明ab図4近視眼緑内障の網膜神経線維層欠損カラー眼底写真にて乳頭出血を確認できるが,近視性豹紋状眼底のため網膜神経線維層欠損(NFLD)の存在や境界は明瞭に確認できない.青成分のみ(無赤緑色)抽出変換した白黒眼底写真では,2本の楔状NFLDを明瞭に確認できる(矢印).豹紋状眼底にてNFLDの有無が不明ab図4近視眼緑内障の網膜神経線維層欠損カラー眼底写真にて乳頭出血を確認できるが,近視性豹紋状眼底のため網膜神経線維層欠損(NFLD)の存在や境界は明瞭に確認できない.青成分のみ(無赤緑色)抽出変換した白黒眼底写真では,2本の楔状NFLDを明瞭に確認できる(矢印). 1414あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(42)図5乳頭黄斑神経線維束に沿って網膜神経線維層欠損が出現しやすい強度近視眼緑内障両眼の強度近視眼緑内障症例,屈折は等価球面度数で右眼は.7.25D.下方黄斑近傍の網膜神経線維層欠損(NFLD)は黄斑側に拡大し,乳頭黄斑神経線維束に沿って出現したNFLDと融合した.そのため,Humphrey視野10-2では,右眼は固視点近傍に早期から感度低下を認め,しかも4年間に増悪していることがわかる.2012.8.82015.7.302010.8.252014.9.242011.11.92013.5.232008.8.20厚みマップ(ILM-IPL/INL)厚みマップ(ILM-IPL/INL)図5乳頭黄斑神経線維束に沿って網膜神経線維層欠損が出現しやすい強度近視眼緑内障両眼の強度近視眼緑内障症例,屈折は等価球面度数で右眼は.7.25D.下方黄斑近傍の網膜神経線維層欠損(NFLD)は黄斑側に拡大し,乳頭黄斑神経線維束に沿って出現したNFLDと融合した.そのため,Humphrey視野10-2では,右眼は固視点近傍に早期から感度低下を認め,しかも4年間に増悪していることがわかる.2012.8.82015.7.302010.8.252014.9.242011.11.92013.5.232008.8.20厚みマップ(ILM-IPL/INL)厚みマップ(ILM-IPL/INL) あたらしい眼科Vol.32,No.10,20151415(43)と比較して,近視群の初診時年齢は有意に若かった(p<0.0001).平均観察期間はそれぞれ10.6年,11.6年であった.屈折は非近視群が0.29±0.87D,近視群が.7.48±2.55Dで近視群は有意に近視であり(p<0.0001),眼軸長は非近視群が23.28±0.90mm,近視群が26.73±1.21mmで近視群は有意に長かった(p<0.0001).ベースライン眼圧は近視群が17.4±5.0mmHg,非近視群が16.6±5.6mmHgで有意差は認めなかった.観察期間中の平均眼圧は近視群が13.7±2.6mmHg,非近視群が12.8±2.3mmHgで非近視群は観察期間中の平均眼圧が有意に低値であったにもかかわらず(p=0.0058),眼圧の日々変動が非近視群では7.49±3.12mmHgと近視群(6.21±1.83mmHg)と比較して有意に変動が大きかった.視野進行速度を表すMDslopeは非近視群が.0.35±0.52dB/yearで,近視群(.0.18±0.29dB/year)と比較して有意に早かった(p=0.0021).Kaplan-Meier生命表解析を使用して累積視野進行確率を近視群と非近視群で比較したところ,非近視群(10年視野進行率:49.1±5.2%)で近視群(10年視野進行率:26.6±4.9%)と比べて視野障害の悪化を有意に高率に認めた(Log-rankp=0.0128).また,DHの出現回数は,非近視群が1.32±2.28回で,近視群(0.77±1.71回)と比較して有意に高頻度であった(p=0.0426).Kaplan-Meier生命表解析を用いてDHの累積出現確率を近視群と非近視群で比較したところ,非近視群(10年DH出現率:44.7±4.8%)では近視群(10年DH出現率:30.6±4.9%)と比べて有意にDHの出現を高率に認めた(Log-rankp=0.0453).これらの筆者らの検討から,近視眼緑内障を10年以上観察した場合にはDHの出現頻度が低く,視野障害の悪化率が低率である可能性が示唆された.VI近視性コーヌスと視神経乳頭周囲網脈絡膜萎縮の違い近視眼では視神経乳頭周囲網脈絡膜萎縮(parapapila-ryatrophy:PPA),いわゆる近視性コーヌスがとくに顕著であり,乳頭の傾斜の進行とともに,その面積は拡大することが知られている.近視眼緑内障でも同様に経過中にコーヌスが拡大する症例を認めることがある.自験例を呈示する.初診時年齢40歳,男性,視力:RV=0.06(1.2×.6.5D(cyl.1.5DA20°),LV=0.06(1.2×.5.75D(cyl.2.0DA175°),眼軸長:R=28.22mm,L=27.70mm.ベースライン眼圧:R=17.8mmHg,L=17.8mmHg.Humphrey静的視野のMD:R=.17.72dB,L=.12.78dB.両眼ともに点眼加療を施行し,MDslope:R=.0.16dB/y,L=.0.19dB/yと両眼ともに視野の進行速度は緩徐であるが,右眼の視神経乳頭周囲のコーヌスはとくに下方や鼻側で明らかに拡大している(図6).これは,近視性変化の一つとして眼球の傾斜などの形態が変化することにより視神経周囲構造の力学的不均衡が生じ,視神経乳頭の形態に影響を及ぼしていると考えられる.このような変化が視野障害の進行に関与するかは不明であり,今後のさらなる解析が待たれるところである.PPAに関する報告では,眼底所見などにより近視性コーヌスとPPAとを区別して論じることがあるが,混同されることも多い.Jonasらは,組織学的検討から両者を明確に鑑別できることを提唱した.すなわち,コーヌス部の網膜は網膜神経線維のみが残存し,その他の網膜各層は消失しており,網膜神経線維のすぐ外側に強膜が構成している萎縮であり,これをJonasはg-PPAと定義した.一方,網膜色素上皮以外の網膜各層が残存しているPPAをb-PPAとし,これにより両者は区別できるとしている(図7)14,15).SSADA(splitspectrumamplitudedecorrelationangiography)の原理を用いて眼底内の静止している部分(組織)と動きのある部分(血流)を判別し,網膜血管内の血流の様子を画像化した新しいOCTアンギオグラフィでは,蛍光眼底造影を用いなくても乳頭表面~篩状板における毛細血管網を定性的に評価できるようになったのでPPAの形状を血管密度の定性的に解析できる可能性がある.網膜の深層毛細血管網は内網状層および外網状層に分布しているといわれているので(図8),非緑内障近視眼でg-PPAを有する場合には,網膜神経線維層以外の網膜各層が脱落しているので,OCTアンギオグラフィのとくに脈絡膜モードでは毛細血管密度の低下が推察される.病的近視眼緑内障で確認してみると,図9の症例の眼底写真やOCTにて視神経乳頭周囲の構造を解析すると右眼は 1416あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(44)b-PPA+g-PPAと思われ,OCTアンギオグラフィでは乳頭耳側の毛細血管網は十分に残存しているものの,g-PPAが主体と思われる左眼ではOCTアンギオグラフィにて乳頭耳側の毛細血管密度がかなり疎であることがうかがえる(図9).これがg-PPAが主体のいわゆるコーヌスによる近視性変化に起因するのか,篩状板での毛細血管網の脱落による緑内障性変化に起因するかは症例を重ねて検証していきたい.VII近視性視神経症と緑内障性視神経症のオーバーラップ(MON.GON仮説)近視眼緑内障は,近視特有の傾斜などで生じる構造的変化によりもたらされる視神経障害(近視性視神経症)と眼圧などの応力によって生じる篩状板の脆弱性による視神経障害(緑内障性視神経症)の両者がオーバーラップした病態と考えられ,近視性視神経症はDHの出現頻度は少なく,視神経症の進行速度が遅いのに対し,緑内障性視神経症はDHの出現頻度は多く,視神経症の進行速度が速いと考えられる.近視眼緑内障の発症や進行のメカニズムには,それぞれの占める割合によって視神経図7PPA分類Jonasらは,PPAを網膜各層のうち網膜色素上皮のみが欠落しBruch膜は存在する萎縮をb-PPA,網膜神経線維のみが残存し,その他の網膜各層やBruch膜が欠損して網膜神経線維のすぐ外側に強膜が構成している萎縮をg-PPAと定義した.βPPA.PPA図6コーヌスが拡大した近視眼緑内障右眼の視神経乳頭周囲のコーヌスはとくに下方や鼻側で明らかに拡大している.2005/9/222014/12/112014.7.22005.4.23図7PPA分類Jonasらは,PPAを網膜各層のうち網膜色素上皮のみが欠落しBruch膜は存在する萎縮をb-PPA,網膜神経線維のみが残存し,その他の網膜各層やBruch膜が欠損して網膜神経線維のすぐ外側に強膜が構成している萎縮をg-PPAと定義した.βPPA.PPA図6コーヌスが拡大した近視眼緑内障右眼の視神経乳頭周囲のコーヌスはとくに下方や鼻側で明らかに拡大している.2005/9/222014/12/112014.7.22005.4.23 あたらしい眼科Vol.32,No.10,20151417(45)深層毛細血管網細動脈細静脈神経線維層神経節細胞層内網状層内顆粒層外網状層外顆粒層視細胞層網膜色素上皮層脈絡膜毛細血管板図8網膜における深層毛細血管網網膜10層のうち,深層毛細血管網は内網状層および外網状層に分布しているといわれている.3.00×3.00ScanSize(mm)3.00×3.00ScanSize(mm)Angio/OCT-Choroid/DiscAngio/OCT-Choroid/Disc図9病的近視眼緑内障のOCTアンギオグラフィ54歳,男性.病的近視眼緑内障.等価球面度数は右眼.8.25,左眼.9.25D,眼軸長は右眼26.61mm,左眼27.28mm.眼底写真やOCTにて視神経乳頭周囲の構造を解析すると右眼は網膜神経線維層以外に網膜各層が残存しb+g-PPAと思われ,OCTアンギオグラフィでは乳頭耳側の毛細血管網は十分に残存しているものの,g-PPAが主体と思われる左眼では乳頭耳側の毛細血管密度がかなり疎である.深層毛細血管網細動脈細静脈神経線維層神経節細胞層内網状層内顆粒層外網状層外顆粒層視細胞層網膜色素上皮層脈絡膜毛細血管板図8網膜における深層毛細血管網網膜10層のうち,深層毛細血管網は内網状層および外網状層に分布しているといわれている.3.00×3.00ScanSize(mm)3.00×3.00ScanSize(mm)Angio/OCT-Choroid/DiscAngio/OCT-Choroid/Disc図9病的近視眼緑内障のOCTアンギオグラフィ54歳,男性.病的近視眼緑内障.等価球面度数は右眼.8.25,左眼.9.25D,眼軸長は右眼26.61mm,左眼27.28mm.眼底写真やOCTにて視神経乳頭周囲の構造を解析すると右眼は網膜神経線維層以外に網膜各層が残存しb+g-PPAと思われ,OCTアンギオグラフィでは乳頭耳側の毛細血管網は十分に残存しているものの,g-PPAが主体と思われる左眼では乳頭耳側の毛細血管密度がかなり疎である. GONMON速<視神経症の進行速度>遅緑内障性視神経症近視性視神経症近視眼緑内障緑内障性変化が強い近視性変化が強い眼圧などの応力によって生じる篩状板の脆弱性による視神経障害近視特有の傾斜などで生じる構造的変化による視神経障害βPPA.PPA多い<乳頭出血の頻度>少ない図10近視眼緑内障のMON.GON仮説近視眼緑内障は,近視特有の傾斜などで生じる構造的変化によりもたらされる視神経障害(近視性視神経症)と眼圧などの応力によって生じる篩状板の脆弱性による視神経障害(緑内障性視神経症)の両者がオーバーラップした病態と考えられる.障害の臨床的特徴が異なるのではないかと考えている(近視眼緑内障のMON/GON仮説)(図10).近視眼緑内障は,近視特有の傾斜などで生じる構造的変化によりもたらされる視神経障害(近視性視神経症)と,眼圧などの応力によって生じる篩状板の脆弱性による視神経障害(緑内障性視神経症)の両者がオーバーラップした病態と考えられる.いずれにしても,病的近視眼緑内障を管理するに際しては,単に視神経乳頭の陥凹の程度やNFLDを確認するための眼底写真の活用のみならず,OCTなどの補助的診断,視野障害のパターンなどを総合的に活用した診療が要求されると考える.文献1)CurtinBJ:Theposteriorstaphylomaofpathologicmyopia.TransAmOphthalmolSoc75:67-86,19772)HsiangHW,Ohno-MatsuiK,ShimadaNetal:Clinicalcharacteristicsofposteriorstaphlomaineyeswithpathologicmyopia.AmJOphthalmol146:102-110,20083)Ohno-MatsuiKyoko:Proposedclassificationofposteriorstaphylomasbasedonanalysesofeyeshapebythree-dimensionalmagneticresonanceimagingandwide-fieldfundusimaging.Ophthalmology121:1798-1809,20144)RudnickaAR,EdgarDF:Automatedstaticperimetryinmyopeswithperipapillarycrescents-PartI.OphthalmicPhysiolOpt15:409-412,19955)新田耕治,齋藤友護,杉山和久:乳頭周囲網脈絡膜萎縮の静的視野に及ぼす影響─眼軸長との関係─.日眼会誌110:257-262,20066)Ohno-MatsuiK,ShimadaN,YasuzumiKetal:Longtermdevelopmentofsignificantvisualfielddefectsinhighlymyopiceyes.AmJOphthalmol152:256-265,20117)JonasJB,BerenshteinE,HolbachL:Laminacribrosathicknessandspatialrelationshipsbetweenintraocularspaceandcerebrospinalfluidspaceinhighlymyopiceyes.InvestOphthalmolVisSci45:2660-2665,20048)KangSH,HongSW,ImSKetal:EffectofmyopiaonthethicknessoftheretinalnervefiberlayermeasuredbyCirrusHDopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci51:4075-4083,20109)NakazawaT,FuseN,OmodakaKetal:Differenttypesofopticdiscshapeinpatientswithadvancedopen-angleglaucoma.JpnJOphthalmol54:291-295,201010)KimuraY,HangaiM,MorookaSetal:Retinalnervefiberlayerdefectsinhighlymyopiceyeswithearlyglaucoma.InvestOphthalmolVisSci53:6472-6478,201211)NakanoN,NukadaM,IkedaHOetal:Retinalnervefiberlayerdefectsinhighlymyopiceyeswithearlyglaucoma.InvestOphthalmolVisSci53:6472-6478,201212)KimuraY,AkagiT,HangaiMetal:Laminacribrosadefectsandopticdiscmorphologyinprimaryopenangleglaucomawithhighmyopis.PLoSOne9:e115313,201413)AraieM,AraiM,KosekiNetal:Influenceofmyopicrefractiononvisualfielddefectsinnormaltensionandprimaryopenangleglaucoma.JpnJOphthalmol39:60-64,199514)JonasJB,JonasSB,JonasRAetal:Parapapillaryatrophy:histologicalgammazoneanddeltazone.PloSOne7:e47237,201215)JonasJB,NguyenXN,GusekGCetal:Parapapillarychorioretinalatrophyinnormalandglaucomaeyes.I.Morphometricdata.InvestOphthalmolVisSci30:908-918,19891418あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(46)

近視性牽引黄斑症の診断と治療

2015年10月31日 土曜日

特集●病的近視あたらしい眼科32(10):1403.1407,2015特集●病的近視あたらしい眼科32(10):1403.1407,2015近視性牽引黄斑症の診断と治療DiagnosisandTreatmentofMyopicTractionMaculopathy島田典明*はじめに光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)により,病的近視眼では黄斑円孔や黄斑円孔網膜.離が生じる以外にも,黄斑部に網膜分離や牽引性網膜.離といった変化が認められることが報告され1),以後このような病変は網膜分離症をはじめ,中心窩分離症,黄斑分離症,切迫黄斑円孔といった名称で表現されている.しかしながら,これらの病変は程度の軽いものから進行したものまで多彩な様相を呈し(図1),黄斑円孔網膜.離に至る過程において必ずしも網膜分離を介さないこともあり,黄斑円孔網膜.離の前駆病変となる牽引に伴った黄斑部障害を示す総称に対して,近視性牽引黄斑症(myopictractionmaculopathy:MTM)が提唱された2).OCTにより黄斑円孔網膜.離発症前の段階での診断が容易になり,適切な時期に手術加療を行うことにより,視機能の改善や悪化の予防が可能になってきた.本稿ではこのMTMに対する診断と治療について概説する.I近視性牽引黄斑症の診断MTMの診断は病的近視眼底に加えて,網膜前の牽引か牽引に伴う網膜の障害として,①黄斑前膜,②硝子体黄斑牽引,③網膜の肥厚,④網膜分離,⑤網膜.離,⑥内層分層黄斑円孔の6つのうち,いずれかを認めることによるとされており2),全層黄斑円孔も含めると7つのいずれかを認めた場合に筆者の施設(以下,当院)ではMTMと診断している.黄斑円孔網膜.離に対してMTMを用いるかどうかは定まっておらず,当院では除外している.鑑別診断として,近視性脈絡膜新生血管(図2)やdome-shapedmacula,後部ぶどう腫縁からの漏出,傍網膜血管裂孔でも網膜.離が,intrachoroidalcavitationや乳頭陥凹拡大に合併したピット黄斑症候群類似疾患でも網膜分離や網膜.離3)が認められることがあるため,鑑別が必要である.IIMTMの分類当院では網膜分離の範囲と合併病変の有無により分類する4)(表1).まず,網膜分離の範囲によって,S0(網膜分離なし),S1(中心窩以外の網膜分離),S2(中心窩内の網膜分離),S3(S2+S3でS4に至ってないもの),S4(黄斑全域の網膜分離)に分類し,さらに合併病変として黄斑前膜,硝子体黄斑牽引,黄斑部網膜.離,内層分層黄斑円孔,全層黄斑円孔,網膜萎縮の有無により分類する.黄斑部網膜.離についてはさらに,網膜分離のみの状態から,外層分層黄斑円孔を伴って黄斑部網膜.離に進行する4つのstageに分類する(図3)9).まず,黄斑部網膜分離のみの状態では網膜分離層の外側の網膜外層に異常はなく,次に黄斑部の網膜外層の乱れあるいは厚みの上昇が認められる(stage1).次に同部位に網膜外層の分層円孔が生じ(stage2),その後,この分層円孔が内方に拡大したようにみえ,網膜分離と.離は共存する(stage3).最後に分層円孔の端の網膜外層が網*NoriakiShimada:東京医科歯科大学大学院医学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕島田典明:〒113-8510東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学大学院医学総合研究科眼科学分野0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(31)1403 図1近視性牽引黄斑症の多彩なOCT所見図1近視性牽引黄斑症の多彩なOCT所見図2脈絡膜新生血管から生じた網膜.離表1近視性牽引黄斑症の東京医科歯科大学分類網膜分離の範囲による分類S1分離が中心窩外のみS2分離が中心窩内のみS3分離が中心窩含むが黄斑全体を含まないS4分離が黄斑全体に広がっている合併病変による分類M網膜前膜V硝子体黄斑牽引L黄斑内層分層円孔D網膜.離H全層黄斑円孔A網膜萎縮(文献4より改変して転載)膜内層にくっついてみえる状態となる(stage4).通常網膜分離のみの症例では視力低下の症状はないか軽微であり,合併病変を伴った症例で視力低下を自覚しやすい.III治療手術適応についての一定した概念はないが,MTMの症例には近視性脈絡膜新生血管や黄斑部網膜脈絡膜萎縮,視野障害,白内障を合併しているものも多く,これ1404あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(32) あたらしい眼科Vol.32,No.10,20151405(33)な状態だけでなく,後極部の分層または全層裂孔の有無や位置,網膜前の増殖牽引の部位を把握する必要がある.手術治療は硝子体切除が広く行われ,おおむね良好らも総合的に評価し手術適応を検討すべきである.術前には黄斑全体,網膜血管アーケード周囲までのOCTをチェックし,全層黄斑円孔の有無を含めた中心窩の詳細abcd図3近視性牽引黄斑症における網膜分離から網膜.離の4つのstageStage1(a)では網膜外層の不整や上昇がみられ,stage2(b)では外層分層黄斑円孔が発症,stage3(c)では外層分層黄斑円孔周囲の網膜外層が上昇して分離と.離が円孔縁で共存する.その後stage4(d)では,分層円孔の端の網膜外層が網膜内層にくっついてみえる状態となる.(文献4より改変して転載)abc図4Stage2以上の進行性網膜.離(黄斑円孔網膜.離含む)を中心窩に伴ったOCTa:stage2,b:stage3,c:stage4の網膜.離.abcd図3近視性牽引黄斑症における網膜分離から網膜.離の4つのstageStage1(a)では網膜外層の不整や上昇がみられ,stage2(b)では外層分層黄斑円孔が発症,stage3(c)では外層分層黄斑円孔周囲の網膜外層が上昇して分離と.離が円孔縁で共存する.その後stage4(d)では,分層円孔の端の網膜外層が網膜内層にくっついてみえる状態となる.(文献4より改変して転載)abc図4Stage2以上の進行性網膜.離(黄斑円孔網膜.離含む)を中心窩に伴ったOCTa:stage2,b:stage3,c:stage4の網膜.離. 1406あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(34)な成績が報告されている5.7).黄斑プロンベや強膜短縮を併用もしくは単独で施行した報告もある.当院での手ab図5中心窩を除く内境界膜.離を硝子体切除に併用したほうが良いと思われる症例内層分層黄斑円孔+網膜.離(stage3)を伴う症例(a)と外層分層黄斑円孔と網膜.離(stage4)を伴う症例(b).図6網膜前膜や硝子体黄斑牽引を伴った近視性牽引黄斑症の症例図7全層黄斑円孔を伴った近視性牽引黄斑症の症例ab図5中心窩を除く内境界膜.離を硝子体切除に併用したほうが良いと思われる症例内層分層黄斑円孔+網膜.離(stage3)を伴う症例(a)と外層分層黄斑円孔と網膜.離(stage4)を伴う症例(b).図6網膜前膜や硝子体黄斑牽引を伴った近視性牽引黄斑症の症例図7全層黄斑円孔を伴った近視性牽引黄斑症の症例 –

近視性脈絡膜新生血管の診断と治療

2015年10月31日 土曜日

特集●病的近視あたらしい眼科32(10):1397~1401,2015特集●病的近視あたらしい眼科32(10):1397~1401,2015近視性脈絡膜新生血管の診断と治療TheDiagnosisandManagementofMyopicChoroidalNeovascularization佐柳香織*はじめに病的近視は日本における失明原因の5位であり,眼軸長延長に伴って近視性脈絡膜新生血管(myopicchoroidalneovascularization:mCNV)をはじめさまざまは合併症を生じる.本稿ではmCNVの診断と治療について基本的な事項を中心に述べる.ImCNVとはmCNVは病的近視に生じるCNVのことであり,CNVは網膜色素上皮上に存在する(2型CNV)ものがほとんどである.頻度は病的近視の5~10%とされている.一般的にmCNVは加齢黄斑変性のCNVより小型であり,中心窩下または傍中心窩下に存在し,少量の網膜下液を伴うとされている.正確な病態は未だ解明されていないが,mCNVの発生には眼軸長延長に伴うBruch膜の断裂(lacquercracks)や脈絡膜循環障害の関与が示唆されている.自然経過では自然退縮はまれであり,多くは黒い色素沈着を伴うFuchs斑を経て広範囲に網脈絡膜萎縮を形成し高度の視力障害をきたす(図1).過去の報告では,10年後に96.3%にCNV周囲の脈絡膜萎縮が発生し,視力が0.1以下になるとされている.IImCNVの診断病的近視を有する患者が,歪みや中心暗点を自覚した際に本疾患を疑う.診断には光干渉断層計(opticalFucks斑図1Fucks斑黄斑部に色素沈着した陳旧性のCNVを中心とした網脈絡膜萎縮(Fucks斑)を認める.このように萎縮が中心窩を巻き込むと高度な視力低下をきたたすことが多い.coherencetomography:OCT)と蛍光造影検査が重要である(図2,3).1.OCT病的近視眼では,網脈絡膜萎縮によって患者に自覚症状があっても,検眼鏡的には異常を認めないことが多い.最近のOCTは短時間で高解像度の網脈絡膜断層像*KaoriSayanagi:大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室〔別刷請求先〕佐柳香織:〒565-0871大阪府吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(25)1397 CNVCNVa:眼底写真では薄い黄斑CNV部の網膜下出血を認める.CNVCNV網膜下出血aced図2抗VEGF療法前のmCNVb:OCTでみると網膜色素上皮のラインの断裂とその部位より網膜下へ進展する隆起性病変(CNV)が確認できる.c,d:フルオレセイン造影検査(初期:c,後期:d)ではCNVが初bCNVLaquercracksf期より過蛍光として描出され,後期にかけて蛍光漏出を伴っていることがわかかる.e,f:インドシアニングリーン蛍光造影(初期:e,後期:f)では初期よりCNVの血管影が描出されている.後期にはBruch膜の断裂(lacquercracks)も認める.aCNVbf染のみを示し,鎭静化していることがわかかる.e,CNVCNVced図3抗VEGF療法後の経過(図2と同一症例)a:眼底写真では網膜下出血が消退している.b:OCTでみると網膜色素上皮と同様のラインCNVが囲い込まれているのがわかかる.c,d:フルオレセイン造影検査(初期:c,後期:d)ではCNVは組織f:インドシアニングリーン蛍光造影(初期:e,後期:f)では初期よりCNVの血管影ははっきりしない.後期のlacquercracksははっきり描出されている.を撮影できるので,CNVの有無の確認や治療後の効果判定に非常に重要である.OCTでは網膜色素上皮の断裂とそこから網膜へと進展するCNVが確認できる.通常mCNVは滲出性変化に乏しく,CNV周囲の網膜下1398あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015液や網膜浮腫は軽度であることが多い.また,網膜色素上皮.離はほとんどみられない.CNV自体が小型であるため,中心窩を通るラインスキャンのみではCNVをとらえられない場合もある.その場合は,3Dスキャン(26) 図4単純出血a:眼底写真では網膜下出血を認めるが,CNVの有無は明らかではない.b:OCTでは網膜下出血を示す高反射塊が網膜下にみられ,網膜色素上皮ラインは保たれているようにみえる.c:フルオレセイン造影検査では出血によるブロックのみであり,d,e:インドシアニングリーン蛍光造影(初期:d,後期:e)では出血を示す低蛍光の中にlacquercracksを示す線状の低蛍光を認める.網膜下出血Laquercracks網膜下出血abecd図5特発性脈絡膜新生血管a:眼底写真では網膜下出血,CNVを示す灰白色病変と,黄斑部を中心として広がる網膜下液の貯留を認める.b:OCTではCNVを示す隆起性病変とその上に網膜下出血を示す高反射塊がみられ,周囲には網膜下液を伴っているのがわかかる.c,d:フルオレセイン造影検査(初期:c,後期:d)ではCNVが後期にかけて旺盛な蛍光漏出を示す過蛍光として描出されている.e:インドシアニングリーン蛍光造影では出血を示す低蛍光の中にCNVを示す過蛍光を認める.CNVCNVCNVeabcd網膜下出血などを用いることによって,黄斑部全体を走査すると2.蛍光造影検査CNVをとらえられることがある.mCNVはいわゆるクラシック型CNVであるため,フルオレセイン蛍光造影では造影早期から明瞭な過蛍光を示し,時間経過とともに色素漏出がみられる.しかし,(27)あたらしい眼科Vol.32,No.10,20151399 1400あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(28)(PRN投与)に入る.治療の副作用,合併症としては硝子体注射に伴う感染や網膜.離などのほか,薬剤による副作用として血圧上昇や脳梗塞などの血管障害が報告されている.抗VEGF薬の催奇形性については明らかではないが,妊娠可能な年齢の女性には投与後3カ月は適切な避妊法を用いるように伝えておく.治療成績として,RADIANCE試験とMYRROR試験の2つの大規模臨床試験が行われている.RADIANCE試験(n=277)はmCNVに対するラニビズマブの有効性と安全性を検討した第III相,ランダム化,二重遮蔽,多施設共同,実薬対照試験である.現在の標準である1+PRN投与の場合,1年間の投与回数(中央値)は2回,平均視力は14.4文字の改善であり,光線力学的療法用いた群よりも有意に視力改善を得られた.MYRROR試験(n=121)はmCNVに対するアフルベルセプトRの有効性と安全性を検討した第III相,ランダム化,二重遮蔽,多施設共同,実薬対照試験である.アイリーアR投与群(1+PRN)では1年間の投与回数(中央値)は3回,平均視力は13.5文字の改善が得られ,sham群と比較し有意に視力改善が得られたと報告されている2).治療後の経過観察は非侵襲的検査であるOCTを用いることが多い(蛍光造影検査も適宜行う).CNVが鎭静化するとOCT上でCNVがRPE同様の高輝度ラインで囲い込まれることが多い(図3).また,CNVは滲出性変化に乏しいため,再発の判断にしばしば迷うことがある.患者の自覚の悪化ももちろん重要であるが,OCTでのCNVの囲い込みのラインの崩れが判断材料になることもある.現時点での抗VEGF薬の効果は非常に高いが,まだ10年を超える経過は明らかでない.CNV自体も長期フォローでは往々にして再発がみられる.再発率は文献により異なるが,2~3年で20~40%と考えられている.また,抗VEGF薬にはCNV周囲の萎縮拡大を抑制する効果はないので,長期経過では萎縮の進行により徐々に見えづらくなることがある.今後のさらなる治療の開発が待たれる.文献1)WolfS,BalciunieneVJ,LaganovskaGetal;RADIANCEStudyGroup.RADIANCE:Arandomizedcontrolled色素漏出は加齢黄斑変性のCNVより軽度であることが多い.インドシアニングリーン蛍光造影ではCNVの網目状過蛍光が観察されることがある.CNV周囲にリング状の低蛍光(darkrim),放射状やライン状の低蛍光(lacquercracks)もみられる.3.鑑別疾患鑑別疾患として重要なものは単純出血と特発性脈絡膜新生血管である.単純出血はmCNVと同様,病的近視を伴う眼に生じるCNVを伴わない網膜下出血である(図4).眼軸長延長に伴うBruch膜の断裂(lacquercracks)形成と関連があるとされている.一般に予後良好で経過観察のみで軽快する.鑑別は,フルオレセイン蛍光造影でCNVが描出されず,OCTでもCNVを疑う隆起性病変を認めないことでなされる.単純出血は多くが自然退縮し,良好な視力を得られるため,通常は経過観察のみを行う.特発性脈絡膜新生血管は若年発症の2型CNVで,病的近視を伴わないことが鑑別のポイントとなる(図5).また,フルオレセイン造影検査でもmCNVと比較して後期に旺盛な蛍光漏出を伴うのが特徴である.III治療mCNVの診断がつき次第,治療を開始する.過去には黄斑移動術や新生血管抜去術などの観血的加療が行われていたが,術後の凝固斑拡大やCNV再発が問題となり現在ではほとんど行われていない.また,網膜光凝固や光線力学療法などのレーザー治療も,凝固斑拡大が生じるため現在では禁忌と考えてよい.治療の中心は抗VEGF薬の硝子体注射による薬物治療である.わが国ではラニビズマブ(ルセンティスR)とアフリベルセプト(アイリーアR)が保険適用を受けている.硝子体注射の手順としては,点眼麻酔後,ポピヨンヨードを用いて眼瞼周囲と眼表面を消毒し,抗VEGF薬を角膜輪部から3~3.5mmの部位より30G(ゲージ)針を用いて硝子体内投与する.術後は注射当日のみ眼帯をし,翌日より抗菌薬点眼を3日~1週間程度行う.加齢黄斑変性に対する抗VEGF療法と異なり,mCNVでは初回1回のみの注射の後,すぐに維持期 あたらしい眼科Vol.32,No.10,20151401(29)investigators.Intravitrealafliberceptinjectioninpatientswithmyopicchoroidalneovascularization:TheMYRRORStudy.Ophthalmology122:1220-1227,2015studyofranibizumabinpatientswithchoroidalneovascu-larizationsecondarytopathologicmyopia.Ophthalmology121:682-692,e2,20142)IkunoY,Ohno-MatsuiK,WongTYetal;MYRROR

後部ぶどう腫と網膜脈絡膜萎縮

2015年10月31日 土曜日

特集●病的近視あたらしい眼科32(10):1389~1395,2015特集●病的近視あたらしい眼科32(10):1389~1395,2015後部ぶどう腫と網膜脈絡膜萎縮PosteriorStaphylomaandChorioretinalAtrophy森山無価*はじめに病的近視眼の本態は眼球形状変化である.眼球は正視の状態であればほぼ球状の形態をしているが,近視の進行とともに眼球の前後の延長や,また一部の眼球後部の突出が生じる.これらの眼球形状変化によって強膜および網脈絡膜の菲薄化をきたし,種々の近視性病変の進行の重要な要因となる.本稿では最新の画像診断法を用いた病的近視眼の後部ぶどう腫の診断およびその分類,また近視性病変の代表である網脈絡膜萎縮について概説する.I後部ぶどう腫病的近視眼では近視進行とともに眼軸延長や後部ぶどう腫の形成が生じる(図1).とくに後部ぶどう腫の形成により眼球は著しく球状から逸脱した状態になる.後部ぶどう腫の診断についてはこれまで検眼鏡的な所見あるいは超音波を用いた方法しかなかった.しかしながら,近年の画像診断法の進歩によって眼球形状をより俯瞰的にとらえることが可能になった.また,後部ぶどう腫の分類についても近年の画像診断を用いて,より病態に則した分類法が報告されている.1.定義後部ぶどう腫は眼球後部の形状変化であるが,統一された具体的な定義はこれまで提示されていなかった.近年,Spaideによって後部ぶどう腫の定義が報告され,それによると,後部ぶどう腫は「眼球後部にある異なる曲率をもった突出」,とされている(図2c).さらに大野らは,異なる曲率をもたずに鼻側に偏って突出した形状変化も併せて後部ぶどう腫と定義している(図2d)1,2).2.3DMRIによる診断これまで,眼球形状を全体的に把握するためには眼球を摘出するしか方法がなかったが,近年のMRI技術の進歩により,3DMRIを用いて眼球を三次元的に観察することが可能となった.この方法により,眼球を任意の方向から観察することが可能になった3).3DMRIによって病的近視眼の後部ぶどう腫が明瞭に描出される.正視眼の眼球はほぼ球状であるのに対し(図3a),病的近視眼では眼球後部が大きく突出しており,後部ぶどう腫の存在が明らかである(図3b).3.分類a.Curtin分類従来は検眼鏡的な眼底観察による分類が行われてきた.Curtinによって後部ぶどう腫の形状は10種類に分類され(図4)4),基本型はtypeI~Vに分類され,typeIは視神経乳頭を越えて広く存在する後部ぶどう腫,typeIIは後極部の後部ぶどう腫,typeIIIは視神経乳頭周囲に存在する後部ぶどう腫,typeIVは鼻側に存在する後部ぶどう腫,typeVは下方に広がる後部ぶどう腫*MukaMoriyama:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕森山無価:〒113-8519東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(17)1389 1390あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(18)~39歳では9%に対して,40~59歳では29%,60歳以上では34%と40歳以上で頻度が上昇する.b.新分類大野らは3DMRI,広角眼底撮影を用いてCurtin分類を詳細に検討し,単純化した再分類を報告した.それによると,Curtin分類のtypeIを「広域で黄斑を含む後部ぶどう腫」(図5),typeIIを「狭域で黄斑を含む後部ぶどう腫」(図6),typeIIIを「視神経乳頭周囲後部ぶどう腫」(図7),typeIVを「鼻側後部ぶどう腫」(図8),typeVを「下方ぶどう腫」(図9)と再定義し,それに「その他」を加えた6型と分類している.Curtin分類の複合型にあたるtypeVI~Xはすべて「広域で黄斑を含む後部ぶどう腫」に統合されている(表1)6).II網脈絡膜萎縮近視性網脈絡膜萎縮は,びまん性網脈絡膜萎縮と限局性網脈絡膜萎縮に大別される.おおむね検眼鏡的に診断である.typeVI~XはtypeI~Vが組み合わさった複合型である.年齢とともに形状が変化することもしばしばみられる(とくにtypeIIからtypeIX)5).後部ぶどう腫の頻度は眼軸長とともに増加し,Curtinの報告によると,眼軸長26.5~27.4mmでは1.4%であるが,33.5~36.6mmでは71.4%であった.また,年齢も後部ぶどう腫の頻度と関係しており,20歳未満では7%,20r1r2abcd図2後部ぶどう腫のシェーマbの状態では眼球後部は単一の曲率半径(r1)しか存在ないので後部ぶどう腫には至っていない.cでは眼球後部にもう一つの曲率半径(r2)が存在し,後部ぶどう腫と定義される.dでは眼球後部に複数の曲率は存在しないが,大きく鼻側に偏位した形状を呈しており,これも後部ぶどう腫と定義される.(文献6より引用)abc図1後部ぶどう腫の形成球状を呈する眼球(a)から近視の進行とともに,眼軸の延長(b),さらに後部ぶどう腫の形成(c)が生じる.ab図33DMRIで撮影し,側方から観察した眼球r1r2abcd図2後部ぶどう腫のシェーマbの状態では眼球後部は単一の曲率半径(r1)しか存在ないので後部ぶどう腫には至っていない.cでは眼球後部にもう一つの曲率半径(r2)が存在し,後部ぶどう腫と定義される.dでは眼球後部に複数の曲率は存在しないが,大きく鼻側に偏位した形状を呈しており,これも後部ぶどう腫と定義される.(文献6より引用)abc図1後部ぶどう腫の形成球状を呈する眼球(a)から近視の進行とともに,眼軸の延長(b),さらに後部ぶどう腫の形成(c)が生じる.ab図33DMRIで撮影し,側方から観察した眼球 あたらしい眼科Vol.32,No.10,20151391(19)TypeⅠTypeⅡTypeⅢTypeⅣTypeⅤTypeⅥTypeⅦTypeⅧTypeⅨTypeⅩ図4Curtin分類(文献4より引用)ab図5後部ぶどう腫typeIa:広角眼底写真.b:3DMRI.眼球を側方から観察.ab図6後部ぶどう腫typeIIa:広角眼底写真.b:3DMRI.眼球を側方から観察.TypeⅠTypeⅡTypeⅢTypeⅣTypeⅤTypeⅥTypeⅦTypeⅧTypeⅨTypeⅩ図4Curtin分類(文献4より引用)ab図5後部ぶどう腫typeIa:広角眼底写真.b:3DMRI.眼球を側方から観察.ab図6後部ぶどう腫typeIIa:広角眼底写真.b:3DMRI.眼球を側方から観察. 1392あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(20)ab図7後部ぶどう腫typeIIIa:広角眼底写真.b:3DMRI.眼球を下方から観察.ab図8後部ぶどう腫typeIVa:広角眼底写真.b:3DMRI.眼球を下方から観察.ab図9後部ぶどう腫typeVa:広角眼底写真.b:3DMRI.眼球を側方から観察.ab図7後部ぶどう腫typeIIIa:広角眼底写真.b:3DMRI.眼球を下方から観察.ab図8後部ぶどう腫typeIVa:広角眼底写真.b:3DMRI.眼球を下方から観察.ab図9後部ぶどう腫typeVa:広角眼底写真.b:3DMRI.眼球を側方から観察. 表1後部ぶどう腫の新分類type後部ぶどう腫の範囲対応するCurtin分類I広域で黄斑を含むtypeI,typeVI~XII狭域で黄斑を含むtypeIIIII視神経乳頭周囲typeIIIIV鼻側typeIVV下方typeVその他上記以外眼底後極部全体に拡がる黄色の病変を認める.a可能であるが,詳細な病態の把握には眼底自発蛍光やフルオレセイン蛍光造影(fluoresceinangiography:FA),インドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiography:IA),光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)などの画像診断が有用である.1.びまん性網脈絡膜萎縮びまん性網脈絡膜萎縮は病的近視眼に高頻度で認められ,比較的初期の段階で生じる.びまん性萎縮病変は網膜色素上皮,脈絡膜毛細血管の部分的な萎縮と考えられており,この病変だけでは高度の視力障害をきたすことは少ない.検眼鏡的には境界不明瞭な後極部の黄色病変としてとらえられる(図10).OCTでは網膜の層構造は保たれているが,脈絡膜の菲薄化はすでに生じていることが多い(図11).2.限局性萎縮病変限局性萎縮病変は脈絡膜毛細血管の完全閉塞によって生じる.病変部位は絶対暗点となるが,この病変は黄斑(21)あたらしい眼科Vol.32,No.10,20151393図10びまん性萎縮病変の眼底写真図11びまん性萎縮病変のOCT網膜の層構造は保たれているが,著明に脈絡膜の菲薄化が生じている.b図12限局性萎縮病変a:眼底写真.後極部下方に境界明瞭な白色の萎縮病変を認める(.).b:眼底自発蛍光像.同部位は境界明瞭な低自発蛍光を呈する. 1394あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(22)位より過蛍光を呈していく(図13a,b).IAでは後期になるにつれてより明瞭化する低蛍光としてとらえられる(図14).OCTでは網膜は菲薄化し,網膜内層は不鮮明となる.また,網膜菲薄化のため萎縮部位での強膜の輝度が強くなる(図15).しばしば限局性萎縮病変の境界部位に脈絡膜血管新生(choroidalneovascularization:CNV)が生じることもあるので注意が必要である7).おわりに病的近視眼の後部ぶどう腫および代表的な近視性眼底部から離れる方向に拡大する傾向にあるため,中心視力が障害されることは少ない.検眼鏡的には境界明瞭な白色病変としてとらえられる(図12a).眼底自発蛍光では境界明瞭な低蛍光を呈する(図12b).FAでは早期ではchoroidalfillingdefectによる低蛍光を呈し,後期になると病変周囲の脈絡膜毛細管板からの色素漏出と網膜色素上皮萎縮によるwindowdefectが加わり,辺縁部ab図13限局性萎縮病変のFAGa:早期.choroidalfillingdefectによる低蛍光を呈する.b:後期.辺縁部位から過蛍光となっていく.図14限局性萎縮病変のIA萎縮部位は明瞭に低蛍光部位としてとらえられる.図15限局性萎縮病変のOCT矢頭の範囲が萎縮病変.同範囲は網膜が菲薄化し,網膜内層が不鮮明となっている.強膜の輝度も強くなっている.ab図13限局性萎縮病変のFAGa:早期.choroidalfillingdefectによる低蛍光を呈する.b:後期.辺縁部位から過蛍光となっていく.図14限局性萎縮病変のIA萎縮部位は明瞭に低蛍光部位としてとらえられる.図15限局性萎縮病変のOCT矢頭の範囲が萎縮病変.同範囲は網膜が菲薄化し,網膜内層が不鮮明となっている.強膜の輝度も強くなっている. -

病的近視の遺伝子解析

2015年10月31日 土曜日

特集●病的近視あたらしい眼科32(10):1383~1387,2015特集●病的近視あたらしい眼科32(10):1383~1387,2015病的近視の遺伝子解析GeneticStudiesofPathologicMyopia山城健児*はじめに近視の発症には近見作業などの環境因子と遺伝的な要素が関与していると考えられており,その原因の7割程度は遺伝的なものであることがわかっている.1998~2008年頃には,近視の遺伝病的な背景に着目した連鎖解析が精力的に行われた.その結果,近視発症にかかわると考えられる遺伝子座位が多数発表された(表1)が,近視発症にかかわる遺伝子の発見にまではつながらなかった.2005年頃にはヒトゲノム計画も終了し,遺伝子解析の手技も大幅に進歩したことから,ゲノムワイド関連解析がさかんに行われるようになった.近視を対象にしたゲノムワイド関連解析は,病的近視を対象としたcase-controlstudyと,一般人コホートを用いて屈折度数にかかわる遺伝子を探すQTL(quantitativetraitlocus)analysisに分けられる.前者はおもにアジア人で,後者はおもに白人で研究が行われている.本稿では2005年以降の近視ゲノム研究について,近視研究と病的近視研究とに分けて紹介する.I近視のゲノム研究1.白人を対象とした近視のゲノムワイド関連解析a.単施設ゲノムワイド関連解析2010年にオランダ人5,328人のコホートを用いて屈折度数にGJD2が有意な関連を示すことが発表された1).同時にイギリスでは4,270人のコホートを用いてRAS表1連鎖解析によって発見された近視発症にかかわる遺伝子座位MYP1Xq28MYP218p11.31MYP312q21-q23MYP47q36MYP517q21-q22MYP622q12MYP711p13MYP83q26MYP94q12MYP108p23MYP114q22-q27MYP122q37.1MYP13Xq23-q25MYP141p36MYP1510q21.2MYP165p15.33-p15.2MYP177p15MYP1814q22.1-q24.2GRF1が近視度数に関連をもっていることが発見された2).この2つの研究ではそれぞれのコホートでそれぞれが発見した遺伝子が本当に屈折度数に関連を示しているかを検証できており,GJD2とRASGRF1が白人の近視発症にかかわっていることは間違いないと考えられる.b.23andMeによるゲノムワイド関連解析23andMe社は,創業者がGoogle社の創業者と夫婦であることでも有名な民間遺伝子検査会社で,2015年6*KenjiYamashiro:京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学〔別刷請求先〕山城健児:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(11)1383 表2白人を中心としたゲノムワイド関連解析で発見された近視感受性遺伝子CREAM23andMeDiscovery(Caucasian)Replication(Asian)Caucasian+AsianDiscovery(Caucasian)Replication(Caucasian)p<5×10.8p<0.05p<5×10.8p<5×10.8p<0.05PRSS56○○○○LAMA2○○○○TOX○○○○RDH5○○○○GJD2○○○○RASGRF1○○○×SHISA6○○○○KCNQ5○○○×RBFOX1○○○×TJP2×○○×BICC1○○△×CD55○○ZMAT4○○GRIA4○○SIX6○○LOC100506035○○PTPRR×○BMP2×○ZIC2○×○○BMP3○×○○MYO1D○×△×CACNA1D○×CHRNG○×CHD7○×RORB○×CYP26A1○×PCCA○×KCNJ2○×CNDP2○×△はp値が5×10.8以上1×10.6未満.月現在で100万人以上の顧客のゲノムデータと個人データを所有している.2013年には45,771人のデータを活用してゲノムワイド関連解析を行い,複数の遺伝子が近視の発症にかかわっていることを発見した3)(表2).この結果は8,323人のデータで検証もなされている.1384あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015c.多施設ゲノムワイド関連解析近視のゲノムワイド関連解析には多数のサンプルを使用する必要があることが判明してきたため,2013年にはCREAMというコンソーシアムが形成された.このコンソーシアムには多くの白人サンプルを所有する施設(12) あたらしい眼科Vol.32,No.10,20151385(13)証が十分に行われていない.日本人では長浜コホートの3,712人のデータを用いた検証が行われており,10程度の遺伝子が白人とアジア人に共通した近視感受性遺伝子と考えられそうである6)(表3).2.アジア人を対象とした近視のゲノムワイド関連解析アジア人を対象にした屈折度数のゲノムワイド関連解析では,まだ有意な関連が証明できた遺伝子はない.II病的近視のゲノム研究病的近視はアジア人に多いため,病的近視を対象にしたゲノム研究はおもにアジア人を中心に行われてきている.病的近視を対象にしたゲノム研究は,近視の感受性遺伝子として発見された遺伝子が病的近視の発症にも関与しているかどうかを検証する研究と,ゲノムワイド関連解析による新たな感受性遺伝子の発見をめざす研究とと,一部のアジア人サンプルを所有する施設が参加している.CREAMに参加した複数の施設が所有するコホートデータを用いたゲノムワイド関連解析をメタ解析することによって,30ほどの遺伝子が近視の発症にかかわっている可能性がわかった4).この研究では再現性の確認が取れていないものが多いが,この研究によって発見された遺伝子のうち,多くが23andMeの研究結果と一致しており,一致していた遺伝子については近視の感受性遺伝子である可能性が高いと考えられる(表2).CREAMでは眼軸長に関するゲノムワイド関連解析も行われた5).GJD2,LAMA2,CD55,ZC3H11B,RSPO1,ZNRF1,ALPPL2,C3orf26,TIMELESS/MIP/SPRYD4/GLS2が眼軸長との有意な関連を示しており,再現性の検証研究が待たれている.d.アジア人での再検証白人を中心にした研究で発見された遺伝子がアジア人の近視発症にもかかわっているかどうかについては,検表3白人とアジア人に共通した近視感受性遺伝子CREAM23andMeJapaneseCaucasianAsianCaucasian+AsianDiscovery(Caucasian)Replication(Caucasian)p<5×10.8p<0.05p<5×10.8p<5×10.8p<0.05p<0.05GJD2○○○○○RASGRF1○○○×○KCNQ5○○○×○BICC1○○△×○CD55○○○GRIA4○○○BMP2×○○CYP26A1○×○LRRC4C○○○QKI△○○BMP4○×○SFRP1○×○SH3GL2/(ADAMTSL1)△×○B4GALNT2△×○EHBP1L1△×○△はp値が5×10.8以上1×10.6未満.表3白人とアジア人に共通した近視感受性遺伝子CREAM23andMeJapaneseCaucasianAsianCaucasian+AsianDiscovery(Caucasian)Replication(Caucasian)p<5×10.8p<0.05p<5×10.8p<5×10.8p<0.05p<0.05GJD2○○○○○RASGRF1○○○×○KCNQ5○○○×○BICC1○○△×○CD55○○○GRIA4○○○BMP2×○○CYP26A1○×○LRRC4C○○○QKI△○○BMP4○×○SFRP1○×○SH3GL2/(ADAMTSL1)△×○B4GALNT2△×○EHBP1L1△×○△はp値が5×10.8以上1×10.6未満. 1386あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(14)ていることが示され13),また,日本,シンガポール,香港,中国の共同研究では1,603人の病的近視患者を対象としたゲノムワイド関連解析で,ZFHX1BとSNTB1が病的近視の発症に関与していることが示された14).b.眼軸長に関するゲノムワイド関連解析アジア人を対象にして眼軸長に関するQTLanalysisを行った報告は2報ある.1報はシンガポール人サンプルを使用したもので,もう1報は日本人サンプルを使用した報告である.どちらも病的近視の発症に関与する遺伝子が発見されたという報告をしている.2012年にはシンガポール人4,944人を対象にした研究でZC3H11Bが病的近視の発症に関与していることが明らかとなり,2015年には日本人3,710人を対象にした研究でWNT7Bが病的近視の発症に関与していることが明らかとなった15).ZC3H11Bについては前述のCREAMによる多施設ゲノムワイド関連解析のメタ研究でも眼軸長との関連が証明されており5),その関連は間違いないようである.WNT7Bについては中国系シンガポール人や白人でも有意な関連を示していることが示されており,WNT7Bは人種にかかわらず,近視の発症に関与していると考えてよさそうである.さらにWNT7BはGJD2と相互作用をもっていることも判明しており,両方の遺伝子にリスクをもっているとさらに近視が発症しやすくなることが示されている.この相互作用は白人では認められておらず,このことがアジア人の近視罹患率が高く,白人ではアジア人ほど高くない原因のひとつなのかもしれない.3.近視感受性遺伝子と病的近視感受性遺伝子近視患者のすべてが病的近視になるわけではなく,近視から病的近視に進行するためには単なる近視発症の機序とは異なる機序を要するものなのか,単純に近視が徐々に進行すると病的近視になるのかは現時点ではわかっていない.これまでのゲノム研究によって,近視の発症に関与する遺伝子(近視感受性遺伝子)と病的近視の発症に関与する遺伝子(病的近視感受性遺伝子)が発見されつつある.しかし,まだ近視感受性遺伝子と病的近視感受性遺伝子が同じであるのか異なっているのかにつに分けられる.いずれの研究でも,病的近視群とコントロール群とのgenotypeの違いを検討するcase-controlstudyが多く,これまでに病的近視の発症にかかわる遺伝子が複数発見されてきている.1.近視感受性遺伝子と病的近視との関連GJD2,RASGRF1,ZIC2,SHISA6については,近視だけではなく病的近視の発症にも有意な関連を示すことが日本人のコホートを使った研究で明らかとなっている7,8).2.病的近視のゲノムワイド関連解析a.病的近視とコントロールを用いたcase.controlstudy2009年には病的近視を対象にしたゲノムワイド関連解析が初めて報告された9).日本人830人の病的近視患者を対象とした研究で,BLID/LOC399959が病的近視の発症にかかわる可能性が示されたが,その後に再検証を行った他施設の研究では再現性が証明できておらず,BLID/LOC399959は病的近視の発症には大きな影響をもっていないのかもしれない.2011年にはシンガポールで病的近視患者287人を対象とした研究が行われ,CTNND2が病的近視の発症にかかわっている可能性が発表された10).このCTNND2については再現性を確認できたとしている報告があり,病的近視の発症に関与していると考えても良いのかもしれない.また,中国では病的近視患者102人を対象としたゲノムワイド関連解析11)と病的近視患者419人を対象としたゲノムワイド関連解析12)も行われており,それぞれ4q25とMIPEP/C1QTNF9B(AS1)が病的近視の発症にかかわっている可能性があることを発表している.この4q25とMIPEP/C1QTNF9B(AS1)については追試による再現性の確認も取れており,病的近視の発症に関連していると考えて良さそうである.しかし,4q25については,発見された一塩基多型の近傍に遺伝子がないために,どの遺伝子が病的近視の発症に関与しているのかはまだ明らかではない.2013年には中国の665人の病的近視患者を対象とした研究でVIPR2とSNTB1が病的近視の発症に関与し 表4病的近視感受性遺伝子表5近視・病的近視の発症機序GJD2RASGRF1ZIC2SHISA6CTNND24q25MIPEP/C1QTNF9B(AS1)SNTB1ZC3H11BWNT7B細胞外マトリックスLAMA2眼球の発生PRSS56神経節細胞の発生ZIC2,ZMAT4/SFRP1網膜内シナプスGJD2,TJP2,RASGRF1,KCNQ5,GRIA4,RBFOX1WNT経路WNT7B,CTNND2レチノイド回路RDH5DNA/RNA修飾TOX,RBFOX1,BICC1補体経路CD55,C1QTNF9B(AS1)いては断言できる段階にない.表4に病的近視感受性遺伝子と考えられる遺伝子をまとめた.これをみると,表2,表3の近視感受性遺伝子とは異なるものが多いように感じられる.さらなる研究が必要であるが,近視と病的近視には異なる発症機序があるのかもしれない.おわりにこれまでに発見された近視およ病的近視の発症にかかわる遺伝子をその作用機序ごとに分類してみると表5のようになる.近視に関するゲノム研究はまだまだ発表されてくると考えられ,数年以内に近視の発症機序が解明されていくものと思われる.文献1)SoloukiAM,VerhoevenVJ,vanDuijnCMetal:Agenome-wideassociationstudyidentifiesasusceptibilitylocusforrefractiveerrorsandmyopiaat15q14.NatGenet42:897-901,20102)HysiPG,YoungTL,MackeyDAetal:Agenome-wideassociationstudyformyopiaandrefractiveerroridentifiesasusceptibilitylocusat15q25.NatGenet42:902-905,20103)KieferAK,TungJY,DoCBetal:Genome-wideanalysispointstorolesforextracellularmatrixremodeling,thevisualcycle,andneuronaldevelopmentinmyopia.PLoSGenet9:e1003299,20134)VerhoevenVJ,HysiPG,WojciechowskiRetal:Genomewidemeta-analysesofmultiancestrycohortsidentifymultiplenewsusceptibilitylociforrefractiveerrorandmyopia.NatGenet45:314-318,20135)ChengCY,SchacheM,IkramMKetal:Ninelociforocularaxiallengthidentifiedthroughgenome-wideassociationstudies,includingsharedlociwithrefractiveerror.AmJHumGenet93:264-277,20136)YoshikawaM,YamashiroK,MiyakeMetal:Comprehensivereplicationoftherelationshipbetweenmyopia-relatedgenesandrefractiveerrorsinalargeJapanesecohort.InvestOphthalmolVisSci55:7343-7354,20147)HayashiH,YamashiroK,NakanishiHetal:Associationof15q14and15q25withhighmyopiainJapanese.InvestOphthalmolVisSci52:4853-4858,20118)OishiM,YamashiroK,MiyakeMetal:AssociationbetweenZIC2,RASGRF1,andSHISA6genesandhighmyopiainJapanesesubjects.InvestOphthalmolVisSci54:7492-7497,20139)NakanishiH,YamadaR,GotohNetal:Agenome-wideassociationanalysisidentifiedanovelsusceptiblelocusforpathologicalmyopiaat11q24.1.PLoSGenet5:e1000660,200910)LiYJ,GohL,KhorCCetal:Genome-wideassociationstudiesrevealgeneticvariantsinCTNND2forhighmyopiainSingaporeChinese.Ophthalmology118:368-375,201111)LiZ,QuJ,XuXetal:Agenome-wideassociationstudyrevealsassociationbetweencommonvariantsinanintergenicregionof4q25andhigh-grademyopiaintheChineseHanpopulation.HumMolGenet20:2861-2868,201112)ShiY,QuJ,ZhangDetal:Geneticvariantsat13q12.12areassociatedwithhighmyopiaintheHanChinesepopulation.AmJHumGenet88:805-813,201113)ShiY,GongB,ChenLetal:Agenome-widemeta-analysisidentifiestwonovellociassociatedwithhighmyopiaintheHanChinesepopulation.HumMolGenet22:23252333,201314)KhorCC,MiyakeM,ChenLJetal:Genome-wideassociationstudyidentifiesZFHX1Basasusceptibilitylocusforseveremyopia.HumMolGenet22:5288-5294,201315)MiyakeM,YamashiroK,TabaraYetal:Identificationofmyopia-associatedWNT7Bpolymorphismsprovidesinsightsintothemechanismunderlyingthedevelopmentofmyopia.NatCommun6:6689,2015(15)あたらしい眼科Vol.32,No.10,20151387

病的近視の疫学

2015年10月31日 土曜日

特集●病的近視あたらしい眼科32(10):1375.1382,2015特集●病的近視あたらしい眼科32(10):1375.1382,2015病的近視の疫学EpidemiologyofPathologicMyopia川崎良*I失明原因としての屈折異常,とくに近視の重要性世界中で1億5300万人が屈折異常のために日常生活において視力障害の状態にあると推計されており,近視は失明対策の重要な課題の一つである1).眼科診療においては「矯正視力」が良好であることを重要と考えることが多く,屈折異常は眼鏡やコンタクトレンズ,屈折矯正手術で「矯正できる」視力障害であるとして軽視しがちである.しかし,屈折異常の診断がなされていない,眼鏡・コンタクトレンズなど屈折矯正の手段が利用できない,あるいは利用されていない状況下では近視が視力障害の重要な原因となる.2011年3月11日,東日本大震災後に被災地において眼科医療支援を行った東北大学眼科の活動報告によれば,被災者の主訴の44.1%は眼鏡・コンタクトレンズがない,といった屈折異常に関する訴えであった2).また,介護老人保健施設における眼疾患に関する調査では,在宅医療の前段階である施設入居者29例(平均年齢84.6歳)の眼鏡装用率は21%と低く,平均裸眼視力は0.1程度であった3).わが国では,屈折異常があっても容易に矯正視力を得ることができる環境が整っているとはいえるが,このように思いがけない形で屈折矯正が困難となる,あるいは十分になされない状況が起こりうる.さらに,近視に伴い斜視,白内障4)から網膜病変や緑内障5)など不可逆的な視力障害に至る疾患の危険が高まることも知られている(図1)6).55歳の時点での屈折異常の状態を元にして85歳時点での視力障害の危険を検討した報告では,55歳時の屈折状態が正視眼である場合に比べて,.6Dより強い病的近視では視力障害をもつ危険は3.4倍,.10Dより強い病的近視では22倍にも上るとの報告もある7).一般住民を対象とした疫学研究である多治見スタディでは近視性黄斑変性が失明原因の3位であり,片眼性失明の原因疾患としては第1位で近視病的近視斜視眼球運動障害白内障周辺部網膜病変・格子状網膜変性・網膜裂孔・裂孔原性網膜.離緑内障黄斑部網膜病変・硝子体黄斑牽引・黄斑網膜分離・近視性黄斑円孔・近視性黄斑症図1近視,病的近視と関連がある眼疾患*RyoKawasaki:山形大学大学院医学系研究科公衆衛生学講座〔別刷請求先〕川崎良:〒990-9585山形市飯田西2-2-2山形大学大学院医学系研究科公衆衛生学講座0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(3)1375 あった8).II近視,病的近視の有病率の増加文部科学省学校保健統計調査報告書によれば学校検診における「裸眼視力1.0未満のもの」は年々増加しており9),その原因となる屈折異常の内訳に占める「近視」および「近視性乱視」の割合は小学生で約46%,中学生で約73%,高等学校生で約91%である10).台湾において1983.2000年にかけて行われた学童期の年齢別近視有病率は,全年齢層において1990年代に入って増えていること,また病的近視についても1995年と2000年においては13歳以降の有病率が高くなっていることがわかる(図2)11).近視の有病率は成人でも増加し,また地域も決して日本をはじめとする東アジアに限ったものではない.ヨーロッパ諸国の疫学研究のメタ研究EuropeEyeEpidemiology(E3)Consortium12)では,1910.1939年生まれの群に比べて1940.1979年生まれの群では,50.79歳での近視(.0.75D以下)の年齢調整有病率は17.8%から23.5%に増加していた.米国NationalHealthandNutritionExaminationSurvery(NHANES)でも1971.1972年の調査と比べて1999.2004年の調査では,12.54歳の近視有病率は25%から41.6%に大幅に上昇していた13).100901983(<-0.25D)801986(<-0.25D)701990(<-0.25D)有病率(%)789101112131415161718III近視の有病率における人種差,地域差近視は日本,中国,台湾,シンガポールなど東アジアにおいてとくに有病率が高いと考えられている.米国の白人,アフリカ系ではアメリカ人,ヒスパニック,中国系アメリカ人を対象としたMulti-EthnicStudyofAtherosclerosis(MESA)研究では,近視の有病率のオッズは比白人に比べて,中国系アメリカ人で1.64倍と高く,逆にアフリカ系アメリカ人では0.79倍,ヒスパニックでは0.61倍と低かった14).マレー系,インド系,中国系のシンガポール人を対象とした疫学研究では,近視の有病率がより若い世代で高くなり,かつマレー系に比べて中国系では近視,病的近視の有病率のオッズ比がそれぞれ2.04倍,1.84倍と有意に高かった15).その一方で,先に述べたように米国や欧州でも近視の有病率は高くなってきており,もはや近視の有病率はアジア人と白人との間で大きな差がなくなっている可能性を指摘する研究もある16).ただ,病的近視については今なおアジア人に多いようである.MESA研究では病的近視有病率のオッズ比は,白人に比べ中国系アメリカ人で3.33倍と有意に高く,近視における関連より強いことが示唆されている(図3)14).これまでに報告のある病的近視(<.5Dあるいは<.6Dと定義)の有病率9,17.34)を図4にまとめた.年齢で標準化していないため,直接比較はできないもののやはり病的近視の有病率はアジ5*p<0.05460504030201001995(<-0.25D)2000(<-0.25D)1983(<-6.0D)1986(<-6.0D)1990(<-6.0D)1995(<-6.0D)2000(<-6.0D)3.33*110.770.630123調整済みオッズ比1.64*0.79*0.61*年齢(歳)図2台湾における学童期の近視(<-0.25D)および病的近視病的近視■白人■中国系アメリカ人■アフリカ系アメリカ人■ヒスパニック近視(<-6.0D)の有病率の時代比較図3米国4人種における近視および病的近視の有病率の差(文献11より抜粋して改変)(文献14を元に作成)1376あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(4) あたらしい眼科Vol.32,No.10,20151377(5)IV近視の環境,生活習慣における危険因子・保護因子SydneyMyopiaStudyは「両親とも近視ではない子ア,とくに東アジアで高いようである.03691215BaltimoreEyeSurvey(米国・アフリカ系)BlueMountainsEyeStudy(オーストラリア)Multi-EthnicStudyofAtherosclerosis(米国・ヒスパニック)LosAngelesLatinoEyeStudy(米国・ヒスパニック)ProyectVER(米国・ヒスパニック)MelbourneVIP(オーストラリア)BaltimoreEyeSurvey(米国・白人)EuropeanEyeEpidemiology(E3)Consortium(欧州15研究)Multi-EthnicStudyofAtherosclerosis(米国・黒人)BeaverDamEyeStudy(米国・白人)RotterdamEyeStudy(オランダ)Multi-EthnicStudyofAtherosclerosis(米国・白人)Sumatra(インドネシア)HandanEyeStudy(中国)Mongolia(モンゴル)BangladeshiNationalSurvery(バングラディッシュ)ShihpaiEyeStudy(台湾)SingaporeMalayEyeStudy(マレー系シンガポール人)YazdEyeStudy(イラン)BeijingEyeStudy(中国)久山町研究(日本)SingaporeIndianEyeStudy(インド系シンガポール人)多治見研究(日本)MeiktilaEyeStud(ミャンマー)SingaporeEpidemiologyofEyeDiseaseStudy(シンガポール)TanjongPagoarStudy(シンガポール)舟形町研究(日本)(Unpublisheddata)Multi-EthnicStudyofAtherosclerosis(米国・中国系)1.81.82.42.52.53.13.84.05.42.02.73.03.95.74.16.58.28.49.111.80.91.92.70.81.52.42.32.63.64.95.56.517189191818172091818921222324252627282930313233349<-6D<-5D図4成人の病的近視の有病率(%)03691215BaltimoreEyeSurvey(米国・アフリカ系)BlueMountainsEyeStudy(オーストラリア)Multi-EthnicStudyofAtherosclerosis(米国・ヒスパニック)LosAngelesLatinoEyeStudy(米国・ヒスパニック)ProyectVER(米国・ヒスパニック)MelbourneVIP(オーストラリア)BaltimoreEyeSurvey(米国・白人)EuropeanEyeEpidemiology(E3)Consortium(欧州15研究)Multi-EthnicStudyofAtherosclerosis(米国・黒人)BeaverDamEyeStudy(米国・白人)RotterdamEyeStudy(オランダ)Multi-EthnicStudyofAtherosclerosis(米国・白人)Sumatra(インドネシア)HandanEyeStudy(中国)Mongolia(モンゴル)BangladeshiNationalSurvery(バングラディッシュ)ShihpaiEyeStudy(台湾)SingaporeMalayEyeStudy(マレー系シンガポール人)YazdEyeStudy(イラン)BeijingEyeStudy(中国)久山町研究(日本)SingaporeIndianEyeStudy(インド系シンガポール人)多治見研究(日本)MeiktilaEyeStud(ミャンマー)SingaporeEpidemiologyofEyeDiseaseStudy(シンガポール)TanjongPagoarStudy(シンガポール)舟形町研究(日本)(Unpublisheddata)Multi-EthnicStudyofAtherosclerosis(米国・中国系)1.81.82.42.52.53.13.84.05.42.02.73.03.95.74.16.58.28.49.111.80.91.92.70.81.52.42.32.63.64.95.56.517189191818172091818921222324252627282930313233349<-6D<-5D図4成人の病的近視の有病率(%) 1378あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(6)量の指標とすると,近視の有病率と負の関連がみられることが報告されている39).同研究では,近視と血清25(OH)D3濃度の関係についても報告しており,年齢,性別,人種,両親の近視,教育歴,眼部の太陽光暴露指標で調整したうえでも血清25(OH)D3濃度50nmol/l未満では50nmol/l以上に比べて2倍近視を有する危険が高かった40).同様に韓国の全国規模の健康栄養調査KoreaNationalHealthandNutritionExaminationSurvey(KNHANES)の報告によると,病的近視の有病率は血清25(OH)D濃度の上位1/3に属するとは下位1/3に属するのに比べて約半分であった41).屋外活動時間と近視の関連はその他の研究42)でも確認されており,現在では屋外活動を増加させるという介入によって近視の予防につなげようとする試みもある.台湾では学校単位で休み時間を屋外で過ごすプログラムを導入し,1年で非近視眼においては屈折度数の近視化を0.18D(95%信頼区間0.03.0.33D)抑制することができたと報告している43).韓国の健康調査KNHANES2008.2012では12.19歳の3,625人を対象として,睡眠時間と近視の関係を調べている.それによると,睡眠時間が短いことが近視の有病率と関連しており,屈折は睡眠時間1時間あたり+0.1D大きく,睡眠時間が9時間より長い場合には,5時間未満の睡眠時間の群に比べて近視の有病率が約40%であったという44).間接的に屋外活動時間,近見作業時間,就業期間などと関連している可能性もある.一方で,病的近視に関しては睡眠時間との間に有意な関連はなかった.V近視性黄斑症の有病率一般成人住民を対象とした疫学研究に基づく近視性網膜症の有病率の報告を表1にまとめた.疫学研究ではおもに眼底写真に基づき近視性網膜症,近視性黄斑症の判定がなされるが,その際に用いられる判定基準の代表的なものには,Avilaの分類45),SteidlとPruett46)の分類など複数ある.それぞれの分類が異なるため表1の有病率を直接比較することはできないが,一般対象者の0.9.3%,病的近視者の30.6.92.6%が何らかの近視性網膜症を有する.また,近視性網膜症は女性に多い(1.11倍.6.67倍)29,47.51).供」に比べて,「両親のうち片方が近視である子供」「両親とも近視である子供」では,それぞれ近視の有病の危険が2.3倍,7.9倍であり,とくに白人に比べ東アジア人種でその関連が強かったと報告している35).近視には家族内集積があり,遺伝的素因が関連していることが知られ,さまざまな研究により関連遺伝子の探索が進んでいる.その一方,近視の有病率が増加し続けていることから,遺伝的素因に加えて生活環境要因が影響していることと考えられている36).1.近見作業,学歴・就学期間と近視の関連SydneyMyopiaStudyでは,30cm未満で読書する小児は30cm以上離して読書する小児に比べ,近視の有病率が約2.5倍高かった.また,30分より長く連続して読書する子供は近視の有病率は1.5倍高かった37).また,学歴が高いこと,就学年数が長いことが近視,病的近視に関連していることが報告されている.MESA研究では高校卒業未満を1とした場合,大学卒業,大学院卒業で近視の有病率のオッズ比は2.69倍,3.45倍と高く,病的近視の有病のオッズ比はさらに6.88倍,8.99倍と高かった9).同様にE3Consortiumでも1900.1989年までの90年間で高等教育を4%から60%まで増加し,1920年代生まれで16歳までの教育歴をもつ群を基準にすると,高等教育(20歳以上の教育歴)をもつことで近視の有病率が2.43倍,1960年代生まれでは2.62倍有病率が高かったと報告している12).2.屋外活動時間と近視の関連SydneyMyopiaStudyではさらに,スポーツやレジャー活動の多寡にかかわらず,屋外活動時間が長いほど近視の有病率が低いことを報告した38).屋外活動と近視の有病率を結びつける機序はまだ明らかになっていない.屋外での強い光刺激は縮瞳をもたらし,焦点深度を深める効果があること,網膜内でのドーパミンが増加し眼軸の延長を抑制するなどの説があげられている.近年ではビタミンD濃度が近視と関連しているという説がある.生物学的指標を用いて日光被曝量と近視の関連を報告したWesternAustralianPregnancyCohort(RaineStudy)では,結膜上の紫外線自発蛍光面積を日光被曝 表1一般住民対象疫学研究における近視性網膜症の有病率,男女比,および病変の内訳研究名年齢(歳)人数(人)%全体(%病的近視)男性を1としたときの女性の有病率の比病変の内訳網脈絡膜萎縮(%)Lacquercracks(%)Fuchs斑(%)BlueMountainsEyeStudy(オーストラリア)47)49≧3,5831.2(44.9)6.677.18.23.1BeijingEyeStudy(中国)48)40≧4,3191.6(92.6)1.1192.6*5.62.1HandanStudy(中国)49)30≧6,6030.9(43.3)2.1025.218.87.2HisayamaStudy(日本)29)40≧1,8921.7(30.6)1.8329.72.8─Shihpaistudy(台湾)50)65≧1,0583.0(72.2)1.79(M3+)**───Singapore(シンガポール)51)40≧6,680─1.50(M3+)**23.0**1.80*SteidlSMandPruettRCの分類46).Grade0:eyeswithoutevidenceofatrophicchange.Grade1:eyesshowedattenuatedchoroidalvessels,limitedlacquercracksformation,andretinalpigmentepithelialmottling,orcombinationsofthese.Grade2:eyeshadatotalareaofgeographicatrophylessthanorequalto2diskareas.Grade3:eyeshadatotalareaofatrophygreaterthan2diskareasbutlessthanorequalto4diskareas.Grade4:eyeshadatotalareaofatrophygreaterthan4diskareas.**Avilaの分類45).M0:Normalappearingposteriorpole.M1:choroidalpallorandtessellation.M2:choroidalpallorandtessellation,withposteriorpolestaphyloma.M3:choroidalpallorandtessellation,withposteriorpolestaphylomaandlacquercracks.M4:choroidalpallorandtessellation,withposteriorpolestaphyloma,lacquercracks,andfocalareasofdeepchoroidalatrophy.M5:posteriorpoleshowinglargegeographicareasofdeepchoroidalatrophy(“baresclera”).VI近視性黄斑症研究の標準化,比較可能性向上に向けた新分類の提案Ohno-Matsuiらは眼底所見に基づいて近視性網膜症の判定を行うため,新しい分類52)を作成した(図5).この新分類は,Hayashiら53)がまとめた臨床的な近視性黄斑症の長期観察に基づく進呈様式(図6)を基に,単なる病変の有無に基づく分類ではなく,脈絡膜新生血管や黄斑萎縮を将来生じる危険の高い病変の順にカテゴリーを定めた重症度分類として提唱されている.近視性黄斑症の病変のなかでもとくに近視性脈絡膜新生血管は発症すると視力予後が悪く,発症後5年までに85.2%が視力低下(>0.2logMAR)となっていた54).近視性脈絡膜新生血管の発症後5年後に88.9%が視力0.1(20/200)未満となり,10年後にはさらに96.3%にものぼるという報告もある55).この新分類はすなわち,将来重篤な視力障害をきたす脈絡膜新生血管と黄斑萎縮につながる病変の有無をより早期の病変から予測し,その重症度に基づいて重症度を決定することを目的としている.今後はさまざまな疫学研究や臨床研究でこの新分類が広く用い(7)近視性黄斑症病変カテゴリー1Category1紋理眼底Tesselatedfundusカテゴリー2Category2びまん性網脈絡膜萎縮Diffusechorioretinalatrophyカテゴリー3Category3限局性網脈絡膜萎縮Patchychorioretinalatrophyカテゴリー4Category4黄斑部萎縮Macularatrophyカテゴリー0Category0近視性黄斑症病変なしNomyopicretinopathylesionsMyopicmaculopathylesions“プラス”病変“Plus”lesionsラッカークラックLacquercracks(+Lc)脈絡膜新生血管Choroidal+neovascularization(+CNV)フックス斑Fuchs’spot(+Fs)図5近視性網膜症の新しい分類(文献52より抜粋,和訳)あたらしい眼科Vol.32,No.10,20151379 Macularatrophy黄斑部萎縮CNV脈絡膜新生血管Tessellatedfundus紋理眼底Diffusechorioretinalatrophyびまん性萎縮病変LacquercracksラッカークラックP(D)びまん性萎縮病変を伴う限局性萎縮病変P(Lc)ラッカークラックから発生した限局性萎縮病変FusionwithareasofP(D)orP(St)びまん性萎縮病変あるいは後部ぶどう腫の境界から発生し限局性萎縮病変の融合・拡大Macularatrophy黄斑部萎縮CNV脈絡膜新生血管Tessellatedfundus紋理眼底Diffusechorioretinalatrophyびまん性萎縮病変LacquercracksラッカークラックP(D)びまん性萎縮病変を伴う限局性萎縮病変P(Lc)ラッカークラックから発生した限局性萎縮病変FusionwithareasofP(D)orP(St)びまん性萎縮病変あるいは後部ぶどう腫の境界から発生し限局性萎縮病変の融合・拡大図6臨床的な近視性黄斑症の進展様式られることが期待されており,そのなかで重症度分類の妥当性についても評価されると期待される.標準化された共通の判定基準を用いることで研究間の比較やメタ解析もより精度の高いものと可能となり,最終的には脈絡膜新生血管や黄斑萎縮をはじめとする不可逆的な視力障害の原因となる病変の予防,管理に貢献できるものと考えている.文献1)MorganIG,Ohno-MatsuiK,SawSM:Myopia.Lancet379:1739-1748,20122)DoiH,KunikataH,KatoKetal:OphthalmologicexaminationsinareasofMiyagiprefectureaffectedbythegreateastJapanearthquake.JAMAOphthalmol132:874-876,20143)福岡秀記,山中行人,長屋政博ほか:日本の介護老人保健施設における眼疾患に関する検討.臨床眼科68:865-868,20144)PanCW,ChengCY,SawSMetal:Myopiaandage-relatedcataract:Asystematicreviewandmeta-analysis.AmJOphthalmol156:1021-1033,20135)MarcusMW,deVriesMM,MontolioFGJetal:Myopia1380あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(文献53を元に作成)asariskfactorforopenangleglaucoma:Asystematicreviewandmeta-analysis.Ophthalmology118:19891994,20116)SawSM,GazzardG,Chih-YenECetal:Myopiaandassociatedpathologicalcomplications.OphthalPhysiolOpt25:381-391,20057)VerhoevenVJM,WongKT,BuitendijkGHSetal:Visualconsequencesofrefractiveerrorsinthegeneralpopulation.Ophthalmology122:101-109,20158)IwaseA,AraieM,TomidokoroAetal:PrevalenceandcausesoflowvisionandblindnessinaJapaneseadultpopulation:theTajimiStudy.Ophthalmology113:13541362,20069)所敬:1.定義,第II章単純近視.近視基礎と臨床(所敬,大野京子編),p46-47,金原出版,201210)所敬:3.屈折度の推移,第I章総論.近視基礎と臨床(所敬,大野京子編),p8-15,金原出版,201211)LinLL,ShihYF,HsiaoCKetal:PrevalenceofmyopiainTaiwaneseschoolchildren:1983to2000.AnnAcadMedSingapore33:27-33,200412)WilliamsKM,BertelsenG,CumberlandPetal:Increasingprevalenceofmyopiaineuropeandtheimpactofeducation.Ophthalmology122:1489-1497,201513)VitaleS,SperdutoRD,Ferris3rdFL:IncreasedprevalenceofmyopiaintheUnitedStatesbetween1971-1972and1999-2004.ArchOphthalmol127:1632-1639,2009(8) あたらしい眼科Vol.32,No.10,20151381(9)14)PanCW,KleinBEK,CotchMFetal:RacialvariationsintheprevalenceofrefractiveerrorsintheUnitedStates:theMulti-EthnicStudyofAtherosclerosis.AmJOphthalmol155:1129-1138,201315)PanCW,ZhengYF,AnuarARetal:Prevalenceofrefractiveerrorsinamultiethnicasianpopulation:theSingaporeEpidemiologyofEyeDiseaseStudy.InvestOphthalmolVisSci54:2590-2598,201316)WolframC,HohnR,KottlerUetal:PrevalenceofrefractiveerrorsintheEurpeanadultpopulation:theGutenbergHealthStudy(GHS).BrJOphthalmol98:857-861,201417)KatzJ,TielschJM,SommerA:Prevalenceandriskfactorsforrefractiveerrorsinanadultinnercitypopulation.InvestOphthalmolVisSci38:334-340,199718)TheEyeDiseasePrevalenceResearchGroup:TheprevalenceofrefractiveerrorsamongadultsintheUnitedStates,westernEurope,andAustralia.ArchOphthalmol122:495-505,200419)Tarczy-HornochK,Ying-LaiM,VarmaRandtheLosAngelesLatinoEyeStudyGroup;Myopicrefractiveerrorinadultlatinos:TheLosAngelesLatinoEyeStudy.InvestOphthalmolVisSci47:1845-1852,200620)WilliamsKM,VerhoevenVJM,CumberlandPetal:PrevalenceofrefractiveerrorinEurope:theEuropeanEyeEpidemiology(E3)Consortium.EurJEpidemiol30:305315,201521)SawSM,GazzardG,KohDetal:PrevalenceratesofrefractiveerrorsinSumatra,Indonesia.InvestOphthalmolVisSci43:3174-3180,200222)LiangYB,WongTY,SunLPetal:Refractiveerrorsinaruralchineseadultpopulation.TheHandanEyeStudy.Ophthalmology116:2119-2127,200923)WickremasingheS,FosterPJ,UranchimegDetal:InvestOphthalmolVisSci45:776-783,200424)BourneRRA,DineenB,AliSMetal:PrevalenceofrefractiveerrorinBangladeshiadults.Ophthalmology11:1150-1160,200425)ChengCY,HsuWM,LiuJHetal:RefractiveerrorsinanelderlyChinesepopulationinTaiwan:theShihpaiEyeStudy.InvestOphthalmolVisSci44:4630-4638,200326)SawSM,ChanYH,WongWLetal:PrevalenceandriskfactorsforrefractiveerrorsintheSingaporeMalayEyeStudy.Ophthalmology115:1713-1719,200827)ZiaeiH,KatibehM,SolaimanizadRetal:Prevalenceofrefractiveerrors:theYazdEyeStudy.JOphthalmicVisRes8:227-236,201328)XuL,LiJ,CuiTetal:RefractiveerrorinurbanandruraladultChineseinBeijing.Ophthalmology112:16761683,200529)AsakumaT,YasudaM,NinomiyaTetal:PrevalenceandriskfactorsformyopicretinopathyinaJapanesepopulation:theHisayamastudy.Ophthalmology119:17601765,201230)PanCW,WongTY,LavanyaRetal:PrevalenceandriskfactorsforrefractiveerrorsinIndians;theSingaporeIndianEyeStudy(SINDI).InvestOphthalmolVisSci52:3166-3173,201131)SawadaA,TomidokoroA,AraieMetal:RefractiveerrorsinanelderlyJapanesepopulation.theTajimiStudy.Ophthalmology115:363-370,200832)GuptaA,CassonRJ,NewlandHSetal:PrevalenceofrefractiveerrorinruralMyanmar.Ophthalmology115:26-32,200833)PanCW,ZhengYF,AnuarARetal:Prevalenceofrefractiveerrorsinamultiethnicasianpopulation:theSingaporeEpidemiologyofEyeDiseaseStudy.InvestOphthalmolVisSci54:2590-2598,201334)WongTY,FosterPJ,HeeJetal:PrevalenceandriskfactrosforrefractiveerrorsinadultChineseinSingapore.InvestOphthalmolVisSci41:2486-2494,200035)IpJM,HuynhSC,RobaeiDetal:Ethnicdifferencesintheimpactofparentalmyopia:Findingsfromapopulation-basedstudyof12-year-oldAustralianchildren.InvestOphthalmolVisSci48:2520-2528,200736)MorganIandRoseK:Howgeneticisschoolmyopia?ProgressinRetinalandEyeResearch24:1-38,200537)IpJM,SawSM,RoseKAetal:Roleofnearworkinmyopia:findingsinasampleofAustralianschoolchildren.InvestOphthalmolVisSci49:2903-2910,200838)RoseKA,MorganIG,IpJetal:Outdooractivityreducestheprevalenceofmyopiainchildren.Ophthalmology115:1279-1285,200839)McKnightCM,SherwinJC,YazarSetal:Myopiainyoungadultsisinverselyrelatedtoanobjectivemarkerofocularsunexposure:theWesternAustralianRainecohortstudy.AmJOphthalmol158:1079-1085,201440)YazarS,HewittAW,BlackLJetal:MyopiaisassociatedwithlowervitaminDstatusinYoungadults.InvestOphthalmolVisSci55:4552-4559,201441)ChoiJA,HanK,ParkYMetal:Lowserum25-hydroxyvitaminDisassociatedwithmyopiainKoreanadolescents.InvestOphthalmolVisSci55:2041-2047,201442)SherwinJC,ReacherMH,KeoghRHetal:Theassociationbetweentimespentoutdoorsandmyopiainchildrenandadolescents.Ophthalmology119:2141-2151,201243)WuPC,TsaiCL,WuHLetal:Outdooractivityduringclassrecessreducesmyopiaonsetandprogressioninschoolchildren.Ophthalmology120:1080-1085,201344)JeeD,MorganIG,KimEC:Inverserelationshipbetweensleepdurationandmyopia.ActaOphthalmol.2015;Inpress.doi:10.1111/aos.1277645)AvilaMP,WeiterJJ,JalkhAEetal:Naturalhistoryofchoroidalneovascularizationindegenerativemyopia.Ophthalmology91:1573-1581,198446)SteidlSMandPruettRC:Macularcomplicationsassociat 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序説:病的近視

2015年10月31日 土曜日

●序説あたらしい眼科32(10):1373.1374,2015病的近視PathologicMyopia大野京子*生野恭司**病的近視はわが国の重要な失明原因であり,一般住民を対象とした多治見スタディでは,WHOの定義に基づく失明(良好眼の矯正視力0.05以下)の原因として,病的近視による黄斑症が22.4%を占め,もっとも多かった1).同様に,中国のBeijingEyeStudyでも病的近視は失明の主因であり2),とくにアジア諸国においては,病的近視の失明の原因として重要である.近年,小児の近視の増加および低年齢化が指摘されている.このような小児の近視は,高度になると病的近視に至るのか,それとも,学童近視と病的近視は遺伝学的にまったく異なる病態であるのか興味がもたれるところであり,多くの研究が進行中である.病的近視では,眼軸長の過度な伸長と,おもに中高年以降に生じる後部ぶどう腫の形成などによる眼球の変形に伴い,視神経や黄斑部網膜を含む視機能上重要な部位が障害され,視覚障害の原因となる(図1).筆者らの3DMRIを用いた眼球形状解析においても,耳側変位型などの特定の変形パターンを生じた場合に視覚障害が高頻度に起きることが示されている3).最近,Optosを用いた超広角眼底撮影と3DMRIの組み合わせにより,後部ぶどう腫の新しい分類が提唱されている4).病的近視による失明の直接の原因となる病変は,ab図1病的近視眼の超広角眼底画像a:後部ぶどう腫縁がみられる(矢頭).b:同症例の3DMRI画像(眼球を下から見た図).近視性黄斑症(図2)と緑内障性視神経症(または近視性視神経症)である.近視性黄斑症には,びまん性萎縮病変,限局性萎縮病変,lacquercracks,近視性脈絡膜新生血管(myopicchoroidalneovascularization:近視性CNV)などがあるが,有意な視力低下をきたす病変は,近視性CNV(退縮後の黄斑部萎縮の形成を含む)である.ごく最近,病的近視メタ解析研究(META-PMstudy)が行われ,国際的に統一された近視性黄斑症の診断基準と分類が制定された5).これからアジア諸国,欧米諸国,オーストラリアのさまざまな疫学研究において眼底所見のgradingが始まるところである.この国際共同研究により,病的近視の人種間の頻度や危険因子が明らかになると期待される.近視性CNVに対しては,従来,視力改善に有効*KyokoOhno-Matsui:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野**YasushiIkuno:いくの眼科0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(1)1373 図2近視性黄斑症の眼底写真黄斑部付近に限局性萎縮がみられる.-