●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二25.糖尿病黄斑浮腫に対する高村佳弘福井大学医学部眼科学教室抗VEGF治療のポイント糖尿病黄斑浮腫に対する治療は,抗VEGF薬硝子体内注射が第一選択にあげられるが,治療後の浮腫の再発とそれに伴う頻回投与が臨床上の問題である.本稿では,その対策として虚血網膜への選択的光凝固について概説する.抗VEGF治療の功罪糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)の治療においては,ラニビズマブやアフリベルセプトといった抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬の硝子体内注射が中心となっているが,単回投与の効果の持続期間が短いことが難点である.これまでに行われてきた大規模な前向き調査は頻回投与が基本となっている.毎月投与すれば浮腫の改善は保たれ,視力も向上するが,高価な薬剤であり,患者への負担は大きく,実臨床においては頻回投与の実現はむずかしい.実際,医療費に占める割合も年々上がっており,医療経済的にも無視できない課題となっている.少ない投与回数であっても頻回投与と同様の効果を得ることができれば,それが理想的であると考えられる.抗VEGF薬の効果が限定的である理由として,薬理効果の経時的な減弱がまず考えられる.また,網膜の虚血領域からVEGFが供給されることを考えると,いったん抗VEGF薬によって眼内のVEGFを阻害して浮腫が退いたとしても,VEGFが持続的に分泌されているため,薬効が切れると浮腫の再発が起こる可能性があると思われる.実際,フルオレセイン蛍光眼底造影(fluoresceinangiography:FA)で検出される無灌流領域が広いとDMEが起こるリスクが高まることが報告され,周辺虚血がDMEの病態に関与していることが示唆されている1).抗VEGF薬と光凝固との併用療法筆者らは抗VEGF薬であるベバシズマブ単独投与群と周辺部の無灌流領域に選択的光凝固を併用した群との間で中心網膜厚を比較したところ,併用群において浮腫の再燃を抑制できたことを報告した2).単独投与群においては,無灌流領域が広いほど浮腫の再燃の程度が有意(109)0910-1810/16/\100/頁/JCOPYに強くなる.これらの知見は網膜虚血が抗VEGF治療後の浮腫の再燃にも関与していることを示している.また,汎網膜光凝固(panretinalphotocoagulation:PRP)の既往があったとしても,無灌流領域が残存していると浮腫は再燃することも併せて見出した.よってPRPが施行されていたとしても,FAを行い,無灌流領域が残存していないか確認することが大事だと思われる.ただし,広範囲な無灌流領域に対して光凝固を行った場合,DMEがかえって悪化することもあり,注意が必要である.光凝固直後においてはVEGFや炎症系サイトカインの眼内レベルが一過性に上昇することが知られており,これが黄斑浮腫悪化のトリガーとなると考えられている.この光凝固後の浮腫の悪化を予防する薬物治図1蛍光眼底造影で描出される無灌流領域抗VEGF治療後,限局した無灌流領域(白点線)に対して選択的に光凝固を加えておくことが,浮腫の再燃を防ぐうえで重要である.あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016269毛細血管瘤を伴う局所性DME直接光凝固硝子体手術硝子体膜の牽引血管造影による血管透過性の亢進と無灌流領域の同定虚血領域が広い場合は図2糖尿病黄斑浮腫に対する治療の抗VEGF薬硝子体内投与(初回)ステロイドTenon.下投与がよい流れ抗VEGF治療を行う際には,虚血の抗VEGF薬の初回投与なしで管理を念頭に置くことが必要である.周辺部虚血領域への選択的光凝固再発光凝固を行うと,かえって浮腫が悪化することがある抗VEGF薬硝子体内投与(再投与)ステロイド閾値下光凝固?療としては,トリアムシノロンによるステロイド治療の有効性を示した報告が多い3).海外では硝子体内投与が主流だが,日本からはTenon.下投与の有効性が報告されている4).Tenon.下投与のほうが効果は劣るものの,水晶体混濁や眼圧上昇,無菌性眼内炎の発症率が低いという点で優れている.筆者は,黄斑浮腫が強くて周辺部の無灌流領域が限局していれば抗VEGF薬を(図1),広範囲に虚血領域が広がっていればステロイド薬を光凝固に先行して投与しておくほうが良いと考えている.ステロイド,硝子体手術と抗VEGF治療現在,抗VEGF薬は第一選択とされることが多いが,網膜牽引のある症例では硝子体手術を,毛細血管瘤を伴う局所性浮腫に対しては直接光凝固を施行することを考慮すべきであろう.硝子体手術後では眼内薬物滞留期間のクリアランスが上がることで抗VEGF薬の効果が減弱するとの意見もあったが,近年では低下しないとする報告もある5,6).硝子体手術に関しては,その有効性がこれまでも議論されてきたが,網膜最周辺の虚血領域への十分な光凝固も可能であり,また極小切開硝子体手術システムの進化による低侵襲化も相まって,今後その価値が見直されるのではないかと思われる.周辺の虚血領域に十分に光凝固しても再発してくる場合は,抗VEGF治療を繰り返すか,ステロイド治療に切り替える.残存した毛細血管瘤に直接光凝固を行うことも重要だが,閾値下光凝固の有効性にも今後期待が寄270あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016せられる.筆者の考える治療方針を図2にまとめる.抗VEGF薬の毎月投与は日本の医療保険制度などの実情を考えると無理がある.症例ごとのDMEの病態を考慮し,ステロイド,硝子体手術,光凝固などの治療を併用することで抗VEGF治療の効果を高める併用療法が,今後ますます重要となってくると考えられる.文献1)WesselMM,NairN,AakerGDetal:Peripheralretinalischaemia,asevaluatedbyultra-widefieldfluoresceinangiography,isassociatedwithdiabeticmacularedema.BrJOphthalmol96:694-698,20122)TakamuraY,TomomatsuT,MatsumuraTetal:Theeffectofphotocoagulationinischemicareastopreventrecurrenceofdiabeticmacularedemaafterintravitrealbevacizumabinjection.InvestOphthalmolVisSci55:4741-4746,20143)ChoWB,MoonJW,KimHC:Intravitrealtriamcinoloneandbevacizumabasadjunctivetreatmentstopanretinalphotocoagulationindiabeticretinopathy.BrJOphthalmol94:858-863,20104)ShimuraM,YasudaK,ShionoT:Posteriorsub-Tenon’scapsuleinjectionoftriamcinoloneacetonidepreventspan-retinalphotocoagulation-inducedvisualdysfunctioninpatientswithseverediabeticretinopathyandgoodvision.Ophthalmology113:381-387,20065)NiwaY,KakinokiM,SawadaTetal:Ranibizumabandaflibercept:IntraocularpharmacokineticsandtheirefectsonAqueousVEGFlevelinvitrectomizedandnonvitrectomizedmacaqueeyes.InvestOphthalmolVisSci56:65016505,20156)AhnSJ,AhnJ,ParkSetal:Intraocularpharmacokineticsofranibizumabinvitrectomizedversusnonvitrectomizedeyes.InvestOphthalmolVisSci55:567-573,2014(110)