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私の緑内障薬チョイス 16.プロスト系プロスタグランジン関連薬の先駆け:キサラタン®

2014年9月30日 火曜日

連載⑯私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載⑯私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也16.プロスト系プロスタグランジン関連薬の坂田礼東京都健康長寿医療センター眼科先駆け:キサラタンR1999年,日本に臨床導入されたラタノプロスト(キサラタンR)は,開放隅角緑内障に対して1日1回の点眼で強力な眼圧下降作用を示す点眼薬でありながら全身的な副作用はほとんどない.眼局所の副作用も他のプロスト系プロスタグランジン関連薬と比較して軽微であり,効果と忍容性にバランスの取れた薬剤であるといえる.低眼圧の緑内障に対してキサラタンRを投与した1例58歳,男性.正常眼圧緑内障の診断で紹介.前医にて両眼に処方された緑内障点眼薬を使用した状態で右眼10mmHg,左眼8mmHgであった.中心角膜厚は右眼472μm,左眼482μm,等価球面値は右眼.5.5D,左眼.4.25D,矯正視力は両眼1.2であった.両眼とも開放隅角であり,全身的な既往はなかった.両眼ともいったん緑内障点眼薬を中止し,日中日内変動(幅)を確認したところ,右眼11~13mmHg,左眼10~12mmHgであった.視神経乳頭写真と視野検査結果は図1の通りであった.当初の方針として,両眼とも低眼圧であったため,まずは無治療で経過観察を開始した.その後,視野検査でのmeandeviation(MD)値は多少の変動はあるものの,徐々に感度の低下を認め(ただし視力は不変),経過観察約2.5年目で右眼MDslope.0.99dB/year(p=0.03),左眼MDslope.0.35dB/yearを示した(図2).右眼は治療開始のタイミングと判断,左眼の進行はやや緩徐であったが,ラタノプロスト0.005%(キサラタンR,ファイザー)を患者とも相談して両眼に開始した.その後,さらなる眼圧下降[右眼は平均.1.7mmHg(p=0.05),左眼は平均.1.6mmHg(p=0.03)]が得られ,開始後の右眼MDslopeは.0.06dB/year,左眼MDslopeは+0.45dB/yearとなった(図2).解説本症例は初診時から左眼に中期の視野障害を認めたが,眼圧は低かったので(角膜厚はやや薄いことは念頭に置きつつ),まずは無治療での経過観察を開始した.緑内障治療の目的は眼圧を下げることではなく視機能維(95)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY図1視神経乳頭ステレオ写真経過観察当初の両眼の視神経乳頭ステレオ写真.両眼とも豹紋状眼底であり,網膜視神経層欠損は判別しづらいが,広い範囲のリムの菲薄化を認め,乳頭陥凹の拡大を認める(上図:右眼,下図:左眼).持であることはいうまでもないが,その進行判定は視野や視神経乳頭の経時変化を追っていくのが一般的であろう.経過観察から約2.5年で,両眼の視神経乳頭の悪化はなかったが,右眼に視野進行を認めたため,この時点を治療開始のタイミングと判断した.緑内障ガイドライン(第3版)で示されている通り,一般的な原発開放隅角緑内障(広義)治療においての薬物治療の導入には単剤(単薬)投与から開始とするが,本症例のように眼圧がもともと低い症例では,その薬剤導入開始時期に悩むことも多い.点眼しても眼圧下降幅はせいぜい数mmHg程度と考えられ,また,そもそも本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141343 キサラタンR開始2.400.411.422.5R_IOP1314101410101114111212L_IOP111410121010111291212991310119101099138812101191010881100.40.91.41.9-2-4-6-8-10-12-14-16図2視野推移,眼圧経過縦軸はMD(dB),横軸は時間経過(年)を表す.右眼は青色四角印,左眼は朱色四角印で表す.経過観察当初は両眼ともに視野進行を認めていたが,キサラタンR点眼開始後(背景が肌色部分)はその進行が緩徐となった.点眼前後で常に低眼圧であったが,点眼後の平均眼圧は点眼前と比較し,さらに低いものとなった.このような低眼圧の緑内障では,目標眼圧が設定しづらく,かつ眼圧自体が緑内障性視神経症にどの程度関与しているかが不明な点もあるからである.点眼薬選択の考え方さて,点眼の選択肢としては,プロスタグランジン(PG)関連薬のほかにb遮断薬,あるいは別カテゴリーからの点眼が考えられるが,眼圧メタ解析論文1)からもその強力な眼圧下降効果が裏付けされ,しかも全身的な副作用がほとんどないPG関連薬が第一に選択されるのに異論はないであろう.しかし,そのPG関連薬もプロスト系の4剤(キサラタンR,トラバタンズR,ルミガンR,タプロスR)から選択しなければならず,どの薬剤を選択するのかはこれまた悩むところである.眼圧下降効果を一番に期待することには違いないが,反面,眼局所の副作用が強く出てしまっては長期にわたる良好なアドヒアランスは望みにくい.いずれの4剤もピーク時・トラフ時また日内眼圧下降作用に優れた薬剤であり,眼圧下降の面から考えていくと,上記4薬剤ともに選択の候補となる.一方で,PG関連薬使用時の眼局所の副作用として,薬剤間でその発症頻度が異なる代表的なものは,結膜充血と上眼瞼溝の深化(deepeningoftheuppereyelidsulcus:DUES)であろう.結膜充血はとくに初期の点眼開始時に強く認めるが,1344あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014一般的には点眼を継続することで次第に和らいでいくことが多いとされる.点眼を自己中断してしまう原因にもなるので,患者にはしっかりとした説明が必要である.PG関連薬に関連した結膜充血のメタ解析2)では,(タプロスRは市場に出てあまり時間が経過していないので対象外),キサラタンRが他の2剤よりも充血の頻度が低いとの結果がでている.一方,DUESに関しては可逆的な変化とされるが,美容的な問題でもあり,使用開始時には結膜充血と同様に説明しておく必要がある.日本国内の前向き研究でその発症頻度が判明してきており,点眼開始後6カ月目の時点で,トラバタンズRとルミガンRはそれぞれ約50%3),約60%4),タプロスRは約15%5)の発症率と報告されている.しかし,キサラタンRは市場に出て一番古いプロスト系PG関連薬であるにもかかわらず,その発症頻度は不明である.発症がないか,軽微な変化しか認めない可能性が高い.まとめキサラタンRの眼圧下降効果は他のプロスト系PG関連薬とほぼ同等でありながら,眼局所の代表的な副作用である結膜充血やDUESの発症頻度が相対的に低く,本症例のような低眼圧の緑内障に対しても第一選択となりうる薬剤である.ただし,点眼が無効(キサラタンノンレスポンダー)の可能性もあり,そのような症例に対しては他のPG関連薬,あるいは別の点眼に順次変更していく必要がある.文献1)ChengJW,CaiJP,WeiRL:Meta-analysisofmedicalinterventionfornormaltensionglaucoma.Ophthalmology116:1243-1249,20092)HonrubiaF,Garcia-SanchezJ,PoloVetal:Conjunctivalhyperaemiawiththeuseoflatanoprostversusotherprostaglandinanaloguesinpatientswithocularhypertensionorglaucoma:ameta-analysisofrandomisedclinicaltrials.BrJOphthalmol93:316-321,20093)MaruyamaK,ShiratoS,TsuchisakaA:Incidenceofdeepeningoftheuppereyelidsulcusaftertopicaluseoftravoprostophthalmicsolutioninjapanese.JGlaucoma23:160-163,20144)AiharaM,ShiratoS,SakataR:Incidenceofdeepeningoftheuppereyelidsulcusafterswitchingfromlatanoprosttobimatoprost.JpnJOphthalmol55:600-604,20115)SakataR,ShiratoS,MiyataKetal:Incidenceofdeepeningoftheuppereyelidsulcusontreatmentwithatafluprostophthalmicsolution.JpnJOphthalmol58:212217,2014(96)

抗VEGF治療:網膜色素上皮剥離の抗VEGF療法

2014年9月30日 火曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二8.網膜色素上皮.離の抗VEGF療法脇山はるみ日本赤十字社長崎原爆病院眼科網膜色素上皮.離を伴う滲出型加齢黄斑変性の抗VEGF療法は,治療抵抗性を示したり,あるいは治療反応性であっても投与を中断すると直ちに再発を生じたりする症例が多く,長期継続投与が必要となる場合が多い.また,網膜色素上皮裂孔の合併症にも注意が必要である.はじめに網膜色素上皮.離(pigmentepithelialdetachment:PED)を伴う滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)の抗VEGF療法は,しばしば,治療に抵抗したり,治療を中断すると再発したりして,長期継続投与が必要となる場合が多い.また,初診時には視力が良好であるにもかかわらず,治療開始後,網膜色素上皮裂孔(retinalpigmentepithelialtear:RPEtear)などを生じ視力低下が進行することもあり,AMD診療においてもっとも苦慮する病態の一つである.PEDを伴う病変を認めた場合,それぞれの病態により治療反応性が異なるので,まず,フルオレセインおよびインドシアニングリーン蛍光眼底造影検査を施行し,脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)の同定とAMDsubtypeの鑑別診断を行う.CNVが明らかでない漿液性PEDCNVが同定できない漿液性PEDも,1乳頭径以上のものは滲出型AMDと定義される1)ので,抗VEGF療法の適応となり,それによりPEDの消失がみられることもある.典型AMDに伴うPED1.漿液性PEDアフリベルセプト硝子体内投与(intravitrealaflibercept:IVA)がラニビズマブ硝子体内投与(intravitrealranibizumab:IVR)より著効する例が多い(図1).ただし,投与中止により再発もみられやすいため,継続投与となる症例もあり,投与方法はfixeddosingまたはtreatandextend(TAE)が望ましい.2.fibrovascularPEDIVRにより中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)の減少はみられるものの,PEDや網膜下液(subretinalfluid:SRD)は残存しやすい.IVAでPEDの減少とSRDの消失が得られることもあるが,維持期において8週毎の投与ではSRDが再発することもあり,TAEで投与しながら,症例毎に適切な投与間隔で治療を行う(図2).ポリープ状脈絡膜血管症に伴うPEDポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)でもしばしばPEDを認めることがあるが,IVRではポリープ状病巣の閉塞率が低く2),光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)の併用を要することもある.IVAではポリープ状病巣がIVRのそれ治療前R.V.=(1.0)IVR1回後R.V.=(0.9)IVA3回後R.V.=(1.2)図1典型AMDに伴う漿液性PEDIVRでPEDが増悪したため,IVAへswitchingしたところ,PEDは消失した.(93)あたらしい眼科Vol.31,No.9,201413410910-1810/14/\100/頁/JCOPY 治療前R.V.=(0.6)IVR24回後R.V.=(0.7)IVA導入期後R.V.=(0.7)IVA維持期(8W毎投与)R.V.=(0.6p)図2典型AMDに伴うfibrovascularPEDIVRでCRTの減少を認め毎月投与するもSRDは完全に消失せず,IVAへswitchingしたところ,PEDは消失した.しかしながら,維持期において投与間隔を8Wに延長したところ,SRDの再発がみられた.より高く,単独療法でポリープ状病巣の閉塞とともにPEDの改善が得られやすいが,反応がみられない場合,PDTを併用する.網膜血管腫状増殖に伴うPED網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)の進行例(stageIII)ではPEDがみられる.IVRが比較的有効なので,RAPの発症年齢がより高齢で85歳以上の症例も多いため,全身合併症を考慮し,まずIVRを行う.RPEの萎縮が強く形態学的に改善しても視力改善が得られない場合も多いので,多発するsoftdrusenやreticularpseudodrusenがある症例は注意して経過観察を行い,早いstageで治療できるよう努める.おわりにPEDの抗VEGF療法でもっとも気をつけなければならない眼合併症はRPEtearであろう.抗VEGF薬による急激なCNVの収縮が原因とされ,とくに初回投与後に生じやすい3).もちろん,RPEtearはPDTなど他の治療でも生じるリスクがあり,自然経過でも起こりうるので,できるだけPEDが拡大する前に,十分なリスク説明を行い,抗VEGF療法を開始する.中心窩下にSRDがなくPEDのみの場合,治療開始時に比較的視力が良好な症例も少なくない.とくに片眼発症の場合など患者側に重篤感がないこともあるので,自然経過では予後不良であること,長期間継続的な治療が必要であることをしっかり説明し,さらに合併症のリスクを踏まえたうえで,PEDの抗VEGF療法に臨むことが重要である.文献1)高橋寛二,石橋達朗,小椋祐一郎ほか:加齢黄斑変性の分類と診断基準.日眼会誌112:1076-1084,20082)NagielA,FreundKB,SpaideRFetal:Mechanismofretinalpigmentepitheliumtearformationfollowingintravitrealanti-vascularendothelialgrowthfactortherapyrevealedbyspectral-domainopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol156:981-988,20133)KohA,LeeWK,ChenLJetal:EVERESTstudy:efficacyandsafetyofverteporfinphotodynamictherapyincombinationwithranibizumaboraloneversusranibizumabmonotherapyinpatientswithsymptomaticmacularpolypoidalchoroidalvasculopathy.Retina32:1453-64,20121342あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(94)

緑内障:OCT各機種の緑内障診断能

2014年9月30日 火曜日

●連載171緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也171.OCT各機種の緑内障診断能金森章泰神戸大学大学院医学研究科外科学講座眼科学OCTはいくつかの機種があり,撮影法のみならず,その測定結果にも違いがある.同一のサンプルを対象に3機種のOCTで撮影したデータをもとに,機種間での緑内障診断能を比較した.●はじめに緑内障診療において,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は非常に有用なツールである.乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryretinalnervefiberlayer:cpRNFL)解析は以前からOCTでの主な評価項目であったが,スペクトラルドメインOCT(SDOTC)では,黄斑部網膜内層解析が可能となった.黄斑部網膜神経線維層(macularretinalnervefiberlayer:mRNFL)や網膜神経節細胞層+内顆粒層(ganglioncelllayerandinnerplexiformlayer:GCLIPL),さらにmRNFLとGCLIPLの和であるganglioncellcomplex(GCC)を測定することができる.RNFL走行に基づいた黄斑部の構造的変化の検出も可能である1).SD-OCTは現在,主に6社から発売され,各機種とも基本的原理は同じであるが,いくつかの違いがある.●cpRNFLの各機種間の比較cpRNFLは各機種とも同様の解析を行っているはずであるが,同一患者を対象に3機種でOCT解析を行った研究により,機種間の違いが指摘されている.シラス(Cirrus),スペクトラリス(Spectralis),RTVue-100を比較した報告では,RTVueでは他の2機種に比べcpRNFLが厚く測定されることが報告されている2).また,Cirrus,RTVue,3DOCT-2000を比較した筆者らの研究では,Cirrusが他の2機種より薄くcpRNFLが測定され,また,測定円の中心がRTVueでは他の2機種に比べ若干上鼻側に存在することがわかった3).これらの違いは,網膜各層を分離する方法の違いによると推定される.また,各機種とも視神経乳頭中心を自動的に設定することでcpRNFL測定部位を決定するが,視神経乳頭中心の判定のための具体的方法は各機種とも明らかにされておらず,機種間の差につながっているものと(91)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYCirrus3D-OCTRTVueRS-3000図1解析対象範囲の比較Cirrus(赤色),3D-OCT(青色),RTVue(緑),RS-3000(黄色)の黄斑部解析範囲を示す.思われる.このように,OCTによるcpRNFL測定値は機種間によって異なり,互換性はないことに留意する必要がある.●黄斑部解析の各機種間の違い黄斑部解析は各機種でかなりの違いがある.まず解析対象範囲が異なり,Cirrusがもっとも狭い領域を解析している(図1).それぞれ解析結果として出力されるパラメータも異なるが,正常眼からの逸脱具合を示すデビエーションマップはどの機種とも搭載しており,緑内障性障害のパターンとしての変化を捉えることができる.●各機種の緑内障診断能緑内障(平均MD=.5.85dB)を対象にCirrus,Spectralis,RTVueで測定したcpRNFLの診断能を比較した報告では,全周cpRNFLの診断能は各機種間で有意な差はなかったものの,鼻側90°象限cpRNFLはCirrusが他の2機種に比べ診断能が低かったとしている4).また,筆者らも強度近視を伴わない(.6D以上)の緑内障(平均MD=.7.12dB)を対象にCirrus,RTVue,あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141339 AveragecpRNFLthickenssAverageGC/IPLthickenssAveragemRNFLthickenss100-Specificitiy100-Specificitiy100-Specificitiy100-SpecificitiyAverageGCCthickenssSensitivitySensitivitySensitivitySensitivityABCDAveragecpRNFLthickenssAverageGC/IPLthickenssAveragemRNFLthickenss100-Specificitiy100-Specificitiy100-Specificitiy100-SpecificitiyAverageGCCthickenssSensitivitySensitivitySensitivitySensitivityABCD図2緑内障診断能の比較正常87眼を対象として,強度近視を伴わない初期緑内障75眼の検出能を3機種で比較した.A:全周cpRNFL厚,B:averageGCC厚,C:averageGCLIPL厚,D:averagemRNFL厚の受信者操作特性曲線(ROCカーブ)を示す.縦軸は敏感度(%),横軸は100-特異度(%)を示す.(文献5から改変して掲載)3DOCT-2000で同様の検討を行った結果,全周cpRNFLの診断能は各機種間で有意な差はなかったものの,RTVueにおいて,鼻側90°象限cpRNFLで他の2機種に比べ診断能が高く,耳側象限cpRNFLで3DOCTよりも高い診断能を示した5).しかし,実際の臨床では明らかな緑内障でOCTにその診断を迷うことはなく,初期緑内障(平均MD=.2.61dB)に症例をしぼったところ,どのcpRNFLパラメータでも有意な機種間の差は検出されなかった(図2)5).鼻側象限cpRNFLは初期緑内障では重要ではない領域であり,機種間の差は臨床的意義をもたないかもしれないが,鼻側cpRNFLはRTVueが鋭敏である可能性がある.全病期緑内障を対象とした黄斑部解析の比較ではaverageGCCは3機種に有意差はなかったものの,上半分GCCがRTVueが高い診断能を有していた5).これは初期緑内障に対象を限定しても同様の結果であった.RTVueではRNFLとGCLを分離できないため,mRNFLとGCLIPLをCirrusと3DOCTで比較したところ,mRNFLは3DOCTが,GCLIPLはCirrusが高い診断能を有していた5).1340あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014●強度近視を伴う緑内障の各機種の診断能近視(.6D以上)をもつ緑内障(平均.7.36dB)に対してCirrus,RTVue,3DOCT-2000の診断能の検討を行った6).全周cpRNFLの診断能は各機種間で有意な差はなかったものの,鼻側90°象限cpRNFLはRTVueが他の2機種に比べ診断能が高かった.黄斑部解析ではGCC,GCLIPLに有意な機種間の差はなかったものの,mRNFLは3DOCTがCirrusよりも高い診断能を有していた.また,各機種でcpRNFLとGCCで診断能を比較したところ,両者間に有意差はなく,cpRNFL,GCCともにどの機種でも同等の近視緑内障の検出能をもつ結果であった.●おわりにSD-OCT各機種ともほぼ同様の緑内障診断能を示すと思われる.しかし,どのOCTが日常診療における緑内障診断に優れているかは上記の測定値のみの解析では単純に比較することができず,それぞれで得られるパラメータや撮影方法,解析時間などが異なり,一長一短がある.文献1)KanamoriA,NakaM,AkashiAetal:Clusteranalysesofgrid-patterndisplayinmacularparametersusingopticalcoherencetomographyforglaucomadiagnosis.InvestOphthalmolVisSci54:6401-6408,20132)LeiteMT,RaoHL,WeinrebRNetal:Agreementamongspectral-domainopticalcoherencetomographyinstrumentsforassessingretinalnervefiberlayerthickness.AmJOphthalmol151:85-92e81,20113)KanamoriA,NakamuraM,TomiokaMetal:Agreementamongthreetypesofspectral-domainopticalcoherenttomographyinstrumentsinmeasuringparapapillaryretinalnervefibrelayerthickness.BrJOphthalmol96:832837,20124)LeiteMT,RaoHL,ZangwillLMetal:ComparisonofthediagnosticaccuraciesoftheSpectralis,Cirrus,andRTVueopticalcoherencetomographydevicesinglaucoma.Ophthalmology118:1334-1339,20115)AkashiA,KanamoriA,NakamuraMetal:ComparativeassessmentfortheabilityofCirrus,RTVue,and3D-OCTtodiagnoseglaucoma.InvestOphthalmolVisSci54:4478-4484,20136)AkashiA,KanamoriA,NakamuraMetal:TheabilityofmacularparametersandcircumpapillaryretinalnervefiberlayerbythreeSD-OCTinstrumentstodiagnosehighlymyopicglaucoma.InvestOphthalmolVisSci54:6025-6032,2013(92)

屈折矯正手術:オルソケラトロジー

2014年9月30日 火曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載172大橋裕一坪田一男172.オルソケラトロジー福本光樹南青山アイクリニック・南城眼科現在,わが国では4社のオルソケラトロジーレンズが認可され,うち3社から販売されている.近年オルソケラトロジーレンズの近視進行抑制効果が注目され,症例数の増加・低年齢化が認められている.実際に処方するうえでは,3種類のレンズの特徴や装用開始後の経過もよく理解しておくことが大切である.●はじめにオルソケラトロジーレンズは後面が多段階カーブになっていて,装用することにより角膜中心部を扁平化させ,近視性乱視を矯正するハードコンタクトレンズである.現在,4社のオルソケラトロジーレンズが厚生労働省より認可され,3社のレンズが製造販売されている.裸眼で日中生活できる,また装用を中止すると角膜は基本的には元の形状に戻るという利点だけでなく,国内外より近視進行抑制効果が認められる1,2)という発表がされるようになったこともあり,症例数の増加ならびに低年齢化が進んでいる.●オルソケラトロジーレンズの形状診療の際にはオルソケラトロジーレンズの基本的な形状を理解しておくことが必要である.図1のように角膜後面は多段階カーブになっている.43Dの角膜を3D変化させようとするとベースカーブは理論上40Dとなる.しかし,レンズをはずした後の戻りを加味して,com図1オルソケラトロジーレンズの形状後面は中央よりベースカーブ,リバースカーブ,アライメントカーブ,ペリフェラルカーブと多段階カーブとなっている.pressionfactorという補正(3社とも+0.75D)がされており,実際のベースカーブは39.25Dとなっている.●形状の比較3社のレンズを切断し,断面を比較してみると,それぞれのレンズの特徴がわかる(図2).Dk/L値は,メーカーが公表しているDk値を,本比較検証で行ったレンズ中心厚(実測値)で割った値である.1.aオルソ.K(アルファコーポレーション社製)Dk/L値:47×10.9(cm/sec)・(mlO2/ml×mmHg)ペリフェラルカーブの幅が最も短く,アライメントカーブが最も広いが,後面光学部(BCOZ)は最も狭い.ペリフェラルカーブからベースカーブの内面中心部までの深さが最も深い.全体的に突出のある角膜に適していると考察できる.a厚い広い薄い深い低い長い狭い短いb厚い深い高い短い長いc薄い低い浅い広い長い図2形状の比較a:aオルソ-K,b:マイエメラルド,c:ブレスオーコレクト.(89)あたらしい眼科Vol.31,No.9,201413370910-1810/14/\100/頁/JCOPY (D)0.500.00-0.50-1.00-1.50-2.00-2.50-3.00-3.50-4.00-2.64-1.19-0.40-0.28-0.26-0.14(n=86)*****装用前1日1週2週4週*p<0.01(装用前との比較:pairedt-test)12週図3屈折度数変化角膜上皮細胞層の変化に伴い屈折度数も変化するため,装用開始後数日は見えづらさを自覚することが多い.2.マイエメラルド(テクノピア社製)Dk/L値:43×10.9(cm/sec)・(mlO2/ml×mmHg)エッジリフトは高く広く,アライメントカーブの幅が3社中最も狭い.アライメントカーブとリバースカーブのジャンクション部から内面中心部までの深さが最も深い.角膜中心部が突出した角膜に適したレンズと考察できる.3.ブレスオーコレクト(ユニバーサルビュー社製)Dk/L値:78×10.9(cm/sec)・(mlO2/ml×mmHg)後面光学部は最も広い,レンズの深さが最も浅い.全体的な厚みが最も薄く設計されている.角膜中央部の突出の少ない角膜に適したレンズと考察できる.●屈折度数変化自験例86眼の装用開始後の屈折度数変化を図3に示す.LASIKなどの屈折矯正手術などと比べて,目標屈折に達するまでに時間がかかることを理解しておくことが大切である.装用開始後も,それまで使用していたコンタクトレンズ,眼鏡を使用しているという症例も経験している.●近視抑制効果近視進行の原因となる眼軸長の伸展には,網膜ぼけ理論(incrementalretinaldefocustheory)が関与していると考えられている.網膜ぼけ理論には,近方視時における網膜後方へのデフォーカス(調節ラグ)と周辺網膜の後方へのデフォーカス(図4a,b)があるが,オルソケラトロジーレンズは後者を軽減する作用があると考えられている.また,後者がより近視の進行に影響があると1338あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014ab図4周辺網膜の後方へのデフォーカスa:眼鏡で矯正した場合は,周辺網膜において後方へのデフォーカスが認められる.b:オルソケラトロジーレンズの場合は,角膜中央が扁平化し,周辺は扁平化することはなくむしろ急峻化するため,周辺網膜において後方へデフォーカスしない.動物実験において実証されている3).アトロピン点眼など薬物による近視進行抑制効果について報告されているが4,5),散瞳による羞明感や調節麻痺による近見障害などの副作用があり,実用的でない.オルソケラトロジーレンズによる眼軸長伸展抑制効果は,低年齢であるほど効果が大きいと考えられている.今後もガイドラインで適用とされていない20歳未満の希望者が増加する可能性も否定できないが,長期的な安全性が確認されておらず,より慎重な対応が必要と考えている.その一方,将来的に病的近視などへのリスクが高まる眼軸長伸展を抑制できる光学療法として,その可能性や今後の研究のためにも正しく熟知したうえで処方していくことが大切である.文献1)KakitaT,HiraokaT,OshikaT:Influenceofovernightorthokeratologyonaxiallengthelongationinchildhoodmyopia.IOVS52:2170-2174,20112)Santodomingo-RubidoJ,Villa-CollarC,GilmartinBetal:MyopiacontrolwithorthokeratologycontactlensesinSpain:refractiveandbiometricchanges.InvestOphthalmolVisSci53:5060-5065,20123)SmithEL3rd,KeeCS,RamamirthamRetal:Peripheralvisioncaninfluenceeyegrowthandrefractivedevelopmentininfantmonkey.InvestOphthaomolVisSci46:3965-3972,20054)ChiaA,ChuaWH,CheungYBetal:Atropineforthetreatmentofchildhoodmyopia:safetyandefficacyof0.5%,0.1%,and0.01%doses(AtropinefortheTreatmentofMyopia2).Ophthalmology119:347-354,20125)ChuaWH,BalakrishnanV,ChanYHetal:Atropineforthetreatmentofchildhoodmyopia.Ophthalmology113:2285-2291,2006(90)

眼内レンズ:Sub-Surface Nano Glisteningsと視機能

2014年9月30日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋335.Sub-SurfaceNanoGlisteningsと視機能高橋依子金沢医科大学眼科学教室疎水性アクリル眼内レンズのSub-SurfaceNanoGlistenings(以下SSNG)は術後経過とともに増加し,視機能への影響が懸念されている.SSNGの光学シミュレーションではSSNGの密度やサイズが増大すると前方散乱の増加および網膜照度の低下を生じるが,Modulationtransferfunction(MTF,空間周波数特性)の低下はきわめて軽度であった.網膜疾患のない症例においては,SSNGの視機能への影響は軽微であると考えられた.疎水性アクリル眼内レンズでは挿入後長期経過とともに表面散乱光が増加し,光学部前後面が混濁することがある(図1)1).これはホワイトニングやSub-SurfaceNanoGlistenings(以下SSNG)と呼ばれ,眼内レンズ表面下に発生した約100nmサイズの水粒子である.SSNGの原因は水相分離現象で,疎水性アクリル眼内レンズは,生体内で温度上昇するとポリマー内の含水率が増加するが,温度が下がると析出した水分がポリマー内の空洞に貯留する.光学部表面と内部では表面のほうがアクリルポリマー重合が弱いため,眼内レンズ表面下に小水粒子が発生する2).疎水性アクリル眼内レンズのなかでもアクリソフ眼内レンズにおけるSSNGの発生は顕著であり,経年的に増え続け細隙灯顕微鏡で眼内レンズ光学部が白く混濁し図1SSNG症例の細隙灯顕微鏡写真アクリル眼内レンズの光学部表面に白色の混濁を認める.て見えるため,視機能への影響が懸念されている.しかし,アクリソフ眼内レンズの表面散乱光強度は術後経過に伴い増加するが,視力およびコントラスト感度への影響は少ないと報告1)されている.筆者らがアクリソフ眼内レンズを挿入した64症例について検討した結果でも,表面散乱光強度は術後経過期間に伴い増加するが(図2),視力,コントラスト視力,全高次収差および網膜像コントラストには影響がなかった.Ongらは,摘出眼内レンズを電子顕微鏡で観察し,SSNGは眼内レンズ表面から約120μm(多くは60μm)までの深さに発生し,直径は約200nm以下であると報告している3).論文データから推定すると,SSNGが発生する眼内レンズ表面付近におけるSSNGの体積比は最大で0.05.0.1%程度であると考えられる.これらの情報をもとに光学設計ソフトCODEV&LightTools(Synopsys社)を使用した光学シミュレーションを行った.SSNGの密度やサイズが増大すると前方散乱の増加(図3)および網膜照度の低下(図4)を生じるが,MTFの低下はきわめて軽度であり視機能への影響は低いこと後方散乱光強度(cct)2502001501005005y=0.0482x+19.93R2=0.708(p<0.01)10手術後経過年数(year)図2術後経過期間と眼内レンズ前面後方散乱光強度眼内レンズ挿入後術後経過年数が経つにつれて,眼内レンズ前面後方散乱光強度は長期にわたり有意に増加した.(87)あたらしい眼科Vol.31,No.9,201413350910-1810/14/\100/頁/JCOPY SSNG体積比率0%SSNG体積比率0.1%粒子サイズ200nm深さ:0~120μmSSNG体積比率0%SSNG体積比率0.1%粒子サイズ200nm深さ:0~120μm光線本数:10,000本図3SSNGと前方散乱SSNGのサイズや体積比率が増加するにつれ前方散乱は増加した.Volumeratio0.00%0.10%0.20%Peakvalueof100%93.0%86.5%irradiance図4SSNGの体積比率と網膜放射照度ピーク値SSNGの体積比率が増加すると網膜放射照度ピーク値は減少した.が示唆された(図5)4).シミュレーションではSSNGの粒子サイズの増大,密度の増加につれて網膜放射照度は低下し,SSNGにより前方散乱を認めたが,臨床上では生じる可能性のない密度0.2%(サイズ150nm,深さ120μm,前後面)というきわめて高度のSSNGでも,網膜照度の低下は13.5%程度であり,網膜照度低下による視機能低下は考えにくいことが明らかになった(図4).一方で高度のSSNG症例において,アクリソフ眼内レンズを摘出・交換し術後視機能が改善したという報告5)もある.これまでのレンズ摘出症例に関する報告は,ほとんどが網膜疾患のある症例あるいは硝子体術後症例1.00.80.60.40.20.0MTF粒子サイズ150nm深度0~60μm体積比率0%体積比率0.10%020406080100120140160180200空間周波数(c/mm)図5SSNG体積比率とMTFSSNGの体積比率が増加してもMTFの低下は認められなかった.であり,網膜機能が低下している場合,高度のSSNGが視機能へ影響する可能性は否定できない.しかし,網膜機能に異常がない健常眼であれば,日常臨床でみられる程度のSSNGにより視機能低下を生じる可能性はきわめて低いと考えて良い.近年,アクリソフ眼内レンズはその製造工程を変えており,改良型アクリソフ眼内レンズの表面散乱光強度は改良前と比較し大幅に低減される可能性が高く,SSNGによる視機能への影響は今後さらに軽減すると考えられる.文献1)MiyataK,HonboM,OtaniSetal:Effectonvisualacuityofincreasedsurfacelightscatteringinintraocularlenses.JCataractRefractSurg38:221-226,20122)MatsushimaH,MuraiK,NagataMetal:Analysisofsurfacewhiteningofexteractedhydrophobicacrylicintraocularlenses.JCataractRefractSurg35:1932-1934,20093)OngMDetal:Etiologyofsurfacelightscatteringonhydrophobicacrylicintraocularlenses.JCataractRefractSurg38:1833-1844,20124)TakahashiY,KawamoritaT,MitaNetal:Opticalsimulationforsub-surfacenanoglistening.JCataractRefractSurg,inpress5)YoshidaS,MatsushimaH,NagataMetal:Decreasedvisualfunctionduetohigh-levellightscatteringinahydrophobicacrylicintraocularlens.JpnJOphtalmol55:62-66,2011

コンタクトレンズ:問診について

2014年9月30日 火曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一4.問診について岩崎直樹イワサキ眼科医院コンタクトレンズ(CL)処方を希望する初診の患者さんが来院したとしよう.処方を始めるにあたり,問診で必要な項目と,その詳細について解説してゆく.●まずコミュニケーション初診の患者さんと接するにあたっては,まずは患者さんの目を見て挨拶する.私はイスを勧めて「どうぞこちらにお掛けください」ということにしている.まずコミュニケーションをとることが第一である.できれば簡単なお話をして緊張をほぐし,「アイスブレイク」ができるとベターである.●動機について動機によってニーズが変わり,患者さんのニーズに応えるのがCL処方の最終的な目標であるため,動機の聴取は必須である.CLをしてみたいという動機にはさまざまなものがあげられる.1)整容的に使いたい:メガネを使いたくない,カラーCLで角膜の色や大きさを変えたい.2)スポーツ時に使用したい.3)CLでないと視力が出ないので使用したい.→円錐角膜など4)その他の疾患で使用したい.→無虹彩/角膜白班/メディカルユースのCL動機により,どれだけCLをする必要性が高いかが異なる.また常用するのか,一時的に使用するだけ(オケージョナルユース)なのかにより,CLの種類の選択が変わるため,細かく装用方法や時間の希望について聞いておく.オケージョナルユースにはハードコンタクトレンズ(HCL)は向かず,1日使い捨て型ソフトコンタクトレンズ(SCL)がベストであるためである.例えば「週3日程度,スポーツで4~5時間使用したい」というのであれば,1日使い捨て型SCLが良い適応である.またクラブ活動を行う学生で「毎日4~5時間使用したい,できれば授業もそのまま受けたい」というのであれば,2週間交換型SCLが良い適応になると思われる.(85)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY表1レンズケアの要点眼表面で付いた汚れと微生物を除去する・こすり洗い・すすぎ洗い・MPS浸漬による消毒ケース内でCLが汚染される場合を考える─水回りにいる菌/アメーバによる汚染─MPSの消毒力ではCLケース内を無菌化できない・すすぎ洗い・レンズケースの洗浄/乾燥,定期交換●CL経験の有無,ケア方法の聴取CLの装脱には経験が必要であり,またHCLとSCLで装脱方法が異なるため,どちらのレンズの経験があるかは必ず聞かないといけない.ただし,まったく未経験で初めて装用してみたいと来院した場合や,他院ですでにCLの処方を受けていて,自院には初診である場合などは明らかである.その際の落とし穴は,経験があるからといって正しい装脱やケアができているとはかぎらないことである.1日使い捨てSCL以外では,必ずCLを洗浄/消毒/保存して再使用に備えるための「レンズケア」が必要になる.SCLで一般的なMPS(多目的用材)のケア方法は表1のようになる1)が,すべてを聞くのは冗長なので,1)こすり洗いを毎日しているか.2)CLを取り出した後のレンズケースを水洗いして乾燥させているか.そして定期的に交換しているか.の2点につき問診し,できていない場合はケア方法を細かく問診するのが良い.●既往歴CLの装用を妨げる慢性障害であるアレルギー2),ドライアイ,酸素不足(図1)について聞く.酸素不足に関しては装用時間と着けたまま睡眠していないかを,ドライアイに関しては乾燥感や眼精疲労の有無を問診してあたらしい眼科Vol.31,No.9,20141333 1334あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(00)おく.特に重要なのはアレルギー要因の聴取である.幼少時からのアトピー体質や喘息をもっている患者さんに初めてCLを処方する場合には,初めからアレルギーにベストである1日使い捨てSCLを装用すべきだからである.以上をまとめると,CLの処方で最低限聞く必要があるのは,1)CLを使用する動機.2)オケージョナルユースか,常用したいか.3)CL装用の経験はあるか.あれば,HCLかSCLか.4)経験がある場合,SCLでMPSを使っているか.使っていればこすり洗いとレンズケースの洗浄・乾燥・交換をしているかどうか.5)アレルギー要因がないか.ということになる.診察を進めると,今までの装用方法などに問題があると考えられるさまざまな所見が出てくることが多い.たとえば,角膜輪部から強い血管侵入があれば,長時間装用や無理な装用パターンを行って酸素不足であったことが考えられる.また,上眼瞼に乳頭増殖が強ければ(図2),アレルギー要因があることや,定期交換型SCLを交換せず使用していた疑いが出てくる.その場合には,その部分に関してより突っ込んだ問診が必要となる.文献1)岩崎直樹:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対するレンズケアの注意点.あたらしい眼科28:1687-1689,20112)岩崎直樹:コンタクトレンズによる乳頭性結膜炎.あたらしい眼科25:1681-1682,2008ZS934図1CL装用による慢性障害ドライアイアレルギー性結膜炎酸素不足装用中止血管侵入CLの曇り内皮減少PigmentslideSPK掻痒感乾燥感眼脂図2CLによるアレルギー性結膜炎にみられる上眼瞼の乳頭増殖

写真:サルコイドーシス

2014年9月30日 火曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦364.サルコイドーシス永田健児京都府立医科大学眼科学教室図2図1のシェーマ図1サルコイドーシスの典型的な眼底(56歳,女性)眼底下方に.様の滲出斑を認める.サルコイドーシスでは,このような滲出斑は上方と比べて圧倒的に下方に多い.滲出斑が瘢痕化すると光凝固斑様の委縮病巣となる.図3サルコイドーシスの隅角所見(67歳,女性)隅角にはテント状周辺虹彩前癒着を認める.周辺の虹彩がテントのように引き上げられたような形で癒着するのが特徴的である.図4蛍光眼底造影検査(57歳,女性)静脈に竹の節のような形の過蛍光を認める.また視神経も過蛍光で,黄斑部にもリークを認める.(83)あたらしい眼科Vol.31,No.9,201413310910-1810/14/\100/頁/JCOPY サルコイドーシスは原因不明の多臓器疾患で,病理組織学的に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認めることが特徴である.標的臓器としては肺,眼,リンパ節,皮膚が多く,その他種々の臓器に生じる.女性に多く,20歳代と50~60歳に多いとされるが,後者のほうが多い.眼病変としてはぶどう膜炎が多く,日本においては大学病院を中心とした疫学調査にて,ぶどう膜炎の原因疾患の中でもっとも多いことが報告されている1).眼病変としては,その特徴的な所見が多数あり,その多くは肉芽腫の形成を示唆する所見である.前眼部では豚脂様角膜後面沈着物や虹彩結節,隅角結節やその後の変化であるテント状周辺虹彩前癒着が認められる.したがって,テント状周辺虹彩前癒着のある部位には,かつて隅角結節が存在したことが示唆される.ただし隅角結節があったからといって,必ずしも周辺虹彩前癒着をきたすわけではなく,眼炎症がみられた場合は隅角検査も必ず治療開始前に行うことが重要である.後眼部の特徴的所見は雪玉状硝子体混濁,網膜血管周囲炎,.様網脈絡膜滲出斑やその後の変化としての光凝固斑様の網脈絡膜委縮病巣などが多く,とくに眼底下方周辺部に認められることが多い.また,視神経乳頭肉芽腫や脈絡膜肉芽腫がときにみられることもある.その他,黄斑上膜や黄斑浮腫を認めることも多いが,これらはサルコイドーシスに限ったことではなく,後眼部に炎症を伴うぶどう膜炎には認めることが多いものである.フルオレセイン蛍光眼底造影検査では静脈を中心に炎症がみられ,竹節状の網膜血管周囲炎を示す過蛍光がみられることが特徴的である.このような眼病変をみた場合,診断のためには全身検査が必須である.ACE活性やカルシウムをはじめとした血液検査,胸部X線やCTのほか,ツベルクリン反応も有用である.ツベルクリン反応はサルコイドーシスであれば陰性となることが多く,眼所見の似ている結核性ぶどう膜炎との鑑別にも有用である.また,皮膚病変の生検で診断できる場合も多く,顔面など皮膚病変の観察も忘れず行う2).さらには硝子体解析も診断に有用であることも近年わかってきた3).治療としては前眼部病変にはステロイド点眼,後眼部病変にはステロイドテノン.下注射や内服,場合によっては硝子体手術も奏効する.診断がつくまでは安易なステロイド全身投与は行わないことが原則である.文献1)OhguroN,SonodaKH,TakeuchiMetal:The2009prospectivemulti-centerepidemiologicsurveyofuveitisinJapan.JpnJOphthalmol56:432-435,20122)NagataK,MaruyamaK,SugitaSetal:Agedifferencesinsarcoidosispatientswithposteriorocularlesions.OculImmunolInflamm22:257-262,20143)KojimaK,MaruyamaK,InabaTetal:TheCD4/CD8ratioinvitreousfluidisofhighdiagnosticvalueinsarcoidosis.Ophthalmology119:2386-2392,20121332

特別企画 WOC2014を終えて:夫,田野保雄の「WOC2014 東京」への思い

2014年9月30日 火曜日

〈特別企画〉監修小椋祐一郎木下茂WOC2014を終えて夫,田野保雄の「WOC2014東京」への思い今でもはっきり覚えておりますのは,主人がケープタウンから興奮した声で電話をして来た時のことです.「ママ!2014年のWOCは東京で決まったよ!詳しくは帰ったら話すね!」といった内容でした.そして今年2014年春4月,本当に東京の桜の真っ盛りの折に素晴らしいWOCは開催されました.日本の眼科の先生方の総力で国内,国外から19,600名の参加者があったと聞いております.帝国ホテルのロビーはまるで外国の駅のようで,色々なお国の言葉が飛び交っておりました.4月1日のAOIの同伴者ツアーは晴天で,満開の桜を見ながら皆さま旧交を温めていらっしゃいまし同伴者プログラム委員長田野量子た.主催者側としては,昨年の同じ日に下見をした折,桜は散り,雨は降り続く中を一日下見をして,くたくたになったことを思い出し,本番の今年,このようにすばらしい同伴者ツアーができたことを,本当に神様に感謝をいたしました.次の日の開会式は21世紀のWOCにふさわしく,目を見張る素晴らしいものでした.会長の大鹿先生はじめ,このWOCに携わられた方々のご苦労が思われ,主人の写真をバッグに忍ばせて参加させて頂いておりました.4月3日はJTBさんによる鎌倉一日ツアーに,親友のJeanChangと参加いたしました.総勢41名の参加者で,私以外はすべて海外からの先生とそのご家族でした.オーストラリア,リトアニア,ラトビア,南アフリカと,バスの中の近くの仲間は色々なお国からいらしているお若い先生方でした.昼食の弁当ボックス(松花堂弁当)を美味しい,美味しい!写真1プレジデントディナーの折,友人達と写真2鎌倉1日ツアーのバス車中にて(81)あたらしい眼科Vol.31,No.9,201413290910-1810/14/\100/頁/JCOPY 写真3ジャパンナイトの会場にて,主人の友人の先生方ととお箸で上手に召し上がり,お国では週に1.2度はラーメン屋に行ってラーメンを食べるのだと,楽しそうに話してくださいました.お寿司は好きだけれど,少し高いので月に一度かな.?だそうです.海外へ日本の食文化がどんどん進出していっているのを聞いて嬉しくなりました.今回,東京のこのWOCの前か後に京都に行かれたり,行くという方が多く,美しい桜を東京と京都と両方で満喫なさって帰国されたことと思います.またアカデミックなことも沢山勉強されたことと確信しております.主人,田野保雄が望んだ何十倍,何百倍もの素晴らしいWOCを開催していただき,主人は天国から深々と頭を下げて,皆様方に御礼を申しあげていることと思います.主人の心はきっとあのフォーラムの中庭に咲いていた桜の中にいて,一日中皆さまとご一緒していたことと思います.私のような微力な者が,このような素晴らしい学会に参加させていただきましたこと,心から御礼と感謝を申しあげます.この度は本当に有難うございました.WOCの折の美しかった東京の桜を思い出しながら(2014年4月)1330あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(82)

特別企画 WOC2014を終えて:恩返しの喜び

2014年9月30日 火曜日

〈特別企画〉監修小椋祐一郎木下茂WOC2014を終えて恩返しの喜び組織委員会,広報委員会,社交行事委員会岡田アナベルあやめ正直なことを申しますと,オープニングセレモニーが終了した時点で,肩の荷の大半がおりた気分でした.ここに至るまでが,長い年月でした.以前,本紙で,「WOC2014への道…あと10カ月」に記したように,私にとってのWOCは,2006年5月13日に始まりました.その日は土曜日でしたが,故田野保雄先生から運命を変えるお電話がありました.田野先生は「WOCをまた日本でやりたいので,手伝ってくれないか」とおっしゃり,あれから8年がすぐ経ちました.ご存じの通り,WOCが日本で初めて開催されたのは1978年でした.京都の国際会議場でのオープニングセレモニーに当時の皇太子殿下と妃殿下がお見えになりました.皇太子殿下のスピーチは今も動画で(杏林大学)残されています.その36年後,2014年4月2日.6日に東京国際フォーラムと帝国ホテルの両施設を使い,日本で2度目のWOCが開催され,約2万人の方が参加されました.いままで最も参加人数の多いWOCでしたが,日本で開催された国際学会としても歴史上最も大きい規模となったそうです.ここまでの大成功を収めた裏側には,多くの方々の知恵と努力,そして時間が惜しげもなく投入されたことはいうまでもありませんが,医師や企業など,日本の眼科業界が力を合わせて日本が誇るチームワークを世界中に披露できたと思います.本当に素晴らしかったです.WOCにおける私の使命は,一言でいうと,海外の目線から日本の良いイメージを作ること,と考えて写真1PresidentsDinnerで司会の姿(79)あたらしい眼科Vol.31,No.9,201413270910-1810/14/\100/頁/JCOPY 写真2千鳥ヶ淵でのRosenbaum先生来年,札幌で行われる第119回日本眼科学会総会で招待講演をされるOregonHealthSciencesUniversityのJamesRosenbaum先生がWOC2014Tokyoにもいらっしゃいました.おりました.約5年前から,組織委員会および広報委員会の委員として,WOCのHP,ポスター,ロゴの作成,宣伝メールの英文チェックや海外学会でのブース運営などの仕事を手伝いました.また,AmericanAcademyofOphthalmology(AAO)やInternationalCouncilofOphthalmology(ICO)との連携のためのさまざまな会議にも出席いたしました.Immunology,MolecularBiologyandMicrobiologyのセクションコーディネーターの一人としては,複数のシンポジウムも企画させていただきました.WOC開催が近づいてきた約2年前からは,社交行事委員会の委員としてオープニングセレモニーとジャパンナイトの企画に携わりました.とくにオープニングセレモニーの映像に出てくる英語やショートフィルムの英語字幕,プロ司会者の英文原稿に関しては学会直前まで修正しておりました.自分のシンポジウムや座長の仕事もありましたが,正直,それどころではありませんでした.そして,学会直前には友人の眼科医を観光に連れて行き,学会中は3日間,夜のイベントの司会を担当しました(写真1).学会中の昼の時間帯には,満開の桜が咲く千鳥ヶ淵公園に数人の外国人眼科医を案内しました(写真2).嵐のような1週間でした.そして,すべてがあっという間に終了し,ちょっと寂しい気持ちでした.WOCが終わったこの時点で,田野先生との繋がりがなくなる,という恐れがあったからです.しかしそれは思い過ごしかもしれません.田野先生に導かれてきた我々が,すばらしい日本版WOCを世界に提供できたことで,田野先生へ恩返しができたようで,大きな喜びを感じています.田野先生の思い出とともに,生涯の宝物として深く心に刻みたいと思います.1328あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(80)

特別企画 WOC2014を終えて:WOC2014 庶務委員会から

2014年9月30日 火曜日

〈特別企画〉監修小椋祐一郎木下茂WOC2014を終えてWOC2014庶務委員会から私が担当した庶務委員会は2012年10月24日に最初の委員会を開催し,WOC開会まで計7回開催しました.委員はアイウエオ順で,新家眞,石橋達朗,稲谷大,岡田アナベルあやめ,大鹿哲郎,小椋祐一郎,小沢忠彦,近藤峰夫,榛村重人,園田康平,根木昭,前田直之の各先生方です.庶務委員会で話し合った内容は多岐に渡りますが,まず参加カテゴリーと登録料について討議しました.その結果,カテゴリーをInternationalOpthalmologist,JOSmemberOpthalmologist,OpthalmologyResidentMedicalStudentなどに分け,早期事前登録,事前登録,当日登録に分類しました.次にトラベルグラントについて話合い,開発途上国や若手研究者に手厚くすることを基本に,支給額は1,000ドル,対象者を海外の眼科医または眼科研修医300名とし,年齢や対象国に制限は設けず,応庶務委員会委員長下村嘉一(近畿大学)募者の中で得点の高い人を選び,国にばらつきがでないよう調整をしました.学会の記念になるコングレスバッグについては,皆が長期に使えること,ノートパソコン用バッグをつけることをコンセプトに業者に依頼し数点考えてもらい,委員全員で決定いたしました.その結果,なかなか素晴しいものができたと自負している次第です.おもてなし企画としては,筆頭に挙げられるのが,故田野保雄教授が提唱された満開の桜(写真1,2)を会期中に会場と帝国ホテル内に設置することだったでしょう.多くの会員が喜ばれたと聞きます.さらに,餅つき体験(写真3),着付け教室(写真4),折り紙講座(写真5,6),茶道体験などを実施し,海外の方々に好評を博しました.オプショナルツアーとしては箱根ツアー,鎌倉ツ写真1帝国ホテルのロビーに設置された約10種類の桜写真2有楽町フォーラム前の満開の桜(77)あたらしい眼科Vol.31,No.9,201413250910-1810/14/\100/頁/JCOPY 写真3餅つき体験写真4着付け体験写真5折り紙教室アー,江戸下町ツアー,屋形船,京都観光ツアーを企画し,総計376名の参加者が得られました.また,東京観光財団には無料の都内半日ツアー(明治神宮,スカイツリー,浜離宮,東京国立博物館)を提供していただきました.参加者サービスとしてはシャトルバス,Suicaなど写真6会場前に設置された折り紙の見本の記念品を用意し,点数の余ったSuicaは回収して現金化いたしました.以上が庶務委員会が担当した主たる仕事です.最後になりますが,委員の先生方,参加された皆様に心から感謝して筆を擱きたいと思います.1326あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(78)