新しい治療と検査シリーズ218.エクスプレスTM(EX.PRESSTM)プレゼンテーション:石田恭子東邦大学医療センター大橋病院眼科コメント:稲谷大福井大学医学部感覚運動医学講座眼科学.バックグラウンド緑内障濾過手術のゴールドスタンダードは長らく線維柱帯切除術であったが,本術式は強力な眼圧下降が得られる反面,濾過量の定量性が困難で,術早期の過剰濾過に伴う浅前房や脈絡膜.離などの合併症が生じやすい.緑内障ドレナージデバイスであるアルコン社のエクスプレス(EX-PRESS)は1998年にイスラエルで開発され,2005年以降,強膜弁下挿入器具として濾過手術に使用されている.本術式は緑内障インプラント手術と呼ばれるもので,器具を通して房水を導くため,より定量性のある濾過手術を行える可能性がある..新しい器具の原理と特徴エクスプレスは調圧弁をもたないglaucomadrainagedeviceで,強膜弁下から前房内に挿入し,毛様体から産生され瞳孔領を通り前房に出た房水を,本器具を通じて結膜下へ導き結膜濾過胞に貯留させ,眼圧を下降させる(図1).エクスプレスモデルP-50は,全長が2.64mm,Shaftの太さが400μm,内腔が50μm,眼内迷入や眼外突出を防ぐ目的で,前房側にかえし,強膜側に鍔が付いている.房水の流入口は2カ所あり,先端部が閉塞した場合に備えて,上側面にも流入口が付けられている.また,鍔にはverticalchannelと呼ばれる溝が付いており,エクスプレスを通じて流れ込んだ房水がより後方へ流れるように工夫されている.エクスプレスは心臓治療用ステントと同じステンレス鉱製で,組織異物反応や炎症反応が少なく,3テスラ以下の磁場強度でのMRI撮影であれば偏位や熱発生はなく,安全とされている.なお,エクスプレス本体は専用のデリバリーシステム(EXPRESSdeliverysystem:EDS)の先端に搭載された状態で販売されている.(79)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY房水の流れ図1エクスプレスインプラント手術眼での房水の流れ.実際の手術方法基本的には線維柱帯切除術に準ずる.上方の象限に円蓋部もしくは輪部基底の結膜切開を行い,次に輪部基底の強膜弁を,強膜岬を超えて強角膜移行部(グレーゾーン)まで切込み作製する.症例に応じて,増殖阻害剤であるマイトマイシンC(MMC)を塗布した後,生理食塩水で十分洗浄する.強膜弁下の強角膜移行部の下端で,強膜岬の上に相当する位置から,25ゲージ針にて虹彩面に水平に前房穿刺し,デバイス挿入路を作製する.ペンを持つようにEDSを保持し,挿入孔を通じて,EDSに搭載されたエクスプレスをはじめは90°水平に倒して前房内に挿入する.エクスプレスのかえしとshaftが完全に前房内に入り,鍔の部分でそれ以上前に入らないことを確認した後,EDSを正位に戻し,deliverysystemのボタンを押すと,先端のエクスプレスがリリースされ,移植は完了する.エクスプレス留置後,本器具の前房内での位置が適切であること,さらにサイドポートからBSSを入れてエクスプレスから房水が流れ出ることを確認し,強膜弁を10-0ナイロン糸にて房水流量を確認しながら縫合あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014853図2手術例耳上に結膜濾過胞,同部位の前房内にエクスプレスが留置されている.する.最後に結膜を房水漏出のないようにしっかり縫合する(図2)..本方法の良い点(エクスプレスの利点と成績)前房開放時間が少なく挿入が比較的容易であること,流出路の大きさが標準化(50μm)できること,虹彩切除や線維柱帯切除が不要であることがその利点としてあげられる.虹彩切除や線維柱帯切除を行わないため,術中の出血や炎症を軽減でき,また,流出路の大きさが標準化できることから,過剰濾過に伴う合併症を減少させる可能性がある.エクスプレス併用濾過手術と線維柱帯切除術を比較した研究では,手術成功の定義を5≦眼圧≦21mmHgとすると,両術式の手術成績は同等であるが,術後1週間以内の低眼圧(眼圧<5mmHg)や脈絡表1エクスプレスと線維柱帯切除術との比較エクスプレス線維柱帯切除術前房開放時間短長手術手技(虹彩,線維柱帯切除)の必要性必要不要前房出血少多術後視力回復早遅手術コスト高安膜.離は有意に少なかった1).また,線維柱帯切除術の成績を比較したメタ解析では,両術式の手術成績および眼圧下降率は同等としながら,術後合併症としての前房出血が有意に少ないことが報告されている2).さらに術後炎症の程度が比較的軽度なため,線維柱帯切除術と比較し一般に術後視力回復が早い3~5).エクスプレスと線維柱帯切除術との比較を表1に示す.文献1)MarisPJJr,IshidaK,NetlandPA:ComparisonoftrabeculectomywithEx-PRESSminiatureglaucomadeviceimplantedunderscleralflap.JGlaucoma16:14-19,20072)WangW,ZhouM,HuangWetal:Ex-PRESSimplantationversustrabeculectomyinuncontrolledglaucoma:ameta-analysis.PLoSOne8:e63591,20133)GoodTJ,KahookMY:AssessmentofblebmorphologicfeaturesandpostoperativeoutcomesafterEx-PRESSdrainagedeviceimplantationversustrabeculectomy.AmJOphthalmol151:507-513,20114)SugiyamaT,ShibataM,KojimaSetal:Thefirstreportonintermediate-termoutcomeofEx-PRESSglaucomafiltrationdeviceimplantedunderscleralflapinJapanesepatients.ClinOphthalmol5:1063-1066,20115)Beltran-AgulloL,TropeGE,JinYetal:ComparisonofvisualrecoveryfollowingEx-PRESSversustrabeculectomy:resultsofaprospectiverandomizedcontrolledtrial.JGlaucoma2013[Epubaheadofprint].EX.PRESSに対するコメント.線維柱帯や虹彩切除の手間が省けるので,虹彩から腔が細すぎるので,目視で確認もできなければ管腔のの出血が少なく,駆逐性出血を起こす危険の高い前房中を掃除することもできない.また,アジア人の狭い開放時間が短い.流量が安定しているので,術後の低前房に挿入すると,エクスプレスの先端が虹彩に接触眼圧に伴う合併症が少ない.エクスプレスは濾過手術することも多い.異物反応が少ないとはいえ,ステン選択の敷居を下げた画期的なデバイスであるといえる.レスは異物反応を起こす.トラベクレクトミーではなしかし,術後眼圧が上昇したときに,エクスプレスく,エクスプレスが絶対適応の症例はどういった症例がじゃまで思いきったニードリングができないことなのかと質問されると私も答えに窮してしまう.形や,実はエクスプレスの管腔が詰まっているのでは?状,材質ともに改良の余地が残されていると思う.という疑念が湧いてしまう.チューブが不透明かつ管854あたらしい眼科Vol.31,No.6,2014(80)