特集●完全攻略・多焦点コンタクトレンズあたらしい眼科33(8):1131?1138,2016ソフト系多焦点コンタクトレンズの処方法(症例呈示)PrescriptiononMaltifocalSoftContactLenses─CasePresentations─植田喜一*はじめにわが国の構造的な問題として少子高齢化があるが,コンタクトレンズ(contactlens:CL)装用者においても高齢化が進んでいる.仕事やプライベートでパソコン,スマートフォンなどのデジタル機器を使用することが多くなり,遠方だけでなく,中間距離,近方の見え方が大切になってきた.老視の進行によりCLの装用をやめる者がいるが,適切な遠近両用CLを選択し,うまく合わせれば,快適な見え方を提供できることがある.本稿では2週間頻回交換タイプの多焦点ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)の処方法について概説する.I適応医学的な適応は通常の単焦点SCLと同様であるが,調節機能の補正を目的とした多焦点レンズの特徴を理解したうえで,処方しやすい症例とむずかしい症例を知っておくとよい.単焦点SCLの装用者が近見障害を訴えた場合に,多焦点SCLの処方を考える.これまでCLを使用したことのない人でも,乱視のためSCLでは十分な矯正視力が得られない場合を除けば,一度は多焦点SCLを試してみるとよい.しかし,多焦点SCLは眼鏡や多焦点ハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)に比べると明らかに見え方が劣るため,見え方に対する要求度の高い人や,長時間の近業をする人は多焦点SCLに満足しないことがある.単焦点SCLではそれぞれ遠方,近方に合わせれば,遠方,近方ともに眼鏡と同等の見え方が得られるが,多焦点SCLでは収差が増大するため見え方の質が低下する.とくに暗所の見え方が悪くなるので,夜間の車の運転に支障をきたすことがある.裸眼で遠方がよく見えている弱度遠視眼や正視眼,裸眼で近方がよく見えている軽度近視眼,使用している単焦点CLあるいは眼鏡が過矯正の近視眼などでは見え方に満足しないことがある.こうした場合には単焦点SCLの上から必要に応じて近方または遠方の眼鏡をかける,多焦点HCLに変更する,CLの装用をあきらめて遠近両用眼鏡を処方するといった他の矯正手段を選ばざるを得ないことがある.一方,遠方の見え方に不自由をきたした遠視眼はもっともよい適応で,多焦点SCLを処方すると近方だけでなく遠方の見え方にも満足することが多い.II種類1.素材ヒドロキシエチルメタクリレート(hydroxyethlmethacrylate:HEMA)を主体としたハイドロゲルレンズとシリコーンハイドロゲルレンズがある.2.光学部多焦点CLは光学部の焦点あるいは屈折力から,二重焦点と累進屈折力に分けられる.二重焦点レンズは1枚のレンズに2つの異なる屈折力(度数)をもたせて,遠方と近方に焦点を合わせる.累進屈折力レンズは1枚のレンズに中心から周辺に向けて連続して累進的に度数をもたせているので遠方から近方までの境目のない見え方が得られやすい1~3).以前は累進多焦点レンズといわれていたが,焦点がたくさん存在するのではなく,加入度数が徐々に変化していることから累進屈折力レンズと表現するようになった.多焦点HCLは中心部が遠用光学部で周辺部が近用光学部であるが,多焦点SCLは中心部が遠用光学部で周辺部が近用光学部のタイプと,逆に中心部が近用光学部で周辺部が遠用光学部のタイプがある1~3).III製品の選択高い酸素透過性,乾燥しにくいなどの利点からシリコーンハイドロゲル素材の製品を選択することが多い.調節力の低下が進んだ患者では,二重焦点レンズを選択すると中間距離が見えにくいと訴えることがあるので,累進屈折力レンズを第一選択とすることが多い.しかしながら,調節力の低下が著しくない軽度の老視眼に二重焦点レンズをうまくフィットさせると見え方の満足度は高い.中心遠用・周辺近用は遠方重視,中心近用・周辺遠用は近方重視と考えるが,実際には必ずしもそのようにはならない.二重焦点レンズ,累進屈折力レンズについては製品によって,その光学部の配置,屈折力分布が異なり,そのレンズデザインが見え方に影響を及ぼすので,実際に装着してみないとわからない.各製品の屈折力分布を知っておくと,患者の要求に沿った製品を選択するのに役立つ1~3)(図1).なお,製品によって提供される球面度数,加入度数の範囲が異なるので,これらを把握しておく必要がある.各製品の主な特徴を表1に示す.IVトライアルレンズの選択1.遠用度数遠用度数は自覚的屈折値の角膜頂点間距離補正をして得られた球面度数のプラス側の度数(少なくとも+1.00D強い度数)を選択する.これは雲霧状態にして近視の過矯正,遠視の低矯正を防ぐための方法である.2.近用加入度数近用加入度数が高いと収差が増大するため,見え方の鮮明度は低下する.したがって,最初のトライアルレンズは近用加入度数が低いものが無難である.Vトライアルレンズのフィッティング多焦点SCLの光学部は同心円であるが,通常の瞳孔反応で遠用光学部と近用光学部の両方が瞳孔領を覆うようにデザインされているため,瞳孔の中心とレンズの中心が一致しないと十分な矯正効果が得られない.したがって,レンズのフィッティングが良好で動きが過度にならないようにフィットさせなければならないが,タイトフィットになると角結膜障害を生じるので注意をはらう.良好なフィッティングを得るためには,適正なレンズのサイズ,ベースカーブを選択しなければならないが,2週間頻回交換タイプの多焦点SCLでは変更することができない製品がほとんどなので,うまくフィットしなければ他製品を試してみる.なお,瞳孔の位置や大きさ,照度や近見に伴う瞳孔径の変化には個人差があることも考慮して,各症例にもっとも適するレンズデザインを有する製品を選択する.VIトライアルレンズの追加矯正(遠用度数と近用加入度数の決定)まず患者の作業距離での近方の見え方を確認した後に,遠方の見え方をチェックする.この逆(遠方の見え方を確認した後に近方の見え方をチェックする)をするとうまくいかない.近方の見え方は30cm視力表を用いるのではなく,日頃,使用している新聞紙,スマートフォンなどを,遠方の見え方は5m視力表よりも壁の時計,カレンダー,ポスター,窓の外の風景などを見せるとよい.近方の見え方が不十分であれば,さらに強いプラスの遠用度数のトライアルレンズを選択して,しばらく雲霧状態にしておく.その後,近方の見え方に満足するかを確認する.遠方の見え方が悪ければ遠用度数をマイナスのものに変更するが,その際もまず近方の見え方を確認した後に遠方の見え方をチェックする.単焦点SCLの遠用度数を決定する場合,自覚的屈折値を角膜頂点間補正してプラス度数を加えたトライアルレンズに検眼レンズ(マイナスレンズ)で追加矯正をする(プラスレンズを使用しない).追加矯正の際にプラスの検眼レンズを追加しなければならなかったということは,トライアルレンズが近視過矯正,遠視低矯正であったことを意味するので,強いプラス度数のトライアルレンズに変えて雲霧状態にする必要がある.しばらく経過した後にあらためて検眼レンズ(マイナスレンズ)で追加矯正する.同様に多焦点SCLの遠用度数の決定においても検眼レンズによる追加矯正の際,マイナス度数を加えることがあっても,プラス度数を加えることは不適当である.各メーカーの処方マニュアルには近方が見づらかった場合にプラスの検眼レンズで追加矯正をして調整するという手順が述べられていることがあるが,不適正だと考える.重ねて述べるが,追加矯正にはプラスの検眼レンズは使用しないほうがよい.これらの追加矯正で近方,遠方ともに満足のいく見え方が得られないようであれば,近用加入度数を強くして,同様の追加矯正を行う.VIIモノビジョン遠用度数と近用加入度数を変えても,近方,遠方の見え方に満足しない場合にはモノビジョンを検討する4~6).1.遠用度数によるモノビジョン一般に利き目は遠方重視,非利き目は近方重視にする.2.近用加入度数によるモノビジョン遠用度数によるモノビジョンでうまくいかない場合には近用加入度数によるモノビジョンを行う.一般に利き目には低い近用加入度数,非利き目には強い近用加入度数のものを選択する.3.異なるレンズデザインによるモノビジョン一般に利き目には遠用重視タイプ,非利き目には近用重視タイプのレンズデザインを選択する.上述したように光学部の配置や屈折力分布で見え方が異なるので,実際に種々の製品を装着してトライアンドエラーを繰り返す必要がある.上記の具体的な症例については,『あたらしい眼科』(Vol.31,No.52016)の特集「屈折と調節アップデート」の中の「コンタクトレンズによる調節機能の再建」に解説しているので参考にしていただきたい.VIII症例呈示現在,市販されている5製品のシリコーンハイドロゲル素材の多焦点SCLのうち,4製品を使用した症例を以下に記す.1.エアオプティクスRアクア遠近両用症例:53歳,女性2週間頻回交換タイプの単焦点SCLを使用していたが,近くが見えにくくなったので,このレンズに変更した.近くは見えやすくなった.当初は遠くは少しだぶって見えたが,徐々に慣れてとくに不自由なく過ごしている.遠方視力右眼(1.0×多焦点SCL)遠用度数:?4.00D左眼(1.0×多焦点SCL)遠用度数:?4.00D両眼(1.0×多焦点SCL)近方視力右眼(0.7×多焦点SCL)近用加入度数:LowAdd左眼(0.7×多焦点SCL)近用加入度数:LowAdd両眼(0.8×多焦点SCL)レンズ中心が近用,レンズ周辺が遠用の多焦点SCLである(図2).中間ゾーンの度数移行部の収差を有効活用し,調節力の不足を補っている.近用加入度数は3種類(LO/MED/HI)あるため,幅広い老視患者に対応できる.多焦点SCLの製品のなかでも酸素透過率は高く,独自のレンズ表面処理によって,親水性,対汚染性を高めている.2.メダリストRフレッシュフィットRコンフォートモイストR遠近両用症例:64歳,女性49歳の頃から1日使い捨てタイプの多焦点SCLを使用していたが,近くが見づらくなったので,加入度数の強いこのレンズに変更した.近方の見え方は良くなった.遠方視力右眼(1.0×多焦点SCL)遠用度数:+3.50D左眼(1.0×多焦点SCL)遠用度数:+2.75D両眼(1.0×多焦点SCL)近方視力右眼(0.6×多焦点SCL)近用加入度数:HighAdd左眼(0.6×多焦点SCL)近用加入度数:HighAdd両眼(0.7×多焦点SCL)中心近用累進型の多焦点SCLである.累進設計ではあるが,光学部は近用,中間距離用,遠用の3つの領域に分かれ,中間距離に対する部分が比較的広い(図3).光学部は波面解析技術を応用して設計されている.屋内で中間距離のものを見る機会が多い患者には,遠方や近方だけでなく中間距離の見え方に対する評価が高い.本製品は同社の従来品より薄型化されたため装用感が改善されている.3.バイオフィニティRマルチフォーカル症例:55歳,女性2週間頻回交換タイプの多焦点SCLを使用していたが,装用感が少し悪かったので,このレンズを試したところ,装用感が改善したので変更した.遠方の見え方は良いが,近方の見え方が少し悪い.しかしながら,日常生活にはそれほど不自由していない.遠方視力右眼(1.0×多焦点SCL)遠用度数:?4.00D左眼(1.0×多焦点SCL)遠用度数:?4.00D両眼(1.5×多焦点SCL)近方視力右眼(0.7×多焦点SCL)近用加入度数:+1.00D左眼(0.7×多焦点SCL)近用加入度数:+1.00D両眼(0.7×多焦点SCL)レンズ中心遠用(球面設計)とレンズ周辺近用(球面設計)に非球面設計の中間移行部を組み合わせた多焦点SCLである(図4).遠用・近用光学部がそれぞれ球面設計なので,遠方・近方ともに見え方はよい.非球面設計の中間移行部が中間距離を見やすくしている.この製品に使用される長いシリコーンモノマーは効率的に酸素を透過するので,少ないシリコーン成分でも十分に角膜に酸素を供給できる.一方,シリコーン成分が少ないということは含水率を高くすることができるので,柔らかく装用感が良好である.素材そのものを親水化しているので,表面処理や内部湿潤剤を用いるなどの工夫をしていない.4.2WEEKメニコン遠近両用症例:56歳,女性2週間頻回交換タイプの従来素材の多焦点SCLを使用していたが,遠方,近方の見え方は満足しているものの目が乾くので,シリコーン素材のこのレンズに変更した.乾燥感はあまり気にならなくなり,見え方も良くなった.遠方視力右眼(1.0×多焦点SCL)遠用度数:?6.50D左眼(1.0×多焦点SCL)遠用度数:?6.50D両眼(1.2×多焦点SCL)近方視力右眼(0.9×多焦点SCL)近用加入度数:+2.00D(HIデザイン)左眼(0.9×多焦点SCL)近用加入度数:+2.00D(LOWデザイン)両眼(1.0×多焦点SCL)低加入度のLOWデザインには累進屈折力型の光学部同心円(コンセントリック)デザインを,高加入度のHIデザインには二重焦点型の光学部偏心(ディセンター)デザインを採用している(図5).初期老視から比較的軽度な老視の患者には低加入度のLOWデザインの累進屈折力型を,中等度以上の老視の患者には高加入度のHIデザインの二重焦点型を処方する.LOWデザイン,HIデザインともに,レンズ光学部中心に近用度数,周辺に遠用度数を配しているが,輻輳による縮瞳を考慮して,近方視の際によりレンズ中心部の度数が有効に働くように設計されている(図6).現在市販されている遠近両用SCLのなかでもっとも高い酸素透過率を示している.さらにプラズマ表面処理により,脂質,蛋白質,化粧品の汚れがつきにくい.遠用度数は+5.00Dから?13.00Dまでと広い範囲で提供されている.おわりに目の安全性,快適性,利便性を考えると,1日使い捨てタイプを選択したいが,シリコーンハイドロゲル素材のものは製品化されていない.したがって,シリコーンハイドロゲル素材を選択するとなると2週間頻回交換タイプとなる.現在,シリコーンハイドロゲル素材の多焦点SCLは5つの製品があるが,それぞれの特徴を知っておくとよい.一方,2週間頻回交換タイプにはハイドロゲル素材の製品が多種あるので,これらもいろいろと試して患者の要望にかなう製品を選択し,眼表面にうまくフィットするように処方することが大切である.2週間頻回交換タイプはケアを必要とするが,ケアが不適正だと眼障害が生じる.ブリスターケースを開封してレンズ使用を始めたら,必ず2週間までに使用を終えることと,洗浄・消毒効果の高いケア製品を用いて,レンズを使用後と使用前の2度こすり洗いをすることに加えて,レンズケースを衛生的に管理することなどを詳しく説明する必要がある.文献1)植田喜一:コンタクトレンズにおける屈折矯正の基本.あたらしい眼科27:723-735,20102)植田喜一:コンタクトレンズによる老視治療.あたらしい眼科28:623-631,20113)植田喜一:遠近両用ソフトコンタクトレンズの特性.あたらしい眼科18:435-446,20014)植田喜一:コンタクトレンズにおけるMonovision.日本眼内レンズ屈折手術学会誌18:110-117,20045)植田喜一:コンタクトレンズとモノビジョン.日本眼内レンズ屈折手術学会誌21:27-66,20076)植田喜一:コンタクトレンズによる調節機能の再建.あたらしい眼科31:667-674,2014*KiichiUeda:ウエダ眼科〔別刷請求先〕植田喜一:〒751-0872山口県下関市秋根南町1-1-15ウエダ眼科0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(49)1131図1多焦点SCLの屈折力分布のイメージ図(ロート製薬提供)1132あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(50)表1おもな2週間頻回交換タイプの多焦点SCLメーカーレンズ名二重焦点or累進屈折力光学部加入度数装用スケジュール素材クーパービジョンジャパンバイオフィニティマルチフォーカル累進屈折力中心遠用周辺近用+1.00D+1.50D2週間頻回交換シリコーンハイドロゲル日本アルコンエアオプティクスアクア遠近両用累進屈折力中心近用周辺遠用+1.00D+2.00D+2.50D2週間頻回交換シリコーンハイドロゲルボシュロムメダリストフレッシュフィットコンフォートモイスト遠近両用累進屈折力中心近用周辺遠用+1.50D+2.50D2週間頻回交換シリコーンハイドロゲルボシュロムボシュロムメダリストプレミアマルチフォーカル累進屈折力中心近用周辺遠用+1.50D+2.50D2週間頻回交換シリコーンハイドロゲルメニコン2WEEKプレミオ遠近両用Lowデザイン累進屈折力中心近用周辺遠用+1.00D2週間頻回交換シリコーンHighデザインハイドロゲル二重焦点中心近用周辺遠用+2.00Dシードシード2weekpureマルチステージ二重焦点中心遠用周辺近用+0.75D+1.50D2週間頻回交換ハイドロゲルメニコン2WEEKメニコンデュオ二重焦点中心遠用周辺近用+0.50D2週間頻回交換ハイドロゲルメニコン2WEEKメニコン遠近両用二重焦点中心近用周辺遠用+2.50D2週間頻回交換ハイドロゲルボシュロムボシュロムメダリストマルチフォーカル累進屈折力中心近用周辺遠用+1.50D+2.50D2週間頻回交換ハイドロゲル図1多焦点SCLの屈折力分布のイメージ図(ロート製薬提供)1132あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(50)(51)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611331134あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(52)図2エアオプティクスRアクア遠近両用のデザイン(日本アルコン提供)図3メダリストRフレッシュフィットRコンフォートモイストR遠近両用のデザイン(ボシュロム・ジャパン提供)(53)あたらしい眼科Vol.33,No.8,20161135図4バイオフィニティRマルチフォーカルのデザイン(クーパービジョン・ジャパン提供)1136あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(54)図52WEEKメニコン遠近両用のデザイン(メニコン提供)図62WEEKメニコン遠近両用のディセンターデザイン(メニコン提供)(55)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611371138あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(56)