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硝子体手術のワンポイントアドバイス 138.液体パーフルオロカーボンによる網膜下増殖組織の牽引評価(上級編)

2014年11月30日 日曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載138138液体パーフルオロカーボンによる網膜下増殖組織の牽引評価(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに増殖性硝子体網膜症(proliferativevitreoretinopathy:PVR)では,しばしば網膜下増殖組織が網膜復位の妨げとなる.網膜下増殖組織による牽引が軽度であれば,硝子体ゲルおよび網膜前の増殖組織の除去のみで網膜の伸展が得られることもあるが,著明な網膜下増殖組織が存在する症例では意図的裂孔を介してこれを除去する必要がある.また,網膜下増殖組織が広範囲に存在する症例では,どの程度除去したら網膜の伸展性が得られるかが問題となる.その判断には液体パーフルオロカーボン(perfluorocarbonliquid:PFCL)がきわめて有用である.●網膜下増殖組織の牽引評価網膜下増殖組織が残存した状態で,気圧伸展網膜復位術で網膜を伸展すると,意図的裂孔が拡大し網膜下に空気が迷入することがある.症例によってはこの際に網膜が大きく裂けてしまい,その後の処置に苦慮する.このような場合には,まずPFCLで網膜の伸展性を確認するほうがよい.写真はPVRの1例であるが,まず硝子体ゲルおよび網膜前の増殖膜を.離除去(図1)した後,PFCLを一塊となるように後極部からゆっくりと注入する.この症例では血管アーケード上方に網膜下索状物による牽引が残存し,網膜の伸展が得られないことが判明する(図2).この時点でさらにPFCLを多量に注入すると裂孔を介して網膜下にPFCLが迷入するので,適度な量にとどめる.その後,PFCLをいったん吸引除去し,意図的裂孔から網膜下索状物を抜去し(図3),再度PFCLを注入して網膜の伸展性を確認する(図4).十分に伸展が得られれば,眼内光凝固を施行し,PFCLと空気あるいはシリコーンオイルを置換する.図1術中所見(1)増殖性硝子体網膜症例.まず硝子体ゲルおよび網膜前の増殖膜処理を行う.図2術中所見(2)PFCLを注入し網膜を伸展させるが,上方に網膜下索状物による牽引が残存していることが判明する.図3術中所見(3)意図的裂孔から網膜下索状物を抜去する.図4術中所見(4)再度,PFCLを注入し,網膜の伸展性を確認する.●この手術の注意点術中に大きな医原性裂孔を形成するとPFCLが網膜下に迷入しやすくなるので,医原性裂孔の形成には注意する.また,周辺部の残存硝子体牽引が強いと,周辺部に網膜が吊り上げられたような状態になり,PFCLが網膜下に迷入しやすくなるだけでなく,網膜下増殖組織の牽引評価が難しくなる.可能な範囲で周辺部の硝子体を処理したうえでPFCLを使用すべきである.(85)あたらしい眼科Vol.31,No.11,201416510910-1810/14/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 167.光暴露による色素上皮細胞のサイトカイン誘導と加齢黄斑変性

2014年11月30日 日曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第167回◆眼科医のための先端医療山下英俊光曝露による色素上皮細胞のサイトカイン誘導と加齢黄斑変性成松俊雄小沢洋子(慶應義塾大学医学部眼科学教室)光とその受容光は視覚に必須の刺激ですが,一方で過剰な光刺激により視機能障害が進行することも古くから知られていました.1966年にはNoellらによって,ラットを室内光に曝露することで網膜視細胞が徐々に消失し,視機能が低下することが初めて報告されました1).その報告の中で,紫外線や青色光といった短波長光が網膜への障害を生じやすいことがすでに指摘されており,後に可視光の中では短波長である青色光が最も視細胞および網膜色素上皮細胞(retinalpigmentepithelium:RPE)に対する影響が大きいことがHamらによって示されました2).これには光のエネルギーが関係するということがいわれています3,4).また眼における光受容は,網膜視細胞だけでなくメラノプシンを発現する網膜神経節細胞が関与することがわかっています.後者はphotosensitiveganglioncellともいわれ,概日リズムに関与することが報告されています.この細胞は青色光を感受することも解明され5),昨今は青色光と概日リズムとの関連の研究も盛んになっています.光と加齢黄斑変性,酸化ストレス欧米での失明原因の1位,わが国でも4位の加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)において,光曝露との関係は以前からよく議論されてきました6).AMDの危険因子としても取りあげられています7).ただし,現在欧米でいくつかの大規模な疫学研究が進んでいますが,光曝露とAMDのはっきりとした因果関係は見出せていない状況です8~10).光曝露の程度を測定する方法が確立されていないことが,その一因と考えられます.しかし基礎研究のレベルでは,網膜あるいはRPEへの光曝露は酸化ストレスを発生させることが解明されており11,12),また酸化ストレス自身はAMDを惹起する因子の1つと考えられていました13).このことから,やはり光曝露はAMDと何らかの因果関係があるのではないかと目されてきました.RPEにおける光曝露でのサイトカイン誘導AMDには大きく2つのタイプがあります.萎縮型(drytype)ではRPEの萎縮がみられ,滲出型(wettype)では脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)が形成され,RPEを突破し網膜下腔へ侵入することがあります.このようにAMDの病態にはRPEの関与が大きいと考えられます.実際に,基礎研究レベルでは,光曝露によるRPEの変化については以前からinvitroで報告があります14).また光曝露のみならず酸化ストレスとしての活性酸素種(reactiveoxygenspecies:ROS)や腫瘍壊死因子a(tumornecrosisfactora:TNFa)による刺激といった各種ストレスがRPEを障害する,あるいは上皮間葉移行へ導くことも報告されていました15,16).また光曝露された網膜で,マクロファージを誘導する単球走化性タンパク質-1(monocytechemoattractantprotein-1:MCP-1)やマクロファージそのものがRPEにおけるCNV形成に関与していることが示されました17,18).さらにレーザー誘導CNVモデルによるAMDマウスモデルにおいては,CCL11がMCP-1同様アク光曝露抗酸化剤NAC酸化ストレスROCK阻害剤AlternativepathwaysRho-ROCKシグナルRPEにおける病的サイトカインの誘導AMD関連病態の形成・RPE細胞間接着破綻・マクロファージの網膜下腔への浸潤NAC:N-acetyl-L-cysteineROCK:Rho-associatedcoiled-coilkinaseRPE:retinalpigmentepitheliumAMD:age-relatedmaculardegeneration図1網膜色素上皮への光曝露による急性障害に伴うAMD関連病態形成の仮説(81)あたらしい眼科Vol.31,No.11,201416470910-1810/14/\100/頁/JCOPY チンの再形成を伴う血管内皮細胞の動員と増殖をうながすことがいわれています19).そこで実際に動物における光曝露のRPEへの影響を確認すべく,白色のBalb/cマウスに暗順応後白色蛍光灯を光曝露させ,その際のRPEでの変化を解析したところ,以下のようなことが明らかになりました20,21).1)光曝露によってROSが発生し,密着結合,接着結合においてRPE間の接着が破綻しました.両者の裏打ちタンパク質であるアクチンの配置も異常をきたしました.光障害により生じたROSに伴い,RPE-choroid複合体においては,上述のようにAMDの病態ではその存在が増加するといわれているMCP-1ならびにCCL11が,遺伝子レベルでもタンパク質のレベルでも増加していました.前者はRho-associatedcoiled-coilkinase(Rho-ROCK)シグナルをも経由しました.さらに最終的には上述のようにCNV形成に関与するマクロファージが網膜下腔に誘導されました.2)光障害による1)にみられる各変化は,抗酸化剤N-acetyl-L-cysteine(NAC)投与によって予防的に抑制されました.またNACでROSを抑制するとROCKの活動性は抑制されました.以上より,まだ動物実験レベルではありますが,AMDの病態形成の一部に光曝露が関与する可能性と,そのメカニズムとしてROSやRho-ROCKシグナルが関与し得ることが示されたものと考えます.新たな治療の可能性以上より,光曝露によりRPEにおいてAMD様病態に向かう各種変化が生じる可能性があることが明らかになりました.光曝露による病態の一部には酸化ストレスもあり,また酸化ストレスを予防的に除去することでRPEの形態学的な変化を抑制しえたことから,上述のNACのような抗酸化剤は新たな治療あるいは予防に資する可能性があると目されます.また上述のようにROCK阻害剤がこの病態形成の一部を抑制していることから,今後,病態のさらなる解明が進むことでRho-ROCKシグナルの関与機序がより明確になれば,ROCK阻害剤もまた新たな治療薬として開発が期待されます.文献1)NoellWK,WalkerVS,KangBSetal:Retinaldamagebylightinrats.InvestOphthalmol5:450-473,19661648あたらしい眼科Vol.31,No.11,20142)HamWTJr,MuellerHA,SlineyDH:Retinalsensitivitytodamagefromshortwavelengthlight.Nature260:153155,19763)TanitoM,KaidzuS,AndersonRE:Protectiveeffectsofsoftacrylicyellowfilteragainstbluelight-inducedretinaldamageinrats.ExpEyeRes83:1493-1504,20064)NarimatsuT,OzawaY,MyakeSetal:Biologicaleffectsofblockingblueandothervisiblelightonthemouseretina.ClinExpOphthalmol42:555-563,20145)MiyamotoY,SancarA:VitaminB2-basedblue-lightphotoreceptorsintheretinohypothalamictractasthephotoactivepigmentsforsettingthecircadianclockinmammals.ProcNatlAcadSciUSA95:6097-6102,19986)AmbatiJ,AmbatiBK,YooSHetal:Age-RelatedMacularDegeneration:Etiology,Pathogenesis,andTherapeuticStrategies.SurvOphthalmol48:257-293,20037)石田晋:加齢黄斑変性の予防医学.特集2目と耳の老化と老年病.学術の動向17:80-85,20128)KleinR,MyersCE,CruickshanksKJetal:Markersofinflammation,oxidativestress,andendothelialdysfunctionandthe20-yearcumulativeincidenceofearlyage-relatedmaculardegeneration:theBeaverDamEyeStudy.JAMAOphthalmol132:446-455,20149)DelcourtC,CarriereI,Ponton-SanchezAetal:Lightexposureandtheriskofage-relatedmaculardegeneration:thePathologiesOculairesLieesal’Age(POLA)study.ArchOphthalmol119:1463-1468,200110)DarzinsP,MitchellP,HellerRF:Sunexposureandage-relatedmaculardegeneration.AnAustraliancase-controlstudy.Ophthalmology104:770-776,199711)NarimatsuT,OzawaY,MiyakeSetal:AngiotensinIItype1receptorblockadesuppresseslight-inducedneuraldamageinthemouseretina.FreeRadicBiolMed22:176-185,201412)BeattyS,KohH,PhilM:Theroleofoxidativestressinthepathogenesisofage-relatedmaculardegeneration.SurvOphthalmol45:115-134,200013)MettuPS,WielgusAR,OngSSetal:Retinalpigmentepitheliumresponsetooxidantinjuryinthepathogenesisofearlyage-relatedmaculardegeneration.MolAspectsMed33:376-339,201214)IriyamaA,IriyamaT,TamakiYetal:Effectsofwhitelightonb-cateninsignalingpathwayinretinalpigmentepithelium.BiochemBiophysResCommun375:173-177,200815)InumaruJ,NaganoO,TakahashiEetal:Molecularmechanismsregulatingdissociationofcell-celljunctionofepithelialcellsbyoxidativestress.GenesCells14:703716,200916)TakahashiE,NaganoO,IshimotoTetal:Tumornecrosisfactor-alpharegulatestransforminggrowthfactor-beta-dependentepithelial-mesenchymaltransitionbypromotinghyaluronan-CD44-moesininteraction.JBiolChem285:4060-4073,201017)SuzukiM,TsujikawaM,ItabeHetal:Chronicphoto-oxidativestressandsubsequentMCP-1activationascausativefactorsforage-relatedmaculardegeneration.JCell(82) Sci125:2407-2415,201218)SakuraiE,AnandA,AmbatiBKetal:Macrophagedepletioninhibitsexperimentalchoroidalneovascularization.InvestOphthalmolVisSci44:3578-3585,200319)TakedaA,BaffiJZ,KleinmanMEetal:CCR3isatargetforagerelatedmaculardegenerationdiagnosisandtherapy.Nature460:225-230,200920)NarimatsuT,OzawaY,MiyakeSetal:Disruptionofcell-celljunctionsandinductionofpathologicalcytokinesintheretinalpigmentepitheliumoflight-exposedmice.InvestOphthalmolVisSci54:4555-4562,201321)OzawaY:Chapter17:OxidativestressintheRPEanditscontributiontoAMDpathogenesis;implicationoflightexposure.In:NakazawaT,KitaokaY,HaradaT(eds):NeuroprotectionandNeuroregenerationforRetinalDiseases.Heiderberg,SpringerScience+BusinessMedia,2014,inpress■「光曝露による色素上皮細胞のサイトカイン誘導と加齢黄斑変性」を読んで■光曝露が加齢黄斑変性を引き起こすことは当然のよ色素上皮の破綻など加齢黄斑変性に特有な現象を引きうに考えられがちですが,疫学研究でははっきりとし起こすというまったく新しい考え方を提唱されました因果関係を示すものは少なく,どちらかといえば否た.さらに素晴らしいのは,その経路をブロックする定的です.これは光曝露が黄斑変性に関係ないのでは薬剤まで提示されたことです.最近の加齢黄斑変性研なく,日常生活における光曝露総量を定量化する方法究は,抗VEGF薬を中心とした薬剤研究など,きわがないため,うまく評価できないというのが真実だとめて臨床的な内容が主流です.しかし,抗VEGF薬思います.いずれ定量化法は開発されると思いますが世に出るためには,動物実験などの膨大な基礎研究が,細胞生物学の分野では光曝露と加齢黄斑変性発症が必要であり,それが花開いた結果が現在の抗の因果関係を示唆する発見が次々になされています.VEGF薬の隆盛に繋がっているのです.いずれ,加そのひとつが今回の成松先生たちのものです.これま齢黄斑変性治療にも抗VEGF薬に代わるものが必要でも,光曝露により網膜に酸化ストレスを発生させるとされるでしょう.その日に備えて,小沢先生の研究ことは知られていましたが,そのメカニズムは過剰なグループは地道な基礎研究を続けておられますが,そ視サイクルによる細胞死であると考えられ,光曝露はれが直実に実を結びつつあることを感じることができ間接的関与であろうと考えられていました.ところました.が,成松先生たちは,光曝露自体がROSを誘導し,鹿児島大学医学部眼科坂本泰二それがマクロファージ浸潤,サイトカイン誘導,網膜☆☆☆(83)あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141649

新しい治療と検査シリーズ 222.前眼部OCT点眼負荷涙液クリアランス試験

2014年11月30日 日曜日

あたらしい眼科Vol.31,No.11,201416450910-1810/14/\100/頁/JCOPYことである.この涙液減少の急速相(earlyphaseもしくはinitialtearturnover)を利用して,TMHおよびTMAの減少率を求め,涙液クリアランス率を算出する(図3)4).新しい治療と検査シリーズ(79).バックグラウンド涙液クリアランスは涙液の動態を反映する重要なパラメータである.器質性または導涙機能障害による流涙症ではクリアランスが低下する.涙液クリアランス低下はドライアイの発症に関与することも知られている.涙液クリアランスの代表的な評価法を表1に示す.これまで多くの評価法が考案されてきたが,生理的に自然な状態での涙液クリアランス評価法はまだ実現していない.短時間で実施でき,かつ高精度で定量的で完全に非侵襲的な涙液クリアランス評価方法の開発が求められている..新しい検査法筆者は,前眼部光干渉断層計(anteriorsegmentopti-calcoherencetomography:AS-OCT)を用いた「前眼部OCT点眼負荷涙液クリアランス試験」を考案したので紹介する.この検査法では,前眼部OCTで涙液メニスカス(tearmeniscus:TM)の断層像を撮影し,メニスカス高(tearmeniscusheight:TMH)と面積(tearmeniscusarea:TMA)をパラメータとして使う(図1).被検者は自然瞬目状態にて,5μl生理食塩水(30℃)を点眼涙液負荷し,点眼直後と一定時間後のTMをOCTで撮影する.点眼後TMの動態変化を図2に示す.TMは大体2分後にベースラインまで戻る.とくに重要なのは,TMが点眼直後から30秒の間に急速に下がる222.前眼部OCT点眼負荷涙液クリアランス試験表1涙液クリアランスの代表的な評価法名称内容メリット問題点文献Jones法フルオレセンを点眼後,鼻から色素の有無を調べる簡便偽陽性率が高い1Fluophotometry法特殊な機械にて涙液内蛍光の減弱度を調べる高精度時間がかかる2フルオレセンクリアランス試験フルオレセンを点眼後,シルマー紙にて涙液の色を調べる簡便半定量非侵襲的ではない3図1前眼部OCTによる涙液メニスカス画像TMHTMA図25μl生食点眼後の下眼瞼中央TMHの経時変化00.050.10.150.20.250.30.350.40.450.5BL0s30s1min2min3min4min5minTMH(TearMeniscusHeight)Time点眼後30秒間:EarlyPhaseTearClearance(OCT涙液クリアランス試験)プレゼンテーション:鄭暁東愛媛大学大学院視機能外科学分野コメント:小野眞史日本医科大学眼科あたらしい眼科Vol.31,No.11,201416450910-1810/14/\100/頁/JCOPYことである.この涙液減少の急速相(earlyphaseもしくはinitialtearturnover)を利用して,TMHおよびTMAの減少率を求め,涙液クリアランス率を算出する(図3)4).新しい治療と検査シリーズ(79).バックグラウンド涙液クリアランスは涙液の動態を反映する重要なパラメータである.器質性または導涙機能障害による流涙症ではクリアランスが低下する.涙液クリアランス低下はドライアイの発症に関与することも知られている.涙液クリアランスの代表的な評価法を表1に示す.これまで多くの評価法が考案されてきたが,生理的に自然な状態での涙液クリアランス評価法はまだ実現していない.短時間で実施でき,かつ高精度で定量的で完全に非侵襲的な涙液クリアランス評価方法の開発が求められている..新しい検査法筆者は,前眼部光干渉断層計(anteriorsegmentopti-calcoherencetomography:AS-OCT)を用いた「前眼部OCT点眼負荷涙液クリアランス試験」を考案したので紹介する.この検査法では,前眼部OCTで涙液メニスカス(tearmeniscus:TM)の断層像を撮影し,メニスカス高(tearmeniscusheight:TMH)と面積(tearmeniscusarea:TMA)をパラメータとして使う(図1).被検者は自然瞬目状態にて,5μl生理食塩水(30℃)を点眼涙液負荷し,点眼直後と一定時間後のTMをOCTで撮影する.点眼後TMの動態変化を図2に示す.TMは大体2分後にベースラインまで戻る.とくに重要なのは,TMが点眼直後から30秒の間に急速に下がる222.前眼部OCT点眼負荷涙液クリアランス試験表1涙液クリアランスの代表的な評価法名称内容メリット問題点文献Jones法フルオレセンを点眼後,鼻から色素の有無を調べる簡便偽陽性率が高い1Fluophotometry法特殊な機械にて涙液内蛍光の減弱度を調べる高精度時間がかかる2フルオレセンクリアランス試験フルオレセンを点眼後,シルマー紙にて涙液の色を調べる簡便半定量非侵襲的ではない3図1前眼部OCTによる涙液メニスカス画像TMHTMA図25μl生食点眼後の下眼瞼中央TMHの経時変化00.050.10.150.20.250.30.350.40.450.5BL0s30s1min2min3min4min5minTMH(TearMeniscusHeight)Time点眼後30秒間:EarlyPhaseTearClearance(OCT涙液クリアランス試験)プレゼンテーション:鄭暁東愛媛大学大学院視機能外科学分野コメント:小野眞史日本医科大学眼科 TMH0sec-TMH30secOCTtearclearancerate(TMH)=TMH0sec×100%例:TMH0sec=0.4mm;TMH30sec=0.1mmOCTtearclearancerate(TMH)=(0.4-0.1)/0.4×100%=75%TMAwasautomaticallycorrectedor級内相関係数検定(ICC)TMH:ICC=0.92-0.94;TMA:ICC=0.89-0.91manuallycorrectbyrefractiveindexof1.343ICC:intraclasscorrelationcoefficients図3OCT涙液クリアランス率の計算式.本法の利点性が考えられる.前眼部OCTは不可視検査光源を使用するため検査光文献のまぶしさはなく,自然状態の涙液を直接観察すること1)JonesLT:Thecureofepiphoraduetocanaliculardisorができ,非接触,非侵襲的な測定が可能である.本法はders,traumaandsurgicalfailuresonthelacrimalpassages.TransAmAcadOphthalmolOtolaryngol66:506-524,フルオレセンクリアランス試験と有意に相関し,涙液の1962turnoverも反映できる可能性が考えられる.筆者は,2)WebberWR,JonesDP,WrightP:Fluorophotometricmeasurementsoftearturnoverrateinnormalhealthy加齢による涙液クリアランスの低下,内転眼位では正面persons:evidenceforacircadianrhythm.Eye(Lond)1:視よりクリアランスが亢進すること,また結膜弛緩症お615-620,1987よび涙道閉塞症の手術後にOCTクリアランスが術前よ3)XuKP,TsubotaK:Correlationoftearclearancerateandfluorophotometricassessmentoftearturnover.BrJOphり有意に改善したことを確認した.thalmol79:1042-1045,1995涙液クリアランスを正確に把握することは眼表面涙液4)ZhengX,KamaoT,YamaguchiMetal:Newmethodforevaluationofearly-phasetearclearancebyanteriorsegの動態,導涙機能の評価に重要であり,ドライアイ,流mentopticalcoherencetomography.ActaOphthalmologica涙症の病態の理解,発症機序の解明,治療に役立つ可能92:105-111,2014.「前眼部OCT点眼負荷涙液クリアランス試験」へのコメント.すばらしい検査方法と思います.涙液クリアランス交換率計測のためには,極少量の涙液量変化量(1~は眼表面の極微量な涙液の動態を知るうえで必須の2μl/分)を高精度で計測できる方法が必要となりまファクターであり,重症ドライアイ,涙点閉鎖評価,す.今回の検査方法は,最初の点眼負荷は必須です防腐剤,他の治療薬の影響などを評価するうえでも重が,十分少量で刺激性もほとんどないよう配慮されて要と考えます.おり,メニスカスの計測を2回とも同一位置で,かつ涙液動態を知るには,「系の動態」の評価が必要と適当な時間間隔で計測できれば,他の色素を用いた検なり,計測学上一般に静的状態に何らかの負荷を与査法より精度,侵襲性という点で明らかな優位性があえ,その後その変化を計測する必要が生じるため,完り,前眼部OCT計測器の費用を別にすれば,涙液ク全な非侵襲検査はできません.また再現性のある涙液リアランス計測法として最良と考えます.1646あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(80)

私の緑内障薬チョイス 18.BAC濃度を最適化したプロスタグランジン関連点眼薬:タプロス®点眼液0.0015%

2014年11月30日 日曜日

連載⑱私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載⑱私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也18.BAC濃度を最適化したプロスタグランジン鈴木克佳関連点眼薬:タプロスR点眼液0.0015%山口大学大学院医学系研究科眼科学タプロスR点眼液0.0015%は,含有される防腐剤のベンザルコニウム塩化物をできるだけ低濃度に最適化している.緑内障点眼治療で頻度の多い副作用である眼表面障害の危険性が軽減されるため,すでに眼表面障害をきたしている患者やその発症の危険性が高いドライアイを有する患者での使用をお勧めする.緑内障患者における眼表面障害緑内障は慢性疾患で,眼圧下降治療を一生にわたって継続しなければならず,目標眼圧を達成するために,緑内障薬を1剤だけでなく複数使用している場合も多い.緑内障薬に限らず,点眼薬はその投与経路として必ず眼表面に浸透するが,とくに眼表面が点眼薬に長期間くり返し暴露される緑内障点眼治療下では,使用している点眼薬数が増えるほど,眼表面障害の発症頻度が増加し重症化すると報告されており,点状表層角膜炎に代表される眼表面障害は決してまれな副作用ではない1).また,加齢に伴い増加するドライアイが背景にある場合には,緑内障点眼治療が眼表面の状態をさらに悪い方向へ修飾し,眼表面障害を惹起しやすい.防腐剤の功罪緑内障点眼薬には主剤だけでなく,点眼薬を調整・成立させるために賦形剤が含まれる.防腐剤もそのひとつで,点眼容器内を細菌や真菌などの微生物汚染から清潔に保つために必須の成分であり,現時点ではベンザルコニウム塩化物(BAC)が防腐剤として最も用いられている.しかしながら,BACは細菌や真菌などへの殺菌作用を発揮する一方で,高濃度のBACは角膜や結膜の細胞にも細胞障害性を有する.また,BACは涙液の安定性や動態を低下させたり2),炎症細胞浸潤や角結膜細胞死や異常なターンオーバーをきたしたりすると報告されている.したがって,汚染予防作用と眼表面障害作用の絶妙なバランスをとるために,点眼薬に含まれるBAC濃度は十分に考慮されなければならない.このバランスへの配慮は,緑内障点眼薬だけに限ったことではなく,その他の種類の点眼薬にも当てはまる問題である.(77)AB図1A:タプロスR点眼液0.0015%.B:タプロスミニR点眼液0.0015%.防腐剤濃度を最適化したタプロスR点眼液0.0015%プロスタグランジン関連薬は,その強力で持続力がある眼圧下降効果を根拠に現在の緑内障点眼治療の第一選択薬であり,多剤併用療法における主軸をなしている.最も新しいプロスタグランジン関連薬であるタフルプロストを主成分としたタプロスR点眼液0.0015%は,日本で2008年に発売された(図1).防腐剤にはBACを用いているが,発売して約1年後にはBAC濃度を0.01%から0.001%へと1/10に減量し,現時点で点眼薬に含まれるBACとしては最低濃度である(表1).このBAC濃度では細胞障害性試験において防腐剤を含まな本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).あたらしい眼科Vol.31,No.11,201416430910-1810/14/\100/頁/JCOPY 表1プロスタグランジン関連点眼薬に含まれる防腐剤の比較製剤名キサラタンR点眼液0.005%トラバタンズR点眼液0.004%ルミガンR点眼液0.03%タプロスR点眼液0.0015%防腐剤ベンザルコニウム塩化物0.02%SofZiaRシステム(ホウ酸,ソルビトール,塩化亜鉛)ベンザルコニウム塩化物0.01%ベンザルコニウム塩化物0.001%ODOSABいタフルプロスト群と同等に細胞障害性が低いことがわかっている3).前述した通り,緑内障専門外来においてアプラネーション眼圧計を用いて眼圧測定するためにフルオレセイン染色を行った場合,軽症ではあるが点状表層角膜炎を認めることが意外と多い.これらの患者は自発的に眼症状を訴えることは少なく,非染色下では他覚的には認識しづらいが,軽症であっても将来にわたって長期的に緑内障点眼治療を行うことを考えると,できるだけ眼表面の状態をケアしておくことが望ましい.緑内障点眼薬の副作用による眼表面障害が重症であれば,その原因であODOS図2A:前プロスタグランジン関連点眼薬の使用下.B:タプロスR点眼液0.0015%への切り替え後.る点眼薬や治療自体の中止が速やかに必要だが,軽症の場合には,主作用としての眼圧下降効果を維持しながら眼表面の状態を改善するために,点眼薬の変更がリーズナブルだと思われる.この観点からBAC濃度を最適化したタプロスR点眼液0.0015%は,眼圧下降効果を維持しつつ,眼表面障害を低減することが期待できる(図2).なお,BACのアレルギーが懸念される場合は,防腐剤を含まない使い切りのタプロスミニR点眼液0.0015%も発売されている2)(図1).現在の緑内障薬物治療の第一選択薬で多剤併用療法の主軸であるプロスタグランジン関連薬のうち,このタプロスR点眼液0.0015%は,有用性と安全性のバランスが良く,眼表面障害をきたしている場合や,その発症の危険性が高いドライアイを有する患者での使用に適していると思われる.文献1)FechtnerRD,GodfreyDG,BudenzDetal:Prevalenceofocularsurfacecomplaintsinpatientswithglaucomausingtopicalintraocularpressure-loweringmedications.Cornea29:618-621,20102)UusitaloH,ChenE,PfeifferNetal:Switchingfromapreservedtoapreservative-freeprostaglandinpreparationintopicalglaucomamedication.ActaOphthalmol88:329-336,20103)浅田博之,七條(高岡)優子,中村雅胤ほか:0.0015%タフルプロスト点眼液のベンザルコニウム塩化物濃度の最適化検討─眼表面安全性と保存効力の視点から─.YakugakuZasshi130:867-871,20101644あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(78)

抗VEGF治療:脳梗塞既往のある加齢黄斑変性患者への治療方針

2014年11月30日 日曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二10.脳梗塞既往のある加齢黄斑変性井上麻衣子横浜市立大学大学院医学研究科視覚再生外科学患者への治療方針脳梗塞既往のある加齢黄斑変性(AMD)患者を治療する場合は脳梗塞のリスクと治療のベネフィットを考え,患者に十分説明したうえで治療を選択する.そのためには症例により治療のベネフィットがどの程度なのか予測できることが望ましい.また,患者背景や病変の特徴を捉え,抗VEGF薬の種類や投与法を選択するようにする.脳梗塞既往と抗VEGF薬加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対する抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬は,多くの症例で良好な視力改善・維持が得られるとして第一選択薬として確立してきた.しかし,副作用の懸念もあり,とくに全身性副作用として脳血管イベントの増加がいわれている.過去の大規模スタディーのプール分析では,脳血管イベントの既往のある患者に対するラニビズマブの血栓・塞栓イベントのリスクは不明確であるものの,慎重なモニタリングが必要であると結論づけている1).しかしながらAMD患者に対する抗VEGF薬は患者のQOLの改善に大きく寄与するため2),脳梗塞の既往がある場合でも治療が必要な事態にしばしば直面する.脳梗塞既往のある患者を治療する場合,脳梗塞のリスクと治療のベネフィットを考え,患者に十分説明したうえで治療を選択する.そのためには治療のベネフィットがどの程度なのか見きわめられるようになることが望ましい.たとえば,活動性の低いAMDや,発症してからの経過時間が長く治療効果が期待できない症例は,治療によるベネフィットは低いと考えられる.したがって,そのような症例の場合,脳梗塞既往がある場合はとくに血栓・塞栓のリスクを考えると抗VEGF薬治療は行わず,経過観察になる場合がしばしばみられる.また,脳梗塞のリスクに難色を示したり,脳梗塞発症後間もない場合(明確な基準はないが筆者は累積再発率が10%といわれる1年以内を目安にしている)3)でAMD治療が必要な場合は選択的VEGF阻害薬であるペガプタニブの使用や,光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)なども考慮して,非選択的抗VEGF薬の使用回数をできる限り少なくするように心がける.(75)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYアフリベルセプトとラニビズマブアフリベルセプトはVEGFファミリーと強い結合親和性を示し,強力な治療効果を示す一方で血栓・塞栓イベントリスクの危険性も懸念されている.しかし,現在のところ脳血管イベントとの関連性は不明であり,今後の報告が待たれるところである.脳梗塞既往のあるAMD患者にとってアフリベルセプトとラニビズマブ,どちらの薬剤を選択するのかは非常に難しい問題である.筆者は患者背景(年齢,僚眼の視力,通院が容易か否か,など)や病変の特徴〔病変タイプ・病型,網膜色治療前導入期治療後治療後1年図1超高齢者のアフリベルセプト治療前後アフリベルセプトの導入期治療後,計画的投与で維持していき,1年経過して視力(0.6)と維持できている.あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141641 治療前治療前治療後図2抗VEGF薬治療を拒否した視力良好PCVに対するPDT治療前後1回のPDTで網膜色素上皮.離はほぼ消退し,視力も(0.7)から(1.0)に改善した.素上皮.離(pigmentepithelialdetachment:PED)の大きさ・種類,など〕から総合的に抗VEGF薬の種類と投与方法を決定している.たとえば,高齢者であっても通院困難な場合は,治療効果を最大限にして通院回数を最低限にするため,脳梗塞の既往があってもVEGFに親和性の高いアフリベルセプトを勧める場合もある.正解はないのだが,患者にとっての一番のメリットは何なのかということを考えて治療にあたるようにしている.症例をつぎに示す.症例症例1:97歳,男性,ラクナ梗塞あり.車椅子使用.家族付き添いあり.僚眼はAMDのため低視力.左視力(0.3)に低下,PEDを伴いフィブリン・網膜下液が出現している(図1).症例2:66歳,男性.脳梗塞の既往はないものの血縁者に複数脳梗塞患者がいて,抗VEGF薬治療を断固として拒否している.右視力(0.7)(図2).筆者が行った治療症例1:僚眼が低視力であるため視力維持が必須だが,大きなPEDがあるため再発が多い可能性がある.また超高齢者であり,通院を最低限にする必要がある.脳梗塞のリスクや網膜色素上皮裂孔の可能性も話したうえで,アフリベルセプトの計画的投与とした.現在治療後1年が経過して,PEDは残存するものの視力(0.6)を維持できている.全身性副作用は現在のところみられない.症例2:病型はポリープ状脈絡膜血管症(polypoidal1642あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014choroidalvasculopathy:PCV)である.視力は(0.5)以上であったものの,本人の希望が強く,リスクも話したうえでPDTを施行した.1回の治療でPEDは改善し,視力も(1.0)に改善した.治療後6カ月では初診時に認められたポリープは消退しているものの,新たなポリープも生じており,今後追加治療する可能性もある.おわりに以上,脳梗塞既往患者に対する治療方針について述べた.脳梗塞既往患者に対する明確なAMD治療指針はないため,個々の医師の裁量に任されているのが現状である.今後はより症例を集め安全性について検討していく必要があると思われる.また,脳梗塞の再発リスクを恐れるあまりにAMD治療への対応が遅くなる事態はさけるべきである.そのような見きわめがむずしい場合は,早めに網膜専門医に送ることもときには必要であろう.文献1)BresslerNM,BoyerDS,WilliamsDFetal:Cerebrovascularaccidentsinpatientstreatedforchoroidalneovascularizationwithranibizumabinrandomizedcontrolledtrials.Retina32:1821-1828,20122)InoueM,ArakawaA,YamaneSetal:Intravitrealinjectionofranibizumabusingprorenataregimenforage-relatedmaculardegenerationandvision-relatedqualityoflife.ClinicalOphthalmology,inpress3)HataJ,TanizakiY,KiyoharaYetal:TenyearrecurrenceafterfirsteverstrokeinaJapanesecommunity:theHisayamastudy.JNeurolNeurosurgPsychiatry76:368-372,2005(76)

緑内障:緑内障における生活不自由度

2014年11月30日 日曜日

●連載173緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也173.緑内障における生活不自由度朝岡亮東京大学医学部附属病院眼科緑内障患者において,機械学習法(ランダムフォレスト法など)を用いて視力と視野の各測定点の感度を総合的に勘案することが,visionrelatedqualityoflife(VRQoL)を正確に推定するために有用であった.また,日常生活の各タスクに視野のどの部位が重要であるかについても解析を行った.●緑内障におけるVisionrelatedqualityoflife解析緑内障患者治療の根源的な目標は患者のvisionrelatedqualityoflife(VRQoL)保持であることは論を待たず,視力や視野から正しくVRQoLを推測することは,重要である.過去のさまざまな研究で,重要な視野部位はタスクによって異なると報告されている.これまではVRQoLと視機能のパラメータの関係は,各視機能パラメータ(視野各測定点の感度など)ごとに別個に解析されているが,視野の測定点同士や,中心視野と視力1)は密接に関連していることは明らかであり,視野や視力からVRQoLを予測,解析する際には,本来単におのおのの関係を別々に調べるべきではない.そこで筆者らは機械学習法を用いて視力と全測定点の感度を総合的に勘案し,VRQoLを予測することが有用ではないかと考え,検証を行った2,3).とくにランダムフォレスト(RF)法はブートストラップリサンプリングを行うことで多数の決定木を作成するもので,最も精度の良い機械学習法の一つとして知られている.●方法164例の緑内障患者にSumiらの質問票を用いてVRQoLの聞き取りを行い,この結果と30-2視野(HFA)の各測定点のtotaldeviation(TD)値と,視力および年齢との関係を解析した.まず最初に,良い眼の視力,悪い眼の視力,両眼視野(integratedvisualfield:IVF)4)のmeandeviation(IVFMD)のおのおのを別個に用い,leave-one-out交差検証法により,各VRQoL予測スコアと予測誤差を計算し,rootmeansquarederror(RMSE)を算出した.つぎに,種々の機械学習法(RF法,SVM:サポートベクターマシン法,Boost:グラ(73)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYディエントブースティング法)を用いて各測定点のTD値と,視力および年齢を同時に解釈し,同様にleaveone-out交差検証法により,各VRQoL予測時のRMSEを算出した.比較のため,各測定点のTD値と,視力および年齢を用いたstepwiseAIC変数選択法(線形回帰法)によるRMSEを計算した.●予測誤差図1と表1はタスクごとのRMSEを示す.いずれにおいても,視力やIVFMDを一つずつ用いたり,線形回帰法で各測定点のTD値と視力および年齢を組み合わせて解釈したりするよりも,機械学習法を用いて予測したほうがVRQoL予測の際のRMSEは小さくなった.RMSE43210VA(worse)VA(better)IVFMDVAsandMDLinearAICRandomForestSVMBoostLinearmodelsMachinelearningalgorithmsGeneralVRQoLscorerange;0to14points2.683.152.422.353.201.991.992.21図1種々の方法によるvisionrelatedqualityoflife(totalscore)予測の予測誤差予測誤差はleave-one-out交差検証法を用いてrootmeanofthesquaredpredictionerror(RMSE)として求めた.VA(worse):悪い眼の視力,VA(better):良い眼の視力,IVFMD:integratedvisualfield(両眼視野)のmeandeviation,VAsandMD:両眼の視力とIVFMD(重回帰分析),LinearAIC:stepwiseAIC変数選択法(線形回帰法),RF:RandomForests法,SVM:supportvectormachine法,Boosting:GradientBoosting法あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141639 表1種々の方法によるvisionrelatedqualityoflife(lettersandsentences,walking,goingout,dining)予測の予測誤差lettersandsentencesrankwalkingRMSErankgoingoutRMSErankdiningRMSErankVF(worse)1.0260.3960.4360.406VA(better)1.1470.4670.5380.437IVFMD0.9440.3440.4250.385VAsandMD0.9230.3440.3940.384AIC1.3180.5080.5070.528RF0.8510.3020.3210.332SVM0.9550.3330.3730.353Boosting0.8620.2910.3320.321予測誤差はleave-one-out交差検証法を用いてrootmeanofthesquaredpredictionerror(RMSE)として求めた.VA(worse):悪い眼の視力,VA(better):良い眼の視力,IVFMD:integratedvisualfield(両眼視野)のmeandeviation,VAsandMD:両眼の視力とIVFMD(重回帰分析),LinearAIC:stepwiseAIC変数選択法(線形回帰法),RF:RandomForests法,SVM:supportvectormachine法,Boosting:GradientBoosting法とくにRF法ではその弱学習器(内部構造)である決定木において,各パラメータが同時に使用されたりされなかったりするため,相互に関連したパラメータを総合的に使用するのに向いており,この結果が反映されたものと考えられる.●視野部位つぎに,各VRQoLにどの視野部位が重要であるかを検証した.検証の際にはRF内部の決定木おのおので,各パラメータを変化させ,その影響の多寡を観察した.各活動,総合スコアともに,良い眼の視力が最も重要であった.悪い眼の視力は3番目(lettersandsentences,goingout,diningの各活動および総合スコア)ないし16番目(walking)に重要であった.各視野測定点の重要度は図2の通りであるが,各活動とも水平線沿いに広く分布した部位に加え,各々に特異的な部位(lettersandsentences:左上下方,walking:下方とくに左側,goingout:上方,dining:広く分布)が重要であった2).●おわりに本稿では機械学習法を用いたVRQoLの予測の正確な推定方法と,さらに,その中身を詳細に解析することで特定された重要な視野部位について紹介した.本稿の内容以外にも,近年アンケート結果の解釈にはさまざまな進歩がみられる.たとえばアンケート結果の解釈の際には単純な算数和を用いるのでなく,Rasch法を用いて解釈することが推奨されており,実際筆者らの検証でもその有用性が明らかとなっている5).今後はこれらの点を1640あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014図2種々のVisionrelatedqualityoflifeに重要な視野検査点視野検査点はRandomForests法の中の,各々の決定木のパラメータを任意に動かし,その予測結果に対する影響を比較することによって同定された.a.lettersandsentencesb.walkingc.goingoutd.dininge.totalscore1102026110202611020261102026110202630degrees30degrees30degrees30degrees網羅した一層の研究の発展が期待されるところである.文献1)AsaokaR:Therelationshipbetweenvisualacuityandcentralvisualfieldsensitivityinadvancedglaucoma.BrJOphthalmol97:1355-1356,20132)MurataH,HirasawaH,AoyamaYetal:Identifyingareasofthevisualfieldimportantforqualityoflifeinpatientswithglaucoma.PLoSOne8:e58695,20133)HirasawaH,MurataH,Mayamaetal:Evaluationofvariousmachinelearningmethodstopredictvision-relatedqualityoflifefromvisualfielddataandvisualacuityinpatientswithglaucoma.BrJOphthalmol98:1230-1235,20144)AsaokaR,CrabbDP,YamashitaTetal:Patientshavetwoeyes!:binocularversusbettereyevisualfieldindices.InvestOphthalmolVisSci52:7007-7011,20115)HirasawaH,MurataH,MayamaCetal:ValidatingtheSumiqualityoflifequestionnairewithraschanalysis.InvestOphthalmolVisSci55:5776-5782,2014(74)

屈折矯正手術:円錐角膜眼に対する有水晶体眼内レンズ

2014年11月30日 日曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載174大橋裕一坪田一男174.円錐角膜眼に対する井手武南青山アイクリニック有水晶体眼内レンズ円錐角膜治療はハードコンタクトレンズ(HCL)が困難であれば全層角膜移植というのが以前の治療戦略であった.現在はその間を埋める角膜治療も出てきている.通常は正常眼の屈折矯正に利用されるフェイキックIOL(phakicimplantablecontactlens:P-IOL)も適応を理解し,期待値をコントロールすれば有力な治療ツールとなりうる.●円錐角膜治療全般円錐角膜は軽症から重症に進行するにつれて,眼鏡,ソフトコンタクトレンズ(SCL),HCL(球面・非球面・多段階カーブ),ピギーバック(SCLの上にHCLを重ねて装用)で対応し,進行してコンタクトレンズ(CL)不耐症になれば全層角膜移植(penetratingkeratoplasty:PKP)というのが従来の治療方針であった.CLと移植では精神的・経済的・社会的など患者にとって多くの意味で隔たりがあるため,その間を埋める治療法が渇望されていた.それらが角膜内リング,クロスリンキング,熱形成などである.パーツ移植については知識や経験が広まり,角膜・屈折矯正を専門としない医師の間にも円錐角膜にはPKPだけでなく深層層状角膜移植(deepanteriorlamellarkeratoplasty:DALK)という選択肢もあることは知られるようになった.しかし,現在でもHCLやピギーバックがだめなら移植(PKP,DALK)という説明を受けている患者が多い.●P.IOL治療円錐角膜に対する基本治療戦略の例を図1に示す.樹系図の左側には円錐角膜の進行がある際の治療選択を示した.最近の流れでは,進行がある場合には視力が良好でも早めにクロスリンキングを施行することが多くなっている.樹系図の右側に示された進行がない場合には,円錐角膜の軽重に応じて移植に至るものから,眼鏡矯正視力が良好な場合にはP-IOLまである.P-IOL治療は角膜そのものに加療するものではないが,円錐角膜の進行がなく眼鏡矯正視力が良好なものが基本適応となる.円錐角膜患者のなかには基礎疾患としてアトピーやアレルギー性結膜炎があるためにCL不耐(71)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY図1円錐角膜の治療方針判断の1例円錐角膜の治療方針は進行の有無,矯正視力,角膜厚みなどにより判断される.しかし,これらの判断基準は施設・医師などによっても変わる.症例では,眼鏡をおもな矯正手段とせざるをえない.しかし,左右眼で非対称性に円錐角膜が進行して大きな不同視がある症例の場合,片眼の矯正視力が良くても両眼では装用不可となる.そのような症例では現実的な対応として,進行があったとしても不同視をできるだけ消すためにもP-IOLが適応になる.しかし,円錐角膜眼のP-IOLの適応については留意しなくてはならない点が大きく3つある.1.角膜が歪んでいる以上度数ずれが起こりやすいこと.しかし,白内障手術と異なり計算式はレンズ位置を眼前12mmから虹彩前面もしくは裏面に持ってくる式であるため,角膜K値のずれによる大きな度数ずれにはつながりにくい.2.円錐角膜において,乱視は不可避な問題であること.自覚,レフケラトメータ,トポグラフィーやトモグあたらしい眼科Vol.31,No.11,20141637 図2円錐角膜患者の1例右眼だけであると形状は正常にみえるが,左眼が典型定期な円錐角膜所見を呈する.円錐角膜は両眼性の疾患であるため,外科的治療を考慮する場合には右眼も円錐角膜眼として考える必要がある.ラフィーのデータが大きく異なる場合もあるため,トーリックの角度を回転しなくてはならない場合や,術後眼鏡やコンタクトレンズが必要なこともある.3.P-IOLにはTORICとNON-TORICレンズがあること.進行が止まっており眼鏡矯正視力がよい場合にはTORICレンズを挿入すればよいが,進行している症例の場合,術直後は良くても,角膜形状が変化しHCL装用が必要になった場合に,眼内レンズの乱視が顕在化してより矯正が困難になることがありえるため,進行症例ではTORICレンズの挿入は推奨しにくい.手術自体は非円錐角膜眼に対する手術と変わりがないので型通りの手術を行う.しかし,円錐角膜眼ではヤングモジュール(弾性)が低く,創傷治癒過程が正常眼に比べて劣るということもあり1),ARTIFLEX(OPHTEC社)のような通常は縫合しないことが多いP-IOLでも,創離解をできるだけ避けるために1針縫うのが望ましいかもしれない.●症例提示:33歳,男性視力は右眼0.06(0.9×1Sph.8.5(cyl.1.0A×180°),左眼0.15(0.5×Sph.2.0(cyl.2.0A×40°),角膜厚は右眼515μm,左眼479μmで,視力向上を期待され当院を紹介受診された.眼鏡矯正視力の出る右眼に対するARTIFLEX挿入術を施行,左眼は円錐角膜用HCLを処方した.術後1年で右眼0.9(N.C),左眼0.7×HCLである.初診時トポグラフィーを図2に示す.ここで右眼の屈折が近視度数が.8.5Dではなく,.3.0Dだった場合にはどうなるであろうか?形状は正常で残存角膜厚みも十分なため,LASIKという判断がされるかもしれないが,円錐角膜の特徴は「両眼の進行性疾患」であるので,片眼が円錐角膜である場合,その療眼も円錐角膜であるという前提で治療を行う必要がある.したがって進行がなく,角膜厚み・形状が正常“様”であっても,LASIKが適応になることはない.●おわりに円錐角膜の治療戦略は,新しい臨床知見が出るごとに選択閾値が変わっていく.大きな過渡期を我々は経験しているため,注目し続けていく必要がある.文献1)CheungIM,McGheeCN,SherwinT:Deficientrepairregulatoryresponsetoinjuryinkeratoconicstromalcells.ClinExpOptom97:234-239,20141638あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(72)

眼内レンズ:浅前房・閉塞隅角眼の白内障手術適応

2014年11月30日 日曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋337.浅前房・閉塞隅角眼の白内障手術適応栗本康夫神戸市立医療センター中央市民病院眼科白内障手術は閉塞隅角に対する強力な治療手段である.しかし,浅前房・閉塞隅角症例の白内障手術は合併症リスクが通常よりも高いので,前房が少し浅いようだから,あるいは隅角が少し狭いようだからといって安易に手術を適応すべきではない.白内障の程度と隅角閉塞のリスクをよく吟味したうえで治療適応を決める必要がある.●はじめに原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)は,隅角が閉塞することで房水の流出路が閉ざされて眼圧が上昇する緑内障病型であり,一般に狭い隅角や浅い前房を解剖学的特徴とする.治療の第一義は狭隅角の原因となっている解剖学的問題の解決にあり,そのための治療として白内障手術はきわめて有効な選択肢である.ただし,原発閉塞隅角症(primaryangleclosure:PAC)とPACGの白内障手術は,通常の白内障症例における手術に較べて合併症リスクが高いので,その適応は慎重に検討されねばならない.●手術適応手術適応の大原則は,手術のリスクに対してベネフィットが上回ることであるが,PACの白内障手術では白内障による視機能障害と閉塞隅角のリスクの2つの観点から適応を検討する.以下に,閉塞隅角に対する白内障手術の適応について,対象症例が白内障そのものの治療適応を有するかどうかに分けて述べる.閉塞隅角については,病期別に手術適応を考えていく.白内障の治療適応がある場合:原発閉塞隅角症疑い(primaryangleclosuresuspect:PACS),PAC,PACGのすべての病期において,白内障手術を閉塞隅角治療の第一選択とすべきである.白内障手術による閉塞隅角の治療効果は強力で汎用性も高いので,レーザー治療などを迂回することなく,一期的に白内障手術を施行すべきである.白内障の治療適応が弱い,もしくはない場合:まずは閉塞隅角に対する治療適応があるかどうかを検討し,治療適応ありと診断されれば,白内障手術が最適な治療選(69)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY択肢かどうかの検討を行う.PACにおける隅角閉塞のメカニズムは,瞳孔ブロック,プラトー虹彩,水晶体因子,悪性緑内障因子の4つに分類され,隅角閉塞のメカニズムが異なれば有効な治療方法も異なる(表1).白内障手術は,瞳孔ブロック,プラトー虹彩,および水晶体因子の3つのメカニズムに対して有効なので,これらのメカニズムに基づく閉塞隅角は白内障手術の適応となりえる.以下,病期別に適応について述べる.●PACS(原発閉塞隅角症疑い)まだ疾患は発症していないので,原則は経過観察とし,PACに進行した時点で治療を検討する.ただし,急性原発閉塞隅角症(acuteprimaryangleclosure:APAC)発症のリスクが高い眼は予防的治療の適応となる.APAC発症を予見することはむずかしいが,筆者の多数例の経験からは,中心前房深度2.0mm以下の症例ではAPACを発症するリスクがあり,1.7mm未満の症例ではAPACのリスクはかなり高い.前房深度1.7mm未満の症例と1.7~2.0mmで強い瞳孔ブロックを認めるか,暗室うつむき試験で陽性もしくは疑い陽性を示す症例では予防的治療を検討する.APACにおける主要な隅角閉塞メカニズムは瞳孔ブロックなので,レー表1隅角閉塞メカニズムと治療の有効性瞳孔ブロックプラトー虹彩形状水晶体因子悪性緑内障因子レーザー虹彩切開術◎×××レーザー隅角形成術×~○○××白内障手術◎○◎×~?◎:著効,○:有効,×:無効あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141635 手術前手術後手術前手術後図1浅前房・閉塞隅角眼に対図2浅前房・閉塞隅角眼に対する白内障手術する白内障手術前後浅前房・閉塞隅角眼に対する白浅前房・閉塞隅角眼に白内障手内障手術は通常症例よりも難易術を施行すると,劇的に前房は度が高いので,個々の症例に応深化し,隅角は開大する.じて手術適応とリスクを丁寧に検討する必要がある.ザー虹彩切開術を選択してもよい.ただし,PAC症例には遠視が多く,高齢者では老視もある.こうした症例では屈折矯正上のメリットも考慮してよいだろう.また,レーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症を避けるため,あるいはPACGへの進行を防ぐために長期的な観点から白内障手術を優先的に選択すべきと考える専門家は多く,筆者もその1人であるが,この点については議論がある.高齢者のPACS症例では程度の差はあれども白内障を認めない症例はないので,白内障手術を他の治療方法と比較したメリットとデメリットおよびリスクをよく説明し,患者と相談のうえで治療方法を決定するのがよいだろう.●PAC(原発閉塞隅角症)すでに閉塞隅角が生じており,放置すれば緑内障性視神経症(glaucomatousopticneuropathy:GON)を発症してPACGに進行する可能性が高い.したがって,原則として治療適応である.ただし,隅角所見にてPACに分類される症例でも,眼圧が正常で負荷試験でも問題を認めない症例については,慎重な経過観察でもよい可能性がある.治療方法については,瞳孔ブロックが支配的な症例ではレーザー虹彩切開術,プラトー虹彩形状が主体の症例ではレーザー隅角形成術を選択してもよいが,屈折矯正上のメリットや長期的予後の観点から白内障手術を選択すべきとの考え方があるのはPACSの項で述べたとおりである.白内障を認めず調節力も健常な若年のプラトー虹彩形状主体の症例に対しては,レーザー隅角形成術や低濃度ピロカルピン点眼を先行し,その効果を見きわめたうえで白内障手術の適応を検討するのがよいだろう.一方,高齢者のマルチメカニズムによるPAC症例では白内障手術を第一選択に考えるのが合理的である.●PACG(原発閉塞隅角緑内障)PACGは失明リスクの高い緑内障病型であり,適切に治療しなければ,短期間にGONが進行することも珍しくない.最も汎用性が高く強力な治療法である白内障手術を第一選択にすべきと筆者は考えている.ただし,若年者については,GONが軽度で視野にまだ余裕があるならば,まず他の治療を施行し,その経過をみたうえで白内障手術の適応を検討するのもよいだろう.一方,GONが進行している症例では,より低い術後眼圧を得るために濾過手術との同時手術も検討する.●おわりに白内障手術はPACにおける機能的隅角閉塞を解除する治療として最強の治療手段で,病初期に施行すれば事実上の治癒に持ち込むことが可能である.その一方で手術のリスクは通常の白内障症例よりも高く,手術合併症のために,緑内障進行例では視神経が致命的なダメージを受けかねない.白内障手術の効力をPACG診療で存分に発揮するためには,個々の症例に応じて適応とリスクを丁寧に検討すると同時に,術者の技量や手術設備と術後管理体制についても,慎重な吟味を行うことが重要である.

コンタクトレンズ:屈折検査(1)オートレフケラトメータ,視野・眼底検査

2014年11月30日 日曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一6.屈折検査(1)オートレフケラトメータ,梶田雅義梶田眼科視野・眼底検査オートレフラクトメータとオートケラトメータの機能を備えた装置がオートレフケラトメータである.最近の新しい検査装置は自動制御で,作働もスピーディになっており,データ取得に要する時間も非常に短くなっている.●オートレフラクトメータ部分オートレフラクトメータ(以下,オートレフ)のデータを読むときに注意しなければならないのは,生体の眼の屈折は常に動いており,動きの中の代表値として結果を記録しているということである(図1).安定したデータが取得できれば,円柱度数の信頼度は高いと考える.球面度数には必ず調節が介入していると考えて,次の自覚的屈折検査に進むことが大切である.従来の自覚的屈折検査は,球面レンズで最小錯乱円の屈折を求めてから,乱視矯正を行う手順であるが,オートレフが普及した現在では,オートレフの値を参照して円柱レンズ度数と円柱軸を先に決めてから球面度数を求めると,検査の能率がアップする.そのために,図2に示すようなフローチャートの利用をお勧めしたい.もちろん,自覚的屈折検査で求めた屈折値は,片眼で最良視[D]-638歳女性-5-4測定結果-3-3.50D-2-10[sec][D]時間-622歳女性-5-4測定結果-3-4.75D-2-10024681012[sec]時間図1屈折値の揺れ無限遠視標を見ているときの屈折値を12秒間記録したものである.上段の38歳女性では屈折値の揺れは少なく屈折値は比較的正しい値が記録されているが,下段の22歳女性では屈折値の揺れが大きく屈折値もかなり近視寄りの値で記録されていることがわかかる.(67)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY0屈折値屈折値24681012力が得られる最弱屈折値を求めただけで,その値が,眼鏡やコンタクトレンズの度数にして快適である保障はまったくない.必ず,両眼同時雲霧法1)を用いて,両眼視で適切な矯正度数を求めて,矯正用具を処方して欲しい.●オートケラトメータ部分角膜曲率半径はハードコンタクトレンズの処方に必要なデータである.かつてのオフサルモメータによる測定では,そのままハードコンタクトレンズのベースカーブに使用できるデータが得られた.しかし,眼内レンズの普及に伴い,術後予測屈折値を決定するために角膜中心部分の曲率をさらに正確に測定する必要がでてきた.そのため,オフサルモメータでは直径4.5mm程度で測定したのが,ケラトメータでは直径3.0mm程度で測定が行われるようになった.白内障術後予測屈折値の精度は上がったが,ハードコンタクトレンズの処方には利用しにくい値になっている.ハードコンタクトレンズの処方に必要なデータは直径5~6mmの角膜曲率半径である視力値1.0以上スタート球面度数に+0.75Dを加える円柱度数オートレフの円柱値より小さい自覚的乱視検査オートレフの円柱1.0未満球面度数に-0.25Dを加える値より大きい円柱度数に-0.50Dor-0.25Dを加える球面値がオートレフ未満で視力値球面値がオートレフ値に達しても視力値1.0未満1.0未満のとき視力値1.0以上あるいは球面・円柱ともに完全矯正に達したとき終了図2自覚屈折測定のフローチャートスタート地点では,円柱度数はオートレフで得られた円柱度数から0.75D減じた値で,軸度はオーレフの値に10°ステップで近似させる.球面度数はオートレフの値から.0.75Dを減じた値を検眼枠に装入する.一度は1.0未満の視力になる屈折値を導き出し,そこから測定をするのがポイントである.あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141633 1634あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(00)ため,フルオレセインによるフィッティング検査が重要になってきている(図3).ソフトコンタクトレンズの処方にはそれよりもさらに周辺の曲率半径が必要であるため,オートケラトメータの測定値はある程度参考にはなるものの信頼度は低い.レンズのセンタリングが良いこと,瞬目ごとに適切な動きが認められること,レンズ周辺部分が浮き上がったり,角膜や結膜を圧迫していないことなどのフィッティング確認が非常に大切である.特にサークルレンズやカラーコンタクトレンズはクリアレンズに比べてベースカーブの曲率半径は小さく設計されている.日本人の角膜曲率半径は欧米に比べて大きくなっており,現在市販されているカラーコンタクトレンズのベースカーブでは3割くらいの人で,フィッティング不良が生じている.フィッティング不良は眼障害の原因になるので,フィッティング確認を忘れてはならない.正しくフィッティングできない場合には希望があっても処方すべきではない.●眼底検査コンタクトレンズ診療は眼疾患の発見に絶好の機会である.眼底疾患は視神経乳頭と上耳側動静脈と下耳側動静脈で囲まれる血管アーケードと呼ばれる部分に異常が出やすいので,初診時には観察しておくことが望ましい.また,網膜裂孔は網膜最周辺部に起こりやすいので,飛蚊症の自覚がある場合などには散瞳を行い周辺網膜まで検査を行うことが望ましい.網膜裂孔があることに気づかないで,コンタクトレンズ装用練習のため眼球を強く押したりすることが原因で網膜.離に発展することもある.●視野検査自覚症状がなくても眼底検査で視神経乳頭陥凹拡大などの視神経乳頭に異常が確認できる場合には,視野検査を行うことが望ましい.視野検査はGoldmann視野計で行う動的量的視野とHumphrey視野計などで行う静的量的視野検査がある.動的量的視野検査では検査に対する熟練が必要であるが,静的量的視野検査は自動音声まで内蔵されており,装置のマニュアルに沿って操作を行えば,適切に検査が遂行されるようになってきている.コンタクトレンズ診療で緑内障や視路疾患が発見されることも少なくない.文献1)梶田雅義,山田文子,伊藤説子ほか:両眼同時雲霧法の評価.視覚の科学20:11-14,1999ZS936角膜曲率半径(水平方向7.72mm,垂直方向7.52mm)HCL(7.50/-3.00/8.8)HCL(7.60/-3.00/8.8)HCL(7.70/-3.00/8.8)HCL(7.80/-3.00/8.8)SteepSteepGoodFlat図3ハードレンズのフィッティングオートケラトメータの値は角膜の中心部分の曲率を測定しているので,ハードレンズのフィッティングには参考程度の値にしかなっていない.フルオレセイン染色で,適切なフィッティングが得られるベースカーブを決定することが必要である.スティープなときにはレンズの周辺辺部が角膜に強く当たっている(矢印の内側).フラットなときにはレンズの中央部分が角膜に強く当たっている.直径6mm径内くらいが角膜に均等に接触するフィッティングが良好である.

写真:ランドルト環型角膜上皮炎

2014年11月30日 日曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦366.ランドルト環型角膜上皮炎細谷比左志JCHO神戸中央病院図2図1のシェーマCの字を連ねたような形の上皮の盛り上り病変を認める.図1初診時左眼.拡大写真.フルオレンセイン染色写真Cの字を連ねたようなフラクタル図形の角膜上皮の盛り上がりを認めるが,前房炎症や細胞浸潤はない.図3初診から4日後の左眼.フルオレンセイン染色写真図1にみられた病変の広がりを認める.図4図3と同時期の右眼.拡大写真.フルオレンセイン染色写真左眼と同様のCの字を連ねたようなフラクタル図形の角膜上皮の盛り上がりを認めるが,前房炎症や細胞浸潤はない.(65)あたらしい眼科Vol.31,No.11,201416310910-1810/14/\100/頁/JCOPY ランドルト環型角膜上皮炎は,異物感や羞明を主訴とする角膜上皮の病変で,ほとんどが両眼性で非対称性である.1992年に大橋らが最初に報告1)して以来,数例の報告がみられる2,3).所見は非常に特徴的で,両眼の角膜上皮レベルに図1のような,アルファベットのCの字(あるいは視力検査で用いるランドルト環)を並べてくっつけたような形の上皮の盛り上がりを認め,炎症所見はなく,細胞浸潤も認めない.筆者の経験した症例は,67歳の女性で,初診は2007年12月21日.左眼の異物感を主訴に受診.視力は,両眼とも矯正で(1.0)と低下しておらず,眼圧も正常,角膜知覚も低下していなかった.両眼の角膜に図1のような病変を認め,フルオレセインで染色すると,少しフルオレセインをはじくような所見がみられ,上皮の盛り上がりを認めた.図1は左眼であるが,右眼も同様の所見であり病変は左よりやや小さかった.肺癌の既往があり1年前から抗癌剤のTS-1Rを内服している.クラビットR点眼と0.1%フルメトロン点眼を処方して経過をみたが,改善せず病変は拡大した(図3,4).患者の同意を得て,4日後の12月25日に病変のやや大きかった左眼の上皮を掻爬し,同時にサンプルを採取した.2日後には上皮はほぼ治癒し,右眼も上皮掻爬した.PCRにて涙液および掻爬した上皮検体のウイルスを調べた.単純ヘルペス1型,2型,水痘帯状疱疹ウイルス,EBウイルス,サイトメガロウイルス,ヘルペス6型,7型,8型を調べたがいずれも陰性であった.上皮は治癒したが,1月15日にTS-1R内服を再開したところ4日後に上皮病変が再発.TS-1Rを中止し,クラビットR点眼,0.1%リンデロン点眼,ヒアレインR点眼を1日4回点眼を再開.上皮掻爬は患者が希望せず,点眼だけで経過を観察していたところ,2週後には完全に治癒した.その後再発はない.最近,Inoueらは,ランドルト環型角膜上皮炎の11例をまとめて報告している4).その特徴は,異物感,羞明を主訴とする両眼性,非対称性の上皮に限局した病変で,炎症所見を伴わない.特徴的な所見は,本症例のようなCの字を連ねたようなフラクタル図形の病変で,全体として環をなしている.上皮は盛り上がったようになっている.ロストック共焦点顕微鏡により,角膜上皮層のうち,表層細胞レベルでは細胞のballooningと細胞質の高輝度反射像が,翼細胞レベルでは細胞核と細胞膜の高輝度の反射像が,基底細胞レベルではランドルト環型になったリッジ形成が,さらに基底細胞の最基底レベルでは高反射のprecipitatesが観察された.炎症所見はなかった.年齢は17~73歳,うち40~50代が大半の64%を占めている.91%が両眼性である.Inoueらの論文でもHHV(humanherpesvirus)の1~8型まで調べているが陰性であった.冬季に悪化する傾向があり3カ月程で改善するという傾向があり,筆者の症例とも一致する.こういった症例は,比較的身近で経験するかも知れず,これを読んでいるあなたの外来にも,明日にでもこのような病変をもった患者が受診するかもしれない.(ウイルス分離については当時大阪大学に在籍されていた井上智之先生にご協力いただきました.深謝いたします.)文献1)大橋裕一,前田直之,山本修士ほか:ランドルト環型角膜上皮炎の1例.臨眼46:594-595,19922)小池美香子,栃久保哲男,飯野直樹ほか:ランドルト環型角膜上皮炎の2例.眼紀49:31-34,19983)細谷比左志,神鳥美智子,真下永ほか:花弁状角膜上皮炎(ランドルト環型角膜上皮炎)の1例.角膜カンファランス・日本角膜移植学会抄録集.3:91,20094)TInoue,NMaeda,XZhengetal:Landoltring-shapedepithelialkeratopathy.Anovelclinicalentityofthecornea.JAMAOphthalmol.doi:10.1001/jamaophthalomol.2014.2381PublishedonlineJuly17,20141632