特集●網膜血管疾患アップデートあたらしい眼科31(8):1105.1112,2014特集●網膜血管疾患アップデートあたらしい眼科31(8):1105.1112,2014糖尿病黄斑浮腫に対する薬物治療MolecularTargetingTherapyforDiabeticMacularEdema吉田茂生*小林義行*はじめに糖尿病網膜症は糖尿病の代表的な合併症であり,放置するときわめて重篤な視覚障害をきたす疾患である.厚生労働省による2007年の糖尿病実態調査では,わが国における糖尿病患者総数は890万人と報告されている.また現在も糖尿病自体の患者数は増加しつつある.久山町研究(福岡県)では,網膜症の有病率は糖尿病患者の15.0%1),舟形町研究(山形県)では23.0%2)と報告されている.網膜の中心に位置する黄斑は,中心視力を司る重要な部位であり,黄斑部の細胞内,細胞外に液体成分が貯留した状態が黄斑浮腫である.黄斑浮腫はさまざまな眼疾患に合併しうるが,糖尿病患者では約10%(糖尿病網膜症患者の20.30%)に黄斑浮腫が起こり,視力低下の主因となっている.したがって,糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)の鎮静化は患者の視機能保持の観点から重要である.DMEに対する治療法は大きく黄斑部光凝固・薬物療法・硝子体手術があるが(表1),絶対的な治療方法はまだ定まっていないのが現状である3).近年の分子細胞生物学的研究により,DMEの病態理解が飛躍的に進歩し,関与する生理活性物質が数多く同定された.それに伴い,抗炎症ステロイド薬の硝子体注射や後部Tenon.下注射が行われるようになった.さらに,DMEに血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が特に重要な働きをしているこ表1糖尿病黄斑浮腫に対する治療長所短所光凝固確立した治療比較的安価効果が乏しい症例Atrophiccreep抗VEGF薬強い効果多くの患者に有効効果が一時的高価全身への影響ステロイド安価多くの患者に有効白内障・緑内障効果が一時的硝子体手術難治例に適用可効果が持続効果が未確立入院の必要とがわかり,抗VEGF薬が開発され,眼科臨床に大きなインパクトを与えている4).本稿では,DMEに対する抗VEGF薬とステロイド薬による治療の現況について述べたい.I糖尿病黄斑浮腫の診断DMEの診断は,おもに検眼鏡やフルオレセイン蛍光造影検査(fluoresceinangiography:FA)によって行われてきたが,1996年から網膜の断層像を非侵襲的に描出することができる光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)が臨床応用され,病態が客観的に評価できるようになった.OCTの分解能は当初20μmであったが,最近ではタイムドメインからスペクトラルドメイン方式への進化により3μmまで向上しており,測定速度も100倍程度速くなった.この結果,網膜各*ShigeoYoshida&YoshiyukiKobayashi:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕吉田茂生:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(25)11051106あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(26)管の透過性亢進や網膜色素上皮障害によって起こり,黄斑部全体が膨化し,.胞様黄斑浮腫や漿液性網膜.離を伴うことがある.FAでは黄斑部全体の網膜血管や網膜色素上皮からの漏出がみられる.DMEの原因は多彩で,単一症例でも複数の要因が混在していることが多いが,血管透過性亢進,血管閉塞といった網膜症の病態に付随して発症,進展する.長期に網膜血管の透過性亢進が持続すると,網膜色素上皮の機能が疲弊し,バリアや能動輸送の機能低下をきたして,層,外境界膜(ELM),視細胞内節外節接合部(IS/OS)などがより明瞭に描出され,黄斑の網膜厚マップが数秒で得られるようになった.現在ではOCTはDMEの診断と治療評価に必要不可欠になってきている(図1).DMEは一般に局所性浮腫とびまん性浮腫に分類される.局所性浮腫は,おもに毛細血管瘤からの漏出による部分的な浮腫で,硬性白斑を伴っていることが多い.FAでは浮腫内の毛細血管瘤からの蛍光色素の漏出がみられる.一方,びまん性浮腫は,黄斑部の広範な毛細血abcd図1糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ治療前後の変化a:投与前眼底.網膜出血,硬性白斑,黄斑浮腫を認める.b:フルオレセイン蛍光造影の写真.黄斑部網膜からの蛍光色素の漏出がみられる.c:光干渉断層計による網膜厚マップと網膜断面像.網膜が浮腫のために肥厚している.d:ラニビズマブ硝子体注射後の光干渉断層計による網膜断面像では網膜厚が減少し,中心窩陥凹が復活している.abcd図1糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ治療前後の変化a:投与前眼底.網膜出血,硬性白斑,黄斑浮腫を認める.b:フルオレセイン蛍光造影の写真.黄斑部網膜からの蛍光色素の漏出がみられる.c:光干渉断層計による網膜厚マップと網膜断面像.網膜が浮腫のために肥厚している.d:ラニビズマブ硝子体注射後の光干渉断層計による網膜断面像では網膜厚が減少し,中心窩陥凹が復活している.表2眼科領域で用いられている抗VEGF薬一般名ペガプタニブベバシズマブラニビズマブアフリベルセプト製品名マクジェンRアバスチンRルセンティスRアイリーアR製剤アプタマー中和抗体中和抗体断片融合蛋白ターゲットVEGF-A165VEGF-AVEGF-AVEGF-A,-B,PlGF分子量(KD)5015048110血中半減期(日)10210.25181108あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(28)あることを示唆している9).眼科用に開発された他剤に比べて安価であるが,未認可薬であるため,今後後述のラニビズマブとアフリベルセプトに代わっていくと思われる.c.ラニビズマブ(ルセンティスR)米国で行われたRISE,RIDE試験(382症例)とよばれる第III相臨床治験では,①ラニビズマブ0.3mg,②ラニビズマブ0.5mg,③偽注射(無治療)群にそれぞれ割り付け,毎月投与による36カ月間経過観察を行った10).RISE試験において36カ月後に15文字以上の視力改善がみられた割合は,偽注射22.0%,ラニビズマブ0.3mg群41.6%,ラニビズマブ0.5mg群51.2%であり,ラニビズマブ投与群で有意に多いという結果であった(図2).24カ月から偽注射群にはラニビズマブ0.5mgのレスキュー治療が行われたが,36カ月目の時点ではラニビズマブ群が10文字以上の視力改善を示したのに対し,偽注射群では2.8文字の改善にとどまり有意な差を認めた.さらに,両ラニビズマブ群では黄斑浮腫の改善のみならず,網膜無血管領域の増加を有意に抑制することが明らかとなり,VEGFが網膜静脈閉塞症と同様に糖尿病網膜症においても網膜血管床の閉塞に関与していることが明らかとなった11).ヨーロッパを主体に行われたRESTOREStudyとよばれる第III相臨床治験では,DMEに対するラニビズマブ0.5mg硝子体注射と黄斑光凝固治療の効果が比較検討された12).RISE,RIDE試験と違い,月1回計3回投与の導入期投与後,必要時投与で行われた.36カ月の加齢黄斑変性治療薬として,ラニビズマブとアフリベルセプトは網膜静脈閉塞症治療薬としてすでに厚生労働省より認可されている.さらに,2014年2月にラニビズマブのDMEへの適応拡大が承認された.a.ペガプタニブ(マクジェンR)Macugen1013StudyGroupによる第II/III相臨床治験では,6週間ごとのペガプタニブ0.3mgの硝子体注射の効果が検討された8).ペガプタニブ群では6,24,30,36,42,54,78,84,90,96,102週時点のいずれにおいても対照の偽投与群(100眼)に比べて有意に平均視力が良好であった.102週の時点ではペガプタニブ群では6.1文字の視力改善に対し,偽投与群では1.3文字改善であった(p<0.01).黄斑光凝固治療を要した割合はそれぞれ25.2%と45.0%で,これも2群間で有意差を示した.これらの結果から,ペガプタニブのDMEに対する有効性が示された.前述のようにペガプタニブは病的アイソフォームであるVEGF-A165特異的な抑制薬であり,脳梗塞など全身的な基礎疾患のある患者にはより安全に投与されうる.しかし,欧州ではペガプタニブの加齢黄斑変性からDMEへの適応拡大申請が取り下げられており,期待ほど薬効がない可能性がある.b.ベバシズマブ(アバスチンR)BOLTstudyと呼ばれる第II相臨床治験では,投与後24カ月の時点でベバシズマブ硝子体注射(IVB)群では8.6文字の平均視力改善に対し,対照の黄斑光凝固群では0.5文字改善であった(p=0.005).中心窩網膜厚も両群で有意に改善し(p<0.001),IVBが有効な治療で平均最高矯正視力(ETDRS文字数)月7日目RISERIDE統合解析20151050-512.411.24.512.011.72.5363432302826242220181614121086420図2ラニビズマブ投与後ベースラインから36カ月までの最高矯正視力の変化(RISE,RIDE試験)平均最高矯正視力(ETDRS文字数)月7日目RISERIDE統合解析20151050-512.411.24.512.011.72.5363432302826242220181614121086420図2ラニビズマブ投与後ベースラインから36カ月までの最高矯正視力の変化(RISE,RIDE試験)あたらしい眼科Vol.31,No.8,20141109(29)回数は1年目が8.9回を要したが,2年目には2.3回,3年目は1.2回のみとRESTOREStudy同様経年的に減少した.即時光凝固群では遅延光凝固群と比較して視力改善の割合が小さいうえに悪化例の割合が多くなっている.このほかの臨床治験としてRESOLVEStudy,READ-2Studyなども行われており,いずれもラニビズマブの有用性を示唆している14,15).d.アフリベルセプト(VEGFTrap.EyeR)DAVINCIStudyとよばれる第II相臨床治験では,DME患者を5つの治療群(①アフリベルセプト0.5mgを4週間ごと硝子体注射,②アフリベルセプト2mgを4週間ごと投与,③最初にアフリベルセプト2mgを月1回計3回投与後8週間ごと投与,④アフリベルセプト2mgを月1回計3回投与後必要に応じて投与,⑤黄斑光凝固)のいずれかに無作為に割り付けた16).投与後6カ月の時点で,アフリベルセプト投与群(8.5文字.11.4文字改善)のほうが,光凝固群(2.5文字改善)よりも,平均視力が有意に改善した(p<0.0085)(図5).その治療効果は12カ月(52週)の時点においても維持された.アフリベルセプトはVEGF-A,-BおよびPlGFを抑制し,8週間ごとの投与は,ラニビズマブの4週ごとの投与に対し非劣性である.時点で,①ラニビズマブ硝子体注射+偽光凝固群,②ラニビズマブ硝子体注射+光凝固群の平均視力はそれぞれ8.0文字,6.7文字の改善であった(図3).③偽注射+光凝固群は12カ月目からラニビズマブ硝子体注射によるレスキュー治療が行われ,12カ月時点での0.8文字が徐々に改善し,36カ月で6.0文字の改善となった.これにより,ラニビズマブ単独治療および光凝固治療の併用は,光凝固単独治療より視力改善効果を示すことが明らかになった.またラニビズマブ投与回数は経年的に減少した.DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork(DRCR.net/糖尿病網膜症臨床研究ネットワーク)によりより複雑で大規模な第III相臨床治験も行われた13).①ラニビズマブ0.5mg+即時(3.10日以内)黄斑光凝固群,②ラニビズマブ0.5mg+遅延(24週後以上)光凝固群,③トリアムシノロン4mg硝子体注射+即時(3.10日以内)光凝固群,④光凝固単独群,の4群に無作為割り付けが行われた.ラニビズマブは導入期に月1回計4回投与連続での投与を行い,その後は必要時投与で治療を行った.1年後にはラニビズマブ+光凝固併用(即時,遅延とも)群で平均9文字視力が改善し,トリアムシノロン+光凝固群(平均4文字)と光凝固単独群(平均3文字)より改善効果を示した(図4).平均投与363432302826242220181614121086420ラニミズマブ0.5mg投与群(n=83)光凝固群(n=74)ラニミズマブ0.5mg投与+光凝固群(n=83)ベースラインからの平均最高矯正視力変化(±標準偏差ETDRS文字数)中核試験評価中核試験月中間解析完全解析/試験終了延長試験(ラニミズマブ0.5mgを必要に応じて投与)121086420-2+7.9+7.1+2.3+7.9+6.7+5.4+8.0+6.7+6.0図3ラニビズマブ投与後ベースラインから36カ月までの最高矯正視力の変化(RESTORE試験)363432302826242220181614121086420ラニミズマブ0.5mg投与群(n=83)光凝固群(n=74)ラニミズマブ0.5mg投与+光凝固群(n=83)ベースラインからの平均最高矯正視力変化(±標準偏差ETDRS文字数)中核試験評価中核試験月中間解析完全解析/試験終了延長試験(ラニミズマブ0.5mgを必要に応じて投与)121086420-2+7.9+7.1+2.3+7.9+6.7+5.4+8.0+6.7+6.0図3ラニビズマブ投与後ベースラインから36カ月までの最高矯正視力の変化(RESTORE試験)1110あたらしい眼科Vol.31,No.8,2014(30)IIIステロイド局所療法現在DMEに対するステロイド薬物治療として最もよく用いられているのがトリアムシノロンアセトニドである17).トリアムシノロンアセトニドは,以前よりケナコルトR筋注用として整形外科,皮膚科領域で広く使用されてきた懸濁性ステロイドである.ケナコルトRは,眼科領域では,ぶどう膜炎,眼窩炎性偽腫瘍や視神経炎に対する対症療法として使用されてきた.投与法としては硝子体注射とTenon.下注射がある.硝子体内投与はTenon.下投与よりも強力であるが,眼内炎,白内障,緑内障などの合併症のリスクが高い.ケナコルトRの硝子体投与はわが国では未認可であったが,2010年12月に添加剤を含まないマキュエイドRが眼科手術補助剤として発売され,2012年10月には,DMEに対する硝子体内投与への適応が追加された.薬効は3カ月程度持続するが,4.6カ月後になると浮腫の再発がみられる.抗VEGF薬より薬効持続時間は長いが,再発するたびに再注射を行う必要があるのは同じである.このため,米国では徐放性の硝子体内インプラントも開発されてきているが,日本での上市は未定である.DMEに対するトリアムシノロン硝子体注入療法(IVTA)と黄斑光凝固の第III相臨床比較試験が,米国アフリベルセプトの第III相臨床治験として,欧州,日本などでVIVID-DMEが,米国でVISTA-DMEが進行中である.1カ月ごと5回の導入期の後アフリベルセプト2mgを4週間ごと投与,アフリベルセプト2mgを8週間ごと投与,黄斑光凝固の3群で検討が行われている.この治験では,DAVINCIStudy同様,投与後12カ月で光凝固群より平均視力が有意に改善している.さらに現在DRCR.netによって,ベバシズマブ,アフリベルセプトとラニビズマブのDMEに対する比較試験も進行中であり,今後これらの薬効の差異が明らかになると思われる.硝子体注射の眼局所有害事象として眼圧上昇,視力低下,眼痛,結膜出血,網膜出血,眼内炎などが,全身有害事象として高血圧,心筋梗塞,脳卒中などがある.眼局所有害事象は4薬剤でおおむね一致しているが,ベバシズマブ硝子体投与はラニビズマブに比べて全身有害事象である出血性脳卒中のリスクが上昇することが明らかとなっている.ベバシズマブ蛋白は糖化され,Fc領域を含むため血中半減期が20日と長いことが起因していると考えられ,全身的基礎疾患のある患者への投与の際には,薬剤の選択に留意する必要がある.ベースラインからの視力変化(ETDRS文字数)週:偽薬投与+即時黄斑光凝固群:ラニビズマブ0.5mg投与+即時黄斑光凝固群:ラニビズマブ0.5mg投与+遅延光凝固群:トリアムシノロン4mg投与+即時黄斑光凝固群10410096928884807672686460565248444036322824201612840図4ラニビズマブおよびトリアムシノロン投与後ベースラインから24カ月までの最高矯正視力の変化(DRCR.net)524844403632282420161284014121086420-2文字数ETDRS週:アフリベルセプト0.5mg4週間毎投与群:アフリベルセプト2mg4週間毎投与群:アフリベルセプト2mg8週間毎投与群:アフリベルセプト2mgを月1回計3回投与後必要に応じて投与した群:光凝固群図5アフリベルセプト投与後ベースラインから52週までの最高矯正視力の変化(DAVINCLStudy)ベースラインからの視力変化(ETDRS文字数)週:偽薬投与+即時黄斑光凝固群:ラニビズマブ0.5mg投与+即時黄斑光凝固群:ラニビズマブ0.5mg投与+遅延光凝固群:トリアムシノロン4mg投与+即時黄斑光凝固群10410096928884807672686460565248444036322824201612840図4ラニビズマブおよびトリアムシノロン投与後ベースラインから24カ月までの最高矯正視力の変化(DRCR.net)524844403632282420161284014121086420-2文字数ETDRS週:アフリベルセプト0.5mg4週間毎投与群:アフリベルセプト2mg4週間毎投与群:アフリベルセプト2mg8週間毎投与群:アフリベルセプト2mgを月1回計3回投与後必要に応じて投与した群:光凝固群図5アフリベルセプト投与後ベースラインから52週までの最高矯正視力の変化(DAVINCLStudy)あたらしい眼科Vol.31,No.8,20141111(31)DRCR.netにより行われた18).その結果,黄斑光凝固群では3年後まで視力改善した一方,トリアムシノロン注射群では改善がみられなかった.さらに,眼圧上昇や白内障の副作用はトリアムシノロン群において多くみられた.すなわち,トリアムシノロン注射単独療法より光凝固の治療効果が高いことが明らかとなった.上述のように,DRCR.netによる,黄斑光凝固のみ,ラニビズマブ+黄斑光凝固,IVTA+黄斑光凝固の比較試験では,治療開始2年後にラニビズマブ+黄斑光凝固群が,IVTA+黄斑光凝固群あるいは黄斑光凝固のみ群に比べ有意に視力改善した(図4).しかし白内障術後眼内レンズ挿入眼に限定したサブ解析を行うと,IVTA+黄斑光凝固群はラニビズマブ+黄斑光凝固群と同等の視力改善効果を維持していた(図6).このことは,IVTAは黄斑部網膜に対してはラニビズマブとほぼ同等の治療効果があることが示された.したがって,トリアムシノロン療法は眼内レンズ挿入眼に限れば有用な治療法であるといえる.おわりにDMEに対する薬物治療の現況について概説した.抗VEGF薬は有効であるが,1回の治療効果は一時的であり,硝子体注射を繰り返す必要がある.しかし,安易な反復投与により重篤な眼合併症である細菌性眼内炎を引き起こす危険性が増すため,持続的なドラッグデリバリーシステムの確立が期待される.また,VEGFは組織の恒常性維持にも関与しており,正常網膜や全身への副作用を及ぼさない至適投与濃度を,抗VEGF薬ごとに最適化する必要がある.DMEの原因は多彩で,単一症例でも複数の要因が混在していることが多い.長期経過を経て形成された網膜血管障害や,網膜色素上皮細胞のポンプ機能が破綻したような陳旧例には,薬物治療の治癒効果は少ない.単独治療に固執せず,網膜光凝固術や硝子体手術などの他の確立した治療法とうまく組み合わせることで19)視機能の改善を図ることが必要である.筆者らは,適切な硝子体手術により硝子体腔内のVEGFが永続的に減少することを見出しており20),現時点では,まず患者に対し侵襲の少ない薬物治療を試み,病勢が治まらない場合,硝子体手術を行っている.もちろん糖尿病そのものを適切に管理することは大前提である.今後は,抗VEGF薬やステロイド薬と他の複数のDMEに対する治療法との組み合わせや投与時期などが最適化され,各人の病態や病期の正確な把握に基づいた個別化治療が展開されていくことが期待される.文献1)MiyazakiM,KuboM,KiyoharaYetal:Comparisonofdiagnosticmethodsfordiabetesmellitusbasedonpreva-lenceofretinopathyinaJapanesepopulation:theHisaya-maStudy.Diabetologia47:1411-1415,20042)KawasakiR,WangJJ,WongTYetal:Impairedglucosetolerance,butnotimpairedfastingglucose,isassociatedwithretinopathyinJapanesepopulation:theFunagatastudy.DiabetesObesMetab10:514-515,20083)野崎実穂,鈴間潔,井上真ほか:日韓糖尿病網膜症治療の現状についての比較調査.日眼会誌117:735-742,20134)後藤早紀子,山下英俊:糖尿病黄斑浮腫の薬物治療.あたらしい眼科29:139-142,20125)LeungDW,CachianesG,KuangWJetal:Vascularendo-thelialgrowthfactorisasecretedangiogenicmitogen.Sci-ence246:1306-1309,19896)SengerDR:Tumorcellssecreteavascularpermeabilityfactorthatpromotesaccumulationofascitesfluid.Science眼内レンズ挿入眼におけるベースラインからの平均最高矯正視力変化(ETDRS文字数)週:偽薬+即時黄斑光凝固群:ラニビズマブ0.5mg投与+即時黄斑光凝固群:ラニビズマブ0.5mg投与+遅延光凝固群:トリアムシノロン4mg投与+即時黄斑光凝固群n=260(52週)n=154(104週)1041009692888480767268646056524844403632282420161284011109876543210図6眼内レンズ挿入眼におけるラニビズマブおよびトリアムシノロン投与後ベースラインから24カ月までの最高矯正視力の変化眼内レンズ挿入眼におけるベースラインからの平均最高矯正視力変化(ETDRS文字数)週:偽薬+即時黄斑光凝固群:ラニビズマブ0.5mg投与+即時黄斑光凝固群:ラニビズマブ0.5mg投与+遅延光凝固群:トリアムシノロン4mg投与+即時黄斑光凝固群n=260(52週)n=154(104週)1041009692888480767268646056524844403632282420161284011109876543210図6眼内レンズ挿入眼におけるラニビズマブおよびトリアムシノロン投与後ベースラインから24カ月までの最高矯正視力の変化–