《原著》あたらしい眼科32(9):1363.1367,2015cトップアスリートの視力(II)枝川宏*1,2,3川原貴*3小松裕*3土肥美智子*3先崎陽子*3川口澄*3桑原亜紀*3赤間高雄*4松原正男*2,3*1えだがわ眼科クリニック*2東京女子医科大学東医療センター眼科*3国立スポーツ科学センター*4早稲田大学スポーツ科学学術院VisualAcuityofTopAthletes(II)HiroshiEdagawa1,2,3),TakashiKawahara3),HirosiKomatu3),MitikoDoi3),YokoSenzaki3),MasumiKawaguti3),AkiKuwabara3),TakaoAkama4)andMasaoMatubara2,31)EdagawaEyeClinic,2)TokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast,3)JapanInstituteofSportsSciences,4)FacultyofSportScience,WasedaUniversity夏季と冬季のオリンピックとアジア大会65競技種目の代表および候補者3,243人の視力測定と競技時の矯正方法についての聞き取り調査を行った.視力は競技時と同様の矯正状態で片眼と両眼の遠方視力を測定した.その結果,1.単眼視力1.0以上の者は82.0%,両眼視力1.0以上の者は92.6%だった.単眼視力と両眼視力は競技群間で有意な差があった(p<0.05).単眼視力と両眼視力がともに1.0以上の割合がもっとも多いのは球技群,もっとも少なかったのは格闘技群だった.2.視力非矯正眼の割合は64.9%で,割合がもっとも多いのはスピード群で,もっとも少ないのは標的群だった.視力非矯正眼の79.4%は1.0以上だった.3.矯正視力の87.0%は1.0以上だった.視力矯正方法はコンタクトレンズが88.3%を占めてもっとも多く,競技群によって視力矯正方法に特徴があった.矯正方法は競技群間で有意な差があった(p<0.05).Weinvestigatedvisioncorrectiondevicesusedduringsportingactivityviavisualacuity(VA)testingandpersonalinterviewof3,243athletesin65sportsofthesummerandwinterOlympicGamesandAsianGames.Ineachathlete,distantVAwasmeasuredusingcorrectingdevicesinbothmonocularandbinocularconditions.Ofthetotal3,243athletes,82.0%hadgoodmonocularVAof1.0orbetterand92.6%hadgoodbinocularVA.MonocularandbinocularVAweresignificantdifferenceamongsports(p<0.05).Theproportionof1.0orbetterVAinbothmonocularandbinocularvisionwasthegreatestinball-gameathletesandtheleastinmartialartsathletes.Thepercentageofathletesthatdidnotuseavisioncorrectiondevicewas64.9%,withthegreatestnumberbeinginspeed-competingsportsandtheleastnumberbeinginshootingsports.Oftheathleteswithoutavisioncorrectingdevice,79.4%had1.0orbetterVA.CorrectedVAwas1.0orbetterin87.0%oftheathleteswithavisioncorrectingdevice.Contactlenseswerethemostcommonlyusedvisioncorrectingdevice,withan88.3%share.Therewassignificantdifferenceinthevisioncorrectingdeviceusedamongsports(p<0.05).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(9):1363.1367,2015〕Keywords:視力,アスリート,オリンピック,スポーツ.visualacuity,athletes,Olympicgames,sport.はじめに視力はアスリートにとって競技するうえでもっとも重要な視機能である.そのため以前からアスリートの視力と視力矯正については多くの報告がある1.8).前回,筆者らはわが国のトップレベルのアスリートを競技特性から6競技群に分類して分析した3).そのなかでアスリートの視力や視力矯正は競技群によって特徴があることを指摘した.今回は対象となる競技種目を前回よりも12種目1,669人を追加して,前回同様に競技群別に視力・視力矯正方法の分析を行った.I対象および方法対象は2008年.2011年の3年間に国立スポーツ科学セ〔別刷請求先〕枝川宏:〒153-0065東京都目黒区中町1-25-12ロワイヤル目黒1Fえだがわ眼科クリニックReprintrequests:HiroshiEdagawa,M.D.,Edagawa,EyeClinic,RowaiyaruMeguro1F,1-25-12Nakacho,Meguro-ku,Tokyo153-0065,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(135)1363ンター(JISS)でメディカルチェックを行ったオリンピックやアジア大会など国際競技の代表者および候補者男子1,796人,女子1,487人の3,243人で,平均年齢22.2歳である.競技種目は65種目(夏季55種目・冬季10種目)で競技の特性から表1のように6競技群に分類した.標的群はライフル射撃など標的を見る競技で8種目182人,格闘技群は柔道など近距離で競技者と対する競技で7種目227人,球技群は野球などボールを扱う競技で19種目1,344人,体操群は体操など回転競技が含まれる競技で7種目182人,スピード群はスキーなど競技者自身が高速で動く競技で9種目487人,その他群は陸上競技など視力が競技に重大な影響を与えにくい競技で15種目821人であった(表1).視力測定は競技時と同様の状態で5m視力表を使用して右眼,左眼,両眼の順序で行った.聞き取り調査は競技時の視力矯正方法について行った.分析は視力1.0以上,0.9.0.7,0.6.0.3,0.3未満の4段階とした.検定は視力が各競技群間でKruskal-Wallis検定,視力矯正はc2検定で行って,5%の有意水準設定で検討した.II結果1.視力の状況視力では左右差を認めなかった.6,486眼のなかで単眼視力の分布は1.0以上が5,322眼で82.0%,0.9.0.7は657眼で10.1%,0.6.0.3は397眼で6.1%,0.3未満は110眼で1.7%だった(表2).また,3,243人のなかで両眼視力の分布は1.0以上が3,003人で92.6%,0.9.0.7は146人で4.5%,0.6.0.3は88人で2.7%,0.3未満は6人で0.2%だった(表3).視力の低下に伴って,単眼視力と両眼視力ともに割合は少なくなった.単眼視力を競技群別でみると,1.0以上では割合がもっとも多いのは球技群で2,688眼のなかの2,327眼で86.6%だった.もっとも少ないのは格闘技群で454眼のなかの352眼で77.5%だった.0.9.0.7では割合がもっとも多いのはスピード群で974眼のなかの119眼で12.2%,もっとも少ないのは球技群で2,688眼のなかの239眼で8.9%だった.0.6.0.3では割合がもっとも多いのは格闘技群で454眼のなかの38眼で8.4%,もっとも少ないのは標的群で364眼のなかの13眼で3.6%だった.0.3未満では割合がもっとも多いのは格闘技群で454眼のなかの13眼で2.9%,もっとも少ないのは球技群で2,688眼のなかの17眼で0.6%だった(表2).両眼視力を競技群別でみると,1.0以上で割合がもっとも多いのは球技群で1,344人のなかの1,283人で95.5%,もっとも少ないのは格闘技群で227人のなかの203人で89.4%だった.0.9.0.7で割合がもっとも多いのは格闘技群で227人のなかの13人で5.7%,もっとも少ないのは標的群で182人のなかの6人で3.3%だった.0.6.0.3で割合がもっとも多いのは格闘技群で227人のなかの11人で4.9%,もっとも少ないのは球技群で1,344人のなかの14人で1.0%だった.0.3未満で割合がもっとも多いのはスピード群で487人のなかの4人で0.9%だったが,標的群・格闘技群・球技群・体操群は1人もいなかった(表3).単眼視力と両眼視力の分布は各競技群間で有意な差があった.2.視力非矯正眼の状況競技中に視力を矯正していない非矯正眼の割合は6,486眼のなかの4,210眼で64.9%だった.視力は1.0以上が4,210眼のなかの3,341眼で79.4%,0.9.0.7は415眼で9.9%,表1競技特性の分類1)標的群種目:標的を見ることが必要な種目8種目(182名)アーチェリー・ビリヤード・ボウリング・ライフル射撃・カーリング・バイアスロン・クレー射撃・近代五種2)格闘技群種目:近距離で競技者と対する種目7種目(227名)剣道・柔道・テコンドー・フェンシング・ボクシング・レスリング・空手道3)球技群種目:ボールを扱う必要のある種目19種目(1,344名)ゴルフ・サッカー・水球・スカッシュ・ソフトテニス・ソフトボール・卓球・テニス・バスケットボール・バドミントン・バレーボール・ハンドボール・ホッケー・ラグビー・アイスホッケー・野球・クリケット・ビーチバレー・セパタクロー4)体操群種目:回転運動が多く含まれる種目7種目(182名)新体操・体操・ダンススポーツ・トランポリン・フィギュアスケート・飛び込み・シンクロナイズドスイミング5)スピード群種目:道具を使用して高速で行う種目9種目(487名)自転車・スキー・スケート・スケルトン・スノーボード・ボブスレー・リュージュ・ローラースポーツ・カヌー6)その他群種目:視力が重大な影響を与えにくい種目15種目(821名)競泳・ウエイトリフティング・セーリング・トライアスロン・武術太極拳・ボート・陸上競技・ドラゴンボート・馬術・山岳・エアロビクス・カバティ・囲碁・チェス・クロスカントリー1364あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(136)表2単眼視力分布n=6,486眼表3両眼視力分布n=3,243人1.0以上0.9.0.70.6.0.30.3未満n=5,322n=657n=397n=110標的群30840133n=364(83.7%)(10.9%)(3.6%)(1.8%)格闘技群352513813n=454(77.5%)(11.2%)(8.4%)(2.9%)球技群2,32723910517n=2,688(86.6%)(8.9%)(3.9%)(0.6%)体操群289422310n=364(79.4%)(11.5%)(6.3%)(2.8%)スピード群7561197623n=974(77.6%)(12.2%)(7.8%)(2.4%)その他群1,29016614244n=1,642(78.6%)(10.1%)(8.7%)(2.6%)1.0以上0.9.0.70.6.0.30.3未満n=3,003n=146n=88n=6標的群173630n=182(95.1%)(3.3%)(1.6%)(0%)格闘技群20313110n=227(89.4%)(5.7%)(4.9%)(0%)球技群1,28347140n=1,344(95.5%)(3.5%)(1.0%)(0%)体操群167960n=182(91.8%)(5.0%)(3.2%)(0%)スピード群43827184n=487(89.9%)(5.5%)(3.7%)(0.9%)その他群73944362n=821(90.0%)(5.4%)(4.4%)(0.2%)0.6.0.3は347眼で8.2%,0.3未満は107眼の2.5%だった.非矯正眼の割合がもっとも多い競技群はスピード群で974眼のなかの672眼で69.0%,もっとも少ないのは標的群で364眼のなかの192眼で52.7%だった.1.0以上は4,210眼のなかの3,341眼で79.4%,0.9.0.7は415眼で9.9%,0.6.0.3は347眼で8.2%,0.3未満は107眼の2.5%だった.競技群別でみると1.0以上で割合がもっとも多いのは標的群と球技群の84.9%で,標的群は192眼のなかの163眼で球技群は1,813眼のなかの1,540眼だったが,もっとも少ないのはその他群で992眼のなかの730眼で73.6%だった.0.9.0.7で割合がもっとも多いのはスピード群で672眼のなかの88眼で13.1%,もっとも少ないのはその他群で992眼のなかの90眼で9.1%だった.0.6.0.3で割合がもっとも多いのはその他群で992眼のなかの129眼で13.0%,もっとも少ないのは標的群で192眼のなかの7眼で3.7%だった.0.3未満で割合がもっとも多いのは格闘技群で292眼のなかの13眼の4.5%,もっとも少ないのは球技群で1,813眼のなかの14眼で0.8%だった(表4).3.視力矯正眼と矯正方法の状況競技中に視力を矯正している視力矯正眼の割合は6,486眼のなかの2,276眼で35.1%だった.矯正視力は1.0以上が2,276眼のなかの1,981眼で87.0%,0.9.0.7は242眼で10.6%,0.6.0.3は49眼で2.2%,0.3未満は4眼の0.2%だった.競技群別でみると1.0以上の割合がもっとも多いのは球技群で875眼のなかの787眼で89.9%,もっとも少ないのは格闘技群で162眼のなかの135眼で83.3%だった.0.9.0.7で割合がもっとも多いのは体操群で115眼のなかの17眼で14.8%,もっとも少ないのは球技群で875眼のなかの73眼で8.3%だった.0.6.0.3で割合がもっとも多いのはスピード群で302眼のなかの12眼で3.9%,もっとも少ない(137)表4視力非矯正群の単眼視力分布n=4,210眼1.0以上0.9.0.70.6.0.30.3未満n=3,341n=415n=347n=107標的群1631874n=192(84.9%)(9.4%)(3.7%)(2.0%)格闘技群217283413n=292(74.3%)(9.6%)(11.6%)(4.5%)球技群1,5401669314n=1,813(84.9%)(9.2%)(5.1%)(0.8%)体操群194252010n=249(77.9%)(10.0%)(8.0%)(4.1%)スピード群497886423n=672(74.0%)(13.1%)(9.5%)(3.4%)その他群7309012943n=992(73.6%)(9.1%)(13.0%)(4.3%)のは球技群で875眼のなかの12眼で1.4%だった.0.3未満では割合がもっとも多いのは球技群で875眼のなかの3眼の0.4%だったが,標的群・球技群・格闘技群・体操群・スピード群はいなかった(表5).視力矯正眼2,276眼でコンタクトレンズ(CL)は2,010眼の88.3%,laserinsitukeratomileusis(LASIK)は138眼の6.0%,眼鏡は106眼の4.7%,オルソケラトロジー(Ortho-K)は22眼の1.0%だった.矯正方法はCLが全競技群を通してもっとも多いが,眼鏡が多いのは標的群で172眼のなかの52眼で30.2%,LASIKが多いのはスピード群で302眼のなかの44眼で14.6%,Ortho-Kが多いのは格闘技で162眼のなかの8眼で4.9%だった(表6).視力矯正方法は競技群間で有意な差(p<0.05)があった.また,矯正視力が1.0に達していない者は2,276眼のなかの310眼で13.6%だった.CLでは2,010眼のなかの253眼の12.6%,眼鏡あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151365表5視力矯正群の単眼視力分布n=2,276眼表6矯正方法n=2,276眼1.0以上0.9.0.70.6.0.30.3未満n=1,981n=242n=49n=4標的群1452250n=172(84.3%)(12.8%)(2.9%)(0%)格闘技群1352340n=162(83.3%)(14.2%)(2.5%)(0%)球技群78773123n=875(89.9%)(8.3%)(1.4%)(0.4%)体操群951730n=115(82.6%)(14.8%)(2.6%)(0%)スピード群25931120n=302(85.8%)(10.3%)(3.9%)(0%)その他群56076131n=650(86.2%)(11.7%)(2.0%)(0.1%)CL眼鏡LASIKOrtho-Kn=2,010n=106n=138n=22標的群9652240n=172(55.8%)(30.2%)(14.0%)(0%)格闘技群150048n=162(92.6%)(0%)(2.5%)(4.9%)球技群8350364n=875(95.4%)(0%)(4.1%)(0.5%)体操群111022n=115(96.6%)(0%)(1.7%)(1.7%)スピード群2506442n=302(82.8%)(2.0%)(14.6%)(0.6%)その他群56848286n=650(87.4%)(7.4%)(4.3%)(0.9%)では106眼のなかの29眼の27.3%,Ortho-Kでは22眼のなかの7眼で31.8%,LASIKでは138眼のなかの6眼の4.4%だった.III考察視力は視機能に影響する9.12)だけでなく,競技能力にも関係すると報告8)されている.また,屈折矯正はわずかなずれでも眼優位性に影響してコントラスト感度・調節反応・調節微動・眼球運動・視覚注意などが変化すると報告13,14)されている.したがって,視力低下は単に視機能に影響するだけでなく,本来の競技能力にも影響して十分なパフォーマンスが発揮されない可能性がある.パフォーマンスの向上のためには適正な視力矯正をすることが役立つと思われる.今回,プレイをしているときと同様の状況で測定した視力が1.0以上だった選手の割合は,単眼視力で82.0%,両眼視力は92.6%と多かったものの,0.7未満でプレイをしている選手の割合は単眼視力で7.8%・両眼視力は2.9%と少ないが存在した.競技群別では1.0以上の選手が多かったのは標的群・球技群だったが,格闘技群・スピード群・体操群・その他群の選手はこの2競技群よりも少なく,また0.7未満が多かった.標的群は標的をしっかりと見る必要があること,球技群は不規則に動くボールや対象物に臨機応変に対応する必要があることから,視力の良い者が多かった.しかし,格闘技群は相手が近距離にいるために遠方を見る必要がないこと,体操群は動作があらかじめ決まっていること,スピード群はボールのような不規則に動く目標を見ることがないことから,とくに良い視力が必要でないと考えられている可能性がある.その他群は視力で試合が左右されるような種目が少ないことから,視力の良くない選手が多かったと考えられ1366あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015CL:コンタクトレンズ,LASIK:laserinsitukeratomileusis,Ortho-K:orthokeratology.る.米国のオリンピックレベルの選手の視力調査でもアーチェリー・ソフトボールなどの標的種目や球技種目の選手の視力は良く,ボクシングや陸上競技など選手の視力は悪かったと,今回とほぼ同じ結果を報告している6).このように選手は競技で必要と感じる程度に視力を整備してプレイしていると考えられる.しかし,選手の競技能力は選手が必要と感じる視力で十分に発揮できているかについてはわかっておらず,競技種目によっては選手が必要と感じている視力が不十分であることも考えられる.今回視力を矯正せずにプレイをしていた選手の割合は約6割だった.体育大学生ではその割合が約8割7)だったことから,選手の多くはプレイのときは視力矯正をしていないようである.今回の割合が体育大学生の報告よりも少なかったのは,今回の対象者のなかに非矯正眼の割合がもっとも少ない標的群の選手が多く含まれていたためである.非矯正視力は選手の約9割が0.7以上で,約8割は1.0以上だった.標的群・球技群は1.0以上の選手が多くて0.7未満の選手は少なかったが,格闘技群・その他群は1.0以上の選手が少なくて0.7未満の選手が多かった.このような競技群別における非矯正視力の分布は単眼視力の分布傾向と同様だった.今回の競技群別の非矯正視力の結果は,非矯正視力が1.0以上の選手の割合が多い種目はサッカー・ソフトテニス・バレーボール・野球などの球技系の種目で,柔道・レスリング・フェンシングなどの格闘技系の種目や水泳などの対人運動・個人運動系の種目は少ない4)とする体育大学生の報告と同様の傾向だった.矯正視力は選手のほぼ全員が0.7以上で,選手の約9割は1.0以上だった.1.0以上に矯正されていた選手が多かったのは球技群・その他群で,これらの選手の視力は良く矯正さ(138)れていた.しかし,体操群・格闘技群では1.0未満の選手の割合が多く,スピード群・標的群では0.7未満の選手が多かった.矯正視力は本来正しく矯正されていれば1.0以上の視力が期待されるはずである.しかし,今回矯正視力が1.0未満の選手がいたことは,選手の矯正が適切に行われていないか,選手自身が競技で必ずしも1.0以上を目指した矯正を希望していないことが考えられる(表5).今回,1.0未満だった選手がどちらの要因によるものかについて個別に検討することはできなかったが,1.0未満の選手がいたということは,視力を無理に良くする必要がないと考えている選手がいたためと考えられる.しかし,計時時計の表示やコーチの指示を見るためには,やはり1.0の視力を確保することが望ましい.視力矯正方法は約9割の者がCLを使用していて,使用割合はLASIK,眼鏡,Ortho-Kの順に少なかった.これは筆者らの前回の報告3)と同じ結果であった.CLはすべての競技群でもっとも使用されていたが,CL以外は競技によって矯正方法が異なる傾向があった.眼鏡の使用は標的群に多く,LASIKはスピード群に多かった.眼鏡の使用が標的群に多かったのは標的を注視する際に瞬きが減少して角膜が乾燥しやすいことからCLが使用しにくいことや,標的を狙う眼だけ視力を矯正することが容易なためである.LASIKがスピード群に多かったのは,選手の角結膜が競技中に風で乾燥することや,冬季競技の競技環境が乾燥していてCLが使いにくいためである.また,Ortho-Kが格闘技群で多かったのは,視力矯正用具を使用できないボクシングのような種目が含まれることや,LASIKでは接触時に眼球が損傷する恐れがあるためである.今回それぞれの矯正方法における残存する屈折状態の調査はしていないが,CL装用状態での屈折値の調査では半数の者に近視・遠視・乱視などの屈折異常が残存していた4)との報告があることから,さまざまな方法で矯正した選手のなかには屈折異常が残存している可能性がある.屈折矯正はわずかなずれでも視機能に影響する13,14)ことから,それが競技能力に影響を及ぼす可能性は否定できない.今後調査をする必要がある.このようにアスリートはすでに競技の特性に応じた視力矯正方法を選択しているようである.しかし,矯正方法をよく知ることで,さらに適したそして安全な方法を選択できるようになるであろう.たとえば,Ortho-Kは競技中に視力矯正用具を使用しなくてすむことから水中で行う水球や飛び込みなどの種目,また格闘技種目などに適応があると考えられる.ボール競技では防護を兼ねたデザイン性の良い眼鏡を用いれば眼外傷から防ぐことができる.一方で現在LASIKの人気は高いが,近視の戻り・不正乱視・まぶしさの増加などが起こる可能性があることから,精密で安定した視力を必要とする競技には不向きと考えられる.また,角膜が薄くなることで眼を直接打撲する可能性のある競技にも不向きである.選手はそれぞれの矯正方法の利点や欠点を考えて,各競技種目におけるもっとも適切な矯正方法を検討する必要がある.文献1)安藤純,阿部圭助,市岡東洋ほか:視力とスポーツに関する実態調査.日本の眼科67:553-557,19962)枝川宏,松原正男,川原貴ほか:スポーツ選手の眼に関する意識と視機能.臨眼60:1409-1412,20063)枝川宏,松原正男,川原貴ほか:トップアスリートの視力.あたらしい眼科29:1168-1171,20124)上野純子,正木健雄,太田恵美子:大学運動部選手の視機能について.日本体育大学紀要22:31-37,19925)佐渡一成,金井淳,高橋俊哉:スポーツ眼科へのアプローチ.臨床スポーツ医学12:1141-1147,19956)LadyDM,KirschenDG,PantallP:Thevisualfunctionofolympiclevelathletes─Aninitialreport.EyeContactLens37:116-122,20117)佐渡一成,金井淳:スポーツ現場における視力矯正方法選択の現状.日コレ誌38:14-18,19968)中山悌一:プロ野球選手のデータ分析.プロ野球選手の体力⑦視力,p44-48,ブックハウス・エイチディ,20119)鈴村昭弘:眼と道路交通.臨床眼科全集8,p291-361,金原出版,197610)山地良一,保倉賢創ほか:深視力の臨床(1)大手前病院における深視力外来患者の統計的観察.眼紀35:2258-2262,198411)川村肇,細畠淳,近江源次郎ほか:コントラスト感度と調節反応量の関係.視覚の科学15:206-210,199412)平井陽子,粟屋忍:視力と立体視の研究.眼紀36:1524-1531,198513)魚里博,中山奈々美,川守田拓志ほか:屈折矯正状態が眼優位性に及ぼす影響.日眼会誌111:168,200714)半田知也,魚里博:眼優位性検査法とその臨床応用.視覚の科学27:50-53,2006***(139)あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151367