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眼部帯状疱疹における角膜炎発症の関連因子

2014年6月30日 月曜日

《第50回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科31(6):879.881,2014c眼部帯状疱疹における角膜炎発症の関連因子齋藤勇祐亀井裕子三村達哉五嶋摩理松原正男東京女子医科大学東医療センター眼科RiskFactorofKeratitisinHerpesZosterYusukeSaito,YukoKamei,TatsuyaMimura,MariGotoandMasaoMatsubaraDepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast2011年4月.2013年2月までに当院を初診した三叉神経領域の帯状疱疹患者69人について疱疹の発生部位,眼炎症の発生頻度と種類,また患者背景との関連について診療録をもとに後ろ向きに検討を行った.疱疹の部位は前額部のみが21例で最も多く,前額部から眼瞼に及ぶものが18例,前額部から眼瞼,鼻梁に及ぶものが14例であった.眼炎症は24例に認めた.偽樹枝状角膜炎のみを生じた患者は15例,偽樹枝状角膜炎,角膜実質炎および虹彩炎を認めた患者が5例,角膜実質炎および虹彩炎を認めた患者が3例,虹彩炎のみを認めた患者が1例であった.全身疾患を有する患者は29例で,このうち糖尿病が8例であった.糖尿病の患者は眼炎症の発生するオッズ比が高かったが有意差はみられなかった.65歳以上の患者はそれ以外の患者と比較し眼炎症の発生するオッズ比が高く有意差がみられた.男女,また高血圧の有無で有意差はみられなかった.Thisretrospectivestudywasperformedonpatientsaffectedwithvaricella-zostervirusinthetrigeminalnerveareawhoweretreatedatourhospitalfromApril2011toFebruary2013.Weinvestigatedskinlesions,ocularcomplicationsandsystemicbackgrounds.Ofthe69patients,skinlesionswereforeheadonlyin21patients,foreheadanduppereyelidin18patients,andbridgeofthenoseinadditiontoallthesein14patients.Inflammationsoftheeyewereseenin24patients,15patientshadpseudodendritickeratitisonly,5patientshadkeratitisparenchymatosa,iridocyclitisandpseudodendritickeratitis,3patientshadkeratitisparenchymatosaandiridocyclitis,and1patienthadiridocyclitisonly.Patients65andoverweresignificantlycomplicatedwithocularinflammation,comparedtothoseunder65(oddsratio3.32).Patientswithdiabeteswerealsolikelytobeassociatedwithocularsymptoms(oddsratio2.35).Nosignificantdifferenceswerefoundbetweensexes.Hypertensionwasnotasignificantriskfactor.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(6):879.881,2014〕Keywords:水痘帯状疱疹ウイルス,眼部帯状疱疹,糖尿病,偽樹枝状角膜炎.varicella-zostervirus,herpeszosterophthalmicus,diabetesmellitus,pseudodendritickeratitis.はじめに日常診療において眼炎症を伴う眼部帯状疱疹はしばしば経験する疾患の一つである1,2).しかし,その具体的な頻度や臨床所見,さらに関連する危険因子の具体的な検討報告は,わが国では少ない3.6).眼病変の診断,早期治療開始は重症化を防ぐ観点からも重要であり,そのためには危険因子や臨床症状の実際を把握しておくことが肝要となる.今回,筆者らは眼部帯状疱疹がどのような臨床症状を呈し,また眼炎症を発症するにあたり欧米での報告と差異がみられるのかを調査した.また,免疫系に関与する疾患の代表例として糖尿病を,その他の疾患として高血圧を取り上げ,眼炎症の発生に関連があるかを診療録をもとに後ろ向きに調査し,疾患集積性がみられるのか,また具体的にどの程度の関与がみられるのかに関する検討を行った.また,日常診療においては高齢者および女性の患者が多い印象があるが,実際に眼炎症の発生率にも差異があるのかに関して同時に検討を行った.I方法本研究は,東京女子医科大学倫理委員会の承認を得て行った.対象は東京女子医科大学東医療センター眼科を平成23〔別刷請求先〕齋藤勇祐:〒116-8567東京都荒川区西尾久2-1-10東京女子医科大学東医療センター眼科Reprintrequests:YusukeSaito,DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast,2-1-10Nishiogu,Arakawa,Tokyo116-8567,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(105)879 年4月1日.平成25年2月28日までの間に初診し,かつ初診時診療録に帯状疱疹の病名登録がある症例のうち,すでに皮膚科で確定診断のついた69例とし,診療録をもとに患者背景と初診時点での臨床所見を後ろ向きに調査検討した.患者背景として性別,年齢(65歳以上,65歳未満)ならびに糖尿病,高血圧を含む全身疾患の有無を,臨床所見として帯状疱疹の発生部位(前額部,眼瞼,鼻梁)と眼炎症の種類を検討項目とした.眼炎症は偽樹枝状角膜炎,角膜実質炎,虹彩炎の発生を調査し,結膜炎のみの症例に関しては検討対象から除外した.患者背景についてそれぞれ頻度の多かったリスク因子の有無,また年齢,性差によるリスクをオッズ比にて比較検討し,さらに統計解析ソフトSPSSR,MicrosoftExcelR2010を用いたc2検定を利用し有意差を評価した.II結果調査対象は男性27例,女性42例の合計69例で平均年齢は61.4歳であった.このうち65歳以上の患者は36名,65歳未満の患者は33名であった.全身疾患を有する者は29例(42%)で,高血圧19例,糖尿病8例,ほかにアトピー前額部のみ前額部+眼瞼21例(30%)18例(26%)眼瞼のみ6例(9%)前額部+眼瞼+鼻梁14例(20%)眼瞼+鼻梁6例(9%)鼻梁のみ4例(6%)(n=69)図1皮疹の分布疱疹の部位は前額部のみが21例(30%)で最も多く,前額部から眼瞼に及ぶものが18例(26%),前額部から眼瞼,鼻梁に及ぶものが14例(20%)であった.表1眼炎症と性別,年齢との関係(N=69)男性女性65歳以上65歳以下眼炎症あり915177眼炎症なし18271926性別と眼炎症との間には関連がなかった.65歳以上の患者では眼炎症を発生する比率が有意に高かった(オッズ比3.32,p=0.044).(n=65)880あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014や関節リウマチがみられた.疱疹は前額部のみに分布したものが21例(30%)で最も多く,前額部から眼瞼に及ぶものが18例(26%),前額部から眼瞼,鼻梁に及ぶものが14例(20%)であった(図1).前額部のみに皮疹を認める症例で眼炎症を起こしている症例は,今回の検討ではみられなかった.患者集団の眼炎症の発症は24例(35%)であった.また,鼻部に皮疹を認めた症例では眼炎症を有するものが17例,眼炎症のないものが7例であり,鼻部に皮疹がない患者集団(眼炎症あり7例,なし38例)と比較し有意に眼炎症の発生が多かった(p<0.001).眼炎症の内訳は偽樹枝状角膜炎のみのものが15例(22%)で最も多く,偽樹枝状角膜炎,角膜実質炎および虹彩炎を合併した症例が5例(7.2%),角膜実質炎に虹彩炎を合併した症例が3例(4.3%),虹彩炎のみ認めた症例が1例(1.4%)であった(図2).性別と眼炎症との間には関連がなかった(p=0.955).65歳以上の患者では眼炎症を発生するオッズ比が高く有意差がみられた(オッズ比3.32,p=0.044)(表1).糖尿病患者では眼炎症の発生するオッズ比が高かったものの有意差はみられなかった(オッズ比2.35,p=0.46).高血圧と眼炎症には有意差はみられなかった(オッズ比偽樹枝状角膜炎のみ15例(22%)眼炎症なし45例(65%)(n=69)図2眼炎症の種類と内訳眼炎症の発症は24例(35%)で,そのうち偽樹枝状角膜炎が15例(22%)で,偽樹枝状角膜炎+角膜実質炎+虹彩炎5例(7.2%),角膜実質炎+虹彩炎3例(4.3%),虹彩炎が1例(1.4%)であった.表2眼炎症と患者のもつ疾患との関連偽樹枝状角膜炎+角膜実質炎+虹彩炎5例(7.2%)角膜実質炎+虹彩炎3例(4.3%)虹彩炎のみ1例(1.4%)糖尿病あり糖尿病なし高血圧あり高血圧なし眼炎症あり417815眼炎症なし4401126糖尿病の患者では眼炎症の発生するオッズ比が高かったが有意差は得られなかった(オッズ比2.35,p=0.46).高血圧と眼炎症との関連はオッズ比1.26であり有意差はみられなかった(p=0.90).(糖尿病に関する検討はn=65,高血圧はn=60にて検討)(106) 1.26,p=0.90)(表2).III考察皮疹の分布領域は前額部のみに分布するものが最も多く,前額部から眼瞼に及ぶもの,前額部から眼瞼,鼻梁に及ぶものと続いた.過去の文献ではHutchinson領域の皮疹の分布を主体として検討したものが多く,臨床での3領域の分布を検討したものは少ない.前額部に皮疹が出現することが多いことが示されたが,やはりよく知られているとおりHutchinson領域を含む鼻梁の皮疹が眼炎症に関与していることが改めて確認される結果となった.臨床において以前より指摘されているように6),鼻の皮疹のある症例には改めて注意が必要であるといえる.眼部に発生する帯状疱疹は女性のほうがやや多いという報告が散見される5,7)が,眼部帯状疱疹集団の中での眼炎症の発生の性差に関しての検討を行った文献は少ない.今回の症例集団においては男女間で発生の有意差は検出されなかった.帯状疱疹の発症率とは異なり,帯状疱疹患者集団の中での眼炎症の発症率と性差には相関がないことがうかがえる結果となった.男女にかかわらず帯状疱疹患者を診察した際には,眼炎症発生に注意が必要であるということが改めて示された.年齢と眼炎症との関連に関しては,年齢が上昇するにつれ眼炎症の発生率が上昇するという報告がみられる8).Borkarらは,65歳以上の患者で眼部帯状疱疹における眼炎症の発生確率は65歳未満の発生率の5倍であったと報告している9).今回の検討でも同様に,有意差をもって高齢者での発生率が高いことが示された.高齢者は若年者に比べて免疫機能が低いと考えられ,このことが発症率の違いに関与していると考えられる.高齢の帯状疱疹患者を診察する際にはより一層の注意を必要とすることが確認された.全身疾患との合併に関して,今回の調査では糖尿病と高血圧のみを取り扱った.今回の検討の中では症例数が不足したこともあり,統計学的に有意差を出すには至らなかったが,糖尿病合併帯状疱疹患者で眼炎症の発生が高くなるという傾向があった.また,その一方で高血圧患者との相関はみられず,複数の疾患をもっている患者において眼炎症が多く発生するというより,免疫応答に関連する疾患に眼炎症が関与していることが改めて確認された.今回の調査期間中には急性網膜壊死などの重篤な合併症に至った症例や,帯状疱疹のリスクとして認知されているエイズウイルス陽性例や骨髄移植患者などの重傷免疫不全症例7)には遭遇しなかったが,さらに症例数を重ねることでこれらとの関連に関しても調査を進められると考えられる.文献1)Pavan-Langston:Herpeszosterophthalmicus.Neurology45:50,19952)SeversonEA,BaratzKH,HodgeDOetal:HerpeszosterophthalmicusinOlmstedcounty,Minnesota:havesystemicantiviralsmadeadifference?ArchOphthalmol121:386,20033)TomkinsonA,RoblinDG,BrownMJ:Hutchinson’ssignanditsimportanceinrhinology.Rhinology33:180-182,19954)三井啓司,秦野寛,井上克洋:眼部帯状ヘルペスの統計的観察皮膚病変と眼合併症との関連.眼臨医報79:603608,19855)安藤一彦,河本ひろ美:眼部帯状疱疹の臨床像.臨眼54:385-387,20006)松尾明子,松浦浩徳,藤本亘:三叉神経領域におけるHutchinson徴候:35例の検討.川崎医会誌34:291-295,20087)PuriLR,ShresthaGB,ShahDNetal:Ocularmanifestationsinherpeszosterophthalmicus.NepalJOphthalmol3:165-171,20118)LiesegangTJ:Herpeszosterophthalmicusnaturalhistory,riskfactors,clinicalpresentation,andmorbidity.Ophthaimology115:S3-S12,20089)BorkarDS,ThamVM,EsterbergEetal:Incidenceofherpeszosterophthalmicus:resultsfromthepacificocularinflammationstudy.Ophthalmology120:451-456,2013***(107)あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014881

後期臨床研修医日記 32.三重大学眼科学教室

2014年6月30日 月曜日

●シリーズ後期臨床研修医日記三重大学眼科学教室一尾享史小林真希大井里恵布目貴康はじめに私たち4人は,昨年4月に三重大学眼科学教室に後期研修医として入局しました.優しくて面白く,カラオケとAKBが大好きな教授として有名な近藤峰生先生の指導の下,研修生活を送っています.手術件数や外来患者数も多く忙しい日々ですが,同期にも恵まれて楽しく過ごしています.月曜日月曜日の午前中は検査番か外来です.専門分野も決まってきており,それぞれ黄斑や糖尿病,角膜の外来をしたり,また再来の患者さんを診察したりしています.一人での外来は不安ですが,わからないことは指導医に相談すると,すぐ丁寧に教えていただけるので,とても勉強になります.そして午後は,手術です.白内障はもちろん,網膜.離や緑内障,糖尿病網膜症,斜視の手術など幅広くしているので,症例は多いです.覚えるまでは助手に入らせていただき,執刀医の技術を学んでいます.(小林真希)火曜日火曜日は外来付きの日です.朝,外来が始まる前に,昨日の手術患者さんを中心写真1同期の4人左から一尾,小林,大井,布目.に,受け持ち患者さんの回診をします.手術をして見えるようになった,明るくなったと患者さんがいわれるのを聞くと,朝から嬉しくなります.回診が終わったら角膜,涙道専門外来で処置の助手をしたり,外来を見学したりします.角膜,涙道外来では,よく目にする疾患からとてもマニアックな疾患まで,多くの症例に触れることができます.角膜感染症の方が来られると,角膜を擦過し,検体をとり,鏡検します.角膜の検体をとったり染色したりするのはまだ慣れていないため,少し緊張しますが,うまく原因菌が見つかると少しホッとします.涙道閉塞の患者様が来られたら,涙道内視鏡の助手をします.涙道の構造を立体的に把握するのはむずかしいです.角膜,涙道外来が終わると,特殊コンタクトレンズ外来が始まります.一般的なコンタクトレンズと違って,円錐角膜の人などの特殊なコンタクトレンズが必要な患者さんが来られます.微調整を行いますが,なかなか合うコンタクトレンズが見つからず苦労することもあります.特殊コンタクトレンズ作製のためにORTさんや業写真2wetlaboの様子小林(左)と指導してくださっている講師の生杉先生.(93)あたらしい眼科Vol.31,No.6,20148670910-1810/14/\100/頁/JCOPY 写真3勉強会指導してくださっている松井先生(右).者の方にも協力していただいて,とてもありがたいです.専門外来は,専門の先生に直接基本的なことから専門的なことまで教えていただける機会であり,とても勉強になります.(大井里恵)水曜日水曜日は網膜.離の外来日です.朝に手早く回診を終え,8時半には外来に向かいます.上級医の先生の外来をお手伝いしながら一緒に診察します.自分で診察し見立てた所見と,上級医の先生の所見とを比べながら指導していただきます.所見がおかしかった点や,見落としを指摘され,それを踏まえてもう一度診察したりします.そうこうするうちに外来も終了です.急いで昼食をすませ,蛍光眼底造影とサブテノン注射に向かいます.ここは僕たちがほぼ一人でドキドキしながら行います.その後急いで病棟に上がり,木曜日の手術の患者さんを診察し,IOLを準備したりします.水曜日は医局会兼カンファランスがあります.この1週間で気になった症例や勉強になる症例を提示していただいたり,明日の手術症例をプレゼンテーションしたりします.教授をはじめ,上級医の先生方に解説や指導していただき,とても勉強になります.帰宅前に医局図書館で今日わからなかったことを調べたり,他愛もないことを同期や若手の先生方と談笑して帰宅します.明日は手術日なので,さっさと寝て翌日に備えます.(一尾享史)868あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014写真4近藤教授と一緒に“ピース!”左から一尾,近藤教授,小林,大井.木曜日木曜日は手術番の日です.手術が始まる前に患者さんの回診をすませ,手術室で顕微鏡,機械類のセッティングや手術道具の準備をします.この日は白内障手術や硝子体手術,全層角膜移植,斜視,結膜弛緩症の手術がありました.白内障手術も,合併症のない症例から難症例まであり,とても勉強になります.顕微鏡下での操作はむずかしく,もっと練習が必要だなと反省する日々です.硝子体手術で目の中を顕微鏡で見ていると,別世界を見ているような気分になります.予定手術は17時頃に終了しましたが,今日は網膜.離と緑内障の緊急手術がありました.緊急手術も無事終了し,残りの仕事を片付けてから帰宅しました.手術の日は,普段よりも忙しく,緊張もするので,とても疲れます.(大井里恵)金曜日金曜日の朝はいつもより早めです!昨日の手術の患者さんの診察があるからです.病棟で患者さんをまわり,見え方はどうか,昨晩はゆっくりできたか聞き,術後に起きうる合併症などを念頭に置きながら診察します.今日は糖尿病網膜症の専門外来の日です.PRPが必要な症例のレーザーをさせてもらっています.十分に注意しながらレーザーし,その後,上級医に確認してもらっています.最周辺部など,とくにまだまだ上手に打てず,上級医の先生の手を煩わせることもしばしばです.(94) 夢中になってがんばっていると,いつの間にか夕方になっています.もうこの頃になると1週間の疲れが大分たまってきてヘロヘロです.残っている仕事を片付けに病棟に行くと,上級医の先生が僕らの仕事を「やっといたよ!」と.仕事が遅くて申し訳ないと思いつつ感謝感激です.こうして1週間は終わっていきます.(一尾享史)土曜日・日曜日基本的に土日は自由です.疲れているときは休みますし,元気なときは当直の先生の手伝いに行ったりもします.朝回診に出かけ,夕方は勉強会や研究会に出席したりしていることが多いです.普段バタバタしているので,土日はゆっくり勉強するチャンス.教科書を読んだり,手術DVDを見たりしています.指導医からのメッセージ2013年に三重大学眼科に入局された4人の研修医の先生,毎日の仕事とても大変だと思いますが,本当に真面目に頑張っておられますね.今年の4人の先生は同期同士とても仲が良いようにみえます.あまり詳しく知らないのですが,噂では「仲の良いみんなのために,ぜひ研修医室に置こう!」と近藤教授が買ってくれた赤い大きなソファ,リラックスムードで,少しうらやましいです.さて,これまでもこれからも,三重大学眼科では研修1年目からどんどん実践トレーニングを積んでいただきます.手術研修も硝子体手術や緑内障手術の助手〈プロフィール〉一尾享史(いちおあつし)大阪医科大学卒.厚生連尾西病院にて初期研修後,2013年4月より三重大学医学部眼科学教室前期専攻医.小林真希(こばやしまき)宮崎大学卒.山本総合病院(現桑名東医療センター)にて初期研修後,2013年4月より三重大学医学部眼科学教室前期専攻医.大井里恵(おおいさとえ)富山医科薬科大学卒.四日市市民病院にて初期研修後,2013年4月より三重大学医学部眼科学教室前期専攻医.布目貴康(ぬのめたかやす)三重大学卒.三重大学附属病院にて初期研修後,2013年4月より三重大学医学部眼科学教室前期専攻医.現在は岡波総合病院勤務.(一尾享史)はもちろんのこと,自らの執刀症例も,結膜手術,白内障手術の基本的な手技などからどんどん始めてもらっています.手術治療は執刀医の技量がダイレクトに患者さんの治療予後に影響します.緊張しますが,それだけやりがいもあります.これからいろいろ失敗することもあるかもしれませんが,それを糧にできるのも研修医ならでは.プライベートを大切にしながらも積極的に研修に参加し,眼科医としての経験を一歩一歩積み重ねていってください.(三重大学眼科生杉謙吾)☆☆☆(95)あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014869

My boom 29.

2014年6月30日 月曜日

監修=大橋裕一連載MyboomMyboom第29回「加藤弘明」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載MyboomMyboom第29回「加藤弘明」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介加藤弘明(かとう・ひろあき)京都府立医科大学視覚機能再生外科学私は2004年に京都府立医科大学を卒業し,同大学附属病院で2年間のスーパーローテート研修を行った後に,眼科学教室に入局しました.入局後,大学病院で1年間,関連病院で5年間,眼科の臨床経験を積んだ後,2012年から母校の大学院に進学し,ドライアイに関する研究を行っています.今回は,私の専門かつMyboomであるドライアイにまつわるお話をさせていただきます.ドライアイを選んだ理由私が,ドライアイに興味をもつようになったのは,大学病院での研修中に,横井則彦准教授のドライアイ外来で勉強させていただいているときでした.横井先生の診療では,涙液や角結膜の所見から病態を推測し,治療を進めていく過程が完璧といえるほどの美しい論理で構成されていて,当時,ドライアイについてなにもわかっていなかった私にとって,それはまるで魔法のように思えました(これが,他大学の先生方がおっしゃる「横井ワールド」の魅力なのかもしれません).そんな横井先生が外来をされている様子はとても楽しそうで,「横井先生が見ている世界を見てみたい」と思うようになったのが,私がドライアイを専門にしたいと思ったきっかけでした.一つ目の転機―シドニーでの講演―2009年の夏,ある転機が訪れました.横井先生から,シドニーのドライアイのシンポジウムに呼ばれたので,(91)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY一緒に行ってみないかというお誘いがありました.私の分の旅費も主催者側がサポートしてくれるとのことであり,「外国に無料で行ける?!これは行くしかない!」というやや不純な動機もありながらも,「行きます」と返事したところ,何日かして主催者の先生からメールをいただきました.ただ出席するだけと思っていたシンポジウムでしたが,若手研究者が集まって行うsessionで涙液油層のダイナミクスについて講演してほしいとのことでした.「話が違う!」と思いながらも,結局引き受けることにしたのですが,横井先生に相談したところ,まずはこれを読みなさいと,多量の英語論文を紹介されました.英語の論文を読んで,それを英語でスライドにまとめるなんてやったこともなかったため,泣きそうになりながら必死でスライドを作ったのを覚えています.今から思えば,このときの勉強が涙液の基礎研究に関する知識を深める良い機会になったと思います.シンポジウムは,世界中の涙液・ドライアイの研究者(とその弟子の若手研究者)が集まって,お互いの研究分野の話をしてコラボレーションの機会を作ろうというコンセプトのものでした.シンポジウムに参加して驚いたのは,参加者のうち,横井先生と私を含めて臨床家は3人だけで,あとはすべて基礎研究の先生たちばかりでした.しかも生物系の研究者だけでなく,物理や化学を専門とする研究者が多く,シンポジウムの内容は,私がそれまでに参加してきたものとは趣向が大きく異なるものでした.涙液は物理学者や化学者から見ても,とても興味深い性質をもつものだったようで,そのとき,私がそれまでにもっていたものとまったく異なる涙液の見方があることを知り,私の中の涙液のイメージが大きく変わっていくことに,とても興奮を覚えました.なお,万端(?)な準備のおかげで,シンポジウムでの私の講演は大きな問題なく終了し,その日の夕方の飲あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014865 写真1シドニーの日本食レストランにてシンポジウムで出会った友人たちと.み会では,若手研究者同士で親睦を深めました(写真1).このときに出会った研究者たちとは,その後も海外学会で出会うことがあり,彼らは今でも本当に大切な友人です.昨年のTFOSの後には,ブルガリアの友人が横井先生と私を連れて,ブルガリアを案内してくれました(写真2).おそらく日本人が誰も行ったことがないだろう多くの場所に連れていってくれて,横井先生と私は,その友人とのシドニーでの出会いに本当に感謝したことを覚えています.また,このシドニーでのシンポジウムに参加して以降,私は涙液に関する物理・化学・数学の論文も読むようになりました.生物系の論文だけでは知ることのできないドライアイの姿を垣間見ることができ,私はますますドライアイにハマっていきました.二つ目の転機―新しいドライアイ点眼液の登場―その後,私のドライアイ人生に二つ目の転機が訪れました.それは新しいドライアイ点眼の登場です.2010年12月にジクアスR,2012年1月にムコスタRが発売され,約15年ぶりの新しいドライアイ点眼の登場に関係者は大いに盛り上がりました.2剤とも眼表面のムチンを増やすというこれまでにない画期的な作用をもち,おもに基礎研究の中でしか議論がなされていなかったドライアイとムチンの関係について,臨床の場からも新しい知見が生まれるかもしれないという,臨床の研究者にとって,ワクワクする時代の幕が開けました.当初は2剤とも,臨床において同じような薬効を示すだろうと予測されていましたが,いざこれらの点眼を使写真2ブルガリアのRoseValleyにあるカザンラク近郊の町にてブルガリアの友人たちと横井先生と.用してみると,まったく異なる効果を示すことがわかってきました.詳細についてはまだいえない部分はありますが,この2剤の薬効の違いが,今まで考えられてきたドライアイの病態の構図を大きく書き換えるものになるだろうと予想していて,今まさにドライアイの世界が大きく変わろうとしている時代の真っ只中に自分はいるのだと思うと,本当に心が躍る感じがします.おわりにとりとめのないお話をしてしまったかもしれませんが,私はドライアイを通じて,多くの人と出会い,自分の中にある世界がとても大きく広がったと感じています.私の中でドライアイはまだまだMyboomであり続けていくと信じていますし,他の多くの先生たちにもドライアイがMyboomだといってもらえるようになるように,ドライアイの世界をもっともっと面白くしていきたいと考えています.次のプレゼンターは富山大学の宮腰晃央先生です.宮腰先生ともドライアイつながりで知り合った仲で,富山大学で角膜外来の看板を背負って頑張っておられます.一体どんなMyboomを紹介してくださるのか,とても楽しみです.よろしくお願いいたします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.866あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014(92)

日米の眼研究の架け橋 Jin H. Kinoshita先生を偲んで 18.Jin H. Kinoshitaより教わったこと

2014年6月30日 月曜日

JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ⑱責任編集浜松医科大学堀田喜裕JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ⑱責任編集浜松医科大学堀田喜裕JinH.Kinoshita先生より教わったこと堀田喜裕(YoshihiroHotta)浜松医科大学医学部眼科学講座教授1983年順天堂大学医学部卒業.1986年米国NationalInstitutesofHealth(NIH)に留学.1996年順天堂大学医学部眼科講師.1999年名古屋大学医学部眼科講師.2000年浜松医科大学医学部眼科学講座教授.2007年(公財)静岡県アイバンク理事長を兼務.●JinH.Kinoshita先生と私★平成24年1月より連載のコラム「Jin.H.Kinoshita先生を偲んで」も回を重ね,とうとう私の番となりました.いかがでしたでしょうか.ご愛読ありがとうございました.Kinoshita先生の学問レベルの高さ,見識の深さ,研究に対する公正な態度,後進の研究者に対するきめ細かな配慮などについては,これまでの諸先生方が繰り返し触れてくださったとおりです.私の知るKinoshita先生も,NationalEyeInstitute(NEI)のScientificDirectorという要職にあるにもかかわらず,ときどき個々の研究室に巡回して来られては,後進に親しく声をかけてくださいました.私が脳回状網脈絡膜萎縮患者の遺伝子異常をノーザンブロットで確認できたときには,この結果を自分のことのように喜んでくださいました.私にとって忘れられないKinoshita先生との思い出です.私は,Kinoshita先生のご専門の水晶体の研究をしたことがありません.したがって,Kinoshita先生に教わった2つのことを後進のために書いて,先生を偲びたいと思います.かなり昔のことなので,細かい部分は違っているかもしれません.その点はご容赦ください.●その人のCV(CURRICULUMVITAE:履歴書)を見れば仕事のQualityがわかる★これは私にとっては耳の痛い教えです.先生は「一流の研究をする研究者は,研究内容が一貫している.あれもこれもする人は評価されない.その人の履歴書を見れば仕事のqualityがわかる」といわれました.私はといえば,コンタクトレンズや角膜の研究をしたり(実はこ(89)写真11986年8月25日,JinH.Kinoshita先生をはじめて訪問したときの写真それまで面識程度であった坪田一男先生(現慶應義塾大学教授)から突然電話があり,NEIのトップから順番に会いたいからアレンジしてくれと頼まれました.そのおかげでこの写真が残っています.の仕事が現在の臨床に役立っていたり,いちばん引用されたりしている),緑内障の研究もしていて,今に至るまで研究内容が定まっていないようにみられがちです.それでも,なるべく眼疾患の遺伝の研究を一貫してやるよう心がけてきました.私は,NEI時代に遺伝子診断と遺伝子治療に関する基礎研究を行い,現在はその臨床応用に向けての研究に携わっています.これは先生の教えのおかげで,とても幸せなことだと思っています.●どんなに有名な研究者でも5年間良い仕事が出ないと居場所がなくなる★たしかNIHCreditUnion(NIH信用金庫)にお金を引あたらしい眼科Vol.31,No.6,20148630910-1810/14/\100/頁/JCOPY 写真21980年後半のNationalEyeInstitute(NEI)の日本人研究者とその家族の集合写真当時のNEIでは一大勢力でした.留学時代の友人は重要で,いまだに親交のある先生もいます.(NEIでない他の研究所の先生も含まれているかもしれません)き出しに行ったときだったと思います.Kinoshita先生から突然に呼び止められました.NIHに在籍されていた有名な研究者のことに触れて,「彼は最近5年間にいい仕事が出ていない.したがってNIHを去って他にポジションを探すしかない」と話しかけられたのです.その有名な研究者が,私の恩師の先生と親交が深かったので,事情を説明されたのかもしれません.NIHは,グラントを取らなくても研究が続けられるという全米で数少ない研究所のひとつですが,いい仕事が出せないと,スペースを奪われ,研究費も取り上げられてしまうので,必然的に研究を続けることが困難になり,他に移らざるを得なくなるのです.アメリカは日本と違って厳しい世界だと思い知らされた出来事でした.●おわりに★Kinoshita先生は,ご自身で明らかにした疾患メカニズムに基づいて,新しい治療薬の開発に挑戦した,眼科領域ではおそらく最初の研究者でしょう.先生は糖尿病白内障モデルラットの研究によって,アルドース還元酵素による細胞膜透過性の低いポリオールの蓄積が白内障の原因であることを明らかにされました.その結果,ラットの糖尿病白内障では明らかな白内障抑制効果のあるアルドース還元酵素阻害薬が注目され,白内障だけでなく糖尿病による合併症に対して,多数の臨床治験が行われてきたのです.現在のところ糖尿病白内障の治療薬の普及は実現していませんが,神経内のソルビトールの蓄積を抑制する糖尿病神経障害の薬という成果につながっています.基礎研究の成果を臨床応用して疾患を治療するという,眼科医の究極の夢を思い描きながら,Kinoshita先生のことを思い返しました.ご冥福を心からお祈り申し上げます.●★●★864あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014(90)

現場発,病院と患者のためのシステム 29.医療情報システムは,一気通貫の統合型か,部門別の集合型にするか

2014年6月30日 月曜日

連載現場発,病院と患者のためのシステム連載現場発,病院と患者のためのシステム杉浦和史*医療情報システムは,一気通貫の統合型か,部門別の集合型にするか.部門別システムの導入と問題点一般的に,システムの整備方針(InformationSystemArchitecture:ISA)をもたず,必要になった都度,導入するのが部門別,業務別導入です.医事会計は最初に導入されるシステムの筆頭でしょう.以降,検査機器からのデータを処理するファイリングシステム,処方を支援するオーダリングシステム,看護記録システム,病棟業務を支援する各種システムなど,必要性を感じたところから予算に応じて導入します.単独で導入できるこれらシステムは,相互に連携して動くことを想定していない自己完結型なぶん,導入は簡単です.一方,連携して使われることを前提としていないので,複数業務,部門間で機能,情報を連携して使おうとすると接続が面倒です.業務システムの連携をベルトコンベアに例えると,図1のようになります.最初のものは,情報の引継ぎを手作業(赤点線)で行うことを示しています.業務システムAの出力結果を,次の業務システムBに入力するというものです.人手で対応する手間を考えると非効率感は否めず,システムERP(EnterpriseResoursePlanning)と呼ばれるすべての業務をシステム化の対象とした一気通貫な統合情報システムがあります.一方,医事会計,検査データファイリング,オーダリング,看護記録など,部門毎,あるいは業務単位で動く部門別システムがあり,適宜これらを組み合わせて使います.理想的には前者ですが,後者が圧倒的に多いのが現状です.どちらがお勧めなのか意見の分かれるところです.化した効果が薄まってしまいます.導入を決める上層部は,現場がこのようなことを強いられる状況になることを理解する必要があるでしょう.2番目のものは,データベースを介して電子的に処理(青点線)することで,ハンドリングの手間を解消するものです.ただし,次の2点をクリアしていることが前提です.①業務システムAを作っているベンダ(システム開発会社)が情報を開示し,そのアクセス方法につき,協力してくれる.②業務システムBを作っているベンダが,画面からの入力を介さずデータベース経由情報を取得する処理を作ってくれる.ベンダ間で話し合ってもらうことになりますが,一般業務システムA業務システムB業務システムCハンドリング1ハンドリング2業務システムA情報の引継ぎ処理2情報の引継ぎ処理1業務システムB業務システムC業務システムS図1部門別のシステムのつなぎ合わせと統合型の違いc*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)(87)あたらしい眼科Vol.31,No.6,20148610910-1810/14/\100/頁/JCOPY 的にやりたがりません.それは,ノウハウのかたまりである仕様を開示すること,例外を作ってしまうこと,および顧客(医療機関)毎の仕様の管理が必要になり手間がかかるからです.また,トラブル発生時の原因の切り分けがむずかしく,対応が困難になることも予想されます..統合情報システム(ERP)の導入と問題点自己完結型で個別最適の業務システムをつなぎ合わせて使うと,機能,情報の重複,過不足があり,また作ったベンダが異なると,見た目や操作性が違ってきます.これに対し,全体構想を描き,そのコンセプトの下でシステムを整備してゆく統合情報システムは,図1の3番目に示すように,他の2者に比べ,継ぎ目がありません.機能,情報がシームレスに連携し,情報は理想的な,“createonetime,usemanytimes”になっています.このようなシステムについては,過去この連載でも,“病院統合情報システムの必要性”,“医療機関向けERP”として触れてきました.しかしながら,自称はともかく病院向けのERPシステムは見当たりせん.オーダーメイド(スクラッチ開発)で作ろうとすると,多くの工数(費用,時間)がかかりますが,費用に見合う効果は寄せ集めシステムの比ではありません.しかし,良いことばかりではありません.トラブル発生時の対応です.すべての機能,情報が相互に連動して動くことを前提としていることから,その一部に不具合が起きると,それ以降,前工程の情報を引継いで処理するシステムに連鎖反応的に影響が広がります(図2).業務システムS処理すべき情報が来ない図2一気通貫のシステムの問題点c正常に動いている処理だけは動かしたいという向きがあります.しかし,引継ぐべき情報の整合性がとれないまま運用することになり,傷を深くし,収拾がつかなくなる怖れがあるので避けるべきでしょう.ソウルの地下鉄事故がありましたが,それ以上傷を深くしないというフェールセーフ的な考え方でいけば,すべて赤信号にし862あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014て進めなくすべきでした.これと同じことで,トラブル発生時には不具合が発生した処理だけではなく,情報授受を行っている処理すべてを止めるほうが安全です.万が一のことを考えて紙ベース作業を併用するところもあるようですが,一部とはいえ患者情報を紙で管理することになり,従来通りのハンドリング作業が残り,情報を電子的に取り扱うシステム化の意味が薄れます..見解BCP(トラブルによって業務が停止しないための考察)の観点でみると,一気通貫の統合情報システムと,部分システムの寄せ集めで動くシステムとの,どちらに軍配が挙るでしょう.トラブルに強いかどうかの視点で評価すると後者です.理由は簡単で,元々単独で動いていたものだからです.連動して動かなくなったら,単独で運用していた時に戻ればよく,BCPとしては実行可能解になります.しかし,トラブルが起きないよう信頼性を上げて運用に入るのが普通です.万が一のことを考え,正常に動いている時にも,我慢して効率の悪い方法で運用することはないでしょう.通常,病院ERPを目指すシステムは,人間ならではの作業を除き,院内業務全体をシステム化の対象にします.1カ所でトラブルが起きると,ベルトコンベアの途中が切れることと同じ(図2)で,“createonetime,usemanytimes”になっているぶん,対応が大変です.それを考慮しても,圧倒的に多い正常時の運用を前提とすべきでしょう.また,院内全体の情報を共有し,利用し合えることのメリットを評価すべきではないかと思います.万が一の事態ができるだけ起きないよう,システムのMTBF(MeanTimeBetweenFailure/平均故障間隔)を長くし,万が一起きた時のMTTR(MeanTimeToRepair/平均修理時間)(図3)を極力短くする方策を立てたうえで,一気通貫の統合情報システムを目指したいものです.故障故障修理完MTBFMTTR図3MTBF,MTTRc(88)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 133.斜視手術既往眼に対する強膜バックリング手術(中級編)

2014年6月30日 月曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載133133斜視手術既往眼に対する強膜バックリング手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに若年者の周辺部裂孔に起因する網膜.離は,一般に強膜バックリング手術が第一選択となる.裂孔が最周辺部に位置していても,通常はエクスプラントで大半の症例は裂孔閉鎖が可能であるが,斜視手術既往眼では,バックルの設置に苦慮することがある.この場合,強膜半層切開とインプラントを用いた術式は一つのオプションとなりうる1).●症例16歳,男性.近医で両眼の裂孔原性網膜.離を指摘された.既往歴として7歳で左眼外斜視手術(前後転術)を受けていた.両眼とも眼底周辺部に網膜無血管領域が存在し,耳側最周辺部の網膜無血管野内に裂孔が多発していた.両眼とも耳側に網膜.離を認め,右眼は黄斑部近傍に及び,左眼は黄斑部を含んでいた(図1).まず左眼に対して強膜バックリング術を施行した.術中所見:全周で結膜切開を行い,外眼筋を露出し制御糸をかけた.水平直筋の付着部近傍には斜視術後の強い癒着を認めたため,丁寧に癒着を.離したのち,経強膜冷凍凝固を施行した.外直筋は斜視手術の際に後転されていたので,本来の付着部より4mm後方に付着部が移動していた.外直筋付着部ぎりぎりに#501シリコーンスポンジを縫着しても,裂孔よりかなり後極にバックルの隆起が出ることが予想されたため,外直筋付着部直下にバックルを設置する目的で,H型の強膜半層弁を作製した(図2).ついで#501シリコーンスポンジをインプラントとして同部位に埋没し(図3),強膜弁を縫合した.網膜下液排除は強膜半層弁よりも後極で施行した.術後,ガスタンポナーデの追加を要したが,水晶体は温存したまま網膜は復位した.右眼に対しては,後日,バックル手術を施行し復位を得た.術後,左眼の眼球運動障害は認めず,バックルの隆起も十分に保持できている.図1左眼の術前眼底写真耳側周辺部から黄斑部にかけて網膜.離を認める.裂孔は周辺部に位置していた.図2手術のシェーマ鼻側外直筋4mm後転耳側外直筋は斜視手術の際元の筋付着部に後転されており,バックル設置部位が付着部の直下に位置して内直筋6.5mmいた.インプラント設短縮置のためH型の強膜前後転術による半層弁を作製した.筋付着部の移動図3術中所見#501シリコーンスポンジをインプラントとして同部位に埋没した.●斜視手術既往眼に対する強膜バックリング手術のオプション本症例は家族性滲出性硝子体網膜症(familialexudativevitreoretinopathy:FEVR)が疑われ,硝子体手術の適応も考えたが,FEVRでは肥厚した後部硝子体膜が中間周辺部から周辺部にかけて網膜と強固に癒着していることが多く,硝子体手術の難易度も高いと判断して,まずは強膜バックリング手術を試みた.強膜半層切開+インプラント手術は,鋸状縁裂孔や毛様体裂孔に対して適応となることが多かったが,今回はその方法を応用したものである.近年はこのような症例に対して水晶体切除を併用した硝子体手術を施行する術者が多いと考えられるが,本法は水晶体を温存できる利点もあり,強膜バックリング手術の一つのオプションとなりうる.文献1)三宅淳子,佐藤孝樹,家久来啓吾ほか:斜視手術既往眼に発症した裂孔原性網膜.離に対してインプラント法を施行した1例.眼科手術26:465-468,2013(85)あたらしい眼科Vol.31,No.6,20148590910-1810/14/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 162.高侵達光干渉断層計による加齢黄斑変性の観察

2014年6月30日 月曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第162回◆眼科医のための先端医療山下英俊HPOCTとは高侵達光干渉断層計による加齢黄斑変性の観察佐柳香織(大阪大学医学部眼科学教室)はじめに光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は保険収載されたことにより,多くの施設で採用され,いまや網膜画像診断には欠かせない機器となってきています.加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)の診断や治療効果判定には,これまで造影検査が主に用いられてきましたが,OCTが加わることで診断精度が増し,造影検査の試行回数が減ってきています.筆者の施設でもAMDの診断の際には造影検査とOCTの両者を用いていますが,経過観察中は病態に大きな変化がない場合は,OCTのみで行っていることも多くなっています.OCTは技術の進歩に伴い,time-domain(TD)からspectral-domain(SD)へと進化し大幅に撮影時間が短縮し,画像解像度が向上しました.高侵達OCT(highpenetrationopticalcoherencetomography:HPOCT)はTDOCTやSDOCTの波長よりも長波長の光源を用いることで,より深部組織まで光が到達し,硝子体から強膜,脈絡膜まで観察が可能になりました.本稿ではHPOCTのAMD診断への有用性を解説したいと思います.HPOCTは従来のOCTと比較して長波長の光源(1,000.1,060nm)を用いて組織への侵達度を高めた機器です(図1).技術的な面から,ほとんどがsweptsourceを採用しています.組織への侵達度が高いことから,網膜色素上皮下や脈絡膜の組織,病変の観察に優れていています1).SDOCT同様,linescanだけでなく一定面積の走査ができるため,病変の全体像を把握でき,黄斑外の病変でも見のがしが少なくなっています.従来のOCTと比べ,白内障による影響も少ないとの報告もあります.同様に網膜色素上皮下や脈絡膜を観察する方法として,SDOCTを用いたenhanceddepthimaging(EDI)があります2).現在,HPOCTはTopcon社から市販されています.このHPOCTは中心波長1,050nm,深さ方向解像度は8μm,横方向分解能は20μm,スキャンスピードは100,000A-scan/秒です.撮影方法は市販のSDOCTと同様にlinescan,crossscan,radialscan,circlescan,3Dスキャンがあり,走査長は最大12mm,またB-scan画像を最大50枚まで重ね合わせることによって,よりコントラストが高い画像を得ることも可能です.また,3Dスキャンで撮影した画像から冠状断画像(en-face画像)も構築できます.AMDへの応用1.網膜色素上皮下病変の観察AMDは主に網膜色素上皮上(II型)あるいは網膜色素上皮下(I型)に脈絡膜新生血管(choroidalneovas-cularization:CNV)が発生する典型的AMDと,その特殊型である網膜色素上皮下にポリープ状病巣と異常血図1正常眼左がSDOCT,右がHPOCT画像である.SDOCT画像と比較して,脈絡膜の血管構造が詳細に描出されている.(81)あたらしい眼科Vol.31,No.6,20148550910-1810/14/\100/頁/JCOPY 図2加齢黄斑変性左がSDOCT,右がHPOCT画像である.HPOCT画像では網膜下出血内に網膜色素上皮.離があることがわかる.また,脈絡膜まで描出されている.管網が存在するポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV),網膜内の血管腫が網膜下へと進展する網膜内血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)に分類されます.AMDの診断,治療効果の判定には従来,蛍光造影検査が用いられてきて,現在でも必須の検査ではありますが,最近では非侵襲的で定量性のあるOCTを併用している施設が多くなっています.とくにOCTの定量性を利用し,網膜内浮腫や網膜下液などの滲出性変化を数値化して,AMD治療の主流となっている抗VEGF薬治療の際の再治療判定に用いています.SDOCTは出血やfibrinなどの高輝度を示す病変の下や網膜色素上皮.離内の病変の観察ではシグナルが減衰するためやや劣っており,HPOCTのほうが優れています.たとえば,濃いfibrin下のCNVがI型かII型かどうかの判定は,HPOCTでは簡単にできる場合があります(図2).2.脈絡膜の変化HPOCTのもう一つの特徴として,従来のOCTと比較して脈絡膜の描出にも優れている点があげられます.これまで正視眼の脈絡膜厚は,組織学的検討により170.220μmとされてきました.また,年齢を追うごとに薄くなっていくことが知られています.また,日内変動があることも報告されています.OCTを用いた脈絡膜厚は網膜色素上皮から強膜脈絡膜境界までの長さをさし,機器に内蔵されたキャリパーを用いてマニュアルで測定します3).AMDには先述のように典型的AMD,PCV,RAPのサブタイプがあり,既報ではAMDの中心窩脈絡膜厚204.245μm,PCVは243.319μmとなっており,多くの報告でPCVの方が典型AMDよりも中心窩脈絡膜厚は厚いとしています4,5).また,治療によって脈絡膜厚が変化することも報告されており,抗VEGF薬投与単独では脈絡膜には影響が少ないが,光線力学的療法後には脈絡膜厚は減少するといわれています6,7)(発症時脈絡膜が厚くなる原田病や中心性漿液性脈絡膜症では,治療によって脈絡膜厚が減少することが報告されています).脈絡膜厚にはもともと個体差がありますから,脈絡膜厚だけで診断することはできませんが,診断に迷った際には補助的な役割をはたします.また,治療法による脈絡膜厚変化の解析が進めば,治癒機序の解明や治療の選択基準の確立に役立つのではと期待されます.おわりにAMDの診断の際,従来の造影検査にOCTを併用することで診断精度を上げることができます.冠状断像に関しても,今後,解像度がさらに高まれば,インドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiography:ICGA)の代わりとして非侵襲的な脈絡膜循環の評価が可能となるでしょう.また,AMDの発症機序についても,脈絡膜や網膜色素上皮下の観察が欠かせません.本稿が高侵達OCTの理解を深める一助となりましたら幸いです.文献1)SayanagiK,GomiF,IkunoYetal:Comparisonofspec-tral-domainandhigh-penetrationOCTforobservingmorphologicchangesinage-relatedmaculardegenerationandpolypoidalchoroidalvasculopathy.GraefesArchClinExpOphthalmol252:3-9,20142)MargolisR,SpaideRF:Apilotstudyofenhanceddepth856あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014(82) imagingopticalcoherencetomographyofthechoroidinnormaleyes.AmJOphthalmol147:811-815,20093)IkunoY,KawaguchiK,NouchiTetal:ChoroidalthicknessinhealthyJapanesesubjects.InvestOphthalmolVisSci51:2173-2176,20114)KoizumiH,YamagishiT,YamazakiTetal:Subfovealchoroidalthicknessintypicalage-relatedmaculardegenerationandpolypoidalchoroidalvasculopathy.GraefesArchClinExpOphthalmol249:1123-1128,20115)ChungSE,KangSW,LeeJHetal:Choroidalthicknessinpolypoidalchoroidalvasculopathyandexudativeage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology118:840845,20116)YamazakiT,KoizumiH,YamagishiTetal:Subfovealchoroidalthicknessafterranibizumabtherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration:12-monthresults.Ophthalmology119:1621-1627,20127)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:Subfovealretinalandchoroidalthicknessafterverteporfinphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy.AmJOphthalmol151:594-603,2011■「高侵達光干渉断層計による加齢黄斑変性の観察」を読んで■今回は大阪大学医学部眼科学教室の佐柳香織先生にでの臨床医学の歴史で臨床医が経験してきたことでよる高侵達光干渉断層計(HPOCT)の仕組みと臨床す.とくに眼科学は臨床検査を眼科医自らの手で多く的な意義についての解説です.学会でも注目の分野でを行う診療科ですから,新しい技術を眼科疾患の診療あり,読者の先生方が学会に出席した場合に,今後,に応用する力をもち,技術開発を担当する技術者には発表のなかで多く接することになると考えます.っきりとした目的をもって要求することができる眼科波長を長波長の光源(1,000.1,060nm)とすること医は,技術開発のキーになれると考えます.昨今,日で組織への侵達度,とくに網膜下のCNVや脈絡膜へ本の成長戦略で医療技術を世界に売り出すことが大きの侵達度を高めた機器であることを明解に説明していな柱となっています.世界が高齢化し眼科医療への需ただきました.これにより,出血やfibrinなどの高輝要がますます高まり,産業としての眼科医療機器の開度を示す病変の下や網膜色素上皮.離内の病変の観察発への期待も大きくなってくると考えます.佐柳先生でHPOCTのほうが優れていて,fibrin下のCNVがの紹介されたHPOCTの開発と日常臨床への応用は,I型かII型かどうかの判定を可能にするとのこと,日大きなヒントをこのような医療機器開発の世界に投げ常臨床での有用性が大きいことがわかります.また,かけていると考えます.日本発信の眼科医療機器が世これまで検査法の発達が臨床的な意味づけに比較して界の眼科医療に貢献し,それにより日本の医療機器産遅れていた脈絡膜の病態を新たに観察する手段として業が大きな恩恵を受けることは,国民の眼科医療の充HPOCTがきわめて有用で,今後の大きな可能性をも実にもつながることですので,われわれ眼科医が日常つことをわかりやすく説明していただきました.臨床から育んだアイデアを形にするようなシステムの新しい技術が新たな疾患概念を作り,それが実際の構築が望まれます.疾患の診断,治療に大きな役割をはたすことはこれま山形大学眼科山下英俊☆☆☆(83)あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014857

新しい治療と検査シリーズ 218.エクスプレスTM(EX-PRESSTM

2014年6月30日 月曜日

新しい治療と検査シリーズ218.エクスプレスTM(EX.PRESSTM)プレゼンテーション:石田恭子東邦大学医療センター大橋病院眼科コメント:稲谷大福井大学医学部感覚運動医学講座眼科学.バックグラウンド緑内障濾過手術のゴールドスタンダードは長らく線維柱帯切除術であったが,本術式は強力な眼圧下降が得られる反面,濾過量の定量性が困難で,術早期の過剰濾過に伴う浅前房や脈絡膜.離などの合併症が生じやすい.緑内障ドレナージデバイスであるアルコン社のエクスプレス(EX-PRESS)は1998年にイスラエルで開発され,2005年以降,強膜弁下挿入器具として濾過手術に使用されている.本術式は緑内障インプラント手術と呼ばれるもので,器具を通して房水を導くため,より定量性のある濾過手術を行える可能性がある..新しい器具の原理と特徴エクスプレスは調圧弁をもたないglaucomadrainagedeviceで,強膜弁下から前房内に挿入し,毛様体から産生され瞳孔領を通り前房に出た房水を,本器具を通じて結膜下へ導き結膜濾過胞に貯留させ,眼圧を下降させる(図1).エクスプレスモデルP-50は,全長が2.64mm,Shaftの太さが400μm,内腔が50μm,眼内迷入や眼外突出を防ぐ目的で,前房側にかえし,強膜側に鍔が付いている.房水の流入口は2カ所あり,先端部が閉塞した場合に備えて,上側面にも流入口が付けられている.また,鍔にはverticalchannelと呼ばれる溝が付いており,エクスプレスを通じて流れ込んだ房水がより後方へ流れるように工夫されている.エクスプレスは心臓治療用ステントと同じステンレス鉱製で,組織異物反応や炎症反応が少なく,3テスラ以下の磁場強度でのMRI撮影であれば偏位や熱発生はなく,安全とされている.なお,エクスプレス本体は専用のデリバリーシステム(EXPRESSdeliverysystem:EDS)の先端に搭載された状態で販売されている.(79)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY房水の流れ図1エクスプレスインプラント手術眼での房水の流れ.実際の手術方法基本的には線維柱帯切除術に準ずる.上方の象限に円蓋部もしくは輪部基底の結膜切開を行い,次に輪部基底の強膜弁を,強膜岬を超えて強角膜移行部(グレーゾーン)まで切込み作製する.症例に応じて,増殖阻害剤であるマイトマイシンC(MMC)を塗布した後,生理食塩水で十分洗浄する.強膜弁下の強角膜移行部の下端で,強膜岬の上に相当する位置から,25ゲージ針にて虹彩面に水平に前房穿刺し,デバイス挿入路を作製する.ペンを持つようにEDSを保持し,挿入孔を通じて,EDSに搭載されたエクスプレスをはじめは90°水平に倒して前房内に挿入する.エクスプレスのかえしとshaftが完全に前房内に入り,鍔の部分でそれ以上前に入らないことを確認した後,EDSを正位に戻し,deliverysystemのボタンを押すと,先端のエクスプレスがリリースされ,移植は完了する.エクスプレス留置後,本器具の前房内での位置が適切であること,さらにサイドポートからBSSを入れてエクスプレスから房水が流れ出ることを確認し,強膜弁を10-0ナイロン糸にて房水流量を確認しながら縫合あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014853 図2手術例耳上に結膜濾過胞,同部位の前房内にエクスプレスが留置されている.する.最後に結膜を房水漏出のないようにしっかり縫合する(図2)..本方法の良い点(エクスプレスの利点と成績)前房開放時間が少なく挿入が比較的容易であること,流出路の大きさが標準化(50μm)できること,虹彩切除や線維柱帯切除が不要であることがその利点としてあげられる.虹彩切除や線維柱帯切除を行わないため,術中の出血や炎症を軽減でき,また,流出路の大きさが標準化できることから,過剰濾過に伴う合併症を減少させる可能性がある.エクスプレス併用濾過手術と線維柱帯切除術を比較した研究では,手術成功の定義を5≦眼圧≦21mmHgとすると,両術式の手術成績は同等であるが,術後1週間以内の低眼圧(眼圧<5mmHg)や脈絡表1エクスプレスと線維柱帯切除術との比較エクスプレス線維柱帯切除術前房開放時間短長手術手技(虹彩,線維柱帯切除)の必要性必要不要前房出血少多術後視力回復早遅手術コスト高安膜.離は有意に少なかった1).また,線維柱帯切除術の成績を比較したメタ解析では,両術式の手術成績および眼圧下降率は同等としながら,術後合併症としての前房出血が有意に少ないことが報告されている2).さらに術後炎症の程度が比較的軽度なため,線維柱帯切除術と比較し一般に術後視力回復が早い3~5).エクスプレスと線維柱帯切除術との比較を表1に示す.文献1)MarisPJJr,IshidaK,NetlandPA:ComparisonoftrabeculectomywithEx-PRESSminiatureglaucomadeviceimplantedunderscleralflap.JGlaucoma16:14-19,20072)WangW,ZhouM,HuangWetal:Ex-PRESSimplantationversustrabeculectomyinuncontrolledglaucoma:ameta-analysis.PLoSOne8:e63591,20133)GoodTJ,KahookMY:AssessmentofblebmorphologicfeaturesandpostoperativeoutcomesafterEx-PRESSdrainagedeviceimplantationversustrabeculectomy.AmJOphthalmol151:507-513,20114)SugiyamaT,ShibataM,KojimaSetal:Thefirstreportonintermediate-termoutcomeofEx-PRESSglaucomafiltrationdeviceimplantedunderscleralflapinJapanesepatients.ClinOphthalmol5:1063-1066,20115)Beltran-AgulloL,TropeGE,JinYetal:ComparisonofvisualrecoveryfollowingEx-PRESSversustrabeculectomy:resultsofaprospectiverandomizedcontrolledtrial.JGlaucoma2013[Epubaheadofprint].EX.PRESSに対するコメント.線維柱帯や虹彩切除の手間が省けるので,虹彩から腔が細すぎるので,目視で確認もできなければ管腔のの出血が少なく,駆逐性出血を起こす危険の高い前房中を掃除することもできない.また,アジア人の狭い開放時間が短い.流量が安定しているので,術後の低前房に挿入すると,エクスプレスの先端が虹彩に接触眼圧に伴う合併症が少ない.エクスプレスは濾過手術することも多い.異物反応が少ないとはいえ,ステン選択の敷居を下げた画期的なデバイスであるといえる.レスは異物反応を起こす.トラベクレクトミーではなしかし,術後眼圧が上昇したときに,エクスプレスく,エクスプレスが絶対適応の症例はどういった症例がじゃまで思いきったニードリングができないことなのかと質問されると私も答えに窮してしまう.形や,実はエクスプレスの管腔が詰まっているのでは?状,材質ともに改良の余地が残されていると思う.という疑念が湧いてしまう.チューブが不透明かつ管854あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014(80)

私の緑内障薬チョイス 13.眼炎症と相性のよい配合点眼薬-コソプト®とアゾルガ®

2014年6月30日 月曜日

連載⑬私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載⑬私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也13.眼炎症と相性のよい配合点眼薬岩尾圭一郎熊本大学医学部附属病院眼科―コソプトRとアゾルガR―ぶどう膜炎などの眼炎症に伴う眼圧上昇例では,プロスタグランジン関連薬は潜在的に炎症を惹起するリスクがあるため,なるべくその使用を回避したい.すでに複数の点眼を使用されて眼圧も高めであることが多いため,アドヒアランスの面や強い眼圧下降作用が期待できる点で,コソプトRやアゾルガRの処方をお勧めしたい.症例呈示58歳,男性.2週間前から右眼の視力低下と顕著な充血を自覚.近医を受診したところ,前眼部炎症を認め,ぶどう膜炎との診断の下にリンデロンR点眼が開始される.しかし,眼圧上昇と角膜浮腫が生じたため紹介受診となる.初診時,右眼視力矯正0.2,右眼眼圧28mmHg.角膜上皮および実質浮腫,豚脂様角膜後面沈着物が生じており,前房内に強い炎症を認めた(図1).明らかな皮疹などは認めなかったが,ヘルペスなどのウイルス感染性ぶどう膜炎が疑われた.リンデロンR点眼,1%アトロピンR点眼による消炎に加え,眼圧下降点眼を検討すべきであると判断した.前房水採取・PCRを行ったところ,水痘・帯状疱疹ウイルス(varicellazostervirus:VZV)陽性であることが判明し,VZVに伴う虹彩ぶどう膜炎と最終的に診断された.抗ウイルス薬の内服・眼軟膏,抗炎症点眼,眼圧下降点眼で加療を行ったところ,消炎とともに眼圧下降が起こり,8カ月後には点眼をすべて中止としたが,眼圧は正常化し炎症の再燃もない.ぶどう膜炎と緑内障点眼本症例のようなぶどう膜炎とそれに関連して眼圧上昇がみられる場合,その点眼のチョイスには気を配る必要がある.現代の開放隅角緑内障治療では,眼圧下降作用の強さと1日1回でよいという使い勝手の良さから,プロスタグランジン関連薬(PG薬)群がファーストラインの座を確保している.しかしながら,ぶどう膜炎などの炎症に続発する緑内障に対しては,その作用機序から炎症を増悪させる潜在的リスクを持ち合わせるため,少し事情が異なる.ぶどう膜炎の既往がまったくない緑内(77)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY図1水痘・帯状疱疹ウイルス性虹彩毛様体炎著明な毛様充血と角膜浮腫が認められる.角膜後面には豚脂様沈着があり,強い炎症を伴う肉芽腫性ぶどう膜炎の所見である.障眼ですら,いずれのPG薬を使用した場合でも,頻度はけっして高くないものの,炎症が惹起されることが知られる1).本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014851 図2ぶどう膜炎続発緑内障の点眼表当院で患者に渡ししている点眼表の1例である.ぶどう膜炎続発緑内障では,抗炎症のための副腎皮質ステロイド点眼をはじめ,多くの点眼を必要とする.炎症に対するステロイド薬でステロイド誘発眼圧上昇をきたしている可能性が高い場合,炎症管理はほぼできているが徐々に眼圧上昇を生じた場合などは,慎重な管理下にPG薬を使用することも可能とする報告も散見されるようになってきている2)が,急性期の強い炎症状態では可能な限りその使用は避けたほうが望ましい1).以上の点を踏まえ,炎症に伴う眼圧上昇機転における選択肢としては,PG薬に次ぐ眼圧下降効果が期待できるb遮断薬,a2刺激薬,炭酸脱水酵素阻害薬があげられよう.ぶどう膜炎続発緑内障症例の点眼の特徴原発緑内障と異なり,眼炎症眼では多くの点眼を必要とするケースが多い(図2).抗炎症の主力となるリンデロンR点眼やアトロピンR点眼,虹彩後癒着を防ぐための散瞳薬,場合によってはステロイド薬による易感染性に対して予防的に抗菌薬点眼を処方する医師もいらっしゃるであろう.このような多種類の点眼に加え,さらに眼圧下降点眼を追加することになるが,このような続発緑内障の場合,眼圧レベルは少し高めであることが一般的で,単剤のみではいささか不安を感じることも多い.原発緑内障症例で視野進行に伴い徐々に点眼数が増えていく場合と異なり,初回から一度に多くの点眼が処方されるわけであるから,患者サイドからもそれぞれの点眼の役割や重要性を理解するのは困難な状態であると思われ,初発ぶどう膜炎のケースではとくにアドヒアランスの面で気を遣う.そのため,筆者は配合剤をうまく使って,なるべく少ない点眼で管理したいと考えおり,852あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014図3コソプトRとアゾルガRb遮断薬・炭酸脱水酵素阻害薬配合剤として,これまでのコソプトRに加え,2013年からアゾルガRが新しく使用できるようになった.全身的・局所的に合併症の心配がなければ,最初からb遮断薬/炭酸脱水酵素阻害薬配合剤の積極的な使用を行っている.幅が広がったb遮断薬.炭酸脱水酵素阻害薬配合剤この連載でも何度かチモロールとドルゾラミドの合剤であるコソプトRの有用性・利便性が取り上げられているが,これに加え,ドルゾラミドとの合剤であるアゾルガRもわが国で使用が可能となった(図3).この2剤間には,眼圧下降作用に有意な差はないと報告されている3).眼刺激症状の程度や懸濁性点眼独特の使用感など,患者の受け入れやすさなどから点眼が選択できるようになったのは歓迎したい.点眼がとくに多くなりがちな炎症性続発緑内障には,これらの配合剤点眼の利用をぜひ一度検討していただきたい.文献1)山本聡一郎,岩尾圭一郎,平田憲ほか:プロスタグランジン関連眼圧下降薬で惹起された前部ぶどう膜炎.あたらしい眼科28:115,20112)ChangJH,McCluskeyP,MissottenTetal:Useofocularhypotensiveprostaglandinanaloguesinpatientswithuveitis:doestheiruseincreaseanterioruveitisandcystoidmacularoedema?BrJOphthalmol92:916-921,20083)ManniG,DenisP,ChewPetal:Thesafetyandefficacyofbrinzolamide1%/timolol0.5%fixedcombinationversusdorzolamide2%/timolol0.5%inpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.JGlaucoma18:293300,2009(78)

抗VEGF治療:抗VEGF薬と地図上萎縮

2014年6月30日 月曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二5.抗VEGF薬と地図状萎縮白潟ゆかり香川大学医学部眼科学講座地図状萎縮(geographicatrophy:GA)は萎縮型AMDの代表的所見として知られているが,萎縮型AMDにおけるGAとは別に,滲出型AMDに対する抗VEGF薬療法後にもGAが生じることがわかってきた.GAが進行するとdrymaculaを維持できていても視力が低下してしまうため,注意してフォローする必要がある.GAを生じる疾患加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)は,萎縮型AMDと滲出型AMDに分類される.萎縮型AMDでは,網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)が変性・萎縮して脈絡膜血管が透見できる地図状萎縮(geographicatrophy:GA)を認める.滲出型AMDは,通常の脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)から起こるものを典型AMDといい,滲出型AMDの特殊型として,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)と網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)がある.GAは萎縮型AMDに特徴的な所見であるが,滲出型AMDに対する抗VEGF(vascularendothelialcellgrowthfactor)薬療法後にもGAが生じることがあり,経過とともに拡大する傾向があることが近年数多く報告されている.滲出型AMDに対する抗VEGF治療後のGA発生現在,滲出型AMDに対する治療の中心は抗VEGF薬である.ラニビズマブ(ルセンティスR)を用いた大規模スタディであるMARINAstudyやANCHOR図1RAPの長期経過中にGAの拡大を認めた症例78歳,女性.RAP:初診時矯正視力は0.07,検眼鏡(左)にてアーケード内に多数のドルーゼンがあり,網膜出血も認める.眼底自発蛍光画像(FAF)(右)で小さいGAが多発しているのがわかる.Ranibizumab硝子体内注射を計3回施行し,滲出性変化は消失した.studyでは,抗VEGF薬療法により視力の維持改善を得られている.その一方で,2年の経過でMARINAstudyでは9%,ANCHORstudyでは10%の症例で15文字以上の視力低下をきたしたとも報告されている1,2).Rosenfeldらは,視力低下につながる所見として,RPEの異常や萎縮性瘢痕などがあげられること,それらは時間の経過とともにGAへ発展し,視力低下をきたす可能性があることを指摘している3).CATTstudyでは,2年間にわたる抗VEGF薬療法を行った後,18.3%の症例でGAが発生したと報告されている4).また,IVANstudyでは2年の経過で30%の症例でGAが認められている5).両試験とも,抗VEGF薬の投与回数が多いほうが有意にGA発生率が高いため,GAの発症に抗VEGF薬が関与する可能性が指摘されている.また,滲出型AMDのサブタイプのうち,RAPの症例でGAの発生率が高かったと報告されている4)(図1,2).抗VEGF薬とGA発生の関連VEGF-Aアイソフォームのうち,VEGF-Aは血管新生や炎症惹起,透過性亢進などの病理的作用に(165)大きく関与していると考えられている.一方,VEGF-A121はマウスの脈絡膜毛細血管板の正常な機能維持に関与(75)あたらしい眼科Vol.31,No.6,20148490910-1810/14/\100/頁/JCOPY し6),神経保護作用や,脈絡膜毛細血管板の層構造の形成を維持するという生理的機能もあると報告されている7).このような生理的役割をもったVEGF-A121を過剰に抑制することが,GAの発生・拡大につながるのではないかと危惧されている.現在,使用可能な抗VEGF薬は,ペガプタニブ(マクジェンR),ラニビズマブ,アフリベルセプト(アイリーアR)で,これらが使用可能となる前はベバシズマブ(アバスチンR)をオフラベルで使用していた.ベバシズマブ,ラニビズマブ,アフリベルセプトはVEGF-Aのすべてのアイソフォームを阻害する薬剤で,ペガプタニブはVEGF-A165を選択的に阻害する.また,アフリベルセプトはVEGF-AだけでなくVEGF-B,胎盤増殖因子(placentalgrowthfactor:PlGF)も阻害するなど,作用が少し異なるが,抗VEGF薬の種類でGAの発生率が異なるかについては現時点では明確にはわかっていない.抗VEGF薬投与とGA発生の関連は,さらに長期経過を観察しなければわからないことも多い.中心窩外のGAはただちに視力低下につながるわけではなく,現実に抗VEGF薬を用いた各大規模スタディでは良好な視力維持改善効果が得られ,毎月の固定投与の視力経過はprorenata(PRN)投与よりも安定した視力経過が得られている.その一方で,drymaculaが維持できていても,しばしばGAは徐々に拡大し,中心窩外のGAも経過とともに中心窩に向かって拡大してくる8).GA領域の視細胞は萎縮するため,GAが中心窩に及んで視力が大きく低下してしまうことが懸念されている.今後に向けて抗VEGF薬療法においては,OCTでdrymaculaを維持することが視力の維持改善に最も重要であり,滲出性変化を繰り返すと徐々に視力が低下してくる.したがって,実臨床の場においてもアンダートリートメントにならないよう注意する必要がある.しかし,抗VEGF850あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014図2初診時より4年3カ月後Ranibizumab硝子体内注射3回施行後,drymaculaを維持していたが,網膜出血が少量残存している.GAは著明に拡大した.矯正視力は0.15となった.薬の投与回数の増加に伴う費用負担や全身への副作用のリスクに加えて,GA発生・拡大を極力抑えるという観点からも,投与方法やフォローアップの方法を工夫して,抗VEGF薬の過剰投与を避ける努力も大切である.また,フォローアップ中は,滲出性変化の有無だけでなく,眼底自発蛍光画像でRPEの異常やGAの発生・拡大のチェックも忘れず行う必要がある.文献1)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal:Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1419-1431,20062)BrownDM,MichelsM,KaiserPKetal:Ranibizumabversusverteporfinphotodynamictherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration:Two-yearresultsoftheANCHORstudy.Ophthalmology116:57-65.e5,20093)RosenfeldPJ,ShapiroH,TuomiLetal:Characteristicsofpatientslosingvisionafter2yearsofmonthlydosinginthephaseIIIranibizumabclinicaltrials.Ophthalmology118:523-530,20114)GrunwaldJE,DanielE,HuangJetal:Riskofgeographicatrophyinthecomparisonofage-relatedmaculardegenerationtreatmentstrials.Ophthalmology121:150-161,20145)ChakravarthyU,HardingSP,RogersCAetal:AlternativetreatmentstoinhibitVEGFinage-relatedchoroidalneovascularisation:2-yearfindingsoftheIVANrandomisedcontrolledtrial.Lancet382:1258-1267,20136)MarnerosAG,FanJ,YokoyamaYetal:Vascularendothelialgrowthfactorexpressionintheretinalpigmentepitheliumisessentialforchoriocapillarisdevelopmentandvisualfunction.AmJPathol167:1451-1459,20057)Saint-GeniezM,KuriharaT,SekiyamaEetal:AnessentialroleforRPE-derivedsolubleVEGFinthemaintenanceofthechoriocapillaris.ProcNatlAcadSciUSA106:18751-18756,20098)LindbladAS,LloydPC,ClemonsTEetal:ChangeinareaofgeographicatrophyintheAge-RelatedEyeDiseaseStudy.AREDSreportnumber26.ArchOphthalmol127:1168-1174,2009(76)