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ブリンゾラミド・マレイン酸チモロール配合点眼薬3 カ月間投与の効果

2015年7月31日 金曜日

《第25回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科32(7):1017.1021,2015cブリンゾラミド・マレイン酸チモロール配合点眼薬3カ月間投与の効果新井ゆりあ*1塩川美菜子*1石田恭子*2井上賢治*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科Efficacyofa3-MonthAdministrationofBrinzolamide/TimololMaleateFixedCombinationYuriaArai1),MinakoShiokawa1),KyokoIshida2),KenjiInoue1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:炭酸脱水酵素阻害点眼薬(CAI)とb遮断薬を,ブリンゾラミド・チモロール配合点眼薬に変更した症例を検討する.対象および方法:CAIとb遮断薬を使用中の原発開放隅角緑内障37例37眼を対象とした.CAIとb遮断薬を,washout期間なしでブリンゾラミド・チモロール配合点眼薬に変更した.眼圧を変更前と変更1,3カ月後に測定し,比較した.変更1カ月後にアドヒアランスのアンケートを施行した.結果:眼圧は変更前(17.1±2.5mmHg)と変更1カ月後(17.2±4.1mmHg),3カ月後(16.1±3.0mmHg)で同等だった(p=0.143).3例で投与中止となった.変更前後で点眼忘れに差はなく,60%が配合点眼薬を使い続けたいと答えた.結論:CAIとb遮断薬をブリンゾラミド・チモロール配合点眼薬に変更したところ,3カ月間にわたり眼圧が維持でき,アドヒアランスや患者の満足感も良好だった.Purpose:Toinvestigatetheefficacyofswitchingfromcarbonicanhydraseinhibitor(CAI)plusb-blockerstobrinzolamide/timololfixedcombination(BTFC)inopen-angleglaucomapatients.PatientsandMethods:Inthisstudy,37eyesof37open-angleglaucomapatientsusingCAIplusb-blockerswereinvestigated.EachparticipantwasinstructedtodiscontinueuseoftheCAIplusb-blockersandbeginusingBTFCwithoutawashingperiod.Intraocularpressure(IOP)at1-and3-monthspostswitchingmedicationswascomparedwiththatofatbaseline.At1-monthpostswitching,anevaluationofparticipantadherencewasconducted.Results:At1-and3-monthspostswitching,themeanIOPwas17.2±4.1mmHgand16.1±3.0mmHg,respectively,andwasequivalenttothatofatbaseline(17.1±2.5mmHg)(p=0.143).Threepatientsultimatelydroppedoutofthestudy.Thefrequencyofomissionofocularinstillationpostswitchingwasfoundtobeequivalenttothatofbeforetheswitch.Ofthepatientswhocompletedthestudy,60%preferredthecontinuoususeofBTFCoverCAIplusb-blockers.Conclusions:Inopen-angleglaucomapatientswhoswitchedtoBTFCfromCAIplusb-blockers,IOPwaseffectivelymaintainedandocularinstillationwaswell-tolerated,morestronglyadheredto,andpreferredoverthepreviousmedication.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(7):1017.1021,2015〕Keywords:ブリンゾラミド・チモロール配合点眼薬,炭酸脱水酵素阻害点眼薬,b遮断点眼薬,眼圧,変更.brinzolamide/timololfixedcombination,carbonicanhydraseinhibitor,b-blockers,intraocularpressure,switching.はじめにブリンゾラミドとマレイン酸チモロールの配合点眼薬がわが国で発売されてから約1年が経過した.治療の選択肢が増えた一方,逆に選択に難渋することも少なくない.選択の一助として,それぞれの点眼薬の特性を知っておくことは,治療に際して有用である.海外においては,既存の緑内障点眼薬からブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼薬への変更,あるいは追加投与した際の有効性が報告されている1.3)が,日本人を対象とした報告は少ない4,5).今回,炭酸脱水酵素阻害点眼薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)とb遮断点眼薬を使用中の症例に対して,〔別刷請求先〕新井ゆりあ:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:YuriaArai,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(95)1017 ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼薬への変更を行い,短期間(3カ月間)の眼圧下降効果,アドヒアランスを前向きに検討した.I対象および方法2013年11月.2014年9月に井上眼科病院を受診した原発開放隅角緑内障で,CAIとb遮断点眼薬を使用中の37例37眼(男性13例,女性24例)を対象とした.CAIとb遮断点眼薬は各々3カ月間以上継続して使用している症例としたが,平均使用期間は66.8±41.9カ月(平均値±標準偏差)(15.173カ月)であった.平均年齢は71.1±10.4歳(40.88歳)であった.片眼該当症例は患眼を,両眼該当症例は右眼を対象とした.白内障手術以外の内眼手術を過去に施行した症例は除外した.白内障手術は11例で施行していたが,全例で手術後12カ月間以上経過していた.緑内障のレーザー治療は2例で施行していたが,全例でレーザー後12カ月間以上経過していた.その他に眼圧測定が正確に行うことができないと考えられる角膜疾患を有する症例やステロイド使用症例は除外した.CAIとb遮断点眼薬を,washout期間なしでブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(1日2回朝・夜点眼)に変更した.CAIとb遮断点眼薬以外の点眼薬は継続使用とした.眼圧を点眼薬変更前と変更1カ月後,3カ月後にGoldmann圧平眼圧計で測定した.眼圧測定時間は症例ごとにほぼ同一の時間とした.変更前2回の平均眼圧と,変更1,3カ月後の眼圧を比較した(ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).さらに点眼薬変更前の使用薬剤数が3剤以下と4剤以上に分けて各々変更前後の眼圧を比較した(ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).点眼薬変更前に使用していたb遮断点眼薬の1日の点眼回数により1回群(イオン応答ゲル化チモロール,熱応答ゲル化チモロール,持続性カルテオロール,レボブノロール)と2回群(カルテオロール,水溶性チモロール,ニプラジロール)に分けて各々変更前後の眼圧を比較した(ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).なお,1日1回点眼のb遮断点眼薬の点眼時間は朝で統一した.眼圧測定時間は午前と午後に分けて各々変更前後の眼圧を比較した(ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).眼圧測定日の点眼は通常どおりに問1.①変更後に点眼を忘れたことはありますか?②変更前の点眼薬(どれか1つでも)を忘れたことはありますか?問2.①変更前の点眼薬と比較してどちらが良いですか?②その理由を聞かせてください。(複数回答可)図1点眼変更1カ月後のアンケート調査決められた時間に行ってもらった.変更1カ月後に,アドヒアランスについてのアンケートを施行し,点眼変更前後で比較した(Fisherの直接法検定)(図1).アンケートは検査員が文書を患者に渡し,記載してもらった.点眼薬変更前のCAIとb遮断点眼薬の使用期間と点眼薬変更前後の点眼忘れに関連があるかを調査した(Spearmanの順位相関係数).また,眼圧下降幅(2mmHg以上の下降,2mmHg未満の下降あるいは上昇,2mmHg以上の上昇)とアンケート結果の関連を調査した(c2検定).有意水準はいずれも,p<0.05とした.副作用,脱落例を来院時ごとに調査した.本研究は井上眼科病院の倫理委員会で承認され研究の趣旨と内容を患者に説明し,患者の同意を文書で得た後に行った.なお,本研究はオープンラベル,盲検なしの前向き研究である.II結果1.点眼変更前の使用薬剤数点眼薬変更前に使用していた緑内障点眼薬数は,2剤1例(2.7%),3剤19例(51.4%),4剤14例(37.8%),5剤3例(8.1%)で平均3.5±0.7剤であった.2.点眼変更前の使用薬剤点眼薬変更前に使用していた緑内障点眼薬の内訳は,b遮断点眼薬では,イオン応答ゲル化チモロール(0.5%)13例(35.1%),持続性カルテオロール(2%)6例(16.2%),熱応答ゲル化チモロール(0.5%)6例(16.2%),カルテオロール(2%)5例(13.5%),水溶性チモロール(0.5%)5例(13.5%),ニプラジロール1例(2.7%),レボブノロール1例(2.7%)であった.CAIでは,ブリンゾラミド28例(75.7%),ドルゾラミド(1%)9例(24.3%)であった.3.眼圧(全症例)変更前2回の平均眼圧は17.1±2.5mmHgであった.変更1カ月後は17.2±4.1mmHg,3カ月後は16.1±3.0mmHgで,変更前後で変化はなかった(p=0.3835)(図2).眼圧変化の内訳は,変更1カ月後では2mmHg以上の下降が10例(27.8%),2mmHg未満の下降あるいは上昇が20例(55.6%),2mmHg以上の上昇が6例(16.7%)であった(図3).変更3カ月後では,2mmHg以上の下降が12例(35.3%),2mmHg未満の下降あるいは上昇が19例(55.9%),2mmHg以上の上昇が3例(8.8%)であった.なお,1例は変更直後に眼瞼浮腫が出現し,点眼が中止となったため変更1カ月後の眼圧はこの症例を除外した36例で検討した.さらに2例は変更1カ月後に眼圧が上昇し,点眼が中止となったため変更3カ月後の眼圧はこれら2例を除外した34例で検討した.4.眼圧(サブ解析)点眼薬変更前の使用薬剤数が3剤以下の20症例では,眼圧は変更前16.3±2.1mmHg,変更1カ月後15.7±2.7mmHg,1018あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(96) 眼圧(mmHg)25201510NS50点眼変更眼変更1カ月後変更3カ月後図2点眼薬変更前後の眼圧あり,3例,8.1%あり,8例,21.6%なし,なし,34例,91.9%78.4%29例,変更前変更後図4アンケート結果(点眼忘れ)3カ月後15.7±2.9mmHgで,変更前後で変化はなかった(p=0.4393).一方,4剤以上の17症例では,眼圧は変更前18.0±2.7mmHg,変更1カ月後18.9±4.8mmHg,3カ月後16.7±3.2mmHgで,変更前後で変化はなかった(p=0.1002).点眼薬変更前に使用していたb遮断点眼薬が1日1回製剤の26症例では,眼圧は変更前17.4±2.3mmHg,変更1カ月後17.2±4.1mmHg,3カ月後16.5±2.7mmHgで,変更前後で変化はなかった(p=0.2020).1日2回製剤の11症例では,眼圧は変更前16.4±3.1mmHg,変更1カ月後17.2±4.4mmHg,3カ月後15.2±3.7mmHgで,変更前後で変化はなかった(p=0.3598).眼圧測定時間が午前の9症例では,眼圧は変更前17.3±2.1mmHg,変更1カ月後17.2±5.2mmHg,3カ月後16.3±3.2mmHgで,変更前後で変化はなかった(p=0.3898).午後の28症例では,眼圧は変更前17.0±2.7mmHg,変更1カ月後17.2±3.8mmHg,3カ月後16.1±3.0mmHgで,変更前後で変化はなかった(p=0.0906).5.中止症例中止症例は3例(8.1%)であった.変更直後に眼瞼浮腫が出現した1例と変更1カ月後に眼圧が上昇した2例であった.眼瞼浮腫が出現した症例は,従来のイオン応答ゲル化チモロールとブリンゾラミドに戻したところ眼瞼浮腫は速やかに消退した.眼圧が上昇した症例は,1例は点眼変更前眼圧2mmHg以上下降,12例,35.3%2mmHg以上下降,10例,27.8%2mmHg以上上昇,3例,8.8%2mmHg以上上昇,6例,16.7%2mmHg未満の下降あるいは上昇,19例,55.9%2mmHg未満の下降あるいは上昇,20例,55.6%変更1カ月後変更3カ月後図3点眼薬変更後の眼圧変化無回答,1例,2.7%変更前,5例,13.5%変更後,21例,56.8%どちらでも良い,10例,27.0%図5アンケート結果(どちらの点眼薬を続けたいか)は21.5mmHgだったが,変更1カ月後に30mmHgに上昇し,従来の熱応答ゲル化チモロールとブリンゾラミドに戻したところ,その1カ月後に21mmHgに下降した.もう1例は,点眼変更前眼圧は20.5mmHgだったが,変更1カ月後に26mmHgに上昇し,従来の水溶性チモロールとドルゾラミドに戻したところ,その2カ月後に22mmHgに下降した.6.アンケート(変更1カ月後に施行,全症例)a.点眼変更前後で点眼忘れの有無(図4)「点眼忘れがあった」と回答したのは,変更前は8例(21.6%),変更後は3例(8.1%)で,変更前後で同等だった(p=0.1898).b.点眼変更前後のどちらの点眼薬を今後続けたいか(図5)変更前の点眼薬(b遮断点眼薬とCAIの併用)を続けたい5例(13.5%),変更後の配合点眼薬を続けたい21例(56.8%),どちらでも良い10例(27.0%),無回答1例(2.7%)であった.変更前後で薬剤を比較し,変更後の点眼薬の良かった点は,点眼回数の少なさ17例,かすみの軽減1例,目の刺激感が少ない3例,点眼時の不快感が軽減された1例,価格面での負担が減った1例だった.一方,気になる点は,充血2例,眩しく見える1例,他の点眼薬とキャップの色が同じで紛らわしい1例であった.(97)あたらしい眼科Vol.32,No.7,20151019 c.CAIとb遮断点眼薬の使用期間と点眼忘れチモロールマレイン酸塩配合点眼薬への変更で,眼圧は変更点眼薬変更前のCAIとb遮断点眼薬の使用期間と点眼薬前18.7±3.5mmHgから変更後16.5±2.9mmHgと,いずれ変更前後の点眼忘れは点眼薬変更前(p=0.4338,r=.も有意に下降したと報告した.今回は,CAIとb遮断点眼0.133),点眼薬変更後(p=0.6206,r=0.085)ともに関連が薬からブリンゾラミド・マレイン酸チモロール配合点眼薬へなかった.の変更で,変更1カ月後では83.3%,3カ月後では91.2%のd.変更後の眼圧下降幅とアンケート結果症例で眼圧は維持,あるいは2mmHg以上の下降を示した.変更1カ月後の眼圧下降幅とアンケート結果の関連は,点配合点眼薬への変更により大多数の症例で眼圧下降効果を保眼忘れありでは変更前は2mmHg以上の下降が2例(25.0つことができると考えられる.%),2mmHg未満の下降あるいは上昇が5例(62.5%),2アンケート調査によれば,変更前後で点眼忘れの有無に関mmHg以上の上昇が1例(12.5%)だった.3群で点眼忘れして有意差を認めなかったものの,「変更して良かった点」に差はなかった(p=0.8936,c2検定).変更後は2mmHgにはまず点眼回数の少なさがあげられた.また,今後も配合以上の下降が0例(0%),2mmHg未満の下降あるいは上昇点眼薬を使い続けたいと答えた患者が56.8%であった.患が2例(66.7%),2mmHg以上の上昇が1例(33.3%)だっ者の満足感が高く,アドヒアランスの向上に繋がることを期た.3群で点眼忘れに差はなかった(p=0.4660,c2検定).待したい.今回点眼薬変更後にどのような症例で眼圧が下降一方,点眼忘れなしでは変更前は2mmHg以上の下降が8するかを各々の因子別(点眼薬変更前の使用薬剤数,点眼薬例(27.6%),2mmHg未満の下降あるいは上昇が15例(51.7変更前に使用していたb遮断点眼薬の点眼回数,眼圧測定%),2mmHg以上の上昇が5例(17.2%),中止が1例(3.4時間)に検討したが差はなかった.また,アンケート調査に%)だった.3群で点眼忘れに差はなかった(p=0.8936,c2よる点眼忘れやどちらの点眼薬を今後続けたいかの項目と眼検定).変更後は2mmHg以上の下降が10例(29.4%),2圧下降幅の関連を検討したが関連はなかった.つまり点眼薬mmHg未満の下降あるいは上昇が18例(52.9%),2mmHgの変更により全体では眼圧を維持できるが,個々の症例にお以上の上昇が5例(14.7%),中止が1例(2.9%)だった.3いては上昇したり,維持したり,下降したりする.しかし,群で点眼忘れに差はなかった(p=0.4660,c2検定).点眼変どのような症例で眼圧が下降するかについては明確な因子を更前後のどちらの点眼薬を今後続けたいかは,変更前の点眼検出することはできなかった.薬では2mmHg以上の下降が0例(0%),2mmHg未満の下Nagayamaら4)は,副作用として,点状表層角膜炎(1%),降あるいは上昇が1例(20.0%),2mmHg以上の上昇が3霧視(1%),眼刺激感(1%),眼掻痒感(1%),味覚異常(1例(60.0%),中止例が1例(20.0%)だった.変更後の配合%)を報告している.ブリンゾラミドおよびチモロールをそ点眼薬では2mmHg以上の下降が5例(23.8%),2mmHgれぞれ単剤で併用した際には霧視は3%,眼刺激感は2%で未満の下降あるいは上昇が15例(71.4%),2mmHg以上の出現した.今回の調査では,眼瞼浮腫,充血,羞明,眼掻痒上昇が1例(4.8%)だった.どちらでも良いでは2mmHg感などが副作用として出現した.CAIやb遮断点眼薬で報以上の下降が4例(40.0%),2mmHg未満の下降あるいは告されている徐脈や血圧の変動,眩暈などの全身性の副作用上昇が4例(40.0%),2mmHg以上の上昇が2例(20.0%)は出現しなかったが,変更により薬剤成分が変化していないだった.2mmHg以上の上昇が変更前点眼薬を有意に好んだためと考えられる.(p=0.0088,c2検定).以上より,CAIとb遮断点眼薬の併用症例に対してブリIII考按ンゾラミド・マレイン酸チモロール配合点眼薬へ変更することで,眼圧下降は維持され,全身性の副作用はみられなかっブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼薬の追た.しかし,今回は3カ月間と短期間の調査であった.引き加・変更による眼圧下降効果については国内外で報告されて続き,長期継続使用時における安全性や,眼圧下降効果の継いる1.5).続的な検討が必要であろう.Kaback,Syedら1,2)によると,ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼薬は,ベースラインから8.0.8.7mmHgの眼圧下降を示し,ブリンゾラミドまたはチモロー利益相反:利益相反公表基準に該当なしル単独投与に対して優越性が認められた.Lanzlら3)は,ブリンゾラミドおよびチモロールの単剤併用からブリンゾラミ文献ド・チモロールマレイン酸塩配合点眼薬への変更で,眼圧は1)KabackM,ScoperSV,ArzenoG:Intraocularpressure変更前18.4±3.4mmHgから変更後16.6±2.9mmHg,ドルloweringefficacyofbrinzolamide1%/timolol0.5%fixedゾラミドおよびチモロールの単剤併用からブリンゾラミド・combinationcomparedwithbrinzolamide1%andtimolol1020あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(98) 0.5%.Ophthalmology115:1728-1734,20082)SyedMF,LoucksEK:Updateandoptimaluseofabrinzolamide-timololfixedcombinationinopen-angleglaucomaandocularhypertension.ClinOphthalmol5:1291-1296,20113)LanzlI,RaberT:Efficacyandtolerabilityofthefixedcombinationofbrinzolamide1%andtimolol0.5%indailypractice.ClinOphthalmol5:291-298,20114)NagayamaM,NakajimaT,OnoJ:Safetyandefficacyofafixedversusunfixedbrinzolamide/timololcombinationinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol8:219-228,20145)YoshikawaK,KozakiJ,MaedaH:Efficacyandsafetyofbrinzolamide/timololfixedcombinationcomparedwithtimololinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertention.ClinOphthalmol8:389-399,2014***(99)あたらしい眼科Vol.32,No.7,20151021

開放隅角緑内障における4種の視神経乳頭形態の判定について

2015年7月31日 金曜日

《第25回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科32(7):1013.1016,2015c開放隅角緑内障における4種の視神経乳頭形態の判定について新家眞*1山本哲也*2桑山泰明*3岩瀬愛子*4*1公立学校共済組合関東中央病院*2岐阜大学医学部眼科学教室*3福島アイクリニック*4たじみ岩瀬眼科ReproducibilityofClassificationofOpticDiscMorphologyofOpen-AngleGlaucomainto4DistinctPatternsMakotoAraie1),TetsuyaYamamoto2),YasuakiKuwayama3)andAikoIwase4)1)KantoCentralHospitalofTheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,2)DepartmentofOphthalmology,GifuUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)FukushimaEyeClinic,4)TajimiIwaseEyeClinic目的:開放隅角緑内障(OAG)における視神経乳頭形態4型〔focalglaucomatousdisctype(FG),myopicglaucomatousdisctype(MG),generalizedenlargementofcuptype(GE),senilescleroticdisctype(SS)〕判定の再現性を検討する.対象および方法:良好なステレオ視神経乳頭写真の得られた無作為に抽出したOAG50例50眼の視神経乳頭形態4型を4名の検者が独立に2度2.4週間の間隔を置いて判定し,検者間,および検者内における4型判定の再現性のk係数を算出する.結果:FG,MG,GE,SSおよびその他の5カテゴリーで検討した結果,k値は,検者間(1度目および2度目),検者内でそれぞれ,0.48,0.47,および0.65.0.84だった.4名の判定が全員一致したもののみを最終判定とした場合のk値は0.93だった.結論:開放隅角緑内障における視神経乳頭形態4型の判定は4名で行いその全員一致をもって最終判定とするのが望ましい.Purpose:Tostudyreproducibilityofclassificationoftheoptic-discmorphologyofopen-angleglaucoma(OAG)eyesinto4distinctpatterns:1)focalglaucomatous(FG)disctype,2)myopicglaucomatous(MG)disctype,3)generalizedenlargement(GE)ofcuptype,and4)senilesclerotic(SS)disctype.SubjectsandMethods:Stereo-fundusphotographsofreasonablequalitywereobtainedof50eyesof50OAGpatients(meanage:65.6years)withameandeviationvalueof.6.5dB.FourindependentexaminersthenclassifiedtheopticdiscmorphologyintoeitherFG,MG,GE,SS,orotherstwotimesatintervalsof2-4weeksbasedonthephotographs,andinter-examinerandintra-examinerreproducibilityoftheclassificationwereevaluatedbymeansofkcoefficient.Results:Inter-examinerreproducibilitywasmoderate(k=0.47.0.48),whileintra-examinerreproducibilitywassubstantial(k=0.65.0.84).Reproducibilityoftheclassificationwasfoundtobeexcellent(k=0.93)whenitwasbasedontheagreementofall4examiners.Conclusions:Reproducibilityoftheclassificationoftheoptic-discmorphologyofOAGeyesintoFG,MG,GE,andSStypeswasexcellentwhenbasedontheagreementof4independentexaminers.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(7):1013.1016,2015〕Keywords:focalglaucomatousdisc型,myopicglaucomatousdisc型,generalizedenlargementofcup型,senilescleroticdisc型,再現性.focalglaucomatousdisctype,myopicglaucomatousdisctype,generalizedenlargementofcuptype,senilescleroticdisctype,reproducibility.はじめにenlargementofcup型(GE),senilescleroticdisc型(SS)緑内障の視神経乳頭の形態を4種類に分けて検討することの4型であり1.3),それぞれが特徴的な臨床像および予後をが提唱されている.すなわち,focalglaucomatousdisc型呈するとされ4.12),緑内障研究上有用な分類手法であるとさ(FG),myopicglaucomatousdisc型(MG),generalizedれている13).しかし,FG,MG,GE,SSの判定はあくまで〔別刷請求先〕新家眞:〒158-8531東京都世田谷区上用賀6-25-1公立学校共済組合関東中央病院Reprintrequests:MakotoAraie,M.D.,Ph.D.,KantoCentralHospitalofTheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,6-25-1Kamiyouga,Setagaya-ku,Tokyo158-8531,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(91)1013 眼底写真を見ての各研究者の主観的な判断によっており,判定次第で研究結果が左右される可能性がある.また誰が見ても明らかな典型例は一つの研究では検討された全眼中の10%以下にすぎなかったとの報告もある2).欧米人での眼底写真判定では,検者間の判定結果の一致率はk値が0.36.0.46,同一検者内での判定の再現性のk値も0.51.0.85と決して良いとはいえないと報告されている14).一方,日本人の眼底写真に関しては,FG,MG,GE,SS判定の一致性を検討した報告はなく,またどのような判定法をとれば十分な再現性をもってFG,MG,GE,SSと分類されうるかという検討もなされていない.今回筆者らは多治見・久米島スタディで発見された緑内障患者の視神経乳頭形態を判定するに先立って,FG,MG,GE,SS分類の検者間一致性,検者内再現性を検討したのでここに報告する.I対象および方法対象はたじみ岩瀬眼科通院中の眼底および視野所見,経過より開放隅角緑内障診断が確定しており,かつ良好なステレオ眼底写真が得られている例より無作為に選択された50例50眼で,年齢は65.6±7.3歳〔平均±standarddeviation(SD)〕,Humphrey視野計30-2または24-2SITA-Sプログラム(CarlZeissMeditec.Dublin,CA)によるmeandevi-ation(MD)値は.6.5±5.7dB,屈折は.2.0±4.5dioptersであった.50眼を4名の検者(M.A.,T.Y.,Y.K.,A.I.)が独立に2.4週間の間隔を置いて日を変えて2度,FG:局所的なrim欠損かつ他部位のrimはほぼ正常と考えられる;FocalglaucomatousdiscMyopicglaucomatousdiscGeneralizedenlargementofcupSenilescleroticdiscMG:視神経乳頭にtiltがあり,かつ全体的な耳.下側のrimの狭小化かつ耳側のperipapillaryatrophy(PPA)がはっきりしている;GI:全体的に一様なrim幅感小(cupping拡大)かつ局所的rim欠損がなくPPAは顕著でない;SS:皿状のcuppingかつrimの全体的色調退色があり,PPAの面積および乳頭周囲における範囲が大きい(図1),という規準2,3)をもって以下の8型に判定した.すなわち1)典型的FG,2)典型的MG,3)典型的GE,4)典型的SS,5)上記いずれかが混在している,6)上記いずれかの非典型例,7)あまりに進行しており元々いずれの乳頭形態だったか判定不能,8)1).7)のいずれにも当てはまらない,である.そのうえで5).8)をすべてFG,MG,GE,SSのいずれにも当てはまらない,すなわちその他群と分類し,その5分類における一致性を4検者間(1度目),4検者間(2度目)では繰り返し3回以上のk係数で,および各検者内の再現性(1度目と2度目)を繰り返し2回のk係数として算出した15,16).II結果各検者内での再現性のk係数値は0.65(95%信頼区間:0.45.0.85).0.87(同:0.76.0.96)であった(表1).典型的FG,GE,MGないしはSSと判定された割合は各検者で40.76%(平均62%)であった.一方,4名の検者間のk係数値は0.48(95%信頼区間:0.42.0.54)(1度目)および表1緑内障視神経乳頭4型への判定の検者内再現性全50例中2回の判定が一致した例数検者k値FGGEMGSSO不一致検者10.84(0.70.0.98)18511466検者20.65(0.45.0.85)137101613検者30.87(0.76.0.96)9380264検者40.76(0.59.0.93)1689179k値(95%信頼区間).FG:典型的focalglaucomatousdisc型,GE:典型的generalizedenlargementofcup型,MG:典型的myopicglaucomatousdisc型,SS:典型的senilescleroticdisc型,O:上記FG,GE,MG,SSのいずれかの混在,上記いずれかの非典型例,あまりに進行しており元々いずれの乳頭形態だったか判定不能,およびそれらのいずれにも当てはまらないと判定された例.不一致:各々の検者で1回目と2回目の判定が異なった例.表2緑内障視神経乳頭4型への判定の検者間および判定が検者間で一致した場合の再現性条件再現性4検者間k=0.48(95%信頼区間:0.42.0.54).0.47(95%信頼区間:0.40.0.53)3/4一致k=0.80(95%信頼区間:0.66.0.94)4/4一致k=0.93(95%信頼区間:0.84.1.00)図1開放隅角緑内障における視神経乳頭形態4型1014あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(92) 0.47(同:0.40.0.53)(2度目)であり,また4名中3名での一致をして最終判定とし分類した場合の1度目と2度目間の再現性のk係数値は0.80(同:0.66.0.94),同4名全員の判定が一致して最終判定とした場合の再現性のk係数値は0.93(同:0.84.1.00)であった(表2).なお,4検者中3検者の一致を最終判定とした場合,FG,MG,GE,SSと判定されたものは各々8/50,8/50,3/50および0/50であり,38%がFG,MG,GEまたはSSのいずれかに分類され,同4検者全員の一致を最終判定とした場合,FG,MG,GE,SSと判定されたものは各々7/50,8/50,1/50,0/50であり,32%がFG,MG,GEまたはSSのいずれかに分類されていた.III考按今回の4名の検者間でFG,MG,GE,SSへの分類の一致性はFleissのk係数で0.47.0.48,同検査内の再現性Cohenのk係数で0.65.0.87と,欧米人眼での報告14)とほぼ一致していた.k係数0.4.0.6がmoderateな一致性(再現性),同0.6.0.8がsubstantialな一致性(再現性),同0.8以上でexcellentな一致性(再現性)と解釈されている.すなわち個々の検者間での一致性はmoderateないしは一応の一致性はある(まったくばらばらではない)というレベルであり,一人の検者の判定をもって視神経乳頭4形態を論じるのは無理であるということが今回の結果よりも確認されたと考える.一方3/4が一致していればその判定の再現性はsubstantial.excellent(良好.優れた再現性)となり,さらに4/4一致をもってすればその判定の再現性はexcellent(優れた再現性)となった.今回は5名以上の検者間での再現性は検討していないが,当然5名の一致ではさらに再現性は上がると考えられる.3名の一致での再現性が0.80であることより,少なくとも3名,できれば4名での判定を行い3/4ないしは全員の一致をもってしなければk係数はexcellentの域に達し得ず科学として緑内障の視神経乳頭を4型(FG,MG,GE,SS)に分類し,それに関連する諸因子を論じようとするのであれば,少なくとも4名の検者全員一致をもってしないと,その結果に普遍性をもたせることはむずかしいと考えられる.今回3または4検者の判定の一致をもって最終判定とした場合,38.32%の眼が典型的FG,GE,MG,SSのいずれかに分類されたが,この結果は3検者の判定一致で35%の眼が上記いずれかの典型例に分類されたとする欧米での報告とよく一致していた14).個々の検者でのこの割合は今回の場合平均約60%であったが,この乖離は現実にはFG,GE,MG,SSいずれかの要素が混在していると考えられる例が比較的多く,どの基準でもって上記いずれかの典型例とするかまたは混在例とするかの一定の基準を客観的に定(93)めることが,個々の検査者の主観的判断に頼る方法ではむずかしかったためと考えられる.文献的にはMGが近視に多いのは当然として,FGとSSでは進行速度が違う.GEでは無治療時眼圧が高いなどの眼所見のみならず全身所見の違いなど多くの興味ある知見4.12)が報告されている.最近の進歩した画像解析の結果と組み合わせることにより,さらに緑内障の病態に関する興味ある知見が得られると予想されるが,そのような研究を企画するにあたっては今回の結果が有用であると考えられる.IV結論緑内障視神経乳頭形態の4型(FG,MG,GE,SS)への分類は,4名の独立した検者の判定一致をもって最終分類すれば,k係数=0.93と優れた再現性が得られる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SpaethGL:Anewclassificationofglaucomaincludingfocalglaucoma.SurvOphthalmol38[Suppl,May]:S9-S17,19942)NicoleleMT,DranceSM:Variousglaucomatousopticnerveappearances.Ophthalmology103:640-649,19963)BroadwayDG,NicolelaMT,DranceSM:Opticdiskappearancesinprimaryopen-angleglaucoma.SurvOphthalmol43[Suppl1]:S223-S243,19994)GeijssenHC,GreveEL:ThespectrumofprimaryopenangleglaucomaI:senilescleroticglaucomaversushightensionglaucoma.OphthalmicSurg18:207-213,19875)GeijssenHC,GreveEL:Focalischaemicnormalpressureglaucomaversushighpressureglaucoma.DocOphthalmol75:291-302,19906)NicolelaMT,WalmanBE,BuckleyARetal:Variousglaucomatousopticnerveappearances.Ophthalmology103:1670-1679,19967)YamazakiY,HayamizuF,MiyamotoSetal:Opticdiscfindingsinnormaltensionglaucoma.JpnJOphthalmol41:260-267,19978)BroadwayDC,DranceSM:Galucomaandvasospasm.BrJOphthalmol82:862-870,19989)NicolelaMT,McCormickTA,DranceSMetal:Visualfieldandopticdiscprogressioninpatientswithdifferenttypesofopticdiscdamage.Ophthalmology110:21782184,200310)RobertsKF,ArtesPH,O’LearyNetal:Peripapillarychoroidalthicknessinhealthycontrolsandpatientswithfocal,diffuse,andscleroticglaucomatousopticdiscdamage.ArchOphthalmol130:980-986,201211)ReisASC,ArtesPH,BelliveauACetal:Ratesofchangeinthevisualfieldandopticdiscinpatientswithdistinctpatternsofglaucomatousopticdiscdamage.Ophthalmoloあたらしい眼科Vol.32,No.7,20151015 gy119:294-303,201212)SchorKS,DeMoraesCG,TengCCetal:Ratesofvisualfieldprogressionindistinctopticdiscphenotypes.ClinExperimentOphthalmol40:706-712,201213)NakazawaT,ShimuraM,RyuMetal:Progressionofvisualfielddefectsineyeswithdifferentopticdiscappearancesinpatientswithnormaltensionglaucoma.JGlaucoma21:426-430,201214)NicolelaMT,DranceSM,BroadwayDCetal:Agreementamongcliniciansintherecognitionofpatternsofopticdiskdamageinglaucoma.AmJOphthalmol132:836844,200115)SKETCH研究会統計分科会:k係数に関する統計的推測.臨床データの信頼性と妥当性(楠正監修).p174-194,サイエンティスト社,200516)対馬栄輝:理学療法の研究における信頼係数の適応について.理学療法学17:181-187,2002***1016あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(94)

My boom 42.

2015年7月31日 金曜日

監修=大橋裕一連載.MyboomMyboom第42回「小畑亮」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載.MyboomMyboom第42回「小畑亮」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介小畑亮(おばた・りょう)東京大学眼科私は,平成10年に東京大学を卒業後,2年間の内科研修医生活を経て平成12年に東京大学眼科学教室に入局しました.平成13年よりさいたま赤十字病院(旧大宮赤十字病院,さいたま市)に勤務して一般眼科臨床の修練を行っていましたが,平成23年に東京大学に復職し現在に至っています.専門は黄斑・網膜疾患です.医局内では現在医局長を拝命して2年目となります.入局して間もない頃から玉置泰裕先生,柳靖雄先生のご指導のもと黄斑外来で研鑽を積ませていただき,少し前には想像もできなかった科学的発見(例:VEGFの発見)とテクノロジー(例:抗VEGF薬やOCTの開発)によって黄斑疾患の治療成績が飛躍的によくなっていく歴史を目の当たりにしました.今後も,目の前の患者さんにもっとも良い医療を提供し,将来の患者さんにはさらに良い医療を提供できるよう,自分なりに精進していきたいと思います.今回は自分が読んで強く心に刻まれ,人にもお薦めしたいと心から感じた本を紹介したいと思います.読書のMyboom①「研究者の仕事術プロフェッショナル根性論」島岡要著羊土社2009年②「研究者のための思考法10のヒント」同2014年私が学生の頃と異なり,現在では終身雇用神話は破綻し,ポストはスタックし,あるいは会社そのものが再編され,多くの会社員が将来の不安を抱えています.それは眼科医にとっても他人事でない現実です.本書はキャ(73)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY写真1黄斑外来のメンバーリア形成において不安を感じる研究者に対して,鍛えるべきさまざまな仕事上のスキルと,自らのキャリアを考えるうえでの思考法を,理系のテイストで解説しています.「『将来楽をするために若いうちに努力すべき』という(中略),私が“ヘタレ”と呼んでいるマインドセット」とは相容れない,いくつになっても人間的成長を目指す醍醐味について解説する本書は,自分もさらにがんばろうという気にさせてくれます.③「精神と物質」立花隆,利根川進著文春文庫1993年利根川先生の貴重なインタビュー記録です.サイエンティストたる者は自分で自然現象の問題を定式化でき,その解決のための実験方法を思いつけなければならない,といった根源的なことが書いてあるので参考になるかと思います.④「アサーション・トレーニング改訂版」平木典子著金子書房2009年アサーションなる言葉は,娘の授業参観において半ば強制的に参加させられた公開講演において初めて知りました.そこでの参考図書です.攻撃的でも,非主張的でもない,さわやかな自己主張という概念だそうです.教師─生徒,親─子供,上司─部下,あるいは同僚同士にあたらしい眼科Vol.32,No.7,2015995 ①②③④⑤⑥⑥①②③④写真2紹介した書籍の表紙おけるコミュニケーション障害への処方箋として,さまざまに応用されています.今後医師にとっても,コミュニケーションにおいて土台となる知識・スキルとなるかもしれません.どうも口下手で損をしていると思う先生がご一読されるとよろしいのではないでしょうか.⑤「医者になったらすぐ読む本医療コミュニケーションの常識とセルフコーチング」奥田弘美著日本医事新報社2011年著者は精神科医です.新人医師の先生にぜひ身につけてほしいコミュニケーションスキルを解説した,とあります.章立てとしてはノンバーバルコミュニケーション,医者も知るべきビジネスマナー,患者診療に役立つコミュニケーションスキル,スタッフとのコミュニケーション,およびセルフケアからなります.患者さんの章には,アイスブレイク,オウム返し,“アイ”メッセージなどのコミュニケーション技法がわかりやすく丁寧に解説されています.このような,以前は先輩医師のやり方を見よう見まねで習得していた事柄を教科書で学ぶことになるとは,想像すらしなかったわけですが,現代は医学のみでなくすべての知的労働が,「経験知の閉鎖的な伝承」から,「形式知への昇華およびその公開と進化」に変わっているのかもしれません.⑥「HowGoogleWorks」エリック・シュミット,ジョナサン・ローゼンバーグ著日本経済新聞出版社2014年知らぬ者のいないグーグルがどのように会社を作り上げているかを,現会長およびCEOアドバイザーが書き記したものです.グーグルは従業員のためにきわめて充実した福利厚生施設が整備されていることが有名ですが,その従業員が一日の大半を過ごすオフィスは狭く窮屈であることはあまり知られていないそうです.それはグーグルが採用した有能な社員(スマートクリエイティブ)の真価を発揮させるためには,彼らを狭い場所に詰め込み,エネルギーや交流を最大化させるべきであると⑤の考えに基づくそうです.その他,人材採用についてのポリシーなどにも,応用可能かどうかは別として大変参考になる考え方が書いてあります.グーグルが求めている人材には,情熱があることが要件となっているようです.情熱があれば休まず仕事しても長生きできそうです.自分も,「今日は情熱をもって仕事したかな?そもそも情熱をもてる仕事だったかな?」などと毎晩自問している今日この頃です.おわりに年齢も立場も徐々に上がるにつれて,医療という行いは医学の発展だけでは必ずしも最大の幸福を得られないことを痛感しています.労働管理や時間管理の学問,組織統括や研修教育の学問,クライエントの満足を最大化させるための学問,コミュニケーションの学問などは病院外においては眼科学の進歩と同等かそれ以上に進歩しているようですけれども,病院内では必ずしもその恩恵を受けていないのではないかと,折にふれて思います.自分の業種以外の世の中の進化を知るうえで,読書は今の時代においても比較的取っ付きやすく,そして人生を揺さぶるくらいの体験を与えうるものだと思います.今後も活字を通したインプットを大事にしていきたいと思います.さて,次回のMyboomは自治医科大学の高橋秀徳先生にお願いします.アウトドアをはじめ多趣味でいらっしゃるのをいつも羨ましく思っています.それでは皆様,最後まで読んでいただき,どうもありがとうございました!注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.996あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(74)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 146.糖尿病網膜症と自己検疫(研究編)

2015年7月31日 金曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載146146糖尿病網膜症と自己免疫(研究編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに近年,糖尿病網膜症(DR)は,慢性炎症であるという考え方が一般的になっている.これを裏付ける臨床所見として,1)CRPなどの炎症性のバイオマーカーの濃度がDR患者の血液中で増加している,2)DRの硝子体中に,TNFa,IL-1,IL-6などの炎症性サイトカインが増加している,3)硝子体手術によって採取された増殖組織中に好中球,マクロファージ,リンパ球などの炎症細胞が浸潤している,などがあげられている.一方,DRは自己免疫性の機序によって引き起こされているという説がある.●糖尿病網膜症と関節リウマチ自己免疫で生じる代表的な疾患である関節リウマチ(RA)ではII型コラーゲンに対する自己免疫反応が発症に関与している可能性が指摘されている.RAは,関節の慢性的な炎症が続いた後,血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の作用で血管新生が生じるとともに,関節包の内面を覆っている滑膜細胞が増殖して,pannusとよばれる血管を伴った増殖組織が形成される.一方,DRにおいてもRAと同様,VEGFの作用で血管新生が生じ,さらにグリア細胞が増殖して硝子体中に増殖膜が形成される.SDRの時期を網膜の慢性炎症の状態であるとみなすと,DRの進展様式はRAときわめて類似している.●糖尿病網膜症とII型コラーゲンRAの病因との関連が指摘されているII型コラーゲンは,成体において関節などの軟骨組織以外に,硝子体にも存在する.筆者らは,DR患者の血清中の抗II型コラーゲン抗体を測定し,コントロ.ルと比較して有意に高値であること報告した1).II型コラーゲンが存在する軟骨組織と硝子体はともに無血管組織であることから,II型コラーゲンは全身の血液をめぐる免疫細胞の監視を逃れた隔絶抗原としての性質をもっており,免疫学的寛容の状態にあるとされている.RAでは何らかの原因で(71)0910-1810/15/\100/頁/JCOPYDR(n=17):56.8+33.8NonDR(n=14):76.3±19.7Control(n=16):30.5±13.7※p<0.05,※※p<0.01(Fighter)※Units/ml140※※120100806040200DRnonDRcontrol図1糖尿病患者血清中の抗II型コラーゲン抗体価(文献1より引用)この免疫学的寛容の状態が失われ,抗II型コラーゲン抗体を含む種々の自己抗体ができ,自己免疫反応によって関節組織の破壊が進むと考えられている.また,内耳にも軟骨が存在しているが,この部位が侵されるMeniere病でも,抗II型コラーゲン抗体の抗体価が血清中で上昇している.興味深いことに,II型コラーゲンが存在する3つの組織,すなわち関節,内耳,硝子体には,それぞれ関節液,リンパ液,硝子体液が存在し,これらの体液はそれぞれblood-joint-barrier,blood-labyrinth-barrier,およびblood-retinalbarrier(BRB)によって血液中の免疫細胞から隔絶された状態になっている.DRでは,高血糖状態が続くとBRBが破綻し,血管の透過性が高まって黄斑浮腫を生じる.RAやMeniere病でも,病変が進行すると関節水腫や内リンパ水腫が起こることが知られており,これらの疾患でもバリアー機構が破綻して血管壁の透過性が高まり,免疫学的寛容が失われている可能性が考えられる.以上のことより,隔絶抗原として免疫学的寛容の状態にあった眼内のII型コラーゲンが,高血糖によるBRBの破綻により,血中の免疫担当細胞と接触するようになり,自己免疫的な機序によってDRが進展する可能性が考えられる.糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術では,抗原である硝子体を除去することが奏効機序の一つになっているのかもしれない.文献1)NakaizumiA,FukumotoM,KidaTetal:Measurementofserumandvitreousconcentrationsofanti-typeIIcollagenantibodyindiabeticretinopathy.ClinOphthalmol9:543-547,2015あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015993

眼科医のための先端医療 175.IgG4関連眼疾患

2015年7月31日 金曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第175回◆眼科医のための先端医療山下英俊IgG4関連眼疾患高比良雅之(金沢大学眼科)IgG4関連疾患のはじまりIgG4関連疾患は21世紀にわが国で誕生した疾患概念です.2001年にHamanoらは,自己免疫性膵炎の症例のほとんどで血清IgG4が上昇していることを見出し報告しました1).ついで2003年にKamisawaらは,血清IgG4上昇を伴い諸臓器に腫瘤病変を多発する病態をIgG4関連自己免疫疾患の概念として提唱しました2).眼領域では,2004年に初めてYamamotoらによりIgG4関連Mikulicz病の症例群が報告されました3).それに先立つ2000年にTsubotaらは,従来のMikulicz病はSjogren症候群のひとつの亜形であるとする考えを覆し,両者は異なる疾患群であることを提唱していたのですが4),それはこのIgG4関連Mikulicz病という疾患概念の確立によって裏づけられる結果となりました.それ以降,血清IgG4上昇を伴うIgG4染色陽性病変は,腎,肺,大血管,リンパ節などで相次いで報告され,現在知られるIgG4関連疾患の概念が確立されました.IgG4関連眼疾患の諸病変2004年にIgG4関連Mikulicz病が初めて報告され,それ以降の症例の蓄積によって,その病変は涙腺以外にも,三叉神経周囲,外眼筋,血管や視神経の周囲,眼窩脂肪などに及ぶことが明らかになりました.さらに稀なものとしては,強膜など眼球,涙道涙器などの報告もみられます.それらは近年,第1回のIgG4関連疾患国際学会での討議も経て,IgG4関連眼疾患の概念として提唱されました5).また近年,Sogabe6)らは,日本の複数施設においてIgG4関連眼疾患と病理診断された65症例の画像を解析し,その内訳(重複含む)として,涙腺病変88%,三叉神経病変39%,外眼筋腫脹24%,びまん性脂肪病変23%などがみられると報告しました.これら業績の蓄積からも,IgG4関連眼疾患の3大病変は(67)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY涙腺,三叉神経周囲,外眼筋と考えられ,それは最近わが国より提唱されたIgG4関連眼疾患の診断基準7)(後述)にも反映されています.筆者の施設においても,IgG4関連眼疾患と病理診断された症例は,2004年に経験した初めての症例8)から数えて目下30症例を超え,けっして稀な疾患ではありません.リンパ増殖性疾患としてのIgG4関連疾患IgG4関連疾患の眼病変において,もっとも重要な鑑別疾患はリンパ腫です.眼窩でもっとも頻度の多いリンパ腫はMALT(mucosaassociatedlymphoidtissue)リンパ腫ですが,ホルマリン固定の病理標本では,ときに良性のリンパ過形成との鑑別が困難です.したがって,生検の際には生標本を用いたIgH遺伝子再構成などの生化学的検査による補助診断を行うことが重要です.近年の日本各地の18施設から得られた調査によれば9),眼窩のリンパ増殖性疾患1,014例(結膜,眼内の病変は除く)の病理診断の内訳は,MALTリンパ腫(IgG4関連はないか不明)404症例(39.8%),その他のリンパ腫156症例(15.4%),IgG4と関連のない眼窩炎症191症例(18.8%),IgG4関連眼疾患219症例(21.6%),IgG4染色陽性MALTリンパ腫が44症例(4.3%)でした.つまり,眼窩におけるリンパ増殖性疾患のおよそ20%はIgG4関連眼疾患であると推察されます.MALTリンパ腫の中には,IgG4染色陽性となるMALTリンパ腫が存在し,それ以前からも報告されているように,IgG4関連眼疾患を背景にMALTリンパ腫などの低悪性度リンパ腫が発症する可能性があります.同調査ではIgG4関連眼疾患の年齢の中央値は62歳(23~90歳)であり,特筆すべきは20歳未満の症例がなかったことでしょう.IgG4関連眼疾患の男女比は133/130であり,性差はないと考えられます.しかし,涙腺以外の眼窩病変に注目すると,どうも男性に多い傾向があるようです(未発表).ちなみに,涙腺以外のIgG4関連疾患の病変である肝胆膵,肺,腎,大動脈病変などでは,有意に男性に多いことが知られています.IgG4関連眼疾患の診断基準IgG4関連疾患の診断基準については,まずわが国において全体を網羅する包括的診断基準が作成され,2011年に公表されました10).これは全身の諸臓器の基準を満たすべく制定された診断基準であり,眼病変にとあたらしい眼科Vol.32,No.7,2015989 表1IgG4関連眼疾患の診断基準(文献7を参照)1)画像検査で涙腺腫大,三叉神経腫大,外眼筋腫大のほか,さまざまな眼組織に腫瘤,腫大,肥厚性病変がみられる.2)病理組織学的に著明なリンパ球と形質細胞の浸潤がみられ,ときに線維化がみられる.しばしば胚中心がみられる.IgG4染色陽性の形質細胞がみられ,その基準はIgG4(+)/IgG(+)細胞比が40%以上,またはIgG4陽性細胞数が強拡大視野内に50個以上,を満たすものとする.3)血清学的に高IgG4血症を認める(>135mg/dl).診断上記の1),2),3)すべてを満たした場合を確定診断群(definite),1)と2)のみを満たした場合を準診断群(probable),1)と3)のみを満たした場合を疑診群(possible)とする.鑑別疾患Sjogren症候群,リンパ腫,サルコイドーシス,Wegener肉芽腫症,甲状腺眼症,特発性眼窩炎症,細菌・真菌感染による涙腺炎や眼窩蜂窩織炎注意MALTリンパ腫はIgG4陽性細胞を含むことがあり,慎重に鑑別する必要がある.って「強拡大視野内のIgG4陽性細胞数10個以上」は甘い病理診断基準です.一方,第1回IgG4関連疾患国際会議での討論を経て2012年に公表されたConsensusStatementonthePathologyofIgG4-RD11)では,臓器別の病理診断基準が制定され,眼窩領域の基準としては「強拡大視野内のIgG4陽性細胞数は100個以上」とされています.その後,IgG4関連疾患に関する厚労科研班会議や日本眼腫瘍学会での議論などを経て,この2015年にIgG4関連眼疾患の診断基準が公表されました7)(表1).そこでは,眼病変の3徴として涙腺腫大,三叉神経腫大,外眼筋腫大が明記され,また強拡大視野内IgG4陽性細胞数基準は50個以上が採用されています.IgG4関連眼疾患の治療IgG4関連疾患の治療の基本はステロイドの全身投与です.多くはプレドニゾロン内服が用いられますが,重症例ではステロイド大量点滴やパルス療法なども考慮されます.多くの症例で初期のステロイド治療には反応しますが,減量にともなう再発が問題となります.欧米ではとくにステロイド抵抗性の症例に対して,抗CD20抗体であるリツキシマブが好んで用いられていますが12),わが国では保険適用がありません.IgG4関連疾患の病変が眼窩に限られるような軽症例では,ステロイドの全身投与を避けた眼局所治療も考慮すべきです.一方で,少数ですが,IgG4関連眼疾患のなかには視神経症を併発し,重篤な視力障害をきたす症例が存在するこ990あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015とにも留意すべきです.目下,IgG4関連眼疾患としての重症度分類とそれに応じた治療指針が検討されています.文献1)HamanoH,KawaS,HoriuchiAetal:HighserumIgG4concentrationsinpatientswithsclerosingpancreatitis.NEnglJMed344:732-738,20012)KamisawaT,FunataN,HayashiYetal:AnewclinicopathologicalentityofIgG4-relatedautoimmunedisease.JGastroenterol38:982-984,20033)YamamotoM,OharaM,SuzukiCetal:ElevatedIgG4concentrationsinserumofpatientswithMikulicz’sdisease.ScandJRheumatol33:432-433,20044)TsubotaK,FujitaH,TsuzakaKetal:Mikulicz’sdiseaseandSjogren’ssyndrome.InvestOphthalmolVisSci41:1666-1673,20005)StoneJH,KhosroshahiA,DeshpandeVetal:IgG4-Relateddisease:recommendationsforthenomenclatureofthisconditionanditsindividualorgansystemmanifestations.ArthritisRheum64:3061-3067,20126)SogabeY,OhshimaK,AzumiAetal:LocationandfrequencyoflesionsinpatientswithIgG4-relatedophthalmicdiseases.GraefesArchClinExpOphthalmol252:531538,20147)GotoH,TakahiraM,AzumiA;JapaneseStudyGroupforIgG4-RelatedOphthalmicDisease:DiagnosticcriteriaforIgG4-relatedophthalmicdisease.JpnJOphthalmol59:1-7,20158)TakahiraM,KawanoM,ZenYetal:IgG4-Relatedchronicsclerosingdacryoadenitis.ArchOphthalmol125:1575-1578,20079)JapanesestudygroupofIgG4-relatedophthalmicdis-ease:AprevalencestudyofIgG4-relatedophthalmicdis(68) easeinJapan.JpnJOphthalmol57:573-579,201310)UmeharaH,OkazakiK,MasakiYetal:ComprehensivediagnosticcriteriaforIgG4-relateddisease(IgG4-RD),2011.ModRheumatol22:21-30,201211)DeshpandeV,ZenY,ChanJKetal:ConsensusstatementonthepathologyofIgG4-relateddisease.ModPathol25:1181-1192,201212)KhosroshahiA,CarruthersMN,DeshpandeVetal:RituximabforthetreatmentofIgG4-relateddisease:lessonsfrom10consecutivepatients.Medicine(Baltimore)91:57-66,2012■「IgG4関連眼疾患」を読んで■近年,日本人のノーベル賞受賞が相次ぎ,わが国のも決して稀なものではないことがわかったことは,そサイエンスレベルは決して低くはないことが理解されの証拠です.るようになりました.しかし,臨床医学分野においてただし,本疾患において産生されるIgG4の役割にはそうではありません.日常的疾患から特殊疾患まついてはよくわかってはおらず,現在のところ,自己で,疾患概念の確立やその診断治療基準を決めるの免疫疾患における組織障害性自己抗体としてIgG4がは,相変わらず米国を中心とした欧米の医師やそのグ産生されるという考え方と,炎症性の刺激に反応してループです.ですから,わが国で確立されたIgG4関IgG4が産生されるという考え方の2つの考えがあり連疾患という概念は,大変すばらしい成果なのです.ます.たとえば,尋常性天疱瘡の抗デスモグレイン抗本疾患の歴史や概念については,本稿でわかりやす体としてIgG4クラスの自己抗体が報告されていますく解説されています.最初は,眼科以外の臓器病変でが,IgG4関連疾患では確立した自己抗体がみつかっ血清IgG4濃度が上昇していることが,日本から報告ていません.IgG4は抗炎症作用をもつので,炎症性されましたが,下垂体,耳下腺,甲状腺,肺などありの刺激に対する反応としてIgG4が産生されるとの考とあらゆる臓器に同様の病変が発見され,全身的な疾え方があります.まだまだ本疾患には,解明されるべ患であると認識されるようになりました.2011年のき点が大いにあるのです.本稿を読んでいる若い眼科IgG4関連疾患包括診断基準も日本から出されたもの医がこのメカニズムを発見すれば,完全に日本で発見です.眼科領域でも,わが国の医師が中心になって病された疾患となります.大いに期待したいところで態の解明を行ってきました.執筆者の高比良先生や坪す.田先生方の大きな貢献により,この疾患が眼科領域で鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆(69)あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015991

抗VEGF治療:近視性脈絡膜新生血管の抗VEGF治療-認可薬による治療戦略-

2015年7月31日 金曜日

投与後投与後●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二18.近視性脈絡膜新生血管の抗VEGF治療佐柳香織大阪大学大学院医学系研究科眼科学講座─認可薬による治療戦略─強度近視は視覚障害の原因疾患の5位であり,なかでも近視性脈絡膜新生血管(myopicchoroidalneovascu-larization:mCNV)は自然経過では高度の視力低下をきたすことが知られている.最近,mCNVに対する抗VEGF治療が保険適用となり,良好な成績を示している.本稿ではmCNVの診断と治療について,基本的な考え方を紹介する.近視性脈絡膜新生血管とは近視性脈絡膜新生血管(myopicchoroidalneovascularization:mCNV)は,強度近視の5~10%に生じるとされ,網膜色素上皮上にCNVが存在する2型CNVを主体とする.多くのmCNVは加齢黄斑変性のCNVより小型であり,中心窩下または傍中心窩下に存在し,少量の網膜下液を伴う.発生の機序は明らかではないが,眼軸長延長に伴うBruch膜の断裂(lacquercracks)や脈絡膜循環障害の関与も示唆されている.自然経過では黒い色素沈着を伴うFuchs斑を経て広範囲に網脈絡膜萎縮を形成し高度の視力障害をきたし,自然退縮は稀である.10年後に96.3%にCNV周囲の脈絡膜萎縮が発投与前図1抗VEGF療法の治療前後63歳,女性.眼底写真で黄斑近傍にCNVを認め,OCTでも隆起性病変を認める.抗VEGF薬を2回投与し,CNVは鎭静化した.OCTでも網膜色素上皮と思われる高輝度のラインでCNVが囲まれているのがわかる.生し,視力が0.1以下になるとの報告もある1).診断には蛍光眼底造影検査と光干渉断層計(opticcoherencetomography:OCT)が重要である(図1).フルオレセイン蛍光造影検査では,2型CNVに特徴的な所見として,初期からCNVが網目状過蛍光を示し,時間の経過とともに蛍光漏出をきたす.インドシアニングリーン蛍光造影検査ではCNV周囲の囲い込み(darkrim)やlacquercracksが観察される.OCTでは網膜色素上皮の断裂とその上にCNVが観察される(図2).通常mCNVは滲出性変化に乏しく,CNV周囲の網膜下液や網膜浮腫は軽度であることが多い.また,網膜色素上皮.離はほとんどみられない.鑑別疾患としては単純出血,特発性脈絡膜新生血管などがあげられる.単純出(65)あたらしい眼科Vol.32,No.7,20159870910-1810/15/\100/頁/JCOPY bacbac図2抗VEGF療法の経過図1症例の治療前造影検査所見.フルオレセイン蛍光造影(a)では蛍光漏出を伴う過蛍光を認める.インドシアニングリーン蛍光造影(b:初期,c:後期)では初期にはCNVを示す網目状病巣が観察され,後期にはCNV周囲にlacquercracksが観察される.血はBruch膜の断裂に伴う出血でCNVを伴わないものである.造影検査でCNVを示す過蛍光がみられないことや,OCTでCNVを示す隆起性病変がみられないことより鑑別できる.単純出血は自然経過でも良好な視力を得られるため,治療はとくに必要ではない.特発性CNVは若年者に生じるCNVであるが,こちらは強度近視を有しないこと(後部ぶどう腫やlacquercracks形成を有しないことなど)から鑑別できる.特発性CNVに対する抗VEGF治療は保険適用にないので適用外のベバシズマブ(アバスチンR)を用いることが多い.mCNVに対する抗VEGF治療過去には網膜光凝固や黄斑移動術,新生血管抜去術,光線力学的療法が用いられていたが,術後の凝固斑拡大やCNV再発が問題となり現在ではほとんど行われていない.現在の治療の中心は抗VEGF薬の硝子体内注射による薬物治療である.わが国ではラニビズマブ(ルセンティスR)とアフリベルセプト(アイリーアR)が保険適応を受けている.加齢黄斑変性に対する抗VEGF療法と異なり,mCNVでは初回1回のみの注射の後,すぐに維持期(PRN投与)に入る.大規模臨床試験としてRADIANCE試験とMYRROR試験がある.RADIANCE試験(n=277)はmCNVに対するラニビズマブの有効性と安全性を検討した第Ⅲ相,ランダム化,二重遮蔽,多施設共同,実薬対照試験である.現在の標準である1+PRN投与の場合,1年後の平均視力は14.4文字の改善で,sham群と比較し有意な改善を示し,また光線力学的療法用いた群よりも有意に視力改善を得られた.1年間の投与回数(中央値)は2回であった2).MYRROR試験(n=121)はmCNVに対するアイリー988あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015アRの有効性と安全性を検討した第III相,ランダム化,二重遮蔽,多施設共同,実薬対照試験である.アイリーアR投与群(1+PRN)では平均視力は13.5文字の改善が得られ,sham群と比較し有意に視力改善が得られたと報告されている.1年間の投与回数(中央値)は3回であった3).このように抗VEGF療法はmCNVに対し良好な成績を示しているが,長期経過はまだ明らかではない.1度の投与で長期にCNVが鎭静化する症例も存在するが,長期で経過をみると往々にして再発し,再発率は文献により異なるが,2~3年で20~40%と考えられている.また,mCNVの長期視力予後はCNV周囲の萎縮性変化にも影響を受けると考えられるが,抗VEGF療法には萎縮進行を予防させる効果はほとんどないと思われる(実際,加齢黄斑変性でも長期ではCNV周囲の萎縮性変化が問題となっている).今後,萎縮性変化にどのように対応していくかが,mCNV治療の課題であると思われる.文献1)YoshidaT,Ohno-MatsuiK,YasuzumiKetal:Myopicchoroidalneovascularization:a10-yearfollow-up.Ophthalmology110:1297-1305,20032)WolfS,BalciunieneVJ,LaganovskaGetal;RADIANCEStudyGroup:RADIANCE:arandomizedcontrolledstudyofranibizumabinpatientswithchoroidalneovascularizationsecondarytopathologicmyopia.Ophthalmology121:682-692,20143)IkunoY,Ohno-MatsuiK,WongTYetal:Intravitrealafliberceptinjectioninpatientswithmyopicchoroidalneovascularization:TheMYRRORStudy.Ophthalmology122:1220-1227,2015(66)

緑内障:アセタゾラミドの内服・注射による重篤な副作用について

2015年7月31日 金曜日

●連載181緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也181.アセタゾラミドの内服・注射による西野和明医療法人白水会栗原眼科病院(羽生)重篤な副作用について眼科領域におけるアセタゾラミド内服・注射の使用頻度は,緑内障点眼薬の飛躍的な進歩により激減しているが,今もってなお緑内障治療薬の選択肢の一つである.他科においては,近年,同薬注射による急性心不全,肺水腫など重篤な副作用が報告されており,改めて眼科医も再認識する必要があると考えられる.●アセタゾラミド内服・注射の眼科的使用頻度の減少今日,点眼用炭酸脱水酵素阻害薬ドルゾラミド,ブリンゾラミドの開発・使用により,アセタゾラミドの内服・注射の使用は激減した.しかしながら,アセタゾラミドは「緑内障診療ガイドライン第3版」にも治療薬として記載されており1),今もってなお眼科領域における治療薬剤の一つである.とりわけ緑内障手術までの一定期間,あるいは急性緑内障への一時的な対応として,内服などで使用されることは珍しくない.●アセタゾラミド内服・注射による重篤な副作用アセタゾラミドは腎臓の近位尿細管における再吸収を抑制するため,その利尿効果により,古くから緑内障治療薬剤として利用されてきた.しかしながら,本剤の使用目的が眼科的な治療ではあっても,内服・注射である以上,薬剤の効果あるいは副作用が全身に及ぶことを常に念頭に置かなければならない.副作用としては四肢のしびれ感,低カリウム血症などが知られているが,それらは一般的に軽症である.一方,重篤な副作用を起こすことも知られている1~3).アセタゾラミドは他科においては検査用注射薬剤としても用いられているが,2014年6月2日,アセタゾラミド販売元の三和化学研究所が「脳梗塞,もやもや病等の患者に脳循環予備能の検査目的で本剤を静脈内投与した際の重篤な副作用について」を発表した.その報告によれば,1994~2014年の約20年間に急性心不全や肺水腫などの重篤副作用が8件報告され,6件が死の転帰をとったという.その発症時期は1例を除けば注射投与日あるいは翌日で,残り1例も注射後7日とかなり急性の発症であった.それらをうけ日本脳卒中学会,日本脳神(63)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY経外科学会などは「ダイアモックス注射用による重篤な副作用の発生について」という緊急メッセージをインターネット上で発表した.●アセタゾラミド内服による再生不良性貧血:自験例それら心臓・肺疾患などの副作用以外にも,重篤な副作用として再生不良性貧血が知られている.筆者らは,内科にて脊髄小脳変性症の治療のため,約10年の長期にわたりアセタゾラミドを投薬された患者で,両眼に網膜中心静脈閉塞症様の出血を発症した重症再生不良性貧血の症例を経験した(図1a,b).当初,両眼の視神経乳頭にわずかの出血と軟性白斑が認められる図1a右眼底写真網膜中心静脈閉塞症に類似する網膜出血が認められた.あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015985 図1b左眼底写真右眼とほぼ同様な所見が認められた.程度であったが,内科に精査を依頼したところ,アセタゾラミド内服による再生不良性貧血と診断された.その後の内科的な治療にもかかわらず,眼科的な異常所見が認められてから4カ月後には慢性硬膜下血腫を発症,11カ月後に急性肺炎を併発して死亡した.眼科受診前の内科的経過観察では半年に1回の血液検査を実施していたが,最終の血液検査で異常はみられなかったという.つまり本症は眼科への初診からさかのぼり,約半年以内という短い期間で比較的急性に再生不良性貧血を発症したということになる.過去の報告によれば,再生不良性貧血の発症時期は内服を開始してから平均数3カ月であるという2).したがって,少なくとも眼科領域において長期のアセタゾラミド内服が必要とされる場合には,推奨されている半年に1回の血液検査3)では異常が確認されない場合も想定されることから,数カ月に1回程度の血液検査などが妥当と考えられる.●まとめ眼科医にとって高眼圧症の患者の視機能を守るには,アセタゾラミド内服などが避けられない場合がある.しかしながら,他科において同薬注射による重篤な副作用の緊急メッセージが発信されている現在,われわれ眼科医も今一度アセタゾラミドの副作用1)を振り返る良い機会ではないかと考える.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)KeisuM,WiholmBE,OstAetal:Acetazolamide-associatedaplasticanemia.JInternMed228:627-632,19903)ShapiroS,FraunfelderFT:Acetazolamideandaplasticanemia.AmJOphthalmol113:328-330,1992☆☆☆986あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(64)

屈折矯正手術:回旋予防システムによる乱視矯正手術

2015年7月31日 金曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載182大橋裕一坪田一男182.回旋予防システムによる乱視矯正手術玉置正一井上眼科病院屈折度数は座位にて測定されるが,屈折矯正手術は仰臥位にて行われる.そのため,近年のエキシマレーザーには体位の変換で起きる眼球回旋を補正する機能が搭載されているものが多い.NeuroTracksystemは眼球回旋を補正するのではなく,視運動を制御することで眼球回旋を防止して乱視矯正効果を高めている.●はじめに座位から仰臥位に移行すると眼球回旋(cyclotorsion)が起きる場合がある.また,手術時には寝たときの姿勢のゆがみによる眼球回旋があり,眩しさや緊張による眼球回旋も含まれてくるので,手術中には大きな眼球回旋による軸ずれが起こる可能性がある1,2).円柱レンズによる乱視矯正では,約3°軸がずれることにより10%矯正効果が低下し,10°軸がずれることで35%矯正効率が低下する2).したがって,乱視矯正を行う場合にはなるべく軸ずれを少なくするようにしなくてはならない.ほとんどの回旋補正システムは,術前に座位にて測定した虹彩紋理,強膜あるいは輪部,瞳孔径と,手術時の仰臥位でのエキシマレーザー下でのそれとを照合させることで,眼球回旋補正を行っている.ただし現在の回旋補正システムは,術中レーザー照射前のある時点で測定・照合する1回のみの補正となっている.連続して補正しているわけではないため,いったん照射が始まれば,それ以上の調整は不可能であり,照射時間が長いほど軸ずれを起こす可能性が高くなる.●NeuroTracksystemとは視覚情報は眼球を通して網膜へと映される視覚信号より得られるが,このとき,眼球そのものが運動をすることが知られている.この運動は対象物を網膜上にとらえ続けるために起こる運動であり,その眼球運動のひとつに視運動性反応がある.NeuroTracksystemは回旋補正の代わりに空間の合図を使用し,網膜像を安定させる視覚体系の神経反応である視運動(optokinesis)を制御して,眼球回旋そのものを抑制する3)(図1).実際には,まず患者がベッドに横たわった後にクロスラインが表示される.クロスラインに沿って,左右の眼の位置と頭位を補正する.その後,緑色の固視灯を見てもらい,固視灯の周囲にある4つのオレンジ色の点滅灯を確認してもらう.4つのオレンジ色の点滅灯を結ぶと四角形が形成されるので,その中心にある緑色の固視灯を見続けるように指示する(図2).これで水平・垂直の基準線が脳に意識され,視運動がコントロールされることにより眼の位置が安定し,回旋を連続して抑制し最適な眼位を保ち続けることになる.図1視運動性反応を誘発する空間的な合図の異なる程度によるイメージ(Pensell,Sverkersten,Ygge)(文献3より引用)(61)あたらしい眼科Vol.32,No.7,20159830910-1810/15/\100/頁/JCOPY 図2クロスラインプロジェクターと患者側から見たレーザーヘッド,術者から見た顕微鏡像クロスラインで左右の眼と頭位を調整する.患者には4つのオレンジの点滅灯が形成する四角形の中心の緑色の固視灯を見るよう指示する.顕微鏡像にて患者のNeuroTrackに対する反応を確かめる.緑色の光は四角形の中心になければならない(AlconInc.提供).乱視度数D-3-2.5-2-1.5-1-0.5術前1M3M6MNeuroTrackLASIK-2.48-0.39-0.34-0.05WFLASIK-2.51-0.44-0.50-0.680NeuroTrackLASIKWFLASIK図3自覚乱視度数の経時変化両群とも良好な結果であるが,術後6カ月でNeuroTrackLASIK群の成績が有意に良かった.●臨床成績当院にてNeuroTracksystemを用いてWaveLightREX500エキシマレーザー(Alcon社)で施行したlaserinsitukeratomileusis(以下NeuroTrackLASIK)と,虹彩紋理認証システム(irisregistration)を用いてVISXS4IRRエキシマレーザー(AMO社)で施行したWavefront-guidedLASIK(以下WFLASIK)の術後成績を示す.対象はNeuroTrackLASIK群が2013年3月~2014年3月に施行した16眼,WFLASIK群が2011年11月~2012年4月までに施行した17眼で,いずれも自覚乱視が.2D以上である.術前データは,NeuroTrackLASIK群が球面屈折度数.4.72±1.20D,円柱屈折度数.2.51±0.70DでWFLASIK群が球面屈折度数.5.65±2.34D,円柱屈折度数.2.48±0.46Dであり,統計的に有意差はなかった(p>0.05,Student-t検定).術後6984あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015カ月の裸眼視力は,NeuroTrackLASIK群がlogMAR値で.0.16±0.04,WFLASIK群が.0.05±0.13で,NeuroTrackLASIK群が有意に良かった(0.01<p<0.05,Student-t検定).術後6カ月の自覚乱視度数は,NeuroTrackLASIK群が.0.05±0.04D,WFLASIK群が.0.68±0.53Dで,NeuroTrackLASIK群が有意に良かった(p<0.01,Student-t検定)(図3).●おわりに乱視矯正を施行するにあたって回旋補正を行うことは矯正効率を上げるために重要である.Wavefrontによる矯正治療では10°の軸ずれで,矯正効率が50%に低下するという報告がある4).術中,照明や瞳孔径,opaquebubblelayer(OBL),角膜実質のベッド面の状態などさまざまな理由で回旋補正機能がかからないこともあることを考えると,簡便に使えるNeuroTracksystemは乱視矯正手術に有用である.文献1)今井浩二郎,稗田牧:乱視矯正手術と眼球回旋.IOL&RS20:173-175,20062)SwamiAU,SteinertRF,OsborneWEetal:Rotationalmalpositionduringlaserinsitukeratomileusis.AmJOpthalmol133:561-562,20023)CummingsA:Approachestopreventingcyclotorsion.Cataract&RefractiveSurgeryTodayEurope:1-3,May,20084)GuiraoA,WilliamsDR,CoxIG:Effectofrotationandtranslationontheexpectedbenefitofanidealmethodtocorrecttheeye’shigher-orderaberrations.JOptSocAmAOptImageSciVis18:1003-1015,2001(62)

コンタクトレンズ:コンタクトレンズによる眼障害(その1)

2015年7月31日 金曜日

あたらしい眼科Vol.32,No.7,20159810910-1810/15/\100/頁/JCOPYはじめにコンタクトレンズによる眼障害の発症には多くの発症機序があり,さまざまな原因が関与している.コンタクトレンズの破損やカラーコンタクトレンズの色素露出による眼表面の機械的障害(例:角膜上皮びらん)など単独の発症機序,原因で発症することもあるが,多くの眼障害は複数の発症機序と原因が複雑に関与して発症する.発症原因としては,コンタクトレンズ(製品)自体の問題,コンタクトレンズの経時的な劣化の問題,コンタクトレンズの使用方法,装用方法の問題などの直接的な原因のほかに,定期検査を受けていない,医師の処方を受けていない,不適切な処方,不適切な装用指導,不適切なレンズケア指導などの間接的な原因がある.●発症機序表1は眼障害の発症機序とその結果として生じるおもな眼障害を示した.同じ眼障害でも発症機序は重複することもある.たとえば角膜上皮障害は,酸素不足,ドライアイ,機械的障害などの原因で発症する.それ以外でも,アレルギーによって生じた巨大乳頭結膜炎に合併して機械的障害が生じ,角膜上皮障害が発症することもある.また,角膜上皮障害が存在すると,角膜のバリア機能が破壊され,角膜感染症を誘発する頻度が高くなる.(59)●発症原因わが国では,これまでに多くのコンタクトレンズによる眼障害のアンケート調査が実施されてきた.発症原因に関しては直接的なもの,間接的なものを区別せずに同列に問う調査が多かった.間接的な発症原因にあげられる“医師の処方を受けていない”“定期検査を受けていない”“インターネットでコンタクトレンズを購入”“適切な装用指導を受けていない”などのコンタクトレンズ装用者でも,酸素透過性が高い使い捨てソフトコンタクトレンズを購入し,正しい使い方をして,これまでにまったくコンタクトレンズによる眼障害を経験していない人も中にはいる.その一方で,コンタクトレンズ(製品)自体の欠陥,コンタクトレンズの経時的な劣化,不適切な装用方法などは,コンタクトレンズによる眼障害に直結する.発症原因は直接的なもの(表2)と,間接的なもの(表3)を分けて論じる必要がある.間接的な原因にあげられる要素をもつ人は眼障害が多い傾向にある.コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一14.コンタクトレンズによる眼障害(その1)糸井素純道玄坂糸井眼科病院提供表1コンタクトレンズによる眼障害の発症機序とおもな眼障害名酸素不足角膜上皮障害,角膜血管新生,角膜内皮細胞障害,角膜浮腫,角膜菲薄化,角膜変形機械的障害角膜上皮障害,結膜上皮障害,角膜変形アレルギー乳頭結膜炎,無菌性角膜浸潤乾燥角膜上皮障害(スマイルマークパターン,点状表層角膜症),糸状角膜炎,瞼裂斑炎,結膜上皮障害感染角膜浸潤,角膜潰瘍,角膜炎,眼内炎,麦粒腫,急性結膜炎表2コンタクトレンズによる眼障害の直接的な原因コンタクトレンズ自体(製品)の問題①低酸素透過性②色素の露出③色素による表面の凹凸④レンズ径が大きい(→タイトフィッティングを招く)⑤ベースカーブがスティープ(→タイトフィッティングを招く)⑥初期破損⑦初期変形コンタクトレンズの経時的な劣化の問題①変形②破損③キズ④汚れ⑤材質劣化コンタクトレンズの使用方法・装用方法の問題①装用時間が長い②連続装用③装用サイクルを守らない④誤った洗浄方法⑤誤った消毒方法⑥誤ったレンズケースの管理あたらしい眼科Vol.32,No.7,20159810910-1810/15/\100/頁/JCOPYはじめにコンタクトレンズによる眼障害の発症には多くの発症機序があり,さまざまな原因が関与している.コンタクトレンズの破損やカラーコンタクトレンズの色素露出による眼表面の機械的障害(例:角膜上皮びらん)など単独の発症機序,原因で発症することもあるが,多くの眼障害は複数の発症機序と原因が複雑に関与して発症する.発症原因としては,コンタクトレンズ(製品)自体の問題,コンタクトレンズの経時的な劣化の問題,コンタクトレンズの使用方法,装用方法の問題などの直接的な原因のほかに,定期検査を受けていない,医師の処方を受けていない,不適切な処方,不適切な装用指導,不適切なレンズケア指導などの間接的な原因がある.●発症機序表1は眼障害の発症機序とその結果として生じるおもな眼障害を示した.同じ眼障害でも発症機序は重複することもある.たとえば角膜上皮障害は,酸素不足,ドライアイ,機械的障害などの原因で発症する.それ以外でも,アレルギーによって生じた巨大乳頭結膜炎に合併して機械的障害が生じ,角膜上皮障害が発症することもある.また,角膜上皮障害が存在すると,角膜のバリア機能が破壊され,角膜感染症を誘発する頻度が高くなる.(59)●発症原因わが国では,これまでに多くのコンタクトレンズによる眼障害のアンケート調査が実施されてきた.発症原因に関しては直接的なもの,間接的なものを区別せずに同列に問う調査が多かった.間接的な発症原因にあげられる“医師の処方を受けていない”“定期検査を受けていない”“インターネットでコンタクトレンズを購入”“適切な装用指導を受けていない”などのコンタクトレンズ装用者でも,酸素透過性が高い使い捨てソフトコンタクトレンズを購入し,正しい使い方をして,これまでにまったくコンタクトレンズによる眼障害を経験していない人も中にはいる.その一方で,コンタクトレンズ(製品)自体の欠陥,コンタクトレンズの経時的な劣化,不適切な装用方法などは,コンタクトレンズによる眼障害に直結する.発症原因は直接的なもの(表2)と,間接的なもの(表3)を分けて論じる必要がある.間接的な原因にあげられる要素をもつ人は眼障害が多い傾向にある.コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一14.コンタクトレンズによる眼障害(その1)糸井素純道玄坂糸井眼科病院提供表1コンタクトレンズによる眼障害の発症機序とおもな眼障害名酸素不足角膜上皮障害,角膜血管新生,角膜内皮細胞障害,角膜浮腫,角膜菲薄化,角膜変形機械的障害角膜上皮障害,結膜上皮障害,角膜変形アレルギー乳頭結膜炎,無菌性角膜浸潤乾燥角膜上皮障害(スマイルマークパターン,点状表層角膜症),糸状角膜炎,瞼裂斑炎,結膜上皮障害感染角膜浸潤,角膜潰瘍,角膜炎,眼内炎,麦粒腫,急性結膜炎表2コンタクトレンズによる眼障害の直接的な原因コンタクトレンズ自体(製品)の問題①低酸素透過性②色素の露出③色素による表面の凹凸④レンズ径が大きい(→タイトフィッティングを招く)⑤ベースカーブがスティープ(→タイトフィッティングを招く)⑥初期破損⑦初期変形コンタクトレンズの経時的な劣化の問題①変形②破損③キズ④汚れ⑤材質劣化コンタクトレンズの使用方法・装用方法の問題①装用時間が長い②連続装用③装用サイクルを守らない④誤った洗浄方法⑤誤った消毒方法⑥誤ったレンズケースの管理 表3コンタクトレンズによる眼障害の間接的な原因1.医師の処方を受けていない,あるいは,不適切なコンタクトレンズ処方2.定期検査を受けていない3.非対面販売によるコンタクトレンズの購入(インターネット,通信販売など)4.不適切な装用指導5.不適切なレンズケア指導図1慢性酸素不足による角膜上皮障害(カラーコンタクトレンズ装用者)●診断と対応細隙灯顕微鏡で角膜上皮障害(図1)を診断しても,それ以外に,結膜充血,結膜上皮びらん,巨大乳頭結膜炎,角膜変形(図2),角膜内皮細胞障害などの他の病変を伴っていることが少なくない.コンタクトレンズ装用者を診察するときは,上眼瞼を必ず反転して結膜の状態を確認するようにしている.コンタクトレンズによる眼障害を適確に診断し,適切な治療と指導を行うためには,主となる眼障害だけではなく,付随する眼の変化を,可能な限りの方法で把握しなければならない.また,眼の病変だけではなく,コンタクトレンズの性状,フッティング,汚れ,劣化,レンズケアの状況も確認する必要がある.そうでなければ,多くの場合,眼障害の発症機序,発症原因を正確に論じることはむずかしい.図2顕著な角膜変形と角膜の菲薄化(図1と同一症例)982あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015ZS944

写真:翼状片のStocker線

2015年7月31日 金曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦374.翼状片のStocker線新井悠介小幡博人自治医科大学眼科学講座Stocker線Stocker線図2図1のシェーマ図1典型的な翼状片のStocker線(63歳,女性)翼状片の先端部の角膜に黄褐色の鉄の沈着がみられることがあり,Stocker線とよばれる.ab図3Stocker線を伴う翼状片の術前後(77歳,女性)a:術前,先端部にStocker線を認める.b:術中,根気よく沈着物の除去を試みたが,少し残存した.(57)あたらしい眼科Vol.32,No.7,20159790910-1810/15/\100/頁/JCOPY Stocker線(Stocker’sline)は,翼状片の先端部に認められることがある黄褐色の線状の沈着物である1)(図1).金箔様にみえることもある.本態は鉄の沈着であり,組織学的にはフェリチンが角膜上皮基底細胞層の細胞内外に沈着したものといわれている1).角膜にみられる鉄の沈着線は,総称して角膜鉄線(cornealironline)とよばれ,種々のものが知られている.角膜の下方1/3の部位で水平に走る褐色の色素線であるHudson-Stahli線,円錐角膜のFleischer輪,濾過胞の角膜側にできるFerry線,角膜移植後や角膜屈折矯正手術後に発生する色素線などが,Stocker線と同様に鉄の沈着である.種々の角膜鉄線の発生率を調べた松原2)の報告によると,初診患者3,008人中,男性1,395人中4人(0.3%),女性1,613人中2人(0.1%)にStocker線の発生がみられ,翼状片患者の男性14.8%,女性7.4%にStocker線がみられたと報告している.Hansenら3)は,翼状片39眼中46%でStocker線が認められたと報告している.鉄の由来や沈着の機序については議論が多い.由来としては,涙液,前房水,細胞の破壊,血清などが考えられている1).角膜の形状が不規則になった場所に生じることが多いため,局所的な細胞障害や局所的な涙液の貯留が関係していると考えられているが,正確なメカニズムはわかっていない.Stocker線を伴う翼状片手術の際に,角膜上の翼状片組織を鈍的に.離しても,Stocker線の沈着は角膜側に残る.この沈着は角膜実質にゴルフ刀を立てて,こそぎ落とすように除去するが,なかなか除去できない.除去できた沈着物は金箔のような薄膜状をしている.このような術中所見からは,Stocker線の鉄の沈着は角膜上皮細胞内ではなく,上皮細胞外でBowman層レベルに沈着しているように推測される.完全に除去するには根気を要するが,多少取り残しても視力には影響がないようである(図2a,b).翼状片のStocker線は,進行が停止した翼状片にみられるといわれることがあるが,真偽のほどは不明である.文献1)ChangRI,ChingS:Ironlines.In:Cornea,3rded(KrachmerJH,MannisMJ,HollandEJ),p910-911,Mosby,20112)松原稔:日本人の角膜鉄線発生率.臨眼61:853-858,20073)HansenA,NornM:Astigmatismandsurfacephenomenainpterygium.ActaOphthalmol(Copenh)58:174-181,1980980