監修=大橋裕一連載.MyboomMyboom第43回「高橋秀徳」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載.MyboomMyboom第43回「高橋秀徳」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介髙橋秀徳(たかはし・ひでのり)自治医科大学眼科2001年に東京大学医学部を卒業し眼科に入局しました.玉置泰裕先生・柳靖雄先生の黄斑外来で1年目からマウス眼底にレーザーをひたすら打っていました.中学校・高校時代は生物部で動物実験が好きでのめり込みましたが,研究は考えていませんでした.大学院も黄斑外来で,9年目からJCHO東京新宿メディカルセンターに移りました.藤野雄次郎先生のご指導で手術を自由にさせていただき,それまで親の希望で工学部志望を変えたことを後悔していたのが眼科を天職と感じていることに気づき,石の上にも三年というが自分は15年だったなと思ったものです.その後,川島秀俊先生の自治医科大学で講師を務めております.臨床のMyboom自治医大に異動して驚いたのは,硝子体内注射を入院して手術室で行うことが義務づけられており,週4件しかできず2カ月待ちだったことです.前職では診療当日注射が当たり前で,それで良好な予後が得られていましたから,栃木県の加齢黄斑変性患者があまりにも可哀そうで,1年かけて外来注射を導入しました.交渉に交渉を重ね泣かされたときもありましたが,徐々に枠を広げ,現在では病院の事情で当日注射を断ることはなくなっています.(95)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY研究のMyboom外来注射導入で問題になったのは外来業務が増えてしまうことです.増やすからには根拠が必要です.私個人の意見ではエビデンスレベル6で根拠になりません.厳密には前向き研究が必要ですが,治療途中で待たせるとどうなるかの先行研究がなかったため,後ろ向きで構わないので自分達で研究する必要がありました.カルテ調べを進めるうちに教授や病院長の後押しで外来注射自体は導入されました.しかし,自治医大の医療圏は人口たかだか100万人です.世界には70億の人口があり,自分の施設だけ頑張っても何の意味もありません.カルテ調べの結果をまとめ,注射を待たせると視力予後が悪化することを英語で発表しました(Retina.2015Feb24).プライベートのMyboomそこで再び問題になっているのが業務の増加です.多忙になると判断を誤ることは,心理学上の多数の研究で,もはや常識となっています.専門外の眼科学者としては自分の感覚,精神論で勝手に否定するわけにはいきません.多忙をどうするか,ここでプライベートのMyboomが生きました.元々私は中古品を売るとき箱がなくて買い叩かれるのが嫌で,すべての箱を保管していました.引越でトラックに入りきらず引越業者に迷惑をかけたとき,我に返って家賃と家の体積と箱の体積から保管コストを計算したところ,買い叩かれるより多くの保管コストがかかっていることがわかりました.捨ててより小さい家に引っ越したほうが安上がりなのです.全部捨てました.その他すべての物一つひとつに取っておく理由とコストを問い,多くを捨てています.後にそれは断捨離とよばれるあたらしい眼科Vol.32,No.8,20151161写真自治医大黄斑外来の仲間とようになりました.あるとき白内障手術でハンドピースを準備していたところ藤野先生に叱られました.消毒が入替のボトルネックなんだから先に消毒しろと.目から鱗でした.執刀時間がいくら短くても入替時間が長ければ仕事量(手術件数)が制限されるのです.時間もコストベネフィットで見ると自分の日々の時間のほとんどが無駄と分かりました.以来,物とともに時間の断捨離もMyboomですが,かのピーター・ドラッカー(1909.2005年)もこういっています.「私の観察によれば,成果をあげる者は仕事からスタートしない.時間からスタートする.計画からもスタートしない.何に時間がとられているかを明らかにすることからスタートする.次に,時間を管理すべく自らの時間を奪おうとする非生産的な要素を退ける」たとえば白内障の手術は年数百件になり,定型的です.右の手術と決まったら病名や点眼も当然右なのに,いちいち右と入力させ直すシステムがまだ多いでしょう.その都度貴重な時間と限りある人間の認知・決断資源が奪われ,入力ミスの温床にもなります.同期で電子カルテ自動化のエキスパートの峰村健司先生に教えていただきながらシステムを作りました.結果,片眼白内障手術紹介患者に対し,初診日117クリックで入院中のパスも完成して帰宅させられるようになりました.それまでは手術紹介があるたびに外来が30分程度ストップし,その間患者を横に座らせたまま入力ミスしないように画面ばかり見ていたのが,10分程度で終わるようになったのです.患者の待ち時間も減りますし,我々も外来を早く切り上げて手術や研究に打1162あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015ち込むことができます.この改善方法はフレデリック・テイラー(1856.1915年)の「科学的管理法」そのものであり,21世紀の今となっては常識となっているようです.ところが私が非常勤になって電子カルテ管理をやめたら,少しずつ無駄なクリックやスクロールが増えていきました.作成する書類数は同じなのに数秒,1分と余計に時間がかかるようになりました.年500件として500分あったら何ができるでしょう?指摘するとそういえば何か最近面倒だと思っていた,と返事はあるものの一向に改善されません.組織として合理精神がないからだと気づきました.継続がなければカイゼンも意味がありません.そこで,トップが何度代替わりしても成果を上げ続けている組織がどのようにしているか調べました.世界でもっとも安全な自動車をもっとも安く作って年間2兆円の利益を上げているトヨタ自動車が,今一番のお手本だと思います.トヨタ生産方式には在庫を最小にするカンバンなど色々ありますが,形だけ導入しても効果が出ません.何のために在庫を最小にするのかがわかっていないとダメなのです.電子カルテでいえば,クリック一つ減らしたために,たとえば事務員に余計な作業を発生させて全体の流れが却って滞ってはいけないのです.研究や手術といったその施設にとっての本質的な仕事を明らかにして,それを阻害する非生産的な要素を絶え間なく徹底的に排除する文化が必要.私自身電子カルテ操作を若手に頼むことが増えて現状に疎くなったので,本質が何か,マネジメントとは何かだけを語り,具体的なカイゼン活動は若手に任せることにしました.この原稿を書いた日も医局会で若手からカイゼン提案があり,彼らが本質的な仕事を続けた先に何があるか,将来が楽しみです.次のプレゼンターは宮崎の子島良平先生(宮田眼科病院)です.以前は毎年宮田眼科病院に研修を兼ねて1週間お邪魔しており,子島先生には診療でも研究でもプライベートでも毎回お世話になりました.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.(96)