特集●カラーコンタクトレンズの安全性を問うあたらしい眼科31(11):1599.1605,2014特集●カラーコンタクトレンズの安全性を問うあたらしい眼科31(11):1599.1605,2014カラーコンタクトレンズのケアLensCareforCosmeticContactLenses東原尚代*はじめにカラーコンタクトレンズ(以下,カラコン)による眼障害が増加している1,2).2014年5月に発表された独立行政法人国民生活センターによる調べでは,通信販売でカラコンを購入する者が約8割だったことより,眼科を受診してレンズケアについて直接指導を受けていないカラコン装用者が非常に多いということがわかかる(http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20140522_1.html).特に,コンタクトレンズを眼科で処方された経験がなく,カラコンを初めて装用するケースでは,友人の装用を見よう見まねで装用するために,眼障害を生じるリスクが高くなる.筆者も患者の希望でカラコンを処方することがあるが,酸素透過性が高く色素が表裏面に露出しない素材で,かつ,安全面から1日使い捨てレンズを選択している.1日使い捨てであればレンズケアは不要なため,普段はカラコンのレンズケアについて考えることがあまりない.しかし,市場に出回るカラコンは1日使い捨てだけでなく,2週間から1年まで使用できる頻回交換型あるいは定期交換型が多い.また,最近は安全性の低いカラコン装用によって眼障害を生じた患者を診る機会も増え,安全な材質のカラコンを装用するよう指導するだけでなく,レンズケアの重要性についても教育する必要性が出てきたように感じる.本稿では,適切なカラコンのケアについて考えてみたい.Iカラコンが推奨するレンズケアは?現在,流通しているカラコンは相当数あるので,すべてのカラコンのケアについて調査することができないが,いくつかのカラコンの添付文書を確認したので紹介する(表1).2ウィークアキュビューディファインRでは,「煮沸消毒はせず,化学消毒のみ使用すること」とあった.ケア方法はこすり洗い併用でありクリアレンズと同様であったが,過酸化水素やポピヨンヨード製剤による消毒の可否について記載はなかった.煮沸消毒を禁忌とする理由についてメーカーに問合せをすると,一般にソフトコンタクトレンズでは煮沸消毒で蛋白質汚れの固着やレンズ変形の恐れがあるためという見解であった.また,メニコンReiRも同様に自社製品を用いた化学消毒を推奨していたが,それ以外の消毒剤を使ってケアすることには記載がなかった.筆者がインターネットやカラコンショップで購入したカラコンの添付文書には,化学消毒のみと記載されているものや眼科医の指導を仰ぐように記載されているもの,また「過酸化水素や煮沸消毒はしないでください」と明確に記載されているものがあった.カラコンは基本的に化学消毒を推奨することが多いようであるが,煮沸消毒や過酸化水素,ポピヨンヨード製剤による消毒については必ずしも記載がない.実際,眼科医に判断を委ねるような記載もあるので,個々のカラコンと各種ケア用品を実際に使用して問題がないか検証する必要があると思われた.*HisayoHigashihara:医療法人博吾会ひがしはら内科眼科クリニック/京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕東原尚代:〒621-0861京都府亀岡市北町57-13医療法人博吾会ひがしはら内科眼科クリニック0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(33)1599表1筆者が調べた頻回交換.定期交換カラコン商品名(販売元)パッケージ外観レンズ素材と規格推奨するレンズケア2ウィークアキュビューディファイン(ジョンソンエンドジョンソン)1箱6枚入り,2週間交換グループIV構成モノマー:2-HEMAおよびMAABC8.3mm,DIA14.0mm・煮沸消毒は禁忌・化学消毒のみグループII2WEEKメニコンRei(株式会社メニコン)構成モノマー:N,N-ジメチルアクリルアミドおよびN-ビニルピロリドン・化学消毒を推奨1箱6枚入り,2週間交換BC8.6mm,DIA14.5mmグラーヴェ2WEEKS(製造販売元:InnovaVision株式会社,販売元:株式会社アイセイ)1箱6枚入り,2週間交換グループI構成モノマー:2-HEMAおよびEGDMABC8.7mm,DIA14.0mm・化学消毒を推奨・ケア用品に関する詳細は眼科医に相談と記載グループI・過酸化水素系の消毒剤おフェアリー(販売:株式会社シ構成モノマー:2-HEMAおよびよび煮沸消毒は禁忌ンシア,製造国:大韓民国)EGDMA・化学消毒のみBC8.6mm,DIA14.2mm1箱2枚入り,1カ月交換グループIティービュー(販売:PIA株式構成モノマー:HEMAおよび・煮沸消毒禁忌会社,製造:大韓民国)EGDMA・化学消毒のみ1箱2枚入り,1カ月交換BC8.6mm,DIA14.5mmツッティヴァニティリッチ(販売:PIA株式会社,製造:大韓民国)1箱2枚入り,1カ月交換グループI構成モノマー:HEMAおよびEGDMABC8.6mm,DIA14.8mm・煮沸消毒禁忌・化学消毒のみキャンディーマジック(販売元:株式会社code,製造販売元:株式会社ElDoradoグループI構成モノマー:2-HEMAおよびEGDMABC8.9mm,DIA14.5mm・化学消毒(過酸化水素消毒を除く)が可能1箱1枚入り,1カ月交換アイラックスイノバ・ガーデングループI(製造販売元:InnovaVision株構成モノマー:2-HEMAおよび・煮沸消毒または化学消毒式会社,販売元:株式会社アイEGDMAと記載セイ)1箱1枚入り,2週間.1年交換BC8.7mm,DIA14.0mm(医師の指導による)HEMA:ヒドロキシエチルメタクリレート,MAA:メタクリル酸,EGDMA:エチレングリコールジメタクリラート,BC:ベースカーブ,DIA:直径1600あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(34)表2ケア用品の長所と短所およびカラコン使用可否についてレンズケアの種類長所短所代表的な製品(販売元)カラーコンタクトレンズ使用可否(添付文書)こすり洗いの有無記載()内はその時間や回数煮沸消毒・優れた消毒効果がある・レンズケースの滅菌もできる・誤使用による眼障害が少ない・SCLの白濁,変形,汚れの固着,劣化などの影響が強い・装用感が変化することがある・巨大乳頭性結膜炎や角膜上皮障害のリスク・コンセントが必要・最近は入手が困難MPS・洗浄とすすぎ,消毒,保存が1本で・煮沸消毒,過酸化水素消毒,ヨード消毒よりレニューRフレッシュ(ボシュロム)全てのコンタクトレンズに使用可○(両面を各々10秒間)行えるので簡便・コンタクトレンズ劣化などの影響が消毒効果が劣る・毎日のレンズケースのオプティ・フリーRプラス(アルコン)全ソフトコンタクトレンズ適用○(両面を各々20秒)少ない・薬液そのものに毒洗浄と乾燥が必要で,1.3カ月に1回は交換するエピカコールド(メニコン)全てのソフトコンタクトレンズに使用可○(両面を各々20.30回)性がないので誤使用による眼障害のリスクがない・レンズ種類との相性がある・稀にアレルギーが生じカラコンケア(メニコン)※エピカコールドと有効成分は同じ全てのソフトコンタクトレンズに使用可○(両面を各々20.30回)・消毒は4時間で完了る場合があるバイオクレンRワン(オフテクス)ソフトコンタクトレンズ(グループI.IV)の消毒○(両面を各々20.30回)カラケア(オフテクス)※バイオクレンワンと有効成分は同じカラコン専用ケア○(両面を各々20.30回)コンプリートR(エイエムオー・ジャパン)すべてのソフトコンタクトレンズに使える○(両面を各々20.30回)過酸化水素消毒・MPSよりも高い消毒効果が期待できる・煮沸消毒より消毒効果が劣る・中和が完了するのに時間がかかる・誤使用による眼障害のエーオーセプトRクリアケアR(アルコン)すべてのソフトコンタクトレンズに使える△(消毒前に別売の保存液でこすり洗いすることで,安全で清潔なレンズを装用することができる)リスクあり・残留過酸化水素による眼刺激症状・中和後の消毒の持続性がないので長期保存できない・こすり洗いする場合には,別売のすすぎ液が必要コンセプトワンステップR(エイエムオー・ジャパン)すべてのソフトコンタクトレンズに使用できるが,虹彩付きソフトレンズ(レンズの虹彩部分に着色しているカラーソフトレンズ)には使用できないと記載あり△(レンズ装用前に,すすぎ液ですすいでから装用することで,レンズをより快適に装用できる)ポピヨンヨード製剤・過酸化水素とほぼ同等の高い消毒効果が期待できる・中和に時間がかかる・ヨウ素に対し過敏症の既往歴があれば慎重使用となるバイオクレンRファーストケアEX(オフテクス)すべてのソフトコンタクトレンズ対応△(中和後,装用する前にレンズの両面を20.30回指で軽くこすり洗いする)○:こすり洗いが必須△:こすり洗いは推奨(35)あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141601表3各種レンズケア(化学消毒)の専用容器レンズケアの種類代表的な製品(販売元)専用容器容器の形態とその特徴MPSレニューRフレッシュ(ボシュロム)ディスクタイプオプティ・フリーRプラス(アルコン)ディスクタイプエピカコールド(メニコン)ディスクタイプカラコンケア(メニコン)ディスクタイプ(女性ウケしそうなパステルピンク色の蓋)バイオクレンRワン(オフテクス)ディスクタイプカラケア(オフテクス)ディスクタイプコンプリートR(エイエムオー・ジャパン)ディスクタイプ過酸化水素消毒エーオーセプトRクリアケア(アルコン)レンズカップに中和ディスクのついたレンズケースが特徴ポピヨンヨード製剤バイオクレンRファーストケアEX(オフテクス)透明なカップと蓋裏に設置されたレンズケースが特徴1602あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(36)図2こすり洗いにて色落ちしたカラコン左:カラコンをこすり洗いしている様子.右:こすり洗いした後,MPSが水色に変色した.図3国内最大直径のカラコントレー左には,アキュビューディファイン(BC8.3mm,DIA14.0mm),右には日本最大のカラコン(BC8.6mm,DIA図1ドラッグストアに陳列されるカラコン専用のMPS14.8mm).一目見ただけでも,サイズの差は歴然である.図4エーオーセプトRクリアケアの専用容器左:中和ディスクのついたレンズホルダー.中:レンズホルダーの計測(10.0mm×10.0mm).右:バスケット(蓋)を内側から計測(16.0mm×16.0mm).図5バイオクレンRファーストケアEXの専用容器左:蓋裏に設置されたレンズホルダー.中:レンズホルダーの計測(15.0mm×15.0mm).右:バスケット(蓋)を内側から計測(13.0mm×13.0mm).図614.8mm径のカラコンを収納したときの様子エーオーセプトRクリアケア(左),バイオクレンRファーストケアEX(右)いずれも巨大カラコンを中央に上手く設置すれば蓋で挟み込むことなく収納できることがわかった.あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141605(39)消毒効果が期待できるが,その添付文書にはカラコン使用不可との記載はなく,こすり洗いも必須ではない(推奨のみ)点で,色素が脱色する恐れのあるカラコンでも使用可能と解釈できるかもしれない.III専用ケースにカラコンは収納できるのか?次に,ケア用品の容器について考えてみたい.ほとんどのMPSの専用容器がディスク状(トレータイプ)であるのでカラコンのサイズは気にせず収納できるが,過酸化水素消毒やポピヨンヨード製剤は特殊な専用ケースであるため,直径の大きなカラコンがホルダー内に収納できるかどうかが問題である(表3).そこで,カラコン使用不可ではないエーオーセプトR(過酸化水素消毒)とバイオクレンRファーストケアEX(ポピヨンヨード製剤)の専用ケースを用いて巨大カラコンの収納が可能か検証を行った.使用したカラコンは,現在,日本で入手できるカラコンのなかで最大直径14.8mmの製品である(図3).エーオーセプトRおよびバイオクレンRファーストケアEXのレンズホルダーのバスケット(蓋)の直径の計測結果を図4,5に示す.実際に,巨大カラコンを入れると,いずれの専用容器も蓋の密閉性が高くない(遊びがある)ために問題なく収納することができた(図6).ただし,カラコンの設置がホルダー中心より大きく偏位した場合には,蓋を閉めたときにレンズを挟み込む危険性があるので注意が必要と思われた.おわりに今回,いくつかのカラコンのレンズケアについて調査したが,おもにMPSでのケアを推奨していた.MPSは,通常,ソフトコンタクトレンズの両面を20.30回こすり洗いする必要があり,こすり洗いをして色落ちするカラコンが少なからず存在するため,そもそも色素の着色に問題があるカラコンはレンズケアの観点からも装用してはいけないと考えられた.また,殺菌力の高さからカラコンにも過酸化水素消毒が望まれるが,カラコン使用不可とする過酸化水素製剤あるいは過酸化水素は使用不可とするカラコンがあることを知っておかなければならず,カラコンあるいはケア用品のそれぞれの添付文書をよく確認する必要があると思われた.また,ポピヨンヨード製剤による消毒の可否について明確に記載したカラコンは筆者が調査した中では存在しなかった.ポピヨンヨード製剤はこすり洗いについても必須ではないことと,巨大サイズのカラコンも収納できる点で,角膜感染症予防の観点からも使用を推奨してもよいかもしれない.文献1)日本コンタクトレンズ協議会CL眼障害調査小委員会:コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査.日本の眼科74:497-507,20032)渡邉潔,植田喜一,佐渡一成ほか:カラーコンタクトレンズ装用にかかわる眼障害調査報告.日本コンタクトレンズ学会誌56:2-10,2014