●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二9.抗VEGF薬硝子体内注射による上田高志東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学全身合併症抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)療法は,滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegenera-tion:AMD)に対して第一選択の治療として定着し,近年では他の疾患への適応が拡大している.一方,まれではあるが重大な全身合併症のリスクが議論されている.本稿では,抗VEGF療法による全身合併症のリスクについて,現時点での知見について概説する.滲出型加齢黄斑変性と抗VEGF療法2006年にラニビズマブのphaseIII治験結果が発表されて以降,ラニビズマブはAMDに対する治療において中心的な役割を担ってきた.現在ではラニビズマブに加えてアフリベルセプトも最も有効な第一選択の抗VEGF療法となっている.一方で,VEGFは正常血管を維持するための生理的に重要な因子でもあることから,全身的な血管にかかわる合併症リスクが議論されている.ラニビズマブ以前のペガプタニブ(VEGF-165特異的inhibitor)における治験では,全身血管リスクを考慮し,ハイリスク患者はあらかじめ治験から除外されていた.しかし,当初は少量の抗VEGF薬を眼内に局所投与することで全身に影響を生じうることには否定的な見解が多かったため,ラニビズマブの治験では全身血管リスクに関する除外基準が設けられなかった.ところが,2009年にラニビズマブ療法による全身性の血管リスクⅠaⅡaⅡbⅠbⅡcⅡd図1抗VEGF療法後の無症候性脳卒中Ia:治療前T2*画像.Ib:治療後に出現した新規の微小出血巣(矢印).IIa,b:治療前T1,T2強調画像.IIc,d:治療後に出現した新規の脳梗塞巣(矢印).(Ophthalmology118:2093.e3,2011より許可を得て転載)(59)あたらしい眼科Vol.31,No.10,201414810910-1810/14/\100/頁/JCOPYとして,脳卒中リスクが高まる可能性が指摘された1).この研究はラニビズマブの治験で最も重要であったFOCUS(phaseII),MARINA(phaseIII),ANCHOR(phaseIII)のメタ解析の結果で,0.3mgまたは0.5mgのラニビズマブによって治療された患者は,プラセボや光線力学的療法群の患者と比較して,脳卒中リスクが有意に増大していた.その後行われた多くのランダム化比較試験(randomizedcontrolledtrial:RCT)を含めた最新のメタ解析でも同様の結論が示されており,1回投与量や投与頻度に応じて脳卒中リスクが高まる可能性が確認された2).また,2012年にはBresslerらが,脳卒中ハイリスク患者においてはラニビズマブ療法によってリスクはさらに高まるというデータを報告している3).さらに最近のRCTでも,抗VEGF薬硝子体内注射によって血清VEGF値が低下することが確認されている4).一方で,AMDに対する抗VEGF療法による脳卒中リスクを含めた全身合併症については否定的な報告も存在している.有力な報告としては,Campbellらによる2012年の『BritishMedicalJournal』と『Ophthalmology』での報告があげられる.これらは市販後の後ろ向き観察研究であるが,想定できない交絡因子を調整することができないことや,投与頻度など治療の強度との関連性を議論できないという問題点が考えられる.最近,投与頻度を減らすことが可能なアフリベルセプトも使用できるようになった.アフリベルセプトとラニビズマブを比較したVIEWtrialsでは,2年間の総合的な結論では全身的血管リスクに差異がないとされた一方,interimanalysisまでの最初の1年間の結果では,アフリベルセプト治療群ではラニビズマブ治療群と比較して脳卒中リスクの上昇を指摘する声も存在した.網膜静脈閉塞症/糖尿病黄斑浮腫と抗VEGF療法近年,抗VEGF療法の適応は網膜静脈閉塞症や糖尿病黄斑浮腫に拡大している.これらの病態における米国での治験では,全身血管リスクの高い患者はあらかじめ除外されたうえで検証された点がAMDでの治験と異なっている.2年間毎月投与が行われたRCTでは死亡率の上昇傾向が認められたが5),低リスク患者をprorenata(PRN,asneeded)プロトコールで治療する場合には全身合併症のリスク上昇は認められないと考えられた5).考察抗VEGF療法と全身血管リスク,とくに脳卒中リスクに関しては今後も議論が続くものと考えられる.抗VEGF療法における主要なRCTのほとんどが製薬会社のサポートによって行われており,一般的にこのような研究では,さまざまなバイアスにより製薬会社に有利な結果となることが知られている6,7).眼科医としての日常診療では,全身血管リスクを考慮したうえで治療薬や治療頻度,用量を選択することが求められていると考えられる.文献1)UetaT,YanagiY,TamakiYetal:Cerebrovascularaccidentsinranibizumab.Ophthalmology116:362,20092)UetaT,NodaY,ToyamaTetal:Systemicvascularsafetyofranibizumabforage-relatedmaculardegeneration:systematicreviewandmeta-analysisofrandomizedtrials.Ophthalmology,inpress,20143)BresslerNM,BoyerDS,WilliamsDFetal:Cerebrovascularaccidentsinpatientstreatedforchoroidalneovascularizationwithranibizumabinrandomizedcontrolledtrials.Retina32:1821-1828,20124)IVANStudyInvestigators,ChakravarthyU,HardingSPetal:Ranibizumabversusbevacizumabtotreatneovascularage-relatedmaculardegeneration:one-yearfindingsfromtheIVANrandomizedtrial.Ophthalmology119:1399-1411,20125)YanagidaY,UetaT:Systemicsafetyofranibizumabfordiabeticmacularedema:meta-analysisofrandomizedtrials.Retina34:629-635,20146)BekelmanJE,LiY,GrossCP:Scopeandimpactoffinancialconflictsofinterestinbiomedicalresearch:asystematicreview.JAMA289:454-465,20037)LundhA,SismondoS,LexchinJetal:Industrysponsorshipandresearchoutcome.CochraneDatabaseSystRev12:MR000033,2012☆☆☆1482あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(60)