監修=大橋裕一連載MyboomMyboom第25回「鈴木克佳」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載MyboomMyboom第25回「鈴木克佳」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介鈴木克佳(すずき・かつよし)山口大学大学院医学系研究科眼科学私は,平成7年に山口大学医学部を卒業後,そのまま現在の医局に入局しました.大学院時代には角膜の創傷治癒について研究し,その後は緑内障の道に入り,主に手術や薬物治療などの臨床診療に携わってきました.縁あって平成24年にロンドンのMoorfieldsEyeHospital(MEH)に1年間留学し,帰国後は現職で緑内障診療を継続中です.眼科のMyboom「緑内障データの抽出と解析」山口大学前教授の西田輝夫先生の指導・影響で,角膜と緑内障に焦点を当てた緑内障診療を行ってきました.角膜移植後眼や眼表面疾患を合併した緑内障に対する羊膜移植併施の線維柱帯切除術やチューブシャント手術などの手術治療,緑内障点眼薬の眼表面への影響を検討する基礎・臨床研究を行ってきましたが,臨床研究の立案やデータ解析の力不足から自分の緑内障診療に閉塞感を感じていたところ,岐阜大学教授の山本哲也先生と山口大学現教授の園田康平先生の後押しがあり,ロンドンのMEHに留学しました.MEHはロンドン大学眼科研究所と提携して先進的に基礎から臨床まで幅広く研究を行っており,計1千人以上の眼科医が働いています.MEHではGarway-Heath教授主宰のGlaucomaResearchUnitに所属し,視野や眼底形状のデータ解析について勉強しました.留学中は臨床診療も基礎研究もせず,パソコンを使ってひたすら臨床研究のデータを抽出し解析する日々でした.これまでの診療とは異なる作業を続けることに悩む時期もあり(83)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYましたが,結果としてこの分野についてじっくりと考えて学ぶ大変有意義な時間となり,検査の原理や解析方法をより深く知ることによって,これまで検査機器メーカーから提供・紹介される機能や解析方法だけに頼ってデータ解析の結果を眺めていたこと,これらの解析結果の元データの重要性や問題点に気付かされました.また,同じ研究チームに所属する統計学者や数学者とのディスカッションやセミナーを通じて,医療・医学と異なる分野で用いられる解析方法やそれを医療データに適用する重要性を知るなどの良い刺激を受けました.Myboomとして視野検査や形状解析検査のデータ抽出や解析を始めたばかりですが,今後もライフワークとして続けていきたいと思います.プライベートのMyboom「クール・ブリタニア!」現在のプライベートのmyboomは,やはり留学体験に影響されています.「クール・ブリタニア!」というフレーズを昔聞いたことがあるという人もいるでしょう.「クール・ブリタニア!」とは,不況に苦しんでいたイギリスにおいて,1990年代後半にこのキャッチフレーズで国の文化やスポーツを含む主要産業を後押しした国家ブランド戦略です.ブリタニアはローマ帝国支配時代に由来するイギリスの古称で,イギリス国内にはブリタニアと同様にカレドニア(北部)やアングリア(東部)といった地名が残ります.2010年頃から日本も「クール・ブリタニア!」を見習って日本の文化を世界に発信する「クール・ジャパン!」という活動を行っています.2000年代に入り,流行語としての「クール・ブリタニア!」は完全に死語と化しましたが,近年の歌謡界では歌手のスーザン・ボイルやボーイズグループのOneDirectionが注目され,ちょうど留学中だった一昨年は伝統行事のエリザベス女王在位60周年と挑戦的事業の一つであったロンドンオリンピック・パラリンピッあたらしい眼科Vol.31,No.2,2014243写真1セントポール大聖堂前のミレニアムブリッジにてクの開催が重なり,伝統と先進性の融合を謳った新たな「クール・ブリタニア!」というトレンドが起きました.私は,今まさにこの「クール・ブリタニア!」にはまっています.イギリスは,アートやファッションの世界でデザインとして用いられるイギリス国旗のユニオンジャックに代表されるように,すでに世界ブランドになっている文化やスポーツが多いので,何を今さらと思われるかも知れませんが,実際に見聞するイギリスの奥深さには底がありません.ロンドン市内の入場料無料(寄附を奨励)の美術館や博物館では数々の貴重な美術品を,劇場・ホールではミュージカルやバレエなどを鑑賞できます.ロングラン中の「レ・ミゼラブル」をはじめとしたミュージカルには遅ればせながら魅了され,何度も劇場に足を運びました.プレミアリーグ,ウィンブルドンなどのスポーツの映像も世界に配信されていますが,幸運にも眼前で観戦し,映像とは違う本場の熱気や興奮を肌で感じました.世界の共通認識として「イギリスの食事はおいしくない」と揶揄される一因(?)のフィッシュアンドチップスも,人気のパブやテイクアウェイの店が作るカラッと揚がった衣に包まれた新鮮な白身魚とフライドポテトは味わう価値がある一品で,MEHの職員食堂でも金曜日の定番メニューで毎週楽しみにしていました.同様にイギリスパブ伝統のエールビールも,現在全盛のラガービールと違った独特の風味が楽しめます.一方で,ロンドン市内には日本,フランス,イタリア,中国,インドなどの世界各国のレストランがあり,東京で提供される料理よりも本格的であったり,いわゆるロンドン風にとても洗練されていたりします.244あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014写真2テムズ川沿いのバラマーケットでフィッシュアンドチップスをゲット!依然として経済が低迷するイギリスは良いところばかりではありません.日本と比べると平均的には豊かではなく,国民性はお世辞にも勤勉ではないので,仕事の進行は遅く,銀行窓口や店での対応もいま一つです.古い建物のリフォームは壁をペンキで上塗りしただけなので,台所や風呂などの水周りは必ず故障し,修理を依頼しても1回で直ったことがありません.このような不快な経験もしましたが,そこには知っているようで知らないイギリスがあり,かえって興味が湧くきっかけとなりました.平成25年3月末に帰国して現職に復帰しましたが,イギリスへの興味は尽きず,帰国後半年間で機会を作って2回渡英しました.日本初代首相の伊藤博文ら長州ファイブがロンドン大学に留学していた歴史的背景のおかげもあり,今年は山口大学とロンドン大学眼科研究所とのカンファレンスを企画し,近々また渡英する予定です.探せば探すだけ,良さも粗さも発見できるイギリス.私の中のこのイギリス熱「クール・ブリタニア!」はしばらく冷めそうにありません.次回のプレゼンターは高知の福田憲先生(高知大学)です.山口大学時代の一つ後輩の先生でした.昔からいろいろなことにこだわりがあった先生なので,現在のmyboomの紹介が楽しみです.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.(84)