新しい治療と検査シリーズ217.SMILE(SmallIncisionLenticuleExtraction)プレゼンテーション:神谷和孝北里大学医学部眼科学教室コメント:稗田牧京都府立医科大学眼科.バックグラウンドフェムトセカンドレーザーは近年もっとも進化をなしとげたレーザーテクノロジーの一つであり,任意の深さや方向で自由自在に角膜組織をアレンジできることから,眼科領域にも広く応用されている.従来,LASIK(laserinsitukeratomileusis)におけるフラップ作製に使用されてきたが,現在ではさまざまな角膜移植,角膜内リング,老視矯正から白内障手術にまで適応が拡大しつつある.屈折矯正手術分野においては,エキシマレーザーを使用せず角膜の一部をレンチクルとして抜去する屈折矯正手術(refractivelenticuleextraction:ReLEx)が開発されている1).ReLExとは,femtosecondlenticuleextraction(FLEx)とその亜型であるsmallincisionlenticuleextraction(SMILE)の総称である.本稿では,フラップそのものを作製せずに行う新たな屈折矯正手術SMILEに焦点を当てて概説する..新しい治療法(原理)ReLExはエキシマレーザーを一切用いず,CarlZeissMeditec社のフェムトセカンドレーザーVisuMaxTMを使用して行う.LASIKとReLExの手術方法は,角膜の表1LASIK,FLEx,SMILEの術式比較LASIKFLExSMILEエキシマレーザー要不要不要フラップ作製要要不要眼球運動による照射ずれありなしなし周辺切除効率低下ありなしなし角膜含水率変化ありなしなし眼球回旋補正ありなしなしバイオメカニクス低下+±.+±ドライアイ+±.+±高次収差+±.+±.+長期予後あり不明不明(79)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY一部をレンチクル片として抜去する手技は共通であり,フラップを作製するか否かのアプローチ方法に違いがある.現在の標準術式であるLASIKでは,アイトラッキングを用いても微細な眼球運動による照射ずれやエキシマレーザーによる周辺切除効率の低下が避けられず,フラップ作製後に角膜含水率が変化し続けるが,一方,ReLExでは,角膜組織を圧平コーンによって固定するため,眼球運動による照射ずれがなく,周辺切除効率の低下も生じず,レーザー切除を行う際に角膜含水率は一定のままであることが本質的な違いである(表1)..手術方法SMILEの手術手技のを図1に示す.SMILEはFLExをさらに改良した術式であり,フラップそのものを作製しないため,角膜に対する侵襲はより少ないと考えられる.まず,点眼麻酔後に角膜表面に圧平コーンを接触させてから吸引固定する.次にフェムトセカンドレーザーを用いてレンチクル作製のベースとなる前後面切開とサイドカットを行う.さらにフラップに該当する辺縁に約50.60°の弧状切開を加え,スパーテルを用いてレンチクル前面と後面を鈍的に.離する.その後,鑷子を用いて遊離したレンチクルを切開創より引き抜き,最後に創間を洗浄して手術を終了する2)..本方法の良い点従来のLASIKと異なり,ReLExは①エキシマレーザーを必要とせず,患者の移動が不要,②手術室の室内環境に影響を受けにくい,③レーザー照射による個体差のある角膜創傷治癒反応の影響を受けにくい,④本来角膜が有する優れた生理的形状(prolateshape)の変化が少なく3),眼球高次収差(とくに球面収差)への影響が少ない,⑤しかもその変化が矯正量に依存しない3)ことがメリットとして考えられる.さらにSMILEでは,フあたらしい眼科Vol.31,No.5,2014705図1フラップに該当する辺縁に約50.60°の弧状切開を加え,スパーテルを用いてレンチクル前面と後面を鈍的に.離する.その後,鑷子を用いて遊離したレンチクルを切開創より引き抜く.ラップ作製に伴う角膜生体力学特性の低下やドライアイも起こりにくいことだけでなく,外傷に対する組織強度も高いことが期待されている.自験例による検討でも,706あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014安全性や有効性に明らかな差異を認めないものの2),術直後における疼痛が有意に低下し,オキュラーサーフェスへの影響も少ないことが明らかになっている(清水ら,第35回日本眼科手術学会発表).角膜生体力学特性への影響は,有意差を認めないものの,わずかに少ない傾向であった4).ただし,外傷に対する強度という点では明らかに優位性があり,ボクシングなど格闘技を行う患者にとっては,新たな選択肢となり得るであろう.さらに術後2年までの検討では,FLEx,SMILEともに長期予測性や安定性に優れており,LASIKに認められる遠視化(overshoot)や再近視化(regression)が起こりにくい印象を受ける.その一方,現時点では虹彩認証による眼球回旋補正がなく,乱視が強い症例に対してはトーリック有水晶体眼内レンズやLASIKがより適している.また,一部の症例において術後早期の裸眼視力や矯正視力の回復がやや遅い傾向がみられるが,この原因として前方散乱による影響が示唆されている5).現在では,エネルギー設定や術後ステロイドの投薬見直しを行って早期回復を得ている.もちろん術後長期経過は不明であり,注意深い経過観察が必要であるが,従来の角膜屈折矯正手術と異なり,本術式はフラップレスサージェリーとしてのアドバンテージがあり,将来的に有望な術式の一つと考えられる.文献1)KamiyaK,IshiiR,SatoNetal:Earlyclinicaloutcomes,includingefficacyandendothelialcellloss,ofrefractivelenticuleextractionforthecorrectionofmyopiausinga500-kHzfemtosecondlasersystem.JCataractRefractSurg38:1996-2002,20122)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:Visualandrefractiveoutcomesoffemtosecondlenticuleextractionandsmallincisionlenticuleextractionformyopia.AmJOphthalmol157:128-134,20143)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:Comparisonofvisualacuity,higher-orderaberrationsandcornealasphericityafterrefractivelenticuleextractionandwavefrontguidedlaser-assistedinsitukeratomileusisformyopia.BrJOphthalmol97:968-975,20134)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:Intraindividualcomparisonofthechangesincornealbiomechanicalparametersfollowingfemtosecondlenticuleextractionandsmallincisionlenticuleextraction.JCataractRefractSurg,inpress5)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:Timecourseofopticalqualityandintraocularscatteringafterrefractivelenticuleextraction.PLoSOne8:e76738,2013(80).本術式に対するコメント.SMILEはフェムトセカンドレーザーを用いて,小切開から角膜実質のみを除去することで屈折矯正を行う.フラップをリフトしてエキシマレーザーで実質を光切除するLASIKと比較すると,眼表面に対しては低侵襲である.除去した角膜実質を凍結保存して,老視になったとき再度実質内に戻し,元の近視にすることも可能らしい.コンセプトとしてはLASIKに勝っている面も多い.SMILEは始まったばかりの術式であり,長期予後は不明であり,再手術もむずかしい.術中センタリングの補正,乱視の軸合わせ,高次収差を含めた不正乱視の矯正などには対応していない.屈折矯正としてのクオリティは,照射径の広いスタンダードLASIKと同等であろう.LASIKがたどってきたようなハード,ソフト両面の進歩により,個人個人の目に対応できるようなカスタム手術が可能になれば,SMILEは次世代の主流になる可能性を秘めていると思われる.☆☆☆(81)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014707