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特異な部位に病変を呈したIgG4関連眼疾患の2例

2014年8月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科31(8):1219.1223,2014c特異な部位に病変を呈したIgG4関連眼疾患の2例中埜君彦*1,2渡辺彰英*2上田幸典*2木村直子*2木下茂*2*1町田病院眼科*2京都府立医科大学視覚機能再生外科学TwoCasesofIgG4-RelatedOphthalmicDiseasewithUnusualLesionsKimihikoNakano1,2),AkihideWatanabe2),KosukeUeda2),NaokoKimura2)andShigeruKinoshita2)1)DepartmentofOphthalmology,MachidaHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine背景:IgG4(免疫グロブリンG4)関連眼疾患では,一般的に涙腺部分が大多数を占めるといわれている.今回,涙腺以外の病変を呈した2症例(筋円錐内腫瘤,眼瞼腫瘍の眼窩内浸潤様腫瘤)を経験したので報告する.症例:症例1は69歳,女性,左上眼瞼の腫瘤を主訴に受診.左上眼瞼悪性腫瘍の眼窩内浸潤様の腫瘤を認めた.症例2は73歳,男性,右眼瞼腫脹,眼球突出を主訴に受診.右眼窩の筋円錐内に腫瘤を認めた.症例1では眼瞼部および眼窩内腫瘤の生検を施行し,症例2では眼窩内腫瘤摘出術を施行した.血液検査および病理組織診断結果よりIgG4関連眼疾患が疑われ,IgG4関連疾患包括診断基準に従い症例1は「疑診群」,症例2は「準確診群」と診断した.症例1はステロイド内服加療にて軽快し,症例2は術後腫瘤が消失したためステロイド治療は施行しなかった.両症例とも画像検査にて全身検査施行したが,他臓器に病変を認めなかった.結論:IgG4関連眼疾患はさまざまな部位にみられる可能性がある.涙腺部以外の眼窩内腫瘤であっても,IgG4関連眼疾患も念頭におく必要がある.Background:ThoughlacrimalglandlesionsofIgG4(immunogloblinG4)-relatedophthalmicdiseasearecommon,eyelidandorbitallesionselsewherethanthelacrimalglandarerare.WereporttwocasesofIgG4-relatedophthalmicdiseasewithorbitallesionsotherthanonthelacrimalgland(onelesionwasinthemusclecone,theotherwasaneyelid-to-orbitlesion).Cases:Case1,a69-year-oldfemale,showedaleftuppereyelid-to-orbitlesionlikeorbitalinfiltrationofmalignanteyelidtumor;case2,a73-year-oldmale,showedrighteyelidswellingandproptosis.Therewasanorbitalmassinthemusclecone.WesuspectedIgG4-relatedophthalmicdisease,basedonbloodtestandbiopsyoftheorbitalandeyelidlesions.OnthebasisofcomprehensivediagnosticcriteriaforIgG4-relateddisease,wediagnosedcase1aspossible,andcase2asprobable.Case1improvedafteroralcorticosteroidadministration,case2improvedwithoutoralcorticosteroid,becausethelesiondisappearedfollowingsurgery.Inbothcases,therewasnoIgG4-relatedlesionotherthaninorbitandeyelid.Conclusion:IgG4-relatedophthalmicdiseasecanarisefromvariousareas.Weshouldsuspectorbitallesions,exceptingthoseofthelacrimalgrand,ofbeingIgG4-relatedophthalmicdisease.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(8):1219.1223,2014〕Keywords:IgG4関連眼疾患,眼窩内腫瘤,涙腺,生検.IgG4-relatedophthalmicdisease,orbitalmass,lacrimalgland,biopsy.はじめにIgG4(免疫グロブリンG4)関連疾患とは,血清IgG4高値ならびに病変組織へのIgG4陽性形質細胞浸潤を特徴とする慢性の全身性疾患である1).全身諸臓器に慢性炎症や線維化がみられ,しばしば腫瘤性病変を形成する.眼科領域に発生した場合,IgG4関連眼疾患といわれている.IgG4関連眼疾患では,一般的に涙腺部分が大多数を占めるといわれている2).今回,筆者らは,涙腺以外の病変を呈した2症例(筋円錐,眼瞼腫瘍からの眼窩内浸潤)を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.〔別刷請求先〕中埜君彦:〒780-0935高知市旭1丁目104町田病院眼科Reprintrequests:KimihikoNakano,M.D.,DepartmentofOphthalmology,MachidaHospital,104Asahi1Chome,Kochi780-0935,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(139)1219 I症例〔症例1〕69歳,女性.2012年3月頃から左上眼瞼に腫瘤を認め,前医にて霰粒腫が疑われ一部切除されたが,徐々に拡大してきたため2013年3月7日に京都府立医科大学病院眼科を紹介受診した.初診時,視力は右眼0.4(1.0×sph.0.50D),左眼0.15(0.5×sph.1.75D),眼圧は右眼17mmHg,左眼12mmHg.前眼部と眼底は特に異常なく,中間透光体では左眼に白内障を認めた.Hess試験では軽度の左眼上下転制限を認めた.左上眼瞼皮膚の炎症性・壊死性変化および上眼瞼内上側の皮下に触れる可動性のない腫瘤を認めた(図1).眼窩magneticresonanceimaging(MRI)では左上眼瞼から眼窩へ進展した18mm×8mmの,境界は前方で不明瞭,内部均一な腫aabb図2症例1の眼窩部MRI左眼窩内に眼瞼から連続した腫瘤性病変を認める.a:T2強調矢状断像,b:造影水平断像.図3症例1の病理生検所見:左上眼瞼部位a:ヘマトキシリンン・エオジン(HE)染色(400倍).線維化,形質細胞,リンパ球浸潤を伴う.b:IgG4免疫染色(400倍).IgG4陽性形質細胞の浸潤を認める.図1症例1の前眼部写真左上眼瞼に炎症性・壊死性変化を認める.1220あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(140) 瘤性病変を認め,涙腺には病変を認めなかった(図2).左上眼瞼悪性腫瘍の眼窩内浸潤を疑い,当日に左眼窩内腫瘤生検を施行した.病理組織学的所見は,軽度の線維化と形質細胞,リンパ球,好中球浸潤を示し,IgG4/IgG陽性細胞比:38%IgG4陽性形質細胞:>10/HPFであった(図3).生検結果よりIgG4関連眼疾患が疑われ,血液・尿検査を追加した.その結果,IgG:2,139mg/dl,IgG4;172mg/dlで高値であるも,血中gグロブリンは異常なく,抗SS-A抗体,抗SS-B抗体は陰性,甲状腺ホルモン値は正常,甲状腺自己抗体は陰性だった.生検・血液検査より表1にあるIgG4関連疾患包括診断基準に従い1.腫瘤性病変,2.血清IgG4値(172mg/dl),3.病理所見は線維化を伴うも形質細胞,リンパ球,好中球浸潤を認められ,IgG4陽性形質細胞:>10/HPFであるもIgG4/IgG陽性細胞比が40%未満だったため1.2.を満たし「IgG4関連眼疾患の疑診群」と診断した.画像検査にて全身検査を施行したが,他臓器に病変を認められなかった.治療はプレドニゾロンR40mgから内服開始し,テーパリング治療にて腫瘤の著明な縮小,眼球運動障害の改善を認め,ステロイド治療開始後40日目に投与中止した.〔症例2〕73歳,男性.2012年2月頃,その約1年前から右眼瞼腫脹,眼球突出,流涙症を認めていた.2013年2月18日,前医での眼窩単純computedtomography(CT)検査にて右眼窩内に腫瘤を認め,2月28日に京都府立医科大学病院眼科を紹介受診した.初診時,視力は右眼0.1(1.2×sph+3.00D(cyl.0.25D),左眼0.08(1.0×sph+2.75D),眼圧は右眼14mmHg,左眼17mmHgで右眼瞼腫脹,眼球突出を認めた(図4).前眼部,中間透光体,眼底に特記すべき異常はなかった.Hess試験で右眼に全方向での制限を認めた.眼窩単純CTにて右眼に23mm大の眼窩筋円錐内から眼窩上内側に及ぶ内部均一で境界明瞭な腫瘤を認めた.眼窩MRIでは眼球後方内上側に境界明瞭,内部に均一した腫瘤病変を認め,腫瘤は均一に造影され,内部に血管陰影を認めた(図5).涙腺には病変を認めなかった.2013年3月29日に全身麻酔下に経眼窩縁アプローチにて右眼窩内腫瘤摘出術を施行し,腫瘤を全摘出した.病理組織学的所見は,線維化,形質細胞,リンパ球浸潤を伴い,IgG4/IgG陽性細胞比:47%>10/HPF,IgG4陽性形質細胞:>10/HPFであった(図6).血液・尿検査ではIgE:2,925mg/dlで高値であるも,IgG4:89.9mg/dlで正常,血中gグロブリンも異常なく,抗SS-A抗体,抗SS-B抗体は陰性,甲状腺ホルモン値は正常,甲状腺自己抗体も陰性だった.生検,血液検査より,表1にあるIgG4関連疾患包括診断基準に従い1.腫瘤性病変,2.血清IgG4値(89.9mg/dl):正常範囲内,3.病理組織学的所見①リンパ球,形質細胞浸潤と線維化,②IgG4/IgG陽性形質細胞比:47%,③IgG4陽(141)性形質細胞:>10/HPFにて,1.3.を満たし,「IgG4関連眼疾患の準確診群」と診断した.画像検査にて全身検査を施行したが,他臓器に病変を認められなかった.術後,眼球突出,眼球運動障害が改善したのでステロイド治療は施行せずに経過観察中である.II考按IgG4関連疾患は,同時性あるいは異時性に全身諸臓器に腫大や結節・肥厚性病変が出現し,血清IgG4高値ならびに組織中へのIgG4陽性形質細胞浸潤を伴う原因不明の疾患である.2001年,Hamanoら3)が血清IgG4高値を示す自己免疫性膵炎をIgG4関連疾患として報告して以来,全身のさまざまな臓器において血清IgG4の関与が示唆された症例の報告が相次いだ1,4).2010年にわが国では,これらをまとめてIgG4関連疾患と病名を統一することで合意がなされた.さらにIgG4関連疾患の診断において,2006年に自己免疫性膵炎,2008年にMikulicz病など各々で診断基準が作成されていたが,2011年梅原班・岡崎班らによるIgG4関連疾患包括診断基準(comprehensivediagnosticcriteriaforIgG4relateddisease(IgG-RD),2011)が表1のごとく公表された1).診断基準は,生検による病理組織検査,血清IgG4などの血液検査,画像検査(CT・MRI)の3つである.3つのなかでもIgG4関連疾患包括診断基準では病理組織を重視している.そのため,臨床的に生検材料が得られにくい臓器病変の感度が必ずしも高くない.たとえばMikulicz病やIgG4関連腎症で感度が70.87%,十分な生検組織が得られない自己免疫性膵炎ではほぼ全例が準確診群または疑診群との報告がある5).本症例においても,症例1が疑診群,症例2が準確診群であった.ゆえに涙腺以外の感度についてはさらなる症例の蓄積が必要であると思われる.IgG4関連眼疾患は一般的に涙腺に病変を認めることが多いが2),今回のように涙腺以外の外眼筋6),眼窩7.9),三叉神経9,10)などに認められた報告がある.症例2では眼球突出を主訴にIgG4関連眼窩病変を筋円錐内に認めたが,Wallaceらが,本症例と同様に眼球突出を主訴に筋円錐内にIgG4関連眼窩病変を認めた報告をしている10).しかし,症例1のように眼瞼悪性腫瘍の眼窩内浸潤を疑うような,眼瞼から眼窩に及ぶIgG4関連眼疾患に関する報告は現時点ではなかった.症例1,2のような涙腺部以外であっても,眼窩内に腫瘤性病変があれば,IgG4関連眼疾患の可能性も考慮して,画像検査,生検や摘出による病理検査,血清IgG4などの血液検査を必要に応じて施行すべきであると考えられた.IgG4関連眼疾患の治療は,他の臓器と同様にステロイド全身投与であり比較的良好に反応するといわれている11).症例1でもステロイド内服加療による反応は良好だった.しかあたらしい眼科Vol.31,No.8,20141221 bb図4症例2の前眼部写真右眼の眼瞼腫脹,眼球突出を認める.a図5症例2の眼窩部MRIa:T1強調冠状断像,b:造影水平断像.し,漸減中や投与中止にて再燃することがあり,注意深い経過観察が必要である12).また,症例2のように病変摘出後に病状の再燃なくステロイド治療が不要な場合もある13).ステロイド治療の有無にかかわらず経過観察は必要と思われる.今回,涙腺以外に病変を呈したIgG4関連眼疾患の2症例1222あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014ab図6症例2の病理生検所見:右眼窩内a:ヘマトキシリンン・エオジン(HE)染色(400倍).線維化,形質細胞,リンパ球浸潤を伴う.b:IgG4免疫染色(400倍).IgG4陽性形質細胞の浸潤を認める.表1IgG4関連疾患包括診断基準2011(厚生労働省岡崎班・梅原班)【臨床診断基準】1.臨床的に単一または複数臓器に特徴的なびまん性あるいは限局性腫大,腫瘤,結節,肥厚性病変を認める.2.血液学的に高IgG4血症(135mg/dl以上)を認める.3.病理組織学的に以下の2つを認める.①組織所見:著明なリンパ球,形質細胞の浸潤と線維化を認める.②IgG4陽性形質細胞浸潤:IgG4/IgG陽性細胞比40%以上,かつIgG4陽性形質細胞が10/HPFを超える.上記のうち,1)+2)+3)を満たすものを確定診断群(definite)1)+3)を満たすものを準確診群(probable),1)+2)のみをたすものを疑診群(possible)とする.ただし,できる限り組織診断を加えて,各臓器の悪性腫瘍(癌,悪性リンパ腫など)や類似疾患(Sjogren症候群,原発性硬化性胆管炎,Castleman病,満(,)二次性後腹膜線維症,Wegener肉芽腫,サルコイドーシス,Churg-Strauss症候群など)と鑑別することが重要である.(142) を経験した.IgG4関連眼疾患は涙腺部に病変が多いと報告されているが,筋円錐内や眼瞼悪性腫瘍の眼窩内浸潤様の腫瘤など,さまざまな部位にみられる可能性がある.涙腺部以外の眼窩内腫瘤を認めた場合,IgG4関連眼疾患も念頭において,生検が可能であれば積極的に施行する必要があると考えられた.文献1)「IgG4関連全身硬化性疾患の診断法の確立と治療方法の開発に関する研究班」「新規疾患,IgG4関連多臓器リンパ増殖性疾患(IgG4+MOLPS)の確立のための研究班」:IgG4関連疾患包括診断基準2011.日内会誌101:795-804,20122)TakahiraM,OzawaY,KawanoMetal:ClinicalaspectsofIgG4-relatedinflammationinacaseseriesofocularadnexallymphoproferativedisorders.IntJRheumatol2012:635473,20123)HamanoH,KawaS,HoriuchiAetal:HighserumIgG4concentrationinpatientswithsclerosingpancreatitis.NEnglJMed344:732-738,20014)UmeharaH,OkazakiK,MasakiYetal:Anovelclinicalentity,IgG4-relateddisease(IgG4RD):generalconceptanddetails.ModRheumatol22:1-14,20125)UmeharaH,OkazakiK,MasakiYetal:ComprehensivediagnosticcriteriaforIgG4-relateddisease(IgG4-RD),2011.ModRheumatol22:21-30,20126)HigashiyamaT,NishidaY,UgiSetal:AcaseofextraocularmuscleswellingduetoIgG4-relatedsclerosingdisease.JpnJOphthalmol55:315-317,20117)曽我部由香,小野葵,藤井一弘ほか:眼窩内病変を呈したIgG4関連疾患の2例.眼紀4:675-681,20118)SogabeY,MiyataniK,GotoRetal:PathologicalfindingsofinfraorbitalnerveenlargementinIgG4-relatedophthalmicdesease.JpnJOphthalmol56:511-514,20129)大原有紗,豊田圭子,土屋一洋ほか;当施設で経験した頭頸部領域のIgG4関連疾患.臨床放射線57:442.447,201210)WallaceZS,KhosroshahiA,JakobiecFAetal:IgG4relatedsystemicdiseaseasacauseof“idiopathic”orbitalinflammation,includingorbitalmyositis,andtrigeminalnerveinvolvement.SurvOphthalmol57:26-33,201211)KamisawaT,YoshiikeM,EgawaMetal:Treatingpatientswithautoimmunepancreatitis:resultsfromalong-termfollow-upstudy.Pancreatology5:234-238,200512)YamamotoM,TakahashiH,OharaMetal:AnewconceptualizationforMikulicz’sdiseaseasanIgG4-relatedplasmacyticdisease.ModRheumatol16:335-340,200613)中村洋介,武田憲夫,八代成子ほか:両側涙腺腫脹を生じたIgG4関連涙腺炎の2例.臨眼65:1493-1499,2011***(143)あたらしい眼科Vol.31,No.8,20141223

高度の高眼圧を示す症例に対する線維柱帯切除術併用チューブシャント手術─病理学的検査から判明したChandler症候群─

2014年8月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科31(8):1215.1218,2014c高度の高眼圧を示す症例に対する線維柱帯切除術併用チューブシャント手術─病理学的検査から判明したChandler症候群─川守田珠里*1濱中輝彦*1百野伊恵*2*1日本赤十字社医療センター眼科*2多摩南部地域病院眼科BaerveldtSurgeryCombinedwithTrabeculectomyforRefractoryGlaucoma:CaseDiagnosedasChandlerSyndromefromPathologicalExaminationShuriKawamorita1),TeruhikoHamanaka1)andIeByakuno2)1)DepartmentofOphthalmology,JapaneseRedCrossMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,Tama-NambuChiikiHospital背景:チューブシャント手術は難治緑内障に用いられる術式であるが,術前眼圧が40mmHgを超えるような症例では,チューブシャント手術単独では眼圧コントロールが困難であることが多く経験される.今回このような症例に対して線維柱帯切除術併用バルベルトチューブ挿入手術を施行したので報告する.症例報告:症例は80歳,女性.右眼は2回の線維柱帯切除術にもかかわらず40mmHg以上の高眼圧と視野障害の進行を示したため,線維柱帯切除術併用チューブシャント手術を施行した.術後レーザー切糸とレーザーによる前房内のチューブ閉塞解除後3カ月間,眼圧は良好に保たれている.また,線維柱帯切除組織の病理学的検査からChandler症候群と診断した.結論:40mmHgを超えるような難治緑内障には線維柱帯切除術併用バルベルトチューブ挿入手術が有効であり,線維柱帯切除標本の病理学的検査は今後の治療方針決定にきわめて有用である.Background:Glaucomatubesurgeryisbelievedeffectiveforrefractoryglaucoma.However,sofarasourexperienceisconcerned,achievementofgoodintraocularpressure(IOP)controlisfrequentlydifficultwhenthepre-surgicalIOPexceeds40mmHg.WereporthereacaseofglaucomathatunderwentBaerveldttubesurgerycombinedwithtrabeculectomy(TLE).Casereport:Thepatient,an80-year-oldfemale,hadtwiceundergoneTLEinherrighteye,butthoseprocedureshadbeenineffectiveandrightvisualfieldwasseverelydeterioratedafterthosesurgeries.BecauseofhighIOP(48mmHg)despitemaximummedication,Baerveldt250surgerycombinedwithTLEwasperformed.GoodIOPcontrolwasobtainedinthreemonthsaftersurgery.HerglaucomawasdiagnosedasChandlersyndromeonthebasisofpathologicalexaminationofTLEspecimens.Conclusions:BaerveldttubesurgerycombinedwithTLEseemstobeeffectiveinrefractoryglaucomawithhighIOP(morethan40mmHg);also,pathologicalexaminationofTLEsamplesisimportantforplanningglaucomatreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(8):1215.1218,2014〕Keywords:バルベルトチューブシャント手術,Chandler症候群,ICE症候群(虹彩角膜内皮症候群).Baerveldttubeshuntsurgery,Chandlersyndrome,ICEsyndrome.はじめに圧コントロールが困難であることが多く経験される.今回こチューブシャント手術は難治緑内障に用いられる術式であのような症例に対して線維柱帯切除術併用バルベルトチューるが,許容最大治療にもかかわらず術前の眼圧が40mmHgブ手術を施行し,切除標本からChandler症候群と診断したを超えるような症例では,チューブシャント手術単独では眼症例を報告する.〔別刷請求先〕川守田珠里:〒150-0012東京都渋谷区広尾4-1-22日本赤十字社医療センター眼科Reprintrequests:ShuriKawamorita,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JapaneseRedCrossMedicalCenter4-1-22,Hiroo,Shibuya-kuTOKYO150-0012,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(135)1215 図1右眼白内障手術前の中央角膜内皮スペキュラー検査所見右眼は六角細胞の形態は比較的保たれているが,内皮細胞境界が白く縁取りされ,核の部分を除いて暗く描出されている.I症例症例は80歳,女性.糖尿病,高血圧で治療中.2007年12月右眼の白内障,高眼圧にて近医より某病院眼科を紹介された.2007年12月の右眼眼圧は34mmHg.隅角は3.5時に局所的な周辺部虹彩前癒着が認められた.2008年1月右眼超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術施行.白内障術前のスペキュラー検査所見では,角膜内皮細胞数は右左眼それぞれ1,232,2,933個と右眼が左眼に比べて少なかった.右眼の内皮形状所見として核は白く,細胞膜も白く縁取りされ,暗い細胞質が認められた(図1).白内障術後一時的な眼圧コントロールは得られたものの再上昇したため,上耳側と上鼻側にそれぞれマイトマイシンC(MMC)併用線維柱帯切除術,続いてブレブ消失のためMMC併用濾過胞再建術が施行された.その後眼圧コントロールは得られていたが,2012年6月には眼圧が30.40mmHgに再上昇.Needlingが試みられたが眼圧コントロールは不良で,視野障害も進行したため,2012年7月13日日本赤十字社医療センター眼科紹介となった.初診時右眼眼圧48mmHg,左眼眼圧18mmHg.視力は右眼矯正視力30cm指数弁,左眼矯正視力1.2.視野はAulhorn-Greve分類で右眼stageVI,左眼stage0であった.右眼虹彩がプロスタグランジン(PG)製剤点眼のためか濃い色調であったが,虹彩萎縮やルベオーシスは認められなかった.右眼眼底は緑内障性視神経陥凹以外に異常所見は認められなかった.II経過眼圧が40mmHg以上ときわめて高いため,2102年7月18日右眼耳下側にバルベルトチューブ250を挿入,8.9時方向に線維柱帯切除術を併用した(図2).チューブの先端は1216あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014図2術後前眼部スリット写真チューブの位置は良好で8から9時方向に今回の線維柱帯切除術による虹彩切除痕がみられる.瞳孔は軽度散瞳を認めるが,瞳孔の変形,虹彩の萎縮,欠損などの異常所見は認めない.7-0ナイロン糸で結紮後前房内へ挿入し,チューブは保存強膜で被覆した.術後3日目に眼圧34mmHgと再上昇したためフラップのレーザー切糸を施行した.大きな濾過胞が形成され,PG製剤点眼下で眼圧11.16mmHgにコントロールされた.ブレブ形成は維持されていたが,術後6週目に眼圧24mmHgと上昇したため,アルゴンレーザーによるチューブ結紮の開放を行った.2012年12月現在,チューブの位置は良好で(図2),緑内障点眼なしで右眼眼圧は3カ月間11.14mmHgと良好に維持されている.III隅角の病理所見線維柱帯切除術併用チューブシャント手術によって得られた標本をパラフィン包埋してヘマトキシリン・エオジン(HE)染色をし,トロンボモジュリン免疫染色をして光学顕微鏡観察,エポン包埋したものは電子染色後超透過型電子顕微鏡観察を行った.線維柱帯は癒合し間隙はまったく認められず,Schlemm管に関しては管腔構造は認められるもののSchlemm管内皮細胞は脱落していた(図3).トロンボモジュリン染色でもSchlemm管に相当する部位では陽性所見は認められなかった(図3).線維柱帯前房側では1層の細胞が線維柱帯表面を覆っていた(図4).IV考按チューブシャント手術は複数回の緑内障手術でも眼圧コントロールが得られない難治緑内障に有効とされ,今までにも多くの報告がなされてきた.また,近年報告されたTVT(tubeversustrabeculectomy)研究では,線維柱帯切除術と同等またはそれ以上の眼圧下降が得られたと報告され1),チューブシャント手術に対する期待が高まっている.一般に(136) 図3光学顕微鏡所見(トルイジンブルー染色)線維柱帯は癒合して間隙はほぼ完全に消失している.Schlemm管の管腔は認めるもののSchlemm管内皮細胞は消失し,トロンボモジュリン免疫染色でもSchlemm管内皮細胞に相当する部位に陽性像は認めない.線維柱帯前房側に一層の角膜内皮が進展している(矢頭).難治緑内障とは複数回の既存緑内障手術に対して効果を示さなかったもの,血管新生緑内障など線維柱帯切除術で効果が期待できないもの,あるいはバックリング手術既往など高度の結膜瘢痕を有するものと理解されている.しかし近年,欧米ではチューブシャント手術が一般化したことや,抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬の出現により初期,中期の血管新生緑内障に関しては難治緑内障ではなくなってきていることから,真の難治緑内障とはどのような症例なのかを見直す時期に来ていると思われる.TVT研究ではチューブシャント手術と線維柱帯切除術とを同等に比較するため,症例の条件として眼圧40mmHg以下であること,活動性の血管新生緑内障,あるいはICE症候群(虹彩角膜内皮症候群)などの特殊な緑内障を除外するという制限を設けている.したがって,TVT研究には難治緑内障は含まれておらず,チューブシャント手術が難治緑内障に有効であるとは結論づけられない.一つのチューブシャント手術が失敗した場合,もう一つチューブシャント手術を追加するべきかという議論もされているが2),筆者らの経験でもチューブシャント手術がきわめて高い眼圧症例に対して有効であるとはいえない.このようなチューブシャント手術によっても手に負えない難治緑内障には,線維柱帯切除術との併用手術が報告されている3.5).本症例の隅角病理学的検査所見では,線維柱帯間隙がまったく認められず,Schlemm管も管腔は認められるもののトロンボモジュリン染色で内皮細胞がほとんど脱落していた.これは40mmHg以上というきわめて高い眼圧を保持している隅角所見であり,本症例の房水流出機能はほとんどないと(137)図4電子顕微鏡所見線維柱帯の最前房側に角膜内皮細胞の進展を認める(☆).角膜内皮細胞下にはDescemet膜様組織(DM)が形成されている.TB:線維柱帯beam.考えられる.また,白内障手術前から特有な角膜内皮細胞所見を示していること,片眼性の非遺伝性の高眼圧所見,病理検査から線維柱帯前房側表面への角膜内皮細胞の進展所見から,ICE症候群の中でも虹彩にほとんど異常所見を示さないChandler症候群と診断された6).ICE症候群のうち,Cogan-Reese症候群では虹彩表面の結節を伴い,進行性虹彩萎縮では虹彩萎縮が強く,孔形成を伴う.鑑別疾患としては,後部多形性角膜ジストロフィとFuchs角膜内皮ジストロフィがあげられる.両者とも両眼性で,常染色体優性遺伝形式をとる.Fuchs角膜内皮ジストロフィでは周辺虹彩前癒着や眼圧上昇は認めない.本症例のような房水流出路にきわめて強い荒廃を認め,眼圧が40mmHgを示す症例は真の難治緑内障の一つとしてよいと考えられ,視野障害の進行を予防する意味でも初回から本術式を選択しても良かったのではないかと考えられる.本症例は線維柱帯・Schlemm管が高度に荒廃していることから,許容最大治療にもかかわらず眼圧が40mmHgを超えていた事実を裏付けている.このような難治症例には線維柱帯併用チューブシャント手術が有効であり,また,線維柱帯切除標本の病理学的検索は今後の治療方針決定に関してきわめて有用と思われる.文献1)GeddeSJ,SchiffmanJC,FeuerWJetal;TubeversusTrabeculectomyStudyGroup:TreatmentoutcomesintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)studyafterfiveyearsoffollow-up.AmJOphthalmol153:789-803,20122)HeuerDK,LloydMA,BerveldtGetal:Whichisbetter?Oneortwo?Arandomizedclinicaltrialofsingle-plateversusdouble-plateMoltenoimplantationforglaucomasinaphakiaandpseudophakia.Ophthalmology99:15121519,19923)HillRA,NguyenQH,BaerveldtGetal:TrabeculectomyandMoltenoimplantationforglaucomasassociatedwithあたらしい眼科Vol.31,No.8,20141217 uveitis.Ophthalmology100:903-908,1993tiveIOPcontrolandcomplicationswithamodifiedsurgi4)BudenzDL,ScottIU,NguyenQHetal:CombinedBaer-calprocedure.JFrOphthalmol26:15-23,2003veldtglaucomadrainageimplantandtrabeculectomywith6)ShieldsMB,BourgeoisJE:GlaucomaassociatedwithprimitomycinCforrefractoryglaucoma.JGlaucoma11:marydisordersofthecornealendothelium.Chapter45,439-445,2002RitchR,ShieldsMB,KrupinT(eds):TheGlaucomas,5)HamardP,Loison-DaymaK,KopelJetal:MoltenoBasicsciecesecondedition,Mosbyimplantandrefractoryglaucoma.Evaluationofpostopera***1218あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(138)

涙点プラグ留置後2年で太鼓締め様脱出をきたした1例の臨床経過と組織学的検討

2014年8月31日 日曜日

《第2回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科31(8):1211.1214,2014c涙点プラグ留置後2年で太鼓締め様脱出をきたした1例の臨床経過と組織学的検討五嶋摩理近藤亜紀亀井裕子三村達哉松原正男東京女子医科大学東医療センター眼科Two-YearClinicalCourseandHistopathologicalInvestigationofaCaseofExtrudedPunctalPlugEncircledwithMucosalLoopExtendingfromthePunctumMariGoto,AkiKondo,YukoKamei,TatsuyaMimuraandMasaoMatsubaraDepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast目的:涙点プラグ挿入後から太鼓締め様脱出をきたすまでの2年間の経過を観察し,組織学的検討を行った症例を報告する.症例:70代,女性.ドライアイに対して涙点プラグ挿入後,1年10カ月で,プラグ留置中の2涙点が突出してきた.2年8カ月後,右上のプラグが涙点から脱出して涙点を覆うように横向きに位置し,涙点内腔と連絡した軟部組織がプラグ頸部を帯状に覆っていた.軟部組織を涙点近傍で切断し,組織学的検討を行ったところ,断裂した涙小管粘膜と考えられた.結果:涙点プラグの太鼓締め様脱出は,涙小管粘膜の断裂が原因で,涙点の突出が先行する可能性が示唆された.Purpose:Toreportonthetwo-yearclinicalcoursefollowingpunctalplugimplantationandthehistopathologicaloutcomeofacasepresentingextrudedplugencircledwithsofttissueextendingfromthepunctum.Case:Afemaleinher70sunderwentpunctalpluginsertionfordryeye.Oneyearand10monthslater,twopunctashowedprotrusion.Twoyearsand8monthslater,oneoftheplugs,havingbeenextruded,layoverthepunctumwithaloopofsofttissue,extendingfromthepunctum,firmlyencirclingtheplug.Thetissuewasdissectedandhistologicallysuggestedlaceratedmucosaofthecanalicularlumen.Findings:Itishypothesizedthatplugextrusionaccompaniedbyamucosalloopresultsfromlacerationofthecanalicularmucosa.Punctalprotrusionmayprecedeplugextrusion.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(8):1211.1214,2014〕Keywords:涙点プラグ,太鼓締め様脱出,合併症,涙点突出,組織病理.punctalplug,plugextrusionaccompaniedbymucosalloop,complication,punctalprotrusion,histopathology.はじめに点眼治療のみでは効果不十分なドライアイに対し,涙点プラグは簡便に挿入や抜去ができ,有効性も高いことから,わが国でも1998年の発売以来広く普及している.ゲージを用いたプラグサイズの測定や,プラグ形状の改良などとともに,脱落,陥入,肉芽などの合併症は少なくなっているとされるが1.5),一部では,プラグの脱落や脱出時に,涙小管内に肉芽が発生する可能性が指摘されている6.8).筆者らは,涙点プラグ留置後定期受診中に太鼓締め様の涙点プラグ脱出をきたし,プラグ除去後涙点閉塞した症例を経験し,挿入から脱出までの2年間の経過観察と,摘出組織の病理組織学的検討を行ったので報告する.I症例患者:70代,女性.既往歴:右角膜変性症に対して2005年に全層角膜移植術を施行した.家族歴:特記すべきことはない.現病歴:両眼のドライアイに対して2010年2月に右上下と左下に涙点プラグ(いずれもスーパーイーグルRプラグ,〔別刷請求先〕五嶋摩理:〒116-8567東京都荒川区西尾久2-1-10東京女子医科大学東医療センター眼科Reprintrequests:MariGoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast,2-1-10Nishi-ogu,Arakawa,Tokyo116-8567,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(131)1211 acdbacdb図1涙点部の突出プラグ留置後1年10カ月:右上涙点(a)と左下涙点(b)が突出してきた.プラグ留置後2年半:右上涙点(c)と左下涙点(d)の突出がやや進行していた.(点線部円内,いずれもフルオレセイン染色後)*a*b図2右上涙点におけるプラグ脱出と太鼓締め様現象プラグ留置2年8カ月後,プラグが涙点から脱出し(点線部円内),涙点と連絡した軟部組織(*)がプラグ頸部を覆っていた.a:上眼瞼反転前,b:上眼瞼反転後.1212あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(132) ×20×40vvv*図3太鼓締めをきたした組織の病理標本(ヘマトキシリン・エオジン染色)重層扁平上皮層(*)において角化は認めず,結合組織内に多数のリンパ球と少数の好中球の浸潤を認めた.上皮下には,新生血管(v)も認めた.×20×40vvv*図3太鼓締めをきたした組織の病理標本(ヘマトキシリン・エオジン染色)重層扁平上皮層(*)において角化は認めず,結合組織内に多数のリンパ球と少数の好中球の浸潤を認めた.上皮下には,新生血管(v)も認めた.イーグルビジョン社,米国)を挿入した.プラグサイズはいずれもゲージ測定で決定した.右下のプラグは半年で脱落した.経過1:2カ月ごとの診察中,プラグ挿入後1年10カ月で右上と左下の涙点が突出してきた(図1a,b).挿入後2年半で,両涙点突出に若干の進行がみられたが(図1c,d),この時点まで自覚症状はなかった.プラグ挿入から2年8カ月後,右眼の異物感と眼脂を訴えて受診した.右上涙点のプラグが涙点から脱出して涙点を覆うように横向きに位置し,プラグの頸部に,涙点内腔と連絡した軟部組織が強固に巻きついていた(図2).涙点近傍で軟部組織を切断し,プラグと軟部組織を摘出した.組織学的検討:摘出した軟部組織を,ヘマトキシリン・エオジン染色後,病理組織学的に検討した.角化を認めない重層扁平上皮で覆われた結合組織内に,多数のリンパ球と少数の好中球の浸潤を認めた.上皮下には新生血管も認めた(図3).摘出部位と組織学的特徴から涙小管粘膜と考えられた.経過2:プラグ留置後2年9カ月で,今度は左下涙点の突出がさらに進行し(図4),異物感が出現したため,プラグを抜去した.抜去時抵抗はなかった.プラグ抜去後,2涙点は,いずれも完全閉鎖した(図5).(133)ab図4左下涙点部の突出進行プラグ留置2年9カ月後,左下の涙点突出が進行し(a),涙点周囲粘膜が浮腫状となり(b),異物感が出現した.直後にプラグを抜去した.II考按西井・横井6)が,涙点プラグの特異な脱出様式として,“太鼓締め”様脱出と形容したように,本例は,涙点プラグの頸部に涙点内腔とつながった粘膜が強固に巻きついた状態になっていた.太鼓締め様脱出は,プラグによる機械的刺激が続いた結果,涙小管粘膜が断裂をきたし,肉芽形成も起こって,断裂部より近位の涙小管垂直部がプラグに巻きついたままプラグが脱出した状態と考えられるが,パンクタルプラグR(FCI社,フランス)7)以外での詳細な報告はみられない.このような特徴的なプラグ脱出の発生には,プラグの形状やサイズの不適合が関係していると推測されている7).本例で使用したスーパーイーグルRプラグは,パンクタルプラグRと同様に,プラグのノーズ径がシャフト幅と比べて幅広くなっているという特徴がある4).このため,プラグが脱落しにくい反面,ノーズが瞬目などのたびに涙小管粘膜を刺激する可能性があり,こうしたプラグの形状が涙小管粘膜の断裂に関与したと考えられる8).一方,サイズに関しては,本あたらしい眼科Vol.31,No.8,20141213 ab図5プラグ抜去後の涙点右上涙点(a),左下涙点(b)ともにプラグ抜去後閉鎖した(点線部円内).ab図5プラグ抜去後の涙点右上涙点(a),左下涙点(b)ともにプラグ抜去後閉鎖した(点線部円内).例では,ゲージによるプラグサイズの選択を行っており,挿入後2年間プラグが安定していたことからも,挿入時にサイズの不適合はなかったといえる.太鼓締め様脱出出現時の自覚症状として,本例では異物感や眼脂が出現しており,無症状,ないしは軽度の掻痒感のみであったパンクタルプラグR留置例7)と対照的であった.スーパーイーグルRプラグは,パンクタルプラグRと比べてノーズ先端の角度がやや鋭角であるため,瞬目や眼球運動に伴い,脱出プラグのノーズ先端が球結膜や涙丘を刺激しやすかった可能性がある.本例においては,右上涙点からのプラグ脱出から1カ月後に左下涙点部の異物感と涙点の突出進行がみられ,右上プラグ脱出時と同様の症状であったことから,プラグ脱出の前駆症状である可能性を考えてプラグを抜去した.過去の報告でも,プラグが脱出した部位は,上涙点が4例,下涙点が2例で7),上下涙点いずれでも起こりうる合併症といえる.プラグ脱出に先行してみられた涙点部の突出は,涙小管粘膜の断裂に伴う内腔の収縮を示唆している可能性がある.また,プラグ除去後,両涙点は閉鎖したため,涙小管内に肉芽を形成していたと考える.涙点の完全閉鎖では,プラグと同等の効果を維持することができるため,患者にとっては有益な面があるといえる.本例は,涙点プラグ留置後,定期受診中に,涙点突出が徐々に進行し,留置後2年でプラグの太鼓締め様脱出をきたすまでの経過を観察できた初めての報告である.プラグ脱落の過程で太鼓締め様脱出が生じた可能性が考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)Horwath-WinterJ,ThaciA,GruberAetal:Long-termretentionratesandcomplicationsofsiliconepunctalplugsindryeye.AmJOphthalmol144:441-444,20072)西井正和,横井則彦,小室青ほか:新しい涙点プラグ(フレックスプラグR)の脱落についての検討.日眼会誌108:139-143,20043)SakamotoA,KitagawaK,TatamiA:EfficacyandretentionrateoftwotypesofsiliconepunctalplugsinpatientswithandwithoutSjogrensyndrome.Cornea23:249-254,20044)五嶋摩理:涙点プラグ挿入・抜去のトラブルと対策.若倉雅登監修,宮永嘉隆・中村敏編,眼科小手術と処置,p98104,金原出版,20125)海道美奈子:BUT短縮型タイプのドライアイに対する治療法.あたらしい眼科53:1575-1579,20116)西井正和,横井則彦:肉芽に対する処置.あたらしい眼科23:1189-1190,20067)FayetB,AssoulineM,HanushSetal:Siliconepunctalplugextrusionresultingfromspontaneousdissectionofcanalicularmucosa.Ophthalmology108:405-409,20018)薗村有紀子,横井則彦,小室青ほか:スーパーイーグルRプラグにおける脱落率と合併症の検討.日眼会誌117:126-131,2013***1214あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(134)

血管新生緑内障におけるベバシズマブ併用線維柱帯切除術の予後不良因子の検討

2014年8月31日 日曜日

《第24回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科31(8):1207.1210,2014c血管新生緑内障におけるベバシズマブ併用線維柱帯切除術の予後不良因子の検討上乃功*1廣岡一行*2馬場哲也*2天雲香里*2新田恵里*2*1香川県立中央病院*2香川大学医学部眼科学講座PrognosticFactorsofPreoperativeIntravitrealBevacizumabRegardingTrabeculectomyOutcomesinNeovascularGlaucomaIsaoUeno1),KazuyukiHirooka2),TetsuyaBaba2),KaoriTenkumo2)andEriNitta2)1)DepartmentofOphthalmology,KagawaPrefecturalCentralHospital,2)KagawaUniversity目的:血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)に対するベバシズマブ硝子体内注射(intravitrealbevacizumab:IVB)後,線維柱帯切除術(trabeculectomy:LET)の予後不良因子について検討する.対象および方法:2006年9月から2013年3月の間に香川大学医学部付属病院眼科にてIVB後LETを行ったNVG患者80例80眼の連続症例.平均年齢63.9±12.7歳(平均値±標準偏差,以下同様).2回連続して眼圧が21mmHgを超えるものと光覚なしを死亡と定義した.Cox回帰分析を用い予後不良因子を検討した.結果:経過観察期間は,27.0±33.0月であった.術後12カ月および24カ月の生存率はそれぞれ87.5%,81.1%であった.IVB併用後LETの予後不良因子は,年齢,基礎疾患,術前眼圧,周辺虹彩前癒着,白内障手術既往,硝子体手術既往について解析を行ったが,有意に予後不良となる因子は認めなかった.結論:NVGにおけるIVB後LETの予後不良因子は同定できなかった.Purpose:Toevaluatetheprognosticfactorsforsurgicaloutcomesofintravitrealbevacizumab(IVB)beforemitomycinCtrabeculectomy(LET)forneovascularglaucoma(NVG).SubjectsandMethods:Wereviewedthemedicalrecordsof80patients(80eyes)withNVGtreatedatKagawaUniversityHospitalbetweenSeptember2006andMarch2013.Theprimaryendpointwaspersistentintraocularpressure(IOP)>21mmHg,deteriorationofvisualacuitytonolightperception,andadditionalglaucomasurgeries.Thefollowingvariableswereassessedaspotentialprognosticfactorsforsurgicalfailure:age,etiologyofNVG,preoperativeIOP,peripheralanteriorsynechiae(PAS),previousvitrectomyandpreviouscataractsurgery.MultivariateanalysiswasperformedusingtheCoxproportionalhazardmodel.Result:Patientmeanfollow-upwas27.0±33.0months.Theprobabilityofsuccessat1and2yearsafterLETwas87.5%and81.1%,respectively.ThemultivariatemodelshowednoprognosticfactorsforsurgicalfailureamongtheNVGpatients.Conclusion:BeforemitomycinCLETforNVG,therewerenoprognosticfactorsforsurgicalfailureofIVBinanyNVGpatient.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(8):1207.1210,2014〕Keywords:血管新生緑内障,ベバシズマブ硝子体内注射,線維柱帯切除術,予後不良因子.neovascularglaucoma,intravitrealbevacizumab,trabeculectomy,prognosticfactor.はじめに血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)は糖尿病網膜症や,網膜静脈閉塞症などの眼虚血に起因して発症する難治性の緑内障であり,血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が血管内皮細胞に作用することで虹彩・隅角の新生血管が形成され,房水流出路を閉塞させるために眼圧上昇をきたす1).眼圧が上昇すると,それに伴い眼虚血が増悪,新生血管が増加,さらに眼圧が上昇するという悪循環に陥るため,早急に眼内虚血に対する網膜光凝固術や眼圧上昇に対する薬物治療,線維柱帯切除術(trabeculectomy:LET)が施行されてきた.しかし,新生血管の活動性が高い状態での外科的治療は合併症も多く,術〔別刷請求先〕上乃功:〒760-8557香川県高松市番町5-4-16香川県立中央病院眼科Reprintrequests:IsaoUeno,DepartmentofOphthalmology,KagawaPrefecturalCentralHospital,5-4-16Ban-cho,Takamatsu,Kagawa760-8557,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(127)1207 後成績にも影響を及ぼしてきた.新生血管に直接作用する抗VEGF薬であるbevacizumabが臨床的に使用されるようになり,NVGに対するLETの周術期管理に変化がもたらされた.ベバシズマブ硝子体内注射(intravitrealbevacizumab:IVB)は,新生血管の消退に有効であり2),IVBを施行することで眼圧が下降し,薬物のみで眼圧がコントロールできる症例が増加してきている3).また,手術が必要になった症例でも,IVB併用によりLETの術後成績が向上するといった報告がある4,5)一方で,IVB併用の有無がLETの術後成績に影響を及ぼさないという報告もあり6),見解の一致は得られていない.また,NVGに対してIVBが行われていなかったときのNVGに対するLETの予後不良因子は,50歳以下の若年例,硝子体手術既往眼,原因疾患が糖尿病網膜症の症例における僚眼発症であり7),硝子体手術後のLETに対する予後不良因子は術前高眼圧,NVGと報告されている8).しかし,これまでにNVGに対するIVB併用LETの予後不良因子に関しては報告がなされていない.そこで今回筆者らは,NVGに対するIVB併用LETの術後成績を改めて検討するとともに,予後不良因子についても検討したので報告する.I対象および方法対象は2006年9月から2013年3月までの間に香川大学医学部附属病院眼科にてIVB後にLETを行ったNVG患者で6カ月以上経過観察できた80例80眼をレトロスペクティブに検討した.両眼LETを施行した症例は,最初にLETを行った眼を対象とした.IVBは当院倫理委員会の承認を得て行い,すべての患者に書面による同意を得た.1.25mg/0.05mlIVBはLET施行3.7日前に行った.LETは円蓋部基底結膜切開で行い,白内障手術同時施行例は全例同一創で行った.IVB併用LETの術後成績はKaplan-Meier生存曲線を用いて評価し,2回連続して眼圧が21mmHgを超えるものと光覚なしを死亡と定義した.眼圧下降薬の使用は可とした.薬剤スコアはアセタゾラミドの内服が2点,点眼薬は1剤につき1点とした.予後不良因子に関しては年齢(50歳以上,50歳未満),性別,基礎疾患(眼虚血の有無),術前眼圧(31mmHg以上,31mmHg未満),周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)(100%またはそれ未満),白内障手術既往,硝子体手術既往の有無についてそれぞれc2検定にて単変量解析を行った.さらにCox回帰分析を用い多変量解析を行った.II結果患者背景を表1に示す.平均年齢63.9±12.7歳,男性601208あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014眼,女性20眼であった.NVGの病因は糖尿病が57眼,眼虚血12眼,網膜中心静脈閉塞症8眼,網膜静脈分枝閉塞症1眼,網膜中心動脈閉塞症1眼,ぶどう膜炎が1眼であった.平均経過観察期間は27.0±33.0カ月,術前眼圧は32.1±7.8mmHgであった.IVB併用後LETの術後生存率は,術後12カ月が87.5%(n=54),24カ月が81.1%(n=31)であった(図1).死亡の定義を満たした症例の内訳は,2回連続して眼圧が21mmHgを超えたものが13眼,術後に光覚を失ったのは2眼であった.術前および術後6,12,18,24,30,36カ月後の平均眼圧はそれぞれ31.6±6.9mmHg,11.9±4.9mmHg,12.3±4.7mmHg,11.9±4.2mmHg,11.8±4.7mmHg,11.1±4.7mmHg,9.9±4.4mmHgであり,いずれの時点においても有意な眼圧の低下を認めた(図2).術前および術後6,12,18,24,30,36カ月後の薬剤スコアはそれぞれ3.82±0.97,0.30±0.79,0.20±0.65,0.32±0.92,0.31±0.95,0.27±0.68,0.30±0.81であり,術後有意な薬剤スコアの低下を認めた(図3).また,術後予後不良因子として,年齢,性別,基礎疾患,術前眼圧,PAS,白内障手術既往,硝子体手術既往をそれぞれ単変量解析を用いて行ったが,いずれの因子も有意差を認めなかった(表2).さらに,Cox回帰分析でも有意に予後不良となるものは認めなかった(表3).さらにPASの範囲が50%以上と50%未満,あるいは基礎疾患を糖尿病とそれ以外に分けて検討してみたが,いずれにおいても有意差は認めなかった.糖尿病網膜症が原因のNVGについて,LETを施行した僚眼にNVGがある場合とない場合で単変量解析を行ったが,これに関しても有意差は認めなかった(p=0.18).また,年齢,硝子体手術既往,僚眼にNVGありの計3項目を説明変数としてCox回帰分析を行ったが,有意に予後不良となるものは認めなかった(表4,5).III考按今回筆者らの検討では,IVB併用後LETの予後不良因子は,年齢,性別,基礎疾患,術前眼圧,PAS,白内障手術既往,硝子体手術既往のどの因子でも有意差を認めなかった.今回の結果は,過去に報告されたNVGに対してIVB非併用時のNVGに対するLETの予後不良因子(50歳以下の若年例,硝子体手術既往眼,原因疾患が糖尿病網膜症の症例における僚眼発症)7)とは異なっていた.この理由として,今回年齢に関して有意差が出なかったのは,50歳未満の症例数が少なかったため,統計的に有意差が出にくくなった可能性がある.また,硝子体手術既往に関しては,硝子体手術が現在の小切開硝子体手術で行われるようになり,以前のように大きく結膜を切開しなくなったため,濾過胞の形成維持が阻(128) 表1症例背景年齢(歳)63.9±12.7(17.92)性別(男/女)60/20原因疾患糖尿病57眼虚血12網膜中心静脈閉塞症8網膜静脈分枝閉塞症1網膜中心動脈閉塞症1ぶどう膜炎1経過観察期間(月)27.0±23.0(2.77)術前眼圧(mmHg)32.1±7.8(21.61)100生存率曲線806040200生存率(%)010203040506040観察期間(月)図1生命表法30術後12カ月および24カ月の生存率はそれぞれ87.5%,20******81.1%であった.10(80)(73)(48)(34)(29)(27)(24)50術前61218243036経過観察(月)4眼圧(mmHg)******薬剤スコア図2眼圧の推移術前に比べ術後は有意に眼圧の下降がみられた.()内は眼数.*:p<0.05.3210術前61218243036表2術後成績に影響を及ぼす因子の単変量解析結果経過観察(月)生存死亡p値図3薬剤スコアの推移年齢50歳以上59110.54術前に比べ,術後有意に薬剤スコアは減少した.*:p<50歳未満910.05.性別男50100.38女182基礎疾患眼虚血930.26眼虚血以外599表3Cox回帰分析結果術前眼圧31mmHg以上3480.2995%信頼区間31mmHg未満344オッズ比下限上限p値周辺虹彩前癒着100%710.66100%未満6111年齢0.9680.9251.0120.15白内障手術既往あり5080.43硝子体手術既往0.7830.2825.3700.78なし184白内障手術既往0.9290.2213.9650.93硝子体手術既往あり2240.59周辺虹彩前癒着<0.001<0.0010.98なし468基礎疾患2.4810.6259.8470.20術前眼圧1.0500.9921.1110.09表4Cox回帰分析結果表5Cox回帰分析結果(術後因子)オッズ比95%信頼区間p値下限上限オッズ比95%信頼区間p値年齢0.3910.0285.4750.49下限上限硝子体手術既往0.4370.0962.3370.36前房出血1.5700.4755.1870.46僚眼にNVG3.6800.66120.4980.14房水漏出2.3570.47811.6140.29(129)あたらしい眼科Vol.31,No.8,20141209 害されにくく硝子体手術既往の有無がLETの術後成績に及ぼす影響が小さくなってきたためと考えた.さらに,硝子体手術が必要な症例や若年者では,病態の活動性が高いと考えられるが,IVBを使用することにより,病態の活動性が低下したことで,症例間の活動性の差が小さくなってきたことも,予後不良因子が同定できなかった原因と考えた.Takiharaらは,NVG眼にLET前にIVBを行った場合は,行わない場合に比べ術後前房出血が減少し眼圧も下降するが,生存率では有意差は認めらなかったと報告している6).この報告によるIVB群の生存率は,4カ月で87.5%,8カ月で79.2%,12カ月で65.2%,IVB非併用群の生存率は,術後4カ月で75.0%,8カ月で79.1%,12カ月で65.3%であった.しかし,SaitoらのNVGに対するIVB後LETでは,術後6カ月の生存率はIVB使用では95%,IVB非使用では50%(p<0.001)と,IVB使用により有意に良好な生存率が得られている4).今回の生存率も12カ月が87.5%,24カ月が81.1%であり,IVB使用により術後生存率は改善していると考えられた.IVBはNVGの治療に不可欠なものになりつつあり,IVB併用後LETの予後不良因子については多数例のより長期での臨床研究が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendothelialgrowthfactorinocularfluidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEnglJMed331:1480-1487,19942)DavidorfFH,MouserJG,DerickRJ:Rapidimprovementofrubeosisiridisfromasinglebevacizumab(Avastin)injection.Retina26:354-356,20063)WakabayashiT,OshimaY,SakaguchiHetal:Intravitrealbevacizumabtotreatirisneovascularizationandneovascularglaucomasecondarytoischemicretinaldiseasesin41consecutivecases.Ophthalmology115:1571-1580,1580,20084)SaitoY,HigashideT,TakedaHetal:Beneficialeffectsofpreoperativeintravitrealbevacizumabontrabeculectomyoutcomesinneovascularglaucoma.ActaOphthalmol88:96-102,20105)SaitoY,HigashideT,TakedaHetal:Clinicalfactorsrelatedtorecurrenceofanteriorsegmentneovascularizationaftertreatmentincludingintravitrealbevacizumab.AmJOphthalmol149:964-972,20106)TakiharaY,InataniM,KawajiTetal:CombinedintravitrealbevacizumabandtrabeculectomywithmitomycinCversustrabeculectomywithmitomycinCaloneforneovascularglaucoma.JGlaucoma20:196-201,20117)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:TrabeculectomywithmitomycinCforneovascularglaucoma:prognosticfactorsforsurgicalfailure.AmJOphthalmol147:912-918,918,20098)InoueT,InataniM,TakiharaYetal:PrognosticriskfactorsforfailureoftrabeculectomywithmitomycinCaftervitrectomy.JpnJOphthalmol56:464-469,2012***1210あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(130)

閉塞隅角眼の眼表面温度に影響する解剖学的因子の多変量解析

2014年8月31日 日曜日

《第24回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科31(8):1203.1206,2014c閉塞隅角眼の眼表面温度に影響する解剖学的因子の多変量解析河嶋瑠美松下賢治西田幸二大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科学眼科学教室EffectofAnatomicFactorsonOcularSurfaceTemperatureinEyeswithAngleClosureRumiKawashima,KenjiMatsushitaandKohjiNishidaDepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:閉塞隅角眼の眼表面温度に影響を与える解剖学的因子を検討する.対象および方法:無治療閉塞隅角眼13名,18眼を対象に赤外線サーモグラフィー(TOMEY社製)にて眼表面温度を,Pentacam(Ocular社)とIOLマスター(Zeiss社製)にて形態計測を行った.眼表面温度は開瞼後10秒間毎秒ごとに測定した.開瞼直後と10秒後の眼表面温度とその変化量および10秒間の最大変化量を従属変数,室温,体温,年齢,角膜厚,瞳孔径,前房深度,前房容積,眼軸長を独立変数として多変量解析を行った.結果:閉塞隅角眼の眼表面温度は開瞼10秒後に有意に低下した.開瞼直後および10秒後の眼表面温度の有意な説明因子は認めなかった.一方,変化量は室温,前房容積,体温が説明変数として選択され(r2=0.70),室温および前房容積が有意であった(p<0.01).また,最大変化量は眼軸長,体温,年齢,瞳孔径が説明変数として選択され(r2=0.80),眼軸長および体温が有意であった(p<0.05).考察:閉塞隅角眼における眼表面温度には解剖学的因子が関与している可能性が示唆された.Purpose:Toevaluatetheeffectofanatomicfactorsonocularsurfacetemperatureineyeswithangleclosure.Methods:Weinvestigated18eyesofangle-closurepatientswhohadnohistoryofintervention.Theocularsurfacetemperaturewasmeasuredimmediatelyaftereyeopeningandeverysecondduring10secondsofopeneye,usinganocularsurfacethermographer.AnatomicfactorsweremeasuredusingaScheimpflug-basedcornealtopographer.MultipleregressionanalysiswasperformedusingJMP9.0software.Results:Inangle-closureeyes,theocularsurfacetemperaturedecreasedsignificantlyduringthe10secondsaftereyeopening.Temperaturesimmediatelyandat10secondsaftereyeopeningwerenotdeterminedbyroomtemperature,bodytemperature,ageoranyanatomicalparameters(r2=0.29,p=0.50/r2=0.33,p=0.60).However,thechangeinocularsurfacetemperatureduringthe10secondswasdeterminedpredominantlybyroomtemperatureandanteriorchambervolume(r2=0.70,p<0.01);maximalchangeduring10secondswasdeterminedpredominantlybyaxiallengthandbodytemperature(r2=0.80,p<0.05).Conclusion:Wefoundthatocularsurfacetemperaturemightbeaffectedbyanatomicfactorsinangle-closureeyes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(8):1203.1206,2014〕Keywords:閉塞隅角眼,赤外線サーモグラフィー,眼表面温度.angleclosure,ocularsurfacethermographer,ocularsurfacetemperature.はじめに閉塞隅角緑内障は全世界に1,600万人存在し,そのうち400万人が両眼失明していると報告されている1,2).閉塞隅角緑内障の危険因子として短眼軸長,浅前房,相対的な水晶体肥厚といった解剖学的因子に加え,虹彩性状,虹彩体積変化,脈絡膜肥厚などの生理学的因子があげられるが3),そのなかで共通した因子は浅前房であり,それは年齢,性別のほかに人種の影響も受けていると報告されている4).実際に世界の人種における原発閉塞隅角緑内障(primaryangle-closureglaucoma:PACG)と原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)の割合をみたところ,アラスカではPOAGの21倍,モンゴルでは2.8倍のPACGが〔別刷請求先〕河嶋瑠美:〒565-0871吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科学眼科学教室Reprintrequests:RumiKawashima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-2Yamadaoka,Suita,Osaka565-0871,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(123)1203 存在している一方,ブルーマウンテンやアリゾナではPOAGがPACGの10.20倍存在しているとの報告がある4).この人種による病型の違いをCassonらは人類の進化から考察しており,閉塞隅角緑内障が多い人種の起源は氷河期である4万年前から1万5千年前の北東アジアにあり,眼表面からの冷却に対して形態学的に適応を果たすために浅前房になったと推察している4).そこで筆者らは今回,閉塞隅角眼において眼表面温度に影響を与える形態学的因子について検討した.なお,本研究は大阪大学医学部附属病院倫理委員会の承認を得て行った.I対象および方法対象は当院に通院している無治療にて経過観察中の狭隅角眼,計13例18眼である.その内訳は閉塞隅角症疑い(PACS)眼(女性5例6眼,年齢67.8±6.9歳),閉塞隅角症(PAC)眼(男性1例,女性7例,計12眼,年齢65.0±13.4歳)である.対象症例に対して,眼表面温度はTOMEY社製の赤外線サーモグラフィーを用い,自然瞬目後,5秒間閉瞼した後10秒間開瞼を持続し,その間毎秒ごとに角膜中心温度を測定した.形態学的因子として角膜厚,瞳孔径,前房深度,前房容積はPentacam(Ocular社),眼軸長はIOLマスター(Zeiss社)を用いて測定した.統計学的解析はJMP9.0を用いて開瞼直後および開瞼10秒後の角膜中心温度さらにその温度変化および温度変化の最大値を従属変数,室温,体温,年齢,角膜厚,瞳孔径,前房深度,前房容積,眼軸長を説明変数としてステップワイズ法にて多変量解析を行った.II結果対象症例における説明変数の実際の測定結果を表1に示す.PACSとPAC眼ともに,開瞼10秒後の角膜中心温度は有意に低下していた(図1).つぎに多変量解析の結果を示す.まず開瞼直後の角膜中心温度には有意な説明因子は認めなかった(r2=0.29,p=0.50)(表2).さらに開瞼10秒後の温度に関しても有意な説明因子は認めなかった(r2=0.33,p=0.60)(表3).つぎに10秒間の温度変化に関して検討したところ,室温,前房容積,体温が説明変数として選択され(r2=0.70),そのなかで前房容積と室温が有意な説明因子としてあげられた(p<0.01)(表4).また,10秒間の温度変化は眼表面の影響を受けて一定の変動を示さない個体があるため,温度変化の最大値も解析項目にあげた.その結果,眼軸長,体温,年齢,瞳孔径が説明変数として選択され(r2=0.80),眼軸長と体温が有意な説明因子としてあげられた(p<0.01)(表5).さらに左右を説明変数に追加して解析を行っても同様の結果であった.以上の結果より,閉塞隅角眼において10秒間の開瞼で角膜中心温度は有意に低下することが示された.さらに10秒表1測定結果室温(℃)体温(℃)角膜厚(μm)瞳孔径(mm)前房深度(mm)前房容積(mm3)眼軸長(mm)PACS24.2±0.5636.2±0.10541.5±23.22.36±0.321.92±0.2367.5±19.222.4±0.42PAC24.1±0.4636.2±0.30552.1±39.82.33±0.551.95±0.2566.2±12.822.4±0.42全体24.0±0.4836.5±0.10542.7±23.22.59±0.531.90±0.2366.0±14.922.1±0.50温度(℃)34.634.434.234.033.833.633.4***34.434.034.333.934.233.8PACSPAC:開瞼直後:開瞼10秒後*:paeredt-testp<0.01PACSPAC全体温度変化(開瞼直後.開瞼10秒後)(℃)0.45±0.180.44±0.380.42±0.33最大温度変化0.62±0.170.62±0.350.51±0.31(℃)全体図1開瞼直後と開瞼10秒後における角膜中心温度変化1204あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(124) 表2開瞼直後の角膜中心温度におけるステップワイズ法による表3開瞼10秒後の角膜中心温度におけるステップワイズ法に多変量解析よる多変量解析開瞳直後標準偏回帰係数,bt値p値年齢0.150.280.79前房深度0.380.610.56前房審積.0.26.0.470.65眼軸長0.280.640.54開瞼10秒後標準偏回帰係数,bt値p値年齢.0.57.0.510.63体温.0.31.0.860.42前房深度0.560.510.63室温0.691.040.34r2=0.29;p=0.50表4開瞼直後と開瞼10秒後の角膜中心温度変化におけるステップワイズ法による多変量解析温度変化(開瞼直後.開瞼10秒後)標準偏回帰係数,bt値p値体温0.582.530.05前房容積*1.574.750.01*室温*1.924.610.01*r2=0.70;p=0.04*後の温度変化の有意な説明因子は室温および前房容積であり,室温が低いほど,前房容積が小さいほど変化量が小さくなっていた.また,温度変化の最大値の有意な説明因子は眼軸長および体温であり,体温が低いほど,眼軸長が小さいほど温度変化の最大値が小さくなっていた.III考按赤外線サーモグラフィーが初めて眼に応用されたのは1968年であり,その後1995年にMorganらがドライアイ患者に対する眼表面温度の測定を行ったのを皮切りに多くの報告がされているが,閉塞隅角眼を用いた報告はない.また,当時の装置は,厳密な温度,湿度管理および習熟した測定技術が必要であり,さらにデータ解析に長時間を要すなどの欠点があった.そこでこれらの問題点を改善した新しい眼表面サーモグフラフィーが開発された.この機種にはオートアライメント機能が搭載されており,一定の距離を保ちながら測定できる.また,機械内部の温度補正を行うことで温度や湿度の影響を最小限に抑えることが可能であり,測定結果が即座に解析できることも特徴である5).冒頭で述べたように,人類が生存していくためには氷河期のより北方の地域では寒冷に打ち勝ち視力を維持する必要があった.具体的には表面積を小さくするために丸顔に,さらに外部への曝露部分を少なくするために平坦に,さらに脂肪を厚くすることで眼瞼は一重になったといわれている.さらに,眼球は角膜の凍傷を防ぐために前房を浅くして虹彩と近接することにより,血流や房水の影響を受けて温度低下を防(125)r2=0.33;p=0.60表5角膜中心温度の最大温度変化におけるステップワイズ法による多変量解析最大温度変化標準偏回帰係数,bt値p値年齢.3.10.2.150.07体温*3.012.980.02*眼軸長*4.173.380.01*瞳孔径.1.62.1.800.12r2=0.80:p<0.01*ぐことが可能になったと考えられている4).前房水による熱伝達をシミュレーションの技術を使った報告では血流が豊富に存在する眼窩内に位置する後眼部ほど温媒体の影響を受けやすく温度が高く,外部に最も曝されている角膜中心の温度は冷媒体である角膜の影響を受けて約34℃と一番低くなっている6).今回の筆者らの系では,狭隅角眼において開瞼10秒後の角膜中心温度は冷媒体である角膜の影響を反映し有意に低下し(図1),前房容積が小さいほど,さらに眼軸が短いほどその低下量は小さい結果となった(表4,5).つまり温媒体の影響が強い条件では温度変化は小さくなり,過去のシミュレーション結果と矛盾がなかった.しかし,室温や体温が高いほど眼表面温度が低下するという結果が得られた(表4,5).これは外部温度や体温の影響を受けた眼瞼などの外眼部の温度が高くなるほど涙液の蒸散が大きくなり,それに伴う気化熱により眼表面温度が低下した可能性が考えられる.つまり,眼瞼の形態も眼表面温度に関与している可能性があるため今後検討が必要であると思われる.これらの結果と先ほどの仮説を考え併せると,氷河期では外気温が低いため,眼瞼は冷却され,外部環境に伴った眼表面における涙液蒸散の影響が非常に少ない状態にあると思われる.その結果,眼表面温度には解剖学的因子の影響が強く関与し角膜表面温度の低下を防いでいる可能性が示唆された.今後,外部環境因子を含めた解析を行うことにより,より正確に解剖学的因子の影響を解明できると思われ,本研究により得られたパラメータはそのような解析に必要な基礎的あたらしい眼科Vol.31,No.8,20141205 データを供給できたと思われる.また,微小環境の測定で測定量が小さいことから,角膜表面温度そのものよりもその温度変化が解析の対象として適切であったと考えられた(表2,3).今回の研究では閉塞隅角眼症例のなかで,前房深度の差異が眼表面温度に変化を与える可能性を検討することを目的としたため,解析方法および結果は限定的と考えられる.よって今後は正常前房深度症例を対象コントロールとした比較が必要であると思われる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)FosterPJ,JohnsonGJ:GlaucomainChina:howbigistheproblem?BrJOphthalmol85:1277-1282,20012)QuigleyHA,BromanA:Thenumberofpersonswithglaucomaworldwidein2010and2020.BrJOphthalmol90:151-156,20063)QuigleyHA:Angle-closureglaucoma-simpleranswerstocomplexmechanisms:LXVIEdwardJacksonMemorialLecture.AmJOphthalmol148:657-669,20094)CassonRJ:Anteriorchamberdepthandprimaryangle-closureglaucoma:anevolutionaryperspective.ClinExperimentOphthalmol36:70-77,20085)KamaoT,YamaguchiM,KawasakiSetal:Screeningfordryeyewithnewlydevelopedocularsurfacethermographer.AmJOphthalmol151:782-791,20116)OoiEH,NgE:Simulationofaqueoushumorhydrodynamicsinhumaneyeheattransfer.ComputinBiolMed38:252-262,2008***1206あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(126)

時の人 辻川 明孝 先生

2014年8月31日 日曜日

人人の時香川大学眼科学講座教授つじかわあきたか辻川明孝先生香川大学医学部眼科学講座の前身は,旧香川医科大学に1983年に開設された眼科学講座である.2003年,旧香川大学と旧香川医科大学が統合して現・香川大学となり,医学部眼科学講座も新組織の中で再スタートを切った.所在地は旧香川医科大学時代から変わらず,高松市に隣接する三木町にある.*2014年3月に白神史雄前教授の後任として着任された辻川明孝先生は,大阪出身の47歳.京都大学医学部時代はラグビーに打ち込んだスポーツマンである.辻川先生に香川大学医学部眼科の印象を伺った.「香川大学眼科は医師スタッフ十数人と少数ですが,各人がプロフェッショナルであり,少数精鋭だと感じました.この少ない人数で,平成25年度には硝子体手術665例,緑内障手術206例を含めて,1年間に2,230例の手術を施行しています.手術症例が多いことは知っていましたが…」「着任して一番驚いたことは,外来受診されている患者さんが比較的少ないことです.これをみて,大学と近隣の先生方との連携がうまくいっているのを感じました.硝子体注入は週に60.70件程度行っていますが,今後一層増加することが予測されますので,これからも連携して治療を行っていく必要を強く感じています」.白神前教授が培ってきた,地域の医師との連携,医療スタッフ・事務スタッフのチームワークの良さ,臨床力をさらに発展させ,地域医療に貢献できるように努めたい,というのが辻川先生の現在の抱負である.*それでは,辻川先生のめざす眼科医療とはどのようなものだろうか.就任に当たり,辻川先生は眼科学講座のホームページに次のように記している.「最新のエビデンスに基づいた標準化された治療を行うとともに,患者さん一人ひとりに最適の治療(個別化医療)を提供する1184あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014ことを目指します.患者さんを中心とした医療を実践し,患者さんに喜ばれる医療を提供していきたいと考えています」.より具体的に,先生が専門とする加齢黄斑変性について伺ってみた.「私も臨床研究に加わった抗VEGF薬が一般診療に導入されてから,視力予後が格段によくなり,患者さんに喜んでいただけるようになりました.しかし,新たな問題も発生しています.加齢黄斑変性は再発を繰り返すことが多い疾患で,再発後は早急な再治療が必要になりますので,こまめな定期受診が必要ですし,薬剤も高額ですので,医療経済に与える影響も小さくはありません.より少ない負担で効率のよい治療を確立する必要があります.近年,加齢黄斑変性の発症にかかわる遺伝子が次々と報告されています.今後の研究で,遺伝的な要因による治療反応性の違いが解明されれば,個別化医療につながっていくでしょう.私はこのような加齢黄斑変性の病態解明・個別化治療の確立を目指して研究を行ってきましたが,これを香川県の患者さんのために生かしていきたいと考えています」.*最後に辻川先生の人となりを紹介しよう.大阪府立三国丘高等学校を卒業後,京都大学医学部に入学.実習以外の時間は「ラグビー・筋トレの毎日」だったそうである.大学時代の最大の思い出は「6回生のときの西医体(西日本医科学生総合体育大会)でラグビー部が準優勝できたことです.しかし,私自身は準決勝の試合中に骨折・途中退場したため,決勝はプレーできず,不完全燃焼気味でした」.現在の趣味は「寺社巡り」とのこと.研究テーマである「加齢性黄斑変性の病態解明・新規治療法の開発」「網膜循環疾患の病態解明」と,香川大学医学部眼科を率いての医療提供,さらには後進の育成(教室員を増やすことが目下の課題とか)と,辻川先生の一層の活躍が期待される.(104)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY

後期臨床研修医日記 33.岡山大学病院眼科学研究室

2014年8月31日 日曜日

My boom 31.

2014年8月31日 日曜日

監修=大橋裕一連載MyboomMyboom第31回「後藤聡」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載MyboomMyboom第31回「後藤聡」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介後藤聡(ごとう・そう)大阪大学眼科学教室所属,眼科医5年目兵庫県は尼崎で生を受け,金沢大学を卒業し,東京医療センターで初期研修完了の後,平成20年に大阪大学に入局いたしました.中学高校は六甲学院という男子校であり,毎日“パンツいっちょで便所掃除”をしていました.校則で決まっていたのかわかりませんが,寒い冬でも裸足で短パンというスタイルで,亀の子タワシ1つで便器をひたすら磨くという作業を繰返すことで,頭はともかく,体は鍛えられた記憶があります.大学時代は,日本の伝統が残る金沢でバスケット部以外に茶道や空手にも時間を費やし,和道に触れる時間をもつことができました.その経験が今の手術にも生きていると感じています.眼科Myboom入局後の異動先であった和歌山県紀南病院は,今では3人で年間2,000件を超える手術を行っており,とても恵まれた環境でした.今年の春からは大学院生として研究をスタートすることとなり,今は理研でお世話になっております.実情をよく聞かれますが,建物自体は普段と変わらず静かで,各研究室が淡々とそれぞれの研究を進めています.自分は黄斑の発生と,その機能に興味があり,黄斑萎縮が原因で視力が出ない方に,将来的に少しでも視力改善が可能になればと思い,研究に携わらせて頂くことになりました.研究のため,臨床からは一旦離れ,硝子体手術をストップさせなければならない大き(99)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYなジレンマがありましたが,今しかできない大学院での研究生活に没頭したいと考えています.決して平坦な道ではないと思いますが,基礎から応用研究に,そして臨床に活かすことのできる仕事ができればと思います.まだまだ未熟な自分ですが,眼科になって感じるのは,研究にしても手術にしても,自ら学んで行くことはもちろん大切なことです.しかし,独学だけでは成り立たないことをよく感じます.先人の築き上げた知識と技術を師匠から吸収することで,過去の偉人のレベルにいち早く近づき,その上で新たな道(技術)を展開できるものではないかと感じます.特に手術に関しては,独学で執刀するのには限界と危険があり,やはり基本的な技術をしっかりと体得してから,応用に進むべきだと思います.空手や茶道,生け花,歌舞伎の世界でも同様に,弟子が師範から教えてもらうことでその歴史と基礎的な技術を継承し,経験を積み,そして新たな師範が生まれます.眼科手術道においても,弟子と師匠という関係は不可欠であり,良き師匠に出会うことはある意味では,最大の別れ道でもあると思います.研修医の時に,「眼科医に成り立てのあなたは,未熟さゆえに罪を犯している自覚が必要です.一日でも早く一人前の眼科になってください」と師匠から言われたのを思い出します.一日でも早く一人前になって,いつの日か師範のレベルに達したいと思います.(と言いながらも,しばらく手術はお預けですが….)食べ物Myboomとてもハマっている調味料があります.軽井沢に工房を持ち,銀座に店を構える燻製調味料を販売している‘煙事’の醤油とオリーブ油なのですが(写真1),これが本当に美味しいんです.調味料自体を燻製してあるので,香りだけでも香り豊かな醤油を2,3滴加えた卵かあたらしい眼科Vol.31,No.8,20141179 写真1煙事さんの燻製調味料最高級の卵かけご飯を召し上がってみてください.スコピゾルみたいで使いやすいです.けご飯は絶品です.お家で高級卵かけご飯が楽しめます.またお豆腐やアボカドなんかにも数滴足らすと風味が引き立ちます.豚汁やカレーなんかにも数滴加えるだけでコクがグッと増してお店の料理みたいになりますよ.入れ物も,“スコピゾル”みたいで可愛い?ので,眼科医には馴染みやすいかもしれませんね.是非お試しあれ!名言Myboom最近,印象に残った言葉があります.ココ・シャネルさんの言葉で“Naturegivesyouthefaceyouhaveattwenty;itisuptoyoutomeritthefaceyouhaveatfifty.”「20歳の顔は自然の贈り物.50歳の顔はあなたの功績」という言葉です.20歳ではなく30代になった自分にとって,20年後の自分が活き活きとしているか?大切な家族はHappyか?そして今は実現不可能でも20年後なら治せる方法は何か?なんてことも妄想しながら,新天地の生活をスタートさせている次第です.逆に20年先を妄想することで,日々の目標も明確になり,毎日に張り合いが出ます.短期的には2020年に東京オリンピックが開催されますが,眼科としても20/20で視力1.0!と縁起が良いので,何かできたらと妄想しています.ARVOMyboomオーランドで開催されたARVO2014に参加させて頂きました.3年ぶりに参加させて頂きましたが,よく遊びよく学ぶ学会となりました.ケネディー宇宙センターで,実際に宇宙に行ってきたスペースシャトル,アトラ写真2東京医療センターの秋山先生とアトランティスが空を飛んでいるかのように見せる展示は感動ものです.ンティスを目の当たりにできたのは本当に幸せでした(写真2).昨今ではあまりニュースになりませんが,1960年代から90年代にかけての宇宙構想は,それはそれは全世界が期待を寄せる一大イベントだったことを実感できました.またスヌーピーがNASAのマスコットに認定されていたことも驚きでした.アポロ10号計画ではロケットの名前がチャーリーブラウンと操縦士によって名付けられたのも事実で,さすがにおちゃらけ過ぎとの指摘があり,11号計画では司令船をコロンビア,着陸船をイーグル(アメリカの象徴)というように真面目な名前が付けられるようになったそうです.発表は講演だったため,予想通り本場の英語を聞き取るのが難しく,(いつも感じることですが)英語のストレスから早く解放されたいと思いました.それこそ2020年には英語のストレスから解放されていたいものです.次にバトンをお渡しするのは,僕が初期研修医の頃に指導を頂いた,東京医療センター角膜斑の福井正樹先生です.福井先生は,東京医療センターで後期研修を終えた後,慶應大学坪田教授フェローとして勤務され,昨年より東京医療センターで角膜移植を中心に,硝子体手術までも執刀する,とてもハイパーな先生です.公私ともにお世話になっている福井先生のMyboomに注目です.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.1180あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(100)

現場発,病院と患者のためのシステム 31.無線技術の応用(患者認証など)

2014年8月31日 日曜日

連載現場発,病院と患者のためのシステム連載現場発,病院と患者のためのシステム無線技術の応用(患者認証など)杉浦和史*.無線を使って何ができるかRFID(アールエフアイディ:radiofrequencyidentifier)とは,弱い電波を飛ばして数cm.数mの近くにある検知対象物(ID)を捜す仕掛けです.この機能を使って検知範囲に入ってきた患者を見つけ,識別することができます(図1,2参照).患者,医療スタッフ(医師,看護師など)の識別も可能で(図3),付き添いの患者家族が診察券をもっていた場合でも識別が可能です.もっ④送られてきたIDから患者なのか,スタッフなのかを判別する.①RFIDタグが埋め込まれた③ID番号診察券がRFIDリーダの検知範囲に入る.⑤患者検索(患者の場合)⑥患者表示②タグの中に記憶された認証用ID情報が転送される.図1RFIDによる患者認証の流れR手術患者の認証をバーコードのリストバンドで行う方法が一般的ですが,それでも患者を間違えて手術してしまったという医療事故が後を絶ちません.名前を呼び,診察室にきた患者に名前をいわせて確認するという方法を採っているところもあります.電子マネーカードのようなタッチ式のものも出ていますが,無線を使う認証方法につき紹介します.とも,これはRFIDそのものの機能ではなく内部で処理するものです.患者特定ができれば,付き添いできている患者家族がもっている診察券を読み取っても,今日診察ではないことがわかれば無視するという具合です.たまたま同じ日に診察することになっていたとしても,診図2RFIDによる患者認証の実験R図3読み取ったIDで属性識別R*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)(97)あたらしい眼科Vol.31,No.8,201411770910-1810/14/\100/頁/JCOPY 察時間帯,予約している医師,呼ばれたか否かの情報で切り分けることができます.また,患者が誤って家族の診察券をもってきてしまった場合でも,当人でないことのチェックが可能で,所定の手続きを経て診察を受けることができます..障害物の影響電波の到達距離が短く,弱いという特徴がありますが,診察室内など限られた空間にあっては問題なく機能します.患者がバッグに診察券を入れていた場合でも検知可能です(図4参照).図4カバンに入れた診察券を検知R.操作者の認証誰が何時操作したかは,証拠を残すという意味で重要なことです.これも無線技術を応用することで手間をかけずに実現可能です.操作者が持っているスタッフカードに組み込まれたIDを一定時間間隔(Δt)で読み,誰が操作しているかを常時チェックします.他の作業やトイレで操作を中断して席を離れることは珍しくありませんが,離席している間に散瞳チェックの時刻になり,メッセージが表示され,応答を促される場合があります.臨機応変に近くにいる別の看護師,検査員が“了解”をクリックし散瞳チェックしますが,このときの操作者は,それまで操作していたスタッフではありません.誰が“了解”の応答をしたのかは,図5に示す方法で自動化できます.ただし,たまたま通りかかった操作者とは違うスタッ1178あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014一定時間間隔で操作者が変わっていないことを確認引き続き同一人物が操作ID=123ID=123Δt離席Δ※tは100msec単位で指定可能別人物が操作ID=123ID=456離席図5操作者の認証Rフを認識してしまう場合もあるので,前後で操作者が異なる場合には,“操作者が違います”のメッセージを表示し,可否を確認させるようにします.また,検知範囲に複数人がいて,その誰かを自動的には判定しかねる場合も想定されます.この場合には,検知した人数分の選択肢を表示させ,.をつけて操作者を特定します(図6参照).小倉里代子山崎智恵子確定複数の看護師を検知しました。図6スタッフの確定操作メッセージR以上,説明してきた機能により,受付,検査,診察,回診,手術,会計などの院内の業務で患者間違いのリスクが軽減され,かつ操作者の認証ができ,責任の所在の明確化が可能になります.これからは無線を応用する時代になるので,アンテナを高くしておく必要があります.※掲載されている処理,画面,メッセージなどにつきましては,当院に著作権があります.また,2011年2月から始まりました連載内容につき,ご質問,お問い合わせがある場合にはosugisama@gmail.comにお願いいたします.(98)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 135.眼内レンズ毛様溝逢着術後の網膜剥離(中級編)

2014年8月31日 日曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載135135眼内レンズ毛様溝縫着術後の網膜.離(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに眼内レンズ(以下IOL)毛様溝縫着術については本シリーズ42「眼内レンズ毛様溝縫着術」(初級編)でも記載した.IOL毛様溝縫着術は強膜通糸など手術手技の煩雑さに加えて,硝子体への侵襲が大きくなるため網膜.離の発症率も高い.●IOL眼内レンズ毛様溝縫着術後の網膜.離は難治例が多い筆者らは過去にIOL毛様溝縫着術後の裂孔原性網膜.離の臨床的特徴につき検討した1).毛様溝縫着術より網膜.離発症までの期間は平均81.5日で,網膜.離発症時の前眼部所見は,散瞳不良,IOL偏位(図1),IOL後面のフィブリン析出などが多くみられた.網膜裂孔の発生部位は赤道部が多かったが,通常の無水晶体眼網膜.離にみられる最周辺部裂孔もみられ,前眼部の所見と相まって術前の裂孔検出が困難な症例が多い傾向にあった.また,IOL毛様溝縫着術時の縫合針による網膜の直接傷害が原因と考えられる裂孔もみられた.これは他院の手術例で詳細は不明だが,おそらく極端に低眼圧の状態で無理に強膜通糸を施行したため,誤って対側の網膜を損傷した可能性が高い.加えて,角膜内皮障害も強い症例や増殖性硝子体網膜症に進行している症例(図2)も多く,通常の裂孔原性網膜.離と比較して難治例が多い傾向にあった.●網膜.離に対する術式強膜バックリング手術で治癒できる症例もあるが,通常は硝子体手術を必要とすることが多い.散瞳不良例に対してはアイリスリトラクターによる瞳孔形成を行い,硝子体を可能な限り周辺部まで切除する.IOLの偏位が図1眼内レンズ偏位例眼内レンズが大きく偏位しており,眼内の炎症も高度であった.硝子体手術中の視認性確保のために眼内レンズを摘出した.図2増殖性硝子体網膜症併発例初回の白内障手術で3時間を要した後,網膜.離を発症したため紹介された.硝子体出血を併発しており眼底透見不良.眼底は増殖性硝子体網膜症に進行していた.高度な症例では,強膜弁を開放して毛様溝縫着糸を切断し,IOLを摘出する必要がある.IOL毛様溝縫着術後,長期間経過している症例ではIOLループや縫合糸が周囲組織と癒着しているため,強膜弁下の糸を切断するだけでは摘出できないことが多い.このような場合には,眼内からIOLループ先端を硝子体剪刀で切断するなどの処置が必要である.また,IOLを温存した場合でも,液空気置換時に多くの症例でIOL表面に結露が生じたり,空気が前房内に流入し,眼底像が極端に縮小するなど,視認性の確保に苦慮することも多い.●IOL毛様溝縫着術に関する注意点白内障手術時に後.破損を生じIOL毛様溝縫着術を施行する際には,丁寧な前部硝子体切除を行い,盲目的な操作を避けて,侵襲の少ない術式で行う必要がある.IOL毛様溝縫着術に習熟していない術者は,無理をせず,いったん水晶体切除のみで手術を終え,熟練者に依頼した方が無難である.また,IOL毛様溝縫着術を施行した症例では,網膜.離の早期発見のためにも,術後の厳重な経過観察が重要である.文献1)伊東文,植木麻理,南政宏ほか:眼内レンズ縫着術後の裂孔原性網膜.離.眼科手術16:219-221,2003(95)あたらしい眼科Vol.31,No.8,201411750910-1810/14/\100/頁/JCOPY