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後房型Phakic IOLの有用性

2015年9月30日 水曜日

特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1283~1289,2015特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1283~1289,2015後房型PhakicIOLの有用性EfficacyofPosteriorChamberPhakicIOL中村友昭*IPhakicIOLとは?水晶体を残したまま眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を挿入し,近視,乱視などの屈折矯正を行う手術をPhakicIOL(有水晶体眼内レンズ)挿入術という.そのなかで後房型のレンズであるICL(implantablecollamerlens,スターサージカル社)は,1997年に現行のタイプが発売され,2005年に米国FDAから認可された.わが国でも2010年のICLの認可に引き続き,2011年には乱視矯正可能なトーリックICLも認可され,それを導入する施設が増えてきた.ICLはコラーゲンと水酸化エチルメタクリル酸塩(HEMA)の共重合体であるコラマーとよばれる生体適合性に優れた素材でできており,虹彩など眼内組織への刺激がほとんどないのが特長である(図1).毛様溝に固定され,サイズは0.5mm刻みで4種類ある.光学径はレンズの球面度数によって異なり4.65~5.50mmである.近視は.19Dまで,乱視は5Dまでと,幅広く矯正できる.2014年には,北里大学の清水公也教授により開発された,レンズの中心に0.36mmの小さな穴を開けたKS-AquaPORT,通称HoleICLがわが国でも承認され,術前のレーザー虹彩切開が不要となり,その安全性から主流となりつつある(図2).ICLは登場以来25年が経過し,その有効性とともに安全性も数多く報告され,確認されている.そして,一定のレベルの内眼手術,とくにIOL挿入術を行っている術者であれば,経験豊富な指導者の下で慎重に手術を始め,若干の注意点を守るかぎり,安全に行われる手術である.さらに,問題があれば元の状態に戻せる,つまり可逆性があることも特長である.ただし,健康な眼に対する手術であることを十分留意したうえで,以下に示す屈折矯正手術のガイドライン(表1)に基づいて慎重に手術を行う必要がある.ガイドラインのほか,筆者の施設では①18歳以上45歳以下で屈折が安定していること.②前房深度(角膜裏面から水晶体前面までの距離)が2.8mm以上あること.③散瞳剤にて8mm以上散瞳すること.④白内障,その他の眼疾患がないこと.⑤角膜内皮細胞密度が2,000/mm2以上あること.を適応基準としてあげている.その適応範囲から,レーシックと対比し,適切な術式の選択を行っている(図3).さて,ICLは適切なレンズの度数とサイズを選択する必要がある.これは,施設認定後にスターサージカル社から提供されるICL度数計算ソフトウェア(図4)にて決定されるが,以下にその入力のために必要なパラメータをあげる.①屈折値(屈折検査)②角膜屈折力(角膜曲率半径計測)④中心角膜厚⑤前房深度*TomoakiNakamura:名古屋アイクリニック〔別刷請求先〕中村友昭:〒456-0003愛知県名古屋市熱田区波寄町25-1名鉄金山第一ビル3階名古屋アイクリニック0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(55)1283 1284あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(56)II使用機器白内障手術で使用する手術顕微鏡や超音波乳化吸引装置(ただし使用するのはI/Aのみ),および通常使用の鑷子類や開瞼器などのほかに,ICL特有の器具としては,ICLをセットするためのローディング鑷子,ICLを毛様溝に固定する際に使用するスパチュラが必要である.III手術の実際手術そのものが白内障手術に準ずるものであり,内眼手術に対し一定の技量をもつ術者であれば,短時間に,安全かつ容易に手術を行うことができる.また,切開創が小さく,術中にほとんど痛みを感じることなく,視力の回復も非常に早いため,患者側の負担も軽いと考える.術中合併症として水晶体損傷,角膜内皮障害,前房出血があげられているが,筆者は過去に一度も経験していない.ただし,術中合併症を起こさないためには,⑥水平角膜径(WTW)適切なサイズの選定(4サイズから選択)により,水晶体との最適な距離が保たれ,あとに述べる合併症が軽減される(図5,6).ICL虹彩水晶体図1ICL(ImplantableCollamerLens)後房型の有水晶体眼内レンズで,虹彩の裏面,水晶体の前面の位置で,毛様溝に固定される.コラーゲンとHEMAの共重合体であるコラマーとよばれる生体適合性に優れた素材でできている.図2ICLKS.AquaPORT中心に0.36mmの穴が開けられており,この穴を通じて房水が循環することが可能.そのため,術前処置としてのレーザー虹彩切開が不要となった.ICL虹彩水晶体図1ICL(ImplantableCollamerLens)後房型の有水晶体眼内レンズで,虹彩の裏面,水晶体の前面の位置で,毛様溝に固定される.コラーゲンとHEMAの共重合体であるコラマーとよばれる生体適合性に優れた素材でできている.図2ICLKS.AquaPORT中心に0.36mmの穴が開けられており,この穴を通じて房水が循環することが可能.そのため,術前処置としてのレーザー虹彩切開が不要となった. 表1屈折矯正手術のガイドライン2010適応①6Dを超える近視とし,15Dを超える強度近視には慎重に対応する.ここでの屈折矯正量は等価球面度数での表現を意味する.②患者本人の十分な判断と同意を求める趣旨と,late-onsetmyopiaを考慮に入れ,18歳以上とする.なお,未成年者は親権者の同意を必要とする.水晶体の加齢変化を十分に考慮し,老視年齢の患者には慎重に施術する.適応外①円錐角膜②活動性の外眼部炎症③白内障(核性近視)④ぶどう膜炎や強膜炎に伴う活動性の内眼部炎症⑤重症の糖尿病や重症のアトピー性疾患など,創傷治癒に影響を与える可能性の高い全身性あるいは免疫不全疾患⑥妊娠中または授乳中の女性⑦浅前房および角膜内皮障害慎重実施①緑内障②全身性の結合組織疾患②ドライアイ④円錐角膜疑い症例ICLはとくに手術準備が重要となる.若者が対象なので緊張緩和のため手術日に抗不安薬を内服させることと,十分散瞳させること(8mm以上)がとても大切である.ICLは,患者入室前に専用カートリッジに折りたたんでセットする.スムーズにレンズが開くためにレンズセッティングはとても重要である.これは専用の器具(ICLローディング鑷子)で行う(図7).洗眼やドレーピングは白内障手術に準じて施設毎の方法で行えばよいと思われる.まずは,1カ所ないしは2カ所の1mmのサイドポートを置く.次に房水を粘弾性物質(筆者の施設ではオペガンRを使用)で置換する.3mmの角膜耳側切開創を作製し,その創からICLを回転しないよう,また+30-6-10DICLLASIKICL図3術式の選択屈折度数によって,適切な術式を選択する.図4オンラインICL度数計算ソフトウェア施設認定取得後,IDがセットアップされる.求められるパラメータを入力することにより自動的に最適なICLのレンズ度数,サイズが計算される.(57)あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151285 図5Vault(ICLと水晶体との距離)最適なvaultは角膜の中心厚(0.5mm)くらいで,その前後±0.25mmがよいといわれている.図7ICLのインジェクターへの装.患者入室直前に専用カートリッジ(インジェクター)に山折に折りたたんでセットする.専用の鑷子にてカートリッジの先端へゆっくりと移動させる.図6ICL術後の前眼部OCTによる画像ICLが鮮明に描出され,水晶体との距離(vault)を正確に計測することが可能である.経時的にこれをチェックするようにしている. 図8ICL挿入回転しないよう,また角膜内皮と水晶体に接触しないようにレンズの動き(方向)に注意しながら,ゆっくりレンズが開くようにして挿入し,まず前房内にレンズを置く.図9ICLハプティクスを虹彩の裏側(毛様溝に当たる部分)に入れるサイドポートから専用スパーテルを挿入し,慎重にハプティクスを虹彩下に入れる.中心部(光学部)は絶対触らない.あくまでも周辺で行う.レンズを押し入れると水晶体と接触してしまうので,レンズの端を紙をめくり上げるように折りたたみ,滑り込ませるよう行う. 図10ICL術後の前.下混濁- あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151289(61)follow-up.Ophthalmology111:1683-1692,20042)吉田陽子,小島隆司,中村友昭ほか:後房型有水晶体眼内レンズ挿入術の臨床成績:IOL&RS24:457-461,20103)KamiyaK,ShimizuK,AizawaDetal:One-yearfollow-upofposteriorchambertoricphakicintraocularlensimplantationformoderatetohighmyopicastigmatism.Ophthalmology117:2287-2294,20104)FernandesP,Gonzalez-MeijomeJM,Madrid-CostaDetal:Implantablecollamerposteriorchamberintraocularlenses:areviewofpotentialcomplications.JRefractSurg27:765-776,20115)SandersDR:Anteriorsubcapsularopacitiesandcataracts5yearsaftersurgeryinthevisianimplantablecollamerlensFDAtrial.JRefractSurg24:566-570,20086)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:Four-yearfollow-upofposteriorchamberphakicintraocularlensimplanta-tionformoderatetohighmyopia.ArchOphthalmol127:845-850,20097)AllanBD,Argeles-SabateI,MamalisN:Endophthalmitisratesafterimplantationoftheintraocularcollamerlens:Surveyofusersbetween1998and2006.JCataractRefractSurg35:766-769,20098)MoriT,YokoyamaS,KojimaTetal:Factorsaffectingrotationofaposteriorchambercollagencopolymertoricphakicintraocularlens.JCataractRefractSurg38:568-573,2012

術後屈折誤差に対するタッチアップ法

2015年9月30日 水曜日

特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1277.1282,2015特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1277.1282,2015術後屈折誤差に対するタッチアップ法TheRetreatmentofRefractiveErrorPostCataractSurgery荒井宏幸*I術後屈折誤差対策の必要性近年では光学的眼軸長測定装置などの発達により,白内障手術時における眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の度数計算の精度は飛躍的に向上している.以前であれば,術後の眼鏡装用は必然のような印象であったが,現在では良好な裸眼視力が当然のように求められるケースも多い.また,使用されるIOLにも,トーリックIOLや多焦点IOLといった付加価値の付いた眼内レンズが臨床使用されており,このことは手術を受ける側のニーズがより高くなっていることを反映していると考えられる.今や白内障術後の裸眼視力は術後結果の最大のポイントの1つとなっている.一方でLASIK(laserinsitukeratomileusis)を中心としたエキシマレーザーによる屈折矯正手術は,すでに25年以上の歴史を経て屈折異常の外科的矯正方法として定着している.そして,軽度から中等度の屈折異常に対するLASIKの矯正精度は,ほぼ±0.25Dの領域である.また,LASIKによるタッチアップは単焦点レンズのみならず多焦点レンズにおいても有効である1,2).最近では,二次挿入用の追加レンズ(Addonレンズ)も開発されている.球面度数と乱視度数だけではなく,回折構造を有した多焦点レンズもラインナップされている.今回は,白内障術後の屈折矯正誤差対策として,LASIKおよびAddonレンズを中心にその有用性を述べる.1.エキシマレーザーによるタッチアップa.LASIKかPRKかさまざまな基礎疾患を有する可能性がある高齢者に対して,角膜上皮の治癒過程が結果に大きな影響を及ぼすPRK(photorefractivekeratectomy)は選択しにくい.マイクロケラトームやフェムトセカンドレーザーを使用しないPRKは,比較的瞼裂の狭い高齢者には有利であるが,視力回復の早さや角膜上皮の回復状態に影響を受けないLASIKを第一選択としたいところである.そして「翌日に見える」LASIKは,とくに高齢者において,無用な不安を抱かせない手技として優れている.b.マイクロケラトームかフェムトセカンドレーザーか多くのタイプのマイクロケラトームは角膜上皮を擦過しながら角膜フラップを作製する.角膜上皮に接着不良などがある場合には,角膜上皮.離などによる不正乱視が遷延するケースもある.フェムトセカンドレーザーの場合,角膜上皮は圧平されたまま角膜フラップが作製できるので,上皮傷害を誘発する可能性は低い.白内障術後の屈折誤差には,近視性乱視のほかにも混合性乱視が相当数存在する.混合性乱視や遠視をLASIKにて矯正する場合,レーザーの照射径は大きく取る必要があり,大きな角膜フラップを正確に作製できるフェムトセカンドレーザーを使用したいところである.しかし,普及型のフェムトセカンドレーザーはサクションリングが比較的大きく,高齢者の瞼裂の小さい目には装着できないケースがあることが難点である.*HiroyukiArai:みなとみらいクリニック〔別刷請求先〕荒井宏幸:〒220-6208横浜市西区みなとみらい2-3-5クイーンズタワーC8Fみなとみらいクリニック0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(49)1277 単焦点~3M3M~6M6M~12M多焦点12M~0%50%100%図1白内障手術からタッチアップまでの時期多焦点IOLを希望するケースは,良好な裸眼視力を求める傾向があるため,タッチアップの時期も単焦点IOLの群に比較して早いことがわかる.全症例1%15%61%22%●とても満足●満足●やや不満●不満図3満足度の分布ほぼ80%の症例にて満足が得られているが,やや不満・不満症例も存在し,今後の課題となり得ると思われる.c.WavefrontguidedLASIK現在のLASIKにおいては,術後のハロー,グレアといった視機能の低下を防ぐために,波面収差解析に基づくレーザーの照射が可能になっており,wavefrontguidedLASIKといわれている.最近のIOLには球面収差補正がなされているものもあるが,術後の全眼球収1278あたらしい眼科Vol.32,No.9,20150.90.90.930.830.940.810.850.820.820.80.890.870.840.480.530.480.46全例単焦点多焦点多焦点(近方)0.881.00.940.550.360.40.380.310.1術前1W1M3M6M1Y図2裸眼視力の経緯安定した結果が得られている.多焦点IOLの場合には近方裸眼視力も向上している.多焦点レンズでは6カ月以降に後発白内障に対するYAGレーザーを施行することが多いため,図のような変化を示した.差には個体差があり,同一規格の収差補正値では限界があると思われる.IOL眼に対するwavefrontguidedLASIKでは,手術によって誘発された高次収差も含めての矯正が可能であり,また虹彩紋理を認識して乱視軸を決定するシステムにより軸ずれもきわめて少ない.d.対象と結果対象は1年間の経過が観察可能であった95眼.そのうち単焦点は47眼,多焦点は48眼である.平均年齢は63.9歳であった.男性39人,女性56人であった.白内障術後のタッチアップまでの時期を図1に,裸眼視力の経過を図2に,満足度の分布を図3に示す.また,タッチアップ前後のコントラス感度の比較をレンズ種類ごとに図4に示す.2.AddonレンズによるタッチアップLASIKによるタッチアップは有効であるが,エキシマレーザーが必要なため一般の施設での普及には限界がある.一方,二次挿入用に開発されたいわゆるAddonレンズであれば,白内障手術に必要な設備があれば導入することができるため,広く普及する可能性は高いと思われる.現在,国内でおもに使用されているAddonレンズは,HumanOpthtics社製Addonレンズと1stQ社製AddOnRレンズがある.筆者がおもに使用している(50) のは1stQ社製AddOnRレンズであるため,そちらを中になっており,光学部はシリコーン製でループ部は心に述べることにする.PMMA(polymethacrylate)である(図5).球面レンa.HumanOpthtics社製Addonレンズの特徴ズ・乱視用レンズ・多焦点レンズ(乱視用あり)がライHumanOpthtics社製Addonレンズは3ピース構造ンナップされている.レンズ形状はどのタイプも同じでコントラスト感度の変化(グレアoff)全症例単焦点多焦点60.060.060.045.045.045.030.030.030.015.015.015.0000361218361218361218術前術後空間周波数図4タッチアップ前後のコントラスト感度の変化単焦点IOLに比べ多焦点IOLのコントラスト感度が低いことがわかる.多焦点IOLにおいては術後に低下傾向にはあるが,全症例・単焦点・多焦点ともタッチアップにより優位なコントラスト感度の低下を認めなかった.コントラスト感度図5HumanOphtics社製Addonレンズの外観乱視用レンズの外観である.球面レンズ・多焦点レンズも外観形状は同様である.ループの先端が凹凸になっており安定性を確保するデザインになっている.光学部はシリコーン,ループはPMMAである.(HumanOphtics社HPより抜粋)(51)あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151279図61stQ社製AddOnRの外観独特の4つのリング状ループである.図は球面レンズである.乱視用レンズ・多焦点レンズの外観も同様である.レンズ素材は親水性アクリルである. 図7AddOnRのループ部の動き大きさの異なる円周においてもループが変形することにより光学部の中心安定性を確保できるようになっている.図8AddOnRの製作範囲表白内障術後の屈折誤差に対しての矯正範囲としては十分なラインナップであるが,多焦点レンズにおける乱視用の開発が待たれるところである. あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151281(53)に示す.AddOnRの最大の特徴は,アクリルレンズであるため,.内での開き方が緩徐な点である.前房内のみでのレンズの展開はイメージよりも窮屈なものであり,レンズのコントロール性がきわめて重要である.切開創は約3mmであり,専用のカートリッジにて挿入する.慣れてくると前身する2つのループをレンズ挿入時に虹彩下に入れることも可能で,ストレスなく手術を終了することができる.多焦点レンズは,加入度数が+3.0Dであり,中心部が3mmの回折構造をもつアポダイズレンズである.Alcon社製ReStoreRと同様の原理で作られている.1stQ社製AddOnRの成績を図9,10に示す.n数が少ないため傾向としてのデータであるが,裸眼視力・多焦点における近方視力の改善が認められることがわかる.今回の症例の中には,中等度以上の円錐角膜や角膜移植後も含まれており,そうした背景を考えると良好な成績であるといえよう.乱視矯正においても改善が認められ,残余乱視の矯正方法として効果的であることがわかる(図11).IILASIKかAddonレンズか矯正精度からいえばLASIKに軍配が上がるであろう.LASIKは0.5D程度の軽度の屈折異常にも対応できるという優位性ももっている.しかしLASIKでは,フラップトラブルや術後のドライアイなどの合併症に対する対応も念頭におかなければならない.RK(radialkeratotomy)後眼,円錐角膜眼,角膜移植後眼など,IOL計算が困難な場合などは,Addonレンズという選択肢があると非常に有用であろう3).術後の屈折誤差が比較的大きい場合には,Addonレンズで0.340.710.810.830.220.620.640.650.11.0術前1-Day1W1M遠方近方(多焦点)図9AddOnRの術後裸眼視力(n=9)術後の視力は安定して推移している.条件の厳しい症例としては良好な結果であった.-3.8-0.75-0.80-0.5-0.25-1-0.5-0.25-9-2.5-3case1case2case3case40-2.75-10-9-8-7-6-5-4-3-2-10術前1-Day1W1M図10AddOnR乱視用レンズの乱視度数の推移(n=4)手術翌日より安定した乱視矯正効果が得られていることがわかる.case4は角膜移植眼である.図11乱視用AddOnRの細隙灯顕微鏡写真角膜移植後眼の術後乱視に対して,乱視用AddOnRを挿入した.2-8時に見えるのがトーリックラインである.0.340.220.710.620.810.64遠方近方(多焦点)0.830.650.1術前1-Day1W1M図9AddOnRの術後裸眼視力(n=9)術後の視力は安定して推移している.条件の厳しい症例としては良好な結果であった.図11乱視用AddOnRの細隙灯顕微鏡写真角膜移植後眼の術後乱視に対して,乱視用AddOnRを挿入した.2-8時に見えるのがトーリックラインである.に示す.AddOnRの最大の特徴は,アクリルレンズであるため,.内での開き方が緩徐な点である.前房内のみでのレンズの展開はイメージよりも窮屈なものであり,レンズのコントロール性がきわめて重要である.切開創は約3mmであり,専用のカートリッジにて挿入する.慣れてくると前身する2つのループをレンズ挿入時に虹彩下(53)0-0.8-0.5-0.750-0.25-1-2.5-3.8-3case1case2case3case4-90-0.25-0.5-1-2-2.75-3-4-5-6-7-8-9-10術前1-Day1W1M図10AddOnR乱視用レンズの乱視度数の推移(n=4)手術翌日より安定した乱視矯正効果が得られていることがわかる.case4は角膜移植眼である.に入れることも可能で,ストレスなく手術を終了することができる.多焦点レンズは,加入度数が+3.0Dであり,中心部が3mmの回折構造をもつアポダイズレンズである.Alcon社製ReStoreRと同様の原理で作られている.1stQ社製AddOnRの成績を図9,10に示す.n数が少ないため傾向としてのデータであるが,裸眼視力・多焦点における近方視力の改善が認められることがわかる.今回の症例の中には,中等度以上の円錐角膜や角膜移植後も含まれており,そうした背景を考えると良好な成績であるといえよう.乱視矯正においても改善が認められ,残余乱視の矯正方法として効果的であることがわかる(図11).IILASIKかAddonレンズか矯正精度からいえばLASIKに軍配が上がるであろう.LASIKは0.5D程度の軽度の屈折異常にも対応できるという優位性ももっている.しかしLASIKでは,フラップトラブルや術後のドライアイなどの合併症に対する対応も念頭におかなければならない.RK(radialkeratotomy)後眼,円錐角膜眼,角膜移植後眼など,IOL計算が困難な場合などは,Addonレンズという選択肢があると非常に有用であろう3).術後の屈折誤差が比較的大きい場合には,Addonレンズであたらしい眼科Vol.32,No.9,20151281 1282あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(54)また,追加レンズとしてのAddonレンズも開発され,特殊な装置がなくても術後屈折矯正が可能となってきた.比較的大きな屈折誤差が残り,何らの理由で入れ替えがリスクを伴う場合などには良い適応であろう.また,今まではIOLの交換という手段しか方法がなかったような,円錐角膜・角膜移植後といった症例に対するタッチアップ法として有用な手段である.Addonレンズでは多焦点レンズも開発されており,以前の白内障術後眼であっても多焦点化させることができる.新しいニーズの開拓となる可能性があり,今後の普及が期待されるところである.文献1)KimP,BrigantiEM,SuttonGLetal:Laserinsituker-atomileusisforrefractiveerroraftercataractsurgery.JCataractRefractSurg31:979-986,20052)PineroDP,EspinosaMJ,AlioJL:LASIKoutcomesfollow-ingmultifocalandmonofocalintraocularlensimplantation.JRefractSurg11:1-9,20093)ThomasBC,AuffarthGU,ReiterJetal:Implantationofthree-piecesiliconetoricadditiveIOLsinchallengingclin-icalcaseswithhighastigmatism.JRefractSurg29:187-193,2013の矯正がとくに効果的と考えられる.術後の経過観察のポイントも通常の白内障手術と同様であり,その点は術者にとってのストレスは少ないと考えられる.まとめ白内障手術の裸眼視力向上に対するオプションの一つとして,術後のLASIKによるタッチアップは有効な方法であると思われる.トーリックIOLの選択や術中のLRIなどの方法を施行しても,術後の屈折異常が残存し裸眼視力が不良なケースにおいては,最終的な手段ともなり得るであろう.「見え方」は「視力」という数字ではなく,感覚であり,術者が数値上ではわずかに思える乱視度数でも,「見え方」に対する不満を訴えるケースも多い.こうしたわずかな屈折誤差を矯正するには,現在の0.5DステップのIOL製作単位では限界がある.LASIKを中心とするエキシマレーザーにより,こうした微少な誤差をも矯正できる時代になってきている.多くの白内障術者に,LASIKによるタッチアップが,大きなリスクを伴わず有効な手段であることを認識していただければ幸いである.

術中収差計の可能性

2015年9月30日 水曜日

特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1273~1276,2015特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1273~1276,2015術中収差計の可能性PotentialofIntraoperativeAberrometer後藤憲仁*はじめに白内障手術は,多焦点眼内レンズ,トーリック眼内レンズに代表される付加価値眼内レンズの登場や,フェムトセカンドレーザーに代表される白内障手術装置の進歩により,単に混濁した水晶体を摘出する開眼手術から,より質の高い術後視機能を獲得する復眼手術へとその意味合いが変化してきている.術後視機能の満足度として重要なポイントは術後屈折であり,さまざまな眼内レンズ度数計算や方法が考案されている.しかしながら,未だに屈折誤差が0.5ジオプトリー(D)以内の症例は71%で1),約3人中1人は0.5D以上の屈折誤差を生じており,laserinsitukeratomileusis(LASIK)に代表される屈折矯正手術の精度には及んでいない.そのなかで,白内障術中に手術顕微鏡に装着された術中収差計を用いて,球面度数や円柱度数などをリアルタイムで測定し,最適化した眼内レンズの球面度数やトーリック度数を決定するシステムが米国を中心に注目されている.本稿では術中収差計の代表であるORATMsystemwithVerifEye+RTechnology(Alcon社)(図1)について解説する.I術中収差計とは術中収差計とは,手術顕微鏡に装着した収差計を用いて,術中に球面・円柱度数を測定できる装置である.ORAsystemwithVerifEye+RTechnologyは780nmの赤外線LED光が波面収差測定を行い,4つの880nmBA図1ORAsystemwithVerifEye+RTechnology(Alcon社)顕微鏡に搭載された収差計(A)で球面度数,円柱度数・軸などの測定を行う.介助者がBのタッチパネルを操作して,各種モードの切り替え,眼内レンズの選択,顕微鏡視野へのオーバーレイの切り替えなどを行う.LED光がアライメントレーザーとなり,球面度数,円柱度数と軸,瞳孔径の測定(4~10mm)の測定,IOL挿入後の屈折の確認が可能である.簡潔にいうと,手術顕微鏡にオートレフケラトメータが搭載されている装置で*NorihitoGoto:獨協医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕後藤憲仁:〒321-0293栃木県下都賀郡壬生町大字北小林880獨協医科大学眼科学教室0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(45)1273 1274あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(46)⑥トーリック眼内レンズの固定軸確認(図2F)最終的に「NoRotationRecommended」が表示される部分にトーリック眼内レンズを固定し,手術を終了する.III術中収差計の臨床成績術中収差計の初めての臨床報告は,2010年にPackerMによりLRIによる乱視矯正効果を比較したものである.ORAsystemwithVerifEye+RTechnologyの先行機であるORangewavefrontaberrometer(WaveTecVision社)を使用することで,乱視矯正効果が有意に良好であった2).その後,Cantoらは角膜屈折矯正術後の眼内レンズ屈折誤差について,術中収差計(ORange)による計算,IOLマスターによるSRK-T式,中心アベレージK値による計算,ASCRSウェブサイトによる計算で比較し,術中収差計による計算が良好であったと報告している3).一方で,放射状角膜切開術(radialkera-totomy:RK)症例では術中収差計を使用しても不良であった3).Ianchulevらは,LASIK,photorefractivekeratectomy(PRK)後の眼内レンズ屈折誤差については,Haigis-L式,ShammasIOL計算と比較して,術中収差計が有意に良好であったと報告している4).同様にLASIK,PRK後の屈折誤差について,ORAsystemとHaigis-L式,Masket法,スペクトラドメインOCTによるOptovueRTVue(Optovue社)によるIOL計算を比較し,ORAsystemでもっとも良好であったという報告もある5).また,トーリック眼内レンズの軸固定に関しても,術中収差計を使用した場合は術後残余乱視0.5D未満が,2.4倍であったと報告されている6).術中収差計による測定は,一般的に眼内レンズ度数ずれが生じやすいといわれる角膜屈折矯正手術後に眼内レンズパワー計算に有効であり,トーリック眼内レンズの軸固定にも効果的であると思われる.おわりに術中収差計は言い換えれば手術顕微鏡に搭載されたオートレフケラトメータであり,屈折矯正的な意味合いが大きくなりつつある白内障手術において魅力的なツールである.数年前のASCRS(米国白内障屈折矯正学会)ある.最大の特徴は,術中リアルタイムに球面・円柱度数の測定が可能なことである.それにより,最適化した眼内レンズの選択・固定が可能になる.とくにトーリック眼内レンズのガイドや眼内レンズ挿入後の屈折の確認に有効である.Alcon社のVERIONTMやCarlZiessMed-itec社のCALLISTOeyeに代表されるサージカルガイダンスシステムは,術前に測定したイメージデータを手術顕微鏡にデジタルマーカーとしてオーバーレイすることができるが,眼内レンズ挿入後の屈折確認を行うことはできない点が,術中収差計と異なる.II術中収差計の使用方法ORAsystemwithVerifEye+RTechnologyはわが国では未承認であり,筆者も使用経験がない.Alcon社のホームページより得られた実際の使用方法を解説する.①測定条件選択画面(図2A)タッチパネル方式のモニターから,AphakicかPseu-dophakicを選択する.AphakicにはPowercalculation,LimbalRelaxingIncision(LRI),LRIEnhancementが選べる.PseudophakicではAfterIOLImplantNon-Toric,LRI,LRIEnhancement,AfterToricImplantが選べる.Pseudophakicセッティングは基本的に眼内レンズ挿入後の屈折確認に用いられる.②術中リアルタイム測定(図2B)継続的にリアルタイムで球面度数,円柱度数と軸を測定できる.安定したところでデータをキャプチャする.③推奨眼内レンズ選択(図2C)②の測定値を元に推奨眼内レンズを選択できる.④トーリック眼内レンズ選択の場合(術前ケラト値との比較)(図2D)術前に測定したケラト値と術中収差計によるリアルタイム測定値を比較し,眼内レンズモデルと固定軸を決定する.⑤トーリック眼内レンズに対するデジタルマーカー(オーバーレイ)(図2E)顕微鏡視野にオーバーレイで360°の軸が表示され,トーリック眼内レンズ挿入角度に軸に固定できる.その際にもリアルタイムで円柱度数を測定する. 図2ORAsystemwithVerifEye+RTechnology使用方法 1276あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(48)4)IanchulevT,HofferKJ,YooSHetal:Intraoperativerefractivebiometryforpredictingintraocularlenspowercalculationafterpriormyopicrefractivesurgery.Ophthal-mology121:56-60,20145)FramNR,MasketS,WangLetal:Comparisonofintra-operativeaberrometry,OCT-basedIOLformula,Hagis-L,andmasket.FormulaeforIOLpowercalculationafterlaservisioncorrection.Ophthalmology122:1096-1010,20156)HatchKM,WoodcockEC,TalamoJH:Intraocularlenspowerselectionandpositioningwithandwithoutintraop-erativeaberrometry.JRefractSurg31:237-242,2015文献1)BehndigA,MontanP,SteneviUetal:Aimingforemme-tropiaaftercataractsurgery;SwedishNationalCataractRegisterstudy.JCataractRefractSurg38:1181-1186,20122)PackerM:Effectofintraoperativeaberrometryontherateofpostoperativeenhancement:retrospectivestudy.JCataractRefractSurg36:747-755,20103)CantoAP,ChhadvaP,CabotFetal:ComparisonofIOLpowercalculationmethodsandintraoperativewavefrontaberrometerineyesafterrefractivesurgery.JRefractSurg29:484-489,2013

Toric眼内レンズ挿入におけるマーキングを必要としない術中ガイドシステム

2015年9月30日 水曜日

特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1267~1272,2015特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1267~1272,2015Toric眼内レンズ挿入におけるマーキングを必要としない術中ガイドシステムIntraoperativeImageGuidedSystemforToricIOLImplantation谷口紗織*ビッセン宮島弘子*はじめに白内障手術は単に視力の回復を目的とするだけではなく,屈折矯正手術としての役割も大きくなってきている.白内障手術患者に対する乱視矯正の方法としては,保存的治療として術後の眼鏡,コンタクトレンズ装用,外科的治療として角膜輪部減張切開術(limbalrelaxingincision:LRI),laserinsitukeratomileusis(LASIK)などのエキシマレーザー屈折矯正手術,乱視矯正眼内レンズ(toricintraocularlens:ToricIOL)がある.外科的治療のなかで,ToricIOLは,角膜に侵襲を加えることなく白内障手術と同時に乱視矯正を行うことが可能である唯一の方法であり,術後早期から良好な裸眼視力が得られることが大きな利点となっている.ToricIOLは1994年に清水ら1)によって最初に報告されて以来,これまで数多く開発されてきており,正確かつ安定した乱視矯正効果が報告されている2~5).ToricIOLは,レンズの弱主経線上の軸マークを角膜の強主経線に合わせることで乱視を低減させる.つまり,互いの強主径線を直交するように配置するというクロスシリンダー法での乱視矯正となる.そのためレンズの乱視軸が合わないと矯正効果が減弱し,軸が1°ずれると乱視矯正効果が3.3%失われるとされており,30°ずれてしまうと乱視矯正効果はほとんど得られない1,6).そのため,軸ずれを防ぐことがToricIOLの最大のポイントとなる.手術中に起こる軸ずれの原因として,姿勢変化による眼球回旋がある.術前検査で得られた乱視軸度数は座位での測定であり,手術顕微鏡下の仰臥位への姿勢変化で眼球の回旋(多くは内方回旋)が生じるため,手術時には異なる角度に変化してしまう7~9).術前の座位で計測された乱視軸を,仰臥位で行われる白内障手術の際に同定し,乱視軸の位置決めを正確に行うことが軸ずれを防ぐうえでもっとも重要になってくる.正確な乱視軸のマーキングを行うためには,術前に施行した角膜形状解析画面中にある前眼部の基準マークを術中に手術眼中に直接確認できること,この基準マークと角膜乱視検査データとが確実にリンクしていることが必要である.以上を満たす方法として,角膜形状解析データと角結膜上の軸マーキングを用いた乱視軸のaxisregistration10)があり,角膜形状解析機器として角膜形状解析装置11),前眼部光干渉断面解析装置(anteriorsegmentopticalcoherencetomography:OCT)12),光干渉式眼軸長計測装置(IOLマスター)13)などが用いられている.しかし,角結膜上の軸マーキングは,外来で事前に行わなくてはならないこと,インクはにじみ洗眼時に落ちやすいこと,インクや圧痕が消えた場合は再度マーキングの必要があることなど,正確さに欠け煩雑であることが問題点としてあった.以上の問題を解消した方法として,マーキングを必要としない方法が登場した.術前のマーキングを必要としない乱視軸の決定方法として,結膜の特徴的な血管走行を基準マークとするもの*SaoriYaguchiandHirokoBissenMiyajima:東京歯科大学水道橋病院眼科〔別刷請求先〕谷口紗織:〒101-0061東京都千代田区三崎町2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(39)1267 図1IOLMasterR500緑色光にてリファレンス画像を撮影する. 図2CALLISTOeyeR使用時のリファレンス画像IOLマスターからのリファレンス画像(左画面)と手術用顕微鏡からのリファレンス画像(右画面)を同期させている.図3CALLISTOeyeRによるToricIOL挿入軸表示青線3本でIOL挿入軸を表示している. 図4CALLISTOeyeRによるCCCガイド図5CALLISTOeyeRによる角膜切開ガイド青いリングでCCCガイドを表示している.黄線で角膜切開ガイドを表示している. あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151271(43)マニュアルでの手術と比べて,より精密で正確かつ一定の手術が可能となっていることである.VERIONTMは眼科用レーザー手術装置(LenSxR)と連動させることができ,顕微鏡下手術同様,眼回旋の影響を考慮し,プラン通りの位置にレーザー照射が可能である.3.FLACSとVERIONTMを用いたToricIOLによる乱視矯正手術の手順術前に外来にてメジャメント・モジュールで角膜の計測とデジタル画像撮影を行い,測定データに基づき,ビジョン・プランナーで術後残存乱視を最小限にするような角膜切開のプランニングを行う.手術室では,眼科用レーザー手術装置(LenSxR)に装着されたデジタル・マーカーL(digitalmarkerforLenSxR)に,撮影・計測・プランニングした情報が移動される.手術台に仰臥位になった患者に開瞼器を装着した状態で,LenSxRに取り付けたpatientinterface(PI)をさげてゆき,角膜中央とPIの中心が合うように水平にドッキングする.仰臥位での前眼部撮影は,PIの装着前後の2回行われる.これにより座位から仰臥位の眼球回旋のほか,PI装着による位置ずれも補正することができる.前眼部OCT検査により前眼部の正確な形状解析を行い,その結果を確認しながら前.および角膜への照射域を最終確認し決定する.あとは,術者がフットスイッチを押し続けることで,前.切開→核分割→必要に応じて乱視矯正用の角膜減張切開→角膜切開創(主切開とサイドポート)のフェムトセカンドレーザー照射がプログラム通りに遂行される.レーザー実施後は,レーザーで作製された角膜切開創からのマニュアルでの水晶体超音波乳化吸引術(phacoemulsificationandaspiration:PEA)となる.手術顕微鏡(LuxORR)に装着されたデジタル・マーカーMによりライブ画像が登録され,眼球追尾機能でToricIOL挿入軸が術者視野また術野映像上にリアルタイムに表示される.4.ToricIOLによる乱視矯正とFLACSにおけるVERIONTMの有用性角膜切開創の再現性と精度が上がることにより,IOLV今後の可能性1.アシスタント機能による角膜切開とCCCガイドの有用性ToricIOLによる乱視矯正を確実にするためには,角膜形状解析で得られた角膜の強主経線上にToricIOLの乱視軸を正確な位置に挿入することのほかに,手術時の切開位置が正確であること,ToricIOLのセンタリングが重要である.トーリックカリキュレーターでは,手術眼の計測データのほかに,術者の切開位置を入力することで,ToricIOLの挿入軸が決定されている.そのため,入力した切開角度と実際の手術時の切開位置が一致していることが前提となっている.また,ToricIOLによる乱視矯正を術後長期にわたって安定して得るためには,挿入されたIOLのセンタリングが良好に保たれていることが重要であり,そのためには前.の中心部に適切な大きさでCCCを作製し,ToricIOLの中心がずれないように.内固定することが重要である.さらに,術後に前.と後.が接触していると癒着しIOL偏位をきたすため,光学部が前.によって全周性に覆われている状態が望ましい.CALLISTOeyeRとVERIONTMのアシスタント機能により角膜切開とCCCのガイダンスが得られ,適切かつ正確な位置に角膜切開とCCCが作製できることは,ToricIOLによる乱視矯正効果をより確実なものにすると考えられる.2.フェムトセカンドレーザーを用いた白内障手術と術中ガイドシステム近年,フェムトセカンドレーザーを用いた白内障手術(femtosecondlaser-assistedcataractsurgery:FLACS)が急速に普及してきている.FLACSは,フェムトセカンドレーザーを用いて,白内障手術における水晶体前.切開,水晶体核分割,角膜切開,乱視矯正切開を行うことであり,2008年にハンガリーのNagyら17)により白内障手術への臨床使用が開始された.FLACSの利点は,前眼部光干渉断層計(opticalcoherenttomograhy:OCT)で測定した結果に基づき,コンピューターでの精密な制御のもと,先鋭なフェムトセカンドレーザーで前.切開と角膜切開が行われるため,従来の 1272あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(44)es:correctingastigmatismwhilecontrollingaxisshift.JCataractRefractSurg20:523-536,19942)BauerNJ,deVriesNE,WebersCAetal:Astigmatismmanagementincataractsurgery.JCataractRefractSurg34:1483-1488,20083)Ruiz-MesaR,Carrasco-SanchezD,Diaz-AlvarezSBetal:Refractivelensexchangewithfoldabletoricintraocu-larlens.AmJOphthalmol147:990-996,20094)AhmedII,RochaG,SlomovicARetal:Visualfunctionandpatientexperienceafterbilateralimplantationoftoricintraocularlenses.JCataractRefractSurg36:609-916,20105)Bissen-MiyajimaH,NegishiK,HiedaOetal:Microinci-sionhydrophobicacrylicaspherictoricintraocularlensforastigmatismandcataractcorrection.JRefractSurg31:358-364,20156)NovisC:Astigmatismandtoricintraocularlenses.CurrOpinOphthalmol11:47-50,20007)SmithEMJr,TalamoJH,AssilKKetal:Comparisonofastigmaticaxisintheseatedandsupinepositions.JRefractCornealSurg10:615-620,19948)ChangJ:Cyclotorsionduringlaserinsitukeratomileusis.JCataractRefractSurg34:1720-1726,20089)KimH,JooCK:Ocularcyclotorsionaccordingtobodypositionandflapcreationbeforelaserinsitukeratomileu-sis.JCataractRefractSurg34:557-561,200810)MiyataK,MiyaiT,MinamiKetal:Limbalrelaxinginci-sionsusingareferencepointandcornealtopographyforintraoperativeidentificationofthesteepestmeridian.JRefractSurg27:339-344,201111)宮田和典:トーリックIOLの適応と導入のコツ.IOL&RS24:373-378,201012)根岸一乃:トーリックIOLの適応と導入のコツ.IOL&RS24:363-368,201013)大木孝太郎:トーリックIOLの適応と導入のコツ.IOL&RS24:379-383,201014)WeinandF,JungA,SteinA:Rotationalstabilityofasin-gle-piecehydrophobicacrylicintraocularlens:newmeth-odforhigh-precisionrotationcontrol.JCataractRefractSurg33:800-803,200715)LesieurG:CallistoEye:Seamlessintegrationwithotherproducts.Cataract&RefractiveSuegeryTodayEurope50-52,201416)後岡克典,林良子,夏目恵治:乱視矯正眼内レンズ使用時の乱視軸マーキング法の検討.IOL&RS28:86-89,201417)NagyZ,TakacsA,FilkornTetal:Initialclinicalevalua-tionofanintraocularfemtosecondlaserincataractsur-gery.JRefractSurg25:1053-1060,2009定数や各術者のSIA値の検討を行うことができ,屈折精度を継続して改善していくことが可能となる.また,ToricIOLにおける術後の軸ずれの検討など,1°単位の軸ずれを検証している場合には,その精度を高めることができる.FLACSにより正確な場所に再現性をもって正確な大きさで作製された前.切開と,正確なToricIOLの軸固定により,IOL挿入位置の安定性を高めることができる.中心設定については,角膜中心のほか,術前の無散瞳時の瞳孔中心,視軸の中心を表示することもでき,ToricIOLによる乱視矯正効果をさらに高めることができる.おわりにToricIOLは白内障手術と同時に乱視矯正を行うことが可能であり,術後早期から良好な裸眼視力が得られるため,患者のQOL(qualityoflife),QOV(qualityofvision)においても大きな利点がある.また,手術においては困難な手技や特別な設備を必要としないため,乱視矯正の第一選択としてさらに広く普及していくと考えられる.ToricIOLによる乱視矯正効果を確実なものとするためには,正確に乱視軸を合わせたIOL挿入が必要であり,より確実に可能にするために開発されたマーキングを必要としない乱視軸の表示システムについて紹介した.乱視軸表示以外にもアシスタント機能としてついている角膜切開位置ガイドとCCCガイドも,ToricIOLの術後成績を改善するうえでとても有用である.将来的には,アベロメータ.の機能により,術中にリアルタイムで全乱視量が計測でき,乱視量がもっとも小さくなる位置にToricIOLを固定することが可能になる予定である.今後,さらなる技術の発展により,より簡便で確実な術中ガイドシステムが登場することを期待する.文献1)ShimizuK,MisawaA,SuzukiY:Toricintraocularlens-

多焦点眼内レンズの選択

2015年9月30日 水曜日

特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1257~1265,2015特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1257~1265,2015多焦点眼内レンズの選択CurrentOptionsofMultifocalIOLs:ChangingfromBifocalIOLstoRefractiveVarifocalIOLsorDiffractiveTrifocalIOLs真野富也*はじめに多焦点眼内レンズは,わが国では2008年に回折型多焦点眼内レンズのReSTORR(Alcon社)とReZOOMR,TECNISRMulti(いずれもAMO社)が承認され,その後,乱視付きのReSTORRToric(Alcon社)と屈折型のiSiiR(HOYA社)も発売された.そして,先進医療にも認定され徐々に普及してきている.しかし,これらの承認された多焦点眼内レンズはあくまで遠近の2焦点レンズ(bifocallens)であり,中間距離(1mから50cmあたり)が見えにくいという欠点があり,同時に単焦点眼内レンズとは異なるハローやグレアといった異常光視症や回折型にみられる曇った感じ(waxyvision)などの合併症もあることから,まだ一般に普及するまでにはいたらず,限られた施設で行われているのが現状である.一方,おもにヨーロッパでは,2焦点レンズから中間距離も見やすくした回折型3焦点レンズ(diffractivetrifocalIOL)1~4)や遠方,近方のみならず中間視力も良い分節状屈折型多焦点レンズ(segmentedrefractivemultifocalIOLs)4~6)などが普及している.そして,これらのレンズには乱視付き多焦点眼内レンズも発売されており,適応症例もかなり拡大している.また,これまでの臨床経験から,ヒトの脳によるハローやグレアの抑制に対する認識も深まってきており,多焦点眼内レンズの適応症例と不適応症例の鑑別などが多焦点眼内レンズを扱う術者に理解されるようになってきた.その結果,患者の満足度が向上し,多焦点眼内レンズはさらに普及しつつある.本稿では,わが国では未承認であるが多根記念眼科病院(以下,当院)でおもに使用している分節状屈折型多焦点眼内レンズ(LENTISMplusR(Oculentis社)5)を中心に,その成績と多焦点眼内レンズの選択方法について解説する.I多焦点眼内レンズの適応多焦点眼内レンズは術後の眼鏡への依存度を減らすことが最大のメリットである.したがって,術後眼鏡をかけることをいとわない患者は現段階では適応外である.ただ特殊な例としては,40歳以下の調節力のある近視眼の片眼の白内障例に多焦点眼内レンズを入れることによって,同じ度数の近視の眼鏡をかけて遠方も近方も見られるようにするという用法がある.先進医療保険を利用する場合に選択できるレンズは,認可を受けている回折型多焦点レンズ(2焦点レンズ)のReSTORRかTECNISRMultiあるいは屈折型のiSiiRだけとなる.ただし,これらのレンズは+6D~+30Dが製造範囲(iSiiRは+14D~+25D)なので,この範囲を超える場合は他のレンズを使用することとなり,先進医療は受けられない(表1参照).また,2015年1月よりReSTORRは術後眼内炎が多発したために回収され,ReSTORRToricも含め現在使用できない.TECNISRMultiとiSiiRにはトーリックレンズがないため,.2D以上の直乱視や.1.25D以上の倒乱視および斜乱視症例*TomiyaMano:多根記念眼科病院〔別刷請求先〕真野富也:〒550-0024大阪市西区境川1-1-39多根記念眼科病院0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(29)1257 1258あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(30)表1多焦点眼内レンズの種類と特徴メーカーレンズ名モデル認可種類power加入度(眼鏡上)レンズ形状S面C面デザイン材質光学径全径前面後面着色AlconReSTORSA60D3○アポダイズ回折6.0~30.0D─4.0D(3.2D)1P疎水性アクリル6.013.0多焦点凸─ReSTOR(非)SN6AD310.0~30.0─4.0D(3.2D)多焦点(非)○ReSTOR(3.0D)SN6AD1中心3.6mm6.0~34.0D─3.0D(2.5D)ReSTORT(3.0D)SND1T3~66.0~30D1.5~6.0D※1多焦点(非)トーリックAMOReZOOMNXG1屈折6.0~30.0D─3.5D(2.0~2.5D)3P───TECNISMultifocalZM900回折5.0~30.0D─4.0D(3.2D)シリコーン非球面多焦点ZMA00疎水性アクリルZMB001PHOYAiSiiPY-60MV屈折14.0~25.0D─3.0D(2.5D)3P12.5──○ZeissATLISAAcri.LISA366D×回折0.0~32.0D─3.75D(3.0~3.25D)プレート親水性アクリル11.0非球面多焦点(非)─○※4─○※4Acri.LISAToric466TD.10.0~32.0D1.0~12.0Dトーリック(非)ATLISAtri839MP0~32.0D─1.66D(1.25D)非球面ATLISAtritoric939MP.10.0~28.0D1.0D~4.0D3.33D(2.5D)トーリック(非)OculentisLENTISMplusLS-313MF20セクター屈折.10.0~36.0D※2─2.0D(1.5D)両凸非球面LS-313MF303.0D(2.5D)LU-313MFT0.0~36.0D※30.25D~12.0D※3LENTISMplusX※5LS-313MF30.10.0~36.0D※2─3.0D(2.5D)LU-313MFT0.0~36.0D※30.25D~12.0D※3PhysIOLFINEVISIONMICROFアポダイズ回折10.0~35.0D─1.75D(1.25D)3.5D(3.0D)1P6.1510.8両凸・非球面○PODF6.0~35D─6.011.4FINEVISIONTORICPODFT1.0~6.0D※6※7種類(0.75Dstep)1.10.0~.1.0Dは1.0Dstep※2※30.01Dstep※着色ありなし選択可4※近軸非球面性を付加5※8種類(1.0D・1.5Dから0.75Dstep)6現在製造中止現在ReSTORは出荷中止(H27.1~)ReSTORReZOOMTECNISMulti3PTECNISMulti1PiSiiATLISALENTISMplusFINEVISION あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151259(31)的に有意差はないものの,中間距離の1mおよび50cmでLENTISRMplusXのほうがLENTISRMplusより少し良い結果となっている(図2).さらに,LENTISRMplusXでは,下方の近用部分をレンズ周辺まで滑らかにし,同時に遠用部から近用部への移行部もさらに滑らかにすることにより,瞳孔が拡大したときのハローやグレアを軽減している(surfacedesignoptimization:SDO).では,術後残余乱視のためあまり良い裸眼視力は期待できない.そのため,術後にエキシマレーザーによるタッチアップやaddonレンズの二次挿入による矯正が必要になることがある.また,これら多焦点眼内レンズは,術後の水晶体.の収縮によりレンズのセンタリングがずれたり,傾斜したりすると,術後の見え方に大きく影響する.そのため,万全を期すのであればフェムトセカンドレーザーを使用して連続円形切.(continuouscurvilinearcapsulor-rhexis:CCC)を行うことが望ましい.フェムトセカンドレーザーを使用した場合も現段階では先進医療は受けられない.また,別途レーザーの費用が必要となる.先進医療保険を利用しない場合は,未承認ではあるが,ヨーロッパで広く使用されている分節状屈折型多焦点眼内レンズLENTISRMplusやLENTISRMplusXおよび回折型3焦点眼内レンズのFINEVISIONR(PhysI-OL社)やATLisaR(CarlZeissMeditec社)があり,これらレンズにはトーリックレンズもあり適応症例も広い.代表的な多焦点眼内レンズの種類と特徴を表1に示す.II分節状屈折型多焦点レンズのLENTISRMplusとLENTISRMplusX図1に分節状屈折型多焦点レンズのLENTISRMplusとその改良レンズであるLENTISRMplusXのシェーマを示す.LENTISRMplusはすでに約6年以上の実績がある分節状の新しい世代の屈折型2焦点レンズである5,6).しかし,小瞳孔例では近方が見にくかったり,分節状構造に特有のグレアやハローが気になることもあった6).これに対してLENTISRMplusXは2013年に改良された新しいレンズであり,おもな改良点は,中心部の丸い遠用部分の直径を1.15mmから0.70mmと小さくし,その近傍を非球面化したことである(additiveparaxialasphericity:APA).その結果,2mmの小瞳孔でも近用部分が28%以上カバーできるようになり,小さい瞳孔径でも近方が見やすくなった.また,中心近傍の非球面化により焦点深度が深くなり中間視力がさらに向上した(varifocalIOL).全距離視力でも,統計学AdditiveParaxialAsphericity(APA)(近軸非球面性を付加)O中間の見え方が良好SurfaceDesignOptimisation(SDO)(デザインの最適化)O中心部の近方セグメントの改良O遠見部への移行部の改良→ライトロス減少O支持部への移行部の改良→グレア,ハローなどの軽減図1分節状屈折型多焦点眼内レンズLENTISRMplusとLENTISRMplusXのシェーマ.5m3m1m50cm30cmATLisa14眼LENTISMplus107眼LENTISMplusX68眼ReSTOR+3D28眼ReSTOR+4D23眼ReZOOM16眼TECNISMulti16眼単焦点30眼視力1.00.80.50.30.2距離図2全距離視力の結果AdditiveParaxialAsphericity(APA)(近軸非球面性を付加)O中間の見え方が良好SurfaceDesignOptimisation(SDO)(デザインの最適化)O中心部の近方セグメントの改良O遠見部への移行部の改良→ライトロス減少O支持部への移行部の改良→グレア,ハローなどの軽減図1分節状屈折型多焦点眼内レンズLENTISRMplusとLENTISRMplusXのシェーマ.5m3m1m50cm30cmATLisa14眼LENTISMplus107眼LENTISMplusX68眼ReSTOR+3D28眼ReSTOR+4D23眼ReZOOM16眼TECNISMulti16眼単焦点30眼視力1.00.80.50.30.2距離図2全距離視力の結果 1260あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(32)3.33D,中間にその半分の+1.66Dが付加された設計になっている1,3,4)(表1参照).これまでの報告ではこれら新しい3焦点レンズと2焦点眼内レンズでハローやグレアに大差はないとのことである2~4).なかには3焦点レンズのほうが光の散乱が少ないという報告もある7).IV臨床成績当院では2008年2月から多焦点眼内レンズの使用を始め,2015年6月までに803眼を挿入した.当院でこれまで使用した多焦点眼内レンズの見え方の特徴を調べるために,術後矯正視力が1.0以上,術後乱視が1.25D以内かつ等価球面度数が0~+1.25D以内というすべての条件を満たす487眼で遠方から中間,そして近方までの裸眼視力を測定した.結果を図2と表2に示す.視力はすべてlogMAR視力に換算している.図2は表2の平均値をわかりやすくするために小数視力に再び変換し,標準偏差を略したものである.視力の測定は,5mは通常の視力表(イナミ)を使用し,3m,1mは半田屋製新井氏1M視力表を,50cmは半田屋製近点視力表,30cmは半田屋製新標準近距離視力表を用いた.回折型のTECNISRMultiとReSTORR+4Dはどちらも近方に+4Dを付加しており,遠方5m,3mと近方30cmでは裸眼視力はほぼ1.0と良好であるが,中間の1m,50cmでは0.5前後と低下している.これに対し,ReSTORR+3Dでは,やはり遠方は良好な視力が得られており,近方30cmと中間50cmが0.7程度で中間距離50cmでの落ち込みがマイルドである.しかし,同じ中間でも1mではやはり視力は低下している.一方,屈折型のLentisRMplusおよびLENTISRMplusXの近用加入度数は+3Dであるが,視力は遠方も近方30cmも1.0と非常に良好であり,しかも中間(1m,50cm)での落ち込みも軽度で,1.0に近い視力が得られている.次にコントラスト感度の結果を図4と表3に示す.回折型のReSTORR+4Dと屈折型のReZOOMRは各周波数域で低下していたが(p<0.01),その他の多焦点レンズは単焦点レンズとほとんど変わらず,有意差はみられなかった.III回折型3焦点眼内レンズのFINEVISIONRとATLisaR図3に回折型3焦点眼内レンズであるFINEVISIONRの回折パターンをわかりやすく示す.図のように,このレンズは近用部に+3.5Dの回折パターンを,そして中間にはその半分の+1.75Dの回折パターンを加えたものである.その結果,遠方,近方のみならず中間にもピントが合う構造となっている2,3).回折構造による若干のコントラストの低下とハローはあるものの,グレアは少ない特徴がある4,5).また,回折型3焦点レンズには他にもAT.LisaRもあり,このレンズは近方に+ab2種類の2焦点IOLのコンビネーション①2焦点デザイン:《遠方&近方》②2焦点デザイン:《遠方&中間》①+②3焦点デザイン:《遠方中間近方》ApodisationAddpower▲THEFINEVISIONOPTIC・2焦点IOLよりロスエナジーが少ない・遠・中・近と3点に焦点が合うので,メガネの使用頻度が2焦点IOLに比べ少なくなる(MixMatchも不要)・乱視矯正も同時に可能図3回折型3焦点多焦点眼内レンズFINEVISIONRtrifocala:遠近と遠中の2焦点デザインを組み合わせて3焦点IOLにしている.b:3焦点レンズ断面の模式図.ab2種類の2焦点IOLのコンビネーション①2焦点デザイン:《遠方&近方》②2焦点デザイン:《遠方&中間》①+②3焦点デザイン:《遠方中間近方》ApodisationAddpower▲THEFINEVISIONOPTIC・2焦点IOLよりロスエナジーが少ない・遠・中・近と3点に焦点が合うので,メガネの使用頻度が2焦点IOLに比べ少なくなる(MixMatchも不要)・乱視矯正も同時に可能図3回折型3焦点多焦点眼内レンズFINEVISIONRtrifocala:遠近と遠中の2焦点デザインを組み合わせて3焦点IOLにしている.b:3焦点レンズ断面の模式図. あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151261(33)V各種多焦点眼内レンズの代表症例症例1両眼TECNISRMulti50歳,女性.両眼の後.下白内障が進行したため視力低下し,先進医療の適用となる多焦点眼内レンズを用いた白内障手術を希望され,2015年に紹介受診された.生来強度近視があり,乱視用2weekDSCLを使用していた.〈初診時視力〉RV=0.02(0.8×sph.10.0D(cyl.1.0DAx80°)LV=0.02(0.4×sph.11.5D(cyl.1.0DAx145°)表2各レンズの裸眼視力(平均値,標準偏差,標準誤差)※視力:logMAR視力レンズ種類眼数距離平均値標準偏差標準誤差LENTISMplus(T)1075m.0.0570.0740.0073m.0.0240.0880.0091m0.0920.1140.01150cm0.1160.1410.01430cm0.0830.1350.013LENTISMplusX(T)685m.0.0640.0720.0093m.0.0360.1110.0141m0.0650.1220.01550cm0.0670.0970.01230cm0.0460.0910.011ReSTOR+3D285m.0.0390.0940.0183m0.0420.1250.0241m0.1570.2020.03850cm0.1820.1770.03330cm0.1670.1870.035TECNISMultifocal2015m.0.0390.0970.0073m.0.0010.1230.0091m0.1790.1590.01150cm0.2450.1640.01230cm0.0530.0900.006単焦点305m0.0210.1210.0223m0.1170.1160.0211m0.2040.1280.02350cm0.3960.1590.02930cm0.6520.1690.031表3各レンズごとのコントラスト感度(平均値,標準偏差)※CSV1000による測定レンズ種類眼数cycle/degreeコントラスト感度値標準偏差LENTISMplus(T)7931.7210.19861.9240.218121.6130.256181.1400.216LENTISMplusX(T)5431.7000.21761.8810.185121.5950.221181.1370.220ReSTOR+3D2231.7410.18361.8700.185121.5230.183181.0620.206TECNISMultifocal16131.7630.18361.9240.192121.5970.230181.1040.244単焦点(SA60AT)2931.7670.16461.9560.200121.5780.243181.1140.215LENTISMplus(T)79眼LENTISMplusX(T)54眼ReSTOR+3D22眼ReSTOR+4D10眼ReZOOM5眼TECNISMultifocal161眼単焦点29眼*図4コントラスト感度の結果表2各レンズの裸眼視力(平均値,標準偏差,標準誤差)※視力:logMAR視力レンズ種類眼数距離平均値標準偏差標準誤差LENTISMplus(T)1075m.0.0570.0740.0073m.0.0240.0880.0091m0.0920.1140.01150cm0.1160.1410.01430cm0.0830.1350.013LENTISMplusX(T)685m.0.0640.0720.0093m.0.0360.1110.0141m0.0650.1220.01550cm0.0670.0970.01230cm0.0460.0910.011ReSTOR+3D285m.0.0390.0940.0183m0.0420.1250.0241m0.1570.2020.03850cm0.1820.1770.03330cm0.1670.1870.035TECNISMultifocal2015m.0.0390.0970.0073m.0.0010.1230.0091m0.1790.1590.01150cm0.2450.1640.01230cm0.0530.0900.006単焦点305m0.0210.1210.0223m0.1170.1160.0211m0.2040.1280.02350cm0.3960.1590.02930cm0.6520.1690.031表3各レンズごとのコントラスト感度(平均値,標準偏差)※CSV1000による測定レンズ種類眼数cycle/degreeコントラスト感度値標準偏差LENTISMplus(T)7931.7210.19861.9240.218121.6130.256181.1400.216LENTISMplusX(T)5431.7000.21761.8810.185121.5950.221181.1370.220ReSTOR+3D2231.7410.18361.8700.185121.5230.183181.0620.206TECNISMultifocal16131.7630.18361.9240.192121.5970.230181.1040.244単焦点(SA60AT)2931.7670.16461.9560.200121.5780.243181.1140.215LENTISMplus(T)79眼LENTISMplusX(T)54眼ReSTOR+3D22眼ReSTOR+4D10眼ReZOOM5眼TECNISMultifocal161眼単焦点29眼*図4コントラスト感度の結果 1262あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(34)NLV=0.7(1.0×sph+1.25D(cyl.0.5DAx75°)〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.01.01.21m0.40.40.650cm0.90.81.030cm0.60.70.8術後,遠方と中間50cmで,それぞれ両眼で1.2,1.0と良好であった.中間1mでは両眼でも0.6とやはり2焦点レンズに特徴的な落ち込みがみられた.また,近方30cmでも加入度数が+3Dのため若干低下しており,両眼で0.8であった.しかし,グレア,ハローとも徐々に慣れ,まったく眼鏡を使用せずに快適に生活している.症例3両眼LENTISRMplusX58歳,女性.両眼白内障手術目的にて2015年2月に紹介受診された.先進医療でない多焦点眼内レンズを希望された.〈初診時視力〉RV=0.06(0.8×sph.6.75D(cyl.0.75DAx130°)LV=0.04(0.6×sph.6.5D(cyl.1.25DAx110°)フェムトセカンドレーザーを併用し,眼内レンズはLENTISRMplusXを選択した.〈手術後1カ月視力〉RV=1.2(1.5×sph+0.5D(cyl.0.75DAx140°)LV=1.2(1.5×cyl.0.5DAx20°)NRV=1.0(1.0×遠見レンズ)NLV=1.0(1.0×遠見レンズ)〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.21.21.51m1.01.01.050cm1.01.01.030cm1.01.01.0遠方,近方のみならず中間も視力はすべて良好であり,長年使用してきた眼鏡,コンタクトレンズなしで非常に快適に過ごせている.また,術後グレア,ハローもわずかで,夜間の車の運転にも問題ないとのことであっ軽度の倒乱視と斜乱視を認めたが,許容範囲内の乱視と判断しTECNISRMultiを使用して両眼の白内障手術を行った.先進医療では多焦点トーリック眼内レンズが使えない状況にあったため,術後残余乱視のため裸眼視力が悪い場合には,術後にエキシマレーザーによるタッチアップが必要となる可能性があることを説明したうえで手術を施行した.〈手術後1カ月視力〉RV=1.0(1.5×sph+0.75D(cyl.1.25DAx15°)LV=1.2(1.2×sph+0.5D(cyl.1.0DAx160°)NRV=0.8(1.0×遠見レンズ)NLV=1.0(1.0×遠見レンズ)〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.01.21.21m0.81.31.350cm0.50.50.630cm0.81.01.0中間50cmで両眼とも裸眼視力0.5(両眼視力0.6)と2焦点レンズに特徴的な視力の落ち込みが認められたが,遠方,近方とも両眼視力はそれぞれ1.2,1.0と良好で,パソコン使用時のみ近用眼鏡(+1.5D)が必要だが,そのほかは眼鏡を必要としないとのことであった.症例2両眼ReSTORRToric70歳,女性.近医で白内障を指摘され,2014年8月に受診された.先進医療の多焦点眼内レンズを希望された.〈初診時視力〉RV=0.2(1.0×sph+2.0D(cyl.4.0DAx70°)LV=0.2(1.0×sph+2.25D(cyl.3.5DAx100°)両眼とも.2.5D程度の角膜乱視(倒乱視)を認めたためReSTORRToricを選択した.また,手術に際して乱視軸の決定にはサージカルガイダンスシステムを使用した.〈手術後1カ月視力〉RV=1.0(1.0×sph+0.75D(cyl.1.0DAx85°)LV=1.0(1.2×sph+0.25D(cyl.0.5DAx75°)NRV=0.6(1.0×sph+1.0D(cyl.1.0DAx85°)右眼左眼両眼5m1.01.01.21m0.40.40.650cm0.90.81.030cm0.60.70.8術後,遠方と中間50cmで,それぞれ両眼で1.2,1.0と良好であった.中間1mでは両眼でも0.6とやはり2焦点レンズに特徴的な落ち込みがみられた.また,近方30cmでも加入度数が+3Dのため若干低下しており,両眼で0.8であった.しかし,グレア,ハローとも徐々に慣れ,まったく眼鏡を使用せずに快適に生活している.症例3両眼LENTISRMplusX58歳,女性.両眼白内障手術目的にて2015年2月に紹介受診された.先進医療でない多焦点眼内レンズを希望された.〈初診時視力〉RV=0.06(0.8×sph.6.75D(cyl.0.75DAx130°)LV=0.04(0.6×sph.6.5D(cyl.1.25DAx110°)フェムトセカンドレーザーを併用し,眼内レンズはLENTISRMplusXを選択した.〈手術後1カ月視力〉RV=1.2(1.5×sph+0.5D(cyl.0.75DAx140°)LV=1.2(1.5×cyl.0.5DAx20°)NRV=1.0(1.0×遠見レンズ)NLV=1.0(1.0×遠見レンズ)〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.21.21.51m1.01.01.050cm1.01.01.030cm1.01.01.0遠方,近方のみならず中間も視力はすべて良好であり,長年使用してきた眼鏡,コンタクトレンズなしで非常に快適に過ごせている.また,術後グレア,ハローもわずかで,夜間の車の運転にも問題ないとのことであっ軽度の倒乱視と斜乱視を認めたが,許容範囲内の乱視と判断しTECNISRMultiを使用して両眼の白内障手術を行った.先進医療では多焦点トーリック眼内レンズが使えない状況にあったため,術後残余乱視のため裸眼視力が悪い場合には,術後にエキシマレーザーによるタッチアップが必要となる可能性があることを説明したうえで手術を施行した.〈手術後1カ月視力〉RV=1.0(1.5×sph+0.75D(cyl.1.25DAx15°)LV=1.2(1.2×sph+0.5D(cyl.1.0DAx160°)NRV=0.8(1.0×遠見レンズ)NLV=1.0(1.0×遠見レンズ)〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.01.21.21m0.81.31.350cm0.50.50.630cm0.81.01.0中間50cmで両眼とも裸眼視力0.5(両眼視力0.6)と2焦点レンズに特徴的な視力の落ち込みが認められたが,遠方,近方とも両眼視力はそれぞれ1.2,1.0と良好で,パソコン使用時のみ近用眼鏡(+1.5D)が必要だが,そのほかは眼鏡を必要としないとのことであった.症例2両眼ReSTORRToric70歳,女性.近医で白内障を指摘され,2014年8月に受診された.先進医療の多焦点眼内レンズを希望された.〈初診時視力〉RV=0.2(1.0×sph+2.0D(cyl.4.0DAx70°)LV=0.2(1.0×sph+2.25D(cyl.3.5DAx100°)両眼とも.2.5D程度の角膜乱視(倒乱視)を認めたためReSTORRToricを選択した.また,手術に際して乱視軸の決定にはサージカルガイダンスシステムを使用した.〈手術後1カ月視力〉RV=1.0(1.0×sph+0.75D(cyl.1.0DAx85°)LV=1.0(1.2×sph+0.25D(cyl.0.5DAx75°)NRV=0.6(1.0×sph+1.0D(cyl.1.0DAx85°) あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151263(35)た.症例4TECNISRMultiとLENTISRMplusX41歳,男性.2009年頃より左眼の霧視が出現し,近医にて白内障と診断されて経過をみていたが,左眼の視力障害が進行したため,多焦点眼内レンズ挿入術目的で当院紹介となる.右眼には異常は認められなかった.この当時,当院で使用していた多焦点眼内レンズはTECNISRMultiかReSTORRであった.〈初診時視力〉RV=1.2(1.2×sph+0.5D(cyl.0.5DAx130°)LV=0.1(0.3×sph+2.5D(cyl.1.0DAx40°)乱視も軽度であったので,眼内レンズはTECNISRMultiを選択した.〈手術後1カ月視力〉RV=1.5(1.5×sph+0.25D(cyl.0.5DAx120°)LV=1.5(n.c.)NRV=1.0NLV=1.0〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.51.51.51m2.01.02.050cm1.00.71.030cm1.01.01.0右眼はまだ白内障を認めておらず,調節力もあったため,遠方から中間,近方まで問題なく良く見えている.一方,手術をした左眼は術後のグレア,ハローは気にならないが,中間50cmが0.7で少しぼやけるとのことであった.デスクトップのパソコンが少し見にくいが,右眼は良く見えていたので,とくに不満はなかった.5年後(2014年),右眼の霧視が出現したため再び紹介受診された.左眼は変わりなかったが,右眼の白内障が進行していたので手術となった.〈再診時視力〉RV=0.5(1.5×sph.0.5D(cyl.0.75DAx95°)LV=1.5(2.0×sph+0.5D(cyl.0.5DAx85°)今回は中間距離がもう少し見えるレンズにしたいという希望があったため,眼内レンズはLENTISRMplusXを選択した.〈手術後1カ月視力〉RV=1.5(1.5×sph+0.5D(cyl.1.0DAx130°)LV=1.5右眼(LENTISRMplusX)の見え方はクリアで,遠方,近方のみならず中間距離の視力も良好であった.一方,左眼(TECNISRMulti)は少しもやがかかった感じがするとのことで,中間1mで0.8,50cmで0.5と低下していたが,両眼ではとても快適に過ごせているとのことだった.〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.51.52.01m1.00.81.350cm0.80.51.030cm1.01.01.0症例5TECNISRMultiとLENTISRMplusX43歳,女性.両眼白内障のため2011年8月に受診された.既往歴に喘息がありステロイドの内服をしていた.しばらく経過をみていたが,2012年9月に右眼の白内障が急激に進行したため手術となった.左眼には白内障はあるもののまだ視力は良好であり日常生活に支障はなかった.眼内レンズはTECNISRMultiを選択した.〈再診時視力〉RV=0.01(n.c.)LV=1.0(1.0×sph+0.5D(cyl.0.25DAx180°)手術後1カ月視力RV=1.2(1.5×sph+0.75D(cyl.0.5DAx15°)LV=1.2(1.2×sph+1.0D(cyl.0.5DAx160°)NRV=1.0(1.0×遠見レンズ)NLV=1.0〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.21.21.51m0.9p1.01.050cm0.71.01.030cm1.01.01.0右眼左眼両眼5m1.51.51.51m2.01.02.050cm1.00.71.030cm1.01.01.0右眼はまだ白内障を認めておらず,調節力もあったため,遠方から中間,近方まで問題なく良く見えている.一方,手術をした左眼は術後のグレア,ハローは気にならないが,中間50cmが0.7で少しぼやけるとのことであった.デスクトップのパソコンが少し見にくいが,右眼は良く見えていたので,とくに不満はなかった.5年後(2014年),右眼の霧視が出現したため再び紹介受診された.左眼は変わりなかったが,右眼の白内障が進行していたので手術となった.〈再診時視力〉RV=0.5(1.5×sph.0.5D(cyl.0.75DAx95°)LV=1.5(2.0×sph+0.5D(cyl.0.5DAx85°)今回は中間距離がもう少し見えるレンズにしたいという希望があったため,眼内レンズはLENTISRMplusXを選択した.〈手術後1カ月視力〉RV=1.5(1.5×sph+0.5D(cyl.1.0DAx130°)LV=1.5右眼(LENTISRMplusX)の見え方はクリアで,遠方,近方のみならず中間距離の視力も良好であった.一方,左眼(TECNISRMulti)は少しもやがかかった感じがするとのことで,中間1mで0.8,50cmで0.5と低下していたが,両眼ではとても快適に過ごせているとのことだった.〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.51.52.01m1.00.81.350cm0.80.51.030cm1.01.01.0症例5TECNISRMultiとLENTISRMplusX43歳,女性.両眼白内障のため2011年8月に受診された.既往歴に喘息がありステロイドの内服をしていた.しばらく経過をみていたが,2012年9月に右眼の白内障が急激に進行したため手術となった.左眼には白内障はあるもののまだ視力は良好であり日常生活に支障はなかった.眼内レンズはTECNISRMultiを選択した.〈再診時視力〉RV=0.01(n.c.)LV=1.0(1.0×sph+0.5D(cyl.0.25DAx180°)手術後1カ月視力RV=1.2(1.5×sph+0.75D(cyl.0.5DAx15°)LV=1.2(1.2×sph+1.0D(cyl.0.5DAx160°)NRV=1.0(1.0×遠見レンズ)NLV=1.0〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.21.21.51m0.9p1.01.050cm0.71.01.030cm1.01.01.0 術後,右眼は遠方,近方とも裸眼視力は良好でそれぞれ1.2,1.0であったが,やはり2焦点レンズの特徴で中間1m,50cmで若干の視力低下がみられた.ハローは少しあるがほとんど気にならないとのことであった.その後,経過は良好であったが,1年後の2013年10月,左眼の白内障が進行し,矯正視力も0.8に低下したため左眼の手術となった.左眼には中間視力も良いLENTISRMplusを選択した.〈左眼手術後1カ月視力〉RV=1.2(1.2×sph+1.25D(cyl.1.5DAx180°)LV=1.2(1.2×sph+0.75D(cyl.0.75DAx100°)NRV=1.0(1.0×遠見レンズ)NLV=1.0(1.0×遠見レンズ)〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.21.21.51m0.81.01.050cm0.81.01.030cm1.01.01.0左眼(LENTISRMplus)は遠方,近方のみならず中間視力も良好であったが,夜間と室内で光の散乱とにじみがあり,見にくいという強い訴えがあった.一方,右眼(TECNISRMulti)は傘がかかっているがこちらのほうがわずかによいとのことであった.患者本人による見え方のスケッチを図5に示す.左眼はLENTISRMplusに特有のレンズの遠用部と近用部の移行部に由来する光の散乱(グレア)と判断し,徐々に慣れて,2~3カ月で気にならなくなると説明したが,納得されなかった.そこ夜間の光視(患者によるスケッチ)左眼:LENTISRMplusX右眼:TECNISTMMulti→2%ピロカルピン点Lx4にて光視は改善図5患者のハローのスケッチ(分節屈折型LENTISRMplusと回折型TECNISRMulti)1264あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015で,瞳孔径を縮めてこの光の散乱(グレア)を軽減する目的で2%ピロカルピンを処方した.2週間後の再診時には,「すごく良く見え,久しぶりに夜景がきれいに見えた」と喜ばれていた.その後,ピロカルピンを使用せずとも快適に過ごされている.VI多焦点眼内レンズの使い分け最初にも述べたが,眼鏡をかけることをいとわない人は,現時点では単焦点眼内レンズがよく,多焦点眼内レンズは避けるべきであろう.しかし,多焦点眼内レンズは進化し続けており,近い将来さらに適応が拡大していくと思われる.図6は横軸に年齢を,縦軸に屈折度数をプロットして,多焦点眼内レンズの使い分けをわかりやすく示したものである.多焦点眼内レンズは20~80歳まで幅広い年齢層に適応がある.高齢者では,認知症や瞳孔径を考慮して適応とレンズ選択に注意をしなければならない.一方,40歳以下の調節力がある年齢層では遠方と近方の2焦点レンズは中間が見にくいため問題となるので,中間視力も良い分節状屈折型多焦点レンズのLENTISRMplusXや回折型3焦点眼内レンズ(TrifocalIOL)がよい適応である.これに対し,40歳以上で調節力の低下した(老視が進行した)+2D以上の遠視症例では,若いときは良く見えていたものの,老視が進行するとともに,遠方も近方も中間もどこにも焦点が合わなくなっているため,先進医療を希望されれば認可されている2焦点レンズでも満足度は高くよい適応となる.同様に.6D以上の強度近視例でも老視年齢であれば認可されて屈折度数年齢+1.0D+2.0D+3.0D+4.0D+5.0D-1.0D-2.0D-3.0D-4.0D-5.0D-6.0D-7.0D-8.0D-9.0D-10.0D1020304050607080多焦点IOL遠方重視中間重視2焦点でも可2焦点でも可先進医療適応可LENTISor3焦点LENTISor3焦点調節力のある人多焦点禁忌認知症,神経質瞳孔径の小さい人?図6多焦点眼内レンズの使い分け(36) 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術前乱視への対応=術中乱視矯正

2015年9月30日 水曜日

特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1251~1256,2015特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1251~1256,2015術前乱視への対応=術中乱視矯正AstigmatismCorrectionDuringCataractSurgery大内雅之*はじめに従来より,日本では欧米に比べて,白内障手術における乱視矯正に取り組む術者がきわめて少なかった(図1).一方,白内障手術患者の約16~22%が,1.5ジオプトリー(D)以上の術前角膜乱視を有し1,2),また残存乱視による像質劣化は,すでにさまざまな手法で知らされている.そのため,白内障手術と乱視のコントロールはかなり以前から問題にされており,さまざまな変遷を経て,現在は角膜へのアプローチと眼内レンズ(intraocularlens:IOL)でのアプローチの2つがある.ここでは,現在,標準的な診療現場で行われている術中乱視矯正について解説する.I現在の術中乱視矯正術中乱視矯正は,輪部減張切開術(limbalrelaxingincision:LRI)をはじめとした角膜へのアプローチと,トーリックIOLでの矯正の大きく2つの手法に分かれる.LRIは,トーリックIOLと比較して,安定までやや時間がかかる,術後早期は高次収差が残る,角膜径などの個々の眼によって矯正効果が異なる点で劣っているが,小瞳孔,Zinn小帯脆弱例,すでに眼内レンズが挿入されている眼や,不規則な医原性乱視の矯正に応用可能な点で優れている.トーリックIOLはその逆である.100%その他75%治療しない50%トーリック眼内レンズエキシマレーザー25%LRI図1白内障手術時に導入したい乱視矯正方法(2008年Alcon米国本社調査より)0%合計(n=377)アメリカ(n=73)アジア中東(n=99)ヨーロッパ(n=100)カナダ中南米(n=55)日本(n=50)68%16%8%4%5%1%19%18%26%38%4%42%13%10%24%16%20%20%10%35%19%26%0%42%13%21%12%33%20%20%IIトーリックIOL挿入手術1.術前の準備現在,国内のトーリックIOLは,AcrySofRIQトーリック(アルコン社),TECNISRトーリック(AMO社),i-SertRMicroトーリック(HOYA社)の3種類が上市されている.商品によって,3~7種の円柱加入が各球面度数で展開されており,術者はあらかじめ,術前データをWeb上のトーリックカリキュレーターに入力して,レンズの選択を行う(図2).入力項目には,強弱主経線の角膜屈折力,眼内レンズ度数に加え,術者固有の手術惹起乱視があるので,術者はあらかじめ術式を揃え,自分の惹起乱視データを集めておく必要がある.次に,トーリックIOL挿入の軸決めであるが,基本*MasayukiOuchi:大内眼科〔別刷請求先〕大内雅之:〒601-8453京都市南区唐橋羅城門47-1大内眼科ビル2F大内眼科0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(23)1251 1252あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(24)2.手術手技まず手術開始時に,術前にマークした基準点を元に,角度ゲージ,トーリックマーカーを使って,トーリックIOL挿入位置を決定刻印してから,手術を開始する.その後の手技は,通常の白内障IOL手術と変わりはないが,IOL挿入後に,眼球軸と顕微鏡の観察系の軸が一致しているか,Purkinje反射を参考にして確認しながら,トーリックIOLのトーリック軸マークを,最初にマークした位置に一致させる(図3a,b).3.手術効果と術後の確認術後は,散瞳下でトーリック軸の向きの確認(図4)知識として重要な点は,外来での検査や診察時の座位と,手術室ベッド上での仰臥位では,角度が一致しないことである.これには,仰臥位で眼球は平均で4.1°外旋(1割弱の症例で10°以上回旋)する3)ことに加え,ベッド上の頭位,術者の位置一つで,角度は容易に変わってしまうからである.そのため,まず座位での基準点マーク(0°,90°などの正確な位置決定)が大切になってくる.これには,多くの術者が,各自工夫を凝らしており4~7),それだけ苦労しているということである.実際にIOLマスターを用いた大木の手法7)以外は,オートケラトメーター,トポグラフィーなどの角膜乱視測定検査と,基準点マーキングが同時ではないので,それらの突き合わせが課題として残っているが,軸ずれはおおむね5~10°以内に収められることがほとんどである.7°90°45°135°180°0°耳側鼻側315°270°225°90°45°135°180°0°耳側鼻側315°270°225°図2Webトーリック計算ソフトオンラインで必要なデータを入力すると,トーリックIOLの選択と挿入角度が示される(図はアルコン社製).図3トーリックIOLの軸あわせトーリックIOLの軸あわせなど,IOLの角度を調整するときは,第1Purkinje-Sanson像と第3Purkinje-Sanson像が角膜中央で重なる向きに眼球を動かし,眼球と顕微鏡の光軸を一致させた状態で行う必要がある.ab7°90°45°135°180°0°耳側鼻側315°270°225°90°45°135°180°0°耳側鼻側315°270°225°図2Webトーリック計算ソフトオンラインで必要なデータを入力すると,トーリックIOLの選択と挿入角度が示される(図はアルコン社製).図3トーリックIOLの軸あわせトーリックIOLの軸あわせなど,IOLの角度を調整するときは,第1Purkinje-Sanson像と第3Purkinje-Sanson像が角膜中央で重なる向きに眼球を動かし,眼球と顕微鏡の光軸を一致させた状態で行う必要がある.ab 図4術後,トーリック軸の確認スリット光を回転させて,トーリック軸マークと一致させ,スリットランプに装備された角度ゲージを読む.図5波面解析装置を用いた術後の軸確認角膜トポグラフィーと全眼球収差を同時に測定すると,角膜乱視と眼内収差(トーリックレンズの円柱加入)の一致を確認できる.この症例では,2.31ジオプトリー(D)で弱主経線が169°の角膜乱視に対し(左上),3mmZoneにトーリック軸171°でトーリックIOLが挿入されており(右上),全乱視が3mmZoneで0Dである(右下). 図6a角度ゲージとLRIマーカーを用いた刻印図7トポグラフィーによる輪部減張切開術(LRI)の手術効果の確認術前3.10Dの斜乱視症例(左下)に,axialdifference(右)に示す,減張切開効果が加わり,術後角膜乱視は0.43Dに軽減している.図6bマイクロゲージ付きダイヤモンドナイフによる輪部角膜切開 0.9a0.8自覚乱視(D)裸眼視力(logMAR)0.70.60.5LT群0.4HT群0.30.20.10pre1D1M3Mb43.532.52■LT群■HT群1.510.50pre1D1M3M図8LRIとトーリック眼内レンズ(T.IOL)の効果の経時変化2.5ジオプトリー(D)以上の術前乱視を持つ眼の術後成績の比較.a:裸眼視力,b:術後自覚乱視.LT群:円柱加入2DのT-IOL挿入と不足分に対するLRIの同時手術.HT群:高円柱加入モデルT-IOL挿入の単独手術.1D:術翌日,1M:術後1カ月,3M:術後3カ月.図9経時的にLRIによる矯正効果が減弱した症例術前1.79Dの直乱視(左上)症例.術直後は0.57Dの直乱視へと良好な矯正が得られた(右上)が,2カ月後は矯正効果が維持されていたものの(左下),術後9カ月で1.36Dの直乱視に戻った(右下).まとめ近年,わが国でもようやく術中乱視矯正への関心が高まってきた.それには,角膜を形成するLRIと眼内矯正であるトーリックIOLの2つのスタンダードがあり,角膜,瞳孔,水晶体周辺の状態,および乱視の程度など,多くの因子によって両方を使い分ける必要がある.現在は多くの症例でトーリックIOLが使われているが,症例によっては,トーリックIOLが不適な場合もあるため,屈折矯正白内障手術を目指す術者は,LRIにも精通しておきたい.文献1)Ferrer-BlascoT,Montes-MicoR,Peixoto-de-MatosSetal:Prevalenceofcornealastigmatismbeforecataractsurgery.JCataractRefractSurg35:70-75,20092)HoffmannCP,HutzWW:Analysisofbiometryandprevalencedataforcornealastigmatismin23239eyes.JCataractRefractSurg36:1479-1485,2010のバラツキが出やすい.角膜を減張切開すると,正乱視が矯正される反面,高次数差が増えることが報告されており14),とくに大きな乱視矯正をすると不整乱視が大きく出る.ただし,術直後の大きな不整乱視も,時間とともに軽減してゆく.最近では角膜形状異常眼,とくに円錐角膜眼へのトーリックIOL挿入の成績が多数みられているように,進行の止まっている円錐角膜には,トーリックIOLを挿入して,正乱視成分を減らすことにコンセンサスが得られているが15),角膜形状を変化させる手術であるLRIは,軽度の円錐角膜でも,予想外の結果を招くことがあるため禁忌といえる.(27)あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151255 1256あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(28)CataractRefractSurg32:1408,200611)福山会里子:白内障手術における乱視矯正乱視矯正角膜周辺部切開術.IOL&RS21:485-491,200712)OuchiM:High-cylindertoricintraocularlensimplanta-tionversuscombinedsurgeryoflow-cylinderintraocularlensimplantationandlimbalrelaxingincisionforhigh-astigmatismeyes.ClinOphthalmol31:661-667,201413)BuckhurstPJ,WolffsohnJS,NarooSAetal:Rotationalandcentrationstabilityofanasphericintraocularlenswithasimulatedtoricdesign.JCataractRefractSurg36:1523-,201014)山本佳乃,宮井尊史,子島良平:白内障術後乱視に対する角膜輪部減張切開による角膜不正乱視の変化.眼科手術20:251-254,200715)JaimesM,Xacur-GarciaF,Alvarez-MelloniD:Refractivelensexchangewithtoricintraocularlensesinkeratoconus.JRefractSurg27:658-664,20113)AnilU,SwamimMD,RogerFetal:Rotationalmalposi-tionduringlaserinsitukeratomileusis.AmJOphthalmol133:561-562,20024)根岸一乃:トーリックIOLの適応と導入のコツ.IOL&RS24:363-368,20105)後藤憲仁,松島博之:トーリックIOLの適応と導入のコツ.IOL&RS24:369-372,20106)宮田和典:トーリックIOLの適応と導入のコツ.IOL&RS24:373-378,20107)大木孝太郎:トーリックIOLの適応と導入のコツ.IOL&RS24:379-383,20108)GualdiL,CappelloV,GiordanoC:TheuseofNIDEKOPDScanIIwavefrontaberrometryintoricintraocularlensimplantation.JRefractSurg25:110-115,20099)DuffeyRJ,JainVN,TchachHetal:Pairedarcuatekera-totomy;asurgicalapproachtomixedandmyopicastig-matism.ArchOphthalmol106:1130-1135,198810)NichaminLD:Nomogramforlimbalrelaxingincisions.J

アクティブフルイディクス

2015年9月30日 水曜日

特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1245~1249,2015特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1245~1249,2015アクティブフルイディクスActiveFluidics小川智一郎*柴琢也**はじめに白内障手術装置CENTURIONRVISIONSYSTEM(以下,CENTURION,日本アルコン)が新たに発売された.CENTURIONは,ActiveFluidicsTMテクノロジー(以下,アクティブフルイディクス),BalancedEnergyTMテクノロジー,AppliedIntegrationTMテクノロジーなど種々の機能を有するが,そのなかでもアクティブフルイディクスは本装置の大きな特徴といえよう.本稿ではこのアクティブフルイディクスについて概説する.Iアクティブフルイディクスアクティブフルイディクスとは,白内障手術中に発生する流体の変化を白内障手術装置が検知し,補正を行うことで,設定した目標値に眼内圧(intraocularpressure:IOP)を維持するシステムである.仕組みは,CENTURION内に専用のプラスチックバックタイプの眼灌流液を挿入するスペースがあり,そこに灌流バックをセットし(図1),術中の灌流圧をモニタリングしながらIOPを予測し,灌流バックを適宜加圧・減圧することで,目標IOPを維持する.眼内の水流動体から,IOPは以下のように定義することができる.眼内圧=灌流圧.(吸引圧+漏出圧)従来からの灌流方式である重力落下による方式では,ボトル高に応じて灌流圧が一定であるが,吸引圧と漏出圧は変動するため,上記の定義から考えるとIOPは常図1CENTURIONRCENTURIONR上部に専用のプラスチックバックタイプの眼灌流液を挿入するスペースがあり(→),そこに灌流バックをセットする.に変動してしまう.一方,アクティブフルイディクスでは,吸引圧と漏出圧の増減に応じて灌流圧を変化させることで,IOPを一定に保つことが可能である.このアクティブフルイディクスにおいて,TargetIOP,PatientEyeLevel,IrrigationFactor,IOPRampの4項目を設定調整することが可能である(図2).IITargetIOP目標IOPのことである.CENTURIONでは,本体内部のプレートで灌流バッグを挟み込み,バッグに対して加圧,減圧を行うことで,重力に頼らず灌流量をコントロールして,術中の目標IOPが設定可能となった(図3a).26~110mmHgまで設定可能である.さらに,*TomoichiroOgawa:東京慈恵会医科大学眼科学講座**TakuyaShiba:東京慈恵会医科大学付属第三病院眼科〔別刷請求先〕小川智一郎:〒105-8461東京都港区西新橋3-25-8東京慈恵会医科大学眼科学講座0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(17)1245 a図3TargetIOPa:画面上では眼内圧(IOP)は55mmHgに設定されている.IOPは,26~110mmHgまで設定可能である.b:術者はそれぞれのフットスイッチポジション(FP1,FP2,FP3)で異なる目標IOPを設定することが可能である.目標眼内圧設定のために術眼の高さとセンサー基準位置を調整する必要がある.センサー位置が術眼より5cm高いと灌流圧は+5cm分高くなる.センサー位置が術眼より5cm低いと灌流圧は.5cm分低くなる.図2設定値TargetIOP:目標眼内圧,IrrigationFactor:灌流圧補正,PatientEyeLevel(PEL):術眼,センサー位置合わせ,IOPRamp:目標眼内圧への到達時間(F/Sポジション1).b図4PatientEyeLevel あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151247(19)とを避けるために,IOPRampを2.0に設定し,ゆっくりIOPを上昇させる設定としている.VIアクティブフルイディクスの効果アクティブフルイディクスにより,前房安定性が向上し,IOPを優先した設定,効率を優先した設定など手術装置設定の幅が広がった.また,さまざまな症例においても優れた前房安定性を得ることができ,安全に手術を行うことが可能である.VIIサージの抑制(図7)通常,チップの吸引口が核片や皮質で閉塞してもポンプはまだ回転しており,チューブが虚脱し陰圧が生じてけるため,IrrigationFactorとよばれる補正値を入力することで,チップとスリーブの組み合わせを加味して,より正確な術中IOPの維持が可能になる(図5a,b).IrrigationFactorの推奨値は,ウルトラスリーブは1.0,ナノスリーブは1.2となっているが,術者が手技と挙動にあわせて任意に設定可能である.筆者の設定は,ウルトラスリーブは1.0と推奨値であるが,ナノスリーブは1.4としている.VIOPRamp目標IOPに達するまでの時間のことである.フットペダルポジション1のときに目標IOPに到達するまでの時間を設定することが可能である(図6).たとえば,目標IOPを55mmHg,IOPRampを1.0に設定した場合,フットスイッチがポジション1に入ってから1秒で55mmHgに到達する.IOPRampは0.1秒刻みで設定可能で,IOPの上昇スピードをコントロールすることが可能になり,滑らかな眼圧コントロールを実現し,疼痛の軽減,さらに侵襲の少ない手術を可能としている.強度近視などの症例ではフェイコチップやI/Aチップを挿入した際に,急に前房が深くなり痛みを自覚させてしまうことがある.筆者は,急激に前房深度が深くなるこ図6IOPRamp眼内にチップ,スリーブを挿入し,フットスイッチがポジション1にあるとき,設定した目標眼内圧に圧が到達する時間を設定する.図5IrrigationFactora:U/Sチップとスリーブの組み合わせによる灌流量の違いを補正する.b:スリーブとチップの組み合わせごとのIrrigationFactorの推奨値.abスリーブチップIrrigationFactor0.9mmウルトラスリーブバランスドチップ,ミニチップ,ミニフレアチップ1.00.9mmナノスリーブバランスドチップ,ミニチップ,ミニフレアチップ1.212図7サージの抑制CENTURIONRのサージ量(←→1)は,INTREPIDPlusFMS使用時のINFINITIRのサージ量(←→2)に比べると少ない.図6IOPRamp眼内にチップ,スリーブを挿入し,フットスイッチがポジション1にあるとき,設定した目標眼内圧に圧が到達する時間を設定する.図5IrrigationFactora:U/Sチップとスリーブの組み合わせによる灌流量の違いを補正する.b:スリーブとチップの組み合わせごとのIrrigationFactorの推奨値.abスリーブチップIrrigationFactor0.9mmウルトラスリーブバランスドチップ,ミニチップ,ミニフレアチップ1.00.9mmナノスリーブバランスドチップ,ミニチップ,ミニフレアチップ1.212図7サージの抑制CENTURIONRのサージ量(←→1)は,INTREPIDPlusFMS使用時のINFINITIRのサージ量(←→2)に比べると少ない. 図8高吸引設定図9筆者の設置値 あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151249(21)粘弾性物質も抜けにくく,虹彩の色素脱出もない手術を施行することが可能である.おわりにアクティブフルイディクスにより,従来の白内障手術装置と比べ,高い前房安定性が得られ,最後の核片を吸引する際も前房が不安定になることなく,安全に白内障の摘出を行うことが可能であった.また,高い前房安定性により,手術装置の設定に幅が生まれ,より術者の好みに合わせた設定ができ,安全かつ眼に優しい手術が可能となった.する必要があるが,CENTURIONでは,フットペダルを踏み続けていてもサージをほとんど感じず,後.破損のリスクが非常に少ないと思われる.XII筆者の現在の設定筆者は,従来から低設定値でDivideandConquer法を用い白内障手術を行っているため,CENTURIONでもIOPは30mmHgとしている(図9).切開創が2.0mmで低いIOP設定でも,前房内圧は保たれたまま後.の挙上を認めることない手術が施行できる.また,低設定値であっても,手術中の眼内の動体が安定し,前房内の

フェムトセカンドレーザー白内障手術

2015年9月30日 水曜日

特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1239.1244,2015特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1239.1244,2015フェムトセカンドレーザー白内障手術FemtosecondLaser-AssistedCataractSurgery小室青*稗田牧**はじめにフェムトセカンドレーザー(femtosecondlaser)の眼科領域での応用は,1999年にLASIK(laserinsitukeratomileusis)のフラップ作製に用いられたことに始まる.その後,角膜全層移植の角膜切開に使用され,2008年に最初の白内障手術が行われた1).現在,白内障手術に用いられるフェムトセカンドレーザーは,LenSxR(Alcon社),CATALYSR(Abbott社),VICCATALYSRPrecisionLaserSystem(AbbottMedicalOptics)ヨーロッパ:2011年8月にCEマークを取得米国:2011年11月にFDAの承認日本:2015年7月厚生労働省薬事承認TUSR(Bausch+Lomb社),LENSERR(LENSER社),FEMTOLDVZ8(Ziemer社)の5機種である.わが国では,2014年8月にLenSxRが,2015年7月にCATALYSRが,厚生労働省薬事承認を取得している(図1).本稿では,この2機種を用いた白内障手術について述べる.LenSxRLaserSystem(Alcon)ヨーロッパ:2011年2月にCEマークを取得米国:2009年8月にFDAの承認(Capsulotomy)日本:2014年9月厚生労働省薬事承認図12015年8月現在日本で承認されているフェムトセカンドレーザー*AoiKomuro:四条烏丸眼科小室クリニック**OsamuHieda:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕小室青:〒604-8152京都市中京区烏丸通錦小路上ル手洗水町652烏丸ハイメディックコート4F四条烏丸眼科小室クリニック0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(11)1239 組織レーザーを発射し,プラズマができる衝撃波が発生するキャビテーションとよばれる気泡が発生し,しぼむ組織に空洞ができる図2フェムトセカンドレーザーによる光切断空洞を連結させてミシン目状に切断患者インターフェース装着・ドッキング前眼部OCT前.切開核のフラグメンテーション手術室角膜切開フェムトセカンドレーザー超音波乳化吸引術・皮質吸引IOL挿入図3フェムトセカンドレーザー白内障手術の流れIフェムトセカンドレーザーの原理フェムトセカンドレーザーは,光切断(photodisruption)とういう原理で,フェムト秒(千兆分の1秒)という短い時間で組織内部に連続的に穴を開けることで組織を切断する(photodissection)2)(図2).熱損傷を伴わない組織の切断が可能であるが,レーザーは光であるため,混濁などで光が遮断されると切断することができない.IIフェムトセカンドレーザーを用いた白内障手術手技1.フェムトセカンドレーザーでできることフェムトセカンドレーザーでは,前.切開,水晶体核1240あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015表1患者インターフェースの概要LIQUIDOPTICSInterfaceLIQUIDOPTICSInterface12LenSxRSuctionringの外径(mm)21.619.019.8眼圧上昇(mmHg)101016の分割(フラグメンテーション)とソフトニング,角膜切開およびサイドポート作製,角膜輪部減張切開(limbalrelaxingincision:LRI)による角膜切開乱視矯正が可能である.実際のフェムトセカンドレーザー白内障手術の流れを図3に示す.角膜切開については,術者によって,また症例によって行わない場合もある.2.患者インターフェース(表1)の装着CATALYSRの患者インターフェース(patientinterface:PI)は,LiquidOpticInterface(LOI)とよばれるもので,LOI装着後に液体(BSSPlusR)を満たして使用する.外径は,21.6mmと19.0mmの2種類(図4a)であるが,角膜を圧平しないため,眼圧の上昇が10mmHg以下と少なく,緑内障患者でも安心して使えるというメリットがある3).また,LOIを装着してからレーザーにドッキングするため,ドッキングの手技が容易であると思われる.瞼裂が狭い場合には,稀に装着困(12) あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151241(13)装着時,角膜を圧平するため角膜のひずみや眼圧上昇生じるが,ソフトコンタクトレンズを装着する(SoftFitTM)ことによって軽減されている4).難な場合がある.LenSxRでは,外径が22.3mmから19.8mmに小さくなり(図4b),内径であるトリートメントゾーンは12mmから12.5mmと大きくなっている.CATALYSR同様,瞼裂が狭い症例では装着が困難なことがある.PIの19mm12mm21.6mm14.1mmab図4患者インターフェースa:CATALYSR.b:LenSxR.水晶体後面のセーフティマージン500~1,000μmで調節可能水晶体前面のセーフティマージンで調節可能200~1,000μm虹彩のセーフティマージン500μm虹彩のセーフティマージン500μm(調節不可)散瞳不良例では,前.切開が小さくなるab図5セーフティマージン(CATALYSR)a:前.切開.b:核処理時.19mm12mm21.6mm14.1mmab図4患者インターフェースa:CATALYSR.b:LenSxR.水晶体後面のセーフティマージン500~1,000μmで調節可能水晶体前面のセーフティマージンで調節可能200~1,000μm虹彩のセーフティマージン500μm虹彩のセーフティマージン500μm(調節不可)散瞳不良例では,前.切開が小さくなるab図5セーフティマージン(CATALYSR)a:前.切開.b:核処理時. SegmentationSofteningSegmentationSoftening図6核の処理パターン(CATALYSR,Abott社より引用)3.前眼部OCT(opticalcoferencetomography)LenSxR,CATALYSRともにspectral-domainOCT(SD-OCT)が搭載されている.CATALYSRでは,前眼部OCTでA-sacnを1万本以上行い,三次元イメージを合成しており,前.切開の中心は水晶体.の中心,輪部中心,瞳孔中心から選択できる.LenSxRでは,CirclescanとLinescanを組み合わせた三次元解析を行っている.マニュアルでセンタリングするため,センタリングの中心は瞳孔中心であったが,VerionRsurgicalguidancesystmeを併用することによって,視軸の中心でセンタリングすることが可能となった.4.角膜切開,サイドポート位置,幅,角度など細かく設定することが可能であるが,ナイフによるマニュアルでの切開と異なり,ミシン目状の切開であることから,スパーテルでの鈍的な.離が必要である.また,角膜周辺部のわずかな角膜混濁や血管侵入部位でも切開が不十分になることがあり,上方よりは耳側,最周辺部よりやや角膜中心寄りに切開のデザインを置くほうが良い.フェムトセカンドレーザーを用いた切開では,ナイフを用いたマニュアルの切開に比較して,内皮側のギャップや,Descemet膜.離が生じにくく5),安定していることが報告されている6,7).5.前.切開CATALYSRでは,前.切開の大きさは,2.0.8.0mmの直径で設定可能であるが,虹彩縁からのセーフティマージンは500μmとなっており,変更はできない(図5a).散瞳不良例では,OCTで計測された瞳孔径に合わせて最大の前.切開径が表示される.LenSxRでは前.切開の大きさは虹彩の位置にかかわらず3.0.8.0mm直径で設定できる.CATALYSR,LenSxRともに,レーザー後に前.切開はほぼ100%完全に切開できるが,角膜混濁がある場合や前.線維化部位では,レーザーが通らず切開できていないことがあるので,前.除去時に必ず全周切開ができているか確認する必要がある.6.水晶体核の分割,ソフトニングCATALYSRでは,核の分割は,3つのパターンがあり,ソフトニングも4つのパターンから選択することが可能である(図6).水晶体核分割直径は,3.0.10.0mmまで設定可能であるが,虹彩縁からのセーフティマージンが500μmからとなっているので(図5b),散瞳不良例ではソフトニングの範囲も狭くなる.水晶体前面と後面のセーフティマージンは,それぞれ200.1,000μmと500.1,000μmで,水晶体前面後面ともに調節可能である(図5b).ソフトニング時には核の大きさを100.2,000μmに設定できるが,小さくしすぎるとキャビテーションによって発生する気泡が多くなり,手術中の視認性が悪くなることがある.LenSxRでは核分割の大きさは虹彩の位置にかかわらず3.0.6.0mm直径で設定できる.水晶体前.からのセーフティマージンは500.2,000μm,後.からは800.2,000μmである.グリッドパターンの大きさは200.500μmに設定できる.核硬度が3までの症例では,まったく超音波を使わないzerophacoも可能であるが,実際には軽く超音波を使用したほうが効率的であると思われる.1242あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(14) あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151243(15)(http://www.lricalculator.com)を行い,intrastromalの場合は,Dr.JulianStevensのノモグラム(http://www.femtoemulsification.com)を用いて,事前に計算しておく必要がある.LenSxRで径7mmのintrastromalastigmatickeratotomyを行う場合にはDr.StevenCShalhornのノモグラムで行う.Anteriorpenetrationの場合は,角膜切開と同様にスパーテルでの鈍的な.離が必要であり,stromalincisionでは切開部位に浮腫による混濁が生じやや視認性が低下する(図7b).フェムトセカンドレーザーを用いた角膜切開は,深さや位置をマニュアルに比べて正確に行うことができる.しかしな7.角膜輪部減張切開CATALYSRでは,LOIのノッチが0.180°と認識されるので,術前に0°と180°の位置にマーキングしておく必要がある.切開法は2種類あり,角膜側まで切開するanteriorpenetrationと,実質内のみ切開するintrastromalincisionがある.また,切開部位も1本だけ入れる方法と2本を対称(図7a)もしくは非対称に入れる方法が選択できる.深さは,角膜厚に対する割合(%),もしくはμmで設定可能である.サイドカットの角度は30.150°まで選択できる.独自のノモグラムがないため,anteriorpenetrationの場合は,従来のLRIの計算図7角膜切開乱視矯正を併用した症例a:treatmentplan.b:レーザー終了時.切開部位にキャビテーション時の気泡による浮腫を認める.c:手術終了時.眼内レンズは,全周カバーされている.abc図7角膜切開乱視矯正を併用した症例a:treatmentplan.b:レーザー終了時.切開部位にキャビテーション時の気泡による浮腫を認める.c:手術終了時.眼内レンズは,全周カバーされている.abc 1244あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(16)述べた.今後,内蔵ソフトのバージョンアップにより,LRIの計算も行えるようになると思われる.フェムトセカンドレーザー白内障手術は,安全に精度の高い手術を再現性よく行うことができ,多焦点IOLやトーリックIOL挿入眼で,より良い術後の視機能の改善を得る可能性を秘めていると考えられる.文献1)NagyZ,TakacsA,FilkornTetal:Initialclinicalevaluationofanintraocularfemtosecondlaserincataractsurgery.JRefractSurg25:1053-1060,20092)平沢学,ビッセン宮島弘子:フェムト秒レーザーの眼科応用の現状.フェムト秒レーザーを用いた屈折矯正手術.日本レーザー医学会誌34:31-36,20133)DonaldsonKE,Braga-MeleR,CabotFetal;ASCRSRefractiveCataractSurgerySubcommittee:Femtosecondlaser-assistedcataractsurgery.JCataractRefractSurg39:1753-1763,20134)NagyZZ,KissHJ,TakacsAIetal:Resultsoffemtosecondlaser-assistedcataractsurgeryusingthenew2.16softwareandtheSoftFitRPatientInterface.OrvHetil156:221-225,20155)GrewalDS,BastiS:Comparisonofmorphologicfeaturesofclearcornealincisionscreatedwithafemtosecondlaserorakeratome.JCataractRefractSurg40:521-530,20146)ErnestPH,KiesslingLA,LaveryKT:Relativestrengthofcataractincisionsincadavereyes.JCataractRefractSurg12(Suppl.):668-671,19917)MasketS,SaraybaM,IgnaciaTetal:Femtosecondlaser-assistedcataractincisions:architecturalstabilityandreproducibility.JCataractRefractSurg36:1048-1049,2010[Letter]8)AbellRG,KerrNM,VoteBJ:Towardzeroeffectivephacoemulsificationtimeusingfemtosecondlaserpretreatment.Ophthalmology120:942-948,20139)KumarNL,KaisermanI,Shehadeh-MashorRetal:IntraLase-enabledastigmatickeratotomyforpost-keratoplastyastigmatism:on-axisvectoranalysis.Ophthalmology117:1228-1235,201010)BaharI,LevingerE,KaisermanIetal:IntraLase-enabledastigmatickeratotomyforpostkeratoplastyastigmatism.AmJOphthalmol146:897-904,200811)YeohR:Intraoperativemiosisinfemtosecondlaser-assistedcataractsurgery.JCataractRefractSurg40:852-853,201412)YeohR:Hydroruptureoftheposteriorcapsuleinfemtosecond-lasercataractsurgery.JCataractRefractSurg38:730,2012がら,anteriorpenetrationの場合は過矯正になる傾向が報告されており9,10),実際には,計算値の70.80%程度で行っている.IIIフェムトセカンドレーザー白内障手術のメリットとデメリット1.メリット多焦点眼内レンズでは,フェムトセカンドレーザーで前.切開を行うことによって,常に一定の大きさで水晶体.中心に前.切開を行うことが可能であり,眼内レンズ(intraoculerlens:IOL)の位置ずれが生じにくく,IOLエッジのカバーも均一であり(図7c),術後の眼内レンズの偏位,傾斜も生じにくいといったメリットがあげられる.乱視症例においても,乱視IOLでは軸ずれを生じる可能性があるが,フェムトセカンドレーザーによる角膜切開では,より精度の高い乱視矯正を行うことができると考えられる.核のソフトニングにより,低い超音波エネルギーで手術を行うことが可能であり,角膜内皮への侵襲が少ないと考えられる.また,過熟白内障,外傷後,Zinn小体脆弱例や角膜内皮減少例などの難症例においても,安定した白内障手術を施行することが可能である.2.デメリットレーザー後に縮瞳が生じることがあるが,術前点眼に非ステロイド性抗炎症点眼薬(NSAIDs)を加えることで,発生率が低くなる11).また,キャビテーション時の気泡による視認性の低下や,hydrodissection時の後.破損の報告があり,注意が必要である12).すべての症例がフェムトセカンドレーザー白内障手術の対象になるわけではなく,前.切開の大きさが十分にとれない散瞳不良例,重症の緑内障,トラベクレクトミー後で濾過胞がある場合,瞼裂が狭く高度の結膜弛緩症のため患者インターフェースの装着困難が予想される場合など,不適応な症例も存在する.おわりにフェムトセカンドレーザー白内障手術の実際について

眼軸長測定と眼内レンズ度数計算

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特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1231.1237,2015特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1231.1237,2015眼軸長測定と眼内レンズ度数計算MeasurementofAxialLengthandIntraocularLensCalculation比嘉利沙子*はじめに眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数計算には,正確な眼軸長(axiallength:AL)測定が必要である.AL測定には,長年,超音波が用いられてきたが,1999年に部分光干渉法(partialcoherenceinterferometry:PCI)によるAL測定が登場し,測定精度が飛躍的に向上した.AL測定精度の向上に伴い,術後IOLの位置(effectivelensposition:ELP)予測の問題がより重要視されるようになった.本稿では,Swept-SourceOCT(SS-OCT)による新たなAL測定,計算式の選択“Top2の併用”とIOL定数,特殊角膜眼(laserinsitukeratomileusis:LASIK,phototherapeutickeratectomy:PTK)のIOL度数計算について述べる.ISS.OCTによるAL測定2014年にSS-OCTによるAL測定機能を搭載したIOLMaster700(CarlZeissMeditec)が発売された.1.測定原理と特徴IOLMaster700では,1秒間に2,000本のAscanを30度ごとの6方向で行い,6枚を合成したBscanからALを測定している(図1a).ALは,網膜色素上皮までの長さを内境界膜までの長さに補正した値で表示される.同時に,Bscanから角膜厚(centralcornealthickness:CCT),前房深度(anteriorchamberdepth:ACD),水晶体厚(lensthickness:LT)が測定される.これまでのPCIでは,AL測定は波形でしか捉えることができなかったが,SS-OCTでは断層面で捉えることができる.全眼球断層画像では測定時の眼球の状態を可視化することができ(図1b),中心窩断層画像では固視や黄斑疾患を確認することができる(図1c).2.測定精度と測定率PCIによるAL測定の信頼性は,signal-to-noiseratio(SNR)で表されるが,真に中心窩からの測定か否かは確認することができなかった.しかし,SS-OCTでは,中心窩からの測定が可視化できるようになったので,測定値の再現性が高まった(図2).当院で術前の白内障眼を対象(n=249)に,両者のAL測定率を比較したところ,IOLMaster500vs700(PCIvsSS-OCT)では90%,97%であり,SS-OCTでは測定率も向上した.また,両装置で得られた測定値はよく一致しており,高い相関が得られている(図3).したがって,IOLMaster700でIOL度数計算をする際には,UserGroupforLaserInterferenceBiometry(ULIB)Webサイト(用語解説参照)に掲載されているIOLMaster500と共通のIOL定数が使用できる.IIIOL度数計算式の選択ELP予測は,計算式に依存するので,術後屈折誤差の対策には,計算式の選択も重要となる.*RisakoHiga:井上眼科病院〔別刷請求先〕比嘉利沙子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(3)1231 1232あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(4)2.計算式の選択“Top2の併用”標準外のK値でELP予測誤差が生じるSRK/T式の弱点を補う戦略として,筆者は,Haigis式を併用している.2式の予測値に差がある症例では,K値に留意し,標準外のK値であれば,Haigis式でIOL度数を選択するとよい(図6).Haigis式を選択する理由は,次の5つである.①SRK/T式と異なりK値を使用しないELP予測法である.②ALの守備範囲が広い(図7).③第3世代以降の計算式でSRK/T式と同等の精度である3.5)(=精度のTop2).④日本でSRK/T式に次いで使用されている(=国内使用率のTop2).⑤ACDのみの追加測定で計算が可能である.1.第3世代以降の計算式の特徴第3世代以降の計算式(用語解説参照)は,ELP予測に各計算式の特徴がある.たとえば,日本で最も使用されているSRK/T式1)では,ELP予測にピタゴラスの定理を取り入れている.そのため,フラットなK値のELPは実際よりも小さく予測され,それを基にIOL度数を選択すると,術後屈折は遠視にずれる(図4).逆にスティープなK値では近視にずれる.Haigis式2)は,K値を用いず,術前のACDとALの重回帰式からELPを予測している.ELP予測法が異なる2式(SRK/T式とHaigis式)の術後予測屈折値の差は,ALによる傾向はなく,K値が標準外(42D未満と46D以上)の場合に生じている(図5).2つの計算式の予測値の差が0.5D以上の症例は,自験例では約18%(n=472眼)であった.abc図1SS.OCTの測定原理と断層画像a:測定原理(Scanspeed:2.000Ascans/sec,Angle:0,30,60,90,120,150°).b:全眼球断層画像(Depth:44mm,Wide:6mm).c:中心窩断層画像(Wide:1mm)左から,中心窩陥凹検出(固視良好例),中心窩陥凹未検出(固視不良例),黄斑円孔.abALの差0.01mmK値の差0.05DALの差0.08mmK値の差0.63D図2固視状態による測定精度同一症例で複数回測定した結果を比較.a:固視良好な場合(矢印は中心窩陥凹を示す),測定値の再現性が高い.b:固視不良な場合(中心窩陥凹未検出),測定値の再現性が低い.①SRK/T式と異なりK値を使用しないELP予測法である.②ALの守備範囲が広い(図7).③第3世代以降の計算式でSRK/T式と同等の精度である3.5)(=精度のTop2).④日本でSRK/T式に次いで使用されている(=国内使用率のTop2).⑤ACDのみの追加測定で計算が可能である.1.第3世代以降の計算式の特徴第3世代以降の計算式(用語解説参照)は,ELP予測に各計算式の特徴がある.たとえば,日本で最も使用されているSRK/T式1)では,ELP予測にピタゴラスの定理を取り入れている.そのため,フラットなK値のELPは実際よりも小さく予測され,それを基にIOL度数を選択すると,術後屈折は遠視にずれる(図4).逆にスティープなK値では近視にずれる.Haigis式2)は,K値を用いず,術前のACDとALの重回帰式からELPを予測している.ELP予測法が異なる2式(SRK/T式とHaigis式)の術後予測屈折値の差は,ALによる傾向はなく,K値が標準外(42D未満と46D以上)の場合に生じている(図5).2つの計算式の予測値の差が0.5D以上の症例は,自験例では約18%(n=472眼)であった.abc図1SS.OCTの測定原理と断層画像a:測定原理(Scanspeed:2.000Ascans/sec,Angle:0,30,60,90,120,150°).b:全眼球断層画像(Depth:44mm,Wide:6mm).c:中心窩断層画像(Wide:1mm)左から,中心窩陥凹検出(固視良好例),中心窩陥凹未検出(固視不良例),黄斑円孔.abALの差0.01mmK値の差0.05DALの差0.08mmK値の差0.63D図2固視状態による測定精度同一症例で複数回測定した結果を比較.a:固視良好な場合(矢印は中心窩陥凹を示す),測定値の再現性が高い.b:固視不良な場合(中心窩陥凹未検出),測定値の再現性が低い. あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151233(5)IIIIOL定数と最適化計算式から考える屈折誤差のもうひとつの戦略は,IOL定数の最適化である.ただし,Haigis式単独使用の際には,3つのIOL定数が最適化されていることが精度には重要である.IOL定数については,次項で述べる.abcN=336N=336Bland-AltmanPlotR=1.000P<0.0001mean:-0.011mmN=404N=404Bland-AltmanPlotR=0.995P<0.0001mean:0.046DN=223N=223Bland-AltmanPlotR=0.958P<0.0001mean:-0.056mm-0.2-0.1Difference(mm)Average(mm)Average(mm)Average(mm)Difference(mm)Difference(mm)0.10.10.2-1.2-0.600.61.2-0.8-0.400.40.820242832394347512.03.04.05.03228242020242832IOLMaster500(mm)IOLMaster700(mm)3228242020242832IOLMaster500(mm)IOLMaster700(mm)5046423838424650IOLMaster500(D)IOLMaster700(D)図3測定値の比較(IOLMaster500vsIOLMaster700)a:AL(PCIvsSS-OCT).b:K値(f2.5mm).c:ACD(スリット方式vsSS-OCT).abcN=336N=336Bland-AltmanPlotR=1.000P<0.0001mean:-0.011mmN=404N=404Bland-AltmanPlotR=0.995P<0.0001mean:0.046DN=223N=223Bland-AltmanPlotR=0.958P<0.0001mean:-0.056mm-0.2-0.1Difference(mm)Average(mm)Average(mm)Average(mm)Difference(mm)Difference(mm)0.10.10.2-1.2-0.600.61.2-0.8-0.400.40.820242832394347512.03.04.05.03228242020242832IOLMaster500(mm)IOLMaster700(mm)3228242020242832IOLMaster500(mm)IOLMaster700(mm)5046423838424650IOLMaster500(D)IOLMaster700(D)図3測定値の比較(IOLMaster500vsIOLMaster700)a:AL(PCIvsSS-OCT).b:K値(f2.5mm).c:ACD(スリット方式vsSS-OCT). aCwHrrフラットなK値標準なK値b実際のaxialpositionピタゴラスの定理Cw2H=r-r2-─()2HCw:角膜高:角膜径r:角膜曲率半径ELPが小さく算出遠視ずれ図4SRK.T式のELP予測a:ピタゴラスの定理.b:SRK/T式で予測されるELP.左:標準なK値,右:フラットなK値.術後屈折:S-1.25DC-1.00DAx105°a2.50AL(mm)N=5702.001.501.000.500.00-0.50-1.00-1.50-2.00-2.5032302826242220bK値(D)N=570SRK/T式-Higis式(D)2.502.001.501.000.500.00-0.50-1.00-1.50-2.00-2.50SRK/T式-Higis式(D)50484644424038図5SRK.T式とHaigis式の予測屈折値の差とALおよびK値a:予測屈折値の差とAL.b:予測屈折値の差とK値.術後屈折:S-0.25DC-1.25DAx40°スティープフラットAL:27.23mmK値:K140.23DK240.66DAL:22.42mmK値:K147.07DK247.67D予測屈折値誤差予測屈折値誤差SRK/T式+0.91DSRK/T式-0.84DHaigis式-0.03DHaigis式-0.06D図6計算式による術後屈折誤差フラットまたはスティープなK値では,SRK/T式では遠視または近視に誤差が生じているが,Haigis式では予測通りの屈折値である.1234あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(6) あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151235(7)で最適化をすることができる.安定したIOL定数を得るには,50眼以上の症例数が推奨されている.当院で最適化を行った各定数(図8)で術後屈折誤差を検討すると,誤差の単純平均値,平均絶対値ともに,50眼以上の定数では統計学的な有意差を認めなかったが,75眼以上の定数で単純平均値0.05D未満,絶対平均値が0.4D未満でより精度の高い結果が得られた.したがってHaigis式ではより多くの症例数(75眼以上)で最適化した定数を使用したほうがよい.IV特殊角膜眼(LASIK,PTK)のIOL度数計算特殊角膜眼(LASIK,PTK)のIOL度数計算では,さらにK値の評価に留意する必要がある.1.特殊角膜眼の誤差要因通常,オートケラトメータでは,傍中心角膜前面(f約3mm)の4点から,角膜前後面の曲率比が一定と仮定した換算屈折率(n=1.3375)を用いてK値を算出している.しかし,LASIKやPTK後では,角膜前後面の比率が変化しているため,オートケラトメータのK値が実際には当てはまらないのが,誤差のもっとも大きな要因である.1.SRK.T式のIOL定数SRK/T式の最適なA定数は,ALやIOL度数によって変化するが6),短から長ALまで同一A定数を使っても屈折誤差が少ないIOLモデルと,短,標準,長ALとそれぞれの定数を最適化しないと屈折誤差が生じるIOLモデルがある.つまり,ALによる誤差傾向は,IOLモデルでも異なるので,使用IOLモデルの誤差傾向を把握しておく必要がある.2.Haigis式のIOL定数ULIBWebサイトでは,日本国内のデータから導き出されたIOL定数(日の丸の表示つき)が日本人には適している7).Haigis式は,計算式のなかで唯一,3つのIOL定数を必要とする.ULIBWebサイトのn欄に記載されている症例数が200眼以下のIOLでは,a0のみが最適化されており,a1,a2はそれぞれ固定値(0.4,0.1)となっているが,定数を3つ最適化することで精度が高まる.したがって,Haigis式を使用する際には,日本のIOL定数で,かつ十分な症例数で最適化された3つの定数を有するIOLモデルを推奨する.3.IOL定数の最適化術前にIOLMasterで生体計測を行っている症例では,挿入したIOLモデルとIOL度数,術後屈折値をIOL-Master本体に入力すると,各計算式のIOL定数を自動当院HofferIOLMasterSRK/T式SRK/T式SRK/T式Holladay2式Holladay2式Holladay式Holladay式Holladay2式HofferQ式Haigis式Haigis式Haigis式HofferQ式3432302826AL(mm)24222018図7各計算式のALに対する守備範囲下:IOLMaster推奨計算式,中:Hoffer推奨計算式,上:当院推奨計算式.報告により各計算式のAL守備範囲は異なるが,Haigis式は,共通して短ALから長ALまでを守備している.N=180IOL定数(Haigis式)IOL定数(SRK/T式)最適化した症例数(眼)(変換値)30027525022520017515012510075503302.00119.1119.1119.11.1100.40.11.1970.8050.0700.3990.6700.122-1.1000.4020.174-0.1500.3500.1820.2150.3590.1660.0100.3290.1770.0260.3420.175-0.0700.3530.178-0.0380.3290.180-0.0700.3140.183-0.3100.3180.193-0.2900.2960.197119.1119.1119.0119.0119.0119.0119.0119.0119.0119.01.601.200.800.400.00-0.40a0a1a2a0A定数a1a2120.0119.5119.0118.5118.0117.5図8最適化によるIOL定数の変化IOLMaster本体で,箱書きのIOL定数を光干渉用に変換した値を基準に最適化を行った.Haigis式の3つの定数(a0:IOL固有の定数,a1:ACDにかかわる定数,a2:ALにかかわる定数)を最適化するには,AL22mm未満,22以上25mm未満,25mm以上を各11眼以上含むことが条件である.当院HofferIOLMasterSRK/T式SRK/T式SRK/T式Holladay2式Holladay2式Holladay式Holladay式Holladay2式HofferQ式Haigis式Haigis式Haigis式HofferQ式3432302826AL(mm)24222018図7各計算式のALに対する守備範囲下:IOLMaster推奨計算式,中:Hoffer推奨計算式,上:当院推奨計算式.報告により各計算式のAL守備範囲は異なるが,Haigis式は,共通して短ALから長ALまでを守備している.N=180IOL定数(Haigis式)IOL定数(SRK/T式)最適化した症例数(眼)(変換値)30027525022520017515012510075503302.00119.1119.1119.11.1100.40.11.1970.8050.0700.3990.6700.122-1.1000.4020.174-0.1500.3500.1820.2150.3590.1660.0100.3290.1770.0260.3420.175-0.0700.3530.178-0.0380.3290.180-0.0700.3140.183-0.3100.3180.193-0.2900.2960.197119.1119.1119.0119.0119.0119.0119.0119.0119.0119.01.601.200.800.400.00-0.40a0a1a2a0A定数a1a2120.0119.5119.0118.5118.0117.5図8最適化によるIOL定数の変化IOLMaster本体で,箱書きのIOL定数を光干渉用に変換した値を基準に最適化を行った.Haigis式の3つの定数(a0:IOL固有の定数,a1:ACDにかかわる定数,a2:ALにかかわる定数)を最適化するには,AL22mm未満,22以上25mm未満,25mm以上を各11眼以上含むことが条件である. 1236あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(8)Webサイトは使用できない.よって,筆者はCamellin-Calossi式,OKULIXの2つを主として,IOL度数を決めている.OKULIXは,TMSにも搭載されているが,PTK後の残余角膜混濁に対してはSS-OCTを測定原理としたCASIAがK値の評価に有利と考えている.LASIK眼でのIOL度数計算精度は向上してきたが,PTK眼では結果がばらつく場合もあり,未だ精度は十分ではない.特殊角膜眼では,必ずしも精度のよい計算式が一つと決まっているわけではないので,検討した種々の計算方法のなかから精度のよいものを2つ以上使用するのがよいのではないかと考えている.おわりに現在,計算式においては,ELP予測の問題が残るが,計算式にはまだ改良の余地がある.SS-OCTでは,全2.LASIK後のIOL度数計算方法LASIK眼のIOL度数計算では,K値の評価をどのように行うかがポイントである.計算式(法)には多数の報告があるが,屈折矯正術後専用の計算式を使用する方法,補正したK値または各種角膜形状解析装置推奨のK値(表1)を,通常の計算式か屈折矯正術後専用の計算式で使用する方法がある.施設で所有している機器により計算可能な方法が異なってくる.また,通常の計算式には,ELP予測にK値を用いないHaigis式が理論上は適している.ただし,IOL定数が十分に最適化されていることが条件である.筆者は,表2であげた4つのツールを使用している.そのなかで,Haigis-L式とCamellin-Calossi式を主とし,ほかの計算結果を参照にしながらIOL度数を決定している.3.PTK後のIOL度数計算方法PTK後では,残余角膜混濁によるK値の評価,現疾患(顆粒状角膜変性または帯状角膜変性)による角膜切除量の違い,使用したエキシマレーザー装置による角膜形状変化(不正乱視)の違いなどが,IOL度数予測の問題要素としてあげられる.PTK眼では,前述の4つのツールのうち,PTK眼では,Haigis-L式,ASCRSの表1角膜形状解析装置によるK値機種名測定原理後面K値測定計算に推奨される値OPD-Scan(Nidek)プラチド式─averagepowerinpupil(APP)※2TMS(TOMEY)プラチド式─averagecetaralcorneapower(ACCP)※2プラチド式回転式Scheimpflugカメラ※1可Pentacam(Oculus)回転式Scheimpflugカメラ可Truenetpower(TNP)Orbscan(Bausch&Lomb)スリットスキャン式プラチド式可Totalopticalpower(TOP)CASIA(TOMEY)Swept-SourceOCT可※1回転式Scheimpflugカメラが搭載されているのはTMS-5のみ.※2TMS-4A,4Nは手動で計算,TMS-5は自動で計算される.表2屈折矯正術後のIOL度数計算式(法)計算式(法)搭載機器と計算方法Haigis-L式8)※1使用機器:IOLMaster(CarlZeissMeditec)使用K値:IOLMasterで測定した値IOLMasterでAL,K値,ACDを測定すると,通常の計算と同様で自動で計算されるので簡便であるCamellin-Calossi式9)使用機器:IOL-Station(Nidek)使用K値:OPD-ScanのAPP(3mm)AL,ACD,LTの入力が必要下記のいずれかを入力する①屈折矯正量②(屈折矯正量が不明な場合)CASIA(TOMEY)で測定された中心と直径6mm径の計9箇所の角膜厚OKULIX※2使用機器:CASIA(TOMEY)CASIAで,K値,角膜厚を測定後にOULUX(光線追跡法を用いたIOL度数計算ソフトウエア)を起動させIOLMasterのALを入力すると自動で計算されるASCRS※3のWebサイトhttp://iolcalc.org屈折矯正術(LASIK/PRK/RK)後のIOL度数計算が掲載されている.可能なデータを入力すると,各計算結果とそれらを平均したIOL度数が表示される※1ASCRSWebサイトにも搭載,※2TMSにも搭載.※3ASCRS:AmericanSocietyofCataractandRefractiveSurgery.表1角膜形状解析装置によるK値機種名測定原理後面K値測定計算に推奨される値OPD-Scan(Nidek)プラチド式─averagepowerinpupil(APP)※2TMS(TOMEY)プラチド式─averagecetaralcorneapower(ACCP)※2プラチド式回転式Scheimpflugカメラ※1可Pentacam(Oculus)回転式Scheimpflugカメラ可Truenetpower(TNP)Orbscan(Bausch&Lomb)スリットスキャン式プラチド式可Totalopticalpower(TOP)CASIA(TOMEY)Swept-SourceOCT可※1回転式Scheimpflugカメラが搭載されているのはTMS-5のみ.※2TMS-4A,4Nは手動で計算,TMS-5は自動で計算される.表2屈折矯正術後のIOL度数計算式(法)計算式(法)搭載機器と計算方法Haigis-L式8)※1使用機器:IOLMaster(CarlZeissMeditec)使用K値:IOLMasterで測定した値IOLMasterでAL,K値,ACDを測定すると,通常の計算と同様で自動で計算されるので簡便であるCamellin-Calossi式9)使用機器:IOL-Station(Nidek)使用K値:OPD-ScanのAPP(3mm)AL,ACD,LTの入力が必要下記のいずれかを入力する①屈折矯正量②(屈折矯正量が不明な場合)CASIA(TOMEY)で測定された中心と直径6mm径の計9箇所の角膜厚OKULIX※2使用機器:CASIA(TOMEY)CASIAで,K値,角膜厚を測定後にOULUX(光線追跡法を用いたIOL度数計算ソフトウエア)を起動させIOLMasterのALを入力すると自動で計算されるASCRS※3のWebサイトhttp://iolcalc.org屈折矯正術(LASIK/PRK/RK)後のIOL度数計算が掲載されている.可能なデータを入力すると,各計算結果とそれらを平均したIOL度数が表示される※1ASCRSWebサイトにも搭載,※2TMSにも搭載.※3ASCRS:AmericanSocietyofCataractandRefractiveSurgery. あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151237(9)眼球断層画像が撮影できることによって,新たなELP予測法が近い将来に期待される.文献1)RetzlaffJA,SandersDR,KraffMC:DevelopmentoftheSRK/Tintraocularlensimplantpowercalculationformula.JCataractRefractSurg16:333-340,19902)HaigisW:TheHaigisFormula.Intraocularlenspowercalculations.IOLPower(ShammasHJ),41-57,SLACKIncorporated,NJ,20043)比嘉利沙子,魚里博,大内雅之ほか:眼内レンズ度数計算式による白内障術後予測屈折誤差の比較.臨眼65:687-692,20134)比嘉利沙子,魚里博,大内雅之ほか:新しい光干渉式眼軸長測定装置AL-Scanの臨床評価(第2報).術後予測屈折誤差と最適化定数の検討.眼科手術26:248-252,20135)比嘉利沙子,魚里博,新井ゆりあほか:Holladay2式,Haigis式,SRK/T式による術後予測屈折値の精度.眼科手術27:261-264,20146)禰津直久:個別A定数からみたSRK/T眼内レンズパワー計算式の検討.臨眼51:911-914,19977)比嘉利沙子:IOL計算式選択のコツとIOL定数.眼科グラフィック24:358-364,20158)HaigisW:Intraocularlenscalculationafterrefractivesur-geryformyopia:HaigisLFormula.JCataractRefractSurg34:1658-16639)CamellinM,CalossiA:Anewformulaforintraocularlenspowercalculationafterrefractivecornealsurgery.JRefractSurg22:187-199,2004■用語解説■ULIB(UserGroupforLaserInterferenceBiome-try)Webサイト:光干渉式AL測定装置専用のIOL定数データベースWebサイト(http://www.augenklinik.uni-wuerzburg.de/ulib/const.htm).IOL度数計算に光干渉で測定したALを使用する場合,光干渉専用のIOL定数を用いる必要がある.第3世代以降の計算式:67年以降の理論式を第1世代,SRK式,SRKII式で代表される回帰式を第2世代と呼ぶ.Holladay式,SRK/T式,HofferQ式,Holla-dayII式,Haigis式が第3世代以降の計算式にあたる.理論式と回帰式の要素を合わせもつ.■ULIB(UserGroupforLaserInterferenceBiometry)Webサイト:光干渉式AL測定装置専用のIOL定数データベースWebサイト(http://www.augenklinik.uni-wuerzburg.de/ulib/const.htm).IOL度数計算に光干渉で測定したALを使用する場合,光干渉専用のIOL定数を用いる必要がある.第3世代以降の計算式:67年以降の理論式を第1世代,SRK式,SRKII式で代表される回帰式を第2世代と呼ぶ.Holladay式,SRK/T式,HofferQ式,HolladayII式,Haigis式が第3世代以降の計算式にあたる.理論式と回帰式の要素を合わせもつ.眼球断層画像が撮影できることによって,新たなELP予測法が近い将来に期待される.文献1)RetzlaffJA,SandersDR,KraffMC:DevelopmentoftheSRK/Tintraocularlensimplantpowercalculationformula.JCataractRefractSurg16:333-340,19902)HaigisW:TheHaigisFormula.Intraocularlenspowercalculations.IOLPower(ShammasHJ),41-57,SLACKIncorporated,NJ,20043)比嘉利沙子,魚里博,大内雅之ほか:眼内レンズ度数計算式による白内障術後予測屈折誤差の比較.臨眼65:687692,20134)比嘉利沙子,魚里博,大内雅之ほか:新しい光干渉式眼軸長測定装置AL-Scanの臨床評価(第2報).術後予測屈折誤差と最適化定数の検討.眼科手術26:248-252,20135)比嘉利沙子,魚里博,新井ゆりあほか:Holladay2式,Haigis式,SRK/T式による術後予測屈折値の精度.眼科手術27:261-264,20146)禰津直久:個別A定数からみたSRK/T眼内レンズパワー計算式の検討.臨眼51:911-914,19977)比嘉利沙子:IOL計算式選択のコツとIOL定数.眼科グラフィック24:358-364,20158)HaigisW:Intraocularlenscalculationafterrefractivesurgeryformyopia:HaigisLFormula.JCataractRefractSurg34:1658-16639)CamellinM,CalossiA:Anewformulaforintraocularlenspowercalculationafterrefractivecornealsurgery.JRefractSurg22:187-199,2004(9)あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151237

序説:屈折矯正的な水晶体手術の今

2015年9月30日 水曜日

●序説あたらしい眼科32(9):1229.1230,2015●序説あたらしい眼科32(9):1229.1230,2015屈折矯正的な水晶体手術の今PresentStateofRefractiveCataractSurgery稗田牧*木下茂**白内障手術の進展をふり返ってみると,いかに「効率よく」核を処理するかが追及されたハイバキュームの時代があり,そのカウンターとして正常眼圧白内障手術や低照明白内障手術など患者の眼にやさしいスローサージェリーという考え方の時代を経て,今はさまざまな手術機器の進歩により効率的で眼にやさしい手術ができる時代をむかえている.眼にやさしいというのは,角膜内皮細胞を守るだけでなく,屈折異常による生活の質(QOL)の低下を防ぐ,という意味も含んでのことである.ブレードレスのフェムトセカンドレーザー白内障手術の登場はその象徴的な存在である.トーリック眼内レンズや多焦点眼内レンズが導入されたことで,白内障手術における屈折矯正手術としての側面はますます重視されるようになってきた.術後に乱視を1D未満に減らし,正視(±0.5D)に屈折度を合わせることが求められる手術とは,間違いなく屈折矯正手術である.しかし,多焦点眼内レンズに限れば,その導入される割合は諸外国と比べ低いままに留まっているようだ.わが国においてはレーシックなどの屈折矯正手術を行っている術者の前眼部術者に占める割合が極端に低いことが,屈節矯正的な白内障手術がさほど広がらない原因の一つである.レーシックの技術革新が停滞しているこの5年間に,屈折矯正的な白内障手術はめざましく進歩した.スウェプトソースOCT(swept-sourceopticalcoherencetomography:SS-OCT)で眼底と前眼部を同時に観察しながら,眼軸を含む眼屈折パラメータが測定できるようになり,フェムトセカンドレーザーにより正確無比な正円の水晶体切開が可能となり,乱視軸の軸合わせがマーカレスとなり,手術中に屈折誤差の評価ができるようになった.白内障手術がさらに洗練され屈節矯正精度が上ることが,わが国において高機能レンズがより活発に使用されるためのキーファクターであろう.本年のASCRS(AmericanSocietyofCataractandRefractiveSurgery)のライブサージェリーでもっとも印象に残ったことは,術中アベロメータを導入している施設では,白内障手術中に収差を測定して乱視の軸を微調整し,IOL度数を変えるということが通常のこととして行われるようになっているという現実であった.術中測定も以前からアイデアはあるものの臨床応用してメリットがあるまでのレベルがなく放棄されていたが,ライブサージェリーを見る限り,実用的な印象を受けた(実際使うまではわからないが……).もし,術中アベロメータの精度が高くなれば将来はレーシックなどの屈折矯正*OsamuHieda:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学**ShigeruKinoshita:京都府立医科大学特任講座感覚器未来医療学0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(1)1229 1230あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(2)手術にも導入されることは間違いなく,白内障手術の屈折矯正システムがレーシックを凌駕していると感じた.今回の特集では,白内障手術をとりまく最新の技術の進歩のなかで,やや屈折矯正的側面を重視しながら各エキスパートに解説いただいた.眼内レンズ度数計算から,有水晶体眼内レンズまで,白内障-屈折矯正手術にかかわる者がカバーすべき知識を網羅している.新しい「効率的で眼にやさしい」白内障手術は一見,手間と時間とコストがかかるようにみえるが,そこから得られるものは,より標準化された,よりレベルが高い,患者のみならず術者の満足度を上げる結果をもたらすはずである.