●連載⑯抗VEGF治療セミナー─使用方法─監修=安川力髙橋寛二6.抗VEGF薬の安全性と使用方法大島裕司九州大学大学院医学研究院眼科学分野滲出型加齢黄斑変性(AMD)に伴う脈絡膜新生血管に対する治療は,抗VEGF薬の登場により劇的に変革し,第一選択の治療法となっている.わが国においても抗VEGF薬による治療が開始されて約4年が過ぎ,その治療効果が示されてきている反面,反復投与による合併症が短期的にも長期的にも危惧されている.本稿では抗VEGF薬の安全性と使用方法について概説する.はじめに滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に伴う脈絡膜新生血管に対する治療は,ペガプタニブ(マクジェンR),ラニビズマブ(ルセンティスR)に代表される抗VEGF薬の登場により劇的に変革し,さらにアフリベルセプト(アイリーアR)の登場によりその選択範囲が広がった.これら抗VEGF薬の投与方法は導入期として最初の3回毎月連続投与後,維持期として毎月投与(monthlyinjection)に代表される固定投与(fixeddosing)や,わが国で広く用いられている病状が悪化したときに投与を行う必要時投与(prorenata:PRN)がある.治療効果を維持するためには,抗VEGF薬投与が長期化,および投与回数が膨大になることも少なくなく,眼科医として眼局所の合併症のみならず,全身への影響をも留意しなければならない.ラニビズマブ(ルセンティスR)多数の臨床試験の結果から,ラニビズマブ月1回の硝子体内投与がスタンダードとなったが,毎月の投与は患者側,医療者側とも負担が大きいため,わが国を含め実臨床の場でおもに行われているのが病状悪化時に投与するPRNである.この方法では毎月投与ほどの効果は得られないことが多いが,視力を比較的維持できている症例が多いことが知られている.しかし,毎月固定投与(monthlyfixeddosing)とPRN,およびラニビズマブとアバスチンを比較したCATT試験では,両薬の間では治療後の視力変化は同等であったが,PRNは毎月投与に劣ると報告されている1).また,種々の臨床試験から同じPRNでもOCT(opticalcoherencetomography,光干渉断層計)でわずかでも滲出がある場合,加療を行(63)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYったほうが視力予後良好であることが知られるようになり,PRNでも最近では以前に比して注射回数が増加していると推察される.Curtisらは,40,841名の抗VEGF療法を受けた患者(ベバシズマブ21,815名,ラニビズマブ19,026名)を後ろ向きに調査し,その全身合併症のリスクを報告している.それによるとベバシズマブのほうが有意に脳卒中(HR:0.78,95%信頼区間:0.64.0.96),および死亡率(HR:0.86,95%信頼区間:0.75.0.98)のリスクを上昇させると報告している2).その理由の一つとして考えられるのが,薬剤の血中への移行である.Carneiroらは,ラニビズマブもしくはベバシズマブを投与された患者の治療後血中VEGF濃度を測定し,導入期終了後1カ月後においてラニビズマブ群は有意な低下は認められなかった(0.7%の低下,p=0.198)が,ベバシズマブ群は有意に血中VEGF濃度が低下していた(42%の低下p=0.0002)と報告している3).この理由は,ラニビズマブは生成過程において,糖化されていないため,元来静注用抗癌剤で糖化蛋白として生成されているベバシズマブに比べて血中で分解されやすい特徴があり,ベバシズマブのほうが血中に残存しやすいためであると推測される.これらのことより,ラニビズマブはベバシズマブに比べて安全性が高いと考えられるが,安全性に問題がないわけではない.Bresslerらは,ANCHOR,MARINA,PIER,SAILORなどの大規模臨床試験のメタアナリシスを行い,元々,心血管イベントのリスクが高い症例では,コントロール群に比べて,ラニビズマブ投与で心血管イベントの発症が有意に高かったことを報告している(OR:7.7,p=0.03)4).眼局所の短期的な合併症は,以前より眼内炎,外傷性白内障,硝子体出血,網膜裂孔,網膜.離などが報告さあたらしい眼科Vol.30,No.9,20131263図1抗VEGF療法後黄斑萎縮が認められた症例a:治療前,b:治療開始後4年.71歳,男性.左)網膜血管腫状増殖(RAP)の診断にてラニビズマブ硝子体内投与を32回施行.黄斑部に萎縮病巣が認められる.視力は治療前(0.15),治療開始4年(0.2)と不変である.れているが,RofaghaらはANCHOR,MARINA,HORIZONなどの7年間の長期成績を報告し,そのなかで自発蛍光による黄斑萎縮が98%に認められ,視力低下の有意な原因になっていたと報告している(p<0.0001)5)(図1).以上のことより,ラニビズマブはベバシズマブより安全性が高いと考えられるが,ハイリスク症例に対しては留意しなければならない.ペガプタニブ(マクジェンR)VEGFアイソフォームのVEGF165を選択的に抑制するペガプタニブの大規模臨床試験にはVISION試験があるが,その臨床効果は,視力維持は可能であったが改善効果に乏しいものであった.3年間の経過観察において心血管イベントの発症はわずか3%で,重篤な出血性イベントも認められていない6).この安全性から,他剤導入期治療によって改善した視力を維持する目的で,維持期にペガプタニブ固定投与を行うというLEVEL試験が行われ,良好な結果が得られている.アフリベルセプト(アイリーアR)アフリベルセプトは,VEGFの受容体とIgGのFcの融合蛋白でVEGFのすべてのアイソフォームのみならず胎盤成長因子をも抑制する.アフリベルセプトはわが国でも2012年に認可されたばかりで大規模臨床試験であるVIEW試験以外の報告はまだ少ない.VIEW試験では,維持期におけるアフリベルセプトの2カ月毎投与は,ラニビズマブ毎月投与に比して非劣性が示された.1264あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013合併症に関しては,心血管イベントおよび高血圧や重篤な出血性イベントもラニビズマブ毎月投与と比べて有意な差は認められなかった7).しかし,ラニビズマブ同様の心血管イベントが発症するリスクは予想され,特にハイリスク症例への投与は慎重を要する.おわりにAMDに対する抗VEGF薬硝子体内投与は治療のゴールデンスタンダードとなっている.視力予後を考えると定期的にproactiveな状態で投与するほうが良好な結果が得られる可能性が高いが,それに伴い,全身的,局所的な合併症のリスクが増加することが懸念され,特にハイリスク症例には注意を要する.われわれ眼科医は,治療のベネフィットと合併症発症リスクを考慮に入れ,慎重に加療し,合併症を可能な限り起こさないように留意しなければならない.文献1)MartinDF,MaguireMG,FineSLetal:Ranibizumabandbevacizumabfortreatmentofneovascularage-relatedmaculardegeneration:two-yearresults.Ophthalmology119:1388-1398,20122)CurtisLH,HammillBG,SchulmanKAetal:Risksofmortality,myocardialinfarction,bleeding,andstrokeassociatedwiththerapiesforage-relatedmaculardegeneration.ArchOphthalmol128:1273-1279,20103)CarneiroAM,CostaR,FalcaoMSetal:Vascularendothelialgrowthfactorplasmalevelsbeforeandaftertreatmentofneovascularage-relatedmaculardegenerationwithbevacizumaborranibizumab.ActaOphthalmol90:e25-e30,20114)BresslerNM,BoyerDS,WilliamsDFetal:Cerebrovascularaccidentsinpatientstreatedforchoroidalneovascularizationwithranibizumabinrandomizedcontrolledtrials.Retina32:1821-1828,20125)RofaghaS,BhisitkulRB,BoyerDSetal:SEVEN-UPStudyGroup.Seven-yearoutcomesinranibizumab-treatedpatientsinANCHOR,MARINA,andHORIZON:AMulticenterCohortStudy(SEVEN-UP).Ophthalmology.2013.doi:10.1016/j.ophtha.2013.03.046.[Epub]6)SingermanLJ,MasonsonH,PatelMetal:Pegaptanibsodiumforneovascularage-relatedmaculardegeneration:third-yearsafetyresultsoftheVEGFInhibitionStudyinOcularNeovascularisation(VISION)trial.BrJOphthalmol92:1606-1611,20087)HeierJS,BrownDM,ChongVetal:Intravitrealaflibercept(VEGFtrap-eye)inwetage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology119:2537-2548,2012(64)