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ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬の処方パターン

2015年8月31日 月曜日

12185108,22,No.3《原著》あたらしい眼科32(8):1218.1222,2015cはじめに緑内障治療の目標は視野障害進行を停止あるいは緩徐にすることで,そのために眼圧を下降させる1,2).眼圧を下降させるために点眼薬の単剤投与から始めるが,単剤投与で目標眼圧に到達しない症例では点眼薬を変更するか,他の点眼薬を追加投与する3).追加投与を繰り返すと多剤併用となり,点眼回数が増えるに伴ってアドヒアランスが低下することが問題である4).アドヒアランスの観点からは2つの薬剤成分を含有する配合点眼薬の使用がすすめられる.2013年11月にブリンゾラミド点眼薬とチモロール点眼薬の配合点眼薬(アゾルガR)が新たに使用可能となった.このBTFCの日本人緑内障患者に対するチモロール点眼薬からの変更5,6),単剤投与7)については良好な眼圧下降効果が報告されている.しかし,臨床の現場でどのような症例にBTFCが使用1218(152)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬の処方パターン井上賢治*1藤本隆志*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科PrescriptionPatternofBrinzolamide1.0%/TimololMaleate0.5%FixedCombinationEyeDropsKenjiInoue1),TakayukiFujimoto1),KyokoIshida2)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬(以下,BTFC)が新規に処方された症例の特徴を後ろ向きに調査する.対象および方法:BTFCが新規に投与された117例195眼を対象とした.追加症例,変更症例,変更+他剤追加症例に分けて,投与3カ月後までの眼圧を調査した.結果:BTFC追加症例は7例9眼,変更症例は100例166眼,変更+他剤追加症例は10例20眼だった.変更症例はドルゾラミド/チモロール配合点眼薬(以下,DTFC)からが43例72眼,b遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬(以下,CAI)からが36例58眼,b遮断薬からが16例28眼などだった.DTFC,b遮断薬からの変更では眼圧は変更後に有意に下降した.b遮断薬+CAIからの変更では眼圧は変更前後で同等だった.結論:BTFCはDTFCからの変更,b遮断薬+CAIからの変更として多く使用されていた.BTFCの眼圧下降効果は良好だった.Purpose:Weretrospectivelyinvestigatedthecharacteristicsinpatientswhowerenewlyadministeredbrinzo-lamide1.0%/timololmaleate0.5%fixedcombination(BTFC)eyedrops.Patientsandmethods:Thisstudyinvolved198eyesof117patientswhowerenewlyadministeredBTFCandwhoweredividedinto3groups.TheinstillationofBTFCwasaddedinthefirstgroup,whilethesecondgroupswitchedfromtheprevioustreatment,andthethirdgroupinvolvedswitchingplusaddingconcomitantly.Inallthreegroups,intraocularpressure(IOP)wascomparedfor3monthsafteradministration.Results:Nineeyeswereinthefirstgroup,166eyeswereinthesecondgroup,and20eyeswereinthethirdgroup.Inthesecondgroup,72eyeswereswitchingfromdorzol-amide/timololmaleatefixedcombination(DTFC),58eyesswitchingfromb-blockerspluscarbonicanhydraseinhibitor(CAI),and28eyesswitchingfromb-blockers.InthepatientsswitchingfromDTFCorb-blockers,IOPsignificantlydecreased.Inthepatientsswitchingfromb-blockersplusCAI,IOPwasequivalent.Conclusion:InthepatientsinwhomBTFCwasadministeredfrequentlywhileswitchingfromDTFCorb-blockersplusCAI,asignificantlybetterIOPreductioneffectwasobserved.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1218.1222,2015〕Keywords:ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬,眼圧,変更,追加,処方.brinzolamide/timololfixedcombi-nation,intraocularpressure,switch,addition,administer.《原著》あたらしい眼科32(8):1218.1222,2015cはじめに緑内障治療の目標は視野障害進行を停止あるいは緩徐にすることで,そのために眼圧を下降させる1,2).眼圧を下降させるために点眼薬の単剤投与から始めるが,単剤投与で目標眼圧に到達しない症例では点眼薬を変更するか,他の点眼薬を追加投与する3).追加投与を繰り返すと多剤併用となり,点眼回数が増えるに伴ってアドヒアランスが低下することが問題である4).アドヒアランスの観点からは2つの薬剤成分を含有する配合点眼薬の使用がすすめられる.2013年11月にブリンゾラミド点眼薬とチモロール点眼薬の配合点眼薬(アゾルガR)が新たに使用可能となった.このBTFCの日本人緑内障患者に対するチモロール点眼薬からの変更5,6),単剤投与7)については良好な眼圧下降効果が報告されている.しかし,臨床の現場でどのような症例にBTFCが使用1218(152)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬の処方パターン井上賢治*1藤本隆志*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科PrescriptionPatternofBrinzolamide1.0%/TimololMaleate0.5%FixedCombinationEyeDropsKenjiInoue1),TakayukiFujimoto1),KyokoIshida2)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬(以下,BTFC)が新規に処方された症例の特徴を後ろ向きに調査する.対象および方法:BTFCが新規に投与された117例195眼を対象とした.追加症例,変更症例,変更+他剤追加症例に分けて,投与3カ月後までの眼圧を調査した.結果:BTFC追加症例は7例9眼,変更症例は100例166眼,変更+他剤追加症例は10例20眼だった.変更症例はドルゾラミド/チモロール配合点眼薬(以下,DTFC)からが43例72眼,b遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬(以下,CAI)からが36例58眼,b遮断薬からが16例28眼などだった.DTFC,b遮断薬からの変更では眼圧は変更後に有意に下降した.b遮断薬+CAIからの変更では眼圧は変更前後で同等だった.結論:BTFCはDTFCからの変更,b遮断薬+CAIからの変更として多く使用されていた.BTFCの眼圧下降効果は良好だった.Purpose:Weretrospectivelyinvestigatedthecharacteristicsinpatientswhowerenewlyadministeredbrinzo-lamide1.0%/timololmaleate0.5%fixedcombination(BTFC)eyedrops.Patientsandmethods:Thisstudyinvolved198eyesof117patientswhowerenewlyadministeredBTFCandwhoweredividedinto3groups.TheinstillationofBTFCwasaddedinthefirstgroup,whilethesecondgroupswitchedfromtheprevioustreatment,andthethirdgroupinvolvedswitchingplusaddingconcomitantly.Inallthreegroups,intraocularpressure(IOP)wascomparedfor3monthsafteradministration.Results:Nineeyeswereinthefirstgroup,166eyeswereinthesecondgroup,and20eyeswereinthethirdgroup.Inthesecondgroup,72eyeswereswitchingfromdorzol-amide/timololmaleatefixedcombination(DTFC),58eyesswitchingfromb-blockerspluscarbonicanhydraseinhibitor(CAI),and28eyesswitchingfromb-blockers.InthepatientsswitchingfromDTFCorb-blockers,IOPsignificantlydecreased.Inthepatientsswitchingfromb-blockersplusCAI,IOPwasequivalent.Conclusion:InthepatientsinwhomBTFCwasadministeredfrequentlywhileswitchingfromDTFCorb-blockersplusCAI,asignificantlybetterIOPreductioneffectwasobserved.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1218.1222,2015〕Keywords:ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬,眼圧,変更,追加,処方.brinzolamide/timololfixedcombi-nation,intraocularpressure,switch,addition,administer. されているかを調査した報告は過去にない.そこで今回,BTFCが新規に投与された症例についてその処方パターンと眼圧下降効果を検討した.I対象および方法2013年11月.2014年7月に井上眼科病院に通院中で,BTFC(1日2回朝夜点眼)が新規に投与された緑内障あるいは高眼圧症患者117例195眼(男性45例72眼,女性72例123眼)を対象とした.平均年齢は66.8±13.1歳(平均±標準偏差)(26.94歳)であった.緑内障病型は原発開放隅角緑内障(狭義)140眼,正常眼圧緑内障30眼,続発緑内障16眼(ぶどう膜炎6眼,落屑緑内障4眼,血管新生緑内障4眼,Posner-Schlossman症候群2眼),原発閉塞隅角緑内障6眼,高眼圧症3眼であった.診療録から後向きに調査を行った.BTFCが新規に投与された症例を,BTFCが追加投与された症例(追加群),前投薬が中止となりBTFCが投与された症例(変更群),前投薬が中止となりBTFCが投与されるのと同時にさらに他の点眼薬が追加あるいは変更された症例(変更追加群)に分けた.BTFCが投与された理由について追加群,変更群,変更追加群各々で調査した.3群間で性別,年齢,緑内障病型,眼圧,前投薬数を比較した(c2検定,Kruskal-Wallis検定,ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).前投薬数の解析では配合点眼薬は2剤とした.変更群では,DTFCからの変更,b遮断点眼薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更,b遮断点眼薬からの変更に分けて,変更前と変更1,3カ月後の眼圧を比較した(ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).さらにDTFCからの変更では変更理由を眼圧下降効果不十分と副作用出現に分けて変更前と変更1,3カ月後の眼圧を比較した(ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).有意水準はいずれもp<0.05とした.II結果追加群は7例9眼,変更群は100例166眼,変更追加群は10例20眼だった(図1).BTFCが投与された理由は,追加群と変更追加群では全例が眼圧下降効果不十分だった.変更群では眼圧下降効果不十分が90例150眼,副作用出現が10例16眼だった.性別は3群間に差がなかった(p=0.1739,c2検定)(表1).年齢は変更群が追加群に比べて有意に高齢だった(p=0.007,ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).病型は原発開放隅角緑内障が変更群で追加群に比べて有意に多かった(p<0.0001,Kruskal-Wallis検定).眼圧は追加群で変更群と変更追加群に比べて有意に高かった(p<0.0001,Kruskal-Wallis検定).前投薬は追加群で変更群と変更追加群に比べて有意に少なかった(p<0.0001,Kruskal-Wallis検定).(153)変更群の内訳は,DTFCからの変更が43例72眼,b遮断点眼薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更が36例58眼,b遮断点眼薬からの変更が16例28眼,炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更が4例7眼などだった(図2).BTFCが投与された理由は,DTFCからの変更では眼圧下降効果不十分が33例56眼,副作用出現が10例16眼だった.副作用の内訳は掻痒感3例5眼,結膜充血2例4眼,刺激感2例3眼,霧視1例2眼,アレルギー性結膜炎1例1眼,めまい1例1眼だった.他の変更群は全例眼圧下降効果不十分だった.b遮断点眼薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更症例の各々の点眼薬の内訳は,b遮断点眼薬はイオン応答ゲル化チモロール点眼薬23眼,水溶性チモロール点眼薬9眼,熱応答ゲル化チモロール点眼薬8眼,カルテオロール点眼薬8眼,持続性カルテオロール点眼薬8眼,レボブノロール点眼薬2眼,炭酸脱水酵素阻害点眼薬はブリンゾラミド点眼薬44眼,ドルゾラミド点眼薬14眼だった.組み合わせとしてはイオン応答ゲル化チモロール点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬19眼,熱応答ゲル化チモロール点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬8眼,持続性カルテオロール+ブリンゾラミド点眼薬7眼などだった.b遮断点眼薬からの変更症例の点眼薬の内訳は持続性カルテオロール点眼薬15眼,イオン応答ゲル化チモロール点眼薬7眼,熱応答ゲル化チモロール点眼薬4眼,カルテオロール点眼薬2眼だった.炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更症例の内訳はドルゾラミド点眼薬6眼,ブリンゾラミド点眼薬1眼だった.眼圧はDTFCからの変更では,変更前17.9±2.9mmHg,変更1カ月後17.2±3.7mmHg,3カ月後16.4±3.5mmHgで変更後に有意に下降した(p<0.0001)(図3).投与された理由別では,眼圧下降効果不十分例では変更前18.2±2.9mmHg,変更1カ月後17.9±3.6mmHg,3カ月後16.8±3.4mmHgで,変更前に比べて変更3カ月後に有意に下降した(p<0.001).副作用出現例では変更前16.5±2.6mmHg,変更1カ月後14.2±3.1mmHg,3カ月後14.8±3.7mmHgで,変更後に有意に下降した(p<0.001).b遮断点眼薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更では,変更前15.8±3.3mmHgと変更1カ月後15.7±3.5mmHg,3カ月後15.2±3.4mmHgで同等だった(p=0.16).b遮断点眼薬からの変更では,変更前18.0±5.4mmHg,変更1カ月後14.9±3.9mmHg,3カ月後14.9±3.8mmHgで変更後に有意に下降した(p<0.001).III考按BTFCが新規に投与された症例を検討したがさまざまな処方パターンがみられた.緑内障点眼薬治療の第一選択薬は強力な眼圧下降効果,全身性の副作用が少ない点,1日1回あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151219 表1追加群,変更群,変更追加群の患者背景追加群変更群変更追加群p値点眼の利便性よりプロスタグランジン関連点眼薬が使用されることが多い.今回の195眼のうち前投薬としてプロスタグランジン関連点眼薬が使用されていた症例は170眼(87.2%)であった.プロスタグランジン関連点眼薬で眼圧下降効果が不十分な症例では点眼薬の追加が行われる.追加投与の場合は,b遮断点眼薬や炭酸脱水酵素阻害点眼薬の追加,プロスタグランジン関連点眼薬を中止してプロスタグランジン/チモロール配合点眼薬への変更が考えられる.今回の症例のうちb遮断点眼薬や炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更症例はプロスタグランジン関連点眼薬との併用が35眼中32眼(94.3%)と多かった.DTFCからの変更,b遮断点眼薬+炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更でも,プロスタグランジン関連点眼薬との併用症例が130眼中120眼(92.3%)と多かった.配合点眼薬が使用可能となる前は,プロスタグランジン関連点眼薬,b遮断点眼薬,炭酸脱水酵素阻害点眼薬の併用が多かったと思われる.DTFCの登場により,プロスタグランジン関連点眼薬+DTFCの使用症例が増えたと考えられる.今後はプロスタグランジン関連点眼薬+b遮断点眼薬あるいはプロスタグランジン関連点眼薬+炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更が増加すると予想される.変更追加群,変更群,166眼,85.1%追加群,20眼,10.3%9眼,4.6%図1追加群,変更群,変更追加群の割合症例性別年齢病型(眼)眼圧(眼)前投薬数(眼)7例9眼100例166眼男性4例,女性3例男性35例,女性65例*54.9±23.5歳68.4±11.3歳(26.82歳)(40.90歳)**続発緑内障:5原発開放隅角緑内障(狭義):120正常眼圧緑内障:28正常眼圧緑内障:2続発緑内障:10原発開放隅角緑内障(狭義):1高眼圧症:1原発閉塞隅角緑内障:6高眼圧症:2****27.3±5.5mmHg(20.35mmHg)17.1±3.7mmHg(7.34mmHg)16.2±2.7mmHg(10.22mmHg)<0.0001****0.1±0.3剤3.1±0.9剤3.0±0.4剤(0.1剤)(1.5剤)(2.4剤)<0.000110例20眼男性6例,女性4例0.173959.2±15.5歳(41.77歳)0.007原発開放隅角緑内障(狭義):19続発緑内障:1<0.0001炭酸脱水酵素その他,257眼,4.2%20151050ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬,72眼,43.4%b遮断点眼薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬,58眼,34.9%b遮断点眼薬,28眼,16.9%阻害点眼薬,1眼,0.6%図2変更群の内訳眼圧(mmHg)(*p<0.01,**p<0.0001)******ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬b遮断薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬b遮断薬変更前変更1カ月後変更3カ月後図3変更群の変更前後の眼圧(*p<0.001,**p<0.0001,ANOVA,Bonferroni/Dunn検定)1220あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(154) 今回はDTFCからの変更がもっとも多かったが,DTFCからBTFCへ変更した症例の眼圧下降効果が報告されている8).Lanzlらは,各種点眼薬からBTFCへの変更症例を報告した8).ドルゾラミド2%/チモロール配合点眼薬単剤からの変更症例(2,937例)では,眼圧は変更前18.5±4.1mmHgに比べて変更後16.5±3.2mmHgに有意に下降した.一方,プロスタグランジン関連点眼薬+ドルゾラミド2%/チモロール配合点眼薬からプロスタグランジン関連点眼薬+BTFCへの変更症例(823例)では,眼圧は変更前18.3±5.0mmHgに比べて変更後16.4±3.9mmHgに有意に下降した.今回の調査でも変更により眼圧は有意に下降したが,眼圧下降幅は0.7.1.5mmHgでLanzlらの報告8)(1.9.2.0mmHg)よりやや低値を示した.一方,DTFCとBTFCを別々に投与した際の眼圧下降効果は同等と報告されている9).副作用の比較では刺激感はDTFCに多く8,10),霧視はBTFCに多い10),あるいは同等だった9)と報告されている.一方,プロスタグランジン関連点眼薬/チモロール配合点眼薬においても,ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬からトラボプロスト/チモロール配合点眼薬11.13)あるいはビマトプロスト/チモロール配合点眼薬13)への変更で眼圧が有意に下降したと報告されている.今回,変更により眼圧が下降した理由としてとくに副作用が出現した症例ではアドヒアランスが向上したことや,ドルゾラミドとブリンゾラミドの眼圧下降効果の差が考えられる.b遮断点眼薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更では変更前後で眼圧は変化なかった.Lanzlらは,ブリンゾラミド点眼薬+チモロール点眼薬からの変更症例(252例)では眼圧が変更前18.4±3.4mmHgに比べて変更後16.6±2.9mmHgに有意に下降し,ドルゾラミド(2%)点眼薬+チモロール点眼薬からの変更症例(73例)では眼圧が変更前18.7±3.5mmHgに比べて変更後16.5±2.9mmHgに有意に下降したと報告した8).変更により点眼ボトル数や点眼回数が減るためにアドヒアランスが向上し,眼圧が下降することが考えられる.今回は変更前後で眼圧に変化がなかったが,元来アドヒアランスが良好な症例が多数含まれていた可能性がある.b遮断点眼薬からの変更では,炭酸脱水酵素阻害点眼薬が追加されたことと同様のため眼圧は有意に下降した.その眼圧下降幅は2.5.3.4mmHg6),3.2mmHg5),4.8mmHg8)と報告されており,今回(3.1mmHg)と同等だった.今回,BTFCの追加群は7例9眼だった.そのなかで前投薬でプロスタグランジン関連点眼薬を使用していた症例は1眼(11.1%)と少なかった.続発緑内障が9眼中5眼(55.6%)と多く,内訳としてぶどう膜炎が3眼,Posner-Schlossman症候群が2眼だった.ぶどう膜炎を発症している症例では,炎症を惹起するプロスタグランジン関連点眼薬は使用しづらく,BTFCが使用されたと考えられる.また,白内(155)障手術後の眼圧上昇に対しても.胞様黄斑浮腫を惹起する可能性のあるプロスタグランジン関連点眼薬は使用しづらく,BTFCが今後使用されると考えられる.BTFCが投与された理由は,眼圧下降効果不十分と副作用出現だった.今回の後ろ向き研究の問題点として,投与を行った眼科医師は10名以上で,眼圧下降効果不十分の判定基準が定められておらず,個々の医師の判断によるものであった.今回,BTFCが新規に処方された症例の特徴を調査した.DTFCからの変更がもっとも多く,b遮断点眼薬+炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更,b遮断点眼薬からの変更が続いた.DTFCからの変更,b遮断点眼薬からの変更では眼圧は有意に下降し,b遮断点眼薬+炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更では眼圧は変化なかったことから,BTFCは良好な眼圧下降効果を有することが示された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19982)VanVeldhuisenPC,EdererF,GaasterlandDEetal;TheAGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInterventionStudy(AGIS):7.Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualfielddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20003)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20124)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-242,20095)YoshikawaK,KozakiJ,MaedaH:Efficacyandsafetyofbrinzolamide/timololfixedcombinationcomparedwithtimololinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol8:389-399,20146)NagayamaM,NakajimaT,OnoJ:Safetyandefficacyofafixedversusunfixedbrinzolamide/timololcombinationinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol8:219-228,20147)NakajimaM,IwasakiN,AdachiM:PhaseIIIsafetyandefficacystudyoflong-termbrinzolamide/timololfixedcombinationinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol8:149-156,20148)LanzlI,RaberT:Efficacyandtolerabilityofthefixedcombinationofbrinzolamide1%andtimolol0.5%indailypractice.ClinOphthalmol5:291-298,2011あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151221 9)ManniG,DenisP,ChewPetal:Thesafetyandefficacyofbrinzolamide1%/timolol0.5%fixedcombinationversusdorzolamide2%/timolol0.5%inpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.JGlaucoma18:293300,200910)AugerGA,RaynorM,LongstaffS:PatientperspectiveswhenswitchingfromCosoptR(dorzolamide-timolol)toAzargaTM(brinzolamide-timolol)forglaucomarequiringmultipledrugtherapy.ClinOphthalmol6:2059-2062,11)添田尚一,宮永嘉隆,佐野英子ほか:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液からトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液への切替え.あたらしい眼科30:861-864,201312)林泰博,檀之上和彦:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼からトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼への切り替えによる眼圧下降効果.臨眼66:865-869,201213)CentofantiM,OddoneF,GandolfiS:Comparisonoftravoprostandbimatoprostplustimololfixedcombinationsinopen-angleglaucomapatientspreviouslytreatedwithlatanoprostplustimololfixedcombination.AmJOphthalmol150:575-580,2010***(156)

ソフトコンタクトレンズ装用眼に対するアイケア手持眼圧計の眼圧測定精度

2015年8月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科32(8):1213.1217,2015cソフトコンタクトレンズ装用眼に対するアイケア手持眼圧計の眼圧測定精度浪口孝治*1白石敦*1川崎史朗*2溝上志朗*1大橋裕一*1*1愛媛大学大学院医学系研究科感覚機能医学講座視機能外科学分野*2かわさき眼科AccuracyofIntraocularPressureMeasurementbyICareRReboundTonometerforSubjectsWearingSoftContactLensesKojiNamiguchi1),AtsushiShiraishi1),ShiroKawasaki2),ShiroMizoue1)andYuichiOhashi1)1)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversity,GraduateSchoolofMedicine,2)Kawasakieyeclinic目的:アイケア手持眼圧計(フィンランド,ティオラト社:アイケア)は,簡便に測定が可能な点眼麻酔不要の接触型眼圧計である.今回筆者らはソフトコンタクトレンズ(SCL)装用時のアイケアの眼圧測定精度を非接触型空気式眼圧計(NCT),Goldmann圧平眼圧計(GAT)と比較検討した.対象および方法:対象は,眼疾患を有しない健康ボランティア20例20眼,男性8例,女性12例,平均年齢29.6±9.1歳(平均±標準偏差).裸眼でNCT,アイケア,GATで眼圧を測定し,次にSCL装用時に,NCT(SCL-NCT),アイケア(SCL-アイケア)で眼圧を測定した.各条件での眼圧値を比較検討した.結果:裸眼での眼圧は,NCTが13.6±2.1mmHg(平均±標準偏差),アイケアが14.2±2.7mmHg,GATが13.4±2.1mmHgであり,いずれの群間において有意差を認めなかった.SCL-NCT,SCL-アイケアの眼圧値はそれぞれ12.6±1.7mmHg(p=0.003061)と13.1±1.9mmHg(p=0.01308)で,いずれも裸眼と比較して有意に眼圧が低かった.SCL-NCT,SCL-アイケアと,GATの比較においては,SCL-NCTとGAT(r=0.7801,p<0.001),SCL-アイケアとGAT(r=0.6063,p<0.001)のいずれにおいても強い相関が認められた.結論:SCLNCT,SCL-アイケアの眼圧値はいずれも裸眼に比べ有意に低値であった.SCL-NCT,SCL-アイケアは,いずれにおいてもGATと強い相関が認められた.SCL装用時の眼圧測定として,アイケアは有効な手段であることが示唆された.Purpose:TheICareRReboundTonometer(ICareFinlandOy,Vantaa,Finland)isahand-heldcontact-typetonometerthatallowsforeasymeasurementofintraocularpressure(IOP)withouttheuseofanesthesia.ThepurposeofthisstudywastocomparetheaccuracyofIOPmeasurementbetweentheICareR,anon-contacttonometer(NCT),andaGoldmannapplanationtonometer(GAT)insubjectswearingsoftcontactlenses(SCLs).Patientsandmethods:Thisstudyinvolved20normalsubjects(8malesand12females,meanage:29.6±9.1years).First,wemeasuredIOPusingtheICareR,NCT,andGATinallsubjectswithoutSCLsbeingworn.Then,wemeasuredIOPusingtheIcareR,NCT,andGATinallsubjectswithSCLsbeingworn.WethencomparedtheIOPineachcondition.Results:WithoutSCLs,nosignificantdifferenceinmeanIOPwasfoundbetweenICareR(14.2±2.7mmHg),NCT(13.6±2.1mmHg),andGAT(13.4±2.1mmHg).WithSCLs,themeanIOPwaslowerbyeachtonometerthanthatbyICareRandNCTwithoutSCLs.AstrongcorrelationwasfoundbetweenSCL-NCTandGAT,andbetweenSCL-ICareRandGAT.Conclusion:TheICareRwasfoundtobeandaccurateandeffectivedeviceforthemeasurementofIOPinsubjectswhowearSCLs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1213.1217,2015〕Keywords:アイケア,眼圧,ソフトコンタクトレンズ,Goldmann圧平眼圧計,非接触型空気式眼圧計,中心角膜厚.ICare,intraocularpressure,softcontactlens,Goldmannapplanationtonometer,non-contacttonometer,centralcornealthickness.〔別刷請求先〕浪口孝治:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科感覚機能医学講座視機能外科学分野Reprintrequests:KojiNamiguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversity,GraduateSchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon-city,Ehime791-0295,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(147)1213 はじめにソフトコンタクトレンズ(SCL)装用者人口の増加とともに,点眼麻酔を必要とするGoldmann圧平眼圧計(GAT)での眼圧測定は,煩雑であり,1日タイプのディスポーザブルSCLは破棄しないといけないなどの理由から,SCL装用者に対する眼圧測定では,非接触型空気式眼圧計(non-contacttonometer:NCT)の有用性が報告されてきた1).一方で,角膜移植後やアルカリ外傷などの重症眼表面疾患の治療・経過観察過程では,拒絶反応予防,消炎目的にステロイド点眼を長期使用していることが多く,眼圧の経過観察が必須とされている.しかしながらそれらの症例では,角膜上皮保護の目的からSCLを装用していることが多く,開瞼不全や涙液過多などのためNCTでの測定ですら困難な症例も多い.こうしたことから,筆者らの施設では,眼表面疾患例の眼圧測定に,NCTに代わりアイケア手持眼圧計(フィンランド,ティオラト社:アイケア)を使用する頻度が多くなっている.アイケアは簡便で,瞼裂が狭くても測定が可能な点眼麻酔不要の手持ち接触型眼圧計で,発射されたプローブが角膜と接触して眼圧測定を行う.プローブと角膜とが接触する瞬間のプローブの接近速度は,眼圧の高さに従って減速する仕組みとなっている.眼圧が高くなるほど,プローブはより素早く減速を開始する.また,眼圧が高くなるほどプローブと角膜の接触時間は短くなり,眼圧が低くなるほど長くなるように設計されている.しかしながら,SCL非装用時のアイケア,NCT,GATを比較した報告はいくつかあるが,SCL装用時のアイケアの眼圧測定精度をNCT,GATと比較検討した報告はない.本報告では,SCL装用時の眼圧をアイケア,GAT,NCTの3方法で測定し,測定精度について比較検討した.また,20**18*1614121086420図1各測定機器による眼圧値の比較GATとSCL-NCTに有意差を認める(p=0.02268).NCTとSCL-NCT,アイケアとSCL-アイケアに有意差を認める(それぞれp=0.003061,p=0.01308).(*p<0.05,対応のあるt検定)1214あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015裸眼でのアイケア,NCT,GATによる眼圧と中心角膜厚(centralcornealthickness:CCT)についても比較検討した.I対象および方法インフォームド・コンセントを得られた眼疾患を有しない健康ボランティア20例20眼(右眼)を対象とした.(男性8例,女性12例,平均年齢29.6±9.1歳:平均±標準偏差).まず,SCL非装用時にNCT(CT90,TOPCON社)→アイケア→GATの順で,それぞれ眼圧を3回ずつ測定した.次にSCLを装用し,NCT→アイケアの順で,それぞれ眼圧を3回ずつ測定した.マッサージ効果による眼圧への影響を考慮し,各眼圧測定は30分間隔で行われた.SCLはアキュビューR:Johnson&Johnson(etafilconA,含水率:58%,酸素透過係数:28,レンズパワー:.0.50D;BC8.8mm,中心厚0.07mm)を使用した.いずれの眼圧測定値も3回の平均値を用いた.CCTはスペキュラーマイクロスコピー(SP3000P,TOPCON社)に搭載されている角膜厚計測機能を用いて計測を行った.検討項目は1)SCL非装用時のNCT,アイケア,GATの眼圧を比較2)SCL非装用時のNCT,アイケアとSCL装用時のNCT(SCL-NCT),アイケア(SCL-アイケア)の眼圧を比較3)SCL非装用時のGATとSCL-NCT,SCL-アイケアの眼圧を比較4)NCT,アイケア,GATの眼圧値の相関関係5)SCL-NCT,SCL-アイケアとGATの眼圧値の相関関係6)SCL非装用時のNCT,アイケア,GATの眼圧値とCCTの相関関係以上の6項目とした.1).3)の項目には対応のあるt検定を使用し,4).6)の項目では,Spearmanの順位相関係数を求めた.いずれの統計学的解析においても有意水準をp<0.05とした.II結果1)SCL非装用時の眼圧は,NCTが13.6±2.1mmHg(平均±標準偏差),アイケアが14.2±2.7mmHg,GATが13.4±2.1mmHgと,いずれの群間においても有意差を認めなかった.2)SCL-NCT,SCL-アイケアの眼圧値はそれぞれ12.6±1.7mmHg(p=0.003061)と13.1±1.9mmHg(p=0.01308)で,いずれも裸眼に比べ眼圧が有意に低値であった.3)SCL-NCTおよびSCL-アイケアと,GATの眼圧値を比較すると,SCL-NCTとGAT(p=0.02268)で有意な低下を認めた.SCL-アイケアとGATでは有意差を認めなかった(p>0.05)(図1).4)NCT,アイケアと,GATの相関をみたところ,NCTと(148) 191917171515r=0.7338,p<0.001r=0.7610,p<0.001NCT(mmHg)GAT(mmHg)GAT(mmHg)GAT(mmHg)アイケア(mmHg)GAT(mmHg)アイケア(mmHg)GAT(mmHg)13119131197755NCT(mmHg)アイケア(mmHg)図2NCTとGATの相関図3アイケアとGATの相関231921r=0.7946,p<0.0011719510152025510152025r=0.7801,p<0.0011715151313119119757510152025NCT(mmHg)5図4NCTとアイケアの相関SCL-NCT(mmHg)図5SCL.NCTとGATの相関19195101520r=0.6063,p<0.001r=0.2961,p>0.056005505001715131197171513119540045077911131517SCL-アイケア(mmHg)CCT(μm)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151215(149)図6SCL.アイケアとGATの相関r=0.4964,p<0.05CCT(μm)600550500450400252015105図8アイケアとCCTの相関図7GATとCCTの相関CCT(μm)600550500450400255図9NCTとCCTの相関r=0.6978,p<0.05201510 GAT(r=0.7338,p<0.001),アイケアとGAT(r=0.7610,p<0.001),アイケアとNCT(r=0.7946,p<0.001)いずれにおいても強い相関が認められた.(図2~4)5)SCL-NCT,SCL-アイケアと,GATの相関をみたところ,SCL-NCTとGAT(r=0.7801,p<0.001),SCL-アイケアとGAT(r=0.6063,p<0.001)いずれにおいても強い相関が認められた(図5,6).6)CCTの平均は515.7±39.9μm(平均±標準偏差)であった.GATとCCTとの間には相関を認めなかった(r=0.2961,p>0.05)が,アイケアとCCTにやや弱い相関を認め,(r=0.4964,p<0.05)NCTとCCTには強い相関を認めた(r=0.6978,p<0.001)(図7~9).III考察アイケアは,スイッチを押すとプローブが発射され,角膜と接触する.プローブと角膜が接触した瞬間にプローブの速度は,眼圧の高さに従って減速する.その減速度を分析し眼圧を測定する仕組みになっている.アイケアの測定精度について正常群および緑内障群を対象に行われた豊原らの報告では,アイケアとGATによる眼圧値には正常群,緑内障群ともに強い有意な相関がみられたとしている(正常群:r=0.785,p<0.001,緑内障群:r=0.761,p<0.001)2).また,アイケアとNCTによる眼圧値には正常群,緑内障群ともに強い有意な相関がみられたと報告されている(正常群:r=0.786,p<0.001,緑内障群:r=0.886,p<0.001).今回正常群を対象とした筆者らの報告でも,アイケアとGAT(r=0.7610,p<0.001),アイケアとNCT(r=0.7946,p<0.001)による眼圧値では強い相関が認められた.また,アイケアの眼圧値の平均はGATと比較してアイケアのほうがGATより高いとの報告もあるが2,3),今回の筆者らの報告ではアイケアとGATの眼圧値に有意差は認めなかった(p=0.4253).今回アイケアとGATの眼圧値に有意差を認めなかった理由としては,既報の角膜厚の平均が552.6±29.6(496.613)μmであったのに対して,今回検討を行った対象症例では角膜厚の平均が515.7±39.9(463.565)μmと比較的角膜厚が薄かったことが考えられる.以前よりNCT,アイケアの眼圧値においてCCTによる影響が指摘されているが,最近の報告では角膜曲率半径・角膜粘弾性が眼圧値に強く影響するという報告もある4).Gulerらは,NCTとCCT(r=0.327,p<0.001),アイケアとCCT(r=0.212,p<0.05)に相関を認め,CCTが10μm厚くなるとNCTは0.33mmHg,アイケアは0.18mmHg眼圧値が上昇すると報告している5).筆者らの報告でも,NCTとCCT(r=0.4964,p<0.05),アイケアとCCT(r=0.6978,p<0.05)に相関が認められた.圧平原理に基づく眼圧測定においては,角膜の変形しやす1216あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015さが眼圧測定の正確さに反映される.角膜の変形しやすさは,おもに角膜曲率半径・中心角膜厚・角膜粘弾性などの角膜因子の個体差によって影響される6).水分含有量の多い生体組織である角膜は,外力に対して瞬間的には弾性の反応を示すが,時間依存的には弾性ではなく粘性も併せもつ粘弾性という特性をもっている.短時間で角膜を圧平した場合は硬くて変形しにくいが,比較的長時間連続して力を加えるとゆっくり変形し,力を緩めるとゆっくり元に戻る.そのため,瞬間的に角膜を圧平するNCTやアイケアではGATより角膜粘弾性の影響を受けやすいと考えられる.CCTの眼圧値への影響については,GAT<アイケア<NCTの順で影響を受けやすいという報告が多い.NCTではairpulseを数ミリ秒単位で噴出し,角膜を圧平するが,その平坦面が直径3.60mmの円になるのに要する時間を測定し,眼圧を算出している.そのため,アイケアに比較して圧平面積が大きく,角膜厚や角膜粘弾性の影響を受けやすくなると考えられる.今回の報告でもCCTとの間にNCTのほうがアイケアより強い相関を認め,既報と同様にアイケアよりNCTのほうがCCTによる影響を受けやすい可能性が示唆された.アイケア,NCTそれぞれのSCL装用眼での眼圧値についてはさまざまな報告がなされている.NCTではSCL装用時に眼圧値は低下し,その値はレンズパワーやSCLの素材によっても変化すると報告されている7).Zeriらはアイケアの眼圧値はシリコーンハイドロゲルのSCLでは差がなく,ハイドロゲルのSCLでは眼圧値が低下すると報告しており,NCTと同様にSCLの素材とレンズパワーによって眼圧値が変化するとしている8).稲葉らは含水率による影響についても言及しており,低含水率のハイドロゲルレンズでは眼圧値に差がない,高含水率のハイドロゲルレンズでは眼圧値が低下すると報告している7).NCT,アイケアでSCL装用時に眼圧値が変化した要因としては,SCLを装用することにより眼表面の曲率半径が変化したこと,SCL装用により見かけ上の角膜厚が変化したこと,SCLを含めた角膜表面の剛性が変化したことにより角膜粘弾性が変化したこと,などが考えられている.自験例でも既報と同様に高含水率のハイドロゲルSCLを使用しNCT・アイケアの眼圧値が低下した.SCL装用により角膜全体の厚みは増したはずであるが,眼圧値は低下している.この理由としては,SCL装用による角膜全体の厚みの増加による影響よりも,角膜曲率半径が低下したこと,角膜粘弾性が変化したことなどが眼圧値に影響したからではないかと考えられる.SCL装用後のアイケアとGATに有意差は認めなかったが,SCL装用後のNCTの測定値はGATに比較して有意に低下することがわかった.この理由としては,SCL非装用(150) 時と同様にNCTに比べアイケアは,圧平面積が小さく,角膜厚,曲率半径,角膜粘弾性の影響を受けにくくなっていることなどが理由として考えられる.今回筆者らはSCL装用前と装用後の曲率半径を測定しなかったが,UlfaらはSCL装用時と非装用時の曲率半径を計測し.5.0D,.0.5D,SCL非装用時,+5.0Dにおいて,それぞれ角膜曲率半径が8.3±0.86,7.59±0.73,7.52±0.58,6.94±0.6と変化すると報告している9).SCL非装用時と.0.5DのSCL装用時の曲率半径の差はわずかであり,今回の筆者らの報告では曲率半径が眼圧値にどの程度影響を与えたのか考えることはむずかしい.曲率半径の眼圧値への影響を詳細に示すためには今後さまざまなレンズパワーを用いて眼圧を測定し,曲率半径と眼圧値との相関をみる必要がある.以上,まとめとしてアイケア,NCT,GATを比較して眼圧値には強い相関が認められた.アイケアは眼圧測定において有用であることがわかった.また,SCL装用眼ではアイケアの眼圧値は装用前に比べて低下するが,GATの測定値と比べて有意差はなく,SCL装用時の眼圧測定としてもアイケアは有用である可能性が示唆された.文献1)LiuYC,HuangJY,WangIJ:Intraocularpressuremeasurementwiththenoncontacttonometerthroughsoftcontactlenses.JGlaucoma20:179-182,20112)豊原勝利,井上賢治,若倉雅登ほか:アイケア手持ち眼圧計,Goldmann圧平式眼圧計,ノンコンタクト眼圧計の比較.あたらしい眼科24:355-359,20073)FernandesP,Diaz-ReyJA,QueirosA:ComparisonoftheICarereboundtonometerwiththeGoldmanntonometerinanormalpopulation.OphthalmicPhysiolOpt25:436-440,20054)ShinJ,LeeJW,KimEA:Theeffectofcornealbiomechanicalpropertiesonreboundtonometerinpatientswithnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol159:144154,20155)GulerM,BilakS,BilginB:ComparisonofintraocularpressuremeasurementsobtainedbyIcarePROreboundtonometer,andGoldmannapplanationtonometerinhealthysubjects.JGlaucoma,2014Sep26(Epubaheadofprint)6)鈴木克佳,相良健,西田輝夫:眼圧測定の問題点真の眼圧値を求めて.臨眼63:1571-1576,20097)稲葉昌丸:コンタクトレンズ上の眼圧測定.あたらしい眼科25:945-947,20088)ZeriF,CalcatelliP,DoniniB:Theeffectofhydrogelandsiliconehydrogelcontactlensesonthemeasurementofintraocularpressurewithreboundtonometry.ContLensAnteriorEye34:260-265,20119)RimayantiU,KiuchiY,UemuraS:Ocularsurfacedisplacementwithandwithoutcontactlensesduringnon-contacttonometry.PLoSONE9:e96066,2014***(151)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151217

唾液α-アミラーゼ活性測定による白内障手術と涙囊鼻腔吻合術とのストレス評価比較

2015年8月31日 月曜日

《第3回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科32(8):1205.1211,2015c唾液a-アミラーゼ活性測定による白内障手術と涙.鼻腔吻合術とのストレス評価比較久保勝文*1櫻庭知己*2*1吹上眼科*2青森県立中央病院眼科UseofSalivaryAmylasetoEvaluateSurgicalStressRelatedtoDacryocystorhinostomyandCataractSurgeryMasabumiKubo1)andTomokiSakuraba2)1)FukiageEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,AomoriPrefecturalCentralHospital筆者らはココロメータ(ニプロ)を用い,超音波白内障手術(IOL)と涙.鼻腔吻合術鼻外法(DCR)患者の術前および術後のストレス値の測定を行い,周術期のストレス状態の比較検討と同時にココロメータの有用性を検討した.症例はIOL男性11例,女性17例,計28例,DCR男性13例,女性18例,計31例.手術30分前・後に血圧,心拍数測定およびココロメータでストレス値を測定した.IOL前後,DCR前後のストレス平均値は42.8から73.8KU/L.ストレス値が61KU/L以上の緊張の強い症例は20.40%台だった.手術前のストレス値は,手術中・後の血圧の上昇や心拍数亢進と相関せず,他覚的および患者の自覚症状とも一致しなかった.IOLとDCRの術前不安および術後疼痛は,ほぼ同等と考えられた.ココロメータの測定は簡便で,DCR女性群で手術前ストレス値が高い人に,手術前と術後の対策で苦痛軽減ができると考えられた.Purpose:Thepurposeofthisstudywastoinvestigatetheuseofsalivaryamylaseactivity(sAMY)toevaluatethechangesintheamountofpre-andpostoperativestressinpatientsundergoingdacryocystorhinostomy(DCR)andcataractsurgery(CS).Methods:Inthisstudy,weevaluatedtheperioperativechangesinsAMYbyuseoftheCocoroMeter(NIPRO,Osaka,Japan)portablestressmeteratbeforeandaftersurgeryandassessedthebloodpressureandheartratein59patientsbeingtreatedattheFukiageEyeClinic,Hachinohe,Japan.TheDCRgroupincluded31cases(13malesand18females),andtheCSincluded28cases(11malesand17females).Results:ThelevelofsAMYrangedfrom42.8to73.8KU/L.ThehighersAMYgroup(>61KU/L)occupiedfrom27-41%inbothgroups.NosignificantdifferencewasfoundbetweenthelevelofsAMYamongsexandtypeofsurgery.Conclusion:Wewereabletosuccessfullyreducesurgery-relatedpatientstressandpainbyuseofthesAMYlevel.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1205.1211,2015〕Keywords:白内障手術,涙.鼻腔吻合術,唾液アミラーゼ,心理ストレス,ココロメータ.cataractsurgery,dacryocystorhinostomy,salivaryamylase,psychologicalstress,cocorometer.はじめに近年,涙道手術が普及し涙.鼻腔吻合術鼻外法(dacryocystorhinostomy:DCR)が増加している.眼科で多く行われている超音波白内障手術(intraocularlens:IOL)と比較して,どちらが術後痛いのだろうかと患者に問われることも多い.これまで手術法の評価は,成功率や手術時間について論議されることが多く,患者の手術後の痛みについては客観的な評価が困難であり,考慮されることは少なかった.また,検索した限りでは,眼科手術において患者の疼痛評価を定量的に考察した報告はなかった.しかし,眼科医療の質の向上のためにも,患者の疼痛を軽減することは重要である.そのためには,患者の疼痛の状態を客観的に評価する必要があり,さらに定量的に評価可能であれば,治療法の選択などに有用〔別刷請求先〕久保勝文:〒031-0003青森県八戸市吹上2丁目10-5吹上眼科Reprintrequests:MasabumiKubo,M.D.,Ph.D.,FukiageEyeClinic,2-10Fukiage,Hachinohe,Aomori031-0003,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(139)1205 と考える.周術期ストレスの主要因子の一つである痛み1,2)については,患者の主観的な感覚であるため,客観的に評価することはむずかしい.そのため,問診や視覚的評価スケール方法(VAS法)などの主観的な評価法3)や,血液や尿中のカテコラミンやコルチゾールを測定する客観的な生化学的方法などにより,間接的に痛みの状態を評価する方法が応用されてきた4).近年,唾液a-アミラーゼが交感神経活動の指標になることがわかり,痛みを含めたストレスの有用な指標と考えられている4,5).加えて近年,安価で簡便な唾液a-アミラーゼ活性の測定機器(以下,ココロメータ)が販売され,ストレスの数値化が簡便に行えるようになった5).そこで,今回筆者らは,ココロメータを用いIOLおよびDCR患者の術前および術後のストレス値の測定を行い,周術期のストレス状態の比較検討をすると同時に,ココロメータの有用性を検討した.I対象および方法対象は2003年5月.2003年8月および2013年5月.2013年8月に,当院が手術を行ったIOL症例(男性13例,女性18例),DCR症例(男性16例,女性29例)を対象とした.両眼を行う症例では最初の症例眼のみを対象とし,他方眼は対象から除いた.涙液メニスカスが減少し,Sjogren症候群が明らかに疑われる症例はいなかった.ストレス値測定で手術前後に1回以上測定不能だったIOL男性2例(15%),女性1例(6%),DCR男性3例(19%),女性11例(38%)を除いた.IOL群で男性11例,女性17例,計28例,DCR群は男性13例,女性18例,計31例を検討対象とした.測定項目は性別,年齢,手術30分前・中・手術30分後の血圧と心拍数.手術前後30分のストレス値である.血圧は,収縮期血圧が165mmHg以上または拡張期血圧が95mmHg以上で高血圧とし,心拍数は90以上で異常とした.看護記録より,患者の緊張が他覚的に観察されたり,「緊張している」「緊張していた」とコメントがあれば,手術前・中・後に「緊張状態」ありとした.Schirmerテストは今回行っていない.ストレス値の測定後に血圧・心拍数測定を行い,指示がある症例で前投薬の筋肉注射を行った.DCR6)については,鼻にパッキングが入った状態で手術前,手術後の測定を行った.各群の検討項目は,①平均年齢,②手術時間とストレス値,③前投薬,術中の投薬,④術中の高血圧発生頻度,⑤心拍数亢進の発生頻度,⑥緊張状態の発生頻度,⑦各群のストレス平均値,⑧各群のストレス高値症例の比率,⑨手術前にストレス値が正常の症例,高い症例の2群の手術前・中・後の血圧・心拍数・緊張状態の変化,⑩測定不能例の出現頻度1206あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015である.平均値の比較は,t-testで行い,2群間の比率の比較はc2検定,Fishers’stestを行い検定有意水準p<0.05で有意とした.すべての手術は,局所麻酔下で行った.外来処置中(白内障手術では,術前抗菌薬の涙.洗浄時,DCRでは鼻内のパッキング時)に,視診で患者の緊張度を判断して前投薬のアタラックスPRの筋肉下注射を指示した.手術中に緊張が高い場合は,ドルミカムRおよびソセゴンRの希釈溶液を側管より静注した.血圧が高い場合は,同様にペルジピンRを使用した.白内障手術の手順は以下のとおりである.11時部位の結膜を3.4mm程度切開し,止血後に2mlの2%キシロカインRでTenon.下麻酔を行った.2.65mmスリットナイフで強角膜にて前房に進入し,CCC(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)を完成させた.ハイドロダイジェクション後にフェイコチョッパーにて白内障の核を除去し,皮質を吸引し,カートリッジなどを用いて眼内レンズを.内に挿入し,眼圧調整後に結膜を凝固し,エリスロマイシン・コリスチン眼軟膏で封入し眼帯した.DCR鼻外法は,手術前に半切したベスキチンFRとnasaldressingRを鼻内に留置した.高周波メスで皮膚切開を行い,骨窓はドリルおよび骨パンチで作製した.涙.および鼻粘膜は前弁,後弁をそれぞれ作製し,吻合した.鼻内に留置したものは1週間後に抜去した.全例シリコーンチューブ留置術を併用した6).唾液アミラーゼ測定機器ココロメータ7)は,本体とアミラーゼ試験紙が付いた使い捨てのテストストリップで構成される.測定方法は,テストストリップの先端を舌下部に入れ,30秒間唾液を採取する.次に唾液を採取したテストストリップの後部を一段階引っ張り,ココロメータホルダー内に挿入する.ディスプレイの指示に従いレバーを操作すると,アミラーゼ試験紙が唾液採取紙に押し付けられ唾液が転写され,30秒後にストレス値の結果が数値とアイコンにて画面に表示される.ココロメータの測定精度については,R2=0.988変動係数10.2%と報告され7),61KU/L以上を高値とした.また,測定時に唾液採取ができない場合は「エラー」の表示となり,今回は「測定不能」とした.II結果平均年齢はIOL群で男性75.4±5.71歳,女性69.4±9.49歳.DCR群で男性63.7±19.4歳,女性69.0±7.90歳だった.IOL男性群とIOL女性群との間に有意差を認めた(p=0.037,unpairedt-test).IOL群男性とDCR群男性との間にも有意差を認めた(p=0.034,unpairedt-test)(表1).(140) 手術時間は,IOLでは結膜切開から最後の結膜凝固までとし,DCRでは,皮膚切開から最後の皮膚縫合終了までとした.IOL男性で15.1±2.1分,女性で17.5±6.0分だった.DCRでは男性44.2±6.5分,女性で41.8±6.4分だった,男女での手術時間には,有意差はなかった.IOL症例内およびDCR症例内では手術時間と手術後のストレス値との相関はなかった.手術前の前投薬と手術中の投薬は,DCR女性群でソセゴンRを多く使用している傾向があったが有意差は認めなかった(表2).高血圧を示した症例数を表3に示した.IOL女性群で,手術中の高血圧の発生頻度が高く,手術前・後と比較して有意な差を認めた(手術中と手術前の比較でp=0.027,手術中と手術後の比較でp=0.004,Fisher’stest).しかし,他の群では手術中の高血圧の発生率に,有意差を認めなかった.また,発生率が低いDCR女性群と,高いIOL女性群との間で有意差は認めなかった.心拍数が亢進した症例数を表4に示した.DCR女性群は手術中に心拍数の上昇を高い確率で示し,手術前との有意差を認めた(手術中と手術前の比較でp=0.0076,Fisher’stest).DCR女性群とIOL女性群との間に有意差は認めなかった.DCRの手術前の緊張状態は,男性女性ともに,IOLの緊張状態より有意に高かった.手術中・手術後については,有意差を認めなかった(表5).ストレス値は,IOL群は手術前で男性46.8±41.8KU/L,女性54.5±55.1KU/L,手術後で男性38.4±41.7KU/L,女性55.6±44.1KU/Lで,手術前後,男女間で有意な差は認めなかった(図1).DCR群では,手術前で男性73.8±49.7KU/L,女性50.3±42.1KU/L,手術後で男性53.5±33.5KU/L,女性50.8±47.7KU/Lだった.手術前後で有意な差を認めず,男女差も認めなかった.DCR男性群の手術前のストレス値が高かったが,IOL男性群との差は認めなかった(図2).ストレス値が61KU/L以上,同未満で2群に分類すると2),手術前・手術後で高いストレス値の症例が占める割合は20.40%台で,IOL女性群が術前・術後ともに高値だったが,有意な差は認めなかった(表6).手術前のストレス値を61KU/L以上,同未満で2群に分類し,手術前・中・後の血圧および心拍数が亢進した症例表1症例の平均年齢IOL群(歳)DCR群(歳)男性75.4±5.71*63.7±19.4女性69.4±9.4969.0±7.90*p<0.05unpaired-ttest*IOL男性群は,DCR男性群より有意に高齢であった.・女性群で,有意差を認めなかった.表2前投薬と手術中の投薬についてアタラックスPRドルミカムRソセゴンRペルジピンR合計(例)IOL群男性女性711121401121117DCR群男性女性712121413051318Fisher’stest・DCR女性群で,ソセゴンを多く使用している傾向があったが有意差は認めなかった.表3高血圧を示した症例手術前(例)手術中(例)手術後(例)合計(例)IOL群男性女性1147*101117DCR群男性女性1645221318*p<0.05Fisher’stest*IOL女性群の手術中の高血圧の発生頻度は手術前および手術後より有意に高かった(手術中と手術前でp=0.027,手術中と手術後でp=0.04).・IOL女性群とDCR女性群との間に有意差を認めなかった.表4心拍数が亢進した症例手術前(例)手術中(例)手術後(例)合計(例)IOL群男性女性0204001117DCR群男性女性0027*101318*p<0.05Fisher’stest・DCR女性群のの手術中の心拍数の上昇の発生頻度は手術前と比較すると手術前より有意に高かった(p=0.076).・DCR女性群は,IOL女性群と有意差を認めなかった.(141)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151207 表5緊張状態を示した症例手術前(例)手術中(例)手術後(例)合計(例)IOL群男性00011女性00017DCR群男性52113女性74318****p<0.05,**p<0.05Fisher’stest*男性群は,DCR群で緊張状態を示した症例が有意に多かった(p=0.041).**女性群は,DCR群で緊張状態を示した症例が有意に多かった(p=0.0076).男性女性ストレス値180160140120100806040200ストレス値(KU/L)手術前手術後200180160140120100806040200手術前手術後(KU/L)手術前手術後男性73.8±49.7KU/L53.5±33.5KU/L有意差なし女性50.3±42.1KU/L50.8±47.7KU/L有意差なし図2DCR群の男性群と女性群のストレス値の手術前後の変化数,緊張状態となった症例数,手術後に高ストレス値を示した症例数を検討した(表7).手術前ストレス値で,手術前の高血圧および心拍数亢進で有意差を認めなかった.手術前ストレス値と,手術中の投薬頻度,高血圧発生頻度・心拍数の亢進を認めた頻度に差を認めなかった.IOL男性群で前投薬を指示した比率と,DCR女性群で手術後も高ストレス値であった比率に有意差を認めた.手術前ストレス値の高い女性が,手術前に緊張状態を認めた割合がIOLよりDCRのほうが有意に高かった.各群でのココロメータの測定不能例の出現頻度は,DCR女性群が高く(38%),IOL女性群との有意差を認めた(p=0.017.Fischer’stest).また,IOL群とDCR群での比較で1208あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015男性女性ストレス値ストレス値050100150200250手術前手術後(KU/L)手術前手術後(KU/L)180160140120100806040200手術前手術後男性46.8±41.8KU/L38.4±41.7KU/L有意差なし女性54.5±55.1KU/L55.6±44.1KU/L有意差なし図1IOL群の男性群と女性群のストレス値の手術前後の変化表6手術前後で高いストレス値(61KU.L以上)を示した症例手術前手術後合計(例)IOL群男性3311女性7817DCR群男性5513女性5418Fisher’stest統計学的に有意な差は認めなかった.も,有意な差を認めた(p=0.047.Fischer’stest)(図3).測定不能例のDCR女性群内での年齢別頻度では(表8),年代別に有意差はなかった.測定不能だったDCR女性群(測定不能群)11例の内訳は,手術前のみ1例,手術後のみ8例,両方が2例だった.測定不能群とDCR女性群症例(測定可能群)18例の手術前・中・後の高血圧の発生頻度には有意差を認めなかったが,測定不能群は測定可能群に比較して手術中に高血圧が発生する傾向を示した(p=0.057)(表9).III考察生理学的にストレスという反応をみると,1)視床下部.下垂体.副腎皮質(hypothalamus-pitcitary-adrenal:HPA)系と2)交感神経.副腎髄質系(sympathetic-adrenal-medul-lary:SAM)系の2つがある(図4).最近では,唾液a-アミラーゼの分泌は,交感神経活動の亢進とよく相関しているので,とくにSAM系の活動に依存していると考えられてい(142) 表7手術前ストレス値の高い症例,低い症例の手術前・手術中,手術後の投薬・血圧変化・心拍数の変化,ストレス値および緊張状態の推移IOL男性手術前ストレス値手術前手術中手術後合計前投薬HTHR緊張状態投薬HTHR緊張状態高ストレス値HTHR緊張状態低い(<60KU/L)高い(≧61KU/L)IOL女性8100**p=0.006000083220000121000単位(例)0083低い(<60KU/L)高い(≧61KU/L)DCR男性5601110086432200420000単位(例)00107低い(<60KU/L)高い(≧61KU/L)DCR女性5201003275311111322001単位(例)1085手術前ストレス値手術前手術中手術後合計前投薬HTHR緊張状態投薬HTHR緊張状態高ストレス値HTHR緊張状態手術前ストレス値手術前手術中手術後合計前投薬HTHR緊張状態投薬HTHR緊張状態高ストレス値HTHR緊張状態手術前ストレス値手術前手術中手術後合計前投薬HTHR緊張状態投薬HTHR緊張状態高ストレス値HTHR緊張状態低い(<60KU/L)104049243100113**高い(≧61KU/L)2203*533132025*IOL女性手術前ストレス値が高い人と有意差ありp=0.045**p=0.044単位(例)緊張状態:看護士が「患者は緊張している」と観察したり,自ら「緊張している」と言った場合.高ストレス値:ストレス値が61以上であれば高ストレス値とした.45表8DCR女性群内での年齢別の測定不能例40年齢40歳代50歳代60歳代70歳代80歳代35発生例(頻度)0325130症例数(例)066161Fisher’stest25・年齢によるエラー率に有意な差を認めなかた.2015表9DCR女性群内での測定可能群と測定不能群での高血圧の頻度10手術前(例)手術中(例)手術後(例)合計(例)測定可能群652185測定不能群472110IOLIOLDCRDCRc2検定男性群女性群IOL群男性群女性群DCR群測定不能群;ココロメーターでエラーが出た症例図3各群での測定不能率測定可能群:ココロメーターで測定可能だった症例*DCR女性群は,IOL女性群より有意に測定不能率が高かった手術前・中・後で2群間に有意な差を認めなかった.(p=0.017.Fischer’stest).測定不能群は測定可能群に比較して手術中に高血圧が発生する★DCR群はIOL群より有意に測定不能率が高かった(p=0.047.傾向を示した(p=0.057).Fischer’stestで有意な差を認めた).ココロメータのエラー率(%)*★(143)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151209 心理的ストレス大脳皮質,大脳辺縁系身体的ストレス視床下部SAM系HPA系交感神経活動↑下垂体(ノルアドレナリン)(ACTH)副腎髄質副腎皮質(アドレナリン,ノルアドレナリン分泌↑)(コルチゾール分泌↑)唾液腺唾液a-アミラーゼ分泌↑直接神経作用ホルモン作用心理的ストレス大脳皮質,大脳辺縁系身体的ストレス視床下部SAM系HPA系交感神経活動↑下垂体(ノルアドレナリン)(ACTH)副腎髄質副腎皮質(アドレナリン,ノルアドレナリン分泌↑)(コルチゾール分泌↑)唾液腺唾液a-アミラーゼ分泌↑直接神経作用ホルモン作用図4ストレス応答系と唾液a-アミラーゼ分泌の関係る.SAM系を介した唾液a-アミラーゼ分泌促進には,カテコラミン分泌に伴うホルモン作用(間接作用)と交感神経からの直接神経作用によるものがある.以上のことから,唾液a-アミラーゼはSAM系の活動の指標とともに,間接的な交感神経活動の指標となっている.そのため,唾液a-アミラーゼを測定することにより,ストレスの強度を推測することが可能と考えられる.術者の視点で侵襲度という観点でストレスを考慮していたが,患者のストレスについて考察されることは少なかった.手術を受ける前の不安や手術後の痛みを主とするストレスは,ストレスにより上昇する唾液a-アミラーゼを簡便に測定できるようになったことで評価が可能となった.ココロメータでのストレス値測定は,簡便で,血圧や心拍数の変動に現れない患者のストレスを推測するのに有用であった.逆に交感神経系のマーカーと従来から重要視されている血圧および心拍数に異常が出なかった.理由としては,高血圧治療薬を服用している患者が多く,普段の内服薬により血圧上昇および心拍数の亢進が抑えられたためと考えた.ストレス値は,術前不安および術後創痛の程度を反映していると考えられる6,7).ココロメータはストレスが加わって最大値を示すまでの時間は10分以内,復帰するのに20分程度であり,心拍などと比べてもストレス負荷に対して比較1210あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015的早い応答が観察される8)と報告されている.よって今回の手術前のストレス値は術前不安を,手術後30分経過して測定した術後のストレス値は,術後の創痛の程度を反映していると思われる.手術前のDCR鼻外法での鼻内処置には,ボスミンRを使用せず,手術中の止血用にボスミンR外用液0.1%を希釈して用いたが,それによる明らかな血圧上昇例はなくストレス値に影響はないと考えた.各手術のストレス値の平均値は,術前,術後,性別,手術別に有意な差を認めなかった.高ストレス値を示した症例の割合も,有意差を認めなかった.ストレス値が測定できた症例のなかでは,IOLとDCRのストレス値は同等と考えられ,ストレス値からは2つの手術の術前不安および手術後疼痛は同等であると考えられた.ココロメータによる唾液a-アミラーゼ測定の有用性は,術前のストレス度を測定することによって疼痛軽減を主にした術後ストレスケアへの準備を容易にする点にあると考える.理由として,手術前ストレス値が低いグループと高いグループで分けて手術前・中・後と経過を追うと,DCR女性群で,手術前にストレス度が高い症例は,IOL群に比べて,緊張状態が有意に高く,手術後のストレス度も高かった.つまり,DCR女性群で手術前ストレス値が高い人は,手術前に不安が強く,手術後に疼痛によりストレス度が高かったと(144) 考えられ,このような症例に対しては手術前に不安対策を,手術後早期に疼痛対策を行えば,患者の苦痛軽減ができると考えられる.ココロメータは簡便にストレス度が測定でき,前述した有用性がみられるが,測定不能例が無視できない率でみられることが短所の一つである.ココロメータの測定不能率に関しての報告は,1報告9)のみで手術当日34例中13例(38%)が測定不能と報告されている.今回の測定でも,DCR女性群の測定不能率が38%と高く,手術当日の測定不能率が高いと思われた.測定不能群で高血圧の出現頻度が高い傾向を認め(p=0.057)(表7),測定不能の原因は,強い緊張による唾液減少が強く関係すると考えた.麻酔導入中では,唾液a-アミラーゼ活性の変動は,平均血圧や心拍数の変動と同調,相関すると報告10)され,深い沈静の状態では,痛みにより最初に唾液a-アミラーゼ活性が上昇すると報告11)されているが,今回は,唾液a-アミラーゼ活性の変動と血圧および心拍数の変動とが相関しているかどうかは確認できなかった.ストレス測定をより頻回に行うか,連続的に測定可能となれば,何らかの関係性が明らかになると思われた.IOLとDCRの術前不安および術後疼痛は,ほぼ同等と考えられた.ココロメータの測定は簡便で,DCR女性群で手術前ストレス値が高い人に,手術前と術後の対策で苦痛軽減ができると考えられる.欠点として,手術後の測定不能率が高かった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)本馬周淳:周術期ストレス緩和への取り組み(1)内視鏡下および開腹胆.摘出術前後のストレス度比較.バイオメディカル・ファジイ・システム学会誌14:65-70,20122)本馬周淳:周術期ストレス緩和への取り組み(2)整形外科手術にみる周術期ストレスの検討.バイオメディカル・ファジイ・システム学会誌14:1-5,20123)成田紀之,平山晃康:痛みの評価スケール.日本医師会雑誌143:88-89,20144)山口昌樹:唾液マーカーでストレスを測る.日薬理誌129:80-84,20075)廣瀬倫也,加藤実:唾液を検体とした新しいストレス評価法─唾液クロモグラニンAおよび唾液a-アミラーゼ活性によるストレス評価.臨床検査53:807-811,20096)久保勝文,櫻庭知己:日帰り涙.鼻腔吻合術鼻外法18例20眼の検討.眼科手術18:283-286,20057)山口昌樹,花輪尚子,吉田博:唾液アミラーゼ式交感神経モニタの基礎的性能.生体医工学45:161-168,20078)山口昌樹,金森貴裕,金丸正史ほか:唾液アミラーゼ活性はストレス推定の指標になり得るか.医用電子と生体工学39:234-239,20019)藤井宏二,石井亘,松村博臣ほか:疾患と侵襲:病態からみたストレスの比較─唾液アミラーゼ活性を測定して.診断と治療11:1884-1886,201010)廣瀬倫也,加藤実:唾液a-アミラーゼ測定器─唾液aアミラーゼの特性と疼痛評価への応用について─.麻酔58:1360-1366,200911)FujimotoS,NomuraM,NikiMetal:Evaluationofstressreactionsduringuppergastrointestinalendoscopyinelderlypatients:assessmentofmentalstressusingchromograninA.JMedInvest54:140-145,2007***(145)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151211

治療に苦慮した乾癬ぶどう膜炎による続発緑内障の1例

2015年8月31日 月曜日

《第25回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科32(8):1201.1204,2015c治療に苦慮した乾癬ぶどう膜炎による続発緑内障の1例田川小百合*1陳進輝*1田川義晃*1新明康弘*1大口剛司*1木嶋理紀*1宇野友絵*1石嶋漢*1新田卓也*2南場研一*1石田晋*1*1北海道大学大学院医学研究科眼科学分野*2回明堂眼科・歯科ACaseofRefractorySecondaryGlaucomaAssociatedwithPsoriaticUveitisSayuriTagawa1),ShinkiChin1),YoshiakiTagawa1),YasuhiroShinmei1),TakeshiOhguchi1),RikiKijima1),TomoeUno1),KanIshijima1),TakuyaNitta2),KenichiNamba1)andSusumuIshida1)1)DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,Sapporo,Japan,2)Kaimeido-ophthalmologyanddentalclinic症例は45歳の男性で,10数年前より乾癬の診断を受け,数年前から両眼にぶどう膜炎による発作を繰り返し,プレドニゾロン内服とステロイド点眼治療を受けていた.繰り返す発作と眼圧上昇のため,北海道大学病院眼科を受診,左眼眼圧のコントロール不良に対し,左マイトマイシンC併用線維柱帯切除術を施行した.術後数カ月間にわたる遷延性の低眼圧が持続したため,毛様体機能不全による房水産生能低下を考え,左強膜弁縫合術を行った.その後,左眼眼圧は落ち着いたが,半年後に右眼の続発緑内障をきたし,さらに左眼眼圧の再上昇をきたしたため,前回の経過を踏まえ,右眼に360°suturetrabeculotomy変法,左眼に240°trabeculotomy変法を施行した.右眼の眼圧は良好だったが,3カ月後に左眼眼圧が再上昇したため,左眼濾過胞再建術を追加した.その後は両眼とも眼圧が10mmHg前後と落ち着いている.A45-year-oldmalepatientwhohadbeendiagnosedwithpsoriasisformorethan10yearsandwhohadrecurrentattacksofbilateraluveitiswastreatedwithoralandtopicalsteroidsforseveralyearsatanotherfacility.Hewaslaterreferredtoourhospitalduetoelevatedintraocularpressure(IOP)inhislefteye,andwetreatedthateyebyperformingtrabeculectomywithmitomycinC.Postoperativeocularhypotonycontinuedforseveralmonthsafterthetrabeculectomy.Sincethereductionofaqueoushumorproductionappearedtocausetheocularhypotony,weperformedanadditionalsurgerytosuturethescleralflaptightly.Hisleft-eyeocularhypotonyrecovered,yet6-monthslaterbilateralocularhypertensionemerged.Therefore,weperformedamodified360-degreesuturetrabeculotomyonhisrighteyeandamodified240-degreetrabeculotomyonhislefteye.Asaresult,theIOPinhisrighteyewascontrolled,buttheIOPinhislefteyeincreasedagainafter3months,leadingtoblebreconstructionsurgeryofhislefteye.Consequently,theIOPinbotheyessettledatapproximately10mmHg.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1201.1204,2015〕Keywords:乾癬,ぶどう膜炎,続発緑内障,線維柱帯切除術,線維柱帯切開術.psoriasis,uveitis,secondaryglaucoma,trabeculectomy,trabeculotomy.はじめに乾癬に伴うぶどう膜炎は,ときに前房蓄膿を伴う前房炎症型の発作を起こし,再発を繰り返すことが知られている1).今回筆者らは,乾癬に伴うぶどう膜炎の続発緑内障に対するマイトマイシンC(MMC)併用線維柱帯切除術(LEC)後に,毛様体機能不全が原因と思われる持続性の低眼圧の症例を経験した.さらにその後両眼の高眼圧を呈したため,右眼に360°suturetrabeculotomy(S-LOT)変法を,左眼に240°のtrabeculotomy(LOT)を施行したので,その経過について報告する.I症例患者:45歳,男性.主訴:視曚感.〔別刷請求先〕田川小百合:〒060-8638札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究科眼科学分野Reprintrequests:SayuriTagawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,Kita-15,Nishi-7,Kita-ku,Sapporocity,Hokkaido060-8638,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(135)1201 既往歴:高血圧症,頸椎圧迫骨折,骨粗鬆症,心筋炎(心不全にて入院加療歴あり),左眼眼内レンズ挿入眼.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:尋常性乾癬の診断を受けてから10数年,シクロスポリンで加療された.数年前に両眼の前部ぶどう膜炎を発症し,乾癬に伴うぶどう膜炎と診断された.その後はステロイド薬の内服と点眼にてコントロールされていたが,繰り返す眼炎症と眼圧上昇のため,北海道大学病院眼科を紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.3(0.8×.1.50D),左眼0.2(0.8×.1.25D(cyl.1.25DAx75°).眼圧は右眼13mmHg,左眼22mmHg(アセタゾラミド内服,0.1%ベタメタゾン点眼,緑内障点眼3剤点眼継続下).前眼部所見は右眼2+flare,2+cellsで,右眼のみ全周に虹彩後癒着があり,左眼は2.3+flare,2+cellsであった.隅角所見は,右眼に異常はなく広隅角.左眼は周辺虹彩前癒着が2カ所あり,Shaffer4,色素はScheieIIであった.中間透光体は右眼に軽度の核性白内障を認め,左眼は眼内レンズ挿入眼であった.右眼の視神経乳頭には緑内障性変化はみられなかったが,左眼は視神経乳頭陥凹比0.7の緑内障性変化を認めた.臨床経過:プレドニゾロン(PSL)5mg内服は継続とし,アセタゾラミド内服および抗緑内障点眼を追加したが,左眼眼圧が40.50mmHgと高眼圧を持続したため,術1週間前よりPSLを20mgへ増量し,左眼にMMC併用LECを施行した.術後矯正視力は左眼(0.7),術後3カ月間の左眼眼圧は3.7mmHgであった.濾過胞は平坦で,浅前房が持続していた.術4カ月後,突然左眼視力低下を訴えて当科を再診した.このときの視力は右眼0.3(0.5×.0.50D),左眼手動弁(矯正不能)で,前房は消失していた.また,濾過胞は平坦で,Seidel現象はみられなかった(図1).超音波生体顕図1左眼前眼部写真(線維柱帯切除術後3カ月)前房は消失し,平坦な濾過胞がみられた.左前房消失左強膜フラップ縫合術左眼濾過胞再建術左眼240°LOT右眼360°S-LOT6050403020100右眼圧左眼圧03カ月6カ月9カ月12カ月15カ月図2経過のまとめMMC併用線維柱帯切除術後に左前房が消失した時点からの治療経過と眼圧の推移.左眼強膜フラップ縫合術後に眼圧は一旦落ち着いたが再び上昇し,両眼に線維柱帯切開術を施行した.その後,左眼はまた眼圧が再上昇したため,左濾過胞再建術を追加した.眼圧(mmHg)1202あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(136) 微鏡検査(UBM)にて,明らかな毛様体の前方回旋は認めず,脈絡膜.離などもみられなかった.粘弾性物質(ヒーロンVR)および空気を計4回前房内へ注入したが,いずれも1週間.10日間で再び浅前房となり,低眼圧を呈した.炎症による毛様体産生機能の著しい低下が原因と考え,ステロイドパルス療法を施行するも,改善はみられなかった.左眼前房消失から1カ月後に結膜を切開して強膜弁を確認したところ,房水の濾過が確認されたため,左眼強膜弁縫合術を施行した.術後の左眼前房は深く保たれ,眼圧も良好となった.その後PSLを徐々に漸減して様子をみていたところ,左眼眼圧が徐々に上昇し始めたため,ドルゾラミド/チモプトール配合点眼,タフルプロスト点眼,ブリモニジン点眼を順次追加した結果,左眼眼圧は10mmHg前後に落ち着いた.しかし,その後右眼眼圧が徐々に上昇しため,抗緑内障点眼やアセタゾラミド内服を追加し,PSLを10mgから20mgへ増量したが眼圧は低下しなかった.右眼に360°S-LOT変法を施行し,右眼眼圧は10mmHg台前半に落ち着いた.しかし,左眼眼圧もほぼ同時期に上昇したため,左眼に240°LOT(180°S-LOT変法+60°金属ロトームによるLOT)施行し,両眼圧とも10台前半に落ち着いた.しかし,その3カ月後,左眼眼圧が45mmHgへ再上昇したため,左眼に濾過胞再建術を施行し,現在まで両眼圧とも良好に経過している(図2).II考按本症例は乾癬に伴うぶどう膜炎に続発した緑内障で,左眼の眼圧コントロールが不良であったため,左眼MMC併用LECを行うも術後持続的な低眼圧に陥った.さらに,経過中に僚眼であった右眼の眼圧上昇もきたしたため,右眼360°S-LOT変法を施行し,眼圧は下降した.一方,左眼は強膜弁閉鎖後に再度眼圧上昇がみられたため,左眼240°LOTを施行したが3カ月後に眼圧が上昇し,最終的に濾過胞再建術を施行して眼圧が落ち着いた.本症例にみられた経過について考えてみたとき,①なぜ,左眼はMMC併用LEC後に前房が消失したのか?②なぜ,右眼は360°S-LOT変法により良好な術後経過が得られたのか?③なぜ,左眼は240°LOT変法により一時的に眼圧は落ち着いたが,数カ月で再度眼圧上昇をきたしたのか?という疑問が生じる.①については,乾癬性ぶどう膜炎のような繰り返す前眼部発作に伴う続発緑内障は,房水産生機能の低下と流出路抵抗の上昇の両方を伴っていることがあり,非生理的な流出路を作るMMC併用LECはそのバランスを大きく崩す可能性がある.本症例において左眼MMC併用LEC後に前房消失をきたした際には,すでに度重なる発作のため房水産生機能が低下した状態で濾過したため,持続的な低眼圧が生じたと考(137)えられた.言い換えれば,術前に房水産生機能が低下していたにもかかわらず,それを上回る流出路抵抗の上昇があったため,結果的に眼圧上昇が引き起こされていたと推察される.②については,360°S-LOT変法は原発開放隅角緑内障(POAG)だけでなく,ぶどう膜炎を含む続発開放隅角緑内障(SOAG)にも有効とされる2).線維柱帯流出路の流出抵抗を改善するLOTはMMC併用LECと異なり生理的な流出路をそのまま使用するため,低眼圧を生じにくく,良好な結果が得られたのではないかと考えられた.③については,左眼の240°LOT後の再眼圧上昇は,右眼に比べて左眼の炎症が遷延していたため,炎症によって切開部の閉塞やSchlemm管以降の流出路抵抗が増大した可能性があると考えられた.左眼のLOTについては,LECにより線維柱帯を切除した箇所は通糸できないため,180°S-LOT変法と金属ロトームによる60°の切開により,計240°の切開を行った.今回の眼圧下降効果が切開範囲の違いによるものなのかどうかは,今後症例を積み重ねての検討が必要であると考えられる.また,左眼の濾過胞再建術後に過濾過による浅前房をきたしていない点については,房水産生量が安定したことに加え,初回手術と異なり一度癒着した後の濾過胞であったため,濾過胞内に適度な肉芽腫や癒着などが存在し,結膜下での吸水あるいは排水能力に乏しいために,初回のMMC併用LEC時よりも房水産生と濾過量のバランスがとれているものと考えられた.眼圧は基本的に房水産生と房水流出のバランスによって決まる.眼内にぶどう膜炎などの炎症が生じると,たとえ毛様体の房水産生が低下しても房水流出抵抗が上昇して房水流出が減少すると考えられる.したがって,眼内の炎症による房水産生低下が房水流出減少を上回れば,結果的に眼圧は下降するし,房水流出減少が房水産生低下を上回れば眼圧は上昇すると考えられる.実際,過去の報告でも炎症により眼圧は上昇することも下降することもあると報告されている3,4).Kaburakiらの報告によれば,POAGとSOAGに対するMMC併用LECの成績を比較したところ,成功率は変わらなかったが,晩期合併症として持続的な低眼圧が指摘されている5).乾癬に伴うぶどう膜炎のような炎症が持続することによる続発緑内障では,房水産生能が著しく低下していることがあり,濾過手術時には注意が必要であると考えられた.一方,本症例が示すように,生理的な流出路を使うLOTは,房水産生機能が著しく低下している場合でも術後浅前房をきたすことがないという点においては安全である.しかし,術後予後に関してはMMC併用LECの予後と同様に,術後炎症のコントロールが重要と考えられる5).さらに,ぶどう膜炎の症例におけるLOTの線維柱帯の切開範囲と眼圧下降効果については,さらなる症例の積み重ねと長期的な経過観察あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151203 が必要であると考えられた.原疾患である尋常性乾癬については,ステロイドの使用や漸減・中止により膿疱性乾癬へ移行する場合があり,実は皮膚科分野ではステロイド使用は禁忌である6).しかし,本症例の場合,当院受診時にはすでにPSLを内服しており,炎症の再燃などのリスクがあるため,ステロイド内服を継続せざるをえなかった.また,シクロスポリンやステロイドの使用がすでに長期間に及んでおり,腎機能障害や骨粗鬆症など全身的な合併症もあるため,今後はインフリキシマブなどの生物製剤による治療も検討していく必要があると思われた7).利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)奥貫陽子,毛塚剛司,臼井嘉彦ほか:乾癬に伴うぶどう膜炎の検討.臨眼62:897-901,20082)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodified360-degreesuturetrabeculotomytechniqueinprimaryandsecondaryopen-angleglaucoma:Apilotstudy.JGlaucoma21:401-407,20123)沖坂重邦,猪俣孟:毛様体の炎症反応の多様性─臨床と基礎の融合─.日眼会誌108:717-749,20044)田内芳仁,板東康晴,小木曽正博:Behcet病患者の眼発作時における血液房水関門障害と眼圧変動.臨眼47:373376,19935)KaburakiT,KoshinoT,KawashimaHetal:InitialtrabeculectomywithmitomycinCineyeswithuveiticglaucomawithinactiveuveitis.Eye23:1509-1517,20096)難病情報センター:膿胞性乾癬診療ガイドラインTNF-a阻害薬を組み入れた治療指針20107)渡邉裕子,蒲原毅,佐野沙織ほか:インフリキシマブが有効であった乾癬性ぶどう膜炎の1例と乾癬性ぶどう膜炎の当科4症例および本邦報告例のまとめ.日皮会誌122:2321-2327,2012***1204あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(138)

点眼補助具使用の有無による1日当り平均点眼使用量の差の検討

2015年8月31日 月曜日

《第25回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科32(8):1197.1200,2015c点眼補助具使用の有無による1日当り平均点眼使用量の差の検討森千浩*1,2池田陽子*1,2森和彦*1中野恵美*2津崎さつき*2上野盛夫*1丸山悠子*1吉川晴菜*1今井浩二郎*1木下茂*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2御池眼科池田クリニックEvaluationoftheOne-Day-AmountChangeofEyeDropswithorwithouttheAssistanceoftheXal-EaseROcularHypotensiveDeliveryDeviceinGlaucomaPatientsYukihiroMori1),YokoIkeda1,2),KazuhikoMori1),YoshimiNakano2),SatsukiTsuzaki2),MorioUeno1)Maruyama1),HarunaYoshikawa1),KojiroImai1)andShigeruKinoshita1),Yuko1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)Oike-IkedaEyeClinic目的:緑内障患者が点眼補助具Xall-Ease(ザライーズ)を使用することで,点眼ミスの減少により1日当たりの平均点眼使用量が減少するか否かを検討する.対象および方法:対象は2012年6月.2014年4月に御池眼科池田クリニックおよび京都府立医科大学附属病院に通院中の緑内障患者のうち,ラタノプロスト点眼液またはラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液を単剤使用中の98例のなかから,点眼困難を訴えた,または点眼困難の訴えはないがXall-Ease使用を希望した62例(男女比10:52,平均年齢70.6±10.8歳).対象患者をランダムにXall-Ease先行群と後行群に分類した.1カ月ごとにXall-Ease使用あり,なしで点眼をしてもらい,それぞれ約1カ月後の受診時にボトルを回収し,使用前後の点眼ボトルの重さの差と使用日数から1日当たりの平均点眼使用量を算出した.先行群,後行群それぞれでXall-Ease使用前後での1日当たり平均点眼使用量についてWilcoxon符号順位和検定を用いて検定した.また先行,後行群ともに研究開始前,1カ月,2カ月の眼圧をアプラネーションで測定し,Xall-Ease使用のあり,なしにおける眼圧値を比較した.両眼が対象となる場合は利き腕側の片眼データを選択し,統計学的検討はMann-WhitneyU検定,Wilcoxon符号検定,c2検定を行った.結果:Xal-Easeの使用により1日当たりの平均点眼使用量が減少するわけではなく,眼圧にも影響はみられなかった.Inthisstudy,weevaluatedthe1-day-amount(1DA)changeofeyedropswithorwithouttheassistanceoftheXal-EaseR(XE)(Pfizer,NewYork,NY)eye-dropdeliverydeviceinglaucomapatients.Thisstudyinvolved62glaucomapatientswhousedlatanoprostoritsfixedcombinationeyedrops,andwhofeltthattheireye-dropadministrationproceduresweredifficultandagreedtousetheXEdevice.Thepatientswererandomlydividedintooneofthefollowingtwogroups:Group1:XEusedforthefirstmonthandnotusedforthesecondmonth,andGroup2:XEusagethereverseofGroup1.Eye-dropbottleweightsweremeasuredattheendofeachmonth.The1DAfromthechangeofbottleweightwasthencalculated.Afterexcludingdrop-outpatients,18patientsofGroup1and22patientsofGroup2(42patients)werefurtheranalyzedandthe1DAinbothgroupswerecompared.Thefindingsofthisstudyshowedsignificantdifferenceinthe1DAofEDwithorwithoutXE.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1197.1200,2015〕Keywords:緑内障,ザライーズ,ラタノプロスト,点眼液.glaucoma,Xal-Ease,latanoprost,eyedrops.はじめにとして,薬物療法(点眼)が広く用いられている.しかし,緑内障において視野障害進行予防のため唯一エビデンスの緑内障点眼治療は長期に及び,また点眼が適正に行えなけれある治療法は眼圧下降療法1,2)であり,その主たる治療手段ば期待される眼圧下降効果が得られないばかりか,不要な副〔別刷請求先〕森和彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:KazuhikoMori,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,KawaramachiHirokoji,Kamigyoku,Kyoto602-0841,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(131)1197 図1Xal.EaseR本体作用3,4)を招く恐れがある.また,本来必要とされる滴下数以上に点眼薬を用いれば経済的な負担も問題となる.点眼薬を適正に眼の中に入れることは健常者であってもそれほど容易ではない.視機能が悪い場合,あるいは高齢者であったり,疾患により手の動きが不自由であったりした場合はなおさら困難5.7)になる.にもかかわらずその点眼困難な患者の存在割合,ならびに点眼補助具の有用性についての検討は十分なされていない.そこで筆者らが着目したのがXal-Ease(ザライーズ,図1)である.Xal-EaseRはラタノプロスト点眼薬の点眼補助具として開発され8,9),希望者および適応者に非売品として企業より無償で提供されている.今回はこのXal-EaseRを緑内障患者が使用することで点眼ミスの減少により1日当たりの平均点眼使用量が減少するか否かを検討した.I対象および方法対象は2012年6月.2014年4月に御池眼科池田クリニックおよび京都府立医科大学附属病院に通院中の緑内障患者のうち,ラタノプロスト点眼液またはラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液を単剤使用中の98例のなかから,点眼困難を訴えた,または点眼困難の訴えはないがXal-EaseR使用を希望した患者全62例である.男女比は10:52,平均年齢は70.6±10.8歳であった.今回の研究を実施する前段階として,ラタノプロスト点眼液またはラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液を単剤使用している患者に,日々の点眼で困難を感じているかどうかアンケートにて回答してもらった.このうち困難と感じている患者,または困難と感じていないがXal-EaseRを使用してみてもよいと回答した患者に本研究の趣旨を説明し,書面による承諾を得た患者について,今回の研究を行った.対象患者をランダムにXal-EaseR先行群と後行群に分類し,またXal-EaseRの使用法は実際にそれを用いて説明した.1カ月1198あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015ごとにXal-EaseR使用あり,なしで点眼をしてもらい,それぞれ約1カ月後の受診時にボトルを回収し,使用前後の点眼ボトルの重さの差と使用日数から1日当たりの平均点眼使用量を算出した.先行群,後行群それぞれでXal-EaseR使用前後での1日当たり平均点眼使用量についてWilcoxon符号順位和検定を用いて検定した.先行群,後行群ともに研究開始前,1カ月,2カ月においての眼圧をアプラネーションで測定し,使用のあり,なしにおける眼圧値を比較した.両眼が対象となる場合は利き腕側の片眼データを選択した.両眼使用の場合は点眼使用量を二分して片眼の使用量として解析した.統計学的検討はMann-WhitneyU検定,Wilcoxon符号検定,c2検定を行った.II結果点眼困難に関するアンケートを行った98例(図2)では,困難と感じている患者は全体の29%で,点眼を困難と感じる割合は50歳代以下でも50歳代以上でもおよそ28%と同等であった.ドロップアウト症例を除いた解析対象は40例40眼(男女比8:32,平均年齢70.6±10.4歳),先行群18例18眼,後行群22例22眼であった(表1).先行群と後行群において男女比(c2検定),年齢(Mann-WhitneyU検定)ともに有意差はなかった.次に各群の1日点眼使用量を検討したが,先行群(Xal-EaseRあり36.7±11.1,なし46.9±32.5μl),後行群(Xal-EaseRなし33.1±13.1,あり48.9±35.0μl)もXal-EaseR使用前後で有意差はなかった(Wilcoxon符号検定,図3).また,Xal-EaseR使用により1日の点眼量が15μL以上増えた症例8例(男女比2:6,平均年齢74.4±9.1歳)は,Xal-EaseR使用の有無で差がない症例31例(男女比6:25,平均年齢68.0±10.7歳)と比較して有意に高齢であった(Mann-WhitneyU検定,p<0.05,表2).先行群でのXal-EaseR使用前,使用あり,使用なしでの眼圧は,12.5±2.5,11.8±2.6,11.8±2.3mmHgで,後行群でのXal-EaseR使用前,使用なし,使用ありでの眼圧は10.5±2.9,10.2±2.1,10.3±2.5mmHgであった.先行群も後行群もXal-EaseR使用前後で眼圧経過に有意差はなかった(Wilcoxon符号検定,図4).研究終了後,Xal-EaseRの使用感についてアンケートを行ったが,Xal-EaseRを使用してみて良かった,今後も使用したいと答えた患者は全体の11例(27%)であった.使用しないほうが良いと答えた患者は全体の22例(55%)であった.また,変わらなかったと答えた患者は6例(15%)であった(図5).III考按今回の研究において50歳代未満と60歳以上に分けた場合,点眼困難を感じる割合は同等の28%であったことから,年齢に関係なく困難と感じる割合が一定に存在することが明(132) %10010028例29%70例71%8060■点眼困難と感じている40■点眼困難と感じていない20020~50歳代60~80歳代A:点眼困難者の割合B:年代別点眼困難者の割合図2点眼困難者の割合若い世代と高齢の世代で点眼困難を感じる割合は28%と同等であった.200.0180.0μlXal-Ease使用先行群μlXal-Ease使用後行群160.0100100140.040.0202020.00.0000.050.0100.0150.0200.0XE使用ありXE使用なしXE使用なしXE使用ありXE使用なしA:Xal-Ease使用者の1日点眼使用量B:各群の1日使用量図3Xal.Ease使用先行群と後行群の1日使用量先行群および後行群においてXal-Ease使用前後で1日の点眼使用量に有意差を認めなかった(Wilcoxon符号検定).表1解析対象症例の背景表2Xal.Ease使用によって1日点眼量が増減した症例80XE使用有120.0100.080.060.06040n男女比平均年齢(歳)点眼使用歴(月)先行群186/1267.7±11.56.3±6.6後行群222/2073.0±9.13.6±7.9先行群と後行群において男女比(c2検定),年齢(Mann-WhitneyU検定)に有意差は認めなかった.らかになった.ラタノプロストをはじめとするプロスタグラn年齢(歳)男女比XE使用の有無で差なし(1日±15μl以内)3168.0±10.76:25XE使用で1日使用量増加(1日15μl以上)874.4±9.12:6XE使用で1日使用量減少(1日15μl以上)1620:1ンジン系の緑内障点眼薬は,点眼液により眼瞼周辺の色素沈着を発現することが報告10)されている.点眼容器から滴下される1滴量は,結膜.に保持可能な容量である30μl程度11)だが,今回の1日の点眼使用量は平均33.1.48.9μlであり,患者は1回1滴で点眼を行えていない可能性が示唆された.Xal-EaseRを使用することにより1日の使用量が15μl以上増えた症例は,使用量の変化がない症例(±15μl以内)と比較して有意に高齢であった.Xal-EaseRを用いても,設定どおり1滴だけ滴下することが高齢者ではむずかしい可能性が示唆された.Xal-Ease使用により1日の点眼量が15μl以上増えた症例はXal-Ease使用の有無で差がない症例と比較して有意に高齢であった(Mann-WhitneyU検定,p<0.05)今回の結果から,点眼補助具は必ずしも1日の点眼量を節約できるものではなく,眼圧にも影響を与えるものではないことが判明した.筆者らの研究ではXal-EaseR使用対象を点眼困難者のみに限っておらず,そのために使用しないほうが良いと回答した割合が高くなったと考えられる.しかしながら,それでも3割近くの患者が点眼補助具を使用して良かったと感じており,引き続いての使用を希望した.これらの(133)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151199 Xal-Ease使用先行群Xal-Ease使用後行群1616141410.610.310.91212眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)12.211.811.8220XE使用前XE使用ありXE使用なしXE使用前XE使用ありXE使用なし0図4Xal.Ease使用先行群と後行群のXal.Ease使用有/無による眼圧変動経過先行群も後行群もXal-Ease使用前後で1日の点眼使用量に有意差は認めなかった(Wilcoxon符号検定).1例3%6例15%利益相反:利益相反公表基準に該当なし101088664411例27%22例55%■良かった文献■悪かった■変わらない1)HeijlA,LeskeMC,BengtssonB,etal:Reductionof■無回答図5Xal.Easeの使用感アンケートXal-Easeを使用して良かった症例は使用しないほうが良かった症例より多かった.患者においてはXal-EaseRが日々の点眼の助けとなり,点眼アドヒアランスを高める一助になっていると考えられた.今回結果としては提出していないが,今後Xal-EaseRを使用したいと答えた患者と,使用しないほうがいい,あるいは使用してもしなくても同じであったと答えた患者を二群に分けて,Xal-EaseRを使用した場合と使用しなかった日の点眼使用量および眼圧を検定したが,どの項目も2群間で有意差を認めなかった(Mann-WhitneyU検定).また,今後XalEaseRを使用したいと答えた患者のうち,そして使用しないほうがいいと答えたか使用してもしなくても同じであったという患者のなかでそれぞれXal-EaseRを使用した日と使用しなかった日の点眼使用量および眼圧の検定を行ったが,すべて有意差は認めなかった(Wilcoxon符号検定,対応のあるt検定).Xal-EaseRを使用したほうが良いと答えた患者の1日の点眼使用量が減少したり,平均眼圧が低いという傾向は認めなかった.現在はこのXal-EaseR以外に他の企業からも点眼補助具が供与または販売されている.患者から点眼困難の要望や訴えがあった場合はXal-EaseRを含め,情報提供できることが望ましい.intraocularpressureandglaucomaprogression:resultsfromtheEarlyManifestGlaucomaTrial.ArchOphthalmol120:1268-1279,20022)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19983)JohnstoneMA:Hypertrichosisandincreasedpigmentationofeyelashesandadjacenthairintheregionoftheipsilateraleyelidsofpatientstreatedwithunilateraltopicallatanoprost.AmJOphthalmol124:544-547,19974)SchloteT:Side-effectsandriskprofileoflatanoprost0.005%(Xalatan).Ophthalmologe99:724-729,20025)大味和恵,黒田正子,竹内美陽ほか:老年性白内障患者の点眼指導後の自立に影響を及ぼす要因.日本看護学会論文集成人看護II33:159-161,20036)宮田美智子,稲田初穂,川口美香ほか:老人の自己点眼の優劣に関する因子の検討.日本看護学会集録老人看護26:40-43,19957)相良有美,福永智美,有賀真紀子:自己点眼の技術習得に関する患者の因子.日本看護学会集録看護総合23:201204,19928)NordmannJP,BaudouinC,BronAetal:Xal-Ease:impactofanocularhypotensivedeliverydeviceoneaseofeyedropadministration,patientcompliance,andsatisfaction.EurJOphthalmol19:949-956,20099)SemesL,ShaikhAS:EvaluationoftheXal-Easelatanoprostdeliverysystem.Optometry78:30-33,200710)GriersonI,JonssonM,CracknellK:Latanoprostandpigmentation.JpnJOphthalmol48:602-612,200411)大橋祐一:点眼薬の眼組織内移行およびドラッグデリバリーシステム.点眼薬―常識と非常識―,眼科NewInsight第2巻,p27-28,メジカルビュー社,19961200あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(134)

健常人を対象とした1%ブリンゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸配合点眼液と1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸配合点眼液の眼圧下降効果および点眼使用感に関する二重盲検比較試験

2015年8月31日 月曜日

《第25回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科32(8):1191.1195,2015c健常人を対象とした1%ブリンゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸配合点眼液と1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸配合点眼液の眼圧下降効果および点眼使用感に関する二重盲検比較試験木村聡木村亘木村眼科内科病院EfficacyandImpressionofBrinzolamide1%/Timolol0.5%FixedCombinationVersusDorzolamide1%/Timolol0.5%inHealthyVolunteers:ARandomized,Double-BlindComparativeStudySatoshiKimuraandWataruKimuraKimuraEye&Int.Med.Hospital目的:ブリンゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸配合点眼液(以下,アゾルガR点眼液)の眼圧下降効果および点眼使用感をドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸配合点眼液(以下,コソプトR点眼液)と比較検討する.対象および方法:健常人45例45眼を対象とした前向き無作為化二重盲検クロスオーバー比較試験.対象を2群に分け,眼圧測定後にアゾルガR点眼液またはコソプトR点眼液を片眼に二重盲検にて点眼し1時間後に眼圧測定,24時間以上間隔を空けて逆の点眼液を点眼した.試験終了後に使用感に関してのアンケート調査を行った.結果:眼圧下降量に関しては両群間に有意差は認められなかった.使用感に関してはアゾルガR点眼のほうが有意にかすみ感と苦味が強く,コソプトR点眼のほうが有意に刺激感が強かった.結論:アゾルガR点眼液とコソプトR点眼液の眼圧下降効果に差は認められなかった.アゾルガR点眼液は「かすみ感」「苦味」が強かった.コソプトR点眼液は「刺激感」が強かった.Background:Thepurposeofthisstudywastocomparetheintraocularpressure(IOP)loweringefficacyandoculardiscomfortof2fixedcombinationeyedrops,brinzolamide1%/timolol0.5%ophthalmicsolution(Brinz/Tim)anddorzolamide1%/timolol0.5%ophthalmicsolution(Dorz/Tim).Subjectsandmethods:Thisstudyinvolvedhealthyvolunteersubjectswhowererandomlydividedinto2groups.EachgroupinstilledBrinz/TimorDorz/Timinadouble-blindmanneraftertheirIOPwasmeasured,and1-hourlatertheirIOPwasmeasuredagain.Onanotherday,wemeasuredeachsubject’sIOPusingthefirst-dayprotocol,yetwiththesolutioninstillationineachgroupbeingreversed.Finally,eachsubjectwasaskedtocompleteaquestionnairesurveytoconfirmwhetherornottheyhadexperiencedanyspecificsideeffects,andanumericalcomparisonbetweenthetwotypesofinstillationswasthenmade.Results/Conclusion:NosignificantdifferenceintheamountofIOP-loweringeffectwasfoundbetweenBrinz/TimandDorz/Tim.Asforthesideeffects,Brin/Timwasfoundtocausemore“blurredvision”and“bittertaste”,whileDorz/Timwasfoundtocauseincreased“eyeirritation”.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1191.1195,2015〕Keywords:緑内障,ブリンゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸配合点眼液,ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸配合点眼液,点眼使用感,アンケート調査.glaucoma,brinzolamide/timololophthalmicsolution,dorzolamide/timololophthalmicsolution,oculardiscomfort,questionarysurvey.〔別刷請求先〕木村聡:〒737-0046広島県呉市中通2丁目3-28木村眼科内科病院Reprintrequests:SatoshiKimura,KimuraEye&Int.Med.Hospital,2-3-38Nakadori,Kure-shi,Hiroshima737-0046,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(125)1191 はじめに緑内障はガイドラインによると「視神経と視野に特徴的変化を有し,通常眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の構造的異常を特徴とする疾患」と定義されている1).近年緑内障に対する治療法として神経保護・眼血流改善・遺伝子治療など新たなアプローチが着目されているが,現在確実な治療法は眼圧下降のみである.眼圧を下降させる方法として薬物治療が広く行われており,近年いくつかの緑内障配合点眼薬が開発された.配合薬点眼の利点として,①金銭的負担の軽減化・点眼液の容器の取り違え機会の減少といった患者負担の軽減化,②保存材として汎用されているベンザルコニウム塩化物の曝露量を減らすことによる眼表面障害リスクの軽減化,③点眼薬併用に伴う洗い流し效果の回避,④1日の点眼回数減少に伴う点眼コンプライアンスの向上,などがあげられ,配合点眼液は臨床的有用性が高いと考えられる.今回筆者らは健常人に対してb遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬の配合点眼薬である1%ブリンゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸配合点眼液(以下,アゾルガR点眼液)と1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸配合点眼液(以下,コソプトR点眼液)の眼圧下降量および点眼表1選択基準および除外基準1)選択基準①20歳以上の男性および女性②細隙灯顕微鏡検査にて前眼部疾患を認めない③眼底検査にて視神経乳頭陥凹拡大を認めない④過去1カ月以上市販薬も含めて点眼薬を使用していない⑤眼圧測定時に眼圧が21mmHg以下2)除外基準①眼科現病歴および手術歴がある②気管支喘息・慢性閉塞性肺疾患・心疾患などの全身疾患を有する③試験責任医師が本試験の対象として不適当と判断した者④眼圧測定時に眼圧が22mmHg以上使用感に関して無作為化二重盲検平行群間比較試験を実施したのでその結果を報告する.I対象および方法1.対象対象は表1に示された選択基準を満たす健康ボランティア45名〔男性11名,女性34名,平均年齢36.1±11.2歳(平均偏差±標準偏差)〕である.なお,本研究は当院臨床倫理員会で承認された同意説明文を対象者に渡し,文章および口頭による十分な説明を行い,書面による同意を得て行われた.2.試験方法試験デザインの概略を図1に示す.本試験は無作為割付による実薬を対象とした二重盲検平行群間試験で,試験期間は2日間を設定.1日目に両眼の眼圧測定後,二重盲検下でアゾルガR点眼液もしくはコソプトR点眼液を同一の検査員が片眼に点眼(点眼時に涙.の圧迫は行わず),1時間後に眼圧を測定し終了.24時間以上間隔を空けた後に同様に眼圧を測定し1日目に使用していない点眼液を1日目と同じ眼に対して点眼.1時間後に眼圧測定および点眼使用感に関するアンケート調査を行った.対象眼は点眼開始前の眼圧の高いほうの眼(左右が同値の場合は右眼)とした.眼圧測定に関してはノンコンタクトトノメーター(NT530,NIDEK社,日本)を使用し両眼の眼圧を3回測定,平均値を眼圧値と設定した.3.評価方法点眼による眼圧下降の評価として,各点眼1時間後の眼圧変化量および1日目,2日目各点眼前のベースライン眼圧の比較を行った.点眼使用感に関する評価として,2日目眼圧測定終了後に刺激感・かすみ感・充血・苦味・良い印象の5項目を1日目の点眼と2日目の点眼を比較して図2に示す選択式アンケー片眼にコソプトR点眼液(orアゾルガR点眼液)点眼1時間後眼圧測定眼圧測定1日目と同一眼にアゾルガR点眼液(orコソプトR点眼液)点眼1時間後眼圧測定アンケート回答2日目眼圧測定1日目図1試験デザイン1192あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(126) 点眼の使用感に関してのアンケート調査①刺激感(最初のほうがかなり強い最初のほうが少し強い同程度後のほうが少し強い後のほうがかなり強い)②かすみ感(最初のほうがかなり霞む最初のほうが少し霞む同程度後のほうが少し霞む後のほうがかなり霞む)③充血(最初のほうがかなり赤い最初のほうが少し赤い同程度後のほうが少し赤い後のほうがかなり赤い)④苦味(最初のほうがかなり苦い最初のほうが少し苦い同程度後のほうが少し苦い後のほうがかなり苦い)⑤印象(最初のほうがかなり良い最初のほうが少し良い同程度後のほうが少し良い後のほうがかなり良い)図2点眼使用感調査(検査終了時に実施)トで回答してもらった.4.統計解析アゾルガR点眼液群とコソプトR点眼液群での眼圧下降量比較を対応のあるt検定で検討した.点眼使用感に関しては「同程度」の場合加算なし,1日目の点眼液が2日目の点眼液に比べて「少し強い」場合は1日目使用点眼液に対して1ポイントの加算,「少し弱い」場合は2日目の点眼液に対して1ポイントの加算を,同様に大変強い(弱い)場合は2ポイントの増減と設定して項目ごとに集計しMann-WhitneyU検定を行った.検定の有意水準は両側5%とし,区間推定の信頼係数は両側95%とした.II結果1.眼圧下降効果アゾルガR点眼群,コソプトR点眼群それぞれのベースラインからの眼圧変化量を図3に示す.アゾルガR点眼液による眼圧変化量(平均±標準偏差)は1.84±1.30mmHgであり,コソプトR点眼液による眼圧変化量は1.82±1.81mmHgで有意差を認めなかった(p=0.94pairedt-test).また,1日目の点眼前眼圧ベースラインはアゾルガR点眼群(n=22)が13.2±2.4mmHg,コソプトR点眼群(n=23)が14.2±2.8mmHgであり,2日目点眼開始前のベースライン眼圧はアゾルガR点眼群(n=23)が11.7±13.1mmHg,コソプトR点眼群(n=22)が12.8±2.6mmHgで1日目,2日目ともに眼圧ベースラインに有意差を認めなかった(p=0.30,0.12Mann-WhitneyU検定).2.アンケート調査(刺激感・かすみ感・充血・苦味・総合的な印象)各項目の人数分布を図4に示す.アゾルガR点眼液のほうが刺激感を感じたのは45人中11人(「少し」9人,「大変」2人),コソプトR点眼液のほうが刺激感を感じたのは45人2.001.95NS(p=0.94pairedt-test)1.901.841.851.821.801.751.70アゾルガRコソプトR図3ベースラインからの点眼毎の眼圧下降量(n=45前向き二重盲検比較試験)25454912581642427281416484614150%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%刺激かすみ感充血苦味印象■アゾルガが大変強い(良い)■アゾルガが少し強い(良い)差がない■コソプトが少し強い(良い)■コソプトが大変強い(良い)図4項目毎人数分布(n=45)中30人(「少し」16人,「大変」14人)であった.アゾルガR点眼のほうがかすみ感を感じたのが45人中17人(少し12人,大変5人),コソプトR点眼のほうがかすみ感を感じたのは4人(すべて「少し」で「大変」は0人)であった.アゾルガR点眼のほうが充血を感じたのが45人中9人(少し5人,大変4人),コソプトR点眼のほうが充血を感じた(127)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151193 1.2p<0.01■アゾルガ1.0刺激かすみ充血苦味印象■アゾルガ0.290.490.220.400.53■コソプト0.980.090.290.090.360.00.20.40.60.8■コソプトp<0.001NSNSp<0.05図5項目毎平均スコア(n=45)のは9人(「少し」8人,「大変」1人)であった.アゾルガR点眼のほうが苦味を感じたのが45人中13人(少し8人,大変5人),コソプトR点眼のほうが苦味を感じたのは4人(すべて「少し」で「大変」は0人)であった.アゾルガR点眼のほうに良い印象を感じたのが45人中20人(少し16人,大変4人),コソプトR点眼のほうに良い印象を感じたのは11人(「少し」6人,「大変」5人)であった.「少し」を1点,「大変」を2点と設定した場合の各項目スコア分布を図5に示す.刺激感のスコア(平均±標準偏差)はアゾルガR点眼液が0.29±0.55点,コソプトR点眼が0.98±0.81点で,コソプトR点眼液はアゾルガR点眼液よりも有意に高かった(p<0.01).かすみ感のスコアはアゾルガR点眼液が0.49±0.69点,コソプトR点眼液が0.09±0.29点で,アゾルガR点眼液がコソプトR点眼液よりも有意に高かった(p<0.001).充血のスコアはアゾルガR点眼液が0.22±0.47点,コソプトR点眼液が0.29±0.62点で,統計学的な有意差は認められなかった(p=0.87).苦味のスコアはアゾルガR点眼液が0.4±0.69点,コソプトR点眼液が0.09±0.29点で,アゾルガR点眼液がコソプトR点眼液よりも有意に高かった(p=0.01).良い印象のスコアはアゾルガR点眼液が0.53±0.66点,コソプトR点眼液は0.36±0.68点で,統計学的な有意差は認められなかった(p=0.09).III考察今回,日本人の健常者を対象としてブリンゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸配合点眼液(以下,アゾルガR点眼液)とドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸配合点眼液(以下,コソプトR点眼液)の眼圧下降効果と点眼使用感を比較した.現在発売されているb遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬の配合薬点眼はアゾルガR点眼液とコソプトR点眼液の2種類である.ただしコソプトR点眼液に関しては,日本で使用されている点眼液と海外で使用されている点眼液では含有されて1194あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015いるドルゾラミド点眼液の濃度が異なっており,日本では1%なのに対して海外では2%となっている.この2%ドルゾラミドを含んだコソプトR点眼液とアゾルガR点眼液の眼圧下降効果および点眼使用感に関しては海外での報告がある.眼圧下降効果に関しては海外の文献でもアゾルガR点眼液とコソプトR点眼液との間に有意差は認められていない1.3).本研究でも有意差は認められなかった.点眼使用感に関して眼の不快感の平均スコア比較をVoldは平行群間試験で,Mundortは交叉試験でそれぞれ行いともに有意差を認めた4,5).GrahamはコソプトR点眼液からアゾルガR点眼液への切り替えを行い点眼ごとに刺激感・かすみ感・充血・苦味の各項目を検討した結果,刺激感はコソプトR点眼液のほうが有意に強く,かすみ感に関してはアゾルガR点眼液のほうが有意に強かったと報告している6).これらの報告のスコアの基準や含有ドルゾラミドの濃度が異なるため本研究と海外の報告を単純に比較することはできないが,「コソプトR点眼液のほうが刺激感が強い」「アゾルガR点眼液のほうがかすみ感が強い」傾向はあると思われる.点眼による刺激感に関して,本研究ではコソプトR点眼液のほうが有意に高いスコアを示した.添付文書によるとコソプトR点眼液のpHは5.5.5.8であるのに対してアゾルガR点眼液のpHは6.7.7.7となっている.以上より,点眼による刺激感には点眼液のpHの差が関係していると考えられる.本研究の結果もpHが中性に近いアゾルガR点眼液のほうがより刺激が少なく感じられた結果と考えられる.点眼後の霧視・かすみ感に関してはアゾルガR点眼液のほうが有意に高いスコアを示した.アゾルガR点眼液中に含有されている1%ブリンゾラミドは白色の懸濁液であり,コソプトR点眼液中に含有されている1%ドルゾラミドは無色の水溶液である.このため点眼液の性状の差により霧視・かすみ感を感じたと考えられる.ドルゾラミドも無色水溶液であるが粘稠であるため霧視感が出現し,コソプトR点眼液の副作用として霧視・かすみ感の報告されることや,ブリンゾラミド点眼液とドルゾラミド点眼液のそれぞれでの霧視感の有無を検討した結果,統計学的に有意差がない報告も出ている.しかし,本研究でアゾルガR点眼が有意に高いスコアが示したのは,アゾルガR点眼液とコソプトR点眼液のかすみ感を直接比較したためと考えられる.点眼時の苦味に関してはアゾルガR点眼のほうが有意に高いスコアを示した.添付文章によると,国内第II相試験においてブリンゾラミドの眼局所以外の副作用として味覚異常(苦味・味覚倒錯など)が7.9%に認められている.ドルゾラミドでも副作用として苦味の報告はあるが,その頻度は0.1%未満となっている.そのためブリンゾラミドを含有しているアゾルガR点眼液がドルゾラミドを含有しているコソプトR点眼液よりも苦味を感じる可能性は高いと考えられる.(128) 本研究では対象中に正常眼圧緑内障が入っている可能性はあるが,正常人と無加療の正常眼圧緑内障眼とでは点眼使用感に差はほとんどないと思われる.次に眼圧下降効果に関しては通常眼圧下降の評価は点眼2時間後から行っているが,本研究では点眼1時間後の測定値を使用している.そのために眼圧下降効果に関しては誤差が生じている可能性も考えられる.次に点眼使用感としての苦味に関しては点眼液が鼻涙管を通じて口腔内に入るためと考えられる.本研究では涙.圧迫は行わなかったが,行った場合は有意差はつかない可能性も考えられる.最後に臨床的にはコソプトR点眼液,アゾルガR点眼液はともに2剤目,3剤目として使用されることが一般的である.つまり臨床的には緑内障点眼薬を1剤以上使用している状況下でコソプトR点眼液あるいはアゾルガR点眼液を開始することになるが,本研究では対象を「過去1カ月以上市販薬も含めて点眼薬を使用していない」と規定しており,臨床的な使用状況とは異なる状態での点眼使用感を確認したこととなる.このため本研究での結果と臨床的な評価は異なる可能性はある.しかし,純粋なコソプトR点眼液とアゾルガR点眼液のみの評価も個々人に合わせた緑内障点眼治療を行う際に必要と考える.今回,健常人においてコソプトR点眼液はアゾルガR点眼より刺激性が強く,アゾルガR点眼液はコソプトR点眼液よりもかすみ感・苦味が強い,という結果となった.コソプトR点眼液とアゾルガR点眼液の選択を行う際にこれらの要素が点眼コンプライアンスに与える影響も考慮する必要があると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20062)AlezzandriniA,HubatschD,AlfaroRetal:Efficacyandtolerabilityoffixed-combinationbrinzolamide/timololinlatinamericanpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertensionpreviouslyonbrimonidine/timololfixedcombination.AdvTher31:975-985,20143)SezginAkcayB.,GuneyE,BozukurtKTetal:Thesafetyandefficacyofbrinzolamide1%/timolol0.5%fixedcombinationversusdorzolamide2%/timolol0.5%inpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.JOculPharmacolTher29:882-886,20134)VoldSD,EvansRM,StewartRHetal:Aone-weekcomfortstudyofBID-dosedbrinzolamide1%/timolol0.5%ophthalmicsuspensionfixedcombinationcomparedtoBID-doseddorzolamide2%/timolol0.5%ophthalmicsolutioninpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.JOculPharmacolTher24:601-605,20085)MundorfTK,RauchmanSH,WilliamsRDetal:ApatientpreferencecomparisonofAzargaTM(brinzolamide/timololfixedcombination)vsCosoptR(dorzolamide/timololfixedcombination)inpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol2:623-628,20086)AugerGA,RaynorM,LongstaffS:PatientperspectiveswhenswitchingfromCosoptR(dorzolamide-timolol)toAzargaTM(brinzolamide-timolol)forglaucomarequiringmultipledrugtherapy.ClinOphthalmol6:2059-2062,2012***(129)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151195

アーメド緑内障インプラントによるチューブシャント手術の中期成績

2015年8月31日 月曜日

《第25回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科32(8):1187.1190,2015cアーメド緑内障インプラントによるチューブシャント手術の中期成績植木麻理*1小嶌祥太*1三木美智子*1河本良輔*1柴田真帆*2徳岡覚*3杉山哲也*4池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2市立ひらかた病院眼科*3北摂総合病院眼科*4中野眼科医院Intermediate-TermOutcomesofTube-ShuntSurgerieswiththeAhmedGlaucomaValveMariUeki1),ShotaKojima1),MichikoMiki1),RyosukeKoumoto1),MahoShibata2),SatoruTokuoka3)Sugiyama4)andTsunehikoIkeda1),Tetsuya1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)DepartmentofOphthalmology,HirakataCityHospital,3)ofOphthalmology,HokusetsuGeneralHospital,4)NakanoEyeClinicDepartment目的:Ahmedglaucomavalveチューブシャント手術(AGV手術)の中期成績を報告する.方法:大阪医科大学においてAGV手術を施行し,3年以上経過観察ができた12例13眼の眼圧と角膜内皮細胞数(ECD)を検討した.前房挿入型(AC型)3眼,経毛様体扁平部挿入型(PP型)10眼.内眼手術既往は平均2.6回.経過観察期間は平均40.3カ月.手術成功は眼圧が5mmHg以上,21mmHg以下,光覚があるものとした.結果:平均眼圧は術前33.9mmHg,術3年後13.5mmHg,術後3年で光覚なしが2眼,5mmHg未満が1眼あり,手術成功率は76.9%であった.合併症は2眼でAGVの露出,2眼で水疱性角膜症があった.ECDはPP群では有意な減少なく,AC群では50%以下に減少した.結論:AGV手術は複数回内眼手術後眼や硝子体術後眼における中期的な眼圧コントロールに関して有効であった.Purpose:Toreporttheintermediate-termoutcomesoftube-shuntsurgerieswiththeAhmedglaucomavalve(AGV).Methods:Thisstudyinvolved13eyesof12caseswhichunderwentAGVimplantationatOsakaMedicalCollege,andintraocularpressure(IOP)andendothelialcelldensity(ECD)wereanalyzedduringthepostoperativefollowed-upperiodofmorethan3years.Anterior-chambertype(ACtype)surgerywasperformedon3eyesandthepars-planatype(PPtype)surgerywasperformedon10eyes.Themeannumberofpreviousintraocularoperationswas2.6,andthemeanfollow-upperiodwas40.3months.SuccesscriteriaweredefinedasvisionofmorethanlightperceptionandIOPbetween5and21mmHg.Results:MeanpreoperativeIOPwas33.9mmHg,andmeanpostoperativeIOPwas13.5mmHgat3yearsaftersurgery.At3-yearspostoperative,2eyeslostlightperceptionandIOPbecamelessthan5mmHgin1eye,andthesuccessratewas76.9%.ComplicationsincludedAGVexposurein2eyesandbullouskeratopathyin2eyes.Postoperatively,ECDwasnotsignificantlychangedinthePPtypeeyes,butwasreducedtolessthan50%intheACtypeeyes.Conclusions:AGVimplantationwasfoundtobeeffectiveforIOPcontrolincaseswithseveralpreviousintraocularoperationsoraftervitrectomy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1187.1190,2015〕Keywords:アーメド緑内障バルブ,中期成績,眼圧,角膜内皮細胞数.ahmedglaucomavalve,intermediateoutcome,IOP,endothelialcelldensity.はじめにプレートを有する緑内障ドレナージデバイス(glaucomadrainagedevices:GDD)によるチューブシャント手術は結膜瘢痕を有する難治緑内障においても有効であり,米国で行われたバルベルト緑内障インプラント(Baerveldtglaucomaimplant:BGI)によるチューブシャント手術と線維柱帯切除術の多施設前向き比較試験においてチューブシャント手術のほうが低い不成功率であったと報告された1).わが国でも2012年BGIによるチューブシャント手術が認可され,プレートを有するGDDによるチューブシャント手術が施行でき〔別刷請求先〕植木麻理:〒569-8686大阪府高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:MariUeki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-choTakatsuki,Osaka569-8686,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(121)1187 表1対象の背景前房挿入(AC)群経毛様体扁平部挿入(PP)群症例数2例3眼10例10眼病型POAG2眼ぶどう膜炎のSGL1眼NVG6眼POAG3眼落屑症候群1眼術前眼圧30.0±4.0(24.36)35.8±9.2(23.52)内眼手術既往2.6±1.2回(1.3回)3.2±1.4回(1.5回)緑内障手術既往1.3±1.2回(0.2回)1.3±1.4回(0.4回)硝子体の有無有硝子体眼3眼無硝子体眼8眼有硝子体眼2眼POAG:原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma)SGL:続発緑内障(secondaryglaucoma)NVG:血管新生緑内障(neovascularglaucoma)るようになったが,それに遅れること2年,アーメド緑内障バルブ(Ahmedglaucomavalve:AGV)が2014年3月末に認可された.AGVはBGIと異なり眼圧調節バルブが付いており,チューブの結紮をしないため術後の過度の一過性高眼圧が起こりにくく,術直後より眼圧下降が得られるという利点がある.また,BGIとAGVの比較試験では,AGVで術後眼圧はやや高いものの合併症は少ないとされている2,3).わが国においてAGVの多数例についての報告はほとんどない.筆者らは大阪医科大学倫理委員会の承認を得て2009年.2012年4月にAGVによるチューブシャント手術を施行した.今回,術後3年以上経過観察できた症例の手術成績を報告する.I対象および方法対象は2010年1月.2012年3月に大阪医科大学病院眼科にてAGVによるチューブシャント手術を施行した17例18眼中,死亡・受診中断を除外し,3年以上経過観察した12例13眼である.男性が8例9眼,女性は4例4眼,手術時年齢は38.85歳(63.3±14.8歳:平均±標準偏差).前房挿入(anteriorchamber:AC)群が2例3眼はアーメドFP-7を挿入した.原疾患は原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)1例2眼,ぶどう膜炎による続発緑内障(secondaryglaucoma:SG)1例1眼であった.経毛様体扁平部挿入(parsplana:PP)群は10例10眼で,parsplanaclipが設置されているアーメドPC-7を挿入した.内眼手術既往回数は3.2±1.4回(うち緑内障手術既往は1.3±1.4回),原因疾患はPOAGが3例3眼,血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)が6例6眼,落屑症候群によるSGが1例1眼であった(表1).NVGは6眼とも硝子体術後眼であったが,うち3眼は硝子体出血も合併しており,硝子体手術との同時手術を行った.落屑症候群の1眼は1188あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015眼内レンズ脱臼を合併しており,硝子体手術を施行し,眼内レンズの摘出および縫着も併用した.POAGのうち2眼は過去に硝子体手術の既往があり,1眼のみチューブシャント手術のため硝子体手術を施行した.経過観察期間は36.55カ月(40.3±6.3カ月),術前後の眼圧,測定が可能であった症例では角膜内皮細胞数の変化について検討した.角膜内皮細胞数はコーナン社製ノンコンロボを用いて角膜中央部を計測した.手術成功の定義は眼圧が5mmHg以上,21mmHg以下かつ光覚があり,緑内障手術の追加がないこととした.数値は平均値±標準偏差で記載し,統計学的検討はonewayANOVA,Mann-WhitneyのU検定を用いた.II結果全例の眼圧推移は図1に示す.平均眼圧は術前34.6±8.6mmHg,6カ月後13.8±4.7mmHg,1年後13.0±4.4mmHg,2年後13.6±3.2mmHg,3年後13.5±5.4mmHgと経過観察中に継続した有意な眼圧下降が得られており,どのポイントにおいてもAC群とPP群の眼圧に有意差はなかった(図1).手術の成功率は3年後,点眼なしで60%,緑内障点眼併用では76.9%であった.不成功となった3眼のうち2眼は増殖糖尿病網膜症の悪化により光覚が消失したものであり,2眼は5mmHg以下の低眼圧となったものであった(重複あり),高眼圧,再緑内障手術により不成功となったものはなかった.術前後に角膜内皮細胞数の測定が可能であったのはAC群3眼,PP群7群であり,PP群では術前2,094±771(cells/mm2)が3年後に1,899±596と有意な変化なかったが,AC群では術前1,668±136が半年後に997±359,3年後には650±139と半数以下に減少していた(図2).合併症はAC群の1眼で術後8カ月にGDD本体が露出,1眼で術3年後に角膜代償不全が起こった.PP群ではもと(122) (mmHg)全体(mmHg)群別全体(mmHg)群別(cells/mm2)504030******20****10050403020100n.s.n.s.n.s.n.s.n.s.n.s.01,0002,0003,0004,000†††n.s.n.s.n.s.術前0.511.523(年)図2角膜内皮細胞数の推移.:AC群(n=3),×:PP群(n=7),†:p<0.01(MannWhitneyのU検定).たと筆者らと同様の報告をしており8),わが国においてレーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症が海外と比較して多く,日本人では角膜内皮障害が起こる可能性が高いとの報告もあり9),日本人では角膜内皮細胞が脆弱であることも考えられた.一方,経毛様体扁平部に挿入するPP型はAC型での角膜障害や虹彩陥頓などの合併症を回避するために開発されたもので,ChiharaらもPP型での12カ月の内皮細胞減少率は10.2%と報告しており10),PP型はAC型よりも角膜内皮細胞障害防止には有効であると考えられる.しかし,PP型では硝子体腔に挿入するため硝子体切除が必要である.筆者らの症例ではチューブシャント手術のために硝子体手術を施行したものは角膜内皮細胞数がすでに1,000cells/mm2以下であった1眼のみであり,10眼中8眼はすでに硝子体術後眼,1眼は眼内レンズ脱臼のために硝子体手術の併用が必要な症例であった.今回,10眼中7眼で術前,術後の角膜内皮細胞数を観察できたが角膜内皮細胞数は3年で有意な減少はなく,3年という中期においても角膜内皮細胞数が維持されていた.硝子体術後眼や硝子体手術併用が必要な症例において3年間の眼圧には有意差なく,角膜内皮細胞数も維持されているためAC型よりもPP型を選択するほうがよいと思われた.IV結論AGVによるチューブシャント手術は複数回内眼手術後,硝子体術後眼において3年以上の中期成績は良好であった.AC型は角膜内皮細胞障害が起こる可能性が高く,可能であれば経毛様体扁平部より挿入するPP型が望ましいと思われる.術前0.511.523術前0.511.52(年)3(年)図1眼圧変化.:AC群(n=3),×:PP群(n=10),**:p<0.05(ANOVA),†:p<0.01(Mann-WhitneyのU検定).もと角膜内皮細胞数が500cells/mm2であった1眼で術直後より水疱性角膜症となり,術8カ月後に角膜内皮移植を行った.また,この症例では角膜内皮移植術後に強膜移植片の縫合部が離解し,parsplanaclipが露出,再縫合を必要とした.眼球運動障害や複視が出現した症例はなかった.III考按プレートを有するGDDによるチューブシャント手術は結膜瘢痕例に対して有効であるとされている1).今回,筆者らの症例は硝子体手術を含む内眼手術既往数が平均3.1回(1.5回),緑内障手術既往数が平均1.3回(1.3回)であったが,3年間で緑内障として再手術となった症例はなく,複数回内眼手術後の結膜瘢痕を有する症例においても眼圧コントロール率は点眼なしで60%,緑内障点眼併用では76.9%であった.また,内眼手術後の結膜瘢痕を有する眼は線維柱体切除術のリスクがあるが,とくに血管新生緑内障の硝子体術後眼,硝子体手術併用眼でリスクが高いことはよく知られている4,5).今回の検討では硝子体術後もしくは硝子体手術の併用が必要なPP群において3眼が増殖糖尿病網膜症の悪化による光覚消失および5mmHg未満の低眼圧で不成功となり,成功率は70%であったが,眼圧上昇による不成功はなく,眼圧コントロールには有効な術式であった.角膜内皮障害はチューブシャント手術において視機能低下をきたす重篤な合併症である.AC型の角膜障害の報告はTVTstudyにおいて早期合併症ではなかったものの,晩期合併症では5年後には16%に角膜代償不全・恒久的角膜浮腫が発症しており,経年的に増加する6).今回,筆者らの症例はAC型は3眼のみであるが角膜内皮細胞数が半数以下に減少していた.LeeらはAC型の内皮細胞数が12カ月で15.3%,24カ月で18.6%減少したと報告しており7),筆者らの症例はそれに比して非常に悪い.しかし,わが国でのAC型の報告で河原らは1年で約50%の内皮細胞数減少があっ(123)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151189 利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GeddeSJ,SchiffmanJC,FeuerWJetal:TreatmentoutcomesintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)studyafterfiveyearsoffollow-up.AmJOphthalmol153:789803,20122)BudenzDL,BartonK,GeddeSJetal:Five-yeartreatmentoutcomesintheAhmedBaerveldtcomparisonstudy.Ophthalmology122:308-316,20153)ChristakisPG,TsaiJC,KalenakJWetal:TheAhmedversusBaerveldtstudy:three-yeartreatmentoutcomes.Ophthalmology120:2232-2240,20134)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:TrabeculectomywithmitomycinCforneovascularglaucoma:prognosticfactorsforsurgicalfailure.AmJOphthalmol147:912-918,20095)KiuchiY,SugimotoR,NakaeKetal:TrabeculectomywithmitomycinCfortreatmentofneovascularglaucomaindiabeticpatients.Ophthalmologica220:383-388,20066)GeddeSJ,HerndonLW,BrandtJDetal:PostoperativecomplicationsintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)studyduringfiveyearsoffollow-up.AmJOphthalmol15:804-814,20127)LeeEK,YunYJ,LeeJEetal:ChangesincornealendothelialcellsafterAhmedglaucomavalveimplantation:2-yearfollow-up.AmJOphthalmol148:361-367,20098)河原純一,望月英毅,木内良明ほか:難治性緑内障に対するAhmedGlaucomaValveの手術成績.あたらしい眼科27:971-974,20109)AngLP,HigashiharaH,SotozonoCetal:Argonlaseriridotomy-inducedbullouskeratopathyagrowingprobleminJapan.BrJOphthalmol91:1613-1615,200710)ChiharaE,UmemotoM,TanitoM:PreservationofcornealendotheliumafterparsplanatubeinsertionoftheAhmedglaucomavalve.JpnJOphthalmol56:119-127,2012***1190あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(124)

日本人健常者における視神経乳頭サイズと乳頭回転角の検討

2015年8月31日 月曜日

《第25回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科32(8):1183.1186,2015c日本人健常者における視神経乳頭サイズと乳頭回転角の検討小田莉恵*1,2森和彦*2吉井健悟*3池田陽子*2上野盛夫*2吉川晴菜*2丸山悠子*2小泉範子*1,2木下茂*2*1同志社大学生命科学部医工学科*2京都府立医科大学眼科学教室*3京都府立医科大学基礎統計学OpticDiscRotationAngleandClinicalFeaturesinNormalJapaneseEyesRieOda1,2),KazuhikoMori2),KengoYoshii3),YokoIkeda2),MorioUeno2),HarunaYoshikawa2),YukoMaruyama2),NorikoKoizumi1,2)andShigeruKinoshita2)1)DepartmentofBiomedicalEngineering,DoshishaUniversityofLifeandMedicalSciences,DoshishaUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)DepartmentofMedicalStatistics,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine健常日本人における視神経乳頭回転角と臨床パラメータとの関連性について検討した.対象は2005年6月.2008年12月に京都府立医科大学病院正常ボランティア外来にて緑内障専門医が正常と判断した症例のうち,信頼性に足る眼底写真撮影が可能であった588例(男性220例,女性368例)である.画像解析ソフトImageJを用いて乳頭形状パラメータを計算し,HRT-2による乳頭解析,IOLマスターによる眼軸長測定,レフケラトメーターによる屈折値,ケラト値測定を行った.得られたデータの相互相関を検討し,乳頭回転角を目的変数,楕円率,DM/DD比,乳頭中心窩角,眼軸長,ケラト値,年齢,性別,左右を説明変数として重回帰分析を行った.全症例の乳頭回転角,離心率,DM/DD比の平均は18.5±33.3°,0.43±0.16,2.73±0.33であった.重回帰分析の結果,乳頭回転角の有意な説明変数として眼軸長(p=0.003)が選択された.以上より乳頭回転角は眼軸長と関連性が高いことが確認された.Inthisstudy,weinvestigatedtherelationshipbetweentheopticdiscrotationangle(DRA)andclinicalfeaturesin1012eyesof588normalJapanesesubjects(220malesand368females).Inclusioncriteriaincludedsubjectswho1)visitedourclinicbetweenJune2005andDecember2008,2)werediagnosedbyglaucomaspecialistsasnormalbasedonophthalmicexaminations,andinwhom3)reliablediscphotographscouldbeobtained.DRAwascalculatedusingimageprocessingsoftware(ImageJ)andopticdiscareawasanalyzedbyretinaltomography(HRT-II).Theclinicalfeaturesofrefractiveerror(RE),cornealradius(CR),andaxiallength(AL)werealsomeasured.Usingthesedata,crosscorrelationwasexaminedandvalidparameterswereselected.Multivariatelinearregressionanalysiswasperformed,regardingDRAasanobjectivevariable,andaveragedradiusoftheellipse,discmacula:discdiameterratio,AL,CR,andsubjectageandsexasexplanatoryvariables.LinearregressionanalysisresultsshowedthatAL(p=0.003)wasasignificantexplanatoryvariableforDRA.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1183.1186,2015〕Keywords:視神経乳頭サイズ,乳頭回転角.opticdiscsize,rotationangle.はじめに視神経乳頭の形状は個別にも経時的にも種々のバリエーションが存在する.これまで緑内障眼における視神経乳頭形状は詳細に検討されてきているが,正常眼について検討した報告は少ない.さらに緑内障眼においてスペクトラルドメインOCT(spectraldomainopticalcoherencetomography:SD-OCT)による視神経乳頭の断面画像解析を用いた垂直的傾きについての報告はあるが1),乳頭回転角(discrotationangle:DRA)についての報告は少ない.今回,多数例の日本人健常者の乳頭形状パラメータ〔DM/DD比(thediscmaculatodiscdiameterratio),離心率,楕円率,乳頭中心窩角,乳頭回転角〕の分布を調べるとともに,これらの値とHRT(Heidelbergretinatomography)パラメータ〔乳頭面積,陥凹面積,C/D比(cupareatodiscarearatio)〕,眼球〔別刷請求先〕森和彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上る梶井町465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:KazuhikoMoriMD.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajiicho,KawaramachiHirokoji,Kamigyo-ku,Kyoto602-0841,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(117)1183 形状パラメータ(屈折度,眼軸長,ケラト値)および対象者データ(性別,年齢,左右)との関連性を検討した.今回の検討では諸岡らが採用した眼底写真より乳頭中心(楕円の長軸と短軸の交点)と中心窩を結ぶ線を基線として乳頭回転角を計測する方法を用いた2).I対象および方法対象は2005年6月.2008年12月に京都府立医科大学病院(以下,当院)正常ボランティア外来において,緑内障専門医が正常と判断した症例のうち,信頼性に足る眼底写真撮影(TRC-NW200,トプコン)が可能であった588例(男性220例,女性368例)である.この正常ボランティア外来とは,緑内障の遺伝子研究の正常対照を集めるために行っている外来で,参加者は一般募集したボランティアである.参加者には当院の緑内障専門外来で行っている複数の緑内障精密検査(眼底写真,FDT,OCTなど)を行い,最終的に複数の緑内障専門医が正常かどうかを決定した(京都府立医科大学医学倫理審査委員会承認RBMR-G-143-4).両眼が対象右眼/中心窩がx軸より下方の場合a:g0:b:g0:長軸が中心窩に近づく場合長軸が中心窩から遠ざかる場合│b’│:中心窩:乳頭中心:x軸と楕円長軸がなす角:乳頭中心窩角(b0):乳頭回転角(g=90-a-b→g=90-│a│+│b│)│a││b││g│ABABabg│a││b││b’││g│AB右眼/中心窩がx軸より上方の場合a:g0:b:g0:長軸が中心窩に近づく場合長軸が中心窩から遠ざかる場合│││b’b’│:中心窩:乳頭中心:x軸と楕円長軸がなす角:乳頭中心窩角(b0):乳頭回転角(g=90-a-b→g=90-│a│-│b│)│a││b││g│ABABabg│a││g││b│AB図1乳頭形状パラメータの計測方法の場合には無作為に片眼を採用した.対象者には同時にHRT-2(HeidelbergEngineering)による乳頭解析,IOLマスター(モデル500,カールツァイスメディテック)による眼軸長測定,レフケラトメーター(RKT7700,ニデック)による屈折値,ケラト値測定を行った.眼底写真を画像解析ソフトImageJ(ver.1.48q)に取込み,乳頭を楕円で近似することで,楕円の回転角(a:楕円長軸とx軸のなす角,0.180°),中心座標,長軸と短軸を計測した.併せて中心窩の座標を計測し,これらの値から,乳頭中心窩角(b),乳頭回転角(g),DM/DD比,離心率,楕円率を求めた.乳頭中心窩角(b:.90.+90°)は乳頭中心と中心窩の座標から三平方の定理より算出し,右眼において乳頭中心に対し中心窩が下方に位置した場合に負,上方に位置した場合に正の値(図1)となるように設定した.また乳頭回転角(g:.90.+90°)は諸岡らの方法に準じて,乳頭中心(楕円の長軸と短軸の交点)と中心窩を結ぶ線を基線として,式g=90-a-bで算出し,楕円の長軸が中心窩に近づく方向を負,遠ざかる方向を正とした(図1).また,左眼においては回転方向が逆となるため乳頭中心窩角(b)と乳頭回転角(g)の正負を逆転させた.ただし,上記計算を行った結果,乳頭回転角(g)が90°を越える場合には180-gで置換した.DM/DD比は乳頭中心.中心窩間距離と楕円長軸および短軸の平均半径との比からを求めた.以上の得られたデータを用いて,相互の相関関係を調べ,パラメータ間に強い相関を認めた場合には目的変数との決定係数R2(0<R2<1)がより1に近い因子を採用し,統計解析ソフトのRver.3.02を用い,目的変数を乳頭回転角(g),説明変数を楕円率,DM/DD比,乳頭中心窩角(b),眼軸長,ケラト値,年齢,性別,左右としてp値を用いた.II結果1.パラメータの相互相関対象のパラメータの内訳を表1に示す.各パラメータの相関結果(表2)として,眼軸長と屈折値,離心率と楕円率,HRT-2による乳頭解析データ(乳頭面積,陥凹面積,C/D比)とDM/DD比が,それぞれ相関係数r=.0.76,r=.0.94,r=.0.62,r=.0.48,r=.0.37となり,すべて有意確率p<0.05で相互に強い相関を認めた.また,乳頭回転角(g)と眼軸長,屈折値,離心率,楕円率,HRT-2による乳頭解析データ(乳頭面積,陥凹面積,C/D比),DM/DDとの決定係数R2(0<R2<1)はそれぞれR2=0.36,R2=.0.17,R2=0.06,R2=.0.18,R2=.0.05,R2=0.02,R2=.0.04,R2=0.31であった.重回帰分析の際,強い相関のある因子が存在するとき目的変数との決定係数R2がより1に近い因子を採用するため,屈折値,離心率,乳頭面積,陥凹面積,C/D比を説明変数から除き,眼軸長,楕円率,DM/DD比1184あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(118) を採用した.また,眼軸長と年齢に強い負の相関(r=.0.56,p<0.05)を認め,眼軸長とDM/DD比に強い正の相関(r=0.35,p<0.05)を認めた.DM/DD比と離心率の間には弱い正の相関(r=0.19,p<0.05)を認め,DM/DD比と乳頭回転角(g)の間に弱い負の相関(r=.0.15,p<0.05)を認めた(表2).2.重回帰分析重回帰分析の結果として,楕円率,年齢,性別,DM/DD比,左右,乳頭中心窩角(b),ケラト値の順に除外され,最終的に眼軸長のみ(p=0.003)が有意な説明変数として選択された.重回帰式はy=.4.874x+132.717となり,偏回帰係数,標準偏回帰係数,重相関係数,寄与率はそれぞれQ=.4.87,q=.0.21,R=0.60,R2=0.36となった.III考按各パラメータの相互相関を解析した結果,眼軸長と屈折値は相関係数.0.76の強い相関を示した.これまで屈折度が増加するほど眼軸長が延長する傾向があることが報告されており3.4),今回の結果も既報と同様の結果を示したといえる.また,眼軸長とDM/DD比の相関についても,OliveiraらはDM/DD比が大きいほど眼軸長は延長する傾向を報告しており5),今回の検討でも相関係数が0.35となり同様の結果を示した.DM/DD比と乳頭回転角(g)には明らかな相関を認めなかったことから,DM/DD比と乳頭回転角には関連性がなく,DM/DD比と離心率には弱い正の相関を認めたことから,正円に近いほどDM/DD比が小さくなる弱い傾向があることが,それぞれ示された.ステップワイズ変数選択(減数法)による重回帰分析を行った.重回帰分析を行う際,説明変数間に強い相関があると解析が不可能であったり,信頼性が低いものとなりやすいので,目的変数とそれぞれの因子との決定係数R2(0<R2<1)を算出し,より1に近い因子を採用した.これまで緑内障眼における強度近視と視神経乳頭の傾きとの関連が報告されている6.7).強度近視の緑内障眼では非近視眼と比べて乳頭黄斑線維束における網膜視神経節細胞の消失をきたしやすく8),視神経乳頭の傾斜はさまざまな病態生表1パラメータの分布meanminmaxDM/DD比2.73±0.331.804.26離心率0.43±0.160.000.75楕円率0.89±0.070.661.00乳頭中心窩角7.37±4.68.15.2237.05乳頭回転角18.5±33.3.89.389.9乳頭面積1.92±0.470.624.07陥凹面積0.48±0.330.002.25C/D比0.46±0.160.000.94眼軸長23.97±1.4520.9228.47ケラト値7.73±0.296.589.16屈折値.1.41±2.86.12.887.88年齢51.4±14.219.088.0表2パラメータの相互相関DM/DD比離心率楕円率乳頭中心窩角乳頭回転角乳頭面積陥凹面積C/D比眼軸長ケラト値屈折値年齢乳頭形状パラメータDM/DD比1.00離心率0.191.00楕円率.0.23.0.941.00乳頭中心窩角0.04.0.030.041.00乳頭回転角.0.15.0.030.100.071.00HRTパラメータ乳頭面積.0.62.0.170.17.0.030.031.00陥凹面積.0.48.0.130.13.0.01.0.010.721.00C/D比.0.37.0.080.090.050.020.490.871.00眼球形状パラメータ眼軸長0.350.10.0.18.0.01.0.17.0.09.0.19.0.251.00ケラト値0.07.0.01.0.02.0.01.0.180.130.070.030.521.00屈折値.0.33.0.110.180.150.090.150.190.22.0.76.0.081.00対象者データ年齢.0.130.010.050.160.090.070.160.19.0.56.0.290.501.00(119)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151185 理学的異常につながるとされている9).緑内障眼における視野欠損と視神経乳頭の傾きとの相関関係に関しても報告6)があるが,いずれもさらなる検討が必要であるとされている.また,視神経乳頭変形と耳側乳頭周囲網脈絡膜萎縮の形成に関する報告では,視神経乳頭は鼻側に位置するために,眼軸長延長に伴い耳側が後方に牽引され,視神経乳頭は傾斜し,鼻側の視神経線維束が隆起し全体として小型化する.その際に眼球の回旋とともに乳頭も回旋し,乳頭周囲に網脈絡膜萎縮が生じると報告されている10).今回の検討では,正常眼において乳頭回転角(g)と関連のある因子について検討した.その結果,乳頭回転角(g)と眼軸長に強い相関関係を認めた.また,重回帰式より右眼において楕円の長軸が中心窩に近づく方向を負としているため,眼軸長が延長するほど視神経乳頭の中心窩方向への回転が大きいことが明らかとなった.眼軸長の延長は近視傾向を意味し,以上の結果より正常眼において近視傾向があれば視神経乳頭の中心窩方向への回転が大きいことが示唆された.今後,視野情報を組み合わせるなどして緑内障眼について検討するにあたり,中心窩方向への回転が大きい視神経乳頭は近視傾向にあるという前提が得られた.さらなる課題として,乳頭回転角の加齢に伴う変化の解明や,将来的にはゲノム情報を組み合わせることにより,乳頭コロボーマ,視神経乳頭低形成などの視神経乳頭形成過程における異常の解明,視神経乳頭の脆弱性,圧感受性などの解明が考えられる.利益相反:森和彦(カテゴリーP:参天製薬株式会社),池田陽子(カテゴリーP:参天製薬株式会社),上野盛夫(カテゴリーP:参天製薬株式会社,千寿製薬株式会社),木下茂(カテゴリーP:参天製薬株式会社,千寿製薬株式会社)文献1)TakasakiH,HigashideH,TakedaHetal:Relationshipbetweenopticdiscovalityandhorizontaldisctiltinnormalyoungsubjects.JpnJOphthalomol57:34-40,20132)諸岡諭,板谷正紀,野中淳之ほか:視神経乳頭回転角と等価球面度数および視野との関連,第22回日本緑内障学会抄録集,122,20113)保坂明郎,高橋正孝,村上喜三雄ほか:近視に関する2,3の所見,とくに硝子体腔の変化について,日眼紀34:2808-2817,19834)神谷貞義,西信元嗣,魚里博ほか:新しい視点からみた学校近視の解析,その5.超音波による眼球構成要素とくに,眼軸と水晶体の成長について,眼紀36:2052-2060,19855)OliveiraC,HarizmanNGirkinCAetal:Axiallengthandopticdiscsizeinnormaleye.BrJOphthalmol91:37-39,20076)TayE,SeahSK,ChewSJetal:Opticdiskovalityasanindexoftiltanditsrelationshiptomyopiaandperimetry.AmJOphthalmol139:247-252,20057)ParkKA,ParkSE,OhSY:Long-termchangesinrefractiveerrorinchildrenwithmyopictiltedopticdisccomparedtochildrenwithouttiltedopticdisc.InvestOphthalmolVisSci54:7865-7870,20138)KimuraY,HangaiM,MorookaSetal:Retinalnervefiberlayerdefectsinhighlymyopiceyeswithearlyglaucoma.InvestOphthalmolVisSci53:6472-6478,20129)HosseiniH,NassiriN,AzarbodPetal:Measurementoftheopticdiscverticaltiltanglewithspectral-domainopticalcoherencetomographyandinfluencingfactors.AmJOphthalmol156:737-744,201310)KimTW,KimM,WeinrebRNetal:Opticdiscchangewithincipientmyopiaofchildhood.Ophthalmology119:21-26,2012***1186あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(120)

Preperimetric Glaucomaに対するマイクロペリメーター MP-1 の有用性の検討

2015年8月31日 月曜日

《第25回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科32(8):1179.1182,2015cPreperimetricGlaucomaに対するマイクロペリメーターMP-1の有用性の検討福岡秀記*1日野智之*1森和彦*2木下茂*2*1国立長寿医療研究センター先端診療部眼科*2京都府立医科大学眼科UsefulnessoftheMP-1MicroperimeterforPreperimetricGlaucomaHidekiFukuoka1),TomoyukiHino1),KazuhikoMori2)andShigeruKinoshita2)1)DivisionofOphthalmology,DepartmentofAdvancedMedicine,NationalCenterforGeriatricsandGerontology,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:Preperimetricglaucoma(PPG)症例に対するマイクロペリメーター(MP-1:NIDEK)の有用性を検討した.対象および方法:網膜神経節細胞複合体(GCC)厚の菲薄化が観察され,Humphrey視野計(HFA)の30-2プログラムで視野異常が不検出であったPPG症例8例8眼(男性3例,女性5例,67±7.7歳).MP-1を用いて同一眼上下および他眼対応部位との網膜感度を比較し,GCC厚と網膜感度の相関についても検討した.結果:1例は固視不良のため解析不能であった.GCC厚菲薄化部位の網膜感度は他眼,同一眼の比較のいずれにおいても6例(86%)で低値を示し,そのうち2例(29%)に有意差があった.他眼との比較の1例(14%),上下との比較の3例(43%)でGCC厚と網膜感度の有意な相関が得られた.結論:一部のPPG症例においてHFAで検出不可能であった視野異常をMP-1で検出可能であった.Purpose:ToexaminetheusefulnessoftheMP-1microperimeter(NIDEK,Co.,Ltd,Gamagori,Japan)forpreperimetricglaucoma(PPG).Subjectsandmethods:Thisstudyinvolved8patients(3menand5women,meanage:67±7.7years)withPPG.UsingtheMP-1,wecomparedtheretinalsensitivityofthedamagedareawiththatoftheup-and-downoppositesideorthatofthecorrespondingsiteinthehealthyeye.Inaddition,weinvestigatedthecorrelationoftheganglioncellcomplex(GCC)thicknessandretinalsensitivity.Results:Ofthe8patients,1patientwasnotabletobeanalyzedduetopoorfixation.In2patients(29%),asignificantdifferencewasfoundbetweenthedamagedareaandtheup-and-downoppositesideorthecorrespondingsiteinthehealthyeye.StatisticallysignificantcorrelationwasfoundbetweenGCCthicknessandretinasensitivity,respectively,in3cases(43%)comparedwiththatoftheup-and-downoppositeside,andin1case(14%)comparedwiththecorrespondingsiteinthehealthyeye.Conclusion:ThefindingsofthisstudyshowthattheMP-1isabletodetectthefunctionaldamageinsomecasesofPPG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1179.1182,2015〕Keywords:極初期緑内障,マイクロペリメーター,神経節細胞複合体,網膜感度.preperimetricglaucoma,microperimeter,ganglioncellcomplex,retinalsensitivity.はじめに近年,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は,めざましい発達を遂げ,正確性・再現性が向上した.それにより網膜神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)厚の測定が可能になりGCCの菲薄化は認められるが通常の自動静的視野検査では視野欠損が検出できない状態がありpreperimetricglaucoma(PPG)と称し典型的な緑内障とは区別される.緑内障診療ガイドライン(第3版)1)では,「PPGは緑内障の前駆状態もしくは緑内障に類似した所見を示している正常眼もしくは他の疾患の一部が含まれると考えられ,原則的には無治療で慎重に経過観察する.しかしながら,高眼圧や,〔別刷請求先〕福岡秀記:〒474-8511愛知県大府市森岡町7丁目431国立長寿医療研究センター先端診療部眼科Reprintrequests:HidekiFukuoka,DivisionofOphthalmology,DepartmentofAdvancedMedicine,NationalCenterforGeriatricsandGerontology,7-430,Morioka,Obu474-8511,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(113)1179 強度近視,緑内障家族歴など緑内障発症の危険因子を有している場合や,初期の段階で緑内障性異常が検出できる可能性があるとされるその他の視野検査や眼底三次元画像解析装置により異常が検出される場合には,必要最小限の治療を開始することを考慮する.」とされ医師の判断により治療方針や治療開始時期が異なることが予想される.そこで筆者らは,より精密に眼底所見と対応する視野異常が確認できる眼底視野計を使用し,初期視野異常の検出の可能性について検討した.I対象および方法対象は2012年9月.2013年3月に,国立長寿医療研究センター(以下,当院)眼科通院中で光干渉断層計(RS3000:NIDEK)にてGCC厚の菲薄化が観察され,Hum-phrey視野計(HFA)の30-2プログラムで視野異常が検出されなかったPPG症例8例8眼(男性3例,女性5例,67±7.7歳)である.また,これらの症例は,GCCの正常な測定を阻む黄斑上膜や糖尿病網膜症などの網膜疾患のないことを確認したうえで,マイクロペリメーター(MP-1:NIDEK)のThresh.Strategy;4-2-1,Stimulus;GoldmannI,Fixation;singlecross1°,Background;whiteという測定条件を用いてGCC厚菲薄化部位の網膜感度を複数回測定した.同一眼の上下対応部位および他眼対応部位の網膜感度との比較(図1)を行うとともに,GCC厚をマニュアル操作(図2)により測定し,網膜感度との相関についても検討した.網膜感度の測定点とGCC厚の測定点は血管走行,黄斑や視神経の位置を参考にしながら可能な限り一致させた.なお統計的検討には対応のあるt検定とPearsonの積率相関分析を用い,有意水準を5%とした.上下対応部位他眼対応部位MP-1測定部位図1今回測定し比較した同一眼上下対応部位と他眼対応部位の図提示症例においては上下他眼を含め18点での解析であった.図2網膜神経節細胞(GCC)厚のマニュアル操作での測定左図交点でのGCC厚は87μmとわかる.1180あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(114) GCC菲薄部網膜感度の上下・他眼対応部位との比較#2018網膜感度(dB)1614121086420菲薄部上下他眼(#:p<0.01)GCC菲薄部・上下・他眼網膜感度とGCC厚との比較(左図:菲薄部上下,右図:菲薄部他眼)140140120120相関係数0.64p<0.05GCC厚(μm)相関係数0.42p=0.16GCC厚(μm)1008060401008060402002000510152005101520網膜感度(dB)網膜感度(dB)図3症例呈示上図:GCC菲薄部網膜感度の上下・他眼対応部位との比較,下図:GCC菲薄部・上下・他眼網膜感度とGCC厚との比較.菲薄部網膜感度の上下との比較で有意差を認め,上下網膜感度とGCC厚との間で有意に相関関係があった.上下対応部位との比較他眼対応部位との比較II結果1例(14%)2例1例(29%)4例(29%)(57%)(14%)2例4例(57%)1例は固視不良のため解析不能となり除外となった.GCC厚菲薄化部位の網膜感度は,他眼との比較,上下との比較のいずれにおいても6例(86%)で低値を示した(図3,症例を示す).また,そのうち2例(29%)に有意差を認めた(図4).GCC厚と網膜感度との関係では他眼との比較では1例(14%),上下との比較では3例(43%)において有意な正の菲薄化部位が対応部位と比較して相関(表1)が得られた.III考按OCTは,丹野直弘2)が1990年に考案した世界初の技術である.当時の機器と比較し測定時間の短縮,分解能や再現性の向上など機能が格段に向上している.最近の報告ではGCC厚を用いた解析で糖尿病(RVO)などの網膜虚血性疾患3),Gaucher病などの網膜変性疾患4)や前部視路疾患5)の診断も有用であるとされ,とくに緑内障領域においては,網膜最内層の3層もしくは4層測定による診断が乳頭周囲網膜神経線維層厚のそれに匹敵する5)ことや,急性緑内障後眼においてGCC厚の菲薄化がみられ僚眼との鑑別に有用6)などの報告もされている.このような機器の進歩により,GCC(115)■低値(有意差あり)■低値■高値図4GCC厚菲薄化部位の平均網膜感度の比較厚の菲薄化という器質的な異常を認めるが,視野欠損という機能的な異常の出現していないPPGをとらえることが可能になった7,8).このとき注意すべきことは,黄斑前膜や網膜浮腫などGCC厚解析を阻害する疾患の存在下ではGCC厚解析が不正確になる可能性があり,今回の症例ではそのような疾患は合併していなかったことを確認した.PPGは上記のごとくOCTの進化によって注目されてきた疾患概念であるが,1991年には同様の所見の報告9)がされている.緑内障の進行過程はWeinrebら10)が提唱するように検出が不可能な時期,無症候性の時期,機能障害の時期にあたらしい眼科Vol.32,No.8,20151181 表1GCC菲薄部・上下・他眼網膜感度とGCC厚との比較症例ABCDEFGGCC菲薄部(上下)相関係数0.65*0.64*0.120.39*0.530.04.0.44GCC菲薄部(他眼)相関係数0.65*0.420.20.24.0.140.17.0.35*p<0.05分けられる.つまり視野障害出現時にはすでに緑内障性の構れ,今回の結果に影響を及ぼしたと考えられた.造変化が進行した時期であり,自動視野計に.5..10db今後さらなる機器の進化,医療の発展が期待され,PPGの感度低下を示す際,すでにGCCの20.40%が障害されて症例の視野障害をより早期に発見することが可能になるかもいることが明らかとされており11),早期発見が必要である.しれない.今回の一部PPG症例に対しMP-1が臨床的に有そこでshortwavelengthautomatedperimetry(SWAP),用であったことが,さらなる緑内障研究の発展に寄与するこfrequencydoublingtechnology(FDT)などで早期に視野異とを期待したい.常の検出を試み,構造には変化がなくとも視野に異常が出た場合には治療を考慮する必要がある.通常,Humphrey視野計の30-2プログラムで異常が認められない症例では,同利益相反:利益相反公表基準に該当なし装置で可能な10-2プログラムを次に施行することが多いと思われるが,今回の検討では行わなかった.その理由とし文献て,今回の症例には網膜アーケード血管の近傍内側のGCC1)緑内障診療ガイドライン(第3版):http://www.nichigan.厚菲薄化を認める症例が複数例存在し,10-2プログラムでor.jp/member/guideline/glaucoma3.jspは検出が不可能と判断したためである.2)丹野直弘:「光波反射像測定装置」日本特許第2010042号:1990今回8症例中1症例では固視が不良のため解析不能であっ3)AraszkiewiczA,Zozuli.ska-Zio.kiewiczD,MellerMetた.今回対象の平均年齢が60歳代後半と通常の緑内障発見al:Neurodegenerationoftheretinaintype1diabetic年齢よりも高く,高齢者医療に特化した当院特有のバイアスpatients.PolArchMedWewn122:464-470,2012がかかっている可能性が原因かもしれない.またMP-1自4)McNeillA,RobertiG,LascaratosGetal:RetinalthinninginGaucherdiseasepatientsandcarriers:resultsofa体はさまざまな設定条件で測定することができるが,今回のpilotstudy.MolGenetMetab109:221-223,2013検討対象がPPGであったため,厳格な条件を設定したこと5)AggarwalD,TanO,HuangDetal:Patternsofganglionも固視不良で除外された可能性があると考えられた.cellcomplexandnervefiberlayerlossinnonarteriticGCC厚菲薄化部位の網膜感度は,他眼との比較,上下とischemicopticneuropathybyFourier-domainopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci53:の比較のいずれにおいても7例中6例で低値であることが示4539-4545,2012されたが,有意差があった症例は少なかった.原因として,6)福岡秀記,山中行人:急性原発閉塞隅角緑内障後眼の網膜神PPGはGCC厚菲薄化領域が狭い症例が多く,結果的に菲薄経節複合体厚と僚眼との比較.眼科手術28:280-284,2015化領域の感度が測定できた点数が少なかったことが影響して7)MwanzaJC,DurbinMK,BudenzDLetal:Profileandpredictorsofnormalganglioncell-innerplexiformlayerいると推測した.MP-1には眼底写真から測定部位を決定でthicknessmeasuredwithfrequency-domainopticalcoherきるマニュアル測定モードがあるが,実際には計画した場所encetomography.InvestOphthalmolVisSci52:7872に照射することはむずかしかった.7879,2011GCC厚と網膜感度の相関では,同一眼上下および他眼対8)MwanzaJC,DurbinMK,BudenzDLetal:Glaucomadiagnosticaccuracyofganglioncell-innerplexiformlayer応部位との網膜感度を比較し,一部の症例で有意差を認めthickness:comparisonwithnervefiberlayerandopticた.つまりGCC厚が薄いほど網膜感度が低値を示す傾向をnervehead.Ophthalmology119:1151-1158,2012認めた.他眼対応部位よりも同一眼上下との比較のほうが有9)SommerA,KatzJ,QuigleyHAetal:Clinicallydetect意差のある症例が多かったが,両者とも50%に満たなかっablenervefiberatrophyprecedestheonsetofglaucomatousfieldloss.ArchOphthalmol109:77-83,1991た.これには測定点が少なかったことが影響したと考えられ10)WeinrebRN,FriedmanDS,FechtnerRDetal:Riskる.また,日常臨床においてはじめに測定した眼の視野検査assessmentinthemanagementofpatientswithocularは集中力が保たれているのに対し,後に測定した他眼の視野hypertension.AmJOphthalmol138:458-467,2004検査では疲労などにより集中力が保たれない症例に遭遇する11)QuigleyHA,DunkelbergerGR,GreenWR.:Retinalganglioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimetryinことがある.同様に左右眼の比較では集中力が異なるのに対humaneyeswithglaucoma.AmJOphthalmol15:453し,同一眼との比較では検査に対する集中力が同じと考えら464,19891182あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(116)

携帯式眼圧計アイケアONE®による24 時間眼圧自己測定の検討

2015年8月31日 月曜日

《第25回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科32(8):1173.1178,2015c携帯式眼圧計アイケアONERによる24時間眼圧自己測定の検討塩川美菜子*1方倉聖基*1井上賢治*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院EvaluationofSelf-Measured24-hourIntraocularPressureVariationwiththeIcareONEReboundTonometerMinakoShiokawa1),SeikiKatakura1),KenjiInoue1),KyokoIshida2)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:アイケアONER(アイケアONE)による24時間眼圧自己測定の精度と問題点を検討する.対象および方法:井上眼科病院の有志職員20例40眼を対象とした.方法は,レボブノロールの1日1回片眼へ点眼の期間4.5週間を挟んで,その前後に1回ずつ,アイケアONEによる24時間眼圧自己測定を行った.測定は午前9時から3時間ごととし,測定開始時にGoldmann圧平式眼圧計(GAT)による眼圧測定,血圧,脈拍測定も行った.結果:アイケアONEとGATの眼圧測定値には相関があった(r=0.51,p<0.001).レボブノロール点眼施行眼では,9時,12時,18時の眼圧は点眼後に有意に下降した.このうち,午前9時の眼圧はGATで点眼前13.8±2.1mmHg,点眼後11.7±1.5mmHg,アイケアONEで点眼前13.4±3.0mmHg,点眼後11.5±2.9mmHgで,ともに点眼後眼圧が有意に下降した(p<0.05).結論:アイケアONEによる24時間眼圧自己測定の精度は比較的良好である.Purpose:Toevaluatetheprecisionandpossibleproblemsassociatedwithself-measuring24-hourintraocularpressure(IOP)withtheIcareONEreboundtonometer.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved40eyesofnormalvolunteersubjectsenrolledatInouyeEyeHospital.Ineachsubject,IOPwasself-measuredevery3hoursbyuseoftheIcareONEreboundtonometer.Inaddition,atthestartoftheeachmeasurement,thesubject’sbloodpressure,pulse,andIOPbyuseofGoldmannapplanationtonometry(GAT)wererecordedandthencomparedwithmeasurementstakenbeforeandat4-5weeksaftertheuseoflevobunolol.Results:Inallsubjects,amoderatecorrelationwasfoundbetweentheIcareONEandGATIOPmeasurements(r=0.51).LevobunololsignificantlydecreasedtheIOPsatthehoursof9:00,12:00,and18:00.TheIOPsmeasuredwithGATbeforeandaftertheinstallationoflevobunololwere13.8±2.1and11.7±1.5mmHg,respectively,whilethosemeasuredwithIcareONEwere13.4±3.0and11.5±2.9mmHgrespectively.Bothfiguresshowedasignificantdecreaseaftertheinstallationoflevobunolol(p<0.05).Conclusions:Self-measuring24-hourIOPismoderatelyprecisewithIcareONEreboundtonometer.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1173.1178,2015〕Keywords:アイケアONER,レボブノロール,24時間眼圧,自己測定.IcareONEreboundtonometer,levobunorol,24hourintraocularpressurevariation,self-measurement.はじめにアイケアONER(icareFinland社製,以下,アイケアONE)は眼科医の指導のもと,患者自身による眼圧自己測定を目的に開発された携帯式眼圧計である.アイケアR(icareFinland社製)と同様,reboundtonometerであり,プローブが角膜に当たったときの動きを電気信号に変換することで眼圧を測定する.点眼麻酔不要で,プローブの先端が小さいので瞼裂が狭い症例や小児でも測定が可能である1,2).アイケアONEの外観を図1に示す.横11cm,縦8cm,幅3cm,重さ150gの軽量の機器で,プローブの先端には〔別刷請求先〕塩川美菜子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:MinakoShiokawa,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(107)1173 図1アイケアONEの外観11cm8cm3cm電源・測定ボタン11cm8cm3cm電源・測定ボタン直径1.73mmのプラスチック製のヘッドがついている.測定にあたっては本体にディスポーザブルのプローブをセットし,プローブの先端が被験者の角膜頂点から4.8mmに位置するように額,頬あてを調整のうえ,自己測定の場合は被験者自身が壁掛け鏡を見ながら,プローブが角膜中央に正面から垂直に当たるようにアイケアONEを保持し,測定ボタンを押す.通常モードでは連続6回測定を行い,測定結果が有効の場合緑のランプが点灯し,眼圧(5.50mmHg)が11段階にわけて表示され,検者,被験者はおおよその眼圧測定結果をその場で知ることができる.図2aでは18と21の間に点灯しており,この場合の眼圧は18mmHg以上21mmHg未満であることを示す.内蔵されたメモリには測定日時,正確な眼圧測定値(図2aのように18と21の間に点灯している症例であれば18,19,20mmHgのいずれか)が自動記録され,IcareRLinkソフトウエアを使用してパソコンにデータを保存できる.アイケアONEには左右を認識する機能がなく最初の測定値は右眼,2番目の測定値は左眼と表示されるので,測定時には必ず右眼,左眼の順に測定を行う必要がある.睫毛や眼瞼にプローブが触れるなどにより6回連続測定ができなかったり,6回の測定値間のばらつきが大きすぎる場合はエラーとなり,「REPEAT」または「POSITION」に赤いランプが点灯し再測定が必要となる(図2b).アイケアONEにより測定された眼圧はGoldmann圧平式眼圧計(Goldmannapplanationtonometer,以下GAT)により測定された眼圧との互換性があると報告されている3,4).アイケアONEの利便性や24時間眼圧自己測定の精度が確認できれば,患者自身による自宅での眼圧日内変動の測定が可能となり医師や患者に時間的,身体的負担をかけることな1174あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015ab図2アイケアONEによる測定a:測定結果(18.21)に緑のランプが点灯.眼圧は18mmHg以上,21mmHg未満であることを示す.b:エラーの場合は「POSITION」または「REPEAT」に赤いランプが点灯.く眼圧日内変動を知ることができる.それは緑内障診療にとって有益であり,さらには患者自身の疾患への関心やアドヒアランスの向上も期待できるかもしれない.そこで今回,健常者を対象にアイケアONEによる24時間眼圧自己測定を行い,その精度と問題点を検討した.I対象および方法本研究の趣旨に賛同のうえ,2014年1月.7月に文書で同意を得た全身疾患,眼疾患を有しない井上眼科病院の職員20例,40眼を対象とした.屈折矯正手術の既往がある症例は除外し,コンタクトレンズの使用は可にした.職種は医師8例,視能訓練士5例,看護師2例,事務職員5例で,性別は男性12例,女性8例,年齢は24.59歳(平均年齢35.6±9.2歳)であった.方法はまず事前に被験者に合わせてアイケアONEの額,頬あてを調整,操作と測定方法を口頭で指導した後に自己測定を数回施行し,測定ができることを確認した.アイケアONEによる24時間眼圧自己測定は午前9時より開始し,翌日の午前9時まで3時間ごとに計9回(9,12,15,18,21,0,3,6,9時)施行した.測定は右眼,左眼の順に行い,いずれの測定時間においても±15分の誤差は許可した.夜間の測定においては仰臥位から座位に姿勢を変えて5分後に測定を行った.コンタクトレンズを使用している症例では,24時間眼圧自己測定中はコンタクトレンズ装用を中止のうえ,測定を行った.測定開始時の午前9時±15分以内にGATによる眼圧を1回測定,全自動血圧計(UDEX-super)による血圧,脈拍数測定も行った.1回目の24時間眼圧自己測定施行後に,レボブノロール(108) 点眼の片眼のみ投与を開始した.点眼は朝1回,起床後に行い,4.5週間継続したのち,1回目と同様の方法で2回目の24時間眼圧自己測定を施行した.点眼の励行率について事前に配布した調査シートに各自で記入してもらう方法で調査した.測定終了後に自己測定を行った感想についてアンケート調査を行った.項目は以下のとおりである.1)操作,取扱いはどうでしたか①簡単,②むずかしくない,③むずかしい2)測定は上手にできましたか①上手にできた,②まあまあ上手にできた,③上手くできなかった3)エラーは何回ありましたか①0.数回,②5.9回,③10回以上4)フリーコメントなお,アイケアONEの指導およびGATによる眼圧測定は2名の眼科医が行った.分析はアイケアONEの眼圧測定値とGATによる眼圧測定値の相関についてスピアマンの相関係数を求めた.前後2回のアイケアONEによる24時間眼圧,GATによる眼圧,血圧,脈拍の測定結果の比較の統計解析はいずれも対応のあ2.点眼励行率と24時間眼圧自己測定レボブノロール平均点眼励行率は92.1±9.5%であった.24時間眼圧自己測定の全例の平均眼圧を図4に示す.点眼施行眼では開始時9時,12時,15時,18時,21時,0時,3時,6時,終了時9時で各時の眼圧は点眼前が13.4±3.0,13.8±2.9,12.6±3.1,13.4±2.7,11.2±2.8,11.6±4.4,13.5±3.2,15.0±3.9,15.1±4.2mmHg,点眼後が11.5±2.9,11.9±2.5,11.8±2.8,11.4±1.7,10.7±3.4,10.1±2.4,12.5±3.2,13.2±4.7,12.5±3.4mmHgであった.点眼非施行眼では各測定時間の眼圧は点眼前が13.4±2.6,13.0±2.6,13.1±2.4,13.1±2.7,11.5±2.6,12.4±3.8,12.0±3.6,14.2±3.0,15.1±3.3mmHg,点眼後が13.0±2.5,13.2±3.0,13.4±3.1,12.5±2.6,11.2±2.6,10.5±2.3,12.0±3.4,13.1±2.7,12.3±3.5mmHgであった.点眼施行眼に(mmHg)252015レボブノロール点眼の前後に行った24時間眼圧自己測定の開始時(午前9時)に測定した全測定値(n=80)を用いて0分析した,アイケアONEとGATの眼圧測定値の相関を図0510152025(mmHg)3に示す.アイケアONEとGATの眼圧測定値には有意なGAT相関があった(r=0.51,p<0.001).図3アイケアONEとGATの眼圧測定値の相関点眼施行眼点眼非施行眼アイケアONEるt検定を用い,有意水準はp<0.05とした.II結果1.アイケアONEとGATの眼圧測定値の相関10520(mmHg)20(mmHg)*******15151010550時09121518210369時点眼前点眼後9121518210369点眼前点眼後図424時間眼圧自己測定(全例平均)(109)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151175 おいて24時間眼圧自己測定開始時の9時と12時,18時,測定終了時の9時において平均眼圧は点眼後に有意に下降した(開始時9時:p<0.05,12時,18時,終了時9時:p<0.01).点眼非施行眼においては点眼前後の眼圧に有意な変化はなかった.3.点眼前後のGATとアイケアONEの眼圧測定値の比較(図5)24時間眼圧自己測定開始時の午前9時の眼圧は点眼施行眼でGATによる眼圧が点眼前は13.8±2.1mmHg,点眼後は11.7±1.5mmHg,アイケアONEによる眼圧が点眼前は13.4±3.0mmHg,点眼後は11.5±2.9mmHgであり,GAT,アイケアONEともに点眼後の眼圧測定値が有意に下降した(p<0.05).一方,点眼非施行眼ではGATによる眼圧が点点眼施行眼眼前は13.5±2.1mmHg,点眼後は12.5±1.5mmHg,アイケアONEによる眼圧が点眼前は13.4±2.6mmHg,点眼後は13.0±2.5mmHgであり,GAT,アイケアONEともに点眼前後の眼圧に有意な変化はなかった(GATp=0.188,アイケアONEp=0.769).4.血圧・脈拍数の測定平均血圧は点眼前が収縮期121.5±12.1mmHg,拡張期72.7±9.7mmHg,点眼後は収縮期122.8±9.6mmHg,拡張期70.6±8.9mmHgで差はなかった(収縮期:p=0.668,拡張期:p=0.170).脈拍数も点眼前が71.9±11.2回/分,点眼後が70.0±10.2回/分で差はなかった(p=0.257).5.アンケート調査1)「操作,取扱いはどうでしたか」という問いに対しては点眼非施行眼(mmHg)(mmHg)2020151510アイケアONE10■GAT550点眼前点眼後点眼前点眼後013.5±13.42.1±2.613.012.5±2.51.5±図5点眼前後のGATとアイケアONEの眼圧測定値の比較13.8±2.113.4±3.011.7±1.511.5±2.9**むずかしかった25%簡単40%15%60%点眼前(自己測定1回目)むずかしくなかった50%点眼後10%25%60%15%(自己測定2回目)0%50%100%■上手にできたまあまあ上手にできた■上手くできなかった図7アンケート調査結果「②測定はうまくできましたか」点眼前35%55%10%(自己測定1回目)点眼後50%45%5%図6アンケート調査結果「①操作,取扱いはどうでしたか」(自己測定2回目)0%50%100%■0~数回5~9回■10回以上図8アンケート調査結果「③エラーは何回ありましたか」1176あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(110) 「簡単」40%,「むずかしくない」50%,「むずかしい」10%であり,90%の症例が操作,取扱いはむずかしくないと回答した(図6).フリーコメントでは「利き手が右なので左眼が測定しにくい」「左眼でエラーがでやすい」「強度近視なので鏡がよく見えない」という意見があった.2)「測定は上手くできましたか」という問いに対しては自己測定1回目は「上手くできた」が15%,「まあまあ上手くできた」が60%,「上手くできなかった」が25%であった.しかし,自己測定2回目は「上手くできた」が25%,「まあまあ上手くできた」が60%,「上手くできなかった」が15%であった(図7).3)「エラーは何回ありましたか」という問いに対しては自己測定1回目は「0.数回」が35%,「5.9回」が55%,「10回以上」が10%であった.自己測定2回目では「0.数回」が50%,「5.9回」が45%,「10回以上」が5%であった(図8).III考按アイケアONEは,患者自身による眼圧自己測定を可能にすることを目的として開発された数少ない機器である.アイケアONEによる24時間眼圧自己測定の精度が検証されれば,医師にとっても患者にとっても,少ない負担で眼圧日内変動の把握が可能となる.アイケアONEによる24時間眼圧自己測定の精度の検証には,入院のうえ全測定時にGATでの医師による眼圧測定とアイケアONEによる眼圧自己測定を施行し比較することが理想的であるが,被験者の負担を考慮し,本研究ではレボブノロール点眼前後の結果を比較することにより検討を行った.アイケアONEとGATの眼圧測定値には有意な相関があった.しかし,強い相関ではなかった.Sakamotoら3)は24例の健常者と81例の緑内障患者を対象とした検証を行い,その結果,眼圧測定値はGATで3.31mmHg,アイケアONEによる自己測定では5.31.7mmHgであった(R2=0.683,p<0.001),Nandiniら4)は60例の小児を対象とし眼圧測定値2.35mmHgで検討を行い(R2=0.83),いずれもアイケアONEとGATの強い相関を報告している.本研究では眼圧測定値がGATで9.18mmHg,アイケアONEによる自己測定の眼圧測定値は7.24mmHgであり,多くは眼圧15mmHg以下で,眼圧の幅が少なかったことが強い相関が得られなかった一因と推察される.GATとの相関については幅広い眼圧値でさらに検証する必要がある.24時間眼圧自己測定では,点眼施行眼において自己測定開始時の9時と12時,18時,測定終了時の9時において,点眼後の平均眼圧は有意に下降した.レボブノロール点眼は,わが国で行われた研究で,マレイン酸チモロール点眼と同等の眼圧下降効果を有することが検証されている5).さら(111)に,日内変動については7例(点眼前平均眼圧,右眼22.6±3.2mmHg,左眼22.0±2.5mmHg)の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象に行った研究で,24時間にわたり眼圧下降が得られたと報告されている6).今回の研究では対象が健常者であったこと,点眼前の平均眼圧が13.8±2.1mmHgと低かったことが24時間にわたって下降効果が得られなかったことに影響した可能性がある.一方で,一般にb遮断薬は昼間の眼圧下降効果が高く,夜間は下降効果が減弱するといわれており7.9),本研究の結果は理に適った結果であるともいえる.点眼前後のGATとアイケアONEの眼圧測定値の比較ではGAT,アイケアONEともに点眼前と比較して点眼後の眼圧測定値は有意に下降した.レボブノロール点眼単剤の眼圧下降効果については過去に当院で正常眼圧緑内障を対象に研究を行っている10,11).レボブノロール点眼前眼圧17.2mmHgが点眼6カ月間で眼圧下降幅2.7.3.1mmHg,眼圧下降率15.7.18.0%を記録し10),点眼前眼圧16.5mmHgが点眼12カ月後で眼圧下降幅2.2±2.1mmHg,眼圧下降率13.0±11.3%を記録したと報告している11).本研究は健常者が対象であり,点眼開始約1カ月後の眼圧測定のため一概に比較はできないが,おおむね同等の眼圧下降が確認された.さらにアイケアONEによる測定結果がGATによる測定結果と同等であったことから,アイケアONEによる自己測定でもある程度は信頼に足る精度が期待できる可能性が示唆された.アンケート調査でアイケアONEの操作,取扱いが「むずかしい」と回答した症例が10%であったことから,操作は被験者にとって比較的簡便である印象を受ける.しかし,本研究の被験者は医師,視能訓練士,看護師といった日常から眼科機器と眼の扱いに慣れている職種が大部分であったため,今後は患者や眼科機器に接する機会のない症例を対象としたさらなる検証も必要である.また,アイケアONEによる眼圧自己測定は2回目(点眼後)の測定のほうが1回目の測定よりも上手にでき,エラーの回数が減ったことから,練習により精度が増す可能性があり,自己測定にあたっては十分な指導と練習が重要であるといえる.一方で右利きなので左眼の測定がしにくい,左眼でエラーが多い,強度近視で鏡がみえないという意見があった.アイケアONEによる自己測定は鏡をみながら行うため,鏡がみづらいと測定に支障がでる可能性があることが問題点として考えられ,屈折,裸眼の近方視力,視野障害進行の程度,さらに利き手,瞼裂幅などを自己測定にあたり考慮する必要がある.さらに,アイケアONEでは中心角膜厚が厚いと眼圧が高めに測定され,GATとの比較でも角膜厚が厚いほどより高く測定されるということが報告されており3),この点についても考慮を要する.今後さらなる検証でアイケアONEの特徴を把握し眼圧あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151177 自己測定において,より信頼性の高い結果を得るための適否を検討しなければならない.本研究でアイケアONEを用いてアイケアONEとGATの測定値は有意な相関を示し,また24時間眼圧自己測定を行い,測定精度を検討したところ,レボブノロール点眼施行眼では点眼後に有意に眼圧が下降していたことから,アイケアONEの眼圧自己測定の精度は比較的良好であると考えられた.アイケアONEは軽量かつ簡便であり,患者による眼圧自己測定を可能にする携帯式眼圧計として一定レベルの有用性が期待できる.しかし,緑内障患者に患者自身でプローブのセットと24時間眼圧自己測定を行ってもらうには,裸眼視力,屈折,視野障害の進行度,年齢などにより可否が生じる.今後はこれらの詳細な検討による症例の適否の決定,再現性の検証が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)中村誠:緑内障セミナー新しい眼圧計アイケア.あたらしい眼科23:893-894,20062)坂田礼:アイケア眼圧計の使い方について教えてください.あたらしい眼科27(臨増):176-178,20103)SakamotoM,KanamoriA,FujiharaMetal:AssessmentofIcareONEreboundtonometerforself-measuringintraocularpressure.ActaOphthalmol92:243-248,20144)GandhiNG,PrakalapakornSG,EI-DairiMAetal:IcareONEreboundversusGoldmannapplanationtonometryinchildrenwithknownorsuspectedglaucoma.AmJOphthalmol154:843-849,20125)北澤克明,東郁郎,白土城照ほか:原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対するAG-901点眼液の第III相臨床試験.あたらしい眼科16:1315-1325,19996)山本哲也:AG(塩酸レボブノロール)点眼液の1回点眼時の眼圧下降作用.あたらしい眼科14:1119-1125,19977)中元兼二:緑内障点眼薬─選択のポイント眼圧日内変動への影響.あたらしい眼科25:783-788,20088)馬場哲也:緑内障セミナー夜間眼圧上昇眼に対する緑内障点眼薬の効果.あたらしい眼科27:1691-1692,20109)吉冨健志,春野功:低眼圧緑内障の眼圧日内変動に対するチモロールの効果.あたらしい眼科10:965-967,199310)InoueK,EzureT,WakakuraMetal:Theeffectofonce-dailylevobunolononintoraocularpressureinnomal-tensionglaucoma.JpnJOphthalmol49:58-59,200511)比嘉利沙子,井上賢治,若倉雅登ほか:正常眼圧緑内障におけるレボブノロール点眼の長期効果.臨眼61:835-839,2007***1178あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(112)