特集●網膜血管疾患アップデートあたらしい眼科31(8):1097.1104,2014特集●網膜血管疾患アップデートあたらしい眼科31(8):1097.1104,2014糖尿病黄斑浮腫の光凝固の進歩DevelopmentofLaserPhotocoagulationforDiabeticMacularEdema大越貴志子*はじめに糖尿病黄斑浮腫に対する光凝固は,黄斑部の機能の温存とレーザーによる組織侵襲という,相反することの両立が要求される特殊な治療である.この特殊性ゆえに,光凝固が始まって以来,およそ30年間にわたり低侵襲でかつ効果的な治療を追究するためレーザー発振装置のハード面,そしてソフトウェアの開発改良が進んでいる.現在なお,理想的な光凝固が完成された段階とはいえないが,レーザー機器の開発の歴史のなかでもこの数年間は最も進歩が盛んな時期といえよう.付加価値のついた新しいレーザー機器が次々と登場し,かつては効果の割には侵襲が大きかった格子状凝固も安全に,かつ簡便にできる治療に改良されつつある.また,近年の光干渉断層計などの画像診断技術の進歩は,照射すべき浮腫の責任病巣を明瞭に描出することで光凝固の質の向上に貢献している.さらに,ナビゲーションシステムを搭載したレーザー機器の登場は,レーザー発振装置と眼底イメージング技術を融合させたまったく新しいタイプのレーザー治療を提供し,光凝固の歴史のなかでの一つの転換期ともいえよう.本稿では,糖尿病黄斑浮腫の光凝固の進歩を,侵襲の軽減という側面から解説するのと同時に,マイクロパルス閾値下凝固,パターンスキャンレーザーに搭載されたエンドポイントマネージメント,さらにナビゲーションシステムを搭載した新しいレーザー照射システムなど,最近進歩し注目されている糖尿病黄斑浮腫の光凝固法について解説する.そして将来の糖尿病黄斑浮腫治療の展望についても述べたい.I糖尿病黄斑浮腫に対するレーザー治療の歴史レーザー治療は1960年代から眼科領域で網膜疾患の治療に用いられていた.糖尿病黄斑浮腫に対するレーザー治療は1973年にPatz1)が報告したのが始まりで,その後,Whitelock2)が,.胞様黄斑浮腫に対する格子状凝固,すなわち中心窩を除く範囲に格子状にレーザーの凝固斑を置く方法を初めて報告し,網膜に適度の侵襲を加えることにより浮腫が改善することが当時から経験的に知られていた.糖尿病黄斑浮腫に対する初めてのエビデンスに基づく報告は1985年に米国の多施設大規模比較研究試験であるETDRS(EarlyTreatmentofDiabeticRetinopathyStudy)3)のReport1であり,早期に黄斑局所光凝固を行うことにより視力が維持されることを報告した.糖尿病黄斑浮腫治療の基本は,毛細血管瘤に対する直接凝固と,浮腫の存在する部位に豆まき状に光凝固を置く格子状凝固のいずれか,または組み合わせであり,この治療法は現在においても糖尿病黄斑浮腫の基本的なレーザー治療法となっている.この当時のレーザーはアルゴンブルー(488nm)またはグリーン(514nm)といった今日黄斑疾患に用いられている波長より短いものであった.その後,液体レーザーである色素レーザーの開発により,黄色や橙色などより波長が長くよ*KishikoOhkoshi:聖路加国際病院眼科〔別刷請求先〕大越貴志子:〒104-8560東京都中央区明石町9-1聖路加国際病院眼科0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(17)1097り黄斑のキサントフィルに吸収されにくい性質の波長が黄斑疾患の治療にふさわしいとの理由で導入されるようになった.しかし,メンテナンスの問題から色素レーザーは姿を消し,マルチカラーレーザー(532nm,561nm,659nm)が広く用いられるようになった.ETDRS3)の黄斑光凝固法(ETDRS凝固)は強いエビデンスに基づいたもので,欧米を中心に世界的に普及した.しかし,その後1990年代にETDRS凝固を施行した患者のなかに,凝固斑の拡大融合による暗点の形成や線維増殖などの合併症が発生し,その反省から,レーザー治療をより低侵襲にする試みがなされるようになった.その流れのなかで,閾値凝固4)や閾値下凝固5)などレーザーの照射条件を見直し,低侵襲なレーザー治療法が開発された.1997に筆者は従来の格子状凝固を低侵Exposuretime襲に改良した低出力広間隔格子状凝固6)を開発し,従来の格子状凝固に匹敵する効果があることを報告した.また,DRCR-net(DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork)は2007年にmodifiedETDRSレーザー7)という,ETDRSレーザーを低侵襲にした方法による臨床試験の結果を報告し,今日さまざまな臨床研究や日常診療で用いられるスタンダードなレーザー治療になっている.一方,1990年代に登場した半導体レーザーは,半導体を用いてレーザーを発振するものであり,冷却装置が不要でコンパクトで持ち運びが可能なレーザーとして,未熟児網膜症治療や眼内レーザー光凝固に用いられていた.波長が800nm前後と長いのが特徴であるが,この長い波長を利用し,レーザーの凝固時間をきわめて短くPulseenvelopePowerPower・・・・・Timeonoff図1IQ577TMによるマイクロパルス閾値下凝固従来の連続波のレーザー(左上)と,マイクロパルス(右上).マイクロパルスを用いることで,選択的に色素上皮を照射可能である.577nmのピュアイエローマイクロパルス(IQ577TM,左下)と,それに搭載されたパターン(右下).これまでマイクロパルス閾値下凝固は凝固斑が見えない治療であったため,照射部位を記憶しながら治療する必要があった.パターンが搭載されたことで,記憶にたどる部分がかなり解消され,術者の負担が軽減した.1098あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(18)図2PascalStreamline577Rのエンドポイントマネージメントトプコン社のパターンレーザーにおけるレーザー照射パターン(右上)とエンドポイントマネージメント.エンドポイントマネージメントにおけるレーザーの侵襲と治療可能領域(左上).レーザー治療が有効であるエネルギー設定は,barelyvisibleからnontherapeuticの間になる(左上⇔).この間の照射条件を自動的に計算するソフトウェアがエンドポイントマネージメントである.術者が治療に必要と判断する閾値下凝固のエネルギー(%)を右下のパネルにて指定すると照射条件を自動的に計算するソフトウェアである.パターンスキャンレーザーではさまざまな格子状凝固のパターンを選択可能である(右上).エンドポイントマネージメントのパターン(下)では,ランドマーク(赤)を設定することが可能である.ランドマークの部分(赤)はbarelyvisibleで黄色の部分が閾値下凝固になる.OCTfor(modified)gridAngiographyFAandICGA図3NavilasRによるイメージガイドレーザー照射NavilasRでは,蛍光眼底撮影や光干渉断層計のイメージ画像を眼底写真に重ね,イメージ画像上で照射部位を指定して光凝固を自動的に行うことが可能である(右上).NavilasRで治療する際は,スリットランプではなく,眼底のIR画像を見ながら治療する(左).術者は,あらかじめ照射する部位を設定するが,照射自体は機械が自動的に行う(右下).あたらしい眼科Vol.31,No.8,20141101(21)2.マイクロパルスレーザーの開発マイクロパルスレーザーとは,きわめて短い凝固時間(μsecond)のレーザー照射を連続して発振し,1照射とするレーザーである(図1).レーザーの凝固時間をきわめて短くすることで,周囲に熱が伝達しないため,網膜色素上皮層を選択的に照射可能とされている.マイクロパルスレーザーを閾値下凝固として照射することで,神経網膜を含めた網膜全体に少なくとも光干渉断層計(OCT)レベルでの形態変化が加わることなしに浮腫を引かせることが可能である.低侵襲レーザー治療の先駆けとなった治療法であるが,閾値下凝固,すなわち基本的に凝固斑は見えないので効果を確認しがたいという問題点があり,普及が遅れた.しかし,近年糖尿病黄斑浮腫の治療として低侵襲レーザーが注目されるようになり,最近新たに開発されるレーザー機器にはマイクロパルスに準じた侵襲の少ないプログラムが搭載されることが少なくない.マイクロパルス閾値下凝固の臨床成績は1997年にFribergら5)による報告が初めてであり,その後,いくつかの報告がなされたが,筆者11)は日本人を対象とし本方法が浮腫の減少に有効であることを報告した.ランダム化した臨床試験として,代表的な報告であるLavinskyら12)の臨床研究によると,modifiedETDRS法7)より,密度の高いマイクロパルス閾値下凝固のほうが,視力の改善も浮腫の改善も優れていたと報告している.マイクロパルス閾値下凝固は今後,従来の格子状凝固に置き換わる可能性が期待されている.3.ピュアイエローマイクロパルス(IQ577TM)と併用療法への期待1990年代に色素レーザーとして普及していた時代の577nmのピュアイエローレーザーを発振する装置が,IRIDEX社より2011年8月に発売された.マイクロパルスを搭載しており,従来の810nmのマイクロパルスより,少ないエネルギーで照射できる.マルチカラーレーザーの561nmより波長が長いためオキシヘモグロビンへの吸収は532nm(グリーン)の1.4倍,561nm(従来のマルチカラーのイエロー)の1.8倍高い.したがって,血管凝固には最も適した波長であり,糖尿病黄斑浮腫のレーザー治療においては,特に毛細血管瘤をローパmildからbarelyvisible(lightgrey)に見直され,フレックの間隔も2フレックごとと侵襲が軽減したプロトコールに変更された.今日一般的に推奨されている格子状凝固の条件は閾値凝固,すなわち凝固斑が見える最低の出力で施行するものである.しかし,閾値凝固といえども,網膜外層に何らかの不可逆的な変化をもたらすものであり,さらなる低侵襲化をめざして閾値下凝固すなわち,閾値より弱いエネルギーで凝固斑が見えない条件で光凝固する方法が試みられるようになった.これまでの研究によれば,網膜に対するレーザー治療は,凝固斑が明瞭に出ない,あるいは,まったく出ない条件で行っても,網膜に何らかの組織変化をもたらし治療効果が期待できるものと推定されている.閾値下凝固を応用した始まりは,後述するマイクロパルス閾値下凝固であり,1999年にRoider8)は0.1秒のアルゴンレーザー閾値下凝固では視細胞の障害がみられたが,3μsの閾値下凝固では視細胞はほとんど温存され網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)に限局した障害となり,照射後に速やかにRPEは再生し,新たなRPEのバリアが形成されたことを報告した.その後,閾値下凝固の基礎研究はしばらく途絶えていたが最近,閾値下凝固の研究が再び注目されるようになった.それを後押ししたのが,後述するエンドポイントマネージメントの開発である.エンドポイントマネージメントは,閾値下凝固の条件を計算するソフトウェアであり,動物実験の結果と物理の法則を組みわせたプログラムである.Lavinskyら9)の報告によれば,閾値のエネルギーの50%で照射すると,網膜外層に修復可能な組織変化をもたらすとされており,このレーザーによる組織変化と修復の過程に浮腫を引かせるケミカルメディエータが関与しているものと推定されている.また,閾値下凝固を行った部位の熱ショック蛋白10)が増加することが知られており,血管内皮増殖因子(vascularendo-thelialgrowthfactor:VEGF)の低下に関連するものと推定されている.後述するマイクロパルス閾値下凝固や,エンドポイントレーザーは,網膜にごく微細な侵襲は加えるが瘢痕を残さずに浮腫を引かせるレーザーで,糖尿病黄斑浮腫に対する格子状凝固としては究極の低侵襲レーザー治療と考えられている.1102あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(22)5.エンドポイントマネージメントと閾値下凝固エネルギーの最適化についてレーザーによる侵襲の程度は凝固斑が凝固直後に見えない閾値下凝固の条件で施行された場合でも何らかの網膜の組織変化が発生しているものと考えられている.この侵襲は術後に蛍光眼底造影(FA)や自発蛍光,OCTなどで確認可能である.また,動物実験では細胞死のマーカーを使用して確認することも可能である.しかし,閾値下凝固の凝固条件と侵襲の程度の関係についてはこれまであまり知られていなかった.閾値下凝固は凝固斑が見えない条件で行う治療であるが,侵襲が極端に少ないと治療効果が期待できず,治療効果が期待できる最低の条件から,凝固斑が後日確認できるやや強めの条件まで,凝固条件の設定範囲にはある一定の幅がある.安全な条件でかつ治療効果が期待できるエネルギー設定の領域は限られてくる.エンドポイントマネージメントとはトプコン社が開発したパターンスキャンレーザーによるマイクロパルスを用いない閾値下凝固の適正条件を決定するプログラミングである.このプログラミングは動物実験による組織侵襲の評価と物理の法則に基づき,レーザーの侵襲の程度を定量化し,閾値下凝固のエネルギー(%)に適合する凝固条件を自動的に計算するソフトウェアである.レーザーの侵襲は出力と時間という2つのパラメータで決定されるが,エンドポイントマネージメントを用いることにより,術者の望む閾値下凝固の条件を自動的に計算し提供してくれる.まだ,臨床データが少ないので最適条件の確立や長期の安全性の検証は今後の課題であるが,閾値下凝固の条件を理論的根拠に基づいて設定することができるソフトウェアとして注目すべきものである.III画像診断の進歩とレーザーへの応用糖尿病黄斑浮腫のレーザー治療は,ETDRSの時代は,立体眼底写真で,浮腫を観察し,さらにFAにより漏出部位や血管閉塞を描出し,施行されていた.近年OCTが開発され,黄斑浮腫の部位を明瞭に視覚的に描出可能となった.OCTの導入により糖尿病黄斑浮腫の病態の解明が進んだことに加え,OCTの普及は光凝固を施行する際の治療計画や術後評価に貢献している.このようワーで照射できることが特徴である.また,マイクロパルスと直接凝固の併用療法13)も可能であり,汎網膜光凝固も同時に施行できる.最近IQ577TMにパターンが搭載され,閾値下凝固がより安全に確実に行えるようになった(図1).IQ577TMの登場により,マイクロパルス閾値下凝固が術者にとってより身近なものになったといえよう.4.格子状凝固のパターン化への進歩格子状凝固は,かつては,凝固部位が明瞭に描出される条件で行っていたため,術者にとって,凝固部位を見失うことはなかった.しかし,近年,閾値凝固や閾値下凝固など,術直後に凝固部位を明瞭に判別できない低侵襲レーザーが普及し始め,術者にとっては,レーザー照射部位を記憶しながら行うという困難がつきまとっていた.しかし,近年,超短時間に複数の凝固斑を置けるパターンスキャンレーザーが開発された.パターンスキャンレーザーの第1号機はPASCALR(現在トプコン社)であるが,その後複数の会社が同様なレーザーを販売している.パターンスキャンレーザーの特徴は,1回の照射で複数の凝固斑をパターンにて照射するシステムであり,汎網膜光凝固を短時間で終了させたり,高出力短時間照射であるため,外層選択的な照射ができ,疼痛が少ない,低侵襲であるなど,さまざまなメリットがあるレーザー機器である.黄斑部の格子状凝固のパターンも,サークル,半円やスクエアなど,さまざまな選択肢があり(図2),閾値凝固,閾値下凝固ともにパターンを用いることで術者の負担は軽減した.固視目標がついているタイプでは中心窩の誤照射を避けることも可能である.また,トプコン社のエンドポイントマネージメントを用いることにより,パターンの端に閾値凝固のランドマークを照射することが可能であり,レーザー照射した部位の確認に有用である(図2).パターンレーザーは短時間照射であるため凝固斑は拡大せず,むしろ縮小傾向14)である.このため通常のグリッドと異なりスペーシングをややつめたほうがよい.パターンスキャンレーザーによる格子状凝固の臨床効果に関する報告は少ないが,短期的には浮腫の減少に効果があったとの報告14)もある.多数例での臨床研究はいまだ報告されていない.あたらしい眼科Vol.31,No.8,20141103(23)な画像診断の進歩は,レーザー治療機器と融合し,後述するナビゲーションシステムを用いたレーザー機器に応用されている.また,近年SD-OCTを用いて凝固部位の断層像を描出することができるようになった.Inaga-kiら13)は,OCTを用いて,格子状凝固の3つの方法,従来のグリッド(閾値凝固),パターンスキャンレーザーによるグリッド,マイクロパルス閾値下凝固で施行されたレーザーの凝固斑を観察し,パターンスキャンレーザーでは外層のみの凝固であり,また継時的に網膜外層の修復が観察されたことを報告している.このようにOCTは照射条件を設定する際の観察ツールとしても有用である.IVナビゲーションシステムを用いたレーザー(NavilasR)ナビゲーションシステムとは,外科手術の際に患者位置と手術器具の位置関係を表示することを目的とした医療機器であり,脳神経外科領域では磁気共鳴画像(MRI)などの画像を術前術中に表示するナビゲーションユニットとして用いられている.眼科領域では,エキシマレーザーに初めてアイトラッキングシステムとして導入された.眼底のレーザー機器としては,初めてOD-OS社がナビゲーションシステムを応用したレーザー照射システムを開発し,NavilasRとして2009年に発売した(図3).シングル,パターンさまざまなモードが選択できる機械である.日本での薬事承認は2014年2月である.現在は532nm短波長のみであるが,海外では2014年4月に577nmでマイクロパルス搭載した機械が発売されている.1.NavilasRのナビゲーションシステムとはNavilasRは指定された照射部位に自動的にレーザー光をナビゲートし照射するシステムでスリットランプを用いない新しいタイプのレーザー機器である.術者は眼底写真や蛍光眼底写真,OCTなどの画像データを患者の眼底イメージ画像に重ね合わせ,レーザー照射部位と条件をあらかじめ設定した治療計画図を作成し,あとは機械が指定された位置に自動的にレーザーを照射する(図3).これまでレーザー治療は術者が眼底を観察しながら手動で照射していたが,このシステムはこれまでの常識を覆す新しいシステムである.このシステムの登場により,これまで術者の経験に頼っていた部分が,治療の標準化や治療の質のコントロールに貢献するものと期待されている.2.NavilasRの特徴最大のメリットは,さまざまな画像診断ツールを用いて適切に照射計画を立てることができることである.たとえば,毛細血管瘤の直接凝固の際はFAにて漏出している部位が対象となるが,実際に漏出部位を確認しながら照射することは,これまでのレーザー機器では困難であった.しかし,このシステムを用いると,FA写真上で照射部位を指定することができるため,確実に漏出している毛細血管瘤のみにターゲットを絞って凝固することが可能となるため,再治療率が減少すると報告されている15).また,OCTの画像を重ねることにより,浮腫の存在する部分のみにターゲットを絞った格子状凝固が可能である.また,安全性の点でも優れた機械でアイトラッキングシステムを用いて正確に狙った位置に照射したり,中心窩や視神経乳頭周囲などにsafetyzoneを設定することで誤照射の回避が可能となる.また,照射中の眼底観察がIR画像であるため,術中の患者の羞明が軽減されることや,無散瞳でも治療可能であることなどメリットは少なくない.その一方,術者がレーザー照射中にレーザー痕を直接観察することができず,タイトレーションモードによる照射直後のカラー眼底撮影によってのみ確認できることや,また準備や操作に時間がかかり,画像のインストールなどに2.3分要すること,照射が始まると途中でパラメータを変更することが困難で,現時点ではパワーのみ変更可能であること,術者がこれまで慣れ親しんできたスリットランプとは異なり,眼底カメラの操作に習熟を要するなど,今後の課題も多い.しかし,次世代レーザー治療システムとして今後の発展が期待されるところである.3.レーザー治療の透明性と遠隔治療への期待今後,閾値下凝固など凝固斑が見えない光凝固が発展すると,照射した部位を記録として保存する適切な方法kiら13)は,OCTを用いて,格子状凝固の3つの方法,従来のグリッド(閾値凝固),パターンスキャンレーザーによるグリッド,マイクロパルス閾値下凝固で施行されたレーザーの凝固斑を観察し,パターンスキャンレーザーでは外層のみの凝固であり,また継時的に網膜外層の修復が観察されたことを報告している.このようにOCTは照射条件を設定する際の観察ツールとしても有用である.IVナビゲーションシステムを用いたレーザー(NavilasR)ナビゲーションシステムとは,外科手術の際に患者位置と手術器具の位置関係を表示することを目的とした医療機器であり,脳神経外科領域では磁気共鳴画像(MRI)などの画像を術前術中に表示するナビゲーションユニットとして用いられている.眼科領域では,エキシマレーザーに初めてアイトラッキングシステムとして導入された.眼底のレーザー機器としては,初めてOD-OS社がナビゲーションシステムを応用したレーザー照射システムを開発し,NavilasRとして2009年に発売した(図3).シングル,パターンさまざまなモードが選択できる機械である.日本での薬事承認は2014年2月である.現在は532nm短波長のみであるが,海外では2014年4月に577nmでマイクロパルス搭載した機械が発売されている.1.NavilasRのナビゲーションシステムとはNavilasRは指定された照射部位に自動的にレーザー光をナビゲートし照射するシステムでスリットランプを用いない新しいタイプのレーザー機器である.術者は眼底写真や蛍光眼底写真,OCTなどの画像データを患者の眼底イメージ画像に重ね合わせ,レーザー照射部位と条件をあらかじめ設定した治療計画図を作成し,あとは機械が指定された位置に自動的にレーザーを照射する(図3).これまでレーザー治療は術者が眼底を観察しな(23)がら手動で照射していたが,このシステムはこれまでの常識を覆す新しいシステムである.このシステムの登場により,これまで術者の経験に頼っていた部分が,治療の標準化や治療の質のコントロールに貢献するものと期待されている.2.NavilasRの特徴最大のメリットは,さまざまな画像診断ツールを用いて適切に照射計画を立てることができることである.たとえば,毛細血管瘤の直接凝固の際はFAにて漏出している部位が対象となるが,実際に漏出部位を確認しながら照射することは,これまでのレーザー機器では困難であった.しかし,このシステムを用いると,FA写真上で照射部位を指定することができるため,確実に漏出している毛細血管瘤のみにターゲットを絞って凝固することが可能となるため,再治療率が減少すると報告されている15).また,OCTの画像を重ねることにより,浮腫の存在する部分のみにターゲットを絞った格子状凝固が可能である.また,安全性の点でも優れた機械でアイトラッキングシステムを用いて正確に狙った位置に照射したり,中心窩や視神経乳頭周囲などにsafetyzoneを設定することで誤照射の回避が可能となる.また,照射中の眼底観察がIR画像であるため,術中の患者の羞明が軽減されることや,無散瞳でも治療可能であることなどメリットは少なくない.その一方,術者がレーザー照射中にレーザー痕を直接観察することができず,タイトレーションモードによる照射直後のカラー眼底撮影によってのみ確認できることや,また準備や操作に時間がかかり,画像のインストールなどに2.3分要すること,照射が始まると途中でパラメータを変更することが困難で,現時点ではパワーのみ変更可能であること,術者がこれまで慣れ親しんできたスリットランプとは異なり,眼底カメラの操作に習熟を要するなど,今後の課題も多い.しかし,次世代レーザー治療システムとして今後の発展が期待されるところである.3.レーザー治療の透明性と遠隔治療への期待今後,閾値下凝固など凝固斑が見えない光凝固が発展すると,照射した部位を記録として保存する適切な方法あたらしい眼科Vol.31,No.8,201411031104あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(24)を構築することが課題となってくる.しかし,これまでのスリットランプによる従来型のレーザー照射では,レーザー治療の施行部位やその条件など,たとえ写真撮影で記録を残しても術者しか知りえない情報が多く,また正確な記録を残すことが事実上不可能であった.また,術者間でレーザーの計画を共有することもできなかった.しかし,NavilasRによる治療は,手術計画図をあらかじめ術者間で共有したり,術後も照射部位の正確な手術記録の保存が可能である.このようにナビゲーションシステムを用いたレーザーシステムの発展はレーザー治療の透明性の向上に貢献するものと思われる.また,遠隔治療への期待など,この新しいレーザーシステムは今後もさらに発展するものと期待される.おわりに糖尿病黄斑浮腫治療は最近わが国でも承認されたVEGF阻害薬による治療がレーザー単独治療より成績が良好との結果から,今日VEGF阻害薬が治療の中心となりつつある.しかし,注射を連続することによる患者の経済的,社会的負担や,注射による全身への影響を懸念して,レーザー治療を上手に組み合わせることにより,注射の回数を減少させることが期待されている.今後レーザーで治療すべき部分はしっかり治療することが,患者負担の減少につながるものと思われる.文献1)PatzA,SchatzH,BerkowJWetal:Macularedema─anoverlookedcomplicationofdiabeticretinopathy.TransAmAcadOphthalmolOtolaryngol77:34-42,19732)WhitelockeRAF,KearnsM,BlachRKetal:Thediabeticmaculopathies.TransOphthalmolSocUK99:314-320,19793)EarlyTreatmentofDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Photocoagulationfordiabeticmacularedema.ArchOphthalmol103:1796-1806,19854)SinclairSH,AlanizR,PrestiP:Lasertreatmentofdiabet-icmacularedema:ComparisonofETDRSleveltreatmentwiththresholdleveltreatmentbyusinghighcontrastdis-criminantcentralvisualfieldtesting.SeminOphthalmol14:214-222,19995)FribergTR,KaratzaEC:Thetreatmentofmaculardis-easeusingamicropulsedandcontinuouswave810-nmdiodelaser.Ophthalmology104:2030-2038,19976)大越貴志子:糖尿病性黄浮腫の光凝固療法─低出力広間隔格子状光凝固.眼紀52:104-111,20017)WritingCommitteefortheDiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:ComparisonofthemodifiedEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyandmildmaculargridlaserphotocoagulationstrategiesfordiabeticmacularedema.ArchOphthalmol125:469-480,20078)RoiderJ:Lasertreatmentofretinaldiseasesbysub-thresholdlasereffects.SeminOphthalmol14:19-26,19999)LavinskyD,SramekC,WangJetal:Subvisibleretinallasertherapy:titrationalgorithmandtissueresponse.Retina34:87-97,201410)SramekC,MackanosM,SpitlerRetal:Non-damagingretinalphototherapy:Dynamicrangeofheatshockpro-teinexpression.Retina52:1780-1787,201111)OhkoshiK,YamaguchiT:SubthresholdmicropulsediodelaserphotocoagulationfordiabeticmacularedemaforJap-anese.AmJOphthalmol149:133-139,201012)LavinskyD,CardilloJA,MeloLAJretal:RandomizedclinicaltrialevaluatingmETDRSversusnormalorhigh-densitymicropulsephotocoagulationfordiabeticmacularedema.InvestOphtalmolVisSci52:4614-4323,201113)InagakiK,IsedaA,OhkoshiK:Subthresholdmicropulsediodelaserphotocoagulationcombinedwithdirectphoto-coagulationfordiabeticmacularedemainJapanesepatients.NihonGannkaGakkaiZasshi116:568-574,201214)JainA,CollenJ,KainesAetal:Short-durationfocalpat-terngridmacularphotocoagulationfordiabeticmacularedema:four-monthoutcomes.Retina30:1622-1626,201015)NeubauerAS,LangerJ,LieglRetal:Navigatedmacularlaserdecreasesretreatmentratefordiabeticmacularedema:acomparisonwithconventionalmacularlaser.ClinOphthalmol7:121-128,2013