監修=坂本泰二◆シリーズ第167回◆眼科医のための先端医療山下英俊光曝露による色素上皮細胞のサイトカイン誘導と加齢黄斑変性成松俊雄小沢洋子(慶應義塾大学医学部眼科学教室)光とその受容光は視覚に必須の刺激ですが,一方で過剰な光刺激により視機能障害が進行することも古くから知られていました.1966年にはNoellらによって,ラットを室内光に曝露することで網膜視細胞が徐々に消失し,視機能が低下することが初めて報告されました1).その報告の中で,紫外線や青色光といった短波長光が網膜への障害を生じやすいことがすでに指摘されており,後に可視光の中では短波長である青色光が最も視細胞および網膜色素上皮細胞(retinalpigmentepithelium:RPE)に対する影響が大きいことがHamらによって示されました2).これには光のエネルギーが関係するということがいわれています3,4).また眼における光受容は,網膜視細胞だけでなくメラノプシンを発現する網膜神経節細胞が関与することがわかっています.後者はphotosensitiveganglioncellともいわれ,概日リズムに関与することが報告されています.この細胞は青色光を感受することも解明され5),昨今は青色光と概日リズムとの関連の研究も盛んになっています.光と加齢黄斑変性,酸化ストレス欧米での失明原因の1位,わが国でも4位の加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)において,光曝露との関係は以前からよく議論されてきました6).AMDの危険因子としても取りあげられています7).ただし,現在欧米でいくつかの大規模な疫学研究が進んでいますが,光曝露とAMDのはっきりとした因果関係は見出せていない状況です8~10).光曝露の程度を測定する方法が確立されていないことが,その一因と考えられます.しかし基礎研究のレベルでは,網膜あるいはRPEへの光曝露は酸化ストレスを発生させることが解明されており11,12),また酸化ストレス自身はAMDを惹起する因子の1つと考えられていました13).このことから,やはり光曝露はAMDと何らかの因果関係があるのではないかと目されてきました.RPEにおける光曝露でのサイトカイン誘導AMDには大きく2つのタイプがあります.萎縮型(drytype)ではRPEの萎縮がみられ,滲出型(wettype)では脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)が形成され,RPEを突破し網膜下腔へ侵入することがあります.このようにAMDの病態にはRPEの関与が大きいと考えられます.実際に,基礎研究レベルでは,光曝露によるRPEの変化については以前からinvitroで報告があります14).また光曝露のみならず酸化ストレスとしての活性酸素種(reactiveoxygenspecies:ROS)や腫瘍壊死因子a(tumornecrosisfactora:TNFa)による刺激といった各種ストレスがRPEを障害する,あるいは上皮間葉移行へ導くことも報告されていました15,16).また光曝露された網膜で,マクロファージを誘導する単球走化性タンパク質-1(monocytechemoattractantprotein-1:MCP-1)やマクロファージそのものがRPEにおけるCNV形成に関与していることが示されました17,18).さらにレーザー誘導CNVモデルによるAMDマウスモデルにおいては,CCL11がMCP-1同様アク光曝露抗酸化剤NAC酸化ストレスROCK阻害剤AlternativepathwaysRho-ROCKシグナルRPEにおける病的サイトカインの誘導AMD関連病態の形成・RPE細胞間接着破綻・マクロファージの網膜下腔への浸潤NAC:N-acetyl-L-cysteineROCK:Rho-associatedcoiled-coilkinaseRPE:retinalpigmentepitheliumAMD:age-relatedmaculardegeneration図1網膜色素上皮への光曝露による急性障害に伴うAMD関連病態形成の仮説(81)あたらしい眼科Vol.31,No.11,201416470910-1810/14/\100/頁/JCOPYチンの再形成を伴う血管内皮細胞の動員と増殖をうながすことがいわれています19).そこで実際に動物における光曝露のRPEへの影響を確認すべく,白色のBalb/cマウスに暗順応後白色蛍光灯を光曝露させ,その際のRPEでの変化を解析したところ,以下のようなことが明らかになりました20,21).1)光曝露によってROSが発生し,密着結合,接着結合においてRPE間の接着が破綻しました.両者の裏打ちタンパク質であるアクチンの配置も異常をきたしました.光障害により生じたROSに伴い,RPE-choroid複合体においては,上述のようにAMDの病態ではその存在が増加するといわれているMCP-1ならびにCCL11が,遺伝子レベルでもタンパク質のレベルでも増加していました.前者はRho-associatedcoiled-coilkinase(Rho-ROCK)シグナルをも経由しました.さらに最終的には上述のようにCNV形成に関与するマクロファージが網膜下腔に誘導されました.2)光障害による1)にみられる各変化は,抗酸化剤N-acetyl-L-cysteine(NAC)投与によって予防的に抑制されました.またNACでROSを抑制するとROCKの活動性は抑制されました.以上より,まだ動物実験レベルではありますが,AMDの病態形成の一部に光曝露が関与する可能性と,そのメカニズムとしてROSやRho-ROCKシグナルが関与し得ることが示されたものと考えます.新たな治療の可能性以上より,光曝露によりRPEにおいてAMD様病態に向かう各種変化が生じる可能性があることが明らかになりました.光曝露による病態の一部には酸化ストレスもあり,また酸化ストレスを予防的に除去することでRPEの形態学的な変化を抑制しえたことから,上述のNACのような抗酸化剤は新たな治療あるいは予防に資する可能性があると目されます.また上述のようにROCK阻害剤がこの病態形成の一部を抑制していることから,今後,病態のさらなる解明が進むことでRho-ROCKシグナルの関与機序がより明確になれば,ROCK阻害剤もまた新たな治療薬として開発が期待されます.文献1)NoellWK,WalkerVS,KangBSetal:Retinaldamagebylightinrats.InvestOphthalmol5:450-473,19661648あたらしい眼科Vol.31,No.11,20142)HamWTJr,MuellerHA,SlineyDH:Retinalsensitivitytodamagefromshortwavelengthlight.Nature260:153155,19763)TanitoM,KaidzuS,AndersonRE:Protectiveeffectsofsoftacrylicyellowfilteragainstbluelight-inducedretinaldamageinrats.ExpEyeRes83:1493-1504,20064)NarimatsuT,OzawaY,MyakeSetal:Biologicaleffectsofblockingblueandothervisiblelightonthemouseretina.ClinExpOphthalmol42:555-563,20145)MiyamotoY,SancarA:VitaminB2-basedblue-lightphotoreceptorsintheretinohypothalamictractasthephotoactivepigmentsforsettingthecircadianclockinmammals.ProcNatlAcadSciUSA95:6097-6102,19986)AmbatiJ,AmbatiBK,YooSHetal:Age-RelatedMacularDegeneration:Etiology,Pathogenesis,andTherapeuticStrategies.SurvOphthalmol48:257-293,20037)石田晋:加齢黄斑変性の予防医学.特集2目と耳の老化と老年病.学術の動向17:80-85,20128)KleinR,MyersCE,CruickshanksKJetal:Markersofinflammation,oxidativestress,andendothelialdysfunctionandthe20-yearcumulativeincidenceofearlyage-relatedmaculardegeneration:theBeaverDamEyeStudy.JAMAOphthalmol132:446-455,20149)DelcourtC,CarriereI,Ponton-SanchezAetal:Lightexposureandtheriskofage-relatedmaculardegeneration:thePathologiesOculairesLieesal’Age(POLA)study.ArchOphthalmol119:1463-1468,200110)DarzinsP,MitchellP,HellerRF:Sunexposureandage-relatedmaculardegeneration.AnAustraliancase-controlstudy.Ophthalmology104:770-776,199711)NarimatsuT,OzawaY,MiyakeSetal:AngiotensinIItype1receptorblockadesuppresseslight-inducedneuraldamageinthemouseretina.FreeRadicBiolMed22:176-185,201412)BeattyS,KohH,PhilM:Theroleofoxidativestressinthepathogenesisofage-relatedmaculardegeneration.SurvOphthalmol45:115-134,200013)MettuPS,WielgusAR,OngSSetal:Retinalpigmentepitheliumresponsetooxidantinjuryinthepathogenesisofearlyage-relatedmaculardegeneration.MolAspectsMed33:376-339,201214)IriyamaA,IriyamaT,TamakiYetal:Effectsofwhitelightonb-cateninsignalingpathwayinretinalpigmentepithelium.BiochemBiophysResCommun375:173-177,200815)InumaruJ,NaganoO,TakahashiEetal:Molecularmechanismsregulatingdissociationofcell-celljunctionofepithelialcellsbyoxidativestress.GenesCells14:703716,200916)TakahashiE,NaganoO,IshimotoTetal:Tumornecrosisfactor-alpharegulatestransforminggrowthfactor-beta-dependentepithelial-mesenchymaltransitionbypromotinghyal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