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遠隔地診断・地域医療連携

2013年9月30日 月曜日

特集●デジタル眼科あたらしい眼科30(9):1219.1225,2013特集●デジタル眼科あたらしい眼科30(9):1219.1225,2013遠隔地診断・地域医療連携Tele-OphthalmologyatAsahikawaMedicalUniversity吉田晃敏*はじめに北海道は,人口10万対医師数が全国平均を上回っているものの,そのうちの約6割が札幌市と旭川市に偏在しており,医療過疎となっている地域が数多く存在する.そのため,患者が遠方から足を運ばなければならない,あるいは医師が地方の病院まで出向かなければならないなど,患者および医師の双方が肉体的・時間的・経済的負担を強いられている.このような状況を改善するため,筆者は,「患者や医師が移動せず,医療情報を動かす」遠隔医療を考え,インターネットが本格的に普及する以前の1994年から,カラー動画像のリアルタイム伝送による遠隔地診断を開始した1,2).さらに1999年には,旭川医科大学病院に国内初の遠隔医療センターを設立し,眼科を含むさまざまな診療科が最先端の遠隔医療を実施できる環境を整備した.現在は,遠隔地診断に留まらず,手術支援や紹介元病院との手術情報の共有,退院患者をフォローアップするための遠隔在宅医療支援など,状況に対応した遠隔医療を行っており,これらを有機的に機能させて,患者へのシームレスな医療支援を実現している.一方,遠隔医療の推進と並行して,ICT(情報通信技術)の研究開発にも積極的に取り組み,現在では臨場感の高い3D-HD(立体ハイビジョン)映像を一般のインターネット回線で伝送することが可能となった.また,通信インフラの整備が遅れている地域でも遠隔在宅医療支援が行えるように,モバイル通信に対応できるシステムを開発した.本稿では,旭川医科大学眼科が実践している遠隔医療について,システム構成やICTの研究開発成果を交えながら紹介する.I旭川医科大学眼科が実践する遠隔医療1.ISDNを用いた初期の遠隔医療1994年10月,本学眼科と関連病院眼科をISDN(サービス総合ディジタル網)のINS(InformationNetworkSystem)net64(通信速度は128kbps)で接続し,細隙灯顕微鏡,眼底鏡などに装備したCCDビデオカメラや室内カメラの映像を,リアルタイムに送受信できる遠隔図11994年10月,カラー動画像のリアルタイム伝送による初めての眼科遠隔医療支援関連病院からリアルタイムに伝送される網膜画像(動画像)を観察し,診断・治療法を助言.*AkitoshiYoshida:旭川医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕吉田晃敏:〒078-8510旭川市緑が丘東2条1-1-1旭川医科大学眼科学講座0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(19)1219 図2ISDNを用いた初期の眼科遠隔医療システム関連病院側のシステムは,INSnet1500とINSnet64×3回線のどちらかを選択できるようにし,旭川医科大学側は,両方で通信できる環境を構築.このシステムは1995年から2005年まで使用.図3旭川医科大学の手術場から硝子体手術をリアルタイムでボストンに伝送し,その手術に対しコメントをしているスケペンス眼研究所の医師団前列左から2番目ストラライン博士,3番目スケペンス博士,4番目マックミール博士.医療システムを構築した.これにより,関連病院の眼科医が観察する患者の眼球像を大学病院に伝送できるようになり,診断や治療法を助言することが可能となった(図1).しかしながら,通信速度の不足が原因で,画像の色彩や細かな動きは十分に再現されなかった.その1220あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013後,INSnet64を3回線束ねて384kbpsで送受信できるシステムを構築したが,伝送フレームレートは15frame/secが限界であった.そこで1995年8月,INSnet1500(約1.5Mbps)に対応したコーデックを導入し(図2),30frame/secの動画伝送を可能にした.一方,このシステムは,国際ISDN回線で結ぶ国際間の運用にも活用した.1996年11月に米国ハーバード大学医学部スケペンス眼研究所(図3)と,1998年10月には中国南京中医薬大学眼科と接続し,診断や治療法に関する議論,ライブサージャリーの伝送による手術術式の確認などに活用した.また,スケペンス眼研究所とは,網膜疾患カンファレンスや,同研究所と本学が旭川市内の関連病院眼科を同時に支援する「三元遠隔医療」なども実施した.2.遠隔医療センターを中心とする遠隔医療ネットワークの構築1999年に遠隔医療センターを設立した以降も,しばらくはISDNを用いていたが,その後のインターネットの普及に伴いAsymmetricDigitalSubscriberLine(ADSL)や光回線などのブロードバンド環境が急速に(20) 図4現在使用しているHD遠隔医療システムの基本構成遠隔医療センターの通信回線は光.遠隔医療システムはIPに対応したHD(高精細)ビデオ会議システムを使用.関連病院側の周辺機器も順次HD化.整備されたことから,2005年に光回線(通信速度は約10Mbps)に更新した.同時に,拠点間をVirtualPrivateNetwork(VPN)で接続し,ネットワークの安全性を確保した.さらに,これまでの遠隔医療システムをInternetProtocol(IP)に対応したHD(高精細)ビデオ会議システムにアップグレードし,ビデオカメラを含む周辺機器も順次HD化を進めた(図4).これらの更新により,関連病院が遠隔医療ネットワークに参加しやすい環境を整備できた.しかしながら,当時の北海道は,遠隔医療支援を必要とする地域ほどブロードバンド環境の整備が遅れており,2007年時点での筆者らの調査結果では,公的病院の約8割がADSLも光回線も利用できない状況であった.そこで,衛星回線とインターネット網を併用した衛星インターネットを利用し,離島や過疎地などのブロードバンドが未整備の地域からでも,衛星回線を介して遠隔医療ネットワークに参加できる環境を構築した.II3D遠隔医療システムの開発と運用眼科領域における遠隔医療支援では,色や動きを正確に伝達することが重要であるが,さらに奥行き情報も伝達できれば,より精度の高い支援が可能となる.奥行き情報の伝達は,顕微鏡に左眼用と右眼用のビデオカメラを装着し,医師が顕微鏡で観察する患者の眼球像を3D(立体)映像として撮影・伝送することで実現できる.そこで,実用的な3D遠隔医療システムの開発を目指し,1998年から立体動画像の伝送・表示に関する研究を行ってきた.1.眼科領域に適した立体表示方法3D遠隔医療システムは,2台のビデオカメラで撮影される左右一組の画像を,対応する左右の眼に投影する2眼式の立体視システムであり(図5),両眼視差(左右画像間における被写体のズレ量)を積極的に利用して奥行き(立体感)を表現するものである.2眼式立体視システムは,他の方式に比べて3D環境の構築は容易であるが,眼球輻湊運動と調節反応の不一致によって生じる眼疲労や,撮影系と表示系の幾何学的な位置関係に起因する再現空間の歪みなど,特有の問題も有している.そこで,眼科立体画像の特徴解析や,顕微鏡の撮影系・表示系パラメータに基づく歪みの解析,眼科医による主観評価実験などを行い,長時間の観察においても疲労が少なく,見やすい立体表示方法を確立した3).2.アジア・ブロードバンドネットワークを用いた実証実験2006年のAsiaPacificAcademyofOphthalmology(APAO)において,筆者がシンガポール・ナショナル・(21)あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131221 細隙灯顕微鏡3Dモニタビデオカメラ(左眼用)ビデオカメラ(右眼用)3Dメガネ細隙灯顕微鏡3Dモニタビデオカメラ(左眼用)ビデオカメラ(右眼用)3Dメガネ図53D遠隔医療システム細隙灯顕微鏡や手術顕微鏡に取り付けた左右2台のビデオカメラで撮影される立体画像を,対応する左右の眼に投影する2眼式の立体視システム.アイ・センターで執刀した硝子体手術を,同センターから学会会場へ3D-HD(立体ハイビジョン)でライブ伝送するという世界初の試みが成功した.その後,総務省が策定した「アジア・ブロードバンド計画」において,筆者らが開発した3D遠隔医療システムの技術と運用ノウハウがアジア諸国間における医療格差の解消に有効であるかどうかを検証するため,2006年から3年間,シンガポールおよびタイを相手国とする眼科遠隔医療の実証実験を行った.通信回線は,本学から東京までを情報通信研究機構が運用するJGN(JapanGigabitNetwork)2ネットワークで接続し,そこからシンガポールおよびタイまでを,2006年1月に開通したアジア・ブロードバンドネットワークで接続した.各国は,3D-HD手術動画像を送受信できる遠隔医療システムを構築した.ただし,左眼用と右眼用のビデオカメラで撮影した2チャンネルの動画像を,2台のコーデックで1チャンネルずつ独立に伝送することとした.このシステムの実用性と,3D-HD眼科遠隔医療の有用性を評価するため,各国が相互に伝送する網膜硝子体手術を,各国の専門医・研修医で構成する評価者29名に立体視観察をしてもらい,アンケートを実施したところ,8割以上の評価者が伝送品質に満足していることを確認した4).この成果により,3D-HDによる遠隔医療がアジア諸国間における医療格差の解消に有効であることが証明された.3.注目領域の品質を重視した3D.HD伝送方式の開発3D-HD遠隔医療システムを普及させるためには,低コスト化・省スペース化を図ることが重要であり,1台のコーデックで2チャンネルの立体動画像を伝送できることが望ましい.それを実現する方法として,3Dテレビにも採用されているフレームシーケンシャル方式やside-by-side方式の適用が考えられるが,いずれの方式も,2チャンネルの動画像を1チャンネルに合成する過程で解像度が低下してしまう.そこで筆者らは,医師の注目領域が画像中の限られた部分に限定されるという点に着目し,左右それぞれの動画像から抽出した注目領域を合成して1チャンネル動画像として伝送する方式を提案した(図6).この方式の有効性を確認するため,増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術の動画像を,提案方式とside-by-side方式で伝送し,両方式における受信画像の画質を客観的に評価したところ,提案方式のほうが高画質であることを確認した5).これにより,1台のコーデックで2チャンネルの立体動画像を伝送する方式が確立し,3D-HD遠隔医療システムの低コスト化と省スペース化が可能となった.4.運用現在,遠隔医療センターと眼科外来診察室に3D-HD1222あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013(22) 左眼画像右眼画像注目領域side-by-side方式提案方式水平方向の画素を1画素ず注目領域を含む矩形領域つ間引き,水平解像度を1/2を抽出し,そのまま合成に圧縮してから合成図6立体動画像を伝送する際のside.by.side方式と提案方式の比較3Dテレビに採用されているside-by-side方式は,2チャンネルの動画像を1チャンネルに合成する過程で水平方向の画素を1画素ずつ間引くため,伝送前に情報の1/2を失うこととなる.これに対し,提案方式では画素の間引きを行わないため,注目領域に関しては画像解像度を維持したまま伝送できる.遠隔医療システムを設置している.ただし,関連病院の多くは従来の2D環境を使用しているため,本学側では2D・3Dの両方に対応できる環境を整備している.また,本学へ紹介された患者の手術経過を,紹介元病院の担当医と共有できるように,本学手術室から関連病院へ,3D-HD手術動画像をライブ伝送する環境も整備している.なお,3D-HD遠隔医療システムは,8Mbps程度患者自宅目が痛いですか?問診(読上げ)簡易検査の通信速度があれば実用的な画像品質で送受信することができるため,一般のインターネット回線を用いた運用が可能である.III退院患者をフォローアップする遠隔在宅医療支援糖尿病などの生活習慣病患者の場合,退院直後における食事・栄養の管理が最も重要となるが,これまでは食生活のコントロールや生活習慣の改善を患者自身に委ねるしかなく,自宅に戻ってから病状が悪化するケースも少なくなかった.そこで,図7に示すようなシステムを独自に開発し6),退院後の在宅患者に対して医師・看護師が術後の経過観察や生活指導を行う遠隔在宅医療支援を開始した.患者には,退院直後からバイタル情報を記録してもらう必要があるため,患者宅用端末とバイタル測定器のほかに,自宅にインターネット環境がない場合はデータ通信カードも提供している.なお,主機能の一つであるTV電話機能は,200kbps程度の通信速度があれば円滑なコミュニケーションが可能であり,データ通信カードを利用したモバイル通信でも問題なく運用できることを確認している.IV中国への支援中国政府は,都市と地方の医療格差を解決する手段として,筆者らが実践する遠隔医療の導入を決定し,旭川医科大学に対して遠隔医療を国内で普及・展開するため旭川医科大学病院遠隔医療センターアラーム蓄積条件一致アラーム通知インター心電計結果入力データ送信ネットデータ閲覧自動入力端末モバイル網端末血圧計歩数計血糖値計体重計ビジュアルコミュニケーション病院図7退院患者を遠隔からフォローアップする遠隔在宅医療支援システム退院患者が自宅で測定する日々のバイタル情報を,旭川医科大学病院の医師・看護師がインターネットを介してチェックし,バイタル情報に変化がみられれば,TV電話機能を用いて容体の確認や生活習慣の改善指導を実施.(23)あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131223 の協力を要請してきた.それに応じるため,2011年に中国衛生部との間で「中日遠隔医療プロジェクト無償援助協定」を締結し,本学が有する遠隔医療の運用ノウハウや技術を中国政府へ提供することとした.具体的には,図8で示すように,中日友好医院(北京市)と上海交通大学医学院附属瑞金医院(上海市)が,それぞれの関連病院である神木県医院(陝西省),都江堰市人民医院(四川省)を支援できる遠隔医療ネットワークの構築中日友好医院旭川医科大学(下級医院)(下級医院)(遠隔医療センター)神木県医院上海瑞金医院(遠隔医療センター)都江堰市人民医院支援支援連携(下級医院)図8「中日遠隔医療プロジェクト無償援助協定」における中国への遠隔医療支援体制中日友好医院,上海交通大学医学院附属瑞金医院に対して遠隔医療センターの構築・運用に関するノウハウを提供.神木県医院,都江堰市人民医院を含む4病院に対して遠隔医療システムの構築・活用に関する技術指導を実施.を目指し,中日友好医院と上海交通大学医学院附属瑞金医院に対して遠隔医療センターの構築支援ならびに運用ノウハウの提供を行い,4病院すべてに対して遠隔医療システムの構築方法や活用方法などの技術指導を行っている.また,遠隔医療のなかでも特に高度な運用スキルが必要となる3D-HD遠隔医療システムについては,本学で実施した研修によって各病院の技術者を育成した.2012年には,本学遠隔医療センターと中国4カ所の病院を結ぶ国際間ネットワークが完成し,5拠点で同時にプロジェクト始動式を行った(図9).始動式では,中日友好医院と上海交通大学医学院附属瑞金医院から本学遠隔医療センターへ,硝子体手術のライブ映像が3D-HDで送られ,来賓を含む出席者全員が3Dメガネをかけて立体視した.現在は,中国国内で実施される遠隔医療の様子を本学遠隔医療センターで視聴し,必要に応じて運用面での指導を行っている.おわりに筆者らは,遠隔医療の普及・促進とさらなる高度化を目標に,画像伝送やセキュリティなどのさまざまな要素技術を研究開発し,また,いろいろな角度から遠隔医療の効果やニーズを検証してきた.これらの成果や運用実績は,平成21年度「情報通信月間」総務大臣表彰において功績が認められ,さらに,「第9回産学官連携功労図95拠点同時にプロジェクト始動式を開催中国4病院との間を国際回線で接続し,3D-HD手術映像を相互に伝送.その映像は,中日友好医院の会場に出席した中国衛生部の副部長や,旭川医科大学の会場に来賓として出席した中国駐札幌領事館の総領事,北海道副知事,旭川市長らが3Dメガネをかけて視聴.1224あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013(24) 者表彰」において文部科学大臣賞を受賞(ソフトバンクBB株式会社孫正義代表取締役社長と連名)するに至った.現在,本学の遠隔医療センターを中心とする遠隔医療ネットワークには,多くの医療機関や患者宅が接続しており,この数は今後も増え続けると予想している.筆者らは,このネットワークと長年にわたる遠隔医療の運用実績,そして技術開発の成果を最大限に活用し,北海道内はもちろんのこと,被災地への支援や国際間における医療格差の解消にも役立てたいと考えている.文献1)吉田晃敏,亀畑義彦:遠隔医療─旭川医科大学眼科の試みとその効果─.工業調査会,19982)吉田晃敏:格差なき医療─日本中で世界最高水準の治療が受けられるようになる日─.講談社,20073)畠山修東,林弘樹,三田村好矩ほか:眼科遠隔医療支援のための立体動画像伝送システムの開発─新圧縮アルゴリズムおよび立体視パラメータの検討─.電子情報通信学会技術研究報告101:43-46,20014)吉田晃敏,笹沼宏,高橋淳一ほか:アジア・ブロードバンドネットワークを用いた眼科遠隔医療3D-HD手術映像の国際間共有システムの開発と評価.日本遠隔医療学会雑誌4:267-268,20085)林弘樹,石子智士,吉田晃敏:眼科手術顕微鏡で撮影した立体HD動画像の高品質伝送方法に関する検討.日本遠隔医療学会雑誌7:219-220,20116)三上大季,林弘樹,守屋潔ほか:退院患者を対象とした遠隔在宅療養支援システムの研究開発.日本遠隔医療学会雑誌6:111-113,2010■用語解説■コーデック:動画や音声を圧縮(符号化)・伸張(復号)する装置やソフトウェアのこと.VirtualPrivateNetwork(VPN):公衆回線をあたかも専用回線のように利用できる通信サービス.拠点間を専用回線で結ぶよりも低コストで導入できる.VPNには幾つかの形態があるが,旭川医科大学の遠隔医療ネットワークは,通信事業者がサービス提供するIP-VPNを利用している.InternetProtocol(IP):米国防総省で開発された通信規格.データ転送の信頼性を重視したTCP(TransmissionControlProtocol)/IPと,データ転送の高速性を重視したUDP(UserDatagramProtocol)/IPがあり,動画や音声をリアルタイムに伝送するアプリケーションでは後者を利用するのが一般的である.JGN2ネットワーク:独立行政法人情報通信研究機構が2004年4月から運用を開始したオープンなテストベッドネットワーク環境のこと.フレームシーケンシャル方式:3D映像の左眼用画像と右眼用画像を,時分割で交互に表示する方式.映像フレームレートの2倍以上の描画速度をもったモニタで立体表示する.伝送の際は,左右のフレームレートの合計が30frame/secに収まるように,フレームを間引く(時間方向の解像度を低下させる)などの処理を行う必要がある.side.by.side方式:3D映像の左眼用画像と右眼用画像を,それぞれ水平方向に1/2圧縮(画像の解像度を削減)し,それらを横に並べて1枚のフレームとして伝送する方式.2D映像と同じ環境で3D映像を伝送できるのが特徴である.なお,圧縮された水平解像度は,表示の際に画像処理によって復元される.(25)あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131225

電子カルテ:診療所の現況

2013年9月30日 月曜日

特集●デジタル眼科あたらしい眼科30(9):1213.1218,2013特集●デジタル眼科あたらしい眼科30(9):1213.1218,2013電子カルテ:診療所の現況ElectronicMedicalRecordinEyeClinic前田利根*はじめに大病院と比較すると一部診療所では比較的早期から電子カルテが導入されてきた.大病院では会計システムなどの基幹システムと眼科部門システムとの統合が容易でない場合がしばしばであった1,2)が,診療所ではそのような制約が少なく電子カルテの導入が容易であった.また,診療所では医師数がほとんどの場合一人でありコンピュータに造詣の深い医師の場合,積極的にこれを導入してきた背景がある.以上の点から眼科の電子カルテは,病院と比較して診療所のほうが一歩先を行っていたが,近年大病院はほぼ強制的に電子カルテに移行してきており,既存の診療所では紙カルテからの移行が金銭面やコンピュータに不慣れな医師などさまざまな要因からむずかしい場合も多く,最近では大病院のほうでより広く電子カルテは導入されている.本稿ではソフトウェア注1,ハードウェア注2の両面から診療所における電子カルテを論じ,現状における電子カルテの長所・短所を列挙したい.Iソフトウェアとハードウェアソフトウェア面から見ると古くからレセコンとよばれる会計システムは存在した.その後,画像ファイリングシステムが導入され,最後にいわゆる電子カルテが台頭してきた.最後まで電子カルテ導入の足かせになったのは外来診療におけるスケッチの部分であろう.現在これらのソフトウェアは同一ハードウェア内で稼働可能となっており,必要とされるコンピュータ端末数は減少している.ハードウェア面ではなんと言っても検査データの取り込みが大事である.レフラクトメータ,非接触型眼圧計などの測定値は最新機器では容易に電子カルテに取り込める.細隙灯顕微鏡画像の取り込みは機器も安価になっている.現在,検査データの取り組みがむずかしいのはGoldmann視野やHess式チャートなどであるが,スキャナーで検査用紙ごと読み込んでしまえばこれも対応できる.1.ソフトウェア電子カルテの会計システムは日本医師会が開発した無料ソフトORCA(オルカ注3)で代用するシステムと独自会計システムとの2つに分けられる.診療報酬の改定とともに毎回会計ソフトのアップデートを求められることを考えると,そのランニングコストはORCA併用システムのほうが有利かもしれない.会計ソフトにはフィルタ機能がある.昨今みられる健康保険の突合せ審査では保険者側でコンピュータを使用して不適正な請求を自動ではじいているが,会計ソフトのフィルタを使用するとこれと同様のチェックを行える.このフィルタが公開されている会社もあるが,公開されていない製品もある.あらかじめフィルタが公開されていない場合は,各診療所でそのフィルタを育ててい*ToshineMaeda:前田眼科クリニック〔別刷請求先〕前田利根:〒151-0053東京都渋谷区代々木一丁目38番5号KDX代々木ビル5階前田眼科クリニック0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(13)1213 く必要がある.保険診療に関してはローカルルールの存在する場合もあり,それはそれで良いようでもあり,悪いようでもある.このフィルタは別ソフトとして発売もされている.現在市場で広く販売されているフィルタソフトとしては,MightyCheckerPRO,べてらん君,レセプト博士,レセプトチェッカーなどがある.Windows上のソフトでありORCAやdynamicsなどのシステムでも使用可能なソフトもある.画像ファイリングシステムは古くから眼科分野に存在したが,データの取り込み方法は古くはRS232C注4などの古典的なインターフェースが用いられていた.しかし,最新機器ではイーサネット注5を介しておりデータ取り込みスピードも汎用性も向上している.もちろん,屈折検査,角膜曲率検査,眼圧検査ではそのデータの大きさはテキストベースでわずか数行であり高速なインターフェースは必要ない.しかし,光干渉断層計(OCT)や眼底カメラなどではそのデータ量は著しく大きく,高速なインターフェースが求められる.電子カルテ部門については,テキストベースでいくのか,スケッチベースでいくのか大きく2つに方向性が分かれる.細隙灯顕微鏡写真と眼底写真をもってスケッチに代用している施設も多い.スケッチベースの電子カルテはどうしてもその入力に時間を要する.2.ハードウェアNAS注6などの出現,RAID注7を含めたハードディスクの極端なコストダウンが電子カルテシステムの後押しをしていることは間違いない.大病院ではどうしてもデータの安全性を再優先するため民生品注8で代用することなく,独自の安全性をより高めた機器を使用することが多い.そのため,ハードウェアが高コストとなる.その点では診療所における電子カルテシステムのほうが有利ではないだろうか.その他,メーカーによってはCloudシステム注9でデータのバックアップを行っている.Cloudシステムのセキュリティは大変重要ではあるが,データバックアップ法の一つとして今後この分野が発展する可能性がある.1214あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013II診療所における電子カルテの利点電子カルテではカルテ庫が不要であり,カルテ管理の人員が不要な点に優れる(図1).しかし,その運用面ではなんといっても,視力の推移,眼圧の推移がグラフで表示されることが大きい(図2).それらを患者に見せながら病状を説明すれば,患者も自分の病状を理解しやすい(図3).経時的なデータを患者に説明するときにも特に有用であり,静的量的視野検査(図4,5)や,OCT(図6)を以前のデータと比較表示できる点に優れる.その他,電子カルテでは過去の薬剤処方を一括で調査することが可能である.紙カルテでは手間のかかる検索作業も簡単にできる.電子カルテではカルテのひな形をあらかじめ作成しておくことにより,均質な診療録を作成することが可能である.アナムネの取り漏れなどがなくなる.また,定型的な処方・処置・手術をする際,毎回の入力手順を省略でき,診療の質が向上する.III診療所における電子カルテの欠点スケッチに要する時間を紙カルテと電子カルテで比較すると,従来からの紙カルテのほうが優れている.手間のかかる電子カルテのスケッチではあるが,過去のス図1診療室の電子カルテ当院の診察ブース.デスク上にはモニターが2台ある.テーブル上はパソコン機器だけが配置され,通常の診療に使う機器は上のテーブル上段に配置している.(14) 図2視力,眼圧の推移を示すグラフ電子カルテでは過去の視力や眼圧の推移を一瞬にして折れ線グラフに示すことが可能である.図3説明専用モニター医師と患者の中間点にもう1台モニターを設置している.モニターを見ながらの説明が大変やりやすい.ケッチをコピーアンドペーストして使える点では優れる.超広角眼底写真の上に手書き文字を書き入れる方法は一つの解決策ではあるものの,超広角眼底写真撮影装置を有している診療所はまだまだ少ない.万が一の電子カルテシステム停止時には,通常その再立ち上げには思いのほか時間がかかる.最悪の場合,紙ベースで診療を行い,システムが復旧してから,紙カルテを読み込むとよい.常勤医では優位な面が多い電子カ(15)-0.81-0.52-0.93-1.45-1.04-1.07-2.11-1.45図4視野の経過を示す画面過去の静的視野のMD値を折れ線グラフで示している.長期的な経過が一目でわかる.ルテではあるが,パート医師による診療ではその対応がむずかしい場合がある.電子カルテメーカー間でユーザーインターフェースが統一されていないが,この点は今後に期待される.キーボードは思いのほか汚染されている.便座の雑菌数とキーボードの雑菌数を比較するとキーボードの汚染のほうがひどいという報告がある3).日常のキーボードの掃除も大切であろうが,診療ブースでは,ときどきキーボードやマウスの買い換えが必要であろう.あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131215 図5視野の経過を示す画面過去と現在の視野を同時に示している.患者に変化の有無を具体的に示すことが可能である.1216あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013(16) 図6OCTの経過を示す画面過去のOCTと現在のOCTを同時に示している画面.患者に変化の有無を具体的に示すことが可能である.おわりに診療所の電子カルテシステムの現状を報告した.眼科用電子カルテはいくつか存在するものの,いずれも細かなソフトの改良はほとんど望めないと考えたほうがよい.将来の改善を期待することなく,現状でベストなシステムを導入するのがよい.文献1)新家眞:大学附属病院および国立病院眼科における完全(ペーパーレス)電子カルテ導入について答申.日眼会誌108:323-327,20042)廣川博之,篠崎和美,山西茂喜ほか:電子カルテ導入につ(17)いて(座談会).日本の眼科79:1113-1137,20083)SeanPoulter:HowyourcomputerkeyboardisFIVETIMESdirtierthanyourtoiletseat-andcouldevengiveyou‘qwertytummy’.Which?Computing,2008(http://www.dailymail.co.uk/health/article-563110/Howkeyboard-FIVE-TIMES-dirtier-toilet-seat–qwerty-tummy.html)(筆者注:英国の消費者情報誌「Which?Computing」2008年5月号に掲載されているらしいがどうしてもオリジナルを見つけられなかったので代表的なウェブアドレスを掲載した)「用語解説」(注1.9)は次頁に掲載あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131217 ■用語解説■注1ソフトウェア:コンピュータを動かすためのプログラ注6NAS:ネットワークアタッチトストレージ(Networkムのこと.アプリケーションと称されることもある.AttachedStorage)とは,コンピュータネットワーク注2ハードウェア:コンピュータ(パソコン)本体のこと.に直接接続して使用するファイルサーバ.その実体はキーボードやモニターなども含む.コントローラとハードディスクからなるファイルサー注3ORCA:全国の医師,医療機関が誰でも無料で使えるビス専用コンピュータである.呼び名としては略称の改良可能な日本医師会作成の公開ソフトウェア.2002NAS(多くの言語ではナスと発音,英語読みではナズ)年から稼働している.現在およそ13,000施設が使用しが使われることが多い.ている.注4RS232C:米国電子工業会によって標準化された通信規格の一つ.通信方式としては最も普及しており,ほとんどのパソコンに標準で搭載されていた.ケーブルの最大長は約15m,最高通信速度は115.2kbps(キロビット/秒).パソコン本体とプリンタ,モデム,スキャナなどの周辺機器を接続するのに使われる.コネクタにはD-sub25ピンやD-sub9ピンのものが使われることが多い.注7RAID:RAID(RedundantArraysofInexpensiveDisks,またはRedundantArraysofIndependentDisks:レイド)とは,複数台のハードディスクを組み合わせることで仮想的な1台のハードディスクとして運用し冗長性を向上させる技術.おもに信頼性・高速性の向上を目的として用いられる.注8民生品:おもに映像・音響・通信などに関連した電子機器や装置において,一般消費者による使用・一般家注5イーサーポート(イーサネット):イーサネットはコン庭での使用を目的としていること,または,そのことピュータネットワークの規格の一つで,世界中のオフィを前提に開発・設計された製品・規格を指す(その場スや家庭で一般的に使用されているLAN(LocalArea合は民生機,民生規格などとも表現される).分野によNetwork)で最も使用されている規格である.イーサり「コンシューマー用」「家庭用」などとよばれる場合ネットにはいくつかの規格があるが,1000BASE-Tでもあるは,ケーブルの最大長100m,最高通信速度は1Gbps注9Cloudシステム:ネットワーク,特にインターネット(ギガビット/秒).コネクタはRJ45が使われることがをベースとしたコンピュータ資源の利用形態.ユーザほとんどである.ーは,コンピュータによる処理やデータの格納をネットワーク経由で利用する.ユーザーが用意すべきものは最低限の接続環境のみであり,加えてクラウドサービス利用料金を支払う.(前田利根)1218あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013(18)

病院システムと眼科医療情報の標準化

2013年9月30日 月曜日

特集●デジタル眼科あたらしい眼科30(9):1203.1211,2013特集●デジタル眼科あたらしい眼科30(9):1203.1211,2013病院システムと眼科医療情報の標準化StandardizationofHospitalInformationSystemandOphthalmologyDepartmentMedicalInformation篠崎和美*はじめに多くの病院に共通する,診療所との違いは,電子カルテの導入などの決定権が,眼科医にはなく,病院にあることである.眼科医の意向をよそに決定した病院の方針に従い,勤務医のわれわれは,円滑な眼科診療を守る必要がある.電子カルテ化の波が押し寄せ,約10年経た.電子カルテの導入の早い施設では,導入時の混乱と,リプレイスの悩みも経験した.亀の歩みではあるが,眼科のチーム力により,当初に比べ,眼科領域の医療情報のIT(InformationTechnology)環境は,多少改善しつつあるかと思う.しかし,問題は尽きない.病院とは,20床以上の病床数の入院施設を有する施設を指す.眼科病院にはじまり,地域医療支援病院,特定機能病院など,病院は規模,機能,管理者により多岐にわたり,一度に取り扱うのはむずかしい.そこで今回は,大学病院を軸として,地域医療支援病院,診療所,地域医療連携(病診連携)も考慮しながら進めている産学連携による眼科領域の医療情報環境への『標準化』の取り組みを中心に述べたい.I『標準化』の経緯内閣「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)」の「e-Japan重点計画」策定1)を契機に,2001年12月に厚生労働省から,「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」2)が提示された.これは,2002年度からおおむね5年間の医療の情報化の達成目標とともに,産官学の役割分担と戦略的に情報化を推進するためのアクションプランが示されたものだった.電子カルテシステム(HIS)注1の普及策として,2001年度と2002年度に,病院へのHIS導入の予算措置がとられたことも背景に,完全(ペーパーレス)電子カルテ化を導入する施設が増え,眼科にも波紋を寄せた.筆者らの施設も2003年に電子カルテ化を導入したが,利点と欠点が浮き彫りになった3).当初は,眼科部門システムも現在ほど充実しておらず,HISも内科中心に構成され,ユーザの声に叶うものではなかった.2004年に,日本眼科学会より「大学附属病院および国立病院眼科における完全(ペーパーレス)電子カルテ化導入について」4)という答申が出された.電子カルテ化における問題点や眼科医の希望は,おおむね共通し,また,問題解決には,施設やベンダの垣根を越えた協力が必要と思われた3).協力の一つの形として,『標準化』が考えられた5).2007年から,『標準化で相互運用性・コストダウンを目指す─快適な眼科医療情報環境へ─』の目標を掲げ,日本眼科学会,日本眼科医療機器協会注2,日本IHE(IntegratingtheHealthcareEnterprise)協会注3の産学連携による眼科領域の医療情報環境への『標準化』の取り組みがスタートした6,7).この『標準化』の取り組みは,まず,大学病院から診療所まで関与する検査機器の出力データについて,2009年オートレフラクトケラトメータ(以下,レフケラ)6),*KazumiShinozaki:東京女子医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕篠崎和美:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学眼科学教室0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(3)1203 2010年眼圧計,眼底写真の出力データ共通仕様書の実装から始めた7).今年度からは部門システムの導入が困難な市中病院への対応,また,2014年に開催される第34回国際眼科学会(WorldOphthalmologyCongress:WOC)に向けて,国際的にも視野を広げて活動をしている.II電子カルテ化で生じる眼科領域の問題点:対応中1.眼科の他科や院内からの孤立の危険性機能の良い眼科部門システムを導入することで,使い勝手の悪いHISに頼らず,診療を行うことができる.HISへの関心は低く,眼科独自で診療を行う機運も見受けられた.院内の他科領域やHISベンダが,眼科の特殊性に対する認識が低いところに,孤立してしまうと,医療領域のIT情報の入手の遅れ,システム変更の際にも取り残される危険性を感じた.2.各ユーザやベンダにおける多大な労力や莫大な費用の負担・システム開発の効率の悪さ各検査機器と眼科部門システムやHISとの接続,HISと眼科部門システムへの接続も個々の対応であると,多大な労力や莫大な費用の負担が,各ユーザやベンダに課せられる.接続に追われていると,テンプレートの改善,閲覧性の向上などのシステム開発に手が回らない.3.検査データの互換性についての不安検査機器からの出力データの方式がさまざまであると,互換性がなく,眼科部門システム,HISや検査機器を入れ替えた場合に,以前のデータの閲覧ができない可能性がある.4.複雑な診療動線眼科の患者動線は,自科内でも,診察室・検査室・処置室を出入りする.さらに,中央検査や眼科以外の診療科への受診もある.1人の患者に対して,医師と看護師以外にも視能訓練士(ORT)がかかわる.また,1人の医師が,検査・診断・治療に携わる.さらに,自科検査は,オーダする眼科医自身が行う場合,オーダした医師1204あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013と異なる眼科医が行う場合,ORTが行う場合,看護師による準備が必要な場合があり,また,同じ検査でも関与する者が時と場合により異なる.情報の流れが比較的一方的な内科の診療と異なり,情報のやり取りが複雑で,システム上の処理もむずかしい.眼科特有であり,他科からは理解を得難い.III協力の一つである『標準化』の必要性相互接続性,データの互換性,長期のデータの保障や,オーダリング関連の問題の改善などは,各々の施設やベンダが,個々に対応するには限界があり,負担が大きい.したがって,施設やベンダの垣根を越える協力がないと,問題の解決はむずかしい.『標準化』は協力の一つである.『標準化』した方法で,データをやり取りすると,相互接続性,データの互換性,長期のデータの保障も期待される.他科と異なり複雑な診療動線のため生じるオーダリング関連の不都合も,眼科として一つの仕様を提示できれば,病院の電子カルテ側の対応も可能となると考えた.眼科に限らないが,HISや眼科部門システムの導入を終え,運用にも慣れて安堵したころ,5年後にはシステムのリプレイスの話が浮上してくる.したがって,数年先を踏まえてみた場合,相互接続性,データの互換性,システム共通基盤を獲得することで,検査機器・眼科部門システム・HISなどのさまざまな連携のソフト開発にかかるユーザやベンダの労力や費用の負担が軽減され,コストダウン,接続の効率化が期待できる.また,データに互換性をもたすことも可能となる(図1).IV眼科領域のIT化する医療情報の『標準化』への日本眼科学会,日本眼科医療機器協会,日本IHE協会の協力による産学連携の必要性『標準化』は,将来を見据えて,眼科学,さらに眼科診療に有益なものでなければいけない.方向性を誤らないためには,日本眼科学会の協力が不可欠である.また,米国では,EyeCareをAmericanAcademyofOphthalmology(AAO)がバックアップしており,AAOとの交渉が生じた場合も,学会を通じて行う必要がある.(4) 従来『標準化』bca図1『標準化』の可能性:レフケラレフケラの1行の結果に対して,機器は大量の情報の処理をしている.a:従来は,レフケラ,眼科部門システムの各々の組み合わせに対し,接続ソフトを要した.機器やシステムが入れ替わると,接続ソフトの変更も生じる.b:出力データの『標準化』を行うと,レフケラの機種の入れ替えをしても,眼科部門システムの入れ替えをしても,データの互換性が担保され,接続ソフトも最小限に抑えられる.c:システム導入のプロセスにおいて,『標準化』を取り入れると,各過程で時間,費用の軽減ができ,その分,品質の向上に費やすことができる.また,日本眼科医療機器協会は,約100社の眼科関じて行うことは,医療界全般のIT化の情報も考慮しな連の機器会社が入会しており,協力が必須となることはがら,他の領域のベンダとも良い関係を築くうえで欠かいうまでもない.せない.一方,検査機器は海外に市場をもつものもあさらに,日本IHE協会の協力についてであるが,眼り,国際的な活動も必要とされ,米国のIHEの眼科部科で『標準化』を進めるにも,場や機会がなかった.日門であるEyeCareと協力も要する.交渉に日本IHE本IHE協会からは,眼科領域の『標準化』への場や機協会の協力を得ることが望ましい.会の提供,さらに,先に『標準化』を進めている領域かV産学連携による眼科領域のIT化する医療情報ら,技術や経験の協力の提供を受ける.また,眼科領域の『標準化』への日本眼科学会,日本眼科医療の『標準化』においても,眼科領域以外のベンダへの働きかけが必要となる.したがって,厚生労働省委託事業機器協会,日本IHE協会の役割分担の受託やさまざまな領域に関与する日本IHE協会を通眼科領域での『標準化』における各組織の役割は,家(5)あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131205 の設計に例えて示すと図2のごとくである.日本眼科学会の役割は,方針や基準の提示である.日本IHE協会眼科委員会では,標準規格に基づき,日本眼科学会からの方針や基準を満たすガイドラインの提示,眼科以外の他領域とのパイプ役などを行う.日本眼科医療機器協会は,HISや眼科部門システムへの対応,しましょう.図2『標準化』への日本眼科学会,日本眼科医療機器協会,日本IHE協会の役割分担家の設計に例え,日本眼科学会,日本眼科医療機器協会,日本IHE協会の各々が担う役割を示している.『標準化』は統一化ではなく,ベンダごとに十分特色を出すことが可能で,ユーザ側は『標準化』したものを利用するほうが,自由な選択ができる.機器からの出力データ設計図の作り方DICOMHL7情報IHE日本眼科学会この地区は高さ***までにしましょう.照明には★★の基準を取り入れましょう.日本眼科医療機器協会照明の取り付け器具では●●や★★の基準があります.利用するには,天井,配線は■■がいいかもしれません.海外にも通用します.照明の取り付け器具では,★★の基準を満たし,▲▲としましょう.照明の取り付け部分は,★★の基準,▲▲に合うように★★基準照明の取り付け器具照明器具の取り替え簡単『標準化』=統一化×検査機器に対して出力データ(図3)の『標準化』を進める.3つの組織の産学連携による『標準化』は,統一化ではなく,むしろ,ベンダごとに十分特色を出すことが可能で,ユーザ側もシステム構築に自由度を得ることができる(図2).VI眼科領域の『標準化』の2本柱:活動とその進捗眼科領域の『標準化』では,2本柱を立てて進めている(図4).一つは,検査機器からの出力データの形式の『標準化』,二つめは,HISと眼科部門システムの連携やHISでの情報処理における『標準化』である.日本眼科学会は,適宜方向性を示す.検査機器からの出力データの『標準化』は,日本眼科医療機器協会が中心に進め,HISと眼科部門システムの連携(情報のやり取り)の『標準化』など,HISに関与するところでは,日本IHE協会眼科委員会が中心に進めている.1.検査機器からの出力データの『標準化』2009年にレフケラの出力データ共通仕様書ができた6).レフケラから着手した理由は,眼科で欠かせない検査であり,多くが国産でベンダの協力を得やすく,数値で扱いやすく,通常臨床に使用するデータは限られる図3検出機器からの出力データ例として,レフケラの出力データを示す.われわれが目にするのは,単純な数値であるが,実際には機器から大量の情報が出力されている.2008-12-05日付10:10:00時間ケラト一回計測分データ7.6943.751727.6844.00827.6944.00レフ一回計測分データ-4.75-0.2579目にする結果1206あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013(6) などである.2010年には,数値系データとして眼圧計,画像系データとして眼底カメラの出力データ共通仕様書(システムやプログラムの機能と,その詳細をまとめたもの)ができた.検査機器への実装(仕様書に準じたプログラムを実際の機器に組み込むこと)が可能となった出力データの共通仕様書は,日本眼科医療機器協会のホームページから,入手が可能である.標準規格として,文字情報に対してHL7注4,医療画像に対してDICOM注5などの標準規格がある.また,DICOM規格のサプリメント91,110,130では,レフケラや眼底写真,OCTなどに関して,米国で定めている.しかし,現状の国内では,DICOM規格に対して,ベンダが足並みを揃えて対応するむずかしさ,わが国での有用性の不確かさから,レフケラや眼圧の数値情報について,『標準化』の第一段階としてXML注6形式が採用された.眼底カメラについては,画像JPEG+画像情報XML形式がとられた.いずれも標準規格であるHL7やDICOMへの移行を視野に入れ対応している.現在,眼軸長計測装置,レンズメータ,視野検査,スペキュラマイクロスコープなどに取り組んでいる.また,2014年春に開催されるWOCを目指し,国際的な医療画像への標準規格であるDICOMでの対応を眼底カメラに対して検討している.レフケラ,眼圧とも,われわれが目にするのは単純な数字であるが,実は,検査機器からは,複雑な情報が数十行に及んで機器から出力されている(図3).ベンダの理解と垣根を越えた協力があって初めて実現する.このように『標準化』は,一つの機器の出力データに対応するのも,多大な労力や時間を要する.2.HISと眼科部門システムの連携の『標準化』HISの不便さから,眼科医の眼科部門システムでの処理を希望する声や,診療所での眼科部門システムの導入も増え,10年前に比較し,部門システムとHISの連携(情①検査機器⇒眼科部門システム(⇒HIS)②HISと眼科部門システムの連携HISにおける改善日本眼科医療機器協会中心に日本IHE協会中心に日本眼科学会方向性をみる眼科部門システム病院情報システム(HIS)写真視野HRTICGSLOTMSOCTレフケラ眼圧DR1図4眼科領域の『標準化』の2本柱眼科領域の『標準化』では,①:検査機器からの出力データの形式の『標準化』と,②:HISと眼科部門システムの連携やHISでの情報処理における『標準化』の2本柱を立てて進めている.日本眼科学会は方向性を示す.①は日本眼科医療機器協会が中心に,②は日本IHE協会眼科委員会が中心に進めている.現在,対応されている部門システムとHISの連携を示す.たとえば,患者の登録番号や氏名などの患者情報も,眼科での誤入力,二重の作業を避けるには,HISから部門システムへ情報を受ける必要がある.眼科での診療録や自科検査結果のレポート(診療録,検査結果をまとめたもの)をHISで保存することが要求される場合もある.また,HISから,眼科部門システムをWeb参照(HIS上のいずれかの画面で,マウスをクリックし,眼科部門システム内の診療録,検査結果の画面に移動し,閲覧)を必要とする施設もある.ここでも,連携が必要となる.(7)あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131207 12導入時の5割..メーカー(ベンダ)変更では導入時..メーカー(ベンダ)が違う場合,同一メーカー(ベンダ)でも機種ごとに異なる.....,,.,,さまざま12導入時の5割..メーカー(ベンダ)変更では導入時..メーカー(ベンダ)が違う場合,同一メーカー(ベンダ)でも機種ごとに異なる.....,,.,,さまざま12図5HIS・眼科部門システムのリプレイス時の問題点眼科部門システムを入れ替えた際の例を示す.報のやり取り)は進んだ(図4).一方,個別対応となり,ベンダの組み合わせや医療機関の作り込み,投資できる費用や,施設ごとの方針が加味され,連携は多様化している.連携の種類は,運用方法の数×部門システムの種類×HISシステムの種類ほどある.導入から5年後にHISや眼科部門システムのリプレイスが訪れる.見直しのチャンスでもあるが,現状では問題も多い(図5).個別対応では,再度,個々の施設で開発費用,ベンダの開発労力が発生する.『標準化』した連携がとられていると,この問題も緩和される(図1).また,HISで視力検査など自科検査の処理がやりづらいために,眼科部門システムで自科検査の情報処理を行っている.眼科医に利用しやすい自科検査のHIS上での情報処理の『標準化』したソフト(共用のソフト)ができれば,低コストでHISに導入することができ,HISと眼科部門システムの連携が不要になるものもある.3.外来診療におけるHISと眼科部門システムの連携についてのアンケート調査7)現状の把握を目的とし,2009年12月に外来診療におけるHISと眼科部門システムの連携についてアンケート調査を行った.大学病院の本院81施設の教授あてに送付し,電子カルテ担当者,もしくは適任者からの回答を依頼した.81施設中29施設(35.8%)より回答を得た.HISは27施設93.1%,眼科部門システムを導入している施設は16施設55.2%が導入していた.また,医事会計も関与する自科検査や処置のオーダに関して,部門システムの利用が多かった.投薬では,処方はHISで行い,処方内容の閲覧に眼科部門システムを利用する施設もあった.患者情報や,診療録以外にも,自科検査のオーダ関連のHISと眼科部門システムの連携も多いことがわかった.この連携の『標準化』を進めるため,2010年から2012年にかけて,診療動線の分析,オーダ関連の情報処理の流れの分析を行った.1人の患者に対して,医師,看護師,ORTが関与する.また,1人の医師が,検査・診断・治療に携わる.さらに,自科検査の実施も,オーダする眼科医自身,オーダした医師以外の眼科医,ORTが行う場合がある.造影検査など,看護師の関与が必要な場合がある.さらに,同施設でも,日や時間により,臨機応変に対応し,診療効率を上げている(図5).したがって,受付から検査(オーダ,受付,実施,検1208あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013(8) 査結果の保存),医事会計までの診療動線で,8割ぐらいの施設で利用可能な共有できる動線,臨機応変に対応できる自科検査のオーダ関連のHISと眼科部門システムの連携は見つけられなかった.オーダリングに関しては,HISにおける自科検査や処置における情報処理を簡便にする共用ソフトの開発がよいという結論に至った.本年度,これに向けて,HISベンダに交渉を開始した.4.HISのみによる電子カルテ化の施設への対応,眼科診療の効率化のための共用ソフト開発2012年,日本眼科学会に電子カルテ委員会が発足した.眼科部門システムを導入できない病院が少なくないことが問題となった.また,HISと連携する眼科用電子カルテ機能の施設間の聞き取り調査の報告8)をみても,眼科用電子カルテも,眼科に広く導入されている眼科部門システム,眼科医自身の手掛けたシステムなどさまざまであり,眼科診療に満足がいく眼科部門システムの導入は,容易でないことがわかる.そこで,基本的なレフケラ,眼圧計,眼底カメラ,視野計などで診療を行っている施設などでは,HISのみで眼科医も診療しやすい環境を作ることも必要と考えた.今では,HISベンダでの画像ファイリングシステムの発展,ペンタブレットの普及や,眼科診療で基本的に使用される検査機器の出力データの『標準化』も進んできたこともあり,2005年に日本眼科学会より出された「眼科用電子カルテシステムのあり方について」の答申9)を踏まえ,時系列での閲覧性も考慮し,HISと検査機器の接続の『標準化』について,HISベンダとの交渉を始めた.眼科医の共通の意見として,HISベンダに,眼科医に有益な提案をしていけるようにしたいと思う.日本IHE協会を通じ,保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)注7や日本画像医療システム工業会(JIRA)注8への協力も必要になると思われる.オーダの簡便化,便利な共用ソフトのHISへの導入により,眼科部門システムとの連携も減り,リプレイスなどでの費用の削減が期待できる.薬剤の処方などに関しても,眼科に特徴的な,左右の指示,本数での処方の処理が容易になるように交渉予定である.(9)VII今後の課題InformationandCommunicationTechnology(ICT:情報通信技術)の地域への活用をうたった総務省が掲げる「u-Japan政策」10)の背景もあり,地域医療連携の活動が盛んになってきた.眼科医の活躍も多い.眼科では,画像が多く,容易に取り扱えるがゆえに,利便性と裏腹に,法的にも安全な画像の取り扱いが重要となる.また,2010年厚生労働省において「保健医療情報分野の標準規格として認めるべき規格について」の提言が示され,毎年改正が加えられている.厚生労働省・総務省など政府の動向,クラウド注9,OSなどIT界の変化などの情報にもアンテナを張ることも必要である.大学病院は,診療以外に教育,研究の機関でもあり,10年間での教育や研究での活用性の再評価も望まれる.おわりに電子カルテ導入が近い施設では,ぜひ,同規模で電子カルテや眼科部門システムが稼働している施設の見学をお勧めする.病院側から眼科への理解を得難い場合は,関係者の同行も大事である.稼働後のたくさんのデータが入ったカルテを,診療の流れのなかでみることで,デモ機では把握できない情報を得ることができる.また,システム導入時には,導入の費用だけではなく,保守費用,5年後のリプレイスの費用も考慮しておくことも大切である.日本眼科学会,日本眼科医療機器協会,日本IHE協会の産学連携により,『標準化で相互運用性・コストダウンを目指す─快適な眼科医療情報環境へ─』を,眼科医の希望に叶う活動にするため,眼科医の声が欠かせない.まず,活動の紹介が必要と考え,大きい規模の眼科学会では,器械展示会場で,活動を紹介するブースを設置している.立ち寄って,ご意見をいただけるとありがたい.良いシステムの構築には,システムの良し悪しもあるが,構築するのは人であり,ベンダや病院を含め良いチームを結成できるかが決め手だと思う.あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131209 ■用語解説■注1HIS:HospitalInformationSystem.医学,医療が高Medicine.複数の装置間で診療に関する情報のやり取度化するのに伴い,医療情報も多様化し増大してきたりを行うために,メディアやネットワークを用いて,ため,コンピュータを用いて病院内情報を合理化する医用画像(CT,MR,X線画像など)を送受信するためシステム.電子カルテシステム,オーダエントリーシの規格.1983年にACR(theAmericanCollegeofステム,医事システムなどの総称.Radiology)とNEMA(theNationalElectricalManu注2日本眼科医療機器協会:http://www.joia.or.jp/.1978facturersAssociation)が合同委員会を作り規格策定を年に発足.眼科医療機器の製造販売業,販売業,眼科始めた.画像フォーマットやその変換,通信プロトコ医療機器に関係している会社などからなる団体.正規ルなどに関して規定している.部門業務の進捗管理に会員数106社・賛助会員数17社(2013年8月現在).かかわる規格も含まれている.眼科学会時の併設器械展示会の開催などでおなじみ.注6XML:ExtensibleMarkupLanguage.XMLはインタ注3日本IHE協会:http://www.ihe-j.org/index.html.ーネットの標準として勧告された,言語を作る言語:IntegratingtheHealthcareEnterprise(IHE)-Japan.メタ言語.インターネット上でのデータ交換に非常にIHEの初期の概念は1998年に米国で提唱され,1999適した技術.年に北米放射線学会(RSNA)と医療情報・管理システ注7保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS):http://ム会議(HIMSS)がスポンサーとなって活動が開始さwww.jahis.jp/.JapaneseAssociationofHealthcareれた組織である.2001年からIHE-Jとして活動を開InformationSystemsIndustry(JAHIS).1994年発足.始.106社の会員(2013年8月現在)ユーザとベンダ会員数は350社(2013年7月現在).保健医療福祉情が協調し,双方がIT化についての考え方や手段を共報システムに関する技術の向上,品質および安全性の有しながら,医療情報システム間および検査機器など確保,標準化の推進を図ることにより,保健医療福祉の連携を,標準規格を用いてどのように行うかガイド情報システム工業の健全な発展と国民の保健・医療・ライン(『標準化』)を示し,「医療情報システムの相互福祉に寄与し,もって健康で豊かな国民生活の維持向運用性確保のための対向試験ツール開発事業」厚生労上に貢献することを目的とした組織.生活者の重視,働省の委託事業も担ってきた.放射線科を中心に活動技術規準の確立,産官学の協調,産業界の健全な発展が開始され,循環器,内視鏡,病理,臨床検査,眼科を理念としている.などにも活動が広がっている.また,米国のIHEには,注8日本画像医療システム工業会(JIRA):http://www.眼科部門としてEyeCareがあり,AAOもバックアッjira-net.or.jp/outline/.JapanMedicalImagingandプしている.RadiologicalSystemsIndustriesAssociation(JIRA).注4HL7:HealthLevel7.健康産業全般において,デー1924年に設立.会員数は約170社(2013年5月現在).タ交換をするためのフォーマットを標準化したもの.画像医療システムに関する規格の作成および標準化のACR/NEMA(DICOM)やASTM,IEEEなど,他の推進,品質および安全性ならびに技術の向上に関する医療関係の標準化委員会とも協力関係にあり,医療全研究調査,生産,流通および貿易の増進ならびに改善,般の標準化を目指している.現在の最新のバージョン講習会,研究会の開催や参加,法令,基準などの周知は3.0.医療情報交換のための標準規約で,患者管理,徹底および行政施策に対する協力,薬事法施行規則にオーダ,照会,財務,検査報告,マスタファイル,情定められた高度管理医療機器など,または管理医療機報管理,予約,患者紹介,患者ケア,ラボラトリオー器の販売業者などの営業管理者および医療機器の修理トメーション,アプリケーション管理,人事管理など業者の責任技術者に対する継続的研修など行っている.の情報交換を取り扱っている.HL7はHealthLevel注9クラウド:クラウド・コンピューティング.ソフトSevenの略で,「医療情報システム間のISO-OSI第7ウェアやハードウェアのネットワークを介したサービ層アプリケーション層」に由来している.ス.プライベート・クラウド,パブリック・クラウド注5DICOM:DigitalImagingandCommunicationsinに大別される.稿を終えるにあたり,眼科領域の産学連携による医療情報の『標準化』への,日本眼科学会,日本眼科医療器機協会,日本IHE協会眼科委員会,日本IHE協会のご協力,日本眼科医会の啓発活動へのご協力に深謝申し上げる.1210あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013文献1)内閣IT戦略本部:e-Japan重点計画概要.http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dai3/jyuten/0329sum1.html,20012)厚生労働省:保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザインの策定について.http://www.mhlw.go.jp/shingi/(10) 0112/s1226-1.html,20013)篠崎和美:私立大学附属病院における電子カルテ導入.あたらしい眼科21:885-892,20044)新家眞,東範行,伊藤逸毅ほか:大学附属病院および国立病院眼科における完全(ペーパーレス)電子カルテ化導入について.日眼会誌108:323-327,20045)篠崎和美:電子カルテ化における眼科領域の標準化.日本の眼科79:745-746,20086)篠崎和美,永田啓,吉冨健志ほか:オートレフラクトケラトメータデータ出力形式の『標準化』─『標準化』でコストダウン・相互運用性を目指した快適な眼科領域の医療情報環境へ─.日本の眼科80:1571.1574,20097)篠崎和美,永田啓,吉冨健志ほか:2010年度眼科領域の『標準化』の進捗─『標準化』でコストダウン・相互運用性を目指した快適な眼科領域の医療情報環境へ─.日本の眼科82:1227-1229,20118)若宮俊司,寺岡由恵,金光俊明ほか:眼科用電子カルテ機能の施設間比較調査結果.臨眼67:887-890,20139)大鹿哲郎,東範行,伊藤逸毅ほか:眼科用電子カルテシステムのあり方について.http://www.nichigan.or.jp/member/guideline/ecv.jsp,200510)総務省:u-japan政策.http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ict/u-japan/(11)あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131211

序説:デジタル眼科

2013年9月30日 月曜日

●序説あたらしい眼科30(9):1201.1202,2013●序説あたらしい眼科30(9):1201.1202,2013デジタル眼科TelemedicineandDigitalRecordinginOphthalmology吉冨健志*前田直之**はじめにインターネットが生活の一部となり,さまざまなデジタル媒体が日々の生活を変えている現在,医療の世界もデジタル化は避けて通れない.デジタル化は便利な点がいろいろあると同時にさまざまな問題も発生してくる.われわれはデジタル化の利点ばかりでなく,負の部分についても理解しておくことが,これからの時代に大切なことと思われる.1.電子カルテシステム現在,ほとんどの施設ではオーダリングや薬処方,患者予約はコンピュータ上で行われている.これを電子カルテと認識している方も多いと思われるが,これは基本的には「医事システム」であり,医事業務処理をコンピュータが行っているだけで,真の電子カルテ「電子診療録」とは異なるものである.診療録としての電子カルテシステムが導入されているかどうかは,病院として正式のカルテが,紙媒体なのか,電子媒体なのかが重要である.電子カルテを導入する施設は最近急速に広がっており,大学病院ばかりでなく,一般病院,開業医でも導入しているところが多くなってきている.昔の紙カルテとはまったく異なる使い方に,導入当時は混乱もあったが,今はさまざまな種類の電子カルテシステムがあり,使いやすくなってきたと感じている方も多いと思う.しかし,電子カルテの発達は,紙カルテの時代には考えられなかった問題を発生させているのも事実である.病院情報システム(HIS:HospitalInformationSystem)は,全科の電子カルテシステムであり,血液検査の結果や放射線科での撮影画像閲覧はよく作られているが,眼科のような特殊な科のデータについては使いにくいのが現状である.大学病院などの一般病院では,多くの科はHISで情報を管理しているが,眼科のデータは,HISだけで管理するのはむずかしく,眼科に特有なシステム(部門システム)をHISとは別に導入する必要がある.このとき問題になるのは,眼科だけ別にコストがかかること,患者の年齢,性別などの基本情報や,薬剤の情報はHISで管理され,視野や眼底写真などのデータは部門システムで管理されるため,この2つのシステムの連携がうまくいかなければならないことである.実際に病院全体でHISを更新したり,他社のシステムに変更すると,眼科の部門システムも変更する必要があり,余計な手間とコストがかかるという問題が明らかになってきている.逆に眼科開業医は,眼科に特化したシステムのみで医事業務と診療録システムを管理するため,このような問題は起こらない.*TakeshiYoshitomi:秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座**NaoyukiMaeda:大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科学講座(眼科学)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(1)1201 2.遠隔医療と病診連携電子カルテが普及し,多くの患者データがデジタル化され,患者紹介の際にもデータをデジタルで送ることが増えてきている.さらに,ネット配信で遠隔地のデータをオンタイムで見ることができ,眼科に限らず遠隔地医療に革新的な進歩をもたらしている.異なる医療機関でデータを共有する際に問題となるのは,データの標準化の問題である.ある施設のデータが,他の施設で読み込めない,あるいは読み込めても電子カルテに取り込めない,などの問題を解決するにはさまざまな施設や,電子カルテシステムを開発している業者などがデータのFormatについて摺り合わせてゆく必要がある.これについては,特に放射線科の分野で放射線画像データの標準化が進められており,全科のなかでは最も進んでいると思われるが,それでもまだ完全に解決すると言うにはほど遠い状況である.このような問題が解決すれば,医療機関でのデータの移動がスムーズになり,患者への余計な検査が不要になるなどのメリットも多い.しかし,病気に対する患者の情報の扱いについては紙カルテの時代とは異なり,十分に注意する必要がある.患者のデータがデジタル化されれば,疾患ごと,投与薬剤ごと,特定の治療ごとのデータを瞬時に集め,解析することが可能になる.これは医学の発展にとっては好ましいことで,データの共有化ができれば多施設研究も簡単にできるようになる.一方で,情報の漏洩が発生した際は,紙カルテとは比べものにならない大量の患者データが漏洩してしまうことになる.情報管理は以前とは比べものにならないくらい厳重に行う必要がある.HISはインターネットに接続できないようにするなどの対策は現在も取られているが,患者情報の扱いについては利便性と情報管理の重要性の立場から多角的に考えてゆく必要がある3.さまざまなデジタル機器タブレット端末などの機器は,われわれの日常生活も変えてきている.電子書籍が増えてきて,本屋さんの売り上げが落ちてきているなど,昔は想像もできなかった変化が起きている.医療の分野でもさまざまな医療機器がデジタル化されている.ポラロイドの眼底カメラは,ポラロイドフィルムが発売されなくなり,使えなくなっている.このような変化がこれからも眼科医療の分野に起こってくると考えられる.カルテがデジタル化すれば,視野も,眼底写真もデジタル化され,一度も紙媒体にならないようになると思われる.新しい医療機器の使い方には,新しい考え方が必要である.新しい時代に出てきたさまざまな医療機器を使いこなすときに重要なのは,機器の使い方のみではなく,医療データをデジタル化することに対する新しい考え方を受け入れることだと思う.1202あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013(2)

0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたタフルプロスト点眼液0.0015%およびタフルプロスト点眼液0.0015%/チモロール0.5%点眼液併用との第III相二重盲検比較試験

2013年8月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科30(8):1185.1194,2013c0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE111点眼液)の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたタフルプロスト点眼液0.0015%およびタフルプロスト点眼液0.0015%/チモロール0.5%点眼液併用との第III相二重盲検比較試験桑山泰明*:DE-111共同試験グループ*福島アイクリニックPhaseIIIDouble-MaskedStudyofFixedCombinationTafluprost0.0015%/Timolol0.5%(DE-111)VersusTafluprost0.0015%AloneorGivenConcomitantlywithTimolol0.5%inPrimaryOpenAngleGlaucomaandOcularHypertensionYasuakiKuwayama1):DE-111CollaborativeTrialGroup1)FukushimaEyeClinic0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111)の有効性と安全性を検討するため,原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者488例を対象に,タフルプロスト単剤またはタフルプロストとチモロールの併用を対照とした多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験を実施した.タフルプロスト4週間点眼後の眼圧が18mmHg以上の被験者を,DE-111群,タフルプロスト群,併用群に割り付け,治療期として4週間点眼した.治療期終了時の平均日中眼圧は治療期0週に比べ,DE-111群で2.6±1.8mmHg,タフルプロスト群で0.9±1.7mmHg,併用群で2.2±1.8mmHg下降し,タフルプロストに対する優越性,併用に対する非劣性が検証された.副作用発現率は,群間に有意差は認められなかった.DE-111点眼液は緑内障治療における多剤併用療法の選択肢として,有用性の高い配合点眼液である.Theaimofthisstudywastocomparetheefficacyandsafetyofthefixedcombinationophthalmicsolutionoftafluprost0.0015%/timolol0.5%(DE-111)tothatoftafluprost0.0015%ophthalmicsolution(tafluprost)ortafluprost0.0015%andtimolol0.5%ophthalmicsolutiongivenconcomitantly(concomitant)in488patientswithprimaryopenangleglaucoma(POAG)orocularhypertension(OH),inarandomized,double-masked,parallel-groupandmulticenterstudy.Patientswithintraocularpressure(IOP)≧18mmHgaftertafluprostinstillationfor4weekswererandomlyassignedtoeithertheDE-111,tafluprostorconcomitantgroup,withthedruginstilledfor4weeks.Attheendoftreatment,meandiurnalIOPreductionfrombaselinewas2.6±1.8mmHgintheDE-111group,0.9±1.7mmHginthetafluprostgroupand2.2±1.8mmHgintheconcomitantgroup,DE-111beingsuperiortotafluprostandnotinferiortoconcomitant.Nointergroupdifferenceswereseeninadversedrugreactionincidencerates.TheseresultsindicatethatDE-111isclinicallyusefulinmultidrugtherapyforglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1185.1194,2013〕Keywords:緑内障,配合点眼液,タフルプロスト,チモロール,多剤併用,DE-111.glaucoma,fixedcombination,tafluprost,timolol,concomitant,DE-111.〔別刷請求先〕桑山泰明:〒553-0003大阪市福島区福島5-6-16ラグザ大阪サウスオフィス4F福島アイクリニックReprintrequests:YasuakiKuwayama,M.D.,FukushimaEyeClinic,4FLaxaOsakaSouthOffice,5-6-16Fukushima,Fukushimaku,Osaka553-0003,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(141)1185 はじめに緑内障に対する現在唯一確実な治療法は眼圧下降であり,通常薬物治療が第一選択となる.薬物治療では良好なアドヒアランスを維持することが治療の成否を左右する.しかし,単剤による眼圧コントロールが不十分なため多剤併用療法が必要な患者が少なからず存在しており,アドヒアランスを良好に維持することが困難な場合も多い.このようななか,近年いくつかの配合点眼液が開発されており,緑内障診療ガイドライン1)では,『多剤併用療法の際には配合点眼薬の使用により,患者のアドヒアランスやQOLの向上も考慮すべきである』と,配合点眼液の意義について述べている.DE-111点眼液は,プロスタグランジン(PG)関連薬のタフルプロストとb遮断薬のチモロールを含有する1日1回点眼の配合点眼液であり,両点眼液の併用治療に比べて患者の利便性,アドヒアランスおよびqualityoflife(QOL)を改善し,緑内障の治療効果を高めることが期待される.一方で,PG関連薬とb遮断薬の配合点眼液は,両薬剤の併用治療と比較するとb遮断薬の点眼回数が1日2回から1日1回に減るため,眼圧下降効果が弱い可能性が危惧される.しかし,これまで国内では,PG関連薬とb遮断薬の配合点眼液についてはPG関連薬単剤治療を対照とした比較試験が第III相臨床試験として行われてきたが,PG関連薬とb遮断薬の併用治療を対照とした二重盲検比較試験は行われていなかった.今回,DE-111点眼液の第III相試験として,原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者を対象に,DE-111点眼液の有効成分の一つであるタフルプロスト点眼液0.0015%単剤投与との比較のみならず,タフルプロスト点眼液0.0015%とチモロール点眼液0.5%の併用との比較を目的とした多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験を実施したので,その結果を報告する.なお,本試験はヘルシンキ宣言に基づく原則に従い,薬事法第14条第3項および第80条の2ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」を遵守し実施された.I対象および方法1.実施医療機関および試験責任医師本臨床試験は全国58医療機関において各医療機関の試験責任医師のもとに実施された(表1).試験の実施に先立ち,各医療機関の臨床試験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.2.目的DE-111点眼液のタフルプロスト点眼液に対する優越性,タフルプロスト点眼液とチモロール点眼液0.5%の併用に対する非劣性を検証することを目的とした.3.対象対象は両眼が原発開放隅角緑内障または高眼圧症と診断され,タフルプロスト点眼液点眼下で少なくとも片眼の眼圧が18mmHg以上であり,選択基準を満たし除外基準に抵触しない患者とした.なお,表2におもな選択基準および除外基準を示した.試験開始前に,すべての被験者に対して試験の内容および予想される副作用などを十分に説明し,理解を得たうえで,文書による同意を取得した.4.方法a.試験デザイン・投与方法本試験は多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験として実施した.被験者から文書による同意取得後,緑内障前治療薬の影響を消失させタフルプロスト点眼液の効果が一定となる期間として,導入期を4週間と設定した.導入期にはタフルプロスト点眼液を1日1回朝両眼に治療期0週まで点眼した.治療期0週当日朝はタフルプロスト点眼液を点眼せず来院し,点眼前の眼圧が18mmHg以上の被験者を対象として症例登録を行い,4週間の治療期に移行した.治療期では被験者はDE-111群,タフルプロスト群,併用群に1対1対1に無作為に割り付けられた.DE-111群はDE-111点眼液を1日1回朝両眼点眼およびプラセボ点眼液を1日2回朝夜両眼点眼,タフルプロスト群はタフルプロスト点眼液を1日1回朝両眼点眼およびプラセボ点眼液を1日2回朝夜両眼点眼,併用群はタフルプロスト点眼液を1日1回朝両眼点眼,およびチモロール点眼液0.5%を1日2回朝夜両眼点眼した.試験デザインを図1に示した.なお,点眼はいずれも1回1滴とするよう指導した.b.試験薬剤被験薬であるDE-111点眼液は,1ml中にタフルプロストを0.015mgおよびチモロールを5mg含有する無色澄明の水性点眼液である.DE-111点眼液とタフルプロスト点眼液,そしてチモロール点眼液0.5%とプラセボ点眼液はそれぞれ同一の容器を使用し,盲検性を確保した.試験薬の識別不能性は試験薬割付責任者が確認した.試験薬の割付は,試験薬割付責任者が置換ブロック法による無作為化により行い,キーコードは開鍵時まで封入し試験薬割付責任者が保管した.5.検査・観察項目試験期間中は検査・観察を表3のとおり行った.a.被験者背景性別,生年月日,合併症(眼および眼以外),既往歴などの被験者背景は,試験薬投与開始前に調査・確認した.b.試験薬の点眼状況治療期以降の来院ごとに,前回の来院直後からの点眼遵守状況について問診で確認した.1186あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(142) 表1DE-111共同試験グループ試験実施医療機関一覧(順不同)医療機関名試験責任医師名医療機関名試験責任医師名医療法人大谷地共立眼科医療法人社団慈眼会環状通り眼科さど眼科医療法人社団さくら有鄰堂板橋眼科医院眼科君塚医院ののやま眼科医療法人社団いとう眼科医療法人秀緑会高山眼科緑町医院春日部市立病院医療法人社団豊栄会さだまつ眼科クリニック医療法人社団秀光会かわばた眼科医療法人社団仁香会しすい眼科医院丹羽眼科財団法人厚生年金事業振興団東京厚生年金病院日本赤十字社医療センター吉川眼科クリニック医療法人社団聖愛会中込眼科医療法人社団みすまるのさと会アイ・ローズクリニック医療法人社団善春会若葉眼科病院医療法人社団高友会立川通クリニック道玄坂加藤眼科成城クリニック大橋眼科クリニック医療法人社団高瀬会たかせ眼科平町クリニック医療法人社団慶緑会あまきクリニック医療法人松鵠会みたに眼科クリニック医療法人社団湯田医院きくな湯田眼科医療法人社団律心会辻眼科クリニック戸塚駅前鈴木眼科特定医療法人丸山会丸子中央総合病院曽根聡秋葉純佐渡一成板橋隆三君塚佳宏野々山智仁伊藤睦子高山秀男水木健二貞松良成川端秀仁呉輔仁丹羽康雄藤野雄次郎濱中輝彦吉川啓司中込豊安達京吉野啓髙橋義徳加藤卓次松崎栄島﨑美奈子高瀬正郎小林幸三谷貴一郎湯田兼次辻一夫鈴木高佳野原雅彦国立大学法人岐阜大学医学部附属病院川瀬和秀医療法人社団秀浩会花崎眼科医院花﨑秀敏医療法人社団優あい会小野眼科クリニック小野純治医療法人社団緑泉会南波眼科南波久斌吉村眼科内科医院吉村弦医療法人安間眼科安間正子医療法人大雄会大雄会クリニック伊藤康雄医療法人高橋眼科髙橋研一独立行政法人労働者健康福祉機構淺野俊哉中部労災病院医療法人湖崎会湖崎眼科湖崎淳医療法人創正会イワサキ眼科医院岩崎直樹尾上眼科医院尾上晋吾杉浦眼科杉浦寅男医療法人岩下眼科岩下憲四郎医療法人菅澤眼科医院菅澤啓二地方独立行政法人神戸市民病院機構栗本康夫神戸市立医療センター中央市民病院長田眼科肱黒和子医療法人眼科康誠会井上眼科井上康広島県厚生農業協同組合連合会廣島総合病院二井宏紀山口県厚生農業協同組合連合会小郡第一総合病院榎美穂医療法人広田眼科広田篤林眼科病院林研新井眼科医院新井三樹医療法人蔵田眼科クリニック蔵田善規医療法人しらお眼科医院白尾真日本赤十字社長崎原爆病院脇山はるみ医療法人出田会出田眼科病院川崎勉健康保険組合連合会大阪中央病院井上由美子表2おもな選択基準および除外基準1)おもな選択基準(1)20歳以上(2)性別:不問(3)入院・外来の別:外来(4)導入期終了日(9時30分±30分)の少なくとも片眼の眼圧が18mmHg以上,両眼とも34mmHg以下2)おもな除外基準(1)以下の①.③のいずれかに該当する〔①気管支喘息,またはその既往を有する,②気管支痙攣,重篤な慢性閉塞性肺疾患を有する,③心不全,洞性徐脈,房室ブロック(II,III度),心原性ショックを有する〕(2)角膜屈折矯正手術の既往を有する(3)緑内障手術(レーザー線維柱帯形成術,濾過手術,線維柱帯切開術など)の既往を有する(4)試験期間中にコンタクトレンズの装用を必要とする(5)安全性上不適格と判断される合併症または臨床検査値異常を有する(6)試験責任医師・試験分担医師が本試験の対象として不適当と判断する同意取得導入期登録/割付け治療期4週間4週間二重盲検DE-111群タフルプロスト点眼液タフルプロスト群併用群【導入期】・タフルプロスト点眼液:1日1回(朝)両眼点眼【治療期】・DE-111群プラセボ点眼液:1日2回(朝,夜)両眼点眼DE-111点眼液:1日1回(朝)両眼点眼・タフルプロスト群プラセボ点眼液:1日2回(朝,夜)両眼点眼タフルプロスト点眼液:1日1回(朝)両眼点眼・併用群チモロール点眼液0.5%:1日2回(朝,夜)両眼点眼タフルプロスト点眼液:1日1回(朝)両眼点眼図1試験デザイン(143)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131187 表3検査・観察スケジュール観察項目導入期治療期中止時導入期開始時(.4週)0週2週4週文書同意●被験者背景●点眼遵守状況●●●●血圧・脈拍数測定●●●●●細隙灯顕微鏡検査●●●●●視力検査●●●眼圧測定午前中(12時まで)●●9時30分±30分●●●点眼2時間後±30分●●点眼8時間後±30分●●隅角検査●視野検査●眼底検査●●●臨床検査(血液・尿)●●●有害事象●c.各種検査・測定血圧・脈拍数測定,細隙灯顕微鏡検査,視力検査,眼圧測定,隅角検査,視野検査,眼底検査および臨床検査(血液・尿)を表3のスケジュールで実施した.眼圧測定は,導入期開始時,治療期0週,2週および4週または中止時の眼圧をGoldmann圧平眼圧計にて測定した.眼圧測定時刻は,導入期開始時では午前中,治療期0週および4週では朝点眼前の午前9.10時,朝点眼2時間後±30分および朝点眼8時間後±30分,治療期2週では朝点眼前の午前9.10時とした.中止時の眼圧測定時刻は規定しなかった.d.有害事象試験期間中に発現・悪化したすべての好ましくない,または意図しない疾病,またはその徴候を収集した.6.併用禁止薬および併用禁止療法試験期間を通じて,人工涙液,白内障治療剤およびビタミンB12製剤を除くすべての眼局所投与製剤,経口および静注投与の眼圧下降剤,すべてのb遮断薬,副腎皮質ステロイド薬および他の臨床試験薬の投与を禁止した.また,試験期間中の,眼科レーザー手術,コンタクトレンズの装用などを禁止した.7.評価方法a.有効性の評価有効性評価眼は,治療期0週(朝点眼前)の眼圧の高いほうの眼(左右が同値の場合は右眼)とした.主要評価項目は,治療期終了時(治療期4週または中止時)における治療期0週からの平均日中眼圧の変化量とした.なお,平均日中眼圧は,朝点眼前,点眼2時間後および点眼8時間後の平均値と定義した.また,副次評価項目は,各測定時点における治療期0週からの眼圧変化量および眼圧変化率とした.b.安全性の評価有害事象,臨床検査,血圧・脈拍数および眼科的検査をもとに安全性を評価した.8.解析方法a.有効性解析対象有効性は,最大の解析対象集団(FullAnalysisSet:FAS集団)を対象として検討した.また,試験実施計画書に適合した解析対象集団(PerProtocolSet:PPS集団)についても解析し,FAS集団との相違について考察した.b.安全性解析対象安全性は,被験薬または対照薬を少なくとも1回点眼し,安全性に関する何らかの情報が得られている被験者(安全性解析対象集団)を対象とした.c.データの取り扱い検査・観察時期が許容範囲から外れた場合,検査前日の点眼をしていない場合,検査当日の朝の点眼を眼圧測定の前に行った場合,および治療期0週以降の眼圧測定時刻が許容範囲から外れた場合は,当該検査日の眼圧データをPPS集団から除外した.1188あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(144) d.解析方法主要評価および副次評価の解析には,投与群別に対応のあるt検定を行った.群間比較には,投与群を要因,0週の眼圧値を共変量とした共分散分析を用いた.眼圧下降率20%の症例割合についてはFisherの直接法により群間比較を行った.安全性の解析のうち,有害事象については,発現例数と発現率を集計し,全体の発現率についてFisherの直接法を用いて群間の比較を行った.また,臨床検査値については,各検査項目別の異常変動の発現例数と発現率を集計し,連続量データについては,対応のあるt検定を,順序尺度データに関しては符号検定を行った.血圧・脈拍数については対応のあるt検定を行った.眼科的検査(細隙灯顕微鏡検査,視力検査)については符号検定を行った.検定の有意水準は両側5%とし,区間推定の信頼係数は両側95%とした.解析ソフトはSASversion9.2(株式会社SASインスティチュートジャパン)を用いた.II結果1.被験者の構成被験者の内訳を図2に示した.文書同意を得て試験に組入れられた被験者は574例で,導入期が開始された被験者は558例,治療期が開始された被験者は489例であり,無作為にDE-111群161例,タフルプロスト群164例,併用群164例に割り付けられた.治療期中に5例が試験を中止し(DE-111群2例,タフルプロスト群2例,併用群1例),484例が試験を完了した(DE-111群159例,タフルプロスト群162例,併用群163例).無作為化された症例のうち,治療期用試験薬が投与されなかった1例を除く488例(DE-111群161例,タフルプロスト群164例,併用群163例)を安全性解析対象集団とした.さらに,ベースライン眼圧(治療期0週)が得られなかった1例を除く487例(DE-111群161例,タフルプロスト群163例,併用群163例)をFAS集団に,併用禁止薬使用などにより眼圧値が不採用となった13例を除く474例(DE111群156例,タフルプロスト群159例,併用群159例)をPPS集団とした.FAS集団における被験者背景を表4に示した.いずれの背景因子についても,群間に偏りはみられなかった.2.有効性FAS集団における平均日中眼圧や,その変化量の推移を図3と表5に,平均日中眼圧変化量の群間比較を表6に示した.治療期0週の平均日中眼圧は,DE-111群で19.6±2.0mmHg,タフルプロスト群で19.2±2.1mmHg,併用群で19.3±2.2mmHgであり,治療期終了時(4週または中止時)には,DE-111群で17.0±2.4mmHg,タフルプロスト群で18.3±2.8mmHg,併用群で17.1±2.5mmHgであった.文書同意を得た被験者:574例導入期の試験薬が投薬された被験者:558例無作為割付された被験者:489例DE-111群:161例タフルプロスト群:164例併用群:164例治療期の試験薬が投薬された被験者:488例DE-111群:161例タフルプロスト群:164例併用群:163例試験を完了した被験者:484例DE-111群:159例タフルプロスト群:162例併用群:163例導入期の試験薬未投与例:16例試験開始後に不適格が判明:10例試験継続の拒否:6例導入期中止例:69例有害事象発現:13例試験開始後に不適格が判明:51例転院,転居,多忙:5例治療期の試験薬未投与例:1例併用群:1例治療期に中止した被験者:4例有害事象発現:1例(DE-111群)通院が不可能:1例(DE-111群)転院,転居,多忙:1例(タフルプロスト群)試験開始後に不適格が判明:1例(タフルプロスト群)図2被験者の内訳(145)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131189 表4被験者背景項目分類DE-111群タフルプロスト群併用群合計例数161163163487診断名原発開放隅角緑内障高眼圧症90(55.9)71(44.1)84(51.5)79(48.5)73(44.8)90(55.2)247(50.7)240(49.3)男85(52.8)68(41.7)82(50.3)235(48.3)性別女76(47.2)95(58.3)81(49.7)252(51.7)年齢平均値±標準偏差最小.最大65歳未満65歳以上61.6±11.626.8592(57.1)69(42.9)63.0±12.623.8581(49.7)82(50.3)60.6±13.623.8487(53.4)76(46.6)61.7±12.723.85260(53.4)227(46.6)緑内障前治療薬なしあり28(17.4)133(82.6)27(16.6)136(83.4)31(19.0)132(81.0)86(17.7)401(82.3)合併症なしあり17(10.6)144(89.4)18(11.0)145(89.0)21(12.9)142(87.1)56(11.5)431(88.5)導入期の隅角(Shaffer分類)3437(23.0)124(77.0)46(28.2)117(71.8)40(24.5)123(75.5)123(25.3)364(74.7)導入期の緑内障性視野異常異常なし異常あり89(55.3)72(44.7)94(57.7)69(42.3)101(62.0)62(38.0)284(58.3)203(41.7)導入期の緑内障性眼底異常異常なし異常あり71(44.1)90(55.9)74(45.4)89(54.6)88(54.0)75(46.0)233(47.8)254(52.2)導入期終了時の平均日中眼圧(mmHg)平均値±標準偏差最小.最大19.6±2.016.0.27.319.2±2.115.0.27.319.3±2.215.3.30.319.4±2.115.0.30.3導入期終了時のトラフ眼圧(mmHg)平均値±標準偏差最小.最大20.1±1.918.0.29.019.8±1.918.0.27.019.9±2.118.0.32.019.9±2.018.0.32.0例数(%).10-1-2-3眼圧変化量(mmHg)**NS**-4-50週の眼圧値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較.**:p<0.001,NS:有意差なし(p>0.05).主要評価である治療期終了時(4週または中止時)における治療期0週からの平均日中眼圧の変化量(平均値±標準偏差)は,DE-111群で.2.6±1.8mmHg,タフルプロスト群で.0.9±1.7mmHg,併用群で.2.2±1.8mmHgであり,いずれの群も0週からの有意な眼圧下降を示した(p<0.001).また,DE-111群とタフルプロスト群の平均日中眼圧変化量の群間差(DE-111群.タフルプロスト群)は.1.7±0.21190あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013:DE-111群:タフルプロスト群:併用群0週治療期終了時図3平均日中眼圧変化量(平均値±標準偏差)mmHgであり,DE-111群はタフルプロスト群と比較して有意な眼圧下降を示した(p<0.001).DE-111群と併用群の平均日中眼圧変化量の群間差(DE-111群.併用群)は.0.3±0.2mmHg,95%信頼区間は.0.7.0.1mmHgであり,上限は事前に設定した非劣性マージン1.5mmHgを超えなかったことから,DE-111群の併用群に対する非劣性が証明された.副次評価である治療期2週(朝点眼前),4週(朝点眼前,点眼2時間後,点眼8時間後)の各測定時点における治療期0週からの眼圧変化量(平均値±標準偏差)は表7と図4に示した.DE-111群とタフルプロスト群の群間比較では,DE111群はすべての測定時点において有意な眼圧下降を示した(p<0.001).DE-111群と併用群の群間比較では,DE-111群は治療期4週朝点眼前を含め,すべての測定時点において劣らない眼圧下降を示した(表8).なお,PPS集団を対象とした解析でもFAS集団の有効性と相違のない結果が得られた.治療期終了時(4週または中止時)の治療期0週に対する平均日中眼圧の眼圧下降率が20%以上であった症例の割合は,DE-111群で19.9%,併用群で13.5%,タフルプロスト群で5.5%(図5)とDE-111群が最も大きく,タフルプロス(146) 表5平均日中眼圧とその変化量時期DE-111群タフルプロスト群併用群平均日中眼圧(mmHg)変化量(mmHg)平均日中眼圧(mmHg)変化量(mmHg)平均日中眼圧(mmHg)変化量(mmHg)Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値0週19.6±2.0(161)..19.2±2.1(163)..19.3±2.2(163)..治療期終了時17.0±2.4(161).2.6±1.8(161)<0.00118.3±2.8(163).0.9±1.7(163)<0.00117.1±2.5(163).2.2±1.8(163)<0.001Mean±SD:平均値±標準偏差,p値:対応のあるt検定.表6平均日中眼圧変化量の群間比較DE-111群.タフルプロスト群(mmHg)DE-111群.併用群(mmHg)Mean±SE95%信頼区間p値Mean±SE95%信頼区間p値.1.7±0.2.2.1..1.3<0.001.0.3±0.2.0.7.0.10.098Mean±SE:平均値±標準誤差,0週の眼圧値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較.表7眼圧実測値の推移および変化量時期DE-111群タフルプロスト群併用群眼圧(mmHg)治療期0週からの変化量(mmHg)眼圧(mmHg)治療期0週からの変化量(mmHg)眼圧(mmHg)治療期0週からの変化量(mmHg)Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値0週朝点眼前20.1±1.9(161)..19.8±1.9(163)..19.9±2.1(163)..0週点眼2時間後19.8±2.4(161)..19.3±2.5(163)..19.3±2.4(163)..0週点眼8時間後18.9±2.4(161)..18.5±2.6(163)..18.6±2.7(163)..2週朝点眼前17.4±2.4(160).2.7±2.0(160)<0.00118.3±2.7(163).1.5±1.9(163)<0.00117.3±2.8(163).2.7±2.3(163)<0.0014週朝点眼前17.0±2.4(160).3.1±2.2(160)<0.00118.5±2.9(163).1.3±2.0(163)<0.00117.2±2.6(163).2.7±2.2(163)<0.0014週点眼2時間後17.0±2.5(160).2.8±2.1(160)<0.00118.4±3.1(162).0.9±2.1(162)<0.00117.0±2.6(163).2.4±2.1(163)<0.0014週点眼8時間後17.0±2.9(159).1.9±2.3(159)<0.00118.1±3.1(162).0.4±2.2(162)0.01417.0±3.0(163).1.6±2.2(163)<0.001Mean±SD:平均値±標準偏差,p値:対応のあるt検定.ト群と比較して有意であった(p<0.001).併用群との間には有意差はなかった.3.安全性a.有害事象および副作用安全性解析対象集団は,DE-111群161例,タフルプロスト群164例,併用群163例の計488例であった.治療期中に発現した有害事象と副作用の発現例数および発(147)現率を表9に,副作用一覧を表10に示した.有害事象は,DE-111群で23.0%(37/161例),タフルプロスト群で19.5%(32/164例),併用群で12.3%(20/163例)であった.そのうち,試験薬との因果関係が否定できない副作用は,DE-111群で10.6%(17/161例),タフルプロスト群で7.9%(13/164例),併用群で8.6%(14/163例)であった.有害事象の発現率は群間に有意差が認められたが,副作用の発あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131191 2322212019181716151413時間後0時間後時間後4時間後**************:DE-111群:タフルプロスト群:併用群図4眼圧実測値(平均値±標準偏差)0週の眼圧値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較.DE-111群とタフルプロスト群との比較:いずれもp<0.001(**).併用群とタフルプロスト群との比較:いずれもp<0.001(**).DE-111群と併用群との比較:いずれも有意差なし(p>0.05).症例割合(%)眼圧(mmHg)**表8眼圧実測値変化量の群間比較時期DE-111群.タフルプロスト群(mmHg)DE-111群.併用群(mmHg)Mean±SE95%信頼区間p値Mean±SE95%信頼区間p値2週朝点眼前.1.2±0.2.1.6..0.7<0.0010.0±0.2.0.4.0.50.9054週朝点眼前.1.7±0.2.2.2..1.3<0.001.0.3±0.2.0.8.0.10.1474週点眼2時間後.1.7±0.2.2.2..1.3<0.001.0.3±0.2.0.7.0.10.1864週点眼8時間後.1.4±0.2.1.8..0.9<0.001.0.2±0.2.0.7.0.30.384Mean±SE:平均値±標準誤差,0週の眼圧値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較.3020100DE-111群タフル併用群プロスト群19.9%(32/161)5.5%(9/163)13.5%(22/163)図5治療期終了時に眼圧下降率20%以上であった症例の割合1192あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013現率は群間に有意差は認められなかった(有害事象:p=0.035,副作用:p=0.707).DE-111群のおもな副作用は,点状角膜炎(3.7%,6/161例)および結膜充血(3.1%,5/161例),タフルプロスト群のおもな副作用は,点状角膜炎(2.4%,4/164例)および結膜充血(2.4%,4/164例),併用群のおもな副作用は点状角膜炎(3.1%,5/163例)および結膜充血(1.8%,3/163例)と,共通の副作用が認められ,発現頻度に大きな差はなかった.いずれの群においても,副作用はすべて眼障害で重症度は軽度であり,試験中あるいは試験終了後に軽快または回復した.DE-111群の副作用により試験中止に至った被験者は,点状角膜炎を発現した1例(0.6%)で,軽度であり,試験薬の投与中止後に回復した.b.臨床検査DE-111群で総ビリルビン,総蛋白およびアルブミンが,(148) 表9治療期にみられた有害事象と副作用の発現例数および発現率DE-111群タフルプロスト群併用群検定(Fisherの直接法)例数161164163有害事象発現例数(%)37(23.0)32(19.5)20(12.3)p=0.035副作用発現例数(%)17(10.6)13(7.9)14(8.6)p=0.707表10副作用一覧DE-111群タフルプロスト群併用群例数161164163副作用発現例数(%)17(10.6)13(7.9)14(8.6)眼精疲労1(0.6)──眼瞼色素沈着──1(0.6)眼瞼炎──1(0.6)結膜炎─1(0.6)─眼瞼紅斑1(0.6)──眼刺激2(1.2)1(0.6)1(0.6)眼痛1(0.6)──眼充血2(1.2)─2(1.2)羞明──1(0.6)点状角膜炎6(3.7)4(2.4)5(3.1)霧視─1(0.6)─睫毛の成長──1(0.6)眼の異物感─1(0.6)─結膜充血5(3.1)4(2.4)3(1.8)眼瞼.痒症──1(0.6)眼.痒症1(0.6)1(0.6)2(1.2)例数(%).タフルプロスト群で血小板が,併用群で好酸球,総蛋白およびアルブミンが,投与前に比し有意な変動を示したが,これらの変動に関連する有害事象は認められなかった.また,薬剤との因果関係が否定できないとされた臨床検査値の異常変動は,DE-111群で0.6%(1/161例,項目:尿糖)に認められたが,試験終了後に基準値内へ回復した.c.血圧・脈拍数収縮期血圧,拡張期血圧について,0週と比較して有意な変動はいずれの群においても認められなかった.脈拍数について,0週と比較して有意な下降がDE-111群で2週(平均値±標準偏差,.2.0±7.5拍/分,p=0.001)および4週(.1.3±7.9拍/分,p=0.034)に,併用群で2週(.5.3±7.6拍/分,p<0.001)および4週(.5.3±8.6拍/分,p<0.001)に認められた.タフルプロスト群では,0週と比較して有意な変動は認められなかった.これらの脈拍数の変動は,臨床的に問題となるものではなかった.また,関連する有害事象は認められなかった.d.眼科的検査(細隙灯顕微鏡検査,視力検査)細隙灯顕微鏡検査所見について,0週と比較して有意なス(149)コアの上昇がDE-111群で4週の角膜フルオレセイン染色スコア(左眼:p=0.012)に認められたが,その他の項目に有意なスコアの変動は認められなかった.タフルプロスト群と併用群では,有意なスコアの変動は認められなかった.また,本スコアの変動について,関連する有害事象は認められたものの,すべて軽度であった.視力検査について,いずれの群でも有意な変動は認められなかった.III考察現在,わが国において発売されているPG関連薬とb遮断薬の配合点眼剤には,ラタノプロストとチモロールマレイン酸塩の配合点眼液(ザラカムR配合点眼液),およびトラボプロストとチモロールマレイン酸塩の配合点眼液(デュオトラバR配合点眼液)がある.これらの点眼液についてPG関連薬単剤を対照とした臨床試験は,国内外で実施されており配合点眼剤の優越性が検証されている2.6)が,PG関連薬とb遮断薬の併用治療を対照とした臨床試験(二重盲検群間比較試験)は国内に報告がない.海外では併用治療を対照とした臨床試験の報告があり,非劣性が検証された報告7)もあるが,一部の測定時点で非劣性が検証されなかったり,配合点眼液の眼圧下降効果が併用治療を有意に下回ったとの報告8.10)もある.今回,DE-111点眼液のタフルプロスト点眼液単剤投与に対する優越性と,タフルプロスト点眼液およびチモロール点眼液0.5%(1日2回点眼)の併用治療との非劣性を同一試験で検証した.本試験では,主要評価である治療期終了時(4週または中止時)における治療期0週からの平均日中眼圧変化量において,DE-111群はタフルプロスト群と比較して有意な眼圧下降を示した.また,併用群と比較して劣らない眼圧下降を示し,PG関連薬とb遮断薬の併用治療に対する配合点眼液の非劣性が,国内で初めて検証された.各眼圧測定時刻について比較しても,朝点眼前(トラフ値),点眼2時間後および点眼8時間後のすべての眼圧測定時刻において,DE-111群は併用群と比較して劣らない眼圧下降を示した.DE-111点眼液は,PG関連薬とb遮断薬の併用治療に比べるとb遮断薬の点眼回数が1日2回から1日1回に減るが,DE-111点眼液によって眼圧が1日中コントロール可能であることが確認された.チモロールはpHなあたらしい眼科Vol.30,No.8,20131193 どさまざまな条件により眼内移行が変化することが知られており11),配合点眼液の製剤設計の違いが効果の持続性に影響する可能性が考えられる.また,眼圧下降達成率で比較して20%以上の眼圧下降が得られた症例の割合は,DE-111群で19.9%,併用群で13.5%,タフルプロスト群で5.5%と,DE-111群が最も大きく,タフルプロスト群と比較して有意差が認められた.安全性について,有害事象は,DE-111群で23.0%(37/161例),タフルプロスト群で19.5%(32/164例),併用群で12.3%(20/163例)に認められ,群間に有意差が認められたものの,DE-111群では鼻咽頭炎(3.7%,6/161例)などの試験薬との因果関係が否定されたものが多く,副作用発現率では群間に差はなかった.いずれの群においても副作用はすべて眼局所のもので,かつ軽度で,試験中あるいは試験終了後に軽快または回復した.また,いずれの群でも,重篤な副作用はみられなかった.DE-111群のおもな副作用は,点状角膜炎(3.7%,6/161例),結膜充血(3.1%,5/161例)であるが,これらの副作用はタフルプロスト点眼液および0.5%チモロール点眼液の副作用情報において既知のものであり,各単剤の安全性プロファイルを超えるものではなかった.よって,配合による副作用増大の懸念はないと考えられた.以上の結果から,PG関連薬単剤で眼圧下降効果が不十分な場合に,DE-111点眼液に変更することで,薬剤数および点眼回数を増やすことなく治療効果の増大が期待できる.また,すでにPG関連薬とb遮断薬を併用している場合には,DE-111点眼液に変更することで併用治療に劣らない治療効果が維持できるだけでなく,薬剤数および点眼回数が減ることで,アドヒアランス不良の患者ではより優れた治療効果が期待できる.以上,DE-111点眼液は緑内障治療において有用性の高い配合点眼液である.利益相反:広田篤(カテゴリーI:参天製薬)文献1)緑内障診療ガイドライン(第3版):日眼会誌116:3-46,20122)北澤克明,KP2035共同試験グループ:原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたラタノプロスト・チモロール配合剤(KP2035)の第III相二重盲検比較試験.臨眼63:807-815,20093)清野歩,佐々木英之,山田啓二:緑内障・高眼圧症治療剤トラボプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液「デュオトラバR配合点眼液」.眼薬理25:22-26,20114)PfeifferN:Acomparisonofthefixedcombinationoflatanoprostandtimololwithitsindividualcomponents.GraefesArchClinExpOphthalmol240:893-899,20025)HigginbothamEJ,FeldmanR,StilesMetal:Latanoprostandtimololcombinationtherapyvsmonotherapy.ArchOphthalmol120:915-922,20026)DiestelhorstM,AlmegardB:Comparisonoftwofixedcombinationsoflatanoprostandtimololinopen-angleglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol236:577581,19987)DiestelhorstM,LarssonL-I,forTheEuropeanLatanoprostFixedCombinationStudyGroup:A12-week,randomized,double-masked,multicenterstudyofthefixedcombinationoflatanoprostandtimololintheeveningversustheindividualcomponents.Ophthalmology113:70-76,20068)DiestelhorstM,LarssonL-I,forTheEuropeanLatanoprostFixedCombinationStudyGroup:A12weekstudycomparingthefixedcombinationoflatanoprostandtimololwiththeconcomitantuseoftheindividualcomponentsinpatientswithopenangleglaucomaandocularhypertension.BrJOphthalmol88:199-203,20049)SchumanJS,KatzGJ,LewisRAetal:Efficacyandsafetyoffixedcombinationoftravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolutiononcedailyforopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol140:242-250,200510)HughesBA,BacharachJ,CravenERetal:Athree-month,multicenter,double-maskedstudyofthesafetyandefficacyoftravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolutioncomparedtotravoprost0.004%ophthalmicsolutionandtimolol0.5%dosedconcomitantlyinsubjectswithopenangleglaucomaorocularhypertension.JGlaucoma14:392-399,200511)KyyronenK,UrttiA:EffectsofepinephrinepretreatmentandsolutionpHonocularandsystemicabsorptionofocularlyappliedtimololinrabbits.JPharmSci79:688-691,1990***1194あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(150)

25ゲージ黄斑円孔手術におけるアキュラス®とコンステレーション®の比較

2013年8月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科30(8):1181.1184,2013c25ゲージ黄斑円孔手術におけるアキュラスRとコンステレーションRの比較安藤友梨田中秀典谷川篤弘桜井良太堀口正之藤田保健衛生大学医学部眼科学教室PerformanceComparisonofAccurusRandConstellationRin25-GaugeMacularHoleSurgeryYuriAndo,HidenoriTanaka,AtsuhiroTanikwa,RyotaSakuraiandMasayukiHoriguchiDepartmentofOphthalmology,FujitaHealthUniversitySchoolofMedicine目的:アキュラスRとコンステレーションR(ともにアルコン社)を25ゲージ黄斑円孔手術において比較することを目的とした.方法:特発黄斑円孔(stage3)38例を対象として,アキュラスRとコンステレーションRを用いて手術を行い,水晶体核乳化吸引時間(PEA),水晶体皮質吸引時間(I/A),硝子体.離作製時間(PVD),硝子体切除時間(VIT),液-空気置換時間(FAX),総手術時間をビデオより計測した.アキュラス群(A群)は20例,コンステレーション群(C群)は18例であり,角膜曲率半径,眼軸長,年齢に有意差はなかった.男女比のみに差があった(p=0.02)が,今回測定した手術時間には影響はないと考えた.結果:PEA,I/A,PVDは2群で有意差はなかった.VIT,FAX,総手術時間は有意にC群で短かった.VIT:A群5分38秒±37秒,C群4分11秒±52秒(p<0.01),FAX:A群2分1秒±28秒,C群1分27秒±30秒(p<0.01),総手術時間:A群29分52秒±1分52秒,C群27分31秒±2分35秒(p=0.01).結論:コンステレーションRの硝子体切除装置はカッター,吸引装置を中心として多くの点で改良が加えられており,25ゲージ手術に適した器械であると考えた.Purpose:TocomparetheperformanceofAccurusR(Alcon)andConstellationR(Alcon)in25-gaugemacularholesurgery.SubjectsandMethods:Weoperatedon38patientswithidiopathicmacularhole(stage3),usingeitherAccurusRorConstellationR,andmeasuredthedurationofphacoemulsification(PEA),cortexaspirationwithirrigationandaspiration(I/A),posteriorvitreousdetachmentformation(PVD),vitrectomy,fluid-airexchange(FAE)andtotalsurgerydurationfromthevideofilmofthesurgery.TheAccurusgroupincluded20patientsandtheConstellationgroup18patients.Wefoundnostatisticallysignificantdifferencebetweenthe2groupsincornealcurvatureradius,axiallengthorage,butdidfindasignificantdifference(p=0.02)inrelationtogenderthatseemedtohavelittleeffectonourresults.Results:WefoundnostatisticallysignificantdifferenceindurationofPEA,I/AandPVD,butdidfindasignificantdifferenceinthedurationofvitrectomyandFAE,asfollows:vitrectomy:Accurusgroup:5m38s±37s,Constellationgroup:4m11s±52s,(p<0.01);FAE:Accurusgroup:2m1s±28s,ConstellationRgroup:1m27s±30s(p<0.01).Fortotalsurgery,thedurationwas:Accurusgroup:29m52s±1m52s,Constellationgroup:27m31s±2m35s(p=0.01).Conclusion:OurresultssuggestthatConstellationRimprovestheefficacyofvitreouscuttingandaspiration,whichissuitablefor25-gaugevitrectomy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1181.1184,2013〕Keywords:アキュラスR,コンステレーションR,硝子体手術,黄斑円孔,25ゲージ.AccurusR,ConstellationR,vitrectomy,macularhole,25-gauge.はじめにた1).1980年代には23ゲージの器具が開発され,小児の硝20ゲージの硝子体切除システムは1970年代より標準的な子体手術に使用された2).器具として使用され,結膜切開と強膜創作製が行われてき2002年にFujiiらにより,25ゲージの経結膜無縫合硝子〔別刷請求先〕堀口正之:〒470-1192愛知県豊明市沓掛町田楽ヶ窪1-98藤田保健衛生大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MasayukiHoriguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FujitaHealthUniversitySchoolofMedicine,1-98Dengakugakubo,Kutsukake-cho,ToyoakeCity,Aichi470-1192,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(137)1181 体手術(transconunctivalsuturelessvitrectomysurgery)が発表された3).手術時間の短縮や強膜縫合や結膜縫合がないことなどの利点があり,手術後の疼痛が少なく創傷治癒も早いとされた.しかし,20ゲージに比較して多くのメリットがある一方,吸引孔が小さいので,吸引が弱く,硝子体切除や出血の除去などには多くの時間を要するという欠点がある.最近になって,最高5,000cpm(cutsperminute)のカットレイトが可能であり,dutycycleが変更できる器械(コンステレーションR,アルコン社)が発売された.Dutycycle(カッターの吸引口が開いている時間比率)を長くすることにより吸引はよくなり,カットレイトを速くすることにより網膜にかかる牽引は減少する.筆者らは,コンステレーションRとアキュラスR(アルコン社製で,カットレイトが最高2,500cpmであり,dutycycleが不変)を使用し,25ゲージ黄斑円孔手術を行った.手術手技にかかる時間を比較した.I対象および方法この研究はレトロスペクティブに行われた.1.対象2011年1月から2012年4月までに,一人の術者が25ゲ表1対象の背景Accurus群Constellation群p値症例数2018─性別(男性/女性)4/1610/80.02*平均年齢(歳)64.9±7.267.9±5.50.15**平均角膜曲率半径(mm)7.61±0.247.67±0.190.44**眼軸長(mm)23.43±0.9023.48±0.710.85**硝子体切除腔容積(ml)4.87±1.034.68±0.360.48***:c2検定,**:t検定.数値は平均値±標準偏差.ージシステムを用いて白内障硝子体同時手術を行った特発黄斑円孔症例38例(全例stage3)を対象として調査した.手術中に網膜裂孔ができた症例は除外した.除外した症例数はアキュラスRを使用した群(アキュラス群)で3例,コンステレーションRを使用した群(コンステレーション群)で4例であった.それぞれの器械を用いて手術を行った時期は以下のとおりである.アキュラス群:20症例.2011年1月から2012年3月.コンステレーション群:18症例.2012年4月から9月.男女比,年齢,角膜曲率半径,眼軸長は表1に示した.2.手術手技手術前にすべての症例から手術についての同意を得た.球後麻酔を行った後,角膜切開を行い,CCC(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)を完成し,水晶体核を乳化吸引し,I/A(灌流・吸引)handpiece(+双手吸引法)4)により皮質を吸引した.25ゲージトロッカーにて3ポートを作製し(クロージャーバルブのないもの),硝子体手術を開始した.カッターにて後部硝子体.離を作製し,OFFISS(opticalfiber-freeintravitrealsurgeysystem)120D5,6)を用いて硝子体を周辺まで除去した.トリアムシノロンにて内境界膜を.離した7).ここで眼内レンズを挿入した.その後に液-空気置換を行い,0.8.1.2mlの100%SF6(六フッ化硫黄)を注入した.PEAとI/A,硝子体切除の器械の設定は表2に示した.3.時間測定方法ビデオをみて手技の時間(水晶体核乳化吸引,皮質吸引,後部硝子体.離作製,硝子体切除,液-空気置換)を測定した.2群間の比較はc2検定とt検定を用いて検定した.p<0.05を有意差ありとした.II結果両群で黄斑円孔は閉鎖した.表2装置の設定Accurus群Constellation群PEAチップストレートストレート灌流圧(cmH2O)7575吸引圧(mmHg)180280I/A灌流圧(cmH2O)7575吸引圧(mmHg)500550硝子体切除灌流圧(mmHg)3535カッターの最大吸引圧(mmHg)600650カットレート(cpm)固定2,5005,000Dutycycle(%)2550FAE灌流圧(mmHg)3030最大吸引圧(mmHg)400450cpm:cutsperminute,dutycycle:吸引孔が開いている時間比率.1182あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(138) NS30:00:Accurus群p=0.01■:Constellation群35:0029:52±1:5227:31±2:352:001:37±0:231:38±0:20NS1:06±0:281:12±0:25時間(分:秒)25:001:4520:00:Accurus群時間(分:秒)1:30■:Constellation群15:001:1510:001:005:000:450:300:00Accurus群Constellation群0:15図3総手術時間の比較0:00水晶体核乳化吸引皮質吸引総手術時間は,コンステレーション群で有意に短かった.図1水晶体核乳化吸引,皮質吸引に要した時間の比較水晶体核乳化吸引時間,皮質吸引時間ともに有意差はなかった.NS:notsignificant.水晶体核乳化吸引時間,皮質吸引時間の結果を図1に示した.水晶体核乳化吸引時間はアキュラス群で1分37秒±23秒,コンステレーション群で1分38秒±20秒であり,有意差はなかった.皮質吸引時間はアキュラス群で1分6秒±28秒,コンステレーション群で1分12秒±25秒であり,有意差はなかった.後部硝子体.離作製時間,硝子体切除時間,液-空気置換時間を図2に示した.後部硝子体.離作製時間はアキュラス群で20秒±13秒,コンステレーション群で22秒±11秒であり,有意差はなかった.硝子体切除時間はアキュラス群で5分38秒±37秒,コンステレーション群で4分11秒±52秒であり,有意にコンステレーション群で短かった(p<0.01).液-空気置換時間は,アキュラス群で2分1秒±28秒,コンステレーション群で1分27秒±30秒であり,有意にコンステレーション群で短かった(p<0.01).総手術時間を図3に示した.アキュラス群で29分52秒±1分52秒,コンステレーション群で27分31秒±2分35秒であり,有意にコンステレーション群で短かった(p=0.01).III考按Rizzoら8)によりstandardcutterとultrahigh-speedcutterの比較が報告され,アキュラスRとコンステレーションRの比較は,柳田ら9)によって行われている.ともに複数の疾患に対して手術を行っており,ultrahigh-speedcutterとコンステレーションの優位性を結論している.筆者らは,stage3の黄斑円孔手術のみを対象とし,裂孔形成などの症例を除外して,手術手技に要する時間を分析した.疾患とstageを限定したほうが,2群の病態の差は少なくなり,より正確な比較が可能であると考えたからである.表1に示したように,2群間で,角膜曲率半径と眼軸長に差はなく,眼p<0.01:Accurus群■:Constellation群5:38±0:376:00硝子体.離作製液-空気置換NS硝子体切除0:20±0:130:22±0:114:11±0:522:01±0:281:27±0:30p<0.01図2硝子体.離作製,硝子体切除,液.空気置換に要した時間の比較5:305:004:304:003:303:002:302:001:301:000:300:00時間(分:秒)後部硝子体.離作製時間は差がなかったが,硝子体切除時間,液-空気置換時間ではコンステレーション群で有意に短かった.NS:notsignificant.(139)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131183 球の大きさにも差がないと推測される.男女比に差があったが,結果に差を及ぼすものではないと考えられる.白内障手術では,核乳化吸引と皮質除去時間に有意差がなかった.両群ともにストレートチップを同様の条件で行っているからであろう.コンステレーションRではKelmanチップなども使用できるので,さらに効率化できる可能性がある.しかし,黄斑円孔手術の白内障手術は,将来の白内障進行に対する予防手術の側面もあり,硬い水晶体核は少ないので差がでにくい可能性もある.硝子体切除時間は,コンステレーション群のほうが有意に短く,これは切除吸引効率の良さを示している.アキュラスRのカッターをはじめ多くの硝子体カッターは,閉鎖は空気圧で行い,開放はバネで行われる.このシステムでは閉鎖するときにバネが収縮するので,空気圧による閉鎖のトルクが減少する.コンステレーションRでは閉鎖も開放も空気圧で行われるので,閉鎖時に空気圧のトルクが減少することが少なくカッターの内刃に伝えられると思われる.このシステムはカットレイトを上げられるのみでなく,カッターの切れを良くすることができるであろう.高いカットレイトと良好な切れは手術者に安心感を与え,硝子体切除のストレスが減少する.コンステレーションRには,IOP(眼圧)コントロールという新しい装置が装備されている.灌流チューブ内圧から眼内圧を推測して,灌流圧を変化させ眼内圧を一定に保持することができる.このシステムにより眼球の虚脱を予防することができる.黄斑円孔手術では,カットを停止してカッターを用いて吸引のみ行う手技,つまり硝子体.離作製に有効である.硝子体.離作製では,視神経乳頭上,あるいは網膜上にカッターを位置し,カットを停止して吸引圧を上げ硝子体を吸引孔に嵌頓させる.つぎに,乳頭から離れる方向にカッターを動かし物理的に硝子体を網膜から.がす.虚脱の危険がないので術者は安心して吸引圧を上昇させることができる.しかし,今回の硝子体.離作製時間には差がなかった.これは吸引口を開放してから吸引をはじめ,硝子体が吸引孔に嵌頓するまでの時間がわずかであるからであろう.さらに,内境界膜.離時にはカットを停止して吸引のみで余剰のトリアムシノロン除去を行う.しかし,注入するトリアムシノロンの量が一定でないので,今回の分析では時間を計測しなかった.液-空気置換の時間は,コンステレーション群で有意に短かった.空気置換時にはIOPコントロールは作動せず,アキュラス群と同じシステムを用いている.空気灌流圧は30mmHgであり,液吸引圧にも大きな差はない.この結果は,コンステレーションRの吸引チャンバーのサイズや吸引カセットなどに多くの工夫がなされているからと思われる.黄斑円孔手術の網膜裂孔の形成に関しては,Rizzoの報告では,standardsystemで12症例中3症例,ultrahighspeedcutterでは11症例中0症例であった.筆者らはアキュラス群で20症例中3例,コンステレーション群で18症例中4例であった.筆者らの手術では,吸引のみによって硝子体.離を赤道部まで作製するため,裂孔の形成がカッターの優劣に左右されにくいと思われる.以上より,コンステレーションRの硝子体切除装置はカッター,吸引装置を中心として多くの点で改良が加えられており,25ゲージ手術の弱点である吸引効率の低さを補うものであると考えた.文献1)O’MallyC,HeintzRMSr:Vitrectomywithanalternativeinstrumentsystem.AnnOphthalmol7:585-588,591598,19752)PeymanGA:Aminiaturizedvitrectomysystemforvitreousandretinalbiopsy.CanJOphthalmol25:285-286,19903)FujiiGY,DeJuanEJr,HumayunMSetal:Initialexperienceusingthetransconjunctivalsuturelessvitrectomysystemforvitreoretinalsurgery.Ophthalmology109:1814-1820,20024)HoriguchiM:Instrumentationforsuperiorcortexremoval.ArchOphthalmol109:1170-1171,19915)HoriguchiM,KojimaY,ShimadaY:Newsystemforfiberopic-freebimanualvitreoussurgery.ArchOphthalmol120:491-494,20026)矢田弘一郎,谷川篤弘,中田大介ほか:手術用顕微鏡OMS800-OFFISSと120D観察レンズを用いた広角観察システムの使用経験.臨眼63:211-215,20097)HorioN,HoriguchiM,YamamotoN:Triamcinoloneassistedinternallimitingmembranepeelingduringidiopathicmacularholesurgery.ArchOphthalmol123:96-99,20058)RizzoS,Genovesi-EbertF,BeltingC:Comparativestudybetweenastandard25-gaugevitrectomysystemandanewultrahigh-speed25-gaugesystemwithdutycyclecontrolinthetreatmentofvariousvitreoretinaldiseases.Retina31:2007-2013,20119)柳田智彦,清水公也:25ゲージ硝子体手術におけるアキュラスRとコンステレーションRの硝子体切除時間の比較.あたらしい眼科29:869-871,2012***1184あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(140)

硝子体手術用眼内照明を用いた顕微鏡下強膜内陥術

2013年8月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科30(8):1177.1180,2013c硝子体手術用眼内照明を用いた顕微鏡下強膜内陥術櫻井寿也木下太賀草場喜一郎繪野亜矢子田野良太郎福岡佐知子高岡源真野富也多根記念眼科病院ScleralBucklingProcedurewithTwin27-GaugeIlluminationFibersforRhegmatogenousRetinalDetachmentToshiyaSakurai,TaigaKinoshita,KiichiroKusaba,AyakoEno,RyotaroTano,SachikoFukuoka,GenTakaokaandTomiyaManoTaneMemorialEyeHospital目的:これまで,裂孔原性網膜.離(RRD)に対する強膜内陥術は,顕微鏡と双眼倒像鏡を使い分けて使用する必要があった.そこで,双眼倒像鏡で行っていた裂孔の位置決めと冷凍凝固の工程を顕微鏡下で施行できれば,この手術方法を簡素化し,顕微鏡直視下で裂孔閉鎖を確実に施行できることが考えられる.今回,有水晶体眼内レンズ挿入眼にRRDが生じた症例を経験し,顕微鏡のみで強膜内陥術を行ったので報告する.対象および手術方法:36歳,女性.強度近視のため,1年前に両眼に有水晶体眼内レンズ挿入術を受けていた.1週間前からの右眼視野欠損のため,近医を受診し,RRDの診断を受け当院紹介となる.初診時所見として,前房に虹彩支持型の前房型アルチザンレンズが挿入されていた.眼底所見は上方からのRRDを認めた.VD=(1.0×sph.0.75D(cyl.0.5DAx65°).手術方法は網膜復位を得るため強膜内陥術を選択した.硝子体手術用27ゲージツインシャンデリア光源を下方強膜に設置し,顕微鏡下でマーキングおよび冷凍凝固を行い,顕微鏡下でのみ強膜内陥術を完遂した.結果:術後,網膜は復位し,術2カ月後にはVD=(1.0×sph.0.75D(cyl.0.75DAx160°)を得た.結論:前房型アルチザンレンズが挿入されたRRDに対する強膜内陥術施行時の硝子体手術用眼内照明を用いた顕微鏡下手術は有用であった.今後,適応の検討は必要であるが,今回の方法は強膜内陥術施行時に積極的に活用する手技の一つになる可能性が示唆された.Purpose:Itiscommonlyacknowledgedthatscleralbucklingprocedure(SBP)forrhegmatogenousretinaldetachment(RRD)requiresbothmicroscopeandbinocularindirectophthalmoscope.Useofthemicroscopealoneformarkingretinalbreaksandperformingcryopexy,however,mightsimplifythesurgeryitselfandefficientlyachievecompletesealingoftears.WereportacaseinwhichSBPwasperformedusingonlyamicroscopeforRRDinaneyecontainingaphakicintraocularlens(IOL).Case:Thepatient,a36-year-oldfemale,hadahistoryofphakicIOLsurgeryinbotheyes1yearbefore.Sheconsultedanophthalmologistbecauseshehadvisualfieldlossinherrighteyefromaweekpreviously.Diagnosedwithretinaldetachment,shewasreferredtoourhospital.Intheinitialobservation,aniris-fixatedArtisananteriorchamberIOLwasinserted.Fundusobservationdisclosedretinaldetachmentatthesuperiorportion.Visualacuity(VA)ofherrighteyewas1.0×sph.0.75D(cyl.0.5DAx65°.SBPwasperformedwithtwin27-gaugechandelierilluminationinsertedattheinferiorsclera.Markingattheposterioroftheretinaltearandcryopexywereconductedunderamicroscopewithchandelierillumination.Results:Retinopexywasobtainedaftersurgery;at2monthsaftersurgery,VAinherrighteyemaintained1.0×sph.0.75D(cyl.0.75DAx160°.Conclusions:SBPperformedusingilluminationfibersunderamicroscopewasefficientfortreatingRRDinaneyecontaininganiris-fixatedArtisananteriorchamberIOL.Althoughitisnecessarytoconsidersuchadaptation,itissuggestedthatthismethodmightbecomeanoptionforproactiveuseinSBP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1177.1180,2013〕Keywords:裂孔原性網膜.離,強膜内陥術,シャンデリア照明.rhegmatogenousretinaldetachiment,scleralbacklingprocegure,chandelierillumination.〔別刷請求先〕櫻井寿也:〒550-0024大阪市西区境川1-1-39多根記念眼科病院Reprintrequests:ToshiyaSakurai,M.D.,TaneMemorialEyeHospital,1-1-39Sakaigawa,Nishi-ku,Osaka550-0024,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(133)1177 はじめに近年,硝子体手術機器の発達に伴い,特に顕微鏡をはじめとする観察系の進歩にはめざましいものがある1,2).これまで裂孔原性網膜.離(RRD)に対する強膜内陥術は術中に顕微鏡と双眼倒像鏡を使い分けて使用する必要があった.したがってこの手技は煩雑で,双眼倒像鏡を用いた眼底検査の熟練を要する.そこでこれまで双眼倒像鏡で行っていた裂孔の位置決めと冷凍凝固の工程を顕微鏡下でできることになれば,この手術方法を簡素化し,顕微鏡直視下での裂孔閉鎖を確実に施行しうることが考えられる.今回,有水晶体眼内レンズ挿入眼にRRDが生じた症例を経験し,術中に双眼倒像鏡を使用せず顕微鏡のみで強膜内陥術を行ったので報告する.I症例患者:36歳,女性.既往歴:強度近視のため,平成22年10月ごろに,両眼の有水晶体眼内レンズ挿入術を受けていた.現病歴:平成23年12月3日約1週間前からの右眼視野欠損のため近医を受診し,RRDの診断を受け,当院紹介となる.初診時所見:視力はVD=(1.0×sph.0.75D(cyl.0.5DAx65°),VS=(1.0×sph.0.25D),眼圧はRT=15mmHg,LT=17mmHg.前房に虹彩支持型の前房型アルチザンレンズが挿入されていた(図1).右眼眼底所見は上方2時方向格子状変性後極側に小さな弁状裂孔による胞状の網膜.離を認めた..離の範囲は上方アーケード血管近くまで認めたが,黄斑部に.離は及んでいなかった(図2).治療方法の選択は網膜を復位させ,可能ならば前房型アルチザンレンズと水晶体を温存すること,屈折度数の大幅な変化がないことが求められる.硝子体手術を施行すると術中視図1虹彩支持型の前房型アルチザンレンズ図2初診時眼底写真図3硝子体手術用27ゲージツインシャンデリア眼内照明図4顕微鏡下網膜冷凍凝固の様子1178あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(134) 認性の問題や,術後白内障の進行などの点から硝子体手術ではなく強膜内陥術を選択した.通常の強膜内陥術では虹彩支持型有水晶体眼内レンズのため散瞳もやや不十分であり,周辺部眼底検査が問題となる.この点を解決するため,今回,双眼倒像鏡で行う裂孔の位置決めと冷凍凝固を顕微鏡下で行う方法を試みた.眼底観察用の光源は硝子体手術用27ゲージツインシャンデリア眼内照明を用い,硝子体手術用レンズを通して裂孔の位置を観察する方法を考案した.経過:翌日にRRDに対し今回,考案した強膜内陥術を施行した.手術方法は球後麻酔の後,結膜切開,4直筋に牽引糸を付け,硝子体手術用27ゲージツインシャンデリア眼内照明を裂孔の反対側である下方(6時)に輪部から4mmの強膜に装着(図3).双眼倒像鏡を使用せず,顕微鏡下にて裂孔の位置決め,冷凍凝固を行った(図4).一旦,眼内照明を抜去し,刺入部は8-0バイクリル糸で仮縫合を行った.5-0ダクロン糸による強膜マットレス縫合を設置.マットレス縫合は上直筋,外直筋付着部を周辺側とし,幅約8mmで通糸した.その後,経強膜的に網膜下液を排液し,シリコーンタイヤ(#220)を仮縫合した.再度眼内照明を設置し,顕微鏡下で裂孔と強膜内陥の位置を確認した後,本結紮し,結膜を8-0吸収糸で縫合し手術を終了した.II結果術後経過は翌日には網膜下液は吸収され,裂孔の閉鎖を認めた.術2カ月後の視力と屈折値はVD=(1.0×sph.0.75D(cyl.0.75DAx160°)と屈折度数に関しては術前と大きな変化はなかった.術後9カ月,網膜.離の再発および合併症は認めていない.III考察これまで強膜内陥術を施行する際には双眼倒像鏡を用いるのが通常であった.しかし,この方法は顕微鏡との併用で手術手技も煩雑であり,双眼倒像鏡を普段から使用し熟練する必要がある.裂孔原性網膜.離に対する治療方法として,特に最近の硝子体手術の発展に伴い,主たる治療方法が硝子体手術に移行しており3.7),強膜内陥術は限られた症例に対する治療法となっている.双眼倒像鏡を用いた強膜内陥術は必ず習得すべき手術手技であることは言うまでもないが,その施行機会そのものが減少している傾向にある.すなわち,顕微鏡単独で網膜.離手術を施行する機会が増えている現状がある.今回の特殊な症例に対し,強膜内陥術を施行する際に硝子体手術用27ゲージツインシャンデリア眼内照明を利用し双眼倒像鏡を用いず,顕微鏡単独での強膜内陥術手技を試みた.この方法の利点は,1)網膜硝子体手術可能な装備であれば新たな器具は必要としない,2)顕微鏡単独の方法のため(135)従来の双眼倒像鏡併用方法に比べ術式が簡便である,3)顕微鏡広角観察システムを用いればさらに簡便になる可能性がある,4)硝子体手術に慣れた術者への強膜内陥術の教育などが考えられる.特に,若年者の格子状変性に伴った萎縮円孔による網膜.離など強膜内陥術の適応例は存在し,強膜内陥術の手術手技は,網膜硝子体術者では必ず習得すべき手術手技である.日常診療の場から双眼倒像鏡に慣れ親しむことにより,術中の双眼倒像鏡使用への抵抗はないが,今回の手技であれば,顕微鏡手術による硝子体手術を習得できた術者にとっては利用しやすい手技となっている.したがって,強膜内陥術の教育という点でも,今回の手技は術者だけでなく,指導医がアシスタントを行う場合,裂孔の位置決めや冷凍凝固の手技を顕微鏡下で確認しあえることは大変有用なことと考えられる.問題点としては,今回の顕微鏡下での強膜圧迫は接触型プリズムレンズを使用したことで,通常の双眼倒像鏡や広角観察システムを使用する場合に比べ,網膜周辺部観察にはより強い強膜内陥が要求される.さらに眼底観察の範囲が狭く,裂孔の同定や発見がしにくいことも考えられる.一度設置された眼内照明も,冷凍凝固後の強膜への操作,強膜通糸,網膜下液の排液,バックル材料の設置の際には一旦除去し,眼底観察の際に再設置しなければならないなど,手技の煩雑さや感染の懸念など問題点もある.今回の症例の場合,実際には,まず,双眼倒像鏡での観察を行ったが,前房型アルチザンレンズが挿入されていることで詳細な眼底観察が困難であった.広角観察システムも用いたが,開瞼器,広角観察用前置レンズ,冷凍凝固プローブの位置関係や不慣れな操作に問題があり,眼底観察時間の超過で角膜乾燥による視認性の低下をきたしたために,接触型プリズムレンズを最終的に使用した.今後は,広角観察システムを用い,開瞼器をより大きく開瞼できるものへの変更や角膜リングを設置し角膜乾燥予防に努めるなどの工夫を凝らすことで,より視認性,視野の点で接触型プリズムレンズよりも有用ではないかと考えられる.眼内照明の必要性については,顕微鏡照明では,まず光源から網膜,つぎに網膜からの反射光と前房型アルチザンレンズを光が往復2回通過することになる.けれども,眼内照明の場合には眼内からの光による片方向のみであることから眼内照明を用いることでより正確な観察が可能ではないかと推測した.眼内照明の種類の選択は,今回の症例では網膜.離の範囲から,トロッカーに挿入するシャンデリア照明ではなくツインシャンデリアを用いたが,結果的には,一連の網膜.離に対する強膜への操作や,眼球コントロールを考えると,トロッカータイプのほうが優れていた可能性は否定できない.最後に,あくまで一般的な強膜内陥術の適応症例には,双眼倒像鏡を用いた手術が行われるべきであるが,今回のようあたらしい眼科Vol.30,No.8,20131179 な症例に対する強膜内陥術施行時には,眼内照明を用いた顕微鏡下手術は有用であった.今後,広角観察システムの活用により,術者の経験や適応の検討は必要であるが,強膜内陥術施行時に積極的に活用する手技の一つになる可能性が示唆された.本論文の要旨は第82回九州眼科学会にて発表した.文献1)GeorgeAW:27-Gaugetwinlightchandelierilluminationsystemforbimanualtransconjunctivalvitrectomy.Retina28:518-519,20082)井上さつき,中野紀子,堀井崇弘ほか:ワイドビューイングシステムを用いた裂孔原性網膜.離の手術成績.臨眼63:1135-1138,20093)樋田哲夫,荻野誠周(編):特集裂孔原生網膜.離─硝子体手術vs.強膜バックリング.眼科手術12:273-303,19994)河野眞一郎:術式の選択.眼科診療プラクティス69,裂孔原性網膜.離(丸尾敏夫ほか編),p30-33,文光堂,20015)AhmadiehH,MoradianS,FaghihiHetal:Anatomicandvisualoutcomesofscleralbucklingversusprimaryvitrectomyinpseudophakicandaphakicretinaldetachment:six-monthfollow-upresultsofasingleoperation─reportno.1.Ophthalmology112:1421-1429,20056)荻野誠周:裂孔原性網膜.離の硝子体手術成績─強膜バックリング法との比較.眼臨82:964-966,19887)大島佑介,恵美和幸,本倉雅信ほか:裂孔原性網膜.離に対する一次的硝子体手術の適応と手術成績.日眼会誌102:389-394,1998***1180あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(136)

線維柱帯切除術後の遷延性脈絡膜.離に対して白内障手術が効果的であったと思われる2症例3眼

2013年8月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科30(8):1174.1176,2013c線維柱帯切除術後の遷延性脈絡膜.離に対して白内障手術が効果的であったと思われる2症例3眼定秀文子竹中丈二望月英毅木内良明広島大学大学院医歯薬総合研究科視覚病態学EffectsofCataractSurgeryforPersistentChoroidalDetachmentafterTrabeculectomyAyakoSadahide,JojiTakenaka,HidekiMochizukiandYoshiakiKiuchiDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalScience,HiroshimaUniversity線維柱帯切除術(TLE)後に遷延性脈絡膜.離(CD)をきたした3眼の治療経過を報告する.症例1は53歳,男性.TLE術後3カ月目の眼圧は両眼とも4.6mmHgでCDが出現した.白内障も進行したため右眼白内障手術と強膜縫合を行った.左眼は白内障手術のみを行った.術後眼圧は両眼とも8mmHgになりCDは消失した.右眼の視力はTLE前より改善し左眼はTLE術前と同様になった.症例2は74歳,男性.左眼のTLE術後眼圧は6.10mmHgであったが,術後11日目からCDが生じて白内障が進行した.左眼白内障手術と脈絡膜下液排除を行った.術後眼圧は10mmHgでCDは消失し,左眼の視力は(1.2)になった.TLE後の遷延性CDに対して白内障手術単独,あるいは強膜縫合,脈絡膜下液排除を組み合わせて行いCDは消失した.TLE後に遷延したCDには白内障手術を中心とした治療が有用であると思われた.Wereporton3eyesof2patientswithpersistentchoroidaldetachment(CD)aftertrabeculectomy(TLE).Case1:A-53-year-oldmaleunderwentTLEinoculusuterque(OU).Postoperativeintraocularpressure(IOP)decreasedto4.6mmHg;CDoccurred3monthsafterTLE.CataractsurgerywasperformedinOU,withscleralflapsuturinginoculusdexter(OD).Afterthesurgery,CDresolvedandIOPincreased8mmHginOU.Visualacuity(VA)improvedinOD,butreturnedtopre-TLElevelinoculussinister(OS).Case2:A-74-year-oldmaleunderwentTLEinOS.PostoperativeIOPdecreasedto6.10mmHg.Onday7,CDoccurred.At14monthsafterTLE,cataractsurgerywithsubchoroidalfluiddrainagewasperformed.PostoperativeIOPwas10mmHg;CDgraduallydisappeared.CorrectedVAwasimprovedto1.2.CataractsurgerycanbeusefulasameansoftreatingpersistentCDafterTLE.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1174.1176,2013〕Keywords:線維柱帯切除術,白内障手術,脈絡膜.離.trabeculectomy,cataractsurgery,choroidaldetachment.はじめに線維柱帯切除術(TLE)は術後早期の合併症が少なくない.術後早期の濾過過剰に伴う浅前房,脈絡膜.離を避けるために強膜弁を強めに縫合し,濾過量が不足するときにはレーザー切糸術を併用して眼圧を調整する.術後早期に生じた脈絡膜.離の治療としてはアトロピン点眼,房水産生阻害薬の投与,ステロイド薬の点眼,内服が推奨され,外科的な処置としては空気や粘弾性物質の注入,脈絡膜下液排除などを行うことが教科書的に記載されている1).ところが遅延した脈絡膜.離に対する明確な治療法は今のところ確立されていない.今回線維柱帯切除術後に脈絡膜.離が遷延した3眼を経験した.白内障手術〔PEA(水晶体乳化吸引術)+IOL(眼内レンズ)〕単独,あるいは白内障手術に強膜弁縫合,または脈絡膜下液排除を組み合わせて行ったのでその治療経過を含めて報告する.I症例〔症例1〕53歳,男性.主訴は両眼の視力低下である.1997年頃両眼の開放隅角緑内障と診断された.点眼治療を行っていたが,2008年頃〔別刷請求先〕定秀文子:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医歯薬総合研究科視覚病態学Reprintrequests:AyakoSadahide,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalScience,HiroshimaUniversity,1-2-3Kasumi,Minami-ku,Hiroshima734-8551,JAPAN117411741174あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(130)(00)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY から両眼の視力低下が進行したため2008年4月に広島大学病院眼科に紹介されて受診した.初診時の視力は右眼0.1(0.7×sph.3.75D),左眼0.08(0.6×sph.3.25D(cyl.1.25DAx85°),眼圧は右眼22mmHg,左眼19mmHgであった.両眼Emery-Little分類でI度の白内障があった.眼軸長は右眼23.98mm,左眼23.86mmであった.両眼視神経乳頭は蒼白で陥凹拡大あり,開放隅角緑内障と診断した.治療と経過:2008年6月に左眼のTLE,2008年7月に右眼のTLEを行った.退院時の眼圧は右眼10mmHg,左眼10mmHgで,眼底に異常所見はなかった.2008年9月受診時(右眼術後2カ月目)の眼圧は右眼4mmHg,左眼6mmHgで,右眼の前房深度は浅く鼻下側に脈絡膜.離が出現していたため炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド)の内服と散瞳薬(アトロピン・トロピカミドフェニレフリン塩酸塩)点眼を開始した.このときの左眼の前房深度は十分で脈絡膜.離はなかった.右眼の経過:2カ月経過しても右眼の前房は浅いままで脈絡膜.離が進行し3象限に及んだ.光干渉断層計(OCT)で:眼圧(mmHg):視力02468101214(1.0)(0.6)(0.2)脈絡膜.離出現PEA+IOL+強膜弁縫合眼圧(mmHg)181614121086420術後期間(カ月)図1症例1右眼の術後の眼圧と視力は低眼圧黄斑症はなかった.また,水晶体はEmery-Little分類でII度,後.下混濁も出現し白内障が進行した.右眼視力は0.02(0.1×sph.5.00D(cyl.1.00DAx10°)まで低下した.2008年11月(右眼術後4カ月目)右眼PEA+IOL+強膜弁縫合術を行った.PEA+IOL+強膜弁縫合術後1週間で脈絡膜.離はほぼ消失した.右眼眼圧は6.8mmHgで推移し脈絡膜.離の再発はなかった.視力も徐々に改善し術後3カ月目に(1.0×sph.6.00D(cyl.2.00DAx10°)となり,緑内障手術前より上がった(図1).左眼の経過:術後6カ月目の受診時の左眼眼圧は4mmHgであった.前房深度は1.77mmと浅く鼻下側に脈絡膜.離が出現していた.OCTで低眼圧黄斑症はなかった.薬物治療を行ったが,脈絡膜.離は2カ月間遷延した.水晶体はEmery-Little分類でII度,後.下混濁も出現し白内障が進行した.左眼視力は(0.3×sph.5.50D(cyl.1.25DAx20°)まで低下した.白内障手術による炎症で眼圧が上昇し脈絡膜.離が改善することを期待し2009年2月(左眼術後8カ月目)に左眼PEA+IOLを行った.眼圧は7.9mmHgで推移して脈絡膜.離は消失した.PEA+IOL術後5カ月で左眼の視力はTLE術前時の(0.6×sph.4.50D(cyl.3.00DAx10°)まで戻った(図2).〔症例2〕74歳,男性.主訴は両眼の視野狭窄である.1995年に両眼の開放隅角緑内障と診断され点眼治療を行っていた.2007年頃から両眼の眼圧のコントロールが不良となり左眼の視野障害も進行するため2008年4月に広島大学病院眼科に紹介されて受診した.初診時の視力は1.0(1.2×sph+2.25D(cyl.3.00DAx85°),左眼0.8(1.5×sph+0.75D(cyl.1.25DAx95°),眼圧は右眼18mmHg,左眼19mmHgであった.水晶体は両眼Emery-Little分類でⅠ度の白内障があった.眼軸長は右眼24.03mm,左眼23.56mmであった.両眼とも視神経乳頭は陥凹拡大があり開放隅角緑内障と診断した.治療と経過:2008年5月に左眼TLEを行った.術後7日:眼圧(mmHg):視力02468101214(1.0)眼圧(mmHg)1614121086420PEA+IOL脈絡膜.離出現(0.2)(0.6):眼圧(mmHg):視力0102030405060術後期間(カ月)眼圧(mmHg)20181614121086420脈絡膜下液排除+PEA+IOL脈絡膜.離出現(1.0)(0.6)(0.2)(1.5)術後期間(カ月)図2症例1左眼の術後の眼圧と視力図3症例2左眼の術後の眼圧と視力(131)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131175 表1まとめ症例1右眼左眼症例2視力術前術後(0.2)(1.0)(0.3)(0.6)(0.1)(1.2)眼圧術前術後4mmHg8mmHg4mmHg7mmHg6mmHg9mmHgCD発症時期術後3カ月術後6カ月術後11日目CD発症から白内障手術までの期間2カ月後2カ月後13カ月後CD:脈絡膜.離.目の左眼の視力は0.8(1.2×sph+0.50D(cyl.1.25DAx40°),眼圧は10mmHgであった.術後11日目の再診時には左眼眼圧は6mmHgで前房は浅くなり,鼻上側と鼻下側に脈絡膜.離が出現していた.眼圧は8mmHg前後で経過したが脈絡膜.離が進行した.検眼鏡検査では黄斑部に網膜皺襞はなかった.3象限にわたる脈絡膜.離が13カ月の間改善せず白内障が進行した.左眼の視力は(0.2×sph+0.50D(cyl.2.00DAx10°)に低下した.2009年7月(術後14カ月目)に左眼のPEA+IOLと脈絡膜下液排除術を行った.術後脈絡膜.離は徐々に改善し2カ月後左眼の眼圧は9mmHgで脈絡膜.離は消失した.術後左眼の視力は6カ月目に(1.2×sph.1.50D)になり,現在まで脈絡膜.離の再発はない(図3,表1).II考按線維柱帯切除術後の脈絡膜.離発症には過剰濾過や房水漏出などによる術後低眼圧あるいは眼内炎症が関与すると考えられている.多くが術後早期(1カ月以内)に出現し眼圧の上昇に伴い自然治癒し,外科的治療を要することは少ない1,2).しかし,遷延する脈絡膜.離,低眼圧黄斑症は視力障害をきたすことがあるため何らかの外科的治療が必要になる.眼圧を正常化させるための処置として,圧迫縫合(compressionsuture)や自己血注入,強膜弁縫合などがある.また,内眼手術を行うことで炎症が生じ濾過胞の縮小,眼圧上昇をきたすことがあることが知られている.原田ら3)の報告によれば,線維柱帯切除術の既往のある眼に白内障手術を行った12眼中2眼で術後眼圧が上昇し緑内障再手術が必要となっている.また,Rebolledaら4)は線維柱帯切除術後の眼に白内障手術を行った67眼中2眼は6カ月以内に緑内障再手術が必要になったと報告している.他にもKlinkら5)によれば線維柱帯切除術後の眼に白内障手術を行った30眼において1年後の眼圧は平均で約2mmHg上昇し,30眼中151176あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013眼は2mmHg以上眼圧が上昇したと報告している.AwaiKasaokaら6)は線維柱帯切除術後1年以内に白内障手術を行うと有意に眼圧が上昇すると報告している.Sibayanら7)は線維柱帯切除術後の低眼圧黄斑症に対して白内障手術が有効であった症例を報告している.白内障手術により炎症が起こることで濾過胞の瘢痕化,濾過機能の減弱を招きそれに伴い眼圧が上昇し低眼圧黄斑症が改善した.また,彼らは白内障がある線維柱帯切除術後の低眼圧黄斑症に対して,白内障の程度や低眼圧の期間に関係なく白内障手術が有益だと述べている.これを応用して線維柱帯切除術後の遷延する脈絡膜.離に対して白内障手術が有効であるとの報告がある8).筆者らはそれにならい遷延する脈絡膜.離に対して白内障手術を中心とした治療を行った.症例1の右眼にはPEA+IOL+強膜縫合,左眼にはPEA+IOLを単独で行った.症例2は左眼PEA+IOLと脈絡膜下液排除を行い3眼とも脈絡膜.離の改善,視力の改善が得られた.強膜弁の追加縫合や脈絡膜下液排除がどこまで有効であったかわからない.中崎ら9)は線維柱帯切除術後の脈絡膜出血に対して下液排除だけでは再発を繰り返す症例を報告している.線維柱帯切除術の術後に遷延する脈絡膜.離に対しては白内障手術を中心とした治療が有効であるといえる.遷延する脈絡膜.離の要因,適切な追加手術の時期など今後解明すべき点は多い.文献1)丸山勝彦:線維柱帯切除術後早期管理.眼科手術24:138142,20112)新田憲和,田原昭彦,岩崎常人ほか:線維柱帯切除術後の脈絡膜.離に関する臨床経過の検討.あたらしい眼科27:1731-1735,20103)原田陽介,望月英毅,高松倫也ほか:緑内障眼における白内障手術の眼圧経過への影響.あたらしい眼科25:10311034,20084)RebolledaG,Munoz-NegreteFJ:Phacoemulsificationineyeswithfunctioningfilteringblebs.aprospectivestudy.Ophthalmology109:2248-2255,20025)KlinkJ,SchmitzB,LiebWEetal:Filteringblebfunctionafterclearcorneaphacoemulsification.aprospectivestudy.BrJOphthalmol89:597-601,20056)Awai-KasaokaN,InoueT,TakiharaYetal:ImpactofphacoemulsificationonfailureoftrabeculectomywithmitomycinC.JCataractRefractSurg38:419-424,20127)SibayanSA,IgarashiS,KasaharaNetal:Cataractextractionasameansoftreatingpostfiltrationhypotonymaculopathy.OphthalmicSurgLasers28:241-243,19978)狩野廉:線維柱帯切除術中長期管理.眼科手術24:143148,20119)中崎徳子,原田陽介,戸田良太郎ほか:線維柱帯切除術後の上脈絡膜出血にシリコーンオイルのタンポナーデが奏功した2例.臨眼66:1537-1542,2012(132)

他のプロスタグランジン製剤が効果不十分であった症例に対するトラボプロスト点眼液の有効性の検討

2013年8月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科30(8):1171.1173,2013c他のプロスタグランジン製剤が効果不十分であった症例に対するトラボプロスト点眼液の有効性の検討橋爪公平*1,2長澤真奈*1,2黒坂大次郎*2*1北上済生会病院眼科*2岩手医科大学医学部眼科学講座EfficacyofTravoprostinPatientsUnresponsivetoOtherProstaglandinsKouheiHashizume1,2),ManaNagasawa1,2)andDaijiroKurosaka2)1)DepartmentofOphthalmology,KitakamiSaiseikaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,IwateMedicalUniversitySchoolofMedicineプロスタグランジン(PG)製剤は緑内障治療の第一選択薬であるが,ノンレスポンダーの存在も知られている.今回,他のPG製剤で効果不十分であった症例におけるトラボプロスト点眼液への切り替え効果について検討した.北上済生会病院に通院中の広義の開放隅角緑内障患者のうち,他のPG製剤が効果不十分でトラボプロスト点眼へ切り替えた症例を対象とした.効果不十分とは,①ベースラインから10%以下の眼圧下降,②視野欠損の進行のいずれかに当てはまることと定義した.切り替え前後の眼圧について,診療録をもとにレトロスペクティブに検討した.対象症例は34例65眼であった.眼圧は切り替え前14.0±3.6mmHg,切り替え後13.3±3.4mmHgで,トラボプロスト点眼液への切り替えにより眼圧が有意に低下していた(pairedt-test:p=0.012).他のPG製剤が効果不十分であった症例に対して,トラボプロスト点眼液への切り替えが有効である可能性が考えられた.Prostaglandin(PG)ophthalmicsolutionsareconsideredthefirst-choiceforglaucomatreatment,butsomepatientsdonotrespondtoPGanalogues.WestudiedtheeffectsofswitchingtotravoprostinpatientsunresponsivetootherPGs.ThesubjectswerepatientsatKitakamiSaiseikaiHospitalwhohadopenangleglaucomaandswitchedtotravoprostduetoinsufficientresponsetootherPGs.Insufficientresponsewasdefinedaseitheri)intraocularpressure(IOP)reductionof<10%ofthebaselineorii)progressionofvisualfielddefect.IOPrecordswereretrospectivelyexaminedbeforeandafterswitching.Atotalof65eyesof34patientswereexamined.IOPswere14.0±3.6mmHgbeforeand13.3±3.4mmHgafterswitching,asignificantreductioninIOPafterswitchingtotravoprosteyedrops(pairedt-test,p=0.012).TheresultssuggestedthatswitchingtotravoprosteyedropsiseffectiveinpatientsunresponsivetootherPGs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1171.1173,2013〕Keywords:プロスタグランジン製剤,トラボプロスト,ノンレスポンダー,切り替え,開放隅角緑内障.prostaglandin,travoprost,non-responder,switching,openangleglaucoma.はじめに緑内障はわが国においては中途失明2位を占める疾患で,その有病率は40歳以上で約5%と比較的高い疾患である.緑内障に対する治療はおもに点眼による薬物療法で,眼圧を下降させることにより視野欠損の進行リスクが軽減される1).プロスタグランジン(PG)製剤はプロスト系製剤とプロストン系製剤の2つに大別される.プロスト系PG製剤は強力な眼圧下降作用を有し,1日に1回の点眼で終日の眼圧下降が得られ,また全身の副作用がないことから,緑内障治療薬の第一選択薬となっている.現在わが国で4種のプロスト系PG製剤が承認されているが,そのうちラタノプロスト,タフルプロスト,トラボプロストの眼圧下降作用は同等で,およそ25.30%の眼圧下降作用を示すとされている2,3)が,その程度には個体差があり,眼圧下降が10%以下のいわゆるノンレスポンダーという症例も存在する.そこで今回は,他のPG製剤が効果不十分であった症例で,その点眼をトラボ〔別刷請求先〕橋爪公平:〒020-8505盛岡市内丸19-1岩手医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:KouheiHashizume,M.D.,DepartmentofOphthalmology,IwateMedicalUniversitySchoolofMedicine,19-1Uchimaru,MoriokaCity020-8505,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(127)1171 プロスト点眼液に切り替えた症例の眼圧の変化について検討したので報告する.I対象および方法対象は平成24年1月から6月に北上済生会病院を受診した広義の開放隅角緑内障患者のうち,過去に他のPG製剤(ラタノプロストまたはタフルプロスト)が効果不十分でトラボプロスト点眼へ切り替えたことがある症例を対象とした.本研究における「効果不十分」とは,①ベースラインから10%以下の眼圧下降作用しか得られていないこと,②点眼を継続しているにもかかわらず視野欠損が進行していることのいずれかに該当する症例と定義した.診療録をもとにレトロスペクティブに検討した.眼圧は通常の外来診療における任意の時間帯(8:30.17:00)に非接触眼圧測定装置(NIDEK社RKT-7700)を用いて測定した.低信頼度データを除く3メーターの測定値を平均し,その日の値とした.測定は切り替え直前・直後の連続する3回の受診時の計測値の平均をそれぞれ切り替え前眼圧,切り替え後眼圧とした.切り替え前後の眼圧をpairedt-testで統計学的に検討した.II結果他のPG製剤単剤からトラボプロスト点眼液単剤への切り替えを行った症例は34例65眼で,このうちラタノプロスト点眼液からの切り替えが23例46眼,タフルプロスト点眼液からの切り替えが11例19眼であった.また,他の緑内障点眼薬を併用し,その併用薬を変えずにPG製剤のみトラボプロスト点眼液へ切り替えた症例は15例28眼であった.他のPG製剤単剤からトラボプロスト点眼液単剤へ切り替えた症例では,眼圧は切り替え前14.0±3.6mmHg,切り替え後13.3±3.4mmHgで,切り替えによって眼圧が有意に低下していた(p=0.0078,図1).また,単剤同士の切り替え65眼中23眼(35%)で2mmHg以上の眼圧下降作用が得られた.さらに併用薬を変えずにPG製剤のみトラボプロスト点眼液へ切り替えた症例では,眼圧が切り替え前15.7±3.4mmHg,切り替え後14.7±2.6mmHgで,切り替えによって眼圧が有意に低下していた(p=0.025,図2).併用薬あり例の切り替え28眼中7眼(25%)で2mmHg以上の眼圧下降作用が得られた.III考按今回の検討では他のPG製剤で効果不十分でトラボプロストへ切り替えた症例を対象に検討した.そのなかで,効果不十分例は,ベースラインから10%以下の眼圧下降作用しか得られていない,いわゆるノンレスポンダーといわれる症例,あるいは視野欠損が進行している症例とし,日常の診療において点眼液の変更や追加が必要となる症例である.今回トラボプロストへの切り替えによる眼圧を比較し,単剤同士の切り替え・併用薬がある場合での切り替えともに有意に眼圧が低下した.このことから他のPG製剤で加療して効果が不十分であった症例に対して,bブロッカーや炭酸脱水酵素阻害薬などの他剤を追加する前にトラボプロストへの切り替えを試すことが治療の選択肢の一つになりうると考えられた.今回の検討では他のPG製剤(ラタノプロストとタフルプロスト)単剤からトラボプロスト単剤への切り替えにより,35%の症例で2mmHg以上の眼圧下降が得られた.ラタノプロスト単独投与からトラボプロスト単独投与への切り替え後の眼圧下降効果についてはすでにいくつかの報告がある.海外ではトラボプロストはラタノプロストなどの他のPG製剤と比較して,同等あるいはそれ以上の眼圧下降作用が得られたと報告されている4.6).わが国では湖崎らはラタノプロストからトラボプロストへの切り替えで約30%の症例で2mmHg以上の眼圧下降がみられたと報告し7),佐藤らは同じくラタノプロストからトラボプロストへの切り替えで36%の症例で2mmHgを超える眼圧下降が得られたと報告している8).今回の検討はこれらの報告と同等の結果と考えられる.15.7±3.42020014.0±3.613.3±3.4切り替え前切り替え後14.7±2.6眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)15151050105切り替え前切り替え後図1単剤使用例の切り替えによる眼圧の変化図2併用薬あり例の切り替えによる眼圧の変化眼圧は切り替え前14.0±3.6mmHg,切り替え後13.3±3.4眼圧は切り替え前15.7±3.4mmHg,切り替え後14.7±2.6mmHgで,切り替えによって眼圧が有意に低下した(pairedmmHgで,切り替えによって眼圧が有意に低下した(pairedt-test:p=0.0078).t-test:p=0.025).1172あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(128) 今回の検討では眼圧に関してのみ比較検討を行った.緑内障治療における目標は視野欠損進行の抑制であるので,今後切り替え前後の視野欠損の進行速度についてさらなる検討が必要である.また,眼圧測定を非接触眼圧計にて行ったが,より正確な眼圧測定のためには,Goldmannアプラネーショントノメーターによる測定が望ましい.さらに点眼の切り替えによって,患者のアドヒアランスが一時的に向上した可能性は否定できない.これらの課題を含めたさらなる検討が今後必要である.他のPG製剤が効果不十分であった症例におけるトラボプロスト点眼液への切り替え効果について検討した.結果,トラボプロスト点眼液への切り替えが眼圧下降に有効である可能性が考えられた.本論文の要旨は第335回岩手眼科集談会(2013年,1月)にて発表した.文献1)LeskeMC,HejilA,HusseinMetal:Factorforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment:theearlymanifestglaucomatrial.ArchOphthalmol121:48-56,20032)AptelF,CucheratM,DenisP:Efficacyandtolerabilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,20083)MansbergerSL,HughesBA,GordonMOetal:Comparisonofinitialintraocularpressureresponsewithtopicalbeta-adrenergicantagonistsandprostaglandinanaloguesinAfricanAmericanandwhiteindividualsintheOcularHypertensionTreatmentStudy.ArchOphthalmol125:454-459,20074)NetlandPA,LandryT,SullivanEKetal:Travoprostcomparedwithlatanoprostandtimololinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol132:472-484,20015)ParrishRK,PalmbergP,SheuWP:Acomparisonoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinpatientswithelevatedintraocularpressure:a12-week,randomized,masked-evaluatormulticenterstudy.AmJOphthalmol135:688-703,20036)KabackM,GeanonJ,KatzGetal:Ocularhypertensiveefficacyoftravoprostinpatientsunsuccessfullytreatedwithlatanoprost.CurrMedResOpin21:1341-1345,20047)湖崎淳,大谷伸一郎,鵜木和彦ほか:トラボプロスト点眼液の臨床使用成績─眼表面への影響.あたらしい眼科26:101-104,20098)佐藤里奈,野崎実穂,高井祐輔ほか:ラタノプロストからトラボプロストへの切替え効果.臨眼64:1117-1120,2010***(129)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131173

プロスト系プロスタグランジン関連薬からビマトプロストへ切り替え後の眼圧推移と副作用発現頻度

2013年8月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科30(8):1165.1170,2013cプロスト系プロスタグランジン関連薬からビマトプロストへ切り替え後の眼圧推移と副作用発現頻度松原彩来徳田直人金成真由井上順高木均上野聰樹聖マリアンナ医科大学眼科学教室IntraocularPressureChangeafterSwitchingtoBimatoprostfromOtherProstaglandinAnaloguesandFrequencyofAdverseEffectSairaMatsubara,NaotoTokuda,MayuKanari,JunInoue,HitoshiTakagiandSatokiUenoDepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversitySchoolofMedicine目的:プロスト系プロスタグランジン関連薬(以下,PG関連薬)からビマトプロスト(以下,ビマト)へ切り替え後の眼圧推移と副作用発現頻度を検討した.対象および方法:対象はラタノプロスト(以下,ラタノ),トラボプロスト(以下,トラボ),タフルプロスト(以下,タフル)のいずれかを使用中の患者50例50眼(平均59.7歳).使用中のPG関連薬をビマトへ切り替えた際の眼圧の推移,生存分析,副作用発現頻度について12カ月間観察し検討した.比較対照群はラタノからトラボまたはタフルへ切り替えた患者75例75眼(平均61.0歳)とした.結果:ビマトへの切り替え前後で眼圧は18.8mmHgから15.6mmHgへと有意に下降した(p<0.01:pairedt-test).切り替え後12カ月での生存率はビマト群54.0%に対し,比較対照群は38.7%であった(Logranktestp=0.19).ビマトへ切り替え後,重瞼ラインの深化(deepeningofuppereyelidsulcus:DUES)が憎悪し点眼中止とした症例が3眼(6.0%)存在した.結論:PG関連薬からビマトへの切り替えにより更なる眼圧下降が持続的に得られることもあるが,DUESが悪化する症例も存在する.Purpose:Toevaluateintraocularpressure(IOP)changeandadverseeffectsafterswitchingfromotherprostaglandinanalogues(PG)tobimatoprost(Bimato).Method:Subjectscomprised50eyesof50patients(meanage:59.7years)whohadbeentreatedwitheithertravoprost(Travo),tafluprost(Taflu)orlatanoprost(Latano).WeexaminedIOPchange,survivalanalysisandadverseeffectsofBimatoafterswitchingfrom12monthsofotherPG.Thecontlolgroupcomprised75eyesof75patients(meanage:61.0years)whoswitchedfromLatanotoTravoorTaflu.Result:ResultsshowedsignificantIOPdecreaseintheBimatogroupaveragingfrom18.8mmHgto15.6mmHg(p<0.01:pairedt-test)at1monthafterswitching.At12monthsafterswitching,weobservedasurvivalrateof54.0%intheBimatogroupand38.7%inthecontrolgroup(Logranktestp=0.19).Threepatients(6.0%)withdrewfromthestudyduetodeepeninguppereyelidsulcus(DUES)thatwasworsening.Conclusion:WeobservedfurtherIOPdecreasewithswitchfromotherPGtoBimato,andworseningofDUES.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1165.1170,2013〕Keywords:プロスタグランジン関連薬,ビマトプロスト,点眼切り替え,緑内障点眼薬副作用,重瞼ラインの深化(DUES).prostaglandinanalogues,bimatoprost,switching,adverseeffectsoftopicalocularhypotensivedrug,deepeninguppereyelidsulcus(DUES).はじめにプロストがある.ビマトプロストは2001年からすでに米国今日の眼科臨床においてわが国で使用可能なプロスト系プでは使用されており,眼圧下降効果や安全性について多くのロスタグランジン関連薬(以下,PG関連薬)には,ラタノ報告がある1.8).ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト,そしてビマトプロストはプロスタグランジンF2a誘導体(以下,PGF2a誘〔別刷請求先〕松原彩来:〒216-8511川崎市宮前区菅生2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:SairaMatsubara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversitySchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki-shi216-8851,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(121)1165 導体)でありFP受容体に作用するのに対し,ビマトプロストはプロスタマイドF2a誘導体でありプロスタマイド受容体に作用する点で前者3剤と異なる.このため,ビマトプロスト以外のPG関連薬を使用中の症例に対してビマトプロストへの切り替えを行うことにより更なる眼圧下降が期待できる可能性がある.わが国でもラタノプロストからビマトプロストへの切り替えにより眼圧下降効果を示したという報告9.11)はあるが,ビマトプロストへの切り替え後12カ月まで調査し,眼圧下降効果の持続性について検討した報告はない.そこで今回筆者らは,日本人を対象としてビマトプロスト以外のPG関連薬を使用中の状態からビマトプロストへ切り替えを行い,その後の眼圧下降効果とその持続性,副作用発現頻度についてレトロスペクティブに検討したので報告する.I対象および方法対象は,ラタノプロスト(製品名:キサラタンR点眼液0.005%,ファイザー株式会社),トラボプロスト(製品名:トラバタンズR点眼液0.004%,日本アルコン株式会社),タフルプロスト(製品名:タプロスR点眼液0.005%,参天製薬株式会社)のいずれかを使用中の緑内障患者50例50眼(原発開放隅角緑内障29例,落屑緑内障6例,続発緑内障6例,正常眼圧緑内障5例,混合緑内障4例)で,平均年齢は59.7±12.9歳である.対象の50例のうち,PG関連薬単剤のものが9例であり,残りの41例は多剤併用症例であった.対象の切り替え前の詳細を表1に示す.使用中のPG関連薬をウォッシュアウト期間なしでビマトプロスト(製品名:ルミガンR点眼液0.03%,千寿製薬株式会社)へ切り替え後の眼圧の推移,副作用出現頻度について検討した.比較対照群は,ラタノプロストからトラボプロス表1ビマトプロスト変更前の抗緑内障点眼の詳細単剤/多剤(症例数)切り替え前抗緑内障点眼薬症例数単剤ラタノプロスト7例トラボプロスト1例(9例)タフルプロスト1例ラタノプロスト+b遮断薬9例ラタノプロスト+CAI1例2剤併用トラボプロスト+b遮断薬5例(22例)トラボプロスト+CAI3例タフルプロスト+b遮断薬1例多剤併用タフルプロスト+CAI3例(41例)ラタノプロスト+b遮断薬+CAI4例3剤併用ラタノプロスト+b遮断薬+a1遮断薬1例(16例)トラボプロスト+b遮断薬+CAI5例タフルプロスト+b遮断薬+CAI6例4剤併用(3例)トラボプロスト+b遮断薬+CAI+a1遮断薬3例CAI:炭酸脱水酵素阻害薬.表2ラタノプロストをトラボプロストまたはタフルプロストに変更後の抗緑内障点眼の詳細単剤/多剤(症例数)切り替え後抗緑内障点眼薬症例数単剤(22例)トラボプロストタフルプロスト12例10例トラボプロスト+b遮断薬17例2剤併用トラボプロスト+CAI2例(26例)タフルプロスト+b遮断薬4例多剤併用(53例)タフルプロスト+CAI3例トラボプロスト+b遮断薬+CAI15例3剤併用(27例)トラボプロスト+b遮断薬+a1遮断薬2例タフルプロスト+b遮断薬+CAI10例1166あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(122) トまたはタフルプロストへ切り替えた75例75眼(原発開放隅角緑内障47例,落屑緑内障5例,続発緑内障1例,正常眼圧緑内障13例,混合緑内障2例,原発閉塞隅角緑内障7例)で,平均年齢は61.0±14.3歳であった.比較対照群については,75例中PG関連薬単剤からの切り替えが23例,多剤併用症例からの切り替えが52例であった.比較対照群の切り替え前の詳細を表2に示す.多剤併用例については,併用薬はそのまま継続とした.なお,コンタクトレンズ装用者,過去1年以内に眼科手術の既往がある者は対象から除外した.眼圧は,Goldmann圧平式眼圧計で測定を行い,点眼切り替え前3回の眼圧平均値をベースライン眼圧とした.経過観察期間は点眼切り替え後12カ月間とし,点眼変更後1カ月ごとに眼圧測定を行い,点眼切り替え前の眼圧と点眼切り替え後の眼圧についてはpairedt-testにより検定した.群間の比較についてはTukey検定を行った.眼圧下降率については,以下の計算式から算出した.眼圧下降率(%)=(IOPpre.IOPpost)×100IOPpreIOPpre:切り替え前眼圧,IOPpost:切り替え後眼圧.点眼変更後の眼圧下降効果の持続性について,KaplanMeier生存分析により検討した.死亡定義は2回連続で切り替え前の眼圧と同等,または上回る時点,またはレーザー治療を含めた手術加療を行った時点とし,Logrank-testにより検定を行った.眼圧(mmHg)252015100II結果1.眼圧図1にビマトプロストへの切り替え前後の眼圧推移と比較対照群の眼圧推移を示す.ビマトプロストへの切り替え前の平均眼圧は18.7±3.0mmHgが,切り替え後2カ月で16.9±3.4mmHg,切り替え後6カ月で16.4±4.2mmHg,切り替え後12カ月で15.6±2.9mmHgと各測定点で有意な眼圧下降を示した(p<0.01:pairedt-test).比較対照群における点眼薬切り替え前の平均眼圧は17.4±3.6mmHgであり,切り替え後2カ月で16.2±3.3mmHg,切り替え後6カ月で15.8±3.1mmHg,切り替え後12カ月で15.6±3.3mmHgと,こちらも各測定点で有意な眼圧下降を示した(p<0.01:pairedt-test).なお,ビマトプロストに変更後1カ月以内に,1mmHg以上の眼圧上昇を認めた症例が3例存在したが,3例とも1mmHgの上昇であった.そのうちの1例は2カ月後に重瞼ラインの深化(deepeningofuppereyelidsulcus:DUES)出現につき中止,その他の2例はともに8カ月後に眼圧コントロール不良を理由に点眼変更となった.図2にビマトプロスト切り替え群と比較対照群の眼圧下降率の推移を示す.ビマトプロスト切り替え群の眼圧下降率は切り替え後,2.4カ月,6.8カ月,10カ月の時点で比較対照群に比し有意な眼圧下降率を示した(unpairedt-test).2.累積生存率図3にビマトプロストへの切り替え後12カ月の累積生存率について示す.比較対照群の切り替え後の累積生存率が38.7%に対して,ビマトプロスト切り替え群は54.0%************************切り替え後切り替え後切り替え後切り替え後切り替え後切り替え後2カ月4カ月6カ月8カ月10カ月12カ月経過観察期間図1ビマトプロスト切り替え群と比較対照群の眼圧推移の比較:ビマトプロスト切り替え群,:比較対照群.*:p<0.01:pairedt-test,すべての観察点において有意差を認めた.(123)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131167 眼圧下降率(%)50403020100切り替え後切り替え後切り替え後切り替え後切り替え後切り替え後************2カ月4カ月6カ月8カ月10カ月12カ月経過観察期間図2ビマトプロスト切り替え群と比較対照群の眼圧下降率の推移:ビマトプロスト切り替え群,:比較対照群.*:p<0.05:unpairedt-test,**:p<0.01:unpairedt-test.54.0%0246810121.00.80.60.40.2038.7%累積生存率生存期間(カ月)図3ビマトプロスト切り替え群と比較対照群の累積生存率の比較:ビマトプロスト切り替え群,:比較対照群.Logranktestp=0.19.(Logranktestp=0.19)と有意差は認めないものの,ビマトプロスト切り替え群のほうが長期間眼圧下降を維持する傾向がみられた.3.副作用表3にビマトプロストへの切り替え後の副作用出現頻度について示す.ビマトプロスト切り替え群の副作用発現頻度は28.0%であり,比較対照群9.4%より有意に多く発症した(c2検定p=0.013).特に,ビマトプロスト切り替え群でDUESを10例に認め,そのうちDUES増悪のため点眼中止とした症例が3例存在した.それらの症例については点眼中止により速やかに症状の改善が得られた.その他,眼瞼色素沈着,結膜充血,睫毛増加,三叉神経痛が認められる症例が存在1168あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013表3点眼切り替え後の副作用症例の内訳ビマトプロスト切り替え群副作用出現症例比較対照群副作用50例中14例(28.0%)(副作用出現頻度)(うち2例は副作用重複*)75例中9例(9.4%)DUES10例(20.0%)0例(0.0%)眼瞼色素沈着2例(4.0%)0例(0.0%)結膜充血2例(4.0%)2例(2.7%)睫毛増加1例(2.0%)0例(0.0%)三叉神経痛1例(2.0%)0例(0.0%)眼刺激症状0例(0.0%)3例(4.0%)掻痒感0例(0.0%)2例(2.7%)*:ビマトプロスト切り替え群のうち2例は,DUESと眼瞼色素沈着,DUESと三叉神経痛を合併.した.III考按緑内障診療ガイドライン12)の緑内障治療薬の項でも,薬剤の効果が不十分な場合は,まず薬剤の変更を考慮することが推奨されている.ビマトプロストが使用可能となって以降,ラタノプロストなどのPGF2a誘導体を使用中で眼圧下降が不十分な症例に対して,ビマトプロストへの切り替えを試みたところ,更なる降圧が得られた症例を多く経験した.しかし,薬剤の切り替え時にはアドヒアランスの向上などにより薬効が過大評価されることがあるため,点眼切り替え後の眼圧下降効果を評価するためには,ある程度長期的な観察が必要と考え,点眼切り替え後1年間の経過観察期間についても検討した.以下,結果について考察する.眼圧下降率については,ビマトプロストの眼圧下降率は既(124) 報では22.6.36.0%4.7)とされている.特にCantorらの報告4)では原発開放隅角緑内障あるいは高眼圧症患者14例に対しビマトプロストを6カ月間投与したところ,6カ月後の眼圧下降率は34.0.36.0%とされており,優れた眼圧下降とその持続性を指摘している.これらの報告と比較し今回の筆者らの検討では,ウォッシュアウト期間なしでPG関連薬からビマトプロストへの切り替えを行っていること,多剤併用症例からのビマトプロストへの切り替え投与としていること,ビマトプロストへの切り替え前の眼圧が11.5.23.5mmHgと多岐にわたっていたこともあるため,単純な比較はできないが,正常眼圧緑内障が多い日本人を対象としている背景も考慮すると,既報に劣らず,十分な眼圧下降効果が得られたといえるのではないかと考える.ビマトプロストへの切り替え後の眼圧下降効果の維持については,広田ら11)はラタノプロストで効果不十分であった症例について,ビマトプロストへの切り替え後6カ月までの眼圧推移を示し,眼圧下降効果が維持されたことを報告している.今回の比較対照群としたラタノプロストからトラボプロストへ,ラタノプロストからタフルプロストへの切り替えについてはいくつかの報告13,14)はあるが,経過観察期間が6カ月以下と短いうえ,眼圧下降効果の持続性について言及している報告は筆者らが検索した限りではみられなかった.抗緑内障点眼薬は多くの場合で長期間使用することが多いため,眼圧下降効果の持続性は重要であると考えられる.そこで今回の検討では,眼圧下降効果の持続性について厳密に検討する目的で,生命分析を利用して評価した.その結果,ビマトプロスト切り替え群の1年生存率は54.0%と有意差は認めないものの,比較対照群に比べ高い生存率を示していた.ビマトプロストへの切り替え後に眼圧下降が維持できた症例が半数以上存在したということは,ビマトプロスト以外のPG関連薬からビマトプロストへの切り替えによる更なる降圧の可能性を示唆する結果とも考えられる.この結果についての関連因子を検討する目的で生存症例27例と,死亡症例23例でその背景因子を比較したところ,病型,年齢,切り替え前眼圧,併用薬剤数ともに統計学的有意差は認められなかった.PG関連薬においては,眼圧下降効果が得られにくい,いわゆるノンレスポンダーが存在するといわれている.過去の報告では,眼圧下降率10.0%以下をノンレスポンダーと定義した場合,ラタノプロストでは15.0.30.0%15,16)に,タフルプロストでは12.8.18.2%17)認められたとしており,ノンレスポンダーがある一定の割合で存在することを指摘している.Gandolfiら18)はラタノプロストのノンレスポンダーに対してビマトプロストに切り替えた15例中13眼で切り替え後20%以上の眼圧下降を得た,と報告している.今回の対象でもビマトプロスト切り替え前のPGF2a誘導体の眼圧下(125)降率が10%未満の症例がどの程度存在したかを調査してみたが,ラタノプロストを使用前にすでに交感神経b遮断薬などが使われている場合や,多剤併用の症例が多く,純粋なノンレスポンダーを抽出することは不可能であった.しかし,今回の対象のなかにはPGF2a誘導体により10%以上眼圧下降が得られた症例も多く含まれており,これらの症例においてもビマトプロストへの切り替えで更なる眼圧下降が得られた可能性が示唆されたという事実は,日常臨床において,治療経過中に視野異常の悪化などにより目標眼圧をさらに低く設定し直す際にもビマトプロストへの切り替えは一つのよい選択肢となりうると考える.副作用に関しては,ビマトプロストへの切り替え群で副作用出現率が多く生じたという印象であった.比較対照群との目立った相違点は,ビマトプロストへの切り替え群ではDUESが10例と多く出現した点である.DUESについて日本人を対象とした報告ではAiharaら19)が25例中11例でDUES陽性であったとしており,今回の筆者らの報告よりもさらに高い頻度であった.また,丸山ら20)は,各種PG関連薬のDUES発生頻度については差がある可能性についても指摘している.今回の症例では,ビマトプロストへ切り替え後,DUES増悪のため,点眼中止とした3例については点眼中止により速やかに症状は改善したが,今後この変化がどの程度で不可逆性の変化になるのかについては注意深い観察を要すると考える.以上,PGF2a誘導体を使用中の状態からビマトプロストへ切り替えを行った症例についてレトロスペクティブな検討を報告した.ビマトプロストへの切り替えにより更なる眼圧下降が持続的に得られる可能性が示唆されたが,DUESなどの副作用についても十分な配慮が必要であると考える.今後はビマトプロストへの切り替え後も無効であった症例についての検討なども含めて,更なる長期的な検討を行っていく予定である.本論文の要旨は第22回日本緑内障学会(2011年)で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BrandtJD,VanDenburghAM,ChenKetal:Comparisonofonce-ortwice-dailybimatoprostwithtwice-dailytimololinpatientswithelevatedIOP.A3-monthclinicaltrial.Ophthalmology108:1023-1032,20012)CantorLB,HoopJ,MorganLetal:Intraocularpressurloweringefficacyofbimatoprost0.03%andtravoprost0.004%inpatientswithglaucomaorocularhypertension.BrJOphthalmol90:1370-1373,2006あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131169 3)WhitcupSM,CantorLB,VanDenburghAMetal:Arandomizeddoublemasked,multicentreclinicaltrialcomparingbimatoprostandtimololforthetreatmentofglaucomaorocularhypertension.BrJOphthalmol87:57-62,20034)CantorLB,WuDunnD,CortesAetal:Ocularhypertensiveefficacyofbimatoprost0.03%andtravoprost0.004%inpatientswithglaucomaorocularhypertension.SurvOphthalmol49(Suppl1):S12-S18,20045)ChenMJ,ChengCY,ChenYCetal:Effectsofbimatoprost0.03%onocularhemodynamicsinnormaltensionglaucoma.JOculPharmacolTher22:188-193,20066)ZeitzO,MatthiessenET,ReussJetal:Effectsofglaucomadrugsonocularhemodynamicsinnormaltensionglaucoma:arandmizedtrialcomparingbimatoprostandlatanoprostwithdorzolamide.BMCOphthalmol5:6,20057)DirksM,NoeckerR,EarlM:A3-monthclinicaltrialcomparingtheIOP-loweringefficacyofbimatoprostandlatanoprostinpatientswithnormaltensionglaucoma.AdvTher23:385-394,20068)SantyS,DonthamsettiV,VangipuramGetal:LongtermIOPloweringwithbimatoprostinopen-angleglaucomapatientspoorlyresponsivetolatanoprost.JOculPharmacolTher24:517-520,20089)北澤克明,米虫節夫:ビマトプロスト点眼剤の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とする0.005%ラタノプロスト点眼剤との無作為化単盲検群間比較試験.あたらしい眼科27:401-410,201010)南野麻美,谷野富彦,中込豊ほか:各種プロスタグランジン関連薬の0.03%ビマトプロスト点眼液への切替えによる眼圧下降効果.あたらしい眼科28:1629-1634,201111)広田篤,井上康,永山幹夫ほか:ラタノプロスト効果不十分例の点眼をビマトプロストに切替えたときの眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科29:259-265,201212)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:5-46,201213)南野桂三,安藤彰,松岡雅人ほか:ラタノプロストからトラボプロストへの切り替えによる眼圧下降効果.あたらしい眼科29:415-418,201214)安達京:ラタノプロスト単独療法におけるタフルプロスト点眼変更による眼圧下降効果の検討.臨眼65:85-89,201115)井上賢治,泉雅子,若倉雅登ほか:ラタノプロストの無効率とその関連因子.臨眼759:553-557,200516)中元兼二,安田典子,南野麻美ほか:正常眼圧緑内障の眼圧日内変動におけるラタノプロストとゲル基剤チモロールの効果比較.日眼会誌108:401-407,200417)曽根聡,勝島晴美,船橋謙二ほか:正常眼圧緑内障に対するタフルプロスト点眼液の眼圧下降効果・安全性に関する検討.あたらしい眼科28:568-570,201118)GandolfiSA,CiminoL:Effectofbimatoprostonpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionwhoarenonresponderstolatanoprost.Ophthalmology110:609-614,200319)AiharaM,ShiratoS,SakataR:Incidenceofdeepeningoftheuppereyelidsulcusafterswitchingfromlatanoprosttobimatoprost.JpnJOphthalmol55:600-604,201120)丸山勝彦:プロスタグランジン関連薬による上眼瞼溝深化(DUES).眼科54:47-52,2012***1170あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(126)