特集●眼炎症(ぶどう膜炎・強膜炎)の治療方針あたらしい眼科31(9):1287.1294,2014特集●眼炎症(ぶどう膜炎・強膜炎)の治療方針あたらしい眼科31(9):1287.1294,2014生物学製剤の使い方の基本BasicConceptsofBiologicDrugTherapy蕪城俊克*田中理恵*I生物学製剤とは生物学製剤とは,バイオテクノロジーを用いて生物から産生させた物質を利用した薬剤と定義される.古くは,微生物ワクチン,トキソイド,抗血清,血液製剤などがそれに当たるが,最近では分子生物学的手法を用いて細胞にサイトカイン,細胞表面分子,あるいはそれらに対するモノクローナル抗体などを産生させ,薬剤として用いるものを指すことが多い.後者は分子標的治療ともよばれる.具体的には,肝炎に対するインターフェロン製剤,腫瘍に対するインターロイキン(IL)-2製剤,サイトカインに対するモノクローナル抗体製剤,サイトカイン受容体に対するアンタゴニストとして作用する可溶性受容体製剤などがある.眼科領域で用いられている生物学製剤には,眼瞼痙攣に対するボツリヌス毒素製剤,加齢黄斑変性・糖尿病黄斑浮腫に対する抗vascularendothelialgrowthfactor(VEGF)抗体製剤のほか,Behcet病ぶどう膜炎に対する抗tumornecrosisfactor-a(TNFa)抗体製剤であるインフリキシマブ(レミケードR)がある.生物学製剤の特性は,疾患の増悪の機序に関与するサイトカインなどを直接ブロックするため有効性が高いこと,薬剤の投与間隔が長いこと,ステロイド全身投与などと比べ長期間継続しても副作用が少ないことがあげられる.その反面,薬剤が非常に高価であることから患者の金銭的負担を考慮する必要があること,生物学製剤独特の副作用(日和見感染,結核,投与時反応など)に注意する必要がある.幸いBehcet病に関しては,特定疾患の医療費の助成制度があり,これを申請してから導入するのが通常である.本稿では,現在ぶどう膜炎に対して唯一保険適用のあるBehcet病ぶどう膜炎に対するインフリキシマブ治療の使用法と注意点について述べる.IIBehcet病ぶどう膜炎とインフリキシマブインフリキシマブはTNF-aに対するキメラ型モノクローナル抗体製剤で,2007年1月にBehcet病による難治性網膜ぶどう膜炎に対して保険適用となった.Behcet病ぶどう膜炎に対するインフリキシマブの臨床治験(第2相前期試験)は,シクロスポリン,ステロイド投与を中止し,インフリキシマブと切り替えるプロトコールで行われた.インフリキシマブ投与は5mg/kgと10mg/kg投与の2群で行われたが,いずれの群も著明な眼発作回数の減少がみられた1)(図1).この結果から,従来の治療法では眼発作のコントロールが困難なBehcet病ぶどう膜炎の難治例に対してもインフリキシマブが著明な眼発作抑制効果を示すことが明らかとなり,わが国で世界に先駆けて認可された.インフリキシマブは,現在までにCrohn病,関節リウマチ,Behcet病による難治性網膜ぶどう膜炎のほか,乾癬,潰瘍性大腸炎,強直性脊椎炎に対して保険適用が認められている.本剤は点滴による全身投与であるため,全身的な副*ToshikatuKaburaki&RieTanaka:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学〔別刷請求先〕蕪城俊克:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(39)12875mg/kg投与群(n=7)910mg/kg投与群(n=6)4.0±2.2p=0.031*1.0±2.23.8±1.90.2±0.4p=0.031*8眼発作回数(回/14週)432眼発作回数(回/14週)7654321観察期間有効性0観察期間有効性評価期間評価期間眼発作回数は,14週間当たりの回数として換算(*:Wilcoxon’sranktest)図1Behcet病ぶどう膜炎におけるインフリキシマブの眼発作抑制効果Behcet病ぶどう膜炎に対するインフリキシマブの臨床試験の成績.5mg/kg投与群(7例),10mg/kg投与群(6例)におけるインフリキシマブ開始前後の14週間当たりの眼発作回数の変化を示す.表1インフリキシマブのおもな副作用〈おもな副作用〉鼻咽頭炎(23.4%),発熱(10.7%),発疹(9.0%),頭痛(5.1%),血圧上昇(5.0%),ALT(GPT)増加(9.6%),AST(GOT)増加(7.4%),LDH増加(6.7%),血尿(尿潜血)(5.7%),白血球数増加(5.4%),尿沈渣(5.3%),g-GTP増加(5.2%)など〈重篤な副作用(頻度不明)〉1.敗血症,肺炎(カリニ肺炎を含む),真菌感染症などの日和見感染症2.結核3.重篤な投与時反応(ショック,アナフィラキシー様症状)4.脱髄疾患(多発性硬化症,視神経炎,Guillain-Barre症候群など)5.間質性肺炎6.肝機能障害7.遅発性過敏症8.抗dsDNA抗体の陽性化を伴うループス様症候群9.重篤な血液障害(汎血球減少,血小板減少,白血球減少など)ALT(GPT):alanineaminotransferase(glutamicpyruvictransaminase),AST(GOT):aspartateaminotransferase(glutamicoxaloacetictransaminase),LDH:lacticaciddehydrogenase,g-GTP:gamma-glutamyl-transpeptidase,dsDNA:double-strandeddeoxyribonucleicadid.表2インフリキシマブ導入時のスクリーニング検査と投与の是非①問診急性期の感染症の有無.結核感染の既往.結核患者への接触歴.ウイルス性肝炎の既往.うっ血性心不全.悪性腫瘍.脱髄性疾患.間質性肺炎.妊娠中・授乳中ではないか.②血液検査血算,血液生化学(GOT,GPT,gGTP,CRP,BUN,クレアチニン,CPKなど)Quantiferon-TbまたはT-SPOT(結核のスクリーニング)HBs抗原,HBc抗体,HBs抗体,HCV抗体(ウイルス性肝炎のスクリーニング)b-Dグルカン(真菌感染症のスクリーニング)③ツベルクリン反応④胸部レントゲン撮影(または胸部CT)⑤内科医への受診(インフリキシマブ導入について全身状態の確認)投与禁忌*慎重投与*活動性結核を含む感染症を有している患者非定型抗酸菌感染症の患者B型肝炎ウイルス感染者NYHA分類III度以上のうっ血性心不全を有する患者悪性腫瘍を有する患者脱髄疾患を有する患者陳旧性結核の患者(本剤による利益が危険性を上回ると判断された場合)C型肝炎ウイルス感染者NYHA分類II度以上のうっ血性心不全を有する患者悪性腫瘍の既-往歴・治療歴を有する患者前癌病変(食道,子宮頸部,大腸)を有する患者高齢者,小児*関節リウマチに対するTNF阻害療法ガイドライン(日本リウマチ学会)GOT:glutamicoxaloacetictransaminase,GPT:glutamicpyruvictransaminase,gGTP:gammaglutamyl-transpeptidase,CRP:C-reactiveprotein,BUN:bloodureanitrogen,CPK:creatinephosphokinase.性心不全,悪性腫瘍の既往歴・治療歴,前癌病変(食道,子宮頸部,大腸)を有する患者,高齢者,小児は慎重投与となっている3).また,TNF阻害薬の胎盤,乳汁への移行が確認されており,胎児あるいは乳児に対する安全性は確立されていないため,妊娠中,授乳中の患者には投与しないことが望ましい.IVインフリキシマブ投与の実際Behcet病に対するインフリキシマブの1回の投与量は5mg/kgで,0,2,6週目,それ以降は8週間ごとに点滴により投与する2).具体的な薬剤の調整方法および投与方法は以下のとおりである.本剤1バイアル(100mg)当たり10mlの日局注射用水で溶解し,患者の体重に応じて必要本数を調整する.溶解の際には失活を防ぐためになるべく泡立てないようにし,バイアルを転がすようにして溶解する.患者の体重から換算した必要量の薬剤を約250mlの日局生理食塩液に希釈する.他の注射剤,輸液などとは混合しない.1.2ミクロン以下のメンブランフィルターを用いたインラインフィルターを通して点滴ラインにより2時間以上をかけて緩徐に点滴軽度充血,動悸,発汗,頭痛,めまい,悪心点滴遅くする中等度血圧上昇/低下(SBP20mmHg以上),悪寒を伴う体温上昇,胸部不快感,,胸部不快感,息切れ,息切れ,喘鳴体温上昇,動悸,蕁麻疹点滴中断点滴遅くまたは500~1,000ml/hrで生食点滴点滴一時中断気道確保:可能なら酸素吸入静注する.なお,本剤を3回投与して投与時反応がみられかった患者に対しては,4回目以降の投与は1時間当たり5mg/kgを超えない範囲で時間を短縮して投与することが可能である2).投与中または投与終了後2時間以内に起こりうる副作用として,投与時反応(アナフィラキシー様症状,蕁麻疹,血圧の上昇または低下,呼吸困難など)がある.したがって,点滴中は血圧,脈拍をモニタリングする必要があり,点滴終了後も2時間くらいは体調の変化に注意するように患者に周知しておく.V投与時反応への対応投与時反応はインフリキシマブ投与後0.2.2%の症例に起きるとされており,初回投与時よりも2.3回目の投与時に起こりやすいとされている.投与時反応は,ほとんどの場合インフリキシマブ点滴中か点滴終了後2時間以内に起き,動悸,発汗,頭痛,めまい,悪心,蕁麻疹,重篤な場合は,血圧の急激な変動や息切れ,喘鳴などを起こす.ほとんどは軽度か中等度の投与時反応で,重篤なものは全投与時反応の5%程度とされている.重度(5%)血圧上昇/低下(SBP40mmHg以上)・ジフェンヒドラミン(レスタミンR)(25~50mg点滴)・アセトアミノフェン(リピナジンR)(650mg内服)・WNLまで10分間隔・WNLまで5分間隔でVSのモニター・エピネフリン(1:1,000/0.1~0.5ml皮下でVSのモニター・20分待機し,その後に点滴ス投与:5分間隔で3回まで).2回目を・20分待機し,その後ピードを上げるする場合には,救急医を呼ぶに点滴スピードを上・ヒドロコルチゾン(100mgiv)またはげるメチルプレドニゾロン(20~40mgiv)・WNLまで2分間隔でVSモニターSBP:収縮期血圧,WNL:正常範囲,VS:バイタルサイン図2投与時反応発生時の対応投与時反応の重症度に応じて,インフリキシマブ点滴を遅くする,または一時中断する.重症の際は,気道確保,輸液を行う.ジフェンヒドラミンなどの薬剤投与を行い,経過をみながら徐々にインフリキシマブ点滴を再開する.1290あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(42)あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141291(43)は両眼とも眼発作の頻度は明らかに減少した.同じ患者の導入前と導入後の眼発作時の眼底写真を図4に示す.この患者のようにインフリキシマブ導入前と比べ,導入後では眼発作が起きても軽症であることが多い.Behcet病ぶどう膜炎に対するインフリキシマブ治療の成績についていくつかの報告がなされている.Yamadaらは,Behcet病ぶどう膜炎患者に対してシクロスポリン治療(20例)またはインフリキシマブ治療(17例)を半年間以上行った症例について,治療成績を後ろ向きに解析した6).シクロスポリンでは半年間の眼発作回数が3.3±2.4回から1.2±1.2回に減少したのに対し,インフリキシマブでは3.1±2.7回から0.4±1.0回に大きく減少した.この結果は,インフリキシマブ治療がシクロスポリン治療よりも眼発作抑制効果が高いことを示唆している.Okadaらは,わが国の8大学病院でのインフリキシマブ治療の成績を報告した7).臨床効果については50症例を対象として検討が行われ,半年間における眼発作回数はインフリキシマブ導入前には平均2.66回であったのに対し,導入後には0.44回に減少していた.44%の症例では導入後1年の間に眼発作を起こさなかった.眼発作の重症度についても,インフリキシマブ導入前には72%の眼発作が中等度から高度であったのに対し,導入後には68%が軽度となり,眼発作の軽症化がみられた.さらに,インフリキシマブ治療の有効性を規定する因子についての研究もなされている.Sugitaらは,インフリキシマブの血液中濃度と臨床効果の関連性を報告した8).インフリキシマブを8週ごとに投与している患者20例について,インフリキシマブ投与直前と投与直後に血液を採取し,インフリキシマブの濃度を測定した.その結果,投与直前の血清中インフリキシマブ濃度が1.0μg/ml以上の症例では,16例中14例で経過中に眼発作は起こらなかったのに対し,インフリキシマブ濃度が1.0μg/ml未満の症例では,4例中3例で眼発作が起きていた.この結果から,次回のインフリキシマブ投与直前における血液中インフリキシマブ濃度(トラフレベル)が1.0μg/ml以上に保たれているかどうかが,ぶどう膜炎のコントロールと関連すると結論づけている.投与時反応の対処法を図2に示す.①点滴遅くする,または一時点滴を中断する,②準備しておいたジフェンヒドラミン(レスタミンコーワR)25.50mg点滴とアセトアミノフェン(ピリナジンR末)650mg内服を行う,③血圧・脈拍をモニターしながら症状の消失を待つ,④点滴の速度を徐々に上げていく,という順に対応することで,ほとんどの場合最後までインフリキシマブを投与することこが可能である(図2)5).一度投与時反応を起こした場合,次回の投与でも起こす可能性が高く,さらに反応が強まる可能性もある.一度投与時反応を起こした患者には,筆者らの病院では,投与時反応の予防として,①抗ヒスタミン薬(ポララミンR(2)1錠内服など)を投与日の朝に内服する.②インフリキシマブ点滴前のプレメジとして,生理食塩水50mlにプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム(水溶性プレドニンR)20mg,クロルフェニラミンマレイン酸塩(クロール・トリメトン注R)10mg,ファモチジン(ガスター注R)20mgを溶解し,15分程度で点滴静注する,ことを行っている.これは,クロルトリメトンR(H1-blocker)とガスターR(H2-blocker)との併用によって,蕁麻疹などの1型アレルギー予防になるのではないかと考えての処方である.このような予防策を行っても投与時反応を繰り返す症例では,インフリキシマブの投与中止を検討する必要がある.VIインフリキシマブの有効性インフリキシマブを導入した実際の患者(37歳,男性)の経過図を図3に示す.この患者は2001年発症の両眼ぶどう膜炎で,口腔内アフタ,毛.炎,結節性紅斑,陰部潰瘍がみられることから完全型Behcet病と診断された.しかし,シクロスポリン(ネオーラルR)250mg/日内服を行っても年4.5回眼発作を繰り返すため,2004年3月に東京大学医学部付属病院眼科を初診した.コルヒチン0.5mg/日,シクロスポリン300mg/日,プレドニゾロン(プレドニンR)内服を併用しても両眼に網膜ぶどう膜炎の眼発作を繰り返したため,2005年11月11日よりインフリキシマブ治療を開始,開始後はコルヒチン,シクロスポリン,プレドニゾロン内服は中止している.図3に示すとおり,インフリキシマブ導入後右眼発作左眼発作コルヒチン0.5mgインフリキシマブ210.1ネオーラル300mgプレドニン20mg→10mg→5mg→10mg:右眼視力:左眼視力図3インフリキシマブ導入例の眼発作の経過(37歳,男性)経過中の右眼の眼発作を赤矢印,左眼の眼発作を青矢印で示す.インフリキシマブ(黄色三角)の導入後には,眼発作の頻度は減少している.レミケード使用前の眼発作.(2004/7/15)レミケード使用後の眼発作.(2006/3/25)図4インフリキシマブ導入前後の眼発作(37歳,男性)インフリキシマブ導入前と比べ,導入後には眼発作を起きても軽症であることが多い.あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141293(45)Iwataらは,Behcet病ぶどう膜炎に対しインフリキシマブ治療と血液中の抗核抗体の関連性を報告した9).17例の患者のうちインフリキシマブ治療開始前には抗核抗体陽性は1例(6%)のみであったが,治療開始後6カ月で新たに11例(65%)が抗核抗体陽性となり,徐々に抗体価の上昇がみられた.さらにインフリキシマブ治療開始後に眼発作がみられた5例は全例が抗核抗体陽性患者であった.このことから,血清中の抗核抗体価がインフリキシマブ治療開始後の眼発作の予測マーカーとなりうる可能性を指摘している.Yoshidaらは,Behcet病ぶどう膜炎に対しインフリキシマブ治療を開始した後に,眼発作が消失した群と眼発作が残存した群に分けて患者背景の違いを比較検討した10).その結果,インフリキシマブ治療開始後に眼発作が消失する症例は,ぶどう膜炎発症からインフリキシマブ開始までの期間が長い症例が多く,開始前の眼発作回数(特に眼底型の眼発作回数)も少ない症例に多かった.このことから,インフリキシマブ治療により眼発作が消失する症例は,治療開始前から活動性の低いことが原因ではないかと推測している.筆者らは,Behcet病ぶどう膜炎の活動性の新しい指標Behcetdiseaseocularattackscore24(BOS24)を考案し,国内10施設でインフリキシマブ治療を導入した150症例についてインフリキシマブ開始前後のぶどう膜炎の活動性をBOS24でスコア化して比較した11).その結果,6カ月間の眼発作回数は,インフリキシマブ導入前3.2±2.0回から導入後1.6カ月では0.5±1.1回,導入後7.12カ月では0.7±1.1回に減少した.6カ月間のBOS24の積算値は,導入前19.7±17.4から導入後1.6カ月には2.7±6.9,7.12カ月には2.9±5.7に減少した.眼発作1回当たりのBOS24も,導入前5.8±3.7から導入後1.6カ月には4.8±3.4,7.12カ月には4.2±2.6に減少した.BOS24の各パラメータのうち,インフリキシマブ導入後,特に後極部と中心窩病変のスコアの低下が著明であった.以上の結果は,インフリキシマブ導入により眼発作回数のみならず1回当たりの眼発作の大きさも軽症化すること,インフリキシマブは特に眼底後極部のぶどう膜炎の活動性を強く抑制し,視機能の維持に有用である可能性が示唆された.VII併用薬,効果不十分例への対応などインフリキシマブを開始する際に,それまで使っていた治療薬(コルヒチン,シクロスポリン,ステロイド内服など)を中止するかどうかについては,現在のところ一定の見解はない.筆者らは,コルヒチンは原則として中止し,シクロスポリンは低用量(2mg/kg程度)を残して眼症状の推移をみながらゆっくり減量することを原則としているが,シクロスポリンを中止しても構わないとする考えもある.一方,ステロイド内服は急に中止すると,眼を含めた全身の炎症所見の増悪や副腎クリーゼなどの危険があるため,0.5.2mg/月程度ずつ,数カ月.1年以上かけてゆっくり減量することを原則とする.神経Behcetや腸管Behcetなど特殊型Behcetを合併しているためにステロイド内服を行っている症例では,ステロイドの減量法は内科医の判断に委ねているが,ステロイド内服を完全には中止できない場合が多い.インフリキシマブはメトトレキサート療法で効果不十分な関節リウマチ症例の約80%に有効であるが,効果不十分例が約20%存在するとされている.Behcet病ぶどう膜炎についても,市販後調査の中間報告(2007年1月.2009年6月)から,インフリキシマブの効果不十分例が15%程度存在すると考えられる.関節リウマチでは,インフリキシマブ不十分例への対処法12)として,①体重換算で余剰となって投与しない分の薬剤を捨てずにすべてのバイアル分を投与する(残量投与),②6.7週程度の間隔で投与することを考慮する,③インフリキシマブ投与直前に水溶性プレドニン20.40mgを静注する,④投与間隔を8週ごとから若干短縮する,⑤他の生物学製剤への切り替え,などの方法がある.また,関節リウマチについては,インフリキシマブの効果不十分例に対する増量試験がすでに行われ,インフリキシマブの増量(3.10mg/kgまで増量可),あるいは投与間隔の短縮(8週ごとを4週ごとまで短縮可)が保険診療で認められている.一方,Behcet病においては,いまだ効果不十分例に対する増量や投与間隔の短縮は正式には認められていない.そのため,現状では従来の治療薬(コルヒチン,シクロスポリンなど)の’-’