タブレット型PCの眼科領域での応用タブレット型PCの眼科領域での応用シリーズ三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第24章デジタルビジョンケアの可能性と意義■はじめに最終章となる第24章で取り上げる端末は,東京大学先端科学技術研究センターや東京医科大学病院ロービジョン外来,GiftHandsの活動において,さまざまな障害者へ活用しているタブレット型PC“iPadAir”と“iPhone5s”(いずれも米国AppleInc)のiOSバージョン7.1です.この章では,これまでのロービジョンケアとデジタルビジョンケアの違いや,デジタルビジョンケア導入の意義を,GiftHandsの活動を通して経験した気づきや,視覚障害者とタブレット型PCをとりまく社会の変化を交えて紹介していきます.■ビジョンケアとデジタルビジョンケア従来のロービジョンケアでは,患者の視機能に合わせて最適なエイドを選定し,継続して使用できるように訓練などが行われてきました.一方,私が推奨しているタブレット型PCやスマートフォンを利用したDigitalVisionCare(以下DVC)では,ロービジョン患者や学習障害の児童へのアプローチの方法や導入の手順が,従来のロービジョンケアとは異なります.ロービジョン患者へのDVC導入の際にもっとも重要となるのは,視力や視野の評価ではなく患者のニーズの把握です.問診で具体的なニーズを把握し,視機能ではなく患者の嗜好に合わせた最適な形へと情報を加工することが可能なアプリケーションソフトウェア(以下アプリ)を選定します.次に文字サイズやフォント,背景色などの文字情報の最適な視認環境や,音声読み上げ機能の必要性などを確認して,各人に応じて障害者補助機能であるアクセシビリティ機能の設定を行います.そのうえで,ニーズを満(89)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYたす最適なアプリを用いて情報を入手する体験をさせ,エイドとして継続使用する意思の有無を確認します.情報へのアクセス意欲の向上が認められず,最適ではないと判断した場合には,再度ニーズの検索またはアプリ選定へと移行します.また,初回で導入するアプリの数は最大でも2つまでに制限し,提供する情報が過剰とならないように注意します.デバイスの基本操作に慣れるまでは,初回のアプリの継続的な利用を通して,基本操作が習慣化するまで経過観察をします.エイドを紹介する際に重要なことは,最適なアクセシビリティ機能を設定したうえで,説明ではなく,“もう一度見えた”や“もう一度読める”という小さな成功体験を通して,“見たい”や“読みたい”という想いを引き出すことです.そのような手順を踏むことこそが,視覚障害者がエイドとしてタブレット型PCやスマートフォンを継続的に使用できるための配慮であるといえます.このように,DVCの目的は視機能の補助ではなく,患者の情報入手経路に関する嗜好に合わせたデバイスの選定や,個別のアクセシビリティ機能の設定にあります.そして,情報の入手形態を各自に合わせて変化させることで,情報へのアクセス障害を予防し,視覚障害者が情報や外の世界へのつながりの意欲を高めるのが目的です.学習障害児へのDVC導入では,最初に書字や読字に関する得意・不得手や,図形の認識などに関する認識力を評価し,認識能力の偏りに対して最適なアプリを用いて情報形態を変化させることで児童の学習意欲の向上を試みます.また,前章でも述べたように,ノイズキャンセリング機能のついたヘッドフォンなどを併用することで,彼らが授業に集中できるように学習環境を最適化することも重要です.あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014715図1東京大学のiTunesUではさまざまなジャンルの講義を無料でiPadやiPhoneなどでも受講できる(2014年4月1日現在).■障害者とタブレット型PCとのかかわり私がDVCの普及を始めた2011年当時,タブレット端末を日々の生活に活用する視覚障害者の数は多くはありませんでした.しかし,その後のカメラ機能や液晶画面の解像度の向上,アクセシビリティ機能の改良に伴いその数は増加傾向にあります.最近では,各種メディアにおいてもタブレット型PCを活用する視覚障害者の話題が取り上げられるようになりました.また,これまで一般人向けのセミナーを開催してきたiPadやiPhoneの正規販売店であるAppleStoreでは,全盲者向けのワークショップが2014年4月より定期的に開催されるようになり,視覚障害者とタブレット型PCに関する社会や企業の意識はここ数年で大きく変化したといえます(2014年4月1日現在).従来型のロービジョンケアでの点字図書館や視覚障害者就労支援センターなどの施設紹介と同様に,AppleStoreなどの販売店も今後は視覚障害者に紹介するべき施設の一つへと変化していく可能性があります.■おわりに今後,私自身はiTunesUというオンラインコンテンツをとおして,視覚障害者や支援者に対して映像,音声,画像,テキストデータなどのあらゆるコンテンツを含むマルチメディアコースを提供し,眼科領域におけるタブ図2StudioGiftHandsのウェブページでは,視覚障害者や医療従事者向けのセミナー開催情報などさまざまな情報が掲載されています.レット型PCの有用性を啓発していく予定です(図1).iTunesUのオンライン講座に代表されるように,タブレット型PCやスマートフォンの普及により,人は場所や時間に拘束されることなく,平等な教育を受けることが可能となりつつあります.そのような時代の到来とともに,医療や教育の現場に加えて社会における障害者の雇用促進や就労における合理的配慮の思考は強まると考えられます.視覚障害者にとってより快適な社会を作るための仕組み作りを,視覚障害者専用の機器ではないタブレット型PCやスマートフォンという汎用性の高いデジタルデバイスをとおして築いていくことが私のライフワークです.また,GiftHandsの活動を続けていくことが,視覚障害者や彼らをケアするすべての方にとっても平等で明るい未来を導く一つの可能性となると私は信じています.本文の内容や各種セミナーの詳細に関する質問などはStudioGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」よりいつでも受けつけていますので,お気軽に連絡ください(図2).StudioGiftHands:http://www.gifthands.jp/☆☆☆716あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(90)