特集●水晶体を科学するあたらしい眼科31(10):1431.1436,2014特集●水晶体を科学するあたらしい眼科31(10):1431.1436,2014水晶体の光学特性CrystallineLensOpticalProperties川守田拓志*はじめに水晶体は眼屈折の約3分の1を担い,近見視に最も大きく寄与している.また,眼内に入射する光線はすべて水晶体を通過する.それだけに光学的な役割は非重要に大きい.加齢変化や疾患により,収差*1や散乱*2特性が変化し,光学特性が低下することは視覚の質を大きく低下させることにつながる.水晶体は眼内レンズ(intraocularlens:IOL)と比べても遜色のない光学特性を有し,周辺網膜の結像性の向上に寄与している1).また,遠方から近方まで効率的に明視するための形状や屈折率分布を有しており,調べれば調べるほど奥深い組織である.さらに,近年ブルーライト*3が問題になっているため,このことも含めた水晶体の光学特性についてまとめる2).I水晶体の形状と屈折率代表的なGullstrand模型眼によると,調節前の水晶体の前面の曲率半径,後面の曲率半径,厚みは各々10.0mm,.6.0mm,3.6mmである.また,調節後は5.3mm,.5.3mm,4.0mmとなる(図1)3).このモデルにおいて,水晶体の屈折力は調節前19.1Dから調節後33.1Dまで変化し,前面の曲率変化が大きいことがわかる.また,水晶体は核が存在することで水晶体形状が変化しやすくなることがわかっている(清水公也.第66回日本臨床眼科学会総会特別講演).さらに,シャインプルーク(Scheimpflug)カメラ*4を用いてより詳細に水晶体形状を計測した報告も存在し,Dubbelmanらによると,球面収差*5を減らすように非球面形状*6となっており,その係数であるconicconstant(k)は調節とともにマイナス側へ変化する4).屈折率*7は核が存在する中心で高く,周辺では徐々に低くなっていく屈折率分布構造(gradientrefractiveindex:GRIN)をしている5)*8.これは,水晶体に負の球面収差を持たせることで角膜の正の球面収差を低減させる機能的な役割がある(図2a).さらに,近見視時に瞳孔が小さくなったとき,高屈折力の領域に光線が通過し,屈折力が高まるような構造となっている(図2b).ヒトの眼は偏心光学系であり,カメラのようにレンズ系が一直線に並んでいない.Schaeffelら6)によると,水晶体は耳側への水平偏心が0.13±0.15mm,水平傾斜は4.62±3.18degであり,垂直の偏心は瞳孔中心から下方に0.32±0.07mm,垂直傾斜は-1.70±0.49degとされる.この偏心光学系は,単に重力などによる力学的な作用や解剖学的構造の結果にすぎないとする説がある一方で,遠方から近方まで効率よく見えるようにしたり,明視域の拡大や調節を手がかりに利用する適度な収差を発生させたりするという機能的な役割を有する可能性がある.水晶体形状の加齢変化については,既報のモデル4,7.9)を基に図3に示した.加齢とともに前面曲率半径が大きくスティープ化し,後面も若干スティープ化する.核の前後面の曲率半径はほとんど変わらない.水晶体全厚は*TakushiKawamorita:北里大学医療衛生学視覚機能療法学〔別刷請求先〕川守田拓志:〒252-0373神奈川県相模原市南区北里1-15-1北里大学医療衛生学部視覚機能療法学0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(9)1431均質モデル球面収差正屈折率分布型モデル球面収差負図1Gullstrand模型眼における水晶体の構成左側が調節前で右側が調節後である.光学設計ソフトaZemaxOpticStadio14(RadiantZEMAX社)にて作成した.15.0水晶体前面曲率半径10.0水晶体核前面曲率半径5.00.0水晶体核後面曲率半径-5.0水晶体後面曲率半径-10.020304050607080年齢(歳)図3加齢に伴う水晶体の形状変化曲率半径(mm)b図2均質モデルと屈折率分布型モデルの球面収差aは各々のモデルにおける球面収差を示し,bは近見縮瞳時の光線の概念図を示している.網膜側-0.20角膜側-0.25-2-1012Primarywavesphericalaberration(wavelengths)0246810-2024水晶体Lenspower22DShapefactor-0.30-0.35-0.4020406080Lenspower10D年齢(歳)図5加齢に伴うShapefactorの変化ShapefactorXCorn/HOInt/HOOPD/HO図4IOL形状と波面球面収差の関係(文献12より改変引用)この図では,光軸は左から右向きを正の向きにしている.左側に凸の場合を正の曲率半径,右側に凸の場合を負の曲率半径と定義した.AxialmapInternalOPD図6水晶体による角膜乱視の補償OPDScanII(Nidek社)より計測した(32歳,男性).100角膜+房水C400.23-0.230.00C3-1-0.430.32-0.11図7水晶体による角膜高次収差の補償OPDScanII(Nidek社)より計測した(33歳,男性).解析径6.0mm.Corn/HO:Cornealhigherorderaberration,Int/HO:internalhigherorderaberration,OPD/HO:Opticalpassdifferencehigherorderaberration.C40:球面収差,C3.1:垂直コマ収差.過後の透過率分布である15).水晶体は紫外線をおもに吸収し,可視光のなかではエネルギーが比較的高い380020406080透過率(%)+水晶体+硝子体02004006008001,0001,2001,400波長(nm)図8眼の中間透光体における波長と積算光線透過率(文献15より改変引用)から400nmの透過率が低くなる.また,加齢とともにブルーライトの透過率は特に減少する.近年,このブルーライトをカットするべきか否か話題になっている.なぜこのようにブルーライトがカットされやすくなるかは議論があり,網膜障害を起こさないようバリア機能としての役割があるという説がある.ただし,ブルーライトはサーカディアンリズムの維持に必要で2),血圧コントロール16)や睡眠,心理的沈静化などに関与していることから単純にすべて取り除けばよいという問題ではなさ不正乱視の増加,後述する疾患などによるものと思われそうである.光学的観点から考えると,ブルーライトはる.散乱しやすい光であり3),取り除けば色収差は減少する光線の透過率に関して,図8は積算した中間透光体通が,メラノプシン含有網膜神経節細胞(melanopsincon(11)あたらしい眼科Vol.31,No.10,201414331434あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(12)折率差が大きく上昇するために散乱が上昇する18).また,Morgani白内障のような核偏位が起こるような場合は,コマ収差が大きく変化する19)(図10).その他にもMarfan症候群などの水晶体偏位をきたす疾患では,乱視成分やコマ収差を増加させ,円錐水晶体は高次収差を増加させる.また,瞳孔領内の水晶体浅層に発生するwatercleft*10は遠視化の原因になる20)(図11).このように水晶体疾患は屈折や高次収差,散乱が変化しやすく,定量評価することが重要と思われる.tainingretinalganglioncell:mRGC)を刺激し,持続手的な縮瞳を誘発することから,収差や明視域制御にも関与している可能性がある.いまだ不明な点も多く,多くの領域に関与していることから,今後もさまざまな角度からの研究が必要と思われる.III水晶体の疾患と光学特性最も罹患頻度が高く,かつ光学特性の低下をきたす水晶体の疾患は白内障である.一般に,白内障は加齢に伴う屈折率低下とは逆で屈折率が上昇するが,核と皮質の変化で大きくその影響が異なる.核白内障は近視化し,中心光線の進行が遅くなるため波面が遅れ,球面収差が負の方向にシフトする17)(図9).したがって,収差量を示すrootmeansquare(RMS)値は上昇する.また,皮質白内障では遠視化し,球面収差が正の方向にシフトする17).また,前.下や後.下白内障は屈折変化や収差の大きな変化は起こりにくいものの,房水と水晶体との屈Higherorderaberrations図9核白内障における眼球全体の高次収差マップとZernike係数KR-9000PW(Topcon社)より計測した(46歳,男性).偏心なし下方偏心1.0mmComay-1.29μmComay0.00μm図10Morgani白内障の水晶体核下方偏心に伴うコマ収差変化と網膜像シミュレーション光学設計ソフトZemaxOpticStadio14(RadiantZEMAX社)にて計算を行った.小数視力1.0視標の拡大図.S.E.+1.04D図11水晶体watercleftと屈折値変化シミュレーション光学設計ソフトCodeV10.6(Synopsis社)および照明解析ソフトLihtTools8.1(Synopsis社)にて計算を行った.左上の図は水晶体浅層にwatercleftを擬似的に作成した図を示し,右下の図は光線の挙動を示している.光学シミュレーション上では房水と同じ設定にしてある.Higherorderaberrations図9核白内障における眼球全体の高次収差マップとZernike係数KR-9000PW(Topcon社)より計測した(46歳,男性).偏心なし下方偏心1.0mmComay-1.29μmComay0.00μm図10Morgani白内障の水晶体核下方偏心に伴うコマ収差変化と網膜像シミュレーション光学設計ソフトZemaxOpticStadio14(RadiantZEMAX社)にて計算を行った.小数視力1.0視標の拡大図.S.E.+1.04D図11水晶体watercleftと屈折値変化シミュレーション光学設計ソフトCodeV10.6(Synopsis社)および照明解析ソフトLihtTools8.1(Synopsis社)にて計算を行った.左上の図は水晶体浅層にwatercleftを擬似的に作成した図を示し,右下の図は光線の挙動を示している.光学シミュレーション上では房水と同じ設定にしてある.あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141435(13)9)KoretzJF,CookCA,KaufmanPL:Agingofthehumanlens:changesinlensshapeatzero-diopteraccommoda-tion.JOptSocAmAOptImageSciVis18:265-272,200110)AtchisonDA,SmithG:OpticsoftheHumanEye.p213-220,Butterworth-Heinemann,Edinburgh,UK,200211)HermansEA,DubbelmanM,vanderHeijdeGLetal:Changeintheaccommodativeforceonthelensofthehumaneyewithage.VisionRes48:119-126,200812)AtchisonDA:Opticaldesignofintraocularlenses.I.On-axisperformance.OptomVisSci66:492-506,198913)KellyJE,MihashiT,HowlandHC:Compensationofcor-nealhorizontal/verticalastigmatism,lateralcoma,andsphericalaberrationbyinternalopticsoftheeye.JVis4:262-271,200414)ArtalP,BerrioE,GuiraoAetal:Contributionofthecor-neaandinternalsurfacestothechangeofocularaberra-tionswithage.JOptSocAmAOptImageSciVis19:137-143,2002おわりに水晶体の形状や屈折率,調節時の変化はおそらくラフに構成されているわけでなく,長い年月をかけた進化の過程で形成された機能的役割を有する組織と思われる.白内障が進行した場合,IOLに置き換えられ,最近では多くの設計コンセプトを持つレンズが登場している.具体的には,非球面IOL,着色IOL,トーリックIOL,多焦点IOL,調節性IOLなどであり,術後の球面収差量や乱視量,分光分布をどのようにすればいいかという議論がある.この点に関しては,ヒトの水晶体を見習って作製することが一つの解になるのかもしれない.本稿では水晶体を光学特性という観点からのみまとめたが,生化学や水晶体周囲を流れる房水の流体力学に与える影響などの観点からも非常によくできた組織と思われる.最近では,調節関連の研究報告は決して多くはないが,光学特性だけに限定してみてもIOLや眼鏡,屈折矯正手術などの屈折矯正分野における諸問題点を解決するヒントが隠れている可能性が高く,今後も水晶体に着目した研究は重要と思われる.文献1)JaekenB,MirabetS,MarinJMetal:Comparisonoftheopticalimagequalityintheperipheryofphakicandpseu-dophakiceyes.InvestOphthalmolVisSci54:3594-3599,20132)坪田一男:〔眼とブルーライト,体内時計〕ブルーライト問題概論.あたらしい眼科31:165-168,20143)魚里博,平井宏明,福原潤ほか:眼光学の基礎.眼光学の基礎(西信元嗣編),金原出版,20014)DubbelmanM,VanderHeijdeGL,WeeberHA:Changeinshapeoftheaginghumancrystallinelenswithaccom-modation.VisionRes45:117-132,20055)LiouHL,BrennanNA:Anatomicallyaccurate,finitemodeleyeforopticalmodeling.JOptSocAmAOptImageSciVis14:1684-1695,19976)SchaeffelF:Binocularlenstiltanddecentrationmeasure-mentsinhealthysubjectswithphakiceyes.InvestOph-thalmolVisSci49:2216-2222,20087)DubbelmanM,VanderHeijdeGL:Theshapeoftheaginghumanlens:curvature,equivalentrefractiveindexandthelensparadox.VisionRes41:1867-1877,20018)DubbelmanM,VanderHeijdeGL,WeeberHAetal:Changesintheinternalstructureofthehumancrystallinelenswithageandaccommodation.VisionRes43:2363-2375,2003■用語解説■*1収差:レンズを通る光線が一点に集まらず不完全な像ができること.*2散乱:光線が媒質表面や異種媒質などと衝突や相互作用したとき,光線の進行方向や空間的分布に変化をもたらすこと*3ブルーライト:波長380.495nmの可視光線*4シャインプルークカメラ:「被写体面と光軸が直交していない状態で,被写体面,レンズ主面,像面の3者を延長した面が1カ所に交われば,像面全体でピントが合う」というシャインプルークの原理を用いたカメラ.歪みの補正は必要であるが,角膜から水晶体まで比較的深度の高い画像が得られる.*5球面収差:光軸に対し種々の平行光線束が光学系に入射したとき,その対応した像点が一点に結像しない現象.*6非球面形状:収差を減らすため,球面から面形状をわずかに変形された状態で,球面でないことを指す.楕円面や放物面などで表される.*7屈折率:Shapefactorは,(C1+C2)/(C1-C2)で表される.C1:レンズ前面曲率半径,C2:レンズ後面曲率半径*8屈折率分布構造レンズ:媒質内である空間座標関数で表される屈折率が連続的に変化するレンズ.勾配屈折率レンズ,グリンレンズともよばれる.*9コマ収差:光軸外の1点から出た光が像面において一点に収束しない収差.*10watercleft:水晶体皮質浅層にあるY字縫合に沿って皮質層が分離し隙間が生じた状態.■用語解説■*1収差:レンズを通る光線が一点に集まらず不完全な像ができること.*2散乱:光線が媒質表面や異種媒質などと衝突や相互作用したとき,光線の進行方向や空間的分布に変化をもたらすこと*3ブルーライト:波長380.495nmの可視光線*4シャインプルークカメラ:「被写体面と光軸が直交していない状態で,被写体面,レンズ主面,像面の3者を延長した面が1カ所に交われば,像面全体でピントが合う」というシャインプルークの原理を用いたカメラ.歪みの補正は必要であるが,角膜から水晶体まで比較的深度の高い画像が得られる.*5球面収差:光軸に対し種々の平行光線束が光学系に入射したとき,その対応した像点が一点に結像しない現象.*6非球面形状:収差を減らすため,球面から面形状をわずかに変形された状態で,球面でないことを指す.楕円面や放物面などで表される.*7屈折率:Shapefactorは,(C1+C2)/(C1-C2)で表される.C1:レンズ前面曲率半径,C2:レンズ後面曲率半径*8屈折率分布構造レンズ:媒質内である空間座標関数で表される屈折率が連続的に変化するレンズ.勾配屈折率レンズ,グリンレンズともよばれる.*9コマ収差:光軸外の1点から出た光が像面において一点に収束しない収差.*10watercleft:水晶体皮質浅層にあるY字縫合に沿って皮質層が分離し隙間が生じた状態.1436あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(14)134:1-9,200218)ArtalP,BenitoA,PerezGMetal:Anobjectivescatterindexbasedondouble-passretinalimagesofapointsourcetoclassifycataracts.PLoSOne6:e16823,201119)川守田拓志:〔白内障症例検討会〕核白内障.日本白内障学会誌26:38-40,201420)初坂奈津子,三田哲大,渋谷恵理ほか:皮質白内障眼とWatercleftsの遠視化への影響.日本白内障学会誌24:70,201215)SchwiegerlingJ:Fieldguidetovisualandophthalmicoptics.In:FieldGuidetoVisualandOphthalmicOptics(edbyGreivenkampJE),オプトロニクス,201016)IchikawaK:Changesinbloodpressureandsleepdura-tioninpatientswithbluelight-blocking/yellow-tintedintraocularlens(CHUKYOstudy).HypertensRes37:659-664,201417)KurodaT,FujikadoT,MaedaNetal:Wavefrontanalysisineyeswithnuclearorcorticalcataract.AmJOphthalmol