《第4回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科33(8):1209?1212,2016c生理食塩水点眼による涙液メニスカス高の経時的測定谷吉オリエ鶴丸修士公立八女総合病院眼科SerialMeasurementsofTearMeniscusHeightwithInstillationofSalineOrieTaniyoshiandNaoshiTsurumaruDepartmentofOphthalmology,YameGeneralHospital前眼部光干渉断層計により撮影した涙液メニスカス高(tearmeniscusheight:TMH)を指標とし,生理食塩水点眼後の涙液排出能を検討した.対象は健常成人36眼(60歳未満17眼,60歳以上19眼)と涙道閉塞例48眼で,自然瞬目下で,生理食塩水点眼前と点眼後5分間の下眼瞼TMHを記録した.点眼前平均TMHは健常成人(216.0μm)より,涙道閉塞例(606.8μm)のほうが有意に高かった.健常成人においては,60歳未満が点眼2分後に点眼前と有意差がなくなったのに対し,60歳以上は次第に低下するものの,5分経過後も点眼前より有意に高かった.涙道閉塞例は,点眼後TMHが高いまま変化せず推移していた.自覚症状とTMHの間に相関はなかった.本法は非侵襲的に涙液排出能を定量することができ,涙道診療において有用な検査法になる可能性がある.Purpose:Toevaluatetearclearanceaftersalineinstillationbymeasuringtearmeniscusheight(TMH)withanteriorsegmentopticalcoherencetomography(AS-OCT).Materials:Thisstudyincluded36eyesofnormalsubjects(17eyesofsubjectslessthan60yearsofageand19eyesofsubjects60yearsorolder)and48eyesofsubjectswithnasolacrimalductobstruction(NLDO).LowerTMHwasmeasuredundernaturalblinkingbeforesalineinstillationandfor5minutesafterinstillation.Results:MeanTMHbeforeinstillationwassignificantlyhigherinsubjectswithNLDO(606.8μm)thaninnormalsubjects(216.0μm)(p<0.01).Innormalsubjectsbelow60yearsofage,TMHat2minutesafterinstillationdidnotdiffersignificantlyfrombeforeinstillation,whereasinsubjects60yearsandolder,TMHgraduallydecreasedafterinstillation,butat5minutesremainedhigherthanbeforeinstillation.InsubjectswithNLDO,TMHincreasedafterinstillationandremainedincreased.TherewasnocorrelationbetweensubjectivesymptomsandTMH.Conclusions:TearclearancecanbequantitativelyandnoninvasivelyevaluatedbymeasuringTMHwithAS-OCT,andTMHmeasurementcanbeusefulindiagnosinglacrimaldrainagefunction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(8):1209?1212,2016〕Keywords:涙液メニスカス高,前眼部光干渉断層計,涙道閉塞,涙液排出能.tearmeniscusheight,anteriorsegmentopticalcoherencetomography,nasolacrimalductobstruction,lacrimaldrainagefunction.はじめに流涙症はさまざまな要因により,涙液の分泌過多あるいは排出障害を生じる疾患の総称であり,眼不快感や視機能異常を伴うと定義されている1).これまで眼表面の涙液貯留量を評価する目的で,涙液メニスカスの高さ(tearmeniscusheight:TMH),奥行き,曲率半径など,さまざまな側面から検討されてきた.なかでも,下方TMHは診断精度が高く2.),睫毛や眼瞼縁の影響が少ないことから,涙液量を評価する代表的な指標となっている.前眼部光干渉断層計(以下,前眼部OCT)を用いたTMH撮影は,従来の方法と比べ,非侵襲的で客観性に優れており,ドライアイ鑑別に有用との報告がある3).しかし,流涙症患者の場合は,違和感から涙を拭くことが習慣になっている場合も多く,本来のメニスカス撮影ができないことがある.また,メニスカス自体が,瞬目や測定部位,眼瞼形状の影響を受けるため,そのデータの信頼性や再現性が問題になることがある.そこで,今回筆者らは,点眼負荷により検査直前の条件を統一し,同一部位を経時的に測定することで,正確なTMH評価の可能性を検討した.I対象および方法対象は,流涙や眼脂,ドライアイ症状がなく,通水検査陽性であった健常成人36眼と,平成26年10月~平成27年8月に当科受診し,涙道内視鏡により涙道閉塞と診断された48眼である.健常成人は,60歳未満の17眼と60歳以上の19眼に分けて年齢間の比較検討を行った(表1).事前に研究に対する説明を行い,本人の同意を得た.外傷性や経口抗がん剤TS-1R内服,顔面神経麻痺,眼瞼下垂,高度結膜弛緩症,涙道狭窄例は対象から除外した.TMH撮影には,前眼部観察用アダプタを取り付けた光干渉断層計RS-3000Advance(NIDEK)を用いた.測定プログラムは,OCTスキャンポイント数1024,スキャン長4.0mmの隅角ラインで,下眼瞼の角膜中央を通る垂直ラインで撮影した.まず他の検査に先駆けて対象のTMHを測定した後,常温の生理食塩水の入った点眼ボトル(5ml)で1滴点眼し,20秒ごとに5分間測定した.測定中の5分間は顔を顎台に乗せたまま自然な瞬目を心掛けていただくよう説明した.TMHはOCTで撮影できたメニスカス断面の上下の頂点から引いた垂線の長さを測定した.1人の検者が撮影および解析を行い,アーチファクトなどによりOCT像の解析不能であった場合はデータから除外した.涙道閉塞患者には症状に関する問診を行い(図1),自覚症状とTMHの関連性についても検討した.II結果1.健常成人について(図2)点眼前TMHは60歳未満が173.5±38.1μm,60歳以上が251.1±125.8μmであった.点眼により一時的にTMHが高くなり,60歳未満が2分後には点眼前と差がなくなったのに対し,60歳以上は徐々に低下するものの,5分経過しても点眼前より有意に高かった.点眼前TMHでは年齢による差がなかったが,点眼後のTMH推移では60歳以上のほうが有意に高い結果となった.2.涙道閉塞例について(図3)点眼前TMHは,涙道閉塞例616.8±319.9μmで健常成人の216.0±104.3μmより有意に高かった.涙道閉塞例は,点眼前と比べ,点眼後すべての時点において有意にTMHが高く,健常成人と比べると,全時点で涙道閉塞例のほうが高いTMHを示した.3.自覚症状との関連について(図4)8項目の問診項目それぞれにおいて,TMHとの相関を検討した.その結果,点眼前から点眼後TMHのいずれにおいても各種自覚症状とTMHに明らかな関連はなかった.III考按今回筆者らは,前眼部OCTを用いて,生理食塩水点眼後5分間のTMHの変化を測定した.健常成人の点眼後の結果は,若年者よりも高齢者のほうが元のTMH水準まで戻るのに時間を要した.Zhengら5)は,筆者らと同様に生理食塩水を点眼負荷し,点眼直後と30秒後のTMHの減少率から涙液クリアランス率[(TMH0sec?TMH30sec)/TMH0sec]を算出したところ,正常若年群35.2%,正常高齢群12.4%で有意な変化があったとしている.今回の検討では,点眼液を確実に結膜?に入れるため,いったん頭位を上に向け検者が点眼したのちOCTの顎台に顔を乗せて測定した.また,点眼直後は瞬目過多となり撮影困難であったため,点眼20秒後を最初の測定ポイントに設定した.この点眼20秒後と40秒後から算出した平均涙液クリアランス率は,健常若年28.3%,健常高齢12.8%,涙道閉塞2.5%で,Zhengらとほぼ同様の結果が得られた.高齢者で涙液クリアランス率が低下することについては,眼瞼ポンプや涙小管ポンプ作用の動力源である眼輪筋やHorner筋が加齢に伴って弱まる6)ことによる涙液排出能低下が考えられる.また,涙液メニスカス遮断を引き起こす結膜弛緩の影響も無視できない.今回対象から高度結膜弛緩症の患者を除外しているものの,結膜弛緩そのものは加齢とともに増加し,60歳以上の眼では98%以上に多少なりとも存在しているというデータがある7).結膜弛緩の多くが無症候性である8)ため,自覚症状がなく通水検査陽性の健常者であっても,結膜弛緩による導涙機能の低下が反映された可能性は否定できない.涙道閉塞例について,点眼前TMHは既報9)と同様,涙道閉塞患者は健常成人より有意に高かった.下眼瞼TMHの正常値については機種により差があるものの,およそ0.23~0.29mm9~12)である.仮に正常値上限を0.3mmとすると,今回対象にした涙道閉塞例の10.4%(5眼)が正常範囲内であり,通常の撮影法から涙道閉塞の有無を鑑別することはむずかしい(図5).点眼前に正常値を示した5眼について,詳細を表2に示す.点眼5分後には高いTMHを示した例(No.2,5)については,検査前に涙を拭いてしまったため点眼前のTMHが低く撮影されたか,もともと涙液分泌量が少なく涙液排出能が低下した状態でバランスがとれていた可能性がある.また,全例涙道内視鏡による直視下で閉塞所見を呈しているにもかかわらず,5眼中3眼はやはり点眼後も正常値まで回復することができていた.涙道閉塞があっても涙液排出能が良好な例に関しては,今後閉塞状況などのデータをふやしてさらに検討する予定である.前眼部OCTによる涙液メニスカス測定は簡便に定量が可能で,客観性の高いデータを示すことができる.しかし,流涙症状が強ければ涙液貯留状態が刻々と変化するため,測定するタイミングによって計測結果が大きく異なることがある.本法は検査の汎用性を高める目的で,マイクロピペットを用いず,一般的な点眼ボトルを用いた.そのため,点眼液の大半が結膜?からあふれ,点眼直後のTMHには個体差が大きかった.しかし,同一部位を経時的に測定することで,測定部位の影響をうけることなく固体内の涙液排出能を客観的に記録することができた.従来から導涙機能評価に用いられているJones法やフルオレセインクリアランス試験に比べ,本法は定量性に優れ,検査による侵襲もない13).ただし,より測定時間が短縮でき,解析結果をリアルタイムで表示ができるようになれば,より臨床的な検査法となることが期待できる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)横井則彦:巻頭言─流涙症の定義に想う─.眼科手術22:1-2,20092)鈴木亨:光干渉断層計(OCT)を用いた涙液メニスカス高(TMH)の評価.あたらしい眼科30:923-928,20133)CzajkowskiG,KaluznyBJ,LaudenckaAetal:Tearmeniscusmeasurementbyspectralopticalcoherencetomography.OptomVisSci89:336-342,20124)SmirnovG,TuomilehtoH,KokkiHetal:Symptomscorequestionnairefornasolacrimalductobstructioninadults─anoveltooltoassesstheoutcomeafterendoscopicdacryocystorhinostomy.Rhinology48:446-451,20105)ZhengX,KamaoT,YamaguchiMetal:Newmethodforevaluationofearlyphasetearclearancebyanteriorsegmentopticalcoherencetomography.ActaOphthalmol92:105-111.20146)栗橋克昭:導涙機構の加齢による変化.ダクリオロジー─臨床涙液学─,p57-58,メディカル葵出版,19987)MimuraT,YamagamiS,UsuiTetal:Changeofconjunctivochalasiswithageinahospital-basedstudy.AmJOphthalmol147:171-177,20098)横井則彦:結膜弛緩症と流涙症の関係について教えてください.あたらしい眼科30(臨増):52-54,20139)ParkDI,LewH,LeeSY:TearmeniscusmeasurementinnasolacrimalductobstructionpatientswithFourierdomainopticalcoherencetomography:novelthree-pointcapturemethod.ActaOphthalmol90:783-787,201210)SaviniG,GotoE,CarbonelliMetal:Agreementbetweenstratusandvisanteopticalcoherencetomographysystemsintearmeniscusmeasurements.Cornea28:148-151,200911)BittonE,KeechA,SimpsonTetal:Variabilityoftheanalysisofthetearmeniscusheightbyopticalcoherencetomography.OptomVisSci84:903-908,200712)OhtomoK,UetaT,FukudaRetal:Tearmeniscusvolumechangesindacryocystorhinostomyevaluatedwithquantitativemeasurementusinganteriorsegmentopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci55:2057-2061,201413)鄭暁東:前眼部OCT点眼負荷涙液クリアランス試験.あたらしい眼科31:1645-1646,2014〔別刷請求先〕谷吉オリエ:〒830-0034福岡県八女市高塚540-2公立八女総合病院眼科Reprintrequests:OrieTaniyoshi,DepartmentofOphthalmology,YameGeneralHospital,540-2Takatsuka,Yame,Fukuoka830-0034,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY表1対象の内訳1210あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(128)(129)あたらしい眼科Vol.33,No.8,20161211図1問診項目NLDO-SS4)を参考に自作した.8項目の症状の強さを10段階で回答する図2健常成人のTMH推移60歳未満は点眼2分後には点眼前のTMHと差がなくなったが,60歳以上は点眼5分後においても点眼前のTMHより高かった.図3健常成人と涙道閉塞におけるTMH推移の比較涙道閉塞例は,点眼によりTMHが上昇したまま,5分経過後も変化がなかった.図4質問の1例とTMHの関係すべての質問項目において,TMHと有意な相関はなかった.図5点眼前の健常成人と涙道閉塞のTMH分布涙道閉塞例のうち5眼(10%)はTMH300μm以下であった.表2点眼前にTMH300μm以下であった涙道閉塞5症例1212あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(130)