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現場発,病院と患者のためのシステム 24.非専門家の登場と問題

2014年1月31日 金曜日

連載現場発,病院と患者のためのシステム連載現場発,病院と患者のためのシステムExcelのマクロが組め(作れ),Accessも使いこなせるし,インターネットを駆使して情報を入手し,適宜編集して利用することもできる…20年以上前の大型汎用コンピュータの時代に非専門家の登場と問題杉浦和史*は,専門的な教育を受けた者にしかできなかったことが,今や簡単なシステムなら,非専門家だった者が作ってしまう時代になりました.専門家ではじめに手軽に購入できるようになったパソコンを使い,試行錯誤と経験で知識を得た一家言もっている医師はじめ医療従事者はたくさんいます.これらの方々が,新しい製品や環境が発表されると直ちに製品を購入して使い勝手を確かめ,実務に応用してしまうことは,それほど珍しはない現場の者が直接システムに関与することをEUC(EndUserComputing)といいますが,医療機関でのEUCとその問題につき簡単に説明します.いことではない時代です.20年以上前の大型汎用コンピュータ時代に専門的な教育を受けた昔の技術者が,「じっくり考えて」「機能解説書を読んで」などといっているうちに,試行錯誤しながらアッという間に使いこなしてしまう非専門家は確実に増えています.EUCが進めば,欲しい機能を手に入れるまでの時間が大幅に短縮され,実務に基づいているので,使いやすい機能,操作性に優れていることは容易に想像できます.しかし,良いことばかりではなく,問題もあります.代表的なものを3つあげます.①全体を見据えていない.②信頼性,品質,性能への関心が希薄.③保守性,拡張性を考慮しない.それぞれにつき,簡単に説明します..全体を見据えていない“群盲,象を撫でる”というインドの寓話があります.目の不自由な者が何人かで象を撫で,それぞれ撫でた部分の感想を述べるというものです.牙を触った人は,堅い細長いもの,鼻を触った人はグニャグニャした長いものというでしょう.尻尾を触った人は,綱のようなものというに違いなく,結局,触ったものが象であることは誰にもわかりません.象に関する説明をし,特徴を理解してもらったうえで,牙はここ,鼻はここ,という説明を受ければ,眼が不自由でも理解できたでしょう.システムも同じです.何を作ろうとしているのかの全体像(最終形)を理解せず,牙,鼻,尻尾,足や耳に相当す(81)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYる部門のシステムを作っても,部門間の機能の連携がわからず,情報の授受もわからず,システム全体として不整合なものができあがってしまう怖れがあります.最初に手をつけるべきは,院内業務をシステムに載せるための一環した方針を作り,最終形を描くことです.つぎに,この方針をスタッフに強制するのではなく自発的に理解してもらいます.周知された後,非専門家だがパソコンに習熟している者なら対応可能な範囲の機能を切り出せば,その部分をシステム化しても問題ないでしょう.しかし,院内全業務をカバーするシステムにチャレンジするのは止めましょう.考慮する幅と深さが違います..信頼性,品質,性能への関心が希薄1.信頼性一言でいえば,“動けば完成”と考えるのは危ない,ということです.自分の守備範囲の作業効率化(PersonalAutomation:PA)や,トラブル発生時に影響を受ける範囲が限られた業務,作業であり,代替え手段がある場合には,それほど気にしなくても良いかも知れません.しかし,対象が基幹業務だった場合には,トラブル発生で病院の業務が止まってしまいます.今や,24時間365日稼働するシステムは特別なケースではなくなって*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)あたらしい眼科Vol.31,No.1,201481 いますが,相互に正しく動いていることを前提としているなか,おかしくなったら最初(再起動)から,という発想は危険です.立ち上げ中は,そのシステムとの間で情報授受ができなくなり,玉突き衝突的に不具合が連鎖し,システム全体が止まってしまいます.しかし,パソコン黎明期には再起動して最初からやり直せば済むという考え方が普通でした.パソコンが独立して使われるスタンドアロンの使い方なら構いませんが,相互に連携して動く規模の大きなシステムの場合には,この発想は危険です.2.品質品質を保証するためには,適当にピックアップしたいくつかのケースでテストするのではなく,処理の対象となる業務,作業で起こりえるすべてのケースでテストをしなければなりません.テスト漏れがないよう,テスト項目を洗い出し,テストの方法を含めてのレビューも必要になります.テストの方法とは,環境も含め,その方法でテストしたことになるかどうかということです.3.性能性能(レスポンス)は見落としがちな点ですが,とても重要な要素です.検査結果,所見,処方指示などのデータがあるサーバにアクセスが集中する場合を考えてみましょう.コンピュータ,記憶装置などは一度に多くの要求を処理しているようにみえるものの,顕微鏡的にみれば,瞬間的には1つの処理しかしていません.パソコンからの処理要求は,処理の順番がくるまで待ち,行列のなかで待たされます.しかし,超高速で処理されるため,あたかも一度に多くの要求が処理されているようにみえるだけです.サーバを参照したり書き込んだりするパソコンの台数が増えれば,必然的に処理要求数が増えます.その分,待ち行列の長さが長くなり,順番が回ってくるのが遅くなる=レスポンスに影響が出るということです.システム化対象業務を増やしたり,パソコンを増やしたら,レスポンスが悪くなった例はよく聞きますが,性能に関する基本的な知識を身につけ,気にする習慣をつけていれば大事には至りません..保守性,拡張性を考慮しないシステムを設計する際には,今後変わるかもしれない要素を考慮しなければなりません.例えば,保険請求,82あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014薬剤処方,用法用量の規則です.これらは変化があることを前提とした作り方になっていなければなりません.医師はじめスタッフも追加・削除・変更ができるようになっていないと,採用,退職に対応できません.消費税が8%,10%に引き上げられることが決まりました.竹下内閣のときに導入されたこの消費税,最初は3%でした.橋本内閣のときに5%に上がりましたが,この税率を固定にしたプログラムの作り方にしてしまうと,変更のあった都度,関係する個所を直さなければなりません.これを売価×aのように,消費税率をパラメタaにしておき,aの値を変えることで関係するすべての該当個所が間違いなく更新されるよう,プログラムすべきです.これはプログラミングの基礎で教えてもらうことですが,この辺の気配りが,非専門家と一連の系統だった教育を受けた者との違いになって現れます.また,眼科は検査の種類が多いことで知られていますが,新しい検査機器が増設されたときのサポート手順も決めておかなければ,検査結果をシステムに取り込めるようになるまでに時間を要してしまいます.この辺の配慮も,訓練を受け,実戦経験をした者と,そうではないパソコン操作が長じた非専門家とでは,違いがでてくるところです..その他システム化対象業務,作業はBPR(業務改革)が実施されていることが望ましいのはいうまでもありません.非専門家にとっては日常的にやっている業務を根本から見直すなどということは,なかなかできませんが,システム化の前に行うことが望ましいことはいうまでもありません.例外処理はBPRの対象として適しているというのが過去の経験です.往々にして,無理無駄の宝庫であり,トラブルの発生源になっていますが,例外処理が腕の見せ所だったベテランは,その価値を失うことを怖れるかも知れません.しかし,仕事の属人性を解消するためには必要なことと理解しなければなりません.例外処理が少なくなれば,プログラムは作りやすくなり,テストもしやすくなり,システムの品質向上が期待できます.手間を要す例外処理がなくなれば,作業の品質も上がるはずです.(82)

タブレット型PCの眼科領域での応用 20.教育分野でのタブレット型PC活用の現状

2014年1月31日 金曜日

シリーズ⑳シリーズ⑳タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第20章教育分野でのタブレット型PC活用の現状■見る喜びを育てる,弱視者教育分野での導入の意義第20章で取り上げる端末は,私が代表を務めるGiftHandsの活動や臨床業務で活用しているタブレット型PC“iPadAir(米国AppleInc)”と,iPhone5s(米国AppleInc)のiOSバージョン7.0.4です.この章ではタブレット型PCやスマートフォンの弱視者を含む教育分野での活用の現状と意義を紹介していきます.■教育とICTの関わり経済協力開発機構(OECD)が,世界65カ国・地域の15歳51万人以上が参加した2012年の学習到達度調査(PISA)の結果を発表しました.日本は数学的応用力7位(前回9位),読解力4位(前回8位),科学的応用力4位(前回5位)と順位を回復させました.これらの学力の向上の背景には,一部にゆとり教育から応用力を育てる教育への変換があるといわれています.応用力の育成に焦点を当てた教育の特徴は,これまでの国語や算数といった科による縦割りの教育ではなく,数理(算数と理科の知識を組み合わせて問題を解決する授業)やことば(コミュケーション能力の育成を行う授業)など科の枠を超えた問題解決能力とコミュケーション能力の育成を行う授業の導入にあります.また,教師と生徒が双方向性の高い授業の確立が重要と考えられるため,生徒が授業で自発的に意見を発信するツールの一つとして,近年iPadに代表される情報通信技術ICT(informationandcommunicationtechnology)の教育分野への導入が試みられています.小学校・中学校・高校・大学・専門スクール・学習塾などの指導者で結成された“iTeachers”は,各施設におけるICT導入・活用事例を共有するために,イベン(79)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYトやメディアを通して多方面にICTの教育現場での導入の重要性についての情報発信を行っている団体です(http://www.iteachers.jp).iTeachersによる外国語学授業での活用事例では,生徒が考えたシナリオを外国語の台詞で演技して,スマートフォンで撮影した作品をタブレット型PCで編集し各自がプレゼンするなど新しい形での授業スタイルを報告しています.これまでのテキストによる教育とは異なり,これらの授業スタイルは極めて創造性と自由度が高く生徒は自発性や応用力を発揮しやすく,自ら考え表現することが可能になるといえます.タブレット型PCやスマートフォンといったICT機器の一般社会での普及に伴い,教育分野のみならず他分野において,今後このような変化は一層活性化すると考えられます.また,以前にも紹介しましたが,弱視教育の分野におけるICTの活用の可能性はとても大きく,さまざまな施設での検討が始まっています.■弱視者教育分野の活用事例広島大学大学院教育学研究科の氏間らは,国内の複数の協力施設(小学校,中学校,視覚支援特別学校など)においてタブレット型PC活用の指導を行い,理科の授業をはじめとしたさまざまなICT導入事例を報告しています(図1).また,大阪府立視覚支援学校ではタブレット型PCやスマートフォンを用いた,弱視者や全盲の児童・生徒での実習への導入事例を報告しています(図2).これらの事例報告に共通していえることは,タブレット型PCを導入したことで,視覚障害をもつ児童・生徒が視覚障害をもたない児童・生徒と同じ空間で,同時に実習を体験することができるということです.タブレット型PCやスマートフォンのアプリを通して障害による実習内容の認知の差を少しでも埋めることあたらしい眼科Vol.31,No.1,201479 図1氏間研究室のウェブサイト導入事例の報告や手引きが紹介されている.(http://home.hiroshima-u.ac.jp/ujima/src/index_j.html)が可能となります.また,視覚障害をもつ児童・生徒が一般的に普及した汎用性の高いデバイスであるがゆえに,楽しみながら自発的に使えるツールであるということが重要です.今後,弱視者や全盲者の活用事例が蓄積されることで,多くの施設が導入の際に事例を模倣することが容易となり,視覚障害児童・生徒の教育分野においてもICTの導入はより一層の活性化することが予想されます.■教育分野におけるデジタルデバイス導入の意義と課題これまで紹介してきたようにタブレット型PCやスマートフォンを用いたロービジョンケアの目的は,視覚障害者を情報障害者にすることを回避することにあります.社会で生きていくための手段を学ぶ時期,教育の現場でそれらを用いることは,障害を不便と感じることなく情報の入手や発信が行えるようになるために,とても重要な機会だと感じます.また,教育現場が視覚障害者専用のロービジョンエイドとしてのタブレット型PCやスマートフォンを導入するのではなく,すべての児童・図2大阪府立視覚支援学校のホームページiPadやiPhoneを用いた弱視児童や全盲生徒の授業事例が報告されている.(http://www.osaka-c.ed.jp/mou/)生徒が応用力を高める授業スタイルの一部として利用することで,視覚障害をもつ児童・生徒と視覚障害をもたない児童・生徒との距離を近づけることが可能だと思います.今後,諸外国で導入事例があるように,わが国においても教科書が電子書籍として配布され,生徒が教育を受けるための一つのツールとしてタブレット型PCを持参する時代は遠くないと私は考えています.そのような時代の到来に向けて,眼科医としてGiftHandsの活動を通して,タブレット型PCやスマートフォンを利用して生活の不便さを解消している視覚障害者の存在を社会に認識させ,教育の現場に導入されることの意義を伝えることが何よりも重要だと私は信じています.本文の内容や各種セミナーの詳細に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」よりいつでも受けつけていますので,お気軽に連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/☆☆☆80あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014(80)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 128.網膜下液が粘稠な中高年者の裂孔原性網膜剥離(初級編)

2014年1月31日 金曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載128128網膜下液が粘稠な中高年者の裂孔原性網膜.離(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに一般に中高年者に発症する裂孔原性網膜.離は,急性後部硝子体の網膜硝子体牽引に起因する裂孔が形成され,急速に網膜.離が進行する例が多い.このような症例は突然の飛蚊症と視野欠損を自覚することが多いため,発見が早く,早期に手術加療に至る.また,このような症例では一般に網膜下液の粘稠度は低く,網膜下液排除時に水性の網膜下液が多量に排出されることが多い.一方,若年の進行が緩徐な網膜.離例では,網膜下液が粘稠で,黄色調を呈していることが多い.しかし,中高年者でも,なかには進行が緩徐で網膜下液の粘稠度が非常に高い症例に遭遇することがある.●網膜下液が粘稠な中高年者の裂孔原性網膜.離の特徴筆者らが報告した7例7眼の特徴を以下にまとめる1).1)ドーム状の胞状網膜.離を呈することが多い.2).離網膜の可動性が少ない.3)原因裂孔が小さい.4)Shagreenpattern(鮫肌状の網膜浮腫)を認めないか,あっても極軽度である.5)網膜下沈着物を多数認める.6)正視眼あるいは遠視眼が多い.7)飛蚊症や光視症の自覚が少ない..離範囲が狭いと自覚症状に乏しく,眼底検査時に偶然発見されたり,患者が軽度の視野欠損を自覚して眼科を受診することが多い.8)進行は緩徐で,.離範囲が黄斑部から離れていれば手術の緊急度は高くない.このような症例では年齢に比して硝子体の液化が少なく,裂孔が小さく徐々に進行するために,このような.離の形態を呈するものと考えられる..離期間が長くなると,網膜下液の性状に変化が生じて,粘稠度が増すこ(77)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY図1眼底写真(症例1)ドーム状の胞状網膜.離を認めるが,網膜面の可動性は少なく,shagreenpatternもはっきりしない.図2眼底写真(症例2)比較的小さな原因裂孔に由来する胞状の網膜.離が特徴的で,網膜下沈着物を多数認めることが多い.とが知られている.実際に今回の症例では網膜下液中のヒアルロン酸が高濃度を呈していた.●強膜バックリング手術時の注意点このような症例に対しては,硝子体手術よりも強膜バックリング手術が適応となることが多い.術中所見として,網膜下液の粘稠度が極めて高く,硝子体ゲルのような網膜下液が排出されることが多いので,脈絡膜穿刺部位をある程度大きくしないと網膜下液排除が施行しにくい.一方で強膜を圧迫しすぎると.離網膜が脈絡膜穿刺創に嵌頓しやすいので注意が必要である.そのため下液の完全な排除は困難で,バックル斜面の網膜下液は長期にわたって残存することもあるが,バックル上の裂孔さえ閉鎖できれば,残存した下液は徐々に吸収する.文献1)石崎英介,中泉敦子,佐藤孝樹ほか:網膜下液が粘稠な中高年の裂孔原性網膜.離の特徴.眼臨紀6:890-893,2013あたらしい眼科Vol.31,No.1,201477

眼科医のための先端医療 157.炎症性サイトカインと加齢黄斑変性に関する新知見

2014年1月31日 金曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第157回◆眼科医のための先端医療山下英俊炎症性サイトカインと加齢黄斑変性に関する新知見寺崎寛人(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科感覚器病学眼科学)加齢黄斑変性と炎症性サイトカイン細血管板が消失し,感覚網膜にも異常が起こることが報告されており2),RPEの生理的なVEGF分泌の減少は脈絡膜の萎縮,つまりDryAMDの原因となる可能性が考えられます.AMDの発症には慢性炎症が関与していることは以前より知られており3,4),基礎研究においても,炎症性サイトカインがAMDの病態に重要なRPEに対してどのような影響をもたらすかが研究されています.炎症性サイトカインはRPEのみならず多くの細胞種でVEGFの分泌を増加させると考えられており,そのためAMDで加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:は炎症性サイトカインがRPEのVEGF分泌を亢進させ,AMD)は,脈絡膜新生血管(choroidalneovasculariza-血管新生を助長するとされ,WetAMDの病態との関与tion:CNV)が発生し病態を悪化させる滲出型(Wetが示唆されていましたが5),DryAMDと炎症性サイトAMD)と,CNVを生じずに網膜色素上皮細胞(retinalカインとの関与は不明でした.pigmentepithelialcells:RPE)・脈絡膜が萎縮していく萎縮型(DryAMD)に分類されます.WetAMDに対し,抗血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬が優れた治療効果をもつことからもわかるように,WetAMDの病態形成においてはVEGFが中心的な分子ですが,一方でVEGFは生理的な状態でRPEから感覚網膜と脈絡膜に向けて分泌されていて,それぞれを栄養しています1).実際にマウスでRPEのVEGF分泌を抑制するとわずか3日で脈絡膜毛腫瘍壊死因子(TNF.a)とは腫瘍壊死因子(tumornecrosisfactor-a:TNF-a)は,炎症性サイトカインの一つで,おもにマクロファージから分泌されます.AMD患者においてもドルーゼンの周囲や増殖組織にマクロファージの存在が報告されており,TNF-aがAMDの進展に関与していると考えられています6,7).過去の報告では,TNF-aはRPEのVEGF分泌を亢進させると考えられてきました.極性RPE極性細胞の紹介と実験結果非極性RPE従来,基礎研究に用いられてきたRPEは,生体内のVEGF(pg)3,0002,000--****++**p<0.05**p<0.01(Tukey-Kramertest)極性非極性RPERPE図2TNF.aが極性RPEと非極性RPEのVEGF分泌に図1極性RPEと非極性RPEの光学顕微鏡写真と電顕写真与える影響(文献10より改変引用)(文献10より改変引用)74あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014(00)(74)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY1,000TNF-a 極性RPETNF-aVEGF減少非極性RPEDryAMDTNF-aVEGF増加WetAMD図3TNF.aはWetAMDだけではなく,DryAMDにも関与している極性RPEではTNF-a暴露で脈絡膜の栄養に必要なVEGFが減少するためDryAMDにつながり,非極性RPEではTNF-aでVEGF分泌が増加し,新生血管の発生を促す可能性が考えられる.RPEと違い紡錘状で,細胞分裂を繰り返しています.そのような細胞を用いて得られた結果が,生体内での反応をどの程度反映しているかは不明でした.筆者らは見た目(正六角形)も性質も生体内のRPEに近い極性RPEを用いて,従来の培養系との違いを研究しており8,9)(図1),RPEのVEGF分泌量やTNF-aがVEGF分泌に与える影響が細胞極性によって異なるかを調べました.すると従来用いていた非極性RPEと比べ,極性細胞は約4倍VEGFを多く分泌し,TNF-aは従来の非極性RPEのVEGF分泌を約2倍に増加させましたが,極性RPEではVEGF分泌を約4割減少させました10)(図2).(75)今後の展望今回の研究から,RPEは生理的な状態で大量のVEGFを分泌していること,TNF-aが生理的なRPEのVEGF分泌を減少させることがわかりました.つまり,極性をもつRPEがTNF-aに暴露すると,脈絡膜の栄養に必要なVEGFの分泌が低下し,脈絡膜の萎縮につながると考えられ,TNF-aはWetAMDだけでなく,DryAMDの発症に関与している可能性が示唆されました(図3).未だ治療法がないDryAMDの病態はまだよくわかっていませんが,今回発見したTNF-aのVEGF分泌抑制作用が関与している可能性をはじめ,あたらしい眼科Vol.31,No.1,201475 慢性炎症が具体的にどのようなメカニズムで病態に関与しているのか,今後の研究が期待されます.文献1)BlaauwgeersHG,HoltkampGM,RuttenHetal:Polarizedvascularendothelialgrowthfactorsecretionbyhumanretinalpigmentepitheliumandlocalizationofvascularendothelialgrowthfactorreceptorsontheinnerchoriocapillaris.Evidenceforatrophicparacrinerelation.AmJPathol155:421-428,19992)KuriharaT,WestenskowPD,BravoSetal:TargeteddeletionofVegfainadultmiceinducesvisionloss.JClinInvest122:4213-4217,20123)吉田茂,中尾新:加齢黄斑変性.RetinaMedicine2013年春号.特集:炎症と網膜関連疾患の関与を探る,p25-31,先端医学社,20134)PatelM,ChanCC:Immunopathologicalaspectsofage-relatedmaculardegeneration.SeminImmunopathol30:97-110,20085)NagineniCN,KommineniVK,WilliamAetal:RegulationofVEGFexpressioninhumanretinalcellsbycytokines:implicationsfortheroleofinflammationinage-relatedmaculardegeneration.JCellPhysiol227:116-126,20126)KillingsworthMC,SarksJP,SarksSHetal:Macrophagesrelatedtobruchsmembraneinage-relatedmaculardegeneration.Eye4:613-621,19907)OhH,TakagiH,TakagiCetal:Thepotentialangiogenicroleofmacrophagesintheformationofchoroidalneovascularmembranes.InvestOphthalmolVisSci40:18911898,19998)ShirasawaM,SonodaS,TerasakiHetal:TNF-alphadisruptsmorphologicandfunctionalbarrierpropertiesofpolarizedretinalpigmentepithelium.ExpEyeRes110:59-69,20139)SonodaS,SpeeC,BarronEetal:Aprotocolforthecultureanddifferentiationofhighlypolarizedhumanretinalpigmentepithelialcells.NatProtoc4:662-673,200910)TerasakiH,KaseS,ShirasawaMetal:TNF-alphadecreasesVEGFsecretioninhighlypolarizedRPEcellsbutincreasesitinnon-polarizedRPEcellsrelatedtocrosstalkbetweenJNKandNF-kappaBpathways.PLoSOne8:e69994,2013■「炎症性サイトカインと加齢黄斑変性に関する新知見」を読んで■今回は加齢黄斑変性(AMD)の分子病態についての的ですし,今後臨床への応用が大きく期待される素晴新しい考え方を寺崎寛人先生にご紹介いただきましらしい研究であると考えます.た.寺崎先生のご発見によると,網膜色素上皮細胞日本における生命科学の研究を活性化するというい(RPE)の状態(極性,非極性)でVEGFの産生やろいろな戦略が提示され,大きな枠組みでの研究推TNF-aに対する反応などが大きく異なっているとい進,それを創薬などの成果として臨床応用するといううものでした.20世紀に大発展した細胞培養の技術ビジョンが検討されています.たしかに日本でのこれを用いて細胞の動きを分子生物学的手法により解明すまでの研究体制が万全であったわけではありません.るという研究手法は,大きな成果をあげたことは確かしかし,日本からの生命科学の大きな成果として,もです.問題点は,上記の手法で解明された科学的エビともと臨床医である山中先生がiPS細胞の作製によりデンスが本当に生体内の状態を反映しているか,病気ノーベル賞に輝いたことからもわかるように,臨床医に本当に関係しているかということでした.この問題学と基礎医学を融合した研究体制の強みはこれからもに対応できるのは患者の病態をいつも観察し,問題点大切にし,それを壊す(分業態勢を作る)のではなく,を把握している臨床医です.寺崎先生の研究の発想はこのような強みを生かすような臨床医の育成,基礎医まさに臨床医の視点からの問題解決です.これまで,学に臨床医も関与できる体制を発展させる(極度の分日本が世界と伍して生命科学のなかで著しい成果をあ業体制は強みを壊しますので)ことが必要であり,日げてきた強みは,寺崎先生のような臨床研究と基礎研本でしかできない研究の推進につながると考えます.究の両方に通暁した研究者の活躍によるものでした.山形大学眼科山下英俊今回のAMDの分子病態についての理論は極めて合理76あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014(76)

新しい治療と検査シリーズ 213.承認されたImplantable Collamer Lens

2014年1月31日 金曜日

新しい治療と検査シリーズ213.承認されたImplantableCollamerLensプレゼンテーション:小島隆司岐阜赤十字病院眼科,名古屋アイクリニック市川一夫社会保険中京病院眼科コメント:清水公也北里大学医学部眼科学教室.バックグラウンドレーザー屈折矯正手術は,photorefractivekeratectomy(PRK)からLASIKへと発展し爆発的に症例数が増えてきた.しかし,エキシマレーザーにて角膜を切除するという手術の性格上,レーザー屈折矯正手術は近視や乱視が強い場合には切除深度が安全域を超えてしまうために,適応とはならない.また,角膜が術前より薄い場合や円錐角膜など角膜形状異常を伴う場合も,術後に角膜の脆弱化をきたすために不適応となる.Qualityofvision(QOV)の観点から考えても高度近視に対してレーザー屈折矯正手術を行うと,高次収差を大きく惹起してしまうことが問題となり,コントラスト視力の低下や夜間視でのグレアやハローなどの問題を引き起こす1).このような背景があり,日本眼科学会のガイドラインでも,レーザー屈折矯正手術による近視の矯正量の限界を原則.6Dとしている.そこで注目されたのが有水晶体眼内レンズである.これは水晶体を残したまま挿入する眼内レンズで,挿入部位によって前房型,虹彩支持型,後房型の3種類に大別される.前房型はAlcon社のCachet,虹彩支持型はOphtec社のArtisan,後房型はSTAARSurgical社のimplantablecollamerlens(ICL)がある.タイプごとに合併症のタイプが異なり,一般的に前房型では角膜内皮細胞への影響が,虹彩支持型では遷延性の前房炎症,後房型では併発白内障などが懸念される.今回はわが国で承認されているICLについて紹介する..新しい治療法ICLの歴史は1986年,ロシアのFyodorov医師がポリメチルメタクリル酸塩(PMMA)製の有水晶体眼内レンズを開発したのが始まりといわれており,そのデザインとしては虹彩でレンズが挟まれるような形で前房と後(71)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY房にレンズが位置するようなものであった.その後1990年代に入ってSTAARSurgical社(米国)とFyodorov医師の共同開発が始まり,1993年に第1世代のICLが埋植され,デザインを幾度か変更して現在はバージョン4(V4)に至っている.デザインの変更によりICLは挿入後も水晶体と十分な距離を保つようになっている.日本では2010年にICLが,2011年にトーリック(Toric)ICLが厚生労働省により認可されている.執筆時点においてはわが国では生理食塩水に浸漬したV4というモデルのみが認可されているが,欧米ではBSSに浸漬したV4B,そしてICL中心部に0.36mmの貫通穴を開け,虹彩切除が必要のないKS-AP(V4C)というモデルが中心に使用されている.ICLおよびToricICLは現在までに64カ国で250,000枚以上が埋植されている.ICLの最大の特徴はコラーゲンとhydroxyethylmethacrylate(HEMA)の共重合体という素材にある.生体適合性が高い素材で,サイズ不適合などで摘出する機会に分かるが,虹彩との癒着もなく,ハプティクス部分にも色素の沈着がほとんどなく,眼内組織への刺激がほとんどないのが特徴である.ICLは毛様溝に固定され,サイズが0.5mm刻みで11.5~13.0mmまで4種類ある.光学径はレンズの球面度数によって異なり,4.65~5.50mmである.また,レンズ球面度数は.3D~.23Dの0.5D刻みで注文可能で,実際の近視矯正可能量は.1.75~.19Dと広い範囲をカバーしている.乱視度数は+1D~+6Dの0.5D刻みで注文可能で,実際の乱視矯正可能量は.0.75~.5Dである..治療の実際1.術前処置術前に瞳孔ブロック予防のためにレーザー虹彩切開術を行っておく必要がある.光学部中央に穴があいたあたらしい眼科Vol.31,No.1,201471 KS-AP(執筆時点では厚生労働省未認可)を用いる場合は必要はないが,通常のICLでは虹彩切除が行われていないと必ず瞳孔ブロックを起こすので必須の処置である.術中に周辺虹彩切除を行うこともできるが,散瞳した状態で縮瞳させ,小さな虹彩切除を確実に作製するのは,ときにむずかしい場合がある.2.手術(図1)①サイドポートを角膜輪部に作製.筆者は右利きなので右目では下方に,左眼では上方に作製している.②サイドポートより粘弾性物質を前房内に注入.粘弾性物質は低分子のものを使用したほうが,最後にICLと水晶体の間に残りにくい.筆者らはオペガンR(参天製薬)を用いている.③耳側より3mmの角膜切開を作製(白内障手術ではメインの3mm切開を先に行うこともあるが,ICL手術の場合,前房の変化を最小限にして水晶体を保護するためにこの順番で行う).④インジェクターにICLをセッティングする.この際には,ICLの表裏をポジショニングマークを頼りにして必ず確認しておく.⑤インジェクターにセットしたICLを前房に挿入し虹彩上に展開していく.⑥虹彩上にICLが乗ったら,4つのハプティクスを水晶体に接触しないように虹彩下に挿入していく.⑦トーリックICLの場合はこの時点でMendezゲージなどを使用し,メーカーの指示したオリエンテーションフォームを確認してICLの軸を合わせる.⑧I/Aにて前房内を洗浄する.ICLと水晶体の間に粘弾性物質が残りやすいので十分に灌流させる必要がある.⑨術前にレーザー虹彩切開を行わない場合は,この時点で縮瞳させ周辺虹彩切除を行う.25G硝子体カッターが使用できれば,前房側からアプローチし小さな切開を作製できる..本治療の良い点ICLは,角膜の曲率をエキシマレーザーで変化させる屈折矯正手術と異なり,角膜に対する侵襲が少ない.すなわち,レンズを摘出すれば元に戻すことが可能な手術である.このため,角膜が薄い患者や円錐角膜疑いの患者でも屈折が安定していれば手術可能である.手術そのものは,白内障手術など顕微鏡手術に精通した術者であ72あたらしい眼科Vol.31,No.1,20141.サイドポートの作製2.サイドポートより粘弾性物質の注入3.3mmの耳側角膜切開4.ICLのセッティング5.ICLの挿入6.ハプティクスを虹彩下へ挿入7.ICLの軸を調整(トーリックの場合)8.Ⅰ/Aにて前房洗浄9.25Gカッターで虹彩切除図1ICL手術の流れれば,習得はそれほどむずかしくないと思われる.現在,ICL手術はライセンス制となっている.日本眼科学会の行う屈折矯正手術講習会を受講し,その後メーカーの主催する講習会,そしてインストラクターの立ち会いの下での手術がライセンス取得のためには必要である.屈折矯正手術としての有効性,予測性,安全性が高いことが報告されており,現段階でのレーザー屈折矯正手術の最先端のWavefront-guidedLASIKと比較しても矯正精度や視機能の面で優れることが報告されている2).また,乱視矯正効果に関しても,強い乱視群ではLASIKよりもICLのほうが矯正精度が優れていることが報告されている3).(72) 文献1)VillaC,GutierrezR,JimenezJRetal:NightvisiondisturbancesaftersuccessfulLASIKsurgery.BrJOphthalmol91:1031-1037,20072)KamiyaK,IgarashiA,ShimizuKetal:Visualperformanceafterposteriorchamberphakicintraocularlensimplantationandwavefront-guidedlaserinsitukeratomileusisforlowtomoderatemyopia.AmJOphthalmol153:1178-1186,20123)HasegawaA,KojimaT,IsogaiNetal:Astigmatismcorrection:Laserinsitukeratomileusisversusposteriorchambercollagencopolymertoricphakicintraocularlensimplantation.JCataractRefractSurg38:574-581,2012.本治療法に対するコメント.LASIKは屈折矯正手術の中心であるが,その術後さのサイズが基準となっているが,生産されているレ合併症は少なくなく,施行例は近年減少傾向にある.ンズサイズは0.5mmステップであり,0.25mmス一方,有水晶体眼内レンズは絶対施行例数はLASIKテップにするなど改善が望まれる.また,レンズは発に劣るものの,毎年増加傾向にある.理由としては近注してから入手までに時間がかかるなど,発注入手の視の度数にかかわらず視機能に優れ,また,KS-AP煩わしさがある.現在,さらなる小切開を可能にする(HoleICL)に至っては術後合併症も皆無であること,preloadedinjectorの導入が予定されており,使い勝晩年白内障手術の際にもレンズパワー計算も問題がな手が改善され普及されるものと考えられる.高額な器く,基本的に可逆的手術であることがあげられる.問械購入や維持費用がないなど経済的負担が少ないこと題点としてはICLの場合,レンズサイズの決定が重も魅力である.要であり,現在はwhitetowhiteに0.5mm加えた長☆☆☆(73)あたらしい眼科Vol.31,No.1,201473

私の緑内障薬チョイス 8.合剤(ごうざい)の功罪(こうざい)

2014年1月31日 金曜日

連載⑧私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載⑧私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也8.合剤(ごうざい)の功罪(こうざい)森和彦京都府立医科大学眼科学教室合剤は便利である.点眼回数が少なくて済み,点眼間隔も考えなくてよい.しかし必ずしも良いことずくめではない.アドヒアランス不良患者に有効だが,忘れてしまえばまったくのゼロ.副作用が出たら両方の薬が使えなくなるし,濃度を変える「さじ加減」ができなくなってしまう.やはり症例ごとに適否を熟慮すべきであろう.合剤花盛り世は合剤が花盛り.緑内障のみならず高血圧1)などの全身疾患薬でも合剤が頻用されている(表1).最近はとくに緑内障分野において数多くの合剤が上市されており,製薬企業も盛んにプロモーションに注力している.ザラカムR(ラタノプロストとチモロールの合剤),デュオトラバR(トラボプロストとチモロールの合剤),コソプトR(ドルゾラミドとチモロールの合剤),アゾルガR(ブリンゾラミドとチモロールの合剤)の4剤が平成25年12月末現在,わが国で使用可能な緑内障関連の合剤であるが,世界的には表2に示すように,ほかにも数多くの種類の合剤が使用されており,今後さらに多くの合剤が日本でも使用可能になる可能性が高い.このように合剤がよく使われるようになってきた理由はなんであろうか.表1日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン(表3.2)1)医療者と患者が共通の理解に到達し,パートナーとして治療を行う方法・患者と高血圧のリスク及び治療の効果について話し合う.・治療計画について書面及び口頭で明確に説明.・治療計画を患者の生活習慣に合わせる.・患者の配偶者及び家族に高血圧及び治療計画に関して情報を提供.・家庭血圧測定や飲み忘れ防止法などの行動論的方法を活用.・副作用によく注意し,必要に応じて用量変更,薬剤切替えを行う.・1日の服薬錠数,回数を減らし,合剤の使用を含め,処方を簡素化.・服薬忘れとその要因について話し合う.・服薬継続,受診継続,生活習慣修正の支援システムを提供.・生涯にわたる治療の費用と効果を説明.高血圧治療ガイドラインにおいても合剤の使用を推奨している.(69)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY図1服薬指導から治療参加へコンプライアンス,アドヒアランス,コンコーダンスの違いを説明した図.合剤のメリット合剤使用の最大のメリットはアドヒアランスの改善である.従来はコンプライアンス(服薬遵守),最近ではアドヒアランス,コンコーダンス(図1)などの呼称で呼ばれることが多いが,緑内障のような自覚症状のない慢性進行性疾患においてはとくに重要とされる.実際,視野障害が進行していない群ではアドヒアランスが良好に保たれているのに対して,視野進行群ではアドヒアランス不良例が多いことが報告されている2).抗緑内障薬における合剤使用のメリットは,総服薬回数の減少,服薬間隔の考慮不要,薬剤管理の手間の減少,服薬ミス(片方忘れなど)の防止などの利便性があるとともに,本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).あたらしい眼科Vol.31,No.1,201469 表2抗緑内障薬の合剤一覧(海外も含む)合剤PG製剤b遮断薬CAI*その他ザラカムR(2001.8)1/日LatTmデュオトラバR(2006.4)1/日TravTmGanfortR(2006.5)1/日BmtTmタプコムR(2013)1/日TafTmコソプトR(1998.8)2/日TmDorアゾルガR(2008.12)2/日TmBrnzCombiganR(2007.1)2/日TmBrimSimbrinzaR(2013.4)2/日BrnzBrimLat:latanoprost,Trav:travoprost,Bmt:bimatoprost,Taf:tafluprost,Tm:timolol,Dor:dorzolamide,Brnz:brinzolamide,Brim:brimonidine*炭酸脱水酵素阻害薬:carbonicanhydraseinhibitor平成25年12月末現在,わが国において使用できる抗緑内障薬合剤はザラカムRとデュオトラバR,コソプトRとアゾルガRの4剤であり,いずれもチモロールとの合剤となっている.単剤組み合わせよりも安価であることが多いために経済性に優れる点,塩化ベンザルコニウム曝露回数が減少することから角膜上皮障害などの副作用も軽減される点などがあげられる.もちろん患者側にとってのメリットだけではなく,医療機関や薬局にとってもメリットがある.複数の薬剤を処方することに比べれば,処方の手間や間違いのリスクは軽減するし,保管スペースも節約される.さらに製薬企業にとっても,新規薬剤を開発することに比べれば,未知の副作用発現による開発中止のリスクが低いため,開発コストの節約になるだけでなく,他社に対するジェネリック対策ともなる.本当に万人に対してすべて良いのかこのように合剤は患者,医療機関,製薬企業のすべてに対してメリットをもたらす,万人に対して好ましいものなのであろうか.本来ならば点眼回数の異なる点眼薬を合わせている場合(1日1回点眼と2回点眼の合剤など)には,単剤組合せをしっかりと点眼した場合と比べてどうしても効果が弱くなる.また,合剤では各薬剤の配合割合が固定されているために投薬の自由度が喪失するし,プロスタグランジン(prostaglandin:PG)製剤とb遮断薬の合剤については本来,夜に点眼するPG製剤と朝に点眼するb遮断薬を合わせているため,1日1回とした場合には点眼時間の問題が生じる.さらに副作用が生じた場合に原因の特定が困難となり,いずれの成分によるものか,もしくは成分間の相互作用によるものか判断ができない.とくに今年米国においてFDAに認可70あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014されたSimbrinzaR以外は,すべての合剤にチモロールを含んでおり,全身副作用や禁忌,眼表面麻酔作用,long-termdriftなどチモロールの特徴は以前から知られているにもかかわらず,合剤となっているがためにこれらの存在を忘れてしまいがちとなる.チモロール以外のb遮断薬が選択できないことは,薬剤選択の幅を狭めてしまうことにほかならない.アドヒアランスの改善に資するとはいえ,アドヒアランスに問題のある症例では,1日1回の投与ですら忘れてしまうリスクが常に存在し,そうなると丸々1日は無治療の時間帯が生じてしまうことになる.すなわち,合剤は服薬忘れの影響が単剤組合せの場合よりも大きいといえる.患者ごとに考えるべきb遮断薬の副作用を声高に喧伝していたメーカーが,掌を返したようにチモロールの含有されている合剤を宣伝するなど,メーカーの良識を疑うことがある.患者にとって治療法の選択肢が増えるのは喜ばしいが,複雑になりすぎて次のステップに進む時機を逸しない注意が必要である.メーカーの宣伝を鵜呑みにせず,合剤の誘惑に縛られることなく,それぞれの患者ごとに最良の治療薬の組合せを考えるようにしたい.文献1)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会:高血圧治療ガイドライン2009.日本高血圧学会,20092)RossiGCM,PasinettiGM,ScudellerLetal:Doadherenceratesandglaucomatousvisualfieldprogressioncorrelate?EurJOphthalmol21:410-414,2011(70)

抗VEGF治療:ノンレスポンダーへの対処方法

2014年1月31日 金曜日

●連載⑳抗VEGF治療セミナー─使用方法─監修=安川力髙橋寛二10.ノンレスポンダーへの対処方法菅波由花古泉英貴東京女子医科大学眼科学教室抗VEGF薬の登場で滲出型加齢黄斑変性(AMD)の治療は劇的に変化した.しかし,なかには抗VEGF薬への反応が乏しい症例も存在し,治療に難渋することがある.このような症例においては,抗VEGF薬の種類の変更や光線力学的療法(PDT)の適用も考慮し,一つの治療に固執しすぎないことも大切と思われる.抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)治療は,その視力維持・改善効果の高さへの期待から,現在,中心窩下に脈絡膜新生血管を有する滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegenaration:AMD)に対する治療の第一選択とされている場合が多い.光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)と比較しても網脈絡膜に対する組織侵襲性が少ないと考えられ,視力良好例でも比較的使用しやすいのも大きなメリットである.それでは,すべての滲出型AMDに対して,その治療反応の如何にかかわらず抗VEGF薬の投与を漫然と続けても良いのだろうか?答えはもちろん“No”である.実際の臨床現場においては,抗VEGF薬を複数回にわたり投与しても治療反応が不良,あるいは反応がまったくみられないケースが散見される.そのような場合に一つの抗VEGF薬を用いた治療に固執するのは,視機能の予後の面のみならず,全身・局所合併症や医療経済的な観点からも大いに問題がある.抗VEGF治療に対する“ノンレスポンダー”の定義はさまざまであると思われるが,本稿では治療導入期を過ぎても黄斑部網膜の滲出性変化が消失しない場合として進める.既報では,現在まで広く用いられてきたラニビズマブ(ルセンティスR)を治療導入期に月1回,3カ月連続で投与しても,典型AMD,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)の約30%強の症例において滲出性変化が完全に消失しないとされている1,2).この事実から鑑みても,抗VEGF薬は決して万能でないことが示唆される.筆者らは以前,PCV症例においてラニビズマブを月1回,3カ月連続で投与を行っても滲出性変化が残存した症例の臨床的所見の特徴として,サイズの大きなポリープ状病巣を有することや1),インドシアニングリーン蛍光眼底造影(67)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY治療前ラニビズマブ3回投与後アフリベルセプト1回投与後視力(0.8)視力(0.6)視力(0.7)図180歳,男性.右眼典型AMD治療前(上)のOCTでは中心窩下に網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)の不整な隆起と滲出性網膜.離がみられる.ラニビズマブを3回投与後(中)も,網膜.離は残存している.抗VEGF薬をアフリベルセプトに変更したところ(下),1回の投与で網膜.離は完全に消失している.(indocyaninegreenangiography:IA)において脈絡膜血管透過性亢進所見が存在すること3)を報告している.治療導入期で滲出性変化が完全に消失しなかった症例の多くは,頻回の追加投与を行っても病状のコントロールがむずかしい場合が多い1).それでは,治療導入期に反応が思わしくない症例にはどのように対処すべきであろうか?一つの方法としては,まず抗VEGF薬の種類の変更を行うことである.あたらしい眼科Vol.31,No.1,201467 治療前ラニビズマブ3回投与後PDT後視力(0.2)視力(0.1)視力(0.1)治療前ラニビズマブ3回投与後PDT後視力(0.2)視力(0.1)視力(0.1)図289歳,男性.右眼PCV治療前(左)のIAで複数のポリープ状病巣がみられ,OCTでもRPEの丈の高い隆起と滲出性網膜.離がみられる.ラニビズマブを3回投与後(中央),IAでもOCTでも所見の改善はまったくみられないためPDTを施行(右),ポリープ状病巣の閉塞および網膜.離の消失が得られた.近年アフリベルセプト(アイリーアR)も登場し,使用可能な抗VEGF薬は複数存在する.抗VEGF薬ごとにそれぞれ特性が異なるため,一つの薬剤への治療抵抗性を示す症例に対しては,まず薬剤の種類の変更を試みても良いと考える(図1).抗VEGF薬に抵抗性を示す症例に対するもう一つの治療オプションとしては,PDTがある.とくにPCVに関していえば,ポリープ状病巣の閉塞率においてPDTは有利であり4),滲出性変化のコントロールという観点からはPDT単独,あるいはPDTと抗VEGF薬の併用療法にスイッチすることが有効な場合がある(図2).PCV以外の滲出型AMDにおいても欧米のDENALI試験5)やMONTBLANC試験6)といったPDTとラニビズマブの併用療法に関する大規模臨床試験の結果から考えると,抗VEGF治療にPDTをうまく組み合わせることで,治療回数を減らしつつ病状の活動性をコントロールできる可能性がある.しかしいうまでもなく,PDTは正常組織に対する侵襲性などの問題があるため,視力良好例への適応は慎重を要する.さらに,いずれの滲出型AMDのサブタイプにおいても,PDTを用いた戦略への変更が長期的な視機能の予後に関して必ずアドバンテージがあるかどうかは不明である.複数の抗VEGF薬が使用できるようになり治療オプションが増えた今,治療抵抗例に対しても個々の症例の68あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014病状を見極めつつ,長期にわたり患者のQOLを守るための治療の最適化が今後必要であろう.文献1)KoizumiH,YamagishiT,YamazakiTetal:Predictivefactorsofresolvedretinalfluidafterintravitrealranibizumabforpolypoidalchoroidalvasculopathy.BrJOphthalmol95:1555-1559,20112)YamashiroK,TomitaK,TsujikawaAetal:Factorsassociatedwiththeresponseofage-relatedmaculardegenerationtointravitrealranibizumabtreatment.AmJOphthalmol154:125-136,20123)KoizumiH,YamagishiT,YamazakiTetal:Relationshipbetweenclinicalcharacteristicsofpolypoidalchoroidalvasculopathyandchoroidalvascularhyperpermeability.AmJOphthalmol155:305-313e301,20134)KohA,LeeWK,ChenLJetal:EVERESTstudy:efficacyandsafetyofverteporfinphotodynamictherapyincombinationwithranibizumaboraloneversusranibizumabmonotherapyinpatientswithsymptomaticmacularpolypoidalchoroidalvasculopathy.Retina32:1453-1464,20125)KaiserPK,BoyerDS,CruessAFetal:Verteporfinplusranibizumabforchoroidalneovascularizationinage-relatedmaculardegeneration:twelve-monthresultsoftheDENALIstudy.Ophthalmology119:1001-1010,20126)LarsenM,Schmidt-ErfurthU,LanzettaPetal:Verteporfinplusranibizumabforchoroidalneovascularizationinage-relatedmaculardegeneration:twelve-monthMONTBLANCstudyresults.Ophthalmology119:992-1000,2012(68)

緑内障:NIDEK RS-3000

2014年1月31日 金曜日

●連載163緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也宇田川さち子大久保真司163.NIDEKRS.3000金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学(眼科学)緑内障診療においてRS-3000(NIDEK)を使用した経験から,その一番の特徴をあげると,9×9mmのワイドスキャンが撮影でき,正常人データベースと比較できる点である.緑内障の診断において,現在では黄斑部における網膜内層の有用性が認識されているが,緑内障においては黄斑部の変化と乳頭との関係が重要であり,両者の関係を確認することが重要である.●緑内障診療におけるRS.3000RS-3000の特徴としては,①黄斑部の9×9mmのワイドスキャンが撮影可能で,かつ正常人データベースとの比較が可能であること,②黄斑部のOCTのカラーマップが非常にきれいで,共焦点走査型レーザー検眼鏡(scanninglaserophthalmoscope:SLO)画像にOCTの厚みのカラーマップを重ね合わせて表示できること,③乳頭周囲の評価が従来からのサークルスキャンと乳頭マップの両方でできること,④黄斑部を6本のセグメンテーションラインで分離可能で,各層を評価可能であることがあげられる.●データベースと比較可能な黄斑部の9×9mmのワイドスキャン緑内障診療におけるRS-3000の最大の利点は,黄斑部の9×9mmのワイドスキャンが撮影でき,かつその図1黄斑マップ(9×9mm)左側に網膜全層厚マップ,右側に網膜内層厚マップが表示される.各々に厚みマップ,正常眼データベース,デビエーションマップが表示される.網膜内層厚マップでは視神経乳頭につながる網膜内層の菲薄化がはっきりとみられる.範囲の正常人データベースを搭載しており正常人データベースと比較できる点にある(図1).現在では,緑内障診断において黄斑部における網膜内層の有用性が認識されているが1),緑内障においては乳頭との関係が重要であり,黄斑部の変化と視神経乳頭との関係が確認できるのは非常に有用である.他社のOCTでも黄斑部の広範囲の撮影が可能になってきているが,広範囲のデータベースが搭載されているのはRS-3000のみである.現在のOCTによる緑内障診断は,おもに正常人データベースとの比較であるため,この点は非常に大きな利点となっている.Preperimetricglaucoma症例での黄斑部の網膜神経線維層+網膜神経節細胞層+内網状層(RTVue-100〔Optoview社〕のGanglionCellComplex〔GCC〕に対応するもの)の解析は,6mm円の範囲よりも広範囲の8mm円を用いたほうが診断力が向上することが報告されている2).すなわち,ワイドスキャン撮影によって,緑内障診断力が向上することが期待される.(65)あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014650910-1810/14/\100/頁/JCOPY 図2b乳頭サークル断層像は20回加算した画像であり,スペックルノイズが少なく解像度がよく,網膜神経線維層の局所的な菲薄化を捉えている(白矢印).TSNITグラフは内蔵されている正常人データベースから,正常(緑色),境界域(黄色),異常(赤色)に色分けされている.下耳側に網膜神経線維層欠損に対応する凹みがみられる(赤矢印).図2aカラー眼底写真下耳側に網膜神経線維層欠損がみられる(黒矢印).●2種の乳頭周囲の評価法OCTによる緑内障眼の構造的評価では,黄斑部解析が近年注目されている.しかし,乳頭および乳頭周囲の評価は依然として重要である.RS-3000は2つの撮影モードを有する.1つはtime-domainOCTのStratusOCTTM(ZEISS)の時代からもっとも緑内障診断に用いられてきた直径3.45mmの乳頭周囲円周で網膜神経線維層厚を測定するモードである.画像を加算平均することによってスペックルノイズが除去され,画像が向上し,網膜神経線維層欠損の検出力が向上することが報告されている3).RS-3000では,最大50回(1回,5回,10回,20回,50回)撮影した加算平均の画像の測定値が表示可能である(図2a,b).もう1つの乳頭マップは3×3mm~9×9mmの範囲で撮影可能であり,当科では乳頭マップは乳頭周囲6×6mmの範囲を512×128で撮影している.従来からある乳頭周囲の直径3.45mmの網膜神経線維層厚を切り出し,TSNITグラフの表示や,乳頭周囲網膜神経線維層厚の各エリアの平均値を表示し,正常眼データベースと比較される.また,乳頭マップでは4.5mm×4.5mm~6×6mmの範囲で正常眼データベースと比較でき,網膜神経線維層マップおよびデータベースと比較されたマップが表示される.66あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014●RS.3000からRS.3000AdvanceへRS-3000からRS-3000Advanceへのモデルチェンジの際に,トラッキング機能の強化やOCTの感度切り替え機能を追加するなど,画質の高品質化が図られている.さらに,経過中のデータをトレンドグラフに表示する機能や,ベースライン画像とその後の画像との差分比較も可能になる経過観察機能が強化された.RS-3000は緑内障の診断に加え,経過観察の評価も可能なspectral-domainOCT(SD-OCT)として日常診療で非常に使いやすくなっている.文献1)TanO,ChopraV,LuATetal:DetectionofmacularganglioncelllossinglaucomabyFourier-domainopticalcoherencetomography.Ophthalmology116:2305-2314,20092)MorookaS,HangaiM,NukadaMetal:Wide3-dimentionalmacularganglioncellcomplexwithspectral-domainopticalcoherencetomographyinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci53:4805-4812,20123)NukadaM,HangaiM,MoriSetal:Detectionoflocalizedretinalnervefiberlayerdefectsinglaucomausingenhancedspectral-domainopticalcoherencetomography.Ophthalmology118:1038-1048,2011(66)

屈折矯正手術:角膜不正乱視に対するピギーバック法からの脱出法

2014年1月31日 金曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載164大橋裕一坪田一男164.角膜不正乱視に対するピギーバック法坂田実紀新宿眼科クリニックからの脱出法ピギーバック(piggyback)法は,シリコーンハイドロジェルの出現で見直されてきている視力矯正法ではあるが,使用者側の快適性などを考慮した場合,可能な限り1枚レンズでの処方で長期管理したいものである.今回は処方変更が成功した症例について述べる.はじめに円錐角膜などの角膜不正乱視に対するコンタクトレンズ(contactlens:CL)による視力矯正方法としては,①ガス透過性ハードコンタクトレンズ(rigidgas-permeableCL:RGPCL),②ソフトコンタクトレンズ(softCL:SCL)③ピギーバック法,④強角膜(スクレラ)レンズなどがある.とくに世界的にみて,④のスクレラレンズはここ数年デザインも多岐にわたり,角膜不正乱視症例には一般的になりつつあるが,残念ながらわが国においては未認可レンズのため,処方できない.●ピギーバック法とは(図1)1)CLの装用感の改善とレンズのセンタリングに利点を考えたシステムで,以前はハイドロジェルSCLの上にハードCLを載せる方法で,2枚のレンズ下の酸素透過率が大変低いことが欠点であった.その後,シリコーンハイドロジェルSCLの出現で酸素透過率を上げることも可能2,3)になり,見直されている方法といえる.しかし,患者にとっては,2枚のレンズを使用することは経済性や簡便性の面で難があり,装用感が良く長時間使用が可能な1枚レンズで不正乱視が矯正できることが望ましい.実際の症例を提示しながら,どのようなレンズを選択してピギーバック法からの脱出を成功させたか解説する.●症例1(図2,3)屈折矯正手術後に角膜不正乱視のため,視力低下した症例である.他施設でピギーバック法でレンズを処方されていたが,視力の低下と異物感があり来院する.角膜はSCLを載せているにもかかわらず,頂点部に上皮障害があり,慢性的な擦過傷が存在することが示唆された.さらにRGPCL選択がスティープのためか,周辺部(63)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY図1ピギーバック法角膜不正乱視眼にSCLを載せた場合,レンズ周辺の浮きなどが出やすい.また,瞬目などでレンズの反り上がりにより視力が安定しないこともある(水谷聡先生のご厚意による).はエッジリフトのくい込みでレンズ圧痕が著明であった.ピギーバック法に使用するRGPCLはSCL上での固着が起きないようにエッジリフトが選択可能なレンズを使用する必要がある.変更レンズは,RoseK2TMIrregularCornea(RoseK2IC)レンズである.レンズ材料は米国PolymerTechnology社のBoston材料(Dk値100)を使用.レンズデザイン(図4)は,従来の円錐角膜用RoseK2TMレンズ4)(図5)と比較して,標準レンズ直径を大きくし逆形状多段カーブ(リバースジオメトリック)デザインにすることで,角膜上でのレンズセンタリングや装用感,さらに収差を軽減し,視機能の向上を目的に考慮したものとなっている.このレンズの適応は広く,通常のCLやRoseK2TMレンズであっても処方がむずかしい角あたらしい眼科Vol.31,No.1,201463 図2〔症例1〕LASIK後眼の角膜不正乱視図3〔症例1〕RoseK2ICレンズ処方後62歳,女性.他施設でピギーバック法施行.J&JモイストICレンズデータBC:6.90/P:+3.0D/Size:10.0L×0.4.上:850/..05/14.2.RGPCL760/.6.0/8.8.視力低下と異物感6カ月後の角膜形状.下:ICレンズ装用.角膜上皮障害なし.で来院.来院時視力0.1×CL.上:来院時角膜形状.下:来院毎日10時間使用可能.時前眼部所見.内面光学部(BC)リバース部リバース部図4RoseK2ICレンズデザイン大きな直径とリバース部で安定させる.角膜不正乱視眼などに適応するデザイン(標準直径:11.0mm).膜の下方に位置する円錐角膜,ペルーシド角膜変性症やケラトグローバス(球状角膜)にも試すことをお勧めしたい.文献1)KokJH,vanMilC:Piggybacklensesinkeratoconus.Cor64あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014smallopticalzone図5RoseK2TMレンズデザインBCと連動した光学部径を持つマルチカーブデザイン.nea12:60-64,19932)GiassonCJ,PerreaultN,BrazeauD:Oxygentensionbeneathpiggybackcontactlensesandclinicaloutcomesofusers.CLAOJ27:144-50,20013)O’DonnelC,Maldonado-CodinaC:Ahyper-Dkpiggybackcontactlenssystemforkeratoconus.EyeContactLens30:44-48,20044)RoseP:Improvingakeratoconuslensdesign.ContactLensSpectrum20:38-42,2005(64)

眼内レンズ:後発白内障の定量法

2014年1月31日 金曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎329.後発白内障の定量法永田万由美獨協医科大学眼科学教室後発白内障の抑制方法を考えるうえで,後発白内障の状態を解析し,定量し,評価することは重要である.後発白内障の評価方法として以前よりさまざまな方法が考えられてきた.しかし,解析機器の生産中止やプログラムの老朽化に伴い,従来の解析方法の使用が困難となってきており,今後新しい方法の開発が求められている.後発白内障は白内障術後に必ず生じるにもかかわらず,予防方法がない.シャープエッジをもつ眼内レンズ(intraocularlens:IOL)で後発白内障が少ないことはよく知られているが,残念ながら完全な抑制は不可能である.現在,さまざまなタイプのIOLが実際に臨床使用されているが,現状ではどのIOLを使用しても,術後経過が長くなれば必ず後発白内障が発生し,視機能低下が生じる.ではどうすれば,後発白内障を抑制できるのだろうか?抑制方法を考えるために,まず現状を把握することが大切である.現在使用されているほとんどのIOLはシャープエッジ形状を有しているが,そのほか,材質や形状をさまざまに工夫することで後発白内障の抑制が試みられている.したがって,さまざまなIOLに発生する後.混濁(後発白内障)の状態を詳細に観察し解析していくことで,後.混濁の発生因子を発見し,さらに完全な後発白内障予防方法を考え出すことができると思われる.では,実際に後発白内障をどのように解析すればよいのであろうか?後発白内障を評価する方法として,以前よりYAGレーザーの施行率が用いられてきた.しかし,この評価法では後.切開の有無を問うだけなので,混濁状態の定量ができない.そこで前眼部の画像を用いて後.混濁を評価することが考えられてきた(図1).海外で開発されたEPCO法,POCOMAN法は,前眼部の徹照像を用いる解析方法である.混濁領域を検者が選択するので,完全に客観的な評価ができるとは言い難いが,簡便なので,現在でも使用されている.ただし,対応できるWindowsOSが古く,新しいプログラムがほしい.日本で開発された前眼部解析装置EAS-1000(NIDEK)のスリット像を使用した解析方法は,後.混濁による光散乱を解析するもので,混濁程度を数値化で(61)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYEPCO法POCOMAN法EAS-1000スリット像解析図1従来の後発白内障解析方法EPCO法,POCOMAN法は簡易で混濁全体を把握できるが,検者の主観が入り客観的な評価はむずかしい.EAS-1000のスリット像解析は,混濁領域全体の評価ができない.き,再現性も高いが,2方向からのスリット像を用いた解析のため,一部の混濁解析を行っているだけで混濁領域全体の評価ができない.これらの利点,欠点を考慮し,当院ではEAS-1000の術後前眼部徹照像を用いた解析方法を使用している.これは,術後前眼部徹照像を,画像解析ソフトScionImage(Scioncorporation)に取り込み,threshold処理をすることで画像を二値化して混濁形状を白黒画像で表す解析方法である1).簡単にいうと,1枚の前眼部画像から混濁していないところの濃度を算出し,この数値以上を混濁,以下を混濁していないと判別して,混濁領域の面積を算出する方法である(図2).さらに解析したい部位を検者が指定できるので,IOLのどの部位から後.混濁が進行してくるのかも解析することができる.実際の筆者らの解析では,連続円形切.(continuouscurvilinearcapsulorrhexis:CCC)縁がIOL光学部から外れた部位と外れていない部位とで後.混濁を比較すると,CCC縁が外れた部位で混濁が強い2).また,シングルピースIOLの支持部付着部と付着部以外の部位で後.混濁を比較すると,支持部付着部で混濁が強いことがわかってきている3).つまり,CCCが外れているところやあたらしい眼科Vol.31,No.1,201461 ScionImageを使用して最初に混濁の少ない部白黒を反転させる後.混濁を計測したい瞳位5点から平均値を算と,混濁部位は黒孔領中央4mmを円形に出(この数値以上のもで混濁していない選択する.のは混濁していると判部位は白で表され定する).る(二値化).混濁している黒い領域の面積を算出することで定量する.図2EAS.1000徹照像を用いた解析方法光学部支持部付着部から後発白内障が発生しやすいことが,後発白内障の詳細な解析によってわかってくる.ところが,このEAS-1000も生産が中止されているのが現状である.残念ながら,現在はすべての施設で使用可能な後発白内障の解析装置はない.しかし,まだ道は閉ざされたわけではなく,開発途中であるが,Righton社からアコモレフ装置であるSPEEDY-iを用いて後発白内障を定量する新しい方法が検討されている(図3)4).SPEEDY-iは瞳孔領内の混濁を自動的に検出する機能をもち,前眼部徹照像を撮影すると混濁形状が白黒画像で自動的に表示され,混濁程度をピクセル数で定量できるため簡便であり,検者の負担が少なく,誤差の少ない解析を行えると期待している.現状では,後発白内障解析方法は確立されていない.確かに後発白内障が発症してもYAGレーザー後.切開Speedy-iで撮影した前眼部写真.自動的に二値化し,混濁領域を算出することができる.図3Speedy.iによる後発白内障解析方法が奏効するが,近年開発された非球面,多焦点,調節などさまざまな光学機能を有するプレミアIOLには,軽度の後.混濁やYAGレーザーによる光学部破損などの影響が危惧され,永続的な光学機能維持を考えると,後発白内障の抑制は重要な課題である.今後,すべての施設で客観的に後発白内障を評価できる後発白内障定量法が確立されることを期待するとともに,最終的に後発白内障が完全に抑制できるように努力していきたいと考えている.文献1)吉田紳一郎,吉田登茂子,松島博之ほか:新しい後発白内障解析システムを用いた後.混濁の評価.あたらしい眼科21:661-666,20042)永田万由美,松島博之,妹尾正:前.切開形状と後発白内障.あたらしい眼30:689-693,20133)永田万由美,松島博之,寺内渉ほか:眼内レンズが後.混濁に及ぼす影響.IOL&RS24:79-83,20104)松島博之:Speedy-i.IOL&RS26:63-65,2012