‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

硝子体手術のワンポイントアドバイス 148.網膜硝子体手術後の不可逆性散瞳(初級編)

2015年9月30日 水曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載148網膜硝子体手術後の不可逆性散瞳(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに内眼手術後の不可逆性散瞳としては,円錐角膜に対する全層角膜移植後に生じるものが多く,そのほかに層状角膜移植後,白内障手術後に生じるものも報告されているが,網膜硝子体手術後にも稀に生じることがある.筆者らは,以前に網膜硝子体手術後に不可逆性散瞳をきたした1例を経験し報告したことがある1).●症例症例は33歳,女性.左眼の上方.耳側中間周辺部に多発裂孔を認め,上耳側から黄斑部にかけて胞状の網膜.離をきたしていた(図1).術前散瞳前には瞳孔不同は認めなかった.33歳と若年であったため,水晶体を温存した硝子体手術(当時は20Gシステム)を施行した.眼内は肥厚した硝子体膜が網膜と面状に癒着していた.可能な限り周辺部に向かって人工的後部硝子体.離を作製したが,裂孔から周辺側の硝子体.離作製は困難であった.気圧伸展網膜復位術,眼内光凝固を施行した後,周辺部に経強膜冷凍凝固を追加した.ついで周辺部の残存硝子体の牽引を相殺する目的で,#240シリコーンバンドによる周辺部輪状締結術とガスタンポナーデを施行した.術後,網膜は復位したが,明所での瞳孔径が右眼3.0mmに対し,左眼は約5.5mmと散瞳状態を呈していた(図2).赤外線電子瞳孔計による対光反応解析では,左眼は右眼と比較し,光刺激による縮瞳量が非常に減弱していた(縮瞳量:右眼16.3mm2,左眼4.8mm2)(図3).●網膜硝子体手術後の不可逆性散瞳の原因網膜硝子体手術後に不可逆性散瞳をきたしたとする海外の報告をみると,多くが網膜.離例で,輪状締結術や広範囲のジアテルミー凝固が施行されていた.不可逆性散瞳の原因としては,球後麻酔,輪状締結術,眼内光凝固などがあげられているが,眼内光凝固により短後毛様(87)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY図1左眼の術前眼底写真左眼の上方.耳側中間周辺部に多発裂孔を認め,上耳側周辺部から黄斑部にかけて胞状の網膜.離を認めた.(文献1より引用)図2術後3カ月の前眼部写真明所での瞳孔径が右眼(a)3.0mmに対し,左眼(b)は約5.5mmと散瞳状態を呈していた.(文献1より引用)図3術後3カ月の赤外線電子瞳孔計による対光反応解析左眼(b)は右眼(a)と比較し,光刺激による反応量が非常に減弱していた.(文献1より引用)ab神経あるいは長後毛様神経を傷害したと推察しているものが多くみられる.自験例は多発裂孔であったため,眼内光凝固を通常の症例より多く施行した.また,若年であり水晶体を温存したため,眼内光凝固に加えて経強膜冷凍凝固を耳側周辺部を中心に広範囲に施行した.これらが原因となり短後毛様神経あるいは長後毛様神経を傷害し,不可逆性散瞳をきたした可能性が考えられる.網膜硝子体手術時には,過剰な眼内光凝固や経強膜冷凍凝固はできるだけ避けるべきと考えられる.文献1)佐藤陽平,奥英弘,家久耒啓吾ほか:網膜硝子体手術に不可逆性散瞳をきたした1例.眼科手術26:629-632,2013あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151315

眼科医のための先端医療 177.加齢黄斑変性に伴う網膜下線維性瘢痕

2015年9月30日 水曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第177回◆眼科医のための先端医療山下英俊SRFの発症メカニズム加齢黄斑変性に伴う網膜下線維性瘢痕石川桂二郎(九州大学眼科)はじめに滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対しては,抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)療法により,多くの症例で視力の維持や改善が可能となりました.一方で,抗VEGF療法が不成功に終わる症例も多く,その原因のひとつが中心窩に及ぶ網膜下の線維性瘢痕形成であることが報告されました1).また,抗VEGF療法開始後2年間で,1,059眼中480眼(45.3%)で網膜下線維化(subretinalfibrosis:SRF)の出現を認めたというコホート研究の結果も報告されました2).SRFは,局所の視細胞,網膜色素上皮細胞(retinalpigmentepithelium:RPE)を傷害し,その部位が中心窩に及ぶと不可逆性の視力障害をもたらします.脈絡膜血管新生(choroidalneovascularization:CNV)の発症早期に抗VEGF療法を導入すると,SRFの出現頻度が抑えられるという報告はありますが,線維化の進行を抑制する治療法は,現在のところありません.本稿では,これまでにわかっているAMDに伴うSRFの発症メカニズムや疾患モデル,治療法開発の可能性について検討します.AMDに伴うSRFは,肺,肝臓,腎臓など他の臓器の線維化と類似したメカニズムを有していることが知られています.線維化とは,組織傷害後に起こる結合組織の異常増殖と定義されています.一般に,組織が傷害されると,創傷治癒反応により,上皮細胞からメディエーターが放出され,上皮細胞自身や炎症細胞が局所に集簇します.それらの細胞は,上皮間葉転換という過程を経て線維芽細胞へ変化し,増殖,遊走,接着,細胞外マトリクスを産生することで傷害部位を結合組織で被覆し,正常組織に置き換えることで,組織修復の手助けをすることが知られています.ところが,繰り返し起きる組織障害や,慢性炎症により,結合組織が残存すると線維性瘢痕を形成します.AMDに伴うSRFの構成成分は,コラーゲンtypeI,IVやフィブロネクチンなどの細胞外マトリクス成分と,RPEやマクロファージ,筋線維芽細胞などの細胞成分であることが,これまでの組織学的検討でわかっています3).また,SRF形成過程においては,サイトカインや成長因子などのさまざまな液性因子の関与が知られており,これらは細胞の上皮間葉転換,増殖,遊走,細胞外マトリクスの産生などの創傷治癒反応を誘導することが報告されています(表1)4).これまでの報告から予想される,CNVに続発するSRFの発症メカニズムをお示しします.CNVによる出血や血漿成分の漏出により慢性的に傷害されたRPEや,新生血管により誘導された浸潤マクロファージは,さまざまな液性因子を産生します.これらの細胞は液性因子による刺激を受け,創傷治癒反応を誘導しますが,この反応が慢性化し,繰り返さ表1網膜下線維化に関わる液性因子液性因子産生細胞役割TGF-bRPE,マクロファージ,線維芽細胞細胞接着,遊走,細胞外マトリクス産生PDGFRPE,マクロファージ,線維芽細胞細胞増殖,遊走,細胞外マトリクス産生FGFRPE,マクロファージ細胞増殖,遊走EGFマクロファージ細胞増殖,遊走TNF-aマクロファージ細胞接着,遊走CTGFRPE,線維芽細胞細胞遊走,細胞外マトリクス産生TGF-b:transforminggrowthfactor-b,PDGF:plateletderivedgrowthfactor,FGF:fibroblastgrowthfactor,EGF:epidermalgrowthfactor,TNF-a:tumornecrosisfactor-a,CTGF:connectivetissuegrowthfactor.(83)あたらしい眼科Vol.32,No.9,201513110910-1810/15/\100/頁/JCOPY aレーザー照射後れることで,網膜下にコラーゲンなどの結合組織が残存7日目35日目し,線維性瘢痕組織が形成されることになります.網膜下線維組織脈絡膜新生血管SRFの疾患モデルとしてのレーザー誘導性CNVマウスモデルAMDの治療法に変革をもたらした抗VEGF療法の臨床応用は,基礎研究により得られた知見の集大成であることは疑う余地がないと思います.このなかで重要な役割を果たしたのが,レーザー誘導性CNVマウスモデルです.マウスの眼底にレーザーを照射することによりCNVが誘導されるモデルで,簡便で再現性が高いため,CNV研究に広く用いられ,抗VEGF薬の薬効薬理作用についてなど多くの重要な知見をもたらしました.現状で治療法がないSRFに対する有効な治療法を開発するためには,まずSRFの動物モデルを確立することが重要であると考えられます.レーザー誘導性CNVマウスモデルでは,レーザー照射後7~14日目でCNVが最大となるため,この時点での検討がCNV研究において行われてきました.筆者らは,レーザー照射後21日目,35日目のCNV,SRFの変化を検討しました.CNVはレーザー照射後21日目には退縮が始まっており,35日目にはほぼ消失しました.一方で,SRFは,レーザー照射後21日目,35日目で増大することを観察しました(図1A)4).また,レーザー照射後35日目の網膜切片を用いた組織学的検bレーザー照射後35日目核染色網膜下線維組織ヒト網膜下線維組織のOCT像図1レーザー誘導性CNVマウスモデルにおける網膜下線維化a:レーザー照射後7日目と35日目のマウス脈絡膜フラッ討では,コラーゲンtypeⅠ陽性の線維組織を網膜下に認め,この所見は,AMD患者のSRFのOCT所見と類似していました(図1B,C)4).以上より,レーザー誘導性CNVマウスモデルにおいて,レーザー照射後21~35日の間は,CNVが退縮し,SRFの形成が増大するため,この時点での検討が,SRF形成の分子メカニズムの研究,および治療法開発に有用である可能性が示唆されました.SRFに対する治療の可能性AMDの新たな治療薬の候補として現在,米国で第Ⅲトマウント.緑の染色は脈絡膜新生血管,赤の染色は網膜下線維組織を表す.スケールバー:100μm.b:レーザー照射後35日目の組織切片.白点線で囲まれた赤の染色は網膜下線維組織を表す.細胞核は青く染色.スケールバー:50μm.c:網膜下線維を伴うAMD患者のOCT像.(文献3から許可を得て転載,改変)1312あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015相臨床試験を行っているフォビスタは,血小板由来因子(plateletderivedgrowthfactor:PDGF)を抑制する薬剤です.この抗PDGF製剤は,抗VEGF製剤と組み合わせることで,より強力な血管新生抑制効果が期待されています.また,PDGFは表1に示したとおり,SRFの形成にも重要な因子として知られているため,抗(84) PDGF製剤と抗VEGF製剤の併用により,CNVのみならずSRF形成に対する抑制効果も期待されています.SRF形成のメカニズムについては,未だに不明な点も多いため,有用な疾患モデルを用いた基礎研究の発展が重要です.筆者らは,遺伝子改変マウスを用いたレーザー誘導性CNVマウスモデルのSRF形成を検討することで,新たな分子標的の探索を行っています.今後の研究により網膜下線維性瘢痕の新規治療法が開発され,より多くのAMD患者の視機能の改善や維持が可能となることが切望されます.文献1)CohenSY,OubrahamH,UzzanJetal:Causesofunsuccessfulranibizumabtreatmentinexudativeage-relatedmaculardegenerationinclinicalsettings.Retina32:14801485,20122)DanielE,TothCA,GrunwaldJEetal:Riskofscarinthecomparisonofage-relatedmaculardegenerationtreatmentstrials.Ophthalmology121:656-666,20143)GrossniklausHE,HutchinsonAK,CaponeAetal:Clinicopathologicfeaturesofsurgicallyexcisedchoroidalneovascularmembranes.Ophthalmology101:1099-1111,19944)IshikawaK,KannanR,HintonDR:Molecularmechanismsofsubretinalfibrosisinage-relatedmaculardegeneration.ExpEyeRes,inpress,2015■「加齢黄斑変性に伴う網膜下線維性瘢痕」を読んで■今回は石川桂二郎先生(九州大学眼科)により,加いるとのことですので,結果が良好であれば,AMD齢黄斑変性(AMD)の長期的な視力予後を臨床的に深の網膜下線維性瘢痕形成にPDGFは主たる役割を果く考察し,その問題点をきちんと把握したうえで対策たしていることになります.このような臨床現場におを考えるという,臨床医学のもっとも大切で役立つ戦いて治療にまで発展する基礎および臨床研究は,体系略をお示しいただきました.すなわち,AMDに対す的に行う必要があります.国もその重要性をきちんとる抗VEGF療法が不成功に終わる症例の原因の一つ理解して,国立研究開発法人日本医療研究開発機構が,中心窩に及ぶ網膜下の線維性瘢痕形成とのことで(JapanAgencyforMedicalResearchandDevelopす.これを動物モデルで研究し,分子標的として血小ment:AMED)を創設しました.文科省,厚労省,板由来因子(plateletderivedgrowthfactor:PDGF)経産省に分かれていたバイオ,医療関係の予算を統合にたどりついて,治療法を確立したことがわかりやすして運用し,きちんと患者治療に役立つ治療法の確立く解説されています.ヒトの病態はきわめて複雑であに資する目的で創設されたのです.この機構の基本理り,AMDもVEGFのみで,あの臨床的に多様で複念は,国立がん研究センター理事長に就任された嘉山雑な病理像が完成するはずはありません.このような孝正先生が中心となったプロジェクトから生まれ,実複雑に絡みあった病態をほぐしていくためには,臨床際の国の機関として完成したと聞いています.的に詳細な観察をして,情報を蓄積すること,その情AMEDは日本版NIHともいわれますが,基礎医学研報に照らして動物モデルのどれが病態研究に適してい究のレベルで世界のトップグループに位置する日本るかを確認すること,そして,このモデル病態を利用が,創薬の実績では世界第3位に甘んじていることをして分子標的を割り出し,その治療法を確立するこ打開することを目的としたものです.日本の底力をもと,これを臨床応用してヒトの実際の病態に治療効果ってすれば,必ず目的を達成できると考えています.があるかどうかを確認することが重要です.最後の臨そのためには,石川先生のような優秀なphysician床的な効果と安全性が確認されて,初めて治療薬開発scientistを多く育成することが必要であると,今回のと病態解明のめどがつくことになります.総説を読みながら考えました.石川先生の総説では,PDGFをターゲットにした治山形大学眼科山下英俊療薬が開発され,米国で第III相臨床試験が行われて☆☆☆(85)あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151313

眼瞼・結膜:マイボーム線機能不全のマイボグラフィー

2015年9月30日 水曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人有田玲子8.マイボーム腺機能不全のマイボグラフィー伊藤医院,東京大学マイボーム腺は眼瞼に存在する皮脂腺で,涙液の油層を形成し,涙液の蒸発を防いでいる.上下眼瞼に約20~30本ずつある.非侵襲的マイボグラフィーを用いると,マイボーム腺機能不全においてさまざまな形態変化が観察される.患者の自覚症状,細隙灯顕微鏡による眼瞼縁所見と合わせて,マイボーム腺機能不全の診断に有用である.●マイボーム腺機能不全とはマイボーム腺は眼瞼に存在する皮脂腺で,涙液の油層を形成し,過剰な涙液の蒸発を防ぐ役割をしている.上下眼瞼に約20~30本ずつある1).2010年にMGDワーキンググループによって,マイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD)は以下のように定義された.「さまざまな原因によってマイボーム腺の機能が瀰漫性に異常をきたした状態であり,慢性の眼不快感を伴う」2).●従来のマイボグラフィー従来のマイボグラフィーは,マイボーム腺を皮膚側から透過することにより,マイボーム腺構造を観察する方法である3).細隙灯顕微鏡では十分に観察できないマイボーム腺の形態変化を観察できる有用な検査である.しかし,皮膚側からの透過光を利用するため光源プローブが必須で,その光源プローブが患者眼瞼に直接当たり,疼痛や羞明,灼熱感などを引き起こし,侵襲的な検査だった.さらに,光源プローブの先端が細く,照射範囲が狭いため,上下すべてのマイボーム腺を観察することは困難だった.これらの理由から一般外来で普及することはなかった.●非侵襲的マイボグラフィー非侵襲的マイボグラフィーは,赤外光を利用してマイボーム腺脂の反射光を観察する方法である.眼瞼結膜側から赤外光を当てるため侵襲的な光源プローブが不必要で,非侵襲的に上下眼瞼のマイボーム腺を観察できることが最大の利点である.非侵襲的マイボグラフィーはさまざまocularsurface疾患のマイボーム腺形態の観察を明らかにし,国際的にも広く普及しはじめた検査方法で(81)ある.現在,日本では3種類の非侵襲的マイボグラフィーが購入可能であり,それぞれの特徴がある.細隙灯顕微鏡付属型マイボグラフィー4)(DC4,トプコン社,図1a)は,細隙灯顕微鏡に付属しているため,眼瞼縁所見,フルオレセイン染色後の角結膜上皮障害所見や涙液層破壊時間(tearfilmbreak-uptime:BUT)との関連を含めabcde図1非侵襲的マイボグラフィーa:細隙灯顕微鏡付属型.b:持ち運び式.c:ケラトグラフ付属型.d,e:正常眼のマイボグラフィーによるマイボーム腺.写真の白い部分がマイボーム腺.あたらしい眼科Vol.32,No.9,201513090910-1810/15/\100/頁/JCOPY aababcdcd図2閉塞性MGD(67歳,女性,左眼)眼不快感,眼異物感が強い.眼瞼縁の不整,血管拡張所見(a).BUT2秒,角結膜上皮障害なし(c).マイボーム腺の短縮,脱落,屈曲を認める(b,d).て診察が可能であり,倍率が変更できる.持ち運び可能なモバイルペン型マイボグラフィー5)(マイボペン,JFC社,図1b)は,顎台に顔を載せられない乳幼児のマイボーム腺観察や往診などに有用である6).ケラトグラフ付属型(Keratograph5M,Oculus社,中央産業貿易,図1c)マイボグラフィーは角膜形状や涙液メニスカスの測定も可能である.これら非侵襲的マイボグラフィーを用いれば,上下眼瞼すべてのマイボーム腺を1分以内に観察できる(図1d,e).●マイボーム腺機能不全のマイボーム腺閉塞性MGDでは,脱落,短縮,屈曲,拡張などさまざまなマイボーム腺の形態変化を観察できる(図2,3).有田らはROC曲線(receiveroperatingcharacteristiccurve)を用いて,自覚症状,眼瞼縁異常所見,BUT,角膜上皮障害,マイボーム腺脂,マイボグラフィー所見,Schirmer値の7項目中,MGDを診断するもっとも有用な3所見として,自覚症状,細隙灯顕微鏡による眼瞼縁所見,マイボグラフィーによるマイボーム腺脱落所見であることを示した7).また,これら3所見による閉塞性MGDの診断は感度,特異度ともに良好であった7).典型的な脂漏性MGDではマイボーム腺の形態には脱落や短縮などの変化がなく,拡張所見が多かった8).し図3閉塞性MGD(78歳,男性,左眼)眼違和感,粘着感,灼熱感が強い.マイボーム腺開口部のplugging,ridge(a).BUT5秒,角結膜上皮障害なし(c).上下とも高度にマイボーム腺が萎縮している(b,d).かし,マイボーム腺からの脂は過剰に分泌されているが,マイボグラフィーでマイボーム腺の形態を観察すると,閉塞性MGDのような脱落,短縮所見が観察される症例もあるため,分類には注意を要する.文献1)SnellRS,LempMA:Clinicalanatomyoftheeye.p84,BlackwellScientificPublications,Boston,19892)天野史郎,有田玲子,MGDワーキンググループ:マイボーム腺機能不全の定義と診断基準.あたらしい眼科27:627631,20103)TapieR:Etudebiomicroscopiquedemeibomius.AnnOculistique210:637-648,19774)AritaR,ItohK,InoueKetal:Noncontactinfraredmeibographytodocumentage-relatedchangesofthemeibomianglandsinanormalpopulation.Ophthalmology115:911-915,20085)AritaR,ItohK,MaedaSetal:Anewlydevelopednoninvasiveandmobilepen-shapedmeibographysystem.Cornea32:242-247,20136)ShirakawaR,AritaR,AmanoS:MeibomianglandmorphologyinJapaneseinfants,children,andadultsobservedusingamobilepen-shapedinfraredmeibographydevice.AmJOphthalmol155:1099-1103,20137)AritaR,ItohK,MaedaSetal:Proposeddiagnosticcriteriaforobstructivemeibomianglanddysfunction.Ophthalmology116:2058-2063,20098)AritaR,ItohK,MaedaSetal:Proposeddiagnosticcriteriaforseborrheicmeibomianglanddysfunction.Cornea29:980-984,20101310あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(82)

抗VEGF治療:網膜中心静脈閉塞症に対する抗VEGF治療-認可薬による治療戦略

2015年9月30日 水曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二20.網膜中心静脈閉塞症に対する抗VEGF治療古川真理子総合上飯田第一病院眼科─認可薬による治療戦略網膜中心静脈閉塞症(CRVO)に伴う黄斑浮腫に対する抗VEGF治療は,非虚血型の半数で視力改善や黄斑浮腫の改善が期待できる.一方,視力改善がなく浮腫再燃を繰り返す症例は,他の治療への検討も必要である.また,無灌流域が広範囲な虚血型では,抗VEGF治療にかかわらず,眼内新生血管予防目的の網膜光凝固が必要である.はじめに抗VEGF治療は,その有効性が臨床試験において証明され,現在では加齢黄斑変性,近視性脈絡膜新生血管の中心的治療となっている.網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO)についても大規模臨床試験1~4)が行われ,ラニビズマブ,ついでアフリベルセプトが国内で順次承認されるや,治療の第一選択として使用されつつある.しかし,国内での使用経験はまだ日が浅く,投与開始時期や再投与のタイミングに迷うことがある.そこで今回は,CRVOにおける効果的な抗VEGF薬の使用方法を報告する.投与開始時期視力0.9以上であれば,自然寛解の可能性があるため経過観察とする.視力良好症例でも急激に視力低下を生じることがあり,この場合,黄斑浮腫の増悪が視力低下に先行する.視力良好例でも必ず光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)による黄斑の確認を行い,黄斑浮腫の増悪があれば,自然寛解の可能性は低くなるため治療を検討する.また,臨床試験では視力0.5以下の症例を対象としていたが,治療開始時の視力が最終視力に影響する3,4)ことから,最近では0.7以下であれば治療を開始することが多い.投与後経過ラニビズマブによる4年間の長期経過報告2)では,投与後6カ月以上で浮腫が再発しなかった群(浮腫消失群)とそうでなかった群(非消失群)に分けて,視力経過や投与回数などを観察している.浮腫消失群は1年目以降の投与回数は半年に1回未満,4年後には投与0となり,(79)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY視力(ETDRS文字数視力を小数視力に換算.以下,視力)は,治療前0.19が,4年後0.58に改善した.一方,非消失群は治療開始から4年経過しても半年に3回の投与が必要で,治療前視力0.2は4年後0.27までにしか改善しなかった.このことからCRVOに対する抗VEGF治療の反応は,治療効果が期待できる症例と治療効果が低い症例に分かれるといえる.臨床試験では治療開始から決められた期間は毎月投与abc図1抗VEGF治療が有効であったCRVO症例74歳,女性.投与後黄斑浮腫が再燃したが,再投与間隔は1.5カ月,2カ月,4カ月と徐々に延び,4回投与で浮腫は寛解した.再発時の網膜厚も軽減傾向であった.a:治療前のOCT.視力0.4.b:3回目投与前のOCT.視力0.8.c:最終投与後半年のOCT.視力0.8.あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151307 abcabc図2抗VEGF治療が無効なCRVO症例78歳,女性.黄斑浮腫は投与後約2週間で消失するも,1~2カ月で浮腫の再燃が生じた.黄斑浮腫の寛解と再燃を繰り返し,2年半の間に16回もの投与を行ったが,浮腫は消失しなかった.a:治療前のOCT.視力0.3.b:投与後2週のOCT.視力0.3.c:最終投与後1.5カ月のOCT.視力0.3.する固定投与を行っているが,国内では固定投与を行うことは少なく,初回投与後は浮腫の状態をみながら再投与(prorenata:PRN,必要時投与)にて治療を継続することが多い.再投与するうちに浮腫再発までの期間が長くなる症例や,黄斑浮腫の再発があっても視力に改善がみられる症例は治療効果が期待できる(図1).一方で,投与しても1~2カ月以内に浮腫の再発を繰り返す症例や,何回投与を行っても視力が改善しない症例は,すでに視細胞が相応に障害されている可能性があり,投与回数が増える割に視機能は改善しない(図2).投与回数が増加すれば,眼内炎,網膜裂孔.離などの眼合併症リスクが高まるうえに,患者の経済的負担は大きくなる.患者から投与の継続希望がなければ,硝子体手術やステロイドのTenon.下投与など他の治療への変更を検討する.なお,抗VEGF治療を行っても浮腫に改善がみられない症例は,黄斑上膜や肥厚した後部硝子体膜が影響していることがあり,硝子体手術が効果的である.硝子体手術は治療後の改善は緩やかであるが5),1回の治療ですむため医療経済的に抗VEGF治療よりも負担が少ない.虚血型CRVOへの対応約8割のCRVOは非虚血型であるが,約3年で2~3割が虚血型に移行する6).抗VEGF治療を行っても,非虚血型から虚血型への移行は予防できない.また,虚血型に対する抗VEGF治療は,眼内新生血管の発症を遅らせるだけで,発症そのものは予防できない.抗VEGF薬を投与すれば黄斑浮腫が軽減するため,改善したようにみえるが,網膜周辺部の虚血領域が予想外に拡大していることがある.そのため,できるだけ蛍光造影検査を行い,虚血領域が広範囲に及んでいれば,眼内新生血管発症予防目的とした網膜光凝固治療が必要である.また,抗VEGF治療を中止した後に,新生血管が一気に生じる可能性があるので注意が必要である.文献1)CampochiaroPA,BrownDM,AwhCCetal:Sustainedbenefitsfromranibizumabformacularedemafollowingcentralretinalveinocclusion:Twelve-monthoutcomesofaphase3study.Ophthalmology118:2041-2049,20112)CampochiaroPA,SophieR,PearlmanJetal:Long-termoutcomesinpatientswithretinalveinocclusiontreatedwithranibizumab:theRETAINstudy.Ophthalmology121:209-219,20143)HeierJS,ClarkWL,BoyerDetal:Intravitrealafliberceptinjectionformacularedemaduetocentralretinalveinocclusion.Two-yearresultsfromtheCOPERNICUSstudy.Ophthalmology121:1414-1420,20144)OguraY,RoiderJ,KorobelnikJFetal:Intravitrealafliberceptformacularedemasecondarytocentralretinalveinocclusion:18-monthresultsofthephase3GALILEOstudy.AmJOphthalmol158:1032-1038,20145)FurukawaM,KumagaiK,OginoN:Long-termvisualoutcomesofvitrectomyforcystoidmacularedemaduetononischemiccentralveinocclusion.EuropeanJOphthalmol16:841-846,20066)CentralVeinOcclusionStudyGroup:Naturalhistoryandclinicalmanagementofcentralveinocclusion.ArchOphthalmol115:486-491,19971308あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(80)

緑内障:ステロイド外用薬の長期使用による続発緑内障

2015年9月30日 水曜日

●連載183緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也183.ステロイド外用薬の長期使用西野和明医療法人白水会栗原眼科病院(羽生)による続発緑内障ステロイド外用薬が原因と考えられる続発緑内障に関しては,発症機序が明確ではないという状況から,その因果関係には賛否両論がある1~4).しかしながら眼科臨床においては,ステロイド外用薬が続発緑内障のもっとも高い可能性要因と考えられる症例がみられることから,その因果関係を常に念頭に置く必要がある.●ステロイド外用薬の長期使用により発症した後期緑内障:自験例筆者らは,他院他科にて原因不明の全身掻痒感のため,顔面を含む全身にステロイド薬を長期使用されていた20代男性患者が,視力低下や飛蚊症を主訴として当院を初診し,両眼ともに後期緑内障が発見された症例を経験した.患者は初診の1年前からから原因不明の全身掻痒感のため近医に通院中,顔面を含む全身にステロイド外用薬を当院初診まで継続使用していた.ステロイド薬は強度Ⅳ群(medium)を顔面に,強度II群(verystrong)が体幹に使用されていた.初診時所見:視力検査では,右眼0.02(0.9×.8.25D(cyl.1.0DAx180°),左眼0.02(0.6×.7.75D(cyl.1.0DAx10°)であった.Goldmann圧平眼圧計による眼圧測定では,右眼38mmHg,左眼35mmHgと高値であったが,角膜浮腫や自覚的な違和感や頭痛,眼痛などはみられなかった.隅角検査では両眼ともにShafferGrade3~4,ScheieGrade0と開放隅角であった.外ab図1初診時眼底写真a:右眼.垂直C/Dは0.9弱で,篩板孔を透見しうる.DM/DDは2.7.b:左眼.垂直C/Dは0.9強で,篩板孔を透見しうる.DM/DDは2.7.傷などに伴う隅角後退,発達緑内障にみられるような虹彩付着部位の異常などは認められなかった.眼底検査による視神経乳頭所見は,右眼の垂直C/D比は0.9弱で,篩板孔を透見でき(図1a),DM/DD比は2.7と正常範囲内であった(正常値2.4~3.0).左眼の垂直C/Dは0.9強で,篩板孔を透見し,DM/DD比は2.7であった(図1b).その他の眼底異常はみられなかった.角膜内皮細胞密度は右眼3,016cells/mm2,左眼3,230cells/mm2,また中心角膜厚は右眼503μm,左眼495μmであった.眼軸長は右眼28.32mm,左眼28.12mmと近視性の長眼軸であった.視野検査(Humphrey302)では,右眼のMDは.24.38dB(図2b),左眼はMD.24.82dBと進行した後期の緑内障であった(図2a).OCT検査では両眼とも視神経乳頭の耳上側,耳下側の網膜神経線維層厚が減少している所見が認められた(図3).経過:初診日からただちにステロイド外用薬の休薬,初日から1週間はビマトプロスト,2週目はカルテオロール塩酸塩のそれぞれの点眼液を両眼に投薬した.治療4週後に眼圧は右眼12mmHg,左眼11mmHgと正常化し,16週を経過した現在も同様に安定している(図4).ab図2視野検査(Humphrey30-2)a:左眼MD.24.82dB.b:右眼MD.24.38dB.(77)あたらしい眼科Vol.32,No.9,201513050910-1810/15/\100/頁/JCOPY 図3OCT検査両眼とも視神経乳頭の耳上側,耳下側の網膜神経線維層厚が減少している所見が認められた.本症がステロイド緑内障の可能性が高いとした理由をあげる.ステロイド外用薬の中止,緑内障点眼薬の使用により眼圧が正常化したこと,既往歴・家族歴に緑内障を含む背景要因がないこと,ステロイドレスポンダーには開放隅角緑内障,強度近視,糖尿病,高齢者あるいは小児などに多いといわれているが,本症も強度近視,比較的若年者であったということ,狭義の原発開放隅角緑内障では本症のような40mmHg近い眼圧になることは珍しいこと,また「昨年から突然まぶしさを感じることがあった」というエピソードは,高眼圧による比較的急速な視野の悪化と考えることができることなどである.これらの理由から,本症はステロイド外用薬による続発緑内障と考えられた.もちろん,本患者はもともと開放隅角緑内障の素因をもっていたか,あるいは軽度の緑内障をすでに発症していたことも否定はできない.しかしながら,仮にそうであったとしても,ステロイド外用薬の長期投与が病状を悪化させたのではないかとする推論は可能である.したがって,本症の初診以前の眼科的状態の詳細は不明であるものの,包括的にステロイド緑内障と診断して問題ないと考えた.●まとめステロイド外用薬を使用することにより発症する続発眼圧(mmHg)顔面のステロイド外用薬の中止403530252015ビマトプロストカルテオロール塩酸塩右眼左眼10500481216経過観察期間(週)図4経過観察期間の眼圧の推移初診日からステロイド外用薬を中止.当日からビマトプロスト点眼薬を使用.翌週からはカルテオロール塩酸塩の点眼薬を追加.2週目には眼圧は正常化した.の緑内障などに関しては,古くから因果関係が指摘され,注意喚起をうながす論文が散見される1,2).一方,ステロイド外用薬の使用は緑内障の発症とはあまり関係がないとする報告もみられる3,4).しかしながら,局所のステロイド外用薬は全身ステロイド薬より副作用が多いとされ,そのなかでも眼圧上昇は強めのステロイドであれば数週間,弱めのステロイドであれば数カ月で発症する5)ことがあるとされている.ステロイドの吸収比率は身体の部位によって異なるため,とりわけステロイド外用薬の眼瞼周囲への使用に際しては,緑内障発症の危険性を常に念頭に置く必要がある.文献1)MormanMR:Possiblesideeffectsoftopicalsteroids.AmFamPhysician23:171-174,19812)HenggeUR,RuzickaT,SchwartzRAetal:Adverseeffectsoftopicalglucocorticosteroids.JAmAcadDermatol54:1-15,20063)HaeckIM,RouwenTJ,Timmer-deMikLetal:Topicalcorticosteroidsinatopicdermatitisandtheriskofglaucomaandcataracts.JAmAcadDermatol64:275-281,20114)MarcusMW,MueskensRP,RamdasWDetal:Corticosteroidsandopen-angleglaucomaintheelderly:apopulation-basedcohortstudy.DrugsAging29:963-970,20125)KerseyJP,BroadwayDC:Corticosteroid-inducedglaucoma:areviewoftheliterature.Eye20:407-416,20061306あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(78)

屈折矯正手術:ICLのサイズ選択

2015年9月30日 水曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載184大橋裕一坪田一男184.ICLのサイズ選択五十嵐章史北里大学医学部眼科学教室ICLは現在もっとも安全で有効な屈折矯正手術のひとつであるが,そのレンズサイズの決定に際しては種々の前眼部解析装置の特性を理解する必要がある.近年認可されたHoleICLは房水循環が改善されているため,従来レンズと比べ,適正なサイズに対する考え方が異なる可能性がある.●はじめに後房型有水晶体眼内レンズの代表であるICL(ImplantableCollamerLens,STAAR社)は,安全性が高く有効で長期的に屈折も安定している1)ため,世界的に手術件数が増加している屈折矯正手術のひとつである.一方で,合併症として眼圧上昇やトーリックレンズの回転,白内障があげられ,その原因の多くはレンズサイズの不一致によるものとされている.今回はICLのサイズ選択において重要なWTW(whitetowhite)の計測に必要な各計測機器の特徴や,適切なレンズサイズについて解説する.●ICLV4以前の旧モデルにおけるレンズサイズと合併症ICLは現在までに数回のバージョンアップを行っており,より安全性の高いレンズへ改良されてきている.とりわけ2014年に国内で承認されたHoleICL(ICLKS-AquaPORT,STAAR社)は,レンズ中央に0.36mmの貫通孔を有すことで虹彩切除なく健常眼に近い眼内の房水循環が可能となり,飛躍的に合併症が減少した.それに伴い,従来のICL(V4以前のモデル)における適切なレンズサイズとやや概念が異なってきている.そこで,本稿では従来レンズとHoleICLの適切なレンズ選択を分けて解説する.ICLは通常,ICLと水晶体とのスペースをvaultと表現し,細隙灯顕微鏡にて角膜厚と比較してそのvaultを評価する.従来レンズでは0.5~1.5CT(cornealthickness)を適切なvaultとし,0.5CT未満をlowvault,1.5CT以上をhighvaultと表現していた.術後過度にhighvaultとなる例(レンズサイズが大きすぎる例)では,ICLが虹彩を前方へ押し出すため,眼圧上昇2)や調節障害を伴うリスクがあるとされ,逆にlowvault(レンズサイズが小さすぎる例)では,ICLと水晶体のスペースが狭いことから水晶体前面の房水循環不全が生(75)じ,白内障をきたすリスクが高くなるとされていた.Schmidingerらは,水晶体の前.下混濁が生じた例では,生じていない例に比べ有意にvaultが小さかったと報告している3).また,ICLには乱視矯正を行うトーリックICLも存在するが,このレンズは眼内での固定位置が決まっている.Kamiyaらは,トーリックICLは術後3年で8%にレンズ回転のため乱視矯正効果の減弱が生じたと報告している4).レンズの回転の原因として術直後の眼内粘弾性物質の影響や外傷があげられるが,レンズサイズが小さいと当然回転は起こりやすくなる.●各計測機器別のWTW計測値と再現性ICLサイズはSTAAR社より提供される専用のカリキュレーターによって決定され,影響するのは角膜横径のWTWと前房深度である.とくにWTWは重要で,種々の前眼部解析装置を用いた自動測定法やCaliperを用いたマニュアル測定法がある.基本的にはその施設で用いている測定機器を使用することでよいと考えるが,ICLのカリキュレーターは元々OrbscanのWTW値よりレンズサイズを決定するよう作製されているため,種々の機器の測定値の傾向を理解しておかなければならない.図1,2に健常ボランティア10名20眼に対して,検者2名にて各計測器を用いて計測したWYWの平均値,再現性を示す.計測器は前眼部解析装置としてOrbscan-2(Bausch&Lomb社),PentacamHR(Oculus社),TMS-4(Tomey社),IOLMaster700(CarlZeiss社)を,マニュアル計測器としてCaliper(カストロビエホ型カリパー2810,HANDAYA)を使用した.Orbscan-2のWTW値を元に他の機器を比較すると,TMS-4は約0.3mm,IOLmaster700は約0.6mmほど有意に長く計測される傾向にあることがわかった.また,図2より,自動計測となる前眼部解析装置では2人の検者間の再現性は高いのに対し,マニュアル測定となるCaliperでは再現性が低いことがわかった.Caliperあたらしい眼科Vol.32,No.9,201513030910-1810/15/\100/頁/JCOPY はICLに熟練した検者とそうでない検者で大きく測定差があることが反映された結果であるが,元々1mm刻みであり,角膜輪部のグレーゾーンの外側を確実に捉えることができるかが測定値に大きく影響する.しかし,熟練した検者ではOrbscanの測定値と近くなる傾向があり,角膜輪部の老人環などによりグレーゾーンが大きい症例や,自動計測で11.8mmといったレンズサイズ決定に迷う例では,最終的なサイズ確認を行ううえで有効なときがある.●HoleICLにおけるレンズサイズと合併症近年,HoleICLの登場により術後合併症は減少し,術後管理においてもこれまでの考えを変える必要があ(mm)13.0p<0.00112.812.6p=0.0112.312.412.012.211.712.011.711.611.811.611.411.211.0Orbscan-2PentacamHRTMS-4IOLMaster700Caliper図1各計測機器別の平均WTW平均WTW値はOrbscan-2を基準とすると,PentacamHR(p=0.99),Caliper(p=0.97)と有意な差は認められなかったが,TMS-4(p=0.01),IOLmaster700(p<0.001)は有意に長く計測された(Dunnett検定).10.8る.当院では2007~2014年に224眼のHoleICL手術を行ったが,平均最終観察期間341.7日(1~2,160日)の平均vaultは1.1±0.7CT(0.1~4.0CT)であり,そのうち0.5~1.5CTの例は55%(124眼),highvault(>1.5CT)の例は32%(71眼),lowvault(<0.5CT)の例は13%(29眼)であった.約45%のhighvault,lowvaultの例が存在するが,現在までに眼圧上昇や白内障進行によりICLを摘出・交換した例はない.当院では従来レンズのときは術後白内障のリスクを考え,全体的にややhighvaultをめざすことが多かったが,HoleICLにおいては,トーリックICL以外は適正もしくはlowvaultで問題ないと考えている.今後,多施設,長期経過をもとにHoleICLの適正vaultについて再度検討が必要であろう.文献1)IgarashiA,ShimizuK,KamiyaK:Eight-yearfollow-upofposteriorchamberphakicintraocularlensimplantationformoderatetohighmyopia.AmJOphthalmol157:532539,20142)KhalifaYM,GoldsmithJ,MoshirfarM:Bilateralexplantationofvisianimplantablecollamerlensessecondarytobilateralacuteangleclosureresultingfromanon-pupillaryblockmechanism.JRefractSurg26:991-994,20103)SchmidingerG,LacknerB,PiehSetal:Long-termchangesinposteriorchamberphakicintraocularcollamerlensvaultinginmyopicpatients.Ophthalmology117:1506-1511,20104)KamiyaK,ShimizuK,KobashiHetal:Three-yearfollow-upofposteriorchambertoricphakicintraocularlensimplantationformoderatetohighmyopicastigmatism.PLoSOne8:e56453,2013Orbscan-2Themeandifferencesbetween0.60.40.20-0.2-0.4-0.6-0.8Measurement1-2Measurement1-2Measurement1-22measurementsTheupperandlowerbordersofthe95%limitofagreement-110.51111.51212.513図2各計測機器別のWTW測定再現性AverageofMeasurement1and2PentacamHRWTW値を各計測機器にてそれぞれ2人の検0.810.81TMS-4Measurement1-2Measurement1-2者で測定し,Bland-Altman法を用いて再現0.40.60.2性を評価した.実線は2回計測の差の平均0-0.2-0.4値,点線は95%信頼区間の上限値・下限値-0.6-0.8を示す.点線の幅が狭いほど再現性は良好で-110.51111.51212.51310.51111.51212.513AverageofMeasurement1and2AverageofMesurement1and2あり,マニュアル計測であるCaliperを除く各前眼部解析装置はおおむね再現性が良好で0.810.81あった.-0.6-0.4-0.200.20.40.6IOLMaster700Caliper0.610.51111.51212.5130.40.20-0.2-0.4-0.6-0.8-0.8-1-110.51111.51212.513AverageofMeasurement1and2AverageofMeasurement1and21304あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(76)

眼内レンズ:落下水晶体処理時の後房ソフトシェル法

2015年9月30日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋346.落下水晶体処理時の後房山下敏史鹿児島大学大学院医歯学総合研究科ソフトシェル法感覚病態学眼科学落下水晶体の処理には,パーフルオロカーボンを用いて核を挙上し,超音波水晶体乳化吸引する方法があるが,核片が周辺や虹彩裏面に移動することで処理が困難になる場合がある.そこで,本手技時に粘弾性物質を用いて核を後房中央に安定させる「後房ソフトシェル法」を開発した.核処理が通常の白内障手術と同様の手技で容易に行えるようになるだけでなく,眼内組織の保護効果も期待できる.●落下水晶体の処理白内障手術時の核落下や水晶体脱臼における水晶体切除は,従来フラグマトームや20ゲージ(G)硝子体カッターで行われていたが,それに伴う術中・術後合併症は多数知られている.また,最近の硝子体手術は25Gを主とした小切開手術が主流となっているが,口径の細い硝子体カッターによる落下水晶体処理は限界があり,非効率的である.そこで,液体パーフルオロカーボン(perfluorocarbonliquid:PFCL)を併用し,網膜を保護するとともに,落下水晶体を白内障手術創から超音波水晶体乳化吸引(phacoemulsificationandaspiration:PEA)で処理する方法が報告された1,2).しかし,術中に核片が虹彩裏面の周辺部に移動してしまい核処理が困難になることがある.そこで筆者らは,本手技時に粘弾性物質を用いて核を後房中央に安定させてPEAを行う方法を考案し,「後房ソフトシェル法」と名付けたので紹介する.●手術方法通常の方法(25G3-portsparsplanavitrectomy)で手術を開始,白内障手術創は角膜切開でも問題ないが,筆者は強角膜切開で行っている.まずは広角観察システムを用いて硝子体切除を行うが,後部硝子体.離がない場合は作製し,周辺部まで可及的に硝子体を切除する.その後,PFCLを硝子体腔内に注入し落下核を虹彩面まで挙上させる.つぎに,顕微鏡下で粘弾性物質を前房内だけでなく後房内の核周辺にも十分に注入し,さらにPFCLを追加注入してからPEAを行う.角膜内皮,網膜や毛様体など周囲組織が保護されるとともに,核周辺にはきわめて安定したタイトな閉鎖空間が形成されるた(73)0910-1810/15/\100/頁/JCOPYめ,安全で効率的な水晶体処理が可能となる(図1~3).核処理後は再度眼内を観察しながら,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を挿入する.前.が温存されている場合はIOLの.外挿入・毛様溝固定を行う.筆者はハプティクスに柔軟性があり大口径のエタニティーナチュラルRNX-70(参天製薬)を第一選択としている(図4).PFCLの吸引はIOL挿入の前でも後でもかまわ粘弾性物質粘弾性物質粘弾性物質挙上させた落下水晶体パーフルオロカーボン図1後房ソフトシェル法(模式図)パーフルオロカーボンで落下水晶体を挙上させた後,粘弾性物質を前房内と核周囲(前部硝子体腔)に注入する.図2パーフルオロカーボンを用いた落下核挙上可及的な硝子体切除ののち,パーフルオロカーボンを注入し落下水晶体を挙上する.あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151301 図3後房ソフトシェル法による核処理粘弾性物質を前房内と核周囲(前部硝子体腔)に注入後,強角膜創から超音波水晶体乳化吸引する.核は安定し,タイトな閉鎖空間が形成されるため,通常と同じような核処理が可能となる.ないが,すべて除去することが必要である.IOL縫着や強膜内固定の場合には,後から吸引除去すれば手術操作中のIOL落下も予防できる.●効果と安全性この方法は落下水晶体の処理を通常のPEAとまったく同様の手技で行うことができ,核処理に要する時間も通常の白内障手術と同等である.まだ数例だが,当科自験例において術中・術後に合併症を認めた症例はない.眼内の組織への物理的な保護作用だけではなく,組織障害性のある物質からの生物学的な保護作用も期待できる3).●考察,今後の課題後房ソフトシェル法は効率的で安全な手術方法である.使用する粘弾性物質は核処理中に流出しにくいものが最適と考えられ,筆者はビスコートRを用いており,図4白内障手術併施硝子体手術中に後.破損を認めた症例前.は温存されていたため,エタニティーナチュラルRNX-70を.外挿入した.本レンズはハプティクスが柔らかく大口径という特徴のため,挿入時に扱いやすく,固定も良好である.適時追加することもある.また,本症例におけるPFCLは適用外使用となるため注意が必要である.この点が最大の問題かつ今後の課題であると考えられるが,将来的な適用拡大を目標とし,当科では臨床研究を行っている(UMIN000016749).文献1)JangD,LeeJ,ParkM:Phacoemulsificationwithperfluorocarbonliquidusinga23-gaugetransconjunctivalsuturelessvitrectomyforthemanagementofdislocatedcrystallinelenses.GraefesArchClinExpOphthalmol251:1267-1272,20132)MillarR,SteelH:Small-gaugetransconjunctivalvitrectomywithphacoemulsificationinthepupillaryplaneofdenseretainedlensmatteronperfluorocarbonliquidsaftercomplicatedcataractsurgery.GraefesArchClinExpOphthalmol251:1757-1762,20133)KawanoH,ItoT,YamadaSetal:Toxiceffectsofextra-cellularhistonesandtheirneutralizationbyvitreousinretinaldetachment.LabInvest94:569-548,2014

コンタクトレンズ:乱視SCLレンズ

2015年9月30日 水曜日

あたらしい眼科Vol.32,No.9,201512990910-1810/15/\100/頁/JCOPYはじめに今までは1D程度の乱視でも,球面ソフトコンタクトレンズ(SCL)だけで矯正視力が1.0あれば,そのまま球面SCLを処方することが広く行われていた.しかし,それでは実用視力の低下や眼精疲労につながるので,積極的に乱視用SCLを処方していくことをお勧めしたい.●乱視用SCLの基本乱視用SCLは経線方向によりパワーの異なるSCLである.基本的には内面にトーリック面(楕円球面)を使用するので,トーリックSCLともよばれる(以下,トーリックSCL).角膜上で30°回転すると,乱視矯正効果がなくなることを覚えておいてほしい.回転の制御方法により,2つのタイプに分けられる.プリズムバラストタイプ(図1)はSCLの下方にプリズム様に厚い部分があり,そこが重さにより下方に位置することにより回転制御される.ダブルスラブオフタイプ(図2)は,SCLの中央が帯状に厚くなっており,その部分が瞼縁と当たることで,正しい位置に回転していくようになっている.それぞれに長所と短所がある(表1).●レンズや症例の選び方SCLによる乱視矯正には,矯正が容易な症例とむずかしい症例がある.まず容易な症例からチャレンジし,慣れてからむずかしい症例にトライすることを勧める.<容易な症例>・直乱視で1D~2.5D,全乱視=角膜乱視<少しむずかしい症例>・倒乱視で1D~2.5D・直乱視で2.5D以内,全乱視≠角膜乱視・斜乱視<むずかしく,専門家に紹介すべきもの>・不正乱視・3D以上の乱視使用するレンズは,なるべく両方のタイプから各1種類,1日使い捨てタイプと2週間交換タイプの計4種類あればベストと思われる.1日使い捨てタイプだけでは(71)コスト的に厳しい患者さんが多く,2週間交換タイプだけではアレルギーなどの条件が悪くなる場合に装用できないことが多いからである.コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一16.乱視SCLレンズ岩崎直樹イワサキ眼科医院提供図1プリズムバラストタイプ下方が厚く重力で安定する.図2ダブルスラブオフタイプ上下を眼瞼に挟まれて安定する.表12タイプの特徴プリズムバラストダブルスラブオフ乱視軸の安定◎○装用感○下方に異物感◎回ると異物感矯正視力◎ハードには負ける○厚み○メーカーにより差◎メーカーにより差あたらしい眼科Vol.32,No.9,201512990910-1810/15/\100/頁/JCOPYはじめに今までは1D程度の乱視でも,球面ソフトコンタクトレンズ(SCL)だけで矯正視力が1.0あれば,そのまま球面SCLを処方することが広く行われていた.しかし,それでは実用視力の低下や眼精疲労につながるので,積極的に乱視用SCLを処方していくことをお勧めしたい.●乱視用SCLの基本乱視用SCLは経線方向によりパワーの異なるSCLである.基本的には内面にトーリック面(楕円球面)を使用するので,トーリックSCLともよばれる(以下,トーリックSCL).角膜上で30°回転すると,乱視矯正効果がなくなることを覚えておいてほしい.回転の制御方法により,2つのタイプに分けられる.プリズムバラストタイプ(図1)はSCLの下方にプリズム様に厚い部分があり,そこが重さにより下方に位置することにより回転制御される.ダブルスラブオフタイプ(図2)は,SCLの中央が帯状に厚くなっており,その部分が瞼縁と当たることで,正しい位置に回転していくようになっている.それぞれに長所と短所がある(表1).●レンズや症例の選び方SCLによる乱視矯正には,矯正が容易な症例とむずかしい症例がある.まず容易な症例からチャレンジし,慣れてからむずかしい症例にトライすることを勧める.<容易な症例>・直乱視で1D~2.5D,全乱視=角膜乱視<少しむずかしい症例>・倒乱視で1D~2.5D・直乱視で2.5D以内,全乱視≠角膜乱視・斜乱視<むずかしく,専門家に紹介すべきもの>・不正乱視・3D以上の乱視使用するレンズは,なるべく両方のタイプから各1種類,1日使い捨てタイプと2週間交換タイプの計4種類あればベストと思われる.1日使い捨てタイプだけでは(71)コスト的に厳しい患者さんが多く,2週間交換タイプだけではアレルギーなどの条件が悪くなる場合に装用できないことが多いからである.コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一16.乱視SCLレンズ岩崎直樹イワサキ眼科医院提供図1プリズムバラストタイプ下方が厚く重力で安定する.図2ダブルスラブオフタイプ上下を眼瞼に挟まれて安定する.表12タイプの特徴プリズムバラストダブルスラブオフ乱視軸の安定◎○装用感○下方に異物感◎回ると異物感矯正視力◎ハードには負ける○厚み○メーカーにより差◎メーカーにより差 1300あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(00)●初心者の陥りやすいワナについてトーリックSCLの処方において,初心者の陥りやすいワナがある.以下のような場合は深追いは禁物である.①軸ずれがあり,その上から追加矯正をしてもらい,なんとか合わせようとする:合成乱視を計算するのは非常に繁雑なので,20°と160°でトライしても無理なら諦めよう.②ダブルスラブオフタイプで軸ずれが強い時:プリズムバラストのレンズでトライしてみる.それでもSCLの軸ずれを起こす場合や軸が不安定な場合は,ソフト系は無理でHCLの処方になる.しかし,倒乱視,斜乱視はハード系でもむずかしいことがある.●トーリックSCL装用者で視力が出ないときのトラブルシューティングこのようにしてトーリックSCLを処方しても,視力が思うように出ない場合がある.眼疾患や眼障害がある場合を除けば,一番多い問題は屈折によるものである.1.S面の低矯正・過矯正S面の値の変動はSCLでの視力低下の一番の原因である.若年者(25歳以下)では近視化が多く,老視年代(40歳以上)では遠視化が多くなる.いずれの場合でも常にRed/Greenでチェックが必要である.Greenは明らかな過矯正なので避けることが望ましい.過矯正は眼精疲労の原因になるからである.1~2週間低矯正にしていると,それまで毛様体筋にかかっていた緊張が取れ,本来の度数に戻るので,見えるようになるまで時間がかかることを説明しておく.2.C面の問題まず,矯正すべき乱視を矯正していないことが多い.トーリックSCLを処方してあげると視力の質が変わることを経験する.○症例:41歳,女性長年,球面SCLを使用している.1日の装用時間は6~7時間で,とくに問題を感じていなかった.車の運転をすることがあるとのことであった.定期検診にて平成23年6月16日再診時RV=0.1p(1.2×sph.3.25D=C.0.75DAx120)LV=0.08(1.2×sph.3.25D=C.0.75DAx30)アキュビューRアドバンスRV=1.0×870/.2.50/14.0LV=1.0p×870/.2.75/14.0車の運転をするので,一度乱視レンズだとどれ位の視力になるかを見るように医師からの指示があった.アキュビューRオアシス乱視用テストRV=1.2×860/sph.2.50/cyl.0.75Ax120(R>G)LV=1.2×860/sph.2.75/cyl.0.75Ax20(R>G)トライアルレンズを1組さしあげて,調子をみていただくことにした.2カ月後の再診時(平成23年8月23日),夜の運転はかなり楽になったとのことで,値段の差はあるが,アキュビューRオアシス乱視用にしたいとのことだった.RV=1.5×860/sph.2.50/cyl.0.75Ax120(R<G),LV=1.5×860/sph.2.75/cyl.0.75Ax20(R<G)0.25Dずつ両眼とも最終処方は落としてRV=1.5×860/sph.2.50/cyl.0.75Ax120(R>G),LV=1.5×860/sph.2.75/cyl.0.75Ax20(R>G)最終診察時(平成24年11月6日)RV=1.5×処方SCL(R≧G)LV=1.5×処方SCL(R≧G)夕方ダブって見えていたのが楽になって,装用時間は8時間くらいまで延びたとのこと.夜の信号機も何個も先まで見えて,疲れ方が全然違うので,高くても今のほうが良い!という意見をいただいた.乱視レンズとバイフォーカルレンズは,それを処方して成功したクリニックから患者さんが逃げにくいといわれているので,皆さん,積極的にトーリックSCLの処方にチャレンジを!◎コンタクトレンズは高度管理医療機器です。眼科医による検査・処方をお願いします。特に異常を感じなくても定期検査は必ず受けるようにご指導ください。◎患者さんがコンタクトレンズを使用する前に、必ず添付文書をよく読み、取扱い方法を守り、正しく使用するようにご指導ください。ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社ビジョンケアカンパニー〒101-0065東京都千代田区西神田3丁目5番2号販売名:ワンデーアキュビューモイスト/ワンデーアキュビューディファインモイスト承認番号:21600BZY00408000/22300BZX00126000[効能・効果:視力補正、虹彩又は瞳孔の外観(色、模様、形)を変えること]R登録商標cJ&JKK2015*:装用感には個人差があります。シリーズ1日中続く快適な装用感*をめざして。今年、ワンデーアキュビューRモイストRは発売10周年を迎えました。〈遠近両用〉〈近視・遠視用〉〈サークルレンズ〉〈乱視用〉ZS946あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(00)●初心者の陥りやすいワナについてトーリックSCLの処方において,初心者の陥りやすいワナがある.以下のような場合は深追いは禁物である.①軸ずれがあり,その上から追加矯正をしてもらい,なんとか合わせようとする:合成乱視を計算するのは非常に繁雑なので,20°と160°でトライしても無理なら諦めよう.②ダブルスラブオフタイプで軸ずれが強い時:プリズムバラストのレンズでトライしてみる.それでもSCLの軸ずれを起こす場合や軸が不安定な場合は,ソフト系は無理でHCLの処方になる.しかし,倒乱視,斜乱視はハード系でもむずかしいことがある.●トーリックSCL装用者で視力が出ないときのトラブルシューティングこのようにしてトーリックSCLを処方しても,視力が思うように出ない場合がある.眼疾患や眼障害がある場合を除けば,一番多い問題は屈折によるものである.1.S面の低矯正・過矯正S面の値の変動はSCLでの視力低下の一番の原因である.若年者(25歳以下)では近視化が多く,老視年代(40歳以上)では遠視化が多くなる.いずれの場合でも常にRed/Greenでチェックが必要である.Greenは明らかな過矯正なので避けることが望ましい.過矯正は眼精疲労の原因になるからである.1~2週間低矯正にしていると,それまで毛様体筋にかかっていた緊張が取れ,本来の度数に戻るので,見えるようになるまで時間がかかることを説明しておく.2.C面の問題まず,矯正すべき乱視を矯正していないことが多い.トーリックSCLを処方してあげると視力の質が変わることを経験する.○症例:41歳,女性長年,球面SCLを使用している.1日の装用時間は6~7時間で,とくに問題を感じていなかった.車の運転をすることがあるとのことであった.定期検診にて平成23年6月16日再診時RV=0.1p(1.2×sph.3.25D=C.0.75DAx120)LV=0.08(1.2×sph.3.25D=C.0.75DAx30)アキュビューRアドバンスRV=1.0×870/.2.50/14.0LV=1.0p×870/.2.75/14.0車の運転をするので,一度乱視レンズだとどれ位の視力になるかを見るように医師からの指示があった.アキュビューRオアシス乱視用テストRV=1.2×860/sph.2.50/cyl.0.75Ax120(R>G)LV=1.2×860/sph.2.75/cyl.0.75Ax20(R>G)トライアルレンズを1組さしあげて,調子をみていただくことにした.2カ月後の再診時(平成23年8月23日),夜の運転はかなり楽になったとのことで,値段の差はあるが,アキュビューRオアシス乱視用にしたいとのことだった.RV=1.5×860/sph.2.50/cyl.0.75Ax120(R<G),LV=1.5×860/sph.2.75/cyl.0.75Ax20(R<G)0.25Dずつ両眼とも最終処方は落としてRV=1.5×860/sph.2.50/cyl.0.75Ax120(R>G),LV=1.5×860/sph.2.75/cyl.0.75Ax20(R>G)最終診察時(平成24年11月6日)RV=1.5×処方SCL(R≧G)LV=1.5×処方SCL(R≧G)夕方ダブって見えていたのが楽になって,装用時間は8時間くらいまで延びたとのこと.夜の信号機も何個も先まで見えて,疲れ方が全然違うので,高くても今のほうが良い!という意見をいただいた.乱視レンズとバイフォーカルレンズは,それを処方して成功したクリニックから患者さんが逃げにくいといわれているので,皆さん,積極的にトーリックSCLの処方にチャレンジを!◎コンタクトレンズは高度管理医療機器です。眼科医による検査・処方をお願いします。特に異常を感じなくても定期検査は必ず受けるようにご指導ください。◎患者さんがコンタクトレンズを使用する前に、必ず添付文書をよく読み、取扱い方法を守り、正しく使用するようにご指導ください。ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社ビジョンケアカンパニー〒101-0065東京都千代田区西神田3丁目5番2号販売名:ワンデーアキュビューモイスト/ワンデーアキュビューディファインモイスト承認番号:21600BZY00408000/22300BZX00126000[効能・効果:視力補正、虹彩又は瞳孔の外観(色、模様、形)を変えること]R登録商標cJ&JKK2015*:装用感には個人差があります。シリーズ1日中続く快適な装用感*をめざして。今年、ワンデーアキュビューRモイストRは発売10周年を迎えました。〈遠近両用〉〈近視・遠視用〉〈サークルレンズ〉〈乱視用〉ZS946

写真:後部円錐角膜

2015年9月30日 水曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦376.後部円錐角膜細谷比左志JCHO神戸中央病院眼科①②図2図1のシェーマ①瞳孔②楕円形の角膜混濁.中央部はやや透明で瞳孔領が透見できる.図1後部円錐角膜の症例(43歳,女性)左眼角膜中央部に楕円形の淡い混濁を認め,混濁の中央部は比較的透明で,瞳孔領が透見できる.図3後部円錐角膜のスリット写真中央からやや離れた位置の角膜が菲薄化している(→)ことが確認され,菲薄部の周辺の内皮側に混濁がみられる.図4後部円錐角膜症例の前眼部OCT(カシアR)写真左眼角膜のやや偏心した位置に菲薄部があり,その周辺部の内皮側にやや混濁がみられるのが,この断面図でもよくわかる.カーソルを当てることで角膜の厚みも測定できる.(69)あたらしい眼科Vol.32,No.9,201512970910-1810/15/\100/頁/JCOPY 後部円錐角膜は,出生時からみられる非進行性,非炎症性の先天異常の一つである.片眼性であることが多い.Waringらの提唱する1)ように,中胚葉性の前眼部発育不全の中の病型の一つと考えられ2,3),Peters奇形の非常に軽度の病型と考えられる.角膜中央部のやや偏心した部位に,円形または楕円形の淡い混濁がみられ(図1,2),その部位を細隙灯顕微鏡で詳しく観察すると,角膜全面のカーブは正常であるが,角膜後面のカーブが前方へ突出したようにみえる.すなわち,混濁の中央部の角膜後面が窪んでおり,菲薄化している(図3).症例は43歳の女性で,幼少時から視力不良で弱視であると考えられる.初診時の眼圧が32mmHgあり緑内障も合併している.また,眼球振盪を伴っており,診察がやや困難であった.病名に円錐角膜という名前が含まれているが,思春期に発症してくる通常の円錐角膜とは,まったく違う病態と考えられている.角膜後面の混濁部の端の部分に色素沈着を伴うことも多いが,Peters奇形にみられるような虹彩索を伴うことはない.大概のケースでは片眼性であるが,非常にまれに両眼性のものもみられる.最近では前眼部OCT(カシアRなど)により,さらに詳細な診察が可能となった4).この症例の前眼部OCTが図4である.前述したように,角膜前面カーブは,ほぼきれいな形をしており,前面への突出はみられないが,角膜後面のカーブが前方へ突出したような形状であり,その結果,混濁の中央部の角膜の菲薄化がみられる.ただし,菲薄部の角膜厚は521μmであり,その周辺部の角膜厚は813μmと,全体に角膜厚が厚いことが判明した.この点でも通常の円錐角膜と異なることがわかかる.他の眼異常を伴うこともしばしばあり,無虹彩症,ぶどう膜外反,虹彩萎縮,緑内障,前部円錐水晶体,水晶体偏位,水晶体前部混濁などが報告されている.本症例も緑内障を合併している.眼以外の合併症も報告されており,そのなかには,両眼隔離症,鼻梁部平坦化,口蓋裂,精神遅滞,低身長,泌尿器異常,歩行異常などが含まれる.後部円錐角膜は通常,治療は不要である.とくに病変部が視軸をはずれていれば,視力への影響は少ない.ここに紹介した例では,混濁部が視軸にかかっており,弱視になってしまっているが,診察時にすでに成人となっており,緑内障と眼球振盪も伴っており,角膜移植などの治療は,通常適応とならない.文献1)WaringGO,RodriguesMM,LaibsonPR:Anteriorchambercleavagesyndrome:Astepladderclassification.SurvOphthalmol20:3-27,19752)細谷比左志:乳児・新生児の角膜混濁.角膜クリニック,(眞鍋禮三,木下茂,大橋裕一監修),第2版.p92-99,医学書院,20033)HammersmithKM,RezendeRA,CohenEJetal:Congenitalcornealopacities:Diagnosisandmanagement.In:KrachmerJH,MannisMJ,HollandEJ:Cornea:Fundamentals,DiagnosisandManagement,3rded.Vol.1,p239265,Mosby,20114)細谷比左志:先天性角膜混濁の鑑別.オキュラーサーフェス疾患.目で見る鑑別診断(西田幸二,天野史郎編集),p195-211,医学書院,20131298

総説:涙道内視鏡検査実践ガイド

2015年9月30日 水曜日

あたらしい眼科32(9):1293~1296,2015c総説涙道内視鏡検査実践ガイドMicroendoscopySafetyGuideforLacrimalPassageExamination鈴木亨*1白石敦*2横井則彦*3堀裕一*4杉本学*5嘉鳥信忠*6井上康*7大橋裕一*8はじめに涙道は眼表面の涙液を持続的に下鼻道へ排出する管組織で,上下眼瞼鼻側にある涙点とそれに続く上下涙小管,総涙小管,涙.,鼻涙管から構成されている.涙点から下鼻道に到達するまでの約40mmの経路には複数の屈曲が存在し,内腔面は扁平上皮あるいは円柱上皮で覆われた微細な組織である.涙道に炎症や閉塞(以下,狭窄も含む)が生じたときには,流涙や眼脂,疼痛などの自覚症状のほか,眼瞼に発赤や腫脹などの他覚症状が発生する.これまで,その病変の局在同定や原因特定のための検査方法として,通水試験や涙.ブジー法,涙道造影,さらにコンピュータ断層撮影(computedtomography:CT),磁気共鳴画像(magneticresonanceimaging:MRI)検査が行われてきたが,直接原因部位の観察を行うことは不可能であった.近年,涙道内視鏡によって涙道内を直接的に観察することが可能になり,涙道疾患の診断精度が向上した1~12).涙道内視鏡検査の導入により涙道診療は大きな変革期を迎えており,涙道診療に対するガイドラインの速やかな策定が必要とされている.今回,その第一歩として,涙道内視鏡を用いた涙道内視鏡検査を安全に施行するための実践ガイドを作成した.I検査目的涙道疾患において,病変の直接的な観察が必要と判断された場合に行う.II涙道検査の手順涙道検査の手順を図1に示した.涙道の検査を始めるにあたっては,まず分泌性流涙を除外できていることが前提となる(導涙性流涙).視診によって眼瞼の腫脹や涙.の膨隆がみられる症例をはずして涙管通水検査を行い,その結果が良好でないと判断された症例について涙道内視鏡検査を行う.III適応と禁忌検査適応は,18歳以上で全身状態が不良でない患者に対して,流涙や眼脂の原因が涙道内に存在するかどうか調べたい場合や,涙道閉塞の局在および原因を確かめる必要がある場合,あるいは直接観察による治療評価が必要な場合である.急性涙.炎や外傷などの急性涙道疾患は検査適応外とする.また,眼瞼に腫脹の認められる場合は,検査による病変増悪リスクがあるので比較的禁忌とし,治療法選択のための参考所見が必要な場合にのみ慎重に行う.18歳未満の場合は,涙道内視鏡の取り扱いに十分な知識と経験を有する眼科医が,既存の涙道検査法との比較を含め,本検査のリスクベネフィットを総合的に考慮したうえで,慎重に適応を判断する.*1ToruSuzuki:鈴木眼科クリニック,*2AtsushiShiraishi:愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学分野,*3NorihikoYokoi:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学,*4YuichiHori:東邦大学医療センター大森病院,*5ManabuSugimoto:すぎもと眼科医院,*6NobutadaKatori:聖隷浜松病院眼科,*7YasushiInoue:井上眼科,*8YuichiOhashi:愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学分野〔別刷請求先〕鈴木亨:〒808-0102北九州市若松区東ニ島4-7-1鈴木眼科クリニック0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(65)1293 導涙性流涙視診と触診導涙性流涙視診と触診Yes眼瞼腫脹No涙.膨隆DCG,CT,MRI,鼻内視鏡検査機能性流涙の検査眼瞼および眼表面の異常の有無を確認するYes通水良好No涙管通水検査涙道内視鏡検査図1涙道検査の進め方DCG:Dacryocystography涙.造影検査(涙道造影検査と同義語)視診,涙管通水検査,涙道内視鏡検査の順番を守ることが大切.IV注意点乳幼児に対しては,全身麻酔を標準とする.高齢者では流涙症の原因はさまざまであり,また涙道閉塞があっても流涙を生じない場合もあるので,他の流涙要因の十分な検討のもとに涙道内視鏡検査の適否を考慮する.また,涙道内視鏡の観察視野角度は正面70°に限定されているため,涙道壁から垂直に立ち上がる憩室や瘻孔の観察には適さない.涙道閉塞には涙道外部からの圧迫が原因となっていることがあり,その場合は涙道内視鏡検査が誤った治療判断を引き起こす場合がある.したがって,適宜,涙道造影検査やCT,MRIなどの精密画像診断を併用して治療計画を立てることが必要である.V検査方法1.麻酔検査前には,眼表面点眼麻酔に加え,必要に応じて点眼麻酔薬による涙道内麻酔や滑車下神経ブロックなどの局所麻酔を追加する.注射を行う場合は麻酔による合併症に十分配慮する.とくに眼窩内に注射液が浸潤するような麻酔法では,眼動脈を虚血に導く可能性のあるエピネフリンが添加されていない麻酔液が望ましい.2.内視鏡の挿入患者を処置ベッド上で仰臥位で安静にさせ,必要に応じて涙点を拡張針で拡張し,眼瞼を耳側に牽引しながら涙点から内視鏡を挿入する.1294あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(66) 3.涙道内での内視鏡操作の基本生理食塩水による灌流を行いながら,適宜照明光の強さを調整しながら観察する.屈曲部位では内視鏡先端が涙道壁に押し付けられないようにハンドピースを操作することにより,粘膜損傷を回避する.回避できない場合は,仮道形成の危険性があるため,それより遠位に進まない.とくに鼻涙管では,約30%の症例でその傾斜角度が内視鏡プローブ湾曲と逆方向の後方寄りとなっているため,十分に注意する13).また,閉塞のある涙道では,灌流圧が高すぎると疼痛を生じるので灌流量は適宜加減するが,灌流を止めると内視鏡チャンネル内に血液や分泌物などが逆流して内視鏡汚染の原因になるので,少量でも持続的に灌流を続ける.涙道から内視鏡を引き出した直後には,加圧通水を行うことで内視鏡通水チャンネル内への逆流物の残留や固着を防止する.VI検査の結果検査結果は診療録に記録する.検査中の涙道内の様子は動画で記録することが望ましい.VII涙道内視鏡検査と他の検査法との比較代表的な涙道検査の利点と欠点を表にまとめた(表1).色素残留試験は導涙障害の有無を判断できるもっとも低侵襲な方法であるが,その通過障害が涙道閉塞によるものか機能性流涙14)によるものか区別ができない.涙管通水検査は簡便な方法で,涙洗針による触診,通水抵抗と逆流の様子を総合的に判断することで通過障害の有無や局在のより具体的な診断が可能であるが,診断確定には涙道造影検査か涙道内視鏡検査が必要な場合がある.涙道造影検査では病変の局在がわかりやすい反面,その病変を直接観察できないので原因の特定には適さない.また,検査による被曝の問題や,造影検査薬の目的外使用も避けられない.涙道内視鏡検査では病変を直接観察できて原因の特定が可能な反面,正確な局在同定には熟練を要する.また,被曝の問題を避けることができ,使用目的に準ずる範囲での検査が可能である.VIII合併症ガイドラインに定める使用法を超えて屈曲部を回避せずに内視鏡を進めた場合や,閉塞の穿破を行った場合には,疾患の増悪や仮道形成の危険性がある.滑車下神経(67)表1涙道検査法の比較利点欠点色素残留試験涙管通水検査通過障害の有無をもっとも低侵襲に判断できる通過障害をより具体的に判断できる涙道閉塞と機能性流涙の区別ができない閉塞部位の確定はできない場合がある涙道造影検査閉塞部位の確定診断ができる閉塞原因の特定はできないX線被曝,時間を要する涙道内視鏡検査閉塞部位の確定と原因の特定ができる機器がやや高価で手技に熟練を要するブロック麻酔を行った場合には球後出血の危険性がある.IXインフォームド・コンセント涙道内視鏡検査は,患者に苦痛を与える可能性だけでなく,偶発的な危険が伴う可能性もある.そのため,検査の必要性や危険性などを説明して患者の同意書を得る必要がある.患者への説明と同意書には以下の内容を含む.1)他の検査方法による診断2)涙道内視鏡検査の目的,方法,必要性,期待できる効果など3)予想される危険性の内容と対処方法について4)代替検査方法について5)患者が内視鏡検査を受け入れない場合に予想される事態についてX感染対策涙道内視鏡検査は,涙道感染症のみならずさまざまな全身状態の患者に行うことが想定されるため,内視鏡を介した感染を予防する必要がある.涙道内視鏡は消化器や気管支の内視鏡と同様に,粘膜または健常ではない皮膚に接触する器材であり,Spauldingの分類では「やや危険な器材」にあたる15).したがって,検査ごとの洗浄・高水準消毒が求められる.また内視鏡従事者は傷のある皮膚,粘膜への感染防御を恒常的に行う標準予防策を実施しなければならない.XI内視鏡の衛生管理と保管1.洗浄まず,検査直後に内視鏡外表面を流水で洗う.そのあたらしい眼科Vol.32,No.9,20151295 際,洗浄剤を含ませたガーゼなどで表面を拭うとともに,チャンネルへの通水と通気を十分に行うことで,粘性のある涙道内分泌物や血液の固着を防ぐ.とくにチャンネル内の汚染物の固着は内視鏡の故障の原因になるばかりでなく,滅菌や消毒の効果を損なうので,使用中の加圧通水と使用後の洗浄は重要である.2.消毒と滅菌Spauldingの分類に従って高水準消毒が行わなければならない.涙道内視鏡の消毒に用いられる高水準消毒薬としては,グルタラールかフタラールが適当である.これら薬剤では,10分間の薬液浸漬により結核菌,ヒト免疫不全ウイルス(humanimmunodeficiencyvirus:HIV),B型肝炎ウイルス(hepatitisBvirus:HBV),C型肝炎ウイルス(hepatitisCvirus:HCV)の不活化が可能である.また,適宜,EOG滅菌でハンドピース以外の部分についても清潔を保つ必要がある.3.保管消毒後の内視鏡はチャンネルにアルコール,空気の順に注入して内部を乾燥させて保管する.使用するアルコールは無水エタノールが望ましい.涙道内視鏡の製造元では,各社,添付文書内に洗浄や消毒,滅菌,保管方法などについて表示しているので確認する.まとめ涙道内視鏡を用いた涙道診療は未だ発展途上にあり,今後さらなるエビデンスの蓄積が必要とされている.本実践ガイドが,その核となる安全な涙道内視鏡検査の普及に貢献することを期待している.文献1)EmmerichKH,Meyer-RusenbergHW,SimkoP:EndoskopiederTranenwege.DerOphthalmologe94:732-735,19972)MullerK,BodnerE,MannorGE:Endoscopyofthelacrimalsystem.BrJOphthalmol83:949-952,19993)佐々木次壽:涙道内視鏡による涙小管炎の診断と治療.眼科42:1043-1047,20004)鈴木亨:涙道ファイバースコピーの実際.眼科45:20152023,20035)SasakiT,NagataY,SugiyamaK:Nasolacrimalductobstructionclassifiedbydacryoendoscopyandtreatedwithinferiormeataldacryorhinotomy.Part1:Positionaldiagnosisofprimarynasolacrimalductobstructionwithdacryoendoscope.AmJOphthalmol140:1065-1069,20056)鈴木亨:涙小管閉塞症の顕微鏡下手術における術式選択.眼科手術24:231-236,20117)SasakiT,MiyashitaH,MiyanagaTetal:Dacryoendoscopicobservationandincidenceofcanalicularobstruction/stenosisassociatedwithS-1,anoralanticancerdrug.JpnJOphthalmol56:214-218,20128)鈴木亨:涙道内視鏡を利用した停留チューブの治療経験.眼科47:1241-1248,20059)白石敦:リサミングリーン染色を用いた涙道粘膜上皮再生の評価.眼科手術26:129-132,201310)AmatoJ,HartsteinME:chapter6.Evaluationofthetearingpatient.In:TheLacrimalSystem(CohenAJ,etaleds),66-73,Springer,Germany,200611)鈴木亨:流涙症の原因と包括的アプローチ.眼科手術22:143-147,200912)後藤英樹,後藤聡,森寺威之:3涙道─涙道の解剖・涙道検査─.眼科診療クオリファイ(野田実香編),p136-146,中山書店,201213)NariokaJ,MatsudaS,OhashiY:Inclinationofthesuperomedialorbitalriminrelationtothatofthenasolacrimaldrainagesystem.Ophthalmicsurgery,laser&imaging39:167-70,200814)ChanW,MalhotraR,KakizakiHetal:Perspective:whatdoesthetermfunctionalmeaninthecontextofepiphora?ClinExpOphthalmol40:749-754,201215)SpauldingEH:Chemicaldisinfectionofmedicalandsurgicalmaterials.In:Disinfection,sterilizationandpreservation(LawrenceCA,BlockSS,eds).p517-531,Lea&Philadelphia,517-531,1968☆☆☆1296あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(68)