連載現場発,病院と患者のためのシステム連載現場発,病院と患者のためのシステム医師を含むパソコンに詳しいスタッフがExcelやAccessを駆使して身近な作業の効率化を図ることは珍しくありません.具体的には,部門内業務に閉じるような効率化(OA:officeautoシステムとツールの違い*杉浦和史mation)や,身の回りの効率化(PA:personalautomation)ですが,これらはいわゆるツール(tool)と呼ばれ,一般的に単独で機能します..システムシステムはsystemと書き,communicationsystem(通信網),educationalsystem(教育制度),nervoussystem(神経系統)などと使われますが,われわれはもちろんinformationsystem(情報システム)のことを縮めてシステムと呼んでいます.システムの定義にはいろいろあり,“複数の機能が集まって相互に関係しながらこれらのツールを寄せ集めても,機能が相互に連携して動き,情報を共有するシステムにはなりません.アリストテレスは,“全体は部分の寄せ集め以上の存在である”といっています.全体をシステム,部分をツールに置き換えると当てはまります.Σツール<システムです.全体でまとまった機能を実現している存在”という堅苦しい説明もあります.簡単にいえば,“相互に連携し合った機能,情報の集合”です.図1に示すように院内の業務は多種多様であり,連携して動いています.これを,各部門の限られた範囲の効率化を目指すツールを寄せ集めて処理できるでしょうか?答えはNo!です.個別作業の効率化を目指すツールと全体最適をめざすシステムとの違いでもありますが,考慮すべき業務の広さと深さ,それに業務間の連携への考察に雲泥の差があります.受付治験・研究問診検査処置診察予約会計入院病棟給食手術事務図1院内業務関連図スエズ運河を作ったレセップスは,その知識経験を買われ,パナマ運河を作ることになりましたが,失敗しました.スエズ地域にはなかった熱帯雨林という気候,マラリア,黄熱病の蔓延する地域という予想外の環境があり,紅海と地中海にはなかった太平洋と大西洋の水位の(73)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY差がスエズ運河建設時の技術と経験ではクリアできなかったということです.なお,地政学的に重要なこの地域には,各国の思惑が複雑に絡み合っていたという大きな問題もありました.教訓は,①“小”の延長線で“大”を考えない,②“小”の集合で“大”を考えない,③同じ“大”でも質が異なる場合がある,④“大”と“巨大”とでは大きく違う,です..ツールツールとは,手作業ではできなかったり,手間がかかることを代わってやってくれる道具です.例えば釘は手では打てませんが,金槌という道具(ツール)を使えば簡単です.板を切るには鋸があります.切った板を釘で止めて箱を作ったり,家を作りますが,それらの使い分けと段取りは大工が行います.つまり,ツールは大工的な人がいないと単機能な部品としての機能で終わってしまいます.もちろん,それでも役立つことはあり,ツールとは本来そのレベルでかまわないものです.例をあげましょう.手術件数を術式別,年度別,月別に集計し,グラフ化して推移をみたい場合,Excelとマクロを使えば可能です.しかし,術式などのデータは入力しなければなりません.長い術式名を間違って入力す*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014551ると集計結果が正しくなりません.術式名一覧を表示させ,選択することで間違わずに入力することができますが,術式をあらかじめ登録すること,および術式の保守を確実に行う必要があります.この作業は人手で行わなければなりません.また,他の業務でこの手術実績情報を使っている場合,それぞれ入力したり,保守しなければなりません.単独,狭い範囲で使われ,連携していないからです.これがツールの特徴であり,限界です.また,誰がどこでどのような情報を何のために使っているかにつき,組織内で共有されていないために,同じような機能をもったツールを複数部門で作ってしてしまうことがあるのも特徴の一つです.図1に示した“検査”,眼科の場合,何十種類にも及びます.これらを省力かつ効率よく処理するため,検査機器メーカは自社機器用のファイリングシステムを用意しています.これとは別に独自に便利ツールを作っている医療機関もありますが,いずれも院内業務全体をとおして電子的に連携して使うことはできません.それは局所的な業務,作業が対象であり,連携して使うことを前提としていない個別システムやツールだからです.情報が電子的に連携していないため,必要な都度,データを再入力したり,コピーして使うというハンドリングも発生します.システム化の大きな目的である,一度入力したデータは再入力することなく,その情報を必要とするすべての処理で使うという,“createonetime,usemanytimes”になっていないということです..まとめシステムには構想があり,全体最適をめざし,機能・情報の連携を前提としているのに対し,当面の目的があり,個別最適でよく,基本的には連携を考えていないのがツールといえるでしょう.目的別に使い分けることがポイントですが,システムとツールの違いをまとめると,表1のようになります.表1システムとツールの違い比較項目システムツール1開発動機まとまった一連の業務を連続的に処理し,組織全体の業務効率,作業品質を向上させたい手作業で処理していた身近な仕事を簡便に済ませたい2カバーする業務範囲大小3機能,情報の連携○(複数機能の集合)×(連携を考えない単機能)4完成までの時間遅い早い5実用性,使い勝手設計者,実装者のセンス,技量に依存するが,一定水準を保つ作った人物のセンスに依存自己満足でも構わない6開発者専門的な訓練を受け,知識,経験を持つ専門家非専門家(担当者)7開発費用一般的に多額の費用がかかる安価,もしくは無料8開発技法ルールに従って開発属人的発想9開発ドキュメント必須ない場合が多い10マニュアル必須ない場合が多い11保守専門部署,専門家,外部委託担当部,開発者(作った者)12教育制度的に職制で実施する個人ベース552あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(74)