特集●眼炎症(ぶどう膜炎・強膜炎)の治療方針あたらしい眼科31(9):1295~1301,2014特集●眼炎症(ぶどう膜炎・強膜炎)の治療方針あたらしい眼科31(9):1295~1301,2014特殊ケース:妊婦,小児,高齢者SpecialCases:PregnantWomen,Children,andtheElderly中尾久美子*はじめに眼炎症の治療に用いられる薬を点眼や局所注射する場合,妊婦,小児,高齢者でもほぼ安全で問題はないと考えられるが,全身投与する場合には注意が必要である.妊婦では胎児の存在と妊婦特有の代謝の変化,小児では成長・発達の過程にあること,高齢者では身体諸機能の低下などを考慮し,これらの特性に関連した特有の副作用に留意して薬剤を使用することが重要である.妊婦,小児,高齢者に,眼炎症の治療として消炎を目的とした薬や感染に対する薬を全身投与する場合の注意事項について概説する.I妊婦における眼炎症の治療妊婦の眼炎症を治療する際に最も注意すべきことは,妊娠中の投薬は胎児へ影響する可能性があるということである.全身投与した薬剤は一部の例外を除いて胎盤を通過して胎児へ到達する.薬の胎児への影響には催奇形性と胎児毒性とがあるが,催奇形性という点からは,特に妊娠4~7週末の絶対過敏期の投薬に注意が必要である.また,妊娠中や出産後は,内因性のステロイドを含むホルモンや免疫の変化により眼炎症が軽快または悪化する可能性があるので,妊婦の眼炎症の治療に際してはこのことにも留意する.1.妊娠による薬物動態の変化表1に示すような妊娠期の薬物動態の変化により,妊娠中は薬物血中濃度が通常より低下する傾向にある.これを考慮して妊婦には薬を処方する必要がある.2.薬剤の胎盤通過性薬剤の胎盤通過性は妊婦へ投与する薬を選択するうえで重要な因子である.胎盤通過性を規定する因子として,薬剤の分子量,蛋白結合率,脂溶性などの物理化学的な特性や,胎盤の血流,胎盤における薬剤の代謝などがあげられる.1)分子量:分子量が300~600程度の薬剤は比較的容易に胎盤を通過し,1,000以上になると通過しにくい.2)脂溶性:脂溶性の薬剤は,水溶性の薬剤より容易に胎盤を通過する.3)蛋白結合率:蛋白結合率が高いほど通過しにくい.4)イオン化の程度:イオン化が強いほど通過しにくい.5)胎盤による薬物代謝:胎盤では11b-hydroxysteroiddehydrogenaseの活性が高く,母体血中のヒドロコルチゾンやプレドニゾロンは胎児に移行する前に不活性型に代謝され,活性型として胎児に到達するのは母体血中の10%以下とされる.一方,ベタメタゾンやデキサメタゾンはほとんど代謝されずに胎盤を通過して胎児に移行する.3.妊娠中に使用する薬剤の胎児への危険度妊娠中に使用する薬剤の安全性に関する基準には米国*KumikoNakao:鹿児島大学大学院医歯学総合研究科先進治療科学専攻感覚器病学講座眼科学分野〔別刷請求先〕中尾久美子:〒890-8544鹿児島市桜ヶ丘8-35-1鹿児島大学大学院医歯学総合研究科先進治療科学専攻感覚器病学講座眼科学分野0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(47)1295表1妊婦・小児・高齢者における薬物動態妊婦小児高齢者吸収変化なし消化管通過時間が短く,薬物が吸収されにくいことがあるあまり変化なし分布血漿容積が50%,心泊出量が30%増加し,体水分量が平均8リットル増加するため,多くの薬物の血中濃度が低下体重あたりの水分量(特に細胞外液)が多く,体内の薬物の分布容積が大きくなり,血中濃度のピークは低くなる傾向細胞内水分が減少し,水溶性薬物の血中濃度が上昇しやすい脂肪量が増加するため脂溶性薬物は血中濃度が低下するが,蓄積効果がでやすい血清アルブミンの低下により薬物の蛋白結合率が減少し,遊離型薬物が増加代謝変化なし新生児期の肝臓における薬物代謝酵素活性は低く,薬物代謝速度は遅い肝血流,肝機能の低下により薬物代謝は低下排泄腎血流量が増えて腎排泄が増大腎臓の糸球体機能,尿細管機能は新生児から乳幼児は低く,腎排泄型の薬剤の半減期は延長腎血流量が低下するため腎排泄が低下表2眼炎症治療に使われる薬の胎児への危険度区分一般名FDA分類妊婦への投与消炎鎮痛薬非ステロイド性抗炎症薬全般初期:B~C末期:D慎重~禁忌(後期~全期)コルチゾンD有益性投与ヒドロコルチゾンC有益性投与プレドニゾロンC有益性投与副腎皮質ホルモンメチルプレドニゾロンC有益性投与トリアムシノロンC有益性投与デキサメタゾンC有益性投与ベタメタゾンC有益性投与シクロスポリンC禁忌タクロリムスC禁忌免疫抑制薬タクロリムス(点眼液)禁忌アザチオプリンD禁忌ミゾリビンX禁忌モフェチルD禁忌葉酸代謝拮抗薬メトトレキサートD禁忌痛風治療薬コルヒチンD禁忌生物学的製剤抗TNFa抗体B有益性投与ペニシリン系全般B有益性投与セフェム系全般B有益性投与エリスロマイシンB有益性投与マクロライド系クラリスロマイシンC有益性投与アジスロマイシンB有益性投与抗生物質アセチルスピラマイシン有益性投与テトラサイクリン系全般D投与禁希望アミノグリコシド系全般C~D有益性投与クリンダマイシンB投与禁希望その他ホスホマイシンB投与禁希望バンコマイシンC有益性投与抗菌薬ニューキノロン系全般C禁忌その他ST合剤C禁忌抗結核薬リファンピシンC投与禁希望イソニアジドC投与禁希望エタンブトールB有益性投与イトラコナゾールC禁忌抗真菌薬フルコナゾールC禁忌アムホテリシンBB有益性投与フルシトシンC禁忌抗ヘルペスウィルス薬アシクロビルB有益性投与バラシクロビルB有益性投与抗サイトメガロウィルス薬ガンシクロビルC禁忌バルガンシクロビルC禁忌FDA分類:米国食品医薬品局の薬剤胎児危険度分類.A:ヒト対照試験で危険性がみいだされない,B:ヒトでの危険性の証拠はない,C:危険性を否定することができない,D:危険性を示す確かな証拠がある,X:妊娠中は禁忌.禁忌:投与しないこと,投与禁希望:投与しないことが望ましい,有益性投与:治療上の有益性が危険を上回ると判断される場合にのみ投与すること,慎重:慎重に投与すること.(49)あたらしい眼科Vol.31,No.9,201412971298あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(50)乳へ移行し,母体への投与が80mg/日の場合でも,新生児が母乳から摂取するのは新生児の生理的分泌量の10%以下と報告されている.プレドニゾロン内服が1回20mg以下で1日1~2回投与なら新生児や乳児への影響はほとんどない.また,1回20mg以上内服する場合は,内服4時間後に1回搾乳廃棄し,その後の母乳を与えることが勧められる.II小児における眼炎症の治療小児は発育の過程にあって身体能力が未熟であり,薬剤の副作用が発現しやすい.小児に特有の副作用や投与禁忌・注意薬剤を認識し,薬物動態や薬剤感受性の年齢による変化を考慮し,副作用が極力抑えられる治療をすることが大切である.1.小児における薬物動態消化吸収機能,細胞外液量,肝機能,腎機能などが年齢により変化するため,薬剤の吸収,分布,代謝,排泄が年齢により異なることに留意する.吸収不良や分布容積が大きいために血中濃度が低くなる傾向がある一方,代謝や排泄は遅い傾向がある(表1).2.小児の薬用量小児の薬物療法において重要な点は,投与量が年齢や体重の増加に伴い変動することである.小児薬用量算出には体表面積に基づく方法が優れているとされ,2歳以上では年齢から算出できる体表面積比に近似したAugs-berger式(II):成人用量×(年齢×4+20)/100がよく用いられる.Augsberger式から求めた小児薬用量を近似したvonHarnackの表も簡便でよく用いられている(表3).抗菌薬の投与量は体重当たり(/kg)の投与量から薬用量を計算する方法がよく用いられるが,年長児や過体重児では投与量が成人量を超えないよう注意する.循環血液量や腎機能に大きく影響される薬物などでは体表面積当たり(/m2)の投与量が提示されている場合がある.3.小児に特別な注意を要する抗菌薬テトラサイクリン系の抗生物質は8歳未満の小児に投はカテゴリーCで,催奇形性の報告はないが,妊娠中の安全性が確立していないということで禁忌になっている.抗真菌薬のうちアンホテリシンBはカテゴリーBで比較的安全であるが,アゾール系とピリミジン系の抗真菌薬はカテゴリーCで,催奇形性を疑う報告があり禁忌となっている.抗ヘルペスウイルス薬はカテゴリーBで妊婦にも投与可能であるが,抗サイトメガロウイルス薬はカテゴリーCで禁忌である.4.妊婦へのステロイド大量全身投与Vogt-小柳-原田病のように基本的にステロイドの大量全身投与が必要となる眼炎症が妊婦に発症した場合,どのように治療するかが問題となる.妊娠中の全身性エリテマトーデスのステロイド療法では,病状の悪化がなければ妊娠前の投与量がそのまま維持されるのが原則であり,病状の悪化により30~60mg/日に増量することも可能で,また,ステロイドの増量で対処できなければ,ステロイドパルス療法の適応となる.これを参考にすると,必要があれば妊婦にステロイドを大量全身投与することは可能である.これまでに報告されている妊婦に発症した原田病では,妊娠初期は催奇形性の問題からステロイド局所投与で治療している症例が多く,妊娠中期から後期では全身投与している症例が多い.ステロイド大量全身投与してもほとんどの症例が有害事象を生じていないが,因果関係は不明であるものの,妊娠30週で原田病を発症し,ステロイド大量点滴治療中に突然の胎児死亡をきたした症例が報告されている.これらを踏まえて,まずトリアムシノロンのTenon.下注射による治療を試みて,改善がみられなければステロイド大量全身投与を検討するのが安全と考えられる.最終的には,局所投与と全身投与の利点と問題点を患者に説明し,産婦人科にもよく相談したうえで治療法を決めるべきであろう.5.授乳による新生児・乳児への影響出産後も引き続いて薬剤を全身投与する場合,母乳を介する新生児や乳児への影響が懸念されるが,一般に,表2で妊婦に投与可能な薬剤は授乳時も安全に使用可能である.プレドニゾロンは母体血中濃度の5~25%が母あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141299(51)1.加齢による薬物動態・薬物反応性の変化加齢による薬物動態の変化(表1)により,若年成人ではみられない薬物有害反応が発現しやすい.さらに,恒常性維持機構の加齢による低下があり,薬剤の生体内における作用は若年成人より強く現れ,若年成人と比較して薬物有害反応の頻度は高く,程度もより強い.このため高齢者に薬物投与する場合は,腎機能や体重などから投与量を設定するとともに,急性期に十分量を投与する必要がある場合を除き,少量(成人常用量の1/3~1/2程度)から開始して,効果と有害反応をチェックしながら増量することが重要である.薬剤によっては血中濃度をモニターしながら投与量を決定する.高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬物のリストのなかに,消化性潰瘍や腎障害が出やすいということでCOX(シクロオキシゲナーゼ)阻害薬以外の長時間作用型非ステロイド性抗炎症薬(常用量)が含まれている.2.多剤服用の問題高齢者では合併疾患の増加に伴って服用薬剤数が増加する.なかにはびっくりするくらい多種類の薬を内服している症例もある.多剤服用している症例に眼炎症に対する治療薬を投与する場合,薬物相互作用による有害反応がでる可能性に注意する必要がある.すなわち,自分が投与した薬剤の副作用に注意するだけでなく,すでに処方されている薬剤の副作用がでる可能性にも注意しなくてはなららない.おもな全身疾患治療薬に眼炎症治療に使われる薬が加わるとどのような相互作用がみられるかを表4にあげた.多くの薬物は肝細胞に存在するチトクロームP450(CYP)やその他の酵素の働きによって代謝されるが,CYPのなかでも特に重要なCYP3Aを阻害するアゾール系抗真菌薬やマクロライド系抗菌薬を併用すると,CYP3Aで代謝される薬物の血中濃度が上昇して有害反応が出現する可能性が大きくなる.逆に与した場合,歯牙の着色,エナメル質形成不全などを起こすことがあるので使用しない.クロラムフェニコールは嘔吐,下痢,皮膚蒼白,虚脱,呼吸停止などが現れるGray症候群を発症する恐れがあり,新生児には投与禁忌である.ST(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)合剤はサルファ剤を含有するため,低出生体重児,新生児には,高ビリルビン血症を起こすことがあり投与禁忌である.小児用ノルフロキサシン以外のニューキノロン系抗菌薬は15歳未満の小児には使用しない.4.小児で特に注意すべきステロイドの副作用成長障害(低身長)は小児に特有の副作用の一つであり,プレドニゾロン3~5mg/m2/日の連日長期投与で低身長をまねく危険がある.ステロイド緑内障は成人よりも発症しやすいので注意する必要がある.低年齢児では協力が得られずに眼圧を正確に測定できないことが多いが,根気よく何度も眼圧測定を試みて検査に少しずつ慣れさせて,必ず眼圧をチェックすることが大事である.満月様顔貌,中心性肥満,.瘡などの容姿に関する副作用は,大人が考える以上に小児にとっては重大な問題であり,心理的ストレスが大きい.特に思春期ではこれらの副作用のために勝手に内服を中断する場合もあるので,心理的ケアを含めた注意深い観察が必要である.III高齢者における眼炎症の治療高齢者では加齢による薬物の代謝・排泄能の低下,全身合併症とそれに伴う多剤服用,薬の飲み忘れ・飲み間違いの発生率増加を背景とする薬物有害反応が出現しやすいことに留意して薬物治療を行うことが大切である.表3vonHarnackの換算表年齢未熟児新生児6カ月1歳3歳7.5歳12歳対成人薬用量1/101/81/51/41/31/22/3vonHarnackGA.MonatsschrKinderheilkd,1956表3vonHarnackの換算表年齢未熟児新生児6カ月1歳3歳7.5歳12歳対成人薬用量1/101/81/51/41/31/22/3vonHarnackGA.MonatsschrKinderheilkd,1956表4全身疾患治療薬と眼炎症治療薬の相互作用全身疾患治療薬眼炎症の治療に使う薬剤相互作用降圧薬Ca拮抗薬イトラコナゾールリファンピシンシクロスポリンCa拮抗薬の代謝を抑制し,下肢浮腫を増強Ca拮抗薬の代謝を促進し,効果を減弱両薬物の代謝が競合的に阻害され,血中薬物濃度が上昇ACE阻害薬非ステロイド性抗炎症薬尿中K排泄量が減少し,高カリウム血症をきたす危険性直接的レニン阻害薬シクロスポリンイトラコナゾール直接的レニン阻害薬の血中濃度が著しく上昇する危険性高脂血症治療薬HMG-CoA還元酵素阻害薬アゾール系抗真菌薬シクロスポリン血中HMG-CoA還元酵素阻害薬濃度が上昇し,横紋筋融解症をきたしやすい血中HMG-CoA還元酵素阻害薬濃度が上昇し,横紋筋融解症をきたしやすいエゼチミブシクロスポリンエゼチミブの吸収が増加し,有害反応がでやすい血液凝固阻害薬ワルファリン非ステロイド性抗炎症薬抗菌薬選択的COX-2阻害薬遊離型ワルファリン量を増やし,ワルファリンの作用を増大させる体内のビタミンKを減少させ,ワルファリンによる出血のリスクを増大させる.非結合型ワルファリン濃度を増加させ,代謝を阻害し,効果を増強CYP2C9を阻害することによりワルファリンの作用を増強強心薬ジゴキシンマクロライド系抗菌薬アジド系抗菌薬イトラコナゾールジゴキシンの消化管内での不活化を阻害し,ジゴキシンの作用を増強ジゴキシンの尿細管分泌を阻害し,血中濃度が上昇して中毒症状がでやすい不整脈治療薬ジソピラミドマクロライド系抗菌薬ジソピラミドの代謝を阻害して血中濃度を上昇させ,心室性不整脈や低血糖を誘発する可能性抗不整脈薬リファンピシン抗不整脈薬の代謝を亢進し,吸収量を低下させ,抗不整脈薬の効果が減弱気管支喘息治療薬テオフィリンフルオロキノロン系抗菌薬マクロライド系抗菌薬リファンピシンテオフィリンの代謝を阻害し,血中濃度を上昇させ,中毒症状が出現しやすいテオフィリンの代謝を促進し,血中濃度を低下させ,気管支拡張作用減弱抗菌薬ニューキノロン系抗菌薬非ステロイド性抗炎症薬GABAA受容体に対するニューキノロン系抗菌薬の阻害作用を増強し,痙攣発作を生じやすい抗うつ薬アミトリプチリンフルコナゾール血中濃度を上昇させ,有害反応が出現する可能性催眠鎮静薬トリアゾラムアゾール系抗真菌薬血中濃度が上昇し,作用の増強および作用時間の延長が起こる危険性抗精神病薬クロザピンマクロライド系抗菌薬アゾール系抗真菌薬血中濃度を上昇させ副作用を増強抗てんかん薬バルプロ酸ナトリウムカルバペネム系抗菌薬血中濃度を低下副腎皮質ホルモンメチルプレドニゾロンアゾール系抗真菌薬マクロライド系抗菌薬リファンピシンメチルプレドニゾロンの代謝を阻害し,血中濃度を上昇メチルプレドニゾロンの代謝を亢進し,血中濃度を減少免疫抑制薬シクロスポリンリファンピシン非ステロイド性抗炎症薬シクロスポリンの代謝を促進し,血中濃度が低下併用により腎血流量が減少し,腎機能低下を惹起タクロリムスマクロライド系抗菌薬アゾール系抗真菌薬タクロリムスの代謝が阻害され,血中濃度が上昇抗悪性腫瘍薬エベロリムスアゾール系抗真菌薬マクロライド系抗菌薬エベロリムスの代謝が阻害され,血中濃度が上昇メトトレキサート非ステロイド性抗炎症薬メトトレキサートの腎からの排泄遅延Ca:カルシウム,ACE:アンジオテンシン変換酵素,HMG-CoA:3-hydroxy-3-methylglutarylcoenzymeA,COX:シクロオキシゲナーゼ,GABA:g-アミノ酪酸.あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141301(53)CYP3Aを誘導するリファンピシンやデキサメタゾンを併用すると,血中濃度が低下して薬効が減弱する場合がある.さらに毒性の代謝物が生成されて有害反応をきたす原因にもなる.3.服薬管理能力の低下高齢者では服薬管理能力の低下を認めることが多い.多剤服用している場合にはさらに服薬管理能力が低下しやすい.期待した薬効が得られない場合は,薬剤を変更または追加する前にアドヒアランスが保たれているかどうかを確認する必要がある4.高齢者特有の薬の副作用―薬剤起因性老年症候群老年症候群は,加齢に伴う心身の機能の衰えによって現れる身体的および精神的諸症状・疾患の総称で,おもな症状は,認知症,せん妄,うつ,めまい,骨粗鬆症,転倒,尿失禁,食欲不振などであるが,薬の副作用により薬剤起因性老年症候群を呈することに注意する必要がある.特に多剤服用している場合,薬剤起因性老年症候群を惹起しやすい.薬剤起因性老年症候群のおもな原因薬剤のなかには眼炎症治療に用いる薬剤も含まれており,副腎皮質ステロイドではせん妄,非ステロイド性抗炎症薬,抗菌薬では食欲低下をきたす可能性がある.薬剤起因性老年症候群を発症していても,病気や年齢のせいと思われて,薬の副作用であることが見過ごされていることも多いので注意が必要である.5.高齢者で特に注意すべきステロイドの副作用高齢者は骨粗鬆症,糖尿病,高血圧,循環器系および呼吸器系の全身合併症を有していることが多いので,ステロイドの投与量や投与期間について十分検討し,投与中の副作用の出現に注意をはらう必要がある.高齢者における特に重要な副作用は,骨粗鬆症と感染症である.骨粗鬆症とそれによる脊椎圧迫骨折や大腿骨骨折は,患者の日常生活の活動性を著しく低下させてしまう.65歳以上の高齢者では,潜在的に骨脆弱性があると考え,ステロイド治療早期からビスフォスフォネートを投与することが望ましい.感染症は高齢者では致命的になる可能性があるが,高齢者では感染症の特徴〔発熱・CRP(C反応性蛋白)上昇など〕を必ずしも示さない症例もあるので注意が必要である.文献1)山下晋:妊婦・授乳婦への薬物投与時の注意改訂6版.p111-313,医療ジャーナル社,20072)石川睦男,柳沼裕二:自己免疫疾患をもつ妊婦の管理2SLE.臨婦産50:774-776,19963)穂苅量太,高本俊介,渡邊知佳子ほか:妊娠・出産と炎症性腸疾患.診断と治療100:1007-1012,20124)横田俊平:小児例への投与.ステロイドの使い方コツと落とし穴(水島裕編),p130-131,中山書店,20065)藤村昭夫,熊崎雅史,小林瑛子ほか:絶対覚えておきたい疾患別薬物相互作用(藤村昭夫編),p19-356,日本医事新報社,20136)秋下雅弘:高齢者に対する薬物療法の考え方.診断と治療102:185-191,2014