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My boom 25.

2014年2月28日 金曜日

監修=大橋裕一連載MyboomMyboom第25回「鈴木克佳」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載MyboomMyboom第25回「鈴木克佳」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介鈴木克佳(すずき・かつよし)山口大学大学院医学系研究科眼科学私は,平成7年に山口大学医学部を卒業後,そのまま現在の医局に入局しました.大学院時代には角膜の創傷治癒について研究し,その後は緑内障の道に入り,主に手術や薬物治療などの臨床診療に携わってきました.縁あって平成24年にロンドンのMoorfieldsEyeHospital(MEH)に1年間留学し,帰国後は現職で緑内障診療を継続中です.眼科のMyboom「緑内障データの抽出と解析」山口大学前教授の西田輝夫先生の指導・影響で,角膜と緑内障に焦点を当てた緑内障診療を行ってきました.角膜移植後眼や眼表面疾患を合併した緑内障に対する羊膜移植併施の線維柱帯切除術やチューブシャント手術などの手術治療,緑内障点眼薬の眼表面への影響を検討する基礎・臨床研究を行ってきましたが,臨床研究の立案やデータ解析の力不足から自分の緑内障診療に閉塞感を感じていたところ,岐阜大学教授の山本哲也先生と山口大学現教授の園田康平先生の後押しがあり,ロンドンのMEHに留学しました.MEHはロンドン大学眼科研究所と提携して先進的に基礎から臨床まで幅広く研究を行っており,計1千人以上の眼科医が働いています.MEHではGarway-Heath教授主宰のGlaucomaResearchUnitに所属し,視野や眼底形状のデータ解析について勉強しました.留学中は臨床診療も基礎研究もせず,パソコンを使ってひたすら臨床研究のデータを抽出し解析する日々でした.これまでの診療とは異なる作業を続けることに悩む時期もあり(83)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYましたが,結果としてこの分野についてじっくりと考えて学ぶ大変有意義な時間となり,検査の原理や解析方法をより深く知ることによって,これまで検査機器メーカーから提供・紹介される機能や解析方法だけに頼ってデータ解析の結果を眺めていたこと,これらの解析結果の元データの重要性や問題点に気付かされました.また,同じ研究チームに所属する統計学者や数学者とのディスカッションやセミナーを通じて,医療・医学と異なる分野で用いられる解析方法やそれを医療データに適用する重要性を知るなどの良い刺激を受けました.Myboomとして視野検査や形状解析検査のデータ抽出や解析を始めたばかりですが,今後もライフワークとして続けていきたいと思います.プライベートのMyboom「クール・ブリタニア!」現在のプライベートのmyboomは,やはり留学体験に影響されています.「クール・ブリタニア!」というフレーズを昔聞いたことがあるという人もいるでしょう.「クール・ブリタニア!」とは,不況に苦しんでいたイギリスにおいて,1990年代後半にこのキャッチフレーズで国の文化やスポーツを含む主要産業を後押しした国家ブランド戦略です.ブリタニアはローマ帝国支配時代に由来するイギリスの古称で,イギリス国内にはブリタニアと同様にカレドニア(北部)やアングリア(東部)といった地名が残ります.2010年頃から日本も「クール・ブリタニア!」を見習って日本の文化を世界に発信する「クール・ジャパン!」という活動を行っています.2000年代に入り,流行語としての「クール・ブリタニア!」は完全に死語と化しましたが,近年の歌謡界では歌手のスーザン・ボイルやボーイズグループのOneDirectionが注目され,ちょうど留学中だった一昨年は伝統行事のエリザベス女王在位60周年と挑戦的事業の一つであったロンドンオリンピック・パラリンピッあたらしい眼科Vol.31,No.2,2014243 写真1セントポール大聖堂前のミレニアムブリッジにてクの開催が重なり,伝統と先進性の融合を謳った新たな「クール・ブリタニア!」というトレンドが起きました.私は,今まさにこの「クール・ブリタニア!」にはまっています.イギリスは,アートやファッションの世界でデザインとして用いられるイギリス国旗のユニオンジャックに代表されるように,すでに世界ブランドになっている文化やスポーツが多いので,何を今さらと思われるかも知れませんが,実際に見聞するイギリスの奥深さには底がありません.ロンドン市内の入場料無料(寄附を奨励)の美術館や博物館では数々の貴重な美術品を,劇場・ホールではミュージカルやバレエなどを鑑賞できます.ロングラン中の「レ・ミゼラブル」をはじめとしたミュージカルには遅ればせながら魅了され,何度も劇場に足を運びました.プレミアリーグ,ウィンブルドンなどのスポーツの映像も世界に配信されていますが,幸運にも眼前で観戦し,映像とは違う本場の熱気や興奮を肌で感じました.世界の共通認識として「イギリスの食事はおいしくない」と揶揄される一因(?)のフィッシュアンドチップスも,人気のパブやテイクアウェイの店が作るカラッと揚がった衣に包まれた新鮮な白身魚とフライドポテトは味わう価値がある一品で,MEHの職員食堂でも金曜日の定番メニューで毎週楽しみにしていました.同様にイギリスパブ伝統のエールビールも,現在全盛のラガービールと違った独特の風味が楽しめます.一方で,ロンドン市内には日本,フランス,イタリア,中国,インドなどの世界各国のレストランがあり,東京で提供される料理よりも本格的であったり,いわゆるロンドン風にとても洗練されていたりします.244あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014写真2テムズ川沿いのバラマーケットでフィッシュアンドチップスをゲット!依然として経済が低迷するイギリスは良いところばかりではありません.日本と比べると平均的には豊かではなく,国民性はお世辞にも勤勉ではないので,仕事の進行は遅く,銀行窓口や店での対応もいま一つです.古い建物のリフォームは壁をペンキで上塗りしただけなので,台所や風呂などの水周りは必ず故障し,修理を依頼しても1回で直ったことがありません.このような不快な経験もしましたが,そこには知っているようで知らないイギリスがあり,かえって興味が湧くきっかけとなりました.平成25年3月末に帰国して現職に復帰しましたが,イギリスへの興味は尽きず,帰国後半年間で機会を作って2回渡英しました.日本初代首相の伊藤博文ら長州ファイブがロンドン大学に留学していた歴史的背景のおかげもあり,今年は山口大学とロンドン大学眼科研究所とのカンファレンスを企画し,近々また渡英する予定です.探せば探すだけ,良さも粗さも発見できるイギリス.私の中のこのイギリス熱「クール・ブリタニア!」はしばらく冷めそうにありません.次回のプレゼンターは高知の福田憲先生(高知大学)です.山口大学時代の一つ後輩の先生でした.昔からいろいろなことにこだわりがあった先生なので,現在のmyboomの紹介が楽しみです.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.(84)

日米の眼研究の架け橋 Jin H. Kinoshita先生を偲んで 14.雲の上の人が目の前に(Jin Kinoshita先生にお会いして)

2014年2月28日 金曜日

JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ⑭責任編集浜松医科大学堀田喜裕JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ⑭責任編集浜松医科大学堀田喜裕雲の上の人が目の前に(JinKinoshita先生にお会いして)笹部哲生(TetsuoSasabe)大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター,診療局長兼眼科主任部長1979年大阪大学医学部卒.1983年同大学院修了,大阪府立羽曳野病院赴任.1986年大阪大学眼科助手.1987年NIH留学.1989年BascomPalmerEyeInstitute留学.1990年帰国.1991年大阪府立羽曳野病院赴任,1995年眼科部長.2003年呼吸器・アレルギー医療センター(旧羽曳野病院)眼科部長.2010年同医療センター診療局長兼務.現在に至る.●JinKinoshita先生のご名声をうかがって★私が大阪大学医学部の眼科に大学院生として入った1979年当時,阪大眼科の医局では水晶体の研究はまったく行われておりませんでした.水晶体の研究に関する生の情報に接するのは,もっぱら当時名城大学教授の故岩田修三先生が毎年医局にご講演に来てくださるときが唯一の機会でした.その岩田先生にJinKinoshita先生のことを幾度となくお話をしていただきました.戦時中アメリカで苦労をされたKinoshita先生は,日系人の地位向上のため,ご自身の研究はもとより日本人の研究の手助けのため,留学の便や,研究の機会を与えることに尽力されている偉大な先生として紹介されておられました.大学院生として眼科に入った私の研究テーマは網膜芽細胞腫の分化でしたが,水晶体にも興味をもっていたため,水晶体の論文を調べるうちに,生化学的研究の主たる研究者としてKinoshita先生の業績が,星のように数多く出てくることに驚きと先生に対する畏敬の念をもつようになりました.●JinKinoshita先生にお目にかかって★私の実質的な水晶体の研究は,網膜芽細胞腫の研究で学位を取ったのちにはじまりました.まず,ウサギ水晶体上皮細胞の株細胞を樹立し,継代培養中のクリスタリンの動向をみることで,水晶体細胞の老化の指標にならないかという見地から研究を始めました.その後,各クリスタリン分画のモノクローナル抗体を作製して,より精密に水晶体の老化をクリスタリン蛋白の面から解析しようとしていた矢先,1987年に網膜芽細胞腫の研究の(81)ためNEIに来ないかとGeorgeInana先生にお誘いを受けました.留学を以前から希望しておりましたので一も二もなくお受けしましたが,水晶体の研究は一旦お休みになりました.Inana先生のところでの研究テーマは網膜芽細胞腫の劣勢癌としての特性を培養細胞で証明することでした.1987年の12月末にNIHに着きました.その年のうちか,1988年に正式に私がNIHで採用になってすぐかは今ではさだかではありませんが,Inana先生につれられてScientificdirectorのKinoshita先生のお部屋にご挨拶に参りました.雲の上の存在であったKinoshita先生にお会いできるとあって,私は非常に緊張しておりましたところ,Kinoshita先生は私に日本では何をしてきたのかと尋ねられました.網膜芽細胞腫の分化についての研究で学位をいただき,水晶体の老化の研究を少しはじめておりますと申し上げると,私が水晶体の研究を日本でしていたことに大層興味をもたれた様子で,細胞のことや培養方法などお尋ねになりました.Inana先生のもとでは,網膜芽細胞腫の細胞融合実験を通じて分子生物学的手法を学びたいと思っていますと申し上げると,Kinoshita先生はGeorgeのもとで仕事をすればうまくいくよといわれました.Inana先生に対する信頼と,私に対しても期待していただいていることが感じられ身の引き締まる思いをしたことが最初のKinoshita先生との出会いでした.●忘れられないエピソード★NEIでの勤務中は,直接Kinoshita先生のご研究のお手伝いをしていたわけではありませんでしたので,とくに折り入ってのお話はありませんでしたが,Building6あたらしい眼科Vol.31,No.2,20142410910-1810/14/\100/頁/JCOPY ですれ違うたびに,研究の進捗状況を気にかけていただきました.先生との思い出深い出来事は,先生の送別会のときに起こりました.NEI主催で先生の送別会が開かれ順次各テーブルにメインディッシュが運ばれ始めたころ,突然のボヤ騒ぎで送別会が中止になりました.先生のご挨拶も聞けないうちの中止でしたから,メインディッシュを食べ損ねた人が大勢おられたと思います.我々のInanaグループは端のテーブルに座っていましたので,最初に配膳されたおかげで,なんとかありつくことができました.Kinoshita先生とはお話もなにもできなかったですが忘れられないエピソードになりました.●JinKinoshita先生とのお別れ★Kinoshita先生に最後にお会いしたのは1989年にInana先生がマイアミのBascomPalmerEyeInstituteへ移られることになり,我々日本人フェローも移動するため一緒にご挨拶にいったときでした.Kinoshita先生は,さっそうとされておられ,まだまだ現役という雰囲気でした(写真).我々フェローは少し早目にNEIをたち,Inana先生はそのあとNEIの仕事を片づけてから,●★マイアミへ移ることをKinoshita先生にお話しされておりました.新天地マイアミでの研究や生活に不安を感じている我々に,Kinoshita先生には以前と同じ言葉をかけていただきました.Georgeのもとならうまくいきますよ.Inana先生がご自身の出発の日取りを述べられると今度はInana先生に向って,戻ってきてNEIのScientificDirectorになったらいいと日本語でいわれました.Inana先生は無言でした.Kinoshita先生の言動のなかでもっとも強烈な印象として今もその場面が目に浮かびます.おそらくご自身も含め多くの日本人研究者がNIHから去っていくことに寂しさがつのり,優秀な教え子であるInana先生にはNIHにいつの日か戻ってきてほしいという思いが,その言葉になったのだと思います.当時日本人研究者はNEIのみならずNIH全体で米国人以外では最大の勢力を誇っていましたが,現在ではその人数は減少し,Kinoshita先生の心配が現実のものになってきております.Kinoshita先生の願いは,日本人の研究者が世界中で活躍し続けることにあると感じました.●帰国して★私は,マイアミのBascomPalmerでの1年弱の勤務を終え1990年の3月末に帰国しました.帰国後の研究は,網膜芽細胞腫についてではなく,水晶体を主として行ってきました.まず,留学以前からの念願であった,クリスタリン分画に対するモノクローナル抗体を作製し,水晶体上皮細胞の継代によるクリスタリン変化を同定し,日眼誌に発表できました.その後,水晶体上皮細胞の接着性に注目し,オリゴペプチドが水晶体とコラーゲンなどの細胞外物質との接着を阻害することを発見し,後発白内障予防の可能性を示唆する論文を発表することができました.NEI留学から数えて20年あまり白内障関連の仕事を続けることができたのは,Kinoshita先生にお会いでき,少しでもKinoshita先生がされてきた研究の一端に携わりたかったからにほかなりません.Kinoshita先生に直にお目にかかり,数々のお言葉をうかがう機会に恵まれたことに感謝し,Kinoshitaのご冥福をお祈りいたします.●★242あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(82)

現場発,病院と患者のためのシステム 25.待ちの雑学

2014年2月28日 金曜日

連載現場発,病院と患者のためのシステム連載現場発,病院と患者のためのシステムOR(operationsresearch)の一つに待ち行列理論があります.簡単にいえば,サービスの対象となる物,人の到着頻度と,到着した物,人に待ちの雑学*杉浦和史サービスをする側の処理能力に関する理論です.病院でいえば,単位時間当たりの患者さんの到着頻度と医療スタッフの処理能力が,待ち行列(待ち時間)の長さに与える影響の分析に使えそうではじめにスーパーのレジに並ぶときなど,日常的に経験するのが,自分の番が来るまで待つということです.普通は少しでも待たないよう,より空いているところに並びます.しかし,予想に反して,行列の長いほうのレジが早かったりしてガッカリすることがあります.これは,客,店側それぞれに原因があります.①前に並んだ人が購入した物の数,②請求金額がわかってから財布を出す,小銭を捜すなど支払いに手間取る,③購入した物にバーコードがなく,担当者が売り場に行って値段を確認する,④陳列の仕方が悪く,特売品コーナに隣の通常価格の品物が交じり,支払時にもめる,⑤レジ担当者の手際が悪い,などです.病院の場合は,患者の状態,年齢,医師,検査員の知識経験,手際によって,同じ患者数,スタッフ数,検査機器数でも待ち時間に開きがでてきます.患者の到着率をできるだけ平滑化するには,予約制を周知し,おしなべて待ち時間が減るメリットがあることを患者に理解してもらうことが一つの方法です.早く来れば早く終わるというパラダイムを払拭する努力も必要になります.す.今回は,待ちに関する雑学的知識を紹介します.病院側としては,スタッフのそれぞれの担当業務におけるスキルアップを図ることは当然ですが,サービス窓口を多くすることも有効な対策です.サービス窓口とは,診察室数,医師数,検査機器の数,スタッフ数のことですが,人件費,設備費の増加を招きます.コスト増に見合う以上の効果が期待できるかを見極めなければなりません.待ち時間短縮などの目標を定め,制限条件があるなかでの最適解を求める手法(線形計画法)を使ってシミュレーションするのも一つの方法です..待ちと処理わかりやすく,視力検査台と検査員をセットとしたサービス窓口を考えます.患者はここで検査を受けますが待ち方には2つの方法があります.図2は検査台毎に並び,図3は検査に対して並ぶという方法で,患者プールに来た患者は,到着順,あるいは受付順に空いた検査台で検査を受けるものです.待ち行列理論では,前者を3:303:002:302:001:301:000:300:00午前1午前2午後1午後2予約制前※平均値予約制後2:472:471:441:531:551:311:161:05M/M/1,後者をM/M/Sタイプと呼んでいます.最初のMは,患者の到着がランダム(ポアソン分布)であること,2つめのMは,検査に要する時間が患者の状況(症状,年齢など),および検査員のスキル,体調によって一定ではない(指数分布)ことを示しています.3項目目は,検査台の数(検査員数)です.図2の処理パターン1は,待ち行列の長さが,患者の状態,検査員のスキルに直接関係します.また,待ち行図1予約制施行後の待ち時間推移列がゼロになったとき,他の列で並んでいる患者を公平*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)(79)あたらしい眼科Vol.31,No.2,20142390910-1810/14/\100/頁/JCOPY 患者患者患者患者患者患者患者患者患者検査台1検査台1検査台1図2パターン1c患者患者患者患者患者患者患者患者患者検査台1検査台1検査台1図3パターン2cに持ってくることができません.コンビニで,一つのレジで待ちが発生すると,2つめのレジを開け,「次にお待ちのお客様,こちらにどうぞ」という処置がされますが,レジが3つ以上になると,どこの待ち行列から移動してもらうかが問題になります.これと同じで,パターン1の場合は不公平感をもつ患者がでることが懸念されます.これに対し,図3のパターン2の方法は待っている患者にとって公平感があります.病院に限らず,銀行など,待ちが発生し,同じサービスを提供する窓口が複数ある場合にはこの方法が有効です.先に来た人が先にサービスを受ける(図4)ことが自然だからです.これを,FIFO(firstinfirstout/ファイフォー)方式と呼んでいます.検査待ち患者検査台が3台図4パターン2の具体的な動き240あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014ただし,専門性のある場合には図2にならざるを得ません.視野検査,蛍光眼底造影検査などの検査や,角膜,硝子体,緑内障など,どの医師でもいいのではなく,専門医が診る場合には,図2のパターンの待ちになります..トータルの待ちを少なくする工夫待ちのパターンに2種類あることを説明しました.検査には,普遍性のある基本検査と,患者の状態に応じて行う応用検査とがあります.待ちのタイプは,前者がパターン2,後者はパターン1です.基本検査の順番を後ろのほうで待っている患者の中に,応用検査がオーダされていて,かつその検査を基本検査の前に施行しても問題ない場合があります.基本検査を待っている時間を応用検査に回せば,時間を有効に使えます.患者は待ち時間が減るし,検査員にとっては,基本検査が終わった患者が回って来るのを待つ時間の無駄がありません.もちろん,順番どおり基本検査が終わってから応用検査にくる患者がいることを勘案しつつであることはいうまでもありません.以上を考慮した仕掛けをシステムで提供することも可能です.しかし,ベルトコンベアに乗せて均質な処理をする生産ラインではないのが病院です.千差万別な事情をもった人間(患者)を相手にする処理を有限時間,有限予算の制約があるなかで実現することは難しいでしょう(研究対象としては面白いのですが).スタッフが的確な判断をするために必要な情報の提供に留めたほうが現実的で,実行可能解になると思います..スタッフのマルチタレント化とスキルアップ応用検査機器,種類毎に専任の検査員を配置することは,コストパフォーマンスの点で問題があります.複数の検査機器を扱えるようマルチタレントな検査員を育成し,検査員がいないために稼働率が低くなってしまう検査機器がないようにすることも,結果的に待ちを少なくする有効な施策です.また,検査員個人のスキルアップを図り,検査品質を落とさず,単位時間当たりに検査できる患者数を増やす施策も必要です.◎……人を指導することができる,○……ベテランの助けを借りずに一定の品質で検査できる,△……ベテランの助けを借りて検査できる,×……未経験,このようなスキルマップを検査員,検査種類毎に作って管理することを勧めます.(80)

タブレット型PCの眼科領域での応用 21.視覚障害者の就労におけるタブレット型PC活用

2014年2月28日 金曜日

タブレット型PCの眼科領域での応用タブレット型PCの眼科領域での応用シリーズ三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第21章視覚障害者の就労におけるタブレット型PC活用■働く楽しみを増やす,就労ツールとしてのタブレット型PC導入の意義第21章で取り上げる端末は,私が代表を務めるGiftHandsの活動や眼科医としての外来診療,産業医としての企業内での作業環境改善のために活用しているタブレット型PC“iPadAir”と“iPhone5s”(いずれも米国AppleInc)のiOSバージョン7.0.4です.この章ではタブレット型PCやスマートフォンの就労ツールとしての患者への導入の可能性について視覚障害をもつ社員たちの声とともに紹介していきます.■視覚障害者の就労日本眼科医会による『日本における視覚障害者の社会的コスト』によれば,雇用および平均収入データから視覚障害による離職および早期退職による年間逸失コストは2007年時点で5,104億円と報告されています.また,視覚障害がある場合にうつになる相対リスクは,視覚障害がない場合に比べて3.5倍高いと報告されています.すなわち,視覚障害者が就労を継続できることは大きな経済的な意味をもつと同時に,彼らの精神衛生上も重要であると考えられます.視覚障害者が情報障害者に陥ってしまうことを防止することや,働くうえでのqualityofvision(QOV)の改善は,彼らの離職率や失業率を減少させqualityoflife(QOL)を向上させます.ワーク・ライフ・バランスなど働き方の質を問われる現在の日本において,コスト面を含めて,視覚障害者の就労に関するQOVの向上は重要な課題となってきています.私の外来では主に生活の不便さを軽減させるツールとしてタブレット型PCやスマートフォンの活用法を紹介していますが,患者の中には職場での利用を相談される(77)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYケースも少なくありません.また,産業医として訪問している企業で,私は定期的に障害者雇用の社員との産業医面談を行うようにしています.彼らの中には現状の業務内容や作業環境に満足しておらず,またその想いを企業側に正しく伝えられずに日々就労している者も少なくありません.そのような患者や社員の不便さを少しでも軽減するツールとして,タブレット型PCやスマートフォンは非常に大きな意味をもつと私は日々の業務の中で実感しています.■就労環境へのタブレット型PC活用事例実際の就労環境でタブレットを活用する患者の言葉には以下のようなものがあります.『これまではルーペを使っても見えないような小さな印刷物は,誰かに頼るしかありませんでした.他の社員の作業を中断してしまうし,迷惑にならないか常に心配でした.今は一人でどんな大きさの文字も拡大して見えるので,精神的な負担が減り,作業にとても集中できます.』この社員はそれまでに使用していたルーペと併用して,タブレット型PCを簡易式の拡大器として作業場で使用しています(図1).タブレット型PCやスマートフォンの導入の最大の意義は,担当する作業を他人に頼ることなく遂行できるようになることにあります.多くの視覚障害者が就労上で感じる不便さの要因の一つは,作業の一部を他の社員に頼る必要があるという点にあります.その不便さから解放され,一人で与えられた作業を遂行できることは,視覚障害者が就労を継続していくうえで,不必要なストレスの軽減につながると考えられます.あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014237 図1タブレット型PCをスタンドの上に乗せて文字を拡大し,簡易式の拡大器として利用している様子『PCでの作業がむずかしくなって,一時は退職も考えました.会社にiPadを持って行けるようになったので,仕事が続けられて本当に良かったです.』マウスを用いたPC作業と比較して,タブレット型PCのタッチパネル式の操作方法は視野の狭い社員でも,残存視野内に単一の対象アイコンを捕捉することで端末操作を行えるため操作が比較的容易であるといえます.また,図面などの詳細な記載の確認が必要なデータに関しては,印刷物をルーペなどで拡大して閲覧するよりも,拡大や縮小の操作が簡便かつ迅速なタブレット型PC上で閲覧するほうが視認性や操作性は向上します.閲覧専用のセカンドディスプレイとしてタブレット型PCを利用する社員もいます(図2).■就労環境へのタブレット型PC導入の意義と課題本章で紹介したように,就労環境へのタブレット型PC導入により,作業効率が大きく改善した事例を私は臨床の現場や企業訪問の際に多く経験しています.その効果は単なる作業効率の改善に留まらず,視覚障害者が就労を続けるうえでの作業意欲の向上にもつながってい図2パソコンのセカンドディスプレイとしてタブレット型PCを使用している様子ます.彼らの言葉には働くことが単なる生きるための手段ではなく,働き続けられること自体が目的となっているということを日々実感させられます.一方で,企業側にタブレット型PCの社内での使用や持ち込みを拒否される事例も少なくはありません.企業を担当する産業医に眼科医としての意見書を提供することで,作業場への持ち込みが可能になった事例もあります.企業内で作業環境に関して意見できる立場にある産業医と眼科医の連携の重要性は,今後さらに高まると考えられます.私は,自身の活動を通して視覚障害者の声を聞くことが可能であり,産業医としても企業内で就労環境へのタブレット型PC導入を行うことができます.今後,多くの事例を経験し,その意義を社会に啓発していくことは,視覚障害者のより働きやすい社会を作ることにつながると私は信じています.本文の内容や各種セミナーの詳細に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」よりいつでも受けつけていますので,お気軽に連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/☆☆☆238あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(78)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 129.瘢痕期未熟児網膜症に生じた硝子体出血に対する硝子体手術(中級編)

2014年2月28日 金曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載129129瘢痕期未熟児網膜症に生じた硝子体出血に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●瘢痕期未熟児網膜症の眼合併症小児の硝子体出血の原因としては外傷が7割以上を占めもっとも多いが,瘢痕期未熟児網膜症も5.6%と比較的頻度が高い.瘢痕期未熟児網膜症の眼合併症としては,屈折異常,弱視,眼位異常,緑内障,網膜.離,硝子体出血などがある.硝子体出血は自然に消退することも多いが,出血量が多い症例では硝子体手術の適応となる.●瘢痕期未熟児網膜症に生じた硝子体出血に対する硝子体手術自験例を提示する.症例は9歳男児.生下時体重860g.両眼に網膜光凝固術が施行された.その後,網膜症は鎮静化していたが,左眼に急激な視力低下を自覚し,近医にて硝子体出血と診断.自然吸収を認めないため紹介受診となった.視力はRV=0.06(1.0),LV=光覚弁.水晶体の後面に多量の硝子体出血を認めた(図1).超音波Bモード検査では硝子体腔に多量の出血を認めたが,明らかな網膜.離は認めなかった(図2).全身麻酔下で水晶体を温存した硝子体手術を施行した.後部硝子体は未.離で,濃厚な出血を伴った硝子体ゲルが網膜前に認められた(図3).後極から周辺に向かって人工的後部硝子体.離を作製したが,実際に.離可能だったのは後極のみで,光凝固部位は癒着が強固で意図的に硝子体を残存させた.網膜無血管には薄い増殖膜が複数箇所認められた.術後,眼底の視認性は改善し,矯正視力は0.8に回復した(図4).●硝子体手術時の注意点未熟児網膜症に限らず,小児の網膜硝子体疾患では後部硝子体が未.離かつ癒着が強固であるため,人工的後部硝子体.離作製がむずかしい.今回の提示例のように図1細隙灯顕微鏡所見水晶体の後面に多量の硝子体出血を認める.図2超音波Bモード検査所見硝子体腔に多量の出血を認めるが,明らかな網膜.離は認めない.図3術中所見後部硝子体は未.離で,濃厚な出血を伴った硝子体ゲルが網膜前に認められる.図4術後眼底写真眼底の視認性は改善し,矯正視力は0.8に回復した.耳側に広範な光凝固の瘢痕を認める.網膜.離のない症例では,あまり無理をせず,人工的後部硝子体.離は後極のみにとどめ,無血管野は意図的に硝子体を残存させるほうが医原性裂孔形成を回避しやすい.水晶体後面の混濁した出血も成人よりも切除しにくいが,硝子体カッターの吸引で水晶体に接触しないように分離させ切除する.周辺部の硝子体を切除するにしたがい分離しやすくなる.なお,網膜.離を併発した硝子体出血例の難易度は極めて高い.(75)あたらしい眼科Vol.31,No.2,20142350910-1810/14/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 158.インスリンによる糖尿病網膜での血管透過性亢進

2014年2月28日 金曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第158回◆眼科医のための先端医療山下英俊インスリンによる糖尿病網膜での血管透過性亢進杉本昌彦(三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室講師)はじめに糖尿病(diabetesmellitus:DM)は先進国における失明原因の上位に位置する.過去の研究が示すように,血糖コントロールは糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)や糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)の進行阻止に重要である.とくにインスリンはコントロールに欠かせない薬剤である.ノーベル賞受賞となったBantingとMacleodによるインスリンの発見は,それまで致死とされたDMの治療に革命をもたらした.しかし興味深いことに,疫学研究で有名な糖尿病トライアルデータベースWESDRでは2型糖尿病の長期経過観察ではDMEの発症がインスリン投与群では25%,非投与群では14%と投与群で増加するという結果が示されている1).また,急激な血糖コントロールにBRBの綻破50.0040.0030.0020.0010.000.00*****DM―+―+インスリン――++図1インスリンによる網膜血管透過性は亢進するマウス網膜における血管透過性を定量評価した.糖尿病ならびにインスリン投与糖尿病マウス群において有意な透過性亢進を認めた.(文献9より転載)**:p<0.05,***:p<0.01.(71)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY伴い網膜症が急速に進行するearlyworsening(EW)も広く知られ,急激なコントロールを受けた症例の13.1%に生じたとされている2).経口血糖降下薬をインスリンに変更することでDRが進行するという報告もあり3),インスリンの使用がDR/DMEの管理においてピットフォールとなってしまう側面もある.Blood.retinalbarrierとベタセルリンBlood-retinalbarrier(BRB)は網膜を外界と隔絶する壁であり,電解質バランスの維持や毒性からの保護など,ホメオスターシス維持に貢献している.BRBは網膜血管内皮細胞からなるinnerBRBと,網膜色素上皮からなるouterBRBの2つがある.BRBを考えてゆくうえで構成コンポーネントであるtightjunction(TJ)は重要である.さまざまな分子がその維持に関与しており,この破綻による透過性亢進はDRやDMEの原因である.ベタセルリン(Betacellulin:Btc)はepidermalgrowthfactor(EGF)ファミリーに属する32kDaの分子で,マウス膵b腫瘍細胞の培養上清から発見された4).強い血管新生作用を有し5),筆者らは糖尿病マウスモデルにARPE-19PBS1ng100ngBtc図2ベタセルリン(Btc)によりTightjunction(TJ)は傷害される培養網膜色素上皮細胞ARPE-19にBtcを投与し,ZO-1染色(赤色)で評価した.ZO-1はTJ構成蛋白質であり,従来は細胞間をシールする形で局在している(上段).Btcにより濃度依存性に局在がまばらになり(下段)TJの傷害を反映している.(文献9より転載)あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014231 a.コントロールb.コントロールインスリン(-)インスリン(+)インスリン(-)インスリン(+)インスリン(+)SiBtc(+)インスリン(-)AG1478(+)インスリン(+)AG1478(+)図3ベタセルリン(Btc)の阻害はTightjunction(TJ)を保護する同様にTJの変化をZO-1染色で評価した.a:未処理のコントロールではTJは健常である(左上).インスリンを投与するとTJが傷害される(右上,矢頭).BtcsiRNAで処理した後にインスリンを添加するとTJの傷害は消失する(下段).b:選択的EGFR阻害薬であるAG1478で処置した後にインスリンを投与すると同様にインスリンによるTJ傷害(右上,矢頭)は消失した(右下).(文献9より転載)おいて網膜血管透過性を亢進することを見いだした6).1,200.00また,インスリンレセプターはEGF伝達系とクロストークして,成長や分化に作用することが報告されてい1,000.00****800.00600.00400.00る7).このことから,BtcがインスリンによるDR/DMEの増悪に関与していると考えた.インスリンはBtcを介して細胞間接着装置を破壊するインスリンがDMEを増悪させるならば,BRBが破網膜血管からの漏出(%)綻されるはずである.Poulakiらは,DMモデルラットにインスリンを投与することで網膜血管透過性が亢進していることを示した8).筆者らは,DMモデルマウスでも同様に網膜血管透過性が亢進しており,その際に網膜でBtcの発現が増強していることを見いだした9)(図1).つぎに網膜に発現したBtcはどのようにBRBに作用するのだろうか.培養網膜色素上皮細胞ARPE-19にBtcを添加したところ,BtcはTJを傷害した(図2).また,ARPE-19にインスリンを添加すると,濃度依存性にBtcの発現は増強していた.以上から,インスリンにより増えたBTCがBRBを傷害すると考え,Btcの抑制がBRBを保護するのではないかと考えた.siRNAを用いてBtc発現をmRNAレベルで抑制した後にインスリンを投与すると,インスリンによるTJへの傷害から保護することができた(図3a).以上からBtcの抑制232あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014200.000.00図4EGFRに対するモノクローナル抗体製剤セツキシマブはインスリンによる網膜血管透過性を抑制するDMならびにインスリン投与DMモデルマウスにセツキシマブを腹腔内投与し,網膜血管透過性を定量評価した.セツキシマブ投与により,網膜血管透過性は有意に低下した.(文献9より転載)**:p<0.05.がTJ,つまりBRBの維持に重要であることが示唆された.BtcをはじめとするEGFfamilyはEGFRを介した情報伝達により機能している.TyrosinekinaseinhibitorであるAG1478はEGFRの選択的阻害薬である.(72)DM+インスリンErbituxDM+インスリン+Erbitux AG1478を添加したARPE-19にインスリンを投与すると,BTCsiRNAでみられた結果と同様にTJは保護された(図3b).セツキシマブ(アービタックスR)はEGFRを標的とするモノクローナル抗体製剤で,結腸・直腸癌に対し承認されている.薬剤によりBtcを抑制することがBRB保護につながることがわかったが,BtcsiRNAもAG1478も臨床使用することは現実的にまだむずかしい.そこで,すでに市販されているセツキシマブをマウス腹腔内に投与したところ,網膜血管透過性は有意に抑制された(図4).以上から,インスリンによるBRB傷害はセツキシマブにより防止できる可能性があり,臨床応用が期待される.まとめインスリンはBtcを介してBRBを傷害することを明らかにした.しかし,この結果はインスリンの有効性を否定するものではない.インスリンは糖取り込みを促進する作用,すなわち血糖降下作用がよく知られているが,蛋白の合成や組織成長の促進という作用も併せもつ.あらゆる薬剤の作用は単一ではなく,その有効性の裏に思わぬ作用を孕んでいることがあり,インスリンのこのような作用は結果として網膜に影響を与えているのかもしれない.なじみ深いインスリンも思わぬ合併症を起こすかもしれず,注意が必要である.以上,インスリンによる糖尿病網膜における血管透過性亢進と,これが薬剤により防止できる可能性を示した.これは,眼科医のみならず内科医も悩ませるEWの治療に今後応用が期待され,安全な血糖コントロールに結びつくと考えている.文献1)KleinR,MossSE,KleinBEetal:TheWisconsinepidemiologicstudyofdiabeticretinopathy.XI.Theincidenceofmacularedema.Ophthalmology96:1501-1510,19892)TheDiabetesControlandComplicationsTrialResearchGroup:EarlyworseningofdiabeticretinopathyintheDiabetesControlandComplicationsTrial.ArchOphthalmol116:874-886,19983)HenricssonM,JanzonL,GroopL:ProgressionofretinopathyafterchangeoftreatmentfromoralantihyperglycemicagentstoinsulininpatientswithNIDDM.DiabetesCare18:1571-1576,19954)ShingY,ChristoforiG,HanahanDatal:Betacellulin:amitogenfrompancreaticbetacelltumors.Science259:1604-1607,19935)KimHS,ShinHS,KwakHJetal:Betacellulininducesangiogenesisthroughactivationofmitogen-activatedproteinkinaseandphosphatidylinositol3’-kinaseinendothelialcell.FASEBJ17:318-320,20036)Anand-ApteBA,EbrahemQ,CutlerAetal:Betacellulininducesincreasedretinalvascularpermeabilityinmice.PLoSOne5:e13444,20107)Murillo-MaldonadoJM,ZeineddineFB,StockRetal:Insulinreceptor-mediatedsignalingviaphospholipaseC-gregulatesgrowthanddifferentiationinDrosophila.PLoSOne6:e28067,20118)PoulakiV,QinW,JoussenAMetal:Acuteintensiveinsulintherapyexacerbatesdiabeticblood-retinalbarrierbreakdownviahypoxiainduciblefactor-1alphaandVEGF.JClinInvest109:808-815,20029)SugimotoM,CutlerA,ShenBetal:InhibitionofEGFsignalingprotectsthediabeticretinafrominsulin-inducedvascularleakage.AmJPathol183:987-995,2013■「インスリンによる糖尿病網膜での血管透過性亢進」を読んで■今回は三重大学の杉本昌彦先生による,インスリン臨床的な観察から推測されてきたことによります.この生物学的な作用と糖尿病網膜症病態の関連についてのような臨床的な観察は大変重要な側面をとらえていの分子生物学的な研究の紹介です.糖尿病網膜症とイる反面,なかなか分子レベルでの病態解明に結びつきンスリンとの関連の研究はこれまでにもいろいろと報ません.それは,いろいろな因子が同時に動く臨床例告されてきました.それは杉本先生も紹介していらっで,分子ターゲットを絞り込むことのむずかしさを示しゃる2型糖尿病における長期経過観察で,DMEのしているのかもしれません.杉本先生の研究では,ベ発症とインスリ治療が関連すること,急激な血糖コンタセルリンの作用が血液網膜柵を傷害するメカニズムトロールに伴い網膜症が急速に進行するearlyworsが網膜症の病態に関連するというものです.そして,ening(EW)が起こることといった臨床的な観察結果インスリンがベタセルリンを介して網膜症の病態を惹から,インスリンは糖尿病治療に有益である反面,網起するとの仮説は大変魅力的で,上記のような臨床的膜症発症,進展の病態に関連するのではということがな観察結果を説明できるものです.網膜症の病態は現(73)あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014233 在,血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthトカインとして作用する原因物質とするメカニズムfactor:VEGF)を中心とし,炎症性のサイトカインは,臨床的な観察を出発点としていることから臨床的などをからめて解明が進んできました.これは抗な意義が明確であり,分子ターゲットとして糖尿病網VEGF薬やステロイドの治療効果により病態を説明膜症治療戦略に加えることが有用と考えられます.わできることがわかりましたが,これだけですべての網れわれ臨床医のもつ臨床経験は臨床研究の出発点であ膜症を治癒に導くことはできません.多様な病態を積り,また,エンドポイントでもあります.杉本先生のみ重ねることにより,糖尿病網膜症というきわめて複研究が発展して,新しい治療薬が開発されることを,雑な分子病態をもつ疾患の全体像に迫ることができる一臨床医として心から願っています.と考えられます.今回の杉本先生のインスリンをサイ山形大学眼科山下英俊☆☆☆234あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(74)

新しい治療と検査シリーズ 214.27ゲージ硝子体手術システム

2014年2月28日 金曜日

新しい治療と検査シリーズ214.27ゲージ硝子体手術システムプレゼンテーション:井上順治大島佑介西葛西井上眼科病院コメント:門之園一明横浜市立大学附属市民総合医療センター眼科.バックグラウンド25ゲージ(G)(0.5mm)に始まった小切開硝子体手術は,手術器具の剛性や眼内照明の明るさの問題で,その後いったんは23G(0.63mm)に落ち着くようにみえたが,ここ数年の手術装置と手技のめざましい進歩によって,より安全かつ確実な創口の自己閉鎖を求めて,再びより小さな口径の25Gの手術システムへと移行してきた1,2).しかし,現在の25Gシステムでもってしても,創口の自己閉鎖を得るためにはカニューラの設置に特殊な創口作製の手法が必要とされ,それでも自己閉鎖が得られず,縫合が必要な症例も少なくない3).一方,硝子体手術後の眼内の液・空気置換などの処置に我々は長らく27G針を使用してきたが,創口の閉鎖不全に起因するような合併症を経験したことはなく,これまでそのような報告も見当たらない.すなわち,27G(0.4mm)こそ特殊な技法を要せずとも,簡単に強膜創口の自己閉鎖を得る最大の口径であると考えられ,もし小切開硝子体手術を27Gまで進化させることができれば,より安全かつ一段とクオリティーの高い手術に昇華させることができるかもしれない4).最近ようやく高性能な27Gの硝子体システムが完成したので,本稿では,27G硝子体手術の現状と今後の展望について紹介する..27Gのラインアップ25Gシステムが開発された当初の問題点,すなわち,眼内照明の暗さ,器具の脆弱性,そして硝子体吸引効率の低下がそのまま27Gの開発当初でも懸念されたが,予想に反して,ここ数年のめざましい手術機器の開発と手術環境の整備によって,このシステムの実現化にはさほどの歳月を要しなかった.27G硝子体手術システムの開発と販売は世界中の複数の会社で現在も進んでおり,本システムを世界に先駆けて開発してきたオランダ(67)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYのDORC社,硝子体カッターと照明光源に定評のある米国のSynergetics社,そして新しい駆動方式の高速回転硝子体カッターを開発した米国のAlcon社からの27Gシステムが発売されている.各社とも硝子体カッターやトロカール・カニューラのほか,シャンデリア照明ファイバー,マイクロセッシ,レーザープローブやジアテルミーなどの従来の25Gシステムと同じバリエーションの27G手術器具を製作しており,とりわけAlcon社の最新の硝子体手術装置(ConstellationVisionSystem)に接続する27Gカッターは,高いデューテーサイクルを維持しながら7,500回転の切除速度を実現したことで,これまで懸念されていた硝子体切除効率の問題はかなり解消された..27Gシステムの適応と使用法筆者らは,これまで黄斑円孔や黄斑上膜などの黄斑疾患や単純硝子体出血などの比較的に手術操作の単純な疾患から27Gシステムを導入し,最近では硝子体カッターの性能の改良とともに,周辺部硝子体廓清を必要とする裂孔原性網膜.離や膜処理を必要とする増殖糖尿病網膜症まで適応を拡大している.これまでの多数例の臨床経験では,術中に25Gなどのシステムにコンバートした症例はなく,また,全例ともトロカール・カニューラは強膜に対してほぼ垂直に刺入して設置したにもかかわらず,術終了時は単純にカニューラを抜き,軽くマッサージしただけで,創口は簡単に自然閉鎖した.術直後に創口から少量の眼内液の流出があっても,術翌日には全例とも簡単に創口は自己閉鎖し,縫合などの処置が必要な症例はなく,術後に創口の閉鎖不全やこれによる低眼圧などの合併症もなかった.27Gの手術器具の剛性は25Gや23Gに劣るものの,これは広角眼底観察システムと明るい光源装置を有することで簡単にクリアできるハードルである.すなわち,シャンデリア眼内照明下であたらしい眼科Vol.31,No.2,2014227 abcdefabcdef図1Alcon社の27Gシステムによる裂孔原性網膜.離の硝子体手術a:クロージャバルブ付き27Gカニューラと25Gシャンデリア照明ファイバーを設置.b:広角眼底観察システムによる観察下で硝子体切除を行う.c:パーフルカーボンにて.離網膜を平坦化し,強膜圧迫下で周辺部硝子体切除.d:27Gレーザーブローブで裂孔周囲に光凝固.e:バックフラッシュニードルにて眼内排液と液・空気置換.f:カニューラとシャンデリアファイバーを抜去し,手術を終了する.の広角眼底観察によって,過度に眼球を動かすことなく27G器具による眼内操作は可能であり,軽度の強膜圧迫で十分に周辺部網膜までの硝子体切除ができる(図1).現行の27G硝子体手術システムで適応可能な疾患群を表1に列挙した.いうまでもなく今後の技術革新によって27Gシステムの適応はさらに拡大する可能性を秘めているが,あらゆる手術において,手術適応の判断は個々の術者の技量と経験に基づくところも多く,先ずはシンプルなケースからシステムに慣れ,徐々に適応を拡大するのが望ましい..アドバンテージ27G硝子体手術はこれまでの25Gや23Gのものと比較して,システム構成に何ら違いはないが,手術においてもっとも重要な「経結膜的に作製した強膜創口は刺入角度にかかわらず,すべてが術翌日には必ず自己閉鎖する」という確実性と安全性の向上に貢献するところは大きい.また,眼内灌流速度が緩やかで灌流量も少ないことは,網膜をはじめとする眼内組織に対する侵襲性が低いといえる.もちろん,硝子体カッターなどの手術器具やカニューラの抜去時にみられた強膜創への硝子体嵌頓のリスクは,23Gや25Gに限らず27Gでも懸念されることであるが,内径がより小さい分だけ,27Gでは硝228あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014表127G硝子体手術の適応疾患1.黄斑疾患(黄斑円孔,黄斑前膜,黄斑浮腫など)2.単純硝子体出血(硝子体生検を含む)3.網膜下出血4.裂孔原性網膜.離5.増殖糖尿病網膜症(ただし,広範囲な牽引性網膜.離は除く)6.水晶体再建術時の破.処理など子体嵌頓が軽微で,合併症に至るリスクも低いと期待できるかもしれない..今後の展望27Gシステムは,これまでの小切開硝子体手術のコンセプトを踏襲して,自己閉鎖創の作成をシンプル化し,不確実だった自己閉鎖性を高めたに過ぎないが,今後のさらなるテクノロジーやテクニックの開発によって,まだスタートしたばかりのこの最小サイズの手術システムの適応がさらに広がり,近い将来には万人に受け入れられる術式として成熟していくことを期待している.文献1)FujiiGY,DeJuanEJr,HumayunMSetal:Anew25gaugeinstrumentsystemfortransconjunctivalsutureless(68) vitrectomysurgery.Ophthalmology109:1807-1812,20022)EckardtC.Transconjunctivalsutureless23-gaugevitrectomy.Retina25:208-211,20053)OshimaY,OhjiM,TanoY:Surgicaloutcomesof25gaugetransconjunctivalvitrectomycombinedwithcataractsurgeryforvitreoretinaldiseases.AnnAcadMedSingapore35:175-80,20064)OshimaY,WakabayashiT,SatoTetal:A27-gaugeinstrumentsystemfortransconjunctivalsuturelessmicro-incisionvitrectomysurgery.Ophthalmology117:93-102,2010.本治療法に対するコメント.27ゲージ硝子体手術は,大島先生により世界で初くなることによる操作性の低下の問題,吸引流量の低めて報告された新しい小切開硝子体手術システムであ下による切除効率の減少の問題がある.しかし,本稿る.口径がさらに小さくなることで網膜の挙動がよりに記載されているような新たな器具の開発や手技の向減少し,周辺部硝子体切除や増殖膜のカッターによる上が今後行われるに従い,27ゲージ硝子体手術の有切除が安全に行われるようになること,また術後の理用性が向上する可能性がある.硝子体手術システムの想的な創閉鎖の向上が期待される.一方,ゲージが細ネクストチェンジは,早晩訪れるかもしれない.☆☆☆(69)あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014229

私の緑内障薬チョイス 9.多剤併用例にadd onしてもさらに眼圧が下降する可能性のあるアイファガン®点眼

2014年2月28日 金曜日

連載⑨私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載⑨私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也9.多剤併用例にaddonしてもさらに眼圧が下降新田耕治福井県済生会病院する可能性のあるアイファガンR点眼アイファガンR点眼は,毛様体における房水産生抑制およびぶどう膜強膜流出路を介した房水流出促進のデュアル作用を兼ね備えた点眼である.Low-pressureGlaucomaTreatmentStudy(LoGTS)にて,アイファガンR点眼には神経保護作用が存在する可能性が示唆された.また,最大耐用点眼使用例にアイファガンR点眼をaddonすることで,さらに眼圧下降が得られることがある.本人の緑内障の7割以上を占める正常眼圧緑内障日(normal-tensionglaucoma:NTG)で,プロスタグランジン製剤点眼+b遮断薬点眼+炭酸脱水酵素阻害薬点眼の3種を使用しても視野障害の進行を止めることができず,トラベクレクトミーを選択しなければならない患者では,目標眼圧は1桁台の場合も多く,手術を決断する際にさまざまな術後合併症や併発症が頭をよぎる.術後早期には乱視の増悪,房水漏出,過剰濾過による低眼圧黄斑症,駆逐性出血,術後中期以降には濾過胞の限局化,白内障の進行,濾過胞炎,眼内炎,そのほか数々の周術期合併症がある.緑内障による視力障害を自覚していない症例に手術を施行した場合に,手術により目標眼圧にコントロールできても,手術後に日常生活に支障をきたすような視機能障害を患者本人が自覚するようになってしまっては,患者との信頼関係が損なわれかねない.そこで筆者は手術を最終的に決断する前に,アイファガンR点眼(図1)を追加することにしている.患者にはできれば手術を回避したいという切実な思いがあるので,点眼薬がさらに増えてもアドヒアランスが良好なことが多く,アイファガンR点眼のaddonによりさらに眼圧下降が得られることがある(図2).これはアイファガンR点眼が毛様体における房水産生抑制およびぶどう膜強膜流出路を介した房水流出促進のデュアル作用を兼ね備えた点眼であることが一因である可能性がある.アイファガンR点眼以前に,平均10.2mmHgで一見眼圧コントロール良好な症例に,点眼治療を強化して平均8.1mmHgになったことで,視野進行の平均速度MDslopeが.1.14dB/yearから.0.16dB/yearに緩徐になったNTGを経験している.このように,NTG症例の中には,さらに1mmHgでも2mmHgでも眼圧を下降(65)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY図1アイファガンRできれば視野障害を遅らせることができるような症例があり,アイファガンR点眼が大いに期待される.また,LoGTSはアイファガンR点眼の神経保護作用の可能性について示唆している.チモロールとの多施設共同無作為化二重盲検比較試験にて,アイファガンR点眼の眼圧下降効果とチモロール点眼の眼圧下降効果には差がないものの,視野障害の維持効果はアイファガンR点眼にて有意に優れていたとの報告がなされた1)(図3).また,チモロール点眼とアイファガンR点眼との12カ月点眼後の網膜神経線維層厚の比較では,チモロール点眼群では,上下耳鼻側すべてで点眼開始前より有意に菲薄化していたが,アイファガンR点眼群では上下耳鼻側すべてで点眼開始前との差がなかったので,アイファガンR点眼は網膜神経線維層の菲薄化を抑制できる可能性があると報告された2)(表1).日本人でのアイファガンR点眼による視神経保護作用についての報告はまだない本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014225 眼圧推移左右デタントールタプロスコソプトアイファガンアイファガンSLTSLTデタントールタプロスコソプト眼圧推移左右デタントールタプロスコソプトアイファガンアイファガンSLTSLTデタントールタプロスコソプト図2最大耐用点眼を使用してもなお進行する正常眼圧緑内障眼で,アイファガンR点眼のaddonにより眼圧下降が得られた症例初診時58歳,男性.視力:RV=0.02(0.8×.4.25D(cyl.1.0×.0.01(0.06=),LV°09DAx4.5D(cyl.0.5DAx105°).左眼中心視野消失,右眼ハンフリーMD.21.96dB.初診時にすでにタフルプロスト点眼,b遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬配合点眼,ブナゾシン点眼を使用.当院ではさらにレーザー線維柱帯形成術を施行しても眼圧は10.12mmHgに推移したため,アイファガンR点眼を追加.1年以上,眼圧は常に一桁台を推移するようになった.0.00.10.20.30.40.50.7チモロールブリモニジン0.6累積視野障害進行率ついては症例を積み重ねて機会があれば報告したい.長期に緑内障患者を管理していると,自分が使用できる緑内障治療のツールが1つでも増えることは大変ありがたいことである.緑内障進行予防に,すべての緑内障点眼と併用可能なアイファガンR点眼の効果を期待したい.04812162024283236404448観察期間(月)図3LoGTSにおけるアイファガンR点眼とチモロール点眼の累積視野障害進行率アイファガンR点眼はチモロール点眼よりも有意な視野維持効果を示した(p=0.001logrank検定).両群間に眼圧下降効果の差がなかったことから,アイファガンR点眼の視野維持効果には眼圧非依存性因子の関与が示唆される.(文献1より)が,上記の結果から,眼圧が良好にコントロールされていても進行するNTGの場合に,筆者は積極的にアイファガンR点眼を使用するようにしている.その効果に文献1)KrupinT,LiebmannJM,GreenfieldDSetal:Arandomizedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisualfunction:resultsfromtheLow-PressureGlaucomaTreatmentStudy.AmJOphthalmol151:671-681,20112)TsaiJC,ChangHW:Comparisonoftheeffectsofbrimonidine0.2%andtimolol0.5%onretinalnervefiberlayerthicknessinocularhypertensivepatients:aprospective,unmaskedstudy.JOculPharmacolTher21:475-482,2005表1チモロール群とアイファガンR群の網膜神経線維厚の変化baseline点眼開始12カ月後p値IOP(mmHg)アイファガンR群チモロール群24.2±1.3(22.0.27.0)23.9±1.1(22.5.26.0)18.6±0.9(17.0.20.0)18.7±1.1(17.0.20.5)<0.0001<0.0001Ellipseaverage(μm)アイファガンR群チモロール群71.5±9.5(57.1.94)71.7±12.1(49.4.98.3)71.5±9.4(55.3.89.2)68.7±12.4(47.3.96)0.970.004IOP:intraocularpressure(文献2より)226あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(66)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性とアバスチン®

2014年2月28日 金曜日

●連載抗VEGF治療セミナー─薬剤選択─監修=安川力髙橋寛二鈴木三保子1.加齢黄斑変性とアバスチンR大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室/VitreousRetinaMaculaConsultantsofNewYorkベバシズマブ(アバスチンR)は,眼科領域で臨床応用されている他のVEGF阻害薬であるペガプタニブ(マクジェンR),ラニビズマブ(ルセンティスR),アフリベルセプト(アイリーアR)と異なり,大腸癌に対する静脈内投与が本来の適用である.それにもかかわらず,加齢黄斑変性を含む眼内新生血管に対する硝子体内投与は世界中で未認可(オフラベル)のまま広まった.現時点でアバスチンRとルセンティスRは,加齢黄斑変性に伴う脈絡膜新生血管に対してほぼ同等の有効性をもつと考えられている.一方,全身性の重篤な副作用については,両者に差があるかどうかは,はっきりとわかっていない.larDegenerationTreatmentsTrials:CATT)で,アアバスチンRの有効性バスチンRとルセンティスRの視力改善効果はほぼ同等アバスチンRは,すべてのVEGFアイソフォームをであるという結果が報告された1).図1に,CATT阻害する抗VEGF中和抗体で,本来は大腸癌に対するstudyにおける2年間の視力変化を示す.この結果は実点滴静注用の抗悪性腫瘍薬である.眼科での投与は適用際の臨床現場で受ける印象と一致していると感じる読者外使用であり,そのため医療施設によっては使用できなが多いと思われるが,オフラベルのアバスチンRと,他い場合もある.の認可されている抗VEGF薬の選択は,薬剤費の違い,アバスチンRは,同じ抗VEGF抗体をもとにして作そしてつぎに述べるアバスチンRの副作用なども考慮す製されたルセンティスRより分子量は大きく(150kDa),る必要がある.日本人におけるアバスチンRの効果は,VEGFとの親和性についてはどちらが優位であるかは欧米と同様に1型脈絡膜新生血管(網膜色素上皮下脈絡っきりとはわかっていない.2012年に加齢黄斑変性治膜新生血管)よりも2型脈絡膜新生血管(網膜色素上皮療の比較臨床試験(ComparisonofAge-relatedMacu-上脈絡膜新生血管)のほうが速やかに表れることが多111098765432100ルセンティスR月1回投与アバスチンR月1回投与ルセンティスR必要時投与アバスチンR必要時投与7688104経過観察期間(週)図1治療2年間の各群の視力平均変化量(文献1をもとに改変)41224365264(63)あたらしい眼科Vol.31,No.2,20142230910-1810/14/\100/頁/JCOPY視力スコアの平均変化量(文字数) 初診時1年後図22型脈絡膜新生血管に対するアバスチンR治療前と治療1年後の眼底変化初診時視力0.6,蛍光眼底造影検査でpredominantlyclassic型の病変を有しており,滲出性変化と網膜下出血を伴っていた.8カ月後に再燃したためアバスチンRを再投与した.1年後視力は1.2である.い2)(図2).しかしながら,再燃することもあり注意深い経過観察が必要である.アバスチンRの副作用全身性の抗VEGF治療でもみられる動脈血栓性事象,全身性出血,うっ血性心不全,静脈血栓性事象,高血圧が認められるほか,アバスチンRを静脈内投与したときの副作用としてあげられていた胃腸障害が,硝子体内投与でも同様にみられ,ルセンティスRに比べて有意に高頻度であることがCATTstudyで報告されている.CATTstudyでは,死亡や脳卒中のような重篤な事象224あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014の発現率の差は評価できていない.文献1)ComparisonofAge-relateedMacularDegenerationTreatmentsTrials(CATT)ResearchGroup(MartinDF,MaguireMG,FineSLetal:Ranibizumabandbevacizumabfortreatmentofneovascularage-relateddegeneration:twoyearresults.Ophthalmology119:1388-1398,20122)SuzukiM,GomiF,SawaMetal:Bevacizumabtreatmentforchoroidalneovascularizationduetoage-relatedmaculardegenerationinjapanesepatients.JpnJOphthalmol54:124-128,2010(64)

緑内障:Cirrus HD-OCT

2014年2月28日 金曜日

●連載164緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也164.CirrusHD.OCT石澤聡子岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学分野Spectral-domainOCTであるCirrusHD-OCTには3つの測定用スキャンパターンがあり,緑内障の診断・進行程度を判断することができる.また,網膜神経節細胞層+内網状層厚の解析や緑内障進行解析が可能となっている.これらを上手に利用して緑内障診療に役立てたい.●CirrusHD.OCTとはCirrusHD-OCTはCarlZeissMeditec社製のspec-tral-domainOCTである.前身であるtime-domainOCTのStratusOCTと比べ高解像度・高速化し,種々の測定プログラムや解析により緑内障診断能力は飛躍的に向上した.●測定プログラムCirrusHD-OCTにはOpticDiscCube200×200(図1),MacularCube,HD5LineRasterの3つの測定用スキャンパターンが搭載されている.OpticDiscCubeは視神経乳頭を中心に6mm×6mmをスキャンし,網膜神経線維層(retinalnervefiberlayer:RNFL)厚を測定し解析するプログラムで,Ver.5.0から視神経乳頭解析パラメータが表示されるようになった.MacularCubeは黄斑部を中心に6mm×6mmの範囲でスキャンするプログラムで黄斑を中心とした網膜厚を測定する.NFLDや黄斑浮腫などを視覚的に把握することができる.HD5LineRasterは黄斑を中心に5本線でスキャンするプログラムで,緑内障ではRNFLや網膜神経節細胞層(ganglioncelllayer:GCL)の菲薄化を捉えることができる.●Ver.6.5からの新しい解析最新ソフトウェアであるVer.6.5では,MacularCubeにてGCL+内網状層(innerplexiformlayer:IPL)の厚みを測定し解析するGCA(ganglioncellanal-ysis)(図2)が追加となった.RNFL+GCL+IPLであるganglioncellcomplex(GCC)では層厚と視野の感度が相関することが報告されているが1),GCA開発にあたりRNFLは正常でのバリエーションが多く,これを含むとGCL本来の厚みの均質性が得られにくいため,GCCではなくGCL+IPL厚測定となった.CirrusHD図1OpticDiscCube200×200各データは年齢別正常データからの偏差値の5%未満が黄色,1%未満が赤色で示される.①Deviationmap:RNFLの障害部位を示す.②視神経乳頭解析.③rimの厚さ:耳側-上方-鼻側-下方-耳側の順に表示.④RNFLTSNITnormativedata:乳頭中心から1.73mmの部分でRNFLを測定し,耳側-上方-鼻側-下方-耳側の順に示す.正常では上下でpeakをもつ2つの山を形成(doublehump)する.⑤乳頭中心から半径1.73mmの円を4分割,12分割した平均RNFL厚.(61)あたらしい眼科Vol.31,No.2,20142210910-1810/14/\100/頁/JCOPY OCTでのGCL+IPL厚,RNFL厚,視神経乳頭パラメータではどれも診断において有意差はないとする報告もあるが2),GCAの有用性については今後の検討が必要である.●緑内障進行解析CirrusHD-OCTでは,GPA(guidedprogressionanalysis)を用いて緑内障進行解析を行うことができる(図3).Deviationmapでは初回2回をベースラインとし,3回目以降の変化をみるイベント解析を行い,平均・上・下RNFL厚では4回以上の測定結果で回帰直線によるトレンド解析とポイントごとに表示されるイベント解析を行う.Ver.6.5では平均C/D比の解析も可能222あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014図2GanglionCellAnalysis(GCA)①Deviationmap:GCL+IPL厚の異常を5%未満を黄色,1%未満を赤色で示す.②Thicknessmap:GCL+IPLの厚みをカラーマップで表示.異常所見では水平子午線上で分離する.③セクター解析:上下に区分した6セクターでの正常との比較.④平均・最小GCL+IPL厚.図3GuidedProgressionAnalysis(GPA)ベースライン2回の平均からばらつき以上の変動があった場合は黄色(possibleloss),2回連続して変動があった場合は赤色(likelyloss)で示される.①Deviationmap:RNFL厚の経時変化.②平均・上・下RNFL厚の変化:有意差が出ると回帰直線による有意な変化か検討される.③RNFLTSNITnormativedataの変化.④RNFLsummary:各解析結果で有意な変化があれば黄色(possibleloss),赤色(likelyloss)でチェックされる.になった.RNFL厚では平均と上下の解析であり,局所的な変化についてはやや鋭敏さに欠ける面もあるが,これらの解析結果は日々の緑内障診療に役立てていけるであろう.文献1)KimNR,LeeES,SeongGJetal:Structure-functionrelationshipanddiagnosticvalueofmacularganglioncellcomplexmeasurementusingFourier-domainOCTinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci51:4646-4651,20102)JeoungJW,ChoiYJ,ParkKHetal:Macularganglioncellimagingstudy:glaucomadiagnosticaccuracyofspectral-domainopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci54:4422-4429,2013(62)