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眼部から分離された腸球菌と便中の腸球菌の比較解析

2014年7月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科31(7):1043.1046,2014c眼部から分離された腸球菌と便中の腸球菌の比較解析戸所大輔*1向井亮*1江口洋*2岸章治*1*1群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学*2徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部視覚病態学野ComparativeAnalysisbetweenEnterococciIsolatedfromEyeandFecalEnterococciDaisukeTodokoro1),RyoMukai1),HiroshiEguchi2)andShojiKishi1)1)DepartmentofOphthalmology,GunmaUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,InstituteofHealthBiosciences,TheUniversityofTokushimaGraduateSchool目的:眼部から分離される腸球菌が腸内細菌に由来するか否か調べること.方法:白内障手術前の結膜.からEnterococcusfaecalisが分離された3名とE.faecalisによる術後眼内炎の1名の便から腸球菌を分離した.E.faecalisが分離された場合,パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)を行いゲノムDNAの相同性を調べた.また各E.faecalis株の病原性因子探索も行った.結果:結膜.からE.faecalisが分離された3名のうち1名の便からE.faecalisが分離された.結膜.と便のE.faecalis株のPFGEパターンは異なっていた.他の患者の便培養では2名からE.avium,1名からE.faeciumが分離された.眼部と便から同一株が検出されたケースは1例もなかった.結論:今回の検討では,眼部E.faecalisが腸内細菌に由来していたケースはなかった.Purpose:Toinvestigatewhetherenterococciisolatedfromtheeyearederivedfromintestinalflora.Method:Threepatientsplanningcataractsurgery,whoseconjunctivalsacsmearswereEnterococcusfaecalis-positive,andonepatientwithpostoperativeendophthalmitisduetoE.faecalis,underwentfecalbacterialculture.WhenE.faecaliswasisolatedfromthestool,thegenomicDNAsoftheocularandfecalstrainswerecomparedbypulsed-fieldgelelectrophoresis(PFGE).VirulencefactorswerealsoexaminedagainsteachE.faecalisstrain.Results:E.faecaliswasisolatedfromthestoolof1ofthe3patientswhoseconjunctivalsacswereE.faecalis-positive.ThePFGEpatternsoftheocularandfecalstrainsisolatedfromthatpatientweredifferent.E.aviumfrom2patientsandE.faeciumfrom1patientwereisolatedfromfecalculturesoftheotherpatients.Ultimately,nopatientpossessedtheidenticalstraininbotheyeandstool.Conclusion:Inthisstudy,E.faecalisintheeyewasnotderivedfromintestinalmicroflora.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(7):1043.1046,2014〕Keywords:腸球菌,結膜.,術後眼内炎,便培養,パルスフィールドゲル電気泳動.enterococci,conjunctivalsac,postoperativeendophthalmitis,fecalculture,pulsed-fieldgelelectrophoresis.はじめに腸球菌(enterococci)は通性嫌気性のグラム陽性球菌であり,ヒト腸管内の常在菌の一つである.通常健常者に対して病原性はないが,免疫不全患者に対して尿路感染症,カテーテル感染,心内膜炎,敗血症などを起こす日和見感染菌である.眼科領域においては,Enterococcusfaecalisが重篤な術後眼内炎を起こすことで知られている.白内障手術後眼内炎の起炎菌はブドウ球菌属(Staphylococcusspp.)やアクネ菌(Propionibacteriumacnes)など眼表面の常在菌が主体であり,眼内炎からの検出株と常在菌の染色体DNAプロファイルが一致した報告1)からも,術後眼内炎の起炎菌の由来は眼表面の常在菌であると考えられている.過去に白内障手術前患者の結膜.培養を行った報告で,高齢者において結膜.からE.faecalisがまれに分離されることがわかっている2.4).筆者が過去に192名の白内障手術予定の患者に対し結膜.擦過部の細菌培養を行ったところ,3名の結膜.からE.faecalisが分離された.分離頻度は1.6%で,この3名はいずれも80歳前後の高齢者だった5).このようにまれに結膜.から分離されるE.faecalisは術後眼内炎の起炎菌となっている可能性が高く,腸球菌眼内炎の原因および病態を解明〔別刷請求先〕戸所大輔:〒371-8511前橋市昭和町3-39-22群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学Reprintrequests:DaisukeTodokoro,DepartmentofOphthalmology,GunmaUniversitySchoolofMedicine,3-39-22Showa-machi,Maebashi,Gunma371-8511,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(117)1043 するうえで重要である.また,筆者らは過去にE.faecalisによる術後眼内炎症例において眼内レンズと便から同一の株が分離された症例を報告した6).しかし,結膜.の腸球菌が患者自身が腸管内に保持している菌株に由来するのか,もしくは環境中に存在する菌株に由来するのか,などの特徴は不明である.今回筆者らは,白内障手術前の結膜.からE.faecalis株が分離された患者3名とE.faecalisによる術後眼内炎の1名を対象に便培養を行い,眼部のE.faecalisが腸内細菌に由来するか否かをパルスフィールドゲル電気泳動(pulsed-fieldgelelectrophoresis:PFGE)を用いて調べた.また,各株の病原性因子の探索および薬剤感受性試験も併せて行ったので報告する.I対象および方法群馬県内の総合病院における平成16年11月から平成18年2月までの1年4カ月間の白内障手術予定の患者192名(男81名,女111名)のうち,結膜.培養でE.faecalisが分離された3名5)(症例1:79歳,男性,症例2:81歳,男性,症例3:78歳,女性)およびE.faecalisによる白内障術後眼内炎の1名(症例4:84歳,女性)を対象とした.前者3名の既往歴は,症例1が高血圧症,前立腺肥大症,脳梗塞,症例2が心房細動,症例3が高血圧症,高脂血症を有していたが,消化器疾患の既往を持つ患者はなかった.結膜.から分離されたE.faecalis株はそれぞれE.faecalisKS-E,E.faecalisKI-E,E.faecalisKO-Eと名付けた.白内障術後眼内炎の症例(症例4)は,平成17年9月に近医での白内障手術の2日後に急性眼内炎を発症し,初診時の矯正視力は0.3だった.既往歴には高血圧症,糖尿病,C型肝炎を有していた.同日硝子体切除術と眼内レンズ摘出術を施行し,最終視力は1.5と良好だったケースである.術中採取した前房水および眼内レンズの細菌培養からそれぞれE.faecalisFM-E1,E.faecalisFM-E2が分離された.以上4名の患者に対し,入院日に同意を得て便を採取しEnterococcus属の選択分離培地である胆汁エスクリン寒天培地に検体を塗布した.37℃にて24時間好気培養を行い,培地の黒変を伴う黒色のコロニーを単離し,ddl遺伝子シークエンス法7)およびBBLクリスタルRGP同定キット(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)により菌種同定を行った.便からE.faecalisが分離された場合,PFGEを行い眼部と便由来のE.faecalis株のゲノムDNAの相同性を調べた.PFGEは既報に従って行い8),制限酵素SmaIにて処理したゲノムDNAパターンを比較した.得られたPFGEパターンはTenoverらの分類基準9)に従って分類した.病原性因子については,溶血毒素とgelatinase/serineproteaseの有無を調べた.溶血毒素は5%ヒト血液寒天培地1044あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014による溶血テストを行い,b溶血環の有無を観察した.Gelatinaseについては,3%ゼラチン添加Todd-Hewitt寒天培地によるゼラチン液化テストを行った.Gelatinaseとserineproteaseは同一プロモーターにより転写され,gelatinase産生株はserineproteaseも同時に産生すること10)からserineprotease活性の測定は省略した.薬剤感受性試験はMueller-Hinton寒天培地およびEtestR(シスメックス・ビオメリュー株式会社)を用い,添付のマニュアルに従って行った.II結果結膜.からE.faecalisが分離された3名の患者のうち,1名(症例3)の便からE.faecalisが分離された(この株をE.faecalisKO-Fと命名).2名(症例1,症例2)の便からはE.aviumが分離され,E.faecalisは分離されなかった.術後眼内炎の患者(症例4)の便からはE.faeciumが分離され,やはりE.faecalisは分離されなかった.今回分離されたE.faecalis6株(結膜.由来3株,便由来1株,眼内炎由来2株)の病原性因子探索の結果を表1に示す.E.faecalisKS-EとE.faecalisKI-Eは溶血毒素を生産し,gelatinase/serineproteaseは生産しなかった.E.faecalisKO-Eは溶血毒素とgelatinase/serineproteaseのいずれも生産しなかった.E.faecalisKO-Fは溶血毒素のみを生産した.眼内炎由来のE.faecalisFM-E1,E.faecalisFM-E2はいずれの病原性因子も生産しなかった.各種抗菌薬に対する薬剤感受性試験の結果を表2に示す.2株(E.faecalisKS-EとE.faecalisKI-E)にトブラマイシン高度耐性,1株(E.faecalisKS-E)にエリスロマイシン耐性を認め,キノロン耐性およびバンコマイシン耐性はなかった.セフェム系およびアミノグリコシド系抗菌薬に対しては自然耐性を示した.今回のE.faecalis6株に対しPFGEを行った.同一患者(症例3)から分離されたE.faecalisKO-EとE.faecalisKO-Fのバンドパターンは異なっており,これら2株は同一株ではなかった(図1).結膜.から分離された3株も,すべて異なる株だった.眼内炎の前房水と眼内レンズからの分離株であるE.faecalisFM-E1とE.faecalisFM-E2のバンドパターンは同一で,この2株は同一株であることがわかった.結果,今回の検討において,眼部と便から同一のE.faecalis株が分離された症例はなかった.III考按なぜ腸内細菌である腸球菌が眼内炎の起炎菌となるのか,眼内炎を起こした腸球菌はどこから来たのか,眼科医であれば誰しも疑問に思ったことがあるのではないか.しかし,結膜.からの腸球菌の分離頻度が高くないうえに,腸球菌によ(118) 表1結膜.,便,術後眼内炎からの分離株と病原性因子Serine溶血毒素GelatinaseproteaseEnterococcusfaecalisKS-E+..EnterococcusfaecalisKI-E+..EnterococcusfaecalisKO-E…EnterococcusfaecalisKO-F+..EnterococcusfaecalisFM-E1…EnterococcusfaecalisFM-E2…表2結膜.,便,術後眼内炎から分離されたE.faecalis株の薬剤感受性E.faecalisE.faecalisE.faecalisE.faecalisE.faecalisKS-EKI-EKO-EKO-FFM-E1/E2CTRX>256>256>256>256>256CAZ>256>256>256>256>256DRPM44442TOB>1,024>1,024161616EM>2560.250.50.1250.25LVFX22224VCM22222最小発育阻止濃度(mg/dl)CTRX:セフトリアキソン,CAZ:セフタジジム,DRPM:ドリペネム,TOB:トブラマイシン,EM:エリスロマイシン,LVFX:レボフロキサシン,VCM:バンコマイシン.る術後眼内炎の頻度がきわめて低いことから,前向き研究によりこの問題を明らかにするのは簡単ではない.筆者らは,E.faecalis眼内炎症例において起炎菌株と同一の株が便から分離された経験6)から,結膜.から通過菌として分離される腸球菌が腸管内の常在腸球菌に由来しているのではないかと考え,眼部からE.faecalisが分離された患者を対象に今回の調査を行った.細菌の伝播経路や同一クローンの拡散を調べるには遺伝子型別解析を行う必要があり,これにはPFGEやrandomlyamplifiedpolymorphicDNAanalysis(RAPD)などフラグメント解析と近年急速に普及したmultilocussequencetyping(MLST)などの配列解析がある.MLST法は菌株のグローバルな広がりをみるのに優れた方法であるが,同一施設内での菌株の一致を証明するにはいまだPFGEがゴールドスタンダードであり,今回はPFGEを行った.結膜.からの腸球菌の分離頻度は1.6.4.8%で2.5),分離された症例はすべて高齢者であった3.5).腸球菌が有意に高齢者から分離される理由については,ブドウ球菌属(Staphylococcusspp.),アクネ菌(P.acnes),コリネバクテリウム属(Corynebacteriumspp.)などからなる常在細菌叢のバランスが高齢になると崩れてくることが多いためと考えられ(119)症例1症例2症例3症例4(kb)Y123456L365242.5285194225145.59748.5Y:Yeastchromosomes,SaccharomycescerevisiaeL:Lambdaladders図1結膜.,便,術後眼内炎から分離されたE.faecalis株の染色体DNAのパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)レーン1:E.faecalisKS-E,レーン2:E.faecalisKI-E,レーン3:E.faecalisKO-E,レーン4:E.faecalisKO-F,レーン5:E.faecalisFM-E1,E.faecalisFM-E2.レーン1.5は異なるPFGEパターンを示す.レーン5と6のバンドパターンは同一である.る.レンサ球菌や緑膿菌などの通過菌もやはり高齢者を中心に分離される3,4).興味深かったのは,腸管内にはE.faecalis以外にもE.faecium,E.durans,E.aviumなどさまざまな菌種が存在するにもかかわらず11)眼表面からはE.faecalisしか分離されなかったことで,過去の報告でも同様の傾向である2.5).星らは白内障術前患者295例に対し結膜.と鼻前庭の培養検査を施行し,E.faecalisは結膜.から4.4%の頻度で分離されたのに対し,鼻前庭からは分離されなかったことを報告している12).一般に細菌には特定の組織親和性がみられる.腸球菌は腸管粘膜,泌尿生殖器粘膜,心内膜に感染を起こすのに対し,下気道粘膜には感染しない.E.faecalisと腸管上皮細胞との接着にはヘパリンやヘパラン硫酸など硫酸化グリコサミノグリカンが関与していることがわかっており13),結膜や鼻粘膜上皮との親和性に関しても今後の研究が期待される.また,今回便培養を行った4症例のうち2例からE.avium,1例からE.faecalis,1例からE.faeciumが分離された.便から分離される腸球菌の優位菌種はE.faecium,次いでE.faecalisであり,E.aviumが分離される頻度は低いとされる11).今回の検討では眼部からE.faecalisが分離された症例に対して便培養を行ったため,検体の採取日が眼と便で一致していない.便からE.faecalisが分離されなかった症例においても,日を変えて再検することで他の菌種が分離される可能性は否定できない.今回の検討で,結膜.とあたらしい眼科Vol.31,No.7,20141045 便からE.faecalisが分離されたのは1例(症例3)のみであり,結膜.のE.faecalisKO-E株と便のE.faecalisKO-F株は同一でなかった.結果として,今回の検討では5株(うち2株は同一株)の眼部由来E.faecalisのうち,腸内細菌に由来しているケースはなかった.結膜.の通過菌として分離されるE.faecalisは患者の保持する腸内細菌由来ではなく環境由来である可能性があり,今後多数例での検討を要すると思われた.文献1)SpeakerMG,MilchFA,ShahMKetal:Roleofexternalbacterialflorainthepathogenesisofacutepostoperativeendophthalmitis.Ophthalmology98:639-649,19912)平松類,星兵仁,川島千鶴子ほか:結膜.内常在菌の季節・年齢性.眼科手術20:413-416,20073)岩崎雄二,小山忍:白内障術前患者における結膜.内細菌叢と薬剤感受性率.あたらしい眼科23:541-545,20064)志熊徹也,石山善三,廣瀬麻衣子ほか:東京都新宿区と山口県柳井市における白内障手術予定患者の結膜ぬぐい液細菌検査の比較.臨眼59:891-895,20055)戸所大輔:特集術後眼内炎の最近の話題腸球菌眼内炎の病態.IOL&RS22:130-133,20086)戸所大輔,岸章治,池康嘉:溶血毒素を生産する腸球菌による術後眼内炎の症例.あたらしい眼科23:229-231,20067)OzawaY,CourvalinP,GalimandM:IdentificationofenterococciatthespecieslevelbysequencingofthegenesforD-alanine:D-alanineligases.SystApplMicrobiol23:230-237,20008)MurrayBE,SinghKV,HeathJDetal:ComparisonofgenomicDNAsofdifferentenetrococcalisolatesusingrestrictionendonucleaseswithinfrequentrecognitionsites.JClinMicrobiol28:2059-2063,19909)TenoverFC,ArbeitRD,GoeringRVetal:InterpretingchromosomalDNArestrictionpatterns:criteriaforbacterialstraintyping.JClinMicrobiol33:2233-2239,199510)GilmoreMS,CoburnPS,NallapareddySRetal:Enterococcalvirulence.Theentetococci(GilmoreMS),p301354,ASMPress,Washington,D.C.,200211)GeraldWT,CookG:Entetococciasmembersoftheintestinalmicrofloraofhumans.Theenterococci(GilmoreMS),p101-132,ASMPress,Washington,D.C.,200212)星最智,大塚斎史,山本恭三ほか:結膜.と鼻前庭の常在細菌の比較.あたらしい眼科28:1613-1617,201113)SavaIG,ZhangF,TomaIetal:Novelinteractionsofglycosaminoglycansandbacterialglycolipidsmediatebindingofenterococcitohumancells.JBiolChem284:18194-18201,2009***1046あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(120)

細菌性結膜炎の眼脂培養による2008年から2011年の抗菌薬の感受性率の変化

2014年7月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科31(7):1037.1042,2014c細菌性結膜炎の眼脂培養による2008年から2011年の抗菌薬の感受性率の変化加茂純子*1荘子万可*1村松志保*2赤澤博美*2阿部水穂*2山本ひろ子*2*1甲府共立病院眼科*2甲府共立病院細菌検査室ChangeinConjunctivitisBacteriaSusceptibilitiestoAntibioticsbetween2008and2011JunkoKamo1),MarkSoshi1),ShihoMuramatsu2),HirokoAkazawa2),MizuhoAbe2)andHirokoYamamoto2)1)DepartmentofOphthalmology,KofuKyoritsuHospital,2)MicrobiologylaboratoryofKofuKyoritsuHospital目的:2008年から4年間の結膜炎の眼脂培養から検出された菌と感受性変化を知る.対象および方法:2008年5月から2012年3月までに甲府共立病院,巨摩共立病院,甲府共立診療所に結膜炎で訪れた患者755人(男382,女385)から採取された延べ1,793の菌株で,平均年齢は63±34歳(0.102歳)であった.眼脂をトランススワブRで採取した.検体を院内細菌検査室で18時間培養し,同定,薬剤感受性検査を行った.感受性を調べた薬剤はテトラサイクリン(TC),ジベカシン(DKB),セフメノキシム(CMX),バンコマイシン(VCM),クロラムフェニコール(CP),オフロキサシン(OFLX),レボフロキサシン(LVFX),トスフロキサシン(TFLX),ガチフロキサシン(GFLX),モキシフロキサシン(MFLX)である.結果:上位5菌種はcoagulase-negativeStaphylococcus(CNS)27%,Corynebacterium27%,Staphylococcusaureus(S.aureus)7%,嫌気性グラム陰性球菌7%,methicillin-resistantStaphylococcusaureus(MRSA)5%であった.2008年度と2011年度を比較すると上位10種の菌種に対して感受性率の落ちた薬剤はCNSに対するCMXが98%から87%,第4世代のキノロンの90%が60%,Psuedomonasaeruginosa(P.aeruginosa)に対してCMXは例数は少ないものの,62.5%が0%,TFLXが100から20%,Streptococcuspneumoniae(S.pneumoniae)に対するTFLXが100から57.1%になった.MRSAに対してVCMは100%,CPは90%以上の感受性を保った.CMXはCNSとP.aeruginosaの感受性率は減ったものの,80%以上の感受性率を持つ菌種が8種あり,CPも同様高い感受性をもつ.逆にTCはCNS,methicillin-sensitiveStaphylococcusaureus(MSSA),MRSAに対して感受性率が増した.結論:2008年と2011年の間では,検出される菌に対する感受性は他のキノロンよりはよいが,第4世代キノロンで減少した.CMXはP.aeruginosa,MRSA以外の結膜炎の第一選択としてよい.P.aeruginosaに対してはDKB,LVFXの選択がよい.使われていないTCの感受性が増した.Purpose:Throughthisprospectivestudy,approvedbytheethicalcommitteeofKofuKyoritsuHospital,tolearnthechangesinincidenceandsusceptibilityofbacteriatakenandculturedfromconjunctivitisdischargeduring4years,startingApril2008.Subjectsandmethod:Subjectswere755individuals(male382,female385;agerange:0.102yrs;avg.age63±34yrs)whoconsultedKofuKyoritsuHospitalandrelatedclinicswhilesufferingfromconjunctivitis,andfromwhomsampledischargewasobtainedwithTransswabR.Aftersampleculturinginourbacteriallaboratoryfor18hours,bacteriawereidentifiedandtheirsusceptibilitiesstudied.Weused10discs:tetracycline(TC),dibekacin(DKB),cefmenoxime(CMX),vancomycin(VCM),chloramphenicol(CP),ofloxacin(OFLX),levofloxacin(LVFX),tosufloxacin(TFLX),gatifloxacin(GFLX)andmoxifloxacin(MFLX).Results:Commonlyidentifiedbacteriawerecoagulase-negativeStaphylococcus(CNS)27%,Corynebacterium27%,S.aureus7%,aerophobicgram-negativecocci7%,methicillin-resistantStaphylococcusaureus(MRSA)5%andsoon.Whenwecomparedsusceptibilitybetween2008and2011,theantibioticswhosesusceptibilityhaddecreasedsignificantlywere:CMXagainstCNSdecreasedfrom98%to87%,4thgenerationfluoroquinoloneagainstCNSfrom90%to60%,CMXagainstP.aeruginosafrom62.5%to0%,TFLX;from100to20%,andTFLXagainstS.pneumoniaefrom100to57.1%.AgainstMRSA,VCMkept100%andCPkepthigherthan90%susceptibility.AlthoughCMXlostsusceptibilitytoCNSandP.aeruginosa,itstillhadmorethan80%susceptibilitytothetop10bacteria.CP〔別刷請求先〕加茂純子:〒400-0034甲府市宝1-9-1甲府共立病院眼科Reprintrequests:JunkoKamo,DepartmentofOphthalmology,KofuKyoritsuHospital,1-9-1Takara,Kofu400-0034,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(111)1037 alsohasgoodsusceptibility.Incontrast,TCincreasedsusceptibilitytoCNS,MSSAandMRSA.Conclusion:Between2008and2011,thefourthgenerationfluoroquinolonelostsusceptibility,althoughitwasbetterthantheotherquinolones.CMXcanbethefirstchoiceforconjunctivitis,exceptwhencausedbyP.aeruginosaorMRSA.ForP.aeruginosa,DKBorLVFXcanbeselected.TC,whichisunavailableinJapan,increasedsusceptibility.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(7):1037.1042,2014〕Keywords:結膜炎,抗菌薬,感受性率.conjunctivitis,antibiotics,susceptibility.はじめに当院の細菌検査室では10種の薬剤の感受性を調べることができる.2005年3月にはテトラサイクリン(TC)眼軟膏が販売中止となり,ガチフロキサシン(GFLX)など第4世代の抗菌薬が市場に出始めた.そこで2005年から2006年の当院の結膜炎などから検出された菌への薬剤の感受性を10種の抗菌薬〔エリスロマイシン(EM),TC,ジベカシン(DKB),セフメノキシム(CMX),スルベニシリン(SBPC),バンコマイシン(VCM),クロラムフェニコール(CP),レボフロキサシン(LVFX),トスフロキサシン(TFLX)(GFLX)〕についてまとめた結果,結膜炎の治療の第一選択(,)としてCMXおよびGFLXがよいと示唆された1).2006年にはやはり第4世代のフルオロキノロン系薬剤(以下,キノロン)であるモキシフロキサシン(MFLX)が登場し,コリマイC(TC)眼軟膏が姿を消し,TCの入った軟膏が市場で入手不能となった.そこでGFLXとの比較のためにMFLXを加えて,2008年に当院における感受性率について年代別にまとめ,統計的に比較検討したが2),やはり,CMX,GFLXを第一選択にするのがよいと考えられた.日本眼感染症学会による眼科感染症起炎菌・薬剤感受性他施設調査(第2報)3)によれば,CMXが最も高度感受性があり,ついでキノロンであることを述べている.MFLXなどの第4世代のキノロンは2種類の細菌のDNA合成酵素を阻害するので,菌の耐性化はしにくいといわれている.これらは結膜に高濃度かつ長い時間停滞し,濃度依存性の殺菌作用を有することから,よいpharmacokinetic/pharmacodynamicsを示す4).はたしてこの4年間で変化がなかったのかどうかを知るのが本研究の目的である.I対象および方法前向きに結膜炎における起炎菌につき下記10種類の薬剤ディスクでの感受性を調べた.今回,2011年の結膜炎患者からの検出菌に対し,感受性試験を実施したので,2008年の結果と比較検討した.2006年度の検討からEMは耐性が多かったために排除し,その代りにMFLXを入れた以下の10種を検討した.すなわち,TC,DKB,CMX,VCM,CP,オフロキサシン(OFLX),LVFX,TFLX,GFLX,MFLXである.なお,本試験は甲府共立病院倫理委員会から承認を受けて実施した.対象は2008年5月から2012年3月までの期間に甲府共立病院,巨摩共立病院と甲府共診療所に結膜炎で訪れた患者755人(男382,女385人)から採取された延べ1,793の菌株で,患者の平均年齢は63±34歳(0.102歳)であった.このうち,2008年〔186人(男75,女111人),平均年齢56.5±40歳(0.100歳)〕,2011年〔209人(男107,女102人),平均年齢61.9±37歳(0.101歳)〕で背景の平均年齢には有意差はなかった(p=0.39).結膜炎患者の眼脂を輸送用培地つき綿棒(トランススワ表1感受性を調べた薬剤の一般名,おもな商品名,ジェネリック商品名略語一般名おもな商品名ジェネリック商品名TCテトラサイクリンテラマイシン(発売中止)なしCMXセフメノキシム塩酸塩ベストロン点眼用0.3%なしDKBジベカシン硫酸塩パニマイシン点眼液0.3%なしCPクロラムフェニコールクロラムフェニコール・コリスチンクロラムフェニコール点眼液0.5%コリマイC点(発売中止)なしコリナコール点眼液VCMバンコマイシン塩酸塩バンコマイシン眼軟膏1%なしOFLXオフロキサシンタリビッド点眼液0.3%・眼軟膏0.3%オフロキシン点眼液0.3%・眼軟膏0.3%LVFXレボフロキサシン水和物クラビット点眼液0.5%,1.5%レボフロキサシン点眼液0.5%多数TFLXトスフロキサシントシル酸塩オゼックス・トスフロ点眼液0.3%なしGFLXガチフロキサシン水和物ガチフロ点眼液0.3%なしMFLXモキシフロキサシン塩酸塩ベガモックス点眼液0.5%なし1038あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(112) ブR)で症状の強い結膜から擦過採取した.その検体を甲府共立病院細菌検査室で18時間培養し,その後同定および薬剤感受性検査を行った.感受性を調べた薬剤はTC,DKB,CMX,VCM,CP,OFLX,LVFX,TFLX,GFLX,MFLXの10種類である.それぞれの薬品の一般名,先発商品名およびジェネリック商品名を表1にまとめた.2008年と2011年の各菌株に関して,各種抗菌薬の感受性を比較し,標本比率の差の検定を行った.p=0.05未満を有意差ありとした.II結果図1は2008年と2011年の菌株の内訳を比較したものである.両年度とも1位Corynebacterium,2位のcoagulasenegativeStaphylococcus(CNS)の2菌株で50%以上を占め,3位a-hemStreptococcus,4位S.aureus,またはmethicillin-sensitiveStaphylococcusaureus(MSSA)そして5位methicillin-resistantStaphylococcusaureus(MRSA)が続く.6位.12位は変動があるが,標本数が少なく,大きな変化は少ないと考えられる.表2は2008年度での1位から10位の菌の抗菌薬への感受性率を,2011年と比較したものである.1位のCorynebacteriumは各世代キノロン系薬剤に対する感受性が低いが,4年間では有意差をもった感受性の低下は認められなかった.その他の抗菌薬に関しても有意差はなかった.2位のCNSに関しては,キノロン系薬剤以外のほうが感受性がよく,有意な感受性の変化が現れたのは,TCで上昇,CMXと第4世代キノロンに対して感受性の低下がみられた.しかし,第4世代はその他の世代のキノロン系薬剤に対して優位な感受性を保っていた.3位のMSSAに関しては,各抗菌薬への感受性は良好で,キノロン系薬剤への感受性も良好であった.4位のMRSAに対してのVCM,CPの抗菌力は4年間で保たれたが,キノロン系薬剤への感受性はほとんどなく,当初感受性があるといわれた第4世代キノロン系薬剤に対しても,有意差はなかったが低下傾向を示した.5位のa-hemStreptococcusはCMX,VCM,CPおよび,第4世代のキノロン系薬剤に感受性があるが,MFLXは2011に有意に感受性率が低下した.6位の嫌気性グラム陽性球菌はと考えられ,CMX,VCM,CPに感受性があった.7位の小児によくみられるHaemophilusinfluenzaeと8位のMoraxellacatarrhalisはVCMを除くすべての薬剤に感受性がある.9位のPseudomonasaeruginosa(P.aeruginosa)に関しては,CMXとTFLXへの感受性が有意に低下していた.キノロン系薬剤への感受性は低下傾向にあった.明らかに低下がないのはDKB1種類のみであった.10位のStreptococcuspneumoniae(S.pneumoniae)は,TFLXに対する(113)2008年検出菌(n=387):1.Corynebacterium5%■:その他10%24%■:発育なし■:12.K.oxytoca4%■:13.G群b型Streptococcus■:8.M.catarrhalis3%■:9.P.aeruginosa3%■:10.S.pneumoniae3%■:11.B群b型Streptococcus1%2%■:5.a.hemStreptococcus2%9%■:6.嫌気性グラム陽性菌3%29%■:7.Haemophilusinfluenzae■:2.CNS1%■■:3.MSSA1%:4.MRSA2011年検出菌(n=517):1.Corynebacterium3%■:その他6%27%■:同定せず■:11.S.pneumoniae7%■:12.P.aeruginosa3%■:9.Moraxellaspp.4%■:10.Neisseriaspp.■:8.M.catarrhalis2%■:5.a-hemStreptococcus2%28%■:6.嫌気性グラム陽性球菌3%■:7.Haemophilusinfluenzae■:2.CNS1%■■:3.MSSA1%11%2%:4.MRSA図12008年(上)と2011年(下)の検出菌株頻度順の内訳両年度とも1位Corynebacterium,2位のcoagulase-negativeStaphylococcus(CNS)の2菌株で50%以上を占め,3位a-hemstreptococcus,4位S.aureus,またはmethicillin-sensitiveStaphylococcusaureus(MSSA)そして5位methicillinresistantStaphylococcusaureus(MRSA)が続く.2008年の上位10菌種は2011年の上位12菌種に入る.感受性が有意に低下していたが,第4世代のキノロンに対する感受性は良好に保たれていた.CMX,VCMが最も有効であった.III考察筆者らの施設の4年前の結果と比較し,結膜炎患者から分離培養される菌株の構成に変化はなかった.以前からキノロン系薬剤の抗菌力の低下5,6)が指摘されているが,CNSを除き,今回の検定では明らかに有意差が証明されたものはごくわずかであった.CorynebacteriumはDNA合成酵素としてDNAジャイレースはもっているが,トポイソメラーゼIVはもっていないために耐性化しやすいことがわかっており,実際にキノロン系薬剤に対して高度に耐性化されていたが,2008年と2011年では有意な変化はなかった.2位のCNS,すなわち表皮ブドウ球菌は,第3世代以前のキノロン系薬剤はすでに感受性が低下していたが,第4世代のGFLX,MFLXが2008年時点で90%台であったものが,あたらしい眼科Vol.31,No.7,20141039 1040あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(114)(114)表22008年度と2011年度の上位細菌の各抗菌剤に対する感受性率薬剤年度1.Corynebacteriumspp.2.CNS3.MSSA4.MRSA5.a-Hem-Streptococcus6.嫌気性グラム陽性球菌7.Haemophilusinfluenzae8.M.catarrhalis9.P.aeraginosa10.S.pneumoniaeTC20082011958382256910010010001396*91**100*614991100100029DKB200820118480794556501001001001379769144293610010010029CMX20082011979897101001001001006310096**87100118391100100**0100VCM20082011981001001001001000001001009910010091100000100CP20082011588997909410010010006358901009489100100100071OFLX20082011334885108842100100881002851911166451001006071LVFX200820113655851094501001001001003152911171551001008071TFLX20082011234982107558100100100100154988116045100100**20*57GFLX20082011419288351005810010010010037**64911180551001006086MFLX2008201139918835100581001005010038**649111**77551001002086標本数2008200920102011108923420161291088105100352627715444126124302337622126614114033183511151757標本比率の差の検定を行い,p<0.05となった箇所には*,p<0.01となった箇所には**を付けた.80%以上の感受性率を示した箇所は網掛けした.薬剤は非キノロン系を上に5種類(TC,DKB,CMX,VCM,CP),下にキノロン系5種類(OFLX,LVFX,TFLX,GFLX,MFLX).表の下部には2008年から2011年の標本数を示した.グラム陽性菌は太字(CNS:Coagulase-negativeStapylococcus,MSSA:methicillin-sensitiveStaphylococcusaureus,MRSA:methicillin-resistantStaphylococcusaureus,Staphylococcuspneumonia),その他はグラム陰性菌(Corynebacteriumspp.,Haemophilusinfluenzae,Moraxellacatarrhalis,Pseudomonasaeruginosa) 2011年には64%と有意に低下していた.山田らの論文6)では2008年の時点で,感受性が低下している原因としてgyrA,gyrB,parC,そしてparEのQRDR(キノロン耐性決定領域)に変異がある株が出ていることが指摘されている.当院ではキノロン系薬剤の長期投与は控えているが,日本でのキノロン系薬剤の使用の増加に伴い,市中の菌の変異が考えられる.8位のMoraxellacatarrhalisもVCMを除くすべての薬剤に感受性がある.その他の全身領域の疾患で問題になることはほとんどなく,抗菌薬曝露が少ないことにより,耐性化がみられないと推測される.P.aeruginosaに対しては,キノロン系薬剤,現状最も効果が期待できるのはDKBである.第一選択として使われるCMXの効力が低下していることも明記すべきである.日本の市場から姿を消したTCに対する感受性は,いくつかの上位菌株で上昇した.このように使用されなくなった抗菌薬に対する感受性は,各菌株で回復していく可能性があると考えられる.逆にいまだ,米国ではクラミジアによる結膜炎などに使用しているTCの耐性化が報告されている7)表2をみると,起炎菌の推定できない結膜炎患者へのempiricな抗菌薬治療の際は,施設入所者,入院患者などP.aeruginosaの関与が推定される患者,MRSA保菌が証明されている患者を除けば,第一選択薬としてはCMX,次点にCPを使用するのが最も効果が期待できる.CPはMRSAに対する抗菌力を保持しており,可能な限り温存したいことを考えれば,第一選択としてはやはりCMXがよいと考えられた.MRSA保菌者の結膜炎に対しては,既報2,3)でも述べたが,今回もCPを第一選択とする.VCM眼軟膏はMRSAの検出をもって初めて使用することができ,薬剤が高価であるため,結果として耐性化が抑制されていると推測される.わが国における他の研究をみると,結膜炎に関しては,2004年からの5年間のCOI細菌性結膜炎検出菌スタディグループの研究では8),検出菌の1位がStaphylococcusepidermidis,2位がPropionibacteriumacnes,3位がStreptococcusspp.,そしてS.aureusと続くが,全菌種を合わせるとLVFX,CMXがよい感受性を示したと述べている.感染性角膜炎診療ガイドライン(第2版)9)によれば,角膜炎においてグラム陰性桿菌疑いではキノロン系+アミノグリコシド系,グラム陽性球菌疑いではキノロン系+セフェム系を推奨している.これはキノロン系薬剤のpostantibioticeffect(点眼後組織に長くとどまる現象)を期待しているからである.太根ら10)は高齢者の細菌性結膜炎における臨床分離菌と薬剤感受性を調べているが,筆者らの研究と同様MRSE,MRSAにはCP,VCMが有効で,キノロン系薬剤で初期治(115)療を受けていた症例では耐性化と混合感染がみられたことを指摘,さらにTCが有効と述べている.このように抗菌薬の選択については,どの研究も同様の選択をしている.一方,ヨーロッパでは結膜炎は一般的に1.2週間で自然治癒するので,抗菌薬を使わないこともあるが,病期を短縮する目的で使われる抗菌薬の第一選択はキノロン系薬剤ではなく,CPやフシジン酸(fusidicacid)である11).局所または全身にキノロン系薬剤が使われると,3カ月以内に耐性を示すS.aureusは29%だが,使っていないものは11%と有意な差がある12),とのヨーロッパの報告に対し,米国では,アジスロマイシンよりも第3,4世代のキノロン,GFLX,MFLXのほうが脈絡膜新生血管治療における細菌感染予防のための点眼において,S.aureusやCNSの耐性をつくりにくいことが報告されている13).しかし,19.60%のS.pneumoniae,85%のMRSAが耐性をもっている.第4世代,なかでもBesifloxacinは耐性が少ない14).以上のように,ヨーロッパではキノロンを第一選択とせず,米国ではむしろ第3,4世代と新しいキノロンを第一選択とするような論文が多い.今回の筆者らの研究で,耐性化しにくいといわれていた第4世代のキノロン系薬剤である,GFLX,MFLXの感受性の低下もあり,結膜炎に対する第一選択薬として多く使用されることが予想されるキノロン系抗菌薬の適正利用に留意する必要があると考えられた.本論文は第117回日本眼科学会(2013年4月東京)において発表した.文献1)加茂純子,喜瀬梢,鶴田真ほか:感受性からみた眼科領域の抗菌薬選択2006.臨眼61:331-336,20072)加茂純子,村松志保:感受性から見た眼科領域の抗菌薬選択2008.臨眼63:1635-1640,20093)秦野寛,井上幸次,大橋裕一ほか(眼感染症スタディグループ):前眼部・外眼部感染症起炎菌の薬剤感受性.日眼会誌11:814-824,20114)Benitez-Del-CastilloJ,VerbovenY,StromanDetal:Theroleoftopicalmoxifloxacin,anewantibacterialinEurope,inthetreatmentofbacterialconjunctivitis.ClinDrugInvestig31:543-557,20115)McDonaldM,BlondeauJM:Emergingantibioticresistanceinocularinfectionsandtheroleoffluoroquinolones.JCataractRefractSurg36:1588-1598,20106)YamadaM,YoshidaJ,HatouS:MutationsinthequinoloneresistancedeterminingregioninStaphylococcusepidermidisrecoveredfromconjunctivaandtheirassociationwithsusceptibilitytovariousfluoroquinolones.BrJOphthalmol92:848-851,2008あたらしい眼科Vol.31,No.7,20141041 7)AdebayoA,ParikhJG,McCormickSAetal:ShiftingtrendsininvitroantibioticsusceptibilitiesforcommonbacterialconjunctivalisolatesinthelastdecadeattheNewYorkEyeandEarInfirmary.GraefesArchClinExpOphthalmol249:111-119,20118)小早川信一郎,井上幸次,大橋裕一ほか:細菌性結膜炎における検出菌・薬剤感受性に関する5年間の動向調査(多施設共同研究).あたらしい眼科28:679-687,20119)日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン第2版作成委員会(井上幸次委員長):第3章感染性角膜炎の治療.日眼会誌117:491-496,201310)太根伸浩,北川清隆,勝本武志ほか:高齢者の細菌性結膜炎における臨床分離菌と薬剤感受性.臨眼67:991-996,201311)Bremond-GignacD,ChiambarettaF,MilazzoS:AEuropeanperspectiveontopicalophthalmicantibiotics:currentandevolvingoptions.OphthalmolEyeDis24:29-43,201112)FintelmannRE,HoskinsEN,LietmanTMetal:Topicalfluoroquinoloneuseasariskfactorforinvitrofluoroquinoloneresistanceinocularcultures.ArchOphthalmol129:399-402,201113)KimSJ,TomaHS:Ophthalmicantibioticsandantimicrobialresistancearandomized,controlledstudyofpatientsundergoingintravitrealinjections.Ophthalmology118:1358-1363,201114)McDonaldM,BlondeauJM:Emergingantibioticresistanceinocularinfectionsandtheroleoffluoroquinolones.JCataractRefractSurg36:1588-1598,2010***1042あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(116)

小児涙道疾患における鼻性鼻涙管狭窄の特徴

2014年7月31日 木曜日

《第2回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科31(7):1033.1036,2014c小児涙道疾患における鼻性鼻涙管狭窄の特徴松村望*1後藤聡*2藤田剛史*1平田菜穂子*1大野智子*1*1神奈川県立こども医療センター眼科*2東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科RhinogenousNasolacrimalDuctStenosisinInfantsNozomiMatsumura1),SatoshiGoto2),TakeshiFujita1),NaokoHirata1)andTomokoOhno1)1)DepartmentofOphthalmology,KanagawaChildren’sMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicine,KatsushikaMedicalCenter小児に先天鼻涙管閉塞と同様の流涙・眼脂の症状があり,色素残留試験は陽性であるが通水試験が通過する症例を鼻性鼻涙管狭窄と仮定し特徴を調べた.代表症例の検査所見は,色素残留試験は陽性,通水試験は分泌物を含んだ逆流がみられ,涙道造影では造影剤は鼻腔内へ漏出,涙道内視鏡所見は膜性鼻涙管の粘膜の密着,鼻内視鏡所見は下鼻甲介が外側寄りで下鼻道が押しつぶされたように狭いという特徴があった.2011年から2年間に神奈川県立こども医療センター眼科を初診し,涙道疾患があり色素残留試験が陽性で全身疾患を伴わない110例148側(平均月齢14.1カ月)のうち,臨床的な特徴から鼻性鼻涙管狭窄と考えられた症例は14例20側(13.5%)みられた.初診時月齢は平均20.2±11.5カ月であり,症状が間欠的な症例が78%,鼻炎を伴う症例が50%にみられた.鼻炎治癒後の治癒,通水試験後治癒,涙管チューブ挿入後の治癒,自然治癒がみられた.Purpose:Ininfantswithnasolacrimalductobstruction,irrigationwaspossiblewithpositiveresultsonthefluoresceindisappearancetest(FDT).Wesupposethesecasesasrhinogenousnasolacrimalductstenosis,becauseofnarrowinferiornasalmeatusofinfants.CasesandMethods:Thisstudyinvolved110infants(averageage:14.1months)withpositiveFDT,seenduringthepast24months.Results:Thecharacteristicsofrhinogenousnasolacrimalductstenosisseemtobeasfollows;FDTwaspositive,irrigationwaspossiblewithrefluxofsecretion,contrastradiographyofnasolacrimalductshowedleakageofcontrastmediumforinferiormeatus,lacrimalendoscopicexaminationshowedlowerendofnasolacrimalductstenosis,andnasalendoscopicexaminationshowednarrowinferiormeatus.Anaverageageatfirstvisittoourhospitalwas20.2±11.5months.7outof14cases(50.0%)hadrhinitisand7outof9cases(79.1%)hadintermittentsymptoms.Conclusion:OfallFDT-positiveinfants,13.5%hadrhinogenousnasolacrimalductstenosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(7):1033.1036,2014〕Keywords:鼻性鼻涙管狭窄,涙道内視鏡,色素残留試験,通水試験,自然治癒.rhinogenousnasolacrimalductstenosis,dacryoendoscopy,fluoresceindisappearancetest,irrigationtest,spontaneousresolution.はじめに色素残留試験(fluoresceindisappearancetest:FDT)は,非侵襲的で簡便に先天鼻涙管閉塞(congenitalnasolacrimalductobstruction:CNLDO)を診断する方法として有用とされており,その感度は90%,特異度は100%とする報告がある1).しかし,筆者らはCNLDOを疑われた5歳未満の小児31例にFDTと通水試験の両方を行いその一致率を調べた結果,FDT陽性小児の13.3%は通水が通り,結果が不一致であったと報告した2).筆者らは今回これらの「流涙・眼脂の症状がみられ,FDTは陽性であるが通水試験は通過する小児例」を鼻性鼻涙管狭窄と仮定し,その特徴を調べた.I対象および方法2011年1月から2013年1月に涙道疾患を疑われて神奈川県立こども医療センター眼科(以下,当科)を初診した143例198側を対象とした.全例にFDTを行い,FDTが陽性の症例のなかで,睫毛内反などの明らかな涙道疾患以外の疾患を有する症例を除外した.また,染色体異常,顔面奇〔別刷請求先〕松村望:〒232-8555横浜市南区六ッ川2-138-4神奈川県立こども医療センター眼科Reprintrequests:NozomiMatsumura,DepartmentofOphthalmology,KanagawaChildren’sMedicalCenter,2-138-4Mutsukawa,Minami-ku,Yokohama232-8555,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(107)1033 図1鼻性鼻涙管狭窄の通水試験分泌物を含む逆流がみられる.図3鼻性鼻涙管狭窄の色素残留試験1歳7カ月,女児.左眼の流涙・眼脂がみられ,左眼の色素残留試験は陽性.直後に行った通水試験は,分泌物を含む逆流を伴ったが,通過した.形などの全身疾患を伴う症例を除外した.これらを満たす6歳未満の小児110例148側(男性56例,女性54例,平均月齢14.1±13.9カ月)を対象とし,後ろ向きに調査した.本調査については院内倫理委員会にて承認を得た.II結果1.代表症例14歳,女児.1歳ころから左眼の流涙・眼脂の症状が出現.眼脂の程度は多いときと少ないときがあったが,最近は持続的に眼脂がみられる.鼻炎,結膜炎の既往なし.FDTは左眼のみ陽性であった.全身麻酔下での通水試験では分泌物を含んだ逆流がみられたが(図1),涙道造影では鼻腔内に造影剤の漏出がみられた(図2).涙道内視鏡検査では,涙道内に分泌物の貯留がみられた.膜性鼻涙管部分から下部開口部まで,涙道粘膜はぴったりと密着していたが,閉塞はみられなかった.この部分の粘膜の密着をはがすようにして涙道内視鏡を進め,涙管チューブを挿入した.涙道内に他の病変はみられなかった.鼻内視鏡検査では,健側の右の鼻涙管開口部は観察可能で異常はみられなかったが,患側の左側は下鼻甲介が外側寄りで下鼻道は押しつぶされたように狭く,鼻涙管開口部を確認できなかった.術直後より症状は消失し,色素1034あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014図2鼻性鼻涙管狭窄の涙道造影造影剤の鼻腔内への漏出がみられる.矢印:仰臥位のため鼻腔内に貯留した造影剤.残留試験も陰性となった.術後20日で涙管チューブを抜去し,術後2年の現在も症状はなく治癒している.2.代表症例21歳7カ月,女児.生後8カ月ころから左眼の流涙・眼脂の症状が出現.眼脂は多いときと少ないときがあるが,いつも左眼が涙でうるんでいる.CNLDOを疑われて当科を紹介受診した.鼻炎,結膜炎の既往なし.FDTは左眼のみ陽性であった(図3).鎮静下での通水試験は,分泌物を含んだ逆流がみられたが,強い抵抗はなく通過した.通水試験後,眼脂の症状は軽快した.その後も左眼がときどき涙でうるむ感じは断続的に続き,FDTは受診時によって陽性の日も陰性の日もあったが,1年後には症状が消失し,自然治癒した.代表症例1はFDT,通水試験,涙道造影,涙道内視鏡検査,鼻内視鏡検査の結果から,鼻性鼻涙管狭窄であると診断した.代表症例2は内視鏡検査は行っていないが,臨床経過,FDT,通水試験の結果から,代表症例1と類似の病態であると推察した.代表症例と同様の症例がこれらを含めて14例20側みられたため,これらを鼻性鼻涙管狭窄と仮定し,特徴を調べた.3.初診時月齢鼻性鼻涙管閉塞と考えられた14例の初診時月齢は平均20.2±11.5カ月であった.同期間に狭義CNLDOと診断した50例の初診時月齢は,平均11.2±9.1カ月であった.狭義CNLDOの診断は,対照群のなかで,流涙・眼脂の症状が生後2カ月未満に発症,FDT陽性,鎮静下または全身麻(108) 酔下での通水試験が不通,以下の疾患(涙点閉鎖・涙小管形成不全・先天性涙.ヘルニア・後天性涙道閉塞・涙.皮膚瘻)を除外を満たすものとした.4.鼻炎の既往14例中7例(50.0%)に鼻炎の既往があった.5.症状の間欠性症状の持続性が確認できた9例について,おもに眼脂の症状が間欠的であった症例は7例(77.8%),持続的であった症例は2例(22.2%)であった.6.患側14例中8例(57.1%)は両側性であり,6例(42.8%)は片側性であり,両側性のほうがやや多かった.7.治療鼻炎のあった7例中6例は鼻炎の治療および治癒により治癒した.自然治癒2例,通水試験後治癒2例,涙管チューブ挿入による治癒1例,経過観察中3例であった.III考按小児の涙道狭窄や閉塞は,そのほとんどが狭義CNLDO,すなわち鼻涙管下端の膜状閉鎖であると考えられてきた1,3,4).CNLDOに対するFDTの特異度は100%であるとする報告があるが1),これは低年齢の小児においては,FDT陽性の症例全例が先天性の鼻涙管閉塞であり鼻涙管狭窄は存在しないとも捉えられる.しかし,実際の臨床においては,CNLDOと似た流涙・眼脂の症状を呈し,色素残留試験は陽性であっても通水が通過する症例を経験する.今回はこのような症例に対し,涙道造影,涙道内視鏡,鼻内視鏡にて精査を行った症例の所見をもとに鼻性鼻涙管狭窄という病態を仮定し,同様と推察される症例の臨床的特徴について報告した.小児の下鼻道は一般的に未発達で狭いため,鼻涙管開口部付近での通過障害を起こしやすいと推察される.上気道炎や鼻炎などが加わった際に,鼻粘膜の炎症や浮腫をきたすことでさらに通過障害を起こしやすくなると考えられる.上気道炎や鼻炎は生後しばらくしてから罹患し,症状も変動するため,発症時期にばらつきが生じたり症状が間欠的であったりすると推察される.そして,鼻粘膜の炎症が治癒したり下鼻道が発達したりすることで,鼻涙管開口部付近の狭窄が解除され,自然治癒するケースがあると推察される.また,通水試験や涙管チューブ挿入を行った場合,鼻涙管の通過障害が一旦解除され,分泌物などが洗い流されることで症状が軽快し,治癒に至るケースもあると考えられる.今回報告した症例の臨床的な特徴や内視鏡所見から,小児が鼻涙管狭窄を起こす場合のおもな原因は,下鼻道の物理的な狭さではないかと筆者らは推察している.一方で,成人における原発性鼻涙管閉塞・狭窄の原因はいまだ不明ではあるが,涙道粘膜における何らかの炎症の結果,涙道粘膜上皮の扁平上皮化生や線維化を起こすことによると考えられており,おもな原因は涙道粘膜の炎症と考えられている5).このように,小児と成人の鼻涙管狭窄は,おもな原因が異なると考えられる.原因の違いは予後や治療方針の違いにつながり,成人の鼻涙管狭窄や閉塞は一般的に自然治癒しないが,小児の鼻涙管狭窄や閉塞は自然治癒しやすいという違いにつながると考えられる.今回報告したような鼻涙管狭窄と考えられる小児が一定の割合でみられることから,局所麻酔下での通水試験が困難な小児にFDT陽性のみでCNLDOと診断した場合,鼻涙管狭窄の症例が一定の割合で混在すると考えられる.本報告において,鼻性鼻涙管狭窄と考えられた症例の平均初診時月齢が20.2カ月であり,狭義CNLDOと診断した症例の平均初診時月齢11.2カ月よりも高い傾向がみられたことから,比較的高月齢の小児に鼻涙管狭窄の割合が高いのではないかと推察された.CNLDOの治療時期について,Youngらは生後12カ月で重症の場合と,生後18カ月で軽症の場合,プロービングを推奨している1).また,林らは生後18カ月以上でプロービングを検討し,24カ月以上は全例プロービングを検討すべきとしている6).今回の報告で鼻性鼻涙管狭窄と考えられた症例の平均初診時月齢が20.2カ月(1歳8カ月)であったことから,プロービングを考慮すべき月齢で初診する症例のなかに鼻性鼻涙管狭窄の症例が一定数含まれる可能性を考慮する必要があると考えられた.このため筆者らは小児の涙道疾患の診断を行う際に,・発症時期が生後2カ月以降・初診時月齢が生後12カ月以降・症状が間欠的・鼻炎の既往があるこのような症例は鼻性鼻涙管狭窄を念頭におき,耳鼻科の紹介による鼻炎の有無の確認や,経過観察による症状やFDTの変動の確認などを行っている.また,涙点閉鎖や流行性角結膜炎後の涙道内瘢痕癒着などの後天性涙道閉塞も高月齢の小児例が多いため,涙点および結膜の観察や,結膜炎の既往に関する問診を重視している.それでもCNLDOとの鑑別が困難な症例に治療方針を決定する際には,可能な月齢の症例には鎮静下での通水検査を確定診断のために行っている.これにより,さらに長期の経過観察が可能な症例と,プロービングを行うべき症例の鑑別が可能となる場合があると考えられる.今回筆者らは鼻性鼻涙管狭窄という病態を仮定したが,CNLDOと同様の症状を呈する低年齢の小児のなかに,鼻涙管下端の膜状閉鎖のような器質的な閉塞がない症例が含まれる可能性を認識することは,小児の涙道疾患の診断と治療を行ううえで重要であると考えられた.(109)あたらしい眼科Vol.31,No.7,20141035 利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MacEwenCJ,YoungJD:Thefluoresceindisappearancetest(FDT):anevaluationofitsuseininfants.JPediatrOphthalmolStarbismus28:302-305,19912)松村望,後藤聡,石戸岳仁ほか:先天性鼻涙管閉塞症に対する色素残留試験の感度.臨眼67:669-672,20133)YoungJD,MacEwenCJ:Managingcongenitallacrimalobstructioningeneralpractice.BMJ315:293-296,19974)PediatricEyeDiseaseInvestigatorGroup:Primarytreatmentofnasolacrimalductobstructionwithprobinginchildrenyoungerthan4years.Ophthalmology115:577584,20085)McCormickSA,LinbergJV:Pathologyofnasolacrimalductobstruction.LacrimalSurgery(LinbergJV),p169202,ChurchillLivingstone,NewYork,19886)林憲吾,嘉鳥信忠,小松裕和ほか:先天鼻涙管閉塞の自然治癒率および月齢18カ月以降の晩期プロービングの成功率:後ろ向きコホート研究.日眼会誌118:91-97,2014***1036あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(110)

身体障害者手帳申請を行った緑内障患者の検討(2012年版)

2014年7月31日 木曜日

《第24回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科31(7):1029.1032,2014c身体障害者手帳申請を行った緑内障患者の検討(2012年版)瀬戸川章*1井上賢治*1添田尚一*2堀貞夫*2富田剛司*3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科InvestigationofPhysicalDisabilityCertificateDeclaredbyGlaucomaPatients(2012)AkiraSetogawa1),KenjiInoue1),ShoichiSoeda2),SadaoHori2)andGojiTomita3)1)InouyeEyeHospital,2)Nishikasai-InouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:視覚障害による身体障害者手帳申請を行った緑内障患者の検討.対象および方法:2012年1.12月に井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に通院中の緑内障患者39,745例のなかで視覚障害による身体障害者手帳の申請を行った73例(男性36例,女性37例,平均年齢72.4±12.5歳)を対象とした.申請時の緑内障病型,障害等級を調査した.さらに2005年に行った同様の調査と比較した.結果:病型は原発開放隅角緑内障が46例(63.0%)と最多であった.障害等級は1級13例(17.8%),2級40例(54.8%)とを合わせて70%を超えていた.結論:原発開放隅角緑内障で重症例が多かった.2005年の調査と比較して,緑内障病型,障害等級に変化はなかった.Purpose:Toreporttheresultsofglaucomapatients’applicationforvisuallyhandicappedstatuscertification.ObjectsandMethod:Thisretrospectivestudyinvolved73patients(36males,37females,averageage:72.4±12.5years)whoappliedforthephysicallyhandicappedpersons’cardforvisualimpairmentfromJanuarythroughDecember2012,byregularlygoingtoInouyeEyeHospitalandNishikasai-InouyeEyeHospital.Glaucomatypeandgradeattimeofapplicationwereinvestigatedandcomparedwiththesameinvestigationconductedatourinstitutionin2005.Results:Primaryopen-angleglaucomanumbered46cases(63.0%),themostnumeroustype.Theclassesexceeded70%forthecombinedfirstgrade(13cases,17.8%)andsecondgrade(40cases,54.8%).Conclusion:Incomparisonwiththe2005surveyresults,glaucomatypeandgradeatthetimeofapplicationforthephysicallydisabledcertificatedidnotchange.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(7):1029.1032,2014〕Keywords:緑内障,視覚障害,身体障害者手帳.glaucoma,visualimpairment,physicallydisabilitycertificate.はじめに井上眼科病院におけるロービジョン専門外来受診者の実態を以前に報告した1).そのなかで原因疾患の第1位は緑内障(49%),第2位は網膜色素変性症(17%)であった.斉之平ら2)は,鹿児島大学附属病院のロービジョン外来受診者の原因疾患は,第1位は黄斑変性(52%),第2位は緑内障(30%)と報告した.ロービジョン外来を受診する原因疾患として緑内障は高い割合を占めると考える.身体障害者手帳申請者は井上眼科病院での2005年調査3)では,緑内障(23%),網膜色素変性症(17%),黄斑変性(12%)が原因疾患の上位を占めていた.また井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院での2009年調査4)では,第1位は網膜色素変性症(28.0%),第2位は緑内障(22.5%),第3位は網脈絡膜萎縮(11.9%)であった.視覚障害者を対象とした調査では,大澤ら5)は,変性近視,糖尿病網膜症,緑内障が,高橋6)は糖尿病網膜症,網脈絡膜萎縮,緑内障が,谷戸ら7)は糖尿病網膜症,緑内障,加齢黄斑変性症が原因疾患の上位であると報告している.視覚障害の原因疾患としても,やはり緑内障は高い割合を占めると考える.ロービジョン外来受診者や身体障害者手帳取得者の原因疾患として緑内障は上位である.それらの緑内障患者の実態を知ることは失明予防の観点からは重要である.緑内障にはさまざまな病型があり,また病型により重症度や身体障害者手帳該当者に違いを有する可能性もある.そこで井上眼科病院において2005年に視覚障害による身体障害者手帳の申請を行った緑内障患者の実態を報告した8).今回筆者らは,井上〔別刷請求先〕瀬戸川章:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:AkiraSetogawa,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(103)1029 眼科病院と西葛西・井上眼科病院で2012年に身体障害者手帳の申請に至った疾患の第1位である緑内障患者の実態を再び調査した.さらに2005年調査8)と比較した.I対象および方法2012年1.12月までに井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に通院中の緑内障患者39,745例のうち,同時期に視覚障害による身体障害者手帳の申請を行った73例(男性36例,女性37例)を対象とし,後向きに研究を行った.年齢は35.92歳で,平均年齢は72.4±12.5歳(平均±標準偏差)であった.身体障害者手帳申請時の緑内障病型,視力,視野,障害等級を身体障害者診断者・意見書の控えおよび診療記録より調査した.2005年に井上眼科病院で行った同様の調査8)と緑内障病型ならびに視覚障害等級の内訳をIBM統計解析ソフトウェアSPSSでANOVAおよびc2検定を用いて比較した.有意水準はp<0.05とした.なお,緑内障病型については続発緑内障の原因が多岐にわたっていたため合算し,原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,原発閉塞隅角緑内障,続発緑内障の4群として検討した.2005年調査8)と今回調査の違いは,対象者が2005年調査8)では井上眼科病院通院中の患者のみだったため35例で,今回の73例より少なかった.また,2007年にも井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院で視覚障害による身体障害者手帳申請者の調査を行った4)が,そのなかの緑内障患者についての詳細な検討は行わなかったため,表1視力障害と視野障害の内訳視力1級2級3級4級5級6級申請なし視野2級042928195級0001022申請なし8225252005年■原発開放隅角緑内障2012年n=35■正常眼圧緑内障n=73■原発閉塞隅角緑内障今回は2005年調査8)と比較した.II結果緑内障病型は原発開放隅角緑内障46例(63.0%),続発緑内障18例(ぶどう膜炎後10例,落屑緑内障6例,血管新生緑内障2例)(24.7%),原発閉塞隅角緑内障5例(6.8%),正常眼圧緑内障4例(5.5%)であった.視覚障害等級は1級13例(17.8%),2級40例(54.8%)3級2例(2.7%),4級7例(9.6%),5級6例(8.2%),6級(,)5例(6.8%)であった.病型別の障害等級は,原発開放隅角緑内障では1級10例(21.7%),2級28例(60.9%),3級1例(2.2%),4級2例(4.3%),5級3例(6.5%),6級2例(9.4%)であった.続発緑内障では1級3例(16.7%),2級8例(44.4%),3級1例(5.6%),4級3例(16.7%),5級1例(5.6%),6級2例(11.1%)であった.原発閉塞隅角緑内障では2級2例(40.0%),4級2例(40.0%),5級1例(20.0%)であった.正常眼圧緑内障では2級2例(50.0%),5級1例(25.0%),6級1例(25.0%)であった.緑内障の病型別に障害等級に差はなかった(p=0.3265).視力障害を申請したのは52例,視野障害を申請したのは49例であった.その内訳は,視力障害は1級8例,2級6例,3級4例,4級15例,5級4例,6級15例で,視野障害は2級44例,5級5例であった.重複障害申請を行ったのは28例であった.その内訳は視野障害2級・視力障害2級が4例,視野障害2級・視力障害3級が2例,視野障害2級・視力障害4級が9例,視野障害2級・視力障害5級が2例,視野障害2級・視力障害6級が8例,視野障害5級・視力障害4級が1例,視野障害5級・視力障害6級が2例であった(表1).2005年調査8)では,緑内障病型は原発開放隅角緑内障15例(42.9%),正常眼圧緑内障7例(20.0%),原発閉塞隅角緑内障4例(11.4%),血管新生緑内障4例(11.4%),落屑緑内障2例(5.7%),ぶどう膜炎による続発緑内障1例(2.93級2012年n=35■4級■5級■6級n=732005年■1級■2級42.92011.425.7635.56.824.7■続発緑内障22.942.9011.414.38.517.854.82.79.68.26.8図1緑内障病型の比較図2視覚障害等級の比較2005年調査と今回調査で緑内障病型に有意差はない.2005年調査と今回調査で視覚障害等級に有意差はない.1030あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(104) %),白内障手術による続発緑内障1例(2.9%),外傷性緑内障1例(2.9)であった.視覚障害等級は1級8例(22.9%),2級15例(42.9%),4級4例(11.4%),5級5例(14.3%),6級3例(8.5%)であった.今回と2005年調査8)との比較では,緑内障病型(p=0.066,図1)と障害等級(p=0.706,図2)ともに同等であった.III考按ロービジョンサービスの対象者は日本眼科医会では約100万人と推定している9).ロービジョン外来あるいは視覚障害の原因疾患として高い割合を占める緑内障患者の身体障害者手帳申請について今回は検討した.2012年1.12月までに井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院に通院し,視覚障害による身体障害者手帳を申請した患者は236例で,原因疾患は緑内障73例,網膜色素変性症41例,黄斑変性症25例,糖尿病網膜症22例の順に多かった.一方,井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院に同時期に通院した患者は130,281例であった.疾患別の内訳は緑内障39,745例,糖尿病網膜症18,796例,黄斑変性症11,458例,網膜色素変性症2,838例などであった.疾患別の視覚障害による身体障害者手帳の申請率は各々緑内障0.18%,網膜色素変性症1.44%,黄斑変性症0.22%,糖尿病網膜症0.12%であった.網膜色素変性症患者の割合が高く,他の疾患はほぼ同等であった.2012年1.12月までに井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院に通院した緑内障患者は39,745例であった.これらの症例の緑内障病型は不明である.一方,2012年3月12.18日までに両院を含めた39施設で行った緑内障実態調査では正常眼圧緑内障47.6%,原発開放隅角緑内障27.4%,続発緑内障10.3%,原発閉塞隅角緑内障7.6%などであった10).今回の結果と比べると,今回のほうが正常眼圧緑内障が少なく,原発開放隅角緑内障と続発緑内障が多く,原発閉塞隅角緑内障はほぼ同等であった.つまり正常眼圧緑内障では身体障害者手帳に該当するほどの重症例は少なく,原発開放隅角緑内障や続発緑内障では重症例が多いと考えられる.しかし,緑内障の病型別に障害等級に差はなく,身体障害者手帳に該当するほどの重症例においては個々の症例で重症度が異なり,一定の傾向はない.今回,視力障害の申請は1.6級まですべての等級に及んだが,視野障害の申請は2級と5級のみであった.これは1995年の身体障害者手帳の視覚障害の基準が改定され,視野障害の基準が緩やかになったが,やはり緑内障の視野障害の特徴が評価しがたいためではないかと思われる.今後,緑内障の視野障害も段階的に評価できるような,視覚障害の基準が制定されることを願う.しかし,視力障害と視野障害の重複障害により障害等級が上がった症例も6例あり,それら(105)の症例では制度の恩恵を受けていると考えられる.視覚障害を自覚してロービジョン外来を受診しても,身体障害者に該当しない患者がいる1).このことは,身体障害者手帳の申請に至っていない緑内障患者のなかにも,視覚障害の問題を抱える多くの患者が存在していることを示唆している.緑内障は末期まで視力が比較的よいのが特徴である.現在の視覚障害等級の基準だけで,患者のQOLをすべて評価することはむずかしく,視覚障害による身体障害者手帳の該当がなくてもロービジョンケアの必要性を考慮すべきである.身体障害者に該当するにもかかわらずさまざまな理由で身体障害者手帳の申請がなされていない患者についても報告されている5,7).藤田らは手帳取得に該当することを知らされていないこと,手帳を有した場合の福祉サービスについて情報が十分に伝達されていないことなどが要因の一つと報告している11).また,低い等級では該当していても申請を行わない症例もあるためと思われる.身体障害者手帳の取得は障害の告知と受容を意味するばかりでなく,ロービジョンサービスを充実させるための一つの手段である.2005年調査8)と今回調査の結果はほぼ同等であった.2005.2012年までの7年間にさまざまな緑内障点眼薬が新たに使用可能になった.しかし,依然として視覚障害による身体障害者手帳申請者の上位を緑内障が占め,緑内障病型や障害等級も変化はなかった.今後は2012年に緑内障チューブシャント手術が認可されたので緑内障による視覚障害者が減少することが期待される.2012年に井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院に通院中で,視覚障害による身体障害者手帳を申請した緑内障患者73例について調査した.病型は原発開放隅角緑内障が63.0%で最多で,障害等級は2級以上が72.6%を占めていた.2005年調査8)との変化は特になかった.今後も社会の高齢化に伴い視覚障害者も増加すると考えられる.改めて,円滑なロービジョンケアの提供,妥当な身体障害者手帳申請が日常外来において必要であると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)鶴岡三恵子,井上賢治,若倉雅登ほか:井上眼科病院におけるロービジョン専門外来の実際.臨眼66:645-650,20122)斉之平真弓,大久保明子,坂本泰二:鹿児島大学附属病院ロービジョン外来における原因疾患別のニーズと光学的補助具.眼臨紀5:429-432,20123)引田俊一,井上賢治,南雲幹ほか:井上眼科病院における身体障害者手帳の申請.臨眼61:1685-1688,20074)岡田二葉,鶴岡三恵子,井上賢治ほか:眼科病院におけるあたらしい眼科Vol.31,No.7,20141031 視覚障害による身体障害者手帳申請者の疾患別特徴(2009年).眼臨紀4:1048-1053,20115)大澤秀也,初田高明:外来における視覚障害患者の検討.臨眼51:1186-1188,19976)高橋広:北九州市内19病院眼科における視覚障害者の実態調査.第1報.視覚障害者と日常生活訓練.臨眼52:1055-1058,19987)谷戸正樹,三宅智恵,大平明弘:視覚障害者における身体障害者手帳の取得状況.あたらしい眼科17:1315-1318,8)久保若菜,中村秋穂,石井祐子ほか:緑内障患者の身体障害者手帳の申請.臨眼61:1007-1011,20079)日本眼科医会(編):あきらめないでロービジョン─社会復帰への道.199110)塩川美菜子,井上賢治,富田剛司:多施設における緑内障実態調査2012年版─薬物治療─.あたらしい眼科30:851-856,201311)藤田昭子,斉藤久実子,安藤伸朗ほか:新潟県における病院眼科通院患者の身体障害者手帳(視覚)取得状況.臨眼53:725-728,1999***1032あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(106)

My boom 30.

2014年7月31日 木曜日

監修=大橋裕一連載MyboomMyboom第30回「宮腰晃央」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載MyboomMyboom第30回「宮腰晃央」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介宮腰晃央(みやこし・あきお)富山大学医学薬学研究部眼科学講座私は2007年3月に富山大学医学部卒業後,2年間の初期臨床研修を経て,2009年4月に現講座に入局しました.入局3年目に早々と専門分野を角膜に決めました.林篤志教授の「一流に触れてくるんや」の号令のもと,京都府立医科大学で木下茂教授の外来で前眼部診療の修業を積ませていただき,何とか富山大学角膜外来を切り盛りしている現状です.臨床のMyboom富山大学角膜外来を一人で切り盛りしていることもあり,感染症,円錐角膜,ジストロフィ,ドライアイ,Mooren潰瘍,Stevens-Johnson症候群,角膜移植後…など何でもござれの状態です.といえば聞こえは良いですが,実情は不安とプレッシャーに圧しつぶされそうになることもあります.そんななか,京都府立医科大学に研修に行かせていただいているのは非常に助かっています.悩ましい症例について相談・議論できたり,最先端の臨床・研究を見学できたり,そして何よりも交友の輪が広がりました.研修では,「木下教授ならどの所見に注目して診察し,カルテをどのように記載するか?」「木下教授なら患者にどういうふうに説明するか?」と,木下教授だったらどうするか,というイメージを常に頭の中で先行させながら外来に参加させていただいています.患者さんの病状や僚眼の状態,住所や年齢,職業,家族構成など,さま(91)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYざまなファクターを考慮し,患者にとってベストもしくはベターな治療法を説明・相談していくムンテラは,人としての深さが感じられます.かなり頭を使いヘトヘトになるので,帰りのサンダーバード(電車です,念のため)ではいつも熟睡で,途中の福井県や石川県の景色の記憶がまったくありません….また,最近気をつけていることは,眼類天疱瘡やアカントアメーバ感染など,比較的稀な疾患を疑わせる患者さんを診たときに,すぐにその診断に飛びついてしまい,鑑別を怠ってしまう癖があることです.注意していてもテンションが上がってしまい,周りが見えなくなるのです.治療を開始する前に「深呼吸をしてもう一度鑑別を!ヘルペスは大丈夫?」を常に心がけて診療をしています.研究のMyboom「学問的業績のない医師は駄馬に等しい」.ある有名小説からの抜粋です.耳の痛い話です,ヒヒーン.「大学勤務している身として,業績を残す」.当たり前のことですが,日々の臨床にかまけて,ついつい遠ざけているのが現状です.現在は林教授の計らいで,当院検査部で社会人大学院生としてPCRを用いた研究を進めています.まだまだ始めたばかりですが,富山大学オリジナルの細菌感染症の迅速診断法および迅速薬剤感受性試験の確立を目標にしています.プライベートのMyboomもともとスポーツが好きで,小学校では野球,中学校から大学まではテニスをやっていました.学生時代は部活一筋だったのですが,働き始めてからはまったくスポーツをしなくなってしまいました.最初の頃は「手術のときに筋肉痛では患者さんに失礼にあたる!」と崇高あたらしい眼科Vol.31,No.7,20141017 写真1自宅で家族とな意思でスポーツを遠ざけていたのですが,最近は単に面倒くさいというオヤジ的な発想でスポーツから遠ざかっています.そんななか,2013年夏から2014年の年明けにかけて画期的なでき事がありました.夏の甲子園で富山第一高校が富山県勢40年ぶりのベスト8に,そして全国高校サッカー選手権で同じく富山第一高校が初優勝に輝いたのです(残念ながら母校ではありませんが…).都会の方には理解しにくいかもしれませんが,例年1,2回戦突破がやっとの地元の田舎の高校が勝ち上がっていく喜びと興奮は,筆舌に尽くしがたいものがあります.野球は甲子園まで応援に行き,サッカーは当直だったので医局で絶叫を繰り返し,同点ゴールのシーンではひとり頬を濡らしました.ふとわが身を翻って考えてみると,地方大学でひとり角膜を専門に臨床・研究にもがいている自分も「やればできるのでは?!」と勇気づけられたものです.また,私は物心ついたときからプロ野球の広島東洋カープのファンです.専門医試験前には,「甲状腺眼症はDalrymple徴候,Gifford徴候,Graefe徴候,Stellwag徴候,Mobius徴候…(泣).ルイス,チェコ,ミンチー,ベイルの勝ち星やセーブ数はいつの間にかに覚えていたのに…」.「眼瞼下垂の手術はBlaskovics,Berke,Friedenwald-Guyton,Fasanella-Servaat…(涙).ホプキンス,ロードン,アレン,ディアスの出身や年俸は覚えられたのに…」と人間の記憶のもどかしさと奥深さを嘆きつつも不思議な気持ちで見つめていたものです.最近は「カープ芸人」やら「カープ女子」などと知名度や人気が上がってきているようですが,一昔前までは貧乏・不人気・弱小球団の代表格であり,FAでも東のあ写真2カープ応援中の球団や西のあの球団に主力選手を引き抜かれるだけの球団でした.それが2013年シーズンでは初のクライマックスシリーズに進出したのです.1991年の最後の優勝から早や22年(大野が古屋から三振を奪い,優勝を決めた瞬間は昨日のことのように思い出されます)….金銭的に恵まれない地方球団の快進撃に,こちらもわが身を重ね,一層の精進と飛躍を心に誓いました.ちなみに,これまでの私の観戦成績は9勝8敗です(富山からはなかなか応援に行けないのです).私が観戦していないカープの通算成績が3,888勝4,299敗なので,有意差が出るように早くnを増やさないといけません.最近,『統計学が最強の学問である』(西内啓著,ダイヤモンド社)という本を読みました.興味深かったので,こういった他愛もない検定をこっそりやっては,独り悦に入っています(論文でやれと教授に尻を叩かれそうです).(余談ですが,この原稿を書き上げた5月19日現在,カープが首位で交流戦を迎えます.この原稿が掲載されている時期に順位がどうなっているのか,楽しみでもあり恐怖でもあります.)次のプレゼンターは兵庫県の後藤聡先生(理化学研究所)です.ある勉強会でご一緒させていただき,意気投合した(と私が思っている)仲間です.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.1018あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(92)

日米の眼研究の架け橋 Jin H. Kinoshita先生を偲んで 19.Jin H. Kinoshita先生から学ぶこと

2014年7月31日 木曜日

JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ⑲責任編集浜松医科大学堀田喜裕JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ⑲責任編集浜松医科大学堀田喜裕JinH.Kinoshita先生から学ぶこと木下茂(ShigeruKinoshita)京都府立医科大学視覚機能再生外科学1974年大阪大学医学部卒業,1979年米国HarvardMedicalSchoolに留学,1984年大阪労災病院眼科部長,1988年大阪大学医学部眼科講師,1992年京都府立医科大学眼科学教室教授,2003年AdjunctClinicalSeniorScientist,TheSchepensEyeResearchInstitute,USA,2008年HonoryDistinguishedProfessor,CardiffUniversity,UK,2011年京都府立医科大学副学長.●JinH.Kinoshitaという偉大な先生★2010年の夏,JinKinoshita先生は89歳で他界されました.1989年にNationalEyeInstitute(NEI)ScientificDirectorという重要な職責を去られましたので,今活躍の,そしてこれから活躍するであろう日本の眼科医や視覚研究者にはJinKinoshitaの名前は余りなじみが無いかもしれません.しかし,現在のNEIDirectorであるDr.PaulSievingのような立場の先生であったといえば,わかりやすいかもしれません.JinKinoshita先生は,サンフランシスコでお生まれになった日系2世の米国人です.1941年に太平洋戦争が勃発した後,多くの日本人が強制収容所に入れられました.Jin先生の家族も例外ではありませんでした.しかし,Jin先生は大学に通うことができた特別な青年の一人でした.1944年にColumbia大学を卒業し,1952年に生物化学の博士号をHarvard大学から授与されています.その後,HarvardMedicalSchool眼科の一員として研究に勤しんで教授に就任したのちに,1971年,新設されたNEIに異動し,1981年にはNEI科学研究部門の最高責任者に就任されました.JinKinoshita先生は,水晶体の生理学と白内障の生化学に関する研究で優れた足跡を残しておられ,AldoseReductaseInhibitorを白内障予防点眼薬として世に出すために努力されました.さらに,日本の眼科・視覚研究を政府間協議などをとおして積極的にサポートされました.現在の日本の眼科・視覚研究がきわめて高いレベルにあるのは,JinKinoshita先生のサポートのお蔭といっても過言ではないと私は思っています.(89)●Jin先生と日本とのかかわり,私とのかかわり★JinKinoshita先生がNEIDirectorであった頃,日本から数多くの優秀な研究者がNEIに留学し,数多くの業績をあげて帰国されました.これらの先生方が中心となって,戦後の,そして学園紛争後の日本の大学の眼科研究体制を立て直し,今に繋がっているのです.当時,日本の眼科研究を国や大学間を超えて大所高所からサポートしてくださった先生方はといえば,米国在住のJinKinoshita先生,ToichiroKuwabara先生,日本の三島済一先生が代表であったと思います.さて,私が最初にJinH.Kinoshita先生とお会いしたのは,1978年,水川孝先生を学会長として第3回InternationalCongressofEyeResearch(ICER)が大阪で開催されたときです.私はなぜか,その学会でSecretaryGeneralをさせていただきまして,会長招宴のときに,名前が同じだからということで,Jin先生が私を出席者の皆さんに公式に紹介されたことを覚えています.私は1979年9月から1982年8月までBostonのRetinaFoundation,HarvardMedicalSchoolに留学しました.研究室代表者はRichardA.Thoft.彼は当時42歳でAssistantProfessor,やっとNEIから基盤研究費をもらい始めた眼科医でした.当然,彼のNEIへの研究費申請書には私を研究者の一員として記載してくれていたのですが,なかなかに難しい状況でした.私はというと,親から留学費用(当時は1ドル230円)を借りて,グラントのサポートがなくても2年間は石にかじりついても米国に居ようと決めていました.今の日本のようにあたらしい眼科Vol.31,No.7,201410150910-1810/14/\100/頁/JCOPY 写真ニューヨークで開催されたICERにて(1980年)JinH.Kinoshita先生と筆者数多くのfellowshipprogramがあるわけではなく,また円ドルレートもまだまだ不安定な頃でした.いろいろなことがありましたが,1979年12月24日,クリスマスイブに,申請していた基盤研究を承認するという非公式な電話がJin先生からThoftにあり,私の研究員としての費用も認めるとのことでした.このエピソードは一つの例でして,Jin先生は人を優しく包み込む素晴らしいパーソナリティをもつ方でした.写真は,1980年,ニューヨークで開催されたICERでご一緒したときのも●★のです.当時,米国の眼科研究者は私の名前をすぐに覚えてくれました.私が“IamasortofJin’srelatives”といえば,皆さん,大いに和んでくれました.●今,何故,JinH.Kinoshita先生を思い出す必要があるのか?★JinKinoshita先生は教授であり,研究者であり,管理者であり,そして若手研究者の良きアドバイザーでした.前NEIDirectorのCarlKupfer先生は,Jin先生の最も素晴らしいところは,若く可能性のある研究者に自由と場所と勇気を与え,必要なときには時間を惜しまずにアドバイスを与えたことであると評していました.一方で,Jin先生は研究に対して厳しい側面もあり,今,日本国内で大問題となっている論文ねつ造問題と同様のことが日本の大学で生じたとき,非常に厳しく対処された先生でした.これから日本の若手眼科研究者を国際的なレベルに育成するためには,我々もJin先生のように広い視野と優しさで若手に向き合う必要があるのではないでしょうか?今でも,我々はJin先生から学ぶことがきわめて多くあると感じています.最後に,本シリーズを責任編集していただいた堀田喜裕先生に深謝します.●★1016あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(90)

現場発,病院と患者のためのシステム 30.どこでも診療

2014年7月31日 木曜日

連載現場発,病院と患者のためのシステム連載現場発,病院と患者のためのシステム患者はかかりつけ以外のどこの医療機関に行っても,そこの医師に自分の過去の診療情報を見てもらえる環境が理想的です.技術的には特別な問題はありませんが,なかなかその環境にならないどこでも診察*杉浦和史のはどうしてでしょう.それはベンダ(システム開発,提供会社)の仕様(機能,扱う情報,画面遷移,レイアウト,操作性など)が統一されてい.はじめに北欧のある国では患者の情報が共有されており,どこで診察を受けても,支障なく適切な治療を受けることができるという大手ベンダのコマーシャルを見たことがあります.素晴らしいことだと思いますが,実はとても簡単です.すべての医療機関が同じベンダのアプリケーション(システム)を使えば当たり前にできるからです.東日本大震災で大きな被害を受けた医療機関が多数あり,システム環境も壊滅的なダメージを受けました.これをきっかけに,内閣府に医療イノベーション室ができ,医療機関の間で情報の共有ができるようにと,“どこでも診察”ができるようにとの方針が出されました.例えば,電子カルテシステムからのデータを受け取って請求額を計算する医事会計システムの場合,各社各様ではなく,統一した仕様があれば,どのベンダの医事会計システムでも面倒な処理を必要とせずデータを渡すことができます.しかし,シェアをもつ大手ベンダは,仕様の統一には総論賛成,各論反対.診察,手術,会計,検査など医療機関運営に必要な機能を自社の製品で統一させようと,ないことが大きな要因です.“どこでも診察”に関し,基礎的な知識を紹介します.必要な情報をどうやって医事会計システムへ渡すのでしょう.送受信の方法(接続仕様)につき,ベンダ間で打ち合わせが必要になります.データを渡す側は,「この順番(データストリ.ム)と形式(英数字,カナ漢字,画像など)でデータを渡すので受け取りをお願いします」といい,受け取る側は,「自社の医事会計システムの画面から入力されたデータを受け取るのと同じように送ってください」などといいます(図1参照).医事会計システムA病院B病院C病院X社製Y社製Z社製Z社仕様X社仕様Y社仕様M社電子カルテシステムしのぎを削っている(いた)という話を耳にしたことがあります.どうして1社の製品で,と思うのでしょう.統一されたら優位性が崩れる,などいろいろ考えられますが,異なるシステム間でデータ授受をするための共通接続インターフェイス開発に,多くの手間を要することが大きな要因ではないかと思われます..接続の手間1.他社製品との接続電子カルテシステムがM社の製品のとき,医事会計システムが同社の製品ではなく,X社,Y社,Z社の製品だった場合,電子カルテシステムがもっている請求に(87)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY図1逐一接続仕様を決めなければならないRどちらがどちらに合わすのかはともかく,自社の製品の中身を公開することにもなりかねないので,嫌がるのが常で,とても面倒な作業です.2.統一された仕様での接続統一された接続仕様があり,業界内でオーソライズされていれば,手間のかかる異なるベンダ間の接続仕様を検討することなく,連携がスムーズに進みます(図2参照).しかし,総論賛成各論反対にあって議して決せずの状態が続いています.*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)あたらしい眼科Vol.31,No.7,20141013 医事会計システムA病院B病院C病院X社製Y社製Z社製統一仕様統一仕様統一仕様M社電子カルテシステム医事会計システムA病院B病院C病院X社製Y社製Z社製統一仕様統一仕様統一仕様M社電子カルテシステム図2どのシステムでも接続できる共通仕様R日本医師会が無償で提供しているORCA(オルカ)と呼ばれる医事会計システムは,接続仕様が公開され,情報授受のためのインターフェイスも公開されているので,他社製品と接続するよりもストレスがありません(図3参照).医事会計システムA病院B病院C病院ORCAORCAORCAORCA接続仕様ORCA接続仕様ORCA接続仕様M社電子カルテシステム図3ORCAの提供する接続仕様を利用Rしかし,最もストレスがないのは,自社の医事会計システムであることはいうまでもありません(図4参照).自社製品なので,データ授受に関する情報は細大漏らさず入手でき,誤解もなく,動作の齟齬もありません.もっとも,国レベルで一つのベンダ製品に統一されてしまうと,競争相手がなくなり,切磋琢磨して製品を良くする機会がなくなってしまいます.気をつけるべきことだと思います.医事会計システムA病院B病院C病院M社製M社製M社製M社電子カルテシステム図4自社製品同士の場合R以上,電子カルテシステムと医事会計システムとの接続を例にしましたが,院内には数多くの部門システムがあり,これらを相互に支障なく接続し,情報授受を行うには膨大な手間がかかります.これを他社製品を考慮す1014あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014ることなく,1社の製品で統一すれば簡単にトータルシステムができ上がります.どこに行っても自分の診療情報を参照でき,適切な治療を受けられるという,“どこでも診察”ができる北欧の環境は,1社のベンダの製品で統一されているからという単純なものであることがご理解いただけたと思います.しかし,本来は図2のようなデータ授受のための共通インターフェイスを作り,異なるベンダ製品間でもストレスなく情報交換できる環境が望ましいことはいうまでもありません.3.どこでも診察環境“どこでも診察”は,データが紙ではなく電子的に取り扱われるようになっていることが前提です.個人の身体情報,診察履歴,投薬履歴,手術履歴,すなわちHearthRecordsを一元的に,かつ電子的に管理し,必要に応じて適宜利用する環境を構築.この下で,個人の健康の維持管理や病気,事故遭遇時に,どこでも適切で迅速な診察治療を可能とすることができます.その環境を図5に示します.診療所診療所中堅病院中堅病院拠点病院拠点病院EHR(診診連携)EHR(病診連携)EHR(病診連携)EHR(病病連携)EHR(病病連携)EHR(病病連携)EMREMR患者個人(PHR)EMREMREMREMR図5EMR,EHR,PHR概念図REMR/ElectronicMedicalRecord(診療情報を扱うシステム)HER/ElectronicHealthRecord(異なる医療機関同士での診療情報の相互交換,共有システム)PHR/PersonalHealthRecord(患者個人の健康,診療情報蓄積・管理・活用システム)モバイル機器と無線環境の普及で,自分の診療情報をいつでもどこでも見られるというユビキタス環境も整ってきています.一方,この便利さを享受するために,アクセスを許している箇所が随所にあり,ここから情報が漏えいする危険があります.便利さと危うさが共存しますが,セキュリティを確かにして便利さを感じるシステム環境を整備したいものです.(88)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 134.特発性黄斑円孔の成因(研究編)

2014年7月31日 木曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載134134特発性黄斑円孔の成因(研究編)池田恒彦大阪医科大学眼科手術の実際とは少し離れるが,この連載では,筆者らが行っている硝子体手術に関連する臨床あるいは基礎研究も不定期に紹介させていただこうと思う.今回はその第1回目である.●特発性黄斑円孔の成因は硝子体牽引だけで説明できるか?特発性黄斑円孔は,後部硝子体皮質前ポケットの後壁の硝子体皮質の牽引により,中心窩網膜が牽引されることで発症する1).しかし,黄斑円孔がなぜ経過とともに同心円状に拡大していくのか,硝子体手術によって黄斑円孔が閉鎖した後,中心窩の形態が変化しないにもかかわらず,なぜ視力が向上し続けるかなど,疑問点も多い.筆者は以前から,中心窩に未分化な幹細胞様の網膜グリア細胞が存在するのではないかという仮説のもとに種々の研究を行ってきた2).●中心窩には幹細胞様の未分化な細胞が存在する?網膜の主要なグリアであるMuller細胞は脱分化をきたし,網膜前駆細胞になることが報告されている3,4).一方,網膜幹細胞はCMZ(ciliarymarginalzone)に存在し5),神経細胞,グリア細胞,視細胞に分化することが知られている.サル眼を用いた筆者らの研究の結果,中心窩網膜にはNestin陽性の細胞が他の部位より多く認められた(図1)6).また,黄斑円孔患者の硝子体中にはキマーゼというセリンプロテアーゼの活性が上昇していることを見いだした7).キマーゼはアンジオテンシン変換酵素(ACE)とは別の経路でアンジオテンシンIをIIに変換する作用を有し,組織の線維化やリモデリングに関与するが,アポトーシス作用も有している.実際,サル眼の硝子体にキマーゼを注入すると,中心窩にTunnel陽性細胞が出現する(図2)6).(85)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYa赤道部A,C周辺部D図1サル眼網膜におけるNestin陽性の細胞b2.5(/0.2mm2)ADa:黄斑部における25Nestin陽性細胞の免22.5疫染色.b:黄斑部は20他の部位と比較して17.515BCENestin陽性細胞が多12.510Meam±SD(N=5)く認められる.(文献2より引用)7.550黄斑部B黄斑と赤道の中間E図2サル眼の中心窩におけるTunnelControlChymase陽性細胞硝子体にキマーゼを注入すると,中心窩にTUNEL染色Tunnel陽性細胞が出現する.(文献6より引用)●特発性黄斑円孔の成因に関する新しい仮説なぜ黄斑円孔で硝子体中のキマーゼ活性が上昇するかについては不明であるが,毛様体,脈絡膜などに存在する肥満細胞がなんらかのきっかけでキマーゼ産生を亢進させるのかもしれない(網膜には肥満細胞は存在しない).OCTでみられる黄斑円孔部位の網膜分離様所見も,中心窩のMuller細胞が機能不全をきたした結果生じている可能性がある.中心窩にこのような未分化な細胞が存在するとしたら,黄斑円孔だけでなく黄斑上膜や黄斑浮腫などの種々の黄斑疾患の病態解明に繋がるかもしれない.文献1)KishiS,HagimuraN,ShimizuK:AmJOphthalmol122:622-628,19962)池田恒彦:日眼会誌107:785-812,20033)FischerAJ,RehTA:NatNeurosci4:247-252,20014)OotoS,AkagiT,KageyamaRetal:ProcNatlAcadSci101:13654-13659,20045)TropepeV,ColesBL,ChiassonBJetal:Science287:2032-2036,20006)SugiyamaT,KatsumuraK,NakamuraKetal:OphthalmicRes38:201-208,20067)MaruichiM,OkuH,TakaiSetal:CurrEyeRes29:321-325,2004あたらしい眼科Vol.31,No.7,20141011

眼科医のための先端医療 163.ストレスシグナル制御による神経保護治療の可能性

2014年7月31日 木曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第163回◆眼科医のための先端医療山下英俊物理化学的ストレスストレスシグナル制御による神経保護治療の可能性香留崇(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部眼科学分野)ストレス応答性MAPキナーゼ経路とASK1個々の細胞は絶えず外界からのストレスに曝されており,そのストレスの種類や程度に応じて細胞周期の停止,DNA修復,アポトーシス,サイトカイン産生など,さまざまな応答を示します.その応答には細胞内のシグナル伝達が重要な役割を担っており,とくにMAP(mitogen-activatedprotein)キナーゼ(MAPK)経路の役割が注目されています1).MAPK経路は3つの階層のキナーゼ(MAPKKK,MAPKK,MAPK)から構成され,酵母から哺乳類に至るまできわめてよく保存されています.Apoptosissignal-regulatingkinase1(ASK1)はストレスによって活性化され,下流のc-JunN-terminalkinase(JNK)経路とp38MAPK経路を通じてアポトーシスを制御しているMAPKKKとして報告されました2)(図1).ASK1のノックアウト(KO)マウスはいずれも正常に発生・発育し,明らかな形態や行動の異常は認められませんでした.しかし,ヒトの疾患モデルとなるようなさまざまなストレス刺激をKOマウスに加えると,個体レベルでの応答に異常が認められます.これまでのASK1KOマウスを使った解析から,とくにアルツハイマー病などの神経疾患とASK1との関連が示唆されています3~6).細胞質MAPKKKMAPKKMKK4/7MKK3/6MAPKASK1JNKp38MARKアポトーシス図1ASK1を介するシグナル伝達経路ASK1はMAPKKKとして,MKK4/MKK7→JNKおよびMKK3/MKK6→p38という2つのストレス応答MAPK経路を活性化し,さまざまな細胞に細胞死を誘導する.これらの結果を踏まえ,筆者らは,視神経損傷後にはASK1が過剰に活性化して,網膜神経節細胞死が増加するのではないかと推測し,視神経外傷によるASK1の役割と薬物治療の可能性について検討した7)ので,その結果を解説します.ASK1KOマウスによる神経細胞死の抑制マウスに麻酔をかけ,眼球の後ろ約3mmの部位の視神経を軽くピンセットで数秒間圧迫して神経軸索を損傷すると,網膜神経節細胞死が起こり,網膜内層は変性します.この手法を用いて,野生型(wildtype:WT)マウスとASK1KOマウスに視神経外傷処置を行い,7日後および14日後に眼球を摘出し,網膜の形態をヘマトキシリン・エオジン染色にて観察し,網膜内層厚および視神経外傷前7日後14日後図2aASK1ノックアウトGCL(KO)マウスにおけるINL神経細胞死の抑制野生型マウス視神経外傷後マウスの摘出網ONL膜のヘマトキシリン・エオジン染色像.すぐ下には網膜神経節細胞層の拡大像.ASK1KOマウスでは野生型マウスGCLと比較して,視神経損傷後のINL網膜神経節細胞死が抑制さASK1NOれ,網膜内層の厚みも保たれマウスONLているのがわかる.IRL(81)あたらしい眼科Vol.31,No.7,201410070910-1810/14/\100/頁/JCOPY 野生型マウスASK1NOマウス0362403624経過時間(外傷後より)phospho-p38totalp38phospho-JNKtotalJNK図2b視神経外傷によるp38MAPKの活性化WTマウスでは視神経外傷後3時間後をピークとするp38MAPKの活性化が認められた一方で,ASKlKOマウスでは視神経外傷後もp38MAPKのリン酸化は抑制されており,ほとんど観察できなかった.ASK1の下流でp38MAPKと同様に細胞死を誘導するとされるJNKの発現に変化は認められなかった.totalp38:p38MAPKの全体量,phospo-p38:活性化したp38MAPK,totalJNK:JNKの全体量,phospo-JNK:活性化したJNK視神経外傷前7日後14日後GCLコントロールINLONL(PBSの眼球内投与)GCL外傷5分後にp38MAPKINL阻害剤の眼球内投与ONLIRL図2cp38MAPK阻害剤による神経細胞死の抑制OCTを用いた同一個体における網膜断層像.上段はPBS(薬剤を溶かす溶液)を眼球内に投与したコントロール.下段は受傷の5分後にp38MAPK阻害剤を眼球内に投与した個体.p38MAPK阻害剤を投与した網膜では,その後14日間にわたって,網膜内層の厚みが保たれていることがわかる.GCL:ganglioncelllayer(神経節細胞層),INL:innernuclearlayer(内顆粒層),ONL:outernuclearlayer(外顆粒層),IRL:innerretinallayer(網膜内層)(図2a~c:文献7より許可を得て転載,一部改変)網膜神経節細胞数の定量化を行ったところ,WTマウス制されており,ほとんど観察できませんでした.ASK1では網膜内層の非薄化と網膜神経節細胞の減少を認めまの下流でp38MAPKと同様に細胞死を誘導するとされした.しかし,ASK1KOマウスでは網膜内層の非薄化とるJNKの発現に変化は認められませんでした(図2b).網膜神経節細胞の減少は有意に抑制されており,視神経以上の結果は,視神経外傷による網膜神経節細胞死の外傷による網膜変性の軽症化が確認されました(図2a).誘導には,ASK1からp38MAPKに至る経路が主に関次にp38MAPKの活性の変化を定量的に評価する目与することを示しています.的で,網膜全体から精製した蛋白質を用いたWesternblottingを行いました.WTマウスでは視神経外傷後にp38MAPKの活性化が認められた一方で,ASK1KOマウスでは視神経外傷後もp38MAPKのリン酸化は抑そこで,筆者らは実験用試薬として汎用されているp38MAPK阻害剤による視神経外傷後の網膜変性の軽症化1008あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(82) p38MAPK阻害剤を眼内に投与することで,視神経外傷後の網膜変性の軽症化が可能かどうか検証しました.摘出網膜による組織学的な検討で,p38MAPK阻害剤による網膜神経細胞死が抑制されることを確認しました.そこで,同一個体における経時的変化を観察するため,光干渉断層計(OCT)を使用してp38MAPK阻害剤の効果を検討しました.その結果,視神経外傷の5分後にp38MAPK阻害剤を投与したマウスでは,受傷後7日後と14日後においても網膜内層厚の減少が抑制されることが確認されました(図2c).今後の展望本稿では,視神経外傷と細胞死誘導因子であるASK1の関連について解説しました.視神経外傷後のASK1p38MAPKシグナル伝達経路を遮断することで網膜変性を抑制することが明らかとなり,同経路が神経保護治療のターゲットになり得る可能性を示しました.視神経外傷はいわば急性の視神経変性疾患でありますが,一般的に緩徐に進行する慢性の神経変性疾患である緑内障などにおいても,ストレスシグナルによって誘導される神経細胞死を抑制することが,神経保護に有効な可能性を示したともいえます.このような知見は,ストレスシグナルの破綻が疾患の発症・病態に大きくかかわっていることを物語っており,今後もストレス応答の機能解析を進めることで,ストレスシグナルを標的とした新たな創薬基盤の開発や医療への還元へとつながるものと期待されます.文献1)KyriakisJM,AvruchJ:Mammalianmitogen-activatedproteinkinasesignaltransductionpathwaysactivatedbystressandinflammation.PhysiolRev81:807-869,20012)IchijoH,NishidaH,IrieKetal:InductionofapoptosisbyASK1,amammalianMAPKKKthatactivatesSAPK/JNKandp38signalingpathways.Science275:90-94,19973)KadowakiH,NishitohH,UranoFetal:AmyloidbetainducesneuronalcelldeaththroughROS-mediatedASK1activation.CellDeathDiffer12:19-24,20054)NishitohH,KadowakiH,NagaiAetal:ALS-linkedmutantSOD1inducesERstress-andASK1-dependentmotorneurondeathbytargetingDerlin-1.GenesDev22:1451-1464,20085)HaradaC,NakamuraK,NamekataKetal:Roleofapoptosissignal-regulatingkinase1instress-inducedneuralcellapoptosisinvivo.AmJPathol16:261-269,20066)HaradaC,NamekataK,GuoXetal:ASK1deficiencyattenuatesneuralcelldeathinGLAST-deficientmice,amodelofnormaltensionglaucoma.CellDeathDiffer17:1751-1759,20107)KatomeT,NamekataK,GuoXetal:InhibitionofASK1p38pathwaypreventsneuralcelldeathfollowingopticnerveinjury.CellDeathDiffer20:270-280,2013■「ストレスシグナル制御による神経保護治療の可能性」を読んで■ストレスが疾患や老化の原因であることが広く知ら体的には,アポトーシス,炎症,形態再構築などの現れるようになり,ストレス緩和のためのサプリメント象がそれにあたります.従来から,ストレス反応伝達摂取が,現在大きなブームになっています.しかし,経路の代表的分子であるASK1は,p38MAPKおよストレスという概念は,紫外線,外傷,炎症など,あびJNKを誘導することが報告されていました.しかりとあらゆるものを含むため,効果的対策が立てにくし,細胞内シグナル伝達経路においては,特定の分子いのも事実です.サイエンスとは,曖昧な現象を分析が活性化されても,その下流にいくつかの異なるシグして実態を明らかにすることですから,サイエンスとナルを伝達するので,最終的な細胞反応までの経路をしての医学の立場からは,生体のストレス経路を明ら明らかにしないと,あまり意味はありません.そのこかにすることが必要です.そして,そこをコントローとを理解すると,外傷という具体的なストレスから,ルすることこそが治療につながります.網膜細胞死という最終現象までの経路を解明できたと今回,香留先生が述べられたことは,その意味からいう今回の研究の意義の大きさがわかると思います.きわめて重要なことです.生体ストレスには,小胞体そして,その発見を,治療に結びつけることができたストレス,サイトカイン,紫外線,浸透圧,温度,虚ことは,さらにすばらしい成果です.もちろん,この血,機械的刺激などさまざまなものがあります.細胞経路は自然免疫にも関連していますので,ただちに臨はそれらのストレスに反応して,ASK1,MEKK1,床に結びつくとは限りませんが,外傷後の組織傷害のTAK1,MTK1などの多くの分子群を活性化させ,防止やその薬物治療についての道を開いた先駆的研究さらにその下流のp38MAPKやJNKなど分子経路をであることは間違いありません.介して,ストレスへの応答現象を引き起こします.具鹿児島大学眼科坂本泰二(83)あたらしい眼科Vol.31,No.7,20141009

私の緑内障薬チョイス 14.病期とPG製剤チョイス

2014年7月31日 木曜日

連載⑭私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載⑭私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也14.病期とPG製剤チョイス原岳橋本尚子原眼科病院プロスタグランジン(PG)製剤は「強い眼圧下降」作用が魅力だが,「眼局所の副作用」が多様であることも広く知られている.両者にはおおむね「眼圧下降が強ければ,局所副作用も強い」という関係があると思われる.早期の症例では「眼局所副作用の強くない」治療がアドヒアランスを良好にすると思われ,中,末期の症例では「眼圧下降を優先」した治療が患者の理解,支持を受けると思われる.症例139歳,女性.LASIK希望.初診時視力は右0.04(1.2×.8.75cyl(0.75A180°),左0.05(1.2×.8.0cyl(1.0A170°),眼圧は右19mmHg,左18mmHgであった.両眼ともに視神経乳頭陥凹が認められ(図1),右眼は下方に網膜神経線維層欠損(nervefiberlayerdefect:NFLD)が認められた.OCTの黄斑部神経節細胞層厚(GCA)(図2)には両眼の菲薄化が観察され,視野検査図1症例1の初診時の視神経乳頭近視変化によるコーヌスが認められるが,右眼に神経線維層欠損が認められる.図2症例1の初診時のGCA両眼ともにGCAは菲薄化しているが,右眼は上下の厚さに差があり,より下方が薄いことがわかる.左眼も全体的にGCAの菲薄化が観察されるが,右眼ほどではなく,上下の差も右眼ほど顕著ではない.図3症例1のHumphrey静的視野検査30.2の結果右眼はOCTの結果に一致して上方の感度低下が始まっている.左眼は顕著な感度低下は観察されず.結果(図3)では右眼のNFLDと一致する視野異常が認められた.症例256歳,男性.半年前より視力低下を自覚し初診.初診時視力は右0.06(1.0×.5.25Dcyl(1.0DA170°),左0.02(0.2×.4.0Dcyl(1.0DA170°),眼圧は右15mmHg,左15mmHgであった.眼科治療歴はなく,視神経乳頭は両眼ともに広い陥凹を示し(図4),左眼はとくに萎縮所見が強かった.視野検査では(図5),左眼は図4症例2の初診時の視神経乳頭写真両眼ともに近視乳頭.すでに広い陥凹がみられ,左眼はとくに萎縮変化が強い.本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).(79)あたらしい眼科Vol.31,No.7,201410050910-1810/14/\100/頁/JCOPY 図5症例2の静的視野検査30.2の結果左眼(.24.85dB)はすでに中心視野に至る全体の感度低下.右眼(.12.76dB)は上方が顕著な感度低下,下方の中心視野は保たれている.すでに中心30°の視野は全体に感度低下をきたしていた.右眼は上方の感度低下が顕著であったが,下方の中心視野は保たれていた.眼圧下降作用と副作用の関係PG製剤の眼圧下降作用は,おおまかにビマトプロスト>トラボプロスト>ラタノプロストの順で眼圧下降効果が強く,タフルプロストはラタノプロストと同等かやや眼圧下降が強い,という報告がある.一方,充血や眼瞼溝深化(deepeningoftheuppereyelidsulcus:DUES)などの局所副作用は,ラタノプロストに比し,ビマトプロストやトラボプロストのほうが強い,との報告があり,PG製剤には「眼圧下降が強い=局所副作用も強い」という傾向があるといえる.病識と副作用許容の関係緑内障患者の治療上重要な因子のひとつに「病識」がある.点眼をしても視野が広がるわけでなく,点眼を忘れても翌日何も変化はないため,点眼のモチベーションを維持しにくいのが特徴である.緑内障患者の唯一のモチベーションは「放置したら失明する」という「病識」という名の危機感である.患者の病識が低ければ点眼後の充血は我慢できないし,病識が強ければDUESを生じても,アドヒアランスは良好になる.症例の検討症例1は近視眼の正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)で,視野障害の自覚症状はないため,病識は低い.一方,視神経乳頭の陥凹は右>左で,NFLDが右下方に観察される.GCAは両眼ともに近視の影響もあり薄いが,全体に左に比べて右が薄く,さらに上方に比べて下方の菲薄化が顕著である.視野検査で1006あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014は右上方ビエルム領域に感度低下が出現し,今後も進行する可能性があると思われ,治療意義がある.このような症例では,PG製剤を第1選択で使用するが,病識が低いため,副作用の強くないラタノプロストを選択した.眼圧は12~13mmHgに低下し,経過観察中である.無治療時の眼圧が15mmHg以下であったらタフルプロストから開始したかもしれない.症例2は,症例1と同様の近視眼であるが,視野障害が顕著で,すでに本人も左眼の視力低下を自覚している.視力検査で視力が低下しているだけでなく,視野検査を行い,左眼のみならず右眼にも視野障害が出ていることを知り,本人は愕然としていた.さらに,緑内障性視野障害は不可逆性であるだけでなく,今後さらに進行する可能性があることを知らされ,緑内障進行の危機感がさらに強くなった.本症例では,眼局所の副作用よりも眼圧下降を最優先し,ビマトプロストを選択した.眼圧は両眼ともに11~12mmHgに下降した.点眼使用開始後,両眼結膜に顕著な充血が生じた.さらに眼瞼色素増加,DUESも出現しているが,本人は眼圧下降,中心視野の確保を優先して望んでおり,受診のたびに眼圧,視野検査結果などを熱心に確認している.まとめ緑内障治療の唯一のエビデンスは眼圧下降であるから,治療は眼圧下降を最優先に考えるのが当然であり,それがPG製剤が第1選択となっている最大の理由である.しかし,PG製剤には他の薬剤よりも眼局所の副作用が多様であり,それが理由でアドヒアランスが低下し,なかには治療を途中でやめてしまう例も出かねないのが実情である.患者の病識が高ければ,眼局所の副作用を許容し,治療を継続することが可能である.早期の症例では眼局所の副作用の強くないものを選択し,点眼を継続させることにも配慮が必要である.中・末期の患者はおおむね病識が高く,緑内障悪化に対する危機感があり,局所副作用を許容することができるため,より眼圧下降を優先することができると筆者は考えている.当然ながら,全体の傾向はあっても「個人差」があるので,眼圧下降も局所副作用も使用後の降下の確認が最重要である.(80)