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抗VEGF治療:抗VEGF薬硝子体内注射による眼合併症

2014年7月31日 木曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二6.抗VEGF薬硝子体内注射服部知明名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学による眼合併症抗VEGF薬が国内で認可されて5年が経過した.適応疾患は当初,滲出型加齢黄斑変性であったが,現在では近視性脈絡膜新生血管や網膜静脈閉塞症,糖尿病網膜症に伴う黄斑浮腫と拡大し,注射数の増加に伴う合併症の増加が懸念されている.今回は抗VEGF薬硝子体内注射による眼合併症について解説する.はじめに2008年にマクジェンRが日本で使用されるようになって以来,抗VEGF薬はルセンティスR,アイリーアRと続々と発売され,適応疾患もはじめは滲出型加齢黄斑変性に伴う脈絡膜新生血管のみであったが,現在では,近視性脈絡膜新生血管,網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫,糖尿病黄斑浮腫と徐々に適応拡大され,注射数の劇的な増加による合併症の増加が危惧されている.国内外で抗VEGF薬硝子体内注射による眼合併症が報告されており,なかでも眼内炎は,頻度こそ低いもののその後の視機能に重大な影響を及ぼすことから,予防と対策が非常に重要である.そのほか,当施設で起きた合併症も含めて解説する.網膜裂孔・黄斑円孔硝子体内注射手技の際に,刺入する針の動きと硝子体内に流入する薬液の影響で,硝子体の移動による網膜の牽引が起こったり,まれにではあるが長い針の刺入し過ぎや眼球の上転などの影響で針先が網膜に接触したりすることにより,網膜に医原性の裂孔や円孔を形成してしまう場合がある.飯島らの報告によると0.02%であった1).完全に予防することは困難であるが,当施設では術者が気をつけて行う点として,①眼球に垂直に刺入すること,②刺入後は眼球内での注射針の方向変換など無用な操作を行わずに,そのまま垂直に注射針を抜去することとしている.また,③薬剤のジェット水流による裂孔形成の報告もあるので,ゆっくりとした薬剤注入が推奨される.眼内への刺入は7.10mmぐらいでよいので,針の長さが10mm程度の30ゲージ針を用いると安全である.(77)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY水晶体損傷有水晶体眼への硝子体内注射の場合,手技的に水晶体後.を損傷する場合がある.注射針の刺入時よりも抜去時に針先が水晶体後面に接触する場合が多いように思われる.飯島ら1)は,0.06%と報告しており当院でも現在までに2例(0.08%)を経験しているが,いずれも抜去時に水晶体損傷を起こしている(図1).予防としては網膜裂孔の項目と同じだが,抜去時に注意して刺入時と同じルートを通って垂直に抜去するように心がけるとよい.手技に不安があれば,硝子体内注射ガイド(M.E.Technica)を使用すると安全に施行できる.水晶体後.を損傷してしまった場合は,高い確率でその後,外傷性白内障が進行し手術となる.このときは,すでに後.が破損していることを前提に手術を行う必要があり,患者への説明が重要である.また,(前部)硝子体切除を行図1水晶体損傷例80歳,男性.4回目の硝子体注射時に発生した.経過観察していたが徐々に白内障の進行を認めたため,3カ月後に白内障手術を施行した.術前からの後.破損のため眼内レンズは.外固定となった.あたらしい眼科Vol.31,No.7,20141003 図2眼内炎例74歳,男性.初回の硝子体注射のあと,4日目で発症した.同日に硝子体手術を施行となった.うことは,その後の抗VEGF薬の眼内滞留性を低下させて,治療がむずかしくなってくる場合があるので,やはり水晶体損傷には十分な注意をはらう必要がある.眼内炎抗VEGF薬に限らず,硝子体内注射における最も重大な合併症である.国内外の報告を調べると,個々の抗VEGF薬の注射における眼内炎の発生頻度は,飯島らは0.04%1)と報告し,MARINA試験2)でも0.04%であった.筆者らの施設でも2,488注射中1眼(0.04%)が眼内炎を発症した(図2).この頻度は白内障手術時の眼内炎の発症率と比較しても,ほぼ同等と考えられるものの,1人の患者が多いときは10回以上注射を行うこともあり,相対的に眼内炎のリスクが上がっていくと考えられるため,可能な限りの眼内炎の予防および早期発見が大切である.予防として,まず注射3日前から抗菌薬の点眼を行う.術前の消毒・洗眼に関しては300以上の論文を検証した報告において,ヨード製剤による消毒が術後眼内炎予防に最も高いエビデンスを有すると評価している3).したがって筆者らの施設では,眼瞼周囲の皮膚消毒を10%のヨード製剤で行い,結膜.の洗眼・消毒を4倍希釈のPA・ヨードで行っている.そのほか,当院では手術室を利用しているが,外来処置室で行うとしても,マスクと手袋の着用が推奨される.睫毛の常在菌の侵入を阻止するため,睫毛よけ機能1004あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014図3EzSpecR睫毛をシーリングすることができ,使い捨てのため清潔が保てる.の付いた使い捨ての開瞼器(EzSpecR:HOYA)を全例に使用している(図3).針先をどこかに触れないように気をつけるのも大切である.おわりに抗VEGF薬硝子体内注射による眼合併症のなかで,追加治療が必要となるおもな合併症を取りあげた.抗VEGF薬の硝子体内注射は最近の適応拡大に伴って,今後,劇的に増加する可能性が考えられる.注射数の増加により必然的に合併症をきたす絶対数も増加する.これをできる限り減らすために,手技的な合併症を極力減らし,最大の合併症である眼内炎をどのように予防するかが重要である.今後も眼内炎予防の知識を眼科医同士で共有し,可能な限りの予防措置を講じ,また,眼内炎発生時に迅速な対応ができるように患者説明や設備やスタッフの準備をしておくべきである.文献1)飯島裕幸,今澤光宏:ベバシズマブ硝子体注射に関する全国調査.眼科51:927-933,20092)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal:Ranibizumabfornaovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1419-1431,20063)CiullaTA,StarrMB,MasketS:Bacterialendophthalmitisprophylaxisforcataractsurgery:anevidence-basedupdate.Ophthalmology109:13-24,2002(78)

緑内障:新しいOCTによる乳頭篩状板観察

2014年7月31日 木曜日

●連載169緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也169.新しいOCTによる乳頭篩状板観察庄司拓平埼玉医科大学医学部眼科学教室SD-OCTの登場により,網膜分層構造の解析が可能になり,緑内障における網膜内層の構造変化をより詳細に捉えることが可能になった.現在,次世代OCTの試作機はいくつか報告されているが,本稿ではモードロックレーザーを用いた広帯域光源OCTによる視神経乳頭・篩状板像を紹介する.●緑内障の画像診断の進歩緑内障の画像診断は,スペクトラルドメイン光干渉断層計(spectral-domainopticalcoherencetomography:SD-OCT)の登場により解像度が向上し,網膜分層構造の定量的評価が可能になった.スキャンスピードが飛躍的に向上したため,重ね合わせによるスペックルノイズ除去や,ラスタースキャンによるBスキャン像の大量取得も可能となった.従来の画像診断機器による緑内障の定量的評価は,乳頭形状や乳頭周囲の網膜神経線維層(nervefiberlayer:NFL)を測定するのが主流であったが,これらの評価方法に加え,黄斑部内層網膜厚の評価が可能となった.2012年には世界初のスウェプトソースOCT(sweptsourceOCT:SS-OCT)が市販された.異なる波長の干渉信号をFourier変換して画像を構築する点において両者は共通であるが(Fourier-domainOCT:FD-OCTと呼ばれる),波長掃引レーザーを光源とするSS-OCTは,従来の光源よりも長い1,050nm帯を中心波長とするため,より深達度の高い(しかし縦方向分解能はややSD-OCTに劣る)画像が取得可能となった.●生体篩状板観察緑内障の病態に視神経乳頭篩状板が重要な役割を果たしていることは,従来から指摘されていた.緑内障が進行するにつれ,篩状板が後方へ押し出され菲薄化することは剖検眼で確認され,生体眼では篩状板孔が透見可能となり(laminardotsign),さらには篩状板孔が変形することも眼底写真を評価することで報告されていた1).ただし,硝子体側からは,篩状板の手前には血管や神経線維も集まってくるため,観察が困難となることが少な(75)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYくない.また,従来のOCTで観察を試みても,これらの組織により信号が減衰してしまい,明瞭な画像を得ることがむずかしかった.しかし,SD-OCTのEDI法やSS-OCTにより篩状板が確認可能となり,近年,生体篩状板の構造や乳頭辺縁の微細構造の報告が急増している.●広帯域レーザー光源を用いた新たなOCT筆者らの施設(埼玉医科大学先端レーザー医学センター)では,モードロックレーザーを用いた広帯域光源のOCTを開発した2,3).FD-OCTにおいてはOCTの縦方向分解能(axialresolution)は光源の波長幅により規定され,光源波長幅が広いほど解像度は向上する.本OCTは,従来のSLD光源を使用した波長幅の3.4倍にあたる200nmの波長幅をもつことにより,解像度2μmを実現した.さらに,ラスタースキャンの間隔を狭め,撮影部位の異なるBスキャン画像を連続取得した.この画像を再構築すれば,乳頭篩状板をはじめとする視神経乳頭深部の3次元情報を取得することが可能になり,任意の平面での切片画像がイメージングでき,さまざまな深さでのC-scan画像(en-face画像)を取得することも可能になった(図1).●今後の画像診断次世代OCTとしては,超広帯域光源を利用するものだけではなく,補償光学(adaptiveoptics:AO)を組み合わせた補償光学走査型レーザー検眼鏡(AO-SLO)やAO-OCT,組織の複屈折性を利用し,網膜内の物性変化を捉えようと試みられている偏光OCT,光学的なドップラー効果を利用し,血流量を測定するドップラOCTなどがある.いずれもいまだ市販化はされていなあたらしい眼科Vol.31,No.7,20141001 図1視神経乳頭の3次元断面像60歳,男性の正常眼画像を3次元構築した像.任意の高さにおける3次元像を構築することが可能となった.硝子体側からはlaminaporeは確認できないが(左),断面の高さを変えることで篩状板の構造が明瞭に確認できる.いが,生体眼での画像取得・解析結果はすでに報告されている.緑内障の視野障害発症パターンからも先述のとおり,視神経篩状板部の網膜神経線維束が最も重要な働きをしていることが強く示唆されている.これらの機器を応用することにより,詳細な生体乳頭篩状板の構造と機能が明らかになり,さらなる病態解明が期待される.文献1)MillerKM,QuigleyHA:Theclinicalappearanceofthelaminacribrosaasafunctionoftheextentofglaucomatousopticnervedamage.Ophthalmology95:135-138,19882)KurodaH,BabaM,SuzukiMetal:Ahighspeedthree-dimensionalspectraldomainopticalcoherencetomographywith<2μmaxialresolutionusingwidebandwidthfemtosecondmode-lockedlaser.AppliedPhysicsLetters102:251102,20133)KurodaH,BabaM,SuzukiMetal:Ultra-highsensitiveandhighresolutionopticalcoherencetomographyusingalaserinducedelectromagneticdipole.AppliedPhysicsLetters103:141118,2013☆☆☆1002あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(76)

屈折矯正手術:Hole ICL

2014年7月31日 木曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載170大橋裕一坪田一男小島隆司170.HoleICL岐阜赤十字病院眼科,名古屋アイクリニックICLの光学部中央に小さな貫通孔をもつHoleICLは,虹彩切除など瞳孔ブロック予防の処置が必要なくなることが特徴である.房水がICL下を流れるので併発白内障予防にも効果が期待される.光学的には通常のICLと差がないことが報告されている.●HoleICLとはImplantablecollamerlens(ICL)は後房型の有水晶体眼内レンズである.日本では2010年にICL,2011年にトーリックICL,2012年にHoleICLが厚生労働省に認可されている.安全性,有効性,予測性に優れる手術で,中等度.高度近視に対してはレーシック(LASIK)よりも術後視機能が優れることが報告されている1).乱視矯正効果においても,3D以上の乱視症例の乱視矯正効果はトーリックICLのほうがレーシックより優れていると報告されている2).後房型の特徴として,レンズが瞳孔領を塞いでしまうために,瞳孔ブロック予防のために術前にlaseriridotomy(LI),もしくは術中にperipheraliridectomy(PI)が必ず必要になる.術前のLIは患者にとっても負担であり,また現在までに報告はないが,レーザーによる角膜内皮細胞障害のリスクとなりうる.PIはICLの挿入後に行うが,通常ICL手術ではしっかりと散瞳した後に手術を行うため,その状態で縮瞳させる場合は十分な縮瞳が得られるまでに時間がかかる場合がある.HoleICL(ICLV4c)は,このICLの中央部分に0.36mmの貫通孔をもつもので,この穴を通して房水が後房から前房へと回るために,LIやPIは必要なくなる.現在ではヨーロッパにおいては通常型のICLよりも年間の埋植数は多くなっている現状である(STAARSurgical社内資料).●HoleICL手術HoleICLは通常のICL手術とほぼ同じように施行できる.レンズのカートリッジへのセッティングは従来と同じであるが,ICLは生理食塩水に浸漬しており,HoleICLはBSSに浸漬している.この違いにより,Hole(73)ICLは今までのICLよりも含水率が高くなっており,セッティングする際に,やや柔らかい印象がある.手術手順を図1に示す.従来のICLは裏側に粘弾性物質が残るが,HoleICLではHole周辺から粘弾性物質が抜けていくのが顕微鏡下で確認できる.●HoleICL挿入後の視機能光学部中央の貫通孔がどのように視機能に影響を与えるかは非常に重要なポイントである.Uozatoらは,モデル眼において0.36mmの中心孔をもつHoleICLは,臨床的に問題となるようなmodulationtransferfunction(MTF)の低下を引き起こさないことを報告している3).Shimizuらは,片眼にHoleICLを,もう一方に通常のICLを挿入して比較した術後早期成績を報告している4).この報告によると,HoleICLと従来型のICLでは術後の惹起高次収差に差がなく,コントラスト感度は両群間に差がなかったとしている.また,夜間のグレアやハローなどの症状も両群で差がなかったと報告している.Kamiyaらも年齢マッチングさせたHoleICL群と通常のICL群に対してopticalqualityanalysissystemを用いた比較をしている5).この報告では,両群においてMTFのcutoff周波数,Strehlratio,前方散乱に関するインデックスなど,視覚の質に関係する値に差がなかったとしている.●HoleICLがもたらす影響HoleICLによってLIやPIなどの処置が必要なくなる.LIやPIは術後の羞明の原因になることがある.また,LIは術後に塞がってしまったり,開いていても径が小さかったりすると瞳孔ブロックを起こすことがあり,ICL手術を始めたばかりの術者で起こしやすい合併症の一つである.PIも同様で,視機能への影響を小さあたらしい眼科Vol.31,No.7,20149990910-1810/14/\100/頁/JCOPY 図1HoleICL手術の流れ①サイドポート作製.②粘弾性物質置換.③3mm耳側角膜切開.④ICL挿入.⑤ハプティクスを虹彩下へ挿入(白矢印:中心の貫通孔).⑥IAを粘弾性物質を除去(白矢印:Holeへ向かう水流を確認できる).くするためにできるだけ小さいPIを作製しようとすると,前葉のみが切除され後葉が残ることがある.この場合は術後に瞳孔ブロックを起こし,緊急でYAGレーザーなどを用いてPIを開通させる処置が必要になる.また,瞳孔ブロックを起こさなくても術後早期に眼圧上昇することがあるが,その原因は粘弾性物質の残留によることが多いと考えられている.従来はICLと水晶体の隙間に残存した粘弾性物質を手術中に完全に吸引除去することは困難であったが,HoleICLは,貫通孔を通じて粘弾性物質の直接除去が可能で,術後の一過性眼圧上昇が非常に少ない.従来のICLは,前述したように生理食塩水に浸漬しているために,眼内に埋植されると膨張し,手術中は問題ないと思われても,術後のvault(ICLと水晶体前面の距離)が意外と高かったり低かったりすることがある.HoleICLはBSSに浸漬しているために,手術中とその後のvaultの変化が起こりにくい.ICL手術の術後合併症として併発白内障があげられる.この原因としては,手術による侵襲もあるが,その大半は房水の循環不全による代謝障害によると考えられている.HoleICLを使用することによって,房水が後房から前房へと生理的なルートと同じように流れるようになる.Shirataniらが報告するように,動物実験では水晶体への影響は通常のICLより小さく6),HoleICLによってこの併発白内障のリスクを大幅に減らせる可能1000あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014性がある.現時点ではHoleICLを使用して白内障を発症した症例の報告はなく,今後,長期経過観察の報告が待たれる.文献1)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:Comparisonofcollamertoricimplantable[corrected]contactlensimplantationandwavefront-guidedlaserinsitukeratomileusisforhighmyopicastigmatism.JCataractRefractSurg34:1687-1693,20082)HasegawaA,KojimaT,IsogaiNetal:Astigmatismcorrection:Laserinsitukeratomileusisversusposteriorchambercollagencopolymertoricphakicintraocularlensimplantation.JCataractRefractSurg38:574-581,20123)UozatoH,ShimizuK,KawamoritaTetal:Modulationtransferfunctionofintraocularcollamerlenswithacentralartificialhole.GraefesArchClinExpOphthalmol249:1081-1085,20114)ShimizuK,KamiyaK,IgarashiAetal:Intraindividualcomparisonofvisualperformanceafterposteriorchamberphakicintraocularlenswithandwithoutacentralholeimplantationformoderatetohighmyopia.AmJOphthalmol154:486-494,20125)KamiyaK,ShimizuK,SaitoA:Comparisonofopticalqualityandintraocularscatteringafterposteriorchamberphakicintraocularlenswithandwithoutacentralhole(HoleICLandConventionalICL)implantationusingthedouble-passinstrument.PLoSOne8:e66846,20136)ShirataniT,ShimizuK,FujisawaKetal:CrystallinelenschangesinporcineeyeswithimplantedphakicIOL(ICL)withacentralhole.GraefesArchClinExpOphthalmol246:719-728,2008(74)

コンタクトレンズ:ソフトコンタクトレンズ-素材,装用期間,装用方法,乱視,老視,カラー-

2014年7月31日 木曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一2.ソフトコンタクトレンズ糸井素純道玄坂糸井眼科医院―素材,装用期間,装用方法,乱視,老視,カラー―●特徴ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)の最も大きな特徴は,ハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)に比べて,装用感がよいということである.とくに装用開始当初の装用感には大きな差がある.その他にも,充血が目立ちにくい,レンズがずれにくい,紛失が少ない,激しいスポーツでも装用可能であるなどのメリットがある.その反面,角膜に傷ができても,そのバンデージ効果により,痛みが抑えられ,結果として,重篤な眼合併症(角膜潰瘍,眼内炎)へと進展することがある.眼への酸素供給のメカニズムも異なる.HCLはおもに瞬目によるレンズの動きに伴う涙液交換により行われ,SCL装用下の酸素供給はおもに素材を通過する酸素による.そのためSCLでは素材の酸素透過性が高いことが安全に装用するための必要条件となる.また,強度近視用,遠視用,乱視用,遠近両用などのレンズでは,レンズ厚が厚くなるため酸素供給量が低下する.素材だけではなく,レンズデザイン,度数により眼への酸素透過供給が大きく異なるのもSCLの大きな特徴である.また,眼の表面での形状保持性がHCLよりも劣り,円錐角膜などの角膜不正乱視,強度角膜乱視が矯正できない.●素材SCLには,大きく分けて2つの素材がある.ハイドロゲルと新素材であるシリコーンハイドロゲルである.ハイドロゲルコンタクトレンズ(CL)の酸素透過性はレンズ素材の含水性に依存され,含水性が高い素材ほど酸素透過性は高くなる.しかし,水に依存した酸素透過性には限界がある.一方,シリコーンは水とは比べものに表1日本で現在販売されているシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ種類デザインレンズ名発売日発売元頻回交換SCL球面アキュビューRオアシスR2007年3月ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)ビジョンケアカンパニー頻回交換SCL球面アキュビューRアドバンスR2007年3月ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)ビジョンケアカンパニー頻回交換SCL球面2WEEKメニコンプレミオ2007年8月(株)メニコン頻回交換SCL乱視用アキュビューRオアシスR乱視用2008年3月ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)ビジョンケアカンパニー頻回交換SCL乱視用エアオプティクスR乱視用2009年3月日本アルコン(株)1カ月交換SCL球面HOYAエアリーワンマンス2009年4月HOYA(株)アイケア事業部頻回交換SCL乱視用2WEEKメニコンプレミオトーリック2009年8月(株)メニコン頻回交換SCL遠近両用エアオプティクスRアクア遠近両用2009年10月日本アルコン(株)1日使い捨てSCL球面ワンデーアキュビューRトゥルーアイTM2010年4月ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)ビジョンケアカンパニー頻回交換SCL遠近両用メダリストプレミアマルチフォーカル2010年4月ボシュロム・ジャパン(株)頻回交換SCL球面エアオプティクスRアクア2010年7月日本アルコン(株)頻回交換SCL球面バイオフィニティR2011年6月クーパービジョン・ジャパン(株)頻回交換SCL球面メダリストフレッシュフィットコンフォートモイスト2012年6月ボシュロム・ジャパン(株)頻回交換SCL乱視用メダリストフレッシュフィットコンフォートモイスト〈乱視用〉2012年6月ボシュロム・ジャパン(株)頻回交換SCL球面エアオプティクスREXアクア2012年8月日本アルコン(株)頻回交換SCL乱視用バイオフィニティRトーリック2012年11月クーパービジョン・ジャパン(株)頻回交換SCL球面ロートモイストアイR2014年2月ロート製薬(株)頻回交換SCL乱視用ロートモイストアイR(トーリック)2014年2月ロート製薬(株)(71)あたらしい眼科Vol.31,No.7,20149970910-1810/14/\100/頁/JCOPY 998あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(00)ならないほど高い酸素透過性をもつ.シリコーンとハイドロゲルを融合させることにより,ハイドロゲルCLのメリットをそのまま生かした非常に酸素透過性の高いシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(SHCL)が開発されるようになった(表1).SCLの市場はハイドロゲルCLからSHCLに急速に移りつつある.現在は,SHCLの主流は頻回交換SHCLで,CL使い捨てSHCLは1種類しか日本で販売されていないが,海外ではすでに4種類以上が販売されており,日本でも乱視用,遠近両用,カラーCLを含め1日使い捨てSHCLを選択できる時代がくるのは,そう遠くはない.●装用期間日本では,1990年までは従来型SCLのみがSCLとして販売されていたが,1991年に1週間連続装用使い捨てSCLが登場,その後,1994年に頻回(2週間)交換SCL,1995年に1日使い捨てSCLが登場した.現在は,従来型SCL,1日使い捨てSCL,1週間連続装用SCL,頻回交換SCL,定期(1.6カ月)交換SCLが販売されている.日本のCLの市場は大きくシフトし,1日使い捨てSCLと頻回交換SCLが現在の主流となっており,SCL装用者がCL装用者の8割強と考えられている(図1).従来型SCLの寿命は,一般的には1.2年と考えられている.●装用方法RGPCLと同様,終日装用と連続装用がある.終日装用は就寝前までには必ずCLをはずす使用方法,連続装用はCLを就寝中もはずさずに連続して装用する使用方法をいう.●乱視用一般に乱視用のCLはトーリックCLとよばれる.トーリックCLは,角膜上でレンズの軸が適正な位置に安定することが必要である.角膜上でのレンズ回転を抑制し,軸を安定させるためのレンズデザインとして,プリズムバラスト,ダブルスラブオフ,後面トーリックの3つがある.●老視用日本では現在のところ,HCLと異なり,SCLは同時視型のみが販売されている.度数の分布では,レンズの中心部が遠見度数のものと近見度数のものがある.●カラーコンタクトレンズ整容用と美容用があり,整容用は虹彩付きSCLともよばれ,角膜白斑,無虹彩症などに処方されている.美容用には,虹彩の色を変える虹彩着色タイプ,黒目を拡大してみせるサークルタイプがある.文献1)MorganPB,WoodsCA,TranoudisIGetal:Internationalcontactlensprescribingin2013.ContactLensSpectrumJanuary:30-35,2014ZS932図1日本のコンタクトレンズ市場,コンタクトレンズの処方割合,コンタクトレンズレンズの種類50454035302520151050(%)20032004200520062007200820092010201120122013HCL1日使い捨て1週間連続装用2週間交換1カ月交換3~6カ月交換1年以上

写真:LASIK術後のepithelial ingrowth

2014年7月31日 木曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦362.LASIK術後のepithelialingrowth宮本佳菜絵*1,2稗田牧*2*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学眼科学教室epithelialingrowthepithelialingrowth図2図1のシェーマ図1初診時前眼部所見瞳孔領にかかる層間の混濁を認める(矯正視力0.7).図3スクレラルスキャッタリング図4フルオレセイン染色図5術後2年時の前眼部所見スクレラルスキャッタリングでは,層間層間混濁と連続した部位(10時方向)にEpithelialingrowthの再発は認めないの混濁がより鮮明に観察できる.フルオレセイン貯留を認める.(矯正視力1.2).(69)あたらしい眼科Vol.31,No.7,20149950910-1810/14/\100/頁/JCOPY 2000年に厚生労働省が「エキシマレーザーによる屈折矯正手術」を認可して以降,約14年が経過し,わが国におけるLASIKの累積手術件数はすでに200万件を超えると推定されている.LASIKが長期的に安全かつ有効な手術であることについては近年多数の報告がなされている1,2)が,フラップを作製する手術であるため,頻度は低いものの,epithelialingrowthやdiffuselamellarkeratitis,マイクロストリエといった特異的な合併症が生じることがある.Epithelialingrowthは,フラップ下に上皮細胞が迷入し増殖することで層間に混濁をきたすもので,術中角膜上皮.離を生じた場合3)やフラップ下に異物が残存する場合,また外傷やLASIK再手術などでフラップを契機に生じることが多い.術後数%の確率で生じるが,視機能に影響を与えないものがほとんどである4).Epithelialingrowthは,フラップの端から連続して伸びている「連続型」と,孤立して島状になっている「弧発型」に分類される.弧発型では上皮細胞の供給がないため,フラップエッジの上皮化に伴い自然経過で消退が期待できるが,連続型では進行することがあるため,視機能に影響を及ぼす前にフラップ下を洗浄し迷入上皮を除去する必要がある.また,機械的に除去した後には,フラップ層間の接着を強め上皮細胞の再迷入を防ぐために,ソフトコンタクトレンズを装用させることが治療の重要なポイントである.さらに,フラップが伸展しにくい症例や再発しやすい症例には角膜フラップ縫合を追加して,より強固なフラップの伸展と接着をはかることが重要であると考えられる.本症例は,LASIK術後8年時に木の枝で右眼を受傷し,フラップの.離を生じた.同日近医でフラップ整復術を受けたが,術後徐々に角膜混濁が増加し,前医で層間洗浄を行ったものの,その後さらに混濁の増加による視力低下をきたしたためバプテスト眼科クリニック(以下,当院)を受診した.当院初診時,瞳孔領を含めた広範囲にepithelialingrowthを認め,矯正視力は0.7まで低下していたため(図1~4),再度フラップ下の洗浄を行った.上皮組織はフラップ裏側および角膜ベッド側の両側に広く増殖しており,残存のないよう入念に除去した後に,フラップを整復した.さらに本症例では10時方向にフルオレセインの沈着を認め,外傷によるフラップの断裂が生じ,そこから上皮細胞が迷入したと考えられたため,上皮が完全に修復するまで約1カ月の間ソフトコンタクトレンズの装用を行った.現在術後2年経過するが,再発は認めず良好な視力を維持している(図5).文献1)DiraniM,CouperT,YauJetal:Long-termrefractiveoutcomesandstabilityafterexcimerlasersurgeryformyopia.JCataractRefractSurg10:1709-1717,20102)AlioJL,OrtizD,MuftuogluOetal:Tenyearsafterphotorefractivekeratectomy(PRK)andlaserinsitukeratomileusis(LASIK)formoderatetohighmyopia(controlmatchedstudy).BrJOphthalmol10:1313-1318,20093)FilatovV,Vidaurri-LealJS,TalamoJH:Selectedcomplicationsofradialkeatotomy,photorefractivekeratectomy,andlaserinsitukeratomileusis.lntOphthalmolClin37:123-148,19974)WangMY,MaloneyRK:Epithelialingrowthafterlaserinsitukeratomileusis.AmOphthalmol1291746-1291751,2000996あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(00)

視野検査の今後

2014年7月31日 木曜日

特集●視野検査の最前線あたらしい眼科31(7):987~993,2014特集●視野検査の最前線あたらしい眼科31(7):987~993,2014視野検査の今後FutureofPerimetry松本長太*はじめにヒトは,外界の情報の約8~9割を視覚から得ているといわれている.視野の定義が,「視覚の感度分布」であるように,視野検査は,眼球から視中枢にわたり外界の視覚情報が正しく中枢へ伝達しているかを評価するうえで欠かすことのできない重要な検査である.視野検査は,緑内障,神経眼科疾患,網膜疾患をはじめとする多くの疾患の機能評価として眼科診療において広く普及している.視野の歴史を振り返ると,量的視野検査が確立したGoldmann視野計の登場からすでに69年,自動視野計による静的視野測定が臨床に導入されてからすでに37年もの歳月が経っている1,2).昨今の光干渉断層計(OCT)の進歩に比べると,視野測定法やその解析の技術は,ある一定のレベルでの標準化が確立しているとも考えられる.これはとくに緑内障など数十年にわたる経過観察が必要な症例を扱う場合には大きな利点となる.しかし,残念ながら現在の視野検査法がわれわれ臨床医の満足いく姿に完成されたものであるということではなく,現実には多くの改善すべき課題を抱えていることも事実である.本稿では,現在の視野検査の抱えるおもな問題点を取り上げ,今後の視野検査のあるべき姿を含め考えてみたい.I現在の視野検査の抱える問題点1.自覚検査としての限界眼科診療において主流となっている自動視野計による静的視野測定は,呈示された検査視標を確認したらボタンを押して応答する自覚検査である.そのため,自覚検査であることに起因するさまざまな制約が存在する.閾値検査において検査視標が見えたか見えなかったかを判断する場合,心理物理学の基本となる視覚確率曲線の特性に従うことになる.そのため,閾値にはある程度の生理的変動幅が存在し,視野検査の結果のばらつきの要因となっている.さらに,自覚検査であるために,間違ってボタンを押したり,押さなかったりする偽陽性,偽陰性応答,検査中の固視の位置ずれ,検査の不慣れから生じる学習効果,疲労現象,個体で異なる長期変動などが存在する.しかしながら,この自覚検査であるという点は必ずしも視野検査の決定的なマイナス要因ではない.視野検査を通してわれわれが知りたい最も重要な情報の一つは,「患者は実際どこが見えて,どこが見えていないか」というqualityofvision(QOV)に直結する情報である.自覚的検査である視野検査から得られる情報は,将来,他覚的に視機能が推定できる技術革新が進んでも,他の手法に置き換えることはできない,あるいは置き換えるべきではない情報と考える.2.測定点配置現在の静的視野測定における閾値検査では,Humphrey視野計プログラム30-2に代表される中心30°内を6°間隔で約70点あまり測定する手法が主流となって*ChotaMatsumoto:近畿大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕松本長太:〒589-8511大阪狭山市大野東377-2近畿大学医学部眼科学教室0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(61)987 いる.臨床的には,さらに周辺視野を含めた全視野の情報や,固視点近傍のより高密度な視野情報も非常に重要であるが,現実的には検査時間との兼ね合いから,各種疾患において最も異常が出現しやすい中心30°内に重点をおいたプログラム配置が採用されている.しかしながら,この測定点配置は,網膜神経節細胞の解剖学的分布を考えたうえでも非常に粗い配列であり,自動視野計による緑内障早期視野障害の検出感度が,構造的評価に劣る一つの理由ともなっている.3.視標サイズ現在の自動視野計による静的視野測定では,標準で視標サイズ3(視角0.431°)が採用されている.Goldmann視野計ではおもにサイズ1が用いられてきたわけであるが,これをサイズ3に変更した理由には,静的視野としての視野のダイナミックレンジの確保が最も大きい.さらに中間透光体などの光学的侵襲に対する影響を軽減する目的もあった.実際,視標サイズ3は,閾値変動,固視微動を含め一般的な臨床において,確かに安定した使いやすいサイズであるといえる.しかしながら,疾患の早期を検出するという観点からは,とくに中心10°以内では網膜神経節細胞の解剖学的密度に比べ視標サイズが大きすぎ,視野の高い機能的余剰性を生む原因となっている.また,周辺視野では逆にサイズが小さすぎ,視野障害が進行した場合のダイナミックレンジ不足や障害部位における大きな閾値変動の原因ともなっている.4.測定時間視野検査は,眼科の自覚検査のなかでも最も時間のかかる検査の一つである.自動視野計を用いた閾値測定法にはいくつかの測定アルゴリズムが存在する.自動視野計の導入当初は,4~2dBの比較的単純なbracketing法による閾値測定が主流であった.しかし,この手法では片眼70点あまりの測定点を検査するのに20分近い検査時間を要していた.そのため,Swedishinteractivethresholdingalgorithm(SITA),Dynamicstrategy,Tendency-orientedperimetry(TOP),Zippyestimationbysequentialtesting(ZEST)などさまざまな時間短縮プログラムが考案され,現在では検査時間を従来の988あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014半分以下に短縮することが可能となっている.しかし,このような時間短縮プログラムが導入されても,たとえば広く普及しているSITAStandardでも被検者の検査準備や休憩時間を含めると,やはり両眼で30分近い検査時間が必要となる.われわれの日常の眼科診療臨床における視野測定を必要とする対象症例数から考えると,装置の台数,検査員の数,医療経済などさまざまな物理的制約に阻まれ,個々の症例の理想的なきめ細かな経過観察は決して容易ではないのが現状である.5.測定精度現在の視野検査の異常検出感度は,たとえば緑内障性視神経障害を例にとっても,決して満足のいくものではない.多くの研究において構造的変化が視野変化に先行することが知られている.さらに自覚検査のところでも触れたが,自動視野計による視野の測定結果を評価する場合,常に閾値の変動,アーチファクトが問題となる.閾値は短期変動,長期変動以外にも,偽陽性,偽陰性応答,固視不良,練習効果,疲労,矯正レンズ枠,頭位,眼瞼など非常にさまざまな原因で影響をうける.これらの閾値変動要因はノイズとなり視野障害の判定に影響を及ぼしている.一方,視野検査には,各種生体信号を利用した他覚的視野検査法として多局所ERG(網膜電図),VEP(視覚誘発電位),瞳孔視野などがある.しかし,現時点ではこれら他覚的視野検査の精度はまだ十分とはいえず,その臨床応用は多局所ERGを除き限定的である.II視野検査の今後1.測定点配置静的視野測定の場合,測定点をどのように配置するかは,異常検出感度の根幹にかかわる非常に重要な項目である.現在のHumphrey視野計で標準的に用いられている30-2を代表とする6°間隔の格子状配列は,導入されてからの歴史も長く,視野による長期経過を考えるうえでも容易には変更が困難である.しかし,この網膜の解剖学的構造とは無関係な格子状配列は,とくに黄斑部における網膜神経節細胞の分布密度を考えた場合,大きな問題となる.そこで実際の臨床では,これを補うため(62) 10-2などのより密度の高い測定点を中心部に追加測定しているのが現状である.しかし,測定点配置を変更することは,とくに視野による経過観察において大きな問題となる.検査時間の問題点は残るが,従来の測定点は維持しつつ,10°内へ新たな測定点を追加配置する手法が過去のデータの有効利用を考えたうえでも最も現実的な方法ではないかと考える.一方,規定の測定点以外に,初期の視野異常がはじまっている部位,構造的に異常が検出されている部位にさらに測定点を追加する方法も,機能的障害を早期に検出するうえで有用と考える.この場合,テーラーメイドになるため,追加点に関しては患者間での比較はむずかしくなるが,実際の臨床において個々の患者を前に治療方針を決定する場合は,有益な方法と考える.2.視標サイズ現在の静的視野測定は,shortwavelengthautomatedperimetry(SWAP)を除き視標サイズ3が標準的に用いられている.確かにサイズ3は中心30°内の視野を評価する場合において視野のダイナミックレンジ,中間透光体,屈折による光学的侵襲の問題などを総合的に考えると妥当な大きさであると考えられる.しかしながら網膜神経節細胞の受容野サイズは均一ではなく周辺視野では大きく中心へいくにつれ小さくなる.筆者らは,固視点近傍の視野測定にはより小さな視標サイズが有用であることを述べてきた3).また近年,小視標の有用性を支持する報告も多い4).さらに逆により大きな視標を用いることの有用性も報告されている5).大きな視標サイズは視野の変動を大幅に減らすことができる.理論的にはサイズが大きいと複数の受容野を刺激するため異常検出感度は大幅に低下する.しかし短期変動,長期変動が減少するため逆にそのメリットのほうが大きいとする考え方である.視野の中心部は小さな視標サイズ,周辺部は大きな視標サイズを用いて評価する考え方は,網膜の解剖学的構造からも,視野のダイナミックレンジ,変動幅などを考慮した生理学的な背景からも理にかなっていると考える.視標サイズなどの基本的な検査条件を変えることに関しては,過去のデータとの互換性,検査条件としての標準化との問題が常に論じられる.しかし,測定(63)部位,障害の程度に応じて柔軟に対応していくことも今後視野に入れる必要があると考える.3.全視野の評価現在の視野検査では,検査時間の制限もあり各種疾患において視野異常が好発する中心30°内が重点的に評価されている.しかし一方では,後期緑内障をはじめ神経眼科疾患,網膜疾患視覚などにおいて視野の全体像を把握することは臨床上非常に重要であることもよく知られている.とくに視野障害が進行した症例では,現在でもGoldmann視野計による動的視野測定の結果なしには患者の視野の正確な全体像の把握は困難である.周辺視野は,中心視野に比べ視野のダイナミックレンジが狭くまた閾値変動も大きいため,現在の中心30°内に最適化されている閾値測定アルゴリズムをそのまま流用することには問題がある.静的で測定する場合は,視標サイズをはじめ,より周辺視野に最適化されたアルゴリズムの開発が望まれる.また,自動視野計を用いた動的視野測定も全視野のパターンを効率よく評価するための有力候補と考える.4.視野の進行評価視野検査の重要な目的の一つに,視野障害の進行評価がある.とくに緑内障など慢性進行性疾患の経過観察において,視野による進行評価は欠かすことができない.自動視野計が導入され静的視野測定で閾値を数値として捉えることができるようになり,さまざまな視野進行解析方法が提唱されてきた.とくに,視野進行をエンドポイントとしたさまざまな臨床試験を通して,MD(meandeviation)スロープなど複数の視野を時系列に並べ直線回帰などの統計学的解析を行うトレンド解析,GlaucomaProgressionAnalysis(GPA)を代表とするベースラインの視野に対し,一定の判定基準を設け評価対象の視野の進行を判定するイベント解析をはじめ,多くの視野進行解析法が考案されてきた6).しかし,いまだにすべての局面に対応可能な視野進行評価の標準となる手法は確立されていない.さらに緑内障の分野では,視野進行は,眼底所見など構造的障害の進行とは一致しないことが知られている.そのため,OCTなどで得られた構造あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014989 図1コーワAP.7000左:コーワAP-7000本体.右:眼底対応視野測定では,視神経乳頭ならびに中心窩を基準にして眼底写真と視野測定の結果を対応させることができる.的障害の進行と視野から得られて機能的進行を同時に評価可能なアプリケーションや指標も多数考案されている.今後もこのような機能と構造の両面における評価がますます重要視されていくと考える.5.眼底視野計眼底直視下での視野検査は視野検査の一つの理想形である.眼底視野計はわが国が世界に先駆けて古くから多くの研究が盛んに行われてきた7).そして走査型レーザー検眼鏡をベースにしたSLO(ローデンストック)やその進化型であるMAIATM(トプコン)やトラッキング技術に支えられたMP-1TM(ニデック)ならびに現在開発中のMP-3TM(ニデック)などによるマイクロペリメトリは,網膜疾患の眼底病変に対する詳細な機能的対応を評価可能としている.とくにこれらの眼底視野計は,中心固視が問題となる黄斑疾患をはじめとした固視点近傍に病変を有する疾患において非常に有用である.また,中心固視が保たれている症例では,AP-7000のような眼底写真やOCT像などを盲点と中心窩を基準に視野と合成させ対応させる眼底対応視野計も有用であり,日常広く用いられている視野検査機器をそのまま応用できる利点がある(図1).とくに近年急速に進歩しているOCT技術と視野検査の融合は今後最も注目される分野990あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014で,機能的変化,構造的変化の対応を症例,同一機器でシームレスに評価可能とすることはきわめて重要であると考える.6.機能選択的視野検査これまでに,frequencydoublingtechnology(FDT),flickerperimetry,flickerdefinedform(FDF)perimetry,SWAPをはじめ実に多くの機能選択的視野検査法が開発されてきた.これらは従来の視野検査に比べとくに緑内障性視野障害をより早期から検出することが知られている8).これらの機能選択的視野検査法の問題点は,測定結果の変動がやや大きいこと,視野検査としてのダイナミックレンジが狭いこと,視野進行評価に対する有益なエビデンスが少ないことがあげられる.しかし,感覚網膜を構成する各種視細胞,網膜神経節細胞の機能的評価を選択的に行うという考え方は,疾患の早期発見のみならず,機能面からの病態解明においても重要な検査手法であり,さらなる検査手法の改良,新たな視覚刺激方法の開発が期待される.7.両眼開放視野検査視野検査の重要な役割の一つに日常生活にけるQOVの評価がある.その際,常に議論される問題点として両(64) 図2Octopus600視野計の設計として,両眼開放でも固視監視が可能となるように開発されている.眼開放下での視野検査があげられる.現在多くの研究では,左右単眼視野をbestlocation法で算術的に合成し両眼開放視野をシミュレーションして用いる手法が採用されている9).この方法は,われわれが日常診療で用いている検査結果をそのまま利用できるという大きな利点を有している.実際にMDなど視野指標レベルでは,両眼開放で測定された視野とよく相関する.しかし,健常者でも視野における両眼加算は存在し,さらに個々の測定点における疾患別,障害程度別の両眼加算の程度に関してはまだ不明な点が多い.そのため,個々の症例で視野の各部位の詳細な評価を行うためには,両眼開放下で実際に視野を測定することがやはり必要であると考える.さらに新規対象者の視野によるQOV評価では,逆に両眼開放でのみ測定することで検査時間の短縮も得られる.現在の視野計でも基本的には両眼開放下で視野測定を行うことができるが,検査中の固視に関してはまったく配慮されていないのが現状である.固視不良を評価する代表的な手法であるHumphrey視野計のHeijl-Krakau法は盲点刺激をその原理に用いているため,両眼開放下ではまったく機能しない.Octopus600では検査中に両眼の瞳孔を同時モニター可能で,はじめから両眼視野を意識した設計となっている(図2).両眼開放視野検査の固視監視に関しては,技術的にはさほどむずかしいことではなく,これから新規に導入されるモデルについては,はじめから両眼開放下での固視監視を可能とする対応が期待される.8.自宅での機能評価現在の視野検査は,ほぼすべて医療機関にて行われている.しかし,現実的には対象患者数の増加に比べ,視野計の台数,検査員の数,検査スペース,医療経済など多くの要因が背景となり,臨床的に理想的な検査回数をすべての患者に提供することはむずかしいのが現状である.一方,視野検査そのものを家庭で行う試みも進められている.小型の検査機器を患者に貸出し測定結果をインターネット経由で集積する方法として,加齢黄斑変性をターゲットとした家庭版のhyperacuityperimeterであるForeseeHomeTMがある.ForeseeHomeTMを用いて変視症の変化を評価することで,現在急速に頻度が増加している抗VEGF(血管内皮増殖因子)治療の追加投与のタイミングを自宅でも把握できる可能性がある10)(図3).装置そのものはまだ比較的高価なため,患者が購入するのではなく医療機関が貸し出す形が多いと考えるが,一つのホームペリメトリの形と考え,一般的な視野検査への応用も望まれる.一方,家庭に存在する民生機器を利用して視野検査を行う試みも進められている.視野検査を正確に行うためには,視標呈示装置,機器のキャリブレーション,測定環境,インストラクションなどいくつかの重要な要因が(65)あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014991 図3ForeseeHomeTM自宅での使用を目的に開発されたhyperacuityperimeter.加齢黄斑変性患者のモニターとして用いられている.ある.近年の電子機器の進歩は目覚しいものがあり,視標呈示装置に関しては,家庭用機器でも十分対応できる環境が整いつつある.大型ディスプレイ,3Dディスプレイ,高解像度,高輝度コンピュータディスプレイ,高性能ゲーム機器,多機能携帯端末,iPadなどにみるユーザーインターフェースの進歩,高速無線通信環境の整備など,どれをとっても自動視野計が生まれた1970年代では考えられなかった環境が驚くほどのスピードで整備されつつある.米国ではインターネット上のWebサイトで視野検査を行い,リーディングセンターへデータを送信,その診断結果をメールで受け取るシステムもすでに試みられている.南カルフォニア大学を中心に行なわれているPeristatTM,MacustatTMは簡単な登録でだれでもインターネット経由で視野障害の診断を受けることができる.これらの自宅における視野検査(ホームペリメトリ)の概念は,今後の視野検査の一つの方向性を示していると考える11)(図4).992あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014図4PeristatTM自宅でコンピュータ上で検査を行う,インターネット経由の視野検査ツールを提供している.おわりに現在の視野検査が抱えている種々の問題点をあげ,眼科診療における視野検査の今後の方向性について述べた.今回掲げた内容は,すでに基盤となるさまざまな基礎研究が,世界の視野研究に携わっている研究者により進められている.これらの多くができるだけ早くわれわれの臨床へのフィードバックがなされることを期待する.文献1)GoldmannH:EinselbstregistrierendesProjektionskugelperimeter.Ophthalmologica71-79,19452)FankhauserF,KochP,RoulierA:Onautomationofperimetry.AlbrechtVonGraefesArchKlinExpOphthalmol184:126-150,19723)MatsumotoC,UyamaK,OkuyamaSetal:Studyoftheinfluenceoftargetsizeonthepericentralvisualfield.InPerimetryUpdate1990/1991.MillsRPandHeijlA(Eds)1991,p153-159,KuglerPubl,Amsterdam/NewYork4)FrisenL:New,sensitivewindowonabnormalspatialvision:rarebitprobing.VisionRes42:1931-1939,20025)WallM,BritoCF,WoodwardKRetal:Totaldeviationprobabilityplotsforstimulussizevperimetry:acomparisonwithsizeIIIstimuli.ArchOphthalmol126:473-479,20086)HeijlA.LeskeMC,BengtssonBetal:Reductionofintraocularpressureandglaucomaprogression:resultsfromtheEarlyManifestGlaucomaTrial.ArchOphthalmol(66) 120:1268-1279,20027)NishidaY,MurataT,YoshidaKetal:Anautomatedmeasuringsystemforfundusperimetry.JpnJOphthalmol46:627-633,20028)NomotoH,MatsumotoC,TakadaSetal:DetectabilityofglaucomatouschangesusingSAP,FDT,flickerperimetry,andOCT.JGlaucoma18:165-171,20099)Nelson-QuiggJM,CelloK,JohnsonCA:Predictingbinocularvisualfieldsensitivityfrommonocularvisualfieldresults.InvestOphthalmolVisSci41:2212-2221,200010)AREDS2-HOMEStudyResearchGroup,ChewEY,ClemonsTEetal:RandomizedtrialofahomemonitoringsystemforearlydetectionofchoroidalneovascularizationhomemonitoringoftheEye(HOME)study.Ophthalmology121:535-544,201411)IanchulevT,PhamP,MakarovVetal:Peristat:acomputer-basedperimetryself-testforcost-effectivepopulationscreeningofglaucoma.CurrEyeRes30:1-6,2005(67)あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014993

OCTと視野検査の融合-主に緑内障眼について-

2014年7月31日 木曜日

特集●視野検査の最前線あたらしい眼科31(7):977.986,2014特集●視野検査の最前線あたらしい眼科31(7):977.986,2014OCTと視野検査の融合─主に緑内障眼について─CombinationJudgmentofStructureandFunction─GlaucomaEye─岩瀬愛子*IOCTによる視神経乳頭解析と黄斑解析に技術の発展とともにtime-domain,spectral-domain,対応する視野異常の判定swept-sourceと解像度とスキャン速度が向上し網膜の構造変化の診断能力は飛躍的に向上している.OCTにOpticalcoherencetomography(OCT)は,画像解析より非侵襲的に網膜の微細構造の評価が可能となり,黄視神経乳頭解析結果視神経乳頭周囲神経線維厚図1CirrusRによるCP.RNFL解析および視神経乳頭解析の各種パラメータ*AikoIwase:たじみ岩瀬眼科〔別刷請求先〕岩瀬愛子:〒507-0033岐阜県多治見市本町3-101-1クリスタルプラザ多治見4Fたじみ岩瀬眼科0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(51)977 AB図2.1TopconのGCC(ganglioncellcomplex)解析A.黄斑解析.神経線維厚(NFL),神経節細胞層(GCL),内網膜層(IPL)の判別をし,上下比較をして対称性の崩れを診断に利用する.B.Hamphrey視野計10-2の結果.978あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(52) 1mmx1.2mm4mmx4.8mm1mmx1.2mm4mmx4.8mm図2.2CirrusHDカールツアイスのGCA(ganglioncellanalysis)解析は,GCL+IPLの解析である.斑疾患における層認識,緑内障診断において重要な網膜神経線維層の菲薄化の検出と視神経乳頭陥凹拡大の三次元評価などが客観的かつ定量的に短時間で可能となった.とくにOCTによる緑内障の検出のための乳頭周囲の網膜神経線維層厚(circum-papillaryretinalnervefiberlayerthickness:CP-RNFLthickness)の測定方法は,time-domainOCT(TD-OCT)の時代にはサークルスキャンのみであったが,spectral-domainOCT(SDOCT)になり撮影速度が向上し視神経乳頭を中心とした三次元画像を高速に同時に撮影可能となり,乳頭周囲の直径3.4mm円周のみではなく撮影後に観察場所を変えた解析を可能にする方法となった.視神経乳頭形状の解析としては,視神経のdisc面積,rim面積,視神経乳頭陥凹のパラメータ(垂直CD比,水平CD比,cupvolume)などを算出する視神経形状立体評価の手法が使用される(図1).さらに血管などの組織が集中する視神経と比較して,組織の均一な黄斑部解析は黄斑疾患だけではなく,早期緑内障診断に有用とされるようになった.これは,網膜神経線維節細胞の50%が黄斑部に集中しており1),緑内障性変化を検出しやすいとするもので,網膜全層厚,黄斑部網膜神経線維層厚,神経節細胞,内網状層の組み合わせによる解析を,正常眼データベースと比較したdeviationmapやsignificancemapで表示可能となった(図2).Swept-sourceOCT(SDOCT)においては篩状板構造の解明,網膜神経線維走行の検出,緑内障近縁疾患である強度近視の視神経所見,黄斑部所見などの情報を得ることが可能となった(図3).緑内障による視野異常の検出には,視野異常の部位と視神経線維束欠損が対応するかどうかが重要な鑑別診断のポイントである.従来,眼底写真による肉眼的な網膜(53)あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014979 強度近視例のOCT-2000(SpectraldomainOCT)による画像同一例のTopconSweptSourceOCTによる網膜神経線維画像,視野は正常範囲内であるがNFLの画像ではNFLDをとらえている強度近視例のOCT-2000(SpectraldomainOCT)による画像同一例のTopconSweptSourceOCTによる網膜神経線維画像,視野は正常範囲内であるがNFLの画像ではNFLDをとらえている図3強度近視眼正常視野,右眼.17D.神経線維の走行・網膜神経線維束欠損(NFLD)・視野検査で使用される検査点の配置の対応関係のセクター分類が報告されてきた2.5).これらのセクター分類は,OCT所見が検出している視神経線維束欠損と視野異常の対応にも応用され,視野異常が眼底のどこの部位のNFLDに対応するものであるか?あるいは,NFLDと相関のない脈絡膜・網膜・視神経疾患などの他の病変の結果であるのか,あるいは眼疾患による視野異常であるのかないのかなどの判定に有用である.例えば,カールツアイス社のOCT&Humphrey視野計の結果解析経過管理ソフトForumでは,OCT所見と視野所見を同時に表示する機能があり有用である.中心30°以内の視野検査点と画像解析所見の対応をみるには,GarwayHeathらによるHumphrey視野計の検査点と視神経乳頭のセクター分類を利用し,中心10°以内の視野検査結果と画像解析所見の対応をみるには,網膜神経線維層のデータが同時に表示して臨床的に短時間での視野とOCT検査結果の同時評価を容易にしている(ComboReport)(図4)II経過観察時のOCTと視野検査の対応OCTと視野検査の同時評価は,確定診断時のみではなく,治療開始後の進行の判定にも有用である.とくにSD-OCT以降の世代となり,OCTの測定における再現性が向上し6),さらに眼底のオートトラッキング機能なども加わり,経過観察用に過去に撮影した部位と同じ部980あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(54) Garway-Heathのセクター解析を使用30°,10°ともに、データベースから判定した確立マップをカラー表示している図4ForumComboreport中心30°,中心10°の例.セクター解析により解剖学的変化と機能が対比しやすい.位の撮影も可能となったことで,視野検査におけるのと同様に,経過観察用ソフトによる統計学的評価ができるようになった.図5に示すのは,CirrusHD-OCTの経過観察用ソフトGuidedProgressionAnalysis(GPA)forassessingRNFLandOpticdiscChangeで,視野検査で使用されているのと同じ手法によるイベント解析,トレンド解析が可能となった.構造と機能は同時にパラレルに進行するのではなく,進行速度や進行のタイミングには差があり,OCTの結果と視野検査結果ともに,GlobalIndexなどで全体像のみをとらえる指標を使用して経過をみるのではなく,少なくとも上下のセクター解析と上下半視野解析,OCTの視神経の分割指標と視野におけるセクター解析などを常に三次元時間軸で評価するべきである(図5).HFAFiles(Beeline)では,従来よりMDLineだけではなく,totaldeviationの平均値を使用して緑内障特有の上下視野の進行速度の違いを利用した半視野解析機能があったが,最新ソフト「HFAFiles緑内障Pro」で(55)はセクター分類を利用した解析を強化しているなど,OCTによる画像解析情報に対応した判定方法が有用である(図6).OCTが検出しているのは各部位の構造に過ぎず,その部位が,検出された厚さとなった原因まで明らかにしているわけではない.構造の変化は視野の変化に先行し,構造の異常の検出が通常臨床で使用される視野検査方法に先行して疾患をとらえる事実がある一方で,いわゆるNFLDあるいは網膜神経線維層の菲薄化を検出したとしても,その原因が,ただちに治療すべき「緑内障である」ことと同一ではない.緑内障は,非可逆的に慢性に進行し失明に至る病気であり,早期検出が重要であることはいうまでもないが,同時に,慢性的に緩徐に進行する例も多いことから,早期検出を重要視するあまり,鑑別診断をおろそかにして治療開始するべきではない.「経過観察」という選択肢にこうした時系列の判定は非常に有用である.視野検査に異常があっても,その結果が構造異常と一致しないならば,これも鑑別診断を慎重にすべきでああたらしい眼科Vol.31,No.7,2014981 HFAFilesによるMDLineとTotalDeviation半視野解析図5GuidedProgressionAnalysis(GPA)forassessingRNFLandOpticdiscchange上下に分けた視神経線維厚のイベント解析とトレンド解析が可能である.トレンド解析は治療の変更に伴いbaselineを設定しなおして進行をみる.図6HFAfiles「緑内障Pro」による解析全体,半視野とセクター分類を使用して,進行の判定をする.進行しやすい部位を注意することで,進行検出の感度が上がる.982あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(56) る.眼底所見だけでは説明できない視野異常,すなわちもっと中枢性の視野異常,あるいは,被験者側の要因,環境要因なども,その鑑別診断に加えるべきである.OCTによる画像診断結果と視野測定結果を対比して診断する方法は,飛躍的に伸びてきている.しかし,まだ医師の眼で見た眼底所見との総合判断は重要である.診断にあたってはOCTなどの画像解析所見と視野検査所見を補助診断として,時間軸の判定と現在の判定を同時に総合判断で行うこととなるが,そこに肉眼的な眼底検査情報あるいは眼底写真による情報(視神経から黄斑部を含む広角写真,視神経を中心にした45°,30°の写真,視神経乳頭の立体写真など)は常に有用である.また,画像解析装置は器械の発展とともに機種に依存した屈折補正前屈折正後データとなり,各データの互換性が取れなくなることも多い.緑内障のような慢性疾患を長期に経過観察する場合は,とくに過去の治療の記録とともに,画像や視野検査結果のデータの時系列解析のための互換性は重要である.視野検査においては,動的量的視野検査・静的量的視野検査ともに,機種を変えない限り今のところ互換性は保たれているが,10年ほど前に使用していた三次元画像解析装置は,今,臨床的にほとんど姿を消そうとしているように,今後も飛躍的に発展をすることが予想される.画像解析装置の進化の中で,OCTにおいて今後も長期継続したデータの互換性の保証はない.医師の眼で見た画像情報に近い画像,すなわち各角度の眼底写真,視神経乳頭の立体写真などは,OCTの検査結果・左視野右視野図7正常眼近視(R:-7D,L:-6D)トプコンは屈折補正することで計測結果をより実例に近づける.この症例では,視神経乳頭解析結果が修正され偽陽性が改善された.(57)あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014983 正常眼データベース判定GCC長眼軸長眼データベース判定GCC図8POAG男性.RV=0.07(1.2×S.12.5D).眼軸:26.27mm(長眼軸長).NIDEKのGCC黄斑解析.視野検査結果とともに常に普遍的な記録として残しておくべきであると考える.それは,さらに機能を向上させた画像解析と視野検査から新しく緑内障が定義されるようになるまでの間必須であると考える.IIIデータベースと機種による判定の違い視野検査結果は,各器械専用に集められた正常眼データにより判定される.Humphrey視野計の場合,FullThreshold法による検査方法,統計学的短縮法のSITAStandard,SITAFast法,Blue-on-Yellowなど,日本を含む世界の各国から集めた別々のデータベースを元に結果の解析方法が考案されている.これは,他のどの視984あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(大久保真司先生のご厚意による)野計においても同様で,このデータベースの質が診断の質を決めている.OCTにおいても,これは同様であり,基準となっているデータベースは,日本を含む世界の各国から集めて構築されているが,機種が異なれば判定結果が微妙に異なる場合もあるのは,このデータベースの違いによることもある.可能な限り多くの年代のデータが収集されており,統計学的処理を用いられてはいるが,10代のデータは少ない.また,人種によって基準を変える必要がある場合もある.さらに多くのデータベースはcrosssectionalなデータであり,個人の加齢変化や疾病の早期の変化は全体のばらつきの中に隠されてしまう場合がある.日本をはじめアジアにおいて緑内障(58) OD:wRGC=318000CSFI=62%OS:wRGC=503000CSFI=38%OD:wRGC=318000CSFI=62%OS:wRGC=503000CSFI=38%図9CombininedIndexStructureandfunction(CSFI)とtheweightedRetinalGanglionCellcount(wRGC)を添付されたForumComboReportと近視性視神経症ともいうべき病態との鑑別診断は最近のトピックとなっているが,OCTの機種によって,屈折異常に対応する補正機能は異なり,例えばトプコン社3D-OCT2000では画像を屈折データの入力をして補正をすることで実測値の改善を図り,ニデック社は強度近視には長眼軸長データベースを判定に採用することで誤判定を防いでいる.図7は強度近視眼だが,視野は正常であり,屈折補正なしでは神経線維束欠損があるように見えるも,補正すると正常範囲となる.視神経所見からも緑内障ではない.図8は,緑内障眼ではあるが,長眼軸長データベースを適用する前には,視神経線維束欠損が多くみられるように判定されるが,適用後では視野異常に一致した神経線維束欠損がみられるのみである.IV網膜神経節細胞数評価と早期緑内障診断緑内障による視野異常の検出は,視神経乳様所見,網膜神経線維束所見,網膜神経節細胞の構造的変化による検出よりかなり遅れて検出可能となると報告されている.Quigleyらの報告7)では,自動視野計による感度低下と網膜神経節細胞の障害の関係は,.5dBで20%,.10dBで40%とされる.Harwerthら8),GarwayHeathら1)の報告においても,網膜神経節細胞の余剰性についての報告があり,緑内障の診断と経過観察を機能と構造の両面からの定量指標を用いて判定する方法も考案されている(theStructureFunctionIndex).緑内障性視神経症の画像解析の主役がHRT(HeidelbergRetinalTomograph)であった頃よりこの方法は試行されてきているが9),Medeirosらは,Harwerthらの計算式を応用して,SD-OCT(CirrusHD)とHumphrey視野計の結果より指標を計算しcombinedindexofstructureandfunction(CSFI)を考案した.この指標により,構造と機能を同時にひとつの指標で把握できるとされ,いわゆるpreperimetricglaucomaや,視野の重症度分類(Staging)に適していると報告している(図9)10,11).文献1)Garway-Heath,CaprioliJ,FitzkeFWetal:Scalingthehillofvision:Thephysiologicalrelationshipbetweenlight(59)あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014985 sensitivityandganglioncellnumbers.IOVS41:17741782,20002)Garway-HeathDF,Poinoosawmy,FitzkeFWetal:Mappingthevisualfieldtotheopticdiscinnormaltensionglaucomaeyes.Ophthalmology107:1809-1815,20003)WernerEB,BishopKI,KoelleJetal:Acomparisonofexperiencedclinicalobserversandstatisticaltestsindetectionofprogressivevisualfieldlossinglaucomausingautomatedperimetry.ArchOphthalmol106:619-623,19884)WirtschafterJD,BeckerWL,HoweJDetal:Glaucomavisualfieldanalysisbycomputedprofileofneverfiberfunctioninopticdiscsectors.Ophthalmology89:155-167,19825)SuzukiY,AraieM,OhashiY:Sectorizationofthecentral30degreesvisualfieldinglaucoma.Ophthalmology100:69-75,19936)AraieM:Test-retestvariabilityinstructuralparametersmeasuredwithglaucomaimagingdevices.JpnJOphthalmol57:1-24,20137)QuigleyHA,DunkelbergerGR,GreenWR:Retinalganglioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimteryinhumaneyeswithglaucoma.AmJOphthalmol107:453464,19898)HarworthRS,SmithEL3,ChandlerM:Progresivevisualfielddefectsfromexperimentalglaucoma:measurementwithwhiteandcoloredstimuli.OptomVisSCi76:558570,19999)BolandMV,QuiglewHA:Evaluationofacombinedindexofopticnervestructureandfunctionforglaucomadiagnosis.BMCOophthalmology11:6,201110)MedeirosFM,LisboaR,WeinrebRNetal:Acombinedindexofstructureandfunctionforstagingglaucomatousdamage.ArchOphthalmol130:1107-1116,201111)MedeirosFM,ZangwillLM,BowdCetal:Thestructureandfunctionrelationshipinglaucoma:Implicationsfordetectionofprogressionandmeasurementofratesofchnges.IOVS53:6939-6946,2012986あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(60)

視神経疾患・中枢性疾患の視野変化

2014年7月31日 木曜日

特集●視野検査の最前線あたらしい眼科31(7):969.975,2014特集●視野検査の最前線あたらしい眼科31(7):969.975,2014視神経疾患・中枢性疾患の視野変化VisualFieldDamageDuetoVisualPathwayDisorders松本佳子*中村誠*はじめに視野障害を診断する際には,その障害部位の同定が不可欠である.MRI(磁気共鳴画像)などの画像診断技術の進歩により,障害部位の同定はより早く,正確に行えるようになってきた.しかし,障害部位によっては特徴的な視野欠損パターンを示すため,画像診断の前に部位をある程度予測できる.本稿ではまず視路と視野の関係に触れたのちに,部位別に視野障害をきたす疾患とその特徴について述べていく.I視路と視野視路とは視覚情報が伝わる神経線維の走行のことである.視路を考える際は,網膜神経線維を中心窩を通る垂直経線と水平経線で4分割し,さらに周辺視野と黄斑部で分けて考えると便利である.網膜神経節細胞から出た神経線維は視神経となって眼球外に出た後,視交叉を経て視索に至る.垂直経線より鼻側神経線維(耳側視野)は交叉線維であり,視交叉以降は対側の視索へ進む.耳側神経線維(鼻側視野)は非交叉線維であり,同側の視索へ進む.外側膝状体からは視放線を通り後頭葉へ至るが,下方網膜,上方網膜,黄斑部で神経線維の走行が異なる.下方神経線維は側頭葉を,上方と黄斑部の神経線維は頭頂葉を経由し,どちらも後頭葉へ向かう(図1).accdbefg図1視路と視野障害の対応イメージII各論1.視神経疾患交叉・非交叉線維が同時に障害されるため,視野欠損パターンに中心経線の段差が生じないのが特徴である.片眼障害の場合は患側にRAPD(relativeafferentpupillarydefect)が出現する.a.視神経炎視野障害は中心暗点が典型的だが,あらゆる視野欠損パターンが起こりうる(図2A).視神経前部の視神経炎では視神経乳頭は発赤し腫脹するが,球後で発生すると眼底所見は異常がない.両眼発症や繰り返す視神経炎の*YoshikoMatsumoto&MakotoNakamura:神戸大学大学院医学研究科臨床医学領域外科系講座眼科学分野〔別刷請求先〕松本佳子:〒650-0017神戸市中央区楠町7-5-1神戸大学大学院医学研究科臨床医学領域外科系講座眼科学分野0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(43)969 ABCABC図2視神経疾患での視野障害例A:多発性硬化症での視野障害(右眼)」傍中心暗点や耳側下方の視野障害を認める.B:AIONでの視野障害(右眼).下視野の水平半盲に加え,上視野にも視野障害を認める.C:Leber病での視野障害(両眼).両眼で中心絶対暗点を認める.既往があるときは,多発性硬化症や視神経脊髄炎などの全身疾患の合併を疑うべきである.b.虚血性視神経症視神経の栄養血管の閉塞で引き起こされる.乳頭の蒼白浮腫を認める前部虚血性視神経症(anteriorischemicopticneuropathy:AION)と乳頭変化のない後部虚血性視神経症(posteriorischemicopticneuropathy:PION)に分類される.さらにAIONは動脈硬化や糖尿病による非動脈炎型と,側頭動脈炎などの膠原病による動脈炎型に分けられる.AIONの乳頭浮腫は,閉塞した血管が栄養する部分に起こる.よって浮腫は分節状となることが多く,患側の浮腫に相当する視野が障害される.AIONは水平半盲が特徴的といわれているが,中心暗転や弓状暗点などの視野障害を認める場合も多い(図2B).診断には蛍光造影検査が有用である.c.圧迫性視神経症視神経の周辺組織が炎症や腫瘍化によって腫脹し,視神経を圧迫することで発症する.具体的には視神経を包む視神経鞘や外眼筋,副鼻腔,下垂体などがあげられる.とくに副鼻腔病変で発症した視神経症は鼻性視神経症ともよばれる.あらゆる視野欠損パターンを引き起こす可能性があり,診断には眼窩部MRIなどの画像検査が必要である.d.外傷性視神経症前額部や眉毛部への打撃が視神経症を引き起こすことがある.外傷による物理的エネルギーが視神経やその周辺組織を損傷した場合以外にも,視神経管の骨折など視神経が圧迫された場合や虚血に陥った場合も視神経症を発症する.その損傷部位や障害原因が症例によって異なるため,視野障害もさまざまな形をとる.970あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(44) 図3視交叉の神経走行と視野対応A:視交叉での神経線維の走行イメージ.B:下垂体腺腫の視野障害.e.うっ血乳頭頭蓋内圧が上昇すると軸索流の停滞により視神経乳頭は発赤し浮腫をきたす.視野はMariotte盲点の拡大を認める.ただし頭蓋内に異常があり視路が障害されている場合は,それに対応した視野障害がみられる.f.中毒性視神経症メチルアルコールの誤飲や,シンナーなどの有機化学物質への曝露は視神経症を引き起こす.また,結核治療薬であるエタンブトールなど,視神経症を引き起こす薬剤も知られている.両眼性視神経症であり,中心暗点や盲点中心暗点などさまざまな形をとりうる.よって両側で中心経線の段差がない対称的な視野障害を認めた場合は,中毒性(あるいは後述の栄養欠乏性)を疑うべきである.とくにメチルアルコール中毒は急速に増悪しやすく予後不良であることが知られている.g.栄養欠乏性視神経症中毒性視神経症と同様に両眼性であり,中心暗点や盲点中心暗点などの視野障害をきたす.ビタミンB群の不足で発症する.極端な偏食や拒食,アルコールの多飲を続けている場合は注意が必要であり,現病歴の聴取が重要である.ビタミン剤による補充で視機能は回復し,比較的予後良好である.h.遺伝性視神経症遺伝性視神経症で最も多いのはミトコンドリア遺伝子の異常によって引き起こされるLeber病である.母系遺伝であり,10.20歳代あるいは40.50歳代の男性に好発する.乳頭の充血や周囲の毛細血管拡張などの乳頭所見に対し,蛍光造影での色素漏出がないのが特徴であABる.視野では中心暗点をきたし,片眼で発症した場合は高確率でもう一方にも発生する両眼性疾患である(図2C).根治療法はなく,ビタミンB12やコエンザイムQ10などの補酵素の補充を行う.予後は症例によってまちまちだが,失明に至ることは少ない.喫煙が発症の危険因子である1).2.視交叉疾患鼻側神経線維は交叉線維であり,視交叉で対側の視索に入る.このとき,上方・下方・黄斑部で視交叉内での走行が異なる.上方線維は一旦同側の視索へ向かうが,視交叉後角で交叉して対側の視索へ入る.下方線維は視交叉に入るとただちに視交叉前角を交叉し,対側の視索へ向かう.黄斑部は視交叉に入ると徐々に上へ移動しつつ同側の視索へ向かい.視交叉後角の上部で交叉して対側の視索へ入る(図3A).以上より,視交叉内での障害部位で視野パターンが決定する.a.下垂体疾患下垂体は視交叉の下に位置する内分泌器官である.この部位の腫瘍(下垂体腺腫)や炎症により視交叉が障害されることがある.下垂体腺腫では視交叉の下部から前角に向かって進展することが多く,視野障害は両耳側半盲となり,とくに両上耳側1/4部分盲をきたすことが多い(図3B).b.頭蓋咽頭腫頭蓋底を構成する蝶形骨にはトルコ鞍とよばれる凹みがあり,視交叉はその上に鎮座している.トルコ鞍由来の腫瘍で最も多いのが頭蓋咽頭腫である.頭蓋咽頭腫は(45)あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014971 視交叉後角から視交叉を圧迫するため,両耳側半盲でもとくに両下耳側1/4部分盲をきたすことが多い.c.脳動脈瘤前大脳・前交通動脈瘤や内頸動脈瘤が視交叉を圧迫し,視野障害をきたすことがある動脈瘤は正中から左右のどちらかに偏位しているため,欠損パターンは左右非対称な耳側半盲となる.また,動脈や動脈瘤に左右両側から挾まれた場合は両鼻側半盲となるといわれているが稀である.3.視索疾患視索には同側の耳側神経線維と対側の鼻側神経線維が走行している.よって視索障害では対側の同名半盲をきたす.なお,視神経障害と異なりRAPDは障害部位の対側で検出される.これは交叉線維の量が非交叉線維よりも多いからで,その比率は交叉:非交叉=55:45といわれている2).対光反応経路はつぎの外側膝状体に入る直前で視路から分岐する.よって視索より後方の視路障害では対光反応は正常であり,RAPDは出現しない.AB視野対応網膜面背側C内側外側外側膝状体腹側4.外側膝状体外側膝状体では,下方神経線維が外側を走行し,上方神経線維が内側を走行する.その際,固視点に近い線維ほど背側を走行し,周辺視野を司る線維は腹側を走行する.外側膝状体障害はほとんどが血流障害によるものであり,原因血管によって視野欠損パターンが決定する(図4A).外側膝状体を栄養する血管は外側後脈絡叢動脈と前脈絡叢動脈であり,この2つは吻合していない.外側膝状体の中央部を栄養する外側後脈絡叢動脈が閉塞した場合は,水平経線を跨いだ帯状.楔状の視野欠損をきたす(図4B)3).周辺部を栄養する前脈絡叢動脈の閉塞では,水平経線を跨ぐ部分の視野は保持され,扇形視野欠損となる(図4C)4).なお,すべての神経線維はここでつぎの神経節細胞とシナプスを形成する.よってこれ以降の視路障害(側頭葉・頭頂葉・後頭葉)では逆行性変性による視神経萎縮は起こらない.5.側頭葉側頭葉の障害では,同側の耳側下方線維と対側の鼻側下方線維が損傷される.つまり健側の同名上1/4盲を図4外側膝状体における視野対応A:外側膝状体における視野対応網膜細胞配列.B:外側後脈絡叢動脈梗塞での視野障害3).C:前脈絡叢動脈梗塞での視野障害4).972あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(46) 視野meyer’sloopABCDB視野meyer’sloopABCDB図5側頭葉Meyer'sloopと視野対応A:Meyer’sloopと視野の対応関係.B:左Meyer’sloop障害での視野障害.左右不一致の非協調性視野障害になることが多い2).その形からpieintheskyともよばれる5).きたす.部分盲の場合は,欠損パターンは左右非対称となることが多い.これは側頭葉を走行する視放線では,左右での網膜対応点が離れているのが原因である.また,下方線維群は外側膝状体から出た後,一旦前方へ進んでから反転し後方へ向かう.この反転部をMeyer’sloopとよぶ.Meyer’sloopの前方が障害された場合は特徴的な上同名1/4部分盲となる(図5).6.頭頂葉障害部位と同側眼の耳側上方線維と対側眼の鼻側上方線維が損傷される.つまり健側の同名下1/4盲をきたす.A7.後頭葉障害部位と同側の耳側線維と対側の鼻側線維が損傷される.つまり健側の同名半盲をきたす.完全な半盲でない場合でも視野障害は左右でほぼ対称的となるのが,側頭葉や頭頂葉障害との鑑別ポイントである.後頭葉の障害では黄斑回避という現象が起こることがある.これは周辺視野の境界は垂直経線に一致するのに対し,中心部では境界が健側に変移する現象である(図6).成因として「半盲に対する機能的適応により中心部では眼球運動が健側に迷入しがちになる=視野検査のアーチファクトである」説,「網膜神経節細胞は耳側・鼻側が交叉・非交叉に分類されるが,黄斑部のみ同部位に交叉・非交叉線維の両方が存在する」説,「黄斑部は広域の皮質に投射されるため,一部の栄養血管が閉塞して図6後頭葉障害での黄斑回避右後頭葉腫瘍による視野障害.よく見ると黄斑部では左側に境界が偏っている.(47)あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014973 ABC図7高次機能障害の検査左半側空間無視での一例.A:「線分二等分試験」.線分の中央に印をつける.印が中央より右寄りになっている.B:「線分抹消試験」.すべての線分に印をつける.左側の線分に印がつかず,またつけた印も右寄りになっている.C:「線画模写」.左が見本,右が模写した絵.左側の模写が不完全である.AB図8心因性視野障害A:求心性視野障害.B:らせん状視野障害.も他の皮質が残存している」説などがある6).8.高次機能障害視野に関係が深い高次機能障害には半側空間無視がある.「大脳半球病巣と反対側に提示された刺激に対して,発見して報告したり,反応したり,その方向を中止することが障害される病態」と定義されている.理論上は左右どちらでも発生しうるが,実際は右大脳半球障害による左半側空間無視が多い.左同名半盲を認めた場合は,半側空間無視の可能性を考慮すべきである.後頭葉障害による同名半盲との違いは,患者自身が障害を自覚できない(無視している)点である.無視側の物によくぶつかる,無視側の皿にある料理を見落とすなどの症状がないか確認し,疑わしい場合は「線分二等分試験」や「線分抹消試験」を行う(図7).974あたらしい眼科Vol.31,No.7,20149.心因性視野障害眼所見に異常なく,頭部MRIなどの精査を行っても器質性障害がまったくない場合は心因性を疑う.さまざまな視野障害パターンをとなるが,求心性視野障害やらせん状視野障害が有名である(図8).また,視野障害が片眼の場合はHumphreyfieldanalyser(HFA)のEsterman両眼開放視野が鑑別に役立つことがある.心因性あるいは詐病による視野障害では,健眼による視野の補完を認めないことが多い.文献1)SadunAACarelliV,SalomaoSRetal:ExtensiveinvestigationofalargeBrazilianpedigreeof11778/haplogroupJLeberhereditaryopticneuropathy.AmJOphthalmol136:231-238,20032)中村誠:“視索・外側膝状体・視放線疾患と視野”.これならわかる神経眼科.根木昭編.文光堂,p215-218,(48) 20053)FrisenL:Quadruplesectoranopiaandsectorialopticatrophy:asyndromeofthedistalanteriorchoroidalartery.JNeurolNeurosurgPsychiatry42:590-594,19794)FrisenL,HolmegaardL,RosencranzMetal:Sectorialopticatrophyandhomonymous,horizontalsectoranopia:alateralchoroidalarterysyndrome?JNeurolNeurosurgPsychiatry41:374-380,19785)江本博文,清澤源弘,藤野貞:神経眼科臨床のために第3版.医学書院,20116)吉田正樹:“黄斑回避の成因と意義”.これならわかる神経眼科.根木昭編.文光堂,p219-221,2005(49)あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014975

緑内障性視野変化

2014年7月31日 木曜日

特集●視野検査の最前線あたらしい眼科31(7):963.968,2014特集●視野検査の最前線あたらしい眼科31(7):963.968,2014緑内障性視野変化GlaucomatousVisualFieldChanges鈴村弘隆*はじめに緑内障の本態は乳頭篩板部での軸索流障害による進行性の網膜神経節細胞死であり,視野変化はその分布領域で網膜感度の低下が引き起こされたものである.したがって,緑内障性視野変化の大前提は,網膜神経線維の走行に沿った網膜感度の低下,すなわち視野変化が出現することを念頭において視野をみることが肝要である.I緑内障性視野変化を理解するために網膜神経線維の走行には,大別して2つの分け方が考えられる.1つは,乳頭を中心としたもので,網膜を3分割し,黄斑と視神経乳頭(以下,乳頭)の間を支配する乳頭黄斑線維,乳頭黄斑線維の外側を走り耳側の網膜へ向って扇状に広がる弓状線維,網膜の鼻側へほぼ直線状に伸びる鼻側線維として捉えるものである.このうち,弓状線維は,耳側網膜周辺へ向かうが,上半網膜の線維と下半網膜の線維は交叉することなく,耳側縫線(temporalraphe)を形成し,反対側には進まない(図1).そして,それぞれの網膜神経線維は乳頭の決まった場所に収束する,すなわち,乳頭黄斑線維は乳頭の耳側へ,弓状線維は乳頭の上極と下極へ,鼻側線維は乳頭の鼻側に集まる.また,同じ経路の網膜神経線維では,周辺網膜からの神経線維は網膜神経線維層(retinalnervefiberlayer:RNFL)の深層を走り乳頭の周辺部に,乳頭周囲からの神経線維はRNFLの浅層を走り乳頭の中央部に集まる特徴がある(図2).もう1つの走行は,視中枢への投射を考慮し,中心窩を通る垂直線(medianstrip)1)(図1)を仮想し,その垂直線の耳側と鼻側で網膜神経線維を分けて考えるもので,medianstripの耳側の神経線維は視交叉で交叉せず,同側の外側膝状体・視中枢に向かう交叉性線維であり,鼻側の神経線維は視交叉で交叉し,対側の視中枢に向かう交叉性線維である.耳側縫線右眼Medianstrip図1網膜神経線維の走行(右眼)乳頭を中心とする網膜神経線維の走行は,3つの部分(乳頭黄斑領域[黄色],弓状領域[白色],耳側領域[水色])に分割できる.また,中心窩を通る垂直経線(medianstrip)の鼻側は視交叉部での交叉性線維に,耳側は非交叉性線維に分けられる.*HirotakaSuzumura:すずむら眼科〔別刷請求先〕鈴村弘隆:〒164-0012東京都中野区本町4-48-17新中野駅上プラザ904すずむら眼科0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(37)963 II緑内障性視野変化のタイプ緑内障性視野変化は,乳頭部での神経線維の障害で惹起される.一般に,緑内障の乳頭変化は,篩板孔の大きい上・下極での軸索がおもに最初に障害され2),rimの菲薄化,notch形成がみられる.この構造的特徴が緑内障性視野変化を定型的にしている理由と考えられていRNFLRGCDisc図2網膜神経線維層と乳頭網膜周辺部の神経節細胞からの神経線維は網膜神経線維層の深層を,乳頭に近いほど浅層を走行し,遠位の神経線維ほど乳頭の周辺側へ,近位の神経線維ほど中心側へ入る.RGC:網膜神経節細胞,RNFL:網膜神経線維層,Disc:乳頭.図3傍中心暗点孤立性暗点の一つ.傍中心部の暗点は乳頭黄斑線維障害でみられる.MD:.2.53dBp<5%,PSD:5.60dBp<0.5%,GHT(GlaucomaHemifieldTest):正常範囲外.左:グレイ・スケール,右:パターン偏差確率プロット.る.一方,乳頭鼻側の軸索は最後まで残ることが多く,それゆえ耳側視野は後期まで残ることが多い.ここで,緑内障での耳側視野とは,網膜神経線維の走行の2つの流れを考慮すると,medianstripの耳側に分布し,かつ乳頭の鼻側に収束する網膜神経線維の分布する領域と考えることができる(図1).緑内障性視野変化のタイプは一言でいえば,網膜神経線維に沿った障害,すなわち,神経線維束欠損(nervefiberbundledefect:NFBD)と表現できるが,それらが出現する場所と大きさによっていろいろな名称でよばれている.孤立性視野変化は,固視点近傍,Bjerrum領域や鼻側周辺などにみられるが,病状が進行し,多数の篩状板孔で神経線維が障害されると広範なNFBDが起こり,いわゆる楔状の視野変化となる.これらのうち,乳頭黄斑線維障害では傍中心暗点(図3)や半視野の盲斑中心暗点が,弓状線維障害では弓状暗点(arcuatedefect)またはBjerrum暗点(図4),Seidel暗点(図5),鼻側階段(nasalstep)(図6),鼻側穿破(breakthroughofdefectstonasalperiphery)(図7a,b),水平半盲様欠損(図7c)などがみられる.耳側視野障害は,扇状に広がるため切痕状欠損(sectordefect),扇状暗点(wedge-shapedsectordefect)としてみられ,鼻側線維障害で起こる(図8).図4弓状暗点乳頭黄斑線維の外側を弓状に囲む領域(Bjerrum領域)での暗点.Bjerrum暗点ともいわれる.MD:.2.72dBp<5%,PSD:7.48dBp<0.5%,GHT:正常範囲外.左:グレイ・スケール,右:パターン偏差確率プロット.964あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(38) 図5Seidel暗点弓状暗点の一種.Grayscaleでみれば,Mariotte盲点が上方または下方に拡大したような暗点であるが,PDplotsでみれば,弓状領域に感度低下が繋がっているのがわかる.MD:.5.10dBp<0.5%,PSD:4.66dBp<0.5%,GHT:正常範囲外.左上:グレイ・スケール,左下:パターン偏差確率プロット,右:パターン偏差確率プロットとRNFL走行.図6鼻側階段耳側縫線(temporalraphe)の上下で大きな感度差があるものをいう.鼻側水平経線の上下対称部での感度差が10dB以上の点が2カ所以上連続するもの.弓状領域での障害の一部.MD:.2.92dBp<2%,PSD:5.54dBp<0.5%,GHT:正常範囲外.左:グレイ・スケール,右:パターン偏差確率プロット,中央:実測網膜感度.(39)abc図7鼻側穿破弓状領域の暗点が鼻側周辺まで連続するものをいい,絶対暗点がMariotte盲点と連続しないものを不完全鼻側穿破(a),連続するものを完全鼻側穿破(b)という.また,乳頭黄斑線維での障害が併せてみられると水平半盲様(c)となる.左:グレイ・スケール,右:パターン偏差確率プロット.(a)MD:.9.09dBp<0.5%,PSD:8.69dBp<0.5%,GHT:正常範囲外.(b)MD:.11.93dBp<0.5%,PSD:16.96dBp<0.5%,GHT:正常範囲外.(c)MD:.15.99dBp<0.5%,PSD:15.78dBp<0.5%,GHT:正常範囲外.III緑内障性視野変化の見つけ方緑内障性視野変化は網膜神経線維の走行に沿って出現するので,明らかな障害のあるものでは,眼底所見と相応性を確認しやすく判定は比較的容易である.しかし,軽度の視野変化では,その判定は容易ではないが,パターン偏差確率プロット(patterndeviationprobabilityplots:PDplots)に注目すると軽度の異常も見つけやすあたらしい眼科Vol.31,No.7,2014965 図8耳側楔状欠損緑内障では比較的稀である.中心視野検査だけでは検出できないこともある.上下視野の非対称性を示すGHTもMariotte盲点耳側にクラスターがないため,正常範囲内の判定である.症例は,Estermantestで周辺まで楔状欠損が続いていることが確認された.MD:.0.80dB,PSD:5.89dBp<0.5%,GHT:正常範囲外.左:EstermantestとRNFL走行,右上:グレイ・スケール,右下:パターン偏差確率プロット.図9早期視野変化PDplotsで弓状領域に3点連続のp<5%の沈下点(うち2点がp<1%の点)の塊があり,網膜神経線維層欠損に対応するため,早期視野変化の可能性が高い.Anderson基準にもWeberの基準にも該当する.MD:+0.35dB,PSD:2.34dB,GHT:正常範囲外.左上:グレイ・スケール,左下:パターン偏差確率プロット,右:パターン偏差確率プロットとRNFL走行.966あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(40) 図10網膜神経線維走行と不一致な変化感度低下部が上下視野でそれぞれかたまっているようにみえる.RNFLの走行を考慮すると,上半視野の3点が同一のRNFLの領域にあるものの可能性が高いが,下半視野の連続する3つの感度低下点は別々のRNFLの領域にある可能性が高いので,緑内障性変化とは判定できない.MD:.1.83dBp<10%,PSD:1.82dB,GHT:正常範囲内.左上:グレイ・スケール,左下:パターン偏差確率プロット,右:パターン偏差確率プロットとRNFL走行.C30-2図11C30.2.C24.2で基準非該当感度低下部がかたまっていなくても,中心10°内で深い沈下点がRNFLに相応してみられれば,詳細な検査を行う.本例もC10-2での検査で,異常点がかたまって存在していることがわかる.左上:グレイ・スケール,左下:パターン偏差確率プロット,右:パターン偏差確率プロットとRNFL走行.MD:.1.83dBp<10%,PSD:1.82dB,GHT:正常範囲外.C10-2(41)あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014967 い.すなわち,まとまって障害された神経節細胞の障害は,塊った感度低下を示し,これが網膜神経線維の走行に沿っていれば,緑内障による異常の可能性が高く,Anderson基準やWeberらの基準で用いられている.Anderson基準は,このPDplotsでの判定以外に,視野全体の感度の歪みを示すパターン標準偏差(patternstandarddeviation:PSD),上下視野の感度の非対称性を判定する緑内障半視野テスト(glaucomahemifieldtest:GHT)の3つの指標を用い,緑内障視野変化を検出する.この基準は3項目のうち,いずれか1項目を満たせば初期緑内障性視野変化の可能性が高いと判定される3).PDplotsでは,p<5%の点が3点連続し,うち1点がp<1%であることで判定される(図9)が,検出感度は高いものの4)沈下点の配列の判定に主観が入りやすく注意が必要である.一般的に6°間隔の検査プログラムでは,水平経線を跨いだり,網膜神経線維の走行と直交するような沈下点の配列はひと塊の異常とは判定できない(図10).また,Weberらもp<1%の沈下点が2個連続するか,p<5%の沈下点が3個連続する場合を異常と捉えるように提唱している5).しかし,これら基準を満たしていない場合でも,眼底所見に一致する沈下点がみられれば,緑内障性視野変化の存在を疑う必要がある.すなわち,PDplotsで明らかな沈下点の塊がなくとも,眼底所見と相応する沈下が1点でもあれば,さらに詳細な検査(C10-2測定やSWAP〔shortwavelengthautomatedperimetry〕など)を行い,視野変化の有無を確認することが必要である(図11).おわりに個々の視野変化は網膜神経線維の走行に沿った形で出現するが,それらが悪化進行する様式もまた,網膜神経線維に沿った形でみられる.弓状暗点と鼻側階段が融合すれば鼻側穿破の視野障害となり,これに傍中心暗点が出現すれば水平半盲様を呈する.一方,耳側視野障害が先行することはきわめて少ないが,後期には鼻側穿破や水平半盲様の視野異常に隣接する耳側領域の障害が出現してくることもある.通常,緑内障では早期から中期にかけては上下視野障害が非対称的に進行することが多968あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014■用語解説■耳側縫線:黄斑から耳側の網膜は上下の神経線維が反対側に進むことなく,上下の神経線維によってあたかも布の縫い目のような様相を呈することからよばれる.緑内障性視野変化で鼻側階段がみられるのはこのためである.medianstrip:中心窩を通る垂直線で網膜を耳側と鼻側に分割すると,それぞれの領域の網膜神経節細胞からの神経線維の収束する外側膝状体から視中枢のサイドが分かれることから,この仮想垂直線をmedianstripとよぶ.Bjerrum領域:中心10.20°ないし25°の領域で,耳側でMariotte盲点に収束する領域.Seidel暗点:Mariotte盲点の上下で,Mariotte盲点に繋がる感度低下領域をいい,弓状網膜神経線維の障害でみられるものをよんだが,緑内障以外でも同様の感度低下がみられることから,緑内障に特異的でないとして,使用されなくなった.鼻側階段:緑内障による網膜神経線維層欠損に対応し,鼻側視野の感度に水平経線の上下で差のあるもので,耳側網膜では上下の網膜神経線維が交叉しないことから起こる.vonHenningRonneが初めて報告し,動的視野でのイソプタが階段状になることから名づけられた.く,上下視野障害の程度に時間差がみられる.しかし,後期になれば上下視野障害が進行し,最終的には,中心視野のみが残存するものか耳側視野のみが残存するものかに分かれてゆく.文献1)VarmaR,MincklerDS:Anatomyandpathophysiologyoftheretinaandopticnerve.TheGlaucomas2ndedvol.1BasicSciences(RitchR,ShieldsMB,KrupinT),p139173,Mosby,StLouis,19962)QuigleyHA,AddicksE:Regionaldifferencesinthestructureofthelaminacribrosaandtheirreactiontoglaucomatousnervedamage.ArchOphthalmol99:137-143,19813)AndersonDR:Interpretationofasinglefield.AutomatedStaticPerimetry,p91-161,Mosby,StLouis,19924)鈴村弘隆,吉川啓司,木村泰朗ほか:SITAStandardによる初期緑内障性視野障害検出とAnderson基準.日眼会誌115:435-439,20115)WeberJ,CaprioliJ:Interpretationanddifferentialdiagnosis.AtlasofComputerizedPerimetry,p187-213,WBSaundersCompany,Philadelphia,2000(42)

視野計の仕組みと基本的な使い方 4.眼底視野計

2014年7月31日 木曜日

特集●視野検査の最前線あたらしい眼科31(7):953~961,2014特集●視野検査の最前線あたらしい眼科31(7):953~961,2014視野計の仕組みと基本的な使い方4.眼底視野計HowtoUsePerimetry(BasicOperation):FundusPerimetry廣岡一行*はじめに緑内障の診断や進行評価においてはHumphrey静的視野計(HFA)が広く用いられている.しかし,HFAは実際の測定部位の同定は不可能であり,また固視不良などにより検査精度の信頼性が低い場合もありうる.これに対して,眼底視野計は眼底直視下で網膜感度が測定でき,眼底写真と微小視野計測の結果を重ね合わせて表示できるため,網膜病変部位や網膜神経線維層の菲薄部に対応した網膜感度がひと目でわかるようになっている.1979年に走査レーザー検眼鏡(SLO,Rodenstock社)に搭載された微小視野計が発売されたが,マニュアルによる測定点の入力,再現性の問題,操作に熟練を要する,トラッキング機能がない,などの欠点があった.その後,2002年にMicroPerimeter1(MP-1)が,さらに2009年にはMacularIntegrityAssessment(MAIA)が発売され,これらの機器は日常臨床で十分に活用可能となっている.本稿では2つの眼底視野計について解説する.IMicroPerimeter1(MP.1)MicroPerimeter1(MP-1,ニデック社)は,視野測定機能および眼底撮影機能を組み合わせた機器である.検査中に目の動きを自動的に追尾することができるトラッキング機能を備えている.トラッキング機能は,最初に眼底写真を撮影し眼底画像を取り込み,参照エリア(視神経乳頭から出ている大きな血管の分岐点や血管の交叉部などを含んでいるような,細部がはっきりしている部位が参照エリアに最適である)を選定し,参照エリアをもとに検査中の固視ずれを検出し,視標呈示の際に標示位置を補正する機能である.このトラッキング機能により検査の信頼性が確保される.また,視野検査の経過観察のためにフォローアップ検査の機能があり,前回撮影した赤外眼底写真と今回撮影した赤外眼底写真の重ね合わせを行うことによってフォローアップ検査が可能となった.MP-1には大きく別けて5種類のテストパターンがあり,Automaticパターン,Manualパターン(図1),Peri-papillaryパターン(図2)などがある.Automaticパターンは刺激プログラムがHFA10-2に相当するもので,Manualパターンでは眼底上の任意の点を刺激することが可能である.視標輝度は相対輝度で0~20dBとなっており,HFAに比べて刺激幅が狭く,0dBが必ずしも絶対暗点を意味していないので注意が必要である.また,固視標は十字線,円,4対の十字線などから選択でき,大きさや色の変更が可能である(図3).赤外眼底写真を元にした網膜視感度測定結果とカラー眼底写真を重ね合わせることによってカラー眼底写真上に網膜感度を表示することが可能となっている(図4).IIMacularIntegrityAssessment(MAIA)MacularIntegrityAssessment(MAIA,トプコン社)*KazuyukiHirooka:香川大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕廣岡一行:〒761-0793香川県木田郡三木町池戸1750-1香川大学医学部眼科学教室0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(27)953 ②③④⑤②③④⑤①⑥図1MP.1(Manualパターン)検査結果表示①検査時間.②□:視標が見えず応答スイッチが押されなかった,あるいは見えたが待機時間終了後に応答スイッチを押したため装置が見えていないと判断したとき.■:被験者が視標が見えたことを示し,表示色が閾値を表す.③固視標の種類と大きさ.④視野検査中,定期的に0dBでGoldmannIIIの視標を視神経乳頭に投影.(2/6)6回投影が行われ2回応答スイッチを押している.⑤閾値ストラテジーには4-2-1,4-2,Fast,Raw,Manualの5種類がある.⑥安定度判定.75%以上の固視点が直径2°の円の中にある場合は安定と判定される.954あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(28) 図2MP.1(Peri.papillaryパターン)検査結果表示固視標は十字線が使われており,94%の固視点が直径2°の円の中にあり,固視は良好である.とMP-1との相違点として,赤外眼底カメラでなく中ムでのトラッキングが可能である.また,MP-1では視間透光体の混濁の影響の受けにくいSLOを用いたモニ標輝度範囲が0~20dBと狭かったが,MAIAでは0~ター画面の採用や視標輝度範囲が幅広くなったこと,な36dBの幅広い視標呈示となり,より深い暗点の検出やどが挙げられる(表1).MAIAは眼底像をリアルタイ初期変化の検出が可能となった.このように後発機種でムで観察しながら,眼底の常に同じ部位に刺激視標を投あるMAIAでは,MP-1における問題点の多くに解決影し網膜感度を測定することができるため,リアルタイが試みられている.(29)あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014955 AB図3MP.1の固視標A:十字線,B:円,C:4対の十字線.中心を細かく測定したい場合に円の固視標を用い,中心に視野欠損のある疾患では中心に固視標のない4対の十字線の固視標が適している.(C:ニデック社提供)表1MP.1とMAIAMP-1MAIA眼底画像共焦点ライン走査画角36°×36°解像度1,024×1,024視標サイズGoldmannIII最少瞳孔径2.5mm正常データあり視標呈示白色LED視標最大輝度400asb視標最少輝度4asb刺激幅20dB近赤外眼底カメラ45°円形1,280×1,024GoldmannI~IV4mmあり液晶ディスプレイ1,000asb0.25asb36dB図4カラー眼底写真と網膜視感度測定結果の貼り合わせ網膜神経線維層の菲薄化(矢印内)した部に一致して,網膜感度の低下を認める.956あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(30) ①①②④③⑤⑦⑥図5MAIA検査結果表示①検査時間および信頼性の視標.信頼性視標は被験者が見えなかった視神経乳頭上に投影されたコントロールポイントの割合を示す.②視標拡大画像.③カラー感度マップ.④患者の年齢に対応して調整されたノーマティブデータと比較して,計算された平均値が「NORMAL」「SUSPECT」「ABNORMAL」のいずれに当たるかを表示.⑤正常眼と比較した被験者の閾値分布,⑥固視プロット図.⑦全固視(,)点が内部固視点(,)のある位置から直径2°の円内に75%以上あれば「STABLE」,直径2°の円内に固視点が75%未満であても,直径4°の円内には固視点の75%以上が入っていれば,「RELATIVELYUNSTABLE」と判断される.(31)あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014957 AB図6フォローアップ検査の結果A:表示されている画像は最初の検査のもので,数値は1回目と2回目の検査の閾値の違いを表す.緑は閾値の増加(改善)を表し,白は閾内の変化が0dBであることを表し,赤は閾値が3dB以上減少(悪化)したことを表す.また,この図にはないが,橙色は閾値が2dB減少したことを表す.B:横軸は時間を,縦軸は視標の値を表しており,「NORMAL」「SUSPECT」「ABNORMAL」の範囲はそれぞれ緑,黄色,赤で色分けされている.視標呈示は5種類のパターンがあり,HFA10-2に相当するもの(図5)やManualなどがある.当然ではあるが,任意に刺激点を作製した場合には,正常データとの比較はできなくなる.閾値ストラテジーはEXPERTEXAM(4-2ストラテジー)とFASTEXAMの2種類あるが,フォローアップ検査はEXPERTEXAMのみ可能となっている(図6).III眼底視野計の使い方眼底視野計には,HFAなどのような進行解析プログラムがなく,少なくとも現時点では緑内障の経過をみていくには不十分といわざるをえない.しかし,眼底視野計のメリットは網膜病変部位や網膜神経線維層の菲薄部に対応した網膜感度がひと目でわかることである(図7).またHFAでは,黄斑疾患などの限局性病変との対比は容易でなく,とくに固視不良例では信頼性や再現性に乏しく,黄斑疾患への応用には問題が少なくない.これに対して眼底視野計では,眼底直視下で網膜感度が測定でき,またトラッキング機能で固視不良の症例でも眼底上の正確なポイントを刺激することができ,検査の再現性が向上することなどから,眼底視野計に関する報告は黄斑疾患で多くみられる.前回と同じ部位を測定するフォローアップ機能を用いて,糖尿病黄斑浮腫,加齢黄斑変性や特発性黄斑円孔などの疾患に対する治療の前後での黄斑部視機能の比較が報告されている1~3).緑内障に関しては,眼底直視下に網膜感度を測定できるという958あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(32) 図7共焦点ライン走査眼底画像およびカラー感度マップとカラー眼底写真網膜神経層の菲薄部位(→)に一致した網膜感度の低下(カラー感度マップの黒色部分)を認める.図7共焦点ライン走査眼底画像およびカラー感度マップとカラー眼底写真網膜神経層の菲薄部位(→)に一致した網膜感度の低下(カラー感度マップの黒色部分)を認める.有用性を生かして,網膜の機能と構造に関する報告がされている4~6).眼底視野計は視機能を二次元的に評価できるため感度の分布が把握しやすく,緑内障による視野欠損が固視点にどの程度近づいているかを知るのにも便利であり,患者に説明する際にも,非常にわかりやすいと好評である.また,MAIAにはロービジョントレーニングソフトウエアが備わっている(図8).これは,黄斑に疾患があるために固視が不安定であったり偏ったりしている患者が,網膜上に機能性の高い新たな固視点を定めることができるようにするプログラムであり,より高い網膜感度が得られている領域で見る訓練が行われる.おわりに眼底視野計は眼底像に重ね合わせた網膜感度の表示が可能な視野計であり,視機能や治療効果の評価に有用な検査機器である.現在市販されている機器は測定点配置,操作がむずかしい,再現性の問題などが克服されており,黄斑疾患を中心に視機能の評価に用いられている.視機能を面として評価できるため,黄斑疾患のみならず緑内障を含む他の疾患にも幅広く利用され,眼底視野計の長所を最大限活用することが望まれる.■用語解説■絶対暗点:暗点のうち,視野計の最高輝度の光刺激を与えて知覚されないものを絶対暗点という.これに対して,ある程度を超えた輝度を知覚しうる暗点を比較暗点という.閾値ストラテジー:視標投影された眼底の各ポイントでの感度の閾値を探索する様式のことである.たとえば,4-2ストラテジーでは最初に4dBステップ間隔で測定をはじめ,被験者の応答がノーからイエス,あるいはイエスからノーに変化したならば,つぎは逆方向に2dBステップ間隔で同様に測定する.(33)あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014959 図8ロービジョントレーニングの結果網膜画像上に点在する緑の点が,検査中に患者が到達した固視位置を示す.FIXATIONSUCCESSRATEのP1とP2の指数が増加すると,固視がより安定していることを示す.960あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(34) 文献1)NakamuraY,MitamuraY,OgataKetal:Functionandmorphologicalchangesofmaculaaftersubthresholdmicropulsediodelaserphotocoagulationfordiabeticmacularoedema.Eye24:784-788,20102)OzdemirH,KaracorluM,SenturkFetal:Microperimetricchangesafterintravitrealbevacizumabinjectionforexudativeage-relatedmaculardegeneration.ActaOphthalmol90:71-75,20123)OokaE,MitamuraY,BabaTetal:Fovealmicrostructureonspectral-domainopticalcoherencetomographicimagesandvisualfunctionaftermacularholesurgery.AmJOphthalmol152:283-290,20114)SatoS,HirookaK,BabaTetal:Correlationbetweenretinalnervefiberlayerthicknessandretinalsensitivity.ActaOphthalmol86:609-613,20085)SatoS,HirookaK,BabaTetal:Correlationbetweentheganglioncell-innerplexiformlayerthicknessmeasuredwithcirrusHD-OCTandmacularvisualfieldsensitivitymeasuredwithmicroperimetry.InvestOphthalmolVisSci54:3046-3051,20136)KawaguchiC,NakataniY,OhkuboSetal:Structuralandfunctionalassessmentbyhemisphericasymmetrytestingofthemacularregioninpreperimetricglaucoma.JpnJOphthalmol58:197-204,2014(35)あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014961