《第4回日本視野学会シンポジウム》あたらしい眼科33(9):1356?1361,2016cシンポジウム3:機能と構造のブレークスルー後部視路疾患の構造と機能三木淳司後藤克聡川崎医科大学眼科学1UpdatesofStructureandFunctioninDiseasesofPosteriorVisualPathwayAtsushiMikiandKatsutoshiGotoDepartmentofOphthalmology1,KawasakiMedicalSchoolはじめに視交叉よりも後方の視路病変は,機能障害として対側の同名性視野障害を引き起こす.後部視路疾患とは,ここでは外側膝状体よりも後方の視路疾患,すなわち,外側膝状体・視放線・視覚野の障害をきたす疾患として考える.同名半盲のなかでもとくに後頭葉や視放線障害によるものの頻度が高いことが報告されており1),後部視路疾患による視野障害を臨床的に診る機会は多い.I視野検査CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)の脳画像診断は同名性視野欠損の責任部位の同定にはきわめて重要であるが,これらの検査でも異常が見出せないこともあるので2),視野検査は依然として脳疾患の患者の評価に有用である.完全同名半盲では,視野所見のみからでは病変局在についての情報は得られないが,実際に多い不完全同名半盲では,視野欠損の形状の特徴からある程度の病変局在についての情報が得られる.ただし,古くからいわれてきた黄斑回避や同名性暗点,区画状(分節状,楔状)同名半盲,左右眼の視野の一致性・不一致性(調和性)などの視野所見は必ずしも障害部位に特異的でないことも最近のデータで示されている1).たとえば,左右一致性の同名半盲は後頭葉病変の特徴とされてきたが,後頭葉以外の病変でも左右一致性の同名半盲はみられ,とくに脳血管障害に伴う場合が多い3).したがって,視野のみから脳障害部位を同定することは容易であるとはいえない.II外側膝状体を越える網膜神経節細胞の経シナプス逆行性変性サルの一次視覚野(後頭葉)を除去すると,外側膝状体の神経細胞が失われ,その後,網膜神経節細胞(retinalganglioncell:RGC)の変性が起こる4).このRGC変性はサルの種によっても異なり,一次視覚野の障害された年齢や生存期間,評価した網膜の部位(中心か周辺か)にも依存する5~7).サルの種差については,Macaquemonkey(霊長目オナガザル科マカク属)ではRGCの経シナプス逆行性変性が示されているのに対して4,6~8),大人のGalagosenegalensis(霊長目ガラゴ科)9)やNewWorldmonkey(広鼻下目)5)では一次視覚野の障害後に外側膝状体にもRGCにも異常を認めなかったという報告がある.幼少期のサルのRGCの経シナプス逆行性は大人のサルに比べて強く,進行速度も速い5).また,RGC変性は生存期間に依存し,次第に強くなり5,6),一次視覚野障害部位の大きさにも影響されるようである6).さらに,外側膝状体の小細胞層に投射する中心窩近傍のRGCに選択的な障害がみられる10~12).逆に,外側膝状体の大細胞層に投射するRGCは比較的保たれている10).ヒトにおいて,後頭葉や視放線障害の患者では同側の外側膝状体の活動は低下している13).これは外側膝状体の軸索障害後の逆行性変性で説明ができる.しかし,ヒトにおいて後頭葉障害後にRGC変性が起こるかどうかはよくわかっていなかった.後頭葉障害において,同名半盲に加えて検眼鏡的変化(視野欠損に対応する視神経乳頭蒼白と網膜神経線維層の消失)を認めた場合には先天性後頭葉障害と診断できるとされている14).脳室周囲白質軟化症などの脳白質病変の患児では,視神経乳頭陥凹拡大や網膜神経線維層の菲薄化がみられることが知られており,これは視放線障害後のRGCの経シナプス変性によるものではないかと考えられている15,16).後天性の後部視路障害では,長期間経過した同名半盲症例でも,神経眼科専門医による視神経乳頭と網膜神経線維層の検眼鏡による観察においても異常は検出されないことが報告されている17).一方,46歳のときに後頭葉・側頭葉・頭頂葉の切除を受けた患者において,両眼の視神経乳頭が蒼白で,剖検において同側の視索が細かったという18).外側膝状体よりも後方の脳動静脈奇形に伴う経シナプス変性と思われる視神経萎縮が,実は外側膝状体や後部視索の障害によるシナプスを越えない逆行性RGC変性が原因であったという症例報告もある19).計画的に限局性の脳障害を作製できる動物モデルと異なり,自然発生のヒトの病態解析では,前部視路の障害が混入する可能性を排除することが困難である(ただし,動物モデルでも直接のRGC障害をできるだけ避けることが考慮されている6,7)).IIIOCT(光干渉断層計)検査同名半盲患者の構造の変化としては,視神経萎縮をきたすものときたさないものがあるとされてきたが,近年のOCT検査の精度の向上により,後者と考えられる症例でもごく軽度の視神経萎縮をきたしていることが少なくないことがわかってきた.視索障害や外側膝状体障害では,左右眼に非対称な視神経萎縮をきたすことが知られている20).RGCからの神経線維は,外側膝状体において中継細胞とシナプスを形成するため,外側膝状体よりも視中枢側の視路障害では一般的には網膜には異常は見られないことが予想される.しかし,外側膝状体よりも後方の病変による同名半盲患者の網膜厚をOCTを用いて調べてみると,視野欠損に一致した菲薄化がみられることも稀ではない(図1)21~23).この菲薄化は部分的視神経萎縮といえるが,通常の眼底検査において視神経乳頭の退色や網膜神経線維層欠損として検出するのは困難な程度であり(図1),これまで見逃されてきた可能性が高い.事実,直接の逆行性RGC障害をきたすはずの視索障害でも,検眼鏡での異常所見は,注意深く眼底を観察しないと見落としてしまう程度であり,経シナプス変性での変化はさらに検出がむずかしいことが容易に考えられる.初期の同名半盲におけるOCT論文は,視神経乳頭周囲の網膜神経線維層厚を調べたものであったが24~26),その後,spectral-domainOCT(SD-OCT)および患者と正常データベースとの比較をするソフトウェアの出現により,視野欠損によく対応する黄斑部網膜内層の菲薄化がとらえられるようになった(図1)27,28).OCTで計測された網膜内層は視野欠損に対応する菲薄化を示すが,この菲薄化は横断的なデータから,サルの障害実験後の経過と同様に進行することが予測される25).また,報告は少ないが,縦断的に経過を追った報告においても,やはりこの菲薄化は進行するようである(図1,2)25,29).ただ,このOCTにおける菲薄化はまだ報告されてから日が浅く超長期の縦断的な経過観察は行われていないため,網膜内層の菲薄化がプラトー(plateau)に達する時期はまだ明らかでない.これまでの同名半盲のOCT論文には,評価の高い論文においてもいくつか重大な疑問点がある30).まず,本当に前部視路に障害があるかどうかはまったくといっていいほど,考慮されていない.すなわち,視索や外側膝状体に一次的な障害がないことを示さないとRGCの経シナプス変性とはいえないわけだが,その点について触れている論文はほとんどない.また,対象としている症例の選択自体にも重大な疑義がある.Jindahraらの論文26)は先天性の同名四半盲も含んでいるが,先天性同名半盲に眼底の変化が出ることはこれまでも知られているのに,先天性と後天性の同名半盲に関してdiscussionでは混乱して議論されている.また,Jindahraらの論文25)にはなぜか外側膝状体障害(しかもこの部に限局した)症例も少なくとも複数例含まれているのに論文のタイトルには「後頭葉障害」とあり,これらの症例も後頭葉障害の症例と一緒に解析されている.このように,一流とされる医学雑誌に受理された論文のなかにも誤りはあることには注意すべきである.IV瞳孔検査同名半盲症例において,視野欠損部の局所刺激に対して対光反射が減弱する現象を半盲性瞳孔強直(pupillaryhemiakinesia)とよび,視索病変で典型的にみられるとされている.外側膝状体よりも後方病変では,このような対光反射障害はきたさないはずであるが,実際には対光反射障害をきたす場合もあり,これは先天性同名半盲や中脳の障害の合併の際にみられることになっている31).対光反射求心路は,視索後部において中脳へ向かって外側膝状体鳥距路から離れるため,対光反射の異常の有無からも病変の局在についての情報が得られることになる.しかし,対光反射求心路を含まないはずの外側膝状体よりも後方の視路病変においても,局所刺激に対する対光反射を実験的に測定すると,視野所見と一致した対光反射低下を認めることがある32,33).この異常所見は発症後比較的早期に認められることもあり34),この機序はいまだに解明されていない.通常のswingingflashlighttestにおいても,外側膝状体よりも後方の病変において,小さな相対的瞳孔求心路障害(relativeafferentpupillarydefect:RAPD)(0.3~0.9logunit程度)を脳病変の対側に認められるとする報告もある35).さらに,MRI画像解析からは視放線起始部の側頭葉白質が病変に含まれているときに,このRAPDは出現しやすいとされている36).半盲性視神経萎縮症例においても半盲性瞳孔強直を認めない症例報告もある一方37),逆にOCTにおいても網膜内層の菲薄化がないのに半盲性瞳孔強直が認められることもある38).このように,外側膝状体よりも後方病変における対光反射障害は,経シナプス変性に伴う視神経萎縮のみにより説明がつく所見ではなく,対光反射経路の精密な同定が解明の鍵を握っているように思われる.おわりに後部視路疾患の病変部位同定は,通常の脳画像診断のみでは意外にむずかしく,網膜のOCT検査・瞳孔検査・視野検査といった構造と機能の検査を合わせて総合的に行うとより精度が高くなると考えられる.OCT検査の精度の向上に伴い,脳疾患による網膜厚の変化の知見は今後さらに集積されることが予想される.文献1)ZhangX,KedarS,LynnMJetal:Homonymoushemianopias:clinical-anatomiccorrelationsin904cases.Neurology66:906-910,20062)BrazisPW,LeeAG,Graff-RadfordNetal:Homonymousvisualfielddefectsinpatientswithoutcorrespondingstructurallesionsonneuroimaging.JNeuroophthalmol20:92-96,20003)KedarS,ZhangX,LynnMJetal:Congruencyinhomonymoushemianopia.AmJOphthalmol143:772-780,20074)VanBurenJM:Trans-synapticretrogradedegenerationinthevisualsystemofprimates.JNeurolNeurosurgPsychiatry26:402-409,19635)WellerRE,KaasJH:Parametersaffectingthelossofganglioncellsoftheretinafollowingablationsofstriatecortexinprimates.VisNeurosci3:327-349,19896)CoweyA,StoerigP,WilliamsC:Va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た高信号がみられた.脳梗塞発症後1カ月では,SD-OCTによる神経節細胞複合体(GCC)および視神経乳頭周囲網膜神経線維層(cpRNFL)解析で明らかな異常はなかった.しかし,発症後2年でのGCC解析では,右眼は鼻側領域,左眼は耳側領域で選択的な菲薄化がみられ,視野の半盲側に一致していた.眼底写真では明らかな半盲性視神経萎縮はみられない.GCC解析は,検眼鏡的観察ではとらえられない軽度の網膜神経節細胞萎縮の検出に有用である.図2症例:左後頭葉梗塞による右同名半盲を伴う39歳の女性Humphrey中心30-2視野検査では,上方視野障害が優位な不完全右同名半盲がみられた.MRIのFLAIR画像では,左後大脳動脈閉塞による左後頭葉領域の高信号がみられた.SD-OCTによるcpRNFL解析では,脳梗塞発症後3カ月の初診時には明らかな菲薄化はなかった.しかし,発症後24カ月では,両眼ともに耳下側で菲薄化領域が出現し,緩徐な進行性の変化を示した.また,左眼の菲薄化は視野障害と一致する部位でみられた.1358あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(116)(117)あたらしい眼科Vol.32,No.9,201513591360あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(118)(119)あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151361