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視神経鞘髄膜腫に対するガンマナイフ治療後に僚眼に視神経炎が生じた1例

2014年10月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(10):1551.1554,2014c視神経鞘髄膜腫に対するガンマナイフ治療後に僚眼に視神経炎が生じた1例今村麻佑溝部惠子多田香織大塚斎史佐々木美帆澁井洋文京都第二赤十字病院眼科CaseReportofRightOpticNeuritisafterStereotacticRadiosurgeryforLeftOpticNerveMeningiomaMayuImamura,KeikoMizobe,KaoriTada,YoshifumiOhtsuka,MihoSasakiandHirofumiShibuiDepartmentofOphthalmology,JapaneseRedCrossKyotoDainiHospital目的:左眼視神経鞘髄膜腫に対するガンマナイフ治療施行後に,照射部位から離れた右眼に視神経炎が生じた1例を経験したので報告する.症例:54歳,女性.左眼は視神経鞘髄膜腫によりすでに完全失明していた.脳神経外科にて左眼視神経鞘髄膜腫摘出術が施行され,その4カ月後に残存腫瘍に対するガンマナイフ治療が施行された.施行10日後から右眼の急激な視力低下を自覚し当科を受診した.右眼は矯正視力0.05,限界フリッカ値14Hzに低下し,視野検査では中心暗点を視神経乳頭には蒼白腫脹を認め,頭部造影MRI(磁気共鳴画像)にて視神経および周囲に高信号を示した.右眼の視神経炎と診断しステロイドパルス治療を開始した.治療開始後速やかに右眼の諸所見は正常化した.結論:副作用が少ないと考えられているガンマナイフ治療だが,急性で重篤な神経障害が直接照射に限らず発症しうることに留意が必要であると考えられた.Wereportacaseofopticneuritisintherighteyeaftergammaknifestereotacticradiosurgeryforleftopticnervemeningioma.Case:A54-year-oldfemale,withnosightinherlefteyebecauseofleftopticnervemeningioma,visitedourclinicforacutevisuallossinherrighteyeaftergammaknifesurgeryforthemeningioma.Findings:Herrighteyeshowedlargereductionincorrectedvisualacuity,centralscotomaandpallidswellingintheopticdisk.Enhancedmagneticresonanceimagingdetectedhighsignalsattherightopticnerveandsurroundingarea.Systemicpulsatileadministrationofcorticosteroidledtorapidrecoveryofvisioninherrighteye.Conclusion:Itisimportanttopayattentiontotheriskofsevereneuropathyduetoindirect,aswellasdirect,irradiationfromgammakniferadiosurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(10):1551.1554,2014〕Keywords:視神経炎,視神経鞘髄膜腫,ガンマナイフ,定位的放射線手術.opticneuritis,opticnervemeningioma,gammaknife,stereotacticradiosurgery.はじめに脳腫瘍の治療として近年盛んに行われるようになった定位的放射線手術治療におけるガンマナイフ治療は,正常な周囲の脳組織を傷つけずに病変のみの根治が可能であることから,開頭手術と比べて低侵襲で治療効果も高く従来の放射線治療と比して副作用が少ないことで知られている1).しかし,最近ガンマナイフ治療による副作用の報告も認められるようになった2.6).今回筆者らは,左視神経鞘髄膜腫に対するガンマナイフ施行後に,右眼に視神経炎が生じた1例を経験した.本症例では,ガンマナイフの照射範囲から離れた部位に障害が生じたこと,生じた部位が唯一眼である僚眼であったこと,などのこれまでの報告にはなかった特徴を有したため今回報告する.I症例患者:54歳,女性.〔別刷請求先〕今村麻佑:〒602-8026京都市上京区釜座通り丸太町上ル春帯町355-5京都第二赤十字病院眼科Reprintrequests:MayuImamura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JapaneseRedCrossKyotoDainiHospital,355-5Haruobicho,Kamigyo-ku,Kyoto602-8026,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(129)1551 主訴:右眼視力低下.現病歴:2012年12月末頃から左眼視力低下を自覚し近医受診.視神経乳頭浮腫を認めたため当院脳神経外科へ2013年2月に紹介され受診.頭部MRI(磁気共鳴画像)にて左前床突起部に11mm程度の腫瘍性病変および左視神経のびまん性肥厚(図1)が認められた.脳神経外科から当科紹介受診した結果,左眼視力は眼前手動弁で,左眼に相対的瞳孔求心路障害(relativeafferentpupillarydefect:RAPD)および視神経乳頭の腫脹を認めた.右眼視神経乳頭には異常を認めず,矯正視力は(1.5)であった.2013年2月に脳神経外科にて脳腫瘍摘出術および左眼視神経管開放術が施行された.病理診断の結果は左眼の視神経鞘髄膜腫であった.術後の2013年3月に当科を受診したが,左眼視力は0で左眼の視神経乳頭は境界がやや不整で色調は蒼白であった.右眼視神経乳頭は正常で矯正視力は(2.0),視野にも異常を認めなかった.その後脳腫瘍の残存が認められたため,2013年6月に左眼視神経鞘髄膜腫に対してガンマナイフ治療(左眼視神経管周囲の残存腫瘍に対し最大線量16Gy,視神経への最大線量8Gy)を他院にて施行された.ガンマナイフ施行10日後から僚眼(右眼)に急激な視力低下を自覚し,施行15日後に当科受診となった.既往歴:5年前に乳癌手術(右乳房切除術).2012年より糖尿病発症(インスリン投与開始).受診時所見:右眼視力は0.05(矯正不能),左眼視力は0.図1頭部造影MRI所見上段は冠状断を,下段は軸位断を示す.上段に左前床突起部に11mm程度の腫瘍性病変(白矢印)を,下段に左眼の視神経のびまん性肥厚(白矢印)を認めた.RAPDは左眼で陽性で眼痛はなかった.限界フリッカ値(以下,CFF値)は右眼14Hz,左眼は測定不能であった.前眼部,中間透光体および眼圧には両眼とも異常を認めなかった.眼底検査では右眼視神経乳頭蒼白腫脹(図2),左眼視神経乳頭完全萎縮を認めた.Goldmann視野検査では,右眼に中心暗点が認められた(図3).精査のため脳神経外科入院となった.入院後の所見:頭部の造影MRIにて右眼の視神経と視神経周囲に造影効果を有する高信号を,また左眼の視神経周囲に残存腫瘍を認めた(図4).頭蓋内に脱髄巣は認めなかった.血液・生化学検査では,血糖値とHbA1Cがそれぞれ145mg/dlと8.8%で高値を認めたものの,その他はすべて正常範囲内であった.CRP(C反応性蛋白)も正常で炎症反応に乏しく,抗核抗体・IgG4や抗アクアポリン4抗体を含む自己抗体も正常範囲内であった.髄液検査では糖が高濃度(100mg/dl)であったが,細胞数,蛋白,オリゴクローナルバンドやミエリン塩基性蛋白などは正常範囲であった.治療・経過:臨床症状,検査所見から右眼視神経周囲炎を伴う視神経炎と診断し,入院翌日よりステロイドパルス療法を開始した.ステロイドパルスはメチルプレドニゾロン1,000mgの点滴投与を3日間行い,その後はステロイド内服での維持療法に移行した.治療開始後3日目には,右眼の矯正視力は(1.5),CFF値20Hzと著明に改善し,治療開始後5日目には右眼の視神経乳頭は蒼白腫脹が消失し境界鮮明となり色調は正常化した.同日施行したGoldmann視野検査では中心暗点は消失し正常視野に戻った.維持療法はメチルプレドニゾロン40mgを5日間,30mgを10日間,20mgを7日間,15mgを13日間,10mgを15日間,5mg図2眼底写真右眼視力低下を自覚し受診したときの右眼の眼底写真を示す.視神経乳頭の蒼白腫脹を認めた.1552あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(130) 図3Goldmann視野検査右眼視力低下を自覚し受診したときの右眼のGoldmann視野検査を示す.右眼の中心暗点(斜線部分)を認めた.左眼視野は測定不可.図5右眼視力回復後の眼底写真発症後6カ月経過したときの右眼眼底写真を示す.右眼矯正視力は(1.5)と安定し,視神経乳頭の蒼白腫脹は著明に改善した.を14日間と漸減し,ステロイド内服を終了した.ステロイド内服終了時の右眼視力は1.2(矯正不能),CFFは31Hzであった.発症後6カ月経過した時点での頭部造影MRIにて右眼の視神経と視神経周囲の高信号は消失し,右眼視力は1.5(矯正不能),CFFは28Hzで,右眼視神経乳頭所見(図5)も安定している.II考按1.視神経炎の診断と原因について本症例は,左眼視神経鞘髄膜腫治療中に右眼の急激な視力低下を示した.右眼には視神経乳頭の蒼白浮腫,CFF値の著明な低下と視野での中心暗点が認められた.原因として(131)図4頭部造影MRI所見上段は冠状断を,下段は軸位断を示す.右眼の視神経と視神経周囲に高信号(白矢印)を,左眼の視神経周囲に残存腫瘍(星印)を認めた.は,右眼への腫瘍の進展,虚血性視神経症,視神経炎などが考えられたが,脳神経外科での精査の結果,腫瘍の右眼への進展は否定された.造影MRIで視神経および視神経周囲に高信号を認め,視野検査では中心暗点を示し,ステロイド治療が著効を示したことなどから,虚血性視神経症は否定的で,視神経炎と診断した.視神経炎の原因としては,多発性硬化症,抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎,SLEなどの自己免疫疾患および,ガンマナイフ照射による炎症の波及などが考えられたが,本症例では,血液・免疫生化学的検査にて高血糖以外に異常値を認めず,脳脊髄液検査にてオリゴクローナルバンドやミエリン塩基性蛋白などについての異常を認めず,頭部MRIにても脱髄性病変を認めなかった.以上より本症例の原因は,多発性硬化症,抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎や自己免疫疾患などは否定的で,ガンマナイフ照射後2週間で発症した経緯からガンマナイフ照射が考えられた.2.ガンマナイフ治療と視神経障害についてガンマナイフ治療とは,201個のコバルトが線源となり,それぞれから放出されたg線が腫瘍細胞への栄養血管の内皮細胞をターゲットに血管閉塞を惹起し,周囲正常脳組織を傷つけることなく腫瘍の壊死を起こすことで脳内小病変を治療する低侵襲な治療法である1).従来の放射線治療と異なり,正常脳神経組織をほとんど障害せず,副作用のきわめて少ない安全な治療と考えられている.しかし,近年ガンマナイフあたらしい眼科Vol.31,No.10,20141553 による急性の副作用報告が注目されはじめた2.6).ガンマナイフ照射後2週間以内に28%の割合で軽症の頭痛,てんかん発作,嘔気,めまいなどの急性副作用が生じたという報告があるが2),急性の神経障害については聴神経鞘腫に対するガンマナイフ照射後24時間以内に難治の難聴が出現した症例5)や,照射3日後に難聴や顔面神経麻痺を呈しステロイド全身投与が有効であった症例の報告6)がある.一方で,放射線治療による神経障害は照射後半年から数年の晩期に発症し障害は高度で非可逆的であることが知られている.なかでも,放射線視神経症は照射後1年半程度経過してから出現することが多く,視力低下は急激かつ高度で,ステロイド全身投与や高濃度酸素療法,抗凝固療法などを施行しても視機能の予後は不良といわれている7).本症例ではステロイドパルス治療が奏効したが,ガンマナイフ照射後の急性視神経障害に対してのステロイドパルス治療は効果的であった症例の報告8)もある一方で,ステロイドパルス治療が効果的でなかった症例の報告3,5)もあり,ステロイドパルス療法の効果は明確ではない.また,本症例でのガンマナイフ治療は左眼視神経管周囲に照射されたが,照射部位との距離は比較的近くではあったものの右眼視神経は照射部位から離れており,直接照射はされていなかった.ステロイドパルス治療に対する反応性と直接照射部位ではなかったことなどから,本症例のガンマナイフ治療による急性の神経障害は,いわゆる放射線の直接障害による放射線性壊死とは異なる機序で生じたと推察された.ガンマナイフ治療による急性の神経障害の機序としては,循環障害による急性の浮腫や炎症,フリーラジカルなどが考えられているが,現在のところ明確な見解はない.本症例では,左眼視神経の残存腫瘍に照射したガンマナイフにより何らかの炎症が生じ,視交叉クモ膜炎をきたした結果,照射部位とは異なる右眼の視神経周囲と視神経に炎症が波及したものと推測された.また本患者は糖尿病の既往があり,血管透過性が亢進した状態にあったことも炎症を惹起した一因と考えられた.III結論視神経に対する推奨の最大線量は10Gy以下とされているが9),本症例に対するガンマナイフの治療は視神経への最大線量8Gyで施行されており,残存腫瘍に対する治療線量としては妥当であった.また,今回の症例では照射しなかった僚眼へ視神経炎が発症した.これらのことから,適切な線量で施行されたガンマナイフ治療でも照射部位から離れた視神経への障害を併発しうることが本症例により示された.副作用のきわめて少ない安全な治療とされているガンマナイフ治療だが,適切な治療計画に基づいていても急性の神経障害を引き起こす可能性があることに十分留意する必要がある.文献1)林基弘,RegisJ,PorcheronDほか:治療計画.高倉公朋(編):脳神経外科AdvancedPractice第1巻,p2-13,メジカルビュー社,20002)Werner-WasikM,RudolerS,PrestonPEetal:Immediatesideeffectsofstereotacticradiotherapyandradiosurgery.IntJRadiatOncolBiolPhys43:299-304,19993)TagoM,TeraharaA,NakagawaKetal:Immediateneurologicaldeteriorationaftergammakniferadiosurgeryforacousticneuroma.Casereport.JNeurosurg93(Suppl3):78-81,20004)StGeorgeEJ,KudhailJ,PerksJetal:Acutesymptomsaftergammakniferadiosurgery.JNeurosurg97(Suppl5):631-634,20025)ChangSD,PoenJ,HancockSLetal:Acutehearinglossfollowingfractionatedstereotacticradiosurgeryforacousticneuroma.Reportoftwocases.JNerosurg89:321-325,19986)PollackAG,MarymontMH,KalapurakalJAetal:Acuteneurologicalcomplicationsfollowinggammaknifesurgeryforvestibularschwannoma.CasesReport.JNeurosurg103:546-551,20057)Danesh-MeyerHV:Radiation-inducedopticneuropathy.JClinNeurosci15:95-100,20088)細田淳英,水野谷智,阿部秀樹ほか:再発下垂体腫瘍へのガンマナイフ治療後に視神経炎を生じた一例.臨眼62:479-482,20089)LeberKA,BergloffJ,PendlG:Dose-responsetoleranceofthevisualpathwaysandcranialnervesofthecavernoussinustosterotacticradiosurgery.JNerosurg88:43-50,1998***1554あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(132)

眼科的介入のない糖尿病黄斑浮腫の短期経過

2014年10月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(10):1545.1549,2014c眼科的介入のない糖尿病黄斑浮腫の短期経過加藤(堂園)貴保子*1,2棈松泰子*2土居範仁*3鎌田哲郎*4坂本泰二*2*1宮田眼科病院*2鹿児島大学大学院医歯学総合研究科視覚疾患学講座*3慈愛会今村病院分院眼科*4慈愛会今村病院糖尿病内科Short-TermFollow-UpofDiabeticMaculopathywithoutOphthalmicInterventionKihokoKato(Dozono)1,2),YasukoAbematsu2),NorihitoDoi3),TeturoKamata4)andTaijiSakamoto2)1)MiyataEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofKagoshima,3)DepartmentofOphthalmologyImamuraBun-inHospital,4)DepartmentofDiabetesMellitus,ImamuraBun-inHospital目的:過去1年間眼科的に無治療で経過観察した糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)眼について,短期的な自然経過を調べる.方法:過去1年間に光凝固や手術歴がなく6カ月以上経過観察可能であったDME眼(27例34眼)について視力,中心窩網膜厚を後ろ向きに検討した.結果:視力は,改善が8眼(24%),不変が20眼(58%),悪化が6眼(18%)であり,中心窩網膜厚は,改善が3眼(9%),不変が18眼(62%),悪化が10眼(29%)であった.6カ月で視力は有意に変わらなかったが,中心窩網膜厚は有意に悪化した.視力改善群のHbA1C値は非改善群のそれに比べ,初診時,6カ月ともに有意に低かった.結論:活動性の低いDME眼では,眼科的に無治療であっても,自然軽快するものがあり血糖コントロールと関与する可能性が示唆される.Objective:Toestimatetheshort-termnaturalcourseofdiabeticmacularedema(DME).Methods:Inthisretrospectivecaseseriesstudy,patientdatawerereviewedfromtherecord.Thosewhohadreceivednooculartreatmentfor1yearbeforetheinitialexaminationandwerethenobservedforatleast6monthswithnooculartreatmentwerestudied.Visualacuity(VA),fovealthickness(FT)evaluatedbyopticalcoherenttomography(OCT)andseveralclinicalparameterswereevaluated.Results:Atthe6-monthvisit,VAhadimprovedin8eyes(24%),remainedunchangedin20(58%),anddeterioratedin6(18%).FThaddecreasedin3eyes(9%),remainedunchangedin18(62%),andincreasedin10(29%).VAwassignificantlycorrelatedwithFTatbothinitialand6-monthvisits,intheanalysisofalleyes.HbA1CwassignificantlylowerinthepatientswithimprovedVAthaninthosewithdeterioratedVA(initialvisit:6.7±0.8,vs.7.5±0.9%,p=0.04;6-months:6.3±0.7vs.7.3±1.1%,p=0.01).Conclusions:InmildDME,VAandFTimprovedspontaneouslyinasignificantnumberofpatientswithnooculartreatment.GoodglycemiccontrolcouldbesignificantlyrelatedtotheimprovementofVAinthesepatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(10):1545.1549,2014〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,視力転機,中心窩網膜厚,OCT,自然経過.diabeticmacularedema,visualoutcome,fovealthickness,OCT,naturalhistory.はじめに糖尿病黄斑浮腫(DME)については多くの研究があるが,無治療で経過をみた報告はわずかである.Hikichiらは,2型糖尿病でDMEのある82眼について,6カ月の自然経過を観察し,33%に浮腫が改善し,2段階以上の視力改善を63%に認めたと報告している1).また,純粋な自然経過とはいえないが2.4),Gilliesらでは,DME眼無治療群35眼で,2年後においても,26%に視力が改善した2).MacugenDiabeticRetinopathyStudyGroupでのプラセボ群42眼では,36週の経過観察期間に10%で2段階以上の視力改善があったと報告している3).一方,PKC-DRS2Groupは573眼のコントロール群において36カ月で2.4%に視力改善を認めたと述べている4).近年,光干渉断層計(OCT)による評価が,黄斑評価に不可欠とされるが,OCTによる自然経過についての報告は少なく,GilliesらのものとMacugenDiabeticRetinopathy〔別刷請求先〕加藤(堂園)貴保子:〒885-0051都城市蔵原町6街区3号宮田眼科病院Reprintrequests:KihokoKato(Douzono),M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(123)1545 StudyGroupの2つのみである.Gilliesらは2年間に平均網膜厚が71μm減少し2),MacugenDiabeticRetinopathyStudyGroupでのプラセボ群では網膜厚が3.7μm増加し,75μm以上の改善を19%に認めたと報告している3).今回筆者らは,過去1年間に眼科治療を受けていないDME症例のうち,その後6カ月間,さまざまな理由のために無治療で経過観察された症例の自然経過について検討した.I方法対象は1999年から2006年に今村病院分院を受診したDME患者450人のうち過去1年間光凝固を含む眼科治療を受けていないDME症例で,かつ6カ月以上眼科的に無治療で経過観察できた27例34眼.後ろ向きに観察研究を行った.黄斑浮腫の有無は散瞳下,検眼鏡で中心窩を含む浮腫があり,OCTにより確認できたものとした.経過観察中,網膜症の増悪のためfocalphotocoagulation,scatterphotocoagulation(PHC)少なめの光凝固(400.650発),panretinalphotocoagulation(PRP),トリアムシノロン注射やトリアムシノロンTenon.下注射併用白内障手術,硝子体手術,その他の眼科手術が必要になったものは除外した.視力悪化症例については浮腫増悪による視力低下を認めたため,治療を勧めたが拒否された症例に限定した.除外項目として,他の眼疾患を有する症例(網膜血管閉塞症,緑内障,黄斑変性,ぶどう膜炎,角膜混濁,高度な白内障,硝子体出血),DMEに対する治療歴のある症例(トリアムシノロン使用歴,硝子体手術既往)および過去1年以内に白内障手術や光凝固治療既往のある症例をあげた.全身状態としては,コントロール不良な高血圧,重症な全身疾患およびクレアチニン3以上の糖尿病性腎症,血液透析例,ネフローゼ症候群を除外した.これらの症例について,年齢,性別,糖尿病(DM),罹病期間,初診時および6カ月の小数視力,中心窩網膜厚,HbA1C(JDS値),高血圧,末梢神経障害,腎症,高脂血症について調査した.小数視力が0.2以上改善した群を視力改善群とし,それ以外を視力非改善群として,両群を比較検討した.2012年より推奨され現在広く用いられているHbA1C:NGSP値はJDS値に約0.4%を加えた値であり換算した値も表記した.初診時の定義として,すでに初診時に黄斑浮腫があった症例では,その時点の所見を採用した.黄斑局所光凝固または汎網膜光凝固がされた症例では光凝固1年経過後を初診とした.黄斑浮腫のない症例で経過観察中に黄斑浮腫を認めた症例では,黄斑浮腫発症時を初診時とした.平均視力や視力の2群間の比較においては,小数視力を1546あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014logMAR視力に換算して比較を行った.視力,光干渉断層計(OCT2またはOCT3000)で測定した中心窩網膜厚を初診時および6カ月後で調査し,比較検討した.中心窩網膜厚は,網膜表面から網膜色素上皮までとし,OCT2では中心窩を含む垂直断と水平断を各2回測定してその平均値とした.OCT3000ではretinalmapのaverageretinalthickness(fovea)を使用し決定した.また,中心窩網膜厚については,初診時の中心窩網膜厚の20%以上減少したものを改善,20%以上増加したものを悪化とした.II結果症例の内訳は27例34眼,男性17例21眼,女性10例13眼.年齢は42.77歳,平均62歳.平均観察期間(年)3.36±1.73.症例の眼所見および全身状態を表1に示す.視力は初診時と6カ月後を比較し有意差を認めなかった.中心窩網膜厚は6カ月で有意に増加した(p<0.05:Wilcoxonsigned-rankstest).視力と中心窩網膜厚の相関は初診時では相関係数が0.43,6カ月後は相関係数0.41であり,有意な相関を認めた.HbA1C(%)(JDS値)は,初診時7.33±0.96,6カ月7.04±1.10で改善していたが有意差は認めなかった(p=0.06).収縮期血圧(mmHg)の平均値は初診時と6カ月で,有意差はなかった.視力は,改善が8眼(24%),不変が20眼(58%),悪化が6眼(18%),中心窩網膜厚は,改善が3眼(9%),不変が18眼(62%),悪化が10眼(29%)であった.視力改善群8眼,非改善群は26眼であった.両群間の比較結果を表2に示す.年齢,初診時視力,初診時中心窩網膜厚(μm)については,いずれも有意差を認めなかった(p=0.13,p=0.29,p=0.68:Mann-Whitney’sUtestforacontinuousvariables).6カ月後の中心窩網膜厚(μm)は視力改善群322±101,非改善群376±118で有意差を認めなかったものの,非改善群のほうが厚い傾向があった.初診時との比較では,網膜厚が視力改善群では初診時330±61,6カ月322±101μmと減少傾向を示したが有意差はなく,非改善群では網膜厚は初診時328±101,6カ月376±118μmと有意に増加した(p=0.50,p=0.014:Wilcoxonsigned-rankstest).DM罹病期間については視力改善群のほうが非改善群に比べ短い傾向にあったが有意差はなかった.初診時HbA1C(%)は視力改善群6.7±0.8,視力非改善群7.5±0.9,6カ月後のHbA1C(%)は視力改善群6.3±0.7,視力非改善群7.3±1.1でいずれも有意差があり(p=0.04,p=0.01:Mann-Whitney’sUtestforacontinuousvariables),視力改善群では視力非改善群に比べ,初診時,6カ月ともに(124) 表1糖尿病黄斑浮腫症例(34眼)p年齢(歳)61.7±8.6性別(男/女)21/13糖尿病罹病期間(年)13±6.0網膜症MildNPDR2眼ModerateNPDR20眼SevereNPDR9眼PDR3眼視力(logMAR)初診時0.23±0.320.636M0.22±0.27中心窩網膜厚(μm)初診時328±920.0486M363±115中心窩網膜厚と視力の相関**初診時r=0.440.0096Mr=0.410.017HbA1C(%)*(JDS値)初診時7.33±0.960.066M7.04±1.10HbA1C(%)*(NGSP値に換算)初診時7.73±0.960.066M7.44±1.10収縮期血圧(mmHg)*初診時134±240.336M130±20糖尿病性腎症なし10眼StageII以上24眼高脂血症あり10眼なし24眼*:Wilcoxonsigned-rankstest.**:Spearman’srankcorrelationcoefficient.本検討ではHbA1C(%)はJDS値を使用している.2012年より推奨され現在広く用いられているNGSP値はJDS値に約0.4%を加えた値であり換算した値も表記した.血糖コントロールが良好であった.血圧,末梢神経障害については両群間に有意差はなく,クレアチニン3未満で糖尿病性腎症2以上の有無,高脂血症の有無についても両群間に有意差は認めなかった(p=0.39,p=0.52,p=0.75,p=0.39:Fisher’sexacttest).III考按現在まで,OCTなどを用いて,DMEの自然経過を詳細に検討したものは少ない.近年,DMEが悪化した場合,さまざまな治療が積極的に行われることを考えると,今後も自然経過に関する研究は困難と思われるが,自然経過のデータは,治療の適応を判断するうえで不可欠である.そこで本研(125)表2視力改善群と視力非改善群での中心窩網膜厚および合併症の検討視力改善群視力非改善群n=8n=26p年齢(歳)58.3±7.3262.7±8.750.13性別(男/女)*7/114/120.12視力(logMAR)初診時0.22±0.110.24±0.370.296M0.03±0.080.27±0.280.03中心窩網膜厚(μm)初診時330±61328±1010.686M322±101376±1180.15糖尿病罹病期間(年)10±5.214±6.10.07初診時HbA1C(%)JDS値6.7±0.87.5±0.90.046MHbA1C(%)6.3±0.77.3±1.10.01初診時HbA1C(%)NGSP値7.1±0.87.9±0.90.036MHbA1C(%)6.7±0.77.7±1.10.01高血圧(収縮期血圧130以上)*あり4190.39なし47末梢神経障害*あり7200.52なし16腎症II以上*あり6180.75なし28高脂血症あり190.39なし717Mann-Whitney’sUtestforacontinuousvariables.*:Fisher’sexacttestfordichotomousvariable.究では,過去の症例から,諸事情により眼科的介入が1年半以上されなかった症例を抽出して,その結果を短期自然経過として解析した.1985年にEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStusy(ETDRS)はDMEの早期に黄斑局所光凝固を行うことによって,視力低下を抑えられると述べた5).この報告では,無治療群においては,3年間で視力は少しずつ低下してきており,自然経過は悪化するとしている.今回筆者らは,過去1年間眼科治療のない活動性の低いDME症例を,6カ月間経過観察した.20%近くの症例に視力改善が認められたが,これはHikichiら1)の報告とほぼ同様であった.また,視力と中心窩網膜厚においては,初診時と6カ月の時点で相関が認められた.FDA(米国食品・医薬品局)の見解では視力と中心窩網膜厚の間には相関はないとされているが,本研究では,視力と中心窩網膜厚にはある程度の相関が認められた.過去にも同じように相関を認めた報告があるが,Winfriedらは視力と中心窩網膜厚には中等度の相関があり,特に黄斑部の虚血や白内障の少ない患者ではより相関がみられると述あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141547 べている6).同程度に中心窩網膜厚が増大しても,発症間のないものと,時間を経たものでは視力が異なるのは当然である.本症例は,比較的軽症例が多かったことも結果の違いに反映されたかもしれない.視力改善群の中心窩網膜厚は,非改善群に比べ,6カ月後に減少していたが,有意差は認めなかった.一方,視力非改善群では中心窩網膜厚が有意に増加していた.DM罹病期間については,視力改善群では非改善群に比べ短い傾向があった.これは黄斑浮腫が出現して時間がたてば,網膜に不可逆的障害を生じ,黄斑浮腫が改善しても視力改善がえられないとも考えられる.表1ではHbA1C(%)は,初診時と比較して,6カ月で改善していたが有意差は認めなかった(p=0.06).これについては,糖尿病内科,眼科に数年かかっているという病識の高い患者が多かったため,全般的に血糖コントロールが良好であったと思われる.また,表2では,HbA1Cが,視力改善群で,初診時,6カ月ともに視力非改善群に比べ有意に低かった.過去の報告において,厳格な血糖コントロールは,網膜症の進行するリスクを50%以上軽減できるとする報告がある7).また,12年間厳格な血糖コントロールを行うことによって,9年間網膜症の進行が抑えられたとの報告もある8).一方,Raijaらは,2型DM133人について前向きに10年間,黄斑症,視力を調査し,その危険因子を検討したが,血糖コントロール不良が黄斑症の最大の危険因子であり,血圧などは黄斑症発症の危険因子ではないとした.また,黄斑症の発症についてはDM罹病期間が長くなると頻度が上がり10年で約21%に黄斑症を認めたと報告している9).このように血糖コントロールが糖尿病網膜症やDMEの発症や進行に関与したとする報告はあるが,黄斑浮腫の改善に影響したという報告はない.今回の結果は,厳格な血糖コントロールが,比較的軽症例のDMEを改善させる可能性を示唆している.血圧とDME/腎症の関連については,今回,初診時の収縮期血圧が視力改善群,非改善群ともに平均130台と良好であり,コントロール不良な高血圧やクレアチニン3以上の腎症を除外しているため,言及はできない.Leskeらは324例のDM患者を9年間経過観察し,網膜症の発症因子をみているが,それによると収縮期高血圧,拡張期高血圧は危険因子であった10).腎症についてはKleinらの検討検討で蛋白尿が黄斑浮腫の危険因子であると述べている11).El-Asrarも重症網膜症患者では腎症合併率が高く,また糖尿病合併症と網膜症との関連を多変量解析した結果,腎症が唯一の関連因子だったと報告した12).腎機能の悪化時期に一致してDMEが増悪することはよく経験される.網膜症も腎症も糖尿病による微小血管障害の結果であり,その関連については複雑ではあるが,十分に関連があると考えられる.1548あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014高脂血症の有無についても今回は有意差はなかった.視力改善群では高脂血症症例は1例のみであり,この結果もこの研究が全身状態の比較的良好な症例に限定した検討であることを反映していると思われる.黄斑浮腫が脂質管理のみで改善したという報告はない.ETDRSでは血清総コレステロール値,低比重リポ蛋白(LDL)値の上昇が,硬性白斑の頻度を増加させる13)と報告している.FenofibtrateInterventionandEventLoweringinDiabetes(FIELD研究)においても,フェノフィブラート投与により,糖尿病網膜症の2段階以上の進行,光凝固治療の必要性が有意に抑制され,黄斑浮腫の発症については単独では有意差はみられなかったもののプラセボと比べ黄斑症発症頻度は少なかった14)とある.ActiontoControlCardiovasucularRiskinDiabetes(ACCORD)試験15)では,血糖,血圧の厳格な管理とスタチン,フェノフィブラート併用療法において,糖尿病網膜症の進行,光凝固施行,硝子体手術施行を有意に抑制したとあり,脂質管理も大切であることはいうまでもない.本研究の問題点としては,後ろ向き研究である点,浮腫の発症時期が不明確な点,症例数が少ない点があげられる.DMEの自然経過を見るには,疾患の重篤さを問わずすべてについて調べるべきであるが,悪化例に治療を行わないことは倫理上問題であり,重篤なものは治療介入が行われたので,結果として比較的軽症例が多く含まれることになった.また,本来であれば,経過中に視力が増悪して介入したものを悪化例とすべきかもしれないが,DME全症例についての把握ができていないために定量的評価に耐える結果が得られないことから,今回の評価方法をした.さらに,全身状態も比較的良好な症例に限定した検討であり,全身状態不良例を含めると悪化症例はさらに増加する.この点に注意して,この結果を解釈,一般化する必要がある.しかし,少なくとも比較的軽症例では,厳格な全身管理(HbA1C6.5%未満:JDS値)で短期的に黄斑浮腫が改善することが示唆された.症例数の少なさについては,倫理的に意図的な無治療状態が作れない現状では,限界がある.対象が限定されたものであるとはいえ,本研究で,現在のわが国において,DMEは半年間に改善するものがあることがわかったことは重要である.DMEは,長期的には悪化するという報告に基づき,早期から積極的な眼科介入を推奨する意見が多い.しかし,大変血糖コントロールが良く,全身管理も良い例では,早期に治療に踏み切らず数カ月は経過観察を行っても良いのかもしれない.本論文は第13回日本糖尿病眼学会で発表した.2014年に再調査.(126) 利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HikichiT,FujioN,AkibaJetal:Associationbetweentheshort-termnaturalhistoryofdiabeticmacularedemaandthevitreomacularrelationshipintypeIIdiabetesmellitus.Ophthalmology104:473-478,19972)GillsiesMC,SutterFK,SimpsonJMetal:Intravitrealtriamcinoloneforrefractorydiabeticmacularedema.Ophthalmology113:1533-1538,20063)MacugenDiabeticRetinopathyStudyGroup:AphaseIIrandomizeddouble-maskedtrialofpegaptanib,ananti-vascularendothelialgrowthfactoraptamer,fordiabeticmacularedema.Ophthalmology112:1747-1757,20054)PKC-DRS2Group:Effectofruboxistaurinonvisuallossinpatientswithdiabeticretinopathy.Ophthalmology113:2221-2230,20065)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyReportNumber1:Photocoagulationfordiabeticmacularedema.ArchOphthalmol103:1796-1806,19856)GoebelW,Kretzchmar-GrossT:RetinalthicknessindiabeticretinopathyAstudyusingopticalcoherencetomography(OCT).Retina22:759-767,20027)TheDiabetesControlandComplicationsTrialResearchGroup:Theeffectofintensivetreatmentofdiabetesonthedevelopmentandprogressionoflong-termcomplicationsininsulin-dependentdiabetes.NEnglJMed329:977-986,19938)UKProspectiveDiabetesStudy(UKPDS)Group:Effectofintensiveblood-glucosecontrolwithmetforminoncomplicationsinoverweightpatientswithtype2diabetes(UKPDS34).Lancet352:854-865,19989)Voutilainen-KaunistoR,TerasvirtaM,UusitupaMetal:Maculopathyandvisualacuityinnewlydiagnosedtype2diabeticpatientsandnon-diabeticsubjects:A10-yearfollow-upstudy.ActaOphthalmol79:163-168,200110)LeskeMC,WuSY,HennisAetal:BarbadosEyeStudyGroup:Hyperglycemia,bloodpressure,andthe9-yearincidenceofdiabeticretinopathy:TheBarbadosEyeStudies.Ophthalmology112:799-805,200511)KleinR,ZinmanB,GardinerRetal:Therelationshipofdiabeticretinopathytopreclinicaldiabeticglomerulopathylesionsintype1diabeticpatients:theRenin-AngiotensinSystemStudy.Diabetes54:527-533,200512)El-AsrarAM,Al-RubeaanKA,Al-AmroSAetal:Retinopathyasapredictorofotherdiabeticcomplications.IntOphthalmol24:1-11,200113)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStusyResearchGroup.Associationofelevatedserumlipidlevelswithretinalhardexudatesindiabeticretinopathy.ArchOphthal114:1079-1084,199614)KleechA,MitchellP,SummanenPAetal:Effectoffenofibrateontheneedforlasertreatmentfordiabeticretinopathy(FIELDstudy):arandomizedcontrolledtrial.Lancet370:1687-1697,200715)ActiontoControlCardiovasucularRiskinDiabetes(ACCORD)StudyGroup:ACCORDEyeStudyGroupetal:Effectofmedicaltherapiesonretinopathyprogressionintype2diabetes.NEnglJMed363:233-244,2010***(127)あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141549

骨髄異形成症候群の患者に生じた転移性感染性眼内炎の1症例

2014年10月31日 金曜日

1540あたらしい眼科Vol.4100,211,No.3(00)1540(118)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(10):1540.1544,2014cはじめに転移性感染性眼内炎の原因疾患としては肝膿瘍,尿路感染症などが多いとされる1)が,心内膜炎が原因となることがまれにある.筆者らの施設でも小林ら2),盛ら3)が心内膜炎に続発する転移性感染性眼内炎の症例を報告している.今回,基礎疾患に骨髄異形成症候群を持つ患者に生じた心内膜炎が原因と思われる転移性感染性眼内炎の1例を経験したので報告する.I症例症例は63歳,男性.平成22年9月中旬頃から左眼飛蚊症を自覚したため,同年9月30日,近医眼科を受診したと〔別刷請求先〕平本裕盛:〒573-1191大阪府枚方市新町2-3-1関西医科大学眼科学教室Reprintrequests:YuseiHiramoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,2-3-1Shin-machi,Hirakatacity,Osaka573-1191,JAPAN骨髄異形成症候群の患者に生じた転移性感染性眼内炎の1症例平本裕盛山田晴彦星野健髙橋寛二関西医科大学附属枚方病院眼科ACaseofMetastaticInfectiousEndophthalmitiswithMyelodysplasticSyndromeYuseiHiramoto,HaruhikoYamada,TakeshiHoshinoandKanjiTakahashiDepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,HirakataHospital目的:骨髄異形成症候群を基礎疾患にもつ患者に生じた,感染性心内膜炎が感染源として考えられる転移性感染性眼内炎の症例を報告する.症例:63歳,男性.既往に骨髄異形成症候群がありステロイド内服治療を受けていた.左眼飛蚊症を自覚して近医眼科を受診.真菌性眼内炎として前医に紹介され加療されたが,硝子体混濁の悪化を認め当院を紹介された.初診時,左眼視力は矯正0.5で濃厚な硝子体混濁を認め,眼底の下方半分が透見不能であった.前医の血液培養でa溶血性レンサ球菌が検出されており,転移性感染性眼内炎を疑い初診日に硝子体手術を行った.術後2日目に循環器内科で感染性心内膜炎と診断され転科となり,後日僧帽弁置換術を行い全身状態は軽快に向かった.眼科での術後経過は良好であり,術後5カ月経過した現在まで視力は矯正1.5を維持し,再発を認めていない.結論:骨髄異形成症候群および感染性心内膜炎は転移性感染性眼内炎の基礎疾患,感染巣として念頭に置いておくべきである.Purpose:Wereportacaseofmetastaticinfectiousendophthalmitiscausedbyinfectiveendocarditisaccompa-niedwithmyelodysplasticsyndrome.Case:Thepatient,a63-year-oldmalewithmyelodysplasticsyndrome,hadbeentreatedwithsystemiccorticosteroidforyears.Hepresentedwithfloatersinhislefteye,hadbeendiagnosedashavingfungalendophthalmitisandwastreatedwithananti-fungaldrugs.Despitetheanti-fungaltherapy,how-ever,vitreousopacityincreasedandheconsultedourhospital.Onhisfirstvisit,thelowerfundusofhislefteyewasinvisibleduetothickvitreousopacity.Aspeciesofa-Streptococcushadbeenisolatedfromhisbloodatapre-vioushospital.Wediagnosedthepatientashavingmetastaticinfectiousendophthalmitis,andperformedvitrectomyonthedayofhisfirstvisittoourhospital.Twodaysafterthesurgery,hewasdiagnosedwithinfectiousendocar-ditis.Hewasstartedonsystemicantibacterialtherapyandlaterunderwentmitralvalvereplacementsurgery.Hehadagoodpostoperativecourseinbothsystemicandophthalmologicoperations.Hefinallyachievedvisualacuityof1.5.Conclusion:Myelodysplasticsyndromeandinfectiousendocarditisseemtobeimportantasfundamentaldiseasesandprimaryfociofmetastaticendophthalmitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(10):1540.1544,2014〕Keywords:骨髄異形成症候群,感染性心内膜炎,眼内炎,硝子体手術.myelodysplasticsyndrome,infectiveen-docarditis,endophthalmitis,vitrectomy.(00)1540(118)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(10):1540.1544,2014cはじめに転移性感染性眼内炎の原因疾患としては肝膿瘍,尿路感染症などが多いとされる1)が,心内膜炎が原因となることがまれにある.筆者らの施設でも小林ら2),盛ら3)が心内膜炎に続発する転移性感染性眼内炎の症例を報告している.今回,基礎疾患に骨髄異形成症候群を持つ患者に生じた心内膜炎が原因と思われる転移性感染性眼内炎の1例を経験したので報告する.I症例症例は63歳,男性.平成22年9月中旬頃から左眼飛蚊症を自覚したため,同年9月30日,近医眼科を受診したと〔別刷請求先〕平本裕盛:〒573-1191大阪府枚方市新町2-3-1関西医科大学眼科学教室Reprintrequests:YuseiHiramoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,2-3-1Shin-machi,Hirakatacity,Osaka573-1191,JAPAN骨髄異形成症候群の患者に生じた転移性感染性眼内炎の1症例平本裕盛山田晴彦星野健髙橋寛二関西医科大学附属枚方病院眼科ACaseofMetastaticInfectiousEndophthalmitiswithMyelodysplasticSyndromeYuseiHiramoto,HaruhikoYamada,TakeshiHoshinoandKanjiTakahashiDepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,HirakataHospital目的:骨髄異形成症候群を基礎疾患にもつ患者に生じた,感染性心内膜炎が感染源として考えられる転移性感染性眼内炎の症例を報告する.症例:63歳,男性.既往に骨髄異形成症候群がありステロイド内服治療を受けていた.左眼飛蚊症を自覚して近医眼科を受診.真菌性眼内炎として前医に紹介され加療されたが,硝子体混濁の悪化を認め当院を紹介された.初診時,左眼視力は矯正0.5で濃厚な硝子体混濁を認め,眼底の下方半分が透見不能であった.前医の血液培養でa溶血性レンサ球菌が検出されており,転移性感染性眼内炎を疑い初診日に硝子体手術を行った.術後2日目に循環器内科で感染性心内膜炎と診断され転科となり,後日僧帽弁置換術を行い全身状態は軽快に向かった.眼科での術後経過は良好であり,術後5カ月経過した現在まで視力は矯正1.5を維持し,再発を認めていない.結論:骨髄異形成症候群および感染性心内膜炎は転移性感染性眼内炎の基礎疾患,感染巣として念頭に置いておくべきである.Purpose:Wereportacaseofmetastaticinfectiousendophthalmitiscausedbyinfectiveendocarditisaccompa-niedwithmyelodysplasticsyndrome.Case:Thepatient,a63-year-oldmalewithmyelodysplasticsyndrome,hadbeentreatedwithsystemiccorticosteroidforyears.Hepresentedwithfloatersinhislefteye,hadbeendiagnosedashavingfungalendophthalmitisandwastreatedwithananti-fungaldrugs.Despitetheanti-fungaltherapy,how-ever,vitreousopacityincreasedandheconsultedourhospital.Onhisfirstvisit,thelowerfundusofhislefteyewasinvisibleduetothickvitreousopacity.Aspeciesofa-Streptococcushadbeenisolatedfromhisbloodatapre-vioushospital.Wediagnosedthepatientashavingmetastaticinfectiousendophthalmitis,andperformedvitrectomyonthedayofhisfirstvisittoourhospital.Twodaysafterthesurgery,hewasdiagnosedwithinfectiousendocar-ditis.Hewasstartedonsystemicantibacterialtherapyandlaterunderwentmitralvalvereplacementsurgery.Hehadagoodpostoperativecourseinbothsystemicandophthalmologicoperations.Hefinallyachievedvisualacuityof1.5.Conclusion:Myelodysplasticsyndromeandinfectiousendocarditisseemtobeimportantasfundamentaldiseasesandprimaryfociofmetastaticendophthalmitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(10):1540.1544,2014〕Keywords:骨髄異形成症候群,感染性心内膜炎,眼内炎,硝子体手術.myelodysplasticsyndrome,infectiveen-docarditis,endophthalmitis,vitrectomy. 図1初診時眼底写真右眼は網膜滲出斑を1カ所認めた.左眼は硝子体混濁にて眼底透見不良であった.図2初診時眼底写真左眼周辺部網膜には1.5乳頭径大の網膜内膿瘍を認め,膿瘍に向かう白線化した動脈に沿って瘤状の滲出塊が多数観察された.ころ,左眼の網膜滲出斑を指摘された.その際には硝子体混濁はなく,滲出斑も小さかったために,特に治療を行うことなく経過観察となっていた.しかし,2回目の近医再診時に滲出斑が拡大傾向を認め,軽度の硝子体混濁が出現したため,前医眼科を紹介された.前医では左眼の真菌性眼内炎を疑われ抗真菌薬の全身投与が行われたが奏効せず,硝子体混濁の悪化をきたしたため,平成22年10月26日,関西医科大学附属枚方病院眼科(以下,当科)を紹介され受診した.既往症として平成22年6月より骨髄異形成症候群があり,その他脳梗塞,狭心症もあり前医内科で経過観察されていた.家族歴に特記すべきことはなかった.初診時所見としては,視力は右眼0.8(1.5×sph.0.25D(cyl.0.50DAx75°),左眼0.5(0.5×sph+2.00D(cyl.1.50DAx90°),眼圧は両眼とも15mmHgであった.両眼ともに結膜充血,毛様充血を認めず,右眼前眼部には異常所見なく,左眼は前房内に炎症細胞を2+認めた.中間透光体は両眼ともに軽度白内障を認め,右眼は硝子体混濁は認めなかったが,左眼は滲出物を伴う濃厚な硝子体混濁を認め,眼底下方半周は透見不良であった(図1).右眼眼底は黄斑部鼻上側に1/2乳頭径×1/4乳頭径大の網膜滲出斑を1カ所認めたが,血管炎の所見はなかった.左眼耳上側周辺部網膜に1.5乳頭径大の黄白色の網膜内膿瘍の所見を認め,その部から硝子体内に濃厚な硝子体混濁が立ち上っていた.また,膿瘍に向かう白線化した動脈に沿って瘤状の滲出塊が多数観察された(図2).フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)を行ったところ,右眼の網膜滲出斑の部は造影全期を通じて低蛍光であった.左眼は硝子体混濁により描出不良であったが,造影早期から網膜血管,視神経乳頭からの蛍光漏出による過蛍光を認めた(図3).また,左眼耳上側周辺部の滲出斑の部は終始ブロックによると思われる低蛍光を示していた.血液生化学検査ならびに血算では,白血球は6,400/μl,赤血球332×104/μl,ヘモグロビン9.5g/dl,ヘマトクリット31.0%,血小板29×104/μlであり,白血球分画において好中球の増加がみられ,CRPは2.198mg/dlと軽度上昇を認めた.また,前医に問い合わせたところ,静脈血の血液培養でグラム陽性球菌(a-Streptococcus)が検出されたとのことであった.骨髄異形成症候群に対して内科でステロイド内服治療中であり,加えて血液培養でグラム陽性球菌が検出されていることから,何らかの感染巣からの転移性感染性眼内炎であると診断した.左眼の硝子体混濁は濃厚であり,抗菌薬の硝子体(119)あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141541 図3初診時FA右眼滲出斑は低蛍光を示し,左眼は網膜血管,視神経乳頭からの蛍光漏出を認めた.図4初診時心エコー僧帽弁に疣贅を認める.図5初診から5カ月後FA右眼の低蛍光は消失.左眼の蛍光漏出も消失した.注射などの保存的治療では不十分であると考え,当科初診日術を行った.超音波乳化吸引にて水晶体を摘出したが,眼内に緊急入院のうえ,同日に硝子体手術を行った.手術は25レンズは挿入せず,後に眼内レンズ2次挿入が容易なようにゲージ3ポートシステムを用いた経毛様体扁平部硝子体切除後.を含め水晶体.は温存しておいた.術中,当科での術後(120) 眼内炎の治療方針に準じて眼内灌流液に抗菌薬(バンコマイシン,セフタジジム各々20μg/ml,40μg/ml)を添加した.術中所見として硝子体混濁は網膜膿瘍部にみられた滲出斑と同じ性状の菌塊を疑う滲出物を多く含んでおり,膿瘍部から立ち上るように硝子体中に拡散していた.毛様体付近にも白色の濃厚な滲出物が付着しており,硝子体カッターにて可能な限り切除した.周辺部網膜は脆弱で,硝子体カッターによる硝子体切除時に容易に小さな医原性裂孔を2カ所生じた.眼内に抗菌薬を十分に残存させる目的で液-空気置換は行わず,網膜裂孔周辺の硝子体を十分に郭清しレーザー光凝固を行って手術を終了した.切除した硝子体の細菌培養の結果は陰性であった.術後,感染の原発巣の全身検索のため術翌日に内科にコンサルトしたところ,心雑音を指摘され,心不全症状もみられた.心臓エコー検査を行ったところ,僧帽弁に疣贅が見つかり(図4),感染性心内膜炎と診断された.術後2日目に循環器内科に転科となり,抗菌薬(ペニシリンG2,400万単位/日,ゲンタシン70mg/日,4週間)の点滴が行われたが僧帽弁閉鎖不全のため心不全症状は改善せず,2カ月後の12月20日に循環器外科で僧帽弁置換術が施行された.心臓手術後全身状態は徐々に改善し退院となった.眼科的には硝子体手術後2日目に上方周辺部網膜に裂孔を生じてレーザー光凝固を行ったが,その後の経過は良好で術後5カ月目に行ったFAでは網膜血管,視神経乳頭からの蛍光漏出は消失し(図5),視力は左眼矯正1.5に回復した.また,右眼黄斑部近傍にみられた滲出斑は平成23年3月16日受診時には消失していた.II考按転移性感染性眼内炎のうち感染性心内膜炎が原発感染巣である頻度は0.13.9%1,5,6)と比較的まれであるが,症例報告は散見される2.4).感染性心内膜炎は抜歯やカテーテル治療などを契機に心内膜(主として心弁膜)に病原微生物が侵入して感染巣(疣贅)をつくる疾患で,感染症状・心症状・塞栓症など多彩な症状を呈し,適切な治療を行わないと死に至る重篤な疾患である.感染性心内膜炎の起炎菌としては緑色レンサ球菌(Streptococcusviridans)が最も多く,黄色ブドウ球菌(Staphylococcusaureus),表皮ブドウ球菌(Staphylococcusepidermidis)がそれに次ぐとされるが,細菌以外にも真菌やクラミジアなども原因となりうる.一方,骨髄異形成症候群は骨髄に造血幹細胞の異型クローンが生じることで血球減少,無効造血,血球形態異常が引き起こされる症候群で,造血不全や急性白血病を生じることもある.治療としてステロイド薬や免疫抑制薬が使用される.眼合併症として角膜潰瘍,虹彩炎などが報告されているが,眼内炎を合併する症例も少ないながら報告がある7.9).本症例は基礎疾患に骨髄異形成症候群があり,長期間ステ(121)ロイド内服治療がなされていた.このことからステロイド内服による易感染性が基礎になり感染性心内膜炎を発症し,転移性眼内炎を生じたものと思われた.発症当初,前医で抗真菌薬の全身投与にても改善がみられず,硝子体混濁の悪化を認め当科紹介となった.前医での経過と病歴から非感染性眼内炎の可能性は低く,真菌性眼内炎の悪化もしくは細菌性眼内炎のいずれかであると考えた.術中の培養では原因菌は検出されず,内科での感染性心内膜炎の治療中にも血液培養が行われていたが,抗菌薬による治療開始後であったということもあり原因菌は検出されなかった.治療については濃厚な硝子体混濁を生じていることから,抗菌薬全身投与などの保存的治療では不十分と思われ,手術加療が必要であると判断した.一般に転移性感染性眼内炎の場合,敗血症を起こすなど全身状態が重篤なケースが多くみられる10).本症例においても初診時に全身倦怠感を強く訴えており,原因も不明であったため,眼科的治療を先に行うのか,全身精査,加療を行うのかどちらを優先させるべきか苦慮した.しかし,直前まで前医内科で全身管理され全身状態が安定していたこと,採血でCRPが高値でなかったことから,全身状態については急を要しないと判断し,初診日に緊急で硝子体手術を行い,術後速やかに全身検索をする方針とした.幸い術後2日目に内科で感染性心内膜炎の診断がつき,遅滞なく全身治療を開始することができた.一般に転移性感染性眼内炎の予後はきわめて不良であるが,本症例では例外的に良好な視力を維持することができた.早期に硝子体手術を行えたこともその一因と考えられるが,起炎菌が弱毒菌であり,進行が比較的緩徐であったことの影響が大きいと考えられた.また,前医で行われた血液培養は陽性であったが,当科で行った培養検査では血中,硝子体中,前房水中いずれも陰性であり,眼内液からは起炎菌は証明されなかった.今後,このような症例の場合にPCR法を利用し,少量のサンプルからでも原因菌の検索ができるようなシステムを導入することが必要であると考えられた.感染性心内膜炎による転移性眼内炎の報告は過去に散見することができ,筆者らの施設でも過去に2報の症例報告を行っている.小林ら2)は視力低下を自覚してから2日後に全眼球炎に至り,抗菌薬の全身投与でも消炎できず眼球摘出に至った症例を報告している.この症例の起炎菌はB群溶連菌であり,眼球摘出後,僚眼に炎症の再燃を認め,その際の全身検索で感染性心内膜炎と診断されている.一方,盛ら3)の報告は,抜歯の3カ月後から発熱,全身倦怠感を自覚し,5カ月後に内科で感染性心内膜炎と診断された症例で,両眼ともに前眼部に軽度の炎症と視神経乳頭の充血,網膜下滲出斑およびRoth斑を認めた.この症例の経過は長く,抗菌薬の全身投与のみによって眼の炎症所見は消失し,視力予後は良好であった.この症例の起炎菌は弱毒菌であるStreptococあたらしい眼科Vol.31,No.10,20141543 cussanguisであった.これら2例ともに本症例と同様に心内膜炎が原因の眼内炎ではあるが,臨床経過は大きく異なっており,その違いは起炎菌の毒性の差によるものであると推察された.本症例も弱毒菌による転移性細菌性眼内炎であり,良い条件がそろえば良好な予後を得ることが可能であると思われた.手術加療を行うことで眼球を温存できる可能性が上がるという報告もある.よって,このような症例においては全身状態が許す限り迅速な手術の適応決定が重要であると考えられた.以上,骨髄異形成症候群を基礎疾患にもつ患者に生じた感染性心内膜炎からの転移性感染性眼内炎の症例を報告した.骨髄異形成症候群,感染性心内膜炎は転移性感染性眼内炎の基礎疾患,感染病巣として念頭に置いておくべき疾患であると思われた.文献1)秦野寛,井上克洋,的場博子ほか:日本の眼内炎の現状─発症動機と起炎菌─.日眼会誌95:369-376,19912)小林香陽,藤関義人,髙橋寛二ほか:B群溶連菌による心内膜炎が原因であった内因性転移性眼内炎.日眼会誌110:199-204,20063)盛秀嗣,山田晴彦,石黒利充ほか:感染性心内膜炎から転移性眼内炎を発症し,治癒後に硝子体黄斑牽引症候群を発症した1例.あたらしい眼科28:411-414,20114)髙本やよい,國友隆二,佐々利明ほか:細菌性眼内炎により両眼摘出にいたった三尖弁位感染性心内膜炎の1例.日心外会誌36:348-351,20075)GreenwaldMJ,WohlLG,SellCHetal:Matastaticbacterialendophthalmitis:Acontemporaryreappraisal.SurvOphthalmol31:81-101,19866)JacksonTL,EykynSJ,GrahamEMetal:Endogenousbacterialendophthalmitis:A17yearprospectiveseriesandreviewof267reportedcases.SurvOphthalmol48:403-423,20037)KezukaT,UsuiN,SuzukiEetal:Ocularcomplicationinmyelodysplasticsyndromeaspreleukemicdisorders.JpnJOphthalmol49:377-383,20058)伊丹優子,神林裕行,木村悟ほか:G群b溶連菌による敗血症,眼内炎を認めた骨髄異形成症候群の一例.太田綜合病院学術年報44:1-4,20099)蒸野寿紀,松岡広,藤田識人ほか:低形成骨髄異形成に対する免疫抑制療法後に発症した真菌性眼内炎の1例.和歌山医学60:160,200910)中西秀雄,喜多美穂里,榎本暢子ほか:硝子体手術を施行した転移性細菌性眼内炎の5例.臨眼60:1697-1701,200611)YoonYH,LeeSU,SohnJHetal:ResultofearlyvitrectomyforendogenousKlebsiellapneumoniaendophthalmitis.Retina23:366-370,2003***(122)

Dynamic Contour Tonometerを用いたトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液とビマトプロスト点眼液の眼圧下降率の比較

2014年10月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(10):1535.1539,2014cDynamicContourTonometerを用いたトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液とビマトプロスト点眼液の眼圧下降率の比較西村宗作伊藤初夏中西正典植田良樹市立長浜病院眼科DynamicContourTonometerUsedtoCompareEffectsofTravoprost/TimololMaleateandBimatoprostinPrimaryOpen-AngleGlaucomaShusakuNishimura,HatsukaIto,MasanoriNakanishiandYoshikiUedaDepartmentofOphthalmology,NagahamaCityHospital目的:トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(以下,DT)とビマトプロスト(以下,LG)の眼圧下降をdynamiccontourtonometer(DCT)を用いて評価し,Goldmannapplanationtonometer(GAT)とも比較を行った.症例および方法:原発開放隅角緑内障29症例51眼.無点眼時と,DTあるいはLG点眼後の眼圧を計測した.結果:GAT,DCTともに眼圧は有意に下降し,DT群とLG群の2群比較では両点眼薬の下降効果に有意差はなかった.無点眼時眼圧値で全体を2群に分けた場合,LGはDCT測定値において,低い眼圧の群で有意な眼圧下降をみた.結論:DTとLGはともにGATと同様DCTでも有効な眼圧下降を示した.Purpose:Tocomparetheeffectsoftravoprost/timololmaleate(DT)andbimatoprost(LG)inprimaryopen-angleglaucomaonintraocularpressure(IOP)asassessedusing2instruments:Dynamiccontourtonometer(DCT)andGoldmannapplanationtonometer(GAT).PatientsandMethod:Participantscomprised29patients(51eyes)withopen-angleglaucoma(26cases);allwereofJapaneseorigin.PatientswereswitchedbetweenDTandLGafteranuntreatedbaselineperiod.Result:BothmedicationssignificantlyreducedmeanIOPfrombaseline;therewasnosignificantdifferencebetweenthem.Whenthecasesweredividedinto2groupswithuntreatedDCTvalue,however,thelowerIOPgroupshowedsignificantreductiononlywithLG,notwithDT.Conclusions:DTandLGsignificantlyreducedmeanIOPfrombaseline,asassessedusing2instruments:DCTandGAT.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(10):1535.1539,2014〕Keywords:デュオトラバR,ルミガンR,dynamiccontourtonometer(DCT),原発開放隅角緑内障,眼圧.Duo-TravR,LumiganR,dynamiccontourtonometer(DCT),open-angleglaucoma,intraocularpressure.はじめに緑内障は多因子疾患といわれ1),ミオシリン遺伝子の変異とのかかわり2)や,一塩基多型3)についても近年報告がある.その本体は神経障害であり,緑内障の進行の遅延については,眼圧下降のみが有効性を示されている4).日常診療においては点眼薬が用いられ,近年プロスタグランジン製剤が眼圧下降効果の強さで多く使われている5).緑内障の治療において点眼薬のアドヒアランスが重要視されている.点眼種数,回数が少ないことが治療行動により有効に働くとされている6).プロスタグランジン製剤は1日1回の点眼であり,ほかに,アドレナリンb受容体阻害薬(bブロッカー)にも1日1回のものが現れている7).bブロッカーは総じてプロスタグランジン製剤より効果が弱いとされるが8),この2成分を配合することでより強い効果を求める合剤も一般化している.筆者らは以前に,3種のプロスタグランジン製剤について,dynamiccontourtonometer(DCT)〔別刷請求先〕西村宗作:〒526-8580滋賀県長浜市大戌亥町313市立長浜病院眼科Reprintrequests:ShusakuNishimura,DepartmentofOphthalmology,NagahamaCityHosptal,313Oh-inui-cho,Nagahama5268580,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(113)1535 を用いて眼圧降下率の比較を行った9).DCTはGoldmann圧平式眼圧計(GAT)では検出できない,各点眼の効果の違いを評価するのに有用であった.DCTは圧センサーを用いた眼圧測定方法で,角膜厚の影響を受けにくく,拡張期眼圧とともに眼球脈波(ocularpulseamplitude:OPA)も測定することができ,拡張期眼圧にOPAの値を加えることによって収縮期眼圧も測定することができるものである10,11).DCTは小数点以下一桁まで表示することができるため,精度が確保できるのであれば,より低眼圧領域での正確な解析に有用と考えられる.眼圧下降薬剤に関しては,その後も新規薬剤が開発され,臨床現場に導入されている.そこで,1日1回点眼を用法とするもので眼圧下降効果について検証を行うことにした.以前に3種点眼薬(ラタノプロスト,タフルプロスト,トラボプロスト)のなかで最も眼圧下降の大きいと,筆者らの報告したトラボプロストにbブロッカーを加えて,さらに高い眼圧下降率の期待できると考えられる12)トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(デュオトラバR配合点眼液:以下,DT)と,やはり大きな眼圧下降を示すといわれる13)プロスタグランジン製剤であるビマトプロスト点眼液(ルミガンR:以下,LG)に関し,GATとDCTを用いて,眼圧下降の比較と評価を行った.I対象および方法市立長浜病院を2011年6月から2013年4月までに受診した,日本人の原発開放隅角緑内障29症例51眼を対象とした.うち狭義原発開放隅角緑内障15症例27眼であった.男性13例23眼,女性16例28眼,年齢69.8±10.2歳(平均±標準偏差:39.88歳),有水晶体眼44眼,偽水晶体眼7眼であった.対象から屈折度(等価球面度数)が.6.0D以上もしくは眼軸長27mmを超える強度近視眼を除外した.測定値は個人情報とまったく分離してデータ解析に用いられた.点眼の選択については各症例について適切なものを比較のうえ行うことが望ましいとされており14),実際の処方や変更については文書による受診者の了解と同意のうえで行った.データの収集と公開に関しては当院の倫理委員会の承認を得た.すべての手順はヘルシンキ宣言の指針に基づいて行われた.眼圧測定とデータ収集については,筆者らが以前行った,ラタノプラストとチモロールの比較検討15)やプロスタグランジン製剤の比較検討9)の報告と同様に行っている.すなわち,点眼治療開始前もしくは点眼中の症例は最低2週間の無点眼(wash-out)期間を設け,wash-out後の眼圧をベースライン(BL)眼圧とした.その後DTおよびLGを1剤ずつ2.4週間順次使用し,それぞれの点眼後の眼圧を計測した.2種類の点眼の順番は無作為とし,順番の違いによっての下1536あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014降率の違いについて検討はしていない.無作為の内訳はDT.LG.無点眼の順番が7例12眼,LG.無点眼.DTの順番が1例2眼,LG.DT.無点眼の順番が2例2眼,無点眼.DT.LGの順番が6例10眼,無点眼.LG.DTの順番が13例25眼であった.測定時間帯は各症例について,午前もしくは午後のなかでなるべく統一した.もとの眼圧領域による効果の違いを検証するため,症例を無点眼時DCT値でほぼ症例数が均等になるように2分し,18mmHg以下(n=24)の低眼圧群と18.1mmHg以上(n=27)の高眼圧群で分けた.眼圧はGAT(Haag-Streit社)およびDCT(ZeimerOphthalmic社,Pascal)で測定した.GAT測定眼圧(GAT値),DCT測定眼圧(DCT値)とOPAを解析に使用した.DCTの測定値はQ=1.5のうち精度が上位の1,2,3を用いた.統計学的検討にはpaired-t検定を用い,p<5%を有意とした.II結果点眼前後のGAT眼圧比較を図1に示した.BLのGAT眼圧は17.8±3.8mmHgであった.点眼後眼圧はDT使用下13.9±2.9mmHg,LG使用下14.2±3.4mmHgであった.2剤とも有意にBLより眼圧下降を認め,2剤間に有意差は認めなかった.GATでの平均眼圧降下率の比較を図2に示した.平均眼圧下降率はDT,LGの順に30.0±26.2%,28.4±23.9%であった.2剤間では有意差は認められなかった.各種点眼ごとに緑内障点眼前後各症例のDCT値を図3に示した(a:DT,b:LG).なお,無点眼時の眼圧と下降値は相関係数DT:0.47,LG:0.63であり,回帰直線を図中に直線で示した.点眼前後のDCT値を図4に示した.無点眼下での平均DCT値は19.2±3.8mmHgであり,DTでは16.8±3.9mmHg,LG17.0±4.6mmHgに,ともに有意に下降した.2剤間の点眼前後のDCT下降値に有意差はなかった.DCT値の下降率の比較を図5に示した.平均眼圧下降率はDT,LGの順に16.0±25.3%,16.7±24.3%であった.2剤間のDCT下降率に有意差は認められなかった.点眼前後のOPA値を図6に示した(a:DT,b:LG).無点眼下での平均値は2.7±1.0mmHg,DTでは2.5±1.1mmHg,LGでは2.4±0.8mmHg.LGでは無点眼に比べ有意に下降を認めた.2剤間の点眼前後のOPA値の下降に有意差は認められなかった.なお,DCT+OPA値についてもDCT値同様に解析を行ったが,DCT値と同様の結果が得られた.もとの眼圧領域による効果の違いを検証するため,症例を無点眼時DCT値でほぼ2分し,18mmHg以下(n=24)と18.1mmHg以上(n=27)で分けた.18.1mmHg以上の群では,DCT値(図7a),DCT+OPA値(図7b)ともにDTも(114) 252060504015有意差なし有意差なし51000BLDTLGDTLG図1点眼前後のGAT眼圧の比較図2点眼前後のGAT眼圧下降率の比較4025下降率(%)眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)下降率(%301020a有意差なし150BLDTLG10図4点眼前後のDCT眼圧下降値の比較507010203040aBL(mmHg)635203015DT(mmHg)251020540b535DT(mmHg)4303LG(mmHg)252201150105BL(mmHg)70b0510152025303540BL(mmHg)6図3DCT眼圧値の点眼前後の変化50123456LG(mmHg)432a:DT,b:LG.図中の実線は回帰直線.50図5点眼前後のDCT眼圧下降率の比較DTLG有意差なし4013002010BL(mmHg)01234560-10図6DCT脈圧(OPA)の点眼前後変化a:DT,b:LG.図中の実線は回帰直線.(115)あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141537 30b30a25252020有意差あり有意差あり00BLDTLGBLDTLG30有意差なし有意差なし眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)1515101055d30c2525眼圧(mmHg)2020151510105500BLDTLGBLDTLG図7低眼圧群(n=24)と高眼圧群(n=27)におけるDCT眼圧下降値の比較a:低眼圧群DCT眼圧下降値,b:低眼圧群DCT+OPA眼圧下降値,c:高眼圧群DCT眼圧下降値,d:高眼圧群DCT+OPA眼圧下降値.DT43%LG27.5%無効27.5%同効果2%らに,眼圧値で2群に分けたところ,低眼圧群ではLGにおいて,DCTで有意な眼圧下降がみられた.以前筆者らは,トラボプロストがラタノプロストなどに比べてより眼圧下降に有効であることを示した8).DTはそれにbブロッカーを配合したものであり,GATを用いて得られた結果からは,さらに強い効果が得られるとされている16,17).今回,LGよりもDTのほうが,より有効な症例が多くみられ,効果の強さを示している.一方で,bブロッカーは喘息悪化などの副作用から実際の使用上禁忌になる場合が考えられるので,LGが同程度の下降を示したということ図8DCT眼圧下降率に基づいて処方した全症例の点眼内訳LGも有意に下降した.DTとLG使用下のDCT値の下降値およびDCT+OPA値の下降値に有意差はなかった.18mmHg以下の群ではDCT値(図7c)とDCT+OPA値(図7d)の点眼前後はともにDTは有意差なく,LGでのみ有意に下降をみた.DCT眼圧下降率に基づいて処方した全症例の点眼内訳を図8に示す.2剤とも10%以下の眼圧下降率を示したものは無効とした.DTは43%(22眼),LG27.5%(14眼),無効は27.5%(14眼),両者同等であったのは2%(1眼)であった.III考按DTとLGは,ともに眼圧下降作用については,GATとDCTいずれの計測方法においても同等に有効であった.さ1538あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014は,bブロッカー使用禁忌の症例に対しても点眼使用が可能であり,臨床使用上大きな意味がある.無点眼時の眼圧と,眼圧の下降値にはある程度の相関があった.すなわち,18.1mmHg以上の高い眼圧であれば,眼圧が大きく下降する傾向があった.18mmHg以下の低い眼圧では,眼圧下降値も小さい傾向があり,よりスケールの粗いGATでは差の検出がむずかしくなる.今回も,より低い眼圧領域では,DCTで計測したところ,LGのみに有意な下降がみられている.精密に眼圧の表示のされるDCTは精度が確保できれば,より低眼圧領域での治療薬選択に役立つと考えられる.OPAを全体的に下げるプロスタグランジン製剤と異なって,bブロッカーに関しては,点眼使用後のOPAの値が,より低眼圧領域ではむしろ上昇する傾向のあることが報告されている15).今回筆者らの結果ではOPAの上昇は認めなかったが,OPA+DCTにおいて低眼圧領域でLGのみ有意差(116) を認めた.そのためbブロッカーを配合したDTに比べて低眼圧領域症例にはLGがより好ましい可能性がある.文献1)真島行彦:眼科検査診断法,個別化医療の時代にむけての遺伝子診断.日眼会誌108:863-886,20042)KubotaR,NodaS,WangYetal:Anovelmyosin-likeprotein(myocilin)expressedintheconnectingciliumofthephotoreceptor:molecularcloning,tissueexpression,andchromosomalmapping.Genomics41:360-369,19973)中野正和,池田陽子,徳田雄市ほか:緑内障における視神経乳頭の脆弱性に関するCDKN2B-AS1上のバリアントの同定.PLoSONE7:e33389(3)4)TheAGISInvestigators:TheAGISGlaucomaInterventionsStudy(AIGS):7.Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualfielddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20005)AlexanderCL,MillerSJ,AbelSR:Prostaglandinalnalogtreatmentofglaucomaandocularhypertension.AnnPharmacother36:504-511,20026)植田俊彦,笹元威宏,平松類ほか:緑内障における患者教育が眼圧下降とその持続に及ぼす効果.あたらしい眼科28:1491-1494,20117)二見要介:1日1回点眼bブロッカーマレイン酸チモロール(チモプトールXE)からはじまる新しい緑内障治療戦略.PharamaMedica18:217-220,20008)相原一:緑内障薬物治療薬の現状と未来.日本薬理学雑誌135:129-133,20109)白木幸彦,山口孝泰,梅基光良ほか:DynamicContourTonometerを用いた,ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの眼圧降下率の比較.あたらしい眼科27:1269-1272,201010)冨山浩志,石川修作,新垣淑邦ほか:DynamicContourTonometer(DCT)とGoldmann圧平眼圧計,非接触型眼圧計の比較.あたらしい眼科25:1022-1026,200811)KaufmannC,BachmannLM,ThielMA:ComaprisonofdynamiccontourtonometrywithGoldmannapplanationtonometry.InvestOpthalmolVisSci45:3118-3121,200412)佐藤出,北市伸義,広瀬茂樹ほか:プロスタグランジン製剤・b遮断薬からトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合液への切り替え効果.臨眼66:675-678,201213)新家眞,北澤克明:原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.03%ビマトプロスト点眼剤の長期投与試験.あたらしい眼科28:1209-1215,201114)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン.日眼会誌107:125-157,200315)山口泰孝,梅基光良,木村忠貴ほか:DynamicContourTonometerを用いた緑内障視野障害様式の検討.あたらしい眼科27:821-825,201016)ArendKO,RaberT:Observationalstudyresultsinglaucomapatientsundergoingaregimenreplacementtofixedcombinationtravoprost0.004%/timolol0.5%inGermany.JOculPharmacolTher24:414-420,200817)KonstasAG,MikropoulosD,HaidichABetal:Twentyfour-hourintraocularpressurecontrolwiththetravoprost/timolmaleatefixedcombinationcomparedwithtravoprostwhenbotharedosedintheeveninginprimaryopen-angleglaucoma.BrJOphthalmol93:481-485,2009***(117)あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141539

ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬とラタノプロスト点眼薬併用症例におけるラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬への切り替え効果

2014年10月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(10):1531.1534,2014cドルゾラミド/チモロール配合点眼薬とラタノプロスト点眼薬併用症例におけるラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬への切り替え効果井上賢治*1方倉聖基*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科EfficacyofChangingfromLatanoprosttoBimatoprostEyedrops,inPatientsConcomitantlyUsingDorzolamide/TimololFixed-CombinationEyedropsandLatanoprostKenjiInoue1),SeikiKatakura1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:ラタノプロストとドルゾラミド/チモロール配合剤(DTFC)を併用中でラタノプロストを変更することでさらなる眼圧下降が期待され,今回検討した.対象および方法:ラタノプロストとDTFCを併用中で,眼圧下降が不十分な開放隅角緑内障32例32眼を対象とした.ラタノプロストを中止し,ビマトプロストに切り替えた.DTFCは継続とした.眼圧を変更前,変更1,3カ月後に測定し,比較した.変更後の副作用を来院ごとに調査した.結果:眼圧は変更1カ月後16.9±3.5mmHg,3カ月後16.3±3.2mmHgで,変更前17.6±2.5mmHgに比べて有意に下降した(p<0.05).脱落例は3例(9.4%)で,副作用(下眼瞼腫脹),緑内障手術施行,転医の各1例だった.結論:ラタノプロストとDTFC併用患者において,ラタノプロストをビマトプロストへ変更することで眼圧下降が得られ,安全性も良好だった.Purpose:Inpatientsusingdorzolamide/timololfixed-combinationeyedrops(DTFC)andlatanoprost,furtherdecreaseinintraocularpressure(IOP)isexpectedwithchangeoflatanoprost.Subjectsandmethods:Subjectswere32open-angleglaucomapatientsconcomitantlyusingDTFCandlatanoprost,inwhomIOP-decreasingefficacywasinsufficient.Thelatanoprostwaschangedtobimatoprost;DTFCwascontinued.IOPbeforeandat1and3monthsafterthechangewerecompared;adversereactionswereexamined.Results:IOPat1month(16.9±3.5mmHg)and3months(16.3±3.2mmHg)afterthechangeshowedsignificantdecreasefromthepre-changelevel(17.6±2.5mmHg).Threecases(9.4%)werediscontinuedduerespectivelytoadversereaction(swellingoflowereyelid),glaucomasurgeryandchangeofphysician.Conclusion:InpatientsconcomitantlyusingDTFCandlatanoprostwhochangefromlatanoprosttobimatoprost,IOPdecreaseandsafetyaresatisfactory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(10):1531.1534,2014〕Keywords:ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬,ラタノプロスト点眼薬,ビマトプロスト点眼薬,切り替え,眼圧,副作用.dorzolamide/timololfixedcombinationeyedrops,latanoprosteyedrops,bimatoprosteyedrops,change,intraocularpressure,adversereactions.はじめに緑内障患者において視野維持効果が高いエビデンスで示されているのは眼圧下降療法のみである1,2).眼圧下降のために通常点眼薬治療が第一選択である.点眼薬治療は単剤から行うが,眼圧下降効果が不十分な場合は点眼薬の変更や追加が推奨されている3).これを繰り返すと多剤併用となる.しかし,点眼回数が増える多剤併用症例ではアドヒアランスの低下が問題となり4),アドヒアランス向上を目的として配合点眼薬が開発された.日本ではラタノプロスト点眼薬あるいはトラボプロスト点眼薬とマレイン酸チモロール点眼薬の配〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(109)1531 合点眼薬,ドルゾラミド点眼薬あるいはブリンゾラミド点眼薬とマレイン酸チモロール点眼薬の配合点眼薬が使用可能である.臨床現場では,プロスタグランジン/チモロール配合点眼薬+炭酸脱水酵素阻害点眼薬,プロスタグランジン点眼薬+炭酸脱水酵素阻害薬/チモロール配合点眼薬の組み合わせが多く使用されている.点眼薬の変更に関しては,プロスタグランジン点眼薬を他のプロスタグランジン点眼薬へ変更することで眼圧が下降するという報告5.16)が多くみられるが,配合点眼薬との併用症例におけるプロスタグランジン点眼薬の変更を検討した報告はない.今回,ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬とラタノプロスト点眼薬を併用中の患者を対象にして,ラタノプロスト点眼薬をビマトプロスト点眼薬に変更した際の眼圧下降効果と安全性を検討した.I対象および方法2011年7月から2012年9月までの間に井上眼科病院に通院中で,ラタノプロスト点眼薬とドルゾラミド/チモロール配合点眼薬のみを使用中で,眼圧下降効果が不十分な開放隅角緑内障32例32眼(男性13例13眼,女性19例19眼)を対象とし,前向きに研究を行った.平均年齢は73.0±6.9歳(平均±標準偏差)(60.85歳)であった.緑内障病型は原発開放隅角緑内障(狭義)30例,落屑緑内障2例であった.Humphrey視野のmeandeviation(MD)値は.10.3±6.2dB(.23.11.0.63dB)であった.ビマトプロスト点眼薬へ変更前の眼圧は17.6±2.5mmHg(12.23mmHg)であった.両眼該当例では眼圧の高い眼を,眼圧が同値の場合は右眼を,片眼症例では該当眼を解析対象とした.使用中のラタノプロスト点眼薬を中止し,washout期間なしでビマトプロスト点眼薬(1日1回夜点眼)に変更した.ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬は継続使用とした.点眼変更前と変更1,3カ月後に患者ごとにほぼ同時刻に眼圧(mmHg)22.0**20.018.016.014.012.010.08.06.04.0*p<0.052.00.0変更前変更1カ月後変更3カ月後図1点眼薬変更前後の眼圧(ANOVAおよびBonfferoni/Dunn検定,*p<0.05)Goldmann圧平眼圧計で同一の検者が眼圧を測定し,比較した(ANOVAおよびBonferroni/Dunn検定).変更1,3カ月後の変更前と比べた眼圧下降幅を調査した.変更1,3カ月後の変更前と比べた眼圧下降率を算出し,比較した(Friedman検定).変更後に来院時ごとに副作用を調査した.有意水準はいずれも,p<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理委員会で承認され,研究の趣旨と内容を患者に説明し,患者の同意を得た後に行った.II結果眼圧は変更1カ月後16.9±3.5mmHg,3カ月後16.3±3.2mmHgで,変更前17.6±2.5mmHgと比べて有意に下降した(p<0.05)(図1).眼圧下降幅は変更1カ月後では2mmHg以上下降した症例は11例(35.5%),±1mmHg以内の症例は17例(54.8%),2mmHg以上上昇した症例は3例(9.7%)だった(図2).変更3カ月後では2mmHg以上下降した症例は14例(48.3%),±1mmHg以内の症例は12例(41.4%),2mmHg以上上昇した症例は3例(10.3%)だった.眼圧下降率は,変更1カ月後4.1±10.8%,3カ月後6.7±10.8%で同等だった(p=0.4521).変更3カ月後までの脱落例は3例(9.4%)だった.内訳は変更1カ月後に下眼瞼腫脹が出現した1例,変更2カ月後に眼圧が上昇したために緑内障手術を施行した1例,変更2カ月後に転居に伴い転医した1例だった.下眼瞼腫脹が出現した症例ではビマトプロスト点眼薬をラタノプロスト点眼薬に戻したところ症状は消失した.III考按プロスタグランジン点眼薬の変更による眼圧下降効果の報告のなかでラタノプロスト点眼薬をビマトプロスト点眼薬に変更した報告5.16)が多い.ラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬への変更では眼圧は有意に下降し,その眼圧下降幅は0.51.6.0mmHg,眼圧下降率は3.0.24.9%であ2mmHg以上2mmHg以上上昇上昇3例,9.7%3例,10.3%2mmHg以上下降11例,35.5%±1mmHg以内17例,54.8%2mmHg以上下降14例,48.3%±1mmHg以内12例,41.4%変更1カ月後変更3カ月後図2点眼薬変更1,3カ月後の眼圧下降幅1532あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(110) る5.16).プロスタグランジン点眼薬の変更により眼圧が下降する理由として,プロスタグランジン点眼薬に対するノンレスポンダーの存在があげられる.ノンレスポンダーのプロスタグランジン点眼薬を他のプロスタグランジン点眼薬に変更することで眼圧が下降するのは妥当で,ラタノプロスト点眼薬に対するノンレスポンダー症例でビマトプロスト点眼薬に変更したところ眼圧が下降したと報告されている5.8).さらに,その眼圧下降幅は1.9.6.0mmHg,眼圧下降率は11.9.24.9%と良好である.しかし,ノンレスポンダーの定義は定まっておらず,ラタノプロスト点眼薬単剤2カ月間投与で眼圧下降率が10%未満の症例5),ラタノプロスト点眼薬単剤8週間投与で眼圧下降幅が3mmHg以下の症例6),ラタノプロスト点眼薬単剤12週間投与で眼圧下降率が20%以下の症例7),ラタノプロスト点眼薬を含む治療を4週間以上行い眼圧下降率が20%未満の症例8)と報告により異なる.その他にプロスタグランジン点眼薬の変更により眼圧が下降する理由として,アドヒアランスの向上があげられる.変更により眼圧下降の必要性を再認識した症例や副作用が軽減する症例が考えられる.変更後のプロスタグランジン点眼薬のほうが変更前のプロスタグランジン点眼薬よりも眼圧下降効果が強力である可能性もある.プロスタグランジン点眼薬の化学構造は各薬剤で異なり,ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストはイソプロピルエステル型で,ビマトプロストはエチルアミド型である.エチルアミド型では加水分解されて酸型となると他の3剤と同様にプロスタノイド受容体に結合する.Liangら17)は,ビマトプロストはエチルアミド型でもプロスタノイド受容体とそのスプライスバリアントの複合体に直接結合することができ,眼圧下降機序が他のプロスタグランジン点眼薬と異なると報告した.今回は変更1,3カ月後に眼圧は有意に下降した.対象のなかにラタノプロスト点眼薬のノンレスポンダーが含まれていた可能性はあるが,ラタノプロスト点眼薬投与前の眼圧がわからないので詳細は不明である.また,眼圧下降効果が不十分な症例を対象としたため,点眼薬変更によりアドヒアランスが向上した可能性も考えられる.一方,ラタノプロスト点眼薬の副作用が出現したためにビマトプロスト点眼薬へ変更した症例はなく,副作用の軽減によるアドヒアランスの向上は今回の症例では考えづらい.しかし,変更後に眼圧が2mmHg以上上昇した症例が,変更1カ月後に9.7%,変更3カ月後には10.3%存在し,さらに変更2カ月後に眼圧が上昇したために緑内障手術を施行した症例もあり,それらの症例はビマトプロスト点眼薬に対するノンレスポンダーの可能性がある.ラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬へ変更した報告において,ラタノプロスト点眼薬単剤症例での変更5.15),ラタノプロスト点眼薬を含む多剤併用症例での変更8.12,16)がある.Lawら9)は,多剤併用症例では変更により(111)眼圧が変化なかったと報告した.広田ら10)は,ラタノプロスト点眼薬とb遮断点眼薬併用症例では眼圧は変更2週間後には差がなかったが,変更4.24週間後には有意に下降したと報告した.南野ら11)は,ラタノプロスト点眼薬あるいはトラボプロスト点眼薬を含む多剤併用症例では変更後に眼圧は有意に下降し,その眼圧下降率は変更4.24週間後で13.3.19.7%だったと報告した.仲ら16)は,プロスタグランジン点眼薬およびb遮断薬点眼薬を含む2種類以上の点眼薬併用症例では眼圧は変更3カ月後に有意に下降し,眼圧下降率は10%だったと報告した.今回は全症例がラタノプロスト点眼薬とドルゾラミド/チモロール配合点眼薬併用症例であり,多剤併用症例においても過去の報告10,11,16)と同様にビマトプロスト点眼薬への変更により眼圧が有意に下降する可能性がある.ラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬への変更による副作用の頻度は0.9.5%と報告されている5.16).その内訳は結膜充血,点状表層角膜炎,アレルギー性結膜炎,眼痛,掻痒感,刺激感,霧視,異物感,眼瞼色素沈着,睫毛延長である.今回は副作用は3.1%で出現し,下眼瞼腫脹1例だった.ラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬への変更による安全性は良好である.結論としてラタノプロスト点眼薬とドルゾラミド/チモロール配合点眼薬を併用中の開放隅角緑内障症例において,ラタノプロスト点眼薬をビマトプロスト点眼薬へ変更することで,3カ月間にわたり眼圧は下降し,安全性も良好だった.配合点眼薬との併用症例においてもプロスタグランジン点眼薬の変更は眼圧下降治療における選択肢となりうる.文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19982)TheAGISInvestigators.TheAdvancedGlaucomaInterventionStudy(AGIS):7.Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualfielddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20003)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第3版.日眼会誌116:3-46,20124)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-242,20095)GandolfiSA,CiminoL:Effectofbimatoprostonpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionwhoarenonresponderstolatanoprost.Ophthalmology110:609-614,20036)WilliamsRD:Efficacyofbimatoprostinglaucomaandocularhypertensionunresponsivetolatanoprost.Advあたらしい眼科Vol.31,No.10,20141533 Ther19:275-281,20027)SatoS,HirookaK,BabaTetal:Efficacyandsafetyofswitchingfromtopicallatanoprosttobimatoprostinpatientswithnormal-tensionglaucoma.JOculPharmacolTher27:499-502,20118)SontyS,DonthamsettiV,VangipuramGetal:LongtermIOPloweringwithbimatoprostinopen-angleglaucomapatientspoorlyresponsivetolatanoprost.JOculPharmacolTher24:517-520,20089)LawSK,SongBJ,FangEetal:Feasibilityandefficacyofamassswitchfromlatanoprosttobimatoprostinglaucomapatientsinaprepaidhealthmaintenanceorganization.Ophthalmology112:2123-2130,200510)広田篤,井上康,永山幹夫ほか:ラタノプロスト効果不十分例の点眼をビマトプロストに切替えたときの眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科29:259-265,201211)南野麻美,谷野富彦,中込豊ほか:各種プロスタグランジン関連薬の0.03%ビマトプロスト点眼液への切替えによる眼圧下降効果.あたらしい眼科28:1629-1634,201112)松原彩来,徳田直人,金成真由ほか:プロスト系プロスタグランジン関連薬からビマトプロストへ切り替え後の眼圧推移と副作用発現頻度.あたらしい眼科30:1165-1170,201313)KammerJA,KatzmanB,AckermanSLetal:Efficacyandtolerabilityofbimatoprostversustravoprostinpatientspreviouslyonlatanoprost:a3-month,randomised,masked-evaluator,multicenterstudy.BrJOphthalmol94:74-79,201014)BourniasTE,LeeD,GrossRetal:Ocularhypertensiveefficacyofbimatoprostwhenusedasareplacementforlatanoprostinthetreatmentofglaucomaandocularhypertension.JOculPharmacolTher19:193-203,200315)CassonRJ,LiuL,GrahamSLetal:Efficacyandsafetyofbimatoprostasreplacementforlatanoprostinpatientswithglaucomaorocularhypertension.Auniocularswitchstudy.JGlaucoma18:582-588,200916)仲昌彦,山本麻梨亜,金学海ほか:原発開放隅角緑内障患者に対する0.03%ビマトプロスト切り替えによる眼圧下降効果と安全性の検討.臨眼68:219-224,201417)LiangY,WoodwardDF,GuzmanVMetal:IdentificationandpharmacologicalcharacterizationoftheprostaglandinFPreceptorandFPreceptorvariantcomplexes.BrJPharmacol154:1079-1093,2008***1534あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(112)

金沢市における緑内障検診

2014年10月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(10):1523.1530,2014c金沢市における緑内障検診宮内修*1柳田隆*1川北聖子*1狩野宏成*1中川寛忠*1藤村和昌*1大久保真司*2杉山和久*2*1金沢市医師会*2金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学GlaucomaScreeninginKanazawaOsamuMiyauchi1),TakashiYanagida1),SeikoKawakita1),KouseiKarino1),HirotadaNakagawa1),KazumasaFujimura1),ShinjiOhkubo2)andKazuhisaSugiyama2)1)KanazawaMedicalAssociation,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience目的:平成20.24年度の金沢市緑内障検診の結果を報告する.対象および方法:50,55,60歳の検診対象者に対し,問診・細隙灯顕微鏡検査・眼圧測定・眼底検査を行い,要精検と判断された場合は視野検査などの精密検査受診を勧奨し,症例検討会を経て最終的な緑内障診断を決定した.結果:平成20.24年度の累積データでは,対象者は53,768人,検診受診者数4,553人で受診率8.5%,要精検者数478人で要精検率10.5%,精検受診者数407人で精検受診率85.1%であった.最終診断の内訳は,狭義の原発開放隅角緑内障が検診受診者の0.2%,正常眼圧緑内障1.5%,緑内障疑い2.3%,原発閉塞隅角緑内障0.1%,原発閉塞隅角症0.1%,高眼圧症1.1%,緑内障以外の疾患0.5%.緑内障の検出率は1.9%であった.結論:発見された緑内障の大部分が正常眼圧緑内障であり,緑内障の早期発見には,眼科専門医による詳細な眼底精査が必須である.Purpose:ToreporttheresultsofglaucomascreeninginKanazawacity.SubjectsandMethods:Examineesunderwentmedicalinterview,slit-lampexamination,intraocularpressuremeasurementandfundusexamination.Aditionalexaminations,suchasvisualfieldtests,wereencouragedforthosewhohadabnormalfindings,andwedeterminedthefinaldiagnosisofglaucomaafteracaseconference.Results:Ofthe4,553personswhovisiteddoctorsforscreening,478peoplewererequiredfurtherexaminationsandwhom407ultimatelyunderwentthoroughexamination.Atfinaldiagnosis,0.2%ofscreeningparticipantswithprimaryopen-angleglaucoma,1.5%withnor-mal-tensionglaucoma,2.3%withsuspectedglaucoma,0.1%withprimaryangle-closureglaucoma,0.1%withprimaryangleclosure,1.1%withocularhypertension,0.5%withdiseasesotherthanglaucoma.Theglaucomadetectionratebythisscreeningwas1.9%.Conclusions:Themajorityoftheglaucomainthisscreeningisnormaltensionglaucoma.Thisresultsuggeststhatclosefundusexaminationbyanophthalmologistisessentialforearlydetectionofglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(10):1523.1530,2014〕Keywords:緑内障,検診,金沢市,眼科専門医,眼底検査.glaucoma,screening,Kanazawacity,ophthalmologist,fundusexamination.はじめに日本眼科医会の報告1)では,2007年現在の視覚障害者数は約164万人(矯正視力0.1超0.5未満の「ロービジョン者」が144万9,000人,失明者を含む矯正視力0.1以下の者が18万8,000人の計163万7,000人)に上り,高齢化がさらに進む2030年には202万人とピークに達し,医療費に加え,家族の負担,低雇用率やQOL(生活の質)の低下などを金額に換算した視覚障害のコストは11兆円に膨らむと試算されている.この視覚障害の原因疾患内訳は,上位より緑内障24%,糖尿病網膜症21%,変性近視12%,加齢黄斑変性症11%,白内障7%の順であり,上位5疾患で視覚障害全体の3/4を占める.これらの原因疾患は加齢により進行し,初期〔別刷請求先〕宮内修:〒920-0348金沢市松村4丁目305番地みやうち眼科Reprintrequests:OsamuMiyauchi,M.D.,MiyauchiEyeClinic,Matsumura4-305,Kanazawa-shi,Ishikawa-ken920-0348,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(101)1523 には自覚症状が現れにくいものばかりである.この報告のなかで日本眼科医会は,緑内障,糖尿病網膜症など原因疾患の予防・早期診断に対する国民意識の向上およびより積極的な治療が必要であるとしている.このような視覚障害による疾病負担を減らすために最も効果のあるものが,早期診断・早期治療のための公的な成人の目の健診プログラムであり,しかも早期発見がその後の視機能予後を最も大きく左右するのが緑内障であると考えられる.金沢市では,従来から基本健診の他に各種のがん検診などが行われてきたが,平成18年度より金沢市医師会に委託する形で緑内障検診を開始した2).平成18年度の検診開始から2年間は40,45,50歳を対象としたが,3年目の平成20年度からは50,55,60歳を対象としている.今回筆者らは,平成20年度から平成24年度までの累積データの解析結果について検討し報告する.I対象および方法図1に緑内障検診フローチャートを示す.平成20年度から50,55,60歳を対象として,金沢市が発行する受診券を持参した方に対して毎年度5月1日.10月31日に緑内障検診を行った(金沢市国民健康保険加入者や協会けんぽ加入者の家族などを対象に受診券は送付され,協会けんぽ加入者本人は雇用者が行う検診などがあるため対象外である).検診の目的を緑内障の早期発見のためとあらかじめ明記し,すでに緑内障で受療中である場合には,今回の解析対象から除外した.また,受診券には,受診結果データ(過去の受診結果も含めて)を金沢市医師会で実施する医療・健康に関する各種調査・分析に活用し,個人が特定される情報が開示されることがない旨もあわせて記載されている.図2に金沢市緑内障検診で使用している検診票を示す.検診施設の条件として,①圧平眼圧計あるいは非接触式眼圧計を所有していること,②前置レンズ,三面鏡あるいは双眼倒像鏡による視神経乳頭の立体観察が可能であること,③眼底カメラ,あるいは細隙灯顕微鏡下で眼底撮影ができ,ポラロイド写真あるいはプリントしたものを必要に応じて結果報告に添付できることとした.検診医は検診票の項目に従い,問診・前眼部検査・眼圧検査・眼底検査を行い,精密検査(以下,精検)が必要と判断された人に対して,視野検査などの精検受診勧奨を行った.問診では,本検診の受診歴とその結果・眼疾患や内眼手術の有無などの既往歴・全身疾患(糖尿病,高血圧,高脂血症)の合併症の有無・緑内障の家族歴をチェックした.細隙灯顕微鏡による前眼部検査では,浅前房・落屑・虹彩後癒着・その他の異常所見の有無と,vanHerick法で前房深度が角膜厚の1/4以下かどうかもチェックした.眼圧検査では実測値と圧平眼圧計/非接触式眼圧計のどちらで眼圧測定したかを記入した.眼底検査では,視神経乳頭の陥凹拡大(垂直C/D>0.7)・陥凹の左右差・乳頭辺縁部の菲薄化・乳頭辺縁部ノッチ形成・乳頭辺縁部出血・網膜神経線維層欠損・眼底透見困難の有無をチェックした.要精検の判定基準は,①眼圧が20mmHg以上,②vanHerick⑤検診②受診⑨要精検者結果通知精検受診⑥検診結果報告・請求緑内障検診受診・問診・細隙灯顕微鏡検査・視神経乳頭検査・眼圧測定要精検者精検受診・視野検査など受託医療機関⑦検診料金支払い金沢市①受診券送付受診者金沢市医師会③検診票・眼底写真提出検診委員会④結果通知・眼底写真返却⑧検診料金支払い症例検討会⑩精検結果報告精度管理委員会(視野検査添付)図1緑内障検診フローチャート1524あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(102) 図2金沢市緑内障検診で使用している検診票図3金沢市緑内障検診で使用している精密検査票表1精密検査の最終診断基準最終診断の病型判定基準緑内障以下の1もしくは2のいわゆる緑内障性視神経症を認める1.信頼性のある視野検査結果で視神経乳頭形状,網膜神経線維層欠損に対応する視野異常が存在する場合:垂直C/D比が0.7以上,あるいは上極(11時.1時)もしくは下極(5時.7時)のリム幅が,R/D比で0.1以下,あるいは両眼の垂直C/D比の差が0.2以上,あるいは網膜神経線維層欠損が存在する2.乳頭所見のみから緑内障と診断してよい場合:垂直C/D比が0.9以上,あるいは上極(11時.1時)もしくは下極(5時.7時)のリム幅が,R/D比で0.05以下,あるいは両眼の垂直C/D比の差が0.3以上緑内障疑い①垂直C/D比が0.7以上であるが0.9より小さい②上極(11時.1時)もしくは下極(5時.7時)のリム幅が,R/D比で0.1以下であるが0.05より大きい③両眼の垂直C/D比の差が0.2以上であるが0.3より小さい④網膜神経線維層欠損が存在する,が単独もしくは複数存在しながら,視野検査の信頼性が低い,あるいは視野結果を参照できない,あるいは,視神経乳頭形状,網膜神経線維層欠損に対応する視野欠損が示されない原発閉塞隅角症原発性の隅角閉塞があり,眼圧上昇または器質的な周辺虹彩癒着を生じているが上記緑内障性視神経症を認めない高眼圧症眼圧22mmHg以上であるものの,上記緑内障性視神経症や閉塞隅角を認めない※C/D比:視神経乳頭陥凹乳頭径比(cup-to-discratio),R/D比:リム乳頭径比.法による判定で,前房深度が角膜厚の1/4以下で隅角閉塞目のいずれかを選び,緑内障以外の眼疾患が疑われる場合はが疑われる,③緑内障性視神経障害が疑われる,の3条件の想定される疾患を検診票のコメント欄に記入し,金沢市医師うち1つ以上が存在する場合と規定した.検診判定として,会に提出した.要精検と判定された場合には精検受診勧奨を異常なし・要精検・緑内障以外の眼疾患が疑われる,の3項行い,自院で実施・未精検・他施設に紹介の区別も検診票の(103)あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141525 最後に記入することとした.図3に金沢市緑内障検診で使用している精密検査票を示す.精密検査の最終診断基準は表1のとおりで,病型分類は,平成20.22年度検診では緑内障診療ガイドライン初版3)に準拠したが,平成23年度より緑内障診療ガイドライン第2版4)に準拠し,最終診断に原発閉塞隅角症を追加した.精検担当医は,各精検受診者を,1.原発開放隅角緑内障,2.正常眼圧緑内障,3.原発閉塞隅角緑内障,4.続発緑内障(原因を記入),5.原発閉塞隅角症,6.高眼圧症,7.緑内障疑い,8.緑内障以外の眼疾患,9.異常なしのいずれかに分類診断し,その結果を眼底写真および視野検査結果とともに,金沢市医師会に提出した.金沢市医師会に集積した検診票・精密検査票・眼底写真・視野などの検診結果・精密検査結果をもとに,検診精度向上のため,検診期間終了後に症例検討会を開催し,この会への出席を検診受託医療機関に義務付けた.症例検討会では,精検にて緑内障と診断された症例や緑内障の疑いとされた症例を中心に,金沢大学眼科の緑内障専門医が最終診断する形式をとった.こうして得られた結果をもとに,緑内障検診の受診率,精検率,検出率などを算出し,最終診断結果を解析した.II結果表2に金沢市緑内障検診結果の概要を示す.平成20年度から平成24年度までの累積データ(5年間)では,対象者数53,768人(男19,313人/女34,455人)のうち,検診受診者数4,553人(男621人/女3,932人)で,受診率は8.5%(男3.2%/女11.4%)であった.検診受診者全体の平均年齢は55.9±4.2(平均±標準偏差)歳であった.年齢別男女構成は50歳1,247人(男137人/女1,110人),55歳1,240人(男148人/女1,092人),60歳2,066人(男336人/女1,730人)で,各年代とも女性が多く,50・55歳に比して60歳の受診が多かった.要精検者数478人で,要精検率は総検診受診者の10.5%,精検受診者数407人で精検受診率は要精検者の85.1%,緑内障の最終診断を受けたのは84人で緑内障検出率は総検診受診者の1.8%であった.また,精検を受けた人のなかで緑内障の診断を受けた割合(以後,精検陽性率)は20.6%であった.表3に要精検とした理由を示す.平成20年度からの5年間においては,各判定項目の重複があるが,眼圧20mmHg以上が91人(要精検となった人の18.7%),隅角閉塞の疑いが41人(同8.4%),緑内障性視神経障害の疑いが355人(同72.9%)であった.測定された眼圧値は正規分布を示し,平均値は左右とも14.0±2.8mmHg(平均±標準偏差,以下同様)で左右差はなく(Studentのt検定,p=0.08),左右の眼圧値はよく相関した(単回帰分析による相関係数|R|=0.83).また,検診に1526あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014使用された眼圧計は圧平眼圧計2,289人/非接触式眼圧計2,229人(測定した眼圧計不明35人)で,測定された眼圧値は,圧平眼圧計(右眼14.6±2.8mmHg/左眼14.5±2.7mmHg)のほうが非接触式眼圧計(右眼13.4±2.8mmHg/左眼13.5±2.7mmHg)より,左右とも有意に高い値を示した(Studentのt検定,p<0.0001).表4に平成20年度からの5年間の最終診断の内訳を示す.平成23年度より採用された原発閉塞隅角症は要精検者中の0.1%であった.緑内障と診断された人の内訳では,いずれの年度も正常眼圧緑内障が最も多く,5年間の通算で70人(緑内障と診断された人の83.3%),原発開放隅角緑内障が11人(同11.9%),原発閉塞隅角緑内障が4人(同4.8%)であった.また,提出された資料での判定では,「緑内障疑い」に留まるものも106人と,検診受診者の2.3%(全精検受診者の26.0%)にあった.さらに,緑内障以外の疾患も検診受診者の0.5%にあった.非緑内障,つまり緑内障が認められなかった検診受診者(n=4,320,平均年齢55.9±4.2歳,男586人,女3,734人)の眼圧は圧平眼圧計2,178人で右眼14.4±2.6mmHg/左眼14.3±2.6mmHg,非接触式眼圧計2,142人で右眼13.3±2.7mmHg/左眼13.5±2.6mmHgであり,一方,原発開放隅角緑内障(広義)(原発開放隅角緑内障+正常眼圧緑内障)と診断された検診受診者(n=80,平均年齢56.1±4.2歳,男11人,女69人)の眼圧は圧平眼圧計46人で右眼16.0±2.8mmHg/左眼16.2±3.4mmHg,非接触式眼圧計34人で右眼14.2±3.3mmHg/左眼14.5±3.9mmHgと,非緑内障と比べ有意に高かったが(左右眼とも,Studentのt検定,p<0.0001),原発開放隅角緑内障(広義)と非緑内障との間に男女差はなく(c2検定,p=0.95),年齢差もなかった(Studentのt検定,p=0.55).眼圧に影響する因子として性別・年齢・測定する眼圧計の違い(圧平眼圧計/非接触式眼圧計)・緑内障の有無(原発開放隅角緑内障〔広義〕/非緑内障)を設定した多変量解析においても,眼圧計の違い・緑内障の有無がそれぞれ独立して有意に眼圧に影響しており(一元配置分散分析,それぞれ左右眼ともp<0.0001),性別(右眼p=0.841,左眼p=0.617)や年齢(右眼p=0.147,左眼p=0.167)の影響はなかった.vanHerick法で前房深度が角膜厚の1/4以下であった41例の最終結果は,原発閉塞隅角緑内障4例(41例中の10%)・原発閉塞隅角症4例(同10%)・原発閉塞隅角症の疑い7例(同17%)であった.緑内障と最終診断された84例の視野障害程度を分類した結果(簡便にHumphrey視野にて,平均偏差>.6dBを初期・.6dB≧平均偏差≧.12dBを中期・.12dB>平均偏差を後期とした),初期60例(84例中の71.4%)・中期11例(同13.1%)・後期1例(同1.2%),固視不良・視野測定(104) 表2金沢市緑内障検診結果の概要平成20.24年度平成20年度平成21年度平成22年度平成23年度平成24年度の累積対象年齢(歳)50,55,6050,55,6050,55,6050,55,6050,55,6050,55,60対象者数1227311520106209655970053768受診者数9769359118478844553受診者数(男/女)141/835129/806134/777111/736106/778621/3932受診率8.0%8.1%8.6%8.8%9.1%8.5%要精検者数949410481105478要精検率9.6%10.1%11.4%9.6%11.9%10.5%精検受診者数7676887196407精検受診率80.9%80.9%84.6%87.7%91.4%85.1%緑内障191818121784緑内障検出率1.9%1.9%2.0%1.4%1.9%1.8%精検陽性率25.0%23.7%20.5%16.9%17.7%20.6%表3要精検とした理由平成20.24年度要精検者内要精検と判定した理由平成20年度平成21年度平成22年度平成23年度平成24年度の累積の割合眼圧20mmHg以上19291413169118.7%隅角閉塞の疑い5712710418.4%緑内障性視神経障害の疑い705882628335572.9%合計949410882109487※精検理由には若干の重複例あり表4緑内障最終診断の内訳平成20.24年度検診受診者内精検受診者内緑内障の診断を精密検査後の診断平成20年度平成21年度平成22年度平成23年度平成24年度の累積の割合の割合受けた内の割合全緑内障1918181217841.8%20.7%原発開放隅角緑内障51310100.2%2.5%11.9%正常眼圧緑内障1314151117701.5%17.2%83.3%原発閉塞隅角緑内障1300040.1%1.0%4.8%続発緑内障0000000.0%0.0%0.0%原発閉塞隅角症0003140.1%1.0%高眼圧症1117669491.1%12.0%緑内障疑い20152924181062.3%26.0%緑内障以外の疾患42845230.5%5.7%異常なし22242722461413.1%34.6%合計7676887196407不能などで正確な視野評価負不能例が12例(同14.3%)であった.III考按緑内障スクリーニングの観点から,疫学調査である多治見スタディ5,6)と7地区共同緑内障疫学調査7),自治体における住民検診2,8.15),人間ドック16.22)の公表されている過去のデータを基に,金沢市緑内障検診の結果を比較検討した.本検診における例年の受診者数は平均910.6人であり,5年間の(105)累積で4,533人にのぼる.本検診では50,55,60歳を対象にしているが,過去疫学調査のデータはおもに40歳以上について解析されており,他の住民検診も老人保健法による基本健診を基軸にしてデザインされるケースが多いため,本検診のように5歳おきに受診させる形式2,8)や40歳以上のすべての住民を対象にする形式をとるなどさまざまであり,高齢化に伴い有病率が上がる緑内障のスクリーニング結果比較においては解析対象の年齢構成やスクリーニング方法の違いを十分に考慮する必要がある.住民検診では50歳代中盤からあたらしい眼科Vol.31,No.10,20141527 60歳代が検診の中心であり,人間ドックでは住民検診より平均年齢がやや低い50歳前後に検診受診者が集まる傾向にある.各データの比較は年齢などの補正が必要とされる.住民基本台帳に基づく平成24年12月現在の金沢市の50.64歳人口は男42,734人/女45,216人であり,1歳ごとに区分した男女比も若干女性が多い程度である.このなかに今回の検診対象者の大部分が含まれると思われるが,本検診では毎回女性受診者(3,932人)のほうが男性受診者(621人)より明らかに多く,女性が総受診者の約86%を占める.本検診の対象者は,金沢市国民健康保険加入者や協会けんぽ加入者本人の家族などであり,男性の占める割合の多い協会けんぽ加入者本人は雇用者が行う検診などがあるため対象外であることから,必然的に女性対象者が多いことの一因になっていると考えられる.本検診では,最近5年間の受診率は8.9%,要精検率は約10%,精検受診率は80.90%であった.疫学調査である多治見スタディでこそ50.59歳の受診率も75.8%と高率であるが,他の住民検診8.15)でも受診率は0.21.27.3%,要精検率は5.6.25.2%,精検受診率は35.0.84.8%であり,緑内障の精密検査までたどり着く数が少なく,より多くの緑内障を発見しようとする検診本来の目的が十分達成されていないのが現状である.本検診では,各年度とも要精検理由として最も多かったのは,「緑内障性視神経障害の疑い」であり,平成20年度以降の検診で発見された緑内障の大部分が正常眼圧緑内障(83.3%)であった.緑内障の病型別データが公表されている他の住民検診8.10,12,13)においても,正常眼圧緑内障の検出率は他の緑内障に比べて2.6.4.4%と高く,全緑内障に占める正常眼圧緑内障の割合は62.9.93.3%である.換言すれば,大部分の緑内障が眼底所見を基に診断されたものであり,緑内障の早期発見には,眼科専門医による詳細な眼底検査がいかに重要であるかを示している.以前の緑内障検診に関する報告14,15)は眼圧を中心としたスクリーニングであり,眼圧20mmHg以上であることなどの高眼圧であることが要精検理由の80.90%を占めていたが,近年の疫学調査などでは,わが国においては正常眼圧緑内障の割合が諸外国に比して高いことが判明していることを反映してか,眼底所見を重視した結果となっており,緑内障性視神経障害の疑いが要精検理由の66.7.77.0%を占めるに至っている2,5,6).本検診で測定された眼圧値(平均±標準偏差)は,圧平眼圧計で右眼圧14.6±2.8mmHg/左眼圧14.5±2.7mmHgと,同じく圧平眼圧計が用いられた多治見スタディにおいて報告された眼圧(右眼圧14.6±2.7mmHg/左眼圧14.5±2.7mmHg)とほとんど同値であり,また,非接触式眼圧計で右眼圧13.4±2.8/左眼圧13.5±2.7mmHgと,同じく非接触式眼圧計が用いられた7地区共同疫学調査8)において報告された眼圧(13.4±3.1mmHg)とほとんど同値であ1528あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014った.そして本検診においては,圧平眼圧計測定群のほうが非接触式眼圧計測定群より左右眼とも有意に高い値を示したが,これは同一検診対象に圧平眼圧計と非接触式眼圧計の両方で測定した報告13)(圧平眼圧計測定群15.5±2.6mmHg/非接触式眼圧計測定群15.0±2.9mmHg)でも同様であった.原発開放隅角緑内障(広義)(原発開放隅角緑内障+正常眼圧緑内障)と診断された検診受診者の眼圧は,緑内障が認められなかった検診受診者の眼圧より有意に高かったものの,その平均の差はわずか1.4.1.6mmHg程度にすぎず,眼圧値を主体に緑内障スクリーニングを行うことの困難さは多治見スタディ6,7)の報告でも述べられているとおりである.ただし,本検診でも左右どちらかの眼圧が25mmHg以上の場合は50%以上の確率で開放隅角緑内障(狭義)と診断されており,これに続発緑内障や原発閉塞隅角緑内障までも考慮すると,緑内障スクリーニングを行ううえで,高眼圧を見逃さないよう十分な注意が必要なことは,万が一高眼圧を見逃して緑内障を進行させてしまうリスクを考えれば明らかである.このことは隅角検査でも同様であり,緑内障検診を,閉塞隅角を発見することにより緑内障発作や閉塞隅角緑内障の重症化を未然に防ぐ大きなチャンスととらえることが肝要である.平成20.24年度の検診おいて,vanHerick法で前房深度が角膜厚の1/4以下であった41例中15例(37%)に原発閉塞隅角緑内障・原発閉塞隅角症・原発閉塞隅角症の疑いの診断がなされ,緑内障検診におけるvanHerick法による閉塞隅角の検出力にも一定の効力があるものと考えられた.以上より,①高眼圧かどうか,②隅角閉塞が疑われるかどうか,③緑内障性視神経障害が疑われるかどうか,は緑内障スクリーニングの3本柱として認識すべきである.加齢とともに眼圧が下降傾向を示したとする報告8)もあるが,眼圧に影響する因子の多変量解析において,測定する眼圧計の違いや緑内障の有無が危険因子となった一方,年齢が危険因子とならなかった理由としては,今回の検診対象の年齢幅が50,55,60歳と限定されていることが影響していると考えられる.緑内障と診断された例の視野検査結果の程度分類では,初期例が70%以上を占めたが,中期・末期例も15%程検出され,早期に緑内障を発見し治療を開始する必要性が確認された.検診の精度を測るうえで,精検を受けたものが実際緑内障である割合を示す精検陽性率が重要であるが,他の住民検診のデータ7.15)では12.8%.28.6%であり,本検診の20.6%と同様であった.緑内障検出率は,40歳代を対象とした平成18・19年は約1%2),50歳代を対象とした平成20年以降は2%弱であったが,対象年齢を10歳高くしたことに伴う検出率の上昇は,多治見スタディ5,6)でも示されたごとく,高齢化に伴い緑内(106) 障の有病率が上昇することに起因する可能性が高いと推察される.本検診における50,55,60歳の平均緑内障検出率1.8%は,多治見スタディで示された50.59歳での緑内障有病率2.9%より低く,過去の住民検診14,15)や人間ドックのデータ16,20.22)の中には0.15.1.48%と比較的低い検出率のものも多いが,対象年齢構成や検診方法などの違いから単純な比較は困難であることを考慮しても,疫学調査と比しても遜色のない検出率(2.4.5.3%)を誇るデータ8,10,13,16,17)も散見される.本検診で緑内障と最終診断されたものの検診受診者に占める割合は,原発開放隅角緑内障0.2%,正常眼圧緑内障1.5%で広義の開放隅角緑内障としては1.7%であり,多治見スタディにおける50.59歳での広義の開放隅角緑内障の有病率2.7%と比すると低値であるが,原発閉塞隅角緑内障0.2%(多治見スタディの50.59歳のデータ0.2%),高眼圧症1.1%(多治見スタディの全体データ0.8%)は同様の値であった.本検診における緑内障全体の検出率が低値であった原因として考えられるのは,①すでに緑内障と診断され治療を受けている人は,この検診の対象外であること,②受診率が低く,検診受診者に偏りがある可能性があること,③精検受診勧奨した人の精検受診率が平均で85.1%であり,精検を受けなかった人のなかに緑内障の人が存在する可能性があり,精検未受診のなかに同様の比率で緑内障が存在すると仮定した補正検出率は1.8%×100/85.1=2.1%であること,④最終診断で緑内障と診断された割合は精密検査受診者の20.6%に留まっており,検診の精度という面においては課題が残っていて,検診での見逃しやデータ漏れを厳しく検証するシステムがまだ確立していないこと,⑤最終診断で「緑内障疑い」とされた106例(開放隅角緑内障〔広義〕の疑い101例,閉塞隅角緑内障5例)は,検診受診者の2.3%,精検受診者の26.0%にも上り,実際に緑内障と診断されるより大きい割合を占めるが,そのなかには,眼底写真が不鮮明,視野検査の信頼度が低いなどのさまざまな理由で緑内障と診断決定できないものの本当は緑内障である例や,近視性の眼底変化により緑内障性視神経障害が判定しにくい例が含まれていること,⑥実際に今回の検診で検出された開放隅角緑内障(広義)の検診受診者に対する割合は1.7%であるが,開放隅角緑内障(広義)の疑い2.2%と合わせて3.9%となり,多治見スタディでの疑いも含めた広義の開放隅角緑内障の有病率(50.59歳)が4.5%であることと遜色ない結果である,などが挙げられる.今回筆者らは,平成20.24年度の金沢市緑内障検診の結果を報告した.発見された緑内障の大部分が正常眼圧緑内障であり,緑内障の早期発見には,眼科専門医による詳細な眼底精査が必須である.公的眼科成人検診の礎となるべく,検診受診年齢枠の拡大や受診率アップ,検診精度のよりいっそ(107)うの向上が望まれる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)山田昌和:本邦の視覚障害の現状と将来.日本の眼科80:1005-1009,20092)金沢市医師会緑内障検診委員会:狩野宏成,中川寛忠,藤村和昌ほか:金沢市緑内障検診.日本の眼科78:929-932,20073)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン.日眼会誌107:126-156,20034)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20065)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:TheTajimiStudyGroup,JapanGlaucomaSociety:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20046)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TajimiStudyGroup,JapanGlaucomaSociety:theTajimiStudyreport2.TheprevalenceofprimaryangleclosureandsecondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,20057)塩瀬芳彦,北澤克明,塚原重雄ほか:日本における緑内障疫学共同調査.あたらしい眼科7(Suppl1):7-13,19908)関保,濱畑和男,下村直樹ほか:東京都大田区における緑内障検診について.日本の眼科83:1049-1051,20129)石川誠:緑内障検診(1).あたらしい眼科27:207-208,201010)OhkuboS,TakedaH,HigashideTetal:Apilotstudytodetectglaucomawithconfocalscanninglaserophthalmoscopycomparedwithnonmydriaticstereoscopicphotographyinacommunityhealthscreening.JGlaucoma16:531-538,200711)鈴木万里子,安間哲史:愛知県眼科医会第2回「緑内障無料検診」事業について.日本の眼科78:1467-1470,200712)向井聖:緑内障集団検診の有用性について.厚生連尾道総合病院医報15:45-47,200513)勝島晴美,曽根聡,竹田明ほか:眼圧測定法の違いが緑内障検診結果に及ぼす影響.日眼会誌106:143-148,200214)弓削経夫,浅山孝彦,飯田洋子ほか:京都市伏見区の緑内障検診.日本の眼科63:631-635,199215)中村二郎,横井さち代,角屋博孝ほか:滋賀県湖北地区における緑内障検診システムとその問題点.臨眼45:919923,199116)冨岡敏也,原雅文,菊池英弥ほか:当院の人間ドックにおける緑内障スクリーニングの検討.眼臨101:5-6,200717)野田康子:当院人間ドックにおける緑内障検診の検討.弘前市立病院医誌13:52-55,200418)須網政浩,青島真一:浜松赤十字病院健診センターにおける緑内障検診の検討.浜松赤十字病院医学雑誌4:86-90,2003あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141529 19)中野匡,和田高士:総合検診におけるFrequencyDoublingTechnology視野計を用いた緑内障検診への応用.健康管理事業団研究助成論文集XVIII:35-42,200220)日比野佐和子,大鳥安正,渡辺仁ほか:人間ドックにおける緑内障検診の検討.眼紀52:652-655,200121)宮内修,伊藤彰,佐野信昭ほか:人間ドックにおける緑内障スクリーニングテスト.臨眼52:1151-1154,199822)山口洋,石龍良江,加藤桂一郎ほか:福島県における緑内障検診に関する検討.あたらしい眼科9:1046-1050,1992***1530あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(108)

角膜混濁例に対する白内障および硝子体手術 ―シャンデリア照明と広角眼底観察システムの有用性―

2014年10月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(10):1519.1522,2014c角膜混濁例に対する白内障および硝子体手術―シャンデリア照明と広角眼底観察システムの有用性―安田優介若生里奈高瀬範明吉田宗徳小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Cataract-VitreousCombinedSurgeryAssistedbyChandelierEndoilluminationandWide-AngleViewingSysteminSevereCornealOpacityYusukeYasuda,RinaWako,NoriakiTakase,MunenoriYoshidaandYuichiroOguraDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences角膜混濁例を有する症例に対し,白内障および硝子体同時手術をシャンデリア照明と広角眼底観察システムを用いて行った.症例は68歳,女性.主訴は2011年6月からの右眼の視力低下.近医で増殖糖尿病網膜症による硝子体出血を指摘され当院紹介受診となった.60歳時の右眼ヘルペス性角膜炎によって角膜中央部に広範囲にわたる混濁がみられ,眼底観察が困難であった.初診時の視力は右眼30cm手動弁,Bモードで下鼻側網膜に.離がみられた.シャンデリアによる後方からの照明を使用して水晶体超音波乳化吸引術を施行し,広角眼底観察システムを併用して25ゲージ(G)硝子体手術を施行した.経過良好で,術後22日に退院した.右眼矯正視力は退院時0.04まで回復した.シャンデリア照明の使用により散乱光の影響を少なくし,水晶体全体を確認しながら安全に白内障手術を施行できた.また,広角眼底観察システム使用により混濁の少ない部位を通して眼底観察が可能であった.Combinedsurgery(cataractandvitrectomy)wasperformedinapatientwithcornealopacity,usingchandelierendoilluminationandawide-angleviewingsystem.Thepatient,a68-year-oldfemalewithvitreoushemorrhageinherrighteyeduetoproliferativediabeticretinopathy,hadseverecornealopacityinherrighteye,whichhadbeentreatedasherpetickeratitis.Thebest-correctedvisualacuityinherrighteyewas30cmhandmotion.Retinaldetachmentinthelowertemporalquadrantwassuspected.Surgerywassuccessfullyperformed,andrightvisualacuityimprovedfromhandmotionto0.04.Inthiscase,chandelierretroilluminationprovidedgoodvisibilitythroughahazycorneainthesurgicalfieldofthecataractsurgery.Ontheotherhand,thewide-angleviewingsystemenabledfundusobservationthroughtherelativelyclearerportionofthecornea.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(10):1519.1522,2014〕Keywords:角膜混濁,白内障手術,硝子体手術,シャンデリア照明,広角眼底観察システム.cornealopacity,cataractsurgery,vitreoussurgery,chandelierretroillumination,wide-angleviewingsystem.はじめに角膜混濁を伴う症例の白内障手術や硝子体手術は眼内の視認性が悪く,術中操作が困難であるため合併症も生じやすい.このような症例における眼内手術には,一時的に人工角膜を用いて手術を施行し,その後に角膜移植を行う方法や1.3),眼内内視鏡を用いる方法がある4,5).人工角膜を使用することによって,術中の眼底の視認性は良好に保たれ,通常の手術手技が可能となるが,角膜の同時移植が必要であることはもちろん,術後炎症が高度で,長期的にみると移植片の生着不全や毛様体機能不全により前眼部の複雑化が起こると報告されている6).また,眼内内視鏡を用いる方法は,視認性が角膜や瞳孔の状態に左右されず,眼底最周辺部までの観察が可能である.しかし,内視鏡手術手技に習熟する必要があること,病巣の立体的把握や双手による操作が困難で繊細な手術を行うには限界があるなど,術後合併症や操作性などの問題が指摘され〔別刷請求先〕若生里奈:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:RinaWako,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya467-8601,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(97)1519 図1B.mode水平断下鼻側に網膜.離を認めた.図2手術開始前所見角膜中央部に広範囲にわたる実質混濁を認め,周辺部よりわずかに水晶体を確認できる(下方が12時方向).チストトーム前.フラップ前.切開ライン図3前.切開の様子前.染色なども行うことなく,前.切開を行うことが可能であった.図4術中眼底所見広角眼底観察システム(ResightR)を使用した.眼球を下転し,上方の混濁の少ない部位から眼底を観察することができた.シャンデリア照明カッター視神経乳頭鑷子黄斑1520あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(98) ている7).今回,角膜混濁を伴う増殖糖尿病網膜症に対し,シャンデリア照明と広角眼底観察システムを使用することにより,人工角膜や内視鏡を使用せずに,白内障手術および硝子体手術を施行することのできた1例を経験したので報告する.I症例患者:68歳,女性.主訴:右眼の視力低下.既往歴:32歳時,急性膵臓壊死により1型糖尿病,インスリン導入となった.60歳時,右眼ヘルペス性角膜炎を発症し,治癒したが,角膜中央部に角膜混濁が残存している.現病歴:2011年6月から右眼の視力低下を認めた.近医で増殖糖尿病網膜症による硝子体出血を指摘されたため,同年10月17日に名古屋市立大学病院眼科に紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼30cm手動弁(矯正不能),左眼0.5(0.9×sph+2.0D(cyl.1.5DAx180°),眼圧は右眼13mmHg,左眼12mmHgであった.右眼の角膜中央部に広範囲にわたる実質混濁を認めた.前眼部には,その他特記すべき所見は認められなかった.また,中等度核白内障を認め,眼底は角膜混濁および硝子体出血のために透見不良であった.Bモードで右眼下鼻側に網膜.離を認めた(図1).経過:シャンデリアによる後方からの照明を使用した水晶体超音波乳化吸引術と広角眼底観察システムを使用した25ゲージ(G)硝子体手術を施行した(図2.4).シャンデリア照明はアルコンエッジプラスRトロッカール用のシャンデリアライトシステムを,光源はコンステレーションR内蔵のキセノンを用いた.まず,5時方向に25Gポートを作製し,シャンデリア照明を設置した.これにより,水晶体.全体を観察することが可能となり,前.切開,超音波乳化吸引を行った.さらに25Gポートを3カ所設置し,広角眼底観察システム(ResightR)を併用して硝子体手術を施行した.硝子体切除を進めていくと,下鼻側に術前から認めていた網膜.離を確認した.意図的裂孔を作製して網膜下液を吸引除去した後,液-空気置換を行った.レーザー光凝固を追加,SF6(六フッ化硫黄)ガスを硝子体内へ注入し,手術終了となった.術後,網膜は復位し経過良好で術後22日に退院した.右眼視力は退院時に矯正0.04へ回復した.II考按角膜混濁を伴う症例において白内障および硝子体手術を施行する際,眼内の視認性を確保することは困難で,合併症も生じやすい.先に述べたように,角膜混濁を伴う眼内手術の方法として,一時的に人工角膜を使用する方法や眼内内視鏡を用いる方法があるが,いずれも問題点が多く手術施行はむ(99)ずかしい.角膜混濁例に対する白内障手術の方法として,前房内にイルミネーションライトを挿入し,前.切開を行う方法が報告されている8).顕微鏡による外部照明では観察光が混濁部位を2回通して検者の眼に入ってくるのに対して,この方法の場合は,光源が角膜下にあるため1回しか角膜を光が透過せず,その結果散乱光の影響を少なくし,観察が容易となる.また,硝子体出血に対して,シャンデリア照明を先に設置し,白内障および硝子体同時手術を行った症例も報告されている9).シャンデリア照明を使用することで,水晶体の後方から照明することになり,前.切開時から視認性が上がるとともに,硝子体手術まで一連の操作をバイマニュアルで行うことが可能である10).今回,筆者らは,白内障手術においてシャンデリア照明を使用することで,前.切開,水晶体分割,乳化吸引など一連の手術手技において,混濁した角膜を通しても良好な視認性と操作性を得ることができ,安全に手術を施行することが可能であった.硝子体手術には,広角眼底観察システムが有用であった.広角眼底観察システムは前眼部付近で観察光がいったん収束する光学経路設計となっているため,小瞳孔など狭い部分を利用しての眼底観察が可能である.角膜混濁も部分的に混濁の少ない部分があればそこを通しての観察が可能である.さらに,非接触型システムの場合,眼球を傾けて,光学経路と角膜透明帯が合致する場所に調節して眼底観察を行うことが可能である.本症例では,眼底の観察が困難な場合は眼内内視鏡の併用も考慮し,術中準備していたが,眼内内視鏡を使用することなく,広角眼底観察システムを用い,術中に眼球を下転して上方の角膜透明帯を通して眼底観察を行い,手術を施行することができた.角膜混濁を伴う症例の白内障および硝子体手術に対し,シャンデリア照明および広角眼底観察システムの使用は比較的簡便で,特別な器具や手技を必要とせず,眼内の視認性を向上させ,安全かつ正確に手術を施行できる一つの方法と考えられる.文献1)LandersMB3rd,FoulksGN,LandersDMetal:Temporarykeratoprosthesisforuseduringparsplanavitrectomy.AmJOphthalmol91:615-619,19812)EckardtC:Anewtemporarykeratoprosthesisforparsplanavitrectomy.Retina7:34-37,19873)古城美奈,中島伸子,外園千恵ほか:人工角膜を用いた網膜硝子体手術6症例.あたらしい眼科22:1289-1293,20054)KitaM,YoshimuraN:Endoscope-assistedvitrectomyinthemanagementofpseudophakicandaphakicretinalあたらしい眼科Vol.31,No.10,20141521 detachmentswithundetectedretinalbreaks.Retina31:1347-1351,20115)KawashimaM,KawashimaS,DogruMetal:Endoscopyguidedvitreoretinalsurgeryfollowingpenetratingcornealinjury:acasereport.ClinOphthalmol19:895-898,20106)檀上眞次,細谷比左志,池田恒彦ほか:角膜混濁を有する症例に対する硝子体手術.臨眼46:817-820,19927)池田恒彦:角膜混濁に対する硝子体手術.あたらしい眼科25:515,20088)西村栄一,陰山俊之,谷口重雄ほか:角膜混濁例に対する前房内照明を用いた超音波白内障手術.あたらしい眼科21:97-101,20049)JangSY,ChoiKS,LeeSJ:Chandelierretroilluminationassistedcataractextractionineyeswithvitreoushemorrhage.ArchOphthalmol128:911-914,201010)OshimaY,ShimaC,MaedaNetal:Chandelierretroillumination-assistedtorsionaloscillationforcataractsurgeryinpatientswithseverecornealopacity.JCataractRefractSurg33:2018-2022,200711)MorishitaS,KitaM,YoshitakeSetal:23-gaugevitrectomyassistedbycombinedendoscopyandawide-angleviewingsystemforretinaldetachmentwithseverepenetratingcornealinjury:acasereport.ClinOpthalmol5:1767-1770,2011***1522あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(100)

3%ジクアホソルナトリウム点眼液の副作用の発現状況と継続治療効果に関する検討

2014年10月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(10):1513.1518,2014c3%ジクアホソルナトリウム点眼液の副作用の発現状況と継続治療効果に関する検討田川博田川眼科StudyofAdverseDrugReactionstoDiquafosolSodiumOphthalmicSolutionandEffectsofitsUseinContinuedTreatmentHiroshiTagawaTagawaGanka製剤改良後3%ジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液3%;以下,現DQS)は2012年4月から多くのドライアイ患者に処方されている.そこで,DQSによる眼刺激を含めた副作用の有無と継続治療効果(自覚症状,他覚所見)について検討した.DQS使用歴がないドライアイ確定例と疑い例100例(男性11例,女性89例,平均年齢65歳;15.90歳)にドライアイ検査直後に製剤改良前のDQS(以下,旧DQS)を点眼投与して眼刺激症状がみられた場合,15分後に現DQSを点眼投与した.旧DQSで1例に軽い違和感がみられたが,現DQSでは違和感は生じなかった.全例に現DQSを処方したところ,点眼処方1カ月時の眼刺激症状発現率は2.4%であり,自覚症状・他覚所見は7.8割で改善がみられた(解析対象:85例).点眼処方3カ月時の眼刺激症状発現率は0%であり自覚症状・他覚所見は9割で改善がみられた(解析対象:58例).現DQSでは眼刺激の原因による点眼中止例は認められず,継続治療の効果が示唆された.Manypatientshavereceivedimproved3%diquafosolsodiumformulation(DIQUASRophthalmicsolution3%)(presentDQS)sinceApril2012.Westudiedtheoccurrenceofadversedrugreactionsandcontinueduse.TheoldDQSformulation(oldDQS)wasadministeredto100confirmedorsuspecteddry-eyepatientswithnohistoryofDQSuse(males:11,females:89;meanage:65years;agerange:15.90years).Ifeyeirritationdeveloped,presentDQSwasadministeredafter15min.OnesubjectexperiencedmilddiscomfortwitholdDQS,butnonedidwithpresentDQS.PresentDQSwasthenprescribedforallsubjects.After1month(analysispopulation:85)and3months(analysispopulation:58),eyeirritationdevelopedin2.4%and0%,respectively;subjectivesymptoms/objectivefindingsimprovedin70%.80%and90%,respectively.PresentDQSformulationcausesalmostnoirritation,andremainseffectivewithcontinueduse.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(10):1513.1518,2014〕Keywords:ドライアイ,ジクアホソルナトリウム点眼液,眼刺激,継続治療.dryeye,diquafosolsodiumophthalmicsolution,eyeirritation,continuedtreatment.はじめにドライアイ治療薬の一つである3%ジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液3%;以下,DQS)は,水分とムチン両方の分泌促進作用を併せ持つ作用メカニズム1)で,ドライアイ患者でみられる涙液層の不安定化を改善する点眼剤として多くのドライアイ患者に処方されている.ドライアイは「さまざまな要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を伴う」2)と定義される眼疾患で,長期の治療が必要である.しかし一方で,一般的には重症,また治療が長期にわたるほどドライアイ治療用点眼剤に使用されている防腐剤の角膜への影響が懸念されている.ベンザルコニウム塩化物は,その溶解性および幅広い抗〔別刷請求先〕田川博:〒003-0023札幌市白石区南郷通1丁目北1-1白石メディカル2階田川眼科Reprintrequests:HiroshiTagawa,M.D.,Ph.D.TagawaGanka.ShiroishiMedicalBldg.2F,Nango-dori1kita,Shiroisi-ku,Sapporo001-0023,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(91)1513 菌作用から点眼剤の防腐剤として最も多く用いられている3)が,その抗菌作用の強さゆえ,高濃度では眼刺激性などの眼障害を引き起こす可能性も報告されている4).日本でのDQS発売は2010年12月であり(以下,旧DQS),ドライアイ治療の新しい選択肢となった.旧DQSでの継続治療による自覚症状および他覚所見(涙液の異常と角結膜上皮障害)の改善は,既存薬との比較試験5)ならびに長期試験6)の結果からも明らかであったが,他方,一部の患者において,眼刺激の発現が点眼処方時および点眼の継続時における課題となっていた.その後の製剤改良により,旧DQSの有効性および保存効力は維持したまま防腐剤であるベンザルコニウム塩化物の濃度が低減された.2012年4月出荷分からは細胞毒性が低下したDQS(以下,現DQS)に切り替えられて現在広く流通しており,治療効果などに着目した臨床報告が期待されている.そこで本研究では,ドライアイ患者に旧DQSと現DQSを点眼して眼刺激症状の有無を確認後に現DQSを処方し,眼刺激を含めた副作用発現の有無ならびに慢性疾患であるドライアイに対する継続治療率を含めた治療効果(自覚症状,他覚所見)について検討した.I対象および方法1.対象2012年5月以降に田川眼科を受診し,「ドライアイ診断基準」(ドライアイ研究会,2006年)2)に準じたドライアイの自覚症状があるドライアイ確定例または疑い例で,これまでにドライアイの治療を受けたことのない患者とDQS以外の精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(以下,HA)などで治療中であるが改善傾向の認められない患者を対象とした.なお,試験対象者の選定時に背景因子(性別,年齢など)およびドライアイの自覚症状について調査した.2.方法および評価項目1)ドライアイの自覚症状は患者から訴えのあった症状のうちで,ドライアイQOL質問票「DEQS」7)の項目に一致する訴えをドライアイの自覚症状として,その変化を判定した.なお,新しいドライアイ症状が出現した場合は悪化と判定した.「ドライアイ診断基準」(ドライアイ研究会,2006年)2)に準じ,他覚所見の検査として,涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)の測定(角膜のフルオレセイン染色3回測定の平均値を採用),角膜の染色試験(フルオレセイン染色によるスコア判定;最小0.最大3点)および結膜の染色試験(フルオレセイン染色によるスコア判定,ブルーフリーフィルター使用;最小0.最大6点)を実施した.角結膜上皮障害判定の染色スコアは1以上の変化を,BUTは1秒以上の変化を有意な変化として判定した.この2項目が改善と悪化で異なった結果の場合は不変とした.1514あたらしい眼科Vol.31,No.10,20142)現DQSを処方することを前提として,点眼による眼刺激症状を確認するためと説明後,フルオレセインを洗い流した15分後に全試験対象者に旧DQSを点眼投与し眼刺激症状などを確認した.眼刺激症状が生じた場合,さらにその15分後に現DQSを点眼投与して再度眼刺激症状の有無を確認した.3)旧DQSまたは現DQSの点眼で眼刺激症状が生じなかった試験対象者に現DQSを1日6回の点眼で処方した.なお,旧DQSおよび新DQSの区別は製造番号に基づいて,直接,製造メーカーに確認した.また,これまでHAなどで治療中であった症例では,これまでの治療を継続してDQSを追加してもらった.処方1カ月および3カ月時での眼刺激症状などの副作用発現の有無,点眼継続の状況,自覚症状と他覚所見の変化をレトロスペクティブに検討した.副作用が発現した場合は,処置の有無と内容,転帰,試験薬剤との因果関係を検討した.有害事象のうち試験薬剤との因果関係を否定できないものを副作用とした.自覚症状と他覚所見はそれぞれ,「改善」,「不変」,「悪化」の3段階で評価した.3.統計解析有意水準は両側5%(p<0.05)とし,記述統計量は平均値±標準偏差で示した.角結膜上皮障害判定の染色スコアおよびBUTの統計解析は対応のあるt検定を用いて検定した.II結果1.対象および背景因子対象は男性11例,女性89例の計100例で,平均年齢は65歳(15.90歳)であった.100例中ドライアイの治療を受けたことのない患者は31例,DQS以外のHAなどでドライアイ治療中であるが改善傾向の認められない患者は69例であった.2.眼刺激を含む副作用,継続治療の効果に対する評価a.点眼直後の眼刺激を含む副作用の評価外来での旧DQS点眼投与直後に明らかな眼刺激症状を訴えた患者はいなかったが,1例が軽度の違和感を訴えた.15分後,この1例に現DQSを点眼投与したところ違和感は生じなかった.その結果,100例全例が現DQSの点眼処方対象となり,1日6回の点眼を全例に処方した.b.現DQS点眼処方1カ月時の副作用の有無,点眼継続の状況,および自覚症状と他覚所見の評価副作用の発現と自覚症状の評価は,点眼処方1カ月時に再診した65例,および1カ月以降の再診時に1カ月時点での症状の聞き取りが可能であった20例の合計85例を解析対象とした.他覚所見の評価は,点眼処方後1カ月時に再診した65例のみを解析対象とした.1)副作用の発現(表1)(92) 表1現DQS点眼処方1カ月,3カ月時の副作用発現と治療継続1カ月(n=85)*13カ月(n=58)*2副作用発現(率)治療継続(率)副作用発現(率)治療継続(率)なし64例(75.3%)54例(93.1%)あり21例(24.7%)80例(94.1%)4例(6.9%)58例(100.0%)(副作用ありの内訳)分泌物14例(16.5%)13例(92.9%)4例(6.9%)4例(100.0%)かゆみ4例(4.7%)0例(0.0%)..眼刺激2例(2.4%)2例(100.0%)..流涙1例(1.2%)1例(100.0%)..*11カ月時再診65例+1カ月以降の再診時聞き取り20例.*23カ月時再診58例.1カ月時の自覚症状3カ月時の自覚症状改善61例(71.8%)悪化悪化4例1例(4.7%)(1.7%)不変不変4例20例(23.5%)(6.9%)改善53例(91.4%)n=85(1カ月時再診65例+1カ月以降の再診時聞き取り20例)中断・中止:6例(7.1%;受診後1例が中止、「改善」「不変」のうち5例が1カ月以降に自己中断)悪化不変11例(16.9%)1カ月時の他覚所見改善53例(81.6%)1例(1.5%)n=65(1カ月時再診65例)中断・中止:0例(0.0%)n=58(3ヵ月時再診58例)中断・中止:1例(1.7%;分泌物の増加により再診後中止)3カ月時の他覚所見悪化0例(0.0%)不変6例(10.3%)改善52例(89.7%)n=58(3カ月時再診58例)中断・中止:1例(1.7%;分泌物の増加により再診後中止)図1現DQS点眼処方1カ月,3カ月時の自覚症状・他覚所見85例中64例(75.3%)では特に副作用の発現がなく,全例で点眼が継続されていた.「眼刺激症状」は2例(2.4%)に,また「流涙」は1例(1.2%)にみられたが,3例とも点眼継続に支障はなかった.「分泌物」は14例(16.5%)にみられたが,そのうち1例(7.1%)は分泌物が生じた数日後に自己判断で点眼を中断していた.「眼のかゆみ」は4例(4.7%)で,点眼処方後数日以内に発症し,全例で発症後すぐに中断していた.2)点眼継続の状況処方1カ月の時点で,85例中80例(94.1%)が点眼を継続していた.処方1カ月以降も点眼を継続したのは72例(84.7%)で,8例が点眼を中断した.中断した原因は,2例(93)あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141515 3.84±1.13*3.92±0.91*432.62±0.713フルオレセイン染色スコア(点)2.62±1.231.41±1.35*1.16±1.05*,**00点眼前点眼1カ月時点眼3カ月時点眼前点眼1カ月時点眼3カ月時図3現DQS点眼処方によるBUTの変化BUT(秒)221図2現DQS点眼処方による角結膜上皮障害の変化平均値±標準偏差(n=25)*点眼前と比べて有意に延長(p<0.001,対応のあるt検定)平均値±標準偏差(n=34)*点眼前と比べて有意に低下(p<0.001,対応のあるt検定)**点眼1カ月時と比べて有意に低下(p<0.05,対応のあるt検定)が分泌物の増加,2例が自覚症状に変化のなかったこと,4例が自覚症状の改善したことであった.3)自覚症状および他覚所見(図1)自覚症状は85例中61例(71.8%)が「改善」を示し,「不変」は20例(23.5%)「悪化」は4例(4.7%)であった.他覚所見は65例中53例((,)81.6%)が「改善」を示し,「不変」は11例(16.9%),「悪化」は1例(1.5%)であった.c.現DQS点眼処方3カ月時の副作用の有無,点眼継続の状況,および自覚症状と他覚所見の評価副作用,自覚症状,他覚所見いずれの評価も,点眼処方3カ月時に再診した58例を解析対象とした.1)副作用の発現(表1)58例中54例(93.1%)で副作用の発現はなかった.「分泌物」は4例(6.9%)にみられ,「眼刺激症状」,「流涙」,「眼のかゆみ」はまったくみられなかった.2)点眼継続の状況処方3カ月の時点で再診した58例全例が点眼を継続していた.処方3カ月以降も点眼を継続したのは57例(98.3%)であった.1例は分泌物の継続が不快なため中断を希望した.3)自覚症状および他覚所見(図1)自覚症状は58例中53例(91.4%)が「改善」を示し,「不変」は4例(6.9%)「悪化」は1例(1.7%)であった.他覚所見は58例中52例((,)89.7%)が「改善」を示し,「不変」は6例(10.3%),「悪化」した例はなかった.d.角結膜上皮障害判定の染色スコアおよびBUTフルオレセインによる角結膜上皮障害判定の染色スコアは現DQS点眼処方前2.62±1.23点であったが,点眼処方1カ月時に1.41±1.35点(p<0.001,vs点眼前),点眼処方3カ月時では1.16±1.05(p<0.001,vs点眼前;p<0.05,vs点眼1カ月時)と有意に低下した(図2).BUTは現DQS点眼処方前2.62±0.71秒であったが,点眼処方1カ月時に3.84±1.13秒(p<0.001,vs点眼前),点眼処方3カ月時では平均3.92±0.91秒(p<0.001,vs点眼1516あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014前)と有意に延長した(図3).III考按近年,日本におけるPCならびに携帯電話などのVDT(visualdisplayterminal)ユーザーの急増に伴い,ドライアイ患者数も増加している8).ドライアイは眼不快感や視機能異常を伴う眼疾患と定義2)され,慢性疾患であるために治療の継続性が重要となる.すなわち,ドライアイ治療用点眼剤に使用されている防腐剤の角膜への影響も配慮しつつ,ドライアイ患者の症状の軽減および改善を図るためには,患者に対していかに治療の継続を促していくかがわれわれの課題であろう.防腐剤であるベンザルコニウム塩化物は組成が単一ではなく,アルキル基がC8H17からC18H37である.濃度が低下するほど角膜毒性が低下するが,防腐剤としての効果も低下する.さらに,組成におけるアルキル基の違いによって防腐剤としての効果などに違いがある9).そのため,防腐剤として有効でありながら角膜障害を生じないベンザルコニウム塩化物の組成とその濃度の組み合わせの選択が重要と考えられるが,組成に関しては各製薬メーカーから情報公開されていない.DQSはドライアイのコアメカニズムである涙液層の安定性を改善させる特徴を有し,2010年12月の発売(旧DQS)以降ドライアイ治療に広く用いられている.HAを対照薬として検討した旧DQSの国内第III相比較試験3)では,旧DQSがHAに比べて角結膜上皮障害を有意に改善させた.また,52週間に及ぶ長期投与試験4)においても,旧DQSはドライアイ患者の自覚症状および他覚所見を点眼4週後までに有意に改善し,その効果は点眼52週後まで維持されていた.旧DQSの継続治療効果は明らかであったが,まれに生じる「眼刺激症状」が課題であった.その後,2012年4月出荷分からは防腐剤による眼刺激の低減を図った現DQSに切り替わっており,点眼処方への抵抗感が減弱したのと同時に,患者に継続治療を促しやすくな(94) ったといえる.しかしながら,現DQSの点眼処方による副作用発現の有無や継続治療の効果などについての臨床試験報告などがまだないことから,今回の検討に至った.旧DQSで課題とされていた「眼刺激症状」については,旧DQS治験時の発現率は6.7%(44/655例)1)であった.しかし,今回の研究では試験開始時に全例に旧DQSを外来で点眼したが「眼刺激症状」は1例もみられなかった.ただし,この点眼試験の前にフルオレセインを用いた検査を行い,その後に染色液を洗い流している.15分空けてから点眼試験を実施したが,3時間ごとに点眼する治療時に比べ,「眼刺激症状」が出にくかった可能性はある.しかしながら,現DQS点眼処方後1カ月間での「眼刺激症状」発現率は2.4%(2/85例)であり,旧DQSの治験時とは単純な比較はできないものの比較的低率で,2例とも症状は一時的かつ軽度であったため点眼継続に支障がなかった.本研究はレトロスペクティブに検討したものであり,対象は一般外来の中で通常の診療行為を行った症例である.そのため,これらの症例は,点眼剤の副作用を十分に説明したうえで点眼の継続に主眼をおいて治療を進めており,多施設の治療効果などを検討したプロスペクティブ研究との比較には慎重を要すると考えられる.今回の検討で「分泌物」は16.5%(14/85例)と高率に観察されたが,これについては患者に薬効を説明するなどの工夫により8割近くの患者(11/14例)で1カ月以降も点眼継続が可能であった.「流涙」が認められた1例は症状も軽度であり問題なく点眼を継続した.しかし,「眼のかゆみ」を訴えた4例(4.7%,4/85例)では全例が来院することなく点眼開始数日後に自己中断していたため,当初憂慮していた「眼刺激症状」よりむしろ「眼のかゆみ」の発現が点眼を継続するうえで支障になる可能性が考えられた.治療の継続率に関しては,現DQS処方後1カ月の時点では再診した患者の94%が点眼を継続していた.また,処方した全100例中でも80%以上の患者が点眼を継続していた.処方後3カ月の時点で点眼を継続していた患者の98%がそれ以降も点眼の継続を希望しており,継続率がきわめて高いと考えられた.今回の検討では,処方前に点眼による「眼刺激症状」の有無を確認し,そのときに他の副作用などについても十分に説明したことが継続率に寄与していると思われる.患者の訴えをよく聞いて,1日6回の点眼にこだわらず,点眼回数を調整することも治療の継続率に寄与していた.一方,1カ月以降点眼を継続した72例中,3カ月の時点で14例が再診していなかった.再診しなかった14例と継続した58例で副作用の発現率に差があったかについては不明である.内野らは涙液減少型およびBUT短縮型ドライアイ患者を対象にDQS点眼治療した場合の初診以降再診なし率が約33%であることを報告しており10),この報告と比較しても本研究の治療継続率は非常に高いと考えられた.内野らの研究が旧DQSを用いたものかは定かではないため,本研究の高い治療継続率が現DQSの効果に起因するものか比較することはできないが,現DQSのドライアイ治療における継続率は副作用の発現および効果の両方を合わせた患者満足度に起因することは間違いないと思われる.現DQS点眼処方後の自覚症状および他覚所見は7.8割の患者で「改善」がみられ,角結膜上皮障害を判定するフルオレセイン染色スコアは1カ月または3カ月の継続点眼後に有意に低下し,BUTも有意な延長が認められた.以上の結果は,添加物を変更して眼刺激発現率の低減をめざした現DQSにおいても,旧DQSの自覚症状および他覚所見の改善効果をそのまま維持していることを示している.さらに最近の研究では,DQSの涙液層への安定性改善作用により実用視力や波面収差など視機能の改善が認められた,との結果も報告されている11).視機能の改善はドライアイ特有の見えにくさの解消にもつながり,治療満足度がより高まることが示唆される.今回の検討から,現DQSは旧DQSと同様に自覚症状および他覚所見を有意に改善し,ドライアイ治療に有用な薬剤と考えられた.また,製剤改良により眼刺激症状などの副作用が軽減することで,現DQSの治療継続率がより良好になる可能性が考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)NakamuraM,ImanakaT,SakamotoA:Diquafosolophthalmicsolutionfordryeyetreatment.AdvTher29:579-589,20122)島﨑潤(ドライアイ研究会):2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,20073)島﨑潤:点眼薬の防腐剤とその副作用.眼科33:533538,19914)福井成行,池本文彦:点眼の刺激性に関する研究(第1報)各種物質の即時刺激性と連用による眼障害について.現代の臨床4:277-289,19705)TakamuraE,TsubotaK,WatanabeHetal:Arandomised,double-maskedcomparisonstudyofdiquafosolversussodiumhyaluronateophthalmicsolutionsindryeyepatients.BrJOphthalmol96:1310-1315,20126)山口昌彦,坪田一男,渡辺仁ほか:3%ジクアホソルナトリウム点眼液のドライアイを対象としたオープンラベルによる長期投与試験.あたらしい眼科29:527-535,20127)SakaneY,YamaguchiM,YokoiNetal:DevelopmentandvalidationoftheDryEye-RelatedQuality-of-LifeScorequestionnaire.JAMAOphthalmol.131:1331-1338,20138)内野美樹,内野裕一:疫学から知り得たドライアイの本質.(95)あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141517 あたらしい眼科29:305-308,2012ジクアホソルナトリウム点眼治療後の患者満足度.臨眼9)UematsuM,KumagamiT,ShimodaKetal:Influenceof68:1403-1411,2013alkylchainlengthofbenzalkoniumchlorideonacutecor-11)KaidoM,UchinoM,KojimaTetal:Effectsofdiquafosolnealepithelialtoxicity.Cornea29:1296-1301,2010tetrasodiumadministrationonvisualfunctioninshort10)内野美樹,内野裕一,深川和己ほか:涙液層破壊時間(BUT)break-uptimedryeye.JOculPharmacolTher29:595短縮型ドライアイ患者に対するヒアルロン酸ナトリウムと603,2013***1518あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(96)

アジスロマイシン内服単回投与による成人クラミジア結膜炎の治療

2014年10月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(10):1509.1512,2014cアジスロマイシン内服単回投与による成人クラミジア結膜炎の治療中川尚中川裕子徳島診療所TreatmentofAdultChlamydialConjunctivitiswithSingle-DoseOralAzithromycinHisashiNakagawaandYukoNakagawaTokushimaEyeClinic酵素免疫法で診断された成人クラミジア結膜炎3例に対し,アジスロマイシン2g内服単回投与製剤を用いて治療した.いずれの症例も投与1週後には結膜所見の著明な改善を認めた.PCR(polymerasechainreaction)による結膜擦過物のクラミジア検出は,1週後(症例2),3週後(症例2,3)ともに陰性であった.再発の徴候はみられなかった.アジスロマイシン内服単回投与による治療は,成人クラミジア結膜炎患者の治療法として有望な選択肢の一つになりうると考えられた.ThreeadultpatientswithchlamydialconjunctivitisasdiagnosedbypositiveEIAtestweretreatedwith2gsingle-doseoralazithromycin.Conjunctivalinjectionandfolliclesmarkedlysubsidedaweekfollowingoraladministration.Polymerasechainreaction(PCR)forChlamydiatrachomatiswasnegativeinconjuctivalscrapingscollectedat1and3weeksaftertreatment.Thepatientsshowednosignsofconjunctivitisrecurrence.Single-doseadministrationoforalazithromycinisapromisingregimenforthetreatmentofadultchlamydialconjunctivitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(10):1509.1512,2014〕Keywords:クラミジア結膜炎,内服治療,アジスロマイシン,単回投与.chlamydialconjunctivitis,oraladministration,azithromycin,single-doseregimen.はじめに現在,クラミジア結膜炎の治療は感受性のある抗菌点眼薬の局所投与で行われており,オフロキサシン眼軟膏の1日5回8週間投与が標準処方として推奨されている1).しかし,成人の結膜炎患者の場合,日中の眼軟膏点入は霧視を起こすため点眼回数が守れず,結膜炎の治癒が遅れるなどの問題を生じかねない.また,代替処方であるエリスロマイシンやフルオロキノロンの点眼薬を用いたとしても1),1.2時間ごとの頻回点眼,8週間という長期の治療期間のため,途中で通院・治療を中断してしまう例がある.一方,性器クラミジア感染症の治療は,最近ではアジスロマイシンの内服が主流になっている2).その理由は,アジスロマイシンの抗クラミジア活性が高いうえ,半減期が長く長時間有効組織内濃度を維持できるため,単回投与でクラミジア感染を治療できるからである3).最低でも1週間の内服が必要であるクラリスロマイシンやミノサイクリンなどと比較し,単回投与治療では服薬コンプライアンスが大幅に上がると考えられる4,5).さらに2009年にアジスロマイシンの2g単回投与マイクロスフェア製剤が上市され,クラミジアと淋菌感染症の治療薬としてその有用性が報告されている6).アジスロマイシン内服によるクラミジア結膜炎の治療としては,海外でトラコーマの治療法として有用性が報告された7).また最近では,性感染症由来のクラミジア結膜炎,すなわち封入体結膜炎の治療としても有効であるとの報告がみられる8,9).そこで今回,成人のクラミジア結膜炎患者に対し,アジスロマイシン2g単回投与製剤を用いて治療を行い,その効果について検討した.〔別刷請求先〕中川尚:〒189-0024東村山市富士見町1-2-14徳島診療所Reprintrequests:HisashiNakagawa,M.D.,TokushimaEyeClinic,1-2-14Fujimicho,Higashimurayama-shi,Tokyo189-0024,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(87)1509 表1対象症例の臨床所見症例年齢(歳)性別左右病日(日)所見病因診断眼外症状124男性左16濾胞性結膜炎IDEIA(+)咽頭痛点状角膜浸潤252女性左24濾胞性結膜炎IDEIA(+).点状角膜浸潤320女性右9濾胞性結膜炎IDEIA(+)咽頭痛上輪部腫脹IDEIA(+):IDEIATMPCEクラミジアでクラミジア抗原陽性.表2内服治療後の経過症例年齢(歳)性別結膜所見(内服後週数)クラミジア(PCR)124男性改善(1週)NT252女性改善(1週)(.)濾胞残存(3週)(.)治癒(7週)NT320女性改善(1週)NTほぼ治癒(3週)(.)NT:施行せず,(.):陰性.I対象および方法対象は,結膜擦過物のクラミジア抗原検出(IDEIATMPCEクラミジア)で陽性を示した急性濾胞性結膜炎の3症例である.対象症例の臨床所見を表1に示す.いずれの症例も,問診上,性感染症を疑わせる症状,既往歴はなかった.診断確定後,結膜炎の感染経路,合併しうる咽頭炎や子宮頸管炎,尿道炎の説明をした.さらに,治療法として従来の点眼治療による結膜炎の治療のほか,内服による全身のクラミジア感染の治療の必要性や利点について説明し,同意を得たうえで内服治療を行うこととした.治療は,性器クラミジア感染症,クラミジア咽頭炎の治療に準じて,アジスロマイシンのマイクロスフェア製剤(ジスロマックSRR)2g1回投与で行った.点眼治療は併用しなかった.投与後定期的に経過観察を行った.可能な症例では,結膜擦過物を採取してPCR(polymerasechainreaction)による遺伝子検出(アンプリコアSTD-1R)を行い,クラミジアの消長を調べた.II結果内服治療の経過を表2にまとめた.症例1は1週後のみの来院で,クラミジア検査は実施できなかった.3例とも内服1週後の受診時には充血と眼脂の減少がみられ,瞼結膜,円蓋部の濾胞の縮小,減少が認められた(図1).上方周辺部角膜にみられた点状浸潤も消失していた(症例1,2).症例2ではこの時点でクラミジアのPCRは陰性であった.3週後のPCRは症例2,3ともに陰性であり,症例3はわずかな濾胞を残すのみで,ほぼ治癒と考えられる所見であった.症例2も7週後には残存していた濾胞も消失し,治癒と判定した(図2).腹部不快感や下痢など,内服による副作用と考えられる愁訴はなかった.III考按今回,3例の成人クラミジア結膜炎に対してアジスロマイシンのマイクロスフェア製剤2g単回投与で治療を行い,いずれの症例も投与1週後には結膜所見の著明な改善を認めた.オフロキサシンやエリスロマイシンによる点眼治療の場合,充血や眼脂の改善には1.2週間程度かかるが,アジスロマイシン内服のほうが所見の改善がやや速やかである印象をもった.また,筆者の経験では,局所投与の場合1.2週間程度でクラミジア抗原検出が陰性化するが,今回の検討でも1週後でPCRが陰性であり(症例2),内服治療は頻回点眼治療に劣らない効果があると推察された.単回投与でこのような早期のクラミジア陰性化が得られるのは,約10日間にわたり有効組織内濃度が維持される3)というアジスロマイシンの特性に由来するものと考えられる.投与3週後のPCRは検査した2例とも陰性で,炎症所見はほぼ消失し再発の徴候はみられなかった.症例2では他の2例と比べて濾胞の消失までにやや時間がかかっているが,診断が発症から約3週間と遅く,濾胞形成が他の例よりも顕著であったためと思われる.今回の結果から,アジスロマイシン内服単回投与によりクラミジア結膜炎を治癒させうると考えられた.クラミジア結膜炎のアジスロマイシン内服治療には,二つの利点が考えられる.第一に,服薬コンプライアンスの問題が解消されることである.クラミジアは発育サイクルが遅く,抗菌薬の効かない形態(基本小体)があるため,局所投与では長期・頻回投与が必要である10).しかし,現実には2.3週間の点眼で症状が軽減するため,自己判断で治療を中止してしまう患者もあり,8週間の治療を完了できる例は多くない.内服単回投与であれば,このような服薬コンプライ1510あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(88) aacefbd図1内服治療前後の結膜所見の変化a:症例1内服前.下瞼結膜から円蓋部にかけて,充血,充実性濾胞が観察される.b:症例1内服後1週.下瞼結膜の充血の著明な減少と濾胞の縮小が認められる.c:症例2内服前.下瞼結膜の充血と粘液膿性眼脂があり,円蓋部を中心に大型で充実性の濾胞を認める.d:症例2内服後1週.下瞼結膜の充血,眼脂は著明に改善し,濾胞も縮小,減少している.e:症例3内服前.下瞼結膜の充血があり,中等度の濾胞形成がみられる.f:症例3内服後1週.下瞼結膜に軽度の充血が残存しているが,濾胞は減少,縮小している.アンスに起因する問題は考える必要がなく,確実な治療が可能である.第二に,合併症の治療も同時に行える点である.成人のクラミジア結膜炎患者では,約半数に感染源である尿道炎,子宮頸管炎や咽頭感染の合併がみられる11).したがって,結膜炎の治療に際しては,これらの合併症を想定して内服治療を考慮する必要がある.当該診療科での検査の後に内服を行うのが理想であるが,眼科を受診した結膜炎患者に必要性を説明しても,自覚症状がないなどの理由で受診してもらえないことも多い.結果として局所投与で結膜炎だけを治療し,合併症は未治療のままになる場合もある.今回行った内服治療では,結膜炎だけでなく,性器クラミジア感染,咽頭炎などすべてを包括的に治療できるという大きな利点がある.クラミジア感染症診療では,結膜炎は全身感染症の一部分症状と捉え,結膜炎のみを治療対象とせずにクラミジアをその個体から完全に駆逐するという方針で治療を行うことが必要である.アジスロマイシン内服単回投与による結膜炎患者の治療は,そのための有望な選択肢の一つであると考えられた.文献1)中川尚:急性結膜炎.あたらしい眼科28:317-321,20112)三鴨廣繁,高橋聡:性器クラミジア感染症.性感染症診(89)図2症例2の内服治療後7週の結膜所見下瞼結膜の充血はなく,濾胞も消失している.断・治療ガイドライン2011.日本性感染症学会誌22(Suppl):60-64,20113)寺田道徳,大木恵美子,山岸由佳ほか:アジスロマイシン単回投与製剤の女性性感染症治療への臨床応用.JpnJAntibiot63:93-104,20104)三鴨廣繁,玉舎輝彦:クラミジア子宮頸管炎患者における服薬コンプライアンスの検討.日化療誌50:171-173,20025)LauCY,QureshiAK:Azithromycinversusdoxycyclineforgenitalchlamydialinfections,meta-analysisofrandomizedclinicaltrials.SexTransmDis29:497-502,2002あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141511 6)山岸由佳,三鴨廣繁,和泉孝治ほか:生殖器の淋病,クラミジア感染症に対するアジスロマイシン2g単回投与製剤の臨床的有用性および細菌学的効果に関する検討.新薬と臨牀61:1751-1755,20127)TabbaraKF,Abu-el-AsrarA,al-OmarOetal:Singledoseazithromycininthetreatmentoftrachoma:arandomized,controlledstudy.Ophthalmology103:842-846,8)KatusicD,PetricekI,MandicZetal:Azithromycinvsdoxycyclineinthetreatmentofinclusionconjunctivitis.AmJOphthalmol135:447-451,20039)Salopek-RabaticJ:Chlamydialconjunctivitisincontactlenswearers:successfultreatmentwithsingledoseazithromycin.CLAOJ27:209-211,200110)中川尚:クラミジアトラコマティス(TRIC).眼微生物事典(大橋裕一ほか編),110-117,メジカルビュー社,199611)木全奈都子,中川尚,荒木博子ほか:成人型封入体結膜炎と上咽頭クラミジア感染.臨眼49:443-445,1995***1512あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(90)

My boom 33.

2014年10月31日 金曜日

監修=大橋裕一連載.MyboomMyboom第33回「親川格」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載.MyboomMyboom第33回「親川格」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介親川格(おやかわ・いたる)ハートライフ病院眼科,琉球大学眼科私は2005年に琉球大学を卒業後,初期臨床研修を経て2007年に琉球大学眼科教室に入局しました.久米島スタディで知られるように緑内障を主軸とした教室であり,多くの医局員が緑内障や網膜硝子体を専門分野として切磋琢磨するなか,角膜疾患を中心とする前眼部領域に魅力を感じ,県内・県外の関連病院に勤務後,東京歯科大学市川総合病院で角膜フェロー研修を2012~2013年の間受け入れていただきました.施設には全国各地から角膜移植を中心にオキュラーサーフェイスを究めんとする同年代の向上心の高い医師たちが多く群がり,朝から晩まで角膜移植手術にどっぷりつかりながら互いに切磋琢磨できる素晴らしい環境であり,多くの知識とともに,互いに共感できる多くの友人たちを得ることができたことが貴重な財産となっています.現在,2013年に赴任した沖縄県のハートライフ病院において,角膜疾患に対する手術,とくにDSAEK(角膜内皮移植)を2013年から本格的に導入し,手術にいそしむ日々を送っております.仕事のMyboom~角膜内皮移植手術~もっとも興味をもっているのが水疱性角膜症に対する手術治療です.以前はPK(全層角膜移植)のみが治療手段でしたが,沖縄県でも現在はDSAEKを取り入れたことで,合併症の少ない治療選択肢を提供できつつあり,「沖縄にも全国水準の医療を少しでも提供できるよ(73)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYうになったかなぁ」と少し満足感を感じています.以前は拒絶反応や縫合糸関連感染症,そして外傷性創部離解などの大きな合併症との戦いが常につきまとい治療する日々が多々ありましたが,現在は大きな合併症という点では,より安心して術後診療をできる日々が増えたと感じています.しかし,DSAEKも術後矯正視力は平均して0.5程度であり,PK術後平均矯正視力と大きな差がない現実(とはいっても裸眼視力や不正乱視の面でDSAEKが有利であることは事実)を知り,より良い矯正視力の得られる角膜移植治療はないものかと思案していたところ,DMEKとの出会いがありました.日本と海外では対象疾患の内訳がだいぶ異なる事情はあるものの,術後矯正平均視力が0.8程度で,半数近くが矯正視力1.0という驚異的な回復視力には心躍る気持ちでいっぱいでした.ただ日本においては熟練したDMEKsurgeonが皆無であり,また高頻度の術後早期合併症がネックとなり,手術手技習得が国内では困難であるということが最大の問題点がありました.そんななか,東京歯科大学市川病院の先輩医師から「DMEKやりたいからドイツまで一緒に行かない?」といわれ,心躍る気持ちで飛びつきました.行先はドイツ・Nuremberg市郊外にあるErlangen市のTheUniversityofErlangen-Nurembergであり,DMEK手術を世界的にも多数行う施設でした.Prof.Kruse,Dr.Bachmann,Dr.Tourtasの3術者でDMEK症例すべての執刀を行い,DMEKの世界基準における現状を肌で学ぶことができ,目からうろこの濃密な時間を過ごすことができました(写真1).その後,日本に帰ってからは,“DMEKを沖縄に”というキャッチフレーズを臨床におけるマイブームとしています.まだ現状ではウェットラボを行って道具を集めあたらしい眼科Vol.31,No.10,20141495 写真1DMEK執刀を終えたDr.Bachmann(左側)と手術室にて(TheUniversityofErlangen-Nuremberg)試行錯誤している段階ですが,近い将来に必ずDMEKを成功・導入し,「角膜移植したらえらいよく見えるようになった」といっていただける患者さんを一人でも多く増やせるように日々精進しています.プライベートのMyboom1~ランニング~僕の大好きなスポーツはサッカーなのですが,執筆している今現在は2014年5月であり,世界最大のスポーツの祭典であるワールドカップサッカーがブラジルで開催されるまであと1カ月を切った時期です.4年に1度のビッグイベントであり,開催間近になってくると自然と気持ちがソワソワし,仕事が手につきにくい1カ月間となります.以前は友人達とサッカーをすることも度々ありましたが,最近は運動をする機会も減り,ボールを蹴ることさえ忘れてしまったと思うぐらいです.これではいかんと思い,まずはランニングからと考えましたが,さびついた身体を動かすことは思った以上に難しく,いつも断念しそうになる日々を過ごしています.昔からランニングが大の苦手でなかなか長続きしたためしがないですが,少なくともワールドカップサッカーが終わるまでは代表選手になったつもりでモチベーション高く保てそうなので毎日継続し,ハーフマラソン,フルマラソンへとつなげていく姿を妄想し,マイブームとして続けていけたらと思っています(写真2).プライベートのMyboom2~沖縄の海,離島めぐり~31歳にして初めて沖縄の地を離れ静岡県,千葉県で写真2自宅近くの運動公園にてランニング後の1シーン数年間生活することになったのですが,沖縄を離れて生活する中で,よく「きれいな海があるからいいね」といわれます.ただ沖縄県在住の人ならわかりますが,現地の人は海に行く機会は少なく,行ったとしてもまず泳ぐことはありません.海は眺めるものであり,釣りやバーベキューをする場所という認識です.意外に思われますが,東京の人がディズニーランドへ毎月,毎年行くかというとそうでもないことと同じ心境だと思います.ただ離れて暮らしてみると「沖縄の海はきれいなんだなぁ」と強く感じるようになりました.昨年沖縄に帰ることとなってから,海に行く機会が増え,特に友人・家族と海を眺めながらバーベキューをする行事は格別の楽しみになっています.今年もどこの海岸やビーチに行こうかと夏が待ち遠しく感じています.今まで挑戦したことがなかったマリンレジャーや,離島めぐりもしていきたいと思っていて,新しいマイブームとなりつつあります.次のプレゼンターは神奈川県の林孝彦先生(横浜南共済病院)です.林先生は東京歯科大学市川総合病院において移植医療の研鑽を積むために切磋琢磨した先輩医師であり,何事に対してもエネルギッシュな先生です.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.1496あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(74)