連載⑯私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載⑯私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也16.プロスト系プロスタグランジン関連薬の坂田礼東京都健康長寿医療センター眼科先駆け:キサラタンR1999年,日本に臨床導入されたラタノプロスト(キサラタンR)は,開放隅角緑内障に対して1日1回の点眼で強力な眼圧下降作用を示す点眼薬でありながら全身的な副作用はほとんどない.眼局所の副作用も他のプロスト系プロスタグランジン関連薬と比較して軽微であり,効果と忍容性にバランスの取れた薬剤であるといえる.低眼圧の緑内障に対してキサラタンRを投与した1例58歳,男性.正常眼圧緑内障の診断で紹介.前医にて両眼に処方された緑内障点眼薬を使用した状態で右眼10mmHg,左眼8mmHgであった.中心角膜厚は右眼472μm,左眼482μm,等価球面値は右眼.5.5D,左眼.4.25D,矯正視力は両眼1.2であった.両眼とも開放隅角であり,全身的な既往はなかった.両眼ともいったん緑内障点眼薬を中止し,日中日内変動(幅)を確認したところ,右眼11~13mmHg,左眼10~12mmHgであった.視神経乳頭写真と視野検査結果は図1の通りであった.当初の方針として,両眼とも低眼圧であったため,まずは無治療で経過観察を開始した.その後,視野検査でのmeandeviation(MD)値は多少の変動はあるものの,徐々に感度の低下を認め(ただし視力は不変),経過観察約2.5年目で右眼MDslope.0.99dB/year(p=0.03),左眼MDslope.0.35dB/yearを示した(図2).右眼は治療開始のタイミングと判断,左眼の進行はやや緩徐であったが,ラタノプロスト0.005%(キサラタンR,ファイザー)を患者とも相談して両眼に開始した.その後,さらなる眼圧下降[右眼は平均.1.7mmHg(p=0.05),左眼は平均.1.6mmHg(p=0.03)]が得られ,開始後の右眼MDslopeは.0.06dB/year,左眼MDslopeは+0.45dB/yearとなった(図2).解説本症例は初診時から左眼に中期の視野障害を認めたが,眼圧は低かったので(角膜厚はやや薄いことは念頭に置きつつ),まずは無治療での経過観察を開始した.緑内障治療の目的は眼圧を下げることではなく視機能維(95)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY図1視神経乳頭ステレオ写真経過観察当初の両眼の視神経乳頭ステレオ写真.両眼とも豹紋状眼底であり,網膜視神経層欠損は判別しづらいが,広い範囲のリムの菲薄化を認め,乳頭陥凹の拡大を認める(上図:右眼,下図:左眼).持であることはいうまでもないが,その進行判定は視野や視神経乳頭の経時変化を追っていくのが一般的であろう.経過観察から約2.5年で,両眼の視神経乳頭の悪化はなかったが,右眼に視野進行を認めたため,この時点を治療開始のタイミングと判断した.緑内障ガイドライン(第3版)で示されている通り,一般的な原発開放隅角緑内障(広義)治療においての薬物治療の導入には単剤(単薬)投与から開始とするが,本症例のように眼圧がもともと低い症例では,その薬剤導入開始時期に悩むことも多い.点眼しても眼圧下降幅はせいぜい数mmHg程度と考えられ,また,そもそも本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141343キサラタンR開始2.400.411.422.5R_IOP1314101410101114111212L_IOP111410121010111291212991310119101099138812101191010881100.40.91.41.9-2-4-6-8-10-12-14-16図2視野推移,眼圧経過縦軸はMD(dB),横軸は時間経過(年)を表す.右眼は青色四角印,左眼は朱色四角印で表す.経過観察当初は両眼ともに視野進行を認めていたが,キサラタンR点眼開始後(背景が肌色部分)はその進行が緩徐となった.点眼前後で常に低眼圧であったが,点眼後の平均眼圧は点眼前と比較し,さらに低いものとなった.このような低眼圧の緑内障では,目標眼圧が設定しづらく,かつ眼圧自体が緑内障性視神経症にどの程度関与しているかが不明な点もあるからである.点眼薬選択の考え方さて,点眼の選択肢としては,プロスタグランジン(PG)関連薬のほかにb遮断薬,あるいは別カテゴリーからの点眼が考えられるが,眼圧メタ解析論文1)からもその強力な眼圧下降効果が裏付けされ,しかも全身的な副作用がほとんどないPG関連薬が第一に選択されるのに異論はないであろう.しかし,そのPG関連薬もプロスト系の4剤(キサラタンR,トラバタンズR,ルミガンR,タプロスR)から選択しなければならず,どの薬剤を選択するのかはこれまた悩むところである.眼圧下降効果を一番に期待することには違いないが,反面,眼局所の副作用が強く出てしまっては長期にわたる良好なアドヒアランスは望みにくい.いずれの4剤もピーク時・トラフ時また日内眼圧下降作用に優れた薬剤であり,眼圧下降の面から考えていくと,上記4薬剤ともに選択の候補となる.一方で,PG関連薬使用時の眼局所の副作用として,薬剤間でその発症頻度が異なる代表的なものは,結膜充血と上眼瞼溝の深化(deepeningoftheuppereyelidsulcus:DUES)であろう.結膜充血はとくに初期の点眼開始時に強く認めるが,1344あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014一般的には点眼を継続することで次第に和らいでいくことが多いとされる.点眼を自己中断してしまう原因にもなるので,患者にはしっかりとした説明が必要である.PG関連薬に関連した結膜充血のメタ解析2)では,(タプロスRは市場に出てあまり時間が経過していないので対象外),キサラタンRが他の2剤よりも充血の頻度が低いとの結果がでている.一方,DUESに関しては可逆的な変化とされるが,美容的な問題でもあり,使用開始時には結膜充血と同様に説明しておく必要がある.日本国内の前向き研究でその発症頻度が判明してきており,点眼開始後6カ月目の時点で,トラバタンズRとルミガンRはそれぞれ約50%3),約60%4),タプロスRは約15%5)の発症率と報告されている.しかし,キサラタンRは市場に出て一番古いプロスト系PG関連薬であるにもかかわらず,その発症頻度は不明である.発症がないか,軽微な変化しか認めない可能性が高い.まとめキサラタンRの眼圧下降効果は他のプロスト系PG関連薬とほぼ同等でありながら,眼局所の代表的な副作用である結膜充血やDUESの発症頻度が相対的に低く,本症例のような低眼圧の緑内障に対しても第一選択となりうる薬剤である.ただし,点眼が無効(キサラタンノンレスポンダー)の可能性もあり,そのような症例に対しては他のPG関連薬,あるいは別の点眼に順次変更していく必要がある.文献1)ChengJW,CaiJP,WeiRL:Meta-analysisofmedicalinterventionfornormaltensionglaucoma.Ophthalmology116:1243-1249,20092)HonrubiaF,Garcia-SanchezJ,PoloVetal:Conjunctivalhyperaemiawiththeuseoflatanoprostversusotherprostaglandinanaloguesinpatientswithocularhypertensionorglaucoma:ameta-analysisofrandomisedclinicaltrials.BrJOphthalmol93:316-321,20093)MaruyamaK,ShiratoS,TsuchisakaA:Incidenceofdeepeningoftheuppereyelidsulcusaftertopicaluseoftravoprostophthalmicsolutioninjapanese.JGlaucoma23:160-163,20144)AiharaM,ShiratoS,SakataR:Incidenceofdeepeningoftheuppereyelidsulcusafterswitchingfromlatanoprosttobimatoprost.JpnJOphthalmol55:600-604,20115)SakataR,ShiratoS,MiyataKetal:Incidenceofdeepeningoftheuppereyelidsulcusontreatmentwithatafluprostophthalmicsolution.JpnJOphthalmol58:212217,2014(96)