新しい治療と検査シリーズ221.Swept.SourceOCT(SS.OCT)プレゼンテーション:古泉英貴東京女子医科大学眼科学コメント:大音壮太郎京都大学大学院医学研究科眼科学.バックグラウンド光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)が眼科臨床に初めて導入されたのは1996年であるが,その後の技術革新はめざましく,2006年に発売されたスペクトラルドメインOCT(spectraldomainOCT:SD-OCT)は光波の干渉をフーリエ(Fourier)空間という虚空間で行うことで飛躍的な高速化をもたらした.しかしながらSD-OCTの課題として残されていたのが,網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)よりも深部の組織の視覚化であった.SD-OCTを用いて撮影方法の工夫をすることで,RPEよりも深部の組織,とりわけ脈絡膜全層の断層像の視覚化を可能としたenhanceddepthimagingOCT(EDI-OCT)法1)が2008年に発表されると,黄斑疾患や緑内障などにおける病態と脈絡膜断層像との関連を研究した報告が相次いだ.EDI-OCT法は市販のSD-OCTを用いた簡便な方法であるが,コントラストの良い画像を得るためには多数の画像の加算平均処理が必要であり,とくに固視不良の黄斑疾患の症例などでは検査に要する時間が非常に長くかかるのが難点であった..新しい検査法今回紹介する新しい検査法はスウェプトソースOCT(sweptsourceOCT:SS-OCT)2)である.誌面の都合上,光学的理論の詳細は割愛するが,SS-OCTにおいてもSD-OCTと同様に光波の干渉はFourier空間で行う.SD-OCTで用いられる光源であるスーパールミネセントダイオードから発振される光には多様な波長の光が含まれており,画像構築には分光器を用いる必要があった.SS-OCTでは波長を順次高速で切り替えて発振できる波長掃引(sweptsource)レーザーを光源として用いるため分光器の必要がなく,さらなる高速撮影が(63)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY図1現在市販されているSS.OCT(DRIOCT.1,トプコン)可能となり,分解能も高まった.2012年にトプコンから発売されたDRIOCT-1(図1)では,SS-OCTに中心波長1,050nmの長波長光源を用いているため(長波長SS-OCT),組織侵達性に優れ,眼底深部組織を高精細に画像化することができる.DRIOCT-1の走査速度は毎秒100,000Aスキャン/秒で,従来のSD-OCTの26,000~70,000Aスキャン/秒と比較して高速であり,眼球運動の影響の軽減も可能となった.また,深さ方向にも広い測定レンジを有するため,硝子体から網膜,脈絡膜,そして強膜に至るまでの領域全体を高い精度で描出できる3,4)..実際の検査法DRIOCT-1を用いた眼底断層撮影は非常に簡便であり,初心者でもオートレフを走査するような感覚で高精度の断層像を取得可能である.長波長光を用いるため,従来のSD-OCTと比較しても白内障や硝子体混濁の影あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141485図2SS.OCTで撮影した実際の画像滲出型加齢黄斑変性の症例.網膜のみならず,脈絡膜や強膜などの眼底深部組織が明瞭に描出されている.響を受けにくい.また,長波長光は眼に見えないため,被験者は撮影光が不可視の状態となり,非常に安定した状態で撮影を行うことができる.最長12mmのラインスキャンでは,黄斑部から視神経乳頭を同時に含む断層像が得られる(図2).ボリュームスキャンでは最大12×9mmの領域の情報を高速で取得可能であり,内蔵の自動解析ソフトウェアを用いることで網膜各層の層別解析のみならず,脈絡膜厚のマッピングまでも可能である..本法の利点脈絡膜を含む眼底深部組織は多くの疾患における病態の首座であり,その断層像の定性的,定量的評価は今後ますます重要な課題となってくるものと思われる.SS-OCTは今後,眼底疾患のさらなる病態の解明のみならず,われわれの日常診療をも一変させるポテンシャルを有している機器である.文献1)SpaideRF,KoizumiH,PozonniMC:Enhanceddepthimagingspectral-domainopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol146:496-500,20082)YunS,TearneyG,DeBoerJetal:High-speedopticalfrequency-domainimaging.OpticsExpress11:29532963,20033)Ohno-MatsuiK,AkibaM,MoriyamaMetal:Acquiredopticnerveandperipapillarypitsinpathologicmyopia.Ophthalmology119:1685-1692,20124)ItakuraH,KishiS,LiDetal:Observationofposteriorprecorticalvitreouspocketusingswept-sourceopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci54:3102-3107,2013.「Swept.SourceOCT(SS.OCT)」へのコメント.DRIOCT-1は京大眼科でもフル稼働中で,硝子体画像を確認・修正する必要があり,正確な解析には労の観察,脈絡膜の3次元構造評価,篩状板の描出など力を要する.強膜は脈絡膜側しか描出できない場合がに用いている.また,下部でも信号の減衰が少ないた多く,強膜厚が測定できるのは高度近視症例などに限め,弯曲の強い高度近視症例にも有効である.られる.硝子体の可視化はenhancedvitreousvisualしかしながら使用する際に注意すべき点も見つかっization(EVV)モードが搭載されて劇的に良くなったている.脈絡膜自動セグメンテーションには注意が必が,撮影に若干の工夫が必要で,さらに後処理でコン要で,脈絡膜が厚い症例などではエラーを起こす場合トラストなどを調整したほうがよい.があり,マニュアルでの修正が必要である.3次元ラ今後ソフトウェアの改良で改善される可能性はあるスタースキャンの場合には100枚以上のBスキャンが,これらを留意して解析に用いるべきである.1486あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(64)