‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

眼科ドックにおける眼科疾患の発見

2014年9月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科31(9):1413.1416,2014c眼科ドックにおける眼科疾患の発見井上賢治黒栁優子高松俊行井上智子小栗真美岡山良子井上眼科病院OphthalmicDiseaseFindingsinOphthalmicCheckUpKenjiInoue,YukoKuroyanagi,ToshiyukiTakamatsu,SatokoInoue,ManamiOguriandRyokoOkayamaInouyeEyeHospital目的:井上眼科病院(以下,当院)では眼科疾患の早期発見を目的として眼科ドックを開始した.眼科ドックを受診した患者の特徴を検討した.対象および方法:眼科ドックを受診した249例(男性102例,女性147例)を対象とした.視力検査,視野検査(Humphrey視野スクリーニング検査プログラム中心76点),眼圧測定,眼位検査,涙液検査,調節機能検査,両眼視機能検査,細隙灯検査,眼底写真撮影,光干渉断層法(OCT)検査を施行し,異常を有する症例は「2次検査必要」と診断した.2次検査を当院で行った症例の結果を調査した.結果:2次検査必要症例は30例(12.0%)だった.内訳は緑内障疑い16例,白内障4例,黄斑異常2例,ドライアイ疑い2例などだった.2次検査を19例(7.6%)が当院で行い,最終診断は白内障3例,緑内障2例,黄斑上膜2例などだった.結論:眼科ドックは自覚症状を有さない眼科疾患の早期発見に有用である.Purpose:Toreportonearly-stageeyeproblemdiscoveryinthosewhounderwentophthalmiccheckupatInouyeEyeHospital.SubjectsandMethods:Subjectswere249caseswhounderwenttheophthalmiccheckupcomprisingvisualacuity,visualfield,tonometry,eyeposition,lacrimalfluid,adjustmentfunction,binocularfunction,slit-lampexamination,fundusphotographyandopticalcoherencetomography(OCT)examination.Unusualcasesunderwentasecondinspection.Theresultsofthesecondinspectionwereinvestigated.Results:Thosereceivingasecondinspectionnumbered30cases(12.0%).Classificationwas:suspectedglaucomain16cases,suspectedcataractin4cases,maculaabnormalityin2casesandsuspecteddryeyein2cases.Ofthe30casesrequiringasecondinspection,19(7.6%)receiveditatourhospital.Finaldiagnosiswas3casesofcataract,2casesofglaucomaand2casesofepiretinalmembrane.Conclusion:Ophthalmiccheckupisusefulintheearlydetectionofeyediseasesthatdonothavesubjectivesymptoms.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(9):1413.1416,2014〕Keywords:眼科ドック,眼科疾患,緑内障,白内障,黄斑上膜.ophthalmiccheckup,eyedisease,glaucoma,cataract,epiretinalmembrane.はじめに眼科疾患は全身性の疾患と同様に早期発見・早期治療が重要である.疫学調査での有病率は緑内障では40歳以上の5%1),加齢黄斑変性症では50歳以上の1.3%(滲出型1.2%,萎縮型0.1%)2)と報告されている.眼科疾患の早期発見のむずかしい点として,目は両眼あり,たとえ片眼に異常が生じてももう片眼がそれをカバーしてしまう点がある.また,緑内障のように初期には自覚症状が出現しない疾患もあり,早期発見がむずかしい.眼科疾患の早期発見の試みとして,住民健診を自治体が,企業健診を企業が,人間ドックを民間の業者が行っている.しかし,全国の自治体での成人眼検診の実施状況を調査した報告では,成人眼検診を実施している自治体は全体の16.3%と低率だった3).さらに,これらの健診での眼科検査は視力検査,眼圧測定,眼底写真撮影のみの場合が多い.そして,眼底写真撮影を受診者全員に行っている自治体においても,その41.7%の自治体では眼科医師が本来行うべき判定を眼科医師以外が行っている3).このような状況のなかでの眼科疾患の早期発見は困難と考え,井上眼科病院(以下,当院)では全身のスクリーニング〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(165)1413 (例)10100908070605040302010030歳代40歳代を行う人間ドックの眼科版である眼科ドックを2012年5月より開始した.今回,当院の眼科ドックを受診した人の特徴を後ろ向きに調査した.I対象および方法2012年5月から2013年3月の間に当院の眼科ドックを受診した249例を対象とした.眼科的な自覚症状を有さない人を対象とし,自覚症状を有する人には眼科ドックではなく,眼科受診を勧めた.性別は男性102例,女性147例だった.平均年齢は52.8±11.8歳(平均値±標準偏差),年齢は20.87歳までだった.年代別には40歳代が78例(31.3%)で最多だった(図1).眼科ドックには2つのコースがあり,通常コースは他覚的屈折検査,自覚的視力検査,眼圧測定,眼位検査,眼底写真撮影,涙液検査(Schirmerテスト),スペシャルコースは通常コースに加えて調節機能検査,両眼視検査,視野検査(Humphrey視野スクリーニング検査プログラム中心76点),三次元眼底解析検査〔opticalcoherencetomography(OCT)による黄斑部の観察〕を施行した.対象の内訳は,通常コース99例,スペシャルコース150例だった.各種検査を施行後,眼科医師が細隙灯顕微鏡による診察を行った.4人の眼科医師が交代で担当した.各検査での異常の有無を確認し,それらの結果を基として,「異常なし」「経過に注意しましょう」「診察を受けましょう」「治療を受けましょう」の4段階で評価し,総合判定とした.なお,緑内障疑いは22mmHg以上の高眼圧,視野検査による異常,視神経乳頭陥凹拡大,網膜神経線維層欠損のいずれかを認める症例とした.調節機能検査の異常は調節機能が年齢との解離を認める症例とした.「診察を受けましょう」と「治療を受けましょう」と診断された症例には2次検査を受けるように指導した.年代ごとに2次検査必要症例と非必要症例の頻度を1414あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014図1眼科ドック受診者の年齢8例,3.2%20歳代20例,8.0%78例,31.3%74例,29.7%44例,17.7%20例,8.0%5例,2.0%■:男:女50歳代60歳代70歳代80歳代算出し比較した(c2検定).その後,2次検査を当院で行った症例について結果を調査した.II結果眼科ドックの総合判定は「異常なし」114例(45.8%),「経過に注意しましょう」105例(42.2%),「診察を受けましょう」27例(10.8%)「治療を受けましょう」3例(1.2%)だった(図2).2次検査必(,)要症例は30例(12.0%)だった.年代別の総合判定では20歳代が70歳代,80歳代に比べて有意に2次検査必要症例が少なかった(p<0.05)(図3).2次検査必要症例(30例)における各検査の異常は,矯正視力1.0未満の症例10例(33.3%),視野異常6例(20.0%),21mmHgを超える高眼圧症0例(0%),眼位異常1例(3.3%),Schirmerテスト10mm以下4例(13.3%),調節機能検査異常5例(16.7%),両眼視機能異常4例(13.3%),眼底異常17例(56.7%),OCT検査異常12例(40.0%)だった.2次検査必要症例の内訳は,緑内障疑い16例(53.3%),白内障4例(13.3%),黄斑部異常2例(6.7%),ドライアイ疑い2例(6.7%),表層角膜炎1例(3.3%),眼球振盪1例(3.3%),網膜色素変性症疑い1例(3.3%),外斜視1例(3.3%),網膜血管硬化症1例(3.3%),眼瞼下垂1例(3.3%)だった(図4).2次検査で当院を受診した症例は19例だった.それら19例の最終診断は,白内障3例,緑内障2例,黄斑上膜2例,視神経乳頭陥凹拡大2例,眼瞼下垂1例,ドライアイ1例,網膜色素変性症1例,外斜視1例,網脈絡膜萎縮1例,異常なし5例だった.2次検査で緑内障と診断された2例は,62歳男性と66歳男性で正常眼圧緑内障だった.眼圧は前者は右眼15mmHg,左眼14mmHg,後者は両眼13mmHgだった.Humphrey視野プログラム中心30-2SITAStandardのmeandeviation値は前者は右眼.1.37dB,左(166) 治療を受け診察を受けましょうましょう3例,1.2%27例,10.8%異常なし114例,45.8%経過に注意しましょう105例,42.2%図2眼科ドックの総合判定緑内障疑い16例,53.3%白内障4例,13.3%その他6例,20.0%ドライアイ疑い2例,6.7%黄斑異常2例,6.7%図4眼科ドックの2次検査必要症例眼.1.32dB,後者は右眼.1.16dB,左眼.6.07dBだった.III考按人間ドックや健康診断における眼科疾患の検出の有用性についての報告は多い4.14).緑内障に関しては緑内障の受診機転の調査4,5)や2次検査での緑内障発見率の報告6)がある.また,糖尿病網膜症7),黄斑部病変8),白内障9)の検出にも役立っている.2010年に人間ドックを受診した694施設3,077,352例の調査では,眼科に関しては要経過観察が288,764例(9.4%),要医療が100,420例(3.3%),要精査199,516例(6.5%)だった10).今回の2次検査必要症例は12.0%だったので笹森の報告10)の要医療+要精査9.8%より多かった.これは今回のドックのほうが眼科に関する検査項目が多いためと考えられる.人間ドックや健康診断での従来の検査に追加してfrequencydoublingtechnology(FDT)視野計による視野検査を導入したところ,緑内障の検出率が上昇したとの報告が多数ある11.13).宮本らは人間ドックにおいて緑内障の発見率が眼底写真,眼圧のみの検査では0.23%だったが,FDTによる視野検査を加えたところ,1.68%に上昇したと報告した11).(167)40.0%60.0%80歳代5.0%95.0%70歳代20.5%79.5%60歳代**10.8%89.2%50歳代11.5%88.5%40歳代5.0%95.0%30歳代100.0%20歳代0.0%20.0%40.0%60.0%80.0%100.0%■:2次検査必要:2次検査不要*p<0.05(c2検定)図3年齢別の眼科ドックの総合判定筆者らも人間ドックでの緑内障の有病率をFDT視野検査導入前後で検討した12,14).FDTによる視野検査導入前は視力測定,眼圧測定,眼底写真撮影を行っていた.緑内障の有病率はFDT導入前14)は1.17%,FDT導入後12)は1.76%に向上した.稲邊らは職員健診の際に238例の受診者に対して眼圧測定,眼底写真撮影,FDT視野検査を行った13).FDT検査で30例(12.6%)に視野異常を認め,そのうち10例が眼科を受診し,7例が緑内障あるいは緑内障疑いと診断された.一方,FDTで異常を認めず眼底写真で異常を認めた12例のうち8例が眼科を受診したが,緑内障疑いが1例認められたのみだった.Tatemichiらは,企業健診で14,814例の受診者にFDT視野検査を付加して導入したところ,過去の健診で発見されなかった緑内障を167例(1.13%)で検出した9).今回視野検査としてFDTではなく,Humphrey視野スクリーニング検査プログラム中心76点を用いた.この検査はHumphrey視野閾値検査に比べて短時間で施行できる.また30°内76点の検査を行い,通常の緑内障診断で使用するHumphrey視野プログラム中心30-2と同様の配列検査点であり,緑内障検出に優れていると考えられる.林らは健診にて視野異常が疑われた症例にHumphrey視野計の全視野スリーゾーンスクリーニングプログラム120点を施行し,有用であったと報告した15).今回の眼科ドックには通常コースとスペシャルコースがあるが,緑内障検出の面からの違いは,スペシャルコースで視野検査を行っている点である.通常コースとスペシャルコースを比較すると,2次検査必要症例は通常コース12.1%(12例/99例),スペシャルコース12.0%(18例/150例)で同等だった.そのなかで緑内障疑い症例は通常コース5.1%(5例/99例),スペシャルコース7.3%(11例/150例)で,スペシャルコースのほうがやや多かった.2次検査を当院で施行した症例の最終診断における緑内障は通常コース0例,スペシャルコース2例だった.視あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141415 野検査が緑内障の検出に過去の報告9,11.13)と同様に有用であった.緑内障の定義は「緑内障は,視神経と視野に特徴的変化を有し,通常,眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である.」と記されている16).今回視野検査を行うことで眼底検査による視神経の観察と合わせて緑内障疑いの診断が向上したと思われる.しかし,緑内障以外の疾患による視野障害を検出したり,初回検査ゆえに検査に対する十分な理解が得られず異常を検出(偽陽性)したりする可能性がある.これらの欠点を取り除くために視野検査として短時間で施行できるHumphrey視野スクリーニング検査プログラム中心76点を用いた.今回視野検査に異常が検出された6例のうち当院で2次検査を施行した症例は5例だった.視野異常の原因は緑内障2例,網膜色素変性症1例,眼瞼下垂1例,Humphrey視野プログラム中心30-2SITAStandardでは異常なし1例だった.Humphrey視野プログラム中心30-2SITAStandardで異常が検出されなかった症例は視神経乳頭形状も正常だった.今回の視野検査による視野障害の部位から頭蓋内疾患を疑わせる症例はなかった.眼科ドックで検出された眼疾患は,白内障,緑内障,黄斑上膜,眼瞼下垂,ドライアイ,網膜色素変性症,外斜視,網脈絡膜萎縮と多岐にわたっていた.また,疾患ではないが視神経乳頭陥凹拡大を認める症例もあった.過去の報告10)においても緑内障以外に白内障,網膜中心動・静脈閉塞症,網膜色素変性,黄斑変性症,糖尿病網膜症,網脈絡膜萎縮などを検出した.当院の眼科ドックでは視力検査,眼圧検査,眼底写真撮影の他に通常コースにおいては眼位検査,涙液検査,細隙灯顕微鏡検査,スペシャルコースにおいては調節機能検査,両眼視検査,視野検査,三次元眼底解析検査を行っている.細隙灯顕微鏡検査から眼瞼下垂,涙液検査からドライアイ,眼位検査や両眼視検査から外斜視,三次元眼底解析検査や眼底写真撮影から黄斑部異常(黄斑上膜)が検出できたと考えられる.一方,2次検査を当院で行った19例のうち5例(26.3%)では特に疾患はなく,これらは偽陽性例と考えられる.通常の健康診断や人間ドックよりも今回の眼科ドックにおいて多数の検査を行っているためと考えられる.当院で眼科疾患の早期発見を目的として眼科ドックを開始した.その後の2次検査により,白内障,緑内障,黄斑上膜などが検出された.眼科ドックは自覚症状を有さない人の眼科疾患の発見に有用だった.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20042)YasudaM,KiyoharaY,HataYetal:Nine-yearincidenceandriskfactorsforage-relatedmaculardegenerationinadefinedJapanesepopulation.theHisayamaStudy.Ophthalmology116:2135-2140,20093)川島素子,阿久根陽子,山田昌和:公的な成人眼検診の実施状況.日本の眼科83:1036-1040,20124)相馬久実子,大竹雄一郎,石川果林ほか:広義の開放隅角緑内障の受診機転および家族歴.あたらしい眼科22:1401-1405,20055)佐藤裕理,谷野富彦,大竹雄一郎ほか:慶應義塾大学病院における正常眼圧緑内障患者の受診機転.あたらしい眼科21:405-408,20046)井上賢治,若倉雅登,井上治郎ほか:人間ドックで緑内障が疑われた症例.あたらしい眼科22:683-685,20057)野村工,堀田一樹.人間ドックでの糖尿病患者の網膜症新規発症と背景.あたらしい眼科22:1577-1581,20058)元勇一,文鐘聲,黒住浩一ほか:当院における成人病健診の眼底スクリーニングと健診アンケート結果.人間ドック19:403-408,20049)TatemichiM,NakanoT,TanakaKetal:Performanceofglaucomamassscreeningwithonlyavisualfieldtestusingfrequency-doublingtechnologyperimetry.AmJOphthalmol134:529-537,200210)笹森典雄:2010年人間ドック全国集計成績.人間ドック26:638-683,201111)宮本祐一,木村美樹,柿本陽子ほか:人間ドックへの視野検査導入の意義について.人間ドック27:36-40,201212)井上賢治,奥川加寿子,後藤恵一:FrequencyDoublingTechnology導入後の人間ドックにおける緑内障の有病率.あたらしい眼科21:117-121,200413)稲邊富實代,高谷典秀,場集田寿ほか:正常眼圧緑内障早期発見を目的としたFrequencyDoublingTechnology視野計の予防医療導入の検討.人間ドック24:31-38,200914)荻原智恵,奥川加寿子,井上賢治:人間ドックにおける緑内障の有病率.あたらしい眼科19:521-524,200215)林裕美,木村奈都子,小林昭子ほか:Humphrey自動視野計によるスクリーニング─全視野スリーゾーンの臨床試用─.眼科39:1507-1511,199716)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第3版.日眼会誌116:3-46,2012***1416あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(168)

妊娠後期に発症し無治療で改善したVogt-小柳-原田病の1例

2014年9月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科31(9):1407.1412,2014c妊娠後期に発症し無治療で改善したVogt-小柳-原田病の1例笠原純恵*1,2市邉義章*2清水公也*2*1独立行政法人地域医療機能推進機構相模野病院眼科*2北里大学医学部眼科学教室ACaseofVogt-Koyanagi-HaradaDiseasethatDevelopedLaterinPregnancyandImprovedwithoutTreatmentSumieKasahara1,2),YoshiakiIchibe2)andKimiyaShimizu2)1)DepartmentofOphthalmology,SagaminoHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine目的:妊娠29週でVogt-小柳-原田病(原田病)を発症し無治療で改善した1例を報告する.症例:36歳,女性.妊娠29週に右眼の視力低下を自覚し受診.矯正視力は右眼0.7,左眼1.2,両眼の虹彩炎,漿液性網膜.離を認め,発症前に感冒様症状,頭痛を認めた.妊婦のため蛍光造影検査や髄液検査などの侵襲的な検査は施行せず,Readらの診断基準をもとに不全型原田病と診断し経過観察を開始.発症2日目,両眼ともに網膜.離は増悪し,矯正視力は右眼0.4,左眼0.5まで低下.しかし,発症7日目より無治療で網膜.離は改善傾向となり,矯正視力も上昇した.発症57日目,妊娠37週目に正常児を出産.発症65日目,矯正視力は両眼ともに1.2,網膜.離は消失したままで,眼底は夕焼け状を呈していた.発症から5年現在再発はない.結論:妊娠後期に発症し,無治療で改善した原田病の1例を経験した.妊娠が漿液性網膜.離の早期改善に好影響を及ぼした可能性がある.Purpose:ToreportacaseofVogt-Koyanagi-Haradadisease(VKH)thatdevelopedat29weeksofgestationandimprovedwithouttreatment.Case:A36-yearoldfemalenoticedlossofvisioninherrighteyeat29weeksofgestationandconsultedourclinic.Bestcorrectedvisualacuities(BCVA)ofrightandlefteyeswere0.7and1.2,respectively.Shehadthebinoculariritisandserousretinaldetachmentandhadhadcommoncoldsymptomsandheadachebeforeonsetoftheaboveocularsymptoms.Inviewofthesesymptoms,wediagnosedincompleteVKHbasedonthereviseddiagnosticcriteriawithoutfluoresceinangiographyorcerebrospinalfluidexamination,duetohergravidstatus,andmonitoredherdiseaseconditionwithnomedicaltreatment.AlthoughthebinocularserousretinaldetachmentsprogressivelydeterioratedandtheBCVAoftherightandlefteyesdecreasedto0.4and0.5,respectivelyattheseconddayafteronset,thesesymptomsshowedimprovingtendencyattheseventhdayafteronset.Atthe57thdayafteronset,shesuccessfullygavebirthafter37weeksofpregnancy.AlthoughBCVAofbotheyesimprovedto1.2andtheserousretinaldetachmentsdisappeared,sunsetglowfunduspresentedatthe65thdayafteronset.Therehasbeennorecurrence,asof5yearsthusfar.Conclusions:WeexperiencedapatientwithVKHthatdevelopedlaterinpregnancy,inwhichthediseasesymptomsimprovedwithoutmedicaltreatment.Thereisapossibilitythatthegravidconditioninfluencedtheearlyimprovementofretinaldetachment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(9):1407.1412,2014〕Keywords:Vogt-小柳-原田病,妊娠,ステロイド,光干渉断層計,漿液性網膜.離.Vogt-Koyanagi-Haradadisease,pregnancy,steroid,OCT(opticalcoherencetomography),serousretinaldetachment.はじめにされており,投与の要,不要は最終結論が出ていない.まVogt-小柳-原田病(原田病)はメラノサイトに対する自己た,原田病に対するステロイド全身投与中は,その副作用に免疫性疾患と考えられており,ステロイド治療によく反応すは十分な配慮,対策が必要である.妊娠中に発症した原田病る.一方,ステロイドの全身投与なしでの視力回復例も報告の報告はいくつかあるが,ステロイドの使用の有無,投与〔別刷請求先〕笠原純恵:〒252-0375神奈川県相模原市南区北里1-15-1北里大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MasayukiKasahara,C.O.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,1-15-1Kitasato,Minamiku,Sagamihara,Kanagawa252-0375,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(159)1407 法,使用量などはさまざまである.今回,筆者らは点眼薬も含め無治療で視力の回復を認めた妊娠後期である妊娠29週目で発症した原田病の1例を経験したので報告する.I症例症例は36歳,女性.既往歴は特記すべきことはない.右眼2002年8月に女児出産歴がある.2008年11月12日,妊娠29週3日目(発症0日),右眼の視力低下を自覚し近医を受診.両眼の網膜浮腫を指摘され,同日に北里大学病院眼科を紹介受診した.視力は右眼0.4(0.7×+0.75D),左眼0.15(1.2×.2.25D).眼圧は右眼18mmHg,左眼16mmHg.眼位,眼球運動,対光反応は異常なし.両眼の前房は深く,左眼発症0日目発症2日目acd発症65日目egf発症282日目図1眼底写真発症0日目(a,b).両眼性の漿液性網膜.離を認める.発症2日目(c,d).両眼ともに漿液性網膜.離発症の増悪を認める.発症65日目(e,f).漿液性網膜.離の消失と軽度夕焼け状眼底の所見を認める.発症282日目(g,h).眼底は夕焼け状を呈し,写真には写っていないが,眼底周辺には網膜色素上皮の消失による局所的な網脈絡膜萎縮が認められた.bh1408あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(160) 28270635649423528211470軽度の炎症細胞と,少量の豚脂状角膜後面沈着物を認めたが,Koeppe結節は認めなかった.中間透光体に異常はなく,眼底には両眼に軽度乳頭発赤と,両眼の上側アーケード近傍に限局性の漿液性網膜.離を認め,右眼は黄斑にも網膜.離が及んでいた(図1).受診時,妊娠29週3日目であり,妊娠中の合併症もなく妊娠経過は良好であった.妊娠中のためフルオレセイン蛍光眼底造影検査や髄液検査などの侵襲的な検査は施行しなかったが,発症2週間前に感冒様症状と2日前に頭痛,耳鳴りの既往があり,眼底所見とあわせ,Readらの診断基準1)をもとに不完全原田病と診断し経過観察を始めた.視力検査のほかに侵襲の少ない前房深度(anteriorchamberdepth:ACD),眼軸長(ocularaxiallength:OAL),前房内フレア(flareintheanteriorchamber:FIAC)(図2),光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)(図3)検査を行いながら臨床経過を観察した.ACD,OALはIOLMasterTM(CarlZeiss)を,FIACはLaserFlareMeter(KowaFM-500Ver1.4)を,OCTはOCT3000(CarlZeiss)を用いて測定した.発症2日目,漿液性網膜.離は両眼ともに悪化し,矯正視力も右眼(0.4×+1.50D),左眼(0.5×+1.00D(cyl.1.00DAx90°)と低下した.この時期に頭痛の症状も悪化したため,ステロイドの全身投与も念頭に入れ産科にステロイドの使用の可否,また使用した場合の母体,胎児の管理につき相談をした.しかし,発症7日目,前房内フレア,細胞数は増加したものの,網膜.離は明らかに改善したため,そのまま無治療で経過観察を続ける方針となった.その後,漿液性網膜.離は徐々に改善し,発症42日後には黄斑部の漿液性網膜.離は消失した.矯正視力も右眼(0.7×.2.00D),左眼(0.8×.2.25)と改善した.発症57日目,妊娠37週と4日で通常の経腟分娩で2,516gの女児を出産した.出生後の検査で女児に心室中隔欠損がみつかったが,程度は軽度であり小児科で経過観察を行っている.発症65日目,矯正視力は右眼(1.2×.2.25D),左眼(1.2×.2.25D)まで改善した.両眼ともに前房内に軽度炎症細胞は残存したものの,OCT上,黄斑部の漿液性網膜.離は消失したままであった.発症155日目,両眼の前房内の炎症細胞,豚脂状角膜後面沈着物は消失した.発症282日目,眼底は夕焼け状を呈し(図1),周辺には網膜色素上皮の消失による局所的な網脈絡膜萎縮がみられた.経過観察中の血圧に問題はなかった.採血検査は血算,生化学に異常所見はなく,血清梅毒反応陰性,ウイルス検査ではアデノウイルス,インフルエンザB,サイトメガロウイルス,帯状疱疹ウイルス,麻疹,風疹のCF抗体価は<4×,インフルエンザAは8×,単純ヘルペスウイルス16×,HLA検査ではDR4が陽性であった.出産後5年が経過した現在,再発はない.(161):右眼:左眼FIAC(photoncounts/msec)OAL(mm)ACD(mm)対数視力282706356494235282114702827063564942352821147010.13.653.63.553.53.453.43.353.33.253.2262827063564942352821147025.52524.52423.52322.52221.5302520151050経過日数(日)図2経過観察上から対数視力,前房深度(anteriorchamberdepth:ACD),眼軸長(ocularaxiallength:OAL),前房内フレア(flareintheanteriorchamber:FIAC).横軸は発症からの経過日数.ACDは最も視力が低下した発症2日目で最も浅くなり,OALは最も短くなった.その後,正常化へ向かった.それに対しFIACは発症初期には軽度であり,次第に増強し,発症30日でピークとなり,その後は急速に減少し,ACD,OALの変化とは異なる変化を示した.II考按原田病は全身のメラノサイトに対する自己免疫疾患といわれている.病初期には髄膜のメラノサイトの障害で頭痛や感冒様症状を引き起こし,内耳では耳鳴り,難聴を生じ,その後に眼球のメラノサイトの傷害でぶどう膜炎が生じる症例が多い.本症例は感冒様症状から始まり,頭痛や耳鳴りを伴った両眼性のぶどう膜炎,胞状の漿液性網膜.離が認められた.妊娠中であることから,侵襲性のある蛍光眼底造影検査や髄液検査は行っていないが,臨床所見,経過,採血上のHLA-DR4陽性,後期の夕焼け状眼底所見から最終的に不完全型原田病と診断した.原田病に対してはステロイドの大量投与療法2)やパルス療法3)が行われており,一般的にステロあたらしい眼科Vol.31,No.9,20141409 右眼左眼発症0日目発症2日目発症7日目発症14日目発症30日目発症42日目発症57日目分娩発症65日目図3OCT所見経時的に漿液性網膜.離の改善がみられる.出産8日目(発症65日目)以降,漿液性網膜.離の再発は認めていない.イドは奏効する.その一方,ステロイドの全身投与を行わずに改善した報告4,5)や,ステロイド全身大量投与中の死亡事例6)も報告されており,ステロイドの要否は最終的な結論は出ていない.過去に本例のように妊娠中に発症した原田病の報告も散見されるが,その多くがステロイドの全身投与が行われている7.12).ステロイドを使用しても出生児には問題がなかったという報告が多いが,低体重,小奇形の報告13)もある.さ1410あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014らに,本症とほぼ同時期に発症した妊婦に対しプレドニゾロン200mg/日からの大量療法を行い,18日後に胎児が死亡した症例が1例報告されている14).一方,全身投与を行わずに,局所療法(点眼,結膜下,Tenon.下注射)で改善したという報告もある.佐藤らは妊娠10週で発症した26歳の症例に対し,アトロピンの点眼とコルチコステロイドの点眼と結膜下注射を行い,原田病が治癒し正常児を出産した1例を報告している15).田口らは「妊娠がぶどう膜炎に好影響を(162) 与えたと考えられた2例」として原田病とBehcetdisease妊婦2例を報告している.原田病の症例は妊娠10週0日の30歳であり,コルチコステロイドの点眼加療のみで漿液性網膜.離は消失し,夕焼け状眼底を呈したものの視力は回復し,正常児出産に至っている16).松本らは妊娠12週で発症した31歳の症例に対し,トリアムシノロンのTenon.下注射のみの治療で治癒した1例を報告している17).SnyderやLanceも同じように妊娠が原田病の経過によい影響を与えた例を報告している18,19).さらに,妊娠12週で発症した原田病に対し,ステロイドの局所も全身投与も行わずに視力が回復した24歳の日本人の1例も報告されている20).しかし,本症のように妊娠29週という妊娠後期に発症し,無治療で改善した報告は筆者の知るところではない.本症例の改善の基準としては,①視力改善,②前房内炎症の消失,③漿液性網膜.離の消失,④前房深度の回復の4項目のすべてを満たすものとしている.また,無治療にもかかわらず比較的早期に漿液性網膜.離の改善が認められた.その要因は明らかではないが,妊娠により増加した内因性ステロイド16)や血液中免疫担細胞が好影響15,21,22)を及ぼした可能性が示唆される.妊娠中の内因性ステロイドは妊娠末期まで増加していき,分娩とともに急速に減少するとされている.本症例の発症は妊娠により内因性ステロイドが増加している時期であり,比較的早期に無治療で漿液性網膜.離が改善し,視力も回復したものと考えられる.しかし,分娩後の再発には十分注意する必要があり,本症例も分娩後に入念に経過観察を行ったが,発症から5年が経過した現在再発はない.本症例の再発の基準としては,①視力低下,②前房内炎症の再出現,③漿液性網膜.離の再出現,④前房深度の浅前房化の4項目のうち1つでも認めるものとしている.本症例は経過中に改善が認められなかった場合,ステロイドの局所投与(トリアムシノロンのTenon.下注)を選択肢として考えていた.産科医からはステロイドの全身投与の許可は得ていたが,妊娠後期のステロイド投与は胎盤を通過し胎児の下垂体に作用し,副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌低下による副腎萎縮をきたす可能性も指摘されており,妊娠後期のステロイドの全身投与は慎重であるべきであると考える.さらに,妊娠中は侵襲的な検査による妊婦,胎児への影響も考慮しなくてはならない.本症例ではフルオレセイン蛍光眼底造影検査や髄液検査は行わず,経過中は視力,眼底検査(写真)の他に,侵襲性の少ないACD,OAL,FIAC,OCTを用いて観察を行った.大槻らはIOLMasterTMを用いてACD,OALを測定し,原田病の病状評価に対する有用性を報告している23).本症例ではACDは最も症状が悪化した発症2日目で最も浅くなり,OALは最も短くなったが経過とともに正常化していった.それに対しFIACは発症初期は軽度であり,次第に増強し,発症30日でピークとなりその(163)後に急速に減少し,ACD,OALとは異なる変化をした.Blood-aqueousbarrierが破壊されてから前房中に蛋白が出現するまでのタイムラグが生じた可能性が考えられた.OCTが今回の経過観察に最も役立ったことはいうまでもないが,薬剤を使用せず,ACD,OALなどの侵襲性の少ない検査での病状の評価は,妊婦には有用だと考える.文献1)ReadRW,HollandGN,RaoNAetal:ReviseddiagnosticcriteriaforVogt-Koyanagi-Haradadisease:Reportofaninternationalcommitteeonnomenclature.AmJOphthalmol131:647-652,20012)増田寛次郎,谷島輝雄:原田氏病初期の治療.臨眼23:553-555,19693)小竹聡,大野重昭:原田病におけるステロイド剤のパルス療法.臨眼38:1053-1058,19844)山本倬司,佐々木隆敏,斉藤春和ほか:原田病の経過と予後.副腎皮質ホルモン剤の全身投与を行わなかった症例について.臨眼39:139-144,19855)吉川浩二,大野重昭,小竹聡ほか:ステロイド剤の局所治療を行った原田病の2症例.臨眼83:2493-2496,19866)岩瀬光:原田病ステロイド治療中の成人水痘による死亡事例.臨眼55:1323-1325,20017)瀬尾晶子,岡島修,平戸孝明ほか:良好な経過をたどった原田病患者の視機能の検討.臨眼41:933-937,19878)FriedmanZ,GranatM,NeumannE:ThesyndromeofVogt-Koyanagi-Haradaandpregnancy.MetabPediatrSystOphthalmol4:147-149,19809)山上聡,望月学,安藤一彦:妊娠中に発症したVogt小柳-原田病─ステロイド投与法を中心として─.臨眼85:52-55,199110)渡瀬誠一,河村佳世子,長野斗志克ほか:妊娠に発症しステロイド剤の全身投与を行った原田病の1例.眼紀46:1192-1195,199411)MiyataN,SugitaM,NakamuraSetal:TreatmentofVogt-Koyanagi-Harada’sdiseaseduringpregnancy.JpnJOphthalmol45:177-180,200112)富永明子,越智亮介,張野正誉ほか:妊娠14週でステロイドパルス療法を施行した原田病の1例.臨眼66:12291234,201213)DoiM,MatsubaraH,UjiY:Vogt-Koyanagi-Haradasyndromeinapregnantpatienttreatedwithhigh-dosesystemiccorticosteroids.ActaOphthalmolScand78:93-96,200014)太田浩一,後藤謙元,米澤博文ほか:Vogt-小柳-原田病を発症した妊婦に対する副腎皮質ステロイド薬治療中の胎児死亡例.日眼会誌111:959-964,200715)佐藤章子,江武瑛,田村博子:妊娠早期に発症し,ステロイド局所療法で軽快した原田病不全型の1例.眼紀37:46-50,198616)田口千香子,池田英子,疋田直文ほか:妊娠がぶどう膜炎に好影響を与えたと考えられた2症例.日眼会誌103:66-71,199917)松本美保,中西秀雄,喜多美穂里:トリアムシノロンアセあたらしい眼科Vol.31,No.9,20141411 トニドのテノン.下注射で治癒した妊婦の原田病の1例.眼紀57:614-617,200618)LancePS:Vogt-Koyanagi-Haradasyndromeandpregnancy.AnnOphthalmol22:59-62,199019)SnyderDA,TesslerHH:Vogt-Koyanagi-Haradasyndrome.AmJOphthalmol90:69-75,198020)NoharaM,NoroseK,SegawaK:Vogt-Koyanagi-Haradadiseaseduringpregnancy.BrJOphthalmol79:94-95,199521)PascaAS,PejtskiB:Impairmentofimmunityduringpregnancyandantiviraleffectofamnioticfluid.Lancet1:330-331,197722)TomodaY,FumaM,MiwaTetal:Cell-mediatedimmunityinpregnantwomen.GynecolInvest7:280-292,197623)OtsukiT,ShimizuK,IgarashiAetal:UsefulnessofanteriorchamberdepthmeasurementforefficacyassessmentofsteroidpulsetherapyinpatientswithVogt-Koyanagi-Haradadisease.JpnJOphthalmol54:396-400,2010***1412あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(164)

裂孔原性網膜剝離症例数の季節変動と関連する気候因子の検討

2014年9月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科31(9):1403.1406,2014c裂孔原性網膜.離症例数の季節変動と関連する気候因子の検討竹渓友佳子*1稲用和也*2間山千尋*3朝岡亮*3村田博史*3野本洋平*1*1総合病院国保旭中央病院眼科*2東京警察病院眼科*3東京大学大学院医科学研究科感覚・運動機能医学講座IdiopathicRetinalDetachmentFrequencyHasSeasonalVariationandIsCorrelatedwithClimate─SurveyinJapan─YukakoTaketani1),KazuyaInamochi2),ChihiroMayama3),RyoAsaoka3),HirofumiMurata3)andYoheiNomoto1)1)DepartmentofOphthalmology,AsahiGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanPoliceHospital,3)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolTheUniversityofTokyo裂孔原性網膜.離の発症率は夏期に高まることがこれまで海外から数多く報告されているが,わが国での詳細な報告はほとんどみられない.今回筆者らは2007年1月から2011年12月までに旭中央病院を受診し,手術に至った特発性裂孔原性網膜.離271例をレトロスペクティブに検討し,裂孔原性網膜.離の発症率と気候因子との関連を調べた.発症率は既報と同様に,夏に高く冬に低くなる傾向がみられ,4.9月(夏期)と10.3月(冬期)の季節ごとの日照時間と有意な正の相関(r=0.71,p=0.02)があることが示され,温度や湿度との間には有意な相関はみられなかった.網膜.離症例数の季節変動の要因として,夏に屋外での活動性が高まることや日照による縮瞳の影響が強まることなどが推測された.Severalstudieshavereportedthatrhegmatogenousretinaldetachment(RRD)hasahighincidenceinsummerandcorrelateswithclimatefactors.However,therehasbeennosuchreportinJapan.Inthisstudy,weexaminedtheseasonalvariationofRRDfrequencyandtheinfluenceofclimate.Medicalrecordsof271patientswhohadundergonesurgeryforidiopathicRRDatAsahiGeneralHospitalfromJanuary2007toDecember2011wereretrospectivelyreviewed.TheincidenceofRRDwasdetermined,andseasonalvariationandcorrelationwithclimatefactorswereexamined.RRDoccurredmostfrequentlyinearlysummerandleastfrequentlyinwinter.Itsfrequencyshowedsignificantcorrelationwithincreasedsunshinehours(r=0.71,p<0.05).ThesefindingscouldreflecttheincreasedopportunityforinfluenceofoutdooractivitiesandmiosisontheoccurrenceofRRD.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(9):1403.1406,2014〕Keywords:裂孔原性網膜.離,季節変動,日照時間.rhegmatogenousretinaldetachment,seasonalvariation,sunshinehours.はじめに網膜.離の発症率は夏期に高まることがヨーロッパ1,2),アジア3),アフリカ4),中東5,6)など海外から複数報告されているが,わが国では1992年に蔭山らが大分県で気温との関係を調査しているのみである7).総合病院国保旭中央病院は千葉県東部に位置し近隣の網膜.離手術を行っている他施設から40km以上離れ,約57万人の住民を診療圏としている.就業者の多くが第1次産業に属しており人口変動が少ないため,この地域における裂孔原性網膜.離の発症率の評価に適した条件をもっていると考えられる.より広い地域・多施設での大規模な調査では対象症例数を増やすことができるが,狭い地域で検討を行うことで詳細な気候因子と症例数の関係を解析することが可能になる.本研究では,5年間の期間中に旭中央病院で裂孔原性網膜.離(RRD)の観血的手術に至った症例数の季節変動と,気候に関係する因子との相関について検討した.〔別刷請求先〕竹渓友佳子:〒289-2511千葉県旭市イ1326総合病院国保旭中央病院眼科Reprintrequests:YukakoTaketaniM.D.,DepartmentofOphthalmology,AsahiGeneralHospital,AsahiI1326Chiba289-2511,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(155)1403 I対象および方法2007年1月から2011年12月に旭中央病院においてRRDに対する観血的手術を施行した症例をレトロスペクティブに検討した.発症から1カ月以上経過していると推定される陳旧性のRRD,明らかな感染や外傷を契機とする網膜.離,増殖糖尿病網膜症や増殖硝子体網膜症に伴う牽引性網膜.離,明らかな原因裂孔のない漿液性網膜.離,再.離症例,および12歳以下の小児例は除外した.RRDの症例数は月ごと,および既報2,6,8)にならい4.9月(夏期)/10.3月(冬期)と定義し季節ごとに計数した.RRDの症例数と各月ごと,および夏期と冬期に分けた季節ごとの平均気温,平均湿度,日照時間,降水量との関係をSpearmanの順位相関係数により検討した.なお,気候因子の統計値は気象庁が千葉県全体の平均値として公開しているデータ10)を使用した.日照時間は天候による日射量を考慮し,直達日射量が0.12kW/m2以上の日光が地表を照射した時間と定義されている10).II結果対象は271例271眼,男性176例(65%),女性95例(35%)で,症例数は男性が有意に多かったが(p<0.05),平均年齢は全体で56.0±15.0(13.87)歳であり,男性(55.3±13.8),女性(57.0±16.1)で男女間に有意差は認められなかった.人口当たりのRRD発症率は9.5人/10万人と推定された.手術術式の内訳は硝子体茎離断術(白内障手術,輪状締結を併施したものを含む)が66%,バックルによる網膜復位術が28%,その他が6%であった.原因裂孔の性状は,症例数(眼)30252015101404あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014501月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月図1月ごとの裂孔原性網膜.離症例数弁状裂孔(萎縮性円孔併存を含む)が87%,萎縮性円孔が13%であった.月ごとに平均したRRD症例数は6月に最も多く,ついで12月に多く,1月・9月・11月が最も少なかった(図1).気候因子と症例数の月ごとの変動を図2に示す.既報にならい4.9月を夏期と10.3月を冬期と定義した場合,症例数は,5年間の合計ではそれぞれ145例(54%)と126例(46%)であり有意差はなかった(p=0.19).RRD症例数と気候関連因子との間には,月ごとの検討では有意な相関を認めなかったが(p>0.28),各年の夏期と冬期を単独に解析した検討では症例数と日照時間の間にのみ強い相関(r=0.71,p=0.02)が認められた(図3).III考按本研究の対象地域である千葉県東部は農業などの第一次産業従事者の数が多く,地域で最大の都市である銚子市の第一次産業就業率は約11%で全国平均の4.5%(http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/kouhou/useful/u18.htm)の2倍以上となっている.近隣に網膜.離手術を行っている他施設がなく,住民の行動様式が多彩な大都市圏や,降雪地域や大きな景勝地を有する地域などに比べ,年間を通して季節による人口変動が比較的小さいと推測される.また,日本は諸外国に比べ比較的はっきりした季節ごとの気候変化をもっており,わが国でRRDと気候因子の相関を検討することは有意義と考えられる.今回の検討で対象期間中のRRDの年間発症率は9.5人/10万人と推定され,台湾におけるnational-wideの調査3)での発症率(7.8.10.8人/10万人)や北京における大規模調査11)での発症率(7.30.8.63人/10万人),熊本における調査12):2011年:2010年:2009年:2008年:2007年:合計(156) 図2裂孔原性網膜.離症例数と気候因子症例数はそれぞれ2007.2011年の月ごとの5年分の合計数を示しており,日照時間,降水量,湿度,気温はそれぞれ2007.2011年の月ごとの5年平均値を表す.250200150100500190.56149.5171.3171.66170.12132.16152.4193.06144.74125.54129.12183.7440.786.198.2132.7160.4145.485.5122.1210.519.89181.48.1417.2219.6426.5432.0829.0817.124.4242.139.1618.216.286.38症例数(眼)6.987.913.8618.7617.6426.0627.4224.1618.8613.5691919212628292319202120261日照時間(h)降水量(mm/月)23456789101112日照時間(h/月)降水量(mm/月)湿度(%)気温(℃)250200150100500190.56149.5171.3171.66170.12132.16152.4193.06144.74125.54129.12183.7440.786.198.2132.7160.4145.485.5122.1210.519.89181.48.1417.2219.6426.5432.0829.0817.124.4242.139.1618.216.286.38症例数(眼)6.987.913.8618.7617.6426.0627.4224.1618.8613.5691919212628292319202120261日照時間(h)降水量(mm/月)23456789101112日照時間(h/月)降水量(mm/月)湿度(%)気温(℃)38363432302826242220189008501,0001,0501,1001,150日照時間(h)図3日照時間と裂孔原性網膜.離症例数の散布図各年の夏期(4.9月)/冬期(10.3月)の季節ごとの検討(2007.2011年).夏期(4.9月)冬期(10.3月),症例数:期間中の5年分加算合計数.800850100症例数(眼)湿度(%)90気温(℃)80706050403020100年季節症例数日照時間2007夏期321,001.5冬期23978.72008夏期20853.6冬期291,019.62009夏期25850.6冬期24851.12010夏期371,097.1冬期23834.72011夏期311,017.9冬期271,064.7症例数(眼)日照時間:期間中の5年加算合計日照時間(h).Spearmanの順位相関係数=0.711,p=0.02.(発症率10.4人/10万人)とほぼ同等であったことは,地域の網膜.離発症例のほとんどが本研究の対象となっており,今回の検討結果が妥当であることを示唆していると考えられる.また,性別では男性のほうがRRDの発症率が1.85倍高く(p<0.01),台湾3)やレバノン6),オランダなど海外の報告と同様の傾向であった.性差の原因として男性のほうが屋外作業に従事する時間が長くより活動的であり,日照に多くさらされることが関連すると推測されている.(157)RRD発症率の季節変動に関する海外からの報告は1945年から2011年の間に17報みられ,そのうち12報で1年を4.9月(夏期)と10.3月(冬期)に分けた季節ごとの検討がなされ,夏期の発症率が高いことが報告されているが,今回の調査では夏期(4.9月)と冬期(10.3月)の発症率に有意差はなかった(p=0.19).気温の変化をみると,図2からもわかるように,4.9月は平均気温が高く,10.3月は気温が低くなっており,1年を暖かい時期と寒い時期に分ける場合,既報の分類が妥当であると考えられる.また,春とあたらしい眼科Vol.31,No.9,20141405 秋に同じような気候因子の時期があることや,網膜.離の発症過程にはある程度の時間経過がかかると推測されることから,1年をさらに細分化した時期ごとに発症率を解析することは,気候因子との関連を検討するには望ましくないと考えられる.RRD発症率が夏期に高い傾向を示す理由として,RRDの発症と眼内に入る光量や日照時間との関連が示唆されている1,2,6).RRDの発症機序として,屋外での日射が強い縮瞳を生じさせて周辺部の網膜・硝子体の牽引を強め,RRDを誘発する可能性が示唆されている8).また,ドイツ1),台湾3)での報告ではRRD発症率と気温との間に正の相関が認められている.眼表面の温度は体幹温度よりも環境温度と強く相関するため9),気温の上昇により硝子体の液化が進み,屋外での活動性の増加も加わってPVD(後部硝子体.離)とRRDが生じやすくなっている可能性が考えられている4).本研究では,統計学的有意差はなかったものの既報と同様にRRDの発症率は夏期に高まる傾向があり,症例数と日照時間には有意な正の相関があった(図3,r=0.7,p=0.02).季節変動を5年間の平均値でみるとRRD症例数の多い4.6月,12月は日照時間が長く(図2),1年ごとにみると2008年以外は夏期に症例数が増加する傾向が比較的顕著であるが,2008年は逆に冬期に症例数が多い傾向がみられた.2008年は例年と異なり夏期(4.9月)よりも冬期(10.3月)のほうが日照時間が長くなっており(夏期853.6時間,冬期1,019.6時間),これらの結果はRRDと日照時間との関連を示唆するものと考えられる.今回筆者らは,一施設における裂孔原性網膜.離の季節変動を検討し,症例数は夏期に増加する傾向があり日照時間との間に有意な正の相関のあることを認めた.網膜.離の発症メカニズムは多様であり,発症後に症状の進展する速度,患者が眼科を受診し手術を実施するまでの期間も一定ではなく,RRD発症に関与する因子を手術日に基づく検討から推測することには限界がある.また,RRD発症の季節変動を気候に関係する因子のみで説明できるとは考えにくい.しかし,諸外国の報告と同様,本研究でも日照時間とRRD発症の相関が認められたことは,RRD発症における日照の影響を強く推測させる結果と考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ThelenU,GerdingH,ClemensS:Rhegmatogenousretinaldetachments.Seasonalvariationandincidence.Ophthalmologe94:638-641,19972)GhisolfiA,VandelliG,MarcoliF:Seasonalvariationsinrhegmatogenousretinaldetachmentasrelatedtometeorologicalfactors.Ophthalmologica192:97-102,19863)LinHC,ChenCS,KellerJJetal:Seasonalityofretinaldetachmentincidenceanditsassociationswithclimate:an11-yearnationwidepopulation-basedstudy.ChronobiolInt28:942-948,20114)GauthierA,BruyasG:VariationssaisonnieresdelafrequencedudecollementdelaretineenAlgerie.BullSocFrOphtalmol3:404-408,19475)AlSamarraiAR:SeasonalvariationsofretinaldetachmentamongArabsinKuwait.OphthalmicRes22:220223,19906)MansourAM,HamanRN,KanaanMetal:SeasonalvariationofreinaldetachmentinLebanon:OphthalmicRes41:170-174,20097)陰山誠,中塚和夫:裂孔原性網膜.離発症の季節的要因に関する検討.眼臨86:1972-1975,19928)KrausharMG,SteinbergJA:Mioticsandretinaldetach-ment:upgradingthecommunitiystandard.SurvOphthalmol35:311-316,19919)KatsimprisJM,XirouT,ParaskevopoulosKetal:Effectoflocalhypothermiaontheanteriorchamberandvitreouscavitytemperature:invivostudyinrabbits.KlinMonatsblAugenheilkd220:148-151,200310)気象庁http://www.jma.go.jp/jma/press/tenko.html11)LiX;BeijingRhegmatogenousRetinalDetachmentStudyGroup:IncidenceandepidemiologicalcharacteristicsofrhegmatogenousretinaldetachmentinBeijing,China.Ophthalmology110:2413-2417,200312)SasakiK,IdetaH,TonemotoJetal:EpidemiologiccharacteristicsofrhegmatogenousretinaldetachmentinKumamoto,Japan.GraefesArchClinExpOphthalmol233:772-776,1995***1406あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(158)

2型糖尿病患者の血圧日内変動パターンと糖尿病網膜症 との関連

2014年9月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科31(9):1397.1402,2014c2型糖尿病患者の血圧日内変動パターンと糖尿病網膜症との関連加藤貴保子*1土居範仁*2鎌田哲郎*3山下高明*4坂本泰二*4宮田和典*1安田美穂*5石橋達朗*5*1宮田眼科病院*2今村病院分院眼科*3今村病院分院糖尿病内科*4鹿児島大学眼科*5九州大学眼科AssociationbetweenDiurnalBloodPressureVariationandDiabeticRetinopathyinType-2DiabetesMellitusKihokoKato(Dozono)1),NorihitoDoi2),TetsurouKamata3),TakehiroYamashita4),TaijiSakamoto4),KazunoriMiyata1),MihoYasuda5)andTatsurouIshibashi5)1)MiyataEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,ImamuraBun-inHospital,3)DepartmentofDiabetesMellitus,ImamuraBun-inHospital,4)DepartmentofOphthalmology,UniversityofKagoshima,5)DepartmentofOphthalmology,UniversityofKyushu2型糖尿病患者における血圧の日内変動パターンと網膜症との関連について検討した.2型糖尿病の患者84例(男性46例,女性38例)に対して,自由行動下で24時間血圧連続測定を行った.糖尿病網膜症なし(diabeticretinopathyなし:NDR)20例,非増殖糖尿病網膜症(nonproliferativediabeticretinopathy:NPDR)24例,増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)40例の3群間に分け,血圧の日内変動を比較した.拡張期血圧では有意差は認めなかったが,収縮期血圧は1日平均,夜間血圧ともにPDRが有意に高かった.日内変動パターンにおいて,NDRは,正常な日内変動が約半数にみられたが,NPDRでは夜間血圧が高くなるパターン(nondipper,riser)が多く,PDRではその傾向が顕著だった.網膜症のある患者では,降圧薬投与にもかかわらず,夜間の血圧も下がりにくく,血圧の日内変動障害が多くなることが示唆された.Associationbetweendiurnalbloodpressure(BP)variationanddiabeticretinopathy(DR)intype-2diabetesmellitus(DM)wasevaluated.AmbulatoryBPof84patients(46males,38females)wasmeasured.VariationindiurnalBPwascomparedbetween3groups:noDR(NDR,n=20),mildtoseverenonproliferativediabeticretinopathy(NPDR,n=24),andproliferativediabeticretinopathy(PDR,n=40).SystolicBPwassignificantlyhigherinthePDRgroupduring24-hour,aswellasduringthenighttime,whiletherewasnodifferenceindiastolicBP.InregardtodiurnalBPvariation,morethanhalfoftheNDRgroupshowednormaldiurnalvariation,whilevariationpatternsthatincreasedBPduringthenighttimewereincreasedinNPDR,aswellasinPDR.InpatientswithDR,itwasdemonstratedthatdecreaseinnighttimeBPwouldnotbeanticipatedandthatabnormaldiurnalbloodpressurevariationincreased,thoughantihypertensiveagentswereused.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(9):1397.1402,2014〕Keywords:2型糖尿病,24時間血圧,糖尿病網膜症,血圧日内変動,非降下型.type2diabetesmellitus,24hourambulatorybloodpressure,diabeticretinopathy,diurnalbloodpressurevariation,nondipper.はじめに夜間,早朝など)の血圧や,血圧変動性を評価することも重糖尿病患者の血圧管理は,大血管障害の予防だけでなく,要であり,特に,日内変動を評価する24時間血圧測定腎症や網膜症の進展抑制にも重要であることはよく知られて(ambulatorybloodpressuremonitoring:ABPM)は,血圧いる.血圧管理において,診察時だけでなく,診察外(家庭,変動性,夜間血圧,早朝血圧,中心血圧を評価でき,有用な〔別刷請求先〕加藤貴保子:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町6-3宮田眼科病院Reprintrequests:KihokoKatoDozono,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(149)1397 血圧管理法である.1型糖尿病患者においては,夜間の収縮期血圧と糖尿病網膜症の重症度とが関連する1),血圧の日内変動の障害が糖尿病合併症を悪化させる2,3)ことが報告されている.また,1型糖尿病による網膜症では,夜間の血圧が高いという報告も散見される4,5).一方,2型糖尿病患者に対しても,血圧日内変動の障害と腎症や大血管合併症との関連は指摘されている6).しかし,2型糖尿病における網膜症と血圧日内変動パターンとの関連についての報告はほとんどない.本研究では,2型糖尿病患者の24時間血圧を測定し,血圧の日内変動パターンと網膜症の重症度との関連について検討した.I方法2005年から2007年に今村病院分院糖尿病内科および眼科を受診した2型糖尿病の患者84例(男性46例,女性38例)を対象とした.84例のうち,42例は糖尿病内科に血糖コントロール目的または糖尿病性腎症のため教育入院した患者,他は糖尿病網膜症の硝子体手術目的で眼科入院した患者であった.透析,全身状態不良,および重症感染を有した症例は対象から除外した.全例にインフォームド・コンセントを得て,観察研究を行った.内服は,降圧薬内服なしは9例,単剤の降圧薬内服〔ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬),Caブロッカー,bブロッカー,ACE(アンジオテンシン変換酵素)ブロッカー〕は22例,複数投与は47例であった.患者背景として,年齢,性別,BMI(bodymassindex),HbA1C(hemoglobinA1C),HDL(highdensitylipoproteincholesterol),LDL(lowdensitylipoproteincholesterol),高感度CRP(capialreactiveprotein),logMAR視力,罹病期間,クレアチニン,GFR(glomerularfiltrationrate:糸球体濾過量),ヘモグロビン値,R-R間隔変動係数を調査した.さらに,散瞳下で検眼鏡にて眼底検査を行い,網膜症の重症度をAmericanAcademyofOphthalmology(AAO)の提唱した国際重症度分類に従い,糖尿病網膜症なし(DRなし:NDR),非増殖糖尿病網膜症(mild,moderate,severenonproliferativediabeticretinopathy:NPDR),増殖糖尿病網膜症(PDR)の3群に分け検討した.全例に対してガイドラインに基づき自由行動下で24時間血圧測定装置KENZBPMAM300(A&D社)を用いて24時間連続測定を行った.測定は収縮期血圧,拡張期血圧,脈拍を,22時から6時までは2時間ごとに,7時から21時までは1時間ごとに測定した.手術前日から術後7日間には行わず,収縮期血圧が70mmHg以下または250mmHg以上,拡張期血圧が30mmHg以下または130mmHg以上,脈拍が30拍/分以下または200拍/分以上を無効とした.昼中血圧を10時から20時までの平均値とし,夜間血圧を0時か1398あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014ら6時の平均値とした.平均収縮期血圧,夜間収縮期血圧,平均拡張期血圧,夜間拡張期血圧,平均脈拍,夜間脈拍,降圧薬の有無について3群間で比較検討した.さらに,3群における血圧の日内変動パターンの分布を調べた.日内変動パターンは,日中血圧より夜間血圧が20%以上降圧する夜間過降圧型(extreme-dipper),10.20%降圧する正常型(dipper),0.10%降圧する夜間非降下型(nondipper),および昇圧する夜間昇圧型(riser)に分類した7).統計解析には分散分析(analysisofvariance:ANOVA)c2検定,Fisher直接検定法,多重比較検定(Bonferroni法)(,)を用いた.24時間血圧の経時的変化について,NDR,NPDR,PDRのそれぞれの収縮期血圧と拡張期血圧の平均値については,ANOVAによる検定結果で有意となり,かつ多重比較検定(Bonferroni法)で補正したうえでp<0.05,p<0.01であったペアをp<0.05*,p<0.01**と記載した.糖尿病網膜症の程度と,血圧の日内変動パターンとの分割表にはFisherの正確確率検定,両者間の相関関係に関してはSpearmanの相関係数を用いた.p<0.05を統計的に有意差ありとした.II結果各群の内訳は,NDR20例,NPDR24例,PDR40例であった.各群の背景と血圧値を表1に示す.年齢,性別,BMI,HbA1C,HDL,LDL,高感度CRPは3群間で有意差を認めなかった.LogMAR視力は,PDR群で0.36±0.4となり不良であり,他群に対して有意差を認めた(p<0.01).罹病期間(年)は,NPDR,PDRで有意に長かった(p=0.039).クレアチニン(mg/dl)は,PDRでは有意に悪く(p=0.017),腎症ステージ4の症例も多かった.GFRは,網膜症が重症化するほど有意に低下した(p=0.022).ヘモグロビン値は,PDR群で低かった(p<0.01).R-R間隔変動係数が2%未満の割合はPDR群で有意に増えていた.収縮期血圧は,1日平均,夜間血圧ともにPDR群が有意に高かった(p<0.01)が,拡張期血圧は,1日平均,夜間血圧ともに有意差は認めなかった.脈拍,降圧薬の有無では群間差はなかった.網膜症を有する症例(NPDRおよびPDR)の日内変動パターンは,収縮期血圧で正常パターン(dipper)/それ以外のパターンが11/53例,拡張期血圧で16/48例と,網膜症がない場合の8/12例,10/10例と比較して,正常パターン(dipper)が有意に少なかった(p=0.038,0.036).24時間血圧の経時的変化について,NDR,NPDR,PDRのそれぞれの収縮期血圧と拡張期血圧の平均値を図1に示す.NDRでは夜間に血圧が昼間より低下するというおおむね正常な血圧日内変動を示したが,NPDRではその傾向が崩れ,PDRでは夜間の血圧と昼間の血圧は差がなくなり,(150) 表1糖尿病網膜症なし,非増殖糖尿病網膜症,増殖糖尿病網膜症の3群の背景と測定血圧値網膜症なし(n=20)非増殖網膜症(n=24)増殖網膜症(n=40)p値平均年齢(歳)性別(男/女)視力(logMAR)罹病期間(年)BMI(kg/m2)HbA1C(%)(JDS値)HbA1C(%)(NGSP値)クレアチニン(mg/dl)GFRヘモグロビン(g/dl)HDL-cholesterol(mg/dl)LDL-cholesterol(mg/dl)高感度CRPR-R間隔変動2%未満(有/無)収縮期血圧,1日平均(mmHg)収縮期血圧,夜間平均(mmHg)拡張期血圧,1日平均(mmHg)拡張期血圧,夜間平均(mmHg)脈拍,1日平均脈拍,夜間平均降圧薬(有/無)6012/80.0063±0.0098.6±7.426±4.27.9±1.48.3±1.40.8±0.273±2314±1.353±14124±320.09±0.100/9136±13127±1683±1076±1271±963±717/36211/130.0094±0.1814.8±9.024±5.08.1±2.08.5±2.01.0±0.668±3213±2.645±8116±250.09±0.097/12132±12127±1678±774±1071±1063±918/65921/190.36±0.413.7±8.724±3.78.1±2.18.5±2.11.4±1.253±3112±1.948±16125±4.70.11±0.1221/14148±18143±2283±1080±1172±1066±836/40.630.640.005*0.039*0.630.930.930.017*0.022*<0.01*0.160.630.54<0.01*<0.01*<0.01*0.0750.0630.860.250.27BMI=bodymassindex,GFR=glomerularfiltrationrate,HDL=highdensitylipoproteincholesterol,LDL=lowdensitylipoproteincholesterol,高感度CRp=capialreactiveprotein.ANOVA検定(*p<0.05),c2検定,Fisher直接検定法(*p<0.05)現行のHbA1C(%)(NGSP値)はJDS値+0.4%である.ほぼflatになっていた.収縮期血圧では16時から6時にかけてPDRで高い傾向にあった(図1).3群間での日内変動パターンの割合を図2に示す.NDRではdipperが多くみられ,NPDRではdipperの占める割合が減少し,PDRではnondipper,riserが半数以上を占めた.図3は,血圧日内変動パターン別の網膜症の重症度をみたものである.dipperでは,NDRが約半数を占め,nondipper,riserではNDRが減少し,NPDR,PDRの割合が増加していた.糖尿病網膜症の程度と,血圧の日内変動パターンとの傾向に関しては,収縮期血圧では分割表の検定では有意な傾向はなく(p=0.24),Spearmanの相関係数でも有意な傾向はなかった(R=.0.16,p=0.14).拡張期血圧では,分割表の検定では有意な傾向はなかった(p=0.15)が,Spearmanの相関係数では有意な傾向があり(R=.0.26,p=0.017),拡張期では血圧と糖尿病網膜症の間で有意な相関関係を認め,網膜症の病期が悪化するほど,riser,nondipperが増加し,dipperが減少する傾向にあった.III考按今回の検討では,84例中71例で糖尿病内科専門医による(151)降圧薬治療がされているにもかかわらず,網膜症(NPDRおよびPDR)症例では正常な血圧日内変動は少なかった.その理由として,対象が血糖コントロール不良や腎症の教育入院,網膜症のため硝子体手術を要した症例であり,糖尿病の病期の進行した症例が多かったことが考えられる.Kleinらによる,アルブミン尿がなく血圧が正常な1型糖尿病患者194人を対象にした検討では,NDR32%mildNPDRは55%moderateNPDR.PDR13%で,そのうちnondipperの割合はそれぞれ19%,28%,36%であった1).これらの結果は,網膜症が重症化するほどnondipperの割合が増加し,夜間収縮期血圧が高いと網膜症が重症化しやすい可能性を示唆している.このなかでのnondipperの定義は今回筆者らが用いた定義と異なり夜間/昼間>0.9であり,本検討でのnondipperとriserを合わせたものに相当する.今回の検討では,2型糖尿病でアルブミン尿なしに限定しておらず,腎症のある例を多く含み,重症化した網膜症が多いという点も,Kleinらの検討と異なる1).とはいえ,本検討でも重症化した網膜症患者におけるnondipperとriserの割合は,夜間の拡張期血圧および収縮期血圧が高く,Kleinらと同様の結果となった.Kleinらと比較しNDRの患者でも夜間の血圧が高い例があたらしい眼科Vol.31,No.9,20141399 180160140120100806040200S0S4S7S9S11S13S15S17S19S21*************:NDR:NPDR:PDR拡張期血圧(mmHg)収縮期血圧(mmHg)1009080706050403020100*:NDR:NPDR:PDRD0D4D7D9D11D13D15D17D19D21図124時間血圧の経時変化横軸に0時,2時,6時,7.22時までは1時間ごとの時刻を,縦軸に糖尿病網膜症なし,非増殖糖尿病網膜症,増殖糖尿病網膜症の平均血圧を示す.糖尿病網膜症なしでは夜間に血圧が昼間より低下するというおおむね正常な血圧日内変動を示したが,非増殖糖尿病網膜症ではその傾向が崩れ,増殖糖尿病網膜症では夜間の血圧と昼間の血圧は差がなくなり,ほぼflatになり夜間血圧が高くなっていた.収縮期血圧では8時,16時,17時は糖尿病網膜症なしと増殖糖尿病網膜症のみ*p<0.05,18時から6時までは2時以外糖尿病網膜症なしと増殖糖尿病網膜症,非増殖糖尿病網膜症と増殖糖尿病網膜症で有意差があった(*p<0.05,**p<0.01,多重比較検定(Bonferroni法).多かった理由としては,アルブミン尿なし,および正常血圧症例に限定していないことが考えられる.また,今回の症例でも,過去の報告と同じように,罹病期間(年)は,NDRで8.6±7.4(年),NPDRで14.8±9.0(年)で,罹病期間が長くなると網膜症を有する割合が増加していた.1型糖尿病患者において,網膜症の進行と発症に尿中アルブミン排泄量(UAE)と24時間および昼間の拡張期血圧が関連する5),夜間の血圧の上昇によりアルブミン尿を引き起こしやすく,網膜症ありも腎症悪化の要因であった6)との報告があり,これらの関与が考えられる.慢性腎臓病を含め腎機能障害の悪化はnondipperの増加をもたらすことは既報で報告8)されており,今回の結果は腎障害の結果を反映し1400あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014■:riser■:nondipper%■:dipper:extreme-dipper100806040200NDRNPDRPDR収縮期血圧1535401033.345.816.74.2403017.512.5100806040200NDRNPDRPDR拡張期血圧1030501033.329.22512.532.537.5255図23群間における日内変動パターン糖尿病網膜症なしではdipperが約半数であり,非増殖糖尿病網膜症ではdipperの割合が減り,正常でない日内変動を示すnondipper,riser,extreme-dipperが増え,増殖糖尿病網膜症ではその傾向が顕著だった.ている可能性もある.夜間の血圧(特に収縮期血圧)が下がりすぎる,すなわちextreme-dipperにも,網膜症を有する割合が高く,PDRを多く認めた.これについては過去に報告はないが,夜間の血圧の低下は心疾患や脳血管障害のリスクファクター7)であり,眼にも何らかの影響があると思われる.本検討では,網膜症が重症化するほど夜間の血圧が高い傾向にあった.84例中71例が降圧薬内服中であり,複数使用例も多数含むにもかかわらず,夜間の血圧が高かった.高血圧は網膜症を進行させるリスクファクターの一つである10,11)が,血圧の検査は通常診察中や自己測定血圧装置によって行われるため,夜間高血圧はABPMを用いないとみつかりにくい.降圧薬により昼間の血圧はある程度下がっていても,夜間高血圧が残っていると網膜症は重症化する可能性があると考えられる.さらに糖尿病という疾患そのものが患者に与える心理的ストレスにより夜間高血圧がある可能性も考えら(152) れる.また,網膜症の重症化している病期では,降圧薬に抵抗して夜間の血圧が下がりにくい状態にあるのかもしれない.さらに,PDRでは,自律神経障害を伴う症例(R-R間隔変動2%未満)が多かった.Kleinらは,夜間の血圧と網膜症の重症化は,自律神経障害および網膜血管のpoorautoregulationが関与する1)のではないかと考察している.網膜血管のpoorautoregulationにより,網膜血流が増加し,網膜動脈やcapillarybedsに障害を与えるのではないかと推察されている.網膜症悪化や血圧日内変動障害に自律神経障害が関与している可能性が示唆された.高感度CRPについては3群間で特に有意差を認めなかった.高感度CRPと関連のある因子として喫煙,年齢,高脂血症,糖尿病,肝機能,炎症などがあげられるが,症例数が少ないこと,およびさまざまな因子が複雑に絡み合うため9),3群間では有意差がでなかったものと思われる.糖尿病合併症の予防に血圧管理が大変重要なことは周知の事実10,11)であり,2004年のUKPDS69で1,148人の2型糖尿病患者において厳格な血圧コントロールを行った群では7.5年後に硬性白斑,網膜細動脈瘤,軟性白斑の数が少なく,厳格な血圧コントロールは網膜症の進行と視力低下を減らすと報告されている11).また,降圧薬についてはACE,bブロッカーでは有意差はなく11),症例数は少ないが筆者らも同様の結果であった.今回の研究において,網膜症のある患者では降圧薬の投与にもかかわらず,血圧日内変動パターンの障害(nondipper,riser,extreme-dipper)が多いことに加えて,網膜症の進行に先立って夜間高血圧が起こることが示唆された.夜間高血圧への安定した治療介入効果の高い降圧薬の開発により網膜症の発症や進展の抑制をもたらしてくれるかもしれないが,夜間の血圧急降下は心疾患,脳血管疾患などのリスクを高めるため,早期発見,早期治療がやはり重要であると思われる.本研究の限界としては糖尿病は多因子疾患であり,患者のもっている背景すなわち遺伝,生活習慣,環境,体格,性格などひとりとして同一でないことである.また,統計について,NDR,NPDR,PDRの3群比較に関してはANOVAで行い,それぞれの群間比較をBonferroni補正で行った.しかし,この検定を20回行っており,偶然約1回は有意になることになる.収縮期血圧では11の時点で有意差があり偶然にしては有意な時点が多いことと,図表(折れ線グラフ)でも明らかな差があり,有意な差があると判定した.しかしながら,拡張期血圧はグラフ上差はあるが,1回しか有意ではなく偶然有意になった可能性があり,本研究の限界となっている.本論文は第14回日本糖尿病眼学会で発表した.(153)Prevalence(%)Prevalence(%■:糖尿病網膜症なし:非増殖糖尿病網膜症50■:増殖糖尿病網膜症454035302520151050104.212.54016.717.53545.8301533.340Extreme-dipperDipperNondipperRisern=8n=19n=30n=27収縮期血圧504540353025201510501012.555025253029.237.51033.332.5Extreme-dipperDipperNondipperRisern=8n=26n=28n=23拡張期血圧図3血圧日内変動パターン別の網膜症の重症度Dipperでは,糖尿病網膜症なしが多くを占めたが,nondipperでは非増殖糖尿病網膜症,増殖糖尿病網膜症の割合が増え,riserでは増殖糖尿病網膜症が多かった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)KleinR,MossSE,SinaikoARetal:Therelationofambulatorybloodpressureandpulseratetoretinopathyintype1diabetesmellitus:therenin-angiotensinsystemstudy.Ophthalmology113:2231-2236,20062)daCostaRodriguesT,PecisM,AzevedoMJetal:Ambulatorybloodpressuremonitoringandprogressionofあたらしい眼科Vol.31,No.9,20141401 retinopathyinnormotensive,normoalbuminurictype1diabeticpatients:a6-yearfollow-upstudy.DiabetesResClinPract74:135-140,20063)LengyelZ,RosivallL,NemethCetal:Diurnalbloodpressurepatternmaypredicttheincreaseofurinaryalbuminexcretioninnormotensivenormoalbuminurictype1diabetesmellituspatients.DiabetesResClinPract62:159-167,20034)PoulsenPL,HansenKW,EbbehojEetal:Nodeleteriouseffectsoftightbloodglucosecontrolon24-hourambulatorybloodpressureinnormoalbuminuricinsulin-dependentdiabetesmellituspatients.JClinEndocrinolMetab85:155-158,20005)PoulsenPL,BekT,EbbehojEetal:24-hambulatorybloodpressureandretinopathyinnormoalbuminuricIDDMpatients.Diabetologia41:105-110,19986)KnudsenST,PoulsenPL,HansenKWetal:Pulsepressureanddiurnalbloodpressurevariation:associationwithmicro-andmacrovascularcomplicationsintype2diabetes.AmJHypertens15:244-250,20027)日本循環器学会:24時間血圧計の使用(ABPM)基準に関するガイドライン(2010年改訂版)8)HermidaRC,SmolenskyMH,AyalaDEetal:Abnormalitiesinchronickidneydiseaseofambulatorybloodpressure24hpatterningandnormalizationbybedtimehypertensionchronotherapy.NephrolDialTransplant9:358368,20139)斉藤憲祐:高感度CRP測定法と新しい展開.LabClinPract20:10-16,200210)EstacioRO,JeffersBW,GiffordNetal:Effectofbloodpressurecontrolondiabeticmicrovascularcomplicationsinpatientswithhypertensionandtype2diabetes.DiabetesCare23(Suppl2):B54-B64,200011)MatthewsDR,StrattonIM,AldingtonSJetal:Risksofprogressionofretinopathyandvisionlossrelatedtotightbloodpressurecontrolintype2diabetesmellitus:UKPDS69.ArchOphthalmol122:1631-1640,2004***1402あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(154)

Accurus®とConstellation®の硝子体手術成績の比較

2014年9月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科31(9):1392.1395,2014c(00)1392(144)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(9):1392.1395,2014cはじめに近年の硝子体手術の進歩は目覚しく,従来の20ゲージ(G)手術から経結膜的に手術可能な23Gもしくは25Gシステムを使用した小切開硝子体手術が主流となり,より低侵襲な手術が可能となった1.8).また,硝子体手術装置も従来は2,500cpm程度の回転数が限界であったが,2011年からわが国においても5,000cpmまで高速回転が可能な新たな手術装置であるConstellationRが承認され使用可能となった.さらに,新たに7,500cpmの高速回転といった手術装置や27Gシステムといった新たな器械や器具の開発・改良も進んできている.筆者はすでにAccurusRとConstellationRの手術成績について検討し報告しているが,症例数も少なく両手術器械の差を確認することができなかった9).そのため今回は,その後に症例数を重ねて再度比較検討を行ったので報告する.〔別刷請求先〕廣渡崇郎:〒145-0065東京都大田区東雪谷4-5-10公益財団法人東京都保健医療公社荏原病院眼科Reprintrequests:TakaoHirowatari,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanHealthandTreatmentCorporationEbaraHospital,4-5-10Higashi-Yukigaya,Ota-ku,Tokyo145-0065,JAPANAccurusRとConstellationRの硝子体手術成績の比較廣渡崇郎*1澁谷洋輔*1石田友香*2秋澤尉子*3*1公益財団法人東京都保健医療公社荏原病院眼科*2東京医科歯科大学眼科学教室*3東京都職員共済組合シティ・ホール診療所眼科ComparisonofAccurusRandConstellationRinVitreousSurgeryTakaoHirowatari1),YosukeShibuya1),TomokaIshida2)andYasukoAkizawa3)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanHealthandMedicalTreatmentCooperationEbaraHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalandDentalUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,CityHallClinic,MutualAssociationforTokyoMetropolitanGovernmentEmployees目的:AccurusRからConstellationRへ手術器械を変更したことによる硝子体手術成績を検討する.対象および方法:2010年5月から2013年12月までに荏原病院で硝子体手術を施行した連続する94例108眼で,手術器械としてAccurusR(A群),およびConstellationR(C群)を使用した.結果:術前視力はA群がlogMAR1.02,C群がlog-MAR0.89で,術後視力はA群logMAR0.29,C群がlogMAR0.26であった.平均手術時間はA群83.8分,C群63.9分であった.合併症はA群5.0%,C群4.4%に医原性裂孔を認めたが,術後低眼圧,網膜.離は認めなかった.結論:AccurusRからConstellationRへ手術器械を変更することにより,安全性を損なうことなく,より短時間での硝子体手術が可能となった.Purpose:ToevaluatetheefficacyandsafetyofAccurusRandConstellationRforvitreoussurgery.Patientsandmethods:Investigatedwere108eyesof94patientswhounderwentvitrectomy40eyeswithAccurusR(GroupA)and68eyeswithConstellationR(GroupC).Durationofsurgery,preoperativecorrectedvisualacuity,post-operativebestcorrectedvisualacuityandcomplications,includingiatrogenicretinalbreak,postoperativelowintra-ocularpressureandretinaldetachmentwerecompared.Results:ThemeandurationofsurgeryforGroupsAandCwas83.8and63.9minutes,respectively.ThemeanpreoperativecorrectedvisualacuityofGroupsAandCwaslogMAR1.02and0.89,andthepostoperativebest-correctedvisualacuitywaslogMAR0.29and0.26,respectively.Iatrogenicretinalbreakoccurredin5.0%ofGroupAand4.4%ofGroupsC.Noeyehadpostoperativelowintraoc-ularpressureorretinaldetachment.TherewasnosignificantdifferencebetweenGroupAandCregardingdura-tionofsurgery,visualacuityorcomplications.Conclusion:Resultscomfirmedtheefficacyandsafetyofthesevit-rectomysurgerysystems.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(9):1392.1395,2014〕Keywords:硝子体手術,手術時間,視力,合併症.vitreoussurgery,operationperiod,visualacuity,complica-tion. I対象および方法対象は2010年5月から2013年12月までの間に荏原病院で同一術者による硝子体切除術を受けた連続する94例108眼で,平均年齢は66.3±10.2歳(28.87歳),男性62眼,女性46眼であった.全手術において十分な説明を行い文書で同意を得た.硝子体手術装置は前半の40眼においてはAlcon社のAccurusRを(A群),後半の68眼においてはAlcon社のConstellationR(C群)を使用した.白内障同時手術はA群30眼(75%),C群44眼(65%)で施行した(表1).手術開始直前に2%キシロカイン3mlにて球後麻酔を行った.術式は全例3ポートで行い,25G小切開硝子体切除システム(Alcon社egdeplusR)を用い,無縫合で手術を終了した.手術用顕微鏡はZeiss社LumeraTRを使用した.中心硝子体切除には広角観察用レンズOculusBIOMIIRを使用し,周辺硝子体切除は強膜圧迫による直視下観察にて行った.黄斑上膜や内境界膜.離などの黄斑処理はHOYA社HHVRメニスカスレンズ下にて行った.硝子体手術におけるカットレートおよび吸引圧は,中心硝子体切除と周辺硝子体切除においてA群およびC群ともそれぞれ異なる設定を用いた(表2).白内障同時手術は2.8mmの上方強角膜3面切開から超音波乳化吸引術を行い,6mmワンピースアクリルレンズ(AlconAcysofRIQ)を.内に挿入した.検討項目は,両群における術前矯正視力および術後最高矯正視力,手術時間,術中および術後合併症とした.なお,視力は小数視力表にて測定し,指数弁はlogMAR1.85,手動弁はlogMAR2.30,光覚弁は2.90と換算して統表1同時・単独手術の割合A群(眼)C群(眼)全体40(100%)68(100%)単独手術10(25%)24(35%)同時手術30(75%)44(65%)計処理を行った10,11).統計学的検討はFisher直接確率法を用い,p<0.05を有意とした.II結果硝子体手術の適応となった原因疾患で最も多いのは増殖糖尿病網膜症36眼(33.3%)で,ついで黄斑上膜26眼(24.1%),裂孔原性網膜.離18眼(16.7%)であった(表3).術前視力はA群全体ではlogMAR1.02±0.69(平均±標準偏差),単独手術ではlogMAR1.02±0.72,同時手術ではlogMAR1.03±0.6.3であった.C群全体ではlogMAR0.89±0.73,単独手術ではlogMAR0.99±0.87,同時手術ではlogMAR0.81±0.60であった.平均術後最高矯正視力はA群ではそれぞれlogMAR0.29±0.43,0.24±0.34,0.42±0.64であった.また,C群ではそれぞれlogMAR0.26±0.48,0.32±0.54,0.22±0.46であった.また,各視力の最大値,最小値,中央値は別表に示す(表4).術前矯正視力および術後最高矯正視力の差については,すべての群で有意な差はみられなかった.手術時間はA群全体で平均83.8±28.5分,単独手術は63.7±17.0分,同時手術は90.5±28.6分であった.対してC群全体で平均63.9±25.2分,単独手術は55.6±26.5分,同時手術は68.7±24.2分であり,全体,単独手術および同時手術のすべてにおいてC群はA群と比較し有意に手術時表2各硝子体手術装置の設定AcuurusR(A群)ConstellationR(C群)中心硝子体切除灌流圧37mmHg30mmHg吸引圧300mmHg400mmHg回転数1,400cpm5,000cpm周辺硝子体切除灌流圧37mmHg30mmHg吸引圧100mmHg200mmHg回転数2,400cpm5,000cpm表3症例の内訳A群全体A群単独手術A群同時手術C群全体C群単独手術C群同時手術(眼)(眼)(眼)(眼)(眼)(眼)増殖糖尿病網膜症1721519127黄斑上膜72519118裂孔原性網膜.離4041477硝子体出血422202網膜静脈閉塞症321523黄斑円孔312404硝子体混濁101413眼内炎110110(145)あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141393 表4術前矯正視力・術後最高矯正視力術前矯正視力術前最大値術前最小値術前中央値術後最高矯正視力術後最大値術後最小値術後中央値A群全体1.02±0.69.0.202.301.000.29±0.43.0.201.000.30A群単独手術1.02±0.720.002.301.000.24±0.34.0.200.700.20A群同時手術1.03±0.63.0.202.001.000.42±0.64.0.101.000.30C群全体0.89±0.73.0.202.901.000.26±0.48.0.202.300.10C群単独手術0.99±0.87.0.202.300.800.32±0.54.0.202.300.20C群同時手術0.81±0.60.0.202.901.000.22±0.46.0.202.000.10(logMAR)表5手術時間全体同時手術単独手術A群(分)83.8±28.590.5±28.663.7±17.0C群(分)63.9±25.268.7±24.255.6±26.5間の短縮が得られた(p<0.01)(表5).合併症については,術中医原性網膜裂孔形成,術後網膜.離および術後低眼圧の発生頻度について検討した.なお,術後低眼圧は5mmHg以下の状態と定義した.術中医原性裂孔形成はA群で2眼(5.0%),C群で3眼(4.4%)で発生した.術後網膜.離および術後低眼圧は両群において0眼(0.0%)であり,両群間ですべての合併症において有意な差はなかった.III考按今回,筆者らが比較検討したConstellationRとAccurusRの手術時間についてはすでに複数の報告がなされている.柳田の報告では硝子体カッターの駆動時間のみを計測・比較し,Rizzoの報告では眼内に硝子体カッターを挿入した時点から抜去した時点までの時間を比較している12,13).どちらの報告においてもAccurusRよりもConstellationRのほうが,有意に手術時間が短くなっており,高速回転硝子体カッターとdutycycleの最適化が硝子体切除に要する時間の短縮に寄与していることが示唆される.また,Murrayらは,AccurusRからConstellationRに手術装置を変更したことにより,1件当たりの手術時間と患者1人当たりの手術室滞在時間が短縮され,結果として1日当たりの硝子体手術件数が増加したと報告している14).また,安藤らも同様にAccurusRからConstellationRに手術装置を変更することによりstage3の黄斑円孔に対する手術時間の短縮が得られたと報告している15).今回の筆者らの検討では,実際の手術における時間短縮の効果を検討する観点から,さまざまな症例に対して執刀開始から手術終了までの手術全体の時間を検討した.今回の報告と最も条件が類似していると考えられるMurraryらの報告と同様に,統計学的に有意な手術時間の減少が得られた.このことからMurrayらが述べているように,手術時間の短縮による手術侵襲の軽減のみならず,結果的に業務の効率化も得られていると考えられる.手術時間に関しては,C群はA群と比較して単独手術では8.1分,同時手術では21.8分の短縮であった.この手術時間短縮効果の差については,同時手術を行った症例の内訳に影響を受けた可能性が考えられる.対象症例のうち,糖尿病網膜症と裂孔原性網膜.離については,増殖組織の処理や.離網膜に対する処理が必要なため,より繊細な手術手技が必要とり,手術時間が長くなる傾向にあったが,同時手術を行った症例のうち上記2疾患の割合はA群で同時手術を行った30例中19例(63.3%),C群で同時手術を行った44例中14例(31.8%)と差があった.そのため,同時手術のほうが単独手術よりも手術時間の短縮が得られた結果となったと考えられる.つぎに合併症については,Rizzoの報告において術中医原性裂孔形成がAccurusRでの21.7%からConstellationRでの1.7%と劇的に減少したとされている.これは,高速回転硝子体カッターによる網膜への牽引の軽減によるものと考えられる.筆者らの検討でもConstellationRにおいても4.4%と低い発生率であったが,両群に有意な差はみられなかった.これはRizzoの報告と比較してAccurusRでの術中医原性裂孔形成が5.0%と低いためと考えられる.また,今回両群とも良好な視力改善効果が得られた.これは両群とも安全かつ低侵襲な手術手技により良好な結果が得られたと考えられる.新規の硝子体手術装置であるConstellationRは高性能な手術装置であり,手術時間の短縮などによる手術侵襲の軽減や,合併症頻度の低下などの点で期待されているが,今回の検討では他の報告と同様に,従来の手術装置であるAccurusRと比較し,安全性を損なうことなく手術時間短縮の観点から優位性が確認できた.文献1)FujiiGY,DeJuanEJr,HumayumMSetal:Anew25-gaugeinstrumentsystemfortransconjunctivalsuture-lessvitrectomysurgery.Ophthalmology109:1807-1812,(146) 20022)RecchiaFM,ScottIU,BrownGCetal:Small-gaugeparsplanavitrectomy:areportbytheAmericanAcademyofOphthalmology.Ophthalmology117:1851-1857,20103)HubschmanJP,GuptaA,BourlaDHetal:20-,23-,and25-gaugevitreouscuttersperformanceandcharacteristicsevaluation.Retina28:249-257,20084)LakhanpalRR,HumayumMS,deJuanEJretal:Outcomesof140consecutivecasesof25-gausetransconjunctivalsurgeryforposteriorsegmentdisease.Ophthalmology112:817-824,20055)IbarraMS,HermelM,PrennerJLetal:Longer-termoutcomesoftransconjunctivalsutureless25-gaugevitrectomy.AmJOphthalmol139:831-836,20056)OshimaY,ShimaC,WakabayashiTetal:Microincisionvitrectomyanintravitrealbevacizumabasasurgicaladjuncttotreatdiabetictractionretinaldetachment.Ophthalmology116:927-938,20097)佐藤達彦,恵美和幸,坂東肇ほか:増殖硝子体網膜症に対する硝子体手術成績─25ゲージシステム使用例と20ゲージシステム使用例での後ろ向き比較.日眼会誌116:100-107,20128)MuraM,TanSh,DeSmetMD:Useof25-gaugevitrecctomyinmanagementofprimaryrhegmatogenousretinaldetachment.Retina29:1299-1304,20099)廣渡崇郎,石田友香,秋澤尉子:高速回転硝子体切除装置を用いた硝子体手術成績.臨眼67:697-700,201310)Schulze-BonselK,FeltgenN,BurauHetal:Visualacuities“handmotion”and“countingfingers”canbequantifiedwiththeFreiburgvisualacuitytest.InvestOphthalmolVisSci47:1236-1240,200611)GroverS,FishmanGA,AndersonRJetal:Visualacuityimpairmentinpatientswithretinitispigmentosaatage45yearsorolder.Ophthalmology106:1780-1785,199912)RizzoS,Genovesi-EbertF,BeltingC:Comparativestudybetweenastandard25-gaugevitrectomysystemandanewultrahigh-speed25-gaugesystemwithdutycyclecontrolinthetreatmentofvariousvitreoretinaldisease.Retina31:2007-2013,201113)柳田智彦,清水公也:25ゲージ硝子体手術におけるアキュラスとコンステレーション硝子体切除時間の比較.あたらしい眼科29:869-871,201214)MurrayTG,LaytonAJ,TongKBetal:Transistiontonoveladvancedintegratedvitrectomyplatform:comparisionofthesurgicalimpactofmovingfromtheAccurusvitrectomyplatformtotheConstellationVisionSystemformicroincisionalvitrectomysurgery.ClinOphthalmol7:367-377,201315)安藤友梨,田中秀典,谷川篤弘ほか:25ゲージ黄斑円孔手術におけるアキュラスRとコンステレーションRの比較.あたらしい眼科30:1181-1184,2013***(147)あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141395

正常眼圧緑内障における視神経乳頭血流と網膜構造および視野障害との関連性

2014年9月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科31(9):1387.1391,2014c正常眼圧緑内障における視神経乳頭血流と網膜構造および視野障害との関連性山下力*1,2家木良彰*2三木淳司*1,2,3後藤克聡*2今井俊裕*2荒木俊介*2春石和子*2桐生純一*2田淵昭雄*1八百枝潔*3,4*1川崎医療福祉大学医療技術学部感覚矯正学科*2川崎医科大学眼科学教室*3新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野*4眼科八百枝医院AssociationbetweenVisualFieldLossandOpticNerveHeadMicrocirculationandRetinalStructureinNormal-TensionGlaucomaTsutomuYamashita1,2),YoshiakiIeki2),AtsushiMiki1,2,3),KatsutoshiGoto2),ToshihiroImai2),SyunsukeAraki2),KazukoHaruishi2),JunichiKiryu2),AkioTabuchi1)andKiyoshiYaoeda3,4)1)DepartmentofSensoryScience,FacultyofHealthScienceandTechnology,KawasakiUniversityofMedicalWelfare,2)DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool,3)DivisionofOphthalmologyandVisualSciences,NiigataUniversityGraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,4)YaoedaEyeClinic目的:正常眼圧緑内障(NTG)における視神経乳頭(乳頭)血流と網膜や乳頭構造,視野指標との関連性を検討した.対象および方法:対象はNTG19例19眼である.レーザースペックルフローグラフィー(LSFG-NAVITM)を用い乳頭血流(全領域・血管領域・組織領域)を測定した.スペクトラルドメイン光干渉断層計(RTVue-100R)を用い乳頭周囲の網膜神経線維層(cpRNFL)厚,乳頭形態,黄斑部網膜神経節細胞複合体(GCC)厚を測定した.乳頭血流と網膜や乳頭構造パラメータ,視野指標との関係について検討した.結果:乳頭の組織領域血流および全領域血流は,cpRNFL厚,GCC厚,乳頭形態パラメータのすべてと有意に相関していた.meandeviation(MD)値との相関係数が最も大きいのはcpRNFL厚(r=0.88)であり,visualfieldindex(VFI)との相関係数が最も大きいのはGCC厚(r=0.81)であった.乳頭の組織領域血流も,MD値およびVFIに相関を示した(r=0.68).結論:NTGにおいて,乳頭血流は,緑内障性網膜構造変化や視野障害との関連が示唆された.Purpose:Toreporttheassociationbetweenvisualfieldlossandopticnerveheadmicrocirculationandretinalstructureinnormal-tensionglaucomapatients.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved19eyesof19patientswithnormal-tensionglaucoma.Opticnerveheadmicrocirculationwasexaminedwithlaserspeckleflowgraphy(LSFG-NAVI.),andthemeanblurrateinallareas,invesselareaandtissuearea,wascalculatedusingthelaserspeckleflowgraphyanalyzersoftware.Macularganglioncellcomplex(GCC)thicknessparameters,circumpapillaryretinalnervefiberlayer(cpRNFL)thicknessandopticnervehead(ONH)parametersweremeasuredbyspectraldomainopticalcoherencetomography(RTVue-100R).TherelationshipbetweenglaucomatousvisualfieldlossandopticnerveheadmicrocirculationandretinalstructureparameterswasevaluatedusingtheSpearmanrankcorrelationcoefficient.Results:Themeanblurrateoftheopticdiskintissue(MT)andallareaswassignificantlycorrelatedwithcpRNFLthickness,GCCthicknessandONHparameters.ThecpRNFLthicknesswasmostsignificantlycorrelatedwithmeandeviation(MD)value(r=0.88).GCCthicknesswasmostsignificantlycorrelatedwithvisualfieldindex(VFI)(r=0.81).MeanMTwassignificantlycorrelatedwithMDvalueandVFI(r=0.68).Conclusion:TheresultsindicatedassociationbetweenopticnerveheadmicrocirculationandglaucomatousretinastructuralchangeandvisualfielddisordersinNTG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(9):1387.1391,2014〕〔別刷請求先〕山下力:〒701-0193岡山県倉敷市松島288川崎医療福祉大学医療技術学部感覚矯正学科Reprintrequests:TsutomuYamashita,C.O.,Ph.D.,DepartmentofSensoryScience,FacultyofHealthScienceandTechnology,KawasakiUniversityofMedicalWelfare,288Matsushima,Kurashiki-city,Okayama701-0193,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(139)1387 Keywords:視神経乳頭血流,レーザースペックルフローグラフィー,正常眼圧緑内障,網膜構造,緑内障性視野障害.opticnerveheadbloodflow,laserspeckleflowgraphy,normaltensionglaucoma,retinalstructure,glaucomatousvisualfielddefects.はじめに厚生労働省研究班の調査によると,わが国における失明原因の第一位は緑内障であり,日本緑内障学会による疫学調査の多治見スタディにおいては,40歳以上の緑内障有病率は5%と多く,そのなかでも正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)が多いことが明らかとなった1).NTGの病態については眼圧の関与以外に,視神経(乳頭)出血の頻度が高いという報告2)や,乳頭周囲網脈絡膜萎縮が緑内障性視野障害の進行に関連していると報告されており3),乳頭循環障害の関与が示唆されている.したがって,NTGにおける循環動態の研究は,病態の解明や治療法の確立にとって重要である.緑内障性視神経症の病態として,眼圧や血流がグリア細胞を変化させ,乳頭篩状板付近において,網膜神経節細胞の軸索である網膜神経線維を障害させ,軸索輸送が障害され,網膜神経節細胞障害が起こる.その結果,乳頭陥凹拡大やリムの菲薄化などを特徴とする緑内障性視神経症が生じるとされている.緑内障診断に視野測定は必須であるが,緑内障性の不可逆的視野変化が生じる頃には,すでに網膜神経節細胞はかなりの不可逆的な障害を受けているといわれている4).そのため,網膜構造の緑内障性変化や乳頭の循環障害をより早期に検出することは,緑内障の早期発見および進行判定につながり非常に重要である.スペクトラルドメイン光干渉断層計(spectraldomainopticalcoherencetomography:SD-OCT)は,タイムドメイン光干渉断層計(timedomainopticalcoherencetomography:TD-OCT)に比べスキャンスピードと空間解像度が向上し,乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryretinalnervefiberlayer:cpRNFL)厚の評価だけではなく,網膜神経節細胞の約50%が分布する黄斑部において,網膜神経節細胞に関連した層を含む内境界膜から内網状層外縁の神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)厚の計測が可能となった.そのため,SD-OCTを用いることにより,緑内障を早期に発見することや進行検出などが高くなることが期待されている5,6).乳頭の循環測定にはさまざまな方法があるが,今回の研究においては測定再現性がきわめて高い眼血流測定装置であるレーザースペックルフローグラフィー(laserspeckleflowgraphy:LSFG)を用い7.9),NTGの乳頭血流測定を行った.LSFGを用いた報告で,全体拡大型乳頭を伴った緑内障眼の乳頭血流と視野障害およびTD-OCTのcpRNFL厚の間に有意な相関があったことが示されている10).今回筆者らは,1388あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014NTGに対しLSFGを用いて乳頭血流を測定し,SD-OCTを用いて算出されたGCC厚やcpRNFL厚,乳頭形態パラメータと,視野指標との関係を検討したので報告する.I対象および方法対象は,Humphrey自動視野計(Humphreyfieldanalyzer:HFA)(CarlZeissMeditec社)の中心30-2SITAstandardによる測定当日に,RTVue-100R(Optovue社)およびLSFG-NAVITM(ソフトケア社)を施行したNTG19例19眼(男/女=9/10眼)である.本研究におけるNTGの診断基準は,検眼鏡的に眼底に緑内障性変化が観察され,治療前眼圧が3回の測定で21mmHg以下であり,HFA30-2SITAstandardでAndersoncriteria11)を満たすものとした.矯正視力1.0以上,.5.0D以上の近視,+2.0D以下の遠視を対象とした.HFAでは,固視不良20%未満,偽陽性,偽陰性のそれぞれが15%未満の信頼性良好な結果のみを採用した.軽度白内障以外の眼疾患の既往,高血圧や糖尿病などの血管系疾患の既往,眼内手術の既往を有する者は除外した.すべての症例に関して,測定日から3カ月前までに点眼や内服内容に変更のないものとした.本研究は当大学倫理委員会の承認を得ており,すべての対象者にインフォームド・コンセントを得たうえで行った.眼圧はGoldmann圧平眼圧計を用い測定し,血圧および脈拍は自動血圧計を用い測定した.平均血圧は次式〔拡張期血圧+1/3(収縮期血圧.拡張期血圧)〕,眼灌流圧は次式〔2/3平均血圧.眼圧〕を用いて算出した.乳頭血流測定は,0.4%トロピカミド点眼液(ミドリンRM点眼液0.4%,参天製薬)を用いて散瞳した後,LSFG-NAVITMを用いて3回連続行った.同一検者がLSFGAnalyzer(version3.1.16)を用い3枚の乳頭血流マップを作成し,血流速度の指標であるMBR(meanblurrate)値の平均を算出した.楕円ラバーバンドを用い乳頭領域を決定した後,血管抽出解析機能を用い,乳頭内の全領域の平均MBR値(meanMBRinallarea:MA),乳頭内の血管領域の平均MBR値(meanMBRinvesselarea:MV),乳頭内の大血管を除外した組織領域の平均MBR値(meanMBRintissuearea:MT)に分けて解析した8).本研究では乳頭全体の各MBR値を算出し,3回測定の変動係数が10%未満の症例のみを対象とした.SD-OCTによる測定は,RTVue-100Rversion4.0スキャンプログラムの黄斑部解析ソフトGCCを用い,黄斑部7×7mmの範囲で,長さ7mmのラインスキャンで水平方向に1本,垂直方向に0.5mm間隔で15本のスキャンしGCC厚(140) を測定した.乳頭を中心にした4.9mmの範囲を視神経乳頭解析ソフトONHを用い,長さ3.4mmの12本の放射ラインスキャンと13本の同心円リングスキャンで測定した.乳頭の中心に乳頭部6×6mmの範囲を3次元視神経乳頭解析ソフト3DDiscを用い,101の水平ラスタスキャンで測定した.乳頭形状解析においては,ONHと3DDiscの画像をもとに乳頭縁と網膜色素上皮の端に相当する部位決定をした.それらの後,乳頭パラメータと乳頭中心から直径3.45mmの円周上のcpRNFL厚を算出した.両方のスキャンともsignalstrengthindexが50以上のデータを採用した.OCTパラメータ(GCC厚,cpRNFL厚,乳頭形態)とLSFGパラメータ(MA,MV,MT)およびHFAパラメータ〔MD(meandeviation)値,VFI(visualfieldindex)〕との関係は,Spearman順位相関係数を用い,危険率5%未満表1MBRおよびOCTパラメータの平均値と標準偏差MA22.0±6.1MV49.6±12.4MT11.8±3.8GCC厚(μm)74.7±7.4cpRNFL厚(μm)75.6±12.5Cuparea(mm2)1.38±0.69Rimarea(mm2)0.50±0.39C/Dratio0.71±0.22Cupvolume(mm3)0.32±0.22Rimvolume(mm3)0.04±0.05Nerveheadvolume(mm3)0.09±0.10MA:MeanMBRinAllarea,MV:MeanMBRinVesselarea,MT:MeanMBRinTissuearea,GCC:ganglioncellcomplex,cpRNFL:circumpapillaryretinalnervefiberlayer.表2MBRとOCTパラメータの関係MAMVMTrp値rp値rp値GCC厚0.75730.00020.73510.00030.70350.0008cpRNFL厚0.62750.00400.53330.01870.64040.0031Cuparea.0.52590.0207.0.38090.1077.0.58360.0087Rimarea0.60960.00560.49520.03110.55930.0128C/Dratio.0.63890.0032.0.51210.0250.0.62580.0042Cupvolume.0.49690.0304.0.44230.0579.0.55110.0145Rimvolume0.65920.00210.53800.01750.65140.0025Nerveheadvolume0.64880.00270.53970.01710.62310.0025MA:MeanMBRinAllarea,MV:MeanMBRinVesselarea,MT:MeanMBRinTissuearea,GCC:ganglioncellcomplex,cpRNFL:circumpapillaryretinalnervefiberlayer.を統計学的に有意とした.統計学的分析は統計解析ソフトPASWStatistics21.0(IBM-SPSS)を使用した.II結果患者背景は,年齢63.7±11.4(平均±標準偏差,範囲:51.75)歳,屈折度数は.2.1±2.7(.4.75.+1.50)Dであった.眼圧は12.3±2.6mmHg,収縮期血圧122.1±15.5mmHg,拡張期血圧74.5±9.1mmHg,眼灌流圧46.2±7.1mmHgであった.HFAのMD値は.9.4±10.6(.28.00.0.57)dB,VFIは72.5±33.4(13.99)%であった.本研究における症例全体のLSFG-NAVITMおよびRTVue-100Rの測定結果を表1に示す.LSFGパラメータとOCTパラメータとの関係を表2に示す.MAおよびMTは,すべてのOCTパラメータと有意な相関を示した.なかでも,乳頭内の組織領域の平均MBR値を示すMTにおいては,すべてのOCTパラメータとの相関係数は最も高かった.LSFGパラメータとOCTパラメータおよび視野指標との関係を表3に示す.MD値との関係においては,cpRNFL厚表3MBRおよびOCTパラメータと視野指標MDVFIrp値rp値MA0.69750.00090.75800.0002MV0.64150.00310.69570.0009MT0.68360.00130.72820.0004GCC厚0.85480.00010.82760.0001cpRNFL厚0.88370.00010.78720.0011Cuparea.0.38020.1084.0.19070.4636Rimarea0.51690.02340.48190.0502C/Dratio.0.53310.0188.0.44370.0744Cupvolume.0.44250.0578.0.36590.1486Rimvolume0.46090.04700.42710.0873Nerveheadvolume0.43770.06090.42410.0898MD:meandeviation,VFI:visualfieldindex,MA:MeanMBRinAllarea,MV:MeanMBRinVesselarea,MT:MeanMBRinTissuearea,GCC:ganglioncellcomplex,cpRNFL:circumpapillaryretinalnervefiberlayer.(141)あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141389 との相関係数が最も高く(r=0.8837,p=0.0001),LSFGパラメータも中程度の相関を示した.VFIにおいては,GCC厚との相関係数が最も高く(r=0.8276,p=0.0001),LSFGパラメータも中程度の相関を示した.眼灌流圧は,MD値(r=0.0910,p=0.7638)およびVFI(r=0.0906,p=0.7296)と相関はなく関連を示さなかった.III考按NTGを対象とした本研究において,LSFGで評価した乳頭血流パラメータと,SD-OCTで測定したcpRNFLやGCC厚,HFAで算出した視野指標との間で,互いに有意な相関があることが示された.Yokoyamaら12)は,MBR値とcpRNFL厚,MD値の有意な相関を報告しているが,本研究では,乳頭血流パラメータとGCC厚,VFIにも相関があることを示した.GCC厚においてはより早期の緑内障評価に有用で5),VFIは患者の視機能をMDよりもよく反映しているとされており13),これらと相関があったことは,LSFGによる乳頭血流評価が早期緑内障発見や緑内障症例の視機能評価に寄与する可能性があると考えられた.NTGにおいては,眼圧非依存因子の関与が原発開放隅角緑内障(狭義)より強い14)とされ,なかでも眼循環障害が示唆される報告が多い.たとえば,NTG眼における乳頭血流の日内変動を測定した研究では,夜間に乳頭血流の低下する症例ほど,視野障害進行が大きいと報告されている15).緑内障眼と健常眼の循環動態と比較した研究では,緑内障眼では動静脈循環遅延がみられることや16),乳頭血流速度が低下している17)ことが報告されている.LSFGは,レーザースペックル法を応用した眼血流測定装置であり,乳頭や網脈絡膜における微小循環を非侵襲的,半定量的に評価することが可能である18,19).Yaoedaら20)は,乳頭辺縁部の血流変化と視野障害との相関に関して,原発開放隅角緑内障(狭義)眼では相関はなく,NTG眼では有意な相関があったことを報告している.また,NTG眼においては,正常眼に比べ血流量が低下していることや,乳頭血流量は乳頭陥凹や視野障害の程度と負の相関があることが報告されている21,22).緑内障眼の乳頭辺縁部の領域別組織血流と視野障害の程度を検討した報告では,パターン偏差上下比と血流の上下比に有意な相関があったとしている23).Chibaら10)は,全体拡大型乳頭を伴った緑内障眼の乳頭MBRは,cpRNFL厚,垂直C/D比(陥凹乳頭比)およびMD値と有意に相関していたとしている.本研究において,乳頭の組織領域の平均MBR値を示すMTは,MD値やVFIと有意な相関を示し,乳頭血流障害と視野障害との関連が示唆された.しかし,今回の症例は,すでに乳頭に緑内障性変化が生じている症例であり,乳頭の構造変化が組織血流低下に影響を及ぼしている可能性がある.乳頭辺縁部体積が減少するこ1390あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014とによりLSFGのパラメータが低下した可能性があり,さらに今後において検討する必要があると考えられた.緑内障病期の進行に伴い耳側血流比の減少がみられたという報告や23),近視性乳頭を有する緑内障眼の乳頭耳側,上方,下方のMTは正常群と比較すると有意に低かった12)などの報告がある.本研究においては,視神経乳頭を分割し領域別のMBR値を算出しておらず,今後の検討課題とする予定である.本研究において,MTはGCC厚やcpRNFL厚,乳頭形態パラメータのすべてに有意な相関を示した.このことは,乳頭組織血流低下と緑内障による網膜の構造上の変化との関連性があることが考えられた.緑内障においては,視神経乳頭の篩状板付近において約120万本の網膜神経節細胞の軸索である網膜神経線維が障害され,軸索輸送障害が起こるために網膜神経節細胞障害が生じるとされている.その結果,網膜神経線維が脱落して緑内障に特徴的な視神経乳頭陥凹拡大やrimの菲薄化および網膜神経線維層欠損などの緑内障性視神経症を生じるとされている.その原因としては眼圧因子の関与は多くの報告でいわれていることではあるが,今回の研究結果から,LSFGパラメータとGCC厚およびcpRNFL厚は有意な相関を示し,乳頭血流障害と網膜神経節細胞障害や視野障害の関連が示唆された.乳頭の循環障害は,視野障害や網膜神経線維層欠損よりも早く生じているのかを,preperimetricglaucomaなどを対象に研究を行っていく予定である.NTGにおける循環動態を研究することは,NTGの病態の解明および治療法の選択の一助となる可能性がある.また,乳頭血流を示すLSFGパラメータは,緑内障を経過観察するうえでGCC厚や,cpRNFL厚と異なる指標として有用である可能性がある.緑内障眼に対し,網膜神経節細胞に関連した網膜厚および乳頭血流を計測し,循環動態変化を捉え治療を再考することで,視野障害の進行速度を少しでも遅らせることが可能となるかもしれない.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:TheTajimiStudyGroup,JapanGlaucomaSociety:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20042)KitazawaY,ShiratoS,YamamotoT:Opticdischemorrhageinlow-tensionglaucoma.Ophthalmology93:853857,19863)JonasJB,NaumannGO:Parapapillaryretinalvesseldiameterinnormalandglaucomaeyes.II.Correlations.InvestOphthalmolVisSci30:1604-1611,19894)QuigleyHA,DunkelbergerGR,GreenWR:Retinalganglioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimetryinhumaneyeswithglaucoma.AmJOphthalmol107:453(142) 464,19895)山下力,家木良彰,後藤克聡ほか:上下半視野異常を有する早期緑内障眼のスペクトラルドメイン光干渉断層計による検討.臨眼64:869-875,20106)山下力,家木良彰,後藤克聡ほか:緑内障眼の黄斑部網膜神経節細胞複合体厚,網膜神経線維層厚,乳頭形態と視野指標.臨眼65:1057-1064,20117)YaoedaK,ShirakashiM,FunakiSetal:MeasurementofmicrocirculationintheopticnerveheadbylaserspeckleflowgraphyandscanninglaserDopplerflowmetry.AmJOphthalmol129:734-739,20008)坪井明里,白柏基宏,八百枝潔ほか:血管抽出機能を用いたレーザースペックルフローグラフィーの視神経乳頭微小循環測定.あたらしい眼科28:448-451,20119)AizawaN,KunikataH,YokoyamaYetal:Correlationbetweenopticdiscmicrocirculationinglaucomameasuredwithlaserspeckleflowgraphyandfluoresceinangiography,andthecorrelationwithmeandeviation.ClinExperimentOphthalmol42:293-294,201410)ChibaN,OmodakaK,YokoyamaYetal:Associationbetweenopticnervebloodflowandobjectiveexaminationsinglaucomapatientswithgeneralizedenlargementdisctype.ClinOphthalmol5:1549-1556,201111)AndersonDR,PatellaVM:AutomatedStaticPerimetry.2nded,p121-190,Mosby,StLouis,199912)YokoyamaY,AizawaN,ChibaNetal:Significantcorrelationsbetweenopticnerveheadmicrocirculationandvisualfielddefectsandnervefiberlayerlossinglaucomapatientswithmyopicglaucomatousdisk.ClinOphthalmol5:1721-1727,201113)BengtssonB,HeijlA:Avisualfieldindexforcalculationofglaucomarateofprogression.AmJOphthalmol145:343-353,200814)DownsJC,RobertsMD,BurgoyneCF:Mechanicalenvironmentoftheopticnerveheadinglaucoma.OptomVisSci85:425-435,200815)OkunoT,SugiyamaT,KojimaSetal:Diurnalvariationinmicrocirculationofocularfundusandvisualfieldchangeinnormal-tensionglaucoma.Eye18:697-702,200416)ArendO,PlangeN,SponselWEetal:Pathogeneticaspectsoftheglaucomatousopticneuropathy:fluoresceinangiographicfindingsinpatientswithprimaryopenangleglaucoma.BrainResBull62:517-524,200417)LoganJF,RankinSJ,JacksonAJ:Retinalbloodflowmeasurementsandneuroretinalrimdamageinglaucoma.BrJOphthalmol88:1049-1054,200418)SugiyamaT,AraieM,RivaCEetal:Useoflaserspeckleflowgraphyinocularbloodflowresearch.ActaOphthalmol88:723-729,201019)TamakiY,AraieM,KawamotoEetal:Noncontact,two-dimensionalmeasurementofretinalmicrocirculationusinglaserspecklephenomenon.InvestOphthalmolVisSci35:3825-3834,199420)YaoedaK,ShirakashiM,FukushimaAetal:Relationshipbetweenopticnerveheadmicrocirculationandvisualfieldlossinglaucoma.ActaOphthalmolScand81:253-259,200321)永谷建,田原昭彦,高橋広ほか:正常眼及び正常眼圧緑内障眼における視神経乳頭と脈絡膜の循環.眼臨95:1109-1113,200122)前田祥恵,今野伸介,松本奈緒美ほか:正常眼圧緑内障における視神経乳頭および傍乳頭網脈絡膜血流と視野障害の関連性.眼科48:525-529,200623)柴田真帆,杉山哲也,小嶌祥太ほか:LSFG-NAVIを用いた視神経乳頭辺縁部組織血流の領域別評価.あたらしい眼科27:1279-1285,2010***(143)あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141391

翼状片再発による角膜乱視の変化

2014年9月30日 火曜日

1384あたらしい眼科Vol.4109,21,No.3(00)1384(136)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(9):1384.1386,2014cはじめに翼状片は病変の進行に伴い角膜形状を変形させ,扁平化させる力学的作用を有する.そのため角膜乱視量や乱視軸に影響を及ぼすことは従来より報告1.6)されている.翼状片が再発した場合,角膜形状は直乱視化すると考えられ,直乱視であるときは角膜乱視量が増加し,倒乱視の場合は逆に角膜乱視量が減少すると考えられる(図1).しかし,筆者らが調べた限りではそのことを確かめた報告はなかった.今回,翼状片術後に再発した場合,角膜乱視がどのように変化するかについて検討した.I対象および方法対象は2004年8月から2012年3月までに当院にて翼状片単独手術もしくは白内障手術と同時に翼状片手術を受けた418名514眼のなかで,術後1カ月以内と4カ月以上の時点で角膜曲率半径の測定を行うことのできた101名121眼.翼状片は鼻側から発生した症例のみとし,翼状片以外の角膜曲率半径に影響を与える可能性のある角結膜疾患を有するものは除外した.白内障手術はすべて同一の術者が2.4mmの強角膜切開創から行った.清水2)は切開サイズが2.5mm以下の場合,術前術後の角膜乱視に変化はないとしており,竹下1)も過去に白内障手術と翼状片手術を同時に行っても屈折値の変化に差がないことを報告している.このため,白内障手術による惹起乱視は無視できるものとした.翼状片切除後,同位置から結膜下組織の異常増殖により再度角膜へ侵入したものを翼状片再発と定義した.翼状片再発の群を+(プラス)群,非再発群を.(マイナス)群とした.さらに翼状片切除手術後の角膜乱視軸の弱主〔別刷請求先〕蕪龍大:〒866-0293熊本県上天草市龍ヶ岳町高戸1419-19上天草市立上天草総合病院眼科Reprintrequests:RyotaKabura,DepartmentofOphthalmology,KamiamakusaGeneralHospital,1419-19RyugatakemachiTakado,Kamiamakusa,Kumamoto866-0293,JAPAN翼状片再発による角膜乱視の変化蕪龍大小野晶嗣竹下哲二上天草市立上天草総合病院眼科ChangesinCornealAstigmatismFollowingPterygiumRecurrenceRyotaKabura,AkitsuguOnoandTetsujiTakeshitaDepartmentofOphthalmology,KamiamakusaGeneralHospital翼状片が手術後に再発した場合と再発しなかった場合の角膜乱視の変化を検討した.翼状片の単独手術もしくは白内障と同時に手術を受けた101名121眼を対象とし,術後1カ月以内と4カ月以上経過時に角膜曲率半径を測定した.角膜乱視を直乱視群,倒乱視群,斜乱視群に分け,各群をさらに翼状片再発群と非再発群に分け,それぞれの乱視量の変化をCravy法を用いて検討した.翼状片が再発した倒乱視群は非再発の倒乱視群に対して有意に乱視量が減少していた.倒乱視では再発翼状片により強主経線の屈折力が減少し,直乱視では翼状片が再発しても乱視量の変化が少ないと思われた.Changesincornealastigmatismaftertherecurrenceofpterygiumarediscussed.Includedwere121eyesof101patients.Pterygiumsurgeriescomprisedpterygiumsurgeryaloneorsimultaneouslywithcataractsurgery.Cornealastigmatismwasmeasuredwithin1monthaftersurgeryandafter4monthsaftersurgery.Cornealastig-matismwasdividedinto3groups:astigmatism-with-the-rule,astigmatism-against-the-ruleandobliqueastigma-tism.Eachgroupwasfurtherclassifiedintorecurredgroupandnon-recurredgroup.TheCravymethodwasusedtocomparechangesinastigmatismamongthegroups.Astigmatismchangeintheagainst-the-rulerecurredgroupwasstatisticallysignificantincomparisontothatofagainst-the-rulenon-recurredgroup.Theconrneaseemstotransformitsshapesoastoberound.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(9):1384.1386,2014〕Keywords:翼状片,再発,乱視,手術.pterygium,recurrence,astigmatism,surgery.(00)1384(136)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(9):1384.1386,2014cはじめに翼状片は病変の進行に伴い角膜形状を変形させ,扁平化させる力学的作用を有する.そのため角膜乱視量や乱視軸に影響を及ぼすことは従来より報告1.6)されている.翼状片が再発した場合,角膜形状は直乱視化すると考えられ,直乱視であるときは角膜乱視量が増加し,倒乱視の場合は逆に角膜乱視量が減少すると考えられる(図1).しかし,筆者らが調べた限りではそのことを確かめた報告はなかった.今回,翼状片術後に再発した場合,角膜乱視がどのように変化するかについて検討した.I対象および方法対象は2004年8月から2012年3月までに当院にて翼状片単独手術もしくは白内障手術と同時に翼状片手術を受けた418名514眼のなかで,術後1カ月以内と4カ月以上の時点で角膜曲率半径の測定を行うことのできた101名121眼.翼状片は鼻側から発生した症例のみとし,翼状片以外の角膜曲率半径に影響を与える可能性のある角結膜疾患を有するものは除外した.白内障手術はすべて同一の術者が2.4mmの強角膜切開創から行った.清水2)は切開サイズが2.5mm以下の場合,術前術後の角膜乱視に変化はないとしており,竹下1)も過去に白内障手術と翼状片手術を同時に行っても屈折値の変化に差がないことを報告している.このため,白内障手術による惹起乱視は無視できるものとした.翼状片切除後,同位置から結膜下組織の異常増殖により再度角膜へ侵入したものを翼状片再発と定義した.翼状片再発の群を+(プラス)群,非再発群を.(マイナス)群とした.さらに翼状片切除手術後の角膜乱視軸の弱主〔別刷請求先〕蕪龍大:〒866-0293熊本県上天草市龍ヶ岳町高戸1419-19上天草市立上天草総合病院眼科Reprintrequests:RyotaKabura,DepartmentofOphthalmology,KamiamakusaGeneralHospital,1419-19RyugatakemachiTakado,Kamiamakusa,Kumamoto866-0293,JAPAN翼状片再発による角膜乱視の変化蕪龍大小野晶嗣竹下哲二上天草市立上天草総合病院眼科ChangesinCornealAstigmatismFollowingPterygiumRecurrenceRyotaKabura,AkitsuguOnoandTetsujiTakeshitaDepartmentofOphthalmology,KamiamakusaGeneralHospital翼状片が手術後に再発した場合と再発しなかった場合の角膜乱視の変化を検討した.翼状片の単独手術もしくは白内障と同時に手術を受けた101名121眼を対象とし,術後1カ月以内と4カ月以上経過時に角膜曲率半径を測定した.角膜乱視を直乱視群,倒乱視群,斜乱視群に分け,各群をさらに翼状片再発群と非再発群に分け,それぞれの乱視量の変化をCravy法を用いて検討した.翼状片が再発した倒乱視群は非再発の倒乱視群に対して有意に乱視量が減少していた.倒乱視では再発翼状片により強主経線の屈折力が減少し,直乱視では翼状片が再発しても乱視量の変化が少ないと思われた.Changesincornealastigmatismaftertherecurrenceofpterygiumarediscussed.Includedwere121eyesof101patients.Pterygiumsurgeriescomprisedpterygiumsurgeryaloneorsimultaneouslywithcataractsurgery.Cornealastigmatismwasmeasuredwithin1monthaftersurgeryandafter4monthsaftersurgery.Cornealastig-matismwasdividedinto3groups:astigmatism-with-the-rule,astigmatism-against-the-ruleandobliqueastigma-tism.Eachgroupwasfurtherclassifiedintorecurredgroupandnon-recurredgroup.TheCravymethodwasusedtocomparechangesinastigmatismamongthegroups.Astigmatismchangeintheagainst-the-rulerecurredgroupwasstatisticallysignificantincomparisontothatofagainst-the-rulenon-recurredgroup.Theconrneaseemstotransformitsshapesoastoberound.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(9):1384.1386,2014〕Keywords:翼状片,再発,乱視,手術.pterygium,recurrence,astigmatism,surgery. あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141385(137)経線が0.30°,151.180°のときを直乱視群,31.60°,121.150°のときを斜乱視群,61.120°のときを倒乱視群とし,計6群に分けた(図1,表1).+群は男性10名10眼,女性21名26眼の計36眼,.群では男性30名34眼,女性40名51眼の計85眼であった.対象者の平均年齢は+群が71.1±8.0歳,.群が71.0±8.5歳で両群間に有意差はなかった.翼状片手術から初回の角膜曲率半径計測日までの日数は6.15±1.20日であった.以下に示すCravy法を用いて乱視の変化量を算出した.術直後の角膜乱視の度数をC1(diopter),軸をA1°再発確認時の角膜乱視の度数をC2(diopter),軸をA2°としたとき,・角膜乱視の変化:sK=ΔX+ΔY(diopter)ここで・ΔX=|C2sinA2.C1sinA1|で|C1sinA1|>|C2sinA2|なら正,逆の場合は負.・ΔY=|C2cosA2.C1cosA1|で|C1cosA1|>|C2cosA2|なら正,逆の場合は負.・|A2.A1|>90°のときはA1=A1+180.・sK>0のとき直乱視化,0>sKのとき倒乱視化である.角膜曲率半径の測定にはオートレフケラトトポグラフィーであるTOMEY社製のREFTOPORT-6000を用い,トポグラフィーの測定結果を基に+群と.群の両群間にMann-Whitney-U-testにて検定を行った.II結果翼状片切除後から再発までの日数は22.949日(平均値±標準偏差:226±253日)であった.翼状片の再発率は7.0%であった.翼状片手術後と再発確認時の角膜乱視量の変化を表2に示す.角膜倒乱視群は角膜乱視量が1.64±1.30Dから1.39±1.13Dと有意に減少し直乱視化を認めたが,直乱視群,斜乱視群では有意差は認められなかった.角膜屈折力の変化は,全群間で有意差は認められなかった(表3)..群ではすべての乱視群において,角膜乱視量と角膜屈折力の変化に有意差が認められなかった(表4,5).翼状片手術後の倒.群と直.群間における乱視変化量はp=0.42で有意差は認められなかった.翼状片再発確認時の倒+群の乱視量変化は0.71±1.20D,経過観察時の倒.群の乱視量変化は0.10±1.73Dであり,両群間で倒+群は有意に角膜乱視量が減少し直乱視化した.直+群の角膜乱視量変化は0.18±1.47D,直.群では0.92±2.50D.斜+群の乱視量変化は0.68±2.13D,斜.群では0.14±1.14Dであった.直+群と直.群,斜+群と斜.群間には有意差が認められず,倒乱視化も直乱視化もしなかった(表6).III考察翼状片は良性な結膜疾患であるが,瞳孔領に達すると重篤な視力障害を引き起こす.橋本ら3)は,角膜輪部から3mm以上侵入すると不正乱視を引き起こすと述べている.また,北川4)は,再発翼状片は初発翼状片と異なり増殖組織と角膜,強膜,内直筋との癒着が顕著で,瞼球癒着とともに眼球の外転制限による複視がみられることがあると報告している.しかし,今回の症例ではそのような訴えや所見はなかった.以前,翼状片切除手術によって角膜の牽引が解除され,術前に角膜直乱視であった場合は術後の角膜乱視量が減少し倒乱視化したが,角膜倒乱視であった場合は術後の角膜乱視量の変化に有意差が得られなかったと報告した1).近江ら5)は図1翼状片再発による角膜形状の変化翼状片を切除すると角膜形状の変化によって倒乱視化し,再発時では直乱視化すると考えられる.初発翼状片再発翼状片切除経過術前術直後再発図2角膜乱視の分類斜乱視(121~150°)倒乱視(61~120°)斜乱視(31~60°)0°180°直乱視(0~30°,151~180°)表1角膜乱視の分類翼状片再発(n)翼状片非再発(n)術後直乱視直+群(5)直.群(22)術後倒乱視倒+群(23)倒.群(43)術後斜乱視斜+群(8)斜.群(20)計3685翼状片が再発した場合を+(プラス)群,再発しなかった場合を.(マイナス)群とした.強主経線が0.30°,151.180°のときを直乱視群,31.60°,121.150°のときを斜乱視群,61.120°のときを倒乱視群とした.再発翼状片切除経過術前術直後再発図1翼状片再発による角膜形状の変化翼状片を切除すると角膜形状の変化によって倒乱視化し,再発時では直乱視化すると考えられる.180°0°斜乱視(61~120°)斜乱視(121~150°)倒乱視(31~60°)直乱視(0~30°,151~180°)図2角膜乱視の分類経線が0.30°,151.180°のときを直乱視群,31.60°,121.150°のときを斜乱視群,61.120°のときを倒乱視群とし,計6群に分けた(図1,表1).+群は男性10名10眼,女性21名26眼の計36眼,.群では男性30名34眼,女性40名51眼の計85眼であった.対象者の平均年齢は+群が71.1±8.0歳,.群が71.0±8.5歳で両群間に有意差はなかった.翼状片手術から初回の角膜曲率半径計測日までの日数は6.15±1.20日であった.以下に示すCravy法を用いて乱視の変化量を算出した.術直後の角膜乱視の度数をC1(diopter),軸をA1°再発確認時の角膜乱視の度数をC2(diopter),軸をA2°としたとき,・角膜乱視の変化:sK=ΔX+ΔY(diopter)ここで・ΔX=|C2sinA2.C1sinA1|で|C1sinA1|>|C2sinA2|なら正,逆の場合は負.・ΔY=|C2cosA2.C1cosA1|で|C1cosA1|>|C2cosA2|なら正,逆の場合は負.・|A2.A1|>90°のときはA1=A1+180.・sK>0のとき直乱視化,0>sKのとき倒乱視化である.角膜曲率半径の測定にはオートレフケラトトポグラフィーであるTOMEY社製のREFTOPORT-6000を用い,トポ(137)表1角膜乱視の分類翼状片再発(n)翼状片非再発(n)術後直乱視直+群(5)直.群(22)術後倒乱視倒+群(23)倒.群(43)術後斜乱視斜+群(8)斜.群(20)計3685翼状片が再発した場合を+(プラス)群,再発しなかった場合を.(マイナス)群とした.強主経線が0.30°,151.180°のときを直乱視群,31.60°,121.150°のときを斜乱視群,61.120°のときを倒乱視群とした.グラフィーの測定結果を基に+群と.群の両群間にMannWhitney-U-testにて検定を行った.II結果翼状片切除後から再発までの日数は22.949日(平均値±標準偏差:226±253日)であった.翼状片の再発率は7.0%であった.翼状片手術後と再発確認時の角膜乱視量の変化を表2に示す.角膜倒乱視群は角膜乱視量が1.64±1.30Dから1.39±1.13Dと有意に減少し直乱視化を認めたが,直乱視群,斜乱視群では有意差は認められなかった.角膜屈折力の変化は,全群間で有意差は認められなかった(表3)..群ではすべての乱視群において,角膜乱視量と角膜屈折力の変化に有意差が認められなかった(表4,5).翼状片手術後の倒.群と直.群間における乱視変化量はp=0.42で有意差は認められなかった.翼状片再発確認時の倒+群の乱視量変化は0.71±1.20D,経過観察時の倒.群の乱視量変化は0.10±1.73Dであり,両群間で倒+群は有意に角膜乱視量が減少し直乱視化した.直+群の角膜乱視量変化は0.18±1.47D,直.群では0.92±2.50D.斜+群の乱視量変化は0.68±2.13D,斜.群では0.14±1.14Dであった.直+群と直.群,斜+群と斜.群間には有意差が認められず,倒乱視化も直乱視化もしなかった(表6).III考察翼状片は良性な結膜疾患であるが,瞳孔領に達すると重篤な視力障害を引き起こす.橋本ら3)は,角膜輪部から3mm以上侵入すると不正乱視を引き起こすと述べている.また,北川4)は,再発翼状片は初発翼状片と異なり増殖組織と角膜,強膜,内直筋との癒着が顕著で,瞼球癒着とともに眼球の外転制限による複視がみられることがあると報告している.しかし,今回の症例ではそのような訴えや所見はなかった.以前,翼状片切除手術によって角膜の牽引が解除され,術前に角膜直乱視であった場合は術後の角膜乱視量が減少し倒乱視化したが,角膜倒乱視であった場合は術後の角膜乱視量の変化に有意差が得られなかったと報告した1).近江ら5)はあたらしい眼科Vol.31,No.9,20141385 表2術後と再発確認時の角膜乱視量の変化n術後(D)再発確認時(D)有意差倒乱視231.64±1.301.39±1.13*直乱視51.21±0.810.93±0.41NS斜乱視81.22±1.341.21±0.88NS*p<0.005.表4術後と経過時の角膜乱視量の変化n術後(D)4M以上経過時(D)有意差倒乱視431.22±1.021.20±0.98NS直乱視221.37±1.101.39±1.28NS斜乱視200.68±0.440.75±0.82NS表6+群と.群の結果n年齢ΔX+ΔY有意差倒+群2472±6.50.71±1.20倒.群4374±8.00.10±1.73*直+群571±2.20.18±1.47直.群2268±6.40.92±2.50N.S.斜+群871±8.10.68±2.13斜.群2069±8.30.14±1.14N.S.症例数(n)と各群の年齢およびCravy法の結果を平均値±標準偏差で示した.倒+群と倒.群の両群間のみ有意差を認めた.*p<0.05.翼状片切除手術前後における角膜上下耳鼻側の角膜曲率半径の変化について,鼻側の角膜曲率半径のみ術前の角膜形状が扁平化から術後正常化したと述べている.角膜に非対称成分があったとしても翼状片によって引き起こされた乱視は,切除することで本来の角膜屈折力に近づくと考えられた.翼状片が再発した場合は,この逆で角膜の鼻側成分のみが耳側に対して非対称性に扁平化するということが発生したと考えられた.翼状片の再発により角膜形状が直乱視化することは従来より報告されている5.7).翼状片切除後の倒.群と直.群間における乱視量変化に有意差がなかったのに対し,倒+群のみではあったが翼状片が再発したことで有意に角膜乱視量が減少した理由は,翼状片によって角膜形状が変化し強主経線の角膜曲率半径が大きくなったためと考えられた.しかしながら,直乱視ではその変化量は少ないものと考えられ,今表3術後と再発確認時の角膜屈折力の変化n術後(D)再発確認時(D)有意差倒乱視2344.48±1.0644.52±1.18NS直乱視544.28±1.4144.51±1.04NS斜乱視844.65±1.4244.63±1.42NS表5術後と経過時の角膜屈折力の変化n術後(D)4M以上経過時(D)有意差倒乱視4344.56±1.4544.67±1.48NS直乱視2244.44±1.4444.40±1.61NS斜乱視2044.48±0.8944.52±1.02NS回の報告では直+群での直乱視化は認められない結果となった.日本人では若年層では角膜直乱視が圧倒的に多く,60歳代で角膜直乱視と角膜倒乱視の割合がほぼ同等になり,70歳を超えるとその数が逆転するという報告がある8).今回の結果では平均年齢が70歳前後だったことより,角膜倒乱視が大半を占めた.また,翼状片が再発すると角膜倒乱視は軽減するという結果となったが,翼状片が大きくなると癒着が強くなり,手術が困難となるため初回手術を適切な時期に再発が少ないと思われる方法で行うべきである.文献1)竹下哲二,吉岡久史:白内障手術と同時に行った翼状片手術の術後成績.臨眼63:933-935,20092)清水公也:角膜耳側切開白内障手術.眼科37:323-330,19953)橋本千草,山田昌和,小関茂之ほか:翼状片手術前後における角膜乱視の変化.眼科42:75-80,20004)北川和子:翼状片.日本の眼科73:575-578,20025)近江源次郎,大路正人,切通彰ほか:翼状片による角膜形状の変化.臨眼42:875-878,19886)富所敦男,江口甲一郎,多田桂一ほか:翼状片手術による角膜形状の変化.あたらしい眼科11:407-410,19947)坂口泰久,鮫島智一,宮田和典:翼状片の大きさが角膜形状に及ぼす影響.あたらしい眼科16:1135-1137,19998)林研,桝本美樹,藤野鈴枝ほか:加齢による角膜乱視の変化.日眼会誌97:1193-1196,1993***(138)

糖尿病患者でのトラボプロスト点眼液の点状表層角膜症と結膜充血に対する影響

2014年9月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科31(9):1379.1383,2014c糖尿病患者でのトラボプロスト点眼液の点状表層角膜症と結膜充血に対する影響湯川英一*1,2坂ノ下和弘*3大萩豊*4志水敏夫*5緒方奈保子*2*1ゆかわ眼科クリニック*2奈良県立医科大学眼科学教室*3坂ノ下眼科*4おおはぎ眼科クリニック*5志水眼科EffectsofTraboprostOphthalmicSolutiononSuperficialPunctateKeratopathyandConjunctivalHyperemiainDiabeticPatientsEiichiYukawa1,2),KazuhiroSakanoshita3),YutakaOhagi4),ToshioShimizu5)andNahokoOgata2)1)YukawaEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,NaraMedicalUniversity,3)SakanoshitaEyeClinic,4)5)ShimizuEyeClinicOhagiEyeClinic,塩化ベンザルコニウムを含有するプロスタグランジン製剤が単独で投与されている糖尿病を有する緑内障および高眼圧症患者36例36眼に対し,塩化ベンザルコニウムを含有しないトラボプロスト点眼液へ変更することにより,点状表層角膜症と結膜充血に変化がみられるかを検討した.点眼変更後の評価は変更後1カ月目,2カ月目,3カ月目,6カ月目に行った.点状表層角膜症の評価はAD分類を用いてスコア化を行い,また結膜充血に対しては充血の程度に合わせて4段階で評価したところ,点状表層角膜症においては点眼変更後に有意な改善が認められ,結膜充血には有意差は認めなかった.また,同時に測定した眼圧値については点眼変更前と比べて有意差は認めなかったものの,点眼変更前後でのADスコア差とHbA1Cとの間には負の相関関係が認められた.Weinvestigatedwhetherswitchingtotraboprostophthalmicsolutionnotcontainingbenzalkoniumchloridecausesanychangesinsuperficialpunctatekeratopathyandconjunctivalhyperemia.Thestudyinvolved36diabeticpatients(36eyes)whohadglaucomaandocularhypertension,andwhoreceivedasmonotherapyprostaglandinpreparationscontainingbenzalkoniumchloride.At1,2,3and6monthsafterswitching,thepatientswereevaluatedbasedonscoringwithanADclassificationforsuperficialpunctatekeratopathyandwithhyperemiaseverityratingona1.4scaleforconjunctivalhyperemia.Theresultsdemonstratedasignificantimprovementinsuperficialpunctatekeratopathyafterswitching,andnosignificantchangeinconjunctivalhyperemia.Additionally,althoughafterswitchingtherewasnosignificantdifferenceinintraocularpressurelevelsasmeasuredconcomitantly,negativecorrelationwasobservedbetweendifferencesinADscoresandHbA1Caftertheswitch.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(9):1379.1383,2014〕Keywords:トラボプロスト点眼液,糖尿病,点状表層角膜症,ADスコア,HbA1C.Travoprostophthalmicsolution,diabetes,superficialpunctatekeratopathy,ADscore,HbA1C.はじめに緑内障治療の目的は視野を維持することにある.そして,視野維持には眼圧下降が重要な因子であることがこれまでの多くの論文で示されており1.8),わが国ではより大きな眼圧下降効果を期待してプロスタグランジン製剤の点眼薬が多く使用されている.そのなかでもトラボプロスト点眼液は防腐剤として塩化ベンザルコニウム(benzalkoniumchloride:BAC)を使用せず,塩化亜鉛を含有するため,これまでに角膜上皮細胞に対する障害がBAC含有の点眼液よりも少ないことが報告されている9.11).一方で,糖尿病患者においては潜在的に角膜上皮の異常が存在し,内眼手術やレーザー手術などを契機として糖尿病角膜上皮症が発症することがあるこ〔別刷請求先〕湯川英一:〒635-0825奈良県北葛城郡広陵町安部236-1-1ゆかわ眼科クリニックReprintrequests:EiichiYukawa,M.D.,YukawaEyeClinic,236-1-1Abe,Koryo-cho,Kitakatsuragi-gun,Nara,635-0825,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(131)1379 表1患者の背景データ(36例36眼)年齢(歳)*67.0±9.9(48.85)性別(男/女)20/16HbAlc(国際標準値)(%)*6.7±0.7(5.4.8.2)インスリン投与(例数)5糖尿病罹病期間別(例数)5年未満45年以上.10年未満710年以上.20年未満1320年以上12変更前PG製剤(眼数)ラタノプロスト24タフルプロスト10ビマ卜プロスト2併用点眼薬(眼数)ヒアルロン酸ナトリウム7ジクアホソルナトリウム2ピレノキシン3*数値は平均値±標準偏差(最小値.最大値)を示す.HbA1Cは観察開始時の値を示す.PG:プロスタグランジン.とや12),さらには抗緑内障点眼薬を長期にわたり使用することにより,高頻度に角膜上皮障害が発生することが報告されている13,14).そこで今回筆者らは抗緑内障点眼薬としてトラボプロスト以外のプロスタグランジン製剤が単剤で投与されている糖尿病を有する緑内障患者に対して,トラボプロストに切り替えることで点状表層角膜症(superficialpunctatekeratopathy:SPK)と結膜充血に対し,どの程度の影響がみられるかを検討したので報告する.I対象および方法対象は平成24年9月から平成25年5月までに坂ノ下眼科,おおはぎ眼科,志水眼科,ゆかわ眼科のうち,いずれかを受診した糖尿病を有する緑内障および高眼圧症患者のうち,抗緑内障点眼薬としてBAC含有プロスタグランジン製剤が単剤で少なくとも3カ月以上投与され,SPKを認めた36例36眼(男性20例,女性16例,平均年齢67.0歳)とした.ただし,1年以内に内眼手術の既往歴がある症例は対象から除外し,両眼が条件に合った場合は右眼を対象とした.また,抗緑内障点眼薬以外の併用薬の継続使用は可とした.今回の対象となった症例の背景データを表1に示す.これらの症例について,インフォームド・コンセントを得たうえでトラボプロスト点眼液へ変更し,点眼変更前と点眼変更後1カ月目,2カ月目,3カ月目,6カ月目でSPKと結膜充血の程度および眼圧を評価した.SPKの程度はAD分類を用い15),それぞれのポイントを加算(A+D)し,ADスコアとして評価した.結膜充血の程度は充血なしを0ポイント,軽度を1ポイント,中等度を2ポイント,強度を3ポイントとしてスコア化し評価した.眼圧測定はGoldmann圧平式眼圧計を用い,点眼変更前と点眼変更後はすべて同じ時1380あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014間帯で測定した.また,SPKと結膜充血についてはそれぞれ点眼変更前と点眼変更後でのスコア差と,最終観察時でのHbA1C(国際標準値)との相関についても調べた.統計学的な処理については危険率5%未満を有意とした.II結果ADスコアのそれぞれの期間での度数分布を図1に示す.ADスコアは変更前に比べて有意に低下した(Kruskal-Wallis検定にてp<0.001).また,点眼変更前と点眼変更後6カ月目において,併用薬を使用していない群(21例21眼)と併用薬を使用していた群(12例12眼)に分けて検討した結果でも,それぞれの群で変更前に比べて有意な改善を認めた(併用薬なし群ではWilcoxon符号付順位和検定にてp<0.01,併用薬あり群ではWilcoxon符号付順位和検定にてp<0.05).結膜充血スコアのそれぞれの期間での度数分布を図2に示す.充血スコアは点眼変更前後で有意差は認めなった(Kruskal-Wallis検定にてp=0.9712).眼圧に関しては点眼変更前15.3±2.5mmHgであり,点眼変更後1カ月目14.8±3.1mmHg,2カ月目14.8±2.5mmHg,3カ月目14.8±2.6mmHg,6カ月目14.8±2.2mmHgであり,変更前後で有意差は認めなった(一元配置分散分析にてp=0.8834)(図3).また,点眼変更前後でのADスコア差と最終観察時でのHbA1Cとの間には有意な負の相関関係が認められたが(Spearman順位相関係数検定にてp=0.030548,相関係数r=.0.3656)(図4),点眼変更前後での結膜充血スコア差とHbA1Cとの間には有意な相関関係は認められなかった(Spearman順位相関係数検定にてp=0.424899,相関係数r=0.134878)(図5).III考按トラボプロストは,わが国においてラタノプロストについで2007年に販売が開始されたプロスト系プロスタグランジン製剤の抗緑内障点眼液である.その特徴の一つとして従来の防腐剤であるBACを含有せず,代わりに緩衝剤としてのホウ酸/ソルビトールの存在下で塩化亜鉛が殺菌作用を示すsofZiaTMを使用することで,これまでに角膜上皮に対する障害が少ないことが報告されている9.11).そして,糖尿病患者では涙液分泌の量的質的低下,角膜知覚の低下,基底膜異常による上皮細胞と実質との接着低下などにより,角膜上皮障害が生じやすく16.18),さらには抗緑内障薬を含む点眼液を使用することで糖尿病患者では非糖尿病患者に比べて角膜上皮障害が生じやすいことも報告されている19,20).井上ら20)は,角膜上皮障害発生に寄与する因子として,年齢,HbA1C,糖尿病罹病期間,涙液層の状態,角膜知覚,糖尿病網膜症の程度を検討した結果,涙液層の質的低下が上皮障害発生に関与(132) :充血スコア1■:充血スコア0:ADスコア2■:ADスコア040■:ADスコア4■:ADスコア3■:充血スコア3■:充血スコア2403535303010105500変更前変更変更変更変更変更前変更変更変更変更1カ月後2カ月後3カ月後6カ月後1カ月後2カ月後3カ月後6カ月後図1ADスコアの度数分布図2結膜充血スコアの度数分布点眼変更後に角膜所見は有意に改善した.Kruskal-Wallis点眼変更前後で有意差は認めなかった.Kruskal-Wallis検定にてp=2.3×10.4.検定にてp=0.9712.例数(眼)例数(眼)252015眼圧(mmHg)20151050●は平均値を,バーは標準偏差を示す変更前変更変更変更変更HbA1c(%)(最終観察時)98.587.576.565.5-521カ月後2カ月後3カ月後6カ月後-10123(眼数)(36)(36)(33)(33)(33)ADスコア差(変更前スコア-変更後スコア)図3眼圧の推移図4変更前後でのADスコア差(変更前スコア.変更後点眼変更前後で有意差は認めなかった.一元配置分散分析スコア)とHbA1Cの相関にてp=0.8834両者に有意な負の相関関係が認められた.Spearman順位相関係数検定にてp=0.030548,相関係数r=.0.3656.9HbA1c(%)(最終観察時)8.587.576.565.5-53-2-101結膜充血スコア差(変更前スコア-変更後スコア)していたことを報告している.そして,今回の症例をみると併用薬としてヒアルロン酸ナトリウム点眼液が7例に,ジクアホソルナトリウム点眼液が2例に使用されていることから,少なくともこれらの症例では涙液層の異常が生じていることが考えられ,今後引き続きトラボプロストを使用することで,このような点眼薬を中止できるのかは検討していく必要がある.また,角膜上皮障害の発生とHbA1Cについては関連がないことが報告されており20),今回も点眼変更前ADスコアと観察開始時でのHbA1Cとの間では相関関係は認め図5変更前後での結膜充血スコア差(変更前スコア.変更後スコア)とHbA1Cの相関両者に相関関係は認められなかった.Spearman順位相関係数検定にてp=0.424899,相関係数r=0.134878.(133)なかった(Spearman順位相関係数検定にてp=0.578721).しかし,SPK改善の程度を示す指標であるADスコアの差(点眼変更前スコア.点眼変更後スコア)については最終観察時でのHbA1Cが低いほど,すなわち血糖コントロールが良好なほどSPKにより大きな改善がみられたことは興味深あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141381 い(Spearman順位相関係数検定にてp=0.030548,相関係数r=.0.3656).なお,今回の対象ついては糖尿病の罹病期間が5年未満の症例が36例中わずか4例であり,内科的にも治療内容は安定しており,観察開始時でのHbA1CとADスコア差の相関をみても有意差が認められた(Spearman順位相関係数検定にてp=0.017829,相関係数r=.0.3326).ただ今回はSPKの程度評価にAD分類を用いたが,ADスコアは変動が大きく,変動前スコアは変更直前の1回のみで評価を行った.近年は角膜を5象限に分け,それぞれを0.3ポイントで評価するNEI(NationalEyeInstitute)分類21)がより詳細であり,今後検討の余地があるものと考える.結膜充血に関しては海外でBAC含有トラボプロストとラタノプロストでの比較が行われ,Netlandら22)は12カ月の投与にてそれぞれ38.0%と27.6%,Parrishら23)は3カ月の投与にてそれぞれ58.0%と47.1%で,ともにBAC含有トラボプロストのほうが結膜充血が強いことを報告している.一方でAiharaら11)は,ラタノプロスト続行群とラタノプロストからBAC非含有トラボプロストへの切り替え群では3カ月の投与で結膜充血には差がなかったことを報告しており,今回の筆者らの結果も同様であった.ただし変更後1カ月目には3例が脱落しており,その原因として1例は眼圧が20mmHgから23mmHgへと上昇したため,患者の希望により元の点眼へと戻したが,他の2例はともにADスコアに変化はなかったものの,結膜充血スコアが1例は0から2へ,もう1例は1から2へと悪化し,点眼時の刺激感が強いとの訴えにより中止となっている.また,眼圧下降効果についてはラタノプロストからトラボプロストへの変更による臨床研究では,眼圧は下降あるいは同等であるとの報告が多く22.24),今回はラタノプロスト24眼,タフルプロスト10眼,ビマトプロスト2眼からの切り替えであったが眼圧下降に有意差は認めなかった.以上のことから糖尿病を有する緑内障患者のうち,BAC含有抗緑内障点眼薬使用によりSPKが認められる症例に対しては選択肢の一つとしてトラボプロスト点眼薬に変更することも考慮に入れ,さらには比較的血糖コントロールが良好である症例に対しては積極的な変更がSPKの改善にはより有効であると考えられた.文献1)GrantWN,BurkeJF:Whydosomepeoplegoblindfromglaucoma?Ophthalmology89:991-998,19822)MaoLK,StewartWC,ShieldsMB:Correlationbetweenintraocularpressurecontrolandprogressiveglaucomatousdamageinprimaryopen-angleglaucoma.AmJOphthalmol111:51-55,19913)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetween1382あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014untreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19984)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19985)BergeaB,BodinL,SvedberghB:Impactofintraocularpressureregulationonvisualfieldsinopen-angleglaucoma.Ophthalmology106:997-1005,19996)TheAGISInvestigators.TheAdvancedGlaucomaInterventionStudy(AGIS):7:Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualfielddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20007)HeijlA,LeskeMC,BengtssonBetal:Reductionofintraocularpressureandglaucomaprogression:resultsfromtheearlymanifestglaucomatrial.ArchOphthalmol120:1268-1279,20028)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal:Factorsforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment:theearlymanifestglaucomatrial.ArchOphthalmol121:48-56,20039)湖崎淳,大谷伸一郎,鵜木一彦ほか:トラボプロスト点眼液の臨床使用成績─眼表面への影響─.あたらしい眼科26:101-104,200910)山崎仁志,宮川靖博,目時友美ほか:トラボプロスト点眼液の点状表層角膜症に対する影響.あたらしい眼科27:1123-1126,201011)AiharaM,OshimaH,AraieMetal:EffectsofSofZiapreservedtravoprostandbenzalkoniumchloride-preservedlatanoprostontheocularsurface─amulticentrerandomizedsingle-maskedstudy.ActaOphthalmol91:e7-e14,201312)大橋裕一:糖尿病角膜症.日眼会誌101:105-110,199713)高橋奈美子,.福みどり,西村朋子ほか:抗緑内障点眼薬の単剤あるいは2剤併用の長期投与による角膜障害の出現頻度.臨眼53:1199-1203,199914)宮崎正人,青山裕美子,落合恵蔵ほか:抗緑内障薬の角膜上皮バリアー機能への影響に対する検討.眼紀49:811816,199815)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,199416)小川葉子,鴨下泉,真島行彦ほか:糖尿病における涙液クリアランスと角結膜知覚の関係.臨眼47:991-994,199317)片上千加子:糖尿病の神経眼科:角膜知覚,涙液.眼紀46:109-114,199518)小川葉子,鴨下泉,吉野健一ほか:糖尿病患者におけるドライアイ.あたらしい眼科9:1867-1870,199219)InoueK,OkugawaK,KatoSetal:Ocularfactorsrelevanttokeratoepitheliopathyinglaucomapatientswihandwithoutdiabetesmellitus.JpnJOphthalmol47:287-290,200320)井上賢治,加藤聡,大原千佳ほか:点眼薬使用中の糖尿病患者における角膜上皮障害.あたらしい眼科18:14331437,200121)LempMA:Reportofthenationaleyeinstitute/industry(134) workshoponclinicaltrialsindryeyes.CLAOJ21:221232,199522)NetlandPA,LandryT,SullivanEKetal:Travoprostcomparedwithlatanoprostandtimololinpatientwithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol132:472-484,200123)ParrishRK,PalmbergP,SheuWPetal:Acomparisonoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinpatientswithelevatedintraocularpressure:a12-week,randomized,masked-evaluatormulticenterstudy.AmJOphthalmol135:688-703,200324)KabackM,GeanonJ,KatzGetal:Ocularhypotensiveefficacyoftravoprostinpatientsunsuccessfullytreatedwithlatanoprost.CurrMedResOptin21:1341-1345,2004***(135)あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141383

カルテオロール塩酸塩LA点眼液「わかもと」のヒト角膜 上皮細胞への影響と保存効力の検討

2014年9月30日 火曜日

1374あたらしい眼科Vol.4109,21,No.3(00)1374(126)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(9):1374.1378,2014cはじめに長期にわたって点眼を余儀なくされる緑内障患者には,眼表面疾患を伴っている割合が高いことが報告されている1).また,その重症度は点眼液の種類や点眼回数の増加により高まる傾向にあり1,2),これらの疾患には主薬の他にも点眼液中に含まれる防腐剤の種類や濃度が大きく関係していると考〔別刷請求先〕高嶋光代:〒103-8330東京都中央区日本橋本町2-2-2わかもと製薬株式会社Reprintrequests:MitsuyoTakashima,WakamotoPharmaceuticalCo.,Ltd.,2-2,Nihonbashi,Honcho2-Chome,Chuo-ku,Tokyo103-8330,JAPANカルテオロール塩酸塩LA点眼液「わかもと」のヒト角膜上皮細胞への影響と保存効力の検討高嶋光代*1高橋佑次*1中林夏子*1山村雄*1倉澤崇*1伊藤雅起*1内藤聡*1富田剛司*2*1わかもと製薬株式会社*2東邦大学医療センター大橋病院眼科InVitroEvaluationofGenericLong-ActingCarteololOphthalmicSolutionWAKAMOTORegardingHumanCornealDamagesandthePreservativeActivityMitsuyoTakashima1),YujiTakahashi1),NatsukoNakabayashi1),TakeruYamamura1),TakashiKurasawa1),MasakiIto1),AkiraNaito1)andGojiTomita2)1)WakamotoPharmaceuticalCo.,Ltd,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:カルテオロール塩酸塩LA点眼液「わかもと」(以下,LA-W)の角膜上皮細胞に対する安全性と保存効力を評価した.方法:SV40不死化ヒト由来角膜上皮細胞(HCE-T)を用い,HCE-Tに対するLA-Wおよびカルテオロール塩酸塩持続性点眼液(以下,MLA)の角膜上皮細胞に対する安全性を検討した.評価は50%細胞致死時間(CDT50),occludinの免疫染色および経上皮電気抵抗値(TER)を指標とした.LA-Wの保存効力については,指定菌株を用いて日本薬局方(第十六改正)を参考に実施した.結果:HCE-Tに対するCDT50は,LA-W処置群で1%および2%いずれも10.00分以上,MLA処置群では1%で2.62分,2%で4.14分を示した.Occludinの分布変化は,MLA処置群よりもLA-Wのほうが小さかった.また,TERはLA-WのほうがMLAよりも早期に回復した.さらに保存効力試験において,LA-Wはすべての菌株で日本薬局方の判定基準に適合した.結論:本評価系においてLA-Wはヒト角膜上皮細胞への影響が少なく,保存効力も十分に有していることが確認された.Purpose:Toevaluatethecornealepithelialcellcytotoxicityandpreservativeeffectofgenericlong-actingcarteololophthalmicsolution(LA-W).Methods:SV40-immortalizedhumancornealepithelialcellline(HCE-T)wasusedforinves-tigatingcytotoxicity.AfterexposuretoLA-Worbland-namelong-actingcarteololophthalmicsolution(MLA),50%cell-damagetime(CDT50)andtransepithelialelectricalresistance(TER)weremeasured.Inaddition,occludin,atightjunctionproteinwasimmunostainedafterexposuretothoseformulations.LA-Wwastestedforpreservativeeffectivenessinaccor-dancewiththeJapanesePharmacopoeia(JP16).Result:CDT50forHCE-TwithLA-W1%and2%wasmorethan10min;withMLA1%and2%itwas2.62minand4.14min,respectively.TheTERofLA-WrecoveredearlierthandidthatofMLA.LA-WdidnotaffectoccludindistributioninHCE-T,whereasMLAaffectedaportionofit.Preservative-effectivenesstestresultsforLA-WconformedtoJPcriteria.Conclusion:LA-Wislessdamagingtoocularsurfacetissueandhassufficientpreservativeactivity.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(9):1374.1378,2014〕Keywords:カルテオロール塩酸塩持続性点眼液,ベンザルコニウム塩化物(BAC),50%細胞致死時間,タイトジャンクション,保存効力.long-actingcarteololophthalmicsolution,benzalkoniumchloride,CDT50,tightjunction,preservative-effectiveness.(00)1374(126)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(9):1374.1378,2014cはじめに長期にわたって点眼を余儀なくされる緑内障患者には,眼表面疾患を伴っている割合が高いことが報告されている1).また,その重症度は点眼液の種類や点眼回数の増加により高まる傾向にあり1,2),これらの疾患には主薬の他にも点眼液中に含まれる防腐剤の種類や濃度が大きく関係していると考〔別刷請求先〕高嶋光代:〒103-8330東京都中央区日本橋本町2-2-2わかもと製薬株式会社Reprintrequests:MitsuyoTakashima,WakamotoPharmaceuticalCo.,Ltd.,2-2,Nihonbashi,Honcho2-Chome,Chuo-ku,Tokyo103-8330,JAPANカルテオロール塩酸塩LA点眼液「わかもと」のヒト角膜上皮細胞への影響と保存効力の検討高嶋光代*1高橋佑次*1中林夏子*1山村雄*1倉澤崇*1伊藤雅起*1内藤聡*1富田剛司*2*1わかもと製薬株式会社*2東邦大学医療センター大橋病院眼科InVitroEvaluationofGenericLong-ActingCarteololOphthalmicSolutionWAKAMOTORegardingHumanCornealDamagesandthePreservativeActivityMitsuyoTakashima1),YujiTakahashi1),NatsukoNakabayashi1),TakeruYamamura1),TakashiKurasawa1),MasakiIto1),AkiraNaito1)andGojiTomita2)1)WakamotoPharmaceuticalCo.,Ltd,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:カルテオロール塩酸塩LA点眼液「わかもと」(以下,LA-W)の角膜上皮細胞に対する安全性と保存効力を評価した.方法:SV40不死化ヒト由来角膜上皮細胞(HCE-T)を用い,HCE-Tに対するLA-Wおよびカルテオロール塩酸塩持続性点眼液(以下,MLA)の角膜上皮細胞に対する安全性を検討した.評価は50%細胞致死時間(CDT50),occludinの免疫染色および経上皮電気抵抗値(TER)を指標とした.LA-Wの保存効力については,指定菌株を用いて日本薬局方(第十六改正)を参考に実施した.結果:HCE-Tに対するCDT50は,LA-W処置群で1%および2%いずれも10.00分以上,MLA処置群では1%で2.62分,2%で4.14分を示した.Occludinの分布変化は,MLA処置群よりもLA-Wのほうが小さかった.また,TERはLA-WのほうがMLAよりも早期に回復した.さらに保存効力試験において,LA-Wはすべての菌株で日本薬局方の判定基準に適合した.結論:本評価系においてLA-Wはヒト角膜上皮細胞への影響が少なく,保存効力も十分に有していることが確認された.Purpose:Toevaluatethecornealepithelialcellcytotoxicityandpreservativeeffectofgenericlong-actingcarteololophthalmicsolution(LA-W).Methods:SV40-immortalizedhumancornealepithelialcellline(HCE-T)wasusedforinves-tigatingcytotoxicity.AfterexposuretoLA-Worbland-namelong-actingcarteololophthalmicsolution(MLA),50%cell-damagetime(CDT50)andtransepithelialelectricalresistance(TER)weremeasured.Inaddition,occludin,atightjunctionproteinwasimmunostainedafterexposuretothoseformulations.LA-Wwastestedforpreservativeeffectivenessinaccor-dancewiththeJapanesePharmacopoeia(JP16).Result:CDT50forHCE-TwithLA-W1%and2%wasmorethan10min;withMLA1%and2%itwas2.62minand4.14min,respectively.TheTERofLA-WrecoveredearlierthandidthatofMLA.LA-WdidnotaffectoccludindistributioninHCE-T,whereasMLAaffectedaportionofit.Preservative-effectivenesstestresultsforLA-WconformedtoJPcriteria.Conclusion:LA-Wislessdamagingtoocularsurfacetissueandhassufficientpreservativeactivity.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(9):1374.1378,2014〕Keywords:カルテオロール塩酸塩持続性点眼液,ベンザルコニウム塩化物(BAC),50%細胞致死時間,タイトジャンクション,保存効力.long-actingcarteololophthalmicsolution,benzalkoniumchloride,CDT50,tightjunction,preservative-effectiveness. 察されている3).ベンザルコニウム塩化物(以下,BAC)は高い保存効力を有し,水溶性で化学的にも安定なことから,マルチドーズ型点眼薬に頻用されている防腐剤である4).その一方で,BACは角結膜上皮障害などの副作用を引き起こすことが多々報告されており3.5),点眼液中BAC濃度の設定には点眼液の保存効力に加えて眼表面への安全性も考慮する必要がある.カルテオロール塩酸塩LA点眼液「わかもと」(わかもと製薬㈱,以下,LA-W)は,カルテオロール塩酸塩を1%または2%含有する持続型緑内障・高眼圧症治療用点眼液であり,ミケランRLA点眼液(大塚製薬㈱,以下,MLA)の後発品として開発された.両者はともに防腐剤としてBACを含有しているが,LA-WはBAC濃度を0.001%まで抑え眼表面への影響を考慮しているのが特徴である.本研究においては,LA-Wの眼表面に対する安全性についてヒト角膜上皮細胞を用いて検討し,加えて,LA-Wの保存効力を日本薬局方の保存効力試験を参考に評価した.I材料および方法1.試験物質および試薬LA-W1%および2%,MLA1%および2%を使用した.ヒト角膜上皮細胞を用いた安全性評価試験には,陰性対照としてphosphatebufferedsaline(PBS)(Gibco,Lifetechnolo-gies),陽性対照としてベンザルコニウム塩化物(BAC,東京化成工業㈱)のPBS溶解液(BAC0.001%/0.002%/0.005%/0.02%)を適宜用いた.2.ヒト由来角膜上皮細胞による安全性評価SV40不死化ヒト由来角膜上皮細胞(以下HCE-T,RCBNo.2280:理化学研究所)は,Supplementedhormonalepithelialmedium(SHEM)改変培養培地〔5%ウシ胎児血清(FBS),10ng/mLEGF,5μg/mLインスリン,0.5%DMSOを含むDMEM/F-12〕にて37°C,5%CO2下で培養した.a.細胞障害性試験HCE-Tは96wellプレートに2×104cells/wellとなるように播種し,CO2インキュベーター内で24時間培養した.つぎに,培養培地からLA-WおよびMLAの1%または2%,PBS,BAC溶液(0.001,0.005%)50μLへそれぞれ置換し,1,2,5または10分間接触させた.その後,PBSによる洗浄を経て培養培地100μLに置換し,CO2インキュベーター内で再び24時間培養した.各wellにCellCountingKit-8(同仁化学研究所)を10μLずつ添加しCO2インキュベーター内で2時間培養後,マイクロプレートリーダー(InfiniteM200FLABS,テカンジャパン㈱)により吸光度(450/630nm)を測定した.PBS処置群の吸光度を100として,細胞生存率(%)を算出した後,各種点眼薬の50%細胞致死時間(以下,CDT50)を算出した.(127)b.Occludinの免疫染色HCE-Tは24wellプレートに5×104cells/wellとなるように播種し,CO2インキュベーター内で3日間培養した.次に培養培地をLA-WおよびMLAの2%,PBSおよびBAC溶液(0.002%)300μLに置換し,10分間接触させた.その後,PBSにより試験物質を洗浄除去し,.20°Cに冷却した100%メタノールで約15分間固定した.1%BSA/PBSを1時間室温処置でブロッキング後,1次抗体の抗occludin抗体(1:100,Invitrogen)を,続いて2次抗体としてAlexaFlour-488-conjugatedanti-mouseIgG(1:1000,Invitrogen)を室温で順に1時間ずつ反応させた.VECTASHIELDMountingMediumwithDAPIを滴下,封入して評価標本とし,蛍光顕微鏡(IX70,オリンパス㈱))により観察した.c.経上皮電気抵抗値による評価経上皮電気抵抗値(以下,TER)の測定にはMillicellERS-2抵抗値測定システム(メルク㈱)を用いた.HCE-Tは24wellトランズウェルプレートのトップ・チャンバーに5×104cells/wellとなるように播種し,CO2インキュベーター内で5日間培養した.トップ・チャンバーの培養培地をLA-WおよびMLAの2%およびBAC溶液(0.001,0.005,0.02%)100μLでそれぞれ置換し,1分間接触させた後に培養培地により試験物質を洗浄除去,培養培地200μLで置換した.培養培地置換直後を0分として試験物質接触前(Pre),0,30,60,90,120分後のTERをそれぞれ測定し,Pre値に対するTERの変化率(%)を算出した.3.保存効力試験日本薬局方(第十六改正)の保存効力試験法を参考に,LA-Wの保存効力試験を塗抹法にて実施し,点眼液に適応されるカテゴリーIAの基準に従って評価した.細菌として,Staphylococcusaureus(菌株:ATCC6538),Pseudomonasaeruginosa(菌株:ATCC9027),Escherichiacoli(菌株:ATCC8739),真菌として,Candidaalbicans(菌株:ATCC10231)およびAspergillusbrasiliensis(菌株:ATCC16404)を使用した.4.統計解析統計解析はSPSSStatisticsを用い,各点眼液処置後のTER変化率の推移について2元配置分散分析を実施した.なお,有意水準は5%とした.II結果1.角膜上皮細胞に対する安全性a.HCE.Tへの障害性BAC0.001%および0.005%のCDT50はそれぞれ4.00分および1.00分未満であり,濃度依存的な細胞障害性があることを確認した(図1,表1).LA-W処置群は1%,2%ともに,接触時間10分においても60%以上の細胞生存率を維あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141375 1376あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(128)持し,CDT50は10.00分以上であった.一方,MLA処置群のCDT50は,1%,2%でそれぞれ2.62分,4.14分であった.b.Occludinの局在分布への影響LA-W処置群におけるoccludinの分布は,陰性対照であるPBS処置群と同様に細胞接着面で連続した線状をおおむね維持しており,局在特性に大きな変化は観察されなかった(図2C).一方,BAC0.002%およびMLA処置群は,PBSおよびLA-W処置群と比べてoccludinの分布が破線状に変化している部分が多く観察された(図2B,D).c.TERによる評価全群で処置に由来すると考えられる一過性のTERの低下が認められた.カルテオロール濃度2%の点眼液同士で比較した場合,LA-W処置群はMLA処置群よりもTERが早期に回復した(図3A,p=0.015).また,BACは濃度依存的にTERを減少させ,TERの回復はBAC0.001%処置群では認められたものの,BAC0.005%以上の処置群では認めら表1CDT50一覧群名CDT50LA-W1%>10.00分LA-W2%>10.00分MLA1%2.62分MLA2%4.14分BAC0.001%4.00分BAC0.005%<1.00分020406080100024681012細胞生存率(%)薬剤接触時間(分)図1薬剤接触後のHCE.Tの細胞生存率(%)値は平均値を示す(n=6).○:LA-W1%,●:LA-W2%,◇:MLA1%,◆:MLA2%,△:BAC0.001%,▲:BAC0.005%.ADCB図2薬剤接触後のHCE.Tのoccludin分布(緑:occludin,青:核)A:PBS,B:BAC0.002%,C:LA-W,D:MLA.一部の薬剤により,occludinの局在が大きく阻害された(矢印).Bar=20μm.(128)持し,CDT50は10.00分以上であった.一方,MLA処置群のCDT50は,1%,2%でそれぞれ2.62分,4.14分であった.b.Occludinの局在分布への影響LA-W処置群におけるoccludinの分布は,陰性対照であるPBS処置群と同様に細胞接着面で連続した線状をおおむね維持しており,局在特性に大きな変化は観察されなかった(図2C).一方,BAC0.002%およびMLA処置群は,PBSおよびLA-W処置群と比べてoccludinの分布が破線状に変化している部分が多く観察された(図2B,D).c.TERによる評価全群で処置に由来すると考えられる一過性のTERの低下が認められた.カルテオロール濃度2%の点眼液同士で比較した場合,LA-W処置群はMLA処置群よりもTERが早期に回復した(図3A,p=0.015).また,BACは濃度依存的にTERを減少させ,TERの回復はBAC0.001%処置群では認められたものの,BAC0.005%以上の処置群では認めら表1CDT50一覧群名CDT50LA-W1%>10.00分LA-W2%>10.00分MLA1%2.62分MLA2%4.14分BAC0.001%4.00分BAC0.005%<1.00分020406080100024681012細胞生存率(%)薬剤接触時間(分)図1薬剤接触後のHCE.Tの細胞生存率(%)値は平均値を示す(n=6).○:LA-W1%,●:LA-W2%,◇:MLA1%,◆:MLA2%,△:BAC0.001%,▲:BAC0.005%.ADCB図2薬剤接触後のHCE.Tのoccludin分布(緑:occludin,青:核)A:PBS,B:BAC0.002%,C:LA-W,D:MLA.一部の薬剤により,occludinの局在が大きく阻害された(矢印).Bar=20μm. APre値表2保存効力試験の結果:各菌株の菌数(Log10CFU/mL)Pre値表2保存効力試験の結果:各菌株の菌数(Log10CFU/mL)A:LA-W1%TER相対変化率(%)-20*p=0.015菌株※1-40Sa-60PaEcCa-80-100Ab洗浄後時間(分)接種菌数5.85.65.85.65.0B:LA-W2%保存期間(日)保存期間(日)接種14NDNDNDNDND菌株※1菌数281428NDSa5.8NDNDNDPa5.6NDNDNDEc5.8NDNDNDCa5.6NDNDNDAb5.0NDND0306090120ND:0.8Log10CFU/mL未満(接種菌数の0.001%未満).BPre値※1菌株Sa:Staphylococcusaureus,Pa:Pseudomonasaeruginosa,Ec:Escherichiacoli,Ca:Candidaalbicans,Ab:0Aspergillusbrasiliensis-20加されているため,単に添加濃度を下げれば良いというもの-40ではない.マルチドーズ型点眼液中の防腐剤濃度を設定する-60に当たっては,角膜表面に対する安全性と保存効力のバランスを考慮することが重要となる.LA-Wは,添加剤を工夫することによって低粘度ながらもMLAと同等の眼圧下降作-80TER相対変化率(%)0306090120洗浄後時間(分)図3薬剤接触後のHCE.TにおけるTER変化率の推移(%)値は平均値±標準誤差を示す(n=4).A:LA-WおよびMLA,B:BAC.●:LA-W2%,◆:MLA2%,△:BAC0.001%,▲:BAC0.005%,▲:BAC0.02%,*p:vsMLA[2元配置分散分析].れなかった(図3B).2.保存効力試験LA-Wにおける生菌数(Log10CFU/mL)の推移を表2に示す.開始時の生菌数は,5.0.5.8Log10CFU/mLであった.菌接種後14および28日の生菌数は,LA-W1%,2%ともにすべての菌株で検出限界以下(0.8Log10CFU/mL未満)となり,LA-Wは日本薬局方の判定基準に適合した.III考按国内で上市されている点眼液中の防腐剤としてのBAC添加濃度は0.005.0.01%である場合が多く,国内使用実績としては0.02%が最大濃度である4).BACによる角膜障害は濃度依存的に引き起こされることが報告されており4.6),近年では各点眼液中防腐剤の種類および濃度,角膜上皮障害との関係も種々検討され始めている4,6,7).このような背景には,点眼液の眼表面に対する安全性への配慮がこれまで以上に求められていることが考えられる.しかしながら,点眼液中の防腐剤は本来,使用に伴う二次的な汚染防止を目的として添(129)用をもち,さらにBACを最小限(0.001%)まで抑えた処方を採用している.本研究ではLA-Wの角膜上皮細胞に対する安全性および保存効力を評価することを目的として種々の検討を行った.角膜上皮細胞は点眼時に点眼液が最初に接触する組織の一つであり,同時に外因性物質の侵入を防ぐバリア機能を担っている.これまでに,BACとの接触によりoccludinの消失がみられるとの報告や8),タイトジャンクションの構成蛋白であるoccludinやZO-1の発現減少に伴ってTERが低下するとの報告9.11)があることから,点眼液由来のBACが角膜上皮のタイトジャンクションに対して影響を及ぼすことが考えられる.そこで,安全性評価にはヒト由来角膜上皮細胞を用いて,細胞障害性試験およびバリア機能の一端を担うタイトジャンクションの形態およびその機能を検討した.細胞障害性試験において,LA-W1%,2%ともにMLAよりも高い細胞生存率を推移した(1%;LA-W:10.00分以上,MLA:2.62分,2%;LA-W:10.00分以上,MLA:4.14分).また,LA-WおよびMLA,どちらの点眼液においてもカルテオロール濃度2%処置群のほうが1%処置群よりも高い細胞生存率で推移したことから,主薬であるカルテオロールには細胞保護効果があることが示唆された.BAC0.001%処置群よりもそれと同量のBACを含むLA-W処置群で細胞生存率が高かったのは,カルテオロール自身による細胞保護効果に起因した可能性が考えられた.Occludinの局在変化はLA-W処置群のほうがMLA処置群よりも小さく,さらにTER変化率の推移においても,LA-W処置群はMLA処置群よりも速やかな回復性を示した.以上より,あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141377 LA-Wは細胞障害性および角膜上皮細胞のタイトジャンクションに対する影響は小さく,安全性が高いことが示された.各点眼液に添加されている特記すべき添加物は,LA-Wはホウ酸,マンニトールおよびBAC,MLAはアルギン酸およびBACである.これらのなかから角膜上皮細胞の安全性に影響する添加物について考察した.角膜上皮細胞に対してマイナス要因となりうる添加物は,LA-Wに含まれるホウ酸12),両点眼液に含まれるBACである.LA-Wに含まれるホウ酸の安全性を調べるため,BACを含有しないLA-Wの基剤について細胞障害性試験を実施したところ,細胞生存率はPBS群と同様の推移を示した(データ非掲載).ゆえに,LA-W中に含有するホウ酸の角膜上皮細胞に対する影響は非常に低いことが示唆された.一方BACは,細胞障害性と添加濃度が大きく関係していることが知られている3,4).各点眼液のBAC添加濃度は,MLAが0.005%13),対してLA-Wは0.001%であり,LA-WはMLAと比べてBAC濃度が5分の1に抑えられている.以上より,LA-Wの角膜上皮への高い安全性には点眼液中BAC含量の減量に由来していることが推察された.プラス要因としてはLA-Wに含まれるマンニトールが考えられる.長井らは,点眼液中のマンニトールがBAC自身の毒性を軽減している可能性を示唆しており14),LA-Wに含まれるマンニトールもLA-Wの角膜上皮の安全性に寄与しうると考えられた.保存効力試験では,LA-WはBAC濃度が低く抑えられているにもかかわらず日本薬局方の判定基準を満たす保存効力を示した.その要因としてLA-Wにホウ酸が添加されていることが挙げられる.筆者らは,過去にカルテオロールを含むb遮断薬とホウ酸を組み合わせた処方が保存効力を有することを見出し,特許を取得している15).LA-Wはこの条件を満たした処方となっているため,BAC濃度を抑えても保存効力を維持することが可能となったと推察している.本研究からLA-Wはヒト角膜上皮細胞への影響が少なく,保存効力も十分に有していることを確認した.患者の良好なアドヒアランスを保つためには,服薬を妨げる因子をできるだけ排除することも大切であると考えられる.ゆえに,角膜上皮に対して影響が少なく保存効力も十分に有する点眼液は,患者の長期服薬をサポートすることにも繋がると考えている.今後は,患者の眼表面に対する安全性と点眼液の保存効力,この双方に対して十分配慮した製剤設計が緑内障治療薬に対してもますます求められていくと考える.文献1)LeungEW,MedeirosFA,WeinrebRN:Prevalenceofocularsurfacediseaseinglaucomapatients.JGlaucoma17:350-355,20082)FukuchiT,WakaiK,SudaKetal:Incidence,severityandfactorsrelatedtodrug-inducedkeratoepitheliopathywithglaucomamedications.ClinOphthalmol4:203-209,20103)川瀬和秀:シンポジウムII:緑内障に関する最近のトピックス緑内障点眼薬の毒性.眼薬理27:56-60,20134)浅田博之,七篠(高岡)優子,中村雅胤ほか:0.0015%タフルプロスト点眼液のベンザルコニウム塩化物濃度の最適化検討─眼表面安全性と保存効力の視点から─.薬学雑誌130:867-871,20105)BursteinNL:Preservativecytotoxicthresholdforbenzalkoniumchlorideandchlorhexidinedigluconateincatandrabbitcorneas.InvestOphthalmolVisSci19:308-313,19806)福田正道,稲垣伸亮,萩原健太ほか:ラタノプロスト後発品点眼薬の角膜上皮細胞に対する安全性の検討.あたらしい眼科28:849-854,20117)NakagawaS,UsuiT,YokooSetal:Toxicityevaluationofantiglaucomadrugsusingstratifieldhumancultivatedcornealepithelialsheets.InvestOphthalmolVisSci53:5154-5160,20128)PaulyA,MeloniM,Brignole-BaudouinFetal:Multipleendpointanalysisofthe3D-reconstitutedcornealepitheliumaftertreatmentwithbenzalkoniumchloride:Earlydetectionoftoxicdamage.InvestOphthalmolVisSci50:1644-1652,20099)BamforthS.D,KnieselU,WolburgHetal:Adominantmutantofoccludindisruptstightjunctionstructureandfunction.JCellSci112:1879-1888,199910)YiX,WangY,YuFS:Cornealepithelialtightjunctionsandtheirresponsetolipopolysaccharidechallenge.InvestOphthalmolVisSci41:4093-4100,200011)KimuraK,TeranishiS,NishidaT:Interleukin-1b-induceddisruptionofbarrierfunctioninculturedhumancornealepithelialcells.InvestOphthalmolVisSci50:597603,200912)ImayasuM,ShiraishiA,OhashiYetal:Effectsofmultipurposesolutionsoncornealepithelialtightjunctions.EyeContactLens34:50-55,200813)望月英毅,木内良明:b遮断薬.あたらしい眼科29:451455,201214)長井紀章,村尾卓俊,大江恭平ほか:不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T)を用いた緑内障治療配合剤のinvitro角膜細胞傷害性評価.薬学雑誌131:985-991,201115)中谷清吾,大山祐賀子,鈴木秀一:点眼用水性組成物.特許国際公開番号:WO2011013794A1***(130)

レバミピド点眼液が奏効した糸状角膜炎の3症例

2014年9月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科31(9):1369.1373,2014cレバミピド点眼液が奏効した糸状角膜炎の3症例池川和加子山口昌彦白石敦坂根由梨原祐子鄭暁東鈴木崇井上智之井上康大橋裕一愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野EfficacyofRebamipideOphthalmicSolutionforTreatment-ResistantFilametaryKeratitis:ThreeCaseReportsWakakoIkegawa,MasahikoYamaguchi,AtsushiShiraishi,YuriSakane,YukoHara,XiaodongZheng,TakashiSuzuki,TomoyukiInoue,YasushiInoueandYuichiOhashiDepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine背景:糸状角膜炎(filamentarykeratitis:FK)は,角膜上皮障害を起点に角膜糸状物を形成する慢性疾患で,強い異物感を伴い治療に難渋することも多い.今回レバミピド点眼液(RM)が奏効した糸状角膜炎の3例を報告する.症例:症例1:79歳,女性.Sjogren症候群.両総涙小管閉塞にて涙小管チューブ挿入術後にドライアイが顕性化し,角膜全面にFKが多発した.ヒアルロン酸点眼,ベタメタゾン点眼,ソフトコンタクトレンズ(SCL)連続装用にて軽快せず,RMを追加したところSCL非装用でもFKの出現は認められず,RM単独で18カ月間寛解状態である.症例2:90歳,男性.両角膜実質炎後混濁の角膜移植後で,0.1%フルオロメソロン点眼(FL)が投与されている.ドライアイによる点状表層角膜症(SPK)が出現し,ジクアホソルナトリウム点眼(DQ)を追加したところFKが出現した.DQを中止したが軽快せず,RMを開始したところFKは消失し,RM単独で18カ月間寛解状態である.症例3:67歳,女性.右顔面神経麻痺の既往.最初右下方,両角膜下方にFKが出現するようになり,DQ,FLを投与したが軽快せず,DQをRMに変更したところFKは消失し,RM単独で15カ月間寛解状態である.結論:従来の治療に抵抗性のFKに対してRMは有効であると考えられた.Threecasesoffilamentarykeratitis(FK)inwhichrebamipideophthalmicsolution(RM)waseffectivearereported.Case1:FKappearedalloverthebilateralcornealsurfaces.SinceFKtherapycomprisinghyaluronicacid,betamethasoneophthalmicsolutionandsoftcontactlens(SCL)continuouswearwasnoteffective,RMwasadministrated.Subsequently,FKhasbeencontrolledwithoutSCLfor18months,withRMonly.Case2and3:DiquafosolNaophthalmicsolution(DQ)and0.1%fluorometholonewereadministratedfordry-eyetherapy;howeverFKdidnotimprove.AfterDQwasreplacedwithRM,FKimprovedimmediatelyandhasbeencontrolledfor18monthsinCase2and15monthsinCase3,withRMonly.RMisefficaciousforconventionaltreatment-resistantFK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(9):1369.1373,2014〕Keywords:糸状角膜炎,レバミピド点眼液,ドライアイ,角膜上皮障害,炎症,ムチン.filamentarykeratitis,rebamipideophthalmicsolution,dryeye,cornealepithelialdisorder,inflammation,mucin.はじめに糸状角膜炎(filamentarykeratitis:FK)は,種々の眼表面疾患や眼瞼疾患が複合的に関与して発症し,眼手術後や眼外傷後などに発症頻度が高まることが知られている1,2).FKの治療は,綿棒などにより角膜糸状物を物理的に除去した後,多くの症例で合併しているドライアイに対して,人工涙液点眼やヒアルロン酸点眼などを用い,ほとんどの例において眼表面炎症が病態に関与しているため,低濃度ステロイド点眼やシクロスポリン点眼を併用する.しかし,これらの保存療法だけでは再発を繰り返す場合も多く,バンデージ効果を図るためにメディカルユースソフトコンタクレンズ(MSCL)の連続装用を行うが,寛解状態を保つためには,〔別刷請求先〕山口昌彦:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野Reprintrequests:MasahikoYamaguchi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon,Ehime791-0295,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(121)1369 しばしばMSCLから離脱困難となり,継続中に角膜感染症の発生などが問題となる.このように,FKに対してはさまざまな治療が行われるものの,治癒させるのはきわめて困難な疾患であるといえる.レバミピド点眼液(ムコスタRUD点眼液2%,大塚製薬,以下RM)は,2012年1月にドライアイ治療薬として発売され,実験的には,結膜杯細胞増加作用3),角膜ムチン様物質増加作用3,4),角膜上皮創傷治癒促進作用3,4)を有することが報告されている.また臨床的にも,ドライアイの自他覚症状を改善させる5,6)ことが明らかになっており,新しい作用機序をもったドライアイ治療薬として注目されている.今回筆者らは,これまでの既存の治療には抵抗性であったFKに対し,RMを投与することによって,長期寛解状態に持ち込めた3症例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕69歳,女性.既往例として,Sjogren症候群が存在する.2006年10月,両側の総涙小管狭窄症による流涙症に対して,両側の鼻涙管シリコーンチューブ挿入術を施行した.2008年5月から両眼の乾燥感を自覚し始め,軽度の角結膜上皮障害がみられたため,人工涙液点眼(ソフトサンティア点眼液,参天製薬)と0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアレインR点眼液0.1%,参天製薬)をそれぞれ両眼に1日6回投与し,途中からヒアルロン酸点眼液を防腐剤無添加の0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」,日本点眼薬研究所)に変更して経過観察していた.2012年2月8日に左眼角膜下方にFKが出現し異物感が増強してきたため,オフロキサシン眼軟膏(タリビッドR眼軟膏,参天製薬,以下TV)を開始したが軽快せず,2週間後には左眼角膜中央にも多数のFK(図1b)がみられるようになってきたため,消炎が必要と考えて0.1%ベタメタゾン点眼液(リンベタPF眼耳鼻科用液0.1%,日本点眼薬研究所)を左眼に1日3回で開始した.しかし,左眼はFKによる異物感が軽快しないため,MSCL連続装用を開始したところ,異物感はコントロール可能になり,左眼の0.1%ベタメタゾン点眼は中止した.4月5日には右眼にもFKを認めるようになり異物感が増強してきたため(図1a),両眼ともMSCL連続装用となった.その後,右眼はMSCL装用を中止しても異物感のコントロールは可能であったが,左眼はMSCL装用を止めるとFKが増悪する状態を繰り返したため,左眼はMSCL継続のまま6月21日にRM両眼1日4回を開始した.右眼は8月2日以降FKがほとんど認められなくなり(図1c),左眼は9月6日以降MSCLを中止してもFKの再発はみられず(図1d),異物感も消失した.その後,ときに軽微なFKの再発がみられるものの,強い異物感を訴えるようなFKの出現はなくなり,RM単独投与で18カ月間,寛解状態を維持している.〔症例2〕60歳,男性.両眼の角膜実質炎後の角膜混濁に対して,右眼は表層角膜移植術,左眼は全層角膜移植術をacbd図1症例1a:右眼FK多発期.角膜中央.下方にFKを認める.b:左眼FK多発期.角膜ほぼ全面にFKを認める.c:右眼RM投与6週目.FKはほぼ消失している.d:左眼RM投与11週目.FKはほぼ消失している.1370あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(122) acbdacbd図2症例2a:右眼FK発現時.角膜下方にFKを認める.b:左眼FK発現時.角膜下方にFKを認める.c:右眼RM投与3週目.FKは消失している.d:左眼RM投与3週目.FKはほぼ消失している.受けている.2008年ごろから両眼のSPKが増加し,FKを繰り返すようになった.2011年4月,右眼に再度表層角膜移植を行い,0.1%フルオロメソロン点眼液(フルメトロンR点眼液0.1%,参天製薬,以下FL)とレボフロキサシン点眼液(クラビットR点眼液0.5%,参天製薬)を1日3回投与していた.2012年1月,両眼角膜中央の点状表層角膜症(superficialpunctatekeratitis:SPK)が軽快せず,涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)も両眼とも1秒と短縮していたため,ドライアイ改善の目的でジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液3%,参天製薬,以下DQ)を追加したが,同年3月に右眼角膜下方に,4月に左眼角膜下方にFKを認めるようになった(図2a,b).FKが改善しないため,DQとFLを中止し,RMを両眼に1日4回で開始したところ,投与後3週目に両眼のFKが消失した(図2c,d).その後,RM投与のみとしたが,自覚症状を伴うようなFKの出現はなくなり,RM単独投与で18カ月間,寛解状態を保っている.〔症例3〕57歳,女性.右側顔面神経麻痺の既往はあるが,閉瞼状態は回復しており,明らかな兎眼はみられなかった.2011年7月,右眼の充血,流涙感,異物感を訴え,両眼のBUTは1秒,両角膜下方にSPKが存在し,右眼角膜下方にはFKがみられたため,ドライアイ治療の目的でDQとFLを開始した.その後,右眼のFKは出現,消失を繰り返していたが,2012年6月には左眼角膜下方にもFKを認(123)めるようになったため,TVOを追加した(図3a,b).同年8月再診時,両眼のFKが軽快しないため,DQを中止し,RMを両眼に1日4回で開始したところ,投与2週間目にFKは消退した(図3c,d).その後,RM単独投与で15カ月間,寛解状態を維持している.3症例のまとめを表1に示す.II考察Taniokaらは,臨床例から得られた角膜糸状物サンプルを免疫組織化学的に解析し,その発生メカニズムについて詳細に考察している7).すなわち,角膜上皮障害を起点として,上皮細胞成分をコアにその周囲にムチンが絡みつき,瞬目に伴う摩擦ストレスの影響下に基底細胞レベルから上皮が.離されることにより形成されるという.その結果,瞬目とともに糸状物が動くことで角膜知覚が刺激され,持続的な異物感を伴うようになる.したがって,治療戦略としては,起点となっている角膜上皮障害を速やかに修復させるとともに,炎症などによる分泌型ムチンの増加を抑制し,ドライアイやその他の要因による涙液クリアランスの悪化を改善させ,炎症起因物質やムチンをできる限り早く眼表面から排除することが必要である.しかし,SCLによる眼表面保護効果を除けば,ヒアルロン酸など,これまでの点眼薬治療では,上記の病態を持続的に改善させるのは困難であった.RMは,動物実験や培養角膜上皮による実験から,結膜杯あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141371 acbdacbd図3症例3a:右眼FK発現時.角膜下方にFKを認める.b:左眼FK発現時.角膜下方にFKを認める.c:右眼RM投与2週目.FKは消失している.d:左眼RM投与2週目.FKは消失している.表1糸状角膜炎3症例の所見と治療(まとめ)症例1(79歳,女性)症例2(90歳,男性)症例3(67歳,女性)全身疾患Sjogren症候群――眼疾患の既往総涙小管閉塞にて両)涙小管チューブ挿入術後角膜実質炎にて両)角膜移植後右)顔面神経麻痺(閉瞼不全なし)FK出現部位両)角膜全面,右<左両)下方,右≒左両)下方,右≒左RM投与前治療軟膏――オフロキサシン眼軟膏ステロイド点眼0.1%ベタメタゾン点眼0.1%フルオロメトロン点眼0.1%フルオロメトロン点眼ドライアイ治療0.1%ヒアルロン酸点眼ジクアホソル点眼ジクアホソル点眼SCL装用+――RM投与後FK消失までの期間右)6週,左)11週両)3週両)2週RM投与後FK寛解持続期間18カ月18カ月15カ月FK:filamentarykeratitis,RM:rebamipideophthalmicsolution.細胞増加作用3),角膜ムチン様物質増加作用3,4),角膜上皮創傷治癒促進作用3,4)が確認されている.また,治験における結果から,臨床的にもドライアイの治療に有効であることが報告されている5,6).さらに,抗炎症作用を介して,角膜上皮の治癒促進に働く可能性が示されている8,9).RMは,分泌型および膜結合型ムチンの増加による涙液安定性の向上と抗炎症作用を含む角膜上皮創傷治癒作用によって,FKの起点となる遷延性の角膜上皮障害を改善させ,FKの再発を抑制している可能性がある.症例2と3においては,ドライアイによる角膜上皮障害の1372あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014悪化と考えられたため,DQを追加したがFKは改善しなかった.DQには,RMと同様に分泌型ムチンおよび膜結合型ムチンを増やす作用があり,そのうえ,結膜上皮細胞からの水分移動作用があるため,RMと同様に涙液安定性を向上させて,ドライアイを改善し,FK抑制の方向へ働くことが予想される.しかし,この2症例ではDQの追加投与では改善がみられず,RMへの変更によって改善が得られた.このことは,RMが眼表面ムチンを増やすうえに,角膜上皮障害の治癒促進という作用も持ち合わせているため,FKの発症をその機序のより上流で抑制している可能性があるのではない(124) かと推察される.また,3症例とも最終的には,ヒアルロン酸点眼やステロイド点眼を使用せずにRMのみでFKがコントロールできている点においても,FKに対するRMの有効性が示されているところであると思われた.他方,眼瞼下垂や眼瞼内反症などの眼瞼疾患においては,涙液クリアランスの悪化や眼表面摩擦の亢進がFK発症の原因になることが知られている10).これらのケースではFKの発症部位もドライアイによるものとは異なっており,観血的な眼瞼異常の是正により初めて寛解する.今回の3症例には,眼瞼下垂や眼瞼内反症などの要因はみられなかったが,眼瞼異常が主因となって生じるFKに対するRM投与の有効性については今後の検討課題である.以上,種々の治療に対する反応が不良で,RMへの変更投与が奏効したFKの3症例を提示した.RMは,その薬理作用によって種々のFKの発症要因を抑制し,長期間にわたって自覚症状および他覚所見を寛解させるのではないかと考えられた.文献1)KinoshitaS,YokoiN:Filamentarykeratitis.TheCorneafourthedition(FosterCS,AzarDT,DohlmanCHeds),p687-692,Philadelphia,20052)DavidsonRS,MannisMJ:Filamentarykeratitis.Cornea2ndedition(KrachmerJH,MannisMJ,HollandEJeds),p1179-1182,ElsevierInc,20053)UrashimaH,OkamotoT,TakejiYetal:Rebamipideincreasestheamountofmucin-likesubstancesontheconjunctivaandcorneaintheN-acetylcysteine-treatedinvivomodel.Cornea23:613-619,20044)TakejiY,UrashimaH,AokiAetal:Rebamipideincreasesthemucin-likeglycoproteinproductionincornealepithelialcells.JOculPharmacolTher28:259-263,20125)KinoshitaS,AwamuraS,OshidenKetal:Rebamipide(OPC-12759)inthetreatmentofdryeye:arandomized,double-masked,multicenter,placebo-controlledphaseIIstudy.Ophthalmology119:2471-2478,20126)KashimaT,AkiyamaH,MiuraFetal:Resolutionofpersistentcornealerosionafteradministrationoftopicalrebamipide.ClinOphthalmol6:1403-1406,20127)TaniokaH,YokoiN,KomuroAetal:Investigationofcornealfilamentinfilamentarykeratitis.InvestOphthalmolVisSci50:3696-3702,20098)KimuraK,MoritaY,OritaTetal:ProtectionofhumancornealepithelialcellsfromTNF-a-induceddisruptionofbarrierfunctionbyrebamipide.InvestOphthalmolVisSci54:2572-2760,20139)TanakaH,FukudaK,IshidaWetal:RebamipideincreasesbarrierfunctionandattenuatesTNFa-inducedbarrierdisruptionandcytokineexpressioninhumancornealepithelialcells.BrJOphthalmol97:912-916,201310)北澤耕司,横井則彦,渡辺彰英ほか:難治性糸状角膜炎に対する眼瞼手術の検討.日眼会誌115:693-698,2011***(125)あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141373