特集●眼科治療用レーザーの知識アップデートあたらしい眼科31(6):819.825,2014特集●眼科治療用レーザーの知識アップデートあたらしい眼科31(6):819.825,2014フェムトセカンドレーザーによる白内障手術FemtosecondLaser-AssistedCataractSurgery平沢学*,**ビッセン宮島弘子*はじめに白内障手術は,この20年の間に水晶体.内摘出術から.外摘出術を経て超音波乳化吸引術となり,さらに縫合不要の小切開手術の普及によって,より安全で確実な手術となった.現在の白内障手術手技はほぼ完成形といっても過言ではないが,より低侵襲で優れた術式について模索されている.本稿ではそのうちの試みの一つとして,フェムトセカンドレーザーを用いた白内障手術(以下,フェムトセカンドレーザー白内障手術)の概要と将来の展望について述べる.現時点においては,わが国で導入している施設は多くはないものの先進国をはじめとする諸外国では普及しつつあり,技術の進歩と経済面での問題がクリアできればわが国でも広まっていくものと予想される.Iフェムトセカンドレーザーの原理と眼科手術への応用昨今の眼科臨床において,レーザーを用いた治療は欠かせないものとなっている.眼科で用いられるレーザーは大きく分けて3つの原理,すなわち①光凝固(photocoagulation),②光切断(photodisruption),③光切除(photoablation)のいずれかを利用している1).それぞれの原理について簡単に述べると,①光凝固の原理は,レーザー光を組織に吸収させ,発生する熱によって組織を凝固させるというものであり,アルゴンレーザー,クリプトンレーザーともに500nm前後の可視光を用いている.眼科臨床では網膜光凝固などに用いられている.②光切断の原理は,レーザーを集光・照射して集光点にプラズマを発生させ,その衝撃波による破壊作用で組織を切断するものであり,Nd:YAGレーザーは1,064nmの波長である.眼科臨床ではおもに後発白内障切開に用いられている.③光切除の原理は,紫外光を組織に吸収させ,蛋白質の分子間結合を解離させて除去するものである.眼科臨床ではおもにエキシマレーザー屈折矯正手術に用いられている.フェムトセカンドレーザー白内障手術で用いるレーザーは上記のうち,光切断の原理を用いている.フェムトセカンドレーザーは,フェムト秒(1フェムト秒は10.15秒=1,000兆分の1秒)単位の超短パルスの赤外線レーザー光を連続照射することで,照射部位を光切断する2).レーザーの強度はI(レーザー強度)=E(パルスエネルギー)/S(ビームスポットの面積)T(レーザパルスの時間幅)の数式で表すことができるが,パルス時間が超短時間であるフェムトセカンドレーザーでは高出力が得られる.狭い領域に高出力レーザーを照射すると,ほとんどの物質は蒸散する.照射部位を連続照射し,走査することによって,組織を任意の形状に切断できるため,フェムトセカンドレーザーの技術は機械の微細加工や穿孔,切削の有力な道具に用いられ,やがて眼科においては高い精度が要求される屈折矯正手術,そして白内*ManabuHirasawaandHirokoBissenMiyajima:東京歯科大学水道橋病院眼科**ManabuHirasawa:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕平沢学:〒101-0061東京都千代田区三崎町2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(45)819障手術に応用されるに至った.IIフェムトセカンドレーザー機器の特徴と各社の違い1.角膜屈折矯正手術と白内障手術に用いるフェムトセカンドレーザーの比較従来の角膜屈折矯正手術に用いるレーザーと水晶体再建術に用いるレーザーの最も大きな違いは,前者ではアプラネーションコーンにて圧平することで,角膜を均一な組織と近似して扱うのに対し,後者では前房深度や水晶体厚を症例ごとに測定し,設定することである3).フェムトセカンドレーザーを用いて安全かつ正確に眼組織に照射するためには,角膜の形状を大きく変形させない接眼器具(patientinterface:PI)を装着し,前眼部画像解析装置によって形状を把握する必要がある.現在,わが国で用いられているフェムトセカンドレーザー白内障手術装置には,すべて前眼部画像解析装置が付属されている.角膜から水晶体にかけて正確な照射を行うためには,水晶体後面まで測定する必要があり,前眼部画像解析のスキャン幅は角膜屈折矯正手術での1mmに比べ,フェムトセカンドレーザー白内障手術では8mmと深くなっている.また,水晶体へのレーザー照射は角膜へのレーザーに比べてスポットサイズが大きくなってしまう.先に述べたように,レーザー強度はI=E(パルスエネルギー)/S(ビームスポットの面積)T(レーザパルスの時間幅)で表されるため,Sが大きくなるぶん,Eを大きくする必要があり,高出力となる(角膜1μJ→水晶体8.15μJ).レーザーが高出力に耐えられるように,レーザーの反復は小さく設定されている(角膜60.250kHz→水晶体33.80kHz).2.各社フェムトセカンドレーザーの特徴平成26年2月現在,フェムトセカンドレーザー白内障手術用のレーザー装置は,LenSxR(アルコン社),CatalysR(Abbott社),VICTUSR(ボシュロム社)LensARR(LensAR社)の4機種が販売されている.現(,)時点ではいずれの機器も国内未承認だが,欧米のみならずアジア太平洋地域でも急速に普及している.各機種の820あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014特徴について以下に述べる.a.Patientinterface(PI)PIはレーザー各機種によって異なるが,それぞれに独自の工夫がみられる.大きく接触型と非接触型の2つに分けられる.接触型はPIが直接眼球に触れることで,照射装置と眼球との間に空気を入れないようにしており,LenSxRとVICTUSRが採用している.LenSxRのPIは器具が1ピースなので,操作が非常に簡便という利点がある.初期型は圧迫により角膜に襞が形成され,照射不良の合併症がみられたが,SoftFitTMとよばれる眼球接触面にソフトコンタクトレンズを併用することで,その合併症はほぼ解消された.非接触型は,CatalysRとLensARRが採用している.PIの組み立てがやや煩雑ではあるが,角膜を変形させないという利点がある.各社の現行のPIは直径が大きいため,瞼裂幅が狭い日本人ではセッティングが困難となる場合があり,日本における普及には,各社ともさらなるPIの改善が不可欠であろう.b.前眼部画像解析前眼部画像についてはほとんどの機器で前眼部OCT(opticalcoherencetomography)を用いているのに対して,LensARRはOCTではなくシャインプルーフカメラを用いている.ただし,シャインプルーフの原理から被写体の歪みや誤差が生じる可能性は否めない.また,LensARRの後.像は実測値ではなく,あくまでも前.像の解析から得られたシミュレーション像であり,安全性については確実ではない.c.切開パターン各社とも前.切開および水晶体切開のパターンを考案している.当然ながら,細かい切開であるほど,その後の水晶体吸引時に超音波エネルギーが少なくて済む一方,レーザー照射時間がかかり,患眼が動いてしまうと合併症のもととなる.今後,症例の蓄積によって,新しい水晶体および角膜の切開パターンが考案されていくであろう.なお,角膜乱視軽減目的の角膜切開追加プログラムもある.従来の角膜屈折矯正手術におけるlimbalrelaxingincision(LRI)と類似した形状でやや角膜中心(46)寄りのarcuateincisionとよばれるもので,従来のLRIやastigmatickeratotomy(AK)とは短期的および長期的効果が異なることが予想され,今後ノモグラムが改訂されていくであろう.d.設置条件その他,留意すべきは温度・湿度管理である.CatalysRは常温での管理が可能であることを強みとしているが,その他の機器については,高温多湿によるレーザー発信装置の動作不良や結露を避けるためにおおむね20℃前後,50%以下の温度・湿度管理を要する.e.承認状況承認については各機種とも米国食品医薬品局(FoodandDrugAdministration:FDA)の承認もしくはEUにおいてCEマークを取得している.いずれの機器も現時点では日本国内では未承認であるため,倫理委員会での承認を経た後に患者に対して十分な説明を行い,同意を得てから手術を施行する必要がある.IIIフェムトセカンドレーザー白内障手術の適応1.適応・禁忌フェムトセカンドレーザー白内障手術を実施するためには,透明な角膜と前.切開を施行するのに十分な散瞳径が得られる必要がある.すなわち5mm以下の散瞳不良例や瞳孔偏位例,および角膜混濁例は,現在のところ不適応となる.角膜切開は,老人環や血管の影響で不完全となる症例があるため,上方切開でのprimaryincision(主切開)や右眼の耳側切開でのsecondaryincision(サイドポート切開)の際には,中心よりの透明角膜に照射部位を設定しておく必要がある.進行している緑内障例では圧平と吸引による眼圧上昇4)のために視神経障害が進行する恐れがあり,適応については慎重に判断する.また,非協力的または極度に緊張している患者は,眼球の動きによってPI固定が外れる危険性があるので,十分に注意すべきであろう.その他,現在使用されているPIの眼球接触部の直径が大きいので,瞼裂幅が小さい症例は挿入できず,外嘴切開(カントトミー)を要することがある5).(47)2.費用負担および倫理的配慮日本においては,本術式を行う場合の手術費および手術に関連する諸検査や投薬については自費診療となる.高価なレーザー購入,手術室の改修および温度・湿度管理など初期投資がかかるので医師や経営者がビジネスプランをもち,手術料と諸費用を設定することが重要であろう6).導入初期では経済面に加え,レーザーに関する操作部分で時間を要するため,手術時間にゆとりをもって臨むことが好ましい.また,品質を保つためにレーザーの保守点検は必須で,これにも費用がかかるので予算に加えておく必要がある.レーザー白内障装置は国内未承認であるため,倫理委員会での承認を経た後に患者に対して十分な説明を行い,同意を得てから手術を施行するのが望ましい.この手術を希望する患者は,割高な手術費用を払うぶん,非常に良好な視力予後を期待するのは当然であり,患者の性格や,白内障以外に視力に影響する眼疾患の鑑別・除外を従来の白内障手術以上に慎重に見きわめる必要があることを付記しておく.IV手術の実際1.術前準備とレーザー照射本項では筆者らの施設で用いているLenSxRによるフェムトセカンドレーザー白内障手術の手順を紹介する.手術を行うためには術者の他に,レーザー機器を動かすシステムオペレーターが必須である(一般的には臨床工学技士か視能訓練士ないし眼科医が対応するのが妥当であろう).まず,術前に手術患者のデータ(角膜切開位置・前.切開径)を入力しておく.なお,手術患者にPIをドッキングした後にもデータの変更は可能である.患者に点眼麻酔,洗眼を行った後に開瞼器を装着,眼球を水平に保った状態でPIをゆっくりと下げ,角膜中央とPIの中心が合うように水平にドッキングする(図1A).この際に,フェムトセカンドレーザー装置の画面には術眼のビデオマイクロスコープ画面上に目標の位置などがオーバーレイ表示される(図1B).センタリングや切開創位置などを決め,次に前眼部OCTスキャンをあたらしい眼科Vol.31,No.6,2014821ABCDABCD図1フェムトセカンドレーザーによる切開の手術A:矢頭で示すのがLenSxRのPI.B:矢頭で示すのが切開目標位置.C:矢頭で示すのが照射幅.D:矢頭で示すのがレーザー照射にて切開された水晶体前..行う.ここで前.切開のための照射幅,角膜切開創の深さ,角度のデータを最終確認・決定する(図1C).後は術者がフットスイッチを押し続けることでレーザー照射がプログラムどおりに遂行される(図1D).前.切開→核破砕→必要に応じて乱視矯正用の角膜減張切開(arcuateincision)→角膜切開創作製をすべて完了するために20.30秒程度を要する.レーザー実施後は作製された角膜切開創からの超音波乳化吸引術となるが,現時点ではフェムトセカンドレーザー装置と超音波装置が一体化していないため,患者の移動を要する.海外では患眼を洗眼せずにフェムトセカンドレーザーを手術室の外で行ったのちに,手術室に移動して洗眼を行い,超音波乳化吸引術を施行することが多い.筆者らの施設では,手術室にレーザーが設置されており,洗眼後にレーザー,超音波乳化吸引術を実施している.822あたらしい眼科Vol.31,No.6,20142.手術の流れ現在一般的に行われている,角膜切開による水晶体再建術は,①角膜に2.2.2.4mm前後の主切開と,サイドポート切開を作製,②チストトームもしくは鑷子を用いて前.を円周状に切開,③hydrodissection,hydrodelineationを行い水晶体核・皮質を分層・分離,④超音波装置を用いて水晶体核を破砕,同時に吸引,⑤皮質吸引,⑥眼内レンズ挿入といった手順で行われるが,フェムトセカンド白内障手術では操作の順番が異なる(図2).レーザー終了後,①まず,角膜切開創(主切開,サイドポート)をスパーテルにて開き,粘弾性物質を前房内に満たす(図2A).②水晶体前.が全周切開されていることを確認する.疑いがある場合は,鑷子もしくはチストトームを用いて確認する.③続いてhydrodissectionおよびhydrodelineationを施行する.この際,.内にレーザー照射による気泡が貯留していると,注入された水圧で後.破損につながる危険性があるため留意する.④ついで水晶体吸引を超音波装置で行う.すでに核分割され(48)ABAB図2フェムトセカンドレーザー照射後の水晶体吸引ている場合には,核処理は従来の白内障手術に比べて容易となる(図2B).皮質吸引,眼内レンズ挿入は一般的な白内障手術と同様に行う.3.術中合併症a.PIセッティング不良フェムトセカンドレーザー白内障手術における合併症の多くは,PIをセッティングする際の眼球の傾きや,吸引が不十分に行われていたことに起因する.眼位が傾いていると,レーザー照射が不均一となり不完全切開になることがある.合併症については手技の習熟に伴って減少していく7).b.前.切開不全レーザー導入初期は,前.切開縁が切れ残っている場合があり,anteriorcapsulartagとよばれる,さかむけ状の前.縁が残存したり8),前.切開を続ける際に亀裂が入ることがあった.その後技術の改善が進んだことで,ほぼ全例にて完全な前.切開が可能となった.c.後.破.フェムトセカンドレーザー核破砕は後.から十分な距離をおいて行っているので,レーザーそのものによる後.破損ではなく,レーザーで生じた気泡が行き場を失って後.に回り,水圧をかけたときに後.破損を生じる症例が報告されている7).あらかじめプレチョッパーなどで,核を分割する際に前房側に気泡を逃す,気泡が後.側にある状態で勢いよく大量に眼内に水を入れないなどの工夫にて合併症を減らすことができる.海外の同一施設で実施したフェムトセカンドレーザー(49)白内障手術の合併症報告では,はじめの200症例に比べて,後の1,300症例のほうが明らかにレーザーに関連する周術期合併症が減少しており8),PI設定の習熟がラーニングカーブの向上につながると考えられる.Vフェムトセカンドレーザー白内障手術の予後これまでに報告されているフェムトセカンドレーザー白内障手術の術後成績を以下にまとめる.1.前.切開・眼内レンズ位置フェムトセカンドレーザー白内障手術の臨床成績について現時点で証明されている最も大きな利点は,水晶体前.切開が正確な場所に再現性をもって正確な大きさで作製できることである9).マニュアル白内障手術では技術に熟練した術者であっても,完全な正円に切開し眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の辺縁を均等にカバーすることはきわめて困難である.正円で偏心が少ない前.切開は,多焦点IOLやトーリックIOLの利点をより発揮させるであろうと期待される10).また,フェムトセカンドレーザーで作製された前.切開は,マニュアルより亀裂が入りやすいのではと危惧されているが,より高い強度をもつとされている11).2.核分割破砕・超音波エネルギーフェムトセカンド白内障手術では,核破砕をある程度行った状態から水晶体を吸引するので超音波時間が短縮され12,13),累積エネルギーを削減できることが報告されている14).それらによって内皮細胞の減少率の低下につあたらしい眼科Vol.31,No.6,2014823ながることが予想され15,16),より安全な手術が期待されている.今後,水晶体内照射パターンに関する研究が進むことが予測される.グリッド型の照射を行っておくことで超音波時間が軽減し,さらに超音波チップの形状をレーザー白内障手術用に改良,具体的には先端や吸引孔の大きさを変えることで,さらに核の吸引効率が上がり,多くの症例で超音波を用いず安全に手術ができたことが報告されている17).3.角膜切開先に述べたように,老人環の存在に留意する.従来のマニュアル白内障手術では老人環は合併症に直結しなかったが,フェムトセカンドレーザー角膜切開では老人環によって角膜切開が不十分となる症例がある.対処方法としては,予定切開創を角膜中央よりに移動させることだが,主切開部の皮質吸引が困難となり,眼内操作時にも角膜に皺が寄りやすくなるなどの欠点がある.フェムトセカンドレーザーの利点として,正確な角膜減張切開が可能であることも挙げられる.すでにいくつかのグループが角膜減張切開に関する学会報告を行っており,今後の症例の蓄積とさらなる解析が待たれる.4.視力予後これまでのいくつかの報告では,フェムトセカンドレーザー白内障手術と従来のマニュアル白内障手術との間に,術後視力において明らかな有意差は認めていない18,19).また,等価球面度数の誤差20)や高次収差21)などについても統計学的な有意差は認めなかった.従来の白内障手術がそれだけ完成されており,フェムトセカンドレーザー白内障手術がそれに劣らぬ手術成績を残している証拠ともいえる.今後,フェムトセカンドレーザーを用いた新しい切開創作製や,IOL技術の発展によって,異なる結果が生まれる可能性があり,今後も注目していきたい.5.その他術後眼内炎などの重篤な合併症については,現在のところマニュアルとの間に有意差を示した報告は認めない.接触型PIを使用する際には結膜を吸引するため,824あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014術後ほぼ全例で結膜下出血を生じるので,外見的な問題とはいえ,今後なんらかの解決策が望まれる.VI今後の課題点と展望現時点で,わが国でフェムトセカンドレーザー白内障手術が広く普及するためには2つの大きな課題があると思われる.1つ目は技術的な課題である.手術のすべてをフェムトセカンドレーザーで完遂できるわけではなく,従来の超音波水晶体吸引装置が必要であり,フェムトセカンドレーザー装置と超音波装置が一体化されていないため,それぞれの手技の際に患者の移動が必要である.これは患者用椅子の改良やレーザー装置と超音波装置の一体化によって解決可能と考えられる.つぎに,現在のPIは欧米人向けに作られており,瞼裂幅の狭い日本人に適しているとは言い難い.PIのセッティングの際に生じた位置ずれや傾き,ないしそれに伴うPIの吸引外れ(suctionbreak)によって手術の合併症が増加することを考えると,PIの改良は今後の普及に必須であり,さらなる開発が望まれる.また,レーザーによる切開は正確性・再現性は高いものの,熟練術者が従来の白内障手術を執刀するよりやや時間を要するのが現状である.照射プログラムの改善による時間短縮化や,従来の手術では作製不可能な新しい切開創デザイン,より小切開で挿入できるIOLなど,フェムトセカンドレーザーを用いてのみ実施できる真のプレミアム白内障手術のステージに進むことが今後の課題と思われ,その際には前述したフェムトセカンドレーザーによるデメリットを減らすように努めるべきであろう.2つ目は経済的な課題である.2013年現在,わが国では白内障用フェムトセカンドレーザーは承認されておらず,高額な自費診療での手術となってしまう.そのため,わが国における新技術の普及が世界に遅れる可能性が懸念される.白内障手術が.内摘出術から.外摘出術を経て,超音波乳化吸引術となり,縫合不要の小切開手術の普及によってプレミアムIOLの技術が飛躍的に進歩したように,フェムトセカンドレーザー白内障手術も今後の進歩に大きな影響を及ぼす可能性がある.とくに,術者の習熟性(50)に頼らず,手術を簡易化させる技術革新という点では大きな意義があり,新たな術式もしくはIOLをもたらすきっかけとなるかもしれない.文献1)平沢学,ビッセン宮島弘子:フェムト秒レーザーの眼科応用の現状フェムト秒レーザーを用いた屈折矯正手術.日本レーザー医学会誌34:31-36,20132)DonaldsonKE,Braga-MeleR,CabotFetal:Femtosecondlaser-assistedcataractsurgery.JCataractRefractSurg39:1753-1763,20133)TalamoJH,GoodingP,AngeleyDetal:Opticalpatientinterfaceinfemtosecondlaser-assistedcataractsurgery:contactcornealapplanationversusliquidimmersion.JCataractRefractSurg39:501-510,20134)SchultzT,Conrad-HengererI,HengererFHetal:Intraocularpressurevariationduringfemtosecondlaser-assistedcataractsurgeryusingafluid-filledinterface.JCataractRefractSurg39:22-27,20135)ビッセン宮島弘子:フェムトセカンドレーザーによる白内障手術.IOL&RS27:431-438,20136)AbellRG,VoteBJ:Cost-effectivenessoffemtosecondlaser-assistedcataractsurgeryversusphacoemulsificationcataractsurgery.Ophthalmology121:10-16,20147)BaliSJ,HodgeC,LawlessMetal:Earlyexperiencewiththefemtosecondlaserforcataractsurgery.Ophthalmology119:891-899,20128)RobertsTV,LawlessM,BaliSJetal:Surgicaloutcomesandsafetyoffemtosecondlasercataractsurgery:aprospectivestudyof1500consecutivecas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